約 5,047,813 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1549.html
新しき風と、揺れ動く錬金術師達(その三) 第六節:宿業 アルマとクララが飛び出し、葵……ロッテが後を追って、どれ位の時間が 過ぎただろうか。物音が止んだのを確認し、私・槇野晶も漸く動き出す。 暇潰しに一人で淹れたココアは、苦い。だがそれも、三人の心中に湧いた “澱”の苦さと思えば、敢えて飲み干さねばならぬという想いが勝った。 「なんで……あたし達なんて、所詮ただのお人形遊びだったんです?」 「ボクらは、歩さんとクリスティアーネさんの……代わりなのかな?」 嘆きが聞こえる。黙っていたが為、傷つけてしまった二人の哀しみが。 改めて己の愚かさと弱さを悔いつつ、そっと聞き耳を立てる。今の私が 何を喚いた所で、容易には聞き入れてくれぬだろう。ロッテが頼りだ。 「あたし達の所為で、マイスターのお姉さんが死んじゃったなんて……」 「ボクらの存在意義が分からなくなったんだよ……ロッテお姉ちゃんっ」 此方からは見えぬが、低く鈍い音が聞こえる。恐らく、二人がロッテの HVIF……葵の胸を叩いているのだろう。自責の念、戸惑い、怒り。 私の言葉に、一度傷を負っている彼女らが動揺せぬ筈はなかったのだ。 「……それなら、ちょっと“とある所”へとお出かけしてみますの?」 「お出かけ……ですか?それも、マイスターから聞いた秘密ですか?」 「はいですの。わたしが知ってる“最期の事”を、二人に教えますの」 私は慌ててキャッシャーの影に身を隠し、葵に抱かれて出ていく二人を 見届けた。小さな殻の躯は可哀想な程に震え、酷い仕打ちに絶望の色を 隠そうともしない。ロッテが側にいなければ、どうなるかもわからん。 「……全てを伝えきるまで、赦してくれとは言わぬよ」 そう呟いて暫し待ち、私は後を追った。とっくに三人の姿は無かったが 問題はない。ロッテの言葉通りならば、“行き先”は見当が付く為だ。 そっと店のシャッターを閉じ、施錠してゆっくりと歩き出す。地上へと 上がり、路地を中心部から離れる方角へ歩いていく。電車に乗った方が 数分程早く付くが、歩き以外の方法でロッテを連れて行った事はない。 「確か、ロッテというか葵には合鍵代わりのカードを持たせているしな」 十数分程歩いてたどり着いたのは、“集合墓地”の札が掛かったビルだ。 このご時世、墓の用地を集めるのは大変な事。歩姉さんは、予め自分用の 墓も用意していたのだ。何故そこまでしていたかは、私も知らないが…… 恐らくは、己に何があっても良い様に……という配慮の一環なのだろう。 「……服装がアレなのは赦せ。槇野歩の“墓”を見に、誰か来たか?」 「ああはい槇野様ですね?……ええ、今丁度一名様が参られています」 受付の人間に、まだその“外国人”が居る事を確認して……私も入った。 幾つか存在する“拝霊室”の一つを案内され、その門で暫し立ち止まる。 そう。先程言った“カード”とは、槇野歩の“墓”を開く為の鍵なのだ。 即ち此処はエレベータ式立体駐車場の構造を利用した、機械仕掛けの墓。 「……これが、歩さんのお墓……なんですか?何だか寒々しいですね」 「首都圏の土地事情だと、しょうがないですの。それよりも、これを」 「これは……小さな棺?なんだか神姫のサイズに近いんだよ……え?」 小さな墓の中をまさぐる音が聞こえた。位牌と遺灰を積めた小瓶、更に “とある物”が、割り当てられた小さなコンテナには収められている。 それは、私の“運命と決意の象徴”として……以前ロッテに見せた物。 「これは……神姫の躯かな……?でも、彼方此方傷だらけで手足は……」 「ない、ですね……アーンヴァルタイプに似ているけど、顔も……こう」 「……これこそ、クリスティアーネ“お姉ちゃん”。私達の源流ですの」 そう……“クリスティアーネの亡骸”である。同時に、私が初めて神姫の 躯を弄った、最初のモデルケースなのだ。私の最初の作業は、彼女を葬り 姉の側へと送る事であった。異様と感じるか?だが、遺品は焼くだろう。 家族の骨は一つの墓に収める物だろう……私がしたのは、そういう事だ。 “死に化粧”。手足はどうにもならなかったが、顔だけを修復したのだ。 無論ノウハウは皆無な時代であるし、動かす事も考えていないがな……? 「な、なんで……!?」 ロッテの宣告に、場の空気が刺々しい物へと一瞬だけ変化する。しかし、 動揺して何かを叫ぼうとする二人を、葵が制して続けた。そう、こうして 彼女の“亡骸”が葬られている“意味”を、正しく二人へと伝える為に。 「わたし達は、クリスティアーネお姉ちゃんの代わりじゃないですの」 「どうして……かな?マイスターは、この人のCSCを使ったんだよ」 「それは、歩さんの“願い”が本当に叶うか知りたかったからですの」 「え……それが、CSCを使ったマイスターの願い……なんですか?」 「はいですの。決して“代わり”が欲しかった訳じゃないですの……」 ──────私の言葉、お姉ちゃんの思い。彼女の願い、届いて……。 第七節:決意 歯痒くも未だ声を掛けられぬ私の代わりに、葵……ロッテが言葉を紡ぐ。 それは、歩姉さんの信念とクリスティアーネの遺志を継いだ、私の決意。 それでいて、苦しい思い出として長く封じてきた……本当の想いだった。 「マイスターは、クリスティアーネさんの代わりなんか要らないですの」 「……それは、ボクらじゃ代わりになれないって事……なの、かな……」 「そうじゃないですの!……本当に、代替品を求めた訳じゃないですの」 クララの混乱振りに、ロッテが待ったを掛ける。更に『でも』と続けた。 そう。性能的には劣る“プロト・クリスタル”を、何故敢えて用いたか? かつて泣き喚いたロッテに私が告げたその言葉を、同じくロッテが紡ぐ。 「クリスティアーネさんや歩さんを生き返らせる気もないですの。でも」 「でも……何なんですか?だとしたら、何故マイスターはこんな事を!」 「MMSは人の隣人として存在できる。それが歩さんの“持論”でしたの」 「……マイスターの言葉通りなら、それを叶えようと命を捧げたんだよ」 「そうですの。そして逆に、人の命を奪う為に使われたのもMMSですの」 引きつけを起こした様な、アルマの嗚咽。自分の事ではないのに、私の 姉を殺したという罪の意識が、彼女を苦しめているのだろう。それを、 ロッテは優しく受け止めて……言葉を続ける。二人を解き放つ言葉を。 私も、それに合わせ言葉を紡ぐ。何時までも隠れる事は出来なかった。 「MMSと人は共存できるのか?マイスターは、その答えを求めましたの」 「その為、過去の私はロッテに“プロト・クリスタル”を搭載したのだ」 「マイスター!?い、何時からそこに居たんですか!?……何故ッ!?」 「最初からだ。しかし、私一人の言葉だけでは聞いてくれぬと思ってな」 三人が驚愕した様に、私を見る。アルマとクララの目には、不審の色。 ロッテの目には、良いタイミングで出てきたという安堵の色が見える。 二人の不安を解消するチャンスは、今しかないだろう……私は続けた。 「私は、歩姉さんが愛した様に……いや、それ以上に神姫達を愛せるか」 「それを知る為、という条件でわたしは起動して……一緒に居ましたの」 「途中で私が憎悪を払拭できなければ、ロッテもすぐに眠っただろうな」 「……でも、ロッテお姉ちゃんは今こうしてボクらに語ってるんだよ?」 震えるアルマを抱きしめて、クララが不安そうな視線を投げかける。一体 どういう事なのか、数学的な証明で分かっていても心は不安なのだろう。 アルマも、救いの言葉を求め私達を見上げる。私は、一気に捲し立てた。 「暫く暮らしていく内に、私は彼女の存在を大切にする様になったのだ」 「そして、頃合いを見て言いましたの……『全ての神姫を大切に』って」 「これを受けて、ロッテの為にと磨いた腕と知識を使い……店を開いた」 「MMSショップ“ALChemist”の成り立ちはこれですの。全て、神姫の為」 「私の憎悪を解きほぐして、“妹”として私を温めてくれた存在の為に」 「わたしが精一杯受けた愛情を、皆の為に活かしたいが為のお店ですの」 『“錬金術師”として、無の関係からでも大切なモノを生み出せる様に』 先程までの怯えは消えつつあった、だが未だ戸惑いの色を隠さぬ二人。 それは恐らく……この言葉を待っているが故なのだろう。臆せず語る。 最早包み隠す必要のない、しかし……本音にまでは踏み込まぬ、言葉。 だが今はそれで十分だった。本音に踏み込む事は誓わねばならんがな。 「だが、お前達三人はその他大勢ではない。掛け替えのない“姉妹”だ」 「マイスターとわたしの心を温めてくれた、側にいてほしい存在ですの」 「それを具体的な言葉にするのは、全てが終わってからとなる。だがな」 「今一度マイスターを信じるならば畏れずに、抱きしめて下さいですの」 暫く目を伏せ、アルマとクララが葵の掌で黙り込む。静寂が、墓の前を 包み込むが……それを撃ち破るのも、やはり二人の決意だった。突如、 葵の掌を蹴って、私の肩に飛び乗ってきたのだ!慌てて、抱えてやる。 「マイスター……もう少し、後少し早く言ってほしかったですよッ!?」 「でも、ごめんなさいなんだよマイスター!信じてあげられなくて……」 「良いのだ。全ては私の不徳と弱さ故。だが赦してくれるか、二人とも」 『はいッ!!』 縋り、詫びる二人を私は優しく抱きしめる。本来、詫びねばならぬのは 私の方だというのに……全く、どこまで未熟なのかと呆れるばかりだ。 しかも、敬愛する歩姉さんの墓前でだ……だが、姉さん。私はちゃんと 良き方に変われたのか?そうなら、恥ずかしい姿を見せた甲斐もある。 「そして、ここからはロッテにも詫びねばならぬ事だが……私は、往く」 「往くって……あの爆破事件を追い続ける、って事ですかマイスター?」 「そうだ。アレの実行犯は、犯罪結社……の生き残りだ。それが動いた」 アルマの問い掛けに、私は懐からあの紋章を取り出す。電磁吸着面のある それは、紛れもなくMMSの装備……吸着面の丸みを見る限り、神姫用だ。 大きな樹に蛇が絡みついたその意匠は、現在でも忌々しさを覚える代物。 「実はこの結社、爆破テロの数ヶ月後に壊滅させられているのだが……」 「その時に指導者や中枢部は全部、抵抗の末に銃殺されましたの。でも」 「この“闇樹章”は紛れもなく、その結社で用いられていた符丁なのだ」 「……歩さんの遺品に偶然徴が紛れ込んでいたとか、そんなオチかな?」 「オチとか言われると締まらぬぞ、クララや……まぁ、その通りだがな」 例の弁護士が調べた情報の中に、この意匠を印した書類があったのだ。 結社の名は“ラグナロク”という。“神々の黄昏”を意味する言葉だ。 実は北欧を根城とする有名な結社で、弁護士が情報を入手できたのも、 一重に隠されていた情報が壊滅作戦で流出し始めた所為、だと聞いた。 そして改めて遺品の鞄を調べた所、付着した破片に徴が有ったのだな。 「大体二人の調子も戻った所で改めて言うが……私は、事件を追うぞ」 「……マイスターの性格なら、見て見ぬ振りは出来ないって思います」 「それに、神姫に接した動機がそれなら……きっとその神姫もかな?」 「はいですの。マイスターなら、きっと助けたいって思ってますの♪」 「読まれているか。黙ってると危険が及ぶというのは、そう言う訳だ」 無論語った所で心構えが代わるだけで、“危険”は些かも減らぬのだが。 それでも悪事に使われている神姫を、どうにか助け出してやりたかった! 私の強い想いに、殆ど全ての蟠りを乗り越えた三人は強く肯いてくれた。 「ならボクもマイスターの“志”、しっかりと支えていきたいんだよ」 「……酷い事に使われている“妹”も、救ってあげたいって思います」 「それなら、殆ど決まりですの♪ね、マイスター……頑張りますの!」 「有無。暫く皆には苦労を掛けるが、是非決着まで付いてきてほしい」 『はいっ!!!』 ──────痛みを乗り越えて、囚われの姫を目指すよ。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/981.html
葉の香り、初夏に麗し四人の姉妹 アルマの苦い敗北ではあったが、決して無為ではない貴重な一戦だった。 次への活路も見出したらしいので、普段通りに打ち上げへ赴く事とした。 私・槇野晶とHVIF・葵は気合を込めた夏用ドレスで、神姫素体である アルマとクララは“シルフィード”に装飾用パーツを付加したドレスで。 行き先は今回もちょっと捻って、非チェーン展開の喫茶店に入ってみる。 「ふむ。“LEN”とはまた少々違うが、落ち着いた店で何よりだ」 「お会いしたのは三月が最後ですの。また行ってみたいですの~♪」 「……しかも、あの時は移動店舗で本来の場所じゃなかったもんね」 「そうですねぇ……あ、ウェイターさんが来ましたよマイスター!」 「お帰りなさいませ、御嬢様。何かお飲みになられますでしょうか」 ──────なんだその顔は。秋葉原にメイド喫茶や執事喫茶があって 当然だろう?偶には構わぬではないか、私達とてアキバの住人なのだ。 しかし、この手の“萌えビジネス”が2037年でも絶滅しないとは。 人間……とりわけ日本人の“萌え”に対する想像力は脅威だな、全く。 「そうだな。紅茶はこのアッサムにしよう……デザートはこれだな」 「わたしも同じ……神姫用に四分の一サイズ二つ、お願いですの♪」 「し、神姫?はい、畏まりました御嬢様。すぐ準備させて頂きます」 「……ふぅ、それにしてもこういうのってちょっと慣れませんねぇ」 「そうか、アルマよ?……まあ、真っ当な精神ならば無理もないか」 実際私とても“御嬢様”等と呼ばれるのは、果てしなくむず痒いがな。 この手の『キャラクター喫茶にしては味に拘る』という噂がなければ、 見向きもしなかっただろうな……その噂が真実通りである事は、程なく 漂ってきた紅茶の香りが証明を開始してくれている。これで雑な味なら どうしてくれようかと思ったが、少しは期待してもよさそうだ。有無。 「……あっ!塾の同級生も来てるんだよ、マイスター……少し意外」 「なんだとクララ?!……いや、神姫素体で塾に行った事はないが」 「うん、黙っていればバレない……と思うもん。少し静かにするよ」 「いや、構わぬ……しかし、まさに女子高生という風情だな。むう」 クララの目線を追い対極のテーブルを見れば、チャラチャラした文字通り “今の女子高生”姿の少女が三名ばかり、けらけらと煩く談笑している。 “モラルハザード”等と言われて久しいが、私も身を正さねばならんな。 ああにはなりたくない……というか、クララが影響されないのが救いだ。 「大変お待たせ致しました、御嬢様。お申し付けの紅茶とデザートです」 「わぁ……何時も何時も有り難うございますですの、可愛い執事さん♪」 「は、はい。それでは失礼します。また御用があればお呼び下さいませ」 「……堂に入っているな、葵よ。あの会釈も笑顔も、可憐ではないかッ」 「居住まいを正して“神姫”として恥じない様に……これは大事ですの」 葵の宣言に、黙っていたクララとアルマも肯く。そう、手本とするべき 憧れの娘……ヴィネットがいたのだったな。そうとなれば納得は行く。 こういう場は、特に試される……か不明だが、心構えとしては十分だ。 それにしてもこの紅茶と、イチゴサンド。実に良い香りではないかッ! 「では戴こうではないか。アルマとクララも、席について食べようぞ」 「……うん、見た目も甘くておいしそうなんだよ。服を汚さない様に」 「ですね。ここは慎重によそって……よしっ。戴きます、皆さんっ!」 「戴きますですの~♪……はむ、はむ。クリームが甘いですの……♪」 皆の笑顔を見届けて、私も紅茶を口に運ぶ。芳醇な香りと皆の喜び……。 これぞ至福の一時と言えそうだ。アルマにとっては“雌伏”の一時だが、 それでもこういう場を通してリラックスし、思考を整理する事は大事だ。 私が考えるのは、魔剣戦闘を補助する“多重可変型戦術支援システム”! 皆の戦い振りを思い出して、適した構造と機能を思考実験にてチョイス。 「はむ……む、程良い酸味と甘みが素晴らしいな。確かに分かっている」 「あ。マイスター、ほっぺにイチゴクリームがついてますよ……んっ♪」 ──────だが、そんな物は瞬時に吹き飛んでしまった。アルマの唇が 私の頬に……かぶりつく為、ちょっとだけ猫背になった瞬間に……ッ!? 紅茶の香りとイチゴの酸味、アルマの柔らかい口付けが──────!! 「な、ななな。何をするアルマッ!?いきなり、頬にき、キス……!」 「ふふっ……なんだか難しい顔をしてたから、ついやっちゃいました」 「そ、それはお前達の装備をだな!というか、アルマこそどうだ!?」 「どうだって一体……あ、さっきの“負け”の事ですかマイスター?」 「う、有無。何か見えていると言うが、次に向けて勝算はあるのかッ」 いかん。照れ隠しのつもりが、少々キツイ言い回しになってしまった。 だがそれにも拘わらず、アルマは笑顔で答えてきた……意外な答えだ。 しかし故にこそ起死回生の奇策である事は、誰が聞いても明確である! 願わくば、その戦いの先に勝利と成長がある事を祈るばかりだが……。 「次にティールさんと戦う時は、ヨルムンガルドとエルテリアだけで!」 「何!?……“SSS”は勿論“Valkyrja”も要らんというのか……?」 「はい。あ……最低限“シルフィード”とコレは、着ていきますけどね」 「……己を追い込む事に、活路を見出したのかな。アルマお姉ちゃん?」 「何にせよ“何かを信じるなら行うのみ”ですの♪頑張ってくださいっ」 ──────彼女に見えている物は、何なのかな……? 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/46.html
各種設定集 ~人物編~ 岡島 士郎(おかじま しろう) 当SSの主人公(一応)。25歳。国立大学出身の首都圏に位置する某県某市役所職員、 いわゆる普通の公務員。 近隣の市に両親が在住、姉(未登場)と妹(優衣)がいる5人家族3人姉弟の真ん中っ子。 性格は見た目温厚、でも熱血漢という、まさに主人公の典型である。でもやっぱり健全な20代男子。 現在、4体のMMSを所有し、神姫バトルの世界ではリアルリーグと称される1stリーグの中位に位置する。 最近は、近所の大学に通うために居候してきた妹、優衣に振り回されることが多い。 岡島 優衣(おかじま ゆい) 士郎の妹。18歳。士郎の住むアパートの近くの某私立大の一年生(予定)。 性格は、ハ○ヒ(某の憂鬱)と智ち○ん(某あ○まんが)とシンタ○ー(某P○PUWA)を足して2で割って5倍に 濃縮したような超絶アタシ系暴走少女である。これでも3年間生徒会書記を(あくまでも推薦狙いで)勤めた。 四月からは士郎の住んでいるアパートへ(母が無理矢理に押し進めて)居候することとなるわけだが…。 また、学校説明会の日、五人目の神姫であった天使型MMSビアンカを半ば強引に実家に連れて行き、 実質、新たなマスターとなる。勿論バトルの経験はなく、今後の成長は未知数である。 ○鶴畑家の人々 長兄 興紀(おきのり) 表では好青年を演じているが、実は冷酷かつ残虐な性格を持つ。でもやっぱり健全な(ry 六大学と言われる某大学の3年生。20歳。 神姫バトルにおいて天才的な戦術眼と指揮能力を発揮し、その能力を生かして、父には内緒で ベンチャー企業を立ち上げている。 7歳の時に実の母を事故で亡くし、現在の母である元側室の子の大紀と和美とは腹違いの兄妹である。そのため、 大紀と和美を兄妹として見ていない。 究極の神姫を育て上げることを信条としており、所有MMSは[ストラーフタイプ]の「ルシフェル」のみ。 現在リアルランキング54位。 次男 大紀(ひろのり) 兄の威を狩る狐…もといピザ。私立男子高校1年。15歳。 実力は大したことはないが、兄の威光と恵まれたパーツ、洗練された神姫育成環境の下、金を積んでの八百長試合で上位に上がる。 負けた時は、腹いせに下位リーグの連中をいたぶるのが趣味。 所有MMSは[アーンヴァル]タイプの「ミカエル」、同タイプの「アラエル」他 現在リアルランキング144位 長女 和美(かずみ) 鶴畑家の末娘でピザ小学生。12歳。 高飛車で見栄っ張りで傲慢という可愛さの欠片もない性格。 神姫バトルデビュー前の新人で、所有MMSは[サイフォス]タイプの「ジャンヌ」。 各種設定集 ~神姫編~ -主人公側- ヴェル(犬型素体) 主人公、岡島士郎の所有する一体目の神姫。 名前の由来は、イタリア語の「緑色」から。 性格は気だてのいいお姉さんタイプで、他の神姫のまとめ役である。 また士郎に対する愛情も人一倍であり、美人を見て鼻の下を伸ばす士郎に嫉妬する事も多い。 一番長く神姫バトルの世界に居るので、戦闘経験は一番豊富。また、過去に「ルシフェル」と呼ばれていたノワル、「ミカエル」と呼ばれていたビアンカと戦い、いずれも撃破している。 ノワル(悪魔型素体) 士郎の二体目の神姫。 名前の由来は、イタリア語の「黒」から。 元々は鶴畑興紀の所有している「ルシフェル」の名を冠する13番目のMMSであったが、三年前、ヴェルとの試合に於いて敗北を喫し、 廃棄処分にされる所を士郎に引き取られる。 「ボク」の一人称で話すノー天気な性格だが、感情が負の方向に高ぶると元の冷たい口調が出る事がある。 元々、興紀の元で徹底された訓練を積んでいたため、バトルにおいてはかなりの実力を誇る。 ジャロ(ネコ型素体) 士郎の三体目の神姫。 名前の由来は、イタリア語の「黄色」から。 性格は天然気質のお気楽キャラだが、リアルリーグで馴らしたバトルの腕は確かである。 好物はシュークリーム。 マタタビ酒を飲むと、性格が清楚な箱入り娘キャラと化す。 コニー(兎型素体) 士郎の四体目の神姫。 名前の由来は、イタリア語の「兎」から。 元々、武装パーツに付いていた頭部ユニットだったので、士郎の経済状況から、なかなかボディを貰えず、使役ユニットである プチマスィーンスetc...に馬鹿にされる事が多々あり、一時はひねくれた性格だったが、藤堂亮輔の所有するリンとのバトルで吹っ切れる 事が出来た。しかし、そのバトルの際に付けられた「乱射魔(トリガーハッピー)」の二つ名で呼ばれることを極端に嫌っている。 現在は、崇拝する「BL○CK L○GOON」のレ○ィの口調&性格etc...を真似ていて、いつかは「二丁拳銃(トゥーハンド)」の二つ名で 呼ばれる事を夢見ている。 現在、セカンドクラスで戦っており、実はバトルにおいては5人の中では一番未熟だったりする。 好物はニンニク煎餅。 ビアンカ(天使型素体) 士郎の五体目とされる一番新しい神姫。 名前の由来は、イタリア語の「白」から。 元々は鶴畑大紀の所有する神姫「ミカエル」の№1であったが、ノワル同様ヴェルとの試合に於いて敗北を喫し、廃棄処分にされる所を 士郎に引き取られる。ノワルと違うのは、修復の際、全ての記憶をリセットしている所であり、以前の大紀と居た記憶は無い。 なお、第11話の際に、士郎の妹である優衣に半ば強引に実家に連れて行かれ、現在優衣が新たなマスターとなっている。 性格は非常に素直な優等生タイプ。 まだデビュー前ではあるが、鶴畑家の訓練を受けているために、戦闘スキルはかなり高い(ハズである)。 -鶴畑兄妹- ルシフェル(悪魔型素体) 鶴畑興紀の所有する神姫。 名前の由来は、キリスト教における「サタン」の別称「ルシフェル」より。 究極の神姫を育て上げることを信条とする興紀の考えに則り、興紀自身の立てた戦略や指示に付いてこられなくなった同型素体は、戦闘データを 採取された後廃棄され、前回のデータを周到し、改良された新たな別の素体である「ルシフェル」が誕生する。 そのため、興紀のデビューからの通算敗北数(非公式含む)である"30番目"に登録された悪魔型MMSが現在の「ルシフェル」の名を冠している。 また、岡島士郎の所有する「ノワル」や陽元治虫の所有する「エル」は、"廃棄された"「ルシフェル」シリーズの内の1体である。 興紀に絶対忠誠を誓う「機械」のような性格であり、「エル」の様な性格が設定されたのは極めて稀である。 ミカエル(天使型素体) 鶴畑大紀の所有する神姫。 名前の由来は、キリスト教における四大天使の一人である「ミカエル」より。 戦闘能力に於いては、鶴畑家の訓練を受けているため、最高水準の能力を誇るが、如何せんマスターがアホなので付いていけていない。 また、大紀が興紀の真似をし、敗北を喫した同型素体は尽く廃棄されている。士郎の「ビアンカ」はその中の一体である。 興紀の「ルシフェル」同様、大紀に絶対忠誠を誓う「機械」のような性格。 アラエル(天使型素体) 前スレ208氏の「アラエル」の頁を参照。 ジャンヌ(騎士型素体) 鶴畑和美の所有する神姫。 名前の由来は、中世ヨーロッパの英雄「ジャンヌ・ダルク」から 本来、近接・突撃戦闘を信条とする騎士タイプだが、和美の美学から、中~遠距離を主体とした実弾装備を多く持たされることが多い。 その姿は、さながら「難攻不落の要塞」である。 興紀の「ルシフェル」、大紀の「ルシフェル」他同様、和美に絶対忠誠を誓う「機械」のような性格。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/363.html
前へ 先頭ページへ 畜生…。 畜生! 畜生!! 「畜生ッ!!!」 あの青瓢箪ッ! アタシの無敗記録に泥塗りやがって!! 絶対に、絶対に許さない……! 彼女はバーチャル・バトルマシーンの中から主人へと、思わず声をかけた。 「ご主人様……」 ハウリン型MMS、主から授かった名前は”トロンベ”。 ドイツ語で竜巻という意味だ。 「……何よ、まだ終わっていないじゃない。早く全部壊しなさいよ!」 「…了解しました、ご主人様」 とても少女のものとは思えない刺々しく、荒々しい言葉に視線を落として短く応えた。 0と1の信号の上に築かれた仮想現実の世界。 低く唸る用途不明の機械や、緑色の液体が充満するカプセルが密集する施設内部。 フィールド名”秘密工場”。 薄暗い工場に灯る明かりは赤と黄色のランプと天窓から差し込むか細い光。 そして、マズルフラッシュと爆炎のみ。 ハウリン型の基本武装は十手、棘輪そして吠莱・壱式とプチマスィーンズの四種。 近接型のストラーフ型やマオチャオ型、射撃型のアーンヴァルとは違ってそれなりに万能である。 アーマーも防御力を上げつつも機動性を殺しておらず、MMSの中でも汎用性が高いといえる。 その為、初心者であってもそれなりに勝ち進めるのがハウリン型の利点である。 一方で一点飛び抜けたものが無いのも事実。 よって、ハウリン型のオーナーはある程度実戦をこなすと一点に特化した装備に変更する傾向にある。 もちろん、水野アリカとこのトロンベも例外ではない。 アリカは”大出力・大火力を基に短期決着”のスタイルを選んだ。 その為に今のトロンベはデフォルトと程遠いものと成り果てている。 アーマー類はデフォルトと同一。 しかし、両腕にはGEモデルLC3レーザーライフルを三つ三つで計六門 腰から脚にかけてハイパーエレクトロマグネティックランチャーを四つずつで計八門 背中には吠莱・壱式を四門備え、全身のありとあらゆる部位に大中小のミサイルを無数に装備。 その見た目は、歩く砲台といった感じである。 ハウリン型の機動性を完全に殺し、射撃性能に特化した装備。 全てはあのストラーフに打ち勝つ為に。 ただ、それだけの為に。 トロンベは非情にゆったりとした歩みで薄暗い工場内を徘徊している。 現在のトレーニング・メニューは百人斬り。 即ち、100体のCPUMMSを撃破するまで終わらないトレーニングである。 現在撃破数は69体。 その間にトロンベが負った傷は極僅か。 致命傷は一つも無く、全て掠り傷程度である。 薄暗い工場に閃光が瞬く。 トロンベの、ちょうど真上から奇襲を仕掛けてきたマオチャオ。 しかしトロンベは慌てる事無く背中の蓬莱・壱式上に向けて、放った。 マオチャオがハウリンに到達するよりも速く、弾丸はマオチャオを貫いた。 四発の銃撃を胴体に受けたマオチャオはデータの塵へと化す。 完全に消え去るのを見届け、ゆっくりと歩み始めた。 「26分54秒……」 アリカはコツコツとディスプレイを指先で叩きながら呟いた。 「遅い」 「申し訳ありません…」 トロンベは主人の刺々しい視線を受け、深く頭を下げた。 「謝ったからってどうなるモンでも無いでしょう! 何でもっと上手く戦えないの!? あのストラーフだったらもっと速く終わってたわ! アンタはアレに勝たなきゃいけないのよ!?」 ヒステリックに叫ぶ主人に、トロンベはただ黙って頭を下げることしか出来なかった。 「いらっしゃいませー……って倉内君か。珍しいね、ウチに来るなんて」 「客に向かって珍しいとはなんですか」 「ははは、だって君はパーツとか自分で作っちゃうし、修理も大学で出来ちゃうでしょう?だから珍しいなぁ~、てね」 「まあ、用があるのは俺じゃなくて相棒の方なんですけどね」 「ああ、成る程ね」 ここは”ホビーショップ・エルゴ” 俺が今軽い雑談を交わしたのが店長の日暮 夏彦さん。 何年か前に親父さんの遺した模型店を神姫向けのホビーショップに転向して頑張っているらしい。 このホビーショップ・エルゴはそれなりに名の通ったショップでもある。 その理由の一つは品揃えの良さ。 個人経営の利点を活かした高品質・低価格でありながら武装・衣装を問わない品揃えの良さは大手ショップと同等だ。 その他にも店長の人柄の良さや大型バトルスペールなど。 それらの事からかなりレベルの高いショップだと言える。 「お久しぶりです、うさ大明神様」 「はい、お久しぶりです。ナルさん」 そして、忘れちゃいけないこのショップの目玉。 それが”うさ大明神様”と呼ばれるヴォッフェバニー型MMSだ。 彼女は何と言うか、とても個性的な出で立ちをしている。 頭は普通のMMSと変わらないのだが、身体が無いのだ。 というか、胸像? 本来EXウエポンセットに付属するヘッドパーツの彼女には、ディスプレイ用の胸像パーツが付属している。 彼女はその胸像のままなのだ。 しかも、店内に備え付けられた1/12スケールの教室、その教壇に備え付けられたハコ馬の上に。 その様子は正にシュール。 そして、このシュールなうさ大明神様が催す”神姫の学校”こそが、このショップの目玉である。 元を辿れば店長の学生時代に遡ると言うが、詳しい事は知らない。 俺が知っている事は、小学生などの学校に神姫を伴えないオーナーに代わっての神姫預かり、人間社会の勉強サービス。 そしてその神姫の学校が大人気で、俺の相棒もそのファンであるということだけだ。 もっともナルは別に授業を受けに来た訳でなく、戦闘のアドバイスを聞きに来たのだ。 うさ大明神様は教育だけでなく、戦闘についての知識も豊富だ。 その為、上位ランカーの神姫がアドバイスを請うことも多々在るという。 俺の相棒はさっさと胸ポケットから飛び降りてうさ大明神様の講義をかなり真剣に受けている。 はてさて店長の言うとおり、俺はパーツやらなにやらの事はは全部自分で出来る。 だからショップに用はないのだが、冷かしというのも居心地が悪い。 仕方が無いので内部パーツ系の棚に向かう事にした。 シリンダーアクチュエータとサーボモータのスペアが減ってきていたので丁度良い、と自己完結する。 が、しかしだ。 このショップの品揃えにはやはり目を見張る物がある。 メーカー純正パーツは当然の用に揃えられており、その他メーカーのパーツ類等も一通り網羅されている。 ここは聖地”秋葉原電気街”の専門店と同等かそれ以上の品揃えを誇っている。 だからついつい俺も本気でパーツ選びをしてしまう。 あれやこれやと手に取って、性能と値段を見比べて自分の懐と睨めっこ。 男というのは何時までたってもこういうものが好きなのだと言う事を改めて実感する。 三十分くらいだろうか。 俺がパーツと睨めっこを続けていた時間は。 ようやく買うものを決めた俺はカゴを片手にレジへと向かう。 その途中、うさ大明神様と相棒の様子を見るがまだまだ談義は終わらない様子。 何時の時代も女というのはお喋りが好きだな、とか談義が終わるまでどうやって暇潰ししようか、とかその他諸々の思惑を頭の中で巡らせている間にレジについた。 レジには先客がいたのでそれを待つ。 なんとなく先客の買っている物に目が行って少し驚く。 ありとあらゆる銃火器パーツがカゴの中に山を作っていた。 どんなバカかボンボンかと思って、その先客に興味が沸いた。 興味が沸くのと同時に何か嫌な予感が頭をよぎった。 嫌な予感がよぎったが俺はそれを無視して先客の様子を探る。 身長は160cm前後といったところだろうか。 後姿しか解らないので何ともいえないが、多分女だ。 しかし、そんなに銃火器ばかり買ってどうするんだと俺は心の中で苦笑した。 「まいどありがとうございました~」 店長の声がした。 清算は終わったのだろう。 俺も清算を済まそうと歩を進めた。 先客は振り向いて出口に向かおうとした。 そこで、俺と先客は鉢合わせる形になった。 心底、後悔した。 「…っ! 倉内 恵太郎、アタシと勝負しなさいっ!!」 「ワタクシハクラウチケイタロウデハアーリマセーン」 「くだらないマネしてんじゃないわよっ!」 最悪だ。 俺の前にいた先客、それは水野 アリカだった。 彼女はこの前のサバイバル・バトルからというもの、俺を見かけるたびに勝負を挑んでくるのだ。 運悪く彼女と俺は同じ町に住んでいるらしく、遭遇率は割りと高い。 俺としては同じ相手と何度も戦いたくもないので会う度に何とか巻いているのだが……。 最近会うことがめっきり減って油断していたところで、また見つかってしまった。 というか、今回は俺の不覚だろう。 彼女は曲がりなりにも神姫オーナーだ。 そしてここはそれなりに名の知れたホビーショップだ。 ……欝だ、死のう。 「さあ、今日こそは逃がさないわよ!」 「だーかーら、俺は同じ相手とは二度と戦わないって言ってるでしょうに」 これだけで引き上げてくれれば苦労はしないのだが……。 「なら大丈夫よ」 「は?」 「アタシのトロンベは生まれ変わったのよ! 超攻撃型MMSとしてね!!」 もう何を言っても無駄だろう。 そろそろ腹を括るトキかしらー。 「……はいはいわかりましたよお嬢さん。そこまで言うならお相手致しましょう?」 「…相変わらず糞ムカツクわね」 凄まじく冷たい視線を感じるが、そんなもんはスルーだ。 「店長、バトルスペース借りますね」 個人経営にしては上等な四面体のバトルスペース。 俺は四面体の一辺、簡易クレイドルがある一辺でナルのセッティングを施している。 不幸にもバーチャルバトル用のデータを持っていたので今回はそれを使う。 ……データも装備も持ってない。って言えば巻けたんじゃないの? 何か聞こえてくる気がするが、そんなもんはスルーだ。 一方、バトルスペースを挟んで対面する形の彼女もセッティングを施していた。 あきらかに銃火器満載と言った感じで、思わず溜息が漏れる。 「ナル~、こっちの準備はOKですよ~。そっちの準備はOKですか~?」 「はい、準備はOKです、マスター」 「はい~、では健闘を祈ります~」 備え付けられたコンソールを操作してナルを仮想現実の世界へと転送した。 同じく備え付けのディスプレイにナルの姿が顕れる。 それから間もなく、彼女の準備が出来たのだろう。 彼女の神姫、トロンベがディスプレイに顕れた。 顕れて絶句した。 まるでハリネズミのように備え付けられた銃火器の数々。 もはや犬型とは言い難い風貌に俺は軽く鬱になる。 「覚悟しなさい、倉内 恵太郎!」 「……は~いはい」 彼女の咆哮とほぼ同時にバトルの準備が整った事を告げるアラームが鳴った。 それと同時にバトルフィールドが決定される。 バトルフィールドは”荒地” 見渡す限り不毛な大地。 空にはどんよりと薄暗い雲が居座っている。 まさに俺の心模様そのものだ。 そこにナルとトロンベが転送される。 「地の利はアタシに味方しているようね?」 勝ち誇るような彼女の台詞に俺はもっと鬱になる。 が、その台詞にも一理ある。 荒野のフィールドには遮蔽物の類は存在しない。 その為、有利なのは砲戦型か高機動型となる。 「……ナル、徹底的に叩きのめしといてちょ」 「イエス、マスター」 俺はもう疲れたので、一言指令を伝えてバトルスペースを後にした。 「ちょ、アンタ何処行くのよ!」 「喉渇いたから自販~」 トロンベの脚部に備え付けられた八門のハイパーエレクトロマグネティックランチャー。 それはレールガンと呼ばれる類の火器である。 レールガンは電力を供給すればするほどに弾丸の速度は上がり、理論的には光速すらも突破出来る。 が、一介の武装神姫たるトロンベにはそれほどの電力は持ち合わせていないので精々音速くらいが関の山である。 それでも武装神姫相手には充分過ぎる速度なのだが。 そのハイパーエレクトロマグネティックランチャーから放たれた弾丸が音速を超えて飛翔した。 大地を抉り、大気を裂いて、眼前に立ちはだかる物全てを打ち壊さんと飛翔する。 目標はトロンベの前方10sm位置するナル。 音速を超えた弾丸がナルを貫いて試合終了。 トロンベはそうなることを願っていた。 が、現実はそう甘くなかった。 八つの弾丸は確かにナルに直撃した。 が、それはナルの身体を後方に押し出す程度だった。 ナルは左手に握る刃鋼、それを地面に突き刺し、剣の腹で音速を超える弾丸を防ぎきった。 もっとも、無傷という訳ではなく刃鋼の表面には八つの弾痕が薄く残っていた。 先手はトロンベ。 後手は、ナルだ。 ナルは地面から刃鋼を振り抜き、大地を蹴って駆けた。 腰のブースターを全開にしての疾駆。 10smを縮めてトロンベを両断しようと駆けて行く。 だが、トロンベとて伊達に鍛錬を積んだ訳ではない。 距離を詰めてくるナル目掛けて全身のミサイルを掃射。 幾重にも重なる爆音と共に、無数の大小ミサイルが白い尾を引きながら飛来する。 文字通り雨の様な爆撃。 ナルとミサイル群とは直ぐに衝突した。 否。 ミサイルはナルと衝突することは無かった。 ナルは真っ先に飛んできた大型ミサイルの弾頭を刺激する事無く、踏み台にして跳躍。 踏み台にされたミサイルは地面と激突、多数のミサイルを巻き込む大爆発を巻き起こした。 ナルはその爆風を背に受けて更に加速し、トロンベへ一直線に突っ込む。 その後ろでは、目標を見失った中小ミサイルがあさっての方向へ飛び去り、地面と衝突している。 ―――一閃。 刃鋼の重量とナルの速度を乗せた一撃は、トロンベの左側を斬った。 が、トロンベ本体は左腕を多少掠った程度で主な被害はハリネズミの如く付けられた武装だった。 トロンベ本体のダメージこそ少ないものの、余波である衝撃はトロンベを震わせた。 「っく!」 多少よろめきつつも体勢を崩す事無く、次の攻撃―――背中に残った二門の蓬莱・壱式を背部に向ける。 銃口の先では、ナルがスライディングの要領で勢いを殺している。 その距離、およそ15sm。 ナルが再接近するにしてもそれまでに充分迎撃可能と見たトロンベは蓬莱・壱式に弾丸を装填し、発射しようとした。 が、それとほぼ同時。 ナルの右腕に装着された銃鋼から無数のビームが放たれた。 背後からの攻撃に一瞬反応が遅れるトロンベ。 だが、すぐさま回避しようとしたが重装備が祟り回避できず、ほぼ全弾を背中で受け止めてしまう。 その衝撃に耐え切れず、トロンベは前のめりに倒れてしまった。 「何してるのよっ! 速く立ちなさいよ!!」 アリカの叱咤がトロンベの通信ユニットに響く。 直ぐに体勢を立て直そうとして、そこである事に気付いた。 ハリネズミの如く備え付けられた火器の類。 その重量が邪魔して上手く立ち上がることが出来ないのだ。 「…っく……う……ぁ……」 何とか立ち上がろうと両腕に力を入れていた、その時。 「やはり負け犬は負け犬ですね」 ナルの刃鋼がトロンベを文字通り両断した。 「……そんな」 ディスプレイに踊る『YOU LOSE』の文字。 アタシはそれを前に言葉を失った。 荒野というフィールドに完全砲撃仕様のトロンベ。 それに加えて相手のマスター不在。 地の利、時の利はアタシに味方していた。 それなのに。 「あれ、負けちゃったの」 青瓢箪が缶コーヒー片手に戻ってきた。 「なんで…なんで……」 アタシの頭は混乱していた。 何か言いたい筈なのに、何も言葉に出来ない。 出てくるのは『なんで』という疑問のみ。 「なんで負けたのか理解できない。そんな顔だね」 「……当たり前よ。アタシのチューンアップは完璧だったわ! トレーニングでも完璧だったのに……!」 そう、何十何百何千回とトレーニングを積んだのだ。 それなのに。 「……そうだわ、神姫よ。神姫の性能が劣っているのよ! それ以外に負ける要素なんてありえないわ!」 アタシは一つの結論に達した。 トロンベとあのストラーフの元々の性能が違うからアタシは負けたんだ。 これ以外にアタシが負ける要素は見当たらない。 「…お嬢さん。そんな事を言っているようでは何百年経っても俺には勝てないよ」 「そんな事無いわ! 神姫の性能が悪いからアタシは負けたの! だからもっと良い神姫を買えば…!」 「機体の性能差が戦力の決定的差でない。という言葉がある。今回、お嬢さんの神姫の性能だけでみるならば、俺のナルと同等だったと思う。しかし、お嬢さんは負けた。しかもマスターのいない俺のナルに、だ。これが何を表すか解るかい?」 「…神姫の性能が同じ? だったら一体何が悪いのよ!」 本当にコイツは訳の解らない事を抜かす。 「二対一でも戦力で負けていたと言う事さ。そしてそれは経験に大きく起因する。もし仮にお嬢さんが新しい神姫を買ったとしても、それは赤子と同じ。まさに赤子の手を捻るが如し、てね」 まあ、確かにそれも一理ある。 「だったら、トロンベにもっと場数を踏ませれば…!」 「それでようやく相打ちといったところかな。お嬢さんが俺達に勝つためには、足らない物がもう一つある」 「なによ、勿体つけてなんでさっさと言いなさいよ!」 青瓢箪は一口缶コーヒーを口にした。 「それはお嬢さん自身で見つけないと意味が無いのさ」 「……はぁ?」 コイツ、本当は何も考えてないんじゃないの? 「しょうがない。最大唯一のヒントだ。神姫は唯の玩具じゃない。笑いもすれば、泣きもする……もっとも、受け売りだけどね」 「…訳わかんないわよ」 「それが解ったらもう一度戦おう。リアルでね」 リアルバトル。 その言葉に何故か身体が強張った。 上位ランカー戦の主であるリアルバトル。 仮想現実ではなく、現実でのバトル。 使用される武器は全てリアル。 即ち受ける傷もリアル。 最悪の場合、神姫本体すら壊れる可能性を孕んでいる。 だが、これはチャンスでもある。 あのストラーフを破壊できるかもしれないのだ。 「…良いわ。その勝負受けて立つわ」 「日時はそちらの好きに決めてもらって構わないよ。それじゃあ、失礼するよお嬢さん。」 そう言うと青瓢箪はさっさと出て行ってしまった。 後に残されたアタシはただ帰る準備をするだけだった。 先頭ページへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1596.html
姫の閉ざされし檻、呪われし高貴(その三) 第五節:自我 紅い日が西に傾いていき、やがて夜が来る。そんな神姫センターの片隅で 私と“妹”達は、何を語るでもなく呆然と景色を眺めていた。前田達は、 とっくに神姫センターを出ていった。しかし、それはどうでも良いのだ。 「……ロッテ、随分と啖呵を切った物だな。呆れておったぞ、彼奴らは」 「そうですの……自分でも、ちょっとアレは吃驚しちゃいましたの……」 「彼処まで激しくなったのは、フリッグさんに負けて以来だったんだよ」 「珍しい物が、見られましたね。ロッテちゃんは、何時も笑顔ですから」 ロッテの勢いに流された自分達の思考を、ずっと整理する。これより挑む 相手は、世界の全てを呪い続けている窮極の小型殺戮兵器、とも言えた。 前田達は、それを誰よりも強く認識している為に……首を突っ込んで来た 私達を止めようと、姿を現したのだ。しかし、彼らの目論見は破綻した。 「全く、ロッテはにこにこしているのに己を曲げる事が無いからな……」 「曲げられそうになった事は、何回もありますの。でも、皆が居たから」 「……あたしだって、ロッテちゃんが居たからこそここまで来たんです」 「ロッテお姉ちゃんは、何時だってボクらの中心に居たんだよ……うん」 それは、ロッテの強き“信念”による物だ。何が何でも、身を挺してでも ロキという存在を、世界から敵視されるという“呪われし高貴”を帯びた 姫を、閉ざされた“心の檻”から解き放ちたい……その一心による物だ。 しかし、その強き心を見たからこそ。私も、己のエゴを認めねばならん。 「なぁ、ロッテ。そしてアルマ……クララや。お前達は、良いのか?」 「……今更良いのか、って一体どういう事ですの?マイスター……?」 思い詰めた様な声だったのだろう。ロッテは怒るかと思いきや、不安げに 私を見上げてきた。“梓”の姿をしたクララと、その胸に収まるアルマも 一様に私を見つめる……私は、妙に重苦しい雰囲気を纏ったまま続けた。 「あくまでも、助けたいと願うのは……私なのだ。私は、己を偽れない」 「マイスターは“神姫の笑顔の為”に、生きてきましたしね……この所」 「確認しっ放しのフレーズだな。しかし、それは今も代わらぬ……そう」 そうだ……ロキという『神姫にして神姫に在らざる』娘を対象としても、 些かたりとも揺るがぬ私の“信念”なのだ。だが、信念は行き過ぎた時に 別の物へと変わり果てる。それは……“エゴ”だ。利己的に物を考えて、 全てを意のままにしようとする。そう、彼女を救いたいというのも……。 「“エゴ”と言える程に、ロキを救いたいという想いは強まっている」 「マイスター……そんな、エゴなんて言わないでほしいんだよ……?」 「否、エゴなのだ。神姫を想う、少女一人の我が侭に過ぎぬ事なのだ」 例え『幸せにしたい!』という強い想いとて、気を抜けばエゴと呼べる程 偏執的になってしまいかねない。それは即ち、私の想いで“妹”達に日々 辛い思いをさせていないか?……という、一抹の不安にも繋がっていく。 「……そう、私はずっと我が侭ばかり通してきた。酷い話じゃないか」 「でも、それはマイスターが悪い事をしていたという訳じゃないです」 「そう言ってもらえると嬉しいが、偶には反省したくもなるのだ……」 “神姫”という人間の隣人を、私の勝手な考えで振り回してはいないか? 流石に一般的な玩具の様に、身勝手に弄くり回している訳ではないが…… 今回は流石に、彼女らの“命”に関わってくる難事だ。無闇に巻き込んで いいのか?という想いは常にあった。故にこそ、私は意地悪な事を言う。 「……何度目の確認になるかもわからん。だが、強制はせんのだぞ?」 「マイスター……それって、ボクらは怖ければ逃げて良いって事かな」 「そうだ、これは私の欲望だ。皆を護りたい、皆を幸せにしたい……」 だからこそ、本当に落命する様な危険には晒したくない。現実を前にして 私には守りの姿勢が窺えた。即ち、己を犠牲にしてでも大切な“妹”達を 護りつつ……更に、ロキを救いたいという欲望!それを、隠さず告げる。 暫くの沈黙が、場を覆う。そして帰ってきたのは、想いを込めた山彦だ。 「だから……無理強いはしない。辛いのならば、私一人で助ける予定だ」 『……あの、マイスター!!!』 ──────私は弱さを認めて、それでもなお……ね。 第六節:誓約 私の……この事件に関わり初めてから何度目かの弱音を聞いて、皆が声を あげた。それも、三人同時にだ。一様に、私と同様……思い詰めた表情。 だがその様が可笑しいのか、三人は鈴を転がす様な声で笑い始めたのだ。 「ふ、ふふっ……あははっ。なんか、ハモっちゃいましたね三人とも」 「多分それは、考えてる事が同じなんだからだと思うんだよ……うん」 「ならいっその事、三人で一斉に言ってみますの?……せーのっ!!」 何が何なのか、一瞬彼女らの真意を測りかねた私は……しかし次の瞬間、 ロッテ達の宣言を聞いて、気付く。そう、“妹”達も既に決めたのだと。 『私達も、自分のエゴにマイスターを巻き込むのかなって思いました!』 そこまで一遍に喋った所で何かのタガが外れたのか、三人は明るく笑う。 それは“姉妹”としてのシンクロニシティが健在である事の喜びなのか。 しかも私とだけでなく、他の神姫とも同じ考えだった事への歓喜だろう。 「実の所はあれだけ啖呵を切って、その後ちょっと悩んでましたの♪」 「あたしは……ロッテちゃんが言わなかったら、多分言ってましたね」 「ボクは言わずに、ロキちゃんを呼び寄せたかもしれないんだよ……」 「流石に言ってくださいですの、クララちゃ……じゃない、梓ちゃん」 これからどれ程の苦戦になるのか、想像は出来ない。しかし、だからこそ 絆を確認し、想いを繋ぎ……全員の意志を一つに束ねていく。それこそ、 人生最大の大仕事に挑む私達に、どうしても必要な“誓約”だったのだ。 「皆、それぞれの想い……そして願いの為に、ロキを助けたいと言うか」 「はいですの。助けたいって想いがエゴなら、それでも構いませんの!」 「なんと言われても、後悔はしたくないんです……だから、往きますッ」 「絶対に助けたい、助けないといけない。ボクらには責任があるんだよ」 「ならば、最早迷う事も……畏れる事もない。ロキを助けに往こうか!」 運命は定まった。その先に何があるかは、突き進まねば分からぬだろう。 しかし、皆の意志は今……たった一つの方向へと向いていた。それこそ、 『ロキを自分達の輪に暖かく迎え入れたい』という、純然たる想いだッ! 「それにしてもマイスター、ロキちゃんをどうやって捜し出しますの?」 「前田は先程確かに、ここで彼女が補給していると言っていた。つまり」 「まだ、秋葉原近辺に潜伏している確率が高いって言えるんだよ。うん」 梓の指摘に肯き、私は一つの黒い欠片を出した……それは、“闇樹章”。 そう。これはずっと私が携えている、彼女の存在を示す唯一の証なのだ。 これを落とした事に、彼女が気付いているかは定かではない……しかし。 「これが……或いはこれに印された符丁があれば、彼女の気を引ける筈」 「あッ!?そう言えば……昨日拾った符丁入りの紙、まだ有りますよ!」 「なら、話は早いですの♪わたしも、丁度良い奇策を思いつきましたの」 『奇策?』と、アルマと梓が顔を見合わせ……私達を見る。そう、彼女も 私と同様に一つの“作戦”を思いついていたのだ。ロキがアキバに居れば それで必ずおびき寄せられるだろう、という……“奇策中の奇策”だッ! 「符丁を拡大コピーして、万世橋無線会館の入口に張り出しますのっ♪」 「確率的に、絶対成功するかは分からぬ。しかし、私達の住まいは……」 「……まだ、ロキちゃんには知られていないんだよ。それなら、きっと」 「警戒せずにビルの前を通る可能性はありますね……もし見てくれたら」 「恐らくは、興味を惹かれて店内へ入ってくる筈だ。その時こそ勝負!」 無論、それは失敗すれば逃げ場を失う“背水の陣”とも言える策だった。 しかしロキの居場所が分からぬ現状では“疑似餌”を敷いておびき寄せる この作戦こそが、最も有効であると言えた。ロッテも魂胆は同じらしい。 「で、そこで……“ALChemist”のトレーニングマシンを使いますの♪」 「決闘でもする気なんですか、ロッテちゃん?……いえ、するんですね」 「流石に一対一じゃなくて、ボクら全員で止めに行くならいいかもね?」 「その通りですの。そこで、条件を出して決闘に持ち込みますの……!」 勝負に負ければ命はないだろう。しかし、それ程のリスクを支払ってこそ “決闘”という重々しい響きに相応しい戦いとなる。賭けるのは、彼女の テロを止めさせる事……否、もっと踏み込んだ条件が必要となるだろう。 「ともあれ、そうと決まれば話は早い。止めるならば、急ぐ方が良いな」 「そうですね、早速“ALChemist”に帰って準備を始めましょう……!」 「ボクらのメンテナンス……手が痛くてもお願いなんだよ、マイスター」 「任せておけ。戦うのはお前達、それを支えるのは私の役だ。頑張ろう」 「今から気が引き締まりますの……絶対に、絶対にロキちゃんを……!」 ──────陽光の下へ、戻してあげる。絶対にね……? 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/407.html
前へ 先頭ページへ 次へ BGM:リン・ジャクソン(戦闘妖精雪風・オリジナルサウンドトラック1より) 開催前夜 事前予告より二ヵ月後、2036年某月某日 2221時 ホビーショップ・エルゴ 二十二時の閉店直後からエルゴはいっそう騒がしくなった。 照明の落とされた売り場の奥の階段を上がった二階、武装神姫バトルスペースはまだ煌々と明かりが灯っており、壁一面に張られた「武装神姫大規模バトルイベント『ソラノカケラ』 ※協賛 ニャムコ」のポスターや、脇にどけられたバーチャルバトル機器が目に付く。こうしてみると意外にこの空間は広いことが分かる。 そんな中をせわしなく行ったり来たりする人影が三つ。正確に言うとうち二人は人間ではない。エルゴの若店長、日暮夏彦と、違法の人間サイズボディに乗り換えているジェニー、そして同じく人間ボディのラストである。 彼らは登録された人数分の特設バトルスペースの設営に追われていた。何の特設かと言えばもちろん、壁のポスターで大々的に宣伝されている明日のバトルイベントのものである。 直接ネットワークに繋げるため、バーチャルバトルスペースのオーナーブースだけを独立させたような個室がいくつも並べられようとしていた。 「こんなに慌ててやらなくたってよかったのに」 キャスター付きとはいえ重たい特設スペースをえいこら押しながら、ジェニーはぼそりと嫌味を言った。 「今日は臨時休業にしてゆっくり設営すればよかったじゃないですか。どうあがいたって私たち三人しか人員がいないんですよ」 「そうしたら、今日普通のバトルをしに来たお客さんが残念な思いをするじゃねーか」 すでに設置されているブースの陰で、夏彦が言う。 「できる限りのことをしたいんだよ。俺は」 「そないなカッコエエこと今言いはったって、カッコ付いてへんで」 コンソールのセットアップをしながら、ラストがカラカラと笑った。 夏彦が出てくる。女性二人のささやかな顰蹙を買ったのでものすごく不機嫌そうな顔である。 「うるせえな。だいたい冗長性広げすぎなんだよこのコンソール。一台で普通のブースの三倍の配線量ってどういうこっちゃ」 両手に抱えた大小さまざま色とりどりのコードを床に投げつけた。 「会社側としても一大プロジェクトですからね」 そのコードを丁寧に拾いながらジェニーが言った。 「この規模のバーチャルリアリティ空間を立ち上げるのは前代未聞。万全を期したいのも分かる気がします」 「ジェニーさんらしいな」 ポリポリと頬を掻きつつ、コード拾いを手伝う夏彦。 「ま、失敗したら損害どころの話じゃないからな。俺達に依頼が来るのも無理ねぇか」 そう、明日行われるこのイベントは、裏方にしてみればただのイベントに止まらなかった。コンピュータネットワーク上におけるバーチャルリアリティ空間の構築実験は今に始まったことではない。そもそも武装神姫のバーチャルバトルこそその商業利用の先駆である。 今回の空間構築は通常のバーチャルバトルの比ではなかった。今までに無い大人数での乱戦をラグなく処理するという理由だけでなく、将来的に「人間」の利用を見越した大容量を動かす壮大な試験である。つまりそのいわゆる動物実験を神姫でやろう、という言い方はかなり邪見しているが、あながち間違いではなかった。もちろん動物実験ほどのリスクなど無い。そうでなければまがいなりにも一般参加者を募ることのできるイベントとして開催することなどできないからだ。 その上で準備は万全を期していた。全国のマッチングのために特設スペースの冗長性確保は異常とも思えるほどだったし――そのせいでコストも設営スタッフの負担も異常に倍増したのは言うまでも無い――、裏方の機能維持にも猫の手を借りるほど多くの人員を割いていた。実際には猫ではなく兎であったが。 このイベントはそういう実験的な意義も含まれているため、それを邪魔しようとする敵対企業の妨害工作があることは目に見えている。それはマッチングの不備やネットワークのラグといった、普通当たり前に起こるような現象として現れるだろうが、前述のようにそれらへの対策は異常レベルであるから、どんな些細な障害も絶対に起こらないし、起こってはならない。Gのところに依頼が来るのもやむなしなのである。 「あ、夏はん夏はん、実はな、ウチんとこにも依頼来とるんよ」 「マジで? こりゃ・・・・・・俺達の想像以上かもな」 そして、当日は実際に彼らが裏で活躍することになる。 まあ、その話は書かない。読者には純粋に本大会のギャラリーとして楽しんでもらいたい。 「よし、セットアップ完了」 「まだですよ。あと十九台あります。本当にこれ全部三人でやるんですか?」 「まあ、そう言うだろうと思ってさ。たぶんそろそろ・・・・・・、来た」 夏彦の視線を神姫二人が追う。 二人の男が階段を上ってきた。 フォーマルカジュアルなコートを着こなした男性と、耳と鼻と口にピアスを刺しニット帽を被ったどこかの社会不適合者のような風体の男である。初対面の人間は大抵、彼らが親友だとは考えない。マイティのマスターと、シエンのマスター、ケンである。 「兎羽子さんと澟奈さんも一緒か。まだ仕事は残っているかな」 「店長もすみに置けねェなあ。こんな美女二人と夜中にこそこそと」 挨拶の言葉もまったく違う。微笑みながらトーンの低い声で言うマスターと、下卑た笑いでからかうケン。だが不思議と二人の投げた感情のボールに差は無い。ケンが不快感を与えているということは決してなく、むしろ親しみの含まれたボールだった。 「やあ、ホント助かります。早速お願いできますか」 「ジェニーさんはどうしたんですか?」 マスターの胸ポケットからひょっこりと顔を出したのはアーンヴァル、マイティである。ジェニー、兎羽子は一瞬ビクッと体を強張らせたが、 「俺の部屋でスリープ中だよ。今日はさんざ働かせちゃったからね」 という夏彦の自然なフォローにほっと胸をなでおろした。人間ボディの二人が実は神姫であることは伏せられているのである。 「だめだよマイティ、店長に迷惑かけちゃ。無理言って連れてきてもらったんだから」 と言ってケンの帽子から顔を出したのはハウリンのシエン。もちろんこの場合の「迷惑」とは余計な手間をかけさせるなと言う意味である。彼女達も言うまでもなく、目の前の二人の女性がジェニーやラストであることは知らない。 マイティもシエンも、明日のイベントに参加する。この設営はいわばボランティアのようなもので、彼女らは尋常でない量の配線を手伝うことになった。裏方作業といえど、特に参加者に有利になることはないからこのような事前作業の参加は禁じられてはいない。イベントの細かなルールは、マスター達はおろか夏彦にさえ知らされていなかった。ブリーフィングタイムに入り、コンソール前を離れられなくなってから参加者にだけ教えられるという予定である。設営側すらもアドバイザーにはなれず、また参加者同士で事前の作戦が立てられないのである。ブリーフィングタイムは三十分、出撃準備時間を除いて実質二十五分あるが、それだけの時間でモバイルを駆使しても有益な情報交換はほぼ不可能であろう。そうする暇があるならブリーフィングタイムに参加者同士で綿密に話し合ったほうがよい。 夜遅くまで二階の明かりは消えなかった。正午前までゆっくり睡眠をとって、彼らはイベントにのぞむ。 前へ 先頭ページへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/249.html
せつなの武装神姫 主な登場人物 ――人物―― 藤原 雪那(ふじわら せつな) 「僕とティキ」の主人公『僕』にして「雪那とティキと」の主人公その一。 進学校(一応)に通う高校二年の眼鏡学生。 ティキとユーラのオーナー。 根本はオタク気質なのだが、その手の知識を多く持ち合わせていない。理由は祖父、亡父が極度のオタク体質なため、そんな大人になりたくないと自己を抑えていた為。今はそんな自己抑圧から解放されている。 そのくせに西洋剣の事に妙に詳しかったりと謎も多い。 神姫オーナーである事は学校では秘密。だったがバレた。 一年の学年末のゴタゴタで部活はやめたらしい。 式部 敦詞(しきぶ あつし) 雪那と同じ学校に通う、弓道部所属の高校二年生。二年になり雪那と同じクラスになった。 きらりのオーナー。 気遣いの出来るし、ルックスも悪くはない。というより格好良い。が性格はアレ。 ひた隠ししているが、自分がオタクである事には自覚的。だからこそ気が使える人。 未だ神姫オーナーである事は学校では知られていない。 ちなみに雪那が読んでいる「妖精騎士」シリーズはこいつが貸し出した。 司馬 仙太郎(しば せんたろう) 大学生。式部の友人。 ナイアのオーナー。 リーグ戦もこなすが、熱中しているのはジオラマを使ったゲーム。 とある二流大学でボードゲーム愛好会の会長を務めていたが神姫にハマり、愛好会は神姫愛好会の相を挺しているとかいないとか。 ちなみにボードゲーム愛好会は同学内のミリタリー研究会とは犬猿の仲である。 結城 セツナ(ゆうき ――) 「Y.E.N.N」主人公にして「雪那とティキと」の主人公その二。 某私立女子高に通う高校三年生。眼鏡の美しい少女。 焔と朔のオーナー。 前に所有していた神姫「海神」をとある事件で失う。 その事件をきっかけに神姫との関係を新たに模索し始め、現在に至る。神姫との関係は良好の様子。 感情を表情から窺い知る事が難しいとは雪那の弁だが、割と感情の動きは激しい。 式部、司馬とは旧知らしいが、詳細不明。 過去に木井津沙紘と交際していたらしい。 藤原 修芳(ふじわら あつよし) 藤原雪那の父。 数ヶ月前の雨の日に交通事故に巻き込まれ死亡。 ティキの初代オーナー。ティキに「旦那さん」とオーナー呼称登録した。 藤原 舞華(ふじわら まいか) 藤原雪那の母。 在宅の仕事をしている、とティキは言っている。 自宅を兼ねた店舗を開いている。 店の名は「妖精館」。ドールハウス用の小物をメインに取り扱う店でありながら喫茶店も兼ねるというおかしな店である。 葉月 総(はづき そう) 藤原雪那の祖父。 小説家、桜田柄今(さくらだ つかいま)。 四体の神姫を保有している。 木井津 沙紘(きいつ さひろ) 結城セツナのモトカレ。現在大学生。 シンナバーのオーナー。 多分性格はよろしくない。 朔良=イゴール(さくら・―) 結城セツナのクラスメートにて数少ない友人の一人。 「なつのとびら」の主人公。 ハーフの少女。赤毛の碧眼。そばかすが気になるお年頃。 桜田柄今の大ファン。 武装神姫を所有していない。 左右葉 夢絃(そうば・むげん) 朔良=イゴールが南房総にある町でであった青年。二十歳前後。 刹奈曰く「顔ばっかりで愛嬌も無いヘタレな人」。 故人。 ここまで無理繰りな名前だといっそ清々しいよね。 露草 流音(つゆくさ・るね) 左右葉夢絃の双子の妹。 刹奈のオーナーで、夢絃に刹奈を預けた。 朔良曰く「同い年くらいに見える」 夢絃と姓が違うのは両親が離婚したとき別々に引き取られたため。 ――神姫―― ティキ 藤原雪那の神姫。 TYPE猫爪。元々は雪那の亡父の神姫だった。 雪那の亡父の事を「旦那さん」、雪那の事を「マスタ」と呼ぶ。ちなみに「マスタ」とは「マスター」と言われるのが恥ずかしかった雪那が苦肉の策で決めたもの。 この娘のチョット偏った知識は「旦那さん」の影響。 戦闘スタイルは万能型(つまり中途半端)。特殊装備、『M.D.U.シルヴェストル』を装備して戦う。 現在セカンドランカー ユーラ 藤原雪那の二体目の神姫。 リペイント版の黒いアーンヴァル。 雪那の事を「主(ぬし)さん」と呼ぶ。「主さん」とは雪那の家に遊びに来ていた式部敦詞が決めた呼称。本当は「ご主人様」という案だったが、雪那が却下した。 語尾を繰り返す癖があり、慣れていないと聞いていて鬱陶しい。 現在バトル未経験。 きらり 式部敦詞の神姫。 式部を「マスター」と呼ぶ。 先行特別限定発売されたツガルで、素体も付いて来た。それが特別発売のゆえん。 装備はそのままツガルの標準装備風の物を使用。但しそのままなのは外見だけ。 戦闘スタイルは遠距離射撃型。ツガル特有の高機動力を活かす戦闘スタイルを模索中。 セカンドランカーにランクアップできました。 ナイア 司馬仙太郎の神姫。 アーンヴァルの素体にストラーフのコアをつけた神姫。仙太郎曰く、「オレは青い髪に白いボディースーツの組み合わせに弱いんだよ」だそうである。 名前の由来は「這い寄る混沌」から。 基本装備はサイフォスの物をそのまま流用。 某所のヴァッフェバニーが大鑑巨砲主義なら、こちらは近接戦闘絶対主義。目指すは一騎当千でなんたら無双。 それでも一応セカンドランカー。 海神(わだつみ) 結城セツナの神姫。 珍しい、忍者型フブキの神姫。表情の変化には乏しいが、それだからといって感情の起伏に乏しいわけではない。 忍者刀・風花、大手裏剣・白詰草、黒き翼にヴァッフェバニーの装備の一部で武装している。 とある事件に巻き込まれ破壊された。 海神ⅡY.E.N.N(わだつみ・せかんど・わい・いー・えぬ・えぬ) 通称・焔(えん)。結城セツナの二体目の神姫。セツナを「ご主人」と呼ぶ。 ハウリンのヘッド、紅緒のボディー、そして『海神』のCSCで構成されている。 現在の基本装備は『緋紅』と名付けられた蘇芳之胴などを改造した鎧と背部ユニットと、斬姫刀“多々良・鉄”(ざんきとう・たたら“くろがね”)。 『緋紅』には大型銃器が備え付けられているが、あまりにエネルギーを使いすぎるため一試合につき一回しか使用できない(『緋紅』の特殊スキル扱い)。 セカンドランカー。 朔 結城セツナの三体目の神姫(保有数は二)。 白いストラーフ。 セツナを「せっちゃん」と呼ぶ。 結城セツナが朔良=イゴールから譲り受けた神姫。 現在バトル未経験。 シンナバー 木井津沙紘の神姫。 ヴァッフェバニー。ヴァッフェバニーの基本装備とテグスを用いて戦う。 雪那達のいる地域では実は結構有名。雪那が知らなかったのは彼がそういうことに疎いから。 現在セカンドランカー上位。 ヒワ 葉月総の神姫。 葉月を「先生」と呼ぶ。 和服姿のアーンヴァル。 アトリ 葉月総の神姫。 某ホテルの制服と同じデザインの制服を着ている。 ストラーフ。 刹奈 露草流音の神姫。 左右葉夢絃に預けられていた。 流音の事を「マスター」と呼び、夢絃の事をそのまま名前で「夢絃」と呼ぶ。 朔良が神姫の事に疎いので、TYPEもランクも不明。 可憐な仕草とそれに似つかわしくない口調が特徴。 戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/750.html
前へ 先頭ページへ 人間が生きていく上で最低限必要な物が三つある。 一つは衣服。 一つは住居。 一つは食事。 最低限、これらがあれば人間は生きていけるという。 が、しかしだ。 それらはそこらかしこに転がっている訳ではない。 それらは何の労力を使わずに入手出来る訳ではない。 それらを揃えるのに必要なものが一つある。 金だ。 この世で最も大事な物の一つ。 そして、人間が生活していく上で必要不可欠な物。 それはそこらかしこに転がっているかもしれない。 しかし、それは雀の涙程でしかない。 それは何の労力も使わずに入手出来るかもしれない。 しかし、それも雀の涙程だ。 生活していく為に充分な量の金を稼ぐには、汗水垂らして働くしかない。 それが金という物だ。 今日は快晴、気温も寒すぎず暑すぎずにすごし易く、風もそよ風程度。 外出にはもってこいの一日だと言える。 そんな日には弁当の一つでも持ってピクニックにでも行きたくなるのものだ。 この俺、倉内 恵太郎もそんな素敵な気分に晒されながら今日という素晴らしい一日を満喫していた。 「マスター、ジェットスラスターのタービンはどれを使いましょうか?」 「レニオスの8型で頼む」 カーテンの隙間から差し込む僅かな日光が薄暗い部屋に充満するほこりを照らし出している。 狭い部屋にはところ狭しとぼろぼろのダンボールが詰まれ、破れた箇所から金属のようなものがはみ出している。 部屋の中央に鎮座するちゃぶ台の上には大量のパーツが詰まれている。 そのちゃぶ台を挟み、向かい合うように座る俺とナル。 俺はPCに向かい神姫との神経接続とパルスの強弱、信号の精度を設定している。 ナルはその手に神姫用多目的ツールを、背部にストラーフ本来の機械腕を装着し、神姫サイズの精密機械相手に格闘している。 「マスター、島田重工の箱を取って頂けますか?」 「あいよ」 俺はPCから視線を外し、重い腰を上げた。 狭い部屋を見回して島田重工と書かれたダンボールを探す。 何を隠そうこの周囲に詰まれるダンボールの山、その全てに神姫用パーツが満載されている。 EDEN-PLASTICS、島田重工、BLADEダイナミクス、カサハラ・インダストリアル。 神姫好きなら一度は聞いたことのあるであろう企業の純正品、それらが大量に死蔵されてるのだ。 元を正せば俺が店頭で見かける度にちょくちょく買い漁っていたのが原因なのだが、男という生き物はいつまで経ってもそういう事が好きなもので、幼少の頃はプラモを山のように買っては積んでいたのを今でも覚えている。 それはさておき、案の定買うだけ買って全く使わないパーツも多数ある。 否、その九割が未使用で新品同様だ。 一割はナルの内部機構、旧銃鋼、ブーストアーマー等多数に一応使ったのだ。 だが、それでもまだ大量に使い道の無いパーツが積まれているのだ。 以前は買うごとにナルのお小言を頂戴するハメになり、心身ともに疲れたものだ。 だが、今は違う。 俺の財政を圧迫していた大人買いも今は俺の財政源となっている。 武装神姫の由縁たる『武装』。 それは企業・個人問わず多種多様な武装が市場に溢れている。 大抵、そういうものは大企業か著名なデザイナーが販売するのが普通だ。 しかし、大々的では無いものの、個人による武装販売というのも確かに存在する。 個人はイベントやインターネットを介した自作武装の販売が一般的である。 そう、何を隠そうこの俺も神姫の自作武装を販売する人間だ。 俺の場合はインターネットを介し、客の要望を聞く。 そして、予算や期間などを見積もり俺とナルが武装を製作し、客に郵送する。 これがまたかなり儲かるのだ。 一般に広く普及した神姫の用途は基本、バトルだ。 今は街中に留まらず学校の中にまでバトルスペースを導入している。 供給があるのは需要があるからだ。 そして、神姫の広いカスタイマイズ性。 人は基本的に人と同じ、というのを嫌うものだ。 その結果、市場には細かな神姫用のパーツが氾濫し、自分だけの神姫を作ることが出来る。 それでもまだ、人と被る事を嫌がる人間もいる。 俺の客はそういう種類の人間だ。 完全オリジナル。 オーダーメイド。 フルスクラッチモデル。 そういう言葉をちらつかせれば如何に無名の俺と言えど、それなりに客は引っかかるのだ。 が、だからと言って手抜きは一切しない。 ネジ一本からCPUに至るまで、品質には気を配る。 武装の試運転は念入りに行い、誤作動など無いようにする。 武装の品質がそのまま俺への信用に繋がるのだ。 「…これだな」 ベッドの上に山済みにされたダンボールの海の中、目的のダンボール箱があった。 俺は足元に注意しながらそこに近づき、周囲のダンボールを掻き分けてそれを持ち上げた。 顔の直ぐ下にあるダンボールから立ち上るホコリと機械油の臭いに顔をしかめながらナルの元へとそれを運ぶ。 「お待ちぃ」 中のパーツが傷つかないように心なしゆっくりとダンボールを床に下ろす。 「ありがとうございます、マスター」 そういうと、ナルはストラーフの機械腕を稼動させてダンボールを開け、ビニール袋に包まれたパーツ類をちゃぶ台の上に乗っけていく。 俺も再びPCに向かい、自分の作業に戻ることにした。 『ピンポーン』 来客を告げる呼び鈴が久しぶりに鳴り響いた。 扉の前には「新聞勧誘お断り」と「キャッチセールスお断り」のシールが張ってあるのでその線は無いだろう。 だとすれば大家の家賃収集か宅配便だが、どちらも心当たりが無い。 考えられるとすれば―――考えたくはないが―――警察というのも有り得る。 多少緊張を孕みつつ、俺は音を立てないようゆっくりと立ち上がった。 足元を覆いつくすダンボールを蹴らない様に注意しつつ、そう遠くない玄関へ向かう。 『ピンポーン』 台所が隣にある玄関へと辿り着いた俺はまず、覗き窓から外の様子を伺うことにした。 が、その時。 「しーしょー!お見舞いに来ましたー!」 玄関の扉をドンドン叩きながら大きな声で俺の事を呼ぶ声がした。 「アリカ、近所迷惑よ~」 覗き窓を見るまでも無く、そこにいるのがアリカと茜の二人であることは容易に想像できた。 (空けたくねぇ…) 今この扉を開ければ作業は中断を余儀なくされるだろう。 しかし、開けない場合はアリカはしつこく扉を叩き続け周囲に騒音を撒き散らすだろう。 そうなった結果、お隣さんとの付き合いが悪くなる可能性も充分にある。 近所付き合いの悪化によってかつては殺人事件さえ引き起こしたと聞く。 作業の締め切り自体はあと数日残っている。 「…いるから静かにしてくれ」 俺は観念して扉を開けた。 「お邪魔します、師匠!」 「出来れば邪魔はして欲しくないがな…」 扉を開けた瞬間、アリカはずけずけと部屋に上がりこんだ。 俺はそれに軽い眩暈を覚えた。 「どうしてもアリカが気になるからって来ちゃいました」 止めようと思えば止められた筈の茜も茜だと思ったが、それは口にしないで置いた。 「師匠…どうしたんですか?」 扉を閉め、振り返った俺に浴びせられた言葉は実に酷いものだ。 「すんごい散かってる…」 アリカは部屋を見回しながら言った。 「ダンボールには触るなよ」 俺はそういうと、足元のダンボールを数個持ち上げて隅に積んだ。 そうして出来たスペースに座布団を投げ置くとアリカと茜に言った。 「とりあえず座れ、話はそれからだ」 「それじゃあ失礼しま~す」 「今日は本当に散かってますねぇ、どうしたんですか~」 それぞれ違うことを言いながら座る二人を尻目に、俺は茶を淹れる為に台所へと向かう。 小さな食器棚の扉を開け、茶葉筒を取り出し蓋を開ける。 (…腐ってはいないか) 最後に開けたのが何時かは思い出せないそれだが、臭いから判断するに腐ってはいなさそうだ。 それを確認した後、ヤカンに水をいれてコンロにかけた。 水が沸騰するまでの間に急須の用意をする。 茶葉を適当に入れて湯のみを取り出す。 後は水が沸くのを待つだけだ。 「そうだ師匠、どうしたんですか学校に休学届けなんか出して!」 居間にいるアリカが声を張り上げて言った。 俺がアリカに背を向けていると言え、そんなに大きな声で言う事もなかろうに。 「…茜に聞け」 俺が説明してもいいのだが、それはそれで面倒くさい。 第一、アリカに俺の個人的な事情を話す義理もない。 しかし、今の俺がすることばアリカを早急に立ち去らせることだ。 茜に任せておけば、多分上手く説明してくれるだろう。 「何で?」 アリカは首だけをくるりと茜の方に向けた。 「先輩はねぇ…大学に入学した直後、新手の詐欺にかかって多額の借金を負ってしまったの…それを返済するために暇を見ては内職を…」 前言撤回。 ハンカチを片手に目じりを拭うようにしながら平然と嘘を付く茜。 しかし、その口元は確かに笑っている。 「師匠…本当なんですか!?」 ばっ、と振り返り涙目で俺を見つめるアリカ。 「んな訳ねーだろ」 それから視線を外して沸いたお湯を急須に注ぐ。 「先輩ノリが悪いですね~」 急須を軽く回しながら悪びれようともしない茜をどうしようかと頭を痛める。 「なんでウソ言うのよッ!」 「人生を面白くするのは一つの真実、百の嘘なのよ~」 女が三人寄れば姦しいとは良く言ったものだが、この場合二人寄ったら喧しいだ。 「とりあえず騒ぐな」 湯気の立つ湯呑みを二人の前に置き、俺も適当に場所を開けて腰を落とした。 とりあえず俺も茶を飲む事にした。 我ながら丁度良い濃さで淹れられており、大変おいしい。 「…で、師匠。なんで学校休んでるんですか?」 同じく茶を飲んで一段落着いたアリカが口を開いた。 どう説明したものか、俺は湯呑みを睨みつつ数瞬逡巡した。 「マスターが大学に休学届けを出したのは学費と生活費を稼ぐためです」 俺の前方、ちゃぶ台の上を台拭きで拭きながらナルが言った。 「そうなの?」 「はい。マスターと私で神姫用の武装を製作し、それを販売することで学費と生活費を稼いでいるのです」 俺が言わんとすることを手短に説明してくれた相棒に俺は視線だけで礼を言った。 「…でも、なんで学校休む必要あるんですか? 施設とかなら学校の方が整ってると思うんですけど…」 アリカが部屋を見渡しながら言った。 なるほど、確かにこの部屋は神姫の武装を作るには適さない。 アリカにしてはなかなか的確なツッコミだ。 「あのだいが」 「あの大学は研究以外での施設利用は禁じられてるのよ」 俺が説明しようと口を開きかけたその瞬間、茜が先に言ってしまった。 俺は半開きの口を渋々閉じて、その後に続く説明を考える。 「へ、どうゆこと?」 アリカは小首を傾げている。 「あそこはな」 「あの大学は研究以外では一切の機材・施設を使わせないのよ」 コイツ、絶対にワザとやってやがる。 その証拠に楽しそうな眼で俺のことを見てやがる。 「…だから、俺はココで内職してるんだよ」 他に言うことが無いので何とか締め括ろうと言葉を紡ぐ。 これまでの情報を統括すれば普通の人間ならとっとと出て行くだろう。 「そっか…師匠って大変なんですね… アタシに何かお手伝いできること無いですか!」 そんなささやかな願いは無残にも打ち砕かれた。 「いや、それよりとっととかえ」 「そうよね、先輩も一人じゃ大変よね」 更に踏み砕かれた。 結局、あれから無理やりアリカと茜は俺の仕事を手伝った。 茜はまだ良いが、アリカは本当に邪魔というしかなかった。 パーツを探すと言ってはダンボールを引っくり返し。 パーツを組み立てるといっては盛大に失敗し。 それに懲りて差し入れを作るといっては台所を爆発させ。 そんなこんなで日も暮れて、本気でアリカと茜を帰そうと言う事に相成った。 「うぅ…師匠、スイマセンお邪魔してしまって…」 アリカは全身ホコリとススと得体の知れない汚れだらけになりながらヘコヘコ頭を下げている。 帰るときに説教の一つでも垂れてやろうかと思ったが、そういう態度を取られるとどうも辛い。 「分かったからとっとと帰れ」 俺の態度はどっからどう見ても不機嫌そうに見えたことだろう。 本当の所、ありがとうの一言でも言ってやりたいところだがどうも喉辺りでつっかえてしまう。 「それじゃあ、先輩。お仕事頑張って下さいね~」 茜は茜でいつも飄々としているが、今この時だけはかなり楽しそうに見える。 「ああ、先輩達によろしくな」 「孝也先輩にもよろしく言っときますね~」 明らかに顔を顰める俺に、茜はさも面白そうに微笑んだ。 全く持って食えない奴だと思う。 「…それじゃ師匠、失礼します」 アリカはペコリと頭を下げるとトボトボと歩き出した。 それに一歩遅れて茜が歩き出す。 が、一瞬俺の顔を見やがった。 何故か凄まじい罪悪感を感じる。 「……試作品出来たらバトル付き合え!」 自分でも何でこんな事を言ったのか解らない。 だけど、喉から勝手に出てきてしまったのだから仕方が無い。 アリカはびくりと身体を強張らせ、一瞬の後勢い良く振り返った。 「はい! 喜んでッ!」 満面の、こちらまで嬉しくなる様な屈託の無い笑み。 釣られて笑いそうになるのを必死で堪える。 「それじゃっ!」 そう言うとさっきとは打って変わって早足で帰路に向かった。 茜も軽く頭を下げ、アリカを追った。 その表情も、アリカ程ではないが良い顔だった。 俺は一瞬二人の姿を見送ると、直ぐに玄関の戸を閉めた。 「ふぅ…」 何故か溜息が出た。 確かに疲れた。 けど、嫌な溜息ではない。 「マスター、楽しそうですね」 俺の胸ポケットからナルが声をかけてきた。 「そうか?」 「ええ、凄く楽しそうです」 俺にはその自覚は一切無いのだが、ナルが言うのだからそうなのだろう。 「楽しい、ね…」 思い返せば楽しい、と実感した事など余り無かった気がする。 幼少の時分には一度だけ遊園地に連れて行かれた事もあるが、両親共にジェットコースター初めあらゆる乗り物がダメで、俺が介抱してた嫌な思い出しかない。 小学校の頃も無愛想なガキだったと思う。 友達も人並みにいたが、深夜の学校に潜り込むとか下水道探検するとかそんな事も無かったので対して思い出に無い。 中学・高校と勉強積けだったので楽しい、と思う暇も無かった。 いや、ナルと出会ってからは変わった用に思う。 勉強一辺倒の高校生の時分に初めて神姫を手にして以来、神姫にどっぷりと嵌ってしまった。 学校が終われば直ぐにセンターに赴きバトル三昧。 「マスター、どうしました?」 ぼーとしてたのだろう、ナルが気遣わしげに声をかけてきた。 「いや、ちょっと考え事をね」 あの時の楽しいは違う。 今のナルの顔を見ると心底そう思う。 やがて大学に入り、入学式で裕也先輩と裕子先輩と出会った。 あれから一年と少ししか経っていないけど本当に、色々あった。 思い返せば泡の様に記憶が浮かび上がってくる。 裕也先輩に引っ張りまわされた事。 裕子先輩に叱られた事。 孝也に付き纏われた事。 茜に弄られた事。 そして、アリカに出会った事。 驚くほどに密度のある毎日だった。 「…今日の仕事はこれくらいにしとくか」 「マスター?」 その毎日のきっかけは、武装神姫だった。 「締め切りまでまだ時間はある。たまには骨抜きでもしないとな?」 「マスターがそう言うのでしたら…」 武装神姫を通じて知り合った皆。 「今日は鳳凰杯の特番があったな、それでも見よう」 「そういえばもうそんな時期ですね」 その毎日を齎してくれたナルに、最大限の感謝を。 先頭ページへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1639.html
前を見た少女と、煌めく神の姫達(その二) 第四節:真心 楽しかった夕餉も終わり、私達は電車で次の場所へと向かった。そこは、 冬のお台場である。バレンタインには相当早い為か、夜と言ってもさほど カップルの数は多くない。私達の邪魔をされないという意味では、上等! 「とりあえず、観覧車にでも乗るか?街の夜景を見るのも、いいだろう」 「はいっ!あたし達も、こんな所に来るのは初めてですから緊張します」 「……多分それは、マイスターも同じなんだよ?だって頬が、紅いから」 「マイスターも来た事無かったの?大丈夫かしら……でも付いていくわ」 「折角のデートですから、デートコースはマイスターにお任せですの♪」 民放キー局が遠くないこの場所にあるのは、湾岸地区の夜景を楽しむには 最適と、午前中に買い求めた雑誌の記事で書かれていた大観覧車である。 なるほど……目の前にしてみれば、小さな私の躯にはかなり大きい。更に 躯の小さな神姫達ともなれば、天を突く程の巨大な風車なのかもしれん。 「……ふむ、どうだ。これに乗って、今から暫く皆に話をしたいのだが」 「う、うん。良いわよ……アタシには何がどうとか、まだ分からないし」 「きっと東京の夜景が、煌めく無数の宝石みたいに映るはずですの~♪」 「楽しみ、かな。さぁ、マイスター……行こう?邪魔のされない領域に」 「どんな時間が過ごせるのか、楽しみですね……ええと、大人一枚です」 訝しむ受付嬢に“大人一枚”と復唱して、私達はゴンドラへと乗り込む。 デートスポットに一人で来る、こんな外見の私を不審に思うのも当然か。 だが無闇にそれを怒るよりも、今は大切な“妹”達との時間を尊重する! 「ほう……これが、東京の夜景か。どうだ皆、自分達が住まう街の灯は」 「うん、綺麗!凄く綺麗よ……世界がこんなに輝いてるのに、アタシっ」 「それ以上は言いっこ無し。エルナちゃんも、この光景を楽しむんだよ」 「そうですよ。ほらアレ見て下さい!東京タワーですよ、東京タワー!」 「夜空の星はちょっと見辛くても、夜の灯火はまた綺麗ですの~……♪」 その自制が奏功し、皆は輝く夜の街並みに釘付けとなっている。無論私も 東京の美しさを再認識して、荒み気味の“心”が満たされるのを感じる。 陳腐とは思うが、こういう些細な事さえも……今なら大事に思えたのだ。 そして最上部へ差し掛かった辺りで、私は話を切り出してみる事とした。 「……さてと、まずは今日の修理で何をしたか。それを告げねばならん」 「修理、ですか?あたし達は全身のモーターと、電装機器が不調で……」 「とても立ってられなくて、セーフティが起動したんだよ。大丈夫かな」 「有無。それらの交換・修理は無論だが、CSCへの負荷が大きかった」 正直、今告げて良いかは悩んでいた。だが、この後にもっと重大な告白を せねばならん以上は、この程度なら『大事の前の小事』と言えるだろう。 私は、少し不安げに見つめる四人を膝に乗せて“治療”の内容を告げる。 「そこで損耗が軽微な“プロト・クリスタル”の情報を利用したそうだ」 「利用?それって、データの補強に別のCSCを用いたって事ですの?」 「そうだ。現行型CSCの論理ダメージは、そうして修復したらしいぞ」 そして物理的な傷は、Dr.CTaが持つマイクロマシン用の技術で回復した。 その辺をどうやって直したのかは、私には分からぬが……恐らく彼女なら 後顧の憂いがない程度に“傷”を修復してくれた、そう私は信じている。 「そしてエルナ。お前の“CSC”も、同様の方法で修復したと聞いた」 「えッ!?ちょっと、CSCって……アタシにそんなのが入ってたの?」 「有無。当然、現行型CSCではない。もう一つの“プロトタイプ”だ」 「じゃあ……これでエルナちゃんは、正真正銘“神姫”になれたのかな」 「更に言えば、本当の意味であたし達の“妹”にもなりましたね……♪」 それはロッテのCSCが正式に認可される程度に、CSCと酷似した珠。 神姫の試作品が源流ならば、それも必然だったのだろうが……エルナに、 “心”が宿るのを拒む者が居なかったのは、これで確かとなったのだッ! 「やっぱりエルナちゃんは、愛されてましたの。そしてこれからもっ♪」 「う、うん……アタシにも“心”……“真心”が、宿ったのかしら?」 「無論だろう。四人とも、各々の“真心”を得て蘇ったのだ。大丈夫!」 恐らく同じ修理法は何度も使えぬだろう。それだけの“離れ業”なのだ。 だが、Dr.CTaがそうして皆を蘇らせた事は……私達にとって特別な意味を 持つだろう。“魂”が神姫にあるならば、その繋がりがより強固な物へと 進化したという事が、言えるのだからな。私にとっても、誇らしい事だ! 「そっか……じゃあ、アタシもお姉ちゃん達の大切な“妹”になれる?」 「勿論ですの!エルナちゃんは、これからもずっと大切な存在ですの♪」 「ボクらも……アルマお姉ちゃんも、ロッテお姉ちゃんも……なのかな」 「それは、マイスターの“告白”を聞けば分かると思いますよ……うん」 「そうだな。では今こそ、言おうではないか……っと!?ちょっと待て」 そして“様態”の説明が一区切り付いた所で、皆の視線は私へと集まる。 そう、いよいよ告げねばならぬ時が来た……と思ったのだが、見ると外の 風景は、輝く夜景から元居たビルの谷間へと戻ってきていた。そう、今は 観覧車の中……一周してしまえば、降りなければならない。迂闊だった。 「う、うぅむ……時間が来てしまった。場所を変えて、そこで話そうか」 「それがいいですの。ちょっといい雰囲気だったのに、残念ですの……」 「ぅぅ……じゃあ何処に往きますか?あたしは何処でも大丈夫ですけど」 「やっぱり、ロマンチックな場所がいいと思うんだよ。大事な事だから」 「アタシは……胸が熱くなる感じがしてたから、助かるわ。少し怖い位」 ──────私も怖いけど、だけど……とても胸が暖かいよ。 第五節:約束 場所の選定ミスによって、告げるタイミングを逃した私達。だが、ここで 諦めるつもりはない。という訳で、観覧車を後にした私達は海浜公園へと やってきた。潮騒の音が、優しく夜闇を揺らす……そんな静かな場所だ。 だが、どうも仕切直しとなった空気は重苦しい。何から話せばいい……? 「……ところでさ、マイスター。なんでアタシの名は“エルナ”なの?」 「む。いきなりだな、エルナや……そうか、名前の由来が知りたいのか」 「そうみたいなんだよ。ボクは、お店の名前からもらったんだけど……」 「あたしもですね。“ALChemist”から一文字もらってます……あっ!」 そんな雰囲気を撃ち払ったのは、エルナだった。そう、“妹”の名前には しっかりと意味がある。店名から、ドイツ人女性の名を導き出したのだ。 “Alma”と“Lotte”、そして“Clara”に“Erna”。不思議か?だがッ! 「そう。エルナの“r”と“n”は、“m”を分解して捻り出した物だ」 「つまり“錬金術師”の名を冠する大切な神姫、って事になりますの♪」 「アタシも、同じ存在なのね……じゃあ残りの字は、どうするのかしら」 私の考えを聞いて、エルナは嬉しそうに……しかし、少しだけ不安そうに 私を見つめる。彼女の純粋な問いに対する答えは、私の胸にある。それは 少し照れくさい言葉となるが、“告白”の切っ掛けとしては上等だろう。 「まず、“ist”は“Christiane”……クリスティアーネから取った物」 「……なら残りの“h”はどうしますの?それが、気になりますの……」 「そうだな。“Herz”……ドイツ語で、“心”や心臓を意味する単語だ」 『え……?』 そうだ。皆の中心には“心”が……私の“心”がある。今から告げるのは それを確固たる物とする為の、誓いの儀式だ。言葉は、選ばねばならん。 「エルナ。新しく私達の“妹”となる、気高き紫の姫君よ」 「な、何?……マイスター、何でもいいわ。話して……」 「お前を解き放った以上は、終生まで側にいてもらうぞ?」 「これ……首飾り?お姉ちゃん達と、お揃いの……?」 私は、答えを待たずポケットから一つのペンダントを取り出して、彼女に 付けてやった。そう、私の……歩姉さんのペンダントを元に作り上げた、 五人お揃いのペンダント。これがエルナに与える、“約束の翼”である。 何れは此処に神姫バトルの階級章を嵌め込む。そうして完成する逸品だ! 「……クララや、静かなる翠の姫君よ」 「何、かな?マイスター……」 「智恵と、秘められた優しさ。これからも大事にしてほしい」 「……大事に?……それは……」 クララは答えを紡ぎ出そうと俯き何かを思うが、私は更に皆へと告げる。 四人もいるのだ、一々区切るよりは一遍に告げてしまった方が楽だろう? 「アルマよ。陽の如き、明るき紅の姫君」 「は、はいっ!?」 「お前の暖かさと“姉”としての矜持は、皆を支えていくだろうな」 「ぁ……支えるだけじゃ、ダメなんです……その……」 アルマは反論しようとしたが、そこで一端言葉を句切った。そのまま私は 残った一人へと、そして皆へと想いを告げる事とする。血が沸騰しそうな 感覚を堪えて、私は言葉を絞り出す。最早、隠す事は出来ないのだから。 「……そしてロッテ、澄み切った蒼の姫君よ」 「はいですの♪」 「お前は、純粋な“心”で私の……皆の力となった」 「……そう言ってもらえると、光栄ですのっ」 「そして、皆……今だけは、私の『本当の言葉』を伝えたい」 『はい……』 それは、遠い昔に棄ててきた私の“弱さ”。しかし、完全に捨て去る上で 彼女らに、それを伝えないといけなかった……ううん、伝えないとダメ。 私の弱い所も強い所も、全部……何もかも皆に見せないといけないから。 「コホン……皆、とても大切。『好き』とか『愛してる』だけじゃない」 「ま、マイスター……?」 「もっともっと純粋な『大切にしたい』って想いが、私にはあるんだよ」 「……マイスター、その口調……」 「でも、それを一言にしちゃうなら……やっぱりこうなっちゃうかな?」 「ずっと前、お店を立ち上げるより前の……弱かった頃の言葉ですの」 「だから、私は言うよ。アルマ、ロッテ。クララ、エルナ……四人とも」 「う、うん……何?」 そう……これは私が弱さを棄てる前に、歩お姉ちゃんと話していた言葉。 今この時は、この言葉で語りたい……だって、止められない想いだもの。 それはたった一言。陳腐でも、飾らなくてもいい。偽れない大切な言葉。 「“大好き”だよ……皆」 『あ……!?』 その言葉と共に、私は皆の小さな……とても小さな唇と、優しく触れる。 堅い殻の躯だけど、それでも“心”はとても甘く切なくて……暖かいの。 だけど、それを認識したから……私はやっぱり、素直になれないのだな。 「……は、はは。今更生き様は換えられぬが、雰囲気もあるしな?」 「マイスター……」 「だから今だけは、あの言葉で想いを……な、何だクララや?」 そう言い、照れながらも調子を戻した私の掌に乗るのは、クララだった。 彼女は、心なしか潤んだ様に映る“琥珀色の瞳”で、私を見つめている。 「異形を抱えて消えかかったボクを救ってくれたのは、貴女なんだよ」 「……う、うむ。そうだったな」 「その時から、ボクの“心”にはずっと貴女がいたもん」 「クララ……?」 「だから、ボクも言うよ……掛け替えのない大切な人に“大好き”って」 「んむ……ん、ぷは。クララ……むぐぅ!?」 そして私の唇に押しつけ返される、クララの小さな唇。そっと抱きしめる 私の手中で、彼女は身を退き……アルマへと、身を譲った。彼女もまた、 私の唇を奪い……そして、泣きそうな儚い笑顔を浮かべつつ言ったのだ。 「ん、ん……あ、アルマっ?」 「支えるだけじゃダメです。あたしも、皆を愛して……愛されたいから」 「アルマ、お前……」 「だって貴女の“心”が、あたしを暖かくしてくれたから……だから」 「……有り難うな、本当に」 「いいんです、一生お返しするんですから。“大好き”な人に……ね?」 涙が零れる。だが、皆の思いが籠もった“琥珀色の瞳”を見逃すまいと、 私はずっと皆を抱きしめながら、その想いに応えていくのだ。次に、私の 前に現れたのはエルナ。彼女は、頬を真っ赤に染めながら上目で告げた。 「……正直ね?まだ、何もかも信じ切れたわけじゃないの」 「エルナ……それは、そうだろうな」 「だけど、貴女達なら……お姉ちゃん達と貴女なら、信じてみたいわ」 「……そうか」 「“命”と“心”を掛けて救ってくれた皆を、“大好き”って言いたい」 「──────ッ!」 「それが、アタシの“真心”。素直じゃないけど、赦してね?……んっ」 「ん、む……んぅぅ!?」 エルナの告白と共に、私の唇は三度……そして四度塞がれる。最後に私へ “純潔”を捧げたのは……他ならぬロッテだった。彼女は、とても明るく 私に微笑みかけて、そして紅潮する顔をそっと抱きしめてきたのだ……。 「人と神姫では、歩いていける時間が違いますの。永遠は無理です」 「ロ、ッテ……?」 「だけど、全ての時間を“大好き”な人と共に使いたいですの♪」 「あ……ロッテ、皆……ッ!!」 「だって、本当に“大好き”なんですから……貴女の事が」 「……ぐす、みんなぁ……ッ」 「だから万一人間の恋人さんが出来たって、問題ないですの~♪」 「ッ……ばかぁ、っ!」 ロッテの“告白”を受けて、四人が私を見上げる。堪らなく、愛おしい。 私は優しく抱きしめた。小さな殻の躯に詰まっているのは“空”ではなく 純粋で穢れのない“心”。その眩しさで、また私の視界は潤んでしまう。 私は、ずっと……愛しい“妹”達を抱きしめて、歓喜の涙を流していた。 彼女らも、その想いは同じだろう……それがまた嬉しくて、微笑むのだ。 「ぐす……私の“弱さ”を見せたのはお前達だけだ、そして……だなっ」 「今後“弱さ”を見せる事は多分無いだろう……って言いたいのかな?」 「それでも大丈夫ですよ。今の……マイスターの“心”は、皆の中に!」 「ちゃんと刻まれたわ……大丈夫、忘れない。貴女の全てと共に歩むの」 「だから、もう一回だけ。皆で“告白”しますの♪いっせーのーせっ!」 『マイスター……“大好き”ですッ!!!!』 ──────私も、“大好き”だよ……。 ──武装神姫……小さな戦乙女。人と機械の垣根を越えて、そんな君達に 出会えた喜びは、ずっと朽ち果てない宝物だよ……小さな私の“妹”達。 皆で、ずっと一緒に歩んでいこうね。それが、皆の“願い”だから──。 妄想神姫:本編 / Fin. メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2005.html
ichguc改めレイキャストです。まだまだ表現は未熟なところはありますが、楽しんでいってください。 キャラクターの項は後々加筆する予定です。 コラボ大歓迎です!! 作品目標:「リリカルなのは」みたいに矛盾だらけになっても進める!! 主な登場人物 主な登場神姫 用語解説 最新情報 2009.8.21 最新話をうp。 2010.4.13 最新話をうp。それに伴いページ名を一斉変更。 「The Armed Princess Zero」(岡島士郎と愉快な神姫達・HOBBY LIFE,HOBBY SHOPより、勝手にキャラ抜粋) プロローグ 零之壱 零之弐 零之三 「The Armed Princess -武装神姫-」 第壱話:始まり 第弐話:戦い(微エロ注意!) 第三話:特訓 第四話:潜入 第五話:敗北と挫折(軽い破壊描写有り) 第六話:新たな始まり 第七話:ライバル登場!? 第八話:決戦前夜 第九話:虚実と現実 第壱拾話:脅威(エロ描写有り) 第壱拾壱話:押しかけ妹?! 第壱拾弐話:戦端、開かれたし 第壱拾参話:トランザム 第壱拾四話:異端者 第壱拾五話:嫉妬の炎は燃え上がる!? 第壱拾六話:話せばわかるって!! 第壱拾七話:銃声は深淵の中に 第壱拾八話:狂気渦巻くは暗闇の果て 第壱拾九話:勝者には栄光を、敗者には屈辱を 第弐拾話:復活の白き刃 第弐拾壱話:巨人と戦乙女 番外編シリーズ「出会い」 その壱:アカツキの場合 その弐:ドライの場合 その参:無頼の場合 以下の作品より、キャラ及び設定などを借用させていただいております。 魔女っ子神姫☆ドキドキハウリン HOBBY LIFE,HOBBY SHOP おまかせ♪ホーリーベル 武装神姫のリン ホワイトファング・ハウリングソウル ウサギのナミダ キズナのキセキ 本日のアクセス数: - 昨日のアクセス数: - 合計アクセス数: - ツッコミ、感想その他があればジャンジャンバリバリこちらへどうぞ。 コメントが少ない事に嘆いてらした様なので、少々書かせて貰います 背景が某作などから取りすぎではないかと思いますし 其処まで風呂敷広げなくては駄目な構成なのでしょうか? その為か今一作品に入り込めないんですよねぇ それに軍用が有るってのはは行き過ぎかな 昨今のリアルな軍事状況等を考えれば、有り得る話ですから、使いたい気持ちは解りますけど、神姫なんですからねぇ 作品として面白いだけに蛇足に見えてしまい、今までコメントを書けずにいました 走り出した話は完結まで頑張って欲しいので、偉そうな事書かせて貰いました 御不快な思いをさせてしまったのでしたら謝罪いたします -- (貴作の一読者) 2010-06-09 02 04 51 一読者様> いえいえ。むしろコメントしていただいてありがとうございます。 言われてみれば今更ながら少々広げすぎた感も・・・。(^^;) 結局出せたの1勢力だけですからね・・・・。OTL これからもよろしくお願いします。m(_ _)m -- (ichguc) 2010-06-09 12 59 31 どうも、「The Armed(ry」の作者のichgucです。 突然ですが、現在文化祭ネタを考案しています。 そこで、趣向を凝らしたバトルを開催する予定ですが、皆様の作品のキャラを 「一般参加者」として出演させたいと思っています。 希望される作者様は当作品のコメントにて、お申し付け下さい。 -- (ichguc) 2010-06-19 12 10 54 スピード感が難しいですねぇ 原典アニメで見てるから解りますけど(笑) 終わってからの時間が中途半端なせいかなぁ? 逆に勢力とか以外では単語使わない方がすっきり纏まるかもしれません まぁ「トランザム」は今更引っ込め無いから仕方無いとしてもMS名の出番は減らした方がと思えます 勿論作者様がお決めに成る事ですけどね 最後に神姫募集についての質問です 作品は出してませんが以前開催されたウキウキバトルに参加した神姫でも宜しいでしょうか? 尤もリアルバトルで破壊される役とかに出されのは勘弁願いますがね -- (触神) 2010-07-08 04 41 07 なるほど・・・。検討してみます。 一般参加の件、ありがとうございます。 それと、神姫の名簿(名前とタイプなど)を書き込んでいただけると幸いです。 -- (ichguc) 2010-07-09 10 25 02 参加OKって事だと判断しましたので、書込ませて貰います ストラーフのラプラス エウクランテの六花 性格なんかは公式掲示板内「神姫達の日記」の私の投稿を読んで貰えれば(笑) リアル破壊以外でしたら使われ方に文句は言いません -- (触神) 2010-07-10 02 39 20 触神さま> そういわれて神姫NETを探してみましたが・・・ありませんでした。(TT) 具体的にはどこの掲示板でしょうか? -- (ichguc) 2010-07-14 09 53 24 説明が足りませんでしたね失礼しました 神姫net メッセージ掲示板 投稿№657 神姫たちの日記【5冊目】(二次創作トピ) 一冊目からチョコチョコ参加させてもらってました 参考までにどうぞ -- (触神) 2010-07-16 18 41 11 拝見させて貰いました。 六花は性格からして・・・偵察兵か支援兵でしょうか? ラプラスは・・・まあ、突撃兵か技甲兵にでもしておきます。 お楽しみにww -- (ichguc) 2010-07-19 08 35 56 改名しました。これからもよろしくお願いします。 -- (レイキャスト) 2011-01-10 15 51 38 他のSSで出切って無い神姫まで使っちゃうのは如何でしょうかねぇ?それもボスクラスを、向こうの作者さんが許可してたらスミマセン -- (通りすがり) 2011-03-03 13 24 38 名前 コメント すべてのコメントを見る