約 30,359 件
https://w.atwiki.jp/jojost/pages/137.html
第五話 「朝倉涼子が来る」 わけの分からない状況だった。 目の前の少女、「朝倉涼子」は危険だ。ぼくの感情がそう言っている。 しかし、車椅子は固定されたかのように動かない。しかも朝倉涼子はその原因を知っているらしい。 なにか仕掛けられたのか?だが、彼女は部屋に入ってから指一本車椅子に触れていない。 それで全く動かせないほどの仕掛けが出来るのか? 混乱した頭を懸命に回転させるぼくに彼女が微笑む。 「無駄よ。ここはもうあたしの情報制御下にあるの。あなたじゃ動かせないわ」 そして、笑顔のまま何かを投げた。身をよじり上半身だけで辛うじてかわす。 声が出なかった。顔の横の、壁に突き刺さったものがあまりにも現実離れしていて。 それはナイフだった。それも果物ナイフなどではない。 軍用の、人の命を奪うためのナイフだった。 彼女はそれをダーツでもするみたいに投げたのだ。 「あっちゃー、避けられちゃった。さすが元ジョッキーね。運動神経がいいわ」 彼女はまるで余興のゲームに失敗したような口調で言った。 「どうしてだ?なぜこんな事を?」 ぼくがやっとそれだけ言うと、彼女は少考の後それに答えた。 「涼宮ハルヒはあなたを気に入ってるわ」 ぼくはますます混乱した。なぜここでハルヒが出て来る? 「よっぽど自分から入って来たのが嬉しかったのね。 少なくとも、もうあなたを他人とは思ってないわ。」 ここで彼女は笑顔を消して真剣な顔をした。 「あなたを殺せば彼ほどでないにしろ、効果が見込める」 「さっきから何を言ってる?わけがわからないぞ!?」 彼女は失笑を漏らすと、哀れだというふうに首を振った。 「可哀相に・・・何も知らないのね。だけど、あなたには知る必要がないわ」 そう言い切ると彼女の腕が光に包まれた。光はたちまち増幅し、触手のように伸びた。 逃げなければ。そう思ったが、今やぼくは指一本も動かせなくなっていた。 恐怖や混乱からではなく、ただ動かせない。瞬きすらできず首へと伸びる触手を見ていた。 触手は首に到達すると、信じられない力でぼくを持ち上げた。体重がぼくの首を絞めていく。 激しい苦痛の中、声すら出せずに意識が遠のいていった。 152 :ジョニィ・ジョースターの憂鬱:2008/04/10(木) 23 11 08 ID ??? 死ぬ・・・。こんなところでぼくは死ぬのか・・・。 意識が消えかけていた。視界がぼやけ、白く包まれていく。 意識が完全に途切れようとした瞬間、ぼくは乱暴に地面にたたきつけられた。 激しく空気を貪る。急速に視界が鮮明になっていく。目の前に何かが転がっていた。 それは、腕だった。正確には腕の一部だ。そしてその持ち主はすぐに明らかになった。 眼前の少女、朝倉涼子は呆然と失われた腕を見ていた。見ると、腹部にも真一文字に血がにじんでいる。 「どうして・・・?」 朝倉涼子が呟く。ぼくを見てやがて目を見張ると、諦めたように笑った。 「そうか・・・。ふふ、また失敗しちゃった」 敵意はすでにないように思えた。そして彼女は最期の微笑みを浮かべた。 「あなたの勝ち。・・・でも気をつけて。これからきっと辛くなるわ。」 彼女は切断面から砂のように溶けていった。 「あなたは特にね。それじゃ、バイバイ」 ぼくは溶けゆく彼女の、子供のような笑顔を見ながら気を失った。 153 :ジョニィジョースターの憂鬱:2008/04/10(木) 23 13 20 ID ??? ・・・携帯電話が鳴っている。気がつけば普通の部屋にいた。朝倉涼子は影も形もない。 携帯電話を開く。「涼宮ハルヒ」とある。・・・絶望的な気分だ。通話ボタンを押す。 「・・・ジョニィ?・・・今何時か分かる・・・・・・?」 あ、嵐の前の静けさとはこのことか・・・!油汗が噴き出る。 「えと・・・五時半・・・?」 謝ろうとした瞬間、大きく息を吸い込む音が聞こえた。 「こぉのスカタンッ!!もう反省会終わったわよっ!今からさっさと出頭しなさい!」 携帯電話なのに叩きつけるような音がしたのは気のせいだと思いたい。 ぼくは這いつくばってどうにか車椅子に乗ると部屋を出た。 あれは白昼夢だったんだろうか。それにしてもかなりリアルだったが・・・。 色々と考えたいことはあるが、今考えるべきなのは別のことだ。 「光の触手を出す女の子に襲われて遅れた」・・・こんな言い訳をしたら殺される。 ジョニィが知ることはないが、この日の反省会、一人が急用を理由に早退していた。 ジョニィが完全に部屋から離れると、小柄な少女が物陰から姿を現した。 「気付いた時にはすでに手遅れ。危ないところだった。 ・・・朝倉涼子の残存・・・もう、それは問題ではない。だが彼は・・・。早急に調査を」 そう呟くと、長門有希はその場を離れた。 To Be Continued・・・
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1487.html
様々な情報が飛び交っている。電波や言語ではない。もっと高度な物。 具体的に説明をしろって言われても出来ない。 言語化するにはあまりに難しい概念。 宇宙の一端でそれは起こっている。はるか遠くの星に送り込んでいる 対有機生命体コンタクト用ヒューノマイド・インターフェースからも、「それ」は来ていた。 目的はとある情報爆発の解析と今後の可能性の探索。 しかし、小さな想定外が発生した。その欠如に代替が必要となる。 そして私は「構成」された。再びあの場所に行くために―― 「朝倉涼子の再会」 ここへ来るのはどれくらい久しぶりの事だろう。そもそも時間の概念が曖昧な思念体において、 地球上の時間を当てはめることの方が無駄……かな。 私は今、坂道を登っている。周囲には学生の姿も見当たらなければ、サラリーマンもいない。 せいぜい散歩に出た主婦らしき人と時々すれ違うくらいだった。 この有機生命体、「人間」の歩行速度ってどうしてこう遅いのかしら。非効率だわ。 そんな事を考えながら、道を歩いて行く。見慣れた建物が視界に入ってきた。 ここは変わらないのね、前に来た時と。 建物が見えてきてからも歩いて着くには距離があった。建物を目の前にした時には息があがっている。 このインターフェースを使うのも結構久しいもんね……。 建物の一室に入る。こういう時はドアを叩く――叩くと言っても軽く、ドアが音を立てるくらい――のが規定の行動だったっけ……何の意味があるのかしら、これ。 中から「どうぞ」と言う声が聞こえる。そっか、この行動は許可を求める行動なんだっけ。 こんな事にまで許可が必要なんて、不便ね。 心とは裏腹に「笑顔」と言われる表情を形成した私は部屋の中に居た有機生命体、人間の成体達に向けてこう言った。 「本日転校してきました、朝倉涼子です」 そこに居た人間の一人――名称:岡部、年齢:(以下略)――が立ち上がり、 「久しぶりだな、覚えてるかい?」と聞いてきた。 かつてここに来ていた時、人間の集合団体、ええと、クラスって言うんだっけ? そう、クラスね。そのクラスの監視担当をしていた者だ。 「はい、岡部先生ですよね?」 「おお、覚えていてくれたか」 岡部は喜んでいる様だった。そして、自分の所属するクラスに案内すると言って歩き出した。 「しかし、急だったな。いきなりこっちに戻ってくるなんて」 「ええ、私自身驚いています」 「どうだった?カナダでの生活は。と言っても1年だからわからないか」 ……カナダ?情報検索……、ああ、なるほどね。私はここに行った事になってるんだ。 きっと長門さんの情報操作ね。とりあえず適切な言語で対応しなきゃ。 「ええ、分からないことが多くて戸惑いました」 「お前ほどの優等生でもさすがに英語の現地は強敵だったか。ははは」 そう言うと岡部は笑い出した。この返答に問題あったかしら? 人間で言う「笑う」に該当する事を言ったはずは無いんだけど。 「さぁ、ここがお前の新しいクラスだ。合図したら入ってきていいぞ」 そう言うと岡部はドアを開けた。 「遅れてすまん。今日は転入生が来たんだ。さぁ、入って」 私はその言葉が終わると、一歩一歩ゆっくりと教室に入っていった―― 教室に居る人間を見渡す。とりあえずは監視対象である彼女もいるはずだけど…… 居た。右側から一列、後ろから一行目の位置に。窓の外を見ている様で、目はこちらを向いている。 その前には、彼が居た。かつて私が殺害しようとした、変革の鍵。 彼は私を見て「驚愕」の表情を形成していた。体も一瞬震えた様だった。 その様子に涼宮ハルヒも異常を感じたのか、彼の背中に視線を移す。 教室の中央まで歩いた私はこの文化上で最も適切と思われる自己紹介の文句を検索した。 様々なパターンを合わせる。様々なパターンが自分の中で構築され、修正された。 しかし、この地球上の時間にしてみては1秒も無かっただろう。 「朝倉涼子です。よろしく。あたしの事覚えてる人も何人かいるのかな?また会えて嬉しいわ」 うん、とりあえずはこれでいいかな。 「朝倉さんは両親のご都合でカナダに転校していたんだが、この度戻ってこれる事になったらしい」 「皆、仲良くしてやってくれ。特に涼宮、頼むぞ」 その言葉に涼宮ハルヒは岡部を見た。その視線は挑戦的だ。 まるで「何であたしだけ個別なのよ!」って言いたそう。涼宮ハルヒらしいわね。 私の座席は急遽用意したらしい。周囲の配列から一つだけはみ出した部分にあった。 右側一列目、一行目の一つ後ろに当たる位置。つまり本来なら私が一行目なのね。 座席に座った私を二行前、一列左の彼が警戒の視線で見てくる。 その彼を見た涼宮ハルヒがその背中をつつく。 「何よ、キョン。久しぶりの再会がそんなに嬉しい?」 少し怒り気味に言っている。声を控えているつもりかしら?私には聞こえるけど。 それにしても、涼宮ハルヒは相変わらず自分中心なのね。きっとクラスにも馴染んでないわ。 昼間休息に入るまで私は退屈だった。言語での学習なんて効率が悪いわ。 どうしてこの星の有機生命体はこのレベルでしか自分の記憶端末に情報を加えられない訳? しかもこの星では人間が知的有機生命体最高のレベルらしい。信じられないわ。 一度言語を聞くだけで情報を全てインプットできた。そんな事は機能の一割も要さない。 それより重要なのはインターフェースとして構成された以上は情報の齟齬は防がなくてはならない。 最初に構成された時の収集情報を反芻し、分析する。 このインターフェースはかつての物と若干異なっているしね。幸いにも外見が同じに設定されてはいるけど、 中身が違ったら疑われるかもしれないし、その度に情報操作の許可を求めるのも……ね。 そして、やっと昼間休息の時間になった。 涼宮ハルヒはその合図となる音、チャイムを聞くと途端に教室から出て行った。 丁度良いわ。彼と話がしたかった所だし。 だが、彼もまた直ぐに教室を出た。彼の習慣は教室での昼食だったはずだけど、変わったのかしら? しかし、彼の友人である人間二人……ええと、名称は…… 谷口と国木田だったわね。その二人が「不思議そう」な表情を形成している。 彼らにしても想定外、つまりあたしが原因で緊急に何かをする必要があったって事ね。 それなら、彼が行く場所は一箇所しかないわ。 私も座席を立ち、教室を出た。目的地は彼と同じ。涼宮ハルヒが結成した団体の専門部屋。 彼がそこに行ったとすれば目的は確認でしょうね。「私」が存在する理由の。 聞いてくれれば私が教えてあげるのに。 そう考えながら団体専門部屋……部室に向かった。 部屋の前まで来ると、彼の話し声が聞こえてきた。 「長門!どう言う事なんだ?」 あら、長門さんも居るみたいね。きっとまた本でも読んでるわ。 「先日、私達インターフェースの内の一体が損失した。原因は車による交通事故」 「事故だって?お前達ならなんともないだろそれくらい」 「そのインターフェースの事故現場に涼宮ハルヒが遭遇した。 周囲の情報操作を記憶にまで及ぼす必要があり、必然的に涼宮ハルヒに干渉する必要が出てくる。 しかしそれは危険。よってそのインターフェースのロストはどうにもならなかった。 だが、そのインターフェース端末の有機体としてはロストに当たるが、内部構成情報は、 情報統合思念体に帰還している。こちらに問題は無かった」 しばらく沈黙が続いた。 「それで、代わりの監視に朝倉が来たってことか?」 「そう」 「なんだって朝倉なんだ?この学校に潜入させるにしたって適当な奴を作ればいいだろう」 「思念体の内部に朝倉涼子を構成していた情報の一部が帰還していた事で、思念体の中でも意見が分かれた」 「学校内の監視者を増員する目的で、最終的に朝倉涼子は能力を大きく制限された上で再構成が決まった」 「おいおい……マジかよ……」 彼が落胆を含む声を出していた。そろそろ入ってもいいかしら? ドアを開ける。彼がまたも「驚愕」の表情を形成した。 「朝倉!何でここに?」 「失礼ね。私がお昼休みにここに来ちゃダメなの?」 「そんな事じゃない!何でお前はここに居るんだ!」 「今長門さんから聞いたでしょ?話していた事そのままよ」 彼の思考には驚愕が確かにある。だが、同時に不安もあるようだった。 どうやら、彼の中で私はナイフを振りかざしたイメージしか残っていないみたいね。 「長門さんが言ったとおり、今の私は情報操作力を始めとして能力に制限がかかっているわ」 その言葉を聞いても彼の反応は変わらない。信じられないって事かしらね。 「それに、私の直属の上司に当たる人が最近になって穏健派に転向したの。 だから、もうあなたを襲ったりはしないわ。結構時間も経っちゃったみたいだし、 今さらあなたに手を出すと危険みたい」 彼は私の言葉をよく理解していないみたいだった。本当に情報の伝達力が低いわ。 彼の場合は通常の人間よりも他者の感情理解に乏しいみたい。 こういうの何て言うんだっけ……そう、「鈍感」 「要するに、あなたは心配しなくて良いのよ、もう」 「そうは言われてもな……長門、本当に大丈夫なのか?」 「問題ない、朝倉涼子に情報操作の能力は無い。分子構成操作においても同様」 「いや、そういう問題じゃ無いんだが……」 「大丈夫、また何か起こった時は……私があなたを守る」 これは意外だった。まさか長門さんからこんな言葉が出るなんてね。 その日の午後になっても特に大きな出来事は無く、私は帰宅した。 当然場所は以前住んでいた場所と同じ。手続きも済ませてある。 長門さんが帰るのは、もう少し後になってからね。 彼女は涼宮ハルヒの活動に参加して監視をしているわけだし。 それにしても眼鏡かけて無かったわね。彼に勧められたのかしら。 それよりも驚いたのは無感情に設定された長門さんの異変ね。 彼女には「感情」が発生している。私や他のインターフェースとは違う「感情」が。 私達が持つ感情はこの星における活動を円滑にするために「設定」されたもので、 表情や言語のパターンの組み合わせに過ぎない。 微妙に差分を付けていくことで人間には「感情」と認識される。 でも、長門さんの感情はそれらとは異なる。新たに発生した感情。 それはインターフェースとしては異例の事なのかも知れない。 統合思念体としてはどう受け止めてるのかしらね。 今の私は長門さんを通してじゃないとコンタクトも出来ないくらいの能力制限がかかってる。 それはそうよね…あの暴走した一件で本来ならこうしてインターフェースに構成されるだけでも異例。 思念体に帰還した時、情報内の「私」も削除されるか否かで議論された。 結果、一応は解析の糸口になる可能性があるからとまだ削除されずにいる。 様々な思考が巡っている間に、長門さんは帰ってきた。マンションの敷地に入れば私の探知範囲に入る。 私は自分の部屋を出ると、長門さんの部屋に向かった。 「こんばんは。ちょっといいかしら?」 「いい」 そう言われると私は長門さんの部屋に入った。相変わらず物を置かない部屋ね。 それでも私が前のインターフェースで居た時より増えてはいるみたい。 中でも目立つ位置にあるのは…時計? 「あら、長門さんが時計を見ることなんてあるのかしら?」 「それは彼から貰った物」 「ああ、そういう事ね」 なるほど、長門さんは感情を得たことで彼を想う様になったって事かあ。 私には理解できないけど、そんなに楽しいものなの? 「楽しい。インターフェース機能上はエラーと認知されているが、私はこれを削除しない」 ふーん。 「それはそうと、私の今後の役割をもう少し細かく説明して欲しいな」 「以前と同じ。涼宮ハルヒとその周辺の監視。ただし能力は制限したままにする」 「それじゃあ大したことは出来ないじゃない」 「あなたに危険が無いと判断できたら一部の制限は解除する」 「それを判断するのは?」 「私を含む能力制限解除権を持つインターフェース3体の同意」 それから細かい説明があった。お互い高速言語会話だったから結構思考力使ったわ……。 当分の間は普通の人間みたいな生活をしなきゃならないのね。 とりあえずかつてと同じ時間に規則的に日常モードを起動し、準備をする。 初日は情報の齟齬が発生しないように記憶をいちいち検索しないといけなかったけど、 二日目ともなるとその必要性も減っていた。そもそも人間は記憶力も大したことは無く、 一度記憶したことを引き出すシステムが未発達だ。つまり「忘れた」って言えば話も通せる。 でも、私は周囲の期待値上ではそれを言わない事になっているみたいだしね。 結局いくつかの事は人間時間における秒にも満たない間に検索し、受け答えをしていた。 彼はやはり私をどこか避けたがっているようだった。昨日長門さんが大丈夫って言ったのにね。 涼宮ハルヒは相変わらずね。彼と話すときだけ表情が変わる。 「それで久しぶりに会った元東中クラスメートが何て言ったと思う!? 『いい加減バカなことはやめたほうがいいんじゃないか?』って言ったのよ!?」 「まあいいじゃないか、ハルヒ。相手だってお前のことを全部知ってるわけじゃないんだ」 「そ、それはそうだけど…。とにかく!許せないわあのバカ!」 彼は涼宮ハルヒに調子を合わせてるって感じね。内心同じ事を思っているのかも。 そう考えると、自然と笑いがこぼれた。 「ちょっと!何笑ってるのよ!」 気付くと涼宮ハルヒがこちらを睨んでいる。やだ、声に出てたの? とりあえず涼宮ハルヒを刺激するのはいろいろとまずそうだから、当たり障り無い事を言っておきましょ。 「いえ、キョン君相手にだと随分色々話すんだなって思って」 涼宮ハルヒは顔を真っ赤にした。彼が疑問そうにその顔を見ている。 彼、もしかして本当に涼宮ハルヒの気持ちに気付いてないのかしら? 1ヶ月間任務は滞りなく行われ、やはり観察対象である涼宮ハルヒに大きな変化は起きなかった。 あーあ、やっぱり変化が無いって面白くないなあ…… しかしここ最近不思議な事が起こりはじめた。自分の記憶整頓の際に彼の事を浮かべる機会が増えたのだ。 涼宮ハルヒに選ばれた鍵、周囲からは名称:「キョン」で呼ばれる彼。 私の転校時期は高校の時系列上2年性の開始ほぼ直後だったらしく、結局クラスの委員長に選ばれた。 相変わらず涼宮ハルヒはクラスに溶け込もうなんて考えてもいない。 彼が居なきゃ彼女はどうやって一日を過ごすのかしら。見てみたい衝動に狩られる。 殺すんじゃなくて、一日くらい彼の体内情報を操作してこの星で言う「風邪」にでもすればいいんじゃないかしら? 一応長門さんに進言はしてみた。私の言葉を聞き終わるのと同時に「その提案を却下する」と言われた。 この1ヶ月間の監視で分かったのは、涼宮ハルヒの中での彼の依存度が以前より増している事だった。 普段の会話や態度にはあまり出さないように本人が制限をかけているようだけど、 内面的には「もっと彼と一緒に居たい」という感情が大きくなっている。 その感情をずっと観察して解析しようとしたからなのだろうか、自分も何時しかその感情の断片を持っていた。 彼にも観察の価値はあるのかも知れないわね。と思ったのが最初だ。 彼自身も涼宮ハルヒに対しては涼宮ハルヒの持つ感情とほぼ同質の感情を持ってはいる。 彼の場合はそれを自覚してないようだけど。それに長門さんに対しても同じような感情がある。 長門さんもそれは分かっているはずなんだけどなあ? もしかしたら長門さんも悩んでいるのかもね。彼女はインターフェースとしても一流だし、 能力も私より全然上、でも無感情に設定された所に感情が芽生えて制御が出来ていないのかも。 私は……どうなんだろう。 彼を意識するようになってからの監視はそれまで異なっていた。 彼の会話相手は半分が涼宮ハルヒ。残った半分をクラスメートに振り分けているって感じね。 私は除外されてるみたいだけど。私からは積極的に話しかけてはいる。 彼も私に殺されそうになったと言うわけでは無かったものの、 話す言葉や態度からは拒絶心が溢れ出ていた。そして、ある時を境に私はそれを「辛い」と感じるようになった。 帰ってからそのエラーをデバッグしようと努力する。しかし、自分で構成したそのエラー駆除プログラムを、 私は実行できなかった。したくなかった。 長門さんでさえ、「感情」が芽生えるには長い時間を必要とした。しかし、私はこの1ヶ月でその断片を持っている。 何故?私を構成したときの情報にその因子が最初から存在していた? 思念体がそうする理由は無い。感情の概念を知らない思念体がエラー要素を組み込んでも危険なだけ。 原因は分からないが、とにかく私には感情の因子が存在し、それが自己成長する傾向にある。 パターン化された構成上の「感情」と異なってこちらの感情は発生のパターンも内容も変わる。 これが……有機生命体の持つ感情だって言うの? 一際強いのが彼への感情。彼を振り向かせたい。拒絶される現状を是正したい。 どうすれば解決できるのか。様々なコードを頭の中でめぐらせる。能力制限はほとんど外れていない。 現状で情報操作を使用した行動は不可能。つまり、人間と同じ立場で行動をしなければならない。 人間の歴史を検索する。様々な判例が出てきたが、私は結局そのどれが適切なのか判断できなかった。 翌日、日常モードを起動して学校に向かう。 その登校途中で、彼を見つけた。 「おはよう!キョン君!」私は笑顔で声をかける。 「あ、ああ……朝倉か……」 「何よ、残念そうね。涼宮さんが良かった?」 「冗談はよせ、朝からあのパワーに当てられたらかなわん」 やはり彼は一歩退いている。いつかの情報封鎖を警戒しているらしい。 「何度も言ったけど、今の私に情報操作の能力は無いわ。制限も当分は外れないみたい」 「信頼できるか」 彼の言い方は冷たかった。命を狙われたんだし、当然と言えば当然の反応だけど…… 「やっぱり、許しては……くれないよね」 「当然だ。俺は偉人でも聖人でも無いが、ほいほいくれてやる命を持った覚えも無い」 「今の私はあなたを殺す意志は無いんだけどな……本当なのよ?」 そう言って彼の目をはっきりと捉える。こういうの、「上目遣い」って言うんだっけ。 「悪いがあの一件は俺にとっちゃ結構なトラウマなんだ」 トラウマ……?語句検索……、該当した。あまり知りたくない事でもあった。 要するに恐怖体験を無意識に反芻して根本的に私を「畏怖する存在」として捉えているのね。 「そう……残念だな。じゃあ、私は日直があるから」 そういって私は少し足早に教室に向かった。 彼を振り向かせるにはとりあえず彼の、ええとトラ……、トラウマを削除するのがいいみたい。 それは私一人では出来ないレベルの事だわ。別のインターフェースの協力を申請してみないと。 その日も彼は涼宮ハルヒの会話に合わせていた。日に日に話題を変える彼女だけど、 ほとんどが意味の無い話しか聞こえないのは何故かしら? 意味なんて要らないのかも知れないわね。彼らの間では。少しそれは羨ましい。 その日の帰宅後も、私は長門さんを待った。数時間すると彼女は帰ってきた。 「ねえ、長門さん?」 「なに」 「彼の、記憶の一部の情報操作の許可をお願いしたいんだけど」 「許可できない」 「どうして?改変に関わるような真似はしないわ」 「それを保証する手段がない」 「それじゃあ、長門さんに依頼してやってもらうのは?」 「それも許可できない」 「どうして?彼の私に対しての記憶の一部を消すだけでいいのよ?」 「今や彼の情報操作は危険。涼宮ハルヒが異変を察知すれば世界を改変する恐れがある」 「そんなに差が出るとは思えないんだけどなあ。私の記憶一つで」 「あらゆる危険の可能性は避けるべき。それは今のあなたになら解るはず」 それはそうなんだけど……今のままじゃ彼は私を拒絶し続けるって事じゃない。 「彼があなたを拒絶する根元はあなたの行動。あなたの自己責任」 「それを是正したいからこうして許可を求めているんじゃない」 「許可はできない。これは私以外のインターフェースでも同じ見解になる」 長門さんになら私の気持ちがわかると思ったんだけどなあ…… 「今のあなたは自身の感情の為に独断先行を行おうとしている。それでは以前と同じ」 「……!! もしかして……あの時から私には感情が……?」 「そう、あなたは感情という一因を既に発生させていた。それがあなたを暴走させた」 このまま感情を持ち続けたら……私は再び暴走する可能性があるって事……? 「そう」 そんな事……あれは、感情だった? 「あなたはこの短期間で自分に構成された感情を自覚してしまった。これは問題」 「どうして?」 「その感情を削除しないとエラーとして深刻な影響が出る可能性がある」 「でも……何故かこれは削除したくないのよ」 「思念体ではこの概念を理解できない」 「長門さんは何故……暴走していないのよ」 「一度誤作動は起こした」 「え?」 「一度涼宮ハルヒの力を最大限に利用し、時空を改変した」 「長門さんでもそうなった……そしてその原因も……」 「あなたと同じ。『人』に対する『感情』と呼ばれるもの」 解決策は目の前にある。長門さんならこれを削除できるはず。 抵抗しようにも今の私の制限状態なら、どうしようもない。 「私が頼めば……長門さんは私のこの『感情』を消せる?」 「削除は可能。ただし、結果は部分的に予測不可能」 そっか……。とりあえず保留にさせて。 「そう」 私は長門さんの部屋を後にした。 自分の部屋に戻っても『不安』が取り巻いていた。 元々設定されていた感情は、あくまでプログラムだった。 だが、自身に内部的に発生した感情は予測できない動きをする。 その影響で設定されたプログラムと区別ができなくなっていた。 恐らく長門さんもそれには気付いている。 つまり感情を削除するって事は……一度全てを消して必要部分を再構成する事になる。 その際に、おそらく自分の本当の記憶もいくつか削除される。 元々人間相手には「忘れた」がまかり通る。記憶削除を行っても不都合は少ない。 それはわかっていた。だが、私はそれを拒否したいと考えている。 忘れたくない。彼を…… こういう感情はかつても無かった。誰かに聞けば正体を教えてくれるだろうか。 自分でシミュレーションを行ってみる。 この感情が一番動きを見せるのはどういう場合なのか…… トレース開始…… 「…………」 「……」 「………………」 シミュレーション終了。 一番動きが出るのは、彼と涼宮ハルヒが一緒に居て話しているとき、か。 自分が彼にかつて言った言葉「涼宮さんとお幸せに」が実現している事に私はエラーを見出している。 通則的に言うと『嫉妬』に該当する事になるのね。 あーあ、もし私がインターフェースじゃなくて普通の人間なら…… ………………!!! それだ。その方法がある。 涼宮ハルヒの力を使えばそれは可能だ。 ただし、情報操作を介して行うことは許可されないだろう。 でも、涼宮ハルヒが私を「普通の人間」だと思い込めば、それは実現できるかもしれない。 それを可能にする鍵はやはり彼ね……。 彼のトラウマは結構深いみたい。だけど、それなら尚更私が普通になる事に反対はしないはず。 私は短期的な待機モードに移行した。 自分の中にある『期待』を検証しながら。 翌日、学校に着いた私は、誰も教室に来ていない事を確認して彼の机の中にメッセージを入れた。 前回と同じ下駄箱に入れても警戒されるかも知れない。 彼が私の文字を書くパターンを解析できるかはわからないけど、少なからず望みはあるはず。 その日の授業もやはり教科書を一読すれば全ての情報が入って来ていた。 私が普通の人間になったら、これも苦労して覚えるのかな。 ふふ、それもいいかもね…… 放課後になった。彼を呼び出した時間はもう少し後だ。 私の行動は独断先行と取られるかしら。被害は与えないし、刺激もしない。 特に問題は発生しないはずなんだけど……。 「朝倉涼子」 ふと後ろから声をかけられた。振り向くとそこには喜緑江美里が居た。 「あなたの行動は中止すべきです」 「どうして?大きな問題は起こさないわ」 「あなたは思念体から離反しようとしているんでしょ?」 「裏切るみたいな言い方はしないでほしいなあ。それが問題?」 「思念体は発生する影響を懸念してます」 「知ってるわ。私にもコンタクト機能は残ってるもの」 「ならば、尚更その行動が問題視されているのはわかるはずでしょ?」 「……嫌なのよ」 「どういう事ですか?」 「思念体にはわからないじゃない!今!私の持っている『感情』が!」 自分が声を張り上げた事に喜緑江美里は驚いていた。 だけど、それ以上に私自身が驚いていた。 「私の感情は『設定』された物です。ですからあなたの持つものとは別種」 「ですけど、私にはあなたの行動は許可できません」 まずい事になっちゃった……喜緑江美里は今強行手段を取ってでも私を止める気だ。 能力制限のある今の私にそれを止められる術はない。 あーあ、私に襲われた彼もこんな感じだったのかなあ。 これは確かに忘れられそうにないなあ……失敗かあ…… 喜緑江美里が手を掲げ、プログラムを立ち上げる動作に入る。 「誰か居るか?」 その時ドアが開き、彼が入って来た。 喜緑江美里は驚いて手を止めた。 彼は教室に居た二人に驚いている様だった。 「朝倉……それに喜緑さん?どうしてここに?」 「ええと……それは……」 喜緑江美里は説明しかねていた。 「ねえ、話したいことがあるんだけど、いいかな?」 私はそう言った。何かを話すという状況だけあれば、喜緑江美里も私をすぐに削除はしないはず。 「俺はお前とあまり話したくは無いんだがな」 「喜緑さんに居てもらってもいいわ。襲う気なんて無いけど、それで安心できるなら」 彼は決めかねているようだった。 喜緑江美里もその状況は想定外だったらしい。判断を遅らせていた。 もう一押し必要そうね。 「涼宮さんにも関わる話なんだけどな」 これで彼は動かせるはず。 お願い……動いて! 「わかった。聞こうじゃないか。ただし喜緑さんに同席してもらいたい。いいですか?」 「……はい、わかりました……」 喜緑江美里は思考した末に許可を出した。 あとは彼に提案が受け入れてもらえるかどうか……それだけね。 「改めてだけど、私の誤作動であなたを襲おうとしたことは謝るわ。ごめんなさい」 彼は黙って聞いている。 「あなたにはわからないかも知れないけど、今の私はそれを後悔してる」 「何故かはわからないけど、今の私には設定外の『感情』があるの」 「……どういう事だ?」 彼はその部分に興味を持ったらしい。長門さんの事もあるから……ね。 「長門さんも同様に設定外の『感情』を持ちはじめている。気付いてるでしょう?」 「ああ」 「私は元々設定されてた感情を持っていたからたぶん影響が大きかったと思うの」 「エラーコードとして削除することもできるんだけど、私と言う固体はそれを拒否してるのよ」 「どうしてだ?」 あなたに対する感情があるから……なんて言うわけにも行かないわね。 恐怖心を煽って拒絶されたら終わりだもんね……。 「私なりにはこの生活を楽しんでいたのよ。能力も制限されてる状態でほとんど有機生命体と変わらない。 そんな生活をしてたらさ、このまま人間として生きるのもいいかもって思ったの」 これは本心でもあった。感情を得てからの私の生活は実際に「楽しい」と感じた。 任務上の一環で行っていた頃とは違う感じが確かにあった。 「でもね、インターフェースでもさすがにそこまでの情報改変は不可能なの」 「万能宇宙人にも不可能はあるんだな」 彼は興味半分、警戒半分って言い方をした。 「でも、それを実現する方法が一つだけあるわ」 「……ハルヒの力を使うってか?」 「ええ、その通りよ。でも世界の改変まではしないわ」 「どうして言い切れる」 「彼女は今までも部分的情報操作や生産を行ってきた。その一端よ」 彼は考えているようだった。少し難しい事かも知れない。 彼は学校の成績はあまり良くなかったもんね……。 「涼宮さんに私が「普通の人間」って思い込むようにしてくれれば、きっと私は人間になれるわ」 「ハルヒがお前に関心を持っているとは思えないんだけどな」 「それはわかってるわ。だからこっちでも関心を引くことはするつもり、でも……」 私は少し間を置いた。彼に頼らなければならない。 それを彼に対して明確にしなければならない。一人でどうにかなると思われたらダメ。 「彼女を後押しできるのはあなただけだわ。私一人で言っても説得はできないの」 「俺がハルヒに対してそれだけの発言力があると思ってるのか?」 ああ、そうか。気付いてないんだっけ。 あなたの言葉が涼宮ハルヒに与える影響がどれだけ大きいか。 彼女、あれでもあなたの言葉には結構素直なのよ。嫉妬しちゃうくらいに。 「ええ、あなたは『鍵』ですもの。彼女の最高のパートナーだわ」 「俺は不本意なんだがな」 「でも、涼宮さんに選ばれたのは自覚してるんじゃない?」 「それに、この話はあなたにも悪い事は無いわ」 彼はその言葉には心を動かされたようだった。 「普通の人間だったら襲われる心配だってないでしょう?」 「確かにその通りだが……」 「ね?お願い。私は……本当に人間になりたいのよ」 彼は明確に悩んでいた。現状私を人間にしても害はないと考えているのかしら。 トレース機能は制限されていて使えない。こういう駆け引きも面白いのね。 「あの……」 喜緑江美里がここで初めて喋った。 「今のお話ですけど……私達はそれを良しとしていません」 「どうしてです?」 「朝倉さんの行動は、思念体からすれば離反なんです」 あまり言って欲しくなかったなあ、それ。 彼は再び悩んでいた。 「つまり、人間になりたいと言うのは朝倉個人の希望って事なのか?」 「そうよ。だって思念体や喜緑さんではわからないのよ」 「何を」 「私が理由としている『感情』の概念をよ」 「まあ、確かにそれはそうかもしれないな……」 彼が何かを思い浮かべる。きっと長門さんの事でしょうね。 私もああやって思い浮かべられる存在にはなれないのかしら……。 「少し考えさせてくれ」 彼はそう答えた。私はそれで十分だった。 「ですが……」 喜緑江美里はそれでは不満なようだ。 「いいじゃない、喜緑さん。インターフェースの一つくらい」 今の能力も無くなるのは少し不便だけど、ね。 「しかし、任務を放棄してまで拘る理由があるのか?朝倉」 「ええ、あるわ」 「何だよ、それは」 私は再び答えかねた。さっきの理由じゃ不十分だったみたい。 でも、言うわけにはいかないわ。今のままでは。 「禁則事項よ」 私はそれだけ言った。彼にしてみれば聞きなれた言葉のはずですもの。 未来人の朝比奈みくるから。 その日はそれで話を終え、私は帰った。 彼はそれから活動に行ったらしい。その日の夜に私は再び長門さんの部屋を訪れた。 「あなたの行動は処分の検討に値すると判断されている」 どうやら私のアクセス権限より上の思念体の意見らしい。 「確かに監視用インターフェースの任務を放棄するのは悪いと思うわ」 「ならば、すぐに彼への申請を取り下げるべき」 「インターフェースなんてすぐに作れるじゃない。私じゃなくてもいいわ」 「それは学校内に監視者を置くと言う思念体の判断に背く」 「転校かなんかにすればいいじゃない。今の時期なら涼宮さんも不信には思わないわ」 「あなたはとても優秀。思念体も期待している」 「でも、私は観察よりも、別の目的の方を優先したいのよ」 「その目的の把握をしたい」 「わかっているんでしょう?彼に近づきたいのよ。任務では無く、固体として」 「それは許可される事ではない」 「誰にとって?思念体?違うんじゃないの?」 「…………」 「あなたも一度は思ったんでしょう?『普通の人』として彼に接したい。と」 「…………」 「幸い、制限状態の私ならロストしても影響は少ないわ。それに」 「…………」 「関心あると思わない?インターフェースが人間として再構成される時の発生情報は」 彼女は思考していた。いや、『悩んで』いた。 長門さんとしても思うところはあるのだろう。それが私を否定しきれない理由になっている。 「わかった」 「本当に?」 「思念体に朝倉涼子を『情報観測の実験手段』として申請する」 思念体での意見は様々だった。 長門さんの許可によってアクセス制限を外され、私も今だけ思念体の意見を把握できる。 やはり感情が理解できない思念体では結論は出しかねていた。 頭が硬いんだから、もう…… そう言えば、クラスの男子の一人が言っていた。教師の一人を指して「あいつは頭が硬い」と。 こういう意味だったのね。今ならわかるわ。 長い意見の錯綜の末、危険が察知できたら直ちに私の情報連結解除を行うという条件が付いて許可された。 「ありがとう。長門さん」 「いい」 「それじゃ、今日は帰るわ」 「そう」 私は長門さんの部屋を後にした。 部屋を出る直前に彼女は私に言ったのか、自分に言ったのかわからない言葉を呟いた。 「………い」 きっと人間では聞き取れないだろう。 そうね、長門さん。そう思うでしょ?私はそう思ったから、今こうしているのよ。 翌日、私は通常通り待機モードから日常モードに移行した。 今日は涼宮ハルヒと私、他の人で行う掃除当番の日だった。 昼休み、彼女の居る学食に向かい。彼女に話しかけた。 「ねえ、涼宮さん。掃除当番の後話があるんだけど、いいかな?」 「何よ」 「最近涼宮さん、キョン君の事ばっかり気にしてると思って」 「な、何よ!べ、別にそんな事無いわよ!」 声を張り上げたので周りの生徒が注目する。だが、彼女の名は既に常識になっている。 また涼宮か、と言った風に皆視線を各々に戻した。 「そんなにムキにならなくていいじゃない」 「な、なってないわよ……」 そんなに顔を赤くして言われてもね。 「彼の事で話したいことあるからさ、放課後少しだけ、お願いね?」 「わ、わかったわよ。団員の事となれば団長が応じるのは仕方ないわ……」 「それじゃ、掃除の後ね」 そう言って私は教室に戻った。 そのまま学食でお昼ご飯の摂取をしても良かったんだけど、やっぱり彼の近くにいたいから。 掃除は涼宮ハルヒがちゃっちゃと働いてくれたおかげですぐに終わった。 本当は合わせて5人で担当していたのに、 「あんたら感謝しなさい!今日は特別にやってあげるわ!帰っていいわよ!」 と、強引に3人を帰してしまったのだ。 彼の事になると結構必死なのね。涼宮さん。 「違うわよ!あたし一人でやった方が効率がいいわ!邪魔なのよ!」 クラスメートに対する言い分とは思えない事言うわね。 「私は手伝うわ。いいでしょ?」 「まあ仕方ないわね。あんたのくだらない話もさっさと終わらせたいし」 そして掃除が終わると、担任の岡部も教室を出た。 少し待っていると、教室は私と涼宮ハルヒの二人だけになった。 「それで、話って何よ」 「涼宮さん、キョン君のこと好き?」 「な……!!」 一気に顔が真っ赤になる。私が観測していた時期にはこんな反応絶対にしなかったのに。 あのペースのままでもこんなに変わったんだ。涼宮ハルヒは。 「べ、別に違うわよ!あ、あいつはただの団員だし……」 「そう、それじゃあ、私が彼に告白とかしても不都合は無いわよね?」 「え……?」 彼女は言葉に詰まった。 「だって好きじゃないって事は付き合ってたりもしないんでしょ?なら問題ないわね」 「ちょ、ちょっと!」 涼宮ハルヒは明らかに慌てていた。私の発言も予想外だったんだろうけど、 それよりも別の理由で慌てているのは私でもわかる。 「キョンみたいな奴でもSOS団の団員なの!部外者にホイホイと渡しはしないわ!」 「あら、恋愛くらいは自由じゃないの?」 「ダメよ!ダメ!SOS団は恋愛禁止なの!」 「それじゃあ涼宮さんも彼を好きになったりはしないって事ね?」 「う…………」 涼宮ハルヒは思ったよりもわかりやすい反応をしていた。 これなら誰だって分かるんじゃないかしら。 あ、でも彼は気付いていないんだっけ。相当鈍感なのね、彼。 「いいじゃないの。私が言いふらしたりすると思う?」 「…………」 彼女が口先を尖らしながら黙っている。 「ね?好きなんでしょ?彼の事」 その言葉に反応するように顔の赤みが増す。 「その様子だと、好きって事でいいわね」 「……だったら何なのよ」 「私達は、ライバルって事になるわね」 「む……」 涼宮ハルヒは明確に言葉にはしていないものの、敵意に近い感情を私に向けていた。 「ふん!あんたみたいな優等生とキョンじゃ不釣合いよ!」 搾り出すようにそう言った。あなたと成績じゃそんなに変わりないと思うけどな。 「とにかく!あたしの団員なんだから、手出しはさせないわ」 「そうね、活動中はお邪魔はしないわ。でも他の学校生活部分では彼だって一人の人よ」 「いいえ!キョンは寝ても起きてもSOS団団員なの!」 彼女はそれだけ言うと、荒々しく教室を出て行った。 彼女に対するアプローチはこれくらいでいいかしらね。 あとは明日にでも彼が私の話題を出すように頼めばいいわ。 彼には「朝倉は普通の人間じゃないかも知れないんぞ?」とでも言ってもらうつもり。 彼女は今日の事があるから、きっと過剰に反応するはず。 「そんなわけ無いじゃない!あいつはただの一般人よ!」 彼女がムキになってそう答える姿が想像できる。 それが上手く行けばいいな。 あとは彼を今日どこかで待っていないとなあ。 とりあえず公園で待っている事にする。 彼が帰るまでは結構な時間があるから、それまでは待機モードに移行しても良いかしらね。 プロセス――待機モード……、あれ?移行できない? そんなはずはない。いくら私でも自身の待機モードまで制限されているはずは無い。 思念体にアクセスしてみようかしら……それもできない。 機能不良かしら。今までそんな事は無かったのに。 試行錯誤していたら数時間経っていたらしい。 結局モード移行もアクセスもできなかった。もしかしたら制限されてるのかもしれない。 長門さんや他のインターフェースと衝突した形にはなったしね。 彼が歩いてくる姿が見えた。 彼も私に気付いたらしい。 「ねえ、キョンく『なあ、朝倉』」 ほぼ同時に言った。 「な、何?」 先に反応したのは私だった。 「お前、ハルヒに何を言ったんだ?」 「何って、特に問題になる発言はしてないけど?」 「昨日の事もあったからな、今日ハルヒに朝倉の話をしたんだ」 「え?話したの?」 「ああ、そしたら急に怒り出した。何がなんだかさっぱりわからん」 「きっと機嫌が悪かったんじゃない?」 「かもな。朝倉がもし人間じゃなかったら、って何の気なしに言ったんだが」 「言葉の途中で『そんなわけ無いでしょ!』って言われた。お前何言ったんだ?」 「そっか……言ってくれたんだ」 「何だって?」 「今日そんな感じの話をしてもらえないかなって頼もうと思ってたの」 「でも……先にそうしてくれたんだ。ありがとっ」 「礼を言われてもな……本当に大丈夫なんだろうな」 「大丈夫。私の正体だって明かしていないし、彼女の力の事も言ってないわ」 「そうか、それならいいんだが……」 「あなたには迷惑はかけないわよ。それじゃあね。また明日」 「あ、ああ……」 困惑する彼を置いて私は早足で自宅に戻った。 長門さんはもう戻っているかしらね。 長門さんも部屋に戻っていた。丁度用件がある。 「ねえ、長門さん」 「なに」 「私の思念体へのアクセス制限と、待機モード制限を解除して欲しいんだけど」 彼女は私を見た。一見して数秒前と変わらない表情だけど、少し違う気もする。 「第一次アクセスと待機モードの制限は行っていない」 …………え? 「本当に?」 「していない」 どういう事かしら。昨日に喜緑江美里がかけていたのかしら。 「今のあなたには初期にかけた制限の他にかかっている制限は無い」 「そんなはずが……、あ」 そっか。そういう事か。ありがとう、長門さん。 再び彼女は私に目線を向けた。不思議そうにしてるって表現が一番かしら? 私は駆け足で自分の部屋に戻った。制限じゃないなら理由は一つ。 失われかけている。自分のインターフェースとしての能力が。人に近づいている証だ。 翌朝、いつも通りに目が覚めた。布団から起きて、カーテンを開ける。 うん、今日もいい天気ね。 いつもの様に支度をする。何事も要領良くやらないと。 家を出るとき、同じマンションに住んでいる長門さんに会った。 「おはよう、長門さん」 彼女はその言葉に振り向いた。そして何故かそのまま数秒固まっていた。 「どうしたの?」 「……なんでもない」 「そう、まだ早い時間だけど、ゆっくり歩きすぎて遅刻しないようにね」 私は少し早足気味に歩き出した。 彼女とはそんなに付き合いが無い。あまり話してくれないのよね。 登校中に彼に出会った。今日は運がいいみたい。 「おはよう、キョン君」 「ん?あ、ああ。おはよう」 「相変わらず私と話すのは慣れないのね。そろそろ慣れてほしいんだけどな」 「え?ああ。すまん。それより、昨日の話はどうするんだ?」 「昨日?私あなたと話したっけ?」 「おいおい、忘れたのかよ。ハルヒについて話したじゃないか」 「おかしいな……昨日は涼宮さんと掃除して、その後少し話したけど。すぐ帰ったわ」 「まさか……あ、いや。いい。俺の勘違いだったらしい」 「ふふ、朝だからって寝ぼけてるんじゃないの?」 「そうかも知れないな」 そう言った彼はどこか微笑んでいるように見えた。 どうしてだろう。彼の表情は何か試したことが成功した時のような顔だった。 「それじゃ、私今日日直あるから」 そう言って足早に教室に向かった。 「あら、珍しいわね」 涼宮さんが既に席についていた。彼女がこれだけ早く来たことってそんなにないはず。 「ふん、早く来ちゃ悪いっていうの?」 「悪くは無いわ。むしろ健康的にはいいことじゃない?」 「あっそう」 相かわらずクラスメートには冷たいわね。私が転校している間に少しはマシになったみたいだけど。 「ねえ、あんた」 「どうしたの?」 「キョンの事、まさか本気じゃないでしょうね」 「あら、私は本気だけど?」 「むむ……」 涼宮さんは怒ったような表情をしている。 教室にはまだ誰も来ていない。 彼女と私の二人だけだった。いつも早い人が来ていないのはどうしてかしらね。 「ね、涼宮さんも彼の事好きなんでしょ?いいじゃない。私には言ってくれても」 「うるさいわね!そうだったら何なのよ」 「ふふ、やっぱりそうなんだ」 「う……」 涼宮さんは顔を真っ赤にして机に伏してしまった。 普段から何するかわからない人だけど、恋愛は奥手みたいね。 意外と普通の人みたいな面もあるんじゃないの。 「でもね、涼宮さん」 「……何よ」 彼女が顔を伏せたまま答えてくる。 「私も、負けないわよ」 ほどなくして彼や生徒達がクラスに入ってくる。 その日の授業は少し難しかった。家に帰ったら復習しないとダメね。 クラスの友達に聞かれたときに答えられなかったのは不覚だわ。 今日の彼は何故か私を気にかけてくれていた。 どうしてかはわからない。今朝の会話が何かのきっかけにでもなったのかしら。 彼に告白するのは何時にしよう。正々堂々と涼宮さんと勝負してもいいわね。 先ほど彼女に宣言した言葉を自分で思い返す。 ――私も、負けないわよ。 FIN...
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/807.html
空耳ではない。 どこかで、確かに、 「・・・ごめんなさい」 と、言う長門の声を。 俺は、聞いたんだ。 長門邸、深夜2時。 草木も眠る丑三つ時とはよく言ったもので、それはこの情報統合思念体によって作られたヒューマノイドインターフェースとやらにも当てはまるらしい。 ベッドで寝ている長門の寝顔は、普段起きているときとは違ってそりゃあもう安らかなものであった。・・・というか、こいつ、寝ているときの方が表情豊かじゃないのか? ん・・・?なんかむにゃむにゃ言ってるぞ。 寝言というのは深層心理の表れだと、かのフロイト先生も申されている。 普段無口な長門だからこそ、だ。 俺の中で寝言を聞いてみたい人物をランキング付けするならば、この長門こそ1位を取るに相応しい人物といえよう。 ……え?2位以下は誰だって? どこかのとっても可愛らしい未来人の言葉を借用するようで申し訳ないが、それは禁則事項とさせて頂く。 断じて、俺はあの我侭な団長の本音や深層心理など知りたくは無いッ! まあとにかく、今はこいつの寝言に耳をそばだてるとする。・・・なになに・・・ん、キョだって?まさか俺か? 「巨乳・・・朝比奈みくる・・・」 ……長門よ。スマン。聞かなかったことにしておく。ごゆっくり! ああなんて卑しいことをしているんだ俺よ! 安らかな長門の寝顔を見るだけで十分じゃないか。・・・可愛い。さすが谷口がAマイナーまで推すことはある。 俺はずっと長門の寝顔を眺めていた。あのとき、アイツが来るまで、ずっと。 何の前触れも無かった。 不意に寝込みに身の危険を感じた小動物のごとく飛び起きた長門は、突然こっちを向いた! 驚いて声も出せない、と言った表情で、こっちを見ている。 仮にも、女の子の寝室に忍び込んだのを、見つかった。それも深夜に。 この状況。どう見ても、誤解しないでくれと言う方が、おかしい。 俺は、一秒で、無い頭を人生で一番必死に働かせ謝罪の言葉を考え、覚悟を決めて、長門の目を見た! 「なが―」 言いかけた俺は、長門の目を見て、はっとした。 長門は、俺ではなく、後ろの方を凝視していたのだ。 長門の視線の先には――― アイツが立っていた。 俺は、驚いて、長門に何を言おうとしたのかを、すっかり忘れてしまった。 「久しぶりね、有希ちゃん。」 朝倉涼子。俺を2回も殺そうとしたその人、いや宇宙人である。 俺をまた殺しに来たのか?いや違う。それならば、俺にも用があるのなら、『久しぶりね、長門、キョン君』とかいうであろう。 何だ、何がしたい朝倉!!!答えろ!!答えてくれ!! 「用件は」 「有希ちゃんにしては珍しく愚問ね」 「あなたを消しにきたの。」 二人は俺のことなど気にも留めないように会話を進める。無視かよ、無視すんな!! 「この国の言葉では。」 朝倉は続けた。 「将を射んとすればまず馬を射よって言うでしょう?」 「今度は、まず邪魔なあなたを消してから、そのあとゆっくりキョン君を料理するの。」 マジかよ、やっぱ俺か。ん?俺はそばに居るぞ?そもそも、俺はこんな深夜に、何たって長門の家に居るんだ? 次々に沸いて来る矛盾や疑問をほったらかしにして、二人の会話は進められた。 俺がふと回りを見ると、既にここは、長門の寝室などでは無かった。 いつぞやの情報制御空間特有の、歪んだ、金属光沢の壁。すっかり違う場所の様であった。 「させない。」 「ふふ、やってみる?」 そう言い終ったが早いか、よくある時代劇の侍の切りあいのようなかっこうで、二人の位置と向きは入れ替わっていた。 そして。 崩れ落ちたのは、なんと長門のほうであった。上体と下体を真っ二つに分断された長門の姿は、さすがに一般人の俺から見ても、もうダメだと感じた。 「さすがのオリジナルさんも、部屋も空気も敵だと、ダメだったようね。ここまで準備するのには、とっても骨が折れたわ。」 「わたしは・・・キョンを・・・世界を・・・まもる」 「うん。有希ちゃんは頑張り屋さんだったもんね。でもね、もういいのよ。」 「バイバイ。」 長門おおおおおおおおおおオオオオオオォ―!!!!!!!!!!!!!!! 刃と化した朝倉の右腕が、長門の胸を貫いた。 「起きて・・・」 「起きて・・・」 気がつくと、そこはいつもの文芸部室もとい、今やスペシャリストの巣窟と化している我がSOS団の部室だった。起こしてくれたのは、今まで朝倉と死闘を演じていたはずの、長門であった。 何だよ・・・夢だったんじゃねえか。 やれやれ。とんでもないトラウマを抱えちまったもんだぜ。 こんな時には、朝比奈さんの笑顔が一番の特効薬なのだが、生憎部室には朝比奈さんどころか、ハルヒ、それからあのニヤケ顔ももいないようで、俺は今、長門と2人きりである。 いや、こんな夢だ。長門に話すべきであろう。もちろん、夢のなかで聞いた寝言などの前半部分は割愛して。 「長門。」 「ちょっと聞いてくれないか。」 「今とんでもない夢を見たよ。」 「違う。」 「夢ではない。現実。」 「夢と呼ばれるのは、今いる、この世界。および、今あなたが見ていた、現実の映像。」 ?? 長門の言ったことを俺は瞬時に理解できなかったが、嫌な予感だけは、なんとなく感じていた。 長門はさらに話を続けた。 「私はあなたの期待に沿う事ができなかった。」 「どういうことだ?」 「午前2時48分19秒、朝倉は私という存在を、この世から抹消した。」 「どうやらもう、私には、あなたを守ることはできないようだ。だから、あなたの夢を利用して、私に残された最後の力で、あなたに真実を伝えた。」 相変わらず断片的にしか話さないやつである。 しかし俺は、どうにか長門の言葉を5回位ずつ反芻し、一つの答えに辿り着いた。 そして、それは、考えうる最悪のケースだった。 「つまり、今いるここは、俺の夢の中。さっきのは俺の夢の中で見た夢としての、現実の出来事、って言うことか?」 違うと言ってほしかった。 だが長門の口から発せられた言葉は、俺がもっとも聞きたくない一言だった。 「そう。」 信じたく、なかった。 「ごめんなさい。」 謝るな!行くな!長門! 「待ってくれ!!」 「生きて。」 長門は最後にそう言い残すと、暗闇へと消え、俺は何かの力によって後ろへ、光の刺すほうへ吸い込まれるように引っ張られていった。 ……眩しい……。……五月蝿い……。 「・・・君?」 「キョンくーん!!」 いつもの妹の声。いつもは五月蝿く感じるこの声も、今日はありがたいと感じる。 なんだ、やっぱり、夢じゃねえか。 やはり単なる悪夢だったのさ。やはり、朝倉に襲われたときの記憶が、トラウマになっているのかもしれないな。 そう。きっとそうだ。いつもどおりに学校へ通学して、いつもどおり放課後に部活に顔を出せば、myスウィートエンジェルの朝比奈さんの笑顔。 ブスッとしているかやけにゴキゲンかのハルヒの顔。 何を考えているか分からん古泉のニヤケ顔。 それから、いつもどおり隅でひっそりと読書に没頭している長門に会える。 そうだ、そうに違いない! 「キョン君、ご飯は―?」 「ごめん!先行く!!」 朝飯も食わず、妹も置いていき、俺は学校に着くまでのハイキングコースを、いつもの5割増しのスピードで駆け抜けることによって、俺はなんとか平静を保ちながら俺は学校に到着した。 学校に着くと、俺は自分の教室へ行くよりも先に長門の教室へと足を急いだ。・・・いない。あと10分で朝のHRが始まるというのに。 部室は普段、朝は鍵がかかっている。しかし。俺は、部室へと急いだ。 やはり部室は鍵がかかっていた。 どこだ、どこへ行っちまったんだ長門よ。嘘だ。夢だよな長門?嘘だ。中から鍵をかけているに違いない。居るはずだ!そうに違いない!畜生!そうであってくれ!! 「長門!長門!いるんだろ!ここを開けてくれ!!」俺は叫びながら、まるで独房に閉じ込められた凶悪犯のようにドアを手の痛みが無くなってもなお叩き続けた。 俺が後ろから団長様に呼び止められて我に返るまで、どれくらいそうしていただろうか。 「まったく。教室にいないと思ったら。・・・アンタこんなとこでなにやってんの?部室に用があるんなら、今日の鍵当番のアタシに言いなさいよね」 そうだ。そうだった。今日は部室の鍵当番はコイツだった。 「あ・・・ああ、すまない。」 俺はハルヒから鍵を受け取り、祈るような気持ちで、ドアを開けた。 そして―― ――そこには、誰も居なかった。―― 本当は、分かっていたんだ。只の現実逃避、自己欺瞞だなんて。 「キョン・・・?」 「どうしたの、そんなマヌケ面しちゃって。何かここに用があったんでしょ?」 「あ・・・ああ、すまない。俺の勘違いだ。」 「変なキョン」 どうやらハルヒには聞かれてはいなかったらしい。俺は適当なことを言って、教室に戻った。 それから、部活までの時間、俺は授業の間中、ずっと今日見た夢と、長門がいない現実と、これからの俺の未来について頭を巡らしていた。 結局のところ、長門が消えた今、頼れるのはニヤケ顔の自称エスパー野朗しかいないのは分かってはいるのだが。 「・・・ちょっと。キョン?」 「・・・ねえキョンったら!当てられてるわよ!!」 「え!」 後ろからハルヒの声。どうやら当てられちまったらしい。 前を見ると、教師が黒板を指差して、こっちをにらみつけている。 こんなとき、答えられる解答なんてものは一つだろう。 「はい。わ、わかりません!」 教室から笑いが漏れ、教師はしかめっ面をしている。 「全く。期末試験から、1点引くからな!!!じゃあ、次!谷口!答えは?」 「え!俺っすか?えーと・・・」 「もう・・・しっかりしなさいよね。」ハルヒが溜息をつく。 授業など聞いちゃいられない。 この高校に来てから様々な事件に巻き込まれて、俺はちょっとやそっとのことでは動じなくなっていたのだが、流石に今回ばかりは、他に何かを考えられる程の余裕など有りはしなかった。 おそらく雀の涙ほどになるであろう俺の期末考査の点数からさらに何点ほどマイナスされたかなどという問題は、もはやどうでも良くなっていた。 「起立、礼-」 「さぁキョン、部室に行くわよ、ってコラ!団長を置いていったら死刑だって言ってるでしょ!!・・・って聞きなさいよ!!」 日直の号令とともに、俺の脚は古泉の教室へと全速力で向かっていった。後ろの席のあいつが何か言っていたが、スマン。ハルヒよ。今はそれどころじゃないんだ。 「起立-礼-」 俺が小泉の教室に到着したとき、ヤツのクラスは丁度HRが終わるところであった。 その教室から一番に、普段は終始ニヤケ面でマイペースなヤツが、鋭い目をして―まあこいつは普段のニヤケ顔でも、大抵は何かよからぬことを考えている奴ではあるが。 そんな奴が飛び出してきたときは、改めて事態の深刻さを肌で感じたものである。 「キョン君」 「古泉」 お互い、言わんとしていることはわかっている。 話が- 「ある。」 「あります。」 「こちらへ。」 そう言って古泉が連れてきた場所は、中庭だった。 「僕のところへ急いできたということは――――」 急いで来ただって?だがな、古泉。お前もずいぶん焦っているように見えたぞ。ひとつ言わせてもらおう、とも思ったが、それは断念し、代わりに俺はやつの話を遮るようにこう言った。 「ああ、知ってる。」 「長門が・・・朝倉に消された、だろ?」 「・・・話が早い。その通りです。そして・・・」 「そしてあいつは、今度は俺の命を狙っている。・・・だろ、古泉?」 「そこまでご存知でしたか。」 「本人から直接伝えられたからな。あれが情報思念体とやらの力のひとつなんだろうな。」 「では用件だけ手短に話します。」 「キョン君。これより朝倉涼子を排除するまでの期間、あなたは我々の組織が、全力を持ってお守りします。」 「もちろん、通学することは出来ますが、しばらく、自宅へは戻れないと思われますので、ご家族には、お話をつけておいてください。」 「朝倉を排除するって、出来るのか?」 「ええ、組織の最高実力者たちが、この件に関しては担当することが決まりました。」 「もちろん、僕一人では無理でしょうが。」 「・・・そうか。すまない。」 「涼宮さんにとって近しいあなたの死は、世界の崩壊を招く恐れがありますからね。」 正直、これは俺にとってとても有難い申し出であった。こいつらに見捨てられたら、俺はこれからずっといつ殺されるかわからぬ不幸な赤子同然だ。 まて・・・赤子? それって、ただの足手まといってことじゃないのか。 それって、問題の中心は俺なのに俺は指を咥えて見ているしか無いってのか? 長門は?長門はどうなるんだ? 俺を何度も助けてくれた長門に、俺は何もしてやれないってのか? 「・・・古泉。」 「何ですか?話も終わりましたし、そろそろ部活へ行かないと閉鎖空間が発生する恐れがありますよ?」 まだだ、まだ終わってねえよ。 「・・・俺に、何か出来ることはないのか?」 「・・・何もありませんね。」 「この件が落ち着くまで、あなたは、我々の用意した行動、場所に従っていてください。お願いします。」 「・・・そうか。それから―」 俺は声を荒げていた― 「長門有希のことでしたら、助けられる可能性は極めて少ない、と思われます。あちらの組織が、また彼女を創ったりしない限りはね。」 「さあ。とりあえず今は部活へ行きましょう。涼宮さんのご機嫌が悪くならないうちに、ね。」 「親御さんには、部活のあとで話をつけてきてください。」 一瞬、古泉の目が鋭く光ったのを俺は見逃さなかった。まるで、『お前には無理だから』と拒絶しているかのような、あの目を。 そうだ、俺には、理解不可能な文明の力も、時空を超える力も、ましてや超能力なんかもない。 俺は、‘ただの‘、人間なんだ。 「ちょっとキョン!?遅かったじゃないの!!」 「有希も先生に聞いたら今日は休みだって言うし、みくるちゃんも今日は追試で来られないっていうし、あーまったく、うちの連中ときたら!」 我らが団長様は、放課後長い間一人で退屈していたのがどうにも気に食わなかったらしく、虫の居所が悪いようだった。 「僕もバイトがありますので、すぐに失礼します。」 オイ古泉。今か?今出来た仕事だな?我らが団長様の不機嫌によって出来た、出来立てホカホカのやつだな? 「古泉君まで?」 「あ~分かったわよ。今日は休み。さ、行くわよ、キョン。」 「どこに?」 「有希の家よ。あの子、携帯にかけても、通じなかったんだから。」 正直、行きたくなかった。傷が抉られる思いをするのは、分かっていた。だが、結局俺はハルヒと、長門の『お見舞い』に行くことにした。 何かつかめるかもしれない、という、希望を込めて。 俺に出来る事と言えば、多分これ位だろうからな。 マンションの場所は、前に来たことがある。もっとも、前回は朝倉の件だったが。 長門と朝倉という、2人の宇宙人が住んでいたマンションの場所なんてのを忘れるやつはいないだろう。もしいたら俺がお勧めの病院を紹介する。 入り方もバッチリだ。コソドロみたいな方法ではあるが。 そうして、俺たちは長門の部屋の前に着いた。 「ちょっと、有希~?あたしだけど!?お見舞いに来たわよ~。」 インターホンを鳴らしても反応がないからって、ドアの前で騒ぐ団長様。いや、やめろって!恥かしい! 「んもう。誰もいないのかしら・・・あら、開いてるじゃない。」 ドアを開けて中に入る団長様。これが普通の人の家なら、俺もすぐにハルヒを止めていたであろう。 だが、長門が一人暮らしなのを、俺は知っている。この部屋に今誰もいないことを、今現在俺はこの世界で、誰よりも知っている。 俺はハルヒと一緒に、部屋に入った。 それから一部屋、一部屋、ハルヒと俺は見て回ったが、特に目を引くものも無く、残るはこの寝室のみとなった。 そこには、夢の中で長門が着ていたのと同じ床に放り出されたパジャマと、ハルヒの着信履歴でいっぱいの携帯電話がベッドの脇にあった。長門がここで朝倉に殺されたことは俺には容易に想像が出来た。 百聞は一見に如かずとはよくいったもので。 長門が消えた。この現実を今日何度も耳で聞かされてはいたものの、実際に見るとより一層、俺は胸が押しつぶされる思いがした。 それを見て俺は必死に、胸の奥から湧き上がる感情を抑えていた。 同じ光景を見て、 「脱ぎっぱなしで開けっ放し、ねえ。有希って意外とだらしないわね。」 と言ったハルヒに対して、俺は何もつっこむことが出来なかった。 他に大して目ぼしいものもなかったのか、ハルヒは最後に、 「それにしてもどうしちゃったのかしら。アタシに心配かけさせるなんて。次の部活は罰ゲームね。」 どうやらこいつなりの、心配の言葉らしい。 そう言い、俺の手を取り、さっさと部屋を後にしようと、引っ張った― その時だった。 別に、ハルヒが力いっぱい引っ張ったからじゃない。それとは別系統の痛み、そうだな、例えば ―眼球を紙かなんかで切ったような― 鋭い痛みがしたんだ。 俺の動きが止まり、体ごとハルヒに引っ張られるまでのほんの一瞬だが、俺の意識は確かにどこか別の場所にあった。 「・・・キョン!コラ!」 「ちょっと!?歩きなさいよ!」 「・・・ん?あれ?痛くない。」 気付いた時には、痛みはアスファルトに初めに降りた粉雪のように、溶けて消えていた。 「何言ってんの?ほら、さっさと出るわよ。」 「ああ、すまない。」 ・・・今のは気のせい、だったんだろうか?疲れてるんだな、きっと。 俺は、ハルヒに言われるまま、長門の部屋を後にした。 「いい!?明日も有希が来なかったら、お見舞いだからね!」のハルヒの捨て台詞を最後に、 俺たちはそれぞれの帰路に着いた。 太陽がオレンジ色になり、もうすぐ沈んで、暗くなりそうだ。影が一番延びている時間帯― そう、以前、朝倉に、呼び出されたあの時間に、それはよく似ていた。 家まであと10分くらいの場所にあいつは立っていた。 夕日に照らされた奴の顔は、悔しいが、いつも以上に美青年だった。 「部活は終わったようですね。」 「おう。」 「バイトはどうだった?」 「今日のは楽でした。彼女のイライラも、幸い、たいした量じゃなかったですしね。」 「親御さんの許可が取れ次第、あなたは我々機関がお守りします。」 「なあに、うちの機関のトップにかかれば、2,3日もあれば日常に戻れますよ。」 「・・・家まで、お供します。」 「ああ、頼む。」 こいつが未だ嘗てこんなにも頼もしく見えたことがあっただろうか。 アメリカの映画なんかでよくある、危機を共にした2人がくっつく、なんてのは、こんな感じなんだろう。 「ああそうだ。」 「拘束期間中は、僕と同じ部屋ですから。」 そう言って古泉は、にやりと笑った。 おっと、さっきの表現はいささか悪かったようだな。すまない。訂正する。溺れる者は藁をも掴む、だ。 「やめろ、百歩譲って同じ部屋はまだ良い。だが笑うな。気色悪い。」 「ははは、冗談です。」 もう一度前言を撤回させて頂く。やっぱり藁のほうがいい。 「行かせない。」 「ん?古泉何か言ったか?」 「いえ、何も。キョン君こそ何か?」 「・・・・・・・・いや、俺が悪かった。」 「・・・そのようですね。」 俺達はふと目の前にある影が、3本であることに気付き、足を止めた。 「・・・なあ古泉?お前のとこ、時間外勤務手当てって通常の給料の何割り増しなんだ?」 「・・・相手によりますね。それを、頭数で等分します。」 「じゃあ、あれは?」 「一時間で。」 「僕の普段の給料では一ヶ月は働かなくて済むでしょうかね。」 「じゃあ、今度ボードゲームのツケを少し色をつけて払っていただこうかねぇ。」 「ええ、喜んで。」 「この仕事が、無事に終われば、の話ですが。」 そう言ってから、俺たちの前の地面に映った、長い髪の、うちの高校の女子の制服を着た、影の主を、俺たちは振り返った。 振り返ると、そこはいつもの見慣れた道などではなく、いつぞやの、カマドウマ事件の時のような、砂漠地帯が広がっていた。 「朝倉!」 「ふふ、久しぶりね、キョン君。あ、昨日も姿だけは見たはずだから違うか。・・・有希ちゃんの最後の力で。」 「長門をどこへ遣った?」 「言ったでしょ。『最後の力』って。あの子は消えちゃったの。私の力でね。」 「そちらは・・・転入生の、古泉君だっけ?巻き添えになっちゃうけど、ゴメンネ、恨むなら・・・うーん・・・」 「そうね、やっぱり、恨みっこなしね。」 「まずいですね・・・ボク1人では到底、朝倉涼子には勝てそうにありません。」 「ハッキリ言うな。」 「それにな、古泉。」 「ハイ。何でしょうか。」 「一人じゃないかもしれないぜ。」 「キョン君・・・その腕の赤い光は・・・」 (そういうことだ。) 「ええ、いきましょう。」 一瞬だけ、古泉が、笑った。 「最後の別れは終わった?」 「じゃ、死んで。」 一瞬だけ、不意に体の自由が利かなくなったかと思うと、朝倉はいつか俺に教室で襲い掛かったときのように、ナイフを持って古泉目掛けて突進した。俺は不覚にも、目を一瞬閉じてしまった。 何かがぶつかる音がした。 目を開けた次の瞬間、遠くのほうに致命傷とはいえないものの、確かにダメージを負った朝倉がいた。宇宙人相手でも結構効くもんだな。 「どうして?閉鎖空間外ではあなたはただの生身の人間でしょう?何故動けるの?」 「それは違います。」 「実は以前、情報思念体によって創り出された空間に閉じ込められたことがありましてね。」 「超能力がそこでも使えるってのは、実証済みってわけだ、朝倉。」 「・・・そういうことです。」 まあ、威力は閉鎖空間の10分の1だが。 「そっかあ。じゃあ、少しは楽しめそうね。まずは厄介な君からかな。」 「それは、どうでしょうか?」 古泉は持てる限りの力を尽くして戦ったと思う。だが、古泉の力は、あのとき俺を守ってくれた長門の力よりずっと弱く、時が進むにつれ疲弊していったのは俺の目にも明らかであった。 「キョン・・・君、に手出しは・・・させません」 「あらあら。もう力ものこってないのにまだ向かってくるなんて。」 「あなたも、有希ちゃんと同じで頑張り屋さんね。」 「お疲れ様。」 「最後は、一突きで楽にしてあげるね」 「止めろ!朝倉!!!」 俺は咄嗟に、奴の左手を掴んだが、人間と、宇宙人の力の差は歴然で、びくともしなかった。 「待たせちゃってごめんね。」 「次はようやく君の番だから、ね。」 そう言って、朝倉は、俺の目の前で、右手で古泉の胸倉をつかんで持ち上げると、俺の手が纏われたままの左手で、古泉の腹をナイフでぶすりと一突きにした。 「今です・・・キョン・・・くん」 「朝倉あああアアアア!!!!」 俺はありったけの力を込めて、至近距離から、今さっき得たばかりの超能力とやらを目の前の宇宙人にぶちかました。 手ごたえ、あり。というか、これで駄目なら、もうお手上げだったのだが。まさしく、最後の賭け、であった。 「ふふ・・・まさか涼宮ハルヒが、キョン君まで超能力者にしていたなんてね。」 「今さっき得たばかりだ。おそらく、ハルヒが長門に戻ってきてほしいと願って、俺に持たせた力なんだろうな。」 「そう・・・有希ちゃんは人気者だったのね。」 「私と比べるにはまだまだだったけど。」 「俺はお前より長門派だ。」 「そう、残念ね。」 「また、遭おうね。バイバイ。」 そう言い残し、次の瞬間、朝倉は砂のように溶けていき、古泉はその場に倒れこんだ。 「古泉!!おい古泉!!しっかりしろ!!!」 「やり・・・ましたね・・・キョン君・・・僕の・・・バイトの・・・いい跡継ぎが・・・出来て・・・安心・・・しました・・・」 「バカヤロウ!!死ぬな!!絶対だ!!こんなところで、俺なんかに看取られていいのかよ!!」 「・・・それも・・・いいかも・・・しれま・・・せ・・・・・ん・・・・」 「喋るな!もうすぐ救急車を呼んでやるからな!!!オイ!しっかりしろ!」 古泉の腹部からは、今も大量の血が流れ出ていて、言葉も見る見るうちにぼけてきていた。 畜生!!ハルヒ!!長門を、いや、団員を助けるために俺に持たせた超能力だろ!? 古泉なら死んだって良いってのかよ!!このままじゃ、何も変わらないじゃないかよ! ここでこいつを助けられなかったら、何のためのチカラなんだよ! 俺は無力のままじゃねえか!! 畜生・・・!畜生・・・!!! 気がつくと、俺は大粒の涙を流して叫び続けていた。 だれでもいい!!こいつを助けてやってくれ!! そのとき。 「!&#$%&‘$“」 !? 後ろで、どこの言葉だろう、不思議な言葉が聞こえた。 この声の主は― 振り向くと、そこには長門が立っていた。 「どいて。」 「古泉一樹の再構成を開始する。」 長門は、俺の腕から古泉をひったくると古泉の腹部に手を当てた。 「長門・・・無事だったんだな!!」 「話は、後。」 「今は彼の再構成が第一の優先事項。」 「うむ。すまん。」 長門が古泉の回復をしている間に、暫くその場にへたり込んで心を落ち着けた俺は、ある事に気づいた。 そして、そっと長門にブレザーをかけてやった。 「長門」 「なに」 「服の再構成も、忘れんなよ。」 長門は顔を赤らめて、こちらを見ることなく、コクリとうなずいた。 長門さん、正直、それ、たまりません・・・・ 気を失っている古泉に見せてやれないのがまことに残念であった。 それから長門は優先事項を順番にこなしていき、そのすべてが終わるまでにはそこまで時間はかからなかった。 古泉も何とか立てるくらいにまで回復し、俺たち宇宙人と超能力少年2人の3人組みは、砂漠で、つかの間の会話を楽しんだ。 「長門。」 「なに」 「ハルヒがとっても心配してたぞ。謝っておけよ。」 「わかった」 「それにしても、長門さん。」 「なに」 「よく、生きておいでになられました。」 「朝倉涼子は私に憧れを抱いていた。」 「だから、私という存在を、抹消せずに、自分の一部として私の思念を体の中に閉じ込めた。」 「それが、理由」 「なるほど」 相変わらず難しい説明である。古泉は、理解できているのだろうか? 「そして。」 ん?長門にしてはよく喋るな。 「私も朝倉涼子にまた、少なからず憧れがあった。そして。少しだけだが、それを学習できた。」 「何をだ?」 「・・・ありがとう。二人とも。」 あのときの寝顔のような、安らかな顔で、長門が― 笑って、そう言った。 「それ」が何なのかは、この長門を見れば、一目瞭然であろう。 「帰りましょうか。」 「そうだな。」 「うん。」 じゃあ長門、頼んだぞ。 「空間の再構成を開始する。」 翌日。 昨日の疲れからか、全ての授業を睡眠タイムとし、放課後、真っ先に部室に向かった俺は、一瞬、言葉を失った。 ドアを開けると、皆、黙っていたのだ。 奥の団長机の前に、ハルヒと長門が立っている。それをオセロをしている朝比奈さんと古泉がその光景を見守る。そんな格好で、部室は静寂に包まれていた。 別に見世物じゃない。そんな表情で、ハルヒはこちらを一瞥したものの、あいつなりの団長の面子だろうか。そのまま話を切り出した。 「で、話って?」 「その・・・」 「心配かけてごめんなさい」 そう言った、長門の表情は、本当に申し訳なさそうだった。長門のそんな表情を見るのは、「あの」団長消失事件以来、間違いなく、初めてのことだった。 ハルヒはとても驚いた顔をしていた。いや、昨日のことがなければ、俺だってびっくり仰天だ。 朝比奈さんなんか、対局中の石を落としてしまい、盤の石の大半を白から黒にひっくり返してしまっている。そんなことにも気付いてない様子だ。 喜べ、古泉。久しぶりに勝てそうだぞ。 ハルヒはその顔をまじまじと見てから―多分、最初の数秒は、単に呆気にとられて混乱していただけだと思われるが― 「うん、まあ、良いわ。今回は事情も事情だったしね。」 「以後気をつけること!」 あっさりと許したのであった。 「あの、それだけ?」 今度は長門が意外、といった顔をして、言った。 「え?」 「その、罰とか。」 それを聞いたハルヒは 突然笑い出したのであった。 「・・・ククク・・・あ~っはっはっ!!」 あの~、ハルヒさん?ご機嫌なところ申し訳ないが、それはうちの名誉顧問の専売特許ですよ? 「私もそこまで鬼じゃないわよ。」 「それにしても有希、なんか変わった?」 「そんなことない。」 「うーん、なんか、良くなった気がするんだけど。」 「・・・ありがと。」 そっちのほうが可愛いと思うぞ、長門。 「・・・ところで古泉?」 俺は朝比奈さんとのオセロに久しぶりに勝って,いつもより更ににやにやしている古泉に話しかけた。 「はい?」 「2つばかり、質問がある。」 「1つ目。あのな・・・今月厳しくてさ!俺も折角働けるようになったんだし、早速、バイトを紹介してくれないかな、なんて・・・」 「ああ、それでしたら。」 「あのあと、失礼ながらあなたのことを調べさせてもらったところ、驚きましたよ。」 「なんだ。あまり聞きたくないが言ってみろ。」 「実はですね。」 古泉はにやりと笑って耳打ちしてきた。 (あなたの力が消失してしまっていたのです) (なんだって!) 俺はもう少しで叫びだしてしまいそうだった。 朝比奈さんをおもちゃにしているハルヒには気付かれなかったものの、本を読んでいた長門の体は一瞬ピクついて、反応を示した。やれやれ。危なかったぜ。 (つまり、俺は普通の人間に戻っちまったってことか?) (ええ。そのとおり。) (・・・・・・・) 俺はバイトが出来なくなって自分の今後の財政の見通しが、今の日本並みに危ういことを嘆くべきなのか、普通の人間に戻れたことを喜ぶべきなのか、なんとも複雑な気持ちになった。 (おそらく。) なんだ。下手にフォローされると落胆するぞ。特にお前のフォローはな。 (涼宮さんが、あなたには、やはり普通の人であってほしいと望んだからなのでしょう。) (何でまたハルヒはそんなことをしたんだ?) (それは、あなたが彼女に選ばれ―) 俺は古泉から顔を遠ざけ、はいはい、分かった分かった、というジェスチャーをした。 古泉は俺の顔を見てから、からかうように含み笑いをした。 決めた。俺はもう一生、こいつのために涙など流すまい。 「じゃあ2つ目だ。長門の欠席理由なんだが?」 「それでしたら僕から涼宮さんに、幼馴染の葬式だったと言っておきました。嘘ではないでしょう?」 「・・・確かにな。」 俺にも古泉の含み笑いが移ってしまった。 ……こうして。 俺(と古泉)は長門を取り戻し、代わりに一度は得た超能力を失い、普通の高校生として、普段の生活を取り戻したのである。でもちょっと残念だったなあ・・・。 そんなことを思いながら、ふと長門の方を見た。 長門も、こちらの様子が気になっていたのか、こちらを見ていた。 そして― 少し笑って、手を振った。 ………まあ、これでよかったのかも知れないな。 朝比奈さんの嬉し泣きと、 古泉のニヤケ顔。 長門の笑顔と、 それから、 とびきり上機嫌のハルヒを見ながら、 これからの毎日がこうであることを願いつつ、俺はそう思った。 「朝倉涼子の逆襲」 完
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/785.html
空耳ではない。 どこかで、確かに、 「・・・ごめんなさい」 と、言う長門の声を。 俺は、聞いたんだ。 長門邸、深夜2時。 草木も眠る丑三つ時とはよく言ったもので、それはこの情報統合思念体によって作られたヒューマノイドインターフェースとやらにも当てはまるらしい。 ベッドで寝ている長門の寝顔は、普段起きているときとは違ってそりゃあもう安らかなものであった。・・・というか、こいつ、寝ているときの方が表情豊かじゃないのか? ん・・・?なんかむにゃむにゃ言ってるぞ。 寝言というのは深層心理の表れだと、かのフロイト先生も申されている。 普段無口な長門だからこそ、だ。 俺の中で寝言を聞いてみたい人物をランキング付けするならば、この長門こそ1位を取るに相応しい人物といえよう。 ……え?2位以下は誰だって? どこかのとっても可愛らしい未来人の言葉を借用するようで申し訳ないが、それは禁則事項とさせて頂く。 断じて、俺はあの我侭な団長の本音や深層心理など知りたくは無いッ! まあとにかく、今はこいつの寝言に耳をそばだてるとする。・・・なになに・・・ん、キョだって?まさか俺か? 「巨乳・・・朝比奈みくる・・・」 ……長門よ。スマン。聞かなかったことにしておく。ごゆっくり! ああなんて卑しいことをしているんだ俺よ! 安らかな長門の寝顔を見るだけで十分じゃないか。・・・可愛い。さすが谷口がAマイナーまで推すことはある。 俺はずっと長門の寝顔を眺めていた。あのとき、アイツが来るまで、ずっと。 何の前触れも無かった。 不意に寝込みに身の危険を感じた小動物のごとく飛び起きた長門は、突然こっちを向いた! 驚いて声も出せない、と言った表情で、こっちを見ている。 仮にも、女の子の寝室に忍び込んだのを、見つかった。それも深夜に。 この状況。どう見ても、誤解しないでくれと言う方が、おかしい。 俺は、一秒で、無い頭を人生で一番必死に働かせ謝罪の言葉を考え、覚悟を決めて、長門の目を見た! 「なが―」 言いかけた俺は、長門の目を見て、はっとした。 長門は、俺ではなく、後ろの方を凝視していたのだ。 長門の視線の先には――― アイツが立っていた。 俺は、驚いて、長門に何を言おうとしたのかを、すっかり忘れてしまった。 「久しぶりね、有希ちゃん。」 朝倉涼子。俺を2回も殺そうとしたその人、いや宇宙人である。 俺をまた殺しに来たのか?いや違う。それならば、俺にも用があるのなら、『久しぶりね、長門、キョン君』とかいうであろう。 何だ、何がしたい朝倉!!!答えろ!!答えてくれ!! 「用件は」 「有希ちゃんにしては珍しく愚問ね」 「あなたを消しにきたの。」 二人は俺のことなど気にも留めないように会話を進める。無視かよ、無視すんな!! 「この国の言葉では。」 朝倉は続けた。 「将を射んとすればまず馬を射よって言うでしょう?」 「今度は、まず邪魔なあなたを消してから、そのあとゆっくりキョン君を料理するの。」 マジかよ、やっぱ俺か。ん?俺はそばに居るぞ?そもそも、俺はこんな深夜に、何たって長門の家に居るんだ? 次々に沸いて来る矛盾や疑問をほったらかしにして、二人の会話は進められた。 俺がふと回りを見ると、既にここは、長門の寝室などでは無かった。 いつぞやの情報制御空間特有の、歪んだ、金属光沢の壁。すっかり違う場所の様であった。 「させない。」 「ふふ、やってみる?」 そう言い終ったが早いか、よくある時代劇の侍の切りあいのようなかっこうで、二人の位置と向きは入れ替わっていた。 そして。 崩れ落ちたのは、なんと長門のほうであった。上体と下体を真っ二つに分断された長門の姿は、さすがに一般人の俺から見ても、もうダメだと感じた。 「さすがのオリジナルさんも、部屋も空気も敵だと、ダメだったようね。ここまで準備するのには、とっても骨が折れたわ。」 「わたしは・・・キョンを・・・世界を・・・まもる」 「うん。有希ちゃんは頑張り屋さんだったもんね。でもね、もういいのよ。」 「バイバイ。」 長門おおおおおおおおおおオオオオオオォ―!!!!!!!!!!!!!!! 刃と化した朝倉の右腕が、長門の胸を貫いた。 「起きて・・・」 「起きて・・・」 気がつくと、そこはいつもの文芸部室もとい、今やスペシャリストの巣窟と化している我がSOS団の部室だった。起こしてくれたのは、今まで朝倉と死闘を演じていたはずの、長門であった。 何だよ・・・夢だったんじゃねえか。 やれやれ。とんでもないトラウマを抱えちまったもんだぜ。 こんな時には、朝比奈さんの笑顔が一番の特効薬なのだが、生憎部室には朝比奈さんどころか、ハルヒ、それからあのニヤケ顔ももいないようで、俺は今、長門と2人きりである。 いや、こんな夢だ。長門に話すべきであろう。もちろん、夢のなかで聞いた寝言などの前半部分は割愛して。 「長門。」 「ちょっと聞いてくれないか。」 「今とんでもない夢を見たよ。」 「違う。」 「夢ではない。現実。」 「夢と呼ばれるのは、今いる、この世界。および、今あなたが見ていた、現実の映像。」 ?? 長門の言ったことを俺は瞬時に理解できなかったが、嫌な予感だけは、なんとなく感じていた。 長門はさらに話を続けた。 「私はあなたの期待に沿う事ができなかった。」 「どういうことだ?」 「午前2時48分19秒、朝倉は私という存在を、この世から抹消した。」 「どうやらもう、私には、あなたを守ることはできないようだ。だから、あなたの夢を利用して、私に残された最後の力で、あなたに真実を伝えた。」 相変わらず断片的にしか話さないやつである。 しかし俺は、どうにか長門の言葉を5回位ずつ反芻し、一つの答えに辿り着いた。 そして、それは、考えうる最悪のケースだった。 「つまり、今いるここは、俺の夢の中。さっきのは俺の夢の中で見た夢としての、現実の出来事、って言うことか?」 違うと言ってほしかった。 だが長門の口から発せられた言葉は、俺がもっとも聞きたくない一言だった。 「そう。」 信じたく、なかった。 「ごめんなさい。」 謝るな!行くな!長門! 「待ってくれ!!」 「生きて。」 長門は最後にそう言い残すと、暗闇へと消え、俺は何かの力によって後ろへ、光の刺すほうへ吸い込まれるように引っ張られていった。 ……眩しい……。……五月蝿い……。 「・・・君?」 「キョンくーん!!」 いつもの妹の声。いつもは五月蝿く感じるこの声も、今日はありがたいと感じる。 なんだ、やっぱり、夢じゃねえか。 やはり単なる悪夢だったのさ。やはり、朝倉に襲われたときの記憶が、トラウマになっているのかもしれないな。 そう。きっとそうだ。いつもどおりに学校へ通学して、いつもどおり放課後に部活に顔を出せば、myスウィートエンジェルの朝比奈さんの笑顔。 ブスッとしているかやけにゴキゲンかのハルヒの顔。 何を考えているか分からん古泉のニヤケ顔。 それから、いつもどおり隅でひっそりと読書に没頭している長門に会える。 そうだ、そうに違いない! 「キョン君、ご飯は―?」 「ごめん!先行く!!」 朝飯も食わず、妹も置いていき、俺は学校に着くまでのハイキングコースを、いつもの5割増しのスピードで駆け抜けることによって、俺はなんとか平静を保ちながら俺は学校に到着した。 学校に着くと、俺は自分の教室へ行くよりも先に長門の教室へと足を急いだ。・・・いない。あと10分で朝のHRが始まるというのに。 部室は普段、朝は鍵がかかっている。しかし。俺は、部室へと急いだ。 やはり部室は鍵がかかっていた。 どこだ、どこへ行っちまったんだ長門よ。嘘だ。夢だよな長門?嘘だ。中から鍵をかけているに違いない。居るはずだ!そうに違いない!畜生!そうであってくれ!! 「長門!長門!いるんだろ!ここを開けてくれ!!」俺は叫びながら、まるで独房に閉じ込められた凶悪犯のようにドアを手の痛みが無くなってもなお叩き続けた。 俺が後ろから団長様に呼び止められて我に返るまで、どれくらいそうしていただろうか。 「まったく。教室にいないと思ったら。・・・アンタこんなとこでなにやってんの?部室に用があるんなら、今日の鍵当番のアタシに言いなさいよね」 そうだ。そうだった。今日は部室の鍵当番はコイツだった。 「あ・・・ああ、すまない。」 俺はハルヒから鍵を受け取り、祈るような気持ちで、ドアを開けた。 そして―― ――そこには、誰も居なかった。―― 本当は、分かっていたんだ。只の現実逃避、自己欺瞞だなんて。 「キョン・・・?」 「どうしたの、そんなマヌケ面しちゃって。何かここに用があったんでしょ?」 「あ・・・ああ、すまない。俺の勘違いだ。」 「変なキョン」 どうやらハルヒには聞かれてはいなかったらしい。俺は適当なことを言って、教室に戻った。 それから、部活までの時間、俺は授業の間中、ずっと今日見た夢と、長門がいない現実と、これからの俺の未来について頭を巡らしていた。 結局のところ、長門が消えた今、頼れるのはニヤケ顔の自称エスパー野朗しかいないのは分かってはいるのだが。 「・・・ちょっと。キョン?」 「・・・ねえキョンったら!当てられてるわよ!!」 「え!」 後ろからハルヒの声。どうやら当てられちまったらしい。 前を見ると、教師が黒板を指差して、こっちをにらみつけている。 こんなとき、答えられる解答なんてものは一つだろう。 「はい。わ、わかりません!」 教室から笑いが漏れ、教師はしかめっ面をしている。 「全く。期末試験から、1点引くからな!!!じゃあ、次!谷口!答えは?」 「え!俺っすか?えーと・・・」 「もう・・・しっかりしなさいよね。」ハルヒが溜息をつく。 授業など聞いちゃいられない。 この高校に来てから様々な事件に巻き込まれて、俺はちょっとやそっとのことでは動じなくなっていたのだが、流石に今回ばかりは、他に何かを考えられる程の余裕など有りはしなかった。 おそらく雀の涙ほどになるであろう俺の期末考査の点数からさらに何点ほどマイナスされたかなどという問題は、もはやどうでも良くなっていた。 「起立、礼-」 「さぁキョン、部室に行くわよ、ってコラ!団長を置いていったら死刑だって言ってるでしょ!!・・・って聞きなさいよ!!」 日直の号令とともに、俺の脚は古泉の教室へと全速力で向かっていった。後ろの席のあいつが何か言っていたが、スマン。ハルヒよ。今はそれどころじゃないんだ。 「起立-礼-」 俺が小泉の教室に到着したとき、ヤツのクラスは丁度HRが終わるところであった。 その教室から一番に、普段は終始ニヤケ面でマイペースなヤツが、鋭い目をして―まあこいつは普段のニヤケ顔でも、大抵は何かよからぬことを考えている奴ではあるが。 そんな奴が飛び出してきたときは、改めて事態の深刻さを肌で感じたものである。 「キョン君」 「古泉」 お互い、言わんとしていることはわかっている。 話が- 「ある。」 「あります。」 「こちらへ。」 そう言って古泉が連れてきた場所は、中庭だった。 「僕のところへ急いできたということは――――」 急いで来ただって?だがな、古泉。お前もずいぶん焦っているように見えたぞ。ひとつ言わせてもらおう、とも思ったが、それは断念し、代わりに俺はやつの話を遮るようにこう言った。 「ああ、知ってる。」 「長門が・・・朝倉に消された、だろ?」 「・・・話が早い。その通りです。そして・・・」 「そしてあいつは、今度は俺の命を狙っている。・・・だろ、古泉?」 「そこまでご存知でしたか。」 「本人から直接伝えられたからな。あれが情報思念体とやらの力のひとつなんだろうな。」 「では用件だけ手短に話します。」 「キョン君。これより朝倉涼子を排除するまでの期間、あなたは我々の組織が、全力を持ってお守りします。」 「もちろん、通学することは出来ますが、しばらく、自宅へは戻れないと思われますので、ご家族には、お話をつけておいてください。」 「朝倉を排除するって、出来るのか?」 「ええ、組織の最高実力者たちが、この件に関しては担当することが決まりました。」 「もちろん、僕一人では無理でしょうが。」 「・・・そうか。すまない。」 「涼宮さんにとって近しいあなたの死は、世界の崩壊を招く恐れがありますからね。」 正直、これは俺にとってとても有難い申し出であった。こいつらに見捨てられたら、俺はこれからずっといつ殺されるかわからぬ不幸な赤子同然だ。 まて・・・赤子? それって、ただの足手まといってことじゃないのか。 それって、問題の中心は俺なのに俺は指を咥えて見ているしか無いってのか? 長門は?長門はどうなるんだ? 俺を何度も助けてくれた長門に、俺は何もしてやれないってのか? 「・・・古泉。」 「何ですか?話も終わりましたし、そろそろ部活へ行かないと閉鎖空間が発生する恐れがありますよ?」 まだだ、まだ終わってねえよ。 「・・・俺に、何か出来ることはないのか?」 「・・・何もありませんね。」 「この件が落ち着くまで、あなたは、我々の用意した行動、場所に従っていてください。お願いします。」 「・・・そうか。それから―」 俺は声を荒げていた― 「長門有希のことでしたら、助けられる可能性は極めて少ない、と思われます。あちらの組織が、また彼女を創ったりしない限りはね。」 「さあ。とりあえず今は部活へ行きましょう。涼宮さんのご機嫌が悪くならないうちに、ね。」 「親御さんには、部活のあとで話をつけてきてください。」 一瞬、古泉の目が鋭く光ったのを俺は見逃さなかった。まるで、『お前には無理だから』と拒絶しているかのような、あの目を。 そうだ、俺には、理解不可能な文明の力も、時空を超える力も、ましてや超能力なんかもない。 俺は、‘ただの‘、人間なんだ。 「ちょっとキョン!?遅かったじゃないの!!」 「有希も先生に聞いたら今日は休みだって言うし、みくるちゃんも今日は追試で来られないっていうし、あーまったく、うちの連中ときたら!」 我らが団長様は、放課後長い間一人で退屈していたのがどうにも気に食わなかったらしく、虫の居所が悪いようだった。 「僕もバイトがありますので、すぐに失礼します。」 オイ古泉。今か?今出来た仕事だな?我らが団長様の不機嫌によって出来た、出来立てホカホカのやつだな? 「古泉君まで?」 「あ~分かったわよ。今日は休み。さ、行くわよ、キョン。」 「どこに?」 「有希の家よ。あの子、携帯にかけても、通じなかったんだから。」 正直、行きたくなかった。傷が抉られる思いをするのは、分かっていた。だが、結局俺はハルヒと、長門の『お見舞い』に行くことにした。 何かつかめるかもしれない、という、希望を込めて。 俺に出来る事と言えば、多分これ位だろうからな。 マンションの場所は、前に来たことがある。もっとも、前回は朝倉の件だったが。 長門と朝倉という、2人の宇宙人が住んでいたマンションの場所なんてのを忘れるやつはいないだろう。もしいたら俺がお勧めの病院を紹介する。 入り方もバッチリだ。コソドロみたいな方法ではあるが。 そうして、俺たちは長門の部屋の前に着いた。 「ちょっと、有希~?あたしだけど!?お見舞いに来たわよ~。」 インターホンを鳴らしても反応がないからって、ドアの前で騒ぐ団長様。いや、やめろって!恥かしい! 「んもう。誰もいないのかしら・・・あら、開いてるじゃない。」 ドアを開けて中に入る団長様。これが普通の人の家なら、俺もすぐにハルヒを止めていたであろう。 だが、長門が一人暮らしなのを、俺は知っている。この部屋に今誰もいないことを、今現在俺はこの世界で、誰よりも知っている。 俺はハルヒと一緒に、部屋に入った。 それから一部屋、一部屋、ハルヒと俺は見て回ったが、特に目を引くものも無く、残るはこの寝室のみとなった。 そこには、夢の中で長門が着ていたのと同じ床に放り出されたパジャマと、ハルヒの着信履歴でいっぱいの携帯電話がベッドの脇にあった。長門がここで朝倉に殺されたことは俺には容易に想像が出来た。 百聞は一見に如かずとはよくいったもので。 長門が消えた。この現実を今日何度も耳で聞かされてはいたものの、実際に見るとより一層、俺は胸が押しつぶされる思いがした。 それを見て俺は必死に、胸の奥から湧き上がる感情を抑えていた。 同じ光景を見て、 「脱ぎっぱなしで開けっ放し、ねえ。有希って意外とだらしないわね。」 と言ったハルヒに対して、俺は何もつっこむことが出来なかった。 他に大して目ぼしいものもなかったのか、ハルヒは最後に、 「それにしてもどうしちゃったのかしら。アタシに心配かけさせるなんて。次の部活は罰ゲームね。」 どうやらこいつなりの、心配の言葉らしい。 そう言い、俺の手を取り、さっさと部屋を後にしようと、引っ張った― その時だった。 別に、ハルヒが力いっぱい引っ張ったからじゃない。それとは別系統の痛み、そうだな、例えば ―眼球を紙かなんかで切ったような― 鋭い痛みがしたんだ。 俺の動きが止まり、体ごとハルヒに引っ張られるまでのほんの一瞬だが、俺の意識は確かにどこか別の場所にあった。 「・・・キョン!コラ!」 「ちょっと!?歩きなさいよ!」 「・・・ん?あれ?痛くない。」 気付いた時には、痛みはアスファルトに初めに降りた粉雪のように、溶けて消えていた。 「何言ってんの?ほら、さっさと出るわよ。」 「ああ、すまない。」 ・・・今のは気のせい、だったんだろうか?疲れてるんだな、きっと。 俺は、ハルヒに言われるまま、長門の部屋を後にした。 「いい!?明日も有希が来なかったら、お見舞いだからね!」のハルヒの捨て台詞を最後に、 俺たちはそれぞれの帰路に着いた。 太陽がオレンジ色になり、もうすぐ沈んで、暗くなりそうだ。影が一番延びている時間帯― そう、以前、朝倉に、呼び出されたあの時間に、それはよく似ていた。 家まであと10分くらいの場所にあいつは立っていた。 夕日に照らされた奴の顔は、悔しいが、いつも以上に美青年だった。 「部活は終わったようですね。」 「おう。」 「バイトはどうだった?」 「今日のは楽でした。彼女のイライラも、幸い、たいした量じゃなかったですしね。」 「親御さんの許可が取れ次第、あなたは我々機関がお守りします。」 「なあに、うちの機関のトップにかかれば、2,3日もあれば日常に戻れますよ。」 「・・・家まで、お供します。」 「ああ、頼む。」 こいつが未だ嘗てこんなにも頼もしく見えたことがあっただろうか。 アメリカの映画なんかでよくある、危機を共にした2人がくっつく、なんてのは、こんな感じなんだろう。 「ああそうだ。」 「拘束期間中は、僕と同じ部屋ですから。」 そう言って古泉は、にやりと笑った。 おっと、さっきの表現はいささか悪かったようだな。すまない。訂正する。溺れる者は藁をも掴む、だ。 「やめろ、百歩譲って同じ部屋はまだ良い。だが笑うな。気色悪い。」 「ははは、冗談です。」 もう一度前言を撤回させて頂く。やっぱり藁のほうがいい。 「行かせない。」 「ん?古泉何か言ったか?」 「いえ、何も。キョン君こそ何か?」 「・・・・・・・・いや、俺が悪かった。」 「・・・そのようですね。」 俺達はふと目の前にある影が、3本であることに気付き、足を止めた。 「・・・なあ古泉?お前のとこ、時間外勤務手当てって通常の給料の何割り増しなんだ?」 「・・・相手によりますね。それを、頭数で等分します。」 「じゃあ、あれは?」 「一時間で。」 「僕の普段の給料では一ヶ月は働かなくて済むでしょうかね。」 「じゃあ、今度ボードゲームのツケを少し色をつけて払っていただこうかねぇ。」 「ええ、喜んで。」 「この仕事が、無事に終われば、の話ですが。」 そう言ってから、俺たちの前の地面に映った、長い髪の、うちの高校の女子の制服を着た、影の主を、俺たちは振り返った。 振り返ると、そこはいつもの見慣れた道などではなく、いつぞやの、カマドウマ事件の時のような、砂漠地帯が広がっていた。 「朝倉!」 「ふふ、久しぶりね、キョン君。あ、昨日も姿だけは見たはずだから違うか。・・・有希ちゃんの最後の力で。」 「長門をどこへ遣った?」 「言ったでしょ。『最後の力』って。あの子は消えちゃったの。私の力でね。」 「そちらは・・・転入生の、古泉君だっけ?巻き添えになっちゃうけど、ゴメンネ、恨むなら・・・うーん・・・」 「そうね、やっぱり、恨みっこなしね。」 「まずいですね・・・ボク1人では到底、朝倉涼子には勝てそうにありません。」 「ハッキリ言うな。」 「それにな、古泉。」 「ハイ。何でしょうか。」 「一人じゃないかもしれないぜ。」 「キョン君・・・その腕の赤い光は・・・」 (そういうことだ。) 「ええ、いきましょう。」 一瞬だけ、古泉が、笑った。 「最後の別れは終わった?」 「じゃ、死んで。」 一瞬だけ、不意に体の自由が利かなくなったかと思うと、朝倉はいつか俺に教室で襲い掛かったときのように、ナイフを持って古泉目掛けて突進した。俺は不覚にも、目を一瞬閉じてしまった。 何かがぶつかる音がした。 目を開けた次の瞬間、遠くのほうに致命傷とはいえないものの、確かにダメージを負った朝倉がいた。宇宙人相手でも結構効くもんだな。 「どうして?閉鎖空間外ではあなたはただの生身の人間でしょう?何故動けるの?」 「それは違います。」 「実は以前、情報思念体によって創り出された空間に閉じ込められたことがありましてね。」 「超能力がそこでも使えるってのは、実証済みってわけだ、朝倉。」 「・・・そういうことです。」 まあ、威力は閉鎖空間の10分の1だが。 「そっかあ。じゃあ、少しは楽しめそうね。まずは厄介な君からかな。」 「それは、どうでしょうか?」 古泉は持てる限りの力を尽くして戦ったと思う。だが、古泉の力は、あのとき俺を守ってくれた長門の力よりずっと弱く、時が進むにつれ疲弊していったのは俺の目にも明らかであった。 「キョン・・・君、に手出しは・・・させません」 「あらあら。もう力ものこってないのにまだ向かってくるなんて。」 「あなたも、有希ちゃんと同じで頑張り屋さんね。」 「お疲れ様。」 「最後は、一突きで楽にしてあげるね」 「止めろ!朝倉!!!」 俺は咄嗟に、奴の左手を掴んだが、人間と、宇宙人の力の差は歴然で、びくともしなかった。 「待たせちゃってごめんね。」 「次はようやく君の番だから、ね。」 そう言って、朝倉は、俺の目の前で、右手で古泉の胸倉をつかんで持ち上げると、俺の手が纏われたままの左手で、古泉の腹をナイフでぶすりと一突きにした。 「今です・・・キョン・・・くん」 「朝倉あああアアアア!!!!」 俺はありったけの力を込めて、至近距離から、今さっき得たばかりの超能力とやらを目の前の宇宙人にぶちかました。 手ごたえ、あり。というか、これで駄目なら、もうお手上げだったのだが。まさしく、最後の賭け、であった。 「ふふ・・・まさか涼宮ハルヒが、キョン君まで超能力者にしていたなんてね。」 「今さっき得たばかりだ。おそらく、ハルヒが長門に戻ってきてほしいと願って、俺に持たせた力なんだろうな。」 「そう・・・有希ちゃんは人気者だったのね。」 「私と比べるにはまだまだだったけど。」 「俺はお前より長門派だ。」 「そう、残念ね。」 「また、遭おうね。バイバイ。」 そう言い残し、次の瞬間、朝倉は砂のように溶けていき、古泉はその場に倒れこんだ。 「古泉!!おい古泉!!しっかりしろ!!!」 「やり・・・ましたね・・・キョン君・・・僕の・・・バイトの・・・いい跡継ぎが・・・出来て・・・安心・・・しました・・・」 「バカヤロウ!!死ぬな!!絶対だ!!こんなところで、俺なんかに看取られていいのかよ!!」 「・・・それも・・・いいかも・・・しれま・・・せ・・・・・ん・・・・」 「喋るな!もうすぐ救急車を呼んでやるからな!!!オイ!しっかりしろ!」 古泉の腹部からは、今も大量の血が流れ出ていて、言葉も見る見るうちにぼけてきていた。 畜生!!ハルヒ!!長門を、いや、団員を助けるために俺に持たせた超能力だろ!? 古泉なら死んだって良いってのかよ!!このままじゃ、何も変わらないじゃないかよ! ここでこいつを助けられなかったら、何のためのチカラなんだよ! 俺は無力のままじゃねえか!! 畜生・・・!畜生・・・!!! 気がつくと、俺は大粒の涙を流して叫び続けていた。 だれでもいい!!こいつを助けてやってくれ!! そのとき。 「!&#$%&‘$“」 !? 後ろで、どこの言葉だろう、不思議な言葉が聞こえた。 この声の主は― 振り向くと、そこには長門が立っていた。 「どいて。」 「古泉一樹の再構成を開始する。」 長門は、俺の腕から古泉をひったくると古泉の腹部に手を当てた。 「長門・・・無事だったんだな!!」 「話は、後。」 「今は彼の再構成が第一の優先事項。」 「うむ。すまん。」 長門が古泉の回復をしている間に、暫くその場にへたり込んで心を落ち着けた俺は、ある事に気づいた。 そして、そっと長門にブレザーをかけてやった。 「長門」 「なに」 「服の再構成も、忘れんなよ。」 長門は顔を赤らめて、こちらを見ることなく、コクリとうなずいた。 長門さん、正直、それ、たまりません・・・・ 気を失っている古泉に見せてやれないのがまことに残念であった。 それから長門は優先事項を順番にこなしていき、そのすべてが終わるまでにはそこまで時間はかからなかった。 古泉も何とか立てるくらいにまで回復し、俺たち宇宙人と超能力少年2人の3人組みは、砂漠で、つかの間の会話を楽しんだ。 「長門。」 「なに」 「ハルヒがとっても心配してたぞ。謝っておけよ。」 「わかった」 「それにしても、長門さん。」 「なに」 「よく、生きておいでになられました。」 「朝倉涼子は私に憧れを抱いていた。」 「だから、私という存在を、抹消せずに、自分の一部として私の思念を体の中に閉じ込めた。」 「それが、理由」 「なるほど」 相変わらず難しい説明である。古泉は、理解できているのだろうか? 「そして。」 ん?長門にしてはよく喋るな。 「私も朝倉涼子にまた、少なからず憧れがあった。そして。少しだけだが、それを学習できた。」 「何をだ?」 「・・・ありがとう。二人とも。」 あのときの寝顔のような、安らかな顔で、長門が― 笑って、そう言った。 「それ」が何なのかは、この長門を見れば、一目瞭然であろう。 「帰りましょうか。」 「そうだな。」 「うん。」 じゃあ長門、頼んだぞ。 「空間の再構成を開始する。」 翌日。 昨日の疲れからか、全ての授業を睡眠タイムとし、放課後、真っ先に部室に向かった俺は、一瞬、言葉を失った。 ドアを開けると、皆、黙っていたのだ。 奥の団長机の前に、ハルヒと長門が立っている。それをオセロをしている朝比奈さんと古泉がその光景を見守る。そんな格好で、部室は静寂に包まれていた。 別に見世物じゃない。そんな表情で、ハルヒはこちらを一瞥したものの、あいつなりの団長の面子だろうか。そのまま話を切り出した。 「で、話って?」 「その・・・」 「心配かけてごめんなさい」 そう言った、長門の表情は、本当に申し訳なさそうだった。長門のそんな表情を見るのは、「あの」団長消失事件以来、間違いなく、初めてのことだった。 ハルヒはとても驚いた顔をしていた。いや、昨日のことがなければ、俺だってびっくり仰天だ。 朝比奈さんなんか、対局中の石を落としてしまい、盤の石の大半を白から黒にひっくり返してしまっている。そんなことにも気付いてない様子だ。 喜べ、古泉。久しぶりに勝てそうだぞ。 ハルヒはその顔をまじまじと見てから―多分、最初の数秒は、単に呆気にとられて混乱していただけだと思われるが― 「うん、まあ、良いわ。今回は事情も事情だったしね。」 「以後気をつけること!」 あっさりと許したのであった。 「あの、それだけ?」 今度は長門が意外、といった顔をして、言った。 「え?」 「その、罰とか。」 それを聞いたハルヒは 突然笑い出したのであった。 「・・・ククク・・・あ~っはっはっ!!」 あの~、ハルヒさん?ご機嫌なところ申し訳ないが、それはうちの名誉顧問の専売特許ですよ? 「私もそこまで鬼じゃないわよ。」 「それにしても有希、なんか変わった?」 「そんなことない。」 「うーん、なんか、良くなった気がするんだけど。」 「・・・ありがと。」 そっちのほうが可愛いと思うぞ、長門。 「・・・ところで古泉?」 俺は朝比奈さんとのオセロに久しぶりに勝って,いつもより更ににやにやしている古泉に話しかけた。 「はい?」 「2つばかり、質問がある。」 「1つ目。あのな・・・今月厳しくてさ!俺も折角働けるようになったんだし、早速、バイトを紹介してくれないかな、なんて・・・」 「ああ、それでしたら。」 「あのあと、失礼ながらあなたのことを調べさせてもらったところ、驚きましたよ。」 「なんだ。あまり聞きたくないが言ってみろ。」 「実はですね。」 古泉はにやりと笑って耳打ちしてきた。 (あなたの力が消失してしまっていたのです) (なんだって!) 俺はもう少しで叫びだしてしまいそうだった。 朝比奈さんをおもちゃにしているハルヒには気付かれなかったものの、本を読んでいた長門の体は一瞬ピクついて、反応を示した。やれやれ。危なかったぜ。 (つまり、俺は普通の人間に戻っちまったってことか?) (ええ。そのとおり。) (・・・・・・・) 俺はバイトが出来なくなって自分の今後の財政の見通しが、今の日本並みに危ういことを嘆くべきなのか、普通の人間に戻れたことを喜ぶべきなのか、なんとも複雑な気持ちになった。 (おそらく。) なんだ。下手にフォローされると落胆するぞ。特にお前のフォローはな。 (涼宮さんが、あなたには、やはり普通の人であってほしいと望んだからなのでしょう。) (何でまたハルヒはそんなことをしたんだ?) (それは、あなたが彼女に選ばれ―) 俺は古泉から顔を遠ざけ、はいはい、分かった分かった、というジェスチャーをした。 古泉は俺の顔を見てから、からかうように含み笑いをした。 決めた。俺はもう一生、こいつのために涙など流すまい。 「じゃあ2つ目だ。長門の欠席理由なんだが?」 「それでしたら僕から涼宮さんに、幼馴染の葬式だったと言っておきました。嘘ではないでしょう?」 「・・・確かにな。」 俺にも古泉の含み笑いが移ってしまった。 ……こうして。 俺(と古泉)は長門を取り戻し、代わりに一度は得た超能力を失い、普通の高校生として、普段の生活を取り戻したのである。でもちょっと残念だったなあ・・・。 そんなことを思いながら、ふと長門の方を見た。 長門も、こちらの様子が気になっていたのか、こちらを見ていた。 そして― 少し笑って、手を振った。 ………まあ、これでよかったのかも知れないな。 朝比奈さんの嬉し泣きと、 古泉のニヤケ顔。 長門の笑顔と、 それから、 とびきり上機嫌のハルヒを見ながら、 これからの毎日がこうであることを願いつつ、俺はそう思った。 「朝倉涼子の逆襲」 完
https://w.atwiki.jp/yaruyakyuu/pages/74.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 朝倉 涼子━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━. /. /. `ヽ >‐-ミ /. /. /. / ∨. .\. , 〈 /. /. ∧∨ ハ i .ヽ. ∧ ∨〃. ' /``ヾ'<| l }i ハ 〈 !| l { _{ 」 |L/ | l 八 . 〈 l | | 」≠-r{‐‐l ト、 , 」| /. /. | i '; 」{ | | { x≦=ミ 7フTヽ ' /. ;リ | .∨ lヽl‐-l 〃ん. i| ` ァミ刈∨. / | .ヽ| i 込rリ ん. ;リ 》厶イ . | | | , , , ヒrシ' ー=彡' , | l l | __ , , /. |. /. | 八 l N 、 、_ ノ ,. l | /. /| ヽト{ 丶. イ l 川. /. /_ | .ヽ | . ` r=≦ ハ| l / | xく ̄ヽ 八 .\ ..、 _ト、 ∨. N /. |' \ ヽヽ .\ 、__/, ==\'; jイ i |__. ヽ \ヽ .\ //⌒ヽ刈ノ | | ト、─────────────────────────────────── ない夫の”彼女”。職業は看護婦。スペってるときに出会った。---------------------------------------------------------------------- 別に暗屯子でもよかったのだが、ただえさえない夫は報われないので救済。─────────────────────────────────── 無難すぎるかもしれないが、だがそれがよい。───────────────────────────────────
https://w.atwiki.jp/gununu/pages/3160.html
朝倉涼子〔あさくら りょうこ〕 作品名:涼宮ハルヒの憂鬱 作者名:[[]] 投稿日:年月日 画像情報:248×186px サイズ:10,408 byte ジャンル:基本サイズ外 キャラ情報 このぐぬコラについて コメント 名前 コメント 登録タグ 個別あ 基本サイズ外 涼宮ハルヒの憂鬱
https://w.atwiki.jp/sosclannad9676/pages/105.html
【あさくら-りょうこ】 1年5組 女 県立北高校に通う高校生。 クラス委員長を務め、生徒らからも人気もので、谷口からはAAランクプラスと評価されるほど容姿も淡麗。 だが、その正体は長門有希と同様の、情報統合思念体に造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースである。ちなみに朝倉は急進派に属する→派閥 孤立してしまうハルヒを気にかけたり、なにかと世話をやく性格だったのかもしれない。 長門と同じマンション(長門のマンション)の505号室に住んでいた。 1巻 憂鬱で長門のバックアップであったが、涼宮ハルヒの情報爆発を観測できるかもしれないとして、キョンを殺そうとした。しかし、長門に気付かれ、戦闘の末敗れ、消滅させられた。 その後は、カナダに引っ越したとされており、1年5組の委員長は消えた。 消滅させられたが、4巻 消失の改変後の世界で、ハルヒの変わりとなる存在として朝倉が存在。 その際には長門を気に掛け、守ろうとする態度をとる。しかしキョンが時空の再修正をしようとした際、長門を脅かすものは排除すると称し、キョンにナイフで瀕死の重傷を負わせる。その直後、時間遡行してきた未来の長門によって消滅させられた。 キョンはこの朝倉は「長門の影役」であり、「異常動作した長門が再構成した朝倉も異常なヤツになった」と考えている。 長門は、朝倉に自分を守らせる存在として、構築したと考えているのである。
https://w.atwiki.jp/007110/pages/168.html
【選手名】 朝倉 【所属チーム】 【守備位置】 中堅手 【フォーム】 【利き腕】 左投げ左打ち 【弾道】 2 【ミート】 F4 【パワー】 D80 【走力】 C10 【肩力】 A14 【守備力】 F4 【エラー回避】 F4 【特殊能力・野手】 内野安打○、サヨナラ、レーザービーム 【背番号】 【備考】 2スレ目 380査定
https://w.atwiki.jp/haruhi_dictionary/pages/66.html
人物画像 登場作品 基本情報 性格・容姿 正体 能力情報制御空間 情報障壁 その他消失朝倉 関連記事 関連人物 人物画像 登場作品 第1巻『涼宮ハルヒの憂鬱』 第4巻『涼宮ハルヒの消失』 第10巻『涼宮ハルヒの驚愕(前)』 第11巻『涼宮ハルヒの驚愕(後)』 ゲーム『涼宮ハルヒの戸惑』 ゲーム『涼宮ハルヒの激動』 基本情報 声優は桑谷夏子。 県立北高校1年5組の女子生徒でクラス委員長。長門と同じマンションの505号室に住んでいる。谷口曰く「容姿はAAランク+(プラス)」。 性格・容姿 身長160cmで、髪の色は青。美人で人当たりの良い優等生であり、男女を問わず人気が高い。 正体 長門と同じく情報統合思念体に造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースであり、急進派に属する。 元々の役割は長門のバックアップであったが、ハルヒが起こすであろう情報爆発を観測するため、独断でキョンの殺害を企てる。 しかし計画を長門に阻止され、戦闘の末に敗れ消滅させられる。 その後は長門の情報操作により、急遽父親の都合でカナダへ引っ越したことにされた。 第4巻『消失』では、改変された世界で再登場。その際には長門を気に掛け、守ろうとする態度をとる。 12月18日に時間遡行したキョンの背後から襲いかかり、致命傷を負わせる。そして再びキョンに襲いかかるも、未来から時間遡行してきた長門によって阻止され、再び消滅する。 第10巻『驚愕(前)』にて、本来のヒューマノイド・インターフェースとして復活。この時、彼女は「自分と長門さんは鏡の裏表のようなもの」であり、 「喜緑さんより自分の方が長門さんに近い」と発言。だが、キョン曰く「俺から見たらお前も九曜も似たようなもんだ」。 能力 情報制御空間 一種の異空間であり、創造者の意のままにできる。しかし、彼女の空間は一つ一つのプログラムが甘かったらしく、長門の侵入を許した。 情報障壁 一定範囲にバリアを張り、相手の攻撃から身を守る。 その他 消失朝倉 登場作品は第4巻『消失』。第1巻『憂鬱』にて長門によって消されたはずだが、改変世界にて再び登場した。 北高の生徒だが普通の人間となっており、本来、ハルヒの席であったはずの席に座っている。 関連記事 宇宙人関連 関連人物 涼宮ハルヒ キョン 長門有希 喜緑江美里 周防九曜
https://w.atwiki.jp/twitterbot/pages/733.html
Asakurabot / 朝倉涼子 Web http //wing2.jp/~asa_bot/asakurabot.html 自己紹介 朝倉涼子bot。フォローなどお気軽にどうぞ。リムーブの際はブロックして頂けるとうれしいです。 タグ アニメ ハルヒ ラノベ 最近のつぶやき 新着記事は見つかりませんでした。 最終更新 2009/08/16 22 12 51