約 109,481 件
https://w.atwiki.jp/bsr_e/pages/396.html
一方その頃。 「まあまあ、どうだい一杯」 「これはご丁寧にどうも。もうすぐデベラ(デベラカレイ)と開タコ(タコの干 物)が焼けますから、一緒にどうですか?」 「ありがてぇ!なあ、この丸干しにユズかけてもいいか?」 「ああ、それはさっぱりして美味しそうですねぇ」 宵闇の中、大将ふたりを差し置いて、長曾我部と毛利の兵士達は、浜辺で宴会と 洒落込んでいた。 長曾我部の海賊達が、船から持ってきた酒を振舞う一方で、毛利の兵達が酒の肴 を炭火で炙っている。 「しっかし、お前さん達も大変だなぁ。大将の立てた作戦の為だけに、鉄砲玉や んなきゃいけねぇなんてよ」 「いやいや。元就様の策については、我々大抵熟知しておりますので」 「あの人、何だかんだいって毎回幾何学に則った作戦を立てるから、一定の形が 判れば、あとは簡単なんですよ」 ひとりの兵士の言葉を聞いて、毛利の兵達からも「なあ」「そうだよな」等と声 が上がる。 「それよりもあなた達の方が、あのような美しく艶のある女性が大将で、余程苦 労されてるのでは?」 そう仄めかす毛利の兵に、長曾我部の兵は決然と答えた。 「なあに。俺達は、あの方だからこそ、ついていってるんだ。男も女も通り越え て、俺達荒くれ共を纏め上げてくれる器を、あの方は持っている」 「…まあ、確かにムラムラきちゃう時もあるっスけど」 「オマエな。人がイィ話してる時に、腰折るような真似すんじゃねぇよ」 「いやいや、判ります。あの胸は、はっきり言って人類の至宝です」 「長曾我部殿には申し訳ありませんが、本当にいいものを拝ませて頂きました」 こういう点については、敵だろうが味方だろうが、共通の認識を持っているよう である。 「あの…ぶっちゃけ、『そういう』時はどうなさってるんですか?ま、まさかあ の方に…その……」 「バカヤロウ!俺らがお嬢にンな真似する訳ねぇだろ!」 毛利兵の不躾な問い掛けに、海賊達は顔を真っ赤にさせて反論した。 「大体、お嬢は接吻もまだなんだぞ!お守りの中にしのばせた初恋の人の絵姿 を、こっそり眺めては溜め息吐いてるくらい、そっちの方面に関しちゃ晩生(お くて)なんだからな!」 「そうそう!夜中にひとりで『源氏物語』の写本を、何度も読み返しては涙ぐ んでたり!」 「湯浴みの度に『また、胸が大きくなっちゃった』とか『もう、これ以上背が伸 びないで』なんて、ベソかいてたり!」 「……もしかしなくても、それ全部覗いてたんですか?」 彼らの熱過ぎる力説とは裏腹に、毛利の兵たちは些か空気が寒くなるのを覚えた。 瀬戸内のカイとゲルダ13
https://w.atwiki.jp/isekaikouryu/pages/2612.html
「屋敷でクリスマスパーティーをするんだ!」 モルテがそう騒ぎ出したのが12月の20日 「わくわくして起きたのに雪が降ってないじゃないか!?」 モルテが寝起きで騒ぎ出したのが12月の24日 「おかしい…ホワイトクリスマスってのを楽しもうと根回ししたはずなのに一粒も雪が降っていないなんて!」 と言っても飾りや食事や何だのを用意したのは屋敷の召使達で、モルテは実現し辛い指示を出していただけである。 「どうしたのですかモルテ。日付が変わった頃に起きたと思ったら大騒ぎして」 「サミュラ!雪が降ってないんだよ!クリスマスがホワイトじゃないんだよ!」 「雪にも都合があるのでしょう?」 「空にも【冬】の気配はありませんな。時期通り今頃は新天地辺りを飛んでいるのでしょう」 モルテの晩餐の招待を受けた中でも真っ先に到着していた審議侯が相槌を打つ。 確かに今の時期に寒波降雪を促す精霊団【冬】はスラヴィア上空にはいない。 「私はサミュラ様がいらっしゃるというだけで満足至極でございます。ところでモルテ様の根回しというのは精霊に願いなどをして回ったなどでしょうか?」 平時より一層荘厳華麗なそれでいて邪魔にならないまとまりという絶妙なバランスは組み合わせと装飾に半日をかけたというレシエ卿。 異世界では天気予約というほど大層なものではないが、それなりに多くの大きな精霊と約束を交わせば臨む天候がやってくるのだが。 「三か四カ月前に湖の水精霊に言ったっけなー。12月24日から雪ドバーって降らせるんだぞ!って」 「全くモルテはもぅ…」 「相変わらずですな」 「本当に言っただけで終わっているのですね。降るはずもないでしょう」 三連続の溜め息に流石のモルテも少しばかり狼狽える。そもそも己の願いを精霊が聞き入れたことがあっただろうか?と思い起こす。無い。全くありません。 「がっでむ!」 悪戯大王禍々邪神と恐れ煙たがれるモルテの本気で地に落ち込む姿は貴重である。 「ふぅ…今からでも間に合いますでしょうか?雪となると水、闇、あと風精霊にも協力を取り付けなければいけませんが」 「都周囲の湖にいた多くの水精霊は先日南の商業港に風精霊と出掛けたと聞きましたな。何でも年末巡業で地球からプロレス団体がやってきているを見学に、と」 「私の領内のイベントですわ。ミズハミシマの闘士【潮流・力】などを交えて大々的に開催されるとか何とか」 「そうですか…なら無理に引き返してもらうのも悪いですね。もう夜まで間に合わせるのは難しいですね、どうしましょう」 夜までもう半日もなく、大気中の水分を上空にて雪に精製するだけの精霊を集めるにはかなり難しい。 それでも珍しく哀れな子羊の様にぷるぷる震えるモルテに何かしてあげたいと思うサミュラは悩まし気な面持ち。 「強き力を持つスラヴィアンは精霊との関りが他種より薄い面がありますからなぁ。こういう時はその力が逆に恨めしいですな」 一同溜め息と思案にふけるがどうにも良い案が浮かばず八方塞がりである。 「モルテ、今年は諦めて来年から頑張って ─── 古代ミイラの如くうずく丸くなるモルテに手を伸ばそうとしたサミュラ。そのスカートの下が突如蠢き出す。 蝋燭の光が作る影へサミュラのスカートの中から大量の【黒】が流れ込むのだ。 とめどなく流れる黒はやがて盛り上がり大きな体躯を形成する。サミュラの影と繋がったままに巨大な丸岩が出来上がった。 それはさざめく毛並み溢れる球体に四対八本の腕と太く短い脚の生えた漆黒のムークの影。影故に目も口も何もないシルエット。 「あら、闇さんがムークになってしまいました」 「むぅ…只ならぬ雰囲気を感じますな。これも闇がかつて影ごと取り込んだ者なのでしょうか」 「しかし何故ムークなのでしょう?」 どすんどすん。本来質量などないはずの影だが窓際へ進む足の動きには確かに重量を感じる。 屋敷の大窓までたどり着いたムークの影はおもむろにそれを開き夕闇訪れようとする赤い空へ向かって全ての腕を伸ばす。 ボォオエェエアァアアーーーーーーーーーーー 大気どころか屋敷全体が震える咆哮。しかしそれは耳を劈くことなく通りの良い風の音の様に体を透き通り空へと舞い上がっていく。 一しきり吼え終えたのか、ムークの影は腕を下す。するとたちまち空模様が灰色へと変化するのだ。 灰色の空は凍える大気で蓋をしたかの如くあっという間に零下へと冷え込み吐息を結晶と化す。 「信じられませんが、【冬】がやってきましたな?!」 スラヴィアの空を激しくうねり飛ぶ水と闇と風の精霊団。季節をもたらす彼らの不意の登場にスラヴィア全土にどよめきが起こった。 程なくして空よりひらひらと雪が舞い落ちだす。それはすぐに吹雪となり一面を白へと変えたのだ。 かつて異世界に人もまばらで国もなかった頃、それは己の多腕で波を掻き分け崖を登りありとあらゆる場所を巡った 高き山の頂にてそれが吼えると何処からともなく精霊が集まり雪を降らせ白い傘をかぶせた 遠き海の孤島でそれが吼えると立ちどころに雪が海に凍土を生み出した それは異世界の白き場所を決めた者 ともすれば神よりも古き存在 命尽きるまで異世界に白の色どりを与えたそれは最後を迎えた後に影に飲み込まれたという 「何か知らないけどホワイトなクリスマスだ!やった!」 「良かったですね。闇さんに感謝しないといけませんね」 「ふ、ふんっ!中々やるじゃないか!」 精一杯のモルテの謝辞に小さくなった不定形はサミュラのスカートの下でふんぞり返ってみせる。 「しかしこれは些か過度ではありませんかな?既に窓の下まで雪が積もってますな」 「何やら面白いことになっておる」 「サミュラ様、お招きいただきありがとうございます!急に雪が降ってきて地下迷宮の入り口が埋まって大変でした驚きました」 「…」 髑髏王に続き監獄姫、岩窟王と到着する。三人ともその身にたっぷり雪を積もらせていた。 「よーし人数も集まってきたことだし雪合戦といこうじゃないか!石入れるんじゃないぞ?入れるなよ?」 吹雪く庭に躍り出たモルテは上機嫌でマッハに雪玉を作り出していた。 「一件落着、ということでいいのでしょうか?ところでクリスマスに雪合戦というのはどうなのでしょうか」 危うく負の情念を暴走しかけたモルテであったがスカートの闇のおかげで事なきを得る。 スラヴィアの若干おかしげなクリスマスは賑やかに過ぎていくのだった。 時季外れのクリスマスinスラヴィア モルテって嫌われてるって分かっても次の日になったら忘れてるタイプだよね -- (名無しさん) 2017-01-22 15 38 56 異世界創生からいる神って少ない?異世界の大地を創った存在は面白そう -- (名無しさん) 2017-01-22 18 17 48 気象に関しては異世界の方地球より便利というか融通が利くのね -- (名無しさん) 2017-01-23 18 09 49 夜限定かはわからないけどサミュラに対してはとても便利な闇精霊だ -- (名無しさん) 2017-01-26 08 15 26 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/sinsougou/pages/1187.html
バレンタインデー、あるいはセントバレンタインデーは、ニ月十四日に祝われ、世界各地で男女の愛の誓いの日とされる。 男は期待に胸を膨らませ、女は意中の男に、愛の言葉とチョコを送る。中には社交辞令、三倍返し目的といった例外もあるが、バレンタインデーは前述の通り、愛を誓う日なのだ。 しかし、ここ次元世界ミッドチルダで一人、浮かない顔をしている者が一人。 シン・アスカ。ミッドチルダへ次元漂流してきた彼は、元いた世界――コズミック・イラで起こった悲劇を思い出し、溜め息を漏らしていた。 聖夜のクリスマス・イブから新年のお祝い等、一年で最もお祭り事が集中した真冬から少し過ぎた、新暦七十五年、二月十三日の深夜、 「終わった……!」 機動六課のフォワードメンバー『スターズ』隊隊員のシン・アスカはキーボードから両手を離した。疲れの所為か、指が震えている。 夕食を終えて直ぐに作戦報告書をまとめたが、まさかこんな夜中になるまでかかるとは、シンは思ってもいなかった。 こちらの世界――ミッドチルダに来てから久しぶりのデスクワークの所為なのだろうか。 本来なら、今日の夕方以降待機任務から外れ束の間の休息なのだが、ここ立て続けに任務が重なった所為で作るべき書類は山程、ではないがそれなりに溜まっている。空いた時間にやっておかないと忘れそうだ、とシンはティアナ達とすぐに別れたのだ。 「ふあ……次は始末書か、朝までには終わるかな」 んぅ~っと大きく伸びをすると、ポキポキと背中や腰の骨が鳴った。静かなオフィスにはよく聞こえる。 書類を保存して端末を待機状態にする。 とにかく一息入れないとやってられない。何か飲むか、と椅子から立ち上がったその時、壁に掛けられていたカレンダーが視界に入った。 「ニ月十四日、か……」 血のバレンタイン――プラントの農業用コロニー『ユニウスセブン』が、地球軍の戦闘機が放った核ミサイルにより壊滅した事件。コズミック・イラ七十年、ニ月十四日のバレンタインデーに起こった為、血のバレンタイン事件と呼ばれている。 事件当時、学校のクラスメイトの女子や妹にチョコを貰い、浮かれていた気分が一気に冷えきった。 二十万以上の人間の命が、一瞬にして消えたのである。 これが同じ人間のする事か、とシンは恐怖した。 そして、この事件がきっかけとなり、地球連合軍と、プラントの事実上の国軍ザフト――ナチュラルとコーディネイターによる大規模な戦争が始まった。その所為で住んでいた国は戦火に巻き込まれ、家族が―― 「く……!」 シンは、自分の中に溜まった黒い感情が沸々と込み上げてくるのを、頭を振って押さえ込む。 足がふらつき、床にへなへなと座り込む。制服のズボンが埃で汚れるが、どうでもよかった。 何時までも過去に縋る自分が情けなくて、口から渇いた笑みが零れた。 「…………」 全てを失ったあの日から、何の因果か異世界へ次元漂流した。 何もかもがどうでもよくて、自暴自棄になっていたあの日から、もう一度歩いてみようと決意して以来、久しく忘れていた感情。 前を向いて行こうと決めたのに、ちょっとしたきっかけで後ろを振り返ってしまう自分に笑ってしまう。 思い浮かぶのは家族との団欒。休日に父親とキャッチボールをしたり、夕飯の準備をする母親の手伝いをしたり、妹が焼いたクッキーを一緒に摘まんだり、テレビのチャンネル争いをして喧嘩になったり……。 一度思い返したら止まらず、次々と走馬灯のように、鮮明なビジョンがシンの脳裏に現れては消えていく。そうして沈んでいる内に、鼻の奥がツーンとし、目頭が熱くなるのを自覚した。 「帰りたいなぁ」 膝を抱えて蹲る。真紅の瞳からは一筋の涙が零れ、頬を伝った。 今更故郷を、過去を求めたところで、それは二度と帰ってこない。過去の為に戦い、その果てに『明日を求める力』に敗れたのだから。 「コーヒー飲も……」 何時までもうじうじしてられない、と制服の袖で涙を拭き、勢いよく立ち上がる。そのままの勢いで廊下の自販機に行こう、と出入り口のドアに歩き出そうとしたその時、ドアがゆっくりと開いた。 「やっぱりシン君だ」 開けられた空間からひょっこり顔を出したのは、シンの上司でもあるスターズ隊隊長、高町なのはだった。左手が彼女の背中に隠れている。 「高町隊長」 お疲れ様です、と敬礼をするシンに、なのはは微苦笑交じりに敬礼を返す。 他のフォワード陣とは違い、どこまでも真面目なシンに呆れつつ、いつまでも自分を含め同僚や上司達に対し固い態度なシンに、彼女は心中で溜め息を吐いた。まぁ六課に入りたての頃よりは全然いいものなのだが。 なのはの胸中は複雑だった。 「シン君、もう休みの筈だよね? 駄目だよ、休む時は休まないと」 なのはがオフィスに入ってくると、シンはばつが悪そうに視線を逸らした。 「すいません。でも、書類が溜まってて。今やっとかないとって、その……」 段々と声が小さくなるシン。そのしょげた姿は、飼い主に叱られた犬を連想させる。もしくは、姉に叱られる出来の悪い弟、といったところか。 「私の言ってる事、間違ってるかな?」 「……いえ、その。すみませんでした」 これ以上はかわいそうだ、となのはは心中で微笑む。もう十分に自分の言った事は伝わっただろうし、自分の説教で彼の睡眠時間を削ってしまっては意味がない。それに、こんな話をしに今まで探していた訳ではないのだから。 「うん、分かってくれたみたいだし、もういいよ。それでね……えっと」 何か言いかけて止めるなのは。先程まで厳しくも尊敬する上官だったのに、今は迷子センターに連れてこられた児童みたいに落ち着きがない。シンから視線を逸らしては合わせ、制服の裾をぎゅっと掴んでいる。 「高町たい――」 「待って!」 なのははシンの言葉を手で制した。その場ですー、はーと深呼吸する。よく見ると頬が少し赤い。 シンはそんな上官に益々戸惑う。 「仕事、まだ終わらないみたいかな」 「えっと……あとちょっとです。少し休憩がてら飲み物でも」 「そっか――あれ?」 納得したと思ったらまた疑問節になる上司に、シンは首を傾げる。 「シン君、泣いてたの?」 「え?」 なのはの言葉に、シンは咄嗟に目の下を撫でる。その行動に、なのはは今度こそ噴出しそうになった。これでは、そうですと白状しているようなものだ。 「やっぱり」 「…………」 目の前でクスクスと微笑む上司に、シンはしまった、と自分の迂闊さを呪った。 どうもこの人には敵わない、とシンは改めて、高町なのはという人物を認識する。 考えている事が筒抜けというか、こちらの思考が丸分かりというか。 先程の嗜めるような物言いも、何故か反論する気持ちが萎えてしまう。 自分に姉がいたらこんな感じなのだろうか、と思い始めたところで、 「シン君?」 彼女の声に、現実に戻された。 彼女をそういう目で見た事に罪悪感を感じながら、シンは頬を掻いて話題を逸らそうとする―― 「あの隊長、明日の訓練で――」 「それで、何で泣いていたの?」 が、なのははしっかりと覚えていたようで、シンのささやかな抵抗も徒労に終わった。 「な、何でもないですよ。目にゴミが入っただけです」 「本当に?」 こちらを真っ直ぐに見つめてくるなのはに、シンは嘘をついている事と、先程の罪悪感も相まって彼女から視線を逸らし俯いた。 ついさっきの失敗を、またも繰り返してしまうシンだった。 「シン君、やっぱり嘘ついてる。そんな態度じゃバレバレだよ?」 「う……」 なのはの言葉にようやく気付き、小さく呻き声を出しても時既に時間切れ。終わる頃には、ズタズタにされた黒髪の雑魚がいた。 「あのねシン君。言いたくないなら、私も無理に聞かないよ」 でもね、となのはは一旦言葉を切り、俯いたままの、シンの頭を撫でる。 「私はシン君の上司だから。部下の心のケアも、上司の務めだよ」 ね? と微笑むなのはに、シンは暫し黙考する。こうまで言ってくれているのだから、話すくらいならいいんじゃないか、と。 「……ロビーでいいですか?」 二人は途中で飲み物――シンはコーヒー、なのはは紅茶――を手に、向かった先は、屋外の訓練場。 シンの提案を、なのはは頬を赤くしながら「駄目、絶対」と広告のキャッチコピーを思わせる言葉とともに、シンの手を取り訓練場へと引きずってきたのである。 適当な場所に二人並んで――その間に空間がある事に、なのはは寂しさを覚えながら――腰を下ろす。 シンは缶のプルタブを開け中身を一口啜り、ぽつりぽつりと語り始めた。 「明日っていうか、もう今日って言ってもいいんですけど……。俺がいた世界の、二月十四日に、沢山の人が死んだんです」 「……何で?」 『死』という言葉に、なのはの顔が強張る。手に持っていた缶は、力強く握られていた。 「コーディネイターの事は知ってますよね? それで、コーディネイターじゃない人間――ナチュラルって呼ぶんですけど。ソイツ等が、コーディネイターが暮らすコロニー、えと宇宙に住める土地みたいなものの事で。そこに核ミサイルを撃ったんです」 「…………」 シンの告白に、なのはは黙って聞いているしかなかった。 「それ以来、俺の世界――コズミック・イラでは『血のバレンタイン』って呼んでます。この事件がきっかけになって、戦争が本格的に始まったんですけどね。俺の家族も……」 「亡くなった……んだよね」 「はい。だから、それを思い出して」 それ以降シンは黙る。 なのはも何とか声をかけようと、今まで培ってきた知識を総動員して頭の中を模索するが、うまい言葉が見つからず口篭もるだけだった。 二人の間に、気まずい空気が流れる。 やっぱり話すんじゃなかった、とシンの口から溜め息が漏れそうになったその時、 「あ! あのねシン君!」 なのはの突然の大声にシンは目を丸くする。言った本人も予想以上だったのか、なのは本人が慌てふためき、手をぶんぶんと振りながら「何でもない」と繰り返した。そんな彼女にシンも生返事しか返せない。 なのははわざとらしい咳をし、深呼吸を繰り返す。やがて気が済んだのか、懐から正方形の箱を取り出した。ピンクと白の水玉模様なラッピングに、赤いリボンが飾られてある。 「はい、シン君」 「へ?」 「バレンタインデー。チョコレートだよ」 ちょっと早いけどね、と舌を出し悪戯っぽく笑うなのはに、シンは魅了された。何故か目眩を覚えくらくらとする。心臓の方も忙しなく動いていた。 「うぇ、あ、あるがとうございます」 「う、うん。どういたしまして」 震える手でチョコを送るなのはと受け取るシン。お互い羞恥心の所為か、顔は真っ赤だった。 「あ、ああ開けても」 「う、うううん、いいよ」 誰かにチョコレートを貰うなんて何年振りだろう、と包装紙をゆっくり、丁寧に剥がしていく。箱の蓋を開けると、中に入っていたのは六つの丸いチョコ。ココアパウダーが塗してあるのがポイントか――トリュフである。 「い、いただきます」 「はい、めしあがれ」 あむ、と一口でチョコを頬張る。一口噛んだ瞬間、口一杯にチョコの甘さが広がった。ココアパウダーが歯と歯の隙間に侵入する。 「ど、どうかな」 「…………」 もきゅもきゅ、と頬を動かすシンに、なのははシンが何も言わない所為か浮かない顔をして小首を傾げた。口に合っているか、不安なのだろう。 「こ、こえふぁいひょうの」 「うん、手作りだよ」 にゃはは、とはにかむなのは。その普段とはあまりにも違う、可愛らしい仕草に、シンはまたドキリとさせられる。聞こえてるんじゃないか、と思う程心臓が大きく脈打っていた。 「う、美味いです、これ」 「ほ、本当? よかったぁ」 胸に手を当て安堵の溜め息を吐くなのはに、シンの羞恥ゲージは限界突破してブッ壊れた。さらにこの状況――自分達以外誰もいない深夜の訓練場に、その相手が六課隊員達の憧れの的でもある高町なのはだという事も相まって、シンの体温はみるみる上昇していった。 未だに顔を赤くするシンとは対照的に、なのはの方は落ち着いたのか、徐々に赤みが引いていった。それからシンの頭に手をやり、自身の肩に寄りかかるように引き寄せる。これで二人の間にある距離はゼロになった。 「!?」 「あのねシン君、答えなくていいから、そのままで聞いてくれないかな」 離れようとする前に、なのはの言葉の裏に真摯さを感じたシンは抵抗せず、そのままもたれかかるようにした。 「辛い過去を忘れろとは言わない。そんな事出来る筈ないって思うし」 私が言うのも何だけどね、となのはは一旦紅茶で喉を潤す。 「でもね。辛い事もあったけど、そうじゃないのもあった方がいいと思わないかな」 「え……」 「シン君が将来、バレンタインデーの今日に、私にチョコを貰ったなぁっていう思い出も、あってもいいと思うの」 それだけじゃない、となのはは首を横に振る。 「これから先、また辛い事もあるだろうけど、楽しい事もそれ以上にあると思うんだ。だから、色々な思い出を沢山作って、ミッドチルダに、この世界に来てよかったって思える風にしたいな」 シン君と一緒にね、となのははシンの頭に置いたままの手を動かし、手櫛のように髪を梳く。シンはそれを不快に思わず、寧ろ気持ちいいとされるがままになっていた。 「……俺なんかでいいんですか」 シンが胸に抱くのは不安。自分のような汚い人間が、彼女の傍にいてもいいのか、と。 何もない、出来なかった自分とはあまりにも違い過ぎる、眩しい人。 家族も、友も、仲間も、才能も、何もかも持っているこの人に、みっともなく嫉妬した事もあった。 「シン君、もしかしてわざと言ってる?」 「な、何がですか」 あまりにも鈍感過ぎるシンに、なのはは大きく溜め息を吐く。 「はぁ……。私は、シン君と、ずっと一緒に、思い出を作っていきたい。そう思ってるよ」 きっぱりと言い放つ。そうありたいと強く願う意思が含まれたそれに、シンは体を起こし、居ずまいを正した。正面に回れば、優しく微笑むなのはの姿。月明かりの下にいる所為か、それは幻想的な雰囲気を醸し出していた。 「綺麗だな……」 「うえ?」 シンが無意識に呟いた言葉に、なのはは瞬時に顔を真っ赤にした。もしロボットなら、耳から煙でも噴いてそうだ。 「あっ! いや、あのち……! いえ」 両手をバタつかせ慌てて取り消そうとしたシンは、ピタリと動きを止める。 「し、シン君?」 「綺麗です」 「えっ」 「た……なのはさんの事、綺麗だって思ったんです。だから、その……いや綺麗とかそんなの関係なくですね」 考えが纏まらないのか、どこかちぐはくな言葉しか吐けない自分に辟易しながら、これだけは言おうと思っていた言葉を、シンは紡ぐ。 「これからも、よろしく、お願いします」 そして、ありったけの笑顔を。今までこの世界に来てから出来なかった表情は、今日という、忘れられない日の為にとっておいたものなのだと。 おまけ IFルート・BADエンド『このまま! チョコレートを! シンの口の中に! 突っ込んで! ちょっと、お散歩しよっか』 新暦七十五年、二月十四日深夜。機動六課隊舎にある、一部の局員だけが知る、第八千八百十番会議室。蛍光灯の灯りだけが室内を照らす中、三人の戦乙女(笑)が腰を下ろしていた。 一昨日の十二日から続いた議論は、平行線のままだった。議題は『どうやってシンにチョコを渡すか』 「……って感じなんだけど、どうかなぁ」 一通り捲くし立てた後、なのはは周囲――といっても二人だけだが――に顔を向ける。 「甘いでなのはちゃん、あまあまや、甘過ぎるっ!」 テーブルを叩き勢いよく立ち上がったのは機動六課課長兼部隊長、八神はやて。 「甘いって、どういうことなの……」 なのはの鋭い視線に、はやては不適な笑みを浮かべる。チッチ、と人差し指を立てて横に揺らす仕草付きだ。 「肩よりもやっぱり胸や! シンみたいな母性本能をくすぐる子はなぁ、肩より胸の、お、む、ね、お、おぉっぱい……!」 鼻息を荒くするはやての様子が次第におかしくなる。瞳は焦点を失い、体が小刻みに震える。 「おおっぱいぃ!」 突如、自身の胸を揉むはやて。親友の、特に金色の方と比べると頼りない大きさの胸をこれでもかっ! と、もげそうなくらい『揉む』から『掴む』動作に変わる。 「そうやおっぱいがぁぁぁぁおっぱいがおおきければなぁぁぁぁ」 「はやてちゃ――ん!?」 親友の凶行を止めるべく、なのははセットアップしたレイジングハートで、はやての後頭部を殴打した。 「なっ! 何をするだァ――ッ! ゆるさんッ!」 「裁くのは私の『デバイス』なの――!」 『わたしは しょうきに もどった』かどうか怪しいはやてと、レイジングハートを使って『君が泣くまで殴るの止めない』なのは達を傍観していたフェイトがぽつりと呟く。 「やっぱり乳枕かなぁ」 「ちちまくら!?」 「私は夢一杯なのに胸が大きくないなぁ!」 ちちまくらという言葉に、即座に反応するなのはとyagami。 はやてはもう、はやてではなく『八神はやての形をした別のなにか』だった。 管理局で噂される『六課七不思議』の一つでもある、yagami。それが何なのか、誰も知らないという……。 「ずるいよフェイトちゃん! もうエロ魔神って名乗ってよエロ魔神!」 「そうやそうや! おっぱい触らせろ! それが嫌ならおっぱい触らせろ! それが嫌ならおっぱい吸わせろぉぉぉぉぉ!」 ぎゃあぎゃあと喚くなのはとyagamiとは対照的に、一人のほほんとしているフェイト。 時計の針は、十二時きっかり――二月十五日を指していた。 一方時間を少し遡って、二月十四日の深夜――話題のシンはというと、自室で一人ベッドに横になり、雑誌を読み耽っていた。 部屋のドアが二回ノックされる。 シンはゆっくりと体を起こし、ドアを開けると、 「やあシン君」 柔らかい笑みを浮かべたグリフィス・ロウランが立っていた。腋にバッグを抱えている。 前衛部隊のシンと後方支援部隊のグリフィスの間ではあまり交流がないように見えるが、二人の間にヴァイスが入る事で、文字通り潤滑油となって親交を深めていた。 「グリフィスさん」 「悪いね、こんな夜更けに」 「いえ、問題ないです。中どうぞ」 「ああ、直ぐ終わる用事だから、このままでいいよ」 自室に招き入れようとするシンに、グリフィスは手を振ってバッグの中をゴソゴソと漁り、薄い長方形の箱を取り出した。真っ黒な包装紙に、黄色のリボンが飾られている。 「ハラオウン執務官からの預かりものだよ。一昨昨日に渡されてね、今日の夜に、君に渡して欲しいって頼まれてたんだ。その日――今日の事だね、何でも用事があるからって」 「ハラオウン隊長が?」 何だろう、とシンはグリフィスから手渡された箱をまじまじと見る。バレンタインデーに異性から贈られるものが何なのか、今一分かっていないシンに、グリフィスは笑いをこぼしていた。
https://w.atwiki.jp/mitudomoe_eroparo/pages/239.html
寒い日だった。 「ねぇ、みっちゃん?」 「……あ、あに、よ」 歯をガチガチといわせ、みつばは応える。 「寒くないの?」 先程から腕を組み、寒さを堪えるみつばにひとはは訊ねる。 「見りゃわかるでしょ!?寒いわよ!!妹ならその上着をお姉さまに貸したらどうなの?!」 「嫌だよ。寒いから」 即答だった。ムッとして表情を作り、そのままサクサクと雪の中を歩いていく。 学校の校庭は一面が銀世界。すでに子ども達は防寒着を着て、雪遊びに興じている。 その様子を、ミニスカートにトレーナー、Tシャツ一枚という軽装でみつばは見ていた。歯をガチガチと噛み鳴らして。 「おねーちゃん……」 そこへ、低学年の女の子がみつばに歩み寄ってきた。 低学年の女の子は申し訳無さそうな顔でみつばを見つめる。その体には少し大きなダウンジャケットを羽織って。 「なによ、まだ居たの?サッサと遊んできなさいよっ」 みつばは冷たくその女児をあしらう。 「でも、おねーちゃんもお外に……」 「別に、雪の日に外に出たがる程ガキじゃないわよっ!あー寒い寒い!教室に戻ってせんべいでも食べよーっと!」 その女児が言い切る前にみつばが大声で言った。女児困った顔でみつばを見ている。 仕方なく、みつばは屈み込み、その女児に優しく言い聞かせた。 「だから、思い切り遊んできなさいよ」 それだけ言うと、女児はクラスメートに呼ばれ、オズオズとその輪の中に入っていった。 「…………はぁー」 女児の後ろ姿を見送り、一人残されたみつばは、白い溜め息を吐く。 「雪合戦……」 遠くで、ふたばや千葉が雪玉を投げ合っていた。 「雪だるま……」 杉崎達いつものメンバーは、杉崎の顔をあしらった雪だるまを作って笑いあっていた。 「…………戻ろ」 言い捨てて、教室に戻ろうとしたその時。 「ほらっ、外寒いらしいぞ」 上着をかけられた。 驚いて、みつばは振り返る。 「うわっ、何で泣いてんだよ?俺、何かしたか?」 そこにいたのは、佐藤だった。 「べ、別に泣いてないし!?」 みつばは慌てて涙を拭う。 「?まぁ、いいけど。行かないのか?」 トン、トンと靴を履きそろえながら、みつばに訊ねた。 「い、行きたいけど……こ、この上着……あんた、寒くないの?」 「あぁ、まぁ寒いけど……、雪合戦とかしてたらすぐ温まるからな。長女に貸してやるよ」 にこやかに言った佐藤に、みつばは少し頬を染める。 「ば……」 「ば?」 「ばっかじゃないの!?カッコつけちゃって!!ば、ばーかばーか!」 みつばはそう言って校庭に走っていく。 「な、なんだよそれ!?」 その後を佐藤は付いていった。 みつばの口元にはいつの間にか笑顔が浮かんでいる。 「ありがと」 その呟きは誰にも聞こえない。 そんなある日の風景。
https://w.atwiki.jp/bsr_e/pages/2777.html
少し遅れてしまいましたが元就嬢の誕生日ネタ。 保守代わりに投下していきます。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 春を迎えて、鳥の声が一段を喧しくなってきた頃。 安芸の国、吉田郡山城に一人の男がやってきた。 「元就、居るか!」 既に顔見知りとなっている毛利家執政に軽く挨拶をすると、そのまま真っ直ぐに目的地へと向かう。 お待ちを、という家臣らの声も何のその。 どかどかと廊下を歩く足音に気付き、彼女が振り返るのと同時に、すぱーんと障子が開け放たれた。 「大声で喚かずとも聞こえておる」 全く貴様が来ると騒々しくて敵わぬ、と小さく溜め息を一つ。 元就は筆を置き、書き掛けの書状を仕舞うと、彼の方に向き直った。 「いや、ちょっと遅れちまったモンだからよう」 そういうと、元親はどっかりと腰を下ろし、抱えてきた箱を正面に置いた。 大きめの箱だが、見た目ほど重くはないらしい。 箱に書かれた蚯蚓がのたくったような模様はおそらく文字だと思われるが、元就には解読出来ない。 「これは何ぞ」 「誕生日のお祝いさ」 にぃ、と悪戯っぽく笑うと、元親は蓋を開けた。 「何と」 ばさり、と広げたそれは腰のところを細く絞った女物の衣装らしい。 細かな編み物で飾られ、ふわりと広がった裾には幾重もの薄物が綺麗に縫い付けてあった。 「これを元就に着て欲しいんだけど」 丁寧にそれを扱い、目をぱちくりとさせて驚いている元就に渡す。 上質の絹で作られているそれは羽衣のように軽く、真珠のような光沢を放っていた。 「アンタの体格に合わせて作らせたから、大きさは大丈夫だと思うぜ」 「な、どこで我の寸法を取ったのだ!」 「いや、だって何度も抱いていれば自然と……あいたっ!」 手近な所にあった脇息を投げつけられ、情けなくも直撃をくらった元親は、それでもめげずに元就の方へとにじり寄る。 ドレスを胸元に抱え、眉間に軽く皺を寄せて見上げてくる彼女をなだめるように、華奢な肩を抱き寄せて身を屈める。 不意に間近に迫った瑠璃紺の隻眼に見詰められ、元就は頬を染めて視線を逸らした。 「……らぬ」 ぼそり、と呟いた声が聞き取れず、元親は首を傾げる。 「ん?」 「我はこれの着付けを知らぬ」 彼と違い、洋服など滅多に手にする事のない元就にとって、これは未知の領域であった。 「じゃあ、俺が着せてやるから、まずそこに立ってみろ」 元親はこれに合わせる下着もあるのだと言い、箱の底に残っていた小箱を取り出す。 「あ、いや、それでは」 「いーからいーから」 ふと、昔の姫若子の血が騒いだのか、嬉々として着替えを手伝う元親の嬉しそうな顔に、元就は怒る気も失せたらしく黙って成すがままにされた。 天女の羽衣2
https://w.atwiki.jp/bsr_e/pages/2175.html
毛利×半兵衛(♀)でエロ含む。 でも愛はない。 しかも死にネタ 読後にもやもや感残る話 まだ春と呼ぶには少々早く感じるが、それでも吹き抜ける風は随分と和らいできた。 芽吹き始めた木々の枝先を見上げ、彼女は眩しげに目を細める。 白に近い癖の強い髪は短く切り揃えられている。 目元を独特の形をした仮面で覆い隠しているが、端整な顔立ちをしているのは一目で分かる。 彼女は洋風の作りをしている外套の襟を少し寛げると軽く息をついた。 「半兵衛様、少し休憩なされては…」 肺に持病を抱えている為、あまり丈夫ではない彼女を気遣ってのことだろう。 少し後ろに馬をつけていた部下が声を掛けてきたが、ゆっくりと首を横に振る。 「いや、先を急ごう」 雲行きがあやしくなる前に着きたいからね、と言うと、竹中半兵衛は馬の横腹を蹴った。 先程までは晴れていた空が薄暗くなり始めた。 湿気を含んだ空気が纏わり付き、雨の到来が近いことを告げている。 門のあたりが騒々しくなり、人の行き交う音がする。 予定よりも早いな、と呟くと、彼は障子の向こうに人の気配を感じて振り返る。 「大阪よりの使者が到着されました」 部屋で一人、机に向かって筆をとっていた毛利元就はその声に、わかった、と答える。 広げていた書類を片付け、書きかけの文をしまうと席を立った。 「雨に降られるかと思ったんだけど」 間に合ったみたいで良かったよ、と半兵衛は薄く笑いを浮かべた。 「余程、大阪は暇と見える」 広間に通された使者の一行を見渡し、元就は手にした扇子を軽く口元へと当てる。 「まあね、しばらくは大きな戦いもないだろうし…」 くすくすと意味深に笑う彼女の声に、元就の眉が僅かに上がる。 短く鼻を鳴らし、視線を外すように城の庭へと目を向けた。 ぽつり、ぽつり、と振り出した雨はいまや大粒となり、ざあざあと戸板に当たって音を立てていた。 「君達と和議を結べたのは運が良かったよ」 「…竹中、雑談をしに来たのなら疾く帰れ」 手の甲で払うような仕草をしながら、顔を顰めた元就を見遣り、半兵衛は両手を挙げて肩を竦めた。 「僕は豊臣から正式に使わされた使者だ、無碍に追い返すことは得策じゃあないだろ? 頭の良い君の事だから承知しているよね、元就君」 わざと嫌味のある笑みを浮かべると、半兵衛は盛大な溜め息をついた。 用件は半月ほど前に文面で知らせてある。 中国領内を視察したい、という一方的な内容であり、こちらの可否は関係ない。 「この天気では視察も難しかろう」 今日は早めに休息でも取っておけ、と言い捨てると、元就は脇に控えていた部下に案内するよう命じた。 幻惑の炎2
https://w.atwiki.jp/homuhomu_tabetai/pages/693.html
作者:zoIQDcBT0 188 名前:1レス借ります[sage saga] 投稿日:2011/08/18(木) 16 00 02.62 ID zoIQDcBT0 まどまど「キューベー! キューベー!」キャッキャッ キュゥべえが左右に尻尾を揺らす。 小人の少女は大袈裟に喜びながら白毛の塊を追いかける。 QB『まったく、呑気なものだ。分かっているのかい? 君のご主人様はもう』 そのとき、キュゥべえの言葉を遮るように勢いよく扉が開かれた。 ほむら「今戻ったわ。外は砂嵐がひどくて大変……」 部屋の主が戻って来たのだ。 まどまど「ホムラチャン!」トテテ… QB『何だ、生きてたのか。てっきりもう帰ってこないとばかり』 ほむら「声を聞いたの」 QB『うん?』 ほむら「まどかの声」 QB『はぁ……それは幻聴だ。概念に意思など無い。まして言葉を発するなど』 まどまど「ダッコ! ダッコシテ!」ハヤクハヤク ほむら「はいはい、ちょっと待っててね。この子は元気にしてた?」 QB『……元気も元気。五月蠅いくらいさ。見れば分かるだろ』 ほむら「そう。ごめんね、待たせちゃって。はい、登ってきて」 まどまど「マドホムッ! ホムマドッ!」キャッキャッ QB『やれやれ』 キュゥべえは目の前の光景をぼんやりと眺めながら小さく溜め息を吐いた。 自分はこんなところで何をしているのだろうかと。 暁美ほむらを除き、人類は全て死滅している。 現在、地球上に存在する知的生命体は彼女と自分と、この奇形の小動物だけだ。 QB『ほむら、一緒に来るんだ。インキュベーターの技術をもってすれば、君の細胞から新たな人類を生み出すことくらい容易い』 ほむら「ダメよ、あの子と約束したもの。この世界を守るって」 QB『もう十分だろう? 守るべきものなど、もう何も残ってない』 ほむら「それに、私がいなくなったら、あの子は一人ぼっちになってしまうわ」 QB『概念に感情なんてない。そもそも生きてすらいないんだ』 ほむら「いいえ、まどかはすぐ傍にいる。リボンの一対がこの不思議な小人さんに変わったとき、確かにまどかの存在を感じたの」 QB『ほむら、君は重度の精神疾患に陥っている』 まどまど「ケンカダメッ! メッ!」ムスッ ほむら「ふふっ、ケンカなんてしてないわ。私たちは仲良しよ。ねえ?」 QB『……』 まどまど「ナカヨシ! ミンナイッショ!」ニコニコ 彼女の世界は自分の中だけで完結してしまっている。 ほむら「汚れちゃったから、お風呂先にもらうわね。あなたも一緒に入る?」 まどまど「ホムホムッ!」ムフー QB『遠慮しとくよ。君たちだけで楽しむといい』 失った親友と近似した生物と共に、夢想の中を生きることができれば、彼女はそれで幸せなのだろう。 感想 すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/bsr_e/pages/2220.html
まだ日が高い時間であったことが幸いしたのか、捜索を開始して半刻を過ぎた頃に、元親は船に戻ってきた。 こちらに向かって腕を大きく振っている元親の姿を見つけた野郎共は、快哉の声を上げて彼らを出迎えた。 「元就はどこだ」 甲板に上がると、元親は家康を抱えたまま、彼女の姿を探した。 「大声を出さずとも聞こえておる」 かつかつと足音高くやや苛立ち気味に近寄ると、元就は彼の腕に抱えられている家康の顔を覗き込んだ。 元就は家康の首の脈を診てから、口元の呼吸を確かめる。 意識がなく、ぐったりとしているようだが、ほとんど水は飲んでいないようだ。 「…息はしているな、これなら大丈夫であろう」 ある程度医術の心得のある彼女の言葉を信じ、元親は安堵の笑みを見せた。 「すぐに着替えさせよう、こちらへ連れて来い」 既に濡れた体は相当の体温が奪われており、冷たくなってきていた。 小柄な家康の体を抱えたまま、元親は彼女の後をついていく。 空いている船室へと横たえると、冷えた頬に手を添えて顔を覗き込んだ。 「…すまねぇな」 いつも見上げてくるくりくりとした愛くるしい瞳は閉じられている。 青白い顔をしている家康の額へと元親は軽く口付けると、元就の方を見た。 「そこへ置いたら貴様は出て行け」 元就はびしっと出口を指差し、元親をじっと睨んだ。 「え、ここに居ちゃ悪いのかよ」 「……女の着替えを見たいのか、貴様は」 そこまで言われてようやく気が付いた元親は、彼女に攻撃される前に、と部屋を飛び出した。 終わったら教えてくれ、と言い残すと、甲板に残った部下達を引き連れて去っていった。 「全く…騒々しい男よ」 足音が遠ざかると呆れた声で溜め息をついて、元就は床に寝かされている家康へと視線を移す。 濡れた帯は滑りが悪く外しにくいが、器用に緩めていき、着物を脱がせていく。 用意させた乾いた布で丁寧に水分を拭き取りながら、全裸にして外傷がないか確認していく。 柔らかな皮膚に軽い擦過傷はいくつか見られたが、どれも致命傷には程遠い。 「運の良い奴め」 短く刈られた家康の髪は半ば乾きかけており、ぼさぼさとしてきた。 青白かった肌に仄かに赤みが差してきている所を見ると、どうやら容態も落ち着いてきたようだ。 新しい着物へと着替えさせようと、脇に置いてあったものを手にした時、家康がうわ言のように何かを呟いた。 「……も…ちか」 ぴくり、と元就の動きが止まり、強張った顔で家康を見下ろす。 彼の、元親の名を無意識に何度も呼んでいるのだと気付くと、秀麗な顔を顰めて唇を噛み締めた。 春嵐4
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/1871.html
【検索用 つはさ 登録タグ 2008年 VOCALOID えろあきP つ 曲 曲た 田村ヒロ 鏡音リン】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 コメント 作詞:えろあきP 作曲:えろあきP 編曲:えろあきP イラスト:田村ヒロ 唄:鏡音リン 曲紹介 曲名:『翼』(つばさ) 2徹明けの睡魔により本スレで天然暴走をかましたあの日のことは忘れない。地味に歌わせにくい歌詞とメロディーでした(汗)(作者コメ転載) 歌詞 (PIAPROより転載) 遠くへ行きたいと願う そんな私がいるけど 一歩踏み出すことが出来ず 戸惑い空を見た 鳥が優雅に羽ばたく姿を 羨ましく思い溜め息をつく 私の背に翼があったなら 迷いなんて消えてしまうかもね 僅かな勇気があるのならば 何も恐れず、怖がらないと今ここに誓う 願いよ届け空の彼方へ 虹の掛け橋を渡りながら 「必ず行くから」 心に誓い、想いを込めて 無限の可能性など 信じてるだけじゃつまらないよ 私が掴むだけ この手で夢を叶えたいから 一人になったときに 考え込んでしまうけれど 本当にそれで答えが出てくるのか分からず 胸に手を当てて心の声を 静かに聞いて答えを探し出す 私ならばきっと出来るはずと そう思って、勇気を出すことが 見えない翼を手に入れること 見えるだけが真実じゃない それに気付いたら 空の彼方へ今飛び立て 自由を求め羽ばたくことに 理由はいらない その背中にある翼広げ 世界のどんな場所にだって きっと辿り着けると信じて 大地を蹴ったら 私だけの世界が広がる 離れ行く街並み 見たことない世界へ行く 悲しみなどかけらもない 明るい未来へ 自然と奏でるメロディー 周りの音に合わせていく きっと繋がるさ 私だけのカタチを作って 願いよ届け空の彼方へ 虹の掛け橋を渡りながら 「必ず行くから」 心に誓い、想いを込めて 無限の可能性など 信じてるだけじゃつまらないよ 私が掴むだけ この手で夢を叶えたいから コメント いい曲ですね -- mmm (2011-05-06 20 53 47) 名前 コメント コメントを書き込む際の注意 コメント欄は匿名で使用できる性質上、荒れやすいので、 以下の条件に該当するようなコメントは削除されることがあります。 コメントする際は、絶対に目を通してください。 暴力的、または卑猥な表現・差別用語(Wiki利用者に著しく不快感を与えるような表現) 特定の個人・団体の宣伝または批判 (曲紹介ページにおいて)歌詞の独自解釈を展開するコメント、いわゆる“解釈コメ” 長すぎるコメント 『歌ってみた』系動画や、歌い手に関する話題 「カラオケで歌えた」「学校で流れた」などの曲に直接関係しない、本来日記に書くようなコメント カラオケ化、カラオケ配信等の話題 同一人物によると判断される連続・大量コメント Wikiの保守管理は有志によって行われています。 Wikiを気持ちよく利用するためにも、上記の注意事項は守って頂くようにお願いします。
https://w.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/734.html
日曜の午前中、私は街中を散歩をしていた。 昨日の大雨が嘘のような青空、私の心とは反対に雲ひとつ見えない。 普段なら家でネトゲでもしていただろう。でも、家にいてもかがみのことばかり考えて、辛くなるから。 気分が少しは晴れるかなと思ったけど、私の予想とは360°違った。 ……って、一周してるや。180°ね。 時間が経てば、季節が変われば、いずれ忘れられると思っていたけど、胸に刺さったトゲは、未だに抜けないまま。 歩いていくうちに、町外れの公園に着いていた。 誰もいないのが逆に嬉しかった。誰にも干渉されず、一人でゆっくりできるから。 「ふう……」 家からこの公園までは結構キョリがあり、疲れ切った足を癒すためにブランコに座った。 それからしばらく、ずっと空を眺めていた。かがみへの気持ちは、収まらない。 「……大好き」 ついに我慢できず、空に向かってそう呟いた。誰もいなくて、本当に良かったと思う。 「……私は……かがみのことが……大好き」 でも、呟いたからといって、何かが変わるワケもなく。私の心を虚しさが通り抜けていった。 ――少しくらい、私達に相談してもいいのよ? 私達は―― その後、かがみが何を言おうとしていたのかは、なんとなくわかる。 言われなくて、よかった。『親友』なんて言葉を聞いていたら、確実に暴走していただろうから。 だけど……なんで、言わなかったんだろう? 本当に恥ずかしかったのか、それとも…… どのくらい時間が経っただろう、チャプンという音と足の冷たい感触で我に帰った。 「あ……」 ブランコの下の窪みにあった、昨日の大雨でできたのであろう水溜まりに、私は足を突っ込んでいた。 靴を履いてはいるものの、隙間や足首から水がしみ込んでくる。 靴の中がグショグショで気持ち悪かったが、不意に笑みが零れた。それは、自虐の笑い。 晴れ渡った町で、私の靴だけびしょ濡れ。それが私を表しているようで、なんだかおかしかった。 〈Love is the mirage... ~せつない恋に気づいて~〉 このままここにいてもしょうがない、私はグショグショな靴のまま家に帰った。 ゆーちゃんが元気よく「お帰りなさい」と言ってきたけど、私は靴下を洗濯機に放り込み、無言のまま部屋へと戻った。とにかく一人になりたかったから。 「ふう……」 ベッドに仰向けに寝、思わず溜め息がこぼれる。疲れもあったのだろうが、原因はそれだけではなく…… 「やっぱり、諦めきれないんだな……」 諦めようと思えば思うほど、余計に心が痛む。 本当は、諦めたくない。かがみと付き合いたい。でも……諦めるしか、出来ないじゃない。 私の思いは、絶対に届かないんだから…… 「こなたお姉ちゃん、入ってもいい?」 ドアをノックする音とゆーちゃんの声。 「いいよ。何の用?」 身体を起こして返事をすると、ゆーちゃんが不安そうな顔で入ってきた。 「こなたお姉ちゃん、何かあったの? 元気がないみたいだけど……」 「……なんでも、ないよ……なんでも……」 「嘘。こなたお姉ちゃん、何か悩んでるんでしょ? 前から溜め息ばっかりだし」 ゆーちゃんはかがみ並みに……いや、それ以上に、私をよく見ている。 これが普通の悩みなら、相談するんだけど…… 「言っても、ゆーちゃんにはわからないよ」 「……」 帰って、と言わんばかりに横になる。実際、早く出ていって欲しかった。 「確かに、私にはわからない悩みかも知れないけど……一人で抱え込むより、少しは楽になると思うな」 「え……」 横になったまま顔を動かして、ゆーちゃんの顔を見る。 その顔は真剣そのもの、いつもの優しいゆーちゃんの顔ではなかった。 「それに私、こなたお姉ちゃんに頼ってばかりだもん。たまには私を頼って欲しいな」 ……負けた、かな。ゆーちゃんの親切心に、私の心が。 そう言われると、頼らなざるをえないじゃん。卑怯だよ。 でも、負けは負け。私は身体を起こしてゆーちゃんの顔を見る。 「ゆーちゃん。今から言うことは、全部本当のことだから、覚悟して聞いてね」 「う、うん……」 私の言葉に、ゆーちゃんが身構える。私は小さく息を吸い込み……覚悟を決めた。 「私、かがみのことが……好きなんだ。友達としてじゃなく、恋愛感情で」 「……え……?」 予想だにしてなかったのだろう、私の言葉を聞いたゆーちゃんが驚きで口をおさえた。 「私はかがみが欲しい。かがみとずっと一緒にいたい。だけど、私もかがみも女の子……」 「……」 スカートの裾をギュッと握り締めたままのゆーちゃんを無視して、私は喋り続ける。 最初は喋るのに抵抗してたけど、一度喋り始めると止まらなくなるから不思議だね。 「私は、かがみに告白したい。でも、かがみは私を友達としか見てくれてない至極まともな女の子。告白したところで、受け入れてくれるはずもない。 断られて、元の生活に戻れるとは思えないし、もしかしたら、私を軽蔑するかもしれない。そうなったら……傍にいることはできない」 小さく溜め息をつき、天井を見る。特に意味はないけれど……なぜだか、ゆーちゃんの顔を見たくなかった。 「いくら思ったって、私の恋は、絶対に叶わないんだ。だから諦めようとしてるんだけど……諦め切れないんだよ……」 瞳から、涙が溢れた。我慢してはいたけれど、涙腺が耐えきれなかったみたい。 「……どうして、諦めなくちゃいけないの? そんなの、会う度に辛くなるだけだよ」 その言葉に驚いた私は、ゆーちゃんの顔を見た。 さっきまでの顔はどこへ行ったのだろう、なんだかイラついているようにも見えた。 「やってもいないのに、なんで諦めてるの? まだわからないじゃない」 「わかるよ。常識的に考えて。同性に恋をするなんて、おかしすぎるじゃない」 「……何を持って常識なんていうの? 同性結婚が認められてる国だってあるんだよ?」 前言を撤回しよう。ゆーちゃんは、本当にイラついているみたい。 こんなゆーちゃん……初めて見る。 「芸能人と一般人との結婚もある。日本人とアメリカ人との結婚だってある。だから不可能なんてないんだよ。やろうと思えばなんだってやれる けど、こなたお姉ちゃんは何かしようとした? 何もしてないでしょ? ただ怯えてるだけなのを『常識』っていう言葉のせいにしてるだけでしょ!?」 ものすごい剣幕で言い寄ってくるゆーちゃんに、私は何も言えなかった。 しかも……ゆーちゃんの言葉は、まさにその通りだったから。 「かがみ先輩だって、告白したくらいじゃ軽蔑しないと思うよ。もしそうだったら、友達にだってなってないよ それに……もし何かあったとしても、私はずーっと、こなたお姉ちゃんの味方だから」 ゆーちゃんの言葉の一つ一つが、私の心の傷を塞いでいく。 気付けば私は、ゆーちゃんに抱きついていた。大粒の涙を流しながら、きっとあざが出来てしまいそうなくらい、強く。 「ひゃわ!?」 「ゆ……ゆーちゃ……あ、あり……が……ああああぁぁ……!」 痛がる素振りも、嫌がる素振りも見せずにゆーちゃんは、ただ私の頭を撫でてくれていた。 「私、頑張るよ。頑張ってかがみに告白して、かがみと付き合う」 あれから数分後、私はゆーちゃんの目の前で誓った。 ゆーちゃんが教えてくれたことは、諦めるよりも、何かを求めて傷つく方が良いということ。 私を励ましてくれたその気持ちを、踏み躙るわけにはいかない。 「じゃあ、約束だね」 ゆーちゃんが左手の小指を出してくる。指切りなんて、何年ぶりだろう。 そう思いながら、私も小指を出してゆーちゃんのと絡ませる。 『ゆ~びき~りげ~んま~ん、う~そつ~いた~ら……』 そこで、二人の声が途切れる。どうやら、同じことを考えていたようで。 「本当に針千本飲ませるわけにはいかないよね、さすがに」 「何か他にないかな……約束を破った場合……」 「あ、じゃあさ……」 ゆーちゃんがほんの少しだけ顔を紅くしてこっちを見てきた。 「私と付き合うっていうの、ダメかな?」 ……………はい? 「え、えと、だから、かがみ先輩と付き合えなかったら、私と、付き合うっていうの……ダメかな……//」 耳まで真っ赤になった顔を見て、やっと私は気付いた。 私がかがみに恋心を抱いているように、ゆーちゃんも、私に恋心を抱いていることに。 でも、ゆーちゃんの言っていることは…… 「いい、の……? だって、もし告白が成功したら……」 「いいの。一番大事なのは、こなたお姉ちゃんの気持ちだから。こなたお姉ちゃんが幸せなら、それでいいから。だって、こなたお姉ちゃんが……好きなんだもん」 ……ああ、なんで私はあんな程度のことで悩んでたんだろうか。 同性の友達に恋をした私なんかよりも、同性の『血縁者』に恋をしたゆーちゃんの方が、よっぽど辛い思いをしてたはずなのに…… それでもゆーちゃんは、私を…… 「ありがとう、ゆーちゃん……」 それだけでは、感謝の思いを伝えきれないけれど、優しく微笑んでくるゆーちゃん。多分、わかってくれてるんだと思う。 「あ……あれ……?」 刹那、瞼が重くなった。さっき泣いたせいだろう、ゆーちゃんの顔がぼやけて見えてきた。 「お姉ちゃん、眠くなっちゃった?」 「う……うん……」 私は睡魔を我慢できず、そのまま床に倒れそうになった。 固い床の衝撃がくると思いきや、柔らかく温かい感触が顔を包み込む。 言うまでもなく、そこはゆーちゃんの胸の中だった。 「いいよ、ここで寝ても」 「ありがと……ゆー……ちゃ……」 意識が遠くなる瞬間に見たゆーちゃんの瞳は、濡れていた。 夢を見た。 私がかがみと出会ってからの出来事を、まるで走馬灯のように。 二人で過ごした幸せな時。辿れば、眩しく光っている。 もう二度と、あの頃には戻れない。だけど、それは悲しいことなんかじゃなかった。 少し前までは絶望の道が広がっていたけれど、ゆーちゃんのおかげで、新しい道が開けた。 それは、決して絶望の道なんかじゃなくて…… 全てを決めるのは、他ならぬ柊かがみ。 私の運命が良い方向に行くか、悪い方向に行くか。それは、かがみの返答次第。 例え二人の距離が離れていったとしても、私はそれを受け入れる。 だってそれが、私が選んだ道なのだから。 ――柊かがみ。私の、最愛の人―― どんな結末が待っていようとも。 私がかがみを愛していたことに変わりはない。 かがみを忘れてしまうほどの恋が胸を焦がすまで。 私はずっと、かがみの幸せを祈り続ける――