約 30,346 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3363.html
1.下衆谷口保守編~うとんじられてホーリーナイト~ 2.下衆谷口保守 ~尻○行燈~ 3.下衆谷口保守 ~モモンガハンター~ 4.下衆谷口 ~下衆ミステリー 出題編~ 5.下衆谷口 ~下衆ミステリー 解答編~ 6.下衆谷口のなくころに ~尻隠し編~ 7.下衆谷口のなくころに ~股流し編~ 8.下衆谷口のなくころに ~触りごこち編~ 9.下衆谷口のなくころに ~かつおぶし編~ 10.下衆谷口のなくころに ~猫かぶり編~ 11.下衆谷口のなくころに ~おめかし編~ 12.下衆アドベンチャーTANIGUTI 13.下衆谷口のなくころに ~踏潰し編~ 14.古泉一樹の計画 15.古泉一樹の計画2 16.SOS団の被害妄想 17.空気の読める国木田 18.下衆谷口の聖夜 19.下衆谷口の聖夜2 20.下衆谷口の聖夜3 21.下衆谷口の聖夜~その後~ 22.下衆谷口の約束 23.ゾクゾクする谷口 24.下衆谷口vs朝倉涼子~前哨戦~ 25.下衆谷口vs朝倉涼子~大激突~ 最終話.【さよならは】下衆谷口の未来【言わないぜ】
https://w.atwiki.jp/terachaosrowa/pages/981.html
「ぬるぽ」 その言葉を聴いた瞬間ガッ!は走る。その言葉を発した者へ向かって そしてその者の頭にハンマーを振り下ろす。「ガッ!」というすがすがしい音が響くはずだった… パァニ・・・! 代わりに別の音が響きガッ!の意識は真っ暗になった。 「こんなヤローガッ!しちまえってことは自分がガッ!されても構わないってことだ・・・!」 ガッ!を撃ったのはアカギだった。いきなりハンマーを持った奴が襲ってきたのだから撃つのは当然である。 そしてアカギは近くに潜んでいたもう一つの気配に気付く 「ククク…!なるほど…アンタにとって俺はマスターというわけか…早く出てくればいいのに・・・」 その人物はあの朝倉…そう朝倉涼子だった・・・! 「この男が私のマスターなら私の目的達成も近いわね。フフフ…」 【一日目・正午/栃木県】 【赤木しげる@アカギ】(マスター) [令呪]倍プッシュだ・・・! [状態]かなり運がある [装備]拳銃 [思考]聖杯戦争を潰す 【朝倉涼子@ハルヒシリーズ】 [宝具]情報操作 [状態]健康 [装備]北高制服 [思考]長門と結婚したい 【ガッ@2ch死亡確認】
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3227.html
1.下衆谷口保守編~うとんじられてホーリーナイト~ 2.下衆谷口保守 ~尻○行燈~ 3.下衆谷口保守 ~モモンガハンター~ 4.下衆谷口 ~下衆ミステリー 出題編~ 5.下衆谷口 ~下衆ミステリー 解答編~ 6.下衆谷口のなくころに ~尻隠し編~ 7.下衆谷口のなくころに ~股流し編~ 8.下衆谷口のなくころに ~触りごこち編~ 9.下衆谷口のなくころに ~かつおぶし編~ 10.下衆谷口のなくころに ~猫かぶり編~ 11.下衆谷口のなくころに ~おめかし編~ 12.下衆アドベンチャーTANIGUTI 13.下衆谷口のなくころに ~踏潰し編~ 14.古泉一樹の計画 15.古泉一樹の計画2 16.SOS団の被害妄想 17.空気の読める国木田 18.下衆谷口の聖夜 19.下衆谷口の聖夜2 20.下衆谷口の聖夜3 21.下衆谷口の聖夜~その後~ 22.下衆谷口の約束 23.ゾクゾクする谷口 24.下衆谷口vs朝倉涼子~前哨戦~ 25.下衆谷口vs朝倉涼子~大激突~ 最終話.【さよならは】下衆谷口の未来【言わないぜ】
https://w.atwiki.jp/bamboo-couple/pages/93.html
605 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[age] 投稿日:2008/01/19(土) 21 04 50 ID PY700KMq コジローって痴漢冤罪に引っ掛かりそうw 606 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/01/19(土) 21 05 54 ID DzXc2wsw 605 基本電車に乗らん人なのにどこで痴漢と間違われるんですか 607 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/01/19(土) 21 08 17 ID ayhdSk2E コジローが覗きとかで捕まってもきりのんはすぐに冤罪だと気付きそうだ 盗撮だったら自分がかんでてフォローできんかもしれんが 608 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/01/19(土) 21 33 05 ID Xp3Xvj9P 606 まさかのインテグラ盗難 もちろん保険なんかかけてるわきゃねえので 貧乏が極貧くらいになったコジロー、この歳にしてチャリ通を余儀なくされる でも雨の日には先生と電車で鉢合わせる事が多くてきりのんはほっくほく そんな日に起こった事件です 609 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[age] 投稿日:2008/01/19(土) 21 40 09 ID BhY50bsv 605 コジロー車持ってて運が良かったなw 想像できるw jk「この人痴漢です!」 コジロー「え!?」 610 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/01/19(土) 21 47 09 ID IfEDV+qO 置換冤罪なんて女子高生の一言でなる… 606 プレイ中に 612 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/01/19(土) 21 51 12 ID 7GUaBfsQ 609 キリノ「せ、先生はあたしが毎日すっきりさせてるからそんなことしないよ!」 と助け舟なのかトドメなのかよく分からない嘘をつくきりのん 613 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[age] 投稿日:2008/01/19(土) 21 53 21 ID BhY50bsv コジローが痴漢冤罪に巻き込まれた際の各キャラの対応が気になるw タマ→あなた誰ですか?(無視) ミヤミヤ→いつかはやると(ry サヤ→うわぁ・・・私らの事も キリノ→先生信じてたのに ダン→溜まってたの? 先輩→お前とは絶好だ!お前なんかに負けたなんて恥ずかしい 中田→そこまで堕ちてたなんて・・・ 616 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/01/19(土) 22 08 55 ID gFXsX3d4 ああいうのって中学生とかくらいまでじゃないの たまたま居合わせたのでフォローするきりのん キリノ「ちょ、ちょっとぉ~この人、一応うちの先生なんだけど?」 コジロー「き、キリノぉ~~」 jkその1「ん?誰アンタ?…てゆーか関係ないし」 jkその2「いちいち首突っ込まないでよオバサン」 キリノ「お、オバ(怒 …ふぅ。いいかいあんた達ちょっとお聞きよ」 jkその1「だから、いいし別に」 jkその2「お金くれたら許してあげるよ、100万くらい」 キリノ「そう、お金!…あんた達、割り箸に醤油つけて食べた事ある?」 jkその1「ハァ?きもいし」 jkその2「何コイツ、うぜー、行こ?」 (がしっ) キリノ「まぁまぁお待ちでないかい?」 jkその1「うげっ、手ーのびた!?」 jkその2「ちょ、離してって!」 キリノ「いい、この人はねぇ…お金なくてね…ビンボでねぇ… 生徒にはたかるわ 弁当持って来ないといじけるわ たまに景気悪くて中身に手抜いたらこれまたいじけるわ」 コジロー「あ、あのー、キリノさん?」 キリノ「しまいにはこないだなんか竹刀を割って食べようとしてたんだよ? わかる?竹刀ってあたしの背負ってるこれだよこれ? こんなもの人間の食べられる物じゃないでしょ? そんなハラペコ星人があんた達のお尻触る余裕なんてあると思う?」 jkその1「は、はい、無いっす」 jkその2「あたしらが悪かったっす」 キリノ「…いや!まだまだだね。 おまけにしょっちゅう『あの色の雑草って食っても平気かな』とか 『革靴って煮込めば牛皮に戻って食べられそうだよな』とか 聞かされる方の身にもなってだねぇ…」 コジロー「キリノ!」 キリノ「もぉ、なんすかコジロー先生、これからがいいとこなのに」 コジロー「もう…俺チカンでも何でもいいから、その位にしといてくれ…」 キリノ「はにゃ?」 617 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/01/19(土) 22 10 06 ID zFP0tVdS こんな電波受信した 自称被害者と鉄道警察に詰め寄るキリノ。 キ「コジロー先生が痴漢なんかしませんよー」 鉄「そんなこと言ってもこの子が確かに触ったって」 被「そうです、確かにこの人が触ったんです……ていうかあなた誰?」 キ「たまたま居合わせたこの人の保護者です!」 コ「いや待て、俺の方が保護者だろ、教師と生徒なんだし」 被「ちょっと聞きました!きっとこの子この男の彼女ですよ!だから必死にこの男をかばってるんですよ! 生徒に手を出すような教師だからふしだらなことを私にしたんです!!」 キ「いやいやいや、だからですねぇ、この枯れた人がそんなこと女の子にするわけないんですって。 だってあたしが部活終わったあとシャワー浴びてバスタオル一枚だった時もちらりとも見なかったんですよ」 鉄「……君は部活が終わったらいつもバスタオル一枚で出歩いてるのかね」 キ「あ、そんなはしたないこといつもしてるわけじゃないですよ! ただ、シャワー浴びてたらなんか携帯が鳴って、あたし一人だから大丈夫かな~と思ったら 先生がいつの間にかいてびっくりして」 コ「びっくりしたのはこっちのほうだっつうの。というかお前ああいう無防備な状況に 男が来たら普通に電話の受け答え続けたりせず逃げるなり隠れるなりしろよ!」 キ「そりゃ普通の男の人が来たらあたしだって隠れますよ~。 でもコジロー先生はそんなひどいこと絶対にしない人だってわかってますし。 事実先生ちらりともこっち見ませんでしたし」 コ「だからそういう危機感のなさが」 被「……もういいです」 コ「は?」 被「馬鹿馬鹿しくなってきました。もう帰ります」 けっ、と言葉を残すと自称被害者の女子高生は呆気にとられた3人を残し鉄道警察詰め所を後にする。 コ「じゃあ、その、俺も帰っていいんですかね?」 鉄「帰っていいんじゃないの?けっ」 キ「なんであの人たち最後ちょっとむかついた顔してたんですかね~」 コ「俺にもさっぱりわからん」 二人は同じように首をひねりながら鉄道警察詰め所を後にしましたとさ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5877.html
「おはようございます。こちらが昨日の夕方、凄惨な殺人事件が起きた現場です。一体、被害者に何が起きたのでしょうか」 TVカメラの前で、女性レポーターが機械的な代名詞で我が家を報道している。 その周囲には、朝だというのにかなりの人だかりができており、「お前ら他にやることないのか?」という気分になるのはなぜなんだろうね。 学校なり会社なり行けよ。もしくは自宅でTVでも見てろ。 本来なら人ゴミはそれほど苦手ではないが、今回ばかりはここの奴らへムカっ腹が立ってしょうがない。 本日の明け方、古泉一樹のクローゼットから剥ぎ取ったジャケットを羽織り、彼の家を出て行った。何て言ったって俺はプチ逃亡者だからな。これ以上長居はできない。 それに古泉一樹の家に入り浸ったとしても、母親を殺したクソ野朗を捕まえられるわけがない。自分の手で決着をつけないと気が済まねーんだよ。 殺人鬼の手がかりが見つかるかもしれず、虎穴にいらずんばな精神で自宅の様子を見に来た。危険は承知だ。 そしてこの人ゴミだ。 「勘弁してくれ」 そりゃ家に入れるとは思ってなかった。もう一度言おう。お前ら他にやることないのか? 「なお、被害者の一人息子である少年は現在も行方不明です。警察は少年を事件の重要参考人として、現在捜索中の様です。以上、現場からでした。スタジオにお返しします」 灯台下暗しって言葉を知ってるか?ま、知らないようだから助かっているんだが。 「……っち。まるっきりゼロから探すしかねーみたいだな」 小気味の良い舌打ちが放たれ、溜息が漏れた。 これ以上はまずいな。リポーターが俺の事を行方不明と言った以上、世間は俺の存在に注意を向ける。そうなったら色々めんどくさいことになるだろう。 踵を返し、ヒマな野次馬集団から離れようとした時だった。 「……あの女……なんでここにいるんだ?」 野次馬の端で、昨日俺が轢き殺しかけた美人女子高生が静かに佇んでいた。 妙だな。北高の始業時間なんか知らないが、光陽園とそんなに大差は無いはずだ。 ウチの始業時間ならあと一時間以上もある。早起きにしては少々苦しくないか? 彼女の長い髪の毛で表情の細部までは伺いしれないが、何だろう。すごく楽しそうにしている気がする。 気にいらねぇ。何が面白いんだよ。 彼女の後を追ってみるか。多分あいつは、この事件の関係者だ。 着かず離れず、彼女を見失わない程度に歩を進めている。だが、間違いなく俺の尾行には気づいているだろう。 少しずつだが、確実に人気がない場所に誘導されている。 住宅街を離れ、今や、郊外にある空きビルがひしめく様に乱立しているエセ心霊スポットにまで足を踏み入れてしまった。 「ねぇ。ちょっと良いかな?」 彼女が背後を振り返らずに語りかけてきた。ちょうど廃材だらけの広い空き地に出たあたりだ。 「なんだよ」 気づかれてることに確信を持てた以上、姿形を隠すのもバカバカしい。身を隠していた廃材から身を乗り出す。 「あなた、自分が何者かわかってて私を追ってるの?」 自分が何者かだって?さあな。母親を惨殺され、その上犯人にされかかってる悲劇の少年Aじゃねーの。 「なぁにそれ」 そこで初めて彼女がこちらを向いた。 その表情は微笑みに歪んでいた。それは今までに見たことないほどの不気味な微笑である。ショーウィンドウのマネキンが無理矢理笑わせられているみたいだ。 「私は自分の役割を実行するだけ」 鈍い煌めきが彼女の手の平で踊る。 「あなたを殺して改変世界を防衛する。じゃあ死んで!」 煌めきが閃光となって襲いかかる。 反射神経だけを頼りに斬撃をバックステップで回避することができた。日頃の行いに感謝しておこう。 「どういうつもりだ」 叫び声を無視するかわりに、返した刃がこめかみに振り下ろされた。 ナイフの軌跡を手の甲で受け止め、 「ちっ!勘弁しろよ!」 利き腕である左腕で、彼女の細い腹にフックを叩き込む。 苦痛に身をよじる彼女の姿に多少の罪悪感を感じたが、ナイフ持って襲いかかる女に同情できるか。 「はぁっ!」 頬に裏拳を繰り出し、何とか距離を取れた。が、 「……いってぇな」 吹っ飛ぶ寸前、彼女は俺の腕に小振りのナイフを突き刺した。古泉一樹には心の中で謝罪しておくとして、この血はどうやって止めておこうか。 「有機生命体の体って本当に脆いなぁ。このくらいで損傷するなんて」 親指で唇の血をぬぐいながら捨てゼリフを吐く彼女に、不覚にも笑いをこぼしかけてしまった。まるで人間じゃないみたいな口振りだな。 現在進行ing形で殺されかけているのに、頭だけは異様に冴え渡っている。何となくだが、こうやって襲われるのが当たり前な気がする。デジャヴって奴か? 「俺の母親を殺したのはお前だろ?どういうつもりだ」 俺の母は、こんな女子高生に恨みを買うようなことをしたとでも言うのか? 「そんなことどうだっていいじゃない。この世界のために死んで」 わけがわからない。なんだこの電波女。 「世界のために死ね?そこまでするほど好きな世界じゃねーよ!」 捨てゼリフと共に、腕に突き刺さったナイフを彼女に投げつける。 彼女はいとも簡単に、それを右手のゴツいサバイバル叩き落とした。だが、 「殺人鬼がぁ!くたばれ!」 ナイフはただの布石。本命は突進と共に繰り出された飛び蹴りだ。うるぁぁぁぁぁぁぁぁ! 靴底が喉元を貫き、彼女のセーラー服が泥まみれとなる。 背中を撃ち、苦痛に顔を歪めている殺人鬼の手に握られたナイフを蹴り飛ばし、エロさの欠片も無い馬乗りポジションを取る。 左腕を振り上げ、一撃。頬を捉える。 母親を殺されたことによる恨みを一撃一撃にブチコミ続ける。 こいつだけは許さない。 女だろうと容赦しない。 自分の行いを、死ぬほど後悔させてやるよ! 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 確かな殺意が芽生えているのは分かっていた。だけど拳は止められない。 「それが殺意っていうの?いい顔ね」 殺意に我を忘れ、殴ることに夢中になりすぎて重心を前に傾けてしまったのは失敗だった。 顔面を闇に覆われる。その細い腕からは想像もできないほどの握力で、俺の顔の皮膚がめり込んでいく。 強烈なアイアンクローにより、全身から力が抜け、ついには彼女の上から引き剥がされてしまった。 「でも残念。素敵な顔だけど、もう見れないんだもの」 無様に倒れた俺のへその上に、彼女の尻が覆いかぶさる。この形の良く柔らかい感触は、神様の最後の慈悲だろうか。 「防衛プログラム朝倉涼子。当該既定に基き、プログラムを実行する。じゃあ死んで!」 スカートの裾から取り出されたサバイバルナイフの切っ先が、心臓めがけて振り下ろされる。 「がっ!」 間一髪で間に合った。剣閃を手の平で防いだ弊害で、鮮血が顔にかかり、激痛が全身を駆け巡ったが、何とか生きている。 痛みを堪え、無傷な利き手で土を握りしめる。土でも喰ってろ! 「きゃ!もう!なにするのよ!」 口腔内の土を吐き出そうとしている間にマウントを解くことに成功した。っち!ここは退くべきか。 止まらない出血に気を取られながらも、俺の頭では、この町の地図が開かれており、間違いなく北高を指し示していた。 朝倉涼子とか名乗った殺人鬼から辛くも逃げおおせ、ようやく繁華街付近まで戻ってこれた。 「くっそ、いてぇな」 コンビニで買った包帯で右手の平を縛りつけ、出血だけは抑えたが、鈍い痛みだけは先ほどから一向に引かない。破傷風にならなきゃいいんだが。 「……街が騒がしいな」 大通りまで歩いたあたりで、ある違和感を覚えた。そう、街が騒がしいのだ。 普通だろ。西宮市は地下で探鉱火災が続くゴーストタウンでもなければ、灰が舞い散る古びたリゾート地ってわけでもないんだ。昼前のこの時間帯で、静かなわけが無い。 だがな、この騒がしさは異質なんだ。例えるなら、中世ヨーロッパで行なわれた魔女裁判による魔女容疑者の公開処刑を見物するような……ん?なんだありゃ? 「こちらは、昨夜から続いている連続殺人事件の事件現場です。見て下さい、もの凄い人だかりです。あ、たった今、救急車が被害者の遺体らしき物を搬送を開始したようです」 ここでも殺人事件だって?おいおい。あの女、一体何人殺したんだ? テレビリポーターと撮影クルーと思われるグループは、そのまま警察官の群れまで突撃していくのを見ながら、俺はあることを考えていた。 あの女……朝倉涼子の目的はなんだ? 人なんか殺したこともないから分からんが、殺人がマズイってことぐらい俺だってわかるさ。 それに殺人なんて物は冷静に考えれば分かる通り、リスクがでかい上にデメリットしかない。 一番の理由として死体の処理だ。あんなかさばる物は、どうやったって隠せるわけが無い。燃やそうが埋めようがすり潰そうが、痕跡をゼロにするなんて不可能だ。実際隠してないしな。 だが朝倉涼子は、何の躊躇いもなく殺人を行なっているようだ。何故だ?切り裂きジャックにでもなったつもりか? 殺人鬼が殺人をする理由など知りたくないが、知らなければならないような気がする。あーあ、気持ち悪い。 「動くな」 研ぎ澄まされた日本刀のように鋭い声。肩に置かれた熱原。それらが俺の逃亡を阻止させようとしている。 「私から逃げるとはいい度胸だな。ええ?少年A」 できれば二度と聞きたくなかった声ベスト5には入る人物が、俺の息の根を笑顔で止めるかのように睨みつけている。 「これでわかったでしょう?俺は連続殺人なんか知らない。だから母を殺したのも俺じゃない」 相手が顔見知りなら動機なんかいくらでもこじつけられるだろう。 だが相手を知らないなら殺す動機などあるか。だから手を離してください。母の殺害と、そこの某さんの殺害が繋がっているなら俺は無実だ。 「疑われる行動をした君にも問題があると思うけど?取調べ中の逃走とか」 まだ根に持っていやがる。 「俺は俺の手で決着をつけたいだけです」 そこまで言うと、若い女刑事は俺の肩から手を離してくれた。 「なら改めて捜査協力を要請する。少し時間をよろしいかしら?」 「何なりと。森警視」 森園生に連行された場所は、客足のピークが徐々に始まりそうになっている小さなカフェであった。あ、すいません。アイスコーヒーと、このベーコンレタスサンドイッチお願いします。 ウェイトレスのお姉さんに遅めの朝食を頼み、煙草に火を点ける。 「おいこら」 「え?ここって禁煙席でしたっけ?」 「そうじゃなくて。君はまだ……いや、その件に関しては後にしよう」 一体なんだ?森園生も喫煙者なのだろうか?そうなら意外だ。あまりイメージがわかない。 「それでは話に入ろう。昨夜から起きている一連の連続殺人事件について、君はどこまで知っているんだ?」 どこまで知っていると言われてもな。ついさっき容疑者に殺されかけたが、殺人動機も殺害方法も、何にも知らないんだが。 「……これを見てください」 くわえていた煙草を灰皿に戻し、包帯を巻き巻きである右手の平を彼女に見せた。 包帯を解いて新品同様の傷口を見せた。しかし慣れているためか、眉を一瞬潜めただけで、動揺することなく注視している。 「ついさっき、街外れの廃材置き場で襲われました。加害者の名前は朝倉涼子。北高のセーラー服を着た女子高生です」 適切な処置を行えたおかげで破傷風にはならないだろうが、痛みだけはどうにもならない。平静を装っているが、痛い物は痛いんだよ。 「北高か。あんな何の変哲もない県立高校に、そんな暴漢……と言っても女性だが、居るとわね」 森園生の放った「暴漢」と言う言葉に、少しだが後ろめたさを感じた。尾行して襲ったなんて、良く考えた俺のほうが暴漢じゃねえか。 しかも返り討ちだし。本当に情けない男だな。何やってんだか。 すると森園生はジャケットの胸ポケットから携帯電話を取り出した。 「こちら森園生だ。新川、今すく調べてほしい人物がいる。名前は朝倉涼子。歳は16歳から18歳。北高の女生徒だ」 要件だけを伝え、あっさりと電源を落とした。仕事の要件を伝えるだけなら良いだろうが、これでは新川警部さんが少しだけかわいそうになってくる。 「俺を解放してくれるのですか?」 期待なんかしてないさ。 当然、彼女は否定の動作を示した。ほらね。 なぜなら今まで俺が森園生に証言したことは、全て俺の一方的な言葉だ。優秀な刑事である森園生が、それを鵜呑みにするわけが無い。警官としてできないのだ。 かと言って俺が加害者では無い可能性が出ている以上、それを真っ向から否定するわけにもいかない。証人としてなら「生き残った被害者」と言う最高の証拠なのだからだ。 さあ、サイコロの目はどう出る?今ならルーレットの前に居座るギャンブラーの気持ちがよくわかる。相手の挙動に全神経を預けている気分だ。 「今すぐ朝倉涼子の住所を割り出すから、君も着いて来なさい。このまま現場を荒らされるくらいなら、私の目が届く場所にいてもらう」 この提案には乗っておくべきだろうか?こうは言ってるが、一応は任意同行である。断ろうと思えば断れるはずだ。 だが、理由はどうあれ、朝倉涼子を見失ったのも事実である。 一匹狼気取りで北高に張り込んでもいいが、それでは襲われた時にどうなるかわからない。 次は手の傷だけで済まないかもしれないしな。それなら国家暴力もとい国家権力に守ってもらった方が良い。警官なら目の前で起きた障害事件を見逃すなんてことはしないはずだ。 他人の力を当てにするとは男として情けないが、殺されるくらいなら地べたを舐めようが生き延びてやる。 ウェィトレスが運んで来たサンドイッチをコーヒーで流し込み、席を立つ。 会計時、森園生の手に渡されたレシート代わりの領収書には、『兵庫県警様』と書かれていた。 黒塗りスモークなタクシーでたどり着いたのは、正午過ぎの高級分譲マンションだった。 「このマンションの七階に朝倉涼子が住んでいるらしいわ」 付近の土地勘が薄い俺でも知っている程の高級マンションだが、にわかには信じがたい。こんな場所に殺人鬼が住んでいるのか? 戦争をギリギリ知っていそうなじいさん管理人にロビーを開けてもらい、エレベーターに乗り込む。 「君はどう思う?」 多分、捜査中の退屈しのぎだ。じゃなきゃ、一般人である俺なんかに意見を求めるわけない。 「殺人事件にタダもクソも無いでしょうが、普通の事件じゃないでしょう 」 この事件で最も不可解なのが「被害者の関連性」である。 森園生が言うには俺の母親は第一の被害者だったようだ。その後、日が変わるまでに二人、深夜未明に五人、明け方に二人、合計で十人が凶刃によって殺害された。 その被害者についてだが、これまた無差別に近いらしく、主婦、サラリーマン、高校生、ショップ定員などバラバラ。 最初の数人ならば逃亡中に止むなく……なんて考えられなくもないが、ここまで来ると、狂ってるとしか思えない。 『あなた、自分が何者かわかってて私を追ってるの?』 ならあの言葉……あれはなんだ?朝倉涼子は俺のことをわかってるのか? じゃあ、俺は一体なんなんだ? 「もしかしたら、殺害が目的では無いのか?」 自問自答に終止符を打ったのは、森園生だった。 「一連の事件は全て脈絡が無い。その上関連性も無い。いや、正確にはわからないと言った方が正しいか。ならば、「殺人を主観において考える」のではなく、「殺人は副産物」ととらえたら……」 それは盲点だった。つまり殺すことが目的ではなく、目的を達成するために、殺人を行なっていたというわけか。 殺人事件はあくまでオプション。本当の目的はもっと別に、 「到着したようだわ。着いてきなさい」 まぁいい。それは時期にわかることだ。あんまり気乗りはしないがな。 七階というわけで、結構な眺めの良さである。この眺めも高級分譲マンションたらしめる所以だろうか。 「鍵は……かかっているわね。えーとカードキーカードキー」 森園生は豊満な胸を覆っているジャケットの内ポケットに手を滑らした。だが、 「鍵なんか必要ないですよ」 一撃。スニーカーの裏が分厚い扉へ叩き込まれる。おー、かってぇなー。 「器物破損は確か何年の懲役だったかしら」 殺人鬼に礼儀なんかいるか。 ちょうつがいとキーロックが跳ね飛んだドアを跨ぐ。 すると意外なほどキレイに片付けられた普通のリビングが顔を見せた。うちの居間より畳二枚くらい広いかな。 「新川の報告によると、朝倉涼子は北高に通うために親元を離れて一人暮らしをしているらしい」 「一人暮らしですか?北高に?」 妙な話だ。親元を離れて高校に進学するのは別段珍しくないだろう。光陽園にも一学年に一人くらいの割合でいるしな。 だが北高だぞ?どこにでもある普通の県立校に、わざわざ親元を離れて通学なんかするか? 「……ちょっとストップ。あそこの部屋から、なにか聞こえないか」 彼女の指が隣の和室を指し示す。 俺も片手を耳元に添え、より多くの音を拾えるように構えた。 「これは……電子音ですかね」 耳を澄ますと、微かに電子と電子が共鳴するような耳につく音が流れてきている。ゲーム機か、もしくはパソコンか? タイトスカート裏にエロくくくりつけられた拳銃を握り締め、森園生は一歩一歩静かに和室に進んでいく。 勢い良く襖がスライドされ、和室が開け放たれた。 「パソコンか。電源点けっぱなしなんてだらしないわね」 質素な和室には、最新機種より三世代くらい型遅れのノートパソコンが開いたままテーブルに置かれていた。 おかしい。パソコンに繋がっている電源アダプターは冷たい。 「……これ、起動したのは数分前ですよ。アダプターに熱がたまって無いです」 これがもしも朝から点けっぱなしだったら、アダプターは熱いはずだ。 それなのに俺が握っているそれは、プラスチックの常温のままである。つまり、 「つまり、誰かが使おうとした」 「もしくは、俺たちが来ることがわかっていたのかもしれません」 考えられるのは二つ。一つは森園生が言うように、誰かが直前までここにいた。 その場合、立ち上げた直後に俺たちが来たので、一目散に逃げた場合が考えられる。 ならどこに逃げた?ここは七階だぜ?俺でさえ三階のが限界なんだ。いくら身体能力が高くても、倍以上ある高さから逃げるなんて無理だろう。人間には。 かと言って隠れているとは思えない。気配がまったくしない上、玄関以外に逃げ場の無いマンションの一室の、どこに隠れると言うんだ。すぐに見つかる。 もう一つは、俺たちの登場にあわせてタイマーが作動したことだ。しかしそれは俺たちがここに来ることを正確な時間で予測してなければできない芸当だ。 「どっちにしろ、こいつに手がかりがあることには変わりないでしょう」 パスワードによるロックがかかっているわけでもなければ、特殊な仕掛けで爆発する気配もない。 「調べてみましょう。きっと、なにかわかるはずです」 森園生はピストルを股の裏に返し、パソコンの前で女の子座りをした。 俺、あんまりパソコン詳しくないからな。お願いします。 「別に変わったデータはなさそうね。変にいじくっているわけでもなく……あら?」 デフォルトの壁紙の上に表示されているアイコン達。その中で、マウスのカーソルが「ワードパッド」に合わせられた。 「それがどうかしたのですか?」 「いや、単なる個人的趣味だ。こう見えて私は生粋の活字屋でね。どんな文章が書いてあるか読んでみたい」 そう断りを入れてからアイコンをダブルクリックする。あなた結構楽しんでるでしょう。 「なんだつまらん。保存データは一つだけか」 やっぱり。絶対楽しんでる。とは言えなかった。 「……なっ!」 保存されていたデータの名前を読んだ瞬間、心臓が大きく脈打った。なんだこれ。どうなってやがる。 『涼宮ハルヒの憂鬱』 涼宮ハルヒ。俺の数少ない友人の一人の名前が何故?涼宮ハルヒと朝倉涼子は知り合いなのか? 「森さん。それ、読ませてください」 俺の空気を察したのか、森園生はあっさりとタイトルをクリックしてくれた。 「涼宮ハルヒの憂鬱」の内容は、主人公である男子高校生が、新学期にたまたま後ろの席に座っていたヒロインである涼宮ハルヒに目をつけられたのが始まりだ。 その後、彼は涼宮ハルヒが発足した同好会に無理矢理入会させられ、面倒だと悪態をつきながらも生活をしていく平凡な話だ。 分類的には青春ラブストーリーになるのか?いや、この手のラブストーリーはそんなに読んだことないからよくわからんが、どこにでもありえる話だと思う。 だが、この物語の登場人物に注目してみよう。俺が知ってる奴らが何人もいるのは何故だ? 涼宮ハルヒは物語のヒロインだし、古泉一樹は主人公の親友であり恋敵で、朝倉涼子にいたってはヤンデレ要素を持ち、主人公に襲いかかってくる。 「執筆者は長門有希と言う名前らしいわね」 その筆者である長門有希も、この作品には登場してくる。役柄は主人公に恋をしている無口な文芸少女だ。 それにしてもこの主人公はモテモテである。この他にも、同じ同好会員である朝比奈みくるにも惚れられ、なんと中学時代にも恋人がいたらしい。 どんだけやりチンなんだよ。実在してたら絶対ボコッてやる。この女の敵が。 「……ん?なんだこの不自然な改行は?」 物語終盤、主人公と涼宮ハルヒが学校に閉じ込められたあたりで、真っ白い行が数十個も続いている。 ここから先はまだ執筆途中かと思ったが、下にスクロールしていけば続きが読める。 この学校に閉じ込められる展開だけが、ポッカリと抜け落ちているのだ。思いつかなかったのだろうか? 「あぁ、これは反転文字ね」 「反転文字?」 「ゲームの攻略サイトとかでネタバレを防ぐためによくやる方法よ。こうやって文字の色を背景と同じ色にすることで、文字を読めなくするのよ」 よくもまぁ面倒なことを思いつくもんだ。どうやって読むのですか? 「こうやってマウスで文全体をドラッグすれば……あら?」 白抜きの文章に青い色が塗られていくと、ある物が浮んだ。 「……何ですか?コレ」 それは文字と記号だけで表現された謎のマークだった。顔文字の高度な奴と言えばわかるだろうか?これ一個つくるのに、何時間かかるんだ? 「これはアスキーアートよ。君も見たことくらいはあるでしょ?インターネットとかでよく見かける記号の羅列によるイラストよ」 あのgj!とかって奴ですか? 「……まぁそれでいいわ」 しかし、こういうのを作るのって、どんだけ時間がかかるんだ?すごいとは思うけど。 ところでこれはなんて書いてあるんだ?キレイなうずまきの中に、SOSと書かれているようだが、救難信号のつもりか? 「クソ……何だか目眩が……」 頭の中で、うずまきがぐねぐねと襲いかかってくる。気持ち悪い……いつから俺の目はトンボの目になったんだ。 「大丈夫?」 「……早くここを出ましょう。少し気分が悪くなってきました」 クソ。気持ち悪い。 「あーあ、誰かさんがドアを蹴破ったせいで玄関が歩きにくいんですけど」 文句言わないでもらいたい。フラストレーションがたまってたのでガス抜きしただけです。森さんだってたまっているでしょうが。さっきから顔怖いですよ? だがその質問は森園生の鼓膜が通過を拒否したようで、何も答えなかった。 あの後、一通り部屋を調べたものの、事件が好転するような証拠品及び手がかりは何もでなかった。つまり無駄足。機嫌が悪くなっても無理は無い。 「……あれ?」 壊れた玄関を踏み分け、敷居から一歩抜け出た瞬間に違和感を感じた。 「変ね。誰もいないのかしら?」 静寂。静かすぎるのだ。 高級分譲マンションとは言え、今は昼だぞ?もう少し喧騒と言うかざわめき見たいな物があってもいいはずなのだが。静かすぎることで耳が痛くなるなんて初めて知ったぞ。俺は。 「森さん。何だか嫌な予感が……森さん?!」 隣を歩いていた森園生が、一歩前に出た。いや、出たのではなく…… 「森さん!?しっかりしてください!森さん!」 彼女の背中に突き立てられていたのは、銀のサバイバルナイフ。それが森園生の血を吸って、赤黒く輝いていた。 「酷いなー。私の家を壊さないでよ」 「朝倉ぁっ!」 意識するよりも早く、拳が朝倉涼子の頬を歪ませた。 「ん、はぁっ!」 カウンター気味に繰り出されたナイフが、かろうじで空を切る。 まずい。さっきこそ何とかかわすことができたが、こんな狭い廊下じゃ、じきに直撃する。そしてそれが心臓の可能性だってあるんだ。 斬撃の檻に囲まれている中、汗だけが妙に冷たい。チクショウ! 「あぁぁぁぁぁぁ!」 意を決して、右手でナイフを掴んだ。くそ!いってぇな! 「痛くないの?そんなわけないわね。呼吸が荒いわよ」 包帯を伝い、ジャケットの袖口にこぼれた血が熱い。 「黙れ!」 激昂し、爪先を端正な顔面に叩きつける。 「残念。外れぇ~」 朝倉涼子が愉快に微笑んだ瞬間、俺の足がコンクリートにナイフで貼り付けられた。 「ぐがぁぁ!」 「いい声で鳴いて」 足の甲に突き刺さったナイフの柄をグリグリと踏みつけられた。このクソ女ぁ! だが、罵声を絞り出そうとも、悲鳴が勝手に放たれてしまう口がもどかしい。 「ほ~ら、うずくまった。さよなら!」 切っ先が頭上に振り下ろされる。 クソ!なんで俺がこんな目に合わなならん!俺の物語は、ここで終わるのか!? ちくしょう……俺はなんて無力なんだ。親の敵が目の前にいるって言うのに、何にもできないなんて…… 「さよならは、あんたよ!」 銃声が、静かすぎるマンションの時を動かした。 「武器を捨てなさい!朝倉涼子!」 森園生は生きていた。そして片手で銃を構えるその姿は、一流映画スターにも引けを取らないほどに決まっている。 「そのまま死んでれば良かったのにな」 弾は朝倉涼子のナイフを持っていた肩に着弾したので、俺に突き刺さることなく吹っ飛んでくれた。しかしなんでこいつはこんなに平然としていられるんだ? 「今のは威嚇射撃だ。次は外さない!」 「やってみれば」 警告を無視し、朝倉涼子は剣閃を煌かせた。 さらにもう一発、銃声がリピートされる。 「なっ!?」 だが、弾丸は朝倉涼子には当たらなかった。なぜなら、 「無駄よ。そんなおもちゃ」 着弾の直前、ナイフの腹が弾丸を受け止めているからだ。って!どこのハリウッド映画だよ! 「くそ!くそ!くそ!くそ!」 森園生の悪態と共に放たれる弾丸だが、それらは全て、ナイフの腹で阻まれ、コンクリートに落とされていく。ちっ!こうなったら! 足の甲に刺さったナイフを引き抜く。途端、全身に激痛が走り、勢い良く血しぶきが舞ったが、痛みは生きてる証拠だ。 「うるぁぁぁぁぁぁ!」 コンクリートの廊下と平行して飛翔するナイフが、朝倉涼子に向かっていく。 「邪魔よ」 当然、俺の投げたナイフは朝倉涼子によって、いとも容易く叩き落された。だが、 「でかした!」 歓喜の声が放たれ、同時に、弾丸が朝倉涼子に着弾した。 朝倉涼子の身体能力がどんなに優れていようと、彼女はナイフを一本しか握っていなかった。 ならば、一瞬でもナイフさえ使えなくしてしまえば、絶対に当たるはずだ。 「ここは逃げましょう!」 森園生の手を引き、背後のエレベーターまで一気に駆け出す。あのバケモノが、こんな楽にくたばるとは思えない。 残り五歩。 残り四歩。 三歩。 二歩。 一歩。 「このポンコツ!早く来いよ!」 パネルをどんなに乱打しても、エレベーターが到達するスピードは変わらないが、この数秒の間がもどかしい。 早く来い早く来い早く来い!バケモノがすぐそこにいるんだよ! 「来た!森さんも早く乗ってください!」 転がり込むように七階に到達してくれたエレベーターに乗り込み、握っている手を中に引き摺りこんだ。 「くはぁぁぁぁ!」 森園生の端正な唇から悲鳴が漏れた。 「だーめ。だってあなたはここで死ぬんだからね」 視界の奥で、朝倉涼子は野球部のエースピッチャーみたいな投球モーションをしていた。 森園生の上着の背中には赤色が滲みすぎて、もはや何色だったのか判別すらできない。 彼女が乗り込めば閉るはずだったドアが、無情にもぽっかりと口を開いている。 「……大丈夫よ……私が絶対に……助けてあげるからね……」 息も絶え絶えに、彼女は力なく呟いたが、瞳だけは強い光を放っていた。 なんでここまでしてくれるんだよ。そう思ったが、彼女は警官だ。警官である以上、正義の味方でなければならない。彼女にとって、これは当たり前の事なのだ。 「だからって!そんなに傷だらけになってまで身体張ることなのかよ!?逃げ出せばいいじゃないか!俺なんかほっといて命乞いしろよ!自分が一番可愛いと思えばいいだろ!?死んだって何も残らない!違うか!?」 だが俺の叫びは、森園生の繰り出した強力な張り手が胸を強打し、背中壁に打ち付けて阻まれた。 傷の痛みと咄嗟に起きた出来事のため、立ち上がるのに時間がかかった。待ってくれ!まだ乗って無い客がいるんだ! 「じゃあね。悪ガキ君」 目の前で閉ざされた鉄ドアは、穏やかで暖かい微笑みと対比され、異様に冷たかった。 「森さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」 狭いエレベーターの中で響く情けない男の声が、無性に腹が立った。 第三章へ続く
https://w.atwiki.jp/ln_alter2/pages/216.html
喧嘩番長 ◆MjBTB/MO3I 人類最悪、という名を冠した狐面の男。 そんな彼が主催した今回のゲームにていずれ行われると宣言されていた"放送"。 それが遂に始まり、終わった。 名簿にてたった二文字の言葉でその存在を表現された女性、"師匠"は顔を顰める。 理由は当然、放送にある。だがそれは決して"呼ばれた名前"によるものではなかった。 (元の世界が同一ではない。別々の世界。フィクションで言うところの、"異世界"ですか……) さて、確認しよう。 師匠は金品に関しては激しく人が変わる俗な一面を持つ人間ではあるが、一応現実的である。 否、現実的であるからこそ金品に対し目の色を変えるのである。 つまりは普通の人間。こと戦闘等において鬼の如き強さを発揮する事以外は、彼女は普通の人間なのだ。 なまじ朝倉涼子と互角に闘ったおかげで忘れていた者も多いのではないだろうか。 しかし忘れてはならない。彼女はあくまで人間である。そう、朝倉涼子とは違う、現実的な。 (随分と突飛ですね……) 故に、だ。 彼女は疑問を抱く以前に、納得が出来ないでいた。 しかしながらそれは当然だ。急に異世界がありますよと言われても困るものは困る。 都市国家間で文明の隔たりがあるのは常識であると認知して入るが、それとこれとは話が違うのだ。 "違う国から来た"ならまだしも、"違う世界から来た"とは一体なんだ。理解に苦しむ。混沌に過ぎる。 だが。 (しかし、そうなると……朝倉涼子やあの"眼の少女"の説明が出来ない) それでは、例えば朝倉涼子の様に人間離れの力を持つ者達の説明が出来ない。 殺すには容易過ぎる人間がいるこの地で明らかに"浮いた存在"の者。 放送のあの言葉を借りるならば、大海の中の淡水魚。またはその逆。 弱肉強食すら生温い、そんな突飛な存在。それらはどう説明すれば良いのか。 (例えあの不可解極まりない狐面の言う事でも、さすがに今回は「そうですか」と流すわけにはいかないようですね) 簡単に信用するわけではない。決定的な証拠などどこにも存在はしないから。 故に今回は"保留"としておく。信じるわけではなく、だが執拗に突っぱねることもしない一応の"保留"だ。 (まあ、本来の問題はそこではないですね……問題は、この後) 別に自分の見知った人物が放送で呼ばれたわけでもないので、本来この放送は元々"ほぼ"意味を成さないものである。 だから、放送へのリアクションとしては、今は朝倉涼子に対してこう告げるだけに留めておこう。 「話があります。警察署についたら覚悟をしておきなさい」 後ろに座している朝倉涼子の体がビクリと跳ねた。 ◇ ◇ ◇ 「気に入りませんね。ええ、気に入りません」 バレた。 「私はあの後"一点です"と言いましたが……遺憾です。やはり零点でしたね、間違いなく」 思い切りバレた。 「自分から協定を持ちかけておきながらこれでは……」 全部あの狐面のあの男の所為だ。 まさかこうまで白日の下に晒してくれるとは。 というか、危うく放送の存在を忘れかけていたのが仇だったか。 「何故水面下で勝手な行動を取るのですか?」 警察署、一階ロビー。 現在そこで朝倉涼子は、師匠から"姫路瑞希の処遇"に関する小言を受けている。 きっかけは放送。 そう、師匠は姫路瑞希の名が呼ばれなかったことに疑問を抱いたのだ。 朝倉自身も「しまった」といった具合だったのも手伝い、放送直後にすぐさま感づかれる始末。 しかも"指示に従わなかった"という事実が露骨に浮き彫りになるオマケつきだ。 こうしたイレギュラーが度々重なった事で、師匠の苛々はウォー○マン式に増えてしまったらしい。 そんなこんなで結果、このネチネチとした小言に至るわけである。 だが、朝倉にも言い分はある。 朝倉はこの椅子取りゲーム開始時に"師匠と取引をしている"。 内容は既に諸君らの把握通り。早い話が朝倉は"金塊で師匠を購入した"と同義なのだ。 更に乱暴に表現をすれば、金を払っている以上は師匠は朝倉の所有物である。 実際のところ流石にそこまでの結論には至らなくとも、朝倉は師匠との"対等な関係"を望んでいた。 単純な"力"という部門ではそれは実現している。互いに互いを半端に陥れようとすれば、痛い目を見る。 いや、それどころか陥れようとする事すら難しい程に拮抗した力関係なのである。 だからこそ今まで問題なく付き合えたのだが。 「師匠」 「何ですか?」 「どうしてあなたにそこまで縛られなくてはいけないの? 私達、対等よね?」 「戦闘に関しては確かにそうでしたね。それは悔しいですが、今は互角であると認めましょう」 その筈なのに、あからさまに師匠が主導権を握ろうとしているのはおかしいのではないのだろうか。 そうだ、確実におかしい。そもそも自分と師匠は同盟を組んでいる立場。どちらかが精神的に抑え付けられるのはおかしい。 つまり今は、戦闘力以外での力関係がおかしいのだ。天秤が傾きすぎているのだ。 「私は遊びでやっているわけじゃないわ。それは確かに、好奇心で動いていた場面もあったけど。 あったけど、でも、それらは私達二人でこの先人間を殺し切る面倒を解消する為の行動でもあるわ。云わば気遣いよ」 「そんな気遣いなど不要です。それに理由などどうでも良いのです。今私が訊きたいのは、"何故勝手に行動を取るのか"です。 自分がやりたいことがあるのならばはっきりと言えば良いではないですか。論理で武装し、説き伏せられれば文句は言いません」 それは確かにそうだが。 「けれど、あなたは勝手に金目のものを探しているじゃない? 私に勝手は許さず、自分は自分の赴くままに。 それって、人間がコミュニティを築き上げる際には非常に非合理的であると私は思うの。 この同盟が互いを力で抑え付ける冷戦のものの様なピリピリしたものであっても……いや、だからこそよ。 だからこそ、貴方が自由に行動する権利を行使するならその分私も自由に行動する権利を行使出来る。そう思うの」 一方がやりたい放題、というのも面白くない。 「それに人間の俗な言葉を借りるならば、貴方のその"上から目線"も気になるわ。少し不可解なのよね。 私の力を見た上で慢心しているのか。それとも性分なのか。仲良しこよしを望むわけではないけれど、前者なら大問題ね」 人間が所謂上司に対して怒りを覚える要因は、この様なものなのだろうか。 「"喧嘩するほど仲が良い"という諺があるわ。そして人間には喧嘩している者を止めずに"納得行くまでやらせよう"と言う者もいた。 ねぇ師匠。私達、まだまだ相互の理解が不十分である気がするの。だから……一度やってみない? "喧嘩"。確かめたい事もあるし」 今の自分を俯瞰すれば、まさに今は不当な行いに対し苛立ちを覚えた人間に似たものであるという結論が出た。 自分自身にバグが溜まって行くかのような漠然とした恐怖。更にこのままでは師匠との関係が終了するかもしれないという危機感。 朝倉はそれら全部を解消する為、一度人間流に"喧嘩"をしてみようかと考えたのである。 いや、むしろ、というより、 「結果……その"上から目線"も、変わるかもしれない」 ちょっと気に入らない部分があるので、それをぶつけてみたかった。 ◇ ◇ ◇ 「そもそも私はね、現場が手をこまねいている状況で、そうと知らずに労働者を抑え付ける"上"が嫌いなの」 「そうですか。私もです」 師匠が蹴り、朝倉が受け止める。 「師匠、今のあなたが"それ"よ。二人で全員を殺しきるなんて面倒にも程があるわ。だからこそ私は"武器"を撒いた。 温泉での姫路瑞希という少女を、自律行動の可能な武器に仕立て上げたのはその為よ。少しでも早く済んだ方が良いじゃない?」 「それが余計な気遣いといったのです」 朝倉が殴ると、師匠は避ける。 「そこよ、師匠。そうやって現場の行動を全否定。自分は自由に動いている代わりに、私の行動を肯定的に見ないじゃない」 「いいえ。仮にその行動自体を是としましょう。しかしさっきから言っていますが私が気に入らないのは貴方の"勝手な行動"自体です」 ルールは、銃器や異能の使用不可。それのみ。 「これもさっきから言ってるけど、自分だって金目のものを勝手に探してた癖に……」 「私は貴方にその旨を伝えた上で行動しています。あれは"勝手"ではなく申告制です。貴方とは違うんです」 基本は徒手空拳。 「じゃあ私が姫路瑞希を殺さないでおこうと申告したら?」 「断ります」 戦いに必要なのは、腕と脚と口である。 「やっぱり! 私は師匠の行動を咎めるつもりは無いのにそちらは咎め放題というのはフェアではないわよね?」 「咎められるような事をしているつもりは無いのですが。あなたが止めないというのはそういうことでしょう?」 いざ! 「……師匠って、友達少ないでしょ?」 「…………」 朝倉の口撃に対し、師匠の突きが唸る。危うく耳を掠めた。 ◇ ◇ ◇ で。数十秒後。ロビーは静寂に包まれていた。 決着がついたわけではない。むしろ決着がつかない所為で沈黙が続いているのである。 結局泥沼化か、と師匠はため息をつく。しかし正直予測出来た事態であったので何も言えない。 力の一号技の二号とどこぞの英雄達ではないのだが、やはりまともにぶつかり合っても事態は悪化するばかりなのだ。 何せこの自分と互角という初めての相手である。更に朝倉涼子が人間らしからぬ存在である事も、ぶつかりあった事で改めて確認する。 "あれ"に巻き込まれたものは可哀想だ。 妙な形にひしゃげた椅子。少しではあるが凹んでいる床や柱。なんとまぁ哀れな姿にされたことか。 最初は槍や反射神経等々を見て脅威を感じた。だがそれ以上にあの身に隠されたただの単純な"力"も恐ろしいのだ。 師匠は水族館での奇襲失敗の折、そしてそれから延々と、朝倉涼子が一筋縄ではいかない実力を備えている事を実感させられ続けている。 そして、現在師匠と朝倉は互いに不可視の場所へと身を隠していた。 戦場が警察署の一階ロビーであることは変化無し。問題は位置関係。 師匠が受付の机に、朝倉は巨大な柱の向こうに潜んでいるのだ。 受付の机は安い四脚テーブルではない。大企業の本社にある様なそれらと同じ、受付嬢らの下半身が隠れるような作りとなっている。 対して朝倉が潜む巨大な柱も、見栄えを意識したのか人間がすっぽりと隠れてしまう程に太かった。 そして、互いに停止。自分から動こうという気が毛頭ないのは自分も相手も同じなのだろう、と師匠は容易に悟ることが出来た。 最後に見た朝倉の表情から察するに、彼女も自分の攻撃が相変わらず当たらない事に危機感を覚えたに違いない。 当然だ。また全部避けてやった。当たりそうになった攻撃は最小限の力で逸らす事で事無きを得ている。 威力は殺したが結局は顔面を殴られたあの嫌な事件が脳裏を掠めたものの、とりあえずセーフ。 そうなるとこちらとしても警戒無しに突っ込むのは遠慮願いたいし、必然的に距離を離すことになってしまう。 そうして、今に至るわけだ。 銃があれば賭けに出られたかもしれないが、ルール上無理。 律儀に護ってやる必要は無いのかもしれないが、相手も徒手空拳で来た以上は護らねばなるまい。 ああ、結局朝倉の望む"喧嘩"が出来たのは最初の数十秒間だけだった。 残る時間は武器も無いままに好機を待つ為に隠れるだけ。そうせざるを得ない状況。 やはり自分達がぶつかり合うと、こんな非建設的な結果しか待っていないのだ。 『了承しました。ですが私が今……いえ、これからの三日間の間にあなたを裏切って奪い取ろうとするかもしれませんよ?』 『それは大丈夫。私を相手にして"それを簡単に出来るとは自分でも思ってない"でしょ?』 『逆にあなたが逃げないという保証もありませんが』 『"それが簡単に出来ない事も私は知ってる"わ』 『……なるほど。確かにそうです、そうでしょうね』 今更実感する。まさしく、その通りだった。 「参りましたね……」 恐らく、今から自分が不用意にて朝倉を屈服しに行けばとんでもないカウンターを喰らうだろう。 同じく、自分に対して朝倉が向かってくれば返り討ちにするだけだ。無謀な突進などわけは無い。 今は正に"どちらかが動けば負ける"という非常に面倒な状況であると言えよう。どうしてこうなった。 正直に言おう、面倒くさい。少し冷えた頭で考えれば、何故こんな事をしているのだろうか。 互いに手出しが出来なくなって結局距離を取らざるを得なくなるスデゴロ、なんて実に新しい。新しすぎて誰もやらない。 熱くなりすぎて喧嘩を買ってしまったのは良いのだが、互いにこんな展開は望んではいなかった筈だ。 勿論その気になれば一時間も二時間も好機を待つことは出来よう。師匠はそんな人間である。 だがそれは拙い。安全であろう箇所に放置したあのもう一人の少女(注・拾い物。物を曲げる者だけを指す)はどうなる。 このままじっとしていたら今に起き上がって、逃げるかもしくは馬鹿らしく手を拱いている自分達を始末するだろう。 乱入者も現れるかもしれない。もうそうなれば色々な意味で面倒くさい。まだこの警察署も物色していないというのに。 大事な事なので二度言おう、どうしてこんな事になってしまったのだろう。何故自分達はこんな馬鹿げた事を始めてしまったのか。 思えば喧嘩するほどの事ではなかったのではないだろうか。朝倉涼子にきちんと説明すれば良いのではなかったのか。 覚めてきた頭で自分の行動を省みれば、正直少しばかり言い過ぎた気までしてくるのが不思議だ。 いや…… (良く考えれば……私も"前提がおかしかった"でしょうか。朝倉涼子は朝倉涼子であって"彼"ではない事を忘れていた気がしますね) きっと多分、恐らく、もしかしたら言い過ぎた、かもしれない。そんな可能性がある。 何せ相手は見知ったあの"弟子"では無かったのだ。ならば当然彼とは違った形での反発も起きるというものであろう。 今回のこの騒動は、相手が違うというのにいつものテンションを維持しすぎた自分のミスかもしれない。 いつも通りにやりたいならば、もう少し朝倉涼子を自分好みに"調教"してからではないといけなかったのだ。 そもそも相手は弟子でもなんでもないのだから、もう少し反応を窺うべきだったのだろう。 それに、自分も妙に苛立ちが過ぎていた気がする。 いつも通りに事を運んでいる割には、朝倉涼子との連携精度の悪さも相まって些細であった筈の苛立ちが蓄積したのだろう。 奇襲に失敗し、あまつさえ相手を一方的に圧倒するに至らなかった最初の事件から、既に自分はおかしかったかもしれない。 いや、それ以前の問題だ。自分がこんな場所にいる事がそもそも腹立たしいことだったのだ。 ベルトにも今やカノンも、挙句ホルスターすらもなく寂しい。あの当たり前に存在していた重量感が無い事に違和感を覚える。 なるほど。こういう違和感と苛立ちの積み重ねだったのだろうか。 と同時に師匠まさかの反省。反省した結果に"調教"という物騒な言葉が入った辺りは流石と言った具合ではあるが。 転んでもただでは起きない傲慢さが滲み出る妙な反省会だったものの、元の世界の弟子辺りが見たら泣くのではないだろうか。 (とりあえずここは大人である自分が余裕を持って一歩引いてあげるべきですね。今後の為に調教はしっかりと……ええ、覚えましたよ) もう良い。負けを認めるのではないから、別に悔しくは無いのだ。 少し大人の余裕を見せるだけ。別に悔しくなんか無いんだからね。 これ以上"時間の無駄"としか言いようが無い喧嘩を続けるわけには行かないので、師匠は立ち上がる。 そして柱の向こうにいる相手に対して「もう良いです。やめましょう」と言おうとした。 「……?」 のだが、見れば既に相手は柱の影から姿を現していた。しかも、 「師匠……ちょっと言いすぎたわ。ごめんなさい。体動かして言いたい事好き放題言ったら、なんだかすっきりしちゃった」 「……はあ」 「よく考えたら、確かに師匠が隠し事をしていないのに私だけが隠し事というのもフェアじゃないわよね」 「…………ええ」 「これ以上は時間の無駄だし……その無駄を提案してしまった私のミスについても謝らないといけないしね」 「………………はい」 「ごめんなさい、師匠。これからはもうちょっと器用に立ち回ることにするわ。怒りを買うのも嫌だし。 これからは互いに冷静に行きましょ。互いに意地を張りすぎるのも弱点だって気もしたしね。うん、得るものはあったわ」 「……………………そうですか」 先に謝ってきた。 なんだろう。ちょっと悔しい。まるで相手のほうが大人の対応をしているようじゃないか。 だが、面倒ごとが消えたのでまあ良い。まあ良いとしよう。 とりあえず今は、警察署の物色に移行する。それだけである。 抱いた悔しさは仕方が無いので一旦置き、そんな事を考える師匠であった。 結局、あの苦労はなんだったのだろう。 ◇ ◇ ◇ モヤモヤした感情をぶつけるが如く、師匠が警察署の中で金目の物を探しています。 留守番中の朝倉涼子と近くに放置されている浅上藤乃達と共にしばらくお待ち下さい。 ◇ ◇ ◇ 「探索は終わりました。残念ですが武器の類は無く、収穫は再びゼロ……遺憾でした。 ついでに中にあった地図も私たちの持つそれらとは変わりなし。意図的に伏せられたとも考えられますが、果たして……」 「そう……残念。じゃあどうする? 乗り物とか」 「このパトカーを頂きましょう」 「やっぱり」 「それも一台や二台ではありません……全部です」 「やっぱり。でも四台も拾ってどうするの? 全部乗り倒すつもり?」 「それも良いですが、数があればバリケード代わりにでも使えるでしょう。乗車が全てではありませんから。 では今度は運転席に私が乗ります。後部座席でその"拾い物"が妙な事をしないよう見張りなさい。貴方の仕事です」 「了解したわ。あ、今更だけどキーは?」 「あります」 喧嘩の後に始まった師匠の物色タイムを経て、朝倉達は再び合流。用事も終了したので外に出ていた。 背中には未だ目覚めない魔眼の少女。そろそろ目覚めても良いはずだが、あれ程騒いだというのに兆候は無い。 加減を間違えたのだろうか。起きてくれれば移動も非常に楽なのだが。 「それにしたって、サイドカーがすっかり死蔵状態なのは寂しいわね……折角引き当てたのに」 「そんな事はありませんよ。これから路地での戦闘が起これば嫌でも酷使することになるでしょうから。 あれの小回りの良さは軽視出来ませんし、攻撃に転じる容易さは自動車に勝りますからね。貴方も良い支給品を手に入れたものです」 「……師匠、急にどうしたの? 私を褒めたことなんて一度も無かったのに」 「事実を述べているだけです」 「変化が急激過ぎて違和感を抱かざるを得ないわ……これが人間の抱く"気持ち悪いと表現される嫌悪感"というものなのかしら……」 「移動方法を変更します。このまま貴方だけ車外でマラソンという形式にしましょう」 「悪かったわ」 「変更案を破棄します」 「良かったわ」 そうした漫才染みた会話を経て、辺りの様子を軽く眺めてみた。 不審者はいない。改めて実感したのは、ゲーム開始から数時間経ったおかげで辺りもうすっかり明るくなっている事のみ。 既に何時間も経過した後だ。おそらくこの舞台の北側、そのいくつかの"エリア"は既に何らかの力で封鎖されているのだろう。 しかしそれでも目的は変わらない。変わらず他の"ゲームの参加者"を殺し尽くすだけだ。 師匠との衝突もあったが、互いにこんな面倒ごとは御免だろうからこんな事もしばらくは起きないだろう、きっと。 何も問題はない。後はきちんと目的を完遂して涼宮ハルヒを保護出来れば、問題はないのだ―――― ――――と言いたいところだが、その前に朝倉には師匠に言わねばならないことがあった。 現在、最も懸念すべき情報。それを、共有しておかねばなるまい。 「師匠……早速だけど、正直に伝えたいことがあるわ」 「なんでしょう」 今回の涼宮ハルヒを生存計画において、最悪の障害と最強の協力者のどちらかになる筈だった同類。 恐らくは誰もが手出し出来ぬはずであった強大な存在。恐らく放送で呼ばれることは無いはずであった固体。 同じ情報統合思念体によって製造され、最も涼宮ハルヒに近い位置に座る同業者。 恐らく、師匠無しでは決して勝利する事は出来ないであろう、分厚く高い壁。 パーソナル・ネーム"長門有希"。 その彼女に関する、驚くべき、そして信じられぬ報告が放送された事を伝えなくてはいけない。 師匠は、どう思うだろうか。正直、切実な問題なので真剣に考えて欲しい。 自分の危機感は通じるだろうか。いや、話せばわかってくれるはず。 「率直に言うけど……私や師匠より強い存在が、さっき名前を呼ばれたわ」 "あの長門有希"が死んだという恐るべき事実。 そこから浮かび上がるのは、つまり、この世界にはとんでもない強者が潜んでいるという事。 「詳しいスペックは後で話すわ。けれど、私が"自分に有利な状況を作ったけれど敗北した"と言うと、彼女の脅威が解ると思う」 師匠がこちらを見た。常々余裕が見て取れるその瞳からは、流石に驚きという感情も見え隠れしている。 いつもの彼女のポーカーフェイスが、僅かながら崩れた。 「彼女のパーソナルネームは長門有希。私の同業者であり、私より重大な任務について、私よりも強大だった存在。 もう一度言うわ……その彼女が、死んだそうよ。誇張無く、師匠よりも強いはずのあの特別な固体の名が今、放送で呼ばれたの」 それはつまり、自分達の身を脅かす程の脅威が存在している可能性が高いという事に他ならない。 「師匠……やっぱり私たち、もう少し気合を入れるべきだったわ。喧嘩なんてしている場合じゃない」 故に、 「利用し合うのは結構。仲良しこよしの関係になろうとは言わない……けれど、もう少し互いに協力する意思も見せないと……」 おそらく、 「私達、多分死ぬかも」 ◇ ◇ ◇ 流石に朝倉涼子が真剣な表情で放った言葉を突っぱねるのは愚の極みとも思えた。 故に師匠は反論をせずに、一言「そうですか」と返事をし、朝倉達と共にパトカーに乗り込んだのであった。 確かに、気合を入れなおすべきだろう。苛立ちを覚えている暇は無かった。 これからはもう少し臨機応変に行動をしなくてならない。 まさか朝倉涼子からそれを教わる事になるとは思わなかった。 この街に潜む脅威。自分達はそれを意識するべきであろう。よく理解した。 これからは更に気を引き締めなければ。 だが金目のものは探す。 【D-3/警察署前/一日目・朝】 【師匠@キノの旅】 [状態]:健康。パトカー運転中。 [装備]:FN P90(50/50発)@現実、FN P90の予備弾倉(50/50x18)@現実、両儀式のナイフ@空の境界、パトカー(1/4)@現実 [道具]:デイパック、基本支給品、金の延棒x5本@現実、医療品、 パトカー(3/4)@現実 [思考・状況] 基本:金目の物をありったけ集め、他の人間達を皆殺しにして生還する。 1:天守閣の方へと向かう。 2:朝倉涼子を利用する。 3:浅上藤乃を同行させることを一応承認。ただし、必要なら処分も考える。よりよい武器が手に入ったら殺す? 【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:健康。パトカー後部座席に乗車中。 [装備]:シズの刀@キノの旅 [道具]:デイパック×4、基本支給品×4、金の延棒x5本@現実、軍用サイドカー@現実、蓑念鬼の棒@甲賀忍法帖、 フライパン@現実、人別帖@甲賀忍法帖、ウエディングドレス、アキちゃんの隠し撮り写真@バカとテストと召喚獣 [思考・状況] 基本:涼宮ハルヒを生還させるべく行動する。 1:天守閣の方へと向かう。 2: 師匠を利用する。 3:SOS料に見合った何かを探す。 4:浅上藤乃を篭絡し、活用する。無理なようなら殺す。 [備考] 登場時期は「涼宮ハルヒの憂鬱」内で長門有希により消滅させられた後。 銃器の知識や乗り物の運転スキル。施設の名前など消滅させられる以前に持っていなかった知識をもっているようです。 【浅上藤乃@空の境界】 [状態]:気絶。無痛症状態。腹部の痛み消失。パトカー後部座席に乗車中。 [装備]:なし [道具]:なし [思考・状況] 基本:湊啓太への復讐を。 0:(気絶中) 1:朝倉涼子と師匠への対処? 朝倉涼子の「協力」の申し出を検討する? 2:他の参加者から湊啓太の行方を聞き出す。 3:後のことは復讐を終えたそのときに。 [備考] 腹部の痛みは刺されたものによるのではなく病気(盲腸炎)のせいです。朝倉涼子の見立てでは、3日間は持ちません。 「歪曲」の力は痛みのある間しか使えず、不定期に無痛症の状態に戻ってしまいます。 「痛覚残留」の途中、喫茶店で鮮花と別れたあたりからの参戦です。(最後の対決のほぼ2日前) 湊啓太がこの会場内にいると確信しました。 そもそも参加者名簿を見ていないために他の参加者が誰なのか知りません。 警察署内で会場の地図を確認しました。ある程度の施設の配置を知りました。 投下順に読む 前:『物語』の欠片集めて 次:とある神について 時系列順に読む 前:『物語』の欠片集めて 次:とある神について 前:「曲がった話」― Analyzing Device ― 師匠 次:「謀反が起きた国」― BATTLE ROYAL IXA ― 前:「曲がった話」― Analyzing Device ― 朝倉涼子 次:「謀反が起きた国」― BATTLE ROYAL IXA ― 前:「曲がった話」― Analyzing Device ― 浅上藤乃 次:「謀反が起きた国」― BATTLE ROYAL IXA ―
https://w.atwiki.jp/ln_alter2/pages/287.html
第三回放送までの死者 時刻 名前 殺害者 死亡作品 死因 日中 古泉一樹 師匠 「つまらない話ですよ」と僕は言う 射殺 午後 シズ フリアグネ エンキリサイテル 狩人vs.不知なるシズ 失血死 夕方 御坂美琴 朝倉涼子 人違いメランコリー 失血死 夕方 伊里野加奈 フリアグネ Memories Off 消滅 【残り35人】 殺害数 順位 該当者 人数 このキャラに殺された人 生存状況 スタンス 1位 キノ 5人 土屋康太、吉井明久、朝比奈みくる、薬師寺天膳、零崎人識 生存 マーダー 2位 紫木一姫 4人 長門有希、高須竜児、木下秀吉、ガウルン 生存 マーダー(奉仕) 3位 シズ 2人 アリソン・ウィッティングトン・シュルツ、メリッサ・マオ 死亡 マーダー 白純里緒 2人 吉田一美、土御門元春 死亡 マーダー 師匠 2人 北村祐作、古泉一樹 生存 マーダー 朝倉涼子 2人 筑摩小四郎、御坂美琴 生存 マーダー(奉仕) フリアグネ 2人(3人) シズ、伊里野加奈(ステイル=マグヌス) 生存 マーダー 8位 浅上藤乃 1人 甲賀弦之介 生存 マーダー(無差別?) 伊里野加奈 1人 榎本 トーチ化後に消滅 マーダー(奉仕) 姫路瑞希 1人 黒桐幹也 生存 対主催 朧 1人 朧 死亡 マーダー(奉仕) 如月左衛門 1人 櫛枝実乃梨 生存 マーダー ステイル=マグヌス 1人 白純里緒 生存(トーチ化) マーダー(奉仕)
https://w.atwiki.jp/kskani/pages/104.html
◆2XEqsKa.CM 氏 氏が手がけた作品 話数 タイトル 登場人物 003 怪奇! 格闘カエル男の恐怖 冬月コウゾウ、タママ二等兵 014 戦慄! 俺の心に恐怖心! アプトム、悪魔将軍 023 決意! 駆けろガイバーⅠ 深町晶 030 接触! 怒涛の異文化コミュニケーション! リヒャルト・ギュオー、ドロロ兵長、リナ=インバース 038 腹黒! 偽りの共鳴 小泉太湖(小砂)、タママ二等兵、冬月コウゾウ 050 犯罪! 拉致監禁○辱摩訶不思議ADV! ウォーズマン、リヒャルト・ギュオー、朝倉涼子、雨蜘蛛、草壁メイ 066 模倣より生まれ来る創造 アプトム、惣流・アスカ・ラングレー 079 根深き種の溝を越えて (前編)(後編) スバル・ナカジマ、ガルル中尉、アシュラマン、ジ・オメガマン 086 朝日とともに這い寄るモノ キョンの妹、佐倉ゲンキ、ゼロス 096 麗しくも強き女王の駒 朝倉涼子、キン肉スグル、ヴィヴィオ 104 新たなる戦いの予感 ラドック=ランザード(ズーマ)、アプトム 111 祈る者、猛る者の心知らず 惣流・アスカ・ラングレー、高町なのは、小泉太湖(小砂) 128 彼の心乱せ魔将(前編)(後編) トトロ、悪魔将軍、ノーヴェ、古泉一樹、碇シンジ、朝比奈みくる、川口夏子、ハム 133 黒は一人でたくさんだ!(前編)(後編) タママ二等兵、加持リョウジ、ウォーズマン、リヒャルト・ギュオー 202 鎧袖一触~鎧の端の心に触れろ~ キョン、トトロ 204 鎧袖一触~鎧は殴るために在る~ 古泉一樹、キン肉万太郎、悪魔将軍、ノーヴェ、川口夏子 207 寸善尺魔~憎魔れっ子が世に蔓延る(前編)~(中編)(後編) 雨蜘蛛、深町晶、ドロロ兵長、朝倉涼子、水野灌太(砂ぼうず)、悪魔将軍 210 寸善尺魔~善と悪の狭間、あるいは慮外にて~ 高町なのは、冬月コウゾウ、ケロロ軍曹、スバル・ナカジマ、長門有希、草壁タツオ 214 魑魅魍魎~草の根分けるは鬼にあらず~ キョン、ジ・オメガマン 218 魑魅魍魎~つどうファクター・トゥ・ダイ~ キン肉スグル、ゼロス、ハム、川口夏子 222 諸行無常~愛がなければ見えない~ リナ=インバース、ヴィヴィオ、ドロロ兵長、朝倉涼子 223 諸行無常~もしも願い一つだけ叶うなら~ 水野灌太(砂ぼうず)、キョン 登場させたキャラ 3回 アプトム、タママ二等兵、リヒャルト・ギュオー、悪魔将軍、冬月コウゾウ、川口夏子、朝倉涼子、キョン 2回 惣流・アスカ・ラングレー、小泉太湖(小砂)、ウォーズマン、トトロ、古泉一樹、ノーヴェ、 スバル・ナカジマ、高町なのは、ジ・オメガマン、ゼロス、キン肉スグル、ハム、ドロロ兵長、 リナ=インバース、ヴィヴィオ、水野灌太(砂ぼうず) 1回 深町晶、雨蜘蛛、草壁メイ、ガルル中尉、アシュラマン、キョンの妹、佐倉ゲンキ、ラドック=ランザード、 碇シンジ、朝比奈みくる、加持リョウジ、キン肉万太郎、ケロロ軍曹、長門有希、草壁タツオ 作品に寄せられた感想 チート過ぎないかと心配されていたガイバーキャラを見事にかませとして描き、悪魔将軍の強さを良く表現したお方。 -- 名無しさん (2008-09-10 19 00 21) 「接触! 怒涛の異文化コミュニケーション!」では見事なガチバトルを書き、スレ住人は皆感嘆の声を漏らした。凄すぎw -- 名無しさん (2008-09-15 19 28 47) 本スレでまさかの安価予約という偉業を行った人!まさに変態という名の勇者!! -- 名無しさん (2008-09-20 01 57 36) そしてその安価予約によって投下されたSSでガチバトルを描き、空恐ろしい同盟やネコミミ中年を書き切ったとんでもない勇者変態。 -- 名無しさん (2008-09-21 09 53 32) 超人タッグマッチを笑いあり燃えあり涙ありで書ききり、しかも今後に続けるフラグも生み出し続ける正に変態勇者なお方 -- 名無しさん (2008-10-26 11 20 22) とにかく凄い!安価予約とか言う他なら有り得ない事を平然とやってのけるそこに痺れる憧れるぅ -- 名無しさん (2008-10-31 22 35 07) 予約ウェーブにてまさかの11人予約ww色々と凄すぎる -- 名無しさん (2008-12-12 17 42 18) 最新作の圧倒的なすごさ&鬱っぷりに全住人が震撼した。まさにkskの顔にふさわしいお人。 -- 名無しさん (2008-12-15 10 45 02) 「彼の心乱せ魔将」…これは凄い。鬱に分類される話なのにぐっとくる物がある。 -- 名無しさん (2008-12-15 16 39 49) 熱血、鬱と話を濃く書き、そして安価予約という無茶を行うすごい人 -- 名無しさん (2009-02-16 18 14 14) そして復帰即安価予約する。将軍恐るべし -- 名無しさん (2009-11-02 00 43 58) 安価予約をこなせるパフォーマンス力はハンパじゃない。内容も◎。 -- 名無しさん (2010-03-20 22 58 30) 「根深き種の溝を超えて」が涙で読めない。原作を知らなくても出てくるキャラが好きになるって凄いことだ。 -- 名無しさん (2010-08-15 17 31 41) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1214.html
Report.11 涼宮ハルヒの遭遇 SOS団集団下校。それは何も変わらない、いつもの光景だった。 「あれっ!?」 涼宮ハルヒは驚き、声を上げた。 「どないしたんや、ハルヒ。」 【どうしたんだ、ハルヒ。】 『彼』が問い掛ける。 「ほら、あそこ、踏み切りの向こう。あそこにおるの、朝倉違(ちゃ)う!?」 【ほら、あそこ、踏み切りの向こう。あそこにいるの、朝倉じゃない!?】 「何(なん)やと!?」 【何(なん)だと!?】 『彼』は驚愕した表情で彼女の指す方向を見た。しかし、その視線はちょうど走ってきた電車に阻まれる。電車が通り過ぎると、そこには誰もいなかった。 「見間違いか、他人の空似と違(ちゃ)うか?」 【見間違いか、他人の空似じゃないか?】 「いや、あれは間違いない!」 こうして、翌日の不思議探索ツアーは、『朝倉涼子の捜索』に決定した。ここでも彼女の力は遺憾なく発揮され、捜索開始から二時間後、わたし達は求める者に遭遇した。 ……朝倉涼子が、そこにいた。 「朝倉っ!」 ハルヒが声を掛けた。『朝倉』と呼ばれた少女は、びくりと身体を震わせて、声の元に身体を向けた。 「あんた、朝倉涼子と違う?」 【あんた、朝倉涼子じゃない?】 「え、は、はい、そうですけど……」 「やっぱりー! 久しぶりやな~、元気してた?」 【やっぱりー! 久しぶりね~、元気にしてた?】 「え? え?」 『朝倉』と呼ばれた少女は、目を丸くして戸惑っている。 「あ、あの……話が見えへんのですけど……」 【あ、あの……話が見えないんですけど……】 「ひどいな~元クラスメイトにそれはないん違(ちゃ)う?」 【ひどいな~元クラスメイトにそれはないんじゃない?】 「えっと……あの、あなた達は誰……ですか……?」 今度はハルヒが困惑する番だった。 「誰……って。あたしは元、北高の1年5組、涼宮ハルヒ。で、こっちが同じく元、北高1年5組のキョン。覚えてへんの?」 【誰……って。あたしは元、北高の1年5組、涼宮ハルヒ。で、こっちが同じく元、北高1年5組のキョン。覚えてないの?】 「覚えてへんって言うか……そもそも『北高』って一体……?」 【覚えてないって言うか……そもそも『北高』って一体……?】 『彼』の紹介があだ名であることについては、本人から以外には誰からも指摘の声は上がらなかった。 「あんた、『朝倉涼子』やんな?」 【あんた、『朝倉涼子』よね?】 「え? ええ、『朝倉涼子』ですけど……」 「涼子ー! 何してんのー?」 【涼子ー! 何してるのー?】 その時、『朝倉涼子』に声が掛けられた。声の主を見て、SOS団一同は固まった。 「あ……有希……」 『朝倉涼子』は、声の主を見て、安堵した声を漏らした。 ……長門有希が、そこにいた。 「どしたん? なんかいっぱい人がおるけど。涼子の知り合い?」 【どしたの? なんかいっぱい人がいるけど。涼子の知り合い?】 『涼子』と呼ばれた彼女は、ふるふると、首を横に振った。 「えっと……全然知らん人達……」 【えっと……全然知らない人達……】 それを聞くと、『有希』と呼ばれた彼女はハルヒに向かって言った。 「えーと、どちらさんか知らへんけど、あんまりこの娘を怖がらさんとってくれる? ナンパやカツアゲにしちゃ男女比率おかしいけど、本人はあんたらのこと知らへん言(ゆ)うてるし。」 【えーと、どちらさんか知らないけど、あんまりこの娘を怖がらさないでくれる? ナンパやカツアゲにしちゃ男女比率おかしいけど、本人はあんたらのこと知らないって言ってるし。】 『有希』は『涼子』をかばうように一歩前へ出ると、続けた。 「もしご不満やったら、わたしが相手になるし。」 【もしご不満なら、わたしが相手になるわ。】 彼女は意志の強そうな眼で、涼宮ハルヒを見据えていた。 「あ、あの……有希。」 「なに?」 『有希』は軽く振り向いて『涼子』の声に答えた。 「わたしは知らへんねんけど、その人、わたしの名前知ってるみたいやねん。それに……」 【わたしは知らないんだけど、その人、わたしの名前知ってるみたいなの。それに……】 そう言って視線をあるところに向ける。 「あんたが知らんのに、相手が名前知ってるなんて、ますます怪し……」 【あんたが知らないのに、相手が名前知ってるなんて、ますます怪し……】 答えつつ、『涼子』の視線を辿った『有希』は、途中で声を失った。視線の先にいるのは、わたし。すなわち『長門有希』。 ……彼女にそっくりな少女が、そこにいた。 『…………』 全世界が停止したかと思われた。沈黙がその場を支配する。 「……つかぬことを伺うけど。」 最初に口を開いたのは、ハルヒだった。『有希』と呼ばれた少女に問い掛ける。 「……なに?」 「あんたは……『長門有希』?」 「そうやけど……何(なん)であんたがわたしの名前知ってんの? それに……」 【そうだけど……何(なん)であんたがわたしの名前知ってるの? それに……】 「ああ、皆まで言わんといて。何が言いたいか、大体分かるから。それにしても奇遇やねぇ。この娘は……」 【ああ、皆まで言わないで。何が言いたいか、大体分かるから。それにしても奇遇よねぇ。この娘は……】 ハルヒはぎこちなく、顔ごとわたしに視線を向けた。 「長門有希。」 わたしはいつも通りの平坦な声で答えた。再びその場を沈黙が支配した。 「これはこれは、えらい光景ですなー……」 【これはこれは、すごい光景ですね……】 古泉一樹が、引き攣った笑顔で言葉を漏らす。わたし達は、再び真っ先に沈黙の状態異常から回復したハルヒの提案により、近くの喫茶店に入っていた。 わたしと『長門有希』、『彼』と古泉一樹と朝比奈みくる、ハルヒと『朝倉涼子』に分かれ、卓の三辺に座っている。 そう。卓の一辺には、まったく同じ外見を持った二人が並んで座っている。そしてその二人は、赤の他人。 「世の中には似てる人が三人いるって言うけど……」 ハルヒは、まじまじと、わたし達を見比べている。 「うーん、不思議な気分やわ。自分の顔が近くにあるって。」 【うーん、不思議な気分だわ。自分の顔が近くにあるって。】 『有希』は、鏡片手に、わたしと自分の顔を見比べている。 「……名前まで同じなんて、すごい偶然ですね……」 『涼子』は、おずおずと感想を述べた。 「今この場におらへんけど、あたしの知ってる人も、あんたとよぉ似とぉし、名前も同じやねんで。最初に声掛けたときは、絶対本人やと思(おも)たもん。」 【今この場にいないけど、あたしの知ってる人も、あんたとよく似てるし、名前も同じなのよ。最初に声掛けたときは、絶対本人だと思ったもん。】 と、ハルヒは『涼子』に言った。 「それで、あんた達はどういう関係なん?」 【それで、あんた達はどういう関係なの?】 「わたし達は、従姉妹。」 ハルヒの問いに『有希』が答える。 「今日はちょっと親戚の集まりがあって、この辺りに来てたんやけど。まさかこんな出会いがあるとは思わんかったわ。」 【今日はちょっと親戚の集まりがあって、この辺りに来てたんだけど。まさかこんな出会いがあるとは思わなかったわ。】 ふに。 ふにふにふに。 『有希』は、わたしの胸を一掴みし、それから自分の胸を掴みながら言った。 「胸の大きさまで同じって……」 「ちょ、ちょっと!? あんた女のくせに、なに女の子の胸揉んどぉ!?」 (あたしの有希に、なに手ぇ出しとぉ!!) 【ちょ、ちょっと!? あんた女のくせに、なに女の子の胸揉んでんの!?】 《あたしの有希に、なに手出してんのよ!!》 あなたがそれを言うのですか、ハルヒさん。 もしわたしが『彼』だったら、そんなツッコミをしていただろう。なお、括弧書き内はわたしが補足した。 「ええやん、女同士なんやし。気にしたらあかん。それにしてもあんたは無表情やなー。」 【良いじゃない、女同士なんだし。気にしちゃだめよ。それにしてもあんたは無表情ねー。】 『有希』は、わたしの口に指をつっこんで横に広げたり、眉尻を下げさせたりして遊んでいる。 (あの娘は長門にそっくりやけど、怖いもの知らず……ある意味ハルヒっぽいな……) 《あの娘は長門にそっくりだけど、怖いもの知らず……ある意味ハルヒっぽいな……》 (ええ、そのようで。) 『彼』と古泉一樹は、小声で会話している。 「それにしても、こんな近所に、そっくりな娘がおるとは思わんかった。引越ししてへんかったら、もっと早(はよ)会えたんかな?」 【それにしても、こんな近所に、そっくりな娘がいるとは思わなかった。引越ししてなかったら、もっと早く会えたのかな?】 「前は近くに住んでたん?」 【前は近くに住んでたの?】 「今は大阪に住んでるけど、四年前までは、宝塚におってん。ほんで涼子が西宮やったから、時々遊びに行っとってんわ。同い年やし。」 【今は大阪に住んでるけど、四年前までは、宝塚にいたの。それで涼子が西宮だったから、時々遊びに行ってたのよ。同い年だし。】 「ふーん。で、涼子ちゃんは、どこ住んどぉ?」 【ふーん。で、涼子ちゃんは、どこ住んでるの?】 「あ、わたしも、今は大阪に住んでます。有希の近所。四年前に引越しました。」 「あー、あと一年ほど早(は)よ会(お)うてれば、もっとおもろい光景が見られたのになー……さっきも言(ゆ)うたけど、あんたにそっくりの同姓同名の娘が、同級生におってん。急に外国……カナダへ転校してしもてんけど。」 【あー、あと一年ほど早く会ってれば、もっと面白い光景が見られたのになー……さっきも言ったけど、あんたにそっくりの同姓同名の娘が、同級生にいたのよ。急に外国……カナダへ転校してしまったんだけど。】 「そんなによぉ似てるんですか?」 【そんなによく似てるんですか?】 「もう似てるなんてレベル違(ちゃ)うで! 同じ人間のコピーかと思うくらいそっくりやねん! 雰囲気とか……ああ、あと声も一緒やわ。」 【もう似てるなんてレベルじゃないわ! 同じ人間のコピーかと思うくらいそっくりなの! 雰囲気とか……ああ、あと声も一緒だわ。】 「……わたしも、よく似ているの。」 『有希』は、平坦な声で話した。 「!? すご! 喋り方を合わしたら同じ声や!!」 【!? すご! 喋り方を合わせたら同じ声だ!!】 「……そう。でもわたしは、彼女の声をほとんど聞いていない。」 『有希』はわたしのモノマネをしている。そっくり。 「わたしの声は、もっと高いと思われる……くくく、ははは、あーっはっはっは!」 『有希』は声を上げて笑い出した。 「あかん、おもろすぎる! ツボにハマってしもた! わたしが無表情やったら、こんな顔なんやな。そんな顔で、わたしのいつもの声で喋るとこ想像したら……ぶはははは! あかん、止まらへん!」 【だめ、面白過ぎる! ツボにハマっちゃった! わたしが無表情だったら、こんな顔なのね。そんな顔で、わたしのいつもの声で喋るとこ想像したら……ぶはははは! だめ、止まらない!】 「くくく……た、確かに、あんたのさっきの声で有希が喋るとこなんて、想像つかへんわ!」 【くくく……た、確かに、あんたのさっきの声で有希が喋るとこなんて、想像つかないわ!】 ハルヒと『有希』は、腹を抱えて大笑いしている。 朝比奈みくる、古泉一樹、そして『彼』は、三人とも明後日の方向を向いている。 しかしわたしには分かる。三人とも肩が震えている。どう見ても笑いを堪えている。三人とも、わたしが『有希』の声色を使うところを想像しているらしい。 ……朝比奈みくるは、先日の実験で、そんなわたしの声も知っているはず。それでも笑えるのだろうか。よく分からない。 そしてわたしの記憶領域にある試論が展開された。ハルヒが言うように、今目の前にいる『長門有希』の声で話すこと。 これは、元々このインターフェイスが持っている声色でもあるので、何の難しいこともない。そして、涼宮ハルヒの退屈を紛らわせるのにちょうど良いと判断した。 「それはこんな感じ?」 わたしは、ある程度抑揚をつけて『長門有希』の声色で話した。表情はそのままで。 『!?』 わたし以外の全員が絶句した。 「ゆ、有希……」 ハルヒが恐る恐る言った。 「あんた……無表情でその声は……ユニーク……」 わたしの台詞を取られた。 よく知る人物によく似た姿かたちで、かつ同姓同名である人物との遭遇は、ハルヒの好奇心を大いに満足させた。特に『長門有希』については、同じ姿の人物が二人並んでいることもあって、しきりに二人を見比べては目を輝かせる姿が見られた。 その後も他愛もない話に花を咲かせ、主にわたしが『有希』とハルヒに玩具にされながら、にぎやかな時間を過ごすうち、彼女達が帰る時間となった。 「今日はすごくおもろい日やった!」 【今日はすごく面白い日だった!】 『有希』はやや興奮気味に、今日の感想を述べた。 「あんまり長いこと家(うち)を空けてると、みんなが心配するし、もうそろそろ帰るわ。」 【余り長い間家(うち)を空けてると、みんなが心配するし、もうそろそろ帰るわ。】 「名残惜しいけど、しゃーないな。」 【名残惜しいけど、仕方ないわね。】 ハルヒと彼女達は、連絡先を交換していた。 「そんなに遠く離れてるわけでもないし、また今度会えたらええですね。」 【そんなに遠く離れてるわけでもないし、また今度会えたら良いですね。】 『涼子』が言った。彼女もとても楽しそうに見えた。 「そやね。有希! って、やっぱり自分と同じ名前呼ぶんは変な気分やな……また今度、遊ぼな!」 【そうね。有希! って、やっぱり自分と同じ名前呼ぶのは変な気分ね……また今度、遊ぼうね!】 「……また、今度。」 わたしは平坦な声で答える。 「ふふふ。今度はカラオケで『有希』ちゃんと有希のデュエットとかしたら面白そうやね。ダブルヘッダーならぬ、ダブルユッキーで。」 【ふふふ。今度はカラオケで『有希』ちゃんと有希のデュエットとかしたら面白そうよね。ダブルヘッダーならぬ、ダブルユッキーで。】 『涼子』はそう言って微笑んだ。 「わたしに似てるっていう、もう一人の『朝倉涼子』さんにも、会(お)うてみたかったなあ。」 【わたしに似てるっていう、もう一人の『朝倉涼子』さんにも、会ってみたかったなあ。】 「そういえばあいつ、急に転校したあと、手紙の一つも遣さへんねんで? たまにはひょっこり一時帰国でもして、顔出したらええのに。」 【そういえばあいつ、急に転校したあと、手紙の一つも遣さないのよ? たまにはひょっこり一時帰国でもして、顔出したら良いのに。】 ハルヒは『涼子』を抱きかかえ、頭を撫でながら言った。 「何(なん)かね、ほんま漠然としてるんやけど、何となく、あいつとはまた会えるような気がすんねん。」 【何(なん)かね、ほんと漠然としてるんだけど、何となく、あいつとはまた会えるような気がするのよ。】 ハルヒに頭を撫でられている間、『涼子』は頬を朱に染め、目を細めていた。 「ほな、また今度! ……ほな、行こか、涼子。」 【じゃあ、また今度! ……じゃ、行こうか、涼子。】 「うん。皆さんもお元気で。もう一人の『朝倉涼子』さんにもよろしく……って言(ゆ)うても、おらへんのか。」 【うん。皆さんもお元気で。もう一人の『朝倉涼子』さんにもよろしく……って言っても、いないのか。】 こうして、彼女達は去って行った。 わたしたちの出自を整理する。 わたし達、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイスは、身体を構成する際、外見は実在する人間を基にしている。端末により若干の改変を行う場合もあるが、基本的には基の人間の姿かたちをそのまま使用している。 もちろん、涼宮ハルヒの身辺に配置されるに当たって支障とならないよう、涼宮ハルヒとは物理的又は時間的に遠くに存在する人間の情報を利用する。 実は端末の開発初期段階では、それまでの基本的な観察結果を基に、全く新規に端末の外見を構成する予定だった。 しかし、計画は頓挫した。いざ実際に作成し、現場に投入してみると、様々な問題が発生した。その時の騒動は情報操作によって、人間の歴史からは完全に消え去っているが、それは凄まじいものだった。人間の世界に存在するもので例えると、『3DCGによって製作されたヴァーチャルアイドル』。そのようなものが実際に肉体を持って街を歩けばどうなるか。街は恐慌状態に陥った。 なお、端末の稼動が軌道に乗った時点で行われた追跡調査で、その時に投入された端末の出来は、『ヴァーチャルアイドル』と呼べるほどの品質ですらなかったことが判明した。情報統合思念体の一部では、人間の言葉になぞらえてその時の試作端末を『モッコス』又は『邪神セイバー』と呼称して揶揄している。言葉の由来は、『フィギュア』と呼ばれる人形の一種で、非常に出来が悪いことで有名になった個体名から。 情報空間においては、仮想も現実も大した区別を必要としない。だから、情報空間に生きる情報生命体である情報統合思念体には、仮想と現実の差が大きな意味を持つ有機生命体の思考に、仮想と現実を踏み越えた外見が大きな影響を及ぼすことは、本質的に理解できなかった。 プロジェクトは暗礁に乗り上げた。どうすればこの状況を打開できるのか。情報統合思念体は、決定的な回答を持ち合わせていなかった。 「人間をそのまま写し取れば良い。」 その時、どこかの派閥が閃いた。 「我々と有機生命体とでは、違いが大き過ぎる。観測初期においては、既存の人間の外見を流用するのが効率的ではないか。」 情報統合思念体の目的は、有機生命体である涼宮ハルヒの観測。これは未知の領域への進出。分からないから理解するために、対象と良く似た構造のインターフェイスを派遣する。しかし、分からないものを作ることはできない。ならば、その最初の一歩はやはり既存のものの流用から始めるしかない。 こうして端末の外見の仕様が固まった。次に問題となったのは、どのような外見を流用するのか。それまでの観測結果によると、対象となる『人間』には、外見的特徴に、いくつかの共通する類型があることが分かっていた。 まず『性別』。これは人間に限らず、多くの有機生命体に見受けられる特徴で、外見だけではなく生命体の増殖にとって重大な意味を持つ特徴。 次に『人種』。これは主に皮膚の色調に代表される大まかな分類。 そして『民族』。同じ人種でも、民族が違うと外見的特徴が変化する。 観測の結果、涼宮ハルヒが生息する地域では、ある人種が圧倒的多数を占める普遍的存在として認識されていた。 そこで端末の外見は、当該対象の生息する地域で圧倒的多数を占める、『日本人』という集合の中から選定されることとなった。 そして涼宮ハルヒの基礎的な観測データを基に、彼女が望む人物像に合致した人間の外見を検索していった。性格は別個に検索し、組み合わせる。こうして彼女が望む性格と外見を持った端末を製作していった。 しかし、最後に難関が待っていた。 彼女に最も近い場所に配置する端末の外見が、見付からなかった。 『見付からない』と表現すると語弊がある。正確には、存在は確認していた。 しかし、彼女の近くに配置するという重要な意味を持つ端末に与えるには余りに彼女に『近い』位置に、その外見を持つ人物は存在した。端末と、端末と同じ姿をした『オリジナル』とが出会ってしまう確率が飛躍的に高くなる。 プロジェクトは再び暗礁に乗り上げた。 「当該対象の移動を確認。『引越し』と呼ばれる現象で間違いない。」 朗報だった。 外見のモデルとするのに最も適した人物が、引越しによって涼宮ハルヒから遠い位置に移動した。それでも隣の『府』と呼ばれる地域に移動しただけなので、若干の不確定要素は残るが、涼宮ハルヒの求める人物像に最も合致する外見を使用することを優先させた。 ――長門有希、承認―― ――朝倉涼子、承認―― こうして、涼宮ハルヒに最も近い位置に配置される端末が生み出された。 長門有希は、隣のクラス、そして文芸部に、朝倉涼子は同じクラス、そして学級委員にそれぞれ配置されることが決定した。SOS団結成の三年前のことだった。 以来、端末と『オリジナル』は、全く接点を持たずに過ごしていった。プロジェクトは順調だった。途中で朝倉涼子が異常動作を起こし、結果、情報統合思念体の許可を受けた長門有希が、朝倉涼子の有機情報連結を解除するというアクシデントもあったが、プロジェクトは概ね目的を達成しつつあった。 しかし、意外な形でわたし達は接点を持った。それが今回の遭遇。これは情報統合思念体にとっても想定外の出来事だった。 情報生命体である情報統合思念体にとっては、『同期』のように未来の出来事を知ることはたやすいはずだが、それでもこの現象は『想定外』だった。その理由は、一端末に過ぎないわたしにはよく分からない。 もしかしたら、情報統合思念体もわたしと同じように、あえて未来と同期しないようにしているのかもしれない。情報統合思念体も、未来に起こる出来事をあらかじめ知りたくはない、と思うことがあるのだろうか。 ←Report.10|目次|Report.12→
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5481.html
「おはようございます。こちらが昨日の夕方、凄惨な殺人事件が起きた現場です。一体、被害者に何が起きたのでしょうか」 TVカメラの前で、女性レポーターが機械的な代名詞で我が家を報道している。 その周囲には、朝だというのにかなりの人だかりができており、「お前ら他にやることないのか?」という気分になるのはなぜなんだろうね。 学校なり会社なり行けよ。もしくは自宅でTVでも見てろ。 本来なら人ゴミはそれほど苦手ではないが、今回ばかりはここの奴らへムカっ腹が立ってしょうがない。 本日の明け方、古泉一樹のクローゼットから剥ぎ取ったジャケットを羽織り、彼の家を出て行った。何て言ったって俺はプチ逃亡者だからな。これ以上長居はできない。 それに古泉一樹の家に入り浸ったとしても、母親を殺したクソ野朗を捕まえられるわけがない。自分の手で決着をつけないと気が済まねーんだよ。 殺人鬼の手がかりが見つかるかもしれず、虎穴にいらずんばな精神で自宅の様子を見に来た。危険は承知だ。 そしてこの人ゴミだ。 「勘弁してくれ」 そりゃ家に入れるとは思ってなかった。もう一度言おう。お前ら他にやることないのか? 「なお、被害者の一人息子である少年は現在も行方不明です。警察は少年を事件の重要参考人として、現在捜索中の様です。以上、現場からでした。スタジオにお返しします」 灯台下暗しって言葉を知ってるか?ま、知らないようだから助かっているんだが。 「……っち。まるっきりゼロから探すしかねーみたいだな」 小気味の良い舌打ちが放たれ、溜息が漏れた。 これ以上はまずいな。リポーターが俺の事を行方不明と言った以上、世間は俺の存在に注意を向ける。そうなったら色々めんどくさいことになるだろう。 踵を返し、ヒマな野次馬集団から離れようとした時だった。 「……あの女……なんでここにいるんだ?」 野次馬の端で、昨日俺が轢き殺しかけた美人女子高生が静かに佇んでいた。 妙だな。北高の始業時間なんか知らないが、光陽園とそんなに大差は無いはずだ。 ウチの始業時間ならあと一時間以上もある。早起きにしては少々苦しくないか? 彼女の長い髪の毛で表情の細部までは伺いしれないが、何だろう。すごく楽しそうにしている気がする。 気にいらねぇ。何が面白いんだよ。 彼女の後を追ってみるか。多分あいつは、この事件の関係者だ。 着かず離れず、彼女を見失わない程度に歩を進めている。だが、間違いなく俺の尾行には気づいているだろう。 少しずつだが、確実に人気がない場所に誘導されている。 住宅街を離れ、今や、郊外にある空きビルがひしめく様に乱立しているエセ心霊スポットにまで足を踏み入れてしまった。 「ねぇ。ちょっと良いかな?」 彼女が背後を振り返らずに語りかけてきた。ちょうど廃材だらけの広い空き地に出たあたりだ。 「なんだよ」 気づかれてることに確信を持てた以上、姿形を隠すのもバカバカしい。身を隠していた廃材から身を乗り出す。 「あなた、自分が何者かわかってて私を追ってるの?」 自分が何者かだって?さあな。母親を惨殺され、その上犯人にされかかってる悲劇の少年Aじゃねーの。 「なぁにそれ」 そこで初めて彼女がこちらを向いた。 その表情は微笑みに歪んでいた。それは今までに見たことないほどの不気味な微笑である。ショーウィンドウのマネキンが無理矢理笑わせられているみたいだ。 「私は自分の役割を実行するだけ」 鈍い煌めきが彼女の手の平で踊る。 「あなたを殺して改変世界を防衛する。じゃあ死んで!」 煌めきが閃光となって襲いかかる。 反射神経だけを頼りに斬撃をバックステップで回避することができた。日頃の行いに感謝しておこう。 「どういうつもりだ」 叫び声を無視するかわりに、返した刃がこめかみに振り下ろされた。 ナイフの軌跡を手の甲で受け止め、 「ちっ!勘弁しろよ!」 利き腕である左腕で、彼女の細い腹にフックを叩き込む。 苦痛に身をよじる彼女の姿に多少の罪悪感を感じたが、ナイフ持って襲いかかる女に同情できるか。 「はぁっ!」 頬に裏拳を繰り出し、何とか距離を取れた。が、 「……いってぇな」 吹っ飛ぶ寸前、彼女は俺の腕に小振りのナイフを突き刺した。古泉一樹には心の中で謝罪しておくとして、この血はどうやって止めておこうか。 「有機生命体の体って本当に脆いなぁ。このくらいで損傷するなんて」 親指で唇の血をぬぐいながら捨てゼリフを吐く彼女に、不覚にも笑いをこぼしかけてしまった。まるで人間じゃないみたいな口振りだな。 現在進行ing形で殺されかけているのに、頭だけは異様に冴え渡っている。何となくだが、こうやって襲われるのが当たり前な気がする。デジャヴって奴か? 「俺の母親を殺したのはお前だろ?どういうつもりだ」 俺の母は、こんな女子高生に恨みを買うようなことをしたとでも言うのか? 「そんなことどうだっていいじゃない。この世界のために死んで」 わけがわからない。なんだこの電波女。 「世界のために死ね?そこまでするほど好きな世界じゃねーよ!」 捨てゼリフと共に、腕に突き刺さったナイフを彼女に投げつける。 彼女はいとも簡単に、それを右手のゴツいサバイバル叩き落とした。だが、 「殺人鬼がぁ!くたばれ!」 ナイフはただの布石。本命は突進と共に繰り出された飛び蹴りだ。うるぁぁぁぁぁぁぁぁ! 靴底が喉元を貫き、彼女のセーラー服が泥まみれとなる。 背中を撃ち、苦痛に顔を歪めている殺人鬼の手に握られたナイフを蹴り飛ばし、エロさの欠片も無い馬乗りポジションを取る。 左腕を振り上げ、一撃。頬を捉える。 母親を殺されたことによる恨みを一撃一撃にブチコミ続ける。 こいつだけは許さない。 女だろうと容赦しない。 自分の行いを、死ぬほど後悔させてやるよ! 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 確かな殺意が芽生えているのは分かっていた。だけど拳は止められない。 「それが殺意っていうの?いい顔ね」 殺意に我を忘れ、殴ることに夢中になりすぎて重心を前に傾けてしまったのは失敗だった。 顔面を闇に覆われる。その細い腕からは想像もできないほどの握力で、俺の顔の皮膚がめり込んでいく。 強烈なアイアンクローにより、全身から力が抜け、ついには彼女の上から引き剥がされてしまった。 「でも残念。素敵な顔だけど、もう見れないんだもの」 無様に倒れた俺のへその上に、彼女の尻が覆いかぶさる。この形の良く柔らかい感触は、神様の最後の慈悲だろうか。 「防衛プログラム朝倉涼子。当該既定に基き、プログラムを実行する。じゃあ死んで!」 スカートの裾から取り出されたサバイバルナイフの切っ先が、心臓めがけて振り下ろされる。 「がっ!」 間一髪で間に合った。剣閃を手の平で防いだ弊害で、鮮血が顔にかかり、激痛が全身を駆け巡ったが、何とか生きている。 痛みを堪え、無傷な利き手で土を握りしめる。土でも喰ってろ! 「きゃ!もう!なにするのよ!」 口腔内の土を吐き出そうとしている間にマウントを解くことに成功した。っち!ここは退くべきか。 止まらない出血に気を取られながらも、俺の頭では、この町の地図が開かれており、間違いなく北高を指し示していた。 朝倉涼子とか名乗った殺人鬼から辛くも逃げおおせ、ようやく繁華街付近まで戻ってこれた。 「くっそ、いてぇな」 コンビニで買った包帯で右手の平を縛りつけ、出血だけは抑えたが、鈍い痛みだけは先ほどから一向に引かない。破傷風にならなきゃいいんだが。 「……街が騒がしいな」 大通りまで歩いたあたりで、ある違和感を覚えた。そう、街が騒がしいのだ。 普通だろ。西宮市は地下で探鉱火災が続くゴーストタウンでもなければ、灰が舞い散る古びたリゾート地ってわけでもないんだ。昼前のこの時間帯で、静かなわけが無い。 だがな、この騒がしさは異質なんだ。例えるなら、中世ヨーロッパで行なわれた魔女裁判による魔女容疑者の公開処刑を見物するような……ん?なんだありゃ? 「こちらは、昨夜から続いている連続殺人事件の事件現場です。見て下さい、もの凄い人だかりです。あ、たった今、救急車が被害者の遺体らしき物を搬送を開始したようです」 ここでも殺人事件だって?おいおい。あの女、一体何人殺したんだ? テレビリポーターと撮影クルーと思われるグループは、そのまま警察官の群れまで突撃していくのを見ながら、俺はあることを考えていた。 あの女……朝倉涼子の目的はなんだ? 人なんか殺したこともないから分からんが、殺人がマズイってことぐらい俺だってわかるさ。 それに殺人なんて物は冷静に考えれば分かる通り、リスクがでかい上にデメリットしかない。 一番の理由として死体の処理だ。あんなかさばる物は、どうやったって隠せるわけが無い。燃やそうが埋めようがすり潰そうが、痕跡をゼロにするなんて不可能だ。実際隠してないしな。 だが朝倉涼子は、何の躊躇いもなく殺人を行なっているようだ。何故だ?切り裂きジャックにでもなったつもりか? 殺人鬼が殺人をする理由など知りたくないが、知らなければならないような気がする。あーあ、気持ち悪い。 「動くな」 研ぎ澄まされた日本刀のように鋭い声。肩に置かれた熱原。それらが俺の逃亡を阻止させようとしている。 「私から逃げるとはいい度胸だな。ええ?少年A」 できれば二度と聞きたくなかった声ベスト5には入る人物が、俺の息の根を笑顔で止めるかのように睨みつけている。 「これでわかったでしょう?俺は連続殺人なんか知らない。だから母を殺したのも俺じゃない」 相手が顔見知りなら動機なんかいくらでもこじつけられるだろう。 だが相手を知らないなら殺す動機などあるか。だから手を離してください。母の殺害と、そこの某さんの殺害が繋がっているなら俺は無実だ。 「疑われる行動をした君にも問題があると思うけど?取調べ中の逃走とか」 まだ根に持っていやがる。 「俺は俺の手で決着をつけたいだけです」 そこまで言うと、若い女刑事は俺の肩から手を離してくれた。 「なら改めて捜査協力を要請する。少し時間をよろしいかしら?」 「何なりと。森警視」 森園生に連行された場所は、客足のピークが徐々に始まりそうになっている小さなカフェであった。あ、すいません。アイスコーヒーと、このベーコンレタスサンドイッチお願いします。 ウェイトレスのお姉さんに遅めの朝食を頼み、煙草に火を点ける。 「おいこら」 「え?ここって禁煙席でしたっけ?」 「そうじゃなくて。君はまだ……いや、その件に関しては後にしよう」 一体なんだ?森園生も喫煙者なのだろうか?そうなら意外だ。あまりイメージがわかない。 「それでは話に入ろう。昨夜から起きている一連の連続殺人事件について、君はどこまで知っているんだ?」 どこまで知っていると言われてもな。ついさっき容疑者に殺されかけたが、殺人動機も殺害方法も、何にも知らないんだが。 「……これを見てください」 くわえていた煙草を灰皿に戻し、包帯を巻き巻きである右手の平を彼女に見せた。 包帯を解いて新品同様の傷口を見せた。しかし慣れているためか、眉を一瞬潜めただけで、動揺することなく注視している。 「ついさっき、街外れの廃材置き場で襲われました。加害者の名前は朝倉涼子。北高のセーラー服を着た女子高生です」 適切な処置を行えたおかげで破傷風にはならないだろうが、痛みだけはどうにもならない。平静を装っているが、痛い物は痛いんだよ。 「北高か。あんな何の変哲もない県立高校に、そんな暴漢……と言っても女性だが、居るとわね」 森園生の放った「暴漢」と言う言葉に、少しだが後ろめたさを感じた。尾行して襲ったなんて、良く考えた俺のほうが暴漢じゃねえか。 しかも返り討ちだし。本当に情けない男だな。何やってんだか。 すると森園生はジャケットの胸ポケットから携帯電話を取り出した。 「こちら森園生だ。新川、今すく調べてほしい人物がいる。名前は朝倉涼子。歳は16歳から18歳。北高の女生徒だ」 要件だけを伝え、あっさりと電源を落とした。仕事の要件を伝えるだけなら良いだろうが、これでは新川警部さんが少しだけかわいそうになってくる。 「俺を解放してくれるのですか?」 期待なんかしてないさ。 当然、彼女は否定の動作を示した。ほらね。 なぜなら今まで俺が森園生に証言したことは、全て俺の一方的な言葉だ。優秀な刑事である森園生が、それを鵜呑みにするわけが無い。警官としてできないのだ。 かと言って俺が加害者では無い可能性が出ている以上、それを真っ向から否定するわけにもいかない。証人としてなら「生き残った被害者」と言う最高の証拠なのだからだ。 さあ、サイコロの目はどう出る?今ならルーレットの前に居座るギャンブラーの気持ちがよくわかる。相手の挙動に全神経を預けている気分だ。 「今すぐ朝倉涼子の住所を割り出すから、君も着いて来なさい。このまま現場を荒らされるくらいなら、私の目が届く場所にいてもらう」 この提案には乗っておくべきだろうか?こうは言ってるが、一応は任意同行である。断ろうと思えば断れるはずだ。 だが、理由はどうあれ、朝倉涼子を見失ったのも事実である。 一匹狼気取りで北高に張り込んでもいいが、それでは襲われた時にどうなるかわからない。 次は手の傷だけで済まないかもしれないしな。それなら国家暴力もとい国家権力に守ってもらった方が良い。警官なら目の前で起きた障害事件を見逃すなんてことはしないはずだ。 他人の力を当てにするとは男として情けないが、殺されるくらいなら地べたを舐めようが生き延びてやる。 ウェィトレスが運んで来たサンドイッチをコーヒーで流し込み、席を立つ。 会計時、森園生の手に渡されたレシート代わりの領収書には、『兵庫県警様』と書かれていた。 黒塗りスモークなタクシーでたどり着いたのは、正午過ぎの高級分譲マンションだった。 「このマンションの七階に朝倉涼子が住んでいるらしいわ」 付近の土地勘が薄い俺でも知っている程の高級マンションだが、にわかには信じがたい。こんな場所に殺人鬼が住んでいるのか? 戦争をギリギリ知っていそうなじいさん管理人にロビーを開けてもらい、エレベーターに乗り込む。 「君はどう思う?」 多分、捜査中の退屈しのぎだ。じゃなきゃ、一般人である俺なんかに意見を求めるわけない。 「殺人事件にタダもクソも無いでしょうが、普通の事件じゃないでしょう 」 この事件で最も不可解なのが「被害者の関連性」である。 森園生が言うには俺の母親は第一の被害者だったようだ。その後、日が変わるまでに二人、深夜未明に五人、明け方に二人、合計で十人が凶刃によって殺害された。 その被害者についてだが、これまた無差別に近いらしく、主婦、サラリーマン、高校生、ショップ定員などバラバラ。 最初の数人ならば逃亡中に止むなく……なんて考えられなくもないが、ここまで来ると、狂ってるとしか思えない。 『あなた、自分が何者かわかってて私を追ってるの?』 ならあの言葉……あれはなんだ?朝倉涼子は俺のことをわかってるのか? じゃあ、俺は一体なんなんだ? 「もしかしたら、殺害が目的では無いのか?」 自問自答に終止符を打ったのは、森園生だった。 「一連の事件は全て脈絡が無い。その上関連性も無い。いや、正確にはわからないと言った方が正しいか。ならば、「殺人を主観において考える」のではなく、「殺人は副産物」ととらえたら……」 それは盲点だった。つまり殺すことが目的ではなく、目的を達成するために、殺人を行なっていたというわけか。 殺人事件はあくまでオプション。本当の目的はもっと別に、 「到着したようだわ。着いてきなさい」 まぁいい。それは時期にわかることだ。あんまり気乗りはしないがな。 七階というわけで、結構な眺めの良さである。この眺めも高級分譲マンションたらしめる所以だろうか。 「鍵は……かかっているわね。えーとカードキーカードキー」 森園生は豊満な胸を覆っているジャケットの内ポケットに手を滑らした。だが、 「鍵なんか必要ないですよ」 一撃。スニーカーの裏が分厚い扉へ叩き込まれる。おー、かってぇなー。 「器物破損は確か何年の懲役だったかしら」 殺人鬼に礼儀なんかいるか。 ちょうつがいとキーロックが跳ね飛んだドアを跨ぐ。 すると意外なほどキレイに片付けられた普通のリビングが顔を見せた。うちの居間より畳二枚くらい広いかな。 「新川の報告によると、朝倉涼子は北高に通うために親元を離れて一人暮らしをしているらしい」 「一人暮らしですか?北高に?」 妙な話だ。親元を離れて高校に進学するのは別段珍しくないだろう。光陽園にも一学年に一人くらいの割合でいるしな。 だが北高だぞ?どこにでもある普通の県立校に、わざわざ親元を離れて通学なんかするか? 「……ちょっとストップ。あそこの部屋から、なにか聞こえないか」 彼女の指が隣の和室を指し示す。 俺も片手を耳元に添え、より多くの音を拾えるように構えた。 「これは……電子音ですかね」 耳を澄ますと、微かに電子と電子が共鳴するような耳につく音が流れてきている。ゲーム機か、もしくはパソコンか? タイトスカート裏にエロくくくりつけられた拳銃を握り締め、森園生は一歩一歩静かに和室に進んでいく。 勢い良く襖がスライドされ、和室が開け放たれた。 「パソコンか。電源点けっぱなしなんてだらしないわね」 質素な和室には、最新機種より三世代くらい型遅れのノートパソコンが開いたままテーブルに置かれていた。 おかしい。パソコンに繋がっている電源アダプターは冷たい。 「……これ、起動したのは数分前ですよ。アダプターに熱がたまって無いです」 これがもしも朝から点けっぱなしだったら、アダプターは熱いはずだ。 それなのに俺が握っているそれは、プラスチックの常温のままである。つまり、 「つまり、誰かが使おうとした」 「もしくは、俺たちが来ることがわかっていたのかもしれません」 考えられるのは二つ。一つは森園生が言うように、誰かが直前までここにいた。 その場合、立ち上げた直後に俺たちが来たので、一目散に逃げた場合が考えられる。 ならどこに逃げた?ここは七階だぜ?俺でさえ三階のが限界なんだ。いくら身体能力が高くても、倍以上ある高さから逃げるなんて無理だろう。人間には。 かと言って隠れているとは思えない。気配がまったくしない上、玄関以外に逃げ場の無いマンションの一室の、どこに隠れると言うんだ。すぐに見つかる。 もう一つは、俺たちの登場にあわせてタイマーが作動したことだ。しかしそれは俺たちがここに来ることを正確な時間で予測してなければできない芸当だ。 「どっちにしろ、こいつに手がかりがあることには変わりないでしょう」 パスワードによるロックがかかっているわけでもなければ、特殊な仕掛けで爆発する気配もない。 「調べてみましょう。きっと、なにかわかるはずです」 森園生はピストルを股の裏に返し、パソコンの前で女の子座りをした。 俺、あんまりパソコン詳しくないからな。お願いします。 「別に変わったデータはなさそうね。変にいじくっているわけでもなく……あら?」 デフォルトの壁紙の上に表示されているアイコン達。その中で、マウスのカーソルが「ワードパッド」に合わせられた。 「それがどうかしたのですか?」 「いや、単なる個人的趣味だ。こう見えて私は生粋の活字屋でね。どんな文章が書いてあるか読んでみたい」 そう断りを入れてからアイコンをダブルクリックする。あなた結構楽しんでるでしょう。 「なんだつまらん。保存データは一つだけか」 やっぱり。絶対楽しんでる。とは言えなかった。 「……なっ!」 保存されていたデータの名前を読んだ瞬間、心臓が大きく脈打った。なんだこれ。どうなってやがる。 『涼宮ハルヒの憂鬱』 涼宮ハルヒ。俺の数少ない友人の一人の名前が何故?涼宮ハルヒと朝倉涼子は知り合いなのか? 「森さん。それ、読ませてください」 俺の空気を察したのか、森園生はあっさりとタイトルをクリックしてくれた。 「涼宮ハルヒの憂鬱」の内容は、主人公である男子高校生が、新学期にたまたま後ろの席に座っていたヒロインである涼宮ハルヒに目をつけられたのが始まりだ。 その後、彼は涼宮ハルヒが発足した同好会に無理矢理入会させられ、面倒だと悪態をつきながらも生活をしていく平凡な話だ。 分類的には青春ラブストーリーになるのか?いや、この手のラブストーリーはそんなに読んだことないからよくわからんが、どこにでもありえる話だと思う。 だが、この物語の登場人物に注目してみよう。俺が知ってる奴らが何人もいるのは何故だ? 涼宮ハルヒは物語のヒロインだし、古泉一樹は主人公の親友であり恋敵で、朝倉涼子にいたってはヤンデレ要素を持ち、主人公に襲いかかってくる。 「執筆者は長門有希と言う名前らしいわね」 その筆者である長門有希も、この作品には登場してくる。役柄は主人公に恋をしている無口な文芸少女だ。 それにしてもこの主人公はモテモテである。この他にも、同じ同好会員である朝比奈みくるにも惚れられ、なんと中学時代にも恋人がいたらしい。 どんだけやりチンなんだよ。実在してたら絶対ボコッてやる。この女の敵が。 「……ん?なんだこの不自然な改行は?」 物語終盤、主人公と涼宮ハルヒが学校に閉じ込められたあたりで、真っ白い行が数十個も続いている。 ここから先はまだ執筆途中かと思ったが、下にスクロールしていけば続きが読める。 この学校に閉じ込められる展開だけが、ポッカリと抜け落ちているのだ。思いつかなかったのだろうか? 「あぁ、これは反転文字ね」 「反転文字?」 「ゲームの攻略サイトとかでネタバレを防ぐためによくやる方法よ。こうやって文字の色を背景と同じ色にすることで、文字を読めなくするのよ」 よくもまぁ面倒なことを思いつくもんだ。どうやって読むのですか? 「こうやってマウスで文全体をドラッグすれば……あら?」 白抜きの文章に青い色が塗られていくと、ある物が浮んだ。 「……何ですか?コレ」 それは文字と記号だけで表現された謎のマークだった。顔文字の高度な奴と言えばわかるだろうか?これ一個つくるのに、何時間かかるんだ? 「これはアスキーアートよ。君も見たことくらいはあるでしょ?インターネットとかでよく見かける記号の羅列によるイラストよ」 あのgj!とかって奴ですか? 「……まぁそれでいいわ」 しかし、こういうのを作るのって、どんだけ時間がかかるんだ?すごいとは思うけど。 ところでこれはなんて書いてあるんだ?キレイなうずまきの中に、SOSと書かれているようだが、救難信号のつもりか? 「クソ……何だか目眩が……」 頭の中で、うずまきがぐねぐねと襲いかかってくる。気持ち悪い……いつから俺の目はトンボの目になったんだ。 「大丈夫?」 「……早くここを出ましょう。少し気分が悪くなってきました」 クソ。気持ち悪い。 「あーあ、誰かさんがドアを蹴破ったせいで玄関が歩きにくいんですけど」 文句言わないでもらいたい。フラストレーションがたまってたのでガス抜きしただけです。森さんだってたまっているでしょうが。さっきから顔怖いですよ? だがその質問は森園生の鼓膜が通過を拒否したようで、何も答えなかった。 あの後、一通り部屋を調べたものの、事件が好転するような証拠品及び手がかりは何もでなかった。つまり無駄足。機嫌が悪くなっても無理は無い。 「……あれ?」 壊れた玄関を踏み分け、敷居から一歩抜け出た瞬間に違和感を感じた。 「変ね。誰もいないのかしら?」 静寂。静かすぎるのだ。 高級分譲マンションとは言え、今は昼だぞ?もう少し喧騒と言うかざわめき見たいな物があってもいいはずなのだが。静かすぎることで耳が痛くなるなんて初めて知ったぞ。俺は。 「森さん。何だか嫌な予感が……森さん?!」 隣を歩いていた森園生が、一歩前に出た。いや、出たのではなく…… 「森さん!?しっかりしてください!森さん!」 彼女の背中に突き立てられていたのは、銀のサバイバルナイフ。それが森園生の血を吸って、赤黒く輝いていた。 「酷いなー。私の家を壊さないでよ」 「朝倉ぁっ!」 意識するよりも早く、拳が朝倉涼子の頬を歪ませた。 「ん、はぁっ!」 カウンター気味に繰り出されたナイフが、かろうじで空を切る。 まずい。さっきこそ何とかかわすことができたが、こんな狭い廊下じゃ、じきに直撃する。そしてそれが心臓の可能性だってあるんだ。 斬撃の檻に囲まれている中、汗だけが妙に冷たい。チクショウ! 「あぁぁぁぁぁぁ!」 意を決して、右手でナイフを掴んだ。くそ!いってぇな! 「痛くないの?そんなわけないわね。呼吸が荒いわよ」 包帯を伝い、ジャケットの袖口にこぼれた血が熱い。 「黙れ!」 激昂し、爪先を端正な顔面に叩きつける。 「残念。外れぇ~」 朝倉涼子が愉快に微笑んだ瞬間、俺の足がコンクリートにナイフで貼り付けられた。 「ぐがぁぁ!」 「いい声で鳴いて」 足の甲に突き刺さったナイフの柄をグリグリと踏みつけられた。このクソ女ぁ! だが、罵声を絞り出そうとも、悲鳴が勝手に放たれてしまう口がもどかしい。 「ほ~ら、うずくまった。さよなら!」 切っ先が頭上に振り下ろされる。 クソ!なんで俺がこんな目に合わなならん!俺の物語は、ここで終わるのか!? ちくしょう……俺はなんて無力なんだ。親の敵が目の前にいるって言うのに、何にもできないなんて…… 「さよならは、あんたよ!」 銃声が、静かすぎるマンションの時を動かした。 「武器を捨てなさい!朝倉涼子!」 森園生は生きていた。そして片手で銃を構えるその姿は、一流映画スターにも引けを取らないほどに決まっている。 「そのまま死んでれば良かったのにな」 弾は朝倉涼子のナイフを持っていた肩に着弾したので、俺に突き刺さることなく吹っ飛んでくれた。しかしなんでこいつはこんなに平然としていられるんだ? 「今のは威嚇射撃だ。次は外さない!」 「やってみれば」 警告を無視し、朝倉涼子は剣閃を煌かせた。 さらにもう一発、銃声がリピートされる。 「なっ!?」 だが、弾丸は朝倉涼子には当たらなかった。なぜなら、 「無駄よ。そんなおもちゃ」 着弾の直前、ナイフの腹が弾丸を受け止めているからだ。って!どこのハリウッド映画だよ! 「くそ!くそ!くそ!くそ!」 森園生の悪態と共に放たれる弾丸だが、それらは全て、ナイフの腹で阻まれ、コンクリートに落とされていく。ちっ!こうなったら! 足の甲に刺さったナイフを引き抜く。途端、全身に激痛が走り、勢い良く血しぶきが舞ったが、痛みは生きてる証拠だ。 「うるぁぁぁぁぁぁ!」 コンクリートの廊下と平行して飛翔するナイフが、朝倉涼子に向かっていく。 「邪魔よ」 当然、俺の投げたナイフは朝倉涼子によって、いとも容易く叩き落された。だが、 「でかした!」 歓喜の声が放たれ、同時に、弾丸が朝倉涼子に着弾した。 朝倉涼子の身体能力がどんなに優れていようと、彼女はナイフを一本しか握っていなかった。 ならば、一瞬でもナイフさえ使えなくしてしまえば、絶対に当たるはずだ。 「ここは逃げましょう!」 森園生の手を引き、背後のエレベーターまで一気に駆け出す。あのバケモノが、こんな楽にくたばるとは思えない。 残り五歩。 残り四歩。 三歩。 二歩。 一歩。 「このポンコツ!早く来いよ!」 パネルをどんなに乱打しても、エレベーターが到達するスピードは変わらないが、この数秒の間がもどかしい。 早く来い早く来い早く来い!バケモノがすぐそこにいるんだよ! 「来た!森さんも早く乗ってください!」 転がり込むように七階に到達してくれたエレベーターに乗り込み、握っている手を中に引き摺りこんだ。 「くはぁぁぁぁ!」 森園生の端正な唇から悲鳴が漏れた。 「だーめ。だってあなたはここで死ぬんだからね」 視界の奥で、朝倉涼子は野球部のエースピッチャーみたいな投球モーションをしていた。 森園生の上着の背中には赤色が滲みすぎて、もはや何色だったのか判別すらできない。 彼女が乗り込めば閉るはずだったドアが、無情にもぽっかりと口を開いている。 「……大丈夫よ……私が絶対に……助けてあげるからね……」 息も絶え絶えに、彼女は力なく呟いたが、瞳だけは強い光を放っていた。 なんでここまでしてくれるんだよ。そう思ったが、彼女は警官だ。警官である以上、正義の味方でなければならない。彼女にとって、これは当たり前の事なのだ。 「だからって!そんなに傷だらけになってまで身体張ることなのかよ!?逃げ出せばいいじゃないか!俺なんかほっといて命乞いしろよ!自分が一番可愛いと思えばいいだろ!?死んだって何も残らない!違うか!?」 だが俺の叫びは、森園生の繰り出した強力な張り手が胸を強打し、背中壁に打ち付けて阻まれた。 傷の痛みと咄嗟に起きた出来事のため、立ち上がるのに時間がかかった。待ってくれ!まだ乗って無い客がいるんだ! 「じゃあね。悪ガキ君」 目の前で閉ざされた鉄ドアは、穏やかで暖かい微笑みと対比され、異様に冷たかった。 「森さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」 狭いエレベーターの中で響く情けない男の声が、無性に腹が立った。 第三章へ続く