約 818,100 件
https://w.atwiki.jp/sagaraunger/pages/734.html
かなり初期の頃から実装されているニート編の最終ボスにしてニートの父親。 ニートを極めた事で強大な力を手にしたらしいが、別ルートで知る事が出来る 彼の過去を踏まえて考えると元々只者ではなかった可能性も十分にある。 元ネタのリュート編は唯一最終ボスの強さが固定のシナリオだったが、こちらは ニートのレベルやフリーイベントをこなした数などに応じて強さが変化するぞ。 ★第一形態★ 最大HP 最大MP 攻撃力 防御力 精神力 敏捷性 9999(約7000) 無限 180 100 120 100 ★第二形態★ 最大HP 最大MP 攻撃力 防御力 精神力 敏捷性 9999(約10000) 無限 240 100 160 100 ★第三形態★ 最大HP 最大MP 攻撃力 防御力 精神力 敏捷性 9999(約26000) 無限 320 150 220 160 ★第四形態★ 最大HP 最大MP 攻撃力 防御力 精神力 敏捷性 9999(約41000) 無限 480 255 375 200 備考 ■戦う時の強さに応じて能力値は大幅に変化するが、使用する技は地烈撃や インパクト系など最終ボスとしてはかなり弱め。 ただし、4×7ターン毎にニーティングで自身のHPとMPを回復し 次のターンでニーテストという強力な無属性全体攻撃を放つので、 ニーティングを使った次のターンは防御した方が無難。 ■ニーテストは攻撃力と精神依存の技なので該当する能力を落とせば威力も 落ちるが、第三形態以上になると基本性能が跳ね上がり運が悪いと700程度の ダメージを受けてしまう可能性もある。 ■データ上のHPは9999だが、実質的なHPは()の数値となり第三形態以降は 最終ボスに相応しい高さ。対強特攻や対男特攻、第四形態のみ対青特攻の 攻撃が極めて有効なのでこれらの技能でなるべく早く体力を削っていこう。 ■最大MPは9999だが、毎ターンMPが999ポイント回復するのでMPを削って 攻撃を弱める戦法は通用しない。 ■クイックタイムが通用し、尚且つ一回行動なのでタイムトラベル等を使える キャラがいれば完封する事も可能。 余談 ■インパクト系の技能は健康クロスがいればラーニング可能だが、 使用出来るのは当然この戦いのみ。 ■初期の頃のボスなので万単位のHPは親父の現在HPが40%を切った際に 規定の回数だけHPを回復する処理を行う事で実装されている。裏を返せば 一撃で親父のHPを0にしてしまえば、回復処理を挟まれる事なくそのまま 倒す事が可能となっている。親父に5600ポイント程度のダメージを与えた後 ヒヤシンスがウィークバレットを使い、その後銃マスタリーキャラが デュエルガンの銃技を放つなど特化した攻撃手段を用いれば現実的なプレイの 範囲内で即殺出来るので、手早く倒したい場合は色々と工夫してみよう。
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/233.html
親父の英会話 Lesson 6から 節約する英語ーワーキング・メモリを溢れさせないために 定型フレーズをつかう目的 キョン 一番最初のときに、親父さんは、ちゃんとした文を作ろうとするからつまるんだ、と言ってましたね。 オヤジ そうだな。今日は少し趣向を変えて、英会話の理想と現実、の話をするか。 まず英語の処理能力が小さいうちは、単語数個、ヘタすりゃ2〜3個で脳のワーキング・メモリがいっぱいになる。これは日本語を英語に訳してたり、文法的に正しいか気にしたり、発音を気にしてたり、英語以外のことにも使ってる(メモリが消費されている)ことがある。「ちゃんとした文を作ろうとする」ってことは、こういう側面もある訳だ。 無論、英語が「できるようになる」とワーキング・メモリをもっと効率的に使えるようになるんで、長い文章でも聞きながらどんどん処理していけるようになるんだが、こうなるには、当たり前だがトレーニングと時間が必要だ。 ワーキング・メモリの話は、当然、トレーニングの段階でも同じだ。2〜3の単語で脳のワーキング・メモリがいっぱいになる奴が、10語以上もある「基本文例集」なんか覚えようとすりゃ大変だろし、効率が上がらん。 「英文の中で英単語を覚える」というのがあるが、長所もあれば短所もある。文脈こみで覚えるのは悪いことじゃないが、2〜3の単語で脳のワーキング・メモリがいっぱいになる奴は、せめて2〜3語の連語(コロケーション)で覚えた方が楽だろう。最近はそういう英単語集が増えてる。『システム英単語』なんかそうだが、オヤジ世代には『英単語ピーナッツ』が受けてる。何故かと思ったんだが「モノトーンで字が大きい」から年寄りの目にやさしいのが理由じゃないかと疑ってる。 さて、トレーニング法は後に譲るとして、とりあえず今あるものでしのぐことを考えるか。 ワーキング・メモリを効率的に使うひとつのやり方は、単語単位で処理してるのを、フレーズ単位にすることだ。 最初のときに、pleaseをCan I have 〜?に置き換えろと言ったろ? あれは今までpleaseの1語が占拠してた領域にCan I haveというフレーズをつっこめってことだ。Can I have〜をあたかも一語のように扱えるようにな。そしたら、少しは余力が残って、もう少し長いフレーズで欲しいものを表現できるって訳だ。 英語の処理能力はそう簡単には向上しないが、単語をフレーズに置き換えていくと、少しは効率が良くなる。だから英会話の初級クラスでは、よく使うフレーズを繰り返し覚えることになるんだが、本来の目的は、ワーキング・メモリの効率的な利用だから、please→Can I haveみたいな置き換えから入ると都合がいい。最初は一言主みたいに、一語で成り立つ表現を集めて、それを数語のフレーズにしていく、とかな。 しかし、あくまでも目的は、ワーキング・メモリの効率的な利用だから、そこを外すと、覚えたフレーズ以外話せない、なんてバカな話になる。 Be動詞、冠詞を省く オヤジ ワーキング・メモリを効率的に使うもう一つの戦略は、「必要ないものは省く」。これは、たとえ、まともな英語にならなくても、通じる限りどんどん省いていく。必然的に「ちゃんとした文」にはならないが、それでも喋らないよりマシだ。言語は、喋る→相手の反応がある→うれしい、というサイクルのなかで、身に付いていく。「正しい英語」を話せるまで黙っていよう、では、いつまで経っても話せん。 オヤジ ところでキョン、英字新聞、ってのは変な言い方だが、英語の新聞を見たことはあるか? キョン 駅の売店でときどき売ってますね。 オヤジ 今度、一度買ってみるといい。まあ、日本で発行されている英字新聞は、日本の記事が載ってるのだから一見分かりやすそうだが、実は結構骨がある。アメリカの新聞の方が読みやすいことだってあるくらいだ。だから読めなくても全然かまわんぞ。 新聞の話題を出したのはな、「会話では、とりあえず、Be動詞と冠詞は無視してかまわん」という無茶を言うための呼び水だ。 キョン え、ほんとにいいんですか? なんか一番基本的なものを省けと言われてるみたいで、結構びびりますね。 オヤジ それで、英字新聞の見だしなんだ。紙面に限りがあって、しかも見だしは大きく書きたい、売上に響くからな。で、いくつかのローカルルールをつくった。 まずBE動詞を省く 冠詞(a, an, the)も省く さらに言うと、英字新聞の見だしで、-edが着いた動詞はかならず受動態(受身)の意味だ(過去を表すには現在形を用いる)。同じくto不定詞になっている動詞は、かならず未来形の意味だ。これもどちらも、前にbe動詞が省略されているんだ。 あんまり言っても覚えられんだろうから、とりあえずBE動詞は省け、冠詞は気にするな。例を出そうか? 元の文章: Toyota is poised to enter financing. トヨタは金融業にも参入する構えだ。 見出し: Toyota poised to enter financing トヨタは金融業にも参入する構え 元の文章: President Bush will visit Japan. ブッシュ大統領は日本を訪問 するだろう。 見出し: President Bush to visit Japan ブッシュ大統領、訪日へ be動詞を復活 (be to 不定詞で「未来」を表す用法) President Bush is to visit Japan オヤジ 日本語の新聞の見出しだって「〜だ」「〜である」は省いてある。掲示の場合なんか、だいたいそうだ。近頃じゃホームの電光掲示板がバイリンガルになってるが、 Train arriving 電車が近づいてます と交互に表示される。「正しい英語」ならThe train is arriving.だろ? だが、誰も文句はつけん。分かるし、誤解しようがない。会話っぽい例をあげようか? I reading this book. おれ、この本を読んでる She my friend. 彼女は友達 He late yesterday. あいつは昨日、遅刻 I robot. 私はロボット My English not good, but I try. 俺の英語ヘタ、だけどやってみる。 be動詞や冠詞を省くぐらいだと、そんなにワーキング・メモリの節約にならん気がするかもしれないが、be動詞は一番むちゃくちゃな不規則変化をする動詞で実はその習得には相当な時間が費やされてる。冠詞の方はもっとひどくて、なかなか日本人がマスターできないし、自信が持てない。 be動詞を省くと、誤解の余地は最低限のまま、カタコト英語が話せる。これがミソだ。そしてカタコト英語は、おれたちがカタコトの日本語を聞いたときに受け取るのと、同じメタ・メッセージを発している。つまり、 私と話す時は簡単な単語を使って下さい 話すことを考える時間やコトバを思い出す時間を十分に下さい 私がシンプルすぎる表現をつかっても、何が言いたいのだろうと想像力を働かせて下さい と、いうことを相手に伝える。 短縮形を使う:gonna,wanna,hafta,needa オヤジ be to 不定詞で「未来」を表すってのは、ちょっと文章語っぽいんで、会話では I to visit Japan よりも(こりゃ、見るからにへんてこだ) I gonna visit Japan. の方がいいな。発音もいかにも英語を喋ってる感じだろ? gonnaってのは「going to」の短縮なんで、ほんとは I am gonna visit Japan. (I am going to visit Japan). というのが「正しい」んだろうが、そんな言い方する奴はまずいない。せいぜい I m gonna visit Japan. だが、主語にくっついたbe動詞の短縮形は、素人日本人の耳だとまず聞き落とす。というかbe動詞はそもそも弱く短く発音されることが多いので、日本人の耳は聞き落とすことが多い。だからbe動詞の省略は、日本人に聞き取れた英語の反映でもある。「I gonna visit Japan.」で全然かまわんし、この場合だと「I gonna Japan.」で「日本に行くつもり(行く予定)」と言いたいことは言えている。 オヤジ wannaは洋楽の歌詞にやたらと出てくるな。「want to」の短縮だ。 I wanna nurse. 看護婦になりたい (I wanna be a nurse.) be動詞を省こうといったのは、wannaの後ろにbe動詞を持ってくるのが「正しい」んだが、「え、どっちだっけ?」と余計なことにワーキング・メモリを費やさないようにする意味もある。主語がI(私)だったり、分かり切ってる場合は、主語すらなくてもいい。 Wanna go Hilton hotel. ヒルトンホテルに行きたい。 Wanna blanket. 毛布が欲しい。 haftaは「have to」、needaは「need to」の短縮形だ。この4つを使うとかなり表現が節約できる。 Hafta call home. 家に電話しなくちゃ Needa wake-up call. モーニング・コールをお願いします(モーニングコールが必要だ) 疑問文もとりあえず語尾をあげときゃなんとかなる。 You gonna pay? あなたが払ってくれるの? Why hafta chage? なぜ変えきゃならない? When wanna meet? いつ会いたいのですか? Who neesa taxi? 誰がタクシーが必要な方は? 否定もnot一本やりでかまわん。 Not gonna pay. 払いたくありません。 Not hafta sign. サインしなくていいぞ。 Not wanna wait. 待ちたくないわ。 Not needa tie. ネクタイは要らないよ。 とりあえず目標は、ワーキング・メモリにあわせて3つの単語で済ませることだ。 それができるようになったら、ちょっとずつ上等な表現に置き換えていけばいい。 親父の英会話 Lesson 8へつづく
https://w.atwiki.jp/sweetsweetsweet/pages/1.html
@wikiへようこそ ウィキはみんなで気軽にホームページ編集できるツールです。 このページは自由に編集することができます。 メールで送られてきたパスワードを用いてログインすることで、各種変更(サイト名、トップページ、メンバー管理、サイドページ、デザイン、ページ管理、等)することができます まずはこちらをご覧ください。 @wikiの基本操作 用途別のオススメ機能紹介 @wikiの設定/管理 おすすめ機能 気になるニュースをチェック 関連するブログ一覧を表示 その他にもいろいろな機能満載!! @wikiプラグイン @wiki便利ツール @wiki構文 バグ・不具合を見つけたら? お手数ですが、こちらからご連絡宜しくお願いいたします。 ⇒http //atwiki.jp/guide/contact.html 分からないことは? @wiki ご利用ガイド よくある質問 @wikiへお問い合わせ 等をご活用ください
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/18.html
ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その2から そんなこんなで、出発当日。 ハルヒから電話をもらった俺は、パッケージング・バイ・ハルヒのトランクを、俺の部屋から玄関へと運び、その到着を待っていた。 ほぼ予定時刻に、すでに涼宮家を満載したライト・バン型タクシー(?)が、うちの家の前に到着した。 「いわゆる空港行きの乗り合いタクシーだ。予約している飛行機の便を連絡しとくと、タクシー会社が調整して、ドア・トゥ・ドアで送迎してくれる。今日は、おれたちだけみたいだが」 とハルヒの親父さんが、運転手に代わってそのシステムを説明してくれる。 「それじゃあ、行ってくるから」 と家族に、特に妹に、言い聞かせるように旅立ちの挨拶をする。 「ご迷惑かけないようにね。涼宮さん、お世話になります」 「こちらこそ。無理を言ってすみません」 「いえいえ、うちの馬鹿息子は、本当にハルヒちゃんにはお世話になりっぱなしですから」 といった親たちのエール交換は、当人たちには「どうでもいい」というレベルを遥かに超えて「今日のところは、どうかひとつ、そこまでにしておいてくれ」というべき方向へどんどん発展していってしまう。 俺がハルヒの方を見ると、ハルヒも俺の方を見ていて、目の中で首を縦に振っている。よし、それじゃあ、 「そろそろ行かないと」 と俺が口火を切り、ハルヒはそれに合わせて、親父さんの脇をかるく肘でつく。 「ごほん。そうだな。じゃあ行ってきます」 大きな音で咳払いし、大きな声で親父さんが宣言。皆がうなずいて、車がゆっくりと前で出た。 「あれ、妹ちゃん」 車は走り出したが、妹が走って追いかけてくる。 うう、兄ちゃん、そこまでのドラマはいらないぞ。いつもどおりの妹でさえいてくれれば、カバンにこっそり入ってさえなければ。 「あれ、妹ちゃんが手に持って振ってるの、パスポートじゃないの?」 「わはは。お約束だな。大方、トイレに行っている間、持っててくれ、と預けたままってところか?」 親父さん、図星です。 車は止まり、俺とハルヒが飛び降りる。 俺はパスポートを受け取り、ハルヒは妹の頭をなでる。 「キョン君、気をつけていってくるんだよ。ハルにゃん、キョン君をお願いね」 「うん、わかったわ。絶対、元気にして帰すからね」 いや、それはやり過ぎと言うか、胸を張り過ぎというか。それから妹よ、あまり殊勝なことを言うな。そういう時は「お土産、忘れないでね」くらいにしておいてくれ。でないと、最近ただでさえゆるい兄の涙腺が……。 「ほら、キョン。ちゃっちゃと行くわよ。飛行機は、遅刻したナショナル・チームだって待ってくれないんだから」 確かに、ここでこれ以上ドラマを掘り下げたら、また搭乗まで話が進まなくなるだろう。 別れを惜しみつつ、いざ行かん、天国にだって近いという、なんとかいう南の島。 「それと、あんたのパスポート貸しなさい」 素直にハルヒに渡すと、ハルヒかバックから出した布製のケースみたいなのに俺のパスポートを入れて、返してきた。 「ほら、パスポート・ケース。これで首から下げられるから、なくさなくて済むわ」 「ちなみにお手製だそうだ」 「親父、うっさい」 午前の道は、俺たちの前途を祝福するかのようにガラすきで、空港へは登場予定時効の3時間前に着いてしまった。 「余裕があるに越したことはない」 と親父さん。 「俺なんか離陸の30分前に、食パンをくわえて出国審査を受けたことがある」 「あんたは転校一日目から遅刻するヒロインか!?」 ハルヒのつっこみも、今日は長打こそないが、確実に芯で捉えている。ボール(?)が見えている証拠だ。 「ちょっとチェックインしてくる。キョン君、わるいがそこのカートに積んでトランクを運んで付いて来てくれ」 「はい」 ハルヒの母さんとハルヒと俺のトランクをカートについて、自分のトランクを転がしながら先を行く親父さんの後を追う。 カウンターでは、これも親父さん的にはきっと恒例なんだろう。ナイストゥミーチュー、スパシーボなどなど、怪しい多国籍人を装う話術でカウンターのお姉さんの目を白黒させながら、それでも当初の目的を果たしてしまう。なるほど、ハルヒ母+ハルヒが、遠くで他人の振りをしているのは、このせいか。と、親父さんに気付いたのか、カウンターの奥の責任者っぽい人がカウンターにやって来た。 「ベルさん、今日は出張じゃなくて家族サービスかい?」 「何度も言うが、俺は鈴宮じゃなくて涼宮だ」 「こっちの彼は、お初だね?」 「ここはどこの飲み屋だ? こいつは保安官補でキョン。ついでにいうと、俺の娘と恋仲だ。まあ、いずれは決闘だな」 「おいおい、ハルヒちゃんも、そんな歳か。少年、しっかりやれ。この親父は悪いやつじゃないが質は悪いぞ」 「ははは」笑うしかないよな、ここは。 「おい、有能な彼女が手続きができたって、言ってるぞ」 親父さんは、ややオーバーアクション気味に、責任者さんに不平をいう。 「オーライ。じゃ、トランクに貼ったこのシールの切れ端を持ってってくれ。あとでトランクを探すのに役に立つ。ボンボヤージュ(よき旅を)!」 「発音がなってないよな。ま、とりあえず、ハルヒたちと合流するか」 その必要はなかった。カウンターでの一部始終を、涼宮家の女性軍は遠目ながらもしっかり見ていて、絶妙のタイミングで自分たちの位置を知らせるように歩いてきた。というより、彼女たち自体が、遠目からでも見落としようがない存在感やら何かを周囲に発散しているのだ。 そんな訳で、俺の隣にいた親父さんは言った。 「おい、いいだろ。あそこにいるのは、おれの女房なんだ」 「ぐっ」 さ、さすがにその手は……使うのは、何だかいろいろ怖い。 「すまんな。たまには年長者に勝ちを譲るのもいいもんだろ?」 その気になったら全戦圧勝じゃないですか、と心の中で言う。へたれ、俺。 「旅はまだ始まったばかりだ。陽気にいこうぜ、キョン君」 「ちょっと親父! またキョンをいじめたでしょ!?」 ハルヒが、つかつかつか、と早足でやってくる。ロボットのように肩をすくめる親父さん。 「オー、マイ、ドウター。ワタシガ、イツ、ゴシュジンサマ ヲ ソンナ メ ニ」 「読みにくいだけから、出典が明示できない物真似はやめなさい」 「でも、ふざけてるのはわかるだろ?」 と、ひらりとかわす親父さん。 「いつ真面目なのかが、わかんないの!」 それをも狙い打つ娘ハルヒ。 「いつもこんな感じよ」 と日だまりのようなニコニコ笑顔を絶やさないハルヒ母。 「はあ」 とすでに慣れてきているが、それがよいことなのかどうか、未だに判断がつかない俺。 次は手荷物検査場はずだったが、 「ああ、キョン君、俺たちはこっちから行こう」 「向こうの列、すごく混んでましたね」 「手荷物検査場はどうしてもなあ。関西の空港も優先ゲートができて助かってる」 「親父、わがままなくせに、待ったり並ぶのが嫌いだからね」 「わがままだから、嫌いなんだ」 俺たちが向かっているのは、専用ゲート(専用保安検査場)というところのようだった。なんたら会員(ゴールド・メンバー?)になっておけば、ただでさえ混む手荷物検査場も専門の(つまり空いている)検査場で済ますことができるし、さっき預けたトランクも優先取り扱いされて、到着後あまり待たずに受け取れるのだとか。どうすればメンバーになれるかって?親父さんによれば、 「要はたくさん飛行機に乗りゃいい」 だそうだ。 「といっても、伊丹じゃ、もう何が優先やら、って感じで混んじまってるがな」 優先検査場というだけあって、手荷物検査はあっけなく済んでしまった。ありがちな時計やらキーケースなんかの出し忘れを、事前にハルヒのやつに注意されていたからではないこともない。 「出国検査場じゃ、こうはいかんぞ」 とニヤニヤして脅す親父さん。 「おどかすんじゃない。パスポートにハンコ押してもらうだけでしょ」 とつっこむハルヒ。ほんと、いつもこんな感じなんだろうな。 「ハンコ押すだけだが、国の外に出しちゃいかんやつもいるからな」 「このメンバーだと、親父よね」 「笑い事じゃないぞ。俺のツレなんか、家族旅行なのに、昔やった悪事がバレて大変だったんだぞ」 「だったら3人でバカンスを満喫するまでよ」 「だから、ツレの話だよ」 出国検査場もまた、なんということもなく、一人づつパスポートを見せ、ハンコを押してもらう。 ハルヒの親父さんのパスポートは、さすがにすごいハンコの数だ 「全部、仕事でだ」 と、やれやれ顔をつくって親父さんは言う。 「早く引退して、ひきこもりになりたいよ」 「親父がひきこもって何する気よ」 「庭でライオン飼って、夕方になったらドビュッシーを弾く」 「なにそれ?」 「映画だ、『007カジノ・ロワイヤル』の古い方。見たことないのか? あの希代のバカ映画を」 とりあえず、これで「出国OK」ということだな。形的には、一応これで外国に出た、ってことになるのか。 「向こうに専用ラウンジなんてものもあるが、おまえら、どうする? 搭乗までは、まだ結構時間はあるが」 「免税店とかあるんでしょ? ちょっと見て回るわ」 とハルヒはすでに、俺の手首を引っ掴んで、スタンバイの体勢。 「さっそく二人になりたい、とハルヒは思った」 オヤジさんは肩をすくめてみせる。 「へんな心理描写いれるな」 「じゃ、これからは茶々を入れてやる」 「よけい悪い! あんまりかわらないけど」 「検査が全部済んだと言っても浮かれるなよ。確率的には、今から搭乗するまでが、一番馬鹿みたいな失敗が多い」 「大丈夫よ」 ハルヒもおれも、パスポートとチケットは、ハルヒ謹製のパスポート・ケースに入れてある。 「時間厳守だぞ。時間が来たら、ナショナル・チームでも飛行機は待たんからな。で、おまえら時計持ってるのか?」 「あ」 「普段ケータイで時間を見てるような連中は、こういうはめに陥る。免税店で安いやつを見繕ってこい」 親父さんに一本とられたのが悔しいのか、ハルヒはアヒル口になって、無言で俺を引っ張っていく。 ハルヒの母さんはニコニコと俺たちを見送り、自分の鞄から布のブックカバーをつけた文庫本を出して読み始める。親父さんもそれに合わせてか、上着のポケットからペーパーバックを取り出す。 ハルヒは振り返らず、前だけを見てぐんぐん進む。俺は引かれていく。 「時計なんて、空港中いたるところにあるじゃない!」 「まあな」 「向こう着いたら、時間を忘れて遊ぶんだからね!」 「ああ、そうだな」 ハルヒはどこからかカードを取り出した。正確には取り出して構えた。 「腹立ちまぎれに無駄遣いしてやるわ」 「こらこら」 なんなんだ、その高級そうなクレジット・カードは? 「ブランド品なんかに興味はないけどね」 何故だか、恨みはないけどね、と聞こえるぞ。 「店ごと買うとか言うなよ。機内持ち込みできんぞ」 「わかってるわよ、そんなこと」 そりゃ、わかってるだろうけどな。 「ねえ、キョン。あんた、すごーく高い時計欲しくない?」 ほら、そうやって必ず不穏なことを思いつくんだ、おまえは。 「おまえはどうすんだ?」 「そんなの2つも買えないわよ。すごく高いんだから」 「全然高くないやつ、2つにしろよ」 「だーめ。もう決めたの」 「ヤクザかナンバーワン・ホストでなきゃ持てないような時計はいらんぞ」 「あほ。そんな時計、あんたに似合わないわよ」 じゃあ、「俺に似合う、すごーく高い時計」を探しているのか? それはすごーく嫌な予感がするぞ。 「はい、これ。安心しなさい。何十万も、何百万もするものじゃないから」 「あ、ああ」 「総称でパイロット・ウォッチって言ってね、文字通りパイロットがつける腕時計ね。元祖のブライトリング社のなら、満十万するけど。この文字盤の周囲についてるリングがあるでしょ。これが回るの。目盛りの刻み方が変なのに気付いた? これ回転計算尺になってるの」 「計算尺ってなんだ?」 「計算が、とくにかけ算と割り算だけれど、一瞬でできるものね。尺という位で、物差しタイプが一般的だけど、それを円形にまとめたものがこれ。パイロットは計器やコンピュータがみんな狂っても、残燃料と空港までの距離だとか、落下速度と地上までの距離とか、計算したいものが沢山あるでしょ、それも時間がらみで。だから時計に計算尺をつけたのは大正解ってわけ」 「ほう」 「わかってないわね。親父の腕時計、見た?」 「え?いや」 「まあ、あっちは元祖の本物だけどね。何万年に数秒しか狂わない電波ソーラー式時計の時代に、毎日10秒以上も狂う自動巻時計って何考えてんのかしらね。計算尺の使い方は、どうせ搭乗まで暇だからゆっくり教えてあげるけど、親父に聞けば、語りに語り続けるわ。旅行が終わっちゃうわね、多分」 わー、すげえ聞きたいが、今は聞きたくない感じ。 「だが、ひとつきりで、どうすんだよ」 「まだ、わかんないの?」 いや、わかってはいるが、今わかるわけにはいかない、というか。 「あんたがあたしの『時計係』になるに決まってるでしょ」 ラウンジの、ハルヒの親父さん&母さんのところに戻った。ハルヒが鼻息も荒く、俺の左手首を、とくに親父さんに、見せびらかすように高らかにあげる。俺は自由になる右手でこめかみを押さえる。オー、ジーザス。ああ、ほんとにすいません。 親父さんは「やれやれ」という意味のジェスチャー、ハルヒ母は読んでいた文庫本を口に当てて笑いがこらえられない様子だ。 「娘よ、やってくれたな」 「どう? ぐうの音も出ないでしょ?」 「負け惜しみで言うんじゃないが、キョンを日本に置いていったらな、どこかのバカの国際長電話代で、そんなもの5、6個は買えたぞ」 「と言ってる時点で、完全に負け惜しみね」 「ぐう」 しかたない、といった感じで本をしまったハルヒの母さんは、 「お父さん、いつ搭乗口に向かいます?」 「もう15分もすればアナウンスがあるだろうが、少し遅めに行こう」 「そんな、とろとろとしたことでいいの?」 腰に手をあてて胸を張り、暫定勝者ハルヒが親父さんを見下ろす。 「日本人は時間とアナウンスには従順だからな。合わせて動くと混雑を応援に行くようなもんだ。俺たちの席は前の方だから、少し遅れて乗り込む方が邪魔にならなくていい」 「あー、たいくつ、たいくつ!」 電車の長椅子に上って窓を見たいから靴を脱がせろと騒ぐ幼児のように、暴れ出すハルヒ。涼宮家ではこれにどういう風に対処するのか、後学のためにしばらく見ていよう。 「なんのために、キョンを連れてきたんだ」 って、親父さん、いきなり俺頼みですか? ハルヒの母さん、もう笑いスイッチ入ってますね? 「キョンはそんなんじゃなーい」 お、ハルヒ。あまり期待してないが、言ってやれ。 「キョンはね、キョンはね・・・」 それじゃ、古来の、針が溝をなぞっていた頃の壊れたレコードだ。 「・・・うー……と・に・か・く、キョンなのよ!」 「随分とテツガク的な惚気をありがとう」いや親父さん、今のは惚気では、ないと思います、よ。 「ハル、暇なら何か読む?」 「うん。母さん、何持ってきたの?」 「旅行には、やっぱり旅行記よね」 「って、えーと、クセノポン『アナバシス』? カエサル『ガリア戦記』? クラウゼヴィッツ『ナポレオン戦争従軍記』? って、全部、旅行記じゃなくて戦記でしょ!」 「あら、でもみんな遠征してるわよ」 「遠征は、旅っていえば旅だけども!」 「俺のを読むか?」 「期待しないけど、聞くだけは聞いてあげる。・・・Making a Good Script Greatって、何これ?」 「映画のシナリオをどう書き直すかのマニュアル本だな。ハリウッド映画だと、制作費が馬鹿でかくて映画が当たるか当たらないか不確定だから、映画自体に保険をかける。保険会社がキャスト表とシナリオを分析して、これだと当たりそうだから保険の掛け金は低くてこれくらいでいいや、このシナリオだとヒットしそうにないから掛け金を高くしよう、ってな具合にな。で、保険の掛け金を低く抑えたい映画会社やプロデューサーは、シナリオを『シナリオ・コンサルタント』のところに持っていくんだ。シナリオ・コンサルタントは元のシナリオの長所を生かしながら短所を修正していくんだな。どうやれば冒頭シーンで客を引きつけられるとか、どうやって泣かせるとか、いろいろ手練手管がある訳だ。これはそのシナリオ・コンサルタントの一人が書いたマニュアル本で・・・」 「そんな本読んで、どうしようっての?」 「あ、この映画はあの手をつかってやがる、ちがう、そこで例の手を使えばいいのに、といろいろ突っ込めて楽しいぞ」 「キョンは、あんな悪魔に魂売っちゃ駄目だからね」 俺はすこーし、その本を読むのもいいかもしれん、と思ったぞ。次作の超監督とかが。俺が読むと、俺が窮地に陥る気がしたので、口にはしないがな。好事魔多しとは、こういうことを言うんだろうか。 日本語と英語で、搭乗開始を知らせるアナウンスが流れた。 あちこちで腰を上げ、指定された搭乗ゲートの方へ流れていく人たち。親父さんと母さんは読書を続け、ハルヒと俺は、買ったばかりの腕時計の計算尺リングを回して、1.69×2.7といったかけ算をしているのだが、頭を付き合わせ、手を取り合って、何をしてるように見えるんだかね。 「人ごみが薄くなってきた」 親父さんがゆっくり腰を上げた。他の3人もそれに合わせて立ち上がる。 「ぼちぼち、ぶらぶら、まったり、行くか」 とにかく全く急がないで進もうという親父さんの提案に、他3人はそれぞれ違った風にうなずいた。多分、考えていることなんかも、それぞれに違っているんだろう。 搭乗口は、さっきまでゴッタ替えしていたようだった。自動改札みたいなのの側に係員のお姉さんが立っていて、そこでチケットを入れると、席の位置を示す半券みたいなのが出てくる。 親父さんはシナリオのリライト・マニュアルを読みながら、チケットをいれ、 「パスポートは?」と問いかけ 「あ、拝見します」という返事を待たずに、ポケットからパスポート入れを出して係員に渡している。あれもハルヒ謹製と見た。 「何をやるにも不真面目ね」 続いてハルヒがぷんぷん怒りながら通っていく。続いて俺。最後がハルヒの母さん。さすがに本はしまってある。 「思ったより、飛行機飛んでないわね」 大きなガラスの向こうの滑走路を見ながら、ハルヒの母さんが言う。 「国内便はみんな伊丹にいっちまった。午前10時から午後4時まで、ここから成田へ行く飛行機は一機もないそうだ」 という親父さんの答えに、 「そうなの」とハルヒの母さんはつぶやいてチケットをしまった。 すでに搭乗予定のほとんどの人が乗り込んでおり、飛行機の中に入ると中にはぎっしり人が詰まっていた。 親父さんが言ってたとおり、俺たちの席は、入り口からたいして離れていないところにあった。 ハルヒに窓側を譲ろうとしたが、「キョン、あんた始めてなんだから、あんたが窓際行きなさい」と頑として聞かない。 ようやく俺の頭に、いつぞやの古泉の言葉が浮かんだ。 「わかった。じゃあ窓際に座らせてもらうぞ」 「どうぞ」 3人がけの席で、ハルヒは俺の隣に座る、その向こうが通路側になりハルヒの母さん。親父さんは通路を挟んで、さらにその向こうに座る。 機長の自己紹介やら、救命設備の説明アナウンスやらが流れて、スチュワーデスさんが踊っているように装着の実演をやっていた。 「最近はビデオ流して済ますのが多いがな。マイナーな路線ほど、今のダンスが見れる」 2つ席の向こうから、親父さんが解説してくれる。 こうしてしっかり席についてから、離陸のために飛行機が滑走路を走り出すまでの時間がけっこう長い。これだけでかい空港でも、滑走路の数は少なくて、待ち時間なんかがあるためだそうだ。 全然別の経験なんだが、予防注射って奴は、注射のちくりという痛みよりも、注射されるまで並んで待っているのが案外つらいんだよな。 気がつくと、ハルヒの母さんの、ニコニコという音がほんとにしそうな笑顔からも、親父さんの何故か声はしないが「ゲラゲラ」というのが伝わってきそうな笑いからも、どこか生暖かい視線にも似たものが飛んで来ていた。 なるほど。そういえば、いつも騒がしいとなりの奴が、席に着いた途端に、借りてきた猫のようじゃないか。 「なあ、ハルヒ。ひょっとしておまえ、飛行機こわいのか?」 「ば、ばかじゃないの? 怖いわけがないじゃない!」 「鉄の塊が飛ぶのは、おかしいとか、信じられないとか、その手の類か?」 「こ、こんなもんはね、目つぶって寝てたら、いつのまにか現地に到着してるものなの!」 「それだと機内食も食えないだろ。ほら、手、貸せ」 「は?なに?」 「手だ。握っといてやる」 「あんた、ばかじゃないの。……親もいるってのに」 「かまわん。俺は気にせんぞ」 「あんたが気にしなくても、あたしが気にするわよ……その、ちょっとは」 「じゃあ、そっちの目はつぶってろ」 「意味わかんない。……わかったわよ、握ればいいんでしょ、握れば」いかにも渋々といった感じで、俺の手を取りに来る。 「……離したら、承知しないからね」 「母さん、ピンチだ。たすけてくれ。自分の娘と婿に萌え死にそうだ」 「まだ婿じゃありませんよ」 「『恋愛が与えることができる最大の幸福は愛する女性の手を握ることである』(スタンダール)」 「何か言いました?」 「いいなあ、って言ったんだ」 「飛行機に乗るなんて、いつものことじゃありませんか」 「忘れられんフライトになりそうだ」 その4へつづく
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/21.html
ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その5から 「ところでキョン君、鹿撃ちにいかないか?」 次の日の朝。 俺たちが宿泊したコテージのベランダにでかいダイニング・テーブルを引っ張り出して、4人で朝食をとった後、コーヒーを飲みつつ、親父さんは、その気楽な格好のように、気楽に言った。 「今、なんと?」 「こんな小島に、鹿なんてでかいものが生きていける生態系がないでしょうが」 と突っ込むハルヒ。 「ではキョン君、カジキマグロを釣りに行かないか?」 「それはどこの港町ラハイナよ!」 と突っ込むハルヒ。 「ではハルヒ、キョン君はもう食ったのか?」 「ぶっ!ごほごほ」 と咳きこむ俺。 「このエロオヤジ!どうしてあたしに聞くのよ!こっちに先に来くのが筋ってもんでしょ!」 いや、それも筋が違うぞ、ハルヒ。それにその話題を引きずり戦線を拡大すると、このSSが全年齢対応でなくなってしまうんだ。 「いや、なんでも地元の漁師によると、夜な夜な日本語で愛の言葉を絶叫し合う生き物が現われるらしくてな。難儀しているということじゃった」 「『じゃった』はないでしょ!」 そこもつっこみどころじゃないぞ。スルー、スルーだ、ハルヒ。 「それに『夜な夜な』じゃないし……」 ハルヒ、それはもう100%罪を認めているに等しいぞ。 「へえ。じゃあ、あんたとのことは、『罪』なんだ、ふーん」 ああ、意地になっている。ヘソを曲げている。堪忍袋の底が抜けている。 「えーと、俺の言いたいことを一言で言うと、だ」 ああ、いっそひとおもいに・・・ 「お父さん、今日はキョンと遊びたいな」 「こんなので良ければ、いくらでも持っていきなさい」 ああ、こんな簡単な計略に引っかかって一山いくらで売られていくのか、俺。ドナドナドナドーナー。 「……そのかわり、壊さないでよね」 使用上の注意をよく読んでお使いください。 思えば、その夜の(正確には朝方の)夢見は最悪というのに近かった。逃げ回る親父さんに拉致され、追っかけるハルヒには撃たれる、という奴だ。 「ハル、よかったの? あんなに簡単にキョン君をお父さんに引き渡して」 「『引き渡して』って、そんな捕まった宇宙人みたいに」 「まあ解剖したり何か埋め込んだりはしないでしょうけど……肉体的には」 「ど、どういうことよ?」 「お父さん、最近、コールドリーディングとか妙なものに凝ってるから」 「べ、別に聞かれてまずいことなんて、何もないわよ」 「うん、お父さんも、二度も聞きたくはない、って言ってたわ」 「か、か、か、母さん?」 「ふふ……若いっていいわね」 「うわあ。……母さん、あたし、海につかってくる」 「海を煮立てないでね。あと、波にさらわれないように」 俺と親父さんは、借りてあるヨットがあるという小さな船着き場までの道をゆっくり歩いていた。 「ディンギー(dinghy)っていってな、ヨットといっても長袖の紳士がシャンパン・グラス片手に船長気取るような奴じゃなくて、キャビン(船室)のないちっちゃい奴だ。バランスをとるのに、しょっちゅう自分の体を船から外に乗り出す。優雅には程遠いが、スポーツなんてそんなもんだ」 「二人乗りなんですか?」 「今日やるのはそう。自然だけとやるより、他人が混じる分おもしろい。まあ、相手がいれば、の話だけどな」 「はあ」 「なあ、キョン君。率直に聞くが」 「はい……」 「あいつ、もてるのか?」 「は?」 って、そっちですか? 黙っていればAAAプラス、なんてのは、どう翻訳すればいいんだ? 「さあ、どうなんでしょうね、はは」 「親が言うことじゃないが、あの見た目にあの性格、あの言動だろ? 普通、後ろから刺されるぞ」 「いや、でも」 「身を守る仕方は一通り教えたけどな。俺も心得がない訳ではなかったし。だが精神面まで手が回らんかった」 「それは……」 「……あいつ、変わったよな?」 「はい」 「うん。『一発殴らせろ』と言うなら、このタイミングかな?」 いや、ここはちょっと海面からの高さがすごいというか、15mの高さから落ちたコンクリートの硬さに相当というか……。あと、さっきの「心得」の中身も聞いてないし。というか、聞きたくないし。 「……うちは親父の方もツンデレでな。ほんとは『感謝してる』と言うべきなんだろうな。……言わないけどな」 「……」 「笑ったな?」 「い、いえ。そんなことは」 「じゃあ、母さんとの惚け気話をたっぷり聞かせてやろう。そして俺たちが、ハルヒに日々どんな目に合わされているか、思い知るといい」 「あらハル、もう帰ってきたの?」 「水がしょっぱくて」 「海ってそういうものよ」 「どこまで行っても足がつくし」 「遠浅の海ってことね」 「なんか、つかれた」 「お昼まで休む?」 「そうしようかな」 「お父さんがハンモックを吊ってたわよ」 「……いい。部屋で寝る」 「……という訳で、うちはバカップルだ。ツンデレ娘からは再三苦情が寄せられるが無視だ。親の幸せな姿を子に見せつけて何が悪い? 親の仲の不幸を子供に心配されるより、呆れられバカにされた方が何倍もいい」 ヨットのあるところに着くまでの間、親父さんは本当に本気で惚気続けた。内心、拍手を送りそうになるくらいのものだった、とここでは言っておこう。 「さあ、着いた。ヨットは始めてか?」 「はい」 「じゃあ、呼び名だな。まず艇体のことを『ハル』と呼ぶ」 「ほんとに?」 「ほんとに」 「世界中で?」 「ヨット屋ならな」 「あら、もう起きてきたの?」 「何が悲しくて、南の島に来て、昼間から部屋にこもって膝を抱えてるんだと思うと、おもしろくなくて」 「それもそうね。膝は抱えなくてもいいと思うけど。何か飲む?」 「レモンっぽい奴がいい」 「座ってなさい。持ってくるわ」 「うーーーー」 「はい……キョン君、連れて行かれて、そんなに退屈?」 「……」 「あるいは、まともに顔見れないから好都合?」 「……」 「まあ、少しお待ちなさい。母さんの勘では、午後は天気予報、外れるから」 「?」 「潮の香りがね、教えてくれるのよ」 親父さんは、ビート板に旗を突き刺して海に浮かべた。 「最近はこうやってリクツを説明するそうだ」 「理屈ですか?」 「知っての通り、ヨットは帆に風を受けて進むが、見ての通り、帆があるだけじゃ風に翻弄されるばかりで前に進まない」 そういって、ビート板をすくいあげ、裏側に小さな下敷きのような板を突き刺した。 「こうすると船はくるくる回らなくなる。そればかりか、帆が風を受けて生じる力とこの板が進むまいとする抵抗力が合わさって、斜め前から風が吹いても、ヨットは何故か前に進む。合力って奴だ。力の平行四辺形とか、習ったろ? なに、理系はからっきし? じゃ往年のカンフー・スターのやり方で行こう。『考えるな、感じろ(Don t think, Feel!)』。さあ、海へ出るぞ」 * * * * 「キョン!キョン、キョン! 親父! キョンに何したのよ!」 「鍛えた」 「何それ!? 仕返しのつもり?」 「仕返ししなきゃならないようなこと、何かされたのか?」 「そんな訳ないでしょ!」 「俺の答えと同じだ。……おい、キョン君、眠っているところ悪いが、そろそろ起きてくれ。 俺の家庭内地位が公的支援も間に合わんぐらい劣化しそうだ」 「…う…すみません。面倒かけて」 「キョン、バカ親父に何されたの?あたしの親なんてことは銀河の果てに追いやりなさい。海に突き落とされた?海水を煮え湯にして飲まされた? あたしが3倍返しにして敵をとってやるから!」 「親の敵とはよくいうが、親が敵とは。ははは、こりゃいい」 「親父ギャグ、禁止! さあ、キョンを降ろしたら、それがゴングよ!」 「娘よ、最近また腕を上げたらしいが、今日は勝ち目がないぞ」 「何故よ!?」 「戦う理由がないからだ」 「ハルヒ……やめとけ」 「あんたの頼みでも、これだけは聞けないわ!」 「母さん、しぶい日本茶が飲みたい」 「はいはい。用意してありますよ」 「なに、ふたりして、和んでるのよ!」 「ハルヒ……。おれは、ただの……船酔いだ」 「親父、あんたのヨットに乗せたのね!?」 「うむ」 「あんなもの、はじめてなら吐くほど酔うに決まってるじゃないの!」 「うん。その上、夕べはほぼ寝てないみたいだしな」 「それがしごきって名の暴力以外のなにものだっていうのよ?」 「強いて言えば、愛、かな?」 ハルヒは露骨に「これ以上話しても無駄だ」という顔をして、親父さんからさっさと俺の身柄を奪い取った。 「こいつ寝かせてくる」 「ハル、キョン君の吐き気が続くなら、室内より風通しのいいところがいいわ」 「うん、母さんの、借りるね」 ハルヒの母さんが読書につかっていたやつだろう、リクライニングできる籐製の大きな椅子に、ハルヒは俺を座らせた。 「まだ胃液が上がってくるかもしれないから、頭は下げすぎない方がいいわ」 そういいながら椅子の調整を済ませ、ハルヒは「ちょっと待ってなさい」と言って、再び親父さんがいるジャンボ・パラソルに戻って行こうとした。いくな、と手をつかんで振り向かせたが、ハルヒはポンポンと握った俺の手の甲を叩いて、俺をあきらめさせた。 ハルヒと親父さんの、冗談と呼ぶには激しすぎる言葉や技の応酬は何度か見てきたが、俺が知る限り、ハルヒが親父さんに向けてここまでの怒りを向けているのは始めてだった。いつもは、じゃれるというか、やり取りを楽しむというか、二人のどちらにも、何かしら余裕のようなものがあった。今のハルヒにそれが感じられない。それどころか、いつでも、何もかもを冗談と化すことができるような、いたずら坊主のようなまなざしが、親父さんの目からも消えている。それが俺を不安にさせた。唯一の頼みは、そんな雰囲気さえも、当たり前に受け流しつつ、すべてを見守っているハルヒの母さんだけだ。彼女だけが、俺が知っている、いつもの涼宮家の雰囲気を今もまとってくれていた。 「言いたいことがあるなら聞いてやるぞ、小娘」 親父さんの声には、明らかに挑発の色が乗っている。 「言葉だけで済ませるつもり、ないから」 ハルヒの両方のつま先が、リズム良く砂を蹴り、こいつの体を上下させる。 「性懲りもなく打撃系か?」 「下が砂だってことを感謝しなさい」 ハルヒは、ゆっくりした口調で発した、その言葉の音と音の間に蹴りを潜ませて、放った。素人の俺には、何時どんなタイミングで蹴られたのか、完全にわからなかった。 親父さんの側頭部あたりで乾いた音がして、はじめてハルヒの足元で蹴り足が踏み切った砂が舞っているのに気づいたくらいだった。 「軽い」 親父さんは椅子に座ったまま、左手を上げて蹴りを受けとめたようだった。 「ようだった」というのは、親父さんの言葉が聞こえた時には、蹴ったはずのハルヒの右足はもう、足元にもどっていて、トーントーンと体を揺らすリズムに復帰していたからだ。 親父さんは軽いと言ったが、もとよりそれは、ハルヒの蹴りの本質ではない。その証拠に、蹴りを受けた親父さんの左腕には、何かで切ったかのような傷に血がにじんできていた。 「今時、イベリア船籍の安全かみそりだって、ここまでなまくらじゃないぞ」 言葉自体は冗談以外の何ものでもないが、声の調子にも、目に浮かぶ色にも、そんな様子はカケラもない。あと冗談のキレもない。 事実、親父さんはすでに立ち上がって構えをとっているが、ハルヒの蹴りがいくつもまともに入っている。最初の左から蹴りのように、右からの蹴りを裁き切れていない。 親父さんの右のこめかみから血が流れ始める。 「減らず口も減ったようね」 その言葉の内にも蹴りが飛ぶ。今度は、脇腹に入った。親父さんの体が歪む。 「待ってろ。今、正義の怒りを貯めてるところだ」 「月並み! あと誰が正義よ!」 「安心しろ。少なくともお前じゃない」 親父さんの前に出そうとした右足がもつれる。体が傾く。それを見逃す今のハルヒではない。 だが、俺の中で唯一、非凡人的に発達した「ヤバいことセンサー」が全然別の方向を指していた。 「やめろ、ハルヒ!」 ………… ……… …… … 「簡単そうに見えるだろうが、今のも楽じゃないんだぞ。これが野郎相手ならボコボコにして終わりなんだが、アザでもつけると母さんが怖いからな。……あ、恋女房としてじゃなく、武人としてな。ここ、必ず書いとくように」 親父さんが、ハルヒの膝でのフィニッシュに合わせた技は、「簡単そう」どころか、何をやったのか、まるで分からなかった。 しかし、結果を見て何を狙ったものかは分かった。瑕ひとつつけず、ハルヒの意識を奪うこと。それと、もうひとつ。 「最初の蹴りはフェイクでな、この馬鹿、足で俺の右目に砂を《投げ》やがった」 「ハルヒが?」 「きたねえ手だ。反吐が出る」 親父さんの顔には、ハルヒがこのことを自分で話す時、おそらく浮かべるだろう自己嫌悪する表情が浮かんでいた。 「だから、ちょっと、ほんの少しだけ、怒っちまった」 親父さんは、いつもの悪ガキのなれの果てのまなざしに戻ってそう言った。俺は、うまく言えないが、その表情にどこか安心したような気持ちになった。 「そうまでして勝ちたいかね?」 と息を吐くように親父さんは嘆いた。 「どちらも勝ちたい、負けられないと思うから戦うのでしょ?」 とハルヒの母さんが言葉を引き取った。 「ちがいない」 「それだけ?」 「反省してる」 と愛すべきバカ親父は言った。 「馬鹿だって時には反省したっていいんだ」 自分に、それとも誰かに、言い聞かせるように親父さんは言った。 「さて、後は戦後処理だけかしら」 ハルヒの母さんの視線をすごく感じる。言いたいこともすごく分かる。どっかの機関内超能力者に教えてやりたい。顔なんぞ近づけなくたって、ひそめた声なんぞ使わなくたって、伝えるべきことは伝わるのだ。そう、真っすぐ相手の目を見さえすれば(澄みきった瞳限定、但し長門は別考の余地あり)。 ハルヒが真ん中の寝室のベッドで目覚めたのは、……正確には「自分はもう起きている」と、ベッドの端に座っている俺に気付かれてもいいと踏ん切りをつけたのは、もう午後10時を回っていた。 「いつからいたの?」 「胃液を吐くのがおさまってからだ」 「なんでそんなとこに座ってんの?」 「ありていに言えば、そうしたいからだ。邪魔なら出てく」 「親父と闘ってるの、見てたわよね」 「ああ」 「……ざまないわ」 「すまん」 「なんであんたが謝るの?」 「おまえを止められなかった」 「止めてたら、あんたから倒してたわ」 「それでも止めるべきだった」 「無茶言わないで。あれを止められるのは、止めていいのは、母さんだけよ」 「……」 「でも、あんたはそういう奴だったわね。……知ってたわよ」 「すまん」 「あやまるな!!……ん、く、キョン、お願いだから、今すぐ向こう向いて、3分、ううん2分でいいから、意識を止めてなさい!!」 おれは両肩をつかまれ、180回転させられて、背中にハルヒのかるい頭突きを食らった。 だから、その後しばらくのことは俺は知らない。 俺が知っていて良いのは、ハルヒが頭をずらして、俺に語りかけ始めてから後のことだけだ。 「なんで、あんたは怒んないのよ……。あんたとオヤジの間だけで話がついてるみたいで、あたしひとりが悪者じゃない」 「そういうんじゃない」 「何よ、何がそんなにおかしいわけ? あたしは今も怒ってるんだからね!」 俺の肩まであがってきたハルヒの頭に、ぽむと犬がお手をするみたいに手を乗せる。 ハルヒは払いのけないで、首を少しだけ縮めた後、首の力だけで俺の手を振り落とそうと挑戦する。 「俺のために怒ってくれたんだろ? だったら、俺はおまえに感謝してるぞ、ハルヒ」 首の奮戦が中断する。表情は見えないけれど、声の調子は怒りを乗せたそれから、ぶーたれモードへと切り替わる。 「そりゃ、どうもお」 ハルヒの言い方が、あまりにしぶしぶといった感じだったので、俺は思わず吹き出した。 「やっぱり、あんた笑ってるじゃないの!」 「いや。だが楽しい時に笑っちゃいかんのか?」 「楽しいじゃないでしょ! あたしは笑われてるのに腹立ててるの!」 「おまえがどの口でそれを言う?」 いつも人を指差して、本当に楽しそうに笑ってる奴が。 「この口よ」 だが、いまは、わざとらしく威張ったアメリカお化け(ドロンパ)の口だ。 「この口か」 「……んん!……あ、あんた、どさくさにまぎれて!」 「お、おまえも目を閉じただろ?」 「キスしといて、うろたえるな!」 「おまえこそ、今のおまえの顔を見せてやりたいぞ」 「……なら、動かないでよ」 「動くもんか」 「……こら、キョン、目、閉じるな! 見えないでしょ!」 「いや閉じるだろ、普通! こんだけ至近距離になったら!」 「……あんた、雰囲気に飲まれすぎよ」 「お、おまえのその目を、これ以上凝視できる奴がいるんだったらな!」 「なによ!?」 「……古泉の携帯の番号を売ってやる」 「どの口で言うのよ、まったく」 「この口だ」 「この口ね」 ごほん、ごほんと、わざとらしい咳払い。 これが本物なら、隔離した方がいいぐらいのレベルだ。 壁の向こうからでも聞こえる大きなため息。そして声。 「おまえら、絶対、わざとやってるだろ。……バカ娘と格闘してな、デレが腰に響くんだ。聞こえないところでやってくれ」 「キョン♪」 「なんだ、ハルヒ? うれしそうに」 「そうよ。なんか、めちゃくちゃうれしいわ。あんたがヤギでここがアルプスなら、ぐるぐる振りまわして地球を七回転半してるところよ!」 俺を光の速さでぐるぐる振りまわすかわりに、ハルヒはこれまで誰も見たこともないような見事なガッツ・ポーズをきめてみせた。 「そうよ、あたしはあいつの娘だもの。自分を人質に取ればいいのよ。なんで、こんな簡単なことに気づかなかったのかしら?」 「いや、それは気付いたとしても、人としてどうかと思うぞ」 俺の立場で、こう言うのも何か違う気がするが。 「あたし今、はじめて親父に勝てた気がしたわ」 聞いてないし。 「構うことないわ。それとも、……あんた、あたしが、嫌なの?」 実は聞いてる上に、ボイス攻撃まじえて時間差で答えてるし。 「お、おまえ、その声は、……いろいろ、いろいろ、まずいって」 ああ、そうとも、テキストデータでお伝えできないのが、実に喜ばしいぞ。 「あら、キョンにも効いてるわねー」 やっぱり主標的はあっち(親父さん)かよ。 しかも、なんだ、瞳の中の大星団の数は? やばい、ハルヒのギヤが「ハイ」の2つ上に入ってる! つまり、今現在ハルヒの「ストライク・ゾーン」は最悪最大規模の閉鎖空間を上回る勢いで絶賛拡大中だ。 手遅れになる前に、やるしかないのか。 耐えられるのか、おれの胃腸とか内分泌系。持つのか、おれのジョン・スミス。 ええい!吹けよ風!呼べよ嵐! 「ハルヒ!」 「待ってました!」 何をだよ!? 「に、にげるぞ!!」 どこへだよ、俺!? 「じゃあ、地平線を追い越すわよ、キョン!!」 それは誰かの新しいキャラ・ソンか何かか!? 手をつないだ俺たちがコテージを飛びだすのと、滞在中の涼宮夫妻の寝室になっているベッドルーム(大)の木製のドアが、親父さんの貫き手の演舞によって破壊されたのは、ほとんど同時だった。 その7へつづく
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/274.html
ん、これか? 久々に時間はあるし、良い天気だし、空が開けたとこで弾こうとおもってな。海の方の公園で演(や)ったんだ。その稼ぎだな。 5円、10円、スナック菓子の半分残った奴、それについてた知らないサッカー選手のカードだ。 ガキしかいなくてな、その公園。ま、平日の昼間だしな。ガキの喜ぶような曲、知らねえし。こんなもんだろ。 公園に着くなり、とりあえず、簡単なのをギコギコやってたんだ。そしたらな、10才ぐらいのガキだったな。 「おじさん、ニート?」 「ちょっと違うが、似たようなもんだな」 「蟻とキリギリスって知ってる?」 「ああ」 「ママにね、バイオリン習えって言われたんだけど」 「ふーん。で、学校でキリギリス野郎って言われたか?」 「うん。でも遊んで暮らせるなら、誰だってその方が良いと思わない?」 「そりゃそうだな。けど、おまえ、勉強だってしてるだろ?」 「うん。バイオリンない日は、塾行ってる」 「勉強好きか?」 「嫌い。バイオリンも嫌い」 「そうか。嫌いなものはしょうがないな」 「おじさんは、好きなの?」 「いいや。すきな女の子がバイオリン好きだった」 「もてようと思ったの?」 「そうだな。いや、その子が振り向けばいいなと思ったんだ」 「案外、一途なんだ」 「まあな」 「その女の子と結婚したの?」 「残念ながら。だが、もっと好きな人と結婚したから、後悔はないな」 「おじさん、幸せだね」 「そりゃ、どうも」 「それ、高いの?」 「バイオリンか? どうだろうな。俺がつくったんだ」 「そんなの、つくれるの?」 「ああ。型紙が売ってるんだ。その通り、木を切って貼り合わせて乾かす、ニス塗って乾かす、そんなのの繰り返しだ。多少時間はかかるが、プラモデル組み立てるのと、たいして変わらん」 「ぼくのより良い音がする気がする」 「いい加減、古いからな、こいつも。娘と同じくらいだ」 「おじさん、娘いるの?」 「ああ、娘ならいるぞ」 「美人?いくつ?」 「高校生だから15,6,7歳ってとこだ。母さんは美人なんだけどな。かわいそうに俺に似ちまった」 「ふーん、そうなんだ。仲いい?」 「よくないな。15すぎて父親と仲良い娘なんて、気持ち悪いぞ」 「そうなの?」 「まあ、美人なら別だけどな」 「……」 「なんか弾こうか?トロイメライとか」 「あれ、大嫌い」 「そうか。じゃあ、おれの好きな奴でいいか?」 「うん。なんて曲?」 「チゴイゼルワイゼン」 「かっこいい!おじさん、実はうまい?」 「どうだろうな。あまり誉められたことがないんでわからん」 「そうなの? 何年くらい習ったら弾けるようになる?」 「今のか? 田舎だったんで学校の先生くらいしか弾ける人がいなかったんだ。その人がいた間だから2年か。美人な先生だったんだが、嫁に行っちまった。習ったのはそれくらいだ。あとは思いだしたときに、好き勝手に弾いてたくらいだぞ」 「その先生に気に入られようと思ったの?」 「意外とするどいな」 「見え見えだよ」 「こらー、ここで演奏しちゃいかん!」 「何故だ? ここは公共の公園だろ?」 「そうだ。だから規則がある。ちゃんと書いてあるだろ」 「そうか、読めなかったんだ、すまん。外国で生まれたから、見かけほど日本語ができないんだ。こういうとき、俺の生まれた国じゃ多数決で決める。見渡す限り、今この公園には俺と、この少年と、管理人らしいあんたの3人しかいない。では決を取ろう。演奏してもよいと思うもの! ではダメだというもの! うん2対1だ。 退け、サタン」 「誰がサタンだ! そんな勝手に決をとってもダメだ」 「何故だ? ここは自治法上の『公の施設』だろ? だったら議会で設置条例を制定しなきゃならん。つまり市民の代表の多数決が不可欠だ。役人の独走では作れん。そして『公の施設』の使用の制限は、集会の自由その他と抵触するから、よっぽどの場合のみ、即ちそれ以外に起こり得る被害を回避できないことが明確な時のみに限られるはずだ。最高裁判例を暗唱してやろうか?」 「管理人さん、どっか行っちゃったね」 「バカと関わらん方が身のためとわかったんだろう。おれと口ケンカしてもしなくても、勝っても負けても、どうせ給料は同じだ」 「おじさん、外国で育ったの?」 「18才からな」 「ほとんど大人だね」 「おまえくらいの頃はそう思ったな。今から考えると、相当なガキだったが」 「そうなの? 高校生なんて、すごい大人だよ。髭生えてるし」 「髭なんか中学生だって生える奴は生える。おまえの考えだと、うちのバカ娘は、もうすぐ大人だってことになる。アンビリーバボーだ」 「なにが『アンビリーバボー』よ!あんたとなんか、3歳のときにすでに決裂してるわよ!」 「おーい、少年。このうるさいのが、うちのバカ娘だ」 「な、なに、さらってきてるのよ!?」 「承諾済みだ。うちの母さんの名前を出して、電話にも出てもらった。結構、有名なんだな、母さん。音楽に理解のある親だ」 「おじさん、お姉さん、すっごい美人じゃない!」 「だまされるな。こいつはすごい厚化粧だ。SFXの応用だ。どんな顔にもなれる」 「だれが厚化粧だ!」
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/19.html
ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その3から 飛行機は快調に空を飛び、涼宮ハルヒは俺の二の腕に盛大に頭をぶつけて眠っている。 「おい、ハルヒ。起きろ、飯だ、機内食だぞ」 「ん……あ?」 「どっちにしろ寝ちまうんだな」 「"What would you like, beef or fish? 」 「ああ、うん。……キョン、あんた、魚とお肉、どっちがいい?」 「ああ、肉にするか」 「Can I have the fish meal ? He says he d like to have the beef.(わたしは魚料理をちょうだい、彼は肉料理を食べたいそうよ)」 「いまさら驚かんが、英語もできるのか?」 「親父の持論だと、ハロー、プリーズ、サンキュの3つとクレジット・カードがあれば、どこへ行ってもなんとかなるらしいけどね」 ハルヒがトイレに立った時、ハルヒの母さんが寄ってきた。 「キョン君、ありがとうね」 「ハルヒの飛行機嫌いのことですか?」 「ハルが小さいときに乗った飛行機で、車輪が出ないトラブルで胴体着陸したことがあってね。最初に相談しとこうかとも思ったけど、あの娘、気を使われたりするの嫌がるから」 「そうですね」 「まあ結局、何に乗るか、よりも、誰と乗るか、が重要ということね」 ハルヒがトイレから戻ってきたので、ハルヒの母さんは一度通路側に出て、ハルヒを通らせる。 「なんの話?」 「ねえ、セネカだったかしら?『大事なのは何を食べるかではなく、誰と食べるかである』というの?」 「知らない。キョン、知ってる?」 「いや、わからん」 ハルヒの母さんは肩をすくめた。次にハルヒが肩をすくめ、最後に俺が肩をすくめた。 「何やってんだ、おまえたち?」 と親父さんが言って、3人のパントマイマーは我に返った。 その後、いつのまにか俺は眠っていたらしい。 ハルヒの話では、ハルヒの左手を握りしめて、どうやっても離そうとしなかったのだそうだ。 「ったく、律儀というかバカというか」 あきれた声でハルヒは言った。 「で、結局どうしたんだ?」 「何が?」 「どうやって、手を振り解いたんだ?」 「叩いたり、つねったり、ぺろんと舐めたり、いろいろしたんだけどね」 「舐めたのか?」 「効果はなかったわね」 「うむ」 「結局、耳元に『トイレに行きたいんだけど』というのが正解だったわ」 「……」 それがパスワードか……俺のキーロック。 「ったく、律儀というかバカというか」 結局、俺が再び目覚めたのは、飛行機の車輪が大地を踏む瞬間の、ドスンという振動によってだった。 「つ、着いたのか?」 飛行機は飛行場の上をしばらく向きを変えながら走りつづけていく。 「着いたわよ」 ハルヒは笑っていた。 「寝てる人間にシートベルトをしめさせるのは骨が折れたわ」 「ああ、すまん」 「冗談よ。寝ぼけてない? 大丈夫、キョン?」 ハルヒは自分の右手を俺の顔の前で振ってみせる。 「あ、それと、これ、ありがと」 これ、というのは、俺の右手に握られたハルヒの左手だった。目の前で見せられて、何故か反射的に手を離してしまう。 「お、おう。どういたちまして」 痛っ、舌かんだ。 バカ笑いするハルヒ。 それを見て親父笑いする親父さん。 完全に止まってから、との指示を待たず荷物を出そうと立ち上がる他乗客のみなさんの目をそれほど引かなかったのは不幸中の幸いだった。 ハルヒはよほどツボにはまったのか、タラップを降りながら、まだ笑ってる。 「というより、あんたの笑いの取り方は反則よ、人倫にも劣るわ」 目に涙までためてやがる。 「そうだそうだ。笑わせるためなら尻まで見せる芸風だ」 そこに親父パワーが上乗せされる。 「別に笑いを取りに行ってないぞ」 「じゃ天然? えーん、どうしよう、親父。キョンが本当のバカになっちゃった」 自分が吐きだす一言一句に、反応して笑っているのだ、こいつは。まったく、いまいましい。 「なんだ、それっておれのせいか? キョン君、自分の墓穴は自分で掘れ」 そこに親父さんのハードボイルド(?)なボケが上乗せされる。この父娘(おやこ)、実は息もぴったりじゃないか。 飛行機を降りて地上に足を降ろすと、空港は夕暮れ時にもかかわらず、南国らしい夏の熱気を残していた。 こうなると(そういや、いつのまに着替えたんだろう?)ハルヒの親父さんの着ている派手なアロハ・シャツが妙に似合う。まだ会ったことはないが、こういういでたちの人が、現地にたくさんいそうな気がする。 俺たちは滑走路の脇の歩道を、ぶらぶらと空港の建物の方へ歩いていった。 出発の時より、さらにあっさりと、入国その他の手続きは片付いた。 飛行機の旅は、それでも負担ではあったらしく、感情的には上機嫌なハルヒは、体のほうは憔悴しているらしく、めずらしくも俺の腕を杖の代わりに握っていた。 しかしそれもトランクを受け取る頃には、ハイ・テンションが疲労感を凌駕したらしく、まるで誰かに見られたらまずいところを見られでもしたように、ぱっと手を離し、手はそのままハルヒの頭の上にあがったままで止まった。まさにホールド・アップの状態。 「傷つくなあ、なあキョン君?」 と、しなくてもいい心理描写をしてくれたのは、無論ハルヒの親父さんである。 「うっさい!」 今度はアドレナリンとトランクを身の支えにして、さっさと行こうとするハルヒ。 「バカ娘、ここは右も左も分からぬ外国だ、軽率な真似は慎め。予約してあるコテージまではレンタカーでいくから、ちょっと待ってろ」 親父さんは背中に「ワクワク」といった文字を背負うがごとく、人の波をかいくぐりながら目的のカウンターへと進んで行く。 「何が外国よ。日本語も英語も使えそうじゃない」 「暗くなってきているからよ。言葉が分かっても、意に添う人とはかぎらないわ」 ハルヒの母さんはニコニコと、空港の出口でプラカードをもって飛び跳ねている連中たちに目をやった。 「たとえばね、……『鈴木様、田中様、格安タクシー』というの見える?」 「あんなのに引っかかる奴なんていないわよ」 「おい、ハルヒ、どういう・・・」 うっ。言い終わる前に肘をいれるな。 「確かにこういう善良すぎる日本人もいるっちゃいるわね。……簡単に言えば、モグリのタクシーよ。メーターなんかついていない。こっちが道が分からぬことを良いことに、デタラメに走ってとんでもない金額を請求するのよ。日本人ってのはお人よしだから、日本語で書いてあれば山田さんだろうが佐藤さんだろうが、それだけで警戒心を緩めちゃうの、誰かさんみたいにね」 「俺は、別にだな……」 用が済んだらしく、にかっと笑った親父さんが戻ってくる。 「カーナビぐらい、おごりやがれ、べらぼうめ、と言ってやった」 「どこの江戸っ子よ?」 「そしたら、うちの車はぜんぶカーナビつきだとさ。矢印どおり走ればいい。ハルヒ、運転するか?」 「誰が?」 「家族と彼氏の命も預けられないような娘に育てた覚えはないぞ」 「眠いから相手しないわよ」 「飛行機の中じゃずっと寝てたじゃないか、キョンの腕の中で」 「何の中だって!?」 「じゃあ膝枕か?」 「どうやってシートベルトしめんのよ!?」 「はいはい。空港で親子漫才なんて、家族仲良くて母さんとてもうれしいけれど、お腹がすいちゃったわ」 このメンバーで事態を収拾してくれるのは(それができるのは)、いつもハルヒの母さんである。感謝します。 「それじゃあ、街で何か食っていくか。ハルヒ、マクドナルドを襲うぞ。お前はビッグマックを30個、おれはてりたまバーガーを25個だ」 「こんなところで村上春樹読んでる奴なんていないわよ」 「あと、少しは買い物もしないと、明日から食べるものがないわ」 と冷静な意見を述べるハルヒ母。 「聞いてのとおりだ。我々はミッションを変更して、レストランとスーパーに立ち寄ってから基地(ベース)へと帰還する。質問は?」 「というか、それが予定どおりじゃないの?」 「じゃあ、出発!」 夕食は最初に目に入った店に決めようと言う「ハラペコ事前協議」に基づき、大きな交差点にある、国際的な(?)ファミレス・チェーン店のような店に自動的に決まった。 車を駐車場に止めて中に入った俺たち4人は、無節操に多国籍なメニューを制覇するほどの勢いで注文し、そして食べた。 ハルヒの「やせてるくせに大食い」特性については言うまでもないだろう。 そしてハルヒへの遺伝子提供者もまた、そうした特性を持っていたとしても不思議ではない。 ガタイのいい親父さんは、その体と悪知恵とマシンガン・トークを維持・活動させるに必要な相当量の食料を摂取した。 ハルヒの母さんは、小柄で軽そうな外見にも関わらず、終始マイペースで食べ続け、結果として皿の山を築いた。 俺もどちらかといえば小食な方ではない。何よりも、ここは日本でなく、いつもの集合場所の喫茶店でなく、さらに言えば俺の奢りではない。ここでは、涼宮家の3人に、いかほども遅れをとらぬ大食漢ぶりを披露したとだけ記しておこう。 俺たちが宿泊するのはコテージであり、基本的に食事は自炊なので、俺たちは次に明日朝以降の食料調達を行うべく、夜10時まで開いているらしい大型スーパーへ向かった。 そこで、牛のように巨大なショッピングカートを、親父さんと俺とで1台ずつ押し、そこへハルヒ母とハルヒがどんどん食材を放りこんで行く。競り合いのようでありながら、ダブったものは何一つないという母娘のコンビネーション。 「いつもですか?」 俺はこっそり隣の親父さんに聞く。 「どうだろうなあ。日頃、あまり買い物に付き合わんからな。母さんは体力がないから、普段は通販なんか利用してるみたいだし、気合が入ると中央市場へ買い出しだしな」 「ほんとは品物を見て買う方がよいけれどね。最近は宅配もいろいろあるし、ネットスーパーなるものもあってね。その日の広告をネットで見て午前中に注文しとけば夕方に配達に来てくれるわ。主婦もいよいよ引きこもりの時代なのかしら」 親父さんが運転する車は、夜のなかをカーナビの矢印だけを頼りに進み、それでも十数分でコテージの管理棟のようなところに着いた。 親父さんはそこで鍵やら備品一式を受け取ってサイン、それを後部座席のハルヒの上に放り投げて出発。ハルヒは当然わめくし暴れるが、親父さんはゲラゲラ笑いだけで応じる。 数分、車で進むと、どうやら俺たちが泊まるコテージへと着いたようだった。 親父さんはガレージに車を止め、親父さんと俺でトランクをコテージの中に運び込む。 ハルヒの母さんとハルヒは、何往復かして(無論、おれたちにも手伝わせて)買い込んで来た食料をキッチンに運び込んだ。 コテージは、中央に大きなリビングがあって、その正面は大きなベランダがあり、そこから先はこのコテージ利用者のためのプライベート・ビーチとなっている。 ベランダを正面にして、リビングの左手にはキッチンや風呂、それとは別のベランダから直接入れるシャワールームなどがあり、リビングの右手には、手前から大きな寝室、中ぐらいの寝室、同じく中ぐらいの寝室、となる。 「あー、ごほん」 親父さんがわざとらしく咳払いをする。 「長旅ご苦労。飯も食ったし、後は順次、風呂に入って寝るだけだ。明日から気が狂うまで遊ぶから、それに備えて、各自英気を養うように」 そして、咳払いをもう一つ。 「なお部屋割りだが、手前のでかい寝室は俺たち夫婦が占拠する。異論は認めん、たまには年長者を敬え。なお、残りはおまえら好きに使え。父は心の準備はできてる。以上だ」 言うだけ言って、親父さんは風呂へ退避する。さすがのハルヒもハダカの親父は苦手分野のようだ。 「何言ってんのよ!バカ親父」 と、せいぜい見えなくなった親父さんに怒鳴るくらい。 「ちなみに、母も心の準備はできてます」 ニコニコと目を細くして微笑み、追い打ちをかけるハルヒ母。 「母さん!」 リビングのソファに、距離を開けて座り、親父さんとハルヒの母さんが、寝室(大)に消えるのを、二人して見届けた。 ハルヒと俺のトランクは、まだリビングに置いたままである。部屋を決めないと、着替えも取り出せず風呂にも入れない訳だが、親父さんの呪いか、いらぬプレッシャーのせいか、なんだか「先に動いた方がやられる」状態に陥ってないか、俺たち? 「と、とりあえず」 小一時間ほど続いた沈黙は、ハルヒの声で破られた。 「あたしが真ん中の部屋を使うから」 「ああ。端の部屋が俺だな」 「じゃあ、そういうことで」 「おう」 ハルヒと俺は、トランクをそれぞれ自分の部屋に押し込んだ。 ベッドに腰を下ろし、荷物も解かず、しばしぼーっとしているとノックがあった。 「あ、はい。どうぞ」 「いや、開けなくていい。……キョン、お風呂、あたし、先にいいかな?」 「……ああ、かまわんぞ」 「じゃあ、お先に」 「ああ」 しばらくして「これはまずい」ということに、俺はようやく気付いた。 リビングはそこそこ広いと言っても、俺の部屋はそのリビングを挟んで風呂の対面にある。 水音とか、シャワーの音とか、人間誰でも汚れを落としたりお湯の温かさでリラックスしたりすると漏れる声だとか、ダイレクトに届いてしまう位置ではないか、この部屋は。 喧噪を離れ、BGMは波の音だけ、という心もとない状況では、そうした音を遮るのは風呂のドアとすでに無人のリビングと薄い俺の部屋の扉だけだ。 し、静まれ、俺のジョン・スミス。 どれくらい経ったのだろう。俺はノックの音に我に返った。 「キョン、お風呂空いたから」 「わかった」 ハルヒが自分の部屋のドアを閉じる音を確認してから、俺は部屋を出て風呂へ向かった。 適当に旅の汗を流して、そそくさと部屋に戻って、そのままベッドに倒れ込む。 すると、枕元の電話が軽い電子音をたてた。って電話? 「もしもし。ディス・イズ・キョン・スピーキング?」 「室内電話。どっからかかってきたの思ったのよ?」 ハルヒか。すぐ隣なのに、なんだって電話なんてついてるんだ? 「……寝ぼけてたんだよ」 「今、部屋に入った音がしたわよ」 「……」 「キョン、そっちの部屋はどう? こっちのべッドは広いわよ。あんたんちの1.5倍はあるわね」 「うちのはシングル・ベッドだからな」 「いつも2人だと狭い感じがするわね」 「こらこら、『いつも』とか、いつもみたいなこと言うな」 「すぐ隣にいるのに室内電話ってバカみたいね」 「まあな」 そしてかけてきたのはお前だぞ、ハルヒ。 「キョン、あんた、ちょっとこっちに来なさい」 「は?」 その5へつづく
https://w.atwiki.jp/wwajiten/pages/171.html
酔っ払いとして絡んできたり、 昼間から飲んでるなど駄目親父的設定なことがある。 ギャクRPGだと父親だったりもする。 ただの村人であることもあるが、 主人公にとってマイナスなキャラであることが多い。 でも悪の手先などではない。 ちなみにサンプルマップでは、警備員として使われ 倒すと「うう、こんな役ばっかり・・・」と嘆く 他にもゲームオーバー画面に大量に現れて主人公を待っている。 かわいそうなこの人が大活躍するゲームは残念ながら今の所無い。 今が作るチャンスかも。 カラーパターン 無し 関連項目 デフォルト画像の使われ方
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/13.html
「あのね、母さん。明日、映画見に行ってくるから」 「そうなの。じゃあ、シャンペン抜きましょう」 「な、なに言ってんの!?」 「あら、和風がよかった?お赤飯にする?」 「そんなんじゃないわよ!」 「そんなのじゃないって何が?」 「あう」 「ただ映画行くだけなら、わざわざ前日に言って行かないでしょ」 「それはその、5本立てオールナイトだから、帰るの次の日の朝になるし……」 「ゆっくりでいいわよ。朝帰りはかえって『お泊りしてきました』って言ってるようなものだし」 「……////」 「合宿のときは、平気で泊まってきたじゃない」 「あの時とは、ちょっと、事情が違うというか……」 「それだけ聞けば十分。あまり聞いても話したくなるだけだから聞かないわ」 「……うん。そ、それとね」 「お父さんでしょ? 明日、明後日と珍しく家にいるから」 「う、うん」 「心配いらないわ。母さんに一任してちょうだい」 「あの、母さん」 「ん?」 「あ、やっぱりなんでもない」 「……じゃあひとつだけ」 「は、はい」 「ハル、欲しいものは欲しいって言わないと手に入らないわ。言ったからって、手に入るとはかぎらないけど」 「……」 「なぞかけになっちゃったかしら? ごめんね。母さん、引出しが少なくて」 「ううん、そうじゃない」 「ありがと。やさしい娘でよかったわ」 * 「おや、ハルヒさん、おでかけで?」 「たまの休みにモンハンやってるような中年に話すことはないわ」 「ほら見ろ。パーティ全員女の子だぞ」 「どうせネカマでしょ」 「それは父さんだ。ちなみに中学生ということになってる」 「ほかに時間の使い方はないわけ?」 「じゃあ、駅前で中学生でもナンパしてくるか」 「イタ過ぎ。そんなこと、やってるの?」 「ケーキセットおごって、お話するだけだぞ。おまえもやるか?」 「誰がやるか!」 「今ので信じるとは、ハルヒ君もおちゃめだな」 「あんたとは二度と話しない」 「せめて披露宴で『花嫁の手紙』だけはやってくれ」 「ぴーぴー泣かせてやるから覚悟しなさい!」 「『花束贈呈』で返り打ちにしてくれる」 「ハル、お父さんと遊んでて時間はいいの?」 「あ、やばい。行ってくるね!」 「母さん、うちのドラ娘だが、今日はいまひとつ切れがなかった。どこへ行ったんだ?」 「帰りは明日になるみたい」 「えーと、聞いてする後悔と、聞かないでする後悔は、どっちがまし?」 「もう、後悔してるって顔ですよ」 「そのとおり」 「すぐ顔に出るところもそっくりね」 「隠そうとして、全然隠せてないのが、ツンデレの真髄なんだ」 「そのアヒル口も。ほんと親子ね」 「また合宿か何かか?」 「それとは事情が違うらしいわ」 「う。母さん、深刻なダメージだ」 「察しがいい親も考えものね」 「ハルヒに話すなって言われてないのか?」 「ええ。お父さんの動きを止めればそれでいいみたい」 「ふう。じゃあ投了だ。勝てる気がしない。勝てた試しもない」 「私たちも出掛けましょうか?」 「育つもんだな、子供ってのは」 「娘時代には、母親なんて何がおもしろいんだろうと思ってましたけど、どうしてどうして」 「楽しそうだな、母さん」 「悲しそうね、お父さん」 「ま、あんな凶暴な娘になるとは思ってもいなかったが」 「あんなやさしい娘になると思ってましたよ」 「俺たちも出掛けるか?」 「わたしたちも、お泊りにしませんか?」 * その日の待ち合わせは午後だった。 おそい朝食を食べた後、いつもの2倍の時間をかけてお風呂に入り、昨日から悩みぬいて選びぬいたコーディネートのうちから、天気予報と温度予報を考慮に入れつつ、ひとつを選んで着替えた。このあたしが、あらゆる意味において、勝負に手を抜くなんてことは有り得ない。あいつの趣味はいまいちわからないから、子供っぽくない程度に大人っぽい、普通におしゃれでかわいいという程度だけどね。それと髪型は言うまでもないわね。 着替えるとそれだけでアドレナリンが出て、臨戦モードになる。へんな言い方だけど、 「さあ、どっからでもかかってらっしゃい!」という状態。「矢でも鉄砲でも持ってこい」という感じね。 そう、今回は事情が違う。 あいつが、はじめてちゃんと誘ってきた。 「今週の土日空いてるか?」 「空いてるかって、このところ毎週あんたの顔見てるように思うんだけど、気のせいかしら。まあ、一回ぐらい土曜の市内探索はお休みにしても構わないわ。で、何?」 「たまには、デートってものをやるのも悪くないと思ってな」 「それはかまわないけど。デートって?誰と誰が?」 「おれとおまえが」 「あんたとあたしが?」 「駄目ならいい」 「あんたね、それはむしろ礼儀を欠くってもんだわ」 「おまえに言われると新鮮だな」 「ほんとに失礼なやつね。で、どこへ行くの?」 「安心しろ、プランはある。あと予約を入れなきゃならんところがあるんで、あらかじめ聞いたんだ。OKってことでいいか?」 「いいけど。……あんた、土日って言った?つまり土曜と日曜ってこと?」 「ああ」 「……」 「……黙るなよ」 「……あたしだってたまには黙るわよ」 「……そうか」 「……オールナイトの映画でも見ることにしとくわ」 「え?」 「アリバイよ、アリバイ。必要でしょ? そりゃ、あんたは要らないかもしれないけど……」 「ああ……すまん」 「あやまるな」 「すまん」 「んっとにもう」 言い方は、あいかわらず遠まわしでヘタレだったけど、それはどうだっていい。 いままでも「そういうこと」がなかった訳じゃない。どさくさというか、雰囲気に流されてというか、相手の過剰な反応にこれまた過剰に反応してしまってというか、「キス以上、○○未満」みたいなことは何度かあった。そりゃ同じクラスに同じ部活、登校時は家まで迎えに来る、部活後は街で一緒にすごして家まで送らせる、時々はお互いの家へ行って部屋にあがりこみ、帰ったらいつもの長電話。月火水木金土日、おはようからおやすみまで、起きてる時間の大部分をいっしょにいるのだから、そうならない方が不思議なくらいだ。 その度にあたしたちは踏みとどまった、正確にはどちらかが「ぶちこわし」にした。 (あたしが)相手をつきとばしたり、ぶんなぐったり、(主にあいつが)冗談にしたり謝ったりで、なかったことにした。 「ハル、あなた見た目はいいんだから、もっと自信持ちなさい」 自信は、あるにはあるけど。それと「見た目は」って親に言われると少しへこむわよ、母さん。 「ちょっと私の言いたいこととは違うけど。そうね、すごく具体的に言うと、たとえば、こう腕で自分を抱いて上目づかいで言ってごらんなさい。一発だから」 母さん、母娘でこの破壊力。やばいって。 それにね、なんて言うか、それじゃ意味がないの。それをしていい相手なら、あたしはきっと悩んでない。 私がしたいのは、あいつと取引したり、あいつを籠絡させたりすることじゃないの。あいつは、あたしが、そんなことしないと思ってる。それは、あたしの勘違いかもしれないけれど、勝手な願望かもしれないけど、あいつは確かにバカキョンのエロキョンだけど、それにあたし自身が報いたいと思ってる。……まるっきり空回りかもしれないけど。 「ふふ。誰に似たのか、頑固者ね。ハルのそういうところ、好きよ。母さんも本気でさっきのをお勧めしたい訳じゃないわ。ただ、自分のやり方に素直なことと、自分の気持ちに素直なことは、時々反比例するのよね」 何故だか、こんな会話をあたしは思い出していた。 * ハルヒは約束の30分前には来ていた。というのは、俺が着いたのが30分前だったからだ。本当のところ、こいつが何時からここにいたのかはわからん。1時間前ではないと思う。1時間前に俺が来たときは、こいつの姿はなかったからだ。ああ、言いたいことはわかる。そろそろふたりとも、待ち合わせには時間通りに着けば良いのだと学んでもいい頃だろう。 「はぁはぁ。 おそい、罰金!」 息切らせて何言ってるんだろうね、こいつは。 「で、どこ行くの?」 二人分の切符を買い、俺たちは、いつも街へ出掛ける時とは反対方向のホームへ向かった。 「そういや、おまえ、親のこと、『親父』『母さん』って呼んでたな」 「それが何?」 「いや、何でもないが」 そう、本当に何でもないことなんだが。 「そう。で、あんたは?」 「うちは、『父さん』『母さん』だが」 「まあ、あんたが『パパ』だ『ママ』だって言ってた日には、この手で地球を壊したくなるわね」 「やめてくれ」 頼むから。 「何言ってんの?」 「おまえこそ、パパ、ママって柄じゃないだろ?」 「うっさいわね。……小さい頃はそう言ってたみたいだけど、物心ついたら変わったわ」 「何故だ?」 「まあ母さんは『ママ』でもいいと思うけどね。……あんたも会ったでしょ、うちの親父」 「ああ」 「あんた、あれを『パパ』なんて呼べると思う?」 「……無理だ」 いろんな意味で。 「めずらしく意見が合ったわね。ま、そういうことよ」 そう言ってハルヒは「ふう」とため息をついた。 「どういう訳か、あんたのことは気に入ってるみたいだけど。まったく、どこがいいのかしらね」 全然分からんが、あの人を敵にまわすよりは数百倍ましな事態だってことは俺でもわかる。いろんな意味でな。 * あたしたちが降りたのは坂の多い街の駅だった。というより、街自体が坂にあると言った方が正しい。 果たして、それは普通のデートだった。 あたしたちは並んで歩き、時にはかわるがわる手を引いて、バカな言い合いをしながら、お店をひやかし、ハイスコアを塗り替えたり、小さなぬいぐるみをゲットしたり、ご飯を食べたりした。 「おじさん、大盛りちょうだい。ツン抜きで」 「ひょっとして、つゆ抜きか?」 「うっさい。わざとよ、わざと」 「わざとはいいが、いつも通りの『ツン』だぞ。正直、その方が何故だか安心するが」 「あんたを安心させるようじゃ、あたしもおしまいよ」 こいつは、ほとんどいつも通りに見える。いつも通りにやる気なさげで、それはそれでむかついたけど、ほっとしたのも事実だ。そして、いつもなら、さすがのこいつでもしないような失敗をいくつかしでかして、あと普段なら聞いてなさそうで聞いているあたしの話を、何を考え込んでるんだか、何度か聞き逃して、そういうなんでもない出来事があたしの気分を少しだけましにした。 * 「この店、まだあったのね」 「覚えてるか?」 「お父さんに会ってから、忘れた思い出はひとつもありませんよ」 「……君、あの月を彼女にプレゼントしたいんだが」 「グラスをお持ちます。ラ・グランド・ダムの1985年でよろしいでしょうか?」 「結構。……母さん、当たり年だ」 「ええ。今の方は?」 「ああ、あのオーナーの娘さんなんだ。オーナー、亡くなってな。この店も人手に渡ったんだが、なんやかんやで、彼女が継ぐことになった」 「『なんやかんや』の解決って、お父さん得意だものね。時々いつ仕事してるんだろうって思うけど。……ほめてるんですよ」 「わかってる」 「それで今日はお祝いなのね。3人で来ようと思ってたの?」 「ガキに飲ませる酒はないが、シャンパンぐらい付き合わせても構わんだろ」 「お月様、ほんとはハルにあげたかったのね?」 「そんな役は彼氏に譲るさ。アホ娘には『頭になんか湧いてんじゃないの?』と言われるのがオチだ」 「次は4人で来れますよ。シャンパン・グラス越しに月、ってルビッチの映画?」 「ああ、『極楽特急 Trouble in Paradise』(1932)だ」 「何に乾杯します?」 「バカ娘のあわれな彼氏に」 「じゃあ、お父さんのアヒル口に」 * そうしているうちに、あっという間に日が暮れて、街に夕闇が訪れた。あたしたちは肩を並べて、今日何度もそうしたように、ゆっくりと坂を上った。 夕食は、とても小さなレストランで、こいつが選んだとは思えないほど趣味がよく、料理もおいしかった。 あたしたちからすれば、祖父にあたるくらいの歳に見える人が、絵に描きたくなるような所作で給仕をしてくれた。料理が終わって挨拶に来た女性が料理長(シェフ)で、長年別のところで働いていたが、数年前ようやく二人だけでこの店を始めたのだと話してくれた。二人は夫婦だった。 「よくあんなお店、知ってたわね」 「探したんだ。ハルヒ、おまえの母さんの話をしてくれただろ?」 「え?ああ、母さんが若い頃、小さなレストランをやってたって話ね」 「そういうのがいいな、と思ってな」 「そうなんだ」 「ああ」 * 「お父さん、キョン君を気に入ってるのね」 「どっちかっていうとニガ手なタイプだけどな。ありゃ普通の奴だろ?」 「ふふ。そうね」 「右も左もわからなくて、いきがってた若い頃な、自分じゃ危ない橋も渡ったし、それなりに甘いも酸いもかみわけたと思ってたバカの鼻っ柱を折ったのは、ああいう奴だ」 「……」 「10回やれば奇策を弄するこっちが8,9回は勝てるだろうがね、ああいう奴に本気になられたら最後の1回は負ける。こっちは、それが致命傷になる。だから歳とって知恵がついてからは、6回勝てたら引き上げて、あとの勝ちは譲ることにしてる。譲られた勝ちでも、ちゃんと受け取ってくれるんだ。あいつらにとって大事なのは勝ち負けじゃないからな。勝ち負けでないものの価値をちゃんと知ってるというか」 「ハルに本気になってくれる人がいて、よかったわ」 「いなけりゃいないで、かまわんがな。母さん、ありゃ、ちょっと美人に育ちすぎたぞ。惜しくってたまらん」 「ふふ、親バカね」 「バカ親父だよ」 「めずらしく酔ってますね。こういうのも楽しいわ」 「これくらいの酒で酔うものか。ちょっと夜景が揺れてはいるが」 「はいはい」 「だが酔ってるのは俺じゃない」 「ん?」 「夜の方だ」 * 最後にあたしたちは、坂の上の洋館がある通りに出た。 「ここなんだが……」 「へえ、あんたが選んだにしちゃ、ずいぶんマシなところね。泊まれるの?」 「この洋館だけはホテルになってる。というか元々そのために建てたもんらしいが……」 「そう。なにしてるの? はやく行くわよ」 「おい、ハルヒ」 「入り口に突っ立ってちゃ、いい迷惑よ。話があるなら内で聞くわ」 部屋は予約してあった。週末の、こんないい場所なら当然だろう。 予約までして、女を連れてきて、それをまだ何を迷うのだろう。あんたがそんなだから、あたしはこんなに不安なのに。わかってんのかしらね、このバカ。 「おい、ハルヒ」 なによ。 「つれてきた俺がこんなこと言うのは、おまえのいう『失礼』ってやつだと思うが、……おまえ、わかってるのか?」 あたしは激高した。気づくとこのバカのえりもとを絞め上げ、ぶん投げようか絞め殺そうか、そのどちらでもできるよう、腕に力をこめた。そして、どちらかを決めてる途中で、やっと声が出た。 「あたしはあんたとちがってバカでも暇人でもないの! 女をホテルに連れ込んで『わかってるのか』ですって? ふざけんのもいいかげんにしろ!! あたしはね!!」 だけど、襟をつかんだのは失敗だった。両手がふさがってしまう。顔を、目から流れ落ちるものを、隠せやしない。 「……あ、あたしは、あんたと、そういうことになっても、いいと思ってる」 どれだけの時間、泣いていたのかわからない。 気づくと手を放して史上最低のバカの胸に額をつけていた。顔を隠そうとしたのだと思う。 バカはあたしの背中に手をまわして、ぽんぽんとあやすようにしていた。でも、今欲しいのは、こういうやさしさじゃない。どうして何も言わないの? あたしの一世一代の告白を何だとおもってるんの? 女に、ううん、あたしにここまで言わせておいて、何でこいつは黙っていられるの? こいつはバカだ。救いようがない阿呆だ。 誰かの声がしたような気がして、あたしは我に返った。次にしたことは、自分の体をこいつから引きはがすことだった。そうして、こいつの顔を覗きこんで、その目を見た。目の中に顔を真っ赤にして泣きはらした女が映っていた。 「ハルヒ?」 名前を呼ばれて理解できた。目の中に映っているのはあたしだ。それから、今こいつはあたしにやさしくしてるんじゃない、あたしがこいつに甘えてるだけなんだ。 こいつはあたしの意思を「尊重」しようとした。あたしはそれを「優柔不断」だと思って怒った。こいつがあたしに、この「大切なこと」を決めさせようとしてると感じたから。そのあたしは、こいつに決めさせようとして、そこから逃げたと、なじっているのだ。 一気に冷えた頭は猛スピードで考え始めた。あたしはこいつをどうしたいのか?こいつとどうなりたいのか?そのためになにをやったのか?やろうとしたのか?こいつはあたしにとって何で、あたしはこいつにとって何なのか?あたしに決められるのはどれで、決められないのはどれか?何故このどうしようもないバカのことを、わたしはこんなにも好きなのか? 「……まだ、あたしのターンよね?」 違ってても、あんたの沈黙を1パスとみなすわ。それと、こいつはあのアホキョンのニブキョンよ。へたに「手加減」して「期待」した、あたしが間違ってたのよ。話して通じる相手じゃないと知ってたわ。まさか、ここまでとは思わなかったけどね。だったら手加減抜きで、やるしかない。本気にさせたあんたが悪いんだからね!覚悟しなさい! 「耳かっぽじってよく聞きなさい! 『あんたとそうなってもいい』って? 冗談じゃないわ! あんたじゃなきゃ嫌! あんたじゃないと駄目! 今日のこと、あんたが誘ってくれたとき死ぬほどうれしかった。今日一日、おかしくなりそうなくらいドキドキしたけど、生まれてから一番ってくらいに幸せだった。自分が自分じゃなくなっちゃいそうで、一日中、ううん、あんたに会ってから、あたしはずっと不安だった。でもそんなことは、もうどうだっていいの。あたしはあんたが好き。もう、どうしようもないくらい。言えっていうなら、100万回だって言ってやるわ。あたしはあんたが好き! あたしはあんたが好き!!」 体中の酸素を使いきって、あたしは息が続く限りまくしたてた。もう駄目だ。酸欠と恥ずかしさとで死にそう。いや、死んでやる。キョン、あたしが死んだら、お墓はいらないわ。鶴屋山の、この町が見下ろせるあの場所に立って、一年に一度でいいからあたしを思いだして泣きなさい。それから・・・。というバカな心の声は、あの「やれやれ」と言ってるみたいなため息に中断した。 「おまえにはかなわん」 って、今何か言ったわ。よくわからない。怖くて顔が見られない。足に力が入らない。 ちょっと、部屋が傾く、床が近づいて来……。 「ハルヒ!」 呼び止められ、抱き止められた。一瞬、気が遠くになって、向こう側が見えた気もするんだけど。どうやら、あたしには、まだこの世ですることがあるらしい。そうだよね、キョン? 「おい大丈夫か?」 「ちょっと酸欠。今、少し天国と天使が見えたわね」 「告白して失神する奴があるか」 「だったら……少しは、普段から、やさしくしなさい。危機一発じゃないと助けに来ないヒーローなんてお呼びじゃないわ」 「呼ばれなくても、ずっとそばにいてやる。こんな危なっかしいやつ、放っておけるか」 「あんた、生意気よ。ちゃんとあたしに惚れてるって言いなさい」 「ああ、惚れてるさ。会った時からずっとだ。何度押し倒そうと思ったかわからん」 「へたれキョン。エロキョン」 「見た目も頭も、性格以外は最高で、道行く男どもは、みんなおまえを見る。俺がどんな気持ちだったか分かるか?」 「バカじゃないの? あたしはあんた以外、目に入らなかったわ。集中力を欠いてるのよ。あたしの気持ちに気づかなかった当然の報いね」 「おまえこそ、俺の気持ちを信じなかったくせに。それから、俺にも言わせろ」 「溜めこんで、それ以上バカになったら困るから、特別に聞いてあげる」 「ハルヒ、おまえが好きだ」 「おそい!! どれだけ待ったと思ってんの?」 「……人の告白に駄目出しするなよ」 「これはあたしの恋路よ。誰の文句も受け付けないわ」 「俺の恋路でもあるだろ。この唯我独尊女!」 「ま、惚れた弱みもあるし、聞くだけ聞いたげる。次!」 「おまえが世界で一番好きだ!」 「比較の問題じゃないでしょ。次!」 「俺にとっておまえみたいなめちゃくちゃな奴は宇宙でたった一人だ!」 「長い!それに今は『ツン』はいらないの!」 「そういうおまえの態度はどうなんだ?」 「うるさい!次!」 「ずっといっしょにいてくれ」「あんたがそばにいてくれるんじゃなかったの?次!」 「おまえがいない人生は考えられない」「いっしょにいるだけじゃ駄目よ!次!」 「おまえの笑顔がずっと見せてくれ」「あたしが泣いたらどうすんの?次!」 「俺を逃がしたら、これ以上の男は現れないぞ」「それはこっちのセリフよ!次!」 「俺にはおまえが必要だ」「あんただけじゃない!次!」 「愛してる」「気持ちだけじゃ駄目だって言ってるの!次!」 「おまえは俺が守る」「無理!」「そうだな」「そうだな、じゃないでしょ!次!」 「付き合ってくれ。断られても、この言葉は二度といわない」「それじゃ脅迫よ!次!」 「俺のファーストレディになってくれ」「オバマか?次!」 「結婚しよう」「ちゃんと手順を踏みなさい」「そんな普通のことでいいのか?」「じゃあ、かけ落ちしてあの親父から逃げきれるの?」「無理だ」「次!」 「駄目だったらクーリングオフしてくれ」「笑いもボケもいらない。次!」 「はぁはぁ。……なんでそんなセリフがポンポン出てくんのよ?ヘタレのくせにスケコマシね」 「はぁはぁ。……おまえが言わせてるんだろうが。日ごろの努力の賜物だ。ずっと考えてりゃこれくらい出てくる」 「へー、あんた、そんな努力してたんだ?ずっと考えてたの?」 「……」 「そこで黙るから、あんたはヘタレなのよ」 「やれやれ。もう言葉は打ち止めだ」 「なにす……うぷ」 こいつの唇があたしの口をふさぐ。ようやく、やっとのことで。ほんと手が掛かる。本気であたしに魅力を感じてるのかしらね。 「ムードないわね、あたしたち」 「そんなものは、どうにでもなる」 「……ちょっとは言うじゃない」 「惚れなおしたか?」 「言っとくけど、恥ずかしいセリフは、あたし以外には禁止だからね」 今度はあたしがこいつの口をふさぐ。 * 事が終わって、あたしたちは眠り、目覚めた。 世界は相変わらず退屈でままならなくて、あたしたちは相変わらず不器用で素直じゃなくて、そして一緒だった。 「……ほんとよく寝るよな」 「……何よ、最初にダウンしたの、あんたの方じゃない。その間抜け面見てると、こっちまで眠くなったのよ」 「ふう、でも悪くないな」 「そうね、悪くないわ。おはよ、キョン」 「おはよう、ハルヒ」 それから、お互いに腕をまわして体温を確かめ合った。その心地よさにまどろみながら、あたしたちはもう少しだけ眠ることにした。 * その後の事で、語るべきことはあまりない。 遅い朝食を食べ、坂を降り、バカな言い合いをしながら駅へ向かって、電車に乗り帰途に着いた。途中、母さんの「朝帰りうんぬん」の発言を思い出したので、こいつに振ったら、予想以上の狼狽ぶりだったとか、それを見て大笑いしてやったとか、どうでもいい話だ。こんなことでは、今回のあたしの貸しはちっとも減らないしね。もう一生かけて回収してやるしかないわね。 そういう訳で、あたしは大いにしかめっ面をして家のドアを開けた。 「おかえりなさい、ハル。 ん、どうかしたの?」 「どうもこうもないわ。あいつに何か期待する方が間違ってんのよ」 「何かって、何が?」 「何もかもよ! まったく、あたしだったから、よかったようなものの……」 「あら、よかったの。よかったわね」 「よくないわよ! まあ、よくなくなくもなかったけど……って何言わせるのよ!」 「ふふ。お父さん、ドンペリ入りまあす!」 「な、何言って……げ、親父、どうしたの、その顔? 縦線入ってるけど」 「ああ、おかえり……」 「死にそうね。ちょっと大丈夫?」 「ああ、おかえり……」 「駄目だ、こりゃ。ねえ、母さん、何かあったの?」 「私たちは、何もなかったわよ」 「なんか母さん、今日、ちょっと親父入ってるわよ」 「だって、お父さん、あの調子だもの」 「その分、母さんがご機嫌なのが、少しこわい」 「ほら、ハル」 「ドン・ペリニョン! しかもロゼ?」 いくらするのよ? 「ホストクラブじゃあるまいし、何十万もしないわ。子供が生まれた年のお酒を買っておいて、っていうのが昔流行ったのよ。それにハルの生まれた年はシャンパーニュの気候も、1990年ほどじゃないけど、申し分なかったし。こういう年にできたワインは、置いておいて後で飲むのが良いの」 いや、それにしても、お酒じゃないような値段するんじゃないの? 「ほんとはね、夕べお父さんのお友達がやってらしたお店に行ったの。港が見下ろせる、とても景色のいい場所でね。そこは、そのお友達のおじいさまが日本に来られた時に建てられた建物で、お父さん、その家を買い取ってお店にする時にお手伝いしたみたい。ちょっと大変な交渉事って、お父さん、得意中の得意だから。それで、我が家に娘が生まれた時に、お祝いにって、そのお友達が下さったのがこのシャンパン。ね、ちょっといい話でしょ?」 「うん」 それでも、すごい額のお祝いだけど。 「お友達、亡くなられてね。その建物も手放すことになったんだけど、また買い戻して、今度はその娘さんが引き継がれることになったの。お父さん、今回も『お手伝い』したらしいわ。そのお祝いが夕べ、そのお店であって」 「そうだったの? ごめん」 「いいのよ。私にもお店に行くまで、お父さん、何にも言わないんだもの。それにお店はいつでも行けるけど、あなたのは一生に一度のことですもの。そのかわり、今度は4人で行きましょ。母さん、ピアノ弾くって約束しちゃたし」 「え、ほんと?」 「ええ。素人に毛が生えたようなものだけれど、一応練習しなきゃね。天国にいる先生に恥かかせられないわ。そ・れ・と、今日はお酒に合った豪華な夕食にするわよ。母さん、準備にかかるから、お父さんをよろしくね」 よろしく、って言われてもね。おーい、親父、生きてる? 「ああ。……あいつとは最近どうなんだ?」 最近と言っても、さっき別れたばっかりだしねえ。 「ぐふ!! ……娘、ど、どこでそんな荒技を?」 なに言ってんの? アタマ、大丈夫? 「以前なら『アイツって誰よ?』的なツンデレ返しで、いくらでもツッコむ隙があったのに」 かあさん、これ、もう駄目みたい。新しいの出そうよ。 「うう、せめてとどめを刺してくれ」 「ハルヒと親父2 ー おとまり」から削除されたラブシーン ハルヒと親父2その後 一周年一周年 その1 一周年 その2 一周年 その3一周年 その後ー腕の腫れ、氷の癒し
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4091.html
柔らかな日差しがカーテン越しに伝わり、部屋内をほのかな暖かさで包み込む。 半時ほど前に摂取した昼飯が、ちょうど腹の辺りでゆっくりとぐるぐる蠢いている。気がする。現在、俺の体内ではそれらを消化するのに全力を尽くしていて、全エネルギーが腹に供給されている。 そのためか、余分なエネルギーは一切無い。腹以外には供給されていないのだ。それは俺の思考能力に対しても例外ではない。時機に俺の脳内に残存するエネルギーは底を突く。そうなれば、強制的に夢の世界へと誘われることとなり、気付いたときには、部屋内はオレンジ色で満たされていることとなるだろう。 うん、それも悪くない。いや、是非それを歓迎したい。眠ることは人間にとって必要不可欠なものだ。そのための条件はばっちり揃っている。まず、暖かい部屋。次に満腹の状態。そして、午後からは何もすることがないという素晴らしい休日。 惰眠を貪るには絶好の機会だ。そうと決まれば、早速寝よう。善は急げ、だ。 俺は嬉々としてベッドに潜り込む。目を瞑れば、直ぐにでも飛び立って行けそうだ。 「おい、今から出かけるから支度しろ」 ……萎えた。なんかすっごい興を削がれた。 ノックも無しに部屋に入ってきた親父は藪から棒に言う。くそ野郎め。 俺は上半身だけを起こし、アホな侵入者を睨む。 「いやだね。一人で行け。くそ親父」 捨て台詞を残し、俺は再びベッドの中へと潜り込む。ふん、馬鹿馬鹿しい。 親父はそれを好く思わなかったのか、大きく鼻息を漏らすと、つかつかと俺の方へと歩み寄ってきた。そして、何の躊躇も無く、掛け布団を思いっきり剥いだ。 「いいから出かけるぞ。さっさとしろ。馬鹿息子」 俺は再び睨みながら言う。 「いやだと言ってるだろ。面倒くさいんだよ。布団返せ!」 「いいのか? そんなこと言って」 親父には何か案があるらしい。大したことでもないくせに。 「どうなるんだよ?」 「来月、再来月、そのまた次の月までお前の小遣いは無しだ」 「……」 「どうだ? 来る気になっただろ? なら、早く準備しろよ」 親父はそう言い残し、部屋から出て行った。 くそっ。納得いかねえ……こんな単純な手なのに……。 俺は渾身の力でベッドを殴った。 渋々、親父に付き添うことになり、俺は簡単に身支度を整える。準備を終えると、すぐさま俺たちは出発する。 出発するとき、お袋は俺たちのことをかなり訝しんでいたが、親父が適当に誤魔化し、お袋は家に残ることとなった。 どこに行くのか知らされてないまま、出発して何メートルか歩いた後、親父に訊いた。 「何でお袋を家に残したんだ?」 「ん? ちょっとな」 訳も分からないまま、駅に到着し、電車に乗り込んでから、親父に訊いた。 「いったい何処を目指しているんだ?」 「ん? ちょっとな」 電車から降り、また歩き出してから、親父に訊いた。 「目的は何なんだよ?」 「黙って付いてこい」 親父は俺が何を訊いても答えてくれない。息子を連れ出すなら、せめて理由くらいははっきりしてくれ。出し惜しみしてんのかよ。このくそ親父。 せっかくの休日が勿体無い。空は雲一つ無く、鮮やかな水色が広がっている。生暖かい風が周りの草木をそよそよと揺らし、ついでに俺の頬をも撫でていく。先月には目にすることの無かった、白や黄色のリボンもひらひらと宙を舞っている。 忌々しい。何故、俺はこんな良い日にむさい親父と二人で歩いているのだろうか。これが数日前にあった綺麗な女性なら至福の時間を過ごすことができたのに。昼寝という対価を払った行為が無駄だ。今からでも遅くはない。Uターンして家を目指そうか。……向こう三ヶ月が死活問題だな。 やれやれ。不条理なもんだ。 どんどん道行く人々が増えてきた。目的地は都会の方にあるらしい。 頭の中で親父に対する罵詈雑言が原稿用紙十枚分を軽く超えたところくらいでその張本人が声を掛けてきた。 「着いたぞ」 それしか言うこと無いのかよ。「やっと着いたな。疲れただろう。ジュースでも買ってやるぞ」みたいに、気を利かせろ。まったく。 俺たちが到着した場所はここら辺では一番大きなデパート。ここで親父の目的が買い物であることが分かった。しかし、何が欲しいのかはまだ分からない。 「何を買うつもりなんだ?」 「それを決めるためにお前を連れてきたんだ」 はっきり言おう。俺は親父の言ったことを解することができない。 「はあ? 何で俺がそんなことしなきゃいけないんだ?」 「実はな――」 親父が言うには、もうすぐ親父とお袋が初めて出会った日が近いのだと。毎年、何かしらプレゼントを贈っているのだが、あのお袋だ、親父の贈り物に対して苦情だらけで、やれセンスが悪い、やれこんなんじゃ宇宙人が寄って来ないなど、もう滅茶苦茶らしい。 思い返してみれば、過去にそんな場面を何度か見たことがある。確かに、親父は不平不満を罵られていた。「来年こそは……」、とか言っていた気がする。 しかし、それには続きがある。親父は分からないだろうが、プレゼントを貰ったときのお袋の顔は本当に幸せそうだった。若造ながら思う。あれはきっと照れ隠しなんだと。証拠にそのプレゼントの数々は家のある場所に大事に保管してある。 まっ、そんなことを親父に教える気はさらさら無い。黙っていた方がおもしろいからな。 「――と言うことだ。今年こそはハルヒを見返したいんでな。お前も協力してくれ」 そういう話なら喜んで協力しよう。親父のためならまだしも、お袋のためだ。ここで協力しない訳にはいかないだろう。 「分かった。力になってやるよ」 そう聞くと、親父は満足したらしい。そのせいか、こんなことを付け加えた。 「結果次第では、来月の小遣いは三倍だな」 俄然とやる気が出る。現金な者だな、俺も。 デパートの中に入り、俺たちは看板を出している様々な店を物色して回る。休日のためか、たくさんの人々でごった返している。 アクセサリー、バッグ、靴などを並べる誰もが名を知るようなブランド店をいくつか見て回る。どの店も一流と言うことで、商品についている名札は頭がくらくらする物ばかりである。 親父に聞けば、行きしなにずっと黙っていたのは予算のことを考えていたのだと。しかし、そんなけち臭い考えも消滅した。予算のことを考えていたからと言って、どうにかなる金額ではない。 少ない予算ながらも買えるものはないかと、男二人であーだこーだ、と言いながら、数々の店を徘徊する。 暫くして、俺はある重大な点に気付いた。タイミング良く、隣にいる親父も気付いたらしい。もっと早く気付くべきだったな。 「親父。一つ訊いていいか。俺を連れてきた意味ないだろ?」 「奇遇だな。俺もそう思い始めていた」 やっぱりそうだよな。曲がりなりにも、俺と親父は親子だ。ちゃんと血が繋がっている。そして、俺はよく親父に似てる――内面的なとこだ――と言われる。お袋も言っていたし、たまに遊びに来る長門さんや古泉も言っている。数日前にも言われた。 そんな似たもの同士が意見を出し合って意味があるだろうか? 答えはNOだ。 「人選ミスだな」 「そうだな。どうするか?」 「お袋に直接電話して訊いたらどうだ?」 「馬鹿野郎。そりゃ本末転倒だ」 どちらが始めるとも無く二人とも自然に笑い出してしまう。とんだ間抜け親子だ。 「古泉にでも訊いたらどうだ?」 「一応『さん』を付けろよ。まあ、古泉か。喜んで教えてはくれそうだが」 端から見れば、可笑しな二人に見えただろう。本人がそう思っているんだから仕方ないな。こういう馬鹿げたことは嫌いじゃない。 そんな状態で歩いていると、一つの小さな店を見つけた。 その店の両隣は有名ブランド店で、素人目に見ても肩身の狭い思いをしている気がする。店内を覗き込んでみるが、客らしき人はいない。主に装飾品を扱っているようだ。 「親父、この店気になる」 なんとなく。なんとなくこの店が気になったのだ。理由は分からない。不思議が俺を呼んでいるんだ、とでも言えば、お袋は歓喜したに違いない。 「んー、見てみるだけだぞ」 親父はあまり興味が無い。というか、俺みたいに不思議電波を受信しているわけでは無さそうだ。 店内に入ると、今まで居た世界とは雰囲気が違う、どこかの歯車がずれているという気がした。セピア色の光が照らし、聞いたことのあるようで聞いたことのない静かに心の奥底を刺激するBGMが流れる空間。 元の世界とは隔絶された空間。自分でも妄想甚だしいと思う。そんな世界が存在するはずがない。春の陽気でついに呆けちまったか 中をぐるっと一周する。小さい店なので数分足らずで全てのものに目を通すことができた。どの商品も手が出ないほどの金額ではない。むしろ、手頃な価格だ。 お袋が満足できる贈り物。それを探し出すのは困難なことではなかった。 シックスセンスと言うのだろうか。脳裏に一閃が起こったんだ。敢えて、擬音を付けるならピキーンだろう。トゥクティンも有り得るかもしれない。 「親父、これ良くないか?」 俺は隣に居た親父と同じ商品を見ながら言う。 「ああ。それだったら、ハルヒも納得するだろうな」 親父もうんうんと首を縦に振る。 「値段もそんなに高くないし、何より絶対にお袋に似合うはずだ」 「これまた奇遇だな。俺もそう思ったよ」 「当たり前だ。俺らは親子だからな」 一瞬、何とも言えない空気が流れる。しかし、居心地は悪くない。 「そうか。親子だもんな。考えることは一緒か。よし、じゃあこれにしよう。二人が納得して推薦するんだ、これ以上のものは存在しないはずだ」 親父はその商品を手に取り、精算するためにレジへと持って行った。 親父の表情は今年こそ、という何だかよく分からない意気込みが感じられた。見ていて、むず痒い。 お袋もきっと喜んでくれるはずさ。今からでも、幸せそうに笑うお袋の姿を容易に想像することができる。そして、それに照れるだらしない親父の姿も付属品みたいに付いてくる。 優しいママに、頼もしいパパ。そして、元気な子供。 理想のような家族ではない。おっかないお袋、だらしない親父。そして……俺はいいや。 でも、悪くはない。 俺はこういうのが好きなんだから。 こんな状況だが思ってしまう。俺はこの家族の一員になれて幸せだと。 デパートでの買い物を終えると、俺たちは足早に家を目指す。なんでも、さっきから引っ切り無しに親父のケータイが泣き叫んでいるからだ。もちろん、それはお袋から。 見た目は天使のように美しくても、怒ると悪魔ですら逃げ出してしまうほどの人だ。俺も、当然親父もそのことは分かっているので反抗しようとはせず、ただただ素直に足を動かすのであった。 歩いているのか、走っているのか微妙なペースで、やっとこさマイホームに到着する。僅かに開けられた窓から食欲をそそる良い匂いが出ている。急げと――ケータイを鳴らして――言ったのは、このためか。 「ただいまー」 親父に続き、俺も家の中へと入る。それと同時に、台所の方から窓ガラスを割る勢いの大きな声が聞こえた。 「遅いわよ! どこ行ってたのよ! ご飯が冷めちゃうじゃない!」