約 30,346 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/946.html
ここは朝倉涼子が涼宮ハルヒの無自覚的な異空間創造に乗じて作成した、亜空間。 『閉鎖空間』と呼ばれることもある異空間とは、似て非なる存在。 「あーあ、逃げられちゃったかあ」 「……」 「ま、良いわ。長門さんはここにいるしね」 朝倉涼子が、一歩前へ踏み出す。 攻勢情報が支配する空間、ここは彼女の領域。 ……朝倉涼子が、一瞬だけ目を閉じる。 この動きは……。 駄目、わたしは動け……、無い。 「ダメよ、ここはあたしの作った場所だもの」 朝倉涼子が周囲に攻勢情報の集合体、一般に『槍』と称される武器に似た形の物体を生成する。 まずい。 一瞬、ほんの一瞬。 それだけの時間が有れば、朝倉涼子を『追う』ことが出来るのに。 今のわたしには、この時間の朝倉涼子への対処が精一杯。 わたしには、分かっている。 朝倉涼子は、あの一瞬で過去へ遡ったのだ。 それは『同期』と呼ばれるシステム。 連続する時間平面状の『今』でない自分と同調する行為。 その先で彼女が何をしたかまではわたしには分からない。今のわたしにそれを感知・探査するほどの余裕は無い。 けれど、暴走する彼女が情報統合思念体の意思や、一般的な連続する時間平面状の各種法則に抗うようなことをした可能性がある。 わたしはそれによって一体どんな弊害が生じるかという事について説明できるだけの言語をもっておらず、また、説明するだけの権限を持っては居ない。 けれど。 一つだけ言えるのは『同期』先の朝倉涼子への対処もまた、わたしの役目であるということ。 「避けられるかしらっ」 朝倉涼子が、空間上の『槍』をわたしに集中させる。 わたしはその攻撃で受ける損傷を計算した上で『槍』を全身に浴びる。 損傷率は、最大で56%。 自律稼動にはまだ問題の無い範囲。 同期を行うだけの時間は、充分に取れる。 損傷が進み、朝倉涼子が次の攻撃への準備に移る一瞬。 わたしは、瞼を閉じた。 朝倉涼子の『同期』の道筋を辿る。 どうやら、彼女は最大限『過去』まで向ったらしい。 インターフェースの稼働率に制限がかかる状況でのこと『同期』の範囲も狭められている可能性がある。 案の定、本来遡る事が出来るはずの上限の二ヶ月分にまでは届かなかった。 わたしは、瞳を開く。 『今』の時刻は、3年に少し足りない過去の、7月7日、午後8時32分。 わたしは、待機中の自室を飛び出した。 『今』のわたしは、過去に起こった自分の周囲の出来事、涼宮ハルヒとその周辺人物に起こった出来事などをある程度把握している。 当然、この日涼宮ハルヒがすることも把握済みだ。 わたしは、迷わなかった。 短絡的な行動に出ている朝倉涼子の狙いは、ただ一人。 亜空間を破った人物、古泉一樹その人に違いないからだ。 わたしは、過去の記憶や記録と照らし合わせ、この日の古泉一樹がどこにいるかを辿った。 幸いにして、彼は近くに居るらしい。 わたしは、家を出てからほんの数分で、わたしの知る彼よりも背の低い、三年前の彼の姿を見つけた。 「待って」 彼を呼び止め、腕を掴む。 行ってはいけない、行かせてはいけない。 これは、罠、だから。 「えっ……」 彼が振り返った、その瞬間。 次元が、揺らいだ。 「な、何……、これ、閉鎖空間とも、違うみたいだし……」 「落ち着いて」 「えっ、あ、あの、あなたは……」 「大丈夫、わたし達は負けない」 わたしは、彼の手を握り締めた。 『同期』とは過去と未来が同一人物と化すような状態をさすが、未来を知っているからと言って全てを知っているわけでも無いし、能力も知識も有限だ。 だから今の『わたし』は結果を知っていても経緯を知らない。 その経緯を作るのは『わたし』に委ねられた行為。 「あーあ、やっぱり追いつかれちゃったかあ」 未来で聞いたのと変わらない声が、わたしの耳を打つ。 朝倉涼子。 「誰、あれ……」 「敵」 「敵って……」 「撃退する」 「あらあら、そんなこと言っちゃっていいのかなー。そんなことになったら歴史が変わっちゃうよ?」 「2年10ヶ月の間で再生できる範囲の損傷ならば問題はないはず」 その時点までは、朝倉涼子もわたしも、待機モード。 「言うなあ……、まあ良いわ、ここで二人纏めて消えちゃってよっ」 朝倉涼子が、空間を変異させる。 空間そのものに攻勢情報を割り込ませているからこそ出来る攻撃。 遡る時間が早かった分、用意する時間を与えてしまったらしい。 失策。 「だ、大丈夫っ」 古泉一樹が、空間の波に捕らわれそうになったわたしの身体を引き寄せる。 普通の人間は、亜空間内ではまともな抵抗など出来ない。 けれど、彼は普通の人間ではない。 彼は、涼宮ハルヒの作る『閉鎖空間』での対抗能力を持つものであり、その能力は、擬似的亜空間でも有効となる。 「戦って」 「え、あ、あの……」 「一緒に」 「あ……」 「わたしと、一緒に」 「……は、はい」 古泉一樹が、頷いてくれた。 朝倉涼子の攻撃を彼の発する赤い光が防ぎ、その合間を縫ってわたしが朝倉涼子に攻撃を行う。 即席の、拙い連携。 けれど、こちらが有利である事に間違いはない。 「きゃー、もう、ずるいーっ」 何時の間にか、朝倉涼子が逃げ惑うしか出来なくなっている。 「ああもう、そっちが二人がかりじゃ勝てるわけないじゃないー! むう、今日のところは退散してあげるわっ」 空間が四散し、朝倉涼子が背を向けて去っていった。 追う必要は、無い。 「あ、あの、今のは……」 元の場所に戻った古泉一樹が、わたしの方を見ている。 見下ろすような様子ではない。今の彼とわたしの身長はほぼ同じ。 3年という月日を感じさせる変化。 何も変わらないわたしとは、違う。 「あなたの敵、わたしの敵」 「……」 「わたしは、長門有希。情報統合思念体によって作られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」 「……TFEI」 それは一部の人間がわたし達に与えた俗称。 その単語を知っているということは、これ以上の説明は不要ということになる。 「そうとも呼ばれる」 「じゃあ、さっきの人も……」 「朝倉涼子は暴走した。あなたに危害を加えるのはわたし達の本意ではない。だから、わ たしが防ぎに来た」 「……」 「信じて」 わたしに言えるのは、それだけ。 「……」 「……」 「……あ、そうだ、時間っ」 古泉一樹が、突然時間を気にし始めた。 「午後9時44分36秒」 「嘘、何時の間に……」 「亜空間の中では現実と時間の流れ方が異なる場合がある」 あの亜空間に引き込まれてから現実に復帰するまで、1時間1分14秒。しかし、体感という形に直せばその4分の1に達するかどうかというところだ。 「そんな……、行かなきゃいけなかったのに」 そのとき、彼のジーンズのポケットから、わたしの知らないメロディが流れてきた。 彼が取り出したそれは、携帯電話だった。 「……あ、す、すみませ……、え、え、あの、はい、そうですけど……、あ、あの、良いんですか……、でも、どうして……。あ、はい……」 具体的な単語を残さないまま、通話が終わる。 彼が、呆然とした表情で立ち尽くしている。 ……わたしは、記録と記憶を掘り起こす。 そう、この時間平面状のわたしにも、あまり『時間』はない。 「あの……」 「あなたとわたしが次に出会うのは、三年後の五月」 「えっ……」 「三年後、あなたは、わたしを閉鎖空間へ連れて行くことになる」 それは、必要な行為。 守るために、戦うために、知る必要が有ること。 「……三年後も有るんだね、閉鎖空間って」 「そう」 「……」 「三年、待って。わたしと、あなたと、彼女のために」 「彼女?」 「待てば分かるはず。……わたしも、待つから」 この時間平面状のわたしは、待機モード。 非常事態が起これば動くけれども、何も無ければ何もしない。 それが、本来の、この時間の、わたし。 「……分かったよ。でも、待つって言っても……」 わたしは、知っている。 同じ言葉の意味するものの違いを。 彼は、この時間から戦い続けている人。 この時間の涼宮ハルヒと彼女は、まだ待ち人。 わたしも、事情は大分違うけれど、待ち人であることに違いは無い。 朝比奈みくるは、まだこの時間平面には移動してきていない。 「大丈夫」 「……」 「あなたは、負けないから。……絶対に」 わたしは、三年後の彼を、知っているから。 「……」 「また、三年後に」 わたしは、彼に背を向けた。 この日のわたしには、まだ、やることが有るから。 『今』のわたしもまだ、やることが有るから。 部屋に戻り『同期』を解除し、わたしはわたしが存在する『今』に舞い戻る。 損傷率48%。 まだ、戦える。 「へえ、結構しぶといのね」 「攻撃が甘い」 「ふうん、そんなこと言うんだ。……誰も助けてくれないのにね」 知っている。 彼は、戦闘能力の無い彼女を遠ざけるため、彼女を連れてここから逃亡した。 それは、賢明な判断。 「あなた一人で、どうにかなるの?」 一人だけれど、一人じゃない。 戦い方を、教えてくれた人が居るから。 それが、朝倉涼子とわたしの違い。 「終わった」 大丈夫、間に合った。 「あなたの三年余りの人生が?」 「違う。情報連結解除、開始」 プログラムが、完成した。 「そんな……」 「あなたはとても優秀。でも、わたしはわたしの戦い方をさせてもらったから」 「うわあ、それってあの九組の子の入れ知恵? あーあ、何であんな人間なんかに裏をかかれちゃうのかなあ」 「……」 「もう、長門さんも変わっているわよ。戦い方はともかくとして、他の子のことばっかり考えているような男の子ってのはちょっとどうかと思うわよ?」 「……」 「ま、それもお役目ってことなのかしら。あーあ、お互いしがらみだらけで大変よねえ。まあ、あたしにはもう関係無い話しだけど。じゃあ、またね」 朝倉涼子は、その存在が消滅していく最後の最後まで、好き勝手に喋っていた。 ―――― 七夕の日、私は朝比奈さんに「一緒に行きたい所があるの」なんて言われて、三年前にタイムトラベルすることになった。 ……冗談みたいだが、本当の話である。 タイムトラベル、なあ。 そんな怪しげなものにうかうか着いて来る自分もどうかと思うが、可愛い上級生さんに涙目で言われたら着いていかないわけに行かないじゃないか。……と思うくらいには、自分はお人よしだった。 それに、相手は未来人。 逆らったら何が起こるか……、まあ、この朝比奈さんは放っておいても無害だと思うんだが、その朝比奈さんよりもっと未来の朝比奈さん。朝比奈さん(大)はちょっとだけ怖い。 別に危害を加えてくる事は無いと思うんだが、それでも、何となく、従っておいた方が良いかもなあ、くらいに思わせるだけのものが彼女には有るってことだ。 さてさて、そして私は言われた通りタイムトラベルをしたわけだが、行った先で眠ってしまったらしい私が起きたとほぼ同時に朝比奈さんが眠ってしまうというアクシデントがあり、どこからか現れた朝比奈さん(大)に説明をしてもらい、頼まれていることをやり終え、帰路に着こうかという状況にある。 ちなみに頼まれたことと言うのが三年前のハルヒの地上絵モドキ作成のお手伝いだったわけだが……、何で私がそんなことをしなきゃならないんだろうね? ハルヒ一人じゃ無理なことだからか? 朝比奈さん(大)は「来てくれるはずの人が来なくて、不機嫌なはずですから」なんて言っていたけどさ。 TPDDが無いから帰れないとか言い出した朝比奈さんを宥めつつ何とかしてくれそうな人物の家に向って歩いていた途中、私達は道端に蹲っている人影を見つけた。 ……子供、だよな? さっきのハルヒと同じくらいか? 何でこんな夜中に子供が居るんだ? 私と朝比奈さんはちょっと顔を見合わせた。こんな夜中に子供を放っておくわけには行かないと思うんだが、今の私達は未来人だからな……、いや、朝比奈さんは元から未来人だが、それはそれこれはこれだ。場所柄や年齢的なことから考えて、三年後の知り合いという可能性も無くは無いし……。ああ、まどろっこしいな。 「おい、大丈夫か」 知り合いだったとしても暗がりだから大丈夫だろうと勝手に結論付け、私はその子供に話し掛けた。まあ、本当に駄目なことならきっとどこかでセーブがかかるんだろう、朝比奈さんの言う禁則事項みたいに。だからそういうのが無いってことは、ここで私がこの子供の話し掛けたことは間違ってないってことになる。 「……え?」 話し掛けられた子供が振り返って私達の方を見た。 ……なあ、これは偶然か? 必然か? 私にはまだすることがあるのか? 「怪我でもしたのか?」 隣で思いっきり動揺しかけている朝比奈さんを隠すようにその前に割り込んで、私はその子供に向って訊いてみた。思ったより平静な声が出るのは、きっと、さっきハルヒに会ったせいだな。 こんなわけの分からない邂逅も、二度目なら……、まあ、あんまり何度も有って欲しくないんだが、驚愕の量は二割減くらいだろう。 要するに、その目の前の人物は私の知っている人物だったわけである。 でもってそいつは、何でここでこいつに会うんだよ! という疑問を増大させてくれるような軽減させてくれるような、極めて微妙な人物であり、かつ、下手すりゃ私達が時間移動してきたことがバレても何とかなるんじゃないだろうか、いや、寧ろバレたらヤバイんじゃないかとか……、そんな風に色々考えさせてくれるような人物だった。 「……放っておいてよ」 そいつは現在の表情や口調からは絶対想像できそうに無い子供っぽい表情で、私から視線を逸らした。 お前誰だよ。っていうか変わりすぎだろ。 「馬鹿、怪我人を放っておけるか」 「うるさいな、初対面の人に馬鹿なんて言われる筋合いは無いよ」 悪いが私は初対面じゃないんだよ。 その子供、いや、少年は、不機嫌そうな表情のまま立ち上がろうとし、途中で体勢を崩してもう一度倒れこみそうになった。私は反射的に手を伸ばして少年を支えてやった。朝比奈さんと同じくらいの身長しかない小柄な少年を支えるくらい、何てこともない。 馬鹿だろ、お前。 いや、馬鹿じゃなくて単なる意地っ張りか? 「怪我人の癖に無茶すんな」 「……」 「足でも挫いたのか?」 「……」 「答えたく無いなら答えなくても良いが、それじゃ歩けないだろ」 「……迎え、呼んであるから」 「この辺りは階段と細い道が多いから、ここまでは車じゃ来れないぞ」 「……」 「……つまんない意地張るなよな」 会話をしても埒があかない。 私は説得を諦め、その少年を持ち上げた。 体力には大して自信は無いが、まあ、持ち上げられないことはない。 「うわあっ、な、何するんだよ」 あっさりと持ち上げられた少年が、腕の中で抗議をしているが無視することにする。 まあ、男の子がお姫様抱っこなんてされたくないよなあ。……中学一年じゃ、そういうのを一番気にする頃だろうしな。 「車が来れそうなところまで連れて行く」 病院までと言いたいところだが多分そこまでする必要は無いだろうし、これ以上人に会いたく無いっていうのもある。 「な、そ、そんなことしなくて良いよ。自分で、」 「歩くことも出来ない奴がそんなこと言うな」 「……」 「良いから親切にされておけ」 私は、三年後のお前には結構世話になっているんだからさ。 このぐらいの恩返しをしたってかまわないじゃないか。 しかし、この距離だと……、顔、絶対バレているよなあ。 良いのかこれで? まあ、出会ったときからこっちのことは多少なりとも知っていそうな相手だったから、これで良いのかも知れないけどさ。 何だか変な感じだよな……。 少年を抱えたまま纏まらない思考を引きずっている私の横を、朝比奈さんが無言で着いて来る。楽しくおしゃべりなんて状況ではないことは分かっているんだが、完全な沈黙はちょっと辛いな。 「なあ」 「何?」 「お前さ」 「お前って言うな。っていうか何でお姉さんはそんな男みたいな喋り方なのさ?」 お姉さんと来たか。妹にお姉ちゃんと呼ばれなくなって久しいから、そういう呼ばれ方は久しぶりな気がするな。いや、お前にお姉さんって言われたいわけじゃないけどさ。 「すまん、癖だ。あんまり気にするな」 「何だよ癖って……」 「で、君は何でここに居るんだ?」 「……答える義務は無いと思うけど」 生意気だな、こいつ。 本当に三年後と同一人物かよ。 「親切にしてやっているんだ。ちょっとくらい教えてくれたって良いじゃないか」 「こっちから親切にして欲しいって頼んだ覚えは無いよ」 「そりゃそうだけどさ。……言えない事情でも有るのか?」 「……」 何となく、予想は着いている。 三年前、七月七日。 あの場所にハルヒが居たように、この場所にこいつが居たことには、きっと何かの意味が有る。……というか、その理由なんて一つしか思いつかないんだが。 「言えよ。言える範囲で良いからさ」 「……行かなきゃいけない場所が有ったんだよ。でも、転んだせいで行けなくなった」 「そっか」 「それだけ」 少年は、そう言って黙ってしまった。 転んだってのが嘘か本当かは分からないが、こいつが行かなきゃいけない場所がどこだったかっていうのは、言われなくても分かった。 多分、私と朝比奈さんがさっきまで居た場所は、本来ならこいつが向っていた場所だったんだろう。 こいつがそのまま向っていたはずの歴史が正しいのか、それとも私達が向ったという歴史が正しいのかは、私の知るところじゃない。 ……私はその答えに繋がるような知識を持っていないし、多分、朝比奈さんもその答えを知らないし、ここにいるこいつも知らないんだ。 「あ、気をつけてください」 細い階段に差し掛かったところで、朝比奈さんがさっと前に進み出た。 人を抱えたまま階段を降りるってのは流石に危ないからな。 「ああ、……お前もしっかり掴まって居ろよ」 体勢をちょっと直しつつ、これってもしかしなくても私の胸が少年に当たっているんじゃないかなんてことに今更ながらに気付いたわけだが……、気にしてもどうしようもないことだよなあ、何せ回避手段は無いんだしさ。 「またお前って言った」 けど、顔が心なしか赤く見えるのはそのせいか? そう考えるとこの生意気さも結構可愛く見えてきそうな気がしたりするから不思議だな。 「一々気にするな」 「気にするよ」 「細かいことを気にする男はもてないぞ」 「大雑把過ぎる女の人ももてないと思うけど」 「悪いが私は別に男にもてたいとは思わない」 「……お姉さん、レズなの?」 どういう発想だそれは。 「違う」 「じゃあ何でさ」 「好きな奴が居るんだよ」 何故か、あっさりと答えることが出来た。 「…………矛盾してない?」 「してない。……そいつ意外の男にもてたいって思わないだけだよ」 「ふうん……」 それっきり、少年は黙ってしまった。 唐突なやり取りをどう思ったのか知らないが、これ以上追求する所じゃないって分別くらいは有ったんだろう。 まあ、追求されても答えようが無いんだけどさ。 階段を下り終え細い漸く車が入って来れる通りの所まで辿り着いたら、見覚えのある黒い高級車が止まっていた。 私達の姿を見つたからか、車の扉が自動で開く。 私は車まで近づき、少年を乗せてやった。 ここまでする必要あるのか? とも思ったが、歩けないみたいだから仕方ないか。 「……ありがとう」 「別に、たいしたことじゃないさ」 短い言葉を交わし、タクシーが去っていく。 去り際に何か言おうかと思ったが、辞めておいた。 今は三年前。 元の時間と同じ感覚で何かを言うのは混乱の元だろう。 「あの、キョンさん、今の子……」 「分かってますよ。……けど、これでよかったんですかね?」 悪いことをしたとは思っていないけれど、過去に来て命じられてない、教えられてないようなことまでやるというのは、正直如何なものなんだろうか。 「……私には、分からないです。でも……、多分、これがこの時間平面上の必然なんだと思います」 朝比奈さんは、厳かな口調でそう言った。 私はちょっと考えてから、 「朝比奈さん、朝比奈さんはもしかして……、普段は結構『自分で考えて決めること』とか『自由にしていい』とか言われてたりもするんですか?」 彼女に向って疑問をぶつけてみた。 「え、あ……。それは、禁則事項です」 単純な質問のつもりだったんだが、どうやら答えられないことらしい。 でも……、多分、私の予想は当たっているんだろう。 未来から過去にやって来て、その行動全てを予定通り寸分の狂いも無く実行するなんてことを普段の朝比奈さんがしているとは到底思えない。まあ、朝比奈さん(大)とか、私の知らない誰かが介入している可能性も有るかも知れないが、それはそれだ。 だから、まあ、私が私の意思で選択した行動も、間違っちゃ居ないんだろう。 今ここで、過去の誰かさんと出会ったことは、正しいことなんだ。 ……そういうことにしておいてくれ。 それから私と朝比奈さんは、三年前の長門に頼み込んで元の時間に復帰することが出来た。 時間移動も無茶苦茶だが、部屋ごと時間を止めるってのも無茶があるよなあ。 七月八日。放課後。 ハルヒは居ない、朝比奈さんも居ないという部室で、私は古泉とチェスをしていた。 ……が、古泉が弱すぎるので、勝負はあっという間に終わった。 お前なあ、何でこんなに弱いんだよ。 「なあ」 「なんですか?」 「朝比奈さんは未来人だよな」 「そうですね」 「でもって彼女は、未来からの観測を元にこの時間に来ているんだよな」 「ええ、そうなりますね」 「けどさ、未来からだったら、別に特定の時間に人を置かなくたって、そこから先の時間の流れとかも分かるんじゃないのか?」 「……さあ、その辺りのことは僕には分かりかねます。僕はあくまで限定的な超能力者であって、未来人では有りませんからね」 そりゃそうだけどさ。 「じゃあさ、例えば……、そう、例えば朝比奈さんが過去に時間移動をして、誰かと会ったとするだろ。でもってその誰かが成長してもう一度朝比奈さんに、そう、過去に戻る前の朝比奈さんに会ったとする……。当然その人は朝比奈さんのことを知っているわけだが、朝比奈さんはその人の事を知らない。……そうなるよな?」 「ええ、理屈の上では正しいですね」 理屈も何も他の答えが有るのかよ。 「でもって、その、そうだな、その出会った事が理由で朝比奈さんが過去に行くことになって過去のその人に会う……、っていう可能性も有るよな。まあ、仮定の話なんだけどさ」 「言いたいことは大体分かりますよ。……あなたが言いたいのは、その場合ことの始まりはどこにあるか、ということなのでしょう?」 「まあ、そんなところだ」 正直な所、その辺りの理屈は私にはさっぱり分からない。 宇宙人も超能力者も謎めいているが、未来人、というか時間移動についてはそれ以上だ。 「タイムパラドックスの話ですね。……まあ、可能性は色々有りますが、大雑把に二つに分別できると思います」 「二つ? どんなだ?」 「先ず一つ、どこかにスタート地点があり、例え時間移動をしてもその大筋は書き換えられないとするもの。あなたの例えで言えば、朝比奈さんの感覚では一度目である、時間軸的には未来に位置する出会いが無くても予め朝比奈さんは過去に戻って件の人物と出会うことになっていたか、あるいはその逆に、過去の出会いが有ると決まっているため、朝比奈さんは過去に戻ることになってしまったか。ということろですね」 「……前者はともかく後者がさっぱりだな」 「言っている僕もよく分かっていませんが」 「おい」 「仕方ないでしょう、僕は未来人ではないのですから」 「……じゃあ、もう一つの可能性は何だ?」 「二度の出会いの矛盾とも呼べる齟齬、いえ、繋がりと言った方が良いのかもしれませんが……、ループする全てが正しいという可能性です」 「……」 「簡潔に言えば、二度の出会いは両方とも正しく、両方が存在することが必然、とする説です」 「……すまん、意味がさっぱり分からん。大体それじゃ矛盾するだろ? 朝比奈さんともう一人の間の認識がずれているんだからさ」 「つまり、そのずれが発生することこそが正しい、とする説なんですよ」 「……」 「言っている意味が分かりませんか?」 「ああ、さっぱりだ」 何とか脳味噌を総動員して答えを導き出そうと思うんだが、完全にお手上げだな。 矛盾が発生することが正しい? そんな理屈が有るか。 「今の貴方になら理解していただけると思ったのですが」 「……なあ、古泉」 「まだ何か有りますか?」 「今の、ループする全てが正しいってのは、仮説は『機関』の連中の考え方の一つか? それともお前個人のものか?」 「僕個人の物ですよ。『機関』は時間の概念について考える組織では有りませんからね」 「……そうか」 チェスを片付ける古泉の姿を見ながら、私は昨日のことを思い出す。 現実の時間軸はともかく、私の体感では昨日で間違いが無いので、昨日と呼ばせてもらう。 昨日私は朝比奈さんと共に過去に飛び、朝比奈さん以外の三年前のSOS団団員に会ってきた。 出会ったことがそいつ等のその後の人生にどう影響したかは分からないが、何らかの影響を与えた可能性はゼロじゃない。 そしてその可能性とやらが、現在に作用している事だって……、有りえるだろう? ハルヒは私の顔を忘れていた可能性が高いが、長門や古泉にとっての私との初対面は私が感じている五月のそれとは違う三年前の事象の方のはずだから、その出会いが三年後の私との出会いや関係に影響を与えて無いなんてことは、無いと思う。 何だかややこしいな。 古泉は、このループそのものが正しい可能性があると言ったが……、そんなことがありえるんだろうか? どこが始まりか分からない、そんな出会い方が有るんだろうか。 「……」 古泉がチェスを片付け終わるのと同時に、長門が本を閉じる。 今日の活動時間終了の合図だ。 「そろそろ帰りましょうか」 「ああ」 それから私達は、三人で坂を下って帰宅した。 私と古泉が結構くだらない話をする傍で長門が黙って歩いているという感じだ。 古泉と話をしながら、私は昨日会った少年のことを思い出す。 三年前か……。 私は、こいつがこの三年間の間に経験してきたことも、積み上げてきた物も知らない。 けれど、三年前という点を知ってしまった。もしかしたら、という可能性も知ってしまった。 ……私が行かない、古泉が怪我をしない、そういう『三年前』も、有り得たのかもしれない。そして多分、古泉はその可能性を知っているんだ。 ……『三年前』 ハルヒが妙な力を持った頃であり、長門が待機モードだった頃であり、古泉にとって憂鬱な日々の始まりだったその頃。 その頃の私は、ただの何も知らない子供だったはずだ。 そんな私に、どうして過去に干渉する権利があるんだろうね? 答えは無い、分からない。権利がどうのとかいう以前に時間に関する問題はお手上げだ。 朝比奈さんに訊いたとしてもきっと禁則だらけで答えを教えてくれないだろうし、どうも古泉は専門外みたいだし、長門が私に分かるように教えてくれるとも思えない。 だから今は、この疑問は胸に仕舞っておこう。 もう一度何か有って、もしもそのときに何か問題が発生でもしたら、また改めて考えればいいさ。 ――終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi_best/pages/31.html
涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 ループ・タイム 今日も地球は凍えそうに寒い。 アリのように勤勉なシベリア寒気団によって、日本列島は寒さに震えていた、というのが言いすぎだとしても、俺が寒さに震えていたのは間違いようもなく事実だ。 「……寒いね。キョン、手、つないでもいい?」 ああ。俺はハルヒの冷たい手をとると、自分の手と一緒に、コートのポケットの中に突っ込んだ。 「ふふ、キョンのポケットの中、あったかいっ」 ハルヒは、にっこりと笑うと、ポニーテールを揺らして、俺に体をぴったりとつけた。反対の手には大荷物を抱えているが、ハルヒは嬉しそうにそれをブンブン振り回している。 俺は、その上にセリフが書き込めそうなほど、真っ白な息を空中に吐き出した。 「いっやあ、いつ見ても、おあついなぁ、お二人さんよぉ!」 後ろからアホの声がすると思ったら谷口だ。ハルヒは、停止を示す信号のようにパッと顔を赤くすると、谷口に噛み付く。 「馬っ鹿じゃないのっ!寒いからこうしてキョンで暖まってんじゃないのっ!!そんなんだから、あんた、いっつもテストが赤点ギリギリの低空飛行なのよ。あんた、ちょっとはキョンを見習ったらっ!?」 「くうっ……キョン、なんでお前はそんなに勉強ができるんだ……頼む、俺にも秘訣を教えてくれ」 テストの話題が出た瞬間、谷口はシュンと空気を抜いた気球のようにしぼんでしまった。恨めしそうに俺の方を見る。 「……特にないな、スマン」 まさか、ハルヒの起こした時間のループのせいで、学校の科目はどれもこれも既に習っているから、とは言えまい。 クリスマスまで、一週間を切った12月18日―― いつもと変わらないような朝。 それは、すでに、密かに始まっていたというべきなんだろうか? 『ループ・タイム――涼宮ハルヒの消失――』 このループする一年間、俺と長門は、SOS団のさまざまなイベントを、懸命に蜜を集める働き蜂のようにこなしてきた。 SOS団が二年目に入ろうとしたとき、なぜか突然時空改変を起こしたハルヒが、「やり残したこと」のためにもう一度ループさせてしまうことがないようにだ。 その結果、朝倉涼子がSOS団に加入したり、ハルヒに代わって長門が文化祭の映画の監督をやったりと、さまざまな部分で変更点が生まれてしまった。 だが、まあ、これまではなんとかSOS団としての活動をこなして、ハルヒを満足させてこれたかな、と思っている。 だが、一つ。 俺としては決して繰り返したくないことがある。 もちろん、長門の世界改変だ。 世界改変後の世界で出会った、眼鏡をかけた、内気な文芸部員の長門。 その長門に向かって銃を構えた時の、長門の怯えた表情。 今でも、その小さな姿がくっきりと記憶の底に焼きついて残っている。 まあ、ついでに言えば、情報統合思念体の急進派が派遣した朝倉涼子に、腹をぐりぐりとぶっ刺されたことも、強く記憶に残っているが。 こっちの記憶のほうは、長門によって無害に再構成された、今の朝倉を見ていると、どんどん薄れてきているのが幸いだな。 「どうしたの、キョンくん、ボーッとして……?」 文化祭で作ったウエイトレス衣装で、胸の前にお盆を抱えた朝倉涼子が、俺の顔を覗き込んでいた。 おっと、いかん、SOS団の会議をはじめなくちゃな。 「えーと、今年もSOS団恒例の、クリスマス鍋パーティーを行う」 ニヤニヤ笑うハンサムエスパーは、ちょっと肩をすくめた。 「まだ、結成してから一年経たないのに、恒例の……ですか。なるほど」 うるさい、クリスマスといえば、部室で鍋パーティーだ。これは一年前からの既定事項なんだよ。 それに、長門の改造によって、部室にはほぼ完璧なキッチンが設置されている。これで料理をしないのはいかにももったいないじゃないか。 ちなみに、女子用の更衣室も小さいながらある。まさに至れり尽くせりのSOS団である。 「鍋ぇ!?クリスマスなのに?まあいいけど。あ、あたし、蟹は嫌だからね。あれ、身をほじくるのが面倒くさいったらありゃしないんだからっ!いっそのこと――」 「……甲羅まで食べられる蟹は存在しない」 はい、長門、その通り。先手を取られて、ハルヒは、うっと言葉を詰まらせる。 「有希……。まだ、何も言ってないじゃない」 「だが存在しない」 「むー……」 ハルヒが例のアヒル口になった。SOS団の部室は暖房設備が行き届いているとはいえ、さすがにこの季節だバニーガールの衣装では寒すぎる。ハルヒは北高の制服姿だ。 「ハルヒ、それより、持ってきたものがあるだろ」 俺の言葉に、ハルヒはスイッチを切り替えたようにパッと顔を輝かせると、朝の大荷物をごそごそとかき回した。 「うんっ!クリスマスグッズ揃えてきたわっ!!クラッカー、ローソク、ミニツリー、雪だるま人形、モール……あ、あったあった!みくるちゃんっ、これっ!じゃじゃーんっ」 ハルヒが得意満面で取り出したのは、もちろん、サンタクロースのコスチュームである。 こちらは季節と関係なくメイド姿の朝比奈さんが、ビクリと体を震わせる。 「ふえぇ、ここここれ、下のズボンはないんですかぁ?み、短いかと……」 「当然っ!!さ、着替えてきなさいっ」 サンタ服を押し付け、朝比奈さんを更衣室に放り込んだ後、ハルヒはごそごそと、とんがり帽子を取り出し、ふかふかの椅子に深く腰を沈めて本を読んでいる長門の頭にポンと乗っけた。 やれやれ。と、俺は溜息混じりに苦笑した。こんなところまで一年前と同じだな。 パラ、と長門がページをめくる。巫女さんの衣装に、いつもの無表情。 ……だが、心の中では、何を考えているんだろう? 『……改変の恐れはない』 そうか……すまん、なんだかんだ言って、気になってな。 『万が一、私が改変を行ったとしても、あなたは、一年前と同じように行動すれば良いだけ。問題ない』 ……お前が、緊急脱出プログラムを組まない可能性は? 『大規模な時空改変が起きたとき、涼宮ハルヒたちSOS団員が部室に集合することで、緊急脱出プログラムを起動させるよう、既にパソコンにプログラムしてある。 その場合、時空改変の起こる一時間前の私の部屋に、あなたを転送するようセットした』 まるでシステムの復元だな。 『そう』 やれやれ。そこまで長門が用意していてくれたら、心配することはなさそうだな。 『もし、改変が起きたら、文芸部の私に、やさしくして欲しい』 もちろんだ。怖がらせるような真似はしない。あと、改変防止のプログラムは、出来たら銃の形はやめてくれ。あっちの世界の長門が怖がっていた。 『考えておく。……あと』 なんだ? 『ゴムを付けてくれれば、改変を行った私との結合を許可する。やさしくしてあげて』 俺が反論の言葉を考える前に、長門は電話を切った。 ゴムの用意か……はっ、いかん、いかん!あっちの世界の長門を襲うなんてことができるかっ! さて、翌日。 朝出会った谷口は、しっかりと白いマスクをしていた。いつもは陽気な谷口が、流行の重い風邪でどんよりと苦しんでいるようすは、見ているこっちも辛いものがある。 やれやれ。 俺は日本海溝のように深い深い溜息をつく。 昨晩の長門の言葉に反して、しっかりと改変は行われたようだ。 まあ、俺があたふたと騒いでも仕方がない。周りの人間に、痛い痛い電波を受信しているやつだと思われるのがオチだ。一年前の経験が、そう教えてくれる。 今回は、長門がきっちり緊急脱出プログラムを組んでくれていることだし、その発動条件も分かっている。 ハルヒ、朝比奈さん、古泉、長門、俺、朝倉、六人のSOS団メンバーを文芸部室に連れて行けばいい。 まあ、焦ることはないさ。フライパンに乗っけられたアヒルみたいにうろたえるのはごめんだ。 クラスで風邪が流行っていてどうのという谷口の話にも、俺は適当にあわせて相槌を打つ。 教室に入ったら後ろの席にはハルヒが居ないんだろうな。おそらく、古泉と一緒に別の学校に飛ばされたはずだ。 ……そうだ。丁度いい、確認しておくか。 「谷口、涼宮ハルヒって知ってるか?」 「知ってるもなにも、ゴホ……東中出身であいつのことを忘れてるやつがいたら、まず間違いなく若年性のアルツハイマーだな。断言してもいい。 面のほうは、すっげえ美人なんだが、とにかく頭の中が年中あったかくて……」 「いや、涼宮の武勇伝はいい」 俺は谷口を遮る。 「今、そいつはどこの高校に行ってるんだ?」 「光陽明学院だよ……。駅前の進学校だ。ゲホ、あいつ、頭はおかしいのに成績はよかったからなぁ……」 やれやれ、間違いなさそうだ。 「なんだぁ、キョン、どっかで涼宮に一目ぼれでもしたかぁ?忠告するぜ、やめとけ」 谷口、ニヤニヤしてるのが、マスク越しにもわかるぞ、気持ち悪いからやめろ。 「お前の女房が悲しむじゃねえか、だろ?」 女房? なぜかエプロンをつけた長門の姿が頭に浮かんできて、あわてて頭を振って打ち消した。 教室に入ると、ハルヒが座っているべき俺の後ろの席には、ポニーテール姿の美人委員長、朝倉涼子が座っていた。 ……まあ、想定の範囲内だな。 俺が入っていくと、朝倉は飛びっきりの笑顔で出迎えてくれた。一年前とはえらい違いだ。 まあ、当たり前といえば当たり前か。いまの朝倉は、長門が無害化して再構成した、普通の高校生だからな。 「おはよ、キョンくん!」 「ああ、おはよう。朝倉、風邪は大丈夫か?」 朝倉はちょっと顔を赤らめて、にっこりと微笑んだ。ポニーテールがふわふわ揺れる。うーん、やっぱり朝倉にはポニーが似合う。 「うん、ようやく治ったみたい……心配してくれてたの?」 嬉しいな、と小さく呟くと、朝倉は、頬を染めながら、俺の耳に口を寄せた。 「……ね、今日、一緒に帰らない?おでん作ったから、晩御飯、食べさせてあげる」 おでん、おでんか……ああ、よだれが出そうだ。一年前、朝倉が作ってくれたおでんは、死ぬほど旨かった。そして、実際そのあと死にかけた。 「ちょっと、放課後、用事があってな。そのあと、お前の家に行ってもいいか?」 「ううん、じゃあ、この教室で待ってる。キョンくん、用事って?」 「文芸部に仮入部」 朝倉涼子はまじまじと俺を見つめて、亀が甲羅を脱いで走り出したかのを目撃してしまったように、実に意外だという表情をした。 やれやれ、そんなに俺は本を読んでいるイメージがないのかね? 放課後、部室棟に向かう途中、朝比奈さんと鶴屋さんが仲良く向こうから歩いてきたのに行き当たった。 こんにちは、朝比奈さん…… 「……?えっと、どなたでしたっけ……」 しまったっ!朝比奈さんは俺のことを知らないんだったっ。 鶴屋さんが、まじまじと俺の顔を見つめて、何かを悟ったかのように、ポンと手を打ち合わせた。 「ははあ、少年っ!さてはみくるファンクラブの会員だねっ!?うん、一年生かなっ?」 鶴屋さん、相変わらずのハイ・テンションだ。だが、ナイスフォローです。 「……ま、そんなとこです。キョンとでも呼んでください」 とたんに、朝比奈さんは顔を赤らめる。恥ずかしがってプルプルと首を振る仕草が可愛らしい。 「ふえ、そそそんな、ファンクラブだなんて……その、あ、ありがとうございます……えっと、キョンくん……?」 一年前、朝比奈さんが心底怯えて、俺のことを拒絶する目で見ていたことを考えれば上出来だ。俺は笑顔をつくって頷いた。 「おやおや、みくるっ!赤くなっちゃって、可愛いなっ!!あはは、キョンくん、うちの娘をよろしく頼むさっ!」 「つつつ鶴屋さんっ!もうっ」 朝比奈さんが顔を真っ赤にして、プッと頬っぺたを膨らます。 「また、そのうちお会いするかもしれません。そのときは宜しく」 「あ、はぁい。さよなら、キョンくん」 「じゃあねっ、少年、大志を抱きなっ!!」 文芸部のドアの前で、俺は一つ大きく深呼吸をした。 久しぶりの、こちらの世界の長門有希との再会だ。頭に、眼鏡をかけた内気な文学少女の姿が浮かんでくる。 俺はドアに手をかけ、思い切ってドアを開けた。するとそこに―― いた。 長門有希。 座っていた粗末なパイプ椅子から立ち上がって、じっと俺を見つめる、驚いたような表情。 その端正な顔には、眼鏡が―― あれ? 眼鏡が――ないぞ。 ど、どういうことだ?俺はまじまじと長門を見つめ、一年前との違いにようやく気が付いた。 手に持っているのは分厚い本じゃなく、薄っぺらな新聞。そして傍らに置いたラジオ。イヤホンが片耳に伸びている。 そして、眼鏡のつるがかかっているべき耳には―― 赤鉛筆だ。 俺は絶望的な気持ちで溜息をついた。 競馬狂、長門有希がそこにいた。 俺がいきなり入ってきたので、一瞬立ち上がった長門は、すぐまた椅子に戻り、視線を競馬新聞に落とした。まるでスプーンを曲げようと試みる5歳児のように真剣な目つきだ。 「あのー、長門、さん?」 長門は、ちら、とこちらに、草むらに隠れた路傍の石でも見るような視線を送った。 「なに」 それっきり、また競馬新聞に没頭する。 「ちょっと、その……話があって……」 「あと」 戦場で聞かされたら、相手の戦意を完全に断ち切るような即答だ。 「レースが始まるから」 長門は、イヤホンに片手を当て、ラジオから流れる実況に耳を澄ましているようだ。 やれやれ……。 俺はひょいと、長門の手元にある競馬新聞を覗き込んだ。びっしりと赤鉛筆で、予想やデータが書き込まれている。相変わらずのきれいな楷書体だ。 と、そこで昨日の記憶がフラッシュ・バックする。 たしか、昨日、SOS団の巫女さん長門も競馬新聞をチェックしていた。何でも、今世紀四番目の大穴がでるから、資金をまわすとか……。 あいつの場合は、実際に結果を知っているのだから、予想ではなくただのインチキなのだが。 はて、そのとき、長門が赤丸で囲んだ馬は……たしか……。 「……長門さん、この、アサクラアサシンって馬が一着になると思うぞ」 長門有希は、幸運を呼び込む壺を売りにきたセールスマンを見るように、胡散臭そうに俺をみて、ばっさりと袈裟切りで切り捨てるように断定的に言う。 「ない」 「いや、でも……」 長門はやれやれといった表情になる。古泉だったら肩の一つもすくめるところだ。 「不可能。無理。素人考え。……火傷をする前に馬はやめたほうがよい」 このやろう……いいだろう。未来を知っている人間の強さを見せてやるよ。 「…………………」 レースが終わり、長門有希は三点リーダを大量生産しながら、俺の顔を穴が開くほど見つめている。 その視線は、先ほどまでの、石ころに向けるような無感動なものから、うって変わって、驚嘆と尊敬に満ち溢れてきらきらと輝いている。 「……師匠」 こら、誰が師匠だ。 調子を狂わせられっぱなしの俺は、ようやく本題を切り出した。……とはいえ、この分じゃ期待はできないがな。 「あー、長門、お前、俺と会ったことがあるか?」 「ない、師匠」 そうか……やはりな。こちらの世界の長門有希が、読書狂じゃなくて、競馬狂になっているんだから、図書館で俺に出会った記憶がないってことは、まあ、不自然じゃない。 「……でも、師匠のことは知っている」 ああ、まあ同じ学校なんだから、見たことぐらいはあるだろう―― 「師匠は、私と同じマンションに住む、朝倉涼子の婚約者」 「あ、いたいた」 そのとき、当の朝倉涼子が、ドアを開けて文芸部室に入ってきた。 い、今、長門はなんと言った?婚約、俺と朝倉涼子が? 谷口の言葉が頭を掠める。女房。あれは、朝倉のことだったのか。 朝倉はにこやかに、黙り込んでしまった俺を長門に紹介する。 「長門さん、こちら、キョンくん。知ってるよね、あたしと同じクラスの……。彼、文芸部に入りたいんだって」 その一言で、長門は、納得したようにこっくり頷いて、パタパタと棚に歩いていくと、入部届けの用紙を持ってきて、俺にさしだした。 「今、部員は一人」 長門は、ちょっと頬を赤らめた。そして、微かにだが、笑ったように見えた。 なんだか、あれほど見たいと思っていた長門の笑顔さえ、異質なものに思えてしまう。 変だぜ、この世界。競馬狂? 「師匠で、二人目」 俺と朝倉と長門は、三人で朝倉の家まで帰った。 うーむ、思考が上手く働いてくれない。あと、長門、頼むから師匠って呼び方はやめて欲しい。 朝倉が俺の腕に、ごく当たり前のことのように自分の腕を絡めてきたのも、俺の思考を停止させるのに一役買ったと思われる。 これじゃまるで恋人同士じゃねーか――と、突っ込んでみても、事実、この世界ではそうなのだから仕方がない。恋人どころか、既に婚約しているのだ。 SOS団にいるときのような、少し翳のある笑顔ではなく、心の底から喜んでいるようないい笑顔をつくる朝倉涼子の顔を見ていると、なんだか、俺のほうまで変な気持ちになってくる。 まるで、ずっと前から朝倉が恋人だったような―― やめろ、俺。元の世界にかえれば、俺にはハルヒがいるだろうが。 しかし…… 俺はちらりと横を見る。 長門は、すっかり尊敬のまなざしで、俺のことをその黒曜石のような瞳でじっと見つめている。 そう見るなよ、俺には予想師の才能なんてまるでないんだから……。 「師匠、聞いて欲しい」 なんだ、長門? 「この長門有希には夢がある――いつか、馬主になりたい。自分の馬で、レースを勝ち抜いてみたい」 ……その馬につける名前も、もう決まっているんだろ? 長門はコックリと頷く。 俺と長門は同時に言った。 『サイレントユキ』 やれやれ。 長門の大食漢ぶりは相変わらずで、すっかり腹の減っていた俺も、朝倉の作ったおでんを貪り食う。うむ、うまい、やはり絶品だ。 あっという間に夕食を平らげると、長門有希は、つと立ち上がった。 「長門さん、帰るの?」 長門は無言で頷く。そして、俺の方を見て言った。 「師匠、また明日、部室で」 そう言い終ると、長門はするりと玄関から出て行った。 「ふふ、意外だな、キョンくんが、長門さんと仲良くなるなんて」 長門を見送った俺に、朝倉が嬉しそうに言った。 まいったね。 いずれにせよ、明日、ハルヒと古泉、朝比奈さん、朝倉を連れて、文芸部室に行けば片がつくことだが。 元の世界に戻ったときに、長門にじっくり話を聞いてみたい。何考えてんだ? 「じゃあ、俺もこれで――」 と腰を上げてかけると、朝倉は助けた亀に殴られた浦島のように、びっくりして目を丸くした。 「ど、どうしたの、キョンくん。なにか特別な用事でもあるの?」 い、いや、そんなものは別にないが。 「じゃあ、いつもみたいに泊まっていくんでしょ?一緒に、お風呂はいろうよ」 お風呂?いつもみたいに?お風呂?一緒に? 急に、朝倉はクリスマスプレゼントが貰えなかった子供のように、悲しそうな目になる。 「……あたしのことが嫌いになったの?だから帰るって――」 「ち、違うっ、違う違う!そ、そうか、そうだな、風呂に入らせてもらおうか」 慌てて力いっぱい否定してしまった。 朝倉は顔を赤くして、下を向きながら言った。 「じゃあ……お風呂場行こう、ね?」 俺が戸惑っている間に、朝倉はするすると自分の服を脱いだ。それがさも当然であるかのように、俺の前に豊かな白い裸体をあらわにする。 「キョンくん、脱がないの?」 「あ、いや、その緊張して……」 実際は膨張だがな。主にトランクスの中が。 「ふふ、変なの、婚約者なのに、いまさら緊張なんて……しかたないな、脱がしてあげる」 「い、いや、大丈夫だっ、自分で脱ぐからっ」 朝倉が屈み込んで俺のズボンのチャックを下げようとしたのを止めて、俺はあわてて、朝倉を風呂場に押し込んだ。 腰にタオルを巻いても、息子の頑張りは隠しようもない。諦めて、タオルは手にもったまま風呂場に入った。 「背中流してあげる」 朝倉は、俺を座らせて、背中に石鹸を塗りたくる。スポンジの感触が背中を這い回り……ってあれ、なんか違うものの感触だ……これは…… 「あ、朝倉、その、胸があたってる」 「そう、こっちが元気になっちゃうかな?」 朝倉は、いたずらっぽく笑うと、俺の股間に手を伸ばした。 うっ、おいよせ朝倉っ、息子をなでなでするな! 「後でたっぷり頑張ってもらうんだもの……ねぎらわなきゃ、ね」 ねぎらう必要なんてない。十分に元気いっぱいだ。こいつは今100パーセント中の100パーセントになっているところだぞ。 朝倉がシャワーで泡を洗い流し、俺が逃げるように湯船につかると、朝倉が後から湯船にはいってきた。 広めの湯船とはいえ、二人で入れば当然ながら、俺と朝倉の体は、ちょうど抱きかかえるように密着した。 「キョンくん……その……硬いの、あたってる……」 朝倉が赤い顔をして呟く。すまん、だがどうしようもない。 「ね、手をまわして……抱きしめて……」 言われたとおりにした。朝倉の体はひどく柔らかい。 朝倉の肩から漂う、石鹸の匂いに、脳みそが融けそうだ……。 朝倉が髪を乾かしている間、朝倉に言われたように、朝倉の部屋で、ベッドに腰掛けて待つ。 さすがに、自分のパジャマが用意されているのを知ったときには愕然としたね。どんだけ入り浸ってるんだ、俺は。 ふとベッドの枕元の方を見ると、そこに―― あった。 シンプルな写真立て。そして、あの写真が。 夏合宿の時に撮った、SOS団の集合写真。困惑したような、朝倉の微笑。 写真を見つめるうちに、融けきった脳みそが、ようやく少し動き出す。 だが、また疑問が増えちまった。 なぜ、この写真は改変を免れた?なぜ、長門は図書館に行った記憶を持っていない? 今度の改変は、一年前のときとどこか違っている。そのことは分かる。 では、どこが違うのか? そこで俺の思考はフリーズする。 やれやれ。 長門有希、一人きりのがらんとしたマンションで、今、何を考えているんだ? 浮かんできた映像は、大量のデータと睨めっこしながら、予想師としての腕を磨く長門の姿だった。 ううむ、緊張感がない……。 パジャマ姿で朝倉涼子が部屋に入ってきた。 「朝倉、この写真、いつ、どこで撮ったか覚えているか」 「え、写真?」 朝倉は、写真立てを取り上げると、しげしげと覗き込んだ。 「変だな……この写真、撮った覚えがないわ……あなたと長門さんと……後は知らない人たちね」 おかしいなあ、と朝倉は首をひねった。 「キョンくん、この人たち知ってる?」 ああ、知ってるさ。明日、お前にも会わせてやるよ。 「ふぅん……ずいぶん仲が良さそうね……」 俺の腕を取ったハルヒの笑顔をまじまじと見つめながら、朝倉がぼそりと呟く。 ひょっとして、やきもちか、朝倉? 「……ばか」 朝倉はプッと頬っぺたを膨らませた。ドスンと俺の横に腰を下ろし、俺の肩に頭をもたれさせる。 俺の心臓はバクバクと鼓動を速めている。 ……さて、どうする? どうしようもない。流れに従うこと以外に、俺になにが出来るだろう? 俺は朝倉の肩に、震える手をまわして、朝倉涼子を抱き寄せた。 「キス、して」 朝倉が目をつぶった。 パジャマを脱がせ、シンプルな白い下着をとると、朝倉が一糸まとわぬ姿が現れた。ふくよかで柔らかそうな体、大きな胸。相変わらず、プロポーションは抜群だ。 「やだ、そんなにまじまじ見つめないで……」 慌てて朝倉が胸を隠そうとするが、腕に圧迫された乳が横からこぼれて、余計に興奮させる。 朝倉も、恥じらいのためだろうか、ミルクのように白く艶やかな肌の胸元を、ほのかに赤く染めていた。 俺は、さらに速く、バクバクと心臓を鼓動させながら、手を伸ばして朝倉の胸に触れてみた。吸い込まれるように柔らかい。 「んっ……」 朝倉がピクンと体を震わせる。さらにピンク色の乳首を触っていると、次第にその突起は硬くなってきた。 「んん……もお……」 朝倉が俺に抱きついてくる。貪るように、朝倉は俺の口を吸った。 「んくっ……ちゅる……ぷはっ……ねえ、キョンくん……」 ん、どうした? 朝倉が赤い顔で、わずかに瞳を潤ませている。 「……今日も、あれ言わなくちゃ駄目?」 あれってなんだ――と言いかけたが、ここは無言で頷いておこう。きっと好きだとか愛してるだとかなんとか、そんなセリフだろ、おそらく。 朝倉は、恥ずかしそうにコックリ頷くと、俺から体を離し、ごろんとベッドに寝転がり、柔らかな太腿の奥にある、自分の茂みの下を広げてみせた。 「キョンくん、お願いします……涼子のおま×こ、な、舐めてください……」 えええええ!? 懸命にそのセリフを言い終わった朝倉を、俺は呆然とした顔で見つめていた。 俺は朝倉に、こんなことを言わせていたという設定になっていたのか……。 朝倉にこんなことを言わせている自分をぶん殴ってやりたい。 いや、そのように世界改変をしたのは、そもそも長門だから…… 「も、もう一回?お願いします……涼子のおま×こを――」 「い、いや、いいんだ、スマン、朝倉!」 慌てて遮ると、俺は朝倉の腿の間に顔を埋めた。 「あんっ……くうっ……キョンくん、いいよお……くぅん」 長門、長門、そっちの世界に戻ったら、じっくり話を聞かせてもらうからな!! 俺は、朝倉の大事な部分に、身を硬くした自分の息子をあてがい、一気に腰を沈めた。 「あはぁっ……うう、キョンくんのが、入ってる……あんっ……」 そのまま、ゆっくりと腰を動かす。 「あんっ……んんっ……気持ちいいよ……キョンくん……」 うう、腰の動きが自然と速くなる。朝倉は嬉しそうな声を漏らした。 「あんっ……あはあっ……いいよぉ、キョンくんっ、あん、あん、あん、ああんっ、気持ちいいっ!!」 下半身に比重の重い液体がたまっていくような感覚。それがゆっくりとせり上がってきて、あふれ出ようとする。 「ああん、ああんっ!!あん、あん、ああん、あはあっ……いっ、いい、いきそお、キョンくんっ」 朝倉が腰をくねらせ、ビクンと体を震わせた。 「あうっ、あはああああああああっ!!!……あふっ……あはっ……ふうっ……」 俺は、達してビクビクと体を震わせている朝倉に口付けをした。 「……大好き」 俺もだ……決して嘘じゃない。 だが……。 俺の居場所はここではないんだ。 「朝倉、ちょっと用事があって、午後の授業はサボるから、放課後、文芸部で待っていてくれないか?」 翌日の昼休み、俺と向かい合ってお弁当を食べていた朝倉涼子は、ご飯を運ぶ箸を止めた。 「うん、いいけど……それって、写真の人たちのこと?」 「そう」 俺はブレザーのポケットから写真を取り出す。今朝、朝倉に言って借りたものだ。 これが切り札の一つになる。そんな気がしたからな。 「キョンくん、成績いいから大丈夫だと思うけど、あんまりサボっちゃだめよ」 朝倉はウインナーを箸でつまむと、にっこりと微笑んで、俺の方に差し出す。 く、口をあけろというのか……クラス中が微笑ましい光景でも見ているように、俺とお前の昼食風景を眺めているんだぞ。 「……食べたくない?」 朝倉が悲しそうに瞳を潤ませる。クラス中から放たれる、突き刺すような鋭い視線が痛い。 俺は観念して、口を開けた。 朝倉が嬉しそうににっこりと微笑む。 「はい、キョンくん。あーん」 うう、俺はなにをやっているんだ……長門、俺に何をさせたいんだ……お前は。 光陽明学園の前で待つこと、二時間近く。 もう少し遅く出てもよかった気もするが、一年前とのズレは看過できないレベルだ。なんかの拍子で、ハルヒと古泉に出会えなかったら痛い。 男子は詰襟、女子はブレザー。共学になった私立学園の、制服姿の高校生たちが次々と下校してくる。 さて、古泉とハルヒが出てきたら、なんと言って話しかけるか? 俺が苦心して適切なセリフをひねり出そうとしているとき―― 出てきた。 涼宮ハルヒと、古泉一樹。 ハルヒの髪が長い。腰まで届くロングヘアだ。そして、入学当初のような、つまらない日常に苛立つ不機嫌な表情。 一年前と変わっていない。金魚の糞のように古泉がくっついているが、さて、こっちの古泉は、ハルヒのことが好きだとかぬかすかね? 「古泉一樹と、涼宮ハルヒだな?」 古泉とハルヒは、キャッチセールスでも見るように、胡散臭そうに立ち止まった。 「ええ、そうですが……はて、あなたはどなたでしょう?」 ハルヒも絶対零度のように冷たい視線を俺に向ける。 「なんであたしの名前を知ってんの?あんた、ストーカー?北高の制服ね……なんの用?ナンパならお断りだから」 視線で殺そうとでもいうのか、ギロリと俺を睨みつけるハルヒ。やれやれ、まあいい。どうせ、言うべきことは決まっているんだ。 「三年前の七夕、お前は学校の校庭に白線でメッセージを書いた」 む、とハルヒが眉をしかめる。 「……それがなんだってのよ、ふん、誰だって知ってるわ、そんなこと」 「聞け。そのメッセージは、織姫と彦星に宛てられたもので、内容は『私はここにいる』だった……」 さっとハルヒの顔色が変わる。猛牛のごとく俺のネクタイを引っつかもうとするハルヒを、俺はひらりとかわす。 「な、なんで読めるのよ……あたしが考えた宇宙語を……確かにそう書いたけど……」 なんで知ってるか、教えてやるよ。だってな…… 「ほっとんど俺が書いたじゃねえか、あれは!」 よし、言ってやったぜ。ハルヒが瀕死の金魚のように口をパクパクとさせた。 「あ、あんた……じゃあ……」 そう。その通り。 「俺がジョン・スミスだ……まあ、キョンってあだ名のほうが慣れてはいるが」 さて、話を聞いてもらおうか。 ハルヒは、呆然とした顔で、コックリと頷いた。 「SOS団か……楽しそうね」 はあ、と涼宮ハルヒは溜息をついた。一方、古泉の方は、相変わらず半信半疑の表情だ。というか、完全に信じてないだろうな、この表情じゃ。 「信じられないか?」 俺は古泉に聞いてみる。古泉は肩をすくめた。 「あなたがジョン・スミスさんである、という確証もありませんしね。北高には、三年前に本物のジョン・スミスさんがいて、あなたは単にその話を聞いたのかもしれません。 その場合、タイム・トラベルを持ち出さなくとも説明がつきます」 「なるほど。ちなみに、俺のいた世界では、お前はガチでホモだったぜ」 「こちらでもそうですよ」 古泉はさらりと流す。 爽やかだがぞっとする。実にぞっとする。 俺はポケットから、かねてからの写真を取り出した。 「じゃあ、これはどう思う?単なる合成に見えるか?」 俺たちSOS団が写っている、この世界では唯一の写真。 古泉は、まじまじと写真を覗き込み、写真をひっくり返し、またまじまじと眺め、やがて溜息をついた。 「お手上げです。まるで本物ですね……この写真の季節は夏ですか?」 「SOS団の夏合宿だ。孤島に遊びに行ったんだよ。俺が平行世界からやってきたことの、唯一の証拠になっちまったが……」 ハルヒも目を丸くして、自分の写った写真を眺めている。 「これが……SOS団の団員たち?」 その通りだ。宇宙人、未来人、超能力者。あと、俺と朝倉が普通人だ。 さて。 「北高にくれば、そいつらに会わせてやれる。どうだ、来るか?」 ハルヒは、全力でブンブンと音がしそうなほどに首を縦に振り、古泉もしぶしぶといった様子で頷いた。 ハルヒと古泉を、朝倉と長門が待つ文芸部に押し込み、「師匠……」「キョンくん……」という声を振り切って俺は書道部に向かう。 ちょっとお話が……というと、朝比奈さんは案外素直に頷いてついて来てくれた。昨日挨拶しておいたことが功を奏したようだ。 俺がドアを開けて、一同、訳がわからない、といった顔をしている文芸部室に朝比奈さんを連れて入ると―― パソコンの電源が入った。 俺はまっすぐパソコンの前に座る。やれやれ、これで任務完了だ。 YUKI.N> これは緊急脱出プログラムである。起動させる場合はエンターキーを、そうでない場合はそれ以外のキーを選択せよ。起動させた場合、あなたは時空改変の機会を得る。 カーソルが言葉を紡ぐ。 YUKI.N> このプログラムが起動するのは一度きりである。実行ののち、消去される。非実行が選択された場合は起動されずに消去される。Ready? 「なんなのこれ?どういうこと?ちょっと、ジョン、説明しなさいっ」 ハルヒがわめく。 「自分の世界に帰るんだよ……」 俺は、長門の顔を見る。困惑した表情。 そして―― 朝倉、涼子。 「キョンくん……どういうこと……ど、どこに行くの……」 怯えた声を出す。泣き出しそうな顔だ。 Enterキーにかけた手が震える。俺だって、この世界が嫌いじゃないさ。 だがな、朝倉。 俺がお前に――本当のお前に会うためには、俺は、ここにいるわけにはいかないんだ。 「キョンくん、待って――」 朝倉の声が聞こえたが、俺は、ぐっと目をつぶって、Enterキーを押し込んだ。 次の瞬間には、俺は長門のマンションにいた。 「あなたを待っていた」 おう、二日ぶりだな長門。といっても、お前は今日俺に会ったばかりか。 目の前の長門有希は、すっと立ち上がった 「時間が惜しい。今すぐ出かける。説明は途中で」 「お、おい、どうしたんだ?」 「道々話す」 俺は長門にものすごい力で引っ張られて、走るように長門のマンションを飛び出た。 「ど、どこ行くんだ?」 長門はワイヤーロックがかかったスクーターに近づくと、高速呪文を唱えてロックを外した。同時に、キーもなしにエンジンがかかる。 「あなたの家。……乗って」 おいまてそれは窃盗だ――という俺の抗議もむなしく、俺が後ろに乗った瞬間、長門は全速力でスクーターを発進させ、俺は後ろに吹っ飛びそうになった。 「スピルバーグの映画では、宇宙人との二人乗りはもっと優雅だったぞ!」 俺は長門の腰にしがみつきながら叫ぶ。 「しっかりつかまって……ブースターモードで加速」 長門がさらに高速呪文を唱え、さらにスクーターは急加速した。 「時空改変を行うのは、朝倉涼子」 俺の家に向かう途中、そう長門が言ったとき、俺は長門の腰にしがみつきながら叫んだ。 「まて、そんなはずはない……だって、今の朝倉にはそんな力はないはずだ!お前が、無害に構成した普通の女子高生のはずだろ!!」 「そう」 長門が呟くように言う。 「だが、情報統合思念体の急進派が、朝倉涼子に干渉した。朝倉の情報操作能力を復元し、その任務を進めようと独断専行……」 朝倉の任務? 「あなたを殺して、涼宮ハルヒの情報爆発を誘発すること」 一年前の、薄く笑ってナイフを構えた朝倉の姿が頭に浮かぶ。 「じゃ、じゃあ、朝倉は、俺を殺すために、俺の家に向かっているってのか!?」 「そう。だが、朝倉涼子は、あなたを殺さなかった。そのかわりに……」 ようやく、俺の頭の中で、すべてのことがつながった。 俺の家の前について、俺と長門はバイクを乗り捨てた。誰だか知らないが、持ち主、スマン。 「間に合った」 朝倉涼子は、まだ来ていないようだ。 長門は、ふと目を伏せる。 「……本来、安全を考えれば、あなたを連れてくるべきではなかった。だが――」 俺にも長門の言いたいことは分かった。 そう、俺が見届けなくてはならないんだ―― この事件の、決着を。 俺は長門に向かって頷いた。 そのときだった。 暗闇の中から、ゆっくりと人影が出てきた。 長い髪、制服のスカートの下に伸びる足、白いハイソックス。そして、凍りついたような薄い笑み。 右手に持った、大型のごついナイフが、電燈に照らし出されて冷たい光を放つ。 情報統合思念体の急進派が、俺を殺すために作成したヒューマノイド・インターフェイス。 朝倉、涼子。 「あら、長門さんじゃない……こんな時間に何をしているの?」 朝倉が長門に問いかける。にこやかな笑顔。だが―― その表情は、薄っぺらの作り物だ。 長門によって再構成された、SOS団団員の朝倉涼子の表情が、俺の頭をよぎる。 困ったように微笑む顔。喜びにあふれた表情。うつむいて涙をこらえる顔。 どれもこれも、作り物の表情じゃなかった。本物の感情が表れた顔だ。 今、目の前にいる、朝倉涼子の、笑顔とは違う。どれだけそれが、笑っているように見えたとしても、こいつの表情は作り物だ。 「あなたの目的は分かっている……彼を殺させるわけにはいかない」 「彼?」 そういった瞬間に、朝倉がピクリと体を震わせた。 「それが私の任務だもの……そうしなくてはならないの。それとも、邪魔する気?」 朝倉の動きがおかしい。 体を小刻みに震わせ、動きがぎこちない。言葉も、微かにどもるような口調になっている。 長門が言う。 「あなたは、蓄積したエラーデータによって正常稼動することが出来ない。……私には勝てない」 「……やってみなくちゃ分からないわよ……殺さなくちゃいけななないいいののの……彼を……キキキキョンくんんんをを」 朝倉の言葉は、異常動作をしたCDのように、奇妙な繰り返しをする。 ぶるぶると朝倉の体が震えだし、朝倉の顔に張り付いた冷たい笑顔が、はっきり分かるぐらいに歪んだ。 朝倉涼子の表情が変わる。 その顔が――いまにも泣き出しそうな顔になった。 はっと俺は息をのんだ。 ――朝倉だ、SOS団団員の。間違いない! 「朝倉っ!!」 朝倉は、涙をぽろぽろこぼしながら、ぎこちなく俺の方に顔を向ける。 「かかか体が、勝手にににっ……あああたしは、キョンくんんんのことを殺したたくなんかないのににに……」 がくがくと震えて、朝倉は体をよじりながら、地面にひざをついた。 長門の方にやっとのことで顔を向けた朝倉は、苦しそうに涙をぼろぼろと零した。 「なな長門さん……たたたたたすすけて……こんなのこんなのののいいいややああああああ!!」 それっきり沈黙すると、一回大きく、ビクン、と体を震わせ、やがて朝倉涼子は体を起こした。 朝倉の体の震えは止まっている。 俺の方を見た、朝倉涼子の冷たい目。その顔には、凍りついたような笑みが浮かんでいる。 「さよなら、死んで!!」 一閃、ナイフと腰だめにして、朝倉涼子は、俺に向かって飛び掛ってきた。 ズンッ 白刃が、柔らかい肉体を突き通す音。 だが―― 俺が刺されたわけじゃない。朝倉のナイフは、俺から50センチほどのところで止まっていた。 「キョン……くん……」 長門の腕が輝く刃に変わって、朝倉の胸を突き通していた。 長門はひどく苦しそうな表情を浮かべている。涙が一筋、長門の頬をつたった。 ズブ、と長門は朝倉の体から白刃を引き抜く。胸から血を噴出させながら、朝倉涼子は地面に崩れ落ちた。 「朝倉ああっ!!」 俺は朝倉に駆け寄った。 朝倉涼子は、体をビクビクと痙攣させながら、微かに呟いた。 「かか改変ん……しししなくちゃ……今度こそそそそ……ふつうののの……おお女の子で……キョンくんと……一緒……に……」 長門が、朝倉の前に屈み込んで、朝倉の耳に囁く。 「……その必要はない」 長門を見つめる、朝倉の虚ろな目。 「あなたを情報統合思念体から再切断する……目覚めたとき、あなたは元の、普通の高校生に戻っている……」 朝倉が、かすかに微笑む。 「安心して」 そういった長門の目からは、涙が流れていた。 「あ……り……が……と……」 俺は、ようやく朝倉を抱きおこす。 朝倉涼子は、既に意識を失っていた。 さて、後日談。 朝倉は眠ったまま病院に運ばれた。そのまま三日間、眠り続けている。 もちろん、肉体的に傷がどうこうってわけじゃない。長門が、情報統合思念体からの干渉を防止する防壁プログラムを、じっくりと時間をかけて構築するために、構築のあいだ朝倉には眠ってもらっていた。 そして、今日の朝、長門が電話で、プログラムの構築が終わったと連絡してきた。情報統合思念体の干渉は、今後、まず起きないだろうと長門は言う。 そう信じたい。 椅子に腰掛けた俺は、病院のベッドで眠り続ける朝倉涼子の美しい顔を見た。 ……朝倉は、俺を殺すように、情報統合思念体の急進派によって、プログラムの干渉を受けた。 自分の意志に反して、俺を殺すために、俺の家に向かっているとき、朝倉はどんな気持ちだったのだろう。 そして、そのぎりぎりの瞬間、朝倉はハルヒの能力を利用して世界改変をした。 後のことは、俺が体験した通りだ。 朝倉が改変した世界では、朝倉涼子は俺の婚約者になっていた。 俺の弁当を作り、一緒にそれを食べ、ポニーテールを揺らして、幸福そうに笑っていた。 あのとき、Enterキーを押さなければ―― 果たして朝倉は幸せになれたのだろうか? 俺は首を振った。 断言する。 答えは――NOだ。 なぜって? 俺は立ち上がって、朝倉の眠るベッドの枕元に置かれた写真立てを取り上げた。俺のポケットに入ったままだった写真。 長門がもってきた写真立てに入れて、朝倉の枕元においてある。 SOS団の集合写真だ。ハルヒ、長門、古泉、朝比奈さん、妹に抱きつかれた俺、そして―― 困惑したように、微笑する朝倉。 朝倉が、改変をした世界で、唯一そのままにしたもの。 これが、お前の答えだと受け取っていいんだよな? SOS団のみんなと一緒に、この世界に留まることが。 俺は、朝倉の顔を覗きこんだ。――そろそろだろうと思う。そんな予感がする。 朝倉涼子が、目を覚ます。 やがて、ゆっくりと開いていくまぶた。その瞳が―― 俺を見る。 泣くんじゃないぜ、俺。ここは笑うべきところだ。朝倉にお前の笑顔を見せてやれよ。ほら、笑え。 俺は、こぼれてきた涙をぬぐうと、無理やりに笑顔を作った。 「おかえり、朝倉」 「……うん」 朝倉涼子が、微笑んだ。 おしまい 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 ループ・タイム
https://w.atwiki.jp/kt108stars/pages/6063.html
関連スレ ベテラン痴漢四天王の襲来 730 :NPCさん:2011/07/12(火) 18 52 03.33 ID ??? 女性ばかりのサークルのセッションに遊びに行った。 流石に1人じゃ生きにくいんで、先方の了承もらって同伴した。 行った先が女性ばっかりだったのはまぁいいとして、 特定の女性がなんつーか、凄い尖った対応された。 そのせいでちょっと微妙な気分になってしまった。 サークル代表の女性がたまたま、昔、コンベでの顔見知りだった。 (誘ってくれたのは代表とは別人) セッションが始まる前の時間、その人と思い出話をしていると、 明らかに「オッサンの武勇伝うぜ~」って態度を取る。 古い話に、別の女性が「そんな時代があったんですねえ」と相槌を打つと、 その女性の肘を叩いて「ホステスみたいな真似やめな」と言ったりする。 『当時人気あったGM』についての話に割り込んで来て、 「で、その旨い人は今日来てないの?」とかね。 「きみと話してないけど?」と言ったら他の人達が嫌な気分になるだろうし、 誘ってくれた人と代表と同伴者と喫煙所に逃げた。 一服しながらお互いに謝りあった。 件の女性は、普段は皆に優しい人柄らしい。 何故あんな感じになってしまったのか、今振り返る。 自分の見た目がイケてないのは置いておくとして、 初見時に女性オンリーで大勢いるのを見て狼狽えたのが良くなかったか? それをフォローしようとして「や、俺らの時代じゃ1人女性がいるだけで 華やかだった。女性ゲーマー増えて嬉しい」とか言ったのが地雷か? 女性蔑視、又は下心満開ヤロウだと確定されてしまったのか? と、前の報告を改変したような感じで報告した。 こうした事例もあるから、先の報告も報告者が違えば別な話になるかもね。 もちろん痴漢はただの犯罪だ。 731 :NPCさん:2011/07/12(火) 18 59 08.29 ID ??? 730 で、それがどのように痴漢行為を正当化するのだね。 732 :NPCさん:2011/07/12(火) 19 03 22.94 ID ??? 731 君のPCか携帯は、レスの最後の行が表示されないバグがあるようなので気を付けた方がいいよ 733 :NPCさん:2011/07/12(火) 19 12 26.24 ID ??? 732 ? だったら別にありもしない仮定をでっち上げて、あたかも男性側を弁護するような発言をする意味がどこにあるのだね。 私にゃ、「痴漢は犯罪だ」と書き添えることで、自己弁護を正当化しつつ、あたかも女性側の思い込みに根ざしたえん罪であるように、 読者を誘導する意図があるように見えるがどうだろう。 そうでないなら、そのさして面白くもない小説モドキを書いた動機を説明してくれるかな。 734 :NPCさん:2011/07/12(火) 19 32 07.27 ID ??? 痴漢するキチガイの取った行動が別の視点で見れば困じゃないって? そんな考えの男と見透かされてただけじゃないの? 735 :NPCさん:2011/07/12(火) 19 42 46.58 ID ??? 代表が胸を揉んでと甘い声で囁き潤んだ瞳でじっと見つめてきた 胸を揉むとあんあんと喘ぐ 他の女も胸を揉んでと言ってきたので揉もうとしたら、代表が私以外揉んじゃ駄目と言ってきた セッションをそろそろ始めようと言ったが、いやん、おっぱいいいのぉぉぉと喘ぐので、時間管理が出来ないなと注意した 代表の出す女NPCもおっぱい揉んでぇぇぇぇ ひゃんきもちいいのぉぉぉと意味も無くおっぱいでイクので(略) 別の視点で報告されたらこうなるのか? 736 :732:2011/07/12(火) 19 54 43.26 ID ??? まず最初に私は報告者じゃない さらに730は最初とは別の報告だよね その中で彼は女性オンリーサークルに参加して困惑したことを報告しており、痴漢云々に関しては勝手に君が空読みしているだけだと思うのだが いやこの報告は最初に訴えられたやつが自己弁護のためにでっち上げた代物だとエスパーするの? 737 :NPCさん:2011/07/12(火) 20 01 26.78 ID ??? 736 例の報告がどういう視点で違った報告になるのかを教えてくれんかの? 738 :NPCさん:2011/07/12(火) 20 04 57.57 ID ??? 730がエスパーして、更に要らん事書いたのが全ての元凶だろ 744 :NPCさん:2011/07/12(火) 20 40 00.54 ID ??? 730 過去語りして楽しいのは、喋ってる本人だけだろ 空気読めないの? 好きでも嫌いでもないどうでもいいやつの過去とか、一番どうでもいい話 748 :730:2011/07/12(火) 20 50 30.00 ID ??? さっきのは報告だよ、ちょっとふざけてしまったけど。 報告書が別の人物なら違った視点になるかも、というだけの意図だったけど、 確かに余計な一文だったね、すまない。 痴漢を擁護する気も、報告した女性を攻撃するつもりも無かったけど、 気分を悪くさせたら申し訳ない。 自分は、報告にあった『凄い人』とは別人だよ。と、思いたい。 750 :NPCさん:2011/07/12(火) 21 15 33.65 ID ??? 748 それを信じてもらえる理由があるとは思えないなあ。 まあ、真実だったとしても老害乙でFA。 751 :NPCさん:2011/07/12(火) 21 25 58.52 ID ??? 本人降臨? 752 :NPCさん:2011/07/12(火) 21 27 13.71 ID ??? まあ本人だろうなあ。 753 :NPCさん:2011/07/12(火) 21 28 07.85 ID ??? 老害乙 754 :NPCさん:2011/07/12(火) 21 33 07.92 ID ??? 当人がいつもどおりにしてるつもりでも周りにとっては不快だなんて話は億万とある訳で 660,675,681 730 互いの視点を比較するサンプルとしてはなかなか面白い例になったな 755 :NPCさん:2011/07/12(火) 21 40 46.20 ID ??? 754 俺はエスパーじゃないがお前変だ 756 :NPCさん:2011/07/12(火) 21 41 07.17 ID ??? どう改変しても犯罪は犯罪だろ 759 :NPCさん:2011/07/12(火) 21 57 46.25 ID ??? 730が別報告だったとしても660の酷さは揺るがんな。 言葉のみならまだしも乳もんじゃ言い逃れできんだろ。 760 :NPCさん:2011/07/12(火) 22 00 03.25 ID ??? ぶっちゃけ乳揉みは初対面なら性別逆でもアウトだからな 761 :NPCさん:2011/07/12(火) 22 01 06.48 ID ??? で、結局 660と 730は同じ場の話なの? 762 :NPCさん:2011/07/12(火) 22 02 39.15 ID ??? 同じだと確信してる人はいるみたい 763 :NPCさん:2011/07/12(火) 22 12 38.21 ID ??? 痴漢はさすがに引くわ 764 :NPCさん:2011/07/12(火) 22 14 34.62 ID ??? 同性ならセーフ 765 :NPCさん:2011/07/12(火) 22 15 13.03 ID ??? セーフの条件は性別じゃなくて相手が嫌がってるかどうか 766 :NPCさん:2011/07/12(火) 22 16 39.84 ID ??? 嫌がってるのを察せられるなら、そもそもセクハラしないわけだ 772 :NPCさん:2011/07/12(火) 22 41 00.35 ID ??? 744 なるほど、本当に読解力がないのか。 730の報告者と古い知り合い(サークル代表の女性)が昔の思い出を語り合っていたら 横からケチを付けられた、って報告なんだが。 775 :NPCさん:2011/07/12(火) 22 44 52.03 ID ??? 772 うん、まあなんだ。 流れも読めず文章力もなく、他人とコミュニケーションする能力もないんじゃ、 そりゃ困ったちゃん扱いされるよ。 この流れでその報告(?)をして誰かにフォローされると思ってるんじゃどうかしてる。 776 :NPCさん:2011/07/12(火) 22 45 56.81 ID ??? 全くだ どう見ても 730の困が乳揉みの件はなかったふりをして 被害者面で報告したらこうなるよという実演にしか見えんわ 777 :NPCさん:2011/07/12(火) 22 46 35.82 ID ??? というか実演だろ? 横からMKPを掻っ攫いたいようにしか見えん 780 :NPCさん:2011/07/12(火) 22 56 49.44 ID ??? 本当に報告なら、「先の報告も違う話になるかもね」なんて言う必要もねえもんな。 781 :NPCさん:2011/07/12(火) 23 03 35.44 ID ??? 余計なことだったって詫びてるやん しつこく話題続けなくていいんだから次のネタいけば? 782 :NPCさん:2011/07/12(火) 23 06 31.92 ID ??? どうせ本人だろ っていうにはタイミングがあれだしな 模倣犯ってやつか 660的にはどうなんだろ 784 :NPCさん:2011/07/12(火) 23 10 57.59 ID ??? 同じ事例を別視点から、って風には見えなかったけど 733の意見は大体同意 報告者が嘘を吐いていると疑わしい場合でもないのに 明らかな悪者を擁護する様な発言はまずかったな 785 :NPCさん:2011/07/12(火) 23 14 45.44 ID ??? 報告というには嘘っぽいのはわかるが 全力で攻撃してるやつもなんかキモい リアル痴漢なんていうわかりやすい仮想敵のせいでヘンな正義感が働いてんのかな。所詮匿名掲示板で喚いてるだけなのに 786 :NPCさん:2011/07/12(火) 23 21 57.43 ID ??? 785 間をおけよ 793 :NPCさん:2011/07/12(火) 23 35 13.92 ID ??? 性犯罪者が降臨したスレはここですか? 803 :NPCさん:2011/07/13(水) 01 38 29.22 ID ??? 660も 730も創作だし心底どうでもいい 804 :NPCさん:2011/07/13(水) 01 51 11.30 ID ??? なるほど、660を創作ってことにしたかったのか。お疲れさん 805 :NPCさん:2011/07/13(水) 01 55 45.87 ID ??? 730はなぜ 660を創作に仕立て上げたかったのか? それはつまり…! 807 :NPCさん:2011/07/13(水) 03 10 30.15 ID ??? 730に最初から痴漢はただの犯罪って書いてあるけどな 改変っぽく茶化してはいるが報告とも書いてあるけどな 808 :NPCさん:2011/07/13(水) 03 31 28.55 ID ??? それなら報告者が変われば別な話になるかもって文はいらないよね。 なんら擁護すべきことがない 660の困に対してフォローめいた言葉が出るだけで・・・。 809 :NPCさん:2011/07/13(水) 04 03 39.76 ID ??? まて、これは 660のD&Dによる陰謀ではないか ひとりだけ良い印象なのがあやしい 810 :NPCさん:2011/07/13(水) 06 17 03.81 ID ??? ここは名探偵の多いインターネットですね 811 :NPCさん:2011/07/13(水) 06 52 22.70 ID ??? 730に困いなくね? 812 :NPCさん:2011/07/13(水) 08 26 17.25 ID ??? 女性オンリーのサークルなんか存在するはずがない よって 660も 730もフィクション決定 スレ277
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5729.html
(この物語の主人公はオリジナルキャラであり、世界観も原作とは正反対にハードでダークな設定です。登場人物の死亡や若干のグロ描写やメタパロネタが書かれますので、そう言った話が苦手な読者にはおススメできません) どうしてこうなった。 自身が招いてしまった現状にも関わらず、俺は、ただただ嘆きの声を漏らすことしかできなかった。 長門有希が暴走し、俺にとって悪夢のような改変世界を創造し、そこから死ぬ思いで帰還を果たしてからは、もう世界を疎んで孤高を気取るバカな真似は止めよう。そう思い、現実を楽しむことにしたはずだった。 それから月日が経ち、年も明け、真面目な学生風に生活していた。 煙草も止めたし、金髪も黒に戻した。ピアスだって外した。 他所がどう言おうが、俺なりに更生してきた。 急な変化だったので、俺「西野太陽」と「クラスメイト」では、大きな隔たりがいまだに残っているが、それを埋めるのが課題であり、「普通」を選んだ俺の義務でもある。 時間がかかるのは明白であり、埋まる保証も無い。 それでもやる意味も価値もあるからこそ、頑張れる。だが、 わけがわからない。 北高での授業を終え、帰宅するため駐輪場で愛用の原チャリに跨った所までは、いつも通りだ。 それは運転中に小腹が空いたため、見かけたコンビニでおでんを数本買った後だった。 どこからか視線を感じる。 気にせずに家へ帰ればよかった。だが、俺の卓越して異常すぎる第六感センサーが、視線の主を突き止めることを選び取ったのがケチのつけ始めだった。 原チャリを視線の方向へと走らせること数分、俺はゴミバケツと放置自転車が場所を取っている狭い路地裏へと招かれた。 この時、俺は逃げるべきだった。 いや、すでに遅すぎたのかもしれない。 建物と建物で一層影が濃くなっている空間に女の子がいた。 彼女は、腰までありそうな黒髪を、頭の上できれいに結い上げている。 毛先の先端まで保湿成分が行き届いているからか、常時風呂上りの様に、数メートル先の暗闇からでも潤いを感じられる。 この制服は……光陽園学院か。あの改変世界で涼宮ハルヒが装着していた物とは同様の物でありそうだ。 しかし、その暗闇を切り取って生まれたような出で立ちも十分異様であるが、彼女にはそれ以上に異常を感じる部位があった。 彼女は大怪我か大火傷をおったのか、全身に包帯が巻かれていた。 それは制服の下から露出した皮膚を隠すように巻かれており、そのせいで短いスカートや袖はもちろん、襟からですら、肌が見えない。 当然、どんな顔かすら判別できない。 そのエジプトのミイラを思わせる格好に、全身の危機管理信号が赤色点滅した。 だが、俺の汚れたコンクリートを踏みしめているはずの足は、根付いた植物の様に動かない。 頼む、動いてくれ。見たまんま命の危機だろうが! 「好奇心、猫を殺す」なんて上手い事例を語り継いだ奴が居た気がするが、そんなものは実践してたまるか。 その女は握り締めていた細長い布袋から「何か」取り出し始め、それを視認した瞬間、俺はさらに愕然とした。 刀だ。それも鞘から柄まで、何もかも真っ黒くて、離れたここからでも重厚な雰囲気を醸し出している。いつからSF物語が、学園伝奇物語になったんだよ。 「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 殺意を纏った凶器を見たことで、俺の金縛りが解かれたことは幸運だった。 路地裏に転がる、赤く汚いビールケースを、彼女目がけて蹴りとばした。 瞬間、ビールケースは一文字に斬り裂かれる。 もし命が助かるとすれば、それは後ろじゃない。 彼女のみぞおちを、俺の飛び蹴りが貫く。 思わぬ反撃が功を奏したのか、彼女は背中を地面に叩きつけられ、苦しそうに咳き込んだ。 「くそ!着いて来んなよ!」 逃げるなら今以外無い。二十メートルも走れば大通りに出られる。いくらなんでも、人ごみの中で暴れるわけが、 「な!?」 彼女は、一足飛びで俺のはるか頭上を跳び越し、何事もなく、俺の前に立ちはだかった。先ほどの奇策による奇襲は、まったく意味をなしていないようだ。 「がはっ!」 地面を蹴る踏み込みすら見えなかった。一瞬で首に日本刀の鞘を打ち、廃れた雑居ビルに俺の背中を叩きつけた。 包帯の隙間から僅かに覗かれる女の瞳と目が合った。 そこには何も無かった。 瞳孔はあるはずなのに、空洞としか思えないその瞳は、暗く、冷たい、「無」の光を放つだけだ。 そうしながらも、着実に呼吸はつまり、少しずつ、確実に意識が弱まっていくのを肌で感じられた。 「ち……ちくしょぉぉぉ!」 意識が失せる寸前で、最後の抵抗を試みれたのは幸運だったのだろうか。 手を伸ばし、彼女の細い首を掴んだ。せめて顔くらい確認してやる。 そんな思いが勝ったのかもしれない。俺は無我夢中で彼女の首に巻かれた包帯を引き裂いた。 その女の肌を覆い、締め付けていた包帯が解かれる。 俺の中の恐怖と憎悪が甦る。 全身に稲妻が駆け巡る。 二度と見たく無かった顔が、そこにいた。 鈍色で、見る者全ての吐き気をもよおすほどに変色している包帯に包まれていた顔は、それとは相反するような端整な美少女であった。 「あ、朝倉ぁぁぁぁぁ!」 手に残る千切れた包帯を握りしめ、俺は俺に絶望を告げる死神の名前を叫ぶ。 朝倉涼子。かつて俺を痛めつけ、殺そうとした女だ。なんでお前がここにいる。お前は改変世界破壊と共に、消滅したんじゃないのか? だが解かれた包帯を口惜しそうに眺めると、彼女は俺に強い眼差しを向けた。 その瞳孔には何も宿さない。瞳と言う感情を表しやすい部分であるが、鋼鉄よりも冷たく無機質な感覚を覚えた。 なぜだ。なぜ朝倉涼子が存在する。朝倉涼子は、あの改変世界で消滅したはずだろ。 「うるぁぁぁぁぁ!」 咆哮が放たれ、俺の身体の硬直を溶かす。 光陽園学院の女子制服に覆われた腹部に、蹴りを叩き込めたのは幸いだった。朝倉涼子自身、こんなさきがけクリティカル攻撃が飛んでくるとは想定していなかったのだろうか? 運命の女神が起こした気まぐれと冥王の職務怠慢があったと勝手に解釈し、暗闇から出づるため、路地終わりに刺さっている夕日まで全力疾走をした。 「そろそろ退いてくれませんか。朝倉さん」 ビルとビルが隣接することで造られていた路地裏に、人影があった。 夕日の逆光でその人影誰かまでは視認できなかったが、優しくて冷たい声が聞こえた瞬間、いつか見た碧い蝶が、顔の横を通りすぎた。 狭く、暗い路地裏に爆音と火炎が踊る。 暖色豊かな火の粉の奥で、朝倉涼子は刀を振り下ろし、歪んだ微笑を浮かべていた。 「ふむ、少しあなたを舐めてしまいましたね。謝罪いたします」 全然謝罪する気を見せずに、喜緑江美里は静かに笑った。 「喜緑さん!」 「無事とは言いがたいですが、何とか間に合いましたね」 生きていられれば、何でも良いさ。 「まあ、実際あなたが僅かでも抵抗できなければ、間に合いませんでしたけど」 爆弾発言をサラリと言ってくれたが、マジでギリギリだったらしい。 あんなのは俺の実力でもなんでもない。運が良かっただけだ。 「ありがとうございます。喜緑さん」 「お礼は、彼女を退ける時まで取っておいてください」 その彼女、何故か光陽園学院のブレザーを着ているポニーテイルな朝倉涼子は、 「……あいつ、笑ってやがる」 声も発さず、俺と喜緑江美里を見ながら、頬を歪めるだけだった。 かつて中世ヨーロッパで大流行した黒死病の風刺画に描かれていても、なんの違和感も感じられない程に様になった不気味さだ。 「なぜ彼を狙うのですか?彼を狙った所で、涼宮ハルヒは情報爆発を起こすとは思えませんが」 俺の感じている恐怖だが、喜緑江美里は何も感じないらしい。声を裏返させることもなく、いつもの柔和な口調である。 それに喜緑江美里の言う通りである。涼宮ハルヒから見て、俺とキョン、どちらが彼女と近いか。 そんなのはキョンに決まっている。それこそニューヨークと東京間の距離ぐらい差があるさ。 「そもそもどうして再構成の許可が下りましたか?」 「許可が下りたにしても、なぜ光陽園学院の制服なのですか?」 だが、朝倉涼子は何も答えない。その後も続けざまに二・三、喜緑江美里が質問を投げかけたが、朝倉涼子は沈黙を守っている。 言葉が理解出来ていないのか?いや、あの歪んだ微笑は、嘲笑うかのように不気味だ。そんな笑い方は、意味を知っていなければ出せない。 「……再構成されて随分経ったはずでしょうが、いまだにコミュニケーション機能が発達していないようですね。もしくは、戦闘能力を重点的に上げ、他を疎かにしたのでしょう」 その問いにも無言を貫いている。ただただ、不気味に笑う。 「そうですか。そんな突貫工事で再構成されたインターフェイス以下の存在に何ができるか、見せていただきます」 その言葉を合図に、一匹の碧い蝶が喜緑江美里の掌に舞い降りた。 「西野君。あなたは後ろに下がっていてください。邪魔です」 そうさせてもらう。朝倉涼子に斬り殺されるのも、喜緑江美里に焼き殺されるのもゴメンだ。 「気をつけてくださいよ。喜緑さん」 「心配は不要です。私を誰だと思っているのですか?」 どうやらよほどケンカには自信があるらしい。どんだけ桁外れの暴力なんだよ。この人達。 「さぁ、朝倉さん。悲鳴の歌を歌ってください」 喜緑江美里の掌から、碧い蝶が飛び立つ。 その蝶が飛ぶ早さだが、確かに普通の蝶に比べれば十分早いが、それでも精々、野球のボールを投げつけたくらいのスピードでしかない。 あのスピードなら、避けるのも容易いだろう。 予想した通り、喜緑江美里の碧い蝶は、朝倉涼子の身体には触れられず、難なく避けられた。 「朝倉さん。それでは間に合いませんよ?」 その瞬間、朝倉涼子が避けたはずの蝶が、投げたブーメランがカーブを描くように、彼女の肩に舞い降りた。 炎が暗い路地を碧く照らす。 碧い火の粉の中で、朝倉涼子は苦痛によって、浮かべていた笑みを解かずにはいられなかった。顔を歪ませながら、黒コゲの肩に手を当てている。 「おっと。膝をつく暇があるのですか?」 第二波、第三波と、立て続けに碧い蝶が朝倉涼子に襲いかかる。 朝倉涼子に迫る碧い蝶の群れ。それらが牙を剥き、あと数瞬で喰らいつく。だが、 「っな!?」 一歩退いて見ていた俺でも、それには思わず声を漏らしてしまった。 蝶達が朝倉涼子の身体に付着しようとする瞬間、朝倉涼子はコンクリートの地面を抉るほどに、強烈なストンピングを叩き込んだ。 抉られたコンクリートが、壁のように彼女の鼻先まで盛り上がった。 当然、コンクリートの壁に蝶が直撃してしまい、朝倉涼子が碧い爆炎に包まれることはなかった。 それだけではなかった。 続けざまに、朝倉涼子の足がコンクリートの壁を蹴り砕く。そして砕かれたコンクリートが向かった先は、喜緑江美里。 「ふふふ、まあ出来損ないにしては上出来でしょう。たぁっ!」 叫びに呼応され、碧い蝶の群れが、喜緑江美里を守るように周囲に展開される。 爆音が響き、衝撃波となり、突風を産み出す。 「うわっぷ!」 強い衝撃波が全身に襲い掛かり、無様に吹き飛ばされそうになる。なんとか踏ん張ることができたが、こんな異次元バトルに付き合うのは、常人の俺には辛すぎる。 「西野君。逃げない方がいいですよ」 少しでも情けない考えを起こしたのが、朝倉涼子に伝わってしまったのだろうか。 爪先数インチ前の地面に、かつて改変世界で俺に襲い掛かった時に振るった肉厚のサバイバルナイフが突き刺さる。 なんだよそのコントロール抜群さ加減は。逆光照り返されて視界が悪いはずだが、闘っている喜緑江美里の股下を抜けた上で、俺にナイフを投げつけるなんて、プロ軍人でも無理だろ。どこまで常識を超えた存在なんだ? さらに一歩、アスファルトを踏み抜いた足で、朝倉涼子が間合いを詰める。 日本刀による斬撃が、喜緑江美里を正中線で分かつように、頭上へ振り下ろされた。 「はぁっ!」 喜緑江美里の口から短い気合が放たれ、彼女は頭数センチ上で、朝倉涼子が振り下ろした日本刀の刀身を素手で受け止めた。 掌から溢れ出ている血液が制服の袖を汚しているが、何を気にするわけでもなく、 「マイクロ単位で心臓を狙った正確な斬撃ですね。ここをやられれば、いくら私たちでも機能停止は避けられません。ですが」 微笑を曇らすことなく、余裕に満ちた言葉を続けている。 「あなたは唯一の誤算をしました」 その瞬間、喜緑江美里の整った横顔から微笑が消えた。 冷徹で、朝倉涼子の握っている日本刀にも負けない、刃物の様に研ぎ澄まされた眼光を剥き出しにしている。 「私を敵に回したことです」 碧い爆炎が、二つ、踊る。 そして火の粉が晴れた時、俺はその光景に思わず目を背けた。 朝倉涼子の右腕が、無残にも千切れていた。 手首から先が消し飛び、それは捥ぎたてのバナナの茎を思わせる。 地面には彼女の指らしき物が焼け爛れた状態で散らばり、その中に、朝倉涼子が握っていた日本刀の切っ先も混じっていた。 「その出血では機能停止も時間の問題です。はやく帰還したほうがいいですよ?朝倉さん」 勝敗も力の優劣も明らかだった。今、この場で喜緑江美里に抵抗できる者はいない。 だが。と、俺はここで思う。 俺の命にそこまで価値があるのだろうか? 死にたくはないさ。俺はあと50年は人生を謳歌したいしな。 だけど朝倉涼子よ。そこまでボロボロになったのに、なぜ退かない。 もういいだろ。もう退いてくれ。 それでも尚、朝倉涼子は撤退の姿勢を見せず、日本刀を握ったままの手で、床に転がっている刀の先端を拾い上げた。 ぐしゃ。 ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ。 「……朝倉」 朝倉涼子は、千切れた手首の先端に、折れた刀の尻を、無理矢理埋め込んだ。 血が吹き出ようが、骨にぶつかろうが、構うことなく。 無くなった右手の代行品にするように。 これにはさすがの喜緑江美里も、眉を潜めて苦い顔をしている。おまえは「どろろ」か。リアルに手塚治虫先生の名作を再現してんじゃねーよ。 そして、さっきまで浮かべていた微笑を再び貼り付け、臆することなく喜緑江美里に切りかかった。 左腕だけで斬撃を繰り出したからか、折れた日本刀は喜緑江美里に触れることすらできず、ビルの壁に突き刺さる。 それを好機と見た喜緑江美里は、突き刺さって抜けずにいる刀で悪戦苦闘している朝倉涼子に拳を叩きつけた。 「がぁっ!」 「喜緑さん!」 叩きつけた拳を縫うように、朝倉涼子は刀を埋め込んだ右腕を喜緑江美里の肩に突き刺した。 大降りの斬撃は喜緑江美里の攻撃を誘うための囮、本命は右腕によるクロスカウンター。 壁に突き刺さった刀から手を離し、その手で喜緑江美里を逃さないように肩を掴み、 「おふっ!」 脇腹に膝蹴りを叩き込む。 身をよじり、喜緑江美里は辛そうにアスファルトに膝をつく。そこへ、頭に肘打ち。 その連撃に、喜緑江美里は反射的に朝倉涼子を見上げる形で二人の視線が交じった。 呼吸すらも感じさせないタイミングで、朝倉涼子は、喜緑江美里の顔面をローファーで踏みつけ、コンクリートでできているはずの壁を瓦礫にするほどに強烈な蹴りを繰り出す。 喜緑江美里の身体は、アスファルトで出来ているはずの壁を瓦礫に変える程に吹っ飛び、先ほど朝倉涼子が突き刺したままにしてあった刀の真下に背中を打ちつけた。 ガラガラと、粉々になった瓦礫が落ちる音が聞こえる中、朝倉涼子は壁に刺さっている刀を無傷な左手で握り締める。 一閃。 壁に刺さった刀を引き抜くことで、摩擦で数倍に増した剣速が、コンクリートの瓦礫ごと喜緑江美里を斬り裂いた。 グレーのキャンパスに広がる圧倒的な赤。真っ赤な血飛沫が、アスファルトの地面や廃ビルの壁に飛び散る。 顔にその血飛沫が跳ねたのだろう。朝倉涼子は自身の頬に付着した血を舐め取り、折れた刀を鞘にしまった。 この瞬間、朝倉涼子にとって、再び俺が攻撃対象に変わる。 朝倉涼子は右腕に突き刺した刀の切っ先を、俺に向け、かすかに微笑みを浮かべた。 俺を殺すために。 俺を殺し、世界を壊すために。 「斬撃は見事。さすがは攻撃機能特化型インターフェイスです。が、ターゲットの破壊を確認せずに、戦闘形態を解くべきではありませんよ」 今まさに、捕食を開始するハイエナのように一歩飛び出そうとした朝倉涼子の肩に手を置いて、喜緑江美里は静かに語りかけた。 斬り捨てられた胴。 その上、裂けた制服すらも。元の北高冬仕様セーラー服へと完璧に修復されていた。 「夕日に溶けなさい。朝倉さん」 その言葉は強く、季節外れも甚だしい、碧い花火が暗い路地裏で踊った。 「機能の停止を確認してからが、本当の任務完了ですよ。朝倉さん」 朝倉涼子の着ていた光陽園学院のブレザーが裂け、露わになった白い肌の背中を覆うように、黒焦げの大火傷が広がっている。 「死んだんですか?」 壊れたのか?の方が正しい気もするが、とっさに出たものは仕方ない。 「あくまでも機能の停止です。完全に消滅をするならば、やはり情報の連結を解除しなければなりません。お望みなら、そう処理しますが?」 いや、勘弁してくれと答えておいた。理由や言い訳は数あれど、俺の采配一つで存在の存続を左右されるなんて重すぎる。朝倉涼子に対してその決断をするのは、今、この時ではないと思う。 「なんでこいつがこんなことを……」 アスファルトに突っ伏して、それこそ死んだように意識を失っている朝倉涼子だ。 俺が殺される理由?怨みを買う理由なら思い当たるが、そこまでの殺意を向けられる言われはない。改変世界のことは片付いたはずだろ。 「朝倉さんの目的、いえ、急進派の目的は多大な量の情報フレアを観測することです。他派閥の見解ですので、私達では推測の域を脱しませんが……」 「続けてください」 「それでよろしければ。おそらく、朝倉さん達は、あなたを刺激することで涼宮ハルヒの中に埋もれた改変世界の記憶に揺さぶりをかけようとしたのだと思います」 改変世界。俺にとって忘れ難い悪夢の3日間であり、忘れてはならない真実の3日間だ。 「あれは、もう済んだことではないのですか?」 いいえ。と首を横に振って否定する喜緑江美里。 「事情は済んでも、影響が済むとは限りません。存在しない72時間ですが、遺恨は残り続けます」 言われて見れば当たり前のことだった。事後処理が完遂するまで、事件が終了するわけがない。 浅はかであった。浅はかであり愚かだった。 現実が楽し過ぎたから、つい忘れていた。忘れていても、存在していた事実は変わりないはずなのに。 「畜生が。劣化してどうするんだよ」 あの3日間で自分を見つめ直し、成長したつもりでいた。「つもり」でいただけで、変わらないどころか平和ボケしてやがった。世界の舞台裏を知った以上、要らぬ災いまで引き込むことだと考えを進めなかった俺自身の失態だ。 「安心してください。最早、あなたは涼宮ハルヒを構成する大切なファクターの一人です。あなたの消滅は、私が阻止します」 心強い言葉であるが、鵜呑みにするわけにはいかない。信用とか信頼とか以前に、頭空っぽにしてはならない。したからこそ、こうやって朝倉涼子に襲われたわけだからだ。 自分の身は自分で守る。守れないなら守れる人に守らせる。それでもド頭の判断だけは、鈍らせてはならない。 今回の事態において唯一の収穫だが、ハッキリ言って及第点もいい所である。お情け以外の何物でも無い。畜生。 その日はそれだけで解散となった。しかし喜緑江美里は、朝倉涼子に襲われた後も、しっかりと自宅までついて来た。原チャリにまたがって。 って、あなた確か生徒会役員ってことになってましたよね。 「いえ、走るのダルいですし」 「いえ、さすがに一人だけ歩かせるなんてカット的にひどい事はしませんけど。なんなら原チャリは適当に放置して、付き合いますが?」 正直、二人乗りはしたくない。 うちのクラスに、そう言った噂話に眼が無い男がいるんだよな。眼が無いだけなら構わないが、前、たまたま休日に出会った涼宮ハルヒと昼飯喰っただけで、翌日には噂を歪曲して広めやがった。 どうして知ってるんだよ。やましい事など何一つしてないし、何を言われても構わないが、涼宮ハルヒにまで迷惑かけんじゃねぇよ。眼ぇ潰して、マジで眼を無くしてやろうか? と言う苦い思い出があるわけで、俺の変な噂など今更どうでもいいが、喜緑江美里にまで迷惑が波及しないか心配だ。 「風を感じたいのです!」 「あなたでしたら、走れば十分風を感じられると思いますが。高速道路クラスの」 「バカにしないでください。新幹線とだって勝てます」 「まさかの上方修正!?」 「私が本気で走れば、リニアを越せます」 「なんて人だ!現在最高水準クラスの科学力を、生身で超えられた!」 「1.21ジゴワットの落雷さえ受ければ、時間移動も可能です」 「ファンタジーの世界まで体言した!」 「さすがに二十九分で地球を百周はできませんが。地続きではありませんし」 「レッドラインがあれば、ゴテンクスとタメを張れたんですか!」 「でも、走るって疲れるんですよね。瞬間移動も可能ですが、運転してもらった方が楽ですし」 もしかしたら、ドラゴンボールでヤムチャが空を飛ばなくなったのは、単純に疲れるのが嫌になったからなのか?あいつ、ブウ編から飛行機使い出したし。 つーかなんでこんな身内から、ヤムチャの気持ちが察せるんだよ。ドンドン日常がファンタジーに押されていく。しかもバイオレンスでサバイバルな。どうせファンタジーならラブロマンスでハートフルコメディーなファンタジーを希望したいぜ。 「ちなみにハートフルとは「心暖まる」つまり人情と言う意味があります」 「なんでいきなり和訳したんですか」 「いや、あなたが適当に発言した気がしたので」 そもそも発言していない。と声に出したかったが、あまりツッコんではならない気がする……なんでこんな無駄な気遣いをしたいのかはわからんが。 「まあ、それは良いとして、あなたはアレですか?好きな女の子以外、タンデムしたくないと言う痛い人ですか?」 「痛いって決めつけないでくださいよ!それと俺はそんな線引きしてません!」 さすがに嫌いな奴ならともかく、普通に友達くらいなら後ろに乗せてるよ。……いや、友達少ないってのは無しに。 つーか、よく考えたら実際二人乗りしたのは涼宮ハルヒだけだ。古泉一樹も後ろに乗せた記憶があるが、あの3日間以外は創られた記憶なわけで……結構凹む事実だ。 そりゃあ俺は涼宮ハルヒの事は大好きだが……仲良くて、面倒で無ければいいか。 愛用の原チャリのキーを回し、黒いシートにまたがると、喜緑江美里は俺と背中合わせになるように、後方を向きながらシートに着座した。 「一度してみたかったんですよね。二人乗り」 「いや、あなたの二人乗りは間違ってます」 ボケてツッコミ待ちか?それとも本気で知らないのか。 「え?こうやって一人が運転に集中し、もう一人が背後からの赤コウラの襲撃に対処するのが一般的な二人乗りではないのですか?」 「マリオカートは64が一番面白かったですね」 ミニターボ覚えるのには苦労したな。 この人なら、例えトゲゾーやスター状態のクッパがタックルしてこようが、周囲にバリアを展開してメガフレアすらも回避するだろう。つまりどんな荒い運転をしても大丈夫と言う意味だ。 「数あるキャラクタ物のレースゲームが出回りましたが、勝ち残ったのはマリオカートだけでしたね」 「Nintendoですから。それではサンダーに気をつけて発進しまーす」 取り合えず、家に帰ったらマリオカート64でも発掘してみるか。久しぶりにクッパで爆走してぇ。 「なぜかしら。綺麗な部屋の隅に置かれたゴミ箱って、あまり汚いって印象を受けないのよね」 ゴミはゴミなのに。と、言葉を繋げて、涼宮ハルヒは目の前の堅焼きそばを啜った。 この女は。正午過ぎのランチタイムだと言うのに、食堂で同席相手にゴミについて話を振りやがって。 丁度よくクリームコロッケ定食を咀嚼していたので、俺は答えられないことを示しながら聞き流した。 「本当、慣れって怖いわね」 今は一杯のオレンジジュースが怖い。と言う見え見えのツンデレ旦那みたいな事を考えながら、浄水器から汲み上げた冷水を流し込んだ。 「……はぁ」 チラリと俺の顔を一瞥して、涼宮ハルヒはため息と共に、堅焼きそばを食す動作に戻る。 三学期になり、俺の昼休みが劇的に変化した。良いのか悪いのかは分からんが。 端的に言えば、一緒に飯を食う相手が増えた。そう涼宮ハルヒである。 二週間くらい前だったかな。お互いに学食派だった俺達は、三学期初めの通常授業後の昼休みに、学食で顔を合わせた。 その日は学期初めだったからか、学食では、戦後の食糧危機で配給を待つ難民達がひしめく様に、生徒で溢れかえっていた。 床食いを覚悟していた俺であったが、上手く幸運が重なったからか、二人がけの小さなテーブル席を確保できた。 そこに現れたのが涼宮ハルヒだった。 目障りだから床で食え。お前が食え。というお互いが譲り合いの交渉を続けること数分、涼宮ハルヒは渋々と、空席に腰を下ろした。 そんなことが数日くらい続くと、なんか無視しあって別々の席に座るのもガキ臭いと感じたらしく、それからはどちらが言うまでも無く、同じテーブル席を使用している。 最初こそ殆ど話しもせずに黙々と昼飯を咀嚼していたが、俺も彼女も騒ぐのが好きな人間である以上、いつの間にかお互いの愚痴等を肴に食事をしていた。 「安心してくれハル。お前の皮肉はちゃんと伝わっている。俺が気にしていないだけだ」 「そっちの方が質悪いわよ」 こう言う下らない会話が、心地よい。 そう。改変世界では、あっちの俺達も、こうやっていた事を思い出すからだ。 作り物の記憶でも、手軽に切り離せそうにない。その必要も無いが。 「ふっ、ならば仕方無い。俺はここを退散してやる。もう二度と帰ってこないからな。今更止めても遅いぞ」 「うん、わかった。諦める」 「なんでこんな時に限って素直なんだよ!そこはホラ!?ツンデレで返してくれよ!ちょっと期待してた俺が、死ぬほどかっこ悪いじゃねーか!」 危なく食器落としかけたわ!まだクリームコロッケ半分以上残ってるんだ。ツンデレにツンデレられないほど悲しい展開はねーよ! 「ツンデレって、好きな相手じゃなきゃデレるわけないじゃない」 「そーですね」 「なに、あんたまさか自分でハーレム系漫画の主人公補正が宿ってるとでも思ってるの?うわ、痛い。痛い奴」 「そーですね」 「……もしかしなくても、あんたあたしの話聞いてないでしょ」 「そーですね」 「テレフォンショッキングにでも出……られるわけないか。友達いないし。ギネス記録を止めるだけね」 「そーですね……つーか、あれって本当に友達なのかな」 「んなわけないでしょ。仕事でしょ。し・ご・と」 うん。そんなことは大体の視聴者が重々気が付いてるだろ。多分。 「やれやれね。……はい、もしもし……はい、わかりました。いいともー!」 「呼ばれた!?テレフォンショッキングに呼ばれた!?」 「と言うわけで、あたし明日学校休むから。ついにSOS団のTVデヴューよ!」 誰に呼ばれたんだ。そして誰に回すんだ。スッゲー気になる。 「大体、あんたツンデレ萌え?あんなのリアルでいたら、ただのコミュニケーション能力の低下したバカよ。いないいない。夢見てんじゃないわよ」 まるで自分の事のように語るな。ツッコミ待ちか? 「そーですね」 「そーですね。言っとくけど、あたしは別にツンデレなんかじゃないんだからね!」 うん、それだけでお腹一杯です。本当にありがとうございました。 心もお腹も満たしたが、俺の気分は、昨日のことが影響し、一向に晴れなかった。 こんな時、金髪時代の俺なら、煙草に火をつけて気分が晴れるまで紫煙に溺れていた。 しかし今の俺はオイルライターは持っていても、煙草は持っていない。よって屋上に流れる一月半ばの寒風を肺に流し込むことしかできない。 「はぁ、こんなんで禁煙完遂できるのかよ」 まだまだ一ヵ月目なのに、もう身体は煙を欲しかけてる。四年近く吸っていたから、何年我慢すれば気にならなくなるんだ? ランチタイムを終え、腹ごなしと気分転換を兼ねて屋上へとあしを向けた。 「ん、携帯が」 屋上直前の階段室に差し掛かった瞬間、ブレザーの裏に忍ばせた携帯電話が小刻みに振動した。 一体誰からだ?俺の番号を知ってる奴なんて、母親と、(改変世界の)涼宮ハルヒと古泉一樹くらいだ。……実質母親だけだが。 淡く光るディスプレイに映し出された番号には、当然のことながら見覚えは無い。 無視しようか応答しようかしばらく考えていたが、携帯の振動回数が三十を超えたあたりで通話ボタンを押してみた。 「良かった。やっと出てくれる決心がついたみたいですね」 意外にも、スピーカーから漏れ聞く声は女性だった。それも声だけで判断するならば、かなりの美人だ。 「西野君ですよね?初めまして、あ」 「違います」 出るべきでは無かった。そんな直感が働き、無駄の無い高速の所作で電話を切った。 だが、電話越しの相手はそれを許さず、数秒後に再度ダイヤルしてきた。 「いきなり切るなんて酷いじゃないですか。あなたは女性には優しいと聞きましたが?」 「俺は誰にだって優しく真摯な態度をとりますよ。俺が敵意を剥き出しにするのは、いつだって外道だけです」 「それは相手が女性でもですか?」 否定はしないのか。 「外道は外道。男も女も大人も子供も関係ありません」 「ふふ、なら私も気をつけないとなりませんね」 電話の相手は、色艶良く微笑むと、呼吸を正して言葉を続けた。 「今から話す私の言葉、信じてくれますか?」 「見ず知らずの女からかかってきた電話の内容を信用しろですか。冗談じゃない。振り込め詐欺だって、もう少し紳士的ですよ」 「私はあなたのことを知ってますよ?」 「どこの誰で、何の用だ。俺の不服を買う前に答えろ」 もう勘弁してくれ。なんだこの電波で送られた電波なコミュニケーションは。 「ごめんなさい。今はどこの誰かは言えません。ただ、今から私のお願いを聞いていただければ、その質問には答えられます」 「実はこのまま間違い電話として処理したいくらいなんでね。よって、あなたのお願いとやらは聞けない。さようなら」 「待ってください!私、あなたにお願いをしなければならないんです!聞いてくれないと泣きます!?20代の女性とは思えないくらいに無様にわめき散らしますよ!」 それ、お願いじゃなくて命令だよな。俺に対しても、彼女に対しても。 「それはそそる物があるな。ぜひ見てみたい。が、電話では声しか送ることができないのが悔やまれる。さようなら」 「ううう……キョンくんならこのやり方で聞いてくれるのに……やっぱりあなたには通じませんね……はぁ、どうしよう」 泣き落としを使うなら、心がもっと綺麗で、あとついでに十代の童貞少年に使えよ。俺は十代の童貞少年だが、心は真っ黒だから。泣き落としなんか効くわけが、 「……今、キョンって言った?」 この女、キョンと知り合いなのか? 「あんた、SOS団の関係者か?」 「あ!やっぱり私のお願い聞いてくれる気になりましたか!?良かった、これで上司に叱られないですみます」 電話越しだが、明らかに彼女は声を輝かせて、はしゃいでいるのがわかる。 「聞くだけ聞いてやる。で、何の用だ?」 「電話ではちょっと伝わりづらい所があるので、学校を出て来てもらえますか?あ、大丈夫ですよ。あなたが懸念している朝倉さんは動かないはずです」 「何でそんなことがわかるんだよ」 「それが既定事項です」 「……わかった。どこに行けばいい?」 電話越しの彼女は、指定の場所と時間を言ってから電話を切った。今日は帰りが遅くなりそうだ。 くそ、家族の団欒を大切にしたいが、俺のダチと俺の住む世界を守るためだと思うことにしよう。 電話の女が指定してきた場所まで原チャリを走り出させ、エンジンを落としてハンドルロックをかけた頃には、陽は落ち始めていた。 レストラン。それも、全国チェーン展開を完成させた、どこにでもある有名なファミレスだった。 同い年くらいでバイト中のウェイトレスに、一人である旨を伝えると、カウンター席の最端まで案内された。着席。 一体何なんだか。とりあえず晩飯代わりにおろしハンバーグとオレンジジュースでも頼んでおくか。 先程のウェイトレスが通りかかったため、メニューを注文しようと呼びかけた瞬間、制服のポケットに忍ばせた携帯電話が、昔懐かしな黒電話風の着信音を奏でた。 「良かった。ちゃんと来てくれたんですね」 「……おあずけにされる犬の気持ちでも味合わせるためにレストランに呼び出したのか?味だけに美味くねーぞ」 「……?味だけに?あの、言ってる意味がよく……」 「いや、なんでもない。わかんなきゃいい」 どうせわかんないだろうとは思っていただけに、あまり真面目に捉えられても困る。 「当然あなたもこの店にいるんだよな?だったら顔ぐらい出したらどうだ?」 耳に携帯電話を当てながらも、視線だけで店内の客を見回した。ダメだ、電話中の女ってキーワードだけじゃ、誰か特定できるわけがない。 「いえ、私はそこにはいません」 当然のように不在を暴露した電話相手に、俺の苛立ちは更に募るばかりだ。 「呼び出しといてそこにいないなんてどういうつもりだ?マジで帰るぞ」 「ごめんなさい。でもこれが規定事項なんです。だから最後まで聞いていただけませんか?」 「勘弁してくれ。今から俺は晩飯を頼む。それを食べ終わるまでに顔を出さなければ、あんたとはこれっきりだ。二度と電話かけてくんな」 乱暴にケータイの電源を落とし、近くにいたウェイトレスにさっき頼もうとしたハンバーグとオレンジジュースを注文した。 うぷっ。早食いすぎて味が楽しめなかったか。だが、残りはオレンジジュースだけだ。 「あの……西野太陽さんですよね?」 一気飲みの最中、いきなり中学生くらいの男の子が声をかけてきたが、そんなことはファミレスじゃ良くあること。世界規模で見れば、毎日百万回ぐらいある出来事に決まっている。 「違います」 これでタイムアップ。あの電話はイタズラ電話と言うことにして、早速着信拒否に設定しておかなければ。 「あの……あなたにこれを渡せって言われたんですけど……」 「人の話を聞け。違うって言ったのが聞こえなかったのか?」 こっちは大して空いてもいない腹に、大急ぎで肉料理と果汁飲料をつめこんだから、軽く吐きそうなんだよ。話かけんな。 「ヒィ!ご、ごめんなさい!でも本当にあなたに渡せって言われて……」 ウンザリした気分で、その少年が握っていた封筒を奪い取って、乱雑に中身を開いた。 そこには綺麗な便箋が入っており、ただ一文、素っ気なく記されていた。 『ーーしばらくその子を預かってくださいーー ~親愛なる太陽さんへ~』 ……落ち着け俺、感情の赴くままに目の前の少年に拳を振るうな。それはただの八つ当たりでしかない。そんなことは理性的な人間のすることではないし、この日本において、忍耐は美徳という文化が浸透しているではないか。今ここで日本人の誇りを見せずに、いつ見せると言うのだ。 「あの……もしかして本当に人違いですか?だったらごめんなさい」 俺の思案顔が長すぎて怖すぎたからか、少年は顔中の血の気を失せさせたような顔で謝ってきた。 「……いや。残念なことに、キミの行動は当たってるさ」 本当に残念だ。 「良かったー。僕、これが始めての任務だから間違えたかと思って心配しました」 少年は瞳を少しだけ潤ませて、嬉しそうに笑った。一瞬でも八つ当たりを考えた俺を殺したくなったが、それは言わなければ伝わらないことである。 「……とりあえず色々聞きたいことがあるが、まずは名前を聞かせてくれ。キミの名前は?」 「あ、はい。僕は……」 「……です」 「は?」 少年は酸欠した金魚みたいに口をパクパクさせただけだった。 「聞き取り辛かったですか?僕は……あれ?なんで名前が出ないんだろう?」 ガクッと、四十肩を体験するかのようにテーブルにウナ垂れてしまったのを許して欲しい。 「……俺が知るかよ。ふざけてんのか?」 実際の所、そっちの方が嬉しいが。 「ヒィ!ち、違うんです!本当に名前が喋れないんです!」 「……下手なアイドルの口パクライブじゃないんだから、そんなことがあるわけねえだろ」 「……多分ですけど、禁則事項に設定されてるんだと思います。でも名前まで禁則に設定されるなんて聞いたことありません。なんでだろ……」 よくわからんが、どうやら本当に喋れないらしい。名前が言えませんなんて、そこらの迷子よりよっぽどタチ悪い。 「……勘弁してくれ」 「ごめんなさい……」 「わかった。呼び名なら俺が適当につけてやる。とりあえずしばらくはそいつで通してくれるか?」 「は、はい!よろしくお願いします!」 少年は年相応に素直な性格をしているのか、元気良く返事をしてくれた。しかし名前か。我ながら無茶なフリを振っちまった。そうだな……。 「…………藤原君」 「……へ?ふ、藤原ですか?なんか普通……いえ、ごめんなさい」 特にアドリブが思いつかなかったので、さっきオーダーを取ってくれたウェイトレスの苗字を使わせてもらった。本当にそれだけ。他意は無い。 「わかりました。それではこの時間平面では、僕のことは「藤原」と呼んでください!」 「はいはい。よろしく、藤原君」 「よろしくお願いします!」 少年、藤原君は嬉しそうに頭を下げた。藤原(仮)でも、自分の存在が確立できたら嬉しいもんなのかな。少し適当に考えすぎたから、ちょっとだけだが罪悪感を感じてるのだが……本人が気にいってるっぽいから良いか。 「ところで藤原君は、この封筒の中身は知らないよな?」 藤原に渡された便箋を、彼に見えるようにテーブルの上へ置いてあげた。 「はい。あなたに渡すまで内容は見るなと言われました」 そりゃそうだ。ウンザリするくらいに簡素な内容だが、これは彼らにとっては最重要書類だと思われる。それを一構成員である彼が盗み見ることは 有り得ない。第一、俺が封筒をビリビリに破くまで、傷一つ無かったわけだし。 「ホラ、手紙にはこんなことが書いてあるぞ」 藤原は中身を確認するや否や、小さな眼を瞬かせて、口を大きく開いていった。 「……な、なんですか、コレ?」 「俺に聞くな。俺がコレに関して感じたことを直接行動に現せば、間違いなくパトカーがやってくる」 改変世界じゃ、嫌と言うほど国家暴力の恐ろしさを感じたんだ。現行世界まで身に染みて理解なんかしたくない。 だからそんなことにはならないようにするから、怯えた羊みたいに身体を震わすな。何もしないよ。君には。 「あの……それでどうするのですか?」 「どうするもこうするも、このままガキ一人を見知らぬ時代に放り出すなんてマネはしねーよ。母親には適当言っといてやるから、家に来い」 藤原がマーティ・マクフライなら、俺がDr,エメット・ブラウンくらいにはなってやるよ。デロリアン作ってやれないが。 「よかったぁー。最優先強制コードだったから、あなたが僕を見捨てたら、僕は任務失敗になるとこ……あれ?なんで僕が未来の人間だって言うのがわかったのですか?まだ一言も」 「……いや、普通気付くから」 非日常に足突っ込んだ奴なら、ここまでの会話を聞けば誰だってな。 「藤原、お前はもう少し手の内を隠せるようになれ。そんなんじゃ口論には勝てないぜ?」 未来人ってのは、時間移動能力以外は普通の人間なんだろ?ケンカができないなら、暴力を論破できるくらいに口と頭脳で強くならんとな。 「そうなんですか……が、がんばります!」 頑張りすぎて嫌な奴になってほしくもないんだが……素直な性格してるし、そこん所は少し心配だな。 つーか俺はどこぞのお兄ちゃんだ。なんでこんな細かな心配しなきゃならんのだ。 「太陽さんのお母さんって、良い人ですね」 帰宅してから一時間後、藤原は子供らしい満面の笑みを浮かべていた。 「まぁな。いまだに俺の遺伝子の半分が母親だと信じられないからな」 母には「中学の後輩の両親が離婚したから、その弟を一時的に預かることになった」と苦しい言い訳をしたら、二つ返事で居候を許可してくれた。 まず間違いなく、母親は俺の言い訳を信じたわけではないだろう。 それでも、息子が嘘をついてでも、身元も不明な少年を連れて来たんだ。なにか裏にあるくらいは感じ取っているはずだ。 だから何も言わずに許容してくれた。 親にとって子供の嘘を見破ることなんてたやすい。だけど、子供の嘘を容認することは、簡単なことではないだろう。 だから俺はあの母が好きなのだ。マザコンだと揶揄されようが、産んでくれた母を嫌うより、はるかに素晴らしいことだ。 そんな母親に嘘をついたことに罪悪感は覚えているが、それはそれ。これはこれ。ゴメン! 「ふぅ、初めての長時間移動でしたので……ふわぁ……」 目から涙を零して、藤原は大きなあくびを繰り返している。 俺が藤原くらいだった頃は、まだまだ目が冴えていた時間帯だが、時差ボケみたいな物だろうか? 「ちょっと待ってろ、今布団を敷いてやるからな」 襖から客用布団を取り出し、畳の上へ広げると、今度はクローゼットへ。中学ん時のジャージがまだ残ってるはずだ。 「その格好じゃ寝苦しいだろ。俺のお下がりだが、こいつで我慢してくれ」 藤原がジャージに着替えている間に、俺も自分の着替えと布団を取り出し、藤原の布団の隣に敷くと、寝仕度を整えた。 「明日、学校終わったら、薬局にでも行って、お前の持ち物でも買いに行くぞ」 「そんな……おかまいなんかしなくても良いですよ」 「バーカ。ガキは年長者の脛をかじるもんだ」 掛け布団から頭だけ覗かせている藤原の髪を撫でて、電灯から垂れ下がっているスイッチを引っ張る。 「そんじゃな藤原。おやすみ」 「はい、おやすみなさい。太陽さん」 翌朝、隣の布団で寝息を立てていた藤原を起こし、朝食を堪能して学校へ向かった。 家に藤原を置いていくのは少しだけ不安だが、学校へ連れて行くわけにも行かない。適当に家事の手伝いをさせてやってくれと、母に伝えてあるので、自分で何とかしてもらおう。 いつも通り愛用の原チャリを北高から少し離れた駐輪場へ駐車した時だった。 駐輪場の中に、同じ北高制服を着た男子生徒が佇んでいる。 「これはこれは西野君。こんな所で会うなんて、奇遇ですね」 その男は古泉一樹だった。 古泉一樹は物腰柔らかな微笑を顔に貼りつけて、俺の側へと歩んで来た。 「奇遇ねぇ。どれぐらい待ったんだ?」 「ざっと一時間程」 「待ちすぎだ!つーかお前らだったら、俺が到着する時間くらい割り出せるだろうが!なんで一山いくらな芸人軍団の出るロケ番組みたくスタンバってるんだよ!」 律儀過ぎるわ!律儀過ぎてひいたわ!先ほど古泉一樹の笑顔を「貼りつけている」と表現したが、この寒空の中一時間も外に放り出されたら微笑も凍るわ!むしろ笑っていられるのがスゲーよ!すまん!なんか悪かった! 「ふふふ、その言葉。やはりあなたは「関係者」でしたか」 「まぁ、ご覧の通りな。お前も、俺に話があるんだろ?」 「ええ、一緒に登校しながらでよろしければ、道すがらお話しします」 「構わねーさ。むしろ遅すぎだと思ってたくらいさ」 「どこまでご存知ですか?」 通学路中に設置されている自販機からホットコーヒーを買い、古泉一樹に手渡したあたりで、古泉一樹は言葉を発した。 「キョンが知るくらいか、それ以下だ。基本、お前のとこの文芸部員から又聞きした程度しか知らない」 実際に経験したことなんて、あの改変世界での出来事くらいだ。 「そうですか。それは良かった。僕も妙な探りを入れずに、ありのままに質問できます」 「尋問だろ」 「ご自由に」 勘弁してくれ。なんで同級生、しかも一度は友人関係を築いた奴に尋問されなきゃならん。 「まずは、僕の第一印象から聞かせていただけますか?」 勘弁してくれ。なんで同級生、それも一度は友人関係を築いた奴に、合コンみたいな質問をされなきゃならん、しかも同性。 「97%の胡散臭さに加え、2%の気持ち悪さと、1%の水分で形成された変態」 「せめて超能力者を要素に入れてください」 「だって見たことないし。証拠も無いのに超能力者って決めつけたら、悪いだろ?」 「あなたの暴言の方が、よっぽど悪いと思うのは、気のせいでしょうか」 まあ、そこら辺は俺流のシャレだ。 「苦労人……だな。その上、ストレスも貯めやすい生粋の中間管理職って所か」 苦労してるんだろうね。表向きには真面目な秀才で、涼宮ハルヒにも信頼され、彼女の思いつきを実現させる。だが、裏では昼夜問わず世界のために尽力する。 「良くやるよ。俺みたいなヘタれでビビりなチキンには到底真似できない、正真正銘のヒーローだ。報われる報われないは別にしてな」 古泉一樹は涼宮ハルヒに選ばれたヒーローであり、涼宮ハルヒに翻弄される被害者でもある。 神も悪魔も同一な存在……まるで神話みたいな存在だな。あいつは。 「あまり興味無いフリをしながらも、あなたは見てますね。この世界と、涼宮さんを」 「ハルを見てれば、勝手にわかるさ」 それが望ましいとは思えんが。 「あの女こそ世界その物みたいに思いたくないね。涼宮ハルヒはそんな大層な存在なわけがない。どこにでもいる、普通の女だ」 涼宮ハルヒは知らないんだろうね。普通が一番大変で、一番厄介で、一番面白いことにさ。 「……あなたと言う方は。どこまでも涼宮さんが好きなんですね」 「当たり前だろ?あいつ、すげぇおもしれーし」 涼宮ハルヒは毎日毎日面白いことを探してるが、多分、あいつには永遠に見つけられない。だってあいつより面白いことなんて、存在するわけないだろ? 「俺はさ、ハルには普通になって欲しいのよ。普通の事で喜んで、普通の事で怒って、普通の事で哀しんで、普通の事で楽しめるような、普通の人間。それが一番面白い涼宮ハルヒだからさ」 そして、それができるのは俺じゃない。涼宮ハルヒが普通に好きなキョンだ。 「もし、この話を涼宮さんが聞いていたら、閉鎖空間じゃ済みませんね」 「ヒーロー参上じゃないか。カッコイイカッコイイ」 そうやって、この世界を守ってくれ。 「守りますよ。それが僕の使命ですから」 「使命に指名されて、死命を賭して戦うか。立派だね」 わざと蚊が囁くような声量で言ったため、この言葉が古泉一樹に届いたかどうかはわからない。 でもな古泉一樹、お前の信じる意思は、本当に善良な存在なのか?力に善意も悪意も無い。使う存在が、初めて力を善か悪か決める。 俺が懸念しているのは、そこなんだよ。涼宮ハルヒの思想が破壊に傾いた時、お前はそれでも世界を守るなんてことが言えるのか? 「お前の意思は無いのかよ。古泉、お前はどうしたいんだ?」 「……どうかされましたか?」 「言葉通りの意味さ。お前の望みは何だ?何がしたい」 「決まっているでしょう。この世界を守ることです」 さも当たり前のように言ってのけたが、違うんだ。そうじゃないんだ古泉一樹。 「危険だぜ古泉。闘う理由を盲信してたらヒーローじゃない。ただのヒーローごっこだ」 使命だから闘う、守る。じゃない。 「闘う理由も守る理由も人のせいにして欲しくない。それだけだ」 もうすぐ北高が視界に入ってくる。古泉一樹も口を止めたし、ここでタイムアップだろう。 「ただいまっと。お母さん、帰って来たぞー」 「あら、おかえり」 台所から母の伸びやかな声が届いてくる。晩飯の支度をしているようだ。鞄と制服を片付け、母のいる台所を覗いた。 「あ、太陽さん。おかえりなさい」 「……藤原君、なにしてんの?」 台所は里芋の煮っ転がしを作る母。それは和食メインの我が食卓にて、何ら不思議の無い光景である。唯一の違和はそこではない。 母の隣で藤原は、なぜか当たり前のように味噌汁を作っていた。 「藤原君かい?どこのお子さんか知らないけど、中々できた良い子ね」 「そんなことないですよ。お母さんが家事をやっているのに、僕だけ怠けるなんてできませんから」 健気な事を言う。本当に良くできた少年である。これから藤原と言う漢字には「健気(けなげ)」と振り仮名を振ってあげよう。……が、お前、未来から派遣されたエージェントだったよな。家庭的過ぎるわ。そのファンシーなエプロン、どっから持ってきた。間違っても俺の物でも無ければ、母の物でも無い。 「お母さん、悪いが藤原君と街まで出かけて来るわ」 未来人も常日ごろからファンタジーチックな生活をしていないなんてのは当然だが、あまり夢を壊すような光景を直視もしたくないわけで。 あの青い猫型ロボだって、毎日毎日未来的な道具を使ってるわけが無いが、必要の無い描写は、省いていただきたい。 「……そう、晩飯までには帰って来なさいよ」 そうしたいさ。なんだかんだで、家庭の味が一番美味いし。 光陽園駅の駅ビルに到着する頃には、夕日も落ち掛けていた。 原チャリを敷地内にに設置されている駐輪場に止めた。……よし、超能力者が一時間も前からスタンバイしてるなんてことは無さそうだ。 「まずは生活必需品だな。薬局は……あぁ、こっちだ」 案内表示の看板にそって、館内を興味深げに眼を輝かせている藤原の手を引いて案内する。 「つっても、思ったほど量が無かったな」 購入した物は、歯ブラシに着替え用の衣類くらいであり、原チャリの小さいトランクに収まる程しか無かった。 藤原に「別に高い物じゃないんだから、遠慮とかいらんぞ」と聞いてみたが、藤原は「本当に良いんですよ。必要な物だけで」と返すだけだった。 物欲が薄い、ストイックな奴である低燃費で、周りの人間の迷惑をかけようとしない、まるで携帯電話のマナーモードだ。 「そんじゃ藤原、そろそろ帰るべ」 「はい、お母さんが待ってますからね」 いつもとは違う、藤原が参加した家族の団らん風景を思い浮かべ、似合わない穏やかな笑いを作った時だ。 「……は、はい!こちら……です」 隣を歩く藤原が、いきなり耳に手を当てて何か話し始めた。 「はい、はい。わかりました。すぐ移動します」 「藤原どうかしたか?」 なんだ、その無駄に上手い携帯電話のパントマイムは? 「すいません太陽さん。僕の所属する組織から、任務がダウンロードされました」 「どんな任務だ?」 「えーとですね……光陽園駅内にある開発中の区画に侵入す……良かった、禁則では無かったようです」 侵入って。それは枕言葉として「不法」と言う二文字が前につかないよな? 「それは……」 「なぜ眼を逸らす藤原」 「……あぁ!は、早く行かないと!先行ってますね!」 「藤原ぁ!」 良くできた良い子、撤回。やっぱり少しは悪い子だった。いや、俺に比べたら可愛いもんだけど。 光陽園駅駅ビル開発中区画。昨今の都市開発ブームの煽りを受け、数年前から光陽園駅は細かく内部を改築し続けていた。 だが、その分店舗の入れ替わりも激しく、廃れた店はすぐに壊され、また新しい店が参入する。そしてその店もまた……の繰り返しだ。 そんなハイスピードな開発を続けて行くうちに、駅ビル内の一部には工事用に機材等を常備される区画が出来るようになり、いつしか「開発地区」と呼ばれるようになった。 「ふぅ、表とは全然違って、埃っぽいな。藤原、こけんなよ」 「大丈夫で……ぐぎゃっ!」 言った側から何をやってるんだか。 「おいおい、大丈夫かよ」 「いたたたた、太陽さんも気をつけて下さいね」 「お前と一緒にす……ぶるぁ!」 こけた藤原を起こそうと腕を掴んだ瞬間、今度は俺が足を滑らせた。情けねえー。 「いってぇー!なんだこの紙くず」 足元には、すべすべと手触りの良い白い紙が敷かれており、確かに足を滑らせやすい。 「ゴホゴホっ!藤原、もう帰ろうぜ?埃だらけで喉が痛くなりそうだ」 「ならここで待ってて下さい。僕だけで良いですから」 「それこそできるか。勘弁してくれよ」 一人で歩かせるなんて薄情な真似をするかよ。帰らないなら、着いてくさ。 「こっちの方だと思うのですが……あ、あそこの部屋です!」 藤原が指し示す先の扉には、どこかで聞いたようなインテリア会社のプレートがついていた。 「すいませーん……あれ?誰もいませんね」 「本当に、ここなのかよ。藤原」 「おかしいですね……ここにいる女性に逢うはずなんですが……」 逢えと言われても、この部屋の中には展示用のバスタブとかトイレとか、 あとは鍵つきのクローゼットくらいしか……。 「……なんだこの水溜まり?」 何げなく眼を向けたクローゼットの隙間から、わずかに水が漏れ、床の方にまで垂れ落ちている。 「中身の材木が腐って、水分でも漏れたか?」 施錠してある鍵は、俺ならこじ開けられそうだ。 「うるぁ!」 取っ手のすぐ下めがけて、裏拳を叩き込み、手が通りそうなくらいの小さな穴を開けた。 「……ん?誰かいるぞ」 手を突っ込んだ指先に、制服に使われそうな固めの生地が触れる。 その奥に、確かな人肌の感触も感じられる。ちょっと待て。まさか、この水溜りは……。 握力だけで鍵を覆っている金属部品を引き剥がし、クローゼットを全開にする。 「…………」 ガムテープで覆われいる口。 オモチャの手錠で封じられている、背中に回された手。 自身の尿で汚された市外の有名進学校の女子制服。 クローゼットをこじ開けた俺に、涙を流しながらも無言の圧力をかけ続ける女子高生が、そこにいた。 第二章へ続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2306.html
「弱りましたねぇ・・・まさか僕たちの学校の生徒が被害を受けるとは」 本当に僕は弱っていた。この頃、閉鎖空間が一気に発生したのだ。 おそらく何かされてイライラというよりも不安定な状況におけるストレスが原因で。 その不安定な状況と言うのは最近起きたある事件がきっかけで発生している。 涼宮さんのクラスメイトが二名殺されたという連続通り魔殺人事件。 吸血鬼の仕業と囁かれるその事件の被害の手が学校まで伸びたという恐怖か不安からか涼宮さんは不安定になってしまったらしい。 機関総動員でテレビ局に掛け合うべきだったと今更後悔している。 「涼宮ハルヒは現状では不安定。ただ、今は彼と接触して幾分かは正常化している模様」 「どうしたら良いんでしょうかねぇ・・・。機関内部も相当混乱してますから。お二人は何か?」 「禁則事項には触れないので言うんですけど、これは規定事項には無い事なんです。時間の中のバグなんです。だから未来でも混乱が起きちゃって」 「情報統合思念体も未知の現状に対して困惑している」 つまり、頼れる所はどこにも無いという事に成ってしまうわけですか。ん~。 「現状は難しいですね。涼宮さんは・・・彼に任せるしかないでしょうね」 「大切なのはそのキョンくんをどうするかですね。護衛をするとしたら古泉くんか長門さんに頼むしかないですね」 「そこらへんは大丈夫だと思いますが、相手がどんな存在なのか掴めてないですからね・・・申請した際に機関がどう動くか」 部屋が沈黙に満たされる。 ぐぅ~~~。 「・・・とりあえず、カレー食べる?」 「「はい、いただきます」」 とりあえずご飯を食べてから対処を考えるとしましょう。 「「「いただきます」」」 ・・・しかし、僕らは本当にゆっくりですね。あ、このカレー前より美味しい。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5086.html
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5084.html
https://w.atwiki.jp/niconicomugenjintori/pages/269.html
涼宮ハルヒ朝倉涼子竜宮レナ前原圭一ソンソンバージル
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1493.html
「・・・ん?」 俺は目が覚めた。正確には、覚めざるを得ない状況にあったと言っても過言ではない。 何せ、凄くくすぐったい柔らかい風と、冷たい何かが俺の手に触れていたのだから。 うっすらと目を開ける。 「・・・朝倉、か」 俺は上半身を起こす。変なだるさが体に残っていた。 ぽとりと、俺の額から体温と同じにまで温まった濡れたタオルが落っこちた。 「看病してて、くれてたのか・・・」 時間が気になって時計を見る。なんてことだ。最後に見た時より一時間逆行している。 だが、それはカレンダーを見た瞬間に違うとすぐにわかった。 朝倉は律儀に過ぎ去った日には×印を書いている。 そこから解ること。今日は、あれから二日も経過していた。 「・・・二日も、寝てたのか・・・」 しかし、何が為にそんなに寝ていたのか解らない。 疲れるような事をしたのか。ただ、ぼけてるだけなのか。 何があったのかよく考える。そして、思い出した。 自分が、インターフェースを虐殺した事を。 「・・・っ!?」 途端に、吐き気がした。あの映像がフラッシュバックする。 気持ちが悪すぎた。 だが、朝倉にゲロ掛ける訳にもいかない。 吐き気を必死に堪えて、思わず噎せ返る。咳き込む度に、頭に響く。 「く・・・!!」 「んぅ・・・あ、きょ、キョンくん!?」 そこで、朝倉が起きた。苦しそうな俺と、落ちた濡れタオル見て慌てているようだった。 「駄目だよ、寝てないと!」 そう言って寝かしつけてくると、タオルを拾い上げる。 「あ、タオルがあったかくなっちゃってる・・・早いなぁ」 思わず、衝撃を受けた。こいつは、あんな事をした俺に普通に接している。 いつもどおりの笑顔を向けてくる。まるで無かった事かのように。 俺が、目の前でインターフェースを分解した事を。 「朝倉。どうして笑顔で俺に接していられるんだ・・・?」 「ん~じゃあ、逆に訊くよ。どうしてだと思う?」 「・・・さぁな。検討もつかない」 だがいつだって、人っていうのはそういう生き物だった。 個人に絶大な力があれば慄き、よってたかって迫害するのだ。 異端者として違法な裁判で殺された、オルレアンの乙女のように。 朝倉は俺の答えに何故か満足そうに微笑む。 「それで良いんだよ。そういう事なの」 「はぁ?」 「つまりね、私にはキョンくんを恐れる明確な理由がないの。それに、キョンくんはキョンくんだもん」 「そうか・・・。って・・・朝倉?」 俺は、朝倉にふんわりと唐突に抱きしめられた。 「それに・・・大好きな人だから。私、本当にキョンくんが大好きだから」 「朝倉・・・?」 思わず、動揺する。とても儚い表情をしていたからだ。 こんな朝倉、初めて見た。 「気付けば好きだった・・・貴方を殺そうとする前から・・・だから、辛かった・・・」 ふと俺の頬が濡れる。見ると、朝倉が泣いていた。 「・・・あの時は、ごめんなさい・・・」 か細く、震えた声での謝罪。俺は、微笑んでみる。 「気にするな、過ぎた事だろ」 「だけど・・・過去は消せないから・・・」 俺は、手を伸ばして朝倉の頭を撫でる。 「これから、償えば良い。俺は、生きてるんだから」 「どうしたら、償いになる?」 「俺の傍で、こうやって優しくしてくれたら、それで良いかな」 「・・・じゃあ、ずっと傍に居る」 俺を抱きしめる朝倉の体温が心地よい。 出来れば、しばらくこのままでありたい。そう願う。 少しして、朝倉が名残惜しそうに俺から離れた。 「病人さんとはいつまでも抱きついてられないからね。あ、タオル変えないと・・・忘れてた」 そう言って、まだ濡れてる目を細めてにっこり笑う。俺もつられて頬が緩む。 朝倉はタオルを洗面器に浸してしぼると、再び俺の頭に置いた。 ひんやりとした感覚が頭を冴えさせる。そして、ぞくりとした。 タオルの寒さに。それもある。ただ、俺がぞくりとしたのはそんな事じゃない。 頭が、冴えすぎているという事だ。いや、そんな言葉よりももっと凄い。 感じたことも無いような空気。感じたこともないような音。 まるで、別世界に居るかのようだった。 「おかゆ、取ってくるね」 突然声を掛けられて、取り乱しそうになる。それを抑えて平静を取り繕う。 「ん?あぁ、解った」 朝倉が部屋を出て行く。・・・見えても無いのに、感覚的にどこに居るかつかめてしまう。 これは、異常だ。もしかしたら、ハルヒ絡みなのだろうか。 いや、それしか考えられない。俺は、普通の人間のはずだから。 「いったい・・・なんなんだ」 更に違う感触も芽生えているのに、ふと気付く。まるで、胸の中を何かがグルグルするような感じ。 それは血に乗って全身を駆け巡っている。 近くにあった針を取って、指に刺してみた。 ちくりとして、血がわずかに出る。それをティッシュでふき取る。 しかし、これと言って何も起きなかった。もしかしたら、俺の思い過ごしかもしれない。 「これで燃えたらびっくりだったのに・・・呪文はファイヤーってところか」 すると、俺の血は突如炎上し、ティッシュを焦がした。 「・・・・・・ははは・・・な、なんなんだよ、今の・・・」 夢であってくれ。夢で。 だが、そんな願いは細い緒で繋がっただけの橋のようでしかなかった。 俺は、思い出した。さっき、ちくりと痛んだことを。 夢じゃない。あっという間に望みは絶たれた。 「ほ、本当にどうしたんだ・・・俺は」 携帯を手にとって、頼りになる奴らに電話をしようとした。 そこで、気付く。 古泉達からの連絡が来ていない。二日間も寝ていたのに、着信も、メールも。 いや、谷口とかからは来ている。一通も無いわけじゃない。 ただ、あいつらから連絡が無い。ということは、どういうことだ。 観測できるような事は起きてないというのか。 「・・・くそ・・・」 そこで、がちゃりと扉が開いて、我に返る。 「キョンくん、おかゆ持ってきたよ」 朝倉が凄く良い笑顔をして土鍋を持ってきた。ほかほかと湯気が立っている。 「はい、あーんして」 「は!?それは恥ずかしい。自分で食べるから置いといてくれ」 「だぁめッ。キョンくんは病人なんだから」 「いや、その持論はおかしい」 「・・・じゃあ、私が自分で食べる」 朝倉は小さく口を開けて、スプーンを自分の口へと向ける。 しかし、ふりだけでどうせ食べないんだろと、予想していたから止めなかった。 そんな俺の目の前で、本当に朝倉は口に入れた。 「おい、本当に食べ・・・」 朝倉はそっと俺の頭を掴むと、顔を近づけてきた。そして、 ・・・ごくっ。 「・・・これは、どう?」 朝倉が真っ赤な顔を下に向けて聞いてくる。今、こいつがやったのは口移しだ。 恥ずかしかったのだろう。俯いたまま顔を上げない。恥ずかしいなら最初からやらなければいいのに。 だが、嬉しくないわけでもない。 「・・・悪くないと俺は思う」 結局、俺は全部口移しをしてもらった。普通に食べさせてくれと頼んだのに。 ・・・まぁ、悪くは無いから、別に良いんだけどな。 第三話へ
https://w.atwiki.jp/sos_aisare/pages/45.html
一周年記念選手権 次回の18回選手権は特別形式による一周年記念選手権となります。 以下公式BBSより抜粋 ◆AiSARE一周年記念選手権の概要 形式:勝ち上がり戦(シード枠については17回の結果を用いる) 開催期間は8月中旬~9月まで 詳細は こちら 1回戦は 8/23 20 00-23 00 8/24 14 00-17 00 SOS団からは朝倉涼子・鶴屋さん・朝比奈みくるが出場しました。 1回戦結果は こちら 2回戦は 9/6 19 00-23 00 9/7 12 00-16 00 SOS団からは涼宮ハルヒ・キョン・朝倉涼子・朝比奈みくるが出場しました。 2回戦結果は こちら 3回戦は 9/14 11 00-23 00 SOS団からは長門有希・古泉一樹・涼宮ハルヒが出場しました。 3回戦暫定結果は こちら ※暫定結果につき確定ではありません 決勝戦は 9/20 11 00-23 00 9/21 0 00-12 00 出場キャラは未定です。 2021-12-08 03 32 14 (Wed) 訪問者合計: - 人 今日の訪問者: - 人 昨日の訪問者: - 人 wikiについて まずはこちら @wikiの基本操作 用途別のオススメ機能紹介 @wikiの設定/管理 分からないことは? @wiki ご利用ガイド よくある質問 無料で会員登録できるSNS内の@wiki助け合いコミュニティ @wiki更新情報 @wikiへお問い合わせ 等をご活用ください その他にもいろいろな機能満載!! @wikiプラグイン @wiki便利ツール @wiki構文 @wikiプラグイン一覧