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681 : 669 そのネタ貰ったぁw:2008/03/16(日) 18 15 10 ID kqlBBAOM 669 休日の午後、ベッドに寝転がってラノベを読んでいるうちにうたた寝してしまった かがみん(私) ふと目が覚めると、なぜか隣でつかさが眠っていた… よりによって私を抱き枕にしてスヤスヤと寝息を立ててる。 どうも寝苦しいと思ったらやっぱりこういう事だったのか… つかさは甘えん坊ぶりはかなりのもので、私が昼寝してるのを見つけると いつも自分まで添い寝してきてしまう。 「(パシャ、パシャパシャ)おーい、そろそろ起きろ~もうすぐ夕方だぞ~」 とりあえずつかさの愛らしい寝顔を携帯カメラに5枚ほど撮った後で 起こしにかかる。 「う~ん…お姉ちゃん大好き~」 (パシャ)うわ、ダメだ。全然起きる気配無いよ。 今の可愛い笑顔もすかさず撮ってから私は途方にくれた。 ベッタリ抱きつかれて引き離せないから、起きてくれないと 私も何も出来ないんですけど。 「ほらつかさ、これ以上寝ると夜眠れなくなるわよ」 「あと5分だけ~ほんとに~」 「学校遅れるぞ~」 「ふぇ?もう朝…?」 そこまで言ってやっと起きるつかさ。 「あれ?今日は夕方から学校あるの?」 「つかさ、おはよ(パシャ)」 眠そうにまぶたをゴシゴシしてトロ~ンとした目で私を見て来てる様子も しっかり撮りながら、私はつかさに挨拶をした。 後日 「…って事があったのよ~」 つかさを恥ずかしがらせてやろうと思って、昼休みに写真以外の事を包み隠さずこなたとみゆきに話してあげる。 「つかさは筋金入りの甘えん坊さんだね」 「えへへ…」 だけど肝心のつかさはちょっと照れてる程度で、そんなに恥ずかしがってる様子は無い。 「あんたいい加減に一緒に寝てくる癖直しなさいよ。おちおち昼寝も出来ないじゃないの」 「だってお姉ちゃんと一緒に寝たいんだもん。それに…」 「それに?」 「スヤスヤ寝てるお姉ちゃんって凄く可愛いから抱きしめたくなるんだもん」 『あま――――――い』 「つかさぁ~っ!」 な、何で私がこんな恥ずかしい目に合わなきゃいけないのよぉっ! その後こなたから熱烈な冷やかしを受けたのは言うまでもなかった。 682 : 669 そのネタ貰ったぁw:2008/03/16(日) 18 20 44 ID kqlBBAOMオマケ 「所でかがみんや」 「何よ!」 「つかさの事を話してる間はずっと、凄く嬉しそうな顔をしながらだったんだけど それは何でかな?」 「うっうるさい!」 683 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/16(日) 18 21 35 ID E4LY3IiH冷やかすつもりが思わぬ反撃をもらっちゃうかがみかあいーー! 反撃のつもりじゃない天然のつかさかあいーーーー! あまあまGJ! 684 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/16(日) 18 31 03 ID pft5DKGrネタにしてくれてどうもありがとう お昼寝ネタは作品を問わず破壊力抜群ですな686 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/16(日) 18 34 14 ID QtkOhlDIこのスレではつかさとかがみが一緒に寝るのはもはやデフォだなw
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鬼神ライダー様の・・キメゼリフと言うか・・何と言うか・・キメ雄叫び?! 最近では、鬼神道場の喝のお言葉として鬼神ライダー様は叫んでいる。(akemi) きっかけは、2006年10月6日23時4分、「あったら嫌な妖怪」スレッドで鬼神ライダーが公式デビューしたときに発した「ドゴオオォォ――ン!!!!!!!!」だと思われる。この当時はまだ単なる効果音の一つとしてしか認識されていなかったが、(10月13日、10月25日、10月30日、10月31日、11月1日、11月19日も同様に「怒」ではなく「ド」が使われていた)11月20日15時20分の投稿で「怒ォゴオオオオオォ――――――――ン!!!!」が初登場する。しかし11月25日22時47分に復活した際には「ドゴオオォ――――――ン!!!!」、28日11時17分には「ドォゴオオォ――――ン!!!!」11時48分登場時には「怒ォゴオオォ――ン!!!!!!」と、両立状態が確認できる。 2007年1月16日19時36分以降は「怒ォゴオオオォォ―――ン!!!!」のような鬼神変換(?)に落ち着いた(2007年2月19日1時20分の投稿除く)ようだ。 ちなみに、「KisinRider氏の」「怒ゴオオォ―――――――ン!!!!!!」発言は意外に遅く、2007年6月4日10時43分である。(shion)
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黄値界高校の生徒会の奴ら共 色々と個性が強いが仕事は出来るらしい そして全員デュエリスト 会長については桜野くりむへどうぞ 萩村スズ __ / ヽ`ヽ、 / ヽ ヽ / / /⌒⌒ヘ 、ヘ { l /、 ,ヽ ヽヘ ヽ ハ トrミ ィT7 ハ| __V l ハ j iソ l N / /ゝ, l r┐ ノ j , / Vヽ、└' イV/ / / __V`ーミハ、__V / / / l Y . 7 ヽ ̄l // l ヽ l ヽノ 》 Vヽ ヽ // ヽ フ { . {ヽ ヽl { 〃 / ノ =\´ヽ / /l ヽ 〃 / /\ \// l \ 〃 / ヽ |′ lヽ ヽ 〃 / ヾ、 ', 〃 ヽY´ l 〃 \ \ ノ 〈 o V / 〃 \ \== | ヽ、 / 《 \o /7ヽ、 | o ヽV \、 ゝ-'‐ヘ ノ | V / ̄ / ´ ヽ ヽ AA出典:萩村スズ(生徒会役員共) 初出:「ハロウィンで一番得するのは駄菓子会社」 エース:《神獣王バルバロス》【バルバトス・ゲーティア/出典:テイルズオブディスティニー】 黄値界高校会計、1年 デュエルモンスターズに詳しく解説役が多い IQ180だが背がちっちゃい 将来はコンマイ語の研究者 使用デッキ 【アサイカリバー】 普通なスタンダードデッキ 何?IQ180が使うデッキじゃない?気にするな! 打点が高く、モンスター破壊でアドを取るデッキが相手だとジリ貧ですぐ負ける そんなわけで会長とかとは相性が悪い というわけで打点上げに《神獣王バルバロス》を入れた所大活躍でしたとさ ウィスピーウッズ /`ヽ イ { 弋__ 人 `ヽ! ヽ `ヽ r~′  ̄`ヽ | `ー┐ 乂__rf } ゙tへ. / / ゙`ヽ_ノ、i | !、`ー' / `ー-| r 、 r 、 |んへ_ノヒノ | | | |. | | | ゝノ ゝノ レ'「 | r ┴― / └┬─ ,イ | r 、 | | || | | ゝノ | | ! r二ソ `ヽ {__ノ ̄`ヽ_厂`ヽ_| AA出典:ウィスピーウッズ(星のカービィ) 初手:「ハロウィンで一番得するのは駄菓子会社」 エース:ダイガスタ・イグルス【ウォーグル/出典:ポケットモンスター】 黄値界高校副会長、1年 どうやって歩いているのか?気にするな! 使用デッキ 【ガスタ】 割と普通のガスタ 相性が良い《ジャンク・シンクロン》や《ダーク・シムルグ》なども入れてる デッキ破壊と相性が良いのか悪いのかよく分からない 口上 《ダイガスタ・ガルドス》 ガスタの風が流れる時共に美しき翼が羽ばたく! 邪悪な力を打ち砕け! シンクロ召喚!舞い上がれ、ダイガスタ・ガルドス!! 《ダイガスタ・フェニクス》 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! その鳳凰の羽根が、神秘の力を宿す! エクシーズ召喚!燃えろ、ダイガスタ・フェニクス!! 《サイコ・デビル》 汝電脳を食いつくす悪魔なり、 その力で敵の思考を全て読み取れ! シンクロ召喚!駆け巡れ、サイコ・デビル!! 《ダイガスタ・イグルス》 ガスタの風が流れる時共に美しき翼が羽ばたく! 気高き暴風を呼び起こせ! シンクロ召喚!飛び上がれ、ダイガスタ・ガルドス!! 谷口(リビリビ) / . . _ . . . . .ヽ . . . . .l . .〉 / リ ヽ、 ノ .'´_ ._` .、 .;、ヽ . ./ / /'ノ . . . .i ノ ´ . . , / rゝ/;tYl Vム;.Y、ー' .ヽ;! l . ,r '´Y/ l l ``′ ';.l ヽト . . . ', )k/ ./l;'.__ l ! リ ._リ';.`Y 〉-;. 'l l _`ヾ、 _, 、, r'´_/. !r-! l 'Y';.l ´ 赱〕`` '近l ` リ ! ヽ.ヽヽ. l ,'-,ノ `';Y', l, ,' ´ ,.rハ'´`丶、__ _ , ' __ / ヽ \ ヽー /〉′.〉 / ヽ ヽ l .!- ィ' 〉′ /ヽ、 / ヽ ,ツ__ ...'`-'.、' /ヽ ` 、.、 ,. ' ´ - 、 ヽ 〈 !ヽ .l _ ! .', f'´ \ ', ノ ` ̄ ̄ `ヽ,' li `丶、 l l i - _ヽ '、 ー----、ノ,イ l l ! .l ! ; - - `/ .!l ' ,ll! ', l ! .l ! ! ./ / ',ヽ、ー ''ノ !l ',l l l i AA出典:谷口(涼宮ハルヒの憂鬱) 初手:「ハロウィンで一番得するのは駄菓子会社」 エース:《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》【どーもくん/出典:NHKマスコットキャラクター】 黄値界高校書記、2年 割とノリが良かったりする 暇なときはデュエルなんDA 歩く死亡フラグでもある 使用デッキ 【ゴーレムクイダントークン】 【ゴーレム】と【クイックダンディ】と【トークン】を混ぜ合わせたデッキ 《トーチ・ゴーレム》のトーチトークンや《ダンディライオン》の綿毛トークンを主に使い シンクロや《D-HERO Bloo-D》のコストにしたりする 事故率99% 口上 《ドリル・ウォリアー》 ところでこのドリルを見てくれ 咲き乱れてしまいます ドリルブーストナックル! シンクロ召喚!砕け、ドリル・ウォリアー! 《D-HERO Bloo-D》 蒼き血が運命の輪廻を回す! 究極のDよ!全ての悪を吸収せよ! さぁ来い!D-HERO Bloo-D!! 《スターダスト・ドラゴン》 サスケェ! やだなぁ・・・鬼畜なわけないじゃないですかぁ・・・ 明日の天気は台風です シンクロ召喚!口上は犠牲になったのだ…、スターダスト・ドラゴン!
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――――――geass ◆Wott.eaRjU 三人の少女が街を目指している。 その内の一人――盲目の少女、ナナリーは別の少女により背負われている。 少女の名はブレンヒルト・シルト。 そして二人からほんの少し離れた位置に居る少女は園崎詩音。 とある事情から行動を共にする事になった三人の内、二人は視線を向けていた。 自分達が今向かおうとしている街中――ではなく、鉄橋の方へ。 たった今、自分達が渡り終えた其処を。 ブレンヒルトと詩音はそれぞれ見つめていた。 「まったく、しつこいのは嫌われるコトがわからないのかしら」 やがて溜息に似た呟きがブレンヒルトから漏れる。 どこか殺し合いの場所には似つかわしくないセリフ。 されども声色からは決して余裕の色は見られない。 人知れず冷や汗を流すブレンヒルトの表情は真剣そのものだ。 事実、ブレンヒルトは目の前に危機が迫っている事を認識している。 「……悪いけどナナリーを頼むわ。それと何処か安全な場所へ隠れて」 「え、ええ……」 暫しの逡巡を経てブレンヒルトは詩音へ託す。 実に憎々しげな表情は、事態があまりいい方向へ行っていない事による所以のものだ。 詩音の肩を借りて、ナナリーの小柄な躯体をそっと預ける。 フラフラと、おぼつかない足取りだがなんとか立つ事は出来た。 両脚の力を失っているナナリーにはきっと酷な事だろう。 なんとなくの状況は察しているのだろうが、不安は消えていない。 親鳥から見捨てられた小鳥のような、なんとも言えないもの寂しさがブレンヒルトの心を捉える。 ――止めるべきか。 詩音は未だ知り合ったばかりだ。 なにやら変わった力があるようだが、この場では珍しい事ではない。 自分の左腕に埋まっているものや、概念兵器の存在を忘れてはならない。 しかし、詩音が完全に信頼出来るかと聞かれれば自分は一体どう答えるか。 即答は出来ない。だけども仕方がないとブレンヒルトは自分に言い聞かせる。 流石にナナリーを抱えながらでは自分の行動に支障が出る。 その支障が重大な結果を招いてしまえばどうしようもない。 「ナナリー、少しだけ待っていて。直ぐに終わらせるから」 故に今、ブレンヒルトに求められているのは迅速に目の前の障害を取り除く事だろう。 使い慣れた鎮魂の曲刃はなく、1-stGの概念兵器すらもない。 だが、どうやら目の前の脅威は自分達を逃すつもりはないようだ。 この先も追跡を受けるなど、正直勘弁願いたい。 ならば、やらなくてはいけない。 ここで終わらせる。 想いと共に左腕に力を込める――いつでもいける。 それは固い意志の現れ。 「ブレンヒルトさん……あ、危なくなったら、絶対に逃げてください!」 ナナリーの精一杯の声が響く。 背中を向けながら、ブレンヒルトは小さく頷く。 有り難い言葉だ。心地よい感触が全身に広がっていくような感覚が走る。 続けて詩音がナナリーと共に駆けて行ったのが足音で判った。 どうやら詩音は何も声を掛けてくれないらしい。 まあ、特に期待はしていないか。軽く自嘲気味に口元を歪ませる。 しかし、その歪みは直ぐになくなり、口元はしっかりと閉じられる。 そして視線を突き刺す。 人間ではない。異形の、つい先程出会ったそいつに送るものは一つの言葉。 「待たせたわね」 律儀に待っていたところを見ると最低限の礼儀はあるらしい。 若しくは先ずは一人づつ始末しようという魂胆なのだろうか。 真実は実際に聞いてみなくてはわからない。 じっくりと聞きだすのもいいだろう。 取り敢えずは力を奪ってから自衛のために出来ることをするしかない。 「……気にするな」 目の前のそいつは憮然と答える。 余程この殺し合いに生き残りたい理由があるのだろう。 紫色に輝く瞳からは底知れぬ意思がひしひしと感じられる。 だが、ここで臆するようでは自分に未来はない。 左腕をゆっくりと正面へ翳す。 「逃がすつもりはない。ここで終わらせる」 そいつの声と同時に、ブレンヒルトの左腕の皮膚が捲れる。 ベリベリと、観ていて気分の良い光景ではない。 そう思っている間に全てが終わった。 一瞬の変化――剣の形を模した、ナノマシンの慣れの果てを己の左腕とする。 それはARMS“騎士”の第一段階の発現の証。 「じゃあ、始めましょう……手加減の程はあまり期待しないように、ね」 「……そちらもな」 そしてぶつかり合うのは互いの言葉。 演目は只人には過ぎた力を持つ者同士の、命の喰らい合い。 ギャラリーは周囲の景色だけ、身守る視線もない。 二人ぼっちの戦いが今、始まりを告げる。 ◇ ◇ ◇ まるで風と戦っているようだな。 数十分程か、はたまたそれ以上時間が経ったのかもしれない。 予めブレンヒルトから奪った十字槍を振いながらミュウツーは思う。 左腕の奇妙な剣も勿論の事、ブレンヒルトの立ち振る舞いがそう感じさせる。 ブレンヒルトの剣による斬撃はそれほど鮮やかなものではない。 恐らく普段は別の武器を使っているため、未だ慣れていないのだろう。 同情はしない。これは殺し合いだ、寧ろ好都合と言える。 こちらにも目的がある以上、つけいる隙があるならば容赦なく狙わせて貰う。 それに、使い慣れていない武器はこちらも同じ条件――気兼ねなどない。 己の意思を込めるように、ミュウツーが十字槍を前に突き出す。 そして己の身を後方へ飛ばしたブレンヒルトを見やる。 (そろそろ、か……追ってきたかいがあった) わざわざ此処まで追撃をしかけた訳は、あの忌まわしい契約のせいだ。 制限時間内に一定量の死亡者が出なければマスターの命はない。 自分が動かずともその条件が満たされる可能性はある。 しかし、万が一満たされないとしたら――不安を消すかのように、ミュウツーは過剰ともいえる追撃に身を費やす。 そして思った。自分の判断は間違っていないと。 先程駆けていった二人の少女はどうやら戦う力を持っていないらしい。 ならば、確実に癒されていく自分の力を必要以上に使う事もないだろう。 やがて腰の回転を加え、ミュウツーは右腕を後方へ引く。 ブレンヒルトの怪訝な表情が視界に映るが気にしない。 勢いを殺さず、そのまま十字槍を投げつける。 (一人ならサイコウェーブを使う必要もない。なら……いける) 撃突。ブレンヒルトは咄嗟にARMSを翳した事で刺突は免れる。 衝撃を押し戻すためにもに、力任せに押し弾く。 その瞬間を狙っていたかのように、ミュウツーが一気に距離を詰めた。 両腕に持つ武器は何一つない。 完全に素手の状態だが、ミュウツーに臆する様子はない。 何かある。ブレンヒルトの本能が警告の鐘を鳴らす。 瞬間。不意にミュウツーの右手からなにかが顔を見せた。 一本の、銀白色の大型のスプーンがそこにあった。 複数の敵を一度に相手にするサイコウェーブとは違う。 一個体を殴りつけるために用意した、念力の結晶ともいえるミュウツーの近接用の武器。 最早身体の一部といってもいい程に、使い慣れた武器がブレンヒルトを襲う。 (そうだ。これでいける……しとめてみせる!) 言葉は発さず、只、冷徹な殺気を乗せてミュウツーが地を駆ける。 ◇ ◇ ◇ 「……良い気になっては困るわ」 横殴りに振られたスプーンがブレンヒルトに迫る。 毒を吐きながらも左腕のARMSで受け止める。 間髪入れずに珪素を主成分とした、金属質の刀身が衝撃に対し僅かに揺れた気がした。 そう思えてしまう程に強大な力。 証拠に、ブレンヒルトの左腕に痺れのような感覚が今もこびり付いている。 食器を武器とするとは、と笑っていられない程の重み。 初めから使用していなかった事を見ると、何らかのリスクが伴うのだろうか。 それとも、単にタイミングを見計らっていただけか――そこまで考え、思考を止める。 一瞬だけ力を落とし、力の向きを変えた。 大質量のスプーンを真っ向から迎えるのではなく、下から弾き飛ばす。 ブンブンと、円回転を起こしながらスプーンがあられもない方向へ飛んでゆく。 だが、ブレンヒルトは碌な喜びを見せはしない。 只、極めて冷静に己の左腕をしなるように走らせる。 (やっぱり気のせいじゃない) 一閃。ARMSによる斬撃が空を切る。 大気のうねりが、一瞬前までミュウツーが居た場所を横断。 次にポタリと、小さな赤い雫が地面に落ちる。 左脚に小さな裂傷を貰いながらも、宙返りの要領で両断を避けたミュウツーと視線が合う。 振るった左腕を戻しながら、ブレンヒルトは確信にも似た思いで認識する。 しっかりとスプーンを掴んだ、ミュウツーの戦意は未だ削げ落ちていないことを。 そして自分の身体に生じた変化を―― ブレンヒルトとミュウツーが、それぞれ陸と空から前方へ身を飛ばす。 ARMSの刀身とスプーンが何度も何度もぶつかり合う。 (私の身体は……以前とは違う。このARMSというもののせいか……) 事実、ブレンヒルトが数時間前から立てていた推測に間違いはなかった。 ブレンヒルトの左腕に埋まっているARMSは単なる武器ではない。 炭素生命体と珪素生命体のハイブリッド生命体――人間を更なる高みに到達させるために生まれたと言われている。 ナノマシン集合体であるARMSは時間の経過と共に身体にナノマシンを増殖。 つまり移植者の身体に馴染めば馴染む程、その特性は上がっていく。 剣といった固有武器の発現 欠損部分の補修、自己治癒力と身体能力の向上、同じ攻撃への耐性反応――等々。 元々並みの人間よりも身体能力が優れているため、ARMSによる付加は大きい。 そして全身にARMSが広がった時こそ、爆発的な力が生まれる瞬間。 今のブレンヒルトの侵食状況ではそこまではいかないが、確実にARMSは彼女の身体に慣れ始めていた。 自分以外の存在と肉体を共にする感覚。 それは決して心地の良いものではないだろう。 しかし、ブレンヒルトには耐え難い程の嫌悪感があるというわけではなかった。 (今の私には絶望的に戦力がない……。 1st-Gの概念を利用出来るものがなければ、これほど無力だとは思わなかったわ。 でも、だからこそ私は……) ブレンヒルトは今は亡き、1st-Gに縁がある者だ。 1st-Gの概念を応用出来る武器でなければ彼女の本領は発揮できない。 だが、ブレンヒルトにはこんな場所で死んでやる理由はない。 故に降りかかる火の粉は払う必要がある――そのために必要なのは力だ。 だから受け入れるしかない。寧ろ喜んで使って見せよう。 この場所か脱出するのは元より、小鳥を――あの子を助けるためにも。 今の自分はいつもと違う。 手持ちの武器も、立ち振る舞い方も。 ならば、違う戦い方で攻めてやるまでだ。 想いを糧に、ブレンヒルトは左腕のARMSへ己の闘争本能を注ぐ。 「あああああああああッ!!」 自分らしくもない、まるでLow-Gの面々がやるように。 俗に言う気合いを己に焚きつかせて、左腕の速度を上げる。 先程までほぼ拮抗していた状況が変わり、徐々にブレンヒルトの方へ勢いが傾く。 いける。微弱ながらも、表情を険しく歪ませたミュウツーがブレンヒルトにそう思わせる。 ARMSは一個の生命体だ。きっとブレンヒルトの想いを鋭敏に感じ取ったのだろう。 まるで誰か心強い存在と共に戦っている感覚が、頭の中でチカチカと点滅する。 時間の経過と比例するかのように、銀色の刃がスプーンを削り取っていく。 このまま押し切る。その時、ブレンヒルトは視界の隅から何かが此方に迫ってくるのを確かに見た。 そして目の前に広がったものは――大きな花火。 「ヒャッハァ! 命中ッ!!」 耳障りな男の声、ラッド・ルッソの声であった。 ◇ ◇ ◇ 「やっぱ撃ってみるもんだわ。いや、俺も当たればいいなーとは思ったが……まさか本当に当たるとはな。 神様ってヤツが居るなら感謝してやるぜ、マジで」 バズーカを担ぎながら、ラッドがブレンヒルトとミュウツーの方へ歩き出す。 距離にして10メートル程の位置を我がもの顔で取った。 油断なくスプーンを構えるミュウツー。一方のブレンヒルトは蹲ったままだ。 それもその筈、バズーカの砲弾を真正面に喰らったせい――但し、直前にARMSで叩き斬る事は出来たが。 しかし、全くの無傷で済むわけがない。 爆風に巻き込まれ、ブレンヒルトの全身には痛々しい火傷が生まれている。 そんなブレンヒルトの様子を見てか、ラッドからは悪意に満ちた笑みが零れる。 「おいおいおいおいおい。まだくたばんじゃねぇぞ、女ッ! てめぇにちょん切られた分が残ってんだ。まさか忘れてねぇよなぁ!」 ブレンヒルトは何も答えない。 只、忌々しげにラッドを見返すだけだ。 抵抗の意思は消さない。諦めなどという文字はありはしない。 満足げに眺めながらラッドはぐるりと首を回す。 「それとてめぇだ、宇宙人野郎。 てめぇのお陰でまた痛てぇ思いをしてきたんだ……思い知ってもらうぜ、てめぇの命ってヤツでよぉ!」 その時になってミュウツーは悟る。 ラッドの胴が嫌に赤黒く、次第に傷が治っている事に。 ミュウツーはラッドの身動きを止めるために、確かに大木に彼の身を貫かせてやった。 だが、ラッドは万全の状態とはいえないまでもこの場に居る。 自然と行き着いた結論は――ラッドが自分の予想を越えていた事。 ラッドは持ち前の怪力を頼みに己の身を大木から引きちぎることで、その拘束から逃れていた。 勿論、想像を絶するほどの痛みはあっただろう。 どんな傷さえも瞬時に修復する“不死者”といえども、痛覚を消す事は出来ない。 しかし、ラッドは打ち勝った。 不死者元々を抜きにした本来のタフさ、そして何より―― 「ああああああああ!サイッコーーーーーーーーーーーーーーーーだ!! てめぇら二人、まとめてブチ殺すチャンスが回ってきたんだからなぁ、ヒャハハハハハハハハハハハ!!」 ブレンヒルトとミュウツーに借りを返す。 決して諦めるてやるつもりはない、強い意志がラッドを動かす。 更に距離は詰めた。もう目と鼻の先に、ブレンヒルトの姿がある。 ラッドはが右脚を振るう。道端に転がった石ころを蹴り飛ばすように。 但し、石ころには不相応な程の殺意を込めながら。 「がっ!」 衝撃。痛いと思うとほぼ同時にブレンヒルトの華奢な身体が吹っ飛ぶ。 何度も身体を打ちつけながら、やがてある程度の位置で止まる。 苦しげに肩を震わせるブレンヒルトをラッドが追う。 小さな子どもがサッカーボールを追っていくような足取りで、ブレンヒルトの様子など意に介さずに。 どうやら先ずはブレンヒルトの方に片をつけるらしい。 時折、もう一人の獲物であるミュウツーの方を見るが、ラッドは特に仕掛けようとはしない。 同じくミュウツーも自分に向けられた視線には睨みを返すが、行動を起こそうとする気配までは見られない。 不思議な事ではないだろう。ミュウツーの目的は一定量までの参加者の減少。 自分の手を使わずとも、参加者が減るというなら邪魔をするつもりはない。 だが、準備を怠っているわけではない。 次に狙われるのは自分だ。よってこの間に念力の補充に集中。 状況の成り行きには意識を向けて、ラッドがブレンヒルトに近づくのを見ながらミュウツーは次の出方を窺う。 そんな時、ミュウツーの両耳が音を捉え、直ぐに後ろを振り向く 其処にはミュウツーの予測した未来には描かれなかった光景があった。 「ブ、ブレンヒルトさんから離れてください……!」 その原因は盲目の少女、ナナリー・ランぺルージ。 ◇ ◇ ◇ 『なにをしている、ナナリー! さっさと逃げろ!!』 (ごめんなさい、ネモ。でも、私はブレンヒルトさんを助けたい……) ナナリーが此処に居る理由。 言ってみれば簡単な話だ。 とどのつまり、ナナリーはブレンヒルトだけを置いて逃げる行為がどうにもしたくなかった。 初めて会った時から優しく接し、車椅子でしか動く事の出来ない自分も見捨てないでくれた。 出会い方や性格は違うけども、まるであのクラスメートのように。 嬉しかった。同時に信頼できる人だと思った。 だから――ナナリーは今、此処に居る。 もう一人の自分であるネモの制止を振り切って。 ブレンヒルトの苦しげな声が聞こえ、思わず声を上げていた。 『ならばマークネモを呼ぶ! そして私が奴らを殲滅してやる、それで良いだろう?』 (ダメ! マークネモを使えば、ブレンヒルトさんや園崎さんも危ないわ!) 『ちっ!そうだ、そもそも――』 ナナリーの意思にネモは苛立ちを隠せない。 ネモはナナリーの守護により己の存在を自立させているため、彼女の指示に背くことは出来ない。 しかし、不満や不平をナナリーに届ける事は出来る。 故にナナリーにはネモが次に何を言おうとしているのかが何となく悟っていた。 自分が今、この場所に立てる理由にネモは矛先を向けようとしている。 『何故、園崎はお前の意見に従った!? ブレンヒルトが行けと言ったんだ、わたし達は彼女の意思を無駄にしないためにも逃げておくべきだったんだ!』 ネモは怒りの感情を、今、ナナリーに肩を貸している詩音の行動へ叩きつける。 ネモの声が聞こえる者は、この場ではナナリーただ一人。 当然、詩音にその意思が伝わる事はないため、代わりにナナリーがその疑問を受ける形となり、返答に困ってしまう。 そう。ナナリーもブレンヒルトが心配だと思うと同時に、出来れば彼女の言葉を尊重させたかった。 あの後押しがなければ、詩音がブレンヒルトが心配だと言わなければ此処には居なかったかもしれない。 「あん? これはこれはどうしましたか、お姫様? どうやら眼の方が少しばかし不自由してらっしゃるようですが、わたしめに何用ですか……なんてな」 怖い。先ず第一にナナリーが思ったのはそれだ。 面白がっているのか、変な言葉遣いで自分に言葉を掛けてくるラッドが酷く異質な存在に感じる。 きっとその近くに居ると思われるミュウツーも恐怖の対象の一つだ。 そして二人の傍にはブレンヒルトも居るだろう。 だが、自分には出来る事はこれといってない。 やはり姿を見せた事はあまりにも危険過ぎただろうか。 しかし、少なくとも今この時だけはブレンヒルトへの危機が免れているのは事実。 良かった――自分自身への危機を頭の隅に留めながら、内心ナナリーは思う。 そんな時――ふとナナリーは自分の首に何かが覆ったのを感じた。 「と、止まりなさい!」 なんだろう。急であったこともあり、ナナリーの思考が一瞬止まる。 例の如く両目に映るものは漆黒の闇だけだ。 両耳を頼りに――その声が詩音のものだとわかった。 途端にナナリーは嬉しさと申し訳なさで一杯になった。 きっと詩音は自分を庇いながら、ラッド達を牽制しているのだろう。 そうだ。もしかすれば誰かが通りかかるかもしれない。 兎に角、この状況では時間を稼ぐ――それが最善の策に違いはない。 詩音もそれがわかっているからこうしている。だが、ナナリーは気付ける筈もない。 詩音が浮かべる表情には別の感情が張り付いていた事に。 「……取引しませんか。私の持つ情報と――この子とその女、二人の命で」 それは酷く冷たい意思を告げる言葉であった。 ◇ ◇ ◇ 「へぇ、こいつはまたまた驚いた。嬢ちゃんはお仲間じゃねぇの?」 「誤解しないでください。別に私はこの子達とお友達……ってわけじゃありません」 表面上は冷静さを保っているようにも見える。 されども、内心、詩音の心境は気が気ではなかった。 確かにこの場に戻ろうと言いだしたのは自分だ。 いずれ殺す事になるブレンヒルトの力を知るためにも情報が欲しかった。 追撃者は一人、ならばナナリーを盾にしている間に十分に逃げ切れる。 そう思っていた筈であった。 (まさかもう一人増えているなんて……それにあの女ももうやられている。まったく、使えない……! でも、まだまだ……!) だが、目の前にはいかにも危なそうな男が居る。 園崎組でもこんな男は見たことがない、明らかに異常な存在だ。 人間をいとも容易く蹴り飛ばす男と戦いにでもなりにしたら――思わず冷や汗をかきそうになった。 支給品のお陰で、異能とも呼べる力を持ったものの、真正面からの戦いで必ず勝つ自信は生憎ない。 させない。思考をクールに、自分が戦わずに済む状況を呼び込む。 何故なら自分はこんな場所では絶対に死ねない。死ねない理由がある。 悟史君ともう一度会う――そのためにはどんなものも投げ捨てる覚悟は勿論だ。 だから、こんな卑怯染みた真似すらも取ることが出来た。 「……話を戻しましょう。この子、ナナリーちゃんとその女は貴方方の好きにしてもらって結構です。 それと私が持ってる情報も教えます。 これでも結構な人と会いましたので……貴方方の知り合いとも会ったかもしれませんよ」 俗に言う裏切り行為。 盲目のナナリーが軽く口を開け、呆然とした表情でこちらを見るが罪悪感はない。 だって自分には彼が居るのだ。彼の元に戻るためにもこの場を切り抜けなければならない。 その過程で、誰かを犠牲にする必要が出てくるなら喜んでやってみせよう。 魔女だの悪魔だのと罵られても構わない。 只、彼が居るならそれだけでいい。 狂気とも取れる、ありったけの愛情が今の詩音を支えている。 そうだ。恐れる者は何もない――暗示をかけるように己を励まし、ラッドへ言葉を突き付ける。 「だから、自分の命は助けろ……と言いたいわけだな。ふんふん、なるほどなぁ……悪くないんじゃね」 「そ、それなら――」 途端に詩音の表情に確かな喜びが花開く。 ホッとした。頭上に乗っていた、不安という重りが消えたような感覚がある。 ならばさっさとナナリー達を引き渡し、自分はこの場から立ち去ろう。 思わず気が緩む詩音。その瞬間、ラッドが狙い澄ましたように声を発した。 さも愉快そうな笑みを浮かべて。 「――ところがギッチョン! 俺は嬢ちゃんとの約束事に興味はねぇんだ!」 そこでだ、宇宙人野郎。ちょいと提案があるんだが」 この男は何を言っているのだろう。 顔を背けたラッドを凝視しながら詩音は思う。 詩音程ではないが、ミュウツーの方にも驚きはあったようだ。 無言でラッドの言葉に耳を傾け、そしてラッドは。 「俺とてめぇの二人。どっちがこいつら三人を多くブッ殺せるか勝負しねぇか? てめぇは只、ブチ殺すだけじゃつまらねぇ。どうせなら殺す前にてめぇの鼻でも明かしてやりてぇからな。 そんでその後は俺とお前の潰し合いだ……やろうぜ、俺の方はいつでも準備はオッケーってやつよ。 なぁ、やろうぜ――愉快に愉快に殺りまくろうぜ!?」 詩音の頭の中で何かが崩れる。 前提が間違っていた。交渉を行うのには最低限の条件がある。 相手が少しでも自分の話に関心を抱くかどうか。 そして今回のケースは――生憎、ラッドにはその気が全くなかった。 ラッドの口から紡がれた恐ろしい言葉に詩音は青ざめる。 「……良いだろう」 「ヒャッハァ! もの判りが良くて助かるぜ」 「な、なんでそんな話になるんですか!?」 「あー? だからお前はもういいわ、ちょいと黙っといてくれや」 ミュウツーにとってもラッドの提案はそれほど悪くはなかった。 どのみちラッドとの戦闘は避けられないだろう。 ならばその前に脱落者の数を増やしておくのは得策だ。 別に勝負の勝ち負けはどうでもいい。参加者を減らすことが目的だ。 先ずは三人を殺し、後は逃げるなりもしくは殺すなりしてこの場を終わらせる。 同情は捨てる。そんな感情は自身の破滅を招くだけなのだから。 しかし、必死に抗議の言葉を叫び続ける詩音から顔を背けたのは何故だろうか。 僅かな疑問を抱きながらも、ミュウツーは歩き出す。 顔を上げているものの、未だ立ち上がれそうにもないブレンヒルトの方へ。 そんなミュウツーを見て、ラッドも歩を進めていく。 「というわけだ。だから嬢ちゃんよぉ――さっさと死ねや」 ゴキゴキと両拳を鳴らしながら、ラッドは詩音に宣告する。 こんな馬鹿な。誰に言うわけでもなく詩音は心底思う。 何故、自分がこんな目に遭わないといけなのか。 自分は只、悟史に会いたいだけなのに。 もし、慈悲深い神様が居るならなんとかして欲しい。 既に人一人を殺した事実をまるで忘れたかのように詩音は切に願った。 だが、やはり何も助けは入らない。 ブレンヒルトもナナリーも当てに出来ず、何か出来たとしても詩音を助ける事はないだろう。 こうなればなんとか自分の力で切り抜けるしかないか。 絶対に出来る――という自信はどうにも持てなかった。 あまりにも暴力的な、経験した事のない恐怖を撒き散らすラッド。 そんな彼が、今から自分を殺そうとやってくるのだ。 落ちつけるわけがない。 只、一歩づつ近づいてくる死の足音に震える事しか出来ない。 そう思った瞬間――地割れが起きた。 赤子の産声を思わせる地響きがどこからか聞こえる。 なんだ。一体何が――何が起きた。誰もが思ったであろう疑問。 「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい……マジかよ」 逸早く反応したラッドが叫ぶ。 驚きを一切隠さない、純粋な感情がそこにあった。 何故か心躍るような声色で、何かに期待する様な眼差しで。 ラッドは“そいつ”に向けて言葉を吐き捨てる。 「どうなってんだ、こいつはよおーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」 二本の腕が見える。 只の腕ではない、人一人分くらいの長さは楽に越えている。 しかもその腕は地面から生えている。 咄嗟に詩音が慌てて跳び退いた。 詩音の直ぐ傍、何故かその場に立っていたナナリーの直ぐ下から、腕が出てきたのだから。 大地を突き破り、大空の元へ出てやろう――そんな印象を思わせる。 やがて、ナナリーの背後で六つの目を持った顔が浮かんだ。 「マークネモッ!!」 それは新たな可能性――未来を司る存在。 ◇ ◇ ◇ 時系列順で読む Back 伏せられた手札 Next ――――code geass 投下順で読む Back 伏せられた手札 Next ――――code geass Back Next You can,t escape! ナナリー・ランペルージ ――――code geass You can,t escape! ブレンヒルト・シルト ――――code geass You can,t escape! 園崎詩音 ――――code geass You can,t escape! ミュウツー ――――code geass You can,t escape! ラッド・ルッソ ――――code geass
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きみがぼくを――(ne pas ――――――――――) ◆MobiusZmZg 【0】 ――――問いは、たとえある特定の事物の状態に言及しているだけで あっても、つねに主体に形式的に責任を負わせる。ただし否定的な形で。 つまりこの事実を前にしたときの無力さの責任を負わせるのである。 ×◆×◇×◆× 【1】 すべての生命は、その本質へ近付くほどに黒を帯びる。 燃やした肉が、炭と変ずるように。腐敗したものどもが、いずれ土へと還るように。 それは数多の戦い、あるいは蹂躙の過程であり、結果としても睥睨してきたはずの光景であった。 それは進化の秘法を発見し、秘匿した錬金術士どもの間で、まことしやかに語られる話でもあった。 それはいつか、耳にしてすぐに与太話だと、机上の空論にほかならないと切り捨てたものでもあった。 しかしてこの実例を、いま、魔族の王――。 いいや。たったひとりの男は、目の当たりにせざるを得なかった。 あがりどきも知らぬまま、密雨はいまだ糸と散らずに降りしきっている。 彼がひとしきりの慟哭を終えた今も、彼の周りの空間は静謐を保ったままであった。 戦場から切り離されたかのような空間のひろがりと、そこに横たわる静寂は、彼に内省をうながす。 そうして彼に、彼の行動の結果を、因果を直視させることを、けして拒ませない。 ……ここにはまるで、誰の邪魔も入らないようだ。水入りを拒絶するかのように、雨は止まない。 私雨を思わせて天より奏でられ続ける滴り(しだり)のなかで、ピサロは動かなかった。 恋しい者の死に顔から目を離せず、頬にかかる銀髪も払わない彼は、無様に息を荒らげている。 つねの冷静の欠片を取り戻した、今。身じろぎも出来ないピサロの腕の中では、まさに彼女が。 痛みをおぼえた心が求めるがままに行った抱擁に、淡紅色をした長い髪が乱れ流されたエルフの女性が、 進化の秘法を求めた魔族から近くも遠い場所で取り沙汰された『生命の本質』に近付きつつあるために。 白と黒。 闇に満ちた世界にて認識がなされる、はじまりの二色。 無彩色の雷を一身に受けた彼女は、あまりに果敢なく崩れていく。 いかに白く整った外郭を保っていようとも、実際には雷の熱量で体の内を焼かれているのだ。 緊張を失いつつある女性の口許から、口内に溜まった血のあふれる様が、本質とやらの証左である。 内蔵からの出血であろう流体は黒みを帯びて濁り、闇を思わせる粘りを帯びていた。 くすんでよどんだ赤色が膚の肌理に張り付き、しぶとくも雨垂れ落ちに耐えんとする。 それを拭うために彼女の輪郭を崩すことも、彼女の姿から目を背けることも、ピサロには選べない。 思わずながらも彼女に永別の一撃を叩きつけてしまった彼にはとうてい、かなわない。 「ロ……ザ、リー……」 ピサロがみずから名付けた四文字が、雨滴に遮られるよりも先に彼自身の耳朶を打った。 つよく焦がれて追い求めた彼女と同じに尖った魔族の耳は、優れた聴覚を有するのだ。 その耳が拾ったのは、おぼつかない発音と、軸のぶれた抑揚と、うわつき揺らいだ余韻である。 どこまでも断片化された印象が、激情を前に動きを止めた脳裏で噛み合わさる。 意図せずしてピサロの口許がいびつな上弦を描き、即座にかたちを崩した。 激情のままに叫び、地に伏さんとする細い体を、美しきものを遮二無二かき抱いて、 空が知るよしもない嵐の止んだいま、自身の声があまりに白々しいものであると思われたがゆえに。 少しく落ち着いたいま、落ち着いたことそれ自体が彼女への背信であるとすら感ぜられたがために。 ピサロの、のどがこわばる。 たんにこわばるどころか、本格的な夜を前に鋭角な傷みさえ訴えてきた。 戦闘をくぐり抜け、怒号をとおし、呪文を唱えた粘膜が、吸気にまじる硬さ冷たさを許容しかねている。 精神どころか、肉体までもが能動を拒むかのような反応に、誰よりもまず彼自身が驚いていた。 ロザリーのいない安穏など、求めるべくもない――。 そうと断ずる思考を疑いようもなかっただけに、弛緩する思考には手ひどく裏切られたような思いがした。 巧まずして露呈した自己矛盾を前に、頭の中身が飽和しかけているとも感ぜられた。 ……皮肉なことに、ロザリーの死によって生じた慟哭こそが、ピサロの心に冷水を浴びせしめている。 あふれた叫びと、叫びと向きあう時間こそは、許容量をおおきく超えた感情を浄化し、整理せしめている。 いまの彼は、自らの手でロザリーを殺しておいて憎しみに身を任せられるほど、周りが見えないわけではない。 そして、憎しみにとらわれた勇者、倒すべき存在であるユーリルの無様は彼の脳裡にも刻まれていた。 感傷と憎悪と焦燥に駆られてこの結果を招いたのだとも思えば、絶望に折れてやるわけにもいかなかった。 ならば、結局のところは。 彼が選べる道は、ロザリーが存命であったころと質的に同じである。 ピサロはおのが身を削り、追い詰め、なにかを捨てることでしか、彼女への想いを表せない。 たとえば彼女が虐げられたことに怒りを覚え、彼女がされた以上の破壊を及ぼすほどに心を燃やして。 たとえば彼女を喪ったことに対して、喪失したものの価値を示すに相応な質量の悲嘆で魂をゆがめて。 辛く悲しく苦しいと、笑えなくなってしまう。 救いたかった者から真っ直ぐな言葉をかけられてもなお、そこだけは変わらない。 ロザリーがなにかを喪ったというのなら、ピサロは彼女に、彼女の面影に与えたいのだ。 与える過程で自分がなにかを喪おうとも、彼女は、それ以上になにかへ心を砕けるのだから。 ならばこそ、何かを壊すことでしか思いを表せなかった自分は、彼女以上に心を砕かねばならない。 真に彼女がいとしいのなら、自身のたましいをさえ砕かねばならないと信じさえしていたのだ。 ……しかして今回ばかりは、彼もひととき、立ち止まってしまった。 実態が見えないからではなく、むしろ、おのれの本質に突き当たったがために。 ほかでもないロザリーの言葉こそが、彼が感情のままにおのれを捨てることをさせない。 それでいてピサロの側は、彼女を喪った事実を埋めるだけの量感をもった思いを、犠牲を求めている。 誰よりもまず、愛しき者を屠ってしまった自身にこそ、なにかを捨てることを求めてやまないのだ。 この矛盾に、愛を注ぐべき者との落差に気付いたがゆえに、足を止めた彼は、動けない。 自身の基底を衝く欠損に直面し、思いあぐねた魔族は、すでに喪われた救いを求めて瞑目した。 視界が闇にと染まる刹那、木陰に隠れていた花の残骸が視界の端へ収まり、眼裏に素朴な白がにじむ。 頬にさす雨垂れ落ちをまえに、あれは摘まれることで嵐を呼ぶ、雨花であったのかもしれないと。 思考が主の意に反して、わずかに逃げを打つ。どうでもいいと思えることこそ、切り捨てられない。 冷静さの軸をなす俯瞰を取り戻すべく眉根を寄せても、視覚は無為に散ったものに支配されたままだ。 車軸の雨に散らされた花弁は、ピサロの意識で葉脈のそれより細かい組織を透かせてくずれ、 (花――?) まったく別の方面から、彼の脳裏にひらめきがくだった。 天地が鮮やかに見えよう戦慄とともに、情報の欠片が結ばれ開闢にも似た流れが生じる。 進化の秘法に関する文献や伝承を調べていた際に耳にしたことのある口伝が、すべてを切り開く。 それは、千年に一度だけ開くといわれる貴重な花。 《世界樹の花》にまつわる話だ。 錬金術士の論のように与太話とするどころか、今の今まで積極的に忘れていたのは、ひとえに花が咲く場所に拠る。 地上より生まれて、はるかな天空にとつながる樹を、魔族の王であった彼は心から忌んでいたのだ。 あれが地上を俯瞰し、魔族を滅ぼす勇者を生んだ天空の城へ通ずる道というだけで疎ましい。 事実、天空人による干渉を嫌った彼は、一度はあの樹を焼き払おうとも考えていたものである。 しかして結局、彼には世界樹を焼くことなど、出来はしなかった。 魔族の王にとっては目の上のこぶとなんら変わりのない、ただひとつの大樹。 あれは森に生きるエルフ、ロザリーにとっては父にして母とさえいえるものなのだから。 彼女の優しさを知るがゆえに、ピサロには、彼女の愛するものは侵せないと思われた。 ひとたびそう感じてしまったなら、彼の意識は妥協点や着地点を探す方に水が向いたものだ。 そもそもの話、人間を蔑視する彼も、樹木や地上の世界そのものまでを憎んでいたわけでもない。 天空人が地上に降りることが罪であれど、勇者が天空に至ることのほうが罪でないのなら、話は簡単だったのだ。 天より来たるかどうかも分からない脅威を警戒するより、必ずや地上に現れる敵手を滅ぼせば問題は無い。 ロザリー本人から口伝を耳にしていれば話は別だったが、それこそめぐり合わせの問題であった。 そして、いま問題にすべきものは、めぐり合わせの妙でも皮肉でもない。 数瞬の回顧を終えた魔族のなかでは、彼に打たれた様々な点が線につながりつつある。 最も大きな点、思考の転換点はふたつというところだ。 ――どのような薄汚い欲望でもよい。何でも望みを叶えてやる―― ひとつは、憎悪のままに人間どもを睥睨していた魔王の声。 あの闇のなかで、オディオが口にした言葉だ。 ――ロザリーさんは、いつ、亡くなられたのですか?―― もうひとつは、勇者の仲間であった占い師の言。 旋風でもって竜巻をいなした人間が投げかけてきた問いである。 連想と黙考により、暗河(くらごう)のごとき認識に光が当たった。 鮮明の度合いを増す自身の思考を受けて、ピサロの口許がふいに、ゆがんだ。 上弦をさえ作らない口角からこぼれたのは、乾きに渇いた哄笑である。 ……こうなれば、人間の言葉を信じないというわけにはいかない。 いかに自身が滑稽であろうとも、下等な人間どもと同列あるいはそれ以下に立とうともだ。 《世界樹の花》を使えば、ロザリーはいまひとたびの生を享けることがかなう。 それが千年に一度の奇跡でも、占い師との間にあったような時間軸のずれについても、おそらくは問題などない。 ずれを生んだであろうオディオにならば、いかようにも修正しうる。 あの魔王は……自分が一面に共感を覚えた者は、おのが前言をひるがえしなどしない。 冷静さを保った頭には、その念がおためごかしだとしか思えず、笑いが深まった。 だが、そうと信じていなければ、ピサロはロザリーに報いる機会を永遠に無くしてしまう。 こちらが辛く悲しく苦しいと、ロザリーは笑えない。 しかして彼女がいないなら、ピサロはずっと辛く悲しく苦しいままだ。 彼女が最期に自身を断罪しなかったことが、なおのこと魔族の胸を衝き上げる。 それほどに思える相手を手にかけてしまった事実が消えないことを分かっていても、 それほどに思われていた彼女が、なにをされて喜べるかを理解していても、 せめて、この手にかけてしまった彼女に、この自分に出来る方法で、力を尽くしたい。 その行為に注力することで、彼女に憎まれようとも、悲しまれようとも……構いはしない。 彼女が継ぎかけた言葉も聞けず、憎まれることさえかなわない現状よりは、よほどましなのだ。 時間が解決するなどと、少なくとも自分は思わないが、そうすることでわずかなりと。 (愚かとされるは、私も、同様だな) わずかなりと、報いを受けたい。 そうと考えていた自身を、若き魔族は思うさまあざ笑った。 思えば、ロザリーを殺した者どもを蹂躙した初手から、自分は変わらなかったのだ。 彼女が生きていることを暗喩された後も、彼女に会いたい、生きて欲しいと思いながら……。 ピサロのやったことといえば、壊すことのみだ。彼女を生き残らせる方法など考える余裕もなかった。 ロザリーを庇護したいと思ったのなら、どうして後先も考えず、体力や魔力を消費してしまったか。 彼女を守るべきとしていたのなら、どうして、自分と彼女が生き残るように動けなかったのか。 いまから出来ることといえば、彼女の名残りを、これ以上傷つかないようにするだけではないか。 重なる自問は、自分を責めても実になることなどない。そうと分かってもなお止まらない。 けれども、激情を上下する肩に押し込める、その前から。 彼が、彼女をいだきつづける手のやわらかみだけは、変わらない。 そして絶え間ない花降しのなか、魔族は反射的に笑みを収め、息を吸い込んだ。 血のように紅い双眸が、玉水とは違う輝きを――。 輝きの根源たる、ちいさな結晶をこそとらえたがゆえに。 水に冷えて赤みを深めた輝きを目指して、ピサロの右手が伸びた。 端正な容貌と裏腹に節の目立った五指が向かう先は、いとしき者の空知らぬ雨。 ロザリーが最期に遺していった、ひとしずくのルビーの涙だ。 雨夜の星を思わせるきらめきを求めた指先が、しいて引き締めた頬を裏切るほどにふるえている。 彼の胸にも、この世界にも美しきものを遺していった彼女が、 土に埋まり、やがては泥に還る光景をまったくと想像出来ないまま、 指関節が伸び、指先に意識が向かい、末端にまでとどく血流が脈を刻んでいると知れ、 神経の集中した部位で、雨のまえにも冷え切らない自身の体温を感じた直後の、 接触の瞬間。 ピサロの指に触れた涙は音もなく砕け、花よりおぼろな光を散らした。 ほどなくして、黒い外套が北雨吹の一陣に押され、主の体にしなだれかかる。 明らかな指向性をもって落ちてきた天水に打たれたピサロの瞳は、鏡面のごとく色を見せない。 黙してロザリーの遺骸を抱えなおし、伏せたまぶたで紅い瞳に浮かんだ色を抑える。 細くとも意識をなくした体を支える両腕より、裏地に毛皮を張った防寒具こそが、いやに重かった。 ×◆×◇×◆× 【2】 守勢にまわっている自分たちが、あえて相手を押し切る。 押し切られるまでに押さえ込むのなら、今より他に機などない。 ユーリルと刃を交わすイスラがそうと判断した理由は、守るべきものの不在であった。 ピサロにとっての大切な者。 先刻まで気絶していたはずの、ロザリーがいない。 紋章使いの少年によって守られた直後、それに気付いた三人は決断を迫られたのだ。 すなわち、姿を消した彼女とピサロを追うために戦力を分割するか、このままユーリルを押し切るか。 意図しなかった増援である青年がこの場に留まることでユーリルの怒りを煽る可能性はあれども、ロザリーならば。 彼女の死の可能性にさえ、ピサロがあれほど激していたのならば。 『待てよ! いまロザリーになにかあったらッ!』 『二手に分かれて泥仕合を続けて、共倒れになりたいのかい?』 それを類推出来てなお、アキラとイスラの意見は大きく割れた。 剣戟をいなし、かわしつつの第一声で、改めて互いに見えるものが違うと判断出来るほどに。 かりに彼らが二人でいたなら、一対一の平行線をたどり、結果として消極的な判断を迫られただろう。 あるいはさらに悪い結果、時間切れによる判断や選択そのものの消失をすら招いてさえいたかもしれない。 守れと仰せつかったアナスタシアの……殺しをいとわない者の意見は、イスラもアキラも求めはしなかった。 『あの魔法……を、相殺すれば。当面の問題は剣だけです。 彼がどういう人物なのかは知りません。ですが脅威は、押さえうる機を逃してはいけない』 均衡あるいは緊張を保った、彼らの天秤。 それを傾けたのは、きらめき輝く刃と盾で彼らを守った者である。 ジョウイ。マリアベルからアナスタシアを守るように依頼されたという彼の声音も、緑がかった瞳も 穏やかであるとみえたが――最後の一節をつむぐに至って両方が厳しさを増す。 数多の鉄火場をくぐり抜けた者のそれといえよう眼光に、言葉を切った一瞬、宿ったのは父性か。 剣戟を受けて視覚の取り込む情報こそ変じたものの、柔和と厳格の相半ばした印象はイスラの胸にも残る。 慎重の奥に懊悩の……イスラとて嫌になるほど覚えた感情の名残りをにじませていながらも、まだなにかがあると 言わんばかりに澄ました顔つきは、正直言って気に入らない類のそれだと感じてはいた。 けれども同時に、援護をうけた胸にはある種の鈍感がさしたのも事実である。 無関心と紙一重の感慨が胸へとさすに至って、イスラはユーリルの剣にこそ集中した。 敵意でないものならば好感とも言えようほどに単純化された思いは、戦場特有のそれといえる。 彼は、身を挺してアナスタシアを、自分たちを守ったのだ。ただそれだけで、命を、あるいはもっと大切な なにものかを賭さねばならない戦場における彼の行いは、好感を抱くに値するものであった。 アキラも、その思いを肌で感じていたのだろう。イスラの返した剣に超能力のひとつ、スリートイメージを重ねて ユーリルの感覚を撹乱しながら、胸をあえがせる勢いを借りて声をしぼり出す。 『悔しいけどよ……無理を通したって、たぶん、俺の力じゃアイツは折れねー』 焦点があてられたのは、サイキッカーのもつ力であった。 ユーリルとピサロを止めるための札であったレッドパワー、スリープ。 マリアベルの力について説明を受けた彼らは、仲間のもつ類似の札についても話を聞いている。 正確には、アキラが口の端にのぼらせたヘブンイメージが、この状況と相手にそぐわないという話をだ。 『相手を安らかな心地にさせて眠りを呼び込む』のが、アキラが有する力の原理。 相手の心に働きかける――すなわちある種の双方向性を保持している以上、単純に魔力の押し合いで結果が 出されるようなものでないことは想像にかたくない。 力を受けた者がアキラの展開するイメージを信じられなければ、精神力を浪費するだけに終わってしまう。 この性質を巧く使えば、相性の良い相手にはとことん強い技ともなろうが、相手はユーリルなのだ。 ここまで打ちのめされた結果、周囲の声を聞き入れなくなっている、彼なのだ。 それが超自然の力によるものであろうとも、安楽な場所など信じられるはずもない。 彼を燃やし、摩耗させるであろう激情と対極にある、安らかな心地など想像すらかなうまい。 『目的を達せられれば! 手段は――問題じゃないさ』 イスラの言葉に、左右に散っている二人が彼の手許でひるがえったものを見た。 袈裟斬りをいなした魔界の剣。反り身の得物は片刃であり、肉厚すぎるということもない。 『……しゃあねー。分かったよ! 打ちどころだけは間違えんなッ』 『言われるまでもないね』 喧嘩殺法とはいえ体術を修めているアキラが、いち早くなにかを察したようだ。 投げ出すようだが優しいひと言で、先刻言ったように、イスラの背中を守る位置につく。 三人のうちで面制圧と力の相殺に秀でるジョウイは、状況を俯瞰できる最後衛にと身を置いたようだ。 そして、最もわりを食う前衛についたイスラは、ユーリルと剣を交わしている。 剣を一合重ねるほどに、彼は、胸の奥底から浮上した共感と嫌悪感を強めていた。 アナスタシア・ルン・ヴァレリア。 どうにも気に入らない少女の問いで受けた不全感は、彼とて実感している。 彼女の言葉をきっかけに低くゆがめられた、あるいは彼がみずからゆがめてしまった自己の評価こそが、 いまのユーリルから他者に対する基本的な信頼感や安心感を喪わせてしまっているとも想像がつく。 けれども自分の欲望を達したいのに、自身を見据えることすら厭うている彼は……本当に無様だ。 彼の思い、それ自体には深く共感出来るからこそ、イスラには少年のありようこそが見るにたえない。 ユーリルがみせる、在りし日の自分が世界を呪ったのと同じ姿に、ともすれば苛立ちを抑えられなくなる。 そのくせ、彼にはユーリルを見捨てられもしないのだ。 相手のなかに自分を見出して、なおも突き放しきるのは、イスラには出来ない。 死にたい。死んだほうがいい。死ぬしかない。死ねば、死んだら――。 感情の好悪は別として、そうと思いつづけた自分は、自分だけは。 ずっと、自分を見ていた。疎んで、貶めつつも大事に抱え、見捨てなかったのだから。 (本当、皮肉も冗談も抜きで、説明するのも嫌になるけど) 防御を意識しないユーリルが、上段から逆落しじみた一閃を放つ。 常人離れした膂力を誇るがゆえに単純化の際立つ軌道を、少年は見切った。 直線に近い縦軌道に剣の峰を合わせ、手首の回内で繰ってみせた刃でもって力の向きを逸らす。 運動、ひいては筋肉の伸びと弛緩に伴い、双方の肺からはするどい呼気が押し出されていた。 感覚が次の一手を志向する刹那、鼓動をつづける体は自動的に夜気を取り込まんとうごく。 それはユーリルも、剣を構えた肩を大きく上げて肺をふくらませたイスラも同じだった。 吸気を体全体に満たした黒髪の少年は、つねより張って少しく高めに響いた、 声をつむぐ。 「言っても分からない。さっき、確かにそう言ったね」 彼が発するは、かつての自分が浴びせられ、包まれたものだ。 自分と向きあったアティが、なによりも大事にしていたものだ。 イスラは、言葉を、彼女たちと真逆の方向につむぐことをこそ選び取らんとして。 意識的に、声を張る。 「じゃあ、同じことをシンシアに、……彼女には伝えられたのかい?」 張っていようとも――。 シンシア。 イスラ自身の内奥で消化がなされていない、だれかの名前。 そんな単語をわけ知り顔でつむいでみせる行為は、いやに不快なものだった。 平然を保ったまま、強い語調で押し通そうとした少年の喉奥が、幾度もこわばりかけるほどに。 けれど、最初の一歩で揺れてはいけない。確証がないことを悟られてはならない。 「うるさい! お前に、お前たちに僕のなにが分かるッ!」 「少なくとも、キミが望むような分かり方は出来ないだろうね。そこだけは認めておくよ」 また、彼になまなかな夢を見せるわけにもいかない。 本音を言えば見せたくもない。 呪うしかないと思い込むほどに閉塞したユーリルの心を推し量れてもだ。 様々なものを奪われ続けていた気持ちが分かっても、イスラには、与えられない。 与えたこともなければ、与えようとも思えないほど、彼が持ち得たものは。 持ち得たと、思えたものは……彼には少ないと感じられてならないのだから。 健康な体。普通の食事。安楽な時間。他者との触れ合い。たんなる日常。 そんなものすら世界から与えられないのなら、この手で奪いにいくしかなかった。 与えられなかったと決め込むほどに、自分にかけられたものなど、なにもないと思っていた。 そんな、確信じみて屈折した思いを。一面における甘えを抱え続けていたのがいまの彼だ。 自身の認知へ盲目にすがってさえいたのが、ここに立っているイスラ・レヴィノスだ。 姉に、アティに愛されていたことが分かっても、底にあるものが一朝一夕で変わるわけもない。 おのれの渇きと付き合うだけで手一杯だった自分が、一足飛びに他者の渇きを癒せるわけもない。 二人の思いを受けた自身を育てきる時間もなくここに来た現状、あるいは、もっと先になっても――。 本質的にはおのが渇きしか癒そうと思えないでいた自分に、過剰な期待をかけられるのは。 自分のごとき者に寄りかかられて、無様を、醜悪な姿を至近で眺める羽目になるのはごめんだった。 だからこそ、イスラは冷淡かつ現実的な言葉でもって、ユーリルと距離を保つ。 「でも、分かってもらえないことに対して覚える気持ちは、僕にも心当たりがある。 それで、分からなくもないなんてことが……言えたのさ」 その上で、彼は言葉をつらねた。 強めていた語勢をわずかにゆるめ、相手の放った薙ぎ払いに対処する。 穏やかとさえ言える動きで反り身の刀身を直剣の腹に当て込み、受け流しとともに前へ踏み出す。 体力の限界を忘れた相手を一気に押し切る。そのために必要な隙を……果たして、作れるか。 力でかなう公算が低いのなら、言葉で。つらなりつむぐ思いとやらで、作れるだろうか。 盲目の、ある意味では安楽のうちにある相手に、自分は、一時でも切り込めるのか。 「だから訊けもする。他人に分かってもらうために、キミはなにか努力をしたのか……。 自分がなにを思っているか、なにを感じたか――キミは、彼女たちに分かってもらおうとしたのか」 鍔迫り合いに持ち込んだイスラの心中で、自嘲がこぼれた。 いったい、こんなことをどの口が言うのか。 イスラの死にたさを、その原因を知り得ない二人の様子がたまらない。 ……もっと、雨が降ればいい。 緩やかにユーリルを囲みつつあるアキラとジョウイを視界に入れた少年は、つよく思う。 驚きから納得に遷移した、彼らの表情。僕の背中を後押しするような首肯なんか。 剣を受け流すのでなく、いなすのでもなく、真っ向から受け止めてしまった僕の姿なんか。 けぶり、砕けてあまぎる雨に。 隠れていてくれ。 精緻な技を問われる反面、どうにも焦れる数瞬――。 あらぬ方へ流されかけた心と剣に、イスラは意識を傾けなおした。 重心の動きに合わせて刃を押し込み、間髪を入れずに押し返される、波が止まない。 「言っただろッ、僕は、世界を救った! 戦いたくもないのに、必死で、頑張ったのに!」 「そうじゃない。いま問題にしているのは、そういう努力じゃない。 言わなきゃ伝わらないことを、言いたい相手に言えたのか。言おうとしたのか。そう聞いているんだ」 一進一退を暗喩するかのような一合を前にして、巧まずして語勢が強まった。 するどさを増す舌峰が、彼自身に追い討ちをかけるようだ。 ――アティのようになりたかった。 泣きに泣いたときにあふれだした本音は、ある意味では正しいのだと痛感する。 なり“たかった”。 無意識につむがれた過去形の表すとおりにか、イスラは、アティとあまりにも違う。 この乖離に、十数年をかけて作られた埋めようのない落差に、苛立ちと諦観を覚えるほどに。 当然のように諦観を交えんとする心のありように落ち着く反面、なにか、許せなくもある。 それでも、ここまで自分の急所を、やわらかな部分をさらしたからには退けなかった。 鍔迫り合いを膂力でもって押し切られようとも、すべての動きを支える体幹までは崩させない。 そして――。 「そうやって、時間を稼いで……アナスタシアを逃がすんだろッ!」 「違う!」 たとえ弱みを見せていなくとも、この単語だけは全力で封じるべきだった。 アナスタシア。まるで魔法の言葉であるかのような言いように、イスラは声を荒らげる。 彼女にこそ自身のなにものかを壊されたのだろうに、どうして彼女に行き着くのか。 どうして、彼女以外の救済策を見ようとしないのか。どうして、どうして。 どうして死を救いと信じ、思考の果てに死を誇りとするに至った自分の、出来損ないのように思考を展開するのか。 ぴしゃりと言い切ってなお残る胸のむかつきを、少年は続いた縦斬りをいなす作業に注力し、逸らす。 この、盲目そのものといってよい無知と、無理解と、思い込み。 不快で、嫌でたまらない思いを吹き払う言葉が、なによりも自分にこそ欲しい。 「――家族だって、僕がなにも言わなければ! 僕がなにを思っているかなんて、とうてい知り得なかった。逆もまたしかりだったさ!」 その一念が呼び込んだものは、アズリア・レヴィノスの影だった。 姉である彼女と、彼女と同じ軍属であったアティ。 あの二人に刃を向けさせるために、自分は、思うさま二人の甘さを罵った。 罵られた姉は、弟の真意を汲み取れなかったことを謝り、一時とはいえ彼に殺されようとさえした。 人は言葉でいくらでも本心を偽れるものだと前置きしていた、イスラ・レヴィノスの内心を知らずに。 知らないままに命を投げ出せる精神が、きっと、彼女が自分の家族たる所以だった。 知らないままに思いを砕けるところが、きっと、自分が姉に反撥出来た一因だった。 自嘲などしている暇もないというのに、崩れるように剣が軽くなったのは、この時である。 受け流された剣筋ではなく、この言葉にこそ、ユーリルは腰を泳がせた――。 「《勇者》は、泣いちゃ、いけなかったんだ! 泣くような《勇者》なんて、誰にも望まれやしないッ! だから、それなら僕は……もう、そんなものは捨てたんだ! 捨てた、のに――ッ!」 次の一閃は、意図したかと思われるほどに大きな風切り音を残して振るわれた。 吹き払うことなどかなわないと思われた怒りに、《勇者》という語が油を注いだかのようだ。 けれども。 くしゃくしゃになったユーリルの顔は、火の付いたように。 まるで、今にも泣き出しそうな子どものように、歪んでいる。 それほどに心を動かしめたなにものかを、彼はひらめかせた剣にと注ぎ込む。 雨を帯びたる少年の衣服は、髪は、肌はいまだに、紅い。 ×◆×◇×◆× 時系列順で読む BACK△112 光の『英雄』、闇の『勇者』Next▼114-2 きみがぼくを――(ne pas céder ―――――――) 投下順で読む BACK△113-5 ――トゥーソードNext▼114-2 きみがぼくを――(ne pas céder ―――――――) 109-3 夜雨戦線 -Emotional Storm- ユーリル 114-2 きみがぼくを――(ne pas céder ―――――――) アナスタシア アキラ イスラ ジョウイ ピサロ ▲
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――――降臨 ◆O4VWua9pzs 「お…なかなか強そうじゃん…」 目の前に大柄の男と銀髪の女が視界に映る。 この二人は自分を楽しませてくれそうな人材なのか。DIO様が喜んでくれそうな食料なのか。 刃牙は軽い笑みを浮かべ、前に現れた二人に拳を構える。 準備は万端、闘争はすぐに始められる。 突然の刃牙の戦闘態勢に鳴海とエレオノールに緊張が走る。殺し合いに乗っているのは明らか。 殺し合いに乗っているであろう刃牙にエレオノールは指貫をはめ、刃牙目掛けオリンピアを向かわせようとする。 「エレオノール、ここは俺に任せてくれないか」 だが、鳴海は右腕でエレオノールを遮る。 突如の鳴海の行動に驚いて、エレオノールは鳴海のほうを振り向く。 そこには、真剣な面持ちで男を見据える鳴海がいた。 「……ああ、いいだろう」 エレオノールは一旦引くことにした。本来なら二人で戦ったほうが合理的である。 一対二ではこちらの方が有利である。 しかし、刃牙に向けられている鳴海の鋭く強い意志を持った目。 何かをやり遂げそうな頼りがいのあるそんな眼だ。 何か思うところがあるのであろう。そう思い、エレオノールは鳴海の動向を見守ることにした。 「すまねえ」と小さく呟いて、鳴海は刃牙の前に出る。 「こっちは別に二人して相手していいんだけど」 刃牙は両手を構え、ファイティングポーズを決める。 「いきなり戦闘態勢にはいるなんて穏やかじゃねえな。 ……その前に聞かせてくれないか、あんたは殺し合いに乗っているのか?」 「ああ、もちろんさ」 間髪いれず答える。 「そうか、だったら……」 刃牙の答えに呼応するかのように鳴海も静かに拳を構える。 「―――容赦はしねえ」 お互いに同じ半身半立ちの構え。 刃牙は両拳を胸の前に構える西洋式の構え。 鳴海は右手を突き出し、左手を腰に置く東洋式の構え。 だが、その二人の構えから培ってきたものは違う。 今この場所で二人の歩んできたものがぶつかり合う。 「しゅッ」 先に攻撃を仕掛けてきたのは刃牙だ。最初に繰り出す第一打。 軽く体重を乗せたジャブを放つ。そのジャブは的確であり、素早い。 鳴海はそれを避けずに両手で受け止める。 しかし、これは囮である。 本当の狙いは下半身にあった。刃牙は相手がガードした瞬間に蹴りを放っていた。 全体重を乗せた重い蹴り。 その蹴りは鳴海の両脚の間、つまり一撃で相手を粉砕する急所攻撃――金的を狙っている。 刃牙のスピードの乗った蹴りは生半可な格闘家では防ぎきれない。 最初の囮に気づかないような実力なら戦う価値もない。 自分は今すぐにでもDIO様に食料を渡し、親父を殺せ得る力をさっさと得たいのである。 勇次郎との戦闘で疲労も蓄積していたので、実力がないならすぐに決着を付けたかった。 相手の実力を試す意味で蹴りを打つ。 それは確実に鳴海の股間を捉えていた。 思った以上に簡単に決着が付くな、見た目は強そうに見えるがつまらない相手だなと、 刃牙は心の中で溜息を付く。 だが、鳴海は両足を絞り込み、内股の形でその重い足刀を防ぐ。 硬い部分である両膝で防御を固めているので、ダメージもほとんど通らない。 そのうえ、刃牙はその蹴りに全身を乗せたためにすぐに次の動作に移れない。 鳴海の実力なら刃牙の攻撃を避けることもできた。 相手の動作から相手の蹴りの軌道を見極め、脚でガードする。 鳴海はあえて防御した。全力攻撃は強力な威力を誇るが空振るとその勢いを殺せず隙を作ってしまう。 それは、相手に攻撃を続かせる軌跡へと繋がる。 鳴海はその一瞬の隙を見逃さず、前突きを刃牙の顔面にお見舞いする。 刃牙はすぐにガードを固めよとするが、鳴海の腰を入れた俊敏な突きに対応できず、重い衝撃と共に大きく吹き飛ばされる。 この激戦が予想される戦いの中、最初に有効打を決めたのは鳴海であった。 重い前突きを喰らった、刃牙は柔らかい肢体を捻らせ、地面に激突する前に受身を取り、上体を起こす。 刃牙はおもいっきり突きを貰ったのに、その表情は清々しい。 スポーツ感覚で武道を嗜む腑抜けた輩ではない。 対急所攻撃を心得ている、その上、素早く重量感のある突き。 しかも、見た目よりも身体に響き渡る衝撃。中国武術特有の気の使い方。 気を練ることによって瞬間的な爆発を生み出す発勁の使い手である。 自分を心の底からわくわくさせる。 こいつは楽しめそうだ。 DIO様にさっさと食料を持っていこうと、少し焦っていたようだ。 だが、ここからは……。 刃牙はもう一度体勢を立て直し、拳を構える。 「すこしアンタを舐めていたようだ」 本気だ。 刃牙は身体を傾け、滑るように鳴海に突撃する。 鳴海も重心を落ち着かせ、刃牙の攻撃を開手で待ち構える。 刃牙の拳が鳴海の顔面を狙う。腕の撓りを利かせた鮮やかなフックである 鳴海はそれを右手で捌き、襖を摺らすように水月に掌打を打つ。 刃牙は類稀なる反射神経で回避。すかさず、ローキックを放つ。 刃牙のローが直撃。 しかし、鳴海は蹴りに合わせ脚を逸らし、打軸をずらしていたので、有効な一撃にならない。 鳴海も同じように蹴りの動作には入る。 利き脚を軸に身体を捻らせ、踵から斜めに刃牙の首を狙う、上段廻し蹴り。 これを喰らえば、戦闘不能は間違いない。 刃牙はバックステップを踏み込み回避。同時に距離を離し、間合いを測る。 ほんの数十秒の攻防。 鳴海と刃牙はお互いに視線を絡ませ、間合いをじりじりと詰めていく。 二人は感じ取っていた。緊張が途切れたほうが敗北する。 まさに一触即発の戦い。 「これは長引きそうだな……」 刃牙は笑みを浮かべる。この緊張感ぎりぎりの死線が楽しくて仕方がないのだ。 鳴海は表情を変えない。今度は鳴海が先に刃牙に攻撃を仕掛ける。 戦いはまだ始まったばかりだ。 二人の攻防が鳴海の地の蹴る音をゴングに開始される。 +++ 風が見惚れるほど滑らかな銀髪を靡かせ、陽光が反射し辺りを銀色に煌かせる。 エレオノールは闘争の成り行きを見守っていた。 戦闘の構えを解かず、いつでも鳴海を助け出せるようにしている。 エレオノールは鳴海の真意が掴めないまま、戦いを眺めていた。 なぜあの男は一人で向かったのだろうか。二人で立ち向かうほうが効率的である。 なのに、なぜだ。 エレオノールは鳴海を凝視する。 真剣な面持ち…いや、表の表情とは裏に何かを潜めた表情。 あの男は何を思い考え戦っているのであろうか。 それに、どうしてだろうか。奴の顔から眼が放せない。 胸のうちから湧き出る熱い想いはなんだろうか。 分からない。 「でも……なぜか心地よい」 エレオノールは初めて感じる想いに戸惑いと心地よさを覚える。 その不思議な快さから青空を眺める。青雲が形を変えながら流れていく。 鳴海がいてから私は変だ。私の中で何か変化が起こっているようだ。 そう思いを馳せていると、突然鈍い爆発音が高鳴る。 と、同時に低いうめき声が聞こえる。すぐに視線を戦いに向ける。 そこには―――― 「鳴海っっ!!」 +++ 二人は闘争を続けていた。二人の身体は軽い打撲の跡、肌にところどころに擦り傷が刻まれる。 二人の猛攻は刃牙が不利であった。 元々DIOのダメージも癒しきれていない状態での勇次郎の戦闘。 そして、勇次郎との戦闘による疲労。それが今になって刃牙の身体を軋ませていた。 まるでシロアリのようにじわじわと家屋を蝕んでいくように。 それに加え、鳴海の攻撃は少しずつだが、自分の防御が破られ、ダメージが蓄積されていく。 鳴海の攻撃は形意拳特有の直線的な動きである。 その攻撃の軌道は純粋なほど真っ直ぐである。 武器に例えるなら槍と表現できる。だが、鳴海の攻撃は直線的だが決して単調な動きではない。 矛盾しているが、真っ直ぐの動きの中に変形自在に形を変え、刃牙に攻め入ってくる。 鳴海の拳法はただの槍ではない。 真っ直ぐに伸びた刃の側面にもう一つ刃が光る槍―――鎌槍。 捻りを加えるだけで幾重にも軌道を変え、恐ろしく多彩な動作に変えていく槍である。 刃牙は攻撃が届かず、歯痒いまま有効打を決められないでいた。 このままでは刃牙の敗北は自明であった。 DIO様のためにも、親父を殺すためにも負けるわけにはいかない。 この悪い流れを変えなければならなかった。 刃牙は流れ変えるために思案する。DIO様のためにも卑怯な手も辞さない。 刃牙は短パンのポケットに手をいれ、あるものを握り締める。 そして、すぐにノーモーションのアッパーを鳴海に向けて放つ。 鳴海はそのアッパーを警戒しつつ、左腕で捌くように防ぐ。 「くっ!」 刹那、鳴海は仰け反る。突然視界が奪われ、眼に激痛が走る。 そのはず、鳴海の眼に粉状のものが無理矢理混入させられたのだ。 刃牙は一切武器を持っていない。 最初に支給されたものは強化外骨格「零」と核鉄(ソードサムライX)であった。 強化外骨格「零」は自分にとって武器とは言いがたい。トレーニング器具としては最適だが武器ではない。 核鉄(ソードサムライX)は武器であるが、自分は己の肉体で戦っていきたいので、これも武器ではない。 刃牙は全参加者が絶対に支給されている物―――食料を使ったのだ。 刃牙の食料はほんの数秒で栄養分をチャージできるカロリーメイトであった。 それをいつでも摂取できるよう短パンに入れてあった。 刃牙は包装ごとカロリーメイトを握り絞め、粉末にする。これだけで目潰しの出来上がりである。 少し卑怯な手であるが、防げない方が悪いのである。 そして、鳴海のガードと共に手首のスナップを利かし、カウンター越しにその粉末をお見舞いしたのだ。 その目潰しによって鳴海の身体が強張り、隙だらけの肉体が露になる。 鳴海は咄嗟に顔面をガードする。 が、刃牙はそんな好機を逃すわけもなく、露になったみぞおちに鉄拳が振り抜かれる。 剛体術 。 拳が当たる瞬間、全ての関節を固定し、体を硬直させて、拳に体重を乗せ、強力な一撃が炸裂する。 鳴海は内勁と呼ばれる爆発的に防御力を上げる気功によって、ダメージは軽減されたが。 とんでもない威力で鳴海の巨躯は大きく吹き飛ばされ、アスファルトを転がる。 受身を取ることも出来ないほど重い衝撃。 「ぐはあ」 あまりの一撃で視界が歪んで、鳴海の意識が朦朧とする。 このまま道路の上で意識が飛びそうになる。 だが、 「鳴海っっ!!」 悲痛な声で一気に覚醒する。 すると目の前には今にも顔面に振り下ろそうとする踵が映る。 刃牙の止めの一撃。 鳴海はすぐに身体を回転させ、打点を逸らす。 耳元でバキィイとコンクリートが砕ける音が弾ける。 間髪入れず二度目の体重を乗せた刃牙の踏み落とし。鳴海は道路を転がりまたもや回避。 鳴海は咄嗟に地面に手を付き、それを軸に身体を回転させ、刃牙の脚を払う。 刃牙は軸を崩され、地面に手を付く。鳴海はその間に体勢を立て直し、間合い離す。 刃牙は地面に付いた手をバネに大きく後ろへと飛び跳ね間合い離す。 距離が大きく離され、刃牙と鳴海が対峙する。 「鳴海!! 大丈夫か!?」 すかさず、エレオノールが鳴海に安否を尋ねる。 鳴海の口元から血痕が滲み出ていたからである。 「ああ、大丈夫だ…」 喋ると口元から鮮血が溢れ出る。鳴海は刃牙の一撃で胃を破壊され、肋骨を折ってしまったのだ。 そのうえ、折れた骨が肺に突き刺さった。そのため肺にたまった血が押し上げられ口元から零れる。 鳴海はエレオノールの心配をよそに血を拭う。 「ありがとうよ、エレオノール。あんたの声がなかったらやられていた」 鳴海はエレオノールににっこりと笑みを浮かべる。 「!? ……ああ、気にするな」 エレオノールは刃牙に振り向きオリンピアを構える。 「鳴海、ここからは私が戦う。貴様は休んでおくんだ」 「いや、まだここは俺に任せてくれないか」 エレオノールは驚いて鳴海に振り向く。 「何故だ!? そこまでケガをしておいて、まだ戦おうとするんだ。ここは私に任せておけ!」 「すまねえが、ここは俺にやらしてくれ」 真剣な眼差しが向けられる。言葉を失うほどの真っ直ぐな瞳。 どう見ても戦えるような状態ではない。合理的ではない。 でも……。 エレオノールはしぶしぶ鳴海の要求を受け入れる。 これで最後だぞと、ピンチになればすぐに飛び出すと、念を押す。 「かまわない」 鳴海はそう言うとすぐ刃牙の元へ踏み出す 「あの攻撃を喰らって立てるなんて心底驚いたよ。それに待ちくたびれた」 刃牙はつまらない口調で迎え撃つ。 「けっ、卑怯者相手に逃げやしねえよ」 「口先だけは立派だね」 ノーモーションの拳を放つ。鳴海はそれを避けきれず、防御を固める。 すかさず攻撃動作に移ろうにも、刃牙の拳の連打で遮られてしまう。 「でも、さっきまでの俊敏な動きがなくなっている」 先ほどまでの鳴海優位の攻防が一転、刃牙が主導権を握っていた。 それほどまで鳴海の傷は深い。 気を練ることに不可欠である器官―――丹田を潰されたのは致命的であった。 刃牙の体重が籠められた拳は鳴海の俊敏さを奪いとったのだ。 機関銃のような連撃の前では、鳴海はただただ全身を防御に徹するしかなかった。 鳴海はもうもたない。 少し離れていたところで鳴海を見守っていたエレオノールは指貫をクロスさせる。 鳴海はもう戦えない。今こそ、オリンピアを傀儡させるべく構える。 「まだだ!」 だが、鳴海に声に遮られる。どう見ても敗北色は濃厚であった。 暴風のような攻撃の前に成す術もないのに。どうしてそこまで戦おうとするんだ。 奴の無謀な行動には理解に苦しむ。 「お喋りする余裕なんてないッッ」 その瞬間、刃牙は鳴海のガードを崩し、露になった首元に遠心力と共に回転蹴りをねじり込む。 確実に延髄を捉えている。刃牙の経験上、これを受ければ確実に意識を失う。そして、捉えた。 鳴海に延髄に重い衝撃が伝わる。蹴りの威力で巨躯はまたもや吹き飛ばされ電灯に激突する。 電灯に支えられるように鳴海は地面にずり落ちる。 肢体は突っ伏したまま立ち上がらない。 「意外にあっけないもんさ、勝負って奴は…」 つまらない表情で刃牙は鳴海を見下ろす。 「鳴海いいい!」 エレオノールは鳴海が倒れると同時にオリンピアを刃牙に向かわせる。 刃牙は待っていましたと頬を緩ませる。 今度は人形と戦うとは今までにはない戦いだな、と舌を舐める。 人形遣いと範馬の血が激突する。 その瞬間、 「まだ……戦える」 突然の声に、二人は戦闘を留める。 「鳴海!」 「へえ、あの攻撃を受けて、立ち上がれるなんてすげえや」 そこには加藤鳴海が起き上がっていた。電灯に寄り掛かり、ふらふらになりながらも、刃牙を睨みつけていた。 ハアハアと息を切らしているのが痛々しさを感じる。 「聞かせてくれ…そんなに実力を持っているのにどうして殺し合いに乗っているんだ? なぜ……光成に抵抗しない? なぜだっ!?」 鳴海の疑問に間髪いれず答える。 「すべてはDIO様のためさ。俺がDIO様の血をぶちまけてしまったから、食料が必要なんだ。 必要な分だけ人間を調達したら力を授かってくれるって約束したんだ。 DIO様と同じ吸血鬼の力をもらえば、親父だって殺せる。DIO様ためにもなるし、俺のためにもなる。 こんな美味しい話はないだろ?」 さも当たり前のような口調で。 「な…ん…だと…」 鳴海は絶句した。そんなくだらない理由で殺し合いに乗っているのかよ。 あまりのくだらなさに驚きが隠せない。それに、所々に現れるDIOという存在。 参加者名簿に一人だけ英語表記で原動機付自転車の名前と一緒だから何となく印象深い。 だが、そいつは自動人形とよく似た、人間の血液を糧にしている吸血鬼だと。 鳴海は忌々しい感情を覚える。 「全く、くだらねぇ…」 自然と言葉に溢れ出る。こんな馬鹿げたことに乗った刃牙に呟く。 鳴海の皮肉を無視して刃牙は言葉を続ける。 「それにDIO様はすげえんだッ。たった六時間の間で三人も殺しているんだ」 「な…に…」 またもや絶句。 「着物を着た成人男性に俺と同じ年代の女子高生、 そして―――十歳も満たない少女も血液を奪い殺している。 さすがDIO様! 俺のできない事を平然とやってのけるッ。そこにシビれる!あこがれるゥ!」 刃牙は目を輝かせ、自慢する子どもように鳴海に語りかける。 「まあ、今なら女も殺せるし、子どもだって殺せる。全てはDIO様のためにならッ。 そして、俺は力を貰って、親父を殺す。 本当に最高だ、DIO様は―――」 そう最後に付け加えて、刃牙は腹を抱えて馬鹿笑いする。 無人の街に刃牙の高笑いが木霊する。 遠巻きから刃牙の言葉を聞いて、エレオノールは怒りで眉を顰めていた。 なんとも馬鹿馬鹿しいと、あまりの愚かさに反吐が出る。 そう思い、オリンピアを刃牙に構えていた。 だが、彼女以上に思い詰めている人物が近くにいた。 ―――加藤鳴海である。 「い…すぐ………お…えろ」 +++ ――――男を殺しただと。 ――――女子高生を殺しただと。 ――――年端も満たない少女を殺しただと。 鳴海は思う。 DIOに殺されたものがどんな想いを抱いて死んでいったのか? 吸血鬼に追われ、殺される。 何を思って死んでいったのだろうか? 言いようのない絶望を思いながら死んでいったに違いない。 笑顔、家族、夢、人生をやりたいことを残して死んでいったに違いない。 死んでいった者の無念さを思うと涙が零れそうになる。 だが、涙はあのときにもう捨てた。 鳴海はある出来事が脳裏を過ぎっていた。 アメリカのイリノイ州のゾナハ病棟。 その時の出来事が鮮明に映し出される。 そこには自動人形が撒き散らすゾナハ病を患った人たちが収容されていた。 自分はそこで小児病棟の子供達を担当していた。 子供たちは病気を患っていても、普通の子と変わりなかった。 一人一人性格は違うし、体格も違う。感情もあるし、将来の夢もあれば家族もいる。 自動人形の情報を聞き出すための勤務だが、仕事はそっちのけであった。 子供達と共に遊び、共に笑った。 戦うしか能がない自分に子供達は慕ってくれた。 本当に楽しかった。一生ここに居ていいぐらい楽しかった。 だが、楽しかった日々は簡単に崩れ去った。 次々と死んでいく子供達。 そのとき、自分にとって特に印象深い人物が駆け巡る。 『ナルミ、今、描いてよ。もう寝る時間なんだよ』 絵を描くのが上手で、俺の下手な絵を大切に持ってくれていたマーク。 マークの死の前日に絵を描いてせがまれた。俺は「明日」に描いてやるよと言った。 だが、マークに明日なんてなかった。今でもマークの寂しい表情は記憶に残っている。 『うふふ…ナルミは…おもし…ろいね……ハリ……』 よく俺を慕ってくれた女の子――ベス。 ベスは最後に大切な熊のぬいぐるみ――ハリーを俺にあげると言った。 ベスは俺を心配させないよう第三段階に入る最後までずっと微笑んでいた。 ベスは笑っていた。笑うことが特効薬であるゾナハ病に患っているのに。 ベスは笑顔だった。本当は俺が笑うべきなのに。 俺はただただ無力だった。何も出来ずただ子供達の死を見送るしかなかった。 俺は無力な自分を呪った。 そのときと同じ感覚が蘇る。 俺は―――― +++ 「い…すぐ………お…えろ」 光悦に満たされていた刃牙は鳴海の呟く声に反応する。 「よく聞こえないな、何を言っているんだ?」 「今すぐ教えろ……」 ゆらりと刃牙を見据える。 その瞬間、周囲の空気が変る。 「――――DIOの居場所だ」 そこには凄まじいほど怒りに満ちた形相をした鳴海がいた。 鳴海から発せられる只ならぬ黒いオーラ。眼に見えないが、感覚で分かる。 どんな一般人でも、肌で感じられるぐらい鳴海は怒気を舞い上がらせていた。 「ああ、連れて行ってやるよ。アンタを死体にしてからなッ」 暴風と共に鳴海が刃牙へと迫ってくる。先ほどのふらふらな体調が嘘のように素早い。 身体能力が最初の比ではない、爆発的に上昇している。 憤怒という感情で身体の限界値の枷が外れたのであろう。 だが、そんな中、刃牙は余裕の笑みを浮かべていた。 前にいる男は明らかに野獣であった。いわば暴走状態である。 幾ら身体能力を上げようが、それは藁を燃やすこと同じぐらい一瞬で儚い。 怒りは、精神を滞らせ、視界を狭くする。 つまり、冷静な判断が鈍くなり―――いずれ負けてしまうのだ。 敗北は時間の問題である。 だから、自分のすることは冷静に相手の出方を見極めることだ。 暴風を前に防御に徹し相手の自滅を待つか。 もしくは単調の動きに合わせて冷静にカウンターを決め、一瞬で勝負を決するか。 前者は少し難しいかもしれない。奴の機動力はかなり異常だ。 身体能力の上昇率が半端じゃない。 そう何度も防御や回避仕切れそうにない。 後者を狙うべきだ。 刃牙は構える。鳴海は両手を構えながら迫って来る。 案の定、軌道が読みやすい左突き。素早い突きだが、見切るのは簡単だ。 刃牙は瞬時に相手の攻撃ポイントを読み取る。 そして、鳴海のパンチを体捌きで逸らし、脳天にカウンターを射掛ける。 「!?」 だが、鳴海を狙い打つ刃牙のパンチは擦り抜け――― ――――劈 「自動人形がいないから忘れていたぜ ――――俺が本当にしねぇことをなぁッ」 刃牙の脳天に巨大な衝撃が叩き込まれ、全身に衝撃が行き渡る。 刃牙の身体は凄まじい爆音と共に建物コンクリートの壁に叩きつけられる。 いままでにない壮絶な衝撃に意識がなくなりそうだ。 ――何が起こったんだ? 崩れたコンクリートから刃牙が立ち上がる。 突然鳴海の突きの軌道が歪んだのである。……いや違う、俺の軌道が捻じ曲げられた。 左手は囮。俺のカウンターパンチを左で逸らし、それをすり抜け右手から開手を放たれた。 それだけなら、見切れないこともないだろう。 しかし、鳴海のしなやかな体捌きが打点を逸らさせたのだ。 単調ではない、相手の動きに合わせ、完璧に同調した緻密な動きだ。 暴走状態の男がやる技とは思えない。 刃牙は何かの間違いだと、崩れた塀から飛び出す。 左右に軽やかなステップを踏みしめ、鳴海へと進行する。 残像が残りそうなぐらい軽快なフットワーク。 フェイントを小出しに放つ。隙を狙う。相手を疲弊させる。 だが、鳴海は刃牙の思惑を全て回避する。 刃牙は驚愕していた。 フェイントに反応にせず、隙は一切見当たらない、疲弊を感じさせない肢体の動き。 むしろ、所々に重い捻りの効いた小突きの拳と脚を的確に自分に叩き込まれる。 感情で動けば、動作一つ一つが大きくなるのに、こいつはそう感じさせない。 いや、むしろこいつは怒るたびに、 ―――攻撃が ―――防御が ―――研ぎ澄まされていく。 分からない。分からない。 この男は何者だ。 刃牙は珍しく焦っていた。 鳴海の攻撃はじわじわと刃牙の身体にダメージを積もらせた。 刃牙の精神に疲弊と焦燥を蓄えていった。 素早いジャブが捌かれ、避けられ、受け止められる。 そっと手に触れるように軽やかにだ。歯痒さだけが圧し掛かる。 ついに刃牙の焦燥が臨界点を超える。 小振りのフェイントを無視し、大振りの全身が乗った正拳突きを放つ。 タイミングも流れも無視した明らかに場違いの一撃。 「遅い!」 鳴海は軽やかにそれに合わせる。突きを捌き、身体を回転。 そして、背中に刃牙の右腕を固定、そこに鳴海を支点に両手に力を加える。 すると、ポキリと乾いた音が爽快に鳴り響く。 刃牙の左肘関節を折る音だ。 梃子の原理を利用した相手の力を大幅に削ぎ落とす技である。 刹那に鳴海は腰を沈め、折れた腕ごと刃牙の身体を放り投げる。 その瞬間、刃牙の腕は完全に破壊された。 「ぐあぁ」 またもや刃牙はコンクリートの塀に全身を叩きつけられる。 完全に自分に動きを見切った攻撃。 刃牙はネックスプリングで跳ね起きると、折れた腕を摩る。激痛が走る。 完全に折れている、いや破壊されている。腕ごと投げられた時に完全に砕かれたのであろう。 修復できないほどに。 屈辱が沸き起こる。 格闘家にとって腕をへし折られることは最も屈辱なことである。 刃牙の身体に変化が巻き起こる。 全身の痛みがなくなる、あれほどあった疲労が綺麗さっぱり感じられない。 脳内に麻薬が広がる。エンドルフィンが体中に闊歩する。 それは、戦士にとって甘美な美酒。 全身に広がる闘争本能。 漲る闘争の意志。 抑えようのない力。 心身が爆発しそうだ。 身体の爆発と共に刃牙は鳴海へと飛び出す。 まさに手負いの虎ように駆け出す。 刃牙の嵐のようなラッシュ。拳や蹴りを織り交ぜた乱撃。 並の人間には到底見切れない攻撃の数々。 だが、鳴海はそれを全てかわし避ける、時には捌き落とす。 全く決定打が与えられない。むしろ、隙あらば、少しずつ自分にダメージを与えていく。 まるで、羽衣を相手にしたような浮遊感。何もない空気と戦っている感覚。 なぜだ、なぜだ、なぜだ。 なぜ当たらない。俺とお前は身体能力を上昇させ、同じ土俵にたった。 ――のに、なぜだ? 疑問が沸き起こる。しかし、まだ、チャンスはある。 奴を追い詰めた。 刃牙の猛攻によって鳴海は壁際へと追い詰められる。これなら、避けられない。 刃牙のパワフルな右拳が鳴海の顎へと振り上げられる。 だが、捉えていた鳴海を見失ってしまう。勢いの付いた拳は壁を砕くが鳴海を捕らえていない。 コンマ一秒の瞬間、標的を失った刃牙は棒立ちになる。 鳴海は空気を大きく吸い込み、気を整える。 腰を沈め、両手を腰に沿え、勢いよく刃牙の胸元に開手で叩き込む。 その二つを同時に組み合わせ、気を練り込んだ、双掌打を放つ。 胸に響く振動。刃牙の身体は後方に吹き飛ばされ、ボロ雑巾のように硬いコンクリートを転げ回る。 脳内麻薬によって痛みはないが、呼吸が乱れる。 口元から血が溢れ出る。 双掌打によって肺を圧迫されたからだ。 半ば意識を失いながら、刃牙は立ち上がる。 このままでは負けてしまう。それだけはあってはならない。 「俺は。俺は。俺は」 負けられない。 「すべてはDIO様ために―――DIO様ためにだ。 DIO様と約束したんだ。俺に力をやるって親父を殺すための力をやるって。 DIO様が、DIO様が――――」 刃牙は壮絶な速さで突進してくる。壊れたハーモニカを奏でるように声を張り上げる。 まるで暴走した機関車のように、全てを薙ぎ払うように。 鳴海は半身半立ちで構え、 「DIO様、DIO様、うるせぇえんだよ。 この原付野郎がぁッ!」 接近してくる刃牙の喉元に足刀を放つ。 クポとカエルが喘ぐような呼吸音と共に刃牙の喉仏が砕かれ、衝撃に地面に押さえつけられる。 ヒューヒューと頭に掠れた呼吸音が聞こえる。 大の字に寝転んだ刃牙はすぐに闘争を再開するため首を持ち上げた。 だが、ノイズ交じりの視界に凄まじい形相をした男が映る。感情を震わせながら、 刃牙に例えようのない恐怖が満ちる。 鳴海は殺し合いに参加させられてから何も考えていなかった。 具体的なプランもなく、ただ赤木の言う通りに流されるだけだった。 赤木の冷たい対応にいらいらしながらも、何もしなかった。 いまいち信用ならなかった赤木のほうが殺し合いについて一番深く考えていた。 赤木は自分の命を捨ててでも、このふざけた殺し合いを止めたいと考えている。 それに、 信念 決意 希望 考察 努力 理想 現実 策略 これらの全てにおいて赤木が勝っている。 俺は迷っていた。俺はここで何が出来るのか。 だから、俺は迷いを払拭するために一人で戦いに挑んだ。 答えを見つけるために。 だが、決意が足らなかった。 目の前に殺し合いに乗っている奴がいるのに聖ジョルジュの剣や核鉄を使うのを躊躇った。 殺し合いに乗っているにかかわらず、相手が人間というだけで使えなかった。 聖ジョルジュの剣や核鉄を使用すれば、戦闘の幅が広がり、勝利への道が近くなるのに、自動人形でないというだけで使用しない。 それに、使用してしまったら卑怯だというつまらない格闘家の意地もあった。 敵のほうが決意が固かった。 俺と比べると敵のほうがまだ戦闘に徹していた。俺は甘かった。 俺は道化だった。不満があるのに何もしない。 だが、目が覚めた。 ―――俺が本当にすべきことを。 今ここに戦いの幕が閉じる。 刃牙の完全敗北という結末。 鳴海は龍、刃牙は虎であった。 いや、鳴海は龍ではない…でも、虎を超える生物であった。 刃牙は鳴海の強さである逆鱗に触れてしまったのである。 逆鱗を触れられたソレは真の強さを露にする。 そして、遅れるように虎は傷を負うこと真の力を発揮。 虎を超える――ソレ対虎。 虎が負けるのは自明であった。 刃牙の最大の敗因は鳴海の強さの本質を見誤ったこと。 鳴海の強さ―――感情の昂ぶりが鳴海の強さの根源である。 感情の昂ぶり―――鳴海は怒っている。 誰のため―――戦うことの出来ない「弱い者」のために。 戦う―――「弱い者」から全てを奪い去った者に戦っている。 そして―――鳴海は今何かを捨て去って、変ろうとしている。 この男は――― 刃牙は掠り切れた声で問いかける。 「あ゛、んだは…いっだいだ、何もんだ…?」 歪んだ視界に黒い影が点滅する。振り下ろされる怒りの鉄槌。 後半
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そして―――――― ◆9L.gxDzakI ルルーシュ・ランペルージは逝った。 これにて螺旋の王が筆を執った物語の、全ての要素が完結したように見える。 月の箱庭に囚われ、それでも屈することなく立ち向かった者達のその後は、これで一通り語られた。 スパイク・スピーゲルは戦いで失った手のひらを取り戻し、愛する者との穏やかな暮らしを掴み取った。 菫川ねねねは元の世界で作家稼業に戻りながらも、またもや面倒事に巻き込まれてしまったようだ。 小早川ゆたかと鴇羽舞衣は、ゆたかの世界に近しくも異なる世界で、新たな日常を歩み始めた。 唯一ルルーシュ・ランペルージのみが絶望に直面し、自ら己の未来を閉じた。 ギルガメッシュの物語に至っては、未だ完結してすらいない。王ドロボウとのいたちごっこの繰り返しだ。 そしてヴィラルはアンチ=スパイラルが滅びた後も、悠久の夢の中に漂っている。 ロージェノムは死んだ。 チミルフも死んだ。グアームも死んだ。シトマンドラも死んだ。アディーネも死んだ。 ウルフウッドも死んだ。東方不敗も死んだ。 スカーも死んだ。ガッシュも死んだ。 ドモンも死んだ。シャマルも死んだ。フリードも死んだ。 カミナも死んだ。クロミラも死んだ。 ルルーシュも生き残った後に死んだ。 スパイクが、ゆたかが、舞衣が、ねねねが、ギルガメッシュが、そしてヴィラルが生き延びた。 物語の結末は、これで全て描かれたように見える。 残された全ての要素に決着がつき、堂々の完結を迎えたように見える。 だが。 まだ、足りない。 足りないのだ。 この物語に残されたファクターの、全てを語り終えたと断じるには、まだある要素が明らかに足りない。 そもそも、もう一度あらすじを振り返ってみよう。 幾多の犠牲を払った参加者達は、遂にカミナとクロミラの駆るグレンラガンによって、見事実験の舞台を脱出。 最後に残された刺客・ウルフウッドを倒し、アンチ=スパイラルとの交渉にも一応成功。 アンチ=スパイラルに与えられた技術により、ようやく元の世界へと戻ることができた。 そこから先は前述の通りだ。 一見すると、全てのエピローグは語られたように見える。 だが、足りない。 よくよく読み返してみれば、この構図からは、ある者の結末が決定的に抜け落ちている。 そう。 ――参加者達をそれぞれの世界に帰した後、アンチ=スパイラルはどうなったのか? ヴィラルのエピソードを読み返してみよう。 天元突破者を手に入れた、この物語のアンチ=スパイラルは、その後螺旋族に滅ぼされたと記されている。 賽を転がしても零や七は出ないが、一から六のうちのいずれかの数字が、延々と連続する可能性は存在する。 どれほどの敗北の世界を重ねても、どこかで螺旋族の勝利する可能性はあるはずだ。 そして彼らの世界では、その可能性が実践された、と。 だが、彼ないし彼女がいかにして倒されたかは、そこには詳細には記されていない。 断片的な文面からは、その要素がごっそりそぎ落とされているのだ。 残されたこのたった1つの要素を語らずして、物語が完結を迎えられるはずなどないではないか。 誰がどのような形で天元突破に目覚め、どのような戦いの果てに勝利したか。 誰がいつどこで何度賽を振り、どの目が連続して出続けたのか。 ――否。 それだけではない。 厳密に言えば、この賽のたとえ話からも、ある可能性が抜け落ちている。 この仮定においては、振るべき賽がどんなものかは定められていないのだ。 事前に賽の情報は与えられていない。 であれば、それがどんな材質だろうと、どんな色であろうと自由。 要するに、こういうことだ。 そもそもアンチ=スパイラルを倒したのは、本当に螺旋力だったのか? 問題外の仮定かもしれない。 文面には確かに、アンチ=スパイラルは螺旋の力の前に敗れた、と明記されている。 だが、所詮それは書き手の主観だ。 物語とは、その筆を執った者が思い描いた通りにしか書かれない。 つまりこの螺旋力が、実は作家の思い違いであり、本当は全くの別物であった可能性もありうるのだ。 仮によく似たものが存在すれば。 螺旋力と同じく緑色の輝きを放ち、生命の進化を促す力が存在したとすれば。 そのくせその性質は、実は全くの別物であったとすれば。 まどろっこしい物言いは好みではないだろう。 ではそろそろ、単刀直入に言うとしよう。 ――この世界のアンチ=スパイラルを滅ぼしたのは、実は螺旋力ではなかった。 ◆ 『……何ということだ……』 無明の宇宙の暗黒の中、ぼんやりと浮かぶ漆黒の影。 2つの目と口だけが白く染まったヒトガタが、目の前の光景に頭を抱えている。 信じられない。 頭の悪い感想だが、今のアンチ=スパイラルには、この一言が限界だ。 数多の多元宇宙全てを制する力も、数多の多元宇宙全てより得た叡智も、まるで役に立ちはしない。 いいや、たとえここにいるのがアンチ=スパイラルでなかったとしても、この状況を理解できる者がいるかどうか。 無限に広がる超螺旋宇宙。そこに展開されているのは戦場。 反螺旋種族の大軍勢が、同等の敵性戦力と戦争を繰り広げている。 ただ文章に書き起こすだけならば、さほど気になることでもないだろう。 しかし、それでもありえないのだ。 たった今防衛線を展開しているのは、そんじょそこらの軍隊ではない。 無限に広がる世界の分岐、その全てを支配することすら可能とする、アンチ=スパイラルの大軍団なのだ。 幾千、幾万では語れない。 その数は那由多の彼方すら突破し、無量大数の領域にさえ。 そして今攻め入ってきた敵勢が、それとほとんど互角の物量を誇っているのだ。 それだけではない。 膠着状態にあった戦況は徐々に押され、今や逆にこちらが不利に陥っている。 ムガンが。アシュタンガ級が。ハスタグライ級が。パダ級が。 迫りくる怒涛の大軍団を前に、それらがみるみるうちに蹂躙されていく。 こんなことがありえるものか。 多元宇宙の彼方にも、このような苦境は存在した。 大いなる道程の果て、螺旋に目覚めた青年・シモンの操る螺旋力の魔神――超銀河グレンラガンの活躍だ。 だが、それもあくまで孤高の将。 支える者達がいたとしても、実際に動いていた機動兵器はグレンラガンのみ。 互角の物量戦に持ち込まれ、その上敗北に近づいているなど、まさに前代未聞の事象。 いいやそもそも、こいつらは一体何者なのだ。 それは船だ。 先端に顔が付いているものの、紛れもなくそれは宇宙の船だ。 それならまだいい。かの螺旋族の巨大戦艦――カテドラル・テラと同様の特徴。 だが、似ているのはその一点だけ。 赤、白、黄色、その他諸々。それぞれ多種多様な色に塗り分けられた艦隊は、奴らのそれとはまるで違う。 細かな部分の造形は、螺旋族のそれを大きく逸脱している。 中には複数の機体で合体し、ヒトガタをなす物もある。その形状にもまるで見覚えがない。 今まさに襲い来る侵略者達は、多元宇宙のどの世界にも存在しないのだ。 何より、あれは本当に螺旋族なのか。 確かに緑の光を動力としているが、あの艦隊が操る武器の性質は、螺旋力とは微妙に異なる気がする。 スパイラルの象徴――ドリルを操る機体もいるにはいる。だが、それだけではないのだ。 トマホークを振るう物。拳で殴りかかる物。剣で相手を両断する物。ミサイルの嵐を巻き起こす物。 幾千幾万もの姿形の、あらゆる力が存在している。 果たして螺旋の力とは、これほどまでの柔軟なものであったか。 ひょっとするとここにいるのは、もはや螺旋族ですらない、全く別の存在ではないのか。 『――否』 だが、しかし。 『否否否否否否否否否否否否ぁぁぁっ!』 そんな結論は認められない。 断じて認めてなるものか。 螺旋力と戦うため。そのためだけに身につけた、天下無双のこの力。 それが螺旋力ですらない、どこの馬の骨とも分からぬ力に、そうそう屈してなるものか。 あれは螺旋力だ。 誰が何と言おうと螺旋力だ。螺旋力でないはずがない。 そして。 『我らは負けるわけにはいかんのだ――螺旋の力を操る者共にィッ!』 その螺旋の力にすらも、屈するわけにはいかないのだ。 進化の成れの果て/袋小路の変異/破滅を生む暴力の権化――スパイラル・ネメシス。 起こさせるわけにはいかない。負けるわけにはいかない。 螺旋族は滅ぼしつくさねば。それこそが宇宙を守る道なのだ。 自分達が破滅することは、すなわち宇宙の破滅を意味するのだ。 故に、アンチ=スパイラルは迎え撃つ。 最大最強の戦力で――グランゼボーマで迎え撃つ。 いつからかそこに存在していた、無頼の来客のその頭を。 混沌の漆黒の中に浮かび上がった、巨大な赤きヒトガタを。 鬼神。 まさにその一言こそ、その威容を表すにふさわしい。 巨大。かの者のサイズを表現するのには、もはやその一言すら生ぬるい。 超螺旋宇宙の中心で、漆黒の魔神と向き合う姿は、その体躯とほぼ同等の大きさ。 銀河すらもその手に掴む、グランゼボーマと同等なのだ。 それがいかなる意味を持つのか、もはや言葉で語る必要はない。語ることのできる言葉すらない。 幾度血を浴び続けてきたのだろう。 幾度敵を退けてきたのだろう。 真紅に燃える身体の頂点、その頭部から突き出しているのは、まさしく鬼の五本角。 おぞましくも神々しい。 神のごとき荘厳さと、悪魔のごとき恐ろしさ。 すなわち、鬼神。 『受けよ螺旋族! インフィニティィィィビッグバン――ストオォォォォォームッ!!!』 瞬間、宇宙に激震奔る。 無音の真空空間が、あるはずもない音に鳴動する。 グランゼボーマが掴むのは銀河。2つの銀河を1つに合わせ、その反発が爆発を生む。 まさに天地開闢の力。 三千世界の暗闇を、眩い光輝で照らし出す創世の爆発。 アンチ=スパイラルの持つ最大火力――その威力、まさにビッグバン。 激烈な出力が激流をなし、赤き鬼神へと襲い掛かる。 人も、機械も、月も、惑星も、銀河も、世界の全てを一挙に飲み込み、蹂躙し焼き尽くす必殺の熱量。 耐えられるものなど皆無。避けられるものなど絶無。 人知など当に突き抜けた波濤が殺到し、侵略の鬼を飲み込んだ。 《――■■■■ビーム》 かに見えた。 刹那、激震は重ねられる。 天地創世の紫炎と真っ向からぶつかるのは、新緑に輝く生命の波動。 鬼神の放つ一筋の光条が、インフィニティ・ビッグバン・ストームをも受け止める。 その出力、まさにビッグバン。 そちらがそう来るというのなら、こちらも合わせてやろうと言わんばかりに。 折り重ねられた超新星爆発。超螺旋宇宙を揺るがす猛烈な衝撃。 ビッグバン同士がぶつかったのだ。その余波はもはや言うに語らず。 銀河が消える。銀河が消える。銀河が、銀河が、銀河が。 新たな世界を生み出す光は、その矛先を破滅へと転じる。 『馬鹿な……』 ありえない。 こんなことがあるはずがない。 宇宙に並びうるはずもない一撃が、こうもあっさりと凌がれた。 あらゆる戦闘の過程を省略し、一撃必殺の覚悟で放った攻撃が、ただの一発で無力化される。 『……ああ、そうか……』 ずしん、ずしん、と。 足音が聞こえてくるようだった。 大地なきはずの宇宙を闊歩する、真紅の鬼神の足音が。 『はははは……そうか、そういうことだったのか!』 遂にアンチ=スパイラルは理解する。 半ば強引に解釈する。己自身を納得させる。 これが、これこそが。 我々が最も恐れてきた、スパイラル・ネメシスの発現なのだと。 このおぞましき鬼神の姿こそが、螺旋の進化の成れの果てなのだ、と。 赤き拳が振り上がる。 気付けば、両者の距離には差などなかった。 ひとたびその鉄拳を振り下ろせば、この身は粉々に砕かれるだろう。 ああ、そうだ。 我々は失敗してしまったのだ。 避けねばならなかった破滅の時を、この世界では迎えてしまったのだ。 『見るがいい! これが貴様ら螺旋族の――いや! 螺旋力の行き着く、おぞましき姿だァッ!!』 叫ぶ。 絶叫する。 自らの監視するモルモット達へと。 かの倣岸にして臆病な螺旋の王のもと、箱庭に集められた人間達へと。 気まぐれの果てにそれぞれの世界へと送り、監視を続けていた実験動物達へと。 認めよう。 ここが我らの死に場所だ。 我らは螺旋を倒せなかった。 最悪の瞬間を回避することもできず、無様な結果を晒してしまった。 だが、この結末は他人事ではない。 お前達にも起こりうる未来なのだと。 螺旋の本能の赴くままに、愚かにも進化を続けるお前達とて、最後にはこの道を辿るのだと。 これは警告だ。 その警告のためにこそ我らは果てよう。 どの道抵抗したとて、到底かなうはずもないのだ。 相手はスパイラル・ネメシスなのだから。 この無限の多元宇宙の中、唯一アンチ=スパイラルが恐れる存在なのだから。 自力で倒せる存在など、一体誰が恐れるものか。 最後の瞬間、くわとその姿を睨みつける。 グランゼボーマの頭部へと。 アンチ=スパイラルの本星へと。 吸い込まれるようにして振り下ろされる、その拳をじっと睨みつける。 右の拳を振り上げる、忌まわしき進化の鬼神の姿を。 その名を叫んだ。 それが最期の矜持であるかのように。 宇宙の果てまでも轟かすように、その名をはっきりと絶叫した。 ―― ゲ ッ タ ー エ ン ペ ラ ー ! ! ! ◆ 戦いは終わる。 この世界での敗北。 あまねく次元世界のその1つで、アンチ=スパイラルを滅ぼしたのは、螺旋族の力ではなかった。 ゲッター線。 反螺旋族の知りうる世界のどこにも、存在すら観測されていなかった力。 宇宙の崩壊を止めるために、進化を留めようとする彼らとは対照的に。 宇宙の崩壊を止めるために、それを倒しうる進化を加速させる力。 彼らがこの世界に現れた理由は定かではない。 あるいは、かのロージェノムが多元宇宙の扉を開いたことで、異界の門が開いたのか。 彼らの知りえなかった宇宙のファクターが、認識の壁を越えて現れたのか。 いずれにせよ、大いなる敵と戦うために、更なる進化を求めるゲッター艦隊にとって、彼らは敵に他ならなかった。 破綻を恐れ停滞を望む連中など、この宇宙には必要なき種族。 ましてそれが、進化を望む種族を食い潰そうとするならなおさらだ。 故に、制裁を下した。 艦隊の一部を、渦中の螺旋族とやらの星へ応援によこしたが、その戦線も終結しただろう。 であれば、後は立ち去るだけだ。 それなりの力は持っているらしいが、あの星の螺旋族という連中は、未だ彼らの求める水準には達していない。 更なる進化を待つ必要がある。 この宇宙を飲み込まんとする、大いなるうねりに抗いうる進化を。 故に、今は立ち去ろう。 そしてその進化を見届けよう。 来たるべき瞬間を迎えた時にこそ、彼らの戦場へと駆り立てるために。 そしてその艦隊が今、偶然見つけたものがある。 それは人に似た姿でありながら、人にあらざる者だった。 螺旋の星の獣人とかいう存在が、いくつかの機材と共に発見された。 驚いたことに、生きている。 五感の機能全てを停止させながら、未だ生きて宇宙を漂っている。 計測される高エネルギーは、すなわちこれこそがアンチ=スパイラルの言う、天元突破というものか。 あのグランゼボーマの崩壊から生き延びた、その設備の堅牢さには感心する。 だが、中に収められていた獣人には、まるで価値が見出せなかった。 この存在もまた、奴らと同じ穴の狢なのだと。 優れた進化の力に目覚めながら、それを停滞のために使っている。 いかなる事情かは知らないが、己の意識へと引きこもった軟弱者に用はない。 故にその獣人には特に何の興味も見せず、漆黒の虚空へと放り出す。 しかし、獣人を閉じ込めていた機材を見たとき。 《ほぅ》 にやり、と。 かの者の声に滲むのは、笑み。 巨大な鋼鉄の鬼神の顔に、表情が浮かぶことはない。 しかし、その中に潜む何者かの顔は、確かに笑っていたのだろう。 とんだはずれだとばかり思っていたものに、僅かに興味を引くものが残されていたのだから。 機材に一緒に積まれていたのは、資料。あの螺旋王が計画した、進化のための殺し合いの顛末。 その表題を、読み上げる。 すなわち。 《……バトルロワイアル……》 【ゲッターエンペラー@■(■ェ■■!!)ゲッ■ー■■ ■界■■■日】 ――To be continued Next "ANIME-CHARA BATTLE ROYALE"...?
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――――――geass ◆Wott.eaRjU 三人の少女が街を目指している。 その内の一人――盲目の少女、ナナリーは別の少女により背負われている。 少女の名はブレンヒルト・シルト。 そして二人からほんの少し離れた位置に居る少女は園崎詩音。 とある事情から行動を共にする事になった三人の内、二人は視線を向けていた。 自分達が今向かおうとしている街中――ではなく、鉄橋の方へ。 たった今、自分達が渡り終えた其処を。 ブレンヒルトと詩音はそれぞれ見つめていた。 「まったく、しつこいのは嫌われるコトがわからないのかしら」 やがて溜息に似た呟きがブレンヒルトから漏れる。 どこか殺し合いの場所には似つかわしくないセリフ。 されども声色からは決して余裕の色は見られない。 人知れず冷や汗を流すブレンヒルトの表情は真剣そのものだ。 事実、ブレンヒルトは目の前に危機が迫っている事を認識している。 「……悪いけどナナリーを頼むわ。それと何処か安全な場所へ隠れて」 「え、ええ……」 暫しの逡巡を経てブレンヒルトは詩音へ託す。 実に憎々しげな表情は、事態があまりいい方向へ行っていない事による所以のものだ。 詩音の肩を借りて、ナナリーの小柄な躯体をそっと預ける。 フラフラと、おぼつかない足取りだがなんとか立つ事は出来た。 両脚の力を失っているナナリーにはきっと酷な事だろう。 なんとなくの状況は察しているのだろうが、不安は消えていない。 親鳥から見捨てられた小鳥のような、なんとも言えないもの寂しさがブレンヒルトの心を捉える。 ――止めるべきか。 詩音は未だ知り合ったばかりだ。 なにやら変わった力があるようだが、この場では珍しい事ではない。 自分の左腕に埋まっているものや、概念兵器の存在を忘れてはならない。 しかし、詩音が完全に信頼出来るかと聞かれれば自分は一体どう答えるか。 即答は出来ない。だけども仕方がないとブレンヒルトは自分に言い聞かせる。 流石にナナリーを抱えながらでは自分の行動に支障が出る。 その支障が重大な結果を招いてしまえばどうしようもない。 「ナナリー、少しだけ待っていて。直ぐに終わらせるから」 故に今、ブレンヒルトに求められているのは迅速に目の前の障害を取り除く事だろう。 使い慣れた鎮魂の曲刃はなく、1-stGの概念兵器すらもない。 だが、どうやら目の前の脅威は自分達を逃すつもりはないようだ。 この先も追跡を受けるなど、正直勘弁願いたい。 ならば、やらなくてはいけない。 ここで終わらせる。 想いと共に左腕に力を込める――いつでもいける。 それは固い意志の現れ。 「ブレンヒルトさん……あ、危なくなったら、絶対に逃げてください!」 ナナリーの精一杯の声が響く。 背中を向けながら、ブレンヒルトは小さく頷く。 有り難い言葉だ。心地よい感触が全身に広がっていくような感覚が走る。 続けて詩音がナナリーと共に駆けて行ったのが足音で判った。 どうやら詩音は何も声を掛けてくれないらしい。 まあ、特に期待はしていないか。軽く自嘲気味に口元を歪ませる。 しかし、その歪みは直ぐになくなり、口元はしっかりと閉じられる。 そして視線を突き刺す。 人間ではない。異形の、つい先程出会ったそいつに送るものは一つの言葉。 「待たせたわね」 律儀に待っていたところを見ると最低限の礼儀はあるらしい。 若しくは先ずは一人づつ始末しようという魂胆なのだろうか。 真実は実際に聞いてみなくてはわからない。 じっくりと聞きだすのもいいだろう。 取り敢えずは力を奪ってから自衛のために出来ることをするしかない。 「……気にするな」 目の前のそいつは憮然と答える。 余程この殺し合いに生き残りたい理由があるのだろう。 紫色に輝く瞳からは底知れぬ意思がひしひしと感じられる。 だが、ここで臆するようでは自分に未来はない。 左腕をゆっくりと正面へ翳す。 「逃がすつもりはない。ここで終わらせる」 そいつの声と同時に、ブレンヒルトの左腕の皮膚が捲れる。 ベリベリと、観ていて気分の良い光景ではない。 そう思っている間に全てが終わった。 一瞬の変化――剣の形を模した、ナノマシンの慣れの果てを己の左腕とする。 それはARMS“騎士”の第一段階の発現の証。 「じゃあ、始めましょう……手加減の程はあまり期待しないように、ね」 「……そちらもな」 そしてぶつかり合うのは互いの言葉。 演目は只人には過ぎた力を持つ者同士の、命の喰らい合い。 ギャラリーは周囲の景色だけ、身守る視線もない。 二人ぼっちの戦いが今、始まりを告げる。 ◇ ◇ ◇ まるで風と戦っているようだな。 数十分程か、はたまたそれ以上時間が経ったのかもしれない。 予めブレンヒルトから奪った十字槍を振いながらミュウツーは思う。 左腕の奇妙な剣も勿論の事、ブレンヒルトの立ち振る舞いがそう感じさせる。 ブレンヒルトの剣による斬撃はそれほど鮮やかなものではない。 恐らく普段は別の武器を使っているため、未だ慣れていないのだろう。 同情はしない。これは殺し合いだ、寧ろ好都合と言える。 こちらにも目的がある以上、つけいる隙があるならば容赦なく狙わせて貰う。 それに、使い慣れていない武器はこちらも同じ条件――気兼ねなどない。 己の意思を込めるように、ミュウツーが十字槍を前に突き出す。 そして己の身を後方へ飛ばしたブレンヒルトを見やる。 (そろそろ、か……追ってきたかいがあった) わざわざ此処まで追撃をしかけた訳は、あの忌まわしい契約のせいだ。 制限時間内に一定量の死亡者が出なければマスターの命はない。 自分が動かずともその条件が満たされる可能性はある。 しかし、万が一満たされないとしたら――不安を消すかのように、ミュウツーは過剰ともいえる追撃に身を費やす。 そして思った。自分の判断は間違っていないと。 先程駆けていった二人の少女はどうやら戦う力を持っていないらしい。 ならば、確実に癒されていく自分の力を必要以上に使う事もないだろう。 やがて腰の回転を加え、ミュウツーは右腕を後方へ引く。 ブレンヒルトの怪訝な表情が視界に映るが気にしない。 勢いを殺さず、そのまま十字槍を投げつける。 (一人ならサイコウェーブを使う必要もない。なら……いける) 撃突。ブレンヒルトは咄嗟にARMSを翳した事で刺突は免れる。 衝撃を押し戻すためにもに、力任せに押し弾く。 その瞬間を狙っていたかのように、ミュウツーが一気に距離を詰めた。 両腕に持つ武器は何一つない。 完全に素手の状態だが、ミュウツーに臆する様子はない。 何かある。ブレンヒルトの本能が警告の鐘を鳴らす。 瞬間。不意にミュウツーの右手からなにかが顔を見せた。 一本の、銀白色の大型のスプーンがそこにあった。 複数の敵を一度に相手にするサイコウェーブとは違う。 一個体を殴りつけるために用意した、念力の結晶ともいえるミュウツーの近接用の武器。 最早身体の一部といってもいい程に、使い慣れた武器がブレンヒルトを襲う。 (そうだ。これでいける……しとめてみせる!) 言葉は発さず、只、冷徹な殺気を乗せてミュウツーが地を駆ける。 ◇ ◇ ◇ 「……良い気になっては困るわ」 横殴りに振られたスプーンがブレンヒルトに迫る。 毒を吐きながらも左腕のARMSで受け止める。 間髪入れずに珪素を主成分とした、金属質の刀身が衝撃に対し僅かに揺れた気がした。 そう思えてしまう程に強大な力。 証拠に、ブレンヒルトの左腕に痺れのような感覚が今もこびり付いている。 食器を武器とするとは、と笑っていられない程の重み。 初めから使用していなかった事を見ると、何らかのリスクが伴うのだろうか。 それとも、単にタイミングを見計らっていただけか――そこまで考え、思考を止める。 一瞬だけ力を落とし、力の向きを変えた。 大質量のスプーンを真っ向から迎えるのではなく、下から弾き飛ばす。 ブンブンと、円回転を起こしながらスプーンがあられもない方向へ飛んでゆく。 だが、ブレンヒルトは碌な喜びを見せはしない。 只、極めて冷静に己の左腕をしなるように走らせる。 (やっぱり気のせいじゃない) 一閃。ARMSによる斬撃が空を切る。 大気のうねりが、一瞬前までミュウツーが居た場所を横断。 次にポタリと、小さな赤い雫が地面に落ちる。 左脚に小さな裂傷を貰いながらも、宙返りの要領で両断を避けたミュウツーと視線が合う。 振るった左腕を戻しながら、ブレンヒルトは確信にも似た思いで認識する。 しっかりとスプーンを掴んだ、ミュウツーの戦意は未だ削げ落ちていないことを。 そして自分の身体に生じた変化を―― ブレンヒルトとミュウツーが、それぞれ陸と空から前方へ身を飛ばす。 ARMSの刀身とスプーンが何度も何度もぶつかり合う。 (私の身体は……以前とは違う。このARMSというもののせいか……) 事実、ブレンヒルトが数時間前から立てていた推測に間違いはなかった。 ブレンヒルトの左腕に埋まっているARMSは単なる武器ではない。 炭素生命体と珪素生命体のハイブリッド生命体――人間を更なる高みに到達させるために生まれたと言われている。 ナノマシン集合体であるARMSは時間の経過と共に身体にナノマシンを増殖。 つまり移植者の身体に馴染めば馴染む程、その特性は上がっていく。 剣といった固有武器の発現 欠損部分の補修、自己治癒力と身体能力の向上、同じ攻撃への耐性反応――等々。 元々並みの人間よりも身体能力が優れているため、ARMSによる付加は大きい。 そして全身にARMSが広がった時こそ、爆発的な力が生まれる瞬間。 今のブレンヒルトの侵食状況ではそこまではいかないが、確実にARMSは彼女の身体に慣れ始めていた。 自分以外の存在と肉体を共にする感覚。 それは決して心地の良いものではないだろう。 しかし、ブレンヒルトには耐え難い程の嫌悪感があるというわけではなかった。 (今の私には絶望的に戦力がない……。 1st-Gの概念を利用出来るものがなければ、これほど無力だとは思わなかったわ。 でも、だからこそ私は……) ブレンヒルトは今は亡き、1st-Gに縁がある者だ。 1st-Gの概念を応用出来る武器でなければ彼女の本領は発揮できない。 だが、ブレンヒルトにはこんな場所で死んでやる理由はない。 故に降りかかる火の粉は払う必要がある――そのために必要なのは力だ。 だから受け入れるしかない。寧ろ喜んで使って見せよう。 この場所か脱出するのは元より、小鳥を――あの子を助けるためにも。 今の自分はいつもと違う。 手持ちの武器も、立ち振る舞い方も。 ならば、違う戦い方で攻めてやるまでだ。 想いを糧に、ブレンヒルトは左腕のARMSへ己の闘争本能を注ぐ。 「あああああああああッ!!」 自分らしくもない、まるでLow-Gの面々がやるように。 俗に言う気合いを己に焚きつかせて、左腕の速度を上げる。 先程までほぼ拮抗していた状況が変わり、徐々にブレンヒルトの方へ勢いが傾く。 いける。微弱ながらも、表情を険しく歪ませたミュウツーがブレンヒルトにそう思わせる。 ARMSは一個の生命体だ。きっとブレンヒルトの想いを鋭敏に感じ取ったのだろう。 まるで誰か心強い存在と共に戦っている感覚が、頭の中でチカチカと点滅する。 時間の経過と比例するかのように、銀色の刃がスプーンを削り取っていく。 このまま押し切る。その時、ブレンヒルトは視界の隅から何かが此方に迫ってくるのを確かに見た。 そして目の前に広がったものは――大きな花火。 「ヒャッハァ! 命中ッ!!」 耳障りな男の声、ラッド・ルッソの声であった。 ◇ ◇ ◇ 「やっぱ撃ってみるもんだわ。いや、俺も当たればいいなーとは思ったが……まさか本当に当たるとはな。 神様ってヤツが居るなら感謝してやるぜ、マジで」 バズーカを担ぎながら、ラッドがブレンヒルトとミュウツーの方へ歩き出す。 距離にして10メートル程の位置を我がもの顔で取った。 油断なくスプーンを構えるミュウツー。一方のブレンヒルトは蹲ったままだ。 それもその筈、バズーカの砲弾を真正面に喰らったせい――但し、直前にARMSで叩き斬る事は出来たが。 しかし、全くの無傷で済むわけがない。 爆風に巻き込まれ、ブレンヒルトの全身には痛々しい火傷が生まれている。 そんなブレンヒルトの様子を見てか、ラッドからは悪意に満ちた笑みが零れる。 「おいおいおいおいおい。まだくたばんじゃねぇぞ、女ッ! てめぇにちょん切られた分が残ってんだ。まさか忘れてねぇよなぁ!」 ブレンヒルトは何も答えない。 只、忌々しげにラッドを見返すだけだ。 抵抗の意思は消さない。諦めなどという文字はありはしない。 満足げに眺めながらラッドはぐるりと首を回す。 「それとてめぇだ、宇宙人野郎。 てめぇのお陰でまた痛てぇ思いをしてきたんだ……思い知ってもらうぜ、てめぇの命ってヤツでよぉ!」 その時になってミュウツーは悟る。 ラッドの胴が嫌に赤黒く、次第に傷が治っている事に。 ミュウツーはラッドの身動きを止めるために、確かに大木に彼の身を貫かせてやった。 だが、ラッドは万全の状態とはいえないまでもこの場に居る。 自然と行き着いた結論は――ラッドが自分の予想を越えていた事。 ラッドは持ち前の怪力を頼みに己の身を大木から引きちぎることで、その拘束から逃れていた。 勿論、想像を絶するほどの痛みはあっただろう。 どんな傷さえも瞬時に修復する“不死者”といえども、痛覚を消す事は出来ない。 しかし、ラッドは打ち勝った。 不死者元々を抜きにした本来のタフさ、そして何より―― 「ああああああああ!サイッコーーーーーーーーーーーーーーーーだ!! てめぇら二人、まとめてブチ殺すチャンスが回ってきたんだからなぁ、ヒャハハハハハハハハハハハ!!」 ブレンヒルトとミュウツーに借りを返す。 決して諦めるてやるつもりはない、強い意志がラッドを動かす。 更に距離は詰めた。もう目と鼻の先に、ブレンヒルトの姿がある。 ラッドはが右脚を振るう。道端に転がった石ころを蹴り飛ばすように。 但し、石ころには不相応な程の殺意を込めながら。 「がっ!」 衝撃。痛いと思うとほぼ同時にブレンヒルトの華奢な身体が吹っ飛ぶ。 何度も身体を打ちつけながら、やがてある程度の位置で止まる。 苦しげに肩を震わせるブレンヒルトをラッドが追う。 小さな子どもがサッカーボールを追っていくような足取りで、ブレンヒルトの様子など意に介さずに。 どうやら先ずはブレンヒルトの方に片をつけるらしい。 時折、もう一人の獲物であるミュウツーの方を見るが、ラッドは特に仕掛けようとはしない。 同じくミュウツーも自分に向けられた視線には睨みを返すが、行動を起こそうとする気配までは見られない。 不思議な事ではないだろう。ミュウツーの目的は一定量までの参加者の減少。 自分の手を使わずとも、参加者が減るというなら邪魔をするつもりはない。 だが、準備を怠っているわけではない。 次に狙われるのは自分だ。よってこの間に念力の補充に集中。 状況の成り行きには意識を向けて、ラッドがブレンヒルトに近づくのを見ながらミュウツーは次の出方を窺う。 そんな時、ミュウツーの両耳が音を捉え、直ぐに後ろを振り向く 其処にはミュウツーの予測した未来には描かれなかった光景があった。 「ブ、ブレンヒルトさんから離れてください……!」 その原因は盲目の少女、ナナリー・ランぺルージ。 ◇ ◇ ◇ 『なにをしている、ナナリー! さっさと逃げろ!!』 (ごめんなさい、ネモ。でも、私はブレンヒルトさんを助けたい……) ナナリーが此処に居る理由。 言ってみれば簡単な話だ。 とどのつまり、ナナリーはブレンヒルトだけを置いて逃げる行為がどうにもしたくなかった。 初めて会った時から優しく接し、車椅子でしか動く事の出来ない自分も見捨てないでくれた。 出会い方や性格は違うけども、まるであのクラスメートのように。 嬉しかった。同時に信頼できる人だと思った。 だから――ナナリーは今、此処に居る。 もう一人の自分であるネモの制止を振り切って。 ブレンヒルトの苦しげな声が聞こえ、思わず声を上げていた。 『ならばマークネモを呼ぶ! そして私が奴らを殲滅してやる、それで良いだろう?』 (ダメ! マークネモを使えば、ブレンヒルトさんや園崎さんも危ないわ!) 『ちっ!そうだ、そもそも――』 ナナリーの意思にネモは苛立ちを隠せない。 ネモはナナリーの守護により己の存在を自立させているため、彼女の指示に背くことは出来ない。 しかし、不満や不平をナナリーに届ける事は出来る。 故にナナリーにはネモが次に何を言おうとしているのかが何となく悟っていた。 自分が今、この場所に立てる理由にネモは矛先を向けようとしている。 『何故、園崎はお前の意見に従った!? ブレンヒルトが行けと言ったんだ、わたし達は彼女の意思を無駄にしないためにも逃げておくべきだったんだ!』 ネモは怒りの感情を、今、ナナリーに肩を貸している詩音の行動へ叩きつける。 ネモの声が聞こえる者は、この場ではナナリーただ一人。 当然、詩音にその意思が伝わる事はないため、代わりにナナリーがその疑問を受ける形となり、返答に困ってしまう。 そう。ナナリーもブレンヒルトが心配だと思うと同時に、出来れば彼女の言葉を尊重させたかった。 あの後押しがなければ、詩音がブレンヒルトが心配だと言わなければ此処には居なかったかもしれない。 「あん? これはこれはどうしましたか、お姫様? どうやら眼の方が少しばかし不自由してらっしゃるようですが、わたしめに何用ですか……なんてな」 怖い。先ず第一にナナリーが思ったのはそれだ。 面白がっているのか、変な言葉遣いで自分に言葉を掛けてくるラッドが酷く異質な存在に感じる。 きっとその近くに居ると思われるミュウツーも恐怖の対象の一つだ。 そして二人の傍にはブレンヒルトも居るだろう。 だが、自分には出来る事はこれといってない。 やはり姿を見せた事はあまりにも危険過ぎただろうか。 しかし、少なくとも今この時だけはブレンヒルトへの危機が免れているのは事実。 良かった――自分自身への危機を頭の隅に留めながら、内心ナナリーは思う。 そんな時――ふとナナリーは自分の首に何かが覆ったのを感じた。 「と、止まりなさい!」 なんだろう。急であったこともあり、ナナリーの思考が一瞬止まる。 例の如く両目に映るものは漆黒の闇だけだ。 両耳を頼りに――その声が詩音のものだとわかった。 途端にナナリーは嬉しさと申し訳なさで一杯になった。 きっと詩音は自分を庇いながら、ラッド達を牽制しているのだろう。 そうだ。もしかすれば誰かが通りかかるかもしれない。 兎に角、この状況では時間を稼ぐ――それが最善の策に違いはない。 詩音もそれがわかっているからこうしている。だが、ナナリーは気付ける筈もない。 詩音が浮かべる表情には別の感情が張り付いていた事に。 「……取引しませんか。私の持つ情報と――この子とその女、二人の命で」 それは酷く冷たい意思を告げる言葉であった。 ◇ ◇ ◇ 「へぇ、こいつはまたまた驚いた。嬢ちゃんはお仲間じゃねぇの?」 「誤解しないでください。別に私はこの子達とお友達……ってわけじゃありません」 表面上は冷静さを保っているようにも見える。 されども、内心、詩音の心境は気が気ではなかった。 確かにこの場に戻ろうと言いだしたのは自分だ。 いずれ殺す事になるブレンヒルトの力を知るためにも情報が欲しかった。 追撃者は一人、ならばナナリーを盾にしている間に十分に逃げ切れる。 そう思っていた筈であった。 (まさかもう一人増えているなんて……それにあの女ももうやられている。まったく、使えない……! でも、まだまだ……!) だが、目の前にはいかにも危なそうな男が居る。 園崎組でもこんな男は見たことがない、明らかに異常な存在だ。 人間をいとも容易く蹴り飛ばす男と戦いにでもなりにしたら――思わず冷や汗をかきそうになった。 支給品のお陰で、異能とも呼べる力を持ったものの、真正面からの戦いで必ず勝つ自信は生憎ない。 させない。思考をクールに、自分が戦わずに済む状況を呼び込む。 何故なら自分はこんな場所では絶対に死ねない。死ねない理由がある。 悟史君ともう一度会う――そのためにはどんなものも投げ捨てる覚悟は勿論だ。 だから、こんな卑怯染みた真似すらも取ることが出来た。 「……話を戻しましょう。この子、ナナリーちゃんとその女は貴方方の好きにしてもらって結構です。 それと私が持ってる情報も教えます。 これでも結構な人と会いましたので……貴方方の知り合いとも会ったかもしれませんよ」 俗に言う裏切り行為。 盲目のナナリーが軽く口を開け、呆然とした表情でこちらを見るが罪悪感はない。 だって自分には彼が居るのだ。彼の元に戻るためにもこの場を切り抜けなければならない。 その過程で、誰かを犠牲にする必要が出てくるなら喜んでやってみせよう。 魔女だの悪魔だのと罵られても構わない。 只、彼が居るならそれだけでいい。 狂気とも取れる、ありったけの愛情が今の詩音を支えている。 そうだ。恐れる者は何もない――暗示をかけるように己を励まし、ラッドへ言葉を突き付ける。 「だから、自分の命は助けろ……と言いたいわけだな。ふんふん、なるほどなぁ……悪くないんじゃね」 「そ、それなら――」 途端に詩音の表情に確かな喜びが花開く。 ホッとした。頭上に乗っていた、不安という重りが消えたような感覚がある。 ならばさっさとナナリー達を引き渡し、自分はこの場から立ち去ろう。 思わず気が緩む詩音。その瞬間、ラッドが狙い澄ましたように声を発した。 さも愉快そうな笑みを浮かべて。 「――ところがギッチョン! 俺は嬢ちゃんとの約束事に興味はねぇんだ!」 そこでだ、宇宙人野郎。ちょいと提案があるんだが」 この男は何を言っているのだろう。 顔を背けたラッドを凝視しながら詩音は思う。 詩音程ではないが、ミュウツーの方にも驚きはあったようだ。 無言でラッドの言葉に耳を傾け、そしてラッドは。 「俺とてめぇの二人。どっちがこいつら三人を多くブッ殺せるか勝負しねぇか? てめぇは只、ブチ殺すだけじゃつまらねぇ。どうせなら殺す前にてめぇの鼻でも明かしてやりてぇからな。 そんでその後は俺とお前の潰し合いだ……やろうぜ、俺の方はいつでも準備はオッケーってやつよ。 なぁ、やろうぜ――愉快に愉快に殺りまくろうぜ!?」 詩音の頭の中で何かが崩れる。 前提が間違っていた。交渉を行うのには最低限の条件がある。 相手が少しでも自分の話に関心を抱くかどうか。 そして今回のケースは――生憎、ラッドにはその気が全くなかった。 ラッドの口から紡がれた恐ろしい言葉に詩音は青ざめる。 「……良いだろう」 「ヒャッハァ! もの判りが良くて助かるぜ」 「な、なんでそんな話になるんですか!?」 「あー? だからお前はもういいわ、ちょいと黙っといてくれや」 ミュウツーにとってもラッドの提案はそれほど悪くはなかった。 どのみちラッドとの戦闘は避けられないだろう。 ならばその前に脱落者の数を増やしておくのは得策だ。 別に勝負の勝ち負けはどうでもいい。参加者を減らすことが目的だ。 先ずは三人を殺し、後は逃げるなりもしくは殺すなりしてこの場を終わらせる。 同情は捨てる。そんな感情は自身の破滅を招くだけなのだから。 しかし、必死に抗議の言葉を叫び続ける詩音から顔を背けたのは何故だろうか。 僅かな疑問を抱きながらも、ミュウツーは歩き出す。 顔を上げているものの、未だ立ち上がれそうにもないブレンヒルトの方へ。 そんなミュウツーを見て、ラッドも歩を進めていく。 「というわけだ。だから嬢ちゃんよぉ――さっさと死ねや」 ゴキゴキと両拳を鳴らしながら、ラッドは詩音に宣告する。 こんな馬鹿な。誰に言うわけでもなく詩音は心底思う。 何故、自分がこんな目に遭わないといけなのか。 自分は只、悟史に会いたいだけなのに。 もし、慈悲深い神様が居るならなんとかして欲しい。 既に人一人を殺した事実をまるで忘れたかのように詩音は切に願った。 だが、やはり何も助けは入らない。 ブレンヒルトもナナリーも当てに出来ず、何か出来たとしても詩音を助ける事はないだろう。 こうなればなんとか自分の力で切り抜けるしかないか。 絶対に出来る――という自信はどうにも持てなかった。 あまりにも暴力的な、経験した事のない恐怖を撒き散らすラッド。 そんな彼が、今から自分を殺そうとやってくるのだ。 落ちつけるわけがない。 只、一歩づつ近づいてくる死の足音に震える事しか出来ない。 そう思った瞬間――地割れが起きた。 赤子の産声を思わせる地響きがどこからか聞こえる。 なんだ。一体何が――何が起きた。誰もが思ったであろう疑問。 「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい……マジかよ」 逸早く反応したラッドが叫ぶ。 驚きを一切隠さない、純粋な感情がそこにあった。 何故か心躍るような声色で、何かに期待する様な眼差しで。 ラッドは“そいつ”に向けて言葉を吐き捨てる。 「どうなってんだ、こいつはよおーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」 二本の腕が見える。 只の腕ではない、人一人分くらいの長さは楽に越えている。 しかもその腕は地面から生えている。 咄嗟に詩音が慌てて跳び退いた。 詩音の直ぐ傍、何故かその場に立っていたナナリーの直ぐ下から、腕が出てきたのだから。 大地を突き破り、大空の元へ出てやろう――そんな印象を思わせる。 やがて、ナナリーの背後で六つの目を持った顔が浮かんだ。 「マークネモッ!!」 それは新たな可能性――未来を司る存在。 ◇ ◇ ◇ 時系列順で読む Back 伏せられた手札 Next ――――code geass 投下順で読む Back 伏せられた手札 Next ――――code geass Back Next You can,t escape! ナナリー・ランペルージ ――――code geass You can,t escape! ブレンヒルト・シルト ――――code geass You can,t escape! 園崎詩音 ――――code geass You can,t escape! ミュウツー ――――code geass You can,t escape! ラッド・ルッソ ――――code geass
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生まれて初めて編んだセーターを握りしめて部屋にたたずむ私は、 とても惨めな存在の気がした。 いつ渡そうか 喜んでくれるだろうか? そんな想いと期待に満ち溢れたセーターを渡すこともできぬまま、12月23日の夜を迎えてしまった。 きっと、キョンは、明日、涼宮さんたちと楽しげにクリスマスを過ごすのだろう。 あのSOS団とかいう集まりでわいわい騒ぎながら・・・・・・・ ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・私は、今日も明日も独りぼっちだ。 冷たい部屋の壁にもたれていると自然と涙がこぼれてきた。 さみしい。そして、とても哀しい。 弱虫なこの心がとても哀しい・・・・・・・・・ ♪だばだー、だー、だばだー、だばだー、ダーダーダーだーでゅでぃだー♪ 私の携帯電話が鳴る。悪趣味な着信音は、九曜さんが選んだ。 彼女からの電話は、珍しい。そして、私は、冷たい部屋の中に響くこの着メロに思わず笑った。 「ありがとう」 思わず出た言葉は、「もしもし」ではなく、「ありがとう」だった。 九曜さんは、何も答えなかったけど、彼女が私にしてくれようとした気持は、十分に伝わった。 とりあえず、泣くのはよそう。 この肩を抱きしめてくれる恋人はいないけど、心配してくれる友人が私にもいるのだ。 クリスマスは、友人たちと過ごす。それがいいのかもしれないな。 「――――― あと、十秒 ―――――」 「え?」 電話がプツリと切れた。突然のことに私は、ぼんやりと携帯を眺めていた。すると キョンから電話が来た!!! 「も、もしもし。」 私は、努めて冷静な声で対応した。 「佐々木か?どうした?ちょっと、声が変だな?」 「な、何でもないよ!そ、それより、どうしたんだい?こんな時間に女性に電話してくるなんて・・・」(ああっ!私のバカ!) 「明日、SOS団の鍋パーティがあるんだ。佐々木も来ないか?」 「・・・・・・・・・」 私は、何故かキョンのそばで楽しげに笑う涼宮さんの姿を思い浮かべ、悲しい気持ちになった。 こんなの行っても見せつけられるだけじゃない・・・・・・・・ 「・・・・・佐々木?」 「・・・・・・・・いかない。友達たちと過ごすよ。」 「あの連中か?」 「そうだよ。」 「そうか、じゃ、またな。」 「うん。」 電話を切って、5秒もしないうちに、滝のように涙があふれてきた。 私の…馬鹿 思わず携帯を壁に投げつけようとした瞬間にまた、電話が鳴った。九曜さんだ。 「――――― バカ ―――――」 「・・・・・・・うん。ごめんね。でも、皆と一緒にいたいとも本気で思ったんだよ?」 「――――― でもあと、十秒 ―――――」 「え?」 そう言うと、また電話が切れた。どういうこと? そして、すぐにまた、キョンから電話がきた 「あ、あのさ、佐々木。明後日は?明後日は、空いてないか?ダメならその次でもいいんだが」 「え?」 「そ、その。渡したいものがあるんだよ。プレゼントというか・・・その。それに、伝えたいこともあるんだ。」 「ダメかな?」 「・・・・・・・・・・・・ダメじゃない。キョン、僕も君に渡したいものがあるんだよ。」 「・・・・・・・・・・・・佐々木。」 「うん。」 「やっぱり、今から、会えないかな?」 「だめ、遅すぎるよ。明後日まで待って。」 「・・・・・・・・・・・・・・・わかった。待ってるよ」 「・・・・・・・僕も君を待ってる。いや、ずっと待ってたんだよ。君を。当然、迎えに来てくれるんだろ?」 「もちろん。リムジンバスとはいかないが、自転車で迎えに行くよ」 「中学の時みたいに?」 「ああ。」 電話を切って、窓の外を見た。 雪が降ってる。 しんしんとつもる雪。でも、それがとても暖かに見えた。 今、私の心も体もポカポカだったから・・・・・・・
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終わりは、全てに等しく訪れる必然。 それから逃れようと足掻いた先人達もまた、必然に死んでいった。 人類の歴史で、そんな滑稽な茶番劇が何度繰り返されてきたことか。 だが、終わりから逃れることだけは絶対に不可能だ。 どれほど栄えた国を持つ王でも、不老不死の魔術師にも避けられない。 話は変わるが、今回のお話には一人の少女が登場する。 生まれながらに千年の悲しみの連鎖――――『星の記憶』を背負い、ある夏に壊れてしまった少女。そして最期には、最愛の母に抱かれながら悲しみの連鎖を終わらせた少女。 伝説の種族『翼人』からつながってきた連鎖が、彼女に集中した。 しかし彼女はそれを終わらせた。もう二度と、鎖は絡まない。 少女の名は神尾観鈴。 これは、終わりを約束された少女の別の終わりまでの物語。 彼女の隣にやがて立つのは一人の少年。 彼女とは別に、訪れたとある試練を越えた少年。 静かな終わりを約束された少女。 喧噪の始まりを約束された少年。 ―――――――物語は始まる。 □□□ 「…………ふざけやがって!!」 乱暴な叫び声が、闇夜の静寂に響き渡る。 誰かに見つけられるかもしれないとは考えなかった。 それだけ、周囲が目に入らなくなるほどに、少年は激怒していた。 バトルロワイアル。殺し合い。 参加者数は148人、見せしめ合わせて149人。既に一人死亡。 …………認めない。これを喜劇と称した主催者を、認められない。 あれだけ無惨に肉を撒き散らして死んだ少女を見てあいつは笑った。 それだけで、少年に火を点けるには事足りた。 「上等だ!古戸ヱリカ、お前は絶対に許さねえ!たとえめだかちゃんがお前を許しても―――――俺だけは!お前を許さない!」 決意の叫びが、一際大きく響いていた。 少年の名は人吉善吉。箱庭学園生徒会庶務の『普通(ノーマル)』。 しかしながら、度重なる戦いの中で身につけた体術は強力だ。 いや、『普通』とか『特別』とか『異常』とか『過負荷』とか『悪平等』とか、そんなのは今の彼にとっては些末な事項だ。もっと大きなところに、問題がある。 つい最近、人吉善吉は幼なじみの少女の敵になった。 『主人公』を裏切って『悪役』になる。それは禁断の行為だ。 そして、長年連れ添ってきた相手と敵対した今。 人吉善吉は、バトルロワイアルにおいてどう変わってしまうのか。 安心院なじみが企んだより更に最悪に。 人の命に何の関心も抱かない快楽殺人者になるか。 もしくは―――万一黒神めだかがこのバトルロワイアルによって死した場合。人吉善吉はきっと壊れる。二度と立ち上がれないほどの傷を負い、堕ちる。 善吉の未来にある希望は極小だった。 それでも希望に縋ろうとする彼を素晴らしいと形容するか、哀れだと形容するかはまさに三者三様と言ったところだろう。が、善吉は自らの危うさに気付かない。 デイバックを開く。 まず最初に出てきたのは一本のバットだった。 特に何ら変哲もないバット。当たりではないが、まあラッキーか。 善吉の場合バットより肉体で戦った方が強いだろうが。 次に出てきたのは―――パックに詰められたおはぎ。 空腹の時に食えという意味合いなのかは知らないが、外れだろう。 しかもそれは、中にタバスコが入ったものが混じっている。 元は他愛もない悪戯だったのだが、結果惨劇を招いてしまった。 念の為、バットを右手に持って歩き出す。 まずは同じ志を持つ者を探して行動するのが第一と彼は考えた。 名簿に記載されていた名前を善吉は思い出していた。 彼の知る人物は三人。 球磨川禊。 少し前の彼なら最大級の警戒を置くに値した。 が、善吉の知る限り球磨川は既に改心している。相も変わらず『過負荷(マイナス)』ではあったが、それでも『生徒会戦挙』の時に比べると随分丸くなった。 危険人物ではあっても、殺し合いには乗らないと見ていいだろう。 合流しておきたい気もするが、別に急がなくてもいい気もする。 日之影空洞。 『知られざる英雄(ミスターアンノウン)』と呼ばれなかった男。 彼もまた殺し合いには乗らないと見ていいだろう。 むしろ善吉には日之影が殺し合いに乗るヴィジョンが想像できない。 それよりも問題は彼の名前を、存在を『記憶できている』点だ。 『知られざる英雄』。その効力は『消える』こと。 正確には『他人の認識から消える』ことだ。 当然、彼の姿を視認することも常人には困難。 それどころか。彼の存在は記憶からさえ消える。 ―――――そう。記憶からさえ『消える』。 なら、人吉善吉がここで『日之影空洞』の存在を、概要を、記憶できていることはまさに異常な事態なのだ。彼の異常性を無効化しているということになる。 残念ながらここで、『"自分が"異常性を無力化できた』という風に考え、自分の成長を実感したりするほど善吉は自惚れてはいない。 むしろ事実は悪い方向に向かっている。 日之影の『異常性』を人為的に無効化したということになるのだから。 球磨川禊の持っていた過負荷のスキル・『大嘘憑き』でさえ、他人の『過負荷』を完全に消すことが出来なかった。きっと日之影もまた、完全に無効化されてはいないのだろう。 だが、『大嘘憑き』に匹敵し得るだけの何かがあるのは確かだ。 あれだけの力を所持してこのような殺し合いを運営する。 素直に善吉は、怖いと思った。 以前自分の『視力』を『なかったこと』にしたあの過負荷を。 死の淵に立たされてもそれさえ『なかったこと』にしてしまう力を。 「(………考えても仕方ねえか)」 思考を中断する。 このまま考えていてもマイナス思考の堂々巡りだ。 最後に、黒神めだか。 人吉善吉が世界で一番大好きで、それでいてつい最近敵対した存在。 ――――――――彼女には、会いたくない。 今度は先ほどとは別の意味で思考を強引に断ち切る。 考えても仕方ないと言ったのは自分だ。まずは行動しなくては。 そして何となくバットを素振りしてみて。 「………………がお」 一人の、少女と出会い。 同時に殺人者と出会った。 物語は展開される。 ◆◆◆ あまりにも突然な展開だった。 善吉の少し前方に金髪の少女が居て、その背後に金髪の少年が居る。 少女は少し小柄で、どこか弱々しく儚げな風貌をしていた。 背後の少年は眼鏡をかけており、高貴な印象を受ける。 ―――――ただし、その手には一本のナイフが握られていた。 それが、ゆっくりと振り上げられて。 「っ、やめろぉぉおおおおおおおおッ!!」 靴を、思い切り飛ばした。 安っぽい靴が真っ直ぐ、少年の顔面に向けて飛んでいく。 それを見ると、少年は左手を使ってその靴を叩き落とし、不快そうな視線を善吉に向けた。その瞳にあるのは罪悪感などではなく、ただただ不快感のみ。 だが――――『超高校級の御曹司』十神白夜にとっては当然だったのかもしれない。格下の者を殺そうとしたら靴を飛ばされた、なんて不快で腹立たしいことだ、と彼は考えたろう。 と『しか』考えなかったろう。 十神の手に握られているナイフは、殺傷力の高いサバイバルナイフ。 本来の持ち主は、『死者』――――仲村ゆり。 あれで刺されればあの少女はひとたまりもない。 善吉は急いで少女に向かって駆け、十神に向き直った。 「え?」 少女の声がした。 拍子抜けした様子だ。今になってようやく状況を理解したらしい。 肩に熱さ。 十神の振り下ろしたナイフが僅かに掠めてしまったらしかった。 そのナイフに合わせて靴を掃いている足で十神のサバイバルナイフを思い切り蹴り上げる。十神の丁度背後の地面にそれは真っ直ぐ突き刺さった。 「………チッ。邪魔が入るとはな」 「ああそうだな。悪いけど邪魔させて貰うぜ」 十神と善吉の視線がぶつかり合ったが、先に動いたのは十神だった。 興が削がれたとでも言うかのように、溜息を吐いて背を向ける。 地に刺さったナイフを引き抜き、背後など気にせずに歩いていった。 刺されたら、などという不安は一切無いようだ。 その姿が見えなくなった頃、善吉はやっと、肩の痛みに顔をしかめた。 彼のバトルロワイアル最初の殺人者との短い戦い。 あのまま戦えば運動能力の差で善吉が勝ったろうが、思う所はあった。 ―――バトルロワイアル。それが遊びなどではないことを、肩の痛みが人吉善吉に告げていた。安堵する暇など一瞬もなく、ただただ不安が募るのみであった。 □ 十神白夜は、不機嫌だった。 あの忌々しい学園生活から抜け出せた、目を覚ました時は思ったのに。 蓋を開けてみれば、あれより更に低俗で劣悪な遊戯ときたものだ。 だから、十神は今、とても不機嫌だった。 彼の求めるのはただ一つ。殺し合いからの生還のみである。 全てを殺してでも、優勝する。ただそれだけ。 尤も、もう少し後なら彼は殺し合いに背いただろう。しかし、時期が早すぎた。今の彼は残念ながら『変わる前』の彼だ。 「………俺は生き残るべきだ」 【深夜/B-7】 【十神白夜@ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生】 [状態]健康、不機嫌 [所持品]サバイバルナイフ@Angel Beats! [思考・行動] 0 殺し合いから生還するために殺し合いに乗る 1 苗木や霧切たちも容赦無く殺す 2 弱者を狙い、手強そうな相手は相手にしない 3 『願望の成就』には『主催者の自害』を願うつもり ※chapter2.(非)日常編終了後からの参加です ■ 少女の名は、神尾観鈴というらしい。 どうもさっきの奴とは情報交換をした直後だったとか。 善吉は包帯を巻いてもらった右肩を軽くさする。 まだ痛みはあったが傷は浅い、しばらくすれば痛まなくなる筈だ。 観鈴を見て善吉は、とある事柄に気が付く。 彼の―――正確にはとある人物のスキル『欲視力(パラサイトシーイング)』。相手の視界を乗っ取るスキルであるが、神尾観鈴の視界が『異常』に『悲痛』だった。 痛々しい。 視界に写るものこそ歪んでいないが、何故かとても痛くて苦しい。 なのに、この少女は笑っている。 末期ガンの患者には常に激痛が付き纏うと聞いたことがあった。 なら、彼女の視界はそれにとても近い。 自分なら―――いや、それこそ黒神めだかや『過負荷』でも無ければ耐えられないほど。善吉はゾッとした。自分は一週間も耐えられないかもしれない。 間違いなく、神尾観鈴は長くない。 善吉は医療に関しては素人だったが、それでも確信を持って言える。 近々、遠くない未来に彼女は天寿を全うするだろう。 このバトルロワイアル中保つかも分からない。 ―――なのに、どうして彼女は笑っている? ―――分からない。 ―――俺には。 「神、尾」 「何でしょう、善吉くん?」 少し吃驚した様子で、しかし確かに彼女は応えた。 そして善吉は己の口にしようとしたことの浅はかさを悔やむ。 ―――もうすぐお前は死ぬぞ、と伝えるのか? ―――それとも、体調悪くないのか、とか気遣うのか? ―――馬鹿馬鹿しい。 ―――あんなに頑張ってる奴に、そんなこと言えるかよ。 「神尾―――お前、会いたい奴とか居るか?」 口から不意に、そんな言葉が漏れた。 それしか、自分に出来ることは思いつかなかった。 居るなら、そいつと絶対に会わせてやらなきゃいけない。 独善でも偽善でも構わないから、そうしなければならない。 善吉は静かにそう決意した。 観鈴は少し驚いた様な風だったが、やがてその瞳を潤ませる。 そこで善吉は確信するのだった。 神尾観鈴は、自分の命が長くは保たないことに気付いている。 恐らく、今も彼女は痛みに耐え続けているのだ。 「……神尾、晴子……お母さん、と………」 しばしの沈黙。 まるで思い出せないものを思い出そうとしているようだった。 母親。 それとは別に、大切な存在。 しかし、記憶にはいない。 彼にとっての黒神めだかのような、かけがえのない存在。 何時しか沈黙は嗚咽に変わっていた。 全て思い出したらしい。 忘れ去られる筈の記憶を、全て。 「……国崎、往人さん………ゆきとさんに、会いたいですっ……」 国崎往人。旅人で売れない人形劇を生業としている。 観鈴の先祖にして悲しみの連鎖の始まり、『翼人』神奈備命。 そして神奈備命に仕えた二人の従者―――柳也と裏葉。 国崎往人は二人の子孫で、『法術』と云う力を有している。 本来このタイミングで観鈴が国崎を思い出すことは有り得ない。 彼は他ならぬ神尾観鈴を救うために一羽の烏に転生した。 後に『そら』と名付けられる烏の存在は、国崎の存在を上塗りする。 だから、次第に忘れ去られていき、国崎往人は消え去った。 これは、バトルロワイアルというイレギュラー事態における物語の分岐がもたらした一つの結果。その結果も、彼女の辿る未来を変えるには至らない。 神尾観鈴は必ず死ぬ。 バトルロワイアルからの生還は叶わない。 だからこれは、彼女を死ぬ前に救おうとした少年のお話。 【人吉善吉@めだかボックス】 [状態]右肩に刺し傷(処置済、浅いので行動に支障なし) [所持品]絶望バット@ダンガンロンパ、タバスコ入りおはぎ@ひぐらしのなく頃に [思考・行動] 0 バトルロワイアルを潰す。 1 神尾を守り、『国崎往人』に会わせる 2 球磨川たちは保留。 3 めだかちゃんには会いたくない ※黒神めだかに『敵対すること』を告げた直後からの参加です ※『欲視力』は制限されていません 【神尾観鈴@AIR】 [状態]体調不良(大)、痛み(大) [所持品]不明支給品 [思考・行動] 0 殺し合いはしない。誰にも死んでほしくない。 1 善吉くんに手伝ってもらって往人さんを探す。 2 お母さんにも会いたい。 ※AIR編、『ゴール』する前日からの参加です ※常に体調不良と激痛が走っていて、いつ死亡してもおかしくありません ※主催干渉により、歩行とある程度の運動は可能となっています