約 818,100 件
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/211.html
親父の英会話 Lesson 2から 知る英語 オヤジ 日本人が英語だと、やたらと口にしたがるが、絶対に使っちゃいかんフレーズがある。 キョン なんですか? オヤジ これだ。 I don t know. 知りません/わかりません。 知ったかぶりするより、知らないと素直に表明するのが美徳だと考えてる連中もいる。逆にこういったらバカに見られるから慎めとか、いろいろ言う奴がいる。 が、おれに言わせると、この言葉は、相手と社会と世界に対して完全クローズのポーズを決めこむ事に等しい。ひきこもりイングリッシュだ。 オヤジ 人間、わからないことがあるのは当たり前だ。まして異文化に入った最初のうちは、分からん事だらけだろう。だから、I don t know.ってフレーズは必ず、しかも頻繁にアタマに浮かぶ。そんなときはこう置き換えろ。 What? なんだ? ここからバリエーションは広がる。が、最初はとにかくWhat?でいい。 オヤジ 見知らぬものを見たとき、相手が何いってるかわからん時、I don t know.と浮かんだら、とにかくWhat?だ。 これだけで、発言のターンは相手にまわる。攻守を入れかえるマジック・ワードだ。しかもこれを言われたら相手には説明責任が生じる。 オヤジ 世界で最初に和英辞典をつくったヘボンという医者は、「なんといいますか?」だけを繰り返すことで、辞書をつくった。What?はさっきのいい方で言えば、相手と社会と世界に対して「回線(ポート)を開くこと」、オープンな態度をとることだ。What?が口について自然に出てくるようになったら、 What s this? これは何だ?……モノの質問 What do you mean? おまえ、何が言いたいんだ?……コトバの質問 も使っていけ。 オヤジ モノの質問も、ただ相手に「モノの名前」を言わせるだけじゃなく、さらにつっこめ。 What s this? こりゃなんだ? What do you use it for? 何に使うんだ? How do you use it? どうやって使うんだ? When do you use it? いつ使うんだ? Where do you use it? どこで使うんだ? How do you spell it? その語はどんなスペルだ? How do you pronounce it? その語の発音はどんなだ? オヤジ 聞けば聞くほど、相手の説明は丁寧になり、覚えたくなるようなフレーズの山と化す。相手youを辞書にしちまうんだ。だから「おまえならどういう/どうするんだ?」という疑問文になっている。 オヤジ 相手の英語が速すぎて聞き落としたときも、 Please say again. もう一度言ってくれ。 なんていわなくていい。というかもう一度言ってもらっても多分わからんだろう。 一つ一つの英語の音がわかるのに、発音慣れしてるのに、「聞けない」のは、早口でついていけないというより、相手の話す分量が多すぎて、こっちのワーキング・メモリから溢れだしてるんだ。だから、 Please more slowly. もっとゆっくり頼む といっても、解決しない。 オヤジ ここでもWhat?だ。 What do you mean? おまえ、何が言いたいんだ?……コトバの質問 といえば、大抵は、まあ普通に気の効く相手なら、もっとコンパクトな表現に言い換えてくれる。 だらだら喋るのが好きなタイプなら、質問で、相手の話を、こっちが飲み込める大きさに刻んでいく手もある。 キョン なんというか、親父さんらしいですね。 オヤジ ちがう。会話は二人でやるもんだ。わからないなら、わからないなりに参加して協力し合って、会話をつくっていくんだ。そのためには、分からない方は、わからないなりの質問をする責任がある。I don t know.がダメなのは、最初から「二人で会話を作っていく」責任を放棄して、参加すらしようとしないからだ。 オヤジ 質問で、相手の話を、こっちが飲み込める大きさに刻んでいくには、たとえばこういう質問を使う。 What s your point? おまえの話の要点(ポイント)はなんだ? What s the evidence? 根拠となる事実はなんだ? What supports your words? なんでそんな事が言えるんだ(何がおまえの主張を支えてるのか)? オヤジ 「主張って何て言ったっけ? claimだっけ」「発言はなんだっけ?」と迷ったら、とりあえず相手の言ったことなんだからyour wordsで構わん。こういう基本語はチェックしとくといいな。意味の幅が広くて、文脈ごとに相手が意味を汲み取ってくれる、日本人なら中学英語で習うような単語だ。習うのは最初の方だし、何度も出会うから知ってる気がするから辞書でも引かない。おまけに意味の幅が広いから辞書の説明は長いから、思わず読み飛ばす。この手の単語の項こそ熟読すべきだ。例文は全部暗記しろ。未知の事態に遭遇しても、この手の基本語を2〜3語組み合わせれば、なんとかしのげる。 いまの例ならwordとかpointとかだな。 オヤジ 慣れてきたら What s your (second / last ) word? 2番目に/最後に何て言った? What s "むにゃむにゃ".? 「むにゃむにゃ」(と聞こえてたのを口マネして)って何のことだ? あと知らない言葉(新語や専門用語)が出てきたときは、 How do you spell it? その語はどんなスペルだ? と聞け。英語は同じ発音でもスペルはいろいろだ。聞くのは変じゃない。だいたい名前なんてスペルを聞かなきゃわからんぞ。だからWhat s your name? と聞いて、スペルを聞かないのは、むしろ失礼なくらいだ。相手だって聞いてくるぞ。 スペルが分かったら、平気な顔で How do you pronounce it? おまえさんはどう発音するんだ? と聞いて、相手の発音を真似てみろ。違ってたら直してくれる。とくにガキは発音にうるさい(スペルは分かってないことも多いが)。現地のコトバに慣れる最上の方法は、幼稚園でバイトすることだという話もあるくらいだ。ちょっともののわかった姑なら、英語がいまいちの日本人妻を、そういうところに放りこむ。 オヤジ 「ナントカナントカ car」と聞こえたとする。その場合は、部分的にわかったところを、Whatをつけて返せ。 What car? なんて車だって? 相手の手間もはぶけるし、こっちも何もわかっちゃいない訳じゃないことを示せる。 電話を書けてきて、ファースト・ネームしか名乗らん奴がいる。一応人間なんで、whatじゃなくwhoを使ってやれ。 This is Bill. ビルです。 Bill who? なんてビルだ? Bill Brown. ビル・ブラウンだよ。 最初のうちは、とにかく知ってる単語だけを聞け。どっちにしろ、知らん単語は雑音にしか聞こえん。 親父の英会話 Lesson 4へつづく
https://w.atwiki.jp/nicorap_lyric/pages/564.html
[ intro ] この道、今までの先に 背中越え、屍を走り、いつか消えて [ verse1 ] 生まれてこのかた何度目の春 親父の背中ならば今もろくに越えれん 最強と信じていた親父の心は 病に侵されたとこで未だ男だ 賞味期限の切れた炭酸みてーに 俺達も泡となって消えるんだ自然に 今も変わらず言い交す 俺の道なら父ちゃんに教わった 真っ直ぐな生き様 ガキのころ遊んでくれた記憶はそれほどない だが紛れもない二つとない俺の親 あんたのビンタは俺の忍耐に変わり あんたの失敗は俺の未来に変わる だからゴメンなんて言うな そんな顔はすんな ヘタレに育った覚え? …いや、つーか 来年も再来年も叶音(かなと)と遊ぼうな そのうち死ぬとか言うな。 たまらんで。ホンマ。 [ hook ] この道、今までの先に 背中越え、屍を走り いつか、消えてチリとなる前に 教えてくれ。この先の旅路。 この道、今までの先に 背中越え、屍を走り いつか、消えてチリとなる前に 叱ってくれ。これからも毎日。 [ verse2 ] 「貧乏暇なし」金になんて負けんて 不自由したかってか?まぁ全然。 親父とおかん、それと兄弟もおってさ それだけでええねん。それだけは本音だ 昔から変わらねー仲間で泣いたり笑ったり 全部がお蔭様で宝です。 何回シバかれたことかも分からんが 頑丈に作ってもろたことで偉いスマンなー どこまで体が悪いか俺は分からん 教える気がないならいいが大事にしろ。馬鹿か? 最近失うことばっかりが多くて あんただけはずっと居てくれ。それで文句ねー 貰った命。その心意気。確かに受け取った。 粋な男の意地。 誇りにしてるでな?自信ならば持っていい。 必死こいて働く親父は格好いい [ hook ] この道、今までの先に 背中越え、屍を走り いつか、消えてチリとなる前に 教えてくれ。この先の旅路。 この道、今までの先に 背中越え、屍を走り いつか、消えてチリとなる前に 叱ってくれ。これからも毎日。 [ hook ] この道、今までの先に 背中越え、屍を走り いつか、消えてチリとなる前に 教えてくれ。この先の旅路。 この道、今までの先に 背中越え、屍を走り いつか、消えてチリとなる前に 叱ってくれ。これからも毎日。 [ outro ] 親子の契り あんたの倅はこんなにでかくなった 貰った命、咲かせてやりましょう 真っ赤な一本桜の狂い咲き
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/231.html
ハルヒと親父2 ー おとまりから 親父 ハルヒ、悪いが、次の土曜の夜、空けておけ。 ハルヒ 悪いがって……、親父、悪い事でもするの? 親父 するか!あとキョンも呼んどけよ。 ハルヒ いったい何なのよ? 親父 1周年だ。 ハルヒ 何が? 親父 おまえらが初エッチしてから。 ハルヒ は? え? って、何で知ってんのよ! 親父 バカ娘、語るに落ちるとはことのことだ。親父を舐めるな。あと言った本人が傷つくようなことを言わせるな。 ハルヒ 勝手にそっちが言ってたんじゃないの! 親父 ああ、そっちじゃない。知り合いの店が1周年なんだ。ほんとは1年前に連れてくはずだったんだが、予定がかち合ったな。 ハルヒ って? あ、母さんが前に言ってたような。あたしが生まれたとき、お祝いもらった? 親父 ああ。今はその娘が継いでるんだがな。 ハルヒ わかったわ。空けとく。 親父 いい心がけだ。そういう娘には、母さんのピアノが聞ける特権がつく。 ハルヒ え!ほんと? 親父 本来、3人で行くところを二人でだったからな。母さんが向こうに気を使ったんだ。 ハルヒ 他の友達、連れて行っちゃいけない? 親父 構わんが、その店終わったら自由解散だぞ。二人っきりにさせてやろうという親父心を汲む気はないか? ハルヒ ないわ。 親父 かわいそうな、キョン。 ハルヒ ほっときなさい! ハルヒ 娘のあたしが言うのもなんだけど、あのピアノは一聴の価値があるわ。 みくる すみません。その夜はどうしても外せない用事が、わたたた 長門 とても残念。 古泉 申し訳ありませんがぼくもなんです。ですが、そう遠くない将来に、また我々も聞く機会があると思いますよ。 ハルヒ へ? 古泉 たとえば、お二人の披露宴など、ふさわしい舞台とは思われませんか? ハルヒ って、な・な・何言ってんのよ、古泉君! 古泉 これは失礼なことを言いました。おや、彼が来たようです。 キョン おーす。なに騒いでんだ? ハルヒ 誰もあんたの話なんかしてないわよ! キョン あ、あのな。誰もそんなこと言ってないだろ。そういうのを語るに落ちると言ってだな…… ハルヒ うっさい、うっさい!キョン、土曜の夜、予定ないわよね?あっても空けておきなさい! キョン ああ。言われなくても空けてあるが。 ハルヒ 何で、空けてあるのよ? キョン こ、ここで言っていいのか? ハルヒ って、何言ってんの、あんたは? あ!あああ! ダメ!言っちゃダメ! キョン なるほど、そういうことか。 ハルヒ そうよ。土曜は夕方くらいにあたしの家に来てちょうだい。4人で一緒に行くから。 キョン どんな格好していけば、いいんだ? ハルヒ 別に内閣発足じゃないんだから、燕尾服まで着る必要はないわ。 キョン そんな服は持っとらん。 ハルヒ 別に普通の格好でいいわよ。お店の方は1周年だけど、あたしたちは食事するだけなんだから。 キョン 普通と言ってもな。土曜の市内探索と、日曜日に二人で出かけるのとじゃ、同じ普通でもおまえだって違うだろ。 ハルヒ あー、もう!分かったわよ。帰りに付き合ったげるから、それっぽい服を選んであげるわ。その方があたしも合わせやすいし。 キョン すまん。 ハルヒ 親父の友達の店なんだし、そんな気をつかわなくてもいいんだけどね。 キョン 親父さんの友達の店だから、気になるだろ。 ハルヒ そうなの? キョン まあな。 ハルヒ ふーん。 キョン なんだ? ハルヒ 別に、なんでもないわよ! オヤジ 母さん、ただいま。 ハル母 おかえりなさい、お父さん。 オヤジ いい匂いがするな、母さん。 ハル母 ええ、そろそろかと思って、お鍋を火にかけたの。 オヤジ ん?夕飯まだだったのか? ハルヒは? ハル母 食べて帰ってくるって。多分、キョン君が送ってくれるんじゃないかしら。 オヤジ でかした、母さん。今日はついてるな。 ハル母 お父さんたら、キョン君と会えるのがそんなに嬉しいのね。 オヤジ 嬉しいとも。感情は素直に表現した方が気持ちがいいな、母さん。 ハル母 いつも、そうしていいんですよ、お父さん。 オヤジ ところがそうもいかん。ツンデレも中年になると複雑なんだ。 ハル母 高校生でも複雑ですよ。 オヤジ さもあらん。土曜日の関係かな、あいつら? ハル母 ええ。着ていく服を選ぶんですって。 オヤジ 服なんか着てりゃなんでもいいのにな。水着を上下間違えて着ても構わんぞ。 ハル母 娘は娘なりに、彼氏は彼氏なりに、思うところがあるんですよ、きっと。 オヤジ うむ。思うだけじゃ済まんからな。母さんのピアノと、キョン付きのディナーのコンボだぞ。 ハル母 それは少し荷が重いかしら。緊張して、とちらないといいけれど。 オヤジ 母さんでも緊張するのか? 軽い感動と新鮮な驚きだ。 ハル母 さすがに、未来の息子の前ではね。 オヤジ うーむ。そう来るか。ちょっと不意を突かれたな。 ハル母 そろそろ部屋着に着替えてきてください。 オヤジ うん。正直言うと、腹ぺこなんだ。 キョン 遅くなっちまったな。 ハルヒ 夕食、食べてきたからね。電話してあるから大丈夫よ。 キョン いや、思ったのは、それじゃないんだが。 ハルヒ じゃ、どれよ。 キョン 玄関のドアを開けてみりゃ分かると思うぞ。多分。 ハルヒ なに、それ? ただいま!遅くなっちゃったわ! ハル母 おかえりなさい、ハル。 オヤジ よお、キョン。ちょっと上がっていけ。そして泊まっていけ。 ハルヒ 親父は玄関から3メーター以上下がりなさい! オヤジ 何故だ、バカ娘? ハルヒ 危険が懸念で心配が適中だからよ! オヤジ 日本語をちゃんとあやつれ。こんなに遅くまで娘につきあわせて、しかも家まで送ってもらって、そのまま返したら、礼を欠くってもんだ。 ハルヒ あんたの存在自体が、礼を欠いてんのよ! オヤジ うまいこと言う。 ハルヒ 去年、あたしが朝帰りした時は、死んだようになってたくせに! オヤジ 娘よ、それはメガンテか? ハルヒ 古いゲームの話題は、わかんないっていつも言ってるでしょ! オヤジ 時事用語で言えば、自爆テロか、と尋ねてる。 ハルヒ だれが自爆してんのよ!? オヤジ 後ろを見ろ。キョンが被弾して、HPが1になってるぞ。 ハルヒ どうしたの、キョン!? オヤジ 素でそこまでとは、我が娘ながら、ハルヒ、おそろしい子! キョン いや、ちょっと不意打ちだったというか。だ、大丈夫だ。 オヤジ 大丈夫って、感じじゃないぞ。キョン、この浮き輪につかまれ。 ハルヒ そんな小道具と小芝居まで用意して! 何考えてんのよ! ハル母 ハル、キョン君のおうちに、さっきお泊めしますと電話しておいたわ。 ハルヒ か、母さんまで? ハル母 こうなるのが、ある程度、予想できちゃったから。ごめんね。 ハルヒ うー。 ハル母 キョン君は夜にカフェインをとると、眠れない方? キョン あ、いえ、大丈夫です。 ハル母 うちも遅い夕食が済んだところなの。じゃあ、お茶を入れるわね。 オヤジ よし、おれが眠れないほど濃いエスプレッソをいれてやろう。 ハル母 お父さんは、頼みたいことがあるの。 オヤジ なんだろう、母さん? ハル母 キョン君の下着その他、お泊りグッズのリストを書いておきました。コンビニまでダッシュでお願いします。 オヤジ 母さん……。 ハル母 ハルだけが可哀想だと不公平ですから、ね。 オヤジ うー。こいつは全然可哀想じゃないぞ。 ハル母 お父さんがはしゃいでまぎらわそうとしてる悲しみは、子離れを向かえた親の特権だと思わない? オヤジ ……違いない。行ってくるか。 ハル母 ハル、ケンカじゃないけれど、あなたたち二人への不意打ちは、これで両成敗ってことで許してね。 ハルヒ わ、わかったわ。でも、キョンのうちは、大丈夫だったの? ハル母 それは信頼してもらうより他ないけれど、キョン君、おうちに電話する? キョン あ、はい、そうします。一応、自分からも連絡しておいた方がいいと思うんで。 ハルヒ この子機つかって。あんたの家の電話番号は#1の短縮でかかるから。 キョン ああ、すまん。……「ああ、おれ。ごめん……大丈夫、心配ないから。……わかってる。ちゃんとするから。ん、じゃあ」 ハルヒ どうだった? キョン 普通だ。あらかじめ連絡はしろ。そちらに迷惑をかけるな、くれぐれもよろしく伝えてくれ、とそんな感じだった。 ハルヒ ……ふう、そう。 キョン なんか心配かけたな。 ハルヒ 別に心配はしてないけど。うちのせいで、あんたが自分の家族とケンカするとか気まずい関係になると、困るから。 キョン おまえは、うちの家族に気に入られてる。おれより信頼されてると思うぞ。 ハルヒ あ、あたしのことはどうだっていいのよ。 オヤジ はあ、はあ。行って来たぞ。 ハルヒ ほんとにダッシュしてきたの? オヤジ おれがいない間に、何か楽しいことがあって見逃したら悔しいだろ。 ハルヒ あんたは子供か!? ハル母 ふふ、ありましたよ、楽しいこと。 ハルヒ 母さん! その2へつづく
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/277.html
親父の英会話 Lesson 9から 英会話が生まれる/世界の分割と移動 会話をするとしよう。 最低2人の人間が要る。 You and I(おまえとおれ)だ。 おれが要る場所とお前が要る場所は異なっている。 I am here. おれはここ居る。おれが居るのはここだ。 You are there. おまえはそこにいる。おまえがいるのはそこだ。 here/ thereの区別が生じると、空間に向きが生まれる。 向きが生まれて、移動が言い表せるようになる。go and comeだ。 これは前に、「動詞の分解」でやったな。 "Go" means "move from here to there". "Come" means "move from there to here". 2人の人間とhere/ thereの区別、そして移動まで生まれた。ここまでのまとめだ。 Come here. or I m going to you there. ここへ来い、でなきゃこっちからいくぞ。 英会話が生まれる/思いを発する おまえが何か言う。なんだかわからない何かはsomethingでいこう。 Something comes from your mouth to my ear. おまえの口から出ておれの耳に届くもの。これだけだと「声」のことなのか「言葉」のことなのか、決められないな。意味がまだ広すぎる。 It came into my mind. まだsayもspeakもない。 だが、とにかくおれのココロに何かがとどいた。言いたいことはわかった、ってことだ。 俺もなんか言い返そう。 I also have an idea, which I want you to know. おれにもおまえのアタマに届いて欲しいもの(=言いたいこと)があるぞ。 Therefore, I give some words to you. だからおまえ宛に言葉を発する。 giveは「動詞の分解」でやったように、「let someone have something」 、 日本語の「与える」よりもっと広い意味がある。 「誰かが持てるように何かをはなす、もしくは放つ」って感じだな。 相手が受け取るかどうか、保証の限りじゃない。 英会話が生まれる/思いを伝える/ねじ込む putは「動詞の分解」でやったように、「cause something be in some place 」 何かがその場所に存在するようにさせる、って感じだな、 さっきの「I give some words to you.」だと、言葉が受け取られるか、いまいちわからん。 しかし I put my idea in your mind. こうなると「相手が受け取るかどうかわからん」なんて甘い話じゃない。 おれの考えをおまえのアタマにねじ込む、って感じだな。 I put my idea into English. 自分の考えを英語にする。 翻訳するはtranslateだけれど、これでも通じる。 というか、イメージとしてあっている。このあたりが基本語の汎用性だな。 「英語」に自分の考えをねじ込んでるんだな。 さて、意思についてのべるためにmakeを導入する。 makeってのは元は前回分解したように bring something into being 何かを存在の域までもっていく ってことだ。だから「つくる」なんて訳語が当てられるが、それよりも意味は広い。 「ある状況を実現する」みたいなことまで含むからな。 I make your words come to me. おれは、“おまえの言葉が俺の耳に届く”ようにさせる。 sayもtellも出てこないが、おれはおまえに、何か言わせようとしてる。 あるいは聞きだそうとしてる。白状させようとしてるのかもしれない。 あるいは何かの通信手段を用意して、とにかくおまえの言葉がおれのところに届くようにしているのかもしれない。これだけだと、意味の広がりがあまりに広いな。 英会話が生まれる/伝え方/書くと話す とりあえず通信手段としては紙に書いた文字、てことにしよう。文字letterも書くwiriteも、まだ出てきてないんでとりあえずsomethingでいく。 紙paperの方は「密輸入」させてもらって、あとは今出たputを使えば、こう表現できる。 You put something on a piece of paper. They are letters. You write them on the paper. ついでに「密輸入」してたwordにも触れておこう。 A word is made of some letters. All word have the meanings. wordが出たんで、putもつかってtellについて触れておこう。 tellは「動詞の分解」でやったように、「to put something in words 」だ。 さっきの「I put my idea in your mind」は、 I put my idea in words. =I tell my idea と考えを一旦言葉に変換して、 I tell my idea to you. その言葉がおまえに届くようにする、って感じになる。 I tell you my idea. とも言えるが、これは話している相手youが明らか(既知の情報)で、my ideaが未知の情報の場合、「未知の情報は後ろに置く」時に使う。 親父の英会話 Lesson 11?へつづく
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/214.html
親父の英会話 Lesson 3から 存在の英語 「〜がある」の言い方 オヤジ 頼む英語と質問する英語をやったから、そろそろこっちからも情報発信できるようにしておくか。頼んだり、質問したりしているうちはいいが、こっちが何か主張し出すと途端に根拠やデータを聞かれる。そんなとき事実を述べるやり方を知っといた方がいいだろう。 キョン そうですね。 オヤジ たとえばだ、「うちの会社には2000人が働いています」なんてのを、おまえならどう英語にする? キョン いきなりですか? えーと、 2000 employees are working in our campany. とかじゃ、ダメですか? オヤジ ダメなことないぞ。従業員employeeなんて単語、よく出てきたな。思いつけない、あるいは、employeeという単語を知らない場合はどうする? キョン えーと……、「中学校で習ったようなよく知ってる単語で、意味の幅が広くて、文脈によって相手が判断してくれる」って奴ですよね。うーん。 オヤジ こういうのは簡単すぎて、却って難しいな キョン あ、people! オヤジ おいおい。間違えてくれんと段取りが狂うんだがな。 There are 2000 people in our campany. こういうの、易しい目の例文集で見たことないか? キョン ああ、確かに。 オヤジ 働いてる、ってのも省いた。おまえが「in our campany」ってのを出してくれたおかげでな。「会社の中に存在する連中」なんだ、文脈から「働いてる従業員」のことだと、読み取ってくれると期待したっていいだろう。だが、親父としては、もう一押ししたいな。たとえば、俺ならこう言うだろう。 We have 2000 people in our campany. (我々は会社に2000人の人を持っている =>うちの会社には2000人が働いています) キョン haveですか。 オヤジ そうだ。haveのコアの意味を使ってる。存在を表すbe動詞と、所有を表すhaveは、かなりの場面で互換可能だ。haveは「---を持っている」と訳すより「---がある」と訳す方がいい場合が結構ある。そして「---がある」と訳した方がいい表現は、役に立つものが多い。例えば、この手の代名詞を主語にすることを思いつけると、日本語からジャンプして、英語っぽい表現に踏み込みやすい。 2000 employees are working in our campany. も There are 2000 people in our campany. も、元の日本語と「主語」が同じことに気付くだろう。そこをあえてhaveを使って、weやyouやtheyといった代名詞を主語にするんだ。「There are〜」でも間違いじゃないが、この代名詞を使うやり方だと、「うちの会社」とまで言ってるニュアンスを拾える。 もう一度出すが、 We have 2000 people in our campany. と比べると、「There are〜」の方が、客観的事実を述べている感じが出てる。悪く言えば、少々水臭い、ちょっと他人行儀な感じがする。 「We have 〜」の方は、別に2000人の社員を「所有」している訳ではないけれど(I have〜」と社長が言ってる訳じゃないのに注意)、「うちで働いてもらってる」というニュアンスがある。 オヤジ 少し違う例を出そうか? Queensland nut(日本でいうマカダミアナッツ)が欲しくて、おまえが店に行ったとする。店員になんて尋ねる? もちろん「マカダミアナッツはありますか?」を英語で言えばいいんだが。 キョン えーと、haveを使うんですよね。 Do you have Queensland nut? ですか? オヤジ ご名答。もはや/あえて「in your shop」と付けなくても良いところに注目してくれ。ここで欲しいニュアンスは「おまえんとこ(店)にあるかい?(なけりゃ余所へいくが; 「They have〜」が見え隠れするな)」ってことを聞きたい訳だ。買いたいおまえは、あいて(you)が持っているかいないかを知りたい。だから、「Do you have〜」で大正解。ここで「There are〜」は、ちょっと相手の目を見てないというか(笑)、外してるだろ? キョン 難しいですね。 オヤジ ニュアンスといってるが、世の中に存在するものは、誰とも関わりなく存在している方がめずらしい。 だからこそ、「〜がある」というのは、「We have〜」なのか、「you have〜」なのか、「they have〜」なのか、問いたい訳だ。その後の行動が全然違ってくるだろ? 英語が英語とだけ関係し合っているようなバーチャルな英語空間で考えるんじゃない、一度、目の前にあるモノやコトといっしょに英語を考えろ、ってこった。 「We have〜」なのか、「you have〜」なのか、「they have〜」なのかは、「存在」を表すにしても、そう言ってる人間と存在している「もの」との関係を考えろ、ってことだろ? 逆に言えば、There areの方は、語っている人と存在している「もの」との関係が明らかでない(関係がない、客観的に記述しているだけ、かもしれない)。 オヤジ もう少し例を見てみるか? We had a bad harvest last year.(去年は不作だった;harvest=収穫) They have almost the same climate in Wasinton D.C., as we do in Tokyo. (ワシントンは東京と、ほとんど同じ気候だ;climate=気候) Do you have a local paper in this city? (この街には地元の新聞はありますか?local paper=地方紙、その地方の新聞) オヤジ そして、こういう風なweやtheyやyouの使い方がわかると、もちろんhave以外にも応用がきくようになる。たとえば、 We are adopting the merit system in our company. (うちの社では能力給を採用しています:merit system=能力給) は、「We have 2000 people in our campany.」を少々いじっただけだ。 They carry almost every brand of ham in the supermarket. (あそこのスーパーでは、ほとんどのメーカーのハムを置いてる;carry=置いている。 これは勿論「They have almost every brand of ham in the supermarket.」でかまわんけどな。「Do you have Queensland nut?」で言ってたことを使ったまでだ。 オヤジ 店関係だと、 When do you open tomorrow?(明日は何時開きますか?) といった具合に、会社だとかスーパーだとかワシントンだとか(どこか名もない町だとか)、主語に持ってくると変になりそうな場合、weやtheyやyouを使う手を覚えておくと、けっこうしのげるぞ。繰り返すが「人間と存在している「もの」との関係を考えろ」だ。 「I see / find 〜」で「〜がある」の話もあったが、今日はちょっと時間がない。別の機会だな。 親父の英会話 Lesson 5へつづく
https://w.atwiki.jp/tsuvoc/pages/1637.html
親父 おやじ →田中喬の項を参照
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/23.html
ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その7から シャワーの音が止まった。 少し経って浴室のドアがゆっくりと開く。 俺はベッドの端に、そっちには背を向けて座っていた。 「スケベなこと考えてる顔ね」 「そんなことはない」 「だとしたら失礼な話よね」 こっちに近づいてきた奴が、後ろから俺の首に両手を回してくる。 「だいたい、うしろからじゃ見えないはずだろ」 「あんた、背中までポーカーフェイスのつもり?」 「ただの仏頂面だ」 「ホテルの最上階。二人っきり。邪魔が入る恐れなし。タオル一枚の美女が背中に体重をかけてくる。これで何が不足か、聞こうじゃないの?」 俺はゆっくりと口を開いた。 「子供の名前を考えてた」 「うっ。……なかなかやるわね」 「うそだ。最悪のタイミングで、ムードぶち壊しのことを言うことになるかもしれんが、この旅行ももうすぐ終わりだ。だから率直に聞くぞ」 「……いいわよ。あんたが空気を読めないで不躾なことを聞くのは、べつに今に始まったことじゃないわ。どうせ……」 「あのケンカの後、親父さんはめずらしく本気で怒ってた。おまえ、『足で砂を目に投げた』って、意味わかるか?」 「その通りの意味でしょ。あのとき、あたしははだしだったし、足の指で少しくらいなら砂をつかめるわ。手でするみたいに、足を振って握ったものを離せば、投げるみたいなことはできるわね」 「それは、涼宮ハルヒがやることか?」 「どういう意味よ」? 「買いかぶりならそう言ってくれ。俺の知ってるハルヒは、そりゃ時にはめちゃくちゃなやり方をすることはあるが、それでもおまえなりの筋ってものを守る奴だ。あれは親父さんのいうとおり『汚い手』なのか?」 「そうよ」 ハルヒは挑むような目で言った。「だから、何?」 「何故だ?」 「勝ちたかったからよ、当たり前じゃない!」 「当たり前じゃない。お前と親父さんのケンカはそういうんじゃなかっただろ?」 「何も知らないくせに、勝手なこというな!」 「ああ、何も知らんさ。だけどな!」 「うるさい!うるさい、うるさい!」 「ハルヒ!」 「どうせガキっぽいひがみよ、あんたが!……あんたはひどい目にあっても親父をかばって……、あんたはそういう奴よ。あたしの親で無くても、そうするだろうって、分かってる、でも……」 「おまえの母さんや親父さんこと、俺は正直すごいと思ってる。まあ、おまえの親じゃなくても、そう思うかもしれないが……、あの人たちに会ったり話したり昔のことを聞く度にな、俺がまだ気付いてないハルヒに光があたって、今まで見えなかったハルヒが見えるような気がするんだ」 「あたしはあんたにむちゃくちゃ言って、むちゃくちゃさせて、でもそういう風に許されるのは、甘えられるのは、あたしだからだ、って思いたかった。だから、だからあんたが親父をかばって、あたしは完全に頭に血がのぼったわ。あんたをどんなことをしてでも取り返さなきゃ、どんな手を使っても勝たなきゃって。あんたにだってわかるように、親父とのケンカは勝つとか負けるとか、そういうんじゃなかったのに。親父が怒るのも、悲しく思うのも当然よ」 「あーもう、ぼろぼろ泣いて、めちゃくちゃ。……こっちみるな!」 「どうして?」 「あんた、変態? どS? 人泣かしといて、楽しむなんて」 「べつに楽しくはない。……ちょっと抱きしめていいか?」 「このエロキョン! いいに決まってんでしょ!!」 「雨になりそうね、お父さん」 「気圧の変化か。つらいのか?」 「少しはね。でも、起きられないほどではないわ」 「置き引きシスターズも雨天は休業か」 「人気のない浜辺も悪いものじゃないけど。一緒に歩く?」 「その前に朝飯だ。いや、起きなくていい。ベッドに持ってくる。フランス人も裸足で逃げ出すような、甘いカフェオレ付きだ」 「そんなの、いつ用意したの?」 「これからだ」 「ベッドで食べるのが好きね」 「だらしがないのが好きなんだ。このまま雨が上がるまで、ぐずぐずしていよう」 「帰りの飛行機が飛んでいっちゃうわ」 「それもいいな」 「ふふ。そうね」 「残念ながら明日には止むさ。いや、今日中かもしれない」 「天気予報?」 「いや、これ」 「てるてるぼうず。そんなの、いつ用意したの?」 「夜なべした。リビングのソファは占拠したぞ」 「お父さんって、何でもありね」 「『一途』と『馬鹿』は、ちょっとした綴りの違いなんだ」 「キョン?」 「ああ、すまん。起こしたか?」 「うん、ううん、ああ、そうね」 「どっちだよ?」 「もしかして雨降ってる?」 「ああ。窓から外見ると、水の中にいるみたいだぞ。……調子よくないのか?」 「そうじゃないわ。昔のことを思い出しただけ。……夢を見たんだけどね」 ハルヒは言葉をつづけた。 「小さい頃、溺れたことがあってね。親父が飛びこんで、母さんが人工呼吸してくれたんだって。覚えてるわけじゃないけど」 「……だから、おまえも助けに飛び込んだのか?」 「そうじゃないわ。泳ぎは得意だと思ってたし、そんなことで泳げなくなるのも悔しいから、ちょっとムキになってたこともあるけど。助けたのには理由なんてない。気付いたら、やっちゃってた、って感じね」 「そうか」 「溺れたのは覚えてないけど、その後、自分が謝ったのは鮮明に覚えてる。親父に謝ったのなんて、あんたからしたらバカみたいだと思うかもしれないけど、あれっきりよ」 「……」 「親父があたしの頭にぽんと手を置いて、『間違えたと気付いたら、ごめんなさいと言えばいい。それだけだ』って。どれだけ泣いたか分かんないし、どれだけ謝ったかもわからない。ただ延々と涙が止まらなくて、繰り返し繰り返し『ごめんなさい』って言ってた」 ポットから聞こえる音が変わって、お湯が沸いたことを知らせていた。 二人分のコーヒーを入れて戻ってくると、ハルヒはベッドの端に座って、窓の外を見ていた。 ホテルはこのあたりで一番高い建物で、座ったまま窓から見えるのは雨雲と窓ガラスを叩く水滴だけだった。 「飲むか?」 「ん」 「……あとで、海に行かないか?」 「どうして? 今日みたいな日に行ったって、あるのは砂と水だけよ」 「こっちに来て、まだおまえと泳いでない」 「でも水着も何もないわよ」 「水着どころか傘だってないぞ」 「買いにいく? でも、この土砂降りの中、泳ぐの?」 「泳がなくてもいいさ」 「何しに来たのよ、あたしたち」 「さあな。だが、なんでここにいるかは俺にだって分かる」 「なんでよ?」 「おまえがここにいるからだ」 ハルヒは軽く衝撃を受けたように軽く口を開いて、すぐに、このバカ何を言い出すんだ、という顔になった。 「キザキョン」 はて、おれは何かキザなことを言ったか? おまえが連れてきたから、おれはこんな亜熱帯の島に来たんだろう。 「はあ。わかんないのが、あんたよね。それはもう、よーく知ってるはずなんだけど」 ハルヒは、となりの部屋にいたって聞こえるくらい、大きなため息をついた。 「もう、こうなったら海でも何でも行くわよ!」 「ごちそうさま。おいしかったわ」 「朝からカツカレーはなかったかもしれんが」 「ベッドでとる朝食向きじゃなかったかも。出張中、いつもこんなの食べてるの?」 「海外旅行も7合目くらいになると、急に日本食を食べたくならないか?」 「カツカレーを?」 「よそでまずい寿司なんか食うよりはな。どういう訳だかトンカツよりもうまいと感じる」 「おいしいと思うものを食べる方が、食事は楽しいわ」 「何を食べるかより、誰と食べるかじゃなかったか?」 「時には一人で食事をしなきゃならないこともあるもの」 「それはそうだ」 「故郷を甘美に思う者はまだ嘴の黄色い未熟者である。あらゆる場所を故郷と感じられる者は、すでにかなりの力をたくわえた者である。だが、全世界を異郷と思う者こそ、完璧な人間である」 「なんだ、それ」 「昔の誰かが言った言葉ね、きっと」 「俺のくちばしは黄色いな」 「誰だって、完璧にはほど遠いわ」 「完璧な奴は、どこからも何からも遠い訳か」 「そして誰からも、ね」 「好きなものくらい、好きに食わせろ、だ」 「お腹もふくれたわ。仕事にかかりましょう」 「雨なのにか?」 「雨だからよ。人が少ない方が探しやすいわ」 「母さんだけが分かってることがある気がするんだが。教えてくれないか?」 「そうかしら? 私が思ったのは、意外と簡単なことよ」 「というと?」 「溺れている真似というのは結構難しいわ。何しろ泳げる人相手に嘘をつく訳だから」 「そりゃそうだな」 「ぶっつけ本番では無理だと思わない?」 「なるほど」 「練習するなら、カモになってくれる観光客のいないときにむしろ、やりたくないかしら」 「合点がいった」 「今日は私を信じてみません?」 「いつだって信じてる。出掛けよう」 「で、なんなのよ、このデカイ傘は?」 「ゴルフ用らしいぞ」 「あたしが言ってるのは、そういうことじゃなくて」 「ホテルが貸してくれたんだ。傘なんて、この辺りじゃ売ってないとさ」 「だから、そういう……」 「ゴルフをやる外国人ぐらいしか、この島じゃ傘なんてささないんだと。雨が降ったら街も道も人も濡れる。当たり前じゃないか、と言われた」 「その通りだわ」 「その通りだけどな」 「あんた、泳ぎにいくんじゃないの? どうせ濡れるじゃないの」 「水着も売ってないそうだ」 「この辺りじゃみんな裸で泳ぐ訳?」 「さっきからビービー鳴ってるのは何だ?」 「持たされたケータイよ。電源は切ってあるけど、濡れると救難信号が出るそうよ」 「それくらいの音で周囲に聞こえるのか?」 「ずぶぬれになれば、ワンワン鳴り出すらしいわ。雨くらいじゃ周りも助けようがないでしょ?」 「やっぱり傘があって正解じゃないか」 「音だけなら、ビニール袋にでも入れておけばいいのよ」 「ケータイをか?」 「そう」 「この辺りじゃ、雨の日は、みんな着衣で泳ぐんじゃないのか?」 「どうせ濡れるから?」 「そうだ」 「晴れの日は、大抵トップレスだけどね」 「なんだと?」 「水着の跡が残るように日に焼けるのが嫌なんじゃないの?」 「俺が言ってるのは、そういうことじゃなくてな」 「じゃあ、どういうことよ?」 「……目の毒だ」 「はあ? 毒はあんたの頭にたまってんじゃないの?」 「かあさん、当たりだな。おきびきシスターズだ。雨なのにご苦労なこった」 「あら、ほんと」 「びっくりしてるのか?」 「少しね。あてずっぽですもの」 「母さんのあてずっぽが外れたことなんてあったか?」 「そりゃありますよ。じゃないと、生きていても楽しくないでしょ?」 「人生には他にも楽しいことがいろいろあるぞ」 「そうね。『たとえば?』って聞いていい?」 「もちろん」 「じゃ、たとえば?」 「水泳とか」 「お父さん、泳げたの?」 「海外か、でなきゃ人命救助のとき限定だけどな」 「そういえば、小さい頃ハルが溺れたこと、ありましたね」 「自分の指や腕を無くしても、最初から無かったことにすればいいし、忘れる自信もあるが、女房や娘はそうはいかん。だから、ちょっと本気出したんだ」 「どうして、いつもは本気出さないの?」 「知ってる奴に見られたら、恥ずかしい。あ、水泳の話だぞ」 「わたしも、お父さんとこうして話すのは楽しいわ。これも人生の楽しみのひとつね」 「俺がどういうことを話すかくらい、母さんなら分かるだろ?」 「いい映画やお芝居は、結末が分かっていても、何度見たって、楽しいのよ」 「ちがいない。……車はこの辺りにとめておくか」 「彼女たちがいる波打ち際まで、砂浜を歩いて行くの?」 「うん。なんか、まずいかな?」 「お父さん、遠くからでもすぐ分かる方だから、多分彼女たち、蜘蛛の子散らすように逃げて行くと思うわ」 「悪魔の親父だからなあ。『ハルヒを出せ〜。隠すとためにならんぞ〜』って感じか?」 「うずうずしてる。やってみたいのね?」 「悪役ほどおもしろいもんはないぞ、母さん」 「人生、楽しくって仕方がないって感じね」 「悩み事は、時間と精力があり余ってる若いやつらにまかせよう」 「とりあえず、どうします?」 「やっぱりこの手しかないか」 「何に使うの、このバット?」 「やりたいのは「矢ぶみ」だったんだが、拳銃はそこいらでいくらでも買えるのに、弓矢とか手に入らなくてな。とりあえず、このバットをあいつらの近くまでぶん投げるから、バットに油性マジックでハルヒ宛のメッセージを書いてくれ」 「なんでバットなの?」 「非常識だし目立つだろ。あと重心が端のほうにある長いものは遠心力をその分使えて、より遠くへ投げられるんだ」 「文面はどうします?」 「そうだな。『ハルヒへ、夕刻、この浜で待つ。おまえも女なら一人で来い。親父』でいいだろう。そうそうハルヒはHARUHIと書いといてくれ。でないとシスターズの連中が、あのバカ娘のことだと分からんかもしれん」 察するに、災難だったのは、置き引きの姉妹たちだった。 彼女たちは、この街の路地という路地、水路という水路を知り尽くしていたが、大きな街でたった二人の人間を(たった半日で)捜し出すのは相当な苦労だった。 俺たちを最初に見付けたのは、昔ハルヒが「助けた」このある少女だった。彼女が姉妹たちを呼び、一番小さい女の子が俺たちにバットを差し出した。 ハルヒはそれを左手で受け取った。 「来たわよ、バカ親父。なんか用?」 「よく逃げずに来たな。ご褒美にハンデをやろう。泳ぎで勝負なら、そっちも異存あるまい。但し、俺は「人命救助」じゃないと本気が出せんから、誰かに『溺れる役』を頼むことにしよう。指名はおまえにまかせる」 さすがに悪魔と呼ばれるだけの親父である。罠が何重にも仕掛けてある。 相手に選ばせるように見える個所はすべてまともな選択肢ではない。しかも選択の前提として、一方的な条件が提示されている。選ぶためにはそうした前提を飲まねばならず、普通なら自由意思を発揮できる選択という行為自体が、どちらの選択肢を選んだにせよ選択者を拘束していくのだ。 最後の「おまえにまかせる」も同様にえぐい。その含んだ意味は「まかせる」とは名ばかり、この勝負を受けるなら、危険な目に合う役割をハルヒが選ばなければならないという、命令なき命令、強要なき強要だ。 ハルヒの母さんは、親父さんの言葉を、おきびきシスターズに同時通訳していた。ワンテンポ遅れて、その意味を理解したシスターズたちは激高し、そして二人の少女が前に歩み出た。 ひとりは、ハルヒが「助けた」ことのある、ベテランの「溺れ役」だった。 もうひとりは、ハルヒとシスターズたちの家である船にいたとき、部屋を覗いていた、あの少女だった。 ハルヒの母さんが事情をおれに説明してくれた。 「人見知りらしいの、彼女。だから浜で大人たちの手を引くより、泳ぎがうまくなって、次代の「溺れ役」を目指しているそうよ。今日も先代のあの娘に稽古をつけてもらってたですって」 気付くと、おれも一歩前に出ていた。どう考えても、彼女たちを巻き込む話じゃない。シスターズの義侠心には心打たれるが、その手のものこそ、悪魔親父に狙い打たれるだろう。 ハルヒは前に出た3人を見て、ため息をついた。 「落ちたものね、他人を巻き込まないと勝負もできないなんて」 「ふん、さすがに引っかからんか。頭は冷えたようだな」 「おかげさまでね」 「その目……泣いたか。なるほど、ちっとは見れる面になった訳だ」 「言ってなさい。わかってるだろうけど、ハンデはいらないわよ」 「母さん、風向きが変わった。こりゃ、ひょっとすると、ひょっとするぞ」 「お赤飯なら準備してありますよ」 「だそうだ。思いっきり来い」 「言われなくても!」 勝負は一瞬でついた。それが勝負と呼ぶべきものだったとすれば。 いつもはハルヒのすべての攻撃を受け切ってから動く親父さんが、先に突きを放った。 ハルヒはそれを知っていたかのように左側に倒れながらよけ、親父さんの腕が伸びきったところで、それを鉄棒の要領でつかみ、腕を軸にして一回転した。回転の最中にもハルヒのカカトは、親父さんの顎とみぞおちを打った。親父さんは膝を突き、後ろ向きに倒れた。 「親父、ごめん」 「おいおい、マウント・ポジションとってから言うセリフじゃないぞ」 と言いながら、親父さんはハルヒの打ち降ろす掌打を、残った腕一本で奇跡的にさばいてる。 「あたし、あいつといっしょになる。そして幸せになる」 「まさか、こんな情けない状態で聞くことになるとはなあ。娘の顔とセリフは感動的なのに」 ハルヒは打ち降ろす手は止めないまま、涙を流していた。期待と不安と感謝の気持ちでいっぱいになった、明日の式を控えた花嫁のように。多分、ハルヒと親父さんの間で何かが終わり、また変わろうとしているのだろう。 掌打がひとつ、ふたつ、とクリーン・ヒットした。さすがの親父さんも、表情を歪ませる。 とどめだった。ハルヒの両手が親父さんの側頭部をつかむ。親父さんもこの機会を待っていたのか、ハルヒの手を払うかわりに、ブリッジのため頭の横に手をつく。ハルヒが自分の頭を、親父さんの鼻先に叩きつけた、ように見えた。ハルヒの体重がその瞬間前に移るのに合わせて、親父さんは足を突っ張り脱出をはかろうと目論んでいたのだろう。しかし親父さんの全身から力が抜けた。ハルヒの唇が、親父さんの額に「決まった」ので。 「やれやれ、おでこ、か」 「あ、あたしとしては最大限の努力と妥協の結果よ」 ハルヒは跳ね起きて、ぱっと立ち上がった。 「さあ、敬意は払ったわよ」 「オーケー。それで手を打とう」 親父さんは仰向けに倒れたまま、肩をすくめた。 「あー、もったいねえ。こんないい女に育って他人にやることになるんなら、あの時、死ぬ気で助けるんじゃなかった」 「なによ、それ」 「しかたがないか。思わず飛びこんじまったんだから」 「ツンデレよ、ハル」 ハルヒの母さんが、あの透明な笑顔で笑った。 「お父さん、照れてるのよ」 「母さん、あっさりとどめを刺さないでくれ」 いや、それはここにいる誰もが知ってると思います。 「あー、もったいねえ、もったいねえ」 「うるさいわよ、そこ。もっと他に、先に言うべき言葉があるでしょ?」 「ちぇっ、わかったよ……。ま・い・り・ま・し・た。 ……これでいいか?」 「結構よ……それと」 ハルヒがちらっと俺の方を見た。おれはうなずく。ハルヒもうなずき返す。 「それとね。……ふう、あの、いろいろ、その……ありがとう、お父さん」 その日の夕食は、すばらしいものだった。ハルヒの母さんが「本気」を出したのだ。 「赤飯まで!ほんとに準備してあったんですか?」 「昔の人の知恵って偉いわね。ほら、お手玉。」 「へ?」 「あれの中って、小豆が入ってるの。もち米だとか、蒸すためのせいろとかは、中華街に行くと手に入るし。中華街なら世界中の大抵の都市にあるわ」 「ってことは、お手玉をいつも?」 「旅行って、待ち時間ばっかりでしょ。手を動かすとまぎれる退屈さもあるの。うるさいのが二人もいて、私は退屈しないと思ってた?」 「いや、そんなことは」 「キョン君は、明日みたいにお天気のいい朝を寝坊するのが幸せなタイプね」 「ははは。そうですね」 「ちょっと、キョン!いつまで食べてんのよ! 花火するって言ってあったでしょ!」 いつもの奴が、いつものようにズカズカとやって来た。 「ほらほら」 とハルヒの母さんは笑う。 「もう食べ終えたさ。ちょっと話をしてただけだろ」 「なに、母さんに見とれてたの? 何度もいうけど人妻よ」 「おまえはおれに、あの人と死闘しろっていうのか」 「悪魔の親父よ。手加減しないわよ」 「花火をやろう。その話は、夢に見そうだ」 俺はハルヒの手を引いて、コテージのベランダから、夜の砂浜へ出た。コテージの光が落ち着くくらい暗くなるところまで言って、なにかずるい手で持ち込んだのだろう、火薬の固まりの袋を取り出した。 「あんた、線香花火なんてベタなもの、いきなり出してどうするつもりよ」 「どうするって、火をつける」 「それは最後にするもんでしょ。で、じーっと火の玉を見て、自分のが落ちたらがっかりして、相手のが落ちたらバカにすんの」 「それこそベタだろ」 そして、「家族旅行」の最後の日の朝。 目が覚めると、ベランダにひとり親父さんが残っていた。 「何か、食うか? サンドウィッチなら作れるぞ。あと時間さえあれば大豆から豆腐もつくる」 「親父さんが?」 片手でか? 「人間、不便すると、なんとかするもんだ。実をいうと、ここに作った奴がある。サンドウィッチだけだが、好きなの食え。……母さんの大好物なんだぞ」 親父さんは、トレイを俺の前に置いてくれた。俺はひとつ食い、二つ目に取りかかろうとした。 「うまいです。……あれ、その本?」 「ん?ああ。昔、読んだことがあるんだがな。昨日、置き引きシスターズにもらったんだ。連中は、悪魔がいつも日本語に飢えていると思ってやがる。つまりお供え物って訳だ」 「おもしろいんですか?」 「穴があったら飛び越えて、どこかに走り去りたくなるほどだ。猫マニアのロリコンが、コールド・スリープとタイム・マシンを使って、出会った時には6歳だった女の子を『俺の嫁』にする話だ。今なら発禁ものだな。福島正実入魂の訳だと、こうだ。『もしあたしがそうしたら——そうしたら、あたしをお嫁さんにしてくれる?』。萌えるだろ?」 「ええ、まあ」と俺はあいまいな返事をした。誰だって、この場合、こうするだろ? 「なんだ、つまらん」 俺が乗ってこないのがわかると、親父さんはテーブルの上に本を投げ出した。 「食えるだけ食ったら、ちょっと歩かないか? ここの海もしばらくは見おさめだ」 「また来たいです」 「今度はおまえらが、おれたちを連れて来い。海外でやると余計な奴を呼ばなくていいから、意外に手間も楽らしいぞ。ちなみに俺の兄貴は神主をやってる、本職は教師だが。よくある話だな」 「実家、神社なんですか?」 「俺も資格だけはとったぞ」 絶対にちがう神様のにしようと、この時の俺が硬く誓ったとしても、誰も責められまい。 親父さんと二人、海に添って歩いた。 「あれで腕、折れてなかったんですね」 「途中で手を離しやがったんだ。娘に手加減されるようじゃ、おしまいさ。まあ、いい時期だ。子離れ、親離れ。俺たちにも時間はたっぷりある」 親父さんはにやりと笑って言った。 「ボコられながら、あんなセリフを聞いた親父なんて、世界で俺くらいだぞ。ほんとに、あんな奴でいいのか?」 「はい」 「まあ、どうしようもないバカだが、あれでも大事な娘なんだ。よろしく頼む。……返すといっても、引き取らんぞ」 「はい」 その後、聞いた話をひとつだけ記しておきたい。 いつもはハルヒに先手を取らせる親父さんが、なぜあの時に限って先に動いたのか? 「勝ち急いだんだ。小便に行きたかった」 親父さんがゲラゲラ笑ったので、おれもつられて笑った。この話はこれで終わりにした方がいいという意味だと思ったので、俺は思うところはあったけれど、それ以上聞かなかった。 「まあ、なんといおうと負けは負けだ。そうだろ?」 砂浜をしばらくいくと、二人分の足跡が残っていた。足跡の先には、美しい母親とその娘が歩いていた。おおきな身振りをまじえて、髪をくくった娘の方が何かを熱心に話している。 「ハルヒたちだ」 「キョン君、伏せろ」 親父さんに、いきなり砂浜に押しつけられるように倒された。 「ててっ。……どうして隠れるんですか?」 「あー、つまり……」 親父さんは小さく咳払いした。 「いい絵はな、少し離れて見るのがいいんだ」 そして横を向いて、アヒルの口になる。どこかの誰かにそっくりだ。 「……つぶされて倒れてる俺一人カッコ悪いですね」 「ひがむな。そのうち、おまえの時代が来る」 「……」 「その時がきたらメールででも教えてやる」 * * * * 旅から帰った次の日はもちろん、一日中眠った。 ハルヒからは再三、俺の安眠を妨害するメールや電話が矢のようにかかってきたが。その度、眠そうに対応したせいか、ハルヒの電話の声はいつも怒っていた。 「なんで、あんたは、そんなにグーグー、いつも寝てるのよ! どんなのび太よ! 今のあたしほど、暗記パンとどこでもドアを必要としている人間はいないわね。もちろん食べるのはあんたよ!」 まあ、いつもと、ホンの少し違っているという程度だと、その時は思ったのだが。 「要するに、端的に言い換えて、短く言えば、独り寝がさびしいって言ってんのよ、あたしは! ……げ、親父、なんでそんなとこに立ってんのよ!」 「よお、キョン。時代がきたな!じゃ」 「こら、親父!待ちなさい! キョン、いまのどういう意味? 後でしっかり聞くからね!」 「そのうち」ってのは、早速ですか! というより、帰ってきていきなりですか、親父さん。 電話の向こうで、遠ざかる二人の足音を聞きながら、あの親父さんに一矢報いるためにあいつにまた「逃避行」でも持ちかけたらどうだと、不意に頭を占拠したアイデアを、俺は心の中で両手をクロスしながら、懸命にダメ出しするのに忙しかった。 ーーーおしまいーーー ハルヒと親父3 — 家族旅行プラス1 シリーズ ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その1 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その2 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その3 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その4 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その5 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その6 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その7 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その8 家族旅行で見る夢は (家族旅行プラス1のスピンアウト作品)
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/235.html
ハルヒと親父2その後 一周年 その2から 朝が来たのは分かった。 おれの精神(こころ)及び肉体(からだ)は、まだ完全には覚醒しておらず、周囲の状況を把握するには至ってなかった。おれの右手は、そこにいるはずの誰かを無意識に探していたが、成果ははかばかしくなかった。それで、人の気配を感じたとき、おれの肺は空気を喉と口蓋に送りこみ、この世のものとは思えぬ音を出すという失態をやらかした。だが音の方がしでかしたことは、よくよく考えればはるかにマシで、更なる大問題は音声信号の内容の方だった。 「ん……ハルヒ?」 「残念。はずれ」 この似ているが確かに違う声について、脳髄が前頭前野と側頭野と海馬に鞭を入れ、最高速度の検索を要求する。結果:この声は確かに・・・ 「って、ハルヒのお母さん!」 「おはよう、キョン君」 「お、おはようございます!」 「誰かお探し?」 ハルヒの母さんは、心持ち首を傾け、おれの顔を覗きこむ。ああ、この人を前にしては誰だって(あの親父さんだって)隠し事などできっこない。 「あ、い、いえ、あの?」 「お湯と洗面とタオルとひげ剃りを持ってきたの。うちの朝の洗面所は戦場だから、ゆっくりできないと思って」 ああ、誰と誰が毎朝闘いを繰り広げているかは、言わなくても分かる。 「あ、すみません。助かります」 「済んだら朝食するから、ダイニングに来てね」 「は、はい」 ひげを剃り、旅行用のような歯ブラシセットで歯をみがき、ほどよい温度の湯で顔を洗って、ふっかふかのタオルを顔に押しつけていると、部屋のどこかに転がっている携帯が、振動し出す。いつ、マナー・モードにしたのか、思いだそうとしながら携帯を拾うとメールだ。差し出し人、ハルヒ。 「ご飯よ、エロキョン」 何の術を込めたのか、それだけの言葉に、おれの顔から血の気が引いていく。 生まれてからこの方、最も明るく憂鬱な朝だ。 「おはよう、キョン君」 「よお、キョン、よく眠れたか」 「はい、おはようございます……」 「……」 ダイニング・テーブルには4つの椅子が並んでいて、すでに3つが埋まっている。いつもと違っているのは座っている位置だ。ハルヒは、おれが座るはずの空いた椅子の斜め向かいに陣取ってる。夕べは、いつもと同じ、おれの右となりに座っていた。そして、今朝の右となりは、おやじさんだった。 ハルヒの沈黙が、何か不機嫌とか不愉快のせいであるのは分かるが、それが朝から繰り広げられたダイニング椅子取りゲームで親父さんに敗北を喫したことに起因するのか、いや因果関係はまったく逆で、不愉快だからその位置に座ることにしたのか、にわかに判断はつきかねた。いずれにしろ、今、おれにできることは、空いている席を埋めることだけだ。 「キョン君は、朝はご飯?パンでもいける?」 空気を読んでか読まずにか、あるいはこの人ならわざと読み飛ばすことだってできそうだが、ハルヒの母さんは、天使のように無邪気にそう尋ねてきた。 「いや、どっちでも、大丈夫です」 「よかったわ。今朝めずらしく早く起きたので、パンを焼いてみたの」 パンというのは早起きして焼くものなのか。少なくともうちでは、買ってきて5枚だとか6枚にあらかじめ切れてるぞ。 涼宮家の朝の食卓に並んだのは、バットのように長いパンやフットボールよりもでかいパンやその他諸々だ。ここまで視覚情報のヒントを与えられて、ようやく辺りに満ちる香しい匂いの正体が、焼きたてのパンたちからのものだと気付いた。そうしてそれを切り分けるのが主たる親父さんの仕事だということも。 「そこにあるのがカモの内臓とアプリコットのパテ、隣が牡蛎(かき)とほうれん草の、そっちがサーモンのだ。パンに塗りつけて食ってみろ。バターが入り用なら、こっちに自家製のがある」 牛でも飼ってるんですか? 「生クリームとフードプロセッサがあれば15分くらいでできる。成分無調整の牛乳も入れた方がうまいがな。力自慢なら、道具に頼らず、瓶に入れて振り続けてもいい」 親父さんがそうしている光景が浮かんだが、作ったのはやっぱりハルヒの母さんなんだよな。 「毎日、こんな朝食なんですか?」 「客がいるときは、どういう訳か、家族中早く眼が覚める。そして母さんが本気の朝食を出す」 「客がいないときは?」 「母さんの起床時間次第だが、だいたい各自で朝食を用意して出かけることが多いな。最近の炊飯器は優秀だから吸水時間なしで15分もあれば飯が炊ける。まあ一人分なら、土鍋で炊いた方が、多少時間はかかるがうまい」 「そうね。わたしが一番最後に起きることが多いから、みんな出掛けちゃってるわね。一人だとついついご近所に食べに出ちゃうわ。さっきのパテ・ペーストをつくってるおばあちゃんが、お庭で小さな喫茶をやっていてね。いろいろ教わりながら、食べたことのないようなものをたくさんいただいちゃうの。ちょっと雰囲気のある、魔女みたいなおばあちゃんよ」 そういいながら、いずれも焼きたてアツアツの、オムレツ、厚切り(1cm以上ある、おそらく自家製)ベーコン、(これも多分、自家製)ソーセージ2種類、マッシュルーム、焼きトマト、豆(ビーんズ)が皿に乗って出てくる。クラスメイトの家に泊まって、ここまで完璧なイングリッシュ・ブレックファーストが出てくるなんて誰が予想できよう。あとハギスがあれば、完璧。でも、あれは好みがある。 「もう一泊してもらえたら、アツアツご飯に、魚の干物、生卵、のり、お味噌汁なんてのも、できるけど」 どこまでいっても旅館仕様ですね。 「そうなの。いわゆる『おふくろの味』を知らずに育っちゃったから」 以前聞いたハルヒの母さんの半生を思いだすとそれも当然な気がする。 という間にも、一人黙々と食べ続け、バンと食卓を叩いてその反動で立ちあがった奴がいる。 「先、行くから」 誰であろう、ハルヒだ。 「うむ。なかなか素敵に不機嫌だ。キョン、何かしたのか?」 「んー、むしろ『何もしなかった』ってことじゃないかしら?」 お二人とも、胸をえぐるような推測はやめてください。が、二人に言い返すだけの何か、たとえば夕べ眠る前の記憶が今のおれにはどうにも思い出せない。 「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです。あいつを追いかけます。あっ、土曜、楽しみにしてます!」 それだけを早口に言って、おれも涼宮家を飛びだす。 ハルヒを送って帰るつもりだったから、おれは自転車で来ていた。2足同士の短距離なら正直勝てる自信はないが、ハルヒが本気でおれを撒こうとでも思わない限り、たぶんおれは追いつける。めんどくさい距離の取り方と縮め方だが、しかたがない。おれはどう逆立ちしたっておれだし、あいつは涼宮ハルヒだ。 「遅い!」 案の定、こいつは腰に手を当てて、ぷりぷり怒りオーラをまき散らしてる。それに遅いというのも肯首せねばなるまい。ハルヒに追いついたのは、学校前の坂の下だったからだ。 「遅いのは認める」 だが、どれだけ速いんだ、お前は。 「タクシーを使ったわ」 それは思いつかなかった。思っても実行しないと思うが。 「悪いがおれは一時的に記憶喪失だ」 息を切らして自転車を降りる。 「でしょうね」 と心当たりでもありそうなことを言うハルヒ。 「あんたが、そんな石頭とは思わなかったわ」 それは行動的にか、それとも物理的にか? 「両方よ」 ああ、ようやく途切れた記憶の糸が、推理でつながりそうだぞ。 「女の子の家に泊まって、キスもしないってどういうこと?」 「痛てて。それで頭突きか?」 「そうよ」 「言い訳にしかならんが……」 「聞きたくない!」 「聞けよ!キスだけで済ませる自信がなかったんだ!」 「どうして、そんなものが自信なのよ!」 おい、ここは学校のすぐ下だぞ。登校時間には早すぎるとはいえ、ご近所の目が……。ってそんなもの、こいつの顔に視界を占拠されたら何の意味もない。 「んんん。……どうよ、目が覚めた?」 「いや、火がついた」 放りだした自転車がアスファルトにぶつかる音がした。そんなもの、どうにでもなれ。 …… 「……んんん、はあ、はあ、あ、アホキョン!酸欠させる気?」 「お、お互い様だ。こっちこそ、また気絶するかと思ったぞ」 「また記憶をおっことしたんじゃないでしょうね?」 「記憶も理性も少しならある」 多分、次のセリフを言う分だけな。 「サボるぞ、ハルヒ! それで好きなところへ行って、好きな時間だけ、好きなことをやる。どうだ!?」 「キョンが切れた」 「そうだ、責任取れ!」 「こういうのを待ってたのよ!!」 「あ、母さん? あたし。えー、何て言ったらいいのかしら? やむにやまれぬ、というか、止めるに止められない衝動みたいなのがあるでしょ? 二身上の都合で学校休みたいの。何とかならないかしら? うん、あたしは風邪引いてるとか、適当に言い繕ってもらって、問題はキョンとキョンのうちなんだけど。ああ、うん、わかった。じゃあ、まかせる。お願い。恩にきるわ」 「おはようございます、キョン君のお母さん。ええ、そんな。実はうちの愚娘がキョン君に手料理を食べさせたいと。ええ、作ったのはいいんですが、香辛料をあれこれ入れすぎまして、それでおなかの具合がちょっと。トイレにかわるがわる行くような状態で。ええ、お医者様に往診に着ていただいて、今日中にはおさまるということなんですけども。ええ、それで僭越ですが、学校の方には私の方からご連絡させていただきました。申し訳ありません。ええ、今はうちで休んでもらってます。はい、それはもう。いいえ、ご迷惑だなんて、こちらの方こそ。はい、はい。でも、ええ。わかりました。ありがとうございます。それでは失礼します。ふう……ハル、今回だけよ」 ● ● ● そして土曜日。 週末までの、あれやこれや、早朝学校の近くまで来ていたハルヒと俺が(なんと目撃者がいたらしい)その日そろって休んだことについてのクラスメイトの反応とか憶測とか噂話などは、あとで詳しく(多分お鰭をふんだんに着けて)教えててくれた奴がいたこととともに割愛したい(谷口よ、いつも小さなオチに使ってすまん、安らかに眠ってくれ)。 そして土曜日。 おれはハルヒと(正確のはハルヒが)選んだ「それなりの格好」をして、涼宮家を訪れた。少し早かったので、親父さんとWiiで対戦して大敗し(涼宮家の人間は手を抜くことを知らないらしい)、少し凹んだところで時間となった。 「少し緊張している」というハルヒの母さんが助手席に、おれはハルヒと親父さんに挟まれて後部座席におさまり、一路、親父さんの知り合いの店へと向かった。 車が俺たちの街を離れ、坂の街へとたどり着き、坂をジグザグに上っていく辺りで、おれとハルヒからは血の気が引いてきた。車は、去年、おれたちが最初に「おとまり」した洋館通りのあのホテルへどんどん接近していたからだ。 案の定というか、悪い予想通りというか、その店は、あのホテルのほとんど隣というくらい、すぐ近くにあった。親父さんの知りあいの店もまた、洋館をつかったレストランであり、その日は、広めの庭にテーブルを持ちだしてのお祝い仕様となっていた。どのテーブルからも、あのホテルの建物が見える。これは何かの拷問か? (ハルヒ、この店の場所、知ってたのか?) (知らなかったわよ! 知ってたからって、どうしようもないけど) 目と目で会話するにも限界があり(辺りは次第に暗くなってきていたし)、おれたちは「知らんぷリ」することについてだけは、かろうじて合意に達し、パーティの本来の目的に専念することが、だれの幸せにとっても一番であることを確認しあった。 いつもなら、妙にするどい親父さんが呆けているのが、物怪(もっけ)の幸いだった。 「母さん、きれいだ」 なんと、このバカ親父は、自分の妻に見とれて、見惚れているのであった。 「何でも、ここって彼女のおじいさんの家だったらしいわ。外国から来られて、日本の女性と結婚して、ここに居を構えて。貿易の仕事だったらしいわ。彼女のお父さんも、小さい頃はここに住んでいたらしいけど、おじいさんが急死されてね。家も手放すことになって。時代が時代だし、お父さんも苦労されたらしいけど、一人前の料理人になって、この家のことを思いだしたんだって。親父がどう絡んでくるのか、よくわからないんだけど、とにかくこの家を借りて店を開くのを手伝ったらしいわ。店のオープンのとき、親父と母さんはここに来てるの。その後、あたしが生まれて、世話になったからって、彼女のお父さんからはものすごく高いお酒をいただいたみたい。ちょうど一年前、そう朝帰りしたあの日に、落ちこんでる親父抜きで、母さんと飲んじゃったんだけどね。運命は巡ると言うのかしら、彼女のお父さんも亡くなられて、店も手放すことになって、彼女が店を継ぐ決心をして、親父がまた力を貸したんだって。その再オープンが去年の今日。1周年のお祝いができるくらい順調みたいね」 「ええ、涼宮さまには、ひとかたならぬお世話になりました」 親父さん、呼んでますよ。見たところ、彼女がこの店を継いだという、親父さんの友人の娘さんだろうか。 「あ、いえ、ハルヒ様に」 「え、あたし?」 「ええ、花束が届いてます。これを」 花束を覗きこんだハルヒが、こっちを睨む。 「あ、あんたねえ。う、嬉しいけど、今日は、この店の1周年なのよ」 正確には、この店も、な。 「お店の方にもいただいてます」 「へ、そうなの?」 あー、ごほん、つまり「バカ」は、バカ親父ばかりじゃないって訳だ。悪いか? 「お母様のピアノ、私も楽しみです。今日は楽しんでいってください」 颯爽と去っていく若いオーナー。 「留学してて、そのまま向こうで働いてたんだがな。父親が死んで帰ってきた。すぐにおれんとこに連絡が来てな。『店を取り戻したいんです。力を貸してください』とこうだ。父親の方はもっとごもごも言ってて、こっちが炊きつけないとダメな奴だったんだがな。料理は素人のはずだが、どうしてどうして。若くて腕がいいシェフを探してきたし、自分でもソムリエの資格を取った。親父より商売はうまいし、いい娘を育てたな。もう、ここを手ばなすことはないだろう」 親父さんが見送るようにそう言った。 庭に設けられた特設ステージにはピアノが一台。招待客が座るテーブルにはメニューではなく、演奏プログラムが配られている。 ドビュッシー 組曲「子供の領分」から「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」と「ゴリヴォークのケークウォーク」、死後発見された「忘れられた映像」から「もう森には行かない」の諸相、「2つの前奏曲集」から「亜麻色の髪の乙女」「とだえたセレナード」「沈める寺」 サティ 「ヴェクサシオン(いやがらせ)」、冷たい小品集「逃げ出したくなるアリア」から、バレイ曲「本日休演(ルラーシュ)」、「あらゆる意味にでっちあげられた数章」、「ジュ・トゥ・ヴー(おまえがほしい)」 「タイトルは知らなくても、聞いたことがある曲もあるはずよ。たとえば『子供の領分』ってのはね、ドビュッシーの一人娘“シュシュ”のために作った奴で、簡単だけど面白い曲ばっかりでね。あたしも小学校の時、このふたつは弾いたけど、母さんが弾くとぜんっぜん違うのよ! あ、そろそろ、あたし行ってくるね」 と言ってハルヒは席を立つ。譜めくり(曲にあわせて譜面をめくる役)をするためだ。 「母さんが人前で弾くなんて、めったにないからね。『一番弟子』として、この役だけは譲れないわ」 「ああ、行ってこい。解説なら、あとでいいぞ」 「それより料理! ちゃんと残しときなさい。全部食べるんだからね!」 ハルヒがステージ・ライトのまぶしさの中に消えていくと、さっきの女性オーナーが、偶然とでもいった風に、俺の後ろを通りかかった。 「お3方のお料理は演奏が済んでから、別にお出しするつもりだったんですが、どうされますか?」 隣を見れば、親父さんはすでに目を閉じて、最初の音を待っている。 「ええ、俺の分も後で、お願いします」 「かしこまりました」 この心遣い、なるほど親父さんが誉めるわけだ。 1曲目『グラドゥス・アド・パルナッスム博士』は、有名なピアノ練習曲集『グラドゥス・アド・パルナッスム』(パルナッスム山への階梯)のパロディ曲らしく、退屈な練習に閉口する子供の心理を巧みに表現していると言われる珍曲だ。ハルヒはいつか、鍵盤を叩いてお母さんと「お話」し、それがピアノの練習になっていた、という話をしたことがあったが、ハルヒの母さんのピアノは確かに「物語」をしているようだった。「ピアノなんて大嫌い!」と女の子が言っている情景を思い浮かばせる演奏(しかもピアノの!)とでも言えばいいんだろうか。 2曲目『ゴリウォーグのケークウォーク』は、ジャズのリズムを最初に取り入れたクラシックとも、黒人音楽と西洋音楽との最初の接触とも言われるリズム感あふれる曲で、ガンガンに激しいかと思うと小さく細やかに、音量も音の色合いも実に幅のあって…… ……曲はドビュッシーからサティへと移り、やがて最後の曲になった。『ジュ・トゥ・ヴー』(Je te veux)は、エリック・サティが1900年に作曲したシャンソンで、“スロー・ワルツの女王”と呼ばれた人気シャンソン歌手、ポーレット・ダルディの為に書かれた。今夜演奏されたのは、これをサティ自身がピアノ曲にしたものだ。 演奏を始める瞬間、ハルヒの母さんが演奏に入って初めてハルヒの方を見た(ようにおれには見えた)。その瞬間、ハルヒが真っ赤になってそっぽを向いた、とは親父さんの証言だが、ハルヒ本人はもちろん否定した(ハルヒの母さんは、ただ笑って二人のやり取りを見ていた)。甘いメロディがはじまり、PAからは誰かが口づさむ声が、かすかにピアノの音に重なった。グランド・ピアノのためのマイクが、声を拾っていた。聞き違いようがない、ハルヒの母さんの声だ。 J ai compris ta détresse, あんたの気持ち あたしにもわかる Cher amoureux, 大好きな人 Et je cède à tes voeux, 恋をしましょう Fait de moi ta maîtresse. この世のすべて Loin de nous la sagesse. 忘れ去り Plus de tristesse, 悲しいことのない J aspire à l instant précieux すてきなひととき Où nous serons heureux je te veux. 二人幸せなとき あんたが欲しい Je n ai pas de regrets いいの それで Et je n ai qu une envie のぞみはひとつ Près de toi, là, tout près, あんたのそばで すぐそばにいて Vivre toute ma vie. ずっと生きてく Que mon cœur soit le tien, あたしの心があんたの心に Et ta lèvre la mienne あんたの唇が私の唇に Que ton corps soit le mien, あんたの身体があたしの身体に Et que toute ma chair soit tienne! あたしの全部があんたの全部になるように ……… すべての曲が終わり、拍手が続いて、二人、母とその娘がテーブルに帰ってきた。 それでも拍手は鳴り止まず、二人はテーブルの前で二度目のおじぎをした。それをタイミングに二人を追ってきたピン・ライトは消え、BGMが流れて、演奏は終わった。 オーナー自らが、アペリティフ(食前酒)を運んできた。 「素敵な演奏、ありがとうございました」 「こちらこそ素敵な場所で演奏できて、本当に幸せ」 「お食事をお持ちしますね」 「ごめんなさい。わたしたちだけ、遅くしてもらって」 「ええ、特別なんです。みなさんは、ゲスト・オブ・オーナーですから」 嫌味のない笑顔を残して、オーナーは歩き去った。 ハルヒは、アペリティフを指さして、お母さんに「飲んでいいの?」と聞いている。 「食前酒で酔うもんか。というか、酔うような酒を食前酒に出さんぞ」 親父さん、その仕草は「おまえも一杯行け」ですか? 料理が進んで、まだ30歳代前半だと思われるシェフがやってきて、肉料理(鴨)を切り分けてくれる。 「この料理……失礼ですが、ラ・トゥール・ダルジャンにいらしたの?」 「え、あ、はい。半年だけですが」 「そのお歳で」 「はい。語学も料理の腕も、足りないものばかりでした。何も身に付けず帰ってきたようなもんです」 「とんでもない。鼻っ柱をへし折られたことを仰ってるなら、それこそ得たもの。あなたは多分、天才です。10年したら、ベルナール・パコーが赤絨毯とリムジン用意して迎えにくるわ。あ、ごめんなさい。出過ぎたことを」 「いいえ。先生は覚えておられないでしょうが、一度だけ、先生の料理を食べたことがあるんです。店をお止めになる、ほんの2週間ほど前に」 「まあ」 (ラ・トゥール・ダルジャンって何だ?) と声に出さずハルヒに聞く。 (鴨料理が有名なパリにある元三ツ星レストラン。今は星二つだったと思うけど) と声に出さずハルヒも答える。 (ベルナール・パコーのは?) (ランブロワジーってパリの三ツ星レストランの料理長よ) 「母さんの料理、食べたって言ってたね、彼」 しっかり口に運ぶものは運びながら、喋り続けるハルヒ。 「ほんと、口は災いの元ね。顔から火が出るかと思ったわ」 いつかのハルヒのように、トマトみたいに真っ赤になった、ハルヒの母さん。 「それで料理人を志したって」 「いわないで、ハル。ああ、悪いことってできないわね」 「別に誰も悪いことしてないわよ」 珍しく黙って食べ続けていた親父さんが口を開いた。 「確かにあいつは天才か、それに近いものがあるな」 「ね、お父さんもそう思うでしょ?」 「ああ。しかも去年より腕を上げてる。将来、楽しみだな。……キョン、お前も何か喋れ」 ああ、そろそろお鉢が回ってくることだとは思ってたんだ。それに言うことなら決めてあったしな。 「ピアノっていいですね。素直に感動しました。ハルヒ、お前弾かないのか? お母さんの一番弟子だろ?」 「げっ。あんたって奴は……時と場所を選びなさい!」 「どういう意味……」 「素敵! ハル、キョン君のリクエストだもの、頑張るわよね?」 「あ、あのね、母さん」(どうすんのよ! 母さんのスイッチが入っちゃったじゃないの!) (って、いいじゃないか) (良くないわよ! うちの母さんは、人間以外には完全主義者だって、前言ったでしょ!) (おまえ、人間じゃないのか?) (そういうボケかましてる場合じゃない! 音よ、音! ああ、キョン、次にあんたと会えるのは、親父の葬式かもね) (どれだけ未来だよ、それ!) 「あの、目でお話中のお二人さん、おじゃましていい?」 100パーセク以内のすべての恒星を搭載したような瞳を輝かせて、ハルヒの母さんは言った。 「次は二人の大学合格のお祝いをここでやりましょう! その時はハルと私で連弾をご披露するわ!」 〜おしまい〜 エピソード 一周年 その後ー腕の腫れ、氷の癒しへ
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/225.html
親父の英会話 Lesson 5から 説明する英語 something like(〜のようなもの) オヤジ 便宜的に、訓練と実践を分けて考えてみるか。 オヤジ たとえば大卒のネイティブ・スピーカーの語彙は数え方にもよるが、ざっと5万から10万語だ。一方で日常会話に使われるのは3000語だとか5000語だという。日本で大学受験に必要だと言われるのが、学校にもよるが5000語だとか1万語だとかいう。大雑把に数だけで言えば、学習用の英和辞典を丸暗記すれば、量的には足りる。新しい辞書ほどいろいろ工夫してあるから、ほんとに丸暗記できれば、相当に英語ができる人間になってるだろう。まあ、そういうことに取り組んでる奴もいないではない。こういうのはみんな訓練の話だ。 オヤジ いざ、話す相手が目の前にいる場合に、自分の語彙がどの程度なのか、そこで振り返っても、あまり意味はない。手持ちだけで何とかしのぐのが実践だ。だいたい未知の言葉が出てこない会話なんぞあり得ない。すべてがご存知なら、わざわざ喋る必要もないからだ。 オヤジ そうだな、キョン、おまえは懐炉(カイロ)を英語で何というか知ってるか? キョン 懐炉ですか?いや、知らないです。 オヤジ 実はおれも知らん。しかし説明ならできるし、実際、日本にあって英米でないものは、 something like(〜のようなもの) という表現なんかを使って説明を付け加えるのが実際行われることだ。(逆もそうだな。向こうがこっちの知らないものを説明するにも使われる)。something likeのあとは、いわゆるカタコト英語でかまわん。アタマにsomething likeをつけるのを忘れず使えるなら、もはやカタコトというレベルは越えてるがな。 キョン おやじさんなら、どうしますか? オヤジ そうだな。 Kairo is used for warming our body. It s something like a pocket-size body warmer. とかどうだ。 いま話の流れだと「It s something like」以下だけでいいが、実は「Kairo is used for……」と言いながら時間を稼いで考えてた。そこで出たwarming our bodyを使って、body warmerってフレーズを出したんだ。 ほんとは防寒具なら何だってbody warmerなんだが、pocket-sizeで「どうだ、オーバーやえりまきとは違うぜ」というところを出したつもりだ(笑)。 自問自答で分解する オヤジ 実は知らない単語を知ってる単語で説明するときに、アタマでやってる作業は、この前whatを使えって言った時にwhat s this? のあと、ずらずら質問を並べたろ? What do you use it for? 何に使うんだ? How do you use it? どうやって使うんだ? When do you use it? いつ使うんだ? Where do you use it? どこで使うんだ? 何に使うんだ?、どうやって使うんだ?……あれを自問自答してるんだ。 オヤジ 懐炉って何だ?何に使うんだ?→体を暖めるんだ:warm the bodyだ、どうやって使うんだ?ポケットに入れてだ、It s pocket-size, because I have it in my pocket when I use.ってな具合にな。 オヤジ 白元のHPでは、 heatpad instant body warmer stick-on type(使い捨てカイロ貼るタイプ) なんてことがかいてあったな)。あとzippo にはhand warmerって商品がある。 学習用英英辞典にタメ口をきく オヤジ こういうことを知ってる単語についてやってからな、学習用の英英辞典、ネイティブが「国語辞典」として使う奴じゃなくて、英語を外国語として学ぶ連中用につくった辞書の方だ。見てみろ。 Collins Cobuild Learner's Dictionary Collins COBUILD Student's Dictionary (Collins Cobuild) with CD-ROM Longman Dictionary of Contemporary English with DVD-ROM Oxford Advanced Learner's Dictionary Cambridge Advanced Learner's Dictionary with CD-ROM オヤジ この手の辞書は、語の意味を説明するのに2000語ぐらいの単語しか使ってないから、ほぼおれたちがやってるのと条件は同じだな。 ほとんど「答え合わせ」に近い感覚を覚えるぞ。連中だって、いざ言葉を説明しようとすれば、似たようなことをやるしかないんだ。 オヤジ 知ってる単語を題材にして、It s something like〜をつかって、なるべく簡単で意味の広がりの大きい、よく見かける単語だけつかって説明するってのをやってみな。 「答え合わせ」はさっきも言った通り、学習用英英辞典を使ってできる。これは実践的だが、同時に訓練でもある。 この手の訓練をやってから、学習用英英辞典を見たら、宝の山に思えるぞ。2000語しか知らなくても、どうやってしのげばいいか、もっといえば物事を誤解されないように説明するのにはどういう英語をつかえばいいか、その実例集として使えるからだ。 しかも作ってるのは、母国語もあやしいただのネイティブじゃなく、言葉のプロたちだ。 ボキャブラリーを掘り下げる オヤジ これはボキャブラリーを広げる、数を増やすのとは、ちがう方向のトレーニングだな。ボキャブラリーを掘り下げる、一個一個の単語の有用性と活用度を高めていく訓練だ。 ぶっちゃけて言えば、英語の使い方を上達させているとも言える。 一生に数回しか出あわない単語をずっと覚えているのも大変だが、毎日出あう単語を使いこなすのも一苦労だ。 ただし、後ろの方の苦労は、即効で報われる。なにしろ毎日出あう単語なんだからな。さっきも言ったように未知の言葉は決して無くならないし、まだ言葉が与えられてない出来事について語ることこそ言語の大切な使命だろう。そういう言語運用能力を鍛えるのだから、実践的なのは当たり前だとも言える。 オヤジ あと、これもさっき言ったが、そして学習用英英辞典をはじめとする英語で書かれたツールを利用できるようになるという特典もつく。 最近じゃ、公文書の類は、そうした簡単な単語をつかって書かれる傾向にある。入門書や教科書もそうだな。 英語で書かれたよくできた教科書のマーケットは、決して英語圏に限らないからだ。英語を母語としない連中にも使えるように書かれているから、分厚くてそのジャンルについてかなり網羅的な情報を与えてくれる教科書、心理学だとヒルガード、言語学だとフロムキンか、そういう教科書の英語は決して難しくないし、専門用語は登場するが、そんなのはグロッサリーとかいうコーナーで改めて簡単な英語で説明してくれているのが普通だ。 知ってる単語を説明してみる オヤジ さて、何かでやってみるか。まあ、最初は用途がわかるものがやりやすいな。傘なんかどうだ? キョン えーと、When do you use it? ...When it s rain, I use it. How do you use it? ....開くはオープンでいいのか? オヤジ あとは何故そんなものを使うか、だな。 キョン Why do you use it? ...雨を防ぐため? rain protector? オヤジ 大層な話になったが、悪くない。じゃあ、まとめてみろ。 キョン 持ち歩けるってのもつけた方がいいですね。でも何て言えばいいんだろ。 オヤジ 実践的には、とりあえず分かる範囲で一度言ってしまうんだ。相手が分からなきゃ、いろいろ質問してくる。いっしょに考えればいいんだ。 キョン じゃ、とりあえず An umbrella is something to protect rain. We can have it in our hand. オヤジ まあまあか。ここで親父の知恵を出そう。 keepってのは、意味の幅が広くて使い出がある動詞だ。なにかをある状態にキープしとくことなら何でも言える。 たとえば、「この絵に触れないでください」ってのをなんていうか。大抵はPlease don t touch this picture.を思いつく。だがkeepをつかうとこうなる。 Keep your hand off this picture. ずっと手を触れないままでいろ、ってことだ。ガキが手を出して今にも触りそうな瞬間にはDon t touch it!(触っちゃダメ)がぴったりだろうが、触っちゃいかんのは今だけじゃなくずっとだ、そういうルールを述べてるんだからな。Keepの方はそんな感じが出てる。 オヤジ で、傘に戻ると、雨に濡れないためのもの、というのがおまえさんの言いたかったことだろう。 An umbrella is something to keep us dry in the rain. An umbrella is something to keep away from raindrop. とかな。まあ、傘はそこまで完璧なものじゃないので、少々濡れてしまうが、 At least, an umbrella keeps the upper half of our body dry. まあ上半身ぐらいは濡れるのを防いでくれる、とかな。 で、英英辞典で答え合わせだ。 Longman Dictionary of Contemporary English 4th ed. an object that you use to protect yourself against rain or hot sun. It consists of a circular folding frame covered in cloth Compact Oxford English Dictionary a device consisting of a circular fabric canopy on a folding metal frame supported by a central rod, used as protection against rain. Cambridge International Dictionary of English a device for protection against the rain which consists of a stick with a folding, material-covered frame at one end and usually a handle at the other, or a similar, often larger, device used for protection against the sun 親父の英会話 Lesson 7へつづく
https://w.atwiki.jp/propagandabuster/pages/17.html
テキサス親父、毎日WaiWai問題を語る!(日本語訳)「テキサス親父、毎日WaiWai問題を語る!」の日本語版と文字起こしです。 http //www.suzaku-s.net/2008/07/waiwai_prob_by_propaganda_buster.html 早くも「テキサス親父、毎日WaiWai問題を語る!(原題:WaiWai tabloid, the truth about sex in Japan?)」の日本語訳版ができています。ただ、ちょっと画質が悪いのと、口調が丁寧語でテキサス親父のイメージとマッチしていないのがちょっと残念。 そこで以下、テキサス親父の口調(と言ってもこれも「イメージ」ですが)で日本語訳を再構成してみました。 【ニコニコ動画】毎日新聞問題に対してテキサス親父が物申す(和訳付き) やあみんな。 今日は、毎日新聞が日本人を侮辱したというスキャンダルについて話そうと思う。 この新聞の、ワイワイ?ウェイウェイ?なんて読むか分からないけどこのコラムで英語版のサイトでの連載が掘ったんだ。 この記事の責任者であるライアン・コネルという人物は、他に2冊のセックス・タブロイド本の共著者でもある。 この「変態という名の紳士」は、「日本人女性は性欲が強い」だの日本人を侮辱する根も葉もない記事を雑誌などからかき集めて、この新聞に発表したんだ。 この新聞社は、400万部も発行しているちゃんとした新聞のはずなんだけど、こんなコラムを掲載したもんだから、世界中の変態たちが「よっしゃ!日本に行けば美人とタダでやれるぞ!イェー」と勘違いして日本に行き、「ヘイ、一発やらせてくれるんだろ? だってこの記事にそう書いてあるぞ!」といってみたものの、そんなバカな話があるわけもなく、日本人は大激怒。 「日本人のメンツが丸つぶれじゃないか!どうしてくれる!」 …と、今のはイタリア訛り。日本訛りがどういうのかわからないけど、とにかく怒ったわけだ。 で、日本人からのプレッシャーを感じた責任者は急いでこのコラムを拝しs田と。ま、当然だな。 しかしここからが問題だ。 この記事を読んで、日本が世界一のスケベ大国と勘違いした世界中の変態に言おう。 日本の性欲は、地理の性欲、ケベックの性欲、アルバニア性欲と変わらんってことだ。分かるか? つまり男女間の違いはあれど、性欲なんて世界中どの人間も一緒ってことだ。 なんで自分の国でセックスできるのに、わざわざ他の国に行ってしたがるんだ? 自分が恥を書いてるのがわからんか? 自分の国の恥になってるのがわからんか? さて、日本人には申し訳ないが、アジア人である限り、この点でちょっと不利なのも確かだ。 なぜって、多くの西洋人は、…あんまり言いたくないけど本当のことだもんな。アジア女性をエキゾチックで美しいと思っている。 だからこそ、アジア諸国での売春産業はうまく言っている。白人が買うからな。 だから、WaiWaiの記事を見た変態は、「日本でタダでやれるのに、わざわざ他の国で金を払う必要ないじゃないか!」と思ってしまったわけだな。美しさは罪とはよく言ったものだな! さて。というわけで、毎日新聞の記事は捏造だ、ってわかってもらえたかな? capisca?(イタリア語で「わかった?」) じゃあな、みんな。 みんなに祝福を。 アメリカに祝福を。 みんなのいる国にも祝福を。 トーク原稿よりもやや詳細に書かれた文章は、テキサス親父のオフィシャルサイトに掲載されています。 Propaganda Buster WaiWai tabloid, the truth about sex in Japan?