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第二章 cruel girl’s beauty ――age 16 俺を待っていたであろう日常は、四月の第三月曜日をもって、妙な角度から崩れ始めた。 その日は、憂鬱な日だった。 朝目覚めると、すでに予定の時刻を過ぎ、遅刻は確定していたので、わざとゆっくりと学校へ向かうことにした。週明けの倦怠感がそうさせたのかもしれない。風は吹いていないものの、強い雨の降る日だった。ビニール傘をさし、粒の大きい雨を遮った。昨晩からの雨なのか、地面はすでに薄暗いトーンを保っており、小さな水溜りからはねる水が俺のズボンの裾を濡らした。急な上り坂は水を下にある街へと流し、留まるのを拒んだ。 学校に着いたのは一時間目が終わった休憩時間だった。雨で蒸しかえる教室はクラスメイトで満たされ、久しぶりの雨音は教室を静穏で覆った。俺の席――窓際の後ろから一つ前だ――の後ろを見た。ハルヒは窓ガラスの外側を眺め、左手をぴたりとガラスにくっつけていた。進級したことで、階が一つ下がり、窓からの景色は変わった。外ではグラウンドが水浸しになり、小さな川を作っていた。 一年前のあの日。 俺がハルヒと会ってそう経っていなかった頃、ハルヒの表情は怒りで満たされていた。無矛盾な世界への怒りなのか、自分自身への怒りなのかは分からない。だが、SOS団の活動を通して、ハルヒは少しずつ感情を取り戻していった。取り戻すというのは、ハルヒが持っていたであろう――抑えていたであろう――感情を開放していったというのが正しいだろう。 俺がハルヒと会ってからずっと引っかかっていたのは、ハルヒがなぜ普通の人間を嫌うのだろう、ということだ。一般人を代表したような俺は谷口や国木田とそう変わるところはあるまい。国木田より頭は悪いし、谷口みたいにバカ丸出しでもない。健全な高校生を演じていた俺になぜあいつは目をつけたのか。確かに俺は七夕に一度会っている。だが、俺の名前は知らないし、他人の空似程度にしか思っていないだろうよ。ではなぜ? おそらくそれはハルヒにしか知りえないことであった。しかし、一つの推測を述べたい。ハルヒは普通の人間を嫌っているのではなく、人と仲良くなることを避けているように見えるということだ。 今、ハルヒは陰鬱な表情であやふやな視線を泳がせていた。 椅子に座ると、ハルヒに倣い、窓の外を眺めることにした。雨は激しさを増し、窓ガラスに伝わる水滴が水へと変わった。特別変わったことはない。世界の普通さに慣れ、そしてSOS団にも慣れた。日常と非日常を繰り返す毎日が日常になってしまった。かつて望んでいた非日常が日常へと変わってしまっていた。あまりにも奇妙なことがありすぎてそれに慣れてしまったわけだ。 そんな憂鬱な世界とハルヒ、そして俺を崩していったのは谷口の一言だった。 そうそれは、本当に妙な角度からの一撃だった。 谷口は近づいてくるなり、いつものデカイ声を倍にして唾を飛ばしながらこう言った。 「おい、長門有希が転校したってよ」 「へ?」 俺は間抜けな声を漏らした。 「本当だよ。さっき六組のやつが言ってたぞ」 谷口は語気を強めていった。 ガタンという音ともに後ろに座っていたハルヒが立ち上がった。 「谷口! 本当なのそれ? 嘘だったらただじゃおかないわよ!」 ハルヒは谷口のネクタイをもの凄い勢いで引っ張りながた怒鳴った。 「そんなに怒るなって。言ったことは本当だよ」 「ちょっと、キョン!」 なんだ。 「隣のクラスに確認に行くわよ!」 ハルヒはネクタイが引きちぎれそうな勢いで俺を連行した。 長門が転校したって? どうして? 俺にはそんな事一つも言ってなかったぞ。ハルヒもこの様子じゃ何も知らされてないみたいだな。 ハルヒは隣のクラスに入るやいなや壇上に上がり、 「有希が転校したって本当なの?」 ハルヒはクラス全員に向かって大声で尋ねた。 「本当ですよ。朝、ホームルームで先生が言ってましたし」 近くにいた大人しそうな女生徒がおずおずと言った。 「そう」 ハルヒは礼も言わず教室を飛び出した。ネクタイを引っ張られたまま俺も飛び出した。こりゃ傍から見たら犬と飼い主だろうな。かっこ悪いぞ俺。 教室から出るなり、俺と向かい合うと、 「職員室に行くわよ!」 「とりあえずネクタイから手を離してくれ。大丈夫逃げたりしないから。長門のことだしな」 ハルヒはネクタイを思い切り下に引っ張って、手を離した。そして、職員室のあるほうへ一人で走っていった。締まる簡素なネクタイに苦しめられながら、俺は必死にハルヒを追いかけた。 俺とハルヒは教室に戻り、ドカッと自席に座った。 結果は同じだった。俺が遅れて職員室に入ると、ハルヒは教師を馬鹿でかい声で問い詰めていた。教師は住宅街を歩いていたら突然犬に吠えられたような驚きと疑問を顔に浮かべながら、ハルヒをいなそうと必死だった。ハルヒハ教師が長門の転校の理由が分からないと見るや、「役に立たないわね! 無駄に年食ってるんじゃないわよ!」それを捨て台詞に職員室を出て行った。職員室の入り口から事の成り行きを見守っていた俺を無視してハルヒは階段を登っていくので、俺は仕方なくハルヒを追いかけることにした。 俺はおそらく長門がどこに行ったかなんて分からないだろうと踏んでいた。しかし朝倉の時とは違い、行き先も不明だった。確かに行き先を教えたらハルヒはそこまで会いに行くだろうからこれでいいんだろうな。俺だってカナダにいると分かれば、泳いででも行くつもりだったさ。 打つ手はない。おそらく長門のことだろうから、情報操作をしているはずだ。しかし、なぜ? 「なあ、ハルヒ。なんで長門は転校したんだと思う?」 俺が振り返り尋ねてみるとと、ハルヒはバンっと机を叩き、 「分かるわけないでしょ! なんで有希は言わないのよ!あたしたちってその程度の仲だったの?」 「そんなことはないだろ。何かしらの理由があるんだろ」「キョンもよく落ち着いてられるわね! 何かしらの理由って何よ!」 ハルヒはヒステリックな声を張り上げた。 「それは俺にも分からん。放課後、朝比奈さんや古泉にも聞いてみよう。なにか分かるかもしれない」 ハルヒは何も答えなかった。そのまま崩れるように椅子に座り込んだ。そして、聞き取れないほど小さな声で「もう失うのはいやなの」と呟いた。そしてハルヒは机に突っ伏したまま放課後まで起きることはなかった。 授業はいつにもまして、手がつかなかった。もんもんと長門のことを考え、窓の外を見ていた。上の空というのをこれほど実感したことはない。昼食を一人で済ませ、あてもなく学校をうろついた。そうでもしないと落ち着いていられなかったし、どこかに長門が隠れているかもしれなかった。無意識に歩いたのに、行き着く場所は一つだった。 部室棟、通称旧館の文芸部部室。 ドアをそっと開け、部室を眺めた。パイプ椅子に腰掛け、分厚いハードカバーをめくり、陶器のように佇む長門有希を期待したが、いるはずがなかった。パーツを失った部室は空回りをしているように見えた。これ以上見ていることはできず、教室へと逃げ帰った。 放課後、部室には長門を除く全員が揃っていた。 今日の古泉は笑ってはいなかった。沈痛な面持ちで、心ここにあらずといった様子だ。なぜこんなありきたりの表現かといえば、意識的な表情に感じられたからだ。葬式の時に笑って手を合わせてはいけないのと同じだ。ハルヒは団長椅子に浅く座り、教室の時と同じように机に突っ伏していた。朝比奈さんは健気にもメイド服に着替え、お茶の準備をしていた。しかし部室内に流れる異様な空気に気づいたのか、朝比奈さんは困惑しているようだ。 「あのぉ、キョン君。みなさんどうなされたんですかぁ?」 朝比奈さんは耐え切れずに俺に小声で尋ねてきた。 古泉は『機関』とやらから情報が流れているだろうが、朝比奈さんは上級生であり、なにも聞かされていないのは明らかだ。俺は静まりかえった部室で、朝比奈さんの質問に答えることにした。 「長門が転校したんですよ。理由もいわずにね」 「ひぇ?」 朝比奈さんは驚きとも悲鳴とも取れない声をあげた。 「な、長門さんがですか?いっ、いったいどうして?」 「それは分かりません」 俺はいい加減に答えた。もう、朝比奈さんのかわいらしさを堪能している余裕はなかった。メイド服を着た朝比奈さんでも無理なら、何がこの動揺を抑えることができるか。俺はひどく追い詰められていた。すぐにでも自分の部屋のベッドに身をうずめ、長門のことを考えたかった。 それからどれだけ時間が経ったのだろうか、突然ハルヒは立ち上がり、俺達を見つめた。 「じっとしてても何も始まらないわ。明日は学校を休んで、有希を探すわよ。まだ、何か手がかりがあるかもしれない。時間はいつもと同じ九時だから」 いつものような勢いは感じられない、淡々とした語り口だった。 「そうだな。マンションとかに行ってみるのもいいかもしれない」 ハルヒはそれだけを言うと、部室から早足で出て行ってしまった。 「古泉」 「なんでしょう」 「お前はなにも知らないんだな?」 「もちろんです。前に約束したように、長門さんには危害を加えることはありません。というより、不可能でしょう」 古泉はいつものハンサムスマイルを見せた。 「じゃあどうして長門は転校、いや長門のことだからおそらくこの世界から消えてしまっているんだろうな。理由は分かるか?」 「分かりません。ただ、長門さんの転校は上が決定したことでしょう。それに長門さんは従った、推測ですが、おそらく正しいでしょう」 「それは分かってる。あいつが命令を聞くのは情報なんとかだけだろうさ。問題はハルヒっていう観察対象がいるのになんで消えちまったかってことだ」 「すいません。分かりません」 古泉は困ったような顔をして、肩をすくめた。 やれやれ、古泉が駄目なら誰に聞けばいい。俺は、なぜ長門が消えなくてはならなかったのか、その理由を知りたかった。理由があっても納得できるかは分からないが、正当な理由以外はハルヒと結託して、この世界を変えたっていい。 「あの、キョン君」 朝比奈さんがおずおずと話しかけてきた。 「ひぇ! そんなに嫌そうな顔しないでくださいぃー」 そんな顔をしてたのか。 「すみません。ちょっと考え事をしてたもんですから」 「いえ、いいんですけど……」 「で、なんですか?」 明らかに俺は苛立っていた。 「いえ、その……」 「何も無いなら帰りますよ?」 「だから、その……」 「帰ります」 「あ、キョン君」 朝比奈さんが呼び止める。だが、俺は朝比奈さんにかまってる余裕は無かった。古泉ともこれ以上話しても無駄だろう。俺は朝比奈さんを無視して帰るという、男としてあるまじきことをした。鞄を肩にかけ、部室を後にした。 帰りには雨はやんでいた。それにかわって、蒸発した水によって街は蒸しかえっていた。 家に着くと、妹がキャンディーを口にくわえながら出迎えてくれたが、無視して階段を上がった。一刻も早くベッドに身をうずめたかった。 部屋に入ると、鞄を投げ、ベッドに飛び込んだ。そして身体を丸め、もがいた。 「どうして長門は消えちまったんだ? せめて俺に一言ぐらい前もって言ってくれたっていいじゃないか」 そう自分に問いかけても虚しくなるだけだったし、俺は長門がなぜ転校したのか、考えることは断念した。しかし何も考えないでいると、長門との思い出がフラッシュバックしてきて、それを断ち切ろうと、また頭を抱えてもがいた。まだ、長門は消えたとは決まってはいない。明日には見つかるかもしれない。ひょっこりと現れたりするかもな。 長門だって風邪を引くんだぜ。長門達と敵対する存在にまた妨害されているだけかもしれない。長門だって週明けの倦怠感がいやになることだってあるだろうさ。そう、俺だって月曜日の朝は憂鬱になるさ。長門だって落ち込んで、ブルーな日だってある。 その日、俺はそのまま、満たされない気分のまま眠りについた。 次の日。 予定より一時間も早く起きると、昨晩から部屋にひきこもりっきりで何も食べていないことを、軽くなりすぎた胃の不快感が告げていた。リビングに行くと妹がすでにソファーでテレビを見ていて、いつもこんなに早く起きているんだなと感心した。 「あ、キョン君おはよぉー。今日は早いんだねぇ」 「まあな。ちょっと用事があって」 母親がトーストと目玉焼きという朝食の定番を持ってきたところで俺は今日学校を休んで出かけることを告げた。男には一生に一度やらなければならない時が来るとどこかで聞くありふれた理由を切々と説明すると、案外素直に了承してくれた。 「ふふっ。そういうことにしておくわ」 どこか含みを持たせた笑みで俺を見る。 「それなら早くご飯食べちゃいなさい」 「ああ」 言われなくても食べるさ。俺は昨日から何も食べてないんだからな。 俺は疑惑の判定で世界チャンピオンになったボクサーよりあっけなく食事を済ませ、自室に行って手早く服を着替えた。ちょうどリビングから出てきた妹と鉢合わせになり、妹は不思議そうな顔で 「いってらっしゃーい」 と言って、俺を見送った。俺は妹の頭を撫でてから玄関を出た。ママチャリをとばし、集合場所の駅前へ向かった。予定より一時間も早かった。 駅前に到着すると、SOS団の面々は揃っていた。 ハルヒの「遅い!罰金!」の定型句はなかった。遅刻はしてないしな。というか、お前ら何時間前に来てんだ。俺はこれでも一時間も早いんだぞ。 「今日はお早いんですね」 いやみか。 「いえ、そういうわけではありませんよ。あなたのことだから長門さんのことを考えていて眠れなくなり、睡眠不足で来るだろうなと思っていただけです」 てことは、それを見越して早く来たってわけか。 「それもありますね。それはそうと涼宮さんを見てください。彼女の精神はとても不安定です」 そんなの見なくても分かるし、あいつはいつも精神不安定だろうよ。 「そして、彼女は今日一番早くこの場所に来ていました。僕が来たのが今から十分前ですから、それより前に来ていたことになりますね。僕の言いたいことがわかりますか?」 分からん。でも、俺は古泉が何を言いたいのか分かっていた。古泉は俺を非難している。 「長門さんがいなくなって悲しいのはあなただけじゃないってことです。昨日あなたは朝比奈さんを無視して帰りましたね? 彼女、あの後一人で泣いていたんですよ? 『わたしキョン君をおこらせちゃったかなぁ? ごめんなさい』って」 「……」 「涼宮さんはきっとあなたと同じで夜も眠れずにここに誰よりも早く来たのでしょう。でも、僕がここに来たとき彼女は不安な顔一つ見せずに『遅いわよ、古泉君』って笑顔で言いました。さすがの僕でも胸が苦しくなりましたね」 「……」 「僕も同じです。僕だってSOS団のメンバーと色々と時間を共有してきましたし、突然長門さんがいなくなるのは悲しいんですよ」 「……」 俺は何も言えずに、ただ呆然と古泉の顔を見つめていた。「キョン達何してんの? ほら喫茶店行くわよ! 班決めしないと」 タイミングよくハルヒが俺達の間に割り込んでくれた。「ああ、行くよ」 俺達はいつもの喫茶店に行った。俺はコーヒーを、ハルヒはアイスティーを頼んだ。 「じゃあ、班分けしちゃいましょうか」 ハルヒは爪楊枝を取り出し、俺達に差し出す。 「んー、キョンとか面白くなさそう」 班分けは俺とハルヒの組、そして古泉と朝比奈さんの組に決まった。アイスティーを飲むハルヒの顔はいつになく真剣だ。古泉が言っていた通り、ハルヒは俺達の中で一番真剣なのかもな。もちろん俺だって真剣さ。あれだけ俺を助けてくれて、信頼までしてくれていた長門を見捨てるわけにはいかないからな。 「じゃあ、行きましょ。時間もないし。それとキョン! 今日遅れたでしょ?」 ハルヒは俺をじとっと睨みつけると、 「罰金。分かってるんでしょうね?」 言わないと思ったら今頃かよ。しかも今日は遅刻してねえよ。と思いながら、呆れながら、不承不承ながらもきっちりと払う俺を褒め称えてくれるやつはおらのんか。神様が見てる? そんなの嘘っぱちだ。 一度駅前に戻り、俺達は二手に別れた。今回は範囲の指定はなかった。別れ際にハルヒは、 「真剣に探すのよ! でないと全裸で市中引き回しの刑だから!」 朝比奈さんに向かって言った。それから俺のほうを向き、 「さあ、いくわよ。キョン。絶対見つけてやるんだから!」 ハルヒはいつになく真面目な顔で言った。 「分かってるよ。今回は俺も本気だ」 俺はハルヒの真面目な様子を見て、若干気にかかることがあった。それは、長門がいなくなることをハルヒは望んでいたのかということだ。そうじゃないのに長門が消えたとなれば、神様であるハルヒはいったい? 俺達はまず、長門の住むマンションに向かうことにした。ハルヒは怒っているのか不安なのか、初めてみる表情でややうつむきながら大股で歩いた。俺も自然と早歩きになっていた。一秒でも早くマンションに着いて、何か手がかりを得たかったからな。 「ねえ、キョン?」 「なんだ、突然」 「あたしあの後、有希がどうして転校しちゃったのか考えてみたのよ」 「何か分かったのか?」 ハルヒに分かるはずはないだろうが、一応聞いてみる。 「まずね、教師も行き先を知らないような転校なんてあると思う?」 「普通に考えてないだろうな」 「そうなのよ。それに有希は転校するなんて素振りを一度も見せたことはないし」 「そうだな」 「続きは後で。有希の家に行ったら何か分かるかもしれないしね」 ハルヒ、すまんがおそらく長門のことだから何も分かんないだろうよ。まあ、俺はそれでも行ってみる価値はあると思うぞ。 長門のマンションは駅から近く、気まずくなる前に到着した。中から出てくる住民を待ち、閉じかけの自動ドアを通り抜け、長門の住む階へ向かった。もちろん、ドアは開かず、鍵がかかっており、仕方が無いので管理室へ向かった。管理人のおっちゃんによると、まだ708号室からの届出は出ておらず、未だに長門名義の家になっているとのことだった。おっちゃんとの会話を終了させ、708号室の鍵を借り、また七階へと向かった。部屋に入ると、そこは変わらずに無機質なものだったが、本やら缶詰カレーやら、その他いろいろなものが残されており、本当に長門は消えたのかと感じさせた。結局何の手がかりも見つからず、その場を後にし、マンションから出た。その間、終始ハルヒは俺に対して無言を通し、俺も同様だった。 俺達はこれ以上に行くあてもなく、意味も無く歩き続けた。ハルヒの大股歩きについていくのは堪えたが、それ以上に立ち止まっているのは苦痛だった。歩いていると長門のことを考えないで済むからな。住宅地をぐるぐると徘徊していると、 「駅前の公園に行きましょ」 ハルヒがそう言ったので、それに従うことにした。 光陽園駅前公園のことだ。延々と長門の電波話を聞かされたあの日の集合場所である。 公園に着くと、誰もいない公園でベンチに並んで座った。 俺の左側にハルヒが座った。なにか思い詰めた表情で、斜め下を見つめていた。覇気のないハルヒはあまりにも不自然だった。 「やっぱりおかしいわ」 ハルヒは話を切り出した。 「何がだ。昨日考えてたってことか?」 「それもある。でも、有希が転校したって何か辻褄が合わないのよね」 「それは、お前の中でのことだろう」 「そうだけど。キョンは有希が転校した理由は分かるの?」 「いや、さっぱりだ。長門はこういう時、探しても見つからない気がする」 「なんなのよ! あんた有希のこと大事にしてたんじゃないの?」 「急に怒鳴るな。確かに長門は大事だが、それは団員いうか一人の友達としてだ。ハルヒが思ってるほど大事に思ってねーよ」 「そう、なの? あんたもっと有希のこと好きなのかと思ってた」 「そういうことにしといてくれ。それより、お前の辻褄が合わないってやつを教えてくれないか?」 「そうね」 ハルヒは少し間を空けてから話し出す。 「まず、さっき有希の部屋に行った時なんであんなに物が残ってるのか不思議に思ったの。普通、転校っていったらも家を移動することでしょ? なのにあの部屋はまだ全てが残ったまま。それに管理人に鍵を預けているわけでもない。こう考えると有希って本当に転校したのか怪しくなってくるわよね」 「確かにそうだな」 「でね、思ったの有希は何か事件に巻き込まれたんじゃないかって」 「巻き込まれたとしても転校はできないんじゃないか?」 「うーん、そうなんだけど。有希って一人暮らしなのよ。それに親もどこにいるか分からない。誰でも偽装できると思うけど。あたしは団員のプライベートについては聞かないほうがいいと思って今まで聞いてこなかったから、有希については詳しくは知らないけど」 「長門については俺も詳しくは知らないな」 もちろん、それは嘘だ。 「事件に巻き込まれてないといいんだけど」 「そうだな」 俺は素直に頷いた。 そのまま俺達は三十分ほどそのまま座り続けた。隣に座るハルヒは甘美な匂いがした。横から眺める真っすぐとした黒髪と、整った目鼻立ちは見慣れているはずの俺を緊張させた。 誰もいない公園は、自らの存在価値を失い、泣いているようにも見えた。俺達がいることで存在の瀬戸際を保っていた。そして、俺達がいなくなることでまた価値を失うのだ。そんななんの変哲も無い哲学を考えていると、ハルヒはまた話しかけてきた。 「ねえ、キョン」 「なんだ」 「あたし、一つ謝らなくちゃいけないことがあるのよ」 「誰にだ」 「あたし自身に、それに探してくれてるSOS団のみんなにも」 「そうか。お前が謝るなんて珍しいな」 「珍しくなんかないわよ! あたしだって悪い時はあやまるわ。ただあたしはあんまり後ろを見ないだけよ。あたし過去って嫌いなの。過去っていいところだけを鮮明に覚えてるから、見てるとずっと過去に浸っていたくなるでしょ。そんなのあたしの性格に合わないわ。だって、未来にはもっと楽しいものがあるかもしれないじゃない」 そうだ。俺はこんなハルヒの未来志向が好きだった。そして、憧れていた。ハルヒは俺には無いものを持っている。が、話がずれてるだろ。話はハルヒが謝ることじゃないのか? 「で、お前の主張は分かったが謝らなければならないこととは何なんだ?」 「うん。あたしね、有希が転校したって聞いたとき、それは驚いたわ。なんで?ってね。でも、一瞬あたしは楽になった気がしたの。そして、そう感じた自分に失望した」 「なんで楽になったんだ?」 「それは言えない。あたしにも分からないの」 俺とハルヒは公園を後にして、駅前に戻った。 すでに、朝比奈さんと古泉はいて、二人でなにかを話し合っていた。 「こちらは何も収穫なしです」 古泉は残念そうに言った。 「そう。あたしとキョンは有希の家に行ってみたんだけど、 誰もいなくて、手がかりなしね。ホント、どこいっちゃったのかしら」 「残念です。それとすみませんが、バイトが入ってしまったので 午後からの捜索には参加できそうにありません」 ハルヒは少し考えた後、 「それじゃあ、仕方ないわね。 どうせもう探すところなんてないから、これで解散でいいわね?」 俺と朝比奈さんにむかって言った。 「しょうがないよな。一度帰って、各自で探す方法を考えてみるか」 「そうですね。わたしもそれがいいと思います」 朝比奈さんは頷いた。 「それじゃあ、解散ね。明日の放課後話し合いましょう」 ハルヒはそれだけ言うと、駅に向かって歩き出した。 「それでは僕はこのあとバイトがあるので」 「バイトって、閉鎖空間か?」 「そうです。この件で涼宮さんの精神状態は悪化していますからね」 「そうか」 俺は朝比奈さんが手を振って帰るのを見送ると、 「頑張れよ」と古泉に言って、帰宅した。 家に着くと、すぐにベッドに横になり、また長門のことを考えた。 なにか手がかりはないのか、必死に求めた。 今まで、長門はどんな時でもヒントを出してくれていた。 根拠は無かったが、今回もあるはずだということを確信していた。 そして、俺は今までの長門との思い出をめくった。 そして気づく。 ははっ、なんだ簡単じゃないか。 昨日は気が動転していて気づかなかった。 俺と長門をつなぐもの。 そう、あの本だ。そしてそれは栞という形をとって俺に伝える。 そう思う前に、俺は駆け出していた。 学校をサボったことを忘れ自転車で、全速力で学校に向かった。 息が切れた。 全速力といっても自転車の最高速度はせいぜい四十キロ。 速く、もっと速く。 ペダルは空転し、それ以上を拒んだ。 学校に着くやいなや、部室棟に向かった。 階段を駆け上がり、勢いよく部室のドアを開けた。 すぐに『あの本』を探した。 ――――あった。 素早くページをめくり、栞を探した。 はらりと足元に落ちた、長方形の紙。 それを慌てて拾い上げ、読んだ。 『午後七時。光陽園駅前公園にて待つ』 あの時と同じ、ワープロで印字されたような綺麗な手書きの文字が書いてあった。 俺は栞をポケットに入れると部室を後にした。 そしてそのまま、今日ハルヒと座った、あのベンチへと向かった。 長門を待たせたくなかったからだ。 公園につくと、俺はベンチに座り、辺りを見回した。 公園の時計は三時をさしていたが、それでも遅すぎる気がした。 そのあと俺はじっと長門が来るのを待った。 夜風が肌に凍みた。 こういうときの時間は永遠にすら感じるものだ。 長門はどうしてるのだろうか。 昨日の衝撃が、肉体と精神を限界へと向かわせていた。 長門にもう一度会いたい。 せめて、さよならぐらい。 そして、また会おうなって言ってやりたいんだ。 「来たか」 日が沈み、辺りが暗くなった頃、制服姿で長門は現れた。 時計を見ると、七時一分をさしていた。 無機質な表情のまま、俺の前で立ち尽くしていた。 そして一言だけ。 「こっち」 長門は無言のまま歩き出し、マンションに向かっているようだ。 足音のしない、忍者のような歩き方は変わっていない。 歩き出した長門の横を歩いた。 夜風に揺れるショートカットが鮮明に映った。 マンションに着くと、手押ししていた自転車を適当に止め、 今日三度目のガラス戸を抜け、エレベーターに乗り込んだ。 エレベーターの中で俺は長門を見つめていたが、 無表情のまま立っている以外のことを発見することできなかった。 708号室のドアを開けると、 「入って」 長門は俺をじっと見つめ、言った。 「ああ」 玄関で靴を脱ぎ、リビングへと歩いた。 年中置いてあるこたつを指差すと、 「待ってて」 「いや、お茶ならいいぞ。話を聞かせてもらおうか」 「そう」 長門がこたつの前に座ると、俺も向かい合って座った。 「それじゃあ、聞かせてもらおうか。なぜ転校することになったのかをな」 長門は俺を真っすぐに見つめた。 「情報統合思念体はわたしの処分を決定した」 「そうか。思ったとおりだ」 「ただし、今回の決定は私自身の過失に起因するものではない。 涼宮ハルヒの情報を生成する能力が収束に向かっていることが主な原因。 現在の涼宮ハルヒの能力は、 かつて弓状列島の一地域から噴出した情報爆発の十分の一にも満たない。 大規模な情報改竄は不可能になり、情報統合思念体の無時間での自律進化の可能性は失われた」 ハルヒの能力が収束? 「これからのことは最近になって明らかにされたこと。 わたしのような端末には与えられていなかった情報」 長門は一呼吸おいて続けた。 「わたしはわたしの存在理由を涼宮ハルヒを観察して、 入手した情報を情報統合思念体に送ることだと考えていた。 しかし、それだけではなかった。 そもそもそれだけでは矛盾が生じるのは明らかだった。 情報生命体である彼らは宇宙中の情報を無時間で入手することができるからだ」 長門はまた間を空けた。 「彼らは情報生命体である以上、時間という概念を持つことはない。 それゆえに、人間でいう死の概念、そして記憶というものを持たない。 わたしが十二月に異常動作を起こしたのもこれに起因する。 記憶は彼らの中に本来的に存在しないため、 情報として置き換えるのには曖昧さが残った。そのため、バグが溜まっていった。 十二月に実行された世界改変は、 インターフェースのなかでわたしが最も長い時間を生きているために発生した事故」 「それゆえに、わたしの処分は決定的なものとなった」 「で、結局なんで処分は決定されたんだ?」 「涼宮ハルヒの能力の収束に伴い、地球上で活動する、 インターフェースの絶対数を減らす必要がある。 それに加え、記憶によるバグは危険を伴う。 だから、最も時間を経たわたしから順に処分を開始する。当然の処置」 「だとして、いなくなることはないじゃないか」 「……仕方がない」 「仕方がなくなんかない!」 俺は憤慨していた。すでにこの二日で限界を迎えていた。 「長門、お前はどう思ってるんだ?」 「わたしはこの世界に残りたいと感じている」 「なら!」 「わたしには決定権がない」 「なんでお前の意思は尊重されないんだ!」 「……仕方がない」 「ハルヒに俺が『俺はジョン・スミスだ』だということを明かすと 情報なんたらやに伝えてくれ!」 「涼宮ハルヒにはもう時間を改変するほど力は残されていない」 「くそっ。どうすればお前を助けられる? 俺にできることはないのか?」 「ない」 「……仕方がない」と長門は呟いた。 「……どうすればいいんだ」 「……仕方がない」 俺は立ち上がると、長門に近づき、抱きしめてしまった。 それがいいことなのかは分からない。 ただ、強く抱きしめた。 細い身体は今にもサラサラと砂になりそうだった。 長門は抱きしめ返すことはなかった。 ただ、正座したまま動かなかった。 無機質な有機アンドロイド、長門有希。 寡黙な文学少女、長門有希。 そして俺たちはそのまま。 しばらくすると長門は俺の胸を押し、離れようとした。 「あ、すまん。つい勢いで」 俺は長門から離れ、謝った。 「帰って」 「へ?」 俺は間抜けな声を出した。 「帰って。もう時間」 長門は俺を強く見つめた。これ以上はできないぐらいに。 「帰らないと言ったら?」 「あなたのわたしに関する記憶を消すことになる」 「そうか」 俺はしぶしぶ同意し、リビングを出ることにした。 それ以外ないだろ。長門の記憶が消えてもいいのか? 去り際、長門は言った。 「あなたがわたしのことで本気になってくれたことを嬉しく思っている」 「でも、もう時間がない」 そして最後に、 「ありがとう」 長門ははっきりと言った。 俺は何も言わず、玄関を飛び出た。 エレベーターを待てず、階段で降りた。 マンションの前に放置してあった自転車に乗り、走り出した。 輝かない空を見上げ、自転車を全速力でとばした。 「くそっ。どうして俺は何もしてやれないんだ」 そして俺は逃げ出したのだ。仕方がなかったでは済まされない。 だが、自分を責めることはできず、長門を責められるわけでもなかった。 俺は圧倒的な暴力の瀬戸際に立たされていた。 忘れていたのだ、自分が何もできない普通の人間だということを。 揺らぐ意識の中で、長門のことを思った。 せめて、 長門がバグだというその記憶が、 幸せで満たされていることを、ただ、祈った。 chapter.2 おわり。 chapter.3
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涼宮ハルヒの切望Ⅲ―side H― 「ありがと……ハルにゃん……みくるちゃん……」 今日もどっぷりと日が暮れている。 あの後、妹ちゃんが起きるまで部室に残っていたあたしとみくるちゃんは妹ちゃんをキョンの家まで連れて行ってあげたんだけど、なんとも妹ちゃんが「今日は泊まっていってほしい」とフリじゃない涙で型崩れしているうるうる瞳で訴えてきたものだからあたしたちも断るなんて真似は出来なかった。 そりゃそうよね。妹ちゃんは標準的な小学六年生と比べるなら明らかに幼く、まだ年齢が二桁に達していないみたいな容姿なんだから。 そんな女の子の泣き顔を無碍にできる人間がいるとしたらその人は即座に鬼畜認定よ。 とと、今、この場にはいない古泉くんのことを少し話しておかなきゃね。じゃないとまるで彼が妹ちゃんをないがしろにしたと思われちゃうし。 …… …… …… …… …… …… 妹ちゃんがあたしの腕の中で寝息を立てている。 あたしは彼女を起こさないように、いつもはキョンが座っているパイプ椅子に腰かけていた。 普段なら、その正面にはキョンとボードゲームを勤しんでいる古泉くんがいるんだけれど。 「涼宮さん、少しよろしいでしょうか?」 今日はあたしの横に、いつもの爽やかな笑顔が消えたなんとも思いつめたような表情で佇んでいる。 「何?」 「僕の知り合いに探偵事務所を営む方がおりますので、その方にも彼の捜索をお願いしようかと思うのですが」 ……妹ちゃんがここに来て、岡部が知っているっぽいところをみるともう警察も探しているでしょうね……でも日本の警察って、ネズミ取りには並々ならぬ使命感を持って励むけど、もっと重大で危険な仕事になればなるほど疎かにする傾向があるし、特に行方不明者捜索となるとあまり役に立っているイメージもないわね…… 遭難者捜索なんかいい例だわ。 見つかる時は不明者当人が自力で脱出するか遺体になってからだもん。 それなら私立探偵の方がまだ信用できるわね。だって民間なら業績を上げることに必死になるわけだから。 「ん。分かった。古泉くんはそれでお願い。実はさっき、有希も自分の知り合いに頼んでみる、って言ってたのよ」 いちおー古泉くんには有希が宇宙人だってことを今はまだ伏せておく。 だって信じられないだろうし。 「そうですか。では僕もその探偵事務所に今から、お伺いします。電話で話すよりも直に話す方が信憑性があるでしょうし、我々の必死さも伝わるでしょうからね」 「お願いよ」 「むろんです。僕も彼がいないと寂しいですから。皆さんと同じで」 言って、爽やかな笑顔が戻った古泉くんも部室を後にした。 もっとも、その笑顔には並々ならぬ決意を感じたけどね。 …… …… …… …… …… …… キョンの両親に挨拶して今日の宿泊を、あたしとキョンの両親両方に承認してもらった後、あたしたち三人はキョンの部屋への扉を開けた。 相変わらず平凡な机とベッドとほとんど漫画かラノベの本棚と洋服ダンスしかないあまり広くない飾りっけない部屋なんだけど何でだろう。どういう訳か、あたしの胸も苦しくなる。この部屋も主を失って寂しくなっているんじゃないかと錯覚を受けるから? 「じゃ、じゃあ中に入りましょう。妹ちゃん、今日もみくるちゃんと一緒に寝る?」 てことで、あたしは自分の気持ちを押し殺して努めて笑顔で問いかける。 妹ちゃんはなぜかみくるちゃんがお気に入り。 この辺りは普段エロい目でみくるちゃんをデレデレ眺めているキョンの血縁者なのかと勘繰ってしまうんだけれど。 隣でもみくるちゃんが宥めるような温かい笑顔を浮かべているんだけれど。 今日の妹ちゃんの反応はまったく違っていた。 「ハルにゃんと……ひっく……一緒がいい……」 御指名はあたしだったり。って、どうして? いつもはみくるちゃんって言うのに? 「だって……キョンくんが好きなのはハルにゃん……だから……キョンくんが好きなものと一緒にいたいし……それならキョンくんが傍にいるみたいだし……」 あの……何かサラリと重要なこと言わなかった……? 標準よりも明らかに幼いこの少女は男女と経験の違いはあれど同じ両親から生まれた云わば、同じ血肉で構成されているもう一人のキョンな訳で、言いかえればこの子はキョンの気持ちを誰よりも察してやれるってことだから…… いやまあ……妹ちゃんのことだから自覚ないんだろうけど…… って、どうしてあたしの顔が熱いのよ! だいたい今はそんなことを呑気に考えていられる状況じゃないんだから! …… …… …… う……文字通り天国から地獄って感じね…… 妹ちゃんからキョンの気持ちを聞いて一瞬、舞い上がったのに、今、現実はキョンが居ないってことを再認識した途端、テンションが180度降下したし…… その日、妹ちゃんはあたしから片時も離れることはなかった。 御呼ばれした夕飯はあたしの隣、お風呂も一緒に入ったし、今、キョンの部屋に戻ってきたときもベッドに腰掛けるあたしの膝の上に座っているし、みくるちゃんはキョンの母親が用意してくれたお客用布団の上にちょこんと可愛らしく座ってこちらを見つめている。 ちなみにみくるちゃんはキョンのほとんど使っていないことが一目瞭然の新品に限りなく近いパジャマを勝手に拝借して着ていたり。胸のサイズはともかく全体像は小柄なみくるちゃんだけに男物のだぶだぶパジャマがなんとも萌え。 え? あたしは何を着ているかって? いやその……妹ちゃんは気を使ってくれて妹ちゃんの同級生から桃色のパジャマを借りてきてくれてそれを着てるの。 ちょっと……じゃないか……結構ショックだったけどね……さすがに胸元のボタンを全部止めると苦しいんで三つある内の二つは外しているけどサイズが思った以上に合うし…… ううん……キョンの言葉に嘘はなかったか…… もうすぐ十二歳の十一歳小学六年生ってことで、他人の家に一人にさせるわけにもいかないってのも本当だった。 もうお分かりよね。 そう、あたしが着ている妹ちゃんの友達のパジャマは、先週土曜日、キョンが連れてきていたあの女の子のものなの。 名前は吉村美代子で、キョンが言った通称はミヨキチ。前にSOS団で機関誌を発行した時のキョンが自分の書いた小説に登場させた子よ。 だ、だって仕方ないじゃない……まさか制服で寝るわけにもいかないし、妹ちゃんの服は着れないし……それにYシャツ一枚は妹ちゃんの教育上、よろしくないんだもん! って、あたしは何で言い訳してるのかしら? 「ホントはね……キョンくんも一緒に行く予定だったの……」 ん? 「土曜日……おばあちゃんの家……」 ああ、それ。 「うん……だけどね……キョンくん……SOS団の活動を優先させたの……おばあちゃんの家に行くのって……一ヶ月前から決まってたのに……」 あ……! あたしが先週の土曜日に市内パトロールを開催することを決めたのは前日の金曜日。 筋としては先に約束した方に優先権があるのが当然なんだけどキョンはそれでもあたし……もとい、あたしたちの活動を優先してくれたんだ…… なんだか罪悪感が胸の内を広がっていく。 もし、キョンが家族の予定通り、土曜日に親せきの家に行く方を選んでいたとしたら? そうすればキョンが土曜日から日曜日にかけて一人になる時間はなかったわけで消息不明になるような何かが起こらなかったかもしれない…… 「ご、ごめん……」 あたしは妹ちゃんに陳謝するしかなかった。 「ううん……ハルにゃんの所為じゃないよ……それにキョンくん……ハルにゃんと話してるときとか一緒に遊んでるときって、すごく嬉しそうだし楽しそうだし……」 「そう……」 妹ちゃんの無理に繕った笑顔にますます落ち込んでいくあたし。 そんなあたしの表情をみくるちゃんはどこか物哀しげに見つめていた。 その後も妹ちゃんはキョンのことを喋り続けた。 キョンがどれだけあたしとSOS団のことを好きなのかを―― 眠気に支配されるまでずっと…… 涼宮ハルヒの切望Ⅳ―side H― 涼宮ハルヒの切望Ⅲ―side K―
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「はーい、おっじゃっましまーす!」 ハルヒは二年――つまり立場上上級生のクラスにノックどころか、誰かにアポを取ろうともせず、大きな脳天気な声でずかずかと入っていった。俺も額に手を当てながら、周囲の生徒たちにすいませんすいませんと頭を下げておいた。 ここは二年二組の教室で、今は昼休みだ。それも始まったばかりで皆お弁当に手を付けようとした瞬間の突然の乱入者に呆然としている。上級生に対してここまで堂々とできるのもハルヒならではの傍若無人ぶりがなせる技だな。 そのままハルヒは実に偉そうな態度のまま教壇の上に立ち、高らかに指を生徒たちに向けて宣言する。 「朝比奈みくるってのはどれ? すぐにあたしの前に出頭しなさい」 おいこら。朝比奈さんを教室の備品みたいに言うんじゃない。いやまあ、確かにあれほど素晴らしいものを 常にそばに置いておきたくなる必需品にしたくなるのは当然だと思うが。 突然の宣言に、誰もが呆然とするばかり。ちなみに俺の朝比奈さん探知レーダーはそのお姿をキャッチ済みだが、 とりあえずご本人の意向もあるだろうからハルヒには黙っておくことにする。何せまだ入学式から一週間だからな。 この段階で朝比奈さんがハルヒと接触を望むかどうかわからないし。 しばらく沈黙が続いたが、次第にクラス内の生徒たちがじりじりとにある一点に集中し始める。 もちろん、そこには他の生徒と同じように唖然とした朝比奈さん――そして、そのそばには見知らぬ女子生徒二人に、あの何だか凄い人、鶴屋さんの姿もある。どうやらクラスの仲良しグループでお弁当タイムに入ろうとしていたらしい。 やがて集中する視線に耐えられなくなったのか、朝比奈さんがゆっくりと手を挙げてようとして―― 「はーい! みくるはここにいるけどっ、なんかよーなのかなっ?」 それを遮るように鶴屋さんが立ち上がり、ハルヒの前に立ちふさがった。昔から何となく感じていたが、この人は朝比奈さんの防御壁の役割を果たそうとしているような気がする。 だが、ハルヒは鶴屋さんに構わずに、腕を組んで、 「じゃあ、とっとと教えなさいよ。朝比奈みくるってのはどこ?」 「おやおや、自分の名も名乗らない人にみくるを渡すわけにはいかないっさ。せめてキミの名前ぐらい教えてくれないかなっ? でないとみくるもおびえてちゃうからねっ」 相変わらず歯切れの良いしゃべり方をする人だ。それでいて、きっちり朝比奈さんを守ろうとしている。 この場合、どっからどうみてもハルヒが不審者だから、そんな奴においそれと朝比奈さんを渡せないということだろう。 正体不明の人間にほいほいとついていってはいけませんというのは、子供の頃からしっかりと学ばされている重要自己防衛策だし。 「あたしは涼宮ハルヒ。一年六組所属の新入生よ」 なぜかふんぞり返ってハルヒが言う。どうしてこいつは意味のなくこういう偉そうな態度を好むのかね。 さすがの鶴屋さんも驚きの顔を見せていた。だって下級生という話はさておき、入学式からまだ一週間しか経っていない。 つまりハルヒと俺はこないだ北高に入学したばかりの生徒であって――いやハルヒは何回目か知らんが、俺は3回目になるが―― そんなピッカピカの新米北高一年生がいきなり二年の教室に殴り込みに来たんだから、そりゃ驚くだろう。 しかし、やられっぱなしの鶴屋さんではあるわけもなく、ここで反撃の姿勢に転じる。 「おおっ、なるほど。今年の新入生かっ! じゃあ、せっかく二年の教室に来たんだし、あたしがあだ名をつけて上げようっ!」 「は? あ、えと、そんなことより……」 ハルヒは予想しない展開に持ち込まれて言葉を詰まらせているが、鶴屋さんはそんなことはお構いなしに、 うーんほーうと腕を組み頭を振るというオーバーリアクションで考え始める。 やがてぽんと手を叩き、 「ハルにゃん! うんっ、いいねっ。これで決定にょろ!」 「ハ……!? ちょ、ちょっと待ってよ!」 ハルヒはそのあだ名が相当恥ずかしく感じたようで顔を赤くして抗議の声を上げるものの、 鶴屋さんは胸を張って、いいよいいよ、のわはっはっはと愉快そうに笑い声を上げてそれを受け入れる気全くなし。 さすがのハルヒも困惑してきたのか、俺のネクタイを引っ張って顔を寄せ、 「ちょっと、この人何なのよ? あんたの知り合い?」 ここで知り合いというと違うというややこしい話だが、俺の世界の話に限定すると知り合いでSOS団名誉顧問だ。 ちなみにその役職与えたのはハルヒだぞ。鶴屋さんのことを偉く気に入っているみたいだからな。 ま、確かに竹を割ったような裏表がなく、かなりの大金持ちだってのに全く嫌味のない良い先輩だよ。 俺の返答に、ハルヒはふーんとジト目で返してくる。 が、ここでようやく向こうのペースに巻き込まれていることにハルヒは気がついたようで、あっと声を上げると 再度鶴屋さんの方に振り返り、 「ああもう、あたしのあだ名はそれでいいから朝比奈みくるって言うのはどこにいるのよ。あたしはその人に用があって来たの」 「ハルにゃんでいいのかよ」 「うっさい、キョンは黙ってなさい」 ぴしゃりと俺の突っ込みは排除だ。 鶴屋さんはフフンっと鼻を鳴らし、俺とハルヒの全身を空港の安全確認用赤外線センサーのごとく見て、 「みくるはここにいるけど何の用なのかなっ? 誘拐ならお断りだよっ!」 「そんなことしないわよ。ただどんなやつなのか見に来ただけ」 「見に来ただけ?」 「そ。見に来ただけ」 二人は顔をじりじりと近づけて威嚇しあっている。あの強力な自信に満ちた眼力をぶつけるハルヒ、それを疑いの半目視線で 応戦する鶴屋さん。うあ、なんか凄い攻防だ。いつの間にか、クラス内もしんと静まりかえって、二人のやり取りを 息を呑んで見守っている。 数分間に上る二人の静かな攻防戦は、鶴屋さんのふうっという溜息で幕を閉じた。どうやら彼女なりに 俺たちが朝比奈さんに害をなす不審人物ではないと判断したらしい。 いや……鶴屋さん? ハルヒはどうみても朝比奈さんに害を与えに来ているんですけど。 そんな俺の不安な気持ちも知らずに、鶴屋さんは朝比奈さんを指差しこちらへ来るように指示する。 朝比奈さんはしばらくおどおどしていたが、おぼつかない足取りでこっちにやって来て―― 「うきゃうっ!」 案の定、近くの机に脚を引っかけて倒れそうになる。しかし、それをまるで予知していたかのように 鶴屋さんが見事キャッチして床への落下を阻止した。ほっ、顔でもぶつけてその美しい女神の微笑みに傷ができたら、 俺も泣いて泣いて嘆きまくっただろうから、ナイスです鶴屋さん。 朝比奈さんはおずおずと鶴屋さんに抱えられて、ハルヒの前に立つ。しばらく腕をもじもじさせて下を向いていたが、 やがてゆっくりと不安げな表情をハルヒに向け、 「あ、あの……あたしが朝比奈みくるです……何かご用でしょうか……?」 か細く弱々しい声。しかし、久しぶりの朝比奈さんのエンジェルボイスに俺の脳の音声に認識回路は焼き切れる寸前だ。 いいなー、もうかわいくていいなー、もう! 一方のハルヒはそんな朝比奈さんの姿にしばし呆然と口を開けたまま、硬直している。 そして、次に短い奇声を上げた。 「か」 「……か?」 朝比奈さんは何なのか理解できず、首をかしげてハルヒの言葉を復唱した。 だが、すぐに悲鳴を上げることになる。なんせハルヒが飛びかかるように朝比奈さんに抱きついた。 「かわいいっ! 何これ可愛すぎ! ちょっとキョン、これどうなんてんのよ! うーあー、もう可愛くて抱きしめたりないわ!」 ハルヒは顔を真っ赤にして、感情を爆発させた。どうやら朝比奈さんの言葉にできない可憐さに脳みそが焼き切れてしまったか。 もうめっちゃくちゃにすると言うようにもみくちゃに抱きしめている。 一方の朝比奈さんはうひゃぁぁぁあと手を振り回して泣き叫ぶだけ。 ハルヒはそんな状態を維持しつつ俺の方に振り返り、 「ね、キョン。この子、うちに持って帰って良い?」 ダメに決まってんだろ。お前一人が独占して良い訳が――そうじゃなくて! 朝比奈さんをおもちゃ扱いするんじゃありません! 「じゃあ、せめてあたしのクラスに転入させましょう! 隣の席においておきたいのよ!」 朝比奈さんを勝手に落第させるな! その後、ハルヒの朝比奈さんいじりはエスカレートする一方だ。胸をでかいでかいとか言ってモミ始め男子生徒の大半が 目を背けることになり、または今度は耳たぶを甘噛みして女子生徒すら顔を真っ赤にして顔を背けるはめになったりと もう教室内はずっとハルヒのターン!って状態である。 やれやれ。世界は違うとは言え、趣味や趣向は全く変わらんな、ハルヒってやつは。しかし、これだけ弾けたハルヒってのも 久しぶりだ。前回の古泉の時は、相手が異性って事もあるんだろうがここまではやらなかったし。 一方鶴屋さんはうわっはっはっはと実に愉快そうに豪快な笑い声を上げているだけ。こういったことは、 鶴屋さんの考えでは虐待やいじめには含まれないようである。 この光景に俺はしばらく懐かしさ込みで呆然とそれを眺めていただけなのだが、いい加減これで話が進まないことに ようやく俺の思考回路の再稼働させて、 「おい、そろそろいい加減にしろ」 そう言ってハルヒを引きずり教室外へと移動する。だが、朝比奈さんをハルヒは決して離そうとしないんで、 結果ハルヒと朝比奈さんを廊下に引きずり出すはめになってしまう。とにかく朝比奈さんには申し訳ないが、 こっちにも目的があるんだからついてきてもらわなきゃならんし、これ以上上級生の教室内を フリーズさせたままにしておくわけにもいかんからな。 朝比奈さんをいじくり倒すハルヒを何とか廊下まで連れ出すと――一緒に鶴屋さんもついてきている―― 「おい、本来の目的を忘れているんじゃないのか? そんな事しに来たんじゃないだろうが」 「んん? おっと、そうだったそうだった」 ハルヒはようやく萌えモードから脱したのか、口に含みっぱなしだった朝比奈さんの耳たぶを解放すると、 ばっと朝比奈さんの前に仁王立ちになり、 「ねえ、あたしと付き合ってくれない?」 「はうぅぅぅ……ええっ!?」 ハルヒのとんでもない言葉に、朝比奈さんはいじくられたショックに立ち直るどころか、 さらなる追い打ちをかけられてしまった。 っておいおい。それじゃ別の意味に聞こえちまうだろうが。ああ、でもそういやこいつ最初にあったとき辺りに、 変わったものだったら男だろうが女だろうが――とかいっていたっけ。ひょっとしたらバイの気が……ああ、何考えてんだ俺は。 「ようはハルヒや俺と一緒につるみませんかって言っているんです。いえ、別にどこかの部に入ろうとかでなくてですね、 朝比奈さんの噂を聞きつけてぜひ友達になりたいと、このハルヒが――」 「何よ、あんたも鼻の下伸ばしてぜひとも!と言っていたじゃない」 人がせっかくフォローしている最中に余計な突っ込みを入れるな。 俺はオホンと一旦咳払いをして会話を立て直すと、 「とにかくですね。俺たちはあなたと友達になりたいんです。いきなり言われて困惑してしまうでしょうが。 ご一考願えないでしょうか?」 いきなり押しかけて友達になれなんて、頭のネジがゆるんでいるか社会的一般常識が著しく欠落しているやつの やることだと俺自身ははっきりと認識しているんだが、善は急げというのがハルヒの主張だ。 とっとと朝比奈さんを仲間内に入れて、未来人の動向を探る。その目的のためには、確かに朝比奈さんをそばに置いておくのは 間違っているとは思わないが、いくら何でも性急すぎるんだよ、こいつのやることは。 さてさて。こんな不躾で無礼で一方的な頼みに朝比奈さんはオロオロするばかり。保護者代わりと言わんばかりに 立ち会っている鶴屋さんも笑顔で見ているだけ。彼女の判断に任せると言うことなのだろう。 だが、そんなもじもじした姿勢を続けていたら、脳神経回路が判断→行動→思考になっているハルヒが黙っているわけがない。 「ああっもうじれったいわね! とにかく最初が肝心なのよ、最初が! ってなわけで今から一緒に学食でお昼ご飯を食べない?」 また唐突なことを言いだしやがった。最初のコミュニケーションとしては間違っていないと思うが。 だが、朝比奈さんはちらちらと鶴屋さんと教室内のお弁当グループに視線を向けて、 「でもでもそのぅ……あたし一緒に食べる約束をしたお友達がいますので……」 そりゃそうだな。朝比奈さんとしては、クラス内の関係維持のためにもクラスメイトとのお弁当の方が何かと都合が良いだろう。 ハルヒはちょっといらだつように髪の毛をかきむしり、 「じゃあ、今日学校が終わったら一緒に帰るって言うのはどうよ?」 「あ、あたし実は書道部に入っているんで帰りは少し遅くなるんです……」 ハルヒはその初耳だという情報に、何で教えなかったと俺を目で睨みつけてきた。 ああ、そうだすっかり忘れていた。朝比奈さんは書道部だったんだっけ。その後ハルヒに拉致られて、結局SOS団入りしたが、 その理由が長門がいたからだったはずだ。そうなると、SOS団もなく長門もいない状況で朝比奈さんに書道部を辞めてもらうのは かなり難しいだろう。元々ハルヒに直接接触するつもりじゃなかったようだからな、朝比奈さんは。 さーて、面倒になってきたぞ。どうする? ここで鶴屋さんが朝比奈さんの肩を叩き、 「あたしとみくるは一緒に書道部に入っているんだよ。一年生の時からの付き合いさっ。現在も部員絶賛募集中!」 ほほう、確かに朝比奈さんに――失礼ながら、ちょっと書道というものは路線が違うんじゃないかと思っていたが、 鶴屋さんとのつながりがあったのか。確かに彼女が和服姿で筆と墨を持って正座で達筆な字を書いているのは容易に想像しやすい。 と、ここでハルヒがぽんと手を叩き、 「わかったわ。じゃあ、あたしとキョンも書道部に入部させてもらう。それなら文句ないでしょ?」 ……本気か? しかも俺まで巻き込まれているし。正座して字なんて書きたくないんだが。 だが、この提案に鶴屋さんが同意した。 「おおっ、それなら話は早いさっ。これでみくるともお付き合いできるし、うちも書道部も新入部員をゲットできて 両者ともに目的が果たせるよっ。でも入部するからにはきちっと部活動に参加してもらうからねっ」 あーあ、話が勝手に進んでいる。 俺はぐっとハルヒを引き寄せ、 「おい、いいのかよ。お前字なんて書けるのか?」 「大丈夫よ。あんなの墨と筆があれば何とかなるわ」 根拠もないのに自信満々に語るな、書道をなめるんじゃないと説教してやりたい。 が、字の汚さで有名な俺の俺が言えるはずもなく。 やれやれ。今回は書道部入部決定か。こんな調子じゃSOS団への道のりはアメリカフロンティアの進んだ距離より長いぜ。 と、ここでハルヒは腹をなで下ろしたかと思うと、 「あ、何かお腹空いて来ちゃった。じゃ、あたし学食に行ってご飯食べてくるから。じゃあまた放課後! 入部届を持って行くから待っててね!」 そう言ってばたばたと学食に向けて走っていってしまった。なんつー自己中ぶりだよ。まるでスコール大襲来だな。 俺はとりあえず朝比奈さんと鶴屋さんに頭を下げつつ、 「いきなりとんでもない頼みをしてすみません。あいつ、一旦思いついたら誰も止められなくなるんですよ」 「良いって良いって! みくると友達になりたいって言うなら大歓迎だよっ、それに書道部も新入部員を会得しないと いけなかったからねっ!」 「あ、はい。あまり人気のない部活なので、人が増えるのはちょっと嬉しいです。涼宮……さんが入ると にぎやかになりそうですし」 「そう言ってもらえると助かります」 全く寛大な心を持った人たちで助かったよ。一般常識が厳しめの人ならどんな文句を言われていた事やら。 「じゃあ、朝比奈さん、鶴屋さん。すいませんが、また放課後よろしくお願いします」 「はいわかりました、キョンくん」 「じゃあまた放課後にっ。じゃあねキョンくん!」 俺たちはそう言葉を交わすと、それぞれの教室に向かって歩き出した。しかし、一つ重要な問題が起きてしまっている。 ……やれやれ。自分で名乗る前に、あだ名で呼ばれるようになっちまったよ。 さて、何でこんな展開になっているのかまるっきり説明していなかったから、とりあえず俺が昼飯を食っている間に 回想モードでどうやってここまで来たのか振り返ってみることにしようかね。 ……… …… … ◇◇◇◇ 「未来人?」 「そうだ、未来人。お前が俺を見つけたときに一緒にいただろ? 茶色っぽい長い髪の小柄な女の人が」 「ああ、あのちっこくて可愛い子のこと。ふーん、あの子が未来人ねぇ……全然そういう風には見えなかったけど」 お前にとっての未来人ってのはどんな姿をしているんだ。やっぱりリトルグレイか謎のコスチュームに身を包んでいるのか。まあ、俺としても何で朝比奈さんが未来から送り込まれてきたエージェントなのかさっぱりわからん。失礼ながら言わせてもらうと、どう見てもそういった危険の伴う任務には不釣り合いだろ。俺がどうこう言っても仕方がないが。 機関の反乱により崩壊した世界をリセット後、俺とハルヒは時間平面の狭間で次についての打ち合わせを進めていた。幸いなことにリセットは無事成功し、情報統合思念体もハルヒの力の自覚を悟られていない状態に戻っているとのこと。 だが、ふと思う。 あんな地獄絵図の世界が確定したらたまらなかったから良かったと言える。しかし、考え方を変えれば、機関は人類滅亡を 阻止したとも言える。それは成功例と言えないか? 少数を切り捨てたとは言え、大多数は生存できたんだから…… いや、あんなことが平然と行われる世界なんて許されて良いわけがない。一体機関の攻撃で何千人が 死ぬことになると思っているんだ。 「ちょっとキョン。ちゃんと聞いているの?」 ハルヒの一声で俺はようやく目を覚ます。今更どうこう考えたって無駄だろうが。リセットしちまった以上は、 次の世界をどうするのかに集中すべきだろ? 俺は自問自答を終えると、ハルヒとの話に戻る。 「えーとどこまで話したっけ?」 「あんたの世界には未来人がいたって事だけよ。しっかりしてよね」 ハルヒはあきれ顔を見せるが、俺は無視して、 「とにかくだ。前回の機関を作った世界には未来人――正確には朝比奈みくるという人物はいなかった。 これも機関の超能力者と同じように、何かお前が手を加える必要があるって事になる」 「それがなんなのかわからないと話にならないわよ?」 ハルヒは団長席(仮)に座り、口をとがらせる。 確かにその通りだ。機関の超能力者はハルヒの情報爆発と同時に発生したと言うことを古泉から耳にたこができるぐらい 聞かされていたからわかりやすかったが、未来人が誕生したきっかけは何だ? 何度か朝比奈さん(大)の既定事項とやらを こなすためにいろいろ手伝わされたが、あれはハルヒとは直接関係のない話ばかりだった。ならそれ以外で何か…… ――俺ははっと思い出した。学年末にSOS団VS生徒会を古泉にでっち上げられて作った文芸部の会誌。 あの最後にハルヒが書いていた難解極まりない意味不明な論文が載っていたが、朝比奈さん曰くあれが時間移動の基礎理論に なったと言っていた。そして、朝比奈さん(大)の既定事項を考えると、やるべき事は一つだ。 「なあハルヒ、お前の近所に頭の良い年下の男子はいなかったか? たまに勉強とか教えていたり」 「んん? ああ、ハカセみたいな頭の良い男の子はいたわよ。家庭教師ってほどの事もないけど、確かにたまに勉強を 教えてあげていたわね。それがなんかあるわけ?」 よし、ならいけるはずだ。 「そのハカセくんに時間移動の理念を示した――なんだ論文みたいなのを書いて渡してくれ。それで未来人は生まれるはず」 「ちょ! ちょっと待ってよ! あたしだって情報操作とか情報統合思念体について理解している訳じゃないのよ!? ただ何となく使えるってだけで、それを字にして表せなんて無理よ、絶対無理無理!」 ここまで仰天するハルヒも珍しい。良いものが見れたと思っておこう。だが、それをやってもらわないと あの秀才少年に時間移動の理論が届かず、朝比奈さん(大)の未来も生まれない。亀やら悪戯缶、メモリーについては 朝比奈さん(大)の方から動きが出るだろうよ。あっちも既定事項とやらをこなすのに必死みたいだしな。 大元さえきっちりしておけば、後は勝手に広がる。機関と同じだ。 「そんなこといわれてもなぁ……どうしよ」 いつの間にやら紙とペンを用意したハルヒは、ネームに困った漫画家のように頭を抱えている。 なあに深く考える必要はないんだよ。俺の世界のハルヒだって、どう見ても思いついたまま書き殴っていたし、 俺が呼んでも耳から煙が立ち上るだけで全く理解不能な代物だったし。 「そりゃ、あんたがアホなだけじゃないの?」 「うるせぇ。さっさと書け」 そんなちょこざいな突っ込みをしている間に、がんばって書いてくれ。それがなきゃ始まらん。 ハルヒはうーんうーんと本気で唸りながら、得体の知れない図形や文字を落書きのように紙に書き始める。 だが、すぐにわからんと叫びくしゃくしゃに丸めては書き直し。 この調子だと当分かかりそうだな。やれやれ…… どのくらいたっただろうか。暇をもてあましたため、いつの間にやら椅子の上で眠っていた俺の脳天に一発の強い衝撃が走った。 完全な不意打ちだったため、俺の目から火花が飛び散ったかと思うほどに視覚回路に光の粒が発生し、 思わず頭を抱えてしまう。 「何しやがる……ん?」 抗議の声を上げるのを中断して見上げると、そこには仏頂面のハルヒの姿があった。その手には数十ページの紙の束が 握られていた。 「全く……人が頭を抱えているのにぐーすか眠っているとは良いご身分ね。ほら、あんたのご注文通り作ったわよ。 人が読めて理解できる代物かどうか保証はできないけど」 相当疲れがたまっているのか、半分ドスのきいた声になっている。俺はハルヒの書いた時間移動の論文をざっと見てみたが、 ………… ………… ……こ、これは確かこんな感じだったような憶えがあるが、今読んでもさっぱり意味不明だ。謎の象形文字と ナスカの地上絵もどきが大量に並びまくる宇宙からの電波をキャッチしてそのまま文字化したような得体の知れない カオスさである。あの少年は本当にこんなものから一瞬のひらめきを見つけられるのか? 全く天才ってのは 得体の知れない生き物だ。 ハルヒは達成感に身を任せうーんと一伸びしてから、 「何か疲れちゃったわ。それを使うのは一眠りしてからにするわね」 そう一方的に言い放つと、そのまま団長席(仮)に突っ伏してしまった。ほどなくしてかすかな寝息が聞こえ始める。 全く何だかんだで努力は惜しまないやつだ。どんなことでも全力投球、中途半端は大嫌い。わかりやすいったらありゃしない。 俺はとりあえず制服の上着をハルヒに掛けてやると、暇つぶしにハルヒの意味不明カオス論文の解析をやり始めた。 ◇◇◇◇ … …… ……… 以上回想終わり。そんなこんなでハルヒがあの少年にこっそりと論文を渡した結果、うまい具合に北高二年生に 朝比奈さんがいましたってわけだ。 ただし、それを少年の手に渡したのは、俺の世界では学年末ぐらいだったがハルヒが善は急げ!とか言って とっとと渡してしまった。ハルヒ曰く、高校一年のその時期まで情報統合思念体の魔の手から逃れて無事に過ごせる可能性は かなり低い――というか一度もなかったそうな。中学時代を乗り切るのはもう完全に可能になったものの、 高校になってからの情報統合思念体やその他の勢力――俺の知らないいろいろな勢力がいたりしたらしい――がちょっかいを出して それで結果ご破算になってしまうということ。朝倉の暴走もその一つに含まれているらしい。 結果予定を繰り上げて、入学前にあの少年に論文を渡すことになったわけだ。まあうまくいったから良いんだが。 「よっし、じゃあ乗り込むわよ!」 「そんなに気合いを入れて、殴り込みにでも行くつもりか?」 元気満々のハルヒに続いて、俺は嘆息しながらそれに続く。ドアの向こうは書道部の部室だ。 放課後、俺たちは約束通りここに入部するためにやってきたってわけさ。 「こんにちわ~! 入部しに来ましたー!」 でかい声でハルヒが部室に入ると、数名の書道部部員たちの注目の視線がこちらに集中した。 その中にはすでに朝比奈さんと鶴屋さんの姿もある。二人とも手を振っていた。 中には朝比奈さんたち二人を含めると、あと三人しかいない。まあ書道部っていう地味な活動を考えると 最近の若いモンには不人気な部活かも知れないから無理もないか。活字離れどころか、ワープロやパソコンの普及で 手書き文字すらなくなっている時代である。かく言う俺も相当な悪筆だけどな。 しかし、見れば全員女子部員ではないか。しかも容姿のレベルも中々高い。まるでハーレム気分だっぜ。 事前に朝比奈さんたちから話を聞いていたのか、部長らしい三年生が俺たちに仮入部の紙を手渡してくる。 さすがにいきなり入部って訳にはいかないらしい。大体、先週入学式があったばかりだしな。一年の大半もまだ部活を 探している生徒は大半だが、いきなり本入部っていう人間はスポーツ推薦でやって来た奴ぐらいで、大抵は仮入部だろう。 俺たちはさっさと仮入部の用紙にサインを入れると、とりあえず部室内を一回りしてどんな活動なのか紹介を受ける。 やっていることは単純で、普段は習字の練習を行い、たまに校内の掲示板に作品発表を行ったり、市で開催されている 展覧会っぽいものにできの良い作品を送ってみたりと、まあごく普通の地味な活動内容だ。ああ、そういえば、 今日北高の入り口におかれていたでっかい看板の文字もこの部で制作したものとのこと。書いたのは鶴屋さん。 すごい美しく見栄えのある文字だったことを良く憶えている。 「いやーっ、そんなにほめられるとテレるっさっ! でも、あのくらいでもまだまだにょろよ」 鶴屋さんは照れ笑いを続けている。一方のハルヒは部長の説明も聞かずに朝比奈さんをいじくりまわしている始末だ。 さすがに見かねた書道部部長(女子)が俺の耳元で、彼女は大丈夫なの?と聞いてくるが、 「あー、あいつはああいう奴なんて放っておいて良いですよ。むしろ関わるとやけどするタイプですから」 俺があきらめ顔でそう答えると、書道部部長は不安げな表情をさらに強くした。こりゃ結構心配性のタイプだな。 ハルヒには余り心労をかけるなよとこっそり言っておこう。 ついでにそろそろ止めておくか。 「おいハルヒ。朝比奈さんを弄って部活動の妨害はそれくらいにしておけ。余り酷いと退部にされるぞ」 「えー、でも凄いのよ。フニフニなのよ! あんたも触ってみればわかるわ」 何がフニフニなんだ。いやそんなことはどうでも良いからとにかくやめろ。 俺は無理やりハルヒの襟首をつかんで、朝比奈さんから引き離す。ハルヒはえさを止められた猫のようにシャーと 威嚇の声を俺にあげているが、 「まあいいわ。別に今日一日だけって訳じゃないしね」 「ふええぇ、毎日これやるんですかぁ?」 いたいけな朝比奈さんのお姿に俺も涙が止まらないよ。とにかく、仮入部とは言え入部したんだからきっちり部活動に 専念するんだぞ。朝比奈さんいじりは決して部活動の内容に入っていないんだから。いいな? 「部活動ねぇ……ようは墨で字を書けばいいんでしょ?」 子供の頃に中々うまくいかず、オフクロと一緒に泣きながら夏休みの課題の習字をやっていた俺から言わせると、 習字をなめるなと一喝してやりたい余裕ぶりだ。 ハルヒは手近な部員から習字一式を借りると、さっさと軽い手つきで書き始める。 そして、できあがったものを俺の方に掲げてきた。 「これでどうよ?」 まあなんだ。素直に言えば旨いな。しかし、書いてある文字が『バカ野郎』なのは俺に対する当てつけのつもりか? もう少しマシな書く内容があるだろう? ハルヒは俺の反応を受けて再度別の文字を書き始める。 そして、得意げな笑みを浮かべて掲げた作品『みくるちゃんラブ』――だからそうじゃねえだろっ! 「あのな、もうちょっとふさわしい文字があるだろ? 例えば、『祝入学』とか『春一番』とか」 「なによ、そんな普通の書いてもおもしろくないわ」 真性の変りもんだこいつ。普通の人と同じ事をやるのは自分のプライドでも許さないのか? ただし、その字は確かにうまい。俺の捻り曲がった不気味な字に比べれば雲泥の差だ。 俺はてっきり字の内容はさておきその技術には他の部員も感心していると思いきや…… 「うんっ、なかなかのないようだと思うよ。もうちょっと練習すればかなりうまくなるんじゃないかなっ」 鶴屋さんの言葉。決して絶賛ではない。どちらかというと、もうちょっと努力しましょうという意味である。 朝比奈さんや書道部部長(女子)も同意するように頷いていた。 ……つまりハルヒのレベルは実は大したことない? そこにちょうど顧問らしき教師がやってきた。部員の様子を見に来たらしい。 仮入部の俺たちの紹介を書道部部長(女子)が説明すると、ふむといってハルヒの書いたものをまじまじと見始めた。 そして、こう論評する。 まだ慣れていない部分が大きいね。そのために全体的に荒く自己流の悪いところが出ている。 さあこれを聞いたハルヒがどうなるかは、こいつの性格を知っていればすぐにわかるだろう。 世界一の負けず嫌い、相手に自分を認めさせる、あるいは勝つためにはどれだけの努力も惜しまない。 それが涼宮ハルヒという人間の性格である。 即座に習字に必要な一式をそろえるために専門店の場所を聞き出し、何を買えばいいのか、どこのメーカがお勧めか 顧問・部員に聞き出した後、俺もほっぽって学校から出て行ってしまった。店が開いているうちに、道具を買いそろえに 行ったんだろう。全く発射された弾丸みたいな奴だ。本来の目的忘れていないだろうな? 一同唖然とする中、さすがに居心地の悪くなってきた俺も帰宅の途につかせてもらうことにした。 その前に一応朝比奈さんに挨拶しておくことにする。 「今日はいろいろお騒がせして済みませんでした。しばらくご厄介になりそうですけど」 「ううん、大丈夫。きっとこれがこの時間――あ、えっと、そのとにかく大丈夫です」 危うくやばい話を暴露してしまいそうになってもじもじする朝比奈さんのもう可愛いこと可愛いこと。 ハルヒ、一度で良いからお前の身体を貸してくれ。そうすりゃ朝比奈さんを本気で抱きしめて差し上げられるからな。 あと朝比奈さんはすっと俺の耳に口を寄せて、 「それからどうぞあたしのことはみくるちゃんとお呼び下さい」 以前にも聞いたその言葉に、俺はめまいすら憶えるほどの快楽におぼれてしまった。 ◇◇◇◇ さて翌日の朝。俺は駐輪場前でハルヒと合流して、北高への強制ハイキングを開始する。しかし、この上り坂も 入学した当時は本気でうんざりさせられたものだが、今では慣れっこになっている自分の適応能力もなかなかのものだ。 ハルヒの片手には昨日買い込んできたと思われる書道部必需品セットが詰まった紙袋が握られていた。 本気でやる気になっているらしい。 「あったり前よ。あんな低評価のままじゃあたしのプライドが許さないわ! それこそ世界ランキング堂々一位に輝くほどの ものを書いてやるんだから!」 おいおい。熱中するのは構わんが、本来の目的を忘れるんじゃないぞ。 「何言ってんのよ。あたしは情報統合思念体がちょっかい出してこないように平穏無事に暮らせればそれで良いのよ。 だから書道部で世界一位を取ったって別に何の不都合もないわ。あたしから何かやるつもりはさらさらないんだからね」 その言葉に俺ははっと我を取り戻す。確かにそうだ。ハルヒの目的はそれであって、別にSOS団結成とか 宇宙人・未来人・超能力者を集めて楽しく遊ぶことではない。むしろそっちにこだわっているの俺の方じゃないか。 いかん。すっかり目的と手段が入れ替わっていることに気がつかなかった。 とは言っても俺の目的にはそいつらと一緒に仲良くすることは可能だと証明する事もあるんだから、なおややこしい。やれやれ。 と、ハルヒは思い出したように、あっと声を上げると俺に顔を近づけ、 「前回のことを考慮して、あんたに予防措置をやってもらうことにしたから」 「……嫌な予感がするが、その予防措置ってのが何なのか教えてもらおうか」 「簡単にわかりやすく言ってあげるから、一度で頭の中にきっちり入れなさい。まず、あんたの意識を2分先の未来と 常に同期しておくようにするわ。つまりあんたの意識は常に2分先の未来を見ていて、あんたが望めば元の時間に戻れるってこと」 うーあー、全然わからん。もうちょっとわかりやすく教えてくれ。歴史的などうでも良い雑学は昔にはまった関係で そこそこあるがSF科学についてはさっぱりなんだ。 ハルヒは心底呆れたツラを見せて、 「厳密には違うけど、あんた予知能力を与えたって事。それならわかるでしょ?」 おお、それなら俺でもわかったぞ。ってちょっと待て。 「何で俺がそんな役目を担わなきゃならんのだ? お前がやった方がいいだろ」 「あたしが予知能力なんて堂々と発揮していたら、即座に情報統合思念体に感づかれるわよ。だからあんたなら、 偶然、あるいは本当に未知の能力を持っているとして片づけられるはずよ。ただし、無制限って訳にもいかないから」 「なんかの条件とかあるのか?」 「予知能力が使えるのは二回まで。仮にも時間平面の操作を行うに等しい行為なんだから、余り連発すると 情報統合思念体も不審に思い始めるだろうから。二回予知したら、自動的にあんたからその能力は削除されるわ。 だからこの予知能力は切り札よ。安易には使わないで。宝くじとか競馬とかなんてもってのほか、論外よ! 二回目を使ったときはリセットを実行するときだと思っていなさい。わかったわね」 「使い方がわからんぞ」 「簡単よ。戻れって強く念じればいいだけだから」 ついに俺までハルヒ的能力者の仲間入りかよ。限定的だから情報統合思念体に抹殺されるって事はないだろうが、 どんどん一般人から離れていくことに自分に対して哀愁を禁じ得ない。さらば凡人の俺、フォーエバー♪ 俺たちはどんどん坂道を歩いて北高に向かっている。考えてみれば、意識はもう北高間近まで迫っているところにあるが、 俺の身体自体はまだ数十メートル後ろを歩いているって事になるのか。なんつーか、幽体離脱でもしている気分だ。 ところで、予知ってのはどういうときに使えば良いんだ? 前回の機関強硬派反乱みたいな自体だったら即座に 阻止するべき行動を取るが、今回の世界は機関はいないし時間という概念が俺たちとは異なる情報統合思念体に通じるのか わかったものじゃない。せいぜい、目の前で事故が発生したらのを阻止するぐらいしか…… ――唐突だった。俺の前方百メートルぐらいを歩いている一人の男子生徒が突然北高側から走ってきた乗用車に はねとばされたのは。しかも、その男子生徒はただ歩道を歩いていただけなのに、その乗用車がねらい澄ましてきたように 歩道に割り込んできたのだ。 しばし一帯が沈黙に包まれる。あまりに突然のことだったので、誰も何が起きたのか理解できなかったのだろう。 やがて、はねた自動車は止まることなく車道に戻ると、猛スピードで俺のそばを通り抜けていった。 同時にようやく事態を飲み込めた北高生徒たちの悲鳴が辺り一面にわき起こる。 はねられた男子生徒はその衝撃で車道まで転がり、中央分離線辺りで間接が崩壊した人形のようにありえない形で 倒れ込んでいる。辺り一面にはじわりと多量の血がアスファルトの上に広がって言っていた。 俺はしばらく呆然としていたが、とっさに戻れ!と叫んだ。思考よりもさきに感覚的反射でそう言った。 ――唐突に起こるめまい。そして、次の瞬間、俺の視界には二分前俺が見ていた光景が広がっている。 まだ事故も発生せず、北高生徒たちが和気藹々と坂を上って行っている。 俺は自然と足が動いた。さっき――いや、もうすぐはねられる予定の男子生徒まで百メートル。俺はそいつに向かって一目散に 走り出す。 「――あっ、ちょっとキョン! どうしたのよっ!」 突然の俺の行動に、ハルヒは声を上げて追いかけてきた。事情なんて説明している暇はねえ。目の前で起きる予定の事故を 阻止するだけで俺の頭は精一杯だった。 俺は事故を目撃してから数十秒――多分一分ぐらい思考が停止していたに違いない。そうなると、事故発生からは 一分ぐらい前までしか戻れない。あの男子生徒とは百メートル離れている。自慢じゃないが、帰宅部を続けてろくに運動していない 俺の足だと何秒かかる? ようやく半分の距離まで詰めた辺りで、北高側から一台の乗用車が走ってきているのが見えた。あのひき逃げをやった乗用車だ。 いかん、思ったよりも俺の呆然としていた時間は長かったのか? 「キョン! あんた一体なにやってんのよ!」 俺が全力で突っ走って息も絶え絶えになっているのに、俺の隣にはあっさり追いついてきたハルヒが大した疲労も見せずに 併走していた。だが、説明している暇も余裕もない。 ハルヒは必死に走る俺の姿に勘づいたらしい、 「あんたまさか……!」 「その通りだ!」 俺はそう言い返すと、震え始めている足をさらに加速させた。乗用車はすでに歩道へと割り込みを始めている。 もう少し。もう少しで……! ぎりぎりだった。本当にぎりぎりのタイミングで俺はその男子生徒の身体をつかむ。目の前に迫る乗用車に呆然としていた 男子生徒はあっさりと俺の腕に全く抵抗することなく身体を預けた。 俺は悲鳴を上げる足首を完全に無視して、車道側へと大きく飛び跳ねる。 その刹那、乗用車が俺と抱えている男子生徒の数センチ横を通り過ぎていった。 回避した。間一髪のところでこの男子生徒のひき逃げを阻止することに成功した―― だが、甘かった。歩道は車道の反対側は壁になっていたため、とっさに車道側に飛び跳ねてしまったが、 狙ったかのように俺たちの前に後続車である大型の引っ越し屋のトラックが迫っていた。 嘘だろ。せっかく避けたってのに、なんてタイミングが悪いんだよ―― 俺は観念して次に来るであろう全身への強烈な衝撃に備えて目を瞑った。 痛みはすぐに来た。しかし、全身ではなく俺の背中に誰かが思いっきり蹴りを入れたようなものだった。 その衝撃で思わず男子生徒が腕から抜けてしまっていることに気がつく。あわてて目を開いて状況を確認しようとするが、 その前に路面に身体が落ちたらしく勢いそのままに身体が転がり続け、固い何かが俺の背中にぶつかってようやく回転が止まる。 痛みと衝撃に耐えながら目を開けて振り返ると、俺はさっきまで歩いていた歩道の反対側のそれの上にいた。 背後には電柱がある。こいつのおかげで止まったのか。 だが、助けた男子生徒はどこに行った? それを確認すべくあたりを見回すと、俺のすぐ目の前を滑るように ハルヒが着地するのが目に止まる。勢いを減速するかのように、両足でしばらく路面を滑っていたが程なく摩擦力により その動きも停止した。見れば、ハルヒの脇には轢かれる予定だった男子生徒の姿もある。 つまり最初の轢き逃げを避けた俺たちだったが、さらに今度はトラックにはねられそうになったのを、 ハルヒが俺を蹴飛ばして逃がし男子生徒をつかんでかわしたってことか。あの一瞬でそれをやってのける――しかも、神的パワーを 使った形跡もなくできるなんて心底化け物じみているぞ、こいつは。 ハルヒはすぐに俺の元に駆けつけ、 「大丈夫、キョン!? 無事!?」 「あ、ああお前に蹴られたのが一番いたかったぐらいだ」 俺は別に抗議したつもりじゃなかったが、ハルヒは顔をしかめて脇に抱えた男子生徒――どうやら気絶しているらしい――を さすりながら、 「仕方ないじゃない。あんたとこいつ、二人を抱えるのは無理だったんだから。助けてもらった以上、礼ぐらいは欲しいわね」 「ああ、すまん。そしてありがとな、ハルヒ」 ハルヒはアヒル口でわかればいいのよと、男子生徒を歩道の上に寝かせる。やがてこの一瞬の大アクション劇に、 一方からは惨劇寸前だったための悲鳴と、見事な救出劇に対する拍手喝采が起きていた。 やれやれ、これでしばらくは注目の的だな。 だが、ハルヒはぐっと俺に顔を近づけ、 「あんだけ慎重に使えって言ったのに……使ったわね? 予知能力」 あっさりと見破ってくる。 仕方ないだろ。目の前で事故が起きようとしているのを阻止するのは、一般常識を持った人間なら当然の行為だ。 だが、ハルヒは納得していないのか、何かを問いつめるように言おうとしたがすぐに口をつぐんだ。代わりに、背後を振り返り 北高生徒たちが並んでいる歩道の方へ視線だけを向けた。そして言う。 「とにかく! この件の続きは後で話す。今は一切余計なことをしゃべらないで。事後処理に努めなさい。多分もうすぐ 警察や救急車も到着するだろうから」 ハルヒの言葉には強い警戒心が込められていた。それもそのはずで、俺たちを見ている北高生徒たちの中に、 あの朝倉涼子と長門有希――情報統合思念体のインターフェースの姿があったからである。やばいな、救出劇を切り取って 今の俺の行動を見てみれば、明らかに俺は不審な行動を取ったと誰でもわかることだろう。ハルヒはこれ以上のボロを出すなと 言っているんだ。 「それから、恐らく朝倉あたりはあんたに接触してくるはずよ。やんわりと予知したんじゃないかみたいなって事を言ってね。 学校についてそれを言われるまでにきっちり納得できる説明をでっち上げて起きなさい。いいわね」 ハルヒは俺の耳元にさらに口を寄せて話した。 程なくして誰かが通報したのだろう、救急車のサイレンがけたたましくこちらに近づいてくるのが聞こえてきた―― ◇◇◇◇ 俺とハルヒは警察とかの事情聴取――逃走中の乗用車の特徴・ナンバーは見ていないかとか――をようやく終え、昼休みに 自分のクラスの席に座ることができた。助けた辺りの状況についてはハルヒがうまい具合にごまかしてくれたおかげで、 予知能力についてボロを出さずに乗り切ることもできた。 ハルヒは程なくしてどっかに出て行ってしまうが、俺は机の上に弁当を取り出してとっとと昼食を取ってしまおうとする。 そこにここ一週間ぐらいでぼちぼち話す頻度も増えてきた谷口が国木田を伴ってやって来て、 「おいキョン、何か今朝は大変だったみたいだな」 「ああ、事故に巻き込まれて散々だった。ま、けが人もなくてよかったけどな」 しかし、谷口はどっちかというと事故よりも別のことについて興味津々らしい。突然にやついた表情に フェイスチェンジしたかと思えば、 「ところでよー。お前涼宮と一緒に朝登校しているらしいんだってなー。まさかお前らつきあってんのか? いや、そうでないと説明がつかねーよなぁ?」 「何でそんな話になるんだ。別にあいつと付き合っている訳じゃねぇよ。ただ一方的に振り回されているだけだ」 だが、俺の反論を完全に無視して今度は国木田まで、 「キョンは昔から変な女が好きだからね。そう言えば、彼女はどうしたんだい? てっきりあのまま続くと ばっかり思っていたんだけど」 「なにぃ!? お前二股してんのかよ!? 許せねえ奴だ。今すぐ俺が成敗してやる」 「違うって言っているだろうが。国木田も誤解を招くようなことを言うんじゃない」 勝手な妄想を並べて推測のループに突入する二人を諫める俺だが、こいつら全く俺の話に耳を傾けるつもりがねえ。 しかし、この世界でもあいつはいるんだな……一応、連絡ぐらい取っておくか? 俺の世界の時のように正月まで 放置っていうのもなんつーか後ろ髪を引かれる思いだからな。 さて、ここで真打ちの登場だ。俺と谷口、国木田の馬鹿話の間に、あの朝倉涼子が割って入ってくる。 あいつもあの現場にいたから確実に何か聞いてくるだろう。 「あら、あたしもてっきりあなたと涼宮さんが付き合っているものばかりだと思っていたけどな。 毎朝一緒に登校してくるぐらいだし」 それに対する反論はさっきしたばっかりだからもういわんぞ。 朝倉はお構いなしに続ける。 「でも、実はあたしもあの現場にいたのよね。突然あなたが背後から走ってきたかと思ったら、突然すぐ目の前の男子生徒を つかんで大ジャンプするんだもん。さらに、飛び跳ねた方に今度はトラックが突っ込んできたときはもうダメかと思ったけど、 涼宮さんが凄いファインプレーで二人を救出。まるで映画でも見ているようだったわ」 いつもの柔らかな笑みを浮かべる朝倉。さてさて、そろそろ言ってくるかな。いいか俺。慎重にだぞ、慎重に…… そして、朝倉は核心について話し始める。 「でも、どうしてあの男子生徒が事故に巻き込まれるってわかったの? あなたが走ってきたときには はねようとした車に不審な動きはなかったわ。まるであなたは事故が発生するのをわかっていたみたい」 「へー、キョンって予知能力があったんだ。中学時代から付き合いがあったけど、知らなかったよ」 国木田が言ってきたことは冗談めいているから相手にする必要なし。問題は朝倉の方だ。そのために、ハルヒの知恵も借りて それなりの理由を事前に準備してある。 「最初に言っておくが、俺があの男子生徒を助けられたのは完全な偶然だぞ。俺は朝ハルヒに言われて宿題をするのを忘れていた 事に気がつかされて、あわてて学校に向かっていただけだ。一時限目のものだったからな。早く言って適当に 少しでもやっておかないとどやされるし。それで途中で突然自動車が突っ込んできたら、とっさに近くにいた生徒を抱えて 逃げようとしたんだよ。だから走っていたのは別に事故を回避するためじゃない。まあ幸い――けが人がなかったからと言って 仮にも事故が起きかけたことを幸いって言うのもアレだが、警察の事情聴取とかで一時限目は出れなかったから、 宿題の問題は回避されたけどな」 「ふーん、ただの偶然だったって訳なんだ。だったらますますファインプレーよね。予測もしていないのに、あんな行動が取れる あなたに脱帽しちゃう」 これは嫌味なんだろうか。それとも正直な感想? 朝倉の変わらぬ笑みからは真意を読み取ることはできなかった。 ただこれ以上その件で追求するつもりはないらしく、それだけ聞き終えるとまた女子グループの中に戻っていった。 やれやれ、一応バレ回避はできたようだな。 と、ここで谷口が俺の前に割り込み、 「そうだキョンよ、お前部活どうしたんだ?」 「ん、書道部にすることに決めた。いい加減オフクロからも汚い字を何とかしろって言われていたからな。ちょうど良いと思って」 だが、谷口はお前が?と疑惑の視線を向けると、すぐに懐から一つのメモ帳をパラパラとめくり始めた。 そして、あるページを見てにやりといやらしい笑みを浮かべると、 「……なるほどな。キョン、お前の真意は読めたぜ」 何がだ。 国木田も不思議そうな顔で、 「何か良いことでもあるのかい、書道部にはいると」 「俺がチェックしたこのマル秘ノートに寄れば、書道部には女しかいない。しかも全員俺的ランクAA以上で、 その中には上級生では最高峰に位置する朝比奈みくるさんの存在もある」 「ああなるほど、キョンは部活と言いつつ可愛い女子目当てに入部したって訳か」 おい待て。勝手に人の目的を捏造するんじゃない。俺はただ単にこの煮えたぎる文字という魅力に―― 「んなことはいいから」 あっさり人の抗議を無視しやがった。 谷口はうんうんと頷き、 「確かにキョン、お前の見る目は間違っていない。あの書道部は美人揃いのパラダイスだ! ってなわけで俺も入部したいから 是非とも紹介してくれ」 「あ、それいいね。僕も混ぜてよ」 おまえら。女目的で入部する気かよ。ハルヒとは違う意味で習字をなめるなと言ってやりたい。 しかし、結局二人の熱意に押されまくり仮入部の紹介をしてやることを強制された辺りで、 「ちょっとキョン。話があるからこっち来なさい」 そう教室の入り口から俺を睨んでいるハルヒに、話を中断された。 ◇◇◇◇ 俺がハルヒに連れて行かれたのは、あの古泉と昼飯を食べていた非常階段の踊り場だった。 何のようかと聞くまでもない。今朝のことについてだろう。 「あんたね、あれほど言っていたのにあっさり切り札を使うなんて何考えてんのよ。残り一回は同じ事があっても 絶対に使わないこと。いいわね!」 ハルヒはそう説教するように睨みつけてくるが、正直なところ今後も同じ事があった場合自重できるかどうか はっきり言って自信がない。大体、目の前で人が死のうとしているのに、それを放置するなんていうのは 俺のポリシー――いや人としてのポリシーに反していると思うぞ。 だが、俺の思いにハルヒは呆れの篭もった嘆息で返し、 「あんたね、ちょっとは考えてみなさい。確かに本当に目の前で息絶えそうな人がいたら助けるのは当然のことよ。 でもあんたは通常知り得ない情報を元にそれを実行しようとしている。それは一種の反則技だわ」 「命がかかってんだぞ。守るためなら反則だろうが何だろうがすべきじゃないのか?」 「じゃあ、その行為で確かに目の前で死ぬはずだった人は生き延びたとして、その結果別の人が事故に巻き込まれたらどうする気? 最初に死ぬはずだった人は、その死因を作った人間の責任になるけど、その人を助かったばっかりに死んでしまった別の人の死の 責任はあんたが背負うことになるのよ? その覚悟はあるわけ?」 俺はその言葉にうっとうなるだけで反論できない。確かにその場合は、俺が責任を負うべきだろう。 助けたばっかりに別の人が不幸になる。十分にあり得る話なんだから。それはあまりに本末転倒な話と言える。 しかし……しかしだ。 「だったら使いどころがわからねぇよ。どうすりゃいいんだ?」 「あと一回だけにしているから、使いどころは簡単よ。リセットを実行する必要が明らかに発生した場合のみ。 前回で言うと、町ごと核でドカンっていう事態が発生した場合ね。言っておくけど、前回は古泉くんが口を割ってくれたおかげで 助かったようなものよ。一歩間違えれば、あたしとキョンも巻き込まれて死んでいたんだから。 あくまでもそんな事態を回避する――その一点に絞りなさい」 ハルヒの指示は明確でわかりやすかった。取り返しのつかない事態、そしてそれは個人の事情とかそんなのではなく、 ハルヒがリセットを実行するための助けとなる場合のみか。 わかる。それはわかる。だけどな、 「でも、自信ねぇぞ。もう一度同じ事が起きた場合にそれを見て見ぬふりなんて」 「わかっているわよ。だけど――あんたしか頼れる人がいないの。悪いとは思っている……」 ハルヒの言葉に、俺はどういう訳だか心臓が跳ね上がった。 目線こそ合わせないが、ハルヒが俺に対して明確な謝罪を意思を示すのを目撃する日が来るとは思ってもみなかった。 それもこれも自分の能力のおかげで世界の危機に招いてしまっていることへの罪悪感――あるいは世界を救わなければならいという 使命感がなせる技か。 これが力を自覚したハルヒ、ということなのだろう。全く俺の世界の脳天気唯我独尊傍若無人SOS団団長様が懐かしいよ。 ◇◇◇◇ 翌日の放課後。 俺とハルヒ+谷口・国木田コンビを連れて俺たちは書道部部室やとやって来た。すでに朝比奈さんや鶴屋さん、 その他部員たちは勢揃いしている。 ハルヒは谷口たちがいることに最初は不平を漏らしていたが、やがてそんなこともどうでもよくなったのか、 昨日買ってきたばかりの書道部必須アイテムを使って、とっとと習字の練習を始めた。やれやれ、やる気全開だな。 一方の谷口と国木田は朝比奈さんのお美しい姿にしばし鼻を伸ばしていたが、俺がとっとと仮入部の手続きをしやがれと 背中を叩いて促しておいた。全く、これから毎日こいつら――得に谷口の視線が朝比奈さんに向けられるかと思うと 気が気でならないね。 ちなみに俺も一応入部したわけだから、この機会に字の練習をしておこうと道具を借りて練習していたわけだが、 ――君の字には覇気がないな。まるで老人のようにくたびれていないか? そんな顧問からの痛烈な評価をいただいてしまった。まあ俺の悪筆は自分でもしっかり自覚しているから、 別にどうこう思ったりはしないんだが、こっそりと朝比奈さんにまで同意されてしまったのは、ショックだったのは言うまでもない そんな俺に谷口が腹を抱えて笑いやがるもんだから、ならお前が書いてみろとやらせてみたところ、 ――君の字は煩悩でゆがんでいる。 まさに的確な指摘に、部室内が大爆笑に包まれてしまった。当の谷口は口をへの字にして顔をしかめていたが。 だが、鶴屋さんの豪快なのわっはっは!という笑いに加え、朝比奈さんも可愛らしくクスクスと笑みを浮かべていたのを 見れたことに関しては谷口に大きく感謝しておこう。口には出さないがね。 ◇◇◇◇ そんな日々が一週間続いたある日のこと。 俺とハルヒ、それに朝比奈さんは部活動を終えて下校の途に付いていた。すっかり日も傾き、周囲がオレンジ色に包まれている。 3人は和気藹々と談笑しながら――まあ、ハルヒは相変わらず朝比奈さんにことあるごと抱きつく・いじくりまわすなどの 破廉恥行為を加えながら――歩いていた。 「でも涼宮さんは凄いです。入ったばっかりなのに、もう他の部員の人たちと同じレベルになっているんですから。 顧問の先生もあと今のペースで旨くなっていけば、あと一ヶ月もかからないうちに完璧な作品が描けるようになるって 言っているぐらいですから」 「当然よトーゼン! あたしは一番でないときが済まないの。それがあんな墨で字を書くだけの地味なものであっても 妥協は一切なし! 絶対にコンクールだろうが何だろうが一番を取ってみせるわ!」 やれやれ。こいつのスーパーユーティリティプレイヤーぶりを発揮すれば、本気で書道家級に達しかねないから なおさらたちが悪い。ま、こういう才能のある人物というのはどこかしら人格に欠点があったりするものだから、 ハルヒにぴったりと言えるかもな。いや、ハルヒは最低限の常識はきっちりわきまえているから、真の意味での芸術家には なれなかったりするのか? よくわからん。 「それに比べてキョンや谷口の成長しないことったらもう。あんたたちやる気あるわけ? 国木田を見習いなさいよ。 あたしには及ばなくても着実に腕を伸ばしているわよ。あいつ、何だかんだできっちりやるタイプだから」 「お前と一緒にするな。ついでに部活動の目的を完全にはき違えている谷口とも一緒にしないでくれ、マジで」 俺とハルヒも朝比奈さんに近づくという点では、谷口と大差ないように見えるかも知れないが、あいつは煩悩100%で 入部したんだから根本が完全に違う。大体、一応まじめに練習している俺とは違って、ぼーっと女子部員の姿を 鼻の下伸ばして追いかけている時点であいつは論外と言っていい。 ……まあ、朝比奈さんに関してはそのお姿をフォーエバーな視点で見つめていたいという気持ちは、大きく同意しておくが。 「そう言えばみくるちゃん。今日は部活に遅れてきたけどなんかあったの?」 「ふえ? え、ええっと大したことじゃないんですけど、クラスで用事があったので……」 「ふーん」 聞いてみたものの、どうでも良さそうな返事を返すハルヒ。 そういや、珍しく朝比奈さんが部活に遅れて顔を出していたな。まあ、ここの書道部は体育会系みたいに 時間厳守だとかそんなのはないからとがめられるような話ではないが。 そんな話をしながら、俺たちは長い下り坂も中盤にさしかかった辺りで気が付く。この下り坂の終着地点には 自動車通りの多い交差点があるんだが、そこの歩道で一人の北高男子生徒が中年ぐらいのおっさんと言い争いをしている。 なんだトラブルか? 若いから血の気が多いのは結構だが、マスコミ沙汰にするのは止めろよ。学校の評判――ひいては 生徒たちの迷惑になるからな。 「ん? アレってこないだ助けた男子じゃないの?」 「なに?」 ハルヒの何気ない一言に俺は目を細めてそいつの姿を追う。しかし、俺には北高生徒ぐらいしか判別できないぞ。 一体どんな視力をしてんだ、お前は。 「これでも視力には結構自信があるのよね」 フフンと得意げに胸を反らすハルヒ。まあ、ここでハルヒが嘘を言う意味なんて無いし、そういう事はしない奴だから、 あれはこないだ助けた男子生徒なんだろう。何をやっているんだ? しばらくするとケンカ別れするようにその男子生徒は悪態を付きながら、横断歩道を渡ろうとする――いやまて! 今、その横断歩道の信号は赤だぞ。しかもでかいトラックが接近中だ。 しかし、男子生徒も危うくそれに気が付いたようで、飛び跳ねるように歩道まで戻った。あぶねーな。 一歩間違えれば俺が何で助けたのかわからなくなったところだった。 だが、まだ終わりではなかった。驚いたのに合わせて、さっきの言い争いによるイライラ感が増幅したのか、 近くにあった時速制限の標識――数メートルの高さに丸い奴がくっついているアレだ――を思いっきりけっ飛ばした。 なんだあいつ、実は素行の悪い野郎だったのか? それが仇となった。蹴ったことにより少しイライラが解消されたのか、そいつはまた横断歩道の前に立ち、 信号が青になるのを待ち始めた。そこでそいつは気が付いていなかったが、俺の場所からはあることが見えた。 けっ飛ばした時速制限の標識が不自然に揺れ動き、めりめりと音を立てて男子生徒の方に倒れ込んできたのだ。 しかも、ギロチンか斧のように標識が盾となった状態で襲いかかる。そういや、犬のションベンで標識やミラーの根元が 腐食して勝手に折れたという事故を聞いた憶えがある。 その音に気が付いたのか、男子生徒がちょうど振り返ったのと同じタイミングで、そいつの真正面を標識が通過した。 豪快な音を立てて、標識が歩道の上をバウンドする音が耳をつんざく。 俺は息を呑んだ。あの重さのものが頭や身体に接触すればただでは済まない。最悪命を落とす可能性も…… ふとそいつがあまりのことに驚いたのかふらふらとおぼつかない足で動き始めた。一瞬こちら側を振り返った姿を見ると 本当に数ミリ程度の誤差で身体には触れず、制服の腹の部分が避けているのが見えた。どうやら無傷らしい。 なんて運の良い奴だ。 だが、相当驚いたようで錯乱状態になって千鳥足で事もあろうか車道に侵入して、そこに通りかかったトラックに ぶつかってしまう――とは言っても、正面からではなく走っているトラックの側面に男子生徒の方から接触したと言った方がいい。 そのため致命傷にはならず勢いでくるくると回転して車道に倒れ込んでしまった。 そこに今度は普通の乗用車が突っ込んでくる。 「きゃあ!」 誰かの悲鳴が聞こえてくる。恐らく近くを歩いていた通行人のものだろう。このままでは自動車にはねられる―― キキーッとタイヤの鳴く音が一面に広がった。運転手が必死にハンドルを切りブレーキをかけたため、あと数十センチの というところで男子生徒を轢かずに停止した。 まさにぎりぎり。危機一髪。もうどんな言葉を並べても表現しがたい状況だろう。死の危機の連鎖をあの男子生徒は 全て乗り切ったのだ。 「……よかった」 ハルヒの声。俺たち3人とも気が付かないうちに立ち止まり、それを見つめていた。 男子生徒はようやく正気に戻ったのか自力で立ち上がり、ふらふらと歩道の方へ戻っていく。やれやれ。 自分のことでもないのに寿命が何年分も縮まったぞ。勘弁してくれよ。 ――がちゃん! 突如不自然な金属音が辺り一面に広がった…… 俺もハルヒも唖然として固まる。 男子生徒がふらふらと立った歩道。突然、そこに鉄の板が降ってきたのだ。見れば、男子生徒の正面にあったビルの屋上に あった看板がなくなっている。 ……つまり突然看板が落下して、男子生徒を押しつぶした。これが今目の前で起きたのだ。 そこら中から悲鳴が巻き起こった。度胸のある数人の通行人が男子生徒の無事の確認、あるいは救出のために 落下した看板の周りに集まってくる。中にはすでに携帯電話で救急車の手配をしている人もいた。 だが、もう無理だろう……看板の周囲には漏れだした男子生徒のおびただしい血液が広がり始めていたんだから。 俺はこの結果を見ても、決してハルヒにもらった予知能力を使おうとは思わなかった。昼間に受けた説教のためじゃない。 次々と襲ってきた危機からとどめの一発まで完全に二分を超えていたからだ。つまり今二分前に戻っても、 もう惨劇の序章は開始されている。しかも、場所が離れているためどうやってもまにあいっこない。 ここで俺ははっと気が付いた。呆然としているハルヒはさておき朝比奈さんがこんな過激なスプラッタ劇を見たら、 卒倒すること相違ない…… だが。 朝比奈さんは何も反応していなかった。 うつろな目でその惨劇の現場をただじっと見つめているだけで。 ~~涼宮ハルヒの軌跡 未来人たちの執着(中編)へ~~
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※注意書き※ 涼宮ハルヒの驚愕γ(ガンマ) のγ-7の続きとなります。 思いっきり驚愕のネタバレを含むので注意。 γ-8 翌日、火曜日。 レアなことに、意味もなく定時より早く醒めた目のおかげで、俺は学校前の心臓破り坂をのんびりと歩いていた。日々変わらない登校風景にさほど目新しさはないが、一年生らしき生徒どもが生真面目に坂を上っているのを見ると去年の自分の影がよぎる。 そうやってのびのび登校できんのも今のうちだぜ。来月にでもなりゃウンザリし始めることこの上なしだからな。 ふわあ、とアクビしながら、俺はやはり無意味に立ち止まった。 突然にSOS団に加入してきた佐々木、その佐々木を神のごとく信仰する橘京子、そして、何をしでかしてくれるか予測すらつかない周防九曜。 さて、これから何がどうなるのかね? 「ふむ」 俺は生徒会長の口調を真似てみた。考えていても前進せんな。まずは教室まで歩け。そこで団長の面でも拝むとしよう。俺の学校生活はそうせんと始まらん。いつしかそういう身体になっちまった。 その日の授業中、ハルヒはロープで繋いでおかないと宙に舞い上がりかねないほどソワソワした機嫌を維持していた。そのお眼鏡に適う新入団員を得られたのがよほど嬉しいようだ。 その日の昼休みも、ハルヒ謹製弁当と俺の母上作弁当との間の強制的おかず交換が実行され、クラスの連中から好奇の視線が向けられた。 ハルヒよ。これずっと続けるつもりか? 一緒にメシ食うぐらいならともかく、こんなことを毎日やっていたら本気で勘違いする奴が出てくるぞ。 校舎中のスピーカーが本日の営業終了を伝えるチャイムを鳴らし終えるとほぼ同時に、ハルヒは俺の腕をつかみ教室からすっ飛んで行った。目指すは、当然、我らが文芸部室である。 俺と古泉はUNOで対戦、朝比奈さんは部室専用メイド、長門はいうまでもなくいつもどおり。 ハルヒはパソコンを立ち上げるとなにやら印刷し始めた。 やがて、佐々木がやってきた。 「やあ、待たせたね、キョン」 おいおい、いくらなんでも早過ぎないか? 佐々木の学校からここまで来るには結構時間がかかるはずだが。 俺にしか聞こえない小声で古泉が答えた。 「『機関』から送迎の車を回してます。橘さんの依頼もありましたしね」 なるほど、そういうことか。 「団長に挨拶なしというのは、どういうことかしら?」 ハルヒがまるで姑が嫁をいびるかのようにそう言った。 「ごめんなさい。うっかりしてたわ」 「次からは気をつけなさい」 そして、唐突にこう宣言した。 「これから、佐々木さんには入団試験を受けてもらいます。今はあくまで仮入団段階。試験で落第点をとったら退団となるので、心して受けるように」 「おや、それは初耳ね」 いつものごとくハルヒの突発的思い付きだろう。 ハルヒは、ちょうどいい暇潰しネタを見つけてしまったようだ。佐々木も災難だな。 プリンタから吐き出された紙が一枚、佐々木に手渡された。 「試験は、ペーパーテストよ。制限時間は三十分。文字制限はなし」 そして指し棒をスチャッと伸ばし、 「始め!」 佐々木は、机に向かって、シャープペンを動かし始めた。 俺は、ハルヒが余計に印刷してしまったらしい紙を手に取ると、書かれている内容を確認した。 ・Q1「SOS団入団を志望する動機を教えなさい」 ・Q2「あなたが入団した場合、どのような貢献ができますか?」 ・Q3「宇宙人、未来人、異世界人、超能力者のどれが一番だと思うか」 ・Q4「その理由は?」 ・Q5「今までにした不思議体験を教えなさい」 ・Q6「好きな四文字熟語は?」 ・Q7「何でもできるとしたら、何をする?」 ・Q8「最後の質問。あなたの意気込みを聞かせなさい」 ・追記「何かすっごく面白そうなものを持ってきてくれたら加点します。探しといてください」 これのどこがテストなんだ? 単なるアンケートだろ? それでも、佐々木は真面目に取り組んだようで、回答はA4用紙表裏2枚にわたる大作となった。 ハルヒは渡された回答用紙を読み終わって、 「まあ、及第点ね」 ハルヒは回答用紙を適当に畳んでポケットに収めた。 「おい、俺にも見せろ。あんな問題でどうやって4ページにわたる大作論文が書けるのか興味がある」 「それはダメ」 にべもない返事だった。 「守秘義務に反するわ。個人情報でもあるし、やたらと見せるわけにはいかないの。これはあたしが決めることだから、あんたに見せても意味がないってわけ」 よく輝くデカい瞳で俺を睨み、 「特に興味本位のヤツにはね。団員の選定は団長の仕事よ」 団長は断固拒否の態度を崩さなかった。 その後、俺は、朝比奈さんの豊潤な芳香立ち上るお茶で満たされた湯のみを片手に、UNOで古泉に連勝し続けた。 無事テストをパスした佐々木は、朝比奈さんとお茶の薀蓄を語り合っている。 さりげなく長門に目を向けてみた。 読書を続ける文芸部部長は、椅子から一ミリも離れず不動たるノーリアクションのままである。 長門が無変化で無言の体勢を崩していないということは、何の問題も起きていないということでもある。少なくても、あの九曜に動きはないようだ。 いつものように長門が本を閉じるのを合図として、団活は終了した。 昨日と同じように佐々木と帰路を共にすることになったが、いくら訊いても入団試験の回答内容は教えてくれなかった。 「団長の意向に逆らったら、退団させられるかもしれないからね」 佐々木の顔は、どう見ても自分の言葉を信じているようには見えなかった。 わざわざ学外の人間を入団させたんだ。ハルヒは、佐々木をそう簡単に退団させたりはしないだろう。 そのことは、佐々木も分かっているようだった。 γ-9 翌日、水曜日。 これが一時的なのか、この後も続いて加速度を増すのか、とにかくポカポカ陽気は春を超えて初夏というべき気候にホップステップという感じでジャンプアップを遂げていた。そういや去年もこんなんだったような。 どうやら地球はどんどんヌクくなりつつあるようで、それが人類のせいなんだとしたら早いとこなんとかしないと、シロクマや皇帝ペンギンから連名の抗議文が全国各地の火力発電所気付で届くに違いない。字の書き方を教えに行ってやりたい気分だ。 そんなわけでこの朝、登校ナチュラルハイキングに甘んじる俺のシャツは早くも汗で張り付くようになってきた。隣の芝は青々と茂って俺の目にうすら目映く、それにつけても冷暖房完備の学校が憎くてたまらん。 今度会ったら生徒会長に注進してみたい。実際的な予算の有無はともかく、喜緑さんの宇宙的事務能力ならエアコンの二十や三十、たちどころに設置完了となるかもしれない。 俺の足取りはいつものペースだが、多少早歩き気味なのは無常な校門が閉ざされてしまう時間ギリギリであるせいである。 いつものことなんだが、余裕をもっての登校がついぞ実行できてないのは、家を出発する時間がおおむね決まっており、遡れば起床の時間も一年から二年になっても変化していないという事実をもってその答えとしたい。 一回間に合いさえすれば、次からも同じ時間での発走となるのは、実は人間が持つ経験値蓄積の結果と言うべきだろう。用もないのに早朝の学校に行きたがる生徒なんざ、ボロ校舎に倒錯的な趣味を持つフェティシズムの持ち主だけさ。 本日、通学路の途中、毎度のことながらひいひい言いつつ坂道を上っていると、背後から意外な人物の声がかかった。 「キョン」 国木田だった。俺の後を急いで追ってきたんだろう、国木田は荒い息を吐きつつ、 「佐々木さんがSOS団に入ったそうだね」 なんでおまえが知ってるんだ? 「昨日、校内でばったり会ってね。あまり話す時間はなかったけど、中学時代と変わってなかった」 まあ、そうだな。 「でも、佐々木さんもキョンも最近、九曜さんと知り合ったと聞いたときには驚いたよ。こんな偶然もあるのかなって」 おいおい、なんでおまえが九曜を知ってるんだ? 「谷口の元カノだよ」 前に言ってたクリスマス前に交際が始まって、バレンタイン前に振られた彼女か? 驚いた。それは、本当に偶然なのか? 「世間は意外に狭いってことなんだろうけどね。ただ、谷口には悪いけど、九曜さんに最初に会ったとき、関わり合いにならないほうがよいと直感したんだ。なんか普通の平凡な人間とは違うような気がしたから」 鋭い────。とも言えないか。あの九曜を見てうさんくささを感じないまともな人間がいるとも思えんからな。国木田の感想は至極まっとうなノーマル人間のそれだろう。 「僕なら彼女と付き合ったりはしないね。谷口くらいのものさ。でさ、実はね────」 声をひそめた国木田の顔が接近した。 「ちょっと言いにくいんだけどさ。僕は似たようなことを朝比奈さんや長門さんにも感じるんだ。 気のせいだとは思ってるんだけど、どこかが違う。けれどあの鶴屋さんが足繁くキョンたちの輪に入っていることを考えると、それは警戒するものでもないだろうとも考えるんだけどね。 いや、ごめんよ、キョン。気にしないでくれよ。一度言っておきたかったんだ。SOS団でまた僕の活動が必要なときはいつでも声をかけて欲しいね。できたら鶴屋さんと一緒がいいな」 その後、教室まで、俺と国木田はどうでもいいような日常的会話に終始した。国木田は言うだけ言ってそれっきりすべての興味をなくしたように、中間試験の心配や、体育の授業でする二万メートル走への愚痴を語っていたが、なかなか見事な日常話題への切り替えだった。 こいつはこいつで俺にライトなアドバイスをしてくれているつもりなのか。特に鶴屋さんへの言及は、漠然としながらもなかなか核心をついた洞察力だと言わざるをえないだろう。 ここにも俺たちをよく解らないまでも心配の種としている同級生がいるわけだ。何しろ国木田は俺と佐々木を知っている唯一のクラスメイトだしな。俺たちの間に何か奇妙かつ歪んだ関係性めいたものがあると感づいていてもおかしくない。 聡く、親身になってくれる友人を持って俺はなんと幸せ者か。テスト前のヤマ張りでもお世話になっているし、中学時代からの付き合いでもあることだし、そろそろハルヒにかけあって単なるクラスメイトその一以上の認識を与えるべきだろう。 ただし谷口は除かせてもらうがな。奴には永遠の一人漫才師がお似合いだぜ。 きっと国木田もそう思っているのだろう。だから、先ほどのようなセリフを俺たち二人しかいない、このタイミングで俺に吐露したんだ。 どうも俺の周辺の一般人ほど、なんだか妙に勘がさえてくるみたいだな。誰の影響だろう。 午前午後の学業時間はこれということなく進行し、俺が授業の半分くらいをうつらうつらしている間にいつのまにか終業のチャイムが鳴っていた。 なお、本日の昼休みもハルヒ謹製弁当と俺の母上作弁当との間で強制的おかず交換がなされたことを付言しておく。 放課後。 ハルヒとともに団室に入った俺は、鞄を床に置き、古泉の向かいに座った。 「どうです? 一局」 古泉が、テーブル上の盤を俺のほうに寄せてくる。 「なんだ、これは」 一風変わった盤上に丸い石。刻まれている漢字は『帥』とか『象』とか『砲』などの、動かし方の検討もつかないチャイニーズミステリアスな様相を呈する駒だった。 オセロでも囲碁でも軍人将棋でも連戦連敗の古泉め、今度こそ勝てそうなボードゲームを搬入してきたということか。 「中国の将棋です。象棋(シャンチー)とも呼ばれていますね。ルールさえ覚えたら、気軽に誰でも楽しめますよ。たいして難しくはありません。少なくとも大将棋よりは手短に終わるでしょう」 そのルールさえ、という部分が問題なのさ。そいつを覚えるまで俺は連戦連敗の苦汁を舐め続けるに決まってるじゃないか。花札にしないか? オイチョカブでもコイコイでも母方の田舎ではちょいと鳴らした経験がある。 「花札は盲点でしたね。いずれ持参しますよ。それでこの象棋ですが、チェスや囲碁将棋と同じでゼロサムゲームだと解っていれば、それで充分です。あなたならたちまちのうちにルールを飲み込めます。 差し掛けの囲碁の盤面を見て、あっさり勝敗を看破できる実力があれば鉄板ですよ。これもボードゲームとしては運の要素があまりありませんから、あなた向きだと思いますよ」 余裕の笑みを浮かべ、 「では、最初は練習ということで、初戦は勝敗度外視でいきましょう。まずこの『兵』いう駒の動かし方ですが──」 俺は古泉に教えられるまま、駒を並べ、それぞれの動きの把握にかかった。将棋に近いが細かい部分はけっこう違う。まあチェスやオセロにも飽きていたことだし、新しいボードゲームに親しむのも悪くはないかな。 「お待たせしました」 天使のような声色とともに、お盆に湯飲み載せた朝比奈さんが視界の中に入ってきた。 「ルイボス茶といいます。カフェインゼロで健康にいいそうです」 朝比奈さんから湯飲みを手に取り、赤茶けた液体を一口すすり、同様の行動をとった古泉と数秒後に目が合った。 「……風変わりな味ですね」 微苦笑とともに感想を述べた古泉とまるごと完全に同感である。決して不味くはない。かといって刮目するほどの美味さでもない。むしろ口に合わない、妙な風味がする。 これなら煎茶や麦茶のほうが忌憚なくがぶ飲みできるだろうが、正直に舌の具合を報告するには俺はちと小心者すぎた。 「違うのとブレンドしたほうがいいかなあ?」 朝比奈さんはさらなる改良を思案しているようだった。 そこに佐々木がやってきた。 ハルヒは、佐々木がやってくるなり、 「佐々木さん、パソコン詳しい?」 「人並み程度だけど」 「そう? じゃあ」 団長机に鎮座するコンピ研印のパソコンディスプレイには、例のSOS団ウェブサイトが、かつて俺が作った状態のまま表示されている。 もちろんショボいレイアウトにチャチなコンテンツと、意味のある文字列などメールアドレスしかないという、今時日進月歩で進化し続けるネットの世界において、ほとほと時代遅れなホームページであると言わざるをえない。 ブログ? 何それ? って感じのデジタルデバイトっぷりである。 そのうちリニューアルすべし、とハルヒの意気だけは高かったが、もっぱらその役目は俺に任じられており、そしてそんなもんはまったくする気のなかった俺はなんやかんやと理由をつけて先延ばしにし続けていたわけで。 実際、SOS団の名がネットワークに流失して誰一人幸福な結果になりそうにないというのは、去年のコンピ研部長の件でも明らかだったため、ハルヒには適当に忘れていて欲しかったのだが。 アクセスががんがん増えてネット内知名度を高める野望を未だ捨てきっていなかったらしい。 もちろんハルヒは長門がロゴマークに細工したことを知らないし、気づいてもいない。 「サイトをもっと人目を呼ぶようなのにしたいだけど、できるかしら?」 と、ハルヒは付けっぱなしのパソコンモニタを指さし、 「SOS団のメインサイト。キョンが作ったきりのまるで殺風景な役立たずな代物なのよ。なにより美しくないわ。世界にはもっとスタイリッシュで情報満載なサイトがたくさんあるっていうのに、これじゃワールドワイドウェブの名が泣くというものよ」 悪かったな。 「ご期待にそえるかどうかは解らないけど、やってみるわ」 古泉と象棋に集中している間も、俺は他の団員の様子をちらちらと窺っていた。 長門は本を読んでいる。黙々と読んでいる。新しい団員が増えたところで所詮それは文芸部の新戦力ではないと達観しているのか、一年前からこの部室での態度はアイスランドの永久凍土のように不変だった。 膝に置いている単行本がやや薄茶けているが、古本屋から掘り出し物を入手した稀覯本なのかもしれない。こいつの行動範囲も市立図書館から広がりつつあるのか。 寂れた古書店を巡ってふらふらした足取りで本棚から本棚へと移動している長門を想像し、俺の精神はどことなく落ち着いた。 佐々木にウェブサイトデザイナーの才能はなかったらしく、SOS団ホームページは結局はあまり前と変わり映えしない感じに落ち着いた。佐々木に言わせれば細かい点ではいろいろと改良されたということらしいのだが、見た目では解らん。 帰り道。 俺と佐々木の今日の議題は、国木田が朝、話していたことだ。 周防九曜について、佐々木の率直な意見を聞いてみたかった。 「九曜さんについては、僕もいろいろと試行錯誤しながら考えてみたんだけどね」 佐々木はそう前置きしてから、 「僕は子供の頃から、地球外生命体がいるのなら、いったいどんな姿形をしているのかと想像していた。小説やマンガでは、光学的に視認できる形状のものが多かったし、ある程度の意思疎通も可能であることが前提条件だった。 たとえば素数の概念を理解してくれたりね。翻訳機という便利なアイテムが登場することも稀ではなかったな」 そこから始まる宇宙的対話がキモであるSFは枚挙のいとまがない。これでも俺は長門の影響で最近の小難しい海外SFを多少はたしなんでいる。フィクションから学ぶことだって多いのさ。 「ま、それはそれで置いとくとして、長門さんの情報統合思念体や、九曜さんの広域帯宇宙存在については、どうやら人間の紡ぐ解りやすい物語上の異星人とは根本的なズレがあるように思える」 火星や水星にヒューマノイドタイプの宇宙人がいたと書いていた前時代のSF作家たちに聞かせてやりたい言葉だ。たぶん当時よりもっと面白い物語活劇を書いてくれだろうにな。 「そうだね。SFに限定することもなく、例えばJ・D・カーがこの時代に生きていたら、現代技術を取り込んだ奇抜で新機軸な密室トリック小説を大量に生み出して、僕を読書の虜にしてくれたものなのにね。 いっそカーを時間移動で現在に連れてこられないものだろうか。キミの朝比奈さんに頼んでみてくれないかな。真剣にそう思うよ」 残念だが俺だって過去に連れて行かれたことがせいぜいで、未来には行けてない。きっと禁則事項やら何やらで、進んだ時間の世界には行けないことになってるんだろう。 「それは余談だけどね。思うに、彼女たちは僕たち人間の価値観と理屈が理解できないんじゃないかな。 高次元の存在が無理矢理、人間のレベルまで降りてきているわけだから、何を話しているのかは解っても何故そんなことを話しているのか解らない。あるいはどうしてそんな話をする必要があるのか解らない、みたいにね。 5W1Hのうち、誰とどこは判断できても残りが全然ダメだとしたら、そんな存在とまとな対話ができると思うかい?」 思わないね。長門の言ってることすら納得不能に近いのに、九曜に至っては5W1Hのどれも噛み合わない感じだ。 しかし、佐々木は、 「この手のコミュニケーション不全は特に難しい問題ではない。たとえばキミはミジンコやゾウリムシの価値観を理解できるかい? 百日咳バクテリアやマイコプラズマと一緒に談笑できると想像できるかな?」 俺の知能ではちと難しいことは確かだな。 「単細胞生物やバクテリアが人間レベルの知能を獲得したとしても、きっと同じ感想を抱くと思うよ。この二本足で歩く哺乳類はいったい何がしたくて生きているんだろう。人類はこの惑星と世界をどうしたいのか、と疑問以前に呆れるかもしれないな」 俺自身、何がしたくて生きてるのかなんて考えても解らんからな。全人類的に考えて圧倒的多数派であるとは信じているが。 「たとえばキョン、キミにとって一番大切なものは何だい?」 突然言われても、とっさには出てこない。 「僕もだよ。高度に情報の錯綜する現代社会において、価値観が定量化されることはまずないといっていい」 佐々木の表情と口調は変化しない。 「たとえば、ある人にとっては金銭かもしれないし、情報だと言う人もいるだろう。別の人は絆こそが最も大切だと主張するかもしれない。 それぞれ全然別の価値基準を持っているものだから、自分の価値観のみでこの世のすべてを判断することはできない────と、僕もキミも知っているだけの話さ。だからこそ、問われてすぐさま回答を出すことができないわけだ」 そうかもしれない。 「でも昔の人はそんな問いかけにそれほど悩まなかったと思うよ」 そうかもしれない。 今でこそ情報は好きなときに好きなだけごまんと手に入る。しかしほんの百年、いや十年前でさえ入ってくる情報は限られていた。これが戦国時代、平安時代ともなるとどうだ。 何かを選ぶことに対し現代人より躊躇いは深いものだっただろうか。当時、選びようにも選択肢は限られていたにちがいない。 多様性を増して選ぶ自由が増えたと言っても、逆に何を選べばいいのか悩むのであれば、むしろそれは多様化による選択の弊害になるんじゃないか? どれを選ぶべきなのか何の情報もないとき、人はより多くの人間が選ぶものを手に取るだろう。 それだと本末転倒だ。多様化どころか、実は一極集中が進んでいることになる。価値観の均一化だ。 「どうも異星人たちは拡散よりも均一化を正常な進化と考えていたようなんだ」 佐々木の声は常に淡々としている。 「でも、どうやら違う側面もあると気づいた気配があって、それはたぶん、涼宮ハルヒさんやキミと出会ったことがきっかけになっていると僕は推理するのだがね」 ハルヒはいい。あいつなら火星人に大統領制を承認させるくらいのことならやってのけるさ。しかし、俺にそんなバイタリティはないぜ。 「いやいや、実際、キミはたいしたやつだ。橘さんから聞いた話だけでもね。さすがは、涼宮さんと僕が選んだ唯一の一般人だ」 今の俺の意識は選民意識とはほど遠い地点にある。そんな自信満々に言われてもただ困惑するだけだ。選ぶだの選ばれただの、何なんだよそりゃ、と言いたい。叫びたい。 長門や古泉や朝比奈さんが俺を特別視したがっているのは解っているし、俺だってそこそこの覚悟を持っている。去年のクリスマスイブに腹をくくったさ。それは今でも作りたての豆腐のように心の深奥に沈んでいる。 ハルヒの無意識が何かをしでかした結果として俺がこんな立場に置かれているのは渋々ながらも認めざるを得ないとして、佐々木、お前までもが俺を選んだと言うのはどういうことだ。 ハルヒは徹底的に無自覚なはずで、お前はそうじゃない。神もどき的存在であるという、ちゃんとした自覚があるはずだ。理解しているんだったら教えてくれ。 なぜ、俺を選ぶ。 「ふっ、くく。キョン、キミの鈍重なる感性には前から気を揉ませてもらっていたが、この期に及んでまでそんなことを言うとはね」 愚弄しているのではなく、単に呆れているだけのようだった。 「まあ、それはともかくとして、キミの類稀なる経験を今回も生かしてもらいたいと思う。できれば、話し合いで解決してほしいね」 相手にその気があるのならな。 問題はその相手が何を考えてるのかすら解らないことだ。いきなり武力行使に及ぶ可能性だって否定できない。 相手がそうしてきたら、もう長門に頼るしかない。宇宙人的パワーの前には俺なんてミジンコ以下だろうからな。場合によっては、喜緑さんにも出張ってもらおう。 佐々木は、別れ際にこう言い残した。 「キョン。団共有のパソコンにMIKURUフォルダなんて隠しフォルダを設けるのは、あまり感心しないね。そういうのは、自分専用のパソコンでこそこそやるものだ」 驚愕の俺の顔を置き去りにして、佐々木は颯爽と去っていった。 γ-10 翌、木曜日。 朝から夕方まで普通にルーティーンな授業を受け続ける時間が、ひねもすが地を這うごときにだらりんと続き、ホームルーム終了の合図でようやく俺とハルヒは五組の教室から自由の身となった。 俺とハルヒは一目散に教室を飛び出した。言っておくが俺はあくまで団長殿に腕を引っ張られての強制連行に近いのだぜ。そこだけは勘違いしないでいただきたい。 そうしてハルヒと肩を並べて文芸部室まで行く道のりもいつも通りなら、学内の春的雰囲気も普段どおりである。四月も半ばとなるとすっかり春という季節に飼いならされちまう。 さすがは四季、頼みもしないのに律儀に毎年現れて、悠久の歴史で地球上の生物をコントロールし続けるのも伊達ではないと言ったところか。 だが、毎日毎日、何もかもいつもどおりというわけではなく、 「あっ、涼宮さん。長門さんと古泉くんは今日は用事があって来られないそうです」 部室のドアを開けるなり、メイド姿の朝比奈さんが駆け寄ってきてそう言った。 「そう。なら仕方ないわね。今日は団活は休みにしましょ。佐々木さんにはあたしからメール入れとくわ」 ハルヒはそういうと身を翻して帰っていった。少々残念そうな顔だったな。 解るさ。いつものメンバーが揃わないと団活にならんからな。 メイド服から制服にお着替え中の朝比奈さんを残して、俺も帰路についた。 学校の玄関に到着した俺は、機械的かつ習慣的な動作で自分の下駄箱を開けた。 「ぬう?」 ずいぶんと久しぶりな物体が、揃えた外靴の上に載っていた。 ただし、いつぞやのものとは違って無味乾燥な封筒。宛先も差出人の名も書いてない。 封をあけると、一枚だけの便箋に印刷したかのような明朝体の文字が躍っていた。 ────本日、私の部屋にて待つ。 差出人はいうまでもないだろう。 俺は、すみやかに靴を履き替えると、長門のマンションに直行した。 すっかり馴染みになってしまった長門の部屋。 そこにそろったのは、俺、長門、古泉、喜緑さん、そして、橘京子だった。 いまさらこのメンバーが勢ぞろいしたところで驚きはしないさ。それぐらいの耐性が備わってるつもりだ。 「わざわざご足労いただきすみません」 古泉がいつものスマイルを崩さずに、社交辞令を述べる。 「さっさと本題に入ってくれ。このメンバーで話し合いってことは、なんかあったんだろ?」 「はい。実は、『機関』と橘さんの組織、両方で佐々木さんをSOS団から引き剥がそうとする動きが起きてます」 対立する組織で同じ動きが起きるというのは、奇妙なことだ。 古泉は、それとなく、橘京子に続きを促した。 「組織の中で、佐々木さんがそちら側に取り込まれてしまうことを懸念する勢力が増えているのです」 考えてみれば、それは当然だろうという気はする。 「おまえ個人の意見はどうなんだ?」 「私は、このまま佐々木さんをSOS団に留まらせるべきだと思います。聡明な佐々木さんなら、涼宮さんを近くでじっくり観察すれば、神の力を彼女に保持させ続けることの危険性を理解できると思うのです」 その言葉に嘘はないだろうと、俺は思った。橘の立場ならば、そういう判断もありだ。 「で、『機関』の方は、なんで佐々木をSOS団から引き剥がそうとしてるんだ?」 「佐々木さんの加入以来、涼宮さんの力が活性化しています。ポジティブな方向での活性化ですが、それでも活性化していることには違いありません」 確かに、最近のハルヒは機嫌がいいというか、何か張り合いみたいなのが出てきたというか、ポジティブな方向への変化は見られる。 「このままでは、秋に桜の花が咲いたりといった異常事態が頻発する恐れがあります。ひいては、世界そのものが改変されてしまうかもしれない。まあ、こんなふうに考える人たちが増えてるんです」 『機関』の役目は、ハルヒの訳の分からない力を抑えて、世界がこねくり回されることを阻止すること。 だとすれば、ハルヒの力の活性化原因を除去しようという動きは当然のことだ。 「おまえ個人の意見はどうなんだ?」 「僕は反対ですね。佐々木さんを無理やり引き剥がせば、涼宮さんの力がネガティブな方向に発現されかねません。まず、間違いなく閉鎖空間が頻発するでしょう。それを抜きにしても、SOS団の意思を無視して事を進めることには賛成いたしかねます」 「なんとも奇妙な話だな。敵対する組織同士の利害が一致して、敵対するはずの個人同士の利害も一致しちまった。そして、組織と個人は対立してる」 「僕たちの世界じゃ、別に珍しいことではありません。利害が一致すれば手を組み、反すれば手を切る。普通のことです」 「それじゃ、俺はおまえを信用するわけにはいかなくなるぞ」 「問題は、どこに基本軸を持つかということですよ。僕の基本軸はSOS団にあります。橘さんにとってのそれは、佐々木さんでしょう」 橘が無言でうなづいた。 古泉がいいたいことは、僕とあなたの基本軸は同じですといったところなのだろう。 まあ、その点に関しては、古泉を信用してやってもよいとは思っている。 「僕が気になるのは、現状が変化するとして、情報統合思念体がどう動くかです。長門さん、そこのところはどうでしょうか?」 「情報統合思念体主流派は、涼宮ハルヒの情報改変能力の肯定的な方向での活性化を好ましいものと考えている。それを妨げる行動は阻止することになると思われる」 「穏健派のご意見は?」 これには、喜緑さんが答えた。 「穏健派は、涼宮ハルヒの情報改変能力の否定的な方向への変化を望んではおりません。それは、情報統合思念体の存立を危うくする恐れがありますから。よって、それを誘発する可能性がある動きに対しては否定的にならざるをえません」 少なくても、この件に関しては、情報統合思念体はこっちの味方になってくれそうだ。 これもまた、利害の一致というやつだが。 「問題は、九曜の親玉がどう動くかだな」 俺は、一番の懸念材料を素直に口に出してみた。 「広域帯宇宙存在の行動原理は不明のまま。周防九曜がどう動くかも予測がつかない。現状では彼女は観測に徹しており、特段の動きは見られない」 長門が厳然たる事実だけを述べた。 「そこのところが不気味ですね。彼女たちの基本軸が見えないと、行動の予測もつかないですから。まったくのお手上げですよ」 「周防九曜への警戒は、私と喜緑江美里が継続する」 「現状では、それ以外には対処のしようもありませんね。よろしくお願いします」 事態がややこしくなってきたな。 九曜だけじゃなく、『機関』や橘京子の組織も要警戒か。 「『機関』は僕が多数派工作をしてみます。今のところ決定的な事態にはまだほど遠いですから、間に合うかもしれません。僕のところに『機関』内の情報が流れてこなくなったときが真の危機でしょうね」 「こっちの方は、私が何とかします」 橘はそう言ったが、こいつの組織内での立場からするとあまり期待できない。 となれば、せめて『機関』だけでも味方にとどめておかなければなるまい。いざとなったら、鶴屋さんを拝み倒すしかないだろう。 佐々木は、団長殿に認められたSOS団員なのだ。 その意思を無視して、勝手に引き剥がすなんてことは認められない。 γ-11 もう金曜日か。 この一週間はやたらといそがしかった気がするな。佐々木がSOS団に加わっただけだというのに、なんだか二週間分の人生を過ごしたような気がしている。 やはり九曜とか橘京子の組織とか『機関』とかがどう動くか解らないせいで、どうも気がそぞろになっていかん。 そんな気分で登校し自分の席についたわけだが、ハルヒの席はずっと空席のままだった。 やがて、担任の岡部がやってきて、こう告げた。 「今日は、涼宮は風邪で休みだそうだ」 ハルヒでも風邪を引くことがあるんだな。あいつなら、風邪のウィルスも裸足で逃げていきそうなもんだが。 と、いきなり、俺の携帯が震えだした。携帯の画面を見ると、古泉からだった。 ホームルームの時間中に電話をかけてくるとは、何かの緊急事態だ。 「先生、ちょっとトイレ行ってきます」 俺は、岡部の同意も取らず、教室を飛び出した。 すぐに電話に出る。 「どうした?」 「緊急事態です。至急、部室に集合してください」 いったい何が起きたんだ? γ-12 俺は、全速力で部室に駆け込んだ。 そこには、古泉、長門、朝比奈さん、そして、喜緑さんがいた。 「いったい何が起きたんだ!?」 「涼宮ハルヒが、周防九曜の襲撃を受けている」 長門が、あくまでも淡々とした声でそう告げた。 「なんだって!」 「いきなり本丸を奇襲してくるとは、意外でした。不意をつかれましたね」 古泉の冷静な口調が、俺をいらだたせた。 「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないだろ!?」 俺の叫びを無視するかのように、喜緑さんが口を開いた。 「長門さん、私は賛成いたしかねますね。周防九曜に対応するのは、私たち二人で充分ではありませんか? 人間がいても障害にしかならないでしょう」 「事は涼宮ハルヒにかかわること。不測の事態がないともいえない。可能な限りでの対応能力の確保が必要。それに、彼らがそれを望んでいる」 長門の言葉に古泉と朝比奈さんがうなずいた。 「わかりました。それが長門さんのご判断なのならば、これ以上は何も言いません。情報統合思念体への救援要請は私からしておきます」 長門は無言でうなずくことで、同意を示した。 「私がみなさんを現地に転送します。無断早退になってしまいますが、その辺は私が情報操作しておきますので」 喜緑さんが、呪文を唱えだした。 γ-13 喜緑さんの呪文が終わった瞬間に、俺たちは、ハルヒの家に転移していた。 「こっち」 長門がまっさきに階段を駆け上がっていく。 長門に続いて部屋に飛び込むと、そこにはハルヒと九曜、そして、なぜか佐々木もいた。 「きゃっ!」 ハルヒと佐々木の様子に、朝比奈さんが悲鳴をあげ、俺はしばし呆然とした。 「なんだ、これは!?」 γ-14 ハルヒと佐々木。二人の体の一部が、融合としかいいようがない状態でくっついていた。二人の意識はないようだ。 「てめぇ、何をした!?」 九曜は、こんなときでも、まるでやる気がないような声で、こう答えた。 「融合……完全化」 「なるほど。『力』の器の融合による『力』の完全化ですか。二人が接近するのを放置していたのも、同期率を高めるのに好都合だったからでしょうね」 九曜のあまりに情報量が少ない言葉を、こんなときでも嫌味なほど冷静な古泉が翻訳してくれた。 「私がさせない」 長門が攻撃をかける。 無数の光の矢が九曜に襲いかかるが、すべて弾き飛ばされた。 その間に、長門は一気に間合いをつめて九曜に殴りかかった。だが、九曜が右手がそれを難なく受け止めていた。 「なぜ……融合、望んでない?」 「強制的な融合は、力の対消滅をもたらす可能性がある。容認できない」 「対消滅とは何か」 九曜の髪がうなるように動き、長門が弾き飛ばされる。 長門は、部屋の壁に打ちつけられた。 「くっ」 長門は、何か重たい物が乗っかったかのように、床に倒れ伏した。起き上がろうとしているのに起き上がれない。息が苦しげだ。 「涼宮ハルヒとは何か」 そこに、唐突に銃声が響いた。 古泉がいつの間にか拳銃を握っていた。お前、そんなもんどっから持ってきたんだよ? その疑問に答える者はない。 飛び出した弾丸は、目に見えないバリアのようなもので弾き返された。 「やはり、こんなものは通じませんか」 続いて、一筋の光線が九曜に向けて飛んできたが、これも弾き返された。 その光跡を逆にたどると、そこには未来っぽい銃らしきものを握った朝比奈さんがいた。おそらく、光線銃かなんかなんだろう。 クソ。未来の武器も通用せずか。 ハルヒと佐々木の方を見ると、二人の体は、既に半分がくっついている状態だった。 突然、部屋がぐにゃりと歪んだ。 「その程度の物理攻撃は、九曜さんには通用しませんよ」 そして、空中から忽然と現れたのは、喜緑さんだった。 圧迫が解けたのか、長門がゆっくりと立ち上がった。 「遅れてしまってすみません。あのあと、この部屋が情報封鎖されてしまいまして、解除するのに時間がかかってしまいました」 「言い訳は後で聞く。今は、敵性存在の排除を優先すべき」 「そうですね」 二人は、そろって高速で呪文を唱えだした。 これでこちらの勝利は確実だと思ったのだが、そうは問屋がおろさなかった。 二人の呪文は延々と続き、止まることはなかったのだ。 やがて、二人の顔から汗がしたたり落ちてきた。 宇宙人同士の戦闘については素人の俺でも、これはまずそうだというのは分かった。二人がかりでも、九曜一人にかなわないというのか? 突然、喜緑さんが崩れるように倒れた。 同時に、長門の顔が苦悶で歪んだ。 そして、九曜がゆっくりと長門に近づいてきた。長門は一歩も動けない。 「力とは何か。答えよ」 「この野郎!」 俺は思わず九曜に殴りかかったが、俺の拳は九曜に届くことはなく、俺の体は九曜の髪の毛に巻き取られるように空中に固定された。 「キョンくん!」 朝比奈さんの悲鳴が聞こえた。 銃声が何度も聞こえた。だが、弾丸は九曜には全く届いていない。何度も放たれた光線も九曜の周辺ですべて消失していた。 「あなたは答えてくれる? 涼宮ハルヒとは何か」 九曜は、表情を────劇的と言ってもいい────変化させた。 微笑んだのだ。 とんでもなく玲瓏で美しい笑みだった。 感情の発露というよりは高度なプログラムが完璧に模倣したような笑顔だったが、こんな笑みを向けられた男はどんな朴念仁でも一瞬にして一目惚れ病に罹患する。 耐えられたのは俺でこそだ。事情を知らない谷口あたりなら即、墜落だ。 それは、唐突だった。 九曜の背後に何かが現れたかと思うと、九曜の口からコンバットナイフが飛び出した。それは、九曜の頭を完全に貫通し、俺の心臓に突き刺さる直前で停止した。 ナイフの柄を握る手までもが見える。それだけで、人間技では不可能な力をもって突き刺されたことがわかる。 俺の心臓が無事で済んだのは、そのナイフが誰かの左手で白刃取りされていたからだ。 片手での白刃取りを成し遂げた主────長門はすかさずこう唱えた。 「パーソナルネーム周防九曜の情報生命構成を消去する」 九曜が砂が崩れ落ちるように消えていく。 その代わりに、ナイフを突き刺した人物の姿が明瞭に現れてきた。 北高の長袖セーラー服に包まれたかつての一年五組の委員長が、さっきの九曜に勝るとも劣らない笑みを浮かべてそこに存在していた。 「あら、残念。ついでにあなたも殺せると思ったのに」 「…………朝倉か」 「ええ、そうよ。他に誰かいる?」 ナイフの柄を握る朝倉の握る手と、その刃を白刃取りしている長門の手が、ともに震えていた。両者ともその手に尋常でないエネルギーを注ぎこんでいるようだった。 「協力に感謝する。また会えてうれしい」 長門がそう言った、本当にうれしそうな口調で。 言っておくが俺は全くうれしくないぞ。二度も殺されかけた相手を歓迎するほど、俺はマゾじゃない。 「命じられたから来ただけよ。でも、私も長門さんに会えてうれしいわ」 ナイフは依然として小刻みに震え続けていた。 「あなたの再構成は、敵性存在排除のための措置。彼の殺害は、情報統合思念体の総意に反する」 「そうですよ、朝倉さん」 俺の背後から喜緑さんの声が聞こえた。彼女もいつの間にかすっかり回復したようだ。 喜緑さんはさらに何か呪文のようなものを唱えた。 すると、朝倉と長門の間で震えていたナイフがまるで霧のように消え去った。 と同時に、宙に浮いていた俺の体が床に下ろされる。 「つまんないわね」 「喜緑江美里は私ほど甘くはない。次は有機情報連結解除ではすまなくなる。自重して」 長門が淡々とした口調でそう言った。 「そういえば、あのとき長門さんの処分が決まってたら、処分実行者は喜緑さんになる予定だったんだっけ?」 あのときって、昨年の12月18日のことか? 「情報統合思念体の総意は、不処分と結論付けました。現時点において過去に仮定を持ち込むことには意味がありません」 「まっ、そうだけどね」 朝倉は俺に視線を向けて、 「近いうちに二年五組に転入予定だからよろしくね」 そう言い残すと、部屋から去っていった。 「おい、長門。これはどういうことだ?」 「朝倉涼子は、私のバックアップとして再構成された。今後も広域帯宇宙存在の攻撃の可能性は否定できない。それに備えるため。私と喜緑江美里が監視するので危険性はない」 「そうは言ってもだな……」 たった今だって殺されかけたんだぞ。はいそうですか、ってわけにはいかないだろ。 「彼女は私の最初の友人。仲良くしてほしい」 長門、友達はよく選んだ方がいいぞ。 「さて、このお二人はどうしましょうか」 古泉が、ハルヒと佐々木を見下ろしていた。喜緑さんの呪文で元通りに切り離された二人の意識はまだ回復してない。この状態でいきなり目を覚まされても対応に困るが。 「二人の記憶は改竄しておく。最小限の情報操作でこの事件自体なかったことにする」 「まあ、それが無難でしょうね」 何はともあれ、最大の脅威と見られていた周防九曜は消滅した。 代わりに危ない奴が復活しちまったし、佐々木を巡る『機関』やらの今後の動きは気になるところだが、とりあえずこれはこれで一件落着だろうと、俺は思った。 しかし、それは甘い見通しだった。 γ-最終章 週明け、学校での昼休み。 毎日弁当を作ってくるのに飽きたらしいハルヒが以前のように学食に向けて飛び出していった後に、俺のクラスに朝比奈さんが訪ねてきた。 「キョンくん、ちょっといいですか?」 はいはい。朝比奈さんのお誘いならば、どこへでも参りますよ。 朝比奈さんに連れられて、俺は学校の屋上にやってきた。 朝比奈さんは、どこか元気がなさそうな様子だった。いったい何があったんですか? 「TPDDがなくなっちゃいました……」 ポツリとつぶやかれたその言葉の意味を理解するまで、十秒ほどの時間がかかった。 「どういうことです?」 「あの事件のあと、家に帰った直後でした。いきなりなくなっちゃったんです」 「どうして?」 「原因は分かりません」 「涼宮ハルヒの情報改変能力によるものと思われる」 突然、背後から聞こえてきた声に振り向くと、そこには、長門と喜緑さんがいた。 「我々も、広域帯宇宙存在、情報統合思念体及びすべての急進派インターフェースの消滅を確認した」 長門は、淡々ととてつもないことを告げてきた。 なんだって? 九曜の親玉と、長門の親玉と、朝倉とその仲間がまるごと消えただと!? 「記憶の消去ぐらいでは、涼宮さんの無意識は騙せなかったということでしょう」 長門たちの背後から、ニヤケハンサム野郎が現れた。 「俺にも分かるように説明しろ」 「要するに、涼宮さんは、我々SOS団を脅かす恐れがある存在を、丸ごと消去したわけですよ。二度とあんなことが起きないようにね」 さらに続ける。 「時間航行技術を奪い取って未来人の介入を排除し、強大な宇宙存在を消滅させ、危険な急進派TFEIも消し去った。そして、最後に、自分の『力』も封印した」 今、なんていった!? 「自分の『力』の存在こそが、危険を呼び寄せる原因になったと理解したのでしょう。ちなみにいうと、涼宮さんの『力』が封印されたのと同時に、我々の能力も消滅しました。類推するに、佐々木さんの『力』と橘さんたちの能力も、同様の経過をたどっているでしょうね」 あまりのことに、俺は声も出ない。 「とはいっても、『力』が完全に消滅したわけではありません。封印されただけで、また復活する可能性もあります。よって、『機関』も残ることになりました。 規模は最小限まで縮小されますが、鶴屋家がスポンサーとして残ってくれることになりましたので、資金的には困りません。僕の役割も今までどおりです。橘さんの組織も、同様でしょうね」 「私たちはどうするのですか?」 喜緑さんが、長門をにらみつけるように見ていた。 「我々は、情報統合思念体から与えられた任務を継続する。涼宮ハルヒの『力』が完全に消滅したわけではない以上、自律進化の可能性はまだ残っている。我々は観測を継続すべき。『力』の封印が解かれれば、情報統合思念体が復活する可能性もある」 その言葉に喜緑さんは目を見開いていたが、やがていつもの表情に戻ると、こう答えた。 「監査役として、プレジデントの御命令は、合理的なものと認めます」 「地球上の残存全インターフェースにこの旨を命ずる。……伝達完了」 「私はどうしましょうか……?」 朝比奈さんがポツリとつぶやいた。 そうだ。朝比奈さんは、帰る場所も手段も失った上に、組織のバックを完全に失ってしまったんだ。今まで生活費をどうしていたのかは不明だが、組織の支援がなければだいぶ厳しいことになるだろう。 「私の部屋に来ればよい」 意外なことに長門がそう提案した。 「いいんですか?」 「個体単体でも、生活費を捻出できる程度の情報操作能力は残っている。問題はない」 さらに、古泉が助け舟を出してきた。 「お金にお困りでしたら『機関』からも援助はしますよ。それに、鶴屋さんに頼めば、事情を詮索してくることもなく援助してくれるでしょう」 「ありがとうございます」 朝比奈さんは深々と頭を下げた。 放課後。 学外団員の佐々木もやってきて、団活となった。 長門は黙々と本を読み、朝比奈さんはメイド姿でお茶をいれ、俺は象棋で古泉を打ち負かし、佐々木は小難しい口調で俺と古泉の一手一手にツッコミをいれ、ハルヒはパソコンでネットサーフィン。 全くいつもどおりで、昼休みのトンデモ話が嘘じゃないかと疑いたくなるほどだった。 長門がパタンと本を閉じて、その日の活動は終了した。 あの下り坂を集団で下校し、やがてみんなと別れて一人になる。 釈然としない思いが脳裏を渦巻いていた。 今回のことは、古泉たちや橘たちにとってみれば悪くない結果だろうが、とてもじゃないがハッピーエンドとはいえない。 朝比奈さんは、帰る場所と手段を奪われた。何事にも前向きな朝比奈さんだが、さすがにこれはつらいだろう。 長門と喜緑さんは、親兄弟を殺されたも同然だ。今思い返してみれば、あのときの喜緑さんは、親を殺されたことに怒っていたんじゃないのか? 長門がああいうふうに言いくるめなければ、どんな事態になっていたことか……。 ハルヒよ、もうちょっとなんとかならなかったのか? 「納得してないようだね」 思わず振り向くと、そこには佐々木がいた。 「ずっと後ろをつけてきたのに気づかないなんて、よほど思考に没頭していたか、あるいは、上の空だったのか」 どっちも正解という気がするな。 「橘さんからだいたいの事情は聞いたよ。朝比奈さんや長門さんたちにとっては気の毒な結果になったけど、完全なハッピーエンドなんて、物語の世界にしか存在しないものだ。僕は、この結果はバッドエンドよりはマシなものとして受け入れざるをえないと思う。 それに、涼宮さんは意識してこうしたわけでもない。彼女を責めるのは酷というものだ」 それは解ってるつもりなんだが。 「それに、これは僕のせいなのかもしれない」 なんだと? 「涼宮さんと融合したときに、僕の意識が彼女の無意識に混入した可能性は否定できないってことだよ。涼宮さんが僕に課した入団試験の七番目の問いを覚えてるかい?」 なんだったかな? 「『何でもできるとしたら、何をする?』だよ」 ああ、確かそんな質問だったな。 「あのときは紙には書かなかったけど、それに対する僕の答えが、今の事態に近いんだ。時間航行技術を奪い取って未来人の介入を排除し、強大な宇宙存在を消滅させ、危険な宇宙人を消し去り、そして、最後に自分の『何でもできる力』を封印する」 そのまんまじゃねぇか……。 確かに、二人が融合したときに、ハルヒの無意識にそれが混入した可能性を否定はできんな。 「だから、恨むなら僕を恨んでもらいたい」 佐々木はそういうと、きびすを返した。 家に帰ると、自分の部屋に直行して、ベッドの上に寝っころがった。 釈然としない思いは解消されなかったが、それとは別に、脳の奥に何かが引っかかったような感じがとれなかった。 それの正体が判明するまで、五分ほどの時間が必要だった。 そうだ! あのいけ好かない未来野郎。 あいつは、結局、今回は俺たちの前に姿を見せなかった。 奴は、いったいどこに行きやがったんだ? ────ソシテ、トウトツニ、スベテガ、アンテン──── γ-エピローグ────あるいは、αおよびβへのプロローグ とある時間軸のとある時間平面。 ────報告受領。時間軸γの消滅を確認。原時間平面にすみやかに帰還せよ。 「フン。くだらん」 彼は、さきほど未来の組織に簡潔な報告を送信し終わったところだった。 分岐点のほとんどは安定的なものだが、たまにある不安定な分岐点はイレギュラーを引き起こし、規定事項を破壊する。だから、消去する。 まったくもってくだらない任務だった。 しかし、『力』を涼宮ハルヒから佐々木とやらに移し、その力で時空連続体を再構築する────そのときまでは、黙々と任務を遂行して、組織に忠実なフリをしておく必要がある。 彼──便宜上『藤原』の名を騙る彼──は、何か決意を固めたような表情をすると、TPDDを起動した。 『機関』時空工作部の保管記録より。 ────上級工作員朝比奈みくるより、最高評議会各評議員へ。消去対象時間軸237個のうち236個の消去任務完了。 ────時空観測局より、最高評議会各評議員へ。消去対象時間軸237個のうち236個の消滅を確認。 ────時空観測局より、最高評議会各評議員へ。消去対象時間軸γは、別組織による時間工作により消滅したことを確認。 ────最高評議会代表長門有希より、各評議員へ。統合時空補正計画SOSパート8パターンAフェーズ1の完了を確認し、フェーズ2に移行することに異議はないか? ────異議なし。 ────異議なし。 ────異議なし。 ────異議なし。 ────異議なし。 ────全会一致で可決と認める。 ────最高評議会代表長門有希より、上級工作員朝比奈みくるへ。統合時空補正計画SOSパート8パターンAフェーズ2へ移行せよ。なお、当該任務中は上級権限2級を付与する。 ────上級工作員朝比奈みくるより、最高評議会各評議員へ。命令受領。工作活動をフェーズ2へ移行します。
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「なぁ長門、最近皆が自分のエピソードを語ってるみたいなんだが。お前もやってみないか?」 いい。私には語る事など何もない。 「そんな事言うなよ。今までお前がどれだけ成長したかこの眼で見てきているんだ。だから、 俺はもっと知りたいお前の事」 ……そう。あなたがそう言うなら。 「そっか、んじゃ試しにやってみてくれ」 長門有希。 「長門よ、名前だけじゃ何も伝わらないと思うぞ…。仕方ない俺が見本ってやつを見せてやるよ。 問題ないな?」 問題ない、あなたに任せる。 「この話は私が現在に至るまで経緯の一部でしかない。だが、私の胸中に抱き続けた心を垣間見る ことが出来るはず。こんな感じでどうだ?」 …解った。ユニーク。 「ユニークかどうかは解らないがな。タイトル何がいい?」 解らない。でも、恋がいいかもしれない。 「はっは、まさか長門の口から恋なんて聞けるとは思わなかったな。んじゃ、始めるか」 了解した。長門有希の恋心はじまり。 ――長門有希の恋心―― 私は蓄積したエラーに耐えきる事が出来なくなり世界改変を行った。私の残した世界再改変の鍵を 集めた彼。私はヒトで在りたいと願った。 だが彼はヒトである私より、インターフェースである私を選んでくれた。 私はそれに喜びという感情を抱いた。 そして、一時的であるにしろ情報統合思念体を消失させた私は、処罰を逃れる術は無かった。 それは当然の業。だが、彼はそんな私を責めたりしなかった。むしろ、私の存在を許してくれた。 彼の言葉が私を救ってくれたあの日、私は彼に恋をした。 私は今まで自分に蓄積していたエラーに対する価値観が変わった。今までは只、理解不能なデータの 塊でしかないと思っていた。だが、彼が教えてくれた。『それは、お前の心だと』 私は、ヒトに成れるのだろうか。彼と同じ道を、同じ速度で歩けるのだろうか。だが、それは叶わない。 私は情報統合思念体により製造された、只の端末に過ぎない。 自分の存在する理由、此処にいる理由。 涼宮ハルヒを観察する為。只、それだけなのだから。それ以上望んではいけない。 私は今日も自分を殺して、彼等と共にいる。 二年への進級を間近に控えた春休みのとある一日。私はSOS団の団活に強制的に参加させられていた。 いつもと同じ場所、同じ時間に。私には世界観など無かった、そんな漠然としたものを模索するより、 自らに与えられた役目を全うするのに徹していた。 だが、いつからだろう。同じ場所でも季節事に見れる景色、物、人全てが違う。 その様な事を過去に考えた覚えなどない。そう考えると自分がおかしく思える。 私は今日も待つ、皆より早く定位置にて時間まで待機する。 だが、あの日からこうしていつも最後に来る彼を待つ時間が幸せだった。そう、思える様になった。 最近の私は物事をなるべく論理的に考えない様にしている。そのせいか、見える景色が全て違う物に、 綺麗に見えた。彼のくれたアドバイスのお陰。 まだ時は八時一分五十二秒。ふと思い付いた様に空を仰ぐ、空はクレヨンで塗り潰した様に蒼く澄み わたっている。早朝の風は清んでいる。それを肌で感じるのが最近出来た楽しみの一つ。 「おはようごさいます。相変わらず早いですね、長門さん」 見慣れた人物が声を掛けてきた。古泉一樹、彼はいつも決まってこの時間に来る。私は黙って頷く。 それがいつもと変わらない古泉一樹との挨拶。 古泉一樹は黙って私の隣に立ち、左腕にはめた腕時計に視線を落とした。 私には時計など必要ない。それが私はヒトとは違うという証拠。…やめよう考えたくない。 「遅いですね皆さん」 「あなたの到着が予定時刻より早いだけ」 彼は少し苦笑いを浮かべ、気を取り直す様に咳払いをした。 「罰金は勘弁して頂きたいですからね。それに、彼の役目の一つでも有ります。それを涼宮さんも望んで いるんじゃないでしょうか」 そう。私にはその理屈は理解不能。 「微妙な乙女心といいますか、これに付いては解ってしまうとしか言えませんが。勿論、涼宮さん限定です」 そう。 私がそれだけ言葉を返すと、古泉一樹はそれ以降黙り込んでしまった。 きっと、彼なりに私に気を遣ったのだろう。 暫くして、朝比奈みくるが到着した。 「ごめんなさい、お待たせして」 深々とお辞儀をすると、満面の笑みを浮かべている。何故、そんなに意味もなく笑顔を作れるのか 私には理解出来なかった。 朝比奈みくるは古泉一樹の隣に立つと、楽しげに会話を始めた。 私は黙って彼を待つ。早く会いたい。 八時四十分二十三秒、涼宮ハルヒが到着した。 「皆、おっはよー!バカキョンは……うんうん居ないわね」 元気よく声を張り上げた後、彼を探す為か辺りを見回した。その後、何故か嬉しそうに何か含んだ笑みを 浮かべていた。これが古泉一樹の言う、微妙な乙女心というものなのだろうか? 理解不能。 最後になった彼を待ちながら楽しげに会話をする三人を眺める。やはり、私は浮いた存在なのだろうか。 必要最低限の質問ぐらいしかされない。 涼宮ハルヒが到着して間もなく彼が到着した。 彼の体は上下に揺らす程息を荒げ、急いで集合場所まで来た事を表していた。 そんな彼に向かって涼宮ハルヒはいつもと変わらない決まり文句を言う。 「遅い!罰金!」 自分と然程大差はないだろうに、それでは余りにも彼が理不尽だ。 「今日こそお前より早く着いたと思ったんだがな…はぁはぁ…あーぁ。たく、仕方ないな」 彼は皮肉っぽくそう言葉を漏らした後、私に視線を送ってきた。 「長門、おはよう」 「……よう」 思った様に言葉が出なかった。だが、彼は満足そうに笑顔を浮かべていた。何故? 「ちょっとキョン!さっさと来ないと置いて行くわよ!」 気付いたら三人は既に喫茶店へと向かっていた。 彼は「へいへい」と気だるそうに答えた後、再び私の方に向き直す。 「行こうぜ長門」 コクりと頷く。少し前を歩く彼の背中を眺めているだけで、何故か私は満たされた。 こうしている間にも、私の中に大量のエラーが蓄積していく。内容は理解不能。でも、何故か胸が苦しくなる。 これが彼の言う心なのだろうか? 喫茶店にて、各々自分の飲み物を頼んだ後、涼宮ハルヒがいつもの様に二本だけ爪楊枝の尖端を赤く塗り、 拳で握ると皆の前に突き出す。 私が引いたのは尖端の赤い楊枝。最後に引いた彼も赤い楊枝。これは本当に嬉しかった。 少しでも彼と二人きりでいられる。そう思うと心が踊る様だった。 だが、それを快く思わない人物がいた。言わずと知れた涼宮ハルヒ。彼女は唇をカモノハシの様に尖らせ、 不機嫌オーラを発しつつ頼んだアイスコーヒーを一気に飲み干し、独りで喫茶店を出た。 「何怒ってんだあいつ」 彼が呆れた眼差しで出入口を眺めている。 「おや、そんな事も解らないんですか?」 「そうですよ、キョン君。乙女心は繊細なんです。私達も行きましょうか」 二人も続いて出入口に向かう。それを追うようにして私達も付いて行く。 「一体何だってんだ?」 彼がぼそりと呟いた。彼は未だに涼宮ハルヒの好意に気付いていない模様。 彼と涼宮ハルヒが交際すれば、涼宮ハルヒに多大な影響を及ぼすかも知れない。それは、情報統合思念体が 待望している自律進化の可能性が秘められているかもしれない。 だが、もう一つ。涼宮ハルヒの能力が消滅するかもしれない。だが、これは私の見解であって総意ではない。 可能性に付いての報告をしていない。彼の身を再び危険に晒してはいけないのだ。 だが、私は何故こんなに苦しいのだろう。解らない。 だが、知りたいとは思う。でも理解しない方が良いのかも知れない。 最後に会計を済ませた彼が喫茶店から出て来ると私の隣に並ぶ。 「何回も言ってるけど、デートじゃないんだからね!?解ってんの!?」 涼宮ハルヒの怒号が頭に響く。 「解ってるって、お前こそしっかりやれよ」 「い、言われなくたって解ってるわよ!」 涼宮ハルヒは踵を返すと、肩をエベレスト山が如く突き上げ、ずかずかと歩いて行く。 その後に続いて、苦笑いを浮かべながら二人が付いて行く。 「さてと、何処に行こうか長門。やっぱり図書館か?」 …図書館。彼は私と二人になると必ず図書館に連れて行く。やはり私と一緒では退屈なのだろうか? そんなに私の相手は苦痛なのか。 私は自分が頭を横に振っているのに気付く。自身でも予期出来ない行動。 「嫌なのか?なら何処がいいかな。行きたい所あるか?とは言ってもこの周辺しか無理だぞ?」 行きたい所……。私は今までその様な事を考えた事は無かった。正直、反応に困った。 黙り込む私を見て察してくれたのか彼は。 「すまん。別に困らせたかった訳じゃないんだ。いきなり言われても思い付かないよな。 取り敢えず、散歩でもするか」 私は頷いた。やはり彼は優しい。私をまるで自分の妹を見る様な慈しむ瞳で見ている。 私は彼にとって妹、又は子供の様な感覚なのだろうか。 暫く歩くと、遊歩道の並木道へと出る。時間も早い為か、ウォーキングや犬の散歩などをする若年層から 高齢層がちらほらと見える。 右手に見える畔の水面が微風に揺らぎ、そこに注がれる太陽光が反射しキラキラと輝いている。 そんな一足早い春を感じながら、私は彼と並ぶ様に歩いている。 初めは彼の二歩後ろを付いて歩いていたのだが、今は隣を歩く事が私にとって至福の時なのだろう。 そう、思いたい。 「どうした?何か良い事でもあったのか?」 彼は微笑を浮かべながら私を見下ろす。 別に何もない。 私は素気ない態度で返す。最近は、極力思考や感情を表面に出さない様に心掛けている。 以前の私には必要なかったのだが、今の私にはそうして自分の役割を遂行する為に必要な処置なのだ。 他との境界線を引く、それが長門有希という個体が在るべき姿。 望んではいけない。求めたら私はもう戻れなくなる。 だが、彼は表面に出さない私の感情を、数少ないだろう情報から汲み取ってくる。 それは正直に言えば、嬉しいという表現に当てはまるものを私は感じている。だから、彼にだけは許してしまう。 だが私は自分の感情を表現に結び付けるプロセスを知らない。 そんな、私の素気ない態度など気にする様な素振りを見せずに、彼は「そっか」と一言呟いた後、 「ならいいんだ」と続ける。 彼は安堵したかの様に、優しく微笑んでいる。 私といる時、多くを語らない彼。やはり私といると退屈なのだろうか。そう思うと胸が苦しい。 ベンチに腰を下ろした彼に続き、その横に私も腰を下ろす。二人の間に開いた一人分のスペース。 それが私と彼との距離を表している。 それを自らが作り出し、落胆していると思うと酷く滑稽な有り様だ。 そんな私の心境を見抜いたのか彼が口を開く。 「どうした?やっぱ悩み事とかあるんじゃないか?俺で良ければ力になるが」 「……問題ない」 そう答えるしか私は術を知らない。彼は少し困った様に顔を顰めていた。 暫しの間、沈黙が続く。でも、彼と私の間ではそれが通常であり、むしろ言葉を交す事の方が少ないだろう。 私の語彙が少ない為と思われる。様々な書物等から得た情報を基に、日常に用いられる会話を想定し シュミレーションを行った事がある。だが、私には柔軟な会話は不可能とも言えるぐらい酷い結果だった。 先に沈黙を破ったのは彼だった。 「喉渇かないか?」 特に活動に支障を気足す程水分を浪費している訳でもなかったのだが、此処は彼の好意に甘えておくべきだろうか。 「ジュース」 「幅が広いな、好きな物は無いのか?」 頭を掻きながら苦笑いを浮かべる彼。 「甘い物」 私がそう答えると彼は。 「んじゃその検索項目から俺の独断で決めさせて貰うが構わないか?」 彼が選んでくれる物なら尚更問題はない。 「ない」 「了解、じゃちょっと待っててな」 そう言い残し、小走りで自販機に向かう彼の背中を眺めていたら、不思議と楽しい気持ちになる。 だがそれが同時に恐怖でもあった。 恐らく私はこの任務を終了した時、異常処理を起こした不良端末として削除されるだろう。 彼との過ごした時間、それは賭けがえの無い大切なもの。私は今過ごすこの平穏な日々を噛み締める様に、 記憶媒体へと記録していく。 「待たせたな」 彼に手渡される350mlのアップルジュース。 「俺の奢りだ」 私は彼から缶に視線を落としプルタブを引く。プシュッと音を起てると同時に林檎独特の甘い香りが漂う。 私がそれを口元に運び、チビチビと飲みながら目の前の景色を眺めてると。 隣からプシュッとプルタブを引く音がすると同時に、独特な甘い香りがしてきた。缶を傾けゴクリと三回程喉を 鳴らした後、私の視線に気付いたのか微笑みながら。「飲みたいのか?」と一言。 私が頷くと彼は嫌な顔一つせず私に缶を手渡す。 それを私は一口含んだ。薬の様な味がするのに、妙に甘ったるい。この喉がチリチリとする感覚は炭酸だろうか。 初めて飲んだそれをしげしげと見つめていると。 「どうだ?コーラは美味いか?」 と聞いてくる。正直、二択から選択するとなると迷う。 私が悩んでいるのを汲み取ったのか彼は。 「無理して答える事ないさ。俺も最初飲んだ時、思わず顔を歪めたしな。でも慣れたら結構美味いんだよな」 何かを思う様に空を仰ぐ彼から自然に溢れ出す笑い声。そんな彼を見て、私も口元が緩んでしまう。 「何だ、笑えるんじゃないかお前も」 迂濶だった。よもや彼に見られてしまうとは。 「笑ってなどいない」 「何強がってんだ?いいじゃないか、それだけ長門が成長したって事だろ?」 思わず口から溢れた否定句。だが、彼に言いくるめられてしまう。反論の一つも浮かばない。 暫くして、彼の携帯に着信が入る。恐らく、口振りからして涼宮ハルヒだろう。 電話を切り、苦笑いを浮かべながら彼は。 「戻るか」 と一言言った後、ベンチから立ち上がる。私もそれに続いて立ち上がり、先を歩く彼に付いて行く。 無言なまま二人並んで歩く並木道、私は彼の手にそっと触れてみた。 最初は驚いたのか目を丸くしていたが、私の意図を理解したのか。「仕方ないな」と呟くと、私の手を握り返してきた。 大きな手、温もり、この繋がりだけで私の中のエラーが消えていく。 少し恥じらう様にはにかむ彼を見上げ、私は思う。 私がここにいる理由。 私が私である理由。 彼と生きたい。 そう、私はヒトとして彼と共に過ごしたい。 それはきっと叶わぬ儚い願い。 でも、信じたい。 いつかその日は訪れると―― おしまい。
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「やれやれ」 あの言葉が愛しい もういちど聞きたい でももうあいつはいない ――――――― 北高を卒業、自然とSOS団は解散した。 あたりまえのことでしょうね。だって部活だもん あたしはあたしのレベルにあった大学へ進学した。 ホントはキョンといっしょの大学に行きたかったけど あいつは卒業とほぼ同時に田舎へ引っ越した。 おばあちゃんが亡くなったらしいわ。それでおじいちゃんひとりで可愛そうだからってキョン一家は田舎に帰った。 他の三人とは音信不通。あたしにまわりで変化したことってのは4人がいなくなった。それだけ。 それだけなんだけど、あたしにとってはそれだけなんてことばじゃ済ませられない。だってあたしはみんなの事がホントに・・・。 もうひとつ変わったような気がするのは、なんか最近おもいどおりに事が進まなくなったの。北高にいる時はなんだか自分が望む事が何気に上手くいってたような気がするの。結局宇宙人やら未来人。異世界人や超能力者が現れる事はなかったけど。 どうしてでしょうね 最初の何日かは。キョンと電話しまくったわ。 でも五日目からつながらなくなって・・・。 いったいどういうことよあたしのこと嫌いになったの?? 「・・・・・」 ひとりでイライラしてひとりで虚しくなる。 SOS団があればみんなにあたることもできるのに。 何で今日あたしがなんてこんなに憂鬱かというと、今日はあたしにとっていろいろなことがあった日なの。おかげで朝から思い出し憂鬱よ。朝からそんなことができたのは、今日は大学休んだから。北高を卒業してから3年間ずっとこの日は休んで思い出し憂鬱よ。嫌になっちゃう もうずっと会えないのかもなぁ・・・。 会いたいなぁ・・・。 「やれやれ」 あの言葉が愛しい もう一度聞きたい でもあいつはいない 「・・・・っ!」 あたしは駅前で人目をはばからず叫んだ。 「団長の命令よっ!SOS団集まりなさい!」 まわりの人がかわいそうな人を見る眼であたしを見ている。 「なにしてんのよみんな!早く来なさい!」 笑っている人もいる、でも全然きにならなかった。 「遅れたら・・えぐっ・・・罰金なんだからね!」 私は泣いた。みんなが来ないことなんて知っていた。 でもわたしはみんなに会いたかった。 とくにあのアホ面に・・・。 「うわぁーーんっ・・・・!」 わたしは大声で泣き叫んだ。 「みんなぁー!!古泉君!みくるちゃん!・・えぐっ・・・キョン!」 「わかったから、もう泣くな」 「え?!」 キョンが私を抱きしめていた。 「え?!なんで・・・?なんでここにいるのよ」 「まったく・・・・あれから携帯壊れちゃってな。お前の電話番号もわからなくなっちまったんだ。それでお前をどうやって探そうかと思ってたら、駅前で泣き叫んでるバカみつけて・・」 「そうじゃない!なんでここにいるのよ」 「じいちゃんがこっちに住みたいっていいだしてな」 「じゃ、じゃぁまたキョンここに住むの?」 「いま言っただろうが。そうだ」 「うわぁーん、キョン!!えぐっ」 あたしはキョンを力の限り抱きしめた。 嬉しかった。こんなに嬉しいのはSOS団発足を思いついたとき以来よ。キョン・・・! 「ハルヒ・・」 「ん?なによ」 「俺とはまた奇跡的に会えたわけだがなぁ。残念だが他の三人は無理だろう。お前も十分わかってるはずだ」 「・・・うん。そうよね」 「さすが元SOS団団長様だ。さてこれからどう」 「おひさしぶりですね。お2人とも」 「こっ・・・古泉くん!」 「なっ・・・なんでお前がここにいやがる」 そこにはひさしぶりにみたニヤケ顔があった。古泉くんだ。 「涼宮さんの能力が復活しましてね。また僕も神人狩りの重労働なアルバイトができます」 え?なにいってんの?? 「ってことは・・・」 「ええ、もうすぐ来ると思いますよ」 「あっ!」 ひさしぶりでもなんでも忘れない二人がそこにいた。 「お久しぶりですみなさん。また会えて嬉しいです」 あいかわらずのナイスバディにそれに似合わない可愛い顔。みくるちゃんだった。 「本当にっ・・・本当によかったです。またあえて・・・」 みくるちゃんは泣いていた。それ以上に私は泣いていた。 誰かがハンカチを手渡した。有希だ。 「拭いて。」 「ひさしぶりね・・」 「わたし個人としても大変嬉しく思っている」 「それより今日は七夕ですが。またみんなでなにかやりませんか」 「・・・みんな!」 あたしはみんなに抱きついた。もう絶対に・・・絶対にはなさない! 「SOS団、発進よ!!」 ――――――完
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エピローグ あれから二ヶ月が過ぎた。ハカセくんは無事大学に合格し、実験を再開している。進捗状況はあまり目を見張るほどのものではなさそうだが、一歩ずつ時間平面について勉強しているようだ。あれこれ苦労しているハカセくんを長門と朝比奈さんが温かく見守っている。ハルヒの目が温かすぎてプレッシャーにならないようにいろいろと配慮はしているのだが。 「そういえばキョン、メモリカードどこにやったの?」 「あのメモリカード壊れてるぞ。今のパソコンだとちゃんと読めない規格だったらしい」 「むー」 ハルヒは口を尖らせて、どうしてもあの続きを見たい風だった。 「続きはそのうち分かるだろ、少なくともお前自身なんだから」 「そうね。未来のあたしが満足してるなら、それでいいわ」 なんとかあきらめてくれたようだ。ワームホールも無事閉鎖したし、しばらくはおとなしくしてくれると助かる。すくなくとも次の「ひらめいた」の号砲が出るまでは。 しばらくして朝比奈さんは自分の時代に戻ることになった。ハルヒのタイムマシン開発は俺と長門と古泉でコントロールできそうなので、問題はないだろうということだった。 「とりあえずは安全だということが分かったので、帰りますね」 「そうですか。俺としてはずっといてくれたほうが心強いですが」 「わたしがいなくても大丈夫よ。でも、あまり急いでタイムマシンを作ってしまわないようにしてね」 今すぐにでも欲しがっているハルヒを抑えるには、それはもっとも難しい問題ですが。 「また来るわ。必要なときが来たらね」 「ええ。じゃ、未来で」 朝比奈さんは右手をニギニギしてニッコリと笑った。俺が瞬きをすると、もうそこにあるのは可憐な姿の名残だけだった。 就業時間が過ぎ、日が暮れたので帰ろうとしたが長門の姿が見当たらなかった。カバンはまだ机の足元に置いてある。古泉もハカセくんも知らないと言っていた。 「有希ならエレベータの前で見たわよ。三階に行ったんじゃない?」 俺がさっき開発部の連中とミーティングしていたときにはいなかった。たぶん屋上だろう。俺は紙コップのコーヒーを二つ持ってエレベータに乗った。 今日の長門は少し変だった。なにか思いつめているような、俺にしか分からない微妙な感情のゆれがあった。 「長門、こんなところにいたら風邪ひくぞ」 ヒューマノイドインターフェイスがかかるようなウィルスがあったら、人類は壊滅してるかもしれない。などとどうでもいい突込みを思い浮かべつつ、長門にコーヒーを渡した。 「……」 長門は手すりに寄りかかって遠くを眺めていた。 「どうしたんだ?」 「……考えごと」 長門が思案にふけるなんて珍しい。 「愚痴だったら聞くぞ。心配ごとでもいい」 「……試算のこと。数々の失敗のこと」 「試算って、時間が分岐した二十九パターンのことか」 「……そう」 タイムマシン開発をどうやって進めるか、あの二十九回繰り返した時間は長門の手の中で行われたテストのようなものだった。 「時間をループさせるってどうやってやったんだ?」 「……正確にはループではなく、この銀河のスナップショットを取って当該ポイントに復帰させただけ」 簡単に言ってるが、えらく壮大な話だ。膨大な情報量だろう。 「失敗って、ひどかったのか」 「……時間移動技術によって文明が崩壊したパターンもあった」 「そうなのか」 「……人生が大幅に変わった人もいた」 「朝比奈さんに子供が生まれたときは正直驚いたが」 「……すまなかったと思っている」 「たしか本人は幸せそのものだったぞ。白馬の王子様みたいな人と結婚できたんだから」 「……あなたが覚えているのは、わたしがパラメータを変更してやり直したパターン。失恋する朝比奈みくるも存在した」 「そうだったのか」 「……」 いつになく、元気がない。どう慰めていいのか分からないが、俺の記憶にない部分でかなりこみいった経験をしたらしい。 「長門がどういう視点で歴史を見ているのか俺には分からんが、昔からよく言うだろ、後悔先に立たずって」 「……そう。時間は、やり直せないから価値があるのかもしれない」 「そうかもしれん。だから失敗しないように努力するのかもな」 簡単に修正できるなら、間違いもないだろうが成長もしないだろう。 「……わたしたちは十分に成長していないのかもしれない」 長門は夜空を見上げて言葉を継いだ。 「……時間を操作するほどには、まだ」 時間がなんなのか俺には分からん。それぞれの心の中にあるものなのか、それとも誰かが決めた一分一秒という単位なのか。本当はそんなものは存在しなくて、俺たちが時間だと思ってチクタクと長さを計りながら過ごしているだけなのか。 もしかしたら、誰かのコーヒーカップの上でぐるぐると渦を巻いているミルクの中の、小さな粒子のひとつのように人生を過ごしているだけなのかも。 「……そうかもしれない」 ── わたしたちの存在は、もっと大きななにかの一部に過ぎない。 長門のその言葉には、自戒と反省と懺悔と、それから未来へのなにかが込められていた。 「まあそう気に病むな。自分で言ったろ、お前はお前の思うところをやればいいんだと思う。未来における自分の責任は今の自分が負う、だったっけ。それが、」 「……わたしたちの、未来」 冷たい風に混じって粉雪が降り始めた。俺はコートを開いて長門の体を包んだ。二人で、舞い降りてくる雪をじっと見つめていた。 END 目次へ戻る
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キョン「よ、おはよう」 ハルヒ「おはよ!相変わらず朝から気合の入ってない顔してるわねえ」 キョン「普通の朝はこれが標準なんだよ」 朝倉「あらキョン君、おはよう。今日も元気そうね」 キョン「あ、ああ。おはよう」 ハルヒ(フン!イヤなヤツがきたわ。外ヅラはかわいい顔してるけど、 腹の中じゃなに考えてるかわかったもんじゃないわね。この前 私の体操服が盗られたことだって、きっとコイツの仕業に違いないわ) 朝倉「あれ、涼宮さんどうしたの?急に静かになっちゃって。気分でも悪いの?」 ハルヒ(ええそうよ。あんたのせいでね!) キョン「朝倉、コイツの面倒はオレが見るから大丈夫だ」 そういうと朝倉は目をうっすら細くして答えた。 朝倉「あらそう?じゃ、キョン君にお願いするわ」 そういうと朝倉は女子の輪の中へ戻っていった。 キョン「おいハルヒ、朝倉のことがあんまり好きじゃないのは見ててわかるんだが、 せめて朝のあいさつぐらいしたらどうだ?一応委員長だしな」 ハルヒ「関係ないわ。私はね、アイツみたいに狸の皮をかぶって本性を隠してるようなヤツが 大嫌いなのよ!有希が言ってたけど、中学時代のアイツは今から想像できないくらい 荒れてたらしいわよ。アイツ高校に入ってからずっと猫かぶりっぱなしよ」 キョン「その話が本当だとしてもだ。あいさつぐらいは別にかまわんじゃないか。 それにお前は本性を現しすぎなんだよ。もうちょっとおしとやかにしてみろ。 きっと朝倉くらい人気が出ると思うぞ」 ハルヒ「フン!アホくさい。それに前言ったでしょ!アイツ私の体操服を」 キョン「しっ!・・その話は言わないっていったろ。朝倉がやったっていう確証がないんだ。 それに今お前が朝倉とおおっぴらに対立したら、ますますクラスで孤立することになるんだぞ?」 キョンは大きくため息をついた。 キョン(なんだってコイツは社交性が皆無なんだ?) 2時間目は体育だった。女子は体育館でバスケットボール、 男子はグラウンドでトラック競技である。 キョン(ハルヒのヤツ、朝倉とケンカしなきゃいいんだが・・・) 谷口「ようキョン、どうした?恋煩いか?」 キョン「ドアホ、・・・なんでもねえよ」 谷口「ははあ・・・お前、もしかして涼宮のこと考えてたな」 キョン(ドキッ) 谷口「お前は考えてることがすぐ顔に出るからな・・・ 今朝の涼宮と朝倉、一触即発だったじゃねえか」 キョン「な、なんでそんなことお前に・・」 谷口「バーカ、よく見てりゃそんぐらいわかるんだよ。涼宮が朝倉をにらむ目は ハンパじゃねえからな」 キョン(・・・・・・) 谷口「でも朝倉と対立するのはよくねえな・・・アイツは1年のアイドルとして 名前が知られちゃいるが、本性はなかなか黒い性格してるってウワサだからな」 キョン「それ、本当か?」 谷口「ああ。朝倉と同じ中学出身のヤツに聞いたんだが、中3のときアイツと ケンカした女子がいたらしいんだ。理由まではわからんがな。 そしたら次の日から、おそらく朝倉の命令だろうな。その女子が徹底的に 無視され始めたんだとさ。かわいそうに、その子は一週間あまりで 登校拒否になったらしい」 キョン「・・・マジかよ」 谷口「さあな。オレが真相を確かめたわけじゃないから断言はできんが、 ともかく朝倉だけは敵に回さないほうがよさそうだぜ。涼宮には お前からよく言って聞かせとけよ」 キョン「・・・一応、忠告として受け取っておくよ」 一方そのころ、体育館では・・・ 現在、ハルヒ率いる赤チームと朝倉率いる青チームの試合が行われていた。 別に二人がキャプテンをつとめているわけではないが、飛びぬけて 運動能力の高い両者は試合全般にかけて活躍し通しであった。 瀬能「涼宮さんて運動神経抜群ねえ」 阪中「そうよね。ちょっと憧れちゃうのよね」 瀬能「それに、朝倉さんもすごいよね。さっきから5回連続でシュート決めてるわ」 阪中「あの二人、あんなにすごいのに運動部入ってないのよね」 朝倉(涼宮さん、さっきから少し目障りね・・・) 朝倉はすっと目を細めてハルヒを見た。それからチームメイトに耳打ちをはじめた。 現在、オフェンスはハルヒチームである。ハルヒは華麗なドリブルで 敵ディフェンスの輪をかいくぐり、ゴール近くまで進んでいた。 ボールを奪いにきたディフェンスの一人がハルヒにすかされて 大きくバランスを崩し、派手に転んだときであった。 転んだと同時に朝倉はハルヒに体当たりをかけた。 ハルヒは大きく飛ばされ、床に倒れた。 ハルヒ「いったぁ・・・」 見るとハルヒはわき腹を痛めたのか、手を当てたまま動かなかった。 朝倉「涼宮さんッ!大丈夫!」 朝倉は大げさに声を上げると、ハルヒにかけよった。 朝倉「ごめんなさいね。ちょっと力が入りすぎてしまったの。さ、手を貸すわ」 ハルヒは一瞬朝倉を睨んだが、すぐに目をそらした。 ハルヒ「・・・いいわ。自分で立てるから」 朝倉「あらそう、それなら安心したわ」 そう言いながら、再び朝倉は目を細めた。 朝倉のタックルは、直前にころんだ女子のせいで審判の目が行き届かなかったらしく、 不問とされたようだった。 その後試合は、ハルヒがわき腹を痛めたせいで思ったように攻撃ができず、 防戦一方となった。 結果的には、朝倉チームにかなりの得点差をつけられた末、ハルヒチームは敗れた。 朝倉「まったく、うまいことやってくれたわね」 鈴木「アンタのタックルもかなりえげつなかったわよ?涼宮のヤツ、 かなり痛そうにしてたわね。骨にヒビでも入ったんじゃない?」 朝倉「そのときはね、お見舞いにでも行ってあげたらいいのよ」 女子A「キャハハハ!涼宮かわいそー!」 2限終了後、朝倉たちは水のみ場で、えらくわかりやすい悪事の解説を行っていた。 長門「・・・・・そこ、使っていい?」 朝倉「あら?長門さんじゃない。こんなところに何の用?」 長門「次の時間は書道。水を汲みにきた」 朝倉「ふーん・・・あ、そうそう。あなたのサークルの団長さんね、さっきの体育の時間に ケガしちゃったみたいなの。私が心配してたって後で伝えといてちょうだい」 長門「・・・そう」 水を汲み終わった長門はすぐに教室に帰っていった。 朝倉「あいかわらず愛想のない子ねえ・・・」 鈴木「なに?あの陰気なヤツ」 朝倉「私の幼馴染よ。無表情な子だから何考えてるのかよくわからないの」 女子A「涼子、あんなのとつるんでたの?」 朝倉「ま、腐れ縁てヤツね。住んでる場所も同じマンションだし」 鈴木「・・・ふーん。アンタとは全然性格あわなさそうね」 キョン(次は数学か・・・ま、授業を聞くだけ無駄だな。それにしても、 体育が終わってからのハルヒはいつに増して不機嫌そうな顔してるな。 まさか朝倉とケンカしたんじゃ・・・) キョン「おいハルヒどうしたんだ?浮かない顔して、具合でも悪いのか?」 ハルヒ「なんでもないわ。ちょっとわき腹を痛めただけよ」 キョン「運動神経のいいお前がケガしたのか。めずらしいこともあるもんだ。 保健室には行ったのか?」 ハルヒ「たいしたことないわ。ほっときゃすぐに治るわよ」 その後ハルヒは、昼休みまでずっと不機嫌オーラを放ち続けていた。 昼休みになると、すぐに教室を出て行った。 谷口「おいキョン、どうやら2限の体育でひと悶着あったらしいぞ」 キョン「まさか、ハルヒと朝倉がケンカしたのか?そういやアイツ 体育が終わってからずっと不機嫌だったしな」 谷口「いや、ケンカってワケじゃないみたいだが、朝倉と涼宮が接触プレーしたらしいんだ」 キョン(それでアイツ、わき腹を痛めたって言ってたのか) 谷口「その接触プレーだがな。ただのハプニングじゃないらしいぞ」 キョン「どういうことだ?」 谷口「真相は不明だが、その接触プレーは朝倉が仕組んだってウワサが流れてるんだ」 キョン「おい、そりゃ本当か!」 谷口「だからウワサだって。しかし涼宮にとっちゃ、あまり状況はよくないみたいだな」 キョン(たしかに今のままでは、近いうちに大きな衝突が起きることは 火を見るより明らかだ。それにウワサが本当だとすれば、ハルヒに非はない。 一体どうすれば・・・) 谷口「ま、お前もそろそろ真剣に考えたほうがいいぞ。手遅れにならないうちにな」 なぜかこのクラスでは、オレはハルヒのお目付け役というポジションに付けられているようだ。 それというのも、オレたちが高校に入学して間もないころに、 オレはハルヒがでっちあげたSOS団などというオカルトサークルに 強制的に加入されられたからだ。 それ以来、オレは社交性0のハルヒとクラスとのパイプ役を勤めているってわけだ。 弁当を食い終わるとオレは文芸部部室に向かった。 ……表向きは文芸部であるが、その実体はハルヒが作ったSOS団などという わけのわからないサークルの巣窟となっている。 オレは部室のドアを開けると、中にいた少女に声をかけた。 キョン「よ、長門。いつもご苦労なこったな」 長門は奥の机でハードカバーの本を読んでいた。彼女はただ一人の文芸部員であったが、 ハルヒに目を付けられたのが運のつきであった。それ以来ハルヒがこの部室に居座るようになり、 文芸部は今や有名無実化していた。・・・まあ、長門にしてみればハルヒがいてもいなくても 読書できることに変わりはないのであろう。 キョン「ちょっと聞きたいことがあるんだ」 そういうと長門は本を閉じ、オレに視線を移した。 長門「なに?」 キョン「朝倉涼子・・・って知ってるだろ」 長門「私の幼馴染」 キョン「その朝倉について、詳しく教えてもらいたいんだ」 長門「なぜ?」 そういいながら長門はまっすぐにオレの目を見つめてくる。・・・うーん、なんだか居心地が悪いな。 キョン「その、うまく言えないんだが、ハルヒのヤツが朝倉と仲悪くてな。 どうにかして仲良くしてもらいたいと思ってるんだ」 長門「朝倉涼子と涼宮ハルヒの性格は水と油。仲良くするのは困難であるように思う」 それぐらいはオレにもわかるんだが。 キョン「うーん、そこをなんとかだな・・・そうそう、朝倉ってどんな性格してるんだ?」 長門「彼女の性格は表面に現れているものがすべてではない。常に本音を隠しながら 人と接している」 キョン「てことはだな。表面上は仲良く接しているように見えても、 実はソイツのことを嫌っているってこともあったりするのか?」 長門「今までの経験上、そういうことは多い」 やっぱりそうか・・・本性が黒いってウワサももしかしたら本当かもしれんな。 キョン「なんでそこまでわかるんだ?アイツはお前にだけは本音を話しているのか?」 長門「彼女は表面的には誰に対しても同じ接し方をする。・・・でも、私にはなんとなくわかる」 幼馴染だけに性格の深いとこまで理解してるってことか。 キョン「そうか・・・ありがとな、長門」 長門「気をつけて」 キョン「ん、なにがだ?」 長門「彼女は敵意を抱いた相手に、決して直接に敵意を見せるようなことはしない」 …なるほどな。こりゃハルヒでも手に負えないかもしれん。 結局その日はハルヒの機嫌が直ることはなかった。 次の日、ハルヒのことが心配だったオレは少し早めに学校に着いた。 朝倉「あら、キョン君おはよう」 キョン「あ、ああ。おはよう」 教室に入ると、なぜか朝倉がハルヒの机の上に腰かけていた。 キョン「なんでお前がハルヒの席にいるんだ?」 朝倉「あら、ちょっとぐらい貸してもらってもいいんじゃない?まだ涼宮さんきてないみたいだしね。 それより少しお話しない?」 キョン「それは別にかまわんが・・・」 オレは戸惑いつつも朝倉をの会話を楽しんでいた。しかし、やがてハルヒが 教室に来る時間となった。 ハルヒは自分の席に朝倉がいるのを一瞥すると、さっさと教室から出て行ってしまった。 朝倉「あれ、涼宮さんあわててどこ行ったのかな?トイレかな?」 キョン「・・・朝倉、お前に聞きたいことがある」 朝倉「なあに?」 彼女は目を細めて聞き返した。 キョン「お前、昨日の体育の時間にハルヒにケガさせたんだよな?」 朝倉「涼宮さんには悪いことしちゃったわね。・・・昨日から心配だったの」 キョン「そのことだがな・・・お前がわざとやったんじゃないかってウワサを聞いた。 まさかとは思うが念のため聞いておきたい。それは本当のことか?」 朝倉「・・・ひどいこというのね。私がクラスメートをわざとケガさせるように見えるの?」 朝倉は大げさに、心外だという身振りをしながらそういった。 心底、疑われたことが悲しいという表情をみせながら。 キョン「ウワサが気になったんでな。直接確認したかったんだ。・・・疑って悪かった」 朝倉「疑いが晴れたならそれでいいわ」 彼女はオレに満面の笑みを見せると、自分の席に戻っていった。 しばらくしてハルヒが戻ってくると、ほぼ同時に担任が教室に入ってきてHRとなった。 そして、1時間目の間中ずっとオレはハルヒの不機嫌オーラを背中で受け続けていた。 ハルヒ「あんた、委員長萌えだったの?」 キョン「なんのことだ?」 休み時間になると、さっそくハルヒはオレに喰ってかかってきた。 ハルヒ「さっき朝倉とうれしそうに話してたじゃないの」 キョン「別にうれしそうじゃねえよ」 ハルヒ「鼻の下伸ばしてたクセに何言ってんのよ。おかげで私が遅刻するとこだったのよ」 キョン「朝倉なんて気にせず教室に入ってきたらよかったんだよ」 ハルヒ「アイツの顔なんて見たくもないわ!」 キョン「お、おい、あんまりでかい声だすな。聞こえるだろ」 ハルヒ「知ったこっちゃないわよ!」 そういうとハルヒは、女子グループの輪の中心で微笑んでいる朝倉を睨んだ。 視線に気づいたのか、朝倉はハルヒのほうをチラっと見て、それからこのオレに 微笑みかけてきた。 ハルヒ「・・・ふーん、朝倉もまんざらじゃないみたいね。よかったじゃない!」 キョン「お前、なに勘違いしてるんだ?」 ハルヒ「フン!」 ハルヒは窓の外に目をやると、それ以上は口をきかなかった。 その後もダウナーなオーラを無差別に拡散するハルヒに耐えながら、なんとか午前の授業が終了した。 国木田「涼宮さん、今日も機嫌悪そうだったね。やっぱりウワサ本当だったのかな?」 キョン「さあな」 谷口「あの様子だとそろそろ全面戦争も近いぜ。・・・ところでお前、今朝朝倉と 仲良く話してなかったか?」 キョン「しらねーよ。向こうから話しかけてきただけだ」 谷口「涼宮を裏切ろうってのか?ま、お前がどっちにつこうが知ったこっちゃないが、 お前に見捨てられたら涼宮はこのクラスで孤立するってことは忘れるなよ」 キョン「人の話を聞かないヤツだな・・・そもそもハルヒが孤立してんのは、 アイツが自ら招いた事態じゃねえか」 谷口「あれでも中学のころに比べたらだいぶマシになってるんだぜ?・・・たしかに 朝倉がかわいいのは認めるが、安易な乗り換えはオレをはじめとする男子軍団が 黙っちゃいないぞ」 国木田「そうそう。キョンには涼宮さんがお似合いってことだよ」 勝手なことばかり言いやがって。涼宮にせよ朝倉にせよ、オレに選択権はないのか。 ……っと、こんなことコイツらに聞かれようもんなら公開処刑されかねんな。 教室で弁当を食い終わると、オレはまた部室へと向かった。 キョン「よ、長門・・・はいないみたいだな」 めずらしく今日は長門が来ていなかった。 やれやれ、ハルヒと朝倉のことを相談しようと思ったんだが。 オレはイスを引いて腰かけた。 しばらくすると部室をノックする音が聞こえた。 キョン「どうぞ、空いてますよ」 朝倉「ちょっとお邪魔するわね」 なんと、入ってきたのは朝倉だった。 キョン「こんなところまで何の用だ?・・・教室じゃ言えないようなことか?」 朝倉「あら、つれないこというのね。わざわざあなたに会いにきた女の子に対して」 朝倉は笑顔を崩さずに話を続けた。 朝倉「アナタ、長門さんに私のことを聞いたみたいね」 キョン「・・・長門がそう言ってたのか?」 朝倉「あの子はそんなおしゃべりじゃないわ。ただ昨日からのあなたを見てて そう思っただけ。影でこそこそされるのはあまり好きじゃないの」 えらくストレートにきたな。一瞬あっけにとられてしまった。 キョン「それは悪かった。じゃ、オレもストレートに言わせてもらうよ。 ・・・あまりハルヒを刺激しないでほしい」 朝倉「それこそ心外ね。私は涼宮さんと仲良くしたいと思ってるわ。 あの子、クラスで孤立気味だから・・・あなただけには心を開いてるようだけど?」 不意にそう言われて顔が赤くなってしまった。・・・コイツはなかなかの強敵だな。 オレの表情を見た朝倉は、満面の笑みで話を続けた。 今度はオレが朝倉を見つめる番だった。 朝倉「なあにキョン君?・・・そうね、もしかしたら私も彼女の気に障ることを してたのかもしれないわ。今後は気をつけるってことで、ここは納得してくれない?」 キョン「・・・わかった。くれぐれも頼む」 朝倉「あなたにここまで心配してもらえるなんて、なんだか涼宮さんがうらやましいわ。 じゃ、そろそろ私はこの辺で。あなたたちもほどほどに教室に戻るのよ?」 そういうと朝倉は教室へ帰っていった。 彼女が帰ったあと、オレは再びイスに座りなおして大きくため息をついた。 キョン「なあ長門、今の朝倉の言葉、どう思う?」 長門「なんで私に聞くの?」 キョン「いや、お前ならアイツが本心から言ったかどうかわかるかな、と思ってさ」 長門「あなたはわからないの?」 たしかに、アイツと付き合いの浅いオレでも今のセリフは本心から言ってないってことは なんとなくわかる。 しかし、今日の長門は妙に冷たい気がするな・・・ 長門「私はどちらの肩も持たない。だからあなたの味方はできない」 長門の言葉を聞いてオレは驚いた。長門がはっきりとした意思表示をするなんて、 かなりめずらしいことだからである。 ・・・まあ、考えてみればかたや幼馴染、かたやSOS団団長の揉め事だ。 どちらか片側につきたくない気持ちは察せられる。 キョン「すまなかったな長門。ま、相談ぐらいには乗ってくれよ」 そういうと長門は黙ってうなずいた。 2話
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涼宮ハルヒの消失・舞台挨拶レポート新宿バルト9(2010年02月06日 9 20の回上映終了後) シネマサンシャイン池袋(2010年02月06日 11 25の回上映終了後) 京都シネマ(2010年02月20日 11 05の回終了後と、同14 30の回上映前) 京成ローザ10(2010年03月06日 11 50の回終了後、16 00の回上映前) サンフランシスコ Viz Cinema(2010年05月21日 19 00の回上映前)※現地時間 シネマート新宿(2010年12月04日 13 00) 涼宮ハルヒの消失・舞台挨拶レポート 新宿バルト9(2010年02月06日 9 20の回上映終了後) 登壇者:平野綾・杉田智和・茅原実里・後藤邑子・小野大輔・桑谷夏子・松岡由貴・あおきさやか・武本康弘監督・石原立也総監督・白石稔(司会)・松元恵(司会) 涼宮ハルヒの消失 特設ファンサイト 涼宮ハルヒの消失初日舞台挨拶レポート! http //www.haruhi.tv/fanclub/syoshitsu_special_report.html シネマサンシャイン池袋(2010年02月06日 11 25の回上映終了後) 登壇者:平野綾・杉田智和・茅原実里・後藤邑子・小野大輔・桑谷夏子・松岡由貴・あおきさやか・武本康弘監督・石原立也総監督・白石稔(司会)・松元恵(司会) 電撃オンライン SOS団と愉快な仲間たちが池袋に登場! 映画『ハルヒ』舞台あいさつレポ http //news.dengeki.com/elem/000/000/234/234758/ 京都シネマ(2010年02月20日 11 05の回終了後と、同14 30の回上映前) 登壇者:白石稔(司会)・池田晶子・西屋太志・伊藤敦 京都シネマ イベントリポート http //www.kyotocinema.jp/report/re2010/re_2010_03.html 速記:アニメ映画板本スレPart46 458,487 458 名前:見ろ!名無しがゴミのようだ![sage] 投稿日:2010/02/20(土) 17 05 51 ID ix1vCjPn おまたせ、とりあえず前半な どこか記憶違いとか俺の主観が入ってるかも知らんが たぶんだいたいあってるはず 京都舞台挨拶レポ(1回目の方)① まず白石が出てきて池田、西屋、伊藤Pの順に登場 各々軽い挨拶のあとにまずそれぞれのお気に入りシーンについての話 池田: 絵コンテが上がってきた段階で「おっ!」と思ったのが屋上のシーン ただ「キョン、そこまでやっていいのか?w」と思ったらしい。 おそらく男が女にあんなことするのって、普通アレだよね的な意味で 西屋: 今回はアクションシーンはほとんど無いがその分キャラの表情、心情といった部分を 強く打ち出せた、そんな中でお気に入りなのはキョンが栞を見つけるとこと谷口と口論するとこ。 うまく描けてたらいいなーって言ってた そこで白石が一生懸命演じましたアピール→会場笑→なんで笑うの!?→拍手といった流れになる 伊藤P: とにかく朝倉のおでんのシーンがお気に入り、特に帰りの鍋つかみをしたままのエレベーターシーン そしてその後の鍋つかみをしたまま手を振ったところ、ここが一番怖くて綺麗だと言ってた。 なんでも鍋つかみが萌えポイント、あれをつけてないとだめだとか。 製作時からずっと言ってるらしい それで朝倉おでんの開発を提案したのも伊藤Pらしい、もう少しで劇場にも並ぶと言っていたが 既にグッズのとこで一緒に売ってたやつのことを言っているのかは不明 白石: ハルヒが寝袋から出てきた直後の手ぐしで髪を直してるシーン ここには西屋も同意してた 487 名前:見ろ!名無しがゴミのようだ![sage] 投稿日:2010/02/20(土) 17 51 37 ID ix1vCjPn 続き。 京都舞台挨拶レポ(1回目の方)② 製作時における印象に残った出来事について 池田: 夏にキャラ設定を作っていたが屋上のシーンのキョンの格好をどうするか、 暖かい格好にするべきなどと話し合っているとき 武本「半纏に病室スリッパがイイ!!(・∀・)」 他スタッフ一同「えっ」 みたいなことになっていたらしい、結局はパジャマの上にコート、ちゃんとした靴に落ち着いたが。 西屋: ない…w、必死すぎて、とのこと。コンテが多く2000カットくらいあったとか 怒涛のように早く過ぎ去ったと言ってた。 伊藤P: まずキョンのコートについて。もしやと思い武本に確認してみたら 案の定、踊る大捜査線の青島刑事のコートをモチーフにしてるのだと。 もうひとつ、みのりん、白石、伊藤Pとその他スタッフの8人ほどで 長門と朝倉のマンションに現地取材に行った際の話。 マンションを見ていたら中からリアル管理人さんが出てきて、てっきり怒られるのかと思ったら 「谷川先生のファンの方ですか?」と、あろうことかみのりんに問いかけたらしい みのりんも「はい、ファンですー」みたいな感じで答えたとか。 それでスタッフであることは打ち明けられなかったそうだ。 一応取材なので早々に退却というわけにはいかなかったのだが 「いつまでいられますか?」と管理人に邪魔者扱いっぽく言われたため しかたなく後ろ髪惹かれる思いで帰ったらしい。 白石: 優しい忘却のPV撮影に立ち会ったらしいが、 みのりんファンの学生が見に来てて、なぜかその子たちをずっと 白石が対応していたらしいが一切自分が誰か気付いてもらえなかったらしい。 みのりんファンの文芸部の子がみのりんに挨拶に行ったが白石の前は素通りだったとも言ってた。 また、東京での舞台挨拶後の話で、メインキャストは出待ちされてるから メインキャストの面々が出て行って出待ちのほとんどがいなくなってから出ていったが その際、残ってた出待ちの人たちが白石よりも一緒にいたランティスの斎藤Pの名前を呼んでて 白石は通り過ぎた後に「あれ、白石じゃね?」とか言われてたそうだ。 話は大体こんなもん、声優陣の舞台挨拶とはまた違った話が聞けただろうと思う。 京成ローザ10(2010年03月06日 11 50の回終了後、16 00の回上映前) 登壇者:茅原実里・後藤邑子・桑谷夏子・松岡由貴・松元恵(司会)・西山洋介(司会) 涼宮ハルヒの消失・舞台挨拶レポート(京成1回目) 涼宮ハルヒの消失・舞台挨拶レポート(京成2回目) (長文のためページ分割しました) サンフランシスコ Viz Cinema(2010年05月21日 19 00の回上映前)※現地時間 登壇者:Christina Vee(ASOS Brigade団長) 涼宮ハルヒの消失・舞台挨拶レポート(サンフランシスコ) 喜緑さんの保管庫 そうだサンフランシスコへ行こう サンフランシスコから還つつある男 サンフランシスコから還ってきた男 今日もやられやく 映画『涼宮ハルヒの消失』 サンフランシスコまで見に行った人のレポ Youtube 動画(1) 動画(2) 動画(3) ASOS Brigade! Episode 8 - The Disappearance of Haruhi Suzumiya U.S. Premiere Highlights (ASOS団公式。日本語インタビューあり) シネマート新宿(2010年12月04日 13 00) 登壇者:茅原実里・松岡由貴・西山洋介(司会) 速記:アニメ映画板本スレPart143 356 356 見ろ!名無しがゴミのようだ! sage 2010/12/05(日) 00 40 25 ID CksTCQ8G 「あーあー、えー皆さん、本日はですね、劇場版涼宮ハルヒの消失、えー、BD、DVD発売記念限定上映&舞台挨拶にお越し頂きまして誠にありがとうございます。」 \パチパチ/ \ワーワー/ \うおぉぉん/ 「ありがとうございます。私今回、司会の方つとめさせていただきます角川書店の西山と申します、よろしくお願いします。」 \パチパチ/ \ヒュー/ 「ありがとうございます。えーとお約束ですけれども、先にちょっと諸ちゅっ諸注意の方させてください。えーと携帯電話の方、電源切るなり、音のでないようにするなりしといてください、ご協力よろしくお願いします。」 「撮影録音は勿論禁止とさせて戴いております。こちらもご協力お願いいたします。もし発覚しちゃった場合最悪、舞台挨拶の方中止となっちゃうかもしれないので、ご協力の方よろしくお願いします。」 (※速記に関しては言及無し(重要)) 「えー後はですね、他のお客様のご迷惑になるようなことをしないでいただければ全然問題ないかと思いますので、短い時間ではございますが、舞台挨拶の方お楽しみいただければと思います。」 「では早速ですね、ゲストのお二人をお呼びしたいと思いますので、皆さん、あのー、拍手の準備は大丈夫ですかね?」 \パチパチパチ/ 「大丈夫ですね!ありがとうございます。ではですね、お呼びしたいので盛大な拍手でお出迎えください、えー長門有希役、茅原実里さん、そして鶴屋さん役、松岡由貴さんでーす」 (二人が右翼より入場、登壇) \パチパチパチ/ \みのりーん/ \あ゛あぁぁぁあっ!/ 366 見ろ!名無しがゴミのようだ! sage 2010/12/05(日) 00 56 44 ID CksTCQ8G \みのりん愛してる!/ 西山「ははっ、サイリウム振ってますねw落ちついてぇっw」 「えー早速ですね、お二人から簡単に自己紹介の方お願いいたします。では、茅原さんからお願いします。」 茅原「はいっ、みなさん、こんにちはー」 \こーんにーちわぁぁぁぁぁ!/ 「んー、凄いですねw沢山皆さん来て戴いて嬉しいです!長門有希役の茅原実里です!よろしくおねがいしまーす」 \パチパチパチ/ \ヒューゥッ/ 松岡「みなさーん!めがっさげんきにょろー?」 \うおおぉぉぉぉぉ!/ 「鶴屋さん役の松岡由貴でーす!こんにちはー!」 \……こんにちはー/ 「……はいっ。」 \ドッw/ 「みなさん、ね、あのー、みのりんみのりーんって、みのりんみのりーん・・・・・・」 \まつおかさーん!/ \ゆきちゃーん!/ 「あ、やった、よかったそういう黄色い声援がね、私も、欲しいなーって思ってw」 西山「黄色いのかなw」 松岡「野太い声援がねwよかったよかった、元気が出ましたwありがとうございます、よろしくお願いしまーす!」 西山「はい、ありがとうございまーす」 \パチパチパチ/ 368 見ろ!名無しがゴミのようだ! sage 2010/12/05(日) 01 13 16 ID CksTCQ8G 西山「では、えー、限られた時間ではございますが、ゲストのお二人にですね、この涼宮ハルヒの消失という作品についていくつかお伺いしたいなと思っております。」 「まずですね、当然作品の始まる前に涼宮ハルヒの消失という作品の脚本を渡されてご覧頂いたかと思うんですけど、まずその時のご感想をお聞きしたいなーと思うんですが、茅原さんいかがでしたか?」(松岡さんを見て問いかける) 茅原「はいっ!?えーっとォ、」 \ドッw/ 松岡「ずっと私のこと見てましたよ今w」 茅原「鏡やハルヒの消失は小説、まぁ読んでいたので改めて台本いただいて、中をこう読んで、先ず一番最初にびっくりしたのは、台本の厚さ?大きさ?重さ?私、劇場版が初めてだったので涼宮ハルヒの消失が、なので台本の厚さに驚いて、その後はキョンの台詞の量に驚いて」 \ワハハハハ/ 「そして、その後は小説の中にはないオリジナルのシーンとかが詰め込まれているのにちょっと感動して、いろいろびっくりしました。」 西山「そうですね、まず分厚いって部分から言えば、」 茅原「すごいですよねー!」 西山「アニメ映画の中でもかなりの長編なので、本当に尺が長いのと、」 松岡「何分有るんでしたっけ?」 西山「えーと2時間…あー、2時間43分くらいですね」 松岡「そんな長いんだー!」 西山「あとは今出てきたキョンの台詞、」 松岡「ねー、ほとんどキョンでしたもん」 西山「杉田さんへろへろになってましたよねwまーでもね、あのー、杉田さんの渾身の演技が当然この後スクリーンで見れる訳なんでね、杉田君頑張ったなーと思って皆さん見て戴けると、ね、思います。」 372 見ろ!名無しがゴミのようだ! sage 2010/12/05(日) 01 27 43 ID CksTCQ8G 西山「松岡さんはどうでしたか?」 松岡「全く同じ意見です」 西山「全く同じ?w」 松岡「2番目はそうだなーっておもってきいてましたwあのね、2版に別れてるの、あまりの多さにw劇場版って、厚くても一冊で、重たいなーって思いながらやったりするんだけど、 今回の消失のは、その劇場の重たいなーって思うのが2冊有るの。上・下みたいな。で私収録の時どっち持ってけばいいんだろーとか思いながら確かに半端無い、 初めて劇場やるんだったら、他の劇場そんな、タウンページみたいになってないw」 茅原「ほんとにタウンページみたいだったねw」 西山「松岡さんは他の作品で、劇場アニメってのは、既にもう」 松岡「そうですね、今公開になってるモノも、あってたりするん・・・・・・」 西山「まぁまぁ、その辺の話はね、後でこう、後ほど後ほど」 松岡「そうなんですけれども、えーと、いくつか作品をやりましたけれども、確かにあの二冊は凄いなと思ったのと、どこまで行ってもキョンなのよwあたしどこにでてんのとw」 「そうねー、あぶり出しかと思いましたよwよくよく探せばありましたよw」 西岡「いやー、この場に杉田さんがいないのが悔やまれますけどねwあのー、」 377 見ろ!名無しがゴミのようだ! sage 2010/12/05(日) 01 41 13 ID CksTCQ8G 西岡ってだれだ 西山「いやー、この場に杉田さんがいないのが悔やまれますけどねwあのー、次の質問がですね、 実はご自身のキャラクター以外で特に消失という作品の中で気になったキャラクターはいますか?っていう質問なんですけど、 まぁ、キョン、キョンはどうしても気になっちゃうとは思うんですけれども、あえてキョンを外してみると他に気に入ったキャラクター、気になったキャラクターって」 茅原「んーーーー、キョンを外すのかー、わたしねー、キョンのことそんなに意識してなかったですよ」 \おーーーっ?!/ 松岡「うーん、あたしはー、その前に舞台挨拶って前も見た人いるー?」 \はーいっ/ (かなりの人数が手を挙げる) 西山「ああ、それね、僕も聞きたかった。池袋でもやったし、千葉の方でもやりましたよね。千葉きた人?」 (かなりの人数挙手) 「おー、すごーい!」 「池袋きた人?」 (かなりの人数が挙手) 「おー!」 「バルト9来た人」 (かなりのn(ry) 西山「気のせいか同じ人が3回挙げてるような気がするんですけどもwありがたい話ですけどねw」 松岡「四回来てる人」 西岡「いますねーwありがとうございます」 茅原「ありがとうございます」 \京都は!京都は!/ 西山「あっ京都ね!京都行った人」 384 見ろ!名無しがゴミのようだ! sage 2010/12/05(日) 01 58 29 ID CksTCQ8G 西山「あっ京都ね!京都行った人」 (やっぱりいる) 西山「おおー」 松岡「すげー」 西山「京都はね、あのー、スタッフの方が行って、」 松岡「ねー、白石が行ったと噂で聞きましたけど。」 西山「私も出張で行けるかなーと思ったんですが行けなかったですねw」 松岡「千葉行ったときにさー、白石のファンが2人くらい居たのw」 西山「すみません、すみませんそのとき私が白石ですって行ったとき思いっきり滑ってこの後の流れどうしようかなーって思って、本当にスイマセンでしたw」 松岡「そんなことで私が話してたのが、桑谷夏子の殺戮シーンが一番好きです。『ゆきさん、それは、私じゃない。』ってwあそこのシーンあの作品の私は一番の目玉だと思っているんですよねー」 西山「あー、あっ!先に聞いとけばよかったんですけど、まだ見てない方、消失を」 (いくらか手が上がる) 「えぇっうそーぉ!」 「あ゛ーっ耳ふさいで!もう遅いけど!」 「あぁー」 \あーっ/ 松岡「これから私たちに与えられてる質問て、見てることを前提になってるんだよねw」 西山「ひどい仕掛けですねーwいや、あのー、フォローさせて戴きますけど、消失の小説読んでれば勿論顛末はわかっちゃう訳じゃないですか。 それでも絶対楽しめます。それはもう保証付きなんでそこはご安心ください。ネタバレしやがってって思ってるかもしれないですけれども、それ以上の、 やっぱりね、映像とか音とかのクオリティがあるので、ご安心ください。絶対大丈夫です。」 松岡「大丈夫だよ、だって桑谷夏子の殺戮シーンないもん。」 387 見ろ!名無しがゴミのようだ! sage 2010/12/05(日) 02 14 15 ID CksTCQ8G 松岡「なっちゃんは別に殺してないからねw」 西山「そうですねw」 松岡「なっちゃん役だって話ですからねw」 西山「ま、今その話出てきましたけども、茅原さんはどうですか?一押しのシーン。」 茅原「一押しのシーンですか、そうですねー、たくさんありますねー。なやむなー」 松岡「小声(かんがえとけよ!)」 茅原「そうですね、いくつもあるんです、入部届のところもそうですし、あっキョン」 松岡「キョンを外してしまうと悩むんだよね」 西山「この、お気に入りのシーンはキョン入っていてもいいですよ、キョンのシーンでもいいです」 茅原「病院でキョンが目を覚まして、あ言っていいのかなー」 西山「またやばい人耳ふさいでくださいw」 茅原「うん、キョンがー、顔を触るシーンがあって、そこがすごいきゅんとするところで、そこで初めてキョンも男の子なんだなっていうのを凄く感じて、唇も触るんですよ」 松岡「キョンっていう」 茅原「うん、なんかすごい気持ちが伝わってくるって感じで」 松岡「どうなっていくんだろうねー、あの二人ねー、」 茅原「ねー」 西山「まぁ本当になんだろう、見てない人がいる前でしゃべっちゃいけない部分、以降の見せ場が凄いですからね。ほんとに。今しゃべってるのだってほんの一部ですからね。もうフォローに必死ですけどもw」 476 見ろ!名無しがゴミのようだ! sage 2010/12/07(火) 00 40 35 ID OR+KteV3 西山「まぁ本当になんだろう、見てない人がいる前でしゃべっちゃいけない部分、以降の見せ場が凄いですからね。ほんとに。今しゃべってるのだってほんの一部ですからね。もうフォローに必死ですけどもw」 西山「ああ、あとこれはね、是非聞いてみたかったんですけど、今回消失ってああいうストーリーじゃないですか、ある日突然お二人がですね、消失のキョンと同じ立場に立たされたらどうします?」 松岡「どうする?」 茅原「どうしよーかなー」 松岡「考えとけよーw」 \ドッ/ 松岡「まぁ私はねー、私のことを知ってる人を必死で探すと思う。で、なんか、探し倒して、たった一人でもいたらほんとうわ゛あ゛ぁーー(抱きつく仕草)ってなる」 茅原「www」 松岡「確かに、こんな妄想してましたが、数秒の間に思いついた?」 茅原「思いついた、うん、私キョンと一緒だと思います。」 西山「あー、その、元に戻そうと?」 茅原「元に戻そうって言うかあの人ただハルヒに逢いたかっただけ」 \ドッ/ 茅原「多分なんか、・・・・・・あの人とか言っちゃったw」 松岡「同じ感覚?杉田君とw」 478 見ろ!名無しがゴミのようだ! sage 2010/12/07(火) 00 45 38 ID OR+KteV3 西山「なるほど、んー、わかりました、ありがとうございます。で、ここから先、矛先が変わってと言うですかね、会場にいる皆様にですねお知らせがございます」 松岡(わざとらしく)「うぇー!?」 \オオォォォ!/ 西山「けっこうね、時間がわりと早く進んでるんですよ」 松岡「もうちょっと広めてもいいよw」 西山「もうちょっと広めてもいい?w(袖のスタッフに尋ねる)」 「ああ、今ね、オッケーサインが出ました。もうちょっと広げさせて戴きたいと思いますハイ。」 松岡「わかりましたwちょっとハッピーターン食べ過ぎてw 茅原「ハピっwすごかったねーw」 松岡「楽屋でさ、『ハッピーターンがー』とか言いながら、気がついたら山ができてるんだよ、包み紙の。」 茅原「おいしかったーw」 西山「もの凄い勢いで食べられてましたよねw」 松岡「全部あけたんじゃないの?w」 茅原「ヒトフクロアケテナイデスヨーソンナンw二個ぐらいしか残ってなかったけどw」 西山「松岡さんもものすごい勢いでポテトチップス食ってましたよね」 松岡「くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」」 西山「これちょーおいしーとかいいながらw」 松岡「そう、ウチのマネージャーが買ってくれたのかわからないんだけど、カライーっていう激辛のポテトチップスがあって、凄く美味しかったよねw」 茅原「おいしかったよねー」 松岡「誰か止めてあたしを羽交い締めにしてーってw」 西山「延々食べてましたもんねw舞台挨拶前に大丈夫かなーって思ったけど」 481 見ろ!名無しがゴミのようだ! sage 2010/12/07(火) 00 51 16 ID OR+KteV3 西山「延々食べてましたもんねw舞台挨拶前に大丈夫かなーって思ったけど」 松岡「ちょっとあたしも躊躇いながらw楽しい楽屋トークを繰り広げつつ」 西山「そろそろお知らせもどっていいっスか?」 \ドッ/ 松岡「じゃあお知らせ」 西山「ええ、そうですね、まあお知らせもあるんですけども、ご自身のキャラクターとキョン以外で気になったキャラクターを未だ聞けてなかったかなーと思って。」 松岡「あたしはほら、朝倉の話をさっきして。」 西山「茅原さんからまだ聞けてなかったかなーと思って。このキャラは・・・・・・」 茅原「そうですねー。そうですねー・・・・・・」 西山「どうしてもね、消失ってお話はキョンと長門の話になってきちゃうので二人を取り除かれるとけっこう厳しいと思うんですけど、あえて。」 松岡「白石か。白石か!白石なのか」 西山「誤解されるので言っておきますけど白石さんはあくまで中の人ですからねwあの白石ってキャラは居ませんからw」 \ドッ/(居なくても笑いをとる白石) 茅原「最近白石さんに会いましたよ。久々に。」 西山「会いましたかw」 茅原「2日前くらいに。」 松岡「どうだった?」 茅原「・・・・・・元気でした。」 \ドッ/ 西山「私も会ったんですけど肉付きよくなってましたね」 松岡「なんか、ぽにょの歌歌いながらおなかつまんでるよねあの人」 茅原「うん、なんか、落ち着いた感じがしました。」 西山「いいフォローだと思いますw」 茅原「はい。」 482 見ろ!名無しがゴミのようだ! sage 2010/12/07(火) 00 56 41 ID OR+KteV3 西山「はい、というわけで気になったキャラクターは?w」 茅原「そうですね、キョン君以外って難しいなー、難しいなぁ。なんて言ったら面白いんでしょうね?」 松岡「あたしかなー?w」 \シャミセン!/ 茅原「シャミかーwうーん、でもあたし、普通にハルヒが好きだったりします。」 西山「おー、それはあの、消失の改変された世界のハルヒ、を好き?」 茅原「はい、はい。クールでね、カッコイイデス。」 西山「カッコイイデスねーw あのね、その、外見的に・・・・・・なんで笑ってるんですかw」 茅原「わかる?」 松岡「わかるーw」 西山「いつものなじみのある制服じゃなくて、よりカチッとしてなんか、よりシャンとした感じはしますよね」 松岡「ハルヒの髪長い姿が凄くびっくりしたというか印象的だったというか」 茅原「そうですよねー、存在感がなんかもう圧倒的」 484 見ろ!名無しがゴミのようだ! sage 2010/12/07(火) 01 04 00 ID OR+KteV3 西山「より長い髪のせいで、よりクールな感じがしましたよね。だけどいざこう進んでくといつものハルヒの・・・・・・」 松岡「みくるの大人にちょっと萌えた人」 \はい/ \ハイ/ (ちらほら手が上がる) 松岡「やっぱみんな巨乳が好きなのかw」 西山「しょうがないでしょうw」 茅原「しょうがないw」 松岡「おっぱい大好きなんだろ!w」 \大好きです!/ 松岡「はいっw」 西山「好きです!・・・・・・はい、ということでおっぱいの話はしまったところで、ここでそろそろ告知のコーナーに移りたいなと思ってます。あのー、楽屋で戦々恐々としてましたけど、ちゃんと言えますでしょうか?」 二人「言えます!」 西山「いえます!じゃあまず茅原さんの方からですね、情報の方、お願いします。」 茅原「はい!」 西山「はい。」 485 見ろ!名無しがゴミのようだ! sage 2010/12/07(火) 01 10 22 ID OR+KteV3 茅原「劇場版涼宮ハルヒの消失がDVDとブルーレイになって、12月18日に発売になります!・・・・・・そして、・・・」 西山「そして、?」 茅原「こちらは、限定版と、通常版、の、2種類有るので、パッケージが・・・・・・4パターン!・・・・・・」 (時間差で)\おぉ~/ 茅原「ホームページ等々で見れるんですよね?」 西山「そうですね、ホームページで絵柄確認できます、はい」 茅原「そして、」 西山「はい」 茅原「なんと」 西山「はい」 茅原「ブルーレイの、限定版、には、・・・・・・ふぅ~」 \ワハハハハ/ \ガンバレ!/ \がんばれ~/ 西山「パッケージイラストがね、BD限定版は違うじゃないですか」 茅原「いとうのいぢ先生の、書き下ろしの!」 西山「唯一いとうのいぢ先生の書き下ろしは、ブルーレイの限定版だけですね」 茅原「そうなんです!」 西山「そして!」 茅原「まだまだ終わらない、ブルーレイ限定版の方には。。。涼宮ハルヒの消失の脚本集が付きます!わ~」 \パチパチパチ/ 茅原「12月18日発売になりますので、よろしくお願いします!」 西山「はい、きちんと言えましたwありがとうございます。」 \パチパチパチ/ 488 見ろ!名無しがゴミのようだ! sage 2010/12/07(火) 01 19 57 ID OR+KteV3 西山「では続いて、松岡さんの方、お願いします」 松岡「はい、えー、こちらの新宿シネマートさんでですね、また2週間の公開があります。消失の。12月17日までの公開になるので是非皆さん来て下さい。あとですね、スタンディポップってあるじゃない、大っきい」 西山「キャラクターの画が描いてある看板みたいなモノですね、はい」 松岡「見かけたでしょ?アレも抽選でプレゼントされたりするそうなので、お見逃し無くと言うことで。」 西山「はい、そうですね、ロビーとかにも飾ってあると思うので、是非ご覧下さい。で、ロビーと言えば、ハルヒグッズが今ですね、ひしめき合ってます。新宿の劇場とは思えない、今、ハルヒグッズが一角を占めてますので是非皆さんお時間有ればね、お買い上げいただいてと、思っております、ハイ。」 茅原「はい。」 西山「はい。というわけで、以上告知コーナーでございました。」 \パチパチパチ/ 西山「台本持ってくるか持ってこないかって話をずっと控え室でしてて、」 茅原「そうなんです」 松岡「で、『無理~』っいうから大丈夫だよ~って、そしたらあーあーなんだっけなんだっけーって」 西山「でも結果的にはね、ばしっと決めていただいてよかったと。ということでですね、早いものです。もうなんとね、時間が迫って参りました。」 \えぇ~/ 489 見ろ!名無しがゴミのようだ! sage 2010/12/07(火) 01 25 50 ID OR+KteV3 \えぇ~/ 西山「ねぇ~、残酷ですねーwまぁでも劇場ってしょうがないんですよ。時間区切って端端とやっていかなきゃいけないので、ここで残念ですが最後にお二人からですね、今後のご活動、この際だから他社の作品でもいいです、今後のご活動展開等含めてお客様にですね、お別れのご挨拶の方お願いしたいと思います、はい。」 茅原「はい」 西山「それでは先ず茅原さんの方からお願いしたいと思います。」 茅原「はい!えー、今日は短い時間でしたが、お会いできてとっても嬉しかったです。えーと、えーと、涼宮ハルヒシリーズいろいろ展開していけてるのは、応援して下さってるお客様のおかげだと思います。改めて本当にどうもありがとうございます。」 \パチパチパチ/ 茅原「涼宮ハルヒの消失、とっても素敵な作品なので、ぜひ今日も楽しんでみていっていただきたいですし、18日、DVDブルーレイとして発売されますので、そちらの方も是非手に入れていただいて、お打ちの方でも楽しんでいただけたらと思います。今日はどうもありがとうございましたー!」 \パチパチパチ/ 490 見ろ!名無しがゴミのようだ! sage 2010/12/07(火) 01 35 42 ID OR+KteV3 西山「はい、ありがとうございました。では続いて松岡さんの方からもお願いします。」 松岡「はい、えーと、今日はほんとに沢山来ていただいて、なんか、入ってくるときにもうチケット売り切れましたって書いてて、流石だなーと皆熱い思いが伝わってくるなーと思いながら、わくわくしながら皆さんと会えるのを楽しみにしてきました。凄い短い時間でしたけどもね、とても楽しんで舞台挨拶ができて凄く嬉しかったです。えーそしてお知らせですが、えーとーえーとー、ブリーチ劇場版がですね、」 \ワハハハハ/ 西山「ブリーチ!?」 松岡「はい、ただいま公開中です、井上織姫出ております、是非ご覧になっていただきたいと思います。えー、年明けからですね、ドラゴンクライシスという作品に出ることになっております、是非そちらの方もご覧になっていただきたいと思います。」 「というわけで、ハルヒの方もね、又なんかね、皆さんに会えるタイミングがあるといいなと」 茅原「ねー」 松岡「ねー、思いながら頑張っていますので、これからも是非是非涼宮ハルヒの憂鬱シリーズを愛していただけたらな、嬉しいなと思ってます。今日は本当にありがとうございました!」 \パチパチパチ/ 494 見ろ!名無しがゴミのようだ! sage 2010/12/07(火) 01 47 17 ID OR+KteV3 西山「はい、それではありがとうございました、ご来場の皆様、最後にゲストのお二人に盛大な拍手をお送り下さい!茅原さん松岡さん、今日は本当にありがとうございましたー」 二人「ありかとうございましたー」 (二人退場)\ みのりーん!/ \ みのりーん!/ \愛してる!/ 西山「コレより劇場版涼宮ハルヒの消失本編の上映となります、最後までSOS団の一員として作品に参加していただけたらと思います。本日はどうもありがとうございました!」 \西ー/ 西山「あ、ありがと」 \西山ー!/ \ パチパチパチパチ/ \ピィー!(指笛)/ 西山氏、盛大に見送られながら退場 そして本編へ ロビーのポスターへのサイン 所狭しと並ぶハルヒグッズ
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