約 30,346 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4762.html
「何故、貴方は眠るの」 以前、長門さんにそう尋ねられた事があった。私が彼女と共に居るようになってから、大体数ヶ月ほどが経過した時のことだったと思う。 「それはね、長門さん。人間は眠るものだからよ」 「貴方には睡眠をとる必要はないはず」 「そうね。私は人間でないもの」 「貴方も、私も、限りなく人間に近い概念ではある。しかし、違う」 横たわる私を見下ろす長門さんの口調は、いつもと変わらない、極端に温度差に乏しい、事務的なものだった。 「私は人間のフリがしてみたいのよ」 肩まで羽毛の布団に包まったまま、すぐ傍らに経っている長門さんを見上げていると、私はなんだか、この世界ごと、長門さんの手のひらの中に納められてしまったかのような気がした。 「そう」 私の言葉を聴いた長門さんが、一体何を思ったのかはわからない。あるいは、長門さんはただの一度も、何かを思ったことなんてないのかもしれない。 私はそのときそう思ったけれど、考えても見れば、長門さんが何かを思うことがなければ、長門さんが私に、何故私が睡眠をとるのか。などということを訊ねかけてくるはずはなかったのだ。 つまり、そのときからすこしづつ、長門さんには変化がおきていたのだと思う。 ついでに言うと、だからこそ私は、こんなにも長門さんづくしになってしまったんだろうな。とも思う。 何はともあれ。 私はたまに長門さんに突っ込まれながら、長門さんのすぐ傍で、長い長い暇つぶしの日々を送っていた。 ついでに言うと、私はけっこう冗談抜きに、この暇つぶしの日々が終わらなければ良いと何度か考えた。 私にこんなことを考えさせるような采配をする情報統合思念体は、正直どうなんだろうとも考えたが、考えてみればこのときからして、長門さんはイレギュラーにやられつつあったわけで。 でもって、私が長門さんに惹かれるようになったのは、要するに長門さんがイレギュラーと成りはじめてからであって。 つまるところ、すべてはイレギュラーだらけだったのだ。 思念体様のご意向なんてのは、相当の初期から台無しの一途を辿っていた。 情報統合思念体とはかくも弱きものである。ついでに言うと、それに作られた私も。 ◆ そんなわけで、私は前々からたまに眠るという行為に及んでいたために その時、その場所に構築された瞬間、私はたった今『目覚めた』のだと思った。 それがもしも本当に『目覚め』であったのなら、それはずいぶんと質のよい目覚めだっただろう。 何しろ、たった今機能を取り戻したばかりという、あのぼんやりとした重みのようなものもなければ、長時間放り出していたことによるからだの痛みなどもひとつも伴わなかった。 私は気がつくと、その薄暗い教室の中央に、直立の体制で存在していた。 「……あは」 正直言って、まったく意味が分からなかった。私の体に、一体何が起きたというのか。 見るとそこは、私が以前キョン君を呼び出したあの教室だった。 つまり、私が長門さんの手によって、情報連結を解除された場所でもある。 ……さて。此れは一体、どうしたことかしら。 私はそれまで、基本的に、意識の根底の部分に目的というものを植えつけられていた。 今、自分がすべき最も重要なことがらが何であるかを見失うことは決してなかったし、つまり、自分が一体なにをすれば良いのかなどと迷ったことは一度もなかった。 けれどその瞬間、私は見事なまでに空っぽだった。目的意識を持たないいまどきの若者だった。もういっそ、有機生命体たちの赤ん坊のようなものだ。はい、たった今生まれました。ああ苦しかった。って、何だろうここは。人がいっぱいいるし、いきなりお湯をかけられるわ、もう何がなんだか分かりません。たすけて…… 気分としてはそんなような感じ。うん、多分近い。 一つだけ分かるのは。もし、私が、情報統合思念体の意思で再構築されたというのならば、彼らは私の中に、目的意識を植え付け忘れるなどという、平凡でつまらない手違いはしないはずだ。 多分。 つまり。私は情報統合思念体の意思とは無関係に、この場に再構築されたのだということになる。 多分。 数分はその場に留まっていただろうか。 とにかくその場に居たところで何も話は進まないと気がついた私は、無人の教室を後にして、とりあえず、この薄暗い校舎を脱出することにした。 しかし。此処でまず最初の問題に遭遇してしまった。 「……あら?」 廊下へ出るための唯一の経路である、教室の前後に取り付けられた引き戸は、何かによって固定されており、私がどれだけ引っ張っても、わずかに音を立てて揺れる程度で、一向に開いてくれはしななかった。 何故? 私は自分に問いかけてみる。 すると、私の中で息を潜めていた、常識的な女学生としての記憶がこう告げた。 「深夜の教室には、普通鍵が掛かってるものよね」 暗闇の中で一人呟き、一人納得する。何もおかしなことではない。どちらかというと、おかしいのは、その施錠された教室の中に存在してしまっている私のほうだ。 「もう……」 まったくもって何がおきているのかわからないこの状況下で、常識を突きつけられることになるとは思わなかった。私はすこしふてくされながら、引き戸の取っ手に手をかざし、情報操作を試みようとした。 しかし。ここで問題がまた一つ発生する。なんというか、私はもっと早くにその事実に気がついても良かったんじゃないかと思う。 手っ取り早く言えば、私は情報操作を行う能力を失ってしまっていたのだ。 いつものように、私の指先がキラリと光ることもないし、物事が従順なペットのように、私の思い通りに動いてくれることもない。引き戸は引き戸だし、鍵は鍵。無機物たちは、依然として、私の行く手を阻むことをやめようとはしなかった。 ―――な、何、これ、とじこめられたの? 情報操作が行えないという事実が、急に私を弱気にさせる。感情が萎縮し、嫌な汗が滲み出てくる。 つまるところ、私は今、普通のか弱い女学生とまったく同じだけの力しか持って居ないということだ。良くある物語のように、何の力も持たない女学生が、不思議な力を手にしてしまった上で、何がなんだか分からない世界に迷い込んでしまうとでもいうのなら、まだ話も分かるのだが 力を持っていた私が、その力を失った上で、わけの分からない状況に放り込まれてしまうというのは、どんな神経を持ってしても納得できない。責任者を呼んでほしい気分だ。 「だ、誰か、助けて!」 ほとんど無意識のうちに、私はそう叫んでいた。 この校舎中に声がいきわたり、誰かが助けてくれることを望んで、お腹の底から。 持っていた力を奪われてしまうということが、これほどの不安をもたらすことだとは思わなかった。 まったく、これでは冗談抜きに、私はそこらのか弱い女学生と同じじゃあないか。いや。自分が宇宙人であり、今はない力を以前は持っていたという意識を持っている事を考えたら、私は普通よりもすこし頭の温かい女学生のカテゴリに入れられてしまうかもしれない。 そう考えると、情けないやら不甲斐ないやらで、涙さえ出てきそうだった。 「勘弁してよ……」 私は思わずその場にへたりこみ、頭を抱えた。まったく、寝起きには難易度の高すぎる冗談だ。 下手をすればこのまま、夜が明けるまでこのまま閉じ込められたままかもしれない。じっと身を潜めていればそうそう危険があるとも思えないけれど…… しあkし、そもそも今、この瞬間、私はどの時代に居るのだろうか? 状況が分からない以上、夜が明ければ、教師たちや生徒たちが学校に来てくれるかどうかは分からない。もしかしたら明日は休日かもしれないし……そもそも、この世界に有機生命体が存在しているかどうかも定かではない。 「どうしろって言うのよ……」 無知とは恐ろしいものだ。 「訳が分からない事」ほど不安になる事は、もしかしたらこの世に存在しないかもしれない。 すると私はあの少年に対して、こんな状況下に追いやった挙句、ナイフで刺し殺そうとしたというのか。 ――なんという。 不安さと絶望感にさいなまれ、いい加減私の視界が滲み始めたころだった。 扉の向こうの廊下で、誰かの靴がリノリウムを打つ音がしたのを、私は聞き逃さなかった。 ……誰か、いるのかしら。 私の記憶の限り、この学校に宿直の教師というものは存在しなかったし、警備員を雇って夜間巡回をさせるほど裕福な学校でもなく、そもそもそんな必要があるほど風紀の乱れた学校でもなかったはずだ。 もっとも、私が情報連結を解除されてから今までの期間で(それがどれほどの期間なのか、私には分からない)この学校の状況が変わったという可能性もなくはないのだが。 足音はためらいがちで、ゆっくりと、何かを確かめるようなリズムで、すこしづつこちらに近づいてきた。自分の心臓が、一丁前に高鳴ってゆくのを感じる。 さて、何が出るか。 足音はやがて、私の居る教室の前で止まった。 曇り硝子の向こうに、誰かのシルエットが浮かび上がる。 よかった。少なくとも、人間の形をしているものが来てくれたらしい。 「……誰か……いるの?」 やがて扉の向こうで声がする。 ああ。私はその声を耳にした瞬間、全身の筋肉が緩んでいくような安心感を覚えた。 この声だ。私が今、もっとも聞きたいと思っていた声。 「長門さん……ね?」 私がその名前を呟くと、扉の向こうの人影がわずかに身を震わせるのがわかった。 その瞬間、私の中に咲き乱た安堵の花吹雪の中に、一抹の違和感が芽生える。先ほどの長門さんの声は、私が知る長門さんが発するものとしては、いやに情感が篭っていた。加えて、扉越しにも分かる、奇妙なほどのたどたどしさ。彼女は大体にしてスローペースではあったが、それは決してためらいがちな低速ではなかった。彼女は急ぐ必要がないことを常に悟っていたのだ。 しかし。今、扉越しに感じる、この違和感は。 「……い、今、鍵をあけます」 やがて、もう一度長門さんの声がする。その声を聴いた瞬間、私の中の違和感は確かなものとなった。 この世界は、私の知っていた世界とは違う。 少なくとも、長門さんに関しては。 つづく
https://w.atwiki.jp/haruhi-suzumiya/pages/17.html
キャラ 涼宮ハルヒ 朝比奈みくる 長門有希 キョン 古泉一樹 キョンの妹 鶴屋さん 喜緑江美里 朝倉涼子 谷口 国木田
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1295.html
長門ふたり 第3章 急進派の逆襲 次の日、僕はずきずき痛む頭をかかえて坂道を登っていた。 あのあと、彼に呼び出され「なぐらせろ」というので 「どうぞ」というと思いっきり頭を殴られた。いや、 彼は暴力なんてふるわないタイプだと思っていたが、 よほど腹にすえかねたんだろうな。 今回は僕にも責任があるから殴られてもしかたない。 それにしてももうちょっと加減してくれてもよさそうなもんだが。 学校に着くとまっすぐ教室に向かった。なんだか、だんだん、 どうでも良くなって来た。長門さんは二人いっしょのところを 目撃されないようにそれなりに気は使っているみたいだし、 彼が二人になる破目になったのももともとは、僕が なんとか長門さんが二人ともこの時空にいるという状態を 無理矢理解消しようとしたせいだ。要するに長門さんが 二人でいっしょにいるところを第三者に目撃されなければ いいわけだし、最悪、目撃されても、それが涼宮さんでないなら 致命的でも無いし、ごまかしようもある。 長門さんも涼宮さんにだけは目撃されないように 細心の注意を払うだろうし、そうなると、変な術策を弄するより 静観した方がましかもしれない。 その日は、普通に授業を受けた後、時間を見計らって部室にむかった。いたのは 長門さんB。どうやら、一日交替のルールはきちっと守っているようだ。 彼もいつもどおり、涼宮さんのとっぴなアイディアに文句を つけている。いやいや、ご苦労なことで。 「.....って思わない?古泉くん」 おっと、聞き逃したぞ。まあ、どっちにしろ答えはいっしょだ。 「大変、よいアイディアかと」 涼宮さんは勝ち誇ったような笑顔をうかべながら、彼の方を 見返した。彼は苦虫を噛みつぶしたような顔で僕の方をにらみかえした。 いやいや、昨日のゲンコツのお返しはしっかりさせてもらいましたよ。 「じゃ、いくわよ、古泉くん」 どこへ行くのかな?まあ、いいか。とりあえず、部屋を出る涼宮さんの 後について部屋をでる。 「おい、待てよ」 おっと、彼もついて来たな。彼には悪いけど、これはおもしろいことになりそうだな。 部屋を出際にちらっと長門さんBの方をうかがったが黙々と読書にふけっている。 まあ、いいかな、別に。 3人が出て行くと部屋には長門だけが残った。長門がページをめくる音だけが 響く。と、長門は突然、文芸部室が情報封鎖されていることに気づいた。 怪訝に思って顔をあげた長門が目にしたのは涼宮ハルヒとはまたちがった タイプとはいえ、100ワットの笑顔と言ってもどこからも文句が出そうもない 笑顔だった。 「今度は、邪魔させないんだから」 彼と涼宮さんは何ごとか口論しながら僕の前をスタスタと歩いて行く。 僕はあとからゆっくり付いて行く。さてと、今日はどんなおもしろい 展開が見られるかな。と、突然、二人が立ち止まった。 「なんだこれは」 慌てて周囲を見渡すと、まわりの風景が脱色している。さっきまでまわりを 歩き回っていた生徒達の姿もない。 「何よ、これ、どうなってんの?」 涼宮さんも慌てている、まずいぞ、これは情報封鎖だ。 誰かが、いや、何かが、学校ごと情報封鎖を行ったんだ。 「ねえ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」 後ろから声がする。振り向いた僕等の目に飛び込んで来たのは カナダに転校したはずの彼の同級生だった。 長門はすかさず、部室の備品を槍に変形させると投げつけた。 しかし、敵もさる者、あっさりかわして反撃して来た。 「今度は、崩壊因子を仕掛ける暇なんかなかったわよね」 腕をライトソードに変形させて攻撃してくる。 「同じ手は通用しないわよ。崩壊因子さえなければこっちが有利。 ここはわたしが情報操作した世界なんだから」 長門はとっさにバリアを展開して攻撃を受け止めた。 「前回よりも有利なのはこちらも同じ。今度は彼を守りながら 戦う必要は無い」 一端、跳んで間合いをはかるとエネルギー束をたたきつけた。 「あくまで邪魔する気ね」 相手もバリアを展開してあっさり攻撃を避けた。 不敵に微笑むその笑顔の持ち主の名は...朝倉涼子。 「朝倉さん、なんであなたがここに?」 涼宮さんが朝倉涼子に話しかけている。 「すごく探したのよ!」 「そう、ありがとう。でも、質問してるのはこっちなんだけどな。 質問はね、死ぬのっていや?死にたくない?ってことなんだけど?」 「何言ってんの、あんた、頭がおかしいんじゃないの」 朝倉涼子は無言でいきなり、涼宮さんに槍をなげつけた。 「きゃっ」 さすがの涼宮さんもこの間合いではよけ切れない。 が、予想と異なり、槍は空を切った。彼がとっさに涼宮さんを押し倒したのだ。 「ちょっと、キョン、なにやってんのどきなさい!」 涼宮さんは事態を良く把握してないようだが、さすがに彼は二度目だけあって 反応が早い。とっさに体を起こしてゆだんなく周囲を伺う彼。 「長門さんを探してるの?無駄よ、今度は誰も助けに来ないわ」 おかしい、攻撃が弱すぎる。朝倉の攻撃がまるで長門を弄ぶような 奇妙な間合いだ。時間稼ぎ? 「さすがね、もう気がついたのね。でも、もう遅いわ。 いまごろ、もうひとりのわたしが涼宮さんと彼のお相手をしている頃よ。 生身の人間がわたしとサシで戦って何分もつかしら? それとも、秒、かな?」 長門は全パワーを注ぎこんで朝倉涼子の抹殺にかかった。 相手を圧倒するのは難しくは無い。問題は時間。 長門は微かにもう間に合わないのではないかと観念した。 「じゃ、死んで」 朝倉は腕を巨大サーベルに変形させると彼と涼宮さんの上に ふり降ろす。気づいたときには僕はその下に回り込んで攻撃を 受け止めていた。体が赤く輝いている。 「邪魔する気?」 朝倉はターゲットを僕に切替えるとこっちに攻撃を集中してきた。 飛んで来る槍をつぎつぎとはたき落とす。 朝倉は素早く動きまわり長門の攻撃をかわし続けた。 「無駄よ、それにもう遅いわ」 貴重な時間が過ぎ去って行く。エネルギー束をたたきつける。かわす朝倉。 槍が飛んで来る、はたき落とす。まずい。早く決着をつけないと。 朝倉涼子は次々と槍を投げつけて来たが、僕の赤い光はことごとく それを中和し続けた。涼宮さんはこの状況に早くも適応したようで 彼のネクタイをつかんでひきずりあげながら、何時の間にか 僕のうしろにピタッとついている。さすが、涼宮さん。素早い。 「離れないでください」 「わかってるわよ、勝てそう?」 「わかりません」 エネルギー束をたたきつけて来る朝倉。 「そいつらを守りながらいつまでつづくかしらね?」 一瞬のスキをついて、朝倉と間合いをつめる。咄嗟に腕をライトソードに 変形させて朝倉の胸に叩き込む。勝った! 「かかったわね」 朝倉は表情をかえないまま、ふいに輝きを増した。 まずい、トラップ。 次の瞬間、光の爆発が文芸部室を襲った。 朝倉はすばやく動いて回り込むと、横から涼宮さんを狙った。 「きゃっ」 爆風で飛ばされた涼宮さんが床にころがる。まずい、思わず、朝倉から 目を放してしまった。 ドスッ、という鈍い音。胸から金属の棒がつきでている。一瞬のスキをつかれた。 あれ、痛くないや。槍をぐいっと引き抜く。 「だいじょうぶですか、涼宮さん」 と僕は言ったつもりだったが、実際に口からでてきたのはゴボゴボっという音と 赤い血だった。部屋がゆっくりと回る。いや、回っているのは自分の方だ。 いつの間にか涼宮さんがそばに来て僕を抱きあげている。 「大丈夫?、古泉くん」 涼宮さん、あなたはすごい。あんな化け物に命を狙われているのに この状況で他人の心配ですか?「大丈夫です」と言おうとしたが出てくるのは ゴボゴボという音と血潮ばかり。 「死んじゃダメよ。SOS団の副団長でしょう。死んだりしたら死刑だから!」 涼宮さん、言ってることめちゃくちゃですよ。 「じゃあ、次はあなたね?」 「ハルヒに手を出すな。目的は俺だろう。さっさと俺を殺して出て行け」 「残念だけど、今度のターゲットは涼宮さんなの」 「キョンに手をだしたら承知しないわよ。さっさとあたしを殺しなさい!」 涼宮さん。あなたと彼はすばらしい。何の力もない生身の人間なのに、 この状況で朝倉に立ち向かえるとは。どこにそんな勇気が詰まっているんですか? 「望みどおりにしてあげるわ。じゃ、二人とも死んで」 ビュッという鈍い音が聞こえた。気づくと黒い小さな影が朝倉に体当りしている。 光の中に輝く銀髪。長門さんA! 「どうしてあなたがここに!あのトラップから逃れられるわけは無いのに!」 慌てて反撃しようとする朝倉涼子。が、長門さんAは既に朝倉涼子の懐に 飛び込んでいた。 「情報連結解除」 朝倉の体が輝いて薄れ始めた。もがく朝倉。が、一瞬のスキを付かれた朝倉には もう勝機は無い。見る見るうちに朝倉の体は消滅して消えてしまった。 ガシャン。ガラスが割れるような音がすると、周囲は元に戻った。 ふいに周囲の喧騒も元に戻る。 「有機体の再構成を行う」 長門さんAは僕のそばに来ると胸の傷にキスした。 ナノマシーンが注入され、みるみる傷口が塞がって行く。 「古泉くん、大丈夫?」 「出血が多かった。しばらくはふらつくはず」 よろける僕を彼が支えた。 「すみません」 涼宮さんは部室に向かって歩き始めた。 「どうなるんですか?これから」 「軽微な情報操作をした。涼宮ハルヒは今の経験を夢、 または、幻覚とみなすはず。問題は無い」 「でも、このまま部室にもどっては長門さんBが」 「彼女は消滅した」 「え?」 「朝倉涼子のトラップにかかった。彼女は自爆した朝倉に巻き込まれて消滅した」 部室にもどると誰もいなかった。 そのままその日は解散になった。 涼宮さんも無言のままだった。情報操作がうまくいったのかもしれない。 その日の夜。僕はベッドでなかなか寝つけずにいた。 僕の望みどおり、長門さんBは消滅し長門さんは一体になった。 本当なら喜んでいいはずが複雑な気分だ。 長門さんBは僕等を守るために消滅したんだ。 あの朝倉と刺違えて。長門さんAが来てくれなければ僕等はいまごろ 息をしてはいないだろう。結局、ぼくらは長門さんABのおかげで こうして生きているのだ。もし、長門さんが早々に一体に減ってしまっていたら、 僕等は生き残れただろうか?僕はその夜、長門さんABに申し訳ない気持ちで いっぱいだった。ごめんなさい。長門さんAB。残った長門さんAにはきっと 恩返しするから。さようならふたりの長門さん。短い間だったけど、 楽しかったよ。 翌日。部室に踏み込んだ僕はとんでもないものをめにすることになった。 長門さんの人数は元通り2名になっていた。 彼女たちは事も無げに単調な口調でこう言い放った。 「情報統合思念体のミス」 . . . いい加減にしろ! 第四章
https://w.atwiki.jp/kskani/pages/127.html
対有機生命体コンタクト用インターフェースは電気娘の夢を見るか? ◆mk2mfhdVi2 軽い自己紹介を終えた私たちは、気絶している少女を抱えて戦闘をするわけにもいかないという結論に達して、 ひとまず隣のエリアにある神社へと向かうこととなった。 ついでに情報交換もしつつ、三十分ほど歩いただろうか。目的の神社の鳥居が見えてきた。 周囲の警戒をウォーズマンに任せて、暗い神社の中、未だ気絶から覚めない少女を見やりつつ一人思考する。 ウォーズマンとの会話で確信できたことが一つ。 少なからず想像はしていたが、やはり彼は私たちとは別の世界の住人のようだった。 正確には『パラレルワールド』と言うべきだろうか。 私たちの世界にも彼らの世界にも地球という惑星は存在するし、日本やアメリカ等の国家も存在する。 しかし私たちの世界には彼の言う『超人』なるものは存在していない。 てか存在しているのなら情報統合思念体が黙っていないだろう。 もしかしたら長門さん共々彼らとレスリングをする羽目になっていたかもしれない。 正直それは勘弁してほしい。 なんせウォーズマンの言葉を信じるのであれば、 私の―――対有機生命体コンタクト用インターフェースとしての力をフルに使用したとしても、 正直勝てるかどうかわからない相手がゴロゴロしているのである。 そして、その内数名は実際にこの『バトルロワイアル』に参加している。 キン肉スグル、キン肉万太郎、アシュラマン、オメガマン、悪魔将軍。 その内危険なのはオメガマンと悪魔将軍だとウォーズマンは言っていたが……… この状況下では、他の三人にも注意しておいた方が無難だろう。 不安材料は尽きない。 キョンくんとその妹については問題は無いにしても、保護対象の涼宮ハルヒには暴走の危険がある。 残りのSOS団のメンバー、古泉一樹と朝比奈みくるについても、私に対して友好的に接してくる保証はない。 むしろ過去に私がしたことを考えれば、一方的に襲われる可能性すらある。 「本当、どうしたものかしらね」 無意識の内にそう呟く。と、 「ん………ここ、何処?」 (あーそういえばさっき勢いで襲っちゃったのよね。騒がないでくれると嬉しいけど) 「お姉ちゃん、誰?」 (あら、さっきのことを覚えてないのね………。これは運がよかったわ) 「私の名前は、朝倉涼子。あなたが気絶していたから、ここまで運んできたのよ」 嘘はついていない。運んできたのはウォーズマンだけどね。 「あなたの、名前は?」 「メイ。草壁メイ」 小さいけれど、はっきりとした声でそう答える。 「メイちゃん、あなたの知り合いはこの中にいるかしら?」 あらかじめ用意してあった名簿を彼女に見せる。メイは少し迷っていたが、 「この二人!お姉ちゃんとトトロ!」 名簿に記された二つの名前を指差した。 お姉ちゃんって言うのは――この、草壁サツキって名前のことね。しかしトトロって? 「トトロは、友達!こーんなに大きくて、とっても強いの!」 ふむ、外国人だろうか。彼女は腕を大きく広げて、トトロとやらの大きさをアピールしている。 こんなに子供がなついているのだから、人格的に問題は無いだろう。体格もよし、か。 「ねえ、そのトトロさんって人は、頼りになるかな」 「うん!不思議な力も使えるの!」 加えて不思議な力。まあ幼児の言うことに信憑性は期待できないだろうが、探してみるのも悪くないかもしれない。 「私も探している人がいるの。よかったら、私たちと一緒に行動する?」 「うん、お姉ちゃんについてく!」 よし、うまくいった。 何も私は親切心でこの子を仲間にするわけでは無い。 まっくろくろすけな大男とセーラー服の少女の組み合わせよりも、子供がいた方が他者からの信頼も得やすいだろう。 加えて、支給品の問題もある。 今の能力を制限されている私にとっては、武器がナイフだけでは心もとない。 ここはやはり、銃かその類の物が欲しい。 そんなわけで、彼女の分の武器も手に入れられるチャンスは逃したくない。 「ねえメイちゃん、メイちゃんは支給品はもう見たの?」 「支給品?」 「そのデイバッグの中にあるの。メイちゃんのも見てもいいかな?」 「いいよー」 よし、私は意を決してデイバッグの中に手を入れる。吉と出るか邪と出るか。 手応えを感じ、ゆっくりと引っ張り出す……。 よし、吉だ。デイバックの中から出てきたのは、銃。 「メイちゃん、これは危ないからお姉さんが預かっていてあげるからね」 「うん、わかった」 (ふふふ、うまくいった。しかしこの銃、少し奇妙なフォルムをしているのが気になるわね………。あら?) 今まで気が付いていなかったが、説明書が付属している。変な所で気が利く主催者だ。 (えっと何々?この銃で撃たれた生物は一定時間、飛行能力と電撃を発射する能力を得る………!?) 吉どころか大吉だ。電撃は上手く使えば通常の銃よりも応用がきくし、飛行能力もありがたい。 (早速試し撃ちをしてみようかしら。いざと言うときに慣れてなくても困るしね) 思い立ったが吉日とばかりに、私は銃口を自分に向けて―――引金を引いた。 甲高い悲鳴を聞いて、見張りをしていたウォーズマンは神社の中へと飛込んだ。 「どうしたー!?何か―――」 彼の言葉は最後まで発音されることはなかった。 頭に角を生やし、虎柄のビキニを着た涙眼の朝倉涼子から発射された電撃が、彼の頭部に直撃していたから。 前略 情報統合思念体様 晴れて私は、羞恥心なる感情を、身を持って理解することが出来ました――― 【F-05/神社/一日目・未明】 【名前】ウォーズマン @キン肉マンシリーズ 【状態】健康 【持ち物】デイパック(支給品一式、不明支給品1~3) 【思考】 1:草壁メイ、朝倉涼子と行動。 2:正義超人ウォーズマンとして、一人でも多くの人間守り、悪行超人とそれに類する輩を打倒する。 3:最終的には殺し合いの首謀者たちも打倒、日本に帰りケビンマスク対キン肉万太郎の試合を見届ける。 【名前】朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱 【状態】半狂乱 【持ち物】ボウイナイフ、デイパック(支給品一式、鬼娘専用変身銃、不明支給品1~2(ただし武器では無い)) 【思考】 1:草壁メイ、ウォーズマンと行動 2:今のところ誰かに危害を加えるつもりはない。 3:涼宮ハルヒの保護 4:上に着る物がほしい 【名前】草壁メイ@となりのトトロ 【状態】健康 【持ち物】デイパック(支給品一式) 【思考】 1:ウォーズマン、朝倉涼子と行動 2:おねえちゃんやおばあちゃんやトトロに会いたい。 支給品説明 【鬼娘専用変身銃/ワタシガダレヨリイチバンガン@ケロロ軍曹】 撃たれた相手は電撃発射能力と飛行能力を得るクルル曹長こだわりの一品。 撃たれた相手は、男だろうが女だろうがロボ超人だろうが強制的に虎柄のビキニで某ラムちゃん口調になります。 電撃の威力は対象を気絶させる程度です。銃の効果は三時間ほど持続します。 時系列順で読む Back たとえ消えそうな、僅かな光だって Next 超能力少年、そしてとなりのストーカー 投下順で読む Back たとえ消えそうな、僅かな光だって Next 超能力少年、そしてとなりのストーカー Contacting ファイティング・コンピューターVS対コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス ウォーズマン 犯罪! 拉致監禁○辱摩訶不思議ADV! 朝倉涼子 草壁メイ
https://w.atwiki.jp/yaranaio/pages/28.html
長編 なのは やる夫はリィンバウムに召喚されたようです 元ネタ有り:サモンナイト やる夫は銀河の英雄『魔術師』になるようです 元ネタ有り:銀河英雄伝説 やる夫でいきなりトルネコ3 二次創作:トルネコの大冒険3GBA 完結済み ヒロイン:真紅・朝倉涼子・高町なのは やる夫がたった一人の最終決戦に挑むようです 二次創作:ドラゴンクエスト 完結済み やらない夫とやらない子は科学捜査をするようです 元ネタ有り 完結済み(外伝製作中) ヒロイン:やらない子・高町なのは・涼宮ハルヒ やる夫がフロンティアでハンターになるようです 元ネタ有り:モンスターハンター 途中にて板変更 やる夫達は嘘を重ねるようです オリジナル 完結済み フェイト・テスタロッサ やらない夫のワールドネバーランド 元ネタ有り: ワールド・ネバーランド ~オルルド王国物語~ ヒロイン:黒井ななこ、イリヤ、秋元こまち、フェイト・テスタロッサ、アイビス・ダグラス シグナム やる夫のWA4 元ネタ有り:WILD ARMS the 4th Datonator 過去ログ直リンク やる夫がファルガイアを救うようです 元ネタ有り:WILD ARMS ヒロイン:朝倉涼子・シグナム やらない夫は教師になるようです 元ネタ:サモンナイト3 ヒロイン:巡音ルカ・シグナム・ルイズ・紅月カレン・ティアナ やらない夫は騎士な義妹と仲良くなりたい オリジナル ヴィータ やる夫と愉快なニートども オリジナル 完結済み 働きたくないでござる ティアナ・ランスター やらない夫は教師になるようです 元ネタ:サモンナイト3 ヒロイン:巡音ルカ・シグナム・ルイズ・紅月カレン・ティアナ チンク やらない夫の月は綺麗なようです オリジナル ヒロイン:雪華綺晶・やらない子・ナギ・弱音ハク・チンク
https://w.atwiki.jp/english_anime/pages/18.html
imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 保健室行こうか? ひとつの懸案事項 長門 VS. 朝倉 朝倉涼子の転校 朝比奈さん(大) 時間移動のコツ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5095.html
https://w.atwiki.jp/yaruoperformer/pages/2211.html
SOS団 朝比奈みくる キョン 涼宮ハルヒ 長門有希 古泉一樹 その他のキャラクター 朝倉涼子 佐々木 谷口 派生キャラクター キョン子 ちゅるやさん
https://w.atwiki.jp/gununu/pages/511.html
涼宮ハルヒの憂鬱 作品情報 5枚 涼宮ハルヒ 長門有希 朝比奈みくる(250x188) 朝倉涼子(248x186) 鶴屋さん
https://w.atwiki.jp/haruhi_best/pages/33.html
涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 ループ・タイム 「まいったわね……全然前が見えないわ」 ハルヒが本心を吐露するように呟く。確かに、眼前は完全に真っ白い雪しか見えない、いわゆるホワイトアウトの状況だ。 「おかしいですね……距離感から言って、とっくに麓についているはずですが」 最後尾から聞こえる、いつになく真剣な古泉の声。そう、その通り、着いているはずなんだよ、本来なら。 だが、着かないのはなぜか? ……俺がそう望んでいるからだ。 「うう、冷たい……」 後ろで、スキーウェアに身を包んだ朝倉涼子が、寒さに身をすくめている。なんだか、自分のことを言われたような気がして、俺はギクリとする。もちろん、気温のことを言っているんだろうが―― ……俺の身勝手な都合で、団員たちを遭難に巻き込んでいる俺は、SOS団の団長として、ドーピングを行った陸上選手のように、完全に失格だろうな。 それも、分かってやっているんだから、無意識にトラブルを引き寄せたハルヒとは違う。 やれやれ。 自分で自分に呆れてみても、なんの解決の足しにはならないのは分かっているけれども、俺は溜息をついた。 いまさらだが、どうしてこうなったのか……。 回想してみると、こんな具合になる。 『ループ・タイム番外編――雪山症候群――』 時を遡ること、クリスマス・イブ。 朝倉涼子の退院祝いも兼ねた、クリスマス鍋パーティーが、SOS団の部室にて盛大に行われた。 朝倉が起きた時には、病室でワンワン泣いていたハルヒも、すっかり立ち直って元気を取り戻し、朝倉にトナカイのコスプレなんかをさせて喜んでいる。 短い角つきのカチューシャに、もこもこしているが、妙に露出度の高い着ぐるみ。赤い首輪と、朝倉慮湖が身を捩るたびに、チリチリと音をたてて鳴るベル……ハルヒの命令で、サンタ衣装の朝比奈さんに馬乗りにされ、朝倉涼子は顔を真っ赤にしている。 「ハルヒ、サンタが乗っているのはトナカイじゃなくて、ソリなんだが」 「いいのよ、細かいことはっ!!ほら、みくるちゃんっ!もっと涼子の体に絡んで!うん、いい写真が撮れそうだわっ!」 「やめてー!涼宮さん。ちょ、ちょっと、それ無理!恥ずかしいよ……やっ、胸なんか揉んじゃ駄目よ朝比奈さん!」 トナカイ朝倉は、顔をゆでた蟹のように真っ赤にしている。既にアルコールが入っていて、こちらもまた顔が赤い朝比奈さんが、とろーんとした目つきで、積極的に朝倉の体をまさぐっているためだ。 「朝倉さぁん……ここですかぁ?……ふみぃ……うふふ、柔らかいですぅ」 セクハラ親父か。 やれやれ。早く食べないと鍋の中身がなくなるぜ。さっきから長門がすごい勢いでブラックホールに直結させた胃袋へと詰め込んでいるからな。 「いやー、すごい食欲さっ!有希にゃん、きっとおっぱいもおっきくなるよっ!運がよければっ!!そうだ、実は提案があるにょろ!!古泉くんっ、ちょろーんと説明してくれるかいっ」 鍋をつついていたSOS団顧問、鶴屋さんが、おっぱいの一言で、ピタリと箸を止めた長門を、絶対零度の空気に突き落としつつ、晴れ晴れと言った。古泉がにこやかに説明を始める。 長門が、硬直して箸を止めたまま、俺を見つめた。 ――どうする? 強い光をたたえた長門の視線が、そう言っていた。 ……お前の言いたいことは分かるぜ、長門、だが――。 「ありがとうございます、鶴屋さん。SOS団みんなと、ひょっとしたら俺の妹も連れて、お世話になりますよ」 俺は無理やり笑顔を作った。 家の行事に参加しなくてはならない鶴屋さんが先に帰ったが、SOS団のパーティーはまだまだ続く。 長門自慢の、「サイレンス」社製のゲーム大会が行われ、長門が遺憾なくその実力を発揮して圧勝する。……製作者に勝てるかよ。 そして、妙にハルヒが体を擦り付けてきたエロエロツイスターゲーム。バニーガールは少し酔っていらっしゃるようで、俺の首筋に息を吹きかけてきたり、俺の体と触れ合う位置に足を伸ばしたりと、エンジン全開だ。はっきり言って、非常に色っぽい。 やがて夜も更け、古泉に寝袋を押し付けて更衣室に突っ込み、俺とハルヒがコンピ研の部屋、朝倉と長門と朝比奈さんが文芸部室で、それぞれ寝る。ハルヒもさすがに疲れたようで、ベッドに入ると、すぐに寝てくれた。 ……よかった、ここで始めたら、音が周りに筒抜けだからな。何の音かはあえて言うまい。 横では、ハルヒがスースーと寝息をたてている。 俺は眠らずに、天井をじっと見つめていた。 ……これで正しかったのだろうか? もともと、俺の考える通りになるとは限らないし、そもそも、考えどおりになったとして、俺に何ができる? 意味もなく、団員たちに迷惑をかけることにならないか? そんなことを考えていると、なんだか、無性に喉が渇いた。 俺はむっくりと起き上がって、横のハルヒを起こさないように、そっと部屋を出た。夏の工事の結果、文芸部室にはキッチンが取り付けられている。 ソファーベッドで眠る朝倉涼子。朝比奈さんは、寝袋に入れられて、床に転がされていた。 俺は、冷蔵庫から氷を取り出し、コップにぶちこむ。ミネラルウォーターを注いでいると、お気に入りの椅子に深々と腰掛けていた長門有希が、小さな声で呟いた。 「……眠れない?」 ああ。 「少し、喉が渇いた……長門も、水欲しいか?」 長門は、コク、と頷いた。 俺は自分と同じのを作って、長門に差し出す。 「夢に、見るみたい……」 長門? 「世界改変についての、朝倉涼子の記憶は、完全に消去した……だが、消去しきれないノイズが残る……」 そうか……。 「…………」 長門は、コクリと水を飲んだ。じっと、俺の目をその黒曜石のような瞳で見つめる。 「……本当に、行く?」 ああ、と俺は頷いた。 「同じ場所に行けば、おそらく高確率で同じ現象が起きる。だが、行き先の変更や、合宿そのものの中止によって、回避できる確率は高い――でも、あなたの目的は、あの状況そのものの再現……違う?」 違わないさ、その通りだ、長門。 「ただ、お前の体のことが心配だから……嫌なら言ってくれ。すぐに中止する」 「……事前に相応の準備をすれば、問題はないと思われる。平気」 悪い、俺のわがままだってことは分かっている。だが一度だけでいい。これが最後のチャンスになる、そう思うんだ。 「いい――あなたのそういう頑固さは、嫌いではないから」 微かに頬を赤く染めて、長門は口を噤んだ。 「……ありがとな、長門」 「そう」 そう言いながら立ち上がると、長門有希は、すうすうと寝息をたてる朝倉涼子に、そっと布団をかけ直した。 ……なんだか、長門が母親みたいだ。ひょっとしたら、朝倉に対しては、そんな気持ちなのかもしれない。 「おやすみ、長門」 じっと朝倉に目を注ぐ長門有希は、黙って首だけコクンと動かした。 俺はコンピ研部室に戻り、ハルヒの隣に潜り込む。 「……んー、だめ……キョン……そんなの入らないよ……すごい……」 やれやれ、ハルヒ、ニヤニヤしながら寝言を言うなよ。 更衣室で寝袋に包まった古泉の寝言も、小さく聞こえてくる。 「すごいですよ……期待以上の大きさです……どうですか?僕のは……」 あいつは永眠させたほうがいいんじゃないかね? さて、妹つきで鶴屋さんの別荘に向かい、例のごとく、年齢不詳のメイド森さんと、執事オブ執事、新川さんの出迎えを受けた。どうもよろしく頼みます。 「いい感じの建物ねっ!そら、妹ちゃん、おねえちゃんと探検よ!」 「はるにゃん、待ってー!」 行きの間中、妹に、「おねえちゃん」と呼ばせようと苦心していたハルヒと、その涙ぐましい努力にまったく気が付かないで「はるにゃん」と呼び続ける妹が、別荘に向かって吹っ飛んでいった。 残された俺と古泉がえっちらおっちらと荷物を運ぶ。 そこで、ふと気がついた。 「古泉、今回の推理ショーでは、雄の三毛ネコとかは必要ないのか?」 古泉は首を傾げる。 「はて、ネコですか……?いえ、ちゃんとこちらでトリックは用意してありますが、ネコは必要ありませんね……。それも、一年前の冬合宿での出来事ですか?」 そうだ。 ああ、シャミセン。お前はどこにいるのか?あの渋い声が、もう一度ぐらい聞きたかったな。 「そう言って貰えるとは、非常に光栄だ……ネコ冥利に尽きるといったところか」 シャミセン!?お、お前どこから喋っている?どこにいるんだ!? と、車の後ろから、長門有希が現れた。 「……今のは、腹話術」 長門、紛らわしいことするな! 「みくるちゃんのとこがいい」 ――と、「妹ちゃん、将来のおねえちゃんと一緒に寝たくない?」と申し出たハルヒを、すっかり落ち込ませて、妹は朝比奈さんに抱きついて、その豊かな胸に顔を埋めた。 「じゃあ、長門と朝倉が一緒でいいか?朝比奈さん、妹をお願いします」 「はぁい」 朝比奈さんは、その、地上に舞い降りた天使のような笑顔で、にこやかに頷く。 「はて、僕は一人ですが……」 そうだな、新川さんにでも、いろいろ人生についての大切なことを教えてもらえ。ダンボールに隠れての偵察任務のこなし方とか、格闘術とか。 「うう……グスン……」 泣くなよ、ハルヒ。俺はハルヒの、ポニーテールの頭を撫でる。お前は俺が相手してやるさ。 「ありがと、キョン……今夜は、いっぱいいっぱいしようね……」 いや、そういう意味では……って、顔が赤いぞ。何を期待してる!? 妹のための、ハルヒによるスキー講習が始まった。 「足を揃えて思いっきりストックをガーンてやるとビューンて行くから、そのままドワーって気合で行って、止まる時も気合で止まるの、オリャーっ。これで何とかなるわ」 なるわけねーだろ! いろいろと説明してはいるが、一言に要約すれば「気合で滑る」という言葉に尽きる、大日本帝国陸軍的突撃型ハルヒ理論によって、妹はスキーの腕前が急激に上達――する筈もなく、練習しても相変わらずこけてばっかりだ。 「これじゃ、上級コースは無理ねえ」 ハルヒが溜息をつく。 「そいじゃ、妹ちゃんはあたしと一緒にゆきだるまくんでもつくるっさ!!」 スキーウェアに身を包んだ鶴屋さんが、実に明るくさばさばと宣言した。「ゆきだるまくんっ!つくるー!!」と、うってかわって妹がはしゃぐ。 「ゆきだるまですかぁ……あたしもできればそっちのほうがいいなぁ……」 鶴屋さんの天才的な指導のおかげで、スキーが上達してとても楽しそうに滑っていたものの、少し疲れたのか、朝比奈さんもおずおずと手を上げた。 「こらこら、みくるちゃんっ――」 狼のようにハルヒが朝比奈さんを捕まえようとして手を伸ばしたが、その手を長門が止めた。 「む、どうしたの、有希?」 長門は軽く首を振る。 「……せっかくの休暇。楽しみ方は人それぞれ」 ……なんか、どこかで聞いたセリフだな。長門が俺にチラリと視線を送る。 分かってる、ありがとな長門。 「じゃあ、朝比奈さん、鶴屋さん、妹をお願いしてもいいですか?」 「はい、キョンくん」 ハルヒの手から逃れて、ほっとしたような表情で、朝比奈さんがにこにこと頷く。 「めがっさ任せるにょろ!!キョンくんたちは、たっぷり滑ってくるっさ!!」 ええ、鶴屋さん、たっぷりと遭難してきますよ。 「そうだ、有希、さっきから背負っている荷物、なに?」 長門のチョコンと背負っているリュックサックに、ハルヒが不思議そうな目を向ける。 「……飲み物」 その通り、これが長門の考えた「事前の準備」ってやつだ。 さて、何回目のスキー大回転競争をやっていたときだろうか。 先頭の長門が、唐突に、ふと立ち止まり、それにつられてハルヒも止まった。遅れて滑っていた俺と朝倉、古泉も追いつく。そのとき―― 俺の予測どおり、なんの予兆もなく、はたまた警告もなく。 既にそこには吹雪があった。 ………………… ……という訳で、俺たちは、ただいま絶賛遭難中というわけだ。 「いくらなんでもおかしいわ……もうとっくに麓についてもいい頃よ」 カマクラ作ってビバークする?とハルヒがこっちに顔を向ける。俺がうんと言ったら、今にも鎌倉幕府だって作り上げそうな勢いだ。 「ハルヒ、ちょっと待て……長門」 俺は雪を掻き分けて長門のとなりに並んだ。俺の方を見た長門は、コクンと頷く。 「……そろそろ」 そう、長門が言い終わるか、言い終わらないかのうちに―― 「あっ!キョン、あれ見て!!」 ハルヒが指差す先に、微かに窓から漏れる光のようなものが見えた。 「きっと建物だわ!あそこで休ましてもらいましょ!」 ハルヒが人間除雪車となって、雪を掻き分け突進していく。一同、それに従った。その先には―― 見るも巨大な洋館が、雪の向こうにそびえ立っていた。 ガスガスと扉を叩いて、中の人を呼ぼうとするハルヒを止め、さっさと俺は扉を開けた。見るからに怪しい洋館が、俺たちを招き入れるようにぽっかりと口を開く。 「いいの?キョンくん、勝手に入って……」 その美貌を、わずかに曇らせた朝倉涼子が、心配そうに聞く。 大丈夫だ。緊急事態なんだから、この館の持ち主も大目に見てくれる。 「いいか、これから館をうろついて、使えるもんは何でも使わせてもらおう。緊急事態だ、仕方ないさ。何がでるかわからんから、なるべくみんな一緒に行動しよう」 俺の言葉に、一同が頷く。だが、不安な表情を見せているのは、朝倉とハルヒだけ。古泉は、既にこれが一年前にも起きたことだと了解したようだ。長門は、ごくごくとマムシドリンクを飲んでいる。 もう一度言おう。 長門は、ごくごくとマムシドリンクを飲んでいる。 ……長門のリュックに大量に入っているそれを、行きの電車で見せられたときには、さすがに俺も、何か見てはいけないものを見てしまったようで、唖然とした。 「構成情報をドリンク剤の形式でストック。情報統合思念体と通信が切断されても、定期的にこれを補給すれば、動作不良におちいることはない」 なんとまあ……形式がマムシドリンクなのは、なにか意味があるのか? 「……精力がつく」 いや、でも――はっ、まさか! 俺が何かに気が付いたのを見て、長門有希はすっかり顔が赤くなった。 「一年前は、動作不良による発熱で、行為まで至らなかった……今度は、堪能したい」 堪能て、お前。 「これ以上言わせないで……えっち」 ……とまあ、以上のような、興奮気味の長門との会話があったわけで、現に今、長門は精力全開となって、目をぎらぎらと輝かせている。 やれやれ、今回は、体調不良の心配はなさそうだな。これで一つ、不安材料がなくなった。 一階と二階の探検の結果、通信設備も、人の姿も、影も形も見当たらないことを確認した。まあ、分かっていたことだがな。 最初は、不安そうな表情を見せていたハルヒも、次第に状況を楽しみだしたようだ。いろいろとうろついたあげく、皆で食堂に落ち着き、ハルヒが紅茶をすすりながら、楽しげに言う。 「ねえ、まるでマリー・セレスト号みたいよね」 「そうだな」 冷蔵庫には、一冬ここで暮らせそうなぐらい――は大げさだが、食材がふんだんにある。ちょっとばかし俺たちが拝借しても、正体不明の館の持ち主は、さほど怒らないだろうさ。 ……というか、俺たちのために用意されたものだしな。 「お腹すいたわ、なんか作ってくるわね……涼子、行きましょ!」 ハルヒは笑顔で立ち上がると、朝倉の手をとった。 「いいのかな……」 心配そうな瞳を、朝倉涼子が俺に向ける。俺はインチキ臭さ100パーセントの作り笑顔を向け、朝倉を安心させるように頷いた。 結果としては、余計に困惑した顔をされただけだったが。 ハルヒと朝倉が厨房に消えると、古泉が早速といった様子で切り出してきた。 「……この空間は、長門さんとあなたが相談して用意されたものでしょうか?あなた方の落ち着いた態度といい、妙に館に詳しい様子といい、そのように考えると、非常に納得できるのですが……」 俺は紅茶を啜った。 「違う。基本的には俺も長門もノー・タッチだ。一年前と同じ状況だから落ち着いていられるのさ。脱出の方法も、長門が用意してくれるしな」 長門が、またマムシドリンクを飲みながら頷く。 「任せて」 ふむ、と頷いた古泉は、芝居がかった仕草で、指を一本立てた。 「では、もう一つ質問です……いくら脱出の方法が分かっているとしても、あなたの性格を考えれば、わざわざ吹雪の中を通ってまで、この館に来るようなことはしないはずです。誰よりも、SOS団員たちのことを気遣っているあなたのことですから……。 この館にやってきた目的はなんですか?」 古泉は俺をじっと見つめた。いつもと違って真剣な顔になっている。 やれやれ。 俺は溜息をついた。 「……いつかは言わなきゃならんだろうしな。ただ、ここで聞いたことは、秘密にしてくれるか?」 古泉がきっぱりと頷くのを確認して、俺は事情を話し始めた……。 「……というわけだ。すまん、俺の我がままにつき合わせちまった、ってことになるな」 古泉は、ふう、と息をついた。 「なるほど……分かりました」 そう言うと、古泉はニコリと笑った。 「そういうことなら、文句は言えませんね……あなたのそういう真摯な姿勢には、心底賞賛をおくりますよ」 心にもないことを言わないでいい。駄目な団長だってことは自覚しているつもりだよ。 「あなたの、たった一度の我がままですよ……誰だって許してくれます。そうそう……せいぜい、僕も楽しませてもらいますね。長門さん、それ、僕にも一本下さいますか?」 まてまて……それはまずいぞ、変なことを考えるんじゃない、古泉!長門も、マムシドリンクをそいつに渡すな!! 「お待たせー!!」 ちょうどその時、ハルヒと朝倉が、サンドイッチを山積みした大皿を抱えて入ってきた。 ハルヒと朝倉の特製であり、相変わらず極上の美味さのサンドイッチを頬張る。うん、美味い。すごい美味い。実に美味い。 長門有希は、一年前の小食が嘘だったかのように、がつがつと料理を平らげている。マムシドリンクの飲みすぎで、目がぎらぎらしていて、正直、怖い。 「長門さん、大丈夫かしら……なんか、目つきが怖い。それに、なんであんなにたくさんマムシドリンクを飲んでるの?」 朝倉涼子が、俺にこそこそと囁いた。 「安心しろ……ちょっとばかし、期待するところがあるんだろう。ひょっとしたら、今夜、お前の部屋に長門が忍び込むかも知れない」 「え、ええ?ちょ、ちょっと、キョンくん!あ、あたしは……」 朝倉がゆでたタコよりも真っ赤になって、長門の方を、ちらりと見る。 ちょうど、長門は、もう一本、マムシドリンクを一気飲みしているところだった。 「じゃ、キョン、入りましょ!」 ……ハルヒの一喝で、風呂の順番は、一番手古泉、二番に長門と朝倉、三番目に俺とハルヒが入ることに相成った。 さぞかし朝倉は怯えていたのだろう。長門がマムシドリンクを飲み干すたびに、ビクッと震えて、顔を赤くしていた。何事もなく風呂から上がってきたときには、実にほっとした表情を見せていたな。 横では、ハルヒが鼻歌交じりに服を脱いでいる。ああ、それ、文化祭でやった曲だな。 「そ、あの兄弟、喧嘩ばっかで解散しないかしら?」 ハルヒはするすると服を脱いで、素っ裸になった。そのまま、俺のズボンに手を伸ばす。自分で脱ぐって。 「ほらほら、ちゃっちゃと脱ぐ脱ぐ!先に入っちゃうわよ?」 やれやれ。分かった分かった。 たっぷりと泡立てた石鹸を塗りたくり、ハルヒの白い背中を流していると、ハルヒが訊いてきた。 「キョン、涼子となんかあったの?」 「……どうして、そう思う?」 特に意識したわけではないが、朝倉が退院してから、俺はさほど朝倉涼子と話をしているとも思えんのだが。 俺が訊き返すと、ハルヒは、少しまじめな声になった。 「涼子ね……あの娘、いつもあんたのことを見てるの。でも、なんだか、キョンの向こうに居るもう一人のキョンを見てるように見えるときがあるのよ」 微妙に違うな。朝倉が見ているのは、きっと俺の向こうにいる、もう一人の自分で、今、ハルヒがいる位置にいる朝倉の姿だ――とは、ハルヒには言わなかった。 ざっとお湯をかけてハルヒの背中の泡を流し、黙ってハルヒの言葉を聞く。 「でね、最近――涼子が入院してから、キョンが涼子を見るとき、そんな目をしているときがあるの。なんだか、死んだ恋人の、双子の妹を見ているみたいな……」 攻守交替、ハルヒが俺の背中に石鹸をつける。こら、ハルヒ、胸でやるなよ。乳首があたっているぞ。 「なによ、これ、好きでしょ?」 まあ、確かに気持ちいい。 「……朝倉とは、何もないさ」 少なくとも、この世界の朝倉涼子とは。 と、ハルヒが手と胸の動きを止めた。 「あのね……キョン」 なんだ、ハルヒ? 「ホントは、キョンのそういう視線、あたしにだけ向けていると思っていたんだ……あたしだけが特別なんだって、そう思ってた……」 俺が、ハルヒをそんな目で見ていた? ……そうかも知れない。 ポニーテールのこいつの向こうには、いつだってカチューシャをつけたハルヒがいたかもしれない。 だけど―― 俺は、俯いたハルヒの方に向き直った。 「ハルヒ、お前、もっとわがままを言っていいんだぜ?お前のわがままだったら、どんなことだって、全部、俺は付き合うから」 ……お前は、俺にとって特別だからな。どっちの世界のハルヒだろうとそれは変わらない。 そう言うと、クス、とハルヒは笑った。 「キョン、ありがと。そうね……いまここで、ぎゅって抱きしめて、たっぷりキスして」 俺は裸のままで、しっかりとハルヒを抱きしめた。ハルヒの大きな胸が、俺の胸板に押し付けられる。 ハルヒが俺の唇を吸った。 「……ちゅぷ……んく……ちゅる……はぁ……」 「おい、ハルヒ、こんだけでいいのか?お前のわがままって……」 「何いってんの、キョン」 ハルヒが、真性のアホを見つけたような、心底呆れたような笑顔になる。 「大好きな人と抱き合ってキスできるんだもの……これ以上わがまま言ったら罰が当たるわよ?」 ハルヒ……なんというか……お前のことが大好きだ、ほんとに。 「さ、続きやりましょ。たっぷりと可愛がってあげるから!」 ハルヒが、背伸びした俺の息子に、でこピンをかました。俺は思わず、そこを押さえてうずくまる。 結局、続きはやるのか。 「おやおや、ずいぶん早かったですね……まだ十分も経っていませんよ」 そうか?俺とハルヒとしては、たっぷりと楽しんで、のぼせる寸前だったが。やはり時間の流れがおかしいな。 「そうですか、僕はてっきりあなたが早いのかと……いえ、風呂に入るスピードが、ですよ」 いいから一回殴らせろ。 「……やれやれ、俺は寝るぞ。皆、おやすみな」 俺は自分の部屋のドアを閉めた。 それぞれが決めていた部屋に引っ込んでから、俺はしばらくウトウトしていたのだろうか。 ハルヒの夢を見た。 黄色いリボンつきのカチューシャをしているところを見ると、こいつは一年前のハルヒだな。 そのハルヒが、まるで子供のように泣きじゃくっていた。 ハルヒがこんな風に泣いているところなんか、ほとんど見たことがない。 俺は、ハルヒの頭を撫でてやろうとして、手を伸ばした。 あれ? 体が動かない。 いつの間にか、立ってハルヒを見下ろしていたはずの俺が、横たわってハルヒを見上げていた。ハルヒは、俺のそばに座りこんで泣いている。 「……まだ、好きって言えてなかったのに……なんでこんな……」 涙を流し続けるハルヒが、しゃっくりあげながら呟く。 ハルヒ? ハルヒ、ひょっとして俺は―― そこで、目が覚めた。 薄っすらと頬に水が流れた跡がついている。俺は寝ながら泣いてたのだろうか? 「……嫌な夢でも見たの?」 「――ああ」 ベッドの横に、朝倉涼子が腰掛けていた。 「私がニセモノだってことは分かっているんでしょ?キョンくんがここに来たのは、二回目だもの」 「分かっているさ……それでも、お前にもう一度だけ会いたかった。そのせいで、俺の我がままに皆をつき合わせた」 朝倉は、いつかのパジャマ姿だった。そういえば、俺のパジャマまで用意されていたっけ。 朝倉涼子が、ポニーテールを揺らして、首を傾げる。 「あなたは、こちらの世界を選んだはずでしょ?」 そうだ。 「……それとも、後悔しているの?」 違う。結果があらかじめ分かっていたとしても、俺はやはりEnterキーを押しただろう。後悔しているから苦しいんじゃない。 「ひとつ、訊いていいか?」 「なに?」 朝倉涼子の、冷たいガラスのように透き通った目を、俺はじっと見つめた。朝倉は、陰のない伸びやかな表情をして、微かに笑っている。 「なぜ、俺の記憶を残した?」 「…………」 「夏合宿の時に撮った写真もそうだ。あのときのお前なら、簡単に作り変えることができたはずだ。なぜだ?そして……そのことを、後悔したりはしていないのか?」 にっこりと、朝倉涼子は笑った。陰のない、それでいて悲しさを湛えたような、美しい微笑み。 「後悔なんてしてないわ、自分が選んだことだもの。そして――」 朝倉は、ふと言葉を切って、何かを探すようにじっと俺を見つめた。 「キョンくんが選んだことだもの。キョンくんのお嫁さんになれないのは――少し残念だけど、ね」 朝倉は、子供のように無邪気に、いたずらっぽくクスクスと笑う。 「ね、よく考えたら、出会って一年経ってないのに、婚約ってやりすぎよね?」 確かにな。俺も思わずふきだした。 「……お弁当、美味しかった?」 ああ、すげえ美味かった。正直、毎日食べたいと思ったぐらいだ。 「あら、毎日作っていたわよ?」 あ、そうなのか。 「そうだ、初めてのデート、覚えてる?一緒に遊園地にいって、キョンくんの妹さんもついて来て……写真を撮って貰ったんだけれど、それ、軽くピンボケしててね」 でも、その写真、本当に大切にしてるよ、と朝倉は笑いながら付け加える。 ――そんな風に、しばらく俺と朝倉は、俺の記憶にない一年間について話し込んだ。 少しでも、記憶を分かち合えるように。 消えてしまった思い出を、少しでも取り戻そうとするように。 消えてしまう思い出を、少しでも留めようとするように。 「さてと――」 やがて、朝倉涼子は立ち上がった。 「行くのか?」 うん、と朝倉は頷く。頭の動きに合わせて、ポニーテールが揺れた。 「お別れだね……多分、もう会えないけど、キョンくんのこと、大好きだよ……これまでも、これからも、ずっと」 「俺も……お前のことを――」 俺は、一つ息を吸い込んだ。 「――とても大切に思っている」 「うん……それで、十分。ありがとう、キョンくん」 朝倉が微笑んだ。 ぽた、と滴がベッドに落ちる。 「うっ……」 次から次へと、とめどなく涙が零れてきた。絶対に泣かないと決めていたのに。 朝倉涼子には笑顔をみせると決めていたのに。 泣きじゃくる俺を、少し困ったように見ていた朝倉涼子は、すっと俺の肩に手をやると、頬を流れる涙を、そっと唇で受け止めた。 しばらくして、朝倉が唇をはなしてからも、俺の頬には、しびれるようなキスの感触が残る。 「ありがとう、会いに来てくれて」 朝倉涼子は、ドアを開けた。ポニーテールが、するりとドアから出て行く。 俺はごしごしと涙を拭った。 ……さよなら、朝倉涼子。 俺は、ゆっくりと立ち上がると、ドアを開けた。 バン、と一斉に五つのドアが開く音。 きょとんとしたSOS団のメンバーたちが、そこにいた。 この後の事は、詳しく説明するまでもないな。 俺は、玄関にいく途中、ふと思いついて厨房に行き、冷蔵庫に自分が、「あるもの」を入れていたと、強く念じてみた。 冷蔵庫のドアを開け、予想通りに、そこにあったものをポケットにねじ込む。やれやれ、よく冷えてる。 そして、さっさとドアのところに行き、例の長門が作ってくれた脱出路――へんてこな方程式に、ブロックをはめ込んだ。X=5、Y=5、Z=……なんだっけ、ああ、1だ。 カチリ、と鍵が外れる音がする。 息を詰めて、ノブを握った。力を入れる。 緩やかに扉が動き出した。 ……………… 結局、俺たちがスキー板を担いで歩いてくる一部始終を見ていた、鶴屋さんの発言が決め手となり、古泉が力説したように、吹雪も洋館もすべて、集団催眠だったということに落ちついて、ハルヒもどうにかこうにか納得した。 「キョンくーん、写真撮るー!!」 妹がカメラを片手に飛び出してきた。やめとけ、どうせピンボケにするんだから。森さんに頼みなさい。 妹がふくれっ面をする。 「しないもん!あたし、練習して上手くなったもん!!」 そうか?悪い、じゃあ、これは上達する前だったか。 俺は、ポケットにある写真の感触を確かめる。後で、一人の時にじっくりと見ることにしよう。 俺と、あっちの世界の朝倉涼子を写した、唯一の写真だ。 ――と、長門が、おもむろに背負っていたリュックの口を開けて、さかさまにした。 中身がドサドサと雪の上に落ちてくる。中から出てきたのは、栄養ドリンクの空瓶――ではなかった。 「ゆ、有希、これ、宝石!?うわっ、すっごい量!!あの館から持ってきたの!?あれ、でも、あれは夢のはずじゃ……」 唖然とする。……なるほど、俺が写真を手に入れたのと同じ方法か。 「長門……それって窃盗じゃないのか」 「違う」 長門は、ゆっくりと首を振った。 「これは、ただのお年玉……山分けを希望する」 思わずふきだした。山分けって、どっかの海賊か、お前は。 「分かった」 SOS団団長であるこの俺は、すっかり呆気にとられている団員たちにはっきりと宣言した。 「少し早いが、お年玉だ!皆、好きなのを頂くとしようか!!」 おしまい 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 ループ・タイム