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ハルヒ「なに!?なんなのこれ?ちょっとキョン? 来なさい!3秒以内!!」 インターネットサーフィンをしていたハルヒが突然騒ぎ出した。やれやれ。 キョン「お前ももう少しパソコンの使い方覚えろよ・・・ って!なんじゃこりゃあ!!!!」 俺は思わず叫び出した。 パソコンがフリーズしたかと思ったら、なんとそこに画面いっぱいに朝比奈さんのメイド服と、長門のカメラ目線のアップと、ハルヒの指をこちらに向けて踊っている写真がポップアップで出ていたのである!! 朝比奈さんが万が一自分のこんな写真が全世界に流れていると知ったら、おそらく卒倒してしまうであろう。 キョン「ウイルスだな・・・しかし何だってこんな― 長門 「見せて」 カタカタカタカタ・・・ 長門 「行ってくる」 キョン「オイ行くってどこに!?待て!」 長門 「すぐそこ」 そう言うと、長門は部室を出て行ってしまった。 うーん。なにが分かったのだろうか。 直後、隣の部屋から声が聞こえてきた。 「いらっしゃい。あ!長門さん!待ってたよ!」 『ドカーン、バゴーン、ズガーン!!』 「長門さん!?止めてくれ!」 『ドガーン!』 「済まなかった!あやまr」 『ドーン!』 「ごめんなさいごめんなさいごめんなs」 『ドカーン!』 コツ、コツ、コツ。 長門 「ただいま」 キョン「よう、早かったな。久々のコンピ研はどう だった?」 長門 「ユニーク・・・」 ―翌日― コンピ研が無期限活動停止処分になったのは言うまでも無い。 涼宮ハルヒのウイルス 完
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「ねぇ、キョン。駆け落ちしよっか?」 朝っぱらから物思いに耽っていると思ったら・・・何を言い出すんだ、コイツは。 ”駆け落ち”なんていう言葉は、お互いを愛し合っているが結ばれない運命にある二人がその運命を打ち破るためにだな。 「あたしとさ、樹海に行かない?」 しかも、死ぬこと前提でかよ。 頬杖つきながら、ぼーっとした顔で空を眺めんでくれ。 俺はいつも馬鹿みたいにテンション高いお前しか知らんのだ。 そんな違う一面を見せられたら、したくなくても『なぜか』動揺してしまう。 「ねぇ、聞いてるの?」 頬杖を止めてこちらを向いたハルヒの眉がキリキリと上がる。 これでこそ、俺の知っているハルヒだ。 論理的な思考型な俺は、理由を聞いてから何事にも答えるようにしているが、 ハルヒは突飛なことを言う割りにその理由を聞かれると不機嫌になるし、答えようとはしない。 『駆け落ちしよっか?』って言った理由をハルヒに聞くのはナンセンスだ。 …だが、聞いてしまう。 だって、それが俺の思考パターンだからだ。 「聞いてたけど、どうしてまた駆け落ちなんだ?・・・その前にどうして俺なんだ?」 こいつはいつも主語と述語が抜ける。そして、その経緯、説明もない。 まるで”私の思考はアンタには伝わってるから、説明しなくてもいいのよ”みたいな。 あいにく俺は、古泉みたいに超能力者でもないから相手の思考を読み取ったりできない。 …ってアイツは閉鎖空間の中でしか能力使えなかったか。 例えにもならないとは、本当に使えない奴だ。 「キョンなら、着いてきてくれると思ったの!」 恥ずかしそうに目線を外す・・・普通の女の子っぽい仕草も出来たんだな。 って、どうして俺なら着いてきてくれるなんて思ったんだ? 俺の思考を読み取ったかのようにハルヒが続けて口を開いた。 「だって、アタシのいう事素直に聞いてくれるんだもん。だから」 ちょっと待て。この際、俺の長所・性格・人物像は関係なしかよ。 どうみても、ハルヒの主観イメージだけじゃねぇか・・・ しかし、俺が安易に否定すればハルヒはまた不機嫌になるだろう。 古泉・長門・朝比奈さん(大)は口を揃えて、その事を忠告したけど、俺には関係ないし、 どうするかはハルヒ次第なのだから・・・ごく平凡一般の俺がとやかく言っても仕方がない。 まぁ、古泉の言っていたハルヒの言葉をできるだけ尊重するようにしてやんわりと話を流してみるか。 「お前がどうして『駆け落ち』だとか、『樹海に行きたい』とか言ったか分からんが、そんな事しなくても俺は3年間お前にこきつかわれる運命だ」 「いつ、何処で、何時、何分、何秒にアタシがアンタをコキ使いたいって言ったのよ!」 「お前の俺への態度を見たら、誰が見ても奴隷とご主人様みたいな関係に見えるぜ?」 ハルヒが何か言おうとしたので、トドメの一撃を刺しておこうと思う。 「でも、別にお前に使われるのは嫌いじゃない」 ちょっとでも、恥ずかしい台詞を言われるとあたふたして、柄にもなく論理的に否定したり、話変えたりするから この戦法はかなり有効なのだ。・・・しかも、実証済み。 すると、暫くハルヒは何か考え込んだ後、パチンと手を合わせて、俺を指差した。 「決めたっ!アタシに使われるのが好きなら、高校3年間と言わずその後も使ってあげるわ」 「・・・なーんて、事があったんだよ」 部室にて、古泉と将棋を指しながら今日の昼休みにあった事を話した。 …というか、どうしてコイツは手数掛かるのに穴熊作ろうとしてんだ?その間に攻め込まれたら終わりなのに。 「キョン君はまた仕出かしましたね」 なんて、真剣な台詞をにこやかに言う古泉。 続けて「僕のバイトもずっと続きそうですねぇ」なんて言いながら、ため息つきやがって。 「どういうことだよ?俺がなんかやったか?」 俺が質問を投げかけると、古泉は鼻の頭を撫でながらこう言った。 「涼宮さんは新たに思い込んでしまいました・・・いや、決意したと言ったところでしょう。彼女は言ったのでしょう? 『高校3年間と言わずその後も使ってあげるわ』と。その意味は分かりますか?その後とは彼女にとってどれぐらいの期間なんでしょうねぇ。 その言葉を推理して、最も現実的で実現可能な事となると・・・」 「なんだよ」 「キョン君。結婚式には呼んでくださいね。・・・あと、あなたは主夫に向いてますよ」 古泉がまたアホな事を言い出した。 こいつは、推理してるとき自分に酔っているんじゃないかと思うことがある。 推理に気を取られて、将棋がおざなりになっているのはコイツらしい。 「王手・・・はい、どうやっても詰みな。しかし、お前の例えはよく分からん」 「はは、負けちゃいましたね」 自分が負けたのにニコニコとしているのもコイツらしい。 さて、と。ハルヒが朝比奈さんの写真撮影を終えて帰ってくる前に、このフラッシュメモリにmikuruフォルダを移動させておくか。 将棋の片付けをしている古泉がポツリとこう言った。 「あなたは、涼宮さんにプロポーズしてOKされたんですよ。順序から言うと、涼宮さんがプロポーズして、あなたがOKしたというか」 なんて言いながら、クスクス笑う古泉。 今のお前相当キモイ悪いぞ。 fin
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第 四 章 情報爆発から一夜が明けた。 俺はこれからの行動計画を考えた。俺がすべきことは大きく分けて三つある。 機関を立ち上げること。 未来人がTPDDを得るきっかけを与えること。 そして、ハルヒを救うこと。 さらに俺には絶対に避けなければならないことがあった。 ひとつは当然ながら、自らが既定事項を崩す行動を取らないことだ。 俺の誤った行動によって、未来が俺の知る元の未来と変わってしまえば、全てが水の泡だ。 そして、もうひとつはさらに重要だった。 情報統合思念体に、俺の存在を知られることは絶対にあってはならない。 老人の話を信じるとすれば、書き換えられたこの歴史では、情報統合思念体は俺の存在を知らない。ハルヒの周辺に関する記憶を全て抹消すると言っていたからな。 気をつけなくてはならないのは、俺がTFEI端末に不用意に接触することだ。 たとえそれが長門であってもだ。 もし俺がTFEI端末の周囲に近けば、奴らは俺の記憶を読み取るのに些かの労力も必要としないだろう。 そして俺が情報統合思念体を消滅させる意図を持っていることを奴らに知られれば、俺はかなりまずい状況に立たされる。 情報統合思念体から攻撃を受けることは容易に想像出来る。 過去の長門の行動から推測すれば、おそらく記憶を読むのに必要な距離は半径十メートル程度だろう。 長門は最終的には俺と行動を共にし、ハルヒを救うために情報統合思念体の抹消を提案してくれた。だがそれはあくまでも卒業式以降の歴史である。 それ以前の長門に俺の意志を知られることによって、長門が俺の敵にならないという保障はどこにもない。 長門を敵に回すなんてことは俺には絶対に考えられなかった。 TFEIだけではない。未来人や超能力者、その他一般人を含めた誰にだろうと、今の俺に過去の俺の面影を見出されることは好ましくない。 そういうわけで、俺は髭を伸ばし、目が弱いという理由でサングラスをかけ続けることにした。怪しげな組織の創設者には怪しげなスタイルが似合うのさ、おそらく。 次に俺は、世界と歴史、とりわけハルヒの周辺が情報統合思念体によってどのように改変されているのかを確認することにした。 ハルヒがどこの高校に入学しようとも、俺は最終的に北高に行くように歴史を修正するわけだが、それでも今ハルヒがどこにいるのかを知る必要はある。 ハルヒの周囲には観察のためのTFEI端末がいるはずだ。 俺がハルヒの居場所を知らないがために、迂闊にハルヒの周囲に近づくということは、すなわちTFEI端末に発見される危険性が高まるということだ。 俺は、この時代から三年後の北高の入学式、つまり俺たちが北高に入学した日の登校時間に移動した。 おそらくハルヒは北高には入学しないだろう。 情報統合思念体が全ての歴史を書き換えたのだとすれば、ハルヒがジョン・スミスに会う歴史は生まれていないはずだ。 だが俺は一応の対策として、北高の近くを見張るのは避け、登下校ルートが見渡せる建物の屋上を探し出し、そこから双眼鏡で観察することにした。 学生たちをつぶさに観察出来るほど双眼鏡の倍率は高くなかったが、それでもその中にSOS団メンバーが混じっていればすぐに解るだろう。 三年間ずっとつきあってきた。例えそれが双眼鏡越しの後姿だとしても、俺は一目で判別する自信がある。 予想どおり北高にハルヒの姿はなく、長門の姿も見当たらず、大汗をかきながら暗澹たる気分で坂道を登る高校一年の俺の姿しか発見出来なかった。 入学式の日は新一年生のみの登校であり、朝比奈さんの姿は当然確認出来なかった。 だが翌日もおそらく朝比奈さんは来ず、しばらく経って古泉が転校してくることもないだろう。まだ未来人組織も古泉たちの機関も出来ていないんだからな。 では朝比奈さんと古泉は解るとして、ハルヒと長門はどこだ? 俺は時間移動で再び登校時間に戻り、ハルヒの家から比較的近い、市内の高校をひとつずつ同じ方法で調査することにした。 さっき北高の通学路を張っていた俺と同じ時間平面に来ている。 つまりこの時間平面には今の俺と北高を張っている俺の二人がいるわけだ。 無駄にややこしい。俺はまず、文化祭の映画撮影で使ったロケ地である朝比奈さんが突き落とされた池に程近い、学区内では一番の進学校に向かった。 長門が世界を改変したときとは違い、光陽園女子が俺の知る中高一貫のお嬢様女子高のままならば、ハルヒにとってその進学校が最も適切な選択のはずだ。 双眼鏡の視界を校門付近に固定し、しばらく観察を続けた。 見つけた。 これから始まる学校生活への不安や期待を一様にその表情に浮かべる新高校生の中で、ただ一人だけ、俺が初めて会ったときと同じ100%混じり気なしの不機嫌イライラオーラを放出し続けている、見慣れた黒髪の女の姿を。 そして、同じ高校に朝倉と喜緑さんの姿も発見した。 だが長門の姿は見えなかった。長門はハルヒの監視役。 ハルヒがそこに通うのであれば、長門も当然ながら同じ学校に通うのが筋というのものだ。なぜ長門はいないんだろう。 俺には他にも気になっていることがあった。 今の歴史では、俺とハルヒの将来はどうなっているんだ? 俺は、俺が元いた時代、つまり俺とハルヒが結婚していた頃に移動した。 予想どおりだった。俺とハルヒは結婚していない。当たり前だ。 北高での出会いがなければ、俺とハルヒの人生には永遠に交差する点は訪れないだろうからな。 そしてこの歴史では俺は大学には行かず、専門学校を卒業したものの、就職難でフリーター真っ只中にいた。なんてことだ。俺はあらためてハルヒの補習授業のありがたみを実感した。 では一体ハルヒはどこにいる? 俺はハルヒの実家を遠くから見張ってみた。 だがいつまでたってもそこにハルヒの姿は見出せなかった。 次に一年間時間を遡ってみた。そこには大学に通う、さっき進学高で見たのと同じ、混じり気のない不機嫌な表情そのままのハルヒがいた。 そこからさらに半年間時間を進める。大学卒業前のハルヒを発見した。 なるほど、ならば大学を卒業してすぐに引越しでもしたのか? そうしてハルヒがいなくなった時期を少しずつ絞り込んでいき、ようやく真実にたどり着い た俺は、あまりのことに茫然自失した。 ハルヒの実家にかかる鯨幕。訪れる弔いの人影。外側からわずかに見える祭壇。 ハルヒの写真。 ハルヒは大学を卒業してしばらく後に、やはり原因不明の難病で命を落としていたのだった。 俺は直感した。何らかの理由で情報統合思念体が自律進化の可能性を捨て、不確定要素であるハルヒを亡き者にしたのだろうと。 過去のハルヒは高校一年の五月と高校三年の二月、二度世界を作り変えようとし、そしてそれは俺の存在により未遂に終わった。 だがこの歴史では、ハルヒを止められる者はおそらく誰もいない。 情報統合思念体は、自律進化の可能性と世界改変による自らの消滅の可能性を天秤にかけた末に現状維持を望み、世界改変を未然に防ぐためにハルヒを死に至らしめたのだ。 奴らは情報爆発以降のハルヒへの手出しは危険と言っていたが、この歴史ではこういう判断を下したのだろう。 これはあくまでも想像でしかない。 だがやつらの動機としては十分に考えられることであり、 他にハルヒが原因不明の病気になる理由は考えられない。 暴走した長門が世界を変えてしまった時の喪失感、そのときとは比較にならないほどの感覚を俺が襲っていた。 情報統合思念体によって、俺は一番大切な思い出を奪われ、一番大切な人を二度も殺されたのだ。 こんな未来など俺は絶対に認めない。認められるはずがない。 俺とハルヒが北高で出会う歴史を作るためには、あの七夕でのジョン・スミスとの出会いが必要だ。 それだけではない。俺がハルヒと結婚する未来を確実にするためには、おそらく俺の知る過去の事象を全て「既定事項」として作り出さねばならないはずだ。 俺は今日の時間移動であることに気づいていた。 俺が機関を作らずとも、世界は終わっていない。 俺が作らなければ、他の誰かが元の歴史とは別の超能力者組織を作るのだろう。 だがそれで古泉が北高に入学する保障はどこにもない。 やはり機関は鶴屋さんの言葉どおり俺が作るべきなのだ。 俺はこれから、歴史を改変する度に、その結果を検証しなければならない。 歴史というブラックボックスに対して改変というインプットを与えた際に、アウトプットと なる未来がどう変化するのかを理解する必要がある。 結果を正しくフィードバックしてこそ、正しい歴史を作ることが出来るのだ。 そして検証作業を今日のように俺一人の手でおこなうのは、今後は不可能となるだろう。 ハルヒが北高に入学すれば、その後は北高内部の情報収集が不可欠だ。 だが俺自身はTFEI端末に近づけないという理由でそれを出来ない。 つまり、俺には情報収集を肩代わりしてくれる存在が必要だ。 ならば最初にやるべきことは決まった。 俺は機関を立ち上げることを最優先課題にすることにした。 その日の夜、機関創設に関する当主との打ち合わせが開かれた。 まず俺は、鶴屋さんに正体がバレたこと、一応の口止めをしておいたことを正直に明かした。 当主は笑いながら、 「あれは異常に勘のよい娘でして、私も昔からよく困らされております。ただ物事の本質や何が大切かということもよく解っているようです。口の堅さは保障しますので、どうかお気になさらずに」 と言って許してくれた。日々、物理的に頭が下がりっぱなしである。 俺は機関創設計画の草案と、それに伴い必要になるであろうことについて話した。 何よりもまず超能力者を探し出してそれを集める必要があること。 閉鎖空間の発生とともに、超能力者がすぐに対応出来る体制をつくること。 超能力者とは別にハルヒの監視役が必要なこと。 未来人や情報統合思念体などの別勢力に関する情報収集をおこなう人員が必要なこと。 その他、雑務をこなすための人員が必要なこと。 それらを実現するために、信頼のおけるスポンサーを集める必要があること。 当主はひと通り聞き終えると、俺の意見に全面的に同意してくれた。 「閉鎖空間が発生した際には、よろしければご招待します。是非一度ご覧いただき、その目でお確かめください」 「それは実に興味深いですな。楽しみにしております。ああ、それと、」 当主はまたしてもありがたい提案をしてくれた。 「私も出来る限りの協力は惜しみませんが、とはいえ立場上常に時間を取れるわけでもありません。私の代わりにあなたをサポートする、言わば秘書のような者を紹介したいのですが。いかがでしょう?」 「ありがとうございます。何から何まで、本当に痛み入ります」 果たして一体俺は既に何度当主に頭を下げているだろう。 打ち合わせを終了し、俺は離れに戻って具体的な計画を考えた。 さて、その超能力者たちを一体どうやって探し出そうか。 俺は、俺が初めて閉鎖空間に連れて行かれたときのタクシーの中で、古泉が言ったことを思い出していた。 超能力者たちはハルヒによって能力に目覚め、それがハルヒから与えられたことを知っている。 超能力者たちは自分と同じ能力を持つものが自分と同時に現れたことを知っている。 超能力者たちは閉鎖空間の出現を探知でき、その中で自らが何をすべきなのかを知っている。 超能力者たちは神人を放置しておくと世界が終わってしまうことを知っている。 そしてそれらのことはおそらく昨日、ハルヒの情報爆発によって全ての超能力者にもたらされたはずだ。 超能力者たちはハルヒの存在を知っている。ハルヒの周辺を見張っていれば、彼らのうち誰かが何らかの目的でハルヒに接触を試みるかもしれない。 だが具体的にどこまでハルヒのことが解るのだろうか。 彼らはハルヒの所在まで特定出来るのだろうか。 俺の知る機関の連中はハルヒを神扱いしていた。仮にハルヒの居場所が解るとして、神に近づくなどという大胆な超能力者はいるだろうか。 いや、彼らは昨日今日能力を与えられたばかりで混乱しているかもしれない。 神に対して大それた行動に出ないとも限らない。 ならばハルヒのガードが必要になるかもしれない。 いや、どちらかと言えば超能力者のガードになるだろう。 超能力者の誰かがハルヒに危害を及ぼすのを放置すれば、TFEI端末に消される可能性も充分に考えられる。 他に超能力者と接触する方法として考えられるのは、閉鎖空間が発生したときに彼らを探し出すことだ。 彼らは閉鎖空間の出現だけでなく、場所までを正確に把握出来る。そして彼らは強制的に与えられた自らの使命を果たすべく、おそらくそこに集まるだろう。 そして俺もおそらくその発生を探知出来ると考えられる。 いつかの野球場で古泉や長門とともに朝比奈さんが見せた態度、あれは閉鎖空間の発生を感じ取ってのことのはずだ。 だが閉鎖空間はいつ発生するんだ? 未来に飛んで閉鎖空間の発生時間を調べてみるにしても、飛んだその時に閉鎖空間が発生していない限り、俺にはそれを探知する術はない。 どうやらこちらの線は閉鎖空間の発生を待ったほうがよさそうだ。 とにかくどちらの方法でもいい。誰でもいい。 一人でも超能力者と接触出来れば、そこから芋づる式に超能力者は見つかるはずだ。 翌日、俺は閉鎖空間の発生までハルヒを監視することにした。 ただ待つだけというのはどうも性に合わない。 ハルヒは既に小学校を卒業していたため、俺はハルヒの実家を張ることにした。 仮に超能力者の誰かがハルヒに近づくとすれば、ハルヒの外出時を狙うだろう。 ハルヒの家の周辺を見渡せて、かつハルヒを監視する俺以外の存在から見つからないであろう監視場所を探すのには苦労した。 ただでさえ高所から双眼鏡を使って監視するのだ。 TFEI端末でなくとも、一般人に見つかれば警察に通報されるかもしれない。 時間移動で難を逃れられるとはいえ、無用なトラブルは避けるべきだ。 俺は一時間ほどかけてようやく監視に適した場所を見つけ、ハルヒの外出を待った。 一分置きの時間移動を繰り返し、十秒間監視をおこなう。 外出するなら朝の七時から夕方五時くらいまでだろう。 その十時間を約二時間弱で監視する計算になる。 初日にはハルヒは結局一度も外出をせず、俺はその翌日から三日後まで順々に飛び、同様に監視を続けた。 ハルヒは一度だけ外出し、俺はしばらくそれを尾行したが、結果は芳しくなく超能力者らしい人影は現れなかった。 俺は元の時間平面、つまり情報爆発の翌々日の夕方頃に戻った。朝頃に戻っても構わないのだが、あまり実際の活動時間とズレるのは体内時計によくなさそうだ。 「紹介します」 翌日、当主にサポート役として引き合わされた女性を見て、俺はまた腰を抜かしそうになった。 年齢不詳の美女。あるときは別荘のメイドとして、あるときはカーチェイスの末に敵対勢力を追い詰め、その能力を遺憾なく発揮したあの人が目の前に立っていた。 「はじめまして。森園生と申します」 俺は実感した。少しずつだが、確実に歴史は俺の知るものと繋がりつつある。 森さんはこの時点で既に様々な技能を身につけていた。秘書能力、あらゆる事務能力などに加え、諜報能力、六カ国語を使いこなし、武術にも長け、射撃に関してもひととおりの心得があるとのことだった。ところで射撃って一体何だ? 森さんは、スーツの左側を開いてみせた。内側にホルダーが備え付けらており、その中にはすぐさま使用するのに何の不都合もないであろう状態で拳銃が収まっていた。 朝比奈さん(みちる)を誘拐した連中とのカーチェイスの際、俺が森さんに底知れない何かを感じたのは間違いではなかった。やれやれ、一体森さんはどういう経歴の持ち主なんだ? どこかの諜報機関の女スパイか何かなのだろうか。 そして、森さんのような人材をたちどころに調達することの出来る当主が一番底知れない人物であるのは言うまでもない。 既に森さんは当主から大方の説明を受けていた。俺が未来人であることを除いて。 「機関のエージェント確保やスポンサー探しについては、当主が当たってくれています。我々は、当面は超能力者を探し出すことに重点を置きます」 森さんにハルヒの監視を引き継ぐことにした。ハルヒの身の回りに超能力者らしき不審な人物が接触を図る素振りがあれば、ただちに制止して尋問して欲しいと。 俺は遠くからハルヒを監視することは出来ても、ハルヒに近づくことは出来ない。 おそらく、ハルヒの周辺を監視しているTFEI端末がいるだろうからな。 俺が以前、朝比奈さんに連れられて長門のマンションに行ったとき、つまり俺が中学一年の頃の七夕のときには、長門は既に北高の制服を着ていて、俺が高校一年のときに見たそのままの姿だった。 そして長門は三年間あのマンションで孤独に待機していたのだ。 おそらく長門・朝倉・喜緑の三人は高校専用のTFEI端末で、今この時代の彼女たちは待機モードであり、今のハルヒや中学生のハルヒを監視するための別のTFEI端末が存在するのだと思われる。 既にこの三日分の観察は終わっているため、理由は言わずに、四日後から監視に入って欲しいと告げた。 俺は、田丸氏の存在を思い出し、別荘の線で田丸氏とコンタクトが取れないか調べることにした。 一週間かけて、高一の夏休み序盤に招待された、あの島の所有者の変遷と身辺を調査した。だが、結局そこに田丸氏らしき人物は見出せなかった。 どこかの山中に俺は立っていた。暗い。 得体の知れない寒気のようなものを感じる。 森に囲まれた平地に、おぼろげに噴水が見える。 わずかな光に照らされた全てのものは、その色を失っていた。 背後から聞いたことのある少女の泣き声。振り返る。 広場の一角に、ひときわ明るい光に包まれた人形が立っていた。 人形はどこか寂しげな様子で、あたりを見回している。 やがて人形だったそれは、光を失いながら霧のように拡散していった。 また夢を見た。夢の中の泣き声は、前に見た夢と同じ持ち主によるものだった。 この夢は誰が見せているものなのか? ハルヒ、お前なのか? それからしばらくして、夢の意味が解った。 遂に閉鎖空間が発生した。ハルヒの中学校入学式の夜。 ハルヒよ、お前は中学に入っていきなりイライラを爆発させちまったのか? 予想通り俺は閉鎖空間の発生を探知することが出来た。 時空振動に似た感覚が俺を襲った。 だが俺にはその場所が特定出来なかった。 振動を感じ続けてはいるものの、震源地の方角すら解らなかった。 俺はやはり夢にかけてみることにした。なぜなら、あの夢の中で感じていた寒気と同じものを、俺が今実際に感じているからだ。 当主を閉鎖空間に案内するのは次回以降でよいだろう。 現時点では俺にだって閉鎖空間を探し当てられるという保証はない。 森さんに連絡を飛ばす。 「閉鎖空間が発生しているようです。車を手配してすぐに来れますか?」 「了解しました。五分で到着します」 そう言った森さんは、本当に五分きっかりに鶴屋邸前に到着した。 「どちらへ向かいますか」 夢の中のおぼろげな風景。だが、俺はその風景に確かに見覚えがあった。 森さんの運転する車で向かった先は、SOS団の映画のロケ地、あの森林公園だ。 十分ほどで到着した俺たちは、駐車場に車を停め、さらに徒歩で三十分かけて噴水のある広場まで登った。 朝比奈さんと長門の対決シーンを撮った広場。そして朝比奈さんがレーザーを発射し長門に押し倒されたあの場所。 おそらくここで間違っていない。広場内の他の場所よりも、この場所で特に例の寒気を顕著に感じるからだ。 「ここに閉鎖空間が発生しているのですか?」 森さんが不安げに俺を見る。彼女の不安はおそらく閉鎖空間という得体の知れないものに対してではなく、本当にこの場所で大丈夫なのかという、俺に対する不安であろう。 「確証はないですが、こことは別の次元のこの場所で神人が暴れています。そして超能力者たちは今まさに神人との初めての戦闘をおこなっているはずです。神人を倒せば閉鎖空間は消え、超能力者たちが現れます」 これで俺の見当違いだったらかなり申し訳ないな、と思いつつも俺たちには待つ以外に方法はなかった。 あまり口数の多くない森さんとの気詰まりを感じながら、二時間ばかり待っただろうか。 不意に寒気が消えた。 と同時に俺たちがいる場所を取り囲むように三人の男性が突如として現れた。 そこに古泉の姿はなかった。 それぞれ二十代後半、ハイティーン、ミドルティーンと言ったところだろうか。 彼ら三人には神人との戦いを通じて既に共通認識が芽生えているようだった。 そして、そこに異端の者として俺たちが突っ立っている格好だ。 OL風スーツに身を包んだ女性と、やはりスーツ姿にサングラスと髭面の男が、こんな夜中にこんな山中に立っているのだ。これはもう、誰がどう見たって怪しい。 俺は、ひとまず敵意のないことを示すため、彼らに微笑んで見せた。 森さんはと言えば、実に見事なエージェント的笑顔を向けていた。 それは鏡を見て練習でもしたんでしょうか? しかしながら、超能力者三人はあからさまに俺たちを警戒している。 まあ当然の反応だろう。 「俺の話を聞いてくれませんか」 「お前は何者だ」 年長と思われる超能力者が俺に歩み寄った。 俺は彼らの気持ちを考えてみた。きっと今の状況を不安に思っているに違いない。 ハルヒによって何の前触れもなく突然能力を与えられ、その使い方を理解し、否応なく薄気味悪い夜の山中に出向かされ、さらに薄気味悪い空間で神人と戦わなければならない彼らの心境を考えれば、にこやかに話に応じることなど出来るはずもない。 心の底から気の毒に思う。 「俺はあなたたちの味方です」 「お前は俺たちのことを知っているのか」 「あなたたちがどこの誰なのかを知っているわけではありません。ですがあなたたちが何故ここにいるのかは解ります」 三人は顔を見合わせた。 「どうやってお前を信じればいい」 「あなたたちに能力を与えた涼宮ハルヒを知る者、と言えば信じていただけますか?」 その名前を聞いて、彼らは納得したようだった。 「解った。話を聞かせてもらえるか」 俺は超能力者を集めた組織を作る予定であること、そのメンバーに加わってもらいたいということ、閉鎖空間の発生とともに超能力者が出動出来る体勢を整える予定であること、超能力が消滅するまでは責任を持って生活を保障すること、などを伝えた。 森さんは名刺を渡すとともに彼らの連絡先を確認し、詳しいことは明日にでもこちらから連絡する、とを伝えた。 俺たちは、北口駅前近くのビルの二フロアを借り、そこに機関の本部を構えた。 超能力者やエージェントが増えるにつれ、ここもいずれ手狭となるかもしれない。 超能力者は他の超能力者の存在を知ることが出来る。最初の三人を無事仲間に加えることが出来た俺たちは、それを頼りに他の超能力者を次々と探し出した。 だが古泉はなかなか見つからなかった。 「まだ残りの能力者の所在は掴めませんか?」 「残念ながら、進展なしですね」 俺と話しているのは、森林公園で会った三人のうちの年長者で、今は超能力者たちのリーダー的存在の人物だ。 「見つけ出せない理由はおそらくですが、本人が能力に気づいていないか、あるいは自らの能力を受け入れていないか、のどちらかでしょう。ですが能力に気づいていないというケースは今まで発見された能力者では該当者はいません。私たちと同様に能力を身につけた者は、自分に何が起こったか、何をすべきかをその瞬間に理解しいるはずです」 「残された超能力者は後何人くらいいそうですか?」 「私たちには残りの能力者の場所は解らなくとも、存在はなんとなく解るんです。感じると言いますか。これは既に集まっている能力者共通の意見ですが、この世界で同じ能力を持つものはおそらく十人程度と考えられます。現在のところ機関に所属している能力者は八名。つまりおそらくあと一、二名の能力者が残っているということになります」 あの卒業式の三日前に発生した大規模閉鎖空間では、機関と敵対勢力の超能力者を併せて二十人以上はいたはずだ。つまり、こちらの超能力者からは敵の超能力者の存在は感じ取れないということになる。 ハルヒによってあらかじめ敵、味方となる勢力を決められていたということだろうか。 「最初の閉鎖空間に向かったのはご存知のとおり私たち三名だけでした。私たちは早くから与えられた能力と役割を受け入れていたので、お互いがどこにいるかがすぐに解ったんです。それ以外の者はまだ覚悟が出来ていなかったんでしょうね。能力を受け入れていない者、つまり心を開いていない者の場所はこちらからでは解りません」 発見されていない能力者、つまり古泉はまだその能力を自ら認めていないということか。 「彼らの気持ちは解りますよ。私だって突然自分に未知の能力が身について、混乱しなかったと言えば嘘になります。ですが私は何事も楽観的に考えるタイプでして。逆に深刻に物事をとらえるタイプの人間にとっては、これはかなり辛いことだと思います。最初の閉鎖空間が発生しているときは、彼らは大変な葛藤をしたと思いますよ。想像してみてください。自分が異能の存在になってしまったことを認めたくない、閉鎖空間や神人はもちろん怖い、でもそれを放置すれば世界が終わってしまうかもしれない。これは相当な恐怖ですよ」 古泉は今もそういう日々を送っているはずだ。 「おそらく残された能力者の取る道は三つです。他の能力者と同じく覚悟を決めて能力を受け入れるか、このまま恐怖に押し潰されて自ら命を絶つか、あるいは閉鎖空間や神人発生の原因である涼宮ハルヒの殺害を謀るか、です」 古泉は言っていた。 「機関からのお迎えが来なければ、僕は自殺してたかもしれませんよ」 と。 迎えに行けるものならすぐにでも行ってやりたい。 だがお前からシグナルを発してくれなければ、こちらからは打つ手がない。 森さんによるハルヒの監視は継続していたが、やはり古泉が姿を現すことはなかった。 もし古泉がハルヒの殺害を意図すれば、こちらが保護する前にTFEI端末に消される恐れだってある。 既定事項では古泉は無事に機関に入るはずだが、今の歴史の流れでそうなる保障はどこにもない。 その数日後、もどかしい気持ちで過ごした日々はようやく終わった。 四度目の閉鎖空間が発生したその直後、リーダー格の彼から連絡があったのだ。 「今さっき、未発見の能力者一名の微弱な波動を感じました」 「了解です。森さんを能力者の確保に向かわせます。位置把握のために能力者を誰か一名使いますが、そちらは大丈夫ですか?」 「閉鎖空間の方はなんとかやってみます。規模はそれほど大きくないようですので、いけると思います」 「解りました。よろしくお願いします」 俺は直ちに森さんと能力者を手配し、波動の発信源へと向かわせた。 「氏名、古泉一樹。性別、男性。年齢、十二歳。××市立××中学の一年。発見時に極度の衰弱と精神錯乱を確認」 なんとか神人の迎撃を完了した後、俺は本部の一室で森さんからの報告を受けていた。 「随分暴れまして、保護するのに手間取りました。『僕は行きたくない』とずっと繰り返して おりまして。現在下のフロアの宿泊施設に収容しています」 「今は様子はどうですか」 「依然、精神錯乱が見られます。落ち着くまではしばらく機関で保護したほうがよいかと思われます」 「今会って話せますか」 「今日は見合わせて明日以降がよいですね」 森さんの報告によると、古泉は能力発現からずっと学校を休んでおり、つまり中学には一度も登校せず、家から出ることすら出来ない状態だったらしい。 古泉は今まで発見された超能力者の中でも最年少だった。 混乱が激しいのも無理はない。 翌日俺は本部に赴き、森さんとともに古泉と面会した。 ドアを開けたそこにはベッドの上で膝を抱え、うずくまる少年の姿があった。 「あんたたちは一体何なんだ」 俺たちに気づくと少年は顔を上げ、懐疑的な色の目を向けた。 顔つきこそまだ幼いが、それは確かに古泉だった。 俺の知る古泉とは異なり、随分と口調が荒いが。 「俺たちは君の味方だ。森さんから説明があったと思うが、君に俺たちの組織に入ってもらうために来てもらった」 「何だよ、涼宮ハルヒってのは。何で僕がそいつのせいでこんなに苦しまなくちゃならないんだ」 すまん、古泉よ。それは将来の俺の嫁だ。俺からも詫びを入れたい気分だ。 「こんな言葉で片付けるのはあまり好きじゃないが、これが運命だと思って受け入れてくれ。涼宮ハルヒのことだけじゃなく、俺とお前がこうして出会うことも含めてな」 「わけ解んないよ! 僕は嫌だ。あんなところには行きたくない」 まるで説得の糸口が見つからない。 「悪いようにはしない。しばらくここで俺たちの活動内容を見てから考えてくれればいい。他の能力者と話し合うのもいい」 「うるさい!」 しばらく説得を続けたが、俺の言葉は全く受け入れられなかった。 部屋を出ると、能力者のリーダーが待っていた。 「彼の様子はどうです?」 「かなり精神的に追い詰められているみたいです」 「無理もないですね。どうかご理解ください。私たちは涼宮ハルヒという鎖に縛られています。涼宮ハルヒは私たちに無理やりに能力を与え、神人という恐怖により絶対的服従を誓わせた、そういう存在です。そして私たちは涼宮ハルヒの精神状態によって右往左往させられる、実に惨めな存在なのですから」 ハルヒも無意識的にとは言え、随分罪作りなことをしたもんだ。宇宙人や未来人を集めるのは構わない。奴らは最初から宇宙人や未来人だ。 だが超能力者は違う。元はと言えば普通の人間だ。 それを勝手に超能力者に作り変え、おまけに自分のイライラを解消させるために使うんだからな。 「様子を見るしかないでしょうね。私たちも彼を落ち着かせられるようにしてみますので。彼は同じ能力者仲間ですからね」 数日後、森さんからの経過報告を受けた。 「あまり芳しくないですね」 「今はどういう状態ですか」 「精神状態は比較的安定傾向にあります。ですがまだ神人と戦える状態ではありません」 「つまり、どういうことです?」 「他の能力者の意見では、単純な問題でもないようです。神人への過度の恐怖心が原因でまだ完全に能力が発現していない状態とのことです。逆に、能力が発現していないからこそ恐怖心が余計に募るのかもしれない、とも。最悪の場合、ずっと能力が発現しないままの可能性もあると言ってました」 そうなると、俺の知る歴史には至らないんだが。これはどうしたものか。 古泉の部屋に赴く。 「よお、調子はどうだ。オセロでもやらないか」 古泉は軽く俺を睨んだが、ずっと部屋にいて退屈だったのか、誘いに応じた。 「ルールは解るか?」 無言でうなずく。 「どうだ、だいぶ落ち着いたか?」 無言でうなずく。 「他の能力者とは話してみたか?」 無言で首を振る。 まるで長門を相手にしてるみたいだ。 精神状態が安定したと言っても、こんな状態だといかんともしがたい。 ちなみに二ゲームやったが、この古泉も俺のよく知る古泉同様、ゲームは激しく弱かった。 あることに気がついた。森さんも古泉もそうだが、俺はそれをてっきり偽名だと思っていた。 怪しげな機関に所属するものが本名など使うはずがないと。 そんな疑問をそれとなく森さんに聞いて見た。 「これから起こることを考えれば、涼宮ハルヒの周辺にはプロ中のプロが集まります。相手がその気になれば身元など簡単に割れます。私たちが同じくそう出来るように。ならば本名を使った方が、余計な手間が省けます」 なるほど。エージェントの世界というのも色々と奥が深いものなんだな。 つまり俺は表立って機関に関わるのを極力避けた方がよいということだろう。 それからしばらくして、五度目の閉鎖空間が発生した。 俺は一計を案じ、古泉のいる部屋へと向かった。 「何ですか? 僕をどうしようっていうんですか?」 古泉はやっと普通に話せる状態には回復していた。 「今からちょっと付き合え」 古泉は明らかに怯えた顔で、 「僕をあのわけの解らない場所に連れて行くつもりですか?」 俺だってそのわけの解らない場所に何も知らないまま連れて行かれたんだぞ。 しかも連れて行ったのは誰あろうお前だ。 「なに、心配しなくていい。俺が閉鎖空間を見物したいだけさ。それに今日はお客様もいる。お前の力を借りたい」 「嫌です。僕はそんなところに行きたくない」 「神人退治をしろと言ってるわけじゃない。そこまではさせないさ。それともまだ逃げ続ける気か?」 「僕が何から逃げていると言うんですか」 俺の言葉にうまく乗ってきた。年下の扱いは昔から得意なんだ俺は。 性格をよく知る古泉相手ならなおさらだ。 「解ったよ。とにかくついて来い」 能力者への指令を森さんに任せ、俺は機関の車に古泉を乗せた。 「どこに向かうんですか? あの場所とは方向が違いますよ」 「さっき言っただろう。今日はお客様がお見えになる。粗相のないようにな」 到着したのは鶴屋邸。 お客とは以前から閉鎖空間に案内すると約束していた当主のことだ。 「やっと閉鎖空間とやらを拝めますな。楽しみにしてます」 「こいつが今日俺たちを閉鎖空間に案内してくれます」 俺は古泉を紹介した。 「ほほう、それはそれは。ご苦労ですがよろしく頼みますよ」 柔和な笑みを浮かべる当主に、古泉も安堵の表情を見せた。 これで少しは緊張がほぐれてくれればいいが。 しばらく車を走らせた先は、奇しくも俺が最初に古泉に連れて来られた場所と同じだった。 「壁の位置がどこだか解るか?」 「そこの交差点の歩道の丁度真ん中です。でも、能力者以外が入ることが出来るんですか?」 「出来るさ。俺たちだけでは入れないがな。だからお前をつれてきたんだ。侵入の方法は解るな? ならば俺たちを入れるのも簡単だ」 「解りますが……、僕はすぐに外に戻りますよ」 「ああ、構わない。よろしく頼むぞ。」 「では、しばらく目閉じてください」 俺と当主は古泉の指示に従い、古泉は両手でそれぞれ俺と当主の手を握った。 「行きます」 以前と同じように、古泉に手を引かれて俺たちは閉鎖空間に侵入した。 入るなり、瞼の奥に強い光を感じた。 目を開く。眼前に青い光の塊が広がっていた。 距離にしておよそ十五メートルほどだろうか、目の前に神人がいやがった。 近すぎる。予想外の展開だ。 「やばいぞ、脱出する。古泉、行けるか?」 返事がない。古泉は神人をじっと見つめたまま硬直していた。 「聞こえてるか!? 出るぞ!」 俺の問いには答えず、古泉は神人を仰ぎ見たまま動かない。 まずいことになった。少しずつ閉鎖空間に慣れさせようと連れて来たのが、これでは逆効果になりかねない。 だが、しばらくして古泉が発した言葉は見事に俺の予想を裏切ってくれた。 「綺麗だ……」 俺は長い付き合いを通して、古泉のことを少し変わった奴だとずっと思っていた。 その判断は正しかった。こいつはやはりどこかおかしい。 そして、荒療治は案外成功するかもしれない。 俺は左手で古泉の肩を叩き、右手で神人を指差してこう言った。 これで夕日でも落ちていれば、どこかの青春の一ページみたいなポージングだ。 「あれが神人だ。お前には釈迦に説法かもしれんが、あれの出現は涼宮ハルヒの精神状態が悪化していることを表している」 古泉が聞いているのか聞いていないのかは解らないが、構わず俺は続けた。 「つまりあれとの戦いは、やつのイライラとお前たちのイライラのぶつかり合いということになる。いずれやってみるといい。いいストレス解消になるぞ」 我ながら、かなりいい加減なことを言っていると思う。 「最初は大変だろうと思うが、慣れれば……そうだな、ニキビ治療みたいなもんだ」 これはお前が言った言葉だぞ、古泉。 俺は古泉の手が赤く輝き始めたことに気づいた。能力が発現したらしい。 「これは……?」 やがて古泉がかざした右手の上にハンドボール大の赤い光球が生み出されていた。 「それがお前に与えられた能力だ。試しに投げてみろ」 古泉は光球と神人をしばらく交互に見つめ、思い立ったように、滑らかかつ力強いフォームで光球を神人に向かって投げつけた。 そういやこいつは野球をやってたんだっけか。 それは見事に神人の腕に命中し、驚くべきことに神人の腕は粉々に砕け散った。 どうやら驚いているのは俺だけではなく、神人の周りを飛ぶ人間大の光球たちも、その動きでもって驚きを表現していた。 ルーキーが初打席で敵エースの決め球をバックスクリーンに叩き込んだようなもんだ。 そう言えばすっかり当主の存在を忘れていた。 振り返ると当主は相変わらずの笑顔でこの超常的な展開を楽しんでいるようだった。 この剛胆ぶりは鶴屋家の遺伝子のなせる技なのか? 「……あの飛んでいる光は?」 古泉は神人の周囲に群がる光点に気づいたようだ。 「あれはみんなお前の仲間だ。そしてこれから先お前にはもっと多くのかけがえのない仲間が出来る」 光球たちをじっと目で追う古泉に、 「そのうちお前もああいう風に戦えるようになるさ」 「どうやったら飛べるんですか?」 「それは俺には解らん。俺は能力者じゃないからな。だが他の能力者だって誰に教わったわけでもない。その気になればお前にだってすぐに出来るようになると思うぜ」 古泉は静かに目を閉じた。意識を集中させているようだ。 突然、古泉の体中から爆発するかのようにオーラが発生し、それはすぐさま球体となった。 古泉の体がふわりと浮いた。 「やってみろ」 光球が躊躇うかのように上下に揺れた。 しばらく後にそれは静止し、次の瞬間にはレーザー光のような鋭い軌跡で神人めがけて飛び立った。既に何度も見ている光景だが、その度に思う。まったくデタラメすぎる。 古泉の光球はそのまま神人の頭部を貫通し、神人は着弾点を中心に、外側へ向けて順々に光の霧となって崩壊した。 新たに加わった光球を温かく迎え入れるかのように、他の光球たちがその周囲を飛び回っていた。 閉鎖空間の消滅後、古泉は横断歩道の上でぐったりと座り込んだ。 俺は古泉の横に座った。 「お前がこの能力を与えられたのは偶然ではない。それがたとえ涼宮ハルヒによる理不尽な選択だとしても、それは全て意味のあることだ」 古泉は首から上だけをこちらに向けた。だがその目には輝きが生じていた。 「俺が保障する。この先何年間かは君にとって辛い日々が続くかもしれない。だがいずれそれを笑って話せるときが必ずやってくる。俺を信じてくれ」 古泉は二度まばたきし、そしてこう言った。 「解りました。今後ともよろしくお願いします」 こうして超能力者は集結した。 古泉は超能力者の数は世界中で十人くらいだと言っていたが、実は全員がこの周辺で生活している人たちだった。 ハルヒも随分と手近なところで超能力者を調達したもんだな。 逆説的に言えば、閉鎖空間はハルヒの近辺にしか発生せず、神人を撃退する者もこの周辺にいる必要があったということだ。 俺は、日本にしかやって来ないどこかの宇宙怪獣と、日本にしか存在しないどこかの地球防衛軍を思い出して、妙に納得した。 ある日、俺は鶴屋さんに図書館に誘われた。 「貸し出しカード失くしちゃってさっ。これから再発行に行くんだけど、ジョン兄ちゃんつきあってくんないっ?」 俺は機関創設に関する実務的な作業や、閉鎖空間の対応に追われていたが、たまには息抜きも必要だろう。 道路に面した側を俺が歩き、鶴屋さんに歩道側を歩くように促した。 「車に轢かれるからっかい?」 「それもあるが、車を横付けして誘拐されないようにするためだ」 「へええ? 色々考えてるんだねお兄ちゃん」 「前にもあったのさ、そういうことが」 朝比奈さんが誘拐された時のことを思い出していた。 あのときは森さんたちのおかげで難を逃れたが、ひとつ間違えば取り返しのつかないことになっていたかもしれない。あんな思いは二度とごめんだ。 連れてこられたのは、高校生の頃に長門と共に来た図書館だった。 「図書館の雰囲気っていいよねっ。家にも本はいっぱいあるけど、あたしはやっぱりこっちの方が好きさっ」 鶴屋さんがカードの再発行手続きをしている間、俺は長門と初めて来たときのことを思い出していた。 もうあれから七年以上経つ。市内不思議探索パトロールの第一回目、午後の部。 ハルヒ作成によるつまようじを用いた厳正なるくじ引き――それは場合によっては全く厳正に作用していなかったのだが――によって俺と長門とはペアを組み、明らかに時間を持て余した俺が長門をこの図書館に連れて来たのだ。集合時間を寝過ごしてしまった俺は、動かざること山よりも強固な読書集中モードの長門とともに集合場所へと向かうために、長門用の貸し出しカードを作り、本を借りてやったのだ。 思い出にふける俺に鶴屋さんは意味ありげな笑みで、 「お兄ちゃん、考えごと?」 「ああ、まあな」 「女の人のこと考えてたんじゃないっ?」 相変わらず勘がいいな。 「以前、俺の友達とここに来たことがあってな。そいつの貸し出しカードを作ってやったことを思い出してた」 「ふーん」 鶴屋さんには隠し事は通用しない。 だが鶴屋さんはいずれ北高に行き、TFEI端末と接触する機会がある。 鶴屋さんの記憶が読まれることだって想定しなければならない。 過去の俺を連想させるような言動はなるべく避けるべきだ。あまり詳しいことは言えない。 図書館を出た直後に携帯が鳴った。森さんからだった。 「閉鎖空間発生の恐れがあります。至急指令所にお越しください」 俺は鶴屋さんをタクシーに乗せ、ただちに空間移動で機関本部にある指令所に向かった。 「一号から入電。観察対象の精神状態極めて不安定。危険レベル赤に移行。閉鎖空間発生の恐れあり」 その直後に時空振がきた。九度目になる閉鎖空間の発生。 「閉鎖空間の発生位置の特定急げ」 森さんがオペレーターに対して的確に指示を飛ばす。 「二号に照会します」 一号、二号というのは最近使い始めた超能力者のコードネームだ。ますます怪しげな雰囲気になっているな。 「閉鎖空間は××線△△駅前を中心に、現在半径二十一.四キロメートル。今のところ閉鎖空間の拡大は認められず」 今まで発生した閉鎖空間の中では最大規模だった。 「一号から入電。神人の発生までおよそ二十四分の見込み」 指令所にはオペレーターが五名、閉鎖空間の発生に備えて常駐しており、有事の際には俺と森さんが駆けつけるという体制になっていた。 「移送要員の手配状況を報告せよ。待機、準待機中の能力者に対して直ちに出撃要請。何人出せるか?」 「二号、閉鎖空間に侵入。一号、閉鎖空間隔壁に到着。三号、六号、八号の三名、閉鎖空間に向けて移動中。九号、移送要員手配中、四号、五号、七号と連絡不通」 まだ指揮体制が作られてから間もない。 指揮系統に乱れがあるのは当然のことだろう。 「一、二、三、六号、閉鎖空間に侵入完了。神人迎撃準備中」 「神人発生までおよそ二分」 「八号、九号閉鎖空間に侵入」 「侵入した者より順次、迎撃準備体制に移行せよ」 「一号から入電。神人出現を確認」 「閉鎖空間拡大速度、秒速一キロメートル突破。なおも加速中」 俺が古泉に連れられて行った閉鎖空間とは段違いの規模だ。ハルヒの中学時代のイライラは当時よりはるかに深刻だったらしい。 「閉鎖空間拡大速度、毎秒三.一六キロメートルで安定。閉鎖空間半径百四十七.八〇キロメートル。拡大終了まであと三時間三十一分十二秒」 超能力者たちにしても、この頃はまだ試行錯誤の連続であり、それだけに神人の迎撃にも当然ながら時間がかかっていた。 つまり、閉鎖空間の拡大が速いか、神人の撃退が速いか、まさに時間との戦いだった。 「九号から入電。一般人が数名閉鎖空間に侵入している模様」 「なんだって?」 九号というのは、すなわち古泉のことだ。 「九号に回線繋いでくれ」 すぐさま、指令所に古泉の声が響き渡る。 「九号です。閉鎖空間に侵入した際に、一般人の存在を確認しました。視認では二名。侵入の方法、目的などは不明」 「解った。君は直ちに一般人の捜索と保護にあたってくれ。残りの能力者は神人の迎撃を継続」 「了解しました。以降、報告は外部のエージェントからお願います」 「能力者四、五、七号ともに閉鎖空間内に侵入。ただちに神人迎撃体制に移行。九号、再侵入」 予想外の闖入者に混乱を来たしたが、三時間後ようやく神人は崩れ落ちた。 神人により世界が閉鎖空間に飲み込まれることがないのは、俺が知る限りでは既定事項のはずだ。 だが、それにかまけて手を抜くことは決して許されない状況だった。対処を誤れば世界は間違いなく崩壊する。閉鎖空間の出現は俺にとっても緊張の連続だった。 「閉鎖空間に侵入した一般人は三名。現在機関所有のビルにて拘束中」 森さんからの報告だ。 「対処はいかがしましょう?」 俺はまず三人に会わせて欲しいと言った。 「よろしいのですか? 閉鎖空間や機関の存在が一般に知れるのは避けるべきと思いますが」 森さんが言わんとしていることは、何らかの方法で彼らの口を塞ぐべきだということだろう。だがそれは話をしてからでも遅くはない。 俺は、不可抗力で怪しげな空間に紛れ込んでしまい、怪しげな集団に拘束されている、これはもう不幸としか言いようのない三人と面会した。 そして俺はまた歴史の繋がりを再認識させられることになった。 「なんとまぁ……」 思わず独り言が出た。 紛れ込んだ一般人三名というのは、あろうことか新川さんと田丸兄弟だった。 三人とも、普通に街を歩いていて、突然辺りが暗くなったと思ったときには既に閉鎖空間の中にいたらしい。 面会を終えた俺は森さんに宣言した。 「この三人を機関のメンバーに加えます」 森さんは驚きの表情を隠せなかった。 「閉鎖空間に一般人が紛れ込むことは、これから先もほとんどないと言っていいでしょう。万一それが起こったとすれば、それは涼宮ハルヒの意思によるものです。彼らは我々に害を及ぼすものでは決してない、いや必ず我々の助けになってくれます」 仮説ではあったが、おそらく間違ってはいないだろう。ハルヒが自分の都合で他人を必要以上に不幸に陥れるなんてことあるはずがない。 何よりこの三人が機関に加わり、重要な戦力になることは既定事項だ。 機関の立ち上げ開始から二ヶ月が経ち、機関の骨格が完成した。 俺は、今後は機関に直接的に介入することはせず、オブザーバー的な位置に立つことにした。 俺にはまだ他にやらなくてはならないことが残っていたからな。 機関の上層部には超能力者のリーダー格の男性、スポンサーからの代表者、スポンサーが推薦する研究者などが集まった。 高校時代の俺の印象どおり、上層部は今ひとつ的外れな言動を繰り返す集団になりそうだったが、それも仕方がない。既定事項だ。 彼らには現実世界とのバランサー役として活躍してもらわねばならない。 俺の立場を知る森さんには、中堅の役どころに入ってもらい、俺に情報を流す役をお願いした。 次に古泉たち一般の超能力者、最後に各種実働部隊として新川氏、田丸兄弟などのエージェントを配置した。 あまり表立って機関に関わりを持つことを好まないという鶴屋家側の要望と、創設者である俺に注意が向かないようにしたいという俺の要望が一致し、鶴屋家は間接的スポンサーの位置に収まった。 そして、娘を危険なことに巻き込みたくないという当主の当然の意見と、将来北高に行くことになる鶴屋さんを深く関わらせるべきでないという俺の意見により、俺は機関に対し 「鶴屋さんには手を出すな」と厳命することとなった。 第五章
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ハルヒによってSOS団に引きずりこまれてから一年が経過しようとしていた。 今ではもうすっかり未来人、宇宙人、超能力者、そして神様と一緒に過ごすことに慣れてしまった。 周りからは既に俺も変人軍団の仲間として見られるようになっていた。 まあそれでもいいと思っていたし、この非日常な存在に囲まれた日常を享受し続けるのもいいと思っていた。 だが、変化っつーものは突然やってくるもんなんだな。 その変化は、例によっていつものように、ハルヒから始まった。 朝、俺はダルいハイキングコースを昇りきり、学校へと辿り着いた。 あんだけ長い坂を歩くんだから、校門で飲み物の支給ぐらいあってしかるべきだと思うんだよな。 まあそれはいいとして、いつものように教室に入り、いつものようにハルヒに声をかける。 「よう。」 「……おはよ。」 だがハルヒの返答は、いつもの30%程度の元気しか無かった。 なんというか、SOS団を作る前の雰囲気に似ている。 「どうした、元気無いように見えるが。」 「……別に。」 全然「別に。」じゃないな。だがこれは触らぬ神に祟りなしな雰囲気だ。 こちらから下手にツッコむのはやめた方がいいな。くわばらくわばら。 「ねえ。」 と、触れないぞと俺が決心したと同時に、ハルヒが声をかけてくる。 結局、祟りは俺に来るんだよなあ。 「アンタ、確か2時間目体育でマラソンよね?」 「ああそうだ。今から憂鬱で仕方が無い。雨でも降ってくんないかねえ。」 ハルヒはそれを聞くと、不敵な笑みを浮かべた。 「降らせてあげようか。」 え? 今の言葉に俺はギョッとした。 何故ならコイツは、マジでそうすることが可能だからだ。 最も、コイツ自身は自分にそんな能力が備わってることは知らない。知らないはずだが…… 「何変な顔してるのよ、キョン。」 え?あ、すまん。ちょっとボーっとしていたようだ。 降らせてくれるのか?出来るなら頼みたいものだ。 「バーカ、冗談よ。あたしにそんなこと出来るわけないでしょ?」 そう言ったハルヒはいつもの笑顔だった。 俺の考えすぎか。そうだよな、コイツはただいつものノリで冗談を言っただけさ。 だが、2時間目。 「おい……マジかよ。」 つい20分前には雲1つ無い快晴だったはずだぞ? なのに何故、今外は大雨になっているんだ。 いくら急な天気変動と言っても限度を超えている。こんなことが出来るのは一人しかいない。 「すごい雨ねえ、キョン。」 ハルヒは笑っていた。まるでその光景が当然であるかのように。 「ハルヒ、まさかお前が……」 「はあ?何言ってるのよ。あ、まさかさっき言ったのを本気にしたの?」 「だが……」 「バカ言わないでよ。あたしにそんなこと出来るわけないでしょ?」 ハルヒは静かに笑った。だがその笑みはいつもの無邪気なものではなかった。 そう、全てを把握した上で、それを楽しんでいる笑み。 「ただの偶然よ。ただの、ね。」 俺は理解した。どんないきさつがあったかは分からない。 だがコイツは……涼宮ハルヒは、知ってしまったんだ。自分に関する、全てを。 続く
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おだやかで落ち着いた世界 それが私の望むものだと、誰かが言った。そう、私は周囲が考えている よりも平凡であり、面白みのある人間ではない。案外流されているところがあり、彼が自分をほめてくれ るのがこそばゆいほどだ。だから、あの時、私はその選択をして別の道を歩むことになった。それでいい、 それが自然な流れだと。運命にすべてをゆだねるわけではないが、そうなるのが私と彼の関係の結末だと、 そう考えていた。 ”嘘だね”頭の中に響く声。”いつまで誤魔化すつもりだい” ”口にしたじゃないか。たった一人の、この世界で愛すべき存在。それが彼だと。” 私の心が揺れ始め、穏やかな世界が変化していく。本当の気持ち、私は何を望む?私がほしいものは、、、 「キョン、先に部室に行っててくれないか。僕は長門さんと図書室によってから来るよ。朝倉さんも委員会 の話し合いがあって遅れるらしいから、一人で待ってもらうことになるけど。」 今日の放課後、俺達は文芸部のこれからの活動方針を話し合うことを決めていた。とりあえず、方針を決めない 事には前には進めない。一応部員もそろったことだし、今後の活動を行う上でそれは必要なことだった。 佐々木と別れ、俺は一人部室へ向かう。借りてきた鍵で扉を明け、部屋に入り窓を明け、空気を入れ替え、俺は 清掃用具入れから道具を取り出し、部室の掃除を始める。長門たちは必ずこれをやっているそうだが、頭がさがるね。 掃除を終えたあと、俺は椅子に座り、長門から先日借りた本を読んで佐々木達を待つことにした。 SF小説だが、もともと俺が好きだったジャンルで、しかも面白いのでここの所、暇なときはずっと読んでいる。 やっぱり本はよいものだ。長門は司書に向いているかもしれない。 10ぺ-ジぐらい進んだところで、部室の扉が開く音が聞こえたので佐々木達が来たと思った俺は、そちら に視線をやると、そこに立っていたのは佐々木と長門ではなく、長い綺麗な黒髪にカチュ-シャをつけた、 佐々木にまさるも劣らない美人な女生徒だった。佐々木の知り合いではない(俺は佐々木の友人なら全員知っている) ので、おそらく長門か朝倉の友人だろうと俺は思った。 「ここ、文芸部よね。」 その通りだ。一応そう表示しているし、部員もようやく揃えたばかりで、まだ何も活動はしていないが、文芸部で あることは間違いない。 「入部希望者か?いま部長はいないんだが、もうすぐ来ると思う。少し待ってもらえるなら-」 「見学させて。」 俺の言葉を途中でさえぎり、女生徒は勝手に椅子に腰かけると、後は口を固く結んだまま黙って しまった。何なんだ、こいつは。 とりあえず、話をするのは佐々木達が来てからだな、と思い、俺は読書の続きをすることにした。 その前に、俺はその女生徒のクラスと名前を聞いた。 「一年九組。涼宮ハルヒ。」 それだけ答えると、その涼宮と名乗った女生徒は、貝のように口を閉じてしまった。 沈黙は続いたが、それを破ったのは涼宮と名乗った女生徒だった。 「それ、面白いの?」 俺が読んでいる小説のことを指しているのはわかるが、きちんと主語・述語・形容詞を入れてくれ。 「面白いよ。ここの部長が貸してくれたんだが、読み応えはある。」 「ふーん、そうなんだ。」 涼宮の顔には、何故か不満そうな表情が現れている。余計なお世話だが、美人が台無しである。 「ねえ、アンタ、世界て、面白いと思う?」 いきなりスケ-ルがでかい話だな。世界て、一体どこまでの範囲を言うんだ。 「高校に入学したら、何か面白いことがあると思っていた。何か楽しいことが待っているだろうと期待して いたわ。だけど、ダメね。クラブを全部回ってみたけど、ワクワクさせるようなものは一つもなかった。」 「そういえば、クラブ活動を全部回っているという女子がいるとは聞いたが、あれはお前だったのか。」 てっきり俺は佐々木のことだとばかり思っていたのだが。 「佐々木さんて、誰?あたしとおんなじことをやったの?」 ああ。俺の親友でな。好奇心と探求心の塊だ。 「ふーん。で、この文芸部は何か面白いことをやるの?」 それを今から皆で相談するところだ。お前が面白いと感じるかどうかはわからんが。 「そうね。あんまり面白くなさそうね。」 涼宮はそう言うと、椅子から立ち上がる。おいおい、何も見学していないじゃないか。一体何しに来たんだ。 「本当につまんない。中学時代と変わらないじゃない、これじゃ。」 さっきより涼宮は不満の色を露わにし、唇がペリカンの口のようにひん曲がっている。 「邪魔したわね。」そう言いながら、部室を出ようとした涼宮に、俺は声を掛けた。 後から思えば、それは余計なことだったかもしれない。 「全部のクラブを回ったて言ったよな。んで、その中にお前を面白い気持ちにさせるようなクラブはなかった、と。」 「そうよ。」 「だったら、お前が作ればいいんだよ。お前が面白いと思うような活動をするクラブを。人の敷いたレ―ルの上を歩く んじゃなくて、お前自身がレ-ルを敷けばいい。」 最後の言葉は佐々木のパクリだが、我ながらいいセリフだと(その時は)思った。 その言葉を聞いたときの涼宮は、大きい目をさらに大きくして、つい先ほどまでの不満顔はどこへやら、輝くような笑顔を浮かべていた。 「そうよ!」 部室どころか、外にまで響くような大きな声で涼宮は叫んでいた。 「自分でクラブを作ればいいのよ!」 「コロンブスの卵だわ!何で今まで思いつかなかったのかしら、アンタ、天才ね!」 いや、俺は凡人だ。親友は間違いなく天才だが。 「そういえば、顔は平凡ね。」 余計なお世話だ。まあ、俺が美男子とは言えないことは事実であるが。 「アンタ、名前は?」 実に魅力的な笑顔を浮かべている涼宮に、俺は自分の名前を名乗ろうとした時、部室に佐々木と長門が 入ってきた。 「キョン、お待たせ。図書室で過去の文芸誌を見つけたんで借りる手続きをしていたら遅くなってしまっ た。済まなかったね。」 涼宮は、俺と佐々木を交互に見て、「アンタ、キョンて言うんだ。面白い名前ね。」と言い出し、俺が 「あだ名だ」と言ったが、すでに遅し。涼宮にも俺は『キョン』として認知される羽目になった。 「じゃあね。」 最後にそれだけ言って、涼宮は文芸部の部室から出て行った。本当に何しに来たんだ、あいつは。 「誰だい、今の美人は。あんな知り合いが君にいたのかい、キョン。」 一応見学に来た、新入部員候補だったんだが、三〇分も経たないうちに、新クラブ創設者に宗旨替えした らしい。一年九組の涼宮ハルヒとか名乗っていたが。 「なかなか元気そうな人だね。」 よくわからん。話した感じでは気分変動が激しそうだ。お前とは大違いだな。一緒なのは顔が美人てことぐらいか。 俺の言葉に、何故か佐々木は黙ってしまい、長門は顔を赤らめている。どうした、二人共。何か俺、変なことを言っ たか? 「全く、キョン、君は、、、、君の言動には慣れているつもりだが、、、まあ、いいよ。会議を始めよう。」 佐々木の進行で会議を始めて、しばらくして朝倉も合流し、今後の文芸部の活動方針を煮詰めていった。佐々木を進行 役にしたことで会議は効率的に進み、朝倉や長門の提案もあり、話し合いは比較的早く終わった。とりあえず、文化祭を 新生文芸部のアピ-ルの場とすることと決定し、ずっと休刊していた文芸部誌の復活を当面の目標にすることにした。 「キョン、しっかり書いてくれよ。」 俺に文才があるとはとても思えんが、やってみるさ。何事も挑戦だ。 その後、俺たちは朝倉の家にお邪魔し、朝倉が淹れてくれたコ-ヒ-を飲み、お菓子を食べながら無駄話を楽しんだ。ああ、 それから、ちゃんと勉強もしたぞ(佐々木の提案だったんだが)。中学時代の俺からは考えられないことだが、真面目にやっ たさ。何せ、俺の隣には天才がいて、おまけに長門も朝倉もかなり頭がいいことが判明した。勉強もはかどるさ。待てよ、国 木田も頭良いし、馬鹿は俺だけか? 「キョン、君は馬鹿じゃないよ。今までのやり方に問題があっただけだ。僕たちと一緒にやれば、君の成績は間違いなく向上 するさ。それは一年間、君と一緒に学んだ僕が保証する。」 お前はいつもそう言ってくれるが、どうなんだろうか。まあ、お前の言葉なら、俺は信用できるのだが。 「本当にキョン君と佐々木さんて、仲がいいのね。」 朝倉の言葉に佐々木は微笑み、「私たちは親友だからね。」と言った。 ”邪魔はさせないよ。誰にも。涼宮さんには特に、ね”
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さくさく。 鉛筆を削る小気味いい音が静かな部屋に響く。 木と芯の香りがひろがる。 鉛筆を削るのは好きだ。 僕は勉強をする前に鉛筆を削ることを習慣にしている。 丸くなった鉛筆の先を削ると自分の中の何かも研ぎ澄まされていく気がする。 心を空にするこの瞬間は癒される。 ―――高校生活は僕にとって期待していたものではなかった。 女同士の上辺だけの付き合い、そんなのが嫌だった。 キョンと過ごした中学校生活は楽しかったな。 机の中にしまってあったキョンの写真を眺めながらそう思い返した。 けれど楽しかった過去の思い出は僕の心の暗がりをより強調させるだけだった。 かりかり。 仕上げに鉛筆の芯を削る。 鉛筆の芯を削るのは好きじゃない。 カッターの刃で芯を削るのは、黒板を引っ掻くような感覚に似ている。 まるで皮膚の奥底にある神経を削り取っているようで、ぞっとする。 僕はキョンと似ている。そっくりだと思う。 容姿的なことではなく内面的なものだ。 だからキョンと喋っているときは心が安らんだ。 僕に兄妹はいないが、きっと兄か弟がいたらこんな感覚をもたらしてくれたんだろう。 キョンは僕にとってそんな存在だった。 キョンと同じ学校に行きたかったな。 彼はどんな高校生活を送っているんだろう。 恐らく中学のときと同じだろう。 相変わらずまだ世を捨てたようなつまらなそうな眼をしてるんだろうね。 僕は彼のそんな眼が好きだった。 でも本当に好きだったのは僕と喋るときに見せてくれる眼だ。 僕の考えを読もうとするような、好奇心の眼差し。 僕だけに見せてくれる、特別な眼だ。 ある日偶然キョンと出会った。 キョンはちょっと驚いた顔をしていたし、僕も少し意外だった。 僕は自転車を駐輪所に止めに行くところだった。 出会ったのは駅前である。 「やあキョン、久しぶりだね」 「佐々木か」 休日をもてあましているのかと思いきや、 どうやらキョンは友人と待ち合わせをしているようだった。 そう――友人、か。 誰か分からないけどちょっとだけその友人に嫉妬した。 そう思いたくないけど。 でも、羨ましかった。 僕はキョンに少しわがままを言った。 君の友達に会わせて欲しい、と。 わざわざ会って軽い会釈を交わすのは煩わしい気持ちだったが、 もう少しだけキョンと話していたかった。 仲間との約束時間が迫っていると聞いて、僕はキョンと一緒に集合場所に向かった。 いったいどんな友達なんだろう。 中心にいたのは黄色いカチューシャを着けた女の子だった。 キョンとは正反対の印象を受ける活発そうな女の子。 名前だけは知っていた。涼宮ハルヒさん、本人を見るのは初めてだ。 涼宮ハルヒさんの存在を知ったのは、橘さんと出会ったのと同時だった。 橘京子さんと出会ったのは数週間ほど前だった。 学校の校門で僕のことを待っていたらしい彼女は、 僕を近くの喫茶店まで連れて行くと僕に話を聞かせてくれた。 「あなたは神様っていると思いますか?」 そういって橘さんは僕に彼女の写真を見せた。 どこにでもいるような普通の女の子といった印象を受けた。 「かみさま?」 橘さんが僕に語ってくれたことは、にわかには信じられない話だった。 世界を思うまま造り替えてしまう力を、隣の高校に通う普通の女の子が持っていること。 そんなことを橘さんは語った。 そんなことを思い返した。 涼宮さんは彼が遅れたことに対して文句を言って、僕の方に眼をやる。 ちょっと苦手なタイプかな…。 「誰、それ」 涼宮さんは僕に一瞥をくれるとそうキョンに向かっていった。 「親友。」 キョンより先に、僕の言葉が無意識に口から飛び出した。 誰それって…、初めて会う人にかける言葉がそれなの? 正直言ってちょっと驚いた。 キョンってこんな子と付き合うんだ。 やっぱり苦手だな、こういう人。 楽しそうだね――キョン。 キョン、君は何でそんなに楽しそうなの? 僕は全然楽しくなんて無いんだよ。毎日になんの魅力も感じない。 キョン、君は僕と同じじゃなかったの?――キョン なんだか、ここは僕の居場所じゃないな…。 僕は電車の時間が迫っていることを口実にその場を離れた。 ある日僕は橘さんと一緒に遊びに出かけた。 僕は面倒だったが橘さんの友達ごっこに付き合っていた。 はたから見ればただの仲の良い友達に見えるだろう。 でも、所詮は僕は橘京子にとって利用されるだけの存在。 でも橘さんと過ごすのは嫌いじゃなかった。 上辺だけの付き合いが面倒でも、 橘さんと僕は普通のどこにでもありふれた関係じゃなかったし、 彼女の言う機関という得体の知れないエージェントという肩書きは いくらか僕の退屈な日常をスリリングにしてくれる気がした。 「佐々木さん、あの話考えてくれたかしら」 「あの話?」 「ほら、涼宮さんの力の話のことです」 「ああ、その話か――」 橘さんは事あるごとに涼宮さんに変わって僕に神様になって欲しいと言ってきた。 やれやれ、またその話か。 その話が出るたび、僕は曖昧な言葉でお茶を濁していた。 正直橘さんのこういうところは好きになれなかった。 僕とこうやって仲良くするのもそのためなんだよね。 仲の良い親友なんて言葉、反吐が出そうだった。 疲れた。 家に帰ると僕はベッドに倒れこんだ。 最近だるい…体力的にだろうか、それとも精神的にだろうか。 予備校に通うのも楽ではない。 なんでだろう、中学のときはそうでもなかったのにな。 僕は枕元にあった小説を手に取るとそれを眺めた。 サスペンス物だ。普段こういった類の本は読まないのだが、 電車の中で何か退屈しのぎになるものが欲しかったので、 駅前の本屋で適当に手に取ったものだった。 殺人に快楽を覚える殺人鬼が売春婦を次々と殺していく話だった。 グロテスクな描写が多い…。 やだな… 僕は読むのをやめた。 もう今日はこのまま寝よう。 眠りに落ちて行く感覚に身を任せた。 ここはどこだろう。 辺りを見回す。 薄暗くどんよりとした空間だった。 様子を見ようと脚を動かしたが、思うように動かない。 気付くと僕はいつも寝ている自分のベッドにくくり付けられていた。 隣にはぼーっと人影が現れ、僕を見下ろしていた。 その大柄な男は、右手にぎらぎらと光る大きなナイフを持っていた。 男はナイフを降り上げると僕を切りつけようとする。 やめて! 助けて!! じたばたと暴れが身体は思うように動かない。 すると視界の隅にまた別の誰かがいるのが見えた。 キョンが立ってこっちを見ていた。 僕はキョンに向かって助けを求め叫んだ。 助けてキョン!!殺される! キョンの隣にはあの女がいたんだ。涼宮ハルヒ。 「なにぼーっとしてるのよキョン。さっさと行くわよ!」 「ああ」 彼女はキョンの腕をひっぱる。 キョン!行かないでよ!!助けて!!! 僕の叫び声は届かない。 ニタついた男がナイフを僕に向かって振り下ろした。 「うわああっ!!!」 ゆ、ゆめ!?はぁはぁ! 手が、がたがたと震えている。 こ、こんなことはじめて、 視界がだんだんと狭くなって行く。 はきそう おお、おちつかなくちゃ 明かりをつけようとベッドから降りるが脚がもつれて思うように立てない。 はぁはぁ! 這うように机の上のスイッチを入れると なんとかいすに座る 呼吸を整えるために深呼吸をする。 だめ、息がうまく吸えない。 はぁはぁ! 心臓がばくばくいっているのが分かる。 全身の血管が暴れまわってる。 息を止めた。 うっ、ぐっ…ふっ!はぁ…はぁ…… 少し落ち着いたのか、周りがだんだんと見えてきた。 時計は午前3時を指していた。 いやな夢。最悪だ、思い返したくも無い。 キョン――助けて…。 眼を閉じるとキョンの隣にいたあの女の顔が浮かぶ。 涼宮ハルヒ――ニタついた顔をして僕を眺めている。 また手ががたがたと震える いきが、うまくできない… ええんぴつを、けけずろう、そうだ、おおおちつこう さくさく…かりかり、カリ、がりっ、、ざくザクッ。はぁはぁ だだめだ、折れてしまった、、かわりのを がりがりがっ、ググ…、めき…ばきっ! 痛―――っ!! 誤って指を切ってしまった、血がどくどくとあふれ出す。 ティッシュをつかみ取ると指を押さえつけた。 はぁ…はぁ…… おちつけおちつけ。 時計の秒針を刻む音が聞こえてくる。 うぐっ……えぐっ… 気付かなかったが、いつからか僕は泣いていた。 キョン、キョン――! 涙があふれた、 あれは夢ではないのだ。 もうキョンは、僕のところには来てくれないんだ。 こんなのって辛過ぎるよ。 こんな世界――いやだ こんなの、誰が望んだのさ。 僕の頭の中にあの女の名前が浮かんだ。 涼宮ハルヒ これは、彼女が望んだ世界。 彼女がキョンを僕から奪ったんだ…。 あの女が。 僕の指からは血がぽたぽたと足もとに滴り落ちた。 僕はキョンと頻繁に会うようになった。 といってもお互い待ち合わせてなんかじゃないけれど。 たまに会うと喫茶店に入り二人で話をした。 キョンは自分の部活のことをうれしそうに語った。 本当に――楽しそうに――。 なんでさ、何がそんなに楽しいのさ――。 キョンは僕がいなくたってそんなに楽しいの? ねぇもっと僕の話をしてよ、キョン。 昔の話をしようよ、 もっと昔の眼で僕を見てよ。 キョンは僕のそんな気持ちを分かっていない。 ハルヒが、ハルヒが――― 涼宮ハルヒ、今日は12回も彼女の名前を出したね。 あの女さえいなければ君はもうその不愉快な名前を口にしないでくれるのかな。 キョンを蝕むあの女さえいなくなれば。 いなくなれば、いなくなれば、あいつさえいなくなれば! 「佐々木?」 「うん?」 「どうした?俺の話つまらないか?」 「そんなことないさ、とっても興味をそそられるよ。」 「それより佐々木」 「なんだい?」 「お前どうしたんだその指。全部包帯だらけじゃないか。」 「あ、これは。最近料理を作りだしたのだが、まだ慣れないもんだからね…この様さ。」 「そうか」 「それよりもっと聞かせてよ、キョンの話を」 橘さんが家に遊びに来た。 いつものことだ、僕はあがるよう橘さんに言い、お茶とお菓子を出した。 今日は何をして遊ぼうか、橘さん。 天気がいいから買い物にでも行こうか そう言って彼女の方を見た。 「あっ、もしかしてこれって」 橘京子が何気なく机の上にあったキョンの写真を手に取った。 気付いたときには体が勝手に動いていた。 「キョンに触るなっ!!」 「え?」 僕は無意識のうちに橘さんを突き飛ばしていた。 「きゃっ!」 はずみで鉛筆立てがガシャっと音を立てて倒れた。 はっと我に返った。しまった、橘さんは何も悪くないのに。 「橘さん、ごめんね、いきなり突き飛ばしたりして!痛くなかったかい?」 「だ、大丈夫なのです…」 「本当にごめんよ。」 でも、次からは気をつけてね。 キョンに触れていいのは、僕だけなんだ。 僕は優しく橘さんを抱きしめた。 橘さんは、少し震えていた。きっとびっくりしたんだろう。ごめんね、今度からは気をつけるからね。 「さ、佐々木さん、それ…」 橘さんが指差したのは弾みで開いた僕の机の引き出しの中身、 血のりがついて錆びかかっていたカッターと 血の染み込んだ無数の鉛筆の破片と僕の指の爪や表皮 切り刻んだ涼宮ハルヒの写真だった。 ああ、これ。 なんでもないよ、橘さん。怖がらなくても大丈夫。 なるべくなら見られたくなかったけれど 安心してよ キミはこんなふうにはしないからね。 僕は橘さんの耳元で囁いた。 ねぇ橘さん。わたしが神様になるって話、うけてあげてもいいよ 待っててよキョン。 また二人で一緒に過ごそうね。 今度は一生誰にも邪魔されないところで二人だけでさ。 FIN
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ねぇ、キョン。 ねぇ、キョン、返事をして? ねぇ、キョン・・・。 聞いて、あたしの話を聞いて。 キョン! ねぇ、キョン。 あなたはあたしを裏切らないよね? ハルヒの声がした。 ハルヒが俺の名前を呼んでいる。 どうしたんだハルヒ? 目を開けて起き上がると、そこは色も音も無いただ真っ黒な空間に俺は居た。 見渡すほどの広さも感じられない。ただ黒一色の空間。 足元もフワフワとして、まるで星一つ無い宇宙空間に放り出されたようだ。 俺は確かベッドで眠っていたはずだ。それがどうしてこんな場所に居るんだ? まさか例の閉鎖空間とやらに呼ばれてしまったのだろうか。 なら、ハルヒもこの場所に居るはずだ。どこにいるんだ、ハルヒ。 「ハルヒ!」 ハルヒの名前を呼ぶ。だが返事は無い。 ハルヒの声がして、この妙な空間・・・閉鎖空間だと思ったが違うのか? なら、例の急進派か? 「ハルヒ!おい、返事をしてくれ!ハルヒ!」 もう一度ハルヒを呼ぶ。・・・やはり、返事は無い。 キョン! キョン! キョン! どうして返事をしてくれないの? ・・・・。 ・・・・。 ・・・。 キ ョ ン ! ! 『・・・ョ・・・ン・・・・・キョ・・・・!・・・・ョ・・・』 微かに、だが確かにハルヒの声が聞こえた。やっぱりハルヒはここにいるのか? 「ハルヒーーーっ!!ハルヒ!!どこだ、おーい!!」 大声を出してハルヒの名前を呼ぶ。だが一向に返事は無い。 ・・・どうなっているんだ?ハルヒじゃないなら長門、古泉の誰でも良い。返事をしてくれ。 『 キ ョ ン ! ! 』 突然、この空間全体が揺れるほど大きい声で俺の名前が叫ばれた。 実際、 ず ず ず ず ず ず どっ どっ どっ と辺りが激しくゆれ出した。 ゆれ出した空間の一部が、ぐにゃりと歪む。 それはだんだんと色が付き、ますます歪みを増してゆく。 ぐにゃ その歪みは、だんだんと、ある人間の顔を模してゆく。 「・・・ハルヒ・・・・・・・!?」 空間に浮かんだ歪みは、ハルヒの顔になった。 その顔は笑って、俺を見下ろしている。 呆然とそれを見上げていると、また空間の一部から腕が二本飛び出して俺の体を無理矢理掴んだ。 つ か ま え た ぁ ! 大 好 き よ 、 キ ョ ン ! おわり
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角膜に映しだされている光景を、俺は夢だと思いたかった ハルヒと朝比奈さんが …… 血まみれで伏しているというのは 一体どういう冗談だ…? 気付くと俺は二人の前にいた 考えるよりも先に体が動いてしまったらしい 「大丈夫かよ!?おい!?!しっかりしろ!!!!!」 「キョ…キョン…!!みくるちゃんが…!!みくるちゃんがあ!!!!」 「しゃべるな!!お前だってケガしてんだろ!!?」 「違う…!!あたしはケガなんてしてない!!…みくるちゃんが…あたしを…あたしをかばって…!!!!」 …… え? じゃあ、ハルヒの服にべったり付いているこの血は何だ? …… 全部…朝比奈さんの血…… …!? 「う…ぅ、ぅぅ……!」 悲痛な様で喘ぐ…彼女の姿がそこにあった 「朝比奈さん!!!!しっかりしてください!!!!…朝比奈さん!!!!」 「ょ…ょかった…すず…涼宮さんがぁぶ、無事で…!」 「朝比奈さん!!?」 「わた…し…やくにた…てたかな…ぁ…ぁ…!」 理解した 彼女は秒単位という時間の中で自らハルヒの盾となった あのとき奴の一番そばにいた…彼女は 『ねえキョン君…私って本当にみんなの役に立ってるのかな…?』 つい先ほどの彼女の言葉が頭でこだまする 朝比奈さん…あなたは…そこまで思い悩んでいたんですか…!? 「あ…あたしのせいだ…!!あたしがボーっとして動こうとしなかったからみくるちゃんが…!! あたしのせい…あたしのせいでみくるちゃんが…っ!!いやあああああああああああああ!!!!」 頭を抱え絶叫しだすハルヒ 「よせ!!ハル」 言いかけてやめた。ふと、気付いたからだ…俺の横へと立っている人物の存在に。 「あなたは涼宮ハルヒを連れ、ただちにこの場を立ち去るべき。周囲の急激な悪化により 彼女の精神は極限状態。これ以上の錯乱は彼女の自我そのものを崩壊させる。 神としての記憶を覚醒しかねない極めて危険な状況。」 長門… …… …!! 今の俺に長門の声は届かなかった 「長門…!!お前…!!」 気でも狂ったのか、俺は長門に掴みかかっていた。 「…銃で必死に迎撃してくれてた古泉と違って…お前は一体何をしていた!? お前なら…!!今の攻撃からみんなを守ることなど造作もなかったはずだろう!? …なぜそれをしなかった!?答えろよ長門ッ!!!!答え」 頬に鈍い痛みが走った 俺は古泉に殴られた 「てめえ…!何しやがる!?」 「あなたこそ…こんなときに何をやってるんです!?涼宮さんを連れてただちに逃げろと… 今長門さんに言われたばかりでしょう!?どうしてそれに従おうとしないんです!?」 「お前…!!!今にも死にそうな朝比奈さんは無視か!?それに長門は…!」 「おいおいおい、九曜さん。ちょっとやりすぎじゃ?死人がでそうな状況なんだが。」 「…関係のない人に重傷を負わせてしまったぶん多少の罪悪感はありますが…ま、仕方ないですね。 ある意味当然の報いですよ。なんせ、私たちは問答無用で先ほど殺られそうになったわけですから。」 「-----------身の程を-------------------------------知るべき」 炎上した隣家の方角から歩いてくる… 不快な言葉を発する三人組が… …… そして、俺はこいつらの顔を知っている 未来人藤原 超能力者橘京子 天蓋領域周防九曜 …藤原。やっぱりてめえらの仕業だったわけか…! 「…長門さんと同程度か、それ以上の力を有する周防九曜…。天蓋領域という名の化け物に 彼女は…長門さんは情報操作をかけられ、一切の身動きがとれない状態でした。」 !! 「それでも彼女は抑圧されてもなお、力を行使し被害を最小限にとどめました… 朝比奈さんを助けることが叶わなかったのは…彼女の力が不完全だったためです…。 もちろん、僕の力量不足でもありますがね…。逆に、その不完全な力さえもなければ今頃僕も、 そしてあなたもタダではいられなかったでしょう。最悪の場合死んでいたかもしれません。」 …ッ! …よくよく考えてみれば、長門や古泉が死に物狂いで頑張ってる中、俺は何をしていた?? 自分を守ることで精一杯だったじゃないか…!?いくらハルヒと朝比奈さんとに 距離があったとはいえ…、、、、そんな俺に、長門を批判できる資格なんかない…!!! 「長門…俺はお前にひどいことを…!本当に申し訳ない!この通りだ…!」 俺は長門に…誠意をもって謝罪した。 「…私が周防九曜に対し後れを取ったのは事実。だから、あなたが謝ることは何一つない。」 「しかし…!」 「私のことはどうでもいい。一刻も早く涼宮ハルヒを連れてここから立ち去るべき。」 …さっきも言われたな。頭に血が上ってたが、確かにそんな覚えがある。 …… ああ、わかってるさ。そうせねばならないほど窮した事態だってことは だが 「朝比奈さんはどうすんだ!!?重体の彼女を放置して、俺とハルヒだけ逃げろってのか!!?」 「…朝比奈みくるは、これから私が全力を尽くして治療にあたる。」 「!確かにお前にならそれが可能だな…だが、あいつらの相手はどうすんだ!? お前が治療に専念する間……、、!!まさか古泉一人に戦わせるつもりか!?無茶だ…! 相手にはあの天蓋領域だって」 「…幸か不幸か、涼宮さんの重度の乱心により…この場は閉鎖空間と化しつつあります。 となれば、僕も超能力者として…本来の力を存分に行使できるようになります。」 古泉… 「わかってんのか!?それでも1対3には変わりねーんだぞ!?」 「…涼宮さんにもしものことがあれば世界は終わりです。あなたもそれは十分承知のはず。」 「しかし…!」 「…以前ファミレスにてみんなと誓ったではありませんか。我々は協力して…みんなで涼宮さんを守る!…とね。」 …こいつは、自分の死を覚悟しているのか?仲間を守るために… …… 長門も同様にそうだろう。 朝比奈さんにしてもそうだ、命を擲ってでもハルヒを守ろうとした。 みんな覚悟を見せつけている 絶対に3人の覚悟は無駄にできない!!!!なら、俺にできることは一つ 「ハルヒ!来い!」 強引にでもハルヒの手を握り、連れて行こうとする俺。 「嫌!!放してよ!!!!放して!!!!みくるちゃんが!!!!! みくるちゃんがああああああああああああッ!!!!!!」 ハルヒもハルヒで相当つらいんだろう…気持ちはわかる。だが、今は我慢するんだ…! みんなの意志を…覚悟を…どうか酌みとってやってくれ!!! そして…みんな… どうか死なないでくれ!!!! 俺は3人に背を向け、ハルヒとともに走りだした。 「…はん、ようやくお喋りは終了か。じゃ、とっととそこをどいてもらおうか。計画に支障が出る。」 「その先にいるターゲットに私たちは用があるんで。早くしないと逃げられちゃいますしね。 それに、閉鎖空間と化したこの場で猛威を揮えるのは…決してあなただけではないってことも どうかお忘れずに。だって、私も同様に超能力者なんですから。」 「それくらい承知の上です。それでも、あなた方が何を言おうと僕はここを通しません…!」 「古泉一樹…朝比奈みくるの治癒がもう少しで終わる。 そのときまで、どうか耐えしのいでほしい。終わり次第、私も参戦させていただく。」 「それは頼もしいですね。ぜひともお願いします。」 …… 「一応忠告はしてあげたんですけど。じゃあ、仕方ありませんね。」 「結局こうなるのか。面倒なヤツらだ…。」 「---------邪魔」 「「はぁ…はぁ…はあ!」」 一体どれくらい走ったのだろうか…、俺たちはすでに息をきらしてしまっている。 行く宛てもなく…ただただ走り続けた。藤原たちから離れることだけを考え…ただただ走り続けた。 轟音爆音が鳴り響く 火の手が上がっている …俺たちが先ほどまでいた場所からだ。 …… ところで、俺にはさっきから妙な違和感がある。市街地を走りぬけていて気付いたのだが… 人一人歩いていない、というのはどういうわけだ?確かに、時刻は夜の10時をとうに過ぎてしまっている。 ゆえに、人通りが少ないのは理解できる。だが、人一人見当たらないのはどう考えたっておかしい。 …これも長門、ないしは周防九曜の情報操作に起因したものなのだろうか? それともさっき古泉が言っていたように、この世界が閉鎖空間と化しつつあるから…? っ! ふとハルヒの手が放れる。酷く塞ぎ込み、その場にしゃがみこむハルヒ。 「もう…あたし…、走れない…!」 「…そうだな…随分走ったし、ちょっと休憩するか。」 「…ねえキョン」 「何だ?」 「そもそもさ…何であたしたちこんな必死になって走ってんの…??」 「……」 「さっきまでさぁ…あたしたちお菓子とか食べながらみんなで騒いでたじゃないのよぉ…!? あれは一体何だったの!!?夢!?どうして…こんなことになってるの…!!?」 「……ハルヒ…」 「この状況は一体何よ!??家が吹き飛ぶわ、破片が飛び交うわ…そのせいでみくるちゃんが…!!」 …ハルヒの疲弊は、どうやら単なる息切れによるものだけではないらしい。 「ち、違う…!!あたし…あたしのせいでみくるちゃんが!!みくるちゃんを助けないと!!」 「落ち着け!!落ち着くんだハルヒ!!気持ちはわかる!!わかるから…どうか落ち着いてくれ!!」 「嫌ぁ…!放して…!みくるちゃんが…みくるちゃんがぁ…!!」 ……、 最悪の状況と言っていい。俺は…どうすりゃいいんだ? 極限状態なまでに錯乱した…今のハルヒに一体どんな声が届くってんだ…?仮にハルヒの立場だったとして、 今頃俺はどうしていただろうか?発狂していたのだろうか?だとして、そんな半狂乱な俺を… 俺はどうすれば救ってやれる??何をすれば救ってやれる!? その瞬間だった 「あ…、ああっ…、……」 卒倒するハルヒ …… …ハル…ヒ? 「ハルヒ!?おいしっかりしろ!!!!大丈夫か!!?ハル」 !? 何だこの揺れは…?地震…??規模こそ小さいが、一昨日見た夢を思い出さずにはいられなかった… …… …冗談がすぎるぜ…世界が滅ぶのは12月23日の段取りだったはず… 今日はまだ12月1日だぞ…!?今日で…終わるのか?何もかも…!? 「今のハルヒの失神は…、まさか!覚醒しちまったのか!?」 …何なんだこの展開は…??ここまで頑張ってきたのに…頑張ってきたってのに、 全部水の泡で終わるのか?そんな…そんなこと…ッ! しかし いくら威勢を張ったところで、もはやどうしようもないことには変わりない。 ここまで【絶望的】という言葉が似つかわしい状況もない。 …… とりあえず、地震は収まったようだが… 俺が放心状態であることに、変わりはなかった… 「た、大変!!涼宮さん…その様子だと、神としての記憶を取り戻してしまったんですね…!」 はて、この場には俺とハルヒしかいないはず。ついに俺も幻聴が聞こえるなまでに廃物と化してしまったか。 「ふう…あなた達のこと探したんですよ…って、キョン君聞こえてますか…?大丈夫ですか!?」 !! 「あ、あなたは…」 「よかった…あなたまでおかしくなってたら、それこそ終わりだったわ…!」 「朝比奈さん!!」 いつしかお会いした大人朝比奈さんが…俺の目の前に立っている。 光明が射すとはこういうことを言うのだろうか? 例えるならば WW2独ソ戦にて、モスクワ陥落を【冬将軍到来】により間一髪のところで防いだソ連。 池田屋事件にて、維新志士らにによる窮地を別動隊の【土方歳三ら】に助けられた近藤勇。 日露戦争にて、物資・国力ともに限界だったところを【敵国の革命運動】により難を逃れた日本。 関ヶ原の合戦にて、数による劣勢を【西軍小早川秀明の裏切り】により勝敗を決した徳川家康。 元寇にて、大陸独自の兵器や戦法で撹乱する元軍を【神風(暴風雨)】により撃退した鎌倉幕府。 キューバ危機にて、米ソによる核戦争を【ケネディ大統領の働き】で回避した当時の世界。 ワールシュタットの戦いにて、【オゴタイ=ハンの急死】により領土を守り切った全ヨーロッパ諸国。 2・26事件にて、不運にも義弟の【松尾伝蔵陸軍大佐の身代わり】で暗殺を逃れた岡田啓介首相。 1940年にて、【杉原千畝リトアニア領事によるビザ発行】でナチスによる迫害から逃れたユダヤ人。 クリミア戦争にて、【フローレンス・ナイチンゲールの必死の看護】により命を救われた負傷兵たち。 …挙げればキリがない。 それくらい、絶望的渦中にある今の俺からすれば…彼女の存在は例文の【】に値する。 「朝比奈さん…俺は…。俺は!どうすればいいんですか!!?」 彼女が今ここにいるということは、間違いなく何かしらの理由があるはず。そうでもなければ、 朝比奈さん小の上司でもある彼女が…自らこの時代へとやって来ることなどありえない。 だとすれば、彼女は知っているはずだ…俺が今何をすべきなのかを…! 「落ち着いてキョン君!まずは状況をしっかりと把握しましょう。それによってあなたの成すべき事も… 決まってくるわ。だから、涼宮さんがこうして倒れるまでの間一体何があったのか…私に話してほしいの。」 話す内容によって、彼女が俺に与える助言もまた違ってくるのだろうか。 俺は…事の一部始終を洗いざらい打ち明けた。 …… 「なるほど…つまり、あなた達は藤原君たちに追われていたのね?」 「はい…そのせいでこの時代に来ていた朝比奈さんが…重傷を負ってしまって…っ!!」 「…それは。さぞかし大変だったのでしょうね。」 「なぜ驚かないんです!?彼女が消えてしまえば、大人であるあなたも消えてしまうんですよ!?」 「そのくらい心得てるわ。でもね…逆に言えば、今大人である私が この場にいる…生きてるってことは、つまり彼女はまだ死んでないってことよ。」 ! 「そして、あなたと涼宮さんがここまで逃げてくるまで随分な時間が経過してる。 ともなれば、私だけでなく長門さんや古泉君も無事だってことが推測できるわね。」 「意味がよくわかりません…どうして長門や古泉までも無事だって言えるんです!?」 「考えてもみて。私は…自分で言うのもなんだけど、戦闘に関しては全くの素人。ゆえに、 殺されるのも容易いわ。万一私の傷が完治したとしても、その後無事でいられる可能性は極めて低い。」 「……?」 「つまり、長門さんや古泉君が死んで私が生きてる状況ってのは 常識的に考えて絶対にありえないのよ。 だってそうでしょう?彼らは私なんかより桁違いに強いんだから。まあ…逆は可能性として十分ありえるけどね。 私が死んで彼らが生きてるっていうのは…自分で言っててちょっと悲しいけど。」 なるほど、確かに理屈に当てはめて考えればそうなる。…実に的確な指摘だった。 「ありがとうございます朝比奈さん。3人が生きてるってことがわかって…俺、安心できました!」 「ふふ、さっきよりも落ち着きを取り戻したようで何よりね。状況の把握は大切に…ね。」 朝比奈さんはこれを見越して話してたってのか…?さすが大人の貫録だ。 「それで藤原君たちは…どんな様子だったの?」 「どんな様子って、俺たちを殺しにかかってきたとしか…。」 「一体誰を殺そうとしていたのかしらね、彼らは…」 「…?ハルヒを除く俺たち全員なんじゃないですか?それからハルヒを拉致でもして… おおかた記憶を覚醒させるつもりでもいたんでしょう。…結果として覚醒しちゃいましたけど…。」 「でも…彼らがあなたたちの殺害、ないしは涼宮ハルヒの拉致を明言したわけではなかったんでしょ?」 …… 彼女は彼らの目論見について、何か知っているのだろうか…? 「…キョン君、今あなたが言った推理は、おそらくはずれよ。」 …はずれ??どういうことだ? 「単に、あなたたちは成り行きで彼らの障壁となってしまっただけ。彼らからすれば、 初めからあなた達は眼中になかったわ。ましてや、殺害など論外ね。」 …?彼女の言っている意味がよくわからない。 「じゃあ、藤原たちの目的は他にあったってことですか??…それは何ですか!?」 「…混み合った話はまた後にしましょう。涼宮さんをこのまま放置したまま話し続けるのも…胸が痛むわ。」 …確かにそうだ。倒れてるハルヒをどうにかせねばなるまい。 「とりあえず、彼女を背負ってこっちに来てくれないかしら?いつまでもここが安全とは限らない。 閉鎖空間と化しつつある現状では先ほどの地震といい、何が起こったっておかしくないもの。」 朝比奈さんの言う通りだ。 …俺は彼女の言うことに素直に従い、ハルヒのもとへ駆け寄った。 「…ハルヒ、大丈夫か…??」 …… 返事がない…どうやら本当に気絶してしまっている。俺は連れていくべく…ハルヒの肩を担ごうとする。 その時だったか ? 背中が妙に熱い …… …何だこの不快感は? いや、不快なんてもんじゃない…これは 生物に 本来あってはいけないものだ 「う…!!あ!!!!が…ああ…っ!!!!!」 猛烈な激痛 混沌とする意識 一体 何が起こった 俺は 背中を手で 触ってみる …… 何だ このどす黒い 赤い液体は 意識が 朦朧とする 「キョン君…さっき私に聞いてましたよね?自分が今成すべき事を。それはね、 死ぬことよ。」 「冥土の土産に教えてあげる。藤原君たちの本当の狙いはね、私の抹殺よ。」 「まさか、涼宮ハルヒを昏睡状態に陥れた犯人が 私だったなんて想像もしなかったでしょ。」 俺 を 立って 見下ろす こいつは 誰? 「まさか、ここまで上手く事が運ぶなんてね。アハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」 俺 を 見下し 笑う こいつは 誰? 意識が途絶えた …… ここはどこだ?辺りが真っ暗で何も見えない……そうか、あの世か。俺は死んじまったのか 2012年12月1日22時23分 俺は朝比奈みくるに刺殺された
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涼宮ハルヒの遡及Ⅰ 『ただの人間には興味ありません。この中に、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい』 と、高校入学の初顔合わせの自己紹介の場で、至極真剣な表情でのたまった女がいたとするならば、たとえ、そいつがどんなに可愛くてスタイルが良かろうとも、大多数の男はコナをかけるのに二の足どころか三の足、四の足を踏む……いや、それ以前に、決して関わらないようにしよう、と心に固く誓うことだろう。 むろん、俺もそうだった。いや、そのはずだったんだが…… 「こらキョン! あんた聞いてるの? 今、大事な話をしてるところなのよ!」 「心配するな。ちゃんと聞いている。明日の不思議探索パトロールのことだろ」 「そうよ。で、あたしが何て言ったのかも聞いてたの?」 それはまだだろ。と言うか、それを今から言う気だったろうが。 「あら、ちゃんと聞いていたのね。意外だわ。なんとなく失礼なモノローグを頭の中に流しているように見えたから聞いてないかと思ってた」 む……なかなか鋭い奴だ…… 「んじゃまあ続きだけど」 気を取り直したハルヒが再び勝気満面の笑顔に戻って、 「明日の不思議探索のテーマはUMAと心霊現象よ! と言う訳で、午前9時にいつもの駅前集合ね!」 んまあ、関わっちまったもんは仕方がない。などと開き直っている俺がいる。 あの十二月の出来事で俺は自分の気持ちに気づいてしまったんだ。冒頭のような感想を持っていた入学当時の俺が今の俺を見たら何と言うのか、なかなか興味深いことでもあるのだが、今の俺から言わせれば当時の俺なんざつまらない奴に映ってしまうだろうから、人間、変われば変わるものだと妙にしみじみしてしまう。それはハルヒにも言えることだし、長門、古泉、朝比奈さんも同じだな。みんなSOS団発足当時と比べれば明らかに変わったと言っても過言ではないだろう。 ん? ああ、ハルヒが何で宇宙人、未来人、異世界人、超能力者って言わなかったか、ってことか? そりゃそうだろ。 なんたってハルヒはもう、俺たちの正体を知ってしまったからだ。 長門が宇宙人、朝比奈さんが未来人、古泉が超能力者で、自分に新しい世界を創造できる力があるということをな。知らないことと言えばハルヒは自分が想像したことを現実化できる力を持っている、てことくらいだ。 むろん、俺がジョン・スミスだということも知っている。もっともだからと言って俺たちの関係が変わる訳じゃない。 むしろ、ハルヒが望んでいたのはこういう団体なんだから最近は機嫌が最高潮にいい日しかないくらいだ。 さらに加えるなら、ハルヒは異世界人との邂逅も果たしている。 ただ、異世界人は少し勝手が違っていて、この世界の存在ではないだけに、ハルヒが望んでもハルヒの力の影響を全く受けないものだから、そうそう出会えるものではないらしい。なんたってハルヒもこの世界の存在だからな。てことはこの世界じゃない世界まではその力が及ばないって訳だ。 とと、話を戻すが、どうして今だに不思議探索なんぞをやっているかと言えば、ハルヒの不思議への欲求が目的対象を見つけたからと言って、それで弱くなることはないからだ。見つけたなら次の不思議へと突っ走る奴だしな。 だから探索目標が変わったのさ。 ところがだ。 ハルヒの夢が叶った現実を快く思わない人間というものもいるんだよな。 ……いや違うな…… その人たちは別段、ハルヒを悲しませようとか困らせようとかなんて微塵も思わなかったはずだ。それは断言してもいい。 ただ、都合が悪かったんだろう。自分たちにとってではなく、少なくともハルヒと俺にとっては……いや、もしかしたらSOS団にとってもか? だからこそ、心を鬼にせざる得なかったんだろうな。 俺は今、心からそう思う。 てな訳で、話は今回の不思議探索パトロール当日の午前七時半ぐらいから始まるだろうか。 いきなりで申し訳ないが、ちょうど着替えが終わった俺は目を丸くして口をぽかんと開けて絶句した。 「さて、質問があるけどいいかしら?」 なぜなら、俺の目の前には見覚えはあるのだが、もう二度と会えないと思っていた人物が、文字通り、突然、現れたから。 癖っ毛でやわらかそうな腰まで届こうかという頭髪を、一度、さらりと掻きあげて、 「あなたはあたしの知ってるキョンくん、よね?」 「ア……アクリルさん!?」 艶やかな髪をふわりと揺らす彼女を俺は見紛うはずがなかった。 「ふぅ、よかった。今度こそ蒼葉(あおば)の補正がうまくいったみたい。やっと、ちゃんと目的地に着いたのね」 苦笑とも自嘲ともとれる笑顔を浮かべる彼女を俺は忘れるはずがない。 容姿端麗、プロポーション抜群、山吹色のノースリーブシャツに、スカイブルーのホットパンツ、までならなんとも艶めかしい姿を想像できても、ヘアカラーが桃色でマントを羽織ってた日にゃ、コスプレ会場以外であれば絶対に頭を疑われるような風体だったりすることだろう。 しかし、あくまでそれはこの世界で、のことだ。 本来、彼女が住む世界ではそこまでの違和感はないはずである。 なぜならば。 この人は異世界に生きる魔法使いだからだ。 言っておくが嘘でも冗談でもないぞ。 彼女が出した名前、蒼葉さんとは、ハルヒの創り出した閉鎖空間で出会い、その後、俺がハルヒに関わってしまったばっかりに得体のしれない存在に目を付けられて蒼葉さんと彼女が住む世界に飛ばされてしまったことがあったんだ。その時は、ハルヒ、長門、朝比奈さん、古泉の尽力と蒼葉さんとこの御方の協力で俺を元の世界に戻してくれたのである。その時に使用したのが『魔法』だったし、俺は彼女が魔法を振るう姿もこの目でしかと見た。 だから間違いない。 しかし、彼女たちは言ったはずである。自分たちと俺たちが再会する可能性は皆無に等しいと。 なら、どうして今ここに現れた? 「はい、モノローグ説明ごくろうさん。オリジナルキャラクター登場シリーズでしかも連作っぽいから色々と面倒なのよね」 「いや、それは言ったら身も蓋もないと思うのですが?」 「仕方ないでしょ。あなたは大丈夫でも、オリジナルキャラクターを快く思わない人も決して少なくないみたいで、賛否両論。しかも両極端だし……って、いつまでもこの話題で引っ張るわけにもいかないわ」 それもそうですね。んじゃまあ話を戻しますけど、 「どうしてアクリルさんがこの世界に……?」 当然の疑問をぶつける俺。 「うん。ちょっと困ったことが分かったんでどうしてもこっちに来なきゃいけなくなったのよ。なかなか大変だったけどね。ここに着くまでに何度別の並行世界に辿り着いてしまったことか……まあ何にせよ、ようやくうまくいって良かったわ」 困ったこと? 「覚えてる? キョンくんをこっちの世界に戻すときに話した後遺症のこと」 「ああ……あれですか……」 俺は思わず苦虫をつぶした顔をした。 それは仕方がない話で、蒼葉さんとアクリルさんが俺をこっちの世界に戻す際に使った魔法、まあ、それしかなかった訳だから仕方ないっちゃ仕方ないことではあるのだが、その魔法=召喚術の影響で俺はハルヒと、そして今は長門にも絶対服従の責務を背負ってしまっているのである。その所為で毎日、どうにも苦労が絶えないんだ。なんせあの二人にまったく逆らえなくなってしまったわけだからな。どんな無茶でも聞いてしまっている俺が忌々しい。何度か本気でこの世界に戻って来なければ良かった、なんて考えてしまったほどだ。 そんな俺の表情が目に入ったアクリルさんがウインクをしつつの笑顔で続ける。 「それを是正しに来たのよ」 って、なんですと!? むろん、俺は驚嘆と希望で、比喩表現ではあるが胸が朝比奈さん並に膨らんだ気がしたぞ。 「で、何でこんな格好しなきゃいけないの?」 「ええっと……アクリルさん、ご自身の姿形をちゃんと自覚していますよね……?」 ここはアクリルさんが本来住んでいる世界ではない。 桃色の髪もマントも肩当ても標準装備のはずがない。ならばこっちの世界の流儀に合わせてもらわないと後々面倒なことになる。 しかも、このアクリルさんから「今回は別に慌てる必要がないから、少しこの街だけでいいんでこっちの世界を案内して」とせがまれたのである。 理由か? んなもん決まっている。ただの好奇心だ。 というか、俺だってもし、絶対に元の世界に戻れる保証があるなら、アクリルさんの住む世界を案内してほしいと思うことだろう。 それだけ『異世界探検』という行為は胸を躍らせるものだ。それはアクリルさんも同じなんだ。 しかしだからと言って事情を知っていれば『異世界人スタイル』で割り切れるだろうが、圧倒的大多数の事情を知らない人間が見ればアクリルさんは異様な姿にしか映らないことだけは確かなんだ。しかも案内を頼まれたということは俺はご一緒しなければならず、万が一、SOS団以外の知り合いに見られてしまえば、次回の登校からは疎外感たっぷりの視線に晒されるであろうことは想像に難くないんだ。一応は社会性を大事にしたい俺としては、それは是が非でも避けたいので変装をお願いしたのである。 という端的な説明をアクリルさんにはもっと丁寧かつ慎重に伝えた。 「分かったわよ。なら仕方ないわね」 ふぅ、どうやら理解してくれたようだ。証拠に彼女は髪を黒く染め、黒のカラーコンタクトを嵌めている。 「……別にあたしはどっちでも構わないんだけど」 ん? 何か言いました? 「ああ、聞こえても聞こえてなくても大丈夫よ。大した話じゃないから」 そうですか。 おっと、それとアクリルさんって呼び方も変えていいですか? 「何で?」 「蒼葉さんなら違和感ないんですけど、この世界、と言うよりこの国ではカタカナ名前はまだまだ稀なんです。怪しまれないためにも別の呼称の方がいいかと」 「ううん……そんな大袈裟なことでもないと思うんだけどなぁ……だいたいキョンくんだってカタカナ名前じゃない」 大袈裟なことになります! その髪の色と名前は明らかに不自然なんですから! あと俺は本名じゃなくてニックネーム! 「ふうん、そうなんだ。でもまあ郷に入っては郷に従え、ね。キョンくんの提案を受け入れましょうか。で、あたしのこと、何て呼ぶことにするの? あ、キョンくんの本名はいいわ。覚えても多分、今回の任務を終えて向こうの世界に戻ってしまえば、もう会えない可能性の方が圧倒的に高いし」 なんかアクリルさんの態度がどうにも釈然としないんだがまあいいとしよう。 世界が違うんだから常識が違うのかもしれん。 って、向こうの世界にも『郷に入っては郷に従え』なんて言葉があるんだな。 「そうですね。『さくら』さん、というのはどうでしょう? この国の代表的な花でみんなに愛されています」 「なるほど。その花の色が桃色な訳か」 ぎく。 「気にしなくていいわよ。別に怒ってないから。そもそも向こうの世界でもあたしの一番の特徴はこの髪の色なんだから今さらってやつよ」 その割には少し目が怖いような…… あっそうか。そりゃそうだよな。俺だって慣れてしまっているところはあるが『キョン』って呼ばれるのはあまりいい気しないもんな。それと同じだ。 「何か思い当るところがあるみたいね。ま、いいけど。ところでとりあえず今日はこっちの指定で案内してもらえないかしら?」 「え? どこに?」 「んと……前にキョンくんが魔石を通じて交信していた相手で、あたしからは顔とかはよく見えなかったんだけどキョンくんと抱き合ってた女の子が居るところ……名前なんだっけ?」 だ、抱き……!? 「そ。あの女の子の名前」 …… …… …… 『抱き合っていた』はスルーですかーそうですかー。 「どんなツッコミを期待していた訳?」 い、いえ……別にそう言う訳では……!? 「だったらあの子の名前教えて。もう会うことない、って思ったから覚えてないのよ」 そう言えば蒼葉さんも同じようなことを言ってたな…… 「ハルヒです。あ、そう言えば今から集合なんですけどアクリ……じゃなかった、さくらさんもご一緒にどうです?」 「ん? お邪魔じゃないの?」 「いや……そういうんじゃないんで……その……他のツレもいますから……」 「なんだ。みんなで遊びに行くってやつか」 「まあ……似たようなものです……」 俺は苦笑を浮かべるしかない。遊びに行くことで間違いはないのだろうが、普通の高校生がやるような遊びじゃないしな。 「んじゃあ早速、行くわよ」 「へ?」 そんな俺の心の内を知らないアクリルさんは俺の手を取って、窓を開けた。 って、まさか! 「集合場所までの案内よろしく!」 満面の笑顔を浮かべて、アクリルさんは開け放した窓から飛び出した。 「レビテーション!」 真っ青に晴れ渡った空の下へと、俺たちは舞い上がったのである! つか怖っ! 速っ! て、手を離さないで下さいね! ね! 涼宮ハルヒの遡及Ⅱ
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「こんにちはー。あれ?今日はまだ長門さんだけですか?」 「そう。古泉一樹は休み。」 休みってまさかアルバイトかな…? …あれ?長門さん今日はハードカバー読んでない。 「長門さんが文庫本を読んでるなんてちょっと珍しいですね。いつもはすっごく厚いハードカバーだから私には無理そうかな、って思ってたんですけど。どんな本読んでるんですか?」 「・・・読む?」 「え?いいんですか?ならお借りしようかな。恋愛物とかですか?」 「戦闘物。」 戦闘…? これまた長門さんのイメージとは違って驚いた。そういうのも好きなんだ? 「この表紙の女の子が戦うんですか?どことなく涼宮さんと似てるような…。」 「……。」 その後部室に涼宮さんとキョン君が到着し、いつも通りの時間を過ごした。 古泉君が休んでいる事、長門さんが文庫本を読んでいる事以外は、いつも通りの。 今夜私がこの本を読み終えた瞬間、世界は小規模な改変をされる事になる。 ―― 翌日 コンコン 「はーい。大丈夫ですよ。」 「こんちには。ハルヒは少し遅れます。ところで、今日も古泉が休んでるみたいなんですが何か知りませんか? ハルヒの機嫌も悪くはないし、電話しても繋がらないので。ただの風邪とかならいいんですが。」 「徒を追っているのかもしれませんね…。」 「…ともがら?神人の別種かなんかですか?」 「紅是の徒を倒すのがフレイムヘイズの使命なので。」 「ふれいむ、へいず…?なんですかそれ、未来人の敵とかですか?」 「世界のバランスを崩す紅世の徒を狩る者が私達フレイムヘイズ…私は『雁ヶ音の煎れ手』朝比奈みくる。」 「・・・・・・・・。長門、どうなってる。」 「・・・わからない。」 またハルヒの奴がおかしな事始めたか・・・。なんだって…フレイムヘイズ? 長門は知らない、歩くムダ知識古泉は休み、となれば・・・困ったときのgoogle先生。 「40000件…?」 wikipediaへのリンクを開く。 【フレイムヘイズは、高橋弥七郎のライトノベル作品『灼眼のシャナ』及びそれを原作とする同名の漫画・アニメ・コンピュータゲームに登場する架空の異能者の総称である】 「つまり朝比奈さん・・・灼眼のシャナって小説を読んだわけですか?それで影響されたと。」 「炎髪灼眼の討ち手をご存知なんですか?彼女は今どこに?」 ダメだ…すっかりハマっている・・・。 朝比奈さんがまさか高2ではなく厨2だったとは・・・。 遅れてハルヒも到着したが何やら不機嫌な様子。岡部と揉めたか。ご愁傷様、古泉。 ハルヒが到着するまでヒマだった俺はwikipedia、灼眼のシャナの項目を読み漁ったため大筋は把握した。 ハルヒに知られたら厄介な事になりそうだな…この内容は。 ―― 夜 プルルルルルルル 「はい、もしもし。」 「こんばんは。不躾ですが、ここ数日あなたの周りで何か変わった事はありませんでしたか?」 「朝比奈さんが壊れた。いや正確には朝比奈さんに対する俺の夢が壊れた。」 「…よく分かりませんが。無事ならそれでいいんです。ですが、気をつけてください。近々あなたを狙う輩が現れるかもしれません。」 「…勘弁してくれ。機関の方々で何とかできないのか?」 「えぇ、フレイムヘイズは基本的に単独行動なので横の繋がりが薄いんですよ。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「…今何つった?」 「え?…あ、いや「薄い」というのは別に頭髪の状態を言っているわけではなくですね・・・」 「そこじゃねーよ!!フレイムヘイズって言ったか今!?お前も…フレイムヘイズとかぬかすのか・・・?」 「言いましたよ。いかにも私はフレイムヘイズ、『赤光の狩り手』古泉一樹です。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「分かったもういい・・・全面的にお前らに任せる。」 「お任せを。いざという時携帯電話が命綱になりますので、充電状態には気を配ってください。」 「あぁ心配するな。俺の携帯の充電は午前零時に全回復するか・・・」 俺もかーーーーーっ!!!! ―― 翌日朝 あの2人(俺も?)が同時に影響を受けてるなんて厨2病の一言で済ませられる問題じゃないよな・・・。毎回毎回長門に頼らざる得ない俺が情けない。 でもしょうがないじゃない、一般人だもの。――キョン いや、待てよ。・・・長門に限ってまさかとは思うが、あいつもすでに毒されてるって可能性もあるんじゃないのか? あれこれ考えている内に部室に到着してしまった。 ガラッ 「おはよう、早いな長門。」 「おはよう。」 「朝比奈さんと古泉の様子がおかしいんだが、何か心当たりないか?」 「わからない。」 「そうか。ところで、「灼眼のシャナ」って小説読んだ事あるか?」 「…無い。」 …アイがスイミングしたぞ長門。 「そうか。いや俺も最近知ったんだけどな。ライトノベルって言ったか、ああいう小説にはやっぱりこう無口なキャラが必要不可欠だよなぁ長門。」 「…その意見は正しい。」 「さっき言った「灼眼のシャナ」ってのにもそういうキャラがいてな。俺はそいつが一番好みのタイプなんだ。」 (コクコクッ) 「名前なんて言ったっけなぁー、ヴィ…、ヴィ…」 「ヴィルヘルミナであります。」 「そうそうヴィルヘルミナ。――長門集合。」 「……違う。今のはケロロ軍曹…。」 ―― 「――つまり、まずお前がハマり、古泉に貸したらあいつもハマって学校休んでまで読み漁り、次に朝比奈さんに貸したら案の定、って事だな?」 「…そう。」 「て事はハルヒにはまだなんだな?」 「まだ。しかし、朝比奈みくると古泉一樹、そして私の様子を見る限り、単に小説に影響されただけとは思えない。私が最初に小説を手にした時点ですでに涼宮ハルヒの影響を受けていた可能性も否定は出来ない。」 「…なるほどな。とりあえずハルヒに読んだ事あるか聞いてみる事にするよ。 …で、お前も『なんとかのなに手』とか異名ついてんのか?」 「『万象の繰り手』長門有希。」 …ちょっとかっこいいと思っている自分が、そこにいた。 ―― 昼 「あー、ハルヒよ。ちょっと聞きたい事があるんだが。」 「何よ。団活欠席なら却下よ。」 「違う違う。「灼眼のシャナ」って本読んだ事あるか?」 「なにそれ?知らないわ。」 「フレイムヘイズって単語に心当たりは?」 「はぁ?何なの一体?初耳よそんな言葉。」 「そうか。…で、お前は今何食べてるんだ?」 「メロンパン。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 待て待て待て。あきらめるのはまだ早い。 単にこいつがメロンパンのおいしさに目覚めただけかも知れないじゃないか。美味いしね。美味いしねメロンパンは。 「時にハルヒよ、もうポニーテールにはしないのか?」 「えっ?…な、何でよ?」 「単純に見たいからだ、お前のポニーテールを。」 「あ・・・う・・・、み、見たいって、どうしてよ?」 「どうしてって、俺がポニーテール好きでお前はポニーテールが似合うからだ。」 「なっ・・・う…うるさいうるさいうるさいっ!!」 ・・・・・・・・確定。 つづく