約 129,199 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/901.html
津軽弁を排除したサビ抜きバージョンです(サユリの1人称のみ「わー」のままです) 昔々・・・ではなく2036年の事でした。あるカラオケ屋にとても変な神姫が居りましたとさ。どれだけ変なのか~って言うとこんな感じでした。 〔割と久しぶりだわ、カラオケなんて。そう言えば新曲で歌いたいのがあったのよね。とりあえず副部長、お酒頼んで〕 {部長部長!! 一応サークルの新人歓迎会だって忘れないで下さいよ! あ、キミたち、食べたいものがあったら好きなの頼んでいいですから} 「・・・私、人前で歌うのはあんまり・・・」 [新入りちゃん、大丈夫だって。聞いてるだけでも、今宴会用のパーティーグッズだか何だかも頼んだからちゃんと楽しめるって!] 〈ちょっとセンパイ・・・そういうパーティーグッズって大抵イタいコスチュームとかしょうもない玩具とか、最初は勢いで楽しんでも2度と使えなくて、しかもこういう所で頼むとぼったくりな料金取られますよ!?〉 [そっちの新入りはツッコミきついな~。いいじゃねえかよ、意外と面白いのが出てくるかもしれないだろ?] 『そうよっ!! 面白ないかは見てから決めてなさいっ!!!』 {いきなりマイク最大で喋るのは誰ですか! あ、人形?} 〔武装神姫じゃないそれ? 着物着てるけど、確かツガルタイプね〕 〈武装神姫って・・たしかマニアックな玩具でしたっけそれ? 良く種類まで知ってますね〉 『オモチャとは違うわ!! わーはさすらいの神姫演歌歌手、サユリちゃんよ!! まずは1曲聴いてくださいっ!! “津軽海峡冬景色”! ~♪ ~゛♪゛♪~』 [なっ!? 演歌ぁ!? いまどき演歌なんてジジイでも歌わねえのに、そんなんで盛り上げようなんておこがましいぜ!! 俺の“B’zの新曲”でも聴いて考えを改めな!! ~゛♪゛♪~!!] 『へー、言だけあってとても気合入った声してるわね。けれど歴史の浅い歌では重さが足りませんよ!! 真の歌っていうものは今の時代に聞いても凄く涙出るものなのよ。それとも古い歌なんて今の若い人は知らないの? 格好悪いわね! “淡墨桜”!! ~~♪♪!』 [B‘zの歌が軽いだと!? 古い歌知らねえだと!? そんな減らず口、この歌で塞いでやる!! “ギリギリchop”!! ~゛♪゛!!♪♪♪!!!~] 「・・・“Top of the World”歌います。~~♪~♪~♪~」 〈ああもう・・・、歌えばいいんでしょうが!! “Imagine”!! ~~~♪~♪♪~〉 〔へえ、意外といい歌知ってるじゃない2人とも。これは演歌ちゃんだけじゃなく、新入りちゃん達にも負けていられないわね! “みかんのうた”行くわよ! ゛♪゛♪゛♪~ ゛!゛!゛!~〕 {ああもう部長まで挑発に乗って、これでは収集が・・・} 『黙りなさい!! オケ屋なんて暴れて歌うトコでしょう!! ぐだぐだ言ってないで歌いなさい! “鳳仙花”! ~゛!! ♪♪~゛♪~』 {歌わないとは言っていません!! “脳内モルヒネ”、歌います・・。 ♪~! ♪♪~♪~} 〈次は“ピンクスパイダー” !!!♪♪~♪!!〉 「・・・“fly me to the moon” ♪~♪♪~♪ ♪♪~」 〔皆、古い歌しばりでもレパートリーあるのね。“石川大阪友好条約” ~♪ ~!! ~♪♪〕 [“DA・KA・RA・SO・NO・TE・O・HA・NA・SHI・TE”だ!! ♪~♪♪ !!!~♪] {“月に叢雲花に風”、歌います。 ~!!!~♪~!!!~♪♪} 『“夕焼けとんび”です!! ~~~~♪♪~~!!♪~』 [次は“LADY NAVIGATION”を・・・] 〈センパイ、俺の“lithium”が先です!! 大体、70過ぎても現役ロッカーな物好きの歌ばっかり歌わないで下さいよ!!〉 [B’zをバカにするな! 大体お前だって自殺とか殺されたりした奴の歌ばっかり歌ってんな! 辛気臭い!!] 〈なっ!? 別に歌は辛気臭くないんだからいいじゃないですか!!〉 『どうしたの、歌の趣味なんて人の好きじゃない?』 〔ねーねー、折角だから皆で“青のり”歌わない?〕 [{〈『それは却下!!!!』〉}] こんな風に、それはそれは迷惑な位古い演歌に情熱を注ぐ変わり者さんなのでした。 「ありがとうね~♪」 「有難うございました~♪ ・・・あ~ふわぁ~、眠ぃ、朝になってやっと閉店、これだからオケ屋のバイトってのは・・・」 サユリと歌ってた最後の客を見送ってから、マツケンが大きなあくびをすると、それを聞きつけて、奥からみりーも顔を出しました。2人ともサユリの同僚のアルバイトでした。 「マツケン君、最後のお客、随分盛り上がってたみたいだね」 「あ、みりー。それはこいつが居たからだよ」 「ああ、サユリちゃんか~。どうりで古い曲ばっかり聞こえてくると思ったら」 「久しぶりに、なかなか骨のある客だったわよ」 「珍しく、怒らない客だった、だろ? 毎度お前が古い歌で引っ掻き回した客の応対誰がしてると思ってるんだよ!!」 「でも結構サユリちゃんの売り上げ多いよ?」 「・・・珍しがってるだけなんだよ」 マツケンが睨んでも、サユリはなんとないわと鼻で笑っってました。 「さて、大分バイト代も溜まったから、わーはまた旅に出ようっと」 「へ? 旅って、もう出て行くのか?」 片づけを始めたマツケン達を尻目に、いきなりサユリは宣言しました。いつの間にかその体には大きな風呂敷も背負って旅支度まで済ませていたのです。 「え? サユリちゃんてこの店の神姫じゃなかったの?」 「ああ、こいつは俺たちと同じバイト」 「マスターも無しに?」 「なんでか知らねえけど、そうらしい」 みりーは先週からだったから、サユリの来た1月前のことは知らないのでした。 「ふらりとやってきて、いきなり1人で『住み込みで働かせてくれ~』とか言って押しかけて来たんだよこいつ。最近じゃ路上ライブも取り締まり厳しいからとか何とかで。で、物好きな店長が宴会要員として採用しちゃったんだよ」 「物好きなんて言うんじゃない!! わーの心意気に惚れ込んだから店長は雇ってくれたのよ!!」 「いや心意気はともかく野良神姫の飛び入りバイトなんて雇ったら十分物好きだろ大体お前演歌しか歌わねえし・・・まぁ、上手いとは思わなくもな・・」 「ねえ、ところで旅って何処へ行くの? 何が目的?」 「わーの師匠の親戚を渡り歩いているのよ」 マツケンの声を遮ってみりーが聞くと、サユリはそう答えていました。師匠って言うのはサユリのマスターの事だそうです。 「なんだ、野良じゃなくてはぐれた神姫だったのか。その師匠・・マスターを探して歩いてるのか? 何ではぐれたか知らないけど」 「だったらマツケンのお兄さんに探してもらったら? 確か元刑事だとか探偵だとか何とかじゃなかったかな」 みりーの言う通り、マツケンの兄は私立探偵をしていました。まーその欠けたハサミみたいな探偵の神姫に引っ掻き回され人生っぷりは別の話で見て下さい。しかし、みりーの提案にも、サユリは首を横に振ったのでした。 「違うわ。わーは別に師匠とはぐれた訳じゃないの。自分で旅に出て、修行してるのさ」 「修行!? 演歌の!?」 「わーは昔、さんざん「時期ネタ」だって虐められたのよ。サンタなんて「残りの364日はプー」なんて色々言われてねえ」 「あ~、俺も言ってたな。ツガルタイプはデザイン優先で使えないとかクリスマス以外の日にサンタが居てもありがたみが無いとか一人だけ元ネタありでデザイナーからゴリ押しで入れられた邪道だの色々。本人に言われると罪悪感沸くなあ」 「なら罪の償いに死んでくれない?」 「さらっと言うな酷いコト!!」 「それは冗談だけれど、実際それでわーはとても落ち込んでね。それを見てわーの師匠はこう言ったのよ。『一日だけでも、毎年喜ばれるならいい』てね。わーの師匠はたった1日の出番の日に、悪者になって豆弾を投げつけられるんだそうよ。それだけでなくてね、師匠の親戚は葉っぱで目潰しをされたり、初嫁や子供に挨拶しに行っただけなのに脅迫や誘拐に勘違いされたり、ただ笑っただけなのに「何をあざ笑ってるんだ!!」って非難されるって言ってたわ」 「でも実際悪さしてたんだろ? それだけ憎まれてるんなら」 「それはごくごく一部だけよ。殆どは昔良かれと思って始めた事なのに、皆が昔の事忘れてしまって全部悪い方に勘違いされてるのよ。それだけならまだ良かったんだけど、その風習自体ももう忘れられてしまってきていて、覚えも貰ってもいられなくなっているの」 「そんな・・・師匠さんの一族って可哀そう」 「ああ・・・ うん・・?」 みりーもマツケンも不幸なサユリの師匠を哀れんだのえした。けれどもマツケンはその師匠のことで、何か引っかかるとも思っていたのでした。 「けれども師匠はこうも言ってたわ。『だけど、俺達一族のやっている事は、関係ない、意味無いと言われても最後には人の幸せに繋がる事だから誇りを持っている』ってね。わーはその言葉にとても心打たれたわ」 「あ、なるほど。“風が吹けば桶屋が儲かる”の理屈か」 「え? 天気悪いと客足引くじゃない?」 「いやオケじゃなくて桶。風呂桶の桶だって。嫌な事が関係ないように見えて良い事に繋がってるってことわざ」 「そうよ、だからね、わーはそんな風に迷惑って言われても自分のやる事誇れる者になりたくて諸国巡りしている訳なの」 「そうか、だからわざわざ今では廃れて無意味で陳列棚の邪魔者って言われる演歌で身の上を立てたりしてるのか。神姫の癖に見上げた根性だよ、ホントに」 「いや、演歌は趣味だけど」 「話の腰折るなよ」 「それじゃ、そろそろわーは行くわね」 そう言ってサユリは風呂敷を背負って立ち上がりました。 「ホントに、言っちゃうんだね。それじゃあ、次は何処に行くの?」 「次は師匠の故郷に寄るのよ。京都の大江山なの」 「え? 大江山?」 「そう。師匠はそこに居ないけれど、集落には仲間が沢山居るって話よ」 「そっか、早く師匠さんに自慢できるようなオケ屋になれるといいね」 「ええ、頑張るわ。それじゃ、短かい間だったけれどがありがとうね。さようなら」 「うん、元気でね~!!」 朝日が、その小さな後姿をかき消したのは、ほんの一瞬のことでした。 「・・・ねえ、マツケン君、何か考え込んでるみたいだけど、どうしたの? サユリちゃんが心配?」 「いやさ、豆投げるのって、節分だよな? 最近あんまりやらないけど」 「・・・え?」 「節分の魔よけのヒイラギは目潰し用だって言うし、子供を追い回すって言うとなまはげ。来年の事を言うとアレが笑うってことわざもある。極めつけは京都の大江山って酒呑童子伝説の場所なんだよ」 「え、それって、もしかして、時期ネタで苦しめられて昨今忘れ去られてるってまさか・・・」 「いやでも・・・実在するなんて・・・ちょっとなあ、にわかに信じがたいってか・・・」 「・・・今度サユリちゃんに会ったら聞いてみるしかないよね」 「・・・また会ったら、な」 その後も、マツケンとみりーは神姫演歌歌手の噂は何度か聞く機会がありました。けれども、サユリとまた会うことは2度と無かったのでした。めでたしめでたし(?)。 目次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/425.html
戦乙女は、かく降臨せし(前半) ヒートアイランド現象の所為であたたかいと言え、今は冬真っ只中。 流石に冷えるが、ここは今日も賑やかで熱気に満ちているな。有無。 秋葉原神姫センター3階、ヴァーチャル式バトルフィールド装置前。 ここではサードリーグとセカンドリーグの試合を、年中やっている。 設置台数は、両リーグを合わせて凡そ……16基という所だろうか? 「お兄さんお姉さん達でいっぱいですの~、それとわたしの妹達もッ」 「そうだぞロッテ。今日はここで初バトルをやるんだ……大丈夫か?」 「はい。ちょっぴり緊張しますけど……精一杯がんばってきますの♪」 「良い娘だ~……こほん、勝ったらご褒美も考えてやろうか、有無?」 「むむむっ。そう聞いたら、もっとも~っと頑張っちゃいますの~♪」 そう、我々は先日“解除”と並行してサードリーグに登録したのだ。 草リーグとは違い、大小織り交ぜた“公式試合”が月に何度かある。 今日は初めてそれに挑戦してみよう、という訳である。心が躍るな。 私・槇野晶が引いている改造スーツケースには、神姫・ロッテ専用の 軽量級用装備一式が積まれている。いきなり重量級でもいいのだが、 まだまだ“アレ”は開発途上である。試作一号機が完成してからだ。 「さ、着替えようか。戦乙女ロッテの初お披露目と行こうじゃないか」 「はいですの!ん、しょ……マイスター、トランク開けてくださいの」 「よし。ではじっとしていろ……?最終点検も一気にこなすからなッ」 「了解ですの♪──────火器管制用ジステム……エクセス(接続)」 システムメッセージ用の無機質な声を確認し、私は一気に彼女を脱がす。 素体に専用アンダーウェアを施しているとは言え、やはり少し照れるよ。 ……「百合幼女萌え」とか言った奴には、飛び膝蹴り9本くれてやろう。 第一、補助アーマーとブースターを装備して“裸”とは言わぬだろう!? 「と言っても、何時もロッテを着せ替えする時は緊張するものだ……」 ……兎も角、その上に武装を施していく。まずは蒼穹の輝きを持つ装甲、 次に青き一角獣の槍を、更に死神の手……そして霊鳥の脚と神々しい翼。 仕上げに、大いなる天使の輪を宿す冠を。これで軽量級戦闘装備は完了。 おっと、愛用のチタン製ブレードと二挺拳銃も、装備させてやらねばな。 「よしっと。プランL009で動作スキャン、その後モード復帰してくれ」 「──グリューン。復帰します……マイスター、準備はOKですの♪」 「よし、では往こうか。間もなく試合時間だ、気合い入れろロッテ!」 「はいですの!なんとしてでも勝って、マイスターを喜ばせますのっ」 ウェアラブルPCを介してスキャニング結果を参照、異状は……ないな。 私の為に戦ってくれるとはしゃぐロッテに少し照れつつも、点呼に従って ロッテをバトルフィールドのエントリーゲートに入れてやる。私の出番は ここまで。後は彼女を信じて指示を飛ばすのみである。……そういえば、 今回の対戦相手は誰であったか。確認を忘れていたが、もう仕方ないな。 『ロッテvsフリッグ、本日のサードリーグ第39戦闘、開始します!』 「フリッグさんですか~……今回のフィールドは、どんな所ですの?」 『設定は“夕焼けの古戦場”らしい。そなたは初顔か、我が姉妹よ?』 「はいですの。マイスターに連れられて、今日は初めての戦いですの」 『そうか。私は幾度か戦った……初陣とはいえ手加減はできぬ、許せ』 「構いませんですの。マイスターの心があれば、勝つのは私ですから」 フィールド審判システムのアナウンスに混じって、相手神姫の声が入る。 その言葉通り、筐体内部のフィールドは朱に染まった草原を映し出した。 しかしロッテの、臆面もなく照れる台詞を言う癖は……正直赤面物だな。 まんざらでもないと思う私も大概ではあるが……ともあれ姿が見えたな。 「ほう、その姿。アーンヴァルタイプと聞いていたが、私に近いな?」 「ん……そういうお姉さんは、サイフォスタイプのカスタムですの?」 「如何にも。与えられた名をフリッグ、“大剣士”のフリッグという」 「私は、ロッテと言いますの。二つ名は~……えっと、うんと~……」 ロッテや……今度にでも考えてやるから、今は目の前の神姫に集中しろ。 しかし相手も青き鎧を纏った戦士か、“戦乙女”の初陣には相応しいな。 さて、早速モーションなどの情報収集を行うか。これこそが私の役割だ。 「では……いい試合をしようではないか、ロッテとやら。いざ、参る」 「マイスターの神姫、ロッテ!いざ尋常に勝負ですの!……ヤァッ!」 ──────ロッテが頭部バイザーを閉じた。“舞踏”の開始だ。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1335.html
山と森の台、響く神の音(前半) 結論から言えば、相変わらずであり同一ではなかった。従姉・碓氷灯だ。 人目を気にするが故の“奇行”は全く治っていないが、そもそもからして 奴は一人でハンバーガー屋に入る様な性格ではない。待ち合わせでもだ。 その細かい変化に、私・槇野晶も少々驚いている。色々と聞いてみるか。 「で、だ。引っ込み思案の田舎娘な貴様が、どういう風の吹き回しだ?」 「い、田舎などと馬鹿にせんでほしいですぞ?!……で、ええぇーと?」 「貴様は用がなければ、決して表に出んだろう?学業等、最低限以外は」 「あー……これでありますか?はは、私も偶にはハン……ギャアー!?」 「貴様正直に吐かぬとためにならんぞっ!さぁ何があった、さぁさぁ!」 躊躇無く私は、灯のコメカミに拳を当ててグリグリと捻る。梅干しだ! だが、そんな私の横暴を止めたのは六人・十二本の神姫の腕だった…… 六人だと?妙な事に気付き、私はすぐ下を見る。三人は我が“妹”達。 もう三人は“灯の妹達”……黒の堕天使を模した三姉妹の神姫だった。 「ちょーっと、晶さん!ミラ達の姉様に酷い事すると怒るわよっ!?!」 「姉様、大丈夫?……もー、相変わらず横暴なんだから姉様の従妹は!」 「む、ミラにイリンとティニアだったか……ほう、これはなかなか可憐」 「な、何よ何よッ!?褒めたって私達は姉様一筋なんだから……もうっ」 「あー……晶ちゃんは神姫の服飾やってるですしなぁ。どうですかな?」 その服装は……黒色基調の華美系と言えばいいか。だが、細かい装飾の 配色は勿論の事、服の微細なデザインやアイペイントまで違っていた。 殆ど没個性気味に統一されていた東京での邂逅とは違って、誰が見ても その違いがよく分かる。服はピンクとマリンブルーに、モスグリーン。 瞳は紅・蒼・翠。初めから順番にミラ、イリンにティニアである様だ。 「ふむ……成程。彼女らが更に貴様を変えていった、という所か?」 「そうよ!姉様にもっと色々見せて、外に行こうって言ったのよ!」 「そうしてたら、灯さんが徐々に応じてくれた……って事ですの?」 「うん。私達の個性が欲しいって願いも、こうして叶えてくれたし」 三人が、スカートの裾を摘んでたくし上げ優雅にターンをしてみせる。 以前は違いを見つけるのに手間取った仕草も、今は容易に区別が付く。 そして私は気付くのだ。彼女らのネクタイを止めている“階級章”に! 「……同一であり、しかし個性もある。綺麗になったと思うんだよ」 「ふふーん、普段の服だけじゃないんだから!あっと驚くわよっ?」 「え?えーと……あ、ひょっとして武装ですか!?新しい武装ッ!」 「そ、そう言う事ですな。ただ負けるだけというのは、嫌ですしッ」 「その執念が、貴様らを中信地域のセカンドへと押し上げた……か」 灯とその“妹”達は、ハッキリと肯いてみせる。それに応えてか、私の “妹”達もペンダントになったセカンドの“階級章”を掲げてみせる。 鎧袖一触、一触即発!少々ピリピリした空気がテーブルの上に流れる。 が、灯がそれを押し止める……断言しよう、奴は変わった。神姫でな! 「え、えと。それは明日!今日は晶ちゃん達を、楽しませるのですなっ」 「……ほう、貴様が場を仕切れるまでになるか。強ち嘘でも無さそうだ」 「明日は目に物見せてやるわよ、ロッテちゃん達!と、今日の予定っ!」 「そう言えば……今日はこの後、蕎麦フェスティバルと音文だったっけ」 「それは来月だしッ!それに音文はえーと……確かパイプオルガンよ!」 「……すまない、尚更分からんぞ。灯、順を追って説明してくれんか?」 落ちついて話を聞けば、なんて事はない。蕎麦を食い、郊外の公衆浴場で 入浴ついでに着替え、夜はパイプオルガンのあるホールでコンサートだ。 言われてみれば、旅をした私やロッテ達は勿論の事、灯やその“妹”達も 着替えや神姫用の洗浄剤を持っている。もてなす準備は万端という事か。 「というわけで、ハンバーガーの次は松本城で蕎麦を食べるのですな!」 「……だったらそもそも軽食など要らぬだろうが、何を考えているッ!」 「ギャァー!?ちょ、ブレイクブレイク!えうえうっ……ヘルプー!?」 「そうは言っても……わたし達、ハンバーガーとか食べちゃいましたの」 「……ボクはまだ入るし、アルマお姉ちゃんは全然足りなそうだけどね」 ひとしきり灯をいびってやった後、私は三姉妹の口を拭いてやる。灯の 神姫達は……当然だが……摂食行動が出来ぬので、冷却水を呑んだ口を 灯が拭いてやった。クララ達“私の”三姉妹は慣れた物で、肩に乗って じゃれてくるが、ミラ達“灯の”三姉妹は、普段と勝手が違う様だな。 「んっ……はむ。ね、姉様皆見てる……んむ……っ!」 「だ、大丈夫ですな。すぐ終わるから我慢して……ね」 「そうは言っても姉様、優しいんだもん……ねーっ?」 「ねー♪……って貴様、変な目で見ているなッ!!?」 「こら私の科白を掠め取るんじゃない、ティニアッ!」 ──────変わっていく姫達に、注目かな? 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/627.html
「マスターじゃない!!『お兄ちゃん』だっっっ!!!」 しばし沈黙。その後にハウリンは口を開く。 「…お、お兄ちゃん…ですか…?」 「そう、お兄ちゃん」 またしばし沈黙。 「マスターでは…ないのですか…?」 「マスターだけどお兄ちゃん」 そして、またしばしry 「で…では、マスターはあなたでいいんですよね?そして呼称はお兄ちゃん、と?」 「うん、そういうこと! あー、あと名前だよな。ちゃんと考えといたんだ、『ぽち』!どうだ、いいだろ!」 「ぽ、ぽちですか、犬のような名前ですね…」 「もしかして、いやだったか…?」 俺が不安そうに聞く。 「そんなことないです!マス…お、お兄ちゃんが付けてくれた名前だからうれしいです!これからよろしくお願いしますね、…お兄ちゃん」 「そっか!ならよかった!よろしくな!」 いや、しかしこいつは思った以上に可愛い。顔赤くして「お兄ちゃん」は反則だろう。まぁ、俺が呼ばせてるわけだけども。 と、そんなことを考えていると。 ―ピンポーン 「こんちわー、佐川急便でーす」 本日二度目の宅配便。俺は何が届いたか、わかっていた。 「お、ぽち、妹が来たぞ!おいで!」 そう言ってぽちに手を差出しつつベッドの上に置いてあった財布を掴む。 「妹?…ですか?」 ぽちは不思議そうな顔をしながら首を傾げている。うん、可愛い。 ぽちを手に乗せ、俺はまた玄関に向かった。 さて、また段ボール箱が一つ。今度の箱には「武装神姫・マオチャオ」と書かれている。 「マ…お兄ちゃん、もしかして妹とはこのマオチャオタイプのことですか?」 箱の上に移動したぽちが聞いてくる。 「お、さすが察しがいいね。そう、こいつがおまえの妹だ!ぽちの妹にするためにわざわざ配送時間をずらして指定したというわけよ。」 部屋につき、ぽちは床にひょいっと飛び降り、 「そ、そうなんですか。でもそれなら起動させる時間をずらせばよかっただけなのでは…?」 と的確なツッコミをくださった。 「言うな。俺も今そう思ったけど言うな。それより、早速起動させてやろうじゃないか。」 俺は誤魔化すように、箱を開封していく。 「おはよー!きみがますたー?なんだかちっちゃいねー!」 そう言ってぽちに話掛ける猫型MMSマオチャオ。天然ですかー? ぽちはなんだかびっくりと困ったが混ざったような顔をしている。 「いやいや、俺を無視しないで欲しいかなー、なんて」 こちらから声をかけてみる。 「おー、あなたがますたーだね!なんだか違うと思ったんだよー!で、で!なんて呼べばいい!?あとあと、名前ちょーだい!」 元気な子だなー。マオチャオってのはみんなこう元気なのか?そんなことを考えつつ、答える。 「よし、お前の名前は『たま』!俺のことは『兄ちゃん』だ!」 「おー!ねこみたいでかわいーねー!たまはたまだぁ!へへ、ありがと、兄ちゃん!よろしくね!」 たまはそう嬉しそうに言った。喜んでもらえて何より。 「あぁ、よろしく。ちなみにこっちがぽち。お前のお姉さんだ。」 そう紹介する。 「ぽちです。よろしくお願いしますね、たま」 「うん!よろしくね、姉ちゃん!」 「姉ちゃん…妹っていうのも悪くないですね。」 仲良くできそうで何より。これからの生活、楽しくなりそうだな。 つづきかねない
https://w.atwiki.jp/busou_bm2/pages/112.html
イーダ様のお部屋mk-2(仮) イーダ様?イーダ様の来歴 イーダ様の設定あれこれ イーダ様のお人柄 イーダ様の基礎ステータス イーダ様の信頼に応える-固有RA「スリルドライブ」- ゲーム中出会うイーダ様のマスター イーダ様のお部屋mk-2(仮) 武装紳士の諸君、イーダ様の紹介ページ(裏)「イーダ様のお部屋(仮)」へようこそ!! このページではイーダ様に関する雑学や、主にデータ関係を取り扱っている表ページには長ったらしくて載せれないような内容などを主に扱っていく(予定)だ! 単に迷い込んでしまった、ボクはデータが見たいんですという紳士は、こちらの出口から戻るといい。>イーダ イーダ様? し、紳士よ!そ、それを聞いてしまうのか!? …そうだな、神姫の世界に足を踏み入れたばかりの紳士も居ないとは言えんな…。 よし、ここでは、イーダ様についての情報を述べる。どちらかと言えば雑学、トリビアの類だ。必要ないと思った紳士諸君は飛ばした方がいいだろう。 イーダ様の来歴 イーダ様はフィギュアとしては「武装神姫シリーズ第7弾フルセット」でアーク型と一緒に登場した神姫だ。 なお参考だが、アルトレーネが11弾、エウクランテが5弾、ハウリンが2弾だ。少なくともフィギュアにおいては最近の神姫とは言い難い。 そうそう簡単には会えないだろう。 なお、最近再生産が行われている。イーダ様に限った話ではないが、以前の神姫であってもこのように何らかの形で再販されたり、地方などのおもちゃ屋にひっそり残っている場合もある。 フィギュアに関して言えば欲しい神姫がいるのなら、情報収集を欠かさないこと、そしてあきらめないことが重要になってくるだろう。 イーダ様の設定あれこれ 設定についてだが、「OSY010 オーメストラーダ製ハイマニューバトライク型MMS イーダ」というのが型式番号を含めた名前だ。 「イーダ」という名は「韋駄天」からとられている。これは武装各所のマーキング「YDA010」からもわかる。「イーダ・テン」というわけだ。 他にも 武装「エアロヴァジュラ」→「ヴァジュラ(密教仏具・金剛杵のこと)」 バトルロンドでのスキル「ドゥルガースレイ」「ヴリトラリバーサル」のように仏教・インド神話系からとられた関連用語は多いぞ。 次に「ハイマニューバトライク」だが、これは直訳すれば「高運動性三輪」になる。専用RA「スリルドライブ」の時の姿が「トライクモード」のイーダ様だ。 あのトライクは「ヴィシュヴァ・ルーパー」と言う名だ。この名はヴィシュヌ神の別名で、「あらゆる姿を持つもの」「全知全能のもの」の意味がある。 正確には「ヴィシュヴァ=全て(森羅万象などと同じ意味)」、「ルーパー=色(色即是空の色と同じ意味)」だ。 前方に2輪、後方1輪の形状のトライクだが、これを上から見るとちょうど「Y」の字になるようになっているぞ。 + ここだけの話だが… …ちなみに、「武装神姫最貧」と言われてしまっているらしいが、実を言えばsmall素体以外でも胸が薄い神姫自体は少なくはない。…ただしそのほとんどは武装胸状態での話だ。例としてはフィギュアでのウェルクストラ、ゼルノグラード、エスパディアあたりが文字通りの装甲板・絶壁である。 しかし肌そのものが見えていてなお、胸が薄い扱いをされるのはイーダ様ぐら<通信が途絶しました> イーダ様のお人柄 さて紳士諸君!表の部分にもいくらかは書いてあるのでイーダ様の性格などについてはそちらを見るといいだろう! イーダ様は自身の力に絶対の自信を持っておられる。華麗な戦いを望むのはイーダ様にとっては「勝利など当然のこと」だからだ。 それ以外にも、諸君らマスターにイーダ様が求めるものは多いだろう。 しかし、少々怒られたぐらいでひるんだり挫けてはならない。 イーダ様がしたいのは「マスターいびり」ではないからだ。イベントを進めていけばわかるが…これ以上はネタバレになってしまいかねないので控えよう。 とにかく、イーダ様の求めるものに応えることのできるマスターになった時、諸君らはイーダ様にとって自慢のマスターとなりえるだろう。 イーダ様の基礎ステータス 紳士諸君!まずイーダ様は素体LP300という、大変お体の弱いお方であらせられる…これは今作の神姫の中でも断トツで低い値だ。 だからこそ、だからこそだ紳士諸君!! 諸君らはイーダ様のお体に傷一つ付けないように慎重なバトルをする必要がある! 具体的にはターンやステップ等の考えうるあらゆる回避手段を駆使するのだ!! また、イーダ様は「大剣」「ライフル」のアビリティをお持ちである。 逆に「ロッド」は苦手であらせられる。 イーダ様の武器選択の参考にしてほしい。 なお、イーダ様のライドレシオがMAXになると「防御力」「武器エネルギー回復速度」「スピード」に補正がかかるぞ。 イーダ様は華麗な勝利をお望みである。勝利が当然の彼女にとって、無様な勝利など耐えられない、というわけだ。 高機動トライク型の名にふさわしい、華麗なバトルを心がけることだ。 イーダ様の信頼に応える-固有RA「スリルドライブ」- さて紳士諸君!諸君らの働きがイーダ様に認められ、彼女にとっての「理想のマスター」となった暁には、諸君らはイーダ様専用RA「スリルドライブ」を扱えるようになる。 このRAの詳しい説明は固有レールアクションを参照するとして、これを使う時の武装などについて説明させていただこう。 イーダ様のイベントの前半をこなすことで「スリルドライブ」が、その後追加される後半イベントをこなすことで「スリルドライブEX」が使えるようになる。 それぞれ固有のランク5、ランク7の装備を必要とするが、最強のイーダ様を決める「イーダクィーン」にしっかり出場し、なおかつ諸君らが戦いを繰り返し場数を踏んだマスターであるなら必要な武装はショップで購入ができる。安心するといい。 武装時のパラメータ・スキルなどは表のページの「固有武装装備時ステータス」を見てくれるとありがたい。 固有武装装備時にはヘッド、ボディ、シューズ、リア、アクセサリ枠1つを必要とする。武器の指定はないので諸君らの好きな武器を使うことができるし、武装制限杯の影響を受けることもない。 しかし、このタイプのRAの常として、持っている武器の攻撃力にRAの威力が依存する。 間違っても攻撃力の低い武器しか持っていない、それどころか素手の状態で使用して「あれ?このRA弱いじゃんかよ」などと言ってはならない! それはマスターのミスである!! ゲーム中出会うイーダ様のマスター 紳士諸君!ここでは、ゲーム中に登場するイーダ様達とそのマスターについて述べていこうと思う。 …が当然のようにネタバレの嵐になるであろうため、あくまで予定の段階であり、予定のまま消える可能性もある。 ご了承いただきたい。 <改装中>
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2354.html
キズナのキセキ ACT0-3「アイスドール」 ◆ 右の武装脚を踏み込み、ほんの少しだけ身体を宙に浮かせる。 間髪入れずに、背部の増設バーニアを噴射。 地を這うように滑空し、猛スピードで対戦相手に肉薄する。 「くそっ!」 小さなつぶやきと同時、対戦相手のジルダリア型のハンドガン「ポーレンホーミング」から、弾丸がばらまかれてくる。 それを錐揉みしながら回避、逆にこちらも機関銃を構え、撃った。 ジルダリアは防御の姿勢。 数発着弾。花びらを模した装甲に阻まれ、ダメージにはほど遠い。 だが、足は止まった。 間合いを取ろうとしていたピンクのジルダリア型は、その場で相手を待ち受けざるを得なくなった。 両腕にマウントされた剣「モルートブレイド」を構える。 そこに白亜の神姫が飛び込んできた。 背後から伸びるサブアームを前方でクロスし、そ のまま体当たりしてくる。 「くうっ!」 たまらず声を上げたのはジルダリア。 力任せの体当たりを防御するも、弾き飛ばされる。なんとか空中で姿勢を制御した。 背面に取り付けられたリング状の武装は、花びらを模した武装が取り付けられており、推進器の役割も持つ。 その「フローラル・リング」はジルダリアの代名詞とも言える武装だ。 姿勢を取り戻したジルダリア型だったが、しかしこのタイミングは、迫る白亜の神姫にとって得意のパターン。 さらに踏み込んできた白い神姫は、サブアームを振り抜いた。 鋭い指を揃え、突いてくる。 この抜き手は狙いを外さない。 反射的に身をよじったジルダリアの身体をかすめ、背後のフローラルリングを打ち砕いた。 「しまった……!」 ジルダリア型の驚きを気にも留めず、白い神姫は間髪入れずに、逆の副腕で抜き手を放つ。 狙いは胸部。その奥のCSC。 あやまたず放たれた抜き手は、無慈悲にもジルダリア型の胸を貫いていた。 勝利したのは、白いストラーフ型。 その名を、ジャッジAIが画面に表示する。 『WINNER ミスティ』 ◆ 「いやー、まいったまいった」 頭を掻きながら筐体から離れた男が言う。 先ほどの、紅とピンク色にリペイントされたジルダリア型のマスター・花村耕太郎である。 彼の神姫・ローズマリーも、今は彼の肩の上でうなだれていた。 「今日はいいところまで行ったのに……」 ここのところ、ミスティとの対戦は連敗である。彼女は急速に力を付けてきていた。 「強くなったなぁ、久住ちゃん」 「いえ……わたしなんてまだまだ……」 セミロングの髪を上げ、花村を見る少女は、まだ中学生である。 控えめな口調で謙虚な言葉を口にする。 『七星』の一人を破ったというのに、久住菜々子は笑わない。むしろ、せっぱ詰まっている様子さえ見て取れる。 実際、菜々子はこの対戦に満足してはいなかった。 ローズマリーはノーマルのジルダリア型だ。各部の調整と細かなメンテナンスでポテンシャルを引き出し、知略戦略で戦う。 そのバトルスタイルについては、菜々子は大いに花村を認め、参考にもしていた。 菜々子はまだ中学生で、ミスティを満足にカスタムしてあげられない。わずかに、強襲用の背面ブースターを追加したのみだ。 だから、ノーマルでも強い花村は、今菜々子が目指すべき神姫マスターと言える。 だが、実力があるかどうかは話が別だ。 花村も『七星』の一人ではあるが、まだ二つ名もなく、他のメンバーに比べると実力は劣っている。 カスタムを施された神姫たちがひしめく、他の『七星』たちに勝つためには、現状で満足しているわけには行かない。 もちろん、この時の菜々子は、後に花村たちが『薔薇の刺』の異名を取るなどとは知る由もなかった。 とにかく、菜々子はバトルロンドで強くなることに必死だった。 それには理由がある。 「菜々子、絶好調じゃない」 「あおいお姉さま」 菜々子はそこでようやく、ほっとしたように微笑んだ。 『七星』一人・桐島あおい。 彼女の側に居続けるために。 彼女のパートナーであり続けるために。 菜々子はどうしても強くならなければならなかった。 ◆ 久住菜々子が想像していた以上に、『ポーラスター』における桐島あおいの人気は絶大なものだった。 ゲームセンター『ポーラスター』の神姫マスターの間で、『七星』のメンバーであれば、それだけで羨望の的だ。 彼らは『ポーラスター』に集う神姫マスターの代表である。バトルの実力ももちろんだが、それぞれのやり方で『ポーラスター』の対戦レベルの向上を図っている。 たとえば花村は、ノーマルあるいは公式装備にこだわるマスターたちのまとめ役である。彼を中心に研究グループができ、日夜ノーマル装備の可能性を探っている、という具合だ。 桐島あおいは、バトル初心者を見つけては声をかけ、バトルの講習を行い、対戦の面白さを知ってもらう活動を行っている。 そして、ゲームセンターへの定着をはかり、仲間を増やしていこう、という魂胆だ。 菜々子はあおいの魂胆にまんまとはまってしまったわけだ。 だが、その魂胆にはまったのは菜々子一人だけではない。まだ初級者に分類されるマスターたちの半分以上が、あおいの受講生だと言うから驚きである。 楽しく優しくレクチャーしてくれるあおい先生が、人気がないはずがない。 受講生たちはほとんどが桐島あおいのファンだ。特に女の子たちは、あおいの取り巻きとなっている。 もちろん、彼女の人気は女子だけに留まらない。 あの美貌、あの気立てのよさ、である。あおいとお近付きになりたいと思う男性マスターは大勢いた。 そんなわけだから、ゲーセンにいるときのあおいは、常に人に囲まれていると言っても過言ではない。 つい先日まで、あおいがその輪から離れることはなかった。 そう、久住菜々子と出会うまでは。 菜々子が『ポーラスター』に現れて以来、あおいは菜々子との時間を優先するようになった。 対戦していないときは、もっぱら菜々子の側にいる。 バトルロンドでは、ツー・オン・ツーのタッグバトルでコンビを組んでくれるし、対戦を希望すれば必ず相手をしてくれる。私的な練習にも、まめに付き合ってくれる。 しかも、タッグバトルのパートナーは、『七星』のメンバー以外では、菜々子とだけしか組まなくなった。 菜々子をひいきする理由をあおいに問いただしても、笑ってはぐらかされる。 当然、あおいの取り巻きをしている少女たちは面白くない。 彼女たちの矛先は、自然、菜々子に向けられた。 菜々子に対する「特別扱い」をやっかむ陰口は毎日のことだった。 また、ことあるごとに……いや、何もなくても、あおいの取り巻きたちは菜々子にしょっちゅう難癖を付ける。直接不満をぶつけに来る。 「いい気にならないで! あおいお姉さまはあなたのものじゃないのよ!?」 「……あなたたちのものでもないでしょう」 「みんなのものよ!」 「……お姉さまは、お姉さまのものだと思うけど」 「まあっ、生意気に言い返すつもり!? だいたい、あんたなんか、お姉さまのタッグパートナーに不釣り合いなのよ!」 「じゃあ、誰だったら、お姉さまと釣り合うの?」 そう言われると、取り巻きたちは声を詰まらせざるを得ない。 『七星』や上級者の常連ならともかく、初級者に毛が生えた程度の取り巻きマスターたちでは、タッグマッチでルミナスの足を引っ張るのがオチだ。 そう言う意味では、今一番の成長株と目される菜々子は、あおいのパートナー候補になりうる。 また、それなりの美貌がなければ、あの桐島あおいの隣に並んでも見劣りしてしまう。 本人が考えたことはないが、その点でも、菜々子は及第点をクリアしていると言えよう。 だからといって、やっかみの声が静まることはない。 菜々子は表立って反論するようなことはしない。そんなことをすれば、火に油を注ぐだけだとわかっている。 では、どうするか。 実力で黙らせる。 バトルの実力で、お姉さまの側にいるのにふさわしいことを証明してみせる。 『七星』なれるほど強くなれば、きっと誰もが、自分をあおいお姉さまのパートナーとして認めざるを得ないだろう。 だから、菜々子は最短距離で強くなろうとした。 その結果、彼女のバトルスタイルは、相手の弱点を容赦なく突き、勝ちばかりを求めるものになっていた。 だが、そんな菜々子のスタイルに、当のあおいお姉さまは難色を示す。 あおいが菜々子に求めるバトルスタイルは、勝ちばかりを意識したものではない。 それは「魅せる戦い」だとあおいは言う。 しかし、菜々子にはその意味が、よく分からない。 ◆ 「久住ちゃんも強くなったよな。そう思わないか、お姉さま?」 あおいと花村は並んで、観戦用の大型ディスプレイを見上げていた。 ディスプレイには、ミスティの戦いぶりが映し出されている。 現在、三連勝の表示。 「……まだまだね」 「手厳しいな。君の妹分だってのに」 「自分の身内に対しては、容赦しない主義なの」 「それは久住ちゃんがかわいそうだ……また勝つぜ」 その言葉とほぼ同時、ミスティは必殺の抜き手を放ち、相手神姫を撃破した。 連勝表示が一つ増え、四を示す。 「ほら。もう、常連の中でも頭一つ抜きんでてる感じだ。相手になるのは『七星』ぐらいじゃないか?」 「そうかもね」 「……だから、みんなに提案がある。俺は久住ちゃんを『七星』に推薦したい」 「え?」 あおいは花村を見た。 そして、その場にいた、『ポーラスター』の『七星』のメンバーたちも。 その時点での『七星』のメンバーは、花村とあおいを含めて六人だった。 「今日、招集をかけたのはそれか、花村」 「そうだよ」 武士型のマスターである『七星』メンバーの言葉に、花村は頷いた。 『七星』のメンバーに加入できるか否かは、メンバーの合議によって決まる。 といっても、堅苦しいものではない。誰かが推薦して、「いいんじゃない?」といった感じで決まることがほとんどだ。 「『七星』は今六人。久住ちゃんが加われば、人数的にもちょうどいい。 それに、彼女の向上心は、他のプレイヤーたちにもいい刺激になるんじゃないかな」 「なるほど」 「確かに」 「異議なし」 他のメンバーも、花村の意見に頷いている。 確かに、最近の菜々子とミスティの成長には、目を見張るものがある。 あおいの取り巻きたちと比べても、あきらかに一線を画した実力だ。あおいのパートナーを目指すマスターは他にもいるが、実力的にも相性的にも、菜々子に匹敵する者はいない。 他の『七星』に比べれば、まだ見劣りする実力も、すぐに追いつくだろう。 そして、菜々子自身、『七星』になることを望んでいる。 反対する理由は何もないように思えた。 だが。 「わたしは反対」 そう言ったのが、当のあおいであることに、花村は驚きを隠せない。 「どうして? 桐島ちゃんが一番喜んで賛成すると思っていたのに」 「まだ早いわ」 「そうは思わない。彼女は十分に強いじゃないか」 「確かに強くなった……でも、足りないものがあるのよ」 「足りないもの……?」 「あの子はまだ、勝ち負けしか見えていない。強いだけじゃ、ダメなの」 ミッションモードで乱入待ちをしている菜々子を見る。 バトル中の彼女は、いつも真剣な表情でディスプレイを見つめている。何か思い詰めたような様子さえある。 あおいは小さくため息をつき、菜々子の向かい側へと歩み寄る。 「菜々子」 「お姉さま」 「次、対戦、いい?」 「どうぞ……真剣勝負でお願いします」 「わかったわ」 あおいは鮮やかな笑みを見せて、向かいのシートに座った。 肩にいる自分の神姫を、アクセスポッドに寄せる。 「行くわよ、ルミナス」 「はい、マスター」 その後、ものの三分とかからず、ルミナスはミスティを撃破した。 菜々子はいまだに、本気のあおいに一度も勝てなかった。 ◆ 「だから、ただ勝てばいいってものじゃないのよ。もっと楽しまないと」 「それがよくわかりません。勝つこと、イコール、楽しいことじゃないんですか?」 「勝つだけが、バトルロンドの目的じゃないわ」 対戦後、自動販売機のあるコーナーで、冷たい飲み物に口を付けながら、二人は話していた。 幾度となくかわされた会話であるが、お互いの意見は平行線である。 あおいは、武装神姫のバトルには、勝敗以上の何かがあると思っている。 その「何か」を説明するのがなかなか難しい。 たとえば、自分の力を出し切ったときの充足感とか、自分の戦術が見事に当たった瞬間の気分とか、自分と神姫がまるで以心伝心のように意志を伝えあったときとか、自分の成長を感じられたときの嬉しさとか、そういったものだ。 それを感じることこそ、武装神姫の醍醐味、とあおいは思っている。勝利はその延長上にあるものにすぎない。 それを菜々子にも分かってもらいたい。 だが、我が妹は、そのことをなかなか分かってくれない。彼女は勝利を第一優先にしている。 対戦において勝利第一主義が悪なわけではない。ただ、あおいの主義と合わないだけだ。 だからこそ、菜々子の説得が難しい。 あおいはため息をついた。 「だから『アイスドール』なんてあだ名されるのよ」 「アイスドール?」 「あなたの異名。氷のように表情を変えずに、容赦なく弱点を攻撃する。まるで感情のない人形のように。だから『アイスドール』」 二つ名は、尊敬の意味を込めてつけられる場合が多い。 だが、菜々子のそれは、皮肉が込められている。そんな戦い方で楽しいのか、と。 また、ゲーセンでの菜々子は、あおいの側以外では、あまり表情を変えない。それは先日の悲しい出来事に起因しているのだが、知らない人の方が多いのだ。『アイスドール』の二つ名は、そんな普段の様子も揶揄されている。 しかし、菜々子はのんきにコメントした。 「へえ……ちょっとかっこいい、ですね」 そう言って小首を傾げた菜々子はとても可愛い。 あおいはがっくりと肩を落とした。我が妹は、二つ名の裏の意味にまったく気がついていないようだ。 あおいは頭に手を当てて、悩む。 どうすれば菜々子に、自分の考えを分かってもらえるのだろう? ◆ マスターたちの悩みをよそに、ミスティとルミナスはのんきに話をしている。 神姫である彼女たちも、マスター同様、すこぶる仲がよい。 お互いのマスターの肩の上で、マスターたちの話の邪魔をしないように、極長調波の音声で会話をしていた。 「まあ、わたしは『アイスドール』のままでもいいんですけどね。勝てているし」 「そうねぇ。わたしたちと肩を並べるために、まずは勝ちに行くっていう菜々子さんの考えも一理あるわよねぇ」 ルミナスはアーンヴァル型のカスタムタイプである。 本来、アーンヴァルは長距離射撃を得意としているが、マスターであるあおいの趣味で、中距離から近接格闘戦ができるような装備にカスタムされた。 背面の大型ブースターを、小回りの利くバーニアに変更。武装も、ロングレンジライフルを廃し、中距離向けのビームライフルなどに変えている。 コンセプトは最近発表されたアーンヴァルmk2に近い。 ルミナスの戦い方は「蝶のように舞い、蜂のように刺す」を実現したようなスタイルだ。 最高速度の加速を捨て、機動力重視の推進を手にしたルミナスは、あおいの指示のもと、飛行機のアクロバットさながらの機動を見せる。 そして、急加速による接敵からの近距離戦に移行する動きは鋭い。 こうした機動を緩急つけて行うことで、ルミナスはあたかも空中で舞っているように見えるのだ。 その空中の舞を駆使した戦いぶりは、美しく、そして強い。 あおいとルミナスは、その戦い方から、『月光の舞い手(ムーンライト・シルフィー)』と呼ばれていた。 「わたしたちの戦いぶりと比べると、あおいさんとルミナスの戦い方は真逆ですけど」 「だからこそ、タッグバトルで噛み合うってのはあるわよね」 「わたしもそう思います……あおいさんは、何が気に入らないんでしょう?」 「ミスティに、わたしたちと同じような戦い方をして欲しいんじゃないかな」 「それは無理でしょう……うちのマスターの性格からして」 二人の神姫は、人には聞こえない声で、笑った。 ◆ 「今の、ルミナスとミスティのタッグは、こんな感じね」 あおいは、ルミナスを示す右の指をくるくると回して螺旋を描き、その螺旋の中心を貫くように、ミスティを示す左の指を一直線に動かした。 「コイル……ですか?」 「え? ああ……そうね、電磁石みたいね」 「勝ちがいくらでもくっついてきそうです」 我ながら、つまらないジョーク。 でも、電磁石で何の問題があるのかわからない。 華麗に舞うルミナスと、容赦なく敵を倒すミスティ。 そのミスマッチこそ、このペアの強さだとも思う。 だが、あおいはまた両手の人差し指を動かした。 「わたしが望むタッグバトルは、こんな感じ」 両手の指が、今度は互い違いの螺旋を描く。時に近づき、時に離れ、模様のような立体図形が宙に描き出された。 「二重螺旋……?」 「ああ、なるほど……遺伝子に似ているわね。 そう、二人が一緒に魅せる戦いをすれば、試合はきっと、勝ち以上のものに進化するでしょうね」 そう言って、あおいはにっこりと笑った。 「息のあったパートナー同士のタッグバトルは、すごいわよ? それはバトルなのに、まるでダンスを踊っているように見える……とても美しいの」 「……美しい?」 「そうよ」 自信たっぷりに頷いたあおいに、菜々子は首を傾げる。 菜々子は、そんなバトルをしたことがなかったし、名勝負と語り継がれるような試合を見たこともなかった。 戦闘行動は、その時どきの状況によって刻々と変化する。 それなのに、パートナーと息を合わせて戦うなんて、できるだろうか。 もちろん、菜々子とあおいのコンビは、ここ『ポーラスター』でもトップクラスの実力である。バトルの時のルミナスとミスティは息が合っていると思う。 これ以上、何が足りないというのだろうか。 「きっと、菜々子の戦い方には、個性が足りないんだと思う」 「個性?」 「そう。ミスティは、ストラーフ型の戦い方としてはすごく真っ当だけど、それは誰もがどこかで見たことのあるストラーフに過ぎないわ。サプライズが何もない」 「……でも、わたしは、お姉さまのように華麗な動きを指示できません」 困ったように言う菜々子に、あおいは苦笑した。 「わたしの真似をする必要はないわ。まずは、あなたらしい戦い方を模索してご覧なさい」 「わたしらしい……戦い方……」 それこそが今の戦い方なのではないかと思うが、違うのだろうか。 おそらく違うのだろう。ステレオタイプなストラーフの戦い方は、誰にでもできる、ということなのだ。 だけど、菜々子らしい戦い方、というのは、なんなのだろう? 「それができるようになったら、菜々子を『七星』に推薦するわ」 「えっ……」 「どう? もう少し頑張ってみる?」 「はい!」 微笑むお姉さまに、元気に返事をした。 他でもないお姉さまが『七星』に推薦してくれるというのだ。 そうなれば、誰に恥じることなく、あおいお姉さまのパートナーと名乗ることができる。 菜々子は俄然やる気になった。 その日から、菜々子とミスティの、オリジナルな戦い方を模索する日々が始まった。 □ 「ひとつ疑問があるんですが……」 「何かな?」 「桐島あおいは、なんで久住さんにこだわったんでしょう?」 ここまでの話を聞いて、俺が一番気になったのはそこだった。 ただ仲がいい、とか、お気に入り、と言うレベルを超えている気がする。 長い付き合いの他の常連たちを差し置いても、菜々子さんを特別にかわいがる理由が、何かあるのではないか。 花村さんは、少し考えてから、言った。 「……たぶん、桐島ちゃんは、久住ちゃんに自分を重ねていたんじゃないかな」 「……?」 「桐島ちゃんも、幼い頃に両親を亡くして……祖父母の元で暮らしてるって聞いたことがある。 あの頃の、打ちひしがれた久住ちゃんを見て、桐島ちゃんは放っておけなかったんだと思うよ」 なるほど、と俺は頷いた。 桐島あおいは、自らの境遇を菜々子さんに重ねていた。だからこそ、献身的に菜々子さんを支えていた。 菜々子さんも、桐島あおいの事情をいつか知ることになったのだろう。 武装神姫だけでなく、身の上でも、二人は共通の思いを抱いていたのだ。 二人が急速に惹かれ合い、寄り添ったのにも納得がいく。 それにしても。 花村さんが話してくれる菜々子さんの過去は、実に興味深い。 『ポーラスター』で過ごした菜々子さんの様子は、今の『エトランゼ』の戦闘スタイルが形作られていく過程だ。 スタンダードなストラーフ型のバトルが、いかにしてあのトリッキーかつパワフルなミスティのバトルへと変化するのか? 俺は期待を込めつつ、花村さんの声にまた耳を傾けた。 次へ> Topに戻る>
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1180.html
「接近して相手をすぐ倒すクリナーレで」 「さっすがアニキ!話がわかるぜ!!」 頭の上で騒ぎ喜ぶクリナーレ。 まぁ喜んでくれるのは嬉しい。 だけど他の三人は少し残念そうな感じだ。 『後で他の奴等と戦うから、その時にな』と言うとパア~と明るい表情になる神姫達。 さて、そろそろ対戦するか。 装備…よし! 指示…よし! ステータス…よし! クリナーレを筐体の中に入れ、残りの神姫達は俺の両肩で座ってクリナーレの観戦をする。 「クリナーレ、負けんなよ!」 「おう!任しときな、アニキ!!」 「頑張ってクリナーレ!!」 「クリナーレさん~頑張って~!」 「姉さんー!無茶はしないでくださいねー!!」 「闘いに無茶はつきものだぜ!」 クリナーレは余裕綽々な笑顔を俺に見せ筐体の中へと入って行く。 気がつくと俺は両手で握り拳をつくっていた。 いつになく俺の心は興奮していたのだ。 何故だろう? 多分、誰かを応援している事によって熱くなっているのかもしれない。 それとクリナーレに勝ってほしい、という気持ちがある…かもなぁ。 俺は筐体の方に目を移すと中には空中を飛んでいる二人の同じ武装神姫達が居た。 READY? 女性の電気信号が鳴り響き、一気に筐体内の中に緊張が走る。 勿論、外に居る俺達もだ。 FIGHT! 闘いの幕があがった。 お互いの距離150メートルからスタートして、まずは二人とも距離を縮め接近する。 クリナーレはDTリアユニットplusGA4アームに付いてるチーグルを相手のストラーフに向ける。 すると敵のストラーフもクリナーレと同様にDTリアユニットplusGA4アームに付いてるチーグルをクリナーレに向けた。 そのままお互いの距離が縮まっていく。 70…60…50…40…30…20…10…0! ガキャン! 鈍い機械音が辺りに響く。 DTリアユニットplusGA4アームのチーグル同士がぶつかった音だ。 「この!」 「うりゃっ!」 クリナーレが先に叫び上げ遅れて敵のストラーフも叫ぶ。 お互い両手を突き出しさらに互いの両手同士で掴みあう。 チーグルもその状態だ。 二人とも引かない力押しの戦法。 チーグルと自分達の両手で押し合い睨みつけあう状態が数秒たった。 「…そりゃ!」 敵のストラーフは何を思ったのか、自分を軸にしてクリナーレをブンブンと回す。 遠心力によりドンドン、と回転するスピードが速くなる。 「セイッ!」 ストラーフの掛け声と同時にクリナーレを離した、地上に向けて。 クリナーレは物凄いスピードで斜めの角度で地上に落ちていく。 いや、地上に落ちる前に廃棄されたビルにぶつかってしまう。 このままじゃマズイ! 「クリナーレー!」 俺は叫んだ、だがクリナーレからの返答はないまま、そのままビルに突っ込んだ。 ドガシャーン! ビルの壁をブチ破りそこらじゅうに雷みたいな亀裂が走る。 もう一回軽い衝撃でも当てればビルは倒壊するような亀裂だ。 って、ビルの様子よりもクリナーレの状態が気になる。 すぐさまビルに穴があいた部分に集中し目を凝らして覗く。 視力は良い方なので多少離れていても見える…はずだ。 …いた! グッタリと上半身を壁に寄りかかり座っている。 「大丈夫か!?クリナーレ!」 「イテテ~、大丈夫だよアニキ」 ヨロヨロと覚束ない足で立ち上がるクリナーレ。 これはちょっとヤバイかもなぁ。 筺体に付いてるコンソールを見るとクリナーレのLPは半分以上無くなっていた。 ちょっとどころではなく、かなりヤバイ。 あの野郎…無理なんかしやがって。 そんなヤバイ状態のクリナーレに追い撃ちがきた。 敵のストラーフがクリナーレがぶつかって出来た穴からモデルPHCハンドガン・ヴズルイフを撃ってきたのだ。 撃った数は二発。 何とかしてクリナーレはその二発を避けたものの、ただでさえフラフラの状態なので転がるように倒れ込む。 だが、幸いな事に転んだ場所が瓦礫の壁だったので敵のストラーフが追撃出来なくなったこと。 「クリナーレ、大丈夫なら返事をしろ!」 「ごめん、アニキ。やっぱり、ボク…負けちゃうかも」 弱々しい声で言うクリナーレ。 こんなにも弱々しいクリナーレを見たのは久しぶりだ。 前は違法改造武器を使った時に泣いたんだったけ。 今のクリナーレはあの時と同じだ。 このまま戦闘を続ければ精神的に弱気になってしまう。 どうする…どうすればいい! 俺に出来る事は何かないのか!? 「しっかりしてください、姉さん!弱音を吐く姉さんなんか、姉さんじゃありません!!」 「!?」 いきなりの大きな声が聞こえたので俺は驚愕する。 声の主は左肩に座っているクリナーレの妹、パルカだった。 怒った表情にも見えるけど悲しい表情にも見える、なんとも言えない表情だ。 自分の姉をまるで叱っているようにも元気づけてるようにも見える。 俺もパルカの事を見習わないといけないなぁ。 「クリナーレ!お前は力はそんなものか!?違うだろ。お前はそんなヤワな奴じゃないだろうが!!頑張れ!!!」 瓦礫に隠れていてクリナーレの姿は見えないが、俺とパルカは諦めない。 「そうよ、クリナーレ。貴女なら勝てるわ!」 「クリナーレお姉様はいつも元気な人ですわ。頑張ってください!」 アンジェラス、ルーナが後から応援する。 考える事は皆同じということか。 よし、このまま応援し続けるぞ。 「負けんな!クリナーレ!!」 大声で応援し続けていると他のオーナー達が『なんだ?』とこっちに来くる。 けど今の俺には野次馬なんてどうでもいい。 今はクリナーレの応援に専念するべき。 そう思った時だった。 「分かってるよ!ボクが負ける訳ないだろう!!」 クリナーレの大声が聞こえた。 ドカーン! それと同時にビルの反対側の壁が爆発した。 その爆発から勢いよく飛び出すクリナーレ。 表情は元気いっぱいのいつものクリナーレだった。 「クリナーレ!」 「アニキ、パルカ、アンジェラス、ルーナ。応援ありがとう。ボク、頑張るからしっかり見ててね!」 左手を元気よく振るクリナーレ。 フッ…心配掛けやがって。 まぁこれでいつものクリナーレに戻ったから大丈夫だろ。 「さっきはよくもヤッてくれたな!倍にして返すんだからー!!」 クリナーレが敵のストラーフに物凄いスピードで突っ込む。 あれ? この光景はデジャブーだぞ。 あっ! 戦闘が始まって最初に敵と接触した時の場面だ! ガキャン! 再び鈍い機械音が辺りに響く。 DTリアユニットplusGA4アームのチーグル同士がぶつかった音。 「また振り飛ばされたいのかな?」 「フン!残念でした~、次に振り飛ばされるのはお前だよ!」 お互い両手を突き出しさらに互いの両手同士で掴みあい、二人とも引かない力押しの戦法になる。 最初の時とまるっきり同じ。 チーグルと自分達の両手で押し合い睨みつけあう状態が数秒たった。 「それ!」 「!今だ!!」 敵のストラーフがまた振り回そうとした瞬間の隙をクリナーレは見逃さなかった。 ゴツン! なんとお互い掴んだままの状態で敵のストラーフの頭にクリナーレが無理矢理の頭突きをかましたのだ。 あまりの痛さにストラーフは自分の頭を両手で押さえてフラフラとバランス悪く飛ぶ。 その間にクリナーレはアングルブレードを右手と左手に一ずつ持ち二刀流になる。 「クラエーーーー!!!!」 ズバズバズバズバ!!!! 「オマケだーーーー!!!!」 グシャ! アングルブレードで4回斬った後に回し蹴りをして吹っ飛ぶストラーフ。 そのまま吹っ飛んだ敵のストラーフは反対側にあるビルの壁にぶつかり、LPが無くなり力尽き地上に転落していき、ゲーム終了した。 俺の方の筐体に付いてるスピーカーから『WIN』と女性の電気信号の声が鳴り響く。 多分、相手の方では『LOSE』と言われてるだろう。 そりゃそうだ。 勝ちがあれば負けもある。 二つに一つ。 「勝ったよ!アニキ!!」 筐体の中で俺の事を見ながら喜ぶクリナーレ。 俺も自分の神姫が勝った事が嬉しくて微笑む。 両肩にいるアンジェラス達も喜びハシャイでいる。 そうか…。 これが武装神姫の楽しみ方か。 確かにこれは楽しい。 おっと、クリナーレを筐体から出さないといけないなぁ。 筐体の出入り口に右手を近づけると勢いよくクリナーレが飛び出して来て俺の右手に抱きつく。 そのまま俺は右手を自分の目線と同じぐらい高さまで持っていきクリナーレを見る。 「頑張ったな、クリナーレ」 「エッヘン!アニキやみんなの為に頑張ったんだから!!」 「言ってくれるじゃねぇかー、こいつ」 「…アウッ」 俺は右手の手の平に居るクリナーレを更に左手の手の平と添えるようにくっ付けて、お茶碗のような形を両手で形どる。 両手でよく水を掬う時にやるあの形状だ。 その形を保ちつつ親指の腹の部分でクリナーレの頭を撫でる。 この撫で方はクリナーレのお気に入りだそうだ。 何でも、俺に抱かれているようで気持ちいいらしい。 まぁ…クリナーレがそれがいいと言うなら俺はなにも文句は言わん。 「いいなぁ…。ご主人様、ご主人様、次の試合は私を指名してください。絶対勝ちますから!」 「ダーリンのご褒美を貰うために頑張らないといけませんわね」 「あの…私のバトルは最後でもいいので…もし勝ったら、お兄ちゃんのご褒美くれますか?」 両肩で何やらクリナーレに嫉妬しているように見える三人の神姫達。 そんなにご褒美が欲しいのか? まぁ今日はトーブン、ここにいるつもりだから一応全員バトルさせてやるか。 俺はクリナーレの頭を撫でるの止めて離すと。 「え!?もう終わりかよ~。もっと撫でてー!」 離した親指を無理やり掴み自分の頭に擦り付けるクリナーレ。 はぁ~…我侭な奴だ。 まぁそこが可愛いだけどな。 だがもし、ここでまた再びクリナーレの頭を撫でると両肩に乗っている三人に何されるか解らないので撫で撫ではお預け。 クリナーレを両手から左肩に移動させ、俺は次の筐体に向かった。 闘いはまだ始まったばかりだ。 「さぁ行くぞ!俺達のバトルロンドの幕開けだー!!」 こうして俺達のバトルロンドがスタートした。 そしてこの日からクリナーレの二つ名が出来た。 名は『重力を操る者』…。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2709.html
店長たちが部屋を出るのを確認した私は、声のボリュームを少しあげました。 「えっと、それであなたの名前は?」 さっきも聞きましたが、答えてくれなかったので、もう一度。 「……データが破損していて、わかりません」 今度は答えてくれました。しかし、内容はあまり芳しくありません。 「じゃあ、憶えていることは?」 「……以前のマスターのこと……それと、見慣れないデータだけです」 見慣れないデータ、これは店長が入れたものです。あの樹羽という少女についてのものだと聞きました。 「あなたのマスターは、どんな方でした? 多分、あなたがいなくなって、心配してますよ」 「……それは無いと思います」 「なんでですか?」 「……マスターにですから、改造されたの」 「……っ」 けっこうショッキングな事実でした。 私は、マスターたちがこの子のことを調べている間、改造された武装の方を調べていたから、初耳です。 「だから、心配なんかされていません。もしかしたら、いなくなった私の代わりに誰か改造してるかもしれません」 「…………」 いけません。話がだんだんネガティブな方向に転がっていきます。非常によろしくありません。こういう空気は大っ嫌いです。 でも、この空気を無理に変えようとすると、余計に悪化する可能性があるので、控えます。こじれると厄介です、本当に。 「……今でも、そのマスターの所に帰りたいですか?」 私は少し小さな声で尋ねました。多分、一番重要な質問です。 この答えによって、あの少女がこの子のマスターになるかが決まるわけですから。 「……いいえ、戻りたくありません。戻りたくても戻れません……」 「戻れない……?」 「解除されてるんです。マスター登録が」 「登録が?」 どういうことでしょう? まさか、店長にですか? いえ、いくら店長でもそこまでしません。 『あ、しまった』とか言って解除しちゃうところとか想像出来ちゃいますけど。 「だから、厳密に言えばマスターじゃないんです。私は今、マスター不在の状態で……」 「でも、そのマスターのこと憶えているんでしょう?」 「記憶回路にです。マスターの情報はほぼ全て壊れていて……」 顔は憶えていて、マスターということはわかるのに、名前とかがわからないということですか。記憶喪失みたいです。 「でも、もし戻れるとしたら……」 「……?」 「止めてあげたかった。ほんの少しだけ、憶えているんです。あの人が笑った顔を」 「…………」 「止めてあげたかったけど、どこの誰かわからないんじゃ、無理ですよね?」 ……あぁ、無理ですね、これは。 「……大好きだったんですね」 「え?」 「そのマスターのこと、あなたは大好きだったんですよね」 すいません店長。私には荷が重すぎます。こんなに昔のマスターに想いをはせている人に、新しいマスターを迎えろなんて言うの、無理です。 「……はい、大好き……でした」 「……?」 「でも、それはまやかしでした。本当に私のことを想ってくれていたなら、絶対に改造なんてしません。それでも私はマスターを愛していました。たとえ一方的な片想いだとしても」 彼女は自重気味に笑います。 「こんな中途半端な気持ちが生まれるなら、最初から会わない方がよかったのに……」 「…………」 私は、何を言えばいいのかわかりませんでした。彼女のその瞳の端に浮かぶ涙を見ていたら、何も言えなくなりました。 でも同時に、一つの希望が見えました。 「……そんなあなたに、頼みたいことがあります」 言わなければなりません。この子には悪いですけど、あの少女のためです。 「人助けをしてくれませんか?」 「人助け……ですか?」 「はい、そのデータの人です」 彼女は軽く目を閉じ、再び開けました。 「奏萩樹羽、16歳中卒。身長155cm、体重48Kg、スリーサイズは……」 「それは言わなくていいです」 私がピシャリと言うと、彼女はまた目を閉じて、開けました。 「……高校を中退後、現在まで無職。神姫に関する知識は少ない。また、運動は得意。料理を初め、家事全般が出来る」 ずいぶん詳しい情報まで入ってます。調べたのは店長なのでしょうか? だとしたら後で断罪を加えなくては。 「この人……ですか?」 「はい、神姫のマスターになりたいとおっしゃっていました」 私は姿勢を正します。 「この人の、神姫になって欲しいんです」 「…………」 あー、もう口開けてポカンとしてます。完全にアウトですね、これ。 「いえ、もちろん無理にとはいいません。こちらとしても厚かましいと思っていますし、マスターがいなくなったばかりで気持ちを整理したい時だってのもわかってるんですけど、そんなあなただからって言うと大変アレですけど適役って言うか、普通の神姫じゃダメって店長が言ってたというか、だから何が言いたいかって言うと……」 「はぁ、いいですけど」 「いえ、もちろん承諾していただこうなんて思ってな……っていいんですか!?」 「はい、構いません」 あっさり頷きました。驚きです。こんな突拍子もないお願いを聞いてもらえるなんて思ってませんでしたから。 「今データを詳しくみてみたんですけど、この人も、辛い経験をしてらっしゃるんですね」 「はぁ……それってどんな?」 「彼女のお父様が経営していた会社が、部下の裏切り行為で倒産したんだそうです」 「倒産って、じゃあ今は?」 「記録によると、もう8年も前のことで、今は別の会社に就職してるそうです。しかし、彼女はそれが原因で人を信じれなくなったようで……」 店長と話していた彼女を思い出します。一応まともに話していましたが、あれでも内心信用してなかったんですかね。 「他人を信じられず、他者と距離を開けてしまう。そんな彼女を外に連れだして、社会に復帰させるのが、私の役目になるんですね」 「いいんですか? ホントに」 あんなに前のマスターのことを気にかけていたのに、ちょっと切り替え早くありません? 「いいんです。いつまでも、クヨクヨしてられません。それに……」 彼女は笑います。 「この方なら、絶対に私を裏切らない。そうな気がするんです」 確かに、裏切らない、というか、裏切れないと思います。 だって、人の裏切りを知っているから。 裏切られてしまった人が身近にいるから。 自分は、裏切られる悲しみを味わいたくないから。 「えぇ、私もそう思います」 だから、あの子なら任せられる。 同時に、この子なら任せられる。 そういうことでいいんですよね? 店長。 「…………」 「…………」 エリーゼとあの神姫を二人きりにして、しばらく経った。私は特にすることもないから、棚にならんだ商品を眺めていた。 神姫用の小さな銃や、剣。また、彼女たち専用の防具。 そして、彼女たち自身。 「いいですよね、神姫」 後ろからいきなり話かけられて、かなり驚いた。が、表には出さない。私がこれまでで培ってきた技だ。 「……そうですね」 「彼女たちは機械ですが、もうほとんど人間みたいなものですからね。こうやって並んで箱詰めされているのに、たまに疑問を感じます」 「……人身売買ですか?」 「ははは、手厳しいですね」 柏木さんは薄く笑う。 「僕は、商売を抜きにして、彼女たちがたくさんの人に触れることを願って、この店を開いたんですよ」 「……そうですか」 エリーゼが言っていたことが少し読めた気がした。つまりこの人は神姫のマスターが一人でも増えることを望んでいる。しかも今回の場合、神姫が神姫だ。嬉しさも増すというものだろう。 私は神姫たちを見る。目を瞑り、じっと来るべきマスター待っている。 いつか、この神姫たちにもマスターが来るのだろうか? 「店長~!」 その時扉が開き、エリーゼが姿を表した。後ろにはあの神姫も見える。 「エリーゼ、首尾はどうですか?」 「大丈夫ですー! 一気にマスター登録まで行ってもオールオッケーです!」 どんな会話をしていたのかわからないが、よくあの状態からそこまでことを運んだものだ。 「あなたも、それでいいですね?」 「はい、もう決めました」 はっきりと答える。本当に大丈夫なようだ。 「分かりました。では、こっちに来てください」 エリーゼたちを手に乗せ、柏木さんは店のカウンターへ向かう。私もそれに続いた。 あの神姫をクレイドルに乗せ、柏木さんがカウンターのパソコンを軽く操作する。 「では、手早くやっちゃいましょうか」 「と言っても、樹羽さんのデータは全て彼女にインストールされてますけどね。そうですよね? 店長」 エリーゼがなにやら怖い顔で柏木さんを見る。 「何が書いてあったか定かではありませんが、勘違いしないでください。あれの情報元、及び製作は私ではありません。内容も見てませんよ? 製作者の言いつけでしたので」 「あ、そうなんですか? よかったです」 話から、だいたい私のデータがどうこう言っているのはわかった。柏木さんが作ったのでないなら、誰が作ったのだろう? って、一人しかいないか。 「ま、そういうわけですので、後はこの子の名前と、マスターの呼び方を決めるだけです」 名前と呼び方、か。呼び方は……まあ普通に『樹羽』でいいとして、後は名前か。 私は悩んだ末に、とりあえず言ってみた。 「クラン」 「それでいいんですか?」 確認をとられると、本当にこの名前でいいのか悩んでしまう。物凄くテキトウに考えた名前だし。 じゃあ、なにがいいだろう。 私には知り合いが少ない? んー、知り合い……シリア…… 「シリア……でいいとおもいます」 うん、なかなかしっくりくる名前な気がする。割りと安直な気がするけど。 「じゃあ、呼び方は?」 「それは普通に『樹羽』で」 「分かりました。では入力しますね」 カタカタとテンポよくキーが叩かれ、最後にタンッとエンターキーが押される。 「完了です。どうですか? 『シリア』さん?」 神姫はゆっくりと目を開く。 「はい、大丈夫みたいです」 神姫は私の方を見上げる。 「これから、よろしくね、『樹羽』」 ちゃんとマスター登録は出来たようだ。 「うん、よろしく、『シリア』」 だから、私はそう返した。 第三話の1へ 第四話の1へ トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/565.html
暗き過去に、深き眠りを(前編) 爽やかに晴れた日曜日。今日は一月に一度の“週末の定休日”である。 普段は毎週水曜日に休みをもらうMMSショップ“ALChemist”なのだが、 私・槇野晶は勿論、“妹達”にも週末をいっぱい満喫してもらいたい。 というわけで、今日は久しぶりに秋葉原神姫センターへ行こうと思う。 その為にはまず、身だしなみからちゃんと整えねばならんな……って。 「ほら、初舞台に出るのだ。今日は入念に躯を磨かねばならんぞ」 「きゃうっ……ま、マイスター!シャンプーが目に沁みますっ!」 「すぐ流してやるから、少しだけ耐えてくれんかアルマや?ほら」 「ロッテお姉ちゃん……そこ、少しかゆいかもしれないんだよ?」 「こうですの?ん、クララの緑色の髪ってやっぱり綺麗ですの♪」 今すぐ後ろを向け。3秒で応じたなら赦してやる……そう、それでいい。 普段から神姫専用の洗浄剤で清潔にしている“妹達”だが、他人様の前に 出るだけでなく、アルマとクララは今日が初陣なのだ。身だしなみには、 尚一層気を遣わねばならん。そうだろう?風呂の後は勿論、衣装選びだ。 「今日はこの青いスーツを着ていきたいですの、マイスター♪」 「有無。派手過ぎず、丁度良いな。観戦もそれなら楽だろうて」 「……ボクは、緑色のコートかな?帽子に似合う気がするもん」 「あたしは紅いこれで、いいですか?ちょっとスリットが……」 「どうせアレだし、自信がなければ大人締めでもいいのだぞ?」 「う、ううん……いえ、これでいきます!今日は冒険ですから」 ロッテはブラウスとロングスカートを用いた、青色のシックなスーツ。 クララは前閉じ式のロングコート。私が誂えたお揃いの帽子も装備だ。 アルマはこれまた私が作った、チャイナドレス風の紅いジャケットを。 ショートヘアのクララ以外は、髪をそれぞれポニーテールとお団子に。 武装も大事だが、戦闘時以外は“神の姫”に相応しい姿も必要だしな? 例えHVIFを使っていようとも、彼女らには優雅さを保ってほしい。 「さ、準備は出来たな。まずはアルマとクララのリーグ登録に往くぞ!」 「はいですの~♪わたしの時みたいに色々言われないといいんですけど」 「……溜息なんか付いてる。何かあったのかな、ロッテお姉ちゃんに?」 「ああ。物分かりの悪い担当者に当たって、登録に少々手間取ったのだ」 「うんと、そういえばマイスター。何かトランクに積んでましたよね?」 目敏いアルマには“アレ”を見られていた様だ。重量級ランクに出す 装備の先行試作品なのだが、その存在故に最初は一悶着あった物だ。 今回も恐らくそうなるだろうが、レギュレーションは何ら問題ない。 案の定見知った八階の担当者は渋い顔で私を出迎え、愚痴ってきた。 「……槇野晶さん、また貴方ですか?しかも二体とも同じ様に」 「勿論だ。今回も重量級・軽量級、どちら共規約範囲内だぞ?」 「相変わらずギリギリですねぇ……いいんですか、って愚問か」 「構わない、と言っただろうが!他に問題があるのか、ん?!」 「……こっちのハウリンタイプ、規約変更に凄く弱いですよ?」 「ならば規約内に収まる様、都度調整すればいいだけだろう!」 という一喝で以前よりもずっと早く参加審査は完了し、晴れて彼女らにも 重量級ランク用と軽量級ランク用、双方のIDが無事に交付された訳だ。 その脚で、私達は三階のサードリーグ用バトルフィールドに向かい……。 「あ、あっ……マイスター……あ、あの人!」 「……猪刈め、よくも図々しくここに居るわ」 「全然反省してなかった、って事なんだよ?」 「みたいですね……あ、神姫を抱えてますの」 一番この界隈で見たくない最悪な卑劣漢、猪刈久夫と再びまみえた。 あの外道めは、新しい神姫……どう見ても改造済みだ……を撫でて、 己の対戦予約を始めようとしていた。私は皆の意思を確認し、接近。 程なく此方に気付いたのか、奴は卑賤な笑いをこちらへ向けてきた。 「ぶ、ぶひゃ!?……あ、あの時のロリッ娘と“あくまたん”?」 「その様な穢らわしい名は棄てた。今、この娘はアルマという!」 「……もう、あたしは貴方の物じゃないんです。見ないで下さい」 「ぶひゃひゃ、すっかりツンツンしちゃって……可愛くなった~」 ……この胆力だけは褒めるべきかもしれんが、自分のやった事すらも 数週間で省みなくなるというのは、頭痛がする程に不愉快な物だな。 しかも彼奴めはすっかり有頂天らしく、馬鹿な事を突然言いだした。 「ぷひひぃ、ボク良い事考えたんだよねぇ~。絶対泣かせるッ」 「……ロクでもない思考に時を費やす位なら、自己改造をしろ」 「あるまたんだっけ、あくまたんだっけ。そいつと試合する!」 「なんだと?……そのフォートブラッグ改造品で来るか、猪刈」 「そうそう、でボクが勝ったらお前を一晩言う事聞かせるの~」 何処から突っ込んでいいのかわからんが、少なくとも“一晩”等と 区切る辺り、猪刈の底の浅さが見て取れるな。乗る気はなかった。 その様な賭けで、“妹達”を無闇に不安にさせるのは愚かしい事。 ……だからこそ彼女が切り出した時、驚きつつも心が躍ったのだ。 「……じゃああたしが勝ったら、二度と神姫に酷い事しないで下さい」 「アルマ!?……お前、本当によいのだな。無理はせずともいいぞ?」 「勝つのは、マイスターの“妹”であるあたしですから……それに!」 その言葉で、私はアルマが己の闇に刃向かう訳を知る──猪刈の神姫。 武装自体はかつての“あくまたん”程でない彼女だが、目に光がない。 カメラ機能は生きているが、確固たる意思という物が失せているのだ。 それは、猪刈めが何も懲りずに非道を繰り返したという……証だった。 「この娘を、どうしても解き放ってあげたいんです……マイスター!」 「ふむ、よかろう。猪刈、貴様が負けたらその神姫を即刻他人に渡せ」 「ぶふふ、どーせ勝つのはボクだもんね。泣かせてやるんだ、ぶふ!」 アルマの志を信じ、私は指名戦を予約。程なく呼び出しが掛かった。 両肩のロッテとクララが案じる中、私は新型の装備をアルマに装着。 それは、メイド服の様であり司祭の様でもある“聖なるドレス”だ。 実戦ではこれが初めて。だが、私には不思議と絶対的な自信がある。 「よし、全ての準備は整った……蹴散らしてこい!」 「は、はい!……決着、つけてきます。マイスター」 「ぶふぅっ、さあボクの“かまきりん”、壊せッ!」 「────────────イエス、マスター……」 そして、戦いを告げる荘厳なサウンドが鳴り響く! 『ロッテvsかまきりん、本日のサードリーグ第24戦闘、開始します!』 ──────忌まわしき過去の為に、素晴らしき明日の為に。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/608.html
その御名は、誇りと想いと麗しの 今日は良い日だった。アルマは自らの忌まわしい過去をほぼ清算して、 クララは己の武器を見つけ、良い師にも出会った。本当に素晴らしい。 というわけで今日の祝勝会は、少し奮発して“エルゴ”近所の喫茶店を 訪ねる事とした。日暮にクララの戦闘ログを見せるのも目的だが……。 「いらっしゃい……あらあら貴女、エルゴさんに通ってる女の子ね?」 「有無。私の“妹”が此処の評判を聞きつけたのでな、来てみたのだ」 「初めましてですの。人間一人と神姫三人ですけど、大丈夫ですの?」 「ああ。神姫の為のコーヒーなら任せろ、大火力で相手してやるぞッ」 喫茶店“LEN”と言ったか?なんでも看板娘の神姫・レンが淹れる コーヒーは店主の物に負けず、食事が出来る一部神姫に好評らしい。 ……些か“大火力”の意味を測りかねるが、信頼は出来そうだった。 というわけで、コーヒーを四人分と人間用のパフェを一つ。それから 各々が好きな軽食を一品ずつ注文した。心地よいアロマが広がるな。 「はい、お待たせしました。そっちの娘、こんなに食べられるかしら」 「ああ、少々大食いでな……この程度ならどうにかなるか、アルマ?」 「大食いなんてひどいですマイスター!……でも、おいしそうかもッ」 「……アルマお姉ちゃん、行儀良くしようって話じゃなかったかな?」 その言葉で、ハッと息を呑むアルマ。そう言えば、無邪気に食べ出す 以前までとは違い、なんだか三人の行儀は……妙に良くなっている。 “いただきます”の挨拶も普段からするとは言え、今日はより丁寧。 「はむ……はむ……このチキンサンド、とってもジューシーですの♪」 「あむ……こっちのコブサラダ、スパイシーで凄く美味しいんだよ?」 「はむはむ……カツサンドが、とっても柔らかくて……大好きですッ」 流石に各々の好物を食べる時は、堅苦しさを微塵も感じさせないが。 何というか、そうだな……“雰囲気”に気を配っている様子だった。 一体何があったのか、私は聞いてみる事にした。答えは意外な物だ。 「ん。だって今日から、わたし達は正真正銘“戦乙女”ですの」 「ヴィネットさんの妹が“舞姫”である様に、責任は重いもん」 「うんと……なら、せめて立ち居振る舞いからしっかり、って」 “ヴィネット”。ここから割と遠くにある硝子工房、“Moon”の 看板神姫の名だな。確か私・槇野晶が、常連のオーダーで非戦闘用の ドレスを作る際、そこの硝子工芸品を利用したくて訪ねた事がある。 流石に上質な硝子細工を、あの地下室だけで作り上げるのは無理だ。 というわけで、その時はロッテを伴い直接交渉に赴いたのだが……。 『……貴女ね、名前には相応しい振る舞いって物があるのよ?!』 『きゃっ!?な、名前……ですの?えっと、“戦乙女”……って』 『そう名乗りたいなら、それらしいスタイルを心がけなさいッ!』 工房主・リカルドとの会話に割って入ったのが、ヴィネット嬢だった。 ロッテは当初から、外見よりも多少幼い印象を周囲に与えがちな娘だ。 自由奔放が過ぎる彼女の生活態度を、ガツンと一発叱ったのだったな。 そして叱責を受け止め反省したロッテを、ヴィネット嬢は撫でていた。 『フェスタの事もあり、つい言わずに居られませんでした』 『……ううん、気付かせてくれるのは有り難い事ですの♪』 『よろしい。じゃ、マスターの作品を少し見ていきなさい』 フェスタとは、ヴィネット嬢の“妹”である“舞踏の天使”たる神姫。 ヴィネット嬢がその霊妙なる歌声をもって“歌姫”と呼べるのならば、 フェスタ嬢のダンス映像を見た感想は、クララの言葉通り“舞姫”だ。 呼ぶ名・呼ばれる名に相応しい姿を、力を持つ言霊に負けぬ生き様を。 それは“神姫”という単語の段階で始まっている、彼女の信念なのだ。 「そうか。既にあの一件、アルマとクララに話したのだな?ロッテや」 「はいですの。今日からは二人も“戦乙女”……そう名乗りましたし」 「……あれだけの大見得を切ったのだから、ボクらも自覚しないとね」 「はいっ。今すぐ、あのお二人みたいになれなく……ならなくてもッ」 その出会い以来神姫同士投合したのか、メールでの交流が続いている。 優しくも厳しいヴィネット嬢の言葉は、ロッテ達三姉妹にもいい刺激。 そして今日は三人がその真名……二つ名を、堂々と名乗り上げた日だ。 再び逢えた時、誇らしくその名を口に出来る様に……堅い決意だった。 「それなら応援するが、焦らずともいいぞ?お前達はお前達だからな」 「はいですのッ!マイスターの“妹”として……“戦乙女”として!」 「大仰な二つ名に恥じないだけの、“神姫としての魂”を会得するよ」 「HVIFを使っていても……その志、大事に生きていこうかなって」 彼女らの想いが単なる憧れだけでない事は、私がよく実感していた。 ある時は私が見繕ってきたMMS用の楽器を鳴らし、またある時には 三人で机に向かい何かを特訓した……思えば、全部“コレ”の為だ。 疑念が解けた瞬間、私は皆の頭を撫でてやらずにいられなかったッ! 「……よく言った。成長を期待しているぞ、お前達ッ!」 名乗る権利を謳うからには、相応の義務と生き方を……という信念。 それは私自身の二つ名……“マイスター(職人)”にしても同じ事だ。 故に自らを奮い立たせる意味も込めて、私は某巨大掲示板を覗いた。 ウェアラブルPCを起動させPHSを接続、眼鏡に情報を映し出す。 「ふむ。お前達の事が、“三色の戦乙女”と話題になっているな」 「え、えっと……うん、もう引き返せない。引き返さないですよ」 「……アルマお姉ちゃん、真っ赤。大丈夫、この調子で行こう?」 「今日は二人ともとっても格好良かったですの。大丈夫ですの!」 ──────貴女達ならきっと、間違いない“戦乙女”になれるから。 次に進む/メインメニューへ戻る