約 27,258 件
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3141.html
『隻眼のまりさ 第二話』 17KB 群れ 続きです。プロローグからどうぞよろしくお願いします。 初めましての方は初めまして 他の作品を見てくださった方はありがとうございます。 投稿者の九郎です。 タイトルどおり前作の続編です。 ――――――――――――――――――――――――――――― まりさは、一人プライドを抱えていたのだ。 初めは本当に、ただそれだけだったのだ。 ――――某日、昼前―――― 隻眼のまりさは単身、森の中にいた。 今日の『ぶりーふぃんぐ』は ぱちゅりーから特に指示の無い日だったので 一匹で行動していた。 どうしようかと思ってドスと話すと 道路整備が終わったということなので ならば今日は一番遠くまで狩りをしに行ってみようと思ったのだ。 障害物が無く、なだらかな道を走っていた。 走るとは言ってもそれほど急いではいなかった。 実はここは以前ぱちゅりーに言われて調査をしたことがある。 ドスの道路整備をどの方向にするかを決めるための判断材料として。 そのため特に脅威は感じていなかったし実際危ない目にはあっていない。 それに変な奴が出てくれば得意のカウンターで倒してやる、と 少々思い上がったことも考えていた。 「着いた…ここがそうだ」 道路の終点があった。そこからさらに進んでみると そこには多くの食糧があった。 そこは一面の花畑だった。 「ちょっと休んでいこうか…」 ここまで移動して多少体力を使った。 せっかくだから秋の風が運んでくる花の匂いをかぎながら 休憩を取ろうと思った。 花の種や茎はゆっくりにとっての貴重な食糧源だ。 だが一番の目的は花の蜜。 ゆっくりに蜜を集めて保存することなどできないが 花を咀嚼している時、たまにとても甘い味が口の中に 広がることがあるのを知っている。 彼らにとっての一番のご馳走、あまあまというやつだ。 自分の亡き親はハチミツと呼ばれるあまあまを口にしたことがあると 聞いたことがあるが自分は存在すら知らない。 ぱちゅりーから聞いた話によれば 『とても危険な虫さんが守ってるから 自分から取ろうとは考えないほうが身のためよ』 とのこと。 ならば親はどうやって入手したのかとも思うが ぱちゅりーの知識の正確さは確かなので すでに探すのをあきらめている。 「ちょっと食べようかな…」 隻眼のまりさは手近な花に舌を伸ばす。 花の部分を引っ張って千切り、口に運ぶ。 「なかなかおいしいね」 通常のゆっくりなら 『むーしゃむーしゃ、しあわせー!』 と言う所だがまりさは言わない。 家の中ならともかく外で大声を出していれば余計なものが 集まってくるのを嫌というほど体験してきたし それをするとせっかくの食べ物を撒き散らして 量を減らすことを知っているから。 「これはどうかな?」 別の花に舌を伸ばす。 最初はただ食事のために食べたのだが こうして味見してから持って帰る餌を選定するのも悪くない。 「ん~…」 微妙だった。味が薄い。 まりさは分かっていなかったがそれは枯れかけの花だった。 植物のみずみずしさも感じないしましてや蜜の味など全くしなかった。 「こっちの花はおいしいかな?」 また別の花に舌を伸ばす。 そんな作業をしばらく続けた。 ――――同日、夕刻―――― 「遅くなっちゃったよ!!」 まりさは急いで来た道、道路を走っていた。 あの後夢中になって花を食べまくって昼寝までしてしまった。 持って帰る分の花を摘んでいたら日はすでに傾き始めていた。 帰りの時間を考えて早めに帰路に着いたつもりだが 戻る頃には日が落ちるかもしれない。 「ぱちゅりー怒るかなぁ…」 『ぶりーふぃんぐ』は毎日朝夕欠かさず行なわれる。 今からでは完全に遅刻だ。 参加するのはぱちゅりーとドスと『まりさ四天王』だった。 ぱちゅりーは四匹のまりさを見てそう呼ぶことがあった。 なんでも、強い四匹をそう言う風に呼ぶのが 『とれんでぃー』なんだそうだ。 その呼び名は決められていたのだが公然と呼ぶ者は 少なくとも幼馴染のまりさ達の中にはいなかった。 なぜなら自分達は六匹だったのだから。 「大変だよ!日が落ちるよ!」 すでにあたりは暗くなり始めていた。 日が落ちればれみりゃに襲われるということくらい 赤ゆっくりだって知っている。 まりさは一層走る速度を速めた。 「おお、ゆかいゆかい」 唐突にそんな言葉が聞こえてきた。 しかも上からだ。 「ゆぅっ!!??」 空を飛ぶ種族はれみりゃとふらんしかいない。 そう思ったまりさはとっさに戦闘体勢をとる。 複数ならば逃げるしかないが一匹くらいなら何とか応戦できる。 自分には必殺のカウンターだあるんだ、れみりゃなんて怖くない! そう思って上を見上げるとそこにいたのはれみりゃではなかった。 「ゆううう!?あんた誰!?」 「相手に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るものですよ」 そんな言葉が聞こえた瞬間、木の枝の上にいたそいつが急に消えた。 「ゆゆっ!?どこ!?」 「おお、おそいおそい」 きょろきょろと辺りを見回したあと、後ろから馬鹿にしたような声。 振り返るとそこには見慣れないゆっくりがいた。 まりさ自身、そいつを見たことが無かったし誰だか分からなかった。 だが、ゆっくりの本能か、そいつがゆっくりであることだけは分かった。 「まあ、あなたが誰かなど見れば分かりますがね。 私はきめぇ丸と申します」 きめぇ丸と名乗ったその胴付きゆっくりは身体を傾けた不安定な姿勢で平然と立ち 首をヒュンヒュンと左右に振っていた。 「まりさはまりさだよ!何か用!?」 「いいえ?ただ見えたから個人的な感想を述べただけですよ? 話しかけてきたのはあなたの方だと記憶していますが」 相変わらず神経を逆なでするような物言い。 まりさはだんだん腹が立ってきて、声を荒げた。 「まりさは皆の村に帰るところだよ! 邪魔しないでね!邪魔をするなら制裁するよ!!」 「おお、こわいこわい」 そう言った瞬間またきめぇ丸が目の前から消えた。 瞬間移動ではない。ただまりさが目で追いきれないだけだ。 「ゆ?ゆゆうっ??どこ!?」 「こちらですよ」 そう言って振り向くとまた真後ろにきめぇ丸が。 そして、その手に見覚えのある帽子がぶら下がっていた。 「…ゆ?ゆゆうううう!!! まりさのお帽子返してね!!!」 帽子だけではない。せっかく集めた食料も一緒に入っている。 「じゃあ返しますよ」 シュバッと音がした。 頭には食料の入った帽子の感触。 今度は、まりさにも何が起きたのか分かった。 自分のすぐ横を走り抜けて帽子を頭に乗せたのだ。 「ゆ?ゆ?ゆゆ~~~~~!!!??」 「あなたと遊んでもつまらないですね。 そろそろお暇しますよ。 あなたも帰ったほうがいいんじゃないですか?」 そう言うと信じられない速度で木の上に飛び乗り あっという間に見えなくなってしまった。 「ゆ…ゆゆ…」 きめぇ丸との出会い。 これが、隻眼のまりさの転機となることを今は誰も知らない。 ――――同日、日没後―――― 隻眼のまりさは自宅に戻っていた。 今日集めた食糧から貯蔵分を差し引いた残りを 遅い夕食として食べている。 集落に帰ってきてドスの洞窟に行くと 皆がすでにブリーフィングを始めていた。 真っ先にぱちゅりーに怒られた。 遅れたのは事実なので素直に ブリーフィングに遅れてごめんなさいと言うと これはブリーフィングとは反対のデブリーフィングだと 重ねて怒られた。意味はよく分からなかったが。 仲間達はよかった、無事だったんだねと喜んでくれた。 ぷりぷりと怒っていたぱちゅりーも最終的には よく戻ってきてくれたわね、と言ってくれた。 もう少しで捜索隊を出すところだった、とも。 だが、隻眼のまりさはすでにそんなことは記憶の隅っこに追いやって 今日であった奇妙なゆっくりのことを思い出していた。 『おお、おそいおそい』 その台詞を思い出して再びムカッときた。 だがすぐに落ち込んだ。 あれほどの敏捷性を見せ付けられては話にならない。 自慢のカウンターを取ることもできない。 そもそも、大事な帽子をあっさりと奪われた上に あっさりと返されてしまったのだ。 カウンターを取るどころではない。 あいつがその気だったら自分に命は無かったはずだ。 にもかかわらず、こうして生きている。 「ゆぅぅぅぅぅぅ……!!」 実はこの隻眼のまりさ、足の速さにはこだわっていたのだ。 それは、ドスがドスになるよりも以前の話。 自分たちの切り込み隊長であった頃だ。 リーダーは六匹の幼馴染の中で最も足が速かったことを皆認めている。 そして、それが故に体当たりの威力が一番強いということも。 ――――二年前、某日、夕刻―――― これは、あの地獄からさらに数ヶ月前。 ぱちゅりーがこの集落にやってきた頃の話だ。 「長ー!大変だよ!リーダーが戻らないんだ!!」 「ゆゆっ!?どうして!?」 一匹のまりさが長の家に飛び込んできた。 今はまだ隻眼ではないが、例のまりさだ。 当時の長は今は亡きれいむだった。 集落で一番強いリーダーまりさの母であり、数十匹の子ゆっくり達を育てた上で 自立させるまでに至った経緯が皆の尊敬を集め、前の長に推薦されたのだ。 「早くしないとれみりゃに食べられちゃうんだねー!わかるよー!」 「そんなことないんだからね!れいむの産んだあの子は れみりゃに食べられるほど鈍臭い子じゃないよ! 必ず無事でいるはず!皆で探しましょう!」 「むきゅ!駄目よ!探しに行っては!」 ぱちゅりーが長の家の奥から出てきた。 拾われたぱちゅりーは最も子育てのうまいと言われる長の下で暮らしていた。 長は番のまりさを亡くし、子供も皆自立してしまって寂しかったので ぱちゅりーを受け入れることを快諾したのだ。 そして同時に、ぱちゅりーの知識はいずれ必ず集落のためになると。 それを活かす事ができるだけの立派なゆっくりに育て上げるのだと。 「どうしてそんなこと言うの!? リーダーは必ず生きてる!皆で助けないと!」 「だからよ!あなたたちのリーダーはたとえ れみりゃに襲われても自力で戻ってこられるわ! だけどあなた達以外のゆっくりは 今から出て行ってれみりゃに襲われたら助からないわ!」 ぱちゅりーの言うことは正しい。 まりさも言われて頭では納得した。 だが、リーダーが危険な目に合ってるかもしれない。 場合によっては動けない状況にあるかもしれないと思うと いてもたってもられない。 「だったらまりさだけでも!! 今ぱちゅりーはまりさ達以外って言ったよね!? まりさは助けに行っていいんだよね!?」 「む…むきゅぅ…」 思わぬ切り返しを受けてぱちゅりーが言いよどむ。 それを見て仕方がない、というように長のれいむが口を開く。 「分かったわ、貴方は行ってきてもいい。 他のまりさにも声をかけておくから。 でも一晩中探すとかは駄目。れみりゃが来る!危ない!と思ったら すぐに帰ってくること。いい?」 「分かったよ!!」 まりさはそれを聞くやいなや長の家を飛び出した。 ――――二年前、同日、日没―――― 「リーダー!!リーダー!!いるー!!?」 日没のすぐ後。 まりさはまだ森の中にいた。 この時間になると鈴虫が鳴き始めあたり一面が 現在は夜であるというような主張をしている。 「リーダー!!聞こえたら返事してー!!!」 ゆっくり達が『リーダー』という呼び名を使うのは極めて珍しいことだ。 おとうさん、おかあさん、おちびちゃん等は当たり前に使われる。 『長』も必ずいるとは限らないが群れがあれば決して無いとは言えない。 だが、幼馴染同士での『リーダー』という呼び名は通常使われることは無い。 「リーダーーーーーーーーーーーーー!!」 あらん限りに大きな声を出す。 「はあっ…はあっ…はあっ…」 少し立ち止まって休む。 大声で叫び続けて、思い切り走り続けて、まりさは体力が底を突きかけていた。 リーダーを心配する思いから体力配分など考えずに探していたのだから当然だ。 「リーダー…」 少しかれた声でつぶやく。 幼馴染六匹の中で最も足の速かったリーダー。 自然、移動する時はいつも皆の先頭に立っていた。 自分は二番だ。 リーダーの背中を見失わないように そして誰にも二番を渡さないように ただひた走った。リーダーの背中を追って。 追い抜けたことは一度も無い。 それでもよかった。 リーダーは自分が一番であることを特別なことではないと言っていた。 空を飛ぶれみりゃの速度には敵わないし 結局六匹全員がついてこれているのだ。 狩りや戦いでは皆の力を合わせなければならない。 だからこそ自分が速ければいいのではなく 皆が、全員が速くなれればいいのだと。 だからこそまりさは追いつこうとは思っても 追い抜けなくてもいいと思っていた。 一番になるのは特別なことじゃない。 皆で走れることが特別なのだと。 「リーダー…」 そしてこうも言っていた。 皆で走れることが重要なんだ。 だから一人で走るな。 たとえ誰かのためであっても今いる皆と走ることを考えろと。 それが意味することをまりさは今気付けた。 「リーダーぁ…!!」 自分はこれ以上走ると疲れて集落に戻れなくなる。 それに長と約束したんだ。 危ないと思ったら戻れと。 まりさは涙が止まらなかった。 今ここで前に進めば自分は生か死だ。 でも戻れば高い確率で命が助かる。 でもリーダーは? 少ない可能性であっても助けに行くべきじゃないか? 今、リーダーはあと少し進んだ先で助けを求めているんじゃないか? そんなことは分からない。 分からないから、戻るしかない。 まりさは歯を食いしばって集落の方向に向かって走り出した。 リーダーではなく、約束を守るために。 ――――二年前、翌日、朝方―――― まりさは沈んだ思いのまま眠りについて次の朝を迎えていた。 眠らずにリーダーを待とうと思ったが疲れていたので眠ってしまった。 そして朝日を見たまりさはすぐに長の元へ向かっていた。 「長!!長!!リーダーは!?」 長の家の前で大声を出す。 出てきたのは長ではなくぱちゅりーだった。 「戻っていないわ…」 「………っ!!」 まりさは歯噛みする。 しかし取り乱すことは無かった。 予想できた結果なのだから。 「まりさ、あのね…」 「うるさい!!」 「むきゅ!!」 大声を出してぱちゅりーを黙らせる。 八つ当たりではあるが、今のまりさには我慢ができなかったのだ。 「まりさ!聞いて!」 「何!?」 再び大声を出す。 一瞬びくっとしたぱちゅりーだが再び口を開く。 「長からの伝言よ。 日が昇ったらあなた達のリーダーを探しに行ってもいいって。 勿論日が沈むまでだけど…」 「…わかったよ、ありがとう」 まりさは背を向けて歩き出した。 今から探す?気休めもいいところだ。 夜間はれみりゃやふらんが飛び交ってまりさ達を探している。 奴らだって生きるためなのだ、必死で探しているだろう。 そして一匹でいるところを見つかれば、助かるはずが無い。 今から探すことができるのは、リーダーではなくリーダーの死骸だ。 そんなことを考えながら昨日行った森へ もう一度探しに行こうと考えいていると 「皆ー!!ドスだ!!この群れにもドスが来てくれたよー!!!」 「…!?」 群れのちぇんがそんなことを言いながら走ってきた。 まりさはぱちゅりーと顔を見合わせると ちぇんが来た方向へと走っていった。 「みんなー!ただいまー!!」 「…え?」 まりさは思わず間抜けな声を出してしまった。 そこにいるのはまごう事なきドスだ。 体長は2メートル前後。体重は数十キロに及ぶだろう。 だが問題は、その見たことがある黒いトンガリ帽子。 「リー…ダー……???」 「まりさ!!うん!!そうだよ!!リーダーだよ!! まりさもドスになれたんだよ!!」 ――――二年前、同日、夕刻―――― まりさ達のリーダーを探しに行っていた皆も戻ってきて リーダー帰還とドスの登場にお祭り騒ぎとなっていた。 ぱちゅりーが人間の世界で仕入れていた情報によると ドスになる条件の一つに屋外で一晩寝るというのがあるそうだ。 家の中にいては巨大化できない。それはある種理解できる。 そしてもう一つ。 身体能力が十分備わっていること。 これも理解できる。 自分達幼馴染六匹は群れの中で屈指の実力者だったし なんといってもリーダーはリーダーだ。 村の中で一番強かったと言ってもいい。 他にも条件があるかもしれないが、人間にも 全てが分かっていなかったそうだ。 ぱちゅりーに言わせれば、れみりゃに襲われなかったことも含めて 運がよかっただけかもしれないと言っていたが まりさとしては最強がより強くなっただけなので それほど疑問を持たなかった。 その後あれよあれよという間にリーダーは長に祭り上げられた。 元村長のれいむの推薦もあり、トントン拍子に話は進んだ。 でも、件のまりさはちょっと複雑な気持ちだった。 自分が背中を追い続けてきたリーダーは皆のリーダーになってしまった。 リーダーがドスになったことが嬉しくないはずがない。 村長になったことも祝福すべきことだ。 ドススパークで岸壁に穴を開けるのには自分だけでなく皆が狂喜乱舞した。 でも、一つだけ。 新しくできたドスの家に向かうリーダーと一緒に走ったら あろうことか、追い抜かしてしまったのだ。 え?と思って振り返りどうしたの、と聞いてみると 照れたような、困ったような笑顔を浮かべながら 大きくなって跳ねるのが億劫になった、と これからはまりさが一番前を走るといいよ、と言っていた。 まりさは、それがショックだった。 一番になることは特別なことじゃないというのはリーダーの言葉だ。 でもリーダーが一番であることは、やはりまりさにとっては 特別なことだったのだ。 ――――元の日付、同日、深夜―――― あれから、まりさは走る練習を繰り返した。 体当たりを磨きに磨いた。 リーダーの言葉はいつだって正しかったけど やっぱりまりさにとって一番はリーダーであって欲しかった。 そしてリーダーを追い抜いてしまったことで一つの目的ができた。 それは誰にも抜かれないこと。 今の自分が一番速い存在であること。 もし、自分が追い抜かれてしまえばその時はリーダーが追い抜かれる時だ。 少なくとも二番目に足の速かった自分が追い抜かれない限り あの時のリーダーは最速のままだ。 しかし、その誇りもあっさり砕かれてしまった。 れみりゃは別だ。確かに直線移動は多少速いかもしれないが動作は遅い。 自分にカウンターが取れるくらいなのだから。 だがあいつは? あんなに速いなんて反則だろう。 走って走っていつかはれみりゃより速く走ってやるなんて思いはあったが あそこまで速く走るなんて想像もつかない。 だがあいつもゆっくりだ。自分にもできないはずがないんだ。 自分には何が足りないんだ? 練習?冗談じゃない。自分は走る練習を怠ったことなどない。 才能?冗談じゃない。自分はともかくドスになれたリーダーが才能に優れていないはずがない。 食料?冗談じゃない。この森で取れるものは殆ど食べたことがある。 じゃあ何が足りないんだ。 あのきめぇ丸とか名乗った奴は胴付きだった。 胴があればいいのか?でも、空を飛んでいた以上 あの長い足があるかどうかはあまり関係ないのだろう。 再びあいつの顔が浮かんできた。 腹が立つ。記憶の中のあいつはとてもゆっくりした顔をしていた。 ……………………………ゆっくりだって? 冗談じゃない。自分は今速く走る方法を考えているんだ。 ゆっくりしている暇などない。 まて、自分達は狩りをするのも番を見つけるのもゆっくりするためだ。 いや、ゆっくりしていたらあいつだけじゃない。れみりゃにだって食われるかもしれない。 ゆっくり?ゆっくりってなんだ? そこまで考えたとき、隻眼のまりさの頭の中にあるパズルのピースが 例の違和感のあった隙間に、ぴったりはまるのを感じた。 続く あとがき 過去パートばかりでなかなか先に進めませんね。 決して急ぐ意味もないんですが。 あと第一話のところで『プロローグを見てください』と 書くのを忘れてしまいました。なんてこったい! それになんかいまひとつ人気ないですねー。 結構ここで書こうとしているテーマ気に入っているんですが…。 まあそんなこんなで皆様のお目汚しになっているかもしれませんが 非公式の感想掲示板などでもいいので悪いところを指摘してもらえれば もっと面白くなるかもしれませんし 再生数が伸びれば私もフオオオオオオオオオオオッ!!と やる気が出るのでお時間があれば応援していただければ幸いです。 催促するのもどうかとは思いますが。 最後に、この作品を読んでくださった全ての方に無上の感謝を。 私がここに投稿させて頂いた作品一覧 anko3052 ゆっくり駆除業者のお仕事風景 anko3053 ゆっくり駆除業者のお仕事風景2 前編 anko3054 ゆっくり駆除業者のお仕事風景2 後編 anko3060 ゆっくり駆除業者のお仕事風景3 anko3061 隻眼のまりさ プロローグ anko3075 隻眼のまりさ 第一話 anko3084 ゆっくり駆除業者のお仕事風景 幕間
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/1984.html
前 森を踏み倒しながら進んでくる、巨大ゆっくりの群れがあった。 先ほど村を襲った群れなどとは比べ物にならない大規模なものだ。 その中心にいるのは、ゆっくりゆゆこ。大喰らいで知られるゆっくりで、英雄や妖怪すら食べたという。 その食いしん坊が焼き饅頭の美味しそうな匂いに引きつけられ、村の方へと進軍していたのだ。 「ゆっ?おにいさんはだれなの?」 「こっちのほうからおいしそうなにおいがするよ!ゆっくりとおしてね!」 「じゃましないでね!ひとりじめはよくないよ!ぷんぷん!!」 「……行くぞ、ギャクタイザー」 頬を膨らませて怒る巨大ゆっくり達を前に、巨神は大剣を地面に突き刺す。 遥か地下まで届く剣は、地下水の流れに干渉し、その量を増幅させ……地上の一点において爆発させた。 「ゆゆゆぅぅぅぅぅぅ!!?」 「なにこれ!!おみずがいっぱいでてきたよ!!」 「みずうみよりいっぱいだね!」 「しゅっきりできりゅよ!!」 「ゆっ、こんなにいっぱいあったらゆっくりできなくなるよ!!おうちかえる!!」 この土地は山々に囲まれた盆地である。大量に湧き出した水は流れ出ることなく、その場に溜まっていく。 山を越えて逃げようとするゆっくりもいるが、巨神の力により山は隆起を起こし、その高さを増していた。 「ゆっ、ゆっ、な゛んでにげられな゛いのおお゛ぉぉぉおおおぉぉ!!」 「くるときはどおれだのに゛いぃぃぃぃぃ!!」 「ゆっぐりでぎなぐなるううぅぅぅぅぅ!!」 「おかあしゃあああぁぁぁん!!うごけにゃいよおおぉぉぉぉぉ!! 「ゆっ・・・くち・・・」 自分達を溶かすほどの大量の水になど、ほとんど出遭ったことが無いはずの巨大ゆっくり達だが、 それでも水を恐れるのはゆっくりとしての本能故か。 背丈の小さな赤ゆっくり、子ゆっくりなどは、次々に体が溶けて行動不能になり、死んでいった。 「おにいざん!!だずげで!!だずげでね!!」 一匹のれいむが、水の中でも平然と佇んでいる巨神に縋りつく。 「ほほう、殊勝なゆっくりだな」 「おみずごわいよ!!ゆっぐりもちあげてだずげでね!!」 「どれ、そうしてやろう」 「ゆゆっ!」 家や城すらも押し潰すほどの重さを持つ巨大れいむを、巨神はいとも軽々と持ち上げてみせる。 誰かに持ち上げられた経験など当然あり得ないれいむは、今しがたの恐怖も忘れ、新鮮な体験に心から感動した。 「ゆっ!すごい!すごいよ!!」 「はっはっは、楽しいかい」 「ゆゆ~!おそらをとんでるみたい!」 「そうかそうか、じゃあ今度は本当に飛ばしてやるよ」 「ゆ?」 巨神の機械の腕が熱を持ち、倍ほどの太さに膨れ上がる。力を溜めているのだ。 そして腕から蒸気が噴き出すと、巨神はれいむを空高く放り上げた。 「ゆっ!たかいたか~い!」 「タイザースカイハイ……ゆっくり楽しんでいきな」 凄まじい速度で垂直方向に上昇していくれいむ。 自分を持ち上げてくれた大きなお兄さんも、水の中でもがき苦しんでいる友達のゆっくりたちも、 それを取り囲んでいる山々、その外側にある村や川など、全てが瞬く間に小さくなっていく。 「ゆ~!すごい!みんながおまめつぶみたいだよ!!」 巨大になった事で鈍重となり、決して得られることのないと思っていた鳥の目線が、れいむの眼前に広がっていた。 餡子が興奮と幸福に満たされていくのを感じるれいむ。 「ゆっゆゆっゆ~♪ゆゆゆ~ん♪」 楽しくなって歌を唄い出す。が、自分の歌もすぐに聴こえなくなる。空気との摩擦音で。 「ゆっ?なんだかあついよ!!」 顔を下に向けて飛んでいたれいむは、後頭部が段々熱くなってきているのを感じる。 大気の層に突入し、激しい空気の摩擦が高熱を引き起こしていたのだ。 髪が焦げ、やがてリボンが燃え尽きるのを感じ取る。 「ゆびゃああああぁぁぁぁ!!でいぶのおりぼんがああぁぁぁぁぁ!!」 そんな叫びを上げるも、もう聴こえない。摩擦音の激しさだけでなく、聴覚の役割をする表皮が焼け焦げているのだ。 「なんでぎごえないのおおぉぉぉぉお!!ごわいよおおぉぉぉぉぉ!! み゛んなどごいぐのおぉおぉぉぉぉぉぉぉ!!でいぶをおいでがないでぇぇぇぇぇぇ!!」 どんなに叫んでも、れいむの声が地上の仲間に届くことはない。目に映る全てはれいむから遠ざかっていく。 やがて大気圏を突破したれいむはしかし、奇跡的に原型を留めていた。ただし、五回りほど小さくなってはいたが。 中心核に当たる餡子さえ残っていれば、ゆっくりは死なないとも言われる。 もしそうであれば、宇宙空間を漂うこの小さな餡子の塊は、 やがて引力に惹かれ燃え尽きるまで、何を思って星を回るのだろうか。 「ふぅ~~……『でいぶのおりぼんが』……か」 驚異の虐待聴覚により、巨神はれいむの大気圏からの叫び声を聞き取っていた。 また一つの虐待を済ませ、ひと時の安息を得る巨神とお兄さん。 だが彼らがふと気付いた時には、もう盆地の水位はゆっくりにとっての安全域まで下がっていた。 「なっ……一体何が!?」 「ちゅごごごごごーーーーっ」 激しく水を吸い立てる音。群れの中心に、飛びぬけて大きなゆっくりがいる。ボスゆゆこである。 その恐るべき食欲を以て、盆地を満たしていた地下水をほとんど吸い込んでしまったのだ。 元々他の巨大ゆっくりの数倍の大きさを持っていたゆゆこだが、水を吸うことで更に大きくなったようだ。 「ゆゆっ!ゆゆこのおかげでたすかったよ!!」 「やっぱりゆゆこはとってもゆっくりできるゆっくりだよ!!」 「ゆふん!!」 水を吸い終え、周囲でふやけているゆっくり達に称えられてふんぞり返るゆゆこ。 周囲のこのような態度が奴を増長させ、ここまで巨大な群れを作らせていったのだろう。 「チッ……さっきから気になってはいたが、やっぱでけえな」 「ゆっゆっゆっ!おにいさんなんてゆゆこにかかればいちころだよ!」 「ひとくちでむしゃむしゃされちゃうよ!」 「おお、あわれあわれ」 「だからさっさとどいてね!?いたいめみたいの?しぬの?」 「みのほどしらずのおにいさんはゆっくりしんでね!」 ゆゆこの周りのゆっくりたちが、ニヤニヤしながら巨神のほうを見ている。 ゆゆこもそれに合わせてニヤニヤし始める。巨神とお兄さんの寿命はストレスでマッハだった。 「身の程知らず、か……お前らの身の程は如何程か見せてもらおうか。 踊れ、タイザーフック!!」 巨神が両腕を前方に突き出すと、その手首から無数のワイヤーが射出される。 ワイヤーは遥か上空へと伸びていくと、それぞれ『何もない空中に引っかかっ』た。 そのまま地上へと伸びていくワイヤーの先端には、鉤爪状のフックが取り付けられている。 それらはゆっくりたちの帽子や髪飾りを引っ掛け、再び上空へと昇っていった。 突然髪飾りを奪われたゆっくり達は、余裕の表情を一切失って慌て始める。 「ゆゆっ!まりさのおぼうし!!」 「れいむのおりぼんがあぁぁぁぁぁぁ!!」 「どうじでごんなごどするのおおぉぉぉぉぉ!!」 「ぼうしがないとゆっくりできないよ!!ゆっくりしないでかえしてね!!」 「じゃ、自分で取ったらどうなんだ」 「ゆっ!ゆっくりとるよ!!ゆっくりおろしてね!!」 ワイヤーフックはスルスルと降りてくる。ゆっくりが必死でジャンプしてギリギリ届く位置だ。 ゆっくり達はみな必死な表情で、口をぽかんと開けながらぴょんぴょん跳ねている。 「ゆっくりかえしてね!ゆっくりかえしてね!」 「ぴょんぴょんするよ!ゆっくりとらせてね!!」 「ゆっゆっ!ぼうしをかぶるとゆっくりできるよ!!」 だがそもそも、ゆっくりの身体で物を扱うことが出来るのは口だけである。 つまり吊るされた髪飾りを回収するためには口が届かなければいけないわけだが、 人間が手をかざしてジャンプするのとは異なり、ゆっくりの口は体の正面方向についており、真上を向くことが出来ない。 よって「ギリギリ届く」というのは、跳躍の頂点である頭頂部が髪飾りにギリギリ触れる程度、という意味だ。 そしてゆっくりは頭部に髪飾りが触れていない時、本能的に「ゆっくり出来ない」と感じる。 裏を返せば、触れてさえいればその不快感は払拭されるのだ。たとえそれが一瞬だったとしても。 最大の跳躍により、髪飾りは一瞬だけ自分の頭に触れる。その刹那の安息を求め、ゆっくり達は延々跳ね続ける。 完全に髪飾りを取り上げる絶望よりも、一筋の、本当にほんの一筋の光明を――― ゆっくりの行動を操作するにはこれに限る、というのが、この虐待お兄さんの持論であった。 またこうしてゆっくり達に「ゆっくりできる手段」を与えることで、巨神本体への意識を逸らし、攻撃を防ぐ狙いもあった。 「ゆっ・・・ゆっくり・・・できるよ・・・」 「ゆっぐりおぼうしかぶるよ・・・ゆっぐりぃ・・・」 「おいおいどうした、もう息が上がってんのか? うちで飼ってたチビゆっくりだってもうちょっと根性あったぜ?」 ゆっくり達が跳ねる度に起きていた地響きも、次第に小さくなっていく。 巨大ゆっくりはその巨体故、跳躍を得意とする個体は少ない。体力の消耗が激しすぎるためだ。 瞬く間に群れ全体から元気が失われていく。跳躍の高さも少しずつ低くなっていくようだ。 「しょうがないなあ、じゃあもう少し下げてあげるよ! ゆっくり取り戻してね!」 「ゆゆっ!おにいさんありがとう!!」 「ゆっくりおぼうしおろしてね!」 巨神はゆっくり達が髪飾りを取りやすいように、ワイヤーを更に下に降ろしていく。 しかしこれも古代コンピュータにより、疲労したゆっくりの最高到達点を計算した結果の絶妙な位置調整であり、 決して髪飾りを口でくわえて取り戻すには至れない。 そして高さだけでなく、その位置自体を少しずつずらしていく。 「ゆっ!おぼうしおぼうし!!」 「ゆびゃっ!まりざ!なにずるの゛!!」 ずらした先は、体がふやけて動けなくなっていたゆっくりの頭上。 巨体に踏みつけられ、柔らかくなった体はひとたまりもない。 しかし自分のゆっくりを追求することに夢中な飾り無しのゆっくり達は、仲間を踏んでいることにも気付かない。 「ゆびゃっ!やべでええ!ゆぐ、ゆっぐりでぎなぐなるうぅぅぅぅ!!」 「な゛んでふむの゛!!ゆっぐりつぶれちゃ、つぶれぢゃっ」 「ゆ゛ぅ・・・ゆ゛っ、ゆっぐりじでいっで・・・ね・・・」 「ありますよね~、何かに夢中で周りが見えなくなることって」 次々に潰されていくゆっくり達を眺めながら、虐待お兄さんは一人うんうんと頷く。弟の顔を思い出しているのだろうか。 足場となるゆっくりが潰れていくのだから、それに合わせて高さを調節されていた髪飾りも、 当然跳ねているゆっくり達からは遠ざかっていくことになる。 自分の位置が下がっているなどとは露ほどにも思わず、ゆっくり達は髪飾りが遠ざかることに激しく苛立つ。 「ゆ゛あああ゛ぁぁぁぁぁ!!なんでだがぐなるのおぉぉぉぉぉ!!」 「ざわれないよぉおぉぉぉぉぉ!!ゆっぐりでぎないいぃぃぃぃぃ!!」 「よーし、今度こそ返してやるから頑張ってね!」 お兄さんは再びワイヤーの位置を移動させていく。ゆっくり達は極めて従順にそれについてくる。 髪飾りの方ばかり見ている為、先ほどに引き続き足下は見ていない。 だから、自分達が山を登っていることにも気付かない。ゆゆこという巨大な山の上に。 「ゆっくりおぼうしとりかえすよ!」 「おりぼんつけてゆっくりするよ!!」 「ゆっゆっ、つかれたけどがんばってはねるよ・・・」 「ん゛~~~~~~!!ん゛~~~~~~~~!!」 ボス格であるのに、群れのみんなが虐められていても先ほどから身動き一つせず、文句の一つも言わなかったゆゆこ。 怠けて何もしなかったわけではない。実際は動くことも話すことも、何も出来なかったのだ。 自らの体積を超える量の地下水を飲み込んだため、体内に圧縮された水分量はとっくに飽和状態に達している。 それこそ口を開けば、水で極限まで薄められ、液状化した餡子が流れ出てくるほどに。 だから口を必死に閉じて我慢している。口を開けてしまえば自分が死ぬだけでなく、また盆地は水に満たされ、 他のゆっくり達を押し流すことになる。群れのリーダーとして、そんなことは出来ない。 だから上から踏み付けられて中身を圧迫されても、口を開けて文句など言えず、逆に必死に唇を結んでいた。 「ゆっ!とれるよ!もうちょっとだよ!」 「おりぼんがあたまにさわるとゆっくりできるよ!もっとさわってたいよ!!」 「まりさのおぼうしおりてきてね!!ゆっくりしたおぼうしならいうこときいてね!!」 「ほらほら~、もっと頑張って跳ねろよ。もう少しで取れるかもよ!」 髪飾りを吊るしたワイヤーを揺らすように激しく上下に動かし、取れるかも知れない雰囲気を演出する。 飾り無し達は「ゆゆ~~~!!」と色めきたち、より興奮した様子で跳躍し始める。 だらしなく開かれた口の端からは涎が辺りに飛び散っていた。 「おぼうし!おぼうし!」 「でいぶのおりぼんーーーー!!」 「ん゛~~~~っ、ん゛~~~・・・ん゛ばあああああああぁぁぁぁぁ!!!」 その激しさを増した圧迫に、ついにゆゆこの口が限界を迎える。 口からは薄黒く染まった濁流が溢れ出し、巨大な体は気球が萎むようにしおしおと地面に広がっていった。 山一つ分ほども地面が下がっていき、急激に遠ざかっていく髪飾りにゆっくり達は戸惑った。 「なんでおりぼんどっかいっぢゃうのおぉぉぉぉぉ!!」 「まりざのおぼうじがえっでぎでよおおお゛ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 「ゆっぐりでぎないよおぉぉぉぉぉぉ!!」 「ハハハ、みんなよく頑張ったね。そら、ご褒美だ!」 お兄さんがそう言うと、髪飾りは鉤から外れ、ワイヤーは瞬く間に巨神の手首へと返っていく。 至福の笑顔で落下していく髪飾りを眺めるゆっくり達。 しかしその目線が地表へと近付くにつれ、徐々に恐ろしい事実が明らかとなる。 髪飾りが落下する、ぱちゃん、という水音で、ついにゆっくり達はその現実を認識した。 「な゛んでまたおみずがあるのおおぉぉぉぉぉぉ!?」 「どげぢゃうよ゛!!おりぼんあっでもゆっぐりでぎない!!」 「ゆゆごはなにやっでるの!!やぐだだずのでぶりーだーがあぁぁぁぁぁぁ!!」 「ゆゆこならさっきお前らが皆で踏み潰しただろ……聞いてないか」 恐慌状態に陥るゆっくり達だが、髪飾りの回収だけは忘れていない。 まりさ種は帽子を水面に浮かべ、上に乗ることで難を逃れている。 この巨体を支える浮力を得られるような帽子には見えないのだが、饅頭の装飾品は不思議がいっぱいだ。 「ゆっ!いいなまりさ!!れいむもそれにのせてたすけてね!!」 「だめだよ!このおぼうしはまりさひとりようだよ!れいむはゆっくりとけてね!」 「どぼじでぞんなごどいうのおぉぉぉぉぉぉ!?れいむだぢふうふでじょおぉぉぉぉぉ!!」 「ごべんねれいむ゛!!でもゆっぐりじんでねえぇぇぇぇぇ!!」 このような光景が至るところで繰り広げられている。 ところで、この盆地を満たしている濁流は単なる地下水ではない。 「ゆっ!?まりざ、しずんできてるよ!!」 「ゆゆ゛っ!なんでなのぉぉぉぉ!!ばりざのおぼうじはじずまないはずなのぃぃぃぃぃ!!」 「れいぶをみすてたばつだよ!!ゆっくりはんせいしてよね゛!!」 「やだよぉぉぉぉぉ!!でいぶゆるじでえぇぇぇぇぇ!!」 勿論、れいむが許したところで事態がどう好転するわけもない。 この濁流はゆゆこの体内から流れ出したもの。ゆゆこの内容物の全てが溶け出しており、 その暴食を実現する消化作用……人間で言えば胃酸のようなものも、薄まっているとはいえ流れ出している。 その薄められた酸が、まりさの帽子に穴を空け、浸水を引き起こしていたのだった。 巨神の体は、一切浸蝕を引き起こす様子は無い。元よりゆっくりの攻撃は効かないのである。 「ゆ゛うぅぅぅぅぅぅ!!ゆ゛うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」 「どげぢゃう!!まりざだぢみんなとけぢゃう!!」 「おにいざんみでないでだずげでええええぇぇぇぇぇ!!」 「しょうがないなぁ、よっと」 巨神は腰を屈めると、両手をも餡水の濁流の中へと突っ込む。 「ダブルタイザーコレダァァァァーーーー!!」 「「「「ゆびびっびびびっびびびびびびびびびびびびびびびび」」」」 巨神の両手首、両足首から突き出した無数の槍からは、またしても超高圧電流が放電される。 それは水を伝って群れの全てのゆっくり達へと行き渡り、余すことなく感電をもたらした。 激しいうめき声を上げたゆっくり達は、数秒後には物言わぬ餡塊と化し、ゆっくりと水に溶けていく。 あまりに喧しい巨大ゆっくり達の悲鳴に、騒音被害を考えたお兄さんが取った苦肉の策であった。 電撃を流しながら、巨神は再度「ヒャァァァ」と雄叫びを上げる。 「爽快感に満ちているのか? ギャクタイザー……確かにこれは壮観だ」 山の盆地に満ちる黒い水、その上を漂う巨大なリボンや帽子などの髪飾り。 虐待ガルガンチュアの名残は、幻想の名に相応しい悪夢的な様相を呈していた。 「なんで・・・ゆっぐぢ・・・でぎない・・・の゛・・・」 生き残って呻いていた最後のゆっくりを踏み付けると、巨神は静かに沈みゆく夕陽を見つめた。 巨神と共に村へと戻ったお兄さんは、巨大ゆっくりのボスであるゆゆことその取り巻きを倒したことを長老に報告する。 お兄さんに白い目を向けていた村人達は一転、彼を英雄として称えて騒ぎ始めた。 「虐兄よ、そなたは間違いなく幻想郷一の英雄じゃ。わしはそう確信した。その名は後世まで称えられよう」 「兄ちゃん、俺兄ちゃんのこと誤解してたよ! 一念通ずっていうか……何かに対して本気になるって、スゲーことなんだ!!」 「この何とかイザーとかいう機械人形も長老の話だと、お前じゃなきゃ操れなかったそうじゃないか。 いや、大したもんだ。今まで散々嫌味を言ったりして悪かった」 次々に祝いと感謝の言葉を述べていく村人に、しかし虐待お兄さんは渋い顔をした。 「やめてくれ、みんな……俺とギャクタイザーは、ただ欲望に従ってゆっくりを虐待したに過ぎないんだ。 今回はただ、その結果として村を守ることに繋がっただけだ。本当はただ俺達が満足しただけ。 何も褒められることなんてしていないんだ」 「うむ、わかっておるぞ。おぬしの性根が穢れ切っておることはな。 しかし、その上で敢えて言わせてもらおう。村を守ってくれて、ありがとう」 「ふ……感謝は有り難いけど、やはり素直には受け入れられないね。 それに俺がどんなことをしたって、俺が一人で地下に篭もってる間に、見殺しにしていった人達は……」 その時、広場に佇んでいたギャクタイザーから不思議な光が満ち溢れた。 地下室でお兄さんを包んだ光に似た、しかしもっと優しいものだ。 お兄さんは虐待好きの同族として、その光の本質を感じ取った。あれはスッキリした感情を表しているのだと。 その光は優しく、しかし大らかに広がり、村全体を包み込んだ。 「おお、何と神々しい……これが太古の巨神の……」 「お、おい見ろよあれ!! 餡子の中から……」 村に散乱していたゆっくりの死骸や、焦げた破片の中から、次々に沸き出すように出て来る者がある。 それは裸の人間であった。ゆっくりに食べられたり殺されたりしていった村人達が、蘇ってきたのだ。 「こ、これは一体どういうことだ!?」 「おばあちゃん!! おばあちゃんなんですか!?」 「ママぁぁぁーーー!! こわかったよおぉーー!!」 「と、父ちゃん! 兄ちゃんがやったんだよ、あのゆっくり達を!!」 思いがけぬ再会に、一様に涙を流して狂喜乱舞する村人達。みなゆっくりによって友達や家族を奪われていたのだ。 ぽかんと口を開けてその様子を眺めている長老、そして虐待お兄さん。その心に巨神の言葉が流れ込んでくる。 『我はゆっくりによりて人心に遺恨、受傷が残ることの一切を許さぬ。 よって虐待により得られた快感を力に変え、可能な限りの修復を図ったのだ』 「ふっ……全てはスッキリに向けて完結すべし、か。どこまでもご都合の良い野郎だぜ!」 「奇跡じゃ……巨神の力によって奇跡が起こったのじゃ……」 「おい、こっちには博麗の巫女もいたぞ!」 「どぼじでこの人だけ服着でるのぉぉぉぉぉぉぉ!!?」 ふと山の方に目を向けると、隆起していた山並みは元に戻り、川となって流れて来た餡子水の中にも、 多くの人間がぷかぷか浮かんでいる。各地の村で襲われた人々だろう。 『ちなみに我の力によって変形させた山、吸い上げた地下水、全ては支障の無いよう元に戻しておいた』 「虐待が終わったらきちんと後片付け。つくづく一流だぜ……お前はよ」 「虐兄よ。巨頭の一角を破ったとはいえ、巨大ゆっくりはあれだけで終わりではない。 この幻想郷中で未だに人々を苦しめ、暴虐の限りを尽くしていることだろう。 しかし、暴虐を以て暴虐を制す……長老としての命じゃ。虐兄よ、世界中のゆっくりを虐待して来い!」 「言われなくとも!」 『ヒャァ! 虐待だぁ!』 お兄さんとギャクタイザーの戦いはまだまだ続く! 応援ありがとうございました!! あとがき スパロボに詰まったのでムシャクシャして書いた。今は反省している。 ちなみにぱちゅりーは巨大に進化する過程で、自重で潰れて絶滅しました。 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3101.html
その頃、六課の格納庫。 バーニィが昨日言っていた、クワトロ用の「新しい機体」がシャアズゴの隣に立っている。 その機体は、かの「シャアザク」とそっくりの配色の上、装甲の各所(指揮官機を表す角とか)に金メッキコーティングが施されていた。 カミーユはアングラ雑誌で、なのはは『MSイグルー』で見たことがあるその機体に驚く。 その名は「EMS-10 ZUDAH」! カミーユが思わずため息を洩らし、クワトロが嬉しげに答える。 「EMS-10じゃないですか」 「奇跡的に残っていた一機が偶然こっちに流れ着いていたらしい」 かくして、赤と金に彩られた「シャア専用ヅダ」が誕生したのである!! と、それは置いといて……。 『軌道上に幻影は疾る』で、ヅダが空中(?)分解するシーンをしっかりと見ていたなのは、さり気なく注意する。 「これ、フルパワー出すと自壊しますよ」 「それを防ぐための対策は用意してある」 その一言と共に、クワトロは『旧約』夜天の書を取り出す。 ページをめくり、クワトロが空いているほうの手を置くと、彼の隣に一人の少女が現れる。 なのはは彼女の姿を妙に冷静に見つめてしまった。 もしはやてがこの光景を見れば、狂喜乱舞していたであろう。 「リインフォース……!」 「そうだ。リインフォースI(アイン)。この娘はヅダとユニゾンしてもらう!」 かつて消滅したはずの彼女、初代リインフォース。 驚いたなのはが、彼女に何故ここにいるのかを聞いたが、彼女は「気が付いたら彼の側にいた」の一点張り。 クワトロも、「こちらに迷い込んだ時には既に持っていた。いつ手に入れたのかは覚えていない」と答える。 初代リインフォース自身は、自分が生きている事を隠したがっているが、クワトロの方はヴィータが戻り次第はやてたちに教えるつもりである模様。 目が点になっているなのはを尻目に、カミーユは珍しそうに初代リインフォースを見ていた。 数分後、六課の一画では、はやてとフェイトがまた話し込んでいる。 どうやら、臨時査察の日取りが決まったようだ。 何故か、フェイトの手にはウサギのぬいぐるみが二つ。 「一週間後?」 「そう。急に決まってな。まあ、向こうもこっちに懸念を持ってるから、仕方ないけど」 少し困った表情で言うはやて。 一方のフェイトは、地上本部側の意図に気付いてしまう。 一刻も早く、こちらの粗を探したいことに。 (こちらのことが相当気に入らないみたいね、向こうは。多分、Ζガンダムやヅダの事で相当ねちっこく追及されるわね。ディエチとウェンディからも情報らしい情報は引き出せていないのに……) 唇に指を当て、考えるフェイトであったが、休憩室前の扉に差し掛かった際に、誰かの泣き声が耳に入り、思考が中断される。 何事かと思い入ってみると、そこには、なのはとカミーユに抱きついて泣いているヴィヴィオとロザミィがいた。 どうやら、二人と離れるのを嫌がっているようだ。 (エース・オブ・エースと最高のニュータイプにも勝てへん相手はおるんやね……) そういえば、今日は機動六課設立の目的云々で、なのはとカミーユ、そしてクワトロと一緒に聖王教会本部に行くことになっていた事を思い出すはやて。 あれこれ考えている内に、両手にぬいぐるみを持ったフェイトがしゃがみ込み、ヴィヴィオとロザミィに挨拶していた。 「こんにちわ。私はフェイト、なのはさんとカミーユ君の大事なお友達。ヴィヴィオ、ロザミィ、どうしたの? なのはさんとカミーユ君の二人と一緒にいたいの?」 『うん』 涙目のまま、頷くヴィヴィオとロザミィ。 フェイトは優しく二人に諭す。 「でも、二人とも大事なご用でお出かけしないといけないのに、ヴィヴィオとロザミィがわがまま言うから、困っちゃってるよ。この子達も」 達人的なオーラを放ちながら、ヴィヴィオとロザミィを上手くあやすフェイト。 使い魔(アルフ)を育て上げ、甥と姪の面倒も見ており、エリオとキャロの小さい頃を知っているフェイトにとって、泣き止まない幼女二人をあやすのはわけないのかも知れない。 フェイトは、こうして見事にヴィヴィオとロザミィをなだめきった。 数十分後、聖王教会本部。 はやてたちは、カリム・グラシアに案内され、その一室に入る。 そこには既にクロノ・ハラオウンがいた。 「やあ、昨日はちゃんと寝たかい?」 「そっちこそ、ドアをノックする癖はつきましたか?」 憎まれ口をたたきあうクロノとカミーユ。 これにははやてたち、特にフェイトが目を丸くした。 「お兄ちゃんと会ったことがあるの?」 「……Ζガンダムを改造してもらっていた頃かな。寝ずに『機動戦士ガンダム』を見てて、『めぐりあい・宇宙編』を見ようとしていたときにノックもせずにいきなり入ってきた挙句、名乗りもせずに説教垂れていなくなった」 刺々しい言葉で説明するカミーユ。 フェイトは呆れるような表情で、残りは苦笑しながらクロノを見る。 これにはクロノもバツが悪そうだった。 しかし咳払いをして、説明を始める。 「機動六課の設立目的は、迅速なロストギア対策及びガジェット迎撃を可能とすること。表向きはね」 クロノがモニターを操作し、彼とカリム、そしてリンディの写真が表示された。 「僕と騎士カリム、そしてリンディ統括官が六課の後見人。そして非公式だが、『伝説の三提督』と政府も支援を約束してくれた」 モニターに、今度はミゼットたち『伝説の三提督』の写真が表紙される。 なのはとフェイトは『三提督』が協力していることに驚き、クワトロとカミーユはミゼット以外の二人も協力している事を知り納得していた。 そして、カリムが席を立ち、同時に己のレアスキルを発動させる。 「これは、私のレアスキル、『プローフェティン・シュリフテン』。二つの月の魔力が上手く揃った時に初めて発動可能となるため、年に一度しかできませんが、最短で半年、最長で数年先の未来を詩文形式で書き記した預言書を作成することができます」 カリムの周りに、本のページと思しき物が彼女を囲むように集まる。 その内の一枚が、クワトロの元に近づく。 見たことも無い文字だったため、クワトロは読むことができない。 ページの方も元の位置に戻る。 それを見たクロノが説明した。 「……文章は解釈次第でいくらでも意味が変わるほど難解な上、使用文字は全て古代ベルカ語。更に内容もこれから起きる事態をランダムに書き出すだけ。的中率は『割と良く当たる占い』レベルだ」 「……この予言は、教会や本局に航行部隊のトップ、そして政府中枢も予想情報として目は通す。せやけど、地上本部の方は、レジアス中将が大のレアスキル嫌いやから目は通しとらん。まあ、信憑性はそれほど高いわけや無いから仕方ないけど」 少し困ったように説明するはやて。 それを見たクロノは、モニターにレジアスの写真を表示し、呟く。 「もっとも、レジアス中将の場合、自分に魔力資質が無いから、ひがみ半分逆恨み半分でレアスキルを嫌っているだけかもしれないがな」 表示された彼の顔を見て、カミーユとなのはは一気に眉をひそめる。 クロノも、汚いものを見るような目で評した。 「彼を尊敬しているはやての前で言うのもアレだが……。はっきり言って末期だな。真綿で自分の首を絞めているようなものだ」 冷たい表情で吐き捨てるクロノ。 はやての方は哀しげな表情でクロノを睨む。 しかし、クロノは更にダメ出しする。 「はやてが管理局入りした頃から、公の場での舌禍や部下の不祥事擁護などの問題行動を繰り返し、受けた批判と処分の数のワースト記録を更新中だ。魔法資質の無さを帳消しにできるほどのカリスマと超優秀な政治手腕のおかげで今の地位を維持できているに過ぎない」 クロノの言葉に頷き、「そうだよね」と呟くフェイト。 なのはも「地上の正義の守護者も地に堕ちたねー」とぼやく。 カミーユの方も、ここぞとばかりにレジアスをなじる。 「自分に無い力全てを妬み嫉み毛嫌いする。魔力資質が無いのはゲンヤさんも同じだと言うのに。どうやったらああも人として大きな差が生じるんだ?」 「他人を信じられるか否かの差だ。 信じないから疑い、疑うから他人を悪いと思い始める。 そうやって自分自身を間違わせる。自分だけが英雄になろうとすれば、尚更だ。アレを見る度に他人を信じることの難しさを再認識してしまう」 クワトロもそれに続く。 しかし、みんなはやての表情がどんどん険しくなっていることに気付き、話を予言の方に戻す事にした。 カリムは、ページを手に持ち、内容を静かに読み上げる 「無限の欲望、『次元と大地の子ら』を名乗り、青いヴェールをまとう花嫁となりし、黒い翼なびかせる白と青の巨人と冥王の如き、二つの美しき星を欲する。 守り手達統べる三つの影と、それの威を借る堕ちた『地上の正義の守護者』の罪暴かれ、かの者が牛耳る地上を守りし騎士たち惑わす。 やがて無限の欲望は彼らの罪を理由に、騎士たちが守りし中つ大地を征する事を宣す。 そして、滅びし王の宮殿が中つ大地の法の塔を砕き、次元行く船をも屠らん。 されど三つの影は、古き夜空の風と金の角そびえし幻影を従えた赤い彗星に滅ぼされん。 堕ちたる『地上の正義の守護者』は、写された思い出の源泉たる白い冥王を取り込んだ、黒い翼なびかせる白と青の巨人に討たれ、欠片も残らん。 『次元と大地の子ら』と滅びし王の宮殿に挑みし者達の先頭に立つは、彗星と冥王の牙城なり」 この予言を聞き、クロノとカリム本人以外は驚愕する。 そしてカリムは冷静に、冷静に口を開く。 「……最高評議会とレジアス・ゲイズ中将の醜聞の露見による混乱と、その隙を突かれた地上本部と次元航行部隊の壊滅に伴う管理局システムの崩壊。そして最高評議会とゲイズ中将の討伐……! 解読されたこの予言の内容です」 カリムのこの言葉に、はやては表情を暗くする。 クワトロはお構い無しに、カリムに尋ねた。 「地上本部及び次元航行部隊の壊滅と、管理局システムの崩壊阻止。それが六課設立の真の目的か」 「……場合によっては、最高評議会とゲイズ中将の粛清も視野に入れられています。はやてはゲイズ中将の醜聞に関してだけは極めて懐疑的でしたが」 真剣な表情で答えるカリム。 どこまでが当たりなのかは分からない。 だが、プローフェティン・シュリフテンが未来の事を言い当てているのは事実であった 予言の一説に、クワトロは考えを巡らせる。 自分の異名がバッチリ出てきたのだから致し方ないが。 (古き夜空の風と、金の角そびえし赤い幻影……。リインフォースIと私のヅダか。『割りと良く当たる占い』と言うより、『滅多な事では外れない占い』と言った方が適切だな) 地上本部の最上階近くのフロア。 相変わらずレジアス・ゲイズがヒーロー物の悪役みたいな態度と目付きで、夕焼けに染まるクラナガン市街を見ている その後には、オーリスが立っていた。 「よろしいのですか? 査察を行うのは一週間後で?」 「臨時だからな。その日のためにワシ自らメンバーを選抜した。ミラー一尉以下全員、指揮するお前を満足させるに値する優秀な者達だ。奴等の企みなど知らんが、この地上を守って来たのはワシという正義だ! それを理解できん『海』と教会の好きにさせてなるものか!」 己の言葉に醜く酔いしれながら、レジアスは続ける。 それに吐き気を覚えながらも、オーリスは上辺だけ肯定し、内心では「どこが正義なの?」と毒づいていた。 「何より、私には最高評議会という心強い味方がいる。この父が正義だからだ。そうだろ? オーリス」 「……はい」 「公開陳述会も近い。本局と教会を叩く材料になりそうな物を洗い出せ! 向こうはモビルスーツを抱えている上に、昨日ワシの命令で、あの小僧とシャア・アズナブルに任意同行を求めた首都航空隊第13部隊を襲撃している。楽な仕事になるさ」 「機動六課についてですが、事前調査の結果、かなり巧妙に出来ている事が分かりました」 オーリスはそう言って、モニターを表示させる。 そこに映し出される、はやてとなのはたちの写真。 オーリスが説明を始めた。 「若輩を部隊長にし、主力二名は本局からの貸し出し扱い。部隊長の身内であるヴォルケンリッターと、次元漂流者を除けば、後は新人ばかり。モビルスーツは何れも質量兵器と見なされないように魔力式に改造済み。Ζガンダムとズゴックに至ってはデバイス化されています」 モニターに映し出される新人たちと、カミーユたちの写真。 それだけでなく、Ζガンダム、ザク、シャアズゴの写真まで表示される。 「何より期間限定の部隊、言わば使い捨て扱いです。本局にトラブルが起きても、簡単に切り捨てる事ができる編成になっています」 「小娘は生贄か……。同類とそれを庇う異常者の二匹が主力。身内以外の戦闘メンバーも、人間モドキにあの役立たずのティーダ如きに魔法を学んだ凡人、デッドコピーと己の力を使いこなせぬ出来損ないか。犯罪者にはうってつけだな」 とことん吐き捨てるレジアス。 その態度に嫌気が差しながらも顔には出さずにオーリスは呟く。 「もっとも、これ自体彼女が自分で選んだ道なのでしょう」 「オーリス!?」 「首都航空隊第13部隊に関して、教会系列のある病院から「敷地内に押しかけ、『ゲイズ中将の命令だ』という理由で高町教導官一行を包囲していた」と苦情が来ています。今日の予定は消化済みなので、直接赴いて事情を説明された方がいいかと」 「……ああ」 何事も無かったかのように淡々と語るオーリス。 彼女の心は既に決まった。 同時刻。 予定よりも早く帰りついたはやてたちは、休憩室で一息つく。 ヴィヴィオはなのはに、ロザミィはカミーユにくっ付いたまま離れようとしない。 ちょうどヴィータも事が終わったのか、戻っていた。 今がチャンスとばかりに、クワトロはヴォルケンリッターの残りを集合させてもらおうとはやてに話しかけようとする。 が、突如として警報が鳴り、モニターに外の様子が映し出された。 映し出されたものを見て、カミーユは声を荒げる 「……ガンダムMk-II! しかも何でティターンズカラーに戻っているんだ!?」 そこに映っているのは、ドダイに乗りこちらに近づくガンダムMk-IIと、それを追うガジェットの群れ、そしてガジェットの指揮機と思しきモビルスーツであった。 既にバーニィのザクと、シャアズゴが出撃してガジェット目掛けて発砲している。 出撃しようとするなのはたちを制し、クワトロは「君たちはヴィヴィオとロザミィをなだめていろ」と言って一人休憩室を出た。 格納庫。 クワトロはヅダに乗り、コックピットに隠してあった旧約夜天の書を取り出す。 「旧約夜天の書よ、セットアップ!」 バリアジャケットを装着し、ヅダを起動させて出撃する。 格納庫から出た直後、ガンダムMk-IIを乗せたドダイがすぐ近くに着地。 コックピットハッチが開くところが視界に入るが、クワトロはそれに構わずエンジンの出力を上げる。 ジール物産製の新型エンジン「新星」の大推力でヅダは飛翔し、クワトロもリインフォースIに命令した。 「ユニゾン・イン・ヅダ!」 この声と共に、ヅダの体が光に包まれる。 装甲の一部に布地のようなものが張り付き、ヅダの頭部に銀色の長い髪の毛が生え、更にピンク色のモノアイが何故か真紅のデュアルアイに変わった。 倍以上に跳ね上がった推力で、ヅダはガジェットの群れに肉薄する。 「魔法を無効化出来ても、衝撃に耐え切られないのなら無意味だぞ!」 ガジェットは構わずレーザーを発射するが、ヅダは大気圏内とは思えないレベルの機動で楽々とかわし、ガジェットたちにすれ違う。 数秒後、超音速で飛ぶヅダの発した衝撃波で吹き飛ばされ、ある機体は味方機のレーザーが当たり、またある機体は複数の味方機にぶつかり道連れにしながら、次々と破壊される。 既に、バーニィのザクとシャアズゴのおかげでかなり減っていたせいか、ガジェットの数は少なかった。 そこに、指揮機と思しき機体に乗っている者からの声が聞こえる。 「……我、現在地の確保に失敗。これにより、奪われたフラッグシップと搭乗者たちの奪還、それ以上に妹たちの救出は絶望的と判断。残存ガジェットは全機、地上の二機に特攻させ、本気はこれよりヅダに突貫する!」 モビルスーツがいきなりコックピットハッチを開けたかと思うと、中からディエチたちと同じ意匠の服をまとった幼女が出てくる。 右手では入り口の縁を掴み、自分の機体より下の高度にいるヅダ目掛けて手に持った投げナイフを投げた。 ヅダは構わずモビルスーツ目掛けて加速、投げナイフを装甲で弾いた直後、突如として起きた爆発により視界を遮られてしまう。 「爆弾だと!? 何時の間に?」 「先ほどの者が投げた金属片が爆発したのです。恐らく、あのパイロットは何らかの方法で金属片を爆発物に変えたものと思われます」 驚愕するクワトロに、ヅダとユニゾンしたリインフォースIが説明する。 それに納得した直後、クワトロの脳裏に光の筋が走り、敵がこちらに突っ込んで来ていることに気付き、回避動作を取った。 直後、広範囲にわたる爆風を散らしながら円盤状の物体が突進。 すれ違いざまにヅダはその物体に蹴りを入れた。 「避けきっただと!? だが避けるだけでは、このチンクのアッシマーには勝てん!」 チンクが叫んだ直後、アッシマーは再び変形し、モビルスーツ形体に戻る。 アッシマーの緑のモノアイが光り、ヅダを睨む。 これを見たクワトロは、間髪いれずヅダをアッシマー目掛けて体当たりさせる。 左肩のシールドが顔面に直撃し、アッシマーのモノアイ保護用の風防が砕け散ったが、チンクは動揺しなかった。 「……超硬スチール合金程度ではな!」 アッシマーはヅダのコックピットハッチに蹴りを入れ、弾き飛ばす。 ビームライフルを構え、引き金を引く直前に、全く別の方向から飛んできたビームがビームライフルに命中。 驚いたチンクが振り向くと、そこにはビームライフルを構えたガンダムMk-IIの姿あった 「あの男、あの距離から……!?」 右手ごとビームライフルが爆発し、その隙を突きヅダはギリギリまで接近、ゼロ距離で90㎜マシンガンを発砲。 「認めたくはないだろう? 自分の若さゆえの過ちというものは」 「あ、アッシマーが!」 この言葉と共に、アッシマーの頭部が弾丸で砕け散ったかのように破壊された。 しかし、同時にアッシマーのコックピット内に、チンク以外の第三者の声が聞こえる。 「チンク姉!」 「セイン! 何時の間に忍び……」 「ドクターの命令! もしアッシマーがやられた場合に備えて忍び込んでおきなさいって!」 この会話に感づいたクワトロは、急いでコックピットハッチを抉り取り、中を覗く。 すると、セインと思しき少女が、チンクを後から抱きかかえた状態でコックピットから「抜け出す」最中であった。 そのまますぐに姿を消し、数秒後にアッシマーの脇腹から飛び出し、そのまま落下、地面へと「潜行」する。 乗り手を失ったアッシマーはそのまま失速、盛大な水柱をあげながら海に突っ込んだ。 それを見届け、着陸するヅダ。 その視界の先には、セインが潜行した地点を凝視し、顔を見合わせて不思議がっているザクとシャアズゴがいた。 「あの撃ち方と気配……君もこの世界に来たのか? アムロ」 その頃、ガンダムMk-IIが着地した地点。 ガンダムMk-II内のコックピット内には、操縦していた青年だけでなく、壮年の女性とその使い魔もいた。 青年が二人に話しかける。 「プレシアさん、リニス、大丈夫か?」 「私とリニスは大丈夫よ……」 プレシアの方は少し気分が悪そうだったが、何とか強がる。 青年が振り向くと、リニスが優しくプレシアの背中を摩っている所が見えた。 「ゼスト・グランガイツの言うとおり、この『機動六課』に本当にフェイト・テスタロッサがいるというのか? シャア、お前が身を寄せている機動六課に……?」 「アムロ・レイ、彼はウソをついているようには見えませんでした」 アムロの呟きに、そっとツッコミを入れるリニス。 アムロは振り返らずに、モニター越しに見えるヅダの姿をずっと見ていた。 夕焼けの中で吹く風が、モビルスーツたちと、アムロたちを保護するために出たフェイトを、撫で回す。 次回 魔砲戦士ΖガンダムNANOHA ディム・ティターンズの影 ~ニューメロの鼓動~ カミーユ・ビダンはリリカルなのはの夢を見るか? 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1208.html
ささやかなる想いを星あかりのもとで 3 中編A ――常盤台中学、校長室にて。「……わかりました。ご迷惑をお掛けいたしまして、申し訳ございません」 美琴は頭を下げながら、今の沙汰について考える。予想通りであり、予想以上に重かった、とも思えた。 無期限停学。 無限、という意味ではないが、期限が定められておらず、反省の色が見られなければ、それこそ無限となってしまう。(たぶん、あの特殊部隊殲滅かな。あの部隊は任務失敗したわけで、矛先は私に向かうわよねやっぱ) 色々推測するが、答えなど無い。 美琴の素行は、以前から問題視されていた。 LV5クラスのエレクトロマスター、つまり御坂美琴の手によるものとしか思えない事件の痕跡は多々あった。 大規模停電しかり、多数の化学研究所破壊しかり。 しかし明確な証拠が無い事と、何より誰も訴えない事――学園都市側は何故か内部処理で済ませてしまっている事。 それ故に美琴は、お咎めもなく今まで過ごしてこれた訳である。 しかし、今回は。 学園都市側は、今までとは異なり、『軍事任務妨害を行った故の厳重注意』を常盤台中学側に示してきたのである。 黙認できるレベルの話ではない、との意思表示であり、常盤台中学も動かざるを得ない。 常盤台中学は協議に入り、御坂美琴への処罰の検討を行った。 本来、ここで当事者の言い分を聞いて、その上で決定する。――だが。 御坂美琴の性格は、いわばもう丸裸にされていた。いわゆる『開発』によって性格は掴まれているのである。 つまり、絶対に譲れないことがあって事を起こし、そしてその理由は、絶対に言わないであろう事が。 言い訳など100%せず、黙秘する事が。明白すぎるほど明白であった。 そして、呼び出された御坂美琴は、予想通り黙秘を貫き。 ――結果、御坂美琴は、無期限停学を言い渡された。 指定された学外活動の修了を以て、解除するという但し書きを付記して。 校長室を出て重厚なドアを締め、……ふうっと一息ついて振り返って、美琴は顔を引きつらせた。「黒子!? アンタ授業中でしょ! 何やってんのよ!?」「突然の腹痛に襲われまして、やむを得ず、ですの」 白井黒子が、つかつかと美琴に近寄って腕を掴み……2人の姿が消えた。 どうやら屋上に連れてこられたらしい。風が心地よい。「まず、結果を教えていただきたいですの、お姉様。もう校内は、その話で持ちきりですわ」「人の事なんてほっときゃいいのに」「お姉様は、少しはご自身の影響というものを考えられたほうがよろしいかと」「ま、何でもいいけど。……停学決定、よ」 白井黒子の表情が曇る。「なるほど、今回ばかりは無罪放免とはなりませんでしたか。しかしこの時期では、一端覧祭と被りそうですわね」「……何言ってんの、全部アウトよ。……無期限停学、だし」「!? お、お姉様、それを了承したんですの!?」「逆らったら退学でしょそんなの。了承するもしないもないでしょーが」「申し開きすれば、もっと軽減されるでしょう!? ……やはり、何もおっしゃらなかったですのね……」――あの日、黒子は美琴からの連絡を受け、狂喜乱舞して空港へ迎えに行った。 一人手を振る美琴に、黒子は飛びかかるように抱きつき、お約束のゲンコツを貰いつつ再会を喜んだ。 しかし。『ごめんね、戦争に勝手に参戦してきた。理由も、何があったかも、今は話せないから。またいずれ、ね』 初っ端から釘を刺され、白井黒子は黙るしか無かった。(ならば、逆から辿ってみるまで、ですの) 美琴が言わないのならば、と黒子は早速次の日、独自に調べ始めた。 まず、美琴が一人で帰ってきたのかどうか。 搭乗者名簿をコネも使って強引に手に入れ……そして見つけた。『上条当麻』の名前を。(座席も隣……やはり、ですわね) 嫉妬の炎も渦巻くが、今回もまた、あの少年が絡んでいたのか、という思いの方が強い。 2人が絡んでいたのなら、またレムナント事件の結末のように、あの『バカバカしいレベルの世界』が展開されたのか。 あの戦争の結果は、『自分には手の届かない世界』で行われた戦いの結果なのか。 屋上にて、吹っ切れたような表情をしている美琴の横顔を見上げつつ。 白井黒子は、ますます『自分の居場所』が失われていく気分を味わっていた……。 ◇ ◇ ◇――そして、長点上機学園自習室、にて。「む、無期限停学だ……って!? 退学の次に重いじゃねーか!」 想像以上の罰を受けた美琴に、上条は慌てる。 もはや上条の頭がら、布束砥信がどうだとか全て、吹っ飛んだ。「無期限っつーのは、解除日が未定ってことで、永遠てことじゃないわよ? 無いとは思うけど、1週間で解除もあるかもね」「それにしたって、お前、そんな……!」「んー、特殊部隊倒した時、顔見られちゃったからね。モノだったら証拠残さずにしてこれたけどさー。ということで学園都市側から厳重注意が来てね、常盤台中学は停学の判断下したってこと」「でもそりゃ俺をっ!」「それは言いっこなし。たかが停学、中学だから義務教育の関係上、あんまり留年とまでは繋がらないみたいよ。無期限って言葉が大げさなだけだから、心配しなくていいわよ」 心配するなと言われても、上条にしてみれば全て自分のせいである。頼んだわけではない、というのは言い訳にならない。 一人の少女のエリートコースを止めてしまった現実に青ざめる。 はあっ、と美琴がため息をつく。「……と言っても、立場が逆なら、まあアンタの気持ちも分からなくもない。だから、私の復学に協力して貰うわよ」「な……何だ? よく分かんねーけど、俺にできることなんだな!?」「うん。私の姿を見て想像つかない?」 長点上機学園の制服を来た美琴。何だか大人びて見える。 ハッ! と上条がひらめく。「まさか飛び級で高校1年に、とかか!? よく天才少女にあるストーリーだよな!」「バカかアンタは! マンガの読みすぎだっつーの! 日本の中学にそんな制度認められてないわよ!」(冗談だっての……コイツ、きっちり飛び級とか調べてんのな)「だったら何だよー。一緒に勉強なんて、俺がお前に教えられること何もねーしな。……情けない年上で申し訳ないけど!」「だから、私が教えるのよ」「……はい?」「アンタの特別講習の、先生は、私」「……このヒト……いや御方は?」 上条は横で聞いている布束砥信を指さした。 ちなみに、テスタメントを開発する頭脳を持っている布束砥信は、御坂美琴とはまた異なったハイレベル天才少女である。「私は、貴方達2人の指導員としての担当者よ。御坂さんは、私の報告書によって、復学が決まる訳。」 布束は首をすくめて、別に分からないことは私に聞いてもいいけど、と言い添える。「……つーことは何か、俺が編入試験に合格しなければ……?」「私の運命はどうなるのかしらね? どう? 何をやらなきゃなんないか、理解できた?」 上条は、汗がダラダラと吹き出してきた。(失敗すりゃ留年でいーや、と考えてたのに……こりゃシャレになんねえっ……!)「と、いうわけで」 上条の反応に満足した美琴は、にんまりと笑って腕を組んで仁王立ちになった。「みっちりと、3ヶ月ビシビシ行くわよ! やや抑え気味にはするけど、土日もやるかんね!?」「ちょっと待って、そこまでやるんかよ!? い、いや例えば冬休みとか、」「冬休みも無いわよ。まあ年末年始は、進行次第では考えてもいいけど」「……マジなんですかっ!?」「普通の高校のオチコボレが、こんなトップクラスの高校に追いつこうってのよ!? 普通の努力じゃ無理でしょーが!」 そのトップクラスの高校1年の内容を教える中学2年生って……「お、お前はそれで、例えば教科書とか読んで理解できたのかよ。俺ちょっと見たけど、ありゃキツくねえか!?」「さすがにちょっとつらいけど。でも毎日アンタに教えながら、調べつつやれば何とかなるかな、とは思ってる。あと教科によっては『特化』しようかとね。例えば世界史なら、今のアンタならイギリス国教中心に展開すれば興味わくでしょ。日本史なら天草式絡みの歴史を勉強するなら苦にならないでしょ? そういった教科内の得意分野作るつもり」 上条は口をぱくぱくしている。「アンタにはいっつもやられっぱなしだけど、今回は、私の言う事全部聞いてもらうからねっ! うっふっふっふ~」 ◇ ◇ ◇「それにしても、話が来たときはびっくりしたわよ」 立ち話も何だ、と各自椅子に座って、ちょっと落ち着いた状態になり、美琴は口を開いた。「停学中の活動について指定されててさ、簡単に言うとココに来て担当者の指示通りに毎日を過ごせ、ってね。そうしたら、アンタの教育係だとさ。上は何考えてんのかしら」「Indeed、貴方達を一旦同じ場所に放り込んでおくことで、管理……いや監視しやすくしようとしているのでしょうね」 担当者こと布束砥信がつぶやく。「監視……」「バラバラに見張る事を考えれば、単純に労力は1/2で済むでしょう?」 と、布束は天井の隅を指さした。黒い半球状の装置があり、緑と赤のランプが半球内で光っているのが見える。「アレはセキュリティカメラだけど、当然監視カメラにもなってるでしょうね。声も拾っているかもね」「口に出して喋っていいの、そういうの?」「全部推測だから。推測した者に危害を加えて、推測が正しかったことを証明するなんてバカなことはしないでしょう」「でも私達って、そんな監視するほど悪い奴だって事? 失礼しちゃうわね」 美琴は腕組みして、眉をひそめる。「貴方達は大人のやろうとしている事を根こそぎひっくり返す力があるのよ。子供の遊びで済ますのもこれまで、ってとこかしら」「学園都市が余計なことばっかりするからよ! ったく!」「何にせよ、戦争後でバタバタしてる最中に、目の届かないところで色々されると面倒だから、ってだけならいいのだけれど」「学園都市の場合、裏の裏の、そのまた裏を読めって、か……」 美琴は、ヒトコトも喋らずに沈んでいる上条を見やる。「……何座り込んでしょげてんのよ」「だってお前、編入試験クリアしねえと、お前の停学が、なんて……。俺は短期勝負なら気合入るけどさ、長期は……」「アンタね! まあでも、短期的な目標決めてやった方がいいのは事実よね。週末の試験でいい点取ったらご褒美とか?」「……ご褒美。そりゃ何かあれば嬉しいけどさ、……いや逆か。俺が御坂にお礼するって事になるのか、学力上がった訳で」「んー? それだと、馬の前のニンジンにならないわよ? ……まあ、その辺は始まってからで。それより、その前に、」 美琴は人差し指を立てた。「1日、どうやって過ごす? 一応、考えてきたのはあるんだけど」「いきなりの話で何も考えてねーよ。元々先生に従うつもりで来てたしな」 美琴はすっくと立ち上がり、黒板の前に立つとカカッと書き始めた。○ 9 00~12 00 授業(休み時間10分×2)○12 00~13 00 昼休み(昼食&昼寝)○13 00~15 00 復習テスト○15 00~17 00 復習テスト答え合わせ○17 00~17 30 質疑応答●帰宅後 宿題(予習として明日の範囲の問題集を解く)「む……授業としては3時間だけなのか?」 上条は少々驚いた。てっきり1日8時間は授業浸けになるかと思っていたのだ。「理由の一つはね、そんな広く浅くやったって、身に付きません。前日の予習と、授業と、テスト。3回同じことやれば、さすがに覚えるでしょ。欲張らず、確実に押さえたほうがいいの」「ふーむ……いや、それで1年分追いつけるなら万々歳だから、俺は文句ねえけど」「あとね、やっぱ申し訳ないけど、私の時間が足りないの。次の日用の授業の要点まとめたり、テスト作ったりでね」「あ……」「これだったら、比較的余裕あるから大丈夫。長期戦だから、無理してもしょうがないし。たださっきも言ったけど、土日もやるからこそのスケジュールよ? 土日休みたいなら、もっと詰め込んだのに変わるけど」 美琴は上条を見つめた。「どうする?」(別段、土日やることがあるわけじゃねえ。何より、平日に詰め込むと、御坂がパンクするってことだよな、それって)「テスト問題作るのって、かなりつらいわよ? 別の問題集にしたら?」「やっぱそうかなあ。う~ん……問題集から抜粋する形にするかなあ……」 布束と美琴の会話を聞きながら、上条は心を決めた。 御坂美琴がなぜここまでやってくれるのか分からないが、少なくとも身を委ねたほうが、きっと上手くいく。「御坂の言うとおりに。土日もよろしくな、御坂。休みのコントロールも任せる」(こっ、これで3ヶ月ほぼ毎日一緒に……!) 土日きっちり休みたいと言われれば、平日はかなり忙しく、かつ土日は上条に会う理由が無くなる所だったが。 しかしこれで、毎日公明正大に会える! 美琴は内心で超ガッツポーズであった。 あのシスターが帰ってこようが、他に知らない女の子がいようが、関係ない。自分たちの時間。(ま、トラブル男のコイツの事だから予定通りには進まないだろうけど! でも、今はこの約束だけで十分……) 3ヶ月みっちり行うということで、上条は黒板を改めて確認した。「宿題、ってどんなのだ? 予習だけ?」「予習だけ。復習もやるべきなんだけど、」 美琴は上条をジロッと睨む。「アンタ夏休みの宿題とやらを、最終日までほとんどやらなかったんでしょ? そんな人に嫌々宿題やらせても効果ないわよ」「うっ……」 これには上条は何も言い返せない。ましてや、美琴には手伝ってもらいながら、出来なかったのだ。「だったらせめて、手を動かして何となくででも、予備知識として頭に入れたほうがマシだと思ったの」 美琴は机の上の問題集を指さした。「だからこの問題集。ほとんど記号問題ないけど、これやってきて。で、当然予習だから答えほとんど分からないはず。だから、答え写していいからね」「はい?」「ちゃんと問題文読んで、一瞬でもいいから考えて。その後自分で答えてもいいし、答え写してもいい。大事なのは、『なんでこのポイントを問題にしたんだろう』とか『ここは重要ってことだな』とか思って欲しいの」「はあ……」「そういう予習をした上で、私が授業する。たぶん取っ付き易くなってるはずよ。どこが重要か何となく掴んでるはずだから。で、午後にテストやって、最終チェック。これで基本的な流れはおしまい」「た、確かに身には付きそうだ、な……」 上条は、目の前の少女に圧倒されるばかりだった。「今回みたいなマンツーマンだから出来る勉強法よね。こういうクセつけとけば、普段の授業にも応用できるわよ」「お、お前が考えた、のか……?」「まさか。本の受け売りよ。……去年はさ、寮の同部屋の子とあんまり相性よくなくてね。門限ギリギリまで図書館にいたのよ。そこで色んな本読み漁ったんだけど、その内の一つが、こういう勉強法ってワケ」『前任の同居人にはちょっと出て行ってもらっただけですの、……あくまで合法的に』 確かアイツそんな事言ってたな、と上条は某テレポーターを思い出す。「ま、それはともかく。この勉強法なら私も実践してるし、たぶんアンタでも大丈夫」「確かにそれなら宿題のプレッシャーはねえな。普段から、こうやってろって事か……」「うん。勉強ってのはね、心に余裕持ってやると効果あがるのよ。予習しておくと、授業でソレが出るだけで余裕が出来るの。『あ、そこ知ってる』ってね。そうすると、派生する物事も、難なく頭に入りやすいのよ」 なるほどな、と頷く上条。これならやっていけそうな気がする……「実践してる、って、中学でもそういうやり方なのか、お前?」「そんな感じね。休み時間は10分きっちり復習に費やして。昼休みはご飯とお昼寝してるけど。寮帰ったら予習ね」「いつ友達と話してんだよ。……ぼっち?」「ぼっち言うな! ま、私がそういう子だって、もう知れ渡ってるから休み時間に誰も話しかけてこないわね。嫌われてるんじゃなくて、気を遣われて、よ? 言っとくけど。別に放課後とか普通に話してるし。昼休みは私が食べてる横に黒子が座ってくるのがパターンになってるわね。おしゃべりして、20分前には教室戻って、お昼寝」 上条は地下街の学食レストランを思い出す。確か4万円の常盤台学食が……「そういや、常盤台の学食って滅茶苦茶じゃねーか? 数万するらしいじゃねーか」「ああ、バカみたいな値段の学食はあるわね。あんなの一部の金持ちのお嬢様しか食べないけど……よく知ってるわね?どこぞのコース料理みたいに、一皿一皿ちんまりと出てくんのよねー。昼休みに呑気ったらありゃしない。私はいっつも千円の日替のお膳定食。これなら頼めば速攻出てくるし、美味しいしね。全然問題なし」(ソレデモセンエンデスカ、ミサカサン) と、上条はひそかにツッコむ。こちらは500円超えたらジュースを我慢しようかと考えているレベルである。「あーもう、なんで学食の話になってんのよ! ……って、」 美琴は上条に突っ込もうとしたが、一つ懸念を思い出した。布束の方を見やる。「お昼とか、どうしたらいいのかしら?」「学食はやめた方がいい。Because、貴方達は目立ちすぎる」「そんな目立つかな。こっちの制服も着てるのに」「LV5いないから、ここは。名前だけなら第1位はこの学園所属だけど、見たことないわね」 一瞬美琴の表情が陰ったのを上条は見た。まだアクセラレータについては複雑みたいだな、と心の隅で思う。「じゃあ、お弁当持ち込み、かな」「俺はそれで問題ねえ。俺も前まで自前の弁当か、パンの買い食いだったし」「それじゃあさ。私二人分作ってくるね。手間は一緒だから」「…………!」「料理の腕、疑ってんでしょ? 正直、部屋で料理できる環境じゃないから、そんなに数はこなせてないけどさ。ギャグマンガなら大さじイコールお玉と勘違いしてる女、みたいな展開になるんだろうけど、そこまでボケてもいないわよ」 顔を赤らめながら、早口で言い訳するかのごとく、喋る美琴。 しかし上条は。(違う、違うぞ御坂。一人と二人では、一緒じゃねえんだ……!) 質はともかく台所に立った数では圧倒的に美琴に勝る上条は、突っ込むべきか迷っていた。 一人なら、「どろりとした煮汁がご飯ゾーンに侵食」していようが、極端な話、ふりかけに梅干だけでも構わない。 しかし二人、つまり相手がいる話なら、そうはいかない。 手を抜いたら、それが人物評価に繋がるのだ。 反応が薄い上条に、美琴の目が不安そうになっている。「い、いらない? ありがた迷惑、かな……?」「そうじゃねえ。いや、これ以上お前に負担は」「だから、どうあれ自分の分は作るんだから、関係ないってば」 これはもう断るほうが空気悪くなる、っつー流れだな、と上条は悟った。(ますます御坂に頭が上がらなくなるなあ。どの道、手抜き弁当作るタイプじゃねえか、コイツは……) 吹っ切れた上条は、素直に喜ぶことにした。お互い、それが一番だ。「御坂。」「?」「俺、もうそれだけのために学校来る! 女の子の手作り弁当を毎日とか、なにそのヘヴン状態!」「ば、馬鹿! 勉強しに来なさいよ! そ、それに、そんなに期待されるものでも、ないし……」 目を背けて真っ赤になる美琴。「普通に卵焼き・ウィンナーでいいんですよ! シンプルイズベスト!」「寮の調理室借りて作るから、煮物系とか時間かかるのが難しいのよね。ワンパターンにならないよう頑張るけど」「愛情があれば俺はもう何でもオッケーだ。ワンパターンでも一向に構わねえっ!」 あ、愛情……って! と美琴が固まる。 美琴の硬直には気づかず、他何かないかな、と宙を見上げて思案していた上条が、美琴の方に向いた。「せめてお茶担当ぐらいやるぞ。魔法瓶に入れて持ってくる」「う、うんお願い。それはそうと、アンタたくさん食べる?」「あればあるだけ食える」「おっけー。私の1.5倍は食べそうね……。よし!」「何だか遠足前の気分になってきましたよ御坂センセー」「勉強する気あんのかアンタはっ! もう!」 そう言いつつ、どう見ても満更でもない顔をしている美琴であった。 ◇ ◇ ◇ ちょっとトイレ行ってくる、と上条が席を外した。 ほうっ、と美琴はため息をつく。話しているときは気付かないが、やはり上条と話すときは気が張っているようだ。 気が高ぶって漏電するのは絶対に避けたい。(3ヶ月、持つのかしら私?) 今はまだ布束が居るので問題ないが、2人きりで数時間、それが毎日となると…… と、考えたところで、じっと宙を見つめている布束に、美琴は気がついた。「どうした……んですか?」「……真横で、バカップルの会話を延々と聞かされる身になってみる?」
https://w.atwiki.jp/ranbu/pages/2.html
メニュー トップページ メンバー戦士 魔道 妖精 妖獣 弓使い 精霊 プロフィールの書き方 露天採集アイテム価格表 職業別ワンポイント 黄昏神殿攻略 ダンジョン攻略 他BOSS攻略 領土丹薬 精錬 領土戦乱舞の歴史 出欠・PT編成 How To GvGvol.1 vol.2 更新履歴 リンク @ウィキ ガイド @wiki 便利ツール @wiki
https://w.atwiki.jp/m_lscr/pages/859.html
★SR 黄忠(乱舞モード):風属性・MP23 基本情報 『三国志乱舞』からの異世界の女神。 蜀の後将軍。弓の名手。 別モード なし ステータス 上から、レベル1・0凸・1凸・2凸・3凸・4凸後の最大値 武 智 美 ・初期値:3300・Lv 60 :7381・Lv 75 :8382・Lv 90 :9383・Lv 105:10384・Lv 120: ・初期値:3839・Lv 60 :7920・Lv 75 :8921・Lv 90 :9922・Lv 105:10923・Lv 120: ・初期値:2332・Lv 60 :6413・Lv 75 :7414・Lv 90 :8415・Lv 105:9416・Lv 120: スキル 射手丹弓 → 味方の風属性の智を特大UP アビリティ アビリティ1:射手座の女(1凸で習得) 【支援】味方4人のSP+2・消費BP30 アビリティ2:真の射手(4凸で習得) 【支援】味方8人のSP+4・消費BP35 契約 関連イベント 関連イベント イベント『女神たちの三国志 ソル・セレ乱世に立つ』 →五虎将軍解放報酬 関連女神 ▼五虎将軍 関羽 張飛 馬超 趙雲 特記事項
https://w.atwiki.jp/m_lscr/pages/875.html
★SR 趙雲(乱舞モード):風属性・MP 基本情報 『三国志乱舞』からの異世界の女神 【非公式豆知識】 五虎大将軍の1人。 趙雲=ちょう うん。 別モード なし ステータス 上から、レベル1・0凸・1凸・2凸・3凸・4凸後の最大値(カッコ内数値は覚醒前数値) 武 智 美 ・初期値:・Lv 60 :・Lv 75 :・Lv 90 :・Lv 105:・Lv 120:(10840) ・初期値:・Lv 60 :・Lv 75 :・Lv 90 :・Lv 105:・Lv 120:(9830) ・初期値:・Lv 60 :・Lv 75 :・Lv 90 :・Lv 105:・Lv 120:(10350) スキル 風龍槍 → 相手の水属性の武を特大DOWN アビリティ アビリティ1:龍の逆鱗 敵2人に風属性の武を大きくUPした攻撃・聖印+10・消費SP6 アビリティ2:龍・気・解・放! 敵6人に風属性の武を大きくUPした攻撃・聖印+7・消費SP6 契約 関連イベント 関連イベント イベント『女神たちの三国志 ソル・セレ乱世に立つ』 →五虎将軍解放報酬 関連女神 ▼五虎将軍 関羽 張飛 馬超 黄忠 特記事項
https://w.atwiki.jp/m_lscr/pages/871.html
★HR ホウ統(乱舞モード):水属性・MP20 基本情報 『三国志乱舞』からの異世界の女神。 政治家。軍師としての才は諸葛孔明より優れているとも評される。 【非公式豆知識】 漢字で書くと『龐統』。 劉備に仕えていた。 別モード なし ステータス 上から、レベル1・0凸・1凸・2凸・3凸・4凸後の最大値(カッコ内数値は覚醒前数値) 武 智 美 ・初期値:1881・Lv 50 :4774・Lv 62 :5511・Lv 74 :・Lv 87:・Lv 100:(7140) ・初期値:2574・Lv 50 :5797・Lv 62 :6534・Lv 74 :・Lv 87:・Lv 100:(8070) ・初期値:1716・Lv 50 :4609・Lv 62 :5346・Lv 74 :・Lv 87:・Lv 100:(6990) スキル 臥龍の書 → 味方の水属性の智を大きくUP アビリティ アビリティ1:鳳雛の軍略(初期に習得済み) 敵1人に水属性の智を結構UPした攻撃・聖印+5・消費SP4 アビリティ2:軍師の本領(2凸で習得) 敵3人に攻撃 契約 関連イベント連動ガチャ 関連イベント イベント『女神たちの三国志 ソル・セレ乱世に立つ』 →特効女神 関連女神 imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 特記事項
https://w.atwiki.jp/sengoku_enbu/pages/27.html
第六回 剣閃乱舞 概要 敵軍一覧 時間限定で出現する 概要 イベント期間中にクエストを行うと、敵軍に遭遇します。 体力を消費して敵軍を討伐!討伐成功で「刀」が手に入る。 「刀」を献上するとイベント限定カードやアイテムを交換できる。 また、敵軍を倒した人数(個人・連合)に応じて、報酬が手に入る。 敵軍一覧 名前 タイプ レア度 必要P 攻撃/知攻 防御/知防 スキル 備考 [] 武将 SR 12 () () [] 智将 SR 12 () () [] 武将 SR 15 () () ※/追加※時間限定 時間限定で出現する []は時間限定で出現する。 出現時間は、9 00~11 00、16 00~18 00、23 00~翌1 00の計3回情報を購入していても、上記時間帯以外では出現しない。
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau9/pages/1081.html
前 森を踏み倒しながら進んでくる、巨大ゆっくりの群れがあった。 先ほど村を襲った群れなどとは比べ物にならない大規模なものだ。 その中心にいるのは、ゆっくりゆゆこ。大喰らいで知られるゆっくりで、英雄や妖怪すら食べたという。 その食いしん坊が焼き饅頭の美味しそうな匂いに引きつけられ、村の方へと進軍していたのだ。 「ゆっ?おにいさんはだれなの?」 「こっちのほうからおいしそうなにおいがするよ!ゆっくりとおしてね!」 「じゃましないでね!ひとりじめはよくないよ!ぷんぷん!!」 「……行くぞ、ギャクタイザー」 頬を膨らませて怒る巨大ゆっくり達を前に、巨神は大剣を地面に突き刺す。 遥か地下まで届く剣は、地下水の流れに干渉し、その量を増幅させ……地上の一点において爆発させた。 「ゆゆゆぅぅぅぅぅぅ!!?」 「なにこれ!!おみずがいっぱいでてきたよ!!」 「みずうみよりいっぱいだね!」 「しゅっきりできりゅよ!!」 「ゆっ、こんなにいっぱいあったらゆっくりできなくなるよ!!おうちかえる!!」 この土地は山々に囲まれた盆地である。大量に湧き出した水は流れ出ることなく、その場に溜まっていく。 山を越えて逃げようとするゆっくりもいるが、巨神の力により山は隆起を起こし、その高さを増していた。 「ゆっ、ゆっ、な゛んでにげられな゛いのおお゛ぉぉぉおおおぉぉ!!」 「くるときはどおれだのに゛いぃぃぃぃぃ!!」 「ゆっぐりでぎなぐなるううぅぅぅぅぅ!!」 「おかあしゃあああぁぁぁん!!うごけにゃいよおおぉぉぉぉぉ!! 「ゆっ・・・くち・・・」 自分達を溶かすほどの大量の水になど、ほとんど出遭ったことが無いはずの巨大ゆっくり達だが、 それでも水を恐れるのはゆっくりとしての本能故か。 背丈の小さな赤ゆっくり、子ゆっくりなどは、次々に体が溶けて行動不能になり、死んでいった。 「おにいざん!!だずげで!!だずげでね!!」 一匹のれいむが、水の中でも平然と佇んでいる巨神に縋りつく。 「ほほう、殊勝なゆっくりだな」 「おみずごわいよ!!ゆっぐりもちあげてだずげでね!!」 「どれ、そうしてやろう」 「ゆゆっ!」 家や城すらも押し潰すほどの重さを持つ巨大れいむを、巨神はいとも軽々と持ち上げてみせる。 誰かに持ち上げられた経験など当然あり得ないれいむは、今しがたの恐怖も忘れ、新鮮な体験に心から感動した。 「ゆっ!すごい!すごいよ!!」 「はっはっは、楽しいかい」 「ゆゆ~!おそらをとんでるみたい!」 「そうかそうか、じゃあ今度は本当に飛ばしてやるよ」 「ゆ?」 巨神の機械の腕が熱を持ち、倍ほどの太さに膨れ上がる。力を溜めているのだ。 そして腕から蒸気が噴き出すと、巨神はれいむを空高く放り上げた。 「ゆっ!たかいたか~い!」 「タイザースカイハイ……ゆっくり楽しんでいきな」 凄まじい速度で垂直方向に上昇していくれいむ。 自分を持ち上げてくれた大きなお兄さんも、水の中でもがき苦しんでいる友達のゆっくりたちも、 それを取り囲んでいる山々、その外側にある村や川など、全てが瞬く間に小さくなっていく。 「ゆ~!すごい!みんながおまめつぶみたいだよ!!」 巨大になった事で鈍重となり、決して得られることのないと思っていた鳥の目線が、れいむの眼前に広がっていた。 餡子が興奮と幸福に満たされていくのを感じるれいむ。 「ゆっゆゆっゆ~♪ゆゆゆ~ん♪」 楽しくなって歌を唄い出す。が、自分の歌もすぐに聴こえなくなる。空気との摩擦音で。 「ゆっ?なんだかあついよ!!」 顔を下に向けて飛んでいたれいむは、後頭部が段々熱くなってきているのを感じる。 大気の層に突入し、激しい空気の摩擦が高熱を引き起こしていたのだ。 髪が焦げ、やがてリボンが燃え尽きるのを感じ取る。 「ゆびゃああああぁぁぁぁ!!でいぶのおりぼんがああぁぁぁぁぁ!!」 そんな叫びを上げるも、もう聴こえない。摩擦音の激しさだけでなく、聴覚の役割をする表皮が焼け焦げているのだ。 「なんでぎごえないのおおぉぉぉぉお!!ごわいよおおぉぉぉぉぉ!! み゛んなどごいぐのおぉおぉぉぉぉぉぉぉ!!でいぶをおいでがないでぇぇぇぇぇぇ!!」 どんなに叫んでも、れいむの声が地上の仲間に届くことはない。目に映る全てはれいむから遠ざかっていく。 やがて大気圏を突破したれいむはしかし、奇跡的に原型を留めていた。ただし、五回りほど小さくなってはいたが。 中心核に当たる餡子さえ残っていれば、ゆっくりは死なないとも言われる。 もしそうであれば、宇宙空間を漂うこの小さな餡子の塊は、 やがて引力に惹かれ燃え尽きるまで、何を思って星を回るのだろうか。 「ふぅ~~……『でいぶのおりぼんが』……か」 驚異の虐待聴覚により、巨神はれいむの大気圏からの叫び声を聞き取っていた。 また一つの虐待を済ませ、ひと時の安息を得る巨神とお兄さん。 だが彼らがふと気付いた時には、もう盆地の水位はゆっくりにとっての安全域まで下がっていた。 「なっ……一体何が!?」 「ちゅごごごごごーーーーっ」 激しく水を吸い立てる音。群れの中心に、飛びぬけて大きなゆっくりがいる。ボスゆゆこである。 その恐るべき食欲を以て、盆地を満たしていた地下水をほとんど吸い込んでしまったのだ。 元々他の巨大ゆっくりの数倍の大きさを持っていたゆゆこだが、水を吸うことで更に大きくなったようだ。 「ゆゆっ!ゆゆこのおかげでたすかったよ!!」 「やっぱりゆゆこはとってもゆっくりできるゆっくりだよ!!」 「ゆふん!!」 水を吸い終え、周囲でふやけているゆっくり達に称えられてふんぞり返るゆゆこ。 周囲のこのような態度が奴を増長させ、ここまで巨大な群れを作らせていったのだろう。 「チッ……さっきから気になってはいたが、やっぱでけえな」 「ゆっゆっゆっ!おにいさんなんてゆゆこにかかればいちころだよ!」 「ひとくちでむしゃむしゃされちゃうよ!」 「おお、あわれあわれ」 「だからさっさとどいてね!?いたいめみたいの?しぬの?」 「みのほどしらずのおにいさんはゆっくりしんでね!」 ゆゆこの周りのゆっくりたちが、ニヤニヤしながら巨神のほうを見ている。 ゆゆこもそれに合わせてニヤニヤし始める。巨神とお兄さんの寿命はストレスでマッハだった。 「身の程知らず、か……お前らの身の程は如何程か見せてもらおうか。 踊れ、タイザーフック!!」 巨神が両腕を前方に突き出すと、その手首から無数のワイヤーが射出される。 ワイヤーは遥か上空へと伸びていくと、それぞれ『何もない空中に引っかかっ』た。 そのまま地上へと伸びていくワイヤーの先端には、鉤爪状のフックが取り付けられている。 それらはゆっくりたちの帽子や髪飾りを引っ掛け、再び上空へと昇っていった。 突然髪飾りを奪われたゆっくり達は、余裕の表情を一切失って慌て始める。 「ゆゆっ!まりさのおぼうし!!」 「れいむのおりぼんがあぁぁぁぁぁぁ!!」 「どうじでごんなごどするのおおぉぉぉぉぉ!!」 「ぼうしがないとゆっくりできないよ!!ゆっくりしないでかえしてね!!」 「じゃ、自分で取ったらどうなんだ」 「ゆっ!ゆっくりとるよ!!ゆっくりおろしてね!!」 ワイヤーフックはスルスルと降りてくる。ゆっくりが必死でジャンプしてギリギリ届く位置だ。 ゆっくり達はみな必死な表情で、口をぽかんと開けながらぴょんぴょん跳ねている。 「ゆっくりかえしてね!ゆっくりかえしてね!」 「ぴょんぴょんするよ!ゆっくりとらせてね!!」 「ゆっゆっ!ぼうしをかぶるとゆっくりできるよ!!」 だがそもそも、ゆっくりの身体で物を扱うことが出来るのは口だけである。 つまり吊るされた髪飾りを回収するためには口が届かなければいけないわけだが、 人間が手をかざしてジャンプするのとは異なり、ゆっくりの口は体の正面方向についており、真上を向くことが出来ない。 よって「ギリギリ届く」というのは、跳躍の頂点である頭頂部が髪飾りにギリギリ触れる程度、という意味だ。 そしてゆっくりは頭部に髪飾りが触れていない時、本能的に「ゆっくり出来ない」と感じる。 裏を返せば、触れてさえいればその不快感は払拭されるのだ。たとえそれが一瞬だったとしても。 最大の跳躍により、髪飾りは一瞬だけ自分の頭に触れる。その刹那の安息を求め、ゆっくり達は延々跳ね続ける。 完全に髪飾りを取り上げる絶望よりも、一筋の、本当にほんの一筋の光明を――― ゆっくりの行動を操作するにはこれに限る、というのが、この虐待お兄さんの持論であった。 またこうしてゆっくり達に「ゆっくりできる手段」を与えることで、巨神本体への意識を逸らし、攻撃を防ぐ狙いもあった。 「ゆっ・・・ゆっくり・・・できるよ・・・」 「ゆっぐりおぼうしかぶるよ・・・ゆっぐりぃ・・・」 「おいおいどうした、もう息が上がってんのか? うちで飼ってたチビゆっくりだってもうちょっと根性あったぜ?」 ゆっくり達が跳ねる度に起きていた地響きも、次第に小さくなっていく。 巨大ゆっくりはその巨体故、跳躍を得意とする個体は少ない。体力の消耗が激しすぎるためだ。 瞬く間に群れ全体から元気が失われていく。跳躍の高さも少しずつ低くなっていくようだ。 「しょうがないなあ、じゃあもう少し下げてあげるよ! ゆっくり取り戻してね!」 「ゆゆっ!おにいさんありがとう!!」 「ゆっくりおぼうしおろしてね!」 巨神はゆっくり達が髪飾りを取りやすいように、ワイヤーを更に下に降ろしていく。 しかしこれも古代コンピュータにより、疲労したゆっくりの最高到達点を計算した結果の絶妙な位置調整であり、 決して髪飾りを口でくわえて取り戻すには至れない。 そして高さだけでなく、その位置自体を少しずつずらしていく。 「ゆっ!おぼうしおぼうし!!」 「ゆびゃっ!まりざ!なにずるの゛!!」 ずらした先は、体がふやけて動けなくなっていたゆっくりの頭上。 巨体に踏みつけられ、柔らかくなった体はひとたまりもない。 しかし自分のゆっくりを追求することに夢中な飾り無しのゆっくり達は、仲間を踏んでいることにも気付かない。 「ゆびゃっ!やべでええ!ゆぐ、ゆっぐりでぎなぐなるうぅぅぅぅ!!」 「な゛んでふむの゛!!ゆっぐりつぶれちゃ、つぶれぢゃっ」 「ゆ゛ぅ・・・ゆ゛っ、ゆっぐりじでいっで・・・ね・・・」 「ありますよね~、何かに夢中で周りが見えなくなることって」 次々に潰されていくゆっくり達を眺めながら、虐待お兄さんは一人うんうんと頷く。弟の顔を思い出しているのだろうか。 足場となるゆっくりが潰れていくのだから、それに合わせて高さを調節されていた髪飾りも、 当然跳ねているゆっくり達からは遠ざかっていくことになる。 自分の位置が下がっているなどとは露ほどにも思わず、ゆっくり達は髪飾りが遠ざかることに激しく苛立つ。 「ゆ゛あああ゛ぁぁぁぁぁ!!なんでだがぐなるのおぉぉぉぉぉ!!」 「ざわれないよぉおぉぉぉぉぉ!!ゆっぐりでぎないいぃぃぃぃぃ!!」 「よーし、今度こそ返してやるから頑張ってね!」 お兄さんは再びワイヤーの位置を移動させていく。ゆっくり達は極めて従順にそれについてくる。 髪飾りの方ばかり見ている為、先ほどに引き続き足下は見ていない。 だから、自分達が山を登っていることにも気付かない。ゆゆこという巨大な山の上に。 「ゆっくりおぼうしとりかえすよ!」 「おりぼんつけてゆっくりするよ!!」 「ゆっゆっ、つかれたけどがんばってはねるよ・・・」 「ん゛~~~~~~!!ん゛~~~~~~~~!!」 ボス格であるのに、群れのみんなが虐められていても先ほどから身動き一つせず、文句の一つも言わなかったゆゆこ。 怠けて何もしなかったわけではない。実際は動くことも話すことも、何も出来なかったのだ。 自らの体積を超える量の地下水を飲み込んだため、体内に圧縮された水分量はとっくに飽和状態に達している。 それこそ口を開けば、水で極限まで薄められ、液状化した餡子が流れ出てくるほどに。 だから口を必死に閉じて我慢している。口を開けてしまえば自分が死ぬだけでなく、また盆地は水に満たされ、 他のゆっくり達を押し流すことになる。群れのリーダーとして、そんなことは出来ない。 だから上から踏み付けられて中身を圧迫されても、口を開けて文句など言えず、逆に必死に唇を結んでいた。 「ゆっ!とれるよ!もうちょっとだよ!」 「おりぼんがあたまにさわるとゆっくりできるよ!もっとさわってたいよ!!」 「まりさのおぼうしおりてきてね!!ゆっくりしたおぼうしならいうこときいてね!!」 「ほらほら~、もっと頑張って跳ねろよ。もう少しで取れるかもよ!」 髪飾りを吊るしたワイヤーを揺らすように激しく上下に動かし、取れるかも知れない雰囲気を演出する。 飾り無し達は「ゆゆ~~~!!」と色めきたち、より興奮した様子で跳躍し始める。 だらしなく開かれた口の端からは涎が辺りに飛び散っていた。 「おぼうし!おぼうし!」 「でいぶのおりぼんーーーー!!」 「ん゛~~~~っ、ん゛~~~・・・ん゛ばあああああああぁぁぁぁぁ!!!」 その激しさを増した圧迫に、ついにゆゆこの口が限界を迎える。 口からは薄黒く染まった濁流が溢れ出し、巨大な体は気球が萎むようにしおしおと地面に広がっていった。 山一つ分ほども地面が下がっていき、急激に遠ざかっていく髪飾りにゆっくり達は戸惑った。 「なんでおりぼんどっかいっぢゃうのおぉぉぉぉぉ!!」 「まりざのおぼうじがえっでぎでよおおお゛ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 「ゆっぐりでぎないよおぉぉぉぉぉぉ!!」 「ハハハ、みんなよく頑張ったね。そら、ご褒美だ!」 お兄さんがそう言うと、髪飾りは鉤から外れ、ワイヤーは瞬く間に巨神の手首へと返っていく。 至福の笑顔で落下していく髪飾りを眺めるゆっくり達。 しかしその目線が地表へと近付くにつれ、徐々に恐ろしい事実が明らかとなる。 髪飾りが落下する、ぱちゃん、という水音で、ついにゆっくり達はその現実を認識した。 「な゛んでまたおみずがあるのおおぉぉぉぉぉぉ!?」 「どげぢゃうよ゛!!おりぼんあっでもゆっぐりでぎない!!」 「ゆゆごはなにやっでるの!!やぐだだずのでぶりーだーがあぁぁぁぁぁぁ!!」 「ゆゆこならさっきお前らが皆で踏み潰しただろ……聞いてないか」 恐慌状態に陥るゆっくり達だが、髪飾りの回収だけは忘れていない。 まりさ種は帽子を水面に浮かべ、上に乗ることで難を逃れている。 この巨体を支える浮力を得られるような帽子には見えないのだが、饅頭の装飾品は不思議がいっぱいだ。 「ゆっ!いいなまりさ!!れいむもそれにのせてたすけてね!!」 「だめだよ!このおぼうしはまりさひとりようだよ!れいむはゆっくりとけてね!」 「どぼじでぞんなごどいうのおぉぉぉぉぉぉ!?れいむだぢふうふでじょおぉぉぉぉぉ!!」 「ごべんねれいむ゛!!でもゆっぐりじんでねえぇぇぇぇぇ!!」 このような光景が至るところで繰り広げられている。 ところで、この盆地を満たしている濁流は単なる地下水ではない。 「ゆっ!?まりざ、しずんできてるよ!!」 「ゆゆ゛っ!なんでなのぉぉぉぉ!!ばりざのおぼうじはじずまないはずなのぃぃぃぃぃ!!」 「れいぶをみすてたばつだよ!!ゆっくりはんせいしてよね゛!!」 「やだよぉぉぉぉぉ!!でいぶゆるじでえぇぇぇぇぇ!!」 勿論、れいむが許したところで事態がどう好転するわけもない。 この濁流はゆゆこの体内から流れ出したもの。ゆゆこの内容物の全てが溶け出しており、 その暴食を実現する消化作用……人間で言えば胃酸のようなものも、薄まっているとはいえ流れ出している。 その薄められた酸が、まりさの帽子に穴を空け、浸水を引き起こしていたのだった。 巨神の体は、一切浸蝕を引き起こす様子は無い。元よりゆっくりの攻撃は効かないのである。 「ゆ゛うぅぅぅぅぅぅ!!ゆ゛うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」 「どげぢゃう!!まりざだぢみんなとけぢゃう!!」 「おにいざんみでないでだずげでええええぇぇぇぇぇ!!」 「しょうがないなぁ、よっと」 巨神は腰を屈めると、両手をも餡水の濁流の中へと突っ込む。 「ダブルタイザーコレダァァァァーーーー!!」 「「「「ゆびびっびびびっびびびびびびびびびびびびびびびび」」」」 巨神の両手首、両足首から突き出した無数の槍からは、またしても超高圧電流が放電される。 それは水を伝って群れの全てのゆっくり達へと行き渡り、余すことなく感電をもたらした。 激しいうめき声を上げたゆっくり達は、数秒後には物言わぬ餡塊と化し、ゆっくりと水に溶けていく。 あまりに喧しい巨大ゆっくり達の悲鳴に、騒音被害を考えたお兄さんが取った苦肉の策であった。 電撃を流しながら、巨神は再度「ヒャァァァ」と雄叫びを上げる。 「爽快感に満ちているのか? ギャクタイザー……確かにこれは壮観だ」 山の盆地に満ちる黒い水、その上を漂う巨大なリボンや帽子などの髪飾り。 虐待ガルガンチュアの名残は、幻想の名に相応しい悪夢的な様相を呈していた。 「なんで・・・ゆっぐぢ・・・でぎない・・・の゛・・・」 生き残って呻いていた最後のゆっくりを踏み付けると、巨神は静かに沈みゆく夕陽を見つめた。 巨神と共に村へと戻ったお兄さんは、巨大ゆっくりのボスであるゆゆことその取り巻きを倒したことを長老に報告する。 お兄さんに白い目を向けていた村人達は一転、彼を英雄として称えて騒ぎ始めた。 「虐兄よ、そなたは間違いなく幻想郷一の英雄じゃ。わしはそう確信した。その名は後世まで称えられよう」 「兄ちゃん、俺兄ちゃんのこと誤解してたよ! 一念通ずっていうか……何かに対して本気になるって、スゲーことなんだ!!」 「この何とかイザーとかいう機械人形も長老の話だと、お前じゃなきゃ操れなかったそうじゃないか。 いや、大したもんだ。今まで散々嫌味を言ったりして悪かった」 次々に祝いと感謝の言葉を述べていく村人に、しかし虐待お兄さんは渋い顔をした。 「やめてくれ、みんな……俺とギャクタイザーは、ただ欲望に従ってゆっくりを虐待したに過ぎないんだ。 今回はただ、その結果として村を守ることに繋がっただけだ。本当はただ俺達が満足しただけ。 何も褒められることなんてしていないんだ」 「うむ、わかっておるぞ。おぬしの性根が穢れ切っておることはな。 しかし、その上で敢えて言わせてもらおう。村を守ってくれて、ありがとう」 「ふ……感謝は有り難いけど、やはり素直には受け入れられないね。 それに俺がどんなことをしたって、俺が一人で地下に篭もってる間に、見殺しにしていった人達は……」 その時、広場に佇んでいたギャクタイザーから不思議な光が満ち溢れた。 地下室でお兄さんを包んだ光に似た、しかしもっと優しいものだ。 お兄さんは虐待好きの同族として、その光の本質を感じ取った。あれはスッキリした感情を表しているのだと。 その光は優しく、しかし大らかに広がり、村全体を包み込んだ。 「おお、何と神々しい……これが太古の巨神の……」 「お、おい見ろよあれ!! 餡子の中から……」 村に散乱していたゆっくりの死骸や、焦げた破片の中から、次々に沸き出すように出て来る者がある。 それは裸の人間であった。ゆっくりに食べられたり殺されたりしていった村人達が、蘇ってきたのだ。 「こ、これは一体どういうことだ!?」 「おばあちゃん!! おばあちゃんなんですか!?」 「ママぁぁぁーーー!! こわかったよおぉーー!!」 「と、父ちゃん! 兄ちゃんがやったんだよ、あのゆっくり達を!!」 思いがけぬ再会に、一様に涙を流して狂喜乱舞する村人達。みなゆっくりによって友達や家族を奪われていたのだ。 ぽかんと口を開けてその様子を眺めている長老、そして虐待お兄さん。その心に巨神の言葉が流れ込んでくる。 『我はゆっくりによりて人心に遺恨、受傷が残ることの一切を許さぬ。 よって虐待により得られた快感を力に変え、可能な限りの修復を図ったのだ』 「ふっ……全てはスッキリに向けて完結すべし、か。どこまでもご都合の良い野郎だぜ!」 「奇跡じゃ……巨神の力によって奇跡が起こったのじゃ……」 「おい、こっちには博麗の巫女もいたぞ!」 「どぼじでこの人だけ服着でるのぉぉぉぉぉぉぉ!!?」 ふと山の方に目を向けると、隆起していた山並みは元に戻り、川となって流れて来た餡子水の中にも、 多くの人間がぷかぷか浮かんでいる。各地の村で襲われた人々だろう。 『ちなみに我の力によって変形させた山、吸い上げた地下水、全ては支障の無いよう元に戻しておいた』 「虐待が終わったらきちんと後片付け。つくづく一流だぜ……お前はよ」 「虐兄よ。巨頭の一角を破ったとはいえ、巨大ゆっくりはあれだけで終わりではない。 この幻想郷中で未だに人々を苦しめ、暴虐の限りを尽くしていることだろう。 しかし、暴虐を以て暴虐を制す……長老としての命じゃ。虐兄よ、世界中のゆっくりを虐待して来い!」 「言われなくとも!」 『ヒャァ! 虐待だぁ!』 お兄さんとギャクタイザーの戦いはまだまだ続く! 応援ありがとうございました!! あとがき スパロボに詰まったのでムシャクシャして書いた。今は反省している。 ちなみにぱちゅりーは巨大に進化する過程で、自重で潰れて絶滅しました。 このSSに感想を付ける