約 19,973 件
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/350.html
スレ3 426-428 えんびフライ アキラが昨日、エビの尻尾ばかりの弁当を食べた、と、今日は愚痴ばかりこぼしていた。 何も味のしないおかずと白米では、思春期真っ只中の少年には辛いものがある、とアキラはこぼし続ける。 そんな話が職員室のごく一部で広がっている中、国語科の泊瀬谷先生は思い出したように、ポンと手を打つ。 「エビの尻尾って言えば…、昔、教科書にありましたよね。出稼ぎのお父さんが田舎に帰るときに 『エビフライを買って帰るから、ソースと油を用意しておけ』って手紙を送って…。 みんな東北の訛りで『えんびフライ』って言ってるんだっけ」 「そうそう!家族のみんなは『エビフライ』をはじめて見たから、尻尾まで食べちゃうだよね。 おばあさんがむせこんでさ、あーあ。エビフライ食べたくなっちゃったな!」 サン先生が椅子に座ったまま、ゴーっと車輪を走らせ泊瀬谷先生の側に近寄る。 若い教師が学生時代の教科書話に花咲かせているとき、職員室で大きな『人影』が動いていた。 休憩時間の終わりを告げる鐘が鳴る。さあ、午後の始まり。 それぞれ、教師達は各教室に移動し、受け持つ教科の授業を始める。 A組では泊瀬谷先生の現代文。 「この『永久欠番』と言う言葉、作者が伝えたかった意味は何ですか? では、今日は5日だから…、出席番号5番の人!」 毛並みにチョークの粉が付くのを気にしながら、板書を続ける。 B組ではサン先生の数学。 「この場合…補助線を引けば。ホラ!簡単じゃん!!」 ぐらつく椅子を踏み台に、図形の問題を解説する。 C組では山野先生の地理…のはずだった。 黒板には大きく『自習』の文字が力強くふんぞり返っている。 そして、今日一日は過ぎてゆく。いきなりの『自習』を除いては。 翌日、職員室の床には大きなイセエビが魚市場の如く並んでいた。誰の手によるものかは、もはや論じるまでもない。 「ははは。ちょっとね、三重県まで日帰り旅行してきたのよね。それでね、伊勢湾でイセエビをガッとね…。 この間、北海道の千歳川でサケを捕まえに行ったときの要領で捕まえたから、意外と楽勝よねー。 あっ!もちろん地元の漁師さんの許可は貰ってきたから、みんなは真似しないでね!!」 豪快に笑う山野先生の右手には、昨日までしていなかった大きな絆創膏が何故か付いていた。 いきなり、ウサギの星野りんごが職員室の大きな扉を開ける。 大きな耳でイセエビの殻の音、ヒクヒク鳴らす鼻で潮の香りを嗅ぎ取って誘われたのか、 りんごの目は真剣である。いわゆる『料理の鉄人モード』か。ひとり、炎立つ。 「古くから『ハレ』の日に食され、見た目が勇猛果敢なつわものに似ているため『威勢がいい』とひっかけて、 縁起物とされているイセエビ…よ、わたしに戦いを挑むと言うのか…。この星野りんごが料理してくれるわ!!」 もはや、彼女を止めることは、サン先生に『台車に乗るな!』と言うのと同じことであった。 むんずとイセエビの尻尾をりんごは掴むと、家庭科教室へと消えて行った。 この日の午前の家庭科教室は初等部が使う予定なのだが、彼らが来る前にイセエビのエビフライがずらりと家庭科教室に並んでいた。 コンロには特大の鍋がずしり、今だ中の油は落ち着くことはない。小麦粉や卵の跡が、この戦いを物語っている。 興奮冷めやらぬ勇者・星野りんごは、剣の代わりに包丁、盾の代わりにボールを手に午前のか弱い光を浴びて呟く。 「…この程度か!」 がやがやと初等部の生徒たちが集まると、目にしたのは大きなエビフライ。 こんなエビフライなんか見たことない。お子たちが興奮するのは言うまでもなかった。 「すごいニャ!見たことないニャ!!」 コレッタ、クロ、ミケの三人は目を星のように輝かせ、ちょいちょいっと片手でネコパンチを試みる。 折角だからと、山野先生と海の恵みに感謝しながらみんなで頂くことに…。 「ふう、お腹いっぱいニャ!」 「もう、一年分のエビフライをたべたね」 食べ盛りのお子たちのこと、大皿に犇き合っていたエビフライが尻尾を残しているのみだけになってしまった。 それを見た星野りんごが一言。 「母なる海の恵みを残してしまうのは…心苦しい」 「星野さん、ちょっと」 星野りんごは勝手に午前の授業をサボったために、山野先生に呼び止められた。 「山野先生、ちょっと」 山野先生は勝手に昨日の授業を自習にしたために、教頭先生に呼び止められた。 大皿の上にのっかるエビの尻尾が笑っていた。 授業を終え、職員室に戻る通りがかりにサン、泊瀬谷両先生が家庭科教室の窓越しに宴のあとを目の当たりにする。 すると、サン先生の頭上にひと玉の電球が灯り、泊瀬谷先生が話しかける前にサン先生は何処かへすっとんだ。 「ほら!こっちこっち!!白米はちゃんと持ったよね!」 「うおー!!豪華なる弁当のおかずがあるのはここの教室ですかー!!」 サン先生が連れてきたのは、アキラだった。 おしまい。 関連:泊瀬谷先生 サン先生 山野先生 アキラ 星野 コレッタ クロ&ミケ
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/626.html
ラブスクエアⅢ 「ふぅ……」 両脇に抱えた紙袋をベンチに下ろして、俺は小さく息を吐いた。 日曜日の昼下がり、真上から差す日光は、春先の暖かさで降り注いでくる。 荷物を持ってうろちょろしたせいで、少し暑いぐらいだった。 デパートの屋上には子供向けの遊具が並んでいて、家族連れで賑わっていた。 小さな子供とその両親ぐらいで、若い人はほとんど居ない。 買い物帰りに屋上まで足を伸ばす人は、案外少ないのかもしれない。 3月にもなれば、流石に少し汗をかいてしまう。顎から汗の一滴が、ぽたりと床に落ち、すぐに蒸発した。 ああ、なるほど。コンクリートの屋上の照り返しが暑かったのか。夏に来たらどんな惨状になっているのだろう。 お子様たちは熱中症にならないのだろうか。 100円入れると音楽を流しながら動く、あの動物の乗り物(正式名称は知らない。と言うか知ってる人はいるのだろうか)に 乗ってはしゃいでいる子供たちを見ながら、ぼんやり考える。 夏場の練習でも、伊織さんが口うるさく『水分摂取は大事だぞ』とか 『喉が渇いたと思ったら、すぐに飲み物を飲め』とか注意してくれる。 こういう場所にぽつんと座っていると、どうもくだらない考え事に耽ってしまう。 別に悪い事じゃないのだろうが、今回は裏目に出てしまう。 俺の背後から、足音を忍ばせて近寄る白い影に気付く事が出来なかった。 首筋に冷たい物体をぴとりとくっ付けられて、ようやく俺は反応をしめした。 「ひゃっ!?」 「フフ、おまたせ康太」 俺が奇声を上げて飛び跳ねると、後ろからはイタズラっぽい笑い声が聞こえる。 慌てて振り向くと、ジュースの缶を手に持った白い狼、つまりは俺の姉さんが、笑顔を浮かべていた。 「あー、ビックリした。姉さんもイタズラ好きだよね」 「生まれつきなのよ。割り切って付き合いなさい」 そう話しながらジュースを俺に手渡し、姉さんは俺の横に座る。 姉さんは大人っぽくて要領の良い狼だけど、どうにも茶目っ気が強い。 受け取ったジュースを飲みながら、非難がましい視線を向けるが、姉さんはおかしそうに笑うだけだ。 「まあいいか。ジュースありがとう」 「気にしなくていいのよ。今日は随分引きずり回しちゃったもの」 「あはは、本当に随分引きずり回されたよ」 心の底からそう呟く。この近くのデパートやブティックを梯子して、 散々洋服を見て試着して、結局買わない、別の店に行こう、と言う寸止めを何度もやらかされて。 今日買ったものと言えば、姉さんが一目見て購入を決めたハイヒールと、 春物の薄手の服に、舞へのお土産にデパ地下で買ったお菓子ぐらいだ。 買いもしない服を眺めて過ごすと言うのは、俺のようなファッションに興味も無い男には、丸っきり分かりそうに無い。 「今日は私の買い物だけで、康太は少し詰まらなかったかしら? 康太と二人で出かけるの久しぶりだったから、少しはしゃいじゃったわ」 「気にしなくていいよ。それなりに楽しんだし。姉さんと出かけるの楽しいからさ。 さ、そろそろ昼飯喰いに行こうよ。俺は外食って言ったらラーメンばっかりだし、姉さんの教えてくれる店って楽しみだよ」 ジュースの残りをぐびっと飲み干すと、紙袋を抱えなおして立ち上がり、片手を差し出す。 姉さんは飲みかけのジュースを持ったまま、もう片方の手で俺の手を掴んで立ち上がった。 「ありがとう。康太のそういう優しいところ好きだわ」 「煽ててどうするつもり?」 「このジュース飲んで。新発売だったから買ったけど、あまり好きじゃなかったの」 階段へ向かって歩きながら、俺へと飲みかけのジュースを差し出してくる。 うーん、飲みかけ。嫌じゃないけど、と少し困りながら俺は頭を掻いた。 何となく、姉さんは舞と違って、家族と言う感覚と一緒に、異性を感じさせるから困る。 間接キスとか、そういうくだらない事をどうしても気にしてしまう。 舞が相手ならこういう悩みもないんだけど。俺は逃げるように答える。 「俺もこれはあんまり好きじゃないからいいよ。 階段降りて近くの自販機の所にゴミ箱あるし、そこに捨てちゃおう」 「やっぱり私の飲みかけじゃ嫌?」 「違うって」 「フフフ、やっぱり可愛い。お父さんがお母さんと結婚して良かったわ。 じゃなきゃこんな弟とも会えなかったんだから」 「ね、姉さんっ!」 姉さんは俺の腕に、白い毛皮に覆われた綺麗な腕を絡ませる。 毛皮の色と同じ、白い服は清潔感が溢れていて似合っている。こうやって密着すると、やっぱり姉さんは綺麗だ。 こんな風に腕を組んで歩いて、すれ違う人にどう見えるかとても不安にもなるが、うーん……、やっぱり姉さんには勝てない。 腕を組んだまま階段を降りて、デパートの窓際に良くある、自販機と横長の椅子が並んだ場所へと出た。 姉さんから受け取ったジュースの缶をゴミ箱に投げ捨て、近くのエレベーターへ向かおうとする。 だが、姉さんが立ち止まって俺を引きとめた。どうしたのかと視線を向けると、 窓際の椅子に座り込み、俺に手を差し出していた。厳密には、俺が小脇に抱える紙袋に向けている。 「デパートから出る前にハイヒール履いてみようと思うの。 気に入っちゃったし、折角康太と二人でランチなんだから、お洒落しないとね?」 「家族で食事なんて、そんなお洒落して行くものなの?」 「だから、康太と二人での食事だからよ。未来の滑り止めになるかも知れない人なんだから」 「そういう冗談はよしてって……」 俺は肩を落として見せながら、ハイヒールの箱の入った紙袋を姉さんに渡した。 姉さんはどうにも要領が良くて、俺はいつもあしらわれると言うか、手玉に取られてばかりだ。 やはり俺より4つも上の姉なのだ。俺より2枚も3枚も上手なのは仕方ない事かも知れない。 姉さんは俺から紙袋を受け取ると、箱を取り出して蓋を開ける。 姉さんが取り出したのは、桜を連想させる淡いピンクのハイヒールだ。 元から履いていたハイヒールを脱いで地面に置き、新しいハイヒールを片方ずつ履く。 椅子に座ったまま脚を前方に突き出し、白い毛皮と桃色のハイヒールの映える様を見ている様子は、 珍しく子供っぽくて、少し可愛かった。 「やっぱ似合ってるなー。今度は俺の服を選んでよ」 「任せなさいよ。康太のお小遣いで買える範囲で、似合いそうなの選んであげる」 上機嫌に微笑んで立ち上がると、姉さんが俺の手を握って、エレベーターの方へ引っ張っていく。 何でも、昼飯は姉さんがよく行く、ケーキの美味しい喫茶店へ連れて行ってくれるそうだ。 エレベーターに乗り込むと、珍しく途中で止まる事無く、最上階から1階まで、ノンストップだった。 徐々に近くなってくる街の景色を、エレベーターの窓から二人して眺め、小さく笑いあう。 今日は結構疲れたが、姉さんも楽しそうで何よりだ。デパートを出ると、春の心地良い日の光が眩しかった。 終 関連:康太 美希奈
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/354.html
FORMAT 5章 祝いの花火がパンパンと打ちあがり、周囲には大勢のヒトが賑っている。 しばらくするとゆっくりと浮き上がり、ヒトが、建物が、徐々に小さくなっていく。 そして瞬く間にそれらは視界から消え、数分もしない内に、辺りは美しい空と母なる海だけになっていた。 今、俺達は最新の飛行船『スタークラフト』に乗っている。 このスピードなら、大陸ローナンに到着するのは時間の問題だ。 「やっぱスゲーなこれ。世界最速の名はダテじゃなかったみたいだな。」 「ホントにこれに乗るとは思わなかったなー。」 「あ、本来は乗らないのか……?」 「まぁ普通の気球は使うんだけどね。RPGに船や飛行船、大空を舞う竜みたいな移動手段は当たり前でしょ?」 当たり前かどうかは知らんが、ともかくラッキーなんだな、これは。 周りをザっと見渡すと、やはりピシっと正装しているヒトばかりだ。 服装だけで見ると俺達は明らかに場違い。 例えるならお城の舞踏会に紛れ込んだ迷子の子犬アーンド子猫ちゃんそのものだ。 俺達の事はあんまり気にしていないみたいだが……。 それでも船に乗り込む時、乗務員に白い目で見られたのは言うまでもない。 皆が皆他の人とワイワイ話しながら窓の外を眺めている。 そういえばこれ程騒がしくて気が付かなかったが、船のエンジン音が全くと言っていいほど聞こえない。 こんなに速く飛んでいるのに揺れもしないし、普通に立っていられる。 はぁ、やはり時代は科学なのですな。 やっぱアンタはスゴイおヒトです、ドクター。 そしてやっぱり、というか当然の如く、ソフィはどうしてるのかと聞かれれば言うまでもない。 窓にぺったりと張り付いて、一人でキャイキャイはしゃいでいる。 「うん、アレは当然よね。」 「あぁ、アレはしょうがないよ。」 端から見たら本当に子供だ。身長的に言っても18になんて到底見えないよ、ホントに。 「あ……。」 「ん?どうした?」 シンディは反対側の窓を見るなり、何かに気付いたようだ。 「……あれ、あの、帽子かぶってるロップ族のヒト。」 彼女が指差した方には、確かにニット帽をかぶったロップ族の男がいる。 暑苦しそうなコートを着て、壁によりかかっている。 一番の特徴は、かなり目が細い。なんか悪役チック。 「あのヒトがどうかしたのか?」 「……本来ならローナンでパーティに加わる。名前は確か…ディアス・ユークライト。」 「え?!」 あんなワルっぽいヒトまで愉快な仲間達の一員になるんですか。 でもよく見たらちょっと強そうだ。あのヒトなら頼もしい味方になるだろうなぁ。 ……おっと、こりゃ失言だった。別に今のパーティに不服があるわけじゃないぞ? 「なんか随分と滅茶苦茶になってるみたいだなぁ。やっぱ、これもバグのせいなのかな。」 「………う、うん。そうかもね。」 随分と歯切れの悪い返事が返ってきた。思えば自分で言ってた事なのに…。 ……そうだ。変な意味で言うわけじゃないが、今は2人きりだ。 朝言いかけてた事でも聞こうかな。 繰り返し言うが、決して変な意味で言ったわけじゃないぞ。 窓の外をボーっと眺めるシンディに、なぁと呼びかけようとしたら 「ねー!大変!大変だよ!!2人とも!!」 来たよこの子が。悪態つくわけじゃないけど、色々と邪魔されてばっかだ。 朝だっていい感じな雰囲気だったのに、ちくしょう。彼女は何かの手先なのか。 「…どうしたの?」 まぁ気になることに変わりはないので聞いてみる。 「さ、さっき外見てたらヒトが飛んでた!2人!!」 「おいおいヒトが空飛ぶわけな……いこともない、か。」 シンディは空を飛ぶ魔法を習得している。だから飛んでいる事そのものは不思議とまではいかない。 だがよく考えたら、この船のスピードについていける程速く飛べる事には些か疑問が湧く。 長時間の飛行は疲れると彼女も言ってたし、それが出来るとなるとかなりの使い手ではないだろうか。 ……ちょっと待て。 俺は……多分知ってるぞ、それが出来るヤツを。 「………ウルカ。」 「…だよな…それしか考えられない。」 イヤな予感がする。 風の噂で俺達が船に乗ることを聞いて、しめしめと急襲に来たわけじゃないだろうな。 しかも2人。仲間を引き連れている可能性が高い。 「とにかく甲板に出てみよう。ほぼ間違いなくこの飛行船に乗り込んでくる。」 「甲板?そんなのあった?」 「ほら、飛行船の頂にドーム状のガラスで覆われてる部分があったろ。」 「あぁ……あれね。」 あの女は、町を顔色一つ変えずに消してしまうような卑劣なヤツだ。 ヤツならこの飛行船を撃墜するなんて事もやりかねない。何かあってからでは遅いからな。 「……『立入禁止』って書いてあるよ。」 「構うもんか。緊急事態だ。」 ピンと張ってある注意書き付の鎖を乗り越え、階段を昇る。 眩い太陽の光が俺達を照らし、ゴウゴウと風を切るような音が響く甲板に出た。 「!!」 「お、わざわざそっちから出迎えてくれるとはねー。助かったわ、手間が省けて。」 やはり……乗り込んできていた。 「ウルカ……!」 ヤツの丁度真上のガラスが割れている。あそこから入ってきたようだ。 ウルカの隣には、やはり仲間らしきヒトがいた。 厚手のマントを羽織った、ロップ族の女だ。 「たった二人か?」 「少数精鋭ってヤツよ。」 「随分と自信たっぷりね。一体何しに来たの?」 ウルカは背中に収めていた大鎌を抜いた。 同時に俺達も武器を構える。 「……ザックス、まずは私がビリアルデを代表して、貴方への数々の非礼をお詫びするわ。」 「………何だと?」 「私達は崩壊を食い止めるべく、貴方を脅威と考え、今日まで活動してきた。 その考えが改まったってコ・ト。」 そうだ。ヤツらは俺を狙っていた。 ウルカは、あのマントマンの一件も主任務は俺を始末するためのものだったという。 「…そりゃ今更だな。」 「そう、今更ね。だからこそ謝罪してるの。」 「わざわざご苦労なこった。で?なにしに来たんだ? それ言うためにここに来たわけじゃあるまい。」 「当たり前じゃない。もう貴方に用はない。あるのは………。」 ウルカは俺から視線を反らし後ろの方を見た。 「さ・て・と、全世界のために死んでくれるかしら?」 鎌が突きつけられた方向には、シンディが立っていた。 「………な、何言ってるんだ?」 「だから、私達はシンディを始末しにきたの。」 「違う!何でシンディを殺すのか聞いてるんだ!答えろ!!」 「……にっっぶいわねー崩壊の元凶がその子だからに決まってるじゃない。」 ………シンディが……バグ、だと? 「ザックス君落ち着いて!敵の言う事なんか真に受けちゃダメだよ!」 「まー信じるもないも勝手なんだけどさ、当の本人はどうかしら?」 ウルカがそう言うなり振り向いてみると、青い顔をして俯いているシンディの姿が目に入った。 「――シンディ!何で黙ってんだよ!!言い返してやれよ!!」 それでも彼女は顔を上げようとはせず、ただプルプルと震えているだけだった。 「ま、いいや。どいてくれる?斬りたいんだけど。」 「一度は勘違いして俺を散々追っかけてたようなアホ共の言う事なんか、聞いてくれると思うか!?」 「そうだよ!そんな事させない!」 前に進もうとしたウルカに武器を突きつけ、威嚇した。 「はぁ、わかった。じゃあ納得させてあげる。」 ウルカは鎌の刃を地面に下ろした。 「納得だと?」 「何でそう思ったか…。説明してあげるって言ったの。」 説明の内容が本当に納得できるものなのかどうかは甚だ疑問ではあった。 こいつらはそれほどテキトーだ、という印象しかないからである。 だけど敢えて反応はしなかった。 甲板全体に低く響く轟音は、静寂の空間よりはまだマシだった。 「ゲームの世界……そう考えると出てくるのは登場人物。 実際に操作する個性豊かなPC (Players Character) は勿論、ちょっとしたイベントに出てくるキャラ、 そこらの街にゴミのように転がっているNPC (Non-Player Character)。 どんなキャラだろうと、脇役・チョイ役だろうと、ゲームに登場する分には皆『役割』が決まっている。 逆に言えば、『役割』があるからこそゲームに登場しているってこと。」 確かに何の役も与えられていないヤツはゲームには登場しない。 ゲームに限らず、演劇なんかもそうだろう。 単につっ立っているだけでセリフも貰えない『木の役』も、実際は役を与えられているからこそ登場している。 「さーて、ここで問題。彼女、シンディの『役割』は何? 彼女は貴方の、何?」 シンディは、案内役だと言っていた。 ……いや、正確には案内役『なんじゃないか』と言っていた。 「ホラ、ね。それ、自分が何なのか分かっていない証拠じゃない。 ストーリーやPCの設定まで詳細に分かるヒトが、自分の事も知らないんじゃお話にならないわ。」 ……何てことだ。これは…冗談だろ? 「………違う…私……私は…」 「…もう一つ。」 「――!」 「そもそも、何で大陸レードは消滅したの? 貴方の町リュネットは、彼の故郷ブレンダンは、エーダインは、何で消えたの?」 「………。」 答える間もなく、すぐにウルカは続けた。 「『バグ』の侵食が原因?感染の進行?レードは消えてしまう運命だった? いいえ、全部違う。 貴女が来たからよ、シンディ。」 「っ!!」 「おい!やめろ!!」 「部下の報告によれば、消滅したタイミングは全て、貴女がそこを立ち去った瞬間だった。 リュネットも、フォスターに追われながらも転々と場所を変え、逃げ回っていた町も、エーダインも…。 全て、そうだったわ。」 「――やめろって言ってんだろ!!」 俺はかなり血が上っていた。それほど腹が立った。 話している最中だったが、お構い無しに光の剣を出してヤツに斬りかかった。 少しも動じずに彼女は刃を鎌で受け、話を続ける。 ――違ウ。 「さぁ、これはどういう意味?いくらバカでも、わかるでしょ?」 ――私ハ、今マデ彼ノタメニ。 「そろそろ観念なさい!自覚があろうとなかろうと、貴女は脅威よ!」 ――ヤメテ。ソンナ事、ナイ。 「…もう意地張るのやめたらどうかしら? 本当に、本当に彼を、皆を、守るべき助けるべきヒト達を、絶望に追いやったのは、誰なの?」 ――!! "シンディは、俺を助けに来てくれたんだろ?" "…ありがとう。" 「いやああああああああああああああああああああああっ!!!!」 「貴様!いい加減にしろ!!!」 「アンタ馬鹿?ここまでの説明、全部言い掛かりだと思う?もっと自分に素直になりなさいよ。」 「黙れ!!」 力任せに当たっていた。 膝をつき、蹲り泣き叫ぶ彼女の姿を見てしまった俺は、何も考えることができなかった。 ヤツの言うとおり、素直じゃなかった…イヤ、認めたくなかっただけなのかもしれない。 「……どいてくれそうもないから、力ずくで行かせてもらうわ。」 半端じゃなかった。 突然グイっと押し返されたと思ったら、俺は宙に飛ばされていた。 俺の剣をいとも簡単に薙ぎ払い、ガラスに思い切り叩きつけられた。 ツカツカと靴音を立てながらウルカはシンディに近づく。 すぐさまソフィはそれの間に割り込み、拳を構えた。 「……貴女もなの?おチビちゃん。」 「……………。」 「はぁ…クラム、お願い。」 「ん。」 ヤツの付き添いクラムは地面を蹴ってソフィに近づき、手に付けた剣で彼女の肩を貫いた。 「きゃあっ!!」 彼女もまた俺と同様、ガラスに叩きつけられる。 「く、くそ……やめ、ろ…っ!」 力いっぱい叫んだつもりだったが、気を失う寸前の状態で出る声量なんてたかが知れていた。 必死に起き上がろうとするも、力が入らない。 ずりずりと地面を這っていこうとしたが、そんな事で間に合うわけはないと、 ましてやヤツの元に辿りついたとしても、どうする事も出来ないのは分かっていた。 シンディの事で頭がいっぱいだった。 ウルカはシンディの目前に立ち、こちらを向いた。 「そうそう、たった今大陸ランセルが崩壊したって情報が入ったわ。」 「…っ!」 「もう確定的よね?それでも納得できないなら、そこで見てなさい。 彼女が死ねば崩壊した全てが戻るかもしれないし、そうでなくともこれ以上の崩壊は間違いなく止まる。」 「…シン……逃げ…ろ…。」 彼女は微動だにしなかった。ただその格好のままで、顔から地面に滴り落ちる液体。 聞こえるはずもない声、逃げられるような状況でもない。 逆境とはこういう状態の事を言うんだろう。 ……いや。 ――運命を受け入れろ。 ドクター、早速だけどその忠告、無視させてもらうよ。 もしも、このまま彼女が死ぬというのが、俺達が何も出来ずに殺されてしまうだけなら、 そんな運命、壊してしまえばいいだけだ。 主人公なんて、そんなモンだろ? ヒトは理屈ばっかりで動いているわけじゃない。 好きだから、守りたいから、ただそれだけだ。 彼女の泣き顔なんぞ見たくもない。 鎌が振り下ろされようとしたその瞬間、俺は立ち上がった。 かつてない程の輝きを放つ巨大な剣と、銃を構えて。 さっきまでビクともしなかった体が、今は空気のように軽い。 自分で自分に驚いていたのが本音だ。 ウルカはそんな俺を見るなり、微笑した。 「…なかなか面白いじゃない、貴方。」 ヤツに向けて銃を撃った。 難なくそれをヒラリと避け、斬りかかってきた。 さっきはぶっ飛ばされるほど敵わない力だったのに、今は互角だ。 「アハハ最高!!パワーオブラブってヤツかしら?!」 喋る気にもならない。それほど俺は怒っていたようだ。 だがさっきとは違って今は冷静。静かな怒りだった。 不思議とヤツの動きが手に取るように分かる。 どこを攻撃するのか、どのような攻撃をしてくるのか。 武士の守護霊でもついたのだろうか。 「思ったより厄介ね。クラム!」 もう1人の方も俺に向かって攻撃してきた。だけどさっきとは大して変わらなかった。 クラムは剣の両端に付いた機関銃でウルカを援護するが、俺も負けじと剣を交えながらクラムに向け銃を乱射する。 それだけでかなり怯ませる事ができた。 段々とヤツの顔が険しくなる。今度は向こうがイライラしてきているようだ。 「あー鬱陶しい!!」 後ろに宙返りして間をとり、両手をこちらに向けた。 「くたばれ!ヴェルツエール!!」 激しく燃え盛る炎が放たれた。クロンファートを消し去ったあの炎だ。 「ぅおおおおおおおおおっ!!!」 出来るだけの魔力を使って電撃を放った。 それはいとも簡単に炎を飲み込み、ヤツらに向かって飛んでいく。 「うあああああっ!!!」 あの弾をモロに受けた。倒せはしなくともかなりの痛手を負わせたに違いない。 「シンディ!ソフィ!」 この間にすぐさま2人に近づく。流れ弾が当たってしまったかもと思ったが、どうやら無事みたいだ。 「ん…ダイジョブ。いたた…。」 「思ったより丈夫だなソフィは。」 「当たり前だよー。…シンディちゃんは……?」 「……ウンともスンとも言わない。」 「…。」 いつの間にか正座の状態で俯くシンディは、まるで魂の抜け殻だった。 俺だってヤツらの話は信じたくない。潰すべき目標が自分自身だったなんて、あまりにも皮肉だ。 図星だったから、納得してしまったからこうなったのか、それは分からない。 あぁ、またこういう時に来てほしいんだけどな、慈悲の神様。 「!!ザックス君!」 ソフィの呼びかけに反応して振り向いた。 ヤツら2人が血まみれになりつつも武器を振りかぶろうとしている。 だがヤツらは俺ではなく、シンディに目線が行っているのが分かった。 「こいつさえ殺れば全て終わるのよ!!!」 「くそっ!」 武器を構えなおそうとしたが、今一歩間に合わなかった。 ガキィン!! 刃は止められた。だが俺がやったわけじゃない。 「……んー野蛮な女の子はいくら可愛くても好きじゃないな。」 「!!」 「どの道キセルだし、悪いけどここで降りてもらうよ。」 そういうと彼は2人を思い切り蹴り飛ばした。 ガシャアアン!! ガラスにまた2つ穴が開き、ヤツらは空の彼方へ消えた。 「あ、あんたは……。」 黒いニット帽にコート、細目のロップ族。 紛れもなくディアス・ユークライトだった。 「ったく、立入禁止のトコに入っちゃダメだろうに。…と言いたい所だけど、被害はガラスだけみたいだね。 感謝しなくちゃあ。」 怖そうなイメージが一変した。ずいぶんと軽いヒトだったようだ。 「あ、ありがとう。」 「…あんたは、一体」 「ぼかぁただの傭兵さ。騒がしいから見てこいって言われて来ただけ。」 しかし派手にやったねー。子供の仕業とは思えないな。」 ディアスは周りをグルリと見回しながら言った。 「とりあえず席に戻ってよ。そろそろ乱気流の域に入る。…そこの穣ちゃんも。」 「……シンディ。」 「……………。」 「あんなヤツらの言葉、真に受けるなよ。俺もソフィも信じちゃいない。」 「そうだよー。ヒトそのものがバグだって事自体怪しいしー。」 建前のようなフォローで立ち直ってくれるとは思わないが、こんな状態の彼女はらしくない。 一秒でも早く普段の彼女に戻ってほしいのだが…。 「……しょうがない。俺がおぶっていくよ。」 とりあえず今は席に戻らなければ。 シンディをおぶろうと前屈みになったその時だった。 ドガアアン!! 「おわっ!?」 物凄い音と共に機体が激しく揺れる。 「なんだ!?もう乱気流とやらに入ったのか?」 「…いや、違う!!」 ふと外を見ると黒い煙が流れているのが見えた。 「え?!じゃあ今のバクダン!?」 「……あいつらだ…!」 恐らく任務を失敗したときのための保険だろう。 船ごとシンディを殺すつもりだったに違いない。 「ちっ、とりあえず早く中に…。」 バアアアン! 今度はガラスが割れた箇所から次々と吹き飛んだ。 「うわああっ!!?」 空気が外に勢いよく出ていく。まるで掃除機だ。 「まずい!何かに掴まれ!」 「そんなもんねーよ!!」 甲板に置いてあったロープや木箱は全て吹き飛ばされてしまった。 そこに残っていたのは、俺たち以外に何も無かった。 何の抵抗も出来ないまま、あっさりと全員外に投げ出される。 「きゃああああ!!」 耳や尻尾が千切れそうなくらいの速度で落下していく。 船はどんどん小さくなり、やがて見えなくなった。 ………………。 …死んだんだろ、俺。 天国か?はたまた地獄か?コンテニュー画面か? だが、いずれも考えられない光景だった。 周りには俺しかいない。 何だここは? と、突然目前に誰かが現れる。 「…誰だ?」 見たこともない変わったローブ、長髪のコラット族の男が立っていた。 「ザックス、貴方を待っていました。」 「…だから誰だよ。何で俺の名を……。」 「ご覧の通り、ここはゲームの世界ではありません。私だけの空間、プログラム。」 「プログ……? !あんた、まさか…!?」 空も地面も真っ黒で、白い何かの文字が辺り一面に流れるように映っている、この光景。 ドクター、あんたの考えは的中したよ。今はもういないみたいだが…。 「……ミュラーです。よろしく。」 「あんた……本当に神なのか?」 「神…ですか。まぁ、この世界を創ったのは私ですから、そうなりますね。」 普通のヒトなら、「あんたバカか?」とか「これは夢だ!」って言うだろうな。 けど、もう何度も信じられない経験を積んでいる俺には到底通用しないサプライズだし、 夢にしては感触がハッキリしすぎている。 「……なぁ。バグって何なんだ?何でここにいるんだ?神なら分かるだろ?」 「そういくつも問われてもいっぺんに答えられませんよ。 まずゲームの方の世界に侵食しているバグの正体は、私にも分かりません。」 そう簡単にはいかない、か。神でも知らないことはあるんだな。 「例え知っていたとしても、私には何の対処もできかねます。」 「…何故だ?世界を創ったあんたなら、異物の一つや二つどうにでもなるんじゃ……。」 「長々と話すのは性に合わないのですが…。 私が世界を創ったのは事実です。しかしそれは私の意思で行なったものではありません。 ゲームを製作するのは神じゃない、ヒトです。 このゲームは私から見た・貴方から見た、ソトの世界のヒトの意思によるものの世界なのです。 私はそのヒトの命令を聞き、一つ一つ作っていった。街を、モンスターを、貴方達PCを。 私は神と言いましたが、ソトの世界のヒトの単なる操り人形でしかないのですよ。 それ故に、ゲームに異常があったとしてもソトの世界のヒトがそれを取り除こうとする意思がない限り、 私は動くことも出来ないのです。」 ソト…また想像したこともない事実を聞いてしまった。 だが筋は通っている。納得せざるを得ない。 「少し前までその、今世界を蝕むバグとは違うバグを取り除く作業を黙々と行なっていたのですが、 命令はパッタリと途絶えてしまいました。もう作業は終わってしまったのかもしれません。」 「そんな……じゃあどうすることも出来ないのか?」 「いえ、そこで貴方の出番ですよ。」 「!」 「唯一私に出来ることは、このような口からの言葉での伝達とPCの思考の支配。 貴方は今気絶しています。その間失礼ながら貴方の意思を支配しました。 貴方をここに呼んだ理由は、これを託すためです。」 ミュラーはそういうと俺の頭に手を置いた。 何かが、キュルキュルと流れていくような感じがした。 「何だこれは…?」 「いずれ分かります。これは貴方にとっても私にとっても、ベストな解決をしてくれるでしょう。 それは、時が来たら貴方の意思なく発動します。しかしそれは普通に待っていて訪れるものではありません。 時は貴方が導き出してください。」 「……そんな事、出来るのか?」 「貴方なら。運命を壊すことが出来た貴方になら、必ず出来ます。必ず。」 「!!」 最後に俺の目に入ったのは、彼の微笑だった。 段々と視界がボヤケ、頭がモヤモヤする。 ――ガランヒル。そこへ―――。 ………。 「………ス…」 誰だ? 「ザ……ス…」 うるせーな。ミュラーの声が聞こえないじゃねーか。 少し静かに――。 「ザックス!!」 「!」 大きな声に驚き、俺は勢いよく体を起こした。 そこはだだっ広い草原だった。 ミュラーの姿は当然、ない。 真横にはシンディだけがいた。 ソフィとディアスはいない。 「ザック……!」 「うわ!?」 俺の顔を見るなり、彼女は突然抱きついてきた。 「ちょ、シンディさん!?」 「良かった……死んじゃったかと思った……。」 「……。」 どうやら気絶してた俺を心配してくれていたみたいだ。 彼女の頬は湿っていた。 それは嬉しいけどさっきまでのだんまりはいかんぞ。 「…ごめん……私…。」 まったく、この状態は俺にとって一生に一度あるかないかっていうスペシャルイベントなわけだが、 そうもゆっくりとしていられない。 「…ガランヒルへ行くぞ。」 「……え?待ってよ。ソフィは…?」 「これ以上は巻き込みたくない。多分次が最後だと思う。」 「………分かった。ザックスを信じる。」 運命を壊す、か。今思えば中々くさい事を言ったもんだな。 だが世界を救うには、それぐらいの力があって当然なのかもしれない。 終焉を迎える段階まで行っていない事を祈りつつ、スっと立ち上がった。 結末(こたえ)を導くのは、この俺だ。 4章"5章"6章 FORMATシリーズ:本編に戻る FORMATシリーズ TOPへ戻る
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/434.html
作者別 作者の方は五十音順,作品は投下順で並べてます。 作者一覧 ◆鴨◆KAMO...m5E 氏 作品一覧 ◆携帯◆4c4pP9RpKE氏 作品一覧 ◆校歌の人◆zpwRGXQQBs氏 作品一覧 ◆寒がり◆e48ruZS9lQ氏 作品一覧 ◆通りすがり◆/zsiCmwdl.氏 作品一覧 ◆へぼ山◆oywuHEBORA氏 作品一覧 ◆星の屑◆mdj2QjZJos氏 作品一覧 ◆見習い◆zYSTXAtBqk氏 作品一覧 ◆わんこ◆TC02kfS2Q2氏 作品一覧
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/555.html
初心者の罠 少しずつ利用者が増えてくると、常連とそうではない者がハッキリと分かってしまう。 それがどうしたと問われたら、織田は今日に限ってこう言うだろう。 それが災いの元になる、と…… 「す、すみませーん。」 「はーい、ちょっと待って……あら?」 カウンターから呼ぶ声が聞こえたので、織田は、 作業中の資料整理を止めて慌ててカウンターの方へと向かおうとしたが、動きを止めてしまった。 そこには誰もいなかった。………いや、よく見れば小さな手の様なものが、 カウンターにしがみついているのが何とか見えた。 少し離れた所からカウンター越しに覗いて見ると、そこにはナマケモノ人の男子生徒が、 プレーリードッグ人の女子生徒を肩車してバランスを取っていた。 しかし、彼にとって彼女は少々重すぎる様で、彼の足取りは、少し危ない状態であった。 「ちょっと樹、しっかり支えなさいよ!危ないじゃないの!」 「紅葉……重い……。」 「何ですって!?アンタ、女の子に向かってなんて事言うのよ!」 彼、樹の言葉に憤慨した彼女、紅葉は、肩車されているにも関わらず樹の頭を何度も叩き始めた。 突然の襲撃のお陰で更にバランスを崩した樹は、今にでも倒れそうに右へ左へとふらついた。 「あ、危ない!」 このままでは怪我をしてしまう。そう思った織田は、 慌てて走り出し、二人の体を後ろからを支える様に掴まえた。 しかし、織田の力では、二人を完全に支える事は僅かながら足りなかった様で、 二人の体重を受けながら後ろへと倒れ込み、図書館に小さな地震を起こしてしまった。 「ご、ごめんなさいごめんなさい!」 「気にしないで。もし、間に合わなかったたら、あなた達の方が怪我するかもしれなかったしね。」 元々怒ろうなどと露ほど思ってなかったので、何度も頭を下げて一所懸命謝る紅葉に、 少々困惑しながらも、愛想笑いする。 しかし、お尻辺りを強く打ったので、二人の見えない様にこっそりと痛みが酷い部分を擦った。 「済みません……」 「そうよ!アンタがバランス崩したからこの人が怪我したのよ!もっと誠意を込めて謝りなさいよ!」 「でも……それ、もみ………」 「人の所為にしなーい!悪いのはアンタなの!」 指を突きつけて有無を言わさない紅葉に対し、 樹は言いかけた言葉を止めて暫く硬直していたが、やがてゆっくりと頷いた。 それに満足した紅葉は、何も言わず腕を組んで鼻高々になって頷いた。 少し居心地が悪くなった織田は、空気を換えようと紅葉に話しかけた。 「ね、ねえ。さっき呼んだのは、何だったのかしら?」 「あ、そうだった。本がどこにあるのか教えて欲しかったんです。」 「何の本かしら?」 「お菓子作りの本です。」 話の流れを変えれた事に安心し、まだ少し痛むのを我慢しながら立ち上がって、 近くにある少し前に作った検索用の簿冊を手に取った。一応、パソコンで検索出来るようにもなってはいるが、 まだ最近入れた本しか入力は終わってないので、いざという時はこちらの方が役に立つ。 本の配置図も載っているので、説明もしやすい。 「料理関係は、Mの棚に置いてあるから……ここね。」 「ありがとうございます!ほら、樹。行くわよ。」 樹の手を掴み、引きずる様に連れて行くその姿は、まるで嵐の様だった。 十分後。司書室に戻って作業を続けていると、戸を叩く音が響いた。 何事だろうかと思いながら戸を開けるが、目の前には誰も居らず、今度は視線を下へ向けると、樹が立っていた。 「あら?どうしたの?」 「本……高い……。」 「本?高い?」 何が言いたいのかサッパリな織田は、オウム返しに聞いてしまった。 樹も何を言えばいいのか考えているようではあるだが、 ゆっくりとした動作と線目で表情が読めない所為で、織田にはそれが伝わらない。 織田がどうしたらいいものかと考えていると、 樹が唐突に、しかしゆっくりと両手を挙げ、バンザイのポーズを取った。 突然の出来事に少し驚きはするものの、何か始まるのだろうかと思うが、それ以上は何も起きない。 「え?え?」 何か意味があるのだろうと理解は出来るが、それが何を意味しているのかは分からなかった。 次第に、もしかして試されている?とすら思えてきた。 「やっぱり。遅いと思って来て見たら案の定だったわ。」 溜め息を吐きながら現れた紅葉に、天の助けだとつい安心してしまい、心の中で樹に謝った。 「本は見つかった?」 「見つかったんですけど、ちょっと高い所にあって、アタシ達じゃ届かないんです。」 それを聞いて、漸く樹の行動が理解出来た。 でも、それでは彼は、彼女がいなければまともな会話は成立しないじゃないか、 と樹の将来について不安を感じてしまった。 それはともかく、今は織田一人だけなので、カウンターから離れるのは余り好ましくない。 しかし、先程の様に肩車で本を取ろうとして、その結果、大惨事を起こされてしまってはこちらとしても困る。 ここは代わりに取った方が良さそうと判断し、その事を告げると、紅葉は素直に喜んだ。 「あの本です。」 紅葉が指を差した本は、確かに高い所にあり、織田でも背伸びをしないと届かない位置にあった。 「ちょっと待っててね。」 近くにある50cm程の台座を持って来て置き、簡単に本を取り出した。 それは、3ヶ月ほど前に出た一流パティシエが監修した、様々な洋菓子の本であった。 「じゃあ、受付を済ませましょう。」 その時、近くで何かを叩いた様な音が聞こえた。 音がした方へ振り向いてみると、樹が振り向き様に本棚に手をぶつけた様で、その状態で固まっていた。 そして、今度は反対側から音が聞こえたので振り向いてみると、本が一冊落ちていた。 それを見て嫌な予感しかしなかった。しかし、向かざる得ない衝動に駆られ、上を向いてみる。 目の前には、大量の本が落ちてくる光景しかなかった。 「はい、一週間以内に返却するようにね。」 「だ、大丈夫ですか?」 額に貼られた小さな絆創膏姿の織田を見て、紅葉は思わず聞いてしまった。 織田は、何も言わずに苦笑にしか見えない笑顔を返した。 二人が帰った後、三日分の仕事を一気にやったような気がして、疲れが襲った。 悪いと思いながらも、後片付けは羽場君に頼もう、そう思いながらカウンターに突っ伏してしまった。 関連:織田 理恵
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/1056.html
陸部! 18 名前: 創る名無しに見る名無し [sage] 投稿日: 2010/08/23(月) 15 53 40 ID a+ySjtbY この後走って逃げた
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/516.html
いくぜ! 300 名前: 創る名無しに見る名無し [sage] 投稿日: 2009/02/01(日) 23 00 46 ID EVpDWZTv
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/6.html
更新履歴 @wikiのwikiモードでは #recent(数字) と入力することで、wikiのページ更新履歴を表示することができます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_117_ja.html たとえば、#recent(20)と入力すると以下のように表示されます。 取得中です。
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/832.html
子守 118 名前: 創る名無しに見る名無し [sage] 投稿日: 2009/08/28(金) 23 51 57 ID FUprV3EO 119 名前: 創る名無しに見る名無し [sage] 投稿日: 2009/08/29(土) 01 03 50 ID tfO29yN+ 年下の扱いには慣れている顔だ 120 名前: 創る名無しに見る名無し [sage] 投稿日: 2009/08/29(土) 01 11 58 ID jU8xVzGp お姉ちゃんの風格出てるな 121 名前: 名無しさん@そうだ選挙に行こう [sage] 投稿日: 2009/08/30(日) 08 52 59 ID WhTJ/OXj 外見は父親似だけど中身は母親似だな
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/193.html
ボスが あらわれた! 指輪、ずっと「三億」だと思い込んでたら素で 「三十億」になってた事に気づかなかった\(^o^)/痛恨のミス。 某芸能巨乳姉妹みたいな指輪だと思って下さい…オワタ… あと、超亀レスなんだけどパロ大好き人間なのでSSから 2枚ほど描かせてもらいました。 ≫20 スレ2≫345 しまっちゃうオバサン ≫38