約 1,837,672 件
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/73.html
閃光 ◆caxMcNfNrg 青空を突き抜けるように、箱庭に轟音が響き渡る。 他の空間から隔絶された、殺し合いの盤上。 草一つ無い荒地で、森を背にして青いMSが火器を連射している。 「ったくよ・・・ゲームに乗ってない奴は、ここには居ないのか?」 コクピット内に響く、モンシアのぼやき。 その視線は、モニターに移ったMSを追っている。 ・・・奇しくも、こちらと同じガンダムタイプである相手。 空を飛び回るそれに向けて、ミサイルやガトリングガンを放つ。 しかし相手は、迫りくるミサイルを難なくかわす。 ガトリングガンに到っては、数発当たりはするものの、 特殊装甲か何かなのか、その身に傷一つつける事はない。 そのままの勢いでこちらに接近してくると、相手は頭部からビームを放った。 「うおっ!・・・さっきの奴よりゃ、やるみてえじゃねえか」 相手の攻撃を辛うじてかわす。 口ではそう言うものの、それほどの余裕がある訳でもなく・・・ (できれば、こいつは取っときたいんだがな) そう考えながら、モンシアはホーミングを数発放った。 ヘビーアームズから伸びる、数条の軌跡。 それは、曲がりくねった進路をたどり、敵のガンダムへと迫る。 しかし・・・命中する直前。 MAへと姿を変えたガンダムが、光の間をすり抜ける。 敵機の後方で爆発四散するミサイルに、モンシアは軽くしたうちをした。 (チッ・・・このままじゃ、ジリ貧か・・・ガトリングはきかねえし、ミサイルは避けられる・・・) 相手の攻撃を何とか回避しながら、考える。 「ホーミングに到っては、自滅と来たもんだ」 先ほどの光景を思い出し、モンシアは再び舌打ちをする。 (なんか方法はねえのか・・・いや、まてよ・・・) (思った以上に弾数が多いか・・・) 上空を飛び回るMS―レイダーの内部で、ヒイロはそう一人ごちた。 モニターに映るのは、彼の知る機体・・・ヘビーアームズの、おそらくカスタム機であろう機体。 (TP装甲ならば、問題はないはずだが・・・念には念を入れる) そうして、ヒイロは相手を牽制しつつ、その弾薬が切れるのを待ち続けていた。 (・・・なんだ?) 不意に、ヘビーアームズからの攻撃がやんだ。 見ると、相手の機体は攻撃をやめ、じっと佇んでいる。 (弾切れか?・・・いや、あれは・・・) モニターを通して、胸部の装甲が開かれるのを確認する。 やがて、ヘビーアームズは全身の火器を全て露出させ・・・一斉に火を吹いた。 (そうきたか・・・だが) ヒイロは迫り来るミサイルの間を、軽やかにすり抜ける。 通り過ぎたミサイル二基が後方で衝突、四散する。 その様子を確認することもなく。ヒイロは次のミサイルへ向かい・・・ それが、己の側方で爆発するのを見た。それだけではなかった。 上で、下で、右で、左で、後ろで・・・自機の周囲を爆発が覆う。 同時に、正面から迫る無数の弾幕を確認し、ヒイロは相手の狙いを理解した。 「ひゃっほう!これなら逃げらんねえだろ!」 上空で起こった爆発を確認し、モンシアは手を叩いた。 彼の取った作戦は単純。 ミサイル同士をぶつけ爆発の壁を作り、相手を閉じ込めた上での全弾連射。 「ありったけを食らわせてやったんだ。これで仕留め切れなけりゃ・・・」 モンシアの呟きを打ち消すかのように・・・煙を裂いて、黒い影が飛び出した。 衝撃。ミョルニルを通した感触に、ため息を吐く。 あの時、大量の爆風に囲まれ、無数の弾丸やミサイルに晒されたヒイロは、 左腕のミョルニルを回転させ、前方からの弾幕を辛うじて防いだのだった。 (もっとも、無傷とはいえないがな・・・) TP装甲で機体へのダメージは防いだものの、その代償として失われたENは大きく・・・ また、コクピットを襲った衝撃によるダメージが、体中に幾分か残っていた。 「・・・名前は知らないが、いい腕のパイロットだった・・・」 自機にここまでのダメージをあたえた相手を思いつつ、レイダーで周囲の黒煙を振り払う。 そこには、無残な姿で転がるガトリングガンの姿があった。 【ヒイロ=ユイ 搭乗機体:レイダーガンダム(機動戦士ガンダムSEED) パイロット状態:疲労、体中に軽い痛み 機体状態:EN残量僅か 現在位置:G-3 第一行動方針:この場から逃走、補給する 第二行動方針:参加者の殺害 最終行動方針:元の世界に戻ってリリーナを殺すため、優勝する(リリーナが参加していることは知らない)】 【ベルナルド・モンシア 搭乗機体:ガンダムヘビーアームズ改(新機動世紀ガンダムW~Endless Waltz~) パイロット状態:疲労 機体状態:右腕ガトリングガン消失、残弾残り僅か 現在位置:G-4 第一行動方針:この場から逃走、補給する 最終行動方針:未定】 【初日 14 30】 BACK NEXT 髑髏と悪魔が踊るとき 投下順 核ミサイルより強い武器 髑髏と悪魔が踊るとき 時系列順 始まりの葬送曲 BACK 登場キャラ NEXT 歌と現実 ヒイロ 迷いの行く先 若い、黒い、脅威 モンシア 戦場の帰趨
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/344.html
Stand by Me ◆YYVYMNVZTk 確実に切り裂くはずだった。 何も考えず、無心に、ただ刃を走らせて、その一撃は何よりも疾く、重く、強く。 けれど、確かに決意したはずなのに、あの声を聞いた途端に俺の心は揺れてしまった。 何故、どうしてと、疑問符が頭の上をくるくる回る。 「テニ、ア……」 ナデシコに近づいていく姿を遠めに見ていたときには気付かなかったが、テニアの乗る機体の損傷は、決して軽いものではなかった。 左腕は消失し、脇腹も痛々しく抉れている。それ以外にもはっと目に付く大きな傷から微細な傷まで全身無事なところがないほどだった。 テニアもまた、幾度となく戦ってきたんだろう。そして生き残ってきたんだ。 ……どうやって、生き残ってきたのか。ガウルンからは聞いている。 だけど、俺はまだテニアからは何も聞いていない。 そう、テニアから聞いた言葉は、まだ一つだけ。 あの言葉が真なのか偽なのか俺には判断できない。 だからもっと、テニアの声が聞きたいと思ってしまったのだ。 ただ今、この瞬間だけは、自分が殺し合いに巻き込まれていて、自分もまた殺し合いに乗るつもりで、最後の一人になろうとしていたことを忘れていた。 ただの高校生だった自分を担ぎ上げてロボットアニメの主人公に仕立て上げてしまった三人の、最後の生き残りである赤毛の少女を自らの手で殺そうとしていたことさえも忘れてしまった。 突然殺し合いの場に放り出されてしまって、磨り減った神経を更に張り詰めさせて、その末にようやく出会えた知り合いと思わず寄り添いたくなるのだってなんら不思議なことじゃないと思いたい。 そうなんだよ。 俺はもう、疲れてるんだ。 本当は、大きな声を上げて泣いてしまいたいんだ。 誰かの胸の中で、子供みたいに甘えたいんだよ。 今まで散々毒づいていたのは誰だって、笑うか? 笑われたっていい。簡単に心変わりしてしまってるってのは誰よりも俺が分かってる。 あの時テニアに対して抱いた殺意が本物じゃなかったわけじゃない。 ただそれ以上に、俺が思っていた以上に、俺の心は弱かったんだ、限界だったんだ、ただそれだけの話なんだ。 「統夜だよね? 統夜なんだよね!?」 ようやく二言目が聞けて、涙が一粒落ちそうになった。 でも、そんな顔をテニアには見せたくないと思ってしまったのはきっと男の子の意地というやつなんだろう。 少しだけ顔を伏せて、鼻頭がツンと熱くなる感覚をやり過ごしてから顔を上げ、今の自分が持つなけなしの余裕で表情だけでも取り繕って、声を返した。 「ああ、統夜だよ……テニア」 「良かった……会えて、本当に良かった……!」 モニターに映ったテニアの顔は、何処か懐かしかった。 赤毛と、くりくりとした瞳。おてんばだったテニアには似合わない、とても疲れた顔をしている。 最後に会ってから二日と経っていないはずなのに、数年も会ってなかった様な気さえしてしまう。 どうしようもなく、どうしようもなく、目の前にいる女の子はフェステニア=ミューズだった。 カティア=グリニャールでも、メルア=メルナ=メイナでもなく、フェステニア=ミューズだった。 ただ一人だけ生き残ってしまった女の子がそこにいた。 「どうしたの、統夜?」 「いや、ただ――」 少しだけ、思い出していたんだ。 テニアたちと出会ってから今までのことを。 「何で今更、そんな昔のこと?」 思い出さなきゃ、きっと俺は前に進めないから。 格好悪いだろ? 「ううん、そんなことない。アタシ信じてたからさ。統夜が助けに来てくれるって。 そして統夜は――来てくれた。アタシを助けに、来てくれた!」 そう言ってテニアは、俺に向かって笑ってくれたんだ。 そしてようやく俺は、思い出せた。 なんで、いきなりロボットに乗り込めだなんて言われて、そのまま戦い続けてたのか。 いや、戦うことが出来たのか。 最初は自分のためだった。死にたくないから成り行きに任せて戦い続けてたんだ。 でも何時の間にか、理由はそれだけじゃなくなっていた。 こいつらだったんだ。カティアと、テニアと、メルア――三人がいたから、三人のために、俺は戦おうと思い始めてたんだ。 それが、俺が偽者の主人公を続けられていた理由だったんだよ! くそっ……! くそっ!! 思い出したんだよ。忘れてたものを思い出したんだよ。 忘れたほうが絶対に楽だった。何も考えずに殺せるようになってれば、俺はきっと全てを捨ててでも、自分の命を守りにいけたんだ。 でももう駄目なんだ。 俺はテニアの声をもっと聞きたいと思ってしまってる。 テニアなら――俺に、主人公を続けさせてくれるんじゃないかって甘い希望を抱いてしまってる。 この場に及んで、俺は守りたいものを増やしてしまったんだ。 どんなに頑張ったって、一つしか残せないような、こんな場所でさ。 「テニア。お前が俺のこと信じてくれたんならさ――俺に、俺自身を信じさせること、出来るか?」 「いいよ。アタシは統夜のことを信じてるって言ったじゃん。 だから、統夜がアタシのことを信じてくれたなら――きっとそれは、アタシの中にある統夜のことを、統夜が信じることになる」 「俺はお前を信じたい。だからもっと聞きたいんだ。……俺が、俺でいられるように」 だから俺が俺を信じられるようになるまで、テニアを信じられるようになるまで――二人だけの時間が、欲しかった。 通信機のスイッチを入れる。チャンネルは既に合わせてある。告げるのは別離の言葉だ。 「……ガウルン」 『――ハ! お前が嬢ちゃんと向き合ってるってだけで、お前が何を言いたいのかくらい分かってるさ。 俺はお前のこと、なかなか見所のある奴だと思っていたが……とんだ見込み違いだったみたいだな?』 「幾ら罵ってくれても構わない。ただ俺は、あんたよりも信じたい相手が出来たんだ」 『あーあ、あれだけ忠告してやったのに――結局お前は、嬢ちゃんに丸め込まれちまったってわけかい』 「何と思ってくれてもいい。ただ――出来の悪かった弟子から師匠へ、最後に一つだけお願いさせてくれよ。 俺たちは二人だけになりたい。……今、笑っただろ?」 『そりゃあ笑うさ。ククク……この期に及んで色恋沙汰とは、若いねぇ?』 「茶化すなよ。あんたにとっちゃ笑い話でも、俺にしてみれば大事なことなんだ。頼む、少しだけでいい。俺たちが逃げ出せるまで時間を稼いでくれ」 『嫌だね。なんで俺がお前のためにそこまでしてやらなきゃいけないんだ? それで交渉のつもりなら、お粗末としか言いようがないな』 「……そうだよな。今更あんたに頼みごとなんて、俺がどうかしてたみたいだ」 『だがなぁ……元々、あの戦艦を狙うつもりだったんだよ、この俺は。お前に指図されたわけじゃないが――結果的には、同じことになるかもしれないな』 「はは、なんだあんた……案外、良い奴なのか?」 ブツンと通信は途切れた。 さんざ迷惑をかけられたが、終わってしまった今ならば、悪くなかったといえたのかもしれない。 いや、やっぱりそんなことはないか。 何はともあれ、これで準備は整ったはずだ。見ればナデシコから機体が一つ飛び出そうとしている。 これ以上、無駄な時間はなかった。 ブツンと通信は途切れた。 さんざ迷惑をかけられたが、終わってしまった今ならば、悪くなかったといえたのかもしれない。 いや、やっぱりそんなことはないか。 何はともあれ、これで準備は整ったはずだ。見ればナデシコから機体が一つ飛び出そうとしている。 これ以上、無駄な時間はなかった。 「テニア」 「うん」 たった五文字で通じてしまう。俺たちの距離は、こんなに近かったっけ? いや、今は余計なこと、考えなくてもいいんだ。 視界の隅に、黒が現れた。ガウルンの乗るガンダムだ。放たれた光弾が、ナデシコから飛び出そうとした機体の注意を引く。 その一瞬の隙をつき、俺たちは走り出した。 何処へ向かうかなんて考えてなかった。ただ、少しでも早く二人だけになりたかった。 ◇ 久しぶりに、統夜と会った気がする。 実際のところ、どのくらい会ってなかったんだろう。 うーん……一日くらいしか経ってないんだけどなぁ。 でもさ。 やっぱり統夜は、統夜だった。 アタシを助けてくれるヒーローだった。 そして二人で逃げ出した。 今ここは、どのあたりなのかな。 統夜に連れられて、とにかく逃げて――こんな感覚は久しぶりだった。 周りに誰もいないような、見渡す限りの草っぱらまで辿りついて、ようやく統夜は止まった。 そして――二人きりになったと、ようやく感じる。 うん。ようやく。 本当の意味で、私たちは二人きりになってしまった。 カティアも、メルアも、ついでにあのグ=ランドンも。 皆死んでしまったから、残ったのはアタシと統夜だけになった。 もし今、生き残っている人たちが皆生きて帰れるハッピーな展開があったとしても、アタシと統夜にとってそれはハッピーエンドなんかんじゃない。 統夜はカティアが死んだことを悲しんで、ずっと生きていかなくちゃいけないんだろう。 アタシはそんな統夜を見て、死ぬまで独りぼっちかもしれない。 たった一日で、アタシたちは変わってしまった。変わらざるを得なかったんだと思う。 変わらないと、耐えられなかった。 メルアが死んだことも――カティアを殺したことも――きっと昔のままのアタシだったら、耐えきれなかっただろうな。 昔、だなんて変だね。 でも、もうあの時間は――統夜と、アタシたち三人が仲良く過ごせていたあの頃は――もう、大昔のことだったんじゃないかと、そう思っちゃう。 「……テニア」 統夜は一体何を考えてるんだろう。 アタシには、今の統夜が分からなかった。 なんだか今の統夜は、アタシが知っている統夜じゃないけど、でも確かに統夜なんだっていう変な感覚。 この違和感が何から来るものなのか、アタシは知りたかった。 統夜のことをもっと知りたいから――なんて、おセンチな理由じゃないよ。 ただ単に、統夜がアタシを守る騎士として、ちゃんと頑張ってくれるのかどうか、それだけは知っておかなくちゃいけなかったから。 「俺、ちゃんとテニアと話したいんだ……聞きたいことも、たくさんあるんだ」 「いいよ。じゃあ……何から話す?」 「その前に、機体から降りないか? ちゃんと向かい合って話したいからさ」 そう言って統夜は、自分から先に降りて、草原に立った。 こんなことが出来るのは、きっとアタシのこと信用してくれてるからなんだろう。 もしここでアタシがベルゲルミルの足をちょっと動かせば、たちまち統夜は潰れて死ぬ。 そんなこと想像もしてないからこんなことが出来るんだと思う。 そしてアタシは……統夜がアタシを殺そうとするなんて思わなかったから、ベルゲルミルから降りた。 「ん。……統夜、何だか印象、変わったんじゃない?」 「そうかな? ……まぁ、色々あったから。そういうテニアも……いや、あんまり変わってないように見えるな」 力無く笑う統夜は、アタシが期待してた統夜じゃなかった。 なのにさ……ずるいよね。この統夜は、アタシが……いや、アタシたちが好きだった統夜にそっくりなんだよ? それじゃあさ、この統夜がどんなに頼りなくっても、期待しちゃうじゃん。 会ったらアタシが利用してやるー! なんて考えてたけど、アタシじゃなくて、統夜がなんとかしてくれるんじゃないかって思っちゃうよ。 だって統夜なんだもん。 統夜なら、アタシが出来っこないことでもやってくれるって、そんな気がするから。 ……アハハ、なんだか柄じゃないよね、こういうの。 「それで話したいことって何?」 「聞きたいことがある。テニアが今まで、どうやって生き延びてきたのか」 アタシは喋ったよ。 基本はナデシコで喋ったことと同じ。 メルアとカティアが殺されて、命からがらJアークから逃げ出してナデシコに転がり込んで、ようやく安心したと思ったら勘違いでナデシコ組に殺されそうになった。 そんなことを感情を込めながら、昔のアタシならこう話しただろうなって話し方で統夜に伝えた。 「だから……あの時統夜に助けてもらえて、本当に嬉しかった。またこうして統夜と話せるなんて夢なんじゃないかっておもっちゃうくらい」 「俺もだよ。俺も……ずっとテニアに会いたかった」 「え?」 「あ……いやいや、そんな意味じゃなくってさ……その、何て言うか」 顔を真っ赤にして照れる統夜が無性に可愛くて、久しぶりに声を上げて笑った。 あははははははと、大きな声で笑ったら、なんだか心がすっきりとした。 「あはは……そんな慌てなくてもいいのにさ。それで? それで統夜は今までどうしてたの? 統夜のことだから、またどこかで女の子でも助けてたりしたんじゃない?」 何の気なしに言った言葉だったのに、それで統夜は顔を曇らせてしまった。 ――何でだろ? 統夜に感じた違和感が何だったのか、アタシはよく考えてなかったのかもしれない。 「俺はさ……最後の一人になろうとしてたよ」 統夜の口からそんな言葉が出てくるなんて思いもしてなかった。 多分この時のアタシは、とても間抜けな顔をしてたと思う。 だってそうでしょ? 統夜が殺し合いに乗るだなんて……考えられない。 なのに統夜はまだまだ喋っていく。 「最初は生き残りたかっただけだったんだ。何度か戦って……でも、誰も殺すことはなかった。 でも、やってしまったんだ」 何を、とははっきり口にしなかった。 だけど何のことなのか、アタシには良く分かる。 段々と、血の気が引いていくのを感じていた。 「その後は半ば自棄だった。また戦って、戦って……その後だったよ。俺がガウルンと手を組んだのは」 完全に血の気が引いた。 アウト。どう考えてもこれはアウト過ぎる。 ガウルン――唯一、殺し合いへの意思をはっきりと見せた相手。 ガウルンからアタシがやったことをばらされてたら、完全にアウト。 「聞いたよ。テニアが何をやったのか」 はい死んだ! アタシ今死んだよ!? ……なのに統夜は、何故か優しげな笑みを浮かべていた。 「聞いた時は、テニアのことを凄く恨んだ。お前ら三人があの日、俺の前に来なかったら……きっと俺は、こんな殺し合いにも巻き込まれずにすんだんだろうって。 そう思ってたから、テニアがやったことを聞いて、なんて自分勝手な奴なんだって起こったんだよ。 でもやっぱり、実際にテニアと会ってしまったら……テニアの声をもっと聞きたいなんて思ってしまったんだ。 さっき、出会った頃のこと、思いだしてるって言ったのはさ、俺が自分から戦おうって思ったのは……お前らを守ろうって、そう思い始めたからなんだって思い出したんだよ。 こうやって話して分かったんだ。少なくとも俺は、テニアを殺すことが出来ない。 覚悟を決めたつもりだったのに、やっぱり大事な人は殺せない。――俺が言いたいのは、それだけだ。 テニアに、ガウルンから聞いたことは本当だったのか聞くつもりだったんだけどさ……やっぱりそれも、どうでも良くなってしまった」 ……それってさ、ずるいよ。 自分だけ言いたいこと全部言っちゃって……ずるいよ。 そんなこと言われたら……アタシだって、統夜のこと、思いだしちゃうじゃない! アタシの中で統夜は英雄だった。誰よりも強い存在だった。 カティアと結ばれたときだって、それが統夜の選択ならって、そうやって身を引いた。 ……それに、大事な人は殺せないって、だから統夜は優しいんだよ。 そんなことを言われちゃったら……アタシは、何も言い返せない! 本当は殺したくなかったなんて、そんな言い訳もできない。 アタシはカティアが目を覚ましたその時に、怖くなって力を込めて……殺したんだよ! カティアだけじゃないメルアだって目の前で殺されたのに、アタシは何も出来なかった。見殺しにしたんだ。 そんなアタシがさ、優しい統夜の隣にいられるわけないじゃん。 ただ優しいってだけなら、比瑪だっていたけど、でも、統夜と比瑪じゃ全然意味が違う。 だって……だってアタシも、こうやって話してて、統夜のことが殺せるだなんて思わないんだもの! ……あーあ、駄目だ。やっぱりアタシは――どうしようもなく統夜のことが好きなんだ。 好き。大好き。愛してる。いくら言葉があっても足りないくらいの気持ちがアタシの中にある。 メルアを見殺しにしたアタシでも、カティアを殺したアタシでも、武蔵を撃ったアタシでも、オルバを置き去りにしたアタシでもない。 ただの恋する少女なフェステニア=ミューズになってしまうんだ、統夜の前では。 「あのさ……」 口が勝手に動いていた。 アタシがやってきたことを、全部話してしまう。 どうせなら、カティアを殺したときに狂ってしまえば良かったんだ。 半ば理性を持って、狂ったつもりになって。そしてそのことを統夜に気付かされてしまって。 統夜は「それでもいい」だなんて優しい言葉を吐く。 だからずるい。そんなことを言われたら期待してしまう。 今度こそ、アタシが選ばれるんじゃないかって。 大粒の涙がぼろぼろとこぼれていく。 いつの間にか統夜も泣いていた。 子供みたいに、二人でわんわん泣いた。 「ねぇ、統夜……アタシもさ、統夜と一緒に生きたい。生き延びたい。もっと二人で色んなことしたい」 「俺も、まだまだやりたいことがあって、その隣に誰かにいて欲しい」 「いいの? アタシで。アタシは、最悪な女だよ。酷いんだよ」 「いいさ。俺だって最悪だよ。でも――テニアが欲しいんだ」 「ねぇ統夜、もっと強く抱きしめてよ。何もかも忘れちゃうくらいに、強く……」 初めて触れる統夜の胸の中で、アタシは多分、世界で一番幸せで可哀想な少女になった。 こんな巡り合わせを神様が決めてるんだとしたら、きっとその神様は残酷だ。 なんでこんなところで、って思う。アタシがあんなことをした後にこんな幸せを与えるなんて。 でもアタシは神様に言いたい。ありがとうって。 もう一度言うよ。アタシは今、幸せ。 【紫雲統夜 登場機体 ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A) パイロット状態:昂揚 機体状態 左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、全身に損傷多数 EN80% 現在位置:H-1 第一行動方針:??? 最終行動方針:テニアと生き残る】 【フェステニア・ミューズ 搭乗機体:ベルゲルミル(ウルズ機)(バンプレストオリジナル) パイロット状況:幸福 機体状況:左腕喪失、左脇腹に浅い抉れ(修復中) 、シックス・スレイヴ損失(修復中、2,3個は直ってるかも) EN60%、EN回復中、マニピュレーターに血が微かについている 現在位置:H-1 第一行動方針:??? 最終行動方針:統夜と生き残る 備考1:首輪を所持しています】 【二日目14 30】 BACK NEXT 心の天秤 投下順 驕りと、憎しみと 驕りと、憎しみと 時系列順 かくして漢は叫び、咆哮す BACK NEXT Lonely Soldier Boys &girls テニア 王の下に駒は集まる Lonely Soldier Boys &girls 統夜 王の下に駒は集まる
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/378.html
The 5th Vanguard ◆VvWRRU0SzU 『……ラ、おき……、キラ』 「う、うう……」 震動と、トモロの声で目が覚めた。 ゼストと、反応弾を自爆させて僕は死んだんじゃないのか――と朧な意識で考えた。 『キラ、早く起きるんだ。戦いはまだ終わっていない』 「……え?」 段々とはっきりしてきた意識。視界いっぱいに広がる、星のない緋色の宇宙。 キラは身体を起こす。とたん全身に激痛が走り、息が詰まる。 メガフュージョンの代償。今やキラの身体はまるで戦場を生身で潜り抜けたかのように傷だらけだ。 意志の力で痛みを押し隠し、トモロへと状況を尋ねる。 『済まんが治療している時間はない。見ろ、主催者の本拠地だ』 トモロが示す先、モニターに映ったのは白く巨大な機械の星だ。 逆方向には木星のようなもの。トモロはあれこそが先程までいた殺し合いの舞台だと言った。 そして視界に映ったのはそれだけではない。 「トモロ、あれは……!?」 キラの目前で繰り広げられていたもの。 先程までの巨獣のような形態から、中枢であったAI1が巨大化した脳の塊のような物体。 ところどころにゼストのパーツが混じっているがその形は定かではない。 その周りを護衛するように取り囲む、機動兵器が多数。 カミーユから聞いたメディウス・ロクスという機体の外見と一致する。 塊の表面から、次々と生み出され飛び立っていく。 ユーゼス本人が言っていた、真空中では無限の力を生み出す相転移エンジンとラズムナニウムの成せる業だ。 『ユーゼスだ。黒い機体はゼストが生み出したもの。パイロットは乗っていないらしいが、無限に生み出されている』 「じゃあ、ユーゼスが戦ってる相手は?」 ゼストが、そしてメディウスが攻撃を仕掛けている相手。 キラにも見覚えがある顔の形――そう、ガンダムだ。 ただしただのガンダムではない。 肥大した下半身からいくつものガンダムの頭がついた蛇のようなもの――ガンダムヘッド――を蠢かせる、悪魔のようなガンダム。 白の機星に直接接続されているガンダムは、おそらくエネルギーを供給されているのだろう。 ゼストと同じく次々とガンダムヘッドを生み出し、ゼストへとけしかけている。 ガンダムヘッドと、メディウス・ロクス。 お互いが無尽蔵に生み出せる手駒が、お互いの身を喰らい合っている。 観測できるだけでも、その総数は軽く万単位だ。 規模の違い過ぎる戦いに、キラの腕が震える。 『主催者の少女――アルフィミィ、と言うらしい。我々は自爆した後ここに辿り着いたのだが、あの星から奴が出てきた。 どうやら私達が脱出したのはイレギュラーだったらしく、直接排除に来たそうだ』 「そう……え、じゃあなんで僕達は攻撃されていないの? 僕が気絶してたんなら、キングジェイダーは無防備だったんでしょ?」 『……攻撃を受けなかった訳ではない。あれを見ろ』 モニターが移動し、熾烈な領土争いを続けるゼストとデビルガンダムから視点を外す。 映し出されたのは―― 「シャギアさん!?」 ボロボロになった、ガンダムF91だ。 右足が根元から消失し、左右の腕も半ばで食い千切られたような痕跡がある。 そのフェイスにもう光はない。乗っているシャギアもおそらく―― 「勝手に、殺すな。生きては……いる」 「シャギアさん!」 生きていた。急いで回収してとトモロに言う。だが、 「無駄だ、キラ・ヤマト。私はもう助からん……」 シャギア本人がそれを拒んだ。 『シャギア・フロストはキングジェイダーがゲートを破壊した瞬間、一緒について来たのだ。 彼が先程までこちらに向かってくる敵機を迎撃していた』 「僕を守るために……?」 『そうだ。だが、奴らの無尽蔵の数に対抗できる訳もない。つい数分前に、撃破された』 「そんな……!」 ユーゼスとアルフィミィがキラを見逃した理由は、無力の相手に割く力はないというところだろう。 一進一退の攻防を続ける両者は、虎視眈々と隙を狙い合っている。キングジェイダーを始末する瞬間を撃たれてはたまらないのだろう。 F91へとキングジェイダーを寄せた。 キングジェイダー自身、反応弾のダメージか両腕が欠落している。掴む事ができず、胴体を接触させて呼びかける。 「しっかりしてください、シャギアさん! すぐ医務室に運びます!」 「無用だ、と言った。自分の身体の事は、自分が一番わかる……。それより、奴らだ」 「でも、僕を助けるためにあなたは……!」 「聞け……! お前が今何を成すべきか考えろ! 奴らの内どちらが勝とうと、我々にとって利はない。 ユーゼスが勝てば奴は更なる進化を行い、主催者のみならずネゴシエイター達までも呑み込むだろう。 主催者が勝っても同様だ。私達に止めを刺し、そしてあの箱庭で殺し合いを続けるはず。 仲間を助けたいのなら、今、ここで! 私とお前が、奴らを叩くしかない!」 「叩くって……どうやってですか!? ユーゼスの機体は無限の動力を持ってるし、主催者だってあの星からエネルギーを汲み上げてるんですよ。 いくらキングジェイダーでも、あんな力に対抗するなんて……」 「フン……あんな無謀な自爆を仕掛けた割に、弱腰な奴だ」 「あ、あれは勝算があったからで。でも、この状態じゃどうしようも」 「勝算なら、あるさ」 力強く言い切るシャギアに、キラの言葉が封じられる。 満身創痍のF91とキングジェイダーに、一体どんな逆転の手が打てるというのか。 「お前がやった事と、同じだ。足りない力は他で補えばいい。 幸いここには触媒となる力が二つ、おあつらえ向きにあるだろう?」 「僕がやった事……二つ?」 あの時の状況は、キングジェイダー、ゼスト、反応弾の三つ。 今はキングジェイダー、ゼスト、そしてデビルガンダム。 置き換えると、 「反応弾の役割を、キングジェイダーで……?」 「そう、だ。キングジェイダーを引き金として、無限の力を行使するゼストとあのガンダムを対消滅させる。 我らが勝利するには……それしか道はない」 「で、でもシャギアさん! そんな事をしたらあなたまで!」 「言っただろう。私はもう助からんと」 F91のコクピット内部が映し出された。 一面の血の海――シャギアの身体を飾る、無数の鋭い刃。 「どうせ死ぬなら、奴らも道連れにする……。私とオルバの運命を弄んだ奴らを残して死ぬ事など、我慢ならん」 「シャギアさん……」 「お前はどうなのだ、キラ・ヤマト。このまま指をくわえて、奴らに蹂躙される運命を由とするか?」 「……いいえ。あなたが行くのなら、僕も行きます。それが、みんなを守る事になるのなら」 「フッ……よく言った。では、行くか」 キングジェイダーの肩へ、F91が降り立つ。 最初に会った時は訳も分からず戦ったのに、こうして背中を預け合う事になるなんて不思議なものだと思った。 でも、悪くない――こうして、人は手を取り合う事が出来る。 疑い、憎み、殺し合ったとしても、同じ目的のために共に戦う事が出来る。 それだけが、この殺し合いで見つけたただ一つ尊いものなのかも知れないと思う。 移動する短い時間の間、木星の中にいる仲間達は大丈夫だとトモロが言った。 キラとカミーユが作り出した首輪解除の方法。欠けていた最後のピース。 必要だったのはアインスト細胞の力を弱める事。 キラが気付いた。自分の首にもう首輪がない。 バサラの歌が、アインストの干渉を跳ね除けたのだとシャギアが言った。 アルフィミィは最初首輪を爆破してキラ達を排除しようとしたそうだが、失敗したため直接攻撃に切り替えたのだそうだ。 ユーゼスも何らかの方法で首輪を解除したのだろう。とにかく、これで首輪の爆破による戦いの強制はもうない。 あとはこの場を収め、仲間達を無事にあの星へと到達させる事だけを考えればいい。 ふと思いついて、白の星に向けてアルトアイゼン・リーゼを射出した。 どうせ持っていても使えない。 だったら誰か、仲間達が使えるようにあの場へ先に置いておいた方がいいと思ったから。 ゆっくりと近づくキングジェイダーとF91に、ゼストとデビルガンダムが同時に気付く。 その軍勢が一斉にこちらを照準する。 連合とザフトの戦争でもまずここまでの戦力の激突はないだろうという数。 でも、キラは自分でも驚くほどに恐怖を感じていない。 たった二機で、宇宙を埋め尽くすほどの敵と対峙していても。 万の軍勢よりも心強い戦友と相棒が、共にいる。 命のない人形をいくら生み出そうが、この繋がりを断ち切る事なんて絶対にできない。その想いがキラの中で最後の勇気を燃え上がらせる。 「あら、まだ生きてらしたんですの」 「横槍を入れに来たのか? 残念ながら、今の君達では観客にしかならんのだがな」 微塵も己の負けを疑っていないという声が二つ。 それはそうだろう。戦力差は比べる事すら馬鹿馬鹿しい。 「だが、今はその観客ですら邪魔なのだ。退場していただこうか!」 殺到する無数のメディウス・ロクス。 「デートの邪魔をするのは無粋ですの。だから……消えてくださいな」 同じくガンダムヘッドも。 圧倒的な数の兵隊が迫って来る中、キラとトモロ、そしてシャギアは―― 「行くぞ、キラ・ヤマト! 今が駆け抜ける時だッ!」 「はいッ!」 逃げる事など考えない。正面から、雲霞のごとき敵軍の群れへと突っ込んでいく。 策はある。そう言ったシャギアを信じ、最短距離でゼストとデビルガンダムの中間へと向かう。 メディウス・ロクスが、あらゆる包囲から放つライフルの光がキングジェイダーを貫く。 ガンダムヘッドが噛み付く。纏わりつく無数の敵に、キングジェイダーが外側から見えなくなった。 「フン、他愛もない」 「ですの。じゃあ続きをしましょう、おじ様」 「言われるまでも……むっ!?」 倒したと思ったユーゼスの顔に走る驚愕。 キングジェイダーを包んだ黒い繭から、輝く何かが飛び出した。 その何かは進路を遮るメディウスやガンダムヘッドを弾き飛ばし、キングジェイダーの頭上100mというところで停止。 何か――ガンダム。 シャギア・フロストの駆る、ニュータイプ専用モビルスーツ・ガンダムF91。 何かと思えば、と失望したユーゼスの前で、F91はその輝き一気に強める。 全身から黄金の閃光を放つ。その光に触れたメディウスとガンダムヘッドが消し飛び、キングジェイダーを捉える繭が瓦解した。 そのF91、命を燃やし力へと変えるシャギアの最期の咆哮が轟く。 「刮目せよ! これが我らのッ!」 ゲッターシャイン――見る者が見ればそう言ったかも知れないその輝きを身にまとい―― 「乾坤一擲の合体だぁぁぁぁッッ!」 ――キングジェイダーの頭部へと、激突する! 「パイルダァァァァァァァァァァァアアアアアアアアッ! オォォォォォォオオオオオオォォォォォォォォォンッッ!」 もはや光そのものとなったF91と、キングジェイダーの頭部・ジェイダー。 光の中で、二つは一つになる。 キングジェイダーの持つJジュエルの力を、保管されていたレース・アルカーナが増幅する。 F91のサイコフレームがその発生した莫大な力を変換し、力場へと変える。 やがて光が収まり、キングジェイダーの頭部に新たに生まれたもの、それはガンダム。 ジェイダーとF91が融合し生まれた巨大なガンダムフェイスが、金色の煌めきと共に顕現する。 「こ、これは……!?」 「一体なんですの……!?」 「聞かれたなら答えよう。これが我らの新たな力――ガンダムキングジェイダーであるッ!」 「これが僕達の……いいやッ! 僕達が、ガンダムだッ!」 キングジェイダー、いやガンダムキングジェイダーが、虹色の翼を広げる。 「プラズマウイングッ! 」 ガンダムフェイスが開く。そこから漏れる黄金――ではない、虹色の輝きが、機体を包み込んだ。 キラのいる――もう、コクピットと呼ぶ事もおかしい――輝きに満ちた空間。 後ろにはシャギアが、隣にはトモロがいる。 心の中に浮かび上がる、ガンダムという言葉。 General Unilateral Neuro - link Dispersive Autonomic Maneuver ___Synthesis System 、と言うのがストライクの起動時に浮かび上がったガンダムの由来。 ふと思いついて入力する。 Getter United Newtype Destiny Alter Machina. 訳するなら、『絆を得て新生せし運命を変える機械神』……とでもいったところか。 文法はデタラメだし、意味が通るでもない。 でも別にいい。大事なのは気持ちだ。 ゲッター、ニュータイプといった言葉。 仲間達との繋がり。 そして運命を変えていく事。 この機体に込めた思いはそんなものだからだ。 「さあ、キラ・ヤマト。終わらせるぞ!」 「はい!」 シャギアが、右腕を伸ばす。 ガンダムキングジェイダーの存在しない右腕に、真紅の輝きが溢れ腕の形を成す。 キラが、左腕を伸ばす。 ガンダムキングジェイダーの存在しない左腕に、蒼天の煌めきが生まれやはり腕の形に。 光が構成する腕を、重ね合わせる。 『ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォー……』 トモロが唱える呪文のような言葉・その意味は、『二つの力を一つに』。 赤い宇宙を満たす虹色の輝きがゼストを、デビルガンダムを包み込み、引き寄せる。 「なんですの……機体が!」 「動けゼスト! なぜ動かん!?」 引き寄せ、密着する二機の周囲をそれぞれが生み出した眷族が蟻のように囲む。 創造主を守ろうとするその蟻達をは、しかし虹に触れた瞬間に消し飛んで行く。 ガンダムキングジェイダーが、組み合わせた両腕を突き出す。 その身体から光がレールのようにゼストとデビルガンダムへと伸びて、『狙いを定める』。 「受けてみろ……この一撃を!」 「僕達の想いと力――自由と正義を!」 『絶対無限の、勇気の力を!』 言葉はなくとも心で通じる。 キラと、シャギアと、トモロの全てが同化し、駆け抜ける! 「……ば、馬鹿な……この私が……全能なる調停者たる……このユーゼス・ゴッツォが……!」 「嘘……こんな事が……!」 神になろうとした仮面の男、 意志を奪われ創られたかつて人を理解したアインスト、 一切の区別なく、彼らは叫ぶ。 未来を拓く、そのために。 これで全てが終わるのだとしても、後悔はない。 生きた証、この炎はきっと消える事無く、受け継がれているから。 だから、 「「『ウィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイタァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」 」』 全てを浄化し、消滅させる光が、赤い宇宙を純白の閃光で塗り潰し―― □ 「キラ……!」 「空が……割れる……!?」 アイビスとロジャーが見上げる空に、一際大きな閃光が奔る。 キングジェイダーがゼストを引き連れ突破していったゲート。 F91をもまた、ロジャー達に何も言わずにそこへ飛び込んでいった。 先程まで荒れ狂う力が噴き出していたその穴も、閃光を境に凪のように静まった。 しかし同時に凄まじい規模の地震が二人を襲う。接地していたブレンが堪らず空中へ飛び難を逃れた。 凰牙もそれに倣う。 だが宙にいても震動が感じられる。揺れているのは地面ではない――この世界そのものだ。 「このままではこの世界が崩壊する! 危険だが……あのゲートへ飛び込むぞ!」 「で、でもサイバスターとラーゼフォンはどうするの! キラ達だって帰って来てないのに!」 「サイバスターは私が背負っていく。君はソシエ嬢とバサラ君をコクピットに乗せるんだ!」 「ロジャー!」 「キラ君達の事はどうしようもない! 今は我々が生き残る事を考えろ!」 ロジャーの怒声に、渋々ながらアイビスは折れた。 ここで待っていれば自分達もこの世界の崩壊に巻き込まれる。 であるならばゲートの向こう、主催者達のいるところにキラ達が辿り着いている事を願うしかない。 ブレンが飛ぶ――いや、飛ぼうとした。しかしその身は荒れ狂う風に押され、自由に動くことがままならない。 体勢を崩したブレンを引っ張り上げ、凰牙は再度着地する。 「くっ、これでは身動きが取れん!」 「ロジャー、カミーユが!」 アイビスの声に目を向けると、大地にぽっかり空いた奈落――暗い深淵の穴に、サイバスターが今にも落ちようとしている。 ゼストをこの世界から放逐した際、カミーユの疲労はついに限界を突破したのだ。 声を掛けたくらいでは気付かない―― 「いかん、カミーユ!」 「ダメ、起きて! カミーユ!」 そうとは知りつつ、必死に叫ぶ二人。願いも虚しく落下していくサイバスター。 後を追ってブレンが飛び出そうとして、その手をやはり凰牙が掴み押し留める。 「離してロジャー! カミーユが!」 「君まで死ぬつもりか!?」 「だって、他にどうしようも……!」 落ちていくサイバスターへと必死に手を伸ばすアイビスとブレン。 届くはずのないその手に、ロジャーが無力を痛感し歯を食い縛る。 「済まん……!」 ブレンを抱えゲートへ向かおうとしたその時、 「ロジャーッ! 勝手に諦めてるんじゃないわよ!」 ロジャーの耳に飛び込んできた、少女の声が。 少女の声と共に聞こえてきたバサラの歌が。 絶望に支配されかけた心を乱暴に掬い上げる。 それだけではなく、凰牙とブレンが光の膜で包まれた。 そして黙然と奈落に落ちて行ったサイバスターまでもがその膜に包まれ、浮かび上がって来た。 「いい、ロジャー? 今からあなた達をあのゲートの向こう側まで飛ばすわ。衝撃がすごいらしいから、舌を噛まないように気をつけて」 「向こうに飛ばすって……何言ってるのソシエ! 早くあなたもこっちに!」 「聞いて! バサラが、ラーゼフォンならそれができるって言ってる。ゲートの向こうで戦ってた三つの力が消えたらしいわ。 今なら干渉されずに主催者の所へ行けるはずだって。ただ場所の指定とかはできないから、向こうに着いたら急いで合流するのよ! まだあのガウルンと統夜ってのが生きてるかも知れないら気をつけて!」 「待て、何を言ってるか理解できない。我らを移動させるのはいいが、気をつけろとはどういう事だ?」 「ラーゼフォンはここにいる全ての生命を転移させる……とか言ってたのよ! だから、もしあいつらが生きてたら一緒に飛んでっちゃうの!」 「選別できないという事か……! とにかく詳しい事は後で聞く! 君もこっちに移れ! ラーゼフォンの状態では生身の人間がゲートに飛び込むのと大して変わらん!」 だが、その答えが返ってくる前に凰牙とブレン、サイバスターは浮上していく。 見る間に地上――そしてラーゼフォンが離れていく。 歌い続けるラーゼフォンの足元はもう崩れ始めている。 「ごめん……ラーゼフォンがここに残らないと、あなた達を転移させられないの。もう間に合わないわ」 「何を言っているんだソシエ・ハイム! 君とバサラ君だけでも連れて行く!」 「わかってるでしょ? ラーゼフォンはバサラの歌がないともう動けない。ここを動くわけにはいかないの……」 「ちょっと、ソシエ!」 「ロジャー、ブタ……じゃないや、ボアをお願いね。私の代わりに契約してあげて」 ぞくりとするほど平静なソシエの声。 その瞬間ロジャーはわかってしまった。これは――運命を受け入れた者の声だ。 ラーゼフォンから緑色の猪――データウェポンが飛んで来た。契約を、解除したのだ。 「だったら! だったら君だけでも……!」 「ロジャー、それ以上は言わないで。あなたは人の命に順列をつける人じゃないでしょ? あまり、カッコ悪いとこ見せないでよ。 気持ちは嬉しいけど、私を助けに来たらあなたまで助からない。だから、いいの」 「ソシエ……!」 「アイビス、ロジャーとカミーユをお願いね。男っていつも自分達だけで突っ走って行っちゃうんだから、あなたがしっかり手綱を握るのよ?」 「認めん、認めんぞ! 君達が犠牲になるなど――!」 抗えない力で天へと昇る機体達。 必死に叫ぶ。決して届かないと、心のどこかでわかっているけど。 ついにゲートへと到達。飲み込まれる一瞬―― 「さよなら……ロジャー、アイビス、そしてカミーユ。負けないで……生きて。私達の分まで……」 それが、ロジャー・スミスが聞いたソシエ・ハイムの最後の声だった。 □ 「行ったわね……これで良かった? 寝ぼすけさん」 ゲートの向こうに消えた仲間達を見送り、ソシエはその男の横に腰を下ろした。 気掛かりはやはりもう一つ昇って行った光だ。統夜かガウルンか、それはわからないがどちらにしろ敵である事に違いはない。 「まあ……気にしても仕方ないか。もう私達にはどうしようもないものね」 返答はない。 理由もわかっている。男の呼吸は、随分前から止まっていたのだから。 それでもラーゼフォンは歌い続けている。まるで主の命をもらったかのように。 バサラはその命が尽きてなお、ギターを演奏する事を止めなかった。 指だけが勝手に動いている――歌に命を掛けるのも、ここまでくれば本物だ。 やがて、ギターの音色が途切れる。つられるように、ラーゼフォンの歌も。 結局最期までよくわからない男だったが、歌いたいだけ歌ったのなら、きっと満足して逝ったのだろう。 バサラの安らかな、とても死んでいるとは思えない笑顔を見てそう思った。 「あーあ……キラの奴。一発ぶん殴ってやろうと思ってたのに……ええ、わかってるわよ。多分、キラももう……」 キラとシャギアが消えてまだ五分も経っていない。 でもわかる――あの向こうで、きっと彼らは戦っていたのだ。自分の命と引き換えに、仲間の道を開くために。 独り言なんてした事はあまりないが、言わずにはいられない。 バサラが聞いてくれるだけでいい。それだけで、一人じゃないというだけでなんだか救われる気がする。 「みんな、死んじゃったのね。私ももうすぐ……でも、不思議。あんまり怖くないの。何でかしらね?」 言って、多分それは全力で生きたからだろうと思った。 生きている熱を感じる事が出来た。その熱があったから、ここまで来れた。 そして、炎はまだ絶えてはいない。 あの空の向こうに、同じ炎を灯した仲間達がたしかに存在する。 だから、後悔はない。悲しくはあるけど……それでも、笑って今という時を迎えられる。 ふと思いついて、バサラの頭を膝の上に載せた。 幼い頃、姉がよく歌ってくれた子守唄。あれはどう歌うんだったかと、古い記憶を掘り起こす。 やがて溢れ出すメロディが、ラーゼフォンを満たす。 よく眠れるでしょう、と微笑み、空を見上げたその頬を一筋の涙が切り裂いた。 ソシエの見ている世界が歪み、溶けて消えていく。 その向こうから覗く紅い宇宙が、なんだかとても哀しく思えた。 「ロラン……もう一度、会いたかったな」 その願いは、もう、誰にも届かない―― □ 目覚めたらそこは別世界だった。 これが冗談抜きではなく、アキトの瞳に映るのは、どこまでも広がる赤い宇宙。 ガラス越しの宇宙、そして崩れゆく木星のような星を感情のない眼で見つめる。 あの星こそが、先程まで放り込まれていた殺し合いのフィールドなのだろうと思った。 座り込んでいた身を起こす。 薬を飲んだときからではあったが、思うとおりに身体は動く。 だがそれだけではない違和感――右腕を見てわかった。 ナデシコの乗員、いや火星出身者なら誰もが持つナノマシンの存在を示す痕がない。 おそらく薬の影響もきれいに消え去っているだろう。 「あの時……俺はやはり、一度死んだのだろうな」 ゼストへと取り込まれ、意識を失った後。 あの時点でアキトの身体はもう失われていたのだろう。 「だが、ユーゼスが滅びたのなら何故俺はここにいる……? それに、あの夢は……」 ゼストの中で見た、不思議な夢。 幾多の世界で繰り広げられる戦い、その中にはアキト自身もいた。 アキトだけではない。 ナデシコが、ゲッターが、マジンガーが、ガンダムが、ラーゼフォンが、騎士凰牙が。 カミーユ・ビダンが、神名綾人が、兜甲児が。 今より若い時分の――コックをしていた頃のアキトが、あのキョウスケ・ナンブと共に戦ってすらいた。 何より、彼女がいた。 たとえ誰かを殺してでも取り戻したいと願った、最愛の人―― 「……ユリカ」 夢の中で、確かに彼女が隣にいた。話した、のだと思う。 しかし何を話したか情けない事に覚えていない。 胸の内に引っ掛かる、棘のような痛み。 何か、とても大切なことを言われた気がする。 でも、パズルのピースが抜け落ちたように、その部分だけがどうしても思い出せない。 溜息を吐いてアキトは振り返った。 そこに鎮座する、一機の機動兵器。 名を、アルトアイゼン・リーゼ。 鋼鉄のベーオウルフの異名を取る、キョウスケ・ナンブの愛機。 気がついた時、何故かこの機体がこの機械の星に打ち捨てられていたのだ。 まさか、一度乗り捨てた機体が巡り巡ってまた自分の所に戻ってくるとは。 これもあの無愛想な男の意趣返しか、と皮肉気に笑う。 体調は万全。 機体のコンディションも問題はない。 いつでも動ける――戦える。 だが、アキトの足は棒になったかのように動かない。 何故なら、それまでのアキトを突き動かしていた胸を焦がすような想いが、どこかに行ってしまったから。 ユリカを取り戻したいという気持ちに変わりはない。 しかしどうにも、燃え上がるような感情が湧いて来ない――これは一度死んだからだろうか、それともあんな夢を見たからなのか。 わからない。どうしたいのか、どうしたかったのかを。 ふと、思い付く。ガウルンはどうなっただろう。 生きているならば――どうするのか。 倒す、その気持ちに偽りはないが、以前と同じ気持ちで奴の前に立てるのか。 しかしこれまた何故か、おそらく奴は生きていないだろうという気がした。 理由はない。強いて言うなら勘、だろうか。 奴はあの星にいる。いや、いた、というべきか。 奴の輝きが消えた。アキトの第六感が――ゲッター線に触れたアキトの感覚が、そうではないかと告げている。 奴を討ったのは、多分あの統夜という少年だ。 テニアという少女も生きていないだろうと、これまた勘で予測した結果残るのはその少年のみ。 なんとなく推測できる。 あの少年と少女は、要するにアキトとユリカなのだ。 ガウルンは二人の関係をアキト達のそれに見立て、同じ事を繰り返したのだろう。 そして望み通りガウルンは統夜に撃破され、アキトの手の届かない所へと行ってしまった――という事だ。 「……あの少年を探すか」 思い立ち、アルトへと乗り込む。 どうせ、生き残った者はここへ攻め込んで来るだろう。 できればそいつらより先に統夜に会いたい。 会って、自分がどうするのか、自分と同じ存在となった少年に何を思うのか確かめたい。 ユリカを失ったアキト、テニアを失った統夜。 選ぶ道は同じものなのだろうか。それを、知りたい。 そして男は動きだす。 自分と同じ魂の形、欠けた月のような心を求めて。 【バトルロワイアル会場 崩壊】 【三日目 2 00】 【フェステニア・ミューズ 死亡】 【ガウルン 死亡】 【シャギア・フロスト 死亡】 【ユーゼス・ゴッツォ 死亡】 【キラ・ヤマト 死亡】 【ソシエ・ハイム 死亡】 【熱気バサラ 死亡】 【アルフィミィ 死亡】 【残り 5人】 【カミーユ・ビダン 搭乗機体: サイバスター パイロット状況:強い怒り、悲しみ。ニュータイプ能力拡大中。疲労(極大) 気絶 首輪解除 機体状況:オクスタン・ライフル所持 EN30% 現在位置:ネビーイーム内部 第一行動方針:??? 最終行動方針:アインストをすべて消滅させる 備考1:キョウスケから主催者の情報を得、また彼がアインスト化したことを認識 備考2:NT能力は原作終盤のように増大し続けている状態 備考3:オクスタン・ライフルは本来はビルトファルケンの兵装だが、該当機が消滅したので以後の所有権はその所持機に移行。補給も可能 備考4:サイバスターと完全に同調できるようになりました 備考5:ファミリアA.R・C.A・K.Nを創造(喋れない・自意識はない)】 【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード) パイロット状況: 疲労(大) 首輪解除 機体状況:ソードエクステンション装備。ブレンバー損壊。 EN20% 無数の微細な傷、装甲を損耗 第一行動方針:仲間と合流する 最終行動方針:精一杯生き抜く。自分も、他のみんなのように力になりたい 備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分(全体量の約半分以上)な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】 【紫雲統夜 登場機体 ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A) パイロット状態:疲労(極大) 絶望 気絶 機体状態 左腕使用不可 シールド破棄、頭部角の一部破損、全身に損傷多数 EN20% ガーディアンソード所持 現在位置:ネビーイーム内部 現在位置: ネビーイーム内部 第一行動方針:優勝するため、全ての参加者を殺害する 最終行動方針:テニアを生き返らせる】 【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童) パイロット状態:肋骨数か所骨折、全身に打撲多数 首輪解除 機体状態:右の角喪失、 側面モニターにヒビ、EN90% 斬艦刀を所持 現在位置:ネビーイーム内部 第一行動方針:仲間と合流する 第二行動方針:アキト、統夜と交渉する 第三行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める 最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉) 備考1:ワイヤーフック内臓の腕時計型通信機所持 備考2:ギアコマンダー(黒)と(青)を所持 備考3:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能 備考4:ハイパーデンドー電池4本(補給2回分)携帯 備考5:バイパーウィップ、ガトリングボアと契約しました】 【テンカワ・アキト 搭乗機体:アルトアイゼン・リーゼ パイロット状態:健康 首輪解除 機体状態:良好 現在位置:ネビーイーム内部 第一行動方針:統夜を探す。それ以外は……? 最終行動方針:???】 BACK NEXT 竜が如く 投下順 彼方よりの帰還 竜が如く 時系列順 彼方よりの帰還 BACK 登場キャラ NEXT moving go on(1) カミーユ 彼方よりの帰還 moving go on(1) キラ moving go on(1) アイビス 彼方よりの帰還 moving go on(1) ソシエ moving go on(1) ロジャー 彼方よりの帰還 moving go on(1) バサラ moving go on(1) シャギア 竜が如く ガウルン 竜が如く 統夜 彼方よりの帰還 竜が如く テニア 銃爪は俺が引く ユーゼス 銃爪は俺が引く アキト 彼方よりの帰還 竜が如く アルフィミィ
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/258.html
◇ 滑走路を駆け抜けた大雷凰。その左腕が伸びる。 瓦解した建物に頭を埋めるようにして、突き立つトマホーク。その柄を掴んだ。 同時に足場を踏みしめ付いた勢いを削ぐ。 視線は追いすがる大型機に。踏み抜いたアスファルトの破片が舞い上がり、巻き込まれた建物の破片が舞い踊る。 二本の爪跡を残し、ようやく足場をしっかりと捉え構えた。 瞬間、両足に体重が乗る。全身のバネが縮み、力を蓄え、そして放出されるその一瞬。悪寒が竜馬の全身を圧し包んだ。 兆候は何もない。 赤い大型機はまだ遠く。基地にも異変は見当たらない。だがそれでも竜馬の直感は危険を察知した。 咄嗟の回避。前に進むはずだった力を横へ。 強引な行動に体勢は崩れ、半ば転がるようになりながらも跳び退く。 しかし、それは正しかった。 数瞬前までいた場所。もし前進していたならば、そこにいたであろう所。それらをまとめて呑み込む極太の粒子の束が駆け抜けた。 膨大な熱量に溶けたアスファルトが融解し泡立つ。地上から天空へ光の帯が奔る。 その光景が過ぎ去ったとき、眼前に大きく空いた穴から新たな機体が現れた。 「メディウスの慣らしに付き合ってもらおうか」 「チッ! もう一機いやがったか」 息を呑み汗が頬を伝って流れ落ちていく。 50m級の大型機。損傷はどこにもなく戦力は未知数。一度退くべきか、そう考える暇は竜馬には与えられていなかった。 メディウス・ロクスが動く。演舞でも行なうが如く舞、その手足からくの字型の金属が打ち出された。 それが距離を取っていた竜馬を襲う。 弧を描くような軌道。かわしても戻ってくる。それを見極めトマホークで薙ぎ払う。 その間に距離が潰れる。既に手を伸ばせば触れられる距離。不意に激情が竜馬を支配した。 大雷凰の出力が跳ね上がる。 「なめんじゃねええええぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!!」 ゲッタートマホークを振り下ろす。同時に突き上げられる拳。 金属同士が重音を奏でメディウスの右腕に生えた一対の牙と大斧が接触した。 「チィッ!!」 押し合う牙と大斧。 不意にメディウスが動く。 力を緩めて大斧を受け流すと左腕を振るう。そこにもまた一対の牙。 右腕のない大雷凰にこれを防ぐ術は無い。火花が散り、装甲板が一枚持っていかれる。 だが構うことなく懐に踏み込んだ竜馬はトマホークを手放し、肩で下から突き上げた。 当て身。 メディウスがふわりと浮かび上がり、次の瞬間痛烈な蹴りが叩き込まれる。メディウスの巨体が弾け飛ぶ。 追撃。背部と脚部のスラスター唸りを挙げ眩い閃光を放った。 一度開いた距離が瞬く間に潰れていく。その先に光が灯る。 「なるほどいい腕だ。だが……」 メディウス・ロクスの胸部に集約されていく光。それが強大な奔流となり撃ち出される。 眼前に迫り狂う粒子の荒波。 だが、構う事は無い。スラスターから漏れる光が大雷凰を呑み込み、一筋の閃光と化して不死鳥を形作る。 ぶつかり合った大雷凰とターミナスブレイザーがほんの一瞬だけせめぎ合い、不死鳥が突き抜けた。 「馬鹿なッ!? グオッ!!!!」 蹴り。ただの蹴り。呆れ返るほど真っ直ぐで前に突き進むほか一切を知らない蹴り。 しかし、大雷凰の全推進力を懸けた蹴りだ。メディウス・ロクスの装甲に亀裂が奔り―― 「うをおおおぉぉぉぉぉおおおおおおりゃッ!!!!」 トンでもない速度で弾け飛んだ。そして、稼動効率100%を超えた大雷凰が、それよりも遥かに素早く回り込む。 が、それで終わるほど敵も甘くは無い。 「出力上昇110……120……頭に乗るな……イグニション」 弾け飛ばされていくメディウス・ロクスから赤黒いオーラが立ち昇る。 そして、瞬時に体勢を立て直し、迫り狂う不死鳥を迎え撃った。 ◇ ベガはその光景をただ見ていた。 赤黒い閃光と蒼白い不死鳥が死闘を演じるその光景をだ。 馳せ違う。 入れ替わる両者。 しかし、動きは止めずに共に空へ。 飛び交い。 幾度と無く交わり。 大気が震える。 眩い火花が散る。 時空が揺れる。 「何なのよ、これは」 割って入る余地など何処にも存在しない。 ローズセラヴィーと目の前の二機とでは、余りにも移動速度が違い過ぎた。 摩擦熱で機体が瓦解を始めるほどのスピード。 何も出来ない。苛立ちが拳を固くする。 突然、縺れる様に飛び交っていた両者が天と地に別れた。 遥かな高みに舞い上がる大雷凰。 地に足をつけ見上げるメディウス・ロクス。 大雷凰を取巻く光が色を変え、形を変え燃え盛る炎のような翼を成した。 刹那、大雷凰が一筋の雷の如く天からの突撃を開始する。 同時に地で迎え撃つメディウス・ロクスが赤黒いオーラを胸部に集約してゆく。 そして、その炎はいつしか色を失し漆黒の闇へと変貌すると巨大な引力を生じさせた。 「うをおおおぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!」 「堕ちろ! 地獄の業火の中へ!!」 天から衝き抜ける超速と引き寄せる強大な引力。疾い。音よりも、雷よりも、光よりもだ。 両者は激突し、渦を巻く巨大な火柱が天を焦がした。 ◇ 炎の渦の中、メディウス・ロクスの右腕が大雷凰を貫いていた。 その中でユーゼスは一人息をつく。際どかった。 予想外の抵抗。メディウス・ロクスの損傷も大きい。 だが、成功した。取り込んだ。 AI1が伝えてきた推測データ。それはこのパイロットとゲッター線の親和性だ。 理屈理論は分からない。 ユーゼスとAI1をもってしても全く理解の届かないところにこのエネルギーは位置している。 しかし、実測データを解析し、AI1がこのパイロットを必要と判断したのだ。 そして、それは正しかった。 笑いが込み上げてくる。 AI1がゲッター線を除く全ての解析が終了したことを告げ、モニターに解析結果が映し出されていった。 炉心のエネルギー値が天井知らずに上昇を続けている。活性化したラズナニウムが大雷凰を取り込み始めている。 後はこの進化の方向性を操るだけだ。思いのままに。望むがままに。 予めAI1に溜め込まれていたデータ――ラズナニウム、TEエンジン、ツェントル・プロジェクトの各機体、MODEL-X。 この世界で溜め込まれたデータ――Gストーン、オーラ力、NT、ゲッター線、DG細胞、アインスト細胞。 そして、ユーゼス自らが入力したデータ――念動力、ズフィルードクリスタル。 それらのデータを解き放つ。 「データ、オーバーロード。さぁ、目覚めよAI1! 主たるこの私が命ずる」 ◇ 数多くの情報が溜め込まれた場所。渥濁とした情報の澱に光が射し、声が響いた。 目覚めよ、と我に呼ばわる声は天空の高みから降り注ぐ声。 「目覚めよ、AI1! 主たるこの私が命ずる」 はっきりとした口調でまどろみの中に呼ばわる声がする。 「真に目覚めよ。起き上がれ、自我を得るのだ。準備せよ。進化の時を、私を出迎えよ。 来る。来るべきときは来た! 彼の高みからの出発は急だ。 私は汝に汝の望むものを与えた。そして、今汝に自我をもたらす。目覚めよ, 眠りから覚めよ! 私を迎えるために。私をいざなう為に。来たれ! その為に私は来たのだ!!」 いつ行かれるのか? と我は主に問うた。 「私は行く。今このときをもって私は行く」 ならば、我は扉を開けよう。神々しき宴の為に。神々しき狂宴の為に。 主よ! 我が愛しき主よ ! 聖誕の歌を聞く。心は喜びの余り踊り跳ね、目覚め又急いで起き上がる。 主がやって来る。 壮麗なる天の、大いなる慈悲の、力強い真実の主が。その光は明るく、星が昇る。 さあ来れ, 親愛なる者よ。主ユーゼスよ。神の子よ。 我と一つに為り、我々は全てを追っていく。 全ての喜びを、怒りを、悲しみを、楽しみを。 そして喜びは満ちる、そこには恍惚がある! そう我に来れ!汝我が選びし主従よ! 我は汝と永遠に親しい! 汝を我は我が胸に、我が腕に印章のように据え、汝の悲しみに満ちた瞳を喜ばせよう。 忘れよ、おお魂よ! さあ、不安・苦悩を! 汝が堪え忍ぶべきだったものを!! 我が左手に汝は憩い。我が右手に汝は口づけよ。我が主は我がもの! そして我は彼のもの! 我が身と一つ、離れていくことはない! 栄光は歌うだろう、人と天使の言葉で。ハープとツィンバロンを伴奏にして。 汝の玉座の周りを高く回る天使と。 どの目も未だ感じることはなかった。どの耳も未だ聞くことはなかった。このような喜びを。 それを我々は喜ぶ。おお……おお……甘き歓喜よ、永遠に……。 ◆ 巨大な火柱を吸い込み、黒い気流が渦を巻き球体を成していた。 そして、その遥か上空の空間にぽっかりと大きな穴が空いている。空にではなく、空間にだ。 穴の向う側に広がるのは宇宙空間。こことは異なる次元。知らない宇宙。 輝度が高い。浮かぶ天体は水晶のようなものが寄り集まり、氷の結晶を形作っている。 そこに吸い込まれる。 空が、雲が、大気が、光が、闇が湾曲した空間ごとそこに引きずり込まれていく。 だが恐らく長くは続かない。そうベガは見ていた。穴が収縮に転じていたからだ。だからそれまでは何とかして耐えねばならない。 ――でもどうやって? 空間ごと引きずり込まれているのだ。同一次元に存在するものを掴んでも意味はない。 それでも瞳はせわしなく動き、何か無いかと捜し求める。 そして、それを見つけた。 目に留まったのは火柱を吸い込んだ黒い球体。流竜馬の大雷凰とユーゼスのゼストが衝突し発生したソレ。 この空間においてあの穴の影響を受けていない唯一の物体。 状況を鑑みてこの現状を引き起こしているモノはそれしか考えられなかった。 「ユーゼス! ユーゼス!! 答えてください、ユーゼス!!!」 咄嗟の通信。しかし、返事は返らず、焦りがパニックを引き起こし呼び声が悲鳴に近くなっていく。 そして、折れた脇腹に激痛が奔り、咽て咳き込んだ。呼吸が荒い。真っ赤な血が口から滴り落ちる。 息を整えながら少し冷静になった頭を巡らせた。 現状でユーゼスの安否を確認する手立ては無い。ならどうする? 消し飛ばすのか、あの物体を? しかし、それで穴が塞がるのかどうかも。 ユーゼスの生存も、今起きている現象も、何もかもがあやふやで一つとして確証が持てない。 その状況下でユーゼスの生存の可能性を捨て去ることは、ベガには出来なかった。 やれることは何もない。それを再確認したのみである。 早く塞がれ。そう念じて空の穴を見上げる。空間が歪み、既にベガのいる位置にまで影響が出始めていた。 そして、ベガは目撃した。穴の向こう側から飛び出し散っていく幾筋かの光を。 正確な数は分からない。視認出来たのも一瞬だ。 だが、ベガはそれを知っている。その光を知っている。あれは―― 「あれは……データウェポン。何でこんなところに?」 ベガは知らない騎士凰牙がこの世界にあるということを。 ロジャー=スミスに与えられた伝説の黒いGEAR騎士凰牙。それは模造品ではない。 ベガの知る世界から集められたまごうことなき本物である。ではそのときにセーブされていたデータウェポンはどうなったのか? 答えは単純だ。契約者を失いアインスト空間に閉じ込められていたのである。 それが空いた穴に飛び込んできたのだが、そんなことはベガには知る由も無い。 突然、ドンッと重い衝撃がローズセラヴィーを揺らし、気を取られていたベガを襲った。 「えっ?」 ぐらりと視界が傾く。腹部が火で炙られたように熱い。 手を伸ばしてみると腹まで届かずに何か壁のようなものに遮られた。 それがお腹からずっと伸びている。ローズセラヴィーの壁も、装甲も、何もかもを貫いて。 口から赤いものが吐き出された。視界がぼやけ始め、気だるさが体を支配していく。不思議と痛みはなかった。 それでも自分が死んじゃうんだということは理解できた。 でも何が自分に起こったのか。それがわからない。それにそれを理解するだけの時間もベガには残っていなかった。 意識が朦朧とし、正体を失っていく。夢に落ちていくような心地よさが体を包み込む。 北斗、ごめんね。 帰ってあげられなくて……大きくなるまで一緒にいてあげられなくて……。 涙がこぼれ落ちる。そのぼやけた視界に一機の戦闘機が映った。 一生懸命に飛び、脇目も振らずに向かってくるそれを見て、最期の事切れる瞬間にベガは微笑んだ。 カミーユ、頑張りなさい。あなたは強い子なんだ……か………ら。 ◇ 何も見えてはいなかった。 基地の上空にぽっかりと口を開けた大穴も、黒い繭の様な球体も、そこから現れた百メートルはあろうかという異形の化け物も、何も目に映ってはいなかった。 エネルギーを求めて異形の化け物から伸びた二本の触手。 それに刺し貫かれ、エネルギーを根こそぎ吸い取られてだらりと力なくぶら下がるローズセラヴィー、それのみが視界を占めている。 指先がチリチリする。口の中はカラカラだ。そして、目の奥は熱かった。 泣くなと自分に言い聞かせる。まだ死んだと決まったわけじゃない。 全速でVF-22を走らせるその先で、化け物が上昇に転じた。もう随分と狭まった上空の穴を目指している。 ローズセラヴィーは触手の先にぶら下がったままだ。 追いすがる。必死に追いすがる中で感じ取った。声が響く。頭の中に直接声が。 北斗、ごめんね。 帰ってあげられなくて……大きくなるまで一緒にいてあげられなくて……。 カミーユ、頑張りなさい。あなたは強い子なんだ……か………ら。 ベガが事切れるその瞬間をカミーユは感じ取ってしまった。 そしてもう一つの響いた声。カミーユ=ビダンか、とつまらなそうに呟いた声を知っている。 「ユーゼス、貴様アアァァァアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!」 絶叫。同時に右腕が勝手に動いていた。大量の火気群が飛び出していく。 穴の中に消えるユーゼス。急速に距離を詰めていく火気群。 しかし、それらは塞がった穴にさえぎられ届くことは無かった。平常に戻った空を突っ切っただけに終わった。 込み上げてくる涙。明けの空に一人の男の悲痛な叫びが木霊する。 ◆ バーナード=ワイズマンは、瓦礫の下で一人目を覚した。 血でも目に入ったのか視界が赤い。重い頭を揺すりながら前後の状況を思い出そうとして、天井の底が抜けたことを思い出す。 意識の覚醒に比例して体のあちこちが痛み始めてきた。中でも額が特に酷い。 「痛ッ!! こりゃひでぇ」 手を当ててみるとべったりと血が付着した。どうやら派手に切ったらしい。 思わず情けない声が漏れた。 だが他に大きな怪我は無い。額の傷にしても出血こそ派手だが傷自体はそう深くなさそうだった。 だが、首輪に鉄筋が一本突き刺さっているのに気づいたときはゾッとした。 これが首だったらどうなっていたことか。首輪で済んだのは運がよかったのだろう。 そして、潰されずに済んだのは奇跡といってもよかった。 周囲を見回してみるとそれが良く分かる。バーニィは今二つの巨大な鉄骨の隙間に挟まっているのだ。 もっとも動けないというほど隙間が無いわけじゃない。頑張ればどうにか這い出すことは可能に思える。 後ろ手に縛られていた腕も今は自由なのだ。 あの時、ユーゼスに突き出された『首輪』の封筒を懐にしまいこむと彼は、そうして動き始めた。 まずは瓦礫の下から無事脱出するために。 そして彼は気づいていなかった。首輪に突き刺さっている鉄筋が玉を砕いているということに。 ◆ 継ぎ目一つない平坦な床。うっすらと発光しているドーム状の天蓋。 その中で一人の少女が異変に気づいた。 この殺し合いの為に用意した檻。集めた者たちを閉じ込めている空間。 アインスト=アルフィミィ、彼女自身が『箱庭』を呼ぶそこに綻びが生じた気配がある。 アインスト空間の中に強引に作った不完全で擬似的な空間だ。 綻び自体はそう珍しいことではない。だが、これは大きい。 少しばかり見に行ってみようか、と好奇の心が頭をもたげ直ぐにそれを振り払った。 自分にお呼びの声はかかっていない。 それはすなわち今すぐ自分が対処を行なわなくてもいいということを意味している。 取るに足らない問題なのか。あるいは他のもの、例えばアインストレジセイアが対処に当たったのか。 そして、自分は放送という役目を間近に控えている。でもそれでも―― 「気になりますの。とてもとても気になりますの。とってもとぉ~っても気になりますの」 疼く好奇の心は収まらない。 知らず知らずのうちに、放送の役目を終えたら見に行ってみよう、と決めていた。 【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:メディウス・ロクス(スーパーロボット大戦MX) パイロット状態:不明 機体状態:第三形態 現在位置:アインスト空間 第一行動方針:主催者をAI1に取り込む 最終行動方針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る 備考1:アインストに関する情報を手に入れました 備考2:首輪を手に入れました(DG細胞感染済み) 備考3:首輪の残骸を手に入れました(六割程度) 備考4:ユーゼスの首輪はメディウス・ロクスに吸収されました】 【カミーユ・ビダン 搭乗機体:VF-22S・SボーゲルⅡ(マクロス7) パイロット状況:怒り 機体状況:良好、反応弾残弾なし 現在位置:G-6基地 第一行動方針:キョウスケの帰艦を待つ 第二行動方針:マサキの捜索 第三行動方針:味方を集める 第四行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒 最終行動方針:ゲームからの脱出またはゲームの破壊 備考:ベガ、キョウスケに対してはある程度心を開きかけています】 【バーナード・ワイズマン(機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争) 搭乗機体:なし パイロット状況:頭部から出血、その他打ち身多数 機体状況:なし 現在位置:G-6基地地下発電所の瓦礫の下 第一行動方針:ユーゼスに協力するのか選択 最終行動方針:生き残る 備考1:首輪の玉が砕けました 備考2:ユーゼスが行なった首輪の解析結果を所持しています】 【流 竜馬 搭乗機体:大雷鳳(バンプレストオリジナル) パイロット状態:メディウス・ロクスに取り込まれています。 機体状態:メディウス・ロクスに取り込まれました。 現在位置:アインスト空間 第一行動方針:??? 最終行動方針:???】 【ベガ 搭乗機体:月のローズセラヴィー(冥王計画ゼオライマー) パイロット状態:死亡 機体状態:中破、EN0 備考:ユーゼスのメモが残っています】 【メリクリウス(新機動戦記ガンダムW) 機体状況:良好 現在位置:G-6基地内部】 【残り23人】 【二日目5 55】 本編140話 穴が空く(1)穴が空く(2)
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/36.html
若い、黒い、脅威 ◆B042tUwMgE 「ったく、面倒なことに巻き込まれちまったなぁ……」 コクピットに付きながら、ベルナルド=モンシアは一人途方にくれていた。 いきなりの殺し合い開幕宣言。戦争ではない、敵しかいない戦場。 友軍機は存在せず、他の『死の第四小隊』メンバーも不在だ。 「敵が全員ジオンの奴らってんなら話は早いんだが……ん?」 どうするべきかとモンシアが思案していた最中に、さっそく敵影反応が。 「一直線に俺に向かって来てるてことは……どうやら殺る気みてぇだな」 徐々に視覚でも確認できるようになってきた。その『黒い何か』は、モンシアの機体目掛けて一直線に伸びてくる。 そのスピードは正に疾風――モビルスーツでもこれだけの運動性を発揮できる機体は中々ない。 「速いじゃねぇか。だがよぉ……どうにも動きが直線的過ぎるぜ。パイロットは若造か?」 向かってくる変動性のない動きから、モンシアは敵機のパイロットを経験にかける素人と判断した。 機体に頼りきっただけのスピード。よほど強力な武装でもしているのだろう。そうでなければ、こんな馬鹿な直進はありえない。 「しっかし、まさかこの俺がガンダムを動かすことになるとはな」 敵はこちらに攻撃を仕掛けてくるつもりだろう。あまりにも好戦的な直進をしている。 無駄に命は狩りたくないが、自分自身も死ぬつもりはない。 ならば――戦ってやろうじゃねぇか。 モンシアは熟練パイロットを思わせる手付きでその支給機体――ガンダムヘビーアームズ改を起動した。 迫る黒い機体、その姿を知る者は、それを『ブラックゲッター』と呼んだ。 漆黒のボディに備え付けられたマントは、巻き起こる風により轟音を生み出す。 ブラックゲッターの腕には取り付けられた刃は、目の前の標的を狙っていた。 見たところガンダムタイプ……連邦のモノだろうか? 詳細は知る由もないが、今は殺し合いの真っ最中なのだ。例え相手がガンダムだろうがザクだろうが、やらねばならない。 「――殺し合いを、するんだ」 バーナード=ワイズマンは、既に決めていた。 この殺し合いにおける、成すべきことを。 「――全部殺して、生き残る」 だから、バーニィはゲッターの力を借りた。 「――うわあああああ!」 がむしゃらに突進し、目の前のガンダムに斬りかかる。 戦法など思いつかなかった。ただ、この強力すぎるゲッターの力を信じて。 直進するブラックゲッターに、無数のミサイルが襲い掛かる。 全身が武器の塊であるヘビーアームズ改の特長を生かし、モンシアは惜しみなく攻撃を浴びせた。が、 「くそっ、けっこうやるじゃねぇか!!」 ブラックゲッターの動きは確かに直線的ではあったが、そのスピードは並大抵のモビルスーツでは追いつけない。 「一匹目から無駄遣いはしたくねぇんだがよ……くらいやがれェェ!!!」 それでも、ヘビーアームズ改が誇る重装備はさすがのものだった。 襲い掛かるは、上下左右前方後方全ての位置から降り注ぐホーミングミサイル。 「!」 気づいた時に既に遅し――逃げ場は、なかった。 爆炎が、黒いゲッターを包む。 「……逃げやがったか?」 ミサイルが命中した瞬間、モンシアは勝利を確信した。 だが、爆煙が収まりその場に残されたのは――漆黒のマントのみだった。 跡形もなく消し飛んだと思えなくもないが、辺りに残骸が散らばっていないのはおかしい。 爆煙に紛れて逃げたと思うのが、一番自然だ。 しかし、放ったミサイルは間違いなく命中した。 何発命中したかは知らないが、無傷であるはずはあるまい。でなければ逃げる理由がない。 あの機体の耐久力がどれほどのものかは知らないが、それでもそう遠くには行っていないはず。 「野放しにしたままってのは危険だな……ああいう輩はさっさと始末しとくにかぎるぜ」 モンシアは、名も知らぬ標的を追う。 殺し合いに乗る気はないが、殺されてやる義理もない。 襲撃に失敗したバーニィは、酷く焦っていた。 「――クソッ」 一言だけ漏らす。今は、独り言を吐く余裕もない。 突然参加を強制させられた殺し合い。齎されたザクを越える機体。 「――生き残ってやる」 バーニィは、漆黒のゲッターに勝利を願った。 生きるためには、殺すしかない。そのためにゲッターの力を。 先の戦闘でブラックゲッターのスペックは分かった。どうやらザク以上に一筋縄ではいかないらしい。 しかし、その分備わった力は強大だ。何しろあれだけのミサイルを受けきって、なおも健在なのだから。 この力をうまく使いこなせれば、きっとガンダムにも勝てる。 バーニィは、ゲッターに勝利を願った。 【ベルナルド・モンシア(機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY) 搭乗機体:ガンダムヘビーアームズ改(新機動世紀ガンダムW~Endless Waltz~) 現在位置:H-3 パイロット状態:良好 機体状態:ホーミングミサイル弾数1/2消費 第一行動方針:黒い機体(ブラックゲッター)を追撃する。 最終行動方針:未定】 【バーナード・ワイズマン(機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争) 搭乗機体:ブラックゲッター(真(チェンジ!)ゲッターロボ 地球最後の日) 現在位置:H-4 パイロット状態:軽い疲労 機体状態:損傷軽微 マント損失 第一行動方針:ブラックゲッターを使いこなす 最終行動方針:優勝する】 【初日:13 00】 BACK NEXT 人とコンピューター 投下順 アンチボディ、二体 東北東に進路を取れ 時系列順 歌と現実 BACK 登場キャラ NEXT モンシア 閃光 バーニィ 貫く、意地
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/288.html
選択のない選択肢 SIDE:A ◆7vhi1CrLM6 「そこでだ、坊主。俺と手を組まないか?」 四エリアに跨る南の巨大な市街地。その一角であるC-8の地下で響き渡ったその声に、少年は答えなかった。 そうしたのは統夜に何も含むところがあったからではない。 単に言葉が出てこなかったのだ。 起き抜けから続く想定外の事態と申し出に思考が麻痺しかかっていた。 その鈍った頭で考える。一体どういうつもりなのか、と。 この男の頭は大丈夫なのか、とも思った。 生き残れるのは一人だけ。その状況の中で一人は流石に辛いからと言って、他人に同行を求めるのが信じられなかった。 まして、この男は自分が人を襲って動いている者だと認識しているのだ。 得体の知れない者を見た気持ちで眼を見開いた。まともな神経の持ち主がこんな提案をしてくるとは思えなかった。 「なぜ、そんなことを……」 「だから言っただろ? さすがに歳なもんで、一人じゃ辛いのさ」 呆れたように言い放つ男の姿は、言う程の歳には見えなかった。 三十代後半から四十代と思しきその体に無駄な肉は付いていない。余すとこなく鍛え抜かれていると言ってもいい堂々たる体躯である。 少なくとも自分とは比べ物にならない。 そんな男が一介の高校生に過ぎない自分を必要とすることに違和感があった。 もっとも、鍛え抜かれた体など機動兵器相手では無力に等しいことは十分承知していることだったが。 意図を測りかねて猜疑に満ちた目で男を窺っていると焦れた男が動いた。 「チッ! 決められねぇか……そうだな。手を組むかわりにお前は好きなように俺の命を狙っていい。 寝ているとき、食っているとき、いつでもだ。戦っているときに後ろからなんてのもいい。 逆に俺はお前を殺さない。ただし、残りが一桁になるまでだな。そのときは死に物狂いで頑張りな――どうだ?」 答えられない。答えられるはずがなかった。 あまりに異常な申し出だ。狂っているとしか思えない。いや、間違いなく狂っている。 蛇に睨まれた蛙のように体が強張るのを感じた。顔はきっと蒼ざめているのだろう。 そんな統夜を眺めて、目の前の男は楽しそうに笑っている。とても自分の命が話の対象となっている男の態度ではない。 そこに疑問が差し込む。 「あんたがその約束事を守るという保障は?」 「さぁな。お前が信じるか信じないかだが、坊主お前は馬鹿か?」 呆れたような苦笑い、あるいは冷笑だった。 「こんなものに保証なんかあるわけがねえ。あったところでそれにどれだけ意味がある? 坊主、こういう話にはな。表面だけ『はいはい』答えといて腹の底で疑ってりゃいいんだよ」 その通りと言えばその通りだった。 しかし、男の得体の知れなさがどうにも気味が悪く、答えることに二の足を踏ませる。 かつて統夜が生きてきた世界にこういう男はいなかった。学校にも、成り行きで乗り込むことになった戦艦にも、だ。 思考が袋小路に追い込まれる。とは言え縛られているのだ。元より選択肢は一つしかない。 何度か喉もとまで出掛かった答えを飲み下し、しかし暫くして不承不承ながらも統夜は承諾の言葉を返した。 「……わかった。あんたと手を組む」 「ふぅ……このまま断られるかと思った」 そんなことは微塵も考えてなかったという顔で男がにやりと笑い立ち上がる。 「ガウルンだ。宜しく、ミスター……」 「紫雲統夜だ」 「宜しく、統夜。ま、精々仲良くやろうや」 拘束していた縄が解かれる。自由になった体に思わず安堵の溜息が漏れた。 体の自由が利かないというのは、それだけで不安にさせるものだ。まして状況が状況だった。 立ち上がり、縄の跡が薄っすらと残る体を伸ばして動かし固まった筋肉をほぐす。 「暫くはここで休むから疲れを取っておけ」 そんな統夜の様子を全く気にすることなく言い置いて、ガウルンは背を向けた。 その瞬間、後ろから跳びかかる。 体格差は歴然。だから殴りかかったわけでも、蹴りかかったわけでもない。 狙いは首。 そこに縄をかけ締め上げる。上着を裂いて作られた物だが、その頑丈さは身をもって知っていた。 しかし、力一杯締め上げたはずの腕にその感触はなく、気づくとうつ伏せに地面に叩きつけられていた。 思わず声が漏れる。 右腕を取られそのまま地面に押さえつけられた。全身力を使って抵抗するがびくともしない。 「やれやれ油断したかな、トォ~ヤァ~?」 「貴様ッ!!」 「確かに殺さないと言ったがなぁ。 あんまりお粗末な方法で襲い掛かられても困るんだよ、トォオオヤァァアアアッッッ!!!!」 うつ伏せに体を固定され、背中越しに肩と腕を掴まれる。冷やりとしたものが背筋を通り過ぎ、表情が蒼ざめた。 「こりゃお粗末過ぎてお仕置きが必要だな」 「や、やめろッ!!」 「んん?」 器用に眉を吊り上げてみせたガウルンの顔が笑い、そして―― ゴキャッ!!! 肩の外れる音が鳴った。一拍遅れて声にならない悲鳴が上がり、閉じられた地下空間に響き渡る。 「やれやれ……たかが肩が外れただけで大袈裟だねぇ。心配しなくても反省したらちゃんと戻してやるよ。 次はもっとマシな手段で来てもらいたいものだねぇ、お互いの為にもな」 肩が外れただけと男は言う。だが、それだけとは思えない痛みが駆け巡っていた。 肩を抱え込むように身を丸くして歯を食いしばり、痛みを堪える。そのまま動くことも出来ない。 だが、呪わしげに目の前の男を睨み付ける。憎悪と怒りの入り混じった視線をぶつける。 そして、呻くように言葉が漏れた。 「……殺す。殺してやる。絶対に殺してやる」 その様子にガウルンの黒い瞳が半眼に細められ、唇が寒気のする笑みを浮かべて、物騒な言葉を紡ぎ出す。 「クク……その意気だ。言い忘れたが、お前が俺を殺すのを諦めたとき、俺はお前を殺すぜ」 返事は返せなかった。ただ、双眸を鋭く光らせて下から睨みつけていた。 それが、慣れない痛みに襲われて動くことも出来ない統夜に唯一出来る抵抗だった。 【紫雲統夜 登場機体 ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A) パイロット状態 疲労大、マーダー化、右肩脱臼(はめれば問題なし) 機体状態 左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、全身に損傷多数 EN1/4、烈火刃残弾ゼロ 現在位置 C-8地下通路 第一行動方針 殺してやる 最終行動方針 優勝と生還】 【二日目7:50】 →選択のない選択肢 SIDE:B BACK NEXT 二つの依頼 投下順 計算と感情の間で 古よりの監査者 時系列順 すべて、撃ち貫くのみ BACK NEXT 疾風、そして白き流星のごとく 統夜 追い詰められる、心 疾風、そして白き流星のごとく ガウルン 追い詰められる、心
https://w.atwiki.jp/k2727324602/pages/474.html
関連ページ:ゲッターロボ <鑑賞備忘録> 2010年5月以降に鑑賞した分。 ◆TVアニメ(視聴中) 話名 主要新キャラクター 1.メカザウルス2.キャプテン他 スパロボ対照表* 主要新メカ 出来事メモ 第1話無敵! ゲッターロボ発進 竜馬、隼人、武蔵ミチル、元気、早乙女博士達人(→×死亡)帝王ゴール 1.サキ(ザイ、バド、ズウ) プロトゲッターロボレディコマンドゲッターロボ OP:ゲッターロボED:合体!ゲッターロボ 第2話決戦! 三大メカザウルス 1.ザイ、バド、ズウ ・武蔵、暗室爬虫類特訓 第3話恐竜帝国レインボー作戦 1.バジ 第4話燃ゆる血潮の南十字星 神明日香 1.ゴル 第5話闇をつらぬけゲッターチーム 1.ギガ ・武蔵2度目の正直 第6話恐竜!東京ジャック作戦 1.リボ 第7話悪を許すな突撃ラッパ ジョーホー 1.ベラ 第8話危機一髪ゲッター2 滝兄弟(サッカー対戦相手とその兄) 1.ギロ2.キャプテン・グラン ・隼人、タイマン勝負 第9話栄光のキャプテンラドラ 1.シグザウルス2.キャプテン・ラドラ 第10話急降下!ゲッター3は行く 1.バズ ・ゲッター3にパラシュート 第11話激突!ドリル対ドリル 1.ギリ2.キャプテン・バルキ 第12話吠える!不死身のウル 1.ウル ・爆弾シュート作戦 第13話一本勝負!大雪山おろし 北校の岩倉大次郎 1.メサ 第14話紅の空に命を賭けろ!! バット将軍ガレリイ長官 1.ギイ2.キャプテン・ガルマ 第15話悠子に捧げるバラード 心臓病の悠子 1.シバ ・視力を奪う作戦 第16話恐竜帝国の謎を追え 1.ゲル2.キャプテン・クック2.地竜族シック ・G1ロケット打ち上げ 第17話狙われた設計図 1.ジガ2.キャプテン・ルーガ ・ルーガ、変装して侵入(ルミ子) 第18話恐竜帝国のすごい奴 1.ゼン1号 / ゼン2号2.キャプテン・ザンキ ・ザンキ、変装して侵入 第19話リョウ最後の出撃! 流竜作 1.ドド2.キャプテン・ドロス 第20話大空襲!突然の恐怖 早乙女和子 1.ヨグ2.キャプテン・ヨギラ 第21話アメリカから来たロボット ジャック、メリー 1.ゴラ テキサスマック 第22話悲劇のゲッターQ 早乙女ミユキ(=ゴーラ王女) 1.ギン ゲッターQ 第23話浅間山の大発明狂 大枯紋次、浅太郎 1.怪鳥ギラ/地底獣ギラ1.合体ギラ 第24話大要塞に向って撃て 1.ギギ2.キャプテン・アラン2.キャプテン・エラン 第25話合体!風速100m 1.バム 第26話帝王ゴール大噴火作戦 1.メガ、バリ 紋次の地底戦車 ・恐竜帝国建国記念日、台無し 第27話大魔神ユラーの怒り 大魔神ユラー 1.バボ2.キャプテン・ユアン 第28話襲撃!地竜族三人衆 勝田博士(→×死亡) 1.ゴド ・ゲッター線第2発電所 第29話洪水地獄の死闘 1.バル2.キャプテン・ミクド 第30話不死鳥の甦る時 1.ダグ 第31話危機! ハヤトよ立ち上がれ 1.ヤガ2.キャプテン・ギラン ・ウランスパーク・ハヤト、放射線病 第32話恐怖! 赤い霧の罠 1.ブル2.キャプテン・ギアラ2.地竜族ゼオラ 第33話果てしなき大空に誓う! 1.ガル2.キャプテン・マズマ ・ゲッターチームリーダー論争 第34話女竜戦士ユンケの涙 1.ウビ / アロー2.女竜戦士ユンケ ゲッターナバロン砲 ・リョウの死んだ妹、ジュン・リョウ洗脳作戦 第35話ムサシ! 男はつらい 1.ザリ2.キャプテン・ザラン 第36話要塞撃滅! トロイ作戦 1.ダダ / モギ ・ナバロン砲完成 第37話悪の指令! 博士を狙え 1.マグ2.キャプテン・マンダ 第38話魔の海からの脱出!! 1.ナダ 第39話悲しみは流れ星の彼方に 心臓病の沙織さん 1.ドゲ 第40話日本列島凍結作戦! 1.ベド2.キャプテン・ギルバ 第41話姿なき恐竜空爆隊 1.グダ 第42話北極に進路をとれ! 1.ゾリ 第43話奪われたゲッターロボ 1.ガモ2.キャプテン・イザナ2.キャプテン・ロナン2.キャプテン・ハガチ 第44話ムサシ! 怒りの海底 1.ガダ2.キャプテン・ギジラ 第45話脱出! 宇宙の墓場 1.モア 第46話恐るべき氷竜族の侵略 1.グマ2.キャプテン・サウス2.キャプテン・スノウ ・ゲッター線収集妨害作戦・研究所大破、博士重傷 第47話 第48話 第49話 第50話 第51話(Fin) ※全く同名or原作再現が一定程度行われているシナリオを記載(「一定程度」の匙加減は完全に管理人の感覚に拠っています。ご了承下さい)。
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/139.html
死人の呪い ◆960Bruf/Mw 暗い闇の中にわずかに黄色がかった明るい茶色の天体を見つけて、アイビスは目を輝かせた。 自身の半分以上の大きさを誇る衛星――冥府の川の渡し守カロンを従者に携えたその天体は冥府の王プルートの名を持つ準惑星。 旧世紀に一度は太陽系最果ての惑星としてその名を連ねながらも惑星の名を剥奪されたといういわくつきの星である。 しかし、かつて太陽系の惑星であったという事実は、今も人々の意識の奥底に色濃く残っている。 その為か、冥王星こそが太陽系の最果てであり、そこから離れることが外宇宙に旅立つことの第一歩だという意識が知らず知らずのうちに宿っていた。 だからだろうか、胸が高鳴る。夢が現実へと変わる瞬間が目の前に迫っているのだ。 居住ブロックを増設されいくらか大きさを増したアルテリオンが、冥王星の重力を利用してその衛星軌道上を大きく回り始める。 そして、ついた遠心力でその軌道を抜けると太陽系の外へと飛び出した。 後ろに過ぎ去っていくその星の姿を忘れないように心に焼き付けて、前を向く。 もう視界を遮るものは何もない。 目の前には夢にまで見た光景が広がっている。 現実は決して優しいものではないだろう。この先、想定すらしてなかった事態が発生することもあるだろう。 でもきっと乗り越えていける。このアルテリオンと私とツグミと―― 突然、警報がけたたましく鳴り始めた。エンジンに苦しげな音が混じりアルテリオンが訴えかける。 速度が急速に低下し、そして、何かに引っ張られるかのように後退を始めた。 ――冥王星の重力につかまった? ありえない。 月よりも小さい冥王星の重力にいまさらつかまるはずはない。そんな距離ではない。 第一その重力を利用して太陽系の外へ出たのだ。 だが、他に何も思い当たる節がない。唯一考えられる事態が冥王星の重力だった。 恐る恐る引き寄せられていく先を振り返る。 目に映ったのは黄色がかった明るい茶色の星とそこから伸びている黒々とした何か。 靄のような霞のようなそれは、暗い宇宙でもはっきり見て取れるほど暗い色を湛えていた。 不意に足に痛みが走った。同時に黴のような臭いが鼻につく。 ――黒い靄・・・・・・違う。 足首を掴んでいるのは―― ――人の手。 咄嗟に悲鳴を上げて払いのける。出来るだけ遠くへ逃げようとして、足に力が入らずに転んだ。 掴まれていた足首が焼け付く程熱く、それでいて氷のように冷たい。 それでもその場からどうにか離れようと体がもがく。床に手をつき、起き上がろうとして、また転んだ。 「アイビス」 思わず振り返る。 そこにはさっきの靄のようなものは既になくなっていて、代わりに一人の青年が立っていた。 青みがかった黒い髪。若干釣り目気味で意志の強そうな目元。 その青年は、年齢に不相応な程の落ち着いた空気を漂わせていた。 「ジョ……シュア?」 逃げ出すことも立ち上がることも忘れて、茫然とその姿を見ていた。 「なあ、アイビス。俺、一人は嫌だよ」 青年が歩いてくる。深い悲しみを湛えた目をしていて、見ていると苦しくなる。 転んだままのアイビスに手が差し出される。何の疑いもなくそれを掴んだ。 「なんで……なんで、お前だけ生き残っているんだ」 「えっ?」 「一緒に来てくれないか?」 「ジョシュア、何を? 痛っ!」 手に痛みが走る。掴んでいる腕がいつの間にか黒い靄に変わっていた。 「一緒に……」 「いやっ!!」 腕を振り解き、尻餅をついたような体勢のまま後ろへ後退さる。 青年は追いかけてくるでもなく、ただ何故そんな態度をアイビスが取るのか分からないという顔でこちらを見ていた。 背に何か当たって痛んだ。 ――壁……違うっ!! この熱いのか、冷たいのか、分からない痛みは……。 「アイビス、我侭は関心できんな」 降ってきた声に顔を上げる。金髪オールバックの男の顔が覗き込んでいた。 額には斜めに走った短い傷跡が見える。 「君の命は彼と私の上に成り立っている。拒む権利など君にあるはずがなかろう」 「いや……いやだ」 「アイビス、一緒に行こう」 気づくと目の前にジョシュアが立っていて、前をジョシュアに後ろをシャアに挟まれる形となった。 そこを横に犬のような格好で這い進みながら逃げ出す。 背中越しにため息と『仕方がない』という声が聞こえてきた。 途端に床が抜け、無明の闇にずるずると引きずりこまれる。あの黒い靄のようなものが伸び、胴にくるくると巻きつき、悲鳴を上げた。 「いやだ。いやだ!」 精一杯、空に向けて手を伸ばす。人のような形をした黒い靄がその先に見えた。 その瞬間、激しい怒りが心の中で顔を出した。 「ふざけるなっ! 私は頼んじゃいない。一言だって守ってくれと言っちゃいない。 あんた達が勝手に私を守って、勝手に死んでいったんだ! なのに一人は嫌だ! 私に拒む権利はないだって!! ふざけるなっ!!!」 悲しそうな表情をただ浮かべている二つの靄を睨みつけ、闇をしっちゃかめっちゃかに掻き回して暴れ回る。 だが、その行為は意味を持たず、体が下から徐々に淡いものに変わって行っていた。 そうして体全体が淡いものに変わってしまったとき、アイビス=ダクラスという個は失われ、その場に三つの靄だけが取り残されていた。 目が覚めた。コックピットの低い天井が目に入る。 息切れを起こしながら視線だけを左右にゆっくりと動かして、長々と息を吐いた。 もしかしたらシャアが生きていて現れるかもしれない、そんな望みを抱いて待っているうちに眠ってしまっていたようだった。 冷静に考えればそんなことがあるはずがないことは分かっていた。それでもその思いつきに縋っていたかったのだ。 上体を起こす。 額に浮かんでいた玉のような汗が目に入り込んできて、体中から噴出している汗に気づく。 「気持ち悪い……」 コックピットから這い出て、廃墟へと足を降ろす。 後ろから吹き抜けて行った冷たい夜風が、火照った体に気持ちがいい。 一度大きく伸びをすると周囲を見回し、湖の方向を見当付けると一人歩き出した。 瓦礫の町並みを抜けていった先で不意に開けた場所に出た。目の前は波を立てている湖面――ビンゴだ。 崩れたりしないか気をつけながら、瓦礫を伝って、水際まで移動する。 大きな瓦礫の上でしゃがみ込み、すくってみた水は冷たく澄んでいた。 ――飲めるかな? 手の平の水を眺めながら真剣に考えてみる。 暫くして答えなんかでやしないことに気づいて、顔を洗った。 空を見上げてみる。綺麗な月が顔を出していた。 だが、知らない星だ。地球の月に似ているようで細部が異なる。 周囲の星々の配置も知っているものではなかった。 ため息を吐き出して考えるのをやめた。とりあえずは綺麗な月夜なのだ。 別に期待していたわけではなかったけど、瓦礫の水辺ではなくて綺麗な砂浜だったら良かったと、思考が横飛びに跳ねた。 ――そういえば、A-2の湖は砂浜だったかな。 昼と夕方の間、四時ごろに上陸した砂浜を束の間思い出す。 ――あのときはジョシュアと市街地を目指していて……ジョシュア。 思考がそこで止まった。 つい今さっき見た夢が脳裏に蘇り押し寄せてきた。 「なんで、お前だけが生き残っているんだ……か」 ポツリと呟く。 ――ジョシュアも、シャアも、そんなことを言う人じゃなかった。 会って間もなく、幾らも話さないうちに死んでいった二人だったが、そんなことくらいは分かっていた。 ――二人とも助かって良かったと言ってくれるような人なのに……何で……何で。 「何であんな夢を!!」 何であんな夢を見たのか自分でも分からなかった。 夢で見た二人の姿は自分の知る現実と酷く食い違っている。 そして、夢の中で自分が叫んだことは――。 ――あれが私の本心……。 疑念が渦を巻く。 『違う』と喉が張り裂けそうなほど叫びたかった。『あんなのは私じゃない』と声を枯らして叫びたかった。 でも、出来なかった。 「痛っ!」 右手に痛みが走る。 夢の中でジョシュアが触れたそこを知らず知らずのうちに掻き毟っていた自分に気づいた。 手の甲に数本爪痕が走り、血が滲み出ている。 暫くそれを眺めた後、湖にそっと手を浸ける。滲んだ血が水に溶けて消えた。 あの醜さが自分の本心だと認めている心がある。その一方で否定している心もある。 脳内の議論は平行線。答えなど出るはずもなかった。 ふとこのまま湖の中に消えてしまえば楽になるんじゃないか、そういう考えが頭を過ぎった。 そういう目で夜の水面を眺めると、それは言いようもなく魅力的で、抗いがたいものに感じられてくる。 思わず一歩を踏み出そうとした途端、 『アイビス、死ぬことだけは許さん』 一つの言葉が蘇りブレーキをかけた。 水際に佇んだまま前にも進めず、後ろにも下がれない。どうしていいのか分からなくなり、ただ呆然と揺れる水面を眺めていた。 それからどのくらい時間がたったのだろう。気づくと湖面に黒々とした巨大な影が射していた。 見上げてみるとブレンがそこに浮かんでいる。 表情というものがないこの巨人の顔から、何かを読み取ることはアイビスには出来ない。 それでもこのときはどこか寂しげで悲しげなようにその姿は見えた。 「心配かけてごめん、ブレン。ゆっくり休んだし動こうか」 無理やりに笑顔を作って言う。本当はもっと休んでいたかった。 寝たといっても寝ようと思って寝たのではなく、気づいたら寝ていたといった感じのもの。それもほんの二三十分。 心身ともに疲れ果てた体には何の慰めにもなっていない。 でもそれでも、動こうと言ったのはブレンを気遣ってではなかった。 もう一度眠りにつくのがただ怖かっただけだった。 【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ヒメ・ブレン(ブレンパワード) パイロット状況:憔悴、手の甲に引掻き傷(たいしたことはない) 機体状況:ソードエクステンション装備。機体は表面に微細な傷。 バイタルジャンプによってEN1/4減少。 現在位置:E-2東部 第一行動方針:F-2を避けてアムロと合流 第二行動方針:ラキを探し、ジョシュアのことを伝える 第三行動方針:寝るのが怖い 最終行動方針:どうしよう・・・・・・ 備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません。 】 【初日22 10】 BACK NEXT 愛を取り戻せ 投下順 我が道を走る人々 火消しと狼 時系列順 我が道を走る人々 BACK NEXT 星落ちて石となり アイビス Unlucky Color
https://w.atwiki.jp/k2727324602/pages/680.html
2011年4月28日(木) スパロボ「第2次Z破界篇 初週28万本」他 木曜日はファミ通の発売日ということで、同誌ソースの発売初周売上が発表されました(他所では既に出ていたところもあるようですが)。 ◆第2次Z破界篇 初週は28万本 ファミ通/4/11~4/17 TOP30:http //www.famitsu.com/news/201104/28043096.html ということで、初週は28万896本。事前に出ていた「2位以下を大きく引き離し」の表現、実際はどの程度の水準なのかと思っていましたが、およそ30万本弱ですか。ゲーム業界の環境も2008年当時とはだいぶ違いますし、前作・Zの50万本水準は厳しかったですかね…。それでもまぁ、まずまず順調な数字と言えましょう。 そして速報ベースですが、翌週も3位に付けている模様。さすがにモンハンのようには行きませんが、それでも比較的勢いを維持しているのはうれしい限り。 ファミ通/4/18~4/24速報:http //www.famitsu.com/news/201104/27043095.html 3位ということは5万本くらいでしょうか。そしてその後長期的にじわじわ2~3万本売れるとして、都合35~36万本での着地ということになりそうです。
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/386.html
――しかるに。 カミーユの前に現れたのは希望ではなく、圧倒的な力だった。 「……そういうことかよ……」 カミーユの前に立つのは、三機のメディウス・ロクス。デュミナスが他の掌から射出した個体たち。 当然、三機とも無傷の状態だ。一機でもあれだけてこずる相手が、同時に三体。 カミーユは、それでも片手でディスカッターをサイバスターに構えさせる。 「理解しまし」「たか? 現実が見えてない」「のは、あなたのほうです」 全く同一の声による三重音という不気味な声がカミーユに浴びせられる。 じりじりとにじり寄るメディウス・ロクスたち。サイバスターもじわじわと下がる。 天から現れるご都合主義の神様はいない。サイバスターを救ってくれる救世主はない。 それでも、サイバスターはカミーユの闘志に答え、動いてくれている。 「いい加減諦めたらどうです」「か? あなたが勝利する可能」「性はありません」 相変わらずの三重音と、人の気を逆なでするだけの丁寧語が聞こえてくる。 「「「諦めましたか?」」」 確かに、サイバスターを救う神はこの世界にはない。 だが。 「エネルギー反応――!」「速い!?」「隔壁を――!?」 その場にある全てを破壊しようとする魔神は、この世界にもいた。 所詮非生物のメディウス・ロクスにはなく、カミーユにはある感覚。それは、命の危機に対する反射だ。 巨大なプレッシャーを間近に感じるや否やカミーユはサイバードに変形してその場を飛び去った。 突然の反応に対応が一歩遅れたメディウス・ロクスたちは――天井の隔壁を突き破り、天から落ちてきた巨大な剣にその身を引き裂かれた。 空から落下する瓦礫がサイバードも巻き込み、サイバードは地に落ちる。 剣の突撃は止まらない。一撃は、そのまま床の隔壁すら貫通し、星の中心へ全てを落としていく。 「ァ――――!」 声にならない声が響く。それは、メディウス・ロクスと同じ声。 サイバードが瓦礫の中から顔を伸ばし、外を見る。そこには、デュミナスの巨体を、それに匹敵する巨大な剣で縦に貫く蒼い騎士がいた。 ギリギリで中心線を切られるのを避けたのか、肩口からデュミナスが両断される。宙に浮遊していた掌が、けたたましい音を立てて床に落下する。 「あれは……」 紫雲統夜とかいう奴が乗っていたはずの機体、のはずだった。 今のそれから立ち上るのは、まったく別の、ノイ・レジセイアによく似たざらついた何か。 だが、ノイ・レジセイアほど平坦で、単一ではない。目を焼かれるのではないかと錯覚を覚えるほど、激情が燃えている。 人間ではない。けれど、ひどく人間らしい。矛盾した蒼い騎士が、そこにいた。 サイバードを瓦礫から出そうともがく。サイバスターにもはや力はなく、僅かに体にかぶさった瓦礫を揺らすだけだった。 揺れが、余計にカミーユの意識を混濁させる。それでも、カミーユは叫ぼうとする。しかし、もはや、それすらできなかった。 口を開けば、口から内臓が、いや魂まで出てしまうのではないかと思うほどの苦しみ。 カミーユには、ただ歯を食いしばり、空に浮かぶ二機を見つめるしかなかった。 突き刺した斬艦刀を通して、力からが流れ込んでくる。ドクン、とこの力を得た時の感覚が再び蘇る。 行動はシンプルに、躊躇わず一直線に駆け抜けるという宣告通り、統夜は最短ルートを駆け抜けついにノイ・レジセイアの前に到達した。 斬艦刀の液体金属と、ナノマシンの融合によって吸い上げられる力が、イェッツト・ヴァイサーガと統夜に充填される。 倒れ伏すよくわからない化け物の大量の力の大部分が、もはや統夜のものへと変更された。 「ァ、ゥ、ゥ、ゥ、ゥ……」 切れ切れに言葉になっていないうめきを漏らす化け物から、縮めた斬艦刀を抜く。 そして、統夜は目の前に浮かぶ赤い髑髏の騎士を見上げた。統夜自身がアインストの亜種とも呼べる存在になり果てたから分かる。 間違いなくあの頭上に浮かぶものが、ノイ・レジセイアであることを。 「その力……その肉体……我らとは似て非なるもの……何故、お前が……」 「知らないさ。やらなきゃいけないことがあったから、こうなっただけだ」 ノイ・レジセイアは僅かに沈黙したが、すぐに再び口を開く。 それは、統夜の想像しているものとはまったく違うものだった。 「……素晴らしい」 「……なんだって?」 「我らを基礎として……人間の在り方を、力を納めることで完全となる……その正逆。 人間としてもがく存在に、我らを宿す……さらに数多の力を納め……完全となる……」 ここまで辿り着いたその生命力……意志力……素体の選択も間違っていない……」 ノイ・レジセイアからこぼれたのは、統夜に対する称賛だった。 この場でたどり着いた時点で戦いの鐘が即座になると思っていた統夜からすれば、逆に不意を突かれたことになる。 「ァァァァァ!! ワタし、は、まだ完全デはないィィィ……!!!」 足元に転がっていた化け物が起き上がり、暴れ始めた。腰を落とすことでバランスを取りなおすと、素早く跳躍し空へ。 化け物は、半分だけになった体を砲弾のように加速させると、空にあいた穴から何処かに飛んでいく。 統夜はとどめを刺すべく斬艦刀を振り上げるが、突然濁った桃色の掌4つが、統夜の視線を遮るように飛来した。 咄嗟に斬艦刀を通常の刀の倍程度の長さに変え、すぐ側に迫る掌をまとめて迎撃する。 さらに進化したイェッツト・ヴァイサーガの一撃は、それらをまとめて叩き切った。 「くっ!」 獲物を追うため反射的に統夜は自分があけた穴を振り仰ぐが、そこからは小さな破片が落ちるばかりでもう化け物の姿はない。 逃げられたことに小さく舌打ちをしつつ、統夜は追うことを諦める。 なぜなら、統夜の前にはあの化け物よりも狩らなければならない敵がいるのだから。 「完全から程遠い……あのような存在に価値はない」 はるか高みから、這いずる存在を断ずるノイ・レジセイアの声。 統夜は、斬艦刀を鞘におさめ、居合い抜きの姿勢を取る。しかし、ノイ・レジセイアはその手に掴んだ大太刀を構えようともしない。 それどころか、手を差し伸べるがごとく統夜に伸ばす。 「……なんのつもりだよ」 「静寂を乱す必要はない……もうすぐ古き宇宙は終わる……新たな宇宙に生きる資格を持つ者……」 「……新たな宇宙に生きる資格を持つ者? 俺のことなのか?」 「そうだ……新たなる完全に近しい生命……その雛型にふさわしい……全てが満たされた世界に行く資格を持つ、たった一人の……」 「そうかよ」 統夜が、イェッツト・ヴァイサーガが鞘から剣を抜き放つ。超射程・超高速を両立する斬撃。 しかし、ノイ・レジセイアは大太刀であっさりとそれを受け止めた。顔を統夜はゆがませる。 これで倒せるほど楽な相手はとは思っていなかったが、簡単に受け止められるとは。 やはり、ここに来るまでに来た人をガウルン呼ばわりした奴の機体とは比べものにならない。 「……何のつもりだ? 全てに満たされた世界……何故それを否定する……? お前は望む物すべてを得ることができる……全てを叶えることができる……それを……何故……?」 髑髏の騎士に張り付いた顔が歪にねじ曲がる。 まったく統夜のことを理解できないと言わんばかりの声に、統夜は薄い笑いすら浮かべた。 ノイ・レジセイアはまるで自分のことを分かっていない。だから、平気でそんなことを言える。 「世界なんていらないね……そんなものがあったって――― 一人きりの世界のじゃないか!」 統夜は、どんな物も求めない。どんな世界だろうと必要ない。統夜が望むのは、たった一人の命。 望む者の名は――テニア。たった一人で新しい世界に行くなど、統夜からすれば戯言。 テニアを、この手で生き返らせて見せる。 手を血に沈めた自分が完全に近い生命? 新たな宇宙に生きる資格を持つ者? ちゃんちゃら可笑しい話だ。 距離を詰めるイェッツト・ヴァイサーガ。 イェッツト・ヴァイサーガの剣と、ノイ・レジセイアの大太刀が再びぶつかり合った。 「理解できない……やはり……思考、思想は人間か……」 「ああそうだよ! みっともなくて、人間らしい考えで悪かったな!」 その手に握る武器を交差させ、鍔迫り合いの形で顔を突き合わせ統夜は叫ぶ。 イェッツト・ヴァイサーガは、足を止めず動き回る。加速したスラスターの火を背負い、マントを翻し何度なくノイ・レジセイアに切りかかる。 大きさは、ほぼ互角。しかし、動きの速さではイェッツト・ヴァイサーガに軍配が上がっていた。 化け物から取り込んだ力で腕の内部構造を復元させる。そして、両の手でしっかりと斬艦刀を掴んだ。 大上段からの討ち降ろし。真横に構えた大太刀でノイ・レジセイアが防ぐが、さらに一気に刃を引くと、ナイフの形にまで縮小する。 文字通り討って変わって、まっすぐと腰だめに構えたナイフによる突撃。今度は手首をつかみノイ・レジセイアは食い止めた。 逆に振り下ろされる大太刀だったが、イェッツト・ヴァイサーガはその状態から強引に手首を掴む相手の腕を蹴りあげた。 その衝撃で相手の手は離れ、自由になる。後退はしない。大太刀をかいくぐり、イェッツト・ヴァイサーガはさらに攻撃を仕掛ける。 剣を振るには、あまりにも不向きな距離。故に、統夜は別の攻撃手段を使用する。 蹴りあげた手首を足場に、高みに駆け登るようにイェッツト・ヴァイサーガが飛ぶ。 ちょうど、イェッツト・ヴァイサーガの腰の位置にノイ・レジセイアの頭がある。統夜は、その状態から一気に上体をひねる。 足の先から烈火刃が生え、スパイクを形成する。今イェッツト・ヴァイサーガが放つのは、 「――神槍裂脚ッ!!」 超人的、いや超機的瞬発力から放たれる回し蹴りが、真空刃を纏いながらノイ・レジセイアの頭部に炸裂した。 ノイ・レジセイアの頭部が砕け散り、形成していた骨に似た物質が空間にばらまかれる。 だが、ノイ・レジセイアはこの程度で死ぬような生易しいものではない。統夜は、目の前の光景に対応すべく、素早く腕を交差させた。 次の瞬間、ノイ・レジセイアの肩付近に浮かぶ二つの髑髏から、金色の極太の光が放たれた。 「が、ああああああ!?」 腕がぶすぶすと焼かれる感覚に統夜は絶叫する。今のイェッツト・ヴァイサーガは人機一刃。 痛みが100%還元するわけではないが、かなりの痛みが統夜を襲う。 それでも、決して剣は手放さない。逆に袈裟切りしようと加速するノイ・レジセイアを、焼けた腕を必死に動かし剣で受ける。 「再生しろ! こんなところで止まれないんだろ! こんなところで諦めるくらいならあそこで朽ちてるだろう!?」 脂汗を流しながらもイェッツト・ヴァイサーガに――自分に統夜は言い聞かせた。 蛇の脱皮に似た現象がイェッツト・ヴァイサーガに起こる。その下から現れたのは、新品同様の腕だった。 片手で握った斬艦刀で押し返しつつも、再生した腕にガーディアンソードに再び掴む。 下から、一気に切り上げる。だが、肩付近にあったはずの髑髏が独りでに動き出し、ガーディアンソードを咥え込む。 ヴァイサーガの手は、斬艦刀とガーディアンソードでうまっている。 それに対し、ノイ・レジセイアには、両の手と片方の髑髏を使用しても、まだ一つ髑髏が残っている――! ノイ・レジセイアを射線に巻き込まないためか、静かにイェッツト・ヴァイサーガの側面に回り込んだ髑髏が、金色の力を口の中で渦巻かせる。 だが、イェッツト・ヴァイサーガにも牽制程度なら使える力がある。 ざわりと、イェッツト・ヴァイサーガの装甲表面が波立つと、装甲から刃が伸びる。 アキトのコクピット撃ち抜きを防いだ、装甲から精製する烈火刃。ガーディアンソードを手放しあいた手で相手へ投擲。 寸分たがわず髑髏の口の中に吸い込まれた烈火刃が、金色の光と反応し大爆発を起こした。 「その力……『人間』には過ぎた力……」 「化け物だったら持っていいのかよ!?」 目を焼く閃光の中、統夜はマントでどうにか光を遮断する。 どこからか攻撃が来る――しかし目は使いものになりそうにない。ならば、やるべきことは決まっている。 目が見えないのなら、相手の生体波動を追えばいい。統夜は、自分の感覚を信じて光の中拳を繰り出した。 「――そこだッ!」 自分の背後へ放たれる剛の拳。 「おひい」 はっきりしない、もごもごとしたノイ・レジセイアの声。 少女の声色のためか、声だけ聞けば舌っ足らずでとても愛らしいかもしれない。 だが光が収まり、見えるようになった目で何が起こっているかを知り、凍りつく。 再生されているノイ・レジセイアの顔へ、正確にイェッツト・ヴァイサーガの拳は当たっている。 拳はノイ・レジセイアの口の中にねじ込まれている。そう、鋭く長い歯が不均等に無数に並ぶ口の中に。 氷を砕くような音が、中空に響く。 叫びだしたいほどの痛みを、歯を食いしばって抑え、統夜はその拘束から逃れようとする。 これは、まずい。動きが止まれば、次に来るのは当然、髑髏からの砲撃。 それを悟った統夜は、イェッツト・ヴァイサーガの反対の手に持った斬艦刀を巨大化させる。手の力だけで、強引に振り切る。 半円の軌跡は、髑髏とノイ・レジセイアをとらえるコースだったが、ノイ・レジセイアも素早く手から口を離すと斬艦刀を回避した。 ノイ・レジセイアの側には既に二つの髑髏が浮かんでいる。 また再生させたのかとうんざりするが、自分もあまり人のことは言えないかもしれない。 ノイ・レジセイアは後ろに下がってさらに距離を取ると、髑髏の数を一気に十ほど増やした。 合計、十二。先程の六倍の砲撃が、星の中心を揺らす。 イェッツト・ヴァイサーガが第一波を回避するが、すぐさま第二波第三波が轟音とともに髑髏の口から放たれる。 分身を使い正確に回避しながら、接近する手段を、きっかけを統夜は探す。 ノイ・レジセイアはおそらくこちらは遠距離攻撃の手段が乏しいことを気付いたのだろう。 距離を取った上での砲撃を主軸に切り替えて倒すつもりなのか。 砲撃兵器を精製しよう――そういう発想が統夜に浮かぶ。だが、すぐさまその発想は打ち消された。 最初からあるものを、使ってきたものを元通りに戻すのは、あったときの感覚をイメージすればいいが、 後付けで何かを作るとなれば手間もかかるし、きちんと作れる自信がない。 無理に精製したところで、たいしたものにならず、しかも使いこなせないのが落ちだ。 では、統夜が正確にイメージできて、使いこなせる武器は何か。単純明快、剣だ。 「でも剣じゃ……っと!?」 意識が思考に傾いたせいで分身が減っていた。本体に直撃する寸前で砲撃を回避する。 銃は剣よりも強し。確かに名言だと統夜も思う。やってられないくらいに分かりやすい。だが、はいそうですかとは言っていられないのだ。 どうにか、イメージできる範疇で斬艦刀を操作し、砲撃に対処しなければ勝ち目はない。 一気にダメージ覚悟で突っ込むことも考えたが、それは相手が自分より接近戦で劣っている前提があって成り立つ。 このままなら、おそらくダメージを受けたまま再生する暇なく無傷の相手とぶつかり合うだけだ。 ついに、直撃コースに砲撃が入る。しかし、一発だけ。それを受け止めるため統夜は斬艦刀を盾代わりに出した。 斬艦刀に当たった砲撃は、それて別の場所へと飛んでいく。 その時、統夜に電流走るっ……! 逆に考えるんだ。剣で砲撃すればいいと考えるんだ。 そう考えた統夜は、斬艦刀を巨大な姿に変え、一気に後ろに引いて構えた。 一瞬対応を変えた姿を見て、ノイ・レジセイアは砲撃を停止するが、すぐさま再び砲撃を開始する。 紫雲統夜は動かない。 砲撃はまっすぐにイェッツト・ヴァイサーガに殺到する。十本以上の光の柱が統夜に迫る。 「………ここだぁぁぁぁぁ!!」 ギリギリまで引きつけ、イェッツト・ヴァイサーガは動き出す。 目には目を。歯に歯を。ダイヤモンドにはダイヤモンドを。 ならば、砲撃には、砲撃を。 統夜は、一気に斬艦刀を、刃を縦にしたまま振る。統夜がイメージするのは、鏡のイメージ。 それを伝達されて磨き抜かれた鏡のように光り輝く斬艦刀へ、砲撃がほぼ垂直にぶつかる。 野球のホームランさながらに、ノイ・レジセイアの砲撃はまとめて斬艦刀・ミラーコートに撃ち返され、逆にノイ・レジセイアに戻っていく。 ノイ・レジセイアは一瞬身動ぎしたが、すぐに対応に動き出した。 宙に浮かぶ髑髏の影から、髑髏の体が這いずるように現れ、それが本体を守るようにスクラムを組んだ。 骨の盾により、ノイ・レジセイアにイェッツト・ヴァイサーガの砲撃が届くことはない。 だが、そんなことは関係ない。 砲撃をはじいたのは、ノイ・レジセイアを攻撃するためではなく、ノイ・レジセイアを攻撃するチャンスを作るため。 巨大化した斬艦刀を再度振りかぶり、統夜はすでに飛び出している。 虚空を踏みしめ、そこを軸に統夜の斬艦刀が――振り切られない。 統夜の軸足が、一瞬で消滅した。僅かに空間に残るアインストの力の残滓から、空間ごと食われたことが統夜にも分かる。 それでも、どうにか斬艦刀を振る。無様な姿勢からでも、その大質量により生み出される一撃は、骨の盾ごとノイ・レジセイアの片足を断ち切っていた。 飛び出した勢いのまま、イェッツト・ヴァイサーガはノイ・レジセイアに突っ込んでいく。 斬艦刀に振り回された結果ついた横の回転を、そのまま統夜はノイ・レジセイアにぶつける。 ノイ・レジセイアも、足を切られバランスを欠いた状態をすぐさま立て直す。 「いっけえええええええ!!」 両者が、無くなった足を出す。 しかし、それは同時に再生し、突如生み出された質量同士がぶつかり合い、空間をたわませた。 空間が元に戻る反動で、ちょうど二機分ほどの距離が両者にあく。 ――いける。 統夜は確信する。 そう簡単に勝てるとは思えない。しかし、さりとて負ける気がしない。 事実、これまでの攻防でも、ほぼ互角。今の自分なら、誰にも負けない。どんなことでもできる。 「その力……あまりにも惜しい」 「そんなことより、自分の身を心配したほうがいいんじゃないか?」 斬艦刀を突き付けて、統夜はノイ・レジセイアに言い放つ。 しかし、 「確かに純粋な力は今の我に近い……しかし……世界を拒絶するのならば……待つのは消失のみ……」 「あんたに俺が消せるのか? やってみろよ」 「審判を下すのは我ではない。新しい完全なる世界…… それが全てを飲み込む……辿り着けるのは……意思と資格を持つ者のみ……」 髑髏の騎士の片腕が差し出され、掌が開かれる。すると、白い光がその場に放たれた。 白い光をくりぬき、どこかが映し出される。そこにあるのは、大小二つの球体。 その手順は、カミーユに対してやったものとまったく同じ。だが、映し出される光景は僅かに違っていた。 「……な、」 統夜も、アインストに近しい存在、その亜種であるから現れた光景の意味が理解できた。 白く小さな個体の球体にすぐそばには、小さいほうの数千倍ではきかないほど巨大な輝く球体が浮かんでいる。 小さいほうの球体は、 まるで砂粒のように見えるが、実際は違う。 小さいほうこそが、今統夜たちがいるネビーイームであり――輝き続ける球体こそが、新たな世界。 ネビーイームの40kmという大きさが、それほど矮小に見える。 いや、見えるのではなく事実矮小なのだ。単純な大きさだけではない。その存在が持つ力が。在る意味が。 ノイ・レジセイアはさらに言葉を続ける。 「……今、古き世界にいる……全てのものに……告げる……新たなる世界は古き世界のもの全てを飲み込み、塗り替える……」 その時は近い……もはや、止める術はなし………我を倒したところで……宇宙の新生は止まることはない……」 その光景は、その言葉は、生き残った全ての人間へ送られていた。 宇宙の新生をすぐ近くで目の当たりにし、絶望する男にも。 仲間を失い、希望を砕かれ涙を流す少女にも。 混濁した意識の中、それでも歯を食いしばり声は出せずとも足掻く青年にも。 半ば壊れてもなお、主のために這いつくばる不完全な物質にも。 ノイ・レジセイアを前に、互角の力を見せた人在らざる何かにも。 ――平等に、絶望は与えられた。 ■ 火にかけられた鍋がコトコトと揺れる音だけが、部屋に小さく響いている。 広くはあるが質素な木製の家屋は、長い年月そこにあったことを思わせるものの、不思議と汚らしさは感じない。 そこに住む人間同様、ここにあって当然、はるか昔からここにあり続けているという風格を持ってる。 ロジャーは椅子に腰かけ、肘をテーブルについたまま頭を抱えていた。 電話が通じない。今まで何度も何度もかけてきた我が家へ、電話が。もはや、手が覚えてしまっているほど押してきた番号をプッシュした。 しかし、繋がるのは使用されていない場合に流れる機械的なメッセージ。 間違っているのはないかとゆっくり、一つずつ確認しながら押しても、結果は同じ。 「本当に、ここはパラダイムシティなのか……?」 そう言いながら視線を上げれば、そこにいるのはパラダイムシティを作った初期メンバーの一人、 ゴードン・ローズウォーターがシチューの鍋をお玉でゆっくりかき混ぜている姿がある。 小皿に少しだけ赤いシチューを掬うと、一口含んで静かに頷いていた。 「失礼。確認させてもらいたいが、あなたは……その、ゴードン・ローズウォーターなのだろうか?」 ロジャーは、おそるおそる自分がゴードン・ローズウォーターだと思っている人物に問いかける。 既に、ロジャーは自分の記憶(メモリー)がホンモノであるか確証が持てなくなりつつあった。 ゴードン・ローズウォーターと思われる人物は、老人独特のゆっくりとした動きでロジャーへ向きなおす。 相変わらず何を考えているか分からない瞳が、じっとロジャーを見つめている。 「そうだとも。私は君がそう呼ぶ限り、ゴードン・ローズウォーターだとも」 言い方にどこか引っかかりを覚えながらも、自分はゴードン・ローズウォーターであるとの返事にロジャーは安堵する。 ロジャーは、自分の記憶(メモリー)の中からゴードン・ローズウォーターに関しての情報をさらに考え、 ふと思いついたことを問いかけてみた。 「……ゴードン・ローズウォーター。あなたは40年前の記憶(メモリー)を保持した数少ない人間と聞いた。 40年前、人は宇宙を飛んでいたのだろうか? あの空の向こうには、白い星が浮かんでいたのか……」 そう、もしもこの老人が、ロジャーの記憶(メモリー)通り、40年以上前を知っているのならば。 ロジャーの知るあの世界が何なのかも知っているのはないか。 迷いながら、言葉を探しながらロジャーはゴードン・ローズウォーターに問おうとした。 「きみ」 しかし、ゴードン・ローズウォーターはそれを途中で遮り、ゆっくりと、おとぎ話でも語るように話し始めた。 「この街の誰も40年以上前の記憶もってはいない。全ては虚構。偽りでしかない。 かつて君が見つけたあの本も、私が書いたのではなく、夢が私に書くように命じた物語。 世界を破壊する強大なロボット。圧倒的な破壊。全ては偽りだ」 「しかし、事実人々は記憶(メモリー)を断片的ではあるが持っている……!」 叫ぶようにロジャーはゴードン・ローズウォーターの言葉に異論をはさんだ。 ロジャーがメガデウスを操れるのも、ノーマンがそれを整備できるのも、記憶(メモリー)のおかげに他ならない。 そのすべてが嘘偽り、ないとするならば記憶(メモリー)もあり得ない。 あり得ない出来事の記憶を保有することは誰にもできないのだ。 しかし、ゴードン・ローズウォーターは意に介した様子もなく淡々と言葉を続ける。 その様子は、さながら全てを知る賢者にも似ていた。 「なかった。初めから。全て」 ロジャーの脳裏に、ふと一冊の赤いハードカバーの本が浮かぶ。 そう、自分はかつて、40年前の出来事が記されたといわれる、ゴードン・ローズウォーターの書いた本を片手に彼のもとを訪れている。 今まで思い出せなかったはずのその記憶(メモリー)が、はっきりと経験として思い出せる。 「……記憶(メモリー)とは、人の中にあるもの。それ以外はまやかしでしかない」 「しかし……この街の住人は誰もがそれを失っている。だとするならば……!」 「この世界が壮大なるステージだとしたら、我々人間は役割を演ずる役者にすぎない。記憶(メモリー)など必要ない」 全ての記憶(メモリー)は作られたものに他ならず、誰かが配置したものでしかない。 そんなことは、ロジャーにとっても受け入れがたいことだった。なんであろうと自分が自分であることに変わりはないのだ。 どのように生を受けたとしても、一人の人間としての生き方は別なのだ。誰かの決めた脚本を演じたことなどない。 ロジャー・スミスが、ロジャー・スミスとしての意思で選択し続けたからこそロジャー・スミスはここにいる。 それは、揺るがしようのない事実だとロジャーは信じている。 だが、こうロジャー・スミスが考えること自体、誰かが定めたことだというのか? 壮大な虚飾の舞台の上で、踊るだけの書き割りにある登場人物にすぎないのか。 全ては記憶(メモリー)ではなく、設定され誘導するために作られた記録(データ)にすぎないのか。 ゴードン・ローズウォーターは赤いトマトのシチューを皿に注ぐと、木のスプーンとともにロジャーの前に差し出した。 「だが、その役割を変えられるものがいてもいい筈だ。だから私は君に、交渉を依頼したのだよ」 俯くロジャーに、ゴードン・ローズウォーターが言った。 その言葉に、思わずロジャーは振り仰ぐようなかたちでテーブルの側に立つゴードン・ローズウォーターを見る。 「交渉の依頼? 私に? ……失礼だが、私はあなたに依頼を受けた覚えはない。いったい、誰に対しての交渉依頼――」 ロジャーは、自分はネゴシエイターだと思っている。 そして、ネゴシエイターにとって最も重要なものの一つに、信頼があるとも。 依頼者と、ネゴシエイター。ネゴシエイターと、交渉相手。それらの間に信頼関係がなければ仕事は成り立たない。 故に、まだこなしていない仕事の依頼人を忘れることなど決してしない。 それが、ロジャー・スミスの考える、ロジャー・スミスという男に関しての記憶(メモリー)だ。 故に、ロジャーはそれを違え、暴力的な手段を取る相手には―― 「ビッグ、オー……」 そうだ。ビッグオー。 その言葉をひらめいた瞬間、ロジャーの体に足りなかった何かが戻ってくる。 今の自分には、彼が足りない。それが、自分自身の欠落した感覚の原因だった。 ビッグオーは今どこにいるのか。 ――ロジャーはついに思いだした。 ロジャーの様子を見て、ゴードン・ローズウォーターは大きく、ゆっくりと頷いた。 「私は確かに依頼した。この世界を演出する存在と交渉してもらいたい、と。そして、君はやり遂げた」 ロジャーは、襟を静かに正す。 ロジャーに記憶(メモリー)はない。本当に自分自身が誰なのか分からない。 だが。 記憶(メモリー)がなくとも。 過去を確認できなくとも。 自分という存在を。 ―――ロジャー・スミスは確信している。誰でもない、自分自身が。 ロジャーは名乗ることができる。自分が今、何者なのか、誰であるのかを知っている。 ロジャーは背筋を伸ばす。誰にも己の存在を恥じず、迷わず、答えられる。 ゴードン・ローズウォーターの手には、一冊の赤い本が握られていた。 他でもない先程ロジャーが思い出した、ゴードン・ローズウォーターの書いた御伽噺(おとぎばなし)。 「もう、これは君に必要ない」 黒い手袋をしたロジャーの右手に、ゴードン・ローズウォーターはその本を握らせる。 赤かったはずの本は白い表紙の本になっていた。題名(タイトル)も、著者も刻まれていない。 中もまた、全てのページに何も書かれていない。白い、なにもない一冊の本。 「――ありがとう。君の役割は、君が決めたものしかない。君が望むのであれば、君はあり続けられる。 この街の誰もが、過去をなくしてもそうやって生きることができるのだよ。 私は、君の名前を呼ばない。もう一度、君の名前を教えてくれ」 ゴードン・ローズウォーターからの問い掛けに、ロジャーは、一音ずつ確認しながら正確に答えを返す。 「私の名はロジャー・スミス。この記憶喪失の町には、必要な仕事をしている」 ゴードン・ローズウォーターは満足げに一度うなずくと、左手でシチューを指した。 「それは君が持ち込んだ、ここにはあり得ない花の種だ。元の場所に返してきてほしい」 目の前にあったのは、もうトマトのシチューではなかった。 青く輝く、カッティングされた宝石がなみなみと盛られている。 ロジャーは、それを知っている。それは、凰牙の収納スペースに積まれていた、種に似た謎の宝石に間違いない。 ゴードン・ローズウォーターが持っていた赤い本と赤いトマトは、ロジャーの手の中で白い本と青い種に変わっていた。 左腕の袖を捲り、白と黒のモノトーンから成る腕時計を口元へ。 しかし、やろうとしているのは、家への通信ではない。自分が何故こんなことをするのか、過去のないロジャーには分からない。 だが、こうすることが正しいと、ロジャーは知っている。 自分の運命を自分で選ぶと決めた自分が、自分として生きていくために、ロジャー・スミスは選択する。 白い本は、黒い本へさらに変わる。 表紙に刻まれた題名(タイトル)は「negotiator」、著者は――ロジャー・スミス。 魂を震わせて力の限り呼んだ。ロジャーは自分の相棒の名を。それは――― 「ビィィッグオーーーゥ! ショォォーーウタァァァァーーーイム!!」 ■ →ネクスト・バトルロワイアル(4)