約 5,047,540 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/898.html
舞い踊る、白鳥の乙女達(中編) 一見すると、それはミサイルにしがみついた鳥というフォルムであった。 白鳥の“スヴェン”と隼型の“ファルケン”、百舌鳥型・“ビルガー”。 これが“Valkyrja”進化の最終形として私が考えついた、追加武装だッ! 三羽の鳥はレーザーで“天使達”を威嚇しつつ、各々の主へと寄り添う。 「“SSS”着装!“Valkyrja・Skjald-maer・Phase”へっ!!」 『な、何?晶ちゃんのお手製かな?……い、一度下がってっ』 「う、うんっ!何アレっ?!」 次の瞬間“SSS”は分解されて、姿を現したばかりの“Valkyrja”に 接続。伝承に伝わる“白鳥の乙女”をイメージした姿へと変貌させる。 その手には、棺桶風コンテナミサイルランチャーと剣、そして……槍。 音叉の様な形状の槍、と言えば神姫に詳しい諸兄には察しも付こうな。 先に動いたのは、その槍を振ったクララだった。穂先から、音が響く! 「逃がさないよ……“ミストルティン”、常若の力を殺いで!」 「うぁ……ぁあ!?な、何?ブースターの出力が、落ちる……?」 「って言うか、なんだかフラフラ……こ、このっ!」 「気をしっかり持ってっ!この音に惑わされちゃ、ダメッ!!」 「……足が止まった、今だよ」 ジャミングスレイヤー“ミストルティン”。第四弾・ジルダリアの槍を 参考に私が作った、音波攻撃武装である。音圧で攻撃するだけでなく、 元来の武装と同じく神姫の制御機能をジャミングする事が可能なのだ! 本家本元のジルダリアには若干劣るが、これでも妨害には有効である。 効果を見計らって、ロッテがミサイルランチャーを上下に割り開いた。 「“ギャッラルホルン”、彼女らの決定的な敗北を……えいっ!」 「うぅ……って何このミサイル!?このっ、って黒いッ!?」 「え、煙幕弾!だめ、離れないと視界がとれないよ?!」 「ティニア、そう言ってもさっきのがまだ……うーっ!?」 「突っ込んでも、大丈夫ですの。援護します!」 “ギャッラルホルン”と称されるミサイルコンテナには、ロッテ愛用の 煙幕弾が大量に搭載してあるのだ。黒い帳によりアーコロジーの天蓋は 闇に覆い尽くされ、その中途にいた“天使達”が暗黒に藻掻き始める。 重力設定の都合もある故、拡散には時間が掛かる。絶好のチャンスを、 アルマは見逃すことなく飛び込んでいく。雷を纏った刃を構えてなッ! 「“ノートゥング”の一撃、この状態でかわせますかっ!?」 「きゃ、あああぁぁぁぁあっ!?」 『ティニアッ!!?』 “ノートゥング”とは、とどのつまりスタン機能を備えたクレイモア。 だがシンプル故に色々と扱いやすく、打撃力も非常に高い逸品である。 上昇する出力を全て上乗せして、装甲ごと相手を叩き斬る事も可能だ。 そして事実その様に、“天使”の一人は切り伏せられた。ゆっくりと、 月面へと一人が落着していく。この時点で3対2と有利だ。だが……! 「迂闊に飛び込んじゃったのは、失敗ですよ!」 「あ……」 煙幕が晴れた時、アルマの前にはキャノンランサーの砲身があった。 ティニアとやらの位置を覚えていたミラ……か?が、接近したのだ。 今だ完全に闇が払拭されない現状で、傍目にはイリンとやらの位置は 完全に見えなくなっている。だが、度胸を付けたアルマは怯まない。 そう、ロッテが戦っていた時。アルマも己と戦っていたのだからな! 「……一つ、いいですか?」 「なんですっ?」 そっとアルマは指摘する様に、“左手”の人差し指を立て話し出した。 だが、それと同時に“SSS”から変じた“右肩”の防壁が展開する。 それは……無数のマイクロミサイルだ。それは正確に、後ろへ飛んだ! 暗闇の奥に潜んでいた天使を燻り出すには、十分な威力を持っている! 「えっ!?うわあぁぁぁっ!!」 「貴女達は、コンビネーションが完璧すぎます……!!」 「イリンッ!!な、なんでバレたの!!?」 「さっきロッテちゃんを掴まえた時も、ぴったり点対称でしたから」 「くっ……!」 同型である“天使達”のシンパシーは、三姉妹の非ではないだろう。 但し完璧すぎる同調は、こういう隙を産み出す事にも繋がっていく。 だからこそ私は、その手の調整プログラムをアルマ達には使わない。 訓練と実戦の中で積み上げ構築した、体感的なコンビネーションこそ 真に役立ち、強さを発揮する“絆の力”と言える物なのだからな!! 「これで、貴女達は分断されました!」 「後は一人ずつ、ボクら個人が……」 「お相手を務めさせてもらいますのッ!」 空中にいるミラと、アルマに叩き落とされたイリン・ティニアの位置は 大分離れている。合流を阻止する為に、ロッテとクララは落下している 二人の前に躍り出て、一対一の戦いを望んだのだ。同時に“SSS”は 願いに応える様に、展開して真の姿を見せる。追加武装としての姿だ! 全くフォルムを変えた三人を前にして、一歩も“天使達”は退かない。 それでこそ私の従姉……に仕える神姫達だと言える。見上げた闘志だ! 「妹を傷つけた以上、手加減はしないわよ!」 「それでいいです。あたしも全力でいきますから!」 「く、姉様の従妹の神姫だって手加減しないわよッ!」 「……それはボクらも同じ。さあ、決着を付けよう」 「強そうなのはわかるけど、私達も負けられないッ!!」 「大丈夫、勝つのはわたし達ですの!」 ──────どちらが真の“戦乙女”か、決着だよ……! 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1340.html
戦うことを忘れた武装神姫 その36 日付も変わった深夜。 久遠は、自宅から少しはなれたところでバイクのエンジンを切り、押して駐車場へ。静かにバイクを止め、階段をコソコソと昇り、そっと鍵を開けて部屋に入る。 「ただいまー。」 小さく呟くながらキッチンの明かりだけをつけ、ホッと一息をつく。すでに夕食はコンビニで済ませている。 歯を磨きながらシャワーを浴び、着替えを済ませて静かに自室へと入った。 薄暗い部屋の中、それぞれにクレイドルをおいて眠る神姫たち。イオは机の上で標準型に腰掛けて。リゼは和壱型で布団を蹴飛ばし大の字になり、エルガはぬくぬくこたつから頭だけを出して。 だがー。 シンメイが、いない。いつもはこの辺で寝ているはずなのに・・・。 久遠は音を立てぬように、シンメイを捜索する・・・と。 「なんだ、こんなところにいたのか。」 積み上げられた本の陰で、丸くなっていたシンメイを見つけた。 純正を改造して作ったバケットシート型のクレイドルからも外れ、本とDVDの隙間に入り込むような形で・・・。 「ちゃんとクレイドルで寝ないと、バッテリー切れ起こすぞ。」 そっとつついて起こす・・・と。 「くぅん。。。 ママぁ。。。」 か細い声と共にもそり身体を起こしたシンメイは、潤んだ瞳で久遠を見つめた。 また寝ぼけてるな・・・そう思いながら手のひらを差し出すと・・・何だか様子が違う。 手のひらのニオイを嗅ぐ仕草を見せ、ちょこんと座ると、 「ママじゃないよぉ・・・ママは・・・どこ?」 と、指をしゃぶりながらじっと見つめ続ける。 「えええ!?」 手の上でごろり横になって再び小さく丸くなる。 「ママはどこ? ねぇ、おにいちゃん。」 「い、今はでかけているから・・・しばらくここで休んでいたらどうだい?」 うろたえながらも、久遠が頭を撫でながら言うと、小さく頷いた。 はてさて、どうしたらいいものか。 台所で、コーヒー片手に考える久遠。 左手にはエルガのようにじゃれついてくるシンメイが乗っている。 すでに2時半を過ぎた時刻を指す時計のコチコチという作動音に、時折ちゅっちゅっと、シンメイが指をしゃぶる音が混じる。 何かに怯えるような瞳で不意に見つめるが、そっと頭を撫でてやると・・・緊張が解けるかのように、シンメイの脚の力が抜けるのが久遠の手のひらに伝わる・・・。 こんなことは、今までになかった。 故に、対処方法がわからない。 右手で携帯を駆使して調べるものの、スッキリとした回答が得られない。 傍らに置いた3杯目のコーヒーがすっかり冷めたとき。 「あ、マスターでしたか。」 ふと、足元からの声。 イオが起きてきた。 「物音がしたので気になって来たのですが・・・あら? シンメイ。」 久遠の左手に乗るシンメイに気づいたイオは、もそもそと足をよじ登ってテーブルの上へ。 「こんな夜更けに、何をしているんですか?」 イオが、相変わらず指をしゃぶるシンメイにそっと声を掛けた。 「あ。ママ・・・!」 顔を上げたシンメイがとった行動は、久遠も、イオも、想像もしていなかったことだった。 「ちょ、ちょっとどうしたんですか一体! こらシンメイ!」 ぽふ。 イオの胸に、顔をうずめるシンメイ。 赤子が母親の匂いを確かめるかのようにぎゅっと顔を胸に当てて・・・心底安心したような穏やかな笑顔を浮かべた。 「おかえりなさい、ママ・・・。」 ぎゅっと抱きつくシンメイに、イオもまた困惑した表情を浮かべ、久遠を見つめた。 久遠は、これまでの経緯を -といっても、様子がおかしいというだけのレベルではあるが- イオに伝えた。 すると。 何かを思いだしたのだろうか、久遠からシンメイの笑顔に視線を移したイオの表情が一転、まさに母親のような穏やかな顔付きで、シンメイの頭をそっと抱いた。 「寂しかったのね・・・。でも、もう大丈夫。今夜は、ママがずっと一緒にいてあげますよ。」 こくり。イオの腕の中で頷いたシンメイ。 そして、決して上手いとは言えないイオの子守歌が静かに響いた。 >>続くよっ!!!>> >>その37 へ・・・ <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1510.html
主の無き華と、新しき風(前半) まただ。私・槇野晶はMMSショップ“ALChemist”の扉を開き入ってきた、 招かざる客共へと相対する。この時節、歳末となると勘違いして迷い込む “二人連れ”が必ず居てな。毎年追い払うのに苦労する物だ……しかも、 今年は何故か、こういう連中を見ていると苛立たしい。“告白”以来だ。 「ええい!ここは喫茶店ではない、見せつけんでさっさと帰らぬかッ!」 「見せつけてるってー☆ケンジあたし達お似合いかもよー?ふふふ……」 「だな、子供にはまだ早いかもな。行こうぜユリ♪じゃあなお嬢ちゃん」 横に積んでおいた塩を撒いて、『一文字多い』カップル共を追い出す。 そして店の方を振り返ると……なるほど、白壁と木目調ドアのシックな 装いに私は一人肯いた。この外観、オープンカフェに見えなくもない。 尤も、こんな地下でオープンもクローズもあった物ではないと思うが。 一段落した所で、店の奥から呼ぶ声が聞こえた。そう、我が“妹”だ。 「……マイスター?どうしましたの~、また勘違いした人達ですの~?」 「む、ロッテ今待ってろ。もうじき戻る……そうだ、また喧しい連中だ」 「マイスターってここまで過剰反応するタイプですか、ロッテちゃん?」 「去年はこんなに酷くなかったと思いますの。多分、アレの所為ですの」 「……迷わせちゃってるのは、心苦しい気もするんだよ。でも……ね?」 ……どうも見透かされているらしいな。そう、自分でも分かっている。 ロッテ達の“告白”を受けてから、自身のそう言った意味での在り方を 色々と考える様になってしまってな……言うべき言葉があるのに、未だ 言えぬという弱さもあり、他人のそう言う姿は見ていて辛い物がある。 だが癇癪を起こしすぎとも言えなくはない。少々落ちつかんとな……。 私はじっと店の中央に佇み、深呼吸がてら改めて店内を見回してみた。 「すぅ……はぁ~……ん、もう少し待ってくれぬか皆。すぐ戻るぞ?」 『はいっ!』 洒落た木製のベンチとテーブル。壁一面を埋め尽くす、落ちついた意匠の 棚には……神姫達の為にと、私が作り続けてきた“Electro Lolita”達。 キャッシャーや私の居座る机も、パン屋か喫茶店か?という木目調の物。 偶に飾ってある絵は、値段こそ大したことはないが優しい雰囲気を放ち、 ガラスケースには硬質装備も入っているが、極力柔和な飾り付けである。 徹頭徹尾雑然さを廃した店内はお洒落且つ可憐で、照明も優しく明るい。 「……あぁ、そうか。私は結局、全てに於いて神姫を尊重していたのか」 「マイスター……マイスター?大丈夫かな、足でもぶつけてない……?」 「む?!あ、いや大丈夫だぞっ。少々深呼吸をな……戻ろうかクララや」 「ん……今は書き入れ時だから、マイスターもボクらも頑張らないとね」 『クルルゥ♪』 己がどういう振る舞いをしてきたか、改めて確認した私は店の奥に戻る。 そう、全ては神姫の為に。これが私の……“あの時”から変わらぬ姿で、 今作っている“これ”も、神姫の為だ。ともあれ作業台には二人がいた。 リンドルムに乗り私を迎えに来たクララと、アルマ・ロッテが合流する。 「マイスター遅いですの!早く春に掛けての“新作”が見たいですの♪」 「そうですよ……何でも今回はとっても凝ってるって聞いたんですよ!」 「春新作の“Electro Lolita”……どんなデザインになってるのかな?」 「有無、凝っているしデザインも拘った……のだが、少々悩んでいてな」 興味津々と言った風情の三人。彼女らは、本当に飽きさせぬ反応をする。 こういう娘らがいる故に、私も奮起するのかもしれんな。そう思いつつ、 箱から取り出したのは、白を基調とした淡色のドレス。それが“四着”。 「ふぇ……あ、あれ?え~と、紅と蒼に……翠と、“紫”ですかこれ?」 「有無。正確には“菫色”とでも言おうか。フリルにも似合うだろうッ」 「うん。他の服も“桜色”と“空色”に、“萌葱色”って風情なんだよ」 「縫製もより一層、腕が上がってて綺麗ですの~♪……でも“四着”?」 「そう。“四着”なのだ。四パターン考えているのだが、お前達は三人」 正確には五パターンなのだが、最後の“白陽”は私が自身で着る服の色。 だがそれを考慮せぬとしても、どうしても一人分が余ってしまうのだな。 “三姉妹”で着回せばいいのかもしれぬし、販売するにあたってはむしろ バリエーションの多い方が好都合なのだが。どうもこう、据わりが悪い。 「一人増やすって選択肢は……ない、かな。マイスターの心情を思うと」 「そうだな。お前達への“答”が出ない内には、何かと混乱しかねない」 「でもそれだったらこの“菫色”はどうするんです、マイスター……?」 「むぅ……誰かに試着だけしてもらい、後は販売開始と行きたいのだが」 「……マイスターはいつも、わたし達に着せてくれてましたの。だから」 「そうなのだ。偏った拘りと分かっていても、是非着て欲しくてな……」 大事な“妹”達の眼鏡に適わぬ品を出すのは、正直些か気が引けるのだ。 それは即ち、私の試作品を着こなして……喜んでもらってから売りたい。 量産タイプの“フィオラ”ですら、そのプロセスは決して崩さなかった。 だが、今ある新作の試作品は四着。このままでは、どうしても足が出る。 「もう二着考案し、それを交代で着てもらうか?……少々考えてみるか」 「あ、それならとりあえず基本の三着だけでも着せてもらえませんの?」 「それがいいかもしれないよ。マイスターに少しは見てもらいたいもん」 「ね、あたし達に着させてくださいよ。仕舞っちゃわないで……ねっ?」 「ふむ……しょうがないな。では“桜”と“空”、“萌”を着てもらう」 『はいッ!!!』 ──────春を呼ぶ色、もう少しだけ欲しいのにね。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/790.html
<シンメイの日記> 註:これは、久遠の神姫の「シンメイ」が書いた日記を、そのまま転載したものである。 3月10日 -前編- 今日はマスターのお仕事に、エルガと一緒に同伴です。 ・・・とはいっても、仕事時間はバイクのリアボックスで待機なのですが。 昼過ぎ。 予定の時刻をオーバーしてマスターが戻ってきました。どうやら 仕事が押してしまい、半日勤務の筈が1時間ほど延長してしまったようです。 ボックスの蓋が開き、外の光が差し込みます。。。 「おまたせ。 ごめんね、寒かったっしょ。」 マスターはそう言いながら私たちを胸ポケットへ移してくれました。 ここは私とエルガの指定席。ここに私たちがおさまる時、それはマスターと お出かけをする時。。。 今日はどこへ行くのですか? マスターに尋ねました。 「温泉。 腰痛と肩こりと、膝の痛みがでちゃって。」 そう言いながら、膝をさするマスター。 かつてバイクで怪我をしたとかで、 寒くなると決まって膝が疼くんだとか・・・。 「でもでも、今日はおでかけバイクじゃないよ?」 エルガが声をかけます。そうなのです、今日はいつぞや有明や新宿へ行った 時に乗った、お出かけ用の大きい黒いのではなく通勤用の白い単車なのです。 「いや・・・ホントはちょろっと買い物して飯くうだけのつもりだったんだ けれど、ともかく腰と膝がひどくてひどくて。。。」 ヘルメットをかぶり、マスターはエンジンをかけます。 最近ではほとんど聞くことの無くなった、乾いた軽快なエンジン音。 今や 絶滅寸前と言われている、2ストローク車がマスターの通勤用単車なのです。 かつて孤高の400と言われたお出かけ用単車といい、マスターの嗜好はいま ひとつ理解に苦しむ所があります・・・。 原付二種とはいえ、さすが2スト車。クルマの流れをリードし、景色がどん どんと後へと流れていきます。 隣のエルガは、あのクルマを追い越せだの、 交差点を攻めろだのと叫ぶので五月蠅くてちょっとゲンナリ。 「・・・シンメイ、寒くないか?」 信号待ちで、マスターが声をかけてくれました。私は首を横に振ります。 マスターのポケットに入ってさえいれば、外がどんなに寒くても暖かいん ですもの。。。 やがて大きな国道から県道へ移り、旧市街を進みます。 沿道ではちょっとした催しが開かれており、人でいっぱい。 道路も渋滞 気味で、マスターの単車にはちょっと苦手なシチュエーション。 「へぇ・・・神姫の子守歌か・・・。」 歩道に目をやったマスターがぼそり呟きました。そこには鳴き声をあげる 子供、あやすお父さんとツガルタイプ。 いずれ私たちも、そんな存在になることができるでしょうか・・・? 旧市街を抜け、気づけば山道峠道。 急にマスターが喋らなくなりました。 目が真剣・・・。 どうもこういう道では、相変わらず、どんなクルマに 乗っていても火がつく性分のようです・・・。 マスター! アクセル開けすぎです!! ・・・と叫んではみるのですが、 全くもって聞こえていないようです。エルガはエルガで、運転技術を学ぶ とかいって、これまた黙ってマスターの動きを見ています・・・ あぁもう、どうしてこうなんですか、この人たちはっ!! ・・・それから約15分後。 視界がぱっと開け、川沿いの道を山へ向かい 進み、目的の温泉へ到着。 わたわたと単車を止め、私たちをポケットに 入れたまま温泉施設へと向かいました。 温泉は初めての私たち。 何も言われなかったとの理由で、マスターは私 たちを桶に入れて堂々と洗い場へ。 ・・・見回せば・・・ あら、同業 者が数名いらっしゃいましたね・・・。 あそこではシャンプーハットを かぶった白子がいます・・・。 「・・・? なんだシンメイ、お前も使うか?」 マスターが聞いてきました。ふと見ればエルガもシャンプーハットを装着 してマスターに頭を洗ってもらっています。 「べ、別に・・・自分で洗えますから・・・」 とは言ったものの、ちょっと羨ましい・・・なんて思っていたら。 「じゃ、身体洗ってやるよ。」 と言うなり、マスターは私を抱き上げ、泡だらけのタオルでやさしく身体 を洗い始めたではないですか!どんどん泡だらけになる私のカラダ・・・ ・・・マスターに全く下心が無いのは十分承知です。 なのに、何でしょう、この気持ちの高ぶりは・・・。 ・・・コォン!! そのドキドキをうち破るかのように、私の頭に神姫サイズケロリン桶がっ! 「こらエルガ! 走るなと言っただろう!」 洗い場の鏡の前を走っていたエルガ、泡に足をとられて見事に転倒、その先 に置かれていた桶を蹴っ飛ばす形になり飛んできた模様・・・。 結局、私とマスターのドキドキ時間はごくわずかで終わってしまいました。 ・・・エルガ、あとで覚えておきなさい・・・!! >後編へ続く> <トップ へ戻る<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/701.html
特殊戦闘訓練──あるいは神姫無双(前半) そこは、荒野というよりも砂漠という形容詞がしっくりくる場所だ。 不毛の大地には一つの高層ビルと、荒れ果て放棄されたハイウェイ。 朽ちたビルの一室に、“Heiliges Kleid”姿のロッテが佇んでいる。 彼女の周囲には、無数のぷちマスィーンズと無地の神姫素体が数体。 「よし、ではこれから集団戦闘の訓練と“SSS”の試験を行う」 「はいですの、マイスター!……この訓練用ポッドも久々ですの」 「大規模集団戦闘に対応するタイプへと買い換えたからな、有無」 「うんと、ロッテちゃん頑張ってくださいね?数は……108機」 「……ぷちが100機にネイキッドタイプが8機。物量は多いよ」 無論何の脈絡もなく、こんな世紀末的な状況に陥ったのではないぞ? “鳳凰カップ”に備えて、私はロッテ用に追加武装を用意したのだ。 加えて今回のバトル、トップランカーと戦う可能性さえ十分にある。 そうなれば多少厳しくても、実効的な戦闘訓練を繰り返すしかない。 という訳で、新調した高機能型訓練用ポッドにロッテを入れたのだ。 「“Heiliges Kleid”だけでは弾薬が足りまい。指示はクララにな?」 「了解ですのッ!……じゃあ、クララちゃん指示をお願いしますの♪」 「……弟108dトレーニング開始するんだよ、エネミーは活動開始して」 凡そ“神姫”とは言い難いネイキッドタイプの鉄仮面に、光が灯った。 同時に、規格統一された訓練用のぷちマスィーンズが一斉に動き出す。 無論その場に留まっていれば、瞬時に蜂の巣か八つ裂きだろう。有無。 故にロッテは“やってのける”。包囲の薄い部分へ、走り出したのだ! 即座にぷちが反応するが、それよりも速く構えたライフルが火を噴く! 「せあああっ!退いてもらいますのッ!!」 『ギギギギギ……!?』 無機質な呻きを上げながら、ぷちが2~3機撃墜される。脚のローラー、 “アサルトキャリバー”で残骸を蹴飛ばしながら、彼女が包囲網を崩す。 手に構えたるはバスターライフル“ムラクモ”。精密狙撃も可能ならば、 ショットガンによる近接攻撃や、乱射による面制圧も可能な特殊銃器だ。 「巧く長い通路に出られましたの……さ、来てください?」 『Syaaaaaaaaaaaaaa!!!』 「匍匐姿勢を取って……2時、5時、9時ッ!」 『Ahhhhh!?』 個々の能力に於いて若干劣るのがこの手の複合武装によくある弱点だが、 ロッテを初めとした“三姉妹”には、地形を活かす戦術が備わっている。 この場合はビルの長い通路にぷちを誘い込んで、一機ずつ狙撃を行った。 バレルを変形させた狙撃用ライフルは、威力はさておき精度がばらつく。 その“クセ”を補正して、的確に相手を撃つ。アーンヴァルならではだ。 「……流石に数が多いですの、狙撃は止めますっ!」 『ギギッ!』 「後ろも取られますし……ねッ!」 『ギァッ!!?』 だが、流石に難易度の高い訓練だけはある。一体のネイキッドタイプが、 別の通路から伏せていたロッテを強襲したのだ!アーミーブレードによる 一撃を横回転でかわした彼女は、ソードオフ・ショットガンのトリガーに 手を掛けて……弾く。乾いた音と共に、訓練用のダミーヘッドが砕ける。 無論ヴァーチャル故に相手は破片さえ残さず、ポリゴンになって消えた。 「やっぱりこの姿は、火力面だと不利ですの……付いてきてっ!」 『ShaGyaaaaaaaaaaaaaaa!!!』 腰を据えた狙撃が出来ないと悟ったロッテは、そのままローラーによって 廃ビルを駆け上がり、屋上まで一気に到達する。その後を追って、ビルの 外壁から雲霞の如くぷちが押し寄せて、再びロッテは囲まれてしまった。 残り七機のネイキッドタイプはまだ来ぬが、留まっていれば肉薄される。 「……数を少々減らします、のッ!」 『Plug-out!』 『Gaaaaaaaaaaaaaa!?!』 だが流石は我が“妹”。ここでロッテは敢えて飛び込む手段を選んだ。 固まったぷちの集団、その直中で“Heiliges Kleid”をパージするッ! 飛来した無数の鋭利な刃に寄り集まっていたぷちが、次々と堕ちる!! そして勢いを維持したまま、白き翼を広げたロッテが空中へと舞った。 「“アインホルン”チャージ……っ、く!邪魔ですの!?」 『Giiiiiiiii!!!』 天空を舞う戦乙女を撃墜せしめんと、ぷちと登ってきたネイキッドが 対空射撃を開始した。無数の弾やレーザーを、敢えて横方向安定性を 落とした滞空によってロッテがスムースに回避し……狙いを定める! 「“フライアークライス”固定……フォイエルッ!!」 『Graaaaaaaaaaaaaaa!!?』 『ギアァッ!!』 増幅されたレーザーによって、ネイキッドが1機戦闘不能に陥った。 ぷちも相当数が巻き込まれ、先程の特攻もあってか殆ど全滅状態だ。 それでも残りは14機も居る……まだ乱戦は避けられそうもないな。 「……そろそろ“SSS”を試してみますの、クララっ!」 「サイドボード、オープン。“SSS”投下するんだよ?」 ──────それは、新たなる翼……更なる鎧、刃の盾。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/742.html
白鳥の乙女──あるいは予選その二(前編) “鳳凰カップ”一日目も大分過ぎて、予選Hブロックも決勝戦の時。 ここに至るまでお昼休みの懸念通り、ファーストランカーとも一度は 戦火を交える事になった。でも“油断”もあり、ロッテお姉ちゃんは ボク・槇野梓の想像以上に良く戦い、そしてここまで残れたんだよ。 準決勝、相手はスナイパー型のヴァッフェバニータイプだったかな? 『きゃあっ!?……く、精度が高いですの……このままじゃッ!』 『何処に隠れていますか、小鳥さん……さあ、出ていらっしゃい』 場所はショッピングモール風の建物。遮蔽物を巧く利用した狙撃技能は 流石、ファーストランカーとも言うだけある精度と威力だったもんね。 勿論近~中距離気味の“フィオラ”及び“フェンリル”では、役不足。 近付く前に、どうしても敵のビームスナイパーライフルを破壊しないと ロッテお姉ちゃんが蜂の巣にされるのは、明白だったんだよ……うん。 『……わたしを甘く見ないでほしいですの、ルー・フライさんッ!』 『──────ッ!?く、ビームスナイパーライフルがッ……?!』 でも、そこで追いつめて圧勝しようとしなかった“ルー・フライ”さんの “油断”、ボクらはそこに付け込めたんだよ……即ち、狙撃には狙撃っ! “フィオラ”を潔く脱ぎ捨て“Heiliges Kleid”に戻った、お姉ちゃん。 その手にしっかりと握られていたのは、バスターライフル“ムラクモ”。 狙撃銃を兼ねたアサルトライフルと、アーンヴァルの火器管制システム。 複合武装の単体性能は低くても、センスに技能と“勇気”で補えるもん。 『ファーストランカーでも、サード相手に油断してはいけませんの!』 『くッ……言わせておけばぁぁぁっ!?マスター、ミニガンをッ!!』 “勇気”ある狙撃を受けた結果、ビームスナイパーライフルは爆散消失。 慌ててミニガンに換装するけど……怒りに判断力を奪われていたもんね。 だからそれが、“ルー・フライ”さんの唯一つの敗因となってしまった。 マスターの指示を苛立たしく待つ間に、“アサルトキャリバー”を使って ロッテお姉ちゃんが急接近、背後から“ムラクモ”を押し当てたんだよ。 『今、ソードオフ・ショットガンの引き金に指を添えていますの……』 『ぐぅ……この距離でなら、バックパックごと粉砕出来るという訳ね』 『あっと、“ルー・フライ”のギブアップかー!?勝者、ロッテっ!』 こんな不意を付く格好で、ファーストランカーから金星を上げたボクら。 でも流石に敵神姫の“油断”に付け込む戦い方は、もう出来ないんだよ。 だって、サードがファーストに勝つなんて番狂わせ……滅多にないもん。 それを“紛れ”で済ませてしまう人が、神姫の上位ランカーに多いなんて 楽観視が出来る程、ボクもロッテお姉ちゃんも自信家じゃないしね……? 「梓ちゃん……ぼーっとしてどうしましたの?充電終わりましたけど」 「ぅん?あ、ちょっと回想なんだよ。ここまでの分析をしながらね?」 「ならいいんですけど。次はいよいよ予選Hブロックの決勝ですの!」 「相手は“サンドワーム”のプル軍曹……軍曹までが、名前なのかな」 ここまで来ると戦術以外に、武装にも趣向を凝らした神姫が多いんだよ。 この“サンドワーム”もそんな一人らしくて、フォートブラッグタイプを 贅沢に改造した、“戦車の様な”戦い方をする神姫……だった筈だもん。 後発組に入るフォートブラッグで、しかもサードランカー。なのに……。 「やっぱり此処まで来られるのは、オーナーの腕と自身の才能ですの」 「そう思うのかな、ロッテちゃんも?……多分、これは強敵なんだよ」 「今まで以上に気を引き締めて、全力全開で戦いに赴きますのッ!!」 「うん。そろそろ時間かな……今回は最初から“フィオラ”抜きでね」 『さーぁ、いよいよ予選Hブロック決勝戦ですっ!両者、準備を!!』 “Heiliges Kleid”姿のロッテお姉ちゃんをエントリーゲートに、更に “SSS”をサイドボードにセットして、準備OK。幸い今まで一度も 使用されていない“SSS”だけど、今回からは使う事になるかもね。 指示を出すボクも気を引き締めて……開始の合図をじっと待つんだよ。 そして今度の舞台は……砂漠!?これはちょっと、相手に有利だもん。 『ロッテ・ヴァーサス・プル軍曹ッ!!レディ──────ゴー!!』 「ん……う、わわっ!?いきなり酷い砂嵐ですの~!前が……え?」 「風切り音……長距離弾道飛行なんだよ、ロッテちゃん!?」 砂嵐の中、恐らくはヘッドセットをしているボクとお姉ちゃんだけが 感じ取った異音。暴風を切り裂く様な甲高い悲鳴。それは間違いなく フォートブラッグの主力兵器……“FB256 1.2mm滑腔砲”の徹甲弾! “Heiliges Kleid”の移動装置“アサルトキャリバー”では、砂上を 移動する事は出来ない。だからそれは、一瞬の出来事だったんだよ! 「きゃぁぁぁぁあーっ!!?」 「ロッテちゃんッ!?」 「……命中、手応え有り」 黒い悪魔があっという間にロッテお姉ちゃんとの距離を詰め、そのまま 装甲メイド服を破砕……直後、盛大に爆裂!破片が周囲の砂に刺さる。 この光景は、皆がプル軍曹の勝利を確信する物だったんだよ……でも、 ボクはちゃんと聞いていたもん。そう、『Plug-out!』の電子音声を! だからボクは黙って、サイドボードの起動コードを動作させるんだよ。 「……何故、勝利判定が降りないの」 「ロッテちゃん、東南東に3sm。“SSS”が降下するよ!」 『周囲を検分するんだ、まだ何かあるぞ!』 「……イェス、サー。まだ、生きているの?」 ──────最後まで諦めない。それが勝利への道なんだよ? 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/478.html
戦うことを忘れた武装神姫 その12 ・・・その11の続き・・・ 「在庫じゃないんだからああぁあぁぁ!!!」 ひときわ大きく絶叫すると、イオはLC3とツガル装備のHEMLを取り出した。 さらには妙なコードを取り出すと、背中の翼に載る推進器と、LC3・HEMLを接続。右手にはLC3、左手にはHEML・・・それぞれを片手で軽々と扱うその姿は、もはや武装神姫ではなく、武装鬼神・・・!!! 「な、ななな・・・そんなこけおどしが通用すると思っているのか!」 大型の射出型パイルバンカーを取り出し、すぐさま一発打ち出すディサ。だが、撃ち出されたされたパイルは、イオまで到達することはなく「消滅」した。 先端が真っ赤になっているLC3・・・そう、推進器のエネルギーの大半を、両手に持つ得物へそそぎ込み、機材の限界をはるかに越える弾を撃ちだしているのだ。そして、エネルギーの強さのみならず、速射の能力も-。 「オラオラオラ!!! ちょこまか逃げるんじゃねぇ!!!」 左右の得物が、あり得ないレベルの弾を射出し続ける。ディサは、反撃する隙すらも与えられず、当たったら即・分解されかねない弾の雨の中を必死に逃げるのみ。時折かすめる弾により、自慢の特別装飾が施された鎧が徐々に変形し、溶けていく。 フィールド上は地獄絵図だった。厳かな雰囲気を醸し出していた柱や台座は粉々に粉砕され、ダミ−とはいえきらびやかな財宝の入っていた宝箱はあとたかもなく消滅。 「どこだ、どこへ逃げた!! 出てこい!!!」 粉塵でフィールドが煙る中でも、イオは乱射を止めようとしない。 『やむを得ん・・・ディサ、アーマー解除! 軽装モードにて待避せよ!』 サイトウが叫ぶ。ディサは鎧を捨て、粉塵に紛れイオの背後になるような立ち位置を探る。やがて、イオのLC3が限界を超え、アラートがなると同時に銃口が溶解。続いてHEMLも銃身が真っ赤になり、射出不能となった。 「ちっ・・・軟弱な機材だぜっ!! ・・・ん?やつはどこへ行った?」 蹴り飛ばすように両の手の得物を捨て、ディサを探す。・・・すでにその時、ディサはイオの真後ろに飛び上がれる位置へと移動していたのだ。 『今だ、行けっ!!!』 タイミングを伺っていたサイトウに命令を受けたディサは、飛び上がり掘り出したパイルバンカーを構え、イオの真後ろに狙いを定めた。 (取った!!!) そうディサが思った瞬間だった。 「ふん、後ろか・・・」 イオは呟くと、翼の角度を調整し、推進器の噴射口がディサへ向くように、瞬時に調整。あれだけ乱射をしながらも、各種センサー類はしっかりと機能させていた。 「Good-Bye,Baby-Girl.」 迫るディサを横目でちらりと見ると、悪魔のような笑みを浮かべて推進器をフルパワーに。 「ぁ・・・うわあぁぁあああああ!!!」 推進器からの猛烈な熱風の直撃を受けるディサ。重量のあるパイルバンカーを抱えて飛び上がっていたこともあり、バランスを崩して背中から落下。 「がはっ!」 鎧を着けていなかったこともあろうか、しばらく動くことすら出来なかった。 ディサがようやく体を起こすと、イオが静かに目前に降り立った。 「まだだ、まだだぁっ!」 ディサはまだ地に足を着けていないイオめがけ、自慢の俊足を活かし、大柄な太刀を振り上げ斬りかかった。かえでの猫子・ティナの腕を斬り落とした、あの太刀だ。。。 フィールドの脇では、その光景にギャラリーモニターを見ていたかえでが思わず叫んでいた。 「イオ、逃げてー!!!」 あの日の記憶がよみがえったのか、ティナは顔を伏せ、かえでの服をぎゅっと掴んでいる・・・ キィン! 金属と、別の物質が当たる音が、フィールドの外までも聞こえてきた。 「何ぃっ?!」 「・・・甘ぇんだよ・・・。」 太刀は、イオに届いていなかった。イオが手にしていたのは、なんと酒瓶! 銘柄は地元の酒造メーカー「澤野伊」生一本。イオの大好きな逸品である。 イオはその酒瓶を軽々と振り回し、太刀VS酒瓶という、異色のチャンバラを演じる。やがてダメージがボディーブローのように効果を示し、さらにイオの気迫に圧倒されたディサは徐々に押され気味となり、 ・・・ざくっ 太刀がはじき飛ばされ、天井に突き刺さった。 得物をすべて失い、にじり寄るイオに対し何も出来ない・・・ 腰の力が抜け、へたり込むディサ。 「てめぇがあたしに『在庫』っていう筋合いは無いんだよ! あぁん?」 手にした酒を含みながら、ティナの目前に立つイオ。 「わかったか・・・ わかったら返事しろっ!!!」 「は、はいぃっ!!! 申し訳ありませんでしたっ!!!」 頭を地面にゴリゴリこすりつけて土下座をする。 「おぅ、そういやお前・・・ ティナって猫子の事、覚えているな?」 恐怖に歪んだ顔を持ち上げ、イオを見上げつつ首を縦に振るディサ。 「あいつがどれほどの恐怖を味わったか・・・てめぇにはわかるか?」 酒瓶に口を付け、ぐっと一口含んで栓をすると、左手で瓶をポンポンと叩く。 「まぁ、分からなくてもいい。 今ここで分からせるだけだからなっ!!」 と、手にした酒瓶を振り上げるイオ。ディサの目に、今まで一度も浮かべたことの無かった涙がわき上がった。 ・・・ディサに、戦意はかけらも無くなっていた。 もう、これ以上はなんになるの? なんでそこまでするの? お願い・・・ 助けてっ!! 頭が砕かれるっ!!! ・・・が、いつまでも衝撃は来なかった。 「・・・少しは分かったか、やられる側の気持ちが。」 酒瓶は、ディサの頭上スレスレで止まっていた。 「あ・・・・・・ わ、分かりましたああぁっ!!!」 「よーし、それでいい。」 再び、地面にゴリゴリと頭をこすりつけて土下座のディサ。イオはその様子をジャッジマシンにアピールする。 「ディサ、戦意喪失により戦闘続行不能。勝者、アーンヴァル・イオ!!!」 判定が下され、試合終了。 わぁっ! とギャラリーが盛り上がる。 その声に、ふっと我に帰ったイオ。瓦礫の中でキョロキョロと廻りを見渡すと、 「あら・・・やだ、私ってば・・・またやっちゃったの・・・? えっ・・・皆さん見ていました? いやー! 恥ずかしい。。。」 いつもの調子でクネクネ恥ずかしがる。 そのあまりのギャップに、モニターをみていたギャラリーも一斉に固まってしまう。 もちろんかえでとティナも、目を丸くして茫然と見る事しかできなかった。。。 「まるで普段は優等生ぶってる『レディース』の頭のだな、おい・・・。」 その姿に、久遠はちょっと恐怖心を抱いていた。それは、神姫たちも同様であった。ぼそり呟くリゼ。 「なぁ・・・イオには・・・逆らわないようにしような・・・。」 エルガとシンメイも、その一言に強く首を縦に振るのであった。 ・・・>続くっ!>・・・ <その11 へ戻る< >その13 へ進む> <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2341.html
「――さてと」 愛する旦那を見送った後、ダイニングでスミレは1人呟く。 「…………まずは、証拠隠滅と」 食事の間、ずっとカーテンで覆い隠されていたキッチン。その惨状は、目を覆わんばかりだった。 ~Bパート~ コンロの周囲は、卵の各種残骸やら彼女がフライパンから脱出した時に出来た油汚れといったものが、無残な惨状を晒している。 「最初はゴミ捨て……ですね」 スミレはキッチンにある、色々な料理道具が掛けられた道具置きから、シリコン製のヘラを手に取る。 「よいしょ……っと。いきますっ」 そしてキッチン上に溢れかえる、嘗て食材だったモノたちを、雪かきするように一気に掃除していく。 「てあーっ」 くねくねと曲がったコースを取り、ゴミをどんどんかき集めていく。そして段々と重くなっていくヘラを、力を込めて押していく。 「最後の……仕上げですっ!」 スミレはシンクの隅にある三角コーナーへ溜まりにたまったゴミを落とそうと、渾身の力を込めて押し切る。 そして大量のゴミは三角コーナーの中へと、吸い込まれるように落下していく。 「ふぅ、これでOK……って、いにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 そして当然のように、全力で押したスミレはブレーキを掛ける事も出来ず、一緒に三角コーナーの中へ落下していく。 「あぅぅ、また酷い目にあいました……」 なんとか三角コーナーの中から脱出したスミレ。身体にくっついたゴミを掃い、絞ったタオルで軽く拭き取ってから、クンクンと身体の臭いを嗅いでみる。 「うー……ちょっと臭うかも」 つい1時間前に石鹸の香りがする清潔な身体になったというのに、再び芳しくない臭いがスミレの身体についてしまっていた。 「でも今は、お掃除優先ですっ。……どうせまた汚れちゃうかもしれないし」 ……既に諦めの境地に入ってきているらしい。 「次は拭き掃除……。雑巾じゃ持てないから、モップっと」 今度はフィギュア用の1/12サイズのモップを流し台の隅から取り出し、ゴシゴシと掃除にとりかかる。 「うー……頑固な油汚れです。全く、誰に似たのでしょう」 そんな事を呟きながらも、スミレは真剣に掃除を続ける。 「汚れ落ちてくのって、楽しいかも……うふふふ」 ……そして、数時間。 「ふー……お掃除完了です」 遣り遂げた漢の顔で、満足げに額の汗をぬぐうスミレ。 地獄のような惨状だったキッチンは、元の綺麗な姿を完全に取り戻していた。ステンレス製のシンクは鏡かと思えるほどの輝きが満ち溢れ、食器類は全て綺麗に整理整頓。ついでのように始めたガラス拭きの成果は、ガラスが存在しないのではないかと思えるほどに透き通らせていた。 「――あ、お昼とっくに過ぎちゃってますね。でもお腹は……空かないから、いいよね」 時計は既に午後を指しており、閉めたままのカーテンの隙間からは日中の爽やかな日の光が覗いている。 スミレはテーブルの上に置かれたリモコンスイッチを押して、カーテンを開け放ち、暖かい春の日差しを室内に呼び入れる。 「今日も……良い天気」 遠い空の彼方にある何かを見つめているかのように、ぼんやりと青空を眺める。 「……あ、お風呂入らなきゃ。ちゃんと清潔なカラダになって、兄さまをお迎えしないと……うふふ」 急に恍惚とした表情になったかとおもいきや、そのまま風呂場へ足を向けるスミレ。……色々と妄想が入ってるらしい。 「――ぁ、そうだ」 「ふー。お風呂って、やっぱりいいですね」 浴槽の中で大きく伸びをして、ゆったりとくつろぐスミレ。 見上げる彼女の視線の先には、何処までも続く広大な青空が広がっている。 「ベランダに持ち出して正解でした。露天みたいで気持ちいいです」 彼女はドール用の風呂をベランダに持ち出して、昼間の露天風呂と洒落込んでいた。 「うふふ、お肌もすべすべになりそう。神姫だとちょっとの量でいいから良いですね」 更にそのお湯は、純度100%の牛乳風呂。暖めた牛乳の甘い香りが、スミレの嗅覚を心地よくくすぐる。 「此処10階だから回りも気にしなくていいし。あぁ、本当に気持ちいい……」 スミレはゆっくりと瞳を閉じて、柔らかな日差しや、小鳥の鳴き声、微かな雑踏……そういった日常のざわめきをBGMに、張り詰めていた精神を開放していく。 「――――ん」 どれくらい、そうしていたのだろうか。少し眠っていたのかもしれない。 「……にゃ」 「…………にゃ」 「………………にゃ」 彼女の聴覚に聞こえてくるのは、ぴちゃぴちゃという湿った水音と、何かの鳴き声。 「何よ……人がいい気分でいるの……に。っひひゃぁ!?」 覚醒しつつあった彼女の神経に、強烈な悪寒が突き抜ける。ザラリとした生暖かい何かが、彼女の素肌を犯してきたのだ。 「な、な、なんでございますかぁっ!?」 慌てて覚醒し、周囲の状況を確かめようとするスミレ。その彼女の前にいたのは…… 「なーぅ」 ……猫だった。 「ひっ!?」 スミレと猫の距離、僅か5cm。 まさに顔をつき合わせているような状態で、スミレの頭の中には生命の危機がよぎる。何しろ神姫にとっては猫であっても、人間にとってのライオン以上に巨大な生物なのだから。 「にゃーぅ」 だが猫は、そんなスミレの事など眼中にないのか、ペロペロと美味しそうに風呂の水……つまり牛乳を脇目も振らずに飲んでいる。 「な、コレ飲んじゃダメですってばっ! あ、あっち行ってくださいっ」 自分よりはるかに大きな猫に怯えながらも、手で必死に『あっちいけ』のポーズをするスミレ。 だが猫は全く意に介しない。そしてピチャピチャと牛乳を舐めつづけていた舌が、チロリとスミレの肌に触れる。 「ぃ!? いにゃぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!」 「にぎゃぁ!?」 一階まで届きそうなほどの絶叫。それはまるで音波兵器の如く。 そのジャイ○ンも真っ青な絶叫に驚いた猫は、飛び上がって退散していく。 「……た、助かりまし……た」 湯量が半分以下に減った風呂の中、ずるずると崩れ落ちるスミレ。その顔は呆けきり、目の焦点は完全にブレている。 『ピンポーン』 そんな中、玄関のチャイムが鳴る。 『すいません。サトーココノカドーの者ですが、配送をお届けに参りました』 ドアホンの機能がONになり、リビングに配達員の声が響く。 「あっ!。いっけない、忘れてましたっ!」 今日の食材を頼んであった事をすっかり忘れていたスミレは、浴槽の隣に留めてあったソーサーに慌てて飛び乗り、玄関へ急ぐ。 「すいませーん、今開けますからっ」 ドアホンの操作パネルでマンション入り口のオートロックと自分の家の鍵を解除し、業者がやってくるのを待つ。 そして然程時を置かずに、玄関のドアが開く。 「毎度、ありがとうございます。お届けにあがりました」 見慣れた年配の配達員が、ダンボールの荷物を抱えて現れる。 「ご苦労様です。えぇとサインを……」 毎日の事なので、スミレも手馴れた動きで、配達員が置いたダンボールの上に移動して降り立ち、伝票にサインを書いていく。 「……はい、ありがとうね。それじゃまた」 最近は1人暮らしの家を中心に、神姫に留守番をさせてこういった処理をさせる家も増えてきてるらしく、配達員も慣れた顔である。 だが今日は、出て行くときに微妙に首を傾げてはいたのだが。 「ふぅ……なんとか間に合いました。再配達になってしまっては、お夕飯に間に合いませんからね」 一息つくスミレ。 「……あれ?」 そして、ふと気づく。ダンボールが妙に濡れている事に。 「お外雨でもない……し…………って」 そして、さらに気づく。 「わ、わたし裸でっ!? いやあぁぁぁぁぁぁぁ!?」 ……当然、風呂に入る時点でスーツは脱ぐ。 そしてパニック状態の彼女は、とにかく宅配便に出なければという思いのまま突進し、そしてこの結果である。 「うぅぅ……もうおヨメにいけません」 ガックリと崩れ落ちるスミレ。もう既にお嫁に行っているじゃないかと言う突っ込みをする者は、今は居ない。 「――ただいま~」 今日も日々の激務を終えて、愛する妻の待つ家へと帰宅する勇人。 「あれ?」 だがそんな彼を出迎えたのは、灯りの点いていないシンと沈んだ家だった。 「おーい、スミ……」 「…………」 言いかけて、気づく。玄関に放置されたままのダンボール箱の中から、微かな声が聞こえてくるのを…… 「スミレ、どうしたんだ?」 出来る限り優しい声で、ダンボール箱に語りかける。 「……兄さま。私……、裸を……男の人に…………見られて…………」 シクシクという泣き声交じりに、か細いスミレの声がダンボールの中から響いてくる。 「男って……まさか!? だ、誰だ!」 「…………配達員の人です」 最悪の事態も覚悟した勇人だったが、その余りの素っ頓狂な返事にずっこけそうになる。 勇人もよく知る、毎日届けに来る配達員は人当たりの良い壮年の男性で、間違ってもそういった事を起こすようなタイプではない。よく見ればダンボールの上や廊下に転々と続く乾いた白い染みが出来ており、風呂かシャワー中のスミレが慌てて飛び出してきたのだろうという事は、想像に難くない。 「何時ものオジさんじゃないか、気にするなよ。 ――それに向こうからしてみたら、ただの神姫にしか見えないって」 スミレを慰めようとして言った一言。 「…………兄さまも、そうなんですか」 だがダンボールの中から帰ってきた声は、今までとは明らかに異質なものだった。 「兄さまも……私の裸を見ても…………神姫だからって、そう、思うんですか」 「スミレ……」 「そう、ですよね……。私は、神姫なんです。脱いでも所詮、機械の身体です。 こんな私じゃ、兄さまを満足させてあげる事なんて……やっぱり、無理なんですよ、ね」 「違うっ!!!」 「兄……さま?」 普段の優しい勇人からは想像も出来ない叫びに、思わずダンボールから顔を覗かせるスミレ。 「神姫とか人間とか……そんなのは関係ない。俺はスミレだから……スミレの心が好きだから、結婚したんだ!」 「あぁ……兄さま……」 「それに……毎日そんな過激な格好してて、俺が何も感じないとでも思ってたのか。 スミレの可愛いくて少しえっちなその姿に、もう俺は……毎日、その……メロメロなんだぞ」 最後は流石に気恥ずかしくなったらしく、ボソボソとした情けない喋りになる勇人。 「裸だってそうさ。愛しいスミレの裸だから見たいし……興奮だって、するんだ」 「兄さま……。私、嬉しい」 スミレのつぶらな瞳から、ボロボロと大粒の涙がとめどなく溢れる。感情の波に押され、幸せの雫が零れ落ちていく。 ……そして箱の中から、静かにスミレが現れる。その身に纏うのは、扇情的な藍色のボンテージ。 「兄さま。見ててください……私の、全てを」 そして彼女は、身も心も、その全てを、彼に曝け出し捧げるかのように、身に纏う薄布を、ゆっくりと脱ぎ捨てていった。 「……以上が披検体、通称『プロト・ワン』の1日の観察レポートです」 冷徹な女の声が、暗い部屋に響く。 「ご苦労様。――所で、この後の本番の映像はどうしたのかしら?」 その上段で、モニターを眺める、別の女。 「……申し訳ありませんお嬢様。――実は、撮影担当がバッテリーを切らしまして」 「――ほぅ」 扇子で隠されたその唇が、軽く歪む。 「わ、わたくしだって精一杯頑張ったのですのよっ! ふ、不慮の事態なのですわ……っ」 「そう…………」 彼女は腐った蜜柑を見るような目で、失敗した女を眺めていたが、やがて、にこりと笑い。 「貴女、お仕置き♪」 「そ、そんなっ。いやですわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 失敗した女は、報告をしていた女に引きずられ、その場から消えていった。 「プロト・ワン……スミレさんと仰いましたか。良い玩具になりそうですわ……ね」 呟く女の顔には、禍々しいばかりの微笑が、危険に浮かんでいた。 続く トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1612.html
* ハウリングソウル 第十一話 * 『説得、人事じゃない神姫破産』 「・・・・・・・・・・・んぅ・・・・」 吉岡のベッドは寝心地が悪かった。 私の家ではこの寝心地のものをソファと呼ぶ。 眠い目をこすりながら枕元を見る。そこには二つのクレイドルがあって、片方は空だった。 「・・・・?」 もう一つのクレイドルには吉岡の神姫、美代子さんが寝ているが・・・・私の二人はどこに行った? ・・・・・・・・まさか。 私は走ってダイニングキッチンへと向かう。いやな予感がした。 「ハウ! ノワール!」 ダイニングキッチンの扉を開け放す。そこには・・・・・・・・ 「吉岡さん、醤油ですよ」 「・・・・・・醤油」 「それ・・・ソースだよノワール」 「ぐぉうふぁんに~! なっとぅぉう! うぁさぁぐぉはぁんぅ~!」 半裸のオカマッチョが歌っていた。 三人で朝ごはんを作っていたらしい。 全く紛らわしい。 『切り裂き』に襲われたかと思ったじゃないか。 「やーねー心配しすぎよぉ!」 「そうですね。心配してくれるのは嬉しいんですけど・・・・吉岡さんもいますし」 「・・・・お早う、マイスター」 ・・・・ハウが元気になっているのはいいことだが、緊張感の無い三人だ。 私は溜息をつくと椅子に腰を下ろす。 ・・・・・これからの事を考えないといけない。 警察は・・・どうだろう。今の日本の法律では神姫はオーナーの所有物扱いだ。その所有物が家の神姫を狙っている・・・・しかも狙っている方のオーナーは既に死んでいる。それにこの街から15cmの神姫を見つけ出すのはほぼ不可能だ。 どうしたもんだろう。 「いやそれにしても驚いたわよ。まさかアンタがあんな事を許可するなんてね」 考えていると吉岡が私の前に焼き鮭を置いた。 醤油で味付けされていて中々に美味そうだ。 「・・・・あんなこと?」 「そぅよぉ! アンタのためにもう手配しておいたからね。こちとら裏道にも通じてるのよ。珍しくタツ子ちゃんも乗り気だったし・・・・でもあんた、本気なの? かなり危ないわよ?」 「まて、何の話だ。私は何も許可して無いよ?」 さっきから吉岡は何を言っているんだ? 意味がわからない。 「え? でもハウちゃんから聞いたわよ? ハウちゃんとノワールちゃんが『切り裂き』を倒すって・・・・・・・・・」 ・・・・・なんだって? テーブルを見るとハウとノワールがバツの悪そうな顔をしていた。 「どういうことだ」 問いかけるとハウが一歩進み出た。 「ごめんなさいマスター。僕は・・・アイツとどうしても戦いたいんだ」 「なぜだ」 私の声は多分、とても冷たかっただろう。 自分で言うのもなんだが珍しく怒っていたからだ。・・・ハウが、危ないことをしようとしているから。 「あいつが狙っているのは僕だ。僕がいる限り、マスターや他の神姫に迷惑がかかる。僕はそれを許せない。・・・・・だから、終わりにしたいんだ」 「刃物を怖がるお前が『切り裂き』に挑むと? ふざけるな」 「近寄られなければ大丈夫だから。遠距離から撃てば・・・・・・・」 「ノワールの一斉射撃で傷つかない化物だ。神姫用の・・・・たかがオモチャの武装で勝てる相手じゃない」 「改造した武器を今、吉岡さんの友達に作ってもらってます! それなら効果があります!」 ・・・・・・・・・用意周到だった。 一体何が、ハウをここまで突き動かしているんだろう? 「もう一度聞く。なぜ戦おうとする」 「・・・・夢の中で、ストラーフが言ってたんです。生きてって、生き抜いてって。でもこのままじゃ僕はいつか殺される。僕は・・・・彼女が言った風に、生きたいから。それにやっぱり、僕は『切り裂き』を許せない。もうアイツに、仲間を殺させないから」 ハウの琥珀のような瞳が私を見上げる。 その瞳はとても澄んでいて、自らの決断に微塵も悩んでいないことがわかった。 「・・・・負けるかも知れないよ?」 「負けません」 はっきりと、ハウはそう口にした。 「負けません。負けるとマスターが悲しむから、僕たちは悲しむ姿を見たくないから、負けません。それに、マスターが待っていてくれるなら、僕とノワールは無敵です」 場を、静寂が支配する。 気がつくとハウだけでなくノワールも、なぜか吉田までもが私を見つめていた。 ハウはもう言うことが無いのか、ただ黙ったまま私を見上げている。 「・・・・・・・・・・・・・私は、待たない。お前たちがそういうなら、この私に『切り裂き』を倒す姿を見せてみろ」 私はそういってから箸を取り、すっかりさめてしまった潮鮭をほぐす。 「・・・・・ありがとうございます!」 ハウは、緊張していたのか少し顔を緩めて頭を下げた。 ノワールにいたってはへなへなと座り込んでしまっている。大丈夫なのかこれで。 「あー、みーちゃん? それでね、さっきの改造武器の話なんだけどぉほらやっぱりそういう武器って違法じゃない? アングラじゃない? あたしもそんなに気乗りしなかったんだけどぉ、どうしてもってハウちゃんとノワールちゃんがいうからぁ手配しちゃったんだけどぉ・・・・」 「あぁいいよもう。やることは決まったんだ、あとはどうするかを決めないと」 「そうじゃなくてねぇ・・・まぁこれを見てちょうだいな」 そういって吉岡は一枚の紙を取り出した。 ・・・・何ですかこれ。ゼロが一杯付いてるんですけど。 「ほらぁハウちゃんのは殆どヴァッフェバニーからの流用だけどぉ、ノワールちゃんの武装ってカスタムメーカーのものじゃない? あの武装をそのままの形でパワーアップするとぉ・・・・その金額が最低ラインなんだって」 ガトリングはいいんだが、何だこの汎用マイクロミサイルアンテナ一式って。命中率が上がるのか? しかも三連式7mm砲とか何ですかこれ。こっちは二つも。おまけに6mm口径の化物(神姫用としては)ライフルまで・・・。 この野郎。有事にかこつけて前から欲しかったものまで注文しやがったな。 ノワールを見る。 「・・・・・・・・・・」 そっぽを向いて体育座りをしていた。 「ライフルはハウちゃん用ね。それとぉ・・・・こっちが弾代なんだけどぉ・・・・」 そういって吉岡が更に紙を差し出してきた。 どうやら私の散在は止まらないらしい。 『切り裂き』と戦う前に破産しそうだった。 NEXT
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/544.html
適材を誂え、適所に与え(前半) 密かにビル屋上へ作った集光タワーが、光を地下に運ぶ……眩しい。 平日だが“ALChemist”は定休日、そして現時刻は東京の騒がしい朝。 恐らく昭和通り等は大渋滞だろうが、それも関係のない事であるな。 「……ん、マイスターってばもう起きたんだよ」 「って……え、うわっ!?梓何をしているッ!」 「何って、添い寝だよ。昨日からの当番だもん」 意識を取り戻したその先にいたのは、ブロンドの短い髪をシーツへ 投げ出した美しい少女……クララのHVIFである所の梓である。 白く柔らかい腕が私の躯を優しく抱きしめて、実に心地よい……。 その姿は私と同じく、一糸纏わぬ……って、貴様何を見ている!? いいだろう私の癖なのだから!分かったら視線を逸らせぇッ!?! 「そ、それもそうだが……身を整えたら素体に戻っておくれ」 「分かったんだよお姉ちゃん。今日は確か“休日”だよね?」 「有無。なので戻ったらロッテとアルマを起こしてくれんか」 というわけで、梓が地下へと降りて数分……クララが目覚める。 私はHVIFの当番制にあたり、その非使用日を7割程設けた。 今日は全員“休日”である為、妹達は“殻の躯”を以て過ごす。 「改めておはよう、マイスター。やっぱりこの躯は馴染むよ」 「何処の吸血鬼かッ。さ、今日はお前達の為に作業するぞ!」 「作業?……とりあえずお姉ちゃん達、起きてほしいんだよ」 「ぅぅん……あ、クララおはようですの~♪もう朝ですの?」 「うん。アルマお姉ちゃんも、ほら……朝はすぐ起きるもん」 「あと、五分だけ……むにゃむにゃ、すぅ、すぅ……んッ?」 アルマは他の二人より高効率な“食事機能”によって、本来神姫に 必要な“充電の為の休眠”を、殆ど必要としない。自宅サーバとの “データ通信の為の休眠”は必要だが、それも毎日ではないのだ。 故にアルマの“寝坊”癖は、全て彼女自身の素養が原因と言える。 当初は悪夢にうなされる為と思われたが、それだけでもない様子。 だからこそ神姫は面白く興味深い、人間のパートナーと言えるな。 「えっと……お、おはようございますマイスター!あたし、また?」 「まただ。まあ構わぬ、日常生活には支障がないしな。それよりも」 「それよりも?……そう言えばマイスター、最近何か作ってますの」 「ロッテは勘がいいな……全員ジャケットを着て、デスクに集合だ」 そう……私は何かを造っている。皆の為の武器……装備の一式を。 当初はロッテにチタン製の剣と既製ハンドガンを2組与えていた。 だが、アルマにクララという新たな個性が加わっている現状では、 それではどうもバランスが取れぬ。故に“新装備”なのだが……。 と、揃いの新型ジャケットを着た三人が私の作業台に来た様だな。 「来たか。ロッテとアルマの武器は、制式品が出来上がっているぞ」 「マイスター……ボクの分だけ、まだ無い様な言い回しなんだよ?」 「有無。構想だけは出来ているのだが、少々別のノウハウが欲しい」 私は少々チョイスに迷っていた。クララの武装という事であれば、 射撃武器は使えぬ。かといって正面から白兵戦を挑むのも不向き。 従って、彼女の特質である智慧と計算力を活かした武器が必要だ。 それを満たすのは即ち“罠”なのだが、携帯武装に落とし込むには 暗殺者の積み上げた技術が、どうしても満足行く品の為に必要だ。 「暗殺者に聴取でも出来ればいいのだが、知り合いには居ないしな」 「そう言う事なら、じっくり待つもん。マイスターは無理しないで」 「すまんなクララ……何か糸口が見つかれば、すぐに作ってやる!」 というわけで、気を取り直して……私は二つのボックスを出した。 箱のラベルにはそれぞれ、“Fenrir”及び“Jourmngald”とある。 開いたのは、“Fenrir”のボックス。その中に鎮座するのは……。 「マイスター、これって……ハンドガンですの?大きいですけど」 「えと、渋い銀色のケースが綺麗です……それに、狼のレリーフ」 「リボルバー式マグナムで、人間換算だと44口径並みだよ……?」 「有無、銘は“フェンリル”。ロッテ専用に作り上げた大型銃だ」 神姫の腕程はある、ロングバレルの拳銃。外装には魔狼の刻印。 MMS用拳銃の金字塔である“ヴズルイフ”をベースとしつつ、 全パーツを人間用ハンドガンを参考にして、私が新造した逸品。 外見の独創性も勿論だが、M500のXフレームにも匹敵する強度。 そして44口径マグナム弾を基準とした、チタンベアリング実包。 「ちょっと大柄だが、お前達の強化フレームならば十分扱えるぞ」 「オートマチックじゃないけど、連射訓練で大丈夫そうですの♪」 「ああ。アーンヴァルタイプの射撃管制機能もある、いけるか?」 「ん……マイスター、ちょっとブースで試射していいですの~?」 私の許可より早く、ロッテは嬉々として“二挺あるフェンリル”を 軽々と持ち上げ、手の中で回し始めおった。これで誤射しないのが 射撃に秀でたアーンヴァルタイプの特性と言えよう。許可を出す。 それを確認して彼女は、工房専用射撃ブースへと入り……構えた。 ──────地下室に天を引き裂く様な轟音が響いたのは、直後! 「くぅ……耳が痺れているな。強装弾とは言え、流石に煩いッ!」 「ぅ、ぅわぁ……す、凄いですよマイスター。的が一瞬で……!」 「ロッテお姉ちゃん、一挺6発・計12発を4秒台で撃っちゃった」 地鳴りとも思える残響音を堪え、よく見ると……的は粉々であった。 12個のチタン製弾丸が多量の火薬で射出されたのだ。無理もないな。 しかも全てが過たず、ダブルアクションにより瞬時に撃ち込まれた! ……その結果に、ロッテは少しだけ満足していない様子であったが。 「中心を狙ったんですけど、命中率がちょっと甘いですの」 「む……少々バレルの打ち出しが甘かったか、ロッテや?」 「ううん、反動が強いからですの。訓練すれば大丈夫っ♪」 「二挺用意したが、同時に扱えるとは……流石だなロッテ」 「えへへ。これもマイスターの元で特訓した御陰ですの!」 ──────そう、戦乙女が望むのは“戦い”なんだよね。 次に進む/メインメニューへ戻る