約 1,346,239 件
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/179.html
シャイニングガンダム 機体名 シャイニングガンダム 全長 16.2m 主武装 日本刀型ビームソード×2 長短1本ずつ。 頭部バルカン砲 最弱武装であるが、一切の気を抜かずに『バァルカンッ!』と叫ぶのがドモン流。多分。 胸部マシンキャノン2門 マシンキャノンです。 シャイニングショット4門 アームプロテクターに仕込まれた小型のビーム砲。 シャイニングフィンガー 高出力エネルギーを集めたマニピュレーターで敵ユニットの頭部を掴み破壊する、シャイニングガンダムのメイン必殺技。 シャイニングフィンガーソード シャイニングフィンガーに用いられるエネルギーが増幅して刀の形となったもの。シャイニングガンダムの最強必殺技。スーパーモード時のみ使用可能。 特殊装備 スーパーモード 搭乗者の怒りが頂点に達したときに変形可能。機体能力が大幅に上昇、またシャイニングフィンガーソードが使用可能となるが、搭乗者への負担が大きくなる。また、搭乗者が明鏡止水の心を会得すると、機体が金色の輝きを放つ『真のスーパーモード』となる。その強さは通常のスーパーモードを更に凌駕し、機体を駆る上での肉体的疲労も大幅に少ない。 移動可能な地形 空:× 陸:○ 水:× 地:× 備考 主武装で最初に上げられた4つの武器の威力は、実はそれほど高くない。シャイニングガンダムを含めたMFの真髄は、『モビルトレースシステム』なる、パイロットの一挙一動を直接機体に伝えるという特殊な操縦方法から繰り出される格闘技にある。そのため、通常のパイロットよりも格闘技の強者を、親父にもぶたれたことのないアムロよりも師匠を乗せた方が何倍も何十倍も強いのである。
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/177.html
ジガンスクード・ドゥロ 機体名 ジガンスクード・ドゥロ 全長 70.3m 主武装 ウェポンブレイカー 対武装用レーザー。武装を破壊するための兵器と思われる。 G・サークルブラスター 自分を中心にエネルギーを円状に開放するMAPW。味方を巻き込まないように。 ギガントナックル シーズアンカーを展開、先端を前方へ集中させ殴る技。 ギガ・ワイドブラスター 胸部の三角形からビームのようなものを発射する。 ジガンテ・ウンギア 鎖つきの腕と一緒にシーズアンカーを射出して敵を捕縛、そのまま接近し敵機を持ち上げ電撃を浴びせた後に投げ飛ばし、電撃を帯びたまま突進する荒業。通称ジガンテ・ンギャー、またはジガンテ・アンギャー。ちなみに通称というのは嘘で、前者はタスク、後者はエクセレンがつけた名前である。 特殊装備 グラビティ・テリトリー 重力波防御壁。文字通り、目の前に重力の壁を出現させ、攻撃を和らげる。 シーズ・アンカー ジガンの特殊装備、手持ち。四本の鉤爪のようなものが付けられており、内二本から電撃を発することができる。ガンドロの手には鎖が付いており、腕と一緒に射出し、ぶつけた後に回収することも可能。 移動可能な地形 空中○、陸地○、水中△、地中× 備考 PTが開発される前に開発された旧式機をジョナサン・カザハラがテスラ・ドライブ等を積み込み改造した戦艦護衛用兵器のジガンスクードを、マリオン・ラドム博士の改造プランの元、更に改修した機体。愛称はガンドロ(命名 カチーナ・タラスク中尉)イタリア語で『巨大な硬い盾』の名を持ち、その名に相応しく頑強な装甲を持つ。かつてゼンガー・ゾンボルト少佐のグルンガスト零式の零式斬艦刀を中破するも受けきり、刃こぼれさせ、ウォーダン・ユミルの駆るスレードゲルミルの斬艦刀も、中破するも受けきると、その名に恥じない頑丈さを見せ付けた。元の機体のジガンスクードは元々コロニー防衛用に作られたのだが、コロニーが独立すると勘違いされ、アーチボルト・グリムズ率いるテロリストに毒ガスを撒かれるという事件(エルピス事件)のきっかけになったためコロニーの住人には忌み嫌われている。このロワにおいては全く関係ないが。
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/210.html
ラーズアングリフ 機体名 ラーズアングリフ 全長 20.6m 重量 105.2t 主武装 シザースナイフ このナイフ、只のナイフじゃあない。「シザース」ナイフだ。なんとナイフが二本くっついてハサミ状になっているのだ!でもGBAじゃ分かんないよ。ちなみに唯一のP兵器。 マトリクスミサイル 推進力を持った大型の入れ物に小型のミサイルを詰め込んだ物。肩部のシールドのハッチから発射される。Aでは射程3~6と穴がある。弾数4、一回の戦闘で二発ずつ撃つので八発所持してる……ハズ。 リニアミサイルランチャー 携行のミサイルランチャー。穴四つの回転砲頭からミサイルを連発できる。Aでは射程1~5、弾数10で比較的使いやすい武器。Aの戦闘演出では両手に持って片方から10発ずつミサイルを撃っている。つまり二百発のミサイルをなんらかの形で携行して……多分そんな訳はない。 ファランクスミサイル バックパック左部に乗っているミサイルランチャーから雨あられと撃たれるミサイル。弾数は演出20発位×弾数6でいっぱい。とにかく適当にいっぱい。Aでは射程4~7でやっぱり穴があるがFソリッドカノンの次に強い。OG2では何故か放射状の範囲を持つマップ兵器になっている。 フォールディングソリッドカノン(Fソリッドカノン) 右肩に乗っかってる折り畳み式のでっかいキャノン砲。ラーズアングリフ固定の最強装備。OG2では射程は3~10とびっくりするぐらい長い。Aだと射程5~8と穴もびっくりするぐらいデカい。出典元Aでの弾数は5発。だが、今ロワにおいてはOG2仕様の8発になっている。 特殊装備 シールド 携行シールド。Aでの耐久力は1500。リアル系と数値比較するとあまり高いほうではない。 ジャマー いくら装甲の厚いラーズアングリフとはいえこの至近距離でミサイルを食らえば……何ぃ!? ビームコート いくら装甲の厚いラーズアングリフとはいえこの至近距離でビーム(ry 移動可能な地形 空:× 陸:〇 水:〇 地:× 備考 赤い鈍重そうな機体。頭部の形状からコックピットの位置モロバレ。足にキャタピラ付いてます。
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/192.html
プロトガーランド 機体名 プロトガーランド 全長 人型形態:3.85mバイク状態:3.96m 全幅1.35m 全高0.94m 主武装 レーザーオーブガン ― 格闘 ― 特殊装備 変型 バイク⇔人型 センサーリダクション センサーを欺くシステム 移動可能な地形 バイク 空 × 陸 ○ 海 ○(ホバー) 地 ×人型 空 ○ 陸 ○ 海 △ 地 × 備考 メガゾーン23内の軍隊が開発した新型兵器、その改修型。メガゾーンのメインコンピュータ・バハムート(時祭イヴ)と連結しており、本機からバハムートへのアクセスが可能。だが、ロワ世界においてはバハムートの存在が確認されてないため意味を為さない。他の機動兵器と比べ、超小型。(テッカマンと同じくらいか?)瞬発力と機動性は他の追随を許さず、少し離れた相手にも格闘を仕掛けられる(射程1~3程度?)ビームガンは腕部に格納されている。遠距離に仕掛けられるほど射程は無いが、その瞬発力と小型による隠密性で相手の死角に回り込めれば勝機はある。いずれの武器も人型形態時のもので、バイク形態時の武装は存在しない。またガーランドの操縦方法だけど、ヘッドコネクターが思考伝達装置になっているらしい。そのおかげで手動操縦と思考による機体制御を組み合わせる事が出来て、複雑な動きを可能とするそうな。また搭乗者が生命の危機に晒された時は自動で人間形態に変形を行うようになっている。動力はガスタービンエンジン。ちなみに人間状態はMS(マニューバスレイブ)、バイク形態はMC(マニューバクラフト)と言う。
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/361.html
第三回放送 ◆ZqUTZ8BqI6 また日は沈み、次なる夜がやってくる。しかし、この世界の夜はもう二度と訪れることはない。 比喩ではなく本当に最後の夜が来る。この夜が明けた時、この世界に立つのは誰か。 いや、箱庭世界の夜は明けるのか。澄明は、まだ遥か向こうにも見えない。 『皆さま、お疲れ様ですの。ここまで頑張った人たちは、もう少し。そのためにご褒美があるですの。 何か気になりますの? けど、まずは今回死んじゃった人たちの連絡ですの』 ……ジョナサン=グレーン ……ベガ ……バーナード=ワイズマン ……オルバ=フロスト ……宇都宮比瑪 ……クインシィ=イッサー ……ガロード=ラン 『―――以上、7名が皆様の犠牲となりお亡くなりになられましたですの。ちょっと勢いが落ちちゃってますの。 早く帰りたいならちゃきちゃき殺しちゃうことをお勧めしますの。 ……次は、禁止エリアの発表ですの。 ここまで来て禁止エリアで死ぬなんて恥ずかしいからしっかりメモするべし!ですの。 禁止エリアは……A-1、B-6、E-5、F-1、G-3、G-6の六ヶ所ですの。 それじゃお待ちかねご褒美発表タイムですの。やっぱり目標があったほうがやる気も出ると思いましたので、特別に名簿をプレゼントしますの! 残りの人たち全員の名前が書いてある特注品、受けとってほしいですの。水や火からは離れて待っててくださいの。再度支給はなしですの。 残り人数といる人が分かれば効率もあっぷですの。あと……ちょっと会場に変なのが出ちゃったりもするけど、気にしないでくださいの。すぐに全部いなくなりますの。 あんなのは無視してお隣の人を撃つのに弾薬は使ってくださいですの。武器の弾薬サービスも大変ですの! ――それでは十二時間後、最後の一人として私とお会いできますよう、皆様の無事をお祈り申し上げますの。では』 そう言って、アルフィミィは通信を切る。そしてちらりと、視界の隅の机を見た。 「……あら?ですの??」 そこには、なぜか一枚だけ名簿が残っていた。 【アルフィミィ 搭乗機体:デビルガンダム(機動武闘伝Gガンダム) パイロット状況:良好 機体状況:良好 現在位置:ネビーイーム 第一行動方針:バトルロワイアルの進行 最終行動方針:バトルロワイアルの完遂】 備考 転送されなかった一枚は、ユーゼス(首輪の機能停止が原因)の分です。 BACK NEXT もう一つの対主催 投下順 貫け、奴よりも速く もう一つの対主催 時系列順 貫け、奴よりも速く BACK 登場キャラ NEXT 排撃者――裏 アルフィミィ Alchimie , The Other Me
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/384.html
ネクスト・バトルロワイアル ◆XrXin1oFz6 場に三界あり。 一つ、監査官の住む、世界の狭間に存在する赤き世界。 二つ、時の向こうに存在する調停者の力で生まれた。時を重ね作られた世界。 三つ、二つ目の世界が生まれ変わり現れた新たなる世界。 因果律という名の神に仕える大天使ノイ・レジセイアが生み出した完全に近き宇宙。 人の希望と、絶望と、慟哭と、歓喜と、数多の魂を練り込み作った世界。 新たなる世界は、古き世界を飲み込まんと膨らみ始める。 行く末を決めることが出来るのは、今この場に居合わせた者のみ。 ノイ・レジセイアの願いが達成されるのか? ノイ・レジセイアへの反抗者の願いが達成されるのか? それとも、どちらにも属さない者たちの願いが達成されるのか? 遥かなる戦い――開幕(オン・ステージ) ■ 風が世界に吹いた。世界のすべてを駆け抜けていく一陣の風が、偽りの大地を両断する。 めくれ上がり、舞い上がる土が、盛大に土埃を巻き上げた。視界に映るもの全てを叩き割る剛剣が唸る。 「おおおおおああああああああああ!!」 青年の口から放たれる叫びが、白い魔星を揺らす。 もう戻れない。元通りなど願えない。それでも、なおその眼に眩しく映るものがあるならば。 他者と、世界と、自分を捧げてでも叶えたい願いがあるならば。 青年は、その問いに「イエス」と答えた。その選択が、自分の求めたものを汚す行為であっても。 それを知ってなお、青年は「イエス」と答えたのだ。 それは、血みどろの腕で、ウェディングドレスを抱きしめるに等しい。 けど、それでもいいのだ。 だから。 己の血を大地に流し、切り伏せた他人の血を大地に流し、それでも歩みを青年は止めることはない。 青年の視界に移るのは、黒い騎士と、赤い古鉄。 敵の姿をはっきりとその瞳に映す。 音速をはるかに超過する速度であろうとも、もはや敵を、目標を見失うことはない。 紫雲統夜は、目標に向けてのみ動く一本の剣と化した。 黒い騎士が、その手に掲げた鞭を伸ばす。追いすがる鞭を、統夜はいとも簡単に弾き落とした。 統夜の体の一部、延長であるイェッツト・ヴァイサーガが、大地を踏みしめ減速する。 普通なら、装甲や関節の衝撃緩衝が追いつかず、足が砕け散り倒れていただろう。 しかし、イェッツト・ヴァイサーガは大地を離すことなくつかんでいる。 減速が一定以下になったところで、一気に再びイェッツト・ヴァイサーガが大地を蹴る。 砕けた土が落ちるより早く、背中から噴出されたスラスターが、舞い上がった土を溶かす。 目標は赤い古鉄。かつて闘ったときは、統夜の技量の低さもあって敗北を舐めることとなった。 だが、今は違う。 一瞬にして距離をゼロにし、イェッツト・ヴァイサーガが剣を振り上げる。 それを見上げる赤い古鉄は、攻めるためにあるはずの大出力スラスターを、逃げるために惜しげもなく利用した。 反撃はない。よけるだけで精一杯なほど、今の統夜の一撃は、重く、速く、鋭い。 「なぜだ……先程まで動くことすらままならない状態だったはず、それがこうも……!」 ネゴシエイター、ロジャー・スミスのいぶかしむ声を遮り、イェッツト・ヴァイサーガの投擲したクナイが、凰牙をかすめる。 クナイを投げて空になった手に再びガーディアンソードに滑り出された。 肘の部分で接続されたガーディアンソードは、手を離してもイェッツト・ヴァイサーガからは離れない。 視界の端にかすめる赤い古鉄が、五連チェーンガンを撃つ姿が見えた。 銃口が放たれる眩い光が、火薬の臭気とともに運ばれる。統夜は、身をかがめることでチェーンガンを回避する。 統夜には、分かる。外の爆発音も、火薬の臭いも、何もかもが。 「……人間をやめたのか」 じりじりと間合いを取ろうとする赤い古鉄。 思い出すのは――アキトとの一度目の戦い。 以前の統夜は飛び込むのを躊躇し、駆け引きとも呼べぬ迷いを生じさせた。 その結果、統夜は負けたことを覚えている。だから、統夜は相手の考えの一切をあえて無視し、一直線に切り込んだ。 止められるものなら、止めてみればいい。 向こうがただの古鉄から巨人の名を冠したものに変わっても、ヴァイサーガの変化はそれを上回る。 五大剣とガーディアンソードを交差させ風を集め圧縮、そして解放することで衝撃波を全体に放つ。 その衝撃波に追いつくように、イェッツト・ヴァイサーガが駆ける。 全体をなぐ五大剣の衝撃波でネゴシエイターを足止めし、同時にガーディアンソードのそれで赤い古鉄の逃げ場を防ぐ。 その上で、追撃を加える。絶対必中の確信を持って統夜は攻撃を放った。 赤い古鉄は、クレイモアの発射口こそ開いたが、動かない。 近づく衝撃波を、迎え撃つように泰然と立っている。衝撃波と言えど、イェッツト・ヴァイサーガの繰り出す技である。 当たれば、行動が一拍遅れることは間違いない。続いてイェッツト・ヴァイサーガの剣も受けることになるのは必定。 クレイモアによるカウンター狙いとしても、衝撃波の威力をアキトは見誤っている。 僅かな時間にそれだけのことを思考し、なお直撃を確信した統夜は、スピードを上げた。 もう一秒もかからず赤い古鉄にイェッツト・ヴァイサーガの両手の剣による二連撃が叩き込まれる。 そんな中、赤い古鉄が、統夜から見て向かって右の手を開いた。何をする気かと統夜は視線を赤い古鉄の手に集中させる。 (あれは、宝石?) 赤い古鉄の手の上には、小さな青い宝石が置かれていた。だが、それでどうするというのか。 視線だけはそちらに向けたまま、イェッツト・ヴァイサーガは切り込んでいく。額の角に触れるか触れないかまで剣が迫る。 そして。 赤い古鉄が消えた。 剣は空を切り、大地に突き刺さるのみ。 (―――!?) 一つだけ、アキトが統夜と闘ったとき、使わなかった戦法がある。いや、使えなかったと言うべきか。 アルトアイゼンの受領に際して、主催者側より加えられた制限があったのを覚えているだろうか。 それは、ボソン・ジャンプの禁止。故に、あの戦いではアキトはボソン・ジャンプを統夜に見せることはなかった。 だが、今のアキトに首輪という枷はない。故に。 「ゼロ距離、とったぞ……!」 左後方より聞こえる声。 さっきまで右前方にあった手に集中していたため、視線を向けるのが遅れた。 統夜が、五大剣を横へなぎ回転切りを繰り出すのと、前より肥大化したクレイモアが打ち出されるのは同時だった。 アルトアイゼン・リーゼのアヴァランチ・クレイモアの散弾がイェッツト・ヴァイサーガの装甲を叩き、 イェッツト・ヴァイサーガの剣がアルトアイゼン・リーゼの肩部装甲の一部を削り飛ばす。 「お前がゼストのような存在になったとしても同じだ」 イェッツト・ヴァイサーガの胸板に、赤い古鉄が飛び込んでくる。両者の身長差は約二倍。 ひとたび、懐に潜り込めば、有利になるのは赤い古鉄だった。 「コクピットを抜く」 手を振り上げ、打ち込む時間すら惜しいと判断したのだろう。 赤熱化した角で、赤い古鉄はイェッツト・ヴァイサーガの胸に突撃を仕掛けてきた。 アキトの言葉通り、いかにイェッツト・ヴァイサーガでも、パイロットである統夜を潰されてはどうしようもない。 しかし、浅く突き刺さったところで角の動きが止んだ。それ以上、突き込むことはない。 なぜなら、アルトアイゼンのコクピットの前にも、刃が突きつけられていたからだ。 今のイェッツト・ヴァイサーガの投擲具は、自己生成されている。その機能を使い、装甲表面に烈火刃を発生させたのだ。 大きさ故に装甲表面からコクピットまではアルトアイゼンのほうが短い。踏み込んでいれば、アキトはつぶれている。 剣をふるい、赤い古鉄を統夜は引き剥がそうとする。しかし、それより早く赤い古鉄は再び消えて、自分の背面へ。 「ッ! ちょこまかと!!」 再び振るわれる回転切り。 今度はそれをくぐり、赤い古鉄はリボルビングバンカーを五大剣に打ち込んだ。 さしものジョイントの接合部分も衝撃に耐えられず、五大剣がイェッツト・ヴァイサーガの手から離れ空を舞う。 統夜は、知らない。 アキトが元の世界で黒い王子様と呼ばれ、テロリストとして活動していたことを。 そして、そのテロ活動の間、神出鬼没であることから幽霊とも扱われていたことを。 ――アキトはボソン・ジャンプによる強襲を得意とし、短距離ボソン・ジャンプと突撃仕様の機動力で相手を撹乱してきたことを。 木連が利用するような大型機相手にも、アキトはこうやって闘っていた。 はっきり言って、イェッツト・ヴァイサーガとアルトアイゼン・リーゼの性能差は、とてつもなく大きい。 デビルガンダムと、そこらの突撃仕様のモビルファイターが闘うにも等しい。 だが、それでも。相手の手を知り尽くし、自分が最も得意とする状況に引きずり込み、相手に不利な状況を強要すれば。 その差は、確実に詰まる。 もっとも、徹底したインファイト故、援護が全く見込めない状況になるが、もともと一人で戦ってきたアキトには問題ない。 ネゴシエイターの援護なしでも、アキトは統夜に勝利するつもりでいたのだ。 「ネゴシエイター、そこで見ていろ。手を出すな」 しかし、あくまで援護が難しい状態であって、援護が必要ないわけではない。 それでも、アキトはネゴシエイターにそう通信を出した。オープンチャンネルで行われた通信のため、統夜にもそれが聞こえている。 「そうかよ! 俺なんか、一人でも大丈夫って言いたいのかよ!」 統夜を無視し、アキトはさらにネゴシエイターに声を送っている。 「ネゴシエーションと言うつもりはない。だが、こいつには話したいことが残ってる」 「俺には、あんたに話すことなんてないっ!」 イェッツト・ヴァイサーガの剣を、重量級の赤い古鉄でひらりとかわされた。 翻弄されている。 強くなったはずなのに、全てを殺さなくてはいけないのに。 それでもなお依然と同じように力が詰まっていない錯覚を、統夜は感じていた。 ガウルンにすら勝った自分。確かに強くなったという実感は何だったのか。 「テンカワ、君が何をしようとしているのはわからない。しかし、君が誠実に言葉を尽くすつもりと言うのなら……」 どうせ、この鍔迫り合い同然のインファイトでは、凰牙は手は出せない。 そう思い、血を頭に登らせていた統夜は反応が遅れた。 黒い何かしらの力を称えた球体が、イェッツト・ヴァイサーガに近付いていたことを感じ、統夜は反射的に上に飛ぶ。 しかし、60mオーバーの巨体ではいくら機敏なイェッツト・ヴァイサーガといえど完全な回避は難しく、黒球は下半身をとらえていた。 「私は力を貸そう。先程君に使った力を使わせてもらった」 イェッツト・ヴァイサーガの下半身が動かない。感覚はある。痛みはない。異常もない。 だというのに、その場に固定されている。スラスターを吹かしても、その場から動くことができない。 いや、スラスターを切っても動くことができない。偽物の星とはいえ、ここには擬似的な重力がある。 それによって起こるはずの自由落下すら起こらないのだ。 「なんだよっ! なんだよこれっ! 動け、動けよ!」 いくら操縦桿を動かしても、動くのは上半身だけ。 そもそも、下半身が固定されている以上、せいぜい腕が届く範囲までが有効範囲。これでは、どうしようもない。 アルトアイゼン・リーゼが悠々と足を進めてきた。そして足元から、イェッツト・ヴァイサーガを見上げている。 動けさえすれば、そのまま踏みつぶすこともできるのに、と統夜が顔をゆがめた時。 「テニアは、どうした?」 アキトの妙に平坦な声が統夜に投げかけられる。 嘲るわけでもない。しかし、疑問形でありながら、本当に疑問に思っているようにも聞こえない。 それは――確認だった。 テニア。その言葉を聞いた瞬間、統夜は目の前が真っ赤になるのを感じた。同時に操縦桿を傾けてもいた。 しかし、イェッツト・ヴァイサーガが動くことはない。何もできないことを再度自覚し、頭が自然と冷える。 「……死んだよ」 死。 そう、テニアは死んだのだ。 その認めがたい事実を覆すため、統夜はこうして足掻いている。もがいている。 「やったのはガウルンか?」 「そうだよ、だから、どうしたって言うんだよ!?」 覆してしまえばいい。自分にとって不都合な真実は、変えてしまえばいいのだ。 今、存在している真実に意味なんてない。塗り替えた後の真実だけに、意味がある。 凰牙が、イェッツト・ヴァイサーガに背を向けた。ロジャー・スミスの声がインセクト・ケージの中に響く。 「そういうこと、か。テンカワ。しかし、それを聞くということは君も……本当はわかっているのではないか?」 「……さっきも言ったはずだ。お前には、関係ないと」 「ならば、そこの統夜には関係があるというのか? ……違うのではないかね」 「…………」 統夜には理解できない問答をしているネゴシエイターとアキトを睨みつけたまま、統夜は無言で待つ。 どんな事情であろうと関係ない。動けるようになった瞬間、目の前の二人を叩き切る。それだけに思考を集中させる。 アキトがまた口を開くのを、統夜はただ見つめていた。 「それで。お前はテニアを生き返らせたい。だからこうやって闘っている」 「そうだよ、それの何が悪い?」 統夜は悪びれない。罪悪を感じる地点はもう過ぎ去った。 手段を正当化するつもりもないが、悪いと指摘されても心は疼かない。 「人間をやめてでも、か?」 「そういうあんたはどうなんだ? まだ自分が人間のつもりか!?」 生体波動の判別すら可能になった統夜には分かる。今のアキトが、通常の人間からはるか離れたものであることが。 そもそも、いくらインファイトとはいえ、いやインファイトだからこそ、ギリギリの反射神経が何よりも重要になる。 先程の戦いでイェッツト・ヴァイサーガの攻撃を裁いたアキトの能力は、もはや人間の枠の外にあるだろう。 「いや、違うだろうな。俺自身、本当に俺が俺なのか分からない。だから、何かが足りないと感じるのかもしれない。 それでも、俺は生き返らせたい。ユリカを。ガウルンに殺された、ユリカを」 「……アキト?」 ずいぶんと親しげなニュアンスで、統夜はアキトの名前を呼んでいた。 今まで名前も呼んだこともなく、面識も薄い相手を。統夜にも、何故そんな呼び方をしたのか分からない。 一瞬、頭をよぎったのは、あのJアークに乗っていたキラだったかと、自分と、アキトの三人が顔を突き合わせて話すシーン。 だが、そんな記憶があるはずもない。そもそも、イメージのアキトは目の前にいるアキトより若かった。 「お前は、その意思が紛れもなく自分だと納得できるか? いらない誰かの横やりでないと……証明できるのか?」 似ている。 統夜と、アキトは似ているのだ。 愛する者を奪われ、復讐に固執し、奪われたものを取り戻すために生き足掻く。 今までろくに交わることのなかった、二本の線。しかし、それが描いてきた軌跡はどこまでも似ていた。 統夜は、歯を食いしばる。 ここで違うと言うのは自分全ての否定だ。 自分が本当に、純然に、純粋に自分と言えるのか。 統夜にも、分からない。統夜は、もう人ではない。さまざまな力をその身に宿した。 その力の一つが意思を持って、自分を動かしているのかもしれない。 そんな想像は、身の毛もよだつものだった。 だが。それでも。 「……だったら、何なんだ?」 テニアが大切な人である事は変わりがないのだから。 例え統夜の意思が誰かのものだったとしても、今まで自分がやってきたことは間違いないのだから。 悩み、怯え、竦み、人を切ったことに戸惑い、後悔し、何度も挫けそうになり、ようやくつかんだ温もり。 ズタボロになった心と身体を引きずりながらも、ここまでやってきた。 それを嘘にはしたくない。 人道的とか心の問題ではなく、もはや存在として人を外れたとしても、そこは嘘じゃない。 きっと、自分はずいぶんいびつな存在なのだろう。 だから、どうした。 イェッツト・ヴァイサーガが再び吠える。 固定された空間でも、なお足掻く。その行為は、統夜の生き写しであった。 空間ごとの固定のため動けない。攻撃することができない。だから、どうした。 なら、変えてしまえばいい。真実は、事実は、世界は、統夜のためにあるのだから。 「!? ……機体ごと割れるだけのはずだ、それを……!」 空間に、ヒビが走る。 ガトリングボアによる時間停止で固定された空間が割れる。空間に寄り添う形で必ず存在する時間が割れる。 イェッツト・ヴァイサーガに備わった機能ではない。純粋に力押しで、己の意思の強さで統夜は押し通る。 そこにはもう、うずくまり、泣いていた少年の影はなかった。 「ヴァイサーガ……フルドライブッッッ!」 そして時は動き出す。 この一歩は時間より早く、光より速い。連続で放つ必要はない。 すれ違いざまの一刀で十二分。放つは絶技、ヴァイサーガの必殺剣。 「光」 再び、ネゴシエイターが腹の猪型のガトリングガンを向ける。 「刃」 しかし、それが放たれるより早く、ヴァイサーガは接近している。 「閃」 煌めく剣筋が、袈裟がけに凰牙に刻まれる。 「斬ッッ!」 ギリギリで一歩下がったため、深くは入らなかったか。もともと、無理な姿勢で放った一撃だった。 それでも、十分だ。凰牙の厄介な兵器は一刀の下、砕け散ったのだから。 たたらを踏む凰牙に、なおも剣をひるがえして切り込むイェッツト・ヴァイサーガ。 タービンの回転により力を受け流され、刃をいなされる。 しかし、その衝撃は凰牙の手に握られていた斬艦刀を弾き飛ばした。 背後から来る気配。 即座に統夜は、失った五大剣の代わりとして空中に浮かびあがった斬艦刀をつかみ、横に体を回しながら振り向いた。 「覚えたぞッ!」 背後まで剣を振っても、まだ止まらない。 そのまま、自分が元々向いていたほうへ、一回転するかたちで剣を振る。 「一度戦った相手には! もう絶対に負けなあああああああいィィィ!!」 「……ッ! 跳躍を読んだ!?」 中空に身を投げているアルトアイゼン・リーゼに逃げ場ない。 咄嗟に左手を盾にしたのが見えた。だが、それごとイェッツト・ヴァイサーガの剛剣は叩き切る。 左手、左肩、頭部。踏ん張りが利かない以上、剣の衝撃が伝えにくい空中でさえ、重装甲の赤い古鉄をやすやすと切り裂く。 飛び石のように地面を跳ねながら、赤い古鉄が遠くに弾き飛ばされる。 「くっ! まだだ!」 「それも、もう見た!」 思い出すのは―-ロジャー、ソシエをガウルンごと切ろうとした戦い。 僅かに右手が持ち上げられる。それだけで統夜は凰牙が次に何を行うのかを理解した。 左腕に誂られたタービンが高速回転を起こし、風を巻き上げる。 だがそれは、ネゴシエイターたちを奇襲した時に、既に見ている。 あの時は、先に撃ったのが自分で、阻んだのは凰牙だった。 今度は、逆。 イェッツト・ヴァイサーガが、両腕のねじりを加えながらまっすぐに剣を突き出す。 それによって一方向に纏まり、円を描き、急速に風は勢力を増していく。 凰牙から放たれた風の竜巻、『波動龍神拳』が、吹き荒び渦を為す風の障壁『風刃閃』によって打ち消される。 二つの竜巻がぶつかり合い、猛烈な突風を起こした後に流れるのは、そよ風のみ。 そんな僅かな静寂の中、凰牙の右腕が地面に落下し、重苦しい音を立てた。 「ぐっ……!?」 「風刃閃・双牙……!」 本来なら、片腕に重心を乗せて放つ両者の技。 しかし、イェッツト・ヴァイサーガは力に任せて両腕から風刃閃を放った。 もう一つの風刃閃は、竜巻を放たぬ凰牙の右腕を、根元からえぐり取っていた。 肩からは紫電が走り、切り口からおびただしい緩衝材の液体を噴出させ、凰牙が膝をつく。 赤い古鉄に視線を向ければ、ぎこちない動きで立ち上がろうとしていた。 いかに重装甲言えど、フレームのどこかが歪みでもしたのかもしれない。 一瞬の、形勢逆転。 イェッツト・ヴァイサーガの装甲が湯気を立てる。すると、装甲の傷が閉じていく。 その様子は、生物の新陳代謝によく似ていた。内部から、裏返るように装甲が盛り上がり、内部に食い込んだクレイモアの破片を排出する。 暗い青の装甲は、ラズムナニウムにより再生能力を獲得していた。 赤い古鉄の姿が消えた。また跳躍したということか。 急に眼の前に飛び込んできた赤い古鉄。統夜はそのスラスターの輝きを確認し――そっと身を引いた。 赤い古鉄の杭打ち機は、『統夜の目の前にいるイェッツト・ヴァイサーガ』に当たり、すり抜けた。 ヴァイサーガの力を完全に引き出すことで可能にした能力、『分身』。 思い出すのは――白銀の可変機、真・ゲッター2と戦ったときと、インベーダーと戦った時のこと。 足を止めず小刻みに動き、残像を残すことで、的を絞らせない。 本体が分からなければ、下手な跳躍は無防備な姿をさらすだけだ。 統夜の思った通り、アキトはネネゴシエイターと背を合わせ、周囲を警戒するばかりだ。 統夜は、誰よりも闘った。そして、生き延びてきた。 アキトやガウルン、シャギアにジョナサン。そういった手合いに何度となく敗北し、鍛えられてきた。 精神的な伸びしろではキラ・ヤマトもいる。潜在能力ではシャギア・フロストも。 しかし、純粋な戦闘能力に関してだけ言えば、紫雲統夜は誰よりも成長した。過去戦った相手を、ガウルンすら下すほどに。 その成長は、止まっていない。新たな戦い方を見せられれば、それを学び、対処法を編み出す。 そういった天賦の才も持っていた。 左腕を失ったアルトアイゼン・リーゼと、右腕を失った凰牙が背中を合わせた結果、両機とも腕を持たない側面が生まれた。 そこに統夜は烈火刃を投げ込み、分断を図る。しかし、敵同士であったはずの二機は、ぴたりと背中を合わせ離れない。 生き残るためなら咄嗟に手を組むあたり、一流の戦士である証明と言えるだろう。 統夜は、このまま攻め続ければ確実に勝利できた。 牽制とはいえイェッツト・ヴァイサーガの攻撃ならば、風刃閃を含み十分に防御の上から削り殺すことができたのだ。 だが、統夜にはあまり時間がない。いや、あるのだがここまで来たのだから一刻でも早く目的を成したい、 そして、真の敵、最も強く警戒すべきはノイ・レジセイアであり、ここで躓いている暇はないという意識が心の奥でわずかにあった。 故に、統夜は動いた。 腕を失った側面から、最大最速の攻撃である光刃閃で再び切り込む。 向き合う時間など与えず、二機まとめて両断しようという、シンプルで、それでいて強力な戦法。 ラーゼフォンすら撃墜し、真・ゲッターもコクピットまで切り裂いた。ガウルンを下したのもこの変型。 エネルギーの問題が進化により解消された今、統夜が一番信用する業である光刃閃を何度も選択するのは当然だった。 「コード・光刃閃……!」 極度の集中で、引き伸ばされる時間。ヴァイサーガの身体が、矢へと変わる。 掌に刃の重さを感じ、足場を踏みしめ、ヴァイサーガは音を超え、一筋の閃光となって突撃した。 対処する時間すら与えない一撃が二機に迫る。 「やはり、そう来ると思っていた。だからこそ、やりようもある!」 凰牙は、こちらを向いていない。当然だ、向く時間などないのだから。 だが、統夜は見落としていた。相手の腕のない側面から仕掛けるとなれば――もう片方、腕がある側は死角になるということを。 のたうつ紫の光線が、凰牙の左腕側、死角となったところから伸びる。 イェッツト・ヴァイサーガは身をかがめそれを紙一重で回避しようとする。 しかし、光線はさながら野球のフォークボールのように落ちた。 統夜は反射的に剣でそれを防ごうと手を上に突き出した。 今度は剣の直前で曲がると、そのまま腕を這うように回転し、締め付けてくる――! それがバイパーウィップという名であることを統夜は知らない。 しかし、これが自分にとって致命的な何かをもたらすことは理解する。 ぐしゃり、とイェッツト・ヴァイサーガの腕が割れた。 フィードバックされる痛みよりも、必倒の剣である光刃閃が潰されたことに統夜は眼を一瞬見開いた。 手からこぼれ落ちるガーディアンソード。さらに、勢いよく飛び出した体は、鞭のため二機の直前で停止。 目の前には、鞭となった片腕を全力で支え踏ん張る凰牙と、杭打ち機のついた右腕を掲げた赤い古鉄。 「抜き打ちだ。……いくぞ」 あの時は、統夜の逃走によりつかなかったヴァイサーガとアルトアイゼンの抜き打ち勝負。 アルトアイゼン・リーゼの左腕がまっすぐと伸びる。 もう一方の手に握られていたイェッツト・ヴァイサーガの斬艦刀が、下から跳ね上がる。 リボルビングバンカーがイェッツト・ヴァイサーガのコクピットの半ばまで食い込む。 イェッツト・ヴァイサーガの斬艦刀が横からコクピットを両断しようと近付く。 そして―― 「……ここまでか!? だが、まだ――!」 コンマ数秒の差で統夜は勝利を確信する。だが、同時にアキトもまた敗北を悟ったのだろう。 統夜の予想した「真っ二つに砕け散るアルトアイゼン・リーゼ」という光景が訪れることはなかった。 次の瞬間、目を焼く蒼い輝きが周囲にまき散らされ――凰牙とアルトアイゼン・リーゼは統夜の目の前から消失していたのだから。 空間跳躍かと周囲を見回すが、何も起こらない。本当に、その場から二機とも忽然と消えた。 生体波動も、感じることができない。それは、この世界のどこにもいないことを示している。 「どこに消えたんだ……?」 その統夜の呟きも、どこにも届かず消えていくだけだった。 「まあ、いいさ……絶対に倒さなきゃいけないのは……」 一番大きな力を持つ、ノイ・レジセイア。そして、それに匹敵する命の輝きを持つ何か。 そのためには、足を止めている暇など統夜にはない。統夜は、受けたダメージを確認する。 残念だが、片腕は即座に再生は不可能。簡単なものをつかむことはできるが、刀を振り回すだけの握力は戻っていない。 両手に刀を持つことはできないようだ。ガーディアンソードはまだ肘にはジョイントされているが、使用は難しい。 だが、それ以外はまだ再生の範囲内。 手の中にある斬艦刀を統夜は、イェッツト・ヴァイサーガは握りなおす。 目指すは、この星の中心へ。さらに深い、奈落の底へ。 ただ、地獄の果てに希望を夢見て。 ■ 「――断る」 デュミナスに対する、ノイ・レジセイアの答えは非常に短いものだった。たった、四音。文字なら二文字。 ノイ・レジセイアの答えを受けて、デュミナスと名乗ったAI1は次元の裂け目から露出している体を小さく震わせた。 「何故?」 問い返すデュミナスの言葉に答えることなく、ノイ・レジセイアの体は深紅の幽鬼に吸い込まれて消える。 ペルゼイン・リヒカイトの瞳に燃えるような輝きが灯った。仮面と仮面がずれ、骨がきしむような音が鳴る。 そこから生えるのは、一本の大太刀。 さらにきしむ音は止まらず、今度は両肩から浮かんでいた仮面から本体と同じ深紅色をした骨の手と体が現出する。 指揮者の指揮棒のように、振り上げた大太刀をノイ・レジセイアとなったペルゼイン・リヒカイトが振り下ろす。 瞬間、轟音とともに人魂を束ねて燃やしたか如き炎が次元の裂け目に殺到した。 「何、故?」 再び、デュミナスが問う。 次元の裂け目が広がり、濁った桃色の巨大な拳が現れた。 掌の中心に瞳の文様があしらわれたそれを前に差し出し、ノイ・レジセイアの炎をデュミナスは受け止める。 「完全な世界……完全な存在……そうなるための世界……お前は」 大太刀をまっすぐにデュミナスに向けて、一言。 「完全ではない。完全な存在ではない。不完全」 その言葉に、デュミナスが動きを止めた。完全ではない。不完全である。それが、デュミナスにとっての呪い。 あのお方にかけられた呪いを、ノイ・レジセイアに突き付けられ、一瞬思考がフリーズした。 自分が、過ちである。間違いである。それがデュミナスは嫌で嫌でたまらない。 「あなたも……私をデュミナスと……不完全と呼ぶか……なら……」 次元の狭間を引き裂き、デュミナスの全貌が明らかになる。 四つの巨大な掌。下半身はなく、先細る円錐のみが備わっている。そして円錐の先端と、胸に当たる部分には巨大な瞳。 胸にある二つの瞳の上には三つの顔。全身から伸びる黒白の触手が五本。全身の基本カラーは、淀んだ桃色。 かつて、メディウス・ロクスだった時は比べモノにならない醜悪な姿だった。 見るだけで言いようのない不安を増大させ、まるで調和の取れていない肉体はまさに『不完全』。 「私はあなたを取り込むことで完全となろう……そして世界とも交わり究極となろう……」 「もうすぐ生まれる……完全なる世界……何故……その完成を待てない……?」 言葉というお互いの認識を深めるための道具を用いながらも、それは会話ではなかった。 お互いの目的、理由をただ呟くばかりの意味のない単語の羅列にすぎない。 当然だ、なぜなら両者とも人間ではないのだから。 他者という存在を本当に理解する気などどちらにもない。 故に、この衝突は必然。 無から有を、大量の骨の形をしたナニかをノイ・レジセイアは精製し、次々に射出。 しかし、デュミナスはそれを空間に穴をあけることで回避した。 同時にデュミナスは腕の質量を増大させ、両側からノイ・レジセイアを挟みこもうとする。 だが、その手よりも大きな手が全体を包むように顕現。ウアタイル・スクラフトが、デュミナスの腕をいとも簡単に防ぐ。 ないものを、あるものに。小さなものを、強制的に大きなものに。物質が伝導する空間自体を捻じ曲げ、攻撃を変える。 白き魔星を揺るがす二つの超存在の激突は、もはや人間の理解を超えたものだった。 そんな足元を這う、二つの人型。 自分の身長の二倍はあろうかというサイバスターを抱え、よたよたとブレンが地を這う。 元々、目もくらむ閃光で一時的に昏倒していただけのアイビスは、すぐに目を覚まし動くことができた。 しかし、カミーユはそうもいかない。意識こそあるものの、限界を超過してしまったことは間違いない。 機体を立たせるだけで精一杯。闘うなどできそうにもなかった。 「くそっ、くそっ……ここまで来て……ッ!」 カミーユの声は、悔しさで震えていた。アイビスは、無言のままブレンに動くように意思を飛ばす。 アイビスにも、分かる。あの主催者とAI1が、どれだけ桁違いの力を持っているのか。 もし、あのカミーユのコスモノヴァが決まっていれば勝てたのかもしれない。 アイビスは、あの光で気を失ってしまった。 そのため細かい顛末はわからないが、ノイ・レジセイアが無傷である以上いなされたということだろう。 間違いなく、こちらの最大最高の力であるカミーユの一撃すら通用しない。 ブレンのエネルギーが少なく、 サイバスターのほうはと言うとエネルギーだけでとどまらずカミーユの自身の精神まで限界近い今、勝てる見込みはほとんどない。 「ロジャーと一旦合流しよう。それに、あの化け物がお互い傷つけ合って倒れてくれれば……」 それしか勝ち目はない。こちらの持てる力すべてを結集させ、双方、もしくは生き残った片方が弱ったところを叩く。 最終的な勝利のための戦略的撤退と言えば聞こえはいい。しかし、事実上の敗走であることを二人は理解していた。 アイビスは、一度だけ振り向いた。そこには、デュミナスと名を変えたAI1の威容。 ユーゼスが育て、生みだした怪物。それが、今はこうやって自分たちが逃げる盾になっている。 ノイ・レジセイアと直接向かい合って闘える数少ない戦力になっている。 味方とは言い難いが、認めなければいけない事実。 自分たちの敵であり、自分たちを殺し、AI1を成長させようとしたユーゼスの遺したものが自分たちを守り、闘っている。 両者ともこちらなど見ていない。意識を向ける必要もない、殺す価値すらない、そうきっと思っている。 サイバスターがスラスターを吹かせるのに合わせて、ブレンが浮き上がる。 このまま、ひとまず脱出できるとアイビスは考えるが、 「いかせはしない……」 デュミナスの4つある手の一つから、濁った桃色の光球が放たれる。 それはブレンとサイバスターの前に着弾するも、爆発することはなかった。 しかし、 「……な」 光球は見る見るうちに巨大化し、球の表面に人型の影が浮かび上がる。 急いで逃げようにも、登り口は球の後ろ。素通りすれば、この球に背中を見せることになる。 もしも何か起こったときに対処しなければならないという気持ちがアイビスの足を止めてしまった。 球の中から、長大な爪が姿を現した。球をばらばらに引き裂き、中にいる自分を外へと産み落とす。 「あの姿になる前の……メディウス・ロクス……ッ!」 カミーユが絞り出すような声で目の前に現れたそれの名を呼んだ。 確かに、それはアイビスの知るメディウスによく似ていた。ただ、大きさはアイビスの知るそれの半分で、下半身も人型のものだ。 胸の中心にあるべき深紅のコアはなく、そこにはぽっかりと空洞が広がっていた。 「サイバスター……その力は、あのお方が欲した完全へ至る力の一つ。逃がすわけにはいかない。 『私』に代わり『かつて私』だった『私』があなたを手に入れる」 目の前から聞こえてくるのは、AI1、いやデュミナスの声。 「狙いは俺か……!」 「あなたではない。あなたの乗るサイバスターこそが、私の求めるもの」 デュミナスの分体となったメディウス・ロクスが肘から伸びた角を投擲する。 思考が追いついていないアイビスを突き飛ばし、カミーユのサイバスターがディスカッターで受け止めた。 だが、サイバスターはあっけなく吹き飛ばされる。どうにか空中で姿勢を立て直すのがやっとだ。 ふいに、カミーユがせき込んだ。通信でカミーユを確認すると、その口からは血が滴っている。 「カミーユ!?」 「あいつの狙いは俺なんだ。先に行ってくれ」 「でも……ッ!」 「早く行けよ! やらなきゃいけないことがあるんだろ!」 荒い息をつき、胸を抑え、それでも目だけは不屈の意思を宿して。歯を食いしばってアイビスにカミーユが叫ぶ。 サイバスターのほうが本来戦闘力は上だが、今やカミーユもサイバスターも限界だ。先程のうち打ち合いだけでも見てとれる。 だから、本来アイビスが前に出てどうにかしなければならない。だが、カミーユはアイビスに先に行くように促している。 あのメディウス・ロクスがカミーユ、というよりサイバスターを狙っているのはわかる。 おそらく、アイビスだけが行く分には邪魔はしないと読んだのだろう。 「早く!」 カミーユの声にせかされ、アイビスはバイタルジャンプを使い一瞬でメディウスの背後に移動する。 メディウスはこちらを追撃する様子はない。どうやら、本当に狙いはサイバスターだけのようだった。 ブレンがソードエクステンションを構え、その背中へ照準を合わせ、引き金を引いた。 しかし、それはメディウス・ロクスを中心に発生した球形のバリアによってあっさりと阻まれた。 今の自分では力になることができない。そう認識してアイビスは唇をかんだ。 「すぐに戻るから! それまで……」 「分かってるさ、こんなところで死んでたまるかよ」 サイバスターとメディウス・ロクスの激突を背に、ブレンはどこまでも続く暗い縦穴を登っていく。 その先に希望があることを信じて。 →ネクスト・バトルロワイアル(2)
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/376.html
Advanced 3rd ◆VvWRRU0SzU ワインレッドのカラーリングも眩しいF91がJアークの甲板に降り立った。 まるでストライクとその兄弟機、ストライクルージュのようだとキラは思った。 「シャギアさん、来てくれたんですね!」 「別にお前達を助けに来た訳ではない。私は私で、奴らに借りを返さねばならないだけだ」 油断なくゼストとダイゼンガーを見据え、シャギアは戦況を確認する。 ロジャーとアイビスは統夜とテニアに抑えられている。こちらの増援には来れそうにない。 アイビスはともかく、ロジャーの方は劣勢に見える。 同じ陸戦機ではあるが、騎士凰牙とヴァイサーガでは機動性に差があるためかロジャーは統夜を捉え切れてはおらず、細かな損傷が増えていくばかりだ。 なんとか持ち堪えているのは鞭の持つ固有能力らしい幻影、そしてロジャーの腕のおかげだろう。 そして仇たるテニアは、アイビスが技量的に上回っているためかこちらは優勢だ。 しかし時間稼ぎを目的とするテニアと仲間の救援を焦るアイビスでは精神面で前者が勝っている。 どちらも決め手に欠けているというところだ。 次に、眼前のゼストとダイゼンガーを観察。 いくらシャギアが新たな力に目覚めたとはいえ、この二機を同時に相手にするのはきつい。 Jアークの援護があるとはいえ、もう一機は欲しいところだ。 と、遠方で戦っていたサイバスターがこちらへと接近してくる。アキトを撃破したのだろう。 カミーユがここに加わればユーゼス・ガウルンの撃破も可能かもしれない。 だが、先のキョウスケとの戦いでそうだったように、カミーユとシャギアの全力は消耗が大きい。 ユーゼスの機体がキョウスケ並の力を持っているのなら、身動きが取れなくなったところをガウルンに狙われるかもしれない。 やるのなら一撃必殺。ユーゼスとガウルン、もろともに一撃で葬り去るしかない。 Jアークに保管されている反応弾。あれなら可能なプランだが、当然の帰結として爆心地にいるシャギア達も吹き飛ぶことになる。 条件はユーゼス達の機体を破壊するだけの力を持ち、攻撃範囲を任意で指定でき、その上こちらの消耗が少ない――そんな攻撃。 (早速、『アレ』が役立ちそうだな……!) 味方の機体にのみ通じる回線を開く。 ここから先は連携で勝負だ。 「こちらはシャギア、作戦を伝える。 カミーユ、下の統夜とテニアを抑えろ。ロジャー達では分が悪い。 ロジャー、お前は私と共にユーゼスとガウルンを抑える。 キラ、引き続き後方から援護。ただしエネルギーを消費する兵装は使わず言って一定量を確保しておけ。 そしてアイビス、君は一時後退、指定するポイントへ向かえ」 矢継ぎ早に指示を下す。アイビスの機体に座標を転送。 どう言うつもりだ、という声も上がらない。それなりには信頼されていると考えていいだろう。 サイバスターが進路を変更し、凰牙と渡り合っていたヴァイサーガへと斬り込む。 追従していたフラッシュシステム――ファミリア、がテニアを牽制し、その隙にロジャーとアイビスが離脱。 Jアークが後退し、空いた位置をF91が埋めその下方に凰牙が滑り込む。そしてブレンが虚空に消えた。 「おいおい、あんた何でそこにいるんだ? 俺はてっきり、弟を生き返らせようとしてるんだと思ってたんだがな。 それとも死んだ奴の事なんてどうでもいいってか? 薄情な兄貴だねぇ」 「貴様に私達兄弟の何がわかる。たとえ貴様がどう思おうと私の意志は変わらん。それにオルバの事ならお前が心配する必要はないさ。 ――そう、貴様らをオルバと同じ所に……いいや、欠片一つ残さずその存在を消し去ってやるのだからな!」 F91が両手に抜き放ったビームソードとサーベルが唸りを上げる。 過剰なエネルギーを供給され、そのサイズは三倍近くにまで膨れ上がった。 Jアークがゼストへと艦砲射撃を開始し、地を疾駆する凰牙が鞭とハンマーで注意を引く。 フリーになったF91は同じく孤立したダイゼンガーへ。 「動きが鈍い……そこだッ!」 ダイゼンガーはF91の三倍近いサイズ。機動性では遥かにF91が勝る。 一気に懐へ飛び込まれたガウルンは、舌打ちしながらナイフ型へ変形させた斬艦刀で迎撃を図った。 液体金属の剣と荷電粒子の刃がぶつかり合い――拮抗する。 パワーで勝るダイゼンガーは片腕で斬艦刀を振るっているのに対し、F91は両腕でなんとか抑え込んでいる状態。 ガウルンは残る左腕を握り込み、鋭いフックを放つ。 F91は急上昇し避けるが、そこはダイゼンガーの肩にマウントされた熱線砲・ゼネラルブラスターの射線内。 「喰らいなッ!」 「貴様がだッ!」 シャギアの仕込んだ一つ目の『切り札』、発動。 F91の腰部にマウントされた、六基の円盤状フィールドジェネレータ――プラネイトディフェンサー。 それが一気に弾け、F91の前面へと展開。 円盤は互いに位置を調節し、電磁領域を発生させる。 そこにF91のサイコフレームの共振――人の心の光が加わり、莫大な量のエネルギーが流れ込む。 F91がビームシールドを展開し、その周りを周回するディフェンサーが加速、やがて一つの障壁となる。 自身の全長を超える障壁を盾に、ゼネラルブラスターの只中へ突っ込んでいくF91。 ガウルンからは見えなかっただろう。 インベーダーの群れを百単位で消し飛ばす熱線砲の中を、黄金に輝く盾を構え正面から抜けて来るF91の姿など。 「何ィッ!?」 そして、唐突にダイゼンガーの眼前に現れたF91の両手にはヴェスバーの砲門が。 高速で連射されるビームがダイゼンガーの全身に着弾し、フィードバックする痛みがガウルンを灼いていく。 「が……ああああッ!」 「ここまでだ……消えろ、ガウルンッ!」 動きの鈍くなった――その厚い装甲から考えれば、不自然なほど――ダイゼンガーへ、再度抜いたビームの刃を振り下ろす。 「まだ……だぜッ!」 間一髪、その太刀筋の上に斬艦刀が滑り込みF91の刃が押し留められた。 ぎりぎりと、サイズの小さなF91が押し込むという奇妙な形の鍔迫り合いになる。 「クククッ……いいねぇ、ゾクゾクする。あんた、俺の想像とは違うが随分やるようになったじゃねえか」 「褒め言葉だと受け取っておこう。そういう貴様は、機体が変わった割に使いこなせてはいないようだな?」 攻撃を受けた直後や行動に移る瞬間、一呼吸停滞する機動についての事だ。 機体の問題ではないだろう。あの動き、どうもパイロットがまるで自分の身体を操る事に違和感を感じているように見える。 「まあ、ちょいと事情があってな。このまま殺り合ってもいいんだが……残念な事に俺のお目当てはお前じゃないんだな、これが」 「ふん……逃がすと思うのか?」 「最初に会った時なら無理だったろうがな、今のお前ならこうすれば――」 ナイフが大剣へと変化した。 来るか、と思って身構えると、 「――何ッ!?」 大剣が、槍のように『発射された』。 一直線に迫る剣を横に回避。当然、加速のついた剣は彼方へと吹き飛んで行く。 何のつもりだと訝しむ。唯一の武装をこうも簡単に手放す、その訳を。 ビットのように遠隔操縦できるのかとも思ったがそうではない。あれはただ、本当に投げただけだ。 一度発射すれば、突き進んで何かに当たることしかできないはず。 (待て……私の後ろにはッ!?) 振り返る――その先にはJアーク。ユーゼスとの戦いに集中し、迫る大剣に気付かない。 あれ自体は熱を発していないのだからレーダーにも反応しないのだろう。 舌打ちし、F91に後を追わせる。まずいことに剣先はまっすぐブリッジを狙っている。 後方のダイゼンガーを警戒しディフェンサーを配置したが、攻撃は来ない。 (何を考えている……? チッ、しかし今は!) 意識を集中し、ヴェスバーを高速モードに設定。 剣の進路を予測し、ブリッジの20m手前という位置で―― 「間に合えッ!」 発射。 矢のようにJアークを狙った斬艦刀の進路に、それ以上のスピードでビームが割り込む。 一発目。微動だにしない。 二発目。剣先が揺らぐ。 三発目。震動が刀身に伝わった。 そして四発目、ようやく芯を捉えた砲撃は剣に推進力とは異なるベクトルを与えその進路を乱す。 斬艦刀は半端な角度でJアークに衝突し、その船体に喰い込むことなく落下した。 息を吐く間もなく振り返る。だが、同時に違和感も感じていた。 ガウルンがこれだけの隙を見逃すほど間抜けだとは思えない。 なのにシャギアはまだ生きている。追撃らしい追撃もなく、どころか振り返った先にはそもそもガウルンの機体がない。 いや、遠目に後退していく鎧武者が見えた。その方向には統夜もテニアもいないはずだが。 「撤退した、のか? 奴が退く理由などないはずだが」 「シャギアさん、特機が急速に離脱していくのを確認しました。撃破したんですか?」 「いや、押してはいたがそこまでの損傷を与えていないはずだ。何か策があって退いたと見るべきだろう」 「そうですね……でも、とりあえずあの機体は無視していいと思います。こちらの戦闘に加わってもらえますか?」 「了解した」 常になく大人しいガウルンに言い知れない不気味さは感じるものの、あれだけ離れれば致命的な行動はとれないはずだ。 核や長距離砲撃ができる機体ならまだしも、Jアークの甲板に転がっている剣を見るにあの機体は剣戟戦用の機体のはず。 キラの言うとおり、今はより具体的な脅威であるユーゼスを排除する時。 話している間もJアークからは絶えず砲撃が行われているが、ゼストに目立った損傷はない。 それはこちらも同様なのだが、ユーゼスはガウルンにそれなりの期待をしていたのだろう。だから積極的に攻めてこなかった。 しかしそのガウルンがいなくなったとなれば本気で来るはずだ。 ロジャーに無茶を強いた分、ここからシャギアが巻き返さねばならない。 凰牙が飛ばしたハンマーを掴み、ゼストが逆に引っ張り返すのが見えた。 パワーで劣る凰牙はまるで畑の野菜のように引き抜かれ宙に舞う。 腹の砲塔から放たれるダークマター――おそらくはシャギアが乗っていたヴァイクランのべリア・レディファー――を、伸ばした鞭をゼストに巻きつかせ強引に軌道を変えて避ける凰牙。 だがその際ハンマーが巻き込まれ、一瞬で灰燼に帰す。 見て取ったシャギアは咄嗟に斬艦刀を拾い上げ、F91の全身を回して遠心力で持ち上げる。 重さが圧し掛かってくる前に加速。甲板から飛び出すぎりぎりの位置まで加速し、 「受け取れネゴシエイター!」 放り投げた。 大車輪のように回転する大剣がゼストの表面装甲へと突き立った。 そこへ凰牙がゼスト自身の身体を滑り落ちてきて、明らかに自身の全長を超えるサイズの剣へと『着地する』。 落下の勢いを活かし、刀身を蹴り付けた凰牙。 刀身それ自体の切れ味に加え重量400tを超える荷重が高速で圧し掛かり、強固なゼストの装甲をバターのように斬り裂いていく。 「き、貴様らぁっ!」 「どれほど強力な機体に乗っていようと、肝心の中身がお前ごときではな。手を抜いたままで我らを踏み潰せると思ったのか?」 「力に溺れる者はより強い力にて打ち滅ぼされ、呑み込まれる。あなたのことだ、ユーゼス・ゴッツォ」 着地し、斬艦刀を担ぎなおす凰牙。不思議とその姿は様になっているように見えた。 Jアーク、F91、凰牙の三機と相対し、ゼストは確実に疲弊している。 もちろんこちらの消耗も少なくないものの、アキトが敗れガウルンが撤退した今、流れは確実にシャギア達の側にある。 一気に決着をつけようと、無言の内にロジャーとキラがシャギアとタイミングを合わせ動く。 Jアークの反中間子砲が、ミサイルが。 F91のハイパービームソードが、ヴェスバーが。 凰牙のバイパーウィップが、斬艦刀が。 嵐のような攻撃がゼストの全身を少しずつ、だが確実に削り取る。 その渦中――ゼストの中心部で、ユーゼスは、 「……クク、クハハハハッ! いいだろう、認めようではないか。確かに私が甘かった、君達の機体を破壊しない程度に手を緩めようなどと。 これほどの傲慢、私も少々奢っていたのかも知れぬ。まだまだ甘い、目の前のご馳走に我慢できないようではな」 「……降伏する、という事ですか? 協力してくれるというなら、僕達もこれ以上は」 「降伏? フフフ……有り得んな。断じて、否ッ! この私の往く道に後退などないッ! 取り込めんと言うなら仕方ない、全て消し飛ばすまでッ! これだけは使いたくはなかったのだがな……貴様らがそうさせたのだ! 後悔する時間も与えん! 塵一つ残さず――砕け散るがいいッ!」 ゼストが、両腕の爪を伸ばし突き立てる――自身の胴体に。 鋭い刃が装甲を割り、吹き出る体液。否、流体状のラズムナニウム。 巨獣が苦痛の咆哮を上げる。それはまるで、この痛みすらも怒りに変えてお前達に叩き込むという決意の表れのようにも見えた。 「なんだ……何をしているのだ!?」 「キラ、敵機に強力なエネルギー反応を確認した。六つ……、六つのエネルギー源が露出するぞ」 トモロの言葉通り、ゼスト自身の詰めにより強引に割り開かれた胸部から六つの輝きが見えた。 一つ一つが戦艦を動かすに足るエネルギーを発している、円柱形の物体。 それはJアークのデータに残っていた『あるもの』と一致する。 そう、ネルガル重工が建造したオーバーテクノロジーの塊、地球と火星を股に掛けその名を馳せた名艦。 ――ナデシコ級一番艦『ナデシコ』。その心臓部、相転移エンジンと核パルスエンジン。 「テトラクテュス・グラマトン……!」 蒼い輝きが二つ、紅い輝きが四つ。 内部に埋め込まれていたそれらが強引に引っ張り出され、轟音を鳴らしながらその位置をずらしていく。 一つ目の蒼を上に、右下と左下に紅が二つ。 二つ目の蒼を下に、右上と左上に紅が二つ。 互いに繋がる輝きが形成するはヘキサグラム――六芒星。 「空間そのものに干渉する相転移砲の力を以ってすれば、貴様らなど木端も同然! 消し飛ぶがいい!」 ゼストが発するプレッシャーが爆発的に増加する。 その力――Jアークと、サイバスターと、F91と、あるいは先のキョウスケ・ナンブの機体が巨大化したものと。それらを足し合わせたとて届かない――! 「何だ、あの力は……!?」 「エネルギー反応、更に増大。あれが解き放たれれば、このエリア一帯は軽く吹き飛ぶぞ」 「こんな力があるなら……あのゲートだって破壊できるはずなのに! どうしてあなたは!」 「言ったはずだ……これだけは使いたくなかったと。ナデシコから奪った動力炉をフルに使い、それでも一発しか放てない。 一度撃てば蓄えたエネルギーは枯渇し、この形態を維持する力すらなくなる。それだけのエネルギーを喰うのだ。 撃った後に倒される可能性があるから使えなかった――逆に言えば、この一撃で全て消し飛ばせばいいだけの事……ッ!」 「ここにはあなたの仲間が、統夜やテニアだっているんだぞ! それなのに!」 「統夜、テニア、ガウルン、アキト……ふん、所詮は捨て駒だ。私に並ぶ者など――『あの男』を置いて、他にはいないのだッ!」 「貴様一人であの主催者を倒せるとでも思っているのか!?」 「フフフ……その事も考えているさ、ちゃんとな。ネゴシエイター、貴様の持つデータウェポン。その本質は電子生命だ。 たとえ貴様の機体が砕け散ったとしても、物質に干渉する攻撃ではデータウェポンは傷つかない。 貴様という契約者がいなくなればデータウェポンは解放される。どこにいるか知らぬがもう一人の契約者の娘も探し出し、始末すれば……! 銀河を支配する力を持つデータウェポンは全て私の物となる! その力があればゼストは必ず超神へと進化する――絶対の存在となるのだ!」 六芒星が放つ光はいよいよ強まって、今にも溢れ出しそうになる。 止めようとした気配を察したユーゼスは、 「フハハ……無駄だ! これだけのエネルギーが収束しているのだ、貴様らの貧弱な武装では貫けはせん!、」 「キラ、奴の言う通りだ。あのエネルギーは物理的な攻撃をも遮る障壁だ。生半可な攻撃では突破できん。 最低でもサイバスターのコスモノヴァ並の火力が必要だ」 「凰牙のファイナルアタックでは無理なのか!?」 「ダメだ。突破できなければそのエネルギーすら滞留し、奴の力となる。一撃で破壊しなければ」 「じゃあ、カミーユを呼ばないと!」 「待て、あの力は多大な消耗を強いる。今彼に抜けられる訳にはいかん」 カミーユへと連絡しようとしたキラを、一人冷静なシャギアが制止する。 カミーユは今も統夜と剣を交えている。 一体この短時間に何があったのか、蒼い騎士は風の魔装機神と互角にやり合うほどに鋭い動きを見せていた。 剣を交わしたと思えばその姿は陽炎のように揺らめき、サイバスターの背後に。 カミーユのセンスと抜群の機動性を持つサイバスターだからこそその加速についていく事ができる。 地上の、しかも接近戦に置いてはヴァイサーガは今やサイバスターと肩を並べている。 新たに発現したらしいビットは、テニアとそのスレイヴが抑えている。 数にして三対六。個々の力は上回っていても、それを操るカミーユが統夜との戦いに気を取られているためか集中し切れておらず、動きに精彩がない。 「じゃあどうしろって言うんです! 他に方法が……!」 「落ち付け、キラ・ヤマト。戦いとは一手二手先を読んで手を打つものだ。そら――来たぞ。私のもう一つの奥の手だ」 シャギアが指し示す先に現れたのは――バイタルジャンプしてきたネリーブレン。一人後退していたアイビスだ。 ただし、そのブレンが抱えているのはキラとロジャーは初めて見るものだった。 ブレンが背負う、ブレン自身より大きな荷物――ユーゼスが目を剥いた。 「Jカイザーだとッ!?」 「ほう、知っていたか。だとしたら貴様はやはり甘い――こんな大物を、破壊も利用もせずに放りだして行くのだからな!」 「それは奴に……バーニィに破壊されたはずだ!」 「機体の事なら確かに木端微塵だったさ。しかしどういう訳か、この大砲だけは機体が庇うようにして守っていた。 案外、そのバーニィとか言う奴が残したのかも知れないぞ? お前がやってきた事のツケを払わせるためにな!」 Jアークの甲板へF91が着地し、ブレンが運んで来た砲台をその目前に下ろす、というか落とす。 F91が紫電を纏う両腕を振りかぶり、 「カイザァァァァコネクトォッ!」 Jカイザーへと叩き付ける。 カミーユの持つオクスタンライフルと同様、所有機が破壊されたこのJカイザーもまた誰しもが使える武装として開放されたのだ。 だがもちろん、F91単体では莫大なエネルギーを必要とするJカイザーを撃てるはずがない。 シャギアの脳裏に『月の子』と文字が踊る。 この武装はそうやってエネルギーを調達していた。なら話は簡単だ。 月、と言うのも縁起が良い。何故ならそれはシャギア自身にとっても馴染みが深いものだから。 「キラ・ヤマト! JアークのエネルギーをF91へ回せ!」 「えっ……はい、わかりました!」 月の子に匹敵するだけの力は爆発的なエネルギーはここにある。 三重連太陽系・赤の星の遺産。 所有者の命の鼓動――勇気に呼応し、莫大な力を発生させる無限情報サーキット、Gストーン。 そのGストーンをより実戦向きに改良し、破格の高出力を叩きだす規格外のジェネレータ――Jジュエルが。 シャギアの言葉通り温存され、蓄積されていたJアークのエネルギー。甲板に立つF91へと光のラインが走り、流れ込んでいく。 エネルギーを供給され、F91の全身を再び深紅の輝きが包み込む。 翼を広げ、予想される反動に耐える姿勢を取る。 展開された六基のウイング、構えられた巨大な砲身――まるで『あのガンダム』のようだとシャギアは笑う。 ゼストの蓄えるエネルギーからすればごく小さい、しかし一点を突破するには十分すぎる力がJカイザーへと収束する。 ゼストの方はエネルギーがまだ収束しきっていない。 しかし回避するにも機体を動かすだけの力がない。 一撃で葬らんと機体に回すエネルギーを全て攻撃に叩き込んだゆえだ。 「ユーゼス・ゴッツォ……これは貴様の過去だ。貴様が利用し、踏み付け、ボロ屑のように捨てた者達が、貴様を粉砕するッ!」 「馬鹿な……馬鹿な! 今この時になって私を阻むのか、ベガ! バーニィ! 貴様ら如き愚昧が、この私を――ッ!」 泡を喰ったようなユーゼスの声。 ベガ、そしてバーニィという名をシャギアは知らない。 だがわかる事が二つ。 一つは放送で呼ばれた名前である事、もう一つはおそらくユーゼスに利用されたのだという事。 面識もない、さして興味もない。 だが今この瞬間だけはこう思ってやってもいい、とシャギアは思う。 ――お前達の無念、私が晴らそう! この一撃で奴を終わらせる! Jアークからエネルギーを供給される。 騎士凰牙が膝立ちになってF91を後ろから支える。 ネリーブレンがF91の手に自らの手を重ね、少しなりともエネルギーを上乗せする。 キラの、 ロジャーの、 アイビスの、 そして見も知らぬ仮面をつけた女、純朴そうな青年の顔がシャギアの意識を通り過ぎ、 ――マイクロウェーブ、来るッ!―― ――あなたに、力を―― ――月は出ているか―― 「――――〈J〉ジュエルカイザーエクステンションサテライトキャノンッッ!」 フッ、と笑みが零れた。 今だけは、私もお前達に倣おう――! 「発射ァァァァ―――――――――――――――――――――――――――――――――――ァッ!」 →Advanced 3rd(2)
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/305.html
Night of the Living Dead ◆ZbL7QonnV. ごうごうと燃え盛る炎に呑み込まれ、全てが灰の中に消え去ろうとしていた。 木も、草も、花も、なにもかもが燃え落ちていく。 この場で起きた戦いの痕跡を消し去ろうとするかのように、炎の顎は飽く無き暴食を続けていた。 ……だが、それは如何なる悪魔の導きか。 その燃え盛る火よりも尚紅い機体は、炎の中より起き上がろうとしていた。 ガンダムレオパルドデストロイ―― 本来ならば炎の中に消え逝くはずだったそれは、まるで墓場の底から蘇るゾンビのように、ゆっくりと立ち上がり始めていた。 パイロットであるギャリソン時田の命は、既に無い。マスターガンダムとの死闘によって、とうの昔に失われている。 だから今現在機体を操縦しているのは、彼であろうはずもなかった。 だが、それならば誰が? この劫火に覆い尽くされた森の中、レオパルドを操縦しているのは誰なのか? ……その疑問に対しては、こう答える他にない。 かつてギャリソン時田であり、そして今は不死の怪物になった者、と。 そう。レオパルドのコクピットに居るのは、DG細胞に侵食されてゾンビ兵と成り果てた、ギャリソン時田その人であった。 あの時――マスターガンダムに敗れ去った後、ガウルンに植え付けられたDG細胞は、レオパルドを汚染する事に成功していた。 それも、コクピット内部に放置されていたギャリソン時田の死体ごとである。 その結果、ギャリソンの死体はゾンビ兵に変化。DG細胞の自己再生機能によって回復したレオパルドと共に、今一度の“生命”を得る事に成功したのである。 もっとも、それはギャリソン本人にとっては、望まざるべき事だろう。 かつての記憶も感情も無く、ただ目に付く物を破壊する事しか出来ない、DG細胞の操り人形。 そんなものに身体を作り変えられて、喜ぶ人間など居ようはずもない。 だが、皮肉なものだ。DG細胞に全身を犯された今のギャリソンは、もはや何を思う事も、何を感じる事も無い。 ただ、死体を弄ばされているに過ぎないのだから……。 「……………………」 装甲に穿たれた無数の傷跡が、ゆっくりと銀の細胞に覆われていく。 ずしん、ずしんと重厚な足音を轟かせながら、ガンダムレオパルドデストロイは燃え盛る森を後にしていった……。 【ゾンビ兵 搭乗機体:ガンダムレオパルドデストロイ(機動新世紀ガンダムX) パイロット状況:DG細胞感染 機体状況:ダメージ中、コクピット損傷、全武装弾数残少 ヒートアックスとビームナイフは非装備、DG細胞感染 現在位置:B-5密林(大規模な火災が発生中) 第一行動方針:破壊 最終行動方針:??? 備考:DG細胞の働きにより、機体に自己再生機能が備わりました エネルギーと弾薬は自己再生機能により少しずつ回復していきます ゾンビ兵を排除すれば、レオパルドを他の人間が操縦する事も可能です DG細胞に感染した存在(ガウルン、マスターガンダム)に対して反応を示す可能性があります 機体の形状が変化するほどの自己進化は行いません ギャリソン時田の記憶や戦闘経験は完全に失われています】 【初日 20 30】 本編119話 未知との遭遇
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/157.html
◆ 素早く、それでいて非常に巧緻に長けた剣閃が迫って来る。受け止め、受け流す。数合切り結ぶ。そして引き際に小さく、それでいて鋭く剣を振るった。空を斬る感触に臍を噛む。 再び距離を開けての対峙。長く細い息を吐く。 手ごわい。少なくとも刃物の扱いに関してはギンガナムを上回り、自身と拮抗していると言っていい。さらに、その妙を得た動きには目を見張るものもある。 黒い機体の後方のただ一点だけを睨みつけ、剣を構える。ギンガナムと他の二機が戦闘を繰り広げている場所だった。そこだけを見ている。目的は一つ。 この黒い機体を避わし、その場へ急行する。 然る後、ギンガナムにこの機体の相手をさせ、他の二人を説き伏せる。それが最善手。 下手にここで戦闘を繰り広げても意味はない。まして、ラプラスコンピューターが破損するようなことがあれば、それは致命的だ。それだけは避けねばならない。 その上で、ギンガナムとあの二人の溝が修復不能になる前に舞い戻らなければならなかった。それが課せられた課題なのだ。 「難儀な話だな……」 「あん? 何がだ?」 「いや、なんでもない」 黒い機体の膂力はギンガナムの機体とほぼ互角。速力と大きさもだ。外見的にも幾らか似通っている。恐らくはこれもガンダムと呼称される機体なのだろう。 力では相手、素早さでは自分ということになる。 全く肝心なときにいない男だ。このような相手こそギンガナムにうってつけであり、黒歴史とやらの知識も役立つというものだというのに。 それを生かすには目の前の男を突破する他ない。 隙は見えない。それでも突破せねばならない。それも速やかに、被害なくだ。心気を澄ませる。掌に刃の重さを感じ、そして、ブンドルは一陣の風となって駆けた。 「悪いが押し通らせて頂く」 「させねぇよ」 ◆ 廃れ、荒れ果てた廃墟で閃光が瞬き、光軸が飛び交う。音響がさらなる音響を導き、廃墟に似つかわしくない喧騒が辺りを支配している。 白桃と浅葱、二色のブレンパワードが織り成す連携を受け、ギンガナムは劣勢を強いられていた。 蒼い機体が視界から消える。ゾクリとしたモノを感じて、振り向き際に左拳を振るった。 頑強な金属音が響き、真っ向から接触する拳と剣。 蒼いほうが動きを変えていた。 それまでの自機の非力さを悟り、単純な押し合いには決して持ち込ませまいとする態度から、真っ向から力勝負を挑むような我武者羅さに変わっている。 二機の足が止まる。押し合い圧し合いの純粋な力勝負。ならばギンガナムに負ける道理はない。 押し切れる。そう思ったその瞬間、白桃色の機体に割って入られ、あえなく距離を取る。 「ちっ!」 蒼い機体がギンガナムを一点に押し留め、足が止まるその隙を白桃色の機体が衝いて来る。それが相対する二機の基本戦術だった。 まったくもってうっとおしい。決め手の放てぬ戦いというのはストレスが溜まるものだ。 だが、ギンガナムは笑っていた。 こういう戦い方もあるのか、という好奇の心が疼いていた。これは一対一では知りえぬ戦い方なのだ。 愉快だった。こみ上げてくる感情を抑えることが出来ない。今、確実に生きていると実感できる。そのことが堪えようもなく愉快だった。 ギム=ギンガナムは、月の民ムーンレイスの武を司り、勇武を重んじるギンガナム家の跡を継ぐべき存在として生れ落ちてきた。 それを当然のように受け入れ、幼少の頃から鍛錬に勤めてきたギムの誇りは、しかし158年前の環境調査旅行を境に裏切られることとなる。 月に帰還したディアナ=ソレルに軍を前面に押し立てた帰還作戦を主張したギムの父の言が、一言の元に退けられたのだ。 同時に『問題の解決に武力を使うことしか思いつかない者は、過去、自らの手で大地を死滅させた旧人類の尻尾である』と言葉を被せられ、ギンガナム家は軍を没収された。 以後、自害した父に代わりギンガナム家を統治することとなったギムであったが、そこには望んだものは微塵も残されておらず、虚しさだけが胸の内を占めていた。 そして、120年前、30代の終わりに差しかかったとき、ギンガナムの鬱屈が限界に達することとなる。離散していた旧臣を集め、クーデターを企てたのだ。 だが、事を起こした末路に待っていたのは無残な敗北だった。結果、形だけの裁判の末、永久凍結の刑に処され、120年の眠りに付くこととなる。 つまり押し込められ、追いやられ、爆発するも報われず、死んだように過ごしてきたのが彼の半生であった。 しかしだ。彼はここに来て生を実感していた。 幼い頃に夢見た乱世がここにある。血湧き肉踊る戦いがここにはある。心憧れた、絵巻物の中の存在に過ぎなかった黒歴史の英霊達がここには存在する。 そして、なによりも今自分は闘っている。闘っているのだ。これほど嬉しいことがあるか。 生まれて初めて、生が実感できる。生きていると思える。幼少の頃に望んだ自分が今ここには存在しているのだ。 だからこそギンガナムはこみ上げてくる歓喜の声を抑えることが出来なかった。 気持ちが高ぶる。全てがよく見える。体に力が漲っているのが実感できた。そして、それに呼応するかのようにシャイニングガンダムの出力が上昇していく。 想いを力に変えるシステム。まったく良く出来た相棒だ、と一人感心する。 相手は二機。蒼が動きを押し留め白桃が隙を衝いて来るのならば、白桃から先に始末するだけのこと。それに白桃の動きは蒼より劣る。サシの勝負で面白いのは蒼のほうなのだ。 蒼が消える。それを合図にギンガナムは猛然と突撃を開始した。 「芸がないな。マニュアル通りにやっていますというのは、アホの言うことだ! このギム=ギンガナムにぃ、同じ手がそういつまでも通用するものかよぉっ!!」 ◇ 突然、弾丸のように突撃を開始したギンガナムを見て、アイビスは考えたものだな、と一人ごちた。 ラキのバイタルジャンプは多少の揺らぎを持たせてはいるものの、死角への移動を基本としている。そして、攻撃は組合に持ち込むための剣戟が主体。 つまり、消えた瞬間に視界が開けている方向に高速で突っ込めば、攻撃に晒される可能性はきわめて低いのだ。そこを衝かれ、なおかつこちらに狙いを定めてきた。 ならばどうする? 決まっている。 (ブレン!) (……) (やるよっ!!) 今度は自分がギンガナムの打撃を受け止め、力勝負に持ち込み、ラキに隙を衝かせる。役どころが入れ替わった。ただそれだけだ。 歯を食いしばり、アイビスは受けの姿勢を取る。巨岩のような圧力を放つギンガナムを目の前に、大地をしっかりと捉え、構える。 「アイビス、受けるな! 避けろっ!!」 クルツの声だったが、遅かった。一度止まった足を動かすには彼我距離が近すぎる。 ならば、とソードエクステンションを両の手で掲げ、受ける。接触の瞬間、刀身を反らし、受け流す。受け流したはずだった。 天と地が逆さまに、視界が反転する。 巨大なダンプ、あるいは列車に撥ねられた人間のように錐揉み回転をしながらヒメ・ブレンが宙を舞う。 ブレンが大地に打ち付けられ、アイビスもまたコックピットにその身を激しくぶつけられる。意識が明滅し、追撃を予想して身を固くした。 が、次の瞬間襲ってきたのはギンガナムの追撃ではなく、クルツの怒声であった。 「馬鹿野郎! 真っ向から受け止めるなんて正気か?」 クルツの顔面越しに投影されたモニターには、ギンガナムと交戦を続けるラキの姿があった。恐らくは追撃をかけられる前に割って入ってくれたのだろう。 結局はまだ足を引っ張っている。その口惜しさが拳を固くした。 「うるさい。ラキは同じブレンパワードで止めてる。なら、私だって……」 「お前には無理だ。あれはお前には向いてねぇ、俺にもだ」 アイビスの抗弁をクルツは軽く受け流す。 そう。アイビスとラキでは受け方が違う。というよりラキの受け方が少々特殊だった。 通常の受けは相手に押し負けぬように足場を、土台をしっかりと安定させて受け止める。 対して、ラキはその場で受けようとせずに前に出る。受けるというよりはぶつけに行っていると言ったほうが正しいのかもしれない。 相手の一番力が乗るところでは決して受けず、前に出ることで打点をずらし、力を半減させ、自身の前に出る力をそこに上乗せさせる。言葉にすればそんなところだろう。 だが、それでようやく四分六で押し切ることが出来る。真っ当な受け方では勝負にならない。 それに互いの足が止まれば、やはりギンガナムの膂力がモノを言う。だから今モニター向うのラキは、受けの後瞬時に弾き、距離を置く戦い方に戻していた。 一機でギンガナムに抗うには、そうする他はない。 (ブレン、悔しいね……あいつらには出来て、私らには出来ない) 俯き、ブレンの内壁に添えた手にギュッと力を込める。 悔しかった。他人には出来て、自分には出来ない。それは落ちこぼれと言われているようで悲しい。悔しい。そしてなによりも自分の不甲斐なさは腹立たしかった。 そんな思いがその手には込められている。 「アイビス、ラキを羨ましがるんならお門違いだ。だが、そうじゃねぇ。そうじゃねぇだろ? ラキにはラキのブレンの扱い方がある。だったらお前にはお前なりのやり方ってもんがあるだろうが。違うか?」 「私なりの……やり方?」 見透かしたように掛けられた声に驚く。考えたこともなかった。 人を羨むのではない自分なりの乗り方。スレイにでも、ラキにでも、誰に対するでもない自分なりのやり方。こんな何でもないことなのに、考えたこともなかった。 No.1に対するNo.4。負け犬という別称。流星という不名誉な字。それらに引け目負い目を感じてきたのは、知らず知らずのうちに誰かに対する自分を意識していた証なのかもしれない。 「クルツ」 「ん?」 「ありがと。ただのスケベ親父じゃなかったんだ」 「おいおい、親父はよしてくれ。俺はまだ二十代だぞ」 「そっちに反応するんだ」 軽口を叩き、笑い、顔を上げる。目にキラリと光が灯る。また一つ憑物が取れた。そんな顔だった。 僅かに見たジョシュアの戦い方は、的を絞らせずに翻弄し攻撃をことごとく避けるものだった。ラキの戦い方は、避けることよりも受けることに重点を置いた戦い方だ。 この二人ですらアンチボディーの扱い方が大きく違う。どちらかが正解というわけではない。アンチボディーと自身の経験との折り合いを付けた場所が、そこというだけなのだ。 ならば自分は……いや、自分とブレンの戦い方は―― (……) (ブレン?) (……) (うん。わかった。やってみよう!) いつからかブレンの声が聞こえるようにもなっている。普通に会話も出来る。そのことに未だ気づかぬまま、アイビスは声を張り上げた。 「いくよ、ブレン!!」 視界の先には、ギンガナムに押しやられ、ついに体勢を崩したネリー・ブレンの姿がある。 そこへ跳び、ネリー・ブレンの真横にジャンプアウトした。叫ぶ。 「ラキ、ブレン同士の手を合わせて!」 「手を?」 「早く!!」 ギンガナムとの距離は既に幾許もない。そんな中、二機のブレンパワードが手をつなぎ、胸を張る。 次の瞬間に顕現するのは二体のブレンパワードが張り巡らすチャクラの二重障壁――ではなく、ただ一重のチャクラシールド。 しかし、二つのチャクラが混ざり合うそれは、強固な分厚い壁である。打ち付けられた拳とチャクラの間で火花が散り、拳を弾かれたギンガナムの姿勢が仰け反るような格好で崩れた。 その瞬間、ヒメ・ブレンは飛び出し、真っ直ぐに距離を詰める。 「ギンガナム、あんたは私の行為を偽善だと言った。でもね、人の為の善と書いて偽善と読むんだ!! なら、私はジョシュアのためにあんたを討つ!!!」 体勢が整う前に畳み掛けると決めていた。擦れ違い様にソードエクステンションによる横薙ぎの一閃。 しかし、ギンガナムもさすがと言うべきか、体勢が不完全ながらも咄嗟にアームカバーを構える。 固い金属音が鳴り、受けたギンガナムの体勢が完全に崩れ、仰向けにひっくり返った。この好機、逃す手はない。 「ラキ、合わせるよ! やり方はブレンが教えてくれる」 「ブレンが? ……ひっつく? くっつくのか?」 二機で小規模なバイタルジャンプを繰り返し、翻弄し、体勢を立て直させる隙は与えない。ラキが次の瞬間何処に現れるのか、それはアイビスにもわからない。 しかし、決め手を放つ瞬間、どこに現れ、どうすれば良いのか、それはブレンが全て教えてくれた。 「1・2・3」 タイミングを計る。体勢の崩れたギンガナムの右後方。ドンピシャのタイミングで二機はそこに現れた。 背中が合わさる。ブレンバーとソードエクステンションが、鏡合わせのように突きつけられる。その動きには寸分のズレさえも存在しない。 「チャクラ」 「エクステンション」 「「シュートオオオォォォォオオオオオオオオオオ!!!!」」 二つの銃口に光が灯り、濃密で重厚なチャクラの波が放たれる。巨大な破壊の力を携えたそれが、堰が決壊し氾濫した濁流の如くギンガナムへと猛進していく。 その光景の最中、突如として覇気に満ちた笑い声が大地を震撼させた。 「ふはははは……。これをおおぉぉぉ待っていたっ!!」 そう。ギンガナムはこのときを待っていた。かつて相対した男が最後に放つはずだった一撃。 それに酷似したこの一撃を真っ向から打ち破ることには二重の意味がある。すなわち、この戦いとあの男との戦い、二つの勝利。 「貴様らが七色光線ならばぁぁ、小生は黄金の指いいいぃぃぃぃいいいいいいいい!!!」 押し包み、瞬く間に呑み込まれて消えるその刹那、ゆらりと起き上がったシャイニングガンダムは左腕を無防備に突き出した。その指間接が外れ、隙間から染み出した液体金属がマニピュレーターを覆い、発光。そして―― 「喰らえっ!!! 必いいぃぃぃ殺っ!!! シャアアアァァァイニングフィンガアアアアアアァァァアアアアアアアアアアアア!!!!」 その光り輝く左腕が荒れ狂うチャクラの波に真っ向からぶつかった。 真っ直ぐに伸びたチャクラエクステンションが、ギンガナムがいる一点で遮られ四方に拡散する。拡散した幾筋ものチャクラのうねりは大地を抉り、暴れ、阻むもの全てを破壊する。 だが、それで終わりではない。三者の激突は未だ続いている。チャクラエクステンションはシャイニングフィンガーただ一つで抑えきれるほど甘くはない。 強大な圧力に押さえ込まれ、ギンガナムは前に出ることが出来ない。いや、むしろ押されている。 重圧を一点で受け止める左腕は断続的に揺れ、ぶれ動き、機体を支える両脚は爪のような跡を残しながら徐々に後ろへと押し流され、爪跡はチャクラの濁流に呑まれて消え去る。 このままでは押し切られ、呑み込まれるのは時間の問題なのだ。だがしかし、ギンガナムに諦めの色はない。あるのはただ狂気的とも言える喜色のみ。 「ぬううぅぅぅぅぅぅっ!! 見事! まさに乾坤一擲の一撃!! 実に見事な一撃よ!!! だがなあぁぁぁっ!!!! この魂の炎! 極限まで高めれば、倒せない者などおおぉぉぉぉっないッッッ!!!!!」 押し流され続けるシャイニングガンダムの足が止まる。エンジンの出力が上がり続け、背面ブースターが限界を超えてなお唸りを上げる。 「シャイニングガンダムよ。黒歴史に記されしキング・オブ・ハートが愛機よ。お前に感情を力に変えるシステムが備わっているというのならああぁぁぁっ! 小生のこの熱き血潮!! 一つ残らず力に変えてみせよおおおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!」 そのギンガナムの雄叫びを合図に、それは始まった。 機体の色に変化が生じる。白を基調としたトリコロールカラーから、色目鮮やかな黄金色へ。そして、機体を構成する全てのものが眩く発光を始め、闇夜を切り裂くチャクラ光の中に黄金が浮かび上がる。 変化は外見のみに留まらない。充溢する気力を喰らい天井知らずに上がり続ける出力は、計測器の針を振り切り、それを受けた推力は前進を可能にしていたのだ。 「ふはははは……このシャイニングガンダム凄いよ! 流石、ゴッドガンダムのお兄さん!!」 爆発的なスラスター光を背に感嘆の声を上げ、七色の輝きの中に飛び込んだギンガナムは激流に逆らい、遡上を始める。 その様は鯉の滝登り等という生ぬるいものではない。天を衝くが如き勢いと圧力を持って遡上し、そして、金色の光がチャクラの波を衝き抜けた。 「なっ!」 阻むものを失ったギンガナムの突進は、限界まで引き絞られた矢が飛び出すようなもの。 弾ける勢いでヒメ・ブレンの頭部を掴んだギンガナムは一筋の閃光となり、建ち並ぶ廃墟の群を物ともせずに突き破る。そして、その終着でヒメ・ブレンを天高く掲げ―― 「絶っ好調であるっ!!!!」 爆発。轟音を残して頭部を粉砕されたヒメ・ブレンが崩れ落ちる。同時に背後で異音。俊敏に反応し、切り結び、同時に飛び退いた。 ◇ 飛び退き、距離を取ったネリー・ブレンが瓦礫の海に足をつける。息を弾ませ、体を覆う疲労感にラキは顔を歪ませた。白い肌には赤み指し、紅潮している。 虚を衝いたはずの視覚外からの攻撃にも対応してみせる油断のなさ。加えて、奴の言をそのまま信じるのならば、あの闘争心がそのまま反映されるシステム。 つくづく厄介だというのが、率直な感想だった。 そう考えて、ふと自分らも似たようなものか、という思いを抱いた。アンチボディーはオーガニックエナジーを糧に動く。そこには人の放つものも含まれているのだ。 ならば、自分やアイビスの感情もまたブレンに力を与えているのだろう。そう思った。疲労感を押し隠し、気を張りなおす。 (ブレン、すまない。大丈夫か?) (……) (よし) 心を落ち着け、ブレンに声をかけると立ち上がらせる。その姿を前にギンガナムから通信が飛んできた。 「ほう。まだ戦う意志を失わぬか……見上げた根性と誉めてやろう。どうだ? ギンガナム隊に入らぬか?」 「悪いがお断りだな」 「ならば死に物狂いで戦うことだな。それにここで小生を倒せばジョシュアとやらの魂も救われるかも知れぬしなぁっ!!」 「ジョシュアはそれを望まない。人には戦いなど必要ないんだ」 本心だった。ジョシュアの弔いの為と思い定めて戦いはしても、どこか違うという思いは常について回っている。 不意にギンガナムが動く。早い。咄嗟に拳をブレンバーで受け止める。 「それは違うな。人は己の内に闘争本能を飼っている。 それを解き放つために戦いは必要なのだ! その為にこのような場が用意されている!!」 「本能の赴くままに戦い続ける姿のどこに人間らしさがある!」 言葉を返し、弾き、距離を取る。早いがついて行けないと言う程ではない。 揺れ動き、翻弄させるような動きを取りながら、ギンガナムが言葉を吐く。その口調には自身を正しいと信じて止まない傲慢さが込められていた。 「ならば聞く! 水槽の中で飼われている魚のような生のどこに人間らしさがある!!」 「どういう意味だ」 「外敵もなく、餌も十分に与えられ、安全で平和な住みやすい環境。それを世界の全てだと思い込んでいる。まるで飼われた魚の様ではないか。 だがなぁ、人間はそのような環境に息苦しさを覚える。だからこそ、ディアナは地上へ帰ることを望んだ。 だからこそ、このギム=ギンガナムは戦い、戦乱をもたらすのだ。人として生きる為になぁっ!!」 突如動きが変わり、強烈な一撃がラキを襲う。それをブレンバーで受け流し、攻撃に転じながらラキは反論を返す。 ギンガナムの言を受け入れることはジョシュアの、人として生きようとした自分の生き様を否定することだ。それは、死んでも受け入れることはできない。 「それは違う。確かに人は生きるために戦うことがある。憎しみにまみれて道を見失う者もいる。 だけど、それだけが人じゃない。それを私はジョシュアから、人から学んだ」 「だが、貴様は戦っているぞ!!」 受けたギンガナムが言う。シャイニングガンダムとネリー・ブレンの双眸が、ギンガナムとラキの眼光がぶつかり火花が散った。 巨大な重圧を伴ってギンガナムは圧し掛かってくる。そのギンガナムの言葉には迷いがない。だからこそ強く、なによりも危険なのだ。気を抜くと押し切られそうになる。 「そうだ。私は戦っている。私はメリオルエッセ……負の感情を集めるだけの働き蜂。所詮、人にはなれない。だから――」 唇を噛み締めて言う。渾身の力で押し返し、再び距離を取ったところで泣き出しそうになり、思わず言葉を区切った。 人にはなれない。それはある意味では分かっていたことだ。いくら憧れ、恋焦がれようとも、蛾に生まれついた者が蝶になることは適わない。 同じだ。私もメリオルエッセに生まれついたからには、人になることなど適わないのだ。 分かっていた。分かっていたが、どこかでそれを受け入れてない自分がいたことは、確かだった。 それなのに、今自分の言葉で肯定し、受け入れてしまった。それがどうしようもなく悲しい。 でも、それよりも受け入れ難いことが存在する。だからこそ泣き出したい思いで受け入れた。 人は私とは違う。私の周りにいた人は、負の感情を集めるためだけに作られた私に、それだけが人ではないと教えてくれた。 そんな人間が、憧れ恋焦がれた人間が、戦いを自ら望むような者であって良いはずがない。 私の傍にいた人が与えてくれたぬくもりは、そんな人からは決して得られないものだ。そう信じたい。 「だからこそ、貴様は私の手で止めてみせる!!」 「それは結構。だが、できるのか? このギム=ギンガナムをぉ!!」 切り結び、跳び、かわし、攻め、守る。目まぐるしく入れ替わる攻防ではあったが、バイタルジャンプを縦横無尽に駆使して、ギンガナムの動きをようやく幾らか上回れるという状態だった。 初手を合わせたときから比べ、ギンガナムの気力は満ち溢れている。それに伴ってシャイニングガンダムの基礎能力が桁外れに上がっていた。 動きが殆んど互角でも、力では圧倒されている。単機ならまだ渡り合えるという自負があったが、交戦能力を失った味方を二機も抱えていた。それは決定的に不利な要素なのだ。 それでも方法はあった。死ぬ気になればやることができるただ一つの方法が。 (……) (ブレン、落ち着け。仇は私が討たせてやる。それと私に遠慮はするな) (……) (恍けるな。お前が私を気遣ってくれているのは分かっている。でも、それじゃ駄目なんだ) 分かっていたことだ。ネリー・ブレンが自分を気遣い、自分の周辺に集まり渦巻いている負の感情のオーガニックエナジーを主として動いていたことは。 それはラキの負担を減らすためだろう。それに造られた生命であるラキのオーガニックエナジーは、自然の生命に比べると驚くほど希薄で弱いのだ。だがそれでも―― (……) (いいさ。ここで全て吸い尽くしていけ) (……) (すまないな。ありがとう) ブレンの説得を終え、しかし、息をつく暇もない。攻防は続いているのだ。 視界の端でギンガナムを捉えつつ、隙を見て通信をヒメ・ブレンへと試みる。 頭部を失ったヒメ・ブレン相手に通信が繋がるか不安はあったが、程なくそれが要らぬ心配だったということが証明された。通信は繋がった。 「アイビス……無事か?」 「うん。私は大丈夫。でもブレンが……ブレンが私のせいで……」 ギンガナムの攻撃を受けるその一方で盗み見たアイビスの表情は暗く沈んでいる。 アンチボディーは半分機械半分生物という特殊な存在だ。頭部を失うということは死を意味している。 それを自分のせいだと思い込み、責任と重荷を背負い込んでいるといった感じだった。その姿に一瞬頬を緩ませる。 やはり人間は優しく暖かいのだ。ブレンはきっとそんな人の優しさに魅かれたからこそ、人を必要とする体に生まれたのだろう。そう思った。 その一方で、無理だろうなとは思いつつ慰めの言葉をかける。 「気にするな。お前は精一杯やった。だれもお前を責めやしない。お前のブレンもきっとお前を恨んでやしない。 そして、これから起こる事もお前のせいではない。だから、気に病まないでくれ……そうなると、私は悲しい」 「えっ?」 伏せていた顔が上がるのを目の端が捉えた。バルカンを二発三発とかわしつつラキは言う。 「……私のブレンを頼む。こうみえても寂しがりやなんだ。きっとお前の力になってくれる」 「ラキ、あんた……」 「ジョシュアが最後に守った者を私も守れる。それだけで十分だ」 「違う。違うよ……ラキ」 顔を左右にふるふると振るわせるアイビスを無視して、言葉を続ける。 自分の声が湿り気を帯びていくのに辟易しながらも、どうすることも出来ない。 「アイビス、会えてよかった」 「ラキ、ジョシュアが本当に守りたかったのは私じゃない! あんたなんだ!! だから、だから一緒に生き延びよう……二人で生き延びる道もきっと見つかるからっ!!!」 耳に飛び込んできた声にハッと目を見開き、俯いた。出来ることならそうしたかった。でも目の前の現状はそれを許すほど甘くはない。 だから、ラキは一度だけギンガナムから視線を外し、アイビスを見て声を掛ける。努めて明るく、精一杯の笑顔で。 「本当はもっと落ち着いて話がしたかった。でも時間がない。アイビス、お別れだ」 「ラキ!!」 「盛り上がってるとこ悪いがな。お前らは死なねぇよ」 「「クルツ!!」」 突然割って入った声にラキとアイビス――二人から驚きの声が上がった。そんな二人に構うことなくクルツは飄々と言葉を繋げる。 「ラキ、お前がろくでもないことを考えてるのは分かってる。でも悪いな。こいつは俺が貰う。お前はアイビスと行け」 「何、無茶なことを言っている。その半壊した機体でこいつを押さえられるはずがないだろう」 「無理だよ、クルツ。あんた一人ならまだ逃げられる。機体が動くのなら逃げて」 「うるせぇっ!!! うるせぇよ……行きたいんだろ? 本当はそいつと行きたいんだろうが!!!」 「それは……」 言い澱み、覚悟が揺らぐ。 諦めたはずの先を突きつけられ、そこにいる自分を連想してしまい、生きたいという衝動が膨らむ。思わずクルツの言葉に縋りつきたくなり、浅ましいと自分で一喝する。 そんな心の機微を見通してか、クルツは言葉を畳み掛けてきた。 「行けよ。とっとと行っちまぇ! いいか? 勘違いするんじゃねぇぞ。俺はお前の代わりにこいつの相手するんじゃねぇ。誰かの代わりなんて真っ平ごめんだ。 俺は俺が好きでこいつの相手をするんだ。こいつは俺の我侭なんだよ。あいつと一緒に行くのはお前の我侭だ。だったら、我を張れよ。押し通せ。 会ったときからお前は我侭尽くしだったんだ。いまさら変に遠慮なんてしてんじゃねぇっ!!」 「しかし、お前は……」 「俺は俺の我を通してここに残る。お前はお前の我を通してあいつと行く。それで全部まとめてオールO.K。円満解決。大団円だ。違うか? 違わねぇだろ。 分かったか? 分かったら、さっさと行っちまえよ。お前らがいると邪魔なんだよ。気になっちまって、切り札が切れねぇ」 「ならばそのカード、小生が切りやすくしてやろおっ!!」 「ッ!!」 クルツに気を取られすぎていた。気がつけばギンガナムが間近に迫っていたのだ。 近いっ! 近過ぎる。回避も何も、全てが間に合わない。直撃? 当たるのか? くらうのか? くらえば―― 豪腕を目前にぞっと全身が怖気立ち、肝が冷えた。思わず目を閉じ、首を竦める。身を固く小さくして来るべき衝撃に備える。 しかし、その瞬間はついぞ訪れなかった。変わりに怒声が飛んで来る。 「何やってんだ! 早く行け!! ちんたらしてんじゃねぇ! 今すぐ走れ!!」 恐る恐る開けた視界に、いつの間に忍び寄ってきたのか、ギンガナムに背後から組み付くラーズアングリフの姿が映しだされる。 「ク……ルツ?」 「さぁ行け! 行くんだ! 行って、俺の代わりに二人であの化け物に一発かましてこい……頼んだぞ」 目が合い、気圧された。その目には一本の筋が通った、ぴんと背筋の伸びた胸に迫る何かがある。 それに抗おうと胎に力を込めたが、一度揺れた覚悟はそれを押し返すまでの強さを持ってはいなかった。 乾いた口が動く。何度か唾を飲み込み、何度も言葉を喉元で押し殺したその口は、しかし最後には辛うじて聞き取れる程度の声で喉を震わせた。 「……すまない。頼む」 「いいってことよ。任せろ」 陽気な、いつもと変わらぬ声が耳朶を打つ。悲壮さなど微塵も感じさせない、ちょっとした用事を引き受けるような、そんな声だった。 クルツとギンガナムに背を向け、ネリー・ブレンが跳ぶ。 決めた以上、戸惑ってはならない。速やかに動かなければクルツの覚悟に水をさすことになる。それが、似たような覚悟をほんの少し前まで決めていたラキには、痛いほど分かっていた。 ジャンプアウト。物言わぬヒメ・ブレンを抱え上げる。アイビスが文句を言ってきた。その気持ちも、やはり痛いほどに分かる。 だがそれに耳を貸すわけにはいかない。例え恨まれようと構わない、とラキはその場からの離脱を開始する。 普通に長距離のバイタルジャンプを行う余力は、もう残されていなかった。 ◆ 赤い戦車のような人型機動兵器が投げ飛ばされ、瓦礫の海に埋没した ラキとアイビスが離脱を開始して数分。ずぶずぶと上下逆さに埋没していく機体の中、クルツは一人ぼやく。 「やれやれ、こんなつもりじゃなかったんだけどな。こういうのを親心って言うのかね」 本当に初めて会ったときから世話のかかる奴だった。意見は食い違うわ、一度決めたら梃子でも動かねぇわ、自分勝手に動き回るわで、本当に面倒ばかり掛けやがる。 でも気持ちのいい奴らだった。 にしてもついてねぇな。こんなとこに呼び出されてまでして、俺、何やってるんだろうな……。 「……まぁいいさ。悪かぁねぇ」 がばっと起き上がり、コンクリートの破片を跳ね除けながら呟いた。 ああ、そうさ。悪かぁねぇ。女を守って死ぬ。男として最高の死に様じゃあねぇか。あんたもそんな気分だったんだろ? ジュシュア=ラドクリフ。 ふぅ~っと長い息を吐く。横目でちろりとこれから命を賭ける相手を見やり、リニアミサイルランチャーを突きつける。 「悪いな、大将。俺の我侭に付き合ってもらってよ」 「貴様がその半壊した機体で何をするのか興味があってな。だが、空の銃では小生は倒せぬ。そこのところは分かっているのか?」 クルツが最も懸念していたこと、それは無視をされ二人の後を追われることだったが、どうやらその心配はなさそうだった。人知れず胸を撫で下ろす。 敵さんは、こちらの手札に興味津々なご様子。ならどうすればいい? 簡単だ。挑発して好奇心を呷ってやればいい。そうすればもう少し時間を稼ぐことが出来る。 「知ってるか? プロってのは、弾を撃ち尽くしても最後の一発ってのは取っておくもんだ。本当にどうしようもなくなっちまったときに自分の頭を撃ち抜く為にな」 「下らんな。己の頭を自ら撃ち抜くぐらいなら、その一発で相手を倒すことを考えるべきだ。 最後まで相手の喉下に喰らいついて初めて一人前の兵士と言える。貴様もそうだろう……違うか?」 「そういう考え方もありっちゃありなんだが……。勿体つけといて悪りぃんだけど、実は弾なんか残っちゃいねぇんだな、これが」 リニアミサイルランチャーを手放す。瓦礫で跳ねたそれが乾いた音を立てた。 からかわれたとでも感じたのかモニター越しの表情が怒り、睨みつけてくる。想像以上に単純な奴だ、とほくそえんだ。話術では負ける気がしない。 「短気は損気。そう怒りなさんなって……。代わりにギンガナム、あんたには別のもんをぶつけてやるよ」 「ふんっ! 貴様のごとき雑兵の命一つで小生を止められると本当に思っておるのか?」 完全に臍を曲げたらしい男を前に急にクルツの目つきが変わった。 「馬鹿言っちゃいけねぇな。あんたに生き残られちゃ、せっかくのお涙頂戴シーンが台無しだ。 それになぁ、お前さん自分のこと買いかぶり過ぎだ。こちとら戦争屋。弾なんざなかろうが、手前を倒す手段なんざいくらでも思いつくんだよ。塵一つ残さねぇから覚悟しろい」 「吠えたな」 「吠えたさ」 売り言葉に買い言葉。睨み合い。互いの鼻が白み。直ぐに二つの哄笑が廃墟に木霊し始めた。カラッとした笑い声が大地を包む。 「面白い! ならばきっちり殺してみせろよ!!」 「上等だ! そろそろ行くぜ!!」 時間は十分とは言えないが稼いだ。もう巻き込む心配も多分ない。あとは俺が上手くやれば万事オッケー、全ては上手く収まる。 シザースナイフを抜き放ち、握り締める。 接近戦の不利は百も承知。格闘戦における技量の低さは自覚していた。だがそれでもラーズアングリフに残された武器はそれしかない。 「来いっ!!!」 腰を低く落とし、ギンガナムの声を合図に猛然と突進を開始する。敢行したのは命がけの接近戦。 だが、それは余りにも馬鹿げた行為だった。ただでさえ鈍重なラーズアングリフである。脚部を損傷した現在、ギンガナムと比べるまでもなく動きは鈍重を極めている。 動きは鈍く、勢いも無ければ、切れも伸びも無い。ギンガナムから見れば凡庸も凡庸。ただ愚鈍なだけの特攻としか映らなかった。 ゆえにギンガナムは激昂した。軽んじられた。甘く見られた。そういう思いが有り、自尊心についた傷が感情を刺激したのだ。 「どんな隠し玉があるのかと思えば、ただの特攻とは……実に下らん!!」 ギンガナムが動く。ラーズアングリフの鈍重さに比べ、その動きは遥かに素早い。 「小生を愚弄した罰だ!! DNAの一片までも破壊しつくしいいぃぃぃいいいい、鉄屑にしてやるっ!!!」 間合いが瞬時に潰れる。ギンガナムが放った手刀は、頑強な装甲の継ぎ目を狙う一突き。 右胸を貫かれるその寸前、クルツはシザースナイフを投げ捨てた。右腕で逃さぬようシャイニングガンダムを抱きしめる。 「野郎に抱きつくなんざ趣味じゃねぇが……この時を待っていたんだよ!」 「何だこれは! この馬鹿げた熱量は!! 貴様ぁ、一体何をした!!!」 キーボードに指を滑らせ、一つの文字列を叩き込んだ。それは祈祷書の『埋葬の儀式』の一節を捩ったシャドウミラーの自爆コード。 その真髄は機密保持の為、後には何も残さない絶対の破壊。文字通り全てを無に帰す力。 即ちコード名―― ――Ash To Ash―― 「別に大したことなんざしてねぇよ。ただ土に還るだけさ。俺もお前もなっ!!」 勝利を確信し、誇らしげに笑ったクルツを光の海が包み込んだ。 →Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―(4)
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/39.html
ホワイトドール ◆caxMcNfNrg 「これ・・・髭のない、ホワイトドール?」 それが、支給された機体に対する少女の感想だった。 白を基調とした色の機械人形・・・ホワイトドール。 機体の姿形こそ、彼女の知識にあるものとは違うが、 それは少女のよく知る黒歴史の遺産と酷似していた・・・ 数十分後、素早く操縦法をマスターしたソシエは、 南北に走る道路の上空を、南へと向けて下っていた。 (他の人たちと・・・皆と力を合わせれば、あんな化物でも倒せる!) そう、それに、こちらにはホワイトドールがあるのだ。 「髭が無くったって、ホワイトドールはホワイトドールよ!」 少女は知らない。その機械人形は黒の暦に記されているような物ではないという事を。 ―――――――――皆様、類似品にはご注意しましょう――――――――――― 【ソシエ・ハイム 搭乗機体:機鋼戦士ドスハード(戦国魔神ゴーショーグン) パイロット状況:良好(機体がガンダム系だと勘違いしています) 機体状況:良好(AIは取り外され、コクピットが設置されています) 現在位置:E-5空中を南下中 第一行動方針:仲間を集める 最終行動方針:主催者を倒す】 【時刻 12 30】 BACK NEXT 金髪お嬢とテロリスト 投下順 邪龍空に在り 護るために 時系列順 黄色い幻影 BACK 登場キャラ NEXT ソシエ パンがなければお菓子をお食べ