約 969,101 件
https://w.atwiki.jp/kyotaross/pages/6213.html
特別編 本編とは完全に別の世界での下ネタ、というかエロ日記2 どことは言いませんが、某所で本編が終わった記念に書きました ※京太郎以外みんな下ネタエロボケ連発します。パロとかパクなんとか、その辺りです ※キャラ崩壊ってレベルじゃねーぞ、な内容なのでそういうのがNGな人は数レスほどスルーでお願いします ※この特別編に限っては、苦情、文句等は『一切受け付けません』。ヤられたら倍返しって言ってたドラマがありましたね ※ここまですべて許容できる人のみ、続きをどうぞ 京太郎「ふぅ、掃除はこれくらいで」バサッ 京太郎「っと、やべ。書類とかノート落としちまったな」パラッ 京太郎「ん?このルーズリーフは……」ペラッ 清澄高校麻雀部 女子日誌 ×月○日 「という訳で、これから女の子だけで書いていくわよー」 「女子だけか?京太郎は抜きで?」 「須賀君から抜く……いいですね」 「5人で抜くのかー、豪華だじぇ」 「5対1……多人数プレイですね!」 「まぁ男の子がいたら話しにくいこともあるし?こういう形で発散しましょうってことよ」 「あー、女子には普通だけど男子にはきついって下ネタあるしなー」 「生理中の話などでしょうか。確かに生理中のプレイは人を選びそうですが、私は望まれるなら……」 「私はちょっと嫌だじぇ。身体はちっこいけど結構重くて」 「もっと話したいけど、京ちゃんあんまりやりすぎると突っ込まないで耳塞ぐからなー」 「それじゃ、これからどんどん書いていきましょ。いつか須賀くんに見せると考えれば、興奮するようなやつを!」 「「「「おー!!!」」」」 京太郎「…………なんだこれ」 京太郎「5人で何やってんだ……読まない方がいいか?」 京太郎「……でもこういうのはついつい手が動いちまうんだよなー」ペラ 清澄高校麻雀部 女子日誌 ×月△日 「須賀くんが胸で反応しません」 「京ちゃんは首筋だよ」 「結構マニアックね」 「何かきっかけでもあるんじゃろか?」 「今度、全員で首筋を見せるじぇ!」 「いいわねー。元からショートの娘達も、髪を上げたりで出来なくは無いわよね?」 「全員で京ちゃんを誘惑ですね!」 「いいですね。当日は下着無しでいきましょう」 「のどちゃん、今も無いだろ?」 「そもそも今日下着穿いてる奴おるんか?」 「「「「…………」」」」 「で、決行は土曜でいいわね?」 「異議なしです」 京太郎「……結構早くからばれてたか」 京太郎「前に示し合わせたように全員がポニテだったり、髪を上げてたりしたのはこういうことか……」 清澄高校麻雀部 女子日誌 △月□日 「最近須賀くんがいないとつまらないわよね」 「確かにな、今や普通にボケてもつまらん」 「あのツッコミがいいんですよね。こう、たまに激しくされるのがまた……」 「咲ちゃんは昔からあれを受けてたのか。羨ましいじぇ」 「うん。でも私は最近の方がいいかな」 「あら、つまり1人じゃつまらない?何、多人数の方が好み?」 「まとめたりした投げやりな扱いは……あ、想像したら濡れてきます」 「ううん、突っ込まれるのもいいけど、最近はいろんな人と打つのも楽しくて」 「ふふふ……またいじめ甲斐がある人と打てないかな♪」 「咲のSっ気はまだまだ加速するみたいね」 「はい!この犬めをもっといじめてください!!」 「じゃー、明日は京ちゃんからのツッコミ無しとか?」 「そ、そんな!放置プレイなんて……いいですね!!」 「守備範囲広いのー」 京太郎「……ツッコミってなんだろう」 京太郎「やめた方がいいのか?いやでもそれだと……」 京太郎「くそ、どっちに転がってもこいつらの思い通りかよ」 清澄高校麻雀部 女子日誌 ☆月◇日 「前から思っとったが、これに京太郎のことばっかり書いとらんか?」 「確かに……女子だけの話のはずなのに京太郎のことばっかりだじぇ」 「言われてみれば……最近須賀くんがいないとついつい須賀くんのことばっかり書いちゃうわね」 「須賀くんがいないと寂しいということでしょうか……」 「つまり……京ちゃんは私達にとって……」 「「「「「ご主人様?」」」」」 「……メイド服着てからの主従プレイならまかしとけ」 「よーし、私はタコスをSっ気たっぷりに食べさせてもらう流れからで!」 「じゃあ私は年下に調教されちゃうかー」 「ご主人様のためでしたら私はなんだってやります。命令とあればいつどこでどのようなプレイでも!」 「幼馴染はご主人様……Mになるのもいいかもなぁ……」 京太郎「……やべー、期待とかしてなかったけど予想以上にマジやべー」 京太郎「なんて方向で狙われてんの?……これマジで迫られたら逃げれるか俺?」 清澄高校麻雀部 女子日誌 ?月?日 「もし、これを京ちゃんに見られたらどうするんですか?」 「隠してるものを暴かれるのは興奮しますね」 「京太郎が乙女の秘密を覗き見か……ありだじぇ」 「脱がされるって焦らされるみたいでいいんじゃよな」 「そうねー……須賀くんが隠してるものをこっそり見たりするような人じゃないとは思うけど……その時は」 「その時は?」 「逆に須賀くんを調教しましょうか」 「縛るんですか?縛られるんですか?」 「拘束してタコスを口移しとか?」 「メイド服フリーサイズの用意はできとるぞ?」 「そんな……京ちゃん相手なんて……楽しみすぎて我慢できなくなるよぉ……」 「いい案がいっぱいねぇ」 「ね、須賀くん」 「見 た わ ね ?」 京太郎「うおっ!?」 京太郎「び、びっくりするなぁ……いきなり赤文字で丸々1ページ使うから……」 久「ちなみにその赤、破瓜った時の血なんだけどね?」 京太郎「ここまで血出てたらこんなん書いてる場合じゃねーよ!!」 京太郎「……あ」 和「ふふふ」 優希「にっ」 まこ「くくく」 咲「あは」 久「ねぇ、す・が・く・ん?」 京太郎「…………」 京太郎「いやこの最終ページ相当前に書いてたやつでしょう?ルーズリーフだからページのよれ具合とか、書いてるペンのインクとかで色々違いが分かりますよ?」 久「そ、そそそそんなことあるわけないじゃない?」 京太郎「嘘へったくそですね!」 咲「ちぇー。恐怖で震える京ちゃんが見たくて頑張って考えたのに」 京太郎「これ考えたのお前!?結構ホラーだったんだけど!?」 まこ「このためだけにルーズリーフにしたのに、暴くのが早すぎじゃ。せめてもっと溜めがいるじゃろ」 京太郎「なんで俺が駄目出しくらってるですか?」 優希「しかーし、乙女の秘密を覗き見たのは事実だじぇ!」 京太郎「内容いつもの会話と大して変わんなかったじゃねぇか」 和「乙女5人分の秘密は重いのです。という訳で須賀くん」 和「須賀くんの処女で勘弁してあげます」ヴィィィィィィ 京太郎「待て、それは女子でも男子でも簡単にあげたりしちゃダメなものだからな!つーか太っ!!しまえそんなもん!!」 和「私としては須賀くんのがこれくらいだと少々困ってしまうのですが……拡張からですね」キリッ 京太郎「キリッとした顔でとんでもないこと言うのやめなさい!」 咲「えー、じゃあ京ちゃん何するのー」 久「ほらー、脱ぎなさいよー」 優希「脱ーげ!」 まこ「脱ーげ!」 京太郎「何もしないから!唐突に脱衣を希望しない!!」 京太郎「大体、前に俺の日記見たじゃないですか。それも有耶無耶になってたし、これでイーブンでいいでしょう」 久「そうね……確かにみんなで勝手に日記を見たのは悪かったわね」 京太郎「そういう訳で…」 久「分かったわ。じゃあここはひとつ、お互いの初めての交換ってことで」シュルッ 京太郎「何も分かってなかった!!」 まこ「あ、ちょっとメイド服に着替えるから待っとってくれんか?半脱ぎでな?」ゴソゴソ 京太郎「今必要なのはそういう理解じゃないから!!」 和「初めてで6P……思い出深い初体験になりそうですね」ニコッ 京太郎「そんなセリフでいい笑顔しない!」 優希「でもこれじゃ京太郎の初めてもらえるのは1人だけだじぇー?処女捧げるだけかー?」 咲「1人は和ちゃんが持ってきたやつでヤるとして……3人はどうしよっか」ヴィィィィィィ 京太郎「それだけはやめろぉ!!」 咲「そんな……私は京ちゃんに(ツッコミ)処女捧げたのに……」 京太郎「おい、言葉足りねーぞ」 久「『それだけはやめろ』、つまり?」 まこ「それ以外はアリじゃな?」 和「やっと、覚悟を決めてくれたんですね」 優希「もうこの際処女捧げるだけでもいいじぇー」 咲「そうだね、それじゃあ京ちゃん、誰からにする?」 京太郎「誰もしねーよ!!だから脱ぎだすな!!半脱ぎもメイドも駄目!!」 咲「首筋は?」 京太郎「……アウト!!」 久「……みんなー、各自ポニテ、もしくはアップにしなさい」 まこ「あいよー」 和「ふふふっ、これに須賀くんは弱いんですよね?」 優希「私のがどうかは知らないが……実はこっそり気を遣うようになってな……」 咲「さぁ、京ちゃん」 咲「みんなで、楽しもっか?」 京太郎「あ……ちょ、待……待てぇぇぇぇ!!」 ※この後何とか逃げ切った カンッ!!
https://w.atwiki.jp/kyotaross/pages/6239.html
特別編 執事と ※終わってしまった本編との関係も一切ない特別編です ※大体色んなとこを参考にしたりイメージだったりなので、理解できるかどうかは個人差があります ※深夜テンション。最後までこんなノリ 京太郎「裸エプロンに裸Yシャツ、尊いと思いませんか」 ハギヨシ「ほほぅ」 京太郎「やはりですね、ごはんにする?お風呂にする?それともわ・た・し?って言われたいでしょう!」 ハギヨシ「即お風呂でいただきますしますね」 京太郎「裸Yシャツ、朝起きたら自分のシャツを着ている、いいですよね」 ハギヨシ「こう、見えそうで見えないくらいがベストですよね」 京太郎「ちょっと恥ずかしそうにするとか、そういう恥じらいも合わさってまたよし!!」 京太郎「……どちらでも思うんですが、やっぱり巨乳がいいですね」 ハギヨシ「ほう」 京太郎「こう、エプロンの上からでも隠せないその大きさ」 京太郎「Yシャツが悲鳴を上げるその様、じっくり拝みたいですね」 ハギヨシ「それもまた正しいです」 ハギヨシ「ですが、貧乳も、貧乳の可能性もいいものですよ」 京太郎「貧乳の……可能性?」 ハギヨシ「決して忘れてはならない、心に刻むべき言葉があります」 『貧乳がいいんじゃない。貧乳なのを気にしているのがいいんだ』 京太郎「……素晴らしい、心に響きますね」 ハギヨシ「貧乳はステータス、なんてただの開き直りです。それはただの絶壁です」 ハギヨシ「本当に大事なんのはそう、気にしながらも、大事な人のために頑張る姿勢、それです」 京太郎「これは巨乳派な俺も貧乳を許せますね」 ハギヨシ「こう、不意に『小さくてごめんね?』なんて言われでもすれば」 京太郎「たまりませんね。この手で大きくしてあげたくなります」 ハギヨシ「……裸エプロンに裸Yシャツ、素晴らしいです」 ハギヨシ「が、常に更なる可能性の探求を忘れたはいけません」 京太郎「はい……俺、絶対に忘れません。あなたのおかげで学んできたことを」 紳士の心を、忘れずに 本当に、最後のカンッ!!
https://w.atwiki.jp/preciousmemories/pages/7866.html
【白糸台高校】 特徴のひとつ。『咲-Saki-全国編』を象徴する特徴の一つで、白糸台高校の生徒が属する。 咲-Saki-全国編時点で1種類のみ存在する。 全国大会西東京代表。全国大会2連覇の超強豪校にして優勝の筆頭候補。 その恐るべき強さからインターハイ最強の呼び声も高い。 関連項目 特徴 『咲-Saki-全国編』 宮永 照 編集
https://w.atwiki.jp/kyotaross/pages/3393.html
http //hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1346308252/ 己のカルマと戦う京太郎の前に現れたステルスモモ 彼女から持ちかけられた悪魔の契約に対して、決意を固めたはずの京太郎の心は揺らぐ 彼は自らの生き方を切り開くことができるのか!? 京太郎(師匠……すみません……) 京太郎(俺はやっぱり、自分の身がかわいい臆病者みたいです……) 京太郎「分かった、そちらの要求を飲もう」 桃子「あなたならそう言ってくれると思ってたっす」 桃子「合宿中は無理に行動を起こさなくて良いっす」 桃子「実際に行動に移すのは、清澄に帰ってからということで」 京太郎「分かった。しかし今は情報が足りない」 京太郎「うちの部長とそっちの先輩ってのは、一体どれくらい親密なんだ?」 桃子「……名前」 京太郎「ん?」 桃子「あの女、私の先輩を下の名前で呼びやがったんす!」 桃子「私でさえまだ苗字に先輩って付けただけなのに……」ギリッ 京太郎(こ、これは……) 京太郎(百合場面名鑑収録「下の名前で呼んで」の亜種か!) 京太郎(いやいや、喜んでる場合じゃないだろ) 京太郎(落ち着け、冷静になるんだ) 京太郎(たかが下の名前で呼ぶようになっただけで、そこまで危険な段階に入っていると言えるか?) 京太郎(下の名前で呼び合うくらいまでなら別に……) 京太郎(…………) 京太郎(かじゅ久、いや、久かじゅ……か) 京太郎(アリだな) 京太郎(部長という職務の重責……そこから生じるストレスを抱えながら部活を発展させようとしてきた二人) 京太郎(奇しくもそれぞれが在籍する麻雀部は歴史がゼロと言っても過言ではない状態の新生部) 京太郎(同じような境遇にある者同士がある日交錯したとき、物語は始まる) 京太郎(ん?鶴賀の部長はカマボコみたいな口の人だっけか) 京太郎(まあいいか、立場的には似たようなものみたいだし、やはりそこから生じる共感g) 桃子「不愉快な妄想をしているようなら、あんたにはもう用はないっす」ニコッ 京太郎「!? ち、違うんだ! 待ってくれ!」 桃子「次はないっすよ?」 桃子「とにかく、くり返すっすが方法は問わないので、可及的速やかに処理をしてくださいっす」 桃子「こうしている間にも、あの女の毒牙が先輩に迫ってるんっすから」ギリッ 京太郎(これは……マジだな)ゴクリ 桃子「最終的にあの二人の接触を断つことができれば良いことにするっす」 桃子「だけど、もしも間に合わなかったら、その時は……」ゴゴゴ 京太郎「分かってる! 分かってるからそれだけは……それだけは許してくれ…」 桃子「じゃあ、今日のところはこれくらいにしておくっす」 桃子「期待してるっすよ、須賀京太郎君?」 桃子「あ、それと、万が一先輩の着替えを覗くとか、そういうことをした場合もその場で処刑確定なので注意してくださいっす」 桃子「では」スゥ… 京太郎「ふぅ……」ドサ 京太郎(なんてことだ……まさかこんなことになるなんて……) 京太郎(どうすれば……師匠に助けを) 京太郎(いや、それだけは絶対にできない) 京太郎(俺の尻拭いを師匠にさせるなんてことは、絶対にあってはならない……) 京太郎(しかし、師匠の思いを踏みにじることも避けたい) 京太郎(くそっ……八方塞がりか…) 京太郎(……いや、待てよ) 京太郎(今のこの状況、一見すると男である俺が百合の園を土足で踏み荒らそうとしているように見える) 京太郎(しかし、今俺がそんな行動に出ようとしているのは、紛れもない百合娘・東横桃子からのアクションがあったからだ) 京太郎(実際のところこれは、百合娘が自らの願望を成就させるための手段だと考えられないだろうか?) 京太郎(ならば今の俺は、百合の舞台の上にある一つの小道具……) 京太郎(百合の花を咲かせるためだけに存在する、ひとつの背景に過ぎない) 京太郎(それならば……俺は飽くまで流れの中で求められ、使われているに過ぎない!) 京太郎(そう、主人が執事に……透華さんや衣ちゃんが師匠に命じて、師匠がそれに応えるという関係のように) 京太郎(俺が桃子さんの要求に応じるのは、何の違和感もない行動だと言えるんじゃないか!?) 京太郎「く、くくく」 京太郎(これは、むしろ僥倖かもしれん) 京太郎(行動の理由を自らの外に置きつつも、それでいて自らのためになる行動ができる) 京太郎(しかもそれは、俺自身の規範に逆らうものではない) 京太郎(いいねぇ、望むところだ) 京太郎(やってやろうじゃないか!) 京太郎(俺は舞台の上で、俺の役を演じきってやる!) 京太郎(アトモスフィア京を舐めるなよ!!) ――久主催部屋―― 久「その手を鳴かずに進められるのね…」 ゆみ「これを鳴いて和了れる相手とは思っていない」 久「あら、随分と評価してもらってるみたいね」 ゆみ「当然だ、聞くところによるとインターミドル時代も猛威を振るっていたそうじゃないか」 ゆみ「高校に入ってから麻雀を始めた私から見れば、大先輩だよ」 久「いやねぇ、そんなことまで調べてあるの? ちょっと怖くなっちゃうわ」 ゆみ「敵情視察は戦略の基本だ」フッ 久「怖いわね、滅多なことができなくなっちゃう」 京太郎(ふむ、思った以上に親密になっているようだな) 京太郎(桃子さんの杞憂というわけではなさそうだな) 京太郎(部長が加治木さんを誘った時に下の名前で呼んでるのを見て、大慌てで俺に話を持ちかけてきたわけか) 京太郎(凄まじい行動力……いや、執念と呼ぶべきか) 京太郎(しかし……) 美穂子「うえ……竹井さん」 久「うーん、ねぇ美穂子」 美穂子「す、すみません! 失礼なことを……」 久「いや、別に上埜って呼ばれるのを気にしてるわけじゃないのよ?」 久「ただ、ゆみも私のことを名前で呼んでるし、美穂子も私のことを名前で呼んでくれないかしら」 久「ほら、私も“美穂子”って呼んでるわけだしね」 美穂子「え、でも……」 久「よし、決めた」 美穂子「え?」 久「“久”って呼んでくれないなら、なんにも反応してあげないことにするわ」 美穂子「え、そ……そんな、冗談ですよね?」 久「……」 美穂子「た……竹井、さん?」 久「……」 美穂子(うぅ……) 美穂子「ひ、久さん」 久「うーん、“さ”が続くと響きが悪いわねぇ」チラッ 美穂子「そ、そんな……」 久「あーあ、さみしいなぁ」チラッチラッ 美穂子「……」 美穂子「……久」ボソッ 久「……」スッ トトト 美穂子「え?」 久「……」ギュウ 美穂子「えっ!? ひ、ひゃ」 久「なぁに、み・ほ・こ♪」フゥ 美穂子「あ、わあうああうああ」カアァァァ 美穂子(息が、息が耳に……!) 衣「おい久、対戦相手の手牌を盗み見る気か?」 久「あら、ごめんなさい。そんなつもりはちっとも無かったんだけど」 久「あんまりにも美穂子が可愛いもんだから、自分を抑えきれなくなっちゃってね?」 美穂子「うぅぅ……」 ゆみ「まったく」ニガワライ 京太郎(…………) 京太郎(たまらん) 京太郎(なんだなんなんだこの最高の桃色空間は!?) 京太郎(ってか部長! あんた最高だよ!!) 京太郎(女の子を手玉に取るすべを身につけすぎてて、逆に怖い!) 京太郎(これは間違いなく歴戦の百合娘!) 京太郎(今までも相当な数の生娘をその毒牙にかけてきたに違いない!) 京太郎(はっ!?)ピキュイィィン 京太郎(そ、そういえば、うちの部室ってやたら恵まれた環境にあるよな……) 京太郎(部員数ギリギリ団体戦に出場可能なくらいしかいない弱小中の弱小部なのに) 京太郎(しかも、中古で買っても決して安くない自動卓まである) 京太郎(ここから導き出される結論、それはすなわち……) 京太郎(百合売春!!) 京太郎(いや、実際には売春というより、何かしらの備品をかけての麻雀勝負だったのではないだろうか) 京太郎(「部員がいないからちょっとだけ付き合ってくれない?」と誘われ、軽い気持ちで部室に足を踏み入れた彼女たちだったが) 京太郎(そこで会話をしていくうちに、次第に久という存在に惹かれるようになる) 京太郎(そしてある日、部室に置く備品をかけての勝負を持ちかけられる) 京太郎(賭けられるものがないように見えることを久に伝えると、彼女は自分の躰を賭けると言い出す) 京太郎(はじめは驚いて勝負を拒否するが、あっさりと久は引き下がる) 京太郎(拍子抜けした状態で帰宅するも、ベッドの中でそのことを反芻し、勝負を受けなかったことを後悔する) 京太郎(そして翌日、放課後になると真っ先に麻雀部の部室に向かい、そこの主に「賭けをしよう」と持ちかけるのだ) 京太郎(そしてギリギリの勝負の末、見事勝利を掴み取る。高鳴る胸の鼓動) 京太郎(なんとか平静を保とうとしていると、久がゆっくりと立ち上がり、部屋の隅のカーテンをそっと開く) 京太郎(そこには真っ白なシーツがかかったベッドが。ベッドの上に腰掛け、制服を徐々に崩しながら、誘うような目つきで見てくる久) 京太郎(そして耐えられなくなった欲望がり性を粉々に打ち砕き、久の体躯を、息を荒げながら乱暴に組みしだく……) 京太郎(一度味を知ってしまったらもう後には戻れない) 京太郎(自らの私物やポケットマネーを賭けてまで戦いに挑み、徐々に泥沼にはまってゆく) 京太郎(絶妙なバランスで勝敗を調整しながら、久は彼女たちの心を弄んでいく……) 京太郎(こう考えれば、不自然なほど揃っている備品の数々、そしてあのベッドの説明がつく) 京太郎(そして和は、かつて部長が甘い声を上げながら) 京太郎(時には上げさせながらシーツを濡らしていたなどということに微塵も気づかず、そのベッドで無防備に睡眠をとっているのだ) 京太郎(…………) 京太郎(い、いかん、これは危険だ) 京太郎(平常心が保てなくなりそうだ……落ち着け俺)フゥ ゆみ「ん?」 京太郎(っ! まずい!) 京太郎(アトモスフィアモードを……冷静に……)スゥ ゆみ(…………気のせいか) 京太郎(……危なかった) 京太郎(しかし、さすがと言わざるを得ないな) 京太郎(あの桃子さんの気配を、完全に隠蔽していない状態とは言え察知できるだけ……) 京太郎(しまった、本来の目的を忘れるところだった……!) 京太郎(今は百合妄想に浸っている場合ではない。何とかして現状を打開しないと……) 京太郎(しかし、俺のSPY-Lレーダーの情報が正しければ、キャプテンはもう既に陥落しているが、肝心の部長が問題だ) 京太郎(今回のオーダーは部長を加治木さんから引き離すこと) 京太郎(最終的に部長そのものをどうにかしなければ意味がない……) 京太郎(しかし、ここに来てからの部長の姿を見る限り、彼女を特定の誰かと結びつけることはかなり難しい) 京太郎(おまけに今回は時間が限られている) 京太郎(一度この合宿が終わってしまえば、これだけのメンバーが一堂に会することは殆どなくなるだろう) 京太郎(解散してしまえば部長と加治木さんの接触自体は減るだろうが) 京太郎(もし個人的に合うといった状況になった場合、それを事前に察知するためには部長のプライベートに張り付く必要が出てくる) 京太郎(そして周囲にフレアとして使えそうな人材がいるとも限らない) 京太郎(合宿終了まであと何時間だ?) 京太郎(なにか……何かないのか……) 京太郎(師匠……俺に力を……) 京太郎(……ん? 待てよ?) 京太郎(このSPY-Lの反応……) 京太郎(はっ!?) 京太郎(そうか! この手があったか!) 京太郎(…………しかし、これは成功する確率が高いとは言えない……) 京太郎(どうする、別の手を考えるか……?) 京太郎(いや、迷っている時間はない) 京太郎(失敗すればジ・エンドだが、何もせずにいて失敗しても結果は同じだ) 京太郎(ならば、俺は全力を尽くして死ぬ方を選ぶ) 京太郎(それに、これは紛れもない百合娘からの願いでもある) 京太郎(指をくわえて見ているだけなどというのは、百合男子道に背く行い!) 京太郎(よし! 『オペレーションNH』始動だ!!) ――清澄部屋―― 和「はぁ、流石に疲れましたね」 咲「朝から晩まで打ちっぱなしだったもんね……」 咲「優希ちゃんなんか爆睡してるよ」 優希「ZZZzzz……」ホボゼンラ 和「ゆーき……なんてはしたない…」 咲「それにしても、今回の合宿は勉強になったなぁ」 和「ですね、みなさんやっぱり決勝まで残っただけありました」 咲「はぁ、京ちゃんも来れてたら強くなれたんじゃないかなぁ」 和「」ムカッ 和「もし来れていたとしても、部長の命で雑用をやって終わりだったと思いますよ」イライラ 咲「うーん、部長ももう少し京ちゃんに優しくしてあげればいいのに……」 和「」イライライライライライライライライライライラ 和「み、宮永さ」コーイーシチャッタンダ タブン キヅイテナーイデショー 咲「あ、これって」 咲「京ちゃんからメールだ!」パァァ 和「」プチッ 和「みやながさ咲「え?」 和「!」ガバッ 和「どうしましたか宮永さん!まさかセクハラまがいのメールを!」 和「前からうすうす怪しいとは思っていたんですが、やっぱりやらかしましたかあの変態!」 和「私たちの方を見てたまにニヤっと笑っていたんですよ!」 和「気持ち悪いなぁとは思っていたんですが部活の平穏を乱したくなくて今まで野放しにしてしまいました! 申し訳ありません!」 和「今すぐヤツからのメールや着信履歴を全て削除してアドレスからも消去」 和「ついでに着信拒否リストに入れて、麻雀部、いや清澄高校、いいえ長野から永久追放してしまいましょう!!」 和「大丈夫です!裁判なら両親に頼めば必ず勝てますし、宮永さんは私が必ず守りきってみせます!」 咲「え? いやそんなメール京ちゃんはしてきてないよ?」 咲「ただ、ちょっといきなりっていうか、よく分からないっていうか……」 咲「ほら、これ」スッ 和「…………え?」 和「……何ですか、これ?」 咲「私も全然分からない……」 咲「あ、も、もしかして……」 咲「京ちゃん……あの人のこと……」ジワッ 和「!?」 和(私の咲さんを泣かせるなんて…………) 和(凌遅刑が神からの祝福に思える位の罰を与える必要がありますね……!)ゴゴゴ 和「今すぐ電話して、目的を問いただしましょう!」 咲「う、うん」ピピッ 和(短縮の0番!?)ワナワナ 咲「…………電源が入ってないみたい」 和「宮永さん! こんな訳のわからないお願いなんて聞く必要ありません! もう今日は寝ましょう!!」 咲「…………ううん、行くよ、私」 咲「きっとなにかワケがあるんだよ」 咲「私は京ちゃんを信じる。京ちゃんの力になりたいから……!」グッ 和「」イライラブルブルワナワナバキバキグシャグシャバリバリゴクン 和「…………分かりました」 和「では、私もご一緒させていただきます」 和「私も(咲さんの)力になりたいですから」ニッコリ 咲「原村さん……!」 和「行きましょう、あんまり遅くなると、寝てしまうかもしれませんよ」ニコニコニコニコ 咲「うん! 行こう!」 ――鶴賀部屋―― 桃子「ん?」 桃子(この気配……) 桃子「ちょっと出てくるっす」 ワハハ「んー? あんまり遅くなるんじゃないぞー」ワハハ 桃子「はいっす」 ガチャ バタン 桃子「で、なんの用っすか? 須賀京太郎」 京太郎「今、手を打っているところです。おそらく明日出発するまでには結果が出るでしょう」 桃子「!!」 桃子(本当? ブラフ? いくらなんでも早すぎないっすか?) 桃子「合宿中は無理みたいなことを言ってたと思うんすけど、あれはなんだったんすかねぇ?」 桃子(これは警戒しなくてないけない? いやしかし……) 京太郎「俺の認識不足でした。むしろこの機会を逃すわけにはいかないんです」 京太郎「……そして、この作戦を遂行するにあたって、桃子さんにも協力していただかなくてはなりません」 桃子(きたっ!) 桃子「確かに協力するとは言ったっすけど、内容によるっす」 桃子「当然納得できる理由も話してもらわないと」 京太郎「理由までは……ただ、殆ど手間は取らせません」 京太郎「大丈夫です。俺を信じてください」 京太郎「必ず貴女の望む結果をご覧に入れます」 桃子(……話だけなら、聞いてやるっすか…) ――外―― 桃子(一応、要求されたことはやったっすけど、あれは一体何の意味が……) 桃子(あとはここで少し待てばいいって……) 桃子(少しってどれくらいなんすかね?) 桃子(一応アイツの行いの証拠は、分散して保管してあるから、今のうちに処理するのは無理っすけど……) 桃子(10分待って何も起こらなかったら、処刑確定っすね) ゆみ「……」タッ タッ タッ 桃子「……先輩?」 ゆみ「桃子」 桃子「!?」ビクッ 桃子(こ、これは……) 桃子(先輩……怒ってるっすか……?) 桃子(一体何が……) ゆみ「桃子」 桃子「は、はいっす!」ビクッ ゆみ「ひとつ、聞きたいことがある」 桃子「なな、なんっすか?」ビクビク ゆみ「須賀京太郎をいう男の事を知っているか?」 桃子「!!??」ビックゥ 桃子(ま、まさかアイツ……みんな先輩にバラして……)ブルブル 桃子(こ、殺すっす!!) 桃子「な……んのことだか、さっぱりわからないっすね」プイッ ゆみ「声が上ずっているぞ」 ゆみ「その反応、やはりヤツの言っていったことは本当だったか……」 桃子(なんで、そんなに怒ってるんすか……) 桃子(なんで、そんなに悲しそうな顔するんすか……) 桃子(私のこと、恋愛ではないにしても、好いていてくれていたんじゃないんすか……) 桃子(じゃあなんで……今まで……勘違いさせるようなこと)ギリッ 桃子(あんまりっすよ……) ゆみ「桃子……本気なのか?」 桃子(……!)ギリリッ 桃子「そうっすよ! 本気っす!」ジワッ 桃子「でも何が悪いんすか! 先輩が悪いんっすよ!」ポロ 桃子「私は……私は、ただ……」ポロポロ ゆみ「……」スッ 桃子「っ! 触らないでくださいっす!!」バシッ ゆみ「」ギリッ ゆみ「桃子!」グイッ 桃子「きゃ!?」ドサッ 桃子(え? 何? 押し倒され……) ゆみ「桃子」 桃子「は、はい……」 ゆみ「お前を見つけたのは、私だ」 桃子「え、あ、はい」 ゆみ「だから、お前は私のモノだ」 ゆみ「誰にも渡しはしない」ギュウ 桃子(…………???) ゆみ「私が悪かった」 ゆみ「お前は、なんだかんだでちゃんと分かってくれていると思っていた」 ゆみ「全く、笑い話にもならないよ」 ゆみ「だから」 ゆみ「しっかりと、躾てやらないといけないな」 桃子「はぇ?」 ゆみ「だれがお前の持ち主なのか」 ゆみ「心にも、躰にも」 ゆみ「刻みつけてやる……!!」グイッ 桃子「な、にを んんうぅ!?」チュウゥゥ 桃子(これは一体何がどうなってこうなったんすかぁぁぁ!?) ゆみ「ふぅ」 桃子「はぁ、はぁ……せ、んぱ」ハァハァ ゆみ「……」グイッ 桃子「や、ちょ、そこは!?」ググッ ゆみ「初めてか?」 桃子「……はぁ…? そりゃ、そうっすけど……?」 ゆみ「そうか、そうじゃなかったらモモを殺して私も死んでいたよ」 桃子「ぇ?」 ゆみ「それに、痛くなければ躾にならないだろう?」 ゆみ「一生忘れられないくらい、痛くしてやるからな」 桃子「ちょ、ま、せんぱ」 ~少し前~ ――廊下―― ゆみ「やれやれ、さすがに疲れたな」コキコキ ゆみ(しかし……楽しかったな)フッ ゆみ「…………ん?」 ゆみ(これは、なんだ?) ゆみ(押し隠したような気配……モモに近いが、違う) ゆみ(それにこの感じ……久たちと打っている時にも一瞬感じた) ゆみ「そこかっ!」バッ 京太郎「流石ですね」スゥ ゆみ「! 君は……確か清澄の男子部員」 京太郎「! これは……覚えていただけているとは、意外でした」 ゆみ「なぜここにいるんだ? 久は君を置いてきたと言っていたはずだが」 京太郎「ええ、まあちょっとした理由がありましてね」 京太郎「加治木さんに接触したのも、その理由と関係していまして」 京太郎「少しお時間をいただけないでしょうか」ニコッ ゆみ(……どういうつもりだ?) ゆみ(この男、確かに気配を感じることはできたが、まるであえて私に察知させたような、そんな不自然さがあった) ゆみ(つまり、今の今まで私にも気づかれないような状態で”何か”をしていた可能性が高い) ゆみ(それでも、犯罪行為をしようとしていたなら、気配を消した状態でいくらでも出来たはず) ゆみ(私に直接危害を加えるようなことは、今の時点でするつもりはないということか) ゆみ(……ここで誘いに乗らなかった場合、この男は再び姿を消すだろう) ゆみ(目的が全くわからないままロストするのは避けたい……) ゆみ「わかった、話だけなら聞こう」 京太郎「そうおっしゃっていただけると思っていました」 京太郎「ここでは人目につきます。場所を移しましょう」 ――外―― ゆみ「で、こんな所でしか話せないということは、なかなかに後暗い話題をしたいと見えるが」 京太郎「後暗い、というほどではありませんが……」 京太郎「大手を振って話せるものでもありませんね」 京太郎「……同じ無名校として、決勝での鶴賀の活躍には驚きましたし、素直に敬意を覚えました」 ゆみ(……? なんだ、わざわざ胡麻をすりに来たわけでもないだろうに) 京太郎「とくに、うちの原村を抑えて、副将戦で収支1位を飾った東横桃子さん」 ゆみ「……」ピクッ 京太郎「加治木さんも素晴らしい立ち回りをされましたが、やはり彼女の働きには非常に強い印象を覚えました」 ゆみ「……何が言いたい」 京太郎「そのままです。東横さんが優秀だというお話ですよ」 京太郎「原村和は去年の全中チャンピオン」 京太郎「そして龍門渕透華さんも、去年のインハイでは大いに活躍したそうじゃないですか」 京太郎「そんな二人を押しのけて、鶴賀を優勝まで後一歩のところまで押上げた彼女のような才能が」 京太郎「これを最後に終わってしまうのかと思うと、あまりにももったいなくて」 ゆみ「!?」 ゆみ「それは、どういうことだ?」 ゆみ「モモはまだ1年だ。来年も再来年も、鶴賀のエースとして活躍する」 ゆみ「ここで終わるわけがないだろう!」 京太郎「冷静に考えてみてください」 京太郎「確かに鶴賀は県予選で決勝まで上り詰め、大いに活躍しました」 京太郎「しかし、それだけで来年からも部員が入ってくれるでしょうか?」 京太郎「本当に麻雀がやりたい人なら、長野だと普通は風越に入ります」 京太郎「それに、風越は確かに名門ですが、ここ最近の2連敗は間違いなく看板の価値を落としているでしょう」 京太郎「ではほかの学校はどうか?」 京太郎「今回の決勝の4校で考えてみましょうか」 京太郎「龍門渕のメンバーは全員が2年生で、来年もレギュラーメンバーは変わらないでしょう」 京太郎「メンバーに空き枠がなく、横のつながりだけで強さを保っているところに、新入生が入るとは考えにくい」 京太郎「そもそもあのチームは学校の麻雀部というより、龍門渕さんの私設クラブとしての色合いが強いですから」 京太郎「そうなると鶴賀と清澄はですが、ここは両方共ほぼ無名です」 京太郎「目立った戦果は、今年の物のみ」 京太郎「そして、両方が無名ならば」 京太郎「『全国優勝校』という泊のついた清澄の方を、普通ならば選ぶでしょうね」 ゆみ「!!??」 ゆみ「ちょっと待て!」 ゆみ「自分の仲間に対して自信があるのは結構だが、随分と大きな風呂敷を広げるじゃないか」 ゆみ「そんな根拠の乏しい推測をもとに、うちの麻雀部を不当に低く評価するとは、君は随分恥知らずな人間のようだな」 京太郎「本当に根拠に乏しいと言えますか?」 京太郎「先鋒の片岡は、個人戦で歴代ハイスコアを出すほどの腕前」 京太郎「副将の原村は言わずもがな」 京太郎「大将の宮永は、去年のMVPである天江衣を制し、個人戦でも全国出場が決定しています」 京太郎「そして、常に収支を±0にするという驚異的な実力」 京太郎「これは個人戦でも本人の気が変わるまでやってのけていましたから、全国でも通用すると思われます」 京太郎「どんなに異常なことか、加治木さんならよくお分かりでしょう?」 京太郎「残りの二人も、ほかの3人ほどの派手なモノはありませんが」 京太郎「どちらも安定してハイレベルな試合ができるというのは、加治木さんも骨身にしみて理解しているはずです」 京太郎「ここまでの実力者が揃いながら、清澄が優勝を狙うには力不足だと思えるのなら」 京太郎「それは少しばかり観察眼というか、まあ“何か”が足りないんじゃないでしょうか」ニコッ ゆみ「君は……随分と人をからかうのが好きなようだなっ……」ギリリッ ゆみ「仮に、だ」 ゆみ「仮に来年鶴賀の麻雀部が団体戦に出られないとしても」 ゆみ「モモには個人戦があるだろう」 ゆみ「そうなれば、少なくとも彼女の才能が埋もれるということはない!」 ゆみ「彼女は、あの特殊な能力が先行してはいるが、麻雀の実力も文句のないレベルだと思っている」 ゆみ「問題は全くない」 京太郎「……東横さんは、どうして麻雀部に入ったんでしょうか?」 ゆみ「!」 京太郎「どうやら彼女は初めから麻雀部に入ろうとは思っていなかったようですよね?」 京太郎「誰かが強引に麻雀部に連れ込んだと聞いていますが」 ゆみ(この男……いったい…) 京太郎「もしもですよ」 京太郎「もしもその人がいなくなってしまったら」 京太郎「東横さんが麻雀部にいる理由、その物自体が消えてしまうということになるのではないでしょうか?」 ゆみ「!?」 ゆみ(そんな……モモが……) ゆみ(いや、そ、そんなことはないはずだ) ゆみ(…………ホントにそう言えるのか……?) ゆみ(いや、まて、相手のペースに飲まれるな!) ゆみ「どうも人の周りを嗅ぎ回るのが好きな、趣味の悪い人間がいるようだが」 ゆみ「いったい、どこからそんな噂話を仕入れてきたのかな」 京太郎「加治木さん、あなたほど聡明な方だ」 ゆみ(無視、か) 京太郎「人の気持ちに鈍いというわけでもない」 京太郎「なら、もう気づいているんでしょう?」 京太郎「東横さんがあなたに向けている感情に、ね」 ゆみ(…………っく!?) 京太郎「自らの存在を非常に認識されにくいという、あまりにも特異な体質を持って生まれてしまった、一人の女の子」 京太郎「存在を気づいてもらえないがために、誰からも必要とされることなく生きてきた」 京太郎「だがある日、そんなつまらない日常から自分のことを引き上げてくれる人が現れた」 京太郎「彼女がどれほどの喜びを感じたかは、想像に難くありません」 京太郎「そして、求められるということに喜びを感じた彼女は、恩人とも呼べるその人に着いていくことを決める」 京太郎「ですが……」 京太郎「自分を見つけてくれたその人は、自分自身が麻雀の大会に出るための頭数が欲しかっただけで」 京太郎「高校生活最後の試合が終わると、目の前から姿を消してしまう」 ゆみ「!!……ち、違う!!」 ゆみ「私はそんな……そんな道具のような扱い方をモモにしてきたことは断じてない!!」 ゆみ「モモは私の大事な……大事な仲間だ!」 京太郎「仲間……そうですよね」 京太郎「あなたから見れば、彼女は確かに大切な仲間です」 京太郎「ですが、お分かりのはずです」 京太郎「彼女が貴女との間に求めている関係は、もっと特別なものだと」 ゆみ「そ……れは」ビクッ ゆみ(たしかに、モモが求めているものはわかっている、が……) 京太郎「そして、貴女がどんなに彼女のことを大切に思っていたとしても、鶴賀を去ってしまうのは、曲げることのできない事実」 京太郎「彼女が麻雀部にいる理由を失ってしまうのも、従って事実です」 京太郎「ですから“このままでは”彼女の才能は埋もれてしまうんですよ」 ゆみ(…!) ゆみ(まさか、コイツの狙いは) 京太郎「本題に入りましょうか」 京太郎「東横桃子さんが後腐れなく清澄の麻雀部に入れるように、彼女との縁を完全に断って頂きたい」 ゆみ「ば……馬鹿かお前は!」 ゆみ「私がそんなことをすると思っているのか!」 京太郎「他のメンバーの方のことでしたら、どうぞご心配なく」 京太郎「彼女たちも、まとめて受け入れる準備は出来ていますから」 ゆみ「準備が出来ている……だと?」 ゆみ「まさかこの話、久も噛んでいるのか……?」 京太郎「おっと、この話は完全に俺のワンマン企画ですよ」 京太郎「うちの部長はああ見えて、曲がったことが大嫌いでしてね」 京太郎「おまけに頭がキレて、感も鋭い」 京太郎「部長にばれずに準備をするのは大変でしたよ」 京太郎「本当はもっと面倒な手順を踏んで東横さんに接近するつもりだったのですが」 京太郎「今回の合宿企画が持ち上がったのは本当に幸運だったというより他ありません」 京太郎「この機会を逃すと面倒なので、加治木さんには早くご決断をして頂きたいのですが……」 ゆみ「……君が清澄の戦力の増加のために、モモをうちから盗ろうとしているのは分かった」 ゆみ「しかし、君は男子部員で、女子部員の成果は直接利益になるとは思えない」 ゆみ「なのにどうしてそこまでモモに固執するんだ?」 京太郎「……正直言って、今の清澄は部長の強力なリーダーシップによってまとめられている状態です」 京太郎「飄々としていながら、彼女ほど抜け目のない人間もなかなかいない」 京太郎「うちのメンバーは、一人ひとりが優れた雀士ではありますが、部長の跡を継いで組織を引っ張っていける人間がいない」 京太郎「宮永はそもそも内向的な性格ですし、片岡は自分勝手すぎる」 京太郎「原村は信念が強すぎるあまり、狭窄な考えに陥りがち」 京太郎「染谷先輩は一番まともではありますが、いい人どまりでリーダーとしては力不足な感が否めません」 京太郎「そうなったとき、いったい誰が部の舵取りをしていくのか」 京太郎「そうなった時に、俺がその責務を引き受けようと思っているわけです」 ゆみ「随分自己評価が高いと見えるな」 ゆみ「私にはただの自惚れにしか感じられないが」 京太郎「消去法ですよ、手配の中に安牌がこれしかなかったんです」 京太郎「ともかく、俺がそうやって部をチームとしてまとめ上げていくとなれば、当然勝ち進むために何ができるのか、と考えるわけです」 京太郎「そして、まずは強力な人間の頭数を増やそうと思ったわけです」 京太郎「部内に強者が大勢いれば、内輪の練習だけでも十分技量の進歩は望めますから」 ゆみ「この陰険な謀は、全て部のためにやっていることだと言いたいのか」 京太郎「もちろん、それだけではありません」 京太郎「先程も申しましたように、清澄麻雀部は高い確率で優勝杯を持って帰るでしょう」 京太郎「そして、来年、再来年とそれを続ければ」 京太郎「史上初の3連覇を成し遂げる、ということになります」 京太郎「……今や、麻雀はこの世界で最大のゲームとなっています」 京太郎「そして麻雀強豪国である日本のインターハイで殿堂入りになるということは」 京太郎「世界レベルで実力が認められることになるでしょう」 京太郎「そうなったとき、そのチームを間接的に勝利に導いた人間も、十分すぎるおこぼれを貰えるのでは」 京太郎「そう考えたんですよ」ニコッ ゆみ(やはり私腹を肥やすことを考えていたようだな) ゆみ(しかも仲間を利用して……どこまでも下衆な男だ) ゆみ「久に……この話が知れたらどうするつもりだ?」 ゆみ「たったさっき自分で言ったばかりじゃないか」 ゆみ「久は曲がったことが嫌い、そう自分で言っただろう。短い付き合いだが、それは私もよく知っている」 京太郎「確かに多少面倒なことになりますが、問題ありませんよ」 京太郎「そもそも、この話は加治木さんに伏せたまま進めても、何の問題も無かったんですよ?」 京太郎「大切なのは“桃子”さんの意思ですから」 ゆみ(桃子……だと!?) ゆみ「キサマが彼女をその名で呼ぶな!!」 京太郎「落ち着いてくださいよ、加治木さん」 京太郎「俺があなたにこの話をしたのは、桃子さんができるだけ憂いを残さずに清澄に来れるようにしたかったから」 京太郎「俺は心の底から彼女のことを案じているんですよ?」 ゆみ「減らず口をっ……!」 京太郎「よく考えてみてください」 京太郎「一度求められることを、暖かさを知ってしまった彼女は、もはや以前のような孤独には耐えられなくなっているでしょう」 京太郎「いつ瓦解するかもわからない、風前の灯のような部活で、孤独に耐えながら暮らすのと」 京太郎「全国制覇の錦を飾る場所で、みんなから必要とされながら送る高校生活」 京太郎「どちらが桃子さんにとって幸せだと思いますか?」 ゆみ(…………) 京太郎「ねぇ、加治木さん」 京太郎「いい夢、見れたでしょう?」 ゆみ「な……っ!?」 京太郎「皆で全国を目指して走り続け」 京太郎「途中で敗退はしたけれど」 京太郎「それでも夢のように楽しかったんじゃないですか?」 京太郎「高校生活最後の、素敵な思い出は“もう出来ている”んですよ」 京太郎「ですが、桃子さんにはまだまだ未来があります」 京太郎「あなたが自分の思い出のため“だけ”に作った部活に、無理に残す必要はないでしょう?」 京太郎「彼女を夢の抜け殻に縛り付けておくなんて残酷な真似が」 京太郎「あなたにできるんですか?」 ゆみ「そ、んな……しばる、なんて……そんな…つもりは」 京太郎「加治木さん、あなたと桃子さんの関係、どうして俺が知っていたと思います?」 ゆみ「…………あ、え……?」 京太郎「直接聞いたんですよ。“モモ”から」 ゆみ「何を……」 ゆみ(何を……言っているんだ……この男は) 京太郎「話の流れで気づきませんでしたか」 京太郎「モモは、もうこの話を了解済みなんですよ」 京太郎「だから、あなたとのことも全て知っているんです」 京太郎「“モモから皆聞かせてもらいましたから”」 ゆみ(…………なんだ、なんなんだこれは) ゆみ(このおとこはいったいなにをしゃべっているんだ) 京太郎「ですから…………ぁ……」ボソッ ゆみ(え?) 京太郎「いいえ、なんでもありません。話を続けましょう」 ゆみ(なんだ、この男、一瞬むこうを見) ゆみ(!) ゆみ(モモ、と、清澄の……原村と、宮永……?) 京太郎「……こでは……ろと……あれだけ……」ブツブツ ゆみ「な、んの、ことだ」 京太郎「…………いえ、モモにはその、清澄に入ってからもスムーズに行くように」 京太郎「人間関係もある程度構築しておくように言っていたんですが……」 京太郎「できるだけ内密にしろと言ったはずなんですが……」ハァ ゆみ( ) ゆみ( ) ゆみ( ) 京太郎「ああ…………加治木さん」 京太郎「彼女はこっちに来ることを決めてからも、あなたのことでずいぶん悩んでいました」 京太郎「最後までモモの心を縛っていたのは、部活でも麻雀でもなく」 京太郎「貴女だったんですよ、加治木ゆみさん」 京太郎「だから、俺は最後の憂いを立つために、あなたにこのお話をしたんです」 京太郎「分かって頂けますよね」 ゆみ「」ガクッ ゆみ「」ドサッ ゆみ「モモ……私は…………お前……モモ」 京太郎「色よい返事を……いえ、返事は結構ですので、行動で示してください」 京太郎「失礼します」スゥ… ~翌朝~ ――車の前―― 久「それにしても、なんだかつやつやしてない?」 ゆみ「まさか、今にも倒れて眠りたい気分だよ」 久「確かに、あなたの後輩の……東横さんはそんな感じだけど……」 ゆみ「ああ、二人でちょっと遅くまで話をしていてな」 ゆみ「うちの麻雀部は来年も人集めが大変だし、そのことについて、な」 久「ふぅん……」 ワハハ「おーい、そろそろ出発するぞ。名残惜しいのはわかるけど、早く車に乗ってくれ!」ワハハ ゆみ「だそうだ。悪いがもう行かせてもらうよ」 久「ええ…………ねぇ、ゆみ」 ゆみ「ん?」 久「あんまり無理させちゃダメよ?」 ゆみ「………………善処しよう」 久(微塵も反省してないみたいね) 久(東横さんも大変ねぇ……) 桃子(痛いっす……あらゆる箇所が痛いっす……) 桃子(須賀京太郎……まさかこんな搦手を使ってくるとは……) 桃子(でも) 桃子(やっぱり、誰かに求められるっていうのは、あったかいっすね)フフ 佳織「桃子さん……? どうかしました?」 桃子「いや、楽しかったなぁって」 桃子「新しい知り合いも出来たし」 桃子「今までの私の人生じゃ、考えられないくらい楽しかったっす」 佳織「人生って……」 桃子(ん? あれは) 京太郎「」サムズアップ 桃子(……今回は感謝してやるっす) 桃子「須賀京太郎」ボソッ ゆみ「」ピクッ 桃子(あ、やば) ゆみ「モモ」 桃子「は、はいっす……」 ゆみ「今日はそういえば、午後から私の家で勉強を見てやる予定だったよな」ニコニコ 桃子「いやぁ、その、今日は疲れたから家でゆっくり休みたいかなぁって……」 ゆみ「なら、私の家に来て、我慢できなくなったらそのまま寝ればいい」 ゆみ「泊まっていってもいいしな」 桃子「き、今日は帰って撮っておいたドラマを」 ゆみ「 モ モ 」ニ゙ゴッ ワハハ「……!?」ゾク 睦月(なに!?)ゾクゥ 佳織(ひぃ)ゾクゾク 桃子「……はいっす」 桃子(前言撤回) 桃子(ちょっと……いや、かなりやりすぎっすよ…) ――清澄部屋―― ブオォォォン ブロロロロロロ 和「んんぅ……」 和(車……そうか、もう朝なんですね) 和(鶴賀の人たちが帰るんでしょうか) 和「ふあぁ」ムクリ 和(それにしても……) 和(結局昨日の須賀くんのメールはなんだったんでしょう) 和(指定した時間に指定した場所で、東横さんと親しげに話して欲しいって……) 和(何を考えていたんでしょうか) 和「?」 和(この香りは……)スンスン 和(同類――百合の香り!?)バッ 和(あっち……鶴賀の車の方から……) 和(これは……)スンスン 和(加治木さんと、東横さん……でしょうか…) 和(おかしいですね……) 和(昨日の時点では何も……) 和(あのあと、何かあったということでしょうか?) 和「…………」 ――何処かの木の上―― ハギヨシ「京太郎君……」 ハギヨシ(まさか、あそこまでのことをやってのけるとは) ハギヨシ(彼のやったことは、話術で相手を乱すだけではない) ハギヨシ(衣様が月の力を得て、卓上を支配するように) ハギヨシ(彼はこの周囲一帯の空間を、自らの気……いや、自らそのもので染め上げた……) ハギヨシ(まさか、使えるものが今の世に生まれようとは……) ハギヨシ(一体貴方はどこへ行こうというのです……) ハギヨシ(もしかしたら私は、とんでもない怪物を目覚めさせてしまったのでは……) ハギヨシ(………………) ハギヨシ(師としては失格かもしれません) ハギヨシ(しかし、私は……) ハギヨシ「見たい」 ハギヨシ「京太郎君、あなたがどんな覇道を征くのか」 ハギヨシ(あんなものを再び“魅せ”られては、どうしようもないですね) ハギヨシ(そういえば、あの方は今一体何をしているのでしょうか……) ~帰宅後~ ――木間書店―― 京太郎(今回はさすがに疲れた……) 京太郎(まさにカミソリの上を滑るような、危険な賭けだった) 京太郎(アトモスフィアでの情報収集の成果がなければ、あそこまでうまくいかなかっただろう) 京太郎(まさに日頃からの地道な作業が実を結んだと言える) 京太郎(なぜか失敗のビジョンは少しも浮かばなかったが) 京太郎(もしかしたら、咲とか衣ちゃんの感覚って、あんな感じなのかもなー) 京太郎(しかし、丸く収めるためとは言え加治木さんには随分ひどいこと言っちまったな……) 京太郎(今度会うことがあったら、ジャンピング土下座で謝る必要があるか) 京太郎(得られるものも多かったけど、やっぱりこんなことは二度とやりたくないな……) 京太郎(まぁ二人の様子はしっかりと記録させてもらいましたがね!) 京太郎(それにしても、ボロボロになったことに変わりはないか……) 京太郎「さっさと帰って」 『ひらり』 京太郎「これを読んで、癒されたい……」 京太郎(昨今、百合雑誌が増えてきている) 京太郎(まだまだマイナーなジャンルであることは否めないが、それでもこの流れは喜ばしい限り) 京太郎(中でも百合姫の他に出版されている百合雑誌『つぼみ』と『ひらり』の存在は大きい!) 京太郎(今回買う『ひらり』は、平尾先生の短編や、最近画力が向上してきた袴田先生の作品など目を離せない要素がたくさんあるが) 京太郎(なかでも俺が注目しているのはTONO先生の「ピンクラッシュ」!) 京太郎(ガチ百合娘のアタックを受けているうち、徐々に彼女のことを受け入れていくマールの姿が堪らない!) 京太郎(ただ、初期に掲載されていた小説がなくなってしまったのは残念ではあるが……) 京太郎(まぁそれより今は、さっさと家に帰ってこいつを堪能する方が重要だ!) ?「あれは……」ジー カン!
https://w.atwiki.jp/kyotaross/pages/3463.html
http //ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379321075/ 9・ その写真は、宮永みなもの最後の写真となった。 それ以来、咲は写真が嫌いになった。 わざわざアルバム委員になって、自分の写真が卒業アルバムにできるだけ載らないようにするくらい。 写真はその当時の記憶を蘇らせるからである。 咲は、カメラのレンズを避けるように生きている。 たまたま映ってしまったときにはその写真を抹消するために全力を尽くす。 昔は別に写真に映ることは嫌いじゃなく、むしろ好きだったのに。 みなもの死は、咲を写真嫌いにした。 みなもは、泳ぐことが好きであった。 いや、正確には――水、海、川、魚、貝。そういう物ならなんでも好きだった。 泳いでる魚をただ見てるだけでも楽しんでいたし、魚を食べるのも好きだった。 魚は綺麗に食べた。みなもはよく、咲に対して魚のきれいな食べ方を伝授した。 今でも咲はきれいに魚を食べる。 そんな咲の姿をみなもと重ねて、京太郎は咲のことが好きになった。 みなもの代用品として好きになったとも言えるけど。 牌の世界は海に似ていた。 みなもは自分の好きな海の世界を、牌の世界で再現したのだ。 そこまでするぐらい、海のことが好きだったのだ。 京太郎「きっかけは事故、だったけ」 咲はあの頃からよくこける子どもだった。 道路の真ん中で、咲がこけたのだ。 運悪く、そこにトラックが迫っていた。 京太郎「穏乃が言ってたのはこれか……」 京太郎「『あのとき、俺は足が動かなかった』」 京太郎「『そんな情けない俺の隣を、あいつは駆け出した』」 京太郎「みなもが、駆け出した」 京太郎「みなもは、咲を救ったんだ」 京太郎「自分の足を犠牲にして」 みなもは泳ぐことができなくなった。 泳ぐことは、みなもが好きなことの一つだ。 それを奪われたことはそうとう悲しいことであったはずなのに。 みなもは笑顔だった。 京太郎「そして、飛行機事故か」 バイトでの、染谷先輩との会話を思い出す。 親戚同士での海外旅行。 宮永照、その妹のみなも。そして二人の従姉妹の宮永咲。その家族たち。 楽しい旅行になるはずだった。 整備不良による事故。 それ以来、整備のことを学び、整備好きになった京太郎はここでは置いておく。 ビルに突っ込んだ飛行機は、燃料を漏らし、ビルを燃焼させた。 燃え盛るビルの中で、みなもは動けなかった。 体を焦がす炎の中で、みなもは動けなかった。 京太郎は蓋をした。 好きだった少女、みなもの死を。咲との日々を。照との思い出を。 蓋をして、無かったことにした。 咲も、京太郎と一緒だったのだろう。 ただ、咲は強くなろうとした。 また誰かを傷つけてしまわないように。 体育の内申点が10あるのは、強くあろうとしたからだ。 ……結局、こける癖は治らなかったけど。 だけど、照は違った。 記憶に蓋を出来るほど、幼くはなかったのだ。 そのときの記憶を保っていられるほどに強く、耐えられないほどに弱かった。 照に、もう妹はいない。 彼女は、咲を許していない。 家を出た京太郎は、湖に来ていた。 合宿の起床時間まであと20分。そろそろ戻らないとまずいけれど、どうしても来たくなったのだ。 四人でよく遊んだ、思い出の場所だった。 京太郎「……もう、誤魔化す必要はないよな」 認めたくなくて、心の中で否定したけれど。 いいかげん、嘘をつくのにも無理が出てきた。 だから、叫ぶ。湖にむかって。自分にむかって。過去にむかって。 京太郎「みなものことが好きだ! 牌のことが好きだ! 愛したい! 愛されてえ! そばにいたい! そばにいてほしい! 京太郎「ずっと見ていたい! ずっと見ていてほしい!」 ああ、なんだ。 認めてしまえばこんなに簡単。 牌への気持ちを。 ようやく、肯定できた。 ――合宿終了。 今日も牌の世界にやって来た。 京太郎「県予選まであと6日だぜ!」 牌「ついでにあと4日で、あの日だ!」 京太郎「あの日?」 今日から4日後というと、7月7日だ。 京太郎「あ、七夕か」 牌「それで、おしまいかぁ……」 京太郎「おしまい?」 何が終わるのだろう? 牌「秘密!」 京太郎「気になるだろ」 牌「知ったところで京太郎じゃどうにもならないし!」 京太郎「久しぶりにヒドイな」 最近は牌ちゃんが優しかったから、この俺に対するヒドさ、なんだか懐かしい感じだ。 京太郎「さてと、そろそろ部室に誰かが来る頃だろうし、帰るわ」 牌「あ……うん」 寂しそう声で牌は言った。 京太郎「どうした?」 牌「……もうちょっと、一緒にいてよ」 京太郎「……わかった」 二人は、手と手を重ね合わせた。 それが、今できる限界だった。 京太郎「今日の牌、少し変じゃないか?」 牌「……どこが?」 京太郎「どこって言われると困るんだけど」 牌「なら、気のせいだよ」 京太郎「…………そっか」 どこか、おかしい感じがするのは確かだが、それが何であるかはわからない。 もしかしたら本当に気のせいなのかもしれない。 次の日。 京太郎「あと5日で県予選かぁ」 牌「緊張してる?」 京太郎「してる、してる、超してる。もともと俺、緊張しやすいタイプだし」 牌「高校入試の日も緊張しまくったんだっけ?」 京太郎「うわっ、懐かし……。あの日はひどい目にあった」 牌「かわいそう」 京太郎「……たしかお前、俺が試験の日にトラブルがいくつも重なってギリギリ合格になるように祈ってなかったっけ」 牌「オボエテナイヨ」 京太郎「覚えてる人の言い方だ!」 次の日。 京太郎「この世界、また明るくなったな」 牌「そうだねー! あと2日でおしまいだもん」 京太郎「おしまい? 前も言ってたよな、『おしまい』って」 牌「そう、おっしまーい!」 京太郎「教えてくれよ、何がおしまいなのか」 牌「だから秘密だって!」 京太郎「乙女の秘密的な何かか?」 牌「はっずれー」 京太郎「むむむ」 次の日。 京太郎「あと3日」 牌「うん」 京太郎「『おしまい』は明日だっけ?」 牌「そうだよー!」 京太郎「あのさ」 牌「うん!」 京太郎「……いや、なんでもない」 牌「へんなの」 牌は、アハハと笑った。 それにつられて京太郎も笑った。 次の日。 久「新しい雀卓が来たわよー!」 旧校舎の入り口で部長は言った。 京太郎「えーっと、この箱を部室に運べばいいんですか?」 久「ごめんね、昼休みなのに手伝ってもらっちゃって」 京太郎「いやいや、いいですよ。少しは雑用をしないと心がざわつくんで」 久「そ、そうなの」 部費を溜め続けること10ヶ月。ついに新しい雀卓を買う資金が溜まったのだった。 京太郎「ようやく、ですね」 久「この雀卓はすごいわよ。洗牌はもちろん闘牌までやってくれるのよ」 京太郎「闘牌はやる必要ないですよね!?」 久「人間がやることは一つもない! これが本当の全自動麻雀卓よ」 京太郎「雀卓業界も迷走してますね……」 久「でも、これで――」 おしまいの合図。 久「あの雀卓の出番も、おしまい――ね」 京太郎「――おしまい」 世界のおしまい。 京太郎「……すみません、部長! ちょっと行ってきます!」 久「須賀君!?」 京太郎は部室に向かって走りだした。 階段を駆け上り、扉を壊す勢いで開き、牌を握りしめた。 京太郎「!? 牌の世界に行けない!?」 いつも通りにやっているのに景色が変わらない。 牌を手のひらに置いたまま、何度か手を握ったり開いたりしたが変わらない。 京太郎「……っ! 手遅れなのかよ!?」 嫌だ。 京太郎「もう逢えないのかよ!」 嫌だ嫌だ嫌だ! これでおしまいだなんて。 これで最後だなんて、そんなのは絶対に嫌だ。 京太郎「頼む、少しでいいから、牌に会わせろおおおおおおおおおおっ!!」 強い衝撃が脳に直撃した。 それは今までに味わったことがないほど強烈な痛みだった。 京太郎「ぐっ……」 世界が反転した。 視界がぼやける。 吐き気もこみ上げてきた。 それでも京太郎は目を大きく開き、世界を確認した。 牌「……来ちゃったんだ」 京太郎「牌……」 牌の世界は崩壊しつつあった。 空間にヒビが入り、砂のように細かく分解され、空間に溶けていく。 世界の終わりとはこういうものなのだろうか。 牌「……もともと、終わるはずの世界だったんだ」 牌「今よりももっと早いタイミングで、この夢は醒めるはずだった」 牌「付喪神の一生って、そういうものなんだよ」 牌「取り憑いた道具が、壊れてしまったら、それでおしまい」 牌「そんな、脆い世界だったんだ」 牌「この世界も、あの日――消えるはずだった」 京太郎「あの日……」 牌は京太郎の顔を見た。 泣いてはいなかった。 牌「そこに、誰かさんが現れた」 牌「その誰かさんは、この世界の寿命を伸ばしたんだ」 牌「ほんと、余計なことをしてくれたよね」 京太郎「よけいな、こと?」 牌「あのときこの世界が終わっていたら、こんな気持ちにはならなかったのに」 牌「京太郎のせいで、すごく、イヤだよ」 世界が崩れていく。 音はなかった。 世界の終わりって、こんなに静かでいいのだろうか。 京太郎「聞いても、いいか」 牌「なんでも」 京太郎「俺の世界には、牌に愛された子と呼ばれる存在がいる。咲とか、照姉とか」 牌「……うん、そうだね」 京太郎「ということはさ、愛してるんだよな、咲のこと」 牌――みなもは、咲を守ったことが間接的な原因となり、命を落とした。 みなもは、咲を恨んでいないのだろうか――ずっと気になっていたことだ。 牌「好き、大好きだよ、二人とも」 京太郎「どうして、好きなんだ?」 牌「……なんでだろう、私が神様になったときにはもう好きになってたんだ」 なるほど、そういうシステムなのか。 人間だったときの記憶は引き継がれず。 けれど、感情は残っている。 思いは、つながっている。 京太郎「……教えてやるよ、牌。お前の感情の理由」 牌「――え?」 世界が、消えた。 崩壊は完了したのだ。 でも、あと一言だけ。一言だけでいいから伝えさせてほしい。 京太郎「お前の名前は、宮永みなも――だ」 牌「――!」 みなも「――ありがとう」 ――ああ。 世界の崩壊って、こんなに――綺麗なんだ。 みなも「だいすきだよ、きょーにぃ!」 気づくと、京太郎は部室で一人、牌を握りしめていた。 京太郎「……こんなにお前は近くにいるのに」 どうしてこんなにも遠くなってしまったのだろう。 牌のことが好きなのに、愛せない、愛されない、そばにいれない、そばにいてくれない、ずっと見れない、ずっと見ていてくれない。 もう、いいよな。 終わらせちゃってもいいよな。 誰も見ていないし、誰も気にかけないだろうし。 なんてことはない、ここで一つの小さな思いが消えてしまっただけなのだから。 京太郎「そういや今日、七夕だっけ」 ――七夕? 京太郎「あ」 そこに見えたのは、一つの希望。 京太郎「紅生姜のない牛丼って、そういうことなのか?」 京太郎「そういう意味なのか?」 大切なモノが抜けているとか、そういう単純なものじゃなくて。 もう一つの意味があるじゃないか。 京太郎「……つーことは、――はあいつで、――は俺?」 京太郎「は」 京太郎「あはははははっ!」 こじつけにも程があるだろ。 でも、今日という日に世界が崩壊したのなら。 とても偶然とは思えない。 京太郎「信じてみるか」 京太郎「紅生姜のない牛丼屋を」 京太郎「俺は」 京太郎「全国優勝してみせる」 止まっていたと思っていた時間は、止まってなんかいなかった。 ずっと、流れ続けていたんだ。 それに気づかないふりをして、両手から大切なモノをたくさんこぼしていたんだ。 ――それを取り戻すための大会が、始まろうとしていた。 9・終
https://w.atwiki.jp/kyotaross/pages/6224.html
特別編 執事とサンタ ※本編との関係も一切ない特別編です。普段と違う形で書いてます ※大体色んなとこを参考にしたりイメージだったりなので、理解できるかどうかは個人差があります ※深夜テンション。ちょっと変態度高めでマニアックな内容なので、苦手な方はスルーでお願いします 12月24日 午後11時 龍門渕邸前 ハギヨシ「どうも、少し早いですがメリークリスマス、というべきでしょうか」 京太郎「別にいいですよ。それより、こんな時間に手伝って欲しいことってなんですか?」 ハギヨシ「はい。サンタクロースになるので、手を貸していただきたいのです」 京太郎「……サンタに?あぁ、要はプレゼントですか」 ハギヨシ「話が早くて助かります。えぇ、今からサンタクロースとして、屋敷の皆様にプレゼントを配ります」 京太郎「アレですか、寝ている枕元に置いて、朝起きたら、って奴ですね」 ハギヨシ「えぇ、プレゼントを色々選んでいたら少々1人では難しくなってしまって」 京太郎「別に手伝い自体は構わないんですけど、他の屋敷の方に頼めば良かったんじゃないんですか?」 ハギヨシ「いいえ、実は今回のことは旦那様以外、屋敷の皆様は全く知らないのです」 京太郎「え?つまりマジでサプライズですか?」 ハギヨシ「えぇ。本当に予告もやらせも無しのサンタクロースです」 京太郎「……大丈夫なんですか?」 ハギヨシ「ご安心を。既に旦那様の言いつけで皆様休んでおられますし、私はこの家に仕えるもの、不法侵入にもなりません」 ハギヨシ「まぁ性の6時間真っ只中ではありますが、屋敷の外はともかく、中でそんな状況になれる方がいないのは確認済みです」 ハギヨシ「ただ、女性の部屋にも忍び込むので、そこで見つかったら少々困ったことになりますが……」 京太郎「またクリスマスにとんだスニーキングミッションを……よくその旦那様が許可しましたね」 ハギヨシ「こういうことが結構好きな方なんですよ。ほら、お嬢様の父親でもありますから」 京太郎「すっごい説得力ありますね……」 ハギヨシ「という訳でお手伝いをお願いできますか?」 京太郎「やりますとも。そんな面白そうなこと、やらない理由がないでしょう」 ハギヨシ「そう言ってくれると思っていました」 京太郎「ところで、さっきから横にあるその白い袋がプレゼントですか?」 ハギヨシ「えぇ、去年が大人しいものでしたので、今年は少々遊び心を加えてみました」 京太郎「へぇ、どんなものが?あぁ、答えられる範囲でいいので」 ハギヨシ「構いません。むしろ手伝ってもらうのですから、把握していただきたいので」 ハギヨシ「まず……男性の方には主に私のコレクションの一部です」 京太郎「そ、それは!!」 ハギヨシ「えぇ……ふふ、皆様中々いい趣味をおもちのようでして」 京太郎「なんて量のエロ本……メイドもの、主従ものは基本として巨乳眼鏡っ娘ものに露出ものに男装もの…」 京太郎「金髪ロリものに金髪貧乳お嬢様ものまでとは……」 ハギヨシ「当然メイド、主人を調教するタイプのものまで……ふふ、どれも私自ら集め、そして厳選した一品ですよ」 京太郎「そりゃ朝すぐに起きますよ。2重の意味で」 ハギヨシ「そしてこちらは女性の方へのプレゼントですが……あまり直接的なものは一部を除いて避けております」 京太郎「ぬいぐるみやマフラー……怪しげな小ビンやヨーグルトに大きいソーセージ……」 京太郎「……え?これ……下着?」 ハギヨシ「ふふ、お気づきになられましたか。それらはお嬢様、衣様、井上さん、沢村さん、国広さんへのプレゼントです」 京太郎「下着って……色々まずいんじゃないんですか?」 ハギヨシ「いえいえ……例えばこのピンクのフリル付のもの……これは井上さんへのプレゼントです」 京太郎「純さんに?……純さんのイメージに合うとは思えませんが」 ハギヨシ「ボーイッシュな娘が実は乙女チック……古くから親しまれるものです」 ハギヨシ「イメージしてください。男前な行動、しかし実は穿いてる下着は可愛らしいもの……」 ハギヨシ「普段と違うことにふとした瞬間に気付き、恥じらう……素晴らしくないですか?」 京太郎「……なんて、なんて素晴らしいんだ」 ハギヨシ「えぇ、そのためのプレゼントです。私は主や同僚とも言える方に手を出す気はありませんが、こっそり愛ではします」 ハギヨシ「そのためのプレゼントです。まだ何か問題でも?」 京太郎「ありません、ある訳がないでしょうっ!」 ハギヨシ「ご理解いただけたようで何よりです。次に、沢村さんへは、黒のTバックです」 京太郎「ほほぅ、紐ですか。ストレートにエロいですね」 ハギヨシ「えぇ。身だしなみが適当そうですが、巨乳にエロい下着、ストレートなものもいいでしょう」 京太郎「グッド!」 ハギヨシ「そして国広さんへはスタンダードで白と水色のストライプです」 京太郎「一さんにスタンダードな下着!?そんな、一さんは!」 ハギヨシ「えぇ、私服はまぁご存じの通り。主な下着も紐です」 京太郎「なら、どうしてそんなものを!?」 ハギヨシ「ふ、だからこそ、ですよ」 ハギヨシ「あえて、あえて普通の下着を付けることによって、"下着が見られる可能性"が高くなる」 ハギヨシ「普段慣れていないものを付けることによって生まれる戸惑い、そして恥じらい」 ハギヨシ「普段あんな恰好の娘が普通の恰好で恥じらう、それがいいのです」 京太郎「暗○教室で普通の恰好したビッ○先生みたいなものですか……なるほど、あえて露出を減らすことによってエロさを追及する……」 京太郎「なんて、なんてハイレベルな作戦なんだ……くっ、一さんの恥じらいとか超見てぇ!」 ハギヨシ「ふふふ、そしてお嬢様には紫にラメの入ったGストリングス」 京太郎「エロい!ストレートにエロいのきましたね!」 ハギヨシ「えぇ、目立つことがなによりのお嬢様ですので下着も派手なものを好まれます」 ハギヨシ「が、これは派手でかなりのエロさのもの。派手でもしもの時に確実に目立つでしょう」 ハギヨシ「しかしこれは露出がありすぎる、しかし派手……その葛藤」 京太郎「目に浮かびますね!下着を前に悩む姿が!」 ハギヨシ「ふふ、お嬢様がどのような選択をするか……楽しみですよ」 ハギヨシ「最後に衣様には青いスタンダードな下着を」 京太郎「スタンダードですけど大人っぽいデザインですね」 ハギヨシ「えぇ、人より少し小さい。けど下着は少し背伸びしてみたい」 ハギヨシ「微笑ましくもあり、大人の女性としての第一歩です」 京太郎「いいですね。多少アンバランスな感じもしないでもないけど、その頑張ったというのが分かるのが」 ハギヨシ「ふふ、この5つのチョイスは悩みましたよ」 ハギヨシ「おっと、長くなってしまいましたねもう。ではいきましょうか」 ハギヨシ「いざ、聖なる夜に夢を届けに」 京太郎「えぇ。いきましょう!」 これは、聖夜に起こされた奇跡のひとつ それを支えた彼らがどうなったのか、それは分からない ただ、そのプレゼントを受け取った人達に笑顔や赤面が見られたのは確かだろう カンッ!!
https://w.atwiki.jp/kyotaross/pages/6194.html
特別編 京太郎は今、2 京太郎「ほほう、これはこれは……」ペラ ハギヨシ「いかがでしょう、最近とある伝手から入手したものですが」 京太郎「いやいや、良いものですね」ペラ 京太郎「貧乳物はあんまり趣味じゃないんですけど……これはいいですね」 ハギヨシ「ただの貧乳ではいけません」 ハギヨシ「『貧乳という事を気にしている』事がいいのです。恥じらいがポイントです」 京太郎「恥じらいは大事ですね。『貧乳はステータス』とかいうのも潔くはありますけど開き直ってるだけですし」 ハギヨシ「全くですね。ある意味良くはありますが、私としても恥じらいがある方がいいです」 京太郎「ところで、いいんですか?ハギヨシさんの部屋でお茶ご馳走になって新しいエロ本まで貸してもらって」 ハギヨシ「いいんですよ」 ハギヨシ「鶴賀に行け、そして龍門渕に行け、でしたよね」 京太郎「はい、竹井先輩にそう言われました」 ハギヨシ「残念ながらそういう話は一切聞いていません」 京太郎「やっぱり、部長の嘘でしたか」 ハギヨシ「ふむ……嘘は嘘ですが、おそらくこういうことでしょう」 ハギヨシ「清澄の皆様は今京太郎くんに部室に戻ってきてほしくない」 ハギヨシ「さらに、戻ってきて欲しくないということも知られたくない」 ハギヨシ「故に、このようなことを言った、と」 京太郎「俺、何もやってませんよ?」 ハギヨシ「完全なる仮説でしかありません、これら全てが間違っている可能性もあります」 ハギヨシ「まぁ、女性の中に男性が1人ということは色々気をつかうことが多いですし、これくらいは察してあげるのが紳士です」 京太郎「流石ですね」 ハギヨシ「執事ですから。さて、お茶のおかわりでも淹れましょう。ああ、それとこの前入手したものがありまして」 京太郎「まさか、ついに入手したんですか!?」 ハギヨシ「ええ。とびきり上質の……海外のものです」 カンッ!!
https://w.atwiki.jp/kyotaross/pages/2775.html
347 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/10(日) 20 30 13.58 ID yKXvNrCz0 そして、遂に。 俺達は三年生になった。 去年は県大会で負けてしまったため新入部員の数は減ってしまったが、 幸い既に団体戦に必要な人数は揃っているので問題はない。 あとは俺達がいかにして全力を出し切るか、だと思う。 今更新たな技術や戦法の習得なんか望めるはずもないし、ひたすら今の打ち方の精度を上げていくしか……。 「そーんなことで全国を勝ち進めるとでも思ってるのかしら? 須賀君っ」 た、竹井先輩!? お久しぶりです。今日はまた、どういった御用で? 「ふっふーん、今日はなんと……須賀君のために先生を連れてきました!」 ……ほう。話を聞きましょう。 また俺の後輩でも虐めに来たのかと思ってましたよ。 「私を何だと思ってるのよ。美穂子、入っていいわよー」 美穂子? 美穂子って……まさか風越の福路さん!? 「そうですよー。うえ……いえ、竹井さんとは大学で同じ学科なんです」 パねえ! 相変わらず先輩の人脈ハンパねえ! プロ雀士は顎で使うわ他校のキャプテンのクラスメイトになってるわ、この人脈がどこからくるのか分からない。 「企業秘密よ。出来れば和や優希の特訓相手も連れてきたかったけど、流石に都合がつかなくてね」 はー。むしろ和や優希の特訓相手にアテがある時点で尊敬しますよ、俺は。 でもまあありがたいっす。やっぱり最後の大会と思うと緊張するし、出来ることなら何でもやりたいと思ってたんで。 「聞いてるわよ須賀君、最近デジタルとオカルトのハイブリッド打ちになりかけてるんですって?」 もはやわけがわからねえ。なんですかその能力バトル漫画みたいな肩書は。 いや、言いたいことはわかるけど……「流れ読んで鳴く」とか確実にオカルトの領分ですし。 でも和の目が怖いんでその話はやめてください、お願いします。 「だから、怖い目なんてしてませんっ」 「ふふ、生徒さんを取っちゃってごめんなさいね?」 「!?」 おぉ、和が手玉に取られている。そうそう見れない光景だな。 ……ああぁぁぁああ慌てる和が可愛いとか考えてる場合じゃねぇだろ俺ぇぇええ! 「……はっはーん。面白いことになってるわねぇ、ウチの後輩たちも」 「竹井さん、悪い顔してますねー……では、打ちましょうか」 348 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/10(日) 20 30 52.31 ID yKXvNrCz0 というわけで、竹井先輩の粋な計らいにて相当の打ち手である福路さんに鍛えてもらえることになった。 彼女の売りは、確か観察……だったか? 相手の様子や癖を観察して、最善手を導き出す。 和に習ったデジタルとも、純さんに教わったオカルトとも少し違うような気がする。 つまり、俺にとっては未知の領域。 ……ここまで考えて福路さんを連れてきたのかね、竹井先輩は。 だとしたら冴えてるってレベルじゃねえな……あ、それポンです。 「……!」 福路さんには感づかれたか? そういえばあの時、福路さんは純さんと同卓だったっけ。 こりゃ完全にバレたかね……でも、それチー。 「くっ、東場の私に先んずるとは小癪な……!」 ……優希、それロン。 「じぇーっ!?」 「……おぉー」 分かり易いな福路さんっ! いや、感心してくれてるっぽいのは嬉しいけど。 なぁんか、嫌な予感がするんだよなぁ。 「……はい、ロンです。須賀君のトビで終了ね」 ぐえー。嫌な予感的中じゃねえか。 純さんの意趣返しとはいかなかったか、残念だ。 「須賀君の場合は、やろうとしていることが見え見えなのよね」 はぁ。癖とかそんな感じでしょうか。 そんな変わったことをしているつもりはないんですけど……。 「んー、癖、というほどのものでもないと思うけど。私、観察は得意だから」 「大胆に鳴くときほどより慎重に、ただ手を進めるためだけの鳴きを敢えて仰々しく……って感じかしら?」 うげえ、バレバレじゃねえか。 最後の大会まであと少ししかねえってのに、このタイミングで弱点発覚とか……うわあ。 「ああいや、弱点というほどのものではないと思うわ。手前味噌だけど、私くらいでなければ気付かないでしょうし」 「今日来たのは……この観察と、それに基づいた打ち方を、須賀君に教えるためなんです」 349 :できれば原作にいないキャラに名前はつけたくなかったけど ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/10(日) 20 31 47.51 ID yKXvNrCz0 ……えっ? 風越の元キャプテンが、俺に? いやいやいや、いくら竹井先輩のお知り合いとはいえ、えええっ? 「あら、迷惑だったかしら?」 まさかそんなことは。俺としては得することしかないっすけど。 いやでも、いいんですか? 逆に、福路さんにはなんの得もないと思うんですけど。 「ま、そこは私の交渉術ってやつよ。感謝しなさい須賀君」 「ふふっ。竹井さんたってのお願いとあらば、ね」 やばいよこの人。聖人すぎるよ。絶対ヤバいアレに騙されるタイプだよ。 いや、有難いんだけど。本気で有難いんだけどね? 「……それに、今年の男子の部には、『神に愛された子』が出場するらしいわ」 ……神に、愛された子? 咲とかを指して牌に愛された子ってんなら聞いたことがありますけど……。 「東京の無名校に所属する打ち手よ。白糸台の男子部と練習試合をやって、その子一人だけボロ勝ちしたとか」 「そんな圧倒的な才能を持つ魔物に、ウチの凡人代表須賀君が勝ったら……さぞ愉快だと思わない?」 そりゃ、確かに痛快だとは思いますけど。 聞いた限りだと、現実問題かなり厳しそうですね。 やっぱり相当のベテランだったりするんですか? 「いえ、その子が麻雀を始めたのは今年からだそうよ」 はぁ!? 今年からァ!? この俺でさえもう今年で三年目ですよ!? 牌に愛された子とか言われてる女子だって麻雀経験がなかったわけじゃないでしょうに。 そりゃまた一体全体どういうわけで……。 「だからこそ『神に』愛された子ってことよ。牌譜は一応ゲットしといたから目を通してみなさい」 もうその牌譜をゲットしたコネについては突っ込みませんよ。こっちの理解が追いつきません。 じゃ、問題の牌譜だけど……うへぇ、こりゃ本当にハンパねぇな。 高目安目のある手なら確実に高めで和了り、あと一役で満貫、跳満ってときには確実に裏を乗せる。 万能すぎて、とてもじゃないけどどんなオカルトでこれをやってるのか分かりやしねえ。 「それが違うのよ須賀君。彼は、オカルト打ちじゃない」 「デジタルもオカルトも、全てひっくるめて覆してしまうほどの豪運の持ち主……それが彼」 「だから、須賀君。神に愛された子……『天龍寺行仁』に、京ちゃんモードは一切通じない。そう考えたほうがいいわ」 375 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/11(月) 19 08 39.25 ID R3+/vnFB0 ……話は分かりました。福路さん、ご指導よろしくお願いします。 「ふーん、案外素直なのねー」 マジな話、これがラストチャンスですから。 俺だって竹井先輩ほどではないけど真剣に麻雀やってるわけですし、 最後の最後くらい、自分の力でトロフィーを持って帰りたいですから。 「その意気ね。さーて、じゃあ私も一肌脱ぎますか!」 「竹井さんは打ちたいだけでしょう? ふふっ……じゃあ、始めましょうか」 「……ふぅ。私から教えられることは、このくらいかしらね」 あ、あり、ありがとうございました……。 ヤバい脳みそ破裂しそう。頭おかしくなる。 けれど……不思議とやってることはしっかり頭に入ってきた気がする。 何はともあれぐでぐでの身体をしゃんとさせて福路さんと竹井先輩が帰るのを見届けてから、俺は部室のベッドに倒れこんだ。 それを見かねてか、練習中からこっちをちらちら見ていた和が話しかけてくる。 「大丈夫ですか、京太郎君」 大丈夫じゃない。けど大丈夫にしなきゃならねえところだな。 大会までにはこれもきっちりマスターしてやるさ。 それにしても、神に愛された子、なぁ。 俺みたいな凡人からしたら羨ましいを通り越してもうわけがわかんねえや。 「今の京太郎君なら、勝てない相手ではないと思います」 ん、そう言ってくれると嬉しい。 和のためにも、今年こそ活躍してみせるぜ。 「な、なんでそこで私のためになるんですか……」 ……気にしないでくれ、失言だった。 俺のモチベーションの話をわざわざする必要はないな。 376 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/11(月) 19 09 12.76 ID R3+/vnFB0 そして迎える、俺達の最後の夏。まずは団体戦の予選だ。 オーダーは去年から変わって俺は大将に回ることになった。 あいつらも一年かけて十分に成長したし、個人的に大将ってポジションには憧れがあったしね。 ……出来れば副将をやりたいとか思ってたのは、内緒の話だけど。 さて、後輩ども。去年の雪辱戦だ。 思う存分相手を毟ってこいっ! 『おーっ!』 「リーチ。……お、一発ツモッ」 先鋒。双子の兄のほう。 面前派ゆえの高打点が売りだが安定感に欠ける。 しかし、あのお調子者が二年かけてひたすら地力の向上に努めてきたんだ。 今更地方予選の一回戦で遅れをとるはずがない。 「……ロン。7700」 次鋒。地味男君。 大崩れしない安定感が売りだが和了率が低い。 その分こいつには、一度の和了りにおける打点を上げることに専念してもらった。 ひたすらに地味で堅実な闘牌をする今のこいつを毟れる奴なんて、そうそういないだろう。 「ポン。 ポン。 ……あ、ツモだ」 中堅。双子の弟のほう。 鳴き派である分兄より更に安定感に欠ける。 しかし俺と一緒に純さんの特訓を受けたこいつが、今更鳴き時を間違えるはずがない。 地力の高い奴が置かれることが多い中堅戦を、得意の鳴きで引っ掻き回してこい。 「ツモッ! 満貫ですっ!」 副将。真面目君。 教科書通りのデジタル打ちだがメンタル的に弱いところがある。 その分地力では俺に次ぐほどの実力者なので、あいつが一番安心できるという「俺の直前」に置いた。 不安や緊張から解放されたあいつは……全国でも有数の打ち手なんじゃないだろうか。 377 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/11(月) 19 09 44.29 ID R3+/vnFB0 ……さて、俺の出番だな。 点差的には既に決まったようなもんだけど、まあ見とけよ。 「期待してます、須賀先輩」 初めての大将戦。順位はダントツ。 ……わざわざこんなところで集中モード使って疲れる必要もねーな。 鳴き麻雀で早々に終わらせてもらうぜ。 反撃の流れなんぞ、作らせねえ。 ……それ、ロンだッ! よっし、一回戦突破ー。二回戦に備えてとりあえず休憩だ。 お前らも軽く飯食うなりなんなりしとけよー。 「了解っす。でも京太郎さん全然稼いでなかったっすよね」 「流しまくってましたよね」 うっせ。あそこで本気出す必要はなかったんだからいいだろ。 とにかくお前ら、よくやったよ。期待以上だ。 長野の男子戦はレベルこそ高いが、咲みたいな魔物枠はいねえ。 それだけで勝負を決してしまうほどのオカルト持ちもいねえ。 今の俺達なら、全国も十分射程圏内だ。 気張っていくぞ! 378 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/11(月) 19 10 37.13 ID R3+/vnFB0 一回戦を完全勝利で乗り切った俺達は、そのままの勢いで団体戦優勝を決めた。 女子団体戦も、龍門渕の天江さんや風越の池田さんといった強豪が引退した今、 予選レベルでウチの女子部員たちの敵になるような人はいなかったようだ。 そして個人戦。集中モードに加えて更に鳴きと観察という強みを手に入れた俺に敵はおらず、 夢にまで見た一位通過で全国行きの切符を手に入れることが出来た。 正直、あまりにあっさり過ぎて現実感がない、のだけれど……。 「おめでとうございます、京太郎君」 表彰台から戻ってきた俺を迎えてくれた和の言葉だけは、 はっきりと俺の脳内に刻まれた。 ……あー。そっか。全国行けるのか。 雑用じゃなくて。応援でもなくて。俺が、麻雀を打つために。 「なーにを当たり前のことを言ってるんだじぇ」 俺にとっちゃ特別なことなんだよ……。 ヤバい、ヤバいヤバいヤバい。すっげぇテンション上がってきた。 「ふふっ。私も、初めてトップになったときはそうでしたよ」 あ、やっぱそういうもんなの? あぁ、嬉しいなぁ。和と一緒かぁ。 ……でも、これはあくまでスタート地点。浮かれてばかりもいられない。 「牌に愛された子、天龍寺……だったっけ。京ちゃん、大丈夫なの?」 いや、全然。つーかまず、そいつと当たるまで勝ち続けなきゃいけねーからな。 不安しかないけど、それでも頑張るしかないさ。 ……そう。俺の夢を、叶えるためには。勝ち続けるしか、ないんだ。 385 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/12(火) 18 46 20.04 ID gMeIgI+X0 夢。 夢ってなんだ。 寝てる間に見るアレだろ? 少なくとも、高校に入学したころの俺ならこう言っていただろう。 夢。 夢、なあ。 叶ったら嬉しいけど、そうも言ってられねえよなあ。 恐らく、去年までの俺ならこう言っていただろう。 けれど。 友人に背中を押されて、想い人にも認められて。 それでも自分に嘘をつけるほど、俺は強くはなかった。 麻雀を続けていたい。プロリーグという、大きな舞台で。 もし叶うならば――和と、同じ場所で。 俺ごときには巨大すぎる夢だけど。 俺ごときには無謀すぎる夢だけど。 それでも。 今この場で勝ち続けることで、その夢に一歩近づけるなら―― 386 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/12(火) 18 46 45.94 ID gMeIgI+X0 ……インターハイ個人戦予選。 個人戦では膨大な数の選手が集うため、全国でも予選と本選が行われる。 一回きりの予選で勝ち抜いた選手が、本選で雌雄を決することになるのだ。 出来れば予選から全力を出すのは避けたいところだが、そうもいくまい。 ――集中。完全な一手のみを打ち続け、超能力を押さえつけ……トドメの一撃を放つ。 ――鳴く。流れを読み、流れに乗り、流れに逆らい、流れを律し……流れを断ち切る。 ――視る。相手の一挙手一投足から、息遣いから、牌の並べ方から。全てを見抜き、最善の一手を見つけ出す。 およそ俺の長所と呼べるものを総動員して、どうにかこうにかだったけど……これで決まりだな。 ……ツモ! 4000オールだっ! 『決まったー! あの宮永咲や原村和と同じ高校から初出場した須賀選手、見事予選Bブロックをトップ通過ーっ!』 『一つ一つの精度はまた別にして……ああも多様な打ち方をされると、相手は苦しいでしょうね』 予選を勝ち抜いた雀士は全部で32人。 それを4人ずつに割り振り、その中の上位2名が勝ち抜きとなり準決勝。 そして、準決勝でトップになった4人が戦う――決勝。 今回の大会で一番の注目株である『神に愛された子』……天龍寺行仁は、 トーナメント表で俺と同じ側にいる。俺が勝ちさえすれば、準決勝でぶつかることになるだろう。 けど、まずは……この一回戦を勝ち上がることだ。 上家には非オカルトながら鋭い読みと強いツモ運を誇る、大阪の正統派雀士……小倉智彦。 対面にはバリバリのオカルト派、ある一種類の牌を手元に来ないようにする能力を持つ貝塚航平。 下家にはこれまたオカルト派、素数の巡目に和了ると確実に裏ドラが乗る能力を持つ、岩下仁。 相手にとって不足はない。 たった半荘一回で終わる勝負だ、出し惜しみなぞしていられない。 予選で既に俺の手札は見せ切っている。 開幕初っ端東一局から――トップギアで行くぞ……! 387 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/12(火) 18 47 20.27 ID gMeIgI+X0 (まずは流れを掴みたい。オカルト二人は一手や二手でどうこうなるタイプじゃないし、最初はこいつだ) 「……ポンッ!」 京太郎はまず、場の流れを断ち切りにかかった。 ノーガードで打ち合えば、恐らくは火力の高い打ち手である小倉が一番強いだろう。 ならばまずはその流れを奪いつつ、鳴きによって早和了りを目指すのが恐らくは正着。 そう考えての行動だった……が。 「リーチ……!」 想定外の方向からかかる宣言。 それは京太郎から見て下家――素数巡の和了りに裏ドラを乗せる、岩下からだった。 (しまった……素数巡ってことは、単純に考えて序盤が危ないってことじゃねえか!) 「……ツモ! リーチツモに……裏が3で満貫だっ!」 そして5巡目――岩下が見事ツモ和了り。 本来なら2000点にしかならない安手が、捲られた裏ドラによって満貫まで押し上げられる。 京太郎にとっても他二人にとっても完全に出鼻を挫かれた格好になった。 (まずいっ、このままじゃ完全に流れを持ってかれるぞ……!) 続く東二局、親は大阪の小倉。 天龍寺には及ばないものの相当な強運で、正統派の高火力を誇る。 先程見事に自分の能力を発揮した岩下と合わせて、流れには乗せたくない相手だ。 (……流れが来てない今じゃ、あんまり効果的とは言えないが。あんまり我儘は言ってられないなっ) 一つ大きく深呼吸し、シャツの胸ポケットの、その中身を握り締める。 京太郎の原点である最高状態――集中モードが、発動した。 (とにかく今は落ち着くことだ。幸い親番でもないしまだ東場。多少和了られても構わない) (……まずは、相手を見極める……!) 配牌。牌効率。河。京太郎の場合は、それに加えて相手の表情や癖。あらゆる情報から最善手を見つけ出す。 人間の集中力を逸脱したこの状態は、福路美穂子から教わった観察技術を活かす布石として最高だ。 (清澄の須賀……オカルト能力を封じ込める、か。どう出るだろう) (なんや気に入らんなあ。俺は相手するまでもないっちゅうんかい) 「リーチやっ!」 「……んでもってドーン! 一発ロンの満貫やでー!」 直前に和了った岩下からの直撃。 全くもって正統派、としか言いようのない正面突破だった。 (ま、それは計算通りだけど……どこまで続くんだこれ) 「ツモォ! 3900オールの一本場ァ!」 「ロンや! 3900の二本場ッ!」 止まらぬ猛攻。流れに乗せてはいけないタイプ、という予想は大正解だ。 このままでは何をどうやっても縮まらないような差をつけられかねない。 388 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/12(火) 18 48 18.48 ID gMeIgI+X0 (……はぁ、もうちっと待ちたかったけど) 会場にいる数多の観客が抱く今のこの卓のイメージは、恐らくこうだ。 雑草一本生えていない、視界を遮るものなど何もない王道覇道の一本道。 そこを小倉がひた走っているのだ。他の三人は、おそらくその遥か後方で息を切らしているだろう。 そのイメージは、決して間違ってはいない。 しかしそのイメージに映る京太郎の姿は、幻だ。 効果的な鳴きによって加速した京太郎の手牌は、既に小倉の満貫手に追いついている。 そのまま水面に映る月のように……しなやかに、静かに、密やかに。 小倉の前へと回り込み――その一本道を、場の流れを、そして彼の連荘を。 一太刀のもとに、断ち切った。 「……ロン。8000は8900」 「んなぁ!?」 場の流れというオカルトチックなものを読み切り従え利用する。 一年前に純から教わった亜空間殺法の才が、完全なる完成を迎えた瞬間だった。 (案外三年生ブーストってのも馬鹿に出来ないのかもな……とにかく、連荘だ) 「……ツモ、1000オールです」 京太郎には、よほどのバカヅキでもしなければ高い手など来ない。 だからといってそれは、他の三人に稼ぎ負けることを意味しない。 「ロンです。3900は4200」 面前ならただひたすらに最善手を辿り。 鳴くならただひたすらに良い流れを追い。 シンプルに打ち続けていくだけだ。 「……ツモです。1600オールは1800オール……!」 しかし。 こうして連荘することにより試行回数を重ねる危険性を。 そして、集中モード唯一の弱点を。 京太郎は、把握していなかった。 393 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/13(水) 20 00 08.70 ID P5mL4RP20 京ちゃんモード。 京太郎の集中力が限界点を越えた際に発動する、彼のオカルト能力。 絶大な疲労を伴う代わりにミスを排除した完全なるデジタル打ちを実現させる。 それとと同時に、他者のオカルト能力を阻害する能力を併せ持つ。 ただし――それはあくまで、京ちゃんモードが発動していればの話である。 京太郎は基本的に、疲労を抑えるために配牌を見て、その局の見通しを立ててから集中モードを発動させる。 つまり例えば東場かつバカヅキをしているときの優希のように、配牌にまで干渉する能力に対しては全くの無力なのだ。 勿論ダブルリーチでもかけない限り、配牌だけが良くても大した意味は持たないのだが……今回ばかりは話が違った。 京太郎の対面に位置する男、貝塚航平。 その能力は特定の牌が手牌に来ることの拒絶。 牌の種類は本人にも制御できないアトランダムで、 萬子だったり、字牌だったり、さもなければ緑色の牌だったりする。 そんな彼の能力が何十、何百局に一回ほどの超低確率で発動させる、最強の形があった。 それは――数牌の、拒絶。 (……し、しまった――!?) 異変に最初に気付いたのは京太郎。 流れに乗って早和了りでの連荘を目指した矢先に、流れがごっそりと持って行かれたのを感じる。 その流れは形を変えて轟々と唸りを上げ、真向いの席へと流れていく。 集中モードによる阻害を試みるが……既に手遅れだった。 鳴きも交えて手を進め、最後は集中モードの阻害を受けながらも見事自分の運で和了りきってみせた、その手は。 「ツモ……字一色……! 8000・16000は8300・16300……!」 字一色。 手牌の全てを風牌もしくは三元牌、すなわち字牌で揃える見た目にも映える役満だ。 京太郎は親っ被りで三位に転落。流れを操る雀士としては最悪の状況に追い込まれた。 (まずい……まずいまずいまずい……! 落ち着け、落ち着くんだ……!) しかし、一度手放してしまった流れはそうそう取り戻せるものではない。 貝塚が流れに乗って和了り、それに小倉が自慢の火力で追い縋る形になった。 それによってトビ寸前まで追い込まれた岩下もどうにか大きな手を上がることに成功するが、 京太郎だけが全くいいところのないまま、遂に最後の親番となった。 (あー……もう、最悪だ。どれだけテンパってんだよ情けない。和ならこんなこともあるまいに) 全国出場の経験がなく、麻雀に懸けてきた時間は実質二年未満。 実力こそ今となっては十二分にあるものの、京太郎は未だメンタル面で全国レベルに達していなかった。 394 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/13(水) 20 00 40.39 ID P5mL4RP20 (ま、幸運なのは今それに気付けたってことだろう……) いいだろう、認めよう。 今相手にしているこいつらは、実力や能力とは次元の違うレベルで、 いわば雀士としての格そのもので、自分より遥か高みにいる。 (だったらそれで構わねぇ……俺の麻雀はいつだって追う麻雀だった……!) (竹井先輩は理不尽な待ちで和了るし。染谷先輩と打つと全然好きなように打てないし) (優希と打つと東場でトバされかねないし。咲と打つとカンカンカンでこっちの番が回ってこないし) (和と打つと――いつだって、俺の弱さを思い知らされた) (だったらこれも、いつも通りじゃないか) そう。それをいつだって、京太郎は乗り越えてきた。 自分一人だけではなく――友人と、師と、先輩と、後輩と共に。 (自分一人の力でどうにもならないなら……皆の力を借りればいい。そうだよな) 深呼吸の後、軽く伸びをする京太郎。 瞬間――同卓している三人は、戦慄した。 『――っ!?』 今までは感じなかったほどの圧力。 いや――感じていた圧力の、変質? 395 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/13(水) 20 01 19.53 ID P5mL4RP20 京太郎が挑んでいたのは、自らの能力の制御。 集中モードは集中力を意識の外まで飛ばさないと発動できない。 流れを操るのは純の受け売りゆえ、それに専念しないとまともに扱えない。 観察眼など教わってすぐ急場で仕上げたおかげでそれを活かす方法がいまいち分かっていない。 そんな力を同時に扱うことなど出来やしない……そう考えていたのだが。 (……ま、ド初心者がこんな特殊能力使えるようになった時点で、無理も糞もねーだろってことで……) (……行くぞッ!!) 「チー!」 「カンッ!」 「……ロン! 三色發で60符2翻、5800ッ!」 まず京太郎は貝塚と岩下の能力を集中モードで抑えつけつつ、小倉から鳴いた順子をつかった三色手を作り上げる。 運よく發が重なったことで一気に得点が跳ね上がった。しかしまだようやくラスを抜けたのみで、とても油断はできない。 (優希じゃねえが……この試合にオーラスは来ない。それくらいのつもりでやらせてもらう) 「ツモ――リーヅモピンフドラドラ、4000オールの一本場で4100オール」 「もう一発、ツモッ! ピンフツモ一盃口で1300オールは1500オールッ!」 「ロンだァ! 断ヤオ対々ドラ1で7700は8600ッ」 そしてそこからは大連荘。最後には美穂子の観察眼と純の鳴きを同時に使いこなして貝塚を原点近くまで押し戻した。 これで京太郎のトップ抜けはほぼ確定という状況になり観客のほとんどもそう思っていたのだが、 勿論のこと――対戦相手の三人は未だに勝利を諦めていなかった。 「チ……」 「カンじゃい!」 「んで、カン!」 「ポン! ……っしゃあ加槓じゃァ!」 三人のうち、動き出したのは大阪の小倉。二人と違ってオカルト封じによる妨害を受けていないことが幸いしたようだ。 配牌は七対子の一向聴だったが、小倉が選んだのは怒涛の鳴きからの対々和だった。 (この期に及んでチートイなんてめんどい手ェ狙っとれるかい! いやまあ、三槓子ついたのはラッキーやったけどな) 「……っしゃ、ツモォ! 混一対々三槓子の跳満、3400・6400や!」 396 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/13(水) 20 02 15.27 ID P5mL4RP20 そして状況はオーラスへ。 順位の上では京太郎がトップだが、二位の小倉との差はわずか3400点。 小倉は一心不乱に勝利だけを追い求めていた。 (……流れを追え。そして観察するんだ。オカルト二人が沈んでる今、もう集中モードは要らない) 「ポンッ」 対照的に、強者ゆえのプライドとかそういったものがまるでない京太郎は。 如何にして自分が準決勝に進むか。それだけを考えていた。 そしてその違いが、二人の勝敗を分けた。 「……あ、カン」 (和了れば勝ちやのに加槓……? おかしなことするやっちゃなー) 「ん。ポンで」 次々と手牌を晒していく京太郎。 今彼は、ひたすらに相手三人を観察している。 正確に言えば……三人の、手の進み具合を。 (見たとこ、小倉さんは思ったより手が進んでないみたいだな。まあそうなるように鳴いてるんだから当然だ) (対して岩下さん貝塚さん……まあ、それなりってところか。二位抜けってルールで本当に良かった) (……これなら、俺の勝ちだ) 「……カンッ」 423 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/15(金) 18 50 53.46 ID VW2Ii3OR0 次々と手牌を晒していく京太郎。 着々と手役を完成させる小倉。 そして、運命の13巡目。 この試合最後の和了宣言は―― 「……ツモ……! リーヅモ三暗刻……裏を見ます」 現在トップの京太郎でもなく。 現在二位の小倉からでもなく。 ――ダンラスの、岩下から発せられた。 「な――!?」 (まさか須賀ァ、これを狙って……!) 岩下が晒した手牌は、萬子の二、筒子の四、そして索子の八の暗刻。 リーチツモ三暗刻で4翻あるので、仮にこれら全てがドラならば、ぴったり数え役満となる。 そして京太郎が行った二度のカンにより……裏ドラは、三枚。 (まさか、まさか――!) そして、岩下のオカルト……素数巡の和了りに、裏ドラを乗せる能力。 今彼が和了ったのは13巡目。条件は――満たされている。 424 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/15(金) 18 51 26.44 ID VW2Ii3OR0 「裏ドラ……9! 数え役満、16000オールッ!」 425 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/15(金) 18 52 22.84 ID VW2Ii3OR0 当然岩下は和了り止めを選択し、この試合は。 トップ抜けは岩下仁。 二位抜けは須賀京太郎という形で、幕を閉じた。 だっ……はぁぁぁああー。情けない声を出しながら、俺は椅子にもたれかかる。 疲れた。超疲れた。オカルト封じとオカルトの二段構えは流石にヤバかった。 普通に死ねる。 それでもどうにか立ち上がろうと苦戦していると、小倉さんが話しかけてきた。 見たところ、残りの二人は既に対局室を去ったようだ。 「完敗やー。他家を使うっちゅう発想はなかったわー」 ははは、俺には自分で勝負を決める程の実力も自信もありませんからねー。 もう一回やれと言われても出来ない自信なら、あるんですけど。 「はんっ、そこでその一回を掴む奴が強いねん。お見事やで」 「須賀も今年で引退かー。麻雀続けるんやろ? また今度打となー」 ええ、勿論。 俺の返事を聞くと満足そうに頷き、小倉さんは対局室から出て行った。 俺も、そろそろ出ないとな……あー、しんどい。 対局室を出てすぐに、岩下さんがいた。 わざわざ待っていたのだろうか。 「次は、負けない。俺を勝ち上がらせたこと、後悔させてやる」 ……ま、それは実際に打ってみてからのお楽しみってことで。 多分俺なんか気にしてる暇はないと思いますけど。ほら。 別の一回戦の結果が、試合を中継しているスクリーンに映し出された。 結果は――他の三人を全員トバして、天龍寺の勝利。 ま、出来たら二人で協力してアレを抑えたいってのが本音なんですけど。 どうでしょう? 「……考えといてやるよ。けど勝つのは俺だからな」 俺だって、負けられないんで。 ま、お互い明日は頑張りましょう。 426 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/15(金) 18 53 11.35 ID VW2Ii3OR0 そんなこんなで挨拶を交わし、岩下さんと別れて帰路につく。 全身ふらっふらでちょっとこれヤバいんじゃねーの、と思ったりもしたがどうにかホテルまで戻ることが出来た。 女子の個人戦のほうが先に終わっていたようで(男子のほうが人数が多いので、予選の分時間がかかるのだ)、 既に咲たちは皆戻ってきていた。今は男子のほうの部屋に全員で集まって話をしていたようだ。 おっす、ただいまー。 そう言って、努めて軽い調子で部屋のドアを開けたつもりだったのだが。 ……あ、あれ。おかしいな。ドアが開かないぞ。あれ? あ、れ……? どさっ。 部屋の外で、そんな音がした。 それまでは咲さんや私、京太郎君の試合結果について盛り上がっていた皆が、一斉に静まり返る。 「京太郎、京太郎かっ!?」 ゆーきがいち早く駆け出し、それに男子部員たちが続く。 ドアを開けた、その先には――京太郎君が、倒れていた。 なんで。どうして? あんなに格好よく、準決勝進出を決めていたじゃないですか。 帰ってきて、いつもみたいに少し調子に乗って、それでもやっぱり不安がって、 そんなあなたをゆーきと私が励まして、咲さんがそれを見ながら笑っていて、そうなるはずじゃないんですか? ……京太郎君ッ!! 439 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/16(土) 14 42 02.53 ID w5pjdMZy0 「……はー。京太郎さん重い」 「いやまぁ完全に脱力した人間を持ち上げるのはそりゃ重くて当然だろ」 「京太郎さん顔のわりに体格いいしね」 ひとまず男子部員たちが京太郎君をベッドに運んだ。 見たところちゃんと息はしているし問題はなさそうだけれど……一応、救急車とか呼んだほうがいいんでしょうか。 突然の事態に皆があたふたして、とても正常な判断が出来そうにありません。 どうしよう、どうしよう……遂に若干名が目に涙を浮かべ始めたところで、京太郎君が目を覚ました。 「……ん? あれ、俺いつの間に寝てたんだ?」 「京太郎さん何倒れてんすか馬鹿じゃねえんすか!?」 「大丈夫ですか須賀先輩!」 「なんで倒れてたの京ちゃん!?」 「バカ犬、皆に心配かけるんじゃないじぇ!」 こんなとき、迷わず真っ先に声をかけにいけない自分が嫌になります。 しかし、そんなことより、京太郎君が無事なようで本当に安心しました。 ……でもっ、京太郎君! あんまり心配させないでくださいっ! 「ご、ごめんごめん。どうしても負けたくなかったからさ。ちょっとだけ無茶した」 「集中モードと亜空間殺法の同時使用。思ったよりしんどかったわ」 は、はぁ。とにかく、あまり無茶はしないでくださいね。 京太郎君が勝ち進むのは嬉しいですが、流石にその度に倒れられては困りますから。 「のどちゃん素直じゃないじぇ。大好きな京太郎が倒れたら悲しいです~、くらい言えないのか?」 ゆっ、ゆーき! 茶化さないでください、真面目な話なんですっ。 とにかく! 京太郎君、もう倒れないでくださいね!? 440 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/16(土) 14 43 12.25 ID w5pjdMZy0 「……どーだろ、約束は出来ないかも」 「せっ、先輩ィ!?」 京太郎君の言葉に皆が凍りつく。 当たり前だ、私達の知る京太郎君はそんな人ではない。 麻雀のために自分の身を削るようなことをする人ではないはず。 「京、ちゃん……?」 「ここまで来たら、勝ちたいじゃねえか。なあ」 「天龍寺行仁。神に愛された子と打つのに……加減なんて、出来やしねぇよ」 あっ、あのですね京太郎君! 今しがた倒れたばっかりの人を明日の試合にそのまま出すとでも思ってるんですか!? 棄権するのが普通だと思います! 「かっ、勘弁してくれよ! そうなることが分かり切ってたから必死で会場は平気な顔して出てきたんだぞ!?」 「馬鹿だ、こいつマジで馬鹿だじぇ」 「頼むよっ! お前らと違って俺は全国初めてなんだ! 棄権で終わりなんて嫌なんだよ!」 「いや先輩マジで馬鹿でしょ!?」 ……はぁ。やめましょう、皆。多分言っても無駄です。 「和ぁ……!」 た・だ・し! 今からしっかり体調を診させてもらいますし、明日も無茶はしないでください。 具合が悪くなったらすぐに棄権すること。ゆーき、体温計持ってきてください。私の鞄の中にあるはずです。 今日の晩御飯も栄養を考えて決めましょうか。いつもみたいに好きなのばっかり頼まないでくださいね。 あと、それから……。 「お母さんかっ!」 真剣な話をしてるんです! ……心配、したんですから……。 「……ごめんな」 京太郎く…… 「はい終了ー。お二人さん、今部員全員ここにいるの分かってやってます?」 「砂糖吐く。京太郎さん爆発しろ」 441 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/16(土) 14 45 28.16 ID w5pjdMZy0 そんなわけで、翌日。 遂に迎えた準決勝戦。女子の試合を応援出来ないのは残念だが、まあ仕方あるまい。 咲や和なら負けることはないだろう。むしろ俺が応援してほしいくらいだ。 今日の相手は昨日も戦った岩下さんに加えて、 生粋のデジタル派、福留重幸さんに……「神に愛された子」こと天龍寺行仁さん。 やはりもっとも警戒するべきは天龍寺さんだろう。 牌譜も予選の映像も全て洗い出して和にも協力してもらって研究したが、まるで隙が見当たらない。 基本的にはごく普通の打ち手なんだ。むしろ、デジタル打ちとしてはやや拙いくらい。 牌効率の視点から見てベストでない手を打っていることもしばしばだし、 仕掛けの入っている相手に対して危険牌を打っていくことも少なくない。 だがしかし、その全てが何故か上手く行くのだ。 薄い待ちを一発で呼び寄せ、危険牌も平気で通す。 それがあの男の豪運。 俺は……奴に勝てるのだろうか。 『本日は男子個人戦準決勝を解説させていただきます、アナウンサーの針生えりです!』 『……大沼だ』 『やはり注目は天龍寺選手でしょうか』 『……どうだろうな。個人的には、須賀とやらが気になるが』 『須賀選手ですか? えーっと、所属校は……あの清澄ですか! 宮永選手や原村選手の所属校ですね』 『……デジタル打ちとオカルト打ちを両立させている。珍しい選手だ』 『はぁ。ともかく、これは結果が楽しみですね!』 そして――賽は投げられた。 東一局。親は岩下。 神に愛された子の蹂躙は、初っ端から繰り出された。 「……リーチ」 三巡目、天龍寺がリーチをかける。 流れを断ち切ろうにもポン材チー材すらロクに揃っていない序盤も序盤。 太刀打ちしようのない、絶対の一撃。 「ツモ。リーチ一発ツモ、タンピンで満貫。2000・4000」 (……まだ、慌てる程じゃない。東場の優希ならもっとエグい、そう思え) 「チーッ!」 東二局、親は京太郎。 流れを取り換えすために、兎にも角にも連荘しようと早々と鳴き仕掛けに入るが、それでも。 「カン――ツモ。嶺上開花のみ、1300」 「な……ッ!?」 安手での連荘すら拒む無情の和了。 大明槓による責任払いで、京太郎にとってはこの大会初めての振り込みとなった。 442 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/16(土) 14 46 09.38 ID w5pjdMZy0 (どうすりゃ止まるんだ、この化物……!) 天龍寺はそのままの勢いで東三局も圧倒的なスピードで和了り、遂に天龍寺の親番となる。 そこからは、まさに地獄絵図だった。 「……ツモ。1000オール」 「ツモ。1300オールは1400オール」 「ツモ。1600オールは1800オール」 止まらない。止められない。止める手段すら分からない。 地獄のような連荘。 「ツモ。2000オールは2300オール」 「ツモ。2600オールは3000オール」 他の三人が何をしようが誤差でしかない。 ただひたすらに、和了の宣言を連ねていくのみ。 女子の試合のような一風変わった手を作ったり、場を支配してこちらの手を封じたりするわけではない。 ごく普通の役をごく普通に作って、ごく普通に和了っていくのみ。 それが一層、対戦者の心を折るのだった。 「ツモ。3200オールは3700オール」 出和了りでさえなく、淡々と。 天龍寺はひたすら自分の牌を晒して点棒を掻っ攫っていく。 止まらない。止められない。止める手段すら分からない。 そんな地獄のような連荘を止めたのは―― 443 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/16(土) 14 49 24.77 ID w5pjdMZy0 (あー、もう情けない……が、ここで飛ぶよりマシだ。加減しろよ、須賀!) 「……ん。ロ」 「ロンッ! 頭ハネだ、2000は3800!」 一回戦を共に戦った岩下の差し込みだった。 席順の関係で京太郎が優先されたものの、それでさえ当たり牌であったというのだから恐ろしい。 (な、なんとか止めたけど……) 残りは南場の四局のみ。点差は既に6万点以上。 勝ち目は……あるのだろうか。 折れかかる心。崩れそうになる気概。 それでも、諦めきれないのは。 ――追いつけないわけがないんです。 ――こうして真剣に努力を積んでいる須賀君が今後もずっと弱いままだなんて、 ――そんなの絶対有り得ません。 ――ふふっ、頑張りましたね須賀君。 ――須賀君。あまり思い詰め過ぎないでくださいね? ――ふふ、そうですねー。じゃあ今まで頑張ってきた須賀君には、私がご褒美をあげましょう。 ――今の京太郎君には凄く期待してますから。 ――京太郎君が今までずっと頑張ってきたのを、私は知っています。私が一番知っています。 ――だって私は、京太郎君の先生なんですからっ。 ――そんな頑張っている京太郎君のことが、皆大好きなんです。 自分一人で進んできた道ならば、とっくのとうに折れていただろう。 それでも、諦めたくないのは。 彼女からかけられた言葉の数々を覚えているから。 彼女にいいところを見せたいから。 彼女に誇れる雀士でありたいから。 (諦めたくない。折れたくない。負けたくないっ) 444 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/16(土) 14 50 10.35 ID w5pjdMZy0 しかし実際のところ、この差し込みにより岩下は既にトビ寸前。 ツモ和了りはほとんど封じられたようなものだ。 ならば天龍寺から直撃をとるしかないのだが……。 (……やっぱ、無茶するしかねーよな) 不幸中の幸いとして、京太郎は天龍寺の対面であったため連荘の間中彼を観察することが出来た。 ならば、観察結果からその手牌を読み切り、少しずつでも流れを手繰り寄せていくしかないだろう。 (まずは……集中、アンド観察! 天龍寺さんの手牌を読み切る……!) 瞬間、凄まじい眩暈。一瞬椅子にもたれかかりそうになるもののどうにか踏ん張り、観察を続ける。 (ったく、怪我の功名だ……あの連荘の間に理牌やら何やらの癖は完全に把握できた! あとは流れ次第だ……) 「ポン!」 (最悪、今この場では和了れなくてもいい……次の局に、一際大きな流れを呼ぶ……!) 「……っ、カンッ!!」 (まずはこの南一局……荒らしまくってやるっ!) 451 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/17(日) 19 42 02.22 ID 0TioZDTZ0 (……麻雀なんて、つまらない。こんなのクソゲーだ) 天龍寺行仁は、そう思う。 それは驕りでもなんでもない、ただの素朴な感想だった。 友達に人数合わせで誘われたから軽い気持ちで入ってみたが、何も面白くない。 何がどうなっても、結局、最終的には自分が勝ってしまうのだから。 (大体の人が東場の内に折れちゃうし。結局はただの作業だ) 必要牌が勝手にこっちの手に入ってきて。 要らない牌を捨てて。和了って。 そして、心が折れていく相手の姿をぼーっと眺めるだけ。 彼にとって、それが麻雀だった。 (……なんで折れない? 清澄の……須賀) 天龍寺には知る由もないが、京太郎が全く折れる気配すらないのは、 実は単に彼が負け慣れて、トバされ慣れているだけなのかもしれないが。 とにかく京太郎は諦めてはいなかった。 ツモ和了りすらほぼ封じられていても。 役満ツモですら逆転できないような点差でも。 「……流局、聴牌だ……!」 京太郎は折れずめげず諦めず、天龍寺の当たり牌を握り潰して流局にまで持ち込むことに成功した。 464 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/17(日) 20 19 39.69 ID 0TioZDTZ0 脳の血管がぶちぶちと音を立てて切れているような錯覚すら覚えながら、 京太郎は先の局、完全集中を維持して流れを操り続けた。 全てはこの南二局、すなわち自らのラス親となるこの場に最大の運気を呼び込むために。 そしてそれは――成就した。 (狙える……萬子染めが本線だけど、大三元が見えてる……!) 白、發、中。三元牌の全てが対子になって手の内に収まっている。 ここで和了りきれなければ、実際の点差以上に京太郎は完全に勝ちの目を失うだろう。 だからこそ。 (……ここで、目いっぱい無茶するぜ……!) 集中! オカルト封じを目的としてではなく、今からする行動の精度をひたすらに上げるために。 試合前からひたすら観察し続けてきた同卓している三人の動作から手牌を全て読み切る。 完璧でなくて構わない。ただ、自分が仕掛けるタイミングさえ分かれば。 「……ッカンだぁ!!」 気に入らない流れが少しでも見受けられれば、速やかにそれを変える。 そのタイミングを、例え一手たりとも逃さぬために。 「ポンッ!!」 (ただ仕掛けるだけじゃ駄目だ……天龍寺さんから、直撃を取るためには……!) 「……。リーチ」 (来っ……たああぁぁぁッ!) 「ッカァアンッ!!」 そう。幾ら流れを変えて、天龍寺の手に自分の当たり牌を掴ませたところで。 自分の手を警戒されては出る牌だって出ない。 そう。例えば、白・發と鳴いた後の中なんて、初心者だって絶対に出さない。 京太郎の手牌は、發の暗槓と、ポンで晒した東と、先程カンで晒した白。 手の内には中と萬子の三が、其々二枚ずつ。すなわち、シャボ待ちである。 萬子の三がドラだが、そっちで和了ると役満には届かない。 あくまで、大三元を天龍寺にぶつけることが目的だ。 (これを……ぶち当てさえすれば!) 既に刃は研ぎ終わった。 あとはこれを、天龍寺の喉元に突き立てるだけなのだ。 そしてその天龍寺は、リーチをかけてしまったことにより身動きが出来なくなっている。 更に自分の鳴きにより、彼の流れは堰き止め得る限り堰き止めた。 それなのに! 465 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/17(日) 20 20 09.55 ID 0TioZDTZ0 (出ない……俺の当たり牌!) 既に中が一回と一萬が一回、福留と岩下から切られている。 つまりチャンスは残り一回ずつ。これを天龍寺が掴みさえすれば、手が届くのに。 無情にも、場は十七巡目、局の終わりへと辿り着いてしまった。 (終わり、か……) 脱力し、項垂れる京太郎。 限界を超えた能力の行使により既に意識は朦朧としていて、 もはや対局を続けられるかどうかも怪しい状態。 そこにこの不ヅキ。遂に京太郎すらも折れそうになる。 しかし。 仮に麻雀の神がいるとしたならば、それはまだ京太郎を見放してはいなかった。 繰り返した鳴きにより、海底牌を掴むのは――天龍寺。 最後の最後、彼が捨てた牌は……。 黒と赤で彩られた、萬子の三だった。 466 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/17(日) 20 20 47.17 ID 0TioZDTZ0 (……ここですぱっと大三元を和了れないあたりが、俺らしいんだろうな) 京太郎は牌を倒す。 万感の思いを込めて。 (けど……ああ。これで、よかったんだ……!) 会場を埋め尽くす観客が、 ただ静かに彼の声を待つ。 467 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/17(日) 20 21 21.12 ID 0TioZDTZ0 「ロン……!」 「河底撈魚」 「東」 「白」 「發」 「混一色」 「対々和」 「小三元」 「ドラ3……!」 「……48000ですっ!」 468 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/17(日) 20 22 30.08 ID 0TioZDTZ0 彼の宣言が終わるとともに……会場が、湧いた。 490 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/18(月) 19 29 48.89 ID u2r9DyZQ0 (……放銃なんて、いつぶりだろうか) 多分、初めてだ。 友達にルールを教わりながら対局した時には何度かあったかもしれないが。 勝負の場で麻雀を打って放銃をしたのは……たぶん、初めてだ。 (……初めて、負けそうになってるっていうのに) (面白い。楽しい。心が躍る。麻雀ってこんなに面白いゲームだったのか) 48000点。 考え得る限り最大の失点をしたにも関わらず、彼の心は喜びに震え踊っていた。 楽しい。勝つか負けるか分からない戦いが。 嬉しい。自分に勝ち得る者の存在が。 さあ、始めよう。確か今和了った須賀が親。連荘だな。 止めてやるぞ、勝ってやるぞ。 だからさあ、お前も俺を止めてみせろ。俺に勝ってみせろ。 さあ! さあ! さあ! 「神に愛された子」天龍寺行仁は、競技としての麻雀を始めてから初めて、 期待に胸を膨らませながら配牌を開いた。 そして彼は、絶望した。 491 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/18(月) 19 31 02.89 ID u2r9DyZQ0 (やった……やってやったぞ!) 対して、京太郎は。 役満を和了った喜びに、勝利に肉薄した喜びに打ち震えていた。 勿論まだ油断はできない。 極限まで自分を酷使した結果、既に体調はおかしいどころの話ではなくなっている。 頭が割れるように痛い。視界が霞む。油断したらこの場で吐いてしまいそうだ。 だがしかし、流れはこちらに来ているはず。 この流れに乗れば、詰め切れるはず……! (超早和了りで勝負を決める! なんなら左右のどっちかを飛ばしてもいい) しかし、配牌を開いたその瞬間。 彼は感じ取った。 流れも運気も何もかも、今この瞬間に自分のもとを離れていったことを。 492 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/18(月) 19 31 48.90 ID u2r9DyZQ0 「……地和。8000・16000は8100・16100」 493 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/18(月) 19 33 04.18 ID u2r9DyZQ0 流れなど関係なく。 牌効率も押し引きも関係なく。 極論、今までの闘牌にさえ、何の意味もなく。 天龍寺行仁は、過程に多少の誤差こそあれど、いつも通りに勝負を決めた。 494 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/18(月) 19 33 56.79 ID u2r9DyZQ0 『げっ……劇的な結末だーっ! 誰がこんな展開を予想したでしょう!』 『しかし、結果は万人の予想通りか! 天龍寺選手、決勝進出!!』 この試合、結局和了ったのは天龍寺と京太郎のみ。 和了った回数では天龍寺が圧倒。 紆余曲折こそあれど、最終的には、予選や一回戦と同じように。 勝つべき者が、勝つべき時に、勝つべくして勝った試合であった。 「……駄目、だったかー」 京太郎は今度こそ椅子に全体重を預ける。 頭が痛い。死にそうだ。けど、下だけは向きたくなかった。 情けない。悔しい。だとしても、後悔だけはしなかった。 そして霞む視界のど真ん中に立ち去ろうとする天龍寺を見つけ、彼は必死の思いでそれを追いかける。 眩暈を抑えて立ち上がり、雀卓越しに思い切り身を乗り出し、手を差し出した。そして。 「いつかまた打とうっ。次は勝つ!」 それを聞いた天龍寺は一瞬とても驚いたような顔をして。 しばらくの間逡巡したあと、手を差し出した。 「……楽しかった。また、打とう」 「おうよっ」 こうして二人の握手と会場中の惜しみない拍手と共に、 インターハイ男子個人戦準決勝と、京太郎の夏は終わりを告げたのだった。 569 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/20(水) 22 09 02.13 ID cpjzzPHT0 翌日。 個人戦の男子優勝者及び準優勝者、女子優勝者及び準優勝者が卓を囲むエキシビジョンマッチが行われる。 なんと、咲はこれに出場する。あの天龍寺を相手に咲がどこまで戦えるのか、楽しみだ。 だからさぁ。 俺も応援行きたい――ッ!! 行きたい行きたい行きたい、行かせろ――ッ! 「黙らっしゃいバカ先輩! 原村先輩たちがどれだけ心配してたか分かってるんですか!」 「昨日会場のド真ん中で倒れたバカが何を言ってんですか!」 なんでだよいいじゃねーか、一晩寝たからもう元気いっぱいだよ俺! 東京にいるのは今日が最後だろ! お前らも一緒に応援行こうぜ! な!? 「大人しく寝ててくださいバカ先輩!」 「あんたがごねるせいで俺らまで応援行けなくなったんすよ!」 ちくしょー! 咲、俺は応援してるからなー! そんなわけで、俺は東京に滞在する最後の日をホテルのベッドの中で過ごす羽目になったのだった。 若気の至りというかなんというか、まあ、苦い思い出ってやつになりそうである。 570 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/20(水) 22 10 37.36 ID cpjzzPHT0 そして、俺達は長野に帰った。 女子は相変わらずの大歓迎だが、今回は男子もそれなりに歓迎してもらえた。 別に褒められるために麻雀をやっていたわけではないけど、それでも、俺達の頑張りが認められるのは嬉しい。 ひとしきり祝勝会的なイベントを終えた後、俺達3年生は正式に引退となる。 ……そう、引退。続けるにしろやめるにしろ、これでしばらくは麻雀とお別れになるんだ。 そう考えると、やっぱり……寂しい、かな。 「ま、どーせしょっちゅう部室には顔出すと思うじぇ~」 ははっ、違いねぇ。けどお前勉強のほうは大丈夫なのか? 俺は麻雀教えてもらうついでに和と勉強したりしてたけど。 「う゛っ。……ほ、ほら、天才の優希ちゃんはプロリーグの指名を受けるはずだじぇ」 個人戦では一回も全国出てないのにか? ははっ、ようやく俺にも優希に勝ってる点が出来たわけだ。 個人戦県4位の優希さーん? 「黙れバカ犬! それは言っちゃいけないところだじょ!」 ……で、咲はどうすんの? お前ならプロから引く手数多だと思うけど。 「あはは……実際そうなんだけどね。でも私は、プロには行かないつもり」 ほう、照さんは既にプロで大活躍してるのにか? そりゃまたどうして。シスコンの咲のことだから絶対後を追うものだと思ってたけど。 「シスコンじゃないよっ! でも、もっと本を読みたいし。麻雀をやめるわけではないけど、大学に行きたいんだ」 はーん。文学部にでも行くってことか? お前らしいっちゃお前らしいな。そういえばお前文学少女だったっけ。 「そーゆーこと。大学出てからプロに行くってことは、有り得るかもしれないね」 ははっ、だったら咲は後輩になるわけだな。 俺は大学行く気はねーし。 「その前に京ちゃんは指名されるかどうかだよねー」 言ったな、このこのぉ! 「ごめっ、やっ、やめっ」 571 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/20(水) 22 12 03.58 ID cpjzzPHT0 ……じゃ、引き継ぎはこの程度で大丈夫かな? 頼むぞ真面目君、ムロちゃん。 「任されました。先輩たちのも誇れるような活躍をしてみせます」 「進路をどうするかは知りませんけど、先輩も頑張ってくださいっ」 ははっ、そうだな。こっちも頑張らねえとな。 女子は団体でも個人でも全国制覇をしちまってるから、厳しい戦いが続くと思う。頑張ってくれよ。 男子は俺の果たせなかった夢を叶えてくれると嬉しい。お前らが全国優勝したって報せを聞くのを楽しみにしてるぞ。 『はいっ!』 あ、お久しぶりです先輩がた。 見てくれましたか、俺達の活躍。 「おうとも。皆よう頑張った」 「あの役満は、なかなか燃えたわよ?」 へへっ、ありがとうございます。 結局男子は何も持ち帰れなかったのが悔しいですがね。 「十分じゃ。男子個人戦準決勝、あの闘牌は見とったもん全員の記憶に残っちょるよ」 「まさに記録より記憶に残る戦い……ね。あの後すぐに須賀君が倒れたことも含めて」 うぐっ。 いやぁ、あははは……面目ない。 皆にもさんざっぱら怒られました。 もう、和も咲も優希も怖くて怖くて。 本気で殺されるかと思いましたよ。 「当たり前じゃい。わしかてあの場におったら一発ぶん殴っとるところじゃ」 「全く須賀君は駄目ねー、好きな女の子に心配かけてるようじゃいい男とは言えないわよ?」 うぐぐぅっ!? ……ただいま、母さん。父さん。 「インターハイ、中継見たわよ」 「惜しかったな」 うん。勝てるかと思ったんだけどな。 やっぱ、悔しいよ。 「……で、どうすんの?」 「麻雀、続けるのか」 あ、やっぱバレてる? まあそりゃそうか。一年の秋からずっと麻雀しかしてないもんな。 うん、俺は麻雀を続けたいと思ってる。 プロから指名されれば、それが一番だけど。 まあ最悪大学や実業団に行ってでも続けるつもりだから、勉強はちゃんとするよ。 「それを聞いて安心したわ。好きになさい」 ありがと。 572 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/20(水) 22 13 27.84 ID cpjzzPHT0 ……で、和はどうするんだ? やっぱ前から言ってたようにプロ目指すの? 「はい。いくつかのチームから打診は来ていますので、指名されたチームにそのまま入るつもりです」 ははっ、確かに和は贔屓チームとかなさそうだしな。 チームを選ぶ気はないわけだ。 「そういうことです。京太郎君はどうなんですか?」 ん、俺も同じようなもんだよ。 準決勝敗退とはいえ、あの天龍寺さんを相手に役満ぶち込んだのが評価されてるみたいだ。 期待させといて結局どこも指名してくれない……なんてことさえなければ、俺もプロに行くよ。 「ふふっ、同じチームに指名されたら嬉しいですね」 ああ、そうだな。 ……本当に、本当に、本当に。 万が一そんなことがあったら、何より嬉しいのに。 573 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/20(水) 22 14 02.52 ID cpjzzPHT0 数日後。 秋に行われるドラフト会議は、もう少し先。 ああ、待ち遠しい。どんな結果が出るにせよ、早くやってほしいもんだ。 和や(本人は行く気がないようだけれど)咲みたいな指名当確の有名どころならともかく、 俺みたいな実績がほとんどないぽっと出は本当にやきもきさせられる期間である。 そんなわけで休み時間もぼーっと過ごしていたら、例の友人が話しかけてきた。 「よっ、須賀。どうよ気分は」 打ち足りない。 部活にはしょっちゅう顔出してるけど。 やっぱりインターハイの緊張感には程遠いよな。 「あっはっは、なんか知らない内にお前も麻雀キチになったなぁ」 あっはっは、キチ言うなし。 一から麻雀教えてくれるような物好きの先生がいなけりゃ、ここまで長続きはしなかったろうけどな。 ほんと、和さまさまだぜ。 「けっ、惚気やがって」 惚気言うなし。 ……惚気だったらどんなに良かったことか……! 「うわっ、こいつガチだ」 「京太郎くーん、今日は部活どうしますー?」 あっ、和。行く行く今行く、ちょっと待ってて。 そいじゃ、俺行くから。 「おーおー行ってこい、男子エースさんよ」 元、だけどな。 まあ今日も、可愛い後輩たちを揉んでくるとするかね。 583 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/21(木) 20 19 42.54 ID zhnCU36v0 そして夏はあっという間に終わりを告げ、運命の秋が来る。 プロ麻雀ドラフト会議。正式名称新人選手選択会議。 全国の高校生雀士が固唾を飲みテレビに齧りついて結果を待つ日だ。 既にプロへ行かないことを明言している咲を除いて三人、清澄高校にはプロ志望の三年生がいる。 その三人も当然例外ではなく、仲良く並んでテレビに齧りついている。 既にウィークリー麻雀TODAYを始めとした週刊誌・新聞社の記者さん達は準備万端。 あとは結果を待つのみだ。 『佐久フェレッターズ、女子第一位指名……清澄高校、原村和』 おぉぉおおっ、すげえ! 一位指名じゃねえか、和! すげえよ、本当すげえよ! フェレッッターズって言ったら地元だし! 藤田プロのいるところか。うわっ、マジですげえ! 「京太郎君、はしゃぎすぎです……記者の方も見てるんですよ」 うぐぐっ。 あ、でも凄いぞ和。他にも和を指名してるところがあるみたいだ。 競合ってやつかー。ほんと和は凄いなー。 「どこになるんでしょうか……」 和の親父さんは今度東京に引っ越すんだっけ? だったらやっぱり、和としては東京のチームのほうがいいんじゃないのか? 「そこは別にいいんですけど……」 「全く、私がどこにも一位指名されないなんて信じらんないじぇ」 しゃーねえだろ。白糸台の大星さんとか、強い選手は他にもいるんだから。 ああ、そんなことより早く女子ドラフト終わって男子のほうやってくれないかなぁ。 もう緊張で心臓がおかしくなりそうなんですけどっ。 『佐久フェレッターズ、女子第二位指名……清澄高校、片岡優希』 「おおおっ、来たぁー! 我大勝利なりっ!」 おぉ、おめでとう優希。 ……うぅぅううう、あとは俺だけじゃねぇか。 『それでは、男子の指名に移ります……』 来た……来ちゃったよ。うあぁ、心臓が痛い。 どうしようどうしよう、これで指名なかったら俺、晒し者じゃねえか。 「ビビり過ぎだじぇ。インターハイで準決勝まで進んどいて指名無しは有り得ないじょ」 そりゃ理屈のうえではそうなんだろうけどさぁ。 結局俺本選では一回もトップ取ってないし……。 「はぁ。京太郎君らしいといえばそうなんですけど、もうちょっとしゃんとしていてください」 ううう……。 『佐久フェレッターズ男子第一位指名……清澄高校、須賀京太郎』 ……えっ。 聞き間違いじゃ、ない、よ、な? なぁ? 俺、和と優希と同じとこに、指名されたんだよ……な? 「ええ、確かに私にもそう聞こえましたよ」 「私も、だじぇ」 ……ぃやっ……たああぁぁぁぁぁあああっ!! 585 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/21(木) 20 22 25.91 ID zhnCU36v0 ……そして迎えた、卒業の日。 式を終え、俺は誰もいない部室へ向かった。 特に理由があったわけじゃないけど。 どうしても、最後にここに来ておきたかった。 自動卓のメンテナンス。備品の整理。 今となっては俺がやる必要なんてない作業だけど、それでも。 今日でお別れだと思うと、一秒でも長くここにいる理由が欲しかった。 そうして長々と部室に居座っていると、そこに和が現れた。 「京太郎、君……」 和、か。ははは、和も今日でお別れだと思ったらついつい来ちゃった感じか? 「……いえ。京太郎君は、きっとここに来てるだろうと思いまして」 えっ、俺? もしかして麻雀部で集まって写真撮るとかそんなのあったの? だったら急いで行かないとだけど……。 「いえ、そうではなく。京太郎君に、話があるんです」 586 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/21(木) 20 24 27.65 ID zhnCU36v0 ……俺、に? 「……思い出話のようなものと思っていただければ、結構です」 「一年の頃。京太郎君がまだ雑用ばかりさせられていた頃。たぶん、私はあなたのことを軽んじていた」 ……ま、そりゃなぁ。俺だって雑用だけしてるような奴がいたら、何しに来てんだこいつって思うだろうよ。 別に今更そんなときのこと謝ってくれなくてもいいんだぜ? 「けれど、違った。京太郎君が真剣に麻雀に取り組んでいるということを知れたこと。本当に、良かったと思っています」 あぁ、あの時か。うわっ、今思い返すと恥ずかしいなぁ。 あの時殴っちまった女子、今どうしてるかな……。 「あの時からずっと、なんだかんだで京太郎君と一緒にいた気がします」 ……そう、だな。 学校に行けば部室で麻雀教えてもらって。 家に帰ったらネト麻で麻雀教えてもらって。 ずっと麻雀してたな、うん。 「部活の帰りにファストフードやゲームセンターに連れて行ってくれて……楽しかった、です」 お、そりゃどうも。 楽しんでくれてたかどうか凄く心配だったから、そう言ってくれると嬉しいよ。 「ずっとあなたといて、あなたのことを知ってきました」 「ずっとあなたといて、もっとあなたのことを知りたくなりました」 587 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/21(木) 20 26 53.28 ID zhnCU36v0 「京太郎君。あなたのことが――好き、です」 591 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/21(木) 20 29 37.88 ID zhnCU36v0 ……えっ? 「もうっ。京太郎君らしいといえばそうなのかもしれませんけど、こんなこと女の子に最後まで言わせな――」 がばっ。 ……気付いたら、和を抱きしめていた。 仕方ない。いきなりこんなこと言う和が悪い。 ……本気にするぞ? 今更嘘だとか言われても認めないぞ? いいんだな、和。 「……全く。相変わらず自己評価が低いようですが……そんなこと言いませんよ、京太郎君」 「二年間、ずっとあなたのいいところを見てきた私が言うんです、間違いなんてありません」 ……ああぁぁああ、もうっ。 お前にこんなとこまで言わせちまったのは男として物凄い恥ずかしいけど。 それでも、今更だけど、俺からも言わせてくれ。 和、好きだ。大好きだ。初めて会った時から、いや始めてお前の姿を見た時から。 ずっと、お前のことばかり見てた。見損なわれるかもしれないけど、本当にずっと。 「……どうりで、春から夏にかけてはやたらと視線を感じたような……?」 うぐぅぅううっ!? ……いや、違うんだ。違わないけど違うんだ。 確かに和に近づくために麻雀始めたのは事実だけど、その……。 「……分かりますよ。浮ついた気持ちだけで麻雀をやってて、あんなに上達するわけがありませんから」 「京太郎君の麻雀への思いの真摯さは、私が保証します」 ありがと、和。お前がそう言ってくれるだけで、救われるよ。 ……あー、なんか、もう。最後までカッコつかないけど。 和。俺は、お前のことが好きだ。俺と……付き合って、くれるか? 「喜んで。よろしくお願いします、京太郎君」 ようやく。足かけ三年、ようやく実った俺の初恋。 初めて会った時から好きで、でもそれ以上に今目の前にいる彼女が愛おしくて。 気付けば互いに眼を閉じていて。 二つの影が、一つに―― 595 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/21(木) 20 31 27.78 ID zhnCU36v0 がたっ。 597 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/21(木) 20 37 33.16 ID zhnCU36v0 ……おい。 「あっ、やべっ」 いや、いいんだ。 この際なんで全員いるんだよとか、そういうことはいいんだ。 寛大な精神で許してやろう。 お前ら、どこから見てた……? 「いやですね、ほら。せっかくの卒業式だから部員全員で記念写真でも撮ろうって話になって」 「京太郎さんと原村先輩だけいなかったから……」 「そんで三年生の知り合いに聞いたら旧校舎に行くのを見たって……」 そう言うことを聞いてるんじゃない。 もう一度聞くぞ、お前らどこから見てた……? 「えーっと……『和も今日でお別れだと思ったらついつい来ちゃった感じか?』から……」 最初じゃねーか。 ……最初っからじゃねーかァァァァァ!!!! 「アカン」 「逃げるじぇ皆!」 待てやコラァァァァ!! 穏やかな小春日和の空に、俺の叫びが響き渡った。 598 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/21(木) 20 41 47.46 ID zhnCU36v0 ――こうして、紆余曲折の末、俺こと須賀京太郎はプロ雀士としての道を歩くことになった。 思えば至極下らない、というか俗っぽい、言ってしまえば酷い理由で麻雀を始めた俺だけど。 決して順風満帆とは言えなかったし、嫌なことも辛いことも当然あったけれど。 それでも、いつだって俺の回りには仲間がいた。 俺の味方をしてくれる人がいた。 だからこそ、俺はここまで成長できたんだ。 俺がここまでくるのに、失敗なんて一つや二つじゃ済まない程あったけれど。 その全てが、今日この日の成功に繋がったんだと、そう思う。 隣に最愛の人が立ってくれている、そんな今日に繋がったんだと思う。 だから、凄く気の早い話だけれど、著名なプロの方々のように俺が本を出す日が来たら。 そのタイトルは、もう決まっている。 599 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/21(木) 20 42 53.88 ID zhnCU36v0 京太郎「俺のサクセスストーリー」 完。あるいは、始まり。 前編へ|小ネタへ
https://w.atwiki.jp/kyotaross/pages/1844.html
http //hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1355052532/ キーンコーンカーンコーン 京太郎「……むにゃ……んん……」 京太郎(あれ……俺いつの間に寝て……) 京太郎「……ふわぁあ……」 京太郎(うわ、肩いてー)コキコキ 「ねえ、部活決めたー?」「ううん、まだー」 京太郎(は……? 部活?) 「俺はやっぱり麻雀部かなぁ」「なんだよ、お前も福路先輩目当てかよーw」 京太郎(なんなんだ……この高校入りたての懐かしい感じは……) 京太郎(つか、あれ……? なんか教室の雰囲気がいつもと違うぞ……?) 京太郎(クラスの連中も見たことない奴ばかりだし……) 京太郎「うーむ……」 京太郎(いったいどうなってるんだ……?) 京太郎(ちょっと外の様子見てくるか……)ガタッ 京太郎「……」スタスタ ワイワイ...ガヤガヤ... 京太郎(ふむ……明らかにここ清澄じゃねえな) 京太郎(俺はいつの間に別の学校に紛れ込んだんだ……?) 京太郎「……」 京太郎(仕方ない。誰かに聞いてみるか……) ??「……」スタスタ 京太郎「あの……すみません」 ??「えっ、私ですか……?」 京太郎「ええ、ちょっとお聞きしたいんですが……ここって何高校でしたっけ?」 ??「へ……?」 京太郎「あっ……いや、そのですね……」 京太郎(お、俺はいったい何してんだ……自分の今いる場所の名前を聞くとか明らかに不審だろ……) 京太郎「え、えーっと……」 ??「ここは風越高校ですが……」 京太郎「え……か、風越?」 ??「はい。もしかして学外の方でしょうか? あ、でも制服……」 京太郎「ん……おわっ!」 京太郎(俺の制服が学ランからブレザーになってる……!? な、なんで……) 京太郎(つか、今この人風越とか言わなかったか……? 風越っつったら、地区予選で咲たちと戦った長野の名門校……) ??「えっと……どなたか先生をお呼びしましょうか?」 京太郎「ああ、いや結構です! 変なこと聞いてすみませんでした!」 ??「は、はぁ……」 京太郎「そ、それじゃ……!」 スタスタ... 京太郎(くっ……ますますわけがわかんねえ……) 京太郎(ていうか今の人……どっかで……) 京太郎「……ああああああああああああっ!!」 ダダダッ 京太郎「あの~! すみませ~ん!!」 ??「え……きゃあっ!!」 京太郎「っと……!! はぁ、はぁ……す、すみません」 ??「い、いえ……平気です」 京太郎「えっと、あの……あなたは福路美穂子さん……ですよね?」 美穂子「そ、そうですが……」 京太郎「やっぱり! なんで忘れてたんだ、俺!」 美穂子「え、えっと……」 京太郎「あ、すみません。つい興奮しちゃって……」 京太郎「実はですね……俺、なんでか知らないけど、気づいたらこの学校にいまして……」 美穂子「は、はぁ……」 京太郎「一体どういうことなんですかね……?」 美穂子「え……えっと……」 美穂子「―――つまり……居眠りから覚めたら全く別の高校にいた、ということですか?」 京太郎「はい。ちなみに今って何日ですか?」 美穂子「4月の7日ですけど……」 京太郎「ほ、ほんとですか!?」 美穂子「え、ええ……はっ、まさか……」 京太郎「はい、時間も遡ってますね……俺が元いた時間は6月の15日、長野地区予選が明けてすぐの頃です」 美穂子「と、とても信じられませんね……」 京太郎「俺自身、実感わかないっすよ……ていうかなんでこんな目に……」ガクッ 美穂子「き、気を落とさないでください……えっと……」 京太郎「あ……俺、須賀京太郎って言います!」 美穂子「須賀君……ですか。私は風越高校3年の福路美穂子です……って、これはさっきも言いましたよね?」 京太郎「福路先輩のことは俺も知ってますよ! なんったってあの名門風越麻雀部のキャプテンっすから!」 美穂子「そ、そんな大した身分ではありませんが……///」 美穂子「須賀君がいた高校はどこなんですか?」 京太郎「清澄っていうんですけど……たぶん知りませんよね?」 美穂子「ええ、ごめんなさい……」 京太郎「いやいや、別にいいですって! なにせ、今年が団体戦に出るの初なんすから!」 美穂子「まだ無名の高校、というわけですね」 京太郎「そうっすね。でもまぁ地区大会では……」 京太郎「っ!」ハッ 美穂子「? どうかしましたか?」 京太郎「い、いえ……なんでもないっす」 京太郎(今は地区予選も始まってない時期なんだよな……ってことは、予選通過したのがうちだってばらすのはさすがにまずいよな……?) 京太郎「そ、そういえば! 風越って女子高じゃありませんでしたっけ?」 美穂子「女子高、ですか? うちは創立以来ずっと共学制をとっていたと思いますが……」 京太郎「へえ……」 京太郎(ま、そうなるよな……じゃなきゃ俺はとっくに変質者扱いだろうし) 美穂子「あの……立ち話でもなんですし、よかったらうちの部室へ行きませんか?」 京太郎「部室って……もしかして麻雀部のっすか!?」 美穂子「ふふ……他にどこがあるっていうんですか?」 京太郎「そ、そうっすよね! すんません」 美穂子「いいえ。それじゃ行きましょうか?」 京太郎「は、はい!」 ――――――――――――――――――― スタスタ... 京太郎「……」チラッ 美穂子「……」 京太郎(しっかし……めっちゃかわいいなぁ、福路さん……) 京太郎(こんな美人さんと普通に会話できるなんて、夢にも思ってなかったぜ…… これだけでもこの変な現象に巻き込まれたかいがあったってもんだ) 京太郎(とりあえず今は情報収集だ……決してやましい気持ちなんてないからな?) 美穂子「須賀君、つきましたよ」 京太郎「! こ、これが風越麻雀部の部室……」 コンコン...ガチャ 美穂子「すみません、遅れました」 「「「「お疲れ様です、キャプテン!!」」」」 美穂子「ええ、みんなお疲れ様」ニコッ 京太郎「ぉお……」 京太郎(部室ひれー……ってか、部員の数すげー……うちとは雲泥の差だなこりゃ) 京太郎(しっかし今のハモり具合……福路さんの人望っぷりも並じゃねえな……) ??「こらぁっ!! 福路ッ!!」 京太郎「っ!」ビクッ 美穂子「は、はい……!」 ??「てめえ、私より遅れて部室にくるたぁいい度胸してんなぁ」 美穂子「す、すみません……」 ??「キャプテンって立場をもう少し自覚しろ!! てめえがそんなんだと、後輩に示しがつかねえだろうが!!」 美穂子「も、申し訳ありません……久保コーチ」 京太郎「こ、こ……」 京太郎(こ、こええええ~っ……こんな人がいんのかよ……) 京太郎「ふ、福路さん……大丈夫っすか?」 美穂子「え、ええ……ごめんなさいね」 久保「んあ? 誰だぁ、そいつは……」 美穂子「あ、この方は……その……」 京太郎「え、えっと! 麻雀部の見学にきました、1年の須賀京太郎っす! よろしくお願いします!」 久保「なんだ、見学かよ……んじゃ―――」 久保「池田ァ!!」 ??「にゃ!!?」 久保「お前、どうせヒマだろ? そいつの面倒見てやれ。福路はこっちへこい、少し話がある」 美穂子「は、はい」 京太郎「え……ちょ」 美穂子「ごめんなさい、須賀君。話が終わったらまた来るから」 美穂子「……華菜、須賀君のこと頼んだわよ?」 池田「ん……まぁ、キャプテンの頼みなら仕方ないし」 池田「……お前、名前はなんていうんだ?」 京太郎「あ、須賀京太郎っす」 京太郎(いやさっき言ったじゃねえか……) 池田「ふーん……」 京太郎「……」 池田「……わかった、ちょっと来いし」 京太郎(?? なにがわかったんだ? ……まぁいいか) 京太郎「……」スタスタ 池田「……みはるん、ドムっち、文堂! 新入りだし!」 京太郎「い、いや俺……まだ入部したとは……」 未春「あ、どうもこんにちはー」 京太郎「あ、どもっす」 純代「……」 京太郎(い、威圧感のある人だな……)ペコリ 文堂「1年の文堂星夏です。よろしくお願いします」 京太郎「あ、こちらこそ……」 京太郎(この人は同学年か) 池田「んで、私が風越のナンバー2……池田華菜だし!」 未春「もう、華菜ちゃんったら……こういう子なの、気にしないであげてね?」 京太郎「は、はい……」 池田「ふふ……さあ、打ってみろだし!」 京太郎「あれ、池田……先輩はいいんですか?」 池田「ん? お前じゃ私の相手にならないから、この三人で十分だし!」 京太郎「あ、そうっすよね……はは……」 京太郎(こ、こいつうぜえ……) ――――――――――――――――――― 京太郎「うーん……」カチッ 池田「はぁ!?」 京太郎「っ!」ビクッ 京太郎「あ、あれ……違いました?」 池田「違うとか以前にありえないし! なんで8索の方を捨てないし!」 京太郎(い、いや……手牌ばらすなよ!) 京太郎「す、すんません……」 池田「もういいし! ちょっとそこ変われし!」 京太郎「え、ええっ!?」 京太郎(な、なんなんだよちくしょう……) 未春「ちょ、ちょっと華菜ちゃん。それはあまりにもひどいよ……」 京太郎(こ、この人は天使だ……!) 池田「ひどいのはこいつの打ち方だし! 華菜ちゃんが手本を見せてやるんだし! ありがたく思え!」 京太郎(そ、それに比べてこいつは……)ピキピキ ――――――――――――――――――― 純代「……」スッ 池田「それロンだし! タンヤオ平和一盃口ドラドラの満貫だし! 」 純代「はい」 未春「あーもう。華菜ちゃんは相変わらず強いなぁ」 華菜「へっへーん、どんなもんだし! 見たか、新入り! これが王者の打ち筋ってやつだし!」 京太郎「さ、さすがっすね……」 京太郎(く、悔しいけどすげえ……風越ナンバー2の名は伊達じゃないってことか) 華菜「この華菜様がお前のことをこれからみっちり特訓してやるし!」 京太郎「い、いやだから俺……」 美穂子「……お待たせ、須賀君。どう? 部の雰囲気には慣れたかしら?」 池田「キャプテン!」京太郎「福路さん!」 池田「むっ……お前、キャプテンのことを軽々しくさん付けで呼ぶなし!」 京太郎「あ、すんません」 美穂子「いいのよ。むしろ親しみが籠ってるようで嬉しいわ」ニコッ 京太郎「っ!」ドキッ 京太郎(この人はなんてお優しい方なんだろう……! 女神だ……女神がご光臨召されたぞ……!!) 池田「ダメだし! ちゃんとキャプテンって呼ぶし!」 京太郎(ぐ……うっせーなこいつは……) 美穂子「それじゃ、間をとって『福路先輩』でどうかしら?」 京太郎「あ、じゃあそう呼ばせてもらいます!」 池田「なっ、それ全然間とってないし!」 美穂子「いいじゃない。華菜もそう呼んでいいから……ね?」ナデナデ 池田「う……わ、わかったし」 京太郎(こいつ、福路先輩には頭が上がんないのか……ぷふっ) 美穂子「あら、麻雀打ってたのね? どうだった?」 京太郎「あ、いや……俺は途中までしか打ってないんですけど」 池田「後半は私が代わって手本を見せてやってたんです!」 美穂子「あら、そうなの。でも、みんな強かったでしょう?」 京太郎「はい! やっぱ風越ってすごいなって思いました!」 美穂子「ふふ」ニコッ 池田「だろ? もっと褒めろし!」 京太郎(く、くそ……こいつ調子づきやがって) 京太郎「……俺ももっと強くなりたいっす」 池田「まぁムリだな」 京太郎「な、なんだとぉ!?」 池田「おっ、やるかだし?」 美穂子「や、やめなさい二人とも!」 京太郎「す、すみません……」 京太郎(やべ……ついカッとなっちまった) 美穂子「ほら、華菜も」 池田「ふ、ふん……私は本当のことを言ったまでだし」 京太郎(こ、こいつ……!) 池田「―――けどまぁ……私が鍛えてやるから、そしたらほんの少しはマシになるかもしれないし」 京太郎「え……」 美穂子「あら、じゃあ須賀君も入部してくれるのね?」パァア 京太郎「あ、いや、その……」 美穂子「?」ニコニコ 京太郎「うっ……」 京太郎(このまぶしいほどの笑顔……断れねえ!) 京太郎「はい……ぜひ入部させてください!」 池田「よし、許可するし!」 京太郎「なんでお前がいうんだよ!」 ハハハッ 美穂子「じゃあ決まりね。須賀君、入部届取りに行きましょうか?」 京太郎「あ、はい!」 池田「須賀、キャプテンに失礼のないようにしろし!」 京太郎「しねえよ!」 バタン 京太郎「ふぅ……」 美穂子「ごめんなさいね。でも、華菜も悪い子じゃないのよ?」 京太郎「え、ああ……はい」 京太郎(悪い子じゃない、ねえ……どうなんだか) 美穂子「あと須賀君、例のことだけど……」 京太郎「あ、はい」 京太郎(そういやすっかり忘れてたな……) 美穂子「須賀君はもちろん、元いた世界……といっていいのかしら?――に戻りたいわよね?」 京太郎「え、ええまぁ……」 京太郎(正直、こっちも悪くないんじゃないかと思えてきたけど……あの猫女以外は) 美穂子「でも今は戻り方がわからない……」 京太郎「そうっすね……」 美穂子「……正直私にもどうしたらいいのかわからないわ」 美穂子「けど、きっと戻る方法は見つかると思うの! だからその……あまり気を落とさないで?」 京太郎「は、はぁ」 京太郎(ま、あんま気落としてないんだけどな) 美穂子「私もできる限りの手助けはするから……ね?」 京太郎「あ、ありがとうございます」 京太郎(この人はほんと……誰に対してもこんな優しいんだろうな) 美穂子「いいのよ、だって……」クルッ 美穂子「須賀君はもう、私の大事な後輩なんだから」ニコッ 京太郎「っ!」バッ 京太郎(やばい……やばいだろ今のは……っ!!) 京太郎(お、おおおお落ち着け俺……動揺するな……)ドキドキ 美穂子「す、須賀君……?」 京太郎「い、いやなんでもないっすよ!! あはは……」 美穂子「そう? それじゃ、行きましょうか?」ニコッ 京太郎「は、はい!」 ――――――――――――――――――― こうして、俺の風越麻雀部での高校生活がスタートした――― ダダダッ 京太郎「す、すんません! 遅れました!」 久保「須賀ァ!! てめえ、なにしてやがんだ!!」 久保「外回り10週走ってこいッ!!」 京太郎「ま、マジっすか……」 久保「あぁ? なんか文句あんのか?」 京太郎「あ、いえ……ないっす」 久保「んじゃとっとと行けッ!」ゲシッ 京太郎「は、はいぃ!」 ――――――――――――――――――― 京太郎「はっ、はっ……」 京太郎「くっそ……あの先公マジで女かよ……っ」 京太郎「つか、文化部なのに……外周って……っ」 ??「おっ……お前は須賀!」 京太郎「その声は……池田ァ!」 池田「いい加減さん付けしろし!」 京太郎「うっせーな……って、お前も外周かよ」 池田「うっさいし! ほんの2,3分遅刻しただけだし!」 京太郎「へ、ざまあねえな!」 池田「お前に言われたくないし!」ボカボカッ 京太郎「いてえよ!」 池田「それよりお前、もう見たのか?」 京太郎「なにをだよ」 池田「なにって部内ランキングだし!」 京太郎「部内ランキング……?」 池田「ここ一か月間の校内試合の結果を集計した、部内での実力順位だし!」 京太郎「いや見てないな……ってかそんなのあるのか」 池田「お前ほんとに麻雀部の一員かだし!」 京太郎「うっせ……でもそのランキングって何の意味があるんだ?」 池田「お前ほんとに無知無学だし……」 池田「いいかよく聞けし! そのランキングの上位5位までが今度のインハイ団体戦に出場できるんだし!」 京太郎「なっ……そういうことか!」 池田「私は絶対上位に入ってるから問題ないけど、お前はどうなんだし!」 京太郎「お、俺は……」 京太郎(風越麻雀部は女子の比率が圧倒的に多い……だが、少なからず男子部員もいる) 京太郎(全学年合わせて12人だったか……?) 京太郎(正直、俺はその中でも強い方とは言えない……同学年の奴にすら負け越す始末だ) 京太郎「俺は……きついかもしれない」 池田「なんだし、情けない奴だな! あれだけ私が鍛えてやったのに!」 京太郎「う、うっせえな! 俺だって努力はしてんだよ!」 池田「努力したなんて誰にでも言えることだし! 大事なのは結果だし!」 京太郎「池田のくせに偉そうなことを……!」 池田「お前、それ先輩に言う台詞かし!」 京太郎「うっせチビ!」 池田「なんだと、このでくの坊!」 京太郎「猫女!」 池田「金髪!」 京太郎「バカ!」 池田「無能!」 京太郎「……」ズーン 池田「そ、そんなに落ち込むなし……」 ――――――――――――――――――― 京太郎「ただ今戻りましたー」 池田「戻ったし」 美穂子「おかえりなさい二人とも、冷たい紅茶があるけど飲む?」 池田「わーい! ……って久保コーチは!?」キョロキョロ 美穂子「職員会議で今はいないから大丈夫よ」ニコッ 池田「よっし! それじゃいただきますし!」ゴキュゴキュ 池田「ぷはーっ! 生き返るし!」 美穂子「須賀君もどうぞ」コトッ 京太郎「あ、ありがとうございます!」 京太郎「……」ゴクゴク 京太郎「お、おいしい……!」 美穂子「そう、それはよかったわ」ニコッ 京太郎「っ!」ドキッ 京太郎(いつまでたってもこの人の笑顔には慣れないぜ……)ズズッ ワーワーガヤガヤ... 池田「あれは……男子の校内ランキングだし?」 美穂子「そうみたいね、須賀君はもう見た?」 京太郎「い、いいえ……まだです」 京太郎(……) 池田「見に行ってこないのか?」 京太郎「俺はいいよ……どうせランク外だ」 美穂子「……」 池田「お、お前なぁ……」 美穂子「須賀君」 京太郎「……? は、はい?」 美穂子「どうしてそんなことを言うの?」 京太郎「ふ、福路先輩……?」 美穂子「ランク外かどうかなんて見なければわからないでしょう? どうしてそれを確認もせずに諦めたりするの?」 京太郎「そ、それは……」 美穂子「……見てきましょう? 私も一緒に行ってあげるから」 京太郎「は、はい……」 池田「……」 スタスタ... 美穂子「須賀君、見える?」 京太郎「……んと……ぁ」 京太郎(なんだよ……やっぱランク外じゃん) 京太郎「……ランク外でした。やっぱり……」 美穂子「……そう」 京太郎「だから言ったじゃないですか。俺なんかどうせ……」 美穂子「須賀君!」 京太郎「っ!?」ビクッ 美穂子「結果はどうあれ、それを認めるのと認めないのとでは、とても大きな違いよ」 京太郎「福路……先輩……」 美穂子「結果を認めるということは、自分を見つめること。過ちを正すこと。次へ活かすことなのよ?」 美穂子「それをしないということは、自分自身から逃げているのと同じだと、私は思うわ」 美穂子「須賀君はそんな弱い人なんかじゃないでしょう?」 京太郎「……」 京太郎(そうだよ……なにやってんだ俺。福路先輩の言うとおり、俺はただ逃げてるだけじゃないか……!) 京太郎「先輩……すみませんでした、俺……」 美穂子「……」ニコッ 美穂子「須賀君、今の『ごめんなさい』は、あなたが、あなた自身の力で自分の間違いを認めたということ。それはとても素晴らしいことよ?」 京太郎「……はい」 美穂子「大丈夫、ちゃんと間違いを認めて謝ることのできるあなたなら、きっと頑張れるわ」ニコッ 京太郎「はい……福路先輩、俺がんばります!」 美穂子「ふふ」ニコッ 京太郎「……池田! 今から一局打とうぜ!」 池田「え……あ、ああ! 望むところだし!」 美穂子「……」ニコッ 京太郎「……」カチッ 未春「……これ、かな」カチッ 京太郎「吉留先輩、それロンっす!」バララッ 未春「あちゃー、そこで待ってたんだ」ガクッ 京太郎「へへ、すんません」 池田「……」 池田(……須賀の雰囲気がいつもと違うし。やっぱりキャプテンにお説教を受けたからかな……) 池田「……しかし、キャプテンがあんな風に怒るところは初めて見たし」 未春「え、キャプテンに怒られたの? 華菜ちゃん」 池田「私じゃないし! 須賀だし!」 未春「へえ……それは確かに意外だね」 純代「……ん」 京太郎「そうなんすか? たしかにイメージないっすけど」 未春「ほら、ここ風越麻雀部には久保コーチがいるでしょ?」 京太郎「はい……それがどうしたんすか?」 未春「久保コーチ……あまり大きい声では言えないけど、とても厳しいじゃない?」 池田「あ、みはるんそれコーチに言っちゃうし」 未春「ちょ、華菜ちゃん! やめてよ!」 池田「じ、冗談だし……そんなメガネ鈍く光らせて顔近づけないでほしいし」 未春「んもう!」 純代「……と、こんな具合に部員から恐れられている」 池田「ドムっちうまくまとめたし」 京太郎「まぁ、たしかに怖いっすもんね」 未春「うん……でもその代り、キャプテンは私たち部員にすごく優しく接してくれるでしょ?」 未春「コーチもたぶん私たちのためを思って叱ってくれる……でもそれだけじゃメゲちゃう子もいると思う」 未春「だからこそ、コーチがくれない『暖かさ』をキャプテンが与えてくれてるんだと思うの」 京太郎「なるほど……アメと鞭ってやつですか」 未春「なんかイヤな言い方だけど、つまりはそういうことだね」 池田「キャプテンはそういうこともちゃんと考えてるんだし」 京太郎「そっか……すごいんすね、福路先輩は」 池田「だろ?」 未春「華菜ちゃんが威張ることじゃないでしょ」 京太郎「でもそれじゃ、なんで俺を叱ってくれたんすかね?」 池田「悔しいけど……たぶん、それだけキャプテンが須賀のことを考えてくれてるってことなんだと思うし」 京太郎「俺のことを……?」 池田「勘違いするなし! あくまで『先輩として』だし!」 未春「キャプテンは優しいのは、ときに叱ることの大事さを知っているから」 未春「だからこそ、キャプテンは部員に優しくできるし、必要なときは叱ることもできる」 京太郎「その必要なときが、さっきだった……ってことっすね」 未春「うん」 京太郎「……そっか、俺もっと先輩に感謝しないといけないな」 池田「ああ、一日一回土下座してもいいくらいだし」 京太郎「マジでそうかもな……」 未春「大丈夫だよ。キャプテンだって須賀君が感謝してることくらいわかってるから」 京太郎「そ、そっすね」 純代「ん」 京太郎「しかし……」 未春「うん?」 京太郎「みんな、福路先輩のこと、本当に大好きなんすね」 未春「えっ///」 純代「……///」 池田「な、何を突然言い出すんだし!」 京太郎「いや、キャプテンもすごいけど、そのキャプテンを理解してる先輩らもすごいなぁって……」 京太郎「やっぱそれだけキャプテンのこと好きで、信頼してるってことじゃないっすか」 未春「……まぁそうなるかな」 池田「当たり前だし!」 純代「ん」 京太郎「俺も早く、それくらいキャプテンと信頼し合えるような仲になりたいっす」 池田「そうなるには、須賀はあとレベル50くらい上げないとだめだし!」 京太郎「わかんねえよ!」 ハハハッ ――――――――――――――――――― ガチャ 池田「あ、久保コーチが帰ってきたし!」 久保「ここに男子の部内ランキングを掲示してある! 全員確認したな?」 「「「「はい!!」」」」 久保「今日はもう解散とするが、代表に選ばれた者は、あとで話があるから残るように!」 「「「「はい!!」」」」 久保「それでは、今から女子のランキングを掲示する!」 ザワザワ... 未春「わ、私……大丈夫かなぁ」 池田「き、緊張なんてしてないし……!」 純代「……」ブルッ 京太郎「みなさん、自分を信じましょう!」 久保「女子の上位5名は私が直に読み上げる! 呼ばれたら返事をしろ!」 久保「まず1位……福路!」 美穂子「はい」 久保「2位……池田ァ!!」 池田「はいだし!」 久保「3位……吉留!」 未春「は、はいっ!」 久保「4位……深堀!」 純代「んっ!」 久保「そして5位……文堂!」 文堂「え……」 未春「あ、文堂さん……ランクインできたんだ!」 文堂「き、キャプテン……わ、私……!」ブルブル 美穂子「やったわね、文堂さん!」ダキッ 文堂「あ、ありがとうございます……! うぅ……っ」ボロボロ 池田「文堂がんばってたもんな……よかったし」 未春「そりゃもちろん、部員全員が一生懸命だったとは思うけど……」 純代「……文堂は常にひたむきで、真っ直ぐ前を向いていた」 京太郎「……」 京太郎(すげえな、文堂さん……俺と同じ1年なのに) 京太郎(俺も……負けてらんねえな)グッ 池田「須賀も文堂見習ってがんばれし」 京太郎「言われなくてもそうするよ!」 未春「その意気だよ、須賀君!」 純代「ん」 久保「以上の5名は先ほど言った通り、練習後も部室に残るように! それでは、解散!」 ガヤガヤ... 京太郎「じゃ、俺先に帰ってますんで。がんばってください!」 池田「おう」 未春「また明日ね、須賀君」 純代「ん」 ガヤガヤ... 京太郎「……うっし、帰るか」スタスタ 久保「おい、須賀ァ!!」 京太郎「っ!」ビクッ 京太郎「な、なんすか……?」 久保「お前ちょっとこっちこい!」 京太郎「え、ええー……」 京太郎(俺……なんかしたかな……) 京太郎「……な、なんでしょうか?」ビクビク 久保「あぁ、そこ座れ」 京太郎「は、はい……」 久保「……今度、部で合宿を行うことは知ってるな?」 京太郎「え、ええ」 久保「実は、代表選手は、その後も合宿地に残って追加の強化合宿を行う」 京太郎「そ、それが……?」 久保「……お前も出ろ」 京太郎「は、はぁ……って、ええええっ!!?」 京太郎「な、なんでっすか!? 俺、代表じゃないのに!」 久保「うぬぼれんな……別に私にはお前を鍛えようとか、ましてや代表入りさせようなんて気はない」 京太郎「はぁ……」 久保「お前には、マネージャーとして合宿で働いてもらう」 京太郎「ま、マネっすか……?」 京太郎(前の俺と同じじゃねえか……) 久保「あぁ……買い出し・掃除・洗濯・料理……」 久保「選手たちのために、合宿中、必要となるであろう些事を休む暇もなくやってもらう」 京太郎「うっ……」 久保「なんだ、不服か?」 京太郎「……」 京太郎(以前の俺なら、ここで首を横に振るんだろうな……) 京太郎(そんでいいようにこき使われて、んで終わるんだ……) 京太郎(そりゃ、マネージャーってのが大事な仕事なのはわかるし、それが選手たちを支える重要な役回りだってことも理解してる) 京太郎「……っ」 京太郎(でも……今の俺は……) 京太郎(もっと強くなりたい……!! そう思ってる……!!) 京太郎(もっと麻雀打って、いろんな人の打ち筋見て勉強して、んで……!!) 京太郎(来年こそはここ・風越の代表選手になってやりてえ……!) 京太郎「……久保コーチ……俺」 久保「ん? なんだ、辞退するか?」 久保「それならそれで一向にかまわない。お前の他にも頼める奴はいくらでもいるからな」 京太郎「いや……俺、引き受けます!!」 久保「……ほう、そうか。わかった」 京太郎「ただ、その代りに条件があります……!」 久保「あ……? 条件?」 京太郎「俺にも練習、参加させてください……!!」 久保「……」 京太郎「俺、ランキングでは下から2番目でした。だからもちろん代表にはなれない……わかってます」 京太郎「……けど! 俺、悔しいんす! もっと強くなりたいんす!」 京太郎「ワガママだってのはわかってます! 代表の選手たちに迷惑をかけるってことも!」 京太郎「でも、せっかく同じ合宿地に行くなら俺……強い人たちととことん打ち合いたい!!」 京太郎「だ、ダメ……ですか……?」 久保「……」 美穂子「久保コーチ……私からもお願いします」 京太郎「ふ、福路先輩……!?」 久保「……」 美穂子「須賀君の意志は確かなものだと思います……私は彼の気持ちを尊重してあげたいです」 池田「私も協力するし!」 未春「私も!」 文堂「わ、私も……!」 純代「……ん」 京太郎「み、みんな……」 美穂子「先ほど男子の代表選手の方たちからも聞いてきましたが、みなさん歓迎するそうです」 京太郎「せ、先輩たちが……?」 美穂子「ええ」ニコッ 京太郎(みんな……俺なんかのために……)グッ 久保「……お前ら、大事な大事な地区予選前、最後の合宿だぞ?」 久保「こいつの相手をしてる時間……もっと他の有意義なことに使うべきじゃねえのか?」 美穂子「……」 久保「……須賀、お前だってそうだ。さっき言ったマネの仕事と練習……本当に両立できんのか?」 京太郎「……」 久保「どっちかがおろそかになっただけで、選手全員に迷惑が掛かんだ……それわかってんのか!?」 京太郎「わかってます! 絶対に逃げ出したり、弱音はいたりしません!」 京太郎「だからお願いします!!」 久保「……」 美穂子「コーチ……須賀君の腕はまだまだ未熟ですが、彼との対局を有意義な時間にするかしないか…… それは私たち選手しだいだと思います」 美穂子「どんな対局にも意味はあります。学ぶ姿勢さえ怠らなければ、必ずそれは新しい発見につながると思うんです」 久保「……」 京太郎「……」 美穂子「……」 久保「……わぁったよ。許可する」 美穂子「……ありがとうございます」ニコッ 池田「よかったし、須賀!」バシッ 京太郎「え、ぁ……あ……」 京太郎「ありがとうございますっ、久保コーチ!!」ペコリ 久保「……ん。まぁ、がんばれよ」 未春「ふふ……」ニコニコ 文堂「やったね、須賀君!」 京太郎「ありがとう! 先輩たちも、ありがとうございます!」 純代「……礼などいらない。ともに高め合うのみ」 京太郎「はい……!!」 池田「そうと決まったら、さっそく強化合宿のスケジュールを組むし!!」 「「「「「おうー!!」」」」」 ――――――――――――――――――― そして強化合宿―――俺、いや俺たちは朝から晩までひたすら打ち込み、ときには温泉で一時の安らぎを得たりした 俺はやはり代表の選手たちにはそうそう適わず、見事なまでにフルボッコにされたが それでも、その中で得たものは大きかったし、最終日の対局では後半、文堂さんと激しく打ち合うなどの飛躍ぶりも見せた そして、ついに地区予選――― ――――――――――――――――――― 『―――圧勝ッ!! 風越高校――――ッ!!』 ガチャ 池田「楽勝!」 「おつかれっす!」「お疲れ様です!」 美穂子「お疲れ様、華菜」スッ 池田「ありがとうございます」 京太郎「よくやったな、池田!」 池田「もっと言えもっと!」 京太郎「よくやったなよくやったなよくやったな池田ァ!!」 池田「うるさいし! 黙れし!」ボカッ 京太郎「いてっ!」 久保「……福路」 美穂子「は、はい?」 久保「……」 美穂子「……久保コーチ?」 久保「……明日もこの調子でみんなを率いてやれ」 美穂子「……! はい!」 久保「……それと―――池田ァ!!」 池田「にゃあっ!?」 久保「なにがにゃぁだこの……」グリグリ 池田「にゃぁああああ……!!」 久保「へっ……よくやったな、次もこの調子で行けよ」 池田「へ……?」 久保「お前ら先戻ってろ」スタスタ バタン 京太郎「あの久保コーチが……」 池田「ほ、褒めた……?」 未春「やったね、華菜ちゃん!」 文堂「久保コーチ、すごくうれしそうでしたね」 美穂子「華菜の頑張りが認められたってことよ、よかったわね」ニコッ 池田「な、なんか逆に気持ち悪いし……」 京太郎「お前聞かれたら殺されっぞ」 ――――――――――――――――――― 京太郎「んじゃ、そろそろホテル戻りますか」 池田「今日は疲れたし! 早くお風呂浸かりたいし!」 文堂「このホテル、シャワーのみってなってますけど」 池田「え、なにそれ!? ふざけんなし!」 美穂子「まぁ明日一日くらい我慢しましょう……ね?」 池田「うぅ……ホテルマンに苦情申し立ててやるし……」 京太郎(ったく……男子の俺がいる前で風呂の話とかよく平気で……) ガヤガヤ... ??「……」スタスタ 京太郎「え……」 京太郎「っ!!」クルッ 京太郎「……ま、まさか……」 京太郎(そうだ……なんで今の今まで忘れてたんだ、俺……) 京太郎「さ、き……」 咲「……えっ?」クルッ 咲「今、私の名前……」 京太郎「……」 京太郎(なんでだ……言葉が出てこねえ……) 和「どうしました? 咲さん」 優希「ん、どうしたんだじぇ?」 京太郎「み、みんな……」 咲「あ、あの……私の名前、呼びましたか?」 京太郎「っ!!」 京太郎(そっか……そうだよな……) 京太郎(薄々は気づいてたさ……俺だって) 咲「……?」 京太郎(心のどこかで恐れてた……だから思い出さないようにしてたんだ……) 京太郎(今まで通りに事が進んでいくなら、いつかは知らなきゃいけないことだったはずなのに……) 和「咲さん……誰ですか? この人」ジロッ 咲「知らないけど……私の名前呼んできて……」 優希「こっちじっと見て、気持ちわるいじぇ……」 久「どうしたのー? 行くわよー?」 咲「あ、はーい!」 京太郎(……みんな……完全に俺のこと忘れちまってるんだな……) 京太郎(いや、忘れたんじゃない……俺なんて“いなかった”んだ……) 京太郎(だって、俺は……) 池田「どうかしたか、須賀?」 60 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/10 02 44 17 ID WSJ5mdE10 京太郎「あっ、いや……なんでもない」 京太郎(そう……だって今の俺は……) 京太郎(……風越の一員だ……!!) 美穂子「そう、ならよかったわ」ニコッ 池田「早く行くし!」 京太郎「お、おう!」 京太郎(でも……これだけ、これだけは言わせてくれ……) 京太郎「咲……!!」 咲「え……な、なに?」 京太郎「……」 京太郎「がんばれよ、決勝!!」グッ 咲「……」ポカーン 京太郎「よし、行こうぜ」スタスタ 池田「ん? あぁ……」 京太郎(これでいい……これで……) ――――――――――――――――――― その夜・ホテル 京太郎「明日はついに決勝か……」 京太郎(……戦うのは俺じゃねえけど) 京太郎「……」 京太郎「俺が風越にきてから、もう2か月か……随分いろいろとあったな」 京太郎「……」 京太郎(俺は……このままでいいのか……?) コンコン 京太郎「はーい、開いてます」 「須賀君、入るわね?」 京太郎「え……」 ガチャ 美穂子「ごめんなさい、突然お邪魔して」 京太郎「ふ、ふふ福路先輩!? な、なんでここに!?」 美穂子「あ、もしかして本当にお邪魔だったかしら……?」アセアセ 京太郎「め、滅相もございません! ど、どうぞどうぞ!」 美穂子「あ、ありがとう」 京太郎「そ、それで……どうしたんすか?」 美穂子「ええ……ちょっとお話があってきたの」 京太郎「お、お話……?」 京太郎(お、お話ってまさか……)ドキドキ 美穂子「須賀君……さっき会場から出る途中で、ちょっと様子がおかしかったでしょう?」 京太郎「えっ……あ、あぁ……あれっすか」 京太郎(……んなわけねえよな……ええ、わかってましたとも) 美穂子「もしかして……あれが、須賀君の元いた学校のお友達……?」 京太郎「……ええ、そうです。さすが、察しがいいですね先輩は」 美穂子「……」 京太郎「あいつら、みーんなそろって俺のこと忘れちまってて……全く薄情な連中っすよ」 美穂子「……須賀君、やっぱり……」 京太郎「……」 美穂子「ううん……こんなこと聞くのは無粋よね」 京太郎「……」 美穂子「……須賀君」 京太郎「……なんすか、先輩」 美穂子「私ね……明日の決勝が終わったら、その……」 京太郎「……?」 美穂子「す、須賀君がいなくなっちゃうんじゃないかって……そんな気がして……」 京太郎「……俺が前の世界で記憶を失ったのが、その時点だからですか?」 美穂子「……」 京太郎「……ははっ、考えすぎですよ! 先輩は」 京太郎「俺はいなくなったりしません、だって俺は……」 美穂子「うん、わかってるわ……だけど……」 京太郎「……先輩、俺のことそんなに気にしてくれるんすね」 美穂子「だって……だって……」 美穂子「須賀君は……私の大切な後輩ですもの」 京太郎(大切な後輩……か) 京太郎「……先輩は、ほんとお人よしっすね」 美穂子「そんなことないわ……私は須賀君を失いたくないと思ってるもの。自分勝手でしょう?」 京太郎「……」 美穂子「須賀君は、本当は元の世界へ戻りたいと思ってるに決まってるのに……」 京太郎「……」 美穂子「……」 京太郎「……俺、先輩のこと好きっすよ」 美穂子「……えっ?」 京太郎「それに、池田や、吉留先輩や、ドムさん、文堂さん、久保コーチ……」 京太郎「他の部員の仲間も、みんな大好きです……風越さいこー!って感じです」 京太郎「こんなにもいい人たちに恵まれて……俺は幸せ者だと、心からそう思います」 美穂子「す、須賀君……っ」ポロッ 京太郎「……俺、ご覧のとおり麻雀の腕はまだまだ初心者の域を出ない様なレベルです」 京太郎「けど……先輩たちの指導のおかげで、以前に比べたら格段に成長できたなって……今なら自信を持って言えます」 美穂子「……っ……うぅ……」ポロポロ 京太郎「前いたとこではただのマネージャーでしかなかった俺が……今は少しでも頑張ろうって思えてる」 京太郎「これって我ながらすごいことなんじゃないかと思ってます……はは、自画自賛ですかね?」 美穂子「ひっく……そんなことない……そんなことないわ……っ!」ポロポロ 京太郎「そういってもらえると、すげえ嬉しいです」ニコッ 京太郎「俺……なんで自分がこんなことになったんだろうって、ふと考えたんです」 京太郎「たぶん……ただの出来事に意味なんてないんです」 京太郎「けど、先輩が教えてくれました……」 美穂子「……っ……?」 京太郎「意味なんていくらでも見つけ出せる……その人しだいだって」 美穂子「す、須賀君……っ」 京太郎「俺、ちゃんと自分だけの意味……見つけられたような気がします」 美穂子「……っ……うん……」 京太郎「俺……もし帰るか帰らないか選べるとしたら、たぶん帰ると思います……いや、帰らなくちゃいけない……そんな気がします」 京太郎「でも俺……その時が来るまでは、精いっぱい風越の一員をやり通します……!!」 京太郎「だから、どうか心配しないでください……キャプテン」 美穂子「……っ」ゴシゴシ 美穂子「……え、ええ! わかったわ……最後までよろしくね、須賀君」ニコッ ――――――――――――――――――― そして、決勝――― 『ついに始まりました、県予選決勝戦―――ッ!』 『泣いても笑っても全国に行けるのはこの中の1校のみ―――ッ!』 『今年はどんな戦いを見せてくれるのか―――ッ!』 美穂子「……コーチ、行ってきます」 久保「……あぁ、思う存分やってこい」 美穂子「……はい」 池田「キャプテン、ファイト!!」 未春「キャプテンならいけます!」 文堂「頑張ってください!」 純代「んぁッ!」 京太郎「先輩……」 美穂子「……須賀君、さよならはみんなで優勝した後でよ?」コソッ 京太郎「……! はい、がんばってください……!」 美穂子「……ありがとう。みんなも」ニコッ 美穂子「それじゃ、行ってきます―――ッ!!」ゴッ 『―――先鋒戦、開始!!』 ――――――――――――――――――― 美穂子(最後の戦い……いえ、ここからまた一歩踏み出すための戦い……!!) 美穂子(負けるわけには、いかないわね……)ニコッ ――――――――――――――――――― 美穂子『ロン、8600』 京太郎「すげえ、先輩!」 池田「当たり前だし!! だってあのキャプテンなんだし!!」 ――――――――――――――――――― 終局――― 美穂子「お疲れ様でした」ペコッ 純「くそったれ……」 睦月「うむ……」 優希「じょ……」 ――――――――――――――――――― 池田「お疲れ様です、キャプテン!」 文堂「やりましたね!」 美穂子「ありがとう、みんなのおかげよ」ニコッ 未春「ひっひっふー……よし」パンッ 京太郎「吉留先輩、ファイトです!」 美穂子「吉留さん、大丈夫よ。いつも通り、楽しく行きましょう」 未春「はい……!」 ――――――――――――――――――― 未春(と、息巻いたはいいけど……) 佳織「はぅ……みっつずつ、みっつずつ……」 未春(この人……予想以上に手ごわい……!!) 未春(……でも) ――――――――――――――――――― 久「インパチ……!!」 文堂「くっ……」 文堂(またですか……!!?) 久「ふふ……」ニヤッ 文堂「……」 文堂(だけど……!!) ――――――――――――――――――― 純代「ンァァアアアアアッ!!」 和「っ!!」 「……っ!」ビクッ 透華「な、なんなんですの……!?」 純代(ここで、負けるわけにはいかない……!) ――――――――――――――――――― 風越―――暫定2位! 久保「……ここまでいい調子で来てる」 池田「……」 久保「池田……おめえにできる精いっぱいをやってこい!」 池田「はいだし!!」 バタン 美穂子(……華菜) 京太郎(池田……頼んだぞ……!!) ――――――――――――――――――― 池田「――――ッ!!」 池田(ダメだ……全然歯が立たない……!!) 衣「ククク……」 池田(こいつ……私たちの全国への夢を……) 池田(邪魔すんなよ……っ!)ポロッ ――――――――――――――――――― 『大将戦、前半終了―――ッ!』 美穂子「……華菜っ!」ダダッ 京太郎「俺も行きます……!!」 ――――――――――――――――――― 池田「……」 スタスタ... 美穂子「華菜……」 池田「キャプ……それに須賀……」 京太郎「池田ァ……」 池田「すまんだし……私、勝てそうにない……」 池田「……この大会……この試合が、須賀との最後の思い出になるかもしれないのに……」 京太郎「なっ……!」 美穂子「華菜……あなた……」 池田「ごめんだし……昨日、須賀の部屋で二人が話してるのを聞いたんだし」 池田「信じられない話だったけど、事実なんだろ……?」 京太郎「……あぁ」 池田「くっ……!」 池田「なのに……私は……!」 京太郎「……! 池田ァ!!」 池田「……っ!?」ビクッ 京太郎「俺のことなんざ気にすんな! 変に気負って調子狂うのがお前の悪いところだぜ!」 京太郎「それに思い出に残そうとか、そんなくせえセリフいらねえっての……!」 京太郎「今日この日、みんなでこの舞台に来れたことこそが、すでに俺にとっちゃかけがえのない思い出だ……!」 京太郎「それに、お前や福路先輩たちとの思い出なんて……もう抱えきれないくらいたくさんあるんだからよ……!」 池田「須賀ァ……うっ……」ポロッ 「華菜ちゃん!」 池田「……み、みはるん……みんな……」 文堂「池田先輩、いつもの元気はどうしたんですか!!」 未春「華菜ちゃんは華菜ちゃんの信じるとおりにやって!!」 純代「ンンンンンンンンンッ!!!」ズドドドッドッ 美穂子「華菜……楽しみましょう、この盛大なお祭りを、みんなで」ニコッ 池田「……っ!」ゴシゴシ 池田「……はい!!」 ――――――――――――――――――― 池田「……」チラッ 衣「……ん?」 池田「……」ニヤッ 衣「……???」 池田(……楽しむんだ、麻雀を……!) シュッ...カッ! 池田「ツモ! 4000オールだし!!」 オオオオオオオオオオオ...!! ――――――――――――――――――― 美穂子「華菜……!!」 京太郎「へ、楽しそうな面しやがって……!!」 ――――――――――――――――――― 池田「ん……?」 池田(なんだ……さっきまで調子よかったのに……) 池田「……」チラッ 咲「……」 池田(……清澄?) シュゥッ...スッ! 池田「はっ……!」 バララッ 咲「ツモ……数え役満です」 池田「……ぁ」 『長野県大会決勝・終了――――――ッ!!』 ――――――――――――――――――― 池田「……」トコトコ 美穂子「か、華菜……!?」 京太郎「お前、何してんだ……?」 池田「……うぅ」 久保「てめえ……!」バッ 美穂子「コーチ……!!」 池田「うぅううう……」ボロボロ 久保「……チッ……みっともねえ! 堂々としてろ!」 久保「もしかしてお前は、私との約束……破ったっていうのかよ?」 池田「約束……」 久保『―――池田……おめえにできる精いっぱいをやってこい!』 京太郎「コーチ……」 美穂子「……」 池田「……ないし」 久保「……あぁ?」 池田「悔いはないし!! 楽しかったし!!」ニコッ 久保「へっ……泣きながら笑いやがって、きもちわりぃ!」 久保「ホテルの予約はとっておいた……お前ら行ってとっとと休んでこい!」 美穂子「あ、ありがとうございます……コーチ」 久保「それと、須賀ァ!!」 京太郎「は、はいっ!」 久保「……」 久保「―――お勤め、ご苦労さん」 京太郎「……」 京太郎「あ、ありがとうございました!!」 久保「……ん」ビシッ 京太郎「……ぁ、れ」フラッ 美穂子「す、須賀君……!?」 池田「須賀、どうしたし……! ま、まさか!」 京太郎「ん……あぁ……なんか、もう行かなきゃならねえ見てえだ……」 京太郎「瞼が……どんどん重くなってきやがる……」 未春「須賀君!」 純代「ンアッ!! ンアァッ!!」ユサユサッ 京太郎「ドムさん……痛いっす」 純代「……ごめん」 文堂「す、須賀君……」ポロッ 京太郎「文堂さん……俺、もう一局くらい一緒に打ちたかったっす」 京太郎「これからも、頑張ってくださいね」 文堂「うん……うんっ……!」 池田「ぅううあぁ……須賀ァ……」ボロボロ 京太郎「吉留先輩……このバカのこと、よろしくお願いします」 未春「うん、大丈夫だから……っ……華菜ちゃんのことは任せて!」 京太郎「い、けだァ……もう泣くんじゃねえぞ……」 池田「な、泣いてないし! お前嘘つくなし!」ボロボロ 京太郎「へへ……」 美穂子「……っ……須賀……くん……」ポロポロ 京太郎「先輩……ありがとうございました……」 美穂子「す、須賀君……――――ッ!!!」 プツンッ ん……あれ…… もう終わりか……あっけなかったな…… ちゃんとお別れ……できなかった…… もっと言いたいことたくさん……あったのに…… みんな……ありがとう…… 京太郎「……ん……」 京太郎(……あれ……ゆ、夢……?) 京太郎「ふぁああ……」 京太郎(たしか……俺は……) 京太郎(……っ!!)キョロキョロ 京太郎「も、戻ってきたのか……? い、いや待て……」 「ワハハー、部室行くぞかおりんー」「智美ちゃん待ってー!」 京太郎「……ここ、どこだ?」 カン
https://w.atwiki.jp/kyotaross/pages/4548.html
h45-01 京照咲淡 h45-02 京咲 h45-03 京憧 h45-04 多数 h45-05 京ネリー h45-06 京小春 h45-07 京・千里山 h45-08 京和 h45-09 京春小 h45-10 京淡 h45-11 京塞 h45-12 咏 h45-13 京純 h45-14 咏えり h45-15 京哩姫 h45-16 京咏えり h45-17 京豊 h45-18 京・清澄 h45-19 京憧 h45-20 京塞 h45-21 京・白糸台 h45-22 京由暉 h45-23 京照 h45-24 玄 h45-25 京はやり h45-26 京睦佳 h45-27 京白 h45-28 京はやり h45-29 京はやり h45-30 京咲和 h45-31 京・複数 h45-32 京淡 h45-33 京和 h45-34 京・多数 h45-35 京・臨海 h45-36 京健 h45-37 京明 h45-38 京・多数 h45-39 京憧 h45-40 京・臨海 h45-41 京菫 h45-42 京睦ゆみ h45-43 京哩淡 h45-44 京洋 h45-45 京・多数 h45-46 京ワハハ h45-47 不明 h45-48 京優 h45-49 京和 h45-50 京数 h45-51 不明 h45-52 京和 h45-53 京照 h45-54 京・多数 h45-55 京怜 h45-56 京憧 h45-57 純一 h45-58 京・清澄 h45-59 京怜 3年生京太郎 h45-60 京怜・千里山 h45-61 京健 h45-62 京怜 h45-63 京怜憩