約 6,956 件
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/6858.html
予言の祈祷者クルトミラ SR 光/闇文明 (8) クリーチャー:ライトブリンガー 8500 ■マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。 ■このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の他の《クルト》と名の付くクリーチャーを好きな数破壊してもよい。こうして破壊したクリーチャー1体につき、コスト7以下の光のサイキック・クリーチャーを1体、バトルゾーンに出してもよい。 ■W・ブレイカー 作者:Mr.クルト フレーバーテキスト 【企画】あつまれ!クラスメート!! 次のターンには一斉にいくヨ! 予軒九流斗 関連 予軒九流斗 評価 ザビミラのクルト限定verです。すこし強いですかね? -- Mr.クルト (2012-07-07 19 55 18) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9317.html
前ページ次ページNeverwinter Nights - Deekin in Halkeginia 秘密の地下通路の捜索を終えた一行は、その後ほどなくして学院へ帰還することにした。 既に十分な収穫があったのだし、翌日にはルイズの上の姉がやってくる予定になっているということもある。 今日は早めに帰って休み、見つけたものを調べるのは学院に戻ってから落ち着いた環境でゆっくりとすればよいだろう、という判断だ。 ディーキンは見つけたもののうち、書類やその他細々したものは自分の荷物袋に仕舞い込んで持っていくことにした。 それ以外の重たくかさばる物は、シルフィードに積み込んで運んでもらうことにする。 屋敷に残っていた使用人用の魔法の荷物入れなども活用すると、めぼしいものは大方積み込んで持ち帰ることができそうだった。 そうして準備を済ませると、一行はシルフィードとディーキンの用意した幽体馬とで学院に向けて出発した。 その途上で、ディーキンはいつになく難しい顔をして、エンセリックと共に屋敷で発見した研究記録の束を調べていた。 別の乗騎に乗っている他の仲間たちとは大分距離が離れているので、話を聞かれる心配はなかった。 シエスタに頼んで、デルフリンガーも相談役として借り受けている。 「ねえ、デルフ、エンセリック。あんたたちは、ここに書いてあることについてどう思うの? タバサのお父さんは、自分のお兄さんが『虚無』じゃないかって思ってたみたいだけど……」 ディーキンは、2振りの剣に意見を求めてみた。 「そうだなあ……。ジョゼフとかいうやつに実際に会ったことはねえから、確かなことはわからねえ。 けど、そこに書いてあることが本当なら、確かにそいつは『虚無』っぽいかもな」 「私には『虚無』とやらのことはわかりませんから、何とも。 ただ、この記録を書いたシャルルという人が並大抵の人物ではなかったことは確かですね。 そのシャルルが劣等感を抱くほどの兄だというのなら、ジョゼフとやらも凡庸な人物ではないのは間違いないでしょうね」 「ウーン……、」 隠し戸のさらに奥に隠されていた、シャルル大公の研究記録……。 そこには、彼の進めていた調査・研究や、考察などに関して、順を追ったかなり詳しい記述が残されていた。 それによれば、シャルル大公は希代の天才メイジと呼ばれながらも、以前から兄ジョゼフへの劣等感に苛まれていたらしい。 他の者たちがどれほど兄を暗愚だと揶揄しようと、実の弟である彼は兄の優秀さに気付いていたのだ。 魔法は使えずとも、ジョゼフには優れた頭脳があり、王としての才能があった。 昔から、一緒に遊んでいても、一緒に学んでいても、自分が兄に勝っていると思えたのはただ魔法の腕前だけだった。 そして、実の父である当時のガリア国王も、おそらくは2人の息子たちの能力についてよく知っていただろう。 慣習から言っても、順当にいけば王に選ばれるのは兄のほうに違いないことをシャルルは理解していた。 だから彼は、幼い頃から一心に努力を重ね、特に自分の長所である魔法の腕前を磨いてきた。 周囲の者たちにも常に如才のない態度を示して、着実に評価を高めてきた。 そこまでなら、兄への対抗意識、競争心を持っていたというだけのことであって、別に不健全な話ではないだろう。 事実、最初の頃はシャルル大公はまっとうに努力をしていただけだった。 嫉妬深くはあったかもしれないが、非難されるようなことをしてはいなかったのだ。 しかし、自分の魔力を高めようと魔法の研究を続けていくうちに、雲行きが怪しくなってきた。 古の昔に失われた『虚無』について調べていたシャルル大公は、兄こそがその担い手なのではないかと疑い始めたのである。 もし、兄が始祖と同じ『虚無』を扱える素質の持ち主だったとしたら……。 自分が誇りにしてきた希代の魔法の腕前も、伝説の復活という輝きの前に完全に霞んでしまうことになる。 次の王になるという自分の望みがかなうことも、まずなくなるだろう。 その頃から、シャルル大公には焦燥が見え始めたようだ。 各地の遺跡を密かに調査させ、そこから見つけ出した古の魔法、特に『虚無』に関する調査・研究に熱心に取り組み続けた。 しかし、調査を進めれば進めるほど、兄こそが『虚無』に違いないという確信はますます強まるばかりだった。 彼はその事を兄に知られまいと、自分の研究や調査の内容に関しては一切外に漏らさず、厳重に秘密を守るようにした。 そうしながら、さらに深く『虚無』について調べ続けた。 自分にも王家の血は流れているのだから、なんとか『虚無』を扱えるようにならないものか、と考えたのだ。 それさえできれば、伝説を復活させた功績は、兄ではなく自分のものになる。 また、その頃からシャルル大公は、自分の評価を少しでも高めようと、あまり感心できない手段も取るようになっていったようだ。 裏金を渡したり裏取引を持ちかけたりして、より多くの家臣を味方に付けようとしたり。 兄の悪評を吹聴させて、評判を貶めさせたり……。 彼は、幼い頃から望んできた王の座を得ることにそれだけ執着していたのだろう。 あるいは、そうすることでずっと抱いてきた劣等感を振り払い、自分が兄よりも優れていることを証明したかったのか。 だが彼は、道を踏み外し始めたにもせよ、ただ姑息なだけの男ではなかった。 賞賛されるべき才能と努力の男であったことは疑いない。 長年の調査の結果、ついに『虚無』の呪文にまで辿り着いたのだ。 彼が始祖ブリミルに縁のある場所と伝えられる遺跡から発見したのは、太古の時代のものと思しき白紙の書物だった。 普通ならば、ただ古いことしか取り柄のないゴミだとして片付けるところだろう。 だが、長年『虚無』を研究してきたシャルルだからこそ、その重要性に気がついたのだ。 彼は、使い道の分からないガラクタのように見えるものが始祖の秘宝として各地の王家に伝えられていることを知っていた。 ガリアに伝わる『始祖の香炉』も、その手の秘宝のひとつだ。 そして、トリステイン王家に現存する始祖ブリミルが記述したという古書、『始祖の祈祷書』は、これと同じく白紙の書物だという。 シャルルは以前から、始祖がそれらに『虚無』の秘密を隠して子孫たちに遺したのではないか、という仮説を立てていた。 とはいえ、各国の秘宝である以上は、持ち出して調査するわけにもいかなかったのだ。 もしもこの白紙の書物が何らかの理由で失われた『虚無』の秘宝、もしくはその試作品か何かであったなら……。 シャルルはそう期待して、入念な分析を行ってみた。 「《秘密のページ(シークレット・ページ)》のような呪文の存在は忘れ去られ、《魔法解呪(ディスペル・マジック)》すらも無い。 そのような状況で、彼はこの本の秘密に気が付き、しかもある程度の内容の解読にまでこぎ付けたのですから。 相当な注意力と努力が無ければ成し得なかったことでしょう、大したものですよ」 今は亡きシャルル大公を賞賛するエンセリックに頷いて同意を示しながら、ディーキンは件の本を開いてみた。 二重の隠し戸に大切に保管されていたこの本は、『虚無』の担い手が開いた場合のみ内容が読めるような仕掛けになっているらしい。 しかしシャルル大公は、研究を重ねて隠された文面を少しずつ解き明かしていたようだ。 一緒に見つかった研究記録の束には、既にいくつかの『虚無』の呪文が解読され書き留められていた。 「うん、向こうに戻ったら、ルイズにこの本と、こっちの記録の束を読んでもらって……。 明日来るっていうお姉さんにも、一緒に見てもらうのがいいかな?」 自分の妹が伝説の系統だなどと聞かされて、その女性がどんな反応をするかまでは、もちろんディーキンにはわからない。 だが、別に身内に隠さなくてはならないような理由もないだろう。 それはさておき、シャルル大公の方はといえば……。 ついに伝説の『虚無』の呪文までも発見し、研究が順調であるにも関わらず、ますます焦燥を深めていたらしい。 というのは、研究すればするほど、『虚無』は自分にはどうしても使えなさそうだということが明らかになっていったからだった。 他の系統魔法と『虚無』には大きな違いがあって、何度詠唱を試みても無駄だった。 それにそもそも、完全な形で『虚無』を扱うには、自分の精神力ではまるで足りないらしいのである。 だが、シャルル大公は不屈の精神の持ち主だった。 それでも諦めず……、ならばかつて『虚無』によって作られた魔法の品を扱うことで同等の力を行使できないか、と考えた。 遺跡の探索を続けさせ、使い方の遺失した古い時代のマジックアイテムを大量に運び込んで研究し始めたのだ。 地下の研究室には、そうして見つかったたくさんの魔法具が並んでいた。 その中には、スキルニルなどのハルケギニアのマジックアイテムに混じって、フェイルーンの物と同じスクロールやワンドなどもあった。 それにポーションや、指輪やアミュレットなどの各種装備品に、もっと珍しい品々まで、多種多様だった。 もちろん、先程手に入れたシールド・ガーディアンのアミュレットもそのひとつだ。 そうした品の中には、古すぎて魔力が綻んだのか、あるいは事故で破損したのか、既に魔力を失ってしまっているものもあったが……。 それにしても、なかなか大した収穫だったといえるだろう。 「始祖ブリミルの時代にはこの世界と私たちの世界につながりがあったという仮説が、これでほぼ確実になったわけですね。 ……しかし、どうやらシャルル大公は、あまり芳しくないものまで見つけてしまったようで。 とても優秀だったためにその使い方まで理解できてしまったというのが、またいけなかったのでしょうね」 どうやらシャルル大公は、研究を続ける中で、他次元界のクリーチャーを召喚する魔法の品を見つけ出したらしい。 研究から、『虚無』の呪文には他の次元界に門をつなげたり、そこから生物を呼び出したりするものがあると既に知っていた彼は……。 その扱い方を見つけることでこそ『虚無』と同等の力が手に入ると信じ、それを熱心に研究し始めたのである。 そうして努力を重ねたの末に、彼はついにその品を使いこなすことに成功した。 しかし、彼がそれを使って最初に呼び出すことに成功したのは……。 よりにもよって、九層地獄界のデヴィルだったのである。 「これで、現在のガリアにはデヴィルが巣食っているであろうことは、ほぼ確実になりました。 そして、その最初の出所が誰だったのかも、また明らかになったわけです」 「……俺にゃあ、悪魔だののことはよくわからんがよ。 それにしてもまあ、あの小さい娘っ子には話しにくいことになったみてえだわな」 「うん……」 ディーキンが、顔をしかめて頷いた。 彼は二重の隠し戸の最奥から見つけた文書を広げて、今一度目を通し直してみた。 最初に読んだときは目を疑ったが、残念ながら何度読み返してみても、内容に変わりはない。 それは、奇妙な皮紙の束を綴った文書であった。 実のところ、材質は羊の皮ではない。 仔牛の皮とか、竜の皮とかいったものでもない。 それは、人型生物の皮であった。 おそらくは人間か、あるいはエルフか……。 処女か、それとも赤子か……。 その内容は、多数の仰々しい約定の事項がびっしりと書き連ねられたもので……。 要約すれば、ある見返りの提供と引き換えに、自身の永遠の魂を対価として差し出すという契約書であった。 最後のページの末尾にある署名欄には、契約者自身の血で書き入れられたサインがある。 “シャルル・ド・オルレアン” そこにははっきりと、そう記されていた。 何度見直してみても、九層地獄バートルのデヴィルが用意した『売魂契約』の書面に間違いなかった。 このようなことを、彼の妻であるオルレアン夫人や娘であるタバサに、一体どう伝えたらよいものか。 いや彼女らへの対応だけではない、デヴィルがこの世界に間違いなくいるというのなら、それに気付いた自分は一体どう行動したらよい? こうなった以上、フェイルーンの仲間たちにも協力を求めるべきだろうか。 ルイズらには、どこまで協力を求めてよいものか。 それに、シャルル大公の兄である現国王のジョゼフは、一体どこまでこの件に関わっているのか……。 ディーキンはあれこれと思いを巡らせながら、学院への帰路を急いだ……。 前ページ次ページNeverwinter Nights - Deekin in Halkeginia
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3043.html
前ページゼロのドリル ――これはまだ、自らの運命に気づかぬ、一人の女の物語。 トリスティン魔法学院の中庭にて行われた春の召喚儀式。生徒達は抜けるような青空の下、各々が召喚したすばらしい使い魔達と親睦を深めていた。 その傍らで、両手両膝を大地につけてガックリ項垂れる少女が一人。名をルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールという。 ふわふわした桃色の髪がトレードマークの小柄な女の子だ。 他の生徒達が召喚したモグラやサラマンダーなどの使い魔と戯れている中で、彼女だけは何も相手にせず、ただ一人でうつむいていた。 そんなルイズを心配げに見下ろしながらそばに歩み寄る一人の男性。年若い生徒達の中で、彼だけは歳経た深いしわを顔にこさえている。 「ミス・ヴァリエール。元気を出せと言うのも無茶かもしれないけれど、そろそろ顔を上げなさい。“それ”がなんであれ、君はサモン・サーヴァントに成功したんだ」 「……コルベール……先生」 自分の小さな肩にそっと乗せられた手の感触に気づいて、ルイズはコルベールに顔を向けた。瞳に溜まった涙のせいで、視界はぐにゃぐにゃに歪んで見えた。 まるで氾濫を起こす寸前の河のようだ。それでも涙をこぼさないのがヴァリエールらしいと思いながら、コルベールはその場にしゃがみこんでルイズの側に落ちていた"それ”を拾い上げると、そっと彼女の手に握らせる。 「変わった金属で出来た物だ。もしかしたら何かのマジックアイテムかもしれない」 マジックアイテムと聞いて、ちょっとだけルイズの瞳に光が戻った。 「とにかく、"それ”が君の元に召喚されたのはきっと意味のあることなんだ。大事に持っていなさい」 ルイズは手の中にある“それ”をじっと見つめた。 綺麗だと思う。それは宝石で出来たわけでもなければ趣向を凝らしたデザインをしているわけでもない。 けれど、その螺旋を描いた形はなぜかルイズの目をつかんで離さなかった。 ゼロのドリル 前編 私を一体誰だと思っているの! 召喚した"それ”に契約の儀式を行う。金属の塊にキスをするルイズを見た他の生徒達はそろって爆笑して彼女を罵った。 普段なら意趣晴らしで罵り返す所だが、今のルイズにはそれをするだけの気力は無い。悔しくてかみ切りそうなほど唇を噛みしめる。 自分以外の生徒達の傍らについて彼等に従う使い魔達。それを見ていると、自分の隣りに何も居ないのがたまらなく恥ずかしかったのだ。 悔しくて"それ”を握りしめる。ルイズを見て笑う者と、誰にも目線を合わせずに悔しがるルイズ。 どちらも目をやらない中で、“それ”がうっすらと緑色に発光していたことに気づいた者はいなかった。 ルイズが召喚した金属の塊は、名前をドリルと言う。 契約の儀式が終わった後、刻まれたルーンについて調べていたコルベールからルイズはそう聞かされた。 「挿絵を見つけたんだよ! かつて始祖ブリミナルが召喚した使い魔の一人、ガンダルーヴが愛用していた槍とそっくりだ。いや、これは凄い発見だ!」 これ槍ッスかこれ!? とルイズが驚いているのにも気づかずに、コルベールは一人ではしゃいでいた。 たしかに棒の先端に付ければ槍として使えなくもない気がするけれど……どうせならガンダルーヴの方が来れば良かったのに。 ヒモを通して首からぶら下げているドリルを指先で弄びながら、そんな事を愚痴るルイズ。 召喚の儀式から数週間後、土くれのフーケと名乗る盗賊がトリステイン魔法学院の宝物庫を襲撃して「カオガミ様の象」を奪うという事件が起こる。 学院長であるオールド・オスマンはカオガミ様の象が持ち去られたことに激しく狼狽した。 オスマンの話によると、カオガミ様の象とは一見すると単なる鉄で出来た人形だが、その正体は始祖ブリミナルの時代から存在する最強のゴーレムの一つであるという。 ブリミナルが作ったとされるそれは歴史的価値ならば始祖の祈祷書なみだ。かつて多くの者がこのゴーレムを動かそうとしたけれど、今まで誰一人として動かすことが出来なかったという。 けれど、フーケほどのゴーレム使いならば、あるいはカオガミ様の動かし方について何か心当たりがあるのかもしれない。 それを危惧した学院長オールド・オスマンは至急の追撃部隊を編成しようとするが教師は誰も参加しようとしなかった。 そんな中、たまたまフーケが宝物庫を遅う場面に居合わせたルイズと、ルイズの仇敵・キュルケ。そして無口なメガネ少女、タバサ。 この三人が追撃部隊に立候補した。 やる気のない奴よりやる気のある連中。……ということで、オスマンは危険を承知でこの三人をフーケ追撃のメンバーに選ぶ。 情報を入手してきたオスマンの秘書、ミス・ロングビルとともにフーケを追うことを彼女たちに命じた。 ミス・ロングビルの情報を元にたどり着いたのは森の中にたたずむ一軒の小屋だった。どうやらここが、フーケの隠れ家らしい。 中を見ると灰色の小さなゴーレムの顔が一つ、小屋の中央に鎮座しているだけだった。一目で分かった。これがカオガミ様の象であると。 顔から直接小さな手足が生えた姿を見ていると、とても学院長が恐れるほどの強力なゴーレムとは思えない。 辺りにフーケの姿も見えないことから「拍子抜けね」とキュルケが気を抜いた瞬間、ドシンと地響きが小屋を襲った。 驚いてキュルケとタバサが小屋の外に出てみると、そこには身の丈三十メイルを超える、巨大なゴーレムが出現していた。 「出たわね土くれ!」 叫んで、キュルケはゴーレムに向かってファイアーボールを唱える。しかし分厚いゴーレムの身体は炎で貫くことができない。 巨大な手足を振りまわして、ゴーレムはキュルケを狙う。相手は恐ろしく巨大で、踏みつぶされただけで終わりだ。 地上戦は不利と判断したタバサは自らの使い魔である風竜、シルフィードの背にキュルケと一緒に飛び乗ると天高く舞い上がった。 いちいちゴーレムなんか相手にしてられない。術者であるフーケを直接叩くことにしたのだ……と、舞い上がった所でキュルケは先ほどからルイズの姿が見えないことに気づいた。 「小屋の中」 めんどくさそうにルイズを探すキュルケに、タバサは小屋の方を指し示す。 なんだ、小屋の中に隠れてたのか……キュルケは無意識に息をついていた。 キュルケとタバサが小屋の外に出て行ったとき。 うっすらと、カオガミ様のゴーレムの両目が光っていることにルイズは気づいた。共鳴するように、自分のドリルも緑色に光っていた。 それから後のことを、ルイズは良く覚えていない。二人が小屋を飛び出したことにも、巨大なゴーレムが起こす地震にも、キュルケのファイアーボールにも気づかなかった。 何かにひかれるようにカオガミ様の顔に触れて、するとおでこより上の部分がいきなり開いて、中から操縦席のような物が現れた。 乗り込んで、両壁から突き出た操縦桿を握ってみる。妙に手になじむ。 目線を前にやると、小さくて丸い穴があった。穴の奥からは、ルイズのドリルと同じ、緑色の光が輝いている。 なぜかそれを見て、ルイズは分かった。胸元にぶら下げたドリルは、こう使う物だと。 ルイズは自分のドリルをカオガミ様の穴にねじ込んだ。 緑色の極光がカオガミ様から放たれて、灰色の顔が深紅と白のカラーリングに入れ替わる。 ルイズは操縦桿を強く握りしめる。 ――――行ける!! カオガミ様は緑色の流星となって小屋から飛び出すと、鋭い弧を描いて一直線にフーケのゴーレムに突っ込んだ。 カオガミ様の顔より下からはルイズのドリルより遙かに巨大なドリルが出現している。 ちょうどゴーレムの顔があった部分に刺さると、ルイズは操縦桿を力一杯握りしめた。ルイズの小さな身体から緑色の光があふれ出て、操縦席の目の前にあるドリルに螺旋を描きながら吸い込まれてゆく。 光を吸収したカオガミ様はその光を自分のドリルの先端から放出し、フーケのゴーレムの中に出した。 「あんな凄い量を中に出すなんて」 「溢れそう」 すさまじい光の量に驚くキュルケとタバサ。 フーケのゴーレムは緑色の光に包まれると、ずんぐりむっくりした姿からスマートな人の形へと変貌する。 それを、その様子を見ていたミス・ロングビルは唖然としていた。 岩で出来ているせいでゴツゴツしていた表面も、まるで大理石のようにツルツルになり、ゴーレムというより芸術家が作った彫刻のような姿に変わった。 美しい女性の姿を象ったようなゴーレムが、そこに誕生した。 ルイズの願望か、胸には撓わに実った果実が二つ。一流の彫刻家だってこんな美しい女性の象は彫れないだろう。見ただけでそう思わせる姿であった。 「だ、大丈夫ですか? ミス・ヴァリエール!」 操縦席の中から外の景色を眺めていたルイズにそんな声が届く。三十メイル以上のゴーレムの足下を見下ろすと、キュルケとタバサ。そしてミス・ロングビルがいた。 降りようと思って自分はフライもレビテーションも使えない事に気づく。そして今、自分が居るのは巨大なゴーレムの頭の中だ。 どうやって降りようか悩んでいると、なにやら下から騒がしい声が聞こえ始めた。 何事かと目を向けると、キュルケがミス・ロングビルに向かってファイアーボールを唱えている所だった。 驚いてキュルケを静止させようとゴーレムの手を動かすと、すかさずタバサが操縦席のすぐ側まで風龍に乗ってやって来て、ロングビルの正体がフーケであることを伝えてきた。 うっそーと驚いてロングビルを見ると、彼女は今まで学院の中では見せたことのない、妖艶な笑みを浮かべてすぐさまもう一体、巨大なゴーレムを作り出した。そのゴーレムに乗ってルイズ達から距離を取ると、続けて土の呪文を唱え巨大な岩で出来たドームを作り上げる。 ドームはルイズのゴーレムごと三人を完全に覆って真っ暗闇の中に三人を閉じこめた。タバサの風も、キュルケの炎も、ゴーレムの拳も、そのドームの壁を破ることが出来なかった。 三連続で大がかりな呪文を唱えたフーケは心身ともに疲労困憊であったが、なんとか三人を閉じこめたことに一息ついていた。あとはカオガミ様を奪う方法を考えるだけだ。 閉じこめられたキュルケとタバサは持てる全ての呪文を使ってみたが壁を壊すには至らなかった。 肩で息をつくキュルケとタバサ。 その傍らで、ルイズは今も執拗にゴーレムを操って、その拳を壁にぶつけ続けている。 しかし何度も打ち続けたせいで、逆にゴーレムの腕が砕け始めていた。よく見れば、ゴーレムの身体から出ていた緑色の光も消えかけている。 「無理よルイズ。力押しじゃこの壁は壊せそうもないわ」 「固定化に似た魔法がかけられている。物理的な方法で破壊するのは至難」 それでもルイズは、砕けた腕をさらに壁にぶつける。 「うっさいツェルプストー! 私を! 私をぉ!! 一体、誰だと思ってるの!!!」 魔法を使えなかった。 貴族の家に生まれながら、ヴァリエールに生まれながら、ルイズは魔法を使うことが出来なかった。 それでもあきらめずにここまで来た。 相変わらず魔法は使えないけれど、似たような真似は出来た。今、自分はゴーレムを動かしている。 なら、あきらめなればきっと――いつか本当の魔法を――――。 だから! こんな所で!! 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールはこんな所でっ! 行く道引いてらんないのよ、バカーーーー!!!」 ルイズの叫びに呼応するように、操縦席の前面に螺旋状のメーターが出現。メーターは一気にMAXまで高まると、同時にゴーレムも再び緑色の極光に包まれる。 砕け散ったはずの両腕が再生。さらに腕の先端からドリルが飛び出す。 空気を切り裂きながら高速で回転するドリル。ルイズはそれを目の前の壁に思いっきりぶち込んだ! あれほど硬かった壁がまるで砂糖菓子のように、粉々に吹き飛ぶ。 壊れた壁から光が差し込む。抜けるように青い青い空が、壁を壊したルイズの目の前に広がっていた。 壁が破壊されたことに気づいたフーケは一目散にその場から逃げ出した。もう、自分には連中を相手にする魔力が残っていないからだ。 「たかが学生にここまで……。この借りは必ず返すわよ、お嬢ちゃん達」 森の陰から闇へ、フーケはその姿を消して行った。 次回 中編 あばよ、デル公! 近日公開…………するかどうかはわからない 前ページゼロのドリル
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6651.html
前ページ次ページ蒼い使い魔 「バージル! 姫さまを殺しちゃダメ! 絶対よ!」 「……」 「ちょっと返事は!?」 魔法が飛び交う中、ルイズが必死にバージルに呼びかける しかしバージルはそんなルイズの叫びを無視しながら、魔法を掻い潜り敵の中へと踊りこむ。 ――カシャン! という小気味よい音とともに彼の口元にフェイスマスクが装着される、 一人のメイジの眼前に躍り出ると、バージルに装着されたギルガメスの噴気孔が火を噴いた。 "着弾"と同時に――ドゴンッ! という凄まじい音があたりに響き、大気が衝撃で打ち震える。 フルスチームストレイトを食らった哀れなメイジはあまりの衝撃に骨と内臓をごちゃまぜに破裂させながら 遥か彼方まで殴り飛ばされる、メイジだった肉塊は砲弾のようにウェールズの横を吹っ飛んで行き、 道に生えていた木々を薙ぎ払いながらようやく停止する。 『アンドバリ』の指輪の力をもってすら再生不可能のダメージを負い、その肉塊は二度と立ち上がることはなかった。 「……」 仲間が目を覆いたくなるほど悲惨な死体になったにも関わらず敵はぐるりとバージルを取り囲む、 殺到してくるメイジ達をバージルは首を傾けて見守っていたが、 彼らが間合いの内に入るやいなや出し抜けに背のデルフに手を掛け、襲い掛かった。 挨拶代わりの後ろ回し蹴りを皮切りに、剣劇の幕が開く。 メイジと魔剣士が切り結ぶ、それは正に剣劇としか言えなかった、 あらかじめ示し合わせていたかのように、 不意を突こうが魔法を放とうが、『ブレイド』を唱え接近戦を挑もうが、メイジたちの行動は抵抗の真似事でしかなく、 事前に全て決まっていたことのようにただただ目の前の魔剣士に虐殺されることしかできなかった。 眼前で呪文を唱えていたメイジが空間ごと切り刻まれるのは当然のこと、 不意を突いたつもりか、背後からの攻撃ですらバージルはあっさりと受け止めて、 蹴飛ばす先にはちゃっかり巻き添えを見込んでいる。 バージルは身をひるがえしながら閻魔刀を振い、横一文字に薙ぎ払う 小気味いい程の切れ味で上と下に両断されたメイジの上半身と下半身を勢いよく蹴り飛ばす それぞれ蹴飛ばした先で呪文を詠唱していたメイジが巻き添いを喰らいもんどりうって吹っ飛んで行った。 杖を叩き折られ、よろめいたメイジの肩を捕まえ腹にデルフを突き立てる、バージルは引き抜くのも面倒だといわんばかりに、 それこそハンマー投げのように一回転させなぎ払った周囲のメイジごと吹き飛ばす。 いくら再生しようが関係ない、二度と起き上がれぬよう徹底的に叩き潰すと言わんばかりに バージルはメイジ達を次々斬り伏せていった。 「そんな……こんなのって……」 アンリエッタが思わず恐怖で後ずさる 怖い、あの男が怖い、ルイズの使い魔である彼が怖い、彼は、彼は本当に、人間なのだろうか? 「あ……ぁ……」 恐怖で歯の根が合わない、ガチガチと歯が音を立てる 違う、あれは人間ではない、あれはまるで悪魔。 「ひ……」 恐怖のあまり倒れそうになったアンリエッタの肩を優しくウェールズが抱きよせる 「何も恐れることはない、僕がついてるよ、アンリエッタ」 ウェールズが優しく囁く、その言葉がアンリエッタを心の底から安心させた。 ウェールズは空を見上げる薄く笑う、そして手勢のメイジ達を呼び寄せた。 ルイズ達と交戦していたメイジや、バージルと戦い損害の少なかったメイジ達が 態勢を立て直すべくウェールズのもとへ集い円陣を組み始める。 「もうちょっとで勝てるわ! あいつら火に弱いの、私達に十分勝機はあるわ……」 キュルケが呟く、するとぽつぽつと頬に何かが当たりはじめた。 タバサが珍しく焦ったように空を見上げる、空には巨大な雨雲がいつの間にか発生していた。 振り出した雨は、一気に本降りへと変わる、 ルイズが叫んだ。 「姫さま! 目を覚まして! お願いです!」 ルイズの叫びが激しく振りだした雨粒でかき消される。 「見てごらんなさい! 雨よ! 雨! 天は私達を見捨てなかったわ! 雨の中で『水』に勝てると思っているの!? この雨のおかげでわたし達に分があるわ! あなた達のことを殺したくない! だから杖を捨てて!」 「また寝言が始まったか」 叫びだしたアンリエッタにやれやれといった表情でバージルが呟く 「雨がなんだというのだ、その儚い希望ごと叩き潰してやる」 そう言うと背中のデルフを外しルイズに放り投げる 「わったっ、な、何する気なの!?」 「邪魔だ、持ってろ」 ルイズににべもなくそう言うと左手に握られた閻魔刀を引き抜いた。 「閻魔刀……聞いていたとおり、恐るべき剣だ、僕らの命を喰らい尽すとはね」 それを見たウェールズが苦い表情で低く呻く、 本来『アンドバリ』の指輪で蘇生させられた者は驚くべき再生能力を得ることができる、 もっとも、先ほどギルガメスで殴られたメイジのように原形をとどめないほど破壊されればその限りではないが…… とはいえ、本来は剣で斬られようが、魔法で心臓を貫かれようが、首を切り裂かれようが その『アンドバリ』の指輪の魔力による再生能力で再び動き出すことができるのだ。 だが例外があった。バージルが振るう閻魔刀、これにより直接斬られたものは、 『アンドバリ』の指輪の魔力を根こそぎ喰い尽され再生が不可能になってしまっていた。 つまり、閻魔刀に斬られることは、完全なる死を意味する。 とある力で他の者より再生能力を高めているとはいえ、ウェールズにとってもそれは例外ではない。 「ヤマトならあの死者達を完全に殺せる」 それに気が付いたタバサが短く呟くとルイズの手元のデルフが半ば自暴自棄気味に叫びだした。 「はいはい! どーせ俺っちは役立たずさっ! へっ! 畜生! 閻魔刀がなんだってんだ!」 「な、何よ急に! いきなり叫ばないでよ!」 ルイズがデルフに怒鳴りつける、するとキュルケがデルフに対し質問をした 「ねぇ、ダーリンの持ってるヤマトってどういうの? そんなにすごい剣なの?」 「あぁ? すげぇもなにも、あいつは人と魔を分かつ剣なんだ、魔に対して絶対的なアドバンテージを持ってるんだよ、 この世界に存在するありとあらゆる"魔"、それを片っ端から喰い尽くし、斬り裂いちまう、 先住系統、精霊、悪魔、果ては神様すら叩っ斬りかねない魔剣さ、 くそっ! 閻魔刀の野郎! 俺だってなぁ! ここじゃ伝説の剣なんだぞ! 畜生……」 デルフはそう言うとさめざめと泣きだしてしまった。 「あんた……相当悩んでたのね……」 ルイズがどこか同情したような表情で柄を撫でる。 すると何かを思い出したのか、またもデルフが叫びだした。 「あぁっ! 思い出した! おい娘っ子! 祈祷書もってるよな!?」 「なっ、なによ藪から棒に!」 「これ以上閻魔刀の野郎に出番取られてたまるかってんだ! 急げ! 相棒が殺しちまう前に!」 急かすデルフにルイズが始祖の祈祷書を開く 「ちょっとボロ剣! ちゃんと説明しなさいよ!」 「あいつらはな、先住の魔法で動いてんだ、根本は俺っちと同じだ、ブリミルもあれにゃあ苦労したもんだ、 でもまぁ、ブリミルもなかなか大した奴だぜ、ちゃんと対策は練ってるはずさ」 ルイズは言われたとおりページをめくる、しかし、エクスプロージョンの次は相変わらず真っ白である。 「なんにも書いてないじゃない! 真っ白よ!」 「あぁ! もっとだもっと! 必要がありゃ読めんだよ!」 ルイズは文字が書かれたページを見つけ、それを見つめる そこに書かれた古代語のルーンを読み上げる。 「……ディスペル・マジック?」 「そいつだ! 『解除』さ、ようは姫さまの目を覚まさせりゃいいんだろ? そいつならウェールズから『アンドバリ』の効果を消すことができる! 相棒に姫さまごと斬られる前にさっさと唱えるんだ!」 デルフがそう言う間に、バージルがまた一人メイジの首を胴体を斬り飛ばす。 『アンドバリ』の指輪の魔力を失い、崩れ落ちるように倒れ伏してゆく。 十人はいたメイジ達は、すでに6人ほどまでに人数を減らしていた。 「ほ、本当に間に合うの?」 戸惑いながらもルイズが呪文を詠唱し始めた。 「キュルケ! 俺を相棒に投げ渡してくれ!」 キュルケは頷くとデルフをルイズの腕からひったくり、バージルへ向け投げつけた。 「ダーリン! これ使って!」 キュルケが投げた抜き身のデルフをバージルは難なく左手で受け取ると 生き残りのメイジの一団に向け猛然と疾走する。 「ハァァァァアアアアアアッ!!!」 裂帛の雄たけびとともに目にも留まらぬ速さで両手に持った閻魔刀とデルフを振り抜いてゆく。 突き進む空間ごとメイジの一団を斬り刻む。 「ハァッ!!」 一陣の刃の暴風と化しバージルが駆け抜ける。 あまりの速さに斬られたという事実が追い付くまでに数瞬を要したのか、 バージルに斬られたメイジ達が、大量の血を噴き出しながら、 まるで示し合わせたかのごとく、ぼとぼとと同時に身体をバラバラにしながら崩れ落ちた。 メイジ達を皆殺しにしたバージルは、 ああ、まだ肝心のが残っていたか、と言わんばかりに顔を上げウェールズとアンリエッタを睨みつける。 雨と返り血により垂れ下った髪を元に戻すこともせず、沈黙のまま二人へ向け歩を進めてゆく。 アンリエッタは今まで感じたことのない恐怖に支配されていた。 目の前にいるのは、絶対的な強さを持った化物、この雨で少しでも優位に立てると思っていた。 だが自分の放った魔法はすべて男が振るう魔剣によりたちまち力を失い、ただの水となり果てる。 周囲にいた貴族たちと力を合わせようにも、この化物の前ではまるで無力。 あれだけの数がいた味方を一瞬で全滅させた化物は、今自分に明確な敵意と殺意を向けてきている。 このままでは……殺される……。 アンリエッタはなけなしの勇気を振り絞り、呪文を唱え始める。 殺される前に、殺す、この化物を打ち倒す、そしてウェールズと共にこの先へ進む。 固い決意が、彼女を動かした。 その詠唱にウェールズの詠唱が加わる。 ウェールズはアンリエッタを見つめて、冷たい笑みを浮かべた。 その温度に気が付きながらも、アンリエッタの心は熱く潤んだ。 水の竜巻が、二人の周りをうねり始めた。 『水』、『水』、『水』、そして『風』、『風』、『風』。 水と風の六乗。 トライアングル同士といえど、このように息が合うことは珍しい、 ほとんど無い、といっても過言ではない しかし選ばれし王家の血がそれを可能にさせる。 王家のみ許された、ヘクサゴン・スペル 詠唱は干渉し合い、巨大に膨れ上がる。 二つのトライアングルが絡み合い、巨大な六芒星を竜巻に描かせる。 津波のような竜巻だ、この一撃を受ければ、城でさえ一撃で吹き飛ぶだろう。 「切り札か」 詠唱が始まったのを見てもバージルの歩調は緩まない、 詠唱を終えるのと同時にウェールズを殺す、貴様からその一片の希望すら奪い取ってやる。 ドス黒い感情がバージルを突き動かす。 だが、彼の歩みはそこで止まった。 「ぐッ……!? 何だッ!?」 身体が動かない、これ以上先へ進めない。 左手を見ると、デルフが淡い光を放っている。 どうやらデルフにより身体を止められているらしい 「デルフ……貴様何のつもりだ! なぜ邪魔をする!」 バージルが声を荒げデルフに怒鳴りつける。 「……ッ! こうでもしねぇとッ! 姫さま殺しちまうだろ!?」 デルフが息も絶え絶えな様子で答えた。 どうやらバージルの動きを制御するのに、今まで吸収した全ての魔力を総動員しているらしい。 「当然だ、生かしておくつもりはない! くっ……! 邪魔をするな!」 「だからってな! 娘っ子の気持ちは考えないのかよ!」 「知ったことではない! 敵は斬る!」 「おい! お前こないだ言ったこともう忘れちまったのか!?」 デルフがバージルに怒鳴りつける、だがバージルは引き下がらない。 「他に何の方法がある! 奴らを殺す以外に! 何の方法が!」 「今娘っ子が、『解除』の呪文を唱えてる! その詠唱が終わるまで娘っ子を守れ!」 「そんな必要などない! 俺が奴らを殺せば全て終わる!」 「馬鹿野郎! 勘違いすんじゃねぇ! お前は何だ『ガンダールヴ』!! 言ったはずだ! お前さんの仕事は敵を皆殺しにすることじゃねぇ! 詠唱中の主人を守る! それだけだ! その時にこそルーンは最大限の力を発揮する! なのに娘っ子の心を無視して 姫さまとウェールズを斬り殺してみろ! 二度とルーンは力なんか貸さねぇぞ! 力が欲しくないのか!?」 「……!! クソッ!!!」 その一言にバージルは苦々しい表情を浮かべるとエアトリックを使い、 主人の元へと戻る、ルイズを守るべく……。 ルイズは呪文を詠唱していた。今のルイズにはもう何も届いてはいない。 己の中でうねる精神力を練り込む、 古代のルーンを次から次へと口から吐き出させ続けている。 バージルの背中に、ルイズの詠唱がなぜか心地よくしみ込んでゆく、 「この子、どうしたの?」 キュルケが笑みを浮かべて尋ねる。 「さぁな、伝説の真似ごとだろう」 バージルが不機嫌そうな顔で答える、不機嫌そうだが、その顔はどこか柔らかく感じた。 ルイズの『虚無』の詠唱を聞いている内に、 今まで彼を支配していたドス黒い感情が徐々に薄くなってゆくのを感じる、 その心境の変化にバージルは少し眉を顰めながら左手を見つめた。 なぜか悪い気はしない、ルイズの詠唱を聞くと、なぜか心が安らぐのだ。 「そう、そりゃよかったわ、せめて『伝説』くらい持ってきてもらわないと、あの竜巻には勝てそうにないからね」 ウェールズとアンリエッタの周りをめぐる巨大な水の竜巻はどんどん大きくなる。 ルイズの小さな詠唱はいまだに続いている。 「いよぉし、相棒、仕事の時間だぜ、娘っ子の詠唱が終わるまで守り切るんだ、それがお前さんの役目だぜ?」 「殺してやりたいのは山々だが……なぜか気分がいい、今回だけその戯言に付き合ってやる」 「そりゃありがたいね」 「任せたわよ」 キュルケが呟く、タバサがバージルを見つめる 「誰に言っている」 コートを翻し、不遜に鼻をならしながら、巨大な竜巻へと悠然と歩を進める。 「前から気になってたけど、彼の父上、スパーダって一体何者なの?」 キュルケがタバサに尋ねる、 「はるか昔、悪魔でありながら人の情に目覚め、魔界の侵攻から人間界を守り抜いた、伝説の魔剣士」 「その息子が彼? そんなのを使い魔に? どこまで常識外なのよ……」 呆れたように呟くと、やれやれと肩をすくめる。 「伝説を持ってこいって言ったけど、どっちも桁違いね……まったく」 ウェールズとアンリエッタの魔法が完成した。 うねる巨大な水の竜巻がバージル達にむかって飛んでくる でっかいくせに、驚くほど速い。 まるで水の城だ、その城が激しく回転し、バージルを飲み込もうと激しく唸る。 「やべぇなぁ、いっくら相棒でもありゃ耐えられねぇんじゃねぇか?」 デルフが他人事のように呟く 「この事態を招いたのはどこのどいつだ」 バージルが手元のデルフをじろりと睨みつける 「それにこんなもの、ダンテに比べれば児戯に等しい」 最も、繰り出してきたのは炎の竜巻だったが……、 バージルはそう言うと閻魔刀を引き抜く、そして竜巻へ向かい駆けた。 バージルと水の竜巻が激突する。 身体の前でデルフリンガーと閻魔刀を交差させ竜巻を受けとめる。 それを中心にしながら水の竜巻が回転する。 「ぐぅ……ぬっ……」 バージルが思わず呻く程の強烈な魔法、だがデルフリンガーが一気に水の中の魔力を吸い込み 閻魔刀が竜巻を切り裂いてゆく。 危うく飲み込まれそうになったが、固く両脚で地面を踏みしめる。 鋭く竜巻の先のウェールズ達を睨みつけると、バージルが低く呟く。 「……スパーダの力、思い知らせてやる」 ――バチリッ! と彼の体に紫電が走る、その時、彼を中心にドーム状の力場が展開する 「あぁ、そういやあの手があったな……」 魔力を吸い込みながらデルフが小さく呟く、――相変わらず反則だぜその力は…… 沸き起こる力の波動が地鳴りを起こし、彼の立つ地面にひびを入れる。 蒼い稲妻を孕みながら彼の姿が変わる。 ――魔人化、悪魔の、彼の魔力を再び解放する。 「人間じゃ……ない!?」 彼の姿をみたアンリエッタが呻く様に呟く。 「そうだアンリエッタ、彼は――悪魔だ」 杖を突きつけながらウェールズが開いた手でアンリエッタの肩を優しく抱く 「倒すんだ、僕らを引き裂こうとする悪魔を、僕らの道を阻もうとする悪魔を、この蒼き悪魔を!」 その言葉とともにさらに竜巻の魔力を強める。 「オオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」 再び勢いを取り戻した竜巻と、蒼き魔人が再び激突する。 魔力を吸収していたデルフリンガーにバージルの凄まじい程の魔力が流れ込んでくる。 刀身は彼を象徴する蒼い魔力に覆われ、輝きを放つ。 その時、ルイズの呪文が完成した。 音でも、光でもなく、背中から伝わる感覚がバージルにそれを教えてくれた。 呪文を完成させたルイズの目の前では雷を纏った巨大な竜巻が荒れ狂っていた。 しかしこちらへは近づいてこない。中には蒼き魔人の姿、 ルイズはそれがバージルだと一瞬でわかった。 「あれが……バージルの本当の姿……」 ルイズは思わず呟く、そこにいるだけにも関わらず恐ろしい程の力が伝わってくる。 そして彼の内にある哀しみも……。 「ウゥォオオオオオオオオオ!! ハアッ!!!!」 バージルが渾身の力を振い、交差させたデルフリンガーと閻魔刀を勢いよく振り抜く。 ×の字を描き、振りぬいた剣閃はとてつもない衝撃波を生み、 巨大な竜巻を文字通り薙ぎ払いながらウェールズ達に襲い掛かる。 ウェールズ達の立っていた地面が衝撃波によって抉り取られ爆散する。 ウェールズとアンリエッタが木の葉のように上空へ吹き飛ばされる。 「Dust to dust.(――塵は塵へ)」 魔人化を解除したバージルが閻魔刀とデルフリンガーを振り抜き、納刀する。 閻魔刀がカチンと小気味よい音をたてると当時に、 上空へ跳ね上げられた二人がそろって地面へと叩きつけられた。 「グッ……くっ……」 運よく直撃は免れたらしい、二人は吹きとばされただけで命に別条はなさそうだ。 ルイズは唇を噛みながら、ウェールズ目がけ『ディスペル・マジック』を叩きこむ。 アンリエッタの周りに眩い光が輝いた。 立ちあがったウェールズの体が地面に再び崩れ落ちる。 ウェールズの体から、青い光を放つ小石がすぅっと現れ……やがて力を失ったのか、 コロコロとバージルの足元へ転がってきた。どうやらウェールズの異常とも言える再生能力はこれの影響だったらしい。 バージルはそれを回収しコートの中へとしまいこんだ。 アンリエッタは駆け寄ろうとしたが、身体的なダメージと精神力を消耗しきっていたせいもあり、 意識を失い、地面に倒れ伏す。 辺りは一気に静寂に包まれた。 しばらく気を失っていたアンリエッタは、自分を呼ぶ声で目を覚ました。 ルイズが心配そうに自分を覗き込んでいる。 雨は止んでいた。辺りの草は濡れ、ひんやりとした空気に包まれている。 先ほどの激しい戦闘が嘘のようにアンリエッタには思えた。 しかし嘘ではない、隣には冷たい躯となったウェールズが横たわっている。 そこかしこにも、無残にも切り刻まれた死体が転がっていた。 夢だと思いたかった。しかし全ては悪夢のような現実だった、そして自分は 全てを捨て、その悪夢に身をゆだねようとしていたのだった。 アンリエッタは顔を両手で覆った。 今の自分にはウェールズの躯にすがりつく権利はない。 ましてや幼いころから自分の支えになってくれた目の前のルイズにも合わせる顔がない。 「わたくし、なんてことをしてしまったのかしら」 「目が覚めましたか?」 ルイズは、悲しいような、冷たいような声でアンリエッタに尋ねる。そこに怒りの色はなかった。 アンリエッタは頷いた。 「なんといって貴方に謝ればいいの? わたくしのために傷ついた人々に、 なんと言って赦しを請えばいいの? 教えてちょうだい、ルイズ」 そう言うとその後ろに立つバージルを見つめた。 バージルはこれ以上ないほど冷え切った目でアンリエッタを見ていたが、 やがて興味を失ったかのように踵を返すとすたすたと歩き去ってしまった。 「ど、どこに行くつもり?」 「くだらん、俺は帰る」 ルイズが呼びとめようとする、だがバージルは歩みを止めずにそれだけ言うと どこから見つけてきたのか、逃亡者の一団が使っていた馬の生き残りを一頭引っ張ってくる、 そしてすぐさまそれに飛び乗った。 「待って!」 アンリエッタが立ち上がりバージルへ駆け寄ろうとする、だが…… 「っ!?」 アンリエッタの脚はそこで止まる、鼻先にいつの間にか抜き放たれていた閻魔刀が突きつけられていたからだ。 「貴様と話す舌など、俺は持たん」 射抜くようなバージルの視線がアンリエッタを貫く、 へなへなと力を失うように地面へとへたり込む、 それを冷たく一瞥すると、バージルは馬を走らせ、闇の中へと消えて行った。 「……」 魔法学院に向けバージルは馬を走らせる、 その顔には、嫌悪感がありありと浮かんでいた。 見かねたデルフが声をかける。 「おーい相棒、なんでそんな機嫌悪くしてんだよ、さっきは気分がいいなんて言ってたくせによ」 「お前が知るところではない」 バージルは眉間に皺をよせ短く答える。するとデルフがわかったように再び口を開いた。 「あーわかったぜ、相棒、なんで機嫌が悪いのか」 「……」 「あんとき姫さまが言ってたよな、本気で人を愛したら、全てを捨ててでもついていきたいって」 「それがどうしたというんだ」 「スパーダが力を捨てた理由がそれだからだ」 図星をさされたのか、彼には珍しく動揺を含んだような表情になった。 「ただ一人の魔は人間の女を愛し、生涯を共にせんと自らの力を封じ、 一人の人間として生涯をささげた、魔は人となり人間としてその生を終えた、そうだな?」 「黙れ……」 「愛などという下らない感情に惑わされ、力を捨てた。そのせいで自分達兄弟がもがき苦しむハメになった。 相棒の機嫌が悪いのはそんなところだろ? あってるか?」 「デルフ、俺の世界では詮索屋というものは早死にすると相場が決まっている、お前は……どうだろうな?」 チャキ……っと閻魔刀の鯉口が切られる。青くなったデルフがあわてて口を噤もうとした。 「悪かった! 悪かったって! ……たく、しっかし、あの姫さまの言うことにも、一応の筋は通ってたんだなぁ、 まぁ、今回ばっかしはそれ以外がダメダメだったがね」 デルフの呟きは闇へと消える、朝日が昇り、学院が見え始めていた。 「ただいま……」 ルイズが学院に戻るころには、既に日は高く昇ってしまっていた。 自室に戻ると椅子に腰かけたバージルが読んでいた本から目を離さずに声をかけた。 「遅かったな」 「え? ……うん、ちょっといろいろあってね……」 ルイズがそう言うと、バージルが去ったあの後、起きた奇跡について話し始めた。 なんとあの後、ウェールズが一時的に息を吹き返したというのだ、 そして皇太子の希望でラグドリアン湖へ赴いたそうだ、 その後、アンリエッタに自分を忘れさせる誓いをさせた後、静かに息を引き取ったらしい。 「……」 それを本を読みながら華麗に聞き流していたバージルはつまらなそうに小さく鼻を鳴らすと、ぱらりとページをめくった。 「それで……その話は変わるんだけど……わたし、あの時見たの、あんたの姿」 続けてルイズは言いにくそうに話を切り出した。 「……それがどうした、今さら俺が恐ろしくなったのか?」 バージルは本から視線を外しルイズを見た。 「そんなことない! そんなことないのよ! でも……その……」 「言いたいことがあるならはっきり言え」 「あの姿を見たとき、なんだか、あんたが悲しそうに見えたって言うか……」 その感想は意外だったのかバージルが少々驚いたような顔になった。 「なんだそれは……」 「そ、そう感じちゃったんだからしょうがないじゃない! でも……なんでそう感じちゃったんだろう?」 ルイズは首を傾げると、突然顔を赤くし、言いづらそうに口をもごもごと動かし始めた。 「で、でも、それでもあんたが姫さまの魔法から私を守ってくれたことには、そ、その、か、か、感謝……」 ルイズがそこまで言った時、不意にドアがノックされた。 バージルが応対のため立ち上がり、ドアを開ける、 すると、そこには見知らぬ中年の女性が、にこやかな笑顔で立っていた。 「えぇと、貴方がバージルさん?」 「……」 「支払いはこちらに回してほしいって、言われてきたんですけど」 女性はそう言うと一枚の紙をバージルに手渡した。 「人違いだ」 バージルはそう言うやドアを閉めようとする、が女性が閉まりかけたドアに足を引っ掛けなおも食い下がった。 「いやいやいや、確かにここですっ! 4人のお客様から別々にっ!」 「4人?」 バージルは受け取った紙に目を通す、そこには…… 「……ルイズ、キュルケ、タバサ、シエスタ……なっ……!?」 とんでもない金額にバージルが目を丸くする、ほぼ全財産だ 日付はトリスタニアへ秘薬を買いに行った日である、 「払っていただけますか?」 「なぜ俺が支払わねばならん!」 ずいっと詰め寄る女性に声を荒げる、だが女性は引き下がらない。 「そんなこと言われたって困ります! ほら、請求書にはちゃんとサインが!」 「……ルイズ! これは一体どういう――」 バージルが怒鳴りながら振り返る、だが部屋の中にはすでにルイズの姿はなくなっている、 きぃ……っと音を立てながら、窓が半開きになっていた。 急ぎ窓から下を覗くと、地上を全速力で走り去るルイズの姿が確認できた。 かなりの高さだが……どうやら窓から飛び降り逃走したらしい。 「Damn...!」 「払っていただけますね?」 そんなバージルを追い詰めるように女性がバージルの肩を叩く。 「いや……ちょっと待て、今金がない」 「無いじゃ困ります!」 「そもそもなんだこの値段は……」 「服ですよ?」 「服だと!? 奴らの服を何故俺が支払わねばならん!」 「そんなことはその人たちに聞いてください!」 バージルと取立人の口論はいつまでも続き…… 結局支払うハメになってしまったバージルは全財産を失うこととなってしまった。 前ページ次ページ蒼い使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8590.html
前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第六十話 決着の必殺剣 サイボーグ獣人 ウルフファイヤー 異形進化怪獣 エボリュウ 超異形進化怪獣 ゾンボーグ 登場! 日付が変わり、なおも続く夜の帳に包まれたラ・ロシュールの街。 すみきった空気の冬の寒空に、わずかばかりの雲と銀河が映える晴天の日。見上げれば、三日月となった青い月が どんな画家でも再現できない美しい星空をかざり、無数の星座がまたたいて、数万光年先からはるばるやってきた光を、 旅路の終点となった星の大地に降り注がせている。 宇宙は生きている……あの何億何兆という星々には数え切れないほどの生命が息づき、このハルケギニアという 世界にも劣らない様々なドラマをつむぎたてているのだろう。 しかし、そうした生命のドラマの中には喜劇もあれば悲劇もある。今、この星の運命は悲劇に向かって見えない坂を 転がり落ちつつあった。 夜明けまでにはまだ遠く、人々は深く眠りについて目覚めない時間。家の中で幸せな夢の世界に身を落とす人々の眠る、 そのわずか壁ひとつはさんだ路上で、月光を怪しく反射した剣が幾重ものきらめきを見せていた。 「せゃぁぁぁっ!」 気合とともに上段から振り下ろされた鋼鉄の剣が、夜の街を徘徊して人を襲っていた狼人の体に深い傷を入れ、 ついで背後から突き出された剣が胸を刺し貫いてとどめを刺す。燃える炎のようなたてがみを振り乱した狼人は、 そのいかつい体躯からは不似合いな子犬みたいな悲鳴をあげて、そのまま溶けて消滅した。 「はぁ、はぁ……これで四体目か、てこずらせてくれて」 肩で息をしながら、一人の銃士隊員が剣を杖にしてつぶやいた。数十分前に突如ラ・ロシュールの各地に出現した、 正体不明の獣人たち。それを討伐するために、非常時に備えて待機していた銃士隊は出動した。 「四番隊から八番隊まではただちに全員出動! 一番隊、二番隊、三番隊は王族と教皇聖下の宿泊する施設の まわりを固めろ、急げ!」 敵出現の報を聞いたときのアニエスの反応は早かった。歴戦の戦士の血が働き、その場でもっとも有益と思われる 命令を自然と口からつむぎださせる。即座に敵の排除を考えながら、陽動作戦の可能性も考慮して最重要防衛対象の 守りも緩めない。 仮本部の宿にアニエスと予備兵力の一隊だけを残し、即座に街中に散った隊員たちは、二人一組、技量の足りない者は 三人一組になって捜索を開始した。敵の詳しい戦力が不明な以上、単独での行動は危険きわまる。その点、二人以上なら 互いをサポートし合えるし、万一の場合に助けを呼んだり逃げ延びたりする場合でも生存率が高まる。 「私の隊から、もう一人たりとて犬死は出させん」 以前ツルク星人戦で、はじめて銃士隊は殉職者を出した。あれ以来、隊は戦力の向上はもちろん生還率の向上に 大きく力を入れてきた。相手が人間だけならともかく、常識が通用しない怪物との遭遇戦がこれからも続くならば、 どんな状況にも対応できるようにしておかなくては、なにもできないまま殺されてしまうことになる。あのとき、星人の 刃にかかって惨殺された仲間の無念の死に顔は、アニエスの心に消えずに残っていた。 出動した隊員たちと、炎のような体を持つ狼、ウルフファイヤーと名づけられた獣人との戦闘は同時発生的に複数個所で 始まった。街の各所に出現したウルフファイヤーは、身長およそ二メイル。全身は筋肉質で、頭部や鳴き声は狼に非常に 酷似している。ハルケギニア固有の亜人であるコボルドに似ているが、体躯や死亡時の消滅の仕方から別種から判断された。 「そっちに行ったぞ! 逃がすな」 「リムル! 左から回り込め!」 「ひっ! こ、ここから先にはいかせないわよ」 新人は先輩に支えられて、勇気を振り絞って敵に挑みかかっていく。銃を使えば眠っている街の人間を起こして しまうので、剣だけの勝負だ。黄緑色の髪の小柄な隊員の振り下ろした剣と、腕力にものをいわせてつかみかかってくる ウルフファイヤーが真っ向からぶつかる。しかし新人はウルフファイヤーの力に負けて剣を取り落としてしまった。 すかさず掴みかかってくるウルフファイヤー、そこに先輩の激が飛んだ。 「ひるむな! 投げ飛ばせ」 「は、はぃっ!」 考えるより先に体が動き、体を縮めて攻撃をかわすと、相手の体の下にもぐりこんで首筋の毛をつかんだ。 そのまま相手の突進する力を利用して、一気に投げをうつ。 「てぃやぁーっ!」 相手もまさか自分の半分の体格もない相手に投げられるとは思ってなかったのか、背中から受け身もとれずに 石畳に叩きつけられる。そこへ別の隊員が剣を突き立ててとどめを刺した。 「よくやったぞリムル、初陣にしては上出来だ」 「は、はい。ありがとうございます」 「腰を抜かしてる暇はないぞ。次だ、立て」 個々の力が劣るのをチームプレーでカバーしつつ、銃士隊はウルフファイヤーを駆逐するために走る。 市民に知れてパニックが起きる前に事態を収拾するため、出動しているのは銃士隊だけではない。上空からは 魔法衛士隊もグリフォンやドラゴンで監視しつつ地上の部隊に指示を送る。 また、正規の部隊とは別個に戦っている者たちもいた。才人たち一行である。彼らは今夜も銃士隊の宿に泊まって いたが、事件が起きたことを知るやすぐに参戦することをアニエスに告げ、ミシェルがサポートとしてつけられた。 なお、ルクシャナは戦力としては惜しいものの、街中で先住魔法を使われたら大変なので、宿でティファニアを 守ってもらっている。 けれども、意気込みとは裏腹に、正規の銃士隊員より力の劣る才人は苦戦を余儀なくされていた。 「くっそ、この野郎! ガンダールヴじゃなくなったって、なめんな!」 「相棒、右だ! 飛んでかわせ。次は後ろに跳べ、顔をひっかかれてえか!」 獰猛なうなり声とともに攻撃してくるウルフファイヤーの攻撃を、デルフリンガーのサポートを受けながら才人は どうにかさばいていた。こういうとき、普段一言多くても六千年間剣だったデルフリンガーの経験は非常に頼りになる。 「落ち着け相棒。こいつは見かけはいかついが、そこまで強いってわけじゃねえ。自分の力を信じろ、敵を観察するんだ」 「ああっ!」 自信のあるデルフリンガーの言葉に気持ちを落ち着かせた才人は、徐々に体に染み付いた動きを思い出していった。 ルーンのあったころに比べたら天と地の差だけれども、自分の力で戦えているということは才人に純粋な自信を 与えていく。それに、デルフリンガーの言うとおり、ウルフファイヤーは怪力だけども、パワーもスピードも人間の 力で抗しきれないというレベルではなかった。 思い返してみたら、ズタボロにされたアニエスとの決闘に比べたら何ほどのことも無い。 「相棒、身をかがめろ! やつは図体がでかいんだ、足元を狙え!」 デルフリンガーの指示を受けた才人が、ウルフファイヤーのすねを切りつけて動きを鈍らせた。ウルフファイヤーは 悲鳴を上げて才人を捕まえようとしたが、すでに才人はすばしっこく逃げ出していた。 「バーカ、捕まってたまるかよ」 一撃離脱、本職の剣士に腕力も技量もかなわない才人のとりえはすばしっこさだ。だてにルイズの世話で日夜学院を 駆け回っていない。そして、動きの止まったそこへ、ルイズの魔法が炸裂する。 「エクスプロージョン!」 ダイナマイトを投げつけたような爆発で、ウルフファイヤーは煙の晴れたときには跡形もなく消えてしまっていた。 「やった!」 一匹を撃破し、才人が指を鳴らして喜ぶ。ルイズは威力の調節が実戦でも役立ちはじめていることに、まんざらでもないようだ。 そこへ、剣ではなく杖を持ったミシェルが口笛を吹きながら来た。 「以前にも増して、すごい威力だな。任せておけと豪語するだけのことはあるか」 「あら、おほめにあずかり光栄ですわ。まあ、この程度の怪物なんか、一発で充分よ」 「確かに、単純な破壊力だけだったら、並のメイジ三、四人ぶんくらいには匹敵するかもしれんな。失敗魔法にしておくのが惜しいくらいだ」 ミシェルはルイズの魔法が虚無だということは知らない。ルイズが詠唱するときも、サイレントの魔法で音が外に 漏れないようにしてくれていたために、呪文は聞いていないのだ。虚無に関われば余計なトラブルに巻き込まれ かねないのは、もう嫌というほど味わった。いつか話すときが来るかもしれなくても、それを一分一秒でも長くしたいと いうのが才人の本音だった。 ただ、才人の考えとルイズの思惑は違う。場合が場合だが、ウルフファイヤーを一撃で仕留めたエクスプロージョンの 威力にミシェルは舌を巻いている。気分がよくなったのも合わさって、ルイズは、ライバルに差をつける絶好の機会を 最大限に活かそうと、得意げに髪をかきあげた。 「ふふん、このわたしを誰だと思ってるの? 天下のラ・ヴァリエール家の三女、ルイズさまよ。そんじょそこらのメイジと いっしょにしないでもらいたいわ」 尊大というにはかわいすぎる顔で、ない胸を精一杯そらしてルイズは偉ぶった。才人は、ああまたルイズのすぐ 調子に乗る悪いくせが出たと思うが、口には出さない。昨日帰ってきてから最悪だったルイズの機嫌がようやく 直ったのに、わざわざ鎮火した山火事にタバコを投げることはなかった。 ”しっかし、我ながらよくもまあ殺されずにすんだもんだ” 実際、ミシェルとデートを決意したときは、よくて半殺しを覚悟していただけに、こうして両の足で立っている自分が いまいち信じられなかった。それが機嫌が悪い程度で済んでいるのは、才人とミシェルが教皇のパレード中に見た、 あの男の影が皮肉にも幸いしていた。 ”ワルド……あいつがこんなところにいるわけがない。だが、万一やつだったとしたら、いったいなにを企んでいるんだ?” 見間違いの可能性をどうしても捨てきれず、思い切って帰ってアニエスと、それからルイズにも相談した。もちろん、 当初ルイズは烈火のごとく怒ったが、ワルドがこの街に来ている可能性を聞くといくぶんか冷静さを取り戻した。 「ワルドが? そう……」 それ以上は言わなかったものの、ルイズもまだワルドに対して複雑な思いが残っているのは確かなようだ。 それもルイズがもっとも敬愛するアンリエッタの花の舞台に現れるとは、見過ごしておけるわけもないだろう。 おかげで才人は飛び蹴りからの逆エビ固めだけで、奇跡的に無事にすんでいた。 もっとも、何事も無くデートが継続していたらどうなっていたか。それを思うと、少々惜しい気持ちもしなくはない。 アニエスもワルドの目撃情報に、表情をひきしめて警戒態勢を強めるように命じた。トリステインにいたら処刑が 疑いようも無いワルドが危険を冒して、わざわざこの街に今来るとしたら、自分たちへの復讐にほかなるまい。 今回、銃士隊が異例の速度で鎮圧に乗り出せたのも、こういう事態を想定していたからであった。 しかし、まだ楽観視することはできない。狼の声はなおも街中から響いてきている上に、襲撃の目的がはっきりしない。 「なあ二人とも、やっぱりこの騒動はワルドの仕業だと思うか?」 回想を打ち切る才人の言葉に、ふんぞり返っていたルイズと、いいかげんうんざりし始めていたミシェルはともに考え込んだ。 「そうね。あなたたちが見たっていうのがワルドだったら、関わってる可能性は充分あると思うわ。でも、仮にも 魔法衛士隊の隊長をつとめた人間にしては、怪物を放つだけなんて大雑把にすぎる気もするわ」 「私もミス・ヴァリエールに同意見だ。それに、ワルドが一人でこんな真似をしでかしたとも考えがたい。聖堂騎士に 潜り込んでいたとして、レコン・キスタやリッシュモンのように、奴を利用している黒幕がいるのかもしれん」 二人とも説得力は充分だった。ワルドのやり口は、有力な権力者の後ろ盾を得ることで、その力を利用して 事をすすめるのが常套だった。今回もそのパターンとすれば、ワルドに手を貸している者は誰か? トリステインと アルビオンの結束が妨害されて得をする者がいるのか……? いくつか候補者が頭をよぎるが、確証を持てる 者は存在せず、響いてくる狼の遠吠えが長考を許さなかった。 「ちっ! ともかく敵の出方がわからん以上は、場当たり的だがこいつらを駆逐していくしかないか……二人とも、 私から離れるなよ」 ミシェルも昨日の昼間に見せた弱弱しい表情は消え、才人とルイズを戦士として見る冷徹な目になっている。 敵はいったいこの街で何を企んでいるのか、わからなくても街の人を傷つけるわけにはいかない。 それにしても、なぜ夜中のこの時間を選んだのか……? 昼間だったらパニックが起こり、軍が総動員されても 収集のつけられない事態になっていたものを……読めない敵の目論見が、いつまでも頭に染み付いて離れない。 銃士隊と各魔法衛士隊の活躍で、犠牲者が出る前に、出現したウルフファイヤーは次々と撃退されていった。 しかしどこからともなく出現してくるウルフファイヤーに対抗するために、現れる度に彼らは大急ぎで移動を余儀なくされていく。 そんな、血眼で街中を駆けまわる騎士たちを見下ろして、冷ややかな笑いを浮かべている目があった。 「ふふふ……そうです。そうしてがんばって走り回りなさい。始祖も、献身と努力は尊いことだとおっしゃられています。 きっとあなた方には祝福が与えられることでしょう」 「くっくく、その祝福の内容を知ったら、彼らは恐れおののくでしょうに。怖いお人だ」 「そういうあなたも、昔とは大きく変わっているでしょうに。それより、彼は準備のほうはよろしいのですか?」 「ええ、もう用意が完了する頃でしょう。そしてこれが成功すれば、我々は精強なる神の兵団を十万人は 揃えることができます、楽しみですね……」 薄ら笑いを浮かべる二人の人間が誰であるのか、この時点でそれに気づいている者は誰もいない。 そして、死闘が続く街の様子を見下ろしている目がもう一対あった。 ラ・ロシュールの街のシンボルである、世界樹の枯れ木。その超高層ビルにも匹敵する威容のたもとで、 眼下に見える街の、時折ちらつく魔法のものと思われる光を見下ろす冷たい瞳。長身の、痩せてはいるが 歴戦の戦士のものと主張する雰囲気を残す……しかし、同時に壊れかけのマリオネットのような、そんな 疲れた空気を漂わせる男、ワルドがそこにいた。 「やっているな、ご苦労なことだ。俺一人を自由に動かすために、ここまでお膳立てしてくれるとは、さすが懐が広い」 せせら笑うワルドの顔には、その言葉の十分の一ほども感謝の意思はのぞいていなかった。彼にこの仕事を 依頼した人間は、貧民街でこじき同然の生活をしていたワルドに、普通なら考えられないような厚待遇を与えてくれた。 金も女も望むだけ用意され、今回にいたっては非公式ながら聖堂騎士団の一員としての権限まで与えられた。 しかしそのどれも、ワルドの信用を得るにはいたらなかった。 「欲で人間を虜にして思うままに動く僕に変える。人間の闇の部分に精通してきた奴ららしいやり口だ。どうせ俺も、 用済みになったら始末されるのが関の山だろう。だがもはや俺に残された道はない。聖地に近づくためならば、 死神の笛の音だろうと、あわせて下手なダンスでもなんでもしてくれる」 自分がもはや道化に過ぎないことをワルドは理解していた。しかし、たとえ道化だろうとこのまま何もできずに 朽ち果てていくよりはいい。 暗い笑みを浮かべたワルドは、そのまま世界樹の中に足を踏み入れた。この時間はとうに職員もおらず、警備のための わずかな兵士がいるだけである。しかも街の騒ぎが拡大しないように、こちらには様子が伝えられていなかったので 警戒も薄かった。 眠そうな顔をしている兵士はおよそ十数人、世界樹の内部空洞の各階に陣取っているが、ワルドが聖堂騎士の かっこうをしているために警戒する様子が無い。そんな彼らを一瞥したワルドは、無表情のままで呪文を唱えた。 『スリープ・クラウド』 半密閉空間の世界樹の内部は催眠ガスが充満するには好都合だった。異変に気づくまもなく彼らはバタバタと 倒れていき、ワルドは寝息しか聞こえなくなった空間でゆうゆうと階段を上っていき、一隻の船が係留された桟橋に出た。 「この船か」 中型の、なんの変哲も無い貨物船にワルドは乗船した。出迎えの人間はおらず、船内に足を踏み入れると、 あらかじめ聞いていたとおり、この船の外見がカモフラージュであることがわかった。船内には人影はなく、それどころか 人間がここにいたという生活臭すらない幽霊船状態。ただし風石だけは満載され、メイジが一人いれば動かせるように セットされていた。 そして船倉に爆薬とともに配置されていた巨大な金属製の筒を発見すると、ワルドは不敵に笑ってブリッジに向かった。 『エボリュウ細胞』 かつて異世界で異形進化怪獣を生み出した宇宙細胞の一種で、他の生物の細胞と容易に結合して、その肉体を 格段に強化させる性質がある。ただし、変質した細胞は電気エネルギーを吸収し続けないと死滅してしまい、末期には 元の生物の影も形も無いモンスターと化させてしまう。 ワルドが発見したのは、このエボリュウ細胞が満載されたロケットだったのだ。かつて異世界で悪用されかけ、 その危険性から異次元に処分されたそれが、内容物はそのままにここにあった理由……これからやろうとしているそれを 思い返すと、さしものワルドも身震いした。 「俺を怪物に変えたこの薬品を、船に乗せて街の上からばらまくとは、あのお方はえげつないことを考える。銃士隊の 小娘どもも魔法衛士隊も、街の騒ぎに気をとられて港にはまったく目が向いていない。とてもじゃないが、俺なんかの 及びのつくところじゃあない」 そう、すべてはこの恐るべき計画のための伏線だったのだ。現在ラ・ロシュールは、前回のゾンバイユ事件の反省から 上空をあらゆる船舶の飛行が禁止されている。もしも今、どんな小型船であっても強引に所定航路を逸脱するものがあったら、 有無をいわさず即座に撃沈させられるだろう。街を襲ったウルフファイヤーの群れは、すべて港から警戒の目をそらせるための 囮であった。 「大方陽動であることは気づいていようが、守っているのはアンリエッタばかりだろう。しかし、狙われるならば王族という その思い込みが貴様らの命取りだ。俺と同じ苦しみを味わえ、ふっははは!」 失った左腕がうずくたびに憎悪が湧き出し、暗い衝動から来る笑いがワルドを突き動かした。無人の船内にけたたましい声が こだまし、ワルドは風のメイジの操作で動かすことが可能なブリッジへと向かっていく。 その背後で、いるはずのない人影がきびすを返し、船を飛び降りていくことがあったのに彼は気がついていない。 一方で、街中でのウルフファイヤーの掃討作戦は順調に進んでいた。 商店街に出現した一体が、幕をかけて道に置かれていた屋台を蹴倒して逃げていく。その後方からは銃士隊二人が 追跡するが、狼らしい俊敏さのおかげで追いつけない。ところが、正面から別の銃士隊員が回りこんで逃げ道をふさいだ。 「ここから先は行き止まりだ。観念するがいい!」 追いついてきた隊員も加えて、四人の銃士隊員に包囲されてはどうしようもなかった。反撃する間も無く、あっというまに 四方から切り裂かれて消滅する。しかし、この入り組んだ街中でどうして完璧に先回りができたのか? それは彼女たちの 頭上に答えがあった。 「お見事でした。さすが高名な銃士隊の皆さんです。思わず見とれてしまいました!」 「そちらこそ、うまい誘導だったぞ。タイミングが絶妙だった。よく見ていたな」 十メイルほどでホバリングするドラゴンに乗った、やや少年のおもむきを残す金髪の若い竜騎士と一人の銃士隊員が 笑みを交し合った。街中で下手に強力な魔法やドラゴンのブレスを使うわけにはいかない以上、戦闘の主役は銃士隊が ならざるを得なかった。ただし、飛行可能な幻獣が偵察に非常に有効なのは誰でも思いつくことだ。彼らが見つけて 彼女たちが叩く、その連携でもはやウルフファイヤーはほとんど敵ではなくなっていた。 「さあ次だ。朝になる前にさっさと殲滅してしまうぞ!」 「はい! それじゃあの……この戦いが終わったら、いっしょにお茶していただく約束……」 「心配するな! 忘れちゃいないさ。ほら気合入れなよ、男なら言葉より仕事っぷりで口説いてみな」 軽口を叩く余裕もすでにある。はて、この若い少年騎士は彼女の眼鏡にかなうことができるのだろうか? 勇名を上げていく 銃士隊は門地を重んじる貴族たちの間でも人気を上げつつあるが、当然生半可な男は身の程を思い知らされるのが常だった。 だが、勝利へと近づいている余裕の影で、彼ら全員の注意が地上に集中してしまっていた。本来竜騎士隊が警戒しなくては いけない上空はおざなりにされ、港の異変に気づいている者は一切いない。 それは当然サイトたち三人についても同様だった。ウルフファイヤーの撃退に夢中になって、陽動の可能性を忘れかけている。 いかに彼らといえども全能ではなく、千里眼を持っているわけでもない。発見できる敵をほぼ撃破し、いったん宿に帰ると、 アニエスが伝令になにやらを伝えて送り出しているところだった。 「ミシェル、戻ったか。お前たちのほうはどうだった?」 「はっ、西の住宅街に出現した敵は発見したものはすべて撃破しました。現在グリフォン隊の半個小隊が予備警戒に 当たっていますが、完全に殲滅したものと考えて間違いは無いかと」 「そうかご苦労、小休止して待機しておけ」 二人ともこの時点では上官と部下以外の何者でもなかった。変わり身の早さ……いいや、必要なときにはこうして公私を きちんと使い分けられるのが大人というものなのだろう。ルイズは母の厳格な態度が、こうした職務の中で磨き上げられて いったのだろうと、うっすらと感じていた。 耳を澄ますと、最初はどの方向からも聞こえていた狼の遠吠えがほとんど消えていた。恐らくはほかの部隊も戦いを ほぼ終えているのだろう。急増トリオの自分たちでさえほとんど無傷なのだから、銃士隊の皆もきっとみんな無事でいるはずだ。 宿のロビーは仮本部となっていて、才人、ルイズ、ミシェルは眠気覚ましにもらった濃い茶のコップをそれぞれ手にしていた。 「サイト、これでもう終わりなのかしら? なにか、あんまりにもあっけなさすぎる気がするんだけど」 「そーいわれてもな、あんな趣味の悪いヒゲ男の考えなんておれにわかるわけねーだろ。おれはもうこれで終わってほしいよ」 休息をとって冷静さを取り戻したルイズと違って、昨日のことで疲れている才人の答えは投げやりだった。それでカチンと きたルイズは、ブーツの上から思いっきり才人の足を踏みつけた。 「いでーっ! なっ、なにすんだよルイズ!」 「あんたはやる気を出すタイミングを間違ってるのよ。お母さまだったら、朝が来るまで絶対安心しないわよ」 才人は「くっ」と思ったが、ルイズのほうが正論なので文句もいえない。ミシェルに助け舟を求めても、ルイズがもっともだと 逆に叱られてしまった。昨日と違って仕事モードのミシェルは甘くない、才人は観念してコップの茶を飲み干すと、頬を 張って大きな音を立てた。 「目が覚めたか、本当にお前は気合が入っているときとないときの差が大きいな。もっと鍛えたほうがいいぞ」 「ほんのちょっと前までそこらの平民Aだった人間に無茶言わないでくださいよ……あ、アニエスねえさ、いやアニエスさん」 「うむ、疲れているところすまんな。だが、各部隊から入った報告によると、もううろついている奴は見当たらないそうだ。 人家が襲われた形跡もないし、夫妻の宿も無事だ。どうやら、敵も在庫切れらしいな」 すると、街にはほとんど被害なしでウルフファイヤーは全滅させられたようだ。続いて増援が送られてくる気配も無いし、 今夜の騒動はこれで終わりなのだろうか? ルイズの言うとおりに、どうもあっさりとしすぎている気もするが、もしかして 王族夫妻を狙うつもりが、警戒厳重すぎて断念したとか? ワルドは逃げ上手だからその可能性もありえる。だとしたら、 いいかげんゆっくり寝られるか……才人は再び睡魔に身を任せようとした、そのときだった。 「だまされるな、敵はまだなにもあきらめていない」 突然ロビーに男性の声が響いた。 「誰だ!」 瞬時にアニエスら銃士隊は剣に手をかけて臨戦態勢をとり、才人とルイズも背を向け合って剣と杖を構える。 しかしロビーには彼女たち以外の気配は感じられず、アニエスは先手をとって叫んだ。 「何者だ! 姿を現せ」 「すまないが、こちらにも事情があってね。今君たちの前に姿を現すわけにはいかないんだ。そんなことよりも、 敵は今すぐにでも行動を起こすつもりだぞ」 「敵だと!? くそっ! もっとわかるように言え」 アニエスの感覚をもってしても、相手がどこからしゃべっているのかはわからなかった。しかし、敵にしろ味方にしろ、 言っていることの意味がわからなくては文字通り話にならない。 「この街に出現した怪物はすべて囮だ。敵が狙っているのは、この街の人間すべてだ。恐るべきやつらだ、空を見てみろ、 答えはそこにある」 「待て! お前は何者だ。どうして正体を明かさない!」 「俺は単なる風来坊さ。訳あって、まだ君たちに姿を明かすことはできない。だがいずれどこかで、出会うときも来るだろう」 「待て!」 それ以上は、呼べど叫べど返事はなかった。銃士隊のほとんどは呆然としており、才人とルイズもどうしたら いいのかと混乱して動けない。なにせ急に姿も見せずに話しかけてきて、ほぼ一方的に用件だけ告げて消えたのだ、 怪しさは百二十パーセントであり、当然誰もまともに信じようとはしていない。 ところがそのとき、才人とルイズの魂の中にいるもう一人の声が二人の心に話しかけてきた。 〔才人くん、ルイズくん、すぐに外を見るんだ〕 〔北斗さん! いやでも、あれも敵の策略だったら〕 〔それはない。説明している時間はない、とにかく言うとおりにするんだ!〕 〔っ? はい!〕 わけがわからなかったが、北斗星司・ウルトラマンAの言葉に偽りがあるわけがない。 「サイト、外よ!」 「ああ!」 はじかれるように二人は宿の外に飛び出した。その後ろからアニエスの「待て」という声が追いかけてくるが、二人は かまわずドアの蝶番に悲鳴を上げさせて、街路から夜空を見上げる。目に飛び込んできたのは、何頭かのドラゴンや グリフォンの飛ぶ姿。そして、その上空に星々を背にして無音で飛ぶ一隻の空中船の不気味な船影。 「アニエスさん、あれを見てください!」 「なに? 馬鹿な、現在この街の上空は飛行禁止命令が出ているはず……そうかしまった! あれが敵の本命か」 「まずいな。あと数分もせずに街の中心部に到達するぞ。空中の魔法騎士は全部低空に降りている。もしあれに 爆薬でも満載されていたら!」 ミシェルの推測は当たりではないが、ほぼ核心をついていた。敵のこれみよがしな攻撃は、陽動だと思っていたが、 まさかこんな方法で狙ってくるとは計算外だった。しかし今からでは魔法衛士隊に連絡を取っていては遅すぎる。 それにほとんどの住民が就寝しているこの時間では避難させることもできない。 「くそっ! こっちの対策の裏をかかれた。どうする! どうすればいい」 地上の敵ならメイジだろうが亜人だろうがなんとかする自信はあるが、相手が空の上ではどうしようもない。 なにか方法はないか? アニエスは考え付く可能性を高速で検証した。竜騎士を呼ぶ時間はなく、港まで走るのは 論外、あそこまで届く武器はない。せめてあと五分猶予があれば対策も打てたものを……自らの視野の狭さを悔いたが 時間を逆行させることはできない。 空中を悠然と飛ぶ船が街の中央部にまで到達するまでには、せいぜいあと一分。 才人とルイズも顔を見合わせる。だめだ、変身しようにもここにはアニエスたちがいる。それにあの船に積まれているのが 仮に爆薬か毒薬の類だったとしたら、うかつにメタリウム光線で打ち落とすわけにもいかない。 そのときだった。ルイズは突然胸を突く衝動にさらされて、肌身離さず持ち続けている始祖の祈祷書を取り出した。 見ると手の中の水のルビーも淡く輝き始めている。その衝動に突き動かされるまま、ページをめくっていくと、あるページが 白紙から光るルーン文字の浮き出た一節に変わっていた。 「この呪文は……始祖ブリミル、わかったわ!」 祈祷書とルビーがその呪文の効力を教えてくれる。ルイズは杖を取り出し、迷わずに呪文を詠唱し始めた。 「ルイズ!? その呪文は」 才人やアニエスたちが怪訝な表情をしているが、説明している時間もない。今このピンチを切り抜けられるのは この魔法の効力を発動させるしかないのだ。 はじめて唱えるはずなのに、まるで喉の奥から呼吸するように自然に呪文が湧き出してくる。そして呪文が完成したとき、 ルイズは空を見上げて大きく叫んだ。 「いくわよ。わたしたちをあの船まで運んで、虚無の魔法……『瞬間移動(テレポート)』!」 刹那、ルイズたち四人の姿は宿の前から掻き消えていた。 そのころ、ワルドは貨物船の船倉で今まさに作戦の最終段階にかかろうとしていた。 「さて、あとはこの導火線に着火すれば、十数秒後にはこの船は木っ端微塵。人間を怪物化させる薬が、ラ・ロシュールの 町全体に降り注ぐことになる」 その前に、あらかじめ渡されていた風石の仕込まれた指輪で自分は船から脱出すればいい。元はエルフの作った ものだというアイテムは、瞬時に安全なところにまで運んでくれるはずだ。 ほくそ笑みながら、ワルドは導火線に『着火』の魔法で火をつけようとした。だが、そのときだった。 「わーっ!?」 突然、何の前触れも無く船倉内に才人、ルイズ、アニエス、ミシェルの四人が出現してきたのだ。 「お、お前たち!」 「ワ、ワルド!」 どちら側も出会い頭のことでまともに反応することができずに固まった。それはそうだ、こんな事態は想定できているほうが 常識的にどうかしている。だが、中でも一番早く事態の原因を悟った才人が、その張本人に向かって言った。 「ルイズ、お前の魔法か!?」 「ええ、虚無の魔法『瞬間移動』、時間を要さずに任意の場所に転移できる呪文よ……」 精神力を浪費した後遺症からか、疲れた様子でルイズは答えた。また、アニエスらもその言葉である程度現状を 理解し、ワルドも驚愕したように叫んだ。 「き、虚無の魔法だと?」 「ええ、ただ今のわたしの力じゃそう遠くまでは跳べないし、さすがにこの人数を同時に跳ばすのはきつかったわ。 というわけで、あなたたち後はよろしくね」 ため息をついて、ルイズは役目を果たした祈祷書を懐にしまいこんだ。そして、今度こそ完全に状況を飲み込んだ 才人たちは、遠慮なく剣を鞘から引き抜いた。 「さすが伝説は伊達じゃねえな。ようし、後はまかせてゆっくり休んでろ」 「虚無、伝説、よくわからんがすごい魔法が発動したのだけは確かなようだな。後でいろいろ聞きたいが、とりあえず 今はやるべきことがある」 「ええ、ワルド……今日こそ決着をつけてやる!」 才人、アニエス、ミシェルの三人の剣が船倉の薄暗い明かりのなかで鈍い銀色の輝きを放つ。 三重の殺気を食らわされて、ワルドもようやく正気に返った。 「おのれ、まさかもうそこまで虚無を自在に操れるようになっていたとは。仕方ない、一足先にここを貴様らの墓場にしてくれるわ!」 逃げられないことを悟って開き直ったワルドが叫ぶ。腐ってもスクウェアクラスのメイジ、その自信は根拠が無いわけではない。 先んじて呪文の詠唱を始めた。 「ユビキタス・デル……」 「させるか!」 偏在の呪文を唱えようとしたワルドに高速でアニエスが突進した。自らの分身を作り出す風のスクウェアスペル『偏在』は、 成功させれば一気に戦力が数倍に跳ね上がる。なんとしても使わせるわけにはいかない。アニエスの剣はとっさに身を かわしたワルドの前に空を切ったが、連続攻撃で詠唱を続ける呼吸を許さない。 「ちっ、こざかしい真似を!」 「我ら銃士隊がメイジ殺しと呼ばれている訳を忘れるな。『偏在』は上級スペルらしく詠唱が長めだから、完成する前に 切り込めばつぶせる」 「それに、私たちは一人じゃあない!」 横合いから突っ込んだミシェルの攻撃が、ワルドの衣のすそを切り裂いて布の切れ端を舞わせる。ワルドの見切りが コンマ一秒でも遅れていたらわき腹を切り裂かれていただろう。冷や汗を流しつつ、ワルドは自分に向けられている 強烈な執念を感じた。 「き、貴様ら、二対一とは卑怯だぞ」 「どの口がそんなことを言うんだ。人にものを言う前に我が身を振り返れ!」 偏在は自分自身だから百歩譲って正々堂々といえる。しかし、積み重ねてきた悪行を棚に上げていっぱしの騎士を 気取るのは許せない。返す言葉を失ったワルドは、偏在を使うのをあきらめて通常攻撃に切り替えた。 「この、平民の騎士ごっこが!」 怒りとともに詠唱を邪魔することもできないくらい短い『エア・ハンマー』の魔法が唱えられる。空気の弾丸の目標は ミシェルだ。剣だけでなく、魔法を使えるミシェルを先に狙うのはワルドの中に残った戦士の本能と呼べるものだった。 しかし、それを見越していた才人が空気の弾丸の前に立ちふさがって、デルフリンガーで魔法を吸収してしまった。 「無駄だ。下手な魔法はこいつにゃ通用しねえぜ」 「うひょー相棒! 俺の真の使い道を覚えててくれてありがとよ。なに、今日はラッキーデイってやつか」 「き、貴様ガンダールヴ!」 「あいにく今はちげえよ。だが、言ったろ。おれたちは一人じゃねえってな」 才人の身には大いなる自信が宿っていた。確かに一対一では誰もワルドには勝てないが、弱い力も束ねれば 悪に対抗することができる。アニエスは二人の戦友に、決着をつけるときが来たと告げた。 「やるぞ、ミシェル、サイト」 うなづいた二人はアニエスの前に立って身構えた。見守っていたルイズは、この構えは、と、記憶の片隅を掘り返す。 ワルドはただならぬ気配を悟って、背筋に冷たいものを覚えた。 ばかな、この俺がこんな女子供を恐れているというのか! 理性では否定するが、本能が激しく危険を警告してくる。ワルドは知らないのだ、この構えはアニエス、ミシェル、 才人の三人が命をかけて完成させた奥義であり、かつてトリスタニアを覆ったツルク星人の恐怖を払った、三人の絆の はじまりともなった必殺技。 「うぉぉーっ!」 才人を先頭に、三人の突進がはじまった。なんとか迎え撃とうとするワルドは必死で対抗手段を模索する。通常の 魔法ではデルフリンガーに吸収される。手持ちの魔法、それもすぐに使えるものでなんとかなるものはないか? まばたきする間ほどに考えたワルドは杖に魔力を込めて鋭い剣に変えた。 『ブレイド』 魔力を放出せずに杖に込めるこれならば、あの剣に吸収されて無効化されることはない。それに相手は素人に 毛が生えた程度のアマチュアだ。 渾身の力を込めてデルフリンガーを振り下ろしてくる才人の斬撃を、ワルドは手馴れた動作ではじき返した。しかし、 才人の後ろからすぐさまミシェルの第二撃が襲ってくる。避けられない! ワルドはこれもはじこうと試みたが、 デルフリンガーとの激突でわずかなりとて魔力を吸われて切れ味が鈍っていた『ブレイド』ではミシェルの剣を 受け止めきれない。 「なぁっ!?」 杖がワルドの手から弾き飛ばされて宙を舞う。そして、完全に無防備になったワルドの心臓へと、アニエスの剣が 一直線に吸い込まれていった。 「ぐぁぁぁーっ!」 絶叫と共に、串刺しにされたワルドの体がアニエスの突進の勢いのままに背後のロケットに叩きつけられる。 ワルドの体を貫通した鉄剣はロケットの外装をも打ち抜いて、磔にするとようやく止まった。アニエスは、深くロケットに 食い込んだ剣を手放して、後ろによろめくとミシェルに受け止められた。 「姉さん」 「大丈夫だ。それよりも、二人とも見事な先導だったぞ」 今の一撃は、まぎれもなく全身全霊の一撃だったのだろう。その緊張感が解けたことによる、一時的な疲労感だ。 しかしこれで、長きに渡ったワルドとの因縁も、終わるときが来た。 「ば、かな……この俺が、こんな連中に」 吐血し、苦しげなつぶやきがワルドの口から漏れた。アニエスは、ふっと息を吐くと死に体のワルドに向かって吐き捨てる。 「三段戦法……今の攻撃は文字通り、我ら三人の三位一体の切り札だ。いくら強くても、貴様のように誰も信じずに 利用することしか思いつかない男には、決して破れはしない」 「知ったふうなことを……ぐっ、ぐぁぁっ!」 そのとき、苦しんでいたワルドの体が強烈なスパークに包まれ始めた。とっさに飛びのいたアニエスたちは、前回戦った 忌まわしい記憶を蘇らせた。 「これは、あのときの!」 ワルドの肉体と同化したエボリュウ細胞が暴走を始めていた。たちまちのうちに、ワルドの姿が人間の形を失って、 異形進化怪獣エボリュウへと変わっていく。しかもそれだけではない。ロケットに開いた亀裂から緑色の光が漏れ出して、 ワルドの体に吸い込まれていっている。 「ワルド! まずい、脱出するぞ」 過剰なエボリュウ細胞の流入で、ワルドの肉体には想定不能な変貌が現れていた。エボリュウは肉体変化を起こしながら 巨大化していき、コントロールを失った空中船は墜落していく。アニエスは船からの脱出を試みようとしたが、船倉は崩れ、 大量の瓦礫が降り注いできた。 つぶされる! アニエスとミシェルは思わず目を瞑った。しかし死を目前にした二人を包み込むように、まばゆい光が 闇を押し上げて現れる。 「ウルトラ・タッチ!」 闇夜に生まれる太陽がひとつ、冥府の門を砕いて飛び上がる。アニエスとミシェルはその暖かな輝きの中で 守られていると感じた。こんなにまばゆく力強いのに、少しも熱くもまぶしくもないのはなぜだろう? いや、この光の 暖かさは覚えがある。アニエスの心に遠い日に父に抱かれていた子供の日が蘇り、ミシェルはあの雨の日に 冷え切った体に人としてのぬくもりを取り戻させてくれた、思い人の優しさに満ちた体温を思い出した。 「サイト……お前、なのか……?」 根拠などいらない。ただ心に感じたままをミシェルは口にした。そして、目を開いたとき、そこには夜空を背に浮かび、 手のひらに優しく自分たちを乗せた銀の巨人の姿があったのだ。 「ウルトラマンA……」 ラ・ロシュールの郊外に降り立ったエースは、地面に二人を降ろした。 そのとき、空中船も街からやや離れた無人の荒野に墜落した。満載されていた爆薬に引火し、紅蓮の炎が高く 天を突いて伸び上がる。その地獄の門のような火焔から現れたのは、エボリュウよりもさらに巨大かつ凶悪に変貌した、 超異形進化怪獣のおぞましい姿であった。 「ワルド……とうとう、そこまで」 アニエスは憐憫さえ混じった声でつぶやいた。エボリュウ細胞の取り込みすぎで、もはや完全に理性を失った 怪獣となってしまったワルドは、雄たけびを上げながら街に向かってくる。憎悪に燃えているように見える様は、 人間だったころに持っていた復讐心のなごりか。 だが、罪無き人々を犠牲にするわけにはいかない。 「ヘヤァッ!」 ウルトラマンAは、街の前に守護神のように立ち、最悪の超異形進化怪獣ゾンボーグと成り果ててしまったワルドを迎え撃った。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1776.html
シルフィードが空の色に溶け込むように大空を舞う。 その背にはタバサのみならずキュルケも同乗していた。 「んー、やっぱり風が気持ちいいわね。ねえタバサもそう思わない?」 「……………」 いつもならタバサも頷いて同意してくれるのだが今日は違う。 彼女の視線はじぃーと私の顔を見続けている。 分かっている、素直になれと彼女は言いたいのだ。 でも、それを口にしたら私が意固地になると分かってて彼女は言わない。 ったく、気心の知れた友達というのも楽じゃないわね。 こっちの考え、全部筒抜けじゃない。 この遠乗りには私がタバサに頼んだ物だ。 学院に居辛かったので気分転換を兼ねて空の旅を満喫している。 目的地も決めずにいたのでタバサにはすぐ勘付かれたようだ。 「分かってるわよ。でも恥ずかしいものは仕方ないでしょ」 フーケのゴーレムとの戦い、それに今回の惚れ薬騒動で彼女には大きな借りが出来てしまった。 どちらも私一人では解決できなかっただろう。 彼女がいなかったらどうなっていたか考えるだけでも恐ろしい。 ゴーレムの時には使い魔の力だと思って、あまり気にも留めていなかった。 だけど今回の事件でハッキリと彼女自身が変わりつつある事を認識した。 ライバルに先を越された悔しさと同時に彼女が成長した事を嬉しく思う。 だけど今までからかっていた相手に助けられたのが恥ずかしくて顔を合わせられない。 複雑と思うかもしれないが、乙女心とはそういうものなの。 そもそも借りを作りっぱなしというのは釈然としない。 貸しを作るのはいいけど逆はダメ。 「こう、パーっと一気に借りを返す機会とか無いかしらね」 「同感」 こくりと彼女がようやく頷く。 彼女も私ほどではないだろうけどルイズに貸しがあるらしい。 お互いの目的が一致し色々とアイデアを検討する。 第一弾、プレゼント大作戦…って前に私達の方が貰ってたわね。 第二弾、貴方の夢叶えます大作戦…って胸を大きくする方法なんて知らないし。 その言葉にタバサも反応を示す。 じとっとした目で見つめるのは私の胸元。 ついでに自分の胸にもぺたぺたと手を当ててる。 そんな顔されても本当に秘訣なんてないってば。 生まれつきよ、生まれつき。 「きゅいきゅい」 突然、シルフィードが何かを見つけたのかタバサに話しかける。 ふと視線を下に向けると疾駆する一台の馬車が目に入った。 装飾の施され様からして乗っているのは高級貴族だろうか。 このままの進路を取ると目的地は魔法学院だ。 勅使であるモット伯ならともかく、そんな所に何の用があるというのか。 それを追跡するようにタバサはシルフィードに指示を飛ばす。 目を丸くする私に彼女が簡潔に説明する。 「アカデミーかもしれない」 「何でそんなのが学院なんかに」 「彼の事を知られた可能性がある」 「っ……! どうやら思ってたよりも早く借りが返せそうね」 唇をきゅっと結び、シルフィードの加速に耐える。 壁のように感じる風圧を受けながら彼女達は学院へと舞い戻った。 「そうか。ようやく決心が付いたか」 「はい。学院長の仰る通り、一度里帰りしてみようと思いまして」 オスマンの前に立つミス・ロングビル。 彼女の手にはやや大きめの旅行鞄がぶら下がっている。 オスマンは休みの期間も故郷の場所も問いはしない。 ただ黙って旅立つ彼女を見送る。 「うむ。故郷で一度、自分の原点に立ち返るのもいいじゃろう。 人は前だけを見て進むのではなく時折立ち止まり振り返る事も必要じゃ。 自分の歩んできた道、そして歩みべき道を見失わないようにな」 「……ええ、そうですわね」 何か過去の傷に触れてしまったのか。 餞別代りの言葉を聞いて彼女の表情が曇る。 それをはぐらかす為に下ネタを振ろうとしたが咄嗟に思い付かず、 気付けば彼女は既に扉に手を掛けていた。 「それでは失礼します」 「良い旅を」 結局は他愛も無い挨拶で幕を閉じた。 まあ、これが今生の別れではない。 もし彼女が帰ってこなくても、それはそれだ。 彼女が帰るべき場所を見つけたのならここにいる必要は無い。 新たな旅立ちを祝福すべきなのだ。 「ああっ、でもあの乳と尻が別の男のものになるのはイヤじゃな…」 旅行から帰ってきたコルベールは自分の研究室に篭りっきり。 一人寂しく悶々としていたオスマンは今度モット伯に頼み込んで、 『異世界の書物』を見せて貰おうかと本気で悩んでいた。 白紙の祈祷書、白紙のノート、ついでに私の頭の中も白紙。 詔なんて何も思い浮かばない。 勉強なら自信はあるんだけど詩や文学には疎かった。 モット伯やタバサなら簡単に浮かぶのだろうか。 ギーシュもやたらと歯の浮く台詞を言えるから得意そうだし。 ちょっと参考代わりに聞いてみようかな。 …ダメ、ダメよルイズ。まだ婚姻の事は公にされていない。 そんな事を聞いて知れ渡ったら私の責任だ。 それに、これは姫様立ってのお願い。 だから私がやり遂げなくちゃいけないんだ。 しかし、勢い込んで見たものの前途は闇。 まるで見通しが立たないというのは最悪というべきだろう。 私がそんなだからか使いの魔の顔もどこか憂鬱に見える。 その時、トントンと扉を叩く音が響いた。 全く…こんな時間に誰よ。 人がせっかくやる気を出したというのに妨害するなんて、このモチベーションの高まりをどうしてくれるのよ。 そんな言い訳じみた事を考えながら扉を開いた。 その時点でよく考えるべきだったのだ。 私の知り合いにノックをするような常識人はほとんどいないって事に。 開けた視界の前にはフードを被った二人組の姿。 どこかの押し込み強盗かと疑ってしまうような風体に顔を顰める。 「久しぶりね、ルイズ」 しかしフードの下から出てきたのは花も綻ぶような笑顔。 それを見間違える筈など無い。 幼き日を共に過ごした友であり自分の主である人物、アンリエッタ姫殿下を。 「ひ、ひ、ひ…姫様ーー!!?」 「ああ、ルイズ。会いたかったわ」 アンリエッタにとっては唯一ともいえる親友との再会。 その感動的な再会はバタンと閉じられた木造の扉に遮られた。 「ル…ルイズ、一体どうしたというのですか? ここを、ここを開けてください」 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ! まだ出来てないんです、でも期日中には間に合わせますからっ!」 「違うの。今日はその事ではなくて…」 「全く出来てないって訳じゃないんですけど。 でも、今出来ている分だけでも見せろと言われても困るんですっ!」 「だから違うの! お願いルイズ、話をちゃんと聞いて!」 トントンと叩いていたノックの音がドンドンと重く変わる。 その音に怯え室内から扉を押さえつけるルイズ。 話がまるで噛み合わない光景に溜息を漏らしアンリエッタの従者が動く。 フードを取り払い短く切り揃えた短髪を靡かせる。 「姫様。お下がりを」 「あ、アニエス。あんまり乱暴な事は…」 アンリエッタの顔には明らかな怯えがあった。 未だに収まらぬルイズの弁明にアニエスは限界気味だった。 扉が開かない事よりも彼女はルイズの安全を優先したのだ。 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ……」 「ええい、やっっっかましいィィィ!!」 しかし彼女が言い終わる間もなくアニエスは扉を蹴り飛ばす。 火薬で吹き飛ばされたように開け放たれる扉。 その威力の前には彼女程度の重しなど台風の前のぬいぐるみ。 抑え付けていたルイズが部屋の端までゴロゴロと転がって倒れた。 「……きゅう」 「だ、大丈夫? ルイズ」 目を回しているだけなのか、それとも頭を打ったのか。 倒れたまま起き上がろうとしない彼女の下にアンリエッタが駆け寄る。 ゆさゆさと揺するものの反応がない。 それはルイズの睡眠不足が故なのだが彼女はその事を知らない。 あわや感動の再会が悲劇の別れになるかと困惑する。 彼女が期待していたような感動の再会は完全に台無しだった。 突然の侵入者に彼が慌てふためく。 何しろ周りには悪意の匂いがまるでしなかったのだ。 それで無警戒だったのだがルイズは吹き飛ばされ部屋に踏み込んできた。 とりあえずルイズや自分に危害を加える様子はないようだが…。 念の為にもう一度匂いを確認する。 ちょっと鼻先にドレスの裾が当たってむず痒いんで前足で除けて、と。 「きゃっ…!」 「何をしておるか! このエロ犬ッ!」 「きゃうん!」 瞬間、首根っこを上から抑えつけられ潰された。 床に張り付けにされたまま、彼女達の匂いを嗅ぎ続ける。 二人とも悪意はない……無い筈なんだけどこのアニエスって人、ちょっと怖い。 「姫様。念の為にこの部屋にサイレントを」 「は、はいっ!」 ディテクト・マジックで監視の有無を確かめ一息ついたアンリエッタにアニエスが指示を飛ばす。 本来は主であるべきアンリエッタがアニエスに従う異常な光景。 人の良さ故か、それとも目の前の光景が余程恐ろしかったのか。 恐らくはその両方だろうとデルフは思った。 それよりも姫様がここに来たって事の方が遥かに重大だ。 いくら親友に会う為とはいえ、王宮を抜け出してくるなんて有り得ねえ。 ましてや婚姻を前にした重要な時期にだ。 (なにやら雲行きが怪しくなってきやがったぜ) 「お久しゅうございます姫殿下」 膝を付き頭を下げ恭しく礼をするルイズ。 その傍らには頭を押さえつけられて伏せられた彼の姿。 親友の跪く姿を見てアンリエッタが動揺する。 「止めてルイズ! 私たち友達じゃない、そんな堅苦しい行儀なんて必要ないわ」 「しかし姫様」 「まあ今更体裁を取り繕った所で意味はないかも知れんがな」 先程の光景を思い出してかアニエスがふふんと笑う。 アンリエッタの横に立っているアニエスからルイズは見下すような視点になる。 別に彼女に傅いている訳ではないのだが何故か無性に腹が立つ。 本当なら平民と公爵家では同じ空気を吸う事さえ許されない程の差があるというのに。 もっともルイズは権力を振るかざすつもりは毛頭ない。 すくと立ち上がると彼女を指差しながら問う。 「うるさいわね。何でアニエスが姫様と一緒にいるのよ?」 「あ、彼女はマザリーニ枢機卿から私の監視役として…」 そこまで口にしてアンリエッタはハッと気付いた。 「どうして彼女の名前を知ってるの?」 「う……」 実はですねー、私、違法な魔法薬を盗み出してる所でアニエスと会ったんです。 その時、男の子の格好してたから分からないと思うんですけど。 あ、その時一緒にいたモット伯は脅して共犯者にしました。 …そんな事、言える訳が無いでしょうが!! 百年の友情も一瞬でブッ壊れます。 今後は敬語で話しかけてくださいねと笑顔で言われかねない。 ある意味、その方が気楽かもしれない。詔も考えなくて済むしね。 「ルイズと知り合いだったの?」 「いえ、私には覚えがありませんが」 突然、言葉に詰まったルイズから今度はアニエスに振る。 彼女はルイズをよく観察し思い起こしながら答える。 しかし、どこか引っかかる物があるのか顎に手をやって悩む。 「ああ、町でちょっと見かけたのさ。派手にやってるって噂になってたからな」 それを遮ったのはデルフの一言だった。 この場には他に誰もいない状況で突然響いた声にアニエスの警戒心が高まる。 しかしカタカタと鍔元を鳴らす剣の姿を認めると彼女の気配が和らぐ。 そして、それを確かめるようにデルフに語り掛ける。 「インテリジェンスソードか?」 「おう。デルフリンガー様だ、よろしくな。 ところで姉ちゃん。一つ聞きたいんだが裏路地寄りにあった武器屋、知ってるか?」 「剣如きに姉ちゃん呼ばわりされる筋合いはない。 それに、そんな場所に武器屋など無かった筈だが?」 「ありゃ、じゃあ潰れちまったかな」 もしくは親父が夜逃げしたかだ。 前に何度か貴族相手に名剣だってホラ吹いて観賞用の剣を売り飛ばしたからな。 査察が入ってたら捕まっているかもって思ったんだが。 まあ、殺したって死ぬようなタマじゃねえか。 不思議な質問にアニエスが首を傾げる。 それを見ながらルイズは心の中で親指を立てた。 (ナイス、デルフ!) 完全に話題は別の物に切り替わった。 もはやアニエスが思い出す事は無いだろう。 だが念を入れて最後の駄目押し! 「姫様。一体何があったんですか!?」 ルイズは自ら本題を切り出した。 いくらなんでも姫様が自分に会う為だけに来る筈が無い。 何かしらの相談や悩み事があると見るのが普通だろう。 それが分かるぐらいにはルイズは大人になっていた。 その言葉でアンリエッタの表情に僅かに浮かぶ喜色。 しかしそれを押し込めるような仕草をした後、彼女は決心して口を開いた。 「ルイズ、私を助けて!」
https://w.atwiki.jp/sengokutougekipc/pages/286.html
◆勢力 姫 ◆カードランク S ◆レベル レベル1 ◆強化ポイント 0 ◆特技 内助の功 効果範囲内にいる味方の男性武将ユニットの兵力が徐々に回復する。 ◆特技 諜報 ビュースコープ内にいる敵ユニットの隠密状態を解除する。自陣にいる隠密状態の敵ユニットをミニマップ上に表示する ◆秘技 祈祷“掣肘呪縛陣” ◆秘技コスト 10 戦場に妨害陣を一定時間、設置する。妨害陣に入った敵ユニットの移動速度が低下する。この秘技は相手からは見えず、城内退却によって消失しない。 ◆出身地 播磨(兵庫県) 羽柴秀吉を天下人に押し上げた名参謀・黒田官兵衛の妻。志方城主・櫛橋伊定(くしはしこれさだ)の娘。 天才的な知性を宿しながらも、度重なる艱難辛苦に喘ぐ夫・官兵衛を支え続けることができた光姫は、慈悲深く聡明で、才色華やかな女性であったと伝わる。 名前の通りまばゆく輝く光姫の存在は、官兵衛にとって決して小さくはなかった。 官兵衛は光姫を深く想い、生涯、光姫以外の妻を迎えなかった。 ◆イラストレーター 叢雲 秘技効果 効果範囲 カテゴリ 闘魂 武勇 智謀 統率 速度 兵力 効果時間 その他 祈祷 10 - - - 移動速度低下 - 40.0c(智謀依存?c) 城内退却後も効果は残る 解説 備考
https://w.atwiki.jp/quizbc/pages/1074.html
壮麗なる祈祷師メーベル・テイラー(ソウレイなるキトウシ~) p e 属性 雷 コスト 32 ランク S 最終進化 S レベル HP 攻撃 合成exp 1 972 792 ? 70 1,944 2,085 ? 最大必要exp 63,204 No. 0693 シリーズ メーベル Aスキル ジン・トランス 敵単体へのダメージ極大アップ(?%) Sスキル 界雷神降臨 敵全体へ雷属性の大ダメージ(?%/7turn) 売却価格 29,000 進化費用 - 進化元 冷酷なる祈祷師メーベル(A+) 進化先 - 入手方法 進化 備考
https://w.atwiki.jp/sengokutougekipc/pages/317.html
◆勢力 姫 ◆カードランク C ◆レベル レベル1 ◆強化ポイント 0 ◆特技 追跡 ビュースコープ内に敵ユニットが入ったとき、追尾して攻撃する。移動速度が上昇する。 ◆秘技 祈祷“冠落陣” ◆秘技コスト 8 戦場に妨害陣を一定時間、設置する。妨害陣に入った敵ユニットの武勇と統率力が低下する。この秘技は相手からは見えず、城内退却によって消失しない。 ◆出身地 安芸(広島県) 謀聖と謳われる出雲の戦国大名・尼子経久の正室。父親は「鬼吉川」の異名をとる猛将・吉川経基。 夫・経久と父・経基は戦友の間柄で、経久の知略を見込んだ経基が娘の吉川夫人を嫁がせた。これにより尼子家と吉川家は縁戚関係となる。 名門・吉川氏という強大な後ろ盾を得たことは経久にとって大きく、周辺諸国の多くの豪族らが二家の同盟を契機に尼子家に服属した。 ◆イラストレーター みせお ◆CV. 花木さち子 秘技効果 カテゴリ 闘魂 武勇 智謀 統率 速度 兵力 効果時間 その他 祈祷 8 -4 - -4 - - 42c(智謀依存?c) 設置系 ※自身が撃破された場合、効果消失。自身が自分で城に入った場合は効果継続。 解説 コスト1.5の姫勢力武将。スペックは同コスト帯としては普通の部類だが、秘技が広範囲の設置系でなおかつ長時間持つ点が極めて優秀な部類に入るだろう。 秘技コスト8としては異例の長時間で武勇と統率を-4させる。設置系は発動者が撃破されなければ効果終了まで残るので城門前に設置して、自分は城に引きこもってしまえば 長時間の妨害陣となる。なお、秘技無効系の秘技は設置系には無意味なので設置すればメリットがデメリットを上回ることになる。 なお、このカードのミラーとしてまだ通常排出落ちしてはいないがA片倉喜多がいる。あちらは武勇+4、統率+4(CPU戦で確認済)。 備考
https://w.atwiki.jp/talesrowa/pages/285.html
祈祷・魔・岩戸 「あ」ハロルドは計算を中断する。 「どうした?」トーマはもはや話半分でしか聞いていない。 「あの洞窟今あんま人体に良くない空気配分になっているかも、散々燃やしたりしたしねえ 石灰質の洞窟で炎系の術を使うなんて正気じゃないわね?死んでも仕方ないわ」 「死者にそう言うことを言うのは…」 「ヒトは死んだら死人になるんじゃないの、死体になるの」少しだけハロルドの顔が曇る。 「…大丈夫なのか?」トーマは仕方なく話題を戻す。 「まあ大した傾斜も無いし、エアラインは確保されているから 二酸化炭素1,2%…まあ少し眩暈がする程度でしょ。まああれ以上壁を燃やしたら… ストーカーの仮面みたいになっちゃう」 「?」やはり話の要領を得ない。 「ただのジョークよ」 ジョークにすらなってない、と思う。 「それにしても、この技目標が来る前に完成するのかしら? 理論での試算しか出来ないってのはやっぱきついわ」 すこし生温い夜風に思考力を奪われた、とハロルドは自己分析した。 生きている猫・死んでいる猫、そしてどちらでもない猫。 どちらでもない猫は何処にでもいるし何処にもいない。 生と死の重ね合わせ。正解が無い故に無限。 観測の外、思考の内、理論の外、量子の内、マクロの外、ミクロの内。 面倒臭い前置きは止めよう。 量子力学なんてこのゲームにおいて無縁の話だ。聞き流して欲しい。 猫、彼女達がこの話が終わる頃に生きているのか死んでいるのか… 箱、洞窟の外により思考する我々だけが3番目を解釈することが出来る。 凶器が青酸カリでないのは残念だが、これだけは分かって欲しい。 50/50ではない。100%が二つあるのだ。死ぬか、生きるか、観測結果は100%しか無い。 ミトスは腹の内が捩れるのを耐えることに力を込めていた。 存外に扱いやすいこの女が実に面白可笑しかったからだ。 ミトスはアトワイトが内通した事実は知っていたが、誰に、何を供述したかを知らない。 この違和感が証明するのは (鎌をかけてみたら本当に喋っていたのか。単純と言うか、何と言うか…) 嘘、心理的誘導だ。内通した可能性があったとしたらあの二人、証拠は無いから自供して貰うつもりだったが。 成程、想定していたよりアトワイトは「此方側」に適応していない。 こちら側の不自然が看破される前に心を抉って正常な思考を鈍らせるつもりだったが、 ここまで綺麗に嵌ってくれたことが一番想定外だ。情報官としては無能といっていい。 恐らくまともに戦場に出たことが無いのだろうか、この剣が強すぎたのか、兎にも角にも、温い。 暗闇の遥か先の連中を見る。イラプションから数分…ナルコーシスはそう遠くは無い。 もうじき空気に比べ比重の大きい二酸化炭素が充満し、濃度7%に至る。 後は伏して彼女達の死を祈るのみ。神にではなく、彼女達に。 実際に伏せると気分が悪くなりそうだからやらないが。 『ミトス』 「なんだい?素敵な言い訳でも思いついた?」 アトワイトに効果がありそうな言葉を選ぶ。的確に、憐憫無く。 『どうして…こんなことが出来るの?』 「どうしてこんなことも出来ないんだい?」 『貴方のやり方で貴方の姉さんを蘇らせるだけなら彼女達を殺す必要は無いわ』 「生かしておく必然性も無い」 逃げ場も無い。 『何のために、その意味は?』 「何処の世界にも1人2人は…ああ、そうか、そうか…それはいい 皆に見てもらうために殺すんだから、2人とも、少しくらいは飾っておいたほうがいいよね?」 ミトスは左手で前髪を掻き揚げ、右手でアトワイトを掲げた。 眼は手に覆われて見えないがその口元は笑っている。 「そろそろ12時間か・・・最後のチャンスだ、君にも踊って貰おうか?」 剣を収め、ミトスは最深部へ駆けていった。 無言。それを以って罠に落ちた哀れな剣は天使との契約を結ぶ。 少女が3人、無色透明の惨殺空間にいた。 但し、コレットだけは死の方向性が、他2人とは異なる。 コレットだけが、客観的に見て命を浪費しようとしているからだ。 無論、この見解はあくまで外側から見た物言い、 あるいは「自分の命こそが何よりも尊いという妄執」に則った見方でしかない。 コレットにとってはリアラの命こそが最上項であり、全てだからだ。 そのコレットが詠唱、と言っても発声機構はOFFになっているのだから詠ってはいないのだが、 しているのは天使術唯一の回復術、リヴァイヴィウサー。 両の手を凛と伸ばし、有色透明な翼から羽が散落する。自己犠牲の禁呪。 リアラを守る。忠実に愚鈍にそれを行使する。 自分が犠牲になる、と言うことを何よりも知っている娘だから 可能な、ある種の後天的才能と言えなくもない。術式も佳境へ。 ‘その力、穢れなく澄み渡り流るる。魂の輪廻に踏入ることを赦し賜え ’ ふいに、彼女の手を掴む純白の「手」がある。握力は殆ど感じられない。 コレットは一切の出力をせずにそちらの方を向く。 立っているのもやっとな、法術師、ミント=アドネードが、そこにいた。 表面に濡れそぼる汗に演出された艶かしさと対照に、 その眼は今尚少女相応の精悍な輝きを放っていた。不自然な程に。 もう片方の口を手に当てて、ミントは首を左右に振る。 草食動物の視界を得ようとしているわけではない。それだけは使ってはいけない、という意思表示。 表情は読み取れなくても、分かるものがある。死ぬ覚悟などが最たる例だ。 それを看過することは、ミントには到底出来ない。一種の感染症に近いかもしれない。 (自分が犠牲になることに関しては非常にルーズになるのがこの病の特徴なのだろう) コレットが不意に詠唱を止める。意志が通じたという錯覚にミントは苦しさを忘れずに微笑んだ。 直後、ミントは下腹部に重いものを感じる。続いて、体内の空気が逃げ場を失い逆流し、 ほんの少しの唾液と呼気を吐いた後、落ちる瞼の向こうに自分の腹にめり込むコレットの拳と 微かに揺らぐ彼女の瞳を見た。彼女が見た最後の画像である。 ミントが気絶したことを目視した上で、改めてコレットはリヴァイヴィウサーを再度詠唱しようと試みる。 しかし声が出ない。出せないのは当たり前の話だから、この場合「詠唱が出来ない」という 魔術のスラングである。声が、でない。術が、始まらない。リアラを、助けることが出来ない。 「物見遊山に来てみれば、こんなことをしているとはね?」 コレットはそこでようやく後ろに一人の少年が近づいていたことを認識する。 「人形に自害する権利も資格もないよ」 ミトスが笑う。光源が無いから、二人しかいないから、コレットだけが殺意の源泉を知覚した。 排除するべき存在の認識。しかし、詠唱が出来ないことを説明する情報ではない。 「アトワイト、見事だ…実に使いやすい」 ミトスの片手に、今し方晶術を発動したアトワイトがあった。 術殺しの‘サイレンス’がコレットを括っていた。 「ああ…本当に良かった…まだ死んでない…死化粧は、生きている内にやる方が手間が掛からない」 ミトスはリアラを一別し、濁った眼球がだらしなく振動するのを確認した。 コレットがすかさずリアラへのミトスの攻撃意志を感知し、榴弾砲を深く抱えて構える。 既に相反する状況に彼女の論理は破綻していることに、彼女自身は気づいていない。 「僕は君と戦うつもりはないんだ。とりあえず…」 ミトスは自分の敵意にコレットが反応したものと誤認したまま、アトワイトを掲げる。 「目を奪わせてもらう」 二酸化炭素が充満した洞穴に、何も変化は起こらない。光がないから、人間達にはその異常を 認識することが出来ない。コレットとミトスだけが見る暗闇の世界が、一気に白濁する。 コレットの本能は理解を誤った。夕方の一戦からミトスには攻撃「魔術」しか無いものと思っていた。 晶術も確認したのは全て回復術のみ。理解の外から、一方的に侵攻を許してしまった。 ミトスがコレットとの直接戦闘を警戒していなかった理由…それがサイレンスや ディープミストに代表される「補助晶術」の存在である。 無痛覚は恐怖をねじ伏せ、視聴覚は万物を捕捉し、 膂力は敵を粉砕する(これは天使としての能力だけとは言い難いが)無機生命体。 末端戦力としてこれほど恐ろしい兵器はない。 しかし、裏を返せば無痛覚は危機への感性を鈍らせ、一部の感覚の鋭化は多面的な情報の取得を困難にし、 強すぎる膂力は攻撃の選択肢を狭める。天使は搦め手に非常に弱い。(並の搦め手ならスペックでねじ伏せるが) 皮肉なことに天使のスペックを最大限に発揮するには天使の感覚に耐えうる心が必要不可欠なのだ。 神の機関クルシスにおいても心(あるいは心があるという妄想)を備えるものは四大天使を除けば数は少ない。 それには古代大戦とクルシスに於いてこの技術の使用目的が根本的に異なることに起因するがここは省略しよう。 ともかく、エクスフィア、天使という知識を得た上で戦略を練りさえすれば、無機生命体は決して難攻不落ではない。 この狭い空間でコレットの「力」を奪い、 洞窟に反響する音はコレットの「耳」を抑え、 サイレンスがコレットの「術」を封じ、 ディープミストでコレットの「眼」を塞ぐ。 そして最大の要衝、コレットの「感覚」は晶術と魔術、二つの術式をずらすことで 発動する術を誤認させ、沈黙とする…ネレイドとの戦いで発想した戦術の最終形である。 ずらされた詠唱によって魔術を晶術と、晶術を魔術と、使用する術を惑わす。 凡百の戦士や魔術師にはそもそも唯の詠唱にしか見えないであろうが、 ダオス、ネレイド達ほどの手練との戦いならばこの小細工は確実に効いてくる。 そして、恐らくこの舞台で一番感覚に鋭いコレット相手ならば、その影響はそれだけでは済まない。 無自覚に小細工が大好きなミトスならではの発想であった。 コレットを「封殺」する、そのために選んだこの地である。 炭酸ナトリウムを大量に含有する石灰質の洞窟であったのは副次的な幸運と言えよう。 見ればほかにも岩壁を灼いた痕跡があった。それが自分の駒たるマグニスの技が成したとは知る由もない。 (ミトスは知らないが崩落の向こう側で死んでいる彼の親友になる「はずだった」人物が炎系魔術を使っている) どうやら同じことを考えた人物がいるのかも知れない…いくら何でも危険域の濃度7%までの推移が早すぎると 訝しんだが、先客が下ごしらえをしていてくれたのなら僥倖と言う他無い。 そしてその戦術をここまで早く完成させる決定打を与えたのは沈黙するアトワイト。 彼女にもう少しルーティのような自信と傲慢があれば、ミトスの毒舌をいなすことも出来たかも知れない。 しかしそれは叶わなかった。彼女は、ソーディアンである自分を恨むことでしか、自我を保てなかった。 ソーディアンが腑抜けになれば、晶術のコントロールは比較的容易。 最後の詰めを除けば、アトワイトへの施術は完全といえる。 ここに、ミトスの脚本した第一幕は終幕の目処が立った。 コレットは本人以外にしか分からぬ濃霧の中、主の姿を求めた。 動ける容態ではないのだから位置は変わってないはず。しかし、それは無事を証明する材料にはならない。 リアラの鼓動は、洞窟に残響するノイズに阻まれて分からない。 ど…して… 人を助けるのに理由はないだろう?だから人を殺すのにも理由は要らない。 リアラの姿は、白濁した世界に飲まれて分からない。動けない。 あ……しん………に… 狂ってると思う?それは幻想だ。何処の世界にも、異常な動機なんて存在しない。 ミトスを探す。探して、この砲門で、完全に、突き殺さねば、リアラが。私が守るって、決めたんだから。 ……………………………の……? 異常なのは、何時だって動機を成す手段だ。僕はただ…(I only…) 意図的にうっすらと霧の一部が晴れる。その向こうに天使の背中があった。迷わず、躊躇わず、榴弾砲を一直線に。 ……………カイル…………………………… 僕は唯々、君と一緒に居たいんだ(I only want to be with you♪) 示し合わせたかのように天使がコレットの方を向く。金髪で片眼は覆われ、覆われていない方の眼が 現れる直前、虹色の輝きが、洞窟を照らした。榴弾砲が、鍵が、肉を、心臓を貫く。 霧が、晴れた。 ミントはゆっくりと眼を開けた。肌に薄ら寒さを感じる。いや、寒い。 相も変わらず何も見えない洞窟の壁を、手探りで触ると、不思議なさらさらとして凍てつく感覚を覚える。 霜だ…霜が張っている…何も見えない… 洞窟一面に、霜が張って、凍っている。正確には洞窟内の二酸化炭素が凍っていた。 空気は通常配分に戻っている。魅せる為に殺したのだから何時までも惨殺空間にしておくわけにはいかない。 洞窟を丸々凍らせる…「今の」アトワイトならばさして難しい話ではない。 一体何だったのだろうか…リアラが倒れて、コレットが自分を犠牲にしようとして、 私はコレットに気絶させられて…何も見えない…リアラさんは…他の皆さんは… 呼んでみるが誰も答えない。冷却された音がよく残響する。そこに混じる足音。 呼吸とともに体内の熱と思考が奪われる…寒い…何も見えない…眠い…明日もいい日でありますように… ミントは睡魔に逆らえず、瞳を閉じてしまった。起きても、朝になっても何も見えないだろう。 白馬のイヤリング、無属性の魔術を退けるその加護は確かにあった。 しかし見つけたのは第三の猫。酸素が足りなかった。 大脳新皮質の後頭葉にある視覚中枢まで足りなかった。猫が笑って泣いて死んで生きて半死半生。 ミントの体がひょいっと持ち上がる。法術師のトレードマークの帽子が剥ぎ取られ、神の頭に乗せられる。 ロイドを誘うため、要の紋を残し、クレスを誘うためではなく、道化を回収する。 殺したかったのに…聖母が盲目になるなんて…どんな冗談だというんだ… 可笑し過ぎて殺せないじゃないか…姉さまみたいな面しやがって…楽には殺さない… 壊してから殺してやる…姉さまじゃなくなってから殺してやる… ミントの拒む意志が反映したのか、耳のイヤリングが白く一瞬輝いた。全景が映る。 真っ白く凍った岩壁に、一本の榴弾砲が、心臓の位置で刺さっている。 ファフニールによってなます切りにされた傷と血は凍り、所々にフルーツが凍結している。 その杭が穿つはずだった天使は、瞬間移動によって喪失し、その向こうの神を磔にした。 その死顔に恐怖も、悦も無く、実に不思議な…神を見たような驚きだけがあった。 神の足下に、中央が窪んだ飴が一本。それを重しにして、ミトスは血文字がまだ凍っていない紙を一枚置く。 「神の磔、心への鍵、天使は魔剣を求め、女神の眠る地へ」 祈祷は魔を喚び、かくして天の岩戸に神は閉じこめられ、聖母の世界は永久の闇に閉ざされる。 実に見事な、神の神たる証明だった。 【ミント 生存確認】 状態:TP75% 睡眠 失明(酸素不足で部分脳死) コレットに運ばれている 帽子なし 所持品:ホーリィスタッフ サンダーマント 第一行動方針:??? 第ニ行動方針:クレスがとても気になる 第三行動方針:仲間と合流 現在位置:G3洞窟最深部→ E2周囲を避けてC3村へ 【コレット 生存確認】 状態: 無機生命体化 (疲労感・精神力磨耗無視) 所持品:苦無(残り1) ピヨチェック 基本行動方針:防衛本能(自己及びミトスへの危機排除) 第一行動方針:ミトスについて行く 現在位置:G3洞窟最深部 →E2周囲を避けてC3村へ 【ミトス・ユグドラシル 生存確認】 状態:TP55% 左肩損傷(処置済み) 治療による体力の中度消耗 天使能力解禁 ミント殺害への拒絶反応(ミントの中にマーテルを見てしまって殺せない) 所持品:エクスフィア強化S・アトワイト(全晶術解放)、大いなる実り、邪剣ファフニール 基本行動方針:マーテル復活 第一行動方針:C3村で策の成就を待つ 第二行動方針:ミント・コレットをクレス殺害に利用する 第三行動方針:カイル・ロイドを復讐鬼に仕立てエターナルソードを探させる 第四行動方針:考え得る最大効率でミントの精神を壊す(姦淫ですら生温い) 第五行動方針:蘇生失敗の時は皆殺し 現在位置:G3洞窟最深部→E2周辺を避けてC3村へ ※アトワイト備考 状態:自我の凍結、エクスフィア寄生 基本行動方針:ミトスに従う 【リアラ 死亡確認 【残り21人】 前 次