約 1,306,135 件
https://w.atwiki.jp/gundamfamily/pages/4384.html
456 名前:通常の名無しさんの3倍 :2010/08/18(水) 13 11 01 ID ??? セレーネ「キラ、ちょっといいかしら」 キラ 「なに? 今ルイズのコピペを改変する作業で忙しいんだけど」 セレーネ「そんなこと言うと、新しく設計した全自動愚弟ブッ飛ばしマスィーン ≪空から降る一億のビルギットくん≫の試運転をしちゃうわよ」 キラ 「やめてよね、そんな壊滅的なネーミングセンスの機械! ……それで、一体なんの用?」 セレーネ「私のスターゲイザーに『クンカクンカ』とか『スーハースーハー』とか 『カリカリモフモフ』とかいう単語を教えたの、あなたかしら?」 キラ 「……ッ! な、なんのことかなぁ。ぼくにはさっぱりわかんないや」 セレーネ「OK、それじゃあお礼に一ヶ月ほど再起不能にしてあげるわね」 バナージ「よかった……オードリーやマリーダさんの匂いについて教えたのはバレてない」
https://w.atwiki.jp/yuusitessen/pages/8.html
闇のにおいを、嗅ぐ。 女子高生探偵、桂木弥子の助手―――脳噛ネウロからは、人の匂いが、しない。 笹塚衛士がそれに気づくにそう時間は要せず、無意識に鼻腔をつくそれに間違いなく違和を感じる。ふとすれ違ったとき、傍に寄ったとき、その違和は笹塚をほんの少し掠めて空気に溶け込む。…それが、いやに不可思議で、いやに笹塚を安堵させるのだった。 限りない奇抜さ、限りない暗黒。 なんと形容すればいいのか、笹塚の語彙からは探り合わせない。あえていうならばそれは、限りなく血肉、それの腐った匂い、なのだった。 笹塚はこの匂いを知っていた。そして、少なからずそれを纏うものを知っていた。 X―――。 ネウロに接近するたびに、笹塚は思うのだった。Xとネウロは、完全に重なる、ということはないが、限りなく似た部分を共に持っている。Xとネウロの匂いが同じ空気を漂ったとき、それは確信的に顕著だった。そしてそのとき、笹塚の喉の奥からなんともいえぬ、吐き気、のようなものが込み上げ、無性にその場を離れたくもなった。 静かな嫌悪と混ざる重いものが、笹塚の喉の奥から―――。 「気づいているのだな―――笹塚」 それはいつのことだったか、遠からぬ日のことだった。その場に笹塚は居た。そしてネウロも、当然の如く幼い探偵の傍らに立っていた。死臭に包まれたそこに、彼はどうしようもないほどに違和感なく立っていた。涼しげな貌は、おそろしさをも超越するようだった。 桂木弥子の名推理により犯人確定と相成り、笹塚が安堵を漏らした瞬間、ふとネウロは笹塚を横切り―――。 同時に、血だまりの中のような、肉塊の山の真上のような、そんな匂いが、笹塚を横切った。 笹塚が悟っていたのを、ネウロもまた悟っていた。確信と畏怖のこころを抱いた。それはXに感じるものと似ていた。 そしてふ、と思い出して湧き上がったのは、 憎悪。 そう、歪みきった、憎悪、なの、だった。 笹塚は眼を閉じた。そこは容易に闇に包まれた。全ての色も音も失った。笹塚のそこには、いつも安息はなかった。 そうして思い出すのは、どうしても、過去のぬくもり、なのだった。
https://w.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/863.html
360 名無しさん@ピンキー sage 2009/09/11(金) 04 19 03 ID 27wBdzN1 長いようで短かった夏休みが終わり、蝉の声もなりを潜めはじめる。 学校が始まってすでに二週間が経過していた。そろそろ多くの生徒が夏休みの自堕落な生活から、普段の学校生活のリズムへと完全に移行していた。 私、北見そらや数少ない友人たちもほとんどがそうなった。と言うか、そうならざるを得なかった。 ただし、ただ一つの例外を除いて。 「おーい、景ー」 ぽふぽふと私は隣の席で夢の世界にトリップしている定山景(さだやまけい)の頭を叩く。 まだ夏休みの遅寝癖が抜けてないのか、最近はずっとこの調子で夢の世界に突入してることが多い。 「ふぇ?」景はおでこに赤く腕の当たっていた跡を残し、まだ半分夢の世界にいるような表情で不思議そうにそらを眺めていた。 よく見れば特徴的な丸眼鏡は脂でべったりで、口元には唾液の川の跡があり、まるで青いネコ型ロボットの 出した暗記用の秘密道具のように、頬に景の特徴的な丸文字で昨日の世界史の授業内容が写っていた。 「あれ?あたしいつから……」 別の世界への旅行から帰って来たばかりの景はまだ頭が回らないらしく、ただぼんやりとしている。 「四時間目の途中。ホームルームから眠たそうだったけど、昨日何やってたの?」 「四時まで全然寝れなかった……」 「自業自得。夏休みにそんな時間まで起きてたからでしょ」そう言って私は鞄からお弁当の包みを取り出す。 北見そら特製の、兄貴とお揃いのお弁当だ。 といっても同じ材料や冷凍食品を使ってる以上、お揃いになるのも当然だが。 「あと景、顔洗いに行ったほうがいいよ。ほっぺたにワシントン軍縮条約って書いてる」 しかも、主力艦の保有率までご丁寧に。 景はすぐに席を立って、教室を抜け出す。 そして景と入れ替わりになるように、よく見知った女子がお昼のパンとおにぎり、そして飲み物の入った購買のビニール袋を持って、私の机の前にやってきた。 活発なイメージを持つショートカットと、快活な笑顔。ブレザーよりも体操着のほうが似合ってそうな少女。 「そらー、生きてるー?」 「まーねー」 私の数少ない友人B、藤野千尋である。 「にしても景の顔すごくなかった?」 「うん。あれはいくらなんでもなかったと思う」 「本当。景、顔はいいのにね」 前の席の男子がどこか別の席へ移るために席を立つと、千尋は目ざとくその席をかっさらう。 昼は窓際のこの席が千尋の専用シートとなる。 「さぁーて、おっひるーおっひるー」 妙な節の歌を歌いながら、千尋は慣れた手つきで袋からメロンパンと紅茶を出して、私の机に置いてゆく。向かい合う私は千尋のスペースの外にお弁当と水筒を広げた。 「お待たせ~」 ちょうどその時、どんな熱血漢だろうと一瞬でやる気をなくすような能天気な声を出して、景が帰ってくる。 「おー、景が美人さんになって帰ってきた」 メロンパンをかじり、口をもごつかせながら千尋が言う。 えへへー。と気の抜けそうな声をあげて、机の上いっぱいにお弁当を広げた。景のお弁当はお母さんが作ってるらしく、小食の景に合わせたちいさな二段のお弁当箱だ。 「……にしても、そらのお弁当はいっつもおいしそうだよね」 千尋は私と景のお弁当と、自分のメロンパンを見比べてはぁ。とため息をつく。 「そんなことないって。冷食も結構多いよ、コレ」 「冷食でもおいしそうなものはおいしそうに見えるよ」 千尋が反論する。 「それにそらのお弁当はお兄さんのと一緒に作ってるでしょ。やっぱりお兄さんへのとめどない愛の籠った献立で作られたお弁当だからおいしく見えてるのよ……」 「何言ってるのよ千尋!」 私は反射的にばん! と机を思いっきり叩いてしまう。 周囲が潮が引いてゆくように急激にざわつきはじめ、教室にいた全員が音の中心であろう私たち三人をこわごわとした表情で眺めている。 「…………千尋が変な事言うから」 「あれ?てれ隠し?てれ隠し?」 そう言って私の頬をつついてくる千尋の頭に、私は思いっきり鉄拳を加えてやったのは言うまでもない。 361 名無しさん@ピンキー sage 2009/09/11(金) 04 19 43 ID 27wBdzN1 さっきは殴って誤魔化したものの、千尋の言ったことはあながち嘘ではない。と言うかかなり真相をついている。 兄貴のお弁当は私が妥協できる範囲内でしか手を抜いていないような一品だ。 それにおかずの入れ方も私のはそれこそ適当だが、兄貴のはきちんとおいしく見えるように配置していたりする。 (にしても、狂おしいほどの愛かぁ……) たこさんウィンナーをつまみながら、私は千尋の言葉を思い出す。 狂おしいほどの愛。とは一体どのくらいの愛のことを言うのかはわからないが、私の兄貴に対する思いはきっと、そこまではいってないだろう。 確かに兄貴のことは誰よりも好きだし、北見千歳を世界で最も愛している人間も恐らく私だろう。結婚雑誌を立ち読みして、花嫁と花婿を私と兄貴に置き換える妄想も中学のころから続いてるし、兄貴をオカズに一人でしたことなんて数えきれないほどある。 だが、狂おしいほどの愛と言うのは、例え兄妹と言う禁忌も関係なく契りを結び、自分が相手とともに破滅に向かい、全てをぶち壊してもなお揺るがないような愛のことなのだろう。 そんなものを意気地の無い私が持てるわけがない。 兄貴の人生も、自分の人生も滅茶苦茶にしてしまうようなことなど、私みたいな意気地なしには出来るはずもないだろう。 兄貴といっぱいいちゃついていたい。 兄貴と結婚したい。 兄貴といっぱいシたい。 兄貴の子供が欲しい。 兄貴とずっと、死ぬまで一緒にいたい。 そんな思いも倫理感や社会不安という巨大な隔壁の前にはかなわない。 隔壁を破れるほど思いの濁流は強くなく、ただただ悔しさと切ない思いの水かさだけが無意味に増してゆくだけだ。 「ねぇ、そら?」 千尋の突然の声に、思考が現実へと引き戻される。 「ごめん……ちょっと考えごとしてた」 まぁ、いいんだけどさ。と千尋は言うと、さっきまでしていたのであろう話を再開させる。 内容は千尋の兄で私の兄貴の数少ない友達、健史さんへの愚痴だった。 「で、うちの兄貴がまたネットオークションでまーたエアガン落として、『これで千歳に勝てる! 明日千歳に自慢してやる!』って昨日すっごい舞い上がっててさぁ……」 うんうんと千尋の会話に合わせて私と景は何度も相槌を打つ。 兄貴と健史さんの共通の趣味に、軍事というものがある。 私にはよくわからないが軍事趣味といっても結構中は広く深いらしく、兄貴と健史さんはあまり共通して好きなものは少ないらしい。 しかし中には兄貴も健史さんも珍しく気の合うモノがあり、その一つがサバゲーだった。 兄貴も小遣いをやりくりし、リサイクルショップで買い揃えた自慢の装備で健史さんや他の友達たちと近くの山で戦争ごっこを繰り広げている。 「千尋、それは私が一年前に歩んだ道だ」 私は千尋の肩をぽんぽんと叩いてやる。一年前にライフルを買ってきた時の兄貴の舞い上がりようと言えば、それはそれは酷かった。 普段滅多に感情をあらわにして喜ぶようなことがない兄貴が近年小躍りしながら喜んでいたのは、たぶん免許を取った時とそのときだけだろう。 「そうそう、千歳さんって言えばー」 景は突如思い出したように間延びした声で千尋の話に割り込んだ。 「四組の友達の話なんだけどね、四組で千歳さんのことが好きな子がいるんだってー」 私は自分の耳を疑った。 「ねぇ、景。今なんて言ったの?」私はもう一度千尋に訊く。全く意識していなかったが、私の声はかすかに震えていた。 「だからー、四組に千歳さんのことが好きな子がいるんだって」 「それ誰?」気づけば私は考えるより先に強い語調で千尋に詰めていた。「四組の誰?私の知ってる子?兄貴との接点は?」 「し……知らないよぉ……」ふるふると震える景の声に、私はやっと我を取り戻した。 「そあ、いきなりどうしたのさ」訝しげにそうに訊いてくる千尋。 私はふるふると首を横に振り、そして笑ってみせる。 「ちょっと驚いて、興奮しちゃった。兄貴のこと好きな子なんてこの世にいないと思ってたもん」 さっきとは打って変わって私たち三人の間にくすくすと微笑が生まれる。 「そら、それは酷いって」千尋が苦笑する。「ウチの兄貴ならまだしも、千歳さんならファンの一人や二人はいるはずだよ」 千尋も十分酷いってー。と景が突っ込む。 私は表情でこそ二人のやり取りに苦笑していたが、内心では焦りが抑えきれなかった。 これは昼の授業はたぶん手に着かないだろう。 362 名無しさん@ピンキー sage 2009/09/11(金) 04 21 40 ID 27wBdzN1 「でよ、終了一分前に思い切って千円余分につぎ込んだら、周りの連中がそれ以上高額出してなかったらしくて なんとか買えたんだって! 程度のいいM4A1が九千円だぜ、九千円」 いつも通りの昼下がり、俺は前の女子の席を占領し、昨日ネットオークションで落としたM4カービンの 電動ガンを自慢する健史に適当に相槌を打ちながら、そらの作った弁当をつまんでいた。 「で、送料込みだと何円なんだ?」 その瞬間、健史の顔色がまずくなり、窓の外へ急に視線を向けた。 どうせ送料やら手数料でもう二千円は取られたのだろう。 電動ガンと言うのは定価だと酷く高くつくものだが、逆に多少は安くなるオークションや通販なんかを使うと今度は重い分送料がかさむ。 そこ行くとリサイクルショップで定価の半額近い値段で電動ライフルを買えた俺はかなりラッキーな方なのかもしれない。 それでも送料を含めても健史のものとそう値段的には変わらないのだが。 「ま、とりあえず頑張れ」 俺は再び昼食を再開する。 俺が次に狙いを定めたのは冷食のミニグラタン。俺はこれが好物だったりするのだが、そらは結構、だが食い飽きない程度に弁当に入れてくれたりするのでうれしい限りだ。 「…………にしてもだ」 ミルクたっぷりの缶コーヒーに口をつけた健史が、不意に呟く。 「お前は本当にいいよなぁ。そんな見るからにうまそうな弁当を妹に作ってもらってよ」 それに比べて俺の妹は……と嘆く健史を尻目に、俺はアスパラに箸を伸ばした。 「何とか言ったらどうだよ、千歳ぇ」 俺はそれでも健史を無視して弁当を食べていた。 「大体よぉ。お前のとこの兄妹仲、異常に良くないか?」 「別に」 「いや、異常だ。大体高校生になっても同じ部屋使ってるってあたりでもう凄いぞ」 はぁ。と俺はため息をつく。 「部屋がないんだよ、ウチは」 2LDKのマンションを一部屋が父さんが使っているのだ。残った部屋を二人で使うしか無いに決まっているだろう。 「というか食いカス飛ばすなバカ。きたねーだろ」 ああ、すまん。と健史は片手を立てた。 「しかし、しかしだ」健史は俺の机を握りこぶしでとん、と叩く。 「お前は意識してなくてあれほど仲がいいとしたら、そらちゃんからお前に寄ってるなのかもしれんな」 「そんなわけあるかっつの」一応反論してみる。 「だがもしそうだとしたらだ。兄に密かな、だが強い恋心を抱く妹……兄として受け止めてやりなよ、北見千歳くん」 ……何から突っ込めばいいのやら。 大体こいつの脳内で空がどういう風に改変されているのかがとても気になる。人の妹を勝手に外道にされるのは、それこそ兄として成敗しなければならんだろう。 「そんなアニメみたいな話があるわけねーだろ。いい加減殴るぞ」 と、言う前にすでに俺の拳は健史の頭を殴っていたわけで。 別にいつも口より手が早いというわけではないものの、なぜか今日だけは手の方が早かった。 そらのことだったからか?などと疑問に思いながら、俺は頭をさする健史を眺めていた。 「で、謝罪の言葉は無しかよ」 「当然じゃ」 おれは 空になった弁当箱に蓋をして、机の横にかかった鞄を膝の上に移し、ファスナーマスコットを引っ張った。 半分ほどまでファスナーが開くと、音もなくファスナーマスコットはファスナーに結ばれた金具と分離し、マスコットを握る俺の手だけが空を掻いた。 「不吉じゃ」健史が妙な口調で言う。 「単に間の金具がガタガタなだけだよ」 しかたないのでファスナー金具の本体を握って、ファスナーを開く。そしてノートや本が詰まった鞄の中に、弁当箱を戻した。 「結構使ってるからなぁ、コレ」 塗装の禿げかかった、何年か前のアニメのヒロインを模したPVC製のマスコットは、俺の手のひらで緊張感もなく笑っていた。 363 名無しさん@ピンキー sage 2009/09/11(金) 04 22 29 ID 27wBdzN1 今日最後の授業は、よりにもよって俺の嫌いな英語のリーディングだった。 どこぞの19番目の人造人間のような風体の教師が淡々と癖のある字で書いてゆく板書を書き写しながら、しかし、頭の隅で先ほどの健史の言葉を思い出していた。 『お前は意識してなくてあれほど仲がいいとしたら、そらちゃんからお前に寄ってるなのかもしれんな』 『だがもしそうだとしたらだ。兄に密かな、だが強い恋心を抱く妹……』 そらが俺になついているのは俺もよくわかっている。だが、あくまでそれは兄妹として仲がいいというわけだ。 それにそらが俺になついてるのには、母さんが死んで以来、俺がそらの面倒を見てきたというのもあるのだろう。 しかし、そらが時折必要以上に甘えてくるのはどうだ?女の子が積極的に肌をすりつけてくるなんて、高校生になっている以上、なついている程度では説明がつかない筈だ。 それにたまにそらが送ってくる熱っぽい視線。あれはどう考えたって妹としての眼じゃない。 そして、そこで俺の脳裏をよぎったのは、夏休みのいつだかに父さんが口走った一言。 『お前じゃないと駄目なんだ』 父さんじゃ駄目で、俺じゃないと駄目なこと。やっと俺はその意味がわかりかけてきた気がする。 しかし、健史ならともかく父さんまでそらを一体どう見ているのかと疑いたくなってきた。 だがもし、もし本気でそらが俺のことを異性として愛しているとしたら。 俺はどうすればいいんだろうか。 しかし、そんな事はまずないだろう。と思考を中断し、俺は黒板に視線を戻した。 そして戻した瞬間、俺は深くため息をついた。 俺がそらの事を考えている間にも板書は早足のまま進んでおり、さっき書かれていた場所はすでにきれいさっぱり消えていた。 俺は舌打ちすると、とりあえず抜けた部分を適当な行数だけ空けて板書を書き写す作業を再開させる。 ノートはあとで健史のを見ればいいだろう。そう思って俺は健史の方を向く。 考えが甘すぎた。 健史は俺よりもっと深刻だった。夢の国と現世の間を必死に行ったり来たりしており、ノートなどとってる余裕などどこにもなさそうだ。 仕方ない。ともう諦めて、俺は空白の数行が非常に気になってゆくノートを、引き続き取ることにした。 今日最後の授業は家庭科で、黒板ではまだ若い女教師の字で食物の栄養素に関する内容が延々と書き込まれていた。 私はそれを見るでも、女教師のたどたどしい説明を聞くでもなく、ただひたすらに左手でペンを弄びながら、思考を張り巡らせていた。 兄貴のことが好きな四組の女の子。いったいどんな子なのだろうか。 もし私がその子を好きになれば、私はその子に兄貴を大人しく渡すだろうか。 …………いや、ありえない。 人一倍嫉妬深い私には、そんな真似など出きるはずがない。きっと後から酷く兄貴のことを後悔して、その女の子を脅すのがオチだ。 だが、嫉妬深いくせに人一倍臆病な私は、ドラマや映画の女の人のように、私は平然とその子を殺せるような殺人鬼にはなれないだろう。 なんて中途半端な女。私はため息をつきたくなった。 しかし、それ以前に兄貴が――北見千歳が私以外の恋愛対象になることがあり得ることを忘れていた全く油断していたとしか言いようがなかった。 まぁ、兄貴が好きなのは私以外いないなどと勝手に思っていたのがそもそもの間違いだったのだろうが。 だがもううかうかしてはいられない。 もう私だけが好きなだけじゃ北見千歳は永遠に私のものにはならない。 兄貴も私を好きになってもらわないといけない。 兄貴が私に振り向かないといけない。 兄貴が私を受け止めてくれないといけない。 そのためには。と私は左手のペンを回しながら、心の中で呟く。 兄貴に私という異性の存在を気付かせてあげないといけないわよね。 兄貴が私に恋してくれないといけないよね。 それに、私がもっと兄貴にふさわしい女の子にならないといけないよね。 待っててね。そら、世界で一番兄貴……ううん、お兄ちゃんにふさわしい女の子になってみせるから。 だから、お兄ちゃんも私がいることに気づいてね。 そうなれば。と私は授業そっちのけで、家庭科のノートに今後の計画の案をいくつも書き起こしはじめた。 家庭科の授業など聞いていなくても別段困るものではないし、それにこの授業で習うことなど、家事全般を任せられている私にとっては、とうの昔から知っているようなことだ。 364 名無しさん@ピンキー sage 2009/09/11(金) 04 23 52 ID 27wBdzN1 「付き合わせて悪いな。千歳」 そう言いながら健史は市立図書館の自動ドアをくぐる。 俺もそれに続くようにしてドアをくぐった。 「別に。それに何か面白い本が見つかるかもしれない」 この町最大の市立図書館は、何万冊もの蔵書を二階分の図書室に納めてなお、まだ閉鎖された書庫にも蔵書があるという始末で、正直本を探してさまようのもそれはそれで楽しい。 健史はそのまますたすたと周りの雑誌に目もくれず、まっすぐと小ぢんまりとしたカウンターと、巨大な吹き抜けを通り過ぎ、いくつもの背の高い書棚の林が群生するコーナーへと向かう。 健史の目的地は林に入ってすぐのコーナーだった。 機械工学。とりわけいわゆる「乗り物」関連の機械の本のコーナー。いわゆるのりもの図鑑を呼んでいたかつての男の子たちがそのままその趣味を抱えて大人になったような連中の 好きそうな本が溜まっているコーナーだ。 健史は何の迷いもなく棚の中から航空機関連の本や鉄道関連の本を無造作に一冊か二冊ひっつかみ、品定めしてゆく。 「いい本あるか?」 「新刊が入ってた」 健史は『こうして重大航空機事故は起こった』というタイトルの本を脇に抱える。 「それか?」 ん。と健史は答える。「結構おもしろそうだったからな」 ふーむ。と俺は唸りながら健史の傍を離れ、一路文学コーナーへ向かった。 文学青年という柄でもないが、俺も読みだせば週に一冊くらいのペースで小説を読んだりする。 しかしそれが外国文学や古典になると何故か妙に遅くなり、読むのに一ヶ月や二か月もかかるので、大体にして読む本は国産のできるだけ軽めの文学にしている。 「さて……と」俺は文学コーナーへ立ち入って、適当に良さそうな本は無いかと捜索を始めた。 といっても、重ったるそうな本は除外。架空戦記は読み飽きたので除外。と次々に本を除外してゆく消去法でしかないが。 そうして半ば消去法の捜索を進めてゆくうちに、俺は空色の表紙が装丁されたハードカバーの本を手に取る。 あらすじを見ると、一通の携帯メールから話が広がってゆく、まぁ楽しめそうな話だった。 よし。と俺はその本を抱えて健史の所へ戻ろうとする。 その途中だった。 書棚の林の中で、腕いっぱいに読み切れないほどの本を抱えた少女を見つけたのは。 少女は首の付け根ほどまでのびたショートヘアーで、細縁の丸っこい眼鏡。服装はうちの学校の制服を着ており、一年生の証である紺色のリボンを胸元に結んでいた。 いまどき絶滅危惧種の文学少女が、これほど完全な形で存在しているとは。 まさにトキかニホンオオカミでも見つけた感覚とはこんなものなのであろう。 少女は観光コーナーの書棚から不意に眼を離しこちらを向くと、俺の方に釘付けになる。 「あ、すみません」 やはり絶滅危惧種だとおもって凝視していたのが悪かったのか。俺はばつが悪そうにア氏は屋に健史のもとへと立ち去って行った。 健史はすんなり見つかった。ほぼ近くの棚にある兵器工学のコーナーでまた書籍を漁っていたのだ。 さきほどの文学少女ほどではないが、健史も五冊ほどの本を脇に抱えている。 「お前も見つかったか?」 「一応な」 俺は健史に向かって空色のハードカバーを掲げる。 「んじゃ、行くべ」 健史と俺は貸出カウンターへと広い図書室内を歩いていった。 貸出カウンターには前に何人か小学生がいたものの、本を借りるとすぐにどこかに消えてゆき、すぐに俺の番が回ってくる。 俺はカウンターの司書の女性に財布にはさんでいた貸出券と空色のハードカバーを差し出す。 司書さんは貸出券とハードカバーのバーコードを読み込むと、ハードカバーを俺に差し出す。俺はそれを受け取ると、鞄の中に突っ込んで、ファスナーを閉めた。 365 名無しさん@ピンキー sage 2009/09/11(金) 04 24 29 ID 27wBdzN1 ふと、書棚の林の方を眺めると、林の方から例の文学少女が大量の本を抱えてこちらに向かってくるのが見えた。 きっとあの大量の本を借りるのだろう。 「千歳、行こうぜ」 大量の本をなんとか鞄の中に収めたらしい健史が俺の背中を押す。俺達はそのまま自動ドアをくぐって、外の電停へと向かった。 空はもはや澄み渡るほどに真っ赤に染まっており、東の空の端の方に至っては濃紺が滲みだしてきているほどだった。 顔を線路の方に向けると、隣の電停を発車したらしい、新聞社のラッピングを施した連節車が小刻みに左右に揺れながらこちらへ向かってくるのがわかった。 何の気なしに顔を元に戻すと、図書館からこちらに人影が走ってくるのが見える。 俺はその人影に見覚えがあった。 ショートヘア、丸っこい眼鏡、紺色リボンの制服。 間違いなくさっきの文学少女だった。 文学少女は点滅しかけた信号を疾走し、電停の島にのっかるとその足を停める。 俺と、何事かと思ってそちらを向いた健史は、息を切らす彼女をただ呆然と眺めていた。 「これ……」 少女は俺に向かって握った右手を持っていく。 ほのかに汗ばんだ彼女の掌の中で、俺のファスナーにつけてあるはずのPVCのファスナーマスコットがいつものように能天気に笑っていた。 俺はもしやと思って鞄を見ると、案の定、マスコットは金具ごと外れている。 「あ、ありがとうございます……走って届けてきてくれて」 俺はしどろもどろに彼女に礼を言う。 健史もようやく事情が掴めて来たのか、ふむ。と口元を緩ませた。 そしてちょうどその直後、俺たちの立つ電停へと、連節車が夕陽を受けながらゆっくりと滑りこんできた。 「君、こっちの電車?」 健史の言葉に、文学少女はうなずく。 連節車は俺と健史、そして文学少女を乗せると、低いモーター音を響かせながら加速を始めた。 部活の終わる時間にもかかわらず車内はいやに空いており、乗客のほとんどと同じように俺たちは手近な席に座ることにする。 電車のモーター音が止んだ頃、俺は不意に文学少女の方を覗き込んだ。 別に彼女が気になるというわけではないが、なぜか気になったのだ。 文学少女は、うつむくようにして床に顔を向けている。恥ずかしいのかな。と、俺は何故かそう感じた。 まぁ、確かに見ず知らずの異性に声をかけて、さらに隣の席に座るのは恥ずかしいことなのかもしれない。 今時こんな純情な子も珍しいな。などと変な関心をする。 連節車は停留所をひとつ飛ばして、また加速を始める。 366 名無しさん@ピンキー sage 2009/09/11(金) 04 25 01 ID 27wBdzN1 「私」 突然少女が口を開いた。 「里野藍、1年4組です出席番号6番です!」 藍と名乗った少女はそう言いきると、耳たぶから頬から顔中を真っ赤にしてより深くうつむいてしまう。 全く状況の読めなかった俺と健史は次第にようやくそれを掴みだすと、ああ。とうなずく。そして、唐突な藍の自己紹介に返すべく健史が少し震えた口調で言った。 「お、俺は3年2組の藤野健史な。で、こいつも同じ組の北見千歳」 俺はよろしく。と藍に手を振ってみせる。 藍はまだうつむいたままだった。 俺たちと気まずい雰囲気を乗せ、連節車はゆっくりと走りつづけた。 「ふぅ……」 学生よりも社会人の割合が多いような連節車の中で、私は息をつく。 「買い物してたらこんな時間になるなんて……ちょっとゆっくり選び過ぎちゃったわね」 もう陽は完全に傾き、空は濃紺に染まって月が青白い光を放ち始めてしまっている。 「さて」私は天井を仰ぐと、ぱん、と頬を叩いて気合いを入れる。 「今日の晩御飯は兄貴の大好きな、そら特製鳥の唐揚げ。おいしく作んなきゃね」 兄貴に気に入られるためにも、いっぱい頑張らなきゃ。 そうだ。と私はあまりにも変態的な行為を思いつく。 (兄貴の唐揚げ、レモン汁の代わりにわたしのお汁をちょっと混ぜちゃおっと……) 何故そんな変態的な行為突然を考えついたのかはわからなかったが、私はこれからおそらく実行するであろう変態行為に頬を焦がす。 (その後もおっぱい押し付けたりして、兄貴に私がオンナノコってことを教えてあげなきゃね) 背徳的な妄想に浸りながら、私は連節車の揺れに身を任せた。
https://w.atwiki.jp/girlwithlolipop/pages/27.html
彼女たちは安らぎの闇の中で唄う◆PatdvIjTFg ――わらわは闇姫じゃ。闇の中に棲む者、闇がわらわの王国。この闇こそわらわの世界、ここがわらわの居るべき場所。 押入れの中、暗い闇の中、少女はそう心の中で呟いて微睡む。 闇の中に溶けてしまいそうで、しかしはつきりと実を持つ己の身体がもどかしい。 闇の世界の外、下品で野蛮で暴力的な光の世界にあるものは、怪物の顔をしたひたすらに暴力的な下賤の民ばかり。 誰が、外に出ようというものか。 闇の中、さらに目を瞑る。 ぎうと、ぎうと、目を瞑る。 強く、強く、瞑る。 ――強【ごう】! しかし、いきなり聖なる闇は破られる。 母を名乗る愚かな女、醜女の顔に蟻のような昆虫の身体を持った化け物が押入れの戸を開けて、闇を乱暴で猥雑な光で犯す。 何故、姫であるわらわに対して、恥知らずにも血縁を名乗ることが出来るのだろうか、 きっと、夜の仕事の安酒が頭の中身を腐らせたのだ、と少女は推測している。 安酒の悪臭を口から撒き散らして、わけのわからぬ言葉を吐き散らす、 ヒステリックに虚飾されているが、要するに自分は寝るから、少女に出て行けと言っているのだ。 経験則から少女は逆らわない。 かつて、彼女がこの女を「無礼者、下がりおれ」とたしなめた時、少女の脳天をトンカチで殴打したことを今でもはっきりと覚えている。 ああ、耳から飛び出した脳みそのかけらを拾い集めるのは、どれほどに大変だったことか。 そのトンカチは、護身用として自身の首から下げている。 だが、トンカチが無いところで女は新品同様の台所の包丁を持ち出してくるに違いがない。 何をしても、無駄だ。 トンカチを携えて、城の外へと出る。 街はこれから仕事へ行く城下の平民共であふれている、誰も彼女を城の姫君であるとは気づかない。それが彼女を愉快にさせる。 それが例え、口からニコチン塗れの煙を吐き出す人の形をしたがん細胞のような化け物であっても、 顔中に泥絵の具を塗りたくったかろうじて雌とわかる粘液質な化け物であっても、ああ、愉快/\。 それにしても醜い、王族と下賤の民にはこれほどの差があるのだろうか。 どこへ行くかを考えながら歩いていると、下賤の民共の子どもが通う学校があったので柵越しに中を覗いてみる。 人の気配はない、静まり返っている。 学校といえば、かつて身分を隠して少女は通ったことがあるが、その高貴なる身分がばれて平民の子どもらに髪と服をぼろぼろにされた上、 興奮のあまりに水をかけられ、鉄パイプで脳天を殴打された。 服の切れ端や髪の毛は家宝にすると思えば愛らしくも思えるが、やはり下賤の民の子はやはり下賤。高貴な人間に対する態度というものを知らない。 それ以来、校内に入ったことはない。 誰かが来る様子も無いので、少女は学校から立ち去る。 公園にたむろしている貧民にパンを分けてもらいに行こうか。 「おう、また来たんか」 フケだらけの頭をぼりぼりと掻きながら、しょぼくれた親爺が袋の中からコッペパンを取り出して二つに割った。 池のほとりのベンチは、平日の昼間には誰も居ない。 親爺と並んで座って食べる。 親爺は珍しく少女のようなまともな人間の姿をしている。 「また、サボりけ?いかんぞ、ワシみたいになるからな」 親爺の少女を見る顔には、子を見るような喜びと学校にも行かず浮浪者に食事をたかる少女への哀れみが入り交じっている。 少女は気にしない、大事なことはパンがもらえるかどうかだ。 「のう……」 ――なんじゃ、申してみい。 空腹が満たされ、少女は上機嫌だ。 「いかんよ、嬢ちゃん……ワシなんぞに餌もろたらいかん」 狙い澄ましたかのように、警察官の制服を着た全身膿んだ化け物が、少女と親爺の元へと歩いていくる。 ――どういうことじゃ。 「結局、家族ん所に帰るんが一番や」 ――憲兵と共にあの頭の腐れた女がいる城に帰れというか、嫌じゃ!あの女、怒り狂うて何をするかわからぬ! 「母親と話し合って、しっかり生きていかんとな」 ――やめろ、やめ…… 親爺の姿が、化け物に変わっていく。 その目だけは少女を見据えて、哀れみを浮かべたままで。 その時、少女は思い出した。 ――わらわを、そのような目で見る者など……誰もいなかった 連れて来られた交番で少女の母を名乗る醜女を待つ、顔を真赤にした醜女が迎えに来る。 帰った後、何が起こるかなど――想像するまでもない。 平手。 「恥をかかせやがって!」 拳。 「産まなきゃ良かった!」 蹴り。 「穀潰し!」 包丁。 「これで、終わりにしてやるよ!どうせあんたなんか死んでても生きてても誰にもわかりゃしないんだよ!!」 命の危機に瀕して、少女の思考は冷静だった。 己を助けに来る――騎士【サーヴァント】が来る。 触手。 「あなkg@ぱえgえsげsl」。wまkgか」 ぐちゃ。 少女の母を名乗る女はあっさりと死んだ。 「gねpへmへrph:えけえおqpkqw」 その容姿は地球上に対するありとあらゆる生命体に対して冒涜的な存在であり、 その存在そのものが理性とはどれほど細い綱をわたっているかわからなくさせるなんと恐ろしく狂的なものであろうか、 あらゆる宗教において許されるものでなく科学的にもまた許されるものでなく、 目を腐らせるのではなく脳を腐らせるかのような、ああ眼球をえぐり抜いてしまいたい、 永久にその姿を見ずに済むのならば。耳もそうだ、ちょうどいいところにシャープペンシルの芯があったこれで鼓膜を突いて耳を刳り、二度とその者の発する音を聞こえないようにしてしまいたい。 だが、その存在は少女にははっきりと――人間の姿に見えていた。 「私は沙耶、貴方が私のマスター?」 「わらわの闇を取り戻したか、ご苦労」 緑の髪をした白いワンピースの沙耶と名乗る可憐な少女、少女には目の前の怪物がそうとしか見えていない。 だが、どうでも良い。 「わらわは、この闇へと返る。後のことはよきにはからえ……」 押入れを、その中の闇の王国を少女は取り戻した。 邪魔立てする愚かな女も、二度と邪魔することは出来ない。 押入れの中で、少女はじつと目を閉じて眠る。 胎児のように、眠る。 ぽかあんと、少女を見送った後、沙耶は包丁を使って女を切り分ける。 人間とはすなわち、沙耶にとっては食糧である。 食べきれない分を冷蔵庫の中にしまい込み、そして一人、少し早いが昼食の時間とする。 家の中での食事は、どことなく彼女が愛した人間との日々を思い起こさせる。 ――郁紀。 人ならざる者の言葉で、そつと呟く。 もう一度、会いたい。 そのために、ここへ来たのだ。 「よきにはからえ……か、うん。頑張らなきゃね」 もう一度、唄おう。 あの愛の唄を高らかに。 【クラス】 キャスター 【真名】 沙耶@沙耶の唄 【パラメーター】 筋力E 耐久D+ 敏捷E 魔力D 幸運EX 宝具EX 【属性】 混沌・悪 【クラススキル】 陣地作成:EX 自らに有利な陣地を作り上げるキャスターのクラス特性。 本来は魔術師ではないため、E-ランク程度の能力しか発揮できないが、 彼女が持つ唯一の宝具を発動した瞬間、星そのものが彼女、あるいは彼女たちの陣地として扱われる。 道具作成:C++ 「魔術師」のクラス特性。 人間を理解することで、精神的、肉体的な改造を可能とする。 【保有スキル】 異形:B 人間としての正常な感性は、彼女の姿を、声を、臭いを、存在そのものを許容できない。 彼女の存在そのものが相手への精神攻撃となり、抵抗判定に失敗した場合、 相手に1ターン以上の行動不能、あるいはステータスへの不利な補正、あるいは両方を付与する。 また、クリティカル時は相手に低ランクの精神汚染を付与する。 星の侵略者:A 彼女達の種族が持つ特性、 彼女が持つ唯一の宝具が発動し、星の支配者となった彼女あるいは彼女たちは、星からのバックアップで自分のステータスに有利な補正を受ける。 愛:EX 沙耶という少女が、広大な宇宙の中の小さい地球という星に辿り着き、 70億の人間の中から偶然に狂った人間と出会う確率は、その人間が自分を愛してくれる人間に出会う確率は、ほとんど0に等しい。 しかし、彼女は出会った。故に彼女の幸運値はEX(測定不能)である。 そして、咲いた。彼女達の愛は完成した。故にその愛はEX(測定不能)である。 【宝具】 『それは、世界を侵す恋(SONG OF SAYA)』 ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:40,000 最大補足:6,999,999,999人、あるいはたった1人 彼女の胞子をまき散らし、その星全てを彼女の種族へと作り変える繁殖活動。 あるいは、彼女を愛した一人の人間のために作り上げられた美しい世界。 この宝具の発動と引き換えに、彼女は消滅する。 しかし、サーヴァントとしての役割は彼女の子どもたちが引き継ぐだろう。 また、この宝具は彼女の意思で発動することは出来ない。 三画以上の令呪が無ければ、意図的に発動することも出来ない。 ただ、その時が来れば自動的に発動する。 【weapon】 彼女の肉体そのものが武器である、ふしゅるー、ふしゅるー♪ 【人物背景】 ニトロプラスの名コンビが新たなジャンルに挑戦した意欲作! 突然現れた謎の少女・沙耶。そして男女4人が繰り広げる恋愛ストーリー。 そのメインヒロインとなる女の子、ぐうかわ。 【サーヴァントの願い】 もう一度、郁紀に会いたい。 【マスター】 闇姫@夜姫さま 【マスターとしての願い】 乱暴で下品な光に犯されることがないよう、沙耶に任せる 【weapon】 首からぶら下げたトンカチ 【人物背景】 親からの虐待やいじめによって、己に優しくしてくれる人間以外怪物のようにしか見えなくなってしまった少女。 自身を闇の世界の姫であると思い込むことで、敵からの攻撃に対しての精神的な防衛を行うようになった。 何も見えない闇こそが彼女の安らぎの王国。 【方針】 押入れの中で、ただじつと待つ
https://w.atwiki.jp/kikujani/pages/99.html
秋の匂いがする歌 10.08 村上 マント(aiko) 横山 靴ひも(Mr.Children 10.15 丸山 街灯(ゆず) 渋谷 Raining(Cocco) *
https://w.atwiki.jp/anchorlegendscenario/pages/552.html
「どうかこの種から花を咲かせて欲しい。」 そう云った少女に差し出されたのは、一粒の黄色い種。 その種からどんな花が芽吹くのかも知らないまま、君は気紛れにその種を育て始める。 その日から、君は夢を見始める。 其処に在るのは黄色い花が咲き乱れる美しい田園と、その只中に立つ一軒の小屋だけ。 立ち尽くす君の前に現れたのは、君に種を託した少女と、君と同様、少女に種を託され夢の中で惑う同志たちだった。 「この小さな桃源郷を救って欲しいの…!」 ――少女曰く。 君達にとって夢の世界であるその場所は、彼女が唯一生きられる桃源郷。 少女から託された種は、桃源郷を維持する為に必要な花を咲かせるのだという。 現実世界でその花が咲くことで、彼女の桃源郷は保たれるというのだ。 少女の願いを受けて、君達はその花を咲かせることを約束する。 夢の中、狭い桃源郷で、少女と同志たちとささやかな交流をして過ごす日々。 ――しかし、穏やかな時間は突如途絶える。 いつも広がっていた蒼穹はどんよりと曇り、いつまでも朽ちることなく咲き乱れた黄色い花は踏み荒らされ、少女の暮らしていた小屋は無惨に荒され…。 そして、いつも其処にいたはずの少女の姿は、其処にはなかった。 その場所に残された手掛かりは、少女が書き残したと思われる「XX」の二文字。 そして、その世界には今まではなかったはずの廃墟が聳えていた――。 シナリオ名 失われ往く世界、少女の桃源郷 ささやかな幸せを願った少女の夢を、君たちは取り戻せるか。 ――黄色い蕾が花開く時、君たちは少女の世界の真実を知る―― 【以下反転】 雑記 目的→ 廃墟に囚われた少女を助け出す。 桃源郷の救済(原因(敵)を倒して変わり果てた桃源郷を元に戻す、現実世界で花を咲かせて桃源郷を存続させる。 廃墟→ 敵の根城。地下階に多数の地下牢。 どの牢にも少女と同じ姿の少女(偽者)が捕らえられており、偽者を牢から出すと戦闘。 手掛かりの「XX」→ 本物の少女が捕らえられている牢のヒントとかでも。 (アルファベットの番数から「24」とか、ローマ数字から「20」とかで、少女の囚われてる牢の場所を示すとか) ラスボスの有無や、少女や桃源郷の正体や真実は任意に捏造して下さい。(丸投げ) ワード→ 「Xanthous」(ザンザス) 色のスペクトルにおける、緑色とオレンジ色の間の中間色の。黄色の。 「XX」(だぶるえっくす/えっくすえっくす) 暗号。雑記参照。 「Xanado」(ザナドゥ) 田園美豊かな土地 桃源郷 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/anirowakojinn/pages/784.html
ただ、あの小さな、でも幸せな時間がずっと続いているだけで良かった。 上品な甘いにおいのする煙草を吸いながら私の頭を撫でてくれたお父さん いつでも私を抱きしめてくれたお母さん そして、お庭に迷い込んできて友達になってくれた一人の男の子 私はこの小さな幸せが、世界の全てだと信じていた。 だってこれ以上望む物なんて無いと、心から思える満ち足りた毎日だったから。 『君のお父さんとお母さんの乗っていた飛行機が、海に、落ちてしまったんだ……』 だから 『おとーさん…!おかーさん!!どこにいるの!?』 その幸せが壊れた時に 「わたし、いい子にするからっ…いい子にするから……だからっ…おとうさん、おかあさっ…」 私の世界は無くなってしまったんだ… 少女…一ノ瀬ことみは、森林の一際大きな巨木の根元に座り込んでいた。 丸いビー玉のような髪止めを両脇に付けた子供っぽい髪型とは裏腹に、黒を基調としたドレス風の艶やかな服装は観る者にアンバランスな印象を持たせるも、彼女の持つ独特の雰囲気によって奇妙な均衡を保っていた。 この場所に飛ばされてから実に15分は経過したが、この少女はスタート地点から全く動いていなかった。 それはこの場所が殺し合いに乗った者達を迎撃するのに適した場所であるから、と言うわけではなく、此処を拠点としようとしている訳でもない。 というよりも、そもそもこの少女はまだ自分の支給品はおろか、名簿にすら目を通していなかった。 ただ何も考えずこの場に座り込み、時が過ぎるのを感じるのみ。 ことみはこの会場に連れてこられる直前まで、家の中に閉じ篭り、登校拒否の状態であった。 彼女が幼いときに突然訪れた両親との死別、その日を境に家から無くなってしまった暖かさ。 それら全てを自分のせいとし、自らを責めながら生きてきた幼少時代。 それから10年程の年月を経て、再び巡り合った初恋の男の子、彼が引き合わせてくれた新しい友達。 動き出そうとしていた彼女の時間。 だが、そんなことみの心は、再び壊れてしまった。 事故に遭いかけた親友。 重なる過去の悲劇。 親しい人が自分の前からいなくなる事への恐怖。 過去のトラウマが一気に噴出し、結果恐慌状態へとなってしまった彼女は、他人との関わる事への恐怖から、自らの家に閉じ篭ってしまったのである。 そんな彼女をあの男の子…岡崎朋也は心から心配してくれて、友達と共に待っていると言ってくれた。 だが… 「やっぱり…罰、なのかな…」 誰にも聞こえないくらいのか細い声でことみは呟いた。当然その声を聴くものは誰もいない。 そうだ、やっぱりこれは罰なんだ。 神様はまだ私を許してくれていないのに、私は償いを終えていないのに。 おとうさんとおかあさんの論文を、世界中の人達が求めていた論文を…あの日私の家に来た人が、おとうさんとおかあさんの命よりも大事だと言った論文を、 燃やしてしまったから…だから私は、その研究を一生かけてでも完成させなくちゃいけないのに、 それなのに一瞬でもみんなと一緒に仲良く、幸せに生きていきたいなんて思ったから… あの日、私のお見舞いに来た次の日から、朋也君はずっと家の裏庭に来ている様だった。 昔、彼と一緒に遊んで、おやつを食べて、お昼寝をして、そして、私たちが初めて出会ったあの庭に。 でも、今は草も伸び放題、真っ白だったイスとテーブルは錆びで埋め尽くされ、もう昔の面影は全く残っていない、あの庭に。 彼は庭を元に戻そうとしている、それはすぐに分かった。 だが、今更そんな事をしても何になると言うのだろうか。 もうあの頃とは何もかもが違う。 服も違う。バイオリンも持っていない。私も朋也君も、もう子供じゃない。 おとうさんとおかあさんも、もういない。 きっと朋也君だってそんな事はすぐに分かる。 そして、こんな事は無駄だと分かり帰っていくだろう。 でもそう思っていた私の思いとは裏腹に、彼は次の日も、次の日も、朝から晩までずぅっと庭を手入れしている様だった。 草を切る音や、土を掘る音は一日中やまず、その音からは、彼の諦めない意志と決意が感じられた様な気がした。 もしかしたら… もしかしたら、またあの日に帰れるのかな… 彼の行動を感じて行く内に、心の中からそんな感情が少しずつ湧き出してくるのを感じる。 そう考えていると、何時の間にか庭での音がやんでいた。 彼は諦めて帰ったのだろうか… それとも、もしかしたら… 気がついたら、私は何時の間にか服を着替え、カーテンで閉じられた窓の前に立っていた。 あの頃、朋也君と初めて出会った時の服と良く似た、黒いドレス風の服。 うん。 一歩だけ…一歩だけ踏み出してみたい。 きっと、あの頃に戻れるわけじゃない。 神様はまだ私を許してくれてはいない。 もしかしたら、また大きなショックを受ける様な事があるのかも知れない。 朋也君が私を待っていてくれる保証も、無い。 それでも、今は少しだけ踏み出す勇気をもらったから、だから…! 私はそう決意し、カーテンを一気にひらいた。 でも、そこにあったのは朋也君の姿でも、思い出の庭でも、あの荒れ果てた庭ですら無く。 見覚えの無いホール。 たくさんの人達。 翼の付いた女の子と、尻尾の生えた女の子。 殺し合い。 頭を吹き飛ばされた女の子。 首輪。 ルールの説明。 光の雨の様な物を浴び、死に絶えた謎の怪物。 正直何が起こったのか、どうしてこんな事になったのか、全く考えが追いつかなかった。 でも、一つだけ気付いたことがある。 どうやら私は、神様に許してもらっていない所か、嫌われているのかもしれない、という事だ。 そこまで考え、ふと顔を上げると、何時の間にか一人の少女が心配そうにことみの事を覗き込んでいた。 だが、目が合うと途端に少女はくるりと背を向け、逆方向に向かって走り出した。 ことみが止める間もなく手短な巨木の近くまで走ると、その位置からことみの事を見つめだした。 「……」 「……」 ことみも少女も互いに沈黙。 ことみは状況がいまいち飲み込めなかったがそれ以上に、今自分から他人に話しかける気など無かったので、あえて話しかけなかった。 「…あ」 互いに見つめ合ってから暫くの時間が経過し、やっと折れたのか、向こう側に居た少女が声を上げた。 そして、ことみの事を先程以上に凝視している。 「…?」 だが、よく見るとこの少女、ことみでは無く何か別の物に目を奪われている様だ。 ことみはその少女から視線を外し、少女の視線を追っていくと、その先にはまだ中身の確認すらせずに地面に放り出した自分のデイバッグがあった。 そしてそのバッグからは落としたときにか、幾つかのお菓子が散らばっていた。 (もしかして…お腹、空いてるのかな…?) ぼんやりと考えながら、ことみはのろのろと近くに落ちていたキャンディーを拾うと包み紙を取り、中身を取り出した。 「……」 少女は相変わらず無言のままではあるが、キャンディーを持っていることみの手のひらに視線を向けていた。 「食べる?」 何時の間にか、自分でも気付かない内にことみは少女に声をかけていた。 「!…」 反応はしたが、近寄ってこない。 まだことみを警戒しているらしい。 そしてことみも、自分が何時の間にかあの少女に話しかけていた事に気付き、驚く。 どうして自分はあの子に話しかけているのだろう。 そう思いながらも、頭の中ではどう接すれば彼女がこっちに来てくれるかを考えている。 (ああ…そうか) つまり…自分は寂しいのだ。 こんな場所に放り込まれて、恐くて寂しくてたまらない。 死にたい等と思っていたくせに、自分で死ぬ勇気すらないから、殺人者に殺されるか、誰かが自分に接してくれるのを待っていただけ。 その事実を自覚すると共に、ことみは自分がどうしようもなく惨めな存在に思えて仕方が無かった。 「とっても甘くて、おいしいよ?」 そして、そんなことみの心を肯定するように、身体は勝手に少女に話しかけ、自分の口の中にキャンディーを入れる。 口の中でころころと転がしながら食べていく。 イチゴ味で、とても甘かった。 「……」 そうしていると、少女は先程の警戒心が嘘の様に、テテテテテッと軽快な音を立てながらことみに向かって走って来た。 ことみはそれを見ると、もう一つ持っていたイチゴキャンディーの包みを取り出した。 (あれ、この子…) ことみは自分からもらったキャンディを美味しそうに口に含む少女を見て、違和感を感じた。 それは彼女の耳から、獣の様な耳が生えている事や、後方で見え隠れする尻尾なども勿論なのだが、それ以上に、ことみはこの少女をどこかで見た気がしてならなかった。 「え…と……」 思い出そうとするも、中々思い出す事が出来ない。 一体どこでこの子を見かけたのだったか―――そこまで考え、あの主催者の翼の少女に向かって何かを叫んでいた少女が、この少女と良く似た服を着ていた事を思い出した。 「♪~~」 だがそんなことみの心中を知る由も無い獣耳の少女は、変わらず幸せそうに口の中でキャンディーを舐め転がしている。 その光景はひたすらに微笑ましく、これを邪魔するのは邪推かな、とことみは思った。 話は食べ終わった後でも聞けるのだし、もしこの子が機嫌を損ねれば、また自分は此処に一人―― そこまで思考して、ことみは自分で自分を思い切り殴りつけたい衝動で一杯になった。 私は最低だ。 この子に付け込み、自分の寂しさを埋めようとしている。 そしてそれを自覚しながらも、その行動をやめられずにいる。 こんな私が、神様に許してもらえる筈も無いのだ。 「ねぇ。」 急に呼ばれ、舐めていたキャンディーを思わず飲み込む獣耳の少女。 そんな様を見て苦笑しながら、ことみは自分の顔を指差しながら、朋也や親しい友達に最初に使った挨拶を始めた。 「えっとね、ことみ、一ノ瀬ことみ」 そう挨拶をしながらも、そんな自分が可笑しくて仕方なかった。 あれだけ他人と触れ合うのを恐怖していた筈なのに。 今は、違う。 この子の事をもっと知ってみたい。 この子に自分を知ってもらいたい。 自分の寂しさを紛らわせるために。 こんな理由で一人でいる覚悟をあっさりと変えた自分自身を、ことみは深く軽蔑した。 「ひらがなみっつでことみ…呼ぶときは、ことみちゃん」 「ン…アルルゥ」 ことみの自己紹介を聞き終え、少女はすぐに意を理解したようで、笑みを浮かべながら即答してくれた。 その笑顔が、今は、痛い。 「アルルゥ…ちゃん」 「ことみちゃん」 互いに名前を呼び合い、アルルゥは満面の笑みを浮かべつつ新しいキャンディーを口の中に入れる。 とても幸せそうな顔をしながら、キャンディを頬張る少女の顔を見て、ことみはアルルゥに見えないように、そっと…一滴の、涙をこぼしたのだった。 【C-4/林/一日目/深夜】 【一ノ瀬ことみ@CLANNAD】 [状態]: 絶望、食事中 [服装]: 黒のドレス風の服 [装備]: 無し [道具]: 基本支給品一式、甘味お菓子セット@現実、不明支給品×2 [思考] 基本:??? 0: アルルゥとお菓子を食べる 1: 基本的に他人と関わりたくない 2: 自身に嫌悪感 [備考] ※ことみルート終盤、家から出てくる直前からの参戦です。 ※名簿の確認をしていません 【アルルゥ@うたわれるもの】 [状態]: 健康、食事中 [服装]: トゥスクルの民族服 [装備]: 無し [道具]: 基本支給品一式、不明支給品×3 [思考] 基本:??? 0: おいしい♪ 1: カミュちーどうしたの…? [備考] C-4に、甘味お菓子セット@現実の一部が散らばっています。 リアル鬼ごっこ、開幕 時系列順で読む Next 求めの技を、見せちゃう♪ リアル鬼ごっこ、開幕 投下順で読む Next 求めの技を、見せちゃう♪ GAME START 一ノ瀬ことみ Next [[]] 祭りが始まる時 アルルゥ Next [[]]
https://w.atwiki.jp/maid_kikaku/pages/294.html
―二年前、アルトメリア大陸のある市街地 人の残骸や蟲の残骸で景色が変わった町の広場で、少女は蟲に包囲されていた。 少女にとって家族同然だった優男は既に少女を置いて逃げ、今頃はラジオでジャズでも聴いている事だろう。 少女は優男に言いつけられた通りに、救援用の通信機なしに広場を死守しようと奮闘していた。 同じく撤退していた兵士達の中には、彼女を助けようと奮闘したが、つい数秒前に全滅した。 今では蟲の晩餐として消化されたのだ。 「きりが無い………!」 長柄の斧でワモンを切り刻みながら、少女は指示への疑問を隠せずに居た。 既に何匹倒したか分からず、指示からとうの昔に1時間が経っている。 退路は既に無く、全方向からG達が迫り来る。 弾薬は歩兵達が遺して逝った物を回収し、それを最低限撃つようにしてなんとか補ってきた。 何度も長柄武器を振ったせいでもう刃の部分は壊れてもおかしくは無く、それを振った手が壊れつつある。 「まだまだぁ!」 少女は腕の痛みや疲労感に耐え、広場の中央に立つ。 少女は自分に言い聞かせていた。 直ぐに救援が来ると。必ず自分を助けに来ると言い聞かせていた。 しかし、来るのは少女も巻き込みかねない砲撃と爆撃。 そして通りに埋め尽くされたGの群れ。 少女を捕食しようと殺到する蟲の群れ。 また一つ蟲が頭を粉々にされる。 されど十の蟲がまだ沸いて出る。 それらを叩き潰してもまだまだ蟲が出る。 それらの蟲の死体が山になろうかと言う時、周囲の蟲すらも畏怖し始める何かが近づいていた。 少女が立っていた場所が轟音を上げていた。 その轟音は次第に大きくなり、少女の周囲に位置していたGは少女が居る場所を中心に有る程度距離を空け始めている。 そして、広場の石畳は崩れ、大穴を空けてその穴を作った主が少女の前に現れた。 それは2対の鎌や頑丈そうな顎を持ち、竜を連想させるような尾を持ちながらも、蟷螂のような足を持っていた。 そして、その正真正銘の化け物は、他のGよりもおぞましい何かを隠し持っていた。 To be Interval2"Devastator"……
https://w.atwiki.jp/jewelry_maiden/pages/355.html
青い透き通ったゼリーみたいな空に、そこだけ食べちゃったみたいな白。はたはたと、風に揺れる真っ白な布をつかまえる。 「いい天気だなあ……」 少し寒くなってきたけど、天気のいい日にお洗濯するのは気持ちいい。僕はとりこんだ洗濯物を抱えてお屋敷に入った。 お日様の匂いが部屋の中にも広がる。一枚一枚、しわにならないように畳んでいく。 「これ、ボタンとれそうだな……つけ直してからしまおう」 次の一枚を手に取ったとき、ちょっと違う匂いがした。 「あ……」 マスターの、匂い。ちょっとどきどきしながら丁寧に畳む。 (コーヒー飲んだのかな……煙草……吸い過ぎは体に悪いって言ってるのに……) 畳み終わっても、そのシャツだけどうしても手を離せなかった。僕はそっと周りを見回すと、シャツをぎゅっと抱きしめた。 (……マスターの匂いだあ……) なんだかすごく恥ずかしくなって、慌てて洗濯物をしまった。 恥ずかしくていつも言えないけど、いつかちゃんと『抱きしめてください』って……言えたらいいな。
https://w.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/971.html
286 名無しさん@ピンキー sage 2010/01/11(月) 02 49 18 ID 1bZR+LLh 「あれ?おっかしーな……」 リビングの時計が八時を告げたころ、俺は年代物の冷蔵庫の上段に顔を突っ込んで、まるで大昔の鉱夫のごとく冷凍食品をかき分けていた。 確かこの前買ったはずのが……。と試しに製氷室も開けてはみるが、そもそも製氷室にそれが入るようなスペースは無かった。 あっれ?とか、おいおい。とか呟きながら、俺はひたすらに冷食と保冷剤と冷凍エビしかないような冷凍室をひっくり返す。 「兄さん?」 俺はその声に冷凍室から顔を離すと、俺の背後にはこちらを怪訝そうに眺めるそらの姿があった。 「ああ、そら」いいところに来た。とばかりに俺は口を開く。「俺がこの前買ったアイス知らないか?」 「アイスなら切らしてる」 「本当にか?」 「本当に」 おかしい。昨日見たときはお徳用のソーダ バニラバーがまだ冷蔵庫の中に数本ほど残っていたはずだ。 「じゃあなんで余ってたのが消えたんだ……」 多分誰かが食ったに違いないだろうが、一体誰が食ったんだ。と、そらの方を振り返る。 案の定、そらは平静を装いながらも視線をそらす。 「…………ちょっと夜に、お腹がすいて……」 なるほど。と俺は頷きながら冷凍室を閉める。 こういう場合、あえて俺はそらを責めない。 だが別に俺は妹を甘やかして責めないのではない。責めればそらのお菓子をちょこちょこつまみ食いしている自分の犯行が責められるからだ。 「仕方ねえなぁ……」 俺はキッチンを後にして、ダイニングの扉を開く。扉一つ隔てた廊下は、これほどまでに寒暖差があるのかと驚きたくなるほどにうすら寒かった。 廊下を駆けるようにして自室へ戻ると、コート掛けから冬用の分厚いジャンパーを取り出し、普段着の上からそれを羽織る。 そのまま無造作に机の引出しをあけると、お菓子の箱を改造した小物入れの中から少しくたびれ気味な鍵を取り出す。 そして通学鞄から財布を抜き取ってジャンパーのポケットに突っ込むと、俺は部屋の隅に転がっていたヘルメットを拾い上げた。 「そらー」再びダイニングの扉をあけると、ダイニングから一間続きのリビングでくつろいでいたそらに向かって叫ぶ。「アイス買いに行くけど何かリクエストあるかー?」 「え?今から買いに行くの?」呆れたような顔でそらは俺の顔を眺めていたが、やがて立ち上がって、こちらの方へと歩いてきた。 「じゃ私も行く」そらはぶっきらぼうな口調で言った。「他にも買いたいお菓子とかあるし。ちょっと待ってて」 そう言ってそらは兄妹共用の部屋に消えると、しばらくして冬用のコートを羽織り、ちょこんとリサイクルショップで買ったヘルメットをかぶった姿で再び現れた。 二人揃って玄関を出て、まるで刑務所か何かのような厳めしいエレベーターで一階まで下りると、そらを玄関で待たせて、俺は駐輪場へと向かう。 それは駐輪場の片隅に止められていた。 ほぼ年式不明のヴィンテージ・ベスパの150ccモデル。父さんが一年前に知り合いから三万で譲り受けた代物である。 俺はスクーターに跨りエンジンを始動させると、無秩序に色とりどりの自転車が並んだ駐輪所を後にして、再び玄関へと向かう。 マンションの薄暗い玄関口で一人立っているそらを見つけると、俺は傍によってスクーターを止める。 「遅い」開口一番、そらは不機嫌な口調で言った。 「遅くは無いさ」 そらは後席に跨り、細い腕がきゅっと俺の体を捕まえる。 よし。と俺はヘッドランプをオンにして、ハンドルを握っている右手首を少しばかり回した。 まだ八時なのに、電車通りはやけに静まり返って、車の量もまばらなほどだった。 すれ違った新緑色の路面電車もまるで櫛の歯を欠いたかのように窓に映る影が少なく、この通りだけ二時間ほど時間が進んでしまったようにも思えていた。 あの電車はすすきの行きだ。時間のあやふやになってしまっている市電通りを通って、時間という感覚を失った街へと、決められた時刻を守って向かうのだろう。 それはそれで酷い矛盾だ。と俺は一人ごちに考える。 不意に、そらがきゅっと、強く俺の体を掴んだ。 俺は、何も言わずに夜の市電通りにスクーターを走らせ続けた。 287 名無しさん@ピンキー sage 2010/01/11(月) 02 49 50 ID 1bZR+LLh 東急ストアは閑散とした市電通りとは打って変わって、結構な人であふれていた。 アイスの入った籠を脇に会計を済ませているそらを傍目に、俺はレジ前でぼうっと佇んでいた。 一瞬、惣菜を抱えた眼鏡の若い男と眼があったが、すぐに俺は眼を逸らす。 逸らした視線の先には真っ白な再生紙のプリントがいくつも貼られたコルクボードがあった。 近くの小学校の行事予定や学校バザーのお知らせ。見るのも億劫なほど退屈な紙面に、それでも俺は目を通す。 頭上からは歌詞の部分がソプラノサックスの柔らかな音色に置き換わった何年も前の流行歌が降り注ぎ、レジ前のありとあらゆるノイズと混じり合って不協和音に限りなく近い和音を奏で続けていた。 ふと、紙面の罫線で囲まれた部分に目が行く。 「そういや、最近映画見てないなぁ……」 学校での映画の上映会。という文字を追いながら、俺はそう思った。 「兄貴」会計を済ませたらしいそらが俺のそばに戻ってくる。「何見てたの?」 「いや、コレ」俺は小学校の月報を指差す。 「そう……」 そらが包装台の上でアイスを籠からビニール袋へ移し換えてゆくのを眺める。 おお。生意気にダッツまで買ってやがる。 「そら」俺はアイスをあらかた詰め終わったそらに訊く。「お前、最近映画見たっけ?」 「昨日ロードショーでラピュタ見たじゃん」 「本当に映画館で。って意味だ」 ああ。とそらは頷く。 「それなら一年くらい見てない」 そうかい。と答え、俺は台の上のビニール袋を掴むと、入口の方へと歩いていった。 「じゃあさ」外に出ると、俺はそらの方を振り返る。「今度見に行くべ」 ラリホーマの親戚のごとき現代文の授業が終わり、ようやっと訪れた昼休み。俺は弁当を机の上に広げる、とすっと机の下から携帯を取り出した。 授業中からあまりにも退屈な授業を途中から放棄してちまちまと目を通していたその画面には、iモードの映画の上映情報のページがあった。 「どれもこれも微妙なのばっかだなぁ……」俺は携帯画面をスクロールさせる。それが底につくと、俺は電源ボタンを二度連打して、折りたたんでポケットの中へと突っ込む。 「何やってたんだ?千歳」 見上げると、パンを持った健史が自分の席の前に立っていた。 「いや、な。映画でも見に行こうかなって思ったんだけど、何見ようかなーって……」 それを聞いた瞬間、「お前は何を言ってるんだ?」と言わんばかりに健史は呆れた顔をする。 「お前、普通そういうのは見たい映画があって、はじめて映画館に行くんじゃないのか?」 「いいだろ。行きたいんだから行きたいんだ」 健史はまd亜不思議そうな顔で俺を見つめていたが、やがて口を開いた。 「ミニシアターはどうだ?」 「ミニシアター?」はじめて聞く言葉だ。 「昔の映画とか、ちっちゃい映画を上映するトコだよ。中島公園の近くと狸小路に一軒ずつあるはずだ」 それは盲点だった。と俺は再び携帯を取り出し、慣れた手つきでⅰモードを呼び出す。健史が教えてくれた館名を検索ワードにブチこんでみるとすぐに反応があった。 「中島公園の近くのシアターの土曜日がいい感じだな……古い映画の三本立て」 健史は上映演目を覗き込む、 「劇パト1かぁ……いいなぁ」 「お前も見に行けばいいだろ」俺は再び携帯を閉じると、携帯をポケットに突っ込み、軽く伸びをした。 「お前ほど暇じゃないんだ」 288 名無しさん@ピンキー sage 2010/01/11(月) 02 50 13 ID 1bZR+LLh 「でさ、うちのバカ兄貴結構成績やばいらしくてさ、この前模試の判定がやばかったとかですっごい嘆いてたワケよ」 昼休みの教室。購買のおにぎりを口に含みながら、千尋はひたすらに喋った。 「そうそう、千歳さんはどうなのよ。千歳さんも結構ヤバかったんじゃないの?」 「あ……うん。ボーダーはぎりぎりだったみたいだけど、結構困ってたみたい」 C判定と言うのがどれほどのものなのかは分からないが、珍しく机に向かって入試問題に頭を抱えていた兄貴の姿だけはよく覚えている。 「じゃあ大丈夫かもね~」気の抜けた景の声が言う。「ウチのお姉ちゃんも似たような感じで学園受かってたし~」 「景、あんたのお姉ちゃんとうちの兄貴じゃ比較にならないわよ」千尋はすかさず景に突っ込む。 まぁ、景そっくりの天然かつマイペースで、超がつくほどラッキーガールなお姉さんじゃ何の参考にもならないのは確かだ。 「ねぇ、藍はお兄さんとお姉さんいたよね」そう言って千尋はシマリスのようにサンドイッチをかじっていた眼鏡の少女に話をふる。 藍がこの教室でお昼をとるようになったのは最近になってからだ。 図書室で気のあった私たちはこの数カ月の間にいつのまにかいっちょ前の友達となっていて、私と絡んでたためか自動的に景や千尋とも仲良くなっていったのだった。 ちなみに、ふたりとも藍とあったときにめちゃくちゃ驚いてたのは今も忘れられない。 まぁ、気持ちは分からないでもない。とっくの昔に絶滅したと思われた文学少女だし。 「うん……でもウチは全然参考にならないと思うよ」 「どうして~?」 「ウチの姉さんはもういろいろ規格外だし、兄さんは大学蹴って就職しちゃったから……」 恥ずかしそうにぽそぽそとつぶやく藍。 「藍のお兄さんって何やってるっけ」 「自衛隊」 へー。と私達は妙な声をあげる。 絶滅危惧種の文学少女と自衛隊員のお兄さんと、彼女曰く規格外のお姉さん。なんとも奇怪な兄弟なんだ。と私は一瞬思ったが、私は失礼だな。とそれを振り払うようにしてちくわの石垣揚げを掴んだ。 休み時間も午後の授業もいつもと同じように退屈なまま終り、掃除当番も無い私はすぐに昇降口に駆け下りる。 靴をローファーに履き替えると、とん、とんと軽く走るようにして電停の方まで向かっていった。 案の定、といえば良いのか。電停にごった返す生徒達の中に、兄貴がいる。私はそばまで駆け寄ると、ぽん。と肩を叩く。 本当は抱きついたりしてみたいんだけど、それは流石に諦めた。 兄貴も私に気づいたのか、ああ。とかおお。とかそんな感じの声をあげる。 「兄貴」私は兄貴のだらんと垂れ下がった手をきゅっと強く握ってみせる。 ついこの前気温がマイナスまで行ったというのに、手袋もつけない兄貴の冷たい手。 「一緒に帰ろ」なら、こうやって温めてあげるのが一番だろう。 兄貴も手があったかくなるし、なにより私が嬉しくなる。 ちょうどその時、お客もまばらな連接車が電停に舞い込んでくる。私は手を握ったままで、兄貴を導くように学生の波に乗って車内の奥へと進んでゆく。 なんとか私は座れそうな席を確保すると、兄貴もその隣りに座る。 学生たちの熱気と座席の下の電気暖房の恩恵を受けた兄貴は、もう私の手を解いていた。 連接車はあれほどいた学生を残らず飲み込むと、いつものごとく轟音を唸らせながら車体を揺らして、徐々に冬へと変わりゆく街を横切っていった。 「なぁ、そら」隣の席の兄貴が口を開く。「今度の土曜日、開いてるか」 開いてるけど。と私は返す。兄貴は少し照れくさそうに、視線をそらしながら言った。 「もしよかったら、映画行かないか」 私はその瞬間、ぼうっと、心の内側から電気暖房で温められるような温かさが広がっていた。 この年になって兄が妹を映画に誘うようなことはまず無い。たとえ妹がそれを望んでいたとしても確率は絶望的だ。 だが、それが実現したのだ。 「なんで私?」私は喜びに顔がほころびそうになりながらも、いつもの表情で、兄貴に返す。 「映画は二人とか三人で見た方が面白いからだ」 連接車がゆっくりと曲線を通過してゆく。眩しいほどの夕日が反対側の窓から入り込み、私と兄貴を照らした。 「それに、一度見た映画は筋を知らないヤツがをいっしょに連れてった方が楽しいからな」 私の返事は、もちろんイェスだった。 しかたないから。とちょっとだけ素直になれないように取り繕って応えた私に、兄貴は「素直になれよ」と案の定言ってくる。 もうとっくの昔に、私は自分の気持に素直になっているっていうのに。 289 名無しさん@ピンキー sage 2010/01/11(月) 02 50 48 ID 1bZR+LLh 日曜日はすぐにやって来た。 俺は出掛け支度で忙しいそらを家に残して、一人駐輪所へと向かう。 駐輪所の隅の二輪車スペースで他のスクーターに混じって眠っているベスパを始動させ、跨ると、俺はすぐさまマンションの玄関へと戻った。 マンションの玄関口には既にヘルメットを被り、余所行きのためにおめかししたそらが待っていた。 結局散々何を着るか悩んだ挙句落ち着いたらしい、そらのお気に入りの白いフリルのカットソーに、灰色のティアードスカート。その上に冬用のコートを羽織っている。そして口元には慣れない口紅が引いてある。 「今日のお前、案外可愛いかもな」お世辞ではなく、本気でそう思った。 「兄貴もやっと私の魅力に気づいたんだね」 そらは笑いながらくるりと舞う。 半ば呆れた俺は、上機嫌のそらの腕を引っつかむと、強引に自分の方に引き寄せた。 「もう、兄貴ったら大胆♪」 「……なんならこのままベスパ出すぞ」 それは困る。とそらは慌ててベスパの後席にまたがる。 腰にきゅっとそらの手が巻き付いたのを確認すると、俺は右手を軽く回す。 ふたり乗りのスクーターはマンションの前の路肩を眠たそうに駆け出した。 ギアを徐々に変えてゆくと、それに答えるようにベスパの寝ぼけたような走りがどんどんと軽快になってゆく。 ベスパは表通りに躍り出ると、車の群れに混じって落ち葉の混じる直線路を東へと進んだ。 ブルーの表示看板の通りに幾度かの角を曲がると、すぐに中島公園の近くにたどり着いた。 そこから俺は記憶を頼りに、信号機の住所表示をひとつずつ注意深く見ていきながら進む。そのうちに記憶と合致する住所を発見すると、そのまま裏道へと入っていった。 裏道の先には、あたりを商業ビルに囲まれて、一軒だけほかより高いビルぽつんと建っていた。 それがお目当ての映画館だった。 「お」ベスパを停めようと、映画館のすぐ隣の、商業ビルとの共用らしき駐車場に足を踏み入れると、俺は間抜けな声をあげる。 「すげぇ……本物の二代目スカイラインだ」 俺の視線の先には、駐車スペースにちょこんと鎮座した古式ゆかしい車―――二代目日産・プリンススカイラインがあった。 しかもあの側面の赤いエンブレムからして、おそらく2000GT-B。こんなレアな車に出会えるなんて、今日はついてるのかもな。 「ほら、兄貴! 行くよ!」スカイラインにかぶりつく俺はそらに引きずられるようにして映画館の中へと入っていったのだった。 映画館といえばすすきのの東宝公楽や駅ビルのシネコンが思い浮かぶような私にとって、この小さな映画館はそれだけで新鮮だった。 俗っぽいポップコーン売り場や売店も無く、劇場以外にあるのはあるのはパンフレットを一緒に売っている小さなカフェだけ。 すべてがせせこましく、なんとなくかわいい空間だった。 「あ、そらちゃんに千歳さん!」突然私と兄貴は聞き覚えのある声に引き止められる。 振り返ると、そこには普段の彼女では想像できないような可愛らしい姿の藍が、私の見知らぬ男女とともにいた。 女性のほうは年齢は二〇代前半だろうか、藍とよく似た質の黒髪を腰辺りまで伸ばしていて、少しきつめの両眼が鋭い印象をあたえている。 だが決してきつそうな印象は無く、藍ほどではないが柔らかい印象を持った、理想の大人の女性をそのまま具現化したような酷く魅力的な女性だった。 対して男性の方はというと掴みどころが無い、いたって普通といった感じの青年だが、すこしばかり体つきが良いのが目立った。 「よう、里野」兄貴が言う。「そっちの人たちは?」 藍は少し照れくさそうに、兄貴に答えた。 「うちのお姉ちゃんと、お兄ちゃん」 と言うと、どうもこの二人こそが件の自衛隊員のお兄さんと規格外のお姉さんらしい。 同じように頭を書きながら照れくさそうに藍のお兄さんが口を開く。 「どうも妹がお世話になってます。ボクは、里野大(ひろし)です。こっちは姉の育(いく)」 よろしく。とお姉さん――育さんも微笑み混じりに答えると、育さんは大さんと藍の体を押した。 「ほら、ひろくん。早くしないと映画始まっちゃうよ」 ああ、そうだった!と叫ぶ大さんとうちの兄貴。 私も時計を見ると上演時間までもう少ししか無い。私達は急ぎ足で劇場へと向かっていった。 290 名無しさん@ピンキー sage 2010/01/11(月) 02 53 41 ID 1bZR+LLh 小さな劇場の中はそれなりに人が入っており、もう何度もビデオ化されている古い映画にこれだけの人が集まるのか。と私は変に感心する。 私たちは席に座ると、やがて照明が落ち、しばらくしてスクリーンには夕焼けに照らされた巨大な工場建築が映し出された。 そこからはまるでジェットコースターに乗ったみたいに、私は時間を忘れて食い入るようにスクリーンに釘付けになってしまっていた。 私は登場人物やうさぎの耳のようなアンテナをつけた白いロボットが薄暗い銀幕を縦横無尽に走り回り、戦ってゆく様を一瞬でも逃すまいと凝視し、一つ危ういシーンがある度に私はぎゅっと強くてを握って、更に強くスクリーンへと惹かれていった。 隣で映画をみている兄貴は既に筋がわかっているからか私よりも冷静だったが、それでも肘掛の上で強く手を握っている。 やがて勇ましい音楽と共に上映が終わり、館内照明がついてゆくと、私は兄貴の方を振り返る。 「すっごい面白かった!」 その反応に兄貴はきょとんとした顔で「はぁ……」と答えた。 「久々にすかっとする映画が見れたよ、兄貴、本当にありがとう」これは偽ること無く本当の、率直な感想だった。 「そうか……」兄貴はそういうと、また銀幕の方を振り返る。「俺は実は2のほうが好きなんだけどな」 「あー、2かぁ……」口を挟んできたのは後ろの席に座っていた大さんだった。「オレ、あれもう素直に見れないんだよなぁ」 「どうして?」更に隣の育さんが口を挟んでくる。 「ほら、オレ本人がもう陸自づとめだから……結構複雑な気持ちで見ちゃうワケよ」 「え?お兄さんって陸自だったんですか?」 すかさず食いつく兄貴。 「あ、うん。一応輸送科でトラック乗ってるの」 「え、じゃあ……」 そのまま話がコアな方向へ発展してゆくと、もう見てられない。とばかりに私は顔を伏せた。 そのまましばらくすると、また照明が暗くなる。 今度の映画は先程のやけに動く映画と違い、酷く動きの少ない、淡々としたものだった。 兄貴が言うには同じ監督の映画らしいのだが、妙に哲学的な雰囲気が鼻につく映画で、わけがわからなくなった私は途中で考えるのをやめて、ただぼうっと、何も考えずに画面に映る不気味な少女人形を眺めていた。 三本立ての最後の映画が始まったのは、二時を少し回ってからだった。 からからと映写機の回り始める音が聞こえ始め、少し遅れて、真っ暗だった銀幕にほんのり明かりがともる。 そして次の瞬間、私の眼に飛びこんだのは一面の桜並木だった。 わぁ。とその華麗な画面に嘆声をあげる私。 「ねぇ、秒速5cmなんだって」映画の中の少女が言う。 ふと、兄貴がちらりとこちらの方を向くと、すぐにまた眼を戻す。 その時私はもう、映画の中に吸い込まれていっていた。 きっと他人が私を見れば間抜けなままに口を開けて、ただ呆然と映画を眺めている用にしか見えないだろう。 だが兄貴は、わたしがこの甘酸っぱい恋愛映画に吸い込まれて行っているのがわかってたのか、自身もじっと銀幕を凝視していた。 そして、甘酸っぱいラヴ・ソングとともに物語が終わると、私はちらりと兄貴の方を眺めた。 「兄貴」 「なんだよ、そら」 「今の映画、面白かったね」 「ん、まぁな」 兄貴はがりがりと頭を掻く。 「でも、ちょっと俺には破壊力が強すぎたな」 「へー」私はいたずらっぽく笑って、兄貴の頬を突っつく。「まぁ、恋愛経験の無い兄貴は耳をすませばで死にそうになるからねー」 「なんだよ……その言い方は」 「その通りのことだよ」私は席を立ち上がって、出口の方へと向かってゆく。「なんならわたしが彼女になってあげよーか?」 「お断りだっ!」兄貴は頬を赤くして叫んだ。 その後ろでくすくすと里野兄弟が笑っていたのは言うまでもなかった。 本当は、映画はすごく切なくて、私は泣き出しそうになった。 初恋なんかかなうはずが無い。 それが兄と妹なら、なおさら。 それが悔しくて、映画の主題歌に私を重ねて、もう気を抜いたらすぐに泣いてしまいそうだった。 291 名無しさん@ピンキー sage 2010/01/11(月) 02 54 52 ID 1bZR+LLh 私たちはその後、里野兄弟と一緒に電車通りのファミレスへと向かい、お兄さんとお姉さんのおごりでちょっとしたスイーツタイムを取ることになった。 「でもあのスカイラインがお兄さんのだって、思っても無かったですよ」 「君こそ高校生であんなベスパ乗ってるなんて、相当渋いよ」 男二人はテーブルの隅で私たちをそっちのけで車の話題や私たちがついていけないような話にまで盛り上がっている。 私はそれを横目に、少し大きめのパフェをつつく。 「でもそらちゃんって本当に思ったとおりの子だったわねぇ」お姉さんはチーズケーキを口に運びながら藍の方を向いて言った。 え?ときょとんとしている藍。 「本当に千歳さんと仲が良いみたいね。って意味」 その言葉に一気に私は、皮膚の温度が上がっていく感覚に襲われた。 「もう遠目で見ると千歳さんの彼女みたいだったわよ」お姉さんは更に追い打ちをかける。 凄い嬉しいのに、なんでだか酷く恥ずかしくて、申し訳ない気がしたのだった。 「……どうしたんだ?そら」最悪のタイミングでこちらを向く兄貴。 「なんでもないわよ! バカァッ!!」 思わず、そう叫んでしまった。 これじゃステレオタイプのツンデレじゃない。私はこころの中で呆れながらも、まだ恥ずかしさに火照っている頬を鎮められなかった。 さっきあんなに感じた切なさは、日常と言う時間の中に吹っ飛んでしまったかのようだった。