約 6,956 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6873.html
前ページSnakeTales Z 蛇の使い魔 「はぁ……。」 「この1時間で26回目の溜息です。何かあったのですか?」 アンリエッタの向かいで紅茶を傾ける女剣士。名はアニエス。 引き締まった戦士の体に、爽やかで整った顔立ち。 身にまとっているのが鎧である点が少々残念である。 「何でもありません。」 「でしたらもう少ししゃっきりなさってください。民が見たら心配します。 ただでさえ現在、枢機卿がいないというのに、民の不安をあおるのは良くありません。」 剣士というよりこれでは女秘書だ。 「枢機卿はどこに行っていられるの?」 「ロマリアです。」 「最近よくロマリアに行っているようですね。ロマリアに何かあるのでしょうか?」 「枢機卿にお聞きください。」 あらあら。 この女剣士、有能なのだけど愛嬌が無い。 本人に聞けば「必要ない。」とでも言いそうだけど。 「婚期を逃しますよ。」 「ご忠告どうも。姫はご結婚おめでとうございます。」 「んもう。意地悪ですわね。」 もちろん、この剣士は私がこの結婚をあまり快く思っていないことを知って言っている。 「結婚なんてするもんじゃありませんわね。」 「結婚した人はみんなそう言うそうです。」 言葉のいたるところに棘を感じる。 ただ、怒っているのは結婚についてではなさそう。 そんなに仕事を中断して私とおしゃべりするのがイヤかしら? それともこの前また私が勝手に白から抜け出したのを気にしてるとか。 心当たりはいくつもある。 「……あなた私のこと嫌いでしょう?」 「何をおっしゃいます。愛していますわ、ひ・め・さ・ま。」 無表情で言われてもときめかない。 もっとこう、頬を赤らめて「あ、愛しています。」とか言われればキュンと来るのに。 素材は良いのにもったいないわね。ちょっと着飾ればどこぞの令嬢にも見えることだろう。 私に冷たく当たった罰として、絶対フリフリのドレスを着させてやる。 今からテンションが上がってきたわ。 「で、何かわかった?」 「……。」 スネークにしては珍しく驚いているようだ。 思わぬところでレア顔ゲット。 そんなにこの黒い筒みたいなものが珍しいのだろうか? こっちの小さい箱に入っていたものはスネークの持ってる、ソーコムとか言うのに似ているけど……。 「……他に何か入っていたものは?」 「真新しい服が入ってたわ。はい、これ。」 オレンジ色に黒い斑点のような模様がついている服を手渡す。 変な感触の帽子も入っていた。とてもおしゃれとはいえない帽子だが、何かわかるかな? 「悪い冗談だ。」 ため息をつくスネーク。何かわかったのだろうか? 「なんなのよ?何かわかったなら教えなさい!」 「そっちの長い物と小さいのは銃。こっちの服は野戦服だ。」 それだけ言って何か思い出すような顔になるスネーク。 少し邪魔をしてしまったかもしれない。 でも、もう少しやさしく言ってくれてもいいのに。 オレンジ色をベースに黒い迷彩。そしてセットとしてスカルキャップとソフトヘルメット。 あのビッグ・シェルでゴルルコビッチ傭兵部隊が制服としていた戦闘服だ。 それだけじゃない。一緒に『AKS-74U』と『PMM』が入っていた。 これらは全てビッグ・シェルのシェル1中央棟を警備している兵士の兵装だ。 ビッグ・シェルの記憶がよみがえる。 俺は架空のSEAL隊員『イロコィ・プリスキン』として海洋除洗施設『ビッグ・シェル』に潜入した。 目的はビッグ・シェルを占拠したテロリスト集団『サンズオブリバティ』をとめるため。 そこでスネークはある青年に出会った。 ダークブルーの新型スニーキングスーツ、銀色の髪、整った顔立ち。 彼も任務でテロリストの武装解除のため潜入していた。 所属はなんと『FOXHOUND』。だが、スネークの後輩というわけではない。 このとき既に『FOXHOUND』は解体されており、存在しない部隊なのだ。 ――お前名前は? ――……雷電だ。 ――ライデン?変わったコードネームだ。 ――本名は平凡だ。 ――そうか、いつか聞けるときがくるかもな。 アレから一年。彼は今どこで何をしているのだろうか。 拾った武器を観察する。 AKS-74UはさすがAKシリーズというべきか、目立った損傷はなく、普通に使えそうだ。 どこか室内で一度分解して見る必要はあるが。 だがPMMは違った。どういうわけかスライドがうまく動かないうえ、撃鉄もしっかり降りない。 無理に動かせばバキンと逝きそうだ。 これは使えそうに無い。残念だがこれは置物だな。 幸い、ハンドガンは既に持っているので困りはしない。 ふと周りが妙に静かなのに気がつく。 全員が俺の手元を見ている。ああ、自分の世界に入りすぎていたな。 「すまない。この宝物……長い銃のほうだが、貰ってもいいか?」 「君以外に持っていて意味がある人間なんていないだろう?」 ギーシュが答える。確かに、ここにいるのはシエスタ以外がメイジだ。 銃に頼ることなど無いだろう。それに、シエスタが戦うことなんてまず無い。 ごみにするくらいなら貰ってくれということか。 「こっちの服とかは?」 「ちょっと見てみたが、戦闘服はサイズが小さすぎる。スカルキャップも同じだ。持っていても意味は無い。」 「この帽子は?」 「帽子じゃない。ヘルメット、まあ言ってみれば兜だな。」 しげしげとタバサがヘルメットを観察している。 あ、ヘルメットをかぶった。なにやら満足げだ。一体何が彼女をひきつけるのか。 「ほしいならやるぞ。」 こくんと頷く。本当に貰っていくとは思わなかった。 そんなタバサをボーっと見ていたらいきなりルイズに耳を引っ張られた。 「いきなりなんだ?」 ぷいとそっぽを向かれた。……俺が一体何をしたんだ? 食事――それは生き物にとって無くてはならないもの。 食事――それは戦場で必要な栄養を摂取するための必要な軍事行動。 食事――それは戦場での数少ない快楽の一つ。 かつて、兵士が一週間食べ物を食べなくても戦闘が行えるように強化する研究が行われていた事もある。 ただ、現場の兵士はというと「ふざけるな。俺達から楽しみを取らないでくれ。」と、たいへん不評だったそうだ。 ルイズ一行はそんな重要な軍事行動の真っ最中だ。 「……。」 「……。」 ……楽しい楽しいお食事タイム、のはずなのだ。 先ほどまでハイテンションであったが、一段落して、疲れが彼女らの体にのしかかってきたようだ。 もはや喋り声は聞こえない。興奮から醒めればこんなものだ。 「……はぁ。」 こう何日もベッドで眠っていなければ溜息も出るものだ。 そもそも彼女らは戦闘訓練を受けたことはない。 何日も野宿が続くと流石に疲れる。 ……タバサはわからないが。相変わらず涼しい表情をしている。 ひょっとして何処かの特殊部隊員だったりしてな、とか考え、自分でありえないと突っ込みを入れていた。 「皆さん、元気が無いですね。」 「疲れたんだろう。そっとしておいてやれ。料理がまずいわけじゃないから安心するんだな。」 シエスタとスネークだけはそんな事も無くいつもどおりだ。 そもそもシエスタは戦闘に参加していないし、メイドの仕事のおかげで体力には自信があった。 スネークは言わずもがな。もはや不死身の男である。 まあ夜通し精神を張り詰めて、潜入任務が出来るのだ。これくらい問題は無い。 「……明日あたりを最後にしましょうか。」 キュルケが提案する。その外の面子は無言で賛成した。 もうこのまま帰っても良いんじゃないか? 「次はどこにするんだ?」 「……ここから近いタルブの村ってとこ。」 「あ、それ私のふるさとです。」 「ほう、どんなところだ?」 「何にも無い村ですよ。……でも、みんな優しくていい村です。」 シエスタとスネークの間でのみ会話が弾む。 にこにこしたシエスタを見ていると疲れが取れるというものだ。 「そうだ、スネークさんに私の家族を紹介しますよ。」 「そうか。楽しみにしておこう。」 えへへ、と無邪気に笑うシエスタ。 少しルイズから殺気のようなものを感じたが、気のせいという事にしておく。 どうせ何かされても死なない自信はある。 ヨシェナヴェというシエスタの郷土料理は思った以上に美味しく、 味はかつてオタコンと一緒にやったニッポンの『ナベ』に良く似ていた。 食後、シエスタとキュルケ、ギーシュはさっさと寝てしまった。 スネークは火の番をしているのだが、隣でルイズとタバサが本を読んでいる。 タバサのほうは……なにやら難しい魔法生物の教科書みたいなものだ。 だがルイズの読んでいる本のタイトルが読めない。擦り切れている。ずいぶん古い本のようだ。 「ルイズ、何を読んでいるんだ?」 「始祖の祈祷書。」 タバサがぴくりと動く。知っているのだろうか。 「なんだそりゃ?」 「始祖ブリミルが残した本。でもなーんにも書いてないわ。」 「本の役割を果たしてないじゃないか。」 「私に言わないでよ。」 あきれた始祖だ。暗号ならともかく、文字すら書かれていないのでは誰も読めないじゃないか。 「で、どうしてそんなものをお前が持っているんだ?」 「あれ、言ってなかったっけ。姫さまの結婚式のとき、私が詔を詠むのよ。」 「そいつはすごい。そんな大役、よく引き受けたな。」 「うん。自分でも後悔してる。」 頭を抱えてる。一体何を後悔してるのやら。 「どんな詔を詠むんだ?」 「……まだ少ししか考えてない。」 「詠み上げてみろ。」 少し間を空けて、咳払いをしてから読み上げた。 「この麗しき日に、始祖の調べの光臨を願いつつ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 畏れ多くも祝福の詔を詠みあげ奉る……。」 ふむ、とあごに手を当てて耳を傾ける。ルイズの綺麗な声で詠まれ、大変心地良く聞こえた。 ここからどんな詞が続くのかと期待していたら、それきりルイズは黙ってしまった。 「どうした、続きは?」 「これから、火に対する感謝、水に対する感謝……、順に四大系統に対する感謝の辞を、 詩的な詞で韻を踏みつつ詠まなきゃならないんだけど……。」 「詠めばいいじゃないか。」 「詩的な表現とか言われてもわからないわよ。スネークは何か思いつかない?」 「俺は詩人じゃない。悪いが力になれないね。」 はぁ、とため息をつくルイズ。頼りにならなくて悪かったな。 「まあ仕方ないわよね。今日はもう寝るわ。」 立ち上がって自分のハンモックへ歩いていってしまった。 隣のタバサは先ほどと変わらない様子で本を読んでいる。 この子は疲れていないのだろうか? 「……。」 風が木々を揺らす。 火の爆ぜる音が時折聞こえる以外は静かなものだ。 そんな時、タバサが声をかけてきた。 「銃。」 「なんだ?」 「見せて。」 「……。」 あまり乗り気になれない。なぜ見る必要があるのか? 「どうして?」 「変にいじられたらかなわん。」 タバサの視線が痛い。 「お願い。」 「……見て何をするつもりだ。」 「何も。見るだけ。」 しぶしぶM9をマガジンを抜き、スライドを引いて薬室内の弾丸を抜いてから手渡す。これなら暴発しない。 いろんな角度から角度から観察している。そんなに興味があるのか。おっと、銃口はのぞきこむんじゃない。 「何がそんなに興味を引くんだ?」 「いろいろある。」 それきりタバサは黙ってしまった。まあいつも黙っているが、それとは違った黙り方だ。 「悪かったな、色々聞いて。」 「別に。」 人に深く干渉するなんて、柄にもないことをしてしまったな。 「どうした相棒。元気が無いじゃねえか。」 「別にどうもしていない。」 剣の癖して鋭い。 いや、剣だから鋭いのか? 「あの娘っ子は気にしちゃいないと思うぜ。」 「誰がタバサのことだと言った?」 「俺も『娘っ子』としか言ってないがね。」 デルフに表情があったなら今頃ニヤニヤしているだろう。 そんな声をしている。 「……。」 「おいおい、怒るなよ。」 「怒ってない。」 「うそつけ。」 くくく、と笑い声が聞こえる。性格の悪い魔剣だ。 やはり伝説というのは会えば伝説じゃなくなる。 「変な遠慮はあの子が嫌がるからやめるんだな。」 「人間関係を剣に教えられるとは思ってもみなかった。」 目の前の焚き火を使って煙草に火をつける。 疲れが煙とともに身体から抜け出すようだ。 ゆっくりと口から煙を吐き出す。 「お前よりも長く人生を歩んでるからな。なんでも聞いてくれ。」 剣なのに『人生』とはこれいかに、など余計なことを考えながらデルフに問う。 「じゃあお前の話をしてくれ。」 とたんにデルフが黙る。 また地雷を踏んだか? 「あー、俺も長い人生でね。あんまり覚えてないな。 昔お前と同じガンダールヴが振っていたことぐらいしか覚えてないんだな、これが。」 「記憶喪失か?」 「ただの物忘れだな。いやー長く生きてるのも大変だねぇ。」 能天気な奴だ。 それにな、とデルフがつないだ。 「自分の話をするのは苦手なんだ。俺はいつも誰かに使われる人生を送ってきた。 自分であそこに行った、アレをやったってのが無いのさ。 ま、それが俺の役割だし仕方ないし、不満も無いがね。」 「……そうか。」 「相棒はどうだ?」 しばらく考える。昔の記憶はあまり良い物ばかりではない。 話し声がうるさかったのだろうか?後ろのハンモックでルイズが寝返りを打った。 「……どんな話をしろと?」 「何でもいいさ。どんな子供時代だったとかそんなんでいいぜ。」 子供時代……どんな子供だったか。 記憶の糸を手繰っている途中、ある男の言葉を思い出した。 ――お前の趣味を当ててやろう。いや、過去というべきか。 ――うーん。何も無い。お前の記憶はカラッポ。 「ん?」 「どうした、相棒?」 「いや……。」 俺には未来も過去も無い。 俺にあるのは、ほかでもない『今』だけだ。 振り返ることには意味が無い。 「で、どんなんだったんだよ。」 「……あいにく過去は振り返らない性分でね。秘密だ。」 「ちぇ。」 「いい男には秘密はつき物だ。」 野郎にそんなもの必要ねえ、とわめくデルフを鞘に押し戻す。 これ以上は遠慮してもらおう。騒音も、詮索も。 前ページSnakeTales Z 蛇の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5979.html
前ページ次ページ鋼の使い魔 夕陽に染まるアルビオン、ロサイス港。 見下ろす地平線を背に、艤装を完了した『レキシントン』号の甲板上に主要各艦の長が整然と不動のまま並んでいた。 彼らの前に設えられた台上には『レキシントン』号艦長ボーウッド。今回の親善艦隊の総指揮を貴族議会から任命されたジョンストン卿。 その他旗艦参謀員が並び、目の前に並ぶ艦隊構成員達を視界に収めている。 ジョンストンは一歩踏み出して声を張った。その声は制音【サイレント】の応用によって甲板上はもとより艦隊各艦へと伝えられ、総ての船員達に聞こえるようになっている。 「諸君。愚かなる旧アルビオン王家との輝かしき戦いを乗り越えた英雄諸君。ここに停泊する戦列艦30、非戦列艦20にて私の声を聞いている英雄諸君」 …アルビオン内乱の折、ジョンストンは自らは決して前線に出ることはなかった。レコン・キスタに所属し、王家に反目はしたものの、 明らかに積極的に王軍打倒に参加しなかった。 彼は日和見に徹し、今、ここにいた。 「我々はロサイスを出発し、トリステイン領空上にてかの国の艦隊と合流した後、トリステイン中部からゲルマニア南部、そしてそこより南西に進路を取り、 帰国するものである。かの国の者たちに我々神聖アルビオン帝国が、始祖の権威に安座し怠惰に国を治めるあの者らへ、我らが彼らに劣る事無く、 優越する国の品格を有するものである事を示して欲しい」 訓示が終わるとアルビオン式の敬礼と足を揃える音が乱れる事無く木霊する。 ジョンストンが下がり、変わってボーウッドが前に出た。彼は自身も敬礼し、台上に向かった。 「当艦各員。此度の航路は当艦としては初めてとなる。さらに新艤装後とあっていくつかの面において操作上の変更をきたす箇所もあるだろう。 だが諸君らはいささかの懸念を持つ必要は無い。いつもどおりにやってくれ。 もっとも…船上の常だ、『不測の行動』も迫られるだろうが、この船で共に過した各員の冷静沈着なる行動に期待する。以上だ」 艦長の敬礼に答えるように、眼前の船員達の敬礼が返される。 それは乱れはおろか、たった一つの大きな音として帰ってくる。ボーウッドは我知らず満足げに頷くのだった。 台上で訓示や指示が行われる中、黄昏る船の陰に入るようにして集団を見つめる一人の男がいた。 お決まりの魔法衛士大隊兵制服と、唾の広く取られた羽帽子だ。…しかし今は、帽子が深く被り直されていて顔色が窺えない。 号令とともに船員達が解散し、台上にいたボーウッドとジョンストンも艦橋に向かう通路に向かう。するとワルドが当然のようにその中に入った。 「見事な演説でしたなぁ、艦長、総司令殿」 嘗ての彼を知るものがいれば随分と衝撃を受けるだろう、実に剣呑とした調子でワルドが二人に声を掛ける。 それにボーウッドは憮然としていたが、ジョンストンの方は機嫌よさ気に答えた。 「おお、子爵殿。正直言って、緊張しっぱなしだったよ。壇上に君を乗せられず閣下に悪かったと思っているくらいでね」 「とんでもない。私はあくまで客将。『不測の行動』までなんの配役もない、ただの乗り合いだ男に過ぎません。そうですな、艦長?」 ボーウッドは押し黙ったまま、視線を通路に向けている。 「…親善訪問の『概要』は委細承知している。だが少なくともラ・ロシェールの合流地点までは子爵、君はまさに乗り合いだ客人に過ぎない。そこをわきまえてもらう」 「結構結構。大いに結構…」 くっくっく、と篭る笑い声がワルドから聞こえて、ボーウッドはさらに表情を渋くするのだった。 その日、アルビオン空軍艦隊は一等戦列艦『レキシントン』を旗艦としてロサイスを出港。ラ・ロシェールまでの航路を夜間航行で進むのだった。 『開幕、長い一日』 夜の帳が下りた、トリステイン魔法学院。 既に夕食の時間も終わり、後はもう寝るだけ。勿論、眠らずに思い思いに夜を過す者も多い。 幸か不幸か、そんな眠らない住人の一人にギーシュはいた。ただ、普段であればそれはモンモランシーか自分の部屋、なのだが、今はコルベール研究塔前にいる。 目の前には木材に布を張った大きな天幕の下で、掲げられたランタンに照らされる半壊状態の『飛翔機』があった。 ギーシュが昼間、ちょっとした好奇心から『飛翔機』を動かした時、誤った操作により完成したはずの飛翔機に早急の修復を必要とする損傷が加えられたのである。 具体的には、風を掴むために計算されて作られた鉄枠が歪み、そこに張られた布が破け、後部にある噴射推進器の二本一組が使えなくなっている。 大慌てで駆けつけたコルベールとギュスターヴだったが、結局のところ夜も更けた今になっても修理が終わらずにいた。 ギーシュは指示されて資材置き場から織られたままの白い布生地をせっせと持ち込み、コルベールは飛翔機のフレームから羽布を剥し、 ギュスターヴは新たに鋼材を取り出して足りない部品を作っている。 「ミスタ・コルベール…まだ終わりませんか…?」 当事者とはいえギーシュはかなり疲れていた。 「機体前面を作っている鋼材を凡そ全て点検しなければいけないので、もう少しですかな…」 そう言ったコルベールは剥ぎ取った鉄の棒を見定め、使えるものは歪みを直し、使えなさそうなものをより分けている。 「明日からアンリエッタ王女の婚礼儀式が始まるから、学院全体の人も減る。そのうちに飛行実験をする予定なんだよ…」 ため息も漏れそうなギュスターヴから『お前のお陰で余計な仕事が増えたじゃないか』といわんばかりの雰囲気がギーシュに伝わってくる。なんとも気まずい。 「う…で、でもさ。誰が見たってこんなもので空を飛べるなんて思わないよ。…いい所、フライフィッシャーの模型か何かにしか見えないじゃないか」 と抗弁するギーシュ。ちなみに『フライフィッシャー』とは、アルビオンの洋上軌道上に生息しているといわれる伝説上の生き物である。 その姿はロマリア南方の海で見られる巨大なエイに似ているという…。 半刻ほどしてから、流石に余り長い間引き止めておくのはかわいそうだからとコルベールはギーシュを解放してあげるのだった。 …結局、フレームの修理が終わったのが手元の時計の針が日付を越した頃だった。 「明日の朝一番で布を張り直せば、大体正午頃には飛行実験が出来ますな」 眼鏡を外して目頭を解すコルベールと、腰を伸ばしてトントンとするギュスターヴ。 傍目には大の男二人が奇怪な玩具をせっせとこさえているようにしか見えない。実のところ、学院に務める教職者たちは殆どがそのように思っている。 間抜けなコルベールめ、また奇怪な道具を作って遊んでいるな。と。 家を食い潰して道楽に励んでいるのだから、一般的貴族の価値観から見ればそのように見るのも当時は仕方のないところだった。 ギュスターヴはそっと扉を開けて、ルイズの部屋へと戻ってきた。 寝台では既にルイズが静かに寝息を立てている。 閉じきらないカーテンから漏れる、変わらぬ明るさで双月の光がルイズの頬に掛かっていた。 起こさぬ様に、そっと寝台の脇に丸められたマットを広げて、横になる。 「んぅ…」 「ん…?」 起こしてしまったか、と思ったが、むにゃむにゃとルイズから寝言が漏れている。 「あんたは……私の…使い魔……なんだから……」 …どうやらギュスターヴを夢に見ているらしい。せっかくの夢だというのに、眉をひそめて噛み付きそうな顔をしていた。 「……主人の……傍に……」 ギュスターヴは暫くルイズの寝相を見てから、やがて埃も立たない様にそっと頭を撫でた。綿のような髪が流れ、次第にルイズの眉間の寄り上がりが解れ、 相から棘が抜けて穏やかなものへと変わった。 「ん……」 ルイズが緩く寝返りを打つと、部屋に戻った頃と同じく静かな寝息が聞こえるようになった。 「嬢ちゃん最近はずっと机にかじりついてっから、色々と溜ってるんだろうよ」 壁に立掛けたデルフはそう言った。 「…ま、仕方が無い。婚礼の儀式とやらが終わったら、たっぷり面倒見るさ」 身に帯びるものを外して身体を伸ばし、静かにギュスターヴは眠りに付こうとした。 「相棒」 だが、再びデルフがまどろむ間際に声をかける。 「……なんだ?」 「相棒は何時まで使い魔やる気なんだい?嬢ちゃんが死ぬまでかい?」 うっすらと目を空けて、ギュスターヴは答えた。 「…ルイズが自分の道を見つけるまではここにいる。少なくとも」 「じゃあよ、そいつが見つかるまでは帰ることが出来ても帰らねーって言うのかい」 脳裏にタルブに住まう背の曲がった老人が思い出されては、消えた。 「そうおいそれと帰れるわけでもないだろう。…時間はあるさ」 幼い頃、自分が死んでも大地に還るアニマすらないのだ、とどこかで諦観した。 その思いは年を経てもギュスターヴの心の中に残っていた。深淵な洞の様な孤独に浸りながら、せめて今生きることを謳歌して、死ぬ時は死ぬ。そう決めていた。 なら、この生まれた地より遠く離れた異界だって生きるに都合が悪くもない。 「どこで何をしようと俺の勝手さ…なんて言うと、レスリーが怒りそうだがな…」 「なんか言ったか相棒?」 「なんでもないよ。…寝るぞ、起こすなよ」 どこか自嘲気味に笑うと、ギュスターヴは再び眠りにつくのだった。 ルイズはその時、一人小舟の上に居た。 妙だ。さっきまでギュスターヴが一緒にいたはずなのに。 「ここ…どこ…?」 自分の乗る小舟はオールも竿もなく、水の上を流れていた。 「ギュスターヴー、近くにいるんでしょー?」 四方に向かって使い魔を呼んでみても、何も返ってこない。地平の先はインクを落としたようにぼやけていて、響く音を吸い込んでいく。 「ぅー…」 恨めしげに鳴いてみても何も届かない。辺りは暗く、静かだった。 「もー、どこなのよここはー!」 苛立たしく水面をぱしゃぱしゃと手で叩いてみても同じだった。空は薄暗く、水面が鉛色に揺れるのが見える。 ルイズが途方にくれていると、薄暗い水の流れの先で、仄光る何かがこちらへと流れてくる。 それはルイズの小舟まで来ると流れてゆく事無く、小舟と併走するようにずっと近くに漂っていた。 「なにこれ…?」 ぐっと手を伸ばす。光る何かに手が届き、拾い上げた。 …それは濁りの一切ない大理石か何か、真っ白な石材から削りだしたと思われる卵のイミテーション(模造品)だった。 「綺麗…」 感嘆するルイズの両手に収まる大きさの卵は、石材特有の滑らかな手触りが掌に吸い付くようだった。 そしてそれはどこか…脈打っていた。手のひら越しに仔犬を抱いた時のようなしっとりとした暖かさが広がっていく。 それを感じると、今置かれた場所がとても淋しいものに思えた。暖かな卵の温もりが逆に心に安らぎを与えてくれる様でもあった。 孤独の中でルイズはやがて、親鳥が卵を抱くように卵のイミテーションを抱き込んで眠った。 小舟はそのまま闇の中を流れていく。夢の中で眠るルイズを覆う闇を、更に濃くしながら…。 翌日。朝食の時間が終わった頃、学院に王室の紋章の入った馬車がやってきた。 受付をする衛兵に馬車に乗っていた王宮の役人が告げる。 「ラ・ヴァリエール公息女ルイズ・フランソワーズ殿をお迎えに上がりました」 同じ頃、部屋でルイズは鞄に始祖の祈祷書を入れ、指には秘かに『水のルビー』を填めていそいそと支度に掛かっていた。 「これで準備はよし。…祝詞の原稿はもったし…」 ルイズはこれから王宮に上がり、諸侯と共に婚礼の儀式に参加するのである。 まず、夕刻から始まる諸侯の集まりに父ラ・ヴァリエール公と共に出席して翌朝、アンリエッタの一団と共にゲルマニア帝都ウィンドボナへと出発し、 彼の地で行われる式典で祝詞を読むのである。 ルイズの部屋をノックする者がいた。 「開いてるわ」 普段ならここでシエスタがやってくるのだが、帰省中のため別のメイドがやってくる。 「ミス・ヴァリエール。お迎えの方がお待ちになっています」 「もう少し待たせて頂戴。それほど時間はとらせないから」 そう言ってルイズはメイドを素通りして部屋を出て行く。 「あ、あの、ミス・ヴァリエール!何処へ?!」 「貴方は迎えの馬車まで行って待つように伝えなさい」 つかつかと足取り早くルイズは学生寮を出て行った。 コルベール研究塔前では晴天の下、修理の終わった飛翔機に布を張り直す作業に追われていた。 骨組みの上でピンと張られた布が継ぎ目を重ねるように貼り付けられている。継ぎ目から布が剥げるのを防ぐ為だ。 鋼材から作った骨組みに布を合わせ、しわやたるみなく鋲や接着剤で貼り付ける。鋲も飛行中に緩んだりしないように、接着剤を塗りこんで骨組みに打ち付けている。 「ギュスターヴ!」 ルイズはコルベール研究塔に寄って塔前の広場に広げられた作業現場にいるギュスターヴを呼んだ。 飛翔機の前で梯子に登っていたギュスターヴは振り向くとルイズに手を振り、梯子から降りて近寄った。 「今日はもう王宮に行くんだろう?」 「そうなんだけど…暫く部屋を空けるから、顔見ておこうと思って……」 「ほぅ…」 顎に手を当てしたり顔のギュスターヴに、ルイズはカッと顔を崩す。 「なっ、何よ?!ち、違うんだからね?連れて行けない使い魔がかわいそうになっただけなんだからね?!」 「はいはい、判ってるよ。…自分の使い魔なら信じてくれよ」 「…うん。……ところで…飛ぶの?これ」 ルイズが怪訝そうに指差す飛翔機はまだ羽布の張り直しが半分ほどしかされていない。噴射推進器は予備を装填され、噴射口はゴミが入らないように今は布を縄で縛って蓋がされている。 「…飛ぶらしい。本当は昼前には飛ぶ予定だったんだがな」 「ねぇ、帰ってきたら怪我してました、とかだったら承知しないんだからね!」 判ってるよ、と言ってふと、ギュスターヴは作業現場の台に掛かっている懐中時計を見た。 「もうそろそろ行かないと不味いんじゃないか?」 「え?……そうね。御者も待たせてるし、もう…行くわ」 ルイズは軽く手を振ってその場を後にしようと歩き出した。 「ルイズ」 ギュスターヴに声かけられ、振り返く。 ギュスターヴは腰に手を当て、笑っていた。 「いってらっしゃい」 ルイズはハッとして、暫く困惑したが、にっこり笑って、 「いってきます」 そしてそのまま振り返らず、御者の待つ正門まで歩いていった。 前ページ次ページ鋼の使い魔
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/132.html
四 奇跡の草原 前ページ次ページゼロの影 学院に戻ったルイズはオスマンから呼び出され、『始祖の祈祷書』を渡された。 王女とゲルマニア皇帝の結婚式の巫女に選ばれたため詔を考えなければならない。 意気込んだもののすぐさま挫折した彼女は使い魔に助けを求めかけて即座にやめた。どう考えても祝福の言葉など持っているとは思えない。 うー、あー、と妙な声を上げながら床やベッドを転げ回る彼女の奇行にも一切関せず読書に耽っている。その傍らには数冊の書物が置いてあり、扱っている内容はバラバラだ。 今読んでいるのは始祖ブリミルについての本らしい。 約六千年前に活躍したハルケギニアで神の如く崇拝される偉大なメイジであり、その生涯や魔法は謎に包まれている。 魔界の魔法と始祖が操ったとされるものには似た部分があるため興味をそそられるところだが、書物は伝説の偉人として扱っており、どこまで確実かわからない。 何しろ彼の魔法で天地までもが鳴動したというのだ。神格化され大げさに伝わっている部分もあるだろう。 天空を思わせる模様が刻まれた表紙の本を閉じ、新たな一冊を手に取る彼を見てルイズの血管は切れそうになった。 (ななな何よわたしがこんなに苦労してるってのに自分は優雅に読書なんていい身分じゃない。そんなに大魔王さまのお役に立ちたいってわけ!?) と憤ってみたところで真面目に肯定されるに決まっている。 ますます釈然としないものを感じたルイズはささやかな抵抗を試みた。彼を連れて中庭に出た後、質問攻めを始めたのである。 青空の下に連れ出して少しでも開放的な気分にさせ、情報を聞き出そうというのだ。 まずは返事する確率の高い戦闘に関する質問――特に呪文について尋ねた。 こちらが知識を提供するだけでは不公平だ。前々から彼の世界のことも知りたいと思っていた。 すると、ほとんど喋らない彼の代わりに大魔王が質問に答えた。 一般的な火球呪文や氷系呪文といったものから天候を操る呪文まで様々なものを説明され、ルイズの目が輝く。 ミストバーンへの質問の大半は沈黙に撃墜されたが、答えが返ってきたのは大魔王の偉大さについての質問だった。 「バーン様をお守りするのが、私の使命なのだ!」 という高らかな宣言にはじまり、数千年の間仕えてきたと誇らしげに語られたルイズは妙な疲労を覚えた。 ワルドは愛情を向けてくれるが、召喚した使い魔ではない。 普段傍にいる相手が全く心を許さないと面白くない。 気を取り直して情報を探るべく質問を続け、ずっと気になっていたことをぶつける。 「あんたがいた世界――魔界って太陽が無いんでしょ? どうして?」 答えたのはやはり大魔王だった。 かつて世界は一つであり、人間と魔族と竜族が血で血を洗う戦いを繰り広げていた。 延々と続く争い憂いた神々は世界を分け、別々に住まわせることにした。脆弱な人間は地上に。強靭な体を持つ魔族と竜族は魔界に。 魔界にはあらゆる生物の源である太陽がなく、荒れ果てた大地が広がっているだけである。 ならば魔界は真っ暗なのかと尋ねると否定された。 数千年前に作られた人工の太陽が光源となり魔界を照らしているが、昼間でもかすかな光しかなく生命を育むほどの暖かさは無いのだという。 地上で見るものと同じ太陽を作り出すことはできず、彼らは太陽を手に入れようとしている。 ルイズは話を聞いてうーん、と考え込んだ。 馬の遠乗りで丘に登り気持ちのいい風を感じることも、光を浴びながら美味しいお弁当を食べることもない世界。 花々の無数の色彩や木々の緑、空の青も雲の白もない世界。 頭で理解しても実感は湧かない。 もし魔界に太陽があって地上と同じ豊かな地であれば、大魔王は何を望むだろうか。 試しに尋ねてみると「花見酒というのもいいかもしれんな」と笑いながら言われたが、どこまで本気かわからない。 話に熱中していたルイズは声の大きさに気を遣うことを忘れていた。 そのため、メイドの一人――シエスタが聞き耳を立てていたことに気づかなかった。 謎が多いミストバーンについての情報は生徒だけでなく使用人も欲しがっている。 彼女は舞踏会の時に聞いた会話を厨房の料理人や仲間に知らせたが、一笑に付された。「見た目からして闇っぽいのに太陽を求める奴に従うわけないだろ」というのである。 嘘じゃないと言い張っても聞き入れられなかったシエスタは意気込んでさらなる情報を集めようとしていた。 そして―― 「きゃああっ!?」 気配を感じたミストバーンの爪に危うく刺されかけた。皮膚一枚を隔てたところで奇麗に止まっているのは見事としか言いようがない。 「すごい、加減がずいぶん上手くなったのね。レベルアップしたんじゃない?」 使い魔の影響を受けて感覚が麻痺してきたようだ。 「……私が?」 彼は意外そうに己を指差した。褒められて反応に困っているらしい。 間違った方向に心温まる会話を繰り広げる二人にシエスタがおずおずと詫びる。 「あ、あの、本当に申し訳ありませんでした! 太陽についてお話ししているのを聴いてしまいました……」 盗み聞きされたと知ってルイズは渋い表情になったが、そもそもこんな場所で大声で喋っていたのが悪い。 シエスタが再び丁寧に謝罪し、お詫びの気持ちとして故郷に行くことを提案した。 「すごくきれいな夕焼けの見える草原があるんですよ。おいしいシチューも」 その草原はあまりの美しさから『奇跡の草原』と呼ばれたこともあるらしい。 ルイズは迷ったが、素晴らしい光景を見ればインスピレーションが湧いて詔の文面が思い浮かぶかもしれない。 ミストバーンも主の目の保養になればと承諾し、ワルドも加えてシエスタの故郷――タルブの村に行くことに決めた。 だが、出発しようとしたその時、彼らの前に現れた人物がいた。 ずずっと地面から黒い首が生え、パチリとウィンクしてみせたのだ。 姿を現した人物は黒い衣に全身を包み、仮面を被っている。帽子にある輝くラインの数は不吉な十三だ。奇術師のような格好だが、手には鋭く光る鎌が握られている。 不気味な男にワルドとルイズが杖を向けたが、相手は敵意が無いことを示すように手を振ってみせた。 珍しいことに、ミストバーンがわずかに弾んだ口調で相手を呼ぶ。 「……キル!」 「久しぶりだねミスト。元気にしてる?」 「お前もハルケギニアにいたとは……!」 ルイズは事態についていけず口をあんぐりと開けている。 友好的な雰囲気が漂うなか、ワルドは警戒に満ちた目で尋ねた。 「何者だ」 キルと呼ばれた男は向き直り、深々と一礼した。 「初めまして。ボクはキルバーン。死神とも呼ばれているんだ。ミストの親友だよ」 ルイズがミストバーンの方を見ると、肯定するように頷いてみせた。 「嘘、あんた友達いたの?」 失礼な台詞も意に介さず、二人は喜んでいるようだ。 (こういうのを感動の再会って言うのかしら?) そんなことをぼんやり考えるルイズの前で会話が進んでいる。もっとも、口を動かすのはほとんどキルバーンの方だったが。 「キミがいなくなってしばらくしたらボクも召喚されたんだ。そこでバカンス気分で楽しんでたってわけ。バーン様に協力する義理はあっても義務はないからね」 キルバーンを召喚した人物はルイズと違って放任主義のようだ。 「戻れるかどうかもわからんのに気楽だな」 呆れたような声にキルバーンは目を瞬かせ、クスクス笑った。 「ボクはキミとは違うんだ。キミはバーン様のおそばにいられなくてストレスたまってるだろうけど、こっちはエンジョイしてるよ。ねえピロロ?」 キルバーンがそう言うとどこからともなく一つ目の小人が姿を現し、ぴょこんと肩に乗った。 ルイズが目を丸くして声を上げる。 「可愛い!」 「ピロロっていうんだ。よろしくね」 魔法使いの格好をしたつぶらな瞳の小人はキルバーンの使い魔であるらしい。明らかに怪しく物騒な得物を持つキルバーンと違い、実に心和む姿だ。 ワルドは心を動かされた様子も無く警戒を解かぬまま客人を見つめている。 「キル、魔界に戻る手がかりは見つかったか?」 キルバーンはやや大げさに肩をすくめてみせた。 「……さあ? 真面目なんだからミストは。ま、異世界で一人っきりじゃないってわかったわけだ……嬉しいかい?」 返事は沈黙だったが、眼の光が普段より明るく輝いているため喜んでいるようだ。 友人と言うのは嘘ではないのだろう。 敵に対して一切容赦のない彼だが、相手によっては人間のような感情を見せることもあるらしい。 「それより、これからお出かけするように見えるけど?」 タルブの村に夕焼けを見に行くと告げられ、ピロロもすっかり乗り気になったようだ。 「行きたいなあ。お願い、キルバーン」 「わかったよピロロ。観光しようじゃないか」 ルイズは心底嫌そうな顔をした。 白と黒で対になっている、バーンの名を冠する二人は目立ちすぎる。村人たちもさぞかし反応に困るだろう。 だが、承諾しなければ大変なことになる予感がしたため渋々頷いた。 ワルドはルイズよりもいっそう渋い表情になっている。愛する少女との甘美なる一時を邪魔されそうな予感がするためだ。 シエスタは不審人物に疑いの目を向けたが、ミストバーンの友人だと告げられると「ああ、道理で」と納得して頷いていた。 類は友を呼ぶのですね、と呟く彼女にルイズは複雑な心境だった。 さらに、形式的とはいえ二人が夫婦と知らされたキルバーンから 「あまり褒められた趣味じゃないねェ」 と呟かれたためいっそう心が沈んだ。 変な人物から遠まわしに趣味が悪いと言われるのは相当堪える。 (明らかに怪しい奴に言われたくないわよ……) 心の中で力無く呟いたルイズは、肺の奥底から溜息を絞り出した。 実際の夕焼けを目にしたルイズは言葉を失い、ただ見とれていた。 常に飄々としているキルバーンも感嘆したように口笛を吹く。 草原は燃える炎の色に染まり、沈みゆく太陽は普段見るものの何倍も美しかった。 その輝きは暖かく優しく照らすだけではなく、弱い者を容赦なく焼き尽くすようにも見えた。 奇跡の名に恥じぬ凄絶な光景を大魔王も気に入ったようだ。 さらに、反対側の山から昇る朝日も別の美しさがあるのだと言う。 「この光景こそが宝物だって思うわ」 食事を告げに来たシエスタがしみじみとしたルイズの言葉に嬉しそうに頷く。 いつものように沈黙しているミストバーンは主と地上に来た時のことを思い出していた。 『何千年後になるかはわからぬが……あの太陽は魔界を照らすために昇る』 偉大なる主は手で太陽を掴み取る仕草をしながらそう語った。 さらに思考は過去をたどり、主との出会いまでさかのぼる。 『お前は余に仕える天命をもって生まれてきた』 全てはそこから始まった。 どれほど永い時を生きても、何があっても、その言葉を忘れることはないだろう。 彼らは夕陽を見る間、確かに同じ思いを共有していた。 ただ、キルバーンだけはそこまで心を打たれた様子は無く、草原をあちこち歩き回っていた。 興奮も冷めやらぬままシエスタの家で名物のシチューを食べたルイズは目を輝かせながら舌鼓を打った。素朴ながらも貴族のぜいたくな舌を満足させるほどの味らしい。 ワルドは喜ぶ彼女を実に幸せそうな顔で眺めているが、キルバーンがいなければいいのにと思っている。 案内してくれたシエスタや二人の仲を邪魔する真似はしないミストバーンは仕方ないが、キルバーンは明らかに異分子である。 ワルドの内心も知らず、シエスタが恐る恐る二人にも食事を薦めた。 あっさり断られた彼女が落ち込んでいると、なんと大魔王その人が語りかけてきた。 「数千年生きればいくら贅を尽くした食事でも飽きもする……そのような料理を味わってみたいものだ」 たちまちシエスタの顔が明るく輝いた。 「じゃあ作り方教えますね! 実際に作る所を見た方がいいですよね……ミストバーンさんも一緒に作りませんか?」 ルイズとワルドがシチューを噴き出しそうになり、かろうじてこらえる。ルイズは慌てて飲みこんで必死の形相でシエスタを止めた。 「何言ってんの!? こいつが料理なんてドラゴンが裁縫する方がまだマシだわ!」 ワルドも激しく頷いて心から同意を示した。 彼は暴言にも動じず主からの指示を待っている。 「作り方だけ教えればよい……と言いたいところだがあえてお前に作らせるのも面白いかもしれんな」 (よっぽど退屈してるのかしら) 腹心の部下がやり遂げると信じているのか、奮闘する様を見て楽しもうと思っているのか――ルイズにはどうも後者に思えてならなかった。 「じゃ、決まりですね。最高の一品を作りましょう!」 「たまには逆らいなさいよ……」 その忠誠心の十分の一でいいから自分に向けてほしいと思いながら、ルイズはテーブルに突っ伏した。 一方、キルバーンは真剣な光を目に浮かべ、親友に顔を近づけた。 「ねえミスト、キミに訊きたいことがあるんだ。とっても重要なことだから、よく考えて答えてほしい」 重々しい口調にシエスタが唾を呑み、ミストバーンが目を光らせる。 キルバーンは真面目そのものの声で尋ねた。 「どんな柄のエプロンを着るつもりだい?」 「そんなの着るわけないでしょおおおっ!?」 即座に叫んだのはルイズ、こらえきれずシチューを噴き出したのはワルド、興味津々の顔をしているのはシエスタだ。 胸に手を当てて発言する。 「わたくしのものでよろしければ――」 「何を言ってるんだ!」 立ち直ったワルドが勢いよくテーブルを叩いた。食器が跳ね、真剣な語調にルイズが息を呑む。 「彼がエプロンを着たって嬉しくとも何ともない! ここは僕の可愛いルイズが着るべきだろうどう考えても!」 「ワルド様……」 早まったことをしたかもしれない。ルイズは頭痛を覚えこめかみをおさえた。 一同から注目されたミストバーンは、考え込んでから逆に質問した。 「エプロンとは何だ。私にも装備できるのか?」 防具の一種か何かだと思っているらしい。 試しに想像してみたルイズは身震いした。 記すことも憚られる。 「何も知らないんだねェ……。悪魔の目玉で魔界中に映像流して適当な情報バラ撒いても面白いかも? ククッ」 ほくそ笑んだキルバーンにルイズの忍耐力は限界に達し、 「あんたたち今すぐ魔界に帰りなさい! 帰ってくださいお願いだから!!」 と絶叫した。 前ページ次ページゼロの影
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/75.html
第三章 影差して 第一話 鳥の翼 前ページ次ページゼロの影 周囲の好奇の目に関わらず、いつものように授業中爆発を起こしたルイズはオスマンに呼び出された。 王女とゲルマニア皇帝の結婚式の際に詔を読み上げる巫女として選ばれたのだ。 『始祖の祈祷書』を渡され、肌身離さぬよう言われた彼女は誇らしい気持ちと詔など考えられないという戸惑いでいっぱいだった。 ルイズが頭を抱えて悩んでいると、キュルケとギーシュ、そしてシエスタが近づいてきた。 「宝探しにいかない? 帰る手がかりを探してるんでしょ、フーケの時みたいなマジックアイテムもあるかもしれないわ」 ルイズは気分転換のためあっさり了承し、ミストバーンの方をちらりと見た。 胡散臭いが、今学院にいても状況は好転しそうにない。 それならばわずかな可能性に賭けてみるのもいいだろう――そこまで考え、彼は複雑な気持ちになった。 (フン……まるで正義に目覚めた者のような言い草だな) それほど精神的に追い詰められていることに気づかぬまま頷く。 ギーシュは異性にモテたいという願望を丸出しに参加を申し出、シエスタも連れて行けと叫ぶ。ギーシュ達は粗食に耐えられないだろう。 「でも遺跡や廃墟には怪物がわんさかいるわよ?」 「じ、自分でなんとかします」 守ってもらいたいと思ったのだが、自分の手足を動かせと言われそうなため内心を隠しつつ答えたのだった。 大きく頷き、キュルケが出発を告げた。 廃墟となった寺院の近くの木の陰にタバサは隠れていた。 突然爆発音と共に門柱の隣の木が発火し、異形の怪物たちが飛び出してきた。二足歩行の巨大な豚の姿――オーク鬼だ。 騒ぎ合うオーク鬼達を見ながらタバサが使う呪文を検討していると、青銅の戦乙女達が姿を現した。焦ったギーシュが先走ったのだ。 ワルキューレが突進し、槍を突き立てるが致命傷にはならない。周りのオーク鬼の棍棒が華奢なゴーレムを吹き飛ばし、叩き壊した。 タバサのウィンディ・アイシクル、キュルケのフレイム・ボールが放たれるが二体葬ったにすぎない。 さらに数体が爆ぜるがまだ多くが残っている。 奇襲の失敗を悟ったオーク鬼達は人間のにおいを探り、走り出す。 すると若者が影の中から姿を現した。剣を背負っているものの抜こうとせずにオーク鬼達の前に立ちふさがる。 彼らの鈍重な頭に冷気が忍び寄る。獣の本能が今すぐ逃げろと大音量で叫んでいる。 だが、それに従うだけの賢明さを持たぬオーク鬼達は突進した。 先頭の一匹が棍棒を振り上げ、振り下ろそうとして止まる。単純な拳の一撃が頭部に叩きこまれ首の骨をへし折ったのだ。 どうと倒れた巨体に目もくれず、次の一匹に低い姿勢で蹴りを放つと足を砕かれたオーク鬼がしゃがみこむ。その脳天へ踵落としが炸裂し、頭部を弾けさせた。 一斉に襲いかかっても時の流れそのものが違うかのように優雅にかわされ、背筋の寒くなるような膂力の犠牲となる。 過ちを悟る前にオーク鬼達は全滅した。 戦闘を終え、キュルケ達はギーシュを睨んだ。作戦ではヴェルダンデの掘った落とし穴まで誘い込み、用意していた油に引火させ燃やしつくすはずだった。 膝をつきうなだれるギーシュに影が差す。その主は地についたギーシュの手を踏みつけた。 ぐりぐりと踏みにじり、氷雪の視線でギーシュを貫く。シエスタが止めようとするのをキュルケとタバサが制した。 「……人形が無ければ何もできんのか?」 背を向けるミストバーンと、震えて唇を噛みしめるギーシュ。 今彼らに話しかけるべきではない気がした。 結局宝は見つからず険悪な空気になりかけた所でシエスタが食事の準備ができたことを告げた。 ギーシュなどはシチューのあまりの美味さに感動し、 「この肉は……この肉はどうしたアァァッ!」 と叫びルイズ達から「うざったい!」と一喝された。 「オーク鬼の肉ですわ」 ぶほっと吹いたギーシュを汚いと責める余裕もなく、キュルケとタバサは固まっている。 「じょ、冗談です! ホントは野ウサギの肉です」 彼女の慌てる顔で場が和みかけたが成果はゼロのままだ。 宝は見つかりそうにないため次で最後にしようとギーシュが促すと、キュルケは一枚の地図を選んだ。 「これに決まりよ! お宝の名は……『鳥の翼』。場所はタルブの村ね」 「『鳥の翼』ってまんまじゃないかね」 呆れるギーシュとは対照的に、シエスタがシチューを吐き出した。タルブは彼女の故郷らしい。 その後シエスタに説明を受けたが要領を得ない。『鳥の翼』は一度使ったらなくなるものらしく使わせてもらえなかったのだ。 「ある日村に現れた私のひいおじいちゃんが、持っていたものらしいんですが……」 真相を確かめるべくタルブの村へ飛び、シエスタの家に向かう一行が出会ったのは意外な人物だった。 すらりと伸びた肢体が眩しい美女――盗賊のフーケだ。 キュルケとタバサが杖を構え、ミストバーンが前進すると彼女は降参したように手を上げた。 「待ちな、あんたらに敵対する気はないよ」 全く信用せず容赦なく攻撃を叩きこもうとするミストバーンへ、冷や汗を流しつつ敵意のないことをアピールする。 「ほんとーだって! 『虚無の影』相手に喧嘩売るほど命知らずじゃないから!」 「虚無の影?」 「そこの美肌につけられた名さ。怪しい奴だとは思ってたけど、まさか五万人の敵の中に突っ込んで暴れるなんてね」 本人はワルドへの怒りに我を忘れはっきりとは覚えていない。だが兵士達の方は忘れたくとも忘れられない。 たった一人の若者が影のように音も無く命を奪っていくのだ。 飛び散る鮮血に白い衣と髪が映え、この世のものとは思えぬ姿だったと生き残った目撃者は語る。 多くの人間に地獄を見せ恐怖の淵に叩きこんだ自覚など持たない彼は他人事のように聞いている。 「とにかく! 大人しくするから戦ったり通報したりはやめとくれよ」 彼女は一度田舎にひっこむことを決意したらしい。破壊の筒はガラクタで復讐も果たせず、少々疲れたのだと言う。 仮面の男からの報酬でしばらくは盗賊稼業も休んで大丈夫――肩をすくめる彼女に一同は疑わしげな視線を向ける。 「実は『鳥の翼』を狙ってんじゃないの?」 「ははっ! お偉い貴族様のうろたえた顔は見たいけど、平民から盗む気はないね。……まあ『鳥の翼』にはちょいと興味があるけど」 早く実物を確認するためにもひとまず休戦するしかないようだ。 フーケを加え歩いていくと、村の少年が駆け寄ってきた。 「おねえちゃん!」 「ねえ、ちゃん?」 鼻で笑ったキュルケをフーケが殺気のこもった眼で睨みつけるが、少年がはしゃぐと二人とも表情を緩めた。 ルイズやシエスタも笑い、タバサでさえ口元はかすかに綻んでいる。ギーシュはいつの間にか通りすがりの女性と話に花を咲かせている。 和やかな空気の中で彼一人だけが浮いていた。 シエスタの家に到着し、さっそく秘蔵の『鳥の翼』を見た一行は何とも言えぬ表情を浮かべた。 文字通り鳥の翼が数枚箱に入っているだけだ。ルイズが一枚手に取り首をかしげている。 「名を知る者に与えよ、とひいおじいちゃんは言っていました」 「……キメラの翼だ」 呟いたミストバーンにシエスタが驚いた。 「その通りです! どういった効果があるんですか!?」 「一度行ったことがある場所に移動できる。心に思い浮かべて――」 言うなりルイズの体がふわりと浮き上がり――彼女は豪快な音と共に天井に激しく頭をぶつけた。 床に落下し、後頭部を抱えてうずくまる彼女を見てシエスタはうろたえた。 キュルケとフーケは笑いをこらえるのに全力を傾け、タバサもわずかに口元を緩めている。 気まずい空気を破ったのはデルフリンガーとギーシュだった。 「でーじょーぶか? 痛そうな音だったなーオイ。見ろよ、天井にでっかいひびが入ってら」 「ちゃんと注意書きをつけておくべきだよ。室内で使うべからずってね」 間の抜けた姿を見られた彼女は無言で立ち上がった。数秒後、ギーシュとデルフリンガーの悲鳴が室内に響き渡った。 『鳥の翼』ことキメラの翼を全て譲られた彼は思案に暮れていた。 シエスタが何の見返りも求めず純粋な好意で提供したためだ。 それに、彼が人間でないと知っていながら普通に接している。怯えたのも最初だけだ。 同行しようと思ったのも彼が恐怖すべき存在か見極めようとしたためであり、結論は 「人間じゃないってだけで怖がるのはおかしいって思ったんです。人間の中にだっていい人も悪い人もいますから」 というものだった。そして耳が尖っているというだけで怯えたことを謝っていた。 ギーシュ達も彼女と同意見らしい。 アルビオンでの戦いを知らないからそう言っていられるのだが、あっさり受け入れているようだ。 奇妙な人間達だと思いつつ、彼は手に入れたキメラの翼を眺めた。 譲られた物の価値以上に、異世界とのつながりを――帰還の可能性を信じることができたのが大きい。 思索にふける彼の、夕日に赤く染め上げられた草原に佇む姿は絵画を思わせた。 食事ができたことを知らせにきたルイズがその光景に見とれたように息を呑んだ。言葉が自然と口からこぼれ落ちる。 「とっても……きれいね」 普段何の意識もせずあって当然だと思っている太陽。しかし、このような時に実感するのだ。太陽は世界に欠かせぬものだと。 この光景を決して忘れないだろう――ルイズは内心でそう呟いた。 無言で頷いた彼の手がゆっくりと太陽に伸ばされる。まるで美しい宝石に触れようとするかのように。 彼女は声をかけようとしたがその背に飲み込まざるを得なかった。 「バーン様も……美しいとお思いになるだろう」 呟きはルイズではなく己へ向けられているようだった。 (あの御方の大望が叶えば……同じ光景を見られる) 絶対にその日を来させてみせる。 そしてその時主の傍らに立ち、主と同じ光景を眺めるのは彼しかない。 元の世界へ一歩近づいたと言う想いが彼を感傷的にさせていたのかもしれない。 主を思わせる赤く燃える太陽と、同じ色に染まった草原は心に深く刻み込まれた。 平穏の日常の中へ戻ろうした彼らにアルビオンの宣戦布告の報が入った。 戦の準備はできておらず、制空権が奪われている。現在タルブの村が焼かれていることを聞きオスマンは苦い顔をした。 どうしようもないため王宮の使者と共に沈痛な溜息を肺から絞り出す。 だが、彼は気づいていなかった。オスマンの居室を尋ねた使者の異常な慌てぶりに、ルイズが好奇心を発揮して話を盗み聞きしたことを。 「タルブの村が襲われているなんて――」 ルイズは途方にくれたように地面を眺めた。穏やかな時を過ごした村が踏み荒らされるのを止めたい。 だが手紙の時と違い、彼女自身が対処せねばならない問題ではないのだ。当然青年も余計な行動はしないだろう。 しかし、予想に反して彼は行くつもりのようだ。 「まさか戦う気? あんたは人間のことなんかどうでもいいんでしょ?」 沈黙とともに頷く。 他の状況ならば人間が何千人何万人殺されようと関係ない。学院やルイズに害が及ばない限り戦わないだろう。 だが、帰還の可能性を見せた場所を何も知らぬ人間が踏み荒らすのは気に食わない。 そんな感傷だけでは動かないが、アルビオン軍の中にワルドがいる可能性を考え、行くと決めた。 元の世界に戻る前に主を侮辱したワルドだけは必ず殺すと決意していたのだ。 そこへどうやって嗅ぎつけたのか、ギーシュが全力疾走してきた。ぜえぜえと息を切らす彼の足元にはヴェルダンデもいる。 「ぼ、僕も連れていってくれ!」 ギーシュがそう言うのを聞いてはルイズも退けない。 「わたしだって行くわ」 いざという時に戦わなければ貴族が貴族たる理由がなくなってしまう。 彼女の決意は氷のような声で却下された。 「お前は来るな」 彼女の身を案じているわけではなく、手がかりが失われては困るということだ。 言い募ろうとするルイズの前にギーシュが立ち、真っ直ぐ彼を見つめる。 「僕が……何とかする」 ギーシュは無言の圧力を感じ取っていた。“任せろ”と宣言しておきながらルイズを守りきれなかったら生命と誇りが危機にさらされる。 それでも、ルイズの矜持を守ろうとする意志を尊重したかった。同じ貴族なのだから。 これ以上時間を失うわけにもいかず、ルイズとギーシュを連れて彼はキメラの翼を使った。 タルブの村は混乱と悲鳴の叫びに満ちていた。 すでに多くの人間は避難しているものの、逃げ遅れた者達がいる。親とはぐれた少年が泣きながら彷徨っていると、杖を持った人影が見えた。 怯えて立ち尽くす彼に魔法を唱えようとはせず、手を差し伸べる。涙を流して動けない彼の髪をくしゃくしゃと手でかき回す。 「男の子だったらビービー泣くんじゃないよ。こっちに来な、あんたの親御さんもいる」 泣きやんだ少年は涙を振りはらい、ようやく相手を認識した。最近村に訪れ、子供達の世話をしている女性だ。 「おねえちゃん!」 もう一度頭を乱暴に撫でた彼女は少年を避難場所まで送った後引き返した。 フーケは自嘲の笑みを浮かべていた。盗賊のくせに人助けなど、自分でも可笑しくなってしまう。 (フーケ様ともあろうものが、焼きが回ったのかね……?) それでも、年端もいかぬ子供を見捨てるほど非情にはなりきれない。 家族の顔を思い出した彼女は頭を振り、なるべく被害を抑えようとゴーレムを出現させた。 タルブの村に降り立った三人は空を見上げた。多くの竜騎兵、そして艦隊。巨大戦艦『レキシシントン』。 竜騎兵達がこれ以上被害を振りまく前に、速やかに旗艦を落とさなければどうしようもない。 「どうやってあれに近づくの?」 無言で新たなキメラの翼を取りだす。 目に見えている場所ならば瞬間移動呪文の要領でいけるはず。キメラの翼で試したことは無いがやるしかない。 自分も乗りこもうと意気込むルイズとギーシュから身を離し、淡々と呟く。 「お前とルイズは残れ」 足手まといということか。悔しさに身を震わせるが一刻の猶予もない。 非常時に備えて渡されたキメラの翼をしぶしぶ受け取り、頭を切り替える。 ミストバーンがキメラの翼を使って上空に見える『レキシントン』号へと飛び、ギーシュとルイズは駆け出した。 前ページ次ページゼロの影
https://w.atwiki.jp/lightnovelcharacters/pages/349.html
「……本当にここなの?」 「これにはそう書いてあるけど……」 ラノベ学園生徒の大半は寮住まい。 その寮もピンからキリまであるのだが、今彼らが居るのはそのキリの中でもキリのキリ、最安価な寮である。 彼ら二人のうち一人は『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』。 虚無/ゼロの二つ名を持つ魔法使い/メイジ。 もう一人はその使い魔、背中に剣を背負った少年、ガンダールヴ『平賀才人』。 二人は、とある理由があってこの寮へと来ているのだが…… 「……人が住んでるようには見えねえよなあ……」 ぼやく才人。 事実、この寮は薄暗い。というより薄気味悪い。昼からよからぬモノが出そうな勢いである。 ……この学園ではめずらしくはないのだが。 「…ああもう、行くぞ。ここでこうしてても埒が明かない」 「ち、ちょっと待ちなさいよ!」 寮の中へと入る二人。目当ての部屋はすぐ見つかった。 その部屋のドアにはこう書かれていた。 『大十字探偵事務所ラノベ学園出張所』と。 ピンポ――…ン 呼び鈴を鳴らす才人。しかし。 「「……」」 …誰も出ない。 留守か、とも思ったがどうも違うようだ。中からぶつぶつと何かが聞こえる。 二人は耳をそばたてる。すると聞こえてきたのは… 『ひもじい……ひもじいぃぃ……』 「「…………」」 言葉を失う二人。 「やっぱりあたしたちだけで何とかすべきかしら…」 「かもな…」 何というか、せつなげにそんな会話をする。 だが、この時後ろからかかってきた声で中の赤貧探偵に関わらざるを得なくなってしまう。 「…汝等、何をしておる?」 驚いて後ろを振り向いた。 そこに居たのは、手に購買部のレジ袋を提げた、フリルがついた白い服を着た少女だった。 『ふっふっふっはっはー。ふっはっはっはっはー。わひゃーっはっはっはっは!ドォォォクタァァァァァァ、ウエエエエェェェストッッ!! メイジのお嬢さん、ならびにその下僕、そしてこのスレをご覧の皆様はじめまして。1億年に一度のどぉぅゎい!天!才! ドクターウェストで御座いますっっ! さぁぁてさて、今回我輩とある研究のためにどぉぉぉしても必要なものがありまして。 そのために、君たちの持ち物の中にそれがあると知った我輩はこの知性を抑えきれなくなりそれをちょっぱらせていただいた次第! この研究が成功した暁には協力者として我輩の改造実験優先券を進呈、そして改造が無事済んだその時にはっ! あの憎き魔導探偵大十字九郎を共にぎったぎたのコテンパンにした後に、屋上からゴムの切れ目を入れたパンツ一丁で 吊るしてさらし者にし、「そのゴムが切れた時、お前は死ぬ。(社会的に)」なんて言ってやるのである! っつーわけであるからして、『始祖の祈祷書』と『水のルビー』、そしてヴァリエール家の杖はありがたく頂戴。 貴君らの協力に感謝である、まる。』 以上が、今朝ルイズの部屋に残されていたドクターウェストの手書き丸出しの名刺の裏に細かく記された文章である。 この名刺を持ってきたルイズと才人、そして、白いフリルの服の少女、アル・アジフと(そのアルが買ってきた食い物で 空腹を満たした)大十字探偵事務所所長、大十字九郎は虫めがねでこれを読んでいた。 んで、読み終わった後。 「「…………」」 「「…………」」 四者二様の沈黙。 方や、改めて読んだ名刺の裏書のあまりの内容にせつなくなり。 方や、出張所での初の依頼なのに故郷でやってた頃とあんま変わんないなー、と、ある種の諦観の念により。 「…で、盗られた物を取り返したいから手を貸して欲しいと」 「…まあ、そういうことです」 九郎の確認の質問に、才人が答える。 「ひとつ聞きたいのだが、此処のことをどうやって知った?我等は広告費すらも削らねばその日の糧を得られぬほどに 貧窮しておったのだが」 「………」 アルが語った今更な現状に鬱になる九郎。 「ああ、それなら」 「占い師よ」 「「……占い師?」」 名刺裏とは別の紙に書かれていた『改造手術を受けるのならこちらロボ』という地図の×印の場所へ殴り込もうとした二人を その占い師は引き止め、この寮の場所のメモを渡しこう言ったという。 『魔導探偵大十字九郎なら力になってくれるさ』と。 「…………その占い師って、黒い髪に紅い眼で、……」 「……なんだ?」 途中で言葉を切り、アルの様子を伺うようにして続ける。 「…やたら胸がでっかい、美人?」 「「!!!」」 ぎん。 そんな感じの擬音が合う眼光をその眼に宿し、それぞれの相方をにらむアルとルイズ。 「…はい」 そしてその視線に気付きながらも正直に答える才人。すると。 「…ええ、そうなのよ」 底冷えしそうな口調でルイズが言い、 ぎゅむ、 と才人の足を踏みつけ。 どふ、 と才人のみぞおちにひじを入れた。 「……!!!」 声にならぬ悲鳴。 「ええそうなのよそのとおりなのよこののらいぬったらまたくろかみでむねのでっかいおんなにしっぽふっちゃって まったくせっそうないったらありゃしないそもそもこのつかいまったら……」 ぶつぶつ愚痴と怨嗟をはく静かな怒声。 「……ああっ、私をお棄てになるのですかご主人さまぁ…私はあなたなしでは生きられぬ体になってしまったというのに……」 腹癒せに陥れようとする演技。 「……アル。お前いいかげん初対面相手に俺を陥れる姦計をめぐらすのは止めれ」 いつものことに対する嘆き。 ……事務所はいまや四者四様の混沌の異界となった。 ちなみに、アルの姦計は二人それぞれ痛みに耐えるのと怨嗟をはくのでいっぱいいっぱいで、さほど効果は無かったという。 あれからなんだかんだで、ラノベ学園の幾多ある食堂のうちマルトー親父が仕切る所でのしばらくのタダ飯を依頼料代わり (これも占い師の入れ知恵である)にするということで話はまとまった。 さて、所は変わる。 大十字探偵事務所出張所があるのは確かに最安価な寮であったが、それは家賃を払うと言う前提での話。 学園の敷地の隅っこにぽつんと建っている建物。 学園の誰からも(記録からも)忘れ去られたこの建物、高い安いというよりむしろタダである。 この建物に住む人間はたった一人。その言動はかの『探耽求究』をも超えるほどに常軌を逸すことから、保健室の変態三本柱 (紅と緑とオマケ)からすらもあぶれてしまった、学園中から(多分意図的に)忘れ去られた男。 その男こそは。呪われた頭脳を持って生まれしその名は―― 「ドクタァァァァァァァァァーーッ・ウェェェェェェェェストッッッッ!」 ギャァァァァッァァァッァァァィィィィィン! ギターの旋律に乗せて己の名を叫ぶドクターウェスト。そんな様子を冷ややかに見つめ、 「博士、五月蝿いロボ」 のひと言で主の悦な気分をえぐるのはもう一人の住人……否、一機の同居人、ドクターウェストが鋳造せし 自動人形/オートマトン、エルザである。 「そんなことしてる暇があるなら、早く『我、埋葬にあたわず』にも例の新機能をつけて欲しいロボ」 「エルザよ……いつからそんなに自己中で冷たい子になってしまったのであるか?」 「自己中さは博士には負けるロボ。それよりエルザ、早く新しい『我、埋葬にあたわず』でダーリンとの愛の巣を今度 こそこの手で作りたいから――――」 どがしゃぁぁぁん!! 「くぉぉぉぉるぁぁぁぁっっ!!!ドクターウェストォォォォォッッッ!!!!人様にまた迷惑かけやがってぇぇぇぇぇ!!!」 「んお?」 ぼぐしゃぁぁぁっ!! 「げるぶふぉおおおあっ!??」 エルザのセリフの途中、壁をぶち破って現れ、ドクターウェストをぶん殴った黒い影。 「ロボ……?あっ、ダーリン!」 「「ダーリンちゃうわッ」」 息ぴったりのツッコミを入れるその二人は、マギウス・スタイルの大十字九郎と、手のひらサイズに縮んだアル・アジフだった。 「……やっぱこの学園の一員だねえ、あの二人。ひもじいひもじいなんて聞こえた時はオレもどうかと思ったがよ」 「だな…よっと」 デルフリンガーを持って九郎があけた穴をくぐってくる才人。ルイズは杖まで盗まれたので魔法は使えない。よって建物 の外で待機なのだ。 「あ…ああ…ハッ」 気絶から覚めるウェスト。 「のぉぉあっ!?お前は大十字九郎ッ!!??とついでに協力者の下僕のほう」 「ざっけんな、勝手に盗んでいって何が協力だ!しかもついでってなんだよ!」 「…下僕は否定せんのか」 「…!相棒、左だ!」 「ロォォォボォォォォォッッ!!」 ぎぃぃぃん!! 「うあっち!?」 デルフリンガーの指示でどうにかエルザのトンファーを受ける才人。 「――エルザとダーリンの愛の成就を邪魔する障害は、排除ロボ!ロォォォボロボロボロボロボロボッッ!!」 「う、うお、おおおっ!?」 ガン、ギン、ゴイン、と連続で繰り出されるトンファーを受ける才人。だが、一撃一撃が才人の握力を奪っていく…! 「おおおおおおおおおおりゃっっ!」 ブォン! 「ロボ!?」 ガキィィン! 横合いからの黒い斬撃を受けるエルザ。それはバルザイの偃月刀――! 「大十字さん!?」 「選手交代だ、平賀!お前はとりあえずドクターウェストを動けなくなるくらいにボコッて――――」 ズズズズズ… その時。不吉な地響きが。 「……相棒、なんか地響きを感じねえか?」 「……ああ、はっきり感じた」 「よいしょっと…サイト、今何か地震みたいなのが――」 「ルイズ!?お前、外で待ってろって言ったろうが!」 「九郎、こいつは…!」 「……てめえ、ドクターウェスト!…ってあれ?いねえ!?」 きょろきょろ見回す九郎とアル。そんな二人にエルザが告げる。 「久しぶりにあれを動かすために、ここは少しのお別れロボ、ダーリン」 「なッ…てことはやっぱり」 「…『あれ』か。また面倒なものを…!」 「それじゃ、バッハハーイロボ!」 「ああっ、待ちやがれ!」 いつの間にか床に開いていた穴に飛び込むエルザ。九郎は後を追おうとするが、穴は閉まってしまう。 「探偵よ、それに魔導書の娘っ子、この地響きに心当たりあるみてえだね」 「むう…」 齢千を超えるアル・アジフを娘っ子呼ばわりのデルフリンガー。もっともこの剣は六千歳だが。 「ああ…正直あまり認めたくはねえが…とりあえず外に出るぞ。探し物はこの中にはなさそうだ」 外へ出た大十字一行。地響きはどんどんでかくなり、そして―――― ぐうぃぃぃィ――むっ 「うぉっ!?」 才人の目の前の地面が――否、見渡す辺り一帯が――せりあがった。 そして、そのせり上がりが頂点に達した時、四人は――学園の皆は見た。 その――――――でっかい、ドリルとか腕とか短足とか顔とかがついたドラム缶を。 忘れ去られた建物の地下に、ドクターウェストは格納庫兼リフトを建造していたのだった。 がっきょんがっきょん。 どこか間抜けな足音を響かせて、ドラム缶――破壊ロボは歩き出した。 ――校舎内。 上条「……なんだありゃ」 悠二「ドラム缶……に見えるけど」 シャナ「……あんなもの作るやつといえば……」 インデックス「……教授かも?」 アラストール「『探耽求究』……奴以外におるまい」 ダンタリオン「皆さん、残ぁぁーーん念ながら違いますよぉぉーーーーう?」 インデックス「わっ!び、びっくりしたかも!」 上条「つか、あんたいつの間に俺らの真ん中に!?」 悠二「…違う?」 ダンタリオン「その通ぉぉーーーり、あぁぁぁーのエキサイティングにしぃぃーて、エクセレントかつ、エェーーーキセ ントリックに素晴らしいぃぃぃーーーーメカは実に、そーーぉう、実ぃぃぃぃーーつに残念なことに 私が作ったもぉぉーのではありませぇぇーーん!ぜぇぇぇーーひ作った当人に会ぁぁーーってみなくては!」 シャナ「……こんなのがほかにも?」 アラストール「……」 『ふひゃーーーーーーはっはっはっはっはっはっはっは!!どうしたであるか大十字九郎!このドクターウェストの頭脳より 生まれた『スーパーウェスト無敵ロボ28號〔こんにちは~こんにちは~ラノベの~皆さん~♪〕』の前には』 『博士、うるさいだまれ』 『はい』 「ちっ…好き勝手言ってくれやがる!」 「きゃああああああああああああ!」 「ええい、黙らんか小娘!」 九郎は才人とルイズを担いで破壊ロボから飛んで逃げていた。時折放たれるビームやミサイルをかいくぐるように躱す。 「このままでは埒があかんぞ、九郎!」 「解かってる……!!喚ぶぞ、アル!!!」 「……!ああ!!」 「大十字さん?呼ぶって何を…?」 「相棒、この二人にも切り札の一つぐらいあるってこったろうさ」 「なんでもいいから、手があるなら早くしなさいよ探偵!」 「了解だ、依頼人/クライアント!」 返事をして地面に降りる九郎。二人を肩から降ろす。 『ほう?遂に観念したであるか大十字九郎?』 「まさか。むしろ観念するのはてめえのほうだぜウェスト。……鋼鉄のダンスと洒落込もうか!!アル、行くぞ!!」 「応!!!」 宗介「会長閣下」 林水「ん?」 宗介「なぜあの未確認機への攻撃許可をくださないのですか。このままではこの学園が…」 林水「それについてはあるところからすでに通信が入っている。『我々の不始末は我々でかたをつける』、だそうだ」 宗介「…あるところ?」 林水「……覇道財閥だ」 「憎悪の空より来たりて――」 九郎の声が聖句を唱える。 「正しき怒りを胸に――」 アルの声が聖句を謳う。 「「我等は魔を断つ剣を取る!」」 重なる二人の声。そして。 「「汝、無垢なる刃――デモンベイン!」」 二人の聖句に応え、其れは――来る。 其処に有り得べからざる物質が、存在する無限小の可能性。 限りなく『0』に近い確率が集積され、完全なる『1』を実現する。 そして――其れは、この学園に顕現した。 「これ…ロボット…?」 「ああ」 才人のつぶやきに、九郎が答える。 ラノベ学園では巨大ロボットは、さほど珍しいものではない。それにロボットでなくとも紅世の従などの中には遥かにでかいものも居る。 だが。 それは、この学園にそれまで一度も顕れなかった“鋼鉄の/刃金の”“巨人/巨神”―― 「こいつが俺たちの切り札――鬼械神/デウスマキナ『デモンベイン』だ!」 答えるとほぼ同時、九郎の体が魔術文字となって解ける。そして、デモンベインのコックピットへと転送される。 ――動き出す。 →Next
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/1621.html
魔陣の祈祷師エンセント・アレイ R 闇文明 (8) クリーチャー:デーモン・コマンド 4000 ■このクリーチャーを召喚した時、プレイヤーをひとり選ぶ。そのプレイヤーのクリーチャーをすべて破壊してもよい。そうした場合、こうして破壊したクリーチャー1体につき、進化ではないクリーチャーを1体、そのプレイヤーの墓地からバトルゾーンに出す。 作者:赤烏 収録 DMW-09 「帝王編(エクセレント・マスター) 第1弾」 評価 激しくなったバベルギヌスですねw普通に自軍強化でも使えますし、場合によっては相手のブロッカーを一気に減らすなどできて、使いやすそうです -- 紅 (2011-05-22 08 59 37) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5284.html
前ページ次ページスナイピング ゼロ トリステインの某所。かつて開拓民が森を切り開いて作り、今は誰一人として住む者が居ない村。 その中に、廃墟と化した寺院があった。普段は明るい日差しに照らされ、牧歌的な雰囲気が漂う場所だ。だが今は、 そんな雰囲気は霞のように消し飛んでいる。なぜなら今、その場所は 「ぷぎっ、ぴぎぃ、んぎぃぃぃぃぃぃぃぃッ!」逃げ惑うオーク鬼達の悲鳴と 「あはははは、ブタのような悲鳴をあげろ~!」追掛ける魔弾の射手の歓声が ゴチャマゼに入り混じった、まさに混沌と呼ぶに相応しい状況となっているから。 「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~♪」 どこぞの撲殺天使みたいな歌を響かせながら、リップは手にしたシャベルに力を込める。寺院に辿り着く時に拾った、 先が尖った物だ。一頭のオーク鬼に追いつくと、飛び上がってシャベルを振り払う。切断され、オーク鬼は頭と胴体が オサラバした。 即座に次の標的を捉え、一気に間合いを詰める。横合いからオーク鬼の脇腹に目掛けて、シャベルの先を叩きこんだ。 数本の肋骨が折れ、オーク鬼はその場に倒れた。その直後、振り上げられたシャベルによって頭を叩き潰され、絶命した。 仲間が次々と殺されていく非常事態に、生き残った二頭のオーク鬼達はパニック状態となった。もはや縄張りに 入って来た人間を喰い殺すなどと言う考えは吹っ飛び、黒髪の女から逃れようと、森の奥へ向けて走り出す。 シャベルを地面に突き刺すと、リップは一本の木に向かって叫んだ。 「セラス、直接火砲支援!」 木の上に隠れていたセラスは、ハルコンネンを構えた。逃げるオーク鬼の二頭の内、一頭に狙いを定める。 「ヤー!」 返答の叫びと同時に、徹鋼弾を発射した。背後から腰に直撃を受け、オーク鬼は上半身と下半身が引き千切れる。 数秒ほど呻き声をあげ、絶命した。 即座に薬莢を排出し、弾薬箱から劣化ウラン弾を取り出す。薬室に装填し、残りの一頭に照準を合わせる。最初の一頭を 仕留めるまでの間に、かなりの距離が開いている。だがそんなものは、吸血鬼には大した問題では無い。 「距離500・・・600・・・・・・今!」 発射された弾丸は木や枝などを容易に貫通し、標的の心臓を撃ち抜いた。オーク鬼はうつ伏せに倒れ、生い茂った 雑草の中に血溜まりを作り即死した。 魔法の援護を受けず、リップとセラスはオーク鬼の群れを殲滅した。微塵の躊躇も、一片の後悔も無く・・・。 上空を旋回していたウィンドドラゴンが地上に着地する。背中からキュルケが降りると、驚きの顔を二人に向けた。 「凄いわね二人とも、流石は吸血鬼だわ。私達の出番が無いのは、ちょっと残念だけどね」 「全くだよ。僕のワルキューレの出番が無いのは、とても残念だ」 そう言いながら後から降りてきたギーシュは、ホッとしていた。キュルケは即座にツッコミを入れる。 「なに言ってるのよ、さっきまで怯えながらオーク鬼を見下ろしてた人がよく言うわ」 「キュルケ、出来ればその話は止めてほしいんだが・・・」 言い合いをする二人に気付かれないよう、セラスは口元を抑えて小さく笑った。リップはオーク鬼の血と脂で汚れた シャベルを、ポイッと野原に捨てた。背中に布で縛り付けていたマスケット銃を手にし、弾丸を銃口に入れた。 「えっと、あの、その・・・や、やっぱり吸血鬼って強いんですね。凄かったです、本当に・・・・・・」 キュルケの背後で震えていたシエスタが、リップを怯えた目で見ながら呟いた。リップは黙ったまま、シエスタを見返す。 セラスに背負われているデルフリンガーが、口を開く。 「そりゃそうだろ娘っ子、なんてったって黒服と相棒はハルケギニアの吸血鬼より強いんだからな」 「心臓を貫かない限り、死なない・・・」 デルフの説明に、本を読んでいたタバサが補足を加えた。セラスが歩み寄り、シエスタに頭を下げた。 「すいませんシエスタさん、本当は出会った時に言うべきだったんですけど・・・この世界じゃ、吸血鬼は恐れられる存在 だと聞いたんで」 「そんな、セラスさんが謝ること無いですよ! 立場が逆だったら、私だって正体を言ったりしなかっただろうし・・・」 シエスタは両手を左右に振りながら、ペコペコと頭を下げる。そこへリップが近づくと、軽くウィンクをした。 「これからも貴女と友好な関係を続けたいんだけど・・・よろしいかしら、シエスタさん?」 「あ、はい。これからも、宜しくお願いします!」 握手をしながら今後の交友を確かめ合うシエスタ達に、寺院の入口の階段に足を乗せたキュルケが手招きする。 「三人とも、早く来なさい。もうすぐ日が暮れるわ、さっさと宝物を確認しましょう!」 走って来る三人を見ながら、隣に立つギーシュが尋ねる。 「所で、この寺院にはどんな宝が有るんだい?」 「えっとね、『炎の黄金』で作られたと言われる首飾りが有るらしいわ。場所は、祭壇の下みたいね」 その言葉に、ギーシュは唾を飲み込む。 「これで七件目なんだ、今度こそ宝を見つけて姫殿下に・・・」 ◇ 二つの月によって照らされる、村の寺院。キュルケ達は入り口の階段に座り、燃え盛る焚き火を眺めていた。 ギーシュは薔薇の造花を指先で揺らしながら、毛布に仰向けになって溜息をつく。 「キュルケ、確認のため聞きたいんだが・・・『炎の黄金』で作られた首飾りとは、それかね?」 ギーシュが見つめる先には、キュルケの手に握られる色褪せた装飾品。それは、安物の真鍮で出来たネックレスだった。 足元に置かれたチェストと呼ばれる宝箱には、耳飾りや銅貨が入っていた。 キュルケは黙って首を縦に振ると、ネックレスをチェストに入れる。そして懐から化粧道具を出すと、爪の手入れを始めた。 その様子を、タバサは本から視線を外して見つめている。セラスとリップは、隣り合って階段に腰を下ろしていた。 「どうするんだいキュルケ、これで君の持っていた宝の地図は全て外れたよ。僕はもう、帰った方が良いと思うんだけどね。 他の皆も、廃墟や洞窟で化物や猛獣と戦ったりしたから、疲れてるだろうし・・・」 化粧道具を懐に戻しながら、キュルケは振り向く。 「そりゃそうだけど、だからと言って手振らで帰る訳にもいかないわ」 「じゃあ何かい、帰りに土産でも買っていくのかい? 銅貨が何枚かあるから、それを使えば良いけど」 「あの~、それでしたら」 二人の会話に、焚き火でシチューを作っていたシエスタが割り込んだ。お玉を使い、鍋のシチューを器に入れ皆に配る。 「私の生まれ故郷、タルブ村って言うんです。そこはワインの原産地なんですけど、宜しければ、皆さん行ってみませんか? 港町のラ・ロシェールから近いんで、ここからでも近いですし」 それを聞いたキュルケは、ポンと手を叩く。 「ワインか、良いわねそれ。学園に帰ったら一杯やりたいし、どうするギーシュ?」 「別にかまわないよ、何も無しで帰るってのもなんだしね」 「タバサは?」 「・・・問題無い」 「お二人は異論は無いかしら?」 セラスは笑顔で答える。 「良いですよ、ワインは好きですから。リップさん、良いですよね」 「良いわよ」 風に揺れる髪を優しく撫でるリップの姿に、セラスは心臓がキュンと震えた。そんな事に気付く訳も無く、キュルケは器を 持って立ち上がる。 「じゃあ決まりね、明日の朝タルブ村に出発よ! それにしても美味しいわね、このシチュー」 ◇ その頃、魔法学園ではルイズが部屋に籠って始祖の祈祷書(以後、始祖本と略する)と睨めっこしていた。 食事と入浴と睡眠、それ以外はずっと椅子に座って始祖本と睨めっこ。このルイズ、とても頑張り屋さんである。 「う~ん、なかなか良いのが思いつかないわね」 腕を組んで、素晴らしい詩を思い浮かべようとする・・・その時、ルイズに電撃が走った! 「そうだ、何かの文面を書き換えて詩っぽくしちゃえば良いんだわ! そうと決まれば図書室に直行!」 始祖本を掴んで扉を開けて、廊下を全力で疾走。階段を駆け降り、図書館へ突撃。図書委員は不在のため、勝手に入る。 すると、そこで見知った人物に遭遇した。 「オスマン校長?」 そこに居たのは学園長のオスマンだった。椅子に座って、何やら分厚い本を読んでいたようだ。ルイズに気付くと、席を 立った。 「誰かと思えば、ミス・ヴァリエールじゃったか。何か調べ物かね?」 「はい。詔の詩を考えるのに苦戦してまして、何か参考になる資料が無いかと。オスマン校長は何を?」 「君と同じじゃよ。姫様や偉いさんの前で、喋る事になっておっての。そのために、良い言葉が見つからないかと図書室に 来とる訳なんじゃ」 ルイズは関心した。普段は秘書に対するセクハラしかしないエロジジイだと思っていたが、やる時はやる人らしい。 学園長が頑張っているのだから、生徒である自分も頑張らなくてはならない。 始祖本を持たない左手を握り締めていると、オスマンに肩を叩かれた。顔を上げると、オスマンが優しい目で自分を 見つめていた。 「ミス・ヴァリエール、ちょいと肩に力が入り過ぎておるようじゃぞ。肩を回して、リラックスしなさい」 「あ、すいません。姫殿下の事を思うと、つい力んでしまって・・・」 両型を交互に回すルイズに、オスマンは笑顔を浮かべる。 「それは、お主が友達を大事にしておる良い証拠じゃ」 そう言うと、オスマンは机に置いてある本を持って図書室を出て行った。残されたルイズは、ボソリと呟く。 「頑張ろう」 始祖本を机に置き、本棚の前に移動する。フライが使えないため、上の方には手が届かない。下にある本に出来る限り目を 通し、詩に使えそうな材料を集める。 「さて、いっちょやりますか・・・あ、面白そうなの発見」 目の前にあった『ロードス島戦記』と書かれた本を、ルイズは手に取った。 シチューを食べた次の日の朝、キュルケ達はウィンドドラゴンに乗ってタルブ村に向かっていた。 シエスタの説明によると、タルブ村で生産されているワインは位の高い貴族や軍人も好んで飲んでいるらしい。 魔法学園の食事に出されるワインより値が高い一品と聞いて、キュルケのテンションは2~3倍に高まった。 「楽しみだわ、着いたら真っ先にワインを味見させてもらうわよ」 子供みたいに騒ぐキュルケに、シエスタはコッソリと笑う。前に座って地表を見下ろしているタバサが振り返った。 「見えてきた・・・」 キュルケ達は、前方に目を凝らす。その先には、整然とブドウ畑が連なる村が有った。その中の一つの家を指差して、 シエスタはタバサに尋ねる。 「あれが私の家です、近くに降りられます?」 「任せて」 タバサはウィンドドラゴンの頭を杖で軽く叩き、シエスタの家に降りるよう声をかける。了承を意味する鳴き声を一声 あげると、高度を下げ始めた。その時、シエスタが呟く。 「あれ?」 「どうかしたの?」 キュルケが問う。 「いえ、自宅の庭に見慣れない物が有ってビックリしまして・・・」 「見慣れない物?」 キュルケに習って、ギーシュやセラス、リップも庭を見る。そこには、大きな布で覆われた馬車ほどの大きさを持つ物体が 有った。 「雨除けのために、馬車を布で覆ってるんじゃないのかね?」 「恐らく違うわね、平民が使う馬車より遥かに大きいわ」 ギーシュの予想をキュルケが否定している内に、ドラゴンは地面に着地した。シエスタは一番に飛び降りると、自宅の 扉を叩く。室内からガタゴトと音がして、扉が開いた。出てきたのは、シエスタの父親であった。 「おや、シエスタじゃないか。予定より早く休みを貰えたのかい?」 「そうなの、だから長く家に居られるわ。あ、お客様を紹介するわね」 「こんばんわ。私、トリステイン魔法学園から来ましたキュルケと申しますわ」 いきなり現れたキュルケに、父親は驚いた。見ると、他にも四人の客が来ている。娘に目を向けると、シエスタは微笑んだ。 「村のワインを購入したいって、わざわざ村に来てくれたの。まだワインは残ってる?」 娘の問いを聞いて、父は急いで家に戻って行った。 布が取り去られた物体を、キュルケ達は取り囲んで見つめていた。 全体を漆黒で覆われた物体を、ギーシュやタバサは不思議そうな顔をしながら、見たり触ったりしている。そんな二人の 後ろ姿を、キュルケはコップにワインを注ぎながら眺めていた。そしてセラスは唖然とした顔で、リップは呆然とした顔で、 その物体を見ていた。シエスタが近寄り、心配そうに声をかけた。 「あの、お二人とも大丈夫ですか? これって、何か悪い物なんでしょうか?」 「・・・・・・」 「おい相棒、質問されてるぜ。どうしたんだよ、ヘンテコな物体にボ~ッとしちまって」 デルフの声に、セラスはゆっくりと顔を右に向ける。シエスタの父親に向けて、たとたどしく尋ねた。 「あの、ちょっと聞きたいんですけど・・・これ、どうしたんですか?」 キュルケとセラスの胸を交互に凝視していた父親はハッとした顔をすると、思い出すかのように説明を始めた。 「一月ほど前にですね、この物体を馬車に乗せた行商人が村を訪れまして。それで手綱を握る男に『この物体を食糧と 交換してくれないか』と言われたんです。珍しそうな物だったんで、リンゴやワインと交換して・・・そしたら後ろから 狼の耳と尻尾をもった亜人が現われて『何をしとるんじゃ、早くエーブを懲らしめに行くぞ!』と叫びながら男の首を 絞めて言い争いをしまして。それで、あっと言う間に馬車は村を去って行ったんです」 どこかで聞いたような説明に、セラスは何とも言えない気持ちになっていた。そうこうしている内に意識が戻ったのか、 リップは物体に手を触れる。凹みを掴み、横に引っ張る。ガララララ~ッと言う音と共に、扉らしき物が開いた。 中を覗き込み、鼻を抑える。 「リンゴと獣の臭いがするけど、異常は無いみたいね。まさか、異世界で『ドーファン』に再び出会うなんてね・・・」 「リップさんは、これが何か知ってるんですか!?」 シエスタに顔を向け、リップは物体の正体を明かす。 「この物体の名はAS365、フランスのユーロコプター社が開発したヘリコプター。ドーファンとは、フランス語で イルカのことよ」 「えーえす? へりこぷたー? え~と・・・」 脳内が混乱しているシエスタに、セラスが補足する。 「簡単に言えば、空を飛ぶ機械みたいなものです。所でリップさん、何故ヘリの名前を?」 両腕を左右に広げ、リップは苦笑いで答える。 「理由は簡単、これは私の物だから。ライミーの帝国海軍空母『イーグル』を乗っ取る時に用いたのが、このヘリだからよ!」 「「「「「「な、なんだって~!?」」」」」」 リップの衝撃の事実に、キュルケ達は大声で叫んだ。 前ページ次ページスナイピング ゼロ
https://w.atwiki.jp/touhoumtg/pages/417.html
少女祈祷中.../A Girl devotioning 少女祈祷中.../A Girl devotioning(W)(W) インスタント ターン終了時まで、クリーチャーは攻撃できず、プレイヤーはクリーチャーの起動型能力を起動できない。 参考 妖々夢-アンコモン
https://w.atwiki.jp/mangaroyale/pages/274.html
らきすた ~闇に降り立った輝星(後編) ◆6YD2p5BHYs * * * 「さてさて、私が勝ったからには、早速脱いでもらおうかね、アカギくん……♪」 「……クククッ、そうじゃないだろう。その『脱衣ルール』は却下したはずだ……!」 賭けるものが無ければ、ギャンブルは盛り上がらない。失うものが無ければ、真の実力は計れない。 と言っても、この殺し合いの場で金を賭けるのもナンセンス。 こなたが冗談交じりに(それとも本気で?)提案していた脱衣ルールも論外だ。 いつ他の者が現れるか分からぬ状況での脱衣は、流石に悪ふざけが過ぎる。妙な誤解は避けておきたい。 そこで、賭けの対象にしたのが…… 「……ほら、何でも好きなものを持っていけ……! なんなら、今傷に当てているこの核鉄でも、懐にある投げナイフでもいい……!」 「ん~、流石にそれは悪いしな~。 白紙の本に宝石、それに弾切れのバズーカ……どれにしよっかな~♪」 賭けの対象にしたのは、互いが抱えていた支給品。どちらも数の上では余裕がある。 半荘勝負で順位の高かった方が、低かった方から1品奪ってもいい約束だ。 勝者のこなたは楽しそうにアカギのデイパックを漁り、中の品物を吟味する。 「……じゃ、この靴にしとく。『キック力増強シューズ』……ん~、ちょっと私でもキツいかな? ま、他に欲しいものもないしさ。とりあえず、これでいいよ」 元々、小学生並みの体格のこなただ。無理をすれば使えないこともなさそうではある。 戦利品を自分のデイパックに詰め替え、こなたはアカギに向き直る。 「で……どうする? もう1戦する? リベンジするかねアカギ君?」 「思うところがあったにせよ、負けっぱなしというのも性分ではない……。 悪くない提案だ……と、言いたいところだが」 こなたの挑発に、アカギはチラリと時計を見る。 窓の外、校庭には誰の姿もない。まだ他の仲間が学校に来る気配はない。 だからもうちょっと遊んでいても構わない、とは言えるのだが。 「これからもう半荘ともなれば、ほぼ確実に次の放送にかかってしまう……。 間違っても、放送を聞き逃すような真似はしたくない……流石にそれは、愚の骨頂……!」 「あーそっか。もうそんな時間なんだ」 時刻は既に深夜近く。遠からず4回目の定期放送が始まる時間。 戯れの勝負の続きをするにせよ、放送が終わってからの方がいいだろう…… そう判断しかけたアカギは、ふと画面の変化に気付く。 「……ところで……何か表示が変わったな……? これはなんだ……?」 「おや、これはどっかの誰かが卓に加わりたい、ってことみたいだね。どうする? 断っとく?」 面子が足りないからこそ、コンピューターで補っていたのだ。 言ってみれば雀荘での数合わせのため、従業員が席に座ったようなもの。 新たな客がたった1人でやってきて、ちょうど勝負が一段落した卓があれば、そりゃ誘導されるだろう。 もちろん、拒む権利はある。望まぬ相手と卓を囲まねばならない義務はない。 さて、どうするか。 新たな面子を加えて勝負に波乱とスリルを織り込むか、それともこなたとの対決を重視するか。 そんなこなたの問い掛けに、アカギは即答せず――ただじっと、新たな参戦希望者の名前を見る。 見覚えのない名前。名簿には載っていない名前。 『Dr.伊藤』。 画面には、その名前だけが表示されていた。 * * * 「答えてくれ……繋がってくれっ……頼むからっ……!」 同時刻。 脂汗を流しながら、薄暗い部屋でモニタに向かう1人の男がいた。 伊藤博士。BADANの協力者にして、反抗を夢見る無力な1人。 彼とて、徳川光成を煽ってばかりではない。彼に出来ることを、出来る範囲でやってきている。 例えば、ネット上の主催者側の防壁を「ほんの少しだけ」弱めておいたり。 例えば、一度侵入すれば多くの情報にアクセスできるような、脆弱なシステムを用意しておいたり 例えば、検索すればすぐにヒットする、使い勝手の良いハッキングツールを作って放流しておいたり。 例えば、会場に配置されることになっているPCに、あえてキャッシュを残しておいたり。 いずれも、発覚してもいくらでも誤魔化せる範囲の行動だ。 ほんの僅かな「うっかりミス」、ほんの僅かな「不注意」。 1つ1つを取ってみれば、そう言い逃れできる程度の「手抜き」処置。 ただしそれらが上手く合わさりさえすれば、組織側の様々な情報に手が届くようになっている。 参加者の誰かがハッキングを試み、辿り着いてくれることを願って用意した細い細い抜け穴――! ――だが、どうにも彼は「やり過ぎてしまった」らしい。 せっかく「それ」に気付き辿り着いてくれた参加者は、盗聴に気付いた途端、自らラインを断ち切ってしまった。 あまりの都合の良い展開に、罠である可能性を疑ってしまったらしい。 確かに恐れる気持ちも分かる。これが逆の立場だったなら、伊藤博士もそう考えていたかもしれない。 ともあれ、これで希望の1つが潰えてしまった。 今のところ、どうやら伊藤博士への責任追及の動きは無いらしい。 いやそれ以前に、まだ侵入の事情はバレてないようだ。偽装に手間をかけた甲斐があったというものだ。 しかし、これでもう自分に打てる手はない、後は光成にでも任せるしかないか、と思っていたのだが……。 諦め悪くも可能性を探っているうちに、こうして思いもかけず接点を見つけるが出来てしまった。 流石の伊藤博士も、この殺し合いの場で麻雀に興じる参加者がいるとは予想していなかったのだ。 こうして博士が見つけることができたのも、偶然に近い。 チャット機能のあるこのオンライン雀荘ならば直接参加者と「会話」することも出来る。 その気になれば、彼の知る限りの情報を放出することも出来る。様々な内部情報をリークできる。 特大の好機を目の前に、しかし伊藤博士は逡巡する。この期に及んで躊躇いを覚える。 (でも……ここでこちらの内情を語ってしまっていいのか?! 本当に大丈夫なのか?!) 今現在、こうして麻雀サイトにアクセスしていること自体には問題ない。 ちょうど今、博士は休憩時間に当たっている。 誰かに見つかったとしても、休み時間にちょっと遊ぼうと思っていたんだ、とでも言えばいい。 きっと軽く呆れられて、それで終わりだ。 が……ここで具体的な情報を流してしまうと、話は変わってくる。 その場合、見つかってしまえば申し開きは出来ない。 チャットのログなども残ってしまうだろうし、見つかればほぼ確実に「処分」される。 幸い、今は定期放送の直前。その準備に組織全体が慌しく、博士への注意は向けられていない。 現行犯で捕まる危険はかなり低いと言っていいだろう――だが。 (だが……本当に彼らは気付いてないのか? ハッキングの手引きのことも、気付いていないのか? もしかしたら、気付いた上で「泳がせている」だけなのでは?) 内部にいる伊藤博士にとっても、BADANというものはその全貌が見えにくい。 特に理解し難いのは、彼らが復活させようとしている『大首領』。そして『暗闇大使』こと『ガモン大佐』。 今こうしている間にも、振り返れば背後に歪んだ笑みのガモンが立っているような気がする。 オカルトじみた『大首領』の神秘の力で、全て見通されてしまっている気がする。 誰もいないと分かっているのに、何度も自分の背中を確かめてしまう。 このまま黙って麻雀ゲームを楽しむだけなら、何の問題もない。言い訳が効く。誤魔化しが効く。 しかし一言でもBADANの内情を語ってしまえば、もう戻れない。 いや、もし何なら自分は「処分」されても構わない。覚悟も出来ているつもりだ。 だが最悪なのは、情報を受け取った参加者までもが処分されてしまう可能性。 そうなったら、自分の犠牲も情報も、全て無駄になる。参加者までも巻き込んでしまう。 伊藤博士は苦悩する。 情報を流すならば定期放送のドサクサ紛れ、つまり今しかない。それは間違いないのだが。 果たして自分たちに、BADANを出し抜けるだけの幸運があるのだろうか? 果たして彼らに、BADANの目を掻い潜れるだけの幸運があるのだろうか? 伊藤博士はギャンブラーではない。だから読めない、「流れ」が見えない、「波」に乗れない。 知性と理性に逆に縛られ、彼は迷い続ける。答えの出ない思考の迷宮で、迷い続ける……。 * * * 「……クククッ……! そうか……そう来たか……!」 「???」 アカギは笑う。大きな疑問符を頭の上に浮かべるこなたをよそに、乾いた笑いを微かに漏らす。 画面に表示された『Dr.伊藤』、たったそれだけの名前から、ある程度の状況を把握する。 伊藤なんて名前は、参加者の名簿の中には載っていなかった。 この名前では、根も葉もない偽名ということも無いだろう。 あだ名のようなものなら本名代わりに打ち込む者もいるだろうが、『Dr.伊藤』とはまたあだ名らしくもない。 ハンドルネームの概念も知らぬアカギだが、その目は人間心理の真実を見通している。 この殺し合いとは無縁な外部の人間、という線も薄い。 技術的なことはてんで分からぬアカギだが、まずもってそんな可能性を主催者側が許すはずがない。 それが可能なら、参加者が簡単に助けを求められてしまう。外部からの介入を許してしまう。 主催者側の用意周到さから見ても、こんな所で全くの部外者と偶然繋がる、なんてことはありえない。 つまりは。 この、画面の向こう、どこかで似たような機械に向き合っているはずの『伊藤博士』という人物は…… 参加者でもなく、また、この殺し合いに無縁の人物でもない。 おそらく、主催者側に所属する人間の1人。 その技術力を考えても、主催者側に博士号持ちの人間が居てもおかしくはない。 そして主催者陣営の人間がこうして出てくる理由は、大雑把に考えて3つ。 主催者側の裏切り者、光成のように協力を強制されていた人物か。 あるいは、それを演じようとする主催者側の罠か。 さもなければ、仕事もしないで遊び呆けている、ただの馬鹿か。 (何にせよ……想像すらしていなかったこの展開……! やはり、泉こなたのツキは、信じられないものがある……! 確実に「流れ」は来ている……!) 3つのうちどれであっても、何らかの情報を引き出せる望みはある。「会話」してみる価値はある。 ここまで具体的な行動に移れずにいたアカギたちだが、一気に飛躍できる可能性がある。 ……とはいえこの流れ、非常に不安定な所に差し掛かっているのも事実。 誰かがどこかでミスをすれば一気に破滅。そんな破局の匂いも漂って来る。 そして、そういった匂いこそ、彼の好む所なわけで。 (ここで知略の限りを尽くしても、勝てないかもしれない……ミスが無くとも、不条理に死ぬかもしれない……。 先ほどのリーチの時のように、選択するまでもなく既に詰んでいる可能性すらある……。 そして負ければ全てを失う……まさに全てを……だが、だからこそ面白い……! ギャンブルは、狂気の沙汰ほど面白い…………ッ!) 定期放送を目前に控え、アカギはそして、心底楽しそうに唇の端を持ち上げた。 【C-4 学校・コンピューター室/1日目 真夜中】 【赤木しげる@アカギ】 [状態]:脇腹に裂傷、眠気 核鉄で自己治癒中 [装備]:シルバースキン 基本支給品、 ヴィルマの投げナイフ@からくりサーカス (残り9本) [道具]:傷薬、包帯、消毒用アルコール(学校の保健室内で手に入れたもの) 始祖の祈祷書@ゼロの使い魔(水に濡れふやけてます)、 水のルビー@ゼロの使い魔、工具一式、医療具一式 沖田のバズーカ@銀魂(弾切れ) [思考・状況] 基本:対主催・ゲーム転覆を成功させることを最優先 1:オンライン麻雀ゲーム越しに接触してきた『Dr.伊藤』への対処を考える。 2:学校で仲間を待つ。 3:対主催を全員説得できるような、脱出や主催者、首輪について考察する 4:強敵を打ち破る策を考えておく 5:こなたのツキを利用。当面は彼女を守る。 [備考] ※マーティン・ジグマールと情報交換しました。 またエレオノールとジグマールはもう仲間に引き込むのは無理だと思っています。 ※光成を、自分達同様に呼び出されたものであると認識しています。 ※参加者をここに集めた方法は、スタンド・核鉄・人形のいずれかが関係していると思っています。 ※参加者の中に、主催者の天敵がいると思っています(その天敵が死亡している可能性も考慮しています) そして、マーティン・ジグマールの『人間ワープ』は主催者にとって、重要なにあると認識しました。 ※主催者のアジトは200メートル以内にあると考察しています ※ジグマールは『人間ワープ』、衝撃波以外に能力持っていると考えています ※斗貴子は、主催者側の用意したジョーカーであると認識しています ※三千院ナギは疫病神だと考えています、また彼女の動向に興味があります。 ※川田、ヒナギク、つかさの3人を半ツキの状態にあると考えています。 ※ナギ、ケンシロウと大まかな情報交換をし、鳴海、DIO、キュルケの死を知りました。 ※こなたのこれまでの経緯を、かなり詳しく聞きだしました。こなたに大きなツキがあると見ています。 ※『Dr.伊藤』の正体は主催側の人間だろうと推測しています。 【泉こなた@らき☆すた】 [状態]:軽い打撲 、睡眠中 [装備]:時計型麻酔銃(1/1)、麻酔銃の予備針8本 [道具]:支給品一式、んまい棒@銀魂、フレイム・ボール@ゼロの使い魔(紙状態)、 キック力増強シューズ@名探偵コナン、綾崎ハヤテの女装時の服@ハヤテのごとく [思考・状況] 基本:みんなで力を合わせ、首輪を外し脱出。 1:もう1回、アカギと麻雀をするかどうか、するなら『Dr.伊藤』を加えるかどうか思案中 2:学校で仲間を待つ。 3:独歩、ナギ、ケンシロウが心配。 4:かがみ、つかさを探して携帯を借りて家に電話。 [備考] ※ナギ、独歩、ケンシロウ、アカギ等と大まかな情報交換をしました。 (しかし、つかさ達の事は未だ何も聞いていません) ※キック力増強シューズが足に合うかどうかは不明です。 ※学校の校庭に 消防車@現地調達 が1台停止しています。 ※オリンピア@からくりサーカス が懸糸の切れた状態で消防車の助手席の後ろに座っています。 前編 208 君にこの言葉が届きますように 投下順 210 Shine On You Crazy Diamond 208 君にこの言葉が届きますように 時系列順 210 Shine On You Crazy Diamond 208 君にこの言葉が届きますように 泉こなた 215 交差する運命 208 君にこの言葉が届きますように 赤木しげる 215 交差する運命
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2140.html
アンリエッタ姫殿下の御前にてルイズは傅く。 深く下げた頭は彼女への敬意と謝罪の意を表していた。 ルイズは全てを明かした上でアンリエッタの言葉を待つ。 自身の背信行為が許されるなどとは思っていない。 罰を言い渡されれたのならば甘んじて受け入れよう。 謁見の間での姫様の口振りは彼の実力を知っているようだった。 きっと助力として望まれたのは私ではなく使い魔の方。 以前なら屈辱と受け取ったかもしれない。 だけど今は違う。あるのは望まぬ力を与えられた悲しみだけ。 でも圧倒的な不利を覆すには彼の力は不可欠。 そうと知っていながら私は彼を元の世界へと逃がしてしまった。 それは真にトリステインの事を案ずるならば犯してはならない過ち。 ……なのに私は一国の安全よりも彼の命を優先した。 かつてワルドが語った事を思い出す。 『どちらが正しいのかなんて誰にも決める権利はない』 あの時は意図さえも理解できなかった言葉が重く響き渡る。 裏切り者。その刻印はワルドだけではなく私にも刻まれたのだ。 国も使い魔も裏切って私は自分の心に従った。 それが私の罪。守るべき貴族としての責任を放棄した罪。 何も告げぬまま、そっとアンリエッタの手がルイズの肩に添えられる。 びくりと肩を震わせる彼女にアンリエッタは静かに顔を寄せる。 「いいのですルイズ。私に貴女を責める資格はありません」 ぎゅっとルイズの肩を抱き締めて彼女は告げた。 それは口先だけの言葉では断じてない。 合わせられた胸を伝ってアンリエッタの温かな気持ちが流れ込んでくる。 一人の少女として振舞う事が許されなかったのは彼女も同様だった。 アルビオンに付け入る隙を与えたのもウェールズに宛てた恋文のせい。 貴族としての生を課せられた少女の、たった一度だけのわがまま。 同じ想いを抱えた親友をどうして彼女が裁けるというか。 ウェールズ様を喪って独りぼっちになったと思っていた。 だけど違う。私にはまだ心強い友と臣下がいる。 復讐に命を捧げるなどあってはならない。 このトリステインと彼女達を守る為にも私は生きる。 ……たとえ、それが愛しい人のいない明日であろうとも。 言葉を交わす必要はない。 無邪気に遊び回った頃のように二人の心は通じ合っていた。 込み上げてくる感情と涙を堪えながらルイズは懐に手を入れた。 そこから取り出した『始祖の祈祷書』と『水のルビー』を彼女に差し出す。 「これはお返し致します」 「いえ、それは貴方が預かっていてください。 少なくとも私の気持ちに整理がつくまでの間は」 「……分かりました。ではお預かりします」 「ええ、いつの日か必ず貴方の手で返してください。 それまでは決して死んではなりません、これは命令です」 にこりと笑みを浮かべてアンリエッタは告げた。 ルイズなら命を賭して自分を守ろうと無茶をするだろうと予期していた。 それに釘を刺す意味で彼女は国宝を持たせたのだ。 「ではルイズは私の傍に」 「はい!」 隣に寄り添うようにルイズは自分の馬を引いてくる。 魔法が使えずとも優秀な指揮官でなくとも今のアンリエッタには彼女が必要だった。 誰よりも安らぎを与えてくれる親友。 それこそが復讐に身を焦がす自分を止めてくれる最後の砦。 (……いつまでも私の傍にいてくださいねルイズ) 「これでどうかな? 急拵えだから見栄えは悪いけどね」 「いやいや、こいつぁ立派な物ですよ。十分すぎるぐらいでさあ」 人一人隠れられるぐらいの深さを持った穴が線の如く延びる。 それは紛れもなく彼のいた世界で言う塹壕だった。 ヴェルダンデの手際の良さにニコラ軍曹は思わず感嘆を漏らす。 そして同時に自分の助言を何の抵抗もなく聞き入れたギーシュにもだ。 本来、中隊長を務めるべき人物は勝ち目のない戦いを前にして逃亡した。 ここにいるのは士官の教育も碌に受けていない傭兵上がりだというのに。 戦場を知り尽くしているが故に、如何にして銃撃や砲撃を防ぐかを彼は知っていた。 だが並の貴族であれば、このような場所に身を隠すなど誇りが傷付くと拒否しただろう。 (大物なのか、ただの臆病者なのか、判断がつきかねる人だな) まあ、どちらにせよ自分が生き残る確率が上がったのには変わりない。 一見すれば頭上を大艦隊に抑えられ数でも負けている絶望的な戦だ。 だが、まるっきり勝ち目がないかというとそうではない。 あれだけの艦隊を維持するには相当な補給が必要となる。 それこそタルブ、ラ・ロシェールを制圧し橋頭堡でも作らなければ賄えない。 加えて『スヴェルの月夜』を過ぎた今、時間が経つほどにアルビオンはトリステインより離れていく。 そうなれば艦隊とを繋ぐ補給線も延びざるを得ず、断ち切る事も不可能ではなくなる。 逆にこっちは奇襲に面食らって準備が整わなかっただけで、 この場を持ち堪えれば大国に相応しい陣容で相手を追い返せる。 傭兵は端金で命を捨てるような真似はしない。 勝算があればこそ戦争を仕事とする彼等は付き従うのだ。 「他に必要な物はあるかい?」 「そうですな。後は運がありゃあ完璧なんですけどね」 ギーシュの問いに彼は笑いながら答えた。 結局、勝負はやってみなければ分からない。 そんな時に一番頼りになるのはツキしかないのだ。 だけど幸運を用意できる指揮官などいる筈もないと思っていた。 「それなら問題ない」 「へ?」 「魔法の腕はドットクラス、戦場に行った事もない僕が、 何万って数のアルビオン軍に包囲されたニューカッスル城から逃げて来れたんだ。 強運でもなきゃそんな奇跡起こせるわけないだろ?」 ぽかんとニコラは口を開けたまま立ち尽くす。 冗談めかしたように言うギーシュに言葉も出ない。 こんな状況でよくそんな大法螺が吹けるものだと、むしろ感心を覚える。 彼の嘘に乗っかるつもりでニコラは返した。 「ああ、そりゃ頼もしいんですがね。 そん時に運を使い果たしちまったかもしれませんぜ?」 「……怖い事言わないでくれ。 ただでさえ戦場に立っているだけでも膝が震えてくるんだから」 そう答える上官の膝を見れば 嘘でも冗談でもなく本当に震え上がっていた。 沸き上がる疑念を振り払いながらニコラは溜息をついた。 あの戦場から帰ってくるなど有り得ない、と。 もし、そんなのがいるとしたら、そいつは始祖の生まれ変わりに違いない。 「姫殿下、お呼びに従い参上しました」 アンリエッタ姫に呼び出されたアストン伯が片膝をついて挨拶を述べる。 僅かに頬を伝う冷や汗は抗命罪を問われる恐れから来ていた。 しかしアンリエッタは冷静に現状報告を促す。 村を見捨ててまで得た情報は余す所なく彼女に伝えられた。 「敵はタルブ村を強襲、竜騎士隊によって村は焼かれ艦隊の上陸地点を作り出したようです。 村人は事前に森の中へと避難させてあった為、犠牲者はおりません。 私めは手勢三十騎を率いて姫殿下との合流した次第です」 「御苦労です。ところで邸宅の警備はどうしていましたか?」 「は? 我が屋敷ですか? フーケ騒ぎの際に衛兵の数を増やしたぐらいで他には……」 「番犬は使っていましたか?」 「え、ええ。それが何か?」 「では急ぎ屋敷に引き返して犬を数頭連れて来るのです。 事は急を要します。直ちに取り掛かってください」 アンリエッタの命を受けて出て行くアストン伯の首は傾げたままだった。 命令の意図を理解出来ぬまま彼は邸宅へと馬を走らせる。 その背中を眺めながらマザリーニは姫に訊ねるように呟く。 「上手くいきますかな」 「いってもらわねば困ります。 幸い、こちらに彼がいないのを向こうは知りません。 どんなに小さな手であろうと打っておくに越した事はありません」 密談するように話す二人の前に慌てた様子で伝令が飛び込んできた。 彼の口頭報告を聞きながらアンリエッタ達は即座に空を見上げた。 まるで蓋をするようにアルビオン艦隊がその高度を下げていく。 その行動が意味する所はただ一つ。 「各隊に連絡! 艦隊からの砲撃に備えなさい!」 トリステイン陣地に向けられた砲門が次々と火を噴く。 大気を震わせる砲声に、大地を揺るがす弾着。 巨人の合唱ともいうべき轟音がタルブ周辺に響き渡る。 さすがに本陣は風メイジ達が直撃を逸らしているが、 他の各所では凄まじい土煙と共に並みいる兵達が吹き飛ばされていく。 その光景を後方の艦で眺めるクロムウェルは呟いた。 「所詮はこの程度か。いや、我が軍が強すぎたのか」 「ならば『レキシントン』で御覧になればよかったのでは?」 護衛として隣に控えたフーケが尋ねる。 無論、意見するつもりなど毛頭ない。 彼女にしてみれば、クロムウェルのこの気まぐれは僥倖だった。 如何に強大な戦艦といえどバオーの力を知っているフーケの気は休まらない。 あの怪物と戦えと言われていたなら、とっとと妹を連れて逃げ出すつもりだった。 しかし戦場から離れた艦であれば空を飛べない奴と交戦の恐れはない。 「艦長と艦隊司令、皇帝が同じ艦に揃ったのでは指揮系統が混雑する。 それに中からでは『レキシントン』の勇姿を見れないのでな」 見下ろすのは砲撃の為に降下した入道雲の如き巨艦。 その砲声は離れて尚、彼等の耳を劈く。 陶酔するように艦隊を見下ろすクロムウェルに、フーケは溜息をついた。 (こいつには過ぎた玩具だね。軍隊も……アレも) 心中を悟られぬように彼女は仮面を被り直す。 警戒すべきシェフィールドは同席していない。 それが何を意味するのかは判らないが、 親から解放された子供みたくはしゃぐ上司に愛想を尽かしたのではとそんな事を考えてしまう。 砲声が止む。弾着の煙が地上と敵兵を覆ってしまったが為の中断。 しかし地形さえも変えてしまうのではないかという砲撃を浴びて、 有象無象のトリステイン軍に反抗する気力は残されている筈がない。 そう考えたクロムウェルは満足げな笑みを見せた。 しかし、それは響き渡る鬨の声に掻き消された。 吹き抜ける風が煙を洗い流し、その姿を現していく。 晴れ渡った地上には杖や銃を手に健在を示すトリステイン兵の姿。 数で勝るアルビオン軍さえ、その気迫の前に踏み止まっていた。 まるで効力を示さぬ砲撃に、噛み締めたクロムウェルの歯が軋みを上げる。 戦局の変化に一喜一憂するクロムウェル。 その姿に皇帝としての器があるとは到底思えない。 クロムウェルはアンリエッタをお飾りと呼んだ。 しかし、それはこの男も同様なのではないかと疑わずにはいられなかった。 「何をやっておる! 砲撃手はちゃんと敵を狙っているのか!?」 「敵の痩せ我慢だと思いたいものですな」 がなり立てるジョンストンの横でボーウッドは冷静に感想を口にした。 多少時間が掛かるとも、このまま砲撃を続ければいずれは打ち崩せる。 だが、血気に逸る総司令や皇帝はそれを望むまい。 力押しででも敵軍との短期決着を図ろうとするだろう。 その彼の予想通り、竜騎士隊や地上部隊に突撃命令が下された。 直ちに艦に搭載された竜騎士達が飛び立っていく。 その中、ワルドは命令に背いてただ黙って戦場を観察していた。 船員の一人がそんな彼を見咎めて声を荒げた。 「ワルド子爵! 出撃の命令が出ています! 従わない場合は抗命罪として処分される事も……」 「黙っていろ」 ワルドの一言に船員は凍りついた。 僅かにこちらを睨む視線はそれだけで人を殺せる。 もし僅かにでも声を出せば喉を掻き切られていただろう。 静かになった彼にワルドは淡々と告げる。 「私の隊は先程出撃して休ませている所だ。 それにあの怪物を仕留める為、皇帝直々に自由行動も許されている。 何の問題もないと総司令官にも伝えておけ」 「はっ!」 「それともう一つ。艦隊の高度を上げるように伝えろ」 怯えを隠しながら彼は敬礼して応える。 一刻も早く立ち去ろうとした彼をワルドは呼び止めた。 頼まれた総司令官への言伝に彼は恐る恐る聞き返す。 「ですが、これ以上高度を上げると風の影響で砲の命中精度が……」 「構わん。この程度の高さならば奴は飛び移ってくるぞ」 ラ・ロシェールでの光景が未だにワルドの目に焼きついている。 この戦の勝敗などワルドにはどうでもいい。 バオーを打ち倒す事だけが今の彼の全てだった。 「鬨の声を! 杖を掲げて我等の健在を示すのです!」 アンリエッタの号令に合わせて兵達が雄叫びを上げる。 その周りでは負傷した兵達が次々と後方へと運ばれていた。 砲撃による被害は甚大だった、だからこそ敵に悟られてはならない。 もし、こちらが弱っていると知られば敵は一気呵成に攻めてくるに違いない。 ならば虚勢であろうとも張り続けて敵を食い止めるべきだ。 あれだけの砲撃を浴びてもトリステイン軍の士気は衰えなかった。 象徴でもあるアンリエッタ姫に率いられている事に加え、 目の前で燃やされたタルブ村の惨状が彼等の義憤に火を点けたのだ。 「迎撃の用意を! これ以上トリステインへの侵攻を許してはなりません!」 砲撃が止み、動きを見せる敵軍にアンリエッタが指示と檄を飛ばす。 迫り来る竜騎士隊を迎撃すべくグリフォン隊と竜騎士達が飛び立っていく。 彼等を送り出した後で、ずしりと彼女の両肩に重みが圧し掛かった。 遂に戦いの火蓋は切られてしまった。 気丈に振舞おうとも彼女はまだ初陣も果たしていないのだ。 大軍を指揮する重責は彼女を押し潰そうと更に重みを増していく。 そんな彼女の手を隣に控えたルイズが握り締める。 その暖かな感触だけが今のアンリエッタにとって唯一の救いだった。 「いい報せと悪い報せが二つずつあるんですが、どれから聞きたいですか?」 「それじゃあ交互に頼む。知っての通り心臓が強い方じゃないんで」 「まず良い方から。艦隊が砲撃を止めました」 「なるほど。確かにそれは良い報せだね」 長玉で敵軍の様子を窺っていたニコラの軽口にギーシュが応える。 ヴェルダンデの掘った塹壕は砲撃の嵐に対しても効果を発揮していた。 多少、負傷者は出たがそれでも他の部隊に比べれば微々たるもの。 何とかなるかもしれないとギーシュは思い始めていた。 だが続くニコラの報告がそれを砂糖菓子みたいに打ち砕く。 「ですが、それは地上部隊を突入させる為の前準備のようです」 「それが悪い方か。じゃあ次の良い報せは?」 「敵さんの動きから次にどこを狙ってくるか判りました」 「なら援護に向かう必要があるな」 「いえ、その必要はありません。此処です」 「………え?」 「敵軍が狙っているのは此処の突破です、指揮官殿」 「はは、ははははは」 敬礼するニコラを前に、ギーシュの顔に乾いた笑みが浮かぶ。 何が良い報せと悪い報せだ、全部悪い報せだったじゃないかとギーシュは一人毒づいた。 彼の淡い期待は押し寄せる敵軍の足音によって瞬く間に消し飛ばされたのだった。