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2022年3月12日 出題者:民明書房のれいにー タイトル:「僕の彼女は空気嫁」 【問題】 それを人間であるかのように扱う、いい歳して独身のタカフミ。 それを見て泣く郷里の母。 どういう状況? 【解説】 + ... 「お父さん、タカフミからリンゴが送られて来たわよ」 「そうか、優しい子だな」 「ええ、ほんとに(涙)」 たまには親孝行として郷里の父母にリンゴでも送ってあげようかな…と、 重めの荷物を車の助手席に乗せコンビニへ向かったタカフミ(32歳独身)。 車を走らせていると、荷物の重さに反応して 「助手席の人のシートベルトをつけてください」というアラームが何度も鳴ったため、 仕方なく荷物に対し人間であるかのようにシートベルトをつけてあげたのだった。 その後宅急便は実家に届き、贈り物を見た郷里の母は嬉し泣きしたとさ。 《知識》 配信日に戻る 前の問題 次の問題
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「おのれ、我らの神聖なる地がなんという惨状か」 いまだ殺し合いが続いている日本の片隅、大きな神社の広い境内。そこに、鎧兜姿で佇む一人の侍がいた。 この関東最古の神社に縁の英雄の一人、源頼朝である。 「確かに神仏の力の衰えたこの末法の世で、若人達に自発的に神へ参詣する機会を与えたことは評価しよう。 また、人が集まることで回りに暮らす民が豊かになるのも大変喜ばしい。しかし……しかし……」 頼朝は、そこに飾られている沢山の絵馬を見て刀も抜かんばかりに怒りを露にした。 「神聖なる絵馬に、『こなたは俺の嫁』などとたわけたことを書きおって!! こうなったら……」 頼朝は懐から筆を取り出すと、新しい絵馬を手に取った。 【北条政子は俺の嫁】 「ふむ。これでいい」 頼朝は満足し、その絵馬を一番目立つところに飾った。よく見ると、他にも『静御前は俺の嫁』『乱丸は俺の婿』などといった絵馬もある。 流石は歴代の英雄に崇敬された神社。彼らもきっとオタ絵馬に触発されたのだろう。 「さて、してこれからどうするべきか」 いまだ殺し合いは続いている。頼朝は、関東の武士の棟梁として、このような愚行を行う首魁を打ち滅ぼすつもりでいた。 それには兵がいる。自分の才覚があれば、十分な数の兵さえいれば敵の主将と会い争っても楽に勝てる自身がある。 だが今は自分が生きていた時代とは何もかもが違う。鎌倉幕府どころか武士さえもない。 主君のために命を投げ打とうとする者など容易には見つかるまい。 「挙句、絵馬に『俺の嫁』か……まさに世も末だ」 頼朝が深いため息をついた時だった。 「甲冑のコスプレ……アリっす!! 本当なら女の子のほうがいいんですけど、これはこれで!!」 突然眼鏡の女子高生がもの凄い勢いで走ってきたかと思うと、頼朝の着ている鎧や兜に勝手に触り始めた。 「ひかえい、無礼者!! 我こそは……」 頼朝は咄嗟に、この時代でもっとも通りが良いであろう名を名乗る。 「鎌倉幕府初代将軍、源頼朝なるぞ!!」 「頼朝……」 少女は顎に手を当てて何やら悩んでいた。そして突然、 「やっぱり頼朝×義経が基本ッスよね!! 義経の誘い受けで!!」 「なんと!!」 「でも北条義政×頼朝も捨てがたいッスね~。あと、幼少期限定で清盛×頼朝も…… でみ基本はやっぱ義経総受けッスよね。頼朝さんは鬼畜攻めですかね?」 「えええええい!! 黙れ馬鹿者、切り捨てるぞ!!」 少女のおぞましい妄想は、歴戦の頼朝すら戦慄させるものだった。 「あれ、それよりも弱気攻めのほうがいいですか?」 「違うわ!! 俺の嫁は政子だけじゃあ!!」 【一日目・午後五時/埼玉県鷲宮神社】 【源頼朝@歴史】 [状態]健康 [装備]生前の武装一式 [所持品]支給品一式 [思考] 1:「兵」を集め、主催者に合戦を挑む 2:目の前の眼鏡の女を黙らせる 3:北条政子は俺の嫁 ※この時代に関する基礎的な知識は持っています(笛糸のサーヴァントみたいなもの) 【田村ひより@らき☆すた】 [状態]錯乱、現実逃避 [装備]少女セクト [所持品]支給品一式 [思考] 1:色んなカップリングで妄想を膨らませる 2:ツンデレコンビを捕まえて友人を生き返らせる ※放送で何人もの友人達の死を聞かされたため、いつにも増して頭がおかしいです
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「カカロットの息子………?」 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!来るな!来るなぁぁぁ!!」 ブロリーは光太郎との戦いの後、破壊を求めて宇宙を飛び回っていた。 そして暇つぶしに立ち寄った火星で出会ったものが、 マクドナルドとケンタッキーのコラボであるカーネル・ハンバーグラーだった。 ブロリーが最も殺したい男ではなかったものの、ブロリーにとって破壊は呼吸と同じようなもの。 とりあえずこの男で遊ぶかと言うことになったのである。 だが待っていたのは戦いと呼べぬものではなく、ブロリーによる一方的な蹂躙。 「くそっ…!何だお前は!?」 「その程度で俺を倒すことなどできぬぅ!」 ハンバーグラーはケンタッキーフライドチキンを投影して弾幕を張る。 だがブロリーは襲い来るフライドチキンを一つの腕で軽々となぎ払う。 その様を見てハンバーグラーは思い出す。 先ほどのアーカードナルドとの一方的な完全敗北を。 アーカードナルドの圧倒的な力を。 アーカードナルドへの圧倒的な恐怖を。 「がああああああああああああああああああああああ!!」 それらのトラウマを消し去るためにハンバーグラーはマクド力とケンタ力を全開。 アーカードナルドの上半身を吹き飛ばしたあの一撃を繰り出す。 その一撃は見事にブロリーの上半身にクリーンヒット。 手ごたえを感じるハンバーグラー。 「はぁ……はぁ…ようやく倒した「と思っているのか!!?」 「え……ぐぼぉぁっっ!!」 だがブロリーの体には傷一つついておらず、当の本人は悪魔のような笑みを浮かべていた。 そしてハンバーグラーに放たれるブロリーの拳。 ブロリーの一撃を受け、ハンバーグラーは大きく吹き飛んでいく。 「はっ……はぁっ……!」 全身からケチャップのような血を滴らせながらも立ち上がるハンバーグラー。 ドナルドを倒すためにここで倒れるわけにはいかないからだ。 それに目の前の大男を倒せないようではあのドナルドを倒せるわけがない。 そう…恐怖の源であるドナルドを。 「あ………あぁぁ…!」 ハンバーグラーは既に恐怖に蝕まれていた。 目の前に映るのはゆっくりとこちらに近づいてくる大男。 だがドナルドへの恐怖を植えつけられたハンバーグラーにはブロリーがアーカードナルドにしか見えなかった。 あの悪夢が……アーカードナルドによる蹂躙が脳内に蘇る……。 「お前が戦う意志を見せないのなら、この俺は全てを破壊するだけだぁ!」 「あ……」 『さあ…マクドナルドのマクドナルドによるマクドナルドの為の闘争の時間だ!! かかってこい!!Hurry!Hurry!Hurry!』 「あぁ……」 『お前は糞のような男だ、ゴミ箱に捨てられ豚の餌にでもなってしまえ』 「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 ついに、ハンバーグラーの戦意は崩壊した。 (やれやれ、不様ですな) カーネルはブロリーから逃げ惑うハンバーグラーを呆れるように見ていた。 この様ではドナルドに勝つどころか対峙することさえままならないだろう。 ハンバーグラーは逃げるが、ついにブロリーに追いつかれる。 そこから始まるのはずっとブロリーのターン。 (だがそれにしてもこの男……) カーネルの視線はさっきからハンバーグラーを甚振る大男に向けられる。 裏からブロリーの戦いを見ていたがまさに圧倒的な力をふるっていた。 ドナルドと互角…いやそれ以上の力を。 現在「手加減ってなんだぁ?」などと言いながらハンバーグラーをネチネチと痛めつけているが、その気になればハンバーグラーを一瞬で消し去るのは容易いだろう。 (これは使えますな……) カーネルはニヤリと笑みを浮かべる。 そしてハンバーグラーに心の中から話しかけた。 『なっ…何だよ…こんな時に…話しかけるんじゃねぇっ!』 『いいから耳をお貸しなさい』 カーネルはハンバーグラーに耳打ちをする。 『なっ…そんなことが!?』 『どうします?この方法を使えば貴方は助かるかもしれません。 さらに新たな力を得るかもしれませんよ?』 『本当だな…そうすればこいつも倒せて…あのドナルドも倒せるんだな!!?』 『はい』 『くっ……やってやる…やってやるぞぉぉっ!!』 「さぁ終わりだぁ」 「うらぁぁぁぁ!!」 「へぁぁ!?」 ブロリーがハンバーグラーに止めを刺そうと腕を大きく振り上げる。 その瞬間ハンバーグラーが動いた。 ブロリーに掴みかかってきたのだ。 完全に慢心しきっていたブロリーは避けることが出来ず、素っ頓狂な声を上げる。 そしてハンバーグラーは一つの言葉を口にした。 「『マックシェイク』ッッ!!」 カーネルの考えた作戦。 それはマックシェイクにより自分達とブロリーを融合させることであった。 普通、戦闘中だったら決行するのは容易ではなかったが、ブロリーのドS精神と慢心が幸いしたのだった。 マックシェイクは無事に決行され、そこには一つの生命体が誕生していた。 『どうやらうまくいったようですね』 その外見はまさに純白のタキシードを着用し白い髭を生やしたブロリーである。 尤も、服はその筋肉隆々の体によりはちきれて結局また全裸になったのだが。 こうしてカーネルはブロリーの力を手に入れることができたのである。 いくつかの犠牲と共に。 現在のカーネルの姿にはハンバーグラーの面影が全く無い。 何故なら…… 『おやおや、ようやく限界を迎えてしまったようですな。ハンバーグラーは』 ハンバーグラーの精神は崩壊していた。 というもののドナルドへの恐怖をこれでもかと味わった直後にブロリーとの遭遇。 そもそもハンバーグラーの精神や体はアーカードナルド戦で既にズタボロ。 その上でマクド力を全開に駆使した上でのマックシェイクによる融合。 ブロリーとの融合に使った力は半端なく、その反動はハンバーグラーの全てを崩壊させた。 『…………』 何も反応を見せないハンバーグラー。 もはや彼は使い物にならない。 ということはこれからはカーネルが主導権を得ることになるのだろうか。 否、 「カカロットォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」 ブロリーだった。 もはや黒歴史に葬り去られかけているハンバーグラーと違ってブロリーはDBファンやニコニコ動画ではかなりの人気と知名度を誇るキャラクター。 そいつから体の主導権を得るのは容易ではない。 強大な力を得るのと代償にこの体の主導権も失ったのだ。 だがカーネルは構うことはない。 むしろ笑みを浮かべていた。 何しろこのブロリーと言う男、先ほどの戦いっぷりから見て甚振り殺すのがお好きらしい。 ドナルドを楽しく殺したいカーネルにとってこれほど都合のいいものは無い。 そして何より、 「ドナルッドォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」 融合したからなのか、ドナルドへの憎しみはブロリーにも影響を与えていたらしい。 ブロリーがカカロットと因縁があるのと同じように、カーネルとドナルドには因縁があった。 ただでは殺しはしないほどの因縁が。 (ははははははははは、この力を手に入れた今あのアーカードナルドすらも敵ではないでしょう。 さあブロリーよ行きなさい。我らの敵を破壊し尽くすのです!!) 「カカロットォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」 破壊者は飛ぶ。銀河のどこかにいる宿敵を破壊するために。 カーネル・ブロリー・サンダースという愉快な化物の誕生の瞬間だった。 【一日目・23時50分/火星宙域】 【カーネル・ブロリー・サンダース@ケンタとかマクドとかDB劇場版とか】 【状態】全裸 【装備】筋肉隆々の肉体 【道具】支給品一式×2、不明支給品×2 【思考(カーネル)】 1:より楽しい方法でドナルドを殺す 2:ドナルドの元へと向かう 3:ハンバーグラーはもう、ダメでしょうな…… 【思考(ブロリー)】 1:全てを破壊し尽くすだけだぁ!! 2:カカロットォォォォォォォォォォォ!!!!! 3:ドナルッドォォォォォォォォォォォ!!!!! 【思考(ハンバーグラー)】 0:…………(絶賛精神崩壊中)
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前ページから ※ 「………………」 俺は絶句していた。 予定通り、俺たちは勝ち上がり、そしてチャンピオンも勝ち上がってきた。 そしてこうして決勝戦で向かい合っている。三列&三列の札を挟んだ源平戦の陣形。 それはいい。 が、しかし── 「ゆっくりしていってね!」 「おお、怖い怖い」 チャンピオンのパートナー二人、いや二匹? 二個? でかい生首が女の左右に陣取っていた。 取り札を前に、どちらもふてぶてしい表情で鎮座している。 巨大な饅頭に顔を描いたらこんな感じだろうか。 何これ? 遊星からの物体X? 「ふむ、『ゆっくり』を飼っているのか」 「ゆっくり?!」 親父のつぶやきにびっくりする。ゆっくりなだけに、などと言っている場合じゃない。 「知ってんのか、あの珍獣。天変地異の前触れとかじゃないのか」 「ゆっくりだ。知らんのか。れみりゃと似たようなものだ。珍獣ではなく饅頭だな」 「マジで」 肉まんと饅頭。確かに仲間といえばそうなのかもしれない。 「だどー♪」 「ゆっくりしていってね! れみりゃ!」 「おお、かわいいかわいい」 何か仲良くなっているし。 しかし、れみりゃをパートナーとしているこっちが言えた義理じゃないんだが、饅頭をパートナーにするのはどうなんだ? チャンピオンの顔をうかがうと、涼やかな笑み、しかし切れるような視線で返される。そして、一言、 「どうです。かわいいでしょう」 何で勝ち誇ってるの、この人。 ふと、赤いリボンをつけた方のゆっくりに目が行く。 向こうもこっちを見る。目が合った。 「れいむはれいむだよ! かわいくてごめんね!」 眉を寄せたにやけ顔で言う。 「…………」 仮に。 仮にキモカワイイという言葉があったとしよう。こいつにあてはめたとしよう。 しかし、明らかにキモイの割合が九割九分九厘占めている。単一民族国家を名乗ってもいい割合だ。キモイと断言して何が悪いだろう。 だが何も言えずに、俺は再び女の顔をうかがい見る。 「こちらもかわいいですよ」 かわいいことは決定事項ですか。 他人の美的センスに口を出す野暮はしたくないので、一応素直に女の示す方を見る。もう一匹のゆっくりだ。 「おお、照れる照れる」 ほほを赤らめるな。 こちらのゆっくりは小さな帽子のような多角形の物体を頭に載せている。 れいむと同じく眉を寄せたにやけ顔。しかし、左右の目の位置がずれているような、何というか、デッサンが狂ってる? うわぁ。 これは、さっきのれいむ以上に……まさか、これでもかわいいと言うのか? 絶句する俺にチャンピオンは言った。 「この子の名はきめぇ丸です」 「名前からしてそれかっ?!」 思わず叫んでしまった。やっぱキモイでいいんじゃねえか! 「いや、かわいいではないか」親父が言う。 「だどー」れみりゃも同意する。 ……あれ、俺また仲間はずれ? 結構凹むんですが。 ふと、視線を感じて横を見る。詠み札を持った着物の女性が正座していた。詠み手の人だ。 無言だったが、目は口ほどにものを言っていた。 ──早く始めてください。 ──はい、すみません。 もちろんこちらは素直に従うしかない。 いや、ほんと、茶番もいいとこだ。 周りの観客たちにもいたずらに時間を浪費させてしまっている。 むしろ、何だか生暖かい目で見られている気もするが……余計に凹むので勘弁してもらいたい。 「では始めます」 緊張感が張り詰めてくる。ついに最初の札が詠まれる。因縁の決戦の火ぶたが切って落とされるのだ。 「うー☆」 お前は豚まんな。火ぶたじゃなくて。 「瀬を早み──」 「はいッ!」 俺の声が右手と共に飛ぶ。始めの一字で札が限定できる歌、すなわち「一字決まり」だったので、即座に反応。 自分の目の前! 取れる! 狙い通りの場所に手が触れ、その場に畳の緑が空白となって残る。飛んだ札は右方向、親父ときめぇ丸の間を走った。 まずは一枚。 …………? 違和感。それが札獲得の爽快さを邪魔する。 どういうこった? 何で誰も……誰一人として動こうとしないんだ? 俺の動きが速すぎた、ということじゃねーはずだ。取ろうとする気配がまるで感じられなかった。 れみりゃのための接待プレーは決勝戦ではやらないはずだろ? いや、接待プレーの継続であったとしても、チャンピオン側でさえ動かない説明にはならない。 ふっ、と親父が笑った。 「意趣返しか」 「は?」 気配を感じチャンピオンの方を見ると、その笑みが静かに濃くなる。 怖っっ。 「どういうこったよ、親父。意趣返し? 仕返しって何のだよ」 やべ、俺、少しテンパってる。チャンピオンのすごみに気圧されてるのか。 「昔のことだ。さすがに三対一で女性を相手にするのはフェアではないと考えてな。十枚ほどハンデをつけることにしたのだ」 「じゃあ始めから相手の札を十枚抜かして……じゃないな。まさか……」 「ああ、十枚詠まれるまで動かなかった」 なるほど、そりゃ怒る。 親父たちにそのつもりがなくても、チャンピオンにしてみれば屈辱だったろう。情けを掛けられ、その末ボロ負けと来てはプライドはズタズタにされていたに違いない。 だから娘である目の前の女は、母の雪辱を晴らすために、同じハンデをこちらに与えるつもりなのだろう。その上で勝つ、それだけの自信を持って。 「まあそういうわけだから、お前は取って構わん」 「親父は取らないのか」 「誰が取っても同じことだ」 それもそうだ。俺しか動かねえんじゃな。 「こちらにハンデを与えるだけの力を持ってもいるしな」 「そんなに強いのか。……ん?」 ふと、思い当たる。 チャンピオンの相方二匹。こいつらはどのくらい強いのだろう。 親の仇討ちのために連れてきたと考えれば、相当の実力者なのかも。 「れいむが動くのは五枚目からだよ!」 「わたしが動くのは六枚目からです」 こちらの会話を聞いていたのか、饅頭たちは左右からステレオ宣言してきやがった。余裕しゃくしゃくを絵に描いたようなニヤケ顔。 ぬぅ、確かに屈辱だ。やれるなら往復ビンタかましてやりたい。 「れみりゃはもう動いてるどー」 あ、そうだった。 れみりゃは別に何の思惑もなく競技に参加しているわけで。 俺一人が動いているわけじゃなかった。 でもなぁ。 「わたの原──」 「う~、『わ』、『わ』、『わ』だどー」 「だから、下の句で探せって。これだこれ」 指し示し、取らせる。 こんなんじゃあ結局俺一人で動いているのと変わらない。 やれやれ。 そんな感じで、緩い雰囲気のままに、五枚目が詠まれる段と相成った。 「ゆゆっ、れいむの真の力を見せつけるときが来たね!」 饅頭顔が猛る。もちろん迫力とか皆無だ。 が、油断はできない。何しろチャンピオンが選んだパートナーで、その上ハンデを相手に与えるほどの存在だ。 見せてもらおう、その実力とやらを。 「月見れば──」 「ゆゆっ」 「何ィ!?」 驚かされた。 れいむが札を取った、わけではない。 札はあっさりと俺が獲得した。 驚いたのはれいむがまったく微動だにしなかったからだ。 今、五枚目だよな? 数え間違いじゃなくて。 「ゆっふっふ……」 れいむが低く、不敵に笑う。 「お兄さんは全然ゆっくりしてないね。れいむの方がゆっくりしてるよ」 は? 「いや、お前、札取られたよな?」 「そうだよ?」 「なら、お前の負けだよな?」 「違うよ?」 話がかみ合わない。 混乱している俺に、右にいる親父が声を掛ける。 「ゆっくりはその名の通りゆっくりすることに至上の価値を見いだすからな。そういう意味ではお前の負けだ」 「百人一首やってんだろーが」 「その通りだが、向こうは勝ったつもりでいるぞ」 実際れいむはゆふん!と勝ち誇って胸(?)を反らし、得意満面に言った。 「ゆっくりしていってね!!!」 何だろう……この湧き上がる殺意は。 「そうどす黒いオーラをみなぎらせるな、息子よ。次に動くのはきめぇ丸だろう。れいむと同じゆっくりでありながら、素早い動きが信条の特殊な存在だ。一筋縄ではいかんぞ」 「そうなのか?」 たかが饅頭だろう、と言いかけたその時、その黒い饅頭が動いた。 「おお、速い速い」 細かく左右に揺れる──いや、ブレる──高速で移動して残像っ?! ヒュヒュヒュヒュッと風切り音を立て、きめぇ丸は二匹に分裂したかのようなスピードで動いた。 こいつ、ただの饅頭じゃねえ。素早い饅頭だ。 親父が感嘆する。 「きめぇ丸シェイク、久しぶりに見るが大したものだ。私の反復横跳びに匹敵するぞ」 そっちの化け物っぷりのが気になるが、ともかくれいむと同じに考えると痛い目を見るようだ。 気を引き締め直して次の札が詠まれるのを待ちかまえる。 「滝の音は──」 「はいッ!」 気合い一閃! ……あ? 取れた。 あっさり取れちまったぞ、札。 気抜けしてきめぇ丸を見ると、奴はヒュンヒュンと体を振りながら一言、 「手も足も、おお、出ない出ない」 ………………そりゃそうだ。首だけだし。 「って、上手いこと言ったつもりかーッ!!」 公衆の面前だったが、さすがに叫んでしまう。 怒りはゆっくりよりも、その飼い主に向かう。 「何のために出しやがった! ふざけてんのか、てめぇ!」 戦力外とわかりきってる饅頭ぶつけてきやがるとは、どんだけなめてるって話だ。 戦力外だと始めに気づかない俺自身への怒りも含めて、チャンピオンに怒声を叩きつける。 ああ、八つ当たりさ! 「何か問題でもありますか?」 対照的な冷静さで女は言葉を紡いだ。 「何が問題って、てめぇ…」 さらに激怒をぶちまけようとするが、言葉が途切れる。 チャンピオンの目が恐ろしく冷たかったからだ。 「屈辱を感じますか? そうでしょう。私の母も同じ気持ちを味わったのです。そして、私も母と気持ちを共有しました。今はあなたがそれを味わっているのですね」 俺、関係ないじゃん。とばっちりじゃん。 言い返そうとするが、言葉に詰まる。 恐ろしいほどの妄執・執念。有無を言わせないオーラがある。 「母を通して感じた屈辱を、息子を通して私に感じさせたというわけか」 と、親父。 「その策は確かに有効だ。今、私は猛烈に怒りを、ププッ、感じている」 今、噴き出したよな? 途中で笑ったよな? 息子がおちょくられてるの楽しんでんじゃねーか。 ってか、きめぇ丸が札取れないってわかってて敢えてあおったよな、さっき。 女と共同で俺を馬鹿にする気満々だったろ! 「俺もう帰っていいか? こんな茶番やってられっか!」 嫌気が差して立ち上がろうとする俺に、 「ご安心を」 と、チャンピオン。 「十枚目からは退屈させませんよ。今の内にゆっくりしていってください」 知るか、との言葉がのどから出かかる。 が、服の端が引っ張られているのに気づき、左を見ると、れみりゃがつまんでいた。訴えるような目。 勝負を放り投げることに対しての非難か、自分を置いていってほしくないという懇願か。 ともかく俺は再び腰を下ろした。 まあ、乗りかかった船だ。最後までやってやるか、くそっ。 「チャンピオンが動くか。今度こそ本当に一筋縄ではいかんぞ。二筋縄ぐらいは覚悟しろ、なんてな」 「やかましい」 よく考えなくても、全ての元凶は親父じゃねえか。 俺やれみりゃを巻き込むなってんだよ。 ※ そして十枚目だ。 今度ふざけやがったら許さねえ、と思っていたのはさっきまでのことだ。 今はそんな気持ちはみじんもない。 なにしろ、重い。 空気自体が鉛になったかのように、肩に、頭に、のしかかっていた。 チャンピオンから発せられるオーラがそうさせているのだ。今までで一番の重圧。 口は一文字に閉じられたまま何を言うでもないが、闘気がビシビシ主張している。 ──自分が取る。札は私の物。 なんつープレッシャーだ。子供だったら泣き出してるぞ、マジで。お子様の手の届かないところに保管してください。 「うー♪」 けれど、こんな空気の中、れみりゃはのほほんとしている。下膨れた笑顔は崩れる気配もない。 意外と大物かもしれない。 こっちは自分の動作をぎこちないものにさせないので精一杯だってのに。 「来るぞ、息子よ」 「ああ」 そして札が詠まれるときが来た。 緊張感がみなぎる──不思議なもんだ、ある一定のラインを超えると、逆に覚悟が決まり冷静になる。 ベストを尽くす以外にやりようもない。来やがれッ! 「世の中は──」 正直。 王者のオーラを感じていながら、チャンピオンの強さはある程度想定していた。いくら強いといっても、細身の女性のことだ、これくらいのものだろう、そう思っていた。 これを「浅はか」と呼ぶのだろう。 俺が動こうとした瞬間には、女の手が札の上にあった。 「はィッ!」 気合い一閃。白刃のきらめきのように放たれた右手が、札を斬り飛ばす。その速度そのままに、札は俺のほほをかすめ、後方へかっ飛んでいった。 わずかの沈黙を置いて、観客からどよめきが湧く。 驚くのも無理はない。それだけの速さだった。俺などとは次元が違うのは、素人目にも明らかだったはずだ。 札の位置の完全把握、一瞬の間さえも差し入る余地のない反射神経などもさることながら、聞き取りの技がこちらの一段上にいやがる。 「世の中よ──」の札との区別がつく「は」の部分で判断するのが普通なのに、向こうは「は」の音が出る頭「h」を聞き取って動いていた。唇から漏れるわずかな空気の響きをとらえてだ。 とてもじゃないが真似などできない。せいぜいその化け物さを思い知る程度の力しか俺にはない。 チャンピオン……パネェ。 「うー、痛そうなんだどー」 れみりゃがこちらを見て言う。 ほほに手をやり指先を見ると、冷や汗かと思ったそれは赤かった。血だ。 「ありゃ、当たり所が悪かったかな」 「やれやれ、サッカリン並の甘さだな、息子よ。発ガン性物質の自覚は無しか」 「意味わかんねぇよ。何が甘いって?」 「後ろを見てみろ」 首を後方へ回してみると、観客が並んでいるだけだ。 何がどうというわけでもない、と思いきや、不自然なスペースが人と人との間に空いている。何人かの視線がその空間に向けられている。……何だ? 壁。 そこに何か小さなものがある。刺さっている。 あれは──。 「さっきの……?!」 札だった。チャンピオンが飛ばした手札。そのただの紙の一片が、コンクリの壁にヒビ一つ入れずに埋もれている。まるでバターにナイフを刺し入れたような様で。 「暗黒百人一首だな」 なにそれこわい。 「その通りです」 チャンピオンがうなずく。 その通りなのかよ。否定しないのか、その狂った単語。 「やはり身につけていたか。発するオーラが常人とは明らかに異なっていたからな。息子よ、先ほどはその奥義の一つを手加減して味わうことになったのだ。本来ならば、あれは手札を相手の眉間に突き刺し、戦闘不能に陥らせる技だからな」 なるほど。普通は横に払う札をなんで前に飛ばすのかと思ったら、そういうことか。納得した。 「って、一歩間違えたら俺死んでるんじゃね?」 「脳に異物が突き刺さって死ぬような者ならな」 死なねえ奴いるのかよ。 それにしても、死線すれすれを横切ったというのに妙に冷静な自分自身が、何か怖い。 「異常」が「日常」となってきていると考えると、何か、その、非常に嫌だ。 「暗黒百人一首はどこで身につけたのかな」 「やはり本場で学ぶのが最善だと思い、現地へ飛びました」 こちらの苦悩などまるで意に介さず、異常者どもは勝手に話を進めている。 「メキシコかな」 「いえ、グアテマラです」 日本じゃねえのか? 百人一首だろ。 「では、後期型の流派だな」 「そういうあなたは前期型ですね」 「マヤ文明が他国の侵略に備えるために独自に開発した秘技……女性の身で修得するとは見上げたものだ。これは手強いな。息子よ、一層気を引き締めることだ」 そんなことより、マヤ文明の不毛な努力が気に掛かるぞ。滅亡して当然というか。 それ以前に、マヤ文明で百人一首っつーのは時代背景とか地理的状況とか無茶苦茶じゃないだろうか。 いくら何でもいい加減過ぎやしないか。世界がそれを許すのか? 「ゆっくりしていってね!」 「おお、怖い怖い」 「だどー☆」 ……どうも世界はいい加減なようだ。こいつらの存在を許しているわけだし。 「では、チャンピオンのこれまでの努力と、その本領を発揮したことに敬意を表し、私も本気を出すことにしよう」 言うや否や、親父から熱い圧力が発せられる。空気が膨張したかのような、いや、実際に膨張していた。空気でなく、親父自身が。 親父の身体が服の下からも見てわかる通りに膨れ上がっている。鍛え抜かれた筋肉が盛り上がっているのだ。ついでに闘気により熱も発している。見た目も暑苦しいのに迷惑なことだ。 熱でゆがんだ空気の中、親父が言う。 「相手が女性ゆえにハンデとして全裸になるべきかと考えていたが、間違っていたようだ」 そうだな。とりあえず人としてな。 「ここからは本気の農家がお相手する!」 熱い宣誓と共に肉の膨張が頂点に達し、衣服がポップコーンのごとく弾け飛んだ。世紀末救世主?! すげえ筋肉だ。フルマラソンを全力ダッシュしかねないほどに。 けど、ハンデをつけようが本気になろうが、どっちにしろ脱ぐんじゃねえか。 農家露出狂説が信ぴょう性を帯びてきた。 「ふふ……それでこそ母を倒した人です。闘気で人が殺せそうですね」 お前は札で人を殺そうとしたけどな。 「では、今からが本番。互いの死力を尽くすときです」 「うむ」 ようやく話がついたところで、次の札が詠まれることになった。 係の人もどことなくうんざりしているように見える。 すみません、身内が迷惑掛けて。 心の中で謝っておく。 ともかくも詠み手は息を吸った。そして、 「あさぼらけ──」 ありえないことが起こった。 「あ」の音が出るか出ないかの内に、親父とチャンピオンが動いたのだ。 空気を切り裂き、札を弾く音が耳に届いた時には、二人は互いの勝敗を味わっていた。 「間一髪。あるいは紙一重といったところか」 「くっ……」 息をつく親父。 悔しそうに歯がみするチャンピオン。 第一戦はどうやら親父が制したようだ。手の動きが速すぎて判別できなかった。 しかし、それよりも気になることがある。不可解だ。 「おい、親父」 「何だ、勝負の最中だぞ」 「今の何で始めから動けたんだよ。おかしいだろ、『あさぼらけ』の『あ』でスタートできるなんて」 『あさぼらけ』で始まる歌は二つある。六字目まで詠まれない限り動けるはずがないのだ。まさかお手つき覚悟というわけでもないだろうし。 「あらかじめ何の札が詠まれるかわかっていたからな」 「は? イカサマかよ」 「詠み手の瞳に映った札を詠んだだけだ。反則でも何でもない」 「存在そのものが反則だな」 どういう視力をしてやがる。ワシやタカじゃあるまいし。 「しかし、チャンピオンも流石だな。事前にこちらの意識を読み取ってきた。わずかに目的の札に目をやったのが問題だったな。完全にリードをつぶされて、スタートを切られた」 聞いて、チャンピオンが首を振る。 「それでも左手で真空を作り、私の右手の軌道をずらしたあなたには完敗しましたよ」 「完敗とは謙そんが過ぎるな。そちらは左手で風圧を生じさせ、取るべき札を飛ばそうとしただろう」 「あなたの真空で、右手と一緒に自由を奪われましたがね」 「口から高周波の音波を出して三半規管を揺らそうとしたな。あれをまともに食っていたらそれも敵わなかった」 「気づいたあなたに同じ音波を出されて相殺されては意味がありません」 お前ら、まともに競技しろよ。 当然の抗議は、当然口には出せない。 無理が通れば道理が引っ込むの言葉通り、今やここは異常が支配する場だ。 「では続けましょう」 「やはりまだ余裕があるか」 「ええ、私の秘技は108式まであります」 「ふはは、それでこそだ」 「うふふ……」 そして、異常はますます濃厚になっていく。 もうにっちもさっちもどうにも止まらない。 ※ さて、それからどうした、かというとだ。 この場にいる俺自身、どうしてこうなった、と言いたい気分である。 まず詠み手がいなくなり、CDラジカセに代わっていることはいいとしよう。 本人が秘技だと言い張っている反則行為を防ぐためのものだ。機械に瞳は存在しない。 ランダム機能でCDの百人一首を詠ませ、既に詠まれた札は互いにパスするというルールで競技を再開したわけだ。 しかし、いないのは詠み手だけでなく、観客もまた一人もいない。テレビの取材スタッフもいない。いるのは当該競技者──俺たちだけ。 みんな避難したのだ。 公民館が半壊していては無理からぬことだと思う。 壁は崩れ、屋根は吹き飛び、床ははがれている。暗黒百人一首とやらがどれだけ近所迷惑かがわかろうというものだ。 正直、俺も避難したい。 竜巻や稲妻や業火やらが暴れまくる札遊びなど、まともな神経では付き合っていられない。 饅頭二個と肉まん一体がのほほんとこの場にいられるのが信じられん。 しかし、その悪夢も終わりが目の前に来ていた。 互いの陣地に置かれた札が、一枚ずつになっているのだ。 つまりは次に札を取った方が勝つ。 ようやくここまで来たかと思うと、感無量だ。何でもいいから早く終わってほしい。 「息子よ、そしてその嫁、れみりゃよ」 親父が語りかけてくる。 全身が汗だくでもうもうと湯気を立てている。百人一首によるものだ。馬鹿過ぎる。 「チャンピオンとの能力は互角。なれば、勝負を決めるものは後ろに立つ者、背中を押してくれる者たちだ。心強く思っている。頼むぞ」 ………………。 崖っぷちに立っていたらいくらでも背中を押してやるんだが、とは言うまい。 そこまで言われちゃ邪険にもできない。 最後の最後で頼りになるのが家族ということだ。助け合わないでどうする。 「ゆっくり頑張ってね」 「おお、強い強い」 「ええ、ありがとう」 見ればチャンピオンもゆっくりたちからエールを送ってもらっている。 こちらは着物のあちこちがボロボロになっていて、髪はやや乱れている……それでも顔には光明が射して明るい。孤軍奮闘ではこうはならないだろう。手も足も出なくとも、饅頭二匹、連れてきた意味はあったということだ。 「よし……!」 親父とチャンピオンの戦いに何もできなかったのはこちらも同じだ。 それでもできることはある。一緒に戦う。それが親父に力を与えるのだ。気持ちが力になるのだ。 家族三人で戦おう。 「いくぞ、れみりゃ」 俺はポン、と背中を叩いた。 ──デジャブ。 前にも確かこんなことが、と思ったときには遅かった。 ボブゥオ!! れみりゃは朝に屁をしてからは一度もしてこなかった。公衆の面前では控えろという言いつけを律儀に守ってきたからだろうが、それが却ってあだになった。ためにためたガスが噴出力と致死率を極度に向上させて猛威を振るうことになったのだ。 こういうとき普段なら即座に脱出している親父だが、百人一首に集中していたがために反応できなかった。死に神の気体に抱かれ、物も言わずにこん倒した。 他の常人は言わずもがなである。俺もチャンピオンもゆっくりたちも、意識を現世から吹き飛ばされた。 札を前にして、れみりゃだけが競技者として残っていた。 CDの音が流れる。 『久方の光のどけき春の日に──』 「う~、『ひ』、『ひ』、『ひ』だどー」 しばらく探して思い出す。 「あっ、『しものく』で探すんだったどー」 『──しづ心なく花の散るらむ』 「『し』、『し』、『し』……あった、これだどー!」 小さな手を札に載せ、取る。 そして立ち上がって大きく掲げた。 「取ったどー♪」 こうして百人一首に人生を掛けた親子二代にわたる因縁の対決、テレビを通して全国が注目する新年の競技は、幼い肉まんの手によってささやかに幕を閉じた。 いや、まったくひでぇオチだ。 おわり 最後の間。緊張感無くれみりゃが掲げるまでの辺りが本当に秀逸。 それまで積んできたものもさることながら、それを期待通りに壊して、ペースを突然変えて この落とし方にするって、意識しても中々できないと思う -- 名無しさん (2010-03-27 20 00 56) 感想ありがとうございます 本当はこれで打ち止めにしようと思っていたのですが あと二作ほど書いてみます -- 名無しさん (2010-04-03 23 25 56) さすがの農家も耐えられなかったかwww しかしギャグの出来が半端ないぜ -- 名無しさん (2010-05-10 20 22 56) 名前 コメント
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『屁~音!2』 東の空が青く明らんできた。 凍るような寒さの中で、それでもスズメの交わす鳴き声は生き生きと一日の始まりを表す。 そんな冬の朝。 ブォオッコーーーーーーーン! 田舎の静寂をぶち破る轟音。 とある民家からそれは発せられ、同時に二人の男が窓から射出された。 俺と親父だ。 布団ごと吹っ飛んで(洒落ではない。つーか洒落にならない)、地面に投げ出される。 いや、投げ出されたのは俺だけだ。布団と一緒くたになって土にまみれる。 一方、親父は造作もなく二本の足で着地した。どういう原理でやったものか、 きれいにたたまれた布団が右の手のひらに載って、ポーズまで取っている。そして一言、 「10.00」 農家パネェ。 「まったく我が息子ながら情けないな。毎朝恒例のことなのだから、少しは慣れてもらわんと」 「慣れたら人間じゃねえっての」 体の土ぼこりをはたきながら答える。 そうなのだ。 俺たちは毎日、その日の朝をれみりゃの屁で迎えているのである。 早朝のある時間内において、れみりゃは前触れ無く強大なガス噴射をする。その膨大な気圧によって、 俺と親父は田舎の空へとテイクオフし、ダイナミック起床を果たすのだ。 外に出てやってくれと言いたいところだが、というか言ったのだが、れみりゃとしては無意識の中で やってしまうとのことで、コントロールはできないらしい。眠った状態でそれをしてしまい、 した後で目が覚めるということだ。 そしてそれをしない朝はない。むしろしないときは体に変調をきたしている証だそうだ。 親父いわく、 『健康的なれみりゃは常に体内でガスを生産しているからな。定期的に出さないとならんのだ。 特に就寝中にたまったものは、朝に出すことになっている』 『なるほど、これが本当のガス抜き、ってやかましいわ』 思わず一人ノリツッコミをしてしまうほどに、とんでもない生態だった。 まあ動く肉まんというだけでも、いろいろと超越してるが。 「毎回窓ぶち破ると家計が破産するからって、窓外して寝るのも大変なんだよ。この寒空だぜ? 南極探検家の訓練じゃねぇんだから」 「情けないことを言うな。私の若い頃は、全裸で冬の湖に浮きながら目覚めたものだ。湖面と共に 凍り漬けになる感覚が最高でな」 どう間違ったらそんな経験すんだよ。 「それに、最近はあの威勢のいい爆音を聞かないと目覚めた気にならなくてな。爽やかな朝に ふさわしいとさえ感じるようになったぞ、私は」 「清々しいガスってか。冗談じゃねえよ、早朝バズーカ食らってる気分だ」 「真の農家にとっては、あんなもの屁でもないわ」 「屁そのものだろ」 そんなアホな言葉を交わしながら家に戻ると、れみりゃが朝食の準備をに取りかかっていた。 「うっうっうー♪ 朝ご飯の支度だどー☆」 子供用の前掛けをつけて、あっちこっち動き回っている。 これも恒例の光景だ。 幼児体型にふさわしいたどたどしさで、しかし、はつらつとした動きで食卓を整えていく。 程なくしてちゃぶ台の上には三人分の朝食がきちんと用意された。 このあたりはさすがだなと思う。 自分の仕事をきちんとこなすのは一人前の証拠だからだ。 そういったことはれみりゃもれみりゃなりに自覚しているらしく、食事に関しては決して 誰の手も借りようとしないのだった。 「うむ、立派な朝げだな。これだけできるのなら、いつ嫁に出しても恥ずかしくない」 「いや、親父が嫁に引っ張ってきたんだろ」 「だどー」 「人聞きの悪い。無断で拾ってきたと言ってくれ」 「なお悪いわ!」 端で聞いていると、「いたいけな幼女をさらってきて、成人男子と関係を結ばせる変態行為」に 受け取られそうだが、一切否定できないのが辛い。 とりあえず細かいことは無理にでもわきに追いやって、俺は朝食に手をつけることにした。いただきます。 「今日の献立は──プリン丼にプリンのお吸い物、プリンのおひたしか」 「ここのところレパートリーも順調に増えてきたな」 「前はプリンしか作れなかったからなぁ」 「この調子でいけば満漢全席も可能になるかもしれんぞ」 「うー☆」 「ハハハハハハ」 「ワハハハハハ」 細かいことはわきに追いやるのだ。 ※ 「では畑の様子を見にいってくる」 上がりかまちに腰掛けて、親父は言った。すでに作業着に着替えている。 「あ? だったら俺も一緒に行くぜ?」 いつも農作業は共同でやっているのだ。なぜにこの日に限って。 「軽い作業だ。一人でできる。お前はれみりゃと一緒に留守番だ。後は若い者同士でよろしくやってくれ」 ニッ、と白い歯を輝かせる親父。 爽やかそうに見えるが、前に出した右手、その親指が人差し指と中指の間に差し込まれていたので 瞬間的に怒りがわく。 感情のままに一足で間合いを詰め、上段へ蹴りを放つ。当たる直前に足先をさらに上げ、ひざを支点に 真下へ振り下ろした。ブラジリアンハイキックだ。 会心の一撃! 攻撃は見事セクハラ親父に当たった。──が、すり抜けた。手応えの無さにがく然とするも、 親父の姿が消えたことにさらに戸惑う。 「なん……だと……?」 消えた親父のいたあたりの床にはホコリが舞っている。まさか、残像? 高速で移動したことによって、網膜内に虚像が生じたというのか。 にわかには信じがたかったが、予想を裏付けるように、遠くで親父の声がした。 「そんなことでは代掻きもできんな。では留守を頼む」 農家パネェ。 ※ 赤字と黒字の境界を綱渡りする我が家の財政事情により、冬だというのに隅の石油ストーブは 沈黙して冷え切っている。 それでも特別寒さを感じずにいられるのは、れみりゃの体が温かだからだ。 できたてほやほやの肉まんのように──まんまのたとえでアレだが──常時適度な熱を発しているのだ。 だから、親父には文句を言ったが、寝るときも布団の中でれみりゃといれば気温とイコールの室温でも 安眠できるし、今もこうしてれみりゃをあぐらの上に載せていれば、何の支障もなく過ごすことができた。 「じゃあ次はれみりゃの番な」 「だどー♪」 抱っこされた形のれみりゃが答え、積まれた札をめくる。 掃除と洗濯を済ませた後、特にすることもないので、俺たちはカードゲームを楽しんでいた。坊主めくりだ。 他にすることねーのかと突っ込まれそうだが、遊び道具といったら百人一首しかないのがうちの家庭事情なのだ。 テレビゲームは愚かトランプすらない。硬派すぎだろ。 「うー、男の人が出たんだどー」 「おし、成功か。じゃあ俺の番だな」 目の前の札へと体を傾けると、ふっ、と前髪が視界を覆った。 だいぶ伸びてきたな。 「そろそろ散髪すっか。短くしねえとな」 指でいじりながらつぶやくと、 「れみりゃはハゲはいやだどー」 などと言ってきた。 坊主めくりでハゲに対する嫌気が身についたのだろうか。 「さすがにハゲはねーな。スポーツ刈りくらいにはなるけどな」 このど田舎においても床屋はあるが、貧乏な我が家がそこを利用することはない。ガキの頃から 親父の手による散髪で済ませてきた。 しかし、正直あまり親父の世話にはなりたくなかった。気恥ずかしいとかそういうことでなくて、 『よし、完成したぞ』 『だからとりあえずモヒカンにするのやめろよ! 先端をピンクに染めて、リボンで飾りつけるなよ!』 『どうせ短く切るのだからいいだろう。ちょっとした〈O・CHA・ME〉だ』 『かわいくねえんだよっ! ちゃんと直通で刈れよ!』 とまあ、こんな感じで年がいもない過ぎた悪ふざけがついてくるのだ。 断っても無理矢理ついてくるオプションだ。いつか消費者センターに訴えたい。 「自分で切れれば一番いいんだけどなあ。ちゃっちゃと済ませられねーかな」 ため息と共に言う。 すると、れみりゃはこんなことを言った。 「だったられみりゃにお任せだどー☆」 「え、散髪できんの?」 初耳だ、と少なからず驚いたところに「ごめんくださーい」と来客があった。 ※ 「いやあ、あんまし必要ないっすねー」 カタログを見ながら正直なところを言う。 確かにセールスマンの述べる通り珍しい商品ではあったが、見て楽しい以外に役に立ちそうな物が 何一つなかった。 『全自動タマゴ割機』やら『目でピーナッツかみ機』やら。 誰が買うんだ、そんなもん。それともこっちが知らないだけで、どこかで需要があるのだろうか。 「そんなことを言わずに、そこをなんとか。お願いしますよ」 食い下がってくる若いセールスマン。結構しつこい。 世の中不景気だ。だからこそこんなど田舎くんだりまで売り込みに来たのだろう。その苦労は わからないでもないが、こっちだって無いそでは振れない。 「必要な物があれば買うんすけどね、たとえばガスが漏れる前に鳴る警報装置とか」 「え? さすがにそれは……。というか、ガスの元せんを締めれば済むことじゃ?」 「締められるような元せんなら苦労ないっす」 「????」 意味のわからなそうな顔をするセールスマン。わかるはずもあるまい。当事者たる幼き肉まんも ニコニコとした顔を崩していない。 「とにかくもういりませんから、お帰り願えないっすかね」 「いや、そこをなんとか」 再びごね始めるセールスマンに、ついにれみりゃが前に出た。 「う~、迷惑な人は出ていくんだどー」 背を向け、一発。 ブォオッコーーーーーーーン! 田舎の静寂をぶち破る轟音。 とある民家からそれは発せられ、同時に一人の男が玄関から射出された。 相変わらずダイナマイトな威力だ。俺は射程範囲内から外れていて助かったが。 「大丈夫かな?」 少しだけ心配したが、しばらくすると土ぼこりをはたきながらセールスマンが戻ってきた。 「あ、あの、すみません、ええと……」 驚くのも無理はない。いや、むしろ驚きの度合いが小さいとも言えた。これが社会人の強さか。 「な、なんですか、あれ」 「ガスです」 韻を踏みつつ答える俺。 「ああ、もしかして元せんが締められないって……」 「はい」 「そうですか、あれが…………苦労なさってるんですね」 「ええ、まあ」 合点のいったセールスマンとうなずきあう。苦難を分かちあった者同士のみ持ちうる、奇妙な友情の 生まれたような感覚が流れた。 「でも、帰ってください」 「いや、そこをなんとか」 またしてもごね始めるセールスマン。見上げた商売根性だ。 そして、再度登場するれみりゃ。なんだかテンプレ化してる感がある。 「う~、迷惑な人は出ていくんだどー」 そしてお決まりのあのポーズ。背を向けて尻を突き出す。 「ひっ」 と、セールスマンはとっさに柱にしがみついた。おお、対応が早い。適応度Aだな。 「……………………」 「………………あれ」 俺も身構えたのだが、予想していた一撃が来ない。シーンと静かだ。 静寂は安どにつながる。 「さすがに二発連続はないみたいっすね」 「あはは、どうやら不発のようでし」 ブォオッコーーーーーーーン! 最後の言葉は爆音で吹き飛ばされた。本人と共に。 時間差で油断したところでまともに食らった。ためた分だけ威力も増していたようだ。 灰色の空にゴマのように小さくなって飛んでいくセールスマンが、玄関口から見えた。 俺は外に出て落下方向を見やり、つぶやく。 「まあ……大丈夫だろ」 根拠はないが。 ふと、ぺしゃり、と地面を何かが叩いた。 ぺしゃ、ぺしゃ、ぺしゃり。 あちこちで音がはねる。 見上げると、雨とも雪ともつかないものが空から無数に降ってきていた。 「みぞれか」 そういえば辺りの空気がずいぶんと冷えている。 これは石油ストーブの出番だな。 いくられみりゃが温かろうと限度がある。布団の中でもないし、活躍してもらうしかないだろう。 俺は家の中に入ると、マッチを取りにいった。仏だんに置いてあるはずだ。 ※ 「うー、あったかいど~♪」 赤熱したストーブの明かりを受けて喜ぶれみりゃの顔を見ると、こちらも嬉しくなる。 れみりゃを抱きかかえている分だけこちらに当たる熱は少なくなるのだが、まったく気にならない。 まあ、幸せってことだろう。 「ほほお、若いというのはいいものだな。ほほえましい触れ合い、すなわち生殖行為の前段階を 昼間から行っているとは、お盛ん、お盛ん」 幸せはさっそくぶち壊された。 「帰れ」 「だから帰ってきたぞ、我が息子よ」 「変態を父に持った覚えはねえ」 「若年性健忘症か。色ボケもほどほどがよいな」 頭の悪い会話をこれ以上続ける気もなかったので、感じた疑問をぶつけておく。 「畑の様子見にいったんじゃなかったのかよ」 「うむ、行ってきたぞ。みぞれが降ってきたので帰ってきた」 「じゃあなんで濡れてないんだよ」 「私は男だからな」 「下ネタはいいよ。何で服が乾ききってんだっての」 親父の身につけた作業着は、土にこそ汚れていたが、まったく濡れていなかった。 外では依然ビチャビチャと結構な勢いでみぞれが降っている。 「大したことじゃない。落ちてくるものは全てかわせばいいだけの話だ」 「……ああ、そう」 親父の変態っぷりにいまさら驚くこともないのだろうが、一応言っておこう。 農家パネェ。 「そういえば帰る途中で変なものを見たぞ」 「親父以上に変なものなんてあるのか?」 「大根畑に男が突き刺さっていた。足を二本にょっきり出してな。ああ、大根足というシャレではないからな」 「聞いてねえよ。にしてもそれじゃ八つ墓村だな」 「一応助けておいたが、そうしたら脱兎のごとく逃げ去ってしまった。何だったのだろうな、あれは」 「さあ」 その男に心当たりはあったが黙っておいた。 「む? お前、髪が伸びているな。そうか、私のカリスマが美容師となってほとばしる時か」 「変なもん放出すんな。いいよ、切ろうと思ったけど、やっぱやめるよ」 言動からして危険な雰囲気を醸し出している。体に触れてほしくない。 「しかし、自分で刈ることもできないだろう」 「いざとなったら坊主にするさ。とにかく親父は俺にアンタッチャブルな」 「嫌よ嫌よも好きのうちと言ってな、チョキチョキ」 「言ってねえよ! ってか、どっから取り出した、そのハサミ! おい、近寄んな!」 俺と親父がもめているのを見て、れみりゃが右手を高く挙げて大きく言った。 「だったられみりゃにお任せだどー☆」 「え? ああ、そういえばそうだったな」 「ほう、散髪できるとは初耳だな」 れみりゃは「うー♪」とストーブに背を向けた。 やべえ、オチが見えた。 ブゥオ! 一発かます。火が屁に引火。 ドッゴオォオオオオオオオオオオンン! とりあえず爆発し、そして落ち着いてから──こういう出来事によってもすぐに落ち着けるというのは、 こちらの適応度もAになっているのだろう。いや、Sクラスか。まあ、ともかく──親父が聞いた。 「あー、つまり……どういうことだ?」 「こういうことだろ」 「だどー」 三人顔を見合わせる。 そろって見事なパーマが完成していた。 ドリフオチということだ。 ──だめだこりゃ。 おわり れみりゃと農家親子の相変わらずの凄まじさにまたもや吹いてしまったw -- 名無しさん (2010-01-22 22 52 13) 農家パネェ -- 名無しさん (2010-01-24 07 07 37) 屁の音もう少し控え目でもいいかなって思ったw -- 名無しさん (2010-01-27 19 11 39) 八つ墓村じゃなくて犬神家の一族だろ息子よw -- 名無しさん (2011-06-02 15 16 24) 名前 コメント
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※容量制限により分割 『屁~音!3』 「果たし状?」 「うむ」 「うー?」 俺と親父とれみりゃ、三人で床に置かれたものを囲む。 綺麗に折りたたまれた書状があった。 流れるような筆遣いで「果たし状」と書かれている。 果・た・し・状。 確かに果たし状だ。……うーん。 新年早々、何だこりゃ。 「この現代日本において、果たし状っつーのもな。時代錯誤にも程があるぜ。タイムスリップにでも遭ったんじゃねーか、これ?」 「そうか? いつだったか、毎週のようにもらっていた記憶があるぞ」 「時代錯誤だらけだな。文明開化に乗り遅れたのか? つーか、恨み買いすぎだろ」 「農家は人に恨まれて一人前のところがあるからな」 「全国の農家とJAに謝れ」 コメ投げつけられんぞ。 「いや、致し方ないことなのだ。必要悪というかな」 「そんなにアコギな生業だったかな、農家」 他人の家屋ぶっ壊して田畑作るわけでもあるまいし。 「たとえば世界農業選手権がイタリアで開催されたときはな」 「ああ」 「種目の一つに国土縦断マラソンがあったのだが」 「いや、農業関係なくね?」 「何を言う、ちゃんと農家らしくふんどし一丁で両肩に米俵を担ぐぞ」 「ふんどしの意味ねーっ!」 ピサの斜塔を背景に汗だくで疾走するふんどし米俵集団。 確かに観光業界あたりから猛烈な抗議を受けそうだ。景観とかイメージとかに壊滅的なダメージを与えることは疑いようがない。 「それは恨まれるな。ってか、何が必要悪だ。人目のないとこでやれよ、んな奇祭」 「人あっての農家、農家あっての人だからな。多くの人に見てもらいたい」 露出癖ってんだよ、それは。 「それからは殺し屋が数多く送り込まれて大変だったな。チャンピオンになった有名税として受け入れたが」 「いやいや、さすがに命は狙われねえだろ。せいぜい入国禁止になるくらいでさ。つーか、そんなバイオレンスな観光局は嫌だ」 「観光局でなくマフィアだ。コース上にアジトがあったので、つい蹴散らしてしまってな」 「マジで!?」 ついってレベルの話じゃねえだろ。 だが、米俵を担いでイタリアを走破する集団だ。ありえなくもないと考えられてしまうところが恐ろしい。 農家パネェ。 「で、この果たし状だ」 「ああ」 「だどー」 話は床上のそれに戻る。 「今回はまあマフィアじゃないみたいだな」 「うむ、イタリアンマフィアならローマ字で書かれるだろう。『HATASHIJO』とな」 「そこはイタリア語だろ」 「とりあえずは中味を拝見してみよう。れみりゃ、開けてもらえるか」 「うー♪」 れみりゃは小さな腕を伸ばすと、たどたどしい手つきで紙を解きはじめた。 しばらく見ていたが、ふと不安になる。 「……なあ、いいのか?」 「いいだろう? 幼妻がかいがいしく奉仕する姿は」 「そういうことじゃねえよ! マフィアとかに命狙われてんだろ、中に爆弾とかあったりするんじゃ……」 「あれほど薄いものに仕込めるはずもなし。心配はいらんさ。まあ、表面に致死性の毒物を塗っておくこともあったがな」 瞬間的にれみりゃの手から果たし状を奪い取る。殺してでも奪い取る。いや、死なせちゃまずいが。 ああ、死なせちゃまずいだろ。 「くそ親父ッ! 子供に危ないことさせんな、てめーが開けッ!」 激こうして言葉をぶつける。怒声が響き渡る。 れみりゃが目を丸くしている。自分でも驚くほどの感情の高ぶりだ。 「心配するな、全て検査済みだ。息子の嫁に危険な橋を渡らせるわけがあるまい」 親父は落ち着いて言った。その冷静さにこちらの熱も冷める。 「そ、そうか。まあ、そりゃそうだな、うん」 落ち着いてみるとその通りで、何だか気恥ずかしくなってきた。 照れ隠しで「ほら、開けていいぞ」とれみりゃに果たし状を返して、背中を叩く。 だが、それがいけなかった。 突然の怒鳴り声による緊張、それが弛緩したときに訪れる──そう、れみりゃ名物、 ぶぅおッ! ──屁である。 「ぐはっ?!」 致死性の毒物と思えるほどの激臭が、鼻孔から脳天を直撃する。いや、マジで死ぬ! マジ死ぬ! マフィアとか関係なしに自ら危機的状況を招いた愚を反省する、のは後だ。 今は脱出、とにかくそのことだ。エスケープ・フロム・GA(ガスエリア)。 呼吸器を焼かれながら外に転がり出る。 「えフっ、エふッ、えフっ!」 笑ってるわけではない。せき込んでます。 涙と鼻汁を漏らしながら地べたから見上げると、親父は当然のごとく脱出完了していて、平静に果たし状を開き読んでいた。 農家パネェ。 「ふむ、やはり予感通りか。息子よ、れみりゃと共に手伝ってもらうぞ」 「はヒ?」 親父は開いた果たし状をこちらに見せる。 表書きと同様、達筆に書かれたそれら文面に、ある単語が目に入る。 見間違いかと思って、口に出して読んでみた。 「ひゃくにん、いっしゅ?」 「うむ」 間違いではないらしい。 百人一首で果たし合いとな? ※ 普段は閑静な、というにはあまりに寂れた、要するに閑散としているど田舎。 それが俺の住んでいるところだ。 しかし、今日はずいぶんとにぎわっている。村中の人間が、腰の曲がった婆さんから背負われた赤ん坊まで集まってごった返していた。 この公民館で祭りでも開くのかというほど。いや、それ以上の大騒ぎだ。 たかが百人一首大会でこんなに盛り上がっているとは、誰が思うだろう。いや、思わない(反語)。 「なんか知らねーが、テレビカメラまであるぞ。地方局以外のもあるみてぇだし、村の恒例イベントが一気に全国区だな。そんなに有名なのか、相手」 「女流百人一首チャンピオンだそうだ。世間では百人一首がブームらしいから、注目されているのだろう」 「はあ、そうかよ」 どうも実感が湧かない。手をつないで横に立っているれみりゃも「うー☆」と周りの騒ぎを楽しんで理解していないようだ。 俺もれみりゃも自覚はまったくない。これからその女流チャンピオンのチームと三人で戦うことになるなんて。 「しっかしなんで百人一首なんだ。カルタ遊びで何か恨みを買うことでもしたのかよ、親父。女泣かせた過去でもあんのか」 「失敬な。女に手を上げることなど金輪際したことはないわ。尻を蹴り上げたことはあるが」 「あるのかよ」 フェミニストの方、クレームよこさないでください。 「息子のお前と興じる以外に百人一首をしたことは、もう十年以上も前だからな。そのときのこととなると……」 「何だ、心当たりないのか」 「いや、あるにはあるが」 「もったいぶるなぁ。何だってんだよ」 いつも立て板に水、歯に衣着せぬ物言いの親父。それが口ごもるのでどうにもいらつく。 親父は「うむ」と言って、答えた。 「本人に直接尋ねないとわからないが、恐らくは、まあ、仇討ちだな」 「仇討ち?」 忠臣蔵でしか聞いたことねえぞ、そんな単語。 果たし状という時代錯誤物にはふさわしいといえばふさわしいが。 れみりゃはすでに話に加わってなく、辺りの喧騒を見回している。 「百人一首で人でも殺したのか?」と、冗談で聞くと、 「死ぬこともあるが、私は殺しはやらない主義だ」と答えてきた。 カルタ遊びで人が殺せる事実に仰天。 両肩に米俵を担いだふんどし姿で、相手をショック死にでもさせるのだろうか。 雅な札遊びと筋骨隆々の変態野郎。確かに最悪の食い合わせだ。 「そもそも親父に百人一首ってのが壊滅的に似合わないものな」 「何を言う。農家のたしなみの一つだろう」 「聞いたことがねぇよ。農家とマラソン以上に結びつけ不能だ」 「君がため──」 「──春の野に出でて若菜つむ、だろ。それっぽいこと言うな」 小さい頃からやってきたからだろう、俺はそれなりに百人一首のできる人間だったりする。全部の句を暗記するくらいには。 しかし、相手する親父には一度も勝ったことがなかった。 それだけ親父は強いのだ。なぜか、強い。 もしかすると世界農業選手権とやらに百人一首が競技の一つとなっているのかもしれなかった。 「ああ、いや、その歌じゃない」と親父は否定した。 「そこは、君がため惜しからざりし命さへ、だな」 「長くもがなと思ひけるかな、か? それこそ農業と関係ないだろ」 「いや、今回に関しては、愛情の強さを念頭にやってもらいと思っている」 「は?」 「そのために果たし合いを受けたのだ。れみりゃとお前を組ませるためにな。初めての共同作業というやつだ。衆人環視の中、思う存分愛を交わしあってくれ」 即座にれみりゃの手を離し、親父の正面に周って必殺の拳を連弾で繰り出す。 一瞬にして、眉間・鼻下・のど・みぞおち・金的に打撃を与える正中線五連突き! どうでもいいが、5HITと書くとSHITに見える。そのくらいの気持ちを込めた。 「まだ甘い」 あっさり止められた。 指一本で止められた。しかも、上から親指・人差し指・中指・薬指・小指の順番で。 その上「ま」で一発目、「だ」で二発目、「あ」で三発目、「ま」で四発目、「い」で五発目を止められた。 端で見ていたら演舞でもやっているのかというくらいの、滑らかな動作だった。 事も無げに言われる。 「そんなことでは田起こしもできんな」 農家パネェ。 「あいかわらず元気だのう」 聞き慣れた声に目を向けると、見慣れた爺さんの姿があった。 「あ、植田さん」 「あー、植田さんだどー♪」 れみりゃが駆け寄っていく。 植田さんはシワだらけの顔と同じくらいシワだらけの手で、小さな体を抱き留めた。 「おお、れみりゃちゃん、大きくなったなあ」 いや、何も成長してないと思うが。 と即座に心の中で突っ込んでおく。もちろんそんな野暮は口には出さない。 植田さんは家によく顔を見せにくる近所の人である。近所といっても15分ほど歩かないといけないくらいには離れているが。 昔は百人一首の札を読んでもらったり、対戦などしたものだ。 今はちょくちょくれみりゃと戯れて仲良くなっている。 「おお、植田さんもやっぱり参加していましたか」 「ああ、去年は息子さんと準決勝でやりおうたからな。また競いたかったがのう。今年は上手くいかんかったわ」 え? 意外なことを聞いたような。 「負けたんですか?」 率直に聞く。 そういえば、公民館正面に大きく貼られた対戦表……チラ見しただけだが、植田さんの相手は俺たちと同じ指定枠、まさか…… 「ああ、負けた。さすがチャンピョンじゃ。強いのう、歯が立たんかったわ」 チャンピョンというとチャンポンとかピョンヤンを連想させるが、そんなことはどうでもよかった。 植田さんは結構強い。実力的には俺と伯仲している。いや、植田さんの方がやや上回るかもしれない。去年の俺の勝ちは運によるところが大なのだ。 それが負けた。「歯が立たない」とまで言わせるほどに、差をつけて。 「すげえな、女流チャンピオン」 「ああ、すごかった。後は頼んだからの、リレンザ」 「リベンジです。まあ、やるだけやりますよ」 「じゃあ、ほれ」 れみりゃを俺の方へ差しやって、植田さんはあごを公民館へしゃくった。 「早く行かんと失格になるぞい。もう始まっとるからな、今はお前さんたちの番じゃったと思うが」 「えっ、マジで!」 れみりゃの手を取り、慌てて公民館の中へ急ぐ。 「親父が便所で気張り過ぎなんだよ! どんだけ時間食ってんだ!」 「だどー」 「今日はたまたま立派なのが出てしまったからな。出し続けて小一時間は経ってしまった」 「ありえねーよ! アナコンダ並のウンコかっ!」 「いや、オオサンショウウオだ」 「天然記念物?!」 人前でするような内容じゃない会話を張り上げながら、俺たちは群衆をかき分けていった。 ※ 試合形式は源平戦だ。去年と同じ。 こちらと相手、それぞれに五十枚ずつ札を分けて、三列に並べて行う。読まれた札を取り合って、先に自陣の札が消えた方が勝ちというルールだ。 「うー、これだどー☆」 今、れみりゃが相手の陣の札を取った。 こういう場合はどうなるかというと、 「じゃあ、ほれ、好きな札を選びな」 「うー♪」 小さな手が適当な札を取って、相手のところにちょこんと置いた。 こうやって自陣の札を相手の陣に置くことで、こちらの勝利が近づき、相手の勝利が遠ざかるというわけだ。 にもかかわらず、相手の三人はにこやかだ。 「れみりゃちゃん、すごいすごい」 「やったなあ」 「もう五枚目じゃないか」 既に勝負をしていない状態。さっきれみりゃが取った札も、「これこれ」と指さしして誘導しているのだから何とも緩い。 ついでに周りを囲む観客もニコニコしている。れみりゃの一挙手一投足に優しいまなざしを送っている。 ついにれみりゃは「勝利のダンスだどー♪」などと、例の拳を回して尻を振る踊りを始めてしまった。 おいおい。 さすがに札を詠む人の注意が入ると思いきや、入らない。やはりニコニコと見ているだけだ。そのことに他の競技者も何も言わない。 たった五枚で勝利宣言だということに突っ込みも入らなければ、試合進行の妨げをとがめることもなされない。緩い。 「村のアイドル披露宴か、ここは」 「実際アイドルだからな。鼻が高いだろう、亭主としては」 隣の親父に裏拳を飛ばすが、瞬時に背中のツボを押され、拳は顔面寸前で止められた。 激痛でそれ以上ピクリとも動かない。 鼻で笑われ、その鼻息が拳に掛かる。 「秘孔を無防備にさらしての攻撃とは、有機農法など夢のまた夢だな」 農家パネェ。 「ともかくここではれみりゃが札を取る場面だ。手出しは無用だぞ」 「わかってるよ」 それくらいは空気を読む。 対戦者・観戦者、この場にいる者全てがれみりゃの勇姿に注目している。 いくら試合進行がもどかしいとはいえ──下の句を読まれるまで札が取られない上、探すまでの時間も掛かるとはいえ──れみりゃの取るべき札に何ができようはずもない。 村中を敵に回したくないしな。 「ま、黙っていても勝てる試合だ。気楽に見てるさ」 「うむ、それでいい」 再び札が読まれ始める。 「久方の──」 「う~、『ひ』、『ひ』、『ひ』だどー」 「だから、下の句で探せって」 ああ、緩い。 ※ 予定通りに試合には勝ち、外に出た後すぐ、 「見ていましたよ」 聞き慣れない女の声に呼び止められた。 振り向けば、声にふさわしい見知らぬ女性。俺より年上だろうが、若い。 流れるような黒髪を腰まで垂らし、落ち着いた色の着物を着こなしている。 「はあ」 気のない返事をすると、女は俺の方はまったく見ずに、親父に向かって言った。 「何です、あの緩い試合は」 まったく同意だ。 「あのような緩さでは、投げた亀にハエが止まりますよ」 どんなたとえだ。亀を投げるってマリオかよ。 言われた親父はまるで動じず、厳かに返す。 「何をおっしゃる、ウサギさん」 意味がわからない。 女は静かに笑みを浮かべたまま、流麗に言葉を紡いだ。 「なるほど、ハエは速えーということですか」 意味がわからない。 これは何という謎会話だ。人類に通じる言語を用いてくれ。まるでついていけん。 だが、横を見るとれみりゃがほほを膨らませて威かくしていた。言葉の意図を理解しているということなのだろうか。 ふと、気づく。 今この場にいるのは、屁をこく肉まんと変態親父、そしてそれにタメを張る女。それぞれの意思疎通は円滑だ。 ──あれ、仲間はずれは俺の方だったり? とてつもない事実にがく然としていると、女が右腕を横に振った。宙に直線を引くように。 親父が二本の指を眼前に立てる。 ピシリ、と間に札が挟まった。女が投げつけたものだ。 「では、決勝でお待ちしております」 「うむ」 女はススッと滑るような歩法で立ち去っていった。 どうも何かしらの挨拶が交わされたようだ。次は一般人のいないところでやってもらいたい。 札を見ながら、親父はうなずく。 「やはり彼女の娘か。母親に似て良い使い手になったものだ」 「は?」 どういうこった? 「果たし状の相手だ」 今のが──。 「じゃあ、あの女が例のチャンピオンだったのか」 「その通りだ。ふむ、決勝で当たることになるとは天の配剤だな」 あれが植田さんを軽く一蹴した相手……。 線は細そうなのに。言われてみると、刃物のような鋭い気配を発していたような気もする。足さばきも武人のそれだった、かな? ……んー。 「やっぱり信じられないな。果たし状なんて珍妙なもん送りつけてくるような人格はまーわかるにしても、チャンピオン? 本当に強いのか、あれ」 「相手の強さを感じ取れないとはまだまだだな。間違いなく彼女は強い。お前ではたとえ死ぬほどドーピングしても敵わないだろう」 そりゃ死んだら勝てねえよ。ゾンビでもなけりゃ。 「それじゃあ『彼女の娘』ってなんだ? どういう因縁なんだよ」 うむ、とうなずき、親父は語る。 「お前を引き取る前のことだが、当時の女流チャンピオンとやりあってな」 「はぁ。で、どうだったんだよ」 「こちらの圧勝だった」 「何ィ?」 初耳だ。そんなに強かったのかよ、親父。 「といっても、源平戦だったからな。チャンピオン以外の二人は大したことがなかった。実質三対一だったということだ」 「親父のパートナー二人もチャンピオン並に強かったってことか。今その二人はどこにいるんだ?」 参加すりゃいいのに。もしかすると果たし状がそっちにも届けられているかもしれない。 「吾作と耕造か。確か吾作はヒマラヤ山脈でカイワレ大根を作っているな」 何やってんだ、吾作。 「耕造は、月にチンゲンサイを植えるためにロケットの開発をマサチューセッチュで研究している」 言えてねえし。そして耕造は農業に専念しろ。 「結局果たし状は私のところにしか送れなかったということだろう。当時の意趣返しは不完全な形になってしまったな」 そりゃヒマラヤやアメリカの研究所には送れまい。 「んー、しかし娘がねえ。なんで本人が来ないんだろう」 「こちらとの対戦の後、引退してしまったからな」 「…………」 どうして引退してしまったのか、聞くのははばかられた。 親父のようなむくつけき男が三人、うら若き女性を前にして……駄目だ、考えたくもない。 「あー、まあ……で、なんでその娘だってわかったんだ。あの果たし状にはそんなこと書いてなかったろ」 日時と場所、そして「百人一首で白黒つけましょう」としかなかったと記憶してる。 「いや何、一流の農家は筆跡からでも相手の詳細を知ることができるものだ」 それはプロファイラーだろ。 「そもそも百人一首で因縁があるとすれば、思い当たることは一つしかない。極めつけはこれだな」 と、投げられた札を見せる。 「? 何だそりゃ」 「うー?」 「勝負を決めた最後の一札だ」 「!」 なるほど、そういうことか。 そして娘であるあの女の思い入れは半端ではないらしい。 これから巻き起こる熱い死闘が目に見えるようだった。 「では、搬入作業を手伝ってもらおうか」 「あ?」 何のだ? 話の関連が想定の範囲外だ。 「農家に休みはない。もちろん肥料の運搬だ」 「え、おい、大会の途中だろ、いいのかよ」 「次の試合までに間に合えばいい。合間合間に農作業するんだ」 いや、確かに去年もそんな感じだったけども……。 チャンピオンの試合とか見なくていいのだろうか。 俺にはあんまし関係のないいざこざではあるが、あの女、因縁の相手が自分ほったらかしで会場を抜け出しているなんて知ったら、どう思うんだろう。 何か不びんだ。 ※ 次ページへ
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前ページから ※ 元いた座敷に戻る途中、思考が渦巻いていた。 親父は一体何を作る気なのか。 「大量の野菜を用意してくれ」と言っていた。まさか野菜炒めを作るわけでもないだろう。 それとわからないのが、俺とれみりゃの手も借りたいと言っていたことだ。後でまた呼ぶから、それまでたっぷり食事を取っておいてくれとも。 店の料理人に手伝ってもらうんじゃダメなんだろうか。それだけでなく色々引っ掛かるところのある言葉だった。 「あー、もーワケがわかんねぇ!」 「Oh、息子サン」 両手で頭を抱えたところで、金髪ビキニがお膳を持って現れた。 恥ずかしいところを見られた気がして、慌てて腕を下ろす。 れみりゃが俺の陰に隠れた。金髪ビキニが苦手なのかな? 威嚇するように頬を膨らませている。 「チョウド息子サンノ所ニ注文シタノ運ブトコダッタヨ。飲ミ物ハモウ持ッテイッタカラ、コレハオ料理ネ」 店長が給仕するはずだったのが、あんなことになって、それで代わりになったわけか。店長は事の収拾に右往左往しているとこだからな。 会ったついでに気になっていた質問をしてみる。 「そういやお前ら何でバイトなんてしてんだ。さっさとイタリアに帰ればいいじゃん」 「ボスガ山直スマデ待タナイトダメヨ。バイトシテルノハ日本デノ生活費稼イデルワケ」 「日本にい続けるわけはわかったけど、お前らマフィアだろ、バイトするほど金ないのか?」 いろいろ資金には事欠かないはずだ──白い粉売るとか、依頼受けてタマとるとか。 「何言ッテルネ、今ハ百年ニ一度ノ大不況ヨ? 組織ニ属シテレバ安泰ナンテ甘スギナ考エネ。全クコレダカラ土地持チノボンボンハ」 ため息をついて首を振られる。 そこまで言うことないじゃんよ。貧乏なのはウチも同じだし。 「で、順調なのか、バイト」 「OKネ。店長サン優シイシ、オ給料モ悪クナイヨ。胸ノ大キサデUPスルミタイ」 「いや、どういう基準だよ」 店の経営方針が皆目見当つかん。 あと、女チャンピオンがここで働いたら、不当に低い給与で労働基準監督署に訴えることになるだろうな。大草原の小さな胸。 「ボスモ山ガ治ルノモウスグダッテ言ッテルシ、ソロソロ帰レルヨ。ソノ時ハオ土産チョウダイネ」 「銃を乱射した相手に向かってあつかましいな。何か欲しいのでもあるんかよ」 「息子サンノwifeネ」 「俺の妻? ──ああ、れみりゃか」 「モラエル?」 「やらねーよ。何ちょっとしたプレゼントみたく言ってんだ。でもまたなんでだ?」 欲しがる理由がわからん。イタリアでは歩く肉まんがブームなのか? 「最強レベルノ兵器デファミリーヲ強化シタイヨ」 ああ、そういうことか。 確かにあれを超える毒ガス発生装置はそうないな。見た目も普通の幼女でどこにでも持ち運び可能だし。 そんなのと寝食を共にしている俺の立場については、あんまり考えないようにした。 「うー*」 れみりゃの顔を覗き込む金髪ビキニ。対する本人は膨れっ面でさらに俺の後ろに隠れる。 「れみりゃはここにいるんだどー」 ぎゅっと俺のズボンをつかんでつぶやく。小さいが強い宣言。 金髪ビキニが避けられている理由が何となくわかった。多分強引なスカウトでも掛けたんだろう。なら嫌われて当然だ。 「Oh、残念ネ。ソレナラ代ワリニ大和撫子ノ手料理ヲ持ッテクヨ。アレモカナリノ物ネ」 「あー、毒物的にな」 確かにあれを超える暗殺兵器はそうないわ。見た目も普通の料理で警戒心も持たれないし。 そんなのをしばしば食している俺の立場については、あんまり考えないようにした。 よく生きてるな、俺………………現実から目をそらそうとお膳の上に目を移す。 「へぇ、寿司か。いろんなのが載ってるな」 「本店自慢ノ品々ネ。バリエーション豊カヨ」 「うー、れみりゃも見たいんだどー」 背の低いれみりゃが何度もつま先立ちになってアピールし始めたので(さっきまで警戒してたのに、子供は気分屋だ)、金髪ビキニが膝をかがめて料理を見せる。 見た途端、れみりゃは「うぁー」と口を開けた。 驚くのもわかる。寿司さえほとんど目にしたことがないだろうに、ここにあるのは独創性そのものであると言っていい。載る物全てがだ。 一目見てどんなネタなのかわからないものがほとんど。わかるものでさえ、握り方・盛りつけ方が他とは一線を画す。 「この緑の太巻きは何だ?」 「コレネ。キュウリ&ビントロマグロヲアボガドデ巻イタヨ。上ニイクラヲトッピングシテアルネ」 「じゃあ、こっちの何か山盛りになってんのは」 「合鴨ノスモークシタノニ、タップリ玉ネギノマリネヲ載セテルヨ」 「このねっとりした緑の軍艦は?」 「モロヘイヤ&シソ&山芋ヲミジン切リシテネットリサセタネ」 「すげえ。よくまあここまでいろいろ考えつけるもんだ。……ん?」 れみりゃの「ぅおー」「あぅー」とか言ってる口を見ると、よだれが出まくっている。ベトベトに濡れ光っている様は、食いしん坊万歳。 やれやれだぜ。 ハンカチを取り出してふいてやる。 「部屋戻るまで我慢しろよ。思う存分食っていいから」 「うー! れみりゃいっぱい食べるどー♪」 「食欲旺盛でよろしいこった」 「Oh、タクサン栄養摂ッテ毒ガスヲ生成スルノネ」 不吉なことを言うな。事実だから否定できねぇだろ。 「チナミニ息子サンハ何ガ好キナノ?」 廊下を歩きながら金髪ビキニが尋ねる。 「何って言っても、食わないと味も予想できなさそうなんばっかで、な。──ああ、そのイクラなんか美味そうだな」 「ダメネ、ソコデ『俺ノ好キナノハレミリャ一択ダ』トカ言ワナイト」 「俺は受け狙いの芸人かよ?!」 「ギャグジャナイヨ。イタリアデハ愛ノ言葉ハ息ヲ吐クヨウニ言ウネ」 普通の受け答えをしろよ。コミュニケーション成り立たねぇだろ。 ──『関税ヲモット低クシナサイ!』『アイ・ラブ・ユー』 ──『移民ヲモット受ケ入レルノデス!』『オー・マイ・ゴッド! 君ノ瞳ハ薔薇ノヨウダネ!』 イタリアが世界から取り残されない未来を祈る。 「デモイクラニ目ヲ付ケタノハオ目ガ高イヨ。オメガ級ニ高イヨ」 「くっだらねえ。ギャングのギャグかよ」 「ソレモツマラナイネ」 「うっせぇ!」 「コノイクラノ軍艦巻キハ溶岩ガ流レル火山ヲイメージシテイルネ」 イクラがこんもりと盛られていて、こぼれそう、でなく、こぼれて皿の上に広がっている。清々しいほどの豪快さだ。 「んじゃ、俺はそれをいただこうかな」 食欲で胃がきゅっと震えるのを感じながら、俺はふすまを開けた。 「ゴク・ゴク・ゴク・ゴク……ぷふぁー!」 そこには一升瓶を掲げて飲み干す女チャンピオンの姿が。 やだ……なに、これ……。 「清々シイホドノ豪快サネ」 「豪快さがとてつもなさ過ぎるだろ!」 俺たちが二階に行っている間にいったい何があった?! 「飲みっぷりハンパねぇぞ! 一杯目が一升瓶って何だ?!」 「ア、ソレ二杯目ヨ」 「え」 見ると、女チャンピオンの手を離れ、テーブルの上にでんとそそり立つ瓶には『魔王』の文字はない。 貼られたラベルには大仰な毛筆で──『魔界への誘い』 「だから怖ぇよ! 名前が!」 加えて、そんな焼酎をストレートで一気のみというのも恐ろしい。 女チャンピオンは目元をほんのりと赤らめ、しかし恐ろしく目を据わらせて、言う。 「すみません、次の焼酎は『閻魔』で」 「またかっ、やめろって!」 『魔王』に『閻魔』に『魔界への誘い』と禍々しい品目そろえやがって。この場を地獄の最下層に変貌させたいのか。 「芋焼酎から麦焼酎に変えてみたのですが、いけませんか」 「そういう問題じゃねぇんだよ!」 「焼酎ダッタラ『鬼火』モオ勧メヨ」 「お前も煽るなよ!」 女チャンピオンは「ふぅ」と酒臭そうなため息をついて、「わかりました、でしたら植田さんに倣ってカクテルなどを」と提案。 ああ、気分転換にはいいかもな。和服美人にカクテルは乙な取り合わせだ。 「ブラッディマリーでお願いします」 「だからッッ!」 ブラッディマリーの名前の由来:16世紀、およそ300人の異教徒を処刑したイギリス女王「血まみれのメアリー」から。 不吉にも程がある。 「第一もう十分飲んだろうが。いい加減やめとけよ、水飲め、水」 「何を言っているのですか。どちらを見ても胸、胸、胸。おっぱいだらけです。巨乳の大洪水です。これが飲まずにいられますかっ」 いられるよ。お前以外は。 「うー、だったられみりゃの飲み物あげるんだどー☆」 無垢なる肉まんが純粋な善意を差し出す。しかしてその一品は、 「Oh、ソレハ店長自慢ノ一品、カレーシェイクノソーダ割リ・チェリー添エネ」 常識の領域を超えたもの来たコレ。 「チェリーハ梅酢ニ漬ケテ酸味ガ程良イヨ」 「味の想像がつかねぇ……」 というか、食感から何から何も想像できない。むしろこれこそが魔界への誘いなんじゃなかろうか。 ダメだ。こんなん飲んだら女チャンピオンが魔神と化してしまいかねん。 「もっと一般的なもの、普通のもん頼もうぜ。巨峰サワーとかさ」 「巨乳アワーですって……?」 「おいおい」 親父ギャグレベルの勘違いするなよ。そして殺意をみなぎらせるなよ。 「そうですか、今はふくよかな胸の時間、つまり私に出て行けと……。ならば互いの存続を掛けて決闘ですね」 「おっぱいで命を懸けるのはお前くらいだ。なあ、金髪ビキニ、早く出て行った方がいいぞ。いらんとばっちりを受ける」 「言ワレナクテモスタコラサッサネ」 いつの間にやら品々はテーブルに並べられ、お膳と共に金髪ビキニがふすまを閉めて出て行った。手際のいい退出ぶりだ。 女チャンピオンは愚痴り酒モードに突入している。 「持てる者は持たざる者の気持ちを理解すべきです。なのに! なんですか! なんなんですかっ、この格差社会の象徴はっ。こんな日本に誰がしたのでしょう!」 女チャンピオンの脳内では、おっぱいが社会問題化しているようだ。深刻だな、別の意味で。 「いつかやりますよ、私は。全国の貧民を集めてクーデターです!」 貧乳たちが全女性の胸を更地化するのだろうか。胸が厚くなるな。いや、薄くか。 気を取り直して俺の注文したドリンクを飲もうとする。テーブルの上を見渡したが、あれ? ない。ないぞ、有機トマトジュース。 ふと目を部屋の隅に移すと、饅頭二匹が、 「「ゴク・ゴク・ゴク・ゴク……ぷふぁー!」」 ツインストローでトマトジュースを楽しんでいた。 「ゆゆん、とってもゆっくりできるよ」 「おお、美味い美味い」 「てめぇら、それ、俺のだぞ!」 指差す俺に、れいむときめぇ丸は「ゆ?」「おお?」とこちらを見るも、またストローに口をつけて、ズズズズッと最後まで飲み干しやがった。 そして一言、 「ゆぅーん、この一杯のために生きてるね!」 すぐ死なせてやるよ。 ※ 座敷にいても全然落ち着けないので、予定を繰り上げて親父のところに行くことにする。 女チャンピオンの精神状態がやや不安ではあるが。 最終的には「こぶ取りじいさんって良い昔話ですよね……。私も悪いおばあさんになって、もいだ乳をくっつけてもらいたい、ふふふ……」などと、あっちの世界に行ってしまわれていた。 けど、ペット二匹に丸投げしとけば大丈夫だろう。まあ、大丈夫でなくても一向に構わん。むしろ死ね。 「うー、お料理の手伝いをするんだどー?」 れみりゃが聞く。顔がほころんでいる。 「ああ、面倒くさいけどな。れみりゃは違うのか」 「れみりゃはお料理好きなんだどー☆」 「そうか、そりゃいいお嫁さんになれるな。…………ぁいや、既にそうだったか」 「うー♪」 なんか墓穴掘ったような。 ともかく厨房へと歩を進めていく。確かこの先、うん、あそこだろうか。 暖簾(のれん)をくぐる。 「親父ー、いったいどんな具合……」 空中でジャガイモが弾けていた。ニンジンが砕け、玉ネギが破裂する。 フンドシ一丁の親父の拳や蹴りが、宙を舞う野菜に叩きつけられているのだった。 そのあふれんばかりのマッスル臭に、俺は「すみません、部屋間違えました」ときびすを返した。 「いや、ここで合っているぞ、息子よ」 瞬間、がっしりと肩をつかまれる。 「どうかしたのか? 何の変哲もない台所を見間違えるとは」 「変哲ありまくりだろーが! 何やってんだよ!」 ドラム缶のような寸胴鍋がたっぷりの水をたたえている。そこまではいい。 しかし、筋肉ムキムキのフンドシ中年が汗だくでそれを前にしていると、鍋が調理器具というより拷問用具に見えてしまう。 しかも、野菜をどうしてた? 「わからないか。農作物を美味しくいただくには、包丁という金属よりも己の肉体を用いるのが良い」 「どういう理屈?!」 「直接身体で触れあうことで野菜と対話するのだ。それで美味さを引き出す。全神経を使うので普段はしないがな」 そう言って脇のザルの縁を叩く。水洗いされた数本の大根が勢いで舞い上がった。 「はぁあああッ! ふぅんッぬ!!」 気合いと共にほとばしる筋肉の連弾。蹴りが一本の大根に入ると四つのヒビが入る。続けて拳がその四つに等しく叩き込まれると、それぞれが細かく砕けて(葉の部分にまで!)鍋に落ちる。一つの欠片も外にこぼさずにだ。 運動力学をまるで無視した調理風景に、俺は茫然自失そのものと化すしかない。 他の大根についても肘、膝、回し蹴りを数瞬で行った後、とどめの頭突きで食材を鍋に入れ終えた親父は「ふぅ」と軽く息を吐く。 「よし、これで全ての処理が済んだ。材料はほぼ野菜のみだからな、非常にヘルシーだぞ」 「……HELL死ー?」 「さて、次はダシを取るとしようか」 言うと、鍋の銀色に光る胴回りに両の手を当てた。 途端に視界がぼやける。いや、違う。親父の全身が超高速で微振動しているのだ。 何を、と思う間もなく、もわっ、と。寸胴鍋から白い湯気が湧いた。 え、さっきまで水だったよな? 「ど、どうなってんだ?!」 「何を驚いているのだ。水分子を細かく震えさせれば温度が上がる。理屈だろう」 「理屈じゃ人間にはできねぇんだよ!」 そんなんできたら貧乏揺すりであっちこっち火の手が上がるぞ。消防署が大変だ。 「ふぅむ、どうにも頭が固いな。我が息子には、へそで茶を実際沸かすネタでも見せておくべきだったか」 「見せなくてよかったな。トラウマになってたぞ」 「まあ、ともかくもダシだ。では、息子よ」 「何だよ」 「れみりゃと一緒に服を脱げ」 「は?」 「まぐわうのだ」 「はぁ?!」 「やれやれ、我が息子ながら困ったものだな」 なんで俺の方が物わかり悪い奴扱いされてんの。 全年齢対象のサイトでやっていいことじゃねぇだろが。石原出張ってくんぞ。 「いかに物を知らないお前でも『調味料のさしすせそ』くらいは耳にしたことがあるだろう」 「内容も知ってるよ。『さ』は『砂糖』で、『し』は『塩』だろ」 「その通りだ。そして、『す』は『酢』とくれば、『せ』は『セックス』だろう」 「何でだよ!?」 話がいきなり性行為にテレポートしただと?! 「意外そうな顔をするのがよくわからんな。おお、そうか、今風に言ったのがまずかったか。『せ』は『性交』や『接合』と言えば通りがいいな」 「横文字も日本語も同じだよ! ふざけたこと言ってんじゃねぇ!!」 「昔から言うではないか──愛は最高の調味料だと」 「上手いこと言ったつもりか?! じゃあ三分間クッキングは三分間ファッキングか? キッチンプレイ上等で、裸エプロン万歳か?」 「息子よ、公共の場で下品なことを言うものじゃない」 「こ、この親父……っ」 怒りで死にそうになる俺を意に介さず、親父は鍋へと顔を向ける。腕組み。 「聞き分けのない息子を持つと苦労するな。仕方ない。ダシは別のやり方で取るとしようか」 掛け声の「よいしょっと」の「と」で、並んだ両足が跳ねとんだ。親父の筋骨隆々とした肉体が腕組みした状態のまま、天井にぶつかりそうなほど宙を上がり、そして──ザッップーン! 鍋の中へダイブした。 「何ぃい?!」 「農作物と苦楽を共にしてきた農家から染み出るエキス。これ以上のダシはあるまい」 いろいろとねーよ! 「では、息子とれみりゃよ。お前たちも農家の一員としてエキスに加わってもらおうか」 「あほかーっ! どこの人食い人種の郷土料理だよ!」 「うー♪ れみりゃも野菜風呂に入るんだどー☆」 「ちょ、おまっ」 脱ぎ出すれみりゃを慌てて止めようとする。そこに肩をがっしりつかまれる。 「こら、息子よ、自分の嫁がやる気になっているのに水を差すものではないぞ。むしろお前も脱がねばなるまい」 「いいから離せ! ってか、脱がすな! パンツに手を掛けるな!」 「うー、すっぽんぽんだどー♪」 「れみりゃも脱ぐな!!」 と、そこへ植田さんJr.がやってきた。 「あの、お仕事中失礼します。料理の方はいかがで……」 彼が目にしたのは、スープまみれになったフンドシ姿の中年が少年にしがみつき、パンツを無理矢理引っぺがそうとしているところ。そしてその少年は、ほぼ全裸の幼女に抱きついていて…… 「ごゆるりと」 植田さんJr.は何事もなかったように出て行った。明らかな営業スマイルと共に。 「勘違いされた! 今ものすごく嫌な勘違いされた!」 「家族の団らんに水を差さないようにという気遣いか。細かい配慮のできる店主だ」 「関わりたくないだけだろ!」 「やれやれだな。分からず屋は放っておいて、私と一緒に鍋に入ろうか、れみりゃ」 「うー☆」 「な、ちょっと、」 待て、の言葉をいう間もなく、親父とれみりゃは仲良く鍋の中に入った。 「おい、こら、これ料理だぞ、人に食わせるもんだぞ。風呂か何かと勘違いしてねーか?!」 「まったく、我が息子は鍋と風呂の区別もつかんのか。これが料理であることぐらい一目瞭然だろうに。ところで、れみりゃよ、湯加減はちょうどよいか?」 「はービバノンノだどー」 「やっぱ風呂じゃねーか!!」 ※ 三十分ほど浸かった後、ようやく親父とれみりゃが鍋から出る。 「ふぅー」といかにも良いお湯だったと言わんばかりの息をつく。 「ずっと見ているだけではつまらなかったのではないか、息子よ」 「鍋に入れば面白くなれると思えるのがすげーよ」 二人にタオルを渡す。さっき借りてきたものだ。なお、店長には誰も厨房に入らせないようにと言っておいてある。名目上は「企業秘密だから」。 「では、ダシも取れたところで仕上げといくか。煮詰めていくぞ」 「またあの変態電子レンジか」 身体をふいた親父は再び両手を鍋に当てる。 ブゥ…ンンと、ブレる輪郭。さっきより音が大きく、動きが激しい。特撮映像みてーだ。 鍋から出る湯気の勢いが強くなった、かと思うと、ボコボコと沸騰し始めた。 段々と勢いが強くなっていく。次々と破裂する気泡から飛沫があちこちに散る。 中を見ると液体はどす黒く変色し始めていた。得体の知れない化学変化が起きているらしい。もう一度確認した方がいいのだろうか──これ、食い物だよな? 不気味に泡立ちながら液体の表面が渦巻き始める。ごぽっと一際大きな気泡が弾けたかと思うと、真っ黒なシルエットが浮かび上がってきた。角が生えている。 「我ヲ呼ビ起コス者ハ誰ゾ……」 「ふっんっ!」 「グフッ」 「おい、今何か変なもん召還しなかったか?! そして殴って追い返さなかったか?!」 「うろたえるな、息子よ。美味い料理を作る際には悪魔の一匹や二匹つきものだろう」 ねぇよ。三つ星レストランが邪教の館になんぞ。 ってか、さっきの悪魔だったのか。 と、再び大きな気泡が弾けて、角頭が浮かび上がってくる。 「グ、グゥウ……オノレ、賢シキ人間メ……ダガ、コレデ終ワッタト思ウナ……我ノ後ニハ第二、第三ノ……」 「れみりゃ砲発射」 親父が後ろ向きにしたれみりゃを肩に担ぎ、尻を標的に向ける。合図と共に、れみりゃが「うー!」と一発放屁。 ブゥォオオオオッ! 「グ、ギャァァァアアアァアア!!!」 断末魔の叫びを上げ、何だかおぞましぽかった存在は鍋の中に消えた。 屁が死因か。無念過ぎる。 こんな事態の後でも、何事もなかったかのように親父は快活に言った。 「さてこのまま温めつづければ完成だぞ」 産業廃棄物が? 「うー、スープが段々きれいになってきたんだどー」 「うむ、農家スープにあく取りは必要ない。全てを旨味として提供できるからな」 というより、全てがあくそのものなんじゃねぇのか。 だが、先ほどのどす黒さが嘘のように液体の透明度が上がり始めている。きらきらと金色の澄み切ったスープに変わりつつあった。食欲をそそる匂いまで立ち上り始める。 何だこれ。 ※ 「素晴らしい!」 海千山千とやらが開口一番、叫んだ台詞がそれだった。 お椀に入れられたスープ、その匂いをかいだ途端に顔色が変わり、一口すすった途端に立ち上がり絶賛したのだった。 「ワシはこれまでこのようなスープを飲んだことはない! 何と素晴らしいのだ、これは! 口の中で一つの革命が起こっておる!」 作られた経緯を知っている俺は内心冷や汗かきまくっていた。 革命か……無血革命であることを祈ろう。明日あたり全身から血を流して死亡とかあるかもしれんし。 周りを見やると、他の客やウェイトレスたちもスープを賞味している。寸胴鍋で作ったから量はたくさんあるのだった。 みんな口々に「美味い!」「最高ー!」「でらデリシャス!」などの賛辞を述べ合っている。 そこから悪魔が現れたとか夢にも思わないだろう。 だが真相は墓の中まで持っていくつもりだ。バレたら間違いなく保健所が駆けつける。ついでに警察と悪魔研究会も。 海千山千がうなった。 「うぅむ、それにしてもこの味はどうやって出せるのか。特にダシが他の凡骨とは違う。野菜中心なのはわかる。だが、それ以外の要素が──小賢しい、この山千を試そうというのかッ。むぅう……豚骨でもない……煮干しでもない……そうかッ、わかったぞ! 間違いなくこれは、桑の実だな!!」 親父と肉まんの汁です。 「うー、勝利のダンスなんだどー☆」 れみりゃが座敷に飛び込んでいって、テーブルの上で踊り始めた。 両の拳を胸の前で回して尻を振る、例のあれだ。 自らが関わった料理を大いに褒められたことが嬉しかったのだろうか。 大丈夫か、そんなことしてせっかくご機嫌になった大先生がまた癇癪(かんしゃく)起こすんじゃないか。そう思ったが、 「おお、これは和ませる。この店は舌だけでなく目と心も幸福にしてくれるとは」 海千山千はえらくご満悦だ。 店長の植田さんJr.も、 「そうでしたか。これが真のサービスなのですね」 と目頭を押さえている。周囲からは拍手が湧いた。 いや、ここ、感動するところなの? もしかして、明日から尻を振りつつ拳を回すウェイトレスが見られるようになるのだろうか。 この店の奇抜度がますますレベルアップする可能性に、俺はこめかみが痛くなった。 ※ 店内の喧噪を逃れるように二階より先の階段を上った。 どん詰まりの扉を開けると外気。夜の冷たい風が心地よく頬を撫でた。 「やれやれ。……ん?」 「おお」 足下にきめぇ丸。座敷にいたはずがなんでこんなところに。 細かく静かな音が外に広がっていた。きめぇ丸のやや後ろから先のコンクリートタイルが黒く濡れている。曇り空は雨空に移り変わっていたようだ。 視線を上げる。 視界いっぱいにでかい饅頭があった。 「ゆぅん、困ったよ」 普通車がすっぽり入るような口が気弱な声を吐く。 れいむだった。 何にもない屋上の空間を巨大な体積で埋めている。恐ろしくでかくなっていた。 「な、な、なんででかくなってんだ?!」 ドスまりさほどではないが、とてつもない大きさだ。これじゃあ店のディスプレイと思い違いされてしまう。ここは饅頭の店ではないし、さらし首をやる風習もない。 「ゆゆん、ちょっと涼むつもりでうっかりしていたね。れいむは水に触れると大変なことになるんだったよ」 グレムリンかよ。 ゆっくりの場合はどうも水を吸収してでかくなるらしい。そんなオモチャがあったな。 キモイ足が生えたこともあったし、なんてデタラメな生態だ。饅頭が活動している時点で今更だろうけど。 「でも本当に困ったよ。これじゃお兄さんに愛してもらえないし……」 「安心しろ。小さくても毛嫌いしてるから」 「ゆっ、そうだよ、お兄さんがデブ専になれば一発解決だよ!」 「さらりと恐ろしいこと言ってんじゃねぇ」 目の前のクジラ饅頭を解体してみんなに振る舞ってやろうと思ったが、そこでふと気がつく。 確かドスまりさがこっちに来ていて、マフィアの連中を見守っていたはずだ。 となると、外で雨に打たれているということに── 叫ぶ。 「おーい、いるかぁ? ドスまりさぁっ!」 瞬間、空が白くなった。 じゃなかった。 空全体がドスまりさになっていた。饅頭の底面が、あっちの地平線からそっちの地平線まで伸びていた。 「おお、デカいデカい」 「ビッグになっていってね!」 ゆっくり二匹がはしゃいでいるが、俺の口はあんぐり開いて物も言えない。 いや、ビッグとかデカいとかって範疇(はんちゅう)超えてるだろ。 これじゃ、生物とか物体とかの話じゃなくて、もはや天候として扱っていいんじゃないか。曇りのち饅頭。 ドスまりさが“ぐりんっ”と動いて下にいる俺たちの方を見る。 うげぇ、月がでんぐり返ったような感覚。 天体並の大きさの饅頭が眉を寄せて苦笑した。 「ゆへっ、ちょっと失敗しちゃったよ。面倒くさがらずにオリーブ油を塗っとくべきだったね」 「イタリアの防水はオリーブ油なのか。靴とか香ばしくなるんだろうな。あと、ゆへっとか可愛くないから」 吹っ飛んでいた意識をようやく取り戻し、突っ込んでやる。ついでに気になっていたことを尋ねてみた。 「ところで、ずいぶんとデブくなってるみてーだが、いったいどんくらいの大きさなんだ?」 ドスまりさはやや首を傾げて(それでもタイタニックが傾く以上の動きだ)考えていたが、やがて答えた。 「13㎞や」 なんで関西弁? おわり 毎回台詞回しやセンスが秀逸で驚く かなり不気味な(褒めてます)人間たちの空気の中で、ゆっくり達の可愛さがやばい でもれいむのふてぶてしさや主人公の反応がとても「らしく」て好き ちょっとまねできる人はいない気がする -- 名無しさん (2011-01-25 00 21 07) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/inmasaitan/pages/37.html
こいつ、吸いたくない時にぽん置きできるから便利よね - 名無しさん (2022-06-02 09 19 02) こいつ、吸いたくない時にぽん置きできるから便利よね - ななし (2022-06-02 09 19 24)
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『屁~音!5』 細かな振動と緩やかな横揺れを感じながら、座席に座りぼーっとしている。 枯れ草色と土色の混合した田園が、窓の外で後ろに流れていた。 こういう状況だと何をしていいかわからない。何もする必要はないといえばその通りだが、だからこそ困る。 普段だったら農作業や家事、れみりゃの相手などをしていれば、忙しさの内に一日は終わるのだ。 そういう生活の中では暇つぶしの仕方は身につかないわけで。 「ふわぁー」 大きなあくびをする。 目的地まではまだまだ遠い。電車の中の退屈とは長いおつき合いになりそうだ。クソ暇。 視線をずらす。俺の向かいのやや離れた席、電車の進行方向側。女チャンピオンが静かに座り、涼しげな目を外に向けていた。 同じ方向を見るが、やはりだだっ広い茶系の色彩があるばかり。 振り返って彼女の顔を見る。口元には薄い笑み。 ……何が楽しいんだ? 一時間以上もそうやってじっと座っているが、見えない明日でも見えているんだろうか。あるいはそれが風流を楽しむというということなのか。無骨な男には理解できん。 上の網棚を見ると、れいむがハンモックよろしく身体を預けてくつろいでいる。ゆったり、いや、ゆっくりしている。 穏やかに下方を見る目。ほころび緩んだ口。 普段はムカつく饅頭だが、そう大人しくしていると神棚に供えられた鏡餅のようにも見えて、どことなくユーモラスだ。 楽しげなつぶやきがれいむの口から漏れる。 「ゆふふ……下々の者どもを高みから見下すのは極上の気分だよ……」 ふむ、駅のゴミ箱って生ゴミOKだったっけ? 手っ取り早く窓を開けて不法投棄しようとも思ったが、視界にれみりゃが入る。 それはやめておくか。子どもの情操教育によくない。 三頭身の肉まんはさっきまで何度もジャンプしていたのだ。足下を確認しながら。 何をやっていたのかというと、移動し続ける電車の中で飛び跳ねれば後ろに飛んでいくのかを試していたわけだ。 慣性の法則など理解できるはずもなく、しきりに首を傾げていた。 今現在はイスの上にひざを載せて外を眺めている。 俺は立ち上がり一言言ってやろうと近づいた。 「れみりゃ、靴脱げ、マナーだぞ」 「うー、わかったどー」 れみりゃは素直に小さな靴を脱いで、床にそろえた。 電車に乗るのは初めてとのことだから、そこでの常識もわきまえてはいないのは当然だ。 同時に全てが珍しいのだろう。外を見る目は一心に見開いている。 よりはっきりと見るためか、窓に両手をついて顔面を押しつけることまでする。 ちょっとくらい近づいたところで景色は変わらと思うのだが、まあ微笑ましいので放っておく。外から見たら変な顔の豚まんになってるんだろうなぁ。 と、れみりゃが手を振った。ニコニコと朗らかに。 「ん?」 外を見やると、流れる景色しかない。誰もいない。 殺風景な田畑と曇り気味の空しか── そういうことか。 「おい、ドスまりさ!」 俺は窓を開けて上空に大声で叫んだ。 「ゆ、ゆゆっ?」 途端に現れる巨大な姿。宙に浮いた馬鹿デカい饅頭。全長90メートルのゆっくり、ドスまりさだ。 バルーンのように浮いているが、進む電車と併走している。さながら高速飛行船。動力源は不明だ。 戸惑いの表情で「な、何?」と聞いてくる。 「お前がぶっ壊した山の補修はどうした。まだ途中だったろ」 「ゆぅ、確かにそうだよ。だけど……」 うろたえながら答える。図体の割に威厳も何もないな。 「だけど、ドスのお友達が働いてるんだよ。ちょっと応援しにいきたいよ」 それだけ言って、すぅーっと溶けこむように消えてしまった。後に残る曇り空。 お友達って、あの金髪ビキニと黒服たちのことか? 働いてる? どこで、何のために、という疑問が湧くがドスまりさは既にいない。呼びかけても現れない。逃げやがった。 ふと、車内に目を戻すと、多くの視線がこちらに集まっていた。 まばらにいた乗客、その全ての注目を浴びていた。さっきまで気だるかった空気も、今やざわついていて落ち着かない。 「え、うそ、何?」「おっきかったねぇ」「CG?」「ドラマか何かかな」「じゃああの人、俳優さん?」「それにしては、ねぇ」「関係者には違いない」 あれこれ言葉が交わされている。 まあ、そりゃそうか。あんな異常現象を目の当たりにして平然としていられる方がおかしい。つまり、毎日ドスまりさと挨拶を交わし合う親父や俺の地元がおかしいのだ。 無関係を装いたかったが、今更そういうわけにもいくまい。迷惑この上ないが、一応の関係者としてこの場を収めないと。 ごほん、とせき払いしてアナウンスする。 「ああ、ええとですね、みなさん、大したものじゃないんです。さっきのでかい饅頭は、単なるイタリアンマフィアのボスです」 より一層大騒ぎになった。 ※ そんなこんなあったものの、ようやく目的の駅に着いた。 ぞろぞろと多くの人が夕闇の中を歩き回っている。変な感じだ。地元のど田舎じゃ、イベントでも無い限りこんな人間密度はありえない。しかし都会だとこれが日常なのだものな。 れみりゃは興味と不安とが入り混じった顔を辺りに向けている。右手ははぐれないように俺の手とつながれている。 「お父上はまだいらっしゃらないのでしょうか」 「さあ、どうだろうな」 「きめぇ丸もまだだよ!」 「だどー」 親父ときめぇ丸とはここで待ち合わせる予定になっていた。 しかし、いつ頃来られるものかまったくわからない。 俺たちとは同時刻に自宅を出発している。移動手段が違い、俺たちは電車が中心で、向こうは徒歩だ。 徒歩だ。 徒歩なんだ。 あまりのことに三度ほど頭の中で繰り返してはみたが、やはり現実感がない。電車で何時間も掛かる道のりを自らの足で行こうというのはどこぞの修行僧しかやらないだろうし、あえて文明の利器を活用しない理由が「交通費の節約だ」というのも意味がわからない。 きめぇ丸は「おお、付き合い付き合い」と付き合っていった。軽い散歩程度の扱いだ。 あんまりに気軽に事が進んでいたもので、大して話を詰めないままにしてしまった。 「こっちの到着時刻は伝えておいたんだが、向こうのは聞いてなかったな。まあ、だいぶ時間が掛かるようならほっといて行っちまおう。どこかで遭難しても親父ならサバイバルできるだろうし、むしろのたれ死んでくれた方が助か」 「待っていたぞ」 「うぉぅ!?」 無駄に圧倒的な存在感が斜め後ろに出現していた。 ごつい身体。いかつい顔。朗らかな笑み。キング・オブ・農家、親父だった。 「おお、遅い遅い」 きめぇ丸もいた。ブンブンとせわしなく左右に動いている。うぜえ。 「いや、まあ、親父の変態的身体能力は今更驚くことじゃないんだけどな、よく電車より早く来れたな」 「こちらは直線距離だからな。最短でやってこれる」 「いや、そういう問題か? それに直線だと山とかあったろ」 「普通に駆け抜ければいいではないか」 「小山じゃねえんだから……それに湖もあったはずだぞ。泳いだのか」 「それも普通に駆け抜けたが」 「は?」 「泳いだのでは時間の無駄だろう?」 「疑問はそこじゃねえよ。駆け抜ける? 水の上を?」 「簡単な話だ。右の足が沈む前に、左の足を出せばいい」 小学生の理論を実践すんな。そして成功すんな。 農家パネェ。 「もはや仙人レベルだな」 「何だ、我が息子は水の上も歩けんのか」 赤ん坊がハイハイから立ち上がるのとは訳が違うんだよ。 「そんなことではハザ干しもできんな。まあ誰にも不得手なものはあるが……。ふむ、きめぇ丸の方法で渡るのも手だな。そちらを試してみるか」 「何だよ」 「まず走ってきた勢いを殺さず、水面に対し水平に飛び込む」 「ああ」 「そのまま水切りの要領で飛び跳ねるという──」 「できねぇよ!!」 まともに聞こうとした自分が馬鹿だった。そんな豪快な腹打ち繰り返したら五臓六腑が飛び出るわ。 「おお、こんな所におったのか」 しゃがれた声に振り向くと、腰の曲がった老人の姿。人の良さそうなしわくちゃの顔。 「あー、植田さんだどー♪」 笑顔を弾けさせ、れみりゃが駆け寄っていく。 「おお、れみりゃちゃん、大きくなったなあ」 いや、昨日も会いましたよね。 植田さんはかがみ込んで、れみりゃを抱き留めた。 「うー♪ うー♪」 「よしよし、元気じゃ元気じゃ」 ニコニコした肉まんが腕の中でなで回され、さらににこやかになった。 いつもやられていることなのに、れみりゃはいつになくじゃれている。恐らくは慣れない電車旅に少しストレスがたまっていたのだろう。それが解放されたわけだ。 嫌な予感。 ばぶぉーっ! 巨人の産声のような音が突如上がった。れみりゃの尻からだ。 気の緩みが元栓の緩みにつながり、ガスの大噴出を招いてしまったのだ。 ※ 数分後、駅から離れたところで息をつく俺たちがいた。 発生地点から広がるようにバタバタと人が倒れていくのを遠目に見たが、いいんだろうか、当事者が逃げてしまって。 全員が息を合わせたように脱出避難したのだが、これじゃ駅で起こしたテロ行為からの逃亡者って形になるような。 実際、今頃駅内ではてんやわんやの大騒ぎだろう。 『毒ガスの発生を確認しました! お客様は落ち着いて係員の誘導に従って避難してください!』とかのアナウンスが聞こえるようだ。発生源の確認も当然やっているだろう。ここにいるわけだが。『不審な人物をお見かけいたしましたら速やかにお知らせください!』というアナウンスも流れるのだろう。ここにいるわけだが。 思案に暮れて頭を押さえると、女チャンピオンが慰めてくる。 「しかたありませんよ。もしあの場にとどまっていれば、みんなして昏倒していたでしょうし」 確かにそうだ。親父ですら耐えられない最臭兵器だものな。 女チャンピオンは「それに」と付け加える。 「れみりゃさんのことを説明するのは難しいですから。かなりややこしいことになるのではないでしょうか」 やっぱりそうだよな。ドスまりさの時もそうだったが、普通に受け入れらる方が異常だ。つまりは俺の地元のことだが。 二個の人面饅頭を扱っている女チャンピオンも色々気苦労があったのだろう。そこまでして飼う価値があるのかはともかく。 「まあ細かいことはいいではないか。肛門を拡張する必要があるぞ」 「どういう表現だ。普通に尻の穴が小さいって言えよ。あと、俺が細かいんじゃなくて、親父が大ざっぱ過ぎるんだ」 まったく上京したてでこれじゃあ、先が思いやられるぜ。 「それにしてもえらい素早かったのう」 「だどー」 「おお、速い速い」 さっきの逃走劇のことを言っているのだ。 「うむ、特に息子よ、植田さんを抱え、れみりゃをおぶってにしては、なかなかの足だったぞ」 「ゆゆっ、お兄さんは逃げ足しか取り柄がないからね! 全然ゆっくりしてないよ!」 「おお、狡(こす)い狡い」 どっかに焼却炉ないか。無性に焼き饅頭が作りたくなった。 「ところで植田さん。お店の方はこの近くなのですか?」 「おお、そうじゃった。すぐそこじゃよ」 女チャンピオンの言葉に植田さんが指を通りに向ける。 「ここを真っ直ぐ行ったところじゃ」 「駅前一等地にあるのですか。結構なお店ですね」 「いやいや、大したことありゃせんよ。そこそこ繁盛はしとるようじゃがのう。まあ、奮発するようには言っておいたわい。わざわざ来てもらったんじゃからの」 そう、俺たちは植田さんのご子息に招かれて、彼の経営している居酒屋へと向かっているのだ。 イタリアンマフィアに襲撃されたとき、行きがかりに植田さんを助けたのだが──曰く、大変恩義を感じている、是非お礼がしたい、とのことだ。律儀だな。 ぞろぞろと通りを歩いていく。 何だか狭さを感じるが、地元の道よりは明らかに広い。それでも窮屈を覚えるのは、両側に壁のようにそびえるビル群が圧迫感を与えているからだろうか。 汚さも原因の一つかもしれない。夕闇に光り始めたネオンの数々は綺麗ではある。が、よくよく見れば通りもビルも看板も薄汚れている。 いや、ウチのど田舎が清潔ってわけじゃない。年中土ぼこりと泥にまみれている。けれど質が違う。同じようでいて違う。こちらは排ガスと油と得体の知れない何かで汚れている。何か、こう、不健全だ。何となく。 やっぱり気分的なもんになるんだろうかな。田舎の人間だからこその感覚なのか。昔はそこそこ都会に住んでたのに、俺もすっかり地元の人間になっちまったんかね。 そんなことを考えながら歩いていくと、目の前が開けた。 「おお、広い広い」 きめぇ丸の言うとおり、ずいぶんと広い駐車場だ。バスが何台も駐車できるスペースだぞ、これ。 「ゆふふ、こっちこっちー」 「だどー☆」 早速れいむとれみりゃが追いかけっこを始めた。あー、子供とかペットってそうだよな、広場とか行くと。両者は笑いながらいくつか留められている車の間を巡っていく。 危ないぞ、と注意する前に、親父と女チャンピオンが極自然に抱き留めた。ナイス保護者&飼い主。 駐車場の広さに比例して、奥にある店もでかい。二階建てだが、幅がある。奥行きも相当に違いない。 赤い壁と木製の格子で飾られた窓が、ぼんやりした暖色系の灯りであちこちから照らされている。こういうのを何て言ったらいいのだろう。雅? 幻想的? 光の洪水の都市内にあってこの存在感はすごいな。 「もしかして、結構な高級料亭?」 居酒屋と聞いていたから、もっとこぢんまりしたものを想像していた。実物は気後れするほどのたたずまい。これ、ほんとに入っていいのか。うーむ。 「気ぃ遣わんでいいぞ。ただ楽しんどってくれればな」 植田さんはそう言うが、もし和服を着た品のいい女性にもてなされたら、慣れない雰囲気にドギマギしちまうのは容易に想像できる。落ち着いて食えるのかな。飯ってのは俺の中で日常の範囲を出ないもんだ。 ……いや、プリン尽くしとか毒物100%とかが日常になってるだろ、とツッコまれたら何も返せないが。 ウィイーィン 格子戸風の自動ドアが横に滑る。内側に垂れた暖簾(のれん)を植田さんの小さな身体がくぐり、続いて「おぉい、着いたぞい」の声が外に漏れてきた。 少しの間をおいて植田さんの頭が現れる。 「じゃあ、入っとくれ」 「あ、それじゃ」 恐る恐る足を踏み入れる。途端、 「「「「「いらっしゃいまっせー!」」」」」 一斉にハモる女性群の声々。さらに周囲に群がり視界を埋め尽くす胸、胸、胸。おっぱいの大群。 「な、な、な、な……」 「何です、これはっ!」 一際大きな声に店内が静まる。女チャンピオンの怒声だった。 「こ、こ、こんなハレンチな……」 怒りで伸ばした指先が震えている。 確かにハレンチと言えばそうだ。周りの女性──ウェイトレスということになるんだろうか──の服装は、たとえば公共の往来ではとてもさらすことのできない代物だった。 一応和服としての体裁は整っているが、和服と呼ぶことは決してできない。 まず帯より下の布地が圧倒的に短い。袴(はかま)とかスカートなども身につけていないため、当然太ももが丸出しになっている。足袋(たび)に雪駄(せった)をちゃんと履いているのがかえって艶めかしい。 しかし何より一番目を引くのが胸元だった。大きく開いており、豊かに膨らんだ双丘が白いビキニに包まれて存在を主張していた。 お座敷パブか、ここは? 「申し訳ありません。驚かせてしまったようですね」 そこへ現れるタキシードを着込んだ男。背は高めで髪をオールバックにしている。えらくハンサムだ。 「父がお世話になったということで、ありがとうございます。お礼が遅れてしまい、失礼いたしました」 礼儀正しく挨拶をする。すると、この男が? 「おお、こいつがわしの愚息じゃ。ここの店長をやっとる」と植田さんが紹介する。 そうか、彼が…………似てないな。数十年後にこうなりましたと紹介されても誇大広告扱いだろう。それくらい似てない。 余計なお世話か。 「あなたが店長さんですか!」 女チャンピオンが食ってかかる。えらい剣幕だ。 「このようなみだらな服装、だらしない胸、許されると思っているのですか! あまつさえふらちな胸元、大きな乳房……っ」 主にバスト関連のクレームかよ。確かに軒並みDカップ以上はあるようだが……自分が貧乳なだけで、ここまで巨乳に対する恨みが募るものか? 両親をおっぱいに殺されでもしたんだろうか。 対して、店長は落ち着いて言葉を返した。 「いえ、まあ、多少奇抜ではありますが、これがうちの制服でして。お客様からも多大なる好評のお声をいただいております」 確かにその筋には熱烈に支持されそうだ。どの筋かの言及は避けるが。 「それに地域の皆様からも愛されているんですよ」 そんな地域で大丈夫か? 「OH! 皆サン、来テタノデスネー」 聞き覚えのある声に振り向くと、見覚えのある顔。イタリアンマフィアの金髪ビキニだ。 ここの奇天烈な制服を着ている。ただし水着は白でなく、いつもの星条旗をあしらったものだ。ポリシーなのか、それ。 金髪ビキニは巨乳ぞろいの中にあって更なる大きさを張り出しつつ、青い瞳を快活に見開いている。 「ああ、ここで働いてたんか。ドスまりさが言ってたのは」 「Yesネ。ボスガ応援シニキテクレタヨ」 「あーそうか。あいつ、もう帰ったのか?」 「一応最後マデ見守ッテクレテ、帰リ送ッテクレルヨ。外デ浮カンデルネ」 姿を消しているのだろう。店の上空には見あたらなかった。 「バイトしてるのってお前だけなの? 他にもいたよな、仲間」 「ミンナモ一緒ニココデ働イテルネ」 「そうなのか? ……ああ」 ショッキングな女性群に目を奪われて気づかなかったが、よくよく見るとあちこちで例の黒服が動いている。そのまんまの服で働くのもどうかと思うが、大らかな店なのかな。あるいはタキシードと似たようなもんだと判断されたのか。 「そうですか、あなたも……ここで……」 地の底から響いてくるような声。見れば、女チャンピオンの両の瞳には地獄の業火が燃えさかっていた。 かつて与えられた乳房に関する屈辱が蘇り、今回の件に倍率ドンしたのだろう。 そこまで憎悪するか──でっかいおっぱいを。 「大和撫子モ来テタノネー。サービススルヨー」 そんな女チャンピオンの内情など意に介さず、大きな胸を揺らしながら近づいてくる。歩くだけでうごめく、驚異の胸囲。 「ほ、ほほぉ」 まずい、女チャンピオンの口角がぷるぷると震えている。胸はまったく震えてないのに。 「サア、ミンナ、大和撫子ヲモテナシマショウ!」 勢いよく金髪ビキニが声を掛けると、はーい!と女性群が女チャンピオンを取り囲む。 そして開いた胸元を顔に近づけ、腕を寄せて谷間を強調し、上体を振って柔らかな揺れを見せつけまくる。 何というサービス。何という身体を張ったもてなしっぷり。 けど、あまり挑発しない方がいいんじゃないかな。殺意の波動に目覚めてもフォローできんぞ。 「く、くうぅう」 女チャンピオンが両手を握りしめ、歯を食いしばっている。必死に怒りと嫉妬心を抑えているのだろう。 ここは我慢するしかないのだとわかっているのだ。親父とタメを張るほどの戦闘力を備えているが、暴れる大義がまるでない。私怨だしな。さりとて視界を埋め尽くす乳の大波に、打ち砕かれるプライドの破片が堪忍袋の緒に傷を付け続ける。 そして、最終的に彼女が取った行動は── 「れいむ、きめぇ丸」 つと、おもむろに二匹のペットを呼び寄せる。 「一緒にお手洗いに行きましょう」 「ちょっと待て」 饅頭二匹を連れ立って奥に向かおうとするのを、俺は止めた。 詰め込む気満々じゃねえか。そっちのが問題なファッションだ。 ※ ウェイトレスの服装やサービスも珍妙なものだったが、案内された座敷も似たものがあった。 一見落ち着いた普通の和室に見えるのだが、どことなく違う。 木製の机の足は中央が膨らんでいて、彫り物がしてある。確かギリシアの何とか様式ってやつだ。 明かりは、中に蛍光灯を仕込まれた行灯(あんどん)と提灯(ちょうちん)によってもたらされたものだが、模様や書かれた文字は中国のものだ。 掛かっている絵は女性の描かれた水墨画だったが、どこかで見た人物と構図だなぁと脳内を検索してみたら、何とモナリザだった。 何ともハチャメチャだが、全体としてみると奇妙な統一感がある。すげえオリジナリティだ。 こうなると出てくる料理の方に期待と不安が高まってくる。 が、心配の方は杞憂みたいだった。 お通しはゴマ豆腐。上に球形に整えられた練りワサビと紫タマネギの一輪、山椒の葉が添えられている。 美的センスもさることながら、口の中に入れたときも──どう表現したらいいものなのか──とにかく美味かった。まさに期待以上。 「ふむ、素晴らしいな」と親父の感心の声。珍しく同意だ。 「おお、美味い美味い」 「最高の餡子の味だね!」 「プリン美味しいどー☆」 いや、料理変換するなよ。台無しじゃねえか。 「お口に合いましたようで光栄です」 ふすまが開いて、植田さんJr.が現れた。給仕は店長自らがやってくれるそうだ。その心遣いがありがたい。 何より、これ以上巨乳を見せつけたら世界を滅ぼしかねない輩が約一名いるし。 「ではご注文はお決まりでしょうか」 「うむ、それなのだが、料理についてはお任せしよう」 「よろしいのですか?」 「一皿食してわかった。この店の料理は、食材から調理、盛りつけに至るまで、寸部の隙もなく完成されている。ならば、任せておけば、仕入れた食材の状況や客の好みなどを考慮した最適のものが出されるに違いない」 植田さんJr.は頭を下げた。お任せという親父の提案に誰も異論はない。 「良かったのう。農家王にここまで誉めてもらえるなんぞ滅多にないぞ」 「はい、店を開いてこれほど嬉しかったことはありません。ありがとうございます」 親父ってそんなにえらかったのか。農家王という称号は有名なのか? ともかく最高の誉め言葉をもらって店長は感激していたようだった。目の端に光るものも見える。 俺も口には出さないが、料理の質は相当のものだと思う。いや、「口に出さない」じゃなく「口に出せない」だな。表現できるだけの能力を俺は持たない。それだけの味だった。 「ゆゆっ、最高の餡子だったよ!」 「プリン美味しかったどー☆」 お前ら、黙ってろ。 「では、お飲物はいかがいたしますか」 「うむ、それについては個々人で決めるのでよかろう。私は日本酒が良いな。端麗辛口が好みなのだが」 「それでしたら『十四代』の大吟醸で『双虹』はいかがでしょうか」 「ではそれをいただこう」 「かしこまりました」 親父は日本酒が好きだったのか。普段家では飲まないし、村内の会合とかでは出されたものをそのままかっ食らってるから、好みとかあったとは知らんかった。 「じゃあ、えーと植田さんは何が良いですか」 俺はメニューを開いて見せる。 「わしか? わしはそうだな、ソルティドッグをもらおうかいの」 カクテルとは恐れ入った。しかもコップの縁に塩が付けられた変わり種だ。 「ずいぶんハイカラな物、頼みますね」 「これでナウなヤングがフィーバーじゃろ?」 「イケイケです」 よくわからんが。 「で、そっちはどうする?」 さっきから押し黙っている女チャンピオンに水を向ける。 その雰囲気は暗い。重い。怖い。正直話しかけたくない。 やがて静かな、だがどことなく絞り出すような声が答える。 「そうですね、私は焼酎で……」 「何に致しますか」 「……今の気分にふさわしいこの銘柄をお願いします」とメニューを指さす。 「かしこまりました。『魔王』ですね」 何その禍々しい酒。そして魔王気分って何だ。 無理矢理気にしないことにする。気にしたくない。 「じゃあ、俺は有機トマトジュースで。れみりゃは何がいいんだ?」 「う? うー……うー……」 「あれ、まだ決まってないのか」 いつになく優柔不断だ。いや、やむを得ないことなのかもしれない。これだけの品目の多さだと目移りする、というだけでなく、そもそもジュースなど飲み慣れてない。普段飲むのは日本茶か麦茶くらいだ。選べるはずもない。俺だって「楽しむためだったらどの鉄道がいいですか」と路線図広げて聞かれても、選ぶことなんてできやしない。同じ理屈だ。 「こっちもお任せにするか。店主さん、子供用に美味しいやつお願いします」 「かしこまりました。カレーなどいかがでしょう」 「飲み物だぞ?!」 どこの芸人だ。 しかしれみりゃが「カレー大好きだどー♪ うー☆」と喜んでいるので良いことにした。一種独特の店だからそういうのもあるのだろう。何が出てくるのか怖さ半分、面白さ半分。 「んで、お前らはどうする」 残りの饅頭二匹に尋ねると、れいむは「別にいらないよ!」と言う。 「何だよ。何も飲まないのか」 「ううん、有機トマトジュースを飲むよ」 「俺と同じかよ。じゃあ追加で」 「違うよ! ストロー二本でお兄さんと飲むんだよ」 「はい?」 饅頭顔を見るとポッと頬を赤らめる。きめぇ。 きめぇ丸は「おお、お熱いお熱い」とはやす。うぜぇ。 「いや、お前、俺のことしょっちゅうおちょくってるよな? 好意なんて微塵もないよな?」 「女心がわかってないね、最近流行のツンデレってやつだよ! だから店長さん、ハート型のツインストローをゆっくり持ってきてね」 ふざけんな。いっちょ前に饅頭が盛ってんじゃねえ。 「かしこまりました」 「かしこまっちゃうのかよ!?」 このサービス精神旺盛な店め!! ──結局、れみりゃと同じ物にしてもらいました。……疲れる。 ※ ジュンサイと千切りの山芋が添えられたもずくの酢の物。 それぞれのシャキシャキした歯ごたえとぬめった舌触りを爽やかな酸味と共に堪能し、次の料理と飲み物を待っていると、 「ん?」 ふすまの向こうが騒がしい。いや、先ほどまでも声や音は聞こえてきたのだが、質が違う。 朗らかで楽しげなものでなく、怒声混じりの剣呑なそれだ。 耳を澄ませていると「こんなものが食えるか」「料理人を呼べ」などの声が。 あれだけの料理に文句を付けられるヤツがいるのか。どんなクレーマーだ。 「ああ、もしかして」と植田さんがつぶやく。 「あの人が来たんかもしれんのう」 「あの人?」 「すまんが、親父さんにちぃと助けてもらわんといかんかもじゃ」 「私でよければ何でもしましょう」 「ありがたいのう。それじゃあ来てくれるかい」 そう言って植田さんと親父は出ていった。 後に残された俺たちはきょとんとしている。 植田さんの口振りからすると、誰が来たのか、そしてどんなトラブルなのかが予想できているようだった。で、親父が手助けできるようなことらしい。 何だろう。 全裸の筋肉ダルマがクワ担いで「ここを開墾させろ!」と殴り込んできたとか。それなら親父にしか対応できまい。 ──いやいや。 我ながら馬鹿らしい想定に首を振りつつ、立ち上がる。 野次馬根性丸出しだな。しかし猫を殺すと言っても好奇心には勝てないもんで。 後を付けていくことにする。「うー♪」とれみりゃも付いてきた。 緑色の廊下を進み、木製の階段を上がる。 騒ぎの中心はすぐわかった。二階の奥の座敷。 多くの従業員がふすまの中を覗いており、何人かの客もそこに加わっている。テーブル席に座ったままの客すらそちらに目を向けている。 しっかし、ここからの声だとするとだ、階下にふすま越しで飛び込んでくるくらいだ、どれだけ大きな声なんだよ。 と、さっそく怒声が破裂した。 「このようなものを食べにきたのではないのだ! 以前の驚きをもう一度味わいに来たのだッ! わかっているのかッッ!」 うわ、マジにでかい。ふすまがビリビリ震え、数人の巨乳ウェイトレスが耳を押さえている。れみりゃに至っては、頭のキャップを両手で引っ張り、かがみ込んでしまった。 「ああ、ほら、怖がるな。雷じゃないから」 雷と言えば雷だけどな。 にしても何だ。中にいるのはジャイアンか? リサイタルでもやってんのか。騒音が近所迷惑この上ない。 ううむ、と植田さんがあごを撫でる。 「いつか来るとは思っとったが、まさか今日来るとはなあ。嫌な予想は当たるもんじゃ」 「誰です?」 「有名な料理評論家。知っとるじゃろ?」 「いや、テレビ見ないもんで……。新聞なら読むんですけど」 「海千山千(かいぜんざんち)ちぅ名前なんじゃが」 すげえ名前だ。どこの戦国武将だ。 そういえば、んなような名称をテレビ欄で目にしたかもしれないな。いずれにしても有名人には違いない。 で、その有名人はどんなイチャモンつけてんだろう。 ふすまをそっと開けて中を覗くと、和服姿の中年がいかつい顔をさらにいかつくして怒鳴っている。どっしりとした身体が仁王立ちで、結構な迫力だ。 「確かにこれらは美味い! だが美味いだけだ、驚きがない! かつてのワシはここで確かに食べたのだ、感銘を受けるほどだった! それがなぜ出せんッ? これでは何の代わり映えもないではないかッ!」 当たり前だろ。同じ物出てりゃ感銘も驚きもねぇよ。お前は毎朝米食ってびっくりしてんのか。無茶苦茶だな。 対する店長の植田さんJr.は冷静に対応している。が、第三者の視点としては一方的にやられていて見るに堪えない。 「申し訳ありません。店員一同努力しているのですが、お客様の口に合いませんでしたら、お代の方は結構ですので……」 「そんなことを言っているのではないッ! 馬鹿にしているのか! ワシを誰だと思っている。海千だぞ、海千山千なのだぞッ!」 知らねーよ。 これ、早いとこ警察に引き取ってもらえんかな。ほとんど気狂いピエロじゃねぇか。 「失礼いたしました。代わりと言ってはなんですが、これから女性の従業員によりますサービスをさせていただきます」 いや、それはやめとけ。 余計火に油を注ぐことになるぞ。まあ、あの胸に料理を盛りつけて食べさせるというのなら……いやいや。何考えてんだ、俺。 と、そこに植田さん(父)がちょこっと座敷へ顔を出し、そっと手招きする。 Jr.が「失礼します」と席を外してこちらへ滑り出してきた。 「何ですか、お父さん」 「災難じゃのう。話には聞いとったが、まさか今日来るとは」 「ええ、以前テレビのインタビューでうちのことを話していまして、その時にいずれ行くようなことを行っていたのですが……すみません、迷惑は掛けるつもりはなかったのですが」 「お前のせいじゃありゃせんよ。それで、あちらさんは何を要求してるんじゃ」 「聞いての通りです」 手でふすまの向こうを示し、困り顔をする。 「一度店に来たときは絶賛で、それで評判になったんじゃがなあ」 「ええ、お陰で繁盛しました。しかし……」 「方針としては、今までと変わらぬ味を提供ということじゃものな。なのに、無茶言いおるわい」 二人が話す間も、高名らしい料理評論家は高らかに気を吐いている。やかましいことこの上ない。 「さあ食べさせるのだッ! 一味も二味も違うものをッッ!」 三味線でも食ってろ。 「それでな、あるプサンがあるんじゃが」 プランです、植田さん。 「追い返すのも面倒じゃし、この店のやり方では満足できんというなら、この際別の人間に料理を作ってもらうというのはどうかな?」 「別の人間、ですか」 店の料理人とは違う人間にやってもらうというわけか。しっかし、ご都合主義にいるものか? しかもただ料理が作れる奴じゃダメだ。無駄に舌の肥えたキチガイを満足させられる程の料理、そいつを作れる奴だ。 「うー、それなられみりゃの出番だどー♪」 右手の握り拳を高々と掲げる肉まん。 なんと頼もしい──わけがない。 「いや、お前はプリンしか作れないだろ。この前もプリンの漬け物とか食わされたし」 「息子よ、まだまだ愛妻に向ける目が甘いな。目に張り付いたウロコを角膜ごとはがしてやろうか」 「余計に見えなくなるだろ! ……で、何だよ、親父。れみりゃがどうしたって?」 「れみりゃは実は密かに料理の腕を磨いていたのだ。お前を驚かせ、満足させるためにな。今ではプリン以外の物も作れるようになったのだ。一品目増えたぞ」 「何……だと……」 そりゃ驚きだ。どんなレパートリーが追加されたんだ? ゼリー? それとも茶碗蒸し? 「うー♪ れみりゃが作れるようになったのは、インドのパンなんだどー☆」 ナン……だと……。 「そういうわけで、これからはプリンを塗ったナンを食べることができるわけだ」 「うー♪」 「いや、結局プリンかよ!」 意味ないじゃん! 植田さんが片手を振って話を遮る。 「まあまあ、れみりゃちゃんには今回休んでもらっての、農家王の手を借りたいんじゃ」 「えっ?」 ある程度予想はしていたが、親父が料理するのか? いや、マジで? 「わかりました。お安い御用です」 「ええっ?」 「ありがとうございます。お任せします」 「えええっ?!」 親父があっさり了解し、店長も即答だった。どういうことなの……。 「おい、親父、料理なんてできるのかよ。家じゃ大したもの作ってなかったろ」 「プロの料理人が自宅でも満漢全席や懐石料理を出すわけでもあるまい。任せておけ、農家たるもの食材の扱い方も一流でなければな」 「納得しかけそうになるけど、全然事情が違うよな、それとこれは」 良い食材“を”作るのが農家で、良い食材“から”作るのが料理人だろ。 しかし懐から子供出したり、みぞれを避けながら走ったり、米俵を両肩に担いでマフィアのアジトを潰したりするのが農家なら、そんなことは些細な問題かもしれない。 農家の存在自体が大問題なんじゃねぇかって話だが。 「さて、ではさっそく料理用の着替えを済ませておこう」 着替え──白衣か、もしくはエプロンか、と思ったが、違った。 その場で親父は気合いをこめる。 「……ぬぅうぅううん! はゥアッ!!」 バボォン! 爆裂音を立てて親父の服が弾けた。またかよ、世紀末脱衣! ゴミが散るから普通に脱いでくれ。いや、脱ぐこと自体が困るのだけども。 衆人環視の中、フンドシ姿となった中年筋肉男が自信たっぷりに白歯を光らせる。 「植田さんにはれみりゃを可愛がってもらったり、妻との間を取り持ってくれたりと大きな恩があるからな。ここは一肌脱ぐべきだろう」 脱ぐ前に着ろ、とりあえず。 視覚的かつ雰囲気的に公共良俗に反するので、実力行使で思いっきりマッハパンチでも噛まして退場させようかと思ったが、 「たのもしいのぅ」 「神々(こうごう)しい。農家王とはこれほどまでに神々しいのですね」 「さすが農家っ!」 「おれたちにできない事を平然とやってのけるッ」 「そこにシビれる! あこがれるゥ」 なぜか周りの人たちは絶賛だ。「ありがたやありがたや」と両手を合わせる人もいる。 えーと、つまり、何だ、俺の感覚こそが変なのか、何なのか。 価値観の世界からのけ者にされた感じで、凹む。 ※ 次ページへ
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「ですが、ご心配は無用です。相手は言わば札付きの悪党なのでしょう? それならば、」 違う。両手の下には白い札が一枚ずつ。臨戦態勢だ。 「それならば、負けはありません。私、札をとるのはお手の物です」 「殺る」と書いて「とる」か。敵に回すと恐ろしいが、味方にするととんでもなく頼もしい。 しかし、それだって四丁の銃相手。やれるものだろうか。 金髪ビキニが(本物の)巨乳を揺らしつつたしなめた。 「No、No、大和撫子傷ツケタクナイヨ。他人ノモメ事ニ首突ッ込ムノハ無シネ。OK?」 「いいえ。私には因縁があり、そして一宿一飯の恩義があります。故に無関係とは程遠い。あなたに恨みこそありませんが──その胸、切り取らせていただきます」 結局私怨じゃねーか。 っていうか、気にしすぎだろう。たかがおっぱいが真っ平らな程度、へん平足と変わりないとは思うのだが。 身近な女が肉まんしかいねぇから、女心はよくわからん。 「大和撫子、現実見エテル? アナタ素手、コッチ銃。勝チ目ナイヨ」 俺としても同意せざるをえない。確かに素手というのは明らかに勘違いで、掌中の札は弾丸に匹敵する刃物と化す。が、それだって圧倒的不利だ。弾丸を落とされた男が金髪ビキニの言葉を訂正しないのは、それをよく認識しているからだ。 両手で札を飛ばし弾丸を防いでも、二つしか対応できない。残りの二つに対しては無防備だ。 それに金髪ビキニを含めて機関銃構えてるのが二名。詳しい性能はわからないが、基本的に機関銃てのは一分間に500から1000発発射するんじゃなかったか。一発程度止めたところでどうにもならない。 ならないはずなのだが。 チャンピオンは恐ろしく不敵だった。涼しげな顔に笑みが切れ目を入れる。 「試してみますか? 私はいつでも構いませんよ」 そこには揺るぎない自信が座していた。 金髪ビキニののどが、こくり、と鳴る。 引き金に掛かった指先は動かず、言葉すら出なかった。 理屈では自分たちの圧倒的有利があるはずなのに、本能が否を唱えているのだろう。 俺も同じだった。 さっきまで濃厚に見えた敗色が、もはや想像もできなくなっていた。 何が何だかわからないが、勝つ姿しか思い浮かばねぇ! 金髪ビキニが奥歯をかみ締めたのがわかった。奴らにもプライドがある。いくら精神の奥深いところで警報が鳴り響いていようが、尻尾を巻いて逃げるなどできるわけがない。 叫ぶ。 「Let sファイア!」 だが、銃声は起きなかった。 代わりにうめきがあがる。四者四様の。 内二人には手に札が突き刺さっていた。 一瞬の出来事だった。 「おわかりですか」 左右に翼のごとく広げた腕を戻しながら、チャンピオンは静かに述べる。 「いかに手数・弾数があろうとも、勝負を決めるのは最初の一手。ならば、そのせつなを争う競技、その頂点にいる私が、負ける道理もありません」 王者の貫禄だった。 背中から下りたれみりゃが、パチパチと拍手している。 「すげぇ……。けど、どうやって二枚しかない札で四人一遍に?」 残りのマフィアには何も刺さってない。が、引き金を引けない程度の負傷はしているようだ。痛みに顔をしかめている。 女チャンピオンは新たな札を取り出し、構え、注意深く相手をにらみつけながら答えた。 「札を飛ばす動作で同時にカマイタチ、つまり真空の刃を作り、飛ばしました。左右で一つずつ、合計二つです」 ああ、確かにそれで札の二枚と合わせて、四人を攻撃できるわけだ。……しかし、素手で真空作って自分は大丈夫なのだろうか。滅茶苦茶だな。今更だが。 「さて、既に勝負は決したわけですが、どうします? 息子さんといたしましては、これだけのことをされたのです、やはり乳をもいでおかねば気が済まないでしょう」 「やはりじゃねーよ、やはりじゃ」 俺をダシに私情全開とは、まったくいい性格だ。 他人の胸気にする前に、自分の胸取り外しとけっての。 そんな心の声が無駄に天に通じたのか、前触れなくハプニングが起きた。 「あっ?!」 女チャンピオンの胸部に内蔵されたゆっくりが、ずるりと滑り、腹部へ落ちたのだ。激しい動きで固定しきれなかったのだろうか。 「でっぷりしていってね!」 「おお、太い太い」 饅頭の言う通り、腹が大きく膨らんでいる。「ナイスなボディだな」から「サイズが布袋様」に変化してしまった。……ちょっと苦しいか。 れみりゃが喜んで、「タヌキさんだどー。ポンポン、ポンポン、うー♪」と腹つづみを打つ。 女チャンピオンはいつもの冷静な態度はどこへやら、可哀想なくらいうろたえている。 「なっ、いっ、いえ、これは違う、違うのです。これは豊かな胸が魅力的過ぎて、ふいに妊娠してしまっただけですっ」 言い訳になってないし、むしろ余計に一大事じゃねーか。 ってか、慌てるのはいいがTPOをわきまえてくれないと…… 「形勢逆転ネー」 ほらな。 金髪ビキニ他三名が銃を構え直す。 唯一の戦力が無力化したら、そりゃあそうするだろう。誰だってそうする。俺もそうする ついでにタイミング悪く、荒々しい足音がたくさん近づいてきた。他のマフィアたちが合流したようだ。 あっという間に十数人に囲まれた。 「……完璧にチェックメイトってとこか」 「Yes、飛車ト角ガ山ホドアッテモ逆転無理ヨ」 そりゃ将棋だし、盤が飛車角で埋まる将棋ってのも豪快過ぎだが、ともかくどうにも負けってことだ。 女チャンピオンはさっきから「これは私の胸……これは私の胸……」とうわ言のようにつぶやき続けている。それが胸だったら究極の垂れ乳だろ。いい加減誰もだまされてないと伝えるべきだろうか。 しかし、仮にチャンピオンが使い物になっていたとしても、すき間無く包囲されているこの状況では打つ手は無いに違いない。 手持ちのコマはなく、手詰まり。負けだ。 くそっ、と吐き捨てようとしたその時、聞き慣れた声が山にこだました。 「甘いぞ、息子よ。こんな名台詞を知らないのか。『飛車角が無ければケーキを打てばいいじゃない』!」 知らねーよ。将棋盤ベットベトになんぞ。 ゴッ! 目の前を突風が過ぎ去ったかと思うと、さっきまで前方に並んでいたトレンチコートが全てなぎ倒されていた。 何か高速の飛行物体が……と思ったときには、後方のマフィア達が吹っ飛び、地面に転がった。 ガッシッ! 小気味いい音の方向に、日焼けた筋骨隆々の腕。一本のクワが力強く握られている。飛行物体の正体だった。 ただの農具で十数人のマフィア、そのほぼ全てを倒した。こんな無茶ができるのは、言うまでもなく── 「覚えておくといい。こういう事態も想定して、クワはこの形状なのだ。有事には武器、すなわちブーメランとして使えるようにな」 「いや、流石にそれをブーメランと見るのはショベルカーを耳かきと見るくらい難しいというか、そもそも想定した事態が理解不能というか、民明書房というか、まあともかく──親父!」 「イエス、アイアム!」 親父だった。敵の親玉を叩きにいくと言って別れたのが、ようやく合流したのだ。最強の農家、ここに見参。 「ん? すると敵の頭はもう倒したってことでいいのか」 「まだこれからだ。おお、れみりゃ、怪我一つ無いようだな」 「だどー♪」 「まだ? 何だそりゃ。じゃあどうしてこっちに来たんだよ。ってか、よく俺らの居場所わかったな」 「造作もないことだ。一流の農家は五キロ先で落ちた十円玉の臭いをかぎとれる」 「すげぇな! けど、せめて聴覚使えよ」 「とはいえ、そうでなくとも見つけるのは容易かったがな」 「え、そりゃどういう──」 「おっと」 親父が持ったクワを振り上げる。一名のトレンチコートが構えた機関銃が弾き飛ばされ、それは持ち主のあごをしたたかに打ち、こん倒させた。 「そちらも動かないことだ」 唯一立っているマフィア、金髪ビキニに対してクワを突きつける。「Oh……」の言葉と共に、上がりかけた銃口が再び下を向いた。 「もはや勝負は大将同士の一騎討ちというところまで来ている。局面を見据え、分別をわきまえるのは、農家ならずともレディーとしての振る舞いだろう」 農家関係ねえ、とは思ったが、親父の言葉は功を奏したようだ。金髪ビキニは軽くため息をついて、諦観の笑みを浮かべた。一時休戦。俺の肩の力も自然緩む。 と、金髪ビキニのアメリカ国旗に包まれたその両胸に、左右二本の人差し指が突き立てられた。 「Wow!」 「女チャンピオン?!」 「ふ、ふふ……ついにやりました」 和服の女性が低く不気味に笑うのはとても怖い。真っ黒で重いネガティブオーラをまとっているのがさらに怖い。 ってか、大和撫子と呼ばれてた女が、局面を見据えず、分別をわきまえないってのはどうかと。 「今あなたに突いた秘孔は、暗黒百人一首が秘技の一つ。全身の気を暴走し、胸から放出させるものです。当然胸を覆う衣服は破れ飛び、結果乳房の露出した相手はしゅう恥に震え、戦闘不能になります。ふふふ、恨むならばその無駄な巨乳を恨みなさい……」 うわぁ、最低だ。 完璧逆恨みの本人もさることながら、そんな技を開発した暗黒百人一首の流派もひどい。これが大和撫子及び日本文化とか思われたらすごく嫌だ。 ん? でもあれか。これはもしかすると読者サービスになるのか? ……いやいや、何を考えているんだ、俺は。でも、しかし。 脳内で理性と男の本能が争ういとまもあらばこそ、秘孔の効果が発動した。 ボバッ! 音を立てて、衣服の胸部が弾け飛ぶ。 親父の衣服が。 「おぉ、これは驚きだ」 「いや、そっちかよ!」 どういう原理だ。意味わからんぞ。バタフライ効果か何かか。 「いやはや、思いも掛けないところで読者サービスしてしまったな」 「どの層の?!」 農家フェチの方を馬鹿にする意図はございません。あしからず。 「む、無念……です」と、女チャンピオンは失意のまま意識を失った。おっぱいの暗黒面に堕ちた者の末路か、あわれな。 親父は、胸の部分が破けた大胸筋丸出しルックのまま、あごに手をやった。 「さて、落ち着いたところで話を元に戻そう。敵の親玉だがな──上だ」 「は?」 見上げる。 しかし、茂った葉と曇った空、それしか見えない。 「どういうことだ、誰もいないじゃねえか」 「そうかな、れみりゃには見えているようだが」 「何?」 れみりゃに顔を向けると、こっちを見返して「うー♪」と笑った。つまりは、そうなのか? もう一度上を見る。 しかし、やはり、何も見あたらない。暗い頭上があるだけだ。 親父が声を上げた。 「さあ、もう姿を隠していても意味がないぞ。現れ出でよ、ドスまりさッ!!」 クワを上空に放り投げた。高速で回転する農具が、枝葉を弾き、灰色の空へ吸い込まれたかと見えたとき──それは起こった。 ズボッシャガァアーーーーーーーーーンンッ!! 閃光。そして、耳をつんざくような爆音がとどろいた。暴風が全身を叩く。激流にもまれるような草葉や土ぼこりを腕で防ぐ。れみりゃは俺の背中の陰だ。 一体何が始まった?! 直にそれらは収まり、落ち着く。が、上を見て驚いた。 空が広がっている。頭上を覆っていた森が無くなっていた。数々の樹木の上半分が吹っ飛んでいる。 「は? 何?」 「ドスまりさのドススパークだ」 理解の追いつかない俺に、親父がさらに理解不能な説明をする。 「え、と、ボスパルダー?」 「それは昭和50年代のアニメ『ブロッカー軍団IVマシーンブラスター』の主人公機だ。息子よ、マニアック過ぎてわからんぞ」 わかってんじゃんよ。 「ドススパークというのはドスまりさの吐き出す光線だ。見ろ、あれを」 「いや、まずドスまりさってのがよくわからな……うわぁっ?!」 親父の指差す方向を見てビビった。 近くの山が不自然な形になっている。というか、えぐれてる。円弧の形に大きな空白ができていた。 まさか、さっきので? 地形を変えるほどの威力ってか?! どんだけだ! 「ゆゆっ」 声がした。 聞き慣れた声のような気がした。 「そうだよ。これがドスの力だよ。わかったら、ゆっくりしないで早く降伏してね」 ああ、そうだ。れいむの声に似ている。あいつの口調について、ふてぶてしさをやや弱め、少しテンポを間延びさせるとそっくりだ。 鈍く光る天空に、うっすらと、だが次第にくっきりと、何か巨大な形状が現れてくる。 球状の、下膨れた、眉根を寄せた得も言われぬ笑顔……だけ。 頭だけの姿。 「って、ゆっくりかよ!」 「うむ、ドスまりさはゆっくりの一種だ。どうだ、初めて見る感想は」 「すごく……大きいです……」 思わず敬語になってしまうほどに大きかった。 結構高い位置に浮いているはずなのに、視界いっぱいにそのデカ頭が埋まっている。 ウェーブのかかった金髪に、白いリボンが付いた三角黒帽子を被っていた。表情はまんまれいむだが。 俺の言葉を聞きとがめたか、ドスまりさとやらが口をとがらせる。 「ゆむぅ、レディーに大きいなんて失礼だね。ドスは9000センチもないよ」 約90メートルじゃねーか。シロナガスクジラ三匹分かよ。 「先代ノボスガ子供ノ頃ニ出店デ買ッテキタヨ。ソフトボールノ大キサカラココマデ成長シタネ」 丹誠込め過ぎだ。 生き物飼うっていうレベルじゃねぇぞ。 「ソレデ先代ガ亡クナッテ、跡ヲ継イデボスニナッタネ」 「饅頭がマフィアのトップに?!」 玉のような子供が成長して親玉にってか。いったい何の冗談だ。 確かにあんなにでかけりゃ暗殺の心配もないだろうが。 「ボスノオ陰デ万事上手クイッテルヨ。丸ク収マッテルネ」 ……球体なだけにか。 そこにドスまりさが口を挟んだ。 「ゆんゆん、ドスはドスだよ。ボスじゃなくてドスだよ」 「Oh、ドスガボスデスネ」 「ドスはボスじゃなくて、ボスがボスだよ」 「ボスハドスデスネ」 どっちでもいいよ。 「思った以上だな」 親父が感心したように言う。 「ドススパークの威力だけではない。かなり離れた場所にありながら、こちらの声を聞き取ることができるとはな。さらに、こちらが聞き取れるだけの声を発することもできる。優れた身体能力を持っているな」 「同意だが、親父も走りながら同じことしてなかったか? まあともかく、あいつ倒せばこのドタバタも終わりってことでいいのか」 「先ほどの口ぶりからすると、本人は親玉であることには異がありそうだがな。実力も信頼もあるし、まあ責任感もあるから、結局は実質的にボスということだ」 「ふぅん。で、親父はあの巨大饅頭を追ってきたわけか。こんなに時間食ったのは追いかけっこでもしてたんだろ?」 「いや、何もしてなかったが?」 「おい?」 「誤解するな。戦いから離れていたというだけだ。人目に付かないところで滝に打たれていたのだ」 「おい!」 その間に死にかけてたんだぞ、ふざけんな! 「ドスまりさは姿を消すことができる。そうなると、ゆっくりにしか見ることができなくなるのだ。それでも見ようとするのであれば、一切の煩悩を取り払わなければならない」 「む……じゃあ滝に打たれたのは、それでか」 「無心になるのは久しぶりだったもので、ずいぶんと手間取った。危険な目に遭わせてしまって済まなかったな」 「…………ちっ」 事情と謝罪を率直に言われると、責める気になれなくなる。 「にしても、よくドスまりさが親玉だってわかったな。始めから滝目指してたわけだろ」 親父が家を飛び出してから走った方向には、くだんの山深い滝があるのだ。 「気配は感じていたのだ。朝から我が家の上空にでんと浮かんでいるのはな」 「そうだったのか。全然わからなかった」 「自然と一体化している状態だからな。しかし、風の息づかいを感じていれば、十分に気配があったはずだ」 「できねーよ」 ジェダイ・マスター並の要求すんな。 「ドスまりさはゆっくりの中でも特にゆっくりしたことを好む。しかし、銃を乱射する者たちが近くにいるにも関わらず、その場を離れようとしない。ならば、その関係性はすぐ連想できる。そして、マフィアの幾人かの意識が上に向けられ、それは明確な敬意を帯びていたから、恐らくは中心的存在だと推測した」 「わからないでもないが、結構な度合いで憶測入ってるんじゃ? それで戦線離脱されたんじゃたまらねえぞ」 「農家の勘は外れたことがない」 やっぱジェダイか何かの存在になってるぞ、農家。 近い未来、ライトセーバーで田畑を耕す光景が見られるかもしれない。激しく嫌だ。 しかし、思い返すに、ドスが近くにいたことについては、確かにそれを示唆する出来事はあった。 例えば裏口でれいむときめぇ丸が上空を見て「ゆっくりしてるよ」「でかいでかい」とつぶやいていた。 例えばれみりゃが森の中、しきりに上を気にしていた。 あれらはドスまりさの姿を視認していたがゆえだろう。 「それにしても驚いたぞ。滝行を終えて遠くを見やると、お前たちの気配がある所と寸部違わぬ上空にドスまりさが浮揚していたのだからな」 遠くの気配を感じられるそっちのが驚きだが、俺はそれで合点がいった。 他のマフィアと同じく、ドスまりさは親父を捕そくすることをあきらめ、俺とれみりゃをターゲットにしていたのだろう。ずっと上で監視していた。だからこそ、ゆっくり二匹は俺たちの居場所を推測できたのだろう。 マフィアにしても同様だ。ドスまりさの姿は見えなくとも、何らかの合図をドスまりさが送ることは可能だ。それなら道に迷わず、正確に追跡してこられる。 そこまで考えて、ふと気づく。もしかして…… 俺はドスまりさに呼びかけようとした。 「ボスハドスデスネ」 「ドスはドスだよ」 まだやってたのかよ。 「おい、ドス」 「ゆっ?」 茶番に言葉を差すと、すぐにこちらを向いた。空いっぱいに広がる人頭が、地上のちっぽけな呼びかけに反応する様は、何だか変にそわそわする。ともかく聞きたいことを聞いた。 「お前、もしかして俺らを助けたりなんかしたか? 自由落下中にさ」 「ゆゆっ、お兄さんよくわかったね。危なそうだったから、ドスの舌で包んだんだよ」 「ボスハ中身ガ餡子ダカラッテ敵ニ対シテモ甘過ギネ」 「うー、ありがとうだどー☆」 「ほほお、そんなことがあったのか。流石はゆっくり・オブ・ゆっくり。『気は優しくて力持ち』だな。……ん、どうした、息子よ。なぜ暗く沈んでいる」 俺はどんよりした心の中でお袋にわびていた。 幼き日、優しく抱かれた思い出を、饅頭のベロに巻かれたことと混同してしまった。失礼に過ぎる。 俺自身の精神的ダメージもでかい。ほんのり感動した出来事が、黒歴史に変ぼうしたのだ。そりゃ落ち込んで当然だろう。 「ドスはあんまりケンカしたくないよ。だから、お兄さんも助けたけど……だけど、みんなが負けるのはもっと好きじゃないよ。だから、おじさんには降参してほしいよ。しないなら──」 天空に広がる口内に、光が生じる。ドススパークの前兆か。 「ソウネ、早ク参ッタスルトイイヨ。私サクット終ワラセテ、イタリアニ帰リタイネ。日本トッテモ寒イヨ」 今更だが服を着ろ、ビキニ女。 しかし、ドスまりさはここに来てマフィアのボスっぽいことをしてきたな。穏やかに見えて、ずいぶんと威圧的な要求だ。 山を吹っ飛ばすほどの攻撃、食らえばどうなるかなんてわかりきっている。 いや、それでも親父なら対抗できるのだろうか。 いつもの無意味に自信たっぷりな表情を崩していないのだ。 機関銃が平気なら、と考えるのは安易だろう。ドススパークは対戦車ロケットすら比較にならない威力を持っている。まともに向かって勝てる相手じゃない それでも親父なら……親父ならきっと何とかしてくれる、……のか? どうなんだろう。 バッ、と。 突如親父が、五指を広げた手を、ドスまりさのいる天に向けて突き出した。そして、高らかに声を上げる。 「ドスまりさ破れたり!」 は? なぜに宮本武蔵的台詞が? 「今のお前は自分をゆっくりしていると思うか!」 「ゆ、ゆゆっ?!」 ドスまりさが明らかに動揺している。 あー、そう言えばそんな設定があったな。『ゆっくりはゆっくりしていることに最大の価値を見出す』だったか。 ゆっくりしてるっつーのがどういう基準なんだかよくわからないが、まあ少なくとも殺ばつとした雰囲気とは間逆だろう。脅迫を仕掛けてきたドスまりさはあんまりゆっくりしてないというわけだ。むやみに自然破壊してるし。 親父は言葉を続ける。 「そして、今この場で一番ゆっくりしている者は誰かな?」 「ゆっ……ゆゆっ……」 ドスまりさは言葉に詰まる。しばらく口をもごもごさせていたが、やがて押し出すように言った。 「ゆぅ……おじさんが一番ゆっくりしてるよ」 マジで?! ゆっくりの基準がわからねえ。知ってんのか、親父はかつて両肩米俵にふんどし一つでイタリアを走破した男だぞ? ついでにそのままお前らのアジトつぶしたんだろうが。 「ふふ、そうだろう。今の私はゆっくりそのものと言っていい。全てから解放されている状態だからな。率直な言い方をすれば、ノーブラ・ノーパンだ」 いや、おかしいだろ! っつーか、ブラしてたら怖いよ! そしてパンツはけよ! それを人前で宣言するって、人間の尊厳とかから解放されてどうすんだ! 息子の心の叫びをまるで意に介さず、親父は決着を明らかにした。 「では、この勝負、大将同士の決着につき、農家の勝利ということにする!」 「ゆゆっ、仕方ないね」 「誠ニ遺憾ネ」 勝っちゃったよ。マフィア側も納得してるし。 何度も命を落としかけた戦いが、そんなんでいいのか? 甚だ疑問だが、ハチャメチャなイベントが早々に終わってくれるなら、もう何でもいいような気になっていた。 「では勝者から敗者への要求をさせていただく。まず、ドスまりさは山の穴を埋め直してもらいたい」 「ゆっくり了解したよ」 「次に、その他のマフィアの者たちだが、私の家族や無関係な人間を危険な目に遭わせたその罪、万死に値する」 「Oh……」 「しかし、奇跡的に誰も傷ついていない。ゆえに受ける罰は軽いものにしておこう。選出した三名が、我々と三日三晩寝食を共にすることだ」 「Really? ソンナノデイイノ? 焼ケタナイフデ生皮ハグトカ、サビタノコギリデ手足切ルトカシナイノ?」 グロっっ! しねぇよ、絶対! 常識疑われるわっ。 と即思ったが、考えてみると屁で空を飛んだり、クワをブーメランのごとく使ったりする時点で、常識などどっかに行ってしまっている。日常生活は遠い彼方か、なんてこったい。 だからこそっつーか、わかってねえんだよな、金髪ビキニ。 俺は異邦人の甘さにため息をつく。本当にわかってない。 俺たちの生活がどれほどの荒行かってことを。 ※ 昨日の曇天が嘘のように、今朝の空は青く澄み切っていた。 裏口の後ろ、家の中では金髪ビキニ他二名が、土下座して謝っている。 まあ当然だろう。晩飯に最悪毒物出された上に、起床はガス圧で屋外に射出されるんだから。で、さらに朝飯。目覚めたというのに悪夢が襲い来る。これじゃもう許しを請うしかない。勘弁してくれ、もうお家帰りたい、と。 しかし、親父は中途半端は嫌いだから、無理にでもあと二日、地獄の生活を共にさせるだろう。彼らが精神崩壊に至らないことを祈るばかりだ。これ以上マフィアに恨みを持たれても困るしな。 俺はというと食事する雰囲気でもないので、事が落ち着くまで外の空気を吸いに出たのだ。 大きく伸びをしようとして、その手が止まった。 「あ?」 目の前。 ドススパークに大穴を開けられた山。その欠如が埋められていた。巨大饅頭がすっぽりはまることによって。 俺のいぶかしがる目を感じたか、そいつは「や、山ぁー」と鳴いた。 「……何やってんだ、ドスまりさ」 「ゆ、ゆゆっ。ドスはドスじゃないよ、山さんだよ」 元通りに山を補修するのは大量の土石が要る。即日それを用意するのは不可能だから、自らの体で応急処置を施したつもりなのだろう。心掛けは殊勝とも言える。しかし。 無理のある擬態に加え、意味不明の鳴き声まで披露したドスまりさに、俺は思いっきり突っ込んでいた。 「お前のような山ぁがいるか!」 おわり 親父本当にトラブル起こしてばっかだなw もっとやれw -- 名無しさん (2010-05-08 18 28 37) 今回ゆっくりの出番少ないかと思ったら、すっごくでかきのが居たw農家パネェ チャンピョンのお姉さんとれいむきめね丸コンビがお茶目過ぎて可愛い。 -- 名無しさん (2010-05-10 23 42 31) キャラに魅力がある話でした 人間キャラもゆっくりもキャラが立ってていい 個人的には女チャンピオンとれいむきめぇ丸がお気に入り PADネタ妊娠ネタは笑ったw -- 名無しさん (2010-05-13 00 16 14) 名前 コメント