約 6,956 件
https://w.atwiki.jp/hazama/pages/1331.html
編集/ ≪形成≫| ≪治癒6≫以上でトータルHPが治る| ≪突出≫| 〈合成〉| 《呪払》《魔力消散》《中和》| 《惑い》| コメントログ| ドラゴン魔術| 一般神性呪文一覧| 不完全生物の召喚・呪縛・支配| 不完全生物の召喚・呪縛・支配/コメントログ| 呪付関連ハウスルール実はマスターは運用している版| 夢魔術| 寺院と礼拝と神性呪文の回復| 焦点具| 祈祷師| 精霊魔術呪文一覧| 錬金術師| 防御魔術の対象と判定順位| 音響魔術| 音響魔術/コメントログ| 魔力や霊力の分析| 魔技武道| 魔技武道/コアルール| 魔技武道/一般魔技一覧| 魔技武道/旧ルール| 魔技武道/武道| 魔技武道/魔技武道カルト| 魔技武道/魔技武道カルト/千風門| 魔技武道/魔技武道カルト/大林寺| 魔技武道/魔技武道カルト/心弓館| 魔技武道/魔技武道カルト/水竜| 魔技武道/魔技武道カルト/牙王| 魔技武道/魔技武道カルト/神槍ベルガー 祈祷師 ※RQの記述は祈禱師ですが、環境依存文字がどの程度まで表示されるかわからないので、このサイトでは祈祷師の表記で統一しています。 非肉化:祈祷師の精神の一部は、自分の肉体を離れて精霊界の奥深くさまようことができます。この間、魔精は祈祷師のかわりに物質界に現れ、主人の眠ったままの体を守ります。物質界に現れた魔精は、普通は祈祷師と関係の深い動物の姿をとります。この動物は半透明の存在で、《呪払》《魔力消散》《中和》といった呪文の影響は受けません。 非肉化の状態を実現するには、祈祷師は最低5魔力ポイントを消費して《浄化》儀式を行ないます。これに要する時間は1時間です。成功する確率は彼の〈浄化〉技能の成功率に等しいパーセンテージです。ロールに成功すれば、祈祷師の精神の一部は体を離れ、最大1時間、精霊界にとどまることができます。 非肉化の一連の行為は呪文というよりは本人の魔的能力であるため、これを《呪払》などの呪文で妨害することはできません。 祈祷師が非肉化すると、彼の魔精が物質界に姿を現し、主人の精神が肉体と再結合するまでのあいだ、残された肉体を守ります。 祈祷師の肉体に対して魔精は呪文を投射することができますが、肉体を動かすことはできません。 魔精と精霊界にいる祈祷師の精神は、《霊話》呪文の場合と同じ交信状態にあると考えます。 非肉化状態にある祈祷師は、魔精の持つ魔力ポイントを自分の攻撃や防御に使うことはできません。 ただし、それを呪文の増幅に使うのは可能です。 非肉化した祈祷師が物質界の生物を相手にするときや、物質界での格闘の最中に精霊戦闘をしかけようと考えたときには、祈祷師は《視覚化》呪文を使う必要があります。 《視覚化》 Visibility 2ポイント 自身、残照、受動 この呪文は別世界の生物を精霊界から地上界に移動させ、半透明の外観を与える。その外観は、生物がもともと地上界で持っていた形態をとる。この呪文は精霊界に存在する生物に対してのみ投射できる。《視覚化》呪文をかけられた生物は、地上界と関係を持つことができ、呪文を投射する(される)ことも可能。通常の武器では、これらの生物にダメージを与えることはできない。 精霊界の生物には、《視覚化》呪文を本来の能力として持っているものもいる。それらは魔力ポイントを消費せずに、この呪文を用いることができる。 この呪文によって可視化している生物を精霊界に送り返すには、その生物のPOWに等しい魔力ポイントを消費して《呪払》《中和》《魔力消散》の呪文を投射する必要がある。 《(生物。特に精霊)命令》 Control(Species) 1ポイント 遠隔、残照、能動(生物への司令が終わるまで)から受動へ この呪文により、特定の生物(1種類)を術者に従属させることができる。《病の精霊への命令》《ゴーストへの命令》《レイスへの命令》など。祈祷師は精霊以外のものに対する《命令》呪文にはあまり通じていない。各種の精霊、ゴースト(幽霊)、レイス(悪霊)、ヘリオン、エレメンタル、ニンフ、チョンチョンなどを、この呪文によって操ることができる。 《命令》呪文を試みるには、まず操ろうとする相手の魔力ポイントを精霊戦闘でゼロに引き下げる。続く戦闘ラウンドで《命令》呪文を投射し、自身の魔力ポイントで相手の魔力ポイントの抵抗に打ち勝たなくてはならない。術者が勝てば、相手は術者が出すすべての命令に従うことになる。この命令は呪文の持続時間中に与えられ、実行され、完了しなければならない。《命令》呪文は祈祷師が別世界生物を捕獲し、呪付物の中に閉じ込めるときに使われるのが一般的である(「儀式魔術」の章の「呪縛」を参照)。 術者と従属させている生物とのあいだには、特殊な形態のテレパシー的コミュニケーションが確立されている。この精神的なつながりは、術者が生物を視認できなくなると断たれる。術者は従属させた生物に質問して、その生物の色々な情報(名称、特定の基本能力値、技能など)を知ることもできる(「儀式魔術」の章の「召喚」を参照)。 従属させた生物に命令を与えるには、その生物に行なわせたい行動の精神的なイメージを自分の頭の中に思い描く。命令に要する時間は1戦闘ラウンドで、その後、生物は行動に移る。 細かな定義確認(オフィシャル) 物質界と精霊界は互いに知覚できない。 祈祷師が皮肉化を行った場合、祈祷師は精霊として精霊界に顕現する。物質界に精霊として現れたい場合は、その状態で《視覚化》呪文を使用する必要がある。 精霊界とインターネット ハウスルール的解釈として、精霊界はインターネットであるというスタンスを取ります。 精霊界は物質界と重なり合っているのではなく、アクセスポイントを介し、かつアバターとして精霊界側にログインして初めて干渉が可能になります。 これは物質界でPOWが見えることと混同しがちですが、生物のPOWは精霊界に所属していません。 祈祷師(と一部の例外的な種族)以外の生物の霊は、物質界で肉体に宿っています(霊は物質と独立して存在しないという解釈もあるが別記)。 生物のPOWは肉体から切り離された場合、なんらかのアクセスポイントを探し当て、精霊界に移動する。 祈祷師もPOWそのものは物質界側に存在しています。 ただし、祈祷師は磨精と深く結びついています。 磨精は個人的に所有する携帯デバイスであり、精霊界への常時アクセスポイントとして機能します。 インターネットに接続された端末が常にハッキングの脅威に晒されているように、魔精には常にpingが打たれ、セキュリティホールがないかどうか観察されています。 これが24時間にPOWと同じ確立で発生する精霊界での遭遇です。 精霊は精霊界で、精霊なりの利害によって生活する「精物」です。 ルーンクエストのルール内では特に深く掘り下げられていませんが、物質界の動物、植物、ひいては無機物に相当するモノも存在します。 単に「物質」ではなく「精質」を構造物とする別の世界と考えてください。 現代(2014年)であれば、最も理解しやすいのは、MMORPGです。 MMORPGのアカウントを獲得した人間(生物)が、祈祷師なのです。 祈祷師はPKアリのMMOアカウント、もしくは聖戦などのイベントのある携帯ゲームに参加しています。 リアルの授業とか仕事とか食事とか睡眠とか、やってる場合じゃないわけです。 歩きスマホしながらポチポチとゲームに参加します。 祈祷師に技能制限があるのはこのせいですね! 当座の祈祷師関連のハウスルール(執筆中) 名声値や技能制限 名声値を運用している場合、祈祷師は「〔精霊界〕名声ノルマ1ポイント/週」が課せられます。 物質界に精霊体として現れる 1.1時間以上の浄化儀式でMP5点を使用して精霊界にログイン。 2.精霊界で自身に《視覚化》を投射。このとき祈祷師は浄化儀式のフォーカス(通常は自身の肉体)をアクセスポイントとして顕現する。 3.5分間精霊として行動可能。《視覚化》は精霊界でしか働かないため重ねがけできず、いったんアクセスポイントを通って精霊界に戻る必要がある。 4.いまのところ長期疲労は儀式時間+1ポイント。これはあとで増やす予定。 5.1時間後までに戻っていない場合、祈祷師は死ぬ。 《命令》呪文がおかしい 「《命令》呪文を試みるには、まず操ろうとする相手の魔力ポイントを精霊戦闘でゼロに引き下げる。」と書かれているが、精霊はMPが0でも気絶はしないと明記があるものの、ほとんど意味がない。 精霊戦闘→できない、呪文投射→できない、エレメンタルなどが物理攻撃→できる・・・の?、真の名を名乗らせる→できる。 呪縛呪付に入れということはできるけれど、これは魔精に精霊を捕獲させた場合は《命令》と同じ効果を持つので、ほとんど意味がない。 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/583.html
前ページZONE OF ZERO シエスタから休暇を利用して実家へ帰ることを聞いたルイズは、同行を申し出た。 ここ最近のゴタゴタに良い感じに疲れ果てていたルイズは、心底骨休めをしたかった。 そこで、シエスタみたいな純朴な癒し系の少女を育むような村なら、 戦争だとか陰謀だとか裏切りだとか政略結婚だとか、 そんなしょっぱい浮世の闇とは無縁のひと時を送れると思ったのだ。 唐突な申し出にシエスタはしばし呆然としていたが、やがてやたら嬉しそうに頷いて、 ちょっと馴れ馴れし過ぎたかなー、とか考えていたルイズをホッとさせた。 街道に出て人気がなくなると、ルイズはシエスタを抱え、飛行体制をとった。 「あ、ああああの、ミス・ヴァリエール!?」 「ちょっとスピード出るけど、危険は無いから安心しなさい」 ルイズの飛行能力の慣性制御は完璧に近い。 中空で、何やら顔を真っ赤にして慌てているシエスタに一言告げると、 ルイズはバーニアを一気に噴射させ、加速した。 その後しばらくバーニアの噴射音をも上回る、メイドの悲鳴が街道に響き渡った。 例え飛竜を用いても数時間かかる道程を僅か数分で踏破し、 シエスタの故郷であるタルブの村に到着すると、村の広場で目を回すシエスタを降ろした。 「ご、ごめんなさい。ちょっとやりすぎちゃったかしら」 「い、いいええ、だ、大丈夫れす……。そ、それより、ありがとうございます。 こんなに、速く、辿り着けるなんて、思ってもみませんでひた……!」 ひよこみたいによたよたして、回らない舌で必死にお礼を言おうとするシエスタに、 ルイズは何かこう、癒しとはまた似て非なる、言い知れない衝動のようなものを覚え、 何故だか無性に抱きしめたり撫で回したりしたくなったが、周囲に村人がいたので自重した。 適当に挨拶して回りながらシエスタの生家に着くと、家族総出で迎えられた。 シエスタを含め丁度十人になる一家は、騒がしくも優しく暖かく、微笑ましいものだった。 ルイズの実家の人々も、根は優しい人ばかりなのだが、約一名を除いて 根っこの部分以外は全然優しくない人達ばかりでもあった為、やっぱり癒された。 ルイズの素性を知り、しきりに恐縮するシエスタの父と母に、 シエスタにはいつも世話になっている、自分も静かな所で骨休めしたかった、とルイズが 癒され、満たされた表情で告げると、何か知らんがあっという間に一家に受け入れられた。 それからしばらく、シエスタとともにタルブの村に滞在したルイズは、思わぬ収穫を得た。 以前シエスタから聞いていた、竜の羽衣を見せてもらった折、 それがADAの世界の、古代の飛行機械である事が判明したのだ。 しかし、例えADAにとっては古代の遺物であっても、 コルベール師にとっては貴重な資料となるだろう。 シエスタの父と交渉し、対価を支払って竜の羽衣を入手すると、圧縮空間に保管した。 その後ルイズは、本場のタルブ村の郷土料理をご馳走になったり、 夕焼けの紅を映す幻想的で郷愁的な草原をシエスタと共に眺めたりと、 学園に入学して以来最高の休暇を満喫し、疲れた精神を完全に復調させたのであった。 その翌朝、ルイズはシエスタを残し、学院へと帰還した。 手土産に竜の羽衣……ADAが言う所のゼロ戦をコルベール師に手渡し、 ADAの解説を受けながら狂喜乱舞する師を横目に、ルイズは溜息をつく。 ADAとルイズは一心同体。今日は徹夜する事になりそうだ。 そして数日後―― 「いい加減、本当にいい加減、ちょっとは空気読む事覚えなさいよコンチクショウ……!!」 予定調和といえば予定調和ではあった。 式典の日、万が一を考え、タルブの村付近で待機していたルイズの強化された視線の先で、 アルビオンの大使を迎えにきたトリステインの艦隊は次々と炎を吹き、大地に墜落してゆく。 事ここに及んで名目など大した意味は持たない。 ただ紙より薄い建前が破り捨てられただけ。 要するに――戦争である。 ルイズにとって重要なのは、艦隊の真下がタルブの村であると言う事。 蹂躙される。 静かな村が。 美しい草原が。 優しい人々が。 ――――シエスタが蹂躙される。 あの優しい笑顔のメイドが喪われると思い至った時、ルイズの思考は沸騰し、脳裏で何かが弾けた。 ブレードを展開し、ルーンを一際眩く輝かせ、バーニアを吹かし上昇する。 「――潰すわ。連中には、あの村の何一つとして奪わせはしない」 『了解。後方からトリステイン軍の接近を確認。 敵の地上部隊は彼らに任せましょう。全てを相手にしていたら魔力が保ちません』 それは意外な早さであった。 計算では、状況を聞いた瞬間に即断でもしなければ出来ない進軍スピードだ。 誰が統率しているのかは知らないが、ありがたい。これは好都合だ。 「――なら、まずは竜騎士隊ね。艦隊に関しては後で考えましょう」 『了解。敵の位置と民間人の位置をマップ上に表示します』 「ええ、村人の助けは聞き逃さないようにして……!」 『了解』 『……何だか久しぶりに呼ばれたと思ったら、ものすげぇハードな展開になってるなぁ。 と言うかそろそろ俺の扱いに対して何か思うところとか出てきたりしないか娘っこども ってーはい聞いてないねわかってたさどうせ俺なんて俺なんて……』 バーニアを全開まで吹かし、決意を胸に万感の思いを込め、ルイズは戦闘空域へ突入した。 音を超える速度で飛来するルイズを察知した数騎が、炎のブレスを浴びせ掛ける。 数瞬前からそれを予測していたルイズは直前で回避。 髪を焦がす臭いと感覚を置き去りにしながらホーミングレーザーを撃ち放つ。 幾条もの熱線が竜騎士隊に降り注ぎ、前衛の数騎を撃ち抜き地上に叩き落す。 隊列の乱れた瞬間を逃さず突撃。 体勢を立て直すのにてこずっている数騎を、通り抜け様にブレードで薙ぎ払う。 その間に何とか体勢を立て直した一騎が、しゃにむに突撃を仕掛けて来ようとするのを 察知したルイズは、ゲイザーを投げ放つ。 非致死性の光の針に呆気なく動きを封じられ、墜落しようとする火竜の頭を、 ルイズは無造作に引っ掴み、真横にかざした。 そこに動揺から立ち直った数騎が火炎のブレスを浴びせ掛ける。 即席の盾と化した火竜は、攻撃を難なく防ぎきることに成功した。 しかし、耐熱性に優れた火竜ならばともかく、騎乗している騎士はたまった物ではない。 肉の焼ける臭いと、燃えながら落下する騎士の断末魔に顔を顰めながらも、 ルイズはバーニア制御で思いっきり遠心力をつけながら火竜をブン回し、 ブレスを放ったうちの一騎に向け、投げ揮った。 弾丸の勢いで投擲された火竜は狙い違わず標的に衝突する。 炎に巻かれていた火竜は、標的の火竜のガス袋に引火し、派手に爆発を引き起こした。 更に、残りの数騎も爆発に巻き込まれ、或いは誘爆を引き起こし、墜落していった。 マップ上の敵を示す光点が、残り一つに減らされるまで、その間、実に十秒。 撃つ。斬る。掴む。揮う。 重力と慣性をあざ笑うかのような動きで、ルイズは空を縦横無尽に駆け巡る。 かつて最強のOFジェフティが所有していた機動力。 スケールこそ違えど、異界の少女はここに再現して見せた。 そして―― 振り向き様に放ったバーストショットが、最後に残った敵を、奇襲(のつもりなのだろう)の エア・スピアーごと飲み込んで爆砕し、最後の光点を消滅させた。 敵騎兵はどうやら命中の瞬間に竜から飛び降り、直撃を免れたようだが、 爆発にはしっかり巻き込まれていたため、良くても重傷だろう。 「何かどこかで見た事あった相手のような気もしたけど――まあいいわ。 それより、残るは艦隊だけね。魔力も余裕があるとは言い難いし……どうする、ADA?」 『エクスプロージョンの使用を提案』 「エクスプロージョン? 初めて聞く武装ね」 『私の所有する武装ではありません。始祖の祈祷書の解呪を試みた結果、 現在一つ目の解読に成功しています』 「え――」 『あれは虚無の系統を記した魔法書です』 「そ、そんな!虚無の系統なんてただの伝説――」 『いいえ、貴女の魔力とこの魔法の構成パターンの適合率は99.89パーセント。 貴女ならまず間違いなく扱えます……いえ、貴女の系統こそが虚無だったのです』 「――」 一目置かれ始めたとはいえ、魔法の使用に関しては相変わらず 見込みゼロの自分が実は伝説の系統の使い手――? 唐突な宣告にルイズは錯乱しそうになった。 しなかったのは単に、考える前にするべき事があったからだろう。 「――わかったわ。どうすればいい?」 『詠唱を代行します。残存の魔力を全て消費する為、恐らく使用後は気絶すると思われます。 安全地帯を探してください。――エクスプロージョン、詠唱を開始します』 「……へ?」 『エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ』 「ちょ、ちょっ、待って、ADA!?」 この高度で気絶すれば命は無い。慌ててルイズは周囲を見渡す。 地上部隊は一部こちらを畏怖の感情を込め見つめてくる者もいるが、概ね乱戦の真っ最中だ。 ただ、竜騎士隊を全滅させた為、若干敵側の士気が下がっているように見える。 『オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド 』 タルブの村も多少焼けてしまった箇所はあるが、概ね無事だ。 草原も殆ど損傷しておらず、すぐにまたあの素晴らしい景観を取り戻すだろう。 『ベオーズス・ユル・スヴェエル・カノ・オシュラ 』 何よりタルブの村の人間を示す光点が一つも減らなかった事が嬉しく、誇らしい。 彼らは現在、村から南の森に避難しているらしく―― 「――森!?」 強化された視界の先、森のふもとで、祈るような目で こちらをじっと見つめるシエスタの姿があった。 『ジュラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル』 バーニアを全開まで吹かす。 加速から二秒かからずに、シエスタの傍まで降り立つ。 「え……み、ミス・ヴァリエール!?」 「ごめんシエスタ!後は、よろしく」 『――撃てます』 既に標的の設定も完了していた。ロックオンの先は敵の旗艦。 それはルイズの思考と完全に一致していた。 地上部隊に被害は出さず、最小の犠牲でこの戦争を終わらせる方法。 「貴女、戦闘用って言ってた割には手際がいいわね。……これで終わりにするわよ!」 そして彼女たちは終焉の言葉を紡いだ。 「『エクスプロージョン』!!」 ――ミッション終了。 建造物残存率: 97% 民間人生存率:100% 総合評価:S 『民間人死者ゼロ。村の損害も極めて軽微です。お見事でした』 「貴女のサポートがあったからよ。それにしても……よかった」 ――新たな魔法『エクスプロージョン』を取得しました。 前ページZONE OF ZERO
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/966.html
虚無! 伝説の復活 その② 操縦桿を握りつつ、スタープラチナの左腕をルイズの腰に回し固定する。 そしてルイズがバランスを崩さない程度に加速してレキシントン号に迫った。 ドンッ、ドンッと発砲音がし、承太郎は華麗に砲弾を回避する。 だが、その回避した先にワルドの風竜が待ち構えていた。 機首を下げてエア・スピアーをギリギリ回避し、ワルドと空中ですれ違う。 刹那の時、承太郎とワルドの視線が交錯した。 静かなる怒りと、激しい怒り、ふたつの怒りがぶつかり合う。 エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ しかしルイズが歌うような詠唱を始めると、承太郎はなぜか心地よい安らぎを覚えた。 心が奮える。怒りではない、本能がルイズを守ろうと優しく勇ましく猛る。 同様にルイズの心も奮えていた。身体の中で何かが流れ、生まれつつある。 神経は研ぎ澄まされ、どんな雑音も耳に入らず、感じるのは虚無。 自分の系統は火ではない。水ではない。風ではない。土ではない。虚無である。 確信がルイズの精神を突き動かす。 次のルーンを、次のルーンを唱えよと、唇が勝手に詠唱をつむいでいる気さえする。 オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド ワルドの風竜にシルフィードが上空から飛び掛った。 すれ違い様、お互いに魔法を放ち合う。 ワルドのエア・スピアーと、タバサの氷の槍(ジャベリン)が衝突し、氷が砕け散る。 そしてキュルケは火の二乗によるフレイム・ボールを放つ。 ファイヤー・ボールより一回り大きいそれは、ワルドの風竜の翼をかすめた。 「羽虫が我々の戦いの邪魔をするな!」 追撃の魔法エア・ハンマーがシルフィードに炸裂する。 「きゃっ!」 「がんばって」 「きゅいーっ!」 シルフィードは回転しながら落下しつつも、即座に体勢を立て直す。 そして自分の背中にご主人様とその友達が無事乗っている事に安堵した瞬間、 シルフィード目掛けてレキシントン号の砲弾が飛んできた。 「エア・ハンマー」 神業的タイミングでタバサが砲弾を真横から空気のハンマーで叩き、射線をずらす。 シルフィードの顔のすぐ横を砲弾が通り抜け、風圧でさらにバランスが崩れた。 これ幸いにとレキシントン号は標的をシルフィードに変える。 「いったん防御に集中」 「任せてッ! 砲弾なんて全部焼き払って上げるわ!」 シルフィードの背中の上で、迫り来る砲弾を迎撃すべく、 若きトライアングルメイジは素早い詠唱を開始した。 ベオーズス・ユル・スヴェエル・カノ・オシュラ 承太郎は空を見た。もうまもなく、太陽と月が完全に重なる。 ルイズの詠唱が終わるのが先か、日食が終わるのが先か。 「やれやれだぜ……」 そう呟いた直後、承太郎はレキシントン号からの弾幕が弱まったのを感じていた。 奇妙に思い敵が狙っている先を見ると、タバサ達が窮地に追い込まれている。 しかし承太郎に彼女達を助けるすべは無い。今はルイズを詠唱を守らねば。 と、承太郎の意識がルイズとタバサ達の二方向に分かれた瞬間、 機体に今までとは違う衝撃が走る。 甲高い音がして、装甲が破れるのをガンダールヴのルーンが感知した。 「ガンダールヴ! 伝説と誉れ高きその命、貰い受ける!!」 「燃料タンクを……! 野郎、やっかいな時にやっかいな場所を……」 ぶれる機体を持ち直すのにさすがの承太郎も少々手こずった。 相当揺れたため、ルイズは大丈夫かと思った承太郎だが、 ルイズは承太郎の膝の上に綺麗に座ったまま詠唱を続けている。 何という集中力と精神力か。 承太郎は、自分がルイズに召喚された理由を何となく理解した気がした。 「トドメだ! ガンダールヴ!! 無情にもワルドが迫る。ゼロ戦の体勢を立て直すのが精いっぱいだ。 しかも、ワルドの反対側からレキシントン号の砲門がこちらを狙っている。 回避しきれない! 「エア・スピアー!!」 「スタープラチナ・ザ・ワールド!」 世界が、停止した。 砲門からは砲弾の頭が顔を出したまま。 ワルドの杖からは、風の槍が放たれたまま。 シルフィードも翼を羽ばたかせる事無く空中で停止している。 タバサの巻き起こした風が散弾を弾き飛ばしている最中だった。 キュルケの放ったフレイム・ボールが、砲弾と正面衝突しようとしていた。 風竜よりも速く飛翔する竜の羽衣――ゼロ戦までもが完全に停止した世界。 動いているのは、ゼロ戦の中の二人だけ。 ゼロ戦のコックピットという小さな小さな世界だけが動く事を許されていた。 ジュラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル…… ふと、承太郎は思う。 虚無の詠唱には時間がかかる。だが、止まった時間の中で詠唱する事ができたなら? スタープラチナは時間を止める。虚無の担い手との相性は抜群と言える。 「俺が止められるのは、ほんの数秒だ……。 その数秒が終わったら、俺達はワルドと戦艦の挟み撃ちを受け、ヤバイ事になる。 後は……任せたぜ、虚無のルイズ。伝説の復活を見せてやれ」 詠唱が――終わる。時の止まった世界で、ルイズはついに虚無の魔法を完成させた。 しかし同時にルイズはその威力を理解してしまう。 あまりにも強大な破壊力。すべてを巻き込む。この戦場にいる人々さえも。 選択肢はふたつ。殺すか。殺さぬか。 破壊すべきは何か。 ルイズは目を開いた。 戦艦レキシントン号――あれさえ落とせば。 ルイズは杖を振り下ろして、呟く。 「エクスプロージョン。……そして、時は動き出す」 世界の時間が再び時計の針を刻み出した瞬間、それは唐突に現れた。 音も無く、忽然と、その場に現れ膨れ上がった。 小型の太陽のようなそれは白い光を放ちつつレキシントン号を飲み込んだ。 ワルドの魔法も、敵の砲弾も、空に浮かぶすべての艦隊を包み込んだ。 巨艦レキシントン号を筆頭に、アルビオン艦隊が次々に墜落する。 そして光に巻き込まれたワルドは、それが恐らく伝説の虚無だろうと理解し、 なぜあれほど強大な力が自分の手の中に無いのかと吼えた。 「ガンダァァァルヴ! ルイィィィズ!!」 「何なのよこれ!? た、タバサどうすれば――」 「わ、解らな――」 同様に戦場にいたタバサ達も巻き込まれる。 エクスプロージョンの音無き爆発は人間に直接危害を加える事はなかった。 しかしあまりの眩しさと、あまりの魔法の力の奔流に呑み込まれ、 シルフィードはタルブの草原へと落下していった。 アルビオン艦隊が全滅する様をアンリエッタは呆然と眺める。 だがマザリーニは、アルビオン艦隊が全滅した今こそ勝機と悟る。 そして号令をかけ、未だ地上に残るアルビオンの残存部隊の討伐に向かう。 アンリエッタは、勝利をもたらした謎の竜を見上げた。 竜は日食によって月の陰に隠れつつある太陽に向かって真っ直ぐに飛翔していた。 「……ルイズ・フランソワーズ?」 なぜ、あの竜を見て唯一の友達の名が頭に浮かんだのだろう。 アンリエッタは無性にルイズに会いたくなった。恐らく魔法学院にいるだろうルイズに。 落下するシルフィードの首にしがみつきながら、タバサは空を見上げた。 黒く染まった太陽の中へ、竜の羽衣が飛んで行く。 「……多分、さよなら」 そう小さく呟いて、タバサはシルフィードにレビテーションをかけた。 どうやらシルフィードは光のショックで気絶してしまったらしい。 それから親友のキュルケの姿を探したが、シルフィードの背中の上にはいなかった。 が、少し離れた空中に目立つ赤毛を発見するとホッと息を吐く。 シルフィードの背中から投げ出されたキュルケは、 自身にレビテーションをかけながらゆっくりとタルブの草原へと近づいていた。 そして隠れた太陽とそれに向かって飛ぶ竜の羽衣を見る。 「ちょっとー。ジョータローの里帰りにルイズまでついてく訳? 抜け駆けなんて、ちょっとズルいんじゃない? まったくもうっ」 森の端にある木の根元に座り、幹に背中を預けて天を仰いでいるギーシュ。 その瞳には太陽に飲み込まれていくような竜の羽衣の姿があった。 間に合うかどうか、正直ギリギリすぎて、ギーシュには判別つかない。 「ああ……何とも幻想的な光景じゃないか。日食の中を飛ぶ鋼の竜……」 不思議と別れのさみしさは無かった。 別に彼が故郷に帰るのを失敗する、と思っている訳ではないが、 無事帰れるにせよ、残念ながら帰れないにせよ、 自分は彼から多くのものを学び、受け取ったと、心が理解していた。 けれど。 「……ジョータローさんの、嘘つき」 ふいに、負傷したギーシュに付き添っていたシエスタが呟く。 涙で濡れた一途な瞳は、真っ直ぐに竜の羽衣を見つめていた。 「誰も一緒に連れて行く気は無いって言ったくせに、 ミス・ヴァリエールだけはお連れしちゃうんですね。 だったら、私だって勝手にします。勝手に、貴方の帰りを、待ってますから」 ギーシュからルイズも竜の羽衣に乗っていると聞かされた時から、予感はあった。 その予感が現実になろうとしている。 承太郎は行ってしまう、ルイズと一緒に行ってしまう。 お爺ちゃんのふるさとへ。 「ルイズ……!」 承太郎は操縦桿を戻そうとしていたが、虚無の詠唱にガンダールヴの力が反応した反動か、 疲労により腕に力が入らず、ルイズが握りしめている操縦桿を動かせない。 「馬鹿野郎、このままだとお前まで……」 「だって、仕方ないじゃない! タバサ達まで落ちてっちゃったんだもん! 私だけ飛び降りて、レビテーションで拾ってもらうって訳にはいかないの!」 「ゼロ戦を地上に戻せばすむ話だろうが!」 「そうしたら、あんたが帰れなくなっちゃうじゃない!」 ゼロ戦の操縦方法などルイズには解らないが、 とりあえず今この体勢を維持すれば勝手に日食の中へ飛んで行くらしいとは解っていた。 その行為に迷いは無かった。 いや迷う余裕が無いだけなのかもしれない。冷静に考える余裕が無いだけかもしれない。 でも、ルイズの意志は何よりも固かった。 「私はジョータローに約束したわ! 元の世界に帰す方法を探すって! 今! 目の前にそれがある! 私の都合で一方的に呼び出してしまったあんたを、 元の世界に……帰す義務が、私にはあるのよ! 私は貴族だから! ご主人様だから! それに、ジョータローと一緒なら……!!」 その先の言葉は、突然機体が揺れたショックで言えなかった。 ゼロ戦の前には眩い光が輝いている。二人の視界が、真っ白に染まって――。 ジョータローと一緒なら、何が起こったって怖くないんだから!! やれやれだぜ。意外とご主人様らしいところもあるじゃねーか……ルイズ。 第三章 始祖の祈祷書 完 ┌―――――――┘\ │To Be Continued └―――――――┐/
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3750.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 一八五 タバサと会って話をしようと心に決めるが、困惑したことに、君は彼女の部屋がこの寄宿舎のどこにあるのかを知らない。 椅子に腰掛けて≪始祖の祈祷書≫を開き、なにか文字は現れぬかと白紙の頁をじっとにらんでいるルイズか、隣室に戻っているはずの キュルケに訊いてみようかとも考えるが、そうした場合、彼女たちは君の行動にいらぬ興味を持つかもしれない。 君は、タバサの部屋の位置をルイズに尋ねてみるか(八四へ)、キュルケに訊くことにするか(三二へ)、それともまだ部屋に戻っていないことを願って 寄宿舎の外を探してみるか(三一〇へ)? 三一〇 寄宿舎の玄関を通り抜けて外に出た君は、思いがけずも目当ての人物を見つけることになる。 眼の前にぼうっと立って無言で君を見つめるタバサは、ちょうど寄宿舎に戻ろうとしていたところのようだ。 小柄な魔法使いの少女は、白いシャツの上から黒いマントを羽織ったいつもどおりの学院の制服姿をしているが、眼を凝らすとその服には汚れが目立ち、 何箇所かにはほつれや鉤裂きさえ見受けられる。 肩から大きな鞄を袈裟懸けにしているのもいつもと異なった点だが、六日間の外出から帰ってきたところなのだから、これはとくに驚くには値せぬことだろう。 君はタバサに挨拶し、戻ってきたばかりのところを悪いが、少し話がしたいと言う。 彼女はしばらく黙って君の眼を見ていたが、やがて小さくこくりとうなずき、 「わかった。部屋へ」と言うと君の脇を通り抜け、 寄宿舎の廊下を大股に進んでいく。 後に続きながら、君は考える――眼鏡越しに彼女の青い瞳が爛と輝いたように見えたのは、気のせいだろうか? タバサの部屋は、間取りや家具の数はルイズのものとほぼ同じなのだが、あちらこちらに本が積み上げられ、いささか汚く見える。 隅には乱れたままの寝台があり、彼女がこの部屋を大急ぎで飛び出したことがうかがえる。 室内には本以外の私物や装飾品がほとんど見られず、年頃の少女の部屋としては殺風景といってもよいものだ。 タバサは君に椅子を勧めると、自身は寝台に腰掛ける。 茶の一杯も出ないところからして、あまり歓迎されてはいないようだと考えた君は、単刀直入に質問をぶつけてみることにする。 開口一番に、この六日間どこへ行っていたのだと尋ねるが、タバサはなんの答えも返してはこない。 質問を変え、≪使い魔≫のシルフィードは元気だったか、アルビオンに行ったことはあるか、アルビオンを解放する戦争が始まるという噂だがどう思う、 などと次々に問いかけて話の糸口をつかもうと奮闘するが、彼女はいくつかの質問に対してうなずくかかぶりを振るかするだけで、まったく口を開こうとはしない。 彼女に較べれば、カレーの街のクアガ神像のほうがよほど饒舌だ! いっそのこと、読心や魅了の術でも使ってやろうかと考える君だが、タバサはいかなる感情も示さぬ瞳でじっと君を見つめているため、 彼女に気づかれずに術を使うことは不可能だろう。 なにかを聞き出すことをあきらめ、いいかげんに席を立とうかと考えた矢先、タバサがこの部屋に入って初めて口を開く。 「あなた……癒しの魔法は使える?」と。 どう答える? 癒しの術が使えると思うなら、次のなかから選べ。 使える術はないかと思い出そうとするだけなので、どの術を選んでも体力点や持ち物を失うことはない。 PEP・四七〇へ MAG・四五二へ YAG・四三三へ RES・四八七へ DOC・四二四へ どの術も選べぬ、または自分は癒しの術は使えぬということにしたければ、二〇五へ。 四二四 君が選んだのは、まさしく治癒の術だ。 この術には水薬かブリム苺の汁が必要であり、それらを服んだ者が負った傷を瞬時に完治させる効果がある。 また、毒や疫病にもある程度の効果を示すが、けっして万能ではない。 君が術の説明をすると、タバサは瞳を輝かせる――今度は見間違いではない! あくまで淡々とした口調のままではあるが、先ほどまでの無関心ぶりが嘘のような勢いで、彼女は次々と質問を浴びせてくる。 その術は心に影響を及ぼすような病には効くのか、何年も続く症状を治癒できるのか、必要とする秘薬は貴重なものなのか、と。 寡黙な少女の見せた思わぬ反応にいくらか面喰らった君は、実際にやってみなければなんとも言えぬと答えるばかりだ。 家族のなかに病に臥せっている者でも居るのかという君の問いに、タバサはそうだと答える。 都合がよければ次の≪虚無の曜日≫(四日後だ)にでも術を試してみるので、シルフィードに乗せて患者のところまで連れて行ってもらえるだろうか、 という君の提案はタバサに受け入れられたらしく、彼女は黙って頭を下げる。 君の術が実際にその患者に通じるかどうかは、いくぶん心許ないが、やってみるだけの価値はあるだろう。 タバサのかたくなな態度が少しはやわらいだと考えた君は、あらためてどこへ行っていたのかと彼女に尋ねるが、しばらくの沈黙ののち返ってきたのは 「あなたには関係ない」という一言だけだ。 君は自らの考えの甘さを痛感する――この少女は、そうやすやすと打ち解けてくれるような相手ではない! 「もうひとつだけ、訊きたいことがある」 タバサは言う。 「あなたの国にも、吸血鬼はいる? いるなら、特徴を教えてほしい」と。 妙な質問だ。 歳若き少女がなぜ、おぞましい不死の怪物ことなど知りたがるのだろう? あのような邪悪きわまりない存在について語るのは、いまだ日の光の射す刻限とはいえ、あまり気の進まぬことだ。 君は彼女の質問に答えて、吸血鬼について知っていることを教えてもよいし(三二六へ)、なにも知らぬと言って席を立ってもよい(七二へ)。 三二六 君は咳払いをすると、吸血鬼――『闇の貴族』とも呼ばれる、不死のなかでももっとも強大な恐怖の存在――について語りだす。 幸いにして、君自身は吸血鬼と出くわしたことはないのだが、邪悪な魔力と永遠に近い生命の持ち主であることは、 幾多の伝説や文献によって広く知れわたっているのだ。 伝説が真実ならば、彼らは魔法使いの神秘の業をもってしても、打ち勝つのはきわめて困難な相手だ。 吸血鬼は人間の暖かい血を常食とし、長く伸びた牙で獲物の首筋に咬みつくのだが、これを容易にするために強力な催眠効果のある視線を用いる。 赤く輝く眼にとらえられた者は虜とされて自分の意思というものを失い、呆然と立ちつくして血を吸われるがままになるのだ。 大半の犠牲者はそのまま血を吸い尽くされて殺されてしまうのだが、吸血鬼は稀に、気に入った人間を自らの同族へと変えてしまうことがある。 その場合は三晩続けて目当ての相手のもとを訪れ、少しずつ血を吸い、同時に人間を吸血鬼へと変貌させてしまう毒のようなものを注ぎ込んでいく。 三晩めに犠牲者は死にいたるのだが、すぐに吸血鬼としてよみがえり、もとの自分と同じような人間を探し求めて夜な夜な徘徊することになる。 君がそこまで語ると、タバサが質問をさしはさんでくる。 「咬まれたのが二晩だけなら助かる?」と。 君はうなずき、三晩めに血を吸われて死ななければ吸血鬼になることはない、咬まれた者もいずれ健康な体に戻る、と答える。 それを聞いたタバサはしばらくなにごとかを考えていたようだが、やがて 「どうやったら死ぬ?」と新たな質問をしてくるので、 君はいくつかの方法を教えることにする。 吸血鬼はなぜか大蒜(にんにく)を毒のごとく忌み嫌うが、これを突きつけてみたところでほんの数分の時間稼ぎにしかならない。 直射日光にさらされれば一瞬にして塵と化し崩れ去るが、曙光の兆しが見えるや安全な場所――たいていは古い納骨堂の棺桶の中――に逃げ帰るため、 この手段で仕留めるのは難しい。 武器や火による攻撃はほとんど通用しない。 命中すれば傷を負わせたかのように見えるのだが、実際はなんの効果もあげておらず、傷はすぐにふさがってしまう。 銀でできた武器なら吸血鬼を傷つけ、殺すことができるのだが、その場合は崩れる体から吸血鬼の霊魂である一匹のコウモリが出現し、 どこへともなく飛び去ることとなる。 コウモリは二、三日もすればふたたび本来の姿を取り戻ししまうのだ。 吸血鬼の息の根を絶つ最良の方法は、心臓に杭や槍を突き刺すことだ。 昼間、棺桶の中で眠っているところを狙うのが確実だが、夜に行うのも不可能ではない――催眠の視線と、人間離れした怪力に対抗できるならばの話だが。 心臓を貫かれると怪物は苦悶のうちに死んでいくが、努力を無駄にせぬためにはそのまま炎で焼きつくして灰にするか、 日光の当たる場所に引きずり出す必要がある。 杭が引き抜かれると、ふたたびよみがえってしまうからだ。一四三へ。 一四三 君の話に熱心に聞き入っていたタバサだが、最後のくだりを聞くと唐突に寝台から立ち上がり、 「……終わってない」と小さくつぶやく。 その顔はあいかわらず無表情をたもっているが、心なしか青ざめているようにも見える。 突然の動きに驚き、どうしたのだと問う君を無視して、タバサは床に放り出していた鞄を拾い上げて袈裟懸けにし、身の丈よりも長い杖を手にすると、 窓を大きく開け放つ。 呼びかける君のほうを向いて一言 「出かける」と言い、 高く響き渡る口笛を吹き鳴らすと、すぐに窓の外で突風が巻き起こる。 彼女の≪使い魔≫である青い竜、シルフィードが窓のすぐそばではばたき、空中にとどまっているのだ。 どこへ行くのだという君の問いに答えようとせぬタバサは、外へ出ようと窓枠に片脚をかけるが、思い直したように君のほうを振り返る。 「≪虚無の曜日≫までに戻る。薬を」と言うと、窓の外に飛び出し、そのままシルフィードの背中へと降り立つ。 矢のような勢いで飛び去る竜の後ろ姿を見送った君は、溜息をつくと窓を閉め、鍵を掛ける。 結局、彼女について新たに解ったことといえば、家族に重い病の者が居ること、吸血鬼に並ならぬ興味を持っているということだけだ! 話の進まぬ少女を相手にして妙に気疲れした君は、タバサの部屋を出ると扉を閉め、とぼとぼと廊下を歩むが、別の扉の陰から、 一対の青い瞳がその様子を覗いていることには気づかない。 夕食まではもう少し時間がある。 君は続いてシエスタに会いに行くか(四五へ)、それともコルベールのもとへ向かうか(九六へ)? どちらも気がすすまぬのなら、ルイズの部屋に戻ってもよい(一五五へ)。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/tale2380/pages/437.html
《カームの祈祷》 通常魔法 自分フィールド上に存在する「[[ガスタ]]」と名のついたモンスターカードの数まで、 以下の効果を1回まで選択して発動する事ができる。 この時、「ガスタの静寂 カーム」は「ガスタ」と名のついたモンスター2体分として扱う。 ●自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地に送る。 ●自分フィールド上のサイキック族モンスター1体をエンドフェイズまでチューナーとして扱う。 ●自分フィールド上の風属性チューナー1体をエンドフェイズまでチューナーとして扱わない。 ●自分の墓地から風属性モンスター1体をゲームから除外し、自分のライフを1000ポイント回復する。 ●墓地のモンスターを2体まで選択して持ち主のデッキに戻す。 ●自分のデッキからカードを1枚ドローする。
https://w.atwiki.jp/quizbc/pages/1073.html
冷酷なる祈祷師メーベル(レイコクなるキトウシ~) p e 属性 雷 コスト 26 ランク A+ 最終進化 S レベル HP 攻撃 合成exp 1 806 657 ? 60 1,613 1,731 ? 最大必要exp 35,620 No. 0692 シリーズ メーベル Aスキル クルーエル・スペル 敵単体へのダメージ大アップ(?%) Sスキル 界雷神降臨 敵全体へ雷属性の大ダメージ(?%/7turn) 売却価格 18,300 進化費用 390,000 進化元 寡黙な祈祷師メーベル(A) 進化先 壮麗なる祈祷師メーベル・テイラー(最終進化S) 進化素材 ド3(S) ド3(S) タ3(A) フ3(A) ロ3(B+) キ3(A) ド2(A+) ド1(A) 入手方法 進化 備考
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5318.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 一四二 突然ほとばしった強烈な光によって視界が白一色に染まってから数秒が経つが、光の次に来るであろうと思われた身を骨まで焼き尽くす炎や、 耳をつんざく轟音はない。 君は眼を覆い隠していた手をそっと下ろし、おそるおそる瞼を開ける。 最初は視界になにも映らなかったが、まばたきして眼をこするにつれて、周囲の物の形と色彩が戻り始める。 君の眼がまず捉えたのは、疲労困憊の様子で屋根の残骸の上にぐったりとへたりこんでいる、ルイズの姿だ。 その手に杖と≪始祖の祈祷書≫を持ったままぺたりと座り込んだ、いくぶんだらしない格好にもかかわらず、夕陽の最後の残照を受けて長い髪が きらきらと輝くその姿は、美しく神秘的なものに感じられる。 君が怪我はないかと声をかけると、ルイズは 「わたしはだいじょうぶ。ちょっと疲れただけ」と答える。 「それより、周りを見て」 その言葉に従い、あたりを見回す。 崩れて瓦礫と化した農家、草一本生えておらぬ地面、あちらこちらに散らばる農具や調度品――荒れ果てたタルブの光景が眼に映るばかりだが、 すぐに、足りないものがあることに気づく。 村いっぱいに拡がり這いずりまわっていたはずの恐るべき≪混沌≫の怪物が、跡形もなく消えうせているのだ! 怪物の放つおぞましい悪臭さえ雲散霧消しており、君の鼻腔を満たすのは、草原から吹きつける風が運ぶさわやかな匂いだけだ。 ≪混沌≫に汚染されどす黒く染まったはずの土も、もとの状態に戻っている。 君は直感的に、なにが怪物を消し去ったのかを理解する。 ルイズの長々とした呪文の詠唱によって生まれた、あの凄まじい光だ。 陽の光が影を追い払うかのように、あの謎めいた光は≪混沌≫を、焼き払い、蒸発させ、一片も残さずに消滅させたのだ。 君の頭の中はいまだ、起きたことが信じられぬという思いでいっぱいだ。 君の知る限り、これほど強大な魔術の使い手はハルケギニアはもちろん、≪タイタン≫にも存在した例はない――創造主たる神々を除いては。 魔法の才能がほぼ皆無のために≪ゼロ≫と嘲笑されていた少女が、実は神にも等しい強大な力を秘めていたというのだろうか? 君は驚きと困惑の眼で少女を見やる。 「……これ、わたしがやったのよね? いまだに信じられないけど」 ルイズはそう言うと、じっと君を見つめる。 「ああ、お前さんがやったんだ」 答えに窮する君に代わって、デルフリンガーが声を上げる。 「お前さんは≪虚無≫の担い手、伝説の魔法使い様さ。しかしまさか、娘っ子が≪虚無≫とはねえ」 魔剣は、感じ入ったように言う。 「オスマンのじじいから解放されて以来、相棒のすげえ魔法やら、見たこともねえような化け物やらに驚かされっぱなしだったが、 こいつはなかでも一番の驚きだね」と。 「そう……。それにしてもあんた、≪虚無≫についてなにか知ってるみたいね」 もの問いたげな視線をデルフリンガーに浴びせながら、ルイズが言う。 「あんたたちに訊きたいことや言いたいこと、これから考えるべきことは山ほどあるけど、今は疲れたわ」 ルイズは君の差し出した手をとり、ゆっくりと立ち上がる。 「でも、あとひとつだけ確認させて」 「なんだね?」 「わたし、みんなを守れたのよね? シエスタとその家族を、わたしたちを歓迎してくれた村のみんなを」 君とデルフリンガーは、声をそろえてその通りだと答える。 「よかった……。わたし、やっとメイジになれた。民と国土を守るための力を持つ、本物の貴族になれたのね」 そう言ってルイズは、歓喜と安堵の入り混じった笑顔を見せる。 見ているだけでこちらも笑みが浮かぶ、いっさいの邪気のない心からの笑顔――いつも不機嫌そうにしている彼女が、初めて見せる表情だ。 「あ、あと、それからね。んっとね」 ルイズは急に君から視線をそらし、もごもごと呟く。 「その、あんたはよくやってくれたわ。ご主人様の命令に従って、しっかりわたしを守ってくれた。だから、その……」 君は黙って先をうながす。 「≪使い魔≫の忠誠には感謝と信頼を示さなきゃね。本当に、ありがとう……」 ささやくような声でそこまで言ったところで、頭上から強い風が吹きつける。 見上げると、タバサを乗せたシルフィードが君たちのそばに舞い降りてくるところだ。 ルイズはそそくさと君から離れ、≪始祖の祈祷書≫を鞄に押し込む。 遠くからはシエスタが、 「ミス・ヴァリエール! 使い魔さん! ご無事でしたか!」と叫びつつ駆け寄ってくる。 その後ろから歩いてくるのはキュルケと火狐のフォイアだ。三一八へ。 三一八 君とルイズが無事であることを確認したシエスタの喜びようは大変なもので、眼に涙を浮かべて、 「わたし、ミス・ツェルプストーといっしょに空からおふたりの様子を見ていたんです。家が崩れておふたりが怪物に呑みこまれてしまったときは、 もう駄目かと思いました。でも突然、小さな太陽みたいな光の玉が現れて、それがどんどん膨れ上がって、すごくまぶしくってなにも見えなくなって。 そして、眼を開けたときにはあの怪物は跡形もなく消えていました」と一息に言う。 いくらか落ち着いたシエスタは君とルイズをまじまじと見つめ、 「あの光はいったいなんだったんですか? ミス・ツェルプストーもあんな魔法は初めて見たとおっしゃっていました。 もしかして、ミス・ヴァリエールがあれを作り出したんですか?」と尋ねてくる。 君とルイズは、戸惑い顔で互いを見る。 あの光はルイズが≪虚無≫の魔法を使って生み出したものだと、シエスタに正直に告げてもよいものだろうか? 学院の授業で知ったところによれば、≪虚無≫は始祖ブリミルの時代以来失われていた、伝説の系統だ。 その伝説がよみがえったことが知れ渡れば、ルイズはたちまち渦中の人となり、二度と平穏を得られぬようになるのは火を見るより明らかだ。 口外せぬよう、強く釘をさせばシエスタから秘密が漏れることはないだろうが、問題はキュルケとタバサだ (少し離れたところでシルフィードも聞き耳を立てているが、君とタバサ以外の人間相手に言葉をかわすことはないようなので、心配ないだろう)。 「あたしも知りたいわね。怪物だけをきれいさっぱり消し去って、人にも家にも傷ひとつつけない魔法なんて聞いたこともないわ」 キュルケはそう言って君たちに歩み寄り、タバサも 「詳細を」と言って、 眼鏡のレンズ越しに青い瞳を輝かせる。 ふたりともあの光の正体を知りたがっているが、重大な秘密を打ち明けるには不安な点の多い相手だ。 キュルケ自身は信用に足る人間といってよいだろうが、ルイズの実家にとって永年の仇敵であるツェルプストー家の出身であり、 タバサにいたってはその素性さえ明らかではないのだ。 君は、キュルケたち三人にルイズが≪虚無≫の系統に目覚めたのだと、真実を告げるか(四七へ)? それとも、教えぬほうが得策だと判断して、作り話をでっちあげるか(一五二へ)? 一五二 君は、キュルケ、タバサ、シエスタの顔を順番に見回し、声を潜めて、これから言うことは絶対に他言無用だと告げる。 シエスタは緊張した面持ちで何度も大きくうなずき、キュルケは真剣な表情で 「始祖とフォン・ツェルプストーの名に誓って」と答え、 タバサはいつものように無言で小さくうなずく。 「ちょ、ちょっとあんた! わたしに許しもなく勝手に……」 焦った様子で抗議してくるルイズに君は、だんまりを続けて憶測にもとづいた噂を流されるよりも、すべてを打ち明けてから 秘密を守らせるほうがよい、と言い聞かせる。 「で、でも……。そりゃわたしだって、キュルケやタバサを信用してないわけじゃないけど……」 いまだ納得いかぬルイズに背を向け、君はおごそかに語りだす。 あの光は、自分の守護神である正義の女神、リブラが示したもうた奇跡だと。 「はぁ?」 キュルケとシエスタが同時に――ルイズもごく小さく――呆けたような声を上げるのにかまわず、君は話を続ける。 自分は祖国アナランドを救う英雄としてリブラに見守られており、どうにもならぬ窮地に陥ったときに助けを求めれば、 女神みずからが力を貸してくれるのだ。 あの光は女神の放つ純粋な善そのものの力であり、人間や建物にはまったく無害だが、邪悪と≪混沌≫にけがれた存在には致命的なものとなる。 しかしリブラの助けは今回が最初で最後だ、と君は語る。 ≪天の王宮≫の神々がむやみに地上へ干渉することは禁じられており、女神はもう助けに耳を貸してはくれぬ、と。 君が話すあいだぽかんと口を開けていたふたりは、こそこそと眼を見合わせる。 疑いの色が浮かんでいるように見える――ハルケギニアの常識からいえば荒唐無稽にすぎる話を聞かされたのだから無理もないが、 少なくとも話の半分は真実だ。 実際のところ、夜空に浮かぶ月の数さえ≪タイタン≫とは違うこのハルケギニアには大いなる神々の力も及ばぬため、 君はリブラの加護を得られぬ状態にあるのだが。 「そ、それじゃあ」 シエスタがおずおずと口を開く。 「使い魔さんは、その、始祖ブリミルとは別の――ひいおじいちゃんの国の神様の力を呼び出したっていうんですか?」 君は重々しくうなずき、このことがブリミルを信仰する僧侶たちに知られてしまえばただでは済まぬだろうから、 くれぐれも秘密を守るようにと念を押す。 「は、はい! 家族にも誰にも、絶対にしゃべりません!」 純真なシエスタは君の話を信じ込んだようだが、キュルケはいまだ半信半疑の様子で 「あなたのお国の神様、ねえ……」とつぶやき、 君の顔をじろじろと見る。 「とにかく、誓ったんだから秘密は守るわ。あなたたちが不思議な力で化け物を消し去ったってことは誰にもいわない。そうでしょ、タバサ?」 水を向けられたタバサはうなずくが、あいかわらずの無表情をたもっているため、君の作り話を信じているか否かをうかがい知ることはできない。 君たちがそうやって話しているうちに、南の森や東の丘に避難していた村人たちが戻ってくる。八〇へ。 八〇 タルブの村の一件から二日が経つ(技術点・体力点・強運点を原点まで回復させよ)。 青くきらめく鱗に覆われた風竜が、革の翼を力強くはばたかせて空を舞う。 風竜のシルフィードは魔法学院から一路南東へと向かっており、その背中にはふたりの人間が座っている――シルフィードの主であるタバサ、そして君だ。 君たちが向かう先は、トリステイン王国とガリア王国の国境地帯にあるタバサの実家であり、君は、延ばし延ばしになっていたタバサの家族を 治療するという約束を、ようやく果たそうとしているのだ。 シルフィードの背鰭を背もたれがわりにし、いつものように本の頁を見つめているタバサが相手では間が持たぬと考えた君は、シルフィードと 話をしてみることにする。 タルブに薬を取りに行ってからこの四日間、お前には世話になりっぱなしだなと語りかけると、竜は長い首を曲げて君を見つめ、 「これくらいお安い御用なのね」と答える。 「でも、村では大変だったのね。お船からなんだかわかんないけどすごく悪いものが落ちてきて、そいつが村に攻めてくるからみんなを遠くに 逃がしてたら、光がぴかっとひらめいて、あとにはなんにも残ってなくって。汚されたはずの土や風ももとどおり。 シルフィにはなにがなんだかさっぱりなのね、きゅい! ほんとにあの光はあなたが呼び出したのね?」 君は、いかにもそのとおりだと風竜の問いに答えながら、タルブの村での出来事を思い起こす。 避難先から戻ってきた村人たちの表情は、安堵と当惑が入り乱れたものだった。 村の建物の半数以上が倒壊したにもかかわらず意気消沈した様子がないのは、ひとりも死者を出さずに済んだためだろう。 彼らは家族や隣人たちが無事だったことを互いに喜びあい、村を襲った泥沼のような怪物と、それを消滅させた謎めいた光の正体をいぶかしむ。 村人たちは口々に君やルイズに質問を浴びせてきたが、君たちが知らぬ存ぜぬで押し通したため、村じゅうをさまざまな推論や噂が飛び交うことになった。 しかし、怪物が異世界から召喚されたすべてを汚染する邪悪の化身であり、それを打ち破った光が伝説の≪虚無≫だと言い当てた者はひとりもいない。 たとえハルケギニア最高の賢人がそこに居たとしても、タルブでなにが起きたかを正しく理解することは不可能だったに違いない ――それほど、常識の範疇を超えた出来事だったのだ。 翌朝、君たちが魔法学院に戻ると告げると、シエスタの父は 「また、いつでも来なさい。家はすぐに建て直してみせるから」と笑う。 村人たちに見送られて飛び立ったシルフィード(大勢の村人の避難に活躍した彼女とタバサは、まるで生き神のような扱いを受けた)が 学院に着いたのは、その日の夜のことだった。 「あ、湖! もうすぐお姉さまのおうち!」 シルフィードの弾んだ声を耳にして、君は眼下に拡がる風景を眺める。 遥か遠くに、陽の光を受けてきらきらと輝く水面が見える。 最初は小さな湖かと思った君だが、近づくにつれそれが、静謐な森に囲まれた驚くほど大きく、美しいものであることを知る。 君は、女神の聖地であるアナランド南部のリブラ湖を思い出す――大きさも美しさも、いい勝負だ。 やがてシルフィードは高度を下げ、湖から遠からぬ場所に位置する立派な――いくぶん古ぼけてはいるが――屋敷のそばに舞い降りる。一七九へ。 一七九 玄関で君とタバサを出迎えたのは、白いシャツと黒い上着、黒いズボンをまとった老人だ。 やせ細った体と皺だらけの顔の持ち主だが、驚くほどきびきびとした動きを見せる。 「お帰りなさいませ、お嬢さま」 老人はうやうやしく一礼すると、君たちを屋敷の中へと導く。 客間まで来たところで、君は奇妙な違和感を覚える。 この屋敷は、≪旧世界≫なら王侯の住まいと言っても通用するほどの立派な建物にもかかわらず、人の気配がまったく感じられず、また、 住人たちの生活の跡も見られぬのだ。 床はよく掃き清められ、置物や額縁にも埃ひとつないが、廃墟のごとくさびれた雰囲気が漂っている。 君は革張りの長椅子に腰をおろすが、タバサはなにも言わずにさっさと客間を出て行ってしまう。 当惑する君の前に、先刻の老人が茶と菓子の載った盆を持って現れる。 老人――ペルスランという名の執事――は上着と荷物を預かろうと申し出るが、君はそれを断り、館の主人に挨拶をしたいのだが、起き上がることも ままならぬ病身にあるのか、と尋ねる。 「さようにございます」 ペルスランは深くうなずく。 「奥さまは、いかなる熟達の≪水≫メイジにも癒せぬ、重い、重い病に蝕まれているのでございます」 そう語るペルスランの声は、怒りと悲しみに満ちたものだ。 君は名を名乗り、自分は遥か遠くの国から来た薬草医であり、今日はその病人のために来たのだと告げる。 自分の薬なら、その患者の病を治せぬまでも、症状をやわらげることくらいはできるかもしれぬ、と。 ペルスランはいくぶん疑わしげな眼で君を見る。 「異国のおかたでしたか。しかし、何人もの高名なお医者さまが手を尽くしましたが、奥さまの心を壊すあの呪わしい毒には……」 そこまで言ったところで一旦言葉を切り、思い直したように 「いや、お嬢さまが望みを託して連れてこられたおかたなのですから、私もあなたさまを信用いたしますぞ。なにとぞ、奥さまをお救いください。 お頼み申します」 口ではそう言っているものの、眼の前の老人が君のことを疑っているのは明らかだ。 魔法が絶対の価値をもつこの世界では、≪水≫の魔法に頼らぬ平民式の治療法など、うさんくさいものとしか思えぬのも無理はない。 しかし、これから君が使おうとしているのは≪水≫系統でこそないものの、れっきとした魔法なのだ。 ほどなくして戻ってきたタバサは 「ついて来て」とだけ言うと長く暗い廊下を先に立って進む。 突き当たりにある樫材の扉をノックするが、応えはない。 かまわずタバサは扉を開け、君たちはいささか殺風景な部屋に足を踏み入れる。 部屋の中心にはテーブルと椅子が一脚置かれており、部屋の隅の寝台には女がひとり横たわっている。 その女は骸骨のようにやせ細っており、髪は伸び放題。 骨ばった手に、傷んでぼろぼろになった布製の人形をつかんでいる。 骨と皮だけのその面相を見た君は相手を老婆かと思うが、よく見ればそれはまだ中年の女だ――まだ四十を越えてさえおらぬようだ! 女は、狂人めいたぎらぎらと光る眼で君たちを睨み、しわがれた声で叫ぶ。 「あなたがたは何者です!」と。 タバサは落ち着いた様子で女に 「母さま、こちらが先ほどお話ししたお医者さまです」と君を紹介するが、 相手は聞く耳を持たない。 「わかっています、わたしからシャルロットを奪いに来たのでしょう! 下がりなさい、この子は誰にも渡しません!」と叫んでからすぐ、 手にした人形にそっと囁く。 「ああ、ごめんなさいねシャルロット。やっと寝付いたところだったのに、起こしてしまって」 女の挙動を眺めていた君の背筋を、冷たいものが走る。 タバサの言葉から判断するに、寝台の上の相手は彼女の母親らしい。 しかし、完全に気がふれてしまっている女は、自分の娘を娘と認識できず、かわりにもの言わぬ人形を愛でているのだ! ペルスランは『奥さま』――タバサの母親――が毒に侵されていると言ったが、人間をこのようなありさまにまでおとしめる恐るべき毒など、 君は聞いたこともない。 これが何者かに毒を盛られた結果なのだとすれば、その犯人は≪奈落≫の魔人どもにも匹敵する冷酷で残虐、卑劣な輩に違いない。 「この子の父親を奪っただけでは飽き足らず、シャルロット自身にまで手をかけようとは……なんとおそろしい! わたしたちにかまわないで!」 怯えた声でわめき散らすこの女を治療するためには、まずはおとなしくさせねばならない。 病魔に侵された体にたいした力は残されておらぬだろうが、暴れられては貴重な薬を無駄にしてしまうおそれもある。 君は力ずくで女を押さえつけるか(二五六へ)、それとも術を使うか? FOF・三五五へ DIM・三三九へ NEM・三九七へ SUS・四〇七へ NAP・四六一へ 四六一 体力点一を失う。 真鍮の振り子は持っているか? なければこの術は使えぬため、一七九へ戻って選びなおさねばならない。 真鍮の振り子を持っているなら、取り出して術を使い始めよ。 女は振り子の動きを眼で追っている。 さんざん叫んでいた声が止み、動きがぴたりと止まる。 振り子はゆっくり前後に揺れ、相手はしだいに引き込まれていく。 女がまもなく眠り込んでしまったので、次の術にとりかかるべく背嚢をさぐる君の耳に、どさりとなにかが床に落ちる音が飛び込む。 慌てて振り返った君が見たものは、床に倒れこんだタバサの姿だ。 何者かの襲撃かと扉を、ついで開け放たれた窓を見るが、敵らしきものの姿はない。 デルフリンガーに敵の姿を見なかったかと尋ねると、 「相棒、その青髪の娘っ子が倒れたのはお前さんのせいだぜ」という答えが返ってくる。 君は屈んで、動かぬタバサを調べてみる――すやすやと寝息を立てている! どうやら、彼女は好奇心から君の真鍮の振り子を見つめ、術の影響を受けてしまったのだろう。 君は苦笑を浮かべながら彼女をそっと抱え上げると、母親の隣に横たえる。 歳相応のあどけない寝顔をしばらく見つめていた君は、ブリム苺のしぼり汁の入った瓶を取り出し、栓を抜く。 本来、ハルケギニアには存在せぬはずの果実の、強烈な匂いが鼻をつく。 君はゆっくりと確実に呪文を唱え、瓶のなかの液体にDOCの術をかける(体力点一を失う)。 眠る女の唇をこじ開け、少しずつ慎重に水薬を流し込む。 君の術によって効き目を増した薬が、人の心を壊す恐るべき未知の毒に打ち勝てるかどうかはわからない。 君は心の中でリブラに祈る――我が術に力を与えたまえ、この哀れな女を救いたまえ、と。 ようやく飲みくだした女の喉が、ごろごろと鳴る。 見守るうちに女の蒼白の顔に赤みが戻ってくるが、その心までもが癒やされたという確証はない。 眼を覚ましたときに、彼女の心をさいなむ恐怖と苦痛が消えていればよいのだが。 君は椅子に座り、テーブルに頬杖をつく。 やるべきことはやった。 あとはタバサの母親が目覚めるのを待つだけだ。七一へ。 七一 タバサの母親に薬を服ませてから、一時間近くが経つ。 母親より先に目覚めたタバサは、傍らに横たわるいくらか血色のよくなった母親の顔を驚きの表情で見つめ、次に君の顔をじっと見据える。 君が、彼女の肉体はともかく、心のほうが治ったかどうかはまだわからぬと告げると、彼女は小さくうなずく。 見れば、雪のように白い肌はほんのり赤みが差し、泉のように青く澄んだ瞳はわずかにうるんでいる。 タバサはなにかを言おうとするが、その頬を一粒の滴が流れ落ちていることに気づき、ぱっとそっぽを向く。 血の通わぬ石像のようだった彼女が見せる、明らかな感情の表れを前にして、君は驚きに言葉を失う。 しばらくして、君たちはふたりとも落ち着きを取り戻す。 いつもの調子に戻ったタバサは、そっと口を開き、君に言う。 「…ありがとう」と。 「あなたはシルフィードに乗って学院に戻って。わたしはここに残って、経過を見る」 タバサの思いもよらぬ言葉に君は、自分もこの屋敷に残るべきだ、と抗議の声を上げる。 自らの術が成功したか失敗したかもわからぬままでは、寝覚めが悪いというものだ。 「母さまはいつ眼を覚ますかわからない。でも、ミス・ヴァリエールからあなたを借りられるのは一日だけ。そういう約束」 タバサは淡々とした調子で言う。 「学院に戻ったら、必ず結果を知らせる。今日は帰って」 彼女が君を追い出しにかかる理由はルイズとの約束だけではあるまい、と君は考える。 タバサは自身が感情をむき出しにするところをこれ以上、他人である君に見られたくはないのだ。 目覚めた母親を前にしたとき、いつものように感情を抑えられる自信がないのだろう。 今回の治療でタバサとの距離が少しは縮まったように感じられたが、彼女は依然として頑なだ。 彼女は、その小さく華奢な身体にどれほどの重荷を背負っているのだろう? どのような苦悩が、少女の心を凍てつかせているのだろうか? 君はどうする? タバサの母親が眼を覚ますまで、この屋敷から一歩も出ないと言い張ってもよいし(九五へ)、学院で君の帰りを待つルイズの(そしてタバサの)機嫌を損なわぬよう、 言われたとおりに外に出てシルフィードのもとへ向かってもよい(二二四へ)。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5306.html
前ページ次ページゼロと魔砲使い 「それじゃ、いってくるわね」 「不在の間の練習メニューはまとめておきましたから」 風竜の上から、ライバル兼親友と、その使い魔たる女性が声を掛けてくる。 「あなたも急に忙しい身の上になっちゃったわね。ま、せいぜい頑張りなさい。シルフィードから落ちないようにね」 二人を見上げつつ、赤毛で褐色の肌を持つ豊満な女性--キュルケは憎まれ口風の激励を送る。 「ふふん、残念ですけど、今の私には『レビテーション』が使えるのよ。落ちてもなのはの助けが間に合うわ」 「あら、じゃあ以前なのはがいってたの、本当だったのね」 「ええ。幸いなことに。私の予想が当たっていてよかったです」 そう。『虚無』に目覚め、その呪文を詠唱したルイズは、コモンマジックを自在に使えるようになっていた。『虚無』の魔法は威力がありすぎるうえに消耗が激しすぎるため、ルイズとしてはむしろこちらの方がうれしかったりした。 もう自分は『ゼロ』ではないと、胸を張って言えるのだ。まあ、別の意味で『虚無(ゼロ)』になってしまったのだが。 本当は学院に戻ったらこの辺のことをまたなのはと一緒に調べてみる予定だったのだが、急なロマリア行きでその時間がなくなってしまっていた。 「そろそろ出発」 頃合いと見たのか、あるいは時間が押し迫ってきたのか、残る一人の少女、竜の主であるタバサが二人を促す。 改めて二人が落ち着いたのを確認して、タバサは一番の親友に声を掛ける。 「いってくる」 「いってらっしゃい」 キュルケは挨拶を返すのと同時に、風竜は力強く羽ばたいて天へと駆け上った。 「いってらっしゃい。さて、私も頑張らないとね。タバサだけじゃなく、今のままじゃルイズにも置いていかれちゃうし」 キュルケは学院内で一、二を争う実力者--であった。 過去形なのは、今現在でははっきりと自分より上位の存在が二人存在しているからだ。 スクウェアに目覚め、同時に魔法の同時使用や呪文の改良すらこなすようになった親友のタバサ。恐ろしいことに今の彼女は時々、ごく簡単な魔法をほとんど呪文を唱えることなく、感覚的に組み上げてしまうことがある。 初めて気がついたのはアルビオン行きの飛行船の中でだ。彼女は遠く離れた場所の音を『魔法で拾った』といっていた。だが、彼女の呪文レパートリーには、そんなモノはなかったはずなのだ。 というかそもそもそういう漠然とした定義の魔法自体が存在してない。風はキュルケとは縁遠い属性だが、遠くの音を聞くための『遠聴』という呪文が、もう少し融通の利かないものであることくらいは承知している。 あのときのタバサは、杖を片手に、歌うように呪文を紡いでいた。それはキュルケの知る『詠唱』ではなかった。あのときタバサは、間違いなく己の感性で呪文をその場で紡いでいた。 少し聞いてみたところ、館での一戦以来、なのはがいうところの『魔力を共鳴させる』という行為の感覚を把握できるようになったという。風の魔力の共鳴が今のタバサには精霊の歌声のように感じられるという。 そのため、ごく単純な行為に関してなら、その精霊達を動かすための『歌』が、ある程度感覚的に判るらしい。 タバサは判ってかそうでないのか、なんでもないことのようにいっていたが、これはとんでもない技術である。 呪文創造能力。今のタバサは、感覚で呪文を紡ぐことが出来る。元々彼女は勉強家であり、理性で呪文を用いる術にも長けている。 その気になったら、開発者としても大成できるだろうと、キュルケは見ている。 そしてルイズ。ゼロだといわれ続けていた少女は、ついに真なる『ゼロ』に目覚めた。 伝説の『虚無』の使い手。メイジの頂点。彼女は最底辺から一気に頂上へと駆け上ったのだ。 そしてそんなルイズを支える使い魔、なのは。本人が伝説に匹敵する超絶メイジであり、加えて大人な包容力が、何かと問題の多かったルイズを優しく包み込んで背筋を伸ばさせた。 元のままなら、虚無を手にしたとたんのぼせ上がって増長し、私たちを虫けらのような目で見たあげくにおべんちゃらの得意な相手にころっと騙されていただろう。 だが今のルイズにはそんな心配はいらない。 自分を取り戻し、自分のよって立つための足場を築き上げ、決して揺らぐことのない根を見事に張り巡らしている。 それに比べて自分は。 力では負けてはいない。虚無に目覚めてしまったルイズは別格としても、今の自分の力はトライアングルには収まらないということが何となく判っている。 だが自分はまだトライアングルのままだ。力はあっても、スクウェアになれそうでも、今の自分にはまだ何かが足りない。 殻を、破らないといけない。 そのことは理性が理解している。だが、現実がそれに追いつかない。 キュルケは、そのことを誰よりも理解していた。 一方、ここはアルビオン。首都ロンディニウムの南、ハヴィランド宮殿。 白の宮殿と呼ばれるその内部では、白とは言いがたい人物達が、今回の件について話し合っていた。 全軍の約半数とも言える、三万もの将兵の寝返り。 圧倒的有利だったレコン・キスタは、ただの一日で状況を五分に引き戻されてしまっていた。 連絡が届いた時には、トリステインからの援助物資が届きはじめるところであった。 「ええい、裏切られただけならまだしも、物資が届くとなると、文字通り五分になってしまうぞ」 「直後ならばただの烏合の衆だったのだがな……」 そんな声が上がるが今更である。状況を把握している人物からは、ずっと建設的な意見が出ていた。 「確かに物資は届いたかも知れん。だがまだたいした量ではない。船も大半は座礁している。今ならばまだこちらの方が優勢だ」 「だが、このままトリステインからの援助が続けば、状況は判らん」 「何よりもまずいのは、敵にもまた『虚無』の使い手と称する人物が現れたと言うことだ」 レコン・キスタが成長してきた理由の一つに、クロムウェルが『虚無』の使い手を称しているという点がある。だが王党派にも『使い手』がいるとなれば、その優位は帳消しになる。 「相手側の『使い手』は判っているのか?」 「はっ、調べによりますと、トリステインの大貴族、ヴァリエール公爵の息女で、名はルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールと申すそうです」 「これもトリステインか……」 しばし沈黙が流れる。 やがて、一人の人物が口を開いた。 円卓ゆえ上座はない。だが、その人物は、その場において頂点に立つ人物であった。 「ならば手は一つですね。裏切りは悲しいことですが、それはまだ何とかなります。この問題の根は、ここではなくトリステインにあります」 サー・オリバー・クロムウェルは、ゆっくりとその言葉を発した。 「彼らが盛り返している理由は、すべてトリステインにあります。私に対抗する『虚無』の存在すらも。ならば話は簡単です」 「トリステインの干渉を、断ち切る、と」 「その通りです」 適宜な発言をほめつつ、クロムウェルは言葉を続ける。 「トリステインに圧力を掛け、援助を止めさせましょう」 「しかしどのように……この状況において、外交交渉は無駄かと」 「それは判っています。少々非情の手を取らねばならないでしょうね」 そういうとクロムウェルは、地図のある一点を押さえた。 「この地を押さえます。さすればしばらくの間、トリステインを止めることが出来るでしょう」 彼の指し示した点には『魔法学院』と書かれていた。 シルフィードが飛ばせば、遙か遠方のロマリアといえども二日の距離に過ぎない。もっともそのためには、ガリアの国を横断する必要がある。一応正式な入国証その他の書類もきちんと所持しているが、何故かタバサはそれを否定した。 「どうして? わざわざ犯罪者になることなんてないじゃない」 当然の質問に対し、タバサは真正面からルイズの瞳を見つめていった。 「万一がある。ガリア王はあなたとなのはに強い興味を持っている。場合によっては拉致くらいしかねない」 冗談事ではなかったが、タバサの語る口調には遊びの雰囲気はなかった。 「そうなったらあなたの犯すことになる罪科は国境破りなんか比べものにならなくなる。あなたとなのはが戦って負けることはないでしょうけど、外交問題にはなる」 「う……」 「そもそもあの戦いのとき、私はあなたとなのはが負けていたら、その身柄をガリア王のところに運ぶように命じられていた」 駄目押しの告白が来た。 ルイズも納得せざるをえなかった。 そして一日を掛けて到着したのは、その戦いの舞台ともなった場所……タバサの実家であった。 「おお、お嬢様、それにルイズ様もなのは様も。よくぞいらっしゃいました」 執事のペルスランは、変わらずにルイズ達の来訪を喜んだ。 「明日早朝には発つ。食事その他の用意をお願い」 「お忙しいようですな。また何か……」 「いいえ、今回は私の意志。友達のため」 「……! 判りました」 ペルスランは内心感極まっていた。 あのお嬢様が、『友達のため』とおっしゃった。 それは彼にとっても、大変喜ばしいことだったのだ。 特にトラブルもなく、夜の帳がおりていた。食事はおいしく、タバサは母親のところに行った。 前回も泊まった部屋には、ルイズとなのはの二人きりだ。 いや、正確にはもう二人(?)いるが。 「そいつが読めるって言うことは、やっぱりあんたは使い手のマスター、『虚無』の担い手か」 「……知ってたの、デル君」 なのはの声が、どこか冷ややかだったりする。 今ルイズは、アンリエッタから借り受けてきた『始祖の祈祷書』に目を通している。 「う~ん、やっぱり『エクスプロージョン』しか読めないわ」 “やはりプロテクトされていますね。乱用を避けるためでしようが” なのはの胸元でレイジングハートも意見を述べる。一方、 「あなた、ご主人様が虚無の担い手だって、気がついてたの?」 「んなこたねえ! そっちの話聞いて初めて思い出したんだよ、ああ、そうだったなって」 危険な響きを帯びているなのはの声に、デルフリンガーはおびえていた。 「ああもう久々にしゃべれたと思ったら、なんで使い手の姐さんに脅かされなきゃなんねえんだよ!」 「ほんとに覚えてなかったみたいね……ま、いいわ」 なのはは追求を打ち切った。 「でね、デル君。あなた、あれについては何か覚えてる?」 なのははルイズの方を見る。 「ご主人様、始祖のオルゴールの声を聞いて、虚無に目覚めたんだけど、使えるのはエクスプロージョンだけ。それも最後まで唱え切れたのは一回だけ。あのあと何回か唱えてみたけど、途中で力尽きて、失敗魔法と大差ない結果しか出なかったわ」 「ん? まあ『虚無』は馬鹿みたいに力を使うからな。よっぽど心を震わせないと、力がたまらないぜ」 「心を、震わせる? 前にもそんなこと言ってたよね」 なのはは以前、似たようなことをデルフリンガーが言っていたのを思いだした。 「ああ、俺も『使い手』の心の震えが強くなればなるほど力が出る。確か虚無の担い手も似たようなもんだったはずだぞ?」 「具体的には?」 「心の震えって言うのは、要は強い感情の動きだ。怒りとか、決意とか、まあいろいろだな。ただどっちかって言うととんがってる方が強くなる。いくら心が震えると言っても、優しさとか感動とかだと、なんて言うのか、こう……力が抜けちまうんだよな」 「うーん、攻撃的な方がいいとか?」 なのはの言葉に、デルフリンガーは鍔をかちかち鳴らして答えた。 「そう、それそれ。怒りとか憎しみとか嫉妬とか、とにかく攻撃的な方が力が出るんだよ。そういや昔、明鏡止水とか言う剣術の極みとか言ってたやつがいたけど、あれじゃ全然力が出なかったな。落ち着きすぎてちっとも心が揺らがねえ」 「冷静すぎると駄目なのかあ」 「ああ。むしろ荒っぽい方がいいぜ。もっとも姐さんは例外かも知れねえけどな」 「例外? 私が?」 首をひねるなのは。 「ほら、前一回、俺にものすごい力を通しただろ? 心が震えてくるとああなるんだけど、姐さんはそういうのと無関係に力を通しやがった」 「魔力を通した時よね。ということは……」 “デルフリンガーか、あるいはひょっとしたら『ガンダールブ』のルーンに、感情を魔力に変換する能力があるのかも知れません” レイジングハートが冷静に言葉を繋いだ。 「なるほど。その線はありそうね」 なのはも頷いた。 「そういえばタバサがスクウェアに目覚めた時も、なんか激昂してたよね」 “そう考えると、これは個々の特性でなく、系統魔法に限らない、これはハルケギニアにおける魔法全体の特性かも知れません” 「強い感情、特に攻撃的な意志を伴った感情が、魔力に変換されるのか……うん、ちょっと調べてみようか」 そういうとなのはは、荷物の中からパソコンとスキャナを取り出すと、レイジングハートに接続した。 「ご主人様」 「判ってるわ」 先ほどの話を興味深そうに聞いていたルイズは、打てば響くように頷いた。 「とりあえず怒った時のことを思い出してみるね」 ルイズは目を閉じると、過去、自分がキュルケに馬鹿にされていた時のことを回想した。 今でこそ彼女のことを考えると少し心が温かくなる。だが、初めてあった頃は…… その頃のことを思い出すと、むかむかした怒りがわいてくる。挑発的な言動には励ましの言葉が混じっていたことが今だと判ってしまうので除去。いろいろ思いだしていくうちに、キュルケのあるからかいの言葉が思い出された」 ……あら、かわいいわね。 --な、なんでツェルプストーがヴァリエールであるあたしをかわいいなんて言うのよ! ……ふふふ、ねえ、今夜私の寝室に来ない? --ちょ、ちょっと、あなた同性の趣味もあったの? ……ないわよ? って、あら、あなた女だったの。てっきり美少年だと思ってたわ。ごめんなさい、おほほほほ…… --そう、あいつは、最後の台詞を、あたしの胸を見て言いやがったのよ! そりゃ無いのは自覚しているけど、男扱いはないでしょ! ルイズの怒りが見事に爆発していた。 「うわ、本当に魔力が増えた」 “……今までうまく測定できませんでしたけど、彼女の魔力容量、かなり大きいですね。なまじたまっていたせいで、この魔力の多いハルケギニアでは返って測定しづらかったようです” 「ああ、バックグラウンドに紛れちゃったのね?」 “はい。虚無の発動でいったん空になったので測定できましたけど……概算でSからS+位はありそうですよ” 「ミッドだったら即スカウトが来そうね」 なのはは知り合いの甘党妖精元艦長を思い出しつつ言った。 「でも、逆に言うと、『虚無』って……」 “マスター並みの魔力を一回で使い切る大出力魔法なんですね” なのはは頭を抱えた。そしてふとあることに思い至った。 改めてルイズの方を向いて言う。 「ご主人様」 「全くあのツェルプストーはーっ!……って、もういいの?」 「はい。で、ちょっと思いついたことが」 そういうとなのははルイズの手を取り、詠唱した。 「ディバイド・エナジー」 レイジングハートがそれを受けて桃色--なのはの魔力光の色に輝き、なのはの魔力がルイズに向けて流れ込んでいった。 「わ、なに、これ。なんか暖かいのがなのはから」 “……効果はありますが、これは……” だが、術式を中継するレイジングハートの声音は実にしょっぱいものであった。 少ししてなのはが魔力の接続を切ると、光は収まった。 「ご主人様、力が回復しているのが判りますか?」 「ええ、何となくだけど」 ルイズにも何となくだが力がたまっているのが感じられた。 “虚無が命を削るという意味が少し判りますね” レイジングハートがぼやくように言う。 「ん? どういうこってい」 デルフリンガーがそれに対して興味深そうにツッコむ。 「魔力の吸収効率が極端に低いのね。まあこんだけ魔力素が濃い上、魔法の基本形態が共鳴型だから当たり前と言えば当たり前かも知れないけど」 「なのはには理由がわかるの?」 ルイズも興味津々と言った様子で聞いてくる。 「はい。つまりですね……」 この世界は魔力に満ちている。物質に融合しているもの、拡散しているもの、などなど。 そして形を為す前の魔力素も、他の世界に比べて桁違いに濃い。 ただこの魔力素、空気中の酸素濃度のような面があり、濃すぎても薄すぎても障害が出る。 薄いと当然量的な不足が生じ、魔力の回復が著しく阻害される。 逆に濃すぎても魔法の暴発や濃度過多による吸収阻害が発生する。 ミッドチルダなどに比べると、ハルケギニアの魔力濃度はこの吸収阻害が起きるレベルを遙かに超えて濃い。なのはがこれで異常を起こしていないのは、元々彼女の魔力容量自体が桁違いに大きい上、ガンタールヴのルーンによる補正が効いているためである。 そしてルイズ達ハルケギニアのメイジは、その原理上魔力をあまり取り込む必要がない。 彼らが消費する『精神力』は、触媒としての魔力であるため、直接魔力をエネルギーとして使用するミッド式やベルカ式に対して桁違いの変換効率を表面上は持つことになる。 ミッド式では百の力を得るのに最低で百、普通は百二十~二百近い魔力が必要になる。つまり変換に際してどうしてもロスが出る。 ところがハルケギニア式では最高が百、普通は一~十という信じられないような高効率が達成されている。これは事象の変換に必要なエネルギーを、自分の魔力から供給しているミッド式と外部から調達しているハルケギニア式の違いである。 「ただ、虚無は例外みたいなんです」 「例外?」 なのはは説明を続ける。 虚無の魔法は、現時点では『エクスプロージョン』しか判っていないが、それでも明らかに他の系統魔法とは違った面がある。 なのはが調べた限りにおいて、エクスプロージョンは、設定された範囲において、魔力収奪による崩壊爆発を起こす呪文である。 ここでポイントとなるのは、『収奪による爆発』という結果的な作用こそ外部の魔力を利用していることになるが、実はこの爆発自体が、エクスプロージョンという魔法からすると『二次的現象』に過ぎない。 『エクスプロージョン』という魔法は、本質的には 『一定の範囲内に対して、術者の設定した対象から、強制的に融合している魔力を引きはがす』 呪文であって、爆発という破壊現象とは直接的に結びついていない。 そしてそのためのサーチ、ターゲッティング、コントロール、その他すべては、『術者の魔力からの持ち出し』になっている。 ここが他の系統魔法とは一線を画している点となる。 「もともとこのハルケギニアのメイジは、魔力を自然から吸収する能力が、私たちに比べると極端に低いんです」 「元から大して使わない上に、ちょっと吸収すれば足りるからね?」 「そうです」 なのははルイズの勘所を押さえた答えに対して喜びつつ頷く。 「加えて安全性を確保するという意味もありますが。それはともかく、『虚無』の魔法は、少なくともエクスプロージョンは極端に負担の多い術式なんです。途中であっても発動するのも、術の本質が『目標の設定』であって、爆発そのものではないからみたいですね」 「さすがなのはね。私たちだけじゃ、この事を調べるのに何年かかったことかしら」 ぼやくルイズに、なのはは首を横に振った。 「いいえ、これはたまたまこの術式がハルケギニアのものというより、私たちの使うものに近いから判ったことですよ。虚無の魔法自体が、まるでミッド式の術式をハルケギニア式にコンバートしたみたいな面が強いですし」 「基礎知識があったっていうことね」 「そういうことです」 「いやはや、たいしたもんだぜ姐さん。今回の使い手は、えらい頭がいいんだな」 デルフリンガーも、感心したようにいった。 「ま、なんにしても」 なのははまとめるように言う。 「ご主人様の素質は、虚無でなければ空前絶後だったはずです。まあ、だからこその虚無だったかも知れませんけど。これはどっちが先かになっちゃいますけど」 「実は私って元からすごかったのね」 茶化すように言うルイズ。増長するでもなく、自嘲するでもない、素直な誇りだった。 「いずれにせよ、虚無の魔法はおそらく無茶苦茶に魔力を消費します。ご主人様の器が大きくても、それを簡単に空っぽにしちゃいます。私の魔力を渡そうにも、入り口が狭すぎてあまり補充できません」 「そういえばなのはの魔力ってどのくらいあるの?」 尋ねるルイズになのははちょっと恥ずかしそうに言った。 「ご主人様よりは多いです。倍あるかどうかは微妙ですけど」 「で、それがすぐ回復するのよね……」 魔力素が濃い上それによる吸収阻害が起きていないため、それこそあっという間に魔力が回復するのが今のなのはである。なのは自身、それに気がついた時「どういうずるよ」と思わず自分にツッコんでしまったくらいである。 「逆にご主人様は回復が極端に遅いわけですから、濫用は禁物ですね。あまり攻撃的な精神を保つというのもよくないですし」 「そうね」 ルイズだって魔法を使うために年がら年中ヒステリーを起こしているなんてごめんだった。 (でも考えてみると以前の私って……) あまりにも力を溜めやすい状況だったために、ルイズは内心でがっくりと膝をついていた。 そんな気分を何とか立て直してルイズは言う。 「まさに切り札なのね、『虚無』は」 「使いどころが難しいですね。他の魔法が使えるようになればいいんですけど」 「でも読めないのよね」 傍らの『始祖の祈祷書』に目を落とすルイズ。 “心から必要だと思えば読めるはずです” レイジングハートがサポートする。 「めんどくさいわね。でも仕方ないか。うかつに使うと即倒れるんじゃ……っと、結構時間経ってたわね。そろそろ寝ましょう」 ランプの明かりが揺らめいていた。 「はい、ご主人様」 二人ともベッドに潜り込む。程なくして、室内はかすかな寝息だけが支配する静寂な空間になった。 --直後。 寝たはずのなのはがむっくりと起き上がった。 光量を落とした状態でパソコンを立ち上げる。 「起きてたんですかい、姐さん」「しっ」 話しかけてくるデルフリンガーを黙らせる。 (どうしても話したかったら念話にして) (へいへい。どうもこれは好きになれねえんだが) なのははレイジングハートとパソコンをつなぎ、データを転送する。 そこに映し出されたのは、ルイズにも読めないはずの、『虚無』の術式であった。 (ざっと見た感じでもすごいわね、これ……) (“この世界の魔力に支えられたものではありますが、とんでもない系統ですよ、これは”) (魔法そのものがロストロギア級よね……ご主人様がこれを制御できるようになれば、最低ラインで問題は解決するんだけどなあ) (“読めない以上、難しいかと”) なのはが見つめていたのは、こちら風に記述し直された『次元転送』の魔法。 呪文の名称は、『世界扉』となっていた。 前ページ次ページゼロと魔砲使い
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9029.html
前ページ次ページThe Legendary Dark Zero かつて魔界で覇権を争いし三大勢力の一角を統べていた羅王アビゲイルは、まさに破壊の権化そのものであった。 指先一つのみで数千の悪魔達を一掃し、本気を出せばその10倍以上の軍勢ですら一瞬にして灰燼と化す。 上級悪魔とて、その一撃をまともに食らえば決して無事では済まされない。これは他の最上級悪魔達にも言えることだが、アビゲイルは中でも別格だ。 かつてのスパーダの主である魔帝ムンドゥスも正面からの直接対決は避けていたほどである。 魔界の全てを統べる資格を持った最上級悪魔の中では、単純なパワーだけならばまさしく最強であったと言えよう。 おまけに奴が率いる悪魔の軍勢もまた、膨大な数の兵力を誇っていた。 今、スパーダがルイズの視界を通して目にしているように、その数は軽く十万は超える。 タルブ一帯を覆い尽くした悪魔達の種類はまさに千差万別だ。 どれもが中級以下の有象無象の悪魔達ばかりでしかないが、この圧倒的な数の兵を正面からまともに相手にすれば数の少ない軍勢など瞬く間に飲み込まれてしまうだろう。 「これじゃあキリがないわ! ファイヤー・ボ-ル!」 「どれだけ出てくるのよ! こいつら! バーストっ!」 膨大な数の悪魔達がひしめく空の中を飛び回るシルフィードの上でキュルケとルイズは悲鳴に近い叫びを上げながら魔法を放ち、悪魔達を退けていた。 押し寄せてくる津波を押し返すかのごとき勢いで攻撃をしなければ、瞬く間にアビゲイルの軍勢に飲み込まれ、なぶり殺しにされてしまう。 かつて魔界にいた頃、スパーダはアラストル、イフリートの三人でアビゲイルの軍勢を迎え撃っていた。 三人とも一撃で数千の悪魔達を屠れる力を有していたが、今ルイズ達が面しているように倒せど倒せど、アビゲイルの軍勢の勢いは留まることを知らない。 無限の兵がいるのではと錯覚するほどに、アビゲイルの軍勢の規模は凄まじかったのだ。 (相変わらずの力押しだな) だが数千年の時が経とうと、その戦略は何一つ変わっていないことにスパーダは呆れる。 アビゲイルは確かに自身の力も兵力だけならば他を圧倒し、そのまま壮絶な勢いで他の勢力を飲み込み、最終的には魔界全土を支配するかと思われた。 しかし、アビゲイルは大勢力を率いる長としてはやや愚鈍な面もあった。 『力こそが全て』魔界における絶対の理に忠実なアビゲイルは、ムンドゥスやアルゴサクスが得意としていた謀略に関しては致命的に疎かったのだ。 「作戦や小細工など不要」 「戦いの真骨頂は力と力のぶつかり合いにある」 「力で戦わずして得た勝利に意味はない」 といった武人的思想を持つが故、プライドに拘るあまり策に頼ることを何より嫌っていた。 というより、勝利のための策ではなく、戦乱を起こすために策を用いていたのだ。 要は覇者としての手段と目的が擦れ違ってしまっていたのである。 おまけに勢力の頭にして総大将が自ら戦線に積極的に出向いているというのが最大の仇となった。 圧倒的な力による正面からのゴリ押しにのみ頼っていたアビゲイルは、結果的にムンドゥスとアルゴサクスの策に嵌り、破れる結果となったのである。 もっとも、その圧倒的な力押しによる大侵攻は人間側からしてみれば、悪夢でしかない。 「ちょ、ちょっと! あいつが動き出したわ!」 ルイズが空を見上げると、アビゲイルは次元の裂け目から軽々と跳び上がり、アルビオンの艦隊の一番巨大な戦艦へと着地していた。 ついにアビゲイルが直接動き出した。アルビオンの旗艦らしい巨艦の上からタルブ一帯を見下ろしている。 「な、何をしようっていうのよ」 「どうせロクでもないことでしょ」 一体何をしようというのか、ルイズ達はアビゲイルの行動が予測できずに戦慄しているようだった。 (きゅい……あんな悪魔なんかに、勝てるわけないのね……。精霊がみんな、怖がっているのね……。悪夢なのね……) ルイズ達やシルフィードが恐怖している中、艦上のアビゲイルはおもむろに両手を頭上に掲げだし、瞬く間に巨大な光球を作り上げていた。 未だ日食は続いているが故に闇は晴れることはないはずだったが、その太陽のように眩しい光球は容易く闇を打ち消し、タルブ一帯に光をもたらしていた。 だが、すぐに眩い光源は消え去ることとなる。 光球はまるで風船のように大きく膨れ上がると、突如耳をつんざく甲高い轟音と共に爆ぜた。 花火のように四方八方に散ったのは、巨大な光の矢だった。 数百を超える光の矢は次々と旗艦以外の小さな艦隊へ殺到していき、その船体を容赦なく粉砕してしまったのだ。 光の矢は決してルイズ達や地上の方へ降り注ぐことはなく、アルビオンの艦体にのみ集中的に浴びせられていた。 貫かれ砕け散る船体、燃え上がる帆、吹き飛ばされ、空中に投げ出される人の影。 ルイズ達は、上空で巻き起こるその地獄絵図のような光景に唖然としているようだった。タバサだけは黙々と襲い来る悪魔達を退けようと杖を振るい続けていたが。 「あ、あいつ……一体なに……やってるのよ……味方なのに……」 ルイズは力を失った声を震わせ、呻いていた。 「悪魔の考えることは、訳が分からないわ……」 キュルケも同じ気持ちで、乾いた笑いを漏らしているようだ。ルイズの視界に彼女は映らないので、当然スパーダにも見えない。 アビゲイルがアルビオンの艦体を何の前触れもなく、容赦なく全滅させてしまったことに愕然とするのも無理はない。 旗艦だけは攻撃しなかったことから、裏で操り結託していたアルビオン――レコン・キスタ側に加勢をするつもりなのだろう。 いくら魔界が侵略する人間界の民であっても、魔に魅入られた悪魔崇拝者達などを最大限に利用するために手を結ぶことはあるのだ。 にも関わらず、アビゲイルは他の艦体を全滅させてしまった。それはつまり、あの艦体を無用の長物として切り捨てたのだ。 悪魔が勢力の一部を戦力にならないと判断すると躊躇なく見限り、自らの手で始末するのはよくあることである。 光の矢が全て飛び尽くし、爆風が収まった後に残っていたのは、アビゲイルによって破壊され尽くした艦体の見るも無残な残骸だけだった。 残骸の中には投げ出された人間の姿もちらほらと窺えるが、空を飛び交う悪魔達が群がってきては餌となっていた。 (まだ1000年しか経っていないのに、元に戻っているな) スパーダはアビゲイルの発揮した力をルイズを通して垣間見た時、疑念を感じていた。 実は1000年以上も昔、スパーダは人間界においてアビゲイルと一戦を交えたことがある。 当時のスパーダはフォルトゥナの領主の任を他の者に託してそこを離れ、各地を渡り歩いていた。 その時、耳にしていたのが人間の身でありながら、様々な悪魔達を使役していたという魔術師の噂だった。 アラン・ローウェルとかいうその男は錬金術師として名を馳せていた存在で、悪魔の力を人々のために役立てられないかを研究していたという。 その過程で彼は数多くの悪魔達を召喚しては従え、人間達の生活の手助けをしていた。 だが、そこで彼はとんでもないものまで呼び出してしまった。 それまで召喚していたのは下級や中級程度の悪魔達ばかりだったのだが、アランはさらに上級の悪魔を従えてみようという無謀な行為にまで手を付けてしまう。 その結果、呼び出されたのが羅王アビゲイルだった。 いくら悪魔を従えられるからといって、強固な意思と力を持つ上級悪魔を思いのままに使役することなどできるわけがない。 ましてや、アビゲイルほどの最上級悪魔などもってのほかだ。 結局、アビゲイルを使役できなかったアランはそれまで呼び出していた悪魔達や己の力を駆使して封印しようと試みたが、その力は圧倒的でとても手が付けられる相手ではなかった。 かねてよりアランの動向を監視していたスパーダはアビゲイルの出現を耳にすると、すぐに急行して魔界へ追い返すべく、剣を振るったのである。 その時のアビゲイルはかつての覇権争いの果てに失った力を蓄えていた所を無理矢理呼び出されたらしく、力が完全ではなかった。 自ら力を封じたスパーダも似たような条件だったが、互いに力はほぼ互角だったと言えるだろう。 最終的にスパーダはアビゲイルの力を切り離し、本体を魔界の奥深くへと封じることに成功した。 切り離され、独立したアビゲイルの力はそのままでは暴走してしまう恐れがあったため、アランが儀式によって魔界の一角に僅かな隙間一つない結界を何重にも張り巡らすことで封印していた。 その儀式の過程で生まれた魔石を鍵とし、アビゲイルの力が誰の手にも渡らぬようにアランはローウェル家が末代に渡って守り抜くことを誓っていた。 それからのアラン・ローウェルは悪魔関連の研究を打ち辞め、人知れぬ地でひっそりと生涯を過ごしたという。 ローウェル家の子孫達は一族の始祖たるアランのおかげで、その後も魔石に惹かれる悪魔達から逃げ続けていると聞く。 何の考えもなしに魔石を破壊してしまえば、封印されたアビゲイルの力が暴走するため、力を欲する下級悪魔達も慎重にその封印を解こうとしているのだ。 アビゲイルの残した力を手に入れれば魔界を支配できる力が手に入る。そう考えている連中は多い。 だが、あの魔石は悪魔の持つ魔力に反応して力を放出するため、手にするのは容易ではない。 おまけに、元々強大な力の扱いに慣れていない下級悪魔がいきなりアビゲイルの力を手に入れたとしても、まともに力を制御し切れるはずがない。 酒も飲めない子供が無理に度数の凄まじい酒を口にして参ってしまうのと同じである。 第一、その力自体が完全なものではないのだ。 故にたとえ下級悪魔達が力を手に入れてもさほど脅威にはならない。 ……そうした経緯があり、力を失ったアビゲイルが再び力を取り戻すには何千年もの年月が必要なはずだったのだが、今目にしたようにその力は全盛期の頃と全く同じだったのである。 何故、こうも短い期間でそこまでの力を取り戻せたのかは分からないが、完全体のアビゲイルがハルケギニアへ直接侵攻してきた以上、何日と経たずにハルケギニアは奴の勢力に侵略され尽し、支配されてしまうだろう。 何としてでも、タルブで侵攻を食い止めなければならない。 「お、おい。どうしたんだよ、立ち止まってる暇なんか無いんじゃねえのかよ」 ルイズの視界が消え失せると、左手に装備した篭手のデルフの困惑した声が耳に届いていた。 意識はルイズ達の方へ移りつつも、体だけはしっかりと動いて襲い来る悪魔達を屠っていたわけだが、それまで塔を駆け上がっていたスパーダの足は階段の途中でピタリと止まってしまっていた。 「予定変更だ」 事も無げに言うスパーダは塔の淵に立つと、そこから下を見下ろした。 果てしなく続く闇。その中に立つのはこの無数の塔。その遥か下、そして上には何が存在するのかははっきり言って、スパーダも詳しくは知らない。 ただ一つ言えるのは、この遥か下は魔界の深淵へと潜っていけるということだけである。逆に上へ進めば、魔界の上層部へ行けるのだ。 「ちょっ! おい! 何をする気だ! 待て! 待てって!」 デルフはスパーダがこれから何をやろうとしているのかを、薄々察していたようだ。 だがスパーダはそれに返答することもなく、その身を躊躇なく宙へと投げ出していた。 これまで必死に駆け上がってきた、無限の高さを誇る塔をスパーダは一気に下っていく。 正確には空間を頭から落ちていくだけであり、スパーダは自分に受ける落下の風圧を気にすることもなく、果てしない空間を落ち続けていた。 途中、ブラッドゴイルといった空を舞う悪魔達がスパーダを襲ってきたものの、ルーチェとオンブラ、そして幻影剣を用いて迎撃していく。 「どういうつもりだよ! あとちょっとで戻れたってのに!」 「タルブの地獄門は遠過ぎる」 焦るデルフだが、スパーダはあくまで冷静だった。 「だが、こちらからならば3分は早く戻れる」 ルイズの視界を通して目にした、アビゲイルが這い出てきた次元の裂け目。もちろん、あの先は魔界へと続いているわけだ。 そして、そこがどの領域でどの階層に繋がっているのか、スパーダは理解していた。 一分一秒でも早くハルケギニアへ戻らなければならない以上、より近道のルートから戻った方が効率が良い。 皮肉にも、その道をアビゲイルが作ってくれたのである。 「何でそんなことが分かるんだよ」 「ルイズのおかげだ」 急降下し続けていたスパーダは、やがて腰の閻魔刀へと手をかける。 バランスのとり難い空中ではあるものの、スパーダは閻魔刀を瞬時に抜刀、さらにそれを交差させるように返した。 斜め十字の剣閃が飛び闇の中へと吸い込まれていく。 数秒後、微かな甲高い音と共に闇の奥から僅かな閃きが瞬いた。 閻魔刀を収めたスパーダはその光に向かってさらに降下を続けていく。 「おっ!? おおおおっ!?」 デルフが狼狽の声を上げた。 果てしない闇の中に刻まれた光に縁取られた亀裂。 それは魔を斬り裂き破壊する力を持つ閻魔刀によって作り出された次元の裂け目だった。 空間そのものが魔力を有する魔界だからこそ、こうした荒業も可能なのである。 先日、タルブから魔界へ来た時も力尽くで道を作ったのと同じことだ。 ――ケエエエエェェェェッ! スパーダの体は真っ直ぐと急降下し、空間に刻まれた裂け目へ向かっていく。 その後をブラッドゴイルの大群が追跡していたが、スパーダはもはや幻影剣を放つこともなくただただ落下を続けていく。 次元の裂け目は、まるで空間そのものが傷を塞ぐように縮まっていく。 人間一人が通れるほどにまで小さくなった裂け目にスパーダが飛び込んでいった直後、次元の裂け目は跡形もなく消滅していた。 これは、悪夢だ。 アンリエッタは目の前で巻き起こる光景に、その身を引き裂かれてしまいそうな戦慄を覚えていた。 日食と共に、突然空に開けられた穴から現れた異形の怪物達。とても把握しきれないほどの数で押し寄せてきた大群は、瞬く間にタルブを覆い尽くしてしまっていた。 身の毛もよだつおぞましい怪物達は、血も涙もない獰猛な存在だった。 空を飛び交っていた竜騎士達に襲い掛かるなり、彼らが騎乗する竜もろともその身を引き裂き、喰らっていったのだから。 (何故? 一体、あの者達はどうしてこんな……) アンリエッタは生まれて初めて目にする悪魔のように恐ろしい怪物達を目にして打ち震えた。 何故、あの怪物達はこの地に突然現れたのか、その理由はアンリエッタはもちろんんこと、トリステイン軍の誰もが知る由もない。 怪物達は当然、地上のトリステイン軍はおろか壊走していたアルビオン軍にまで襲来してきていた。 浮き足立っていたアルビオンの兵達は怪物達に何の抵抗もできず、無残に惨殺されていった。 血に飢えた怪物達は逃げ惑う彼らをまるで狩りの獲物のように追い詰め、惨たらしい手段でその血肉を喰らっていく。 あまりにおぞましい目を覆うような惨劇の光景だった。敵とはいえ、こんな残虐な殺戮がこの世にあっていいものだろうか。 「ええい! 失せろ! 化け物どもめ!」 「何としてでも殿下をお守りするのだ!」 それまで様々な要因によって士気を上げていた王軍は怪物達の襲来に戸惑いつつも、自分達の敵であるとすぐに判断して迎撃態勢をとっていた。 「散り散りになるな! 固まって迎え撃て!」 さすがに熟練した戦士達の揃った魔法衛士隊は巧みな連携で、的確な陣を組んで怪物達と相対していた。 この世のものとは思えない怪物達の出現に戦慄し、闇雲に戦おうとする兵達を叱咤し、士気を下げないようにしている。 相手は人間ではなく、もはや悪魔といって差し支えない凶悪な存在なのだ。 ――グオオオアアアアァァッ!! 最も恐ろしい姿が自分達の上空1000メイルに存在していた。 空にぽっかりと開いた巨大な穴から這い出てきた黄金の悪魔は、先ほどから何度もその巨体に見合った凶悪な咆哮を上げ、大地を揺るがし、空気を震わせている。 やがて未だ上空に鎮座し、他の艦体と共に攻撃が止んだレキシントン号の上に着地すると、悪魔は恐ろしい凶行に及んでいた。 太陽のように目が眩むほどの光を生み出し、さらにそこから花火のように弾けた光の矢が、十数隻ものアルビオン艦隊を瞬く間に貫き、焼き尽くしたのである。 ただ一隻、巨艦レキシントン号だけを残して。 これまで散々、空から砲撃を加え自分達を苦しめていたはずのアルビオン艦隊は、見るも無残な破片と残骸と化し、空域を漂い続けていた。 アルビオン艦隊が壊滅的打撃を受けたという本来ならば奇跡としか言えないこの状況を、トリステイン王軍は誰も喜ぶことはできなかった。 何故なら、たった十数隻でしかない艦隊を遥かに上回る異形の軍勢が、そしてその勢力を率いる強大な悪魔の存在があるからである。 奴らにとっては、トリステインもアルビオンも敵も味方も関係ないのだ。 目の前に存在するものは全て破壊し、滅ぼす。ただそれだけのために暴れまわっているに過ぎない。 (わたしは、どうすればいいの……?) 本来ならば浮き足立つべきではない自分が、悪魔達の存在にこうも狼狽し、怯えてしまっている。 いや、実際には今戦っている王軍の兵士達も、マザリーニも、将軍達も恐怖を感じてしまっているのかもしれない。 だがアンリエッタは露骨に恐怖し、そしてそれを必死に押し隠そうとする自分がどうにも許せなかった。 (ルイズ……) 空を見上げれば、悪魔達の波の中を一頭の風竜が飛び交っている。炎や爆発が巻き起こり、悪魔達が次々と蹴散らされていた。 無二の親友はこれほどの恐ろしい悪魔を目の前にしてもああして戦っているというのに、自分は何もできずに怯えるだけ。 アンリエッタは今、自分がこれだけ無力な存在でしかないことを呪った。 「しまった!」 悪魔によって艦隊がほとんど一掃されてしまったことに対する動揺は続いていたのだろう。 黒い翼を生やした一体の悪魔が本陣を死守していた魔法衛士隊の間隙を突き、防御をすり抜けるとアンリエッタの元へと一直線に飛来したのだ。 悪魔達に恐怖し、呆然としていたアンリエッタが我に返った時、襲い来る悪魔は既に目の前へと迫ってきていた。 ――ギィェアアアアアアアッ!! 間近で初めて目にする悪魔の醜悪な姿。それはただひたすらにおぞましく、身の毛のよだつ恐怖しか感じることはできなかった。 他の犠牲者の血で塗れた鋭い爪を悪魔はアンリエッタに振りかざそうとする。 恐怖に支配されてアンリエッタも、彼女の跨るユニコーンもピクリとも体を動かすことができない。 「殿下!」 隣に控えるマザリーニが、咄嗟にアンリエッタの体を突き飛ばそうとする。 せめて、これから国を担うべき主君は何としてでも守らなければならない。 だが、あまりに突然だったこともありとても間に合わない。マザリーニが体を動かそうとした時には既に悪魔の爪が振り下ろされていた。 ――ヒュンッ……。 ――ザシュッ! 鋭く空を切り、そして肉を切り裂き抉る生々しい音が響く。 「……っ」 呆然とするアンリエッタは目の前で起きている出来事を、心を支配する恐怖のせいで認識するのが数秒遅れてしまった。 今まさに振り下ろされた爪が目と鼻の先に迫っていた中、悪魔の胸から鋭い何かが突き出ているのだ。 バチバチと音を立てながら青白い稲妻を散らしているそれはどうやら剣の先端のようだった。 悪魔の胴体を背中から貫いていたのは紛れも無く一振りの立派な造りをした大剣であり、刀身から溢れ出る稲妻が自身を包み込んでいる。 ――ガ……グ……グヘェッ。 己の体を貫かれている悪魔は呻き声を漏らすと血反吐を吐き散らし、ばたりと前へと倒れこんだ。 そして、悪魔の体はアンリエッタ達の目の前で泥のように液状化すると草地に吸い込まれるようにして溶けて崩れ、骸一つ残さず消滅していく。 後には悪魔の体を容易に貫き、一撃で仕留めた大剣だけが突き立てられ、その場に残される。 一体誰が、こんなものを? それに、この剣は何なのだ? 見た所、ただの剣ではないようだが……。 アンリエッタはユニコーンの上から未だ刀身に帯電をしている大剣を見つめ、絶句していた。 杖をもって魔法を操るメイジは剣を手にすることはない。剣は平民の一般的な武器である。 と、いうことはこの剣の持ち主は……。 「姫殿下!」 戦場に響く怒号や轟音、悲鳴の中にさらに響いたのは、一人の女の声だった。 といってもその声は女とは思えぬほどに苛烈で逞しく、一声聞いただけで声の主が男勝りな気丈夫であることが窺える。 アンリエッタとマザリーニの元に駆け寄ってきたのは、板金で各所を保護した鎖帷子を身につけた金髪の女剣士だ。 彼女の背後には20人ほどの平民の兵士、しかも女だけで構成された小隊が付いてくる。 「ご無事でございますか? 姫殿下」 その隊の頭であるらしい女剣士は突き立てられた稲妻の剣の柄を握ると、そのままアンリエッタの前で跪き、安否を問う。 ハッと我に返ったアンリエッタは自分の前に平伏する女剣士を真っ直ぐと見やる。 「……ええ。大丈夫です。助かりました」 まだ悪魔達への恐怖が心に残りつつも、大将らしく毅然とした態度で返した。 「アニエス殿! 新手です!」 女剣士アニエスの部下達は七人ずつ分けた隊列を三つに組んで敵を迎え撃っていた。 マスケット銃で武装する彼女達は低姿勢でしゃがんだ最前列が発砲すると、背後に立った二列目が間髪入れずに発砲を行う。その間、最前列は即座にマスケット銃に次弾を装填を始めていた。 そして、二列目が弾込めを行っている間、最後列がさらに発砲を行う。これが終わると、次は弾の再装填が完了した最前列が発砲を再開するのだ。 火蓋を開け、撃鉄を起こし、弾と火薬を詰め直し、そして引き金を引く。その間、別の者が発砲を行う。その繰り返しである。 実にてきぱきとした歯切れの良い動作で行うため、絶え間ない銃弾による波状攻撃が迫り来る悪魔達を次々に撃ち落していた。 彼女達は単なる一粒の鉛弾ではなく、数粒の小さな鉛弾による散弾を用いていたため、多少狙いが外れても悪魔達の体に広範囲に散った鉛弾がめり込んでいた。 「撃ち方止め!」 魔剣アラストルを背の鞘に収めたアニエスが号令をかけると、彼女は持参していた砲銃に腰のベルトから抜き出した砲弾を装填する。 先端が赤く塗られた砲弾が込められた砲銃を構えると王軍の正面上空を飛び回る悪魔達の一群を射るような目付きで見据えた。 ――バシュッ! 鈍い空気の弾ける音と共に砲口から小さな砲弾が放たれ、本陣より100メイルほど離れた先の空の悪魔の群れへ一直線に飛んでいく。 その中を飛んでいた蝿の姿をした悪魔、ベルゼバブの体にめり込んだ途端、炸裂と共に赤い光が爆ぜた。 アンリエッタとマザリーニはアニエスの放った砲弾が飛んでいった先の悪魔達の一群の中で突如目を焼き尽くすと錯覚しそうな赤い爆光が膨れ上がるのを目にした。 さらに巨大な赤い火球が光の中から膨れ上がり、その周りにいる悪魔達を次々に飲み込んでいく。 砲弾の直撃を受けたベルゼバブは火球に飲み込まれて一瞬にして塵と化し、着弾地点からおよそ10メイル以内の悪魔達は膨れ上がる爆炎に飲み込まれ、容赦なく焼き尽くされていった。 アンリエッタは唖然としながらその光景を見届けていた。 今、彼女は何をやったのだ? 平民であるはずの彼女はトライアングルクラスのメイジでなければ起こせないであろう火球によって悪魔達を屠ってしまった。 あの砲弾は、そして彼女の持つあの銃は、そしてそれを容易に操る彼女は何なのか? アンリエッタは心に様々な疑念が、そして期待が生まれてくる。 平民が、たったの一撃で悪魔の一群を苦もなく一掃できるだなんて。 「マザリーニ。彼女は一体……」 アニエスが部下達に再度号令を下し、マスケット銃の発砲を再開させる中、アンリエッタは彼女に対する関心が尽きなかった。 「彼女らは平民の女性だけで構成された一小隊でございます。その隊を率いているのが、あのアニエスという者です」 悪魔の一群が一掃されたことに感嘆としていたマザリーニも我に返り、淡々と説く。 「彼女達は本来は警護の任務を主に行っているのですが、時折王宮からの勤務以外で個人的な仕事も行っているそうですな。 アニエスは魔物退治などの仕事を主に請け負っているそうで」 マザリーニは頭を振ると、何かを決心したかのように言葉を続ける。 「……この際ですから申し上げましょう。殿下の婚儀が間近であったため、報告をする必要はないと思っていたのですが……」 その言葉にアンリエッタは僅かに目を細め、不満げに彼を見やる。 望まぬ結婚だったとはいえ、一体何を隠していたのだ。自分は本来ならば国のあらゆる物事も知っていなければならないというのに。 「二週間ほど前、トリスタニアの城下で悪魔が出没したそうなのですが、その悪魔を討伐したのが彼女なのだそうです」 話を聞き、アンリエッタは納得した。あのアニエスという女戦士が悪魔を相手に臆することなく戦うことができる理由を。 彼女は歴戦の勇士なのだ。幾多の修羅場を潜り抜け、人間を脅かす魔物や悪魔達と争い、生き残ってきたのだろう。 たとえ平民であろうが、それは事実なのである。 魔法の使えぬ平民であるにも関わらず、あのアニエスはそれに代わる力を駆使して今までも、そして今も戦い続けてきたのだ。 (こんな平民がトリステインにいただなんて……) 臣下達より何も知らされていなかったとはいえ、アンリエッタは己の視野の狭さを恥じ入った。 元来、魔法の使えない平民は大した戦力にならない存在として見られており、重用されることなど無きに等しい。 せいぜい、弓や銃などの武器を持たせて矢面に立たせられる程度である。 だが、その考えが全て誤っていたものであることをアンリエッタはその目にありありと刻み付けられていた。 あのアニエスはたったの一太刀、たったの一発で恐ろしい悪魔を屠ることができるのだ。 手練れの戦士である魔法衛士隊のメイジ達でさえ、一体を倒すのに苦労しているのにも関わらず。 その力を有効活用できない自分達王族は、貴族は何とも愚かな存在なのか。 (彼も、メイジではない……) ふと、アンリエッタの脳裏に過ぎったのは一人の男だった。 今、この闇空の中を飛び交う風竜の上で戦っている無二の親友。彼女が呼び出したという使い魔――スパーダ。 未知の異国たる東方の貴族だというその男もまた、メイジではなく剣を手にして敵を打ち倒す剣豪だという。 一ヶ月前、無理難題の任務を押し付けてしまった無二の親友と、その仲間達を守るため、彼は己の剣を振るってくれた。 おまけに彼は力だけでなく、公明正大かつ聡明な、まさに理想の貴族そのものとも呼べる威厳さに満ちていた。 アンリエッタは飾りの姫などと呼ばれていた自分などとは比べられない、絶大なカリスマのようなものを彼から感じ取っていたのだ。 彼のような貴族がもっとこのハルケギニアにいれば良いのに、という願望を抱いて。 (彼とはあの時に会ったきりね……) 思えばその男と会ったのは、初対面の時だけだった。親友が任務を終えて報告のために戻ってきた時も彼の姿だけはどこにもなかったのだ。 彼には一言でも礼を言わなければならないというのに。 恐らく、彼は今あの風竜の上で主たる無二の親友を、ルイズを守るために剣を振るっているのだろう。 (この国には、必ずあなた達のような人間が必要になるわね) 平民でありながら悪魔をも打ち倒す力を持つ女傑。 知と力を兼ね備えた真の貴族の姿を体現した異国の剣豪。 この二つの力は、トリステインになくてはならぬ存在であることをアンリエッタは思い立っていた。 土くれのフーケの暗躍によって壊走したアルビオンの地上部隊の残党はものの数分と経たずして悪魔達の餌食となっていた。 鋭い爪をふりかざし肉を切り裂き、抉り、臓物を引きずり出す。 頭を、四肢を、胴体を、猛獣よりもえぐいその牙で噛み砕き、引き千切っては捨てる。 オーク鬼などの獰猛なただの亜人達などよりも惨たらしい悪魔の所業に、アルビオンの兵達が全滅するきっかけを作ったフーケですら目を覆いたくなった。 本来ならば彼らは彼女から大切なものを奪っていた憎き仇であり、その復讐を兼ねて彼らから勝利を奪うべく工作活動を行ったのである。 だが、正直今となっては彼らの辿った末路が哀れに思えてきた。 「……とりあえず、これで一段落ということだね」 もっとも、それで自分の復讐心が萎えることなどなかったが。 だが次に自分がやるべきことは、己の復讐心を満たすためではない。 自分達に救いの手を差し伸べてくれた恩人のために、今こそその恩に報いるのだ。 「あいつらの数だけでも減らさないとね」 先刻、アルビオンの兵達をことごとく蹴散らしたフーケの作り出した土くれの巨兵は、今もまだ戦場の中で暴れまわっていた。 悪魔達は獲物である人間にしか興味がないようで、ゴーレムには見向きもしない。 それでも一応、フーケはゴーレムを操作してトリステインの王軍に襲い掛かる悪魔達を捻り潰そうとしていた。 だが、悪魔達の数があまりにも多すぎる。いくら蹴散らし踏み潰し、薙ぎ倒してもキリがない。 おまけに空を飛んだり、異常な身体能力を有していたりで素早い奴らばかりなのでかわされてしまう。 「おっと……とうとうこっちにも来たかい」 そんな時、フーケは顔を顰めると杖を手に身構えた。 戦場から外れ、やや距離もある林の中とはいえ、悪魔達はタルブ全土を覆い尽くしているのだ。 奴らは人間がどこに隠れていようがその存在を嗅ぎ付けて襲い来る。 それは今、彼女の目の前に数体の悪魔達が姿を現しているように。 フーケの存在を嗅ぎつけた悪魔達は当然、その命を狩るために爪牙を剥き出しにしていた。 「悪いけど、私はまだ死なないよ。彼に報いるまではね!」 フーケは鋭い視線で悪魔達を睨み返し、杖を振るった。 足元の土がボコボコと小さく盛り上がり、次々と無数の握り拳大の塊となり、さらに極限まで圧縮されて硬化される。 悪魔達は獰猛な雄叫びを上げ、フーケに向かって突撃してきた。 だが、フーケは冷静に杖を振り上げる。すると、足元の土礫が次々と悪魔達へと殺到した。 砲弾のような勢いで飛来した土弾――ブレッドの魔法は悪魔達の胸を、頭を直撃する。 胸に大きな風穴を開けられ、首から上を抉り飛ばされ、一撃で悪魔達を仕留めていた。 「人間の力を甘く見るんじゃないよ、悪魔ども」 啖呵を切りながら、フーケはさらに襲い来る悪魔の攻撃をかわした。身に纏うマントが爪に破かれ、フーケはマントを放り捨てる。 「貫け!」 すれ違い様に杖を振るうと、目の前に透けるように無数の土色の魔力の矢、マジック・アローが現れ、悪魔に向かって殺到した。 タルブの上空2000~3000メイルの空域は無数の戦艦の残骸が浮遊する船の墓場と化していた。 ハルケギニアへの直接侵攻を開始した羅王・アビゲイルの破壊の力により、無用の長物と化したアルビオン艦隊は旗艦レキシントン号を残して全てが無残な姿へと変わり果てたのである。 壊滅したアルビオン艦体の瓦礫と破片は地上へ落下してくることはなく、空域に浮かんだまま漂い続けている。 フネの動力として積載されていた風石の力が解放され空域一帯に広がり、大量の残骸を浮かべているのだ。 さらに空域の真上に開けられた次元の裂け目から溢れ出る魔界の魔力が現世へと流れ込むことで、風石の魔力が増幅され、タルブの上空はあらゆる物体を浮遊させる魔の領域へと変貌しているのである。 『良い。全てはこれで良い』 その魔の空域に浮かぶ巨大な瓦礫の一部で、アビゲイルは満足げに呟く。 見る者を平れ伏させる凶悪な眼を開き、闇空の下に見える戦場を一望した。 そこでは自らが従える、10万を軽く超える手勢達がひしめき、異世界の人間達の軍勢と戦火を交えている。 役立たずになったアルビオンの地上の兵達は早急に自らの部下達が処刑した。真に強い者、そして戦意を持つ者こそが戦いを生き残る資格がある。 それに値せぬものは、力こそが全てとするアビゲイルには不要な存在だった。 『見るがいい。共に魔を統べし王どもよ。我はこの異世界への一番槍を果たしたぞ』 かつて永きに渡り互いに覇権を争った、二体の魔界の王達をアビゲイルは冷笑した。 魔界の全てを統べる資格があった彼の王達はアビゲイルと拮抗するほどの力の持ち主であった。 だが、戦いに小賢しい策などを用いるという、力ある覇者らしからぬ振る舞いにはアビゲイルも失望させられたものだ。 所詮、策に頼ろうとする者など真の強者より劣る力しか持たぬ弱者の愚考でしかないのである。 結果的にアビゲイルが攻める側となり、出遅れた他の王達はそれを防ぐ側へとなったのだ。 『……魔王も哀れなものだ。だが、それは貴様の自業自得よ』 間抜けな魔王は己の部下に裏切られ、人間界への侵攻に失敗したというから笑いものだ。 腹心などという足手まといな存在を手元に置いておくから魔王は反逆される始末になったのである。 アビゲイルが腹心たる上級悪魔を抱えないのも、力ある上級悪魔による内部崩壊を起こさせないため、そして腹心の欠如による著しい戦力低下を防ぐためだ。 だからこそ、たとえ討たれても戦力への影響が少ない、個体数が多い有象無象の下級・中級悪魔達のみで大勢力を構成しているのだ。 真の強者は、長たるアビゲイルがたった一人いればそれで良いのだ。 『戦いに貴様らのような知恵など、右腕もいらぬ。勝利とは、絶対なる力でもぎ取るものなのだ』 自らの力に絶対の自信を持つアビゲイルは、その力をもって更なる破壊をこの異世界にもたらすべく、行動に移ろうとする。 矮小な人間を相手にしてもつまらない。奴らは自らの手勢に任せていれば良い。 魔界であれば異なる勢力の悪魔達を相手にしたものだが、この異世界ではそれは望めないだろう。それこそ力ある上級の悪魔ともなれば尚更だ。 『魔王の右腕もおらぬしな……』 およそ1000年前、生意気な人間の魔術師に人間界へ呼び出された際、力をぶつけ合った魔王の側近――魔剣士スパーダ。 かつて魔界で戦った時より互いに力は衰えていたが、あの戦いは忘れられない。 あれこそまさに戦いの醍醐味だ。強者と強者が、力と力がぶつかり合う。まさに悪魔の戦いだった。 アビゲイルは結果的に敗れはしたものの、願わくば再び魔剣士スパーダと力をぶつけ合うことを望んでいた。 だが、人間界に降臨し留まっている魔剣士スパーダがこの異世界に存在することなどあり得ない。 ならば、アビゲイルがすべき事、そして相対すべきものはただ一つ。 『この異世界に混沌をもたらすのみよ』 手始めに山の二つや三つを破壊でもせねば、アビゲイルの充足は満たされない。 戦いと、破壊を求める修羅の王にとっては、異世界たるこのハルケギニアそのものを滅ぼすべき敵として認識していた。 幾万もの異形の悪魔達が飛び交う闇空の中で、突如激しい閃光が膨れ上がった。 その光は至近距離であれば目も開けていらず、まともに直視すれば失明し兼ねないほどに強烈なものだった。 「きゃああぁっ!」 タルブの上空、1000メイル付近を飛び回るシルフィードの上でルイズは光から顔を背けながら悲鳴を上げた。 同乗するキュルケとタバサも思わず顔を腕で覆い、怯んでしまう。 「きゅい、きゅいーーーーっ!!」 シルフィードは光こそ直視してはいないが、頭上から発せられている強力な閃光を感知して喚いていた。 ――キ……!! シルフィードを上下から左右、前後と全方位から取り囲んでいた悪魔達はその閃光を浴びた途端、次々と肉体を崩壊させていた。 依り代の体などではなく、魔界から本体のまま直接現世へとやってきた肉体は爆発や炎でも氷の槍や疾風の刃でもない、熱も衝撃も有さぬただの光によって破壊されているのだ。 焼尽、霧散、腐食、融解、破裂、蒸発……ありとあらゆる破壊の結果が悪魔達にもたらされる。 それは一体や二体どころの数ではなく、光の中心からおよそ50メイル以内で遊弋していた悪魔達は、問答無用で灰燼に帰し、消滅してしまった。 光を浴びた瞬間に蒸発してしまった悪魔に至っては断末魔を上げることさえ許されない。 悪魔達を滅ぼした光の中心――シルフィードの背の上で顔を正面に戻すルイズはバタン、と抱えていた物の蓋を閉めていた。 弱まっていた光は途端に消え失せ、何事も無かったかのように収まる。 「こ、これが破壊の箱の力……!」 膝の上に置かれた破壊の箱――スパーダより預けられていた災厄兵器・パンドラの力にルイズは驚愕し興奮していた。 それは無理もない。一瞬にして自分達を取り囲んでいた何百体もの悪魔達を一掃してしまったのだから。 ルイズ達ではそれだけの数を相手にしきることさえ困難なことを、このパンドラはあっさりとやってのけてしまったのである。 「良い物を残してくれて、ダーリンには感謝しないとね!」 パンドラのその凄まじい威力に、彼女の背後から覗き込んだキュルケもまた高揚感に浸っていた。 キュルケの隣からタバサは閉じられているパンドラの箱を覗き込み、じっと見つめて興味深く観察している。 「避けて」 だが、すぐに新たな悪魔達が向かってくるため、シルフィードに命じて回避行動をとらせた。 ルイズが破壊の箱、すなわち災厄兵器パンドラを使用する決断に至ったのは、実に簡単な理由である。 悪魔達の数があまりにも多すぎて、自分達の魔法では対処しきれなくなってきたからだ。 確かに三人の魔法はそれぞれが悪魔達を仕留めることのできる力を有している。だが、彼女達がメイジである以上その力にも限界があった。 メイジは精神力が尽きてしまえば魔法を使うことはできない。ましてや悪魔達を屠れるほどの魔法を連発していれば尚更、消耗は激しいのである。 精神力の限界ギリギリまで魔法を使った所でスパーダより託されていたデビルスターを使い、精神力を回復させていたものの、このままではスパーダが戻ってくるまで持ち堪えられそうもない。 バイタルスターはまだ一つも使ってはいないものの、アンタッチャブルはアルビオンの竜騎士との戦いと、先ほど悪魔の大群に特攻する際に使ってしまって残り一つしかない。 スメルオブフィアーに至っては既に使い切ってしまっている。 何か他に手は無いかと悪魔達から逃げながら思案していた所、キュルケが一言ルイズに向かって提案したのだ。 「その破壊の箱、使ってみない?」 ルイズがずっと抱きかかえていたパンドラを指して。 何でもパンドラは使用する人間のイメージに合わせて様々な武器に変わるらしいのだが、平民の武器や兵器などにそれほど詳しくない三人では使いこなすことはできなかった。 事実、スパーダも「持ち手の知識と記憶に左右される」と言っていた。 唯一、箱そのものの状態の時だけ所有者に左右されない攻撃能力を持つらしいが、それはパンドラの攻撃の中で最も強力かつ凶悪なものであり、無闇に箱を開けてはならないという。 だが、この状況ではスパーダも警告するほどの凶悪な力に頼らざるを得なかったのだ。 どんな破壊の力を発揮するのか分からず、少々不安だったがルイズもパンドラの箱を開けることを決心したのである。 危険だからということで、キュルケとタバサはルイズの後に移動してその力を見守ることにした。 ……結果は、大成功だった。 パンドラの箱を開けた途端、中から放たれた強烈な閃光が悪魔達の一群を一瞬にして壊滅させてしまったのである 破壊の箱、などと呼ばれて学院で安置されていたのも頷けるほどの破壊の力に、ルイズ達は唖然としてしまった。 だが、これだけの力ならばスパーダが戻ってくるまで持ち堪えることができそうだ。 ルイズ達の顔に希望が宿り、悪魔達と更なる交戦を続けることにした。 「もう一発、お見舞いしてあげるわ!」 すっかり意気が上がり、勇躍したルイズは絶えず襲い来る悪魔達にもう一度パンドラの力を叩きつけてやるべく箱を手に身構えた。 後で杖を手にしながら同じく身構えているキュルケとタバサも、ルイズを見守っている。 ドス黒い霧の衣を身に纏い爪を振りかざすメフィスト、ファウスト。 血液状の体で構成され、甲高い雄叫びを上げるブラッドゴイル。 光の槍を手にする天使の姿だが、その純白の翼の下には醜い顔が隠されているフォールン。 いずれもルイズ達の命を狩ろうとすべく取り囲むと、一斉に襲い掛かってきた。 「今よ、ルイズ!」 目を腕とマントで覆いながらキュルケが叫ぶ。タバサも咄嗟に目を覆った。 ルイズは恐る恐る、パンドラの発するであろう閃光から顔を背けると箱を一気に開く。 先ほどと同じように一瞬、甲高い音が響くと共に激しい閃光が箱の中から発せられるのが分かる。 ……ちょっとその光が弱いのは気のせいだろうか。 およそ五秒ほど開け続けている間、魔力の放出される音が響いていた。バタン、とルイズが箱を閉めると光と共にその音も失せる。 ルイズは顔を前に戻し、目の前に映る光景に呆然とした。 「あ、あれ?」 先ほどと同じように取り囲んでいる悪魔達の一群が消滅するのを拝めるのを予想していたが、それを大いに裏切る光景がルイズの目に飛び込んでいた。 「……全然、ダメじゃない! どうなってんのよ!」 ルイズは声を荒げて癇癪を起こしていた。思わず、ドンとパンドラの箱を叩いてしまう。 悪魔達は一匹たりとも消滅してはおらず、未だ空域に遊弋していたのだ。……それもほとんど無傷で。 いや、正確には何体かの悪魔達は体の一部を失っている個体もいた。 メフィストとファウストは身に纏う霧の衣を全て剥がされ、フォールンは腹部を覆い隠していた翼を砕かれ醜い顔が露になっている。 ブラッドゴイルは液状の肉体を石化させ、蟲のような本体だけとなったメフィストやファウストらと共に地上へボトボトと墜落していった。 それ以外の悪魔達は体に傷一つ付いてはおらず、僅かに怯んだだけのようだった。 一種の生命体であるパンドラは所有者のイメージによって変化させた形態によって己の戦闘本能を刺激され、それを力に還元して内包させていく。 内包された力が箱の形態で一気に解放されることで所有者の定めた敵を滅ぼすのだが、一度力が解放されれば再び形態を変化させてパンドラを刺激させなければならない。 スパーダはそのことをルイズには話していなかったがため、ルイズは使い方を誤ってしまうことになった。 「フレイム!」 「マジック・アロー!」 思わぬ計算違いの結果に、慌ててキュルケとタバサが敵を打ち倒すべく魔法を唱えていた。 炎が悪魔を焼き払い、魔力を固められて放たれた矢が悪魔達を射抜く。 だが、数が多すぎる。数体程度を迎撃してもすぐに別の悪魔が襲い掛かってくる。 「えいっ!」 ルイズはがむしゃらにもう一度、パンドラの箱を開けていた。 顔を背けずにいたため、パンドラの光を直視することになってしまったが、一度目に比べて力が弱まった光はそれほど眩しくはなかった。 パンドラの光を浴びた悪魔達は一瞬、その動きを止められて怯んでいる。 「行けるわ! ルイズ、そのままその箱を使ってて!」 「言われなくてもやってやるわ!」 歓声を上げながら言うキュルケにルイズは言い返しながらパンドラの開け閉めを五秒置きに何度も繰り返していた。 パンドラの光を浴びた悪魔達を消滅させることこそできないものの、僅かに怯ませることはできる。 その隙を突いてシルフィードが包囲から脱出したり、キュルケとタバサが攻撃を命中させることができていた。 (まだ戻ってこないの!? 早く戻ってきてよ!) スパーダが魔界からハルケギニアへの帰路についているのは彼の視界を共有することで認知している。 だが、それが分かっているとなると余計にスパーダがこのハルケギニアへ戻ってきてくれるようにと急き立て、焦ってしまう。 彼がいなければ、この戦いを生き残り、勝利することは不可能なのだから。 ――グウオオオオオオォォォッ!!! 「な、何!?」 「……回避!」 耳をつんざき、全てを震わせる咆哮が轟く。 キュルケが戸惑う中、頭上を見上げたタバサが慌ててシルフィードに回避行動を取らせていた。 「きゅいーっ!」 それと共に、地上へ降り注いだのは一条の巨大な極太の閃光だった。雲を切り裂き、地上目掛けて放たれた光線が悪魔の一群とシルフィードに迫る。 急速に側方へと軌道を修正し、間一髪シルフィードは回避に成功していた。逆に悪魔達は何体かがその光に飲み込まれ、一瞬にして塵と化す。 「きゃああああぁぁっ!!」 その光線の余波、そしてシルフィードの急激な動きにルイズはシルフィードの背から振り落とされそうになる。 「あっ!」 様々な衝撃によってルイズの手の中からパンドラが離れていき、空中に投げ出される。 ルイズは思わず手を伸ばすが、虚空を空しく掴むだけだった。パンドラの箱はそのまま地上へと落下していく。 シルフィードの背から顔を外に出し、下を覗き込むルイズはパンドラの箱が落ちていくのを見届けることしかできなかった。 「嘘でしょう!?」 突如、地上の方から凄まじい爆音が激しい閃光と共に響き渡る。 絶叫するキュルケが目にしたのは、地上に放たれた巨大な閃光がタルブに隣接する一座の山を一瞬にして焼き払う所だった。 巨大な爆発と炎が標高600メイルほどの山一面を包み込み、膨れ上がった爆発に飲み込まれた山は、跡形も無く消し飛ばされていた。 激しい爆光に下から照らされる三人は唖然とした様子で地上を見下ろしている。 タバサは険しい顔で頭上を見上げると、アルビオン艦隊の残骸が漂う空域から更に閃光が放たれるのを目にする。 浮遊する残骸の一部に乗ずる巨大な悪魔、羅王アビゲイル。 身を大きく仰け反らせたアビゲイルの口元から眩い光が漏れたかと思うと、アビゲイルはその光を吐き出し地上へ破壊の光を放っていた。 放たれる巨大な閃光は次々とタルブに接する山々へと降り注ぎ、挙句の果てにはさらにその外にまで閃光は放たれていた。 その度に地上の山々は跡形も無く吹き飛ばされ、遠方から爆発の光が上がるのを一望できる。 山が焼き払われ、消し飛ばされた後に残るのは抉り取られ、焦土と化した大地の荒廃した姿だけだ。 (冗談じゃないわ……!) ルイズはわなわなとアビゲイルの破壊の力に戦慄していた。 あんな山さえも一撃で吹き飛ばす攻撃をまともに受ければ、人間など一瞬にして塵も残さず消し去られてしまう。 いや、下手をすればタルブ一帯さえも一瞬にして焼き払うのではないか。そのような恐ろしい想像さえ抱くほどにアビゲイルの破壊の力はルイズに更なる戦慄を与えていた。 ましてや、草原ではトリステインの王軍が……アンリエッタ王女が今も必死に戦っているのである。もしもそこにあれが降り注げば……。 「ルイズ!」 キュルケが叫び声を上げ、ルイズはハッと我に返る。 顔を上げれば、槍を掲げながら浮上する二体のフォールンが目の前に現れたのが目に飛び込んでいた。 さらにその反対側では両腕を胸の前で交差させ、赤く光る鋭い爪を伸ばす三体のファウストが威嚇してくる。 「エア・ハンマー!」 咄嗟にタバサがフォールンに風の槌を放ったが、腹部を覆い隠す純白の翼に張られた結界を破ることはできず、僅かに押し出すだけだった。 「……バーストッ!」 慌てて後に仰け反ったルイズも杖を振るい、フォールンを爆発で吹き飛ばそうとした。 だがドット・スペルの詠唱で放ってしまったが故、小さく弾ける程度の爆発しか起きなかった。 フォールンの翼にはヒビが入るものの、ダメージそのものは与えられない。 ――フンッ! ――ハアッ! 荘厳な掛け声と共に二体のフォールンは槍を振り、突き下ろしてきた。 背後ではキュルケはファウストに炎を放っていたが、ゆらゆらと泳ぐように宙を舞うファウストに攻撃を当てられず、手が回らない。 タバサはブレイドの魔法をかけた杖で一体のフォールンの槍を弾き返していた。 だが、ほぼ同時に攻撃してきたため、もう一体のフォールンの攻撃まで対応できない。 突き出された槍がルイズに迫る。真っ直ぐと、勢いをつけて繰り出された鋭い槍はルイズの顔目掛けて突き進んでいた。 ルイズは魔法を唱えて迎撃することも、その槍を避けることもできない。何しろ、シルフィードの背の上という狭い足場にいる以上、彼女達が直接攻撃の回避を行うことはできないからだ。 魔法はどうしても呪文詠唱による隙ができてしまう。ましてや特訓で自分の物とした炸裂魔法も短いドット・スペルの呪文ではフォールンを怯ませることさえできない。 目を見開いたまま、ルイズは自分の命を奪おうとする悪魔の攻撃を凝視することしかできなかった。 ――ビシャンッ! 鋭い雷鳴と共に、突如フォールンの体を稲妻の槍が貫いた。 翼の結界を貫通した稲妻はフォールンを純白の翼もろとも一瞬にして焼き焦がし、フォールンを撃墜する。 フォールンの魔力の象徴たる羽毛状の光がひらひらと周囲に舞い散り、溶けるように消えていった。 「な、何! これ!?」 キュルケも困惑した声を上げた。 シルフィードを取り囲んでいた悪魔達は次々と下方から撃ちだされる稲妻の矢や槍で射抜かれ、撃墜されていくのだ。 ファウストが纏う漆黒の霧の衣やフォールンの翼さえも貫通し、一撃で仕留められる姿はトンボ取りのような光景だった。 「ど、どうしたのよ? これは一体……」 悪魔達が次々と稲妻に射抜かれていく中、困惑する三人。 一体、何が起きているのか。その答えは稲妻が撃ち出されている場所にあるのは確かだ。 三人がシルフィードから身を乗り出し、その下を覗き込むと……紫の雷光に包まれた人影が浮上してきていた。 「あいつ……!」 その人影が何であるかを悟った時、ルイズは怒りに肩を震わせる。 無数のコウモリの大群を侍らせ、その体を空に浮かべているのは、土気色の肌をした妖艶な赤毛の美女。 ほとんど全裸に等しい淫靡な姿は見ているだけで腹が立ち、ルイズの怒りを刺激する。 突き出した手から鋭い雷鳴と共に次々と稲妻を連射し、悪魔達を仕留めているのはあの忌々しい女悪魔、ネヴァンだった。 スパーダが帰ってくるまであの聖碑、地獄門の監視を行っていたはずの彼女が何故、ここにいるのか? (あ、あんな奴に助けられるだなんて……!) 以前、半殺しにされた相手に命を救われることになるだなんて、何たる屈辱か。 ルイズは拳を握り締め、自分達と同じ高さにまで浮上してきたネヴァンを睨みつけていた。 「やっぱり、全然使いこなせなかったみたいねぇ」 開口一番に述べられたのは、ルイズに対する嘲笑だった。 いきなりの愚弄にルイズの怒りは爆発し、杖を振りかざそうとした。 「離してよ! こんな奴に馬鹿にされるなんて……!!」 「あたし達が手を出して勝てるような相手じゃないでしょ? 挑発に乗らないの」 ルイズの腕を掴むキュルケが冷静に諌める。 「ま、人間がこれをまともに使いこなすなんてどだい無理な話だわ」 二人のやりとりなど目に入っていない様子でネヴァンは従えているコウモリ達に何かを取り出させていた。 「それは……!」 つい先ほど、ルイズが落としてしまったはずのパンドラをコウモリ達が運んでいる。 ネヴァンは近くに寄せるパンドラの箱に触れ、さすりながらちらりとルイズに流し目を送る。完全に馬鹿にした態度だ。 ルイズはキュルケの手を振り払い、杖をネヴァンに突きつける。 「今更何しに来たのよ! この淫乱女! さっさとそれを返しなさいよ!」 「私が何をしようと勝手でしょう? 人間には関係ないわ」 ルイズの威嚇と要求など知ったことではないと言わんばかりにネヴァンは密集するコウモリ達の大群に腰掛ける。 「これを人間に持たせててもどうせ壊すだけよ。私が預かっているわ。スパーダでないと使いこなせないもの」 言いながら、ネヴァンは腕にかかったショールを振るい、近づいてきた悪魔を斬り付けていた。 彼女とシルフィードが留まる空域にはネヴァンが操るコウモリ達がいるおかげで、悪魔達は簡単には近づけないようだった。 周囲を警戒していたタバサはちらりと頭上を見上げる。 相変わらず、アビゲイルは地上の山々に向かって破壊の閃光を吐き出し続けているのが見える。 そのタバサの視線に気付いたらしいネヴァンも、頭上を見上げてほくそ笑む。 「ふふっ……相変わらず荒っぽい王様ね。でも、スパーダみたいにクールじゃないと駄目だわ」 椅子から腰を上げるネヴァンはゆっくりと腕を左右に広げ、己の体を浮遊させられるだけの一群を残し、コウモリ達を空域一帯に展開させていく。 その外から様子を窺っている悪魔達はネヴァンのコウモリに戸惑った様子で狼狽している。 「この淫乱女、何をするっていうのよ……」 ルイズは憎々しげにネヴァンを睨みながらぶつぶつと呟いていた。 いきなりこんな場所に現れて悪魔達を仕留めたかと思えば、自分を挑発する。一体、何がしたいのか分からない。 キュルケとタバサはネヴァンが展開したコウモリ達を見回しながら、これから彼女が何をしようとするのかを黙って見届けようとしていた。 コウモリ達は悪魔の一群を包囲するような形で展開されている。コウモリ同士が適度に距離をとった状態で。 その中にはネヴァンはもちろん、シルフィードに乗っている自分達も入っている。 「ねぇ、タバサ……」 「……離脱!」 不安を感じたキュルケがタバサの肩を叩いた途端、彼女は何かを看破した様子で慌ててシルフィードに命じた。 シルフィードは命じられるがままに全速力でコウモリ達が展開されている空域から外に逃れようと翼を羽ばたかせる。 タバサは直感で察したのだ。あの中にいれば、自分達も巻き添えを食らうと。 「Are you ready.(さあ、覚悟なさい)」 ネヴァンが囁いた途端、より凄まじい轟音が雷光と共に鳴り響いた。 振り上げた手から拡散した巨大な稲妻がコウモリ達へ向かって飛び、コウモリに命中する。 そこからさらに稲妻が拡散し、別のコウモリに命中、さらにまた稲妻が拡散……。 コウモリ達を伝って拡散する稲妻の連鎖は空域に強力な結界を生み出し、その中にいる悪魔達は幾度となく荒れ狂い続けられる稲妻に焼き焦がされていた。 だが、既に絶命したとしても、吹き荒れる稲妻の嵐は容赦なく治まる様子を見せず追い討ちをかけていく。 ネヴァンの稲妻の結界より逃れていたシルフィードの上で、ルイズ達は唖然とその光景を見届けていた。 「何て力なの……」 伝説の魔剣士スパーダの力に勝るとも劣らない圧倒的な悪魔の力を見せ付けられ、キュルケは嘆息を吐いた。 メイジでさえ単体では絶対に起こすことのできない大技。それをあのネヴァンは自分の力だけで容易くやってのけたのである。 間違いなく、あの中にいれば自分達も悪魔もろとも焼き尽くされていたことだろう。しかもネヴァンはルイズ達に加勢したわけではない。 彼女達を犠牲にすることに何の迷いも躊躇いも持たない以上、邪魔であるならば悪魔達もろとも始末する気だったのだ。 やはり彼女は恐ろしい悪魔なのであると、改めて認識せざるを得ない。 (何よ、何よ、何よ! あの淫乱女!) ネヴァンがあっという間に悪魔の一群を全滅させてしまった光景に、ルイズは怒りを感じずにはいられなかった。 自分達ではせいぜい、十体以下を一発で仕留めるのが精一杯だったのをネヴァンはその何十倍もの数の悪魔達を容易く屠ってみせたのだ。 稲妻の結界が治まると、ネヴァンはさらに稲妻を悪魔達に放ち、撃破している。 悪魔達はネヴァンの強大な力の前に成す術がなく、次々と葬られている。ネヴァン本人はそれを楽しんでいる様子だった。 まるで自分の力を誇示するかのような態度に仕草。実に腹が立つ。 (何か、もっと何かないの!? 悪魔達を倒せる何かが!) 対抗心を露にし、ルイズは模索する。 パンドラはネヴァンに取り上げられてしまっている以上、残るは自分の力しかない。 だが、ルイズの力ではとてもではないが、ネヴァンには敵わない。 元々、スパーダの導きのおかげで鍛え上げた炸裂魔法、バーストはただの魔法の失敗に過ぎなかったのだから。 もっと、強力な力が必要だ。悪魔達を、あのアビゲイルをも一発で倒せそうな大技が。 所詮、人間でしかないルイズではそんな大層なことができるわけがないのだが、とにかくルイズは度が過ぎた力を求めていた。 マントの裏のポケットを探ると、そこから出てきた物を手にしてハァ、と溜め息を吐く。 (こんな物じゃ役に立たないし……) 古ぼけた一冊の本。それはトリステイン王室の国宝、始祖の祈祷書だった。 そういえば自分はアンリエッタ王女がゲルマニアで挙げるはずだった結婚式に選ばれた巫女だったということを、こんな時になって思い出す。 結局、ゴタゴタもあって詔は完成することがなかった。……そんな騒ぎがなかったとしても詩は完成することなどなかっただろう。 もっとも、結婚式がこうして戦争と悪魔の侵攻でご破算になった以上、意味のないことだったのだろうが。 (こんな役立たずな本で何ができるって言うのよ!) 開いてみても、どうせ中にあるのは白紙のページばかりなのだ。 こんなものがどうして国宝として大切に保管されているのかが分からない。第一、この祈祷書自体、数多の紛い物が存在しているというのに。 せめて、何か特別な力でも宿っていればこんなにボロくても役には立っていたかもしれないのに。本当に、役立たずでしかない。 (国宝っていうくらいだったら、まともな力くらい持ってなさいよ! もう!) 恨めしげに祈祷書の表面を睨んでいたルイズは、腹立たしく適当にページを開いてみた。 どうせそこには白紙の紙面しかないはずなのだから。 「ルイズ、どうしたのよ?」 悪魔達を屠るネヴァンから視線を外したキュルケが呼びかけるが、ルイズは祈祷書を開いたまま沈黙していた。 開かれた祈祷書のページの中を食い入るように見つめ、固まっている。 「あなた、こんな所にそんなもの持ってきてたの……」 呆れた様子で語りかけたキュルケであったが、彼女の身に起きている出来事に言葉を失う。 タバサも同じく、ルイズを見つめたまま呆然としていた。 彼女の右手にはめられた指輪、水のルビーが光を放っていることを。 実の所、先ほどから何度も光り続けていたというのだが、悪魔達との戦いに夢中だったため、誰も気付くことがなかった。 今更になって、三人はその神秘的な光に気付いていたのである。 前ページ次ページThe Legendary Dark Zero
https://w.atwiki.jp/tanosiiorika/pages/3104.html
瑠璃(ラピスラズリ)の祈祷師クラスター UC 自然 コスト3 クリーチャー:スノーフェアリー/ルリスレイブ 2000 ■ラピスラズリ・コア-このクリーチャーは名前に《ルリ》とあるクリーチャーの効果を受けない。 ■チルドフォース自然×2-自分のマナゾーンまたはバトルゾーンでタップされている自然のカードが2枚以上あれば、このクリーチャーは次のCF能力を得る。 CF-このクリーチャーは「L・ゲート:スノーフェアリー」を得る。 (F)氷の大地よ、我が祈りに答えよ! ――瑠璃の祈祷師クラスター 作者:ペケ フェアリーデッキでは貴重な墓地回収として活躍出来るフェアリー チルドフォースはこの能力で行きます 収録 エピソード・フロストプラネット~ラピスラズ・リベリオン~ 評価 名前 コメント -