約 5,047,615 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1154.html
蒼天にて、星を描きし者(後編) 対戦相手である所の神姫・狛恵さんは、邪魔になる砲を全てパージして、 大剣と四脚を活かした高速突撃を仕掛けてきましたの。わたしは宙に飛び そこから降下の勢いを利用して、決闘に応じるべく斬りかかりますのッ! 左手で展開した“マビノギオン・ガード”の斥力場が、瞬時に撓みます。 「はぁぁっ!!……ぬう、うっ!バリア如きにぃぃっっ!!」 「くうっ……この圧力、ただの砲撃型神姫じゃないですの!?」 「当然!サードから抜け出す為、砲撃も剣技も学んだのですッ!」 「ぐ、っ……!こ、これはちょっぴりキツいですの……」 楕円状のシールドと“マビノギオン・ガード”の斥力場の二重防壁、更に アルファルに備わった『一定レベルまでの衝撃を減殺する』特性によって 狛恵さんの斬撃を、一合……二合、三合まで受け止めましたの。ですけど このままではジリ貧。いずれ止めの一撃で防備を貫かれてしまいますの! 何故ならこの装備の、攻防両面の弱点は『一瞬の絶大な打撃力』ですの。 そして、狛恵さんの剣は徐々にその重さと的確さを増していますの……! 「きゃう、ううっ……!?このままじゃ……!!」 「さぁ、やっぱり砲撃と飛ぶ事しか能のない、普通の天使型ですかッ!」 「……甘く見ないでほしいですの、わたしは、わたしはっ!!」 ──────その時、私の“心”に火が付いて……声が聞こえましたの。 『ロッテお姉ちゃん、訓練を思い出してほしいんだよ……』 『ロッテちゃん、負けないで……!』 『ロッテ!!』 「──────わたしはッ!!」 「これで止めで……ぐ、ぁッ……!?」 皆の声を受けて、そしてわたしの矜持により繰り出した無我夢中の一撃。 それは……訓練時、ネイキッドに深手を負わせたあの時の様な……突き! 魔剣の蒼い刃が、狛恵さんの腹部装甲を深々と貫通していましたの……。 そこから、わたしが合い言葉を叫ぶには、コンマ数秒もかかりませんッ! 「戦乙女を越える、大いなる者ですの!“砕け”、ライナストッ!!」 「ぐ、ぐぁぁぁぁああああぁぁー!?で、電撃が……ぁッ……!?」 斬撃の間に溜め込んだ電撃が、全て狛恵さんに注ぎ込まれます。ですが 相手も流石はセカンド狙いの猛者、スタン効果は十分得られましたけど 止めを刺すには至りませんの……なら、わたしも全力を尽しますのッ! そうと決めたわたしはライナストから狛恵さんを引き抜いて振り解き、 そのままライナストを一旦鞘に収めましたの……次の行動の為にッ!! 「皆の誇りを傷つけた、その罪は裁かせてもらいますのっ!」 「ぐぅっ……こちらにだって、神姫の矜持があります……!!」 「なら、次で決着を付けますの!──────“アクセプト!”」 『Yes,sir(ロック解除。“アクセプト・フィギュア”承認します)』 「おおっ……!?」 わたしの高らかな宣言を受けて、躯を覆っていた白い翼と戦乙女の鎧は、 隠されたもう一つの姿を見せます……それは、巨大な剣。神姫の躯には、 凡そ身に余るだろう……15cm位の大きな剣ですの。これこそ……ッ! 「ブルームキャリバー“カラドボルグ”、これが貴女を穿つ剣ですの!」 「穿つ?!……その大きすぎる剣を、貴女の細腕で振り回すとでも?!」 「それも出来なくはないですけど……ここは、わたしの見せ場ですのッ」 『Yes,sir(プラグ受け入れ準備、完了です)』 わたしが“カラドボルグ”を“右の腰”にセットすると同時に、剣の柄が スライドし、一つの差し込み口を形成しましたの。それは雷の“魔剣”、 ライナストを差し込む為のジョイントですの!わたしは“左手”で抜いた ライナストを“カラドボルグ”にセットして、柄を元の位置に戻します。 「く、一体何を……」 「“疾く来たれ”、ライナスト!……勝負は、一撃ですの!」 『Yes,sir(電磁加圧、開始します)』 「何をするか知りませんが、その前にッ!!」 40sm程離れた所で行動するわたしに、狛恵さんが向かってきます。 ですけど、このスピードなら……“充電”完了までに間に合いますの。 それは、三姉妹の模擬戦で使った“ライジング・ボルト”の完成形ッ! 無意識下で充電完了のテンカウントを刻みつつも、わたしは構えます。 全ては一発の為に……アーチェリーの様に、標的を狙い定める為にッ! 「動かないつもりですか……ならそのまま、叩き斬るまでッ!」 「……もっと早く止めを刺さなかった、貴女の負けですの!」 『Yes,sir(電磁加圧完了、プラグ排出します)』 「なッ!?」 その宣言と同時に充電は完了……そう、ライナスト自身が放出する電力を ライナストに充電させる為の装置が、この“カラドボルグ”ですのッ!! 他の使い方もありますけど、現在はそれどころじゃないですのッ。紫電を 纏った剣を“左手”で構え、駆けてくる騎士に向けると……稲妻が解放、 そのエネルギーは、神姫の躯よりも巨大な“弓矢”を形取りましたのッ! わたしは“右手”を、雷の矢に添えて……伸ばす様に引き絞りますッ!! 「穿て、神の雷炎!夜闇を焼き尽くす、暁の明光となれ!」 「お、おおおッ!?こ、これは……稲妻の矢ぁっ!?」 「射抜けライナスト!“プロミネンス・ボルト”ッ!!!」 「ぎ、ぐあぁぁぁぁぁぁぁああああああッ!!?!」 『ノックアウト!勝者、ロッテ!!』 そして手を離した瞬間“明星の矢”は、狛恵さんの胸を射抜きましたの。 わたしは見届けて、ジャッジが下ってから倒れ伏す彼女に駆け寄ります。 戦い終われば、ただ相手が心配ですの。憎くて戦う訳じゃないですしね♪ 空を見れば、星々がヴァーチャルフィールドを覆い尽くしていましたの。 「すみません、今日はわたしが先に行かせてもらいますの……」 「なんのなんの……アタシも再修行して、すぐに追いつきます」 「楽しみにしていますの、狛恵さん……皆、待っていますの♪」 「ロッテさんを侮ったアタシの弱さ、必ず克服してみせます!」 ──────後は、二人の姉妹に道を譲りますの♪ 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2653.html
「まだ終わりませんよ。姉さん!」 光の刃が生まれたぺネトレート・烈「ぺネトレートセイバー」を携え姉さんを見据える。 痛みなんか関係ない。全力をもって姉さんと戦う 姉さんは歩みを止め、こちらを感心そうに見る。 「……ほう。まだ立ち上がれるか。そしてそれはオリジナルとみえる。そんな武装を出したぐらいで勝てるのかな」 「やってみなくてはわかりません」 私はリアパーツ、バリスティックブレイズをパージする。 もうこれは使い物にならない。ここからは真っ向からのぶつかり合い。 姉さんも大剣を正眼に構えて、迎え撃つつもりだ。 「はぁっ!」 私は姉さんの元まで疾走し、ぺネトレートセイバーを構えて右横から薙ぐ。 それはもちろん大剣で防がれる。 そうなるのはわかってた。 姉さんは私が今度は右の剣で攻撃した後は左の剣で突きに来ると思ってる。 姉妹だからわかる。断言してもいい。 だけど、それは姉さんの驕り。そしてそれは私への油断。 「こんどはそちらが……甘いです!!」 右の剣が防がれ、捌かれた勢いのまま一歩踏み込む。私は上半身を捻り右足を軸にして、回転。 左足で後ろ回し蹴りを姉さんのわき腹に放つ。 姉さんは私の予想通りに大剣は突きを備えてて、腹部は隙だらけだった。 「……くぁ!?」 直撃を腹にもらい、おもわず苦痛の声を上げる姉さん。 それでもまだ終わらない。 わき腹に当てた足を下ろし、今度は本気で左手のぺネトレートセイバーでフェンシングのように刺しにいく。 もちろん衝撃を与えたその腹部にだ。 だが、それは姉さんの左腕で真横から強く払われた。 それによって肘から先の腕周りが半分切られ、左腕はもう使えなくなったかもしれない。 ぺネトレートセイバーの鋭い切れ味を無視した捨て身の捌き。 それでお互い、間合いを空ける。 私のダメージよりか少ないが、左腕を使えなくさせた。 これで姉さんにも深い傷を与えることができた。 「……つぅ……これほどの深手を負うのは久しぶりだ。……強くなったんだな」 「私は逃げた先で大切な人に出会いました。そのおかげで姉さんたちの前に舞い戻って来れた。これが私の……いえ、私たちの強さの源です」 「……そうか、当然だな。こちらはその大切な人にはなれなかったわけだから。……“シオン”」 「わ、私の名前を……」 初めて姉さんに名前を呼ばれた。 認めてもらえて、今は敵同士なのになぜか嬉しくなってしまった。 「……全力でいくぞ」 「はい。こちらもそのつもりです!」 私と姉さん、両者身構える。 こちらはナックルから進化した双剣を。あちらは片手に大剣を持って。 姉さんは片手でも大剣を軽々と扱えることができる。ここからも油断は一切できない。 好敵手と認めてもらった。これでもう姉さんも私への驕りはないだろう。 そして、どちらからともなくピクリと動き、駆け出す。 「はぁっ!」 「……つぁっ!」 姉さんは片手上段から振り下ろし。 私はぺネトレートセイバーを交差させて、それを防ぐ。 数分は致命傷にならないような傷が全身に負うほどの斬り合いが続く。 袈裟斬り、逆袈裟、振り下ろし、振り上げ、双剣での連続の斬撃。 数え切れないほどの何度目かの斬り合いでガンッと轟かせ、剣が交りあった箇所から火花が飛び散る。 「くぅっっ!」 「……ぐぅっっ!」 同じように声を出し、二人とも歯を食い縛らせている。 こちらは両手。姉さんは片手なのに鍔迫り合いが拮抗している。 どれだけ、姉さんは馬鹿力なのか。 場違いにも私は頭の中でほとほと呆れてくる。 そして、私たち姉妹はまた同時に、鍔迫り合い状態からどちらも剣を離した。 一旦離れ、姉さんは大剣を横に倒して、そこから踏み出し思いっきり薙いでくる。 私は迎え打つ為にぺネトレートセイバーを重ね合わせ、大剣自体を真っ二つにする気で、こちらも思いっきり叩き斬る態勢で。 「……これで、終われぇぇーー!!」 「根性ォ!!!!」 鋭い剣閃の音の後、重い打撃のような鈍い音に変わった。 そのまた数瞬後。 私たちのいる頭上でヒュンヒュンと壊れたプロペラのような音が続く。 「……相打ちか」 「そうですね」 二振りの剣と赤い大きな大剣が地面に刺さった。 ぺネトレートの光刃はふっと消えてナックルに戻って落ちた。 そして、私たちはどちらからともなく倒れる。 動かない。動けない。 姉さんも私も。 もう体が…………。 ―――― 「シオン! 起きろ。目を開けろ」 僕が命令も出せず茫然と見ていて、もう10分ぐらいは経ったか。 気付いたら二人は倒れていた。 シオンはあの危機的状況から、ぺネトレートクロー・烈の力を発現させて、イスカを追い込んだ。 でも、どちらも力を使い果たしたのか、ピクリとも動かない。 「立って! シオン!」 「イスカ、立てー!」 「シオン、負けるなー!」「どちらも起きてくれー!」 見渡せばいつの間にか、周りからは熱いバトルを魅せられて、ちらほらと観客から応援の声が交っていた。 ほら、こんなにもの人たちが声を出しているんだから、聞こえているなら立ってくれ。 ……シオン! 筐体の画面を見れば起きあがる神姫の姿が。 観客からは、オオォッ! と驚きの声が上がっている。 声から察するにどちらかが起き上がったみたいだ。 それはどっちだ。どっちなんだ。 目が涙で濡れていて前がよく見えない。 クソッ。 拭っても拭っても後から出てくる。 確認しなきゃいけないのに。 「はい、ハンカチ」 「あ、どうも」 と、横から優しく声をかけられて手にハンカチを持たせてくれた。 それで目元を拭う。 「すいません。お見苦しいところを……て……、あ」 ハンカチを貸してくれた優しい声の主は宮本さんだった。 僕は突然気恥しくなった。 ハンカチは洗ってから返そうと思い、宮本さんにそう伝えようとするが。 「いいわよ、それあげる。言い方がものすごく悪いけど残念賞ってところね……あれ」 「え」 宮本さんが促した目線の先。 見えるようになった僕が筐体画面を見つめれば道の真ん中には――肩で呼吸をしているイスカが立ちあがっていた。 そして傍らの倒れているシオンはモザイク状になって消えていった。 遅れて聞こえるジャッジの機械音声。 『WINNER イスカ』 ―――― 「すいません、螢斗さん。負けてしまいました。……あはは」 「シオン……」 シオンは笑いながらもそう言った。 でもそれは仮初めの笑顔。 僕にはそれがわかってる。 「よく頑張った。シオンは頑張ったんだから。無理はしないで。……こういう時はおもいっきり泣いた方がいいよ」 シオンの頭を撫でる。 次第にシオンは俯いてきて。 「……だって私は……螢斗さんの武装……神姫なんですから……負けたぐらいで泣くわけ…………ヒック……う……うああああーーーあーーーー」 「よしよし……」 泣きじゃくって大粒の涙を流し張り裂けそうなほどの声を上げるシオン。 僕はそれを、シオンを子どもをあやすように、背中に指を優しく当て続ける。 ついでに僕も涙を流しながら。 神姫の尋常じゃない程の泣き声しか聞こえなくなったゲームセンター。 周りにいた人たちもこの空気に騒ぐ気はなくなったのか、不気味なほどの静けさが店内を包み込んでいた。 宮本さんはこの空気の中を普通に歩きだし、自分のついていたブースのアクセスポッドから、イスカを連れ出して持ってきた。 「ほら、イスカ」 「…………」 宮本さんは涙をこぼしているシオンの前にイスカを置く。 バイザーを外した真っ赤な瞳をさらけ出したイスカだ。 それでも無表情のままのイスカ。 「シオン、こっちも」 「グス……はい……」 シオンはなんとか目から溢れ出る涙を留まらせ、手の甲ですべて拭ってから、イスカの前へ歩み出る。 そして見つめ合うシオンとイスカ。 「……ん」 突然、イスカはぶっきらぼうに音だけの声を出し右腕を動かした。 それは不器用そうに右手を軽く開きシオンに差し出している。 これは握手でいいんだよね? 僕はそう思った。しかし、それを見たシオンは。 「ウゥ……お姉ぇちゃ~~ん……うわぁああああああああ!」 「……おい、ちょっと!?」 感極まったシオンは引っ込ませた涙腺をまたもや崩壊させて、握手のポーズを無視し、イスカの胸に抱きつき号泣をする。 それで、イスカは無表情な顔を見たことも無いほど驚き戸惑った顔に変化させた。 抱きつかれ固まっていたイスカだが、やがてシオンの頭に手をやった。 「……ふ、まったく、泣き虫な妹め」 「ぁああああああああ……お姉ちゃん、お姉ちゃーん!」 毒づきながらも、シオンは姉らしい穏やかな笑みを浮かべて、シオンを抱きしめ返した。 両腕で優しく。 バトルは勝てはしなかったけど、イスカのあの笑顔を見てたら、姉妹でいがみ合う事はもうないなと僕は思えた。 こうして永遠とも思われた、戦えない、いや戦えなかった武装神姫シオンの。 家族の絆を取り戻す戦いは終わったんだ。 長かった全てが終わった。 前へ 最後へ
https://w.atwiki.jp/2chbattlerondo/pages/375.html
神姫ステータステンプレ 概要フルセット内訳 コアユニット [ 型略称 固有名略称 ] 素体 [ 型名 型] 個体名 コメント 概要 フルセット内訳 コアユニット[ 型略称 個体名略称 ] 素体[ 型名 型] パーツ名 上記パーツのフル装備時 攻撃 防御 回避 命中 機動 耐熱 対スタン 対ダウン 攻 防 回 命 機 熱 スタン ダウン コアユニット [ 型略称 固有名略称 ] 声優 オーナーの呼び方(下段ネタバレ反転) 備考 声優 呼称1 ・ 呼称2 ・ 呼称3 「 呼称4 ・ 呼称5 」 得意 得意武器 苦手 苦手武器 ※括弧内の呼び方の発生条件はアチーブメントの達成。 素体 [ 型名 型] 個体名 LP LP初期 SP SP初期 攻撃 命中 回避 防御 機動 重装 暗視 水中 耐熱 LPセンス ( レーダーサイトのLP値 ) LP初期 SPセンス ( レーダーサイトのSP値 ) SP初期 攻センス ( レーダーサイトの攻値 ) 命センス( レーダーサイトの命値 ) 回センス ( レーダーサイトの回値 ) 防センス ( レーダーサイトの防値 ) 機センス ( 機動実測値 ) 重センス ( 重装実測値 ) 暗センス 水センス 熱センス コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1369.html
神姫ちゃんは何歳ですか?第二十七話 スーパー神姫TIME 書いた人 優柔不断な人(仮) 「っと…そろそろ時間だな」 俺はTVのリモコンを取り、スイッチを押した 「あれ?センパイ、この時間何か見てましたっけ?」 「今までは見てなかったが、今期の番組改編で新番組が始まるじゃないか」 「あ、今日でしたっけ?『スーパー神姫TIME』」 そう、とうとう神姫もゴールデンタイムに番組が放送されるまでになったのだ 『スーパー神姫TIME』は54分の番組で、キャッキャウフフからハードなバトルまで様々な神姫ライフ情報を提供するというコンセプトで作られるという 番組内にはマスターと神姫を迎えてインタビューを行う『神姫マスターズ』というコーナーがあり、その第一回のゲストとして、観奈ちゃんが呼ばれたのだった 『すぅ~ぷぁ~~~すぃんきとぅぁ~~~~いんむ!』 「あっ、お兄ちゃん、始まったよ」 …なにこの30年前のタイトルコールは… TVには男性と女性の姿が映し出された 「皆さんこんばんわ。今日から始まりました『スーパー神姫TIME』。司会は私、富華 三根雄です」 「皆さんこんばんわ~。アシスタントの浅木マキで~す。よろしくおねがいしま~す」 「それでは早速、最初の…」 と司会の富華が言いかけたところに 「ちょっとまったー!二人共、大事な事を何忘れてない?」 と、なにやら小さな女の子の声が割り込んだ 「おおっと、これは失礼。もう一人のアシスタントを忘れてました」 「全く!この超絶ぷりちーな私を忘れるなんて有り得ないんじゃなくて?」 「ほらほら志緒理ちゃん、怒ってないで皆さんに自己紹介して」 カメラがずいっと下へと向けられる テーブルの上には一体の神姫と、さらに小さなヌイグルミのような物体がいた 「あっ…えっと、この番組のアシスタント神姫、シュメッターリングの志緒理です、宜しくお願いします」 ぺこり 「志緒理、今更カワイ子ぶってもおそいんじゃねーの?」 志緒理の隣のヌイグルミ?が喋る 「んもうー!なによー!私は可愛いから許されるのよ!それより、アンタも自己紹介しなくていいの?」 「っと、そうだな。オイラはしおりのお目付役のガンノスケってんだ、ヨロシクな!」 手を振り、挨拶をするガンノスケ 「んもう~、誰がお目付役よ。私が居ないと何も出来ないのはガンノスケの方でしょ!」 「オイラは志緒理が暴走しないように…」 「まぁまぁ二人とも、そのくらいにして。番組が進まないじゃない」 「志緒理ちゃん達には後のコーナーで存分に喋って貰うとして、まずは最初のコーナー、『バトルアリーナ』からどうぞ!」 「このコーナーは武装神姫バトルの中でも、特に名勝負と呼ばれている物を解説を交えてお送りしていきます」 「ふえー、スゴかったねぇ」 感嘆の声を上げる志緒理 「アーンヴァルとストラーフは初期のモデルですが、それだけに数々の名勝負を繰り広げてきました。この第一回大会の二人も、決勝戦に恥じない試合を見せてくれました」 遠い目をしながら説明する富華に、浅木も頷きながら 「最後のデモニッシュクローが出たときにはゲルダの勝ちかと思いましたが、ギリギリで静名がレーザーライフルで防ぎましたね。ライフルがベッコリとへこんじゃいましたけど」 志緒理もそれを聞きながら 「その後、その反動を利用してその場で一回転して壊れたライフルで殴るなんて、よく出来たよねー」 とウンウンと頷きながら言った 「あの後のインダビューでは本人も『咄嗟のことで、何をしたか分からなかった』と言ってましたよ」 「こーいうのは日頃の訓練が大事なんだよ。志緒理もサボってないで、普段からトレーニングしとけよ」 「うーっ、わかったわよぅ」 ガンノスケの言葉に頬を膨らませながらも応える志緒理 「それでは、CMの後は『神姫マスターズ』、第一回ゲストはファーストランカーの國崎観奈ちゃんとミチルちゃんでーす」 CM後、セットが対談用へと変わっていた テーブルが一つ、テーブルから向かって左側には長椅子があり、富華と浅井が座っている。右側にはゲスト用の椅子があり、観奈が座っていた テーブルの上には神姫用の椅子が置いてあり、志緒理とミチルがそれぞれ座っている アシスタントの浅木の声でコーナーは始まった 「それでは、『神姫マスターズ』のコ-ナー、ゲストは國崎観奈ちゃんとその神姫、ミチルちゃんでーす」 「うむ、よろしくなのじゃ」 「よろしくなのだ」 ペコリ、とお辞儀をする観奈とミチル 「早速なのですが、お二人は神姫バトル歴が長いと聞きましたが」 「うむ、そうじゃな。テスト期間から始めていたから…かれこれ5年になるかな?」 「5年って…7歳の頃からやっていたのですか?」 「まぁそういうことじゃな」 「どうでしょう、最初の頃と今とでは、バトルも様変わりしましたが?」 「最初の頃はヴァーチャルシステムも無かったし、社外武装も使用禁止じゃったから、皆限られた範囲での試行錯誤の繰り返しじゃった。それも2弾が出たときのバランス変更でパァにされたりと、なかなか面白かったぞ」 「ああ、通称『犬猫パッチ』ですか」 「そうじゃ。その後の社外武装解禁、ヴァーチャル戦の導入等、神姫バトルも様変わりしていったのじゃ」 観奈の話を聞きながら、富華がぽんと手を叩き 「そうそう、その頃のミチルちゃんの映像が残っていたのですよ」 と言い出した 「なに?まことか?」 「…なにかイヤな予感がするのだ…」 富華の言葉に喜ぶ観奈と、不安そうなミチル 「それでは、映像どうぞ!」 富華の言葉を受け、セットにあるモニターにスイッチが入る そこに写ったミチルと思しき影に、浅木が疑問の声を上げる 「あー、ミチルちゃん…ですか?なんか今と違いますね?」 「この頃はまだ、今のような白い翼は付けていないからじゃな」 観奈の言葉通り、画面の中のミチルには象徴ともいえる6枚の白い翼は無かった ヴァッフェバニーの装備にアンクルブレードを持ち、棘輪を腰に下げていた 「この頃は、ヴァッフェバニーの装備を主体にしておったからな」 「でも、リアブースターに6枚のスラスターを付けてるのね」 「なかなか目敏いな、志緒理殿。最低限の防具に機動ブースターが付いたヴァッフェバニーの装備はミチルに最適じゃったのじゃ。しかし、それでもヤツには追いつけなかったので、スラスターを追加して挑んだのじゃ」 「ヤツって…この人?」 志緒理が指した先には、一体のハウリン型が映っていた 「この人、足の狗駆しかつけてませんよ?」 「当時を知らない志緒理殿が訝しがるのも無理はないな。彼女の名は『ストレイト』クウガ。当時誰も追いつけなかった、最速の神姫じゃ。いや、今でも追いつける者はおらんじゃろうな」 「ふえー、そんなスゴイ人なのですか?会ってみたいなぁ」 「残念じゃが、それは無理じゃ。彼女はもう…」 観奈の言葉にスタジオ内が、暗い雰囲気になる 「いくら安全に配慮されているとはいえ、事故と言うものは起きるのだ。でもあたしたち武装神姫は、そのくらいの覚悟を持ってバトルに参加してるのだ」 「そういうことじゃ、しかと見ておくのじゃ。クウガ殿の勇姿を」 「う、うん」 観奈とミチルの言葉に頷き、画面をしっかりと見据える志緒理 「あっ、ジャガーだ!…この頃はまだ普通のぷちますぃーんボディを使ってるのね」 試合開始 開始と同時にジャガーが牽制の射撃を行った 『…遅い』 画面の中のクウガが呟くと同時にその姿が消える ガキィッ! 否、瞬時にミチルの傍へと移動したのだ 「うそっ?なんて速さなの?」 「大抵の相手はこれで終わるのだ。この時あたしが防げたのも、運が良かったといってもよいくらいなのだ」 『ほう…剣でギリギリ防いだか…』 『くうっ…とりゃっ!』 アンクルブレードを盾に、クウガを押し返し距離を取るミチル。そしてすぐさま棘輪を投郭する ダンッ!ギュン! しかしそれをアッサリと避けるクウガ そしてすぐさまミチルへと2撃目のキックを放つ バシュッ 間一髪スラスターを吹かし、これを避けるミチル 『なかなかやるな…しかし』 ギュン! 有り得ない程鋭角に、ミチルへと向かい跳ぶクウガ 『まだまだ速さが足りない!』 ミチルへと三度キックを放つ しかし ザシュッ! 『やっと、捉えたのだ』 これまでのクウガの行動を分析し、攻撃パターンを掴んでいたミチルは、次に攻撃が来るであろうポイントにブレードを振っていたのだった クウガの足が切断され、ブースターを吹かしながらクルクルと飛んでいく 『ぐっ!』 苦痛に顔を歪めながらも、なんとかその場に留まるクウガ ゲシッ! そんなクウガに容赦ない追撃をかけるミチル 蹴り飛ばされ、地に伏せるクウガ ミチルはクウガを踏みつけ、アンクルブレードを構える 『これで、あたしの勝ち…』 スコーーン! ミチルの言葉は、飛んできた何かによって中断させられた 「…ねぇ、今の何?」 モニターを真剣に見ていた志緒理が怪訝そうな声を上げる 「…狗駆…というか、クウガの脚?」 同じく、呆気にとられていた浅木が答えた ブースターを吹かしながら飛んでいた脚が、何の因果か戻ってきて、ミチルの後頭部へと直撃したのだった 『きゅぅ…』 完全にフリーズして、倒れるミチル 『ミチルのノックアウトを確認。勝者、クウガ!』 クウガの勝利が告げられる中、ミチルはその先にいたクウガへと倒れ込んだ ガツン! 『!!』 クウガの上に覆い被さるように倒れたミチル ミチルの顔が、クウガの顔にぶち当たる というか… 「うわっ!ミチルちゃんとクウガさんが、ちゅーしてる!」 浅木の言葉に、スタジオ大爆笑 「あ、あれはノーカウントなのだ!意識してないし、というか意識無いし!」 顔を真っ赤にしながらパタパタと手を振り全力で否定するミチル 「あはは…ファースト上位のミチルちゃんも、こんな事があったんですね」 「うーっ、この油断が無ければ…」 「そうじゃな、あの後もずっとクウガ殿には勝てなかったのじゃからな」 「えっ?もう攻撃は見切ったんじゃ?」 観奈の言葉に疑問の声を上げる志緒理 「次の対戦で同じ事をやったのじゃが、ミチルが剣を構えるよりも先に蹴り飛ばされてKOされたのじゃ」 「うっそ…」 「自分が成長してるのと同じように、対戦相手もまた成長してるのだ」 「観奈ちゃんもミチルちゃんもそうやって成長してきたんですよね」 「そう言われると、照れるのじゃ」 「ところで観奈ちゃん、今現在、気になる神姫というを教えて欲しいのですが」 「そうじゃな…ファーストの神姫はほぼ気に掛けておるが、ここは注目のセカンド神姫を挙げておくのじゃ」 「観奈ちゃんが気になるセカンドの神姫ですか」 「まずはセロ殿じゃな。地元では『クイントス』と呼ばれており、ファンも多いそうじゃ」 「鳳凰杯の決勝トーナメントの第一回戦で戦った神姫ですね」 モニターが切り替わり、ミチルとセロとのバトルが映し出される 「剣の腕前はもとより、優れた洞察力もある素晴らしい神姫じゃ。スグにでもファーストでも通じるだろうに、何故セカンド中位にいるのじゃろうか」 モニターではムラサメが破壊されたシーンが映し出されていた 「次に挙げるのは…『雷光の舞い手(ライトニング・シルフィー)』ねここ。高機動と重装備を両立させている、数少ない神姫じゃ」 画面が切り替わり、アーンヴァルの武装を中心に組み上げた武装『シューティングスター』を振り回し、フィールド中を駆け回るねここの姿が映し出される 「ほぼ公式装備で組みながら、要所にはオリジナルパーツを組み込まれておる。マスターのセンスも光る神姫じゃ。」 必殺の『ねここフィンガー』を決め、相手のストラーフ型を沈黙させるねここ 「ちなみに、地元での人気は絶大で、最近ファーストに来た『マジカル☆ハウリン』ココと人気を二分しており、ファンクラブまであるそうじゃ」 モニターにはフリフリの衣装を着たココが口上を述べている所が映し出された 「あと、セカンドでは無いが、鳳凰杯の時に不慮の事故で記憶を失ってしまったミカエルも注目じゃな」 「オーナーの鶴畑大紀さんもファーストの称号を返上してしまいましたね」 画面には圧倒的火力でフィールドこと相手を焼き払うミカエルの姿が映し出される 「サードからの再スタートということで勝手が違うじゃろうが、あの二人ならまた勝ち上がってくるじゃろう」 「その三人が、観奈ちゃん一押しの神姫ですか…っと、そろそろ時間になってしまいましたね」 ADの合図を見た富華が申し訳なさそうに言った 「それでは観奈ちゃん、最後に視聴者の皆さんに、何かメッセージをお願いします」 「武装神姫で大切なのは、神姫を信じる心じゃ。信頼無くしての戦いはありえんのじゃ。たとえ負けても、ちゃんと得る物はあるのじゃ」 「有り難う御座いました。本日のゲスト、國崎観奈ちゃんとミチルちゃんでしたー!」 パチパチと拍手に見送られ、退席する二人 「神姫を信じる心、か…」 俺は次のコーナーの新作情報で映し出されている新型機の『アーク』と『イーダ』を見ながらボーっと考えていた 「…センパイ。以前のことを考えているのですか?」 「皐月にはお見通しか…」 皐月の指摘通り、昔の事を考えていた 神姫を道具としてしか見ず、ユキに過酷な試験ばかりをさせていた日々を 「でも、今は信じてるんでしょ?」 「ああ…」 「なら、それでいいじゃないですか」 「…そうだな」 俺はエンディングを歌う志緒理ちゃんを眺めながら、今のみんなの幸せを壊すまいと誓うのだった 『きょうのまおちゃお~』 『マオチャオは今日も日向ぼっこ。大好きなマスターの帰りを待ちながら、窓際でうつらうつら』 「うにゃぁ…ごしじんさま、だいすき…むにゃむにゃ…」 『あらあら、どんな夢を見ているのでしょうね』 ピクッ 『おや?マオチャオの耳が動きましたよ?』 ガチャガチャ…カチャッ 「ただいまー」 「おかえりなさい、ごしじんさま!」 『満面の笑顔でマスターを出迎えるマオチャオ。よかったね』 -END- あとがき なんとか生きてます、優柔不断な人(仮)です 今回はss掲示板の方で上がっていた「百質」をみてたら思いついたので、それで一本書いてみました 未だに妄想の人さんに言ったコラボssも書けてないのにスイマセン ちょっち補足 観奈とミチルがクイントスの事を本名のセロと呼んでおります これは鳳凰カップではクイントスは通り名で、あくまでもセロとして参加し、アナウンスもそうであったと考えられるので、観奈達が紹介する時にもそっちを使ったと考えるからです ミカエルに関しては、大紀が改心し、技術の蓄積も有ることからこれから強敵になるであろうと予測した為です ちなみに最後の『きょうのマオチャオ』は独立した五分番組です。提供は勿論、BLADEダイナミクス(もしくはKemotech)です さらに、今回の番組出演者の設定 富華 三根雄(ふか みねお) フリーのアナウンサー。45歳 神姫バトルの中継では実況も務める。その実績を買われ今回のメイン司会者に抜擢された 浅木 マキ(あさき まき) TV局のアナウンサー。24歳 若手女子アナウンサー。自身も神姫を所有しているが、上前はサード中位。どちらかというと、神姫と遊んでいる方が好き 志緒理(しおり シュメッターリング型) デモを兼ねてスポンサーから番組へと贈られた神姫 歌って戦う神姫を目指してる 彼女が歌う番組エンディングテーマも番組開始と同時に発売 「みんな買ってね(はぁと」 ちなみに所有者は番組のプロデュサーという事になっているが、ADの一人を気に入っていて、マスターそっちのけでつきまとってるらしい ガンノスケ 志緒理付属のヌイグルミ型支援マシーン『ラビボン』 主にツッコミ担当 志緒理とガンノスケは『スーパーしおりん』へと合体出来る …らしい
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2286.html
4th RONDO 『そうだ、神姫を買いに行こう ~3/4』 「こいつらが飛んできたせいで彼女が転んだんです」 警備員にそう言って、動かなくなった武士と騎士 (眠っていてもその顔はやはり濃かった……) を渡した後、こっそりと連れてきたレミリアと白黒神姫二体を人気のない玩具コーナーの箱の影に立たせた。 片腕が破損したアームパーツを外し、レッグパーツだけを装備しているため不自然に足が長くなり見た目のバランスが悪くなったレミリアは、色褪せた “リボルテックせんとくん” の箱に寄り掛かり、クールに腕を組んでいる。 「第三のヂェリーって知ってる?」 見た目はニーキと変わらないはずなのに、甲高い声もフレンドリーな性格もあの偏屈悪魔と大違いだ。 姫乃はどのようにあのストラーフを育てて、あんなへそ曲がりにしてしまったのだろうか。 レミリアの右側では、黒い神姫がいつの間にか武士と騎士から拝借した剣二本を両手に持って、振ったり眺めたりしている。 レミリアを挟んで左側の白い神姫は、さっきからずっとモジモジクネクネと落ち着きがなく、時折俺と目が合ったかと思うとものすごい勢いで顔を背け、またチラリチラリとこちらを向いている。 蒼く丸い瞳を上目に何かを言いたげだが、口を開きかけてもすぐに 「あ……」 と目を逸らしてしまう。 これでは話しかけようにもまともに会話なんてできないだろうと思い、とりあえず白い神姫は放っておいてレミリアの話に乗っかった。 「ヂェリー? なんだそれあぁっつあたた痛い!」 「神姫用の添加剤みたいなものよ。 口から飲むんだけど、神姫にとってのビールみたいなものなんですって」 姫乃は平然と解説してくれるが、血が止まりかけていた切創から再び血がにじみ出るくらい俺の手を握り締めてくれた。 「なにすんだよ! 俺の痛がる姿をそんなに見たいか!」 「ん? あ、うわ!? ごめん弧域くん! なんで私こんなこと――」 パッと手を話した姫乃には本当に悪気は無さそうなのだが、 「んー、でもなんでだろ。 なんとなく弧域くんに裏切られたような気がするのよねぇ」 と首を傾げてワケノワカラナイコトを言う。 「勘弁してくれよ……それで? その第三のヂェリー? がどうしたよ」 「第三のヂェリーって最近になって発売されたものでね、普通のヂェリーに似せてつくられた安物なのさ。 不味くはないし値段も半分くらいで悪いこと無しみたいだけど、ヂェリー好きの神姫にとっちゃあ飲めたものじゃないよ」 「ふうん。 神姫の世界も世知辛いもんなんだな」 「一日中お客さんの相手をしてさ、神姫にイタズラしようとする悪ガキだとか、万引きの見張りだとか、ある意味バトルより大変なんだよ、私達の仕事。 まぁ、だからこそ仕事上がりのヂェリーは格別なんだけどね」 「……まさか、あそこで労働条件がどうとかって叫んでる神姫達の要求って」 「今拡声器で叫んでるアーンヴァルはフランドールって名前で、私と同期でこの仕事も随分長いんだけどさ」 《繰り返す! 店側は第三のヂェリー支給を即刻撤回し、今までどおり普通のヂェリーを支給せよ!》 「新人の時からヂェリーのために生きてるような神姫でね。 いつものヂェリーが第三のヂェリーに変わった途端、他の神姫をまとめ上げてこの騒動、ってわけ」 「す、すごい行動力ね」 「あん? そのヂェリーが変わったのっていつの話なんだ?」 「昨日だけど」 「見切り発車すぎるだろ! もうちょっと作戦とか練れよ!」 「私に言われてもなぁ」 「お兄さんの言うとおりだよまったく。 おかげでボクと、」 黒い神姫は白い神姫を親指でクイッと指差して、面を膨らませている。 「エル姉がとばっちりを受けてるんだから」 見た目だけでなくその仕草もどこか背伸びした子供っぽい。 「どういうこと?」 「私達アルトレーネ型とアルトアイネス型は第三のヂェリーと同時期に発売されて、イメージキャラをやってるんです。 テレビのCMを見たことありませんか? 二人一緒にヂェリーを一気飲みするんですけど」 あ、もちろん私とメルが出てるわけじゃないんですけどね、と白い神姫エルは付け加えた。 「ボクとエル姉は起動されてから、ヂェリー売り場でずっと売り子をやってるんだ」 大学生になってからは部屋にテレビなんてないし (パソコンで十分だ) 、CMも久しく見ていないからそもそもヂェリーの存在すら知らなかったわけだが、それが神姫にとってのアルコールならば、アーンヴァル型のフランドールだったか? あいつが店に反旗を翻したくなるのも分からないでもない。 神姫達の雇用者が安上がりなものを選んだところで、そんな事情を神姫達に理解しろと言っても 「はいそうですか」 とはならないだろう。 ヂェリーの味は神姫にしか分からない。 普通のヂェリーと第三のヂェリーの違いなんて、人間からすれば広告通り 「昨日までのヂェリーと変わらぬ美味しさ」 なのだ。 仮にあのフランドールが立ち上がらなくても、いずれ他の神姫が彼女の代わりとなる運命なのだろう。 「だからボクとエル姉にお客さんの前で第三のヂェリーを飲ませた後、 《なにさこれ不っ味ぅぅうううい!》 って言わせるつもりらしいんだ」 「第三のヂェリーは売れなくなる。 市場から第三のヂェリーが消える。 自分達のヂェリーが元に戻る。 やったあ! ――って寸法なんだってさ。 いくら日本が狭いといっても、どれだけの数のヂェリーが出まわっていると思ってるんだろうね」 やれやれ、と首を振るレミリアの釣り上がった口からは、この状況を呆れているのか楽しんでいるのか区別がつかなかった。 「あなたたち三人だけがこの作戦に反対したの?」 「レミリア姉さんの他にも私とメルを庇ってくれた神姫はいるんですけど……」 「今はあそこでまとめて縛り上げられてるよ。 みんな腕はあるんだけど、いかんせん多勢に無勢ってとこだね」 フランドールを頂点とした玩具箱のピラミッドの最下層に、四体の神姫がガムテープでぐるぐる巻きにされてうな垂れている。 その隣に乱雑に放置されたパーツの山は、剥ぎ取られた武装なのだろう。 「こっちの半過激派は残り三体であっちの過激派は多数か。 俺が行ったとしても警備員に止められるだけだろうし、これは警備員が強攻策に出るのを待つしかないか」 「……そうだねぇ。 それしかない、か」 レミリアの甲高い声にわずかに影が落ちた。 神姫にもこんな表情ができるんだなと思わせるような、ふっ、と遠い目がフランドールへ向けられる。 「なにか、それじゃ駄目な理由があるの?」 「できれば私の手で、そうじゃなくてもせめて神姫達だけで解決したかったんだけどね。 仕方ないか」 「そうだよな。 やっぱ古くからの友人が突っ走ったら自分の手で止めたいもんな」 「……うん。 まあ、それもあるんだけどさ……」 「考えてもみてよ。 もし神姫が暴走したとして、捕まえられた後は何をされると思う?」 レミリアの言葉をメルが引き継ぐ。 それは神姫に限らない話だ。 どんなロボットだろうと、暴走を始めたならばまず緊急停止。 そして安全を確保した上で原因究明。 もし暴走の原因が突き止められなかったとしたら―― 「……リセットされるか、メーカーに送られる?」 「お姉さんは優しいね。 お姉さんみたいな人に買ってもらったストラーフ――私の妹はきっと幸せ者だよ。 リセットされるだけなら、まだいい。 メーカーに送られて身体も心も新品同様になって帰ってきたとしても、まだいい。 お客さんに危害を加える可能性があったり営業に使えない神姫は破棄されるんだ。 ……店のデータが漏れないようにコアとCSCをハンマーで粉々に砕いた後でね。 ま、結局残った素体に新しいコアとCSCを組み込むだけだから、普通にリセットされるのと変わらないんだけどね」 気丈にそう言うが、レミリアが過去に神姫のコア――頭部を破壊されるところを間近で何度も見てきたことが痛いほど伝わってくる。 本人は堪えたつもりだろうが、震えた声でそんなことを言われて、こっちまで……泣きたくなる。 「せめて神姫達だけで解決できたら、店も少しは考えてくれるかなって思ってるんだけどね。 ……甘い考え、かな」 姫乃が俺のシャツの裾を今にも泣き出しそうな、縋るような顔で掴んだ。 「弧域くん……」 俺だってなんとかしたい。 なんとかしたいが。 「もうアイツらは事を起こした後だ。 今からレミリア達だけで解決しても正直、フランドールが無事でいられる可能性は……」 「それでもアイツは私の、たった一人の同期なんでね。 少しでも可能性があるならそれに賭けてみるよ。 申し訳ないね、お客さんにこんな話を聞かせちゃってさ。 これは私達の問題だから、私達で解決してみせるよ」 片腕になったアームパーツを再び背負ったレミリアは軽く背伸びをして、湿っぽい雰囲気を吹き飛ばすように 「さて!」 精一杯の笑顔を見せてくれた。 「あのアル中のこと、いつか殴ってやらないとって思ってたんだ。 いい機会だし、一発ガツンとやってやるか!」 「ボク達も行くよ、レミ姉」 「一人よりも二人、二人よりも三人ですからね」 武士と騎士が持っていた刀と剣をそれぞれ持ったエルとメルが、レミリアの後に続く。 剣一本とはいえ素手よりはマシでも、相手は完全武装した神姫だ。 戦力としては圧倒的に劣る。 「待て待て。 お前ら玉砕覚悟で正面から行くつもりだろ。 さっきはレミリアのアームが折れるだけで済んだけど、今度はそうはいかないぞ」 「もちろん、そんなこと分かってるさ。 ベテランの悪魔型一体に、剣の扱いに長けた戦乙女型が二体。 それでも数の暴力には敵わないだろうね。 それでも私達は――」 「無駄死は許さん。 もう目の前で神姫が壊されるのはこりごりなんだ」 レミリアの話で思い出したくもないことが頭に浮かんでしまった。 こいつらがあのマオチャオのようになるなんて、そんなことは断じて許さない! 「二十分――いや十分待て。 突撃はそれからだ」 出鼻を挫かれたレミリア達と姫乃を残して、俺はその場を離れた。 《再々度繰り返す! さっさと普通のヂェリーを渡しなさい! いつまで待たせる気だ!》 痺れを切らしたフランドールがもう天使とは程遠い要求をし始めた頃。 依然その周りを囲む店員と警備員、どんどん増えていく野次馬達に紛れて、俺達はできるだけ囚われた神姫達に近い方向へ回りこんだ。 「そろそろだ。 準備はいいか」 足元の神姫達が頭を立てに振ったその時、フランドールを守るように堂々と立っていた神姫達が俺の放った “それ” に気づいた。 「なんだあれ、こっちに来るぞ」 「あれは……ホイホイさん? 売り場から逃げ出したのだろうか?」 背丈は神姫より幾分低く、3.5頭身の体にピンク色の長い髪と大きな丸い目をつけた顔は常に笑ったまま。 頭に兎の耳のようなリボン。 メイド服のようなエプロン姿に――凶悪な機関銃。 「いけ、ホイホイさん(重戦闘Ver.)! 奴らを蹴散らせ!」 警備員の目を盗んで神姫コーナーに放り込んだホイホイさん(重戦闘Ver.)はピラミッドに陣取る神姫達を害虫と認識し、たった一人でもまるで臆することなくフルオート射撃を放った。 機関銃の反動に身体を震わせながらも変わらぬ笑顔が怖い。 「う、うわぁなんだアイツ!?」 「ガッ!? ク、クソッ被弾した! 十二号より本部! 十二号より本部! 未確認の敵が出現! 指示を!」 「本部てっどこ、う、うわぁ!」 殺虫剤すらものともしない “黒い閃光” を殺傷するほどの弾丸の嵐が神姫達に襲いかかる。 さっきまで雛壇のように並んでふんぞり返っていた神姫達はあっという間にその統率を失い散り散りになった。 「あのホイホイさんどうしたの? まさか、お店の?」 「いいや、十分前に俺の物になったホイホイさん(重戦闘Ver.)だ」 姫乃達と一旦別れた後、ホイホイさん(重戦闘Ver.) と電池を買ってトイレで組み立てたのだ。 もしホイホイさん(重戦闘Ver.)の起動にパソコンが必要だったらアウトだったが、さすが老若男女問わず人気があるだけあって、電池を入れるだけで最低限の機能 (目前の害虫を駆除) は働くらしい。 「くそっ、たかがホイホイさん一体如きに怯むな! おい、そこのお前達も後ろに隠れてな……あ、な、何故お前達が!?」 「それはもちろん、あなた方がホイホイさんと遊んでらっしゃる間にですわよ。 先程はよくもやってくれやがりましたわね」 エルとメルが開放した囚われの身だった神姫達は武装を取り戻し、先頭に立つお嬢様言葉の神姫は景気付けと言わんばかりに最初の一体を吹っ飛ばした。 「ぎゃっ!?」 強烈な打撃を放った後も悠然と歩くお嬢様の後に他の神姫も続く。 「もうエルとメルを庇う必要はありませんもの。 今度は全力で相手をして差し上げますから――全力で後悔なさい!」 助け出された四体とエル・メルがホイホイさん(重戦闘Ver.)の弾幕を前に慌てふためく神姫達に果敢に向かっていき、そこからはカンフーアクション映画のような乱戦となった。 当然神姫の事情など知ったことではないホイホイさん(重戦闘Ver.)は誰彼かまわず攻撃するが、新たに戦場に加わった神姫達はその程度の銃弾などものともしない。 エルとメルも流石は戦乙女型というだけあって、剣で弾を上手く捌きつつ戦っている。 この調子だと、雑魚達はすぐに片付くだろう。 残りは―― 「やっぱり私の邪魔をするのか、レミリアァ!」 「私を助けてくれる、と言ってほしいね。 フラン」 頂点から憤怒の形相で見下ろす天使と、麓から陽気に見上げる悪魔。 二人の間を遮る神姫はいない。 「不味いヂェリーなんて何の価値もない! アンタだってそう思うでしょう!」 「にゃはははそのとーり! コクの無さといい喉越しの悪さといい、第三のヂェリーなんてもはやヂェリーとは呼べないね!」 「だったらどうして私の邪魔を!」 「――でもね、フラン」 諭すように、レミリアは友へ話しかける。 ゆっくりと、一本だけとなった腕を後ろに引いた。 その腕の先には、メルが騎士を殴った携帯 「あれ? あの携帯……」 がある。 「どんな理由があっても、神姫は人に害を与えちゃいけないんだよ」 「黙れ! 一人でいい子ぶって、お前はいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも!!」 フランドールが蹴り飛ばした拡声器が音を立てて落ちた。 閉じていた翼が主の激昂に呼応するように広がる。 戦闘機のような、硬く、冷たい、天使の翼。 柔らかく軽い羽などない。 そこにあるのは、獲物を消し去る鋼鉄の爆薬。 「いつも――――正しいことばかり言う!!」 「悪魔型のくせに、って? そりゃそうだよ。 友が道を踏み外したなら、それを正すのもやっぱり友なんだよ」 フランドールが翼をさらに大きく広げた。 レミリアが身体を大きく捻った。 姫乃がスカートのポケットをまさぐった。 「私を見下すなああああああああああ!!!! 『 禁弾――!』」 「何度でも、何度でも、私が正してやるさ、友よ。 『 神槍――!』」 『 ス タ ー ボ ウ ブ レ イ ク ! ! 』 『 ス ピ ア ・ ザ ・ グ ン グ ニ ル ! ! 』 不規則な軌道を描きながら飛来する幾本ものミサイルを突き破りながら、レミリアの槍(姫乃の携帯電話)はフランドールに直撃し、フランドールは携帯電話と一緒に頂上から落ちていった。 少し遅れて、槍の驚異から逃れた数本のミサイルがレミリアに着弾した。 いくら小型軽量とはいえ神姫にとっては重さがある携帯電話を投げる無茶をしたことで、エネルギーを使い果たしたレミリアはミサイルを防ぐことも躱すこともできず、飛来した全弾を浴びて倒れた。 「わ、私の携帯……」 NEXT RONDO 『そうだ、神姫を買いに行こう ~4/4』 15cm程度の死闘トップへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1907.html
作者です。ジャリ天と言います。 初めての長編でアラもありますが、まずは完結させてみようと書いています。物語は順次掲載していきます。 単発ページにあるものの登場人物たちが出てきますが、できるだけ初めて読む方にも解っていただけるように書いています。単発のページにあるもの自体がその時々でバトルの設定など変わっているので、スターシステムと思っていただければ幸いです。 @ The Netwark Fanfare For The Common Man&Shinki Eye To Eye Tomorrow Never Knows
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2733.html
必殺技は男の浪漫 7月31日(日) 私は華凛との約束通り、シリアと二人でゲームセンターに来ていた。最初は榊くんを誘おうかと思ったが、どうせなら新しい人と戦ってみようと言うシリアの助言もあり、今に至ると言うわけだ。 「今日も空いてる」 「なら、座って待ってないとね」 この筐体は一人でもお金と神姫カードを入れればアーケードモードで遊ぶことが出来る。対戦を待っている時はこのモードで自主トレしながら待ち、挑む側は乱入と言う形でバトルすることが出来る。 だが私はアーケードではあまり戦ったことがない。一度戦う度に疲れてしまい、いざ対戦しようと思っても、フルパワーで戦えないのだ。燃費のすこぶる悪い昔のエンジンのようだ。 ともあれ、そんな具合で対戦待ちをしていた私だったが、対戦相手は思いの他簡単に現れた。 「あれ? 奏萩先輩、奇遇ですね」 そう話かけてきたのは、一昨日再会した朱野くんだった。今日は肩に神姫を乗せている。マオチャオ型だ。なんだか、だるーんと伸びているが大丈夫だろうか? 「対戦待ちですか? よかったら対戦していただいても?」 「喜んで」 彼の神姫の具合が心配だが、とにかく彼は筐体の反対側へと回った。 筐体の上を見ると、案の定シリアがマオチャオのことを心配している。 「大丈夫かな……なんだか、疲れてるように見えるけど」 「ベストの状態じゃないみたい。けど私たちはいつも通り戦うだけ」 「そう、だよね。あの子には悪いけど、バトルはバトル。全力でやらせてもらおうか!」 シリアの士気が高まったところで私はヘッドギアをつけた。シリアも筐体の中へ。マイクテス、OK。 「いけるね?」 『もちろん』 短いやり取りで互いの士気を高め合う。そして、私はボタンをゆっくり押し込んだ。 来た。開店から待つこと5時間、やっと奏萩先輩が姿を現した。奏萩先輩がこのゲーセンでバトルしていると知って、朝から張り込んでいた甲斐があったと言うものだ。 「ますた~、ハオはもう帰りたいのだ~……帰ってマタタビジェルをたらふく飲みたいのだ~」 肩口の神姫、ハオがだらしなくそんなことを言っている。マオチャオ型は基本的に気分屋だが、今回ばかりは自分が付き合わせている。 だが、構っている暇はない。奏萩先輩が対戦待ちの体制に入る。その瞬間、すぐさま行動を起こす。物陰から身を出し、何くわぬ顔で奏萩先輩に近付く。 「あれ? 奏萩先輩、奇遇ですね」 奇遇でも偶然でもなくおもいっきり張り込んでいたわけだが、そんなことは言われなければわかるようなことではない。 「対戦待ちですか? よかったら対戦していただいても?」 「喜んで」 その短い返事に内心でガッツポーズをきめる。今ならアーケードで軽くハイスコアを叩きだせそうだった。 筐体の反対側へ行き、ハオを筐体の上に下ろす。が、据え置き人形よろしく自立せず座りこんでしまった。 「ますた~、わたしはもうやる気ゼロなのだ~。はやく帰ってマタタビジェルが飲みたいのだ~!」 マタタビジェルとは、マオチャオが大好物とする神姫専用飲料のこと。個体にもよるが、大抵のマオチャオは臭いだけで酔い、一口でも飲めばそのまま眠ってしまうほど強い酒のような物だ。 だが家のハオは水感覚でそれを飲むことが出来る。マタタビジェルは決して高くはないが、安くもなかった。 「わかった、家に帰ったら飲んでもいい」 「3本」 「1本」 「3」 「……妥協して2!」 「……わかったのだ」 なんとか納得してもらい、筐体の中へ。まぁ、なんだかんだ言ってハオはバトルになると元気になるからな。その点は問題ない。 (いきますよ先輩! 今日、この日をどれ程望んだことか!) 好きな先輩とバトル。そうすれば、自然にもっとお近づきになれる。 期待と喜びに胸が一杯になりながらボタンを押した。これから始まるバトルの舞台、それはこちらから指定してある。言わばホームグラウンドバトル。好きな先輩相手でも負ける気などない。 (さぁ、バトルと行きましょうか!) 樹羽たちがバトルを始めていることなど露とも思っていなかった俺は焦っていた。いや、戸惑っていた。 「おいおい、どういうことだよ……」 俺は今、自室の窓から外を眺めていた。ありきたりな風景を眺めながら、さて夏休みに出た宿題でもやろうかと思っていた矢先のことである。 外に白い粒が舞っていたのだ。 すぐさま窓からその粒を手にとってみた。冷たかった。 (今、真夏だぞ……そんなことが……) すぐにテレビをつけ、天気予報を確認する。この地域は今日は晴れのはずだった。事実今映っている予報には、依然として晴れマークがさんさんと輝いている。だが窓の外には、白い粒が重力に従って真下に落ちていた。 「マスター、どうしたのー?」 シンリーが俺の近くまでやって来て、同じ窓の外を眺めた。すると、彼女は思いの外ため息をついた。 「なんだ、ただの雪じゃん。もっとネタになりそうなことで驚いてよ」 そう言って、彼女は再びクレイドルへ戻ろうとした。俺はそれを止める。 「待てよ、ただの雪ってなんだよ。今は夏だぞ!?」 「それがどうしたの?」 シンリーはまるでそれが当たり前であるかのようにあしらった。 「お前、何言って……」 「マスターこそ、なんでこんなことで慌てふためいてるの?」 俺はさらに混乱した。シンリーはこの状況を異常だと感じていない。ついにシンリーが壊れたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。窓の外を歩く人は皆、何くわぬ顔で雪の降る道を歩いている。 シンリーだけではない。俺以外の皆はこの状況をいつものことだと思っている。 「なんだよ、なんなんだよ!!」 まるで俺だけが取り残されたようだ。みんなにとってこの雪は普通のことで、それを異常だと思う俺が異端だとでも言うのか? その時、俺の携帯から厳かな着メロが流れ出した。ベートーベンの曲のオーケストラバージョンだ。ディスプレイを確認すると、見慣れたクラスメイトの名前が表示されていた。俺は落ち着いて通話のボタンにタッチする。 「もしもし……」 『あ、東雲く~ん? 突然なんだけど~外の雪どう思う~?』 電話の先から聞こえてきたのは、教室でいつも聞いていたゆったりとした声だった。俺はその声に若干戸惑いながら答えた。彼女が俺に連絡してくることなど希だからだ。 「外の雪か、綺麗だな。ちょっとどころの騒ぎではなくフライング気味だが」 『あ、やっとまともな事言ってくれる人がいた~』 ゆったりとした安堵が携帯越しの俺にまで伝わった。察するところ、このクラスメイト――霧雨愛理(きりさめあいり)も異変に気付いているようだ。いや、気付かない方がおかしいのだが。 「霧雨、お前も変だと思うんだな?」 『うん~、スクープの良いネタにしようと思ったら、お母さんに普通だ~って言われちゃって~、今クラスのみんなに電話してるところなの~』 で、俺のところにお鉢が回ってきたわけか。 「他の奴も、この雪をなんとも思ってないのか?」 『そだよ~、それがどうしたの、だって~』 どうやら他の奴もシンリーと同じ状態らしい。異変に気付いているのは、今のところ俺と霧雨だけのようだ。もしかしたら樹羽も気付いているかもしれない。 『あ、でも佑奈ちゃんは少し違和感持ってたよ~』 「あー、委員長か」 佑奈ちゃんこと、空向佑奈(からむきゆうな)は俺たちのクラス委員長だ。あいつも違和感を持っていた? 法則性がさっぱりわからんぞ。 『私に言われても困るよ~。ただ……』 「ただ?」 『この雪に違和感を持ってる人って~、華凛ちゃんに関係してる人ばっかりな気がする~』 「はぁ?」 それこそ意味がわからない。確かに霧雨や委員長は秋已と仲が良いかもしれんが、俺はどうなんだ。俺とあいつは単なるクラスメイトだぞ。それに何故そんな理論に行き着く。 『えぇ~知らないの~? 華凛ちゃん、東雲くんのこと……』 そこまでしか聞こえなかった。突然電話の向こうでガタンッという大きい物音がした後、霧雨の声が聞こえなくなったのだ。 「おい霧雨!? 大丈夫か!?」 呼び掛け、しばらくすると霧雨が照れながら電話に出た。 『あはは~、なんか携帯落としちゃった~』 どうやら特に問題ないようだ。だが、俺はこの後絶望することになる。 いつもと変わらない、彼女が発したセリフによって。 『で、私なんで東雲くんに電話したんだっけ~?』 最初、意味がわからなかった。その質問の意味を理解するのに二秒ほど要して、俺はようやく喋ることが出来た。 「何でって、お前から雪のことについて聞いてきたんだろ?」 『雪~? そう言えば降ってるね~』 俺の中で嫌な予感が膨れ上がった。それはたぶん、この上ない事実なのだろう。確認などしたくないが、しなければならない。 「霧雨、夏に降る雪ってどう思う?」 『ん~? 別にあってもいいんじゃない~?』 「っ!」 頭をハンマーで殴られたような気がした。さっきまで同じようにこの異常事態を認識していたクラスメイトが今、このおかしな現象に巻き込まれたのだ。 もはや彼女の中で、この雪は別にあってもおかしくない存在なのだろう。 「……悪い、もう切るな」 『~? ばいば~い』 電話を切り、独り立ち尽くす。よく見知った世界なのに、今では独りになってしまったような気分だった。 (樹羽なら、樹羽なら気付いてるはずだ!) 意味もなく、そう思った。電話番号など知らない。小学生時代に僅か二週間かそこらしか一緒にいなかった俺は、彼女の家の場所はおろか、電話番号すら知らなかった。 樹羽じゃなくてもいい。誰かに会いたかった。この異常を異常だと言える存在に。足は部屋の扉へと向かい、そのまま玄関に向かって走り出した。部屋を出る時にシンリーが何か言っていたような気がしたが無視した。 靴を履き、玄関を開ける。雪は晴れた空から降っていた。雲一つない青空から白い氷の結晶が降りてきている。それは地面に落ちると、最初からなかったように消え去る。水跡すら残らない。 (誰かっ、誰でもいい! この雪に疑問を持ってくれ!) 誰もこの青空から降る雪を気にも止めない。ある人はそれが始めからないように道を歩いている。 俺は走りだしていた。行き先なんてわからない。ただこの状況を良しとしない人に出会いたかった。 しかし、数分走ったところで、急激な睡魔に襲われた。頭に霞がかかったようにぼんやりし、足から力が抜ける。どうにかアスファルトに手をついたが、その間にも意識は朦朧としていく。 おそらく、この睡魔に負け意識を失えば、俺もこの雪に疑問を持たなくなるのだろう。それはこの世界に飲み込まれるのと同義だ。 (俺も、霧雨のようになるのか……?) そうなれば、この雪に疑問を持たなくて済むのだろうか? (そうなれば……悩まずに済むのか……?) あぁ、それも、いいのかもしれない……な―― 「ん、あれ?」 俺は気付けば地面に倒れていた。貧血でも起こしたのだろうか? まったく、俺も秋已のこと笑えないな。 「早く家に帰らねぇと」 だが俺はなんでこんな場所にいたんだ? まあ、考えても仕方ない。俺は今来た道を引き返した。 空からは、冷たい雪が降り続けていた。 第十一話の2へ トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1064.html
疲れた時は、玉を磨いて(前半) 意識が闇の淵から、ゆっくり浮上していく。同時に、己の置かれた状況も 徐々に認識していく……そうだ、私・槇野晶は“アルファル”を製作中。 百枚近い設計図を引き終わり、コストも含めた要求に合致する電装部品を アキバ全域のパーツ屋から調達……構造部品は自分でも作成していたな。 そして、そうだな。パーツを揃えた直後に朝六時の時報を聞いて……ん? 「し、しまった寝坊したッ!?今日は定休日じゃないぞロッテ!!」 「マイスター、落ち着いてくださいですの~っ!今日は定休日ッ!」 「な、何……ふ、うぅぅぅ……寿命が縮むかと思ったぞ。おはよう」 「おはよう、じゃないですよ!もうとっくにお昼過ぎですよ?全く」 「……それに、目の下にすごい隈。この三日間、根詰めすぎだよ?」 「む、むぅ……すまん。アイデアが大凡固まったので、つい……な」 半ば呆れ顔というか、怒っているアルマ・ロッテ・クララにたっぷりと 説教を喰らう。確かに“アルファル”の案が突如脳裏に浮かんでから、 私は殆ど寝食を忘れて作成に打ち込んだ。精度の高いパーツを三人分、 揃えるまでにどれだけの時間を使ったか……その間、彼女らには色々と 世話と迷惑を掛けてしまった様だな。だが彼女らは、それ以上に……。 「もう、マイスターの顔が台無しですのっ!疲れが滲み出てますっ」 「これは“娘さん”としてどうかと思うんだよ。肌も荒れてるもん」 「熱帯夜に対抗する為、エアコン付けっぱなしでしたからねぇ……」 「……何、“妹”達よ。まず私の躯を、心配してくれるのか……?」 『当然ですっ!!!』 ……本心では余り構ってもらえず寂しかっただろうに、無茶をした私を 案じてくれている。己の未熟を恥じると共に、彼女らへの感謝が沸く。 その心に堪らなくなり、私は疲れた躯を押して……そっと抱きしめる。 そこで気付く。空調で汗が乾燥し、私の肌に服が張り付いている事を。 「すまんな、ダメな“姉”で。よし、一つリフレッシュといこうか」 「え、ええと……リフレッシュってどうするんです?お風呂……?」 「有無。だがアルマよ、ここにあるただのユニットバスではないぞ」 「……ひょっとして、お台場の“大江戸大風呂敷物語”なのかな?」 「そうだ。心配してくれたお前達も、久々にリラックスさせよう!」 「わ~いですの~♪じゃあ早速、“お風呂道具”の準備しますのっ」 閉まりっぱなしだったシャッターに“本日定休日”の看板を掛け、荷物を 用意する。タオルに着替え、シャンプーその他と、神姫達専用の洗浄剤。 そう、少々無茶を言って神姫達の持ち込みを許可してもらっているのだ。 『洗浄剤は人体に強い苛性等の害が無いブランド』との条件付きだがな? 後は、神姫達が用いる躯拭き用のタオル……おっと、私も着替えねばな。 軽くシャワーを浴びて髪を洗う事とする。行水でもしないよりはマシだ。 「マイスター?あたし達はみんな準備出来ましたけど、まだですか~?」 「ちょ、ちょっと待て。躯を拭かねば下着が着にくい……よし、後一分」 「……ちなみに、むやみやたらと覗いたら明日はないんだよ。要注意っ」 「ん?クララちゃん、誰に向かって話してますの?あ、出てきました!」 「ふぅ、すまんすまん……これで私も準備出来たぞ。待たせたな、皆ッ」 熱帯夜が過去の三割増しという事情故、暦上の“夏”よりずっと早く、 東京に住む私達は、夏服に着替える。生地は熱を吸わない色で統一し、 袖も短くなっている。と言っても、デザイン面では一切手抜きしない。 そう、これは……ついでに着替えも、私が自分で縫製した物だ。一応、 “Electro Lolita”のイメージソースとして買った既製品もあるが…… だってな、その……妹達とお揃いにしたいではないか、いいだろう!? 「よし、では行くとしようか。さあ、両肩とポケットに乗っておくれ」 「はいですの♪……くんくんっ、うん。甘いシャンプーの香りですの」 「う゛ぁっ!?こ、こらっ!髪の匂いを嗅ぐんじゃない、ロッテッ!」 「いいじゃないですかマイスター。あっちで、色々しますしね……?」 「うん、やっぱり“妹”としては綺麗になってほしいもん。行こう?」 「……ま、全く……秋葉原から電車に乗って、目指すはお台場だッ!」 そうなのだ。これから一緒の大きな風呂に入る……それがどの様な意味を 持つか。月に一度の、その……ええと。“裸の付き合い”である……何? 『普段から一緒に入ってるだろう』だと?!だ、黙れッ!!狭い風呂では 味わえぬ感覚だってある!……いいだろう、姉妹水入らずの温泉位ッ!! 「ふぅ……しかし、暑いな。今日も真夏日か、汗が止まらんぞ……全く」 「スポーツドリンクとかちゃんと飲んでほしいんだよ。徹夜明けだもん」 「分かっている。この時間では昼食も喰えぬし……チーズ味でも買うか」 クララの助言に従い、固形栄養食とペットボトルのドリンクを購入する。 根を詰めた直後でしかも食事抜きある。この状態から極度に疲労すれば、 どうなるかは……神姫であっても、流石に分かる事なのだろうな。有無。 電車内へ持ち込む無粋はせずに手早く平らげて、ゴミ箱へ全て棄てるぞ。 「ふぅ……冷たさが胃に染み渡るな。余程空っぽだったのか……むう」 「ちゃんと夕飯は、いっぱい食べましょう?ダメですよ、マイスター」 「そうだな、アルマ。風呂をたっぷり浴びたら、早めに夕食を喰おう」 「それならイタリアンがいいですの~♪ライスコロッケとか~……♪」 「はしゃぐなロッテや。その為には、お前達も風呂で精一杯くつろげ」 ロッテを宥めつつも山手線に乗る。手荷物の所為か、座る事が出来た。 神姫が統一規格となって暫く経つが、未だに私の様な存在は多くない。 それでも冬の頃よりは、神姫連れのオーナーを見かける機会が増えた。 なんでも、神姫を連れてバイクで旅をしているオーナーもいるらしい。 全てが片づいて暇になったら、長期休暇を取るのもいいかもしれんな。 「……む、新橋駅だな。もう乗り換えか……ここからはゆりかもめだぞ」 「はいっ……平日でも、それなりにカップルとか乗ってますよね~……」 「全くだな。造成から数十年経っても、未だに人気を集め続けるとはな」 「問題はないんだよ。ボクらだって、言ってみれば“カップル”だもん」 「え、えぇ~と……流石に一対三はカップルって言わない気がしますの」 ──────事の問題は、そこじゃない気がするよ……? 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1396.html
遙かに見据えし巨神の宴(前半) 息抜きとしては十全たる小旅行も一段落して暫く。私・槇野晶は神姫達の アルマ・クララとロッテのHVIF・葵を引き連れて外出する事とした。 ……こう書くと遊び歩いてばかりの様に見えるが、店は毎週営業中だぞ! 依って今日は折角の定休日まで裂いて、わざわざ外出している事になる。 というのもだ、試験運用中の“重量級クラス”に関する依頼が増えてな? 「何時までも私達自身が実践せぬ訳には、行かなくなったという事だな」 「それに……多少ですけど実力も付いてきましたしね。自信ないですが」 「大丈夫ですの!でもだからこそ、重量級の壁にも参戦したいですの♪」 「というわけで今、ボクらは試作部品を持ってエルゴへ移動中なんだよ」 「クララ、何処を見て会話している?……まぁ、実際その通りなのだが」 そんな会話をしながら、最早見知った商店街へと入る。偶にしか来ぬが この一種独特な活気は秋葉原にはない、実に心地いいものだ。そして、 以前私達を救った“恩人”に会うのも、気恥ずかしいが楽しみなのだ。 そして見つけた“ホビーショップ・エルゴ”へと、葵と共に入店する。 「というわけでだ、来てやったぞ日暮。これは先日の礼だ、受け取れ」 「やぁ晶ちゃ……っと、いけないいけない。礼なんか別にいいのにさ」 「……良い判断だ。ともあれ、助けられっぱなしでは私の性に合わん」 「話は聞きました。災難でしたね晶さん、葵さんも安心したでしょう」 「はいですの。暴漢に襲われた時は本当晶お姉ちゃんが心配でしたの」 すかさず私は菓子折を突き出し機先を制する。こうでもせんと……な? そして不安げな顔で語るロッテ、もとい葵。彼女らにとっても、アレは 十分恐怖だったのだろう。故に私も、敢えて深く思い出す事はしない。 嫌な空気を吹き飛ばす為に、私はアルマとクララをテーブルに降ろす。 「で、日暮よ。随分と前に“ドラムフレーム”の改良案をもらったな」 「ああ、そう言えば重量級の為に試作機開発を……クラスの現況は?」 そう、あの時……後に恐るべき約定を取り交わした凪千空と出会った日。 途中こそ彼らとの話で大きく時間を喰った物の、アドバイスはしっかりと 受け取っていた。それを受けた私なりの“解”を、今日持ってきた訳だ。 ちなみに……以前取り交わされた千空との契約は、未だ完了していない。 早い所どうにかして、心落ちつきたい物だが……千空め、焦らしおって! 「……ん?晶ちゃーん?顔真っ赤だけどどうし、っとと落ちついてッ!」 「わ、分かっている!人が惚けている隙に“ちゃん”付けするなッ!?」 「悪い悪い、で現況はどうなんだい?こっちは割と門外漢なんだけどさ」 「有無。未だ私達の様に完全自作の装備で臨む神姫は多くないな、だが」 「その分、群雄割拠の上位にいる様なのは自作が多い……って所かな?」 その通り。いきなり試験的に導入された為、稼動して半年以上経っている 今もまだまだノウハウは少なく、手探りでバトルに挑むオーナーが多い。 大量生産されてダブついた“バイザー”のパーツや、それをMMS対応に 仕様変更したパーツを改造して身につける神姫がまず目に付く。その次は 公式合体の“真鬼王”に代表される様な、純正神姫用武装の大量投入だ。 こちらは重量級ランクでも“軽量派”に代表される神姫に多い傾向だな。 「……という訳でだ、折角挑むならば遙か高みを狙わねば意味はない」 「そこで、“アルファル”で培った腕を元にして再挑戦しましたの♪」 「あの時のドラムフレームを利用した、サポートマシンだったっけ?」 「はい。あれで電力を、機体の隅々に送る技術が編み出されたんです」 「それを利用して、フレーム自体に動力機構を埋め込んでみたんだよ」 「へぇ……“ムーバブルフレーム”かな?ちょっと、見せてくれる?」 ここで私は、漸く持ってきた荷を解く。それは、一見すると鉄骨の塊。 フル武装の神姫を包み込んでもなお余りある、RCカーサイズの物体。 これが、私が重量級へと“妹”達を送り出すにあたって産み出した物! ……厳密には、その材料となるフレームの動作試験モデルなのだがな。 「ジェネレータは……三つ前後?これなら、熱暴走の危険性は少ないか」 「嗚呼、オーバーヒートでもしたら大事だからな。そもそも如何に……」 「如何に効率よく電力を使って、パワフルに稼動するかが鍵!ですの♪」 「あー……人の科白を取るな、葵!こほんッ、ともあれ狙いはその通り」 「でも良い考えじゃないかい?他のジェネレータを、武装に回せるしさ」 日暮のその言葉を待っていた。此奴はやはり、頼りになる同志であるな。 そして彼は注意深く、試作モデルの骨組みを観察してから不意に言った。 私達は改めて驚く事になる。慧眼と衒学ぶりは実践で磨かれた物か……! 「……晶、これってさ。可変機構も前以上の大掛かりな物が積めない?」 「如何にも!“アルファル”で、ドラムフレームの限界が見えたのでな」 「変形方式と稼動速度は兎も角、信頼性と頑健さでは一歩譲ってたもん」 「その点骨太なフレーム自体が変形する“これ”は、頑丈さも有ります」 「で……ここまでの評価を踏まえて、日暮さんには相談事がありますの」 ──────それは、戦う命を産み出す大事な相談なんだよ。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1835.html
無頼16「アオゾラ町神姫センターのご案内」 武装神姫とオーナーが、その実力を試す場所。 または、新しい出会いが待っている場所。 それが神姫センターです。 今回は数多くある神姫センターの一つ、アオゾラ町の神姫センターのご紹介していきましょう。 えっ? 私は誰ですかって? 申し遅れました。私はメンテナンスショップ所属MMS"メィーカー"と申します。 メイとお呼びください。 それでは、始めましょう。 どこにでもある普通の町、それがアオゾラ町です。 そこの駅前に神姫センターがあります。 建物は大きく、3階建てとなっています。 店内に入ると、暖かい日差しがお迎えしてくれます。 1階から3階までを繋げた大ホールです。 夏場はちょっと暑いのが難点です。 1階には神姫ショップとMMS関連店、カフェテラスが入っております。 品揃えは様々で、オリジナル商品も充実しています。 最近は物騒な事件が多いので、警備体制は厳重となっております。 各対戦筺体は2階にございます。 以前はバトルロンドのみでしたが、この前リアルバトル用の大型筺体を導入致しました。 でもそれが原因でショップに来るお客さまが増えてしまい、私としては複雑な心境です。 私の勤め先であるメンテナンスショップも、2階にあります。緊急時にすぐ対応するためです。 3階には事務所や医務室のほか、大きなイベントホールがあります。 小さな映画館くらいの規模があります。 紹介はこれくらいにして、私を通して神姫センターの一日を見てみましょう。 AM7:00 「んっ……ふぅあぁぁぁあっ…」 ちょっとだらしない声を出してしまいました。 私は非番だったので、ずっと寝ていました。 センターの開店は9時からなので、充分間に合う時間です。 AM8:30 せっせと開店準備を急いでいます。 今日は私がカウンターに立つシフトですので、ちょっと慌てています。 専用器具…オールグリーン、身体機能…異状なし。 これで完璧です! 「メイ、頭がひどいわよ」 「えっ? ああっ!?」 お恥ずかしいながら、私は寝ぞうが悪いです。 そのせいで髪の毛がくしゃくしゃになっていました。 手櫛で梳かして、今度こそ完璧です。 AM10:21 早くもけが人多数、ひどい話です。 腕が片方吹き飛んだストラーフがやってきました。 なんでも「高馬力タイプと戦ってて武装もろとも引きちぎられた」そうです。 「いやぁ、いつもいつも世話になっちゃってゴメンね」 「しょうがないですよ。"戦いたい"と言うのは神姫の本能みたいなものなんですから」 とは言っても、これは酷いです。破損箇所が中枢部付近までに及んでいます。 今の患者さんは、胸部付近の外装をすべて取り外して修理を行っています。 それでどのくらい酷いかを理解してもらいたいです。 「これでよし。腕を動かしてみてください」 「よっと…」 関節部のアクチュエータやケーブルが、音を立てずに動き出します。 稼働チェック、問題なし…と。 「問題なし、あと5分待って下さいね」 これが、私たちの通常業務です。 AM11:12 どうゆう訳かは判りませんが、長瀬さんに落ち着きがありません。 「どうなされましたか?」 「いや、ただ単にそわそわしてるだけさ」 絶対に嘘です。 その証拠にラスターさんがいません。 「"また"ですか?」 「…そうだ。"また"だ」 長瀬さんという人物は、他の人は騙せても神姫をだますのが苦手のようです。 だからセンター職員では私だけが知っている、長瀬さんの"裏"を。 「すまんな。いらん心配をさせて」 「このくらい解らなくて、医者が勤まるものですか」 PM1:09 ラスターさんが帰ってきました。 左の主翼が吹き飛んだ状態で 「不覚にも…逃げられてしまいました」 「そんな事はどうでもいい。さっさと翼を分離(パージ)しろ」 言われてラスターさんは、気を落とした顔で翼を切り離しました。 「酷いですね、高火力タイプにでもやられたんですか?」 「ああ。なかなか手ごわい相手なんだ。今回は」 ふと、黙っていたジュラさんが口を開きました。 「せっかくだから吹き飛んだ方の翼を赤くしようよ」 それはいつのゲームの話ですか? 「やっぱ Camoooooooon!! は付きものよね」 「止めてくださいジュラ。…今度、撃ち落としますよ?」 「うへっ、PJだけは勘弁!」 PM3:53 彩聞さんがやってきました。 「こんちわ、メイ」 「こんにちは」 ヒカルさんといつも通りのやり取りをしていると、彩聞さんが長瀬さんと何か話しています。 何か改造の話みたいですが…。 「ふむ…。なら、エルゴに行ってみるかい?」 「エルゴ?」 どうやら、彩聞さんは今度ホビーショップ・エルゴに行かれるようですね。 何故エルゴを知ってるかって? "休暇"の時に連れて行ってもらってるのです、長瀬さんに。 このショップ所属のMMSは、誰かしら職員がオーナーとなってます。 今のところ、長瀬さん受け持ちのMMS(こ)は私だけです。 だから、「こう言う事」も知っています。 PM4:33 急患が運ばれてきました。 下半身が粉々になっており、あちこちに亀裂が生じています。 店先で乗用車に轢かれたとのことです。 「メィーカー! お前が執刀しろ」 「わかりました」 言い忘れていましたが、MMSの直接的な修理は私たちの仕事です。 人間の職員はサポートに回っています。 "モチはモチ屋"、という事でしょうか。 「非常事態ですので、がまんしてくださいね」 そう言って、胸部外装を補助アームでむりやり剥がしました。 防音処理された室内に絶叫が響き渡りますが、もう慣れっこです。 むき出しになった動力部に手早くケーブルを接続し、動力を確保。これでひとまず安心です。 「ひぐっ…えぐっ…わたし死んじゃうの…?」 「下半身が無くなったくらいで取り乱さないでください。今は大丈夫ですから」 不安をかきたてる言葉ですが、こういうのは正しく現状を言うのにかぎります。 ちぎれて使い物にならなくなった配線や導管をはずしていきます。 それと同時に、新しい下半身も準備します。 今の私はジェネシスのように、4つの補助アームが背中に装着されています。 私のような専門職はコストがかかるので、そうそう数を増やせるものではありません。 だからなるべく一人で何でもできるような設計が要求される訳です。 ちなみにこのセンターには私を含め、この規模の修理を行えるMMSはわずか4人しかいません。 世の中お金が大事ですねぇ…。 …… PM5:13 「ふぅ…」 術式終わり…。 ボディの最終調整は他の人や職員に任せて、私は一休みです。 緊急を要する状態だったのでそのまま修理を始めてしまい、私の体も服もオイルまみれです。 「んっ…ふぅ…」 もう…汚れた服はさっさと脱ぎすてて、シャワーでも浴びちゃいましょうか。 関係ないですけど、私ってけっこうスタイルいいんですよ? 「相変わらずいい体してるなァ。いや、純粋に」 「うみゃっ!?」 後ろを振り返ると、長瀬さんがこちらを見下ろしていました。もう…この人は…。 「MMSばかり見てるから、彼女が出来ないんですよ?」 「そう言うな。…なんなら、お前が彼女になってくれるかい?」 「ふふ。ラスターさんにの耳に入ったら、またフルボッコにされますよ?」 まあ、こんな所も長瀬さんらしいんですけどね。 PM7:59 今日はバッテリーの消費量がハンパないですね…、バッテリーの寿命かしら。 気がどこか遠くにいきそうです…ふぁぁ…。 「メイ、どうしたの?」 「いや、なんでもないです。急速充電してきますからカウンターの方お願いします」 そう言って、裏の職員用スペースに走りました。 「メイったら最近燃費悪いわね…、バッテリーが原因かなぁ」 PM8:24 あれ…おかしいな。 充電したのにゲージが低い…。 「まさか、漏電してる!?」 その証拠に髪が静電気で逆立ってます、これでは精密機器に触れません!! 「メイ、やっぱりバッテリーが…」 「そうみたい…、でも今は誰も居ないし…」 嗚呼不覚です! こんな事に気付かないなんてッ!! 「まったく…、こんな事になってるだろうと思ったよ」 唐突に長瀬さんが入ってきました。食事に行ってたのでは? 「お前が着替えていた時、時季外れの静電気が起きたのを見たんでな。気になって戻ってきた」 あいかわらず凄い観察眼ですね。 「おかげで夕食食う暇がありゃしない。…ほら、処置室に行くぞ。バッテリー交換してやる」 「え、でもカウンターが…」 「接客くらいラスターとジュラで出来る、それよりも高価なお前が故障したら修理費が大変だからな」 本音にまぎれて、どこか優しさを感じる言葉です。 少なくとも、私はそう感じます。 「ラスター、ジュラ。頼んだぞ」 「オッケー祁音」 「ほら、こう言う時はキャプテン…マスターに甘えるべきですよ」 ラスターさんがどこかもの足りないような表情をしましたが、それは気のせいではないでしょう。 ……… …… … 結局、そのまま私はメンテナンスモードのまま朝を迎えてしまいました。 センターの閉店は午後10時となっていますが、メンテナンスショップは急を要する神姫(こ)たちの為に24時間体制で開いています。 今回はトラブルにつき最後まで紹介できなくて申し訳ありません…。 でもこれをきっかけに、神姫のオーナーがより増える事を心より願っています。 命は人も神姫も同じ、尊いものですから。 それでは、またお会いしましょう。 流れ流れて神姫無頼に戻る トップページ