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ラノで読む 突入組はまたもや困難に陥っていた。侵入に成功したはいいが、内部構造が全く把握できないのだ。当然と言えば当然である。突入組に研究所の内部を知るものは一人もおらず、編成した笹島も侵入後のことは殆ど考えていなかったためだ。 詰め所で捕縛した警備員は有葉のことどころか、ここで行われている研究の細かなことさえ知らなかった。そのため、全く情報が得られず、有葉がどこに捕らえられているかの目星さえつかない。研究所内をうろつくも深夜ということもあってか人影は全くなく、所員とっ捕まえて詰問するということさえできてない。 結局、居そうなところをしらみつぶしに探すという、実に効率の悪い結果になっていた。 「これで何枚目の扉かしら……」 有葉救出という使命感に駆られる春部もうんざりしてきた様子で、隣にいるカストロビッチに質問する。 「さあねえ」 これまた、疲れきった様子で生返事をする。 「ここはやはり手分けした方がいいんじゃないでしょうか?」 「それは賛成できないわ。外で騒ぎを起こして注意を惹き付けると言っても中の警備が空になるなんてありえないし」 そう言いながら、春部がカードを読み込み機に差し込み、暗証番号を打ち込む。扉が自動的に開く。中は暗く、よく見えない。 「離れて!」 夜目の利く春部が、周りに注意を促す。室内に何かがいるのに気が付いたのだろう。壁に手を這わせながらスイッチを探す。蛍光灯独特の瞬きをみせながら、室内が明るくなる。 春部が感じた通り、室内の奥には人が横たわっていた。彼女たちがよく見知った人物だったが、目的の人物ではない。 「よ、よう……遅かったな」 手足を縛られた実に間抜けな状態で、さらにその間抜けさを増幅させるような情けない微笑みを振りまきながら召屋正行は春部たちに挨拶をする。 「さあ、ここには何もないわね。みんな、次の部屋よ」 とりあえず、春部は部屋を出て、扉を閉めることにした。 「ちょっと待てって――――っ!」 笹島に散々『教室には持ってきちゃ駄目』と言われた竹刀を肩にかけた六谷が、無駄に大きな胸を偉そうに強調し、自慢げに仁王立ちしていた。街灯の光りがまるでスポットライトのように彼女を輝かせている。 「どうよ、このみんなの窮地を救うようなタイミング、この威力、この命中精度。これなら、委員長も私のことを見直したで……え!?」 「――おい」 いつの間にか、笹島が六谷の目の前に立っていた。それにわずかに驚きながらも、彼女は自分の行為の正当性というか、自分の存在意義を強く説明しようとする。 「あのさ、今のファランクスの威力どうだったかな? 私がいて助かったで……しょ…」 「ええ、そうねぇ……」 笹島は、一部がアフロになった髪を指差しながら、殺人も厭わない真摯な眼差しで彼女を凝視していた。その表情に微笑などが混じる余裕はまるでない。 「え、あの、えーと……その……そういう気は全くなくてえ……、ゴ、ゴメンなさい~」 半泣きになりながら六谷は笹島に謝ろうとする。 だが、そんなことを笹島が許すはずもなく。 「泣く暇あったら、援護しなさいっ!!」 そう言って、輝く右手で地面を殴りつけると、一気に拍手たちのいる方向へと跳んでいく。彼女の能力を使ったのであろう。それでもなお、笹島の右手が煌々と輝いている。気力も能力も十分に充電されている様子だった。 「さあ、相手の過半数は六谷さんのおかげで殲滅できたわ。このままぶっ潰すわよっ!!」 『おーっ!!』 力強い援軍(?)のおかげもあって、二年C組チームはにわかに活気を取り戻しつつあった。 ただ、本当にこれでいけるのかは未だに不安ではあるのだが……。 「な~んだ。これじゃあ、せっかく手伝おうと思ったのに私の出番がないじゃない」 これまでの展開を眺めながら、研究所の近場にいた謎の女性が呟く。別段、闇夜で独り言を呟くだけなら、それほどおかしくはないし謎ではない。 だが、彼女は、パーティなどで目元を隠すマスクにウェイトレスの服装という実にちぐはぐな格好であったし、電柱のてっぺんに立っていたりするのだから、おかしいというか異様過ぎた。 「しょうがない。じゃあ、今回は無しかあ。せっかく、かーくんから色々聞き出したのになあ……」 そう呟くと、彼女はラジカセを足元に浮かんだトレーの上に置いて、ゆっくりと電柱を降りることにする。ちらほら見受けられるこの事件の野次馬にパンツが丸見えだったが、特に気にする様子もない。 ちなみに、彼女と一緒に降りていくトレーに置かれたラジカセに入っているテープのラベルには“タ○シード仮面のテーマ”と書かれていた。 「決め台詞も考えてたのになあ……」 電柱を降りながら、残念そうに彼女は嘆いていた。 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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和「え?なに?」 憂「昨日、私にお姉ちゃんのお昼はパンなのって聞いたじゃないですか?あれって?」 和「え、あー…その…」 和(あれ、なんで私慌ててるんだろ…?) 唯「ああ、和ちゃん、私にお弁当作ってくれたんだよ?とってもおいしかったあ!」 憂「え…そう…なんだ…」 和「あ、別に変な意味はなくてね?毎日パンだと飽きるかと思って…」 憂「そうなんですか…まさかお姉ちゃんが頼んだの?」 唯「え?違うよ?和ちゃんが持ってきてくれたの」 憂「そう…でも悪いですよ!食費だってかかるし」 和「いいのよ!私が好きでやってるんだから…」 憂「いえ!そういうわけには行きません!今度からお姉ちゃんのお弁当は私が作りますから!」 和「え…でも…」 和(そうなったら…唯と一緒にお昼食べられないじゃない…) 憂「それにお姉ちゃん?宿題だって分かるところは教えてあげるって言ってるじゃない! 和さんに迷惑かけて…」 唯「だって…憂に教えてもらうのは姉としてのプライドがぁ」 憂「そういうこと言わないの!今度からは私が教えてあげるから皆さんに頼んじゃダメだよ?」 唯「ぶー…」 和「で、でも私はね…?」 憂「じゃあ和さん、明日からはお弁当大丈夫ですから!宿題も!」 和「う…うん…」 和(憂ちゃん…なにか怒ってる…?) 憂「じゃあ私夕飯の準備があるんで…」 唯「うん、よろしくう~」 和「あ、私ちょっと憂ちゃんと話があるから…」 唯「いってらっしゃーい…あ、宿題…」 和(私、どうしても唯と一緒にお昼が食べたい…だから…) 和「憂ちゃん?」 憂「はい?」 和「私、勝手にお弁当作って失礼だったかも…ごめんなさい!でも…」 憂「ホントですよ…和さんは失礼です」 和「え?」 憂「だってなんだか私が怠けてるみたいじゃないですか…」 和「で、でも唯は好きでパン食べてるんでしょ?」 憂「そうですけど…」 憂「和さんって…何様ですか?」 和「…え?」 憂「お姉ちゃんのこと軽音部の皆さんに任せきりだったくせに…今さらなんなんですか?」 和「う…憂ちゃん?」 憂「なーんて…冗談ですよ!私だって和さんのこととやかく言えませんから」 和「そ、そう…ははは…」 憂「でも和さん、最近お姉ちゃんのこと気になってますよね」 和「う…うん…まあ…」 憂「好き…なんですか?」 和「ま、まさか!そんなことあるわけないじゃない!」 憂「そうですよね!よかったー」 和「そうよ!唯はただの…」 憂「ただの…なんですか?」 和(あれ?友達?幼なじみ?なんだろう…) 憂「あ、お鍋が…じゃあ和さん、また」 和「うん…また」 和(私…唯のことどう思ってるんだろ?普通の幼なじみ…よね?) ガラ 唯「和ちゃ~ん、宿題~」 和「あ、うん…ごめん」 和(そうよ、私たちはただの幼なじみなんだから…やっぱり…) 和「…唯、やっぱりできるところは自分でやりなさい」 唯「え?どうしていきなり?」 和「いいから!わかんないところは教えてあげるから」 唯「ぶー…わかったよう」 和「あと憂ちゃんの言う通り、明日からはお弁当持っていくのやめるから」 唯「ええ?まだ一日だけなのに…」 和(一日だけだから…よ…これ以上だとやめられなくなっちゃう…) 翌日 和「はあ…」 澪「和、今日は久しぶりに二人でお昼にしよう」 和「うん…」 澪「…唯のこと気になるのか?」 和「え?べ、別にそういうわけじゃ」 澪「まあいいけど…そういえば律のヤツ、昨日なんであんなんだったのかな?」 和「す…好きだからじゃない?」 澪「え?誰が誰を?」 和「だから…律が唯を!」 澪「あはは、まさかそんな…」 和「そうよ、律は唯のことが好きなのよ…いいじゃない、お似合いだわ」 澪「…和、その箸…逆向きじゃ?」 和「あ…」 澪「なあ和、お前は唯のことどう思ってるんだよ?」 和「だから…ただの幼なじみよ」 澪「ただの…ねえ」 和「な、なによ」 澪「幼なじみってさ、付き合いが長くなると、逆に距離置いちゃうようにならないか?」 和「え?」 澪「私と律も…こう見えても高校に入る前よりだいぶ絡み減ったんだよ」 和「そんなの普通でしょ?みんな新しくできた友達と仲良くしたほうが楽しいわよ」 澪「和もそうなのか?」 和「……」 澪「確かに私たちといるお前もそれなりに楽しそうだけど…唯といるお前の顔はなんか…」 和「唯といると…ただ…その…あれよ、心配で目が離せないだけ!」 澪「ふうん…ならいいけどな。あ、今日のお弁当もおいしそうだな?」 和「うん…」 和(あ、唯にミートボール食べさせたら喜ぶんだろうな…) 和「はぁ…」 放課後 会長「真鍋さん」 和「はい?」 会長「あなた確か軽音部の人と仲良かったわよね?」 和「は…はい」 会長「悪いんだけど、このプリント持っていってくれない? 夏休み中の部室の使用規則の説明なんだけど」 和「あ…わかり…ました」 和(結局今日も行かなきゃなのか…) 音楽室 律「唯!ジュース一気飲み対決だ!いくぞ!」 唯「よしきたりっちゃん!」 紬「よーいスタート!」 律「ふん!ゴクゴク…」 ガチャ 和「…澪?」 唯「あ、和ちゃん!」 律「ブハッ…ゲホゲホ!どういうタイミングだよ…」 唯「和ちゃんどうしたの?澪ちゃんに用?」 澪「ん、なんだ?」 和「…これ、生徒会からのプリント」 澪「なになに…夏休みの…」 和「じゃあ私これで…」 唯「あ、待ってよ和ちゃん!お茶飲んでいかない?」 和「…いいわ、まだ生徒会の仕事が残ってるから」 唯「ええ…そう?」 唯「あ、じゃあ部活終わったら一緒にまた…」 和「いいって…あんたは練習頑張りなさい?」 唯「うう…ホントにいいの?」 和「いいのよ、じゃあまた明日」 ガチャ 和「……」 和(意外にすんなりいったかな…ま、これでまた前みたいな距離に戻れるわよね) 律「じゃあぼちぼち練習するか!」 唯「……」 紬「どうしたの唯ちゃん?」 唯「なんだかさっき、和ちゃん寂しそうだった…」 律「和が?」 梓「行ってあげたらどうですか?」 唯「でも…和ちゃん、私に近づいてほしくなさそうだったし…」 澪(…二人とも、お互いのことよくわかってそうで、微妙にわかってないんだな…) 澪「唯、行ってやれよ」 唯「え…いいのかな…?」 澪「和、なんか悩んでるみたいだし、お前なら話せばわかるだろ」 唯「うん…じゃあ行くよ」 律「あー…唯?」 唯「なあに?」 律「昨日しつこくくっついて悪かった…あと和にも謝っといてくれ」 唯「うん、私は全然いいんだよ?和ちゃんも怒ってないって!じゃあ!」 澪「お前にしちゃ素直だな?律」 律「別に…昨日は和と唯が仲良くしてて…ムカついただけだよ」 澪「まあ、謝ったんだし、えらいえらい」 律「……」 紬「あらまあ…うふふ」 梓「唯先輩って…意外にモテるのかなあ…」 唯「和ちゃん!」 和「あ…唯?どうしたのよ」 唯「いや、どうしたっていうか…和ちゃんこそどうしたの!?」 和「え?」 唯「なんかさっき寂しそうだったよ?またなにか悩み事があるんだったら相談して?」 和「唯…」 和「…別に悩み事なんてないわよ」 唯「また嘘ついてる!ダメだよ?私には分かるんだって!」 和「嘘ついてるから…なんだっていうのよ」 唯「え?」 和「あんたはいつもそう!私が抱えてること聞き出したってどうもできないくせに… なんで私に構うのよ!」 唯「わ…私は…」 和「私の悩みを言ったところで…あんたにはなにもできないのよ!」 唯「そんなことないよ!私…」 和「じゃあ…もう私に近づかないでよ…」 唯「え?」 和「あんたが私から離れれば…私の悩みは解決するから…」 唯「わ…私が…悪かったの…?」 和「そうよ…あんたが私の幼なじみだから…だから…」 唯「ごめん…ごめんね和ちゃん…私、全然分からなかった…幼なじみ失格だね…」 和「……」 唯「じゃあ…私、音楽室戻るね?ホントに…ごめんね?」 和「……」 和(違う…ホントは…私は…) 和「ゆっ…」 和(でも…呼んだら…聞かなきゃいけないんだ…あの子の気持ちを…) 和「ゆ…」 和(それは…怖い…今までの関係を全部潰しちゃうかもしれない…だったらやめる?…でも…でも!) 和「……」 和(背中を向けちゃダメ…!だって私はいつだって…) 和「ゆいっ…!」 和(背中を押されてきたんだから!) 唯「……?」 和「あんたに聞きたいことがあるの」 唯「なに…?」 和「私はあんたにとって…どういう存在?」 唯「え…?」 和「幼なじみだとか友達だとか、そういうのじゃなくて…今の私は唯にとってどういう存在なの?」 唯「なに…?どういう意味かよくわからないよ…」 和「私にとってのあんたは…とにかく大切な存在なの! 笑ってるのを見るだけで、そばにいるだけで幸せな…そんな存在なの!」 唯「和…ちゃん…」 和「あんたも聞かせて?私がどういう存在なのか!」 唯「……」 唯「私にとっての和ちゃんは…」 和「……」 唯「私の全部を知っててくれる…私をいつも同じ風にに迎えてくれる…そんな…存在かな?」 和「そう…」 唯「和ちゃん、もしかして…これが聞きたかったの?」 和「…唯、私ね?」 和「あんたのことが好きかもしれないの」 唯「うぇっ?」 和「もっと一緒に…もっと近くにいたい…そういう風に思ったから」 唯「う…うん」 和「でも…考えてみたらそれはもうとっくの昔からやってることなのよね」 唯「うん、そう…だよね…」 和「だから…お互いに知りすぎちゃってるからこそ… あんたがホントは私のことどう思ってるか分からなかったのよ」 唯「…そう、だったんだ」 和「でも、今わかったわ…あんたの気持ちが聞けてよかった」 唯「え?それだけでいいの?」 和「うん…私はあんたの気持ちがわかれば、それだけでいいの…」 唯「和ちゃん……」 和「変なこと聞いてごめんね?じゃあまた明日」 唯「いい加減、和ちゃんも意地張るのやめなよ」 和「え?」 唯「和ちゃん、遠慮してるでしょ?軽音部にいる私にあまり近づかないように」 和「……!」 唯「いいんだよ?もっと今までみたいに仲良くしよう?」 和「で…でも…」 唯「だって、和ちゃんは私のこと大切に思ってくれてるんでしょ?」 和「う、うん…」 唯「だったら…和ちゃんが大切にしてくれてる私が大切にしてる軽音部は、もちろん大切だよね?」 和「え?えっと…まあ、そうだけど…」 唯「ならいいんだよ!大切にしてるなら、軽音部にいる私をもっと好きになって?」 和「唯…」 和「…私、唯のこと、前と一緒だって思ってた…」 唯「え?」 和「唯は私がいなきゃダメなんだって…何も変わってないんだって…自分に言い聞かせてたの…」 唯「のど…」 和「あんたは強くなってるのに…皆と一緒に歩いてるのにね… 私、あんたに頼られる立場だったのに、いつの間にかあんたを頼る立場になってた…」 和「私、あんたに偉そうなこと言ってたけど、ホントはダメな…」 唯「そんなこと言っちゃダメだよ和ちゃん!」 和「…え?」 唯「私を頼ったらなにがいけないの?もっと頼っていいんだよ?」 和「で、でも」 唯「私、うれしいんだよ?和ちゃんに頼られるなんて」 和「うれしい…?」 唯「前は和ちゃんに頼ってばかりで… 情けないなあって思ってたけど、やっと頼られるようになったんだもん!うれしいよ!」 和「唯…」 唯「だからもっと私を頼って!私、今まで和ちゃんに頼った分、頑張って恩返しするからさ!」 和「うっ…う…あ、あり…ありがと…ゆい…」 唯「わ!和ちゃん、泣かないでよもう!」 ――――――――― 和「グスッ…ゆい…?」 唯「よーしよしよし…もう泣き止んだ?和ちゃん」 和「も、もうとっくに泣き止んでたけど…あんたが離さないから泣いたふりしてたのよ」 唯「はいはい、そういうことにしとこうか!」 和「…唯」 唯「ん?なあに?」 和「あんた…大きくなったわね」 唯「え?そうかなあ…?りっちゃんに勝ってるかなー?」 和「そうじゃなくて…」 唯「え?じゃあなに?」 和「全部…かな…なんか、大人になった」 唯「え?どういうこと?よくわかんないよ」 和「わかんなくていいの!」 唯「あ、そうだ和ちゃん」 和「なに?」 唯「生徒会の仕事…途中で抜けられない?また私たちの演奏、見てほしいの」 和「…うん。なるべく早く片付けて行くわ」 唯「ありがとう!待ってるからね?」 和「うん…あ、唯?」 唯「なあに?」 和「ホントに…強くなったわね」 唯「いひひ、そう?」 和「あのね唯…私も…もっと強くなるから…だから…」 唯「ん?」 和「だから…これからもよろしくね!平沢唯!」 唯「うん!よろしく!真鍋和ちゃん!」 おわりです 戻る
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名前:ジェームズ・ストーンフィールド 性別:男 年齢:21 身長:170cm 体重:70kg 容姿:坊主頭、青い目、眉間に傷がある、中肉中背。 おいたち 製鉄工場の重役の家に産まれた8人兄弟の4男。 幼い頃から鉄製品に親しみ、銃の扱いに長ける。 獣士に覚醒した後は父の推薦である貴族の所有する山の管理を手伝う仕事を任され。 パートナーの復元獣を操り山の管理をこなす傍ら、父のバックアップで得た強力な装備を手により自分に最良な有魂獣を求めていた所、無魂獣の出現により、獣士ギルドに召集された。 眉間の傷は現在のパートナーであるレインベアーとの戦闘中についた物。 備考:使用する武器は普通より良質なマスケット銃と、腰に装備したサーベル。 使 用復元獣:レインベアー ジェームズの仕える貴族の所有する山に生息していた身の丈3mもある熊の有魂獣を許可を得て殺し、使役している。 ジェームズが単独で殺したため無傷。 分厚い筋肉は一撃で人間を殴り殺す事ができ、爪や牙はレンガや石を砕くほど強力。 体内に発火器官の様な物があり、噛み砕いた石を一度飲み込み、散弾銃のように口から発射する能力を持つ。 散弾の威力はそこまで高くなく、爆風などで勢いよく飛ぶガラス片程度。 使用復元獣の元となる有魂獣をどうやって倒したか: 巣の洞穴を見つけ出して爆薬を投げ込み致命傷を負わせる事に成功 死亡確認を行おうとした時復活され、眉間に石の散弾が突き刺さったものの反撃に撃った銃がレインベアの心臓を捕らえ、完全に死亡させた。
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ラケットすっぽ抜け【らけっとすっぽぬけ】 ひびきの高校テニス部に伝わる奥義。 まずは、相手に向けて連続サーブをお見舞いする。 だが、きらめき高校の奥義のようにボールが火の鳥になる訳でもないので、全然ダメージを与えられない。 そこで奥義使用者は、目一杯の力を込めサーブをしたはずなのだが……ボールではなくラケットを相手の眉間めがけて投げつけてしまう。 使用者にとっても想定外だったらしく、わずか10ではあるが(おそらく精神的な)ダメージを負う。 あまりに意表をつく攻撃で、ラケットのスピードも出ていたせいか相手もこれを避ける事が出来ず、眉間に突き刺さって大ダメージを与える。 こんな技ではあるが、寿美幸の攻略では坂城匠と決闘になる事が多いので、その際には切り札的な存在になる奥義でもある。 体調・運動・根性も高くしておいてトドメにこの奥義で仕留めるのが理想だろう。 攻略の妨害をされたお返しに思い切りラケットを突き刺してやるのが、ある意味彼への恩返しになることだろう。 関連項目 部活・趣味・バトル テニス部
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LIVE FOR YOU (舞台) 17 ・◆・◆・◆・ 「あいたた……体は丈夫でも痛みは普通にあるんだね……」 「動かないで桂ちゃん。包帯がうまく巻けないわ」 「はあい」 襲撃者をひとまずは撃退した桂と少女達。それとパペットとショゴスが一体ずつ。 すぐにでもこの場を離れたい一行だったが、今一時、桂が負った新しい傷を癒すために止まっていた。 幸いにも新しい襲撃者の気配はまだ近くにはないようで、またここでならば治療に使う道具にも困らない。 蝶の力で傷口を塞ぐと、柚明は丁寧に周りを消毒し手早く桂の身体に包帯を巻いてゆく。 「着替えがないけど……しょうがないよね」 背中と腹に包帯を巻かれた桂は返り血と自らの血で濡れたブラウスを羽織る。 気持ち悪いけど仕方ない。まさか包帯をサラシ代わりに使うわけにもいかないだろう。 「やよいちゃんの目はどう……?」 「かなりよくなりましたけど……まだ全体がぼやけた感じです。あっもう歩いたりすることは大丈夫ですっ」 「良かったなやよい。一時的なもので……一時はどうなることかと思ったぜ」 「てけり・り!」 やよいの視力の回復具合に喜び合うプッチャンとやよい。 「そろそろ、行きましょう。また追っ手が来るかもしれないわ」 「そうだね」 「おう、一刻も早く離れようぜ」 「てけり・り!」 そうして彼女らは医務室を離れ廊下に出る。 錆びた鉄の匂いが充満する空間。ダンセイニに手を引かれたやよいはなるべく転がる死体を見ないように歩く。 すると、一番前を歩いていた桂がふと立ち止まった。 「……? どうしたんですか」 「いや、ちょっとね……」 そう言って桂は足元に視線を落とす。 視線の先にはあの戦闘員の死体。唯一言霊の支配下に置かれなかったと思われる者がそこにいる。 そしてその戦闘員の頭部に装着されているインカムから雑音交じりの声が漏れ聞こえていた。 戦闘時の配置場所と、言霊に支配されてない点を考えるとこの戦闘員は部隊を指揮する隊長だったのだろう。 「…………」 桂は戦闘員からインカムを取り上げげて耳に当てる。 敵方も通信状況は芳しくないのか、ザラザラとしたノイズまじりの声が聞こえてくる。 『……小隊……応答……ろ』 通信の途絶えたこの隊への呼びかけだろう。 インカムから各地に配置されているであろう部隊への通信が聞こえてくる。 だが専門用語や符丁を交えた言葉は理解しがたく、特に有益な情報は得ることはできない。 時間の無駄かと桂はそのインカムを捨ててようとして、その時―― ――――死んじゃえばいいのに……―――― 「えっ……?」 何か声がしたような気がした。 インカムから聞こえる戦闘員の声じゃない。 少女の声。頭に直接響くように聞こえたその声は―― 地獄の底から響く呪詛の声。 憎しみと怨嗟に満ちた声。 聞いたものの背筋を凍らせる深く冷たい声。 そして――インカムから聞こえる通信に変化が現れた。 『な……何……起こ……て……』 『ば……な……部下……が』 『こ……なこ……聞いて……ぎゃあああああああああああ!!』 『来るな来るな来……な……ひいいいい……いいい!!』 各部隊から聞こえてくる悲鳴と銃声。 仲間達が何かしたのだろうか? 否、それにしては通信から聞こえてくる声は恐怖に満ちたものばかりだ。 インカムからの絶叫は桂の側にいる柚明とやよいにもはっきり聞こえるほど激しい。 得体の知れない何かがこの施設内で起こっている。 それは戦闘員達にとっても全くの予想外のことなのだろうと想像がつく。 しかし、一体何が起こっているというのか? 『あの……化け狐め……部下を操り人形に変え……も飽き足らず化物に……で変えや……畜生ぉぉぉぉ……』 銃声のあと何かが潰れる音がして通信がブツリと途絶えた。 部隊の指揮官が全滅したのだろうか。耳を当ててももう意味のあるような言葉や音は聞こえてこない。 「な……なにが起こっているの……?」 未知の出来事に背筋が凍る思いがする三人。 何が起こっているかわからない。けど一刻も早くここを離れよう。 そう頷き合う三人の背後で、声がした。 「う……あ……ぁ」 苦しげなうめき声。 振り返った先には倒したはずの戦闘員ひとり苦悶の表情を浮かべ呻いていた。 口をパクパクと金魚のように動かして。救いを求めるように天井に向かって手を伸ばしている。 全ての者に致命傷を与えたはずだがどうやら未だ絶命には至っていないらしい。 ならばせめて苦しまないように介錯をするのがよいかと桂は拳銃を構え呻きをあげる戦闘員を狙い―― だが――瀕死のはずの戦闘員がゆらりと立ち上がった。 「な……っ?」 「ひっ……!」 桂とやよいが口を揃えて声を発する。 死に至ってないとはいえもはや立ち上がれるはずのない傷を負っているはずである。 例え生きていたとしても遠からずその苦しみのままに死を迎えるだけであるはずなのに――! 「ううぅ……ぁぁ……!」 立ち上がった戦闘員は頭を押さえ悶え始める。 血塗れの身体をギクシャクと動かしまるでできそこないのロボットか、糸の足りない操り人形のように。 これは一体何事なのか? ともかくとして尋常な出来事ではない。 介錯ではなく膨れ上がる不安を打ち消そうと桂は改めて銃を構えなおし―― 少女の呪いは深い穴倉の中を伝播する。 誰からも救いを得られることなく孤独に最期を迎えた一人の少女。 この世全てを怨み、呪い、憎しみ抜いて死んだ少女の呪詛が全てを塗り替えてゆく。 ――――死んじゃえばいいのに……―――― 「うっ……うああ……ァァァ……ウオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ!!!!!」 瀕死のはずの戦闘員が力強い咆哮を上げた。 メキメキと音を立ててそのヒトの身体が別のモノへと変貌してゆく。 着ていた服を内側から裂き歪に膨らんでゆく筋肉。見る見る間に増してゆく質量。 体躯は元の倍ほどにまで膨れ上がり、丸太の様になった腕の先からはバキリと音を立てて爪が飛び出す。 割れるように耳まで避けた口の中には肉食獣のような鋭い牙がずらりと並んでいて。 そして、頭の左右から捻れた角が木の枝のように突き出しその異形は完成した。 「ははっ……何の冗談だよコレ……」 恐怖に堪えてなんとか声を絞り出すプッチャン。 ここにいる誰もが思っただろう。 何なんだこれは――と。 「みんな下がってぇ――ッ!!!」 叫ぶと同時に桂は両手に構えていた拳銃を異形に向かって撃ち放った。 三メートル近くある巨躯に向かってひたすら連射する。 しかし放たれた銃弾は全て鉄の壁にぶつけたような音とともに弾かれただ床の上に散らばるだけだった。 「そん……な……」 拳銃だけでなくマシンガンでも結果は同じだった。 あの異形には銃が通用しないということらしい。 もはや人のものとは思えぬ暗い色の皮膚は鋼鉄並の強度があるというのか。 ただ驚愕に目を瞠る桂。そして再び、大気を震わせる獣の咆哮。 「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォオ!!!!」 異形が音を立てて床を蹴る。 その鈍重そうな外見とは裏腹に異形は恐ろしい瞬発力で桂へと肉薄してきた。 気づいた時にはもう振りかざされた腕が目の前に迫っている。 避けきれない――! 桂は咄嗟に銃を捨て、帯刀していた小烏丸を鞘走らせ、抜き様に一撃を受け止めた。 ガキンと硬質の爪と刀身がぶつかり合いそこに火花が散る。 「こ、の……、っ!? きゃあああああああ!!」 「桂ちゃん!?」 異形はその凄まじい膂力をもって刀を構える桂ごと弾き飛ばす。 広い廊下を飛ばされ、桂はそのまま轟音を立てて壁に打ちつけられた。 「あ……ぐっ……ぅぅ……」 あまりの衝撃に壁が崩れ、隙間から土煙が濛々と立ち上がる。 壁の中に通っていたケーブルが切れたのか、蹲る桂の背後でバチバチという音が聞こえた。 そして桂も神経が引き千切られたかのような痛みに立ち上がることができないでいた。 倒れているわけにはいかない。なのに、異形は無慈悲にも桂を無視して柚明とやよいへと爪を向ける。 「冗談じゃねえぞ……! こんなバケモノまともに相手してられるか……!」 「柚明さん!」 「やよいさん……絶対に私から離れないで!」 柚明の眼前へと迫る異形。 もはやこの距離では剣を生成している時間はない。 それに柚明の身体能力は普通の人間とさしたる違いはない。 もし桂すらも吹き飛ばした攻撃を受け止めようとすればまず間違いなく死んでしまうだろう。 「ォォォォオオオオオォォォォァァァァァアアアアア!!!!!!」 容赦なく振り下ろされる腕。 柚明は切り札である電磁バリアを展開しその一撃を受け止めた。 異形の攻撃は青白い障壁に阻まれて柚明とその後ろに隠れるやよいのもとには届かない。 だがしかしダンプカーが衝突するかのような衝撃が柚明を襲っていた。 「なんて……力……! このままじゃ……」 異形は不愉快そうに喉を鳴らした。 目の前に獲物がいるというのに妙な壁に阻まれて手が届かない。 ならば、壁が邪魔なら壊してしまえばいいだろう。 そう思ったのか、異形は怒り狂ったような咆哮を上げ、電磁バリアに向かって何度も拳を打ちつけ始めた。 「だめ……! もう……持たない……!」 柚明の悲痛な声。 一撃を受けるたびに障壁の上に青白い火花が散り、衝撃が柚明を襲う。 もう一撃。弾けるような音を立てて障壁が撓んだ。 更にもう一撃。明らかに障壁はその硬度を失い始めている。 そして更にもう一撃。柚明の口から啼く様な悲鳴が零れ、障壁に白い皹が走る。 後一撃で障壁は破壊される。異形は愉悦の笑みを浮かべ最後の一撃を振りかぶり、それを振り下ろ―― 「――――!? グオァァァァァァァァァァァアアアァ!!」 ドス黒い色の血が柚明へと降りかかり、異形が悲鳴を上げて苦しみのたうつ。 何事かと見れば、振り上げられた腕が根元から切り落とされ、断面から吹き上がった血が雨となって降っている。 その背後。血色の雨の中には肩を大きく上下させる桂が刀を手に立っていた。 「わたしを無視して背中見せるからだよ……ッ」 ハァハァと荒い呼吸を無理矢理に抑え、桂は怒りと痛みに喚く異形へと相対する。 土気色の顔には脂汗が浮かび、彼女の苦痛も異形のものとそう変わらないように見えた。 「桂ちゃん――怪我を――!」 桂の脇腹に突き刺さった拳大ほどの破片を見て柚明が悲鳴をあげた。 破片は内臓にまで達しているのだろうか、今度はどくどくと止め処ない血が流れ落ちている。 「こ、の……女の子にはもっと優しくしてよ……ぐ、ぅ……」 突き刺さった壁の破片を引き抜くとごぼりと音を立てて更に血が溢れ出した。 真新しい血は音を立てて床を濡らし、そして贄の血の香りがこの場に漂っていた臭いを上書きしてゆく。 「ゴオオァァ……ハァッ……ハァッ……ハァッ……」 それを受けてか異形の様子が変わった。 犬の様に舌を出して小刻みに吐かれる荒い吐息。 血走った双眸。 ゆらりと異形は桂のほうに一歩踏み出した。 「まさか――桂ちゃんの血を……!」 あらゆる人外の存在を惑わし狂わせる贄の血。 柚明はここら一帯に充満してゆく贄の血の芳香を感じていた。 そして、この異形も例に漏れず贄の血を喰らおうとするだろうと―― 「あはは、そのほうが都合がいいや。わたしがいるかぎりコレはわたしを狙うんだから――!」 不敵な笑みを浮かべる桂。 その笑みが癪に障ったのだろうか、異形は叫び声を発し桂へと飛び掛った。 縦に振り下ろされる異形の腕。これを桂は飛び退くことで避け、床に転がっていた自分の鞄を素早く拾い上げる。 更に間髪入れずに繰り出される異形の一撃。 ごうと音を轟かせ桂の鼻先を掠めたそれは、堅い床にまるで杭のように突き刺さる。 恐ろしい威力ではあったが、それ故にそこに大きな隙が生まれた。 鞄の口に手を差し込んだまま桂は跳躍。床に刺さったままの異形の腕を足場にもう一跳躍。 まるで五条大橋で弁慶と戦った牛若丸のような華麗な身のこなしで異形の肩へと飛び乗ると鞄から腕を引き抜いた。 その腕に構えられるは九七式自動砲。何者をも喰い散らかす黒金の牙。 まだヒトの頃の知能が残っていたのか、それを見た異形の顔に焦りの様なものが浮かんだ。 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」 振り落とそうとした異形に対し、桂が機先を制しその顔面に刀の切っ先を走らせる。 激しい痛みに苦悶し強く身体を揺さぶる異形。 しかしそれも桂が眼窩へと刀を突き刺すとまるで杭を打たれたかのようにピタリと収まった。 だがそれでもまだ異形は死に至らない。差し込んだ刀は脳にまで届いていてもおかしくないというのに。 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!! ガ――――ッ!??」 不意に咆哮が中断される。 視界を奪われた異形は何が起こったか理解できない。 ただ口の中に硬い金属の棒の感触と、鉄の味がすると感じるだけだ。 次の一瞬。辛うじて失明を逃れていた残りの目が見たものは先程の銃を自身の口に捻じ込んでいる少女の姿であった。 それが何を意味するのか。異形の知能が理解へと近づいてゆく――が、それに辿りつくまでの時間はもうなかった。 「これに耐えられるなら耐えてみろおおおおおおおおおおおおおお!!!」 「アギャ――?」 異形の口内で鉄火が弾けた。 爆音が轟き、連続する破壊の音に異形の頭部は見る見る間に形を崩し、遂には爆散する。 頭蓋骨の破片が、血と脳漿が混じったものが、折れた角、バラバラになった牙が、眼球が、床にぶちまけられる。 いかな頑強な生物と言えど、頭を丸々失ってしまえば生きてはいられまい。 数えて七発の弾丸を喰らった異形は身体を傾げさせると、そのままモノのように床へと崩れた。 「はあ……っ、はぁ……やった……よね?」 桂は倒れこんだ異形に近づき生死を確かめる。 やはりこれほどの異形とあっても頭を吹き飛ばされては起き上がってくる気配もなかった。 「桂ちゃん! すぐに手当てを!」 その桂へと蒼い蝶々を纏わせた柚明が慌てた風に駆け寄ってくる。 「ちょっと待って、どうせ治すのなら先に柚明お姉ちゃん飲んで。このままだと勿体ないよ」 「あ……うん。そうね……」 だが、手当てを始めようとする彼女を止めると桂は赤く濡れたブラウスを捲って傷口を――血を彼女の前に曝した。 先程まで石片が突き刺さっていたはずの傷口はもう半ばほどまで閉じていたが、まだどろりとした血が流れ出している。 柚明は息を飲むと、桂の脇腹へと口をつけ少しも零さないようにと丁寧に啜り始めた。 唇を窄め、そして掻き集めるように傷口へと舌を挿し込む。 「んく……っ、はあ……はあっ……」 じゅるり……ぺちゃぺちゃ……。 再び静寂を取り戻した廊下に血を啜る音が鳴り続ける。 しばらくして、満足した風に口を離すと柚明は蝶を展開して桂の治療へととりかかった。 「それにしても一体こりゃ何なんだ……? 神崎の秘密兵器か何かか?」 やよいの腕の先でプッチャンは手を組んで首を捻る。 「変身ヒーロー物の怪人みたく密かに改造されてた……なわけねえよなあ」 普通の人間を遥かに超える巨体と鋭い牙と爪をもった怪物。 そして頭に生えた角。これらの特徴に一致するもの。ひとつだけ心当たりがある。それはまるでお伽話に出てくる存在。 「鬼――」 柚明がぽつりと漏らした単語。 昔話に幾度となく登場し、人を喰らい略奪を繰り返した異形の生物――鬼そのものだった。 「そんな……これがサクヤさんと同じ鬼なわけないよっ!」 「ええ、そうね。サクヤさんは人とは違う種ゆえに人々から鬼と呼ばれ続けた種族。これとは根本的に違う存在よ」 「じゃあ……これは……」 「激しい憎悪がその身を変質させるまで至った存在――私はこの島で似たような存在を見たわ。 桂ちゃんも見たはずよ。もっともあの時はここまで身体が変質してはいなかったけど……」 「確かに……いたよ。りのちゃんはそれに――」 「何だって……! りのはこんな化物に殺されたって言うのかよ!」 「わたしが見た時はまだ人間の姿をしていたよ。 普通の女の子の姿だったけど、……アルちゃんが言うには色んな魔術的な何かをごちゃ混ぜにしたような物だって」 桂の語るかつて出会った異形の少女。 その話を聞いていたやよいは険しい表情で桂に質問した。 「あの……その人――いえその鬼は何か言ってませんでしたか? 赤ちゃんがどうとか……」 「言ってたよ……やたらお腹の中に赤ちゃんがいることに執着してた」 「やっぱり……葛木先生……ぐすっ」 「やよい……」 身を挺して鬼から逃がしてくれた葛木宗一郎を思い出し涙を浮かべるやよい。 「なあ……最終的にあの鬼はどうなったんだ?」 「わたしが知ってるのは、戦闘機に乗って襲ってきたんだけど……」 「はあ? 戦闘機ぃ? 変な冗談はよせ……ってこんな時に冗談なんか言うはずはないよな」 「その後急に変な動きになって海の方に落ちて行ったよ。わたしは知ってるのはそこまでだけど」 「そうか……」 「私も桂ちゃんとやよいさんが見た鬼とは違うのを見たわ……あれも元は人間……普通の女の子だった」 鉄乙女。そして西園寺世界という名の悪鬼。 考えてみれば彼女達がああ成り果ててしまったのも、この過酷な運命に翻弄された結果なのだろう。 彼女達が鬼に至るほどに思いつめていた憎悪と絶望。そして渇望を知る者はもはやいない。 出来事は伝える者が残っているが、そこにあった想いはもう全て闇の中だ。 「そろそろ行こう。他の人たちが心配だよ」 桂の呼びかけで一行はこの場を離れるはじめる。 多数の戦闘員にそれが変化した悪鬼。畳み掛けるような窮地に曝されたが辛くも切り抜けることができた。 それが今までにないほどの危機だったせいか、無意識のうちにこれ以上はないと考えてしまったのかもしれない。 いやそれともただ目を背けていたのか。彼女達はある事実を失念していた。 通信の内容から悪鬼は他にもいるということ。そしてこの周辺には桂の流した贄の血の芳香が充満していることに―― ザ…… 立ち去って行く彼女らの後ろ。廊下の曲がり角から一体の悪鬼が姿を現した。 その手には飴細工のように捻じ曲げられ、禍々しい魔槍と化した鉄パイプが握り締められている。 そして鼻を鳴らしていた悪鬼は甘い匂いを撒き散らす果実をその目に発見すると、それを得んとすべく魔槍を―― 背後から何か聞こえた気がして振り返ったプッチャンの顔が強張る。 その視線の先には桂が苦労して倒したものと同じ悪鬼がいて、こちらへと向かい何かを投げようと、いやすでに―― 「みんな伏せろぉぉぉぉぉ!!!!」 「えっ……?」 全てがスローモーションのようにゆっくりと動く中で柚明はそれを見た。 ごうと風を切り飛来する何か。 その進む先には桂が立っていて。 気づいていない彼女はきょとんとした顔で振り返り―― (だめ……! よけて――――!) 言葉を発しようとしてももう遅く。手を伸ばすことなどできるはずもなく。見ているだけしかできないその前で。 振り返った桂の胸に魔槍が突き刺さり。 ゆっくりと、ゆっくりと沈んで、 止まることを知らずにどんどん深く槍を桂の中へと沈んで、 背中から、槍が、歪な角のようなそれが、生えて、 そこから弾けた真っ赤な血が暖かく顔を濡らして、 桂の身体がまるで連れ去られるかのように浮き上がり、 そして――そのまま廊下の突き当たりまで飛んでいった槍は壁に深々と突き刺さる。 桂の小さな身体を、まるで虫の標本みたく縫いとめるように。 ただ一瞬の残酷。時が溶ける瞬間。柚明は自分の悲鳴を聞いた―― 「け……い、ちゃん……!? ――――嫌ぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁあああああああっっ!!!!」 ・◆・◆・◆・ 「がっ……はっ……あぐあぁぁっ」 全身がバラバラになるような衝撃が鳴り止まない。 胸が、まるで中に焼けた石を埋め込まれたようにひどく熱く、重い。 足に地面を踏んでいる感覚がない。身体のどこにも力が入らないのに何故か地面に倒れない。 胸元から生えている銀色の棒はよく見ればそこら中を走っている配管の一部のようだ。 自分の腕よりも太く身体よりも長いそれが胸の真ん中に突き刺さっていて、それはつまり―― (ああ――壁に磔にされているんだ――……) 途端に喉の奥から熱いものがこみ上げ、ごぼりと音を立てて口から真っ赤なものが流れ出した。 ごぶごぶとこみ上げるそれは自分の身体なのにどうしようもなく、止め処なく溢れ出る。 口の中が、鼻の奥までもが嫌なぬめりで満たされて気持ちが悪くてしかたない。 霞がかった視界の先には大きな異形の影が、さっき倒したはずの悪鬼が立っている。 いやそうではない。倒したはずの鬼は今も床に横たわっている。何時の間にかに他の鬼がやって来てしたのだ。 鬼が腕を振り上げ、振り下ろした。何かが飛んでくる。何かを投げたらしいと―― ――衝撃。 堅い壁が突き破られる音が背中越しに伝わり、理解の次に激痛が襲い掛かってきた。 全身が引き攣り、さらに視界が霞む。しかし見えなくとも胸と同じく腹にパイプが突き刺さったのだとはわかる。 塊のような血が口から噴出し、全身がびりびりと震え、背中に寒気が走り、鈍痛が頭を襲う。 内臓がぐちゃぐちゃになっている。熱い血が身体をびしょりと濡らしているのに寒気と震えが止まらない。 「が……ぁぁ……ごぷっ……」 声に血が混じり言葉にならない。 傍らで柚明が叫んでいる。 「いやあぁぁぁぁぁぁ! 誰か桂ちゃんのそれを抜いてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」 半狂乱になった彼女がパイプを抜こうとしているのがわかる。 だが鬼の力で打ち込まれた鉄の杭が彼女の弱い力でどうにかなるはずもない。 ギシギシと揺する音だけが腹の中に響き、まるで鑢をかけているかのような痛みが増すだけだった。 身体が震えるたびに液体が床を叩く音が耳に伝わり意識が重たくなってゆく。 「バカヤロウ柚明ッ!!! 下手に動かしたらホントに桂が死んじまうぞ!!!」 「あああぁぁぁぁ……ぁぁぁぁぁぁぁあああ……!!」 声は聞こえるのにみんなが何を言っているのかわからない。 鬼が来る。 鬼が来る。だから、みんなを逃がさないと。 しかし、声を出そうにも止め処なく溢れる血がそれを邪魔して言葉にならない。 ゴボゴボと気味の悪い音を鳴らして、カチカチと歯を打ち合わせる音を立てることしかできない。 視界が焼き切れてゆくかのように白さを増してゆく。 ぶつりぶつりと脳細胞が少しずつ焼き切れてゆくかのような感覚。 意識を手放してしまえば楽になれるだろうに、鮮烈な激痛が繰り返しそれを阻む。 普通の人間ならばとっくに死んでていいものなのに、なまじ身体が頑丈なせいで死にきれない。 激痛で意識を取りこぼしそうになり、同じ激痛でその意識を拾い上げる。それの繰り返し。無限の責め苦が身を苛む。 しかしいつか……もう少し我慢すれば脳が完全に焼き切れてくれる。 いくら身体が頑丈で死に至らないとはいえど、脳が人のそれである限り耐えられる限度というものはあるはずだ。 こんな苦痛が続くならば、ブレーカーを落とすように脳が死を選んでくれるはず。 後もう少し。ちょっとだけ我慢すれば楽に、楽になれるはずで―― じゃあその後は――? 鬼は死骸に喰らいつき死を陵辱するだろう。 贄の血が詰まった皮袋。 それは妖の存在にとっては極上の食物に他ならない。 どこもかしこも全て喰らえば床に零れたものすらも這って啜るだろう。 そして、鬼は今までに比類なき強大な力を得るに違いない。ならば、その後は―― 「ごぽ……ぁ……て」 声が出ない。 逃げてと、たったそれだけを言いたいのに、声が出ない。 「……ごふっ……いだ……に」 贄の血に貪りつく鬼はしばらくの間はそれに夢中のはずだ。 だからその間に逃げて。 それを伝えたいのに、しかしどうすることもできない。 白い視界が明かりを落とすように黒へと変わった。 もう誰の声も耳には聞こえない。 身体を苛む痛みも、悪寒もふっと感じなくなってしまった。 代わりに、心地よい眠気が訪れて――…… とくん――…… どくんどくんと力強く脈打っていた心臓の響きが弱くなっていくのがわかる。 とくん――…… とくん――…… とくん――…… とくん――――――――――――…… ・◆・◆・◆・ 時に静謐で、時には騒然としていた一番地本拠地司令室だが、この時ばかりは部屋全体が異様な空気に包まれていた。 それは至極原始的でシンプルな感情――”恐怖”にである。 オペレーターのつけたインカムから、モニターの横のスピーカーから、怒号と悲鳴がいくつも漏れ聞こえている。 そしてそれらは大きなノイズを発して途切れたり、悲壮な断末魔を残してひとつずつ沈黙していっていた。 何が起きているのか? 目を瞑れば知らずにすんだであろうが、しかしそこにいる者らはそれを見てしまっていた。 一番地本拠地内の要所、各種コントロールルームに設置された監視カメラから送られてきている映像。 その中で行われている悪鬼による虐殺と破壊の一部始終を。 本部の各所に配置された戦闘員、または職員が見る見る間に異形の怪物へと変じ、暴虐の限りを尽くし始める。 一番最初に犠牲になるのは、運悪くかまたは運がよかったのか、悪鬼とはならなかった人間達だ。 悪鬼は逃げ惑う彼らを捕まえると、まるで子供が人形で遊ぶようにそれをバラバラにしてしまう。 零れ落ちるのは白い綿ではなく真っ赤な血と内臓、それと耳を覆いたくなるような悲鳴。 あまりにも凄惨な光景にモニターを見ていた何人かが嗚咽を漏らし、何人かは悲鳴を上げて目を覆う。 動くものがいなくなると悪鬼共は目に付くものを矢鱈滅多と破壊し始め、監視カメラが壊されるとようやく映像は途切れた。 中には難を逃れ未だ映像を写すカメラもあるが、その中の光景が沈黙していることには変わりない。 異変の発生からおおよそ十分ほど。司令室の中は恐怖と戸惑いの空気に場を凍らせていた。 「――これは一体どういうことなのか説明してもらおうかしら!」 しんとしていた室内に警備本部長の大きな声が響き渡った。 見れば、頭領である神崎黎人を前に警備本部長が今までにない形相で捲くし立てている。 他の職員らも詰め寄りはしなかったがその光景を遠巻きに窺い始めた。 なにせこの状況は誰にとっても予想外のもので、死に近い。何らかの説明を欲するのは人間ならば当然のことである。 「説明ですか……?」 対して、神崎の顔はいつもと変わらぬ涼しいものであった。 不穏な気配に毛を逆立てている妹の頭を優しく撫でながら、温かい紅茶を少しずつ飲んでいる。 彼が物事に対し動じるところを見せないタイプだとは皆も知っていたが、この状況ではさすがにそれも空寒い。 「こうなることをあなたは知っていたんでしょう? だから、あの妖を参加者の手の届く位置に留めた」 推移を見守る職員らは状況に対して一切の考えを持っていなかったが、警備本部長にはある程度の推測があったようだ。 神崎は彼女と、そして自分らを見つめる職員らを一瞥すると、一息つき、いつも通りの声色で釈明を始めた。 「知っていたかということについてですが……、これは、半分ほどは予想していたという所でしょうか。 すずさんが殺されるなりして言霊の支配が解ければ反動で暴動のようなものが起きるとは”予想”していました。 実際、鬼道の専門家からはそのような懸念が報告されていましたしね。故に彼女を隔離しようともした。 ですが、まさかこれほどまでとは――」 そこで神崎はくすりと笑った。 学園の中であれば誰もが見惚れるような笑みだが、この場においては見る者の印象は真逆だ。 あまりにも神崎が非人間的なものに見えて、警備本部長や職員らの顔から色が失せる。 「……これからどうするの? これじゃあ、私達もおしまいじゃない」 警備本部長がいつになく弱気な声で尋ねる。 一番地職員の内、言霊を施した者は下級戦闘員から一般職員まで合わせると8割ほどに達する。 それらがほぼ等しく悪鬼と化し、残りの2割の人間を駆逐し始めているのだ。 もはや、これは組織の体を成しているかどうかなどという段階の話ではない。全滅か破滅かという話である。 「そうでしょうか? 僕はそんなことは全然ないと思いますが」 だが、神崎の表情は一切揺るがない。 いつもと変わらぬ……いや、いつも以上に余裕を感じられる。職員の中には気が触れたのかと疑うものもいた。 「警備本部長は一体何を問題視されているんでしょう? ……悪鬼がここまで来てしまうことを恐れているんですか? でしたら心配はいりませんよ」 神崎はティーカップを皿に戻すと、指を組んで諭すように語り始めた。 まずこの司令室があるフロアには悪鬼は存在しない。なぜならば先刻、参加者に当てる為に戦闘員を動かしたからだ。 無論。こういった事態を見越してのものである。 そしてこの司令室近辺には微弱ながら人払いの結界を張っている。悪鬼共が偶然に寄って来る心配もない。 「――なにより、我々の目的は凪を倒し今度こそ媛星の力を掌握すること。 だとすれば、凶暴な悪鬼が基地中に満ちているこの状態は我々にとって有利だとは思えませんか? なにしろ、ただの人間程度の戦闘員が揃って並の戦士を凌駕する鬼と化したんですから……」 彼の言葉を聞き、室内にいるものは等しくその意味と意図とを理解した。 それはとても簡単なことだ。 つまり、神崎黎人――黒曜の君は、儀式が成就するなら人の命などはなんとも思わない……ということ。 「そんな……、しかし……それじゃあ…………」 警備本部長は反論しようとし、しかし口ごもった。 今更、他人の非人道的な行為を咎められるほど彼女の経歴も綺麗なものではない。 己の目的の為に他人を蹴落としたことなど数え切れず、その過程で死人が出たこともなくはないのだ。 「ですが、安心してください」 神崎は椅子から立ち上がると、自分に注目している皆に向けて声をかけた。 その顔はやはりいつもの温和で平和的な笑顔だ。とても窮地に立たされた将のものとは思えない。 「凪を滅し、僕と命とが儀式を成就すれば、媛星の力によりあらゆる問題を解決することができます。 そして、その時は近い。 この地下には悪鬼が犇めき、我々の邪魔をする参加者らは絶体絶命の窮地に立たされている。 また凪を追い詰める作戦も順調に進行しており、アレの運命ももはや風前の灯火。 ほどなくして我々は勝利の栄光をいただくことができるでしょう」 そして、神崎はククと笑い声を零した。まるで、とっておきの悪戯が成功したかとそんな風に、心底愉快そうに。 だが、そんな彼とは対照的に室内の空気は凍りついたかのように冷たく、重くなってゆく。 「あなた達はこの幸運に喜ばなくてはならない。 なぜならば、この地獄とも言える地下世界の中で唯一安全な場所にいるのだから。 さぁ、どんどんHiME達を追い詰めてゆきましょう――」 ――我々の勝利の為に。 そして、凍り付いていた空気は溶け、司令室の中は再び慌しくなってゆく。 警備本部長は未だ生存している戦闘員の再編成や、職員の避難誘導を検討し、それを素早く指示してゆく。 オペレーター達はいくつものモニターとチャンネルを開き、外の情報を集めようと必死に目を凝らし耳を澄ませた。 技術顧問がエネルギーラインと生きている施設を確認し、計画担当がそれに合わせ指令書に訂正を入れる。 誰もが追われるように動く。 組織の為にか、神崎への恐怖にか、異常な事態からの現実逃避か、ただ単純に死にたくないだけなのか――。 神崎黎人はただその光景を目を細めて見る。 何もわからないといった風の妹を隣に置き、楽しそうに、楽しそうに、終幕へと進む事態をただ見守っていた。 LIVE FOR YOU (舞台) 16 <前 後> LIVE FOR YOU (舞台) 18
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【名前】でっていう 【所属】やる夫ロワ 【性別】雄 【外見】ヨッシー 【能力】 初期:身体能力:EX 知能:- 中期(高良みゆきを捕食):身体能力:EX 知能:B+ 後期(長門有希を捕食):身体能力:EX 知能:EX 最終期(オプーナを捕食):身体能力:EXOver 知能:EXOver ○捕食 敵を食い殺す事で、その身体能力、知性、特殊能力等を獲得することが出来る。 ○飛行 翼を生やして空を飛ぶ。 ○1084℃の炎 高熱の火炎放射。 作中の描写を見る限りでは、温度の調節が可能かと思われる。 ○舌を伸ばす 舌を伸ばして相手の体を貫く。 ○死の河 アーカードのアレ。24時間以内に食い殺した相手をゾンビ化させて召喚し、使役する。 【詳細】 ゲーム開始直後に、「クラスの皆には黙ってたけど実は人間の肉は美味しいっていうwwwww」と吐露し、 ブームくん、いくおを捕食。その後塔に陣取っていたハルヒ組(ハルヒ、長門、朝倉、古泉)を強襲する。 長門、朝倉を煽った後、驚異的な戦闘力で朝倉を捕食し、長門をも魔手にかけようとするが、古泉の狙撃で頭部を負傷して逃走。 逃走した先で高良みゆきと遭遇し、知略で己を退けようとするみゆきをノリで殺害、脳髄を啜って知性をアップさせる。 気ままに空を飛んでいる途中、羽入とやる実を発見し、やる実を一瞬で食い殺して羽入をわざと逃がし、仲間を見つけようとする。 しかしハエに気を取られて羽入を見失い、喉が渇いたので川で泥水を飲もうとするが底に足が付かず流される。 流された先で長門、古泉、ハルヒと再会し、長門と古泉を食い殺して更に高い知性を獲得。 その後、やらない夫、柊つかさ、キョンのグループに遭遇し、「お前等のお友達は美味かったぜえええええwwww」と挑発。 やらない夫の放った銃弾(怒りに震えた照準だったらしい)を難なくかわし、逃げ出した三人を甚振りながら追いかけ殺すと宣言。 しかし勢いで飛んで追いかけた結果追い抜いてしまい、三人が追いついてくるのを待つ。 そこで満身創痍の柊かがみと遭遇してその顔面を炎で焼き、顔面Ⅲ度の火傷を負わせて放り出す(メインディッシュにするため)。 その直後にやる夫と羽入に遭遇、やる実を殺した事からやる夫に恨まれるも、逃げ出した二人を食い殺す為に追いかける。 追いかけた先でたどり着いた市街地で、自身とロワ内で二強とされるステータスを持つオプーナに遭遇。 激戦の末オプーナを捕食し、 最終期(基本的に言葉が丁寧語になり、頭部にエナジーボンボンが付いて体はよりヨッシーに近くなる)へと進化する。 圧倒的な力を振るってやる夫、やらない夫、阿部さん、道下、こなた、つかさ、圭一、羽入、デューク東郷と戦闘。 阿部さん、道下を殺害するも、オプーナを食ったことが仇となってゴルゴ13の狙撃でエネルギーを暴走させられて死亡する。 最終戦績9人殺害のやる夫ロワトップマーダー。 【参加者との関係】 泉こなた・・・やる夫ロワにおける彼女とはクラスメイト。最終決戦の相手の一人。 柊つかさ・・・やる夫ロワにおける彼女とはクラスメイト。最終決戦の相手の一人。 柊かがみ・・・やる夫ロワにおける彼女とはクラスメイト。顔面を炎で焼く。後で食べるつもりだった。 高良みゆき・・・やる夫ロワにおける彼女とはクラスメイト。捕食。 朝倉涼子・・・やる夫ロワにおける彼女とはクラスメイト。捕食。 阿部高和・・・やる夫ロワにおける彼とはクラスメイト。最終決戦の相手の一人。殺害。 涼宮ハルヒ・・・やる夫ロワにおける彼女とはクラスメイト。二回もニアミスした。 前原圭一・・・やる夫ロワにおける彼とはクラスメイト。最終決戦の相手の一人。 桂言葉・・・やる夫ロワにおける彼女とはクラスメイト。最終決戦の相手の一人。 キョン・・・やる夫ロワにおける彼とはクラスメイト。一度遭遇し、食い殺そうとするが逃げられる。 やる夫・・・クラスメイト。最終決戦の相手の一人。 ルイズ・・・やる夫ロワにおける彼女とはクラスメイト。死亡を放送で確認。
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咲「そんな……京ちゃん、どうして……!?」 京太郎「どうしてだろうな…………」 どうして、こんな事になっちまったんだろ………… これまでを振り返り、理由を探るが応えは帰って来なかった。 京太郎「ああ、痛てぇなちくしょう……」 何せ、土手っ腹にナイフが突き刺さっているのだ、痛くて当然だ。 刺されるなんて初めての経験だが、痺れとどこか寒気の広がる様なこの感覚は痛みよりも嫌悪感や掻痒感の方が強かった。 咲「なんで…………なんで京ちゃんが庇うの!?」 京太郎「なんでって……ハハッ、やっぱ咲は馬鹿だなぁ」 咲「何を……」 京太郎「女を男が守るのに、理由なんて無いんだよ…………」 咲「こんな時に何言ってんの!京ちゃんの馬鹿ッ!!」 京太郎「馬鹿はひでぇなあ…………」 徐々に視界が霞み、意識も朦朧としてきた。 あー……こりゃ、死ぬのかねぇ?知らんけど。 「お前のせいだ……お前がいなければ京太郎くんは……!?」 俺を刺した少女がさっきから虚ろな目で叫んでる。 いや、ちょっと不正確か。 本当は、咲を刺し殺そうとしていたのだ、この娘は。 それを、すんでのところで俺が間に入った。 そしたらこのざまだ。 京太郎「そっか…………俺のせいだよな……」 死の間際に、漸くにして俺は気づいた。 京太郎「誰かが傷つくのが怖くて、答えを出さなかったから、それで傷ついて…………本末転倒も良いところだよなー」 咲「もう喋らないで!今、救急車を呼んだから……ッ!!」 いや、気づかなかったのでは無い。 認めるのが、答えを出すのが怖かったんだ。 それは、誰かが傷つくのが嫌だったというのもあるが………… 本当は、只単に俺が臆病だっただけなんだ。 京太郎「ごめんな、咲……俺、こんな時になってもまだきちんと答えを出せそうに無いよ……」 咲「もう良いから…………大丈夫だからっ!!」 京太郎「なぁ、咲…………」 咲「…………何?」 京太郎「今度…………生まれ変わりとかあったらさ……」 また、咲の幼なじみに産まれたいなぁ………… 咲「京ちゃん…………京ちゃん?……京ちゃん!駄目だよ!死んじゃ、京ちゃん!京ちゃーん!!」 京太郎「んぁ…………」 どうやら、嫌な夢を見たみたいだ。 俺が死ぬ夢。 俺が臆病だったばかりに、皆を…………咲を泣かせてしまった夢だ。 京太郎「あれ……?」 ベッドから降りると、身体に違和感があるのに気づいた。 自慢では無いが俺は180cm超と、日本人男児としてもかなり大きい部類だった。 それが、今はどうだろう? 150cmも無い程に縮んでいるでは無いか? 京太郎「どういう…………」 部屋にある姿見に目をやると、そこには少年が写っていた。 小学生くらいの、須賀京太郎を小さくしたような少年が………… 京太郎「はっ…………!?」 理解が追いつかない。 何が……一体、何がどうして何故こんな事に? 考えるが、一向に答えは出てこない。 「京ちゃーん!」 京太郎「え…………」 一階から、声が聞こえた。 「京ちゃん!今日は一緒にプールに行くって約束してたのに、忘れたの!」 その声の主は階段を駆け上がりながらそんな風に、俺を親しげに呼び………… そして、部屋に入ってきた。 京太郎「咲…………?」 咲「おはよっ、京ちゃん!」 カンッ!
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漫画っていいな 僕の全てさ どんなに強い敵が来たって大丈夫 だからHeaven s Door ここに新しいページをひらこう 今 最高のリアリティが待っているから 売れっ子漫画家って言っても ずっと机に向かっているだけじゃあ 素敵な体験 最高のネタさえも つかめずに 通り過ぎてしまう 乙の隠す背中が見たい 大人気なくても子供 負かしたい 悩むことは何もない さあ描くんだ 殺人鬼?見つけるさ 今ここで宣言しよう! 漫画っていいな インクとペンだけで 感動与えることができたら最高さ だからHeaven s Door ここに新しいページをひらこう 今 取材で外国出掛けるみたいに インクの瓶が空になったら 町に画材買いに出掛けよう 迷うことは何もない さあ君たちも リアリティ読ませてよ 僕色に染めるから 町を守ってと繰り返す君のおかげで 僕はここに立っていられる ありがとう 振り返る君に 皆で最期の別れを告げよう Goodbye またいつか微笑んで出会えるように 漫画っていいな 僕の全てさ どんなに辛いことがあっても大丈夫 だからHeaven s Door ここに新しいページを刻もう 今 最高のエンディングが待っているから 原曲【テニプリっていいな】 元動画URL【http //www.nicovideo.jp/watch/sm9281422】
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あんふぁんてりぶるいんはろうぃん【登録タグ あ てにをは 初音ミク 曲 殿堂入り】 作詞:てにをは 作曲:てにをは 編曲:てにをは 唄:初音ミク 曲紹介 てにをは氏が送るハロウィン曲。 歌詞 (作者ブログより転載) さあ おもちゃの銃 こめかみに当ててほら ぼくら夜が大好き 包帯ぐるぐる ghoul dance ませた頬杖 あの子が笑う ニシシッて月に笑う だって10月はトラウマの国 砂糖のお城でしょ? 遊びの時間は終わらないわ お菓子をくれなきゃアタマをちょん切るゾ 召された子供の行列だ キャッハッハッハー! 自分の首を追いかけてく 12 45 ぼくらは孤児だ キャンディにつられて ついていったら危ないよ 捨てられたおもちゃたちの 行方誰にも分からない ひそひそ話の tick tock Cheese 今宵は宴だ clap crap Corpse ひとりでに影が歩きだす ハロウィンの夜 鞭も痛くないよパパ 割れたビスケットの夜 毒入りだって平気だよママ ツギハギだらけのスマイル 霊園にパラソルが舞う頃 奈落(アビス)のお茶会を始めましょう ナイフが背中に刺さったままじゃ キレイな洋服着れないね 6 890 誰もが名無し子だ 大人になんかならないよ なるべく残酷な童話を読んで 月曜日に墓の中 日曜日に生まれるの グラスを片手に cheap Talk cheers 闇夜にお散歩 crash crack collapse ねぇねぇ上手にできたでしょ? 『アレ』の標本 屋根の上からあっかんべー 言うことなんて聞かないもんね 太陽なんて大嫌い! 『子守唄が聞こえ……――』 キャンディなんかに騙されて ついていっちゃいけないよ 捨てられた子供たちの 秘密基地(アジト)教えてやんないよ enfant terrible コメント 可愛く怖い曲ですよね。好きー -- みh (2010-10-31 15 51 17) 良曲! -- 名無し子 (2010-10-31 21 46 47) いい曲!!来年のハロウィンが待ち遠しいw -- ルイ (2010-11-02 18 39 29) 「あれ」の標本って何?? -- 名無しさん (2010-11-03 20 52 56) ↑えーと・・・察して -- 名無しさん (2010-11-04 17 49 55) ミクのワオーンが好き -- ぽりき (2010-11-05 00 19 53) アレの標本がわからない……。重複すみません(^p^) -- ぴろん (2010-11-06 07 30 24) ↑察してくれ。 ・・・虫の標本って背中に刃物が突き刺さってry -- 名無しさん (2010-11-06 07 42 41) クリスマスやら正月やらのこの時期にこの曲聴きまくってたよ自分ww -- 名無しさん (2010-12-28 13 59 15) 『キャッハッハッハー!!』がたまなく好きwそれにしても、歌詞が面白いなーw聞いてて楽しいです← -- 名無しさん (2011-03-07 21 49 05) アレの標本ってまさか、人の・・・? -- 名無しさん (2011-08-15 15 44 37) ピンポンピンポン大正解!さあ、君も標本になってみる?キャッハッハッハー! -- ハロウィン前に浮かれた阿呆 (2011-09-27 13 34 49) なぜ伸びない…ほんと、自分は大好きなんですけど。 -- 名無しさん (2012-07-07 20 48 08) ↑7 なるほど!謎が解けた~ -- 名無しさん (2013-01-23 22 09 39) おお!! -- 名無しさん (2014-10-10 19 55 48) 12 45 ぼくらは孤児だ の「孤児」の読み方がわからない・・・。 -- 亜夢 (2014-10-27 17 33 09) ↑「みなしご」ですよー -- レアル (2015-11-10 08 23 37) 少し狂った要素のある可愛い曲ですね。 -- 通りすがりのボカロ厨学生 (2016-02-16 07 00 48) 名前 コメント
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LIVE FOR YOU (舞台) 17 ・◆・◆・◆・ 「あいたた……体は丈夫でも痛みは普通にあるんだね……」 「動かないで桂ちゃん。包帯がうまく巻けないわ」 「はあい」 襲撃者をひとまずは撃退した桂と少女達。それとパペットとショゴスが一体ずつ。 すぐにでもこの場を離れたい一行だったが、今一時、桂が負った新しい傷を癒すために止まっていた。 幸いにも新しい襲撃者の気配はまだ近くにはないようで、またここでならば治療に使う道具にも困らない。 蝶の力で傷口を塞ぐと、柚明は丁寧に周りを消毒し手早く桂の身体に包帯を巻いてゆく。 「着替えがないけど……しょうがないよね」 背中と腹に包帯を巻かれた桂は返り血と自らの血で濡れたブラウスを羽織る。 気持ち悪いけど仕方ない。まさか包帯をサラシ代わりに使うわけにもいかないだろう。 「やよいちゃんの目はどう……?」 「かなりよくなりましたけど……まだ全体がぼやけた感じです。あっもう歩いたりすることは大丈夫ですっ」 「良かったなやよい。一時的なもので……一時はどうなることかと思ったぜ」 「てけり・り!」 やよいの視力の回復具合に喜び合うプッチャンとやよい。 「そろそろ、行きましょう。また追っ手が来るかもしれないわ」 「そうだね」 「おう、一刻も早く離れようぜ」 「てけり・り!」 そうして彼女らは医務室を離れ廊下に出る。 錆びた鉄の匂いが充満する空間。ダンセイニに手を引かれたやよいはなるべく転がる死体を見ないように歩く。 すると、一番前を歩いていた桂がふと立ち止まった。 「……? どうしたんですか」 「いや、ちょっとね……」 そう言って桂は足元に視線を落とす。 視線の先にはあの戦闘員の死体。唯一言霊の支配下に置かれなかったと思われる者がそこにいる。 そしてその戦闘員の頭部に装着されているインカムから雑音交じりの声が漏れ聞こえていた。 戦闘時の配置場所と、言霊に支配されてない点を考えるとこの戦闘員は部隊を指揮する隊長だったのだろう。 「…………」 桂は戦闘員からインカムを取り上げげて耳に当てる。 敵方も通信状況は芳しくないのか、ザラザラとしたノイズまじりの声が聞こえてくる。 『……小隊……応答……ろ』 通信の途絶えたこの隊への呼びかけだろう。 インカムから各地に配置されているであろう部隊への通信が聞こえてくる。 だが専門用語や符丁を交えた言葉は理解しがたく、特に有益な情報は得ることはできない。 時間の無駄かと桂はそのインカムを捨ててようとして、その時―― ――――死んじゃえばいいのに……―――― 「えっ……?」 何か声がしたような気がした。 インカムから聞こえる戦闘員の声じゃない。 少女の声。頭に直接響くように聞こえたその声は―― 地獄の底から響く呪詛の声。 憎しみと怨嗟に満ちた声。 聞いたものの背筋を凍らせる深く冷たい声。 そして――インカムから聞こえる通信に変化が現れた。 『な……何……起こ……て……』 『ば……な……部下……が』 『こ……なこ……聞いて……ぎゃあああああああああああ!!』 『来るな来るな来……な……ひいいいい……いいい!!』 各部隊から聞こえてくる悲鳴と銃声。 仲間達が何かしたのだろうか? 否、それにしては通信から聞こえてくる声は恐怖に満ちたものばかりだ。 インカムからの絶叫は桂の側にいる柚明とやよいにもはっきり聞こえるほど激しい。 得体の知れない何かがこの施設内で起こっている。 それは戦闘員達にとっても全くの予想外のことなのだろうと想像がつく。 しかし、一体何が起こっているというのか? 『あの……化け狐め……部下を操り人形に変え……も飽き足らず化物に……で変えや……畜生ぉぉぉぉ……』 銃声のあと何かが潰れる音がして通信がブツリと途絶えた。 部隊の指揮官が全滅したのだろうか。耳を当ててももう意味のあるような言葉や音は聞こえてこない。 「な……なにが起こっているの……?」 未知の出来事に背筋が凍る思いがする三人。 何が起こっているかわからない。けど一刻も早くここを離れよう。 そう頷き合う三人の背後で、声がした。 「う……あ……ぁ」 苦しげなうめき声。 振り返った先には倒したはずの戦闘員ひとり苦悶の表情を浮かべ呻いていた。 口をパクパクと金魚のように動かして。救いを求めるように天井に向かって手を伸ばしている。 全ての者に致命傷を与えたはずだがどうやら未だ絶命には至っていないらしい。 ならばせめて苦しまないように介錯をするのがよいかと桂は拳銃を構え呻きをあげる戦闘員を狙い―― だが――瀕死のはずの戦闘員がゆらりと立ち上がった。 「な……っ?」 「ひっ……!」 桂とやよいが口を揃えて声を発する。 死に至ってないとはいえもはや立ち上がれるはずのない傷を負っているはずである。 例え生きていたとしても遠からずその苦しみのままに死を迎えるだけであるはずなのに――! 「ううぅ……ぁぁ……!」 立ち上がった戦闘員は頭を押さえ悶え始める。 血塗れの身体をギクシャクと動かしまるでできそこないのロボットか、糸の足りない操り人形のように。 これは一体何事なのか? ともかくとして尋常な出来事ではない。 介錯ではなく膨れ上がる不安を打ち消そうと桂は改めて銃を構えなおし―― 少女の呪いは深い穴倉の中を伝播する。 誰からも救いを得られることなく孤独に最期を迎えた一人の少女。 この世全てを怨み、呪い、憎しみ抜いて死んだ少女の呪詛が全てを塗り替えてゆく。 ――――死んじゃえばいいのに……―――― 「うっ……うああ……ァァァ……ウオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ!!!!!」 瀕死のはずの戦闘員が力強い咆哮を上げた。 メキメキと音を立ててそのヒトの身体が別のモノへと変貌してゆく。 着ていた服を内側から裂き歪に膨らんでゆく筋肉。見る見る間に増してゆく質量。 体躯は元の倍ほどにまで膨れ上がり、丸太の様になった腕の先からはバキリと音を立てて爪が飛び出す。 割れるように耳まで避けた口の中には肉食獣のような鋭い牙がずらりと並んでいて。 そして、頭の左右から捻れた角が木の枝のように突き出しその異形は完成した。 「ははっ……何の冗談だよコレ……」 恐怖に堪えてなんとか声を絞り出すプッチャン。 ここにいる誰もが思っただろう。 何なんだこれは――と。 「みんな下がってぇ――ッ!!!」 叫ぶと同時に桂は両手に構えていた拳銃を異形に向かって撃ち放った。 三メートル近くある巨躯に向かってひたすら連射する。 しかし放たれた銃弾は全て鉄の壁にぶつけたような音とともに弾かれただ床の上に散らばるだけだった。 「そん……な……」 拳銃だけでなくマシンガンでも結果は同じだった。 あの異形には銃が通用しないということらしい。 もはや人のものとは思えぬ暗い色の皮膚は鋼鉄並の強度があるというのか。 ただ驚愕に目を瞠る桂。そして再び、大気を震わせる獣の咆哮。 「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォオ!!!!」 異形が音を立てて床を蹴る。 その鈍重そうな外見とは裏腹に異形は恐ろしい瞬発力で桂へと肉薄してきた。 気づいた時にはもう振りかざされた腕が目の前に迫っている。 避けきれない――! 桂は咄嗟に銃を捨て、帯刀していた小烏丸を鞘走らせ、抜き様に一撃を受け止めた。 ガキンと硬質の爪と刀身がぶつかり合いそこに火花が散る。 「こ、の……、っ!? きゃあああああああ!!」 「桂ちゃん!?」 異形はその凄まじい膂力をもって刀を構える桂ごと弾き飛ばす。 広い廊下を飛ばされ、桂はそのまま轟音を立てて壁に打ちつけられた。 「あ……ぐっ……ぅぅ……」 あまりの衝撃に壁が崩れ、隙間から土煙が濛々と立ち上がる。 壁の中に通っていたケーブルが切れたのか、蹲る桂の背後でバチバチという音が聞こえた。 そして桂も神経が引き千切られたかのような痛みに立ち上がることができないでいた。 倒れているわけにはいかない。なのに、異形は無慈悲にも桂を無視して柚明とやよいへと爪を向ける。 「冗談じゃねえぞ……! こんなバケモノまともに相手してられるか……!」 「柚明さん!」 「やよいさん……絶対に私から離れないで!」 柚明の眼前へと迫る異形。 もはやこの距離では剣を生成している時間はない。 それに柚明の身体能力は普通の人間とさしたる違いはない。 もし桂すらも吹き飛ばした攻撃を受け止めようとすればまず間違いなく死んでしまうだろう。 「ォォォォオオオオオォォォォァァァァァアアアアア!!!!!!」 容赦なく振り下ろされる腕。 柚明は切り札である電磁バリアを展開しその一撃を受け止めた。 異形の攻撃は青白い障壁に阻まれて柚明とその後ろに隠れるやよいのもとには届かない。 だがしかしダンプカーが衝突するかのような衝撃が柚明を襲っていた。 「なんて……力……! このままじゃ……」 異形は不愉快そうに喉を鳴らした。 目の前に獲物がいるというのに妙な壁に阻まれて手が届かない。 ならば、壁が邪魔なら壊してしまえばいいだろう。 そう思ったのか、異形は怒り狂ったような咆哮を上げ、電磁バリアに向かって何度も拳を打ちつけ始めた。 「だめ……! もう……持たない……!」 柚明の悲痛な声。 一撃を受けるたびに障壁の上に青白い火花が散り、衝撃が柚明を襲う。 もう一撃。弾けるような音を立てて障壁が撓んだ。 更にもう一撃。明らかに障壁はその硬度を失い始めている。 そして更にもう一撃。柚明の口から啼く様な悲鳴が零れ、障壁に白い皹が走る。 後一撃で障壁は破壊される。異形は愉悦の笑みを浮かべ最後の一撃を振りかぶり、それを振り下ろ―― 「――――!? グオァァァァァァァァァァァアアアァ!!」 ドス黒い色の血が柚明へと降りかかり、異形が悲鳴を上げて苦しみのたうつ。 何事かと見れば、振り上げられた腕が根元から切り落とされ、断面から吹き上がった血が雨となって降っている。 その背後。血色の雨の中には肩を大きく上下させる桂が刀を手に立っていた。 「わたしを無視して背中見せるからだよ……ッ」 ハァハァと荒い呼吸を無理矢理に抑え、桂は怒りと痛みに喚く異形へと相対する。 土気色の顔には脂汗が浮かび、彼女の苦痛も異形のものとそう変わらないように見えた。 「桂ちゃん――怪我を――!」 桂の脇腹に突き刺さった拳大ほどの破片を見て柚明が悲鳴をあげた。 破片は内臓にまで達しているのだろうか、今度はどくどくと止め処ない血が流れ落ちている。 「こ、の……女の子にはもっと優しくしてよ……ぐ、ぅ……」 突き刺さった壁の破片を引き抜くとごぼりと音を立てて更に血が溢れ出した。 真新しい血は音を立てて床を濡らし、そして贄の血の香りがこの場に漂っていた臭いを上書きしてゆく。 「ゴオオァァ……ハァッ……ハァッ……ハァッ……」 それを受けてか異形の様子が変わった。 犬の様に舌を出して小刻みに吐かれる荒い吐息。 血走った双眸。 ゆらりと異形は桂のほうに一歩踏み出した。 「まさか――桂ちゃんの血を……!」 あらゆる人外の存在を惑わし狂わせる贄の血。 柚明はここら一帯に充満してゆく贄の血の芳香を感じていた。 そして、この異形も例に漏れず贄の血を喰らおうとするだろうと―― 「あはは、そのほうが都合がいいや。わたしがいるかぎりコレはわたしを狙うんだから――!」 不敵な笑みを浮かべる桂。 その笑みが癪に障ったのだろうか、異形は叫び声を発し桂へと飛び掛った。 縦に振り下ろされる異形の腕。これを桂は飛び退くことで避け、床に転がっていた自分の鞄を素早く拾い上げる。 更に間髪入れずに繰り出される異形の一撃。 ごうと音を轟かせ桂の鼻先を掠めたそれは、堅い床にまるで杭のように突き刺さる。 恐ろしい威力ではあったが、それ故にそこに大きな隙が生まれた。 鞄の口に手を差し込んだまま桂は跳躍。床に刺さったままの異形の腕を足場にもう一跳躍。 まるで五条大橋で弁慶と戦った牛若丸のような華麗な身のこなしで異形の肩へと飛び乗ると鞄から腕を引き抜いた。 その腕に構えられるは九七式自動砲。何者をも喰い散らかす黒金の牙。 まだヒトの頃の知能が残っていたのか、それを見た異形の顔に焦りの様なものが浮かんだ。 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」 振り落とそうとした異形に対し、桂が機先を制しその顔面に刀の切っ先を走らせる。 激しい痛みに苦悶し強く身体を揺さぶる異形。 しかしそれも桂が眼窩へと刀を突き刺すとまるで杭を打たれたかのようにピタリと収まった。 だがそれでもまだ異形は死に至らない。差し込んだ刀は脳にまで届いていてもおかしくないというのに。 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!! ガ――――ッ!??」 不意に咆哮が中断される。 視界を奪われた異形は何が起こったか理解できない。 ただ口の中に硬い金属の棒の感触と、鉄の味がすると感じるだけだ。 次の一瞬。辛うじて失明を逃れていた残りの目が見たものは先程の銃を自身の口に捻じ込んでいる少女の姿であった。 それが何を意味するのか。異形の知能が理解へと近づいてゆく――が、それに辿りつくまでの時間はもうなかった。 「これに耐えられるなら耐えてみろおおおおおおおおおおおおおお!!!」 「アギャ――?」 異形の口内で鉄火が弾けた。 爆音が轟き、連続する破壊の音に異形の頭部は見る見る間に形を崩し、遂には爆散する。 頭蓋骨の破片が、血と脳漿が混じったものが、折れた角、バラバラになった牙が、眼球が、床にぶちまけられる。 いかな頑強な生物と言えど、頭を丸々失ってしまえば生きてはいられまい。 数えて七発の弾丸を喰らった異形は身体を傾げさせると、そのままモノのように床へと崩れた。 「はあ……っ、はぁ……やった……よね?」 桂は倒れこんだ異形に近づき生死を確かめる。 やはりこれほどの異形とあっても頭を吹き飛ばされては起き上がってくる気配もなかった。 「桂ちゃん! すぐに手当てを!」 その桂へと蒼い蝶々を纏わせた柚明が慌てた風に駆け寄ってくる。 「ちょっと待って、どうせ治すのなら先に柚明お姉ちゃん飲んで。このままだと勿体ないよ」 「あ……うん。そうね……」 だが、手当てを始めようとする彼女を止めると桂は赤く濡れたブラウスを捲って傷口を――血を彼女の前に曝した。 先程まで石片が突き刺さっていたはずの傷口はもう半ばほどまで閉じていたが、まだどろりとした血が流れ出している。 柚明は息を飲むと、桂の脇腹へと口をつけ少しも零さないようにと丁寧に啜り始めた。 唇を窄め、そして掻き集めるように傷口へと舌を挿し込む。 「んく……っ、はあ……はあっ……」 じゅるり……ぺちゃぺちゃ……。 再び静寂を取り戻した廊下に血を啜る音が鳴り続ける。 しばらくして、満足した風に口を離すと柚明は蝶を展開して桂の治療へととりかかった。 「それにしても一体こりゃ何なんだ……? 神崎の秘密兵器か何かか?」 やよいの腕の先でプッチャンは手を組んで首を捻る。 「変身ヒーロー物の怪人みたく密かに改造されてた……なわけねえよなあ」 普通の人間を遥かに超える巨体と鋭い牙と爪をもった怪物。 そして頭に生えた角。これらの特徴に一致するもの。ひとつだけ心当たりがある。それはまるでお伽話に出てくる存在。 「鬼――」 柚明がぽつりと漏らした単語。 昔話に幾度となく登場し、人を喰らい略奪を繰り返した異形の生物――鬼そのものだった。 「そんな……これがサクヤさんと同じ鬼なわけないよっ!」 「ええ、そうね。サクヤさんは人とは違う種ゆえに人々から鬼と呼ばれ続けた種族。これとは根本的に違う存在よ」 「じゃあ……これは……」 「激しい憎悪がその身を変質させるまで至った存在――私はこの島で似たような存在を見たわ。 桂ちゃんも見たはずよ。もっともあの時はここまで身体が変質してはいなかったけど……」 「確かに……いたよ。りのちゃんはそれに――」 「何だって……! りのはこんな化物に殺されたって言うのかよ!」 「わたしが見た時はまだ人間の姿をしていたよ。 普通の女の子の姿だったけど、……アルちゃんが言うには色んな魔術的な何かをごちゃ混ぜにしたような物だって」 桂の語るかつて出会った異形の少女。 その話を聞いていたやよいは険しい表情で桂に質問した。 「あの……その人――いえその鬼は何か言ってませんでしたか? 赤ちゃんがどうとか……」 「言ってたよ……やたらお腹の中に赤ちゃんがいることに執着してた」 「やっぱり……葛木先生……ぐすっ」 「やよい……」 身を挺して鬼から逃がしてくれた葛木宗一郎を思い出し涙を浮かべるやよい。 「なあ……最終的にあの鬼はどうなったんだ?」 「わたしが知ってるのは、戦闘機に乗って襲ってきたんだけど……」 「はあ? 戦闘機ぃ? 変な冗談はよせ……ってこんな時に冗談なんか言うはずはないよな」 「その後急に変な動きになって海の方に落ちて行ったよ。わたしは知ってるのはそこまでだけど」 「そうか……」 「私も桂ちゃんとやよいさんが見た鬼とは違うのを見たわ……あれも元は人間……普通の女の子だった」 鉄乙女。そして西園寺世界という名の悪鬼。 考えてみれば彼女達がああ成り果ててしまったのも、この過酷な運命に翻弄された結果なのだろう。 彼女達が鬼に至るほどに思いつめていた憎悪と絶望。そして渇望を知る者はもはやいない。 出来事は伝える者が残っているが、そこにあった想いはもう全て闇の中だ。 「そろそろ行こう。他の人たちが心配だよ」 桂の呼びかけで一行はこの場を離れるはじめる。 多数の戦闘員にそれが変化した悪鬼。畳み掛けるような窮地に曝されたが辛くも切り抜けることができた。 それが今までにないほどの危機だったせいか、無意識のうちにこれ以上はないと考えてしまったのかもしれない。 いやそれともただ目を背けていたのか。彼女達はある事実を失念していた。 通信の内容から悪鬼は他にもいるということ。そしてこの周辺には桂の流した贄の血の芳香が充満していることに―― ザ…… 立ち去って行く彼女らの後ろ。廊下の曲がり角から一体の悪鬼が姿を現した。 その手には飴細工のように捻じ曲げられ、禍々しい魔槍と化した鉄パイプが握り締められている。 そして鼻を鳴らしていた悪鬼は甘い匂いを撒き散らす果実をその目に発見すると、それを得んとすべく魔槍を―― 背後から何か聞こえた気がして振り返ったプッチャンの顔が強張る。 その視線の先には桂が苦労して倒したものと同じ悪鬼がいて、こちらへと向かい何かを投げようと、いやすでに―― 「みんな伏せろぉぉぉぉぉ!!!!」 「えっ……?」 全てがスローモーションのようにゆっくりと動く中で柚明はそれを見た。 ごうと風を切り飛来する何か。 その進む先には桂が立っていて。 気づいていない彼女はきょとんとした顔で振り返り―― (だめ……! よけて――――!) 言葉を発しようとしてももう遅く。手を伸ばすことなどできるはずもなく。見ているだけしかできないその前で。 振り返った桂の胸に魔槍が突き刺さり。 ゆっくりと、ゆっくりと沈んで、 止まることを知らずにどんどん深く槍を桂の中へと沈んで、 背中から、槍が、歪な角のようなそれが、生えて、 そこから弾けた真っ赤な血が暖かく顔を濡らして、 桂の身体がまるで連れ去られるかのように浮き上がり、 そして――そのまま廊下の突き当たりまで飛んでいった槍は壁に深々と突き刺さる。 桂の小さな身体を、まるで虫の標本みたく縫いとめるように。 ただ一瞬の残酷。時が溶ける瞬間。柚明は自分の悲鳴を聞いた―― 「け……い、ちゃん……!? ――――嫌ぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁあああああああっっ!!!!」 ・◆・◆・◆・ 「がっ……はっ……あぐあぁぁっ」 全身がバラバラになるような衝撃が鳴り止まない。 胸が、まるで中に焼けた石を埋め込まれたようにひどく熱く、重い。 足に地面を踏んでいる感覚がない。身体のどこにも力が入らないのに何故か地面に倒れない。 胸元から生えている銀色の棒はよく見ればそこら中を走っている配管の一部のようだ。 自分の腕よりも太く身体よりも長いそれが胸の真ん中に突き刺さっていて、それはつまり―― (ああ――壁に磔にされているんだ――……) 途端に喉の奥から熱いものがこみ上げ、ごぼりと音を立てて口から真っ赤なものが流れ出した。 ごぶごぶとこみ上げるそれは自分の身体なのにどうしようもなく、止め処なく溢れ出る。 口の中が、鼻の奥までもが嫌なぬめりで満たされて気持ちが悪くてしかたない。 霞がかった視界の先には大きな異形の影が、さっき倒したはずの悪鬼が立っている。 いやそうではない。倒したはずの鬼は今も床に横たわっている。何時の間にかに他の鬼がやって来てしたのだ。 鬼が腕を振り上げ、振り下ろした。何かが飛んでくる。何かを投げたらしいと―― ――衝撃。 堅い壁が突き破られる音が背中越しに伝わり、理解の次に激痛が襲い掛かってきた。 全身が引き攣り、さらに視界が霞む。しかし見えなくとも胸と同じく腹にパイプが突き刺さったのだとはわかる。 塊のような血が口から噴出し、全身がびりびりと震え、背中に寒気が走り、鈍痛が頭を襲う。 内臓がぐちゃぐちゃになっている。熱い血が身体をびしょりと濡らしているのに寒気と震えが止まらない。 「が……ぁぁ……ごぷっ……」 声に血が混じり言葉にならない。 傍らで柚明が叫んでいる。 「いやあぁぁぁぁぁぁ! 誰か桂ちゃんのそれを抜いてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」 半狂乱になった彼女がパイプを抜こうとしているのがわかる。 だが鬼の力で打ち込まれた鉄の杭が彼女の弱い力でどうにかなるはずもない。 ギシギシと揺する音だけが腹の中に響き、まるで鑢をかけているかのような痛みが増すだけだった。 身体が震えるたびに液体が床を叩く音が耳に伝わり意識が重たくなってゆく。 「バカヤロウ柚明ッ!!! 下手に動かしたらホントに桂が死んじまうぞ!!!」 「あああぁぁぁぁ……ぁぁぁぁぁぁぁあああ……!!」 声は聞こえるのにみんなが何を言っているのかわからない。 鬼が来る。 鬼が来る。だから、みんなを逃がさないと。 しかし、声を出そうにも止め処なく溢れる血がそれを邪魔して言葉にならない。 ゴボゴボと気味の悪い音を鳴らして、カチカチと歯を打ち合わせる音を立てることしかできない。 視界が焼き切れてゆくかのように白さを増してゆく。 ぶつりぶつりと脳細胞が少しずつ焼き切れてゆくかのような感覚。 意識を手放してしまえば楽になれるだろうに、鮮烈な激痛が繰り返しそれを阻む。 普通の人間ならばとっくに死んでていいものなのに、なまじ身体が頑丈なせいで死にきれない。 激痛で意識を取りこぼしそうになり、同じ激痛でその意識を拾い上げる。それの繰り返し。無限の責め苦が身を苛む。 しかしいつか……もう少し我慢すれば脳が完全に焼き切れてくれる。 いくら身体が頑丈で死に至らないとはいえど、脳が人のそれである限り耐えられる限度というものはあるはずだ。 こんな苦痛が続くならば、ブレーカーを落とすように脳が死を選んでくれるはず。 後もう少し。ちょっとだけ我慢すれば楽に、楽になれるはずで―― じゃあその後は――? 鬼は死骸に喰らいつき死を陵辱するだろう。 贄の血が詰まった皮袋。 それは妖の存在にとっては極上の食物に他ならない。 どこもかしこも全て喰らえば床に零れたものすらも這って啜るだろう。 そして、鬼は今までに比類なき強大な力を得るに違いない。ならば、その後は―― 「ごぽ……ぁ……て」 声が出ない。 逃げてと、たったそれだけを言いたいのに、声が出ない。 「……ごふっ……いだ……に」 贄の血に貪りつく鬼はしばらくの間はそれに夢中のはずだ。 だからその間に逃げて。 それを伝えたいのに、しかしどうすることもできない。 白い視界が明かりを落とすように黒へと変わった。 もう誰の声も耳には聞こえない。 身体を苛む痛みも、悪寒もふっと感じなくなってしまった。 代わりに、心地よい眠気が訪れて――…… とくん――…… どくんどくんと力強く脈打っていた心臓の響きが弱くなっていくのがわかる。 とくん――…… とくん――…… とくん――…… とくん――――――――――――…… ・◆・◆・◆・ 時に静謐で、時には騒然としていた一番地本拠地司令室だが、この時ばかりは部屋全体が異様な空気に包まれていた。 それは至極原始的でシンプルな感情――”恐怖”にである。 オペレーターのつけたインカムから、モニターの横のスピーカーから、怒号と悲鳴がいくつも漏れ聞こえている。 そしてそれらは大きなノイズを発して途切れたり、悲壮な断末魔を残してひとつずつ沈黙していっていた。 何が起きているのか? 目を瞑れば知らずにすんだであろうが、しかしそこにいる者らはそれを見てしまっていた。 一番地本拠地内の要所、各種コントロールルームに設置された監視カメラから送られてきている映像。 その中で行われている悪鬼による虐殺と破壊の一部始終を。 本部の各所に配置された戦闘員、または職員が見る見る間に異形の怪物へと変じ、暴虐の限りを尽くし始める。 一番最初に犠牲になるのは、運悪くかまたは運がよかったのか、悪鬼とはならなかった人間達だ。 悪鬼は逃げ惑う彼らを捕まえると、まるで子供が人形で遊ぶようにそれをバラバラにしてしまう。 零れ落ちるのは白い綿ではなく真っ赤な血と内臓、それと耳を覆いたくなるような悲鳴。 あまりにも凄惨な光景にモニターを見ていた何人かが嗚咽を漏らし、何人かは悲鳴を上げて目を覆う。 動くものがいなくなると悪鬼共は目に付くものを矢鱈滅多と破壊し始め、監視カメラが壊されるとようやく映像は途切れた。 中には難を逃れ未だ映像を写すカメラもあるが、その中の光景が沈黙していることには変わりない。 異変の発生からおおよそ十分ほど。司令室の中は恐怖と戸惑いの空気に場を凍らせていた。 「――これは一体どういうことなのか説明してもらおうかしら!」 しんとしていた室内に警備本部長の大きな声が響き渡った。 見れば、頭領である神崎黎人を前に警備本部長が今までにない形相で捲くし立てている。 他の職員らも詰め寄りはしなかったがその光景を遠巻きに窺い始めた。 なにせこの状況は誰にとっても予想外のもので、死に近い。何らかの説明を欲するのは人間ならば当然のことである。 「説明ですか……?」 対して、神崎の顔はいつもと変わらぬ涼しいものであった。 不穏な気配に毛を逆立てている妹の頭を優しく撫でながら、温かい紅茶を少しずつ飲んでいる。 彼が物事に対し動じるところを見せないタイプだとは皆も知っていたが、この状況ではさすがにそれも空寒い。 「こうなることをあなたは知っていたんでしょう? だから、あの妖を参加者の手の届く位置に留めた」 推移を見守る職員らは状況に対して一切の考えを持っていなかったが、警備本部長にはある程度の推測があったようだ。 神崎は彼女と、そして自分らを見つめる職員らを一瞥すると、一息つき、いつも通りの声色で釈明を始めた。 「知っていたかということについてですが……、これは、半分ほどは予想していたという所でしょうか。 すずさんが殺されるなりして言霊の支配が解ければ反動で暴動のようなものが起きるとは”予想”していました。 実際、鬼道の専門家からはそのような懸念が報告されていましたしね。故に彼女を隔離しようともした。 ですが、まさかこれほどまでとは――」 そこで神崎はくすりと笑った。 学園の中であれば誰もが見惚れるような笑みだが、この場においては見る者の印象は真逆だ。 あまりにも神崎が非人間的なものに見えて、警備本部長や職員らの顔から色が失せる。 「……これからどうするの? これじゃあ、私達もおしまいじゃない」 警備本部長がいつになく弱気な声で尋ねる。 一番地職員の内、言霊を施した者は下級戦闘員から一般職員まで合わせると8割ほどに達する。 それらがほぼ等しく悪鬼と化し、残りの2割の人間を駆逐し始めているのだ。 もはや、これは組織の体を成しているかどうかなどという段階の話ではない。全滅か破滅かという話である。 「そうでしょうか? 僕はそんなことは全然ないと思いますが」 だが、神崎の表情は一切揺るがない。 いつもと変わらぬ……いや、いつも以上に余裕を感じられる。職員の中には気が触れたのかと疑うものもいた。 「警備本部長は一体何を問題視されているんでしょう? ……悪鬼がここまで来てしまうことを恐れているんですか? でしたら心配はいりませんよ」 神崎はティーカップを皿に戻すと、指を組んで諭すように語り始めた。 まずこの司令室があるフロアには悪鬼は存在しない。なぜならば先刻、参加者に当てる為に戦闘員を動かしたからだ。 無論。こういった事態を見越してのものである。 そしてこの司令室近辺には微弱ながら人払いの結界を張っている。悪鬼共が偶然に寄って来る心配もない。 「――なにより、我々の目的は凪を倒し今度こそ媛星の力を掌握すること。 だとすれば、凶暴な悪鬼が基地中に満ちているこの状態は我々にとって有利だとは思えませんか? なにしろ、ただの人間程度の戦闘員が揃って並の戦士を凌駕する鬼と化したんですから……」 彼の言葉を聞き、室内にいるものは等しくその意味と意図とを理解した。 それはとても簡単なことだ。 つまり、神崎黎人――黒曜の君は、儀式が成就するなら人の命などはなんとも思わない……ということ。 「そんな……、しかし……それじゃあ…………」 警備本部長は反論しようとし、しかし口ごもった。 今更、他人の非人道的な行為を咎められるほど彼女の経歴も綺麗なものではない。 己の目的の為に他人を蹴落としたことなど数え切れず、その過程で死人が出たこともなくはないのだ。 「ですが、安心してください」 神崎は椅子から立ち上がると、自分に注目している皆に向けて声をかけた。 その顔はやはりいつもの温和で平和的な笑顔だ。とても窮地に立たされた将のものとは思えない。 「凪を滅し、僕と命とが儀式を成就すれば、媛星の力によりあらゆる問題を解決することができます。 そして、その時は近い。 この地下には悪鬼が犇めき、我々の邪魔をする参加者らは絶体絶命の窮地に立たされている。 また凪を追い詰める作戦も順調に進行しており、アレの運命ももはや風前の灯火。 ほどなくして我々は勝利の栄光をいただくことができるでしょう」 そして、神崎はククと笑い声を零した。まるで、とっておきの悪戯が成功したかとそんな風に、心底愉快そうに。 だが、そんな彼とは対照的に室内の空気は凍りついたかのように冷たく、重くなってゆく。 「あなた達はこの幸運に喜ばなくてはならない。 なぜならば、この地獄とも言える地下世界の中で唯一安全な場所にいるのだから。 さぁ、どんどんHiME達を追い詰めてゆきましょう――」 ――我々の勝利の為に。 そして、凍り付いていた空気は溶け、司令室の中は再び慌しくなってゆく。 警備本部長は未だ生存している戦闘員の再編成や、職員の避難誘導を検討し、それを素早く指示してゆく。 オペレーター達はいくつものモニターとチャンネルを開き、外の情報を集めようと必死に目を凝らし耳を澄ませた。 技術顧問がエネルギーラインと生きている施設を確認し、計画担当がそれに合わせ指令書に訂正を入れる。 誰もが追われるように動く。 組織の為にか、神崎への恐怖にか、異常な事態からの現実逃避か、ただ単純に死にたくないだけなのか――。 神崎黎人はただその光景を目を細めて見る。 何もわからないといった風の妹を隣に置き、楽しそうに、楽しそうに、終幕へと進む事態をただ見守っていた。 LIVE FOR YOU (舞台) 16 <前 後> LIVE FOR YOU (舞台) 18