約 410,453 件
https://w.atwiki.jp/toho_yandere/pages/473.html
偶像として崇められる存在は 偶像を崇めすがる事も出来ず 愛おしい存在をただ 見下ろし続けるだけ 神は強く 何よりも 儚い虜囚。 魔界。 その場所の一つ、凍りついた世界で。 「神綺様……」 夢子はつかず離れずの距離から、一人の女性を見守っていた。 「…………○○ちゃん。久しぶりね」 魔界の創造主、神綺。 曇った笑顔を向けながら、彼女は鏡の様な氷へと語りかけていた。 氷の中には何もない。誰も居ない。 だが神綺は、其処にその”○○ちゃん”が居るかの様に話し続けた。 「――あの時と変わらない気持ちのまま。今でも貴方が……」 氷の壁へとそっと口づけて。 「…………好き」 艶やかに、音を立てて唇を離した。 「消える事の無い感情が、今もこうして私の世界に存在している。 氷漬けにして、忘却の彼方へと捨て去ってしまえば、 どうにでもなるものと思っていた。 ……でも、自分で否定してるって事はね。 それだけの強い想いを、無意識に自覚するって事でもあったから。 だから、この氷が溶けて、溢れ。 零れ落ちるのも……時間の問題だったって。 今は分かる気がするの」 ――それがただの片想いでも、と呟き。 氷の壁は無情のまま、彼女の姿を写し出したまま、其処に在り続けた。 神綺の伸ばした指先が、その氷壁の先へと触れるまで。 ○○という人間を好きになる、偶然の気まぐれ、理由なんて無い。 でもそれには好意に至る経緯が必要で、 必然たる運命があるべきで、 相応の理由が、求められるべきだった。 その過程をすっとばすのは、恋愛には良くある事。 けれども、それが人間同士ならば兎も角、神からの一方的な寵愛だとしたら。 ましてや、別世界。魔界の神で、彼女はその創造主だ。 障害の無い筈の世界。その住人への想いは、障害がありすぎた。 「――本当に見ているだけでよろしいのですか?」 「ええ。……あっ、見て見て。鳥に餌を与えてるみたい。 ふふ、何様のつもりでやってるのかしらね……やっぱり、かわいいなぁ」 いつの日かの、会話。 「ご命令下されば、私が……」 「あはは、○○ちゃんったらつっつかれちゃってる! 鳥に馬鹿にされ……って餌が欲しいんじゃないよ、ほら、早く逃げなきゃ。 だからそうじゃないって……あははは!」 「神綺様!!!」 魔界から彼をただ見ているだけの彼女に、夢子は黙っていられなかった。 「……何かしら」 「ですから、私が出向いて、あの方を――」 神綺は悲しい目をして、夢子の方を振り向いた。 さっきまでの明るい声とは、まるで正反対の顔をして。 「彼には人としての生があるから。 彼は”私を知らない”から、私は何もして上げられないし、する事もない。 ……出来ないわ。不可能では無いかもしれないけど」 夢子は黙って首を振る。 「しかし、それでは神綺様は――」 「片想いでも、想えるだけ――私は幸せよ。 嫌われないし、彼に迷惑をかける事も無いから。 私を理由に彼が襲われない訳が、出来ないという事も無いでしょう」 ……それに、と神綺は呟いて。 「あの人の想いを、私が受け止められても―― あの人が私の想いを受け止められるか、分からないもの」 その命を奪ってしまうかも知れないからと、吐き捨てる。 想い人へと向き直る神綺の表情に、陽がさす事はない。 陰る心は満たされる事は無く、その痛みに耐えられずに ――神綺は記憶ごと、全てを閉じ込めていた。 自分の世界の一つ、氷の壁の向こう側に。 魔界の神に、信仰など必要は無かった。 信仰が欲しいならば自らの手で創り出せば良いのだから。 信頼も、友愛も、愛慕も、心を寄せてくる相手も。 それで全て事足りると。 ……その人と出逢うまでは、きっとそう思っていた。 (私を知らないあの人に) (私は何もして上げられない) (世界が違う) (知識が違う) (認識に隔たりがありすぎて、私には見ている事しか出来ないまま) (あの人が私を知る事も無いから) (一方的に私だけが知りすぎたままで) (想いだけがただただ募るばかり) (溢れるかえって、今では毒の様に) (私の胸を苦しめている) (あの人の性格も、行動も、考えも) (その体も――) (出逢いが無いと言うだけで、こんなにも全てが遠くに感じられる) (だから) 氷壁の向こうから流れ込むそれを、神綺はただ冷たく受け止める。 (……嫌いになって上げられなくて。 ……忘れてしまう事が出来なくて) ひび割れてゆく氷壁に、目を伏せながら。 (私の世界の子じゃない、貴方に。こんなにも身勝手な神様で……) (ごめんなさい) 何故、今になって―― 付き添っていた夢子は、それを眺めながら思っていた。 あれから○○の事を完全に忘れさり、 それに携わるものには一切近付いてもいないというのに。 ――完全に氷壁の崩れる音と共に。 夢子は神綺のその表情を、見てしまった。 唇の端から血を流し、全てに絶望したようなその目を。 「……罪の無い者に、罰は与えられない」 「……だからこれから私がする事は ただの独り善がりな暴力よね…… ○○ちゃん」 ――そう、これは暴力だ。 誰かも言っていた。 魔女であれ、神であれ。人外の類であれば妖怪に違いない。 また誰かも言っていた。 人も妖怪も神も、等しく違いなど無いと。 ……そう、それはきっと愛する事も一緒。 その人間を喰らおうと、浚おうと、殺そうと。 そうする事でしか愛を表現できない妖怪がいる。 その人間に驕り、騙して、狂気の片鱗を見せる事でしか。 想いのたけをぶつけられない妖怪がいる。 力を誇示し、支配し、報復を強調する事でしか。 気持ちを示す事の出来ない、人や神もいる。 (罰でもなんでもこじつけでもいい。 貴方を連れて行く理由が欲しかった、でも――) (僅かな業も、その心に抱く罪悪も。 貴方が知らぬ、私が裁く事は出来ないから) 「ごめんね……○○ちゃん。私もあんまり変わらないみたい」 ぎぎぎ。 ○○の上に馬乗りになって神綺は、その首を絞めていた。 真夜中の一室で○○は、顔も見えぬ知らぬ存在に襲われて、ひっしにもがく。 もがき続ける。 圧倒的な力を感じて尚それが無駄だと知りながら、 生きようとする本能のままに。 (……初めて貴方に触れる手が、初めて貴方を殺す事になるなんてね) ――ぎりっ。 殺意の込められていたその手は、柔らかく暖かかった。 軽い音と一緒に、首からその手が離れると、そのまま腕で○○を抱きしめた。 ○○の呼吸が、ゆっくりと小さくなっていくのを惜しむように。 包み込む様に、愛情を注ぐ様に優しく。 (……これで) 神綺は○○の体から抜け出た小さな灯の様なものを浮かべ、そっと手に取った。 (輪廻転生の輪に、貴方を渡さなくて済む……) 力無く、抜け殻同然の○○を抱えたまますがるようにもう一度抱きしめて。 自らの禁と領分を越え、やっと触れる事のできたその体は何よりも冷たく…… 今度は心だけでなく、その体までも。 ○○と一緒に凍り付いて、囚われてしまったかのように、動かぬままでいた。 (私の気持ちなんか受け止めてくれなくてもいいから ただずっと……ずっと一緒に……○○ちゃんと……) 月明かりに照らされた彼女の服の色は 普段よりもどす黒く赤い血飛沫に染まり ○○の布団の横には、常用していた薬の袋 家の外には鮮血の池に身を沈めた大鎌の女性。 ふと、願った事があった。 もし将来があるなら、その出逢えた筈の”誰か”と出逢いたかった、と。
https://w.atwiki.jp/toho_yandere/pages/460.html
長編の前のおやつに神綺様好きが書いてみた。 「○○が、死にました―」 「・・え?」 突然だった。 自分の部屋で休んで居た神綺に夢子が告げた言葉。 彼女がそれを理解するのには、かなりの時間を要した。 そして、一言。 「殺してくる」 重い口調で、そう告げた。 「いやぁ~こりゃ良い死体が手に入ったってもんだ! 今日のあたいはついてるねぇ」 お燐は○○の死体を運びながら鼻歌を口ずさみ上機嫌だった。 「お燐、それってついさっき死んでた人間の死体? ただの人間にしか見えないけど・・何処が気に入ったの?」 空が興味無さそうに尋ねる。 「こいつはただの人間じゃないってあたいの勘が言ってるんだよねぇ。 なんて言うか…そう。神々しいっていう感じ? そういう匂いがするんだよ!」 「ふ~ん…。ね、ね!一口でいいから頂戴よ!」 「駄目駄目!こいつはこれから立派な怨霊にしてやるんだから! お前につまみ食いなんかさせちまったらこいつの神様っぽい匂いが 落ちちまうかもしれないじゃないか!」 「む~」 「それにしても、この人間ついてないね。 多分間欠泉の一つが落とし穴みたいになってて、それに落ちて死んだんだね」 「なら、私のおかげじゃない。ね、一口で良いからさ」 「だーめ!」 くぐもった 声。 「そっか…あんた達か…」 「「え?」」 「私の○○を殺したのは…」 可愛らしかった服の赤さは その返り血で黒く染まり 白く美しかった銀の髪は 服よりも濃い赤い返り血を浴びていた。 「・・ひっ!お、お燐、逃げよう!何かこいつ、やばいよ!」 「ち、違うよ!○○って誰だい?!あたい達は―」 ズブリ。 嫌 な 音が した。 空が横を向くとお燐の背中から 何 か が出ていた。 それは 何? い や。 いやだ。違うよね? お願い、夢なら覚め― ゴトリ。 「○○…ああ、○○ッ…!!」 何かが切れたように、神綺は泣いた。 先程までの見た者を恐怖させる表情とは一変し ○○の死体を抱きしめ、子供のように泣きじゃくった。 「ううっ・・ヒッ・・グスッ・・うぇぇっ・・!!」 涙が止まる事はなく、神綺は泣き続けた。 その泣き声は、地霊殿全てに響き渡り、三日三晩止まる事はなかった…。 「○○…」 神綺の腕の中に○○は居た。 「お腹が空いたのかしら?それとも、遊びたい?」 優しい声であやす様に○○をベッドに降ろすと 遠くに居た子供を呼び、一人こう呟いた。 「○○を殺した責任がなかったとしても…貴方達には付き合ってもらうわね」 呼ばれた少女達には、猫耳と、烏の翼。 「ままー。どうかしたのー?」 「きっと、あたいとあそびたいのさ!だよね、おかーさん?」 「ちがうよー、ままはごはんのじかんだからよんだんだよー」 「あんたはさっきからたべてばっかりじゃない!」 「うにゅ・・じゃあおやつ?」 「それいがいにないのか!」 「うふふ・・じゃあ、ご飯を食べたら皆で遊びましょう?ね、○○?」 「あ、○○ずるいー」 「○○にはあたいがご飯食べさせてあげるねー」 (○○…今度こそ幸せになってね…この新しい世界で…) 神綺は魔界に戻る事はなかった。 地霊殿の奥深くで彼女を見かけたという話もあったが、定かではない。 確かめに行った者達も 二人の少女と、一人の女性が大切な何かを守るかの様に襲い掛かって来る為 とても近付く気にはなれなかったのだと言う。 そして―月日は流れ。○○が大人になった頃。 「ねぇ、○○。あなたは今、幸せかしら」 「突然、どうしたんですかお母さん。 俺は皆が居れば、それだけで幸せですよ?」 「そう―」 そして、何かを思った彼女の頬に。 一筋の涙が流れた―。
https://w.atwiki.jp/touhou_orisina/pages/184.html
東方怪綺伝のラスボス。異名の通り、魔界の全てを作ったといわれるお方、所謂旧作シリーズのトリということもあってなのか、戦闘時の演出も(当時としては)かなり凝っている。当然お強いのだが人によっては5ボスより楽勝なためヘタレボス扱いされることも。二次創作界隈ではお母さん(主に新旧アリスの)扱いが多い。 -- (名無しさん) 2011-12-01 14 54 07 ダークマターは所謂、事故発生機 ちゃんと神崎さまに注意を向けてないと大損害を受けることが多々あるので、打たれる前に倒すか囮を使うかしてきちんと対処しよう -- (名無しさん) 2014-01-21 15 21 18 ↓訂正 神崎→神綺 -- (名無しさん) 2014-01-21 15 23 05
https://w.atwiki.jp/toho_yandere/pages/338.html
彼が魔界へと住む事に、それも神綺と同居する事になったのは ほんの少しの偶然……いや、奇跡だった。 幻想郷へと迷い込んだ彼を出迎えたのは 見慣れぬ妖怪の群れ。 異形に立ち向かう術も無く、力尽き、餌として貪られる。 そんな運命から彼の命を救い上げたのは―― 通りがかった一人の人形使い、アリス・マーガトロイドと出会ったからだった。 彼女が彼を助けたのはただの気紛れだったと言える。 彼女の母とも言える神綺から呼び出されたものの あまり気乗りしない帰郷だった為、何かと理由をつけては道草を食っていた。 そんな中、○○と出逢った。 傷だらけの○○を器用に手当てすると、人形に運ばせる。 流石に時間を掛け過ぎたと感じていたのかそのまま魔界へと向かった。 「久しぶりね、アリスちゃん。随分と大きくなっちゃって、まぁ」 「……それ、この前も言わなかった、お母さん?」 「そうだったかしら?」 「そうよ。もうお母さんが思ってるほど子供じゃないんだし。 あっちではうまくやってるから、もういちいち呼び出さないでくれる?」 「そうかも……しれないけどね。 うん、それはいいとして……その。 さっき部屋に運ばせた男の人は誰なのかしら? まさか……アリスちゃんのいい人?!」 「違うわよ。通りがかったついで、見捨てるのも寝覚めが悪そうだったから。 傷が治ったら適当に放り出すなり、好きにしてくれていいわ」 「ふーん」 「……って事なんだけど」 「そうでしたか。その方が……」 目の前の自分よりも背丈の小さな可愛らしい女性がそう説明してくれた。 銀髪と束ねた髪が特徴的で、落ち着いた独特の雰囲気が 彼女を包んでいるのが分かる。 「それで、私としてもあなたを放り出してしまっても良いのだけれど。 折角のアリスちゃんのお土産だし、此処に住み込みで働くなら 追い出しはしないけど……どうする?」 彼女の説明が本当なら、魔界の外の幻想郷には 俺を襲った様な妖怪が沢山居る。 ただの人間の俺が放り出されたら……そう考えると、選択肢は無かった。 「此処に置いて下さい。お願いします」 「ん、分かったわ」 そう答えると、彼女はまた色々と説明してくれた。 魔界がどういう場所なのか。 此処がどういう場所なのか。 そして、何をすればよいのかも。 取りあえずは、ここの掃除をするという事で良いらしい。 部屋もこのまま使って構わないそうだ。 そして、最後に付け加えるように。 「そうそう、言い忘れていたわね。私はこの魔界の神、神綺。 よろしくね、○○」 とんでもない事を、さらりと言った。 昨日の出来事から、魔界に住み込みで働く事になった訳だが。 何から始めてよいものやら。 と、小部屋で見つけた掃除用具一式を傍らに考え込んでいると。 「……あなた、誰?此処で何をしているのかしら」 「――えっ?」 答える間もなく、何かが頬を掠めた。 ……熱さを帯びた頬から何かが流れているのが分かる。 ま、まさか今のは…… 「……ちょっと。今のはただの威嚇のつもりだったんだけど。 あんなのも避けられないなんて……本当に何者?」 目の前に突如現れた家政婦のような女性が、警戒しながらそう言った。 ……彼女も俺と同じ様に此処で住み込みで働いている人なのだろうか? とにかく、俺が今まで居た世界とは違う。 このままでは、同僚かもしれない女に殺されてしまうかもしれない。 刺激しないように昨日合った出来事を話すと、彼女は少し目を逸らし。 「あの話、本当だったんですね……。 てっきり神綺様の冗談かと思っていたのに……。」 そして視線を戻すと、此方を向いて頭を下げてきた。 「ごめんなさい。あなたの事は神綺様から伺っているわ。 てっきり何時かの人間の様に、此処を荒らしに来たものかと思って…… 本当にごめんなさいね。」 ……なるほど、そう言う事か。 だが、此方からすれば魔界だの、神だの、其方の方が冗談に聞こえるが。 しかし―― 少し気になって後ろを振り向いてみて見えたあのナイフは冗談ではない。 恐らく、彼女達が人間とは違う何かなのは……確かなのだろう。 それでも、あの人が神様っていうのはなんとなく理解出来ないが。 取りあえずは、挨拶と自己紹介を済ませる。 夢子さんと言うらしい。 「それで、昨日神綺様が説明されたと思うけど。 あなたにして欲しいのはこの家の掃除です。 特に範囲は指定しないから、出来る範囲でやってみて下さい。 あ、まだ部屋の中は良いから廊下を重点的にお願いね」 「はい。分かりました。」 随分と大雑把な指示だ。 よく見ると、周りに居る家政婦さん達も掃除をしている。 もしかして、そんなに広いのか…?この家。 ……甘く見ていた。 広い。広すぎる。 良くテレビなどで見る豪邸と同じか…いや、それ以上か。 半日掛けて廊下を掃除しながら進んでみたが、まるで迷路だ。 脳内で地図を組み上げたものの、半分以上掃除を終えていない。 更に言うなら、掃除したのは一階だけ。 二階から上はまだ入ってすらいないというのに。 夢子さんに指定された時間はそろそろだが… この程度の働きで、俺の命は大丈夫なのだろうか? 「……えっと。これはどういう事でしょうか」 やっぱりそうなるよな。 夢子さんの頭に怒りマークが見える気がしてきた。 「こんなに一片に掃除できた訳が無いでしょうっ!? 誇張するのも大概にしてください!!」 「え?いや、寧ろこれしか出来てないって怒られるものかと……」 「……それでは、あなたはこの量を確かにこなしたというのですね?」 「え……。えぇ、その筈……です。」 「あくまでも見栄を張るのですね……いいでしょう。 直接確認させてもらいますわ。 ……ただし、もし嘘だった時は―― 覚悟なさい?」 「このエリアは問題無いみたいですね」 「はい。流石に床の修理までは出来ませんが」 「……このエリアも問題なし、と。あら?随分と床にツヤが……」 「ワックスが無かったので、念入りに。部屋にあったもので、代用したりとか」 「ここも……むむむ……」 「あの……ゆ、夢子さん?」 「……ごめんなさい」 「いや、あの。その……偶々、ですよ。ええ。」 また頭を下げられた。 何だか今日は怯える度、結果的に謝られてる気がする。 「随分と掃除が得意の様ですね……。 何か、経験があるのかしら?」 「いや、特に得意と言う訳では…… ただ、人より神経質な性質だったみたいで。 汚れを見たら直ぐ掃除するようにしていたから、 そうだったのかもしれませんね」 「……はぁ。まさか、冗談だと思っていた人間が…… 人間はやはり警戒すべき存在ね。 あ、あなたの事を言ってるわけじゃないわよ?」 「は、はい。」 「いえ、どちらかといえば…… これからも、こうやって掃除してくれると助かるわ。 改めてよろしくね、○○さん」 「こちらこそ。夢子さん」 広すぎる家と初めての環境での仕事に少し、萎縮していたが…… この調子なら、何とか追い出されずに済むかも知れない。 正直、あの幻想郷ってのに迷い込んだ時から俺は怖くて仕方が無い。 ほんの少しでも気を緩めたら、直ぐにでも死んでしまいそうな気がして。 夢子さんとこうして普通にやり取りできた事に、少しだけ安らぐと。 幻想郷に迷い込んだ時の事を思い出―― ……っ。 ……あれ? 今、何を考えていたんだっけ。 「あ、夢子ちゃん。それに、○○ちゃんじゃない」 そんな中、ふと聞こえて来た声に俺の意識は呼び戻された。 「神綺様?」 「神綺さん?」 「もう、二人して何してるの?暇だから私も混ぜ――」 ツルッ。 「わっ」 ドデッ! 「あうっ!」 掃除したばかりで廊下が滑りやすくなっていたせいか。 魔界の神(自称?)は見事にこけた。 「も~……なんでこんなに床が滑るのよ……」 床に突っ伏したままの神綺さんに夢子さんが駆け寄り、手を貸している。 そんな和やかな空気に、また少しだけ癒された。 本当に、少しだけ。 あれから一週間が経った。 大分掃除の仕事も慣れて来た様で、一日で階の半分を掃除出来るようになった。 ……流石に部屋の中にまで手は回らないが。 で、今日は珍しく外に出掛けている。 夢子さんに頼まれて、神綺さんと買い物に来ているのだ。 護衛も兼ねて夢子さんが行くのかと思ったが 荷物持ちをするだけなら、俺が行く方が適任だと言われた。 どうやら夢子さん=神綺さんも一緒という概念があるらしく 彼女が買い物をしているだけで、神綺さんも一緒に居るのでは? と、周りを騒がせてしまうことがあるから……だそうだ。 神綺さんも静かに買い物をしたいらしいので、喜んで付き合うことにした。 ……出掛けるだけで酷く手間取ったが。 「……こんなのはどうかな、夢子ちゃん!」 「あの、神綺様……サングラスに黒いコートでは明らかに不振人物です……」 「む、ならばこれならどうかしら。○○ちゃんはどう思う?」 「いや、何で俺までちゃん付けなんですか?」 「あら、何か不満があるのかしら?○○は○○ちゃんよ。 私から見れば、みんな可愛いものだしね」 「はぁ……そうですか。じゃあそれは置いておくとして―― 今持ってる鼻眼鏡とサンタの帽子は論外です。 不審者どころか、それじゃ大道芸人みたいで、余計注目浴びちゃいますよ……」 「むぅー」 ぷくーっと頬を膨らませて唸っている。 結局、眼鏡と地味ぃーな服装で凝り固めて出発するまでに一時間弱は掛かった。 そして今度は俺が時間を掛ける番となる。 「さっ、行くわよ。結構時間掛かっちゃったから、飛ばさないと」 「力を出しすぎて、周りに悟られないよう気をつけて下さいね」 「……。」 「どうしたの?○○」 「何をもたついて……あ」 「ん?何、夢子ちゃん」 「そういえば……○○さんは飛べます……か?」 「飛べ……る訳ないですよぉー!!」 「あらら。本当にただの人間だったのね、○○ちゃんは。」 「まぁ、あの方々が異例だっただけでしょう…… 亀や箒に乗ってたりしてましたし」 「うぅ……申し訳無い。流石にこればっかりは俺にはどうする事も……」 本当に。 此処に来てから自分の無力さが嫌になる。 普通の人間として生まれた以上、仕方の無い事なのだろうけど。 そう思いうな垂れると、神綺さんは笑顔でこっちを見た。 「大丈夫よ、○○ちゃん」 「え?」 「私が運んであげるから」 「っ、ぎゃーーーっ!!!」 絶叫マシンの速度を遥かに越えたスピードでの飛行に、 胃から何かがこみ上げてくる。 乗り物酔いには強いと自負していたが、これはそういうレベルではない! 途中で半分気絶状態に陥った俺に気付き、近場にある公園に降りてくれた。 朦朧とした意識のまま、トイレへと駆け込む。 ……朝食を食べ過ぎなければ良かった。 「あ、○○ちゃん。その……体の調子は大丈夫?」 外のベンチに座っていた神綺さんが心配そうに声を掛けてきた。 「は、はぃなんとか……ちょっとまだ気持ちが悪いですけど少し休めば……」 流石に気合で誤魔化せそうにもなく、そう正直に告げる。 「ごめんね……○○ちゃん。 かなり加減して飛んだつもりだったのだけど……。 ほら、取りあえず座って?」 「あ、はい……。すみませんほんと……うぷっ」 気持ち悪さに耐えつつ、適当に相槌を返す。 立っているよりは座っている方が回復が早いだろ――うっ?! 「本当にごめんね……」 ベンチに座った横から神綺さんが此方の方に手を回し。 そのまま自分の膝に寝せてきた。 「あ、あの……神綺さん……こ、こんな事してもらわなくっても」 「いいから。こういう時、人間のあなたにどうして良いか分からないけど…… 横になっていた方が、きっと少しは楽だと思うわ」 そう言って、柔らかな膝に俺を寝せたまま、背中をさすり始めた。 横目に、眼鏡を掛けた心配そうな彼女の顔が映ると、胸の奥が熱くなった。 何時の間にか、不快感は消えていて、 いつまでもこうしたいとさえ……思っていた。 神綺さんに介抱して貰ったお陰でそれ程時間を掛けずに回復した。 ……あれ以上あのままだと恥ずかしくてしょうがない、という面もあるが。 今度は最低速度から徐々に早く飛んでもらい、 自分が耐えられるスピードに合わせて飛んで貰う。 そのせいで途中、通りがかった魔界の人に体調を心配されたりしたが。 ……そうでなくとも誰かを持って飛んでれば目立つわな。 なるべく目立たないよう、人通りの少ない所を通ったが かなり時間を掛けてしまった……。 自分のせいでもあるし、神綺さんに謝ると 「夢子ちゃんと出掛けるよりは、早く着いたから大丈夫よー」 と、フォローしてくれた。……いや、どう考えても遅いのでは? デパートの様な大型の店舗に入ると、その考えを一蹴させる物があった。 大きな翼を広げた神綺さんの像である。 ……一瞬、此処のデパートの株主か何かなのかと思った。 が、更に店内を歩いて見つけたポスター。 普段よりも凛々しい表情でケープを羽織り 「我ら魔界の神 神綺様も愛用」 そう書かれていた。 今迄、単なる比喩や表現かと思っていたが。 もしかしなくても、彼女は本当に神と呼ばれる存在なのだろうか……? そういえばなんなく此処の言葉が読めたな。 例の幻想郷って所の影響らしいけど。 荷物を小脇に置いたまま、休憩所で買ったジュースを飲む。 神綺様は新製品の「のうかりんソーダ」とか言うのを飲んでいた。 ……何のキャラクターなんだろう。 訝しげな表情でジュースを飲んでいると、視線が合った。 「良かったら○○ちゃんも飲んでみる?」 なんてベタな! 「それは間接キスというやつでは!?」 と、口から出そうになったが、こらえた。 しかし何とも悪意の無い笑顔で此方に勧めて来ると断るのも辛い。 ええい、ままよ! 「そ、それじゃあ……お言葉に甘えまして」 「はい、どーぞ」 特に感慨もせず渡される。 そういうのを気にしない人なんだろうか? 神様だし。 一人ドキドキしながら缶を口に含む、と―― 「ブフォァッ!!!」 ヒマワリ臭い! しかもソーダの炭酸のせいで余計に性質が悪い!! こんなのを平然と飲んでたのか、この人は!? 「あははは!!やっぱり酷い味だよね、そのジュース!」 ……こ、この人は。 最初からそのつもりだったんですか。 「でも傑作よねー。顔真っ赤にしながら、こっちの顔を伺って。 神綺さんと間接きっすするのがそんなに嬉しかったのかな?んんー?」 其処まで看破してたんですか。 うりうりと頬を突っつきながら、どうなのかなー?○○ちゃん。 とか言ってくる。 否定しても、肯定してもからかわれるのは確実なので 仕方なくジュースを飲んで気持ちを落ち着け「ブッ!!」 られない。 ヒマワリ臭い!! また神綺さんに笑われた。 きっとこれを考えた飲料会社はいぢめっ子なのだろう。 そんなこんなで、買い物も終わり。 帰りもコソコソと飛んでいくのかと思ったが どうやら夢子さんが迎えに来てくれるらしい。 ……確かに、荷物を持った俺を神綺さんが運ぶのでは本末転倒だ。 それ程距離はないようなので、神綺さんには先に帰ってもらった。 「悪い巫女や魔法使いについてっちゃ駄目よー。あと悪霊と妖怪も!」 妙な忠告をされたが、そんなのがこの辺に来たりするんだろうか。 全く統一性の無い注意人物だな、と思いつつ荷物を持って歩いていく。 それにしても随分買い込んだな……。 少し手が痛くなってきた。 やっぱり肉体的にも力不足かな、と考えていると片方の荷物が軽くなる。 ……おや? 隣を向くと、見覚えのある顔が。 「どうしたの、○○。一人で買い物?」 「……ユキさん?」 三日前館に来た、ユキという女の子だった。 ユキさんは半分の荷物を持ったまま此方の後について歩いている。 「……ふぅ~ん。神綺様とお買い物してたんだ。」 「うん。特に断る理由も無かったからね」 「あはは!いいなぁ~、羨ましい。……私も一緒に行きたかった」 ユキさんも神綺様が好きみたいだ。 だとすれば、やはり神綺さんは間違いなく神様ってやつなのだろう。 が、彼女が続けて発した言葉は少し自分の予想とは違うものだった。 「ね、○○?今度は私も一緒に買い物に行きたいな!連れて行ってよ~」 「一緒に……?でも、神綺様が一緒に来るとは限らないと思うけど。 今日だって偶々夢子さんに代理を頼まれただけかもしれないしね」 「ん?あっ、違う違う。私が行きたいのは神綺様とじゃなくて、あなたよ」 「え!?お、俺なの?」 「うん。○○だって暇な時間くらいあるでしょ? 私で良ければ、一緒に魔界を案内してあげようかなって! この前のお礼も、まだ済んでないし……」 ああ、なるほど……そう言う事か。 丁度三日前、館での掃除の休憩中。 一人の女の子が困った顔をして、辺りをきょろきょろと見回していた。 何かなくしたのか、と思いふと先程の場所に 見慣れぬ帽子があった事を思い出す。 自分の部屋に保管しておいたその帽子を取りに戻り 直ぐに同じ場所へと戻ると、彼女に声を掛ける。 「すみません。もしかしてこの帽子をお探しだったのではありませんか?」 「えっ……あっ、私の帽子!!ど、何処を探しても無かったのに……」 「申し訳ありません。 見慣れぬ帽子だったので、誰かの忘れ物だと思い保管しておいたんです。 お帰りになる前に渡せて幸いでした」 「あ、いえいえ!それでわざわざ持って来てくれたんですね! ありがとうございます、お手伝いさん。 えっと……見慣れない方ですけど。 もしかして、神綺様が言ってた人間の方って……あなた?」 「え、えぇ。……あ。何か御気に触りましたか?」 「へ?あ、いや~……もっと悪そうな人間を想像してたって言うか…… あ、ごめんなさい!!初対面の方にそんな事言っちゃって……」 「あ、いえいえ。それはお互い様って事で。 私も、ただの人間ですから何処か魔界の方には恐怖心がありまして……はは」 「あぁ……そんな事気にしなくてもいいのに。 あの、私ユキって言うんですけど。良ければ、あなたの名前も……」 そんなやり取りをした後、休憩時間ぎりぎりまで雑談をしていた。 次の日の朝にも、わざわざ遊びに来てくれたらしく話をした。 多分、前日にああいった話をしたせいか、気を使ってくれているらしい。 きっと人好きな性格なのだろう。 夢子さんや神綺さんに話せないような事でも、気兼ねなく話せる。 そんな感じの存在だ。 そういえば昨日の休憩時間も話に来たっけ。 神綺様の家に良く来る人なんだろう。 偶然とはいえ、こういった感じの友達が出来たのは嬉しい。 だとすれば、むげに断るのもあれだな―。 「うん、分かった。まだ休みを貰った事がないから、 もし貰えた時にはお願いするよ」 「ほんと!?やったぁ!」 最初に話した時よりも、くだけた感じで話している。 彼女の性格なのかもしれないが……それでも何となく嬉しい。 そんな話をしながら歩いていると、 もう夢子さんが迎えに来るはずの場所まで着いていた。 「ありがとう、ユキさん。 本当なら女の子の荷物は全部持てるべきなんだろうけど。 正直、助かった」 「いいっていいって!通りすがっただけのついでだから。 あ、神綺様によろしくね。 それとさっきの約束の件もよろしく!」 「うん。覚えておくよ。 何時貰えるかは分からないけどね。 またいつでも話に来てよ、ユキさん」 「うん、また必ず行くよ~!」 そう言って手を振り、彼女と別れた。 もう一度振り返ると、まだ手を振っている。 結局見えなくなるまで手を振っていた。 魔界での生活にも慣れ、色々と出来る様になってきた。 一番の成果といえば……やはり飛べる様になった事だろう。 とはいえ、自分の魔法の素養があったとかそういう話ではない。 空を飛ぶ為のマジックアイテムの様な物を貰っただけ……だ。 空を飛べない自分を見かねたのか、神綺さんが態々創ってくれたのだそうだ。 指輪の様な形状をしていて、はめるだけで空を飛べる。 ……言わずもがな、これをしていなければ飛ぶ事は出来ない。 空中で外そうものなら地面へ真っ逆さまよ、と軽く注意されたが まず外すような状況も無いだろう。 少々怖いので、常時低空飛行なのは秘密。 仕事を終えると、最近日課になった事がある。 今日もある場所へと向かっていた。 遠目に彼女の姿を見つけ、ゆっくりと降りる。 「こんにちは、サラさん。今日も問題ないようで」 「あぁ、○○。今日は旅行会社の方も此処を利用しなかったから暇なのよ。 何か良い暇潰しはないかしら?」 「なら一緒に掃除を……」 「それはイヤ」 幻想郷へと転送する魔方陣を眺め、今日も考える。 魔界と幻想郷、どちらの方が元の世界に近いのだろう? こうして、神綺さん達にお世話になりながら元の世界へと戻る方法を探すのと、 迷い込んだ幻想郷で手掛かりを探すのと、どちらが早いのか……。 どちらも可能性が無いのかもしれない。 だけど、それを確かめる方法も、誰かに聞く勇気も無くて。 ただ、毎日を生きている……そんな気がしてならなかった。 「また暗い顔してるわね……○○も暇なの?」 「え?そんな事は無いですよ。こうしてあの場所を見てるだけでも 元の世界の事とか、色々浮かんできますしね」 「○○の居た世界か……。空は飛べない、魔法は無い。 魔界人の私にはとても想像できないわ」 「その代わり、科学が発展してますから。 ……魔法を見ると、その科学の発達すら追いついて居ないような気がしますけど」 そんなどうでもいい様な話をしながら、サラさんと一緒に魔法陣を眺めていた。 大分話し込んでいたようで、時計を見ると来てから三時間を過ぎている。 そういえば…… 「○○、どうしたの?」 「そろそろ帰らないと。 明日の早朝、溜まったゴミを出しに行くから今日は早めに寝ておかないと」 「早めってまだ……あれ、もうこんな時間だったの」 どうやらお互いに時間を忘れていたみたいだな。 「来てから三時間って所かな。 そんな訳だから、今日はこの辺で―」 「ああ、待った。 どうせまたあの低速飛行で帰るつもりなんでしょ? 折角だから、途中まで運んでいってあげるわよ」 低速飛行とは失礼な…いや、間違ってないけど。 「いや、それだとサラさんに迷惑が・・」 「○○運ぶくらい、難ないって。 それとも何。私に運ばれるのは恥ずかしいと?」 恥ずかしい決まってる。 が、明日の予定を考えると此処は素直に好意を受けた方がよいだろう。 ゴミを一度溜めると、次に捨てる時地獄を味わうからな。 で。 てっきりまたぶらさがり飛行法をやらされるものだとばかり。 神綺さんとは違い、サラさんは俺を浮かせた部下の妖精達を先導し、 神綺さんの館まで運んでいってくれたのだった。 彼女に礼を言い、挨拶をして別れる。 が、少し妙だ。 人気が無いというか……やけに静かすぎる。 館に入ると、其処には誰かが立っている。 「……神綺さん?」 何か、妙なオーラが見える……。 「○ ○ ち ゃ ~ ん ? こんな時間まで何処に出かけてたのかなぁ~。んん~?」 凄くいい笑顔で此方を見ている。 ……顔は笑顔なのだが、物凄く視線が痛い。 「た、ただいまです。 あの……確かにちょっと遅くなったかもしれませんが いつもこの位の時間には帰って……」 「ちょっと……ねぇ。 ○○ちゃんが帰って来るのは何時もこの 三時間くらい前だったんじゃないかしら?」 「……へ?い、いや……何時もこの三十分くらい前ですけど……」 そう言って、時計を確認する。 やはり、三十分前だ。 そう言って神綺さんにも時計を見せる。 すると、神綺さんは入り口に立て掛けてあった方の時計を指さした。 ……あ、れ? 俺の時計……三時間遅れてる…………!? 探しに行かせたらしい夢子さんも戻ってくると、二人掛かりの叱咤が始まった。 おまけに、明日の休憩時間は全部返上。、 目の下にクマを作ったままゴミを捨て、潰された休憩時間は 神綺さんと夢子さんのマッサージをさせられたのだった……。 ……それからまた暫くして。 今日、初めての暇を貰った。 思えばこの日からだったのかも知れない。 周りの様子がおかしくなったのは……。 それとも、最初からおかしかったのだろうか? 魔界という、彼女が創り出した世界は……。 前に約束していた通り、ユキさんに頼んで魔界を案内してもらう事にした。 空を飛べるようになってから、ある程度は行ってみたものの 本当に必要最低限の場所しか見ていないので、丁度良かった。 困る事もなかったから。 ユキさんと待ち合わせ、彼女を待っていると後ろから目隠しをされる。 「……だーれだ?」 ……? 知らない声だ。 神綺さんのように可愛らしい声でもあるし 夢子さんのように落ち着いた雰囲気もあるし…… 「もしかしてサラ?」 そう答えてみた。いや、知り合いの消去法だけど。 目隠しを外すと、其処には青い髪の少女。 無表情にこちらを見ると 「……だれそれ?」 と言ってきた。 君こそ誰だ。 「もう、マイー!先に行かないでよーっ!!」 一人きょとんとしていると、遅れてユキさんがやってくる。 ああ、ユキさんの知り合いだったのか。 「あれ?……二人で見つめ合って何やってんの?」 別に見つめ合っているわけではないのだけれど。 この白い服を着た青い髪の女の子はマイさんというらしい。 ユキさんの親友らしいが……随分と対照的だ。 快活なユキさんとは違い、随分と無表情……というか無感情にさえ見える。 やはり魔界人も自分に無いものを持つ人に惹かれたりするのだろうか? 俺は持っていないものだらけだから、その比にすら入らないだろうけど。 ユキさんとマイさんと一緒に、魔界の各地を見て回った。 赤いピラミッド(?)に、凍りついた大地。 星々が輝いているような場所もあったな。 神綺さんの家も名所のひとつらしいが、当然遠慮しておいた。 いつも見てるって。 そして、幻想郷への入り口となっている魔方陣を背に。 マイさんが此方にカメラを向けている。 ユキさんは肩に手を回して、笑顔でピースしている。 ……こっちでもピースするんだな。 俺もユキさんの肩に手を回して、マイさんにピースする。 「……いくよ。3、2、……1」 ドンッ。 「えっ」 ふいに、バランスが崩れ。 俺はそのまま後ろに倒れこんでしまう。 瞬間―― 視界は弾けた光に飲まれ、目の前は違う光景へと変わっていた。 ……一体何が起きたのか。 考えなくても分かる。 恐らく此処は幻想郷だろう。 魔法陣を背に、写真を取ろうとしていたのだから当然といえば当然だが。 だが、それよりも問題は…… ……ユキさんが居ないことだ。 肩を組んだまま後ろに倒れこんだ筈なのに、居ない。 魔方陣への入り方が問題だったのだろうか? だとしても、あれが転移装置の一種なら近くにいる可能性もある筈だ。 ……魔法なんて知らないから、単なるあてずっぽうにすぎないが。 先程辺りを見回してみたが、どうやら森の中のようだ。 なんとなく、俺がこの世界に迷い込んだ瞬間に似―― ……っ? いかん、ボーッとしてる場合じゃないのに。 早くユキさんを探さないと。 あの時の様に妖怪に襲われたらひとたまりもない。 空を飛べる程度じゃ、逃げる事すら難しいだろう……。 辺りを警戒し、音を立てぬように森を進む。 ……どうやら今は夕方らしい。 夜になる前に、合流するか、森を抜けるかしないと。 足音を立てないように。 少しづつ少しづつ。 足音を立てないように…… 少しづ― バガッ!!! 頭部に激痛が走り。 そのまま意識は、闇へと飲まれた。 思考が混濁しているのか……? 頭が痛い……。 何処か遠くから、声が聞こえるような…… ――――き さ ま よくも やったな―――― ゾッとする様な声を聞き、生存本能が意識を呼び起こす。 目を開けると、木々の隙間から月が見えた。 「○○ッ!!気が付いた?!」 覗き込む様にユキさんの顔が飛び出す。 「ユキ……さん?俺は、一体……」 「……妖怪に襲われて、何処かへ運ばれそうになってて…………。 良かった……○○が死んじゃってたらどうしようって、私心配でっ……」 瞳に涙を溜めたまま、笑顔で答える。 二度も死に掛けた所を誰かに助けられたなんて…… ホント、男としては駄目なやつだな、俺は……。 体を冷やさない様気を遣ってくれたのか、俺の隣には焚き火が燃えている。 これ以上心配させないように、体を持ち上げるとユキさんの方を向き。 大丈夫、と一言……言おうとした。 夜の暗さに紛れ先程まで見えなかった彼女の体が 炎の揺らめきで照らされ、俺の目に入るまでは――。 妖怪と争ったせいだろう、そう言い聞かせる。 より深く朱に染まったその服の色は、彼女の血によるものか? それとも妖怪の返り血なのか? 端々まで見れば、少しづつ焦げているのが分かる。 そういえば、彼女は火や炎の魔法を得意としてると言っていた……。 彼女の表情は変わらずに笑顔のまま。 俺を護ろうとしてくれた事も頭では分かっている。 だけど、あの時聞こえた声が耳から離れずに……俺は動けなかった。 暫くすると、ユキさんから声を掛けてきた。 「な、何だか暗くなってきたね……。 辺りの気配も、何だか濃くなってきたみたいだし。早く魔界に戻らないと」 ……至って普通の口調。 もしかしたら、あれは夢だったのかもしれないな。 それに、彼女は俺の友達なんだろう? 「そうだな」 自分にも答えるよう、そう言った。 「大丈夫、○○?立てる?」 手を差し伸べて来る。 躊躇う事無く、手を借りた。 魔界への魔方陣の近くは、夜よりも更に暗くなっていたので 幸い二人なら直ぐ見つけることが出来た。 妖怪に出遭う事もなかったので、ユキさんが戦うような事もなかったが。 ……少しだけ、彼女がどう戦うのか気にはなったけど。 ふと、魔法陣の前に見覚えのある人物……サラが居た。 「○○!?」 「サラさん!って事は、魔界の入り口は此処で良いのか?」 「何であんたが外に……ってそちらは? ははぁ、もしかしてデートのお帰りかしら」 含み笑いをしたような顔でそう言う。 「残念だけれど外れだよ。ちょっとした事故で――」 「そうですよ」 ……え? 「私と○○はデートの帰りなんです! ○○ったら、照れちゃって、もう!」 ばん、と背中を叩かれる。 ……いや、ちょっと待て。 「何だ、○○も隅に置けないなぁ。 そういう人が出来たなら、私に話してくれたって良いだろうに~」 「だから違っ……」 「じゃあそう言う事で。ちょっと私達用がありますので!」 手を引っ張り、ユキさんが魔法陣の方へと歩く。 弁明する暇も無いまま、俺は魔法陣の中へと引っ張られた。 「……チッ」 ……? 視界が再び光に包まれると、其処にはマイさんが座って待っていた。 相変わらず無表情で、特に心配していた、という様子は無い。 「マイーッ!!ただいまーっ!」 「……おかえり、ユキ」 まぁ、下手に心配されるよりもいいか。 しかし・・なんだろう。 さっき魔法陣に入る直前……サラさんの表情がおかしかったような。 何か、睨み付ける様な……気のせいか? 三人で帰路につき、マイさんと別れ。 ユキさんと二人きりになると、彼女から話しかけて来た。 「ねぇ、○○」 「……ん?何かな」 「さっきの門番……サラだっけ。あいつ、○○の友達?」 「そうだけど……それがどうかした?」 「そっか……。それなら、こんな事言いたくないんだけどね」 「……うん?」 「多分、私達があそこで倒れたのはあいつの仕業だよ」 「……え」 思いもよらぬ話をされる。 「あのサラって人に何の得があるかは知らないけど。 あの時……私達がバランスを崩した時、 丁度後ろの方にあの人の姿が見えたのよ。 あの時、その方向から衝撃を受けたの。 多分、見えない程小さい弾か何かを飛ばしたんじゃないかと思う」 サラさんが……そんな事を? とてもじゃないが、信じられない。 それに、ユキさんは…… 「ねぇ、ユキさん……。 じゃあ、あの時デートだったってサラさんに答えたのは何だったの?」 「……あぁ、あれ? もし彼女が外に出そうとした犯人なら下手に刺激しないほうがいいかなって。 それに私は、○○となら……」 少し、間を置いて言う。 「そういう風に思われてもいいって思ってるから……」 部屋に戻り、ベッドに転がると天井を見上げる。 ユキさんの言葉の意味が判らない程、俺だって野暮じゃない。 だが結局、何も答える事が出来ずに家に着いてしまっていて。 さよならも言わず、部屋へと逃げ帰ってしまった。 ふう、とため息をつきユキさんの事を考える。 確かに彼女はいい友人だ。 なんでも話せて、心の許せる……大切な、存在。 だが、恋人としてはどうなのだろう? ふと、ある人の顔が浮かぶ。 それを考えると、俺にはどうしても答えを出す事が出来なかった。 ……コン、コン。 ……? 誰だろう? 最近、気の抜ける事が多くなった。 平たく言えばぼーっとしてしまう。 原因は何か? 答えは判っている。 彼の存在だ。 この前、彼と買い物に出掛けた事がある。 私の不注意で、彼は体調を崩してしまった。 ……こういう時、彼が魔界の人間だったのなら、簡単に治せただろう。 だが、私はどうしていいのか分からず、なんというか……。 そう、どうしていいのか分からなかったのだ。 ……分かっていたのなら、彼が体調を崩す事も無かったろうが。 私が創り出した魔界に住む人々は、全て私が創り出したもの。 だから、この魔界に「住んでいる」 全ての人々を把握しているといってもいいだろう。 だが、彼は違う。 彼は人間で、外の世界の存在。 付き合う度に、彼は様々な顔を見せる。 困った顔。 嬉しそうな顔。 恥ずかしそうな顔。 どれも「創りモノ」 ではない、新鮮な存在。 ……最初の頃はそれだけだった。 アリスちゃんのお土産だから、ここに置いて上げていたと言うのもあった。 今は……? 私の部屋を掃除していた時だったか。 「○○ちゃ~ん。こっちの方も……あ、らっ?」 また、滑ったわ―― そう思った瞬間には、彼が私を受け止めていた。 ……顔を真っ赤にしながらね。 何となく転びそうになったのが分かったらしいと、言い訳をしている。 だけどその目は、なんとなく……嬉しそう。 それに、言い訳せずとも普通にそう言えばいいものを。 彼は私と買い物に行って以来、ずっとそんな感じだったから。 もしかしたら、私の事を好きなのかも知れない……そう考えた。 私を見る視線。表情。何となく浮ついた口調。 ……私が創った訳でもない、貴方は。 もしかして、私の事が…… そう考えると何だかよく分からない気持ちになった。 これが何なのか分からない。 ただ凄く嬉しいような、胸がいっぱいになるような。 そんな感覚。 だから、彼に何かをして上げたくなって。 飛べなくて不便だった事を思い出し、 マジックアイテムの様なものを創造してみた。 ……プレゼントをしたかったせいか、指輪みたいになってしまったけど。 今度は、忙しそうだったので休みを上げた。 毎日掃除を続けてばかり、辛くはないだろうかと。 あの子達とは違うだろうから……いつも心配するようになってしまった。 彼が調子が悪そうなら、明日は私が彼を癒して上げようか。 彼の調子が良さそうなら、遊びに誘っても良いかも知れない。 そんな事を考えていた。 そんな事を考えていた。 そんな事を考えていたのに。 夢子ちゃんは言った。 ……○○はユキちゃん達と遊びに行ったと。 あれ……? なんだろ、この感覚……。 コン、コン。 「○○ちゃん……?入ってもいいかしら」 「神綺……さん?」 神綺さんが俺の部屋を訪ねて来たのは意外だった。 ……一体何があったのだろう? 用事があるとは思えないけど。 何か、威圧感を感じる。 「あ、適当な所に座って下さい」 ベッドから起き上り座ったままの状態でそう言う。 と、いってもこの部屋には机とセットで置いてある椅子しかないので 座る場所なんてないのだけど。 神綺さんは何も言わないまま、俺の隣に座ってきた。 ……え? 「今日……ユキちゃん達と遊びに行ってたって聞いてたから。 貴方が寝る前に一目、顔を見ておきたかったの」 隣に座った彼女は此方を見据え、真っ直ぐ顔を向けている。 今までとは違う距離感に、突然の事でまた少し、熱くなってゆくのが分かる。 「そうですか……。何だかまた心配を掛けてしまったみたいで。 わざわざありがとうございます、神綺さん」 「……今日は。○○から……ユキちゃん達を誘ったのかしら?」 「はい……?いえ、前から約束していたんです。 暇が出来たら、彼女が魔界を案内してくれると言っていたので」 「そう……。○○ちゃんからじゃないのね。そうなの……」 一人確認するように、そう答える。 何だろう?俺が誘うと、何か不味い事でもあるのだろうか。 「あの、やはり俺が何かしましたか? 今日だって初めて休みを貰いましたし……何かあるなら、言って下さい! 少なくとも、俺は……」 そこで言葉が少し詰まった。が、続けて言う。 「神綺さんの事、信じてますから。 だから何かあるなら、ちゃんと教えて欲しいんです」 ほんの少し、空気が変わった。 先程まで感じていた威圧感の様なものはなくなって いつのまにか神綺さんはきょとんとした顔をしていた。 「信……じて?」 うわ言の様に神綺さんが言う。 「……信じてます。」 顔を合わせられないまま、そう答える。 少しの沈黙が流れ、神綺さんが近付くと ―っ。 「んっ……ちゅ」 唇を重ねていた。 どちらから、と言う訳でもなく。 「私……あなたが好き…………かも、しれない」 温もりを残したまま、そう言った。 その言葉と、照れた様な表情に愛おしさを覚え、 感情の赴くまま彼女を抱きしめて。 「俺は……好きだ。君が」 抱擁したまま、想いを伝えた。 ……ズキリ。 ふいにユキさんの言葉を思い出す。 少しだけ、胸が痛んだ。 水晶玉に浮かんだ二人は口付け合うと、 その思いを確かめるかのように抱き合っている。 ――ガシャン。 その光景が不愉快だったのだろう、水晶玉を叩きつけ 靴で破片を磨り潰す。 「まさかこんな展開になるなんてね……」 アリスだった。 「わざわざ記憶まで消したっていうのに、全て水の泡って訳か」 彼と出会った時の事を思い出し、ぎり、と歯を噛んだ。 魔法の森の一角で、アリスは人形の素材を集めようとしていた。 ……新しい魔法によって。 新たに強力な人形を作るべく、アリスは何か無いかと ある魔法書に手をつけていた。 それは、召喚魔法の書物。 だが当然、この手の書物は何処か不鮮明であり、 信憑性の無い博打と同様、不完全なものであった。 人形作りにスランプを感じていたアリスは 半ば自棄気味で詠唱を開始する。 「――ッ!?」 詠唱を完了すると同時に、激しい閃光と煙が巻き上がる。 だが其処に居たのは……ただの、傷だらけの人間だった。 いらついていたアリスの感情を逆撫でするかのような結果。 だが男はアリスを見るや 「……天使?」 そんな事を口走った。 次のページへ進む
https://w.atwiki.jp/toho_yandere/pages/461.html
好きになって欲しかった。 ……それだけ。 ――雨が、降っていた。 私の手にはべっとりと、いやらしいものがこびりついている。 ……あぁ。そうだ。 これは、私の醜い感情のせいで付いた―― 洗い流す事の、出来ない、証。 ……涙は、幾らでも溢れてくるのに。 雨は、さっきよりも強く降り注いでいるのに。 色濃く、張り付く、その朱色―― 『 』 幻想郷と呼ばれたその世界で、彼は女性と二人、仲睦まじく暮らしていました。 少女の名前はルイズ。彼の名前は○○。 魔界の旅行会社、そのツアーでの途中、二人は出逢い、一目惚れをしたそうです。 魔界の創造主である私も、彼女自身からその話を聞き、 とても目出度いと喜んだ事を良く覚えています。 私が創った子が、他の世界の子と幸せを育むだなんて。 とっても、とっても素敵な事だと思っていました。 私は夢子ちゃんと二人、ルイズちゃんの家へと向かい二人を祝福しようと訪ねました。 突然の訪問に、ルイズちゃんは驚きを隠せないと言った顔のまま、私達を招き入れます。 此処の風習に合わせ(?)肉じゃがを鍋に入れて持参していた私は、そのまま台所へと向かいました。 其処には、例の彼の姿。 一目見た感じでは、私には彼を好きになる理由が判りません。 「あぁ済みません、気が利かなくて」 私が彼を目視している事に気付き、彼は鍋を受け取ろうとしました。 気が利くのか、でしゃばりなのかは判りませんが、ルイズちゃんの顔もあるので、 大人しく笑顔を作ると、渡して上げます。 「貴方がルイズちゃんのいい人ね?」 「えっ……その、……はい」 私は改めて自己紹介をしました。 魔界の神である事。 彼女の創り手である事を。 すると、彼もまた驚いた表情を作り、敬う様にしてお辞儀をすると、丁寧に自己紹介を返します。 「……です。名前は、○○と言います」 「うふふ。そんなに畏まらなくてもいいわよ」 少し浮く様にして、彼の頭を撫でると、真っ赤な顔をして俯いてしまいます。 「その、やっぱりルイズさんのお母さん……とは、少し違うのかな。 でも、同じ位、その……綺麗で」 「あんまりそういう事をされると、恥ずかしいです」 と、照れくさい事を言って返してきました。 「と、当然じゃない」 当然よ、と私は答えました。 ……いや、少しどもっていたかもしれません。 ルイズちゃんと夢子ちゃんと○○。 私と四人で、食卓を囲みながらその日は色々な話をしました。 ○○が特に興味を引いていたのは、ルイズちゃんそっくりの子がまだ魔界には居るという事。 「じゃあ魔界に行く時には、自分は浮気しない様、入念に注意しないとですね」 そう三人で笑って話しましたが、やっぱりルイズちゃんは頬を膨らませ、○○ちゃんを抓ります。 「私というものがありながら、ひどいですわ!実家に帰らせて頂きます!!」 「じゃあ、皆で一緒に帰って皆で見張らないとですね」 「そうね。万が一変な気を起こしたら隙を見て私が後ろから……」 「ちょ、ちょっと!夢子さんも神綺さんも何言ってるんですか!!」 皆の談笑は、夜遅くまで続きました。 夢子ちゃんとルイズちゃんが就寝の支度を終え、私へとおやすみを言いに来ました。 「それでは、先に休ませて頂きます」 「神綺様も、余り夜更かしは……」 「いいのよ。もう暫く、色々と考えていたい事があるの」 「そう、ですか」 「おやすみなさい。二人とも」 ……そうして、またルイズちゃんの事を思い出します。 私が創った子は多く、こういった話もまた、稀にある話でした。 時には、その子よりも強い妖怪とか。 ですが、私には一つ。 悩んでも、答えの出ない、何かがあったのです。 ……ぐっと、拳を握る様にして私はテーブルに突っ伏してしまいます。 ……私は…… ―― 夢 子 ち ゃ ん は お 気 に 入 り の お 人 形 私 の 言 う 事 を 何 で も 聞 い て 何 も 言 わ ず に 何 で も 何 で も し て く れ る 特 別 な お 人 形 ―― 彼女の名前には深い意味を込め、画数の多い漢字を使いました。 唯一、その名前を持つ夢子ちゃんは、他の強く育った子達とも、同等以上の力を持っている。 そして、他の子達以上に。 私の言う事を、聞いてしまう。 ……妄信。 彼女を見ていると、作り出した子達の行動の全てが。 本当は、私が無意識にやらせているのではないかと。 疑って、しまいたくなる。 そんな時が、ありました。 ……だから今、幸せそうなルイズちゃんと○○を見て、その懸念が晴れたのだと。 私は思ったのです。 『 』 嘘です。 「え?」 『嘘よ』 「何……が?」 『嘘だって言ってるのよ』 「何を、言って」 『貴方の思った事、貴方の辿った事』 「だから、何の話よ!」 『何処からが嘘か、何処からが虚実か』 「いや……!知らない!私は、知らないっ」 ゼンブ シッテルクセニ。 立ちはだかっている。 同じ顔をした、”私”が。 でも、その翼は汚れてはいない。 真っ白くて、攻撃的では、ない。 ……それに何故か、私の方の手は…… 魔界で流行の、幻想郷ツアー。 私はそれに参加していた。 名前を伏せ、ルイズちゃんの姿を借りたまま。 現地へと辿り着くと、私は当初の目的をあっさりと忘れていた。 人里へ行って 居心地の良さそうな森を散策して 丘の花畑を眺め あの神社を、通り過ぎた。 楽しい。 旅行会社が私の意見も聞かず、ツアーを組む理由も良く分かる。 でも、楽しいのに、何かが足りない。 ふと同じ旅行者の子達が通り過ぎて。 ……それは直ぐに判った。 一人だからだと。 (それなら、夢子ちゃんを) 呼ぼうとして、はっとする。 そういえば内緒で来たんだった。 文句は言われないだろうが、ややこしくなるかもしれない。 私が悩んでいると、後ろから声が聞こえた。 「どうか、しましたか?」 ……人間の、男だった。 「何か困っているみたいだけど」 「そ、そんな事ない……ですわ」 慌ててルイズちゃんの口調を作って、答えた。 彼は不思議そうな顔をして、私に何かを手渡そうとする。 「えっ。何」 「おにぎりだよ。腹が減ってるのかと思って」 「何で、いきなり」 「いや……道に迷ってるって言う感じでもないしさ」 「……えっと」 「……」 「ちっ、違……わなくもないん……だ……ですけど」 「……ん?」 妙に喋り方を変えようとするせいか、少し口が回らずにいた。 お腹が減っていたわけではないのだけど、 確かに、人里で色々な子達が物を食べているのを横目に、 何か食べたくなっていたのは事実だったから。 照れくさいと思いつつも、目線を合わせないようにしてそれを受け取る。 「い、頂くわね」 「どうぞどうぞ」 じゃあこれで、と言った感じで彼が立ち去ろうと通り過ぎる。 「ごちそうさまぁ!」 そしてその言葉で、彼はこけた。 「え……もう食べたのか?!」 「ええ。悪くない味だ……でしたわ!」 私は嬉々として、彼へと礼を言う。 「……いやはや」 彼は呆れているのか驚いているのか判らないと言った顔で、私を見ていた。 「お礼に、って言われてもなぁ」 「あっ、あそこのお団子も食べてみたい!あのお饅頭もよさそう……ですわ!」 「……食べ歩きに付き合わされてるだけなんじゃないのか?」 「何よ。ちゃんと奢って上げてるんだから良いじゃない」 「……っても、さっきから殆ど食べてないんだが」 「あーっ!あのお店なんか、隠れた名店って感じで、良さそう!」 「聞いちゃいねえな」 あの後、私はお礼にご馳走すると言って彼を連れまわしていた。 けれど、彼は結局は文句一つ言わずに私へと付き添い、日が暮れるまで相手をしてくれた。 「あーっ、楽しかったわ」 「そうか、それは良かったな……」 へとへとだと言わんばかりの返事をする。 「……ごめんね。もしかして、迷惑だった?」 「あはははー。さて、どうかな」 「あはははー。どうなのかしらねぇ」 「……」 「……」 「……ごめんなさい。お礼、のつもりだったんだけど」 私は、目を伏せるようにして俯いてしまう。 さっきまで、あんなに楽しかったのに、それは私だけだったんだ。 ……こんな事なら、やっぱり夢子ちゃんと一緒に来ていれば…… 「……ぷっ」 噴出す様な声が彼の方からして、私は頭を撫でられていた。 「冗談だって。……まぁ、疲れたのは本当だけど」 「……な、な」 「迷惑じゃなかった。楽しかったよ。此処まで派手に振り回されたことなんて、なかったしな」 「……なによぉ……」 「えっ……」 「ばかぁ……ばか、ばか、バカァッ!! 本気で嫌々だったのかって思っちゃったじゃない!! 楽しくって……楽しかったから…… ぐすっ、……ばか」 「わ、悪い!そんなつもりで言ったんじゃ……」 「……ひっ、くっ、ぅぅぅ……」 「あぁぁ……えーと!」 ……彼はあやすようにして、私を抱きしめていた。 ……私達、まだ名前も知らないって言うのに。 だから、決められていた事の様に。 「貴方は……名前、何て言うの?」 私は、名前を聞いていた。 「あぁ、そういえば。○○って言うんだよ」 「ばか○○ね。覚えたわ」 「誰がばか○○か!で、そっちは?」 「……神綺。神綺よ」 「……ふぅん」 彼の表情が少し固まる。だが、ああやっぱり、とも言いたげな。 「普通の人じゃないんだろ?」 「……ええ」 「そっか。別にいいんだけどさ」 「いいの?」 「いいんだよ」 そうして、私達は手を繋ぐと、別れを惜しむ様にしていた。 「じゃあな、神綺。楽しかったよ」 「うん。……ありがとう、○、○。私も……」 何度も振り返る彼を見送って、私は少しだけ、泣いていた。 ……多分もう会えない。 いや、会ってはいけないと。 私の中の何かが、そう告げていたから。 「……綺様」 「……」 「……神綺様!」 「あにゃ?」 「あにゃ?じゃないですよ。どうされたんですか、ぼーっとして。 此処の所、毎日じゃないですか。 もう一月は経ちますよ?」 「みょん。そうだったかしら」 「何ですかみょんって……ほら、もっとしゃきっとなさって下さい!」 「あーうー」 「あーっもう!」 そんな感じで、夢子ちゃんに何か言われてもやる気が起きなかった。 ただあの時の感覚を拭えぬまま、私は毎日を過ごしていて。 思い出に浸る事で、癒されてようとしていた。 本当は何がしたいのか、判っている癖に。 「今日は用事があるとルイズが来てるんです!だから、ちゃんとして下さい神綺様ぁ……」 泣いて縋り付いて来る夢子ちゃん。 ああもう、可愛いなぁ。 ……仕方ない。 「分かったわ」 「神綺様!」 「直ぐに支度をするから。夢子ちゃんはルイズちゃんを先に持て成していて」 「あっ……いえ、支度の手伝いを私も」 「一人で十分だと言っているのよ。分かるわよね?」 「……!はい」 そうして、夢子ちゃんが部屋を出ると、私は直ぐに鏡を見て、身なりを整えた。 ……何だかやつれた様な気がした。 まぁそんな訳無いんだけど。 「今日は神綺様に報告したい事が御座いまして」 「あら、そう。何かしら」 態々言いに来ている時点で、面倒事かなぁ、と若干素っ気無く話す。 が、以外にもそういった事ではなく、ルイズちゃんが旅先でいい人を見つけたという話だった。 なので、あちらに住み、結婚することを許して欲しい。 少し塞ぎこんでいて、尚且つ彼との事ばかり考えていた私には、目出度い話だと思えた。 「それは素敵ね。ルイズちゃんが幸せになれるなら、私からは何も無いわ」 その言葉に、彼女も嬉しそうな顔をする。 私も、にっこりを微笑みかけていた。 少し羨ましいなと、思いながらも。 私はルイズちゃんを祝福しようと、彼が住んでいるという家へと向かった。 いきなり押しかけて、どんな男なのか見ておこうかしら。というのが半分位本音ではあるけど。 ルイズちゃんから貰った魔法の地図が示す家へと着くと 私は窓から見えた姿を疑った。 ――え? ○、○? が、何で、此処に 彼の目が、私を見た。 けど、その目は…… ドアが開く。 「あれ。うちに何か用ですか?」 やめて。 嘘でしょう。 「……?どうしたん、ですか」 彼が、遠ざけるような目で私を見る。 当たり前だ。 だって、私は―― 「もし…………」 私は―― ”彼と会った事が無い” ”彼と会ったのは神綺だが 彼と会った姿はルイズだった” それでも、最後に希望に縋る様にして 私は彼に、聞いた。 「……あな、たは……ルイズちゃんの……?」 「え……あ、はい。そうですけど」 ……。 私は、名も明かさぬまま、その場を後にした。 何も視たくない。 何も聞きたくない。 私は、私は、私は。 ”私はルイズじゃない” 「私は、神綺じゃない……」 ……何を、ばかな。 気が付くと、私はまたあの家に向かっていた。 ただ先にルイズと二人きりになっておくと、私の名前を明かさぬ様に念を押した事を覚えている。 ……説明は、した。 魔界の神であり、彼女の創り手だと言う事は。 それ以外は、何を話しても、何を聞いても、二人とも心配そうな顔をしていたような気がする。 良く覚えて、いない。 はっとした頃にはもう、夜で。 食事をしても、味が、していなかった。 そして私は、何時の間にかベッドの中に居て。 疲れているのだろう、と、先に休まさせられたのだ。 ……。 私は、立ち上がって、音も無くドアを開けた。 明かりは消えている。 ○○とルイズの寝室の方を見ると、魂が抜け落ちる様な気がした。 「ぁ、あ、ぁ……」 力なくへたり込む。 何を、しているの、わたしは。 ……ガチャン、と。 寝室の扉が開く。 「……あ!?」 彼の声。 「どうしたんですか、こんな所で」 私は、あんな風に 「すいません、疲れている所、態々来て頂いたみたいで……」 楽しく、過ご過ごす事が出来て 「とにかく、こんな所じゃ風邪を引きますよ」 幸せだったのに―― 「貴方みたいに綺麗な人が、病気でもしたら大変ですよ。ベッドまで運びますから、肩に――」 何でそんな 残酷になれるの? ○、○―― 「……やっぱり、あなた”ばか”よ、○○」 「え、何」 私は、ルイズへと姿を変えていた。 ○○の顔が、一気に青ざめていた。 「神、綺……」 「覚えてたのね」 この、浮気者め―― 経った一日過ごしただけの彼とは 付き合っていた訳でもないのに そんな言葉を口にしていて もう 訳が分からなかった 気が付くと、ルイズを壁へと追い詰めて、私は手をかざしている。 「……ねぇ。彼と付き合ったきっかけはなんだったの?」 「し、神綺様……何故、こんな」 「答えて」 冷たくそう言い放つ。 「か、彼の方から声を」 「……それで?」 「知り合いに似てる……って、言われ、て…… それ、で、話してみた、ら…… で、でもまさか、神綺様が」 「……そう。で、仲良くなっちゃったの」 「は、はい……で、でもわざとではありません。 それに、私達は本当に想い合って……」 「……い」 「えっ」 「聞いてない。お喋りね、ルイズちゃん」 「あ、ぅぁ、そのっ」 ――。 響くような音と共に、ルイズは倒れた。 また、意識が飛んでいたのだろうか。 「ねぇ○○私と一緒に魔界で暮らしましょう?」 ○○が何か言っている。私には聞こえない。 「ルイズちゃんが好きなら、ルイズちゃんとも暮らしていいわ。 魔界は良い所よ、ルイズちゃんに似た子だって一杯居るのよ。 それに、もっと可愛い子だって、あなたが望むなら一から創り出してあげてもいいし」 ○○が何か言っているが私には聞こえない。 「あなたの望む事なら何だって叶えてあげる。 何がしたい?ねえ何をしたい? 何か食べたくはない?そうね、また二人で一緒に何か食べに行かない?」 ○○が何か言っているが私には聞こえない。 「魔界には貴方の見た事のない物が一杯あるのよ。 きっと楽しいよ、だから私が案内してあげる。 まだお礼してないもの、○○を案内してあげたいの。 ○○に喜んで欲しいの、○○に楽しんで欲しいの。 ねえ○○、私と一緒に」 ○○が何か言っているが私には聞こえない。 「本当はもっと一緒に居たかったの、でもいけないなって我慢したの。 だって貴方ただの人間でしょう? でもずっと一緒に居て欲しいから。 ずっと一緒に居て欲しいって、あれからずっと想ってたから! 私は、貴方が、好きなの…… 愛してるのよ…… だから、貴方が望むなら。 あなたと一緒に居られるなら。 例え禁忌を犯してでも……」 ○○が何かを言っている。 「貴方を、愛して……」 「……お前は……」 ……あ 「お前は、ルイズじゃな……」 好きになって欲しかった。 ……ただそれだけの事だった筈なのに…… 私の手が、彼の体を貫いていて いやああァああぁぅぁぁっ!!! ○○に覆いかぶさる様になっていた私は、ふらついたまま立ち上がると、 そのまま外へと飛び出していった。 何も、判らないまま。 手はべっとりと、朱色に塗れていた。 そうして何時の間にか、真っ暗な夜の闇を貫くようにして。 冷たい雨が、私の周りに、降り注ぎ始める。 ……手の色が、落ちてゆく。 なのに、このべっとりとした感覚が、消えてくれない。 なんて、醜い。 出来るならこの両腕を、今直ぐにでも切り落としてしまえたらと。 ……私は翼を広げ、そうしようと構えた。 先程よりも顔が熱い。 泣いて、いるのかもしれない。 けど。 勝手に勘違いして、人の幸せを妬んで、奪った。 私にはお似合いの姿かも、知れない。 手の朱色は、もう落ちてしまっている。 ……私のは、もっと汚い色かもしれないね。 誰に言ったのか、目を伏せると、腕に向け魔力を込めようとして 私の前方から、何かがぶつかって来て、後ろへと吹っ飛ばされた。 「……神綺っ」 「……○、○……?」 目を開けずとも、その声で分かった。 何で、此処に……いやそれより、傷は―― 「お前、勝手に自分で傷付けて、勝手に自分で治して飛び出してくから。 心配、させるなよ……」 「だっ、て……私、貴方を……」 「落ち着けって」 何時の間にか彼が今度は私に覆いかぶさっている。 振り解こうにも、そんな気力も無かった。 「わた、しはっ。ルイズちゃんじゃ、ないしっ……!ないから……っ」 「……おい」 「さいしょっから、この姿で、あなたと会えてたら、本当は、本当はって、だか、らっ……だか、らっ……」 「おい!!!」 「ひっ」 彼は物凄い目をして睨んで――いなかった。 それどころか、悲しそうな顔で自分を見つめている。 「お前は、神綺なんだからって」 …… 「神綺なんだから。……本当はお前のが好きだったって、言ってやりたかった」 「…… …… …… …… え?」 「だから。……その、ルイズさんには悪いけど……本当はお前の事が忘れられなくて、その……」 「…… あ、あの」 「神綺の事が、好きだった。……いや、今でも好きだけど」 「あ、あの○、○」 「な、何も言うな。確かに、どうかとは思うけど」 「そうじゃなくて、うし――」 ガツン。 ろ。 遅かった。 後ろにルイズちゃんが来てるから、一旦その話は……と言おうとしたのだけど。 ……わざと止めなかったんだけどね。 「し~ん~き~さ~ま~?」 「ル、ルイズちゃん。顔が恐いわよ。なんか目、開眼してるし!」 「人にボディブローかましてぇ。壁に激突させられて、笑顔でいられる魔界人がいるとでも?」 「え、えっと」 「……(にっこり」 「そ、そーなのかー」 それから暫くの間、私はルイズちゃんに頭が上がらずぱしりの如く使いまわされていた。無論、○○も。 「……そんな事もあったわね」 『全部知ってる癖に、何故あんな嘘の記憶を辿ろうとしたのかしら』 白い翼を広げた私が言う。 私の手は汚れたままだった。 「それを貴方が言うの?」 『私だからこそ、言うのよ。”私”ではなく』 「……」 「そうね」 「でも、だからこそ。嘘を付かれた事が許せなかったのよ」 『ルイズちゃんを好きでもないくせに、好きになった振りなんかして』 「代用品で本物を諦めようとした、その脆い脆い魂が」 「『 私 に は 許 せ な い』」 ぽちゃん、と私はそれを沈める 私とは出会う事も無かった世界の”元”を ○○…… 貴方を人形にして……創り替えてしまえば…… もっと、私の事を好きになってくれるのかしら…… 愛して、くれるのかしら…… でもそれで、夢子ちゃんの様に尽くすだけの人形みたいになって欲しくは無いの 私は、本当に貴方に愛して欲しい だからね もしも貴方が、私を愛してくれなくなったり―― 壊れた人形の様になってしまったら 全部破壊して、この嘘の記憶で創り上げられた世界を、再生してあげる 私との事 全部無かった世界を…… それでどうするのかって? 決まってるじゃない 私は 汚れた手のまま、指を舐る 「貴方を拾い上げるのよ。例え禁忌を犯してでも、この汚れた世界(みず)の中から…… どれだけこの手が汚れたって、構わないから」 でも、私の事を好きだって言ってくれた貴方を……私は信じてるから 彼を傷付けてしまった部分をそっと撫ぜる。 傷跡はもう、あの時から無いけれど…… 貴方の匂いが染み付いた手には、洗い流す事の出来ない証が刻まれているから。 朱色の宝石が左手の薬指で輝くのを見つめながら。 貴方も、私へと近付いていて――そっと、唇を重ねた。
https://w.atwiki.jp/pmvision/pages/738.html
場で「神綺」として扱われるカード 闇の創造神チーム(連結)
https://w.atwiki.jp/pmvision/pages/737.html
「神綺」を参照するカード 夢子/13弾 夢子/16弾 神話幻想
https://w.atwiki.jp/toho_yandere/pages/340.html
「私がどれだけ貴方を好きになったとしても……」 「終わりはない…… それは永遠に続いてゆく。 過去も未来も関係なく」 「世界の隔たりが それを許さなくなったとしても」 ……テレビのニュースが、砂嵐の様に耳障りだった。 まどろみの中、朝食を食べていた俺はトーストを見て溜め息をつく。 「ユキ……だから俺は朝はパンは食べられないんだって何度言えば」 「えぇー?朝食って言ったらパンに決まってるでしょ。ね、マイもそう思うよね?」 「……どっちでもいいわ♪」 二人の妹の、ユキがマイに同意を求めたが、助け舟は出なかった。 「何だかご機嫌ね、マイ」 「……まあね」 ガタン、と後ろから物音がする。 「あれ、姉さん珍しい。帰ってきてたんだ?」 ユキがそう声を掛けた相手は、ルイズ姉だった。 「おはよう、みんな。 久しぶりに一段落着いたところだったから、ついでに帰ってきてたのよ」 「へぇ……そうなんだ……って、あーっ!!ちょっとマイ、何その首飾り!」 「……姉さんに貰っただけ♪」 「だからさっきから嬉しそうにしてたのね、ずるいー! ね、ね、姉さん!私にお土産は?」 そうして詰め寄るユキに対し、ルイズが困った顔をした。 「ごめんなさい、ユキ…… お土産になるようなものはあれしかなくて」 「なんだってー!」 「今度行った時はユキに上げるから、それで許して……って、あら?」 ルイズがそう言おうとしていた頃には、きさまー!と言いながら、 ユキがマイを追っかけていた。 「○○も久しぶりね。変わりは無い?」 「ないかな。時々、母さんの夢を見たりはするけど」 「……え?」 複雑そうな表情で、こちらを伺う。 「……まだ、覚えてるの?」 「行って来ます」 「あぁ、行ってらっしゃい」 マンションを出る際、外で掃除をしていた管理人のサラさんに声を掛ける。 「なんか、今日は顔色が悪くない?ルイズさん、帰って来てるって聞いたけど」 あぁ、と軽く返事をする。 「すいません。それとは別で、体調が優れませんで」 「ダメだよー?大事な体なんだから。 男はあんただけなんだから、倒れたら面倒見られないよ?」 すいません、と取り繕うものの、結局そこで責任云々説教されてしまう。 サラさんは、こういう所が妙に厳しくて困る。 「ふう」 仕事の休憩時間となり、トイレで自分の顔を見る。 そんなに顔色が悪かっただろうか。 母親の夢を見る様になったのは何時からだっただろうか。 実際の所、あの人の事は余り覚えていない。 顔も、容姿も、どんな人だったかも。 なのに、時々漠然とした、母親の夢を見る。 内容は支離滅裂だったが、何時も共通する事が一つだけあった。 何故だろうか、憎しみの篭ったような、そんな視線。 それを思い出すたびに、体は悲鳴を上げ、拒絶感をもたらす。 もしかして、自分は母親に愛されていなかったんじゃないだろうか? そう思えてならない。 父親がどうかも良く知らないし、可能性は十分にあると思った。 と、鏡を見ていると、妙な違和感。 俺の後ろに 金髪の、女が居る。 「!?」 直ぐに振り向くが、其処には誰の姿も無く。 が、もう一度鏡を見ると其処には信じられない光景が映し出されていた。 金髪の女が机に向かい、人形を繕っている。 其処に映し出されている光景はトイレとは程遠く、何処かの家の一室。 其処で彼女は人形を作り、時折本を取りに行ったりしていた。 休憩時間のことも忘れ、その光景に見入ってしまう。 そうしているうちに、机の上にあった一冊の本に気が付いた。 「ぐり……うん?なんだ、あり……す?」 アリス。 まるでその言葉が引き金となったかの様に ガタン!!! 音を立てて、鏡が落ち ――割れる。 「なっ……」 気付くとトイレは、まるで廃墟の様に古びていた。 水道の蛇口から、赤黒い錆水が流れ出している。 カタン。 トッ トッ カタン。 ……後ろの方から音が聞こえる。 個室から、扉が音を立てて―― それは出てきた。 全身赤黒い何かで塗りたくられたかの様な、女が。 ……俺は逃げた。 此処が何処だか、訳も分からずに逃げた。 何処へ行ってもまるで廃墟のようで、しかし逃げるのを止める度、 あの女が顔を見せる。 髪を結んだ、銀髪が赤黒く染まった女が。 商店街に逃げ込んでいたのだろうか、街頭のテレビを見かける。 全てチャンネルは違うようだが、全てが砂嵐しか映っていない。 酷く耳障りだった。 まるで最初から全部なかったことにするみたいにしようとする、この音が嫌いで。 さっさとその場から立ち去ろうとする。 が、テレビの一つ―― 其処にまた見慣れない光景が映る。 先程のアリスという、女の姿と。 何処か母親に似た、女の姿。 「だから言ってるじゃないっ!!○○は、とっくに死んだって!!」 「……何を言ってるの?」 理解出来ない、と言った表情で彼女は笑う。酷く、乾いた笑顔で。 「○○ちゃんは此処に居るじゃない。 ほら、ずっと此処に居るわ。 アリスちゃんが何を言ってるのか全然分かんないわ」 「……っ!そう、じゃあ勝手にして下さい。 私は、もう……知りません」 彼女は一冊の本を手に取ると、一度だけ後ろを振り向いて外に飛び出していった。 「あははは。バイバイ、アリスちゃん。 おかしなこと言うよね、○○。 もう貴方が居ないって。 帰ってくる頃には、なおってるといいんだけど」 「ね」 虚空に手を伸ばし、その瞳は何も見ようとしていない。 「……神綺?」 ふと、その女の名前が浮かんだ。 気付くと、テレビの砂嵐は消えていて、真っ暗になっている。 ――あ。 追い続けていた女の姿が、その女性と重なる。 物陰から、女の姿が見えた。 「神綺!」 そして、名前を呼ぶ。 すると彼女は、笑顔で此方に近寄ってきて。 「○○!」 一瞬で―― 「……違う」 その表情を憤りで固まった表情へと変えた…… 「あ……」 彼女の手には何かが握られている。 ドクン、ドクンと脈をうつそれは 俺の―― ……テレビの砂嵐の音がする。 「兄さん、パンが焼けたよー」 ユキがトーストを皿に乗せて、此方へと差し出してきていた。 「あ、ごめん。兄さんはお米がいいんだったっけ」 ……が、差し出したそれを戻して、茶碗にご飯をよそっている。 「……どうしたの?」 無表情ながらも、心配してくれているのか、マイが袖を引っ張って顔色を伺っていた。 「なんでもないよ」 そう答えるものの、何か違和感の様なものが消えずに残っていた。 マンションを出て仕事に向かおうとすると、外にはルイズ姉が居て。 何処か、真剣な表情をしていた。 「○○……」 「母さんの名前、思い出せる?」 立ち話もなんだと言う事で、公園のベンチに座る。 家では話せない内容だったからだろうか、ルイズ姉は何度も周りを気にしていた。 「で、母さんの名前が……何だって?」 質問の意図がわからずに、俺は聞いた。 何でそんな当たり前の事を聞くのだろう、と思った。 知らない筈が無いのに。 「深い意味はないですわ。ただ……ね」 彼女は、片目を見開いていて、此方の様子を探っているといった感じがした。 「……それで、どうなのかしら?名前」 良く分からないまま、俺は答えた。 『あなたは神綺様に相応しくない』と、夢子が言っていた。 だから、彼女の与り知らぬ所で、脅しておけば―― そう考えて。 しかし、其処に偶然神綺が通りかかって。 脅しで投げた筈の刃物は、○○を避ける事無く、その体へと吸い込まれていった。 刃物を投げた張本人の夢子は、後ろでただ呆然としていた。 こんな筈ではなかったと、言いたげに。 「私は……神綺様の為を思って……っ」 そう言って、その場から走り去って行ってしまう。 刃物が突き刺さっている自分の体を引き摺りながら、神綺の元へと近寄る。 「ち、違う。……○○……○○じゃないっ」 神綺はそれを認められないのか、目の前に居る相手の存在を否定する。 涙ぐんでいる彼女の表情を憂いながら、精一杯笑顔を作ってみせる。 指で涙を掬おうとして、自分の体から、完全に力が抜け落ちた―― 壊れた世界を、アリスは見つめていた。 たった一つの、命が壊れた世界。 その一つだけで、全てが壊れてしまった世界を。 アリスは時折、”似せた”人形を作ると其処へと送り出す。 何時も、その中に一つの魂を込めて。 そうして、何時も人形は壊されて、魂は再びアリスの元へと戻ってゆく。 何時か、その事に気が付くまで。 何度でも、繰り返す。 はず、だった。 「アリス、だろ?」 そう答えた。 魂以外、自分は人形の体で。 彼女に、作られたと言う事を。 此処で似たような事を繰り返しているうちに、なんとなく理解していたのかもしれない。 其処にルイズの姿は無く。 公園も、何も無く。 ただ真っ暗な闇が広がっているだけだった。 暗闇の中で浮かぶ神綺へと近付いてゆく。 何時の間にか忘れられた世界で眠る、彼女へと。 多分また、壊されてしまうかもしれない。 それでも、いつかきっと。 壊されて、直されてを繰り返して。 何時かは自分の名前を呼んでくれると、そっと願いながら。 人形の体を引き摺って、彼女へと近付いてゆく。 彼女が死んでしまった人間の自分を好きである限り、それは続いてゆくかもしれない。 けれど。 好きになる気持ちに、終わる事は無いと信じているから。 その気持ちには、長さも、時間も、世界も関係なくて。 だからその子が、自分を好きだと想い続けてくれる限り。 彼女へと、手を伸ばす。 「ふふふ……また○○ちゃんの偽物だ」 冷たい表情をした彼女は、また自分をバラバラに引き裂いた。 けれど。 「……でも、少し寂しいから」 バラバラになった中から出てしまった魂を引き寄せて。 抱きしめる様にして。 「少しだけ、こうしててね」 少しだけ、その先へ。
https://w.atwiki.jp/toho_yandere/pages/339.html
前のページに戻る 男の名は○○。 交通事故というものにあったらしく、その際に怪我を負ったらしい。 同乗していた人間の声だろうか、○○は立ち上がることも出来なかったらしく 周りの断末魔の声を聞いていくうち、ああ……死ぬんだな。 そう思っていたのだそうだ。 「それで私を天使と勘違いしたって事? 残念だったわね。私は貴方が想像しているようなお優しい存在じゃないわ」 そう言うと、○○は困った顔で笑い 「でも、君は俺を助けてくれたじゃないか。 それなら天使でも悪魔でも構わない。 こんな可愛い人に助けられて、嬉しくない人間はいないよ」 「可愛い……ねぇ」 何だかむずがゆい事を平気で言う人間だと思った。 「それに、私は人間じゃないわよ」 まぁ、言っても多分、分からないだろうが。 「……宇宙人とか?」 そう言う○○の顔が真剣だったので、私はこけた。 行く当ての無い○○をここに置いてどれだけの時が過ぎたのだろう。 彼は、私が帰ってくる頃には、人形の手入れをし、部屋を片付けて 使っている道具をきちんと整理しなおしてくれる。 なんとなく、それが彼の仕事になっていた。 傷だらけだった彼曰く、いいリハビリだった、かららしい。 「ただいま……」 「お帰り、アリス。……ありゃ。随分ボロボロだね」 「いやらしい目で見ないでくれる?……まぁ、いつもの事よ。」 「また弾幕勝負かい……って!いやらしい目でなんてみてないってば!?」 「目が泳いでるわよ」 「い、いやまぁ、それはその」 「……まぁ、もう慣れたわ」 私の日常は、変わった。 ○○と出会って。 ……いや、手に入れて、か? いらだっていた私の心は、何時の間にか安らいでいて。 それでいて、何時の間にか…… 彼の存在はかけがえの無いものになっていた。 一線を越えようとした――あの日までは。 ○○はいつもと変わらず、ソファに布を掛けて寝ている。 私は産まれたままの姿で彼に近付くと、その布の中に潜り込む。 ……暖かい。 こんなにも暖かな温もりが、私の傍にある。 何も言わずに、ずっと居てくれる貴方。 私の事を可愛いと言ってくれた人。 だから貴方は私の事を……好きなんだ。 そう思って、いたの 「……何してるんだ」 酷く冷たい声。 その声は間違いなく、彼の声だった。 「……○○」 「やめてくれ……こんなの違うだろ……」 「……っ!」 私から目を背けるように、布を手渡してくると、後ろを向いたまま、続ける。 「なんのつもりなんだ……」 「……女の私に言わせるつもり?」 いつもの調子で、そう答える。 こんなにも手は震えているのに。 「……そうか。……俺はずっと君の事……」 先程まで感じていた温もりは何処へ。 刺すような冷たい言葉で、○○は言った。 「怖くて仕方なかったってのに。何時俺を殺すのか」 ……○○は私と暮らすうちに、印象が変わっていったのだそうだ。 私の魔法や、人形。 ……何度か弾幕勝負を見せた事もある。 驚いたような顔をいつもしていたが、ああそうか、あれは怯えていたのか。 いつも掃除をしていた理由は、二つ。 私の機嫌を損ねたくなかったという事。 ……そして、この状況を打開する何かを……私の家で探していたと言う事。 いつもいつも優しそうな表情をしていた。 どんな時だって変わらない。 そんな貴方が好きだった―― でもそれは、私が怖かったからなんだね 私の中で何かが抜け落ちた。 ゆらり、と立ち上がると私の中の思考は混ざり、何かどうでもよくなってゆく。 ……ただ、目の前の人が愛おしい、という感覚だけは残っている。 「……いいわ、○○」 「……?」 「対価を頂戴」 そう。貴方にはある筈だ。私に助けられた恩が、ある筈だ。 「何の対価だよ……」 「貴方を助けた対価よ。……一つだけ、たった一つだけ。お願いがあるの」 「お願い……?一体何を……」 「記憶を、頂戴」 パァン。 ……何かが弾ける様な音がした。 ○○の後ろにあった人形が麻酔薬を注入し終えると、元の場所に戻る。 私は○○が目覚める前に、ある魔法書を開き、ページを探した。 (一定期間……記憶消去……術式) 何がいけなかったのか分からない。 どうすればよかったのかが分からない。 何もかもが分からない!! ……私は何をしようとしていたんだっけ? …………ああ、そっか。 新しい人形を作らなきゃ…… 新しい人形を作らなきゃ…… 私の大切な……私だけの人形を…… ふふ……ふ、ふふふふ…… 記憶を抹消した彼を妖怪の群れへと放り込む。 その上で彼を救い出すと、初めてした時の様に手厚く治療を施した。 ……此処からが問題。 どの様にすれば○○は私のモノになるのか、考えた。 同じ事を繰り返せば、また○○は私に恐怖し、同じ事を繰り返す。 ……簡単な事だ。 私よりも強く、恐怖をもたらす様な存在が居れば良い。 私に身近な存在、かつ私と同じ体験をさせる者。 「……神綺」 濁った目でそう呟くと、呼び出されていた事を口実に、 ○○を人形に運ばせながら歩き出していた……。 大切な人が居て、帰る場所があると言う事は……一つの大きな幸せだろう。 あの日、彼女と口づけを交わしてからそんな事を考えていた。 元の世界に帰りたいという気持ちはある。 だけど、此処もまた、自分にとって大切な場所に出来たのかもしれない。 そう思うと、今までよりもずっと楽な気持ちになれた。 ……もう恐がらなくても良いのかもしれない、と。 「○○ちゃ~ん!」 神綺さんがこっちを向いて手を振っている。 信じて……いいんだよな。 だからこれからは、平穏で幸せな時間。 そんな退屈で大切でしょうがない日常が続くのだと――本気で信じていた。 ……何時もの様に家の掃除を終え、部屋に戻ると郵便が届けられていた。 中位の大きさのプレゼント箱のようなもので、丁寧にリボンまで巻いてある。 「……俺宛てに一体誰が……。ん、手紙?」 リボンにテープで止めてあった手紙を見つけた。 サラさんか、ユキさん辺りだろうか……。 後者ならば、いい加減あの時の返事位しておかなければいけないな。 そんな事を思いながら、封を開けると。 「魔界の神とのキスはどんなお味だったかしら?」 そう書かれていた。 「……ッ!?」 あの事は誰にも話していない筈だ。 神綺さんも、恥ずかしいから秘密にしてくれと言っていたのに……何故!? あの時、ドアの隙間から誰かが見ていたのだろうか。 いや、しかし……。 気持ちを落ち着け、手紙の続きを読む。 「その女は貴方の敵。 殺されないのは彼女の気紛れ。 貴方は騙されている。 彼女の道楽で生かされているに過ぎない。 貴方を何時奈落へ落としてやろうかと、友好的な表情の裏で考えているわ。」 ……これは…… 「貴方を助けられるのは、私だけよ」 一体……何の冗談なんだ? 腹立たしさと、何とも言えぬ感情を抑えきれず、手紙を破り捨てる。 と、箱の封が何時の間にか開いており…… 中には、何だ…… ……人形? 「うっ……!!」 首の無い人形が、這い出るような形をしている。 その手には金髪の髪の毛が巻きついており、より不気味さを感じさせた。 なんなんだ、これ…… だが、手紙のあの文章……。 誰が何の目的でこんな物を? ふと、巻き付いていた金髪を思い出す。 ……だが、長さからして夢子さんは違うだろう。 思い当たるのは、一人しかいない。 ……確かめに行くべきだろうか。 入っていた人形を手に、待ち合わせの場所へと向かう。 ……約束の時間よりも早く、彼女は来た。 「○○……っ!」 心から嬉しそうな表情で、ユキさんが手を振ってくる。 ……やはり勘違いなのだろうか? 「あなたから呼び出されるのは初めてだよね。 なんだか、嬉しいな……」 人差し指をあわせ、もじもじとしながら此方を見上げる。 ほんのりと、頬が赤く染まっているような気がした。 「そうだな……俺の方から呼び出すのは、これが初めてで」 人形を、握り締める。 「これで、最後になるかもしれない」 「え……」 ユキの表情が、一変する。 「もしかして……この前の事、かな……」 ……酷く残念そうな。そして、今にも泣きそうな表情になる。 「それもあるけど……それだけじゃない」 そう言うと、人形を差し出した。 「……?何、これ」 ユキは人形をまじまじと見つめる。 ……演技だろうか?自分には、そうは見えない。 そもそも、彼女なら……そんなまだるっこしいやり方をするだろうか? ―――― き さ ま よくも やったな ―――― あの時の声が、頭の中で再生される。 ……そして、あの姿。 自分を護ろうとして、紅く染まったその姿を。 ……信じるべきか?信じないべきか? その解答は、前にもやった筈だ、○○。 「送られて、来たんだ――」 人形の事を話す。すると、ユキさんは―― 心配そうな顔で、俺を見つめていた。 「そんな事が、あったんだ……」 その瞳に、狂気や異常性はない。 「それで……私を疑って、此処に呼び出したの?」 「……半分は」 「残りの、半分は……?」 「……信じてた。ユキさんの事、親友だと思ってる。だから……」 表情が曇る。けど、彼女は……責めなかった。 「親友、かぁ……」 「あはは」 笑ってみせた。 心配させない様に。 気遣わなくてもいい。 そんな、痛々しい、笑顔で。 「私は、○○の事」 「これからも好きだし、ずっと一緒に居たいって、思ってる」 「だから、いいんだ。これで……っく……いいんだ……」 ぽろぽろと。 彼女の瞳から、涙が溢れ出す。 「信じて……ひっく……もらえるだけ……」 かけられる言葉は、無かった。 「ねぇ、その人形見せてくれる?」 そう言われ、握り締めていた人形を手渡す。 「信じたくは無いけれど……私、心当たりがあるのよ」 「本当に!?」 「……うん。こんな事を出来るのは……多分、あの子だけだと思うから」 ……あの子? 「確信が持てたら……こっちから連絡するね。○○は、また何かあったら連絡して」 「分かったよ。それと、その」 「……。そんなに何度も謝らないで。 私が○○を好きな気持ちは、変わっていないんだから……」 「ユキ、さん……」 「……でもそんな優しい所を好きになったんだよね、きっと。 ははっ……ダメ、だなぁ、私……っ」 また少し、泣きそうになる。 「じゃ、ね……」 必死に笑顔を作ると、彼女は逃げる様に、走り出し。 ……ドオォォーン…… 離れた、彼女の方向から―― 耳を貫くような、爆音が、響いた。 ……そっか。これ、爆弾だったんだ…… 体のあちこちが、ばらばらになっているのが分かる。 それにしても、何て威力だろう…… 炎に耐性がある筈の私が此処まで……ね 神でも……殺すつもり、だったのかな? 教えてよ…………ス。 ……だんだん視界がぼやけてきた。 神綺様なら、助けてくれるかな。 ……きっと、助けてくれるよね。 だって、○○が……好きになった人なんだから。 ……私の想像にすぎないけど。 きっと、○○が好きなのは…… 多分、神綺様なんだよね…… いっぱい、たくさん、ずっと、おしゃべりしてたから。 わかるんだぁ……○○の事。 魔界人でもなくて。 とっても弱いのに。 それを隠して、優しくしようとして。 でもやっぱり怖くて、素直になれない そんな貴方が、好きだった―― 「ユキさんっ!!ユキさぁんっ!!」 ……あ。 良かった、無事だったんだ…… なら、ちゃんと…… ちゃんと、つたえないと。 わたしをしんじてくれた、あなたのために 「――――――。――」 ユキさんは、――動かなくなった。 「……」 最後に言われた名前を思い出す。 「アリス……」 確か、自分を手当てし、此処へ運んでくれた人物だ。 ……前から気にはなっていたが。 此処で彼女の名前を聞くとは思わなかった。 「……俺は、どうすれば……」 おぼつかない足取りで、俺は家へと足を進めた。 ……影で見ていた、神綺さんに気付く事無く。 ……出来る事なら。 俺は此処で逃げるべきだった。 逃げる方法も、逃げる場所も。 そんなもの、ありはしなかったけれど。 ……あの爆発は魔界で事件として取り上げられ。 ユキさんの事を胸に抱えたまま…… ただただ、日常を過ごしていた。 「……大変だったのね」 夢子さんがお茶を入れてくれたらしい。 ……ミルクティーだ。 「いただきます」 少しだけ飲むと、気になっていた事を聞く。 「その……ユキさんは……」 「……」 夢子さんは表情を変えない。 「神綺様……次第ね」 そう言うと、口を噤んでしまった。 「神綺さん……」 「○○ちゃん?」 その表情に、何時もの柔らかさは無い。 何処か、威圧感さえ感じる。 「ユキさんの容態は……」 「既に生命反応は無いわ。――気味」 「……え?今、何て」 「なんでもないわ」 その口調は、何処か突き放すような感じだった。 「……一から創り直せば何とかなると思うわ」 「……!本当なんですか!?本当になんとか出来るん」 「……何でそんなに喜ぶの?」 え? 「何勝手に他の女の子に会いに行ってるのよ」 後ろを向いたまま、彼女は言う。 ……何を、言ってる? 「神綺……さん?それはどういう……」 「……だって」 彼女が振り向く。 その表情は―― まるで、悪魔の様で。 「○○ちゃんは、私の事……好きなんでしょう?」 僅かに、口元を歪ませて……そう言った。 「神綺さん!!!」 大声で呼びかける。 が、彼女は答えない。 「……またユキなのね」 「またって……」 「初めてのデートも、ユキだったじゃない?」 「デートって……それにあれは、マイさんも一緒に」 「そっか。それならマイも同罪ね」 ちゃん付けは、しなかった。 「罰を与えなきゃね?もう死んでるこいつには関係ないけれど」 「神綺さん!?どうして……!さっき、何とか出来るって」 今度は真っ直ぐ此方を見て。 「だってまた誑かされたらいやじゃない」 底の見えない笑顔で、笑った。 神綺に呼び出されたマイは、何処か浮かない表情で。 ぶつぶつと、何か呟きながら歩いている。 「あいつは……本当に役立たずで……バカでっ」 俯いたまま、前を向く事は無かった。 「……失礼します」 普段の口調を取り繕う。 「よく来たわね」 神綺が、そう応える。 ……? 何か少し、雰囲気が違うような…… 「御用があると伺ったので……あの、ユキは?」 「……えぇ。大切な用事があるの。ユキちゃんに関する事よ」 ……! もしや、ユキを創り治すのに、何か障害があったのだろうか。 いや、それより。ユキは、治るんだ! そう思うと、少しだけ頬が緩んだ。 ……全く。あいつはほんっと役立たずでヘタレなんだから。 やっぱりあいつの傍には私が居てやらないといけない。 あの弱々しい、何処から着たかも分からない男なんかに任せておけるものか。 「こっちの部屋に来てくれる?説明するわ」 そんな事を考えながら、私は。 ――その部屋へと、入った。 ――鎖に拘束された、○○と。 傷だらけの、ユキの――が置かれた部屋に。 「……うっ!?」 思わず、身を引く。 ――背後。 先程まで居た神綺が、何故か立っている。 「遠慮しなくていいのよ。マイ」 ガツッ 頭に激痛が走る―― 私は、意識を手放した。 あれから数日は経っただろうか…… 神綺さんは……完全におかしくなってしまった。 ……それとも、最初から、おかしかったというのだろうか? ――買い物に行った時の事。 空を飛べる、指輪をくれた時の事。 遅くなって、怒られた時の事。 ……どうして、俺の思っていた、彼女の姿と…… 今の貴方は、かけ離れてしまっているんだ…? 狂気に歪んだ表情で、鎖に繋がれたマイさんを痛めつける。 魔法や、弾幕、鞭、それに―― 「許す筈もない。○○を私から、奪おうとする奴は……」 もう、マイさんは悲鳴を上げる事もなく。 今、生きているのか、死んでいるのか。 それすら、分からなかった。 ○○が、神綺を好きと言ってから、少し経った、ある日―― 「……ふぅ」 枕を抱いて、ベッドに転がりながら○○の事を考える。 今、あの人は何をしてるのかしら? 何時ものように掃除かな? それとも、部屋で休んでる? それとも― ゾクッ ふと、○○が夢子やユキと楽しげに話している姿を思い浮かべ。 何だか、凄く嫌な気分になる。 「……むぅ」 もしかして……これって嫉妬? そう思うと、何だか負けた気がする。 「……なんだかなぁ」 なので首を振り、その考えを振り払った。 「信じてるって、言ってたし…… 信じて、いいんだよね?」 自分に言い聞かせるように、確かめる様に。 枕を抱きしめ、神綺は目を閉じた。 「今……なんて言ったの?」 「その……ですから。○○と私は付き合ってるって、あの子に言って欲しいんです」 ……目の前に居たのは、サラだった。 神綺に用事があると良い、態々門番の仕事が無い日に尋ねてきた。 ……その内容が、これだった。 「……どういう……事、なの?」 いつになく、心がぐらつく。 ハンマーで叩かれるような衝撃。 ……え? だって。 だって、○○ちゃんは。 私を、好きって言ってるのよ……? 私だけを、信じてるって、言ったのよ……?? 「だからですね。○○も迷惑してるんです。 神綺様から口添えしてもらえれば、あの子もきっと……」 だから。 お前は 何を 言ってる 『奪われる。 私への 想いが』 「あの、神綺様……?」 うるさい 『ツクリモノでない、あの人の好意が。 目の前の、ツクリモノに奪われる』 「聞いてますか?」 うるさい 『壊される。こいつに。奪われる。こいつらに。壊される。 奪われる。こいつに。壊される。こいつらに。奪われる』 「もしかして、体調が優れ……」 黙 れ ! ! 『……奪われるなら、コワシテシマエ』 グチャッ 「あ……?」 目の前には、血飛沫。 肉片一つ、残っていない。 「……○○ちゃん」 ――返り血を掬い、顔に、服に、塗りたくる。 そして、○○を想うと。 ……幸せそうな表情で……顔を、歪ませた マイさんを痛めつけ、息を切らせた神綺さんが……ゆっくりと、口を開く。 「○○の想いは、私だけの……私だけの……もの……」 ……狂気で冷たくなった表情の中には、恐怖。 辛く、今にも泣き出しそうな……、脅える様な、そんな感覚が満ちていた。 「……」 そして黙ったまま……何故か、部屋を出ていった。 「……マイさんっ!!」 呼びかける。 反応は、無い。 やっぱり、マイさんは…… ……ガチャリ。 扉の音がした。 ……もう戻ってきたのか?! だが、其処に居たのは……神綺ではなかった。 「……やっと会えたわね。○○」 え……? 誰だ、この人は。 何で、俺の名前を知ってるんだ? 「随分探したわ……けれど、大分面白い事になってるみたいで嬉しいわ。 ……あら、ユキ姉さんに、マイ姉さんまで。 ユキ姉さんは、随分と……綺麗になったじゃない。そう、人形は貴方が持ったのね。ふふっ」 ……人形!? その言葉に、ピンとくる。 もしや……こいつが、アリス……!? 「○○。……大丈夫?今助けてあげるから」 「お前が……アリス?!」 「……そうよ」 こいつが…! 「よくも……っ!よくも、ユキさんをっ!お前のせいで――彼女は!」 「……何言ってるの?貴方を護る為にしたことよ」 しらじらしい。 「ユキさんを……ユキさんを……返してくれっ!!」 「……。……そっか。○○は誤解してるのよ……」 何が、誤解だ……。 「書いてあったでしょう?貴方は道楽で生かされてるだけだって。 だから、貴方に殺意がある人がアレを持つと、爆発するように仕掛けたのよ」 「そんな訳無いだろっ!!」 「……そんな事あるわよ。だって貴方、ただの人間じゃない」 「……!」 「私以外にとってはね」 「ユキさんが俺を殺す筈無い!」 「……どうしてそう、言い切れるの?」 「どうしてっ、て……」 少し、アリスの顔が厳しくなる。 が、躊躇わず俺は続けた。 「ユキさんは……俺の事を好きだった筈だから!!」 ガチャリ。 ……扉が開く。 アリスの後ろには、神綺さんが居た。 「あ……?」 突然の事に、アリスは反応できなかった。 ……神綺さんのには、注射器が握られていた。 「そういえば、○○ちゃんは、アリスちゃんがくれたんだっけ……」 アリスが、倒れる。 「ならアリスちゃんには死をあげるわ。……これで本当に死の少女ね」 そう言って。 アリスを、横に蹴り払った。 ツカ ツカ ツカ 此方に歩いてくる。 …片手にはもう一本、注射器。 俺も、殺されるのだろうか。 その意図が伝わったのか。 「……○○ちゃんのは違うわよ」 そういって、首筋に針を刺し―― 何も、わからなくなった。 渇く。 体が、軋む。 早く。 早く、神綺の所に、行かないと。 「…待ちきれなかったの?○○ちゃん」 その姿を見つけ、俺は彼女にキスをする。 そして、その唾液を貪るように――飲み干す。 「ねぇ、○○ちゃん」 段々と痛みが、引いていき。 ……感覚が、麻痺してゆく。 「聞きたい事があるの」 ……何時もの、質問。 彼女は、時折こうやって聞いてくる。 「あの子の事、どう思う?」 人形を抱えた、金髪の少女。 ……何だろう。何故か不快になる。 「……嫌いだ」 「そう」 感傷も無く、神綺がそれを吹き飛ばす。 何か悲鳴の様なものが響いたが、聞こえない。 「じゃあ、この子は?」 赤い服を着た……門番みたいな、女。 ……特に、何も感じない。 「別に」 「そう」 そしてまた、吹き飛ばす。 また何か響いたが、聞こえない。 「それでね」 ……今日はまだ居るらしい。 随分と、忙しい。 俺は、早く、神綺と 「この子は?」 帽子を被った、女の子。 ……あ。 ……なん、だっけ。 「…どうしたの。○○ちゃん」 神綺が心配そうに、此方を見る。 ……なん、だったっけ。 何か、言わなきゃ。 ……。 「多分、しって、る」 「そう」 そして 彼女もまた、吹き飛ばされた。 悲鳴は、聞こえなかった。 「何度創っても……あの子の事は気にするのね」 そう言って、彼女が俺を抱きしめる。 「早く忘れてしまいなさい。……○○ちゃんを壊すもの、全部」 ……何故だろう。涙が流れた。 壊れてしまったのは、俺じゃない。本当に、壊れてしまったのは―― 「泣いてるの……?私も、○○ちゃんと一緒で……嬉しいよ」 ……そして、彼女を抱きしめると。そのまま押し倒した。 床に自分達の姿が映る。 ……汚い。 何故か、そうおもった。
https://w.atwiki.jp/thmugen/pages/455.html
魔界の神「神綺」 魔界の神「神綺」 キャラクター シンボル:白 必要コスト<白:4 無:3> 攻撃力:7 耐久力:8 属性:神 カリスマ 《自動》:このカードは、相手の目標にならない。 【白:6】自分のデッキを全て見て、その中にあるエンチャントF1枚を抜き出し、活動状態で場に出す事が出来る。その後、自分のデッキをシャッフルする。 「」 illus:ふぇっちー コメント 自動能力により相手からの目標に一切ならない。目標を取るスペルやテキスト効果は完全にシャットアウトされる。7/8というスペックも、強力な7/7勢を打ち落とせるため都合が良い。 目標にならない能力がカリスマの上位互換に当たるため、カリスマは実質的には効果を発揮していない。神槍「スピア・ザ・グングニル」のようなカリスマを持っているかが条件に問われる場合のみ意味を持つ。 エンチャントFを場に出すという個性的なテキスト能力を持っている。1枚挿しのエンチャントFでもデッキから引っ張り出せるため、斬新なデッキ構成が出来るかもしれない。 ただコストが真っ白なため他色のエンチャントFを入れるのは少し悩ましいところ。 一見すると除去出来ないように見えるが、実際には除去手段は結構ある。 審判「ラストジャッジメント」でまとめて流す 結界「動と静の均衡」や結界「光と闇の網目」で相手に廃棄させる 華胥の亡霊「西行寺 幽々子」と交戦でターン終了時に廃棄 妨害エンチャントCは全般的に目標を取っていないので「幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)」、蛙狩「蛙は口ゆえ蛇に呑まるる」、無意識の住人は有効。 ただ、普通のキャラに比べ遥かに除去耐性が高いのは確か。 関連