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ウサギのナミダ ACT 1-22 ◆ ギャラリーにはどう見えているだろうか。 おそらくは、力と技がぶつかり合う、真っ向勝負に見えているだろう。 確かに、雪華は正々堂々、真っ向勝負を挑んできた。 逃げない。揺らがない。 ミスティ得意のレンジに踏み込んでまで勝負を挑んでくる。 その姿勢を貫き、勝利を目指す。 それこそが『クイーン』の二つ名の由来であり、神姫プレイヤーから人気を集める理由だった。 だが、バトルの当事者は思い知る。 真っ向勝負? とんでもない。 劣勢とか、そう言うレベルじゃない。 『そこでリバーサル! 二連撃!!』 菜々子の指示が飛ぶ。 もう何度目かの得意技。 この間合い、このタイミング、この速度、そして身体をロールさせながら繰り出す二連撃。 熟達したアーンヴァルでも、このリバーサル・スクラッチはかわせない。 だが。 雪華は、これを紙一重でかわす。手にした剣で反撃すらしてみせる。 「くっ……!」 正々堂々? 真っ向勝負? 違う。 これは「練習」だ。 こっちの本気を練習台にしてしまう、圧倒的実力差。 ミスティは敵を見上げる。 空中に浮かび、羽を広げた雪華は、まるで降臨した大天使のようだ。 その美しい姿に、ミスティは戦慄した。 「本身は抜かないのかよ!?」 「あれは、そう簡単に抜けるもんじゃないのよ!」 虎実の叫びに、菜々子は応える。 虎実は、ミスティの攻撃が雪華に全く効いていないことを見抜いているようだ。 『本身を抜く』には、試合前からしっかり心構えをする必要がある。 バトル中に切り替えるような便利な使い方はできない。 それに、たとえ本身を抜いたところで、食い下がれるかどうか。 (……まさか、これほどとは) 菜々子は戦慄する。 正々堂々のバトルロンドで、こうもあしらわれるのは初めての経験だった。 どうすればこれほどの実力が身につくというのか。 だが、諦めるわけにはいかない。 せめて一矢報いなくてはならない。 『エトランゼ』の名に賭けて。 そして、遠野とティアにつながなくてはならない。 菜々子は絶望と戦いながらも、ミスティに矢継ぎ早に指示を出していく。 ■ 帰りの電車の中、わたしはずっと考えていた。 マスターのこと。 マスターがわたしを守るために、すべてを賭けてもいいと、言ってくれたのだという。 エルゴの店長さんがそう言っていた。 わたしには、マスターの想いが分からない。 わたしの過去が暴かれたせいで、あれほど酷い目に遭わされたというのに。 それでもなお、わたしを自分の神姫にするために、全力を尽くしてくれている。 マスターのその想いが伝わって、店長さんを動かし、刑事さんを動かし、風俗のお店がなくなって、多くの風俗の神姫が救われた。 それほどの大きな想いをわたしに向けてくれている。 なぜですか? なぜ、それほどまでに、わたしにこだわるんですか? わたしはそんな価値のある神姫ですか? わからない。 わかりません。 わたしにできることなんて、マスターのそばにいて、マスターの指示通りに走るこくらいなのに。 シャツの胸ポケットから、マスターを見上げる。 マスターは物思いに沈んでいるようだった。 この間までのつらそうな表情でないのは救いだったけれど。 わたしはマスターの心に寄り添えないままだった。 刑事さんはわたしに、素晴らしいマスターの神姫であることを忘れてはいけない、と言った。 それはもちろんなのだけれど。 そのマスターのために、わたしは何がしてあげられるんだろう……? □ 時間がないので、昼食は電車の中でパンをかじった。 一度アパートにとって返し、ティアの武装一式を手にして駅前に戻る。 ゲームセンターに着いた時には、久住さんの電話から、もう二時間以上が過ぎていた。 久々のゲームセンターの入り口。 俺は少し感傷的になる。 一歩を踏み出すのが少し怖い。 俺は店の出入りを拒否されているわけで、躊躇するのも分かって欲しいところだ。 久住さんはいるだろうか。 自動ドア越しだと、奥の様子は分からない。 彼女がいてくれないと、俺は針の筵なんだが。 それでも俺が足を進められたのは、今朝方の出来事があったからだろう。 すくなくとも、もう店に黒服の男たちが現れることはない。 自動ドアが開く。 まず俺の耳に聞こえてきたのは、神姫の怒声だった。 「なぜだっ!! なぜあんな淫乱神姫にばっかりこだわるんだ!?」 叫んでいるのはハウリン。 その声を受け流しているのは、銀髪のアーンヴァルのようだ。 「迷惑なエロ神姫なんかより、あたしの方がよっぽど強いのに!!」 「随分とご挨拶だな、ヘルハウンド」 俺が静かに言うと、武装神姫コーナーにいた全員が俺を見た。 「黒兎のマスター……」 ヘルハウンドは怒りの眼差しを俺に向けてきた。 憎悪すら込められていそうだった。 「……遠野くん!」 ギャラリーから抜け出して、久住さんが駆け寄ってきてくれた。 いつものようにジーパン姿のラフな格好。俺は安心したような、残念なような、複雑な気分になった。 「連絡ありがとう。……遅くなってごめん」 「ううん。来てくれてよかった」 いつもよりも微笑みが弱々しく見えるのは気のせいだろうか。 そのとき、ギャラリーの一角から、声があがった。 「おいっ! 黒兎のマスター!! ど、どの面下げてここにきたっ!!」 三強の一人、『ブラッディ・ワイバーン』のマスターがこちらを指さして喚いている。 俺にはそれほどショックはなかった。 こうした中傷は予想の範囲内だったので、心構えもできている。 と、いきなり久住さんがワイバーンのマスターを睨みつけた。 「わたしが呼んだのよ。文句ある?」 耳が凍傷になってしまいそうなほどに冷たい声。 ワイバーンのマスターはそれだけで、急に黙り込んでしまった。 ギャラリーも、何か言いたげな表情だが、黙ったままだ。 ……いったい、どうなっているんだろうか。 俺が驚きを隠せずにいると、久住さんの後ろから、さきほどの銀髪のアーンヴァルを肩に乗せた青年が近づいてきた。 「あなたが、ハイスピードバニー・ティアのマスターですね?」 人が良さそうに微笑む青年と、真剣な面もちの銀髪の神姫。 その後ろに、カメラ用のベストを着用した、年上の女性がいる。 「……遠野くん、彼らがティアを助けてくれたの」 「高村優斗です。こちらは僕の神姫で、雪華」 青年とその神姫は、礼儀正しく会釈した。 それから、後ろの人物を示し、 「それから、この人は、僕らの取材をしている、『バトルロンド・ダイジェスト』の三枝めぐみさん」 「よろしく~」 三枝さん、というその女性は、ひらひらと手を振った。 俺も挨拶する。 「遠野貴樹です。それと、俺の神姫のティア」 「は、はじめまして……」 「ティアを助けてもらって……助かりました。感謝してます」 もう一度俺はお辞儀をした。 顔を上げると、高村と名乗った青年は、ゆるやかに首を振っていた。 「いえ、大したことではありません。 僕たちも、対戦希望の相手を助けられてよかった」 やはり、そうか。 俺はその一言で確信する。 この青年と神姫は、海藤の家で見た映像の、彼らだ。 「まさか、あの『アーンヴァル・クイーン』がティアを助けてくれたとは、正直驚きです」 「僕たちも驚いていますよ。……ああ、僕たちのこと、もう知ってるんですね」 「……秋葉原のチャンプが俺たちと対戦を希望するなんて……冗談じゃなかったんですか」 「まさか。冗談であんなこと言ったりしません」 高村はそう言って微笑んだ。 やたらと人が良さそうな青年だと思う。 その高村の肩に座る、美貌の神姫が口を開いた。 「あなた方との対戦に、ここまで足を運ぶ価値がある、と考えてのことです。 バトルが所望です。いかがですか、『ハイスピードバニー』のマスター?」 長い銀髪を背に流した神姫の言葉は、威厳すら備わっているように感じられる。 なるほど、『クイーン』二つ名は伊達ではない、か。 俺は雪華の問いに、静かに答えた。答えは決まっていた。 「残念だが、お断りする」 ギャラリーがどよめいた。 全国大会レベル、しかも優勝候補とのバトルだ。対戦してみたいと思う方が普通だろう。 しかも、三強の対戦希望を断ってまで、俺たちとのバトルに集中しようとしているのだから、神姫プレイヤーなら受けて立つのが筋と言うものだ。 久住さんが俺の肩にそっと手をおいた。 「遠野くん、彼らはティアを助けてくれたのよ?」 「わかってる。でも、それとこれとは話が別だ」 その手を、俺は邪険にならないようにそっと、はずした。 そして、俺は雪華に向き直って言い切った。 「ティアを助けてくれたことには感謝してる……本当に、感謝してもしきれない。 でも、君たちとバトルはできない」 「なぜです? 理由を教えていただけますか?」 「……君たちがマスコミの取材を受けているからだ」 高村の背後にいた女性は、きょろきょろと辺りを見回すと。 「あ、あたし……!?」 三枝さんは、自分を指さして、びっくりしていた。 俺は高村に話を続ける。 「対戦を申し入れてくるんだから、今俺たちがおかれた状況は知っているんだろう?」 「あぁ、うん。先週来たときに、どうも様子がおかしかったので、調べさせてもらいました」 「だったら分かると思うけど……いま、こんな風に俺たちがゲームセンターで歓迎されていないのも、雑誌記事のせいでね。 今俺は、完璧なマスコミ不信なんだ」 「……それで、僕たちの挑戦を受けないのと、どういう関係が?」 「『バトロンダイジェスト』の、君たちの記事は俺も読んでる。テレビ放送であんなことを言ったんだ。当然、俺たちとのバトルも記事にするつもりなんだろう?」 雑誌記者の三枝さんは俺の言葉に頷いた。 「だったら、対戦なんて受けられない。結果がどうなるにせよ、何を書かれるか分かったものじゃない。今の状況に拍車をかけられたら、たまらないからな」 「……ちょっと! さっきから黙って聞いていれば随分な言い方ね! うちとあんな低俗雑誌を一緒にしないでもらいたいわ!」 三枝さんがたまりかねたように口を挟んだ。 彼女がカチンときているのももっともだ。 なぜなら、俺自身、わざとひどい言い方をしているのだから。 「俺からしてみれば、大して変わらない。 三枝さん、と言いましたか。 あなただって、バトロンダイジェストの記事を書くにあたっては、俺たちに無様に負けて欲しいでしょう? 『クイーン』の連載記事なら、俺だって雪華の華々しい活躍が書きたい。 俺たちみたいな醜聞のただ中にいる神姫プレイヤーを叩きのめす記事なら、うってつけですから」 「なんてこと言うの……うちに記事が載れば、あなたたちだって、評価があがって、誤解が解けるかも知れないじゃない!」 「随分と上から目線ですね。 俺は取材をしてもらいたいだなんて、一言も言ってない。 むしろ迷惑だ。 だったら、あなた方はむしろ、取材させてくださいとお願いする立場なんじゃないんですか?」 三枝さんは言葉に詰まった。 少し心が痛む。 マスコミへの不信感は本当だ。だが、三枝さん個人に恨みがあるわけじゃない。 三枝さんをダシにして、このバトルを断ろうとしている。だから、彼女に悪いところがあるわけではないのだ。 久住さんの手が、また俺の肩におかれた。 「遠野くん……言い過ぎよ」 「……わかってる」 俺は一瞬だけ、彼女の手に触れた。 久住さんはため息をついただけで、何も言わなかった。分かってくれたのだろうか。 俺と三枝さんが睨み合う。 一瞬の沈黙。 それを破ったのは、雪華の声だった。 「それならば、ティアとの対戦は取材をしないようにしてもらいます」 「って、ちょっとぉ!?」 あわてたのは三枝さんだ。 「あなたたちとは、全国大会までの動向のすべてを取材する契約でしょう!? たとえ草バトルとはいえ、取材しないわけにいかないわよ!」 「ならば、契約を解除します。そうすれば、ティアと戦える」 三枝さんが絶句した。 マスターの高村が口を挟む。 「雪華……『バトルロンド・ダイジェスト』からは、いっさいの取材を断らない代わりに、スポンサードを受けている。そういうわけにはいかないよ」 「スポンサー契約など無くても、わたしたちは全国大会を戦えます。また、契約があるからといって、勝ち抜けるとは限りません。 セカンドリーグの全国大会選手でも、そんな契約をしているのはほんの一握りでしょう。大多数の選手と同様の条件でも、わたしたちは十分に戦えるはずです」 ……何か話が大事になってきた。 雪華の言うスポンサー契約は、神姫プレイヤーが特定の企業や団体と契約を結んで、バトルロンドの活動資金や武装などを出してもらうことだ。 そのかわりに、その神姫はメーカーが提供する武装やパーツを使用したり、ボディなどにメーカーロゴをペイントしたりして、広告塔としての役割を果たす。 通称「リアルリーグ」と呼ばれるファーストリーグは、そうしたスポンサー契約も盛んに行われている。 セカンドリーグではあまりそういう話はない。セカンドリーグ上位の有名神姫プレイヤーくらいだろうか。 雪華は『バトルロンド・ダイジェスト』と契約を結んでいるらしい。 バトルロンド専門誌からスポンサー契約を受けているとは、どれだけ実力があるということなのだろうか。 それにしても、俺たちとの対戦がそこまで重要か? スポンサー契約がなくなれば、資金面で厳しくなる。 そうした契約自体が少ないセカンドリーグとはいえ、全国を勝ち抜くにあたって、資金がないよりはあった方が有利であるはずだ。 それを雪華は、俺たちとの対戦で捨ててもいいと思っている。 いったい、何を考えているのだろう。 「だったら、そんな腰抜けほっといて、俺たちの挑戦を受ければいいじゃねーか。俺たちは取材、大歓迎だぜ?」 その声に、ギャラリーも沸く。 口を挟んだのは、『玉虫色のエスパディア』のマスターだった。 どうも、三強はクイーンに対戦を申し入れて、ことごとく断られたようだ。 にやにやとした笑みを張り付けた顔に、雪華は冷たい一瞥を放った。 「……あなた方との対戦は、意味がありません」 「な……なんだと……!?」 「わざわざここまで足を運んできた意味がないのです。 わたしたちがハイスピードバニーやエトランゼと対戦を望むのは、彼女たちが唯一無二の戦い方をしているからです。 わたしが東東京地区大会のインタビューで挙げた武装神姫は、いずれもそういう戦いを展開し、大会にはエントリーしない神姫ばかりです。 わたしはそのような神姫との戦いを望んでいます。 ただ強いだけの神姫なら、ここまで来る必要がないのです」 高村は、雪華の言葉に、肩をすくめて頷いていた。 なるほど。確かに、ティアの戦い方は唯一無二だろう。雪華はそこに価値を感じているということか。 三強は確かに強いが、大会にでてくる神姫に比べると見劣りがする。戦い方も、標準の域を出ない、というところか。 見れば、玉虫色のマスターは、口をぱくぱくさせながら、怒りの矛先を向ける方向を失っているようだった。 神姫にあそこまで言われたなら、もっと噛みついてきてもいいはずなのだが……何か思うところがあるのだろうか。 そんなことを考えていると、左胸のあたりから声がした。 「マスター……」 「どうした、ティア」 「雪華さんとの対戦、受けてください……お願いします」 突然何を言い出すんだ。 俺は驚いて、ティアを見下ろす。 雪華の様子を見ていたティアは、不意に俺の方へ視線を向ける。 その顔には必死さが滲んでいた。 次へ> トップページに戻る
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第2話「戦闘終了、元の鞘へ」 「ブラボー、なんだ今日の様は?」 今日の試合は何とか勝てたが、危なかった そしてその原因の殆どは、今日復帰したばかりのブラボーのミスだ 「メーカーで初期化されたってのは本当だったようだな。しかし、初期化されても武装神姫だろう? もっとマシな動きは出来なかったのか?」 わざとねちっこく嫌味を言ってやる。 「だ、だってボクは!」 「口答えすんじゃねぇ!」 ビシッ! 指二本でデコピンしてやる。身体の軽い神姫にはかなりの衝撃で、吹っ飛ばされて転がる。それでもブラボーは立ち上がり、 「な、なによ! ご主人様に言いつけてやる!」 などと叫びやがった。なんだその舐めた口のききかたは! 「何言ってやがる! テメーの主人は俺だろ! まだ殴られたいのか!」 「車にぶつかったのと比べればなんでもないもん!」 車にぶつかった? 何の話だ? 「てめー、本格的に狂っているのか?」 「違うもん! ここには間違って送られてきたんだ! ご主人様のところに帰らせてよ!」 なんだって? まじか? まさか、誤発送? つーか、じゃあブラボーは? 思考が混乱を極める、そんな時、電話が鳴った 「よかった、無事で…。もう大丈夫。もう怖い目にはあわせないから…」 なんて、迷子の子供を見つけた親みたいに話しかけている 俺みたいな武闘派ユーザーとは究極的にソリが会わない、溺愛系ユーザーのようだ メーカーからの電話で、誤発送がマジだったと解り、しかも家が割りと近いとのことで、直接会って交換することになったのだ こちらもブラボーがきちんと戻ってきて、やれやれといったところだ 再会の儀式がひと段落したらしく、なにやらひそひそ囁きあっている あ、何かこっちに来た 「あー、なんというか、1発殴らせてもらってもいいかな?」 「え?」 「入れ替わっていたことに気付かなかったとはいえ、うちの神姫を危ない目にあわせただけでなく、手まで上げたそうじゃないか。その落とし前をつけさせてもらおう」 指をボキボキ鳴らしながら迫ってくる。彼の肩の上ではブラボー、もとい黒子がこっちにむかってあっかんべーをしている。 ああ、なんてこった。これだから溺愛系ユーザーは嫌いだ。しかも落ち度は俺にある… バギッ! SSS氏のコラボ作品はこちら 続く
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第十五話:生贄姫 俺と蒼貴、そして日暮に注目される彼女が近づいてくる。胸ポケットには大した傷もないヒルダが入っており、この様子だと あの後のバーグラーを彼女は難なく倒したくれたらしい。 「緑か。すまん。さっきは助かった」 「気にするな。私達の仲だろう?」 「か、勘違いされそうな事を言うんじゃねぇよ!」 「おや、真那の方がいいのか? 根暗は明るい子の方が好みという事か……」 「あのなぁ……」 再会して早々の問題発言に俺は頭を抱えた。真那といい、縁といいどうしてこうも女というのはからかうのが好きなのだろうか。付き合わされるこちらの身にもなっていただきたい。 「ふふふ……。まぁ、お前をからかうのは後で楽しむとして本題だ。あのバーグラー共から情報を吐かせたぞ」 「マジか?」 「ああ。それも面倒くさそうなのをな」 笑った後の本題に俺はすぐに先ほどの悩みを隅に追いやって、尋ねる。 「端的に言えば小遣い稼ぎさ。資金に困った研究者によるものだ」 「研究者って義肢のだな?」 「そうだ。お前も情報を集めていたという事か。となれば情報交換といかないか?」 「ああ。それが一番早い」 「その話、僕にも聞かせてくれないかい?」 「尊、彼は?」 「正義の味方らしい」 「は?」 話に割り込んでくる日暮を端的に紹介すると、あまりにも直球過ぎたのか冷静沈着な縁も唖然とした。『正義の味方』という言葉は彼女の中では化石並みに古い言葉の様だ。 その反応を見た日暮は俺と変わらぬ反応でやはり笑う。そういった反応にはなれているのだろうか。 「言葉の通りさ。力になれると思うんだけどいいかい?」 「僕は構いませんよ。個人ではきつい話ですしね」 「尊がいいなら、信用しましょう」 「OK。じゃ、ちょっと店裏まで付いてきてくれ。僕も同時進行で調査するからさ」 日暮に促された俺と縁は互いの情報を交換し、その情報から情報収集をしてくれた彼と共に話を整理を始めた。 事の起こりは義肢研究の行き詰まりと国からの資金援助の期限が迫り、ついには切れてしまった事にあった。 義肢研究に関しては何もそこだけが行っているわけではない。その研究には多くの研究者達が参加しており、こぞって成果を出し、援助を求めようとしている。 あの義肢研究者もまた、その一人だ。成果を上げて資金援助を得ていたのだという。しかし、俺の聞いた話の通り、研究は行き詰まってしまい、資金援助が打ち切られてしまったのだ。 当然、障害者施設の収入程度では義肢という規模の大きい分野の研究費など賄えるはずがない。 このままでは義肢研究者は資金不足によって、研究を進められなくなってしまう。 そこで彼が思いついたのはその研究の課程で得られたリミッター解放技術であった。 神姫の出力で人間の四肢という大きなものを動かす事は出来ないため、必然的により大きな出力を引き出さなくてはならない。故に初めは違法パーツ……神姫の規格から外れているパーツで組んでいたらしい。出力の方も神姫に直接操作する関係上、リミッターの外し方などを独自に研究、使用していた。 その研究を応用し、俺達が遭遇した神姫達が付けていたイリーガルマインドに似せたリミッター解放装置を開発して、さらに障害者用の盲導神姫もイリーガルとして改造し、裏でバーグラー達にそれらを横流ししていたらしい。 紅麗というリミッター解除装置を付けた神姫の所属しているバーグラー達から聞いた情報では裏サイトで仲介者から買い取ったと言っており、その裏サイトのアドレスを日暮が普通はしてはいけない様な方法で調べるとそこにはかなりの高額で取引されている事を証明するページがあった。 イリーガルマインドに似せたあの違法パーツが様々なバリエーションで用意されており、強力であればあるほど高額になっているラインナップだった。 そのレートは数千円である場合もあれば、数万円の場合もある。強弱や能力のばらつきがあれど、その力は使った神姫を死に至らしめる程強力なのは共通している。 さらにあろう事かバトルロンドのシステムに引っかからない様に調整された違法改造用のキットやイリーガル神姫までもを直接斡旋していた。 「己のために神姫を喰い潰すか……」 「人の性ってやつかもしれんな……」 緑の言う通り、人を助けるはずの義肢研究も少し道を外すだけで力に溺れさせる死の商人と成り果てるとは皮肉である。 自分の研究を続けるためというシンプルな考えであるはずなのに課程を間違えるだけでこれだけ堕ちてしまうとは人とは恐ろしいものである。 「何にしてもこいつはまずいな。このままだと、ここ周辺でイリーガルが大量発生しかねない」 日暮も危険を唱える。 イリーガルに成りきるだけではなく、それを作り出せるとあってはそれを知った人間はこぞってそれを買っていくだろう。密売を始めてまだ間もない感があるが、このままではバトルロンドがそうした違法神姫達が横行する事に成りかねない。 「自分らで何とかできる話ですかね?」 「その辺は心配ない。情報収集や操作でどうにでもなるからね。ただ……」 「ただ?」 「証拠がない。君たちの言う研究者に突きつけるための動かぬ証拠がね」 「このページやバーグラーの発言では足りないって事ですか」 「ああ。ページは誰か別の奴が作っているだろうし、バーグラー達は直接あの研究者から買い取ったってわけでもないだろうからね。せめてそれを見ている施設内部の神姫がいればいいんだけど……」 「でもそれは巻き添えでその施設が閉鎖される可能性があるのでは? そのために黙るとかあり得ると思うのですが……」 「確かにそう考えられるかもね。まぁ、その辺は可能な限り頑張ってみるよ。それより証拠のアテは何か知らないかな?」 それを聞いて俺は考える。あの施設の中で最も都合のいい立場にいる人間を頭の中から取捨選択して、残るのは……。 「輝と石火だな。だが……」 彼らならば顔が通っており、なおかつ石火の索敵によるカメラ映像情報を持っている可能性がある。 彼女の目はどんな些細なものも見逃さない千里眼にも等しき目だ。何かしらの情報を掴んでいるかもしれない。 とはいえ、そうであるかどうかには不安が残る。そもそも石火がそれを見ていないというのもあるが、彼らがグルである、或いは見てしまって口止めされているなど、障害になりえるシチュエーションはかなりある。 「それでもそいつに聞くしか手段は思いつかないのだろう?」 「……まぁな」 緑の言う通り、現状で有効な手はそれぐらいしかない。 石火が見ていた場合の情報の信頼性としては、石火の整備は施設では全く行われてはおらず、専属技師である親友がやっている可能性が非常に高いという事だ。これは施設による石火のデータ改竄されている可能性が極めて低い事を意味している。仮に不都合な情報があったとしてもそれが消えることはない。 また、施設の研究者も輝という名前が全国に知れ渡っている故に石火に、そのマスターの輝にも迂闊な事はできない。仮にそんな事をした場合、真っ先に疑われるのは彼らなのだから。 「なら、決まりのようだね。輝の事なら僕も耳にしているよ。彼は全国大会の最初のチャンピオンでその専属技師の友人も技術面では結構、有名だ。交渉は慎重にやった方がいい」 「わかってますよ。必要なら僕が憎まれ役を買いますし」 「随分と大胆な事を考えるね。だからこそやれるとも思えるけど」 「それが彼なんですよ」 「なんだそりゃ?」 「それは自分で考えろ。その方が面白い」 緑の突然の言葉に頭の中に疑問符が浮かんでくる。彼女に聞いてもあしらわれ、その謎を自分で考えてもあまりピンとはこない。 「考えてもわからん……」 そういう事に行き着いてしまう。 「まぁ、気長にな。で、そいつはどこにいるんだ?」 「神姫センターだ。行けばまた会えるだろう」 話題変わって輝の場所だが、俺はただ会っただけだ。輝から携帯電話番号を教えてもらったわけではなく、単に会って話し合っていたに過ぎない。 そこで連絡先でも聞いておけばと後悔もできたが、今更そうしても仕方の無い話だ。 「なら、そこで探すしかないな。とは言っても盲目自体珍しい。難しくはないだろう」 「ああ。後は引き込める上手い言葉を探しておくさ。根性論なんか押し付けたくねぇしな」 「それもそうだな。だが、彼らは正しいと思うから間違うかもしれんぞ?」 その通りだった。いくらそれが正しい事であったとしてもそれが納得できる事と同義であるわけではない。 自分のルールにそぐわないものは自分が変わらない限り、それは障害以外の何者でもないのである。 この事実を輝が受け入れるか、拒否するか、逃げるか、俺達にはわからない。確かなのは…… 「その時は……その時だ」 それだけだ。 「……そうか」 「ワリィ。それほど器用じゃないんでな」 「わかっているさ。その時になっても後悔はするなよ?」 「ああ」 「話は決まったかい?」 「ええ。僕が何とかします」 話が一区切り付いてきた所で声をかけてくる日暮にやる事を伝える。 可能な限り早い日に輝には俺が情報を持ちかけて説得をかけ、彼に協力を取り付け、石火の視覚データから違法神姫に関する証拠映像を手に入れて、それを証拠とするという事だ。 解決策に関してはイリーガルマインドを解析しているであろう杉原に話を聞き、それがわかり次第、その方面の行動も展開していく。 日暮との連携も考えて、杉原には彼の事を伝え、協力して事に当たってもらうものとする。上手くいけばあの義肢研究者を足がかりに彼に連なる違法ブローカーも芋づる式で捕まえられるだろう。 「わかった。僕は君が話をつける前に段取りを整えておくよ」 「それでは僕はこれで。紫貴もそろそろ直っている頃でしょうしね」 「あ。また、パーツに困ったら買い物にでも来てくれ」 「ええ。そうします」 自動ドアを出て、修理が終わったであろう紫貴を迎えに歩きだした後で、俺はため息をつく。 確かに計画としてはいい。だが、輝と石火がこの話をどう思うか、借りに信じたとして自分の世話になった場所を潰す事になるかもしれない事をどう思うか、全く予想が出来ない。 当然、心苦しい事になる。これからどうするかもわからなくなるだろう。だからといって俺が責任をとるために導いてやれるなんて馬鹿げた話は無理だ。そこまで自惚れる脳みそをしちゃいない。相手にこれからを委ねるが精一杯だ。 「カッコつけておいて、やる事は他人任せか……」 自嘲的にそれらをまとめる。交渉事なぞ所詮はそういうもののはずだがやはり煮え切らないものがある。 「オーナー……」 「わかってる。やるだけやってみせるさ。あっちが恨もうがな」 「自分だけで背負わないで下さい……。私や紫貴だって背負います。それに私達が悪い訳ではないはずです。いつまでもあのままならもっと傷つきますから……」 「そのはずだよな……」 引き金を引くのは俺だが、と続けようとしたがこれ以上は泥沼になるため、止めた。 蒼貴が元気付けようとしているのにそれを無碍にするのは悪い。 そんな陰欝な雰囲気で歩いているとコンビニを通り掛かった。そういえばあの戦いの前から何も飲んでいない。色々と起こりすぎて喉がカラカラなのを忘れていた。 そんな訳で俺はコンビニに飲み物を買いに入る。コンビニの中には店員と少数の客しかおらず、並ぶ事なく会計を済ませられそうだ。 詮無い事を考えながら、雑誌の並ぶ雑誌コーナーを進む。そこで週刊バトルロンドの最新刊が目に入った。どうやら丁度今日が発売日だったらしい。 俺は何気なくそれを手に取り、それを開く。 「こいつは……」 バトルロンド・ダイジェスト最新号の表紙には『特集:~ 絆 ~ 武装神姫はなんのために戦うのか?』というあまりにも規模の大きいタイトルと見た事のないタイプの神姫と『アーンヴァル・クイーン』の異名を持つランカー 雪華が写った写真で大きく飾られていた。 自他共に厳しく接し、高尚なる戦いを求める彼女の事は神姫センターで別のランカーを薙払っているのを俺も見て、知っている。そんな雪華が誰かに優しく、ましてや抱くなどという事をさせた泣いている神姫は一体何者なのだろうか。 俺は興味を持ち、雑誌を開く。表紙の内容は巻中のカラーページに特集として大々的に描かれていた。 最初はバトルの詳細な解説が主な内容だ。雪華はいつもの飛行装備、泣いている神姫……ティアというらしい神姫はランドスピナーというモーター駆動のローラーブレードと拳銃やナイフで戦っていたらしい。 ティアといえば元風俗神姫だったらしい事を噂で耳にしたことがあった。しょうもない奴が経歴を言いふらしてけなすだけのどうでもいい話だと思っていたが、まさかこうなるとはこれを見るまでは予想もしていなかった。 さらにそれを読み進めると信じられない事が書かれてあった。なんとティアは雪華最大の必殺技を回避し、その挙げ句彼女の武器を奪って戦ったらしい。 大した度胸と執念だ。ティアのオーナーとは会えればいい話ができそうな気がする。 戦いの末、ティアは倒れ、試合の形式的には敗北したらしいが、雪華は敗北を認めたという。 そんな試合があったとはそれを直に見られなかったのが非常に残念だ。面白い戦いはどうにも俺の外で行われているらしい。いつかセンターを飛んで回ってみたいものだ。 その戦いの記録の後は「武装神姫はなんのために戦うのか」というタイトル通りの問題提起になっていた。 雪華を初めとするランカー神姫が思い思いのコメントをその記事に刻んであり、 「人は武装神姫を戦わせる。それは名声のため、お金のため、バトルの楽しさであるかも知れない。 戦わせる理由はマスターによって様々だ。しかし、神姫にとって、戦う理由は皆同じだ。マスターの望みを叶えるために戦っている。 もう一度振り返ってみて欲しい。神姫は何を思い、なぜ戦うのか。 自分はなぜ、自分のパートナーを戦わせているのか、を」 それらがそう結ばれていた。その主となる言葉は「マスターのために」だ。その言葉を恥ずかしげもなく、彼女たちは言えている。 呆れるほど単純なその言葉には計り知れない想いが詰まっていることだろう。 その後の特集は、絆を思い起こさせる、過去の名勝負のダイジェストが紹介されていたが、必要なことを知った俺は雑誌を閉じ、それを持ってコーラと一緒に会計を済ませて、外を出た。 「人も神姫もそこまで弱くはない、か……」 ティアの話は、絆は自分達が思うよりずっと堅く、支えになる事を教えてくれた。 俺と蒼貴と紫貴だって、そういう絆があってここまで来たのはよくわかっているつもりだ。輝と石火の絆だってそうであるはずだ。……いや、時間が長い分、俺達よりも堅いはずだ。 「こういうのを潰しちまいたかぁねぇな……」 戦いの場をイリーガルから守るというご大層な名目を掲げる気は無い。ただ、こういう絆を感じさせる戦いが無くなるのは気に入らない。 武装神姫が何のために戦うのか。それは言うまでも無く、マスターのためである。これは雑誌の通りだし、大抵のマスターも理解しているだろう。 が、そのマスターが狂えば従っている神姫はどうなる。少なくともそれまでの関係には戻れなくなってしまう。それもまたつまらない話だ。 「あいつらの絆に賭けてみるか……。どんな結果になろうが……な」 別に主役を張る気は無い。が、見て見ぬ振りをするつもりもない。 俺はティアやそのオーナーの様に戦えないかもしれないが、自分の筋は通す。それぐらいはできてもいいはずだ。 「なぁ。蒼貴」 「はい」 「俺、イチオーナーとして頑張ってみるわ。付き合ってくれるか?」 「その言葉は紫貴と一緒にお聞かせください」 「……そうだったな。あいつを迎えに行こう」 「はい」 そう胸に決めると俺は蒼貴と共にカルロスの喫茶店に預けた紫貴を引き取りにコーラを飲みながら歩いていく。 やるだけ、やってみるか…… 戻る -進む
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紫風の尖姫──あるいは誇りと誓い(前半) ──“妹”になる事は出来たわ。でも、それで満足しちゃいけないのよ。 その名に恥じない生き方……大好きな人達に胸を張れる姿を、見せる事。 それが出来た時、アタシ達は嬉しいから。皆に、笑ってほしいから──。 第一節:挑戦 その日は、朝から晴れ渡っていた。今時珍しい都心での猛吹雪は終わり、 残雪がまだ道路の端々に残っていた……これは太陽が融かしてくれよう。 というわけで私・槇野晶と“四人の妹達”は、外出準備に追われていた。 「マイスター、エルナちゃんもお風呂から上がりましたの♪ほらほらっ」 「え、良いわよロッテお姉ちゃん。自分で拭け……ってちょっとぉ!?」 「そう言わないでください、今日はエルナちゃんの大切な日ですから!」 「有無、今日はエルナのセカンド昇進を賭けた大事な試合ではないかッ」 「……だから身嗜みも、ボクらの“妹”に相応しく可憐にキメるんだよ」 そう、行き先は神姫センターである……あの“悪夢”を越えて、真っ当な “武装神姫”として歩み始めたエルナは、当初こそ慣れない戦場で連敗を 重ねたが……現在は破竹の勢いで、セカンド目前まで迫っていたのだな。 昇進可能なレベルに達した時の、エルナの言葉は今でも忘れていないぞ? 『アタシにも、矜持があるわ。お姉ちゃん達から受け継いだ“誇り”が』 “姉”達の戦う勇姿を見て、エルナもまた自分のスタンスを掴んだのだ。 それを一々語っていると、センターの開場に遅れてしまうので割愛するが いやなかなか……不屈の精神を見せるエルナの言葉は、感動的だったぞ! 「……マイスター、マイスター?妙にニヤニヤしてどうしたのかな?」 「どわ゛ッ!?げふげふ……な、なんだクララ。脅かすんじゃないッ」 「あ、ひょっとしたらこれから戦うエルナちゃんの艶姿を描いて……」 「“魔剣”は無くても、エルナちゃんは頑張り屋さんですから~っ♪」 「な、何言ってるのよ!アルマお姉ちゃんとロッテお姉ちゃんッ!?」 ……いかんな、ついつい“妄想”が。まぁ、それは兎も角だ。己の全てを 晒け出し合ってから、私達の“仲”はより一層親密となっている。今日は それを見せる時ではないが、結束は強固だ。皆、それを実感しているッ! 「全く……じゃれ合うのもこの辺にせんとな。そろそろ出かけるぞ?」 『はいッ!!!!』 そんな暖かい想いを抱きつつも、私達は“春の新作”を纏って秋葉原へと 繰り出す。機材運搬用のカートは、30%増となって迫力が増していた。 ……今日はエルナの試合だけだが、万一と言う事だって有り得るのでな? 「うぅむ、自転車を展開するのは……流石に危険だな。この積雪量では」 「アタシの分だけ持ってくればよかったのに……律儀よね、マイスター」 「それがマイスターの持ち味なんだよ。電動補助もあるし大丈夫だもん」 「でもマイスター、折角のドレスを汚さない様にお願いしますの~……」 「地面はドロドロですからね、転んだら……結構大変ですよね、これ?」 「分かっている。よ、とととっ……慎重に行けば、どうにかなるだろう」 私の両肩と両胸のポケットから、“妹”達が私を気遣ってくる。御陰で、 楽々……とはいかないが、どうにか神姫センターには無事に辿り着けた。 早速エルナの“昇進”を申し込むが……これもすんなりと行かない様で。 「あ、はい槇野晶さんの……エルナですね。対戦相手はあちらの方です」 「何?もう先客が居るのか。何やら、口論している様にも見えるが……」 受付担当が指し示した先で、何やら娘さんと神姫が騒がしく叫んでいた。 だが仲違いをしている、という程ではない……いや、これはむしろ……? 「だから、折角の試合なのにまた“アレ”をやるの?!いいじゃない!」 「折角の挑戦相手なんだから、良い物持ってるかもしれないじゃない!」 「……痴話喧嘩、ですの?仲が悪そうには、とても見えませんの~……」 『何ッ!?』 「わ!?な、何じゃなくって!その、貴女達がアタシの対戦相手よね?」 ロッテの突っ込みに、二人が振り返る。その剣幕に退いたのはエルナだ。 だが、程なく調子を取り戻し語りかけた。未だ人間不信の嫌いがある物の 私や“姉”が側にいる場合は、多少なりとも普通に会話が可能なのだな。 「対戦相手って……あ~!昇進申し込んでたけど、試合決まったのね!」 「こらアールヴ、申し込んだのはあたし・光でしょ!……槇野さんね?」 「有無……私達を知っているのか?如何にも、槇野晶とその“妹”達だ」 話を聞くに、マスターの向坂光(こうさか・ひかる)と神姫のアールヴは、 去年からずっと私を追っ掛けているらしい。主に服飾デザイナーとして、 昨春のイベントにも買い付けにやってきた客の一人らしいのだ……むぅ。 「光栄、晶さんの神姫と戦えるのね!……アールヴ、やっぱやめるわよ」 「何言ってるのよ!この人達なら、とっても良い物作ってくれる筈よッ」 「……えと?話が見えないですの。どういう事ですの、アールヴさん?」 「あ~、あのねロッテちゃん。あたし達は“賭け試合”をよくやるのよ」 そんな二人が再び喧嘩を始めそうになったので、ロッテが割って入った。 光とやらは、苦虫を噛み潰した様な表情で説明を始めた。一方アールヴは 喜色満面である。どうやら“賭け”とは、彼女主導のアイデアらしいな。 「でさ、この“昇進試合”でも賭けをしたいなって相談してたのよね!」 「相談と言うより、痴話喧嘩だよ……で“賭け”って、何をなのかな?」 「武器よ!倒した神姫が持ってるよさげな武器を、頂戴するってわけ!」 「……あたしは、それを元にこの娘を強化出来るからいいかなーってね」 だが、彼女はすっかり味を占めてしまい……マスターとしても“神姫”を 強化する“ヒント”を得る手段は重要な為、結局はノリノリらしいのだ。 言われてみれば、“フィオラ”の上に見慣れぬ装甲を纏ったアールヴは、 現存・販売されているどのタイプとも違う、独自の素体を使用している。 この向坂光とやら、顔に似合わず『出来る』マスターかもしれんな……。 「所謂“弁慶さん”なんですねぇ。で、エルナちゃんにも賭けを……?」 「そうよ!光憧れの“マイスター”から武器をもらえるなら、最高ッ!」 「いや、あのねアールヴ?憧れてるからこそ、ちょっとアレなのよ!?」 「何よぉ。銀と衣のアーティストだ、って何時も褒めてるじゃないッ!」 その彼女らが、私達に一目置いているのはよくわかった。だが、これでは 何時まで経っても協議が進まぬ。途方に暮れた所で口を開いたのは……。 「……いいわ、やってあげる。アタシは“魔剣”もないから丁度良いし」 「エルナ!?……お前、良いのか?この様な誘いに応じてしまっても?」 「構わないわ。ちょっと腹案があるし、ね……いいでしょ、マイスター」 エルナだった。彼女は悪戯っぽく、琥珀色の瞳をウインクさせ懇願する。 彼女自身がいいというのであれば、全く問題はない。エルナが言う通り、 “魔剣”の調達をしていない彼女には、替えの利かぬ装備もないが……。 「分かった、勝ってこいよ?丹誠込めた武装だ、盗られては困るからな」 「う、うん……だから、無事に守り通せたら……その、ね?えっと……」 「エルナちゃん。紅くなっちゃダメですの。それを言うのは勝った後♪」 「わ、分かってるわよっ!……というわけで、応じるわよアールヴさん」 だが、私がエルナのリクエストに応じ産み出した武装は、彼女が何よりも 大切にしている……それを危機に晒しても、伝えたい事があるのだろう。 その決意を感じ取ったのか、私達は徐々に真剣な眼差しとなっていった。 「OK!まず昇進試合自体は保留して、重量級ランクで戦いましょっ!」 「ふぅ……で、そこで勝った神姫が、昇進試合で先制攻撃を与えるのよ」 「その上で昇進試合に勝った方が、負けた方に要望を出すのッ!どう?」 「よっぽど重量級に自信があるのね?……分かった、初陣だけどやるわ」 そう。エルナは通常の、所謂“軽量級”を一日何度も戦って現在の地位に 至っていた。結果時間が足りず、重量級ランクは登録だけという有様だ。 それを知っているのかどうかは定かではないが、不利と言えば不利だな。 しかしすっかり“姉”達に感化されているエルナは、強気な姿勢のままに 重量級ランクのバトルを予約し、割り当てられたブースで準備を始めた。 「“ティアマル”の能力は、エルナ……お前次第だ。分かっているな?」 「ええ、お姉ちゃん達の“龍”にも引けを取らないじゃじゃ馬だものね」 「じゃじゃ馬と言えば……光さんとアールヴさんも結構アレなんだよ?」 「アレで息が合っている辺りは、似た者同士なのかもしれんな……有無」 ──────だけど負けない。私達の想いを受け継いだ、この娘はね? 第二節:宝石 重量級のブースに光が灯り、手を振るエルナがゲートから下降していく。 私は、サイドボードにエルナ専用のボックスをセット……指示を出せる様 インカムを装着して、宴の開幕を見守る事とした。舞台は、古城の孤島。 建物内にこそ侵入出来ない物の、起伏に富んだ広大なフィールドである! 『エルナvsアールヴ、本日の重量級リーグ第1戦闘、開始します!』 『……エルナ、まずは有利な位置を取れ。得意技を見せてやるのだ!』 「ええ、分かってるわ。じゃあ、暫く通信封鎖するわね?」 『3……2……1……GO!!』 ヴァーチャルフィールドへの扉が開かれ、エルナが庭園へと駆け出した。 彼女から視線を移すと、港の方から駆け上がってくる黒い神姫が見える。 そう、アールヴだ!彼女は、黒く巨大な戦斧を抱え走り込んできたのだ。 「さぁーて!今日も一丁やらせてもらうわよ……って、あれ?」 『居ないわね?……って、危ないアールヴ!二時の尖塔よッ!!』 「へ?……きゃうっ!?」 だが、意気込んだ彼女を光の弾丸が強かに打ち付けた。高密度圧縮された プラズマ弾だな。“ロキ”が私を撃った銃よりは弱い威力だが……しかし 有効射程と命中精度は、スナイパーライフルとして通用する性能である。 無論、撃ったのは……尖塔の頂上にて匍匐射撃の姿勢を取るエルナだッ! 「まずは命中、っと。でも、致命傷にはなってないわね……」 「こ、このぉっ!降りてきて正々堂々勝負しなさいよ!」 「愚直に突っ込むだけが、正々堂々じゃないわ。“シャノン”!」 『Roger(突貫します)』 「え?きゃん!?こ、今度はぷち……じゃない、“アルファル”!?」 己の得意分野を最大限発揮し、手を抜かぬ事。それこそが、礼儀なのだ。 それを証明するかの様にエルナが呼びだしたのは、彼女を護る“騎士”! 彼女……“シャノン”は、左膝に備わったアンカークローをアールヴへと 打ち込み、巻き上げの力を使って右膝を彼女の顔面へと叩き込んだのだ! 『うわ、あのシャイニングウィザード……晶さん仕込み?』 「マイスターだけじゃないわ。アタシも、教え込んだのよ……ふっ!」 『“W.I.N.G.S.”……Execution!』 「く、離れなさいよぉっ……このっ!!」 『Roger(時間は作れました)』 更に腕部に仕込んだナックルで殴りつけようとするが、これはアールヴの 斧により退けられた。全身の躯に羽を持つかの様な、鋭角的なフォルムの “エルナ専用アルファル”シャノンは、塔から降りてきた主の元に侍る。 そのエルナは落下中に“レーラズ”等を纏い、完全武装姿となっていた。 “セイクレール”をも装着した、可憐な“紫の竜騎士”の姿となってな! ただ、エルナのリクエストに応えてスカートの丈等全体を調整した服は、 何処と無く……こう、あれだ。給仕の装束に見えん事もなかったりする。 「こんのぉぉ……さっきあたしを撃った銃が、それね?!」 「そうよ。でもこれは、形態の一つ……たっぷり、見せてあげるわ」 「その前に叩き潰してあげるわよっ!出てきなさい、ドヴェルグッ!」 『ギャオオオンッ!!』 エルナが、スナイパーライフルを分解して腰に下げる。その態度が相手に 火を付けたのか、アールヴの重量級用モジュールが繁みから姿を見せた。 それは、奇遇にも“龍”だった……しかも、ラプトル風の騎乗対応型だ! 「うわ、ゴツいわね……それが、貴女の相棒?」 「そうよ。そしてこの“セブンスムーン”が……あたしの得物!」 「えっ!?お、斧が組み替えられて……ランスに!?これはっ……」 「“アルファル”が組み換え武装なのは知ってるわ!だからお互い様ッ」 相当ゴツイ騎乗槍を軽々と振り回しながら、彼女は龍へと飛び乗った。 龍の方も、パーツ構成を見る限りシングルタスクでは無さそうだ。仮に 単一形態型であったとしても重火器を装備したその勇姿は、重戦車とも 形容出来そうな迫力を持っていた……見かけ倒しでは、なさそうだな。 「さ、こっちの番ね……ハイヤァアアアアアッ!!!」 『む……いかん、避けろ!パワーがハンパではないぞ!』 「オッケー、マイスター!シャノン、“マタドール”よ!」 『Roger(タイミングに気を付けて下さい)』 龍が大地を蹴り、更にマシンガンやレーザーを打ち込みながら一気呵成に 突撃を仕掛けてきた。だが、シャノンは勿論の事……エルナさえも、服に 仕込んである従来同様のブースターを使い、巧みに懐へ潜り込んでいく。 そしてギリギリの所で跳んだエルナ・シャノンと、アールヴが交錯した! 「せーの……せぁっ!!」 『Roger(攻撃します)』 「銃が、剣に!?このッ、はぁああっ!!」 エルナの手には、先程の銃があった……否、バスタードソードに変形した それは単なる銃ではない!彼女専用の複合武装なのだ。更に、シャノンの 両手には、腰から引き出した片刃式のマチェットが双振り握られている。 衝撃波を伴って突き進むアールヴに、彼女らは更なる攻撃を加えたのだ! 「うわ、っとと……痛、ちょっと無茶しちゃったかしら?」 『So bad(僅かに遅れました、損傷があります)』 「痛ぅ……よ、余裕見せてるじゃないの。あれだけの軽業見せといて!」 お互いが距離を取り、受けたダメージに顔を顰める。相打ちの様だった。 突進の勢いに呑み込まれたエルナは、腕に掠り傷を負っている。恐らくは 刃を剥き出しにしたランスが掠めたのだろうな。反面、アールヴの方には 装甲の傷が見られる程度。だがこの戦法こそ、エルナの“真価”である! 「そりゃそうよ。アタシの真価は“超高速戦闘術”なんだから……!」 「ちょ、ちょう……何それ?」 「今から見せてあげるわよ、シャノンッ!!」 『Roger(支援します)』 「う、うわっ!?」 『ギャオッ!?』 その一端を見せようと、エルナは駆け出していった。それを追う様にして シャノンが、円盤……正確には五角形の“宝石”型へ変形し、飛翔する。 舞い上がった飛翔体は、機体から迫り出したレーザーマシンガンと拳銃で “光の姫”と“闇の龍”を牽制した。その隙を、彼女は狙っていたのだ! 「ほら、何処見てるのよアールヴさんっ!!」 「うぅ……え?」 『バカ、上よアールヴッ!!』 「そらそらそらっ!!」 「きゃあああぁあっ!?」 駆け出していたエルナは、強く跳躍し……空中で反転したシャノンの背を 蹴って、アールヴの頭上を抑えていたのだ。そこから繰り出されるのは、 先程の剣……から更に変形した、二挺のライフルによるプラズマ弾攻撃。 マシンガンの様に浴びせられる“光”に、堪らずアールヴが暴れ出した! 「いい気になってるんじゃ、ないわよぉっ!!!」 「う、うわっ!?きゃううっ!?」 『エルナッ!!大丈夫か!?』 「う、受身は取れたわ……でも、今度は刃の鞭になってるわねアレ」 「まだまだ、行くわよッ!それそれぇっ!!」 襲いかかった“黒い蛇”はエルナを撃ち落とし、更に追撃する。そうだ、 アールヴの持つ突撃槍が、今度は長大な鞭に変化して襲いかかったのだ! 間違いない。相手も複合武装の使い手なのだ。となれば、手数が鍵だな。 「く……派手にやってくれるわね、あの娘!」 『エルナ、出し惜しみはせんでいい。全てを見せるつもりで挑め!』 「ん?……いいのね、全部出しちゃって?」 『嗚呼。上空に“ティアマル”を展開してある、合流しろ!』 「分かったわ!シャノン、アタシを空にッ!」 『Roger(乗って下さい)』 「逃げてないで戦いな……きゃうっ!?こ、今度は何!?」 私はそう直感し、エルナの重量級モジュール“ティアマル”を投下した。 晴れ渡った孤島の上空には、薄暗い“龍”の影が見える。エルナもそれを 発見し、すぐさま合流の為にシャノンを呼び戻した!彼女は咄嗟に反応、 今度は戦闘機の形態となり、レーザーでアールヴを威嚇しつつ突撃する! 「サンキュ、シャノン!そのまま、ティアマルの側までッ!!」 『Roger(加速します)』 「ま、待ちなさいよ!……ひゃっ!?な、何これ。鏡の……刃?!」 「ファントム・グレイヴ“鏡刃”。アタシの“簡易魔術”って所かしら」 「な、“魔術”ってどういう事よ?!その武器、一体なんなの!」 撃墜しようとするアールヴの気勢は、目の前に降ってきた三つの刃により 殺がれる事となる。投げつけたエルナの手には、先程の銃……に加えて、 銃のホルダーをも合体させ、更に変形させた……無骨な“杖”があった。 そしてエルナの背後に、白と紫に彩られたシルエットが見えてくる……! 「これは“影羽”フルネレス。魔剣の代わりに、産み出された武器ね」 「魔剣の……あ、あれって彼女のモジュール……!?」 『アールヴ、気を付けて!やっぱり向こうも“龍”よ!』 「そして、この娘が……“嵐皇龍”ティアマル!アタシの相棒ッ!」 『ケェェーン……ッ!!』 ──────私が丹誠込めて作った娘達、頑張って……! 第三節:騎兵 戦闘機形態のシャノンとエルナが向かった上空には、歪な形の龍が居た。 全体的なフォルムは“ファフナー”に近いが、角は上下四本に増えており 首は蛇腹状の細い物となっている。更に、燕の様な形状の大きな翼を広げ 背びれ等も備えていたティアマルは、他の“龍”とは明らかに違う姿だ。 『パーツ構成は、所々槇野さんの既製品に似てるけど……まさか』 「そうよ光さん。この娘もシャノンも、フルネレスも余剰パーツ製!」 余った部品で作られた事実。それはエルナ達にとって、誇りですらある。 曰く『お姉ちゃん達の因子を受け継いだ形で、アタシも戦えるのね』と。 だが、ただ後を追うだけでは芸がない。無論、彼女なりの“魂”がある! 「だけど、得た力は正真正銘アタシの物……アタシの、誇り!」 『Roger(合体します)』 「ッ!?た、確かにそのアーマー姿は……今までと違うわね」 『ケェェーンッ!』 それを示す為か、エルナはシャノンを鎧として纏った。全体的に鋭角的な フォルムであるシャノンは、同じく鋭角的なティアマルともデザイン的な 相性が非常によい。だが、決してそれは外見だけではない。左手に従来の 二枚分を接続した改良型の“ティンクルスター”を、右手に杖の様な形の “ティンクルスター”を携えたエルナは、アールヴを挑発してみせるッ! 「さ、それ飛べるんでしょ?受けて立つわよ!」 「なら、行ってあげるわ!ドヴェルグッ!!」 『ギャオオオンッ!!』 「まずは、小手調べよッ!!」 その挑発にアールヴは乗り、騎乗していた龍をレシプロ機の姿に変える。 エルナと私の読み通り、龍の方も多段変形するタイプだったのだ。彼女は 迫り出したプロペラを勢いよく回転させ、ミサイルを連射しながら飛ぶ! 「う、うわわっ!?高機動型のマイクロミサイル……でも、遅いわッ!」 「そっちだって遅いわよっ!じゃあ、こっちはどうっ!!?」 「ッ!?マシンガンの方は本物ね、喰らってられないわ……!」 「ふふん、どうよっ!ほら、逃げなさいッ!」 エルナは右手の“槍”からプラズマのジャベリンを産み出し投擲するが、 アールヴも、レシプロ機とは思えぬ運動性で回避しつつ機銃を撃ち込む。 単なる機銃ではない、ヴァッフェバニータイプのミニガンに匹敵する力を 持つ弾丸に、エルナは堪らず背を向けて飛ぶ。一方のアールヴは強気だ! 「あははっ、ほら!ほらほら、撃ち落としちゃうわよッ!」 「へ?きゃぁっ!?か、鎌を投げつけてくるなんてどういう事!?」 『む、あの“セブンスムーン”とやら……動力機関を備えているぞ!』 「動力機関!?アレ自体が、意志を持った相棒って訳ね……!」 「そうよ、何ならもう一回投げてみせる!?っとと……」 先程まで鞭だった超巨大武器が、今度は推進器を備えた死神の鎌として、 超高速で飛翔するエルナを捉えようと飛びかかる。流石に掠めた程度で、 大事には至らなかったが……背後を取られたままでは、不利だと言えた。 『エルナ、龍である特性をうまく活かせッ!』 「りゅ、龍?……そうよね、あっちは今戦闘機。でも、アタシはッ!」 「わぁっ!?反転した……避け、ないとっ!?」 「竜騎士なのよ!ティアマル、“フォールダウン”!」 『ケェェェーンッ!!』 「間に合わ……ッ!きゃああああっ!!?」 「今度はアタシが追う番よ!サーベラス・ランシア“闇迅”……ゴー!」 だが、流石戦闘その物には慣れているエルナだ。私の短い指示で、咄嗟に 龍の体躯を反転させ、そのまま“竜の吐息”を撃ち出したのだ。エルナの 相棒・ティアマルが備えるのは、名前通りの“圧縮空気弾”。追ってきた アールヴ達は、突然発生した暴風によって吹き飛ばされ、失速を始めた! それを追い掛け、エルナは“三条の黒槍”を打ち込む。“簡易魔術”だ! 「ふぇ?き、きゃああああっ!?な、何よこの黒い槍ってッ!?」 『クララちゃんが使う様な重力弾ね。でも、どうやって使ってるの!?』 「アタシの“カン”自体は死んでないって事よ……限定的でもねっ」 『有り得ないわ、だって普通に使おうとすれば外部装置が……あ!?』 「そう言う事。装備とアタシ自身で分担すれば、不可能じゃないわッ!」 “決戦”の時にクララの技を見た彼女は、自前で“魔術”を使っている。 それは焼き切れた補助演算装置の支援による物であり、今のエルナ自身は クララの様に単独で“魔術”を編纂出来ない……そう、“単独”ではな。 つまり誰かがコードを編纂して、外部装置に記録してやればいいのだッ! 「……クララお姉ちゃんが、アタシの為に仕立てた七つの“魔術”!」 『姿勢を立て直しなさい、アールヴ!次が来るわよ!』 「これが“姉妹の絆”の力よ!ファランクス・レイン“光陣”ッ!!」 「くっ……ひゃああっ!?こ、今度は雷の雨!?調子に乗るんじゃ……」 『む、いかんエルナ!“魔術”を中断して回避するんだ!』 「ないわよっ!借り物の力でっ!!」 「えっ!?きゃうっ!!」 『ケェンッ!?』 だが絡繰りがバレてしまった以上、彼方も黙って喰らう気はないらしい。 翼端でブースターの様にぶらさがっていたレーザーキャノン達が、一斉に エルナ達を撃ったのだ。カウンターを喰らう格好となったティアマルは、 防御システムでダメージこそ大きく減殺しつつも、墜落を免れなかった。 それはアールヴ達も同様であり、龍の姿になって不時着する格好となる。 僅かな時間差で、エルナもどうにか龍の四肢で不時着に成功したが……。 「……借り物だなんて、言ってくれるわね。これはアタシの“力”よ」 「だってそうじゃない、貴女一人じゃ“魔術”は出来ないんでしょッ!」 「いいえ。倒した相手のノウハウを奪い取る貴女こそ、借り物なのよ」 「むううう~……言ってくれるじゃない。じゃあ、これはどうっ!」 雰囲気は剣呑な物となっていた……と言ってもエルナの目は至って冷静。 眼光に気付かぬアールヴは、ドヴェルグの頭部を、別の形に変形させた。 なんとそれは、巨大なレーザーキャノンのバレルだった。鞍から出した、 グリップらしき銃を接続させて、有り余るエネルギーを蓄積させていく! 「奇遇ね。こっちも、同じ機構を備えてるのよ……ティアマル!」 『ケェェェーンッ!!!』 「う、嘘!?頭と角が……ランチャーのバレルに!?」 「お互い様じゃない。さ、砲撃勝負と行きましょ?」 だが、本当に偶然なのだが……ティアマルも全く同じ機構を備えていた。 携行武装のレーザーランチャーを強化する、バレルの展開機構としてな。 ティアマル自身の追加装備故に、使うのはこれが初めてなのだ。嵐の龍は 己の四肢をしっかりと石畳に食い込ませ、エネルギーをチャージさせる! 「行くわよ……3!」 「……2」 『1、フォイエルッ!!』 「行っけぇ……!ダインスレフ・フルバーストッ!!」 「蹴散らしちゃいなさい、ノー・フューチャァァアッ!!」 そして、二つの閃光が放たれた。エルナは文字通りの紫電を纏い、対する アールヴ達も光の粒を撒き散らしながら、極太のレーザーを撃つ!そう、 この筐体は、試験的に“オーロラ・エフェクト”が実装されているのだ! エフェクトによる煌めきとレーザーの光が相俟って、孤島全てが光の中に 沈み込んでいく……二人の姿が見えてきたのは、数十秒も後の事だった。 『エルナ、エルナッ!ダメージは……まだ立てる量だ、大丈夫か!?』 「ううぅ……どう、にかね。この娘らも、まだまだ行けるわよ」 『ケェーン……ッ!』 鳥の様な鳴き声を挙げて、再び異形の龍が姿を見せる。全体的な駆動率は 問題ないが、ヴァーチャルフィールドに於けるダメージ量という意味では エルナが若干不利な結果に終わった。このままでは、押し切られかねん。 だが、そんな彼女を力強く奮い立たせたのは……アールヴの一言だった。 彼女もまた圧力に押しやられ、庭園にあった柱に突っ込んでいたのだな。 「痛……決めたわ、勝ったらその娘をもらうわよ!」 「……さないわ」 「ん?何?」 「マイスターが産み出してくれた相棒は、渡さないって言ったのよ!」 ──────紫電の様に激しく、でも紫水晶の様にクールに……だよ。 次に進む/メインメニューへ戻る
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人物 名前:高城・ミッシェル・千尋 13歳 性別:千尋 ニックネーム:総帥 一人称:私(わたし) 二人称:あなた、きみ 科学者レベル:マッドサイエンティスト 一応主役『高城・M・千尋』と略してよい ブカブカの白衣と大きなリボンが目印の、愛すべき総帥様 若年どころか幼年ながら数々の学問に精通し、博士号まで持っているという厨二病全開の設定があるちびっ子 性別の項目がおかしいのは、設定を考えているうちに作者がわからなくなってしまったせいである 「いっそ、性別不明で良いや」と考えてしまったが最後、後は読者の皆様の想像にお任せする 『ミッシェル・サイエンス』をたった一人で取り仕切る恐るべきお子様 神姫 名前:「本名は非公開だ」 戦車型ムルメルティア 階級:少佐 一人称:私(わたくし) 二人称:貴官(きかん)、貴様(きさま) 忠誠度:総帥の為なら死ねる 千尋の所持する神姫の一人『南十字隊』の頼れる隊長、コードネーム『α(アルファ)』 帽子や眼帯など戦車型の基本装備を身に着けているが、衣服はオリジナルの軍服に身を包んでいる 千尋は特別なバトルのとき以外は指示を出さないので、実質彼女が全ての指揮系統を担っている 千尋に絶対の忠誠を誓っており、危害を加えるものは容赦なく(人間、神姫関係なく)KILLするつもりでいる 身内以外に対する言動は非常に高圧的。ただし敵対の可能性がゼロになれば(口調こそ厳しいが)面倒見が良い、頼れる指揮官 名前:「非公開だ…例外なく、な」 砲台型フォートブラッグ 階級:大尉 一人称:自分(じぶん) 二人称:君(きみ)、お前 面倒事請負率:かなり高め 千尋の所持する神姫の一人『南十字隊』の寡黙な副長、コードネーム『β(ベータ)』 常にバイザーつきの砲撃用ヘルメットを目深に被り、表情がよく見えない 常に櫛や手鏡を持っているなど、実は一番女らしい性格だったりする 後輩への指導は主に彼女の仕事で、曹長と一等兵は彼女が指導した バトルは主にスナイパーキャノンによる精密狙撃とハウィッツァー(曲射榴弾砲)による広範囲爆撃を使い分ける 名前:「公表の予定は無いであります!」 火器型ゼルノグラード 階級:曹長 一人称:私(わたし) 二人称:あなた 語尾:~であります 千尋の所持する神姫の一人『南十字隊』の少々ズボラな突撃兵、コードネーム『γ(ガンマ)』 これといった特徴が無い、作者泣かせの困ったちゃん 十分なキャラ立ちができてないせいで、影が薄くなりがち が、語尾のせいで突然会話に参加してもわかりやすい バトルスタイルは後ろは気にせず突撃あるのみというものだが、なぜか生還率は隊の中でトップ 軍人気質…とは程遠いお気楽能天気の寝ぼすけ神姫 名前:「非公開にしろと言われてます」 戦闘機型飛鳥 階級:一等兵 一人称:わたし 二人称:~さん 癖:トリップ、大きな独り言 千尋の所持する神姫の一人『南十字隊』の想像力豊かな新兵、コードネーム『δ(デルタ)』 第一話、第二話と連続でメインを張っているが、主役ではない 外見的に特徴は無いのだが、トリップ癖とダダ漏れモノローグで起動から一週間という短い期間の内に強烈なキャラ立ちを果たした 初の空中戦力となるが、今のところバトル未参加なので実力は未知数 今後もエンジン全開で行ってもらいたい 名前:リュミエラ 兎型ヴァッフェバニー 階級:なし 一人称:あたし 二人称:~ちゃん、~くん ついやっちゃったこと:一等兵の拉致 千尋の所持する神姫の一人『特殊部隊』の狙撃、個人撃破担当、コードネーム『B(ビー)』 かわいいものが大好きで豪快なお姉さん 第二話での名前ばらしはわざとっぽい 好物は紅茶とお菓子 バトルは基本的に参加しないが、参加するときは本隊を陽動にして、孤立したものを狙撃するという非常に地味な戦闘スタイル もしくは、もっとも攻撃力の高い相手を誘き出す役目を担う かわいいものはどれだけ見てても飽きないようだ 名前:フェリシエナ イルカ型ヴァッフェドルフィン 階級:なし 一人称:私 二人称:個人名、知らない場合は呼ばない 悩み:豪快すぎる同僚 千尋の所持する神姫の一人『特殊部隊』の潜入工作、索敵担当、コードネーム『D(ディー)』 第二話でやたら喋っているが、本来は無口無表情 同僚のBによって本編中に本名が出てしまったために、キャラ紹介で非公開にできなかった 好みは和菓子に緑茶と、純和風 Bと同じく基本的にバトルは不参加だが、参加するときは潜入偵察と各種センサーによる索敵に徹する さらに必要があれば、拠点の破壊工作や罠の設置など、相手にとって地味な嫌がらせをする 自室の中と外で口数が極端に違う その他のキャラクター 砂木 丈助 34歳 性別:男 相棒:ルルコ(マオチャオ型) 一人称:俺 二人称:お前 相棒との関係:俺の嫁 『砂木探偵事務所』の所長、自称三十代半ばのナイスガイ 幅広いネットワークを駆使して『Forbidden Fruit』まで辿り着いたようだ 相棒のルルコに頭が上がらない ルルコ 猫型マオチャオ 相棒:ジョースケ 一人称:ルルコ 二人称:キミ 伏字:不使用 砂木の所持神姫…というより相棒、ファイル棚の奥も見逃さない 『Forbidden Fruit』の購入はこの娘の強い要望だったようだ 将来の夢は、冗談抜きで『お嫁さん』 企業紹介 ミッシェル・サイエンス 全十階建ての、中心街に立つには規模の小さいビル 千尋が経営している会社…会社と言っているが、働いている人間が一人しかいないため、実質自営業 どういうわけか国の営業許可が下りている 主な事業内容は、神姫のオリジナル武装開発と、神姫サイズの日用品や家電製品の製造販売 そのほかに、神姫用の特殊なボディも作っているが、こちらは発注を受けてから作り始めるオーダーメイド品。お値段も高額 さらに一般公開をしていない特殊なボディも作っているが、こちらは一体で豪邸が土地つきで買える値段になる 詳しい説明は下記を参照 秘密の地下室が存在しているらしい…… 製品紹介 素体 Michelle-001 unripe fruit (未熟な果物) ミッシェルの試作素体、専用コアパーツとのセットで提供 非常に軽く柔軟性に優れる反面、神姫素体としての基礎防御力がゼロに近いので、装甲を追加するなどの処置を取ってもバトルには不向き どうしてもバトルを行いたいのであればヴァーチャルによるものを推奨、なおかつ相当な熟練が必要(神姫、マスター共に) 非常に精密な技術で人間に『似せて』作ってあり、MMSの特徴である剥き出しの間接はなく、肌の質感はもちろん、神姫に必要の無いはずの生殖器まで精巧に作ってある パッと見ると1/10サイズの人間そのもの 食事が可能で、水分以外は体内で完全に分解できる 水分は発汗などで消費することができるが、貯蔵量を超えた場合は強制排出が必要 内臓器官や骨格は完全に再現できなかったため、『人造人間』とまではいかないが、「すでに神姫じゃない」と言っても反論の余地は無い さらに、思考も再現できなかったため、AIを純正のコアパーツからのトレースしている。 手持ちの神姫を当素体に移植することも可能 損傷、故障があっても神姫センター等での修復は不可能ですので、異常が発生した場合は当社まで連絡をしてください 武装は腕、足に換装が必要な装備と遠隔操作ユニット、大多数のリアユニットが装備できない 使用したいのであれば同社の本素体専用装備(別売り)を使用することになる 製作時にある程度ならば体系の変更が可能であり、注文の際にマスターの好みを聞いてから作り始めるオーダーメイド商品 制作期間は受注してから約二ヶ月かかる Michelle-002X forbidden fruit (禁断の果実) ミッシェルの特殊素体、専用コアパーツと衣服もセットで提供 Michelle-001の発展型であるが基本性能は同じである 最大の特徴は体のサイズが10倍だということであり、こちらは近付いても人間との区別がつかない 当然のことながら、神姫バトルに参加することはできない 見た目が人間そのものであっても、当然のことながら人間の医療機関で治療をすることができず、さらに神姫センター等で修理することもできない 異常のある場合は当社まで連絡をください こちらも製作時に体系の変更がある程度可能であり、注文の際に好みを聞いてから作り始めるオーダーメイド商品 製作期間は受注してから約四ヶ月かかる (※商品受け取りの際に質疑応答があることと、受け取り直後にデータチェックがあることを予めご了承ください) 神姫ヴァーチャルコミュニケーションシステム SVCS「にじり口の茶室」 人と神姫を同じスケールにして触れ合うシステム 専用ヘッドセットは全国の神姫ショップにて取り扱っている 神姫はクレイドルを介してシステムに接続、マスターは専用ヘッドセットを装着する事によってシステムに意識を転送する サイズは神姫側に合わせられるため、神姫とコミュニケーションをとる以外にも自身で武装の試用など、擬似的な神姫体験ができる ただし、かたや生身の人間、かたや武装を自在に操る武装神姫なので、パワーバランスは歴然としている システムに入る際は、自分の神姫との関係を一度見直してみる事 神姫との関係が悪いと、接続直後からボコボコにされることもあるかもしれない ……ちなみに、殴られるとちゃんと痛い 以下、話数が増え次第追加します 戻る
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神姫ちゃんは何歳ですか?第三十話 初めての神姫バトルはタッグマッチ 書いた人 優柔不断な人(仮) 「で、挑戦状を叩き付けてきたって訳か」 「済まねぇ親父。でも、あたいガマン出来なかったんだ…せっかく親父達が直してくれたのに…」 顛末はユキ達から聞いた 「まぁ受けちまったものはしょうがない。二人とも辞める気は無いんだろ?」 「勿論です!」 「あたりまえだ!ああちくしょう、思い出しても腹が立つ!あのヤロウ『普通に戦っても面白くない。どうせならタッグマッチでやらないか。お前等は二人揃って一人前なのだろ?』と言いやがった!」 ティグリースとウィトゥルースは合体をコンセプトにしている為、そう思ってる人はかなり多い 実際には単体で使っている強豪も多いのだが。その中で武器パーツを購入してまで真鬼王やファストオーガを使ってる人なんて殆ど居ない しかし、真鬼王のイメージがあまりに強すぎて、『二人揃わないと真価を発揮出来ない神姫』と勘違いされているのがこの2体を使っているマスターが少ない理由と言われている 「大丈夫よ二人共。なんたって、センパイが付いてるんだから」 二人を励ます皐月 「あまり…楽観視は…できません…」 しかし、水那岐がそれを否定する 「え?なんで?」 「あのな皐月…確かに俺は色んな神姫を見てきたり、様々なデータを見たりはしてきたが、俺自身はバトル初心者だぜ」 「あ…」 「しかもティールもファロンも原因不明のプログラム不調があって、まともに戦えるか不安だ。検査したが、サポートプログラムには何の異常も無い」 ユキやミチルが気づき、そして相手が指摘したという攻撃動作の不調。その原因が掴めないでいた 「とりあえずデフォ装備で行ってみるしか無いな。合体攻撃も封印だ。現状では使えるかも不安だし、なにより装備が無くなった方を狙われる危険がある」 「じゃな。相手も真鬼王が出る可能性の高いタッグバトルを挑んできたくらいじゃ。なんらかの策があるやもしれん」 ふと相手の戦績を見る エル(セイレーン型):五戦四勝一敗 リーゼ(マーメイド型):五戦五勝 「まだ起動して日は浅いようだが、言うだけのことはありそうだな」 「たまたま当たりを引いて調子良く連勝して天狗になってるだけなのだ」 この当たりって言うのは、戦闘補助プログラムとコア適正、そして自身の装備とが合致した事を言う そしてこの神姫達は、基本装備でしか戦っていない 「当たりを引いただけなのか…ん?」 「どうしたんですかセンパイ?」 当たり…か 当たりがあるという事はハズレもある この子達のコアに入ってるサポートAIは『直した』だけだ もし、コア適正と合わない為に不調をきたしているのなら、合った武器を用意すれば… 「ダメだ、探してる時間が無い。とりあえず今のままで行ってみるしかない」 俺は武装の入ったケースを開けた 「ヨウヤクオレノデバンダナ」 「すまんな剣王、まだ最終調整も済んでないのに」 「剣王?この真鬼王の名前ですか?」 皐月が尋ねてくる 「ああそうだ。俺はフィールドの外で指示を出す事しか出来ないからな。頼むぞ剣王、二人を守ってやってくれ」 「リョウカイ、マイマスター。ケンオウ、ブソウモードヘイコウシマス」 そう言って剣王はバラバラになり、ティールとファロンの装備となった ちなみに真鬼王は、反重力フィールドと電磁ドライブによりこの合体機構を可能にしている さらに陽電子砲まで装備してるというのだから、ラインバレル社の技術の高さが伺える 「だ、大丈夫よ!きっと勝てるわよ!」 と言う皐月の声は震えていた 「正直、勝てる確率は一割といったところじゃな」 「そ、そんなぁ観奈ちゃん。センパイが作った新素体と強化された真鬼王の剣王が付いてるのに…」 「それを加味して一割と言っておるのじゃ」 「そ、そんなぁ~」 「まぁ今回のバトルは勝ち負けよりも、二人のバトルに対する意気込みを見せられればいいと思っている」 「親父ぃ~、戦う前からそんな事言うなよ。あたい達は勝ってくるぜ!勝てる確率が一割もあるって言うなら、絶対あきらめないぜ!」 グっと拳を握り、気合い十分なファロン。そんな彼女を見て俺は 「…そうだなファロン。でもな、そんなフロートユニットに乗って言われても、迫力無いぜ」 と言った 「お、親父~」 「ぷっ…頑張りましょファロン。全力を尽くせば、きっと勝てるわよ」 クスクスと笑いながらファロンを励ますティール 「よし!俺も全力でサポートするぜ!」 「アンシンシナ。オレガフタリヲゼンリョクデマモルゼ」 剣王がファロンの上にある陽電子砲の上から言った 「ぷっ…あははっ!」 「ナ、ナンダヨ」 砲の上からひょっこり顔を出した剣王に一同は思わず笑ってしまった 「キ、キズツクナァ…」 「い、いや、頼りにしてるぞ剣王!」 そして俺は二人をアクセスポッドに入れ、電脳空間へと送り出した バトルスタート フィールドは西部劇に出てくるような町となった 「へっ、決闘にはおあつらえの場所だな。でもあの人魚姫はどっかでピチピチ跳ねるしか出来ないんじゃないか?」 『残念だが、イーアネイラは浮かんで移動するぞ』 「なんで魚が飛べるんだよ!」 『マグネッサーのおかげだ』 「なんじゃそら!」 『気にするな、昔のネタだ。実際はお前のフロート同じ原理さ』 「まぁそうでもしないと、本当に水中戦しか出来なくなりますしね」 『ティール、適切な解説を有り難う。それより、敵さんの動きをキャッチした。北からこちらに向かってる…一体が先行してるな。速さから見てエウクランテ、エルだったか、だと思われる』 「ケッ!あの鳥女か。丸焼きにしてやるぜ!」 「この距離で陽電子砲撃っても当たらないわよ。私が接近するから、ファロンは援護して」 「おい、それじゃあティールが集中攻撃を喰らうじゃないか!大丈夫か!?」 「大丈夫よ。私、素早しっこいんだから。それんい、剣王もいるし」 確かにティールは普段はおっとりしているが、意外と素早いし、回避が得意な寅型だ さらに背負っている炎機襲の両脇に付いている炎虎甲には防御シールド発生装置を増設してある 『よし、それで行こう。ティール、無理に避けなくても、剣王がシールドを張ってくれる。まずは相手の攻撃パターンを掴むんだ。それとファロン。ティールを援護しつつ、リーゼへの牽制も忘れるな』 「分かりました」 「おっけー、いくぜ!」 ティールがスラスターを吹かし、エルへと接近する -どんなに凄い攻撃でも、見切ってしまえば恐れるに足らず- よくミチルが言っている言葉だ 当たりを引いたのなら、攻撃は鋭くてもパターン自体はあまり無いはずだ もし自分の攻撃が当たらなくなったら、動揺し隙が出来るはずだ 「勝機があるとすればそこか…」 俺はマスターシートでぼそっと呟いた レーダーを見れば、相手も同じような動きをしている あちらさんは、こっちの作戦に乗ってくれるらしい それとも、俺達が乗せられてるのか… 「なんだ、威勢が良い狂牛の方が来るかと思ったが、大人しい子猫ちゃんか」 エルが接近してきたのがティールだと確認し、ボアレスをしまいエウロスを構えながら言った 「私は子猫じゃありませんよ」 ティールも極閻魔を構える 共に2刀同士。目線が合い火花が散る 「見せてもらおうじゃない、キャッキャウフフ仕様じゃ無い所をさぁ!」 エルが叫び、ティールへと襲いかかる ガキッ! あまりの突進スピードに避ける動作さえ出来なかったティール 「…チッ、防御シールドか!」 しかし、間一髪張られた防御シールドがティールの身を守った 「でも、それだけか!」 ガン!ガン!とシールドへと攻撃を続けるエル (このままじゃシールドが…なんとか避けないと…) ブン! ようやくエルの攻撃が空を切る 「ふん、ちょっとはマシになったようね…そうこなくっちゃ」 エルは一度空中へと飛び、ティールの様子を窺った 「機動とシールドで耐えて、それでどうするの?」 「こうするんだよ!」 ファロンが空中へと飛んだエルへ向かってルインM21二丁とラピッドランチャー二門による集中砲火を浴びせる しかし、その攻撃はエルには当たらなかった 「…いや、当たらないとは思ってたけどさ。ここまでヒドイとは…敵ながら哀れだ」 「うるせぇ!避けんじゃねぇこのやろ!」 『いや避けてないし…』 ファロンの攻撃は、明後日の方角、とまではいかないが、微動だにしていないエルに対しことごとく外れていた 『ファロン。ラピッドランチャーの官制を剣王に回すんだ』 「あ、ああ。その方がよさそうだ…」 落ち込みながらも指示に従うファロン 「むっ!なんだ?急に…うわっ!」 いきなり攻撃が命中コースになった事に驚くエル。それでも命中弾をゼピュロスでしっかりと防御する 慌てて回避行動を取るも、避けた先に弾が飛んでいたり 「うわっ!なんでこんな所に?」 剣王の正確な射撃とファロンのいい加減な射撃が組み合わさり、回避困難な攻撃となったようだ たまらず地上へと逃げ込むエル 「くっ…私だって!」 ティールは降りてきたエルに向かって突撃をする ガシィ! 「ふん。ちょっとはマシになったんじゃないの?」 エルはティール渾身の一撃を、二振りのエウロスで防御する 「まだまだぁ!」 左手に構えた極閻魔でエルの腹を斬りつける ブゥン! 「そんな大振り!あたらないよ!…っと!」 ドン!ドン! エルは空振って隙だらけになったティールに斬りかかろうとしたが、ファロン(というか剣王)からの援護射撃に、避けるしか無かった 『いいぞ、この調子で二人がかりで…あれ?』 そういえばリーゼは何をしている? ふとレーダーを見れば、ゆっくりとファロンへと近づいてるようであった ウィトゥルースは射撃重視の神姫だが、イーアネイラは… 『マズイ!気を付けろファロン!リーゼがそっちに向かってる!』 気づいた瞬間、リーゼは人魚型とは思えない程の速さとなり、ファロンへと急接近した 「あの人魚姫、ようやくお出まし…ってなんだあり…ぐはっ!」 どごっ! 轟音を響かせながらファロンへと急接近したリーゼは、そのまま体当たりをぶちかましてきた 剣王が反重力フィールドを展開してくれたおかげで致命傷とはならなかったが、浮いていた為に派手にぶっ飛ばされる 「あら残念。防がれましたか」 リーゼは自分の両脇に付けられたブースターを排除しながら言った 迂闊だった。今まで標準装備しかしてなかったからって、今回も標準で来るとは限らないじゃないか リーゼは人魚型本来の装備に加え、アーンヴァルのExブースターを4つも増設していたのだった -イーアネイラは、その容姿からは想像出来ない程の高い強襲性能を持っている- 元々水中使用を前提に作られた体は、高い出力がある さらに武装に於いても、射撃戦から格闘戦まで幅広く用意されている 若干、防御力が低く回避性能に弱みがあるものの、その強力な攻撃力からこういった強襲戦法を取らせているオーナーも多いと聞く 「ちっきしょー。人魚姫様、やってくれるじゃねーか」 ファロンは慌ててルインM21からコンピクトU7へと持ち替える 「あら、わたくしの事をそんな可愛く言ってくれるだなんて。少しは手加減して差し上げましょうか?」 リーゼは肩からスキュラを取り、ファロンと対峙する 「…そいや変だよな。姫なんてオバサンに向かって言っちゃ」 ピキ 「…なんですって?」 さっきまでのどちらかと言えば穏やかだった表情とうって変わり、鬼の形相へと変わったリーゼ 「…あーあ。あの丑型、NGワード言っちゃったよ。こりゃ無事じゃ済まないね」 リーゼは尾鰭を使って地面を蹴り、ファロンへと急接近する 「うわっ!なんだこのオバサン!」 パンパン! 慌てて牽制するも、弾は当たらない ガン! リーゼはファロンへと取り付き、スキュラを出鱈目にに振り下ろす 「訂正しなさい!私はオバサンじゃなくてよ!」 ガン!ガン! ファロンは反重力フィールドで身を守るのが精一杯だった 「ファロン!…きゃっ!」 「ほらほら、よそ見してる場合じゃないよ!」 ティールはファロンを助けに行こうとしたが、エルに阻まれた 「くぅっ!えいっ!」 「貴方の攻撃は、基本がなってないのよ子猫ちゃん!」 ティールの攻撃を軽く受け流し、回し蹴りを放つエル ガスッ! 強烈な蹴りが、ティールの腹にヒットする 「がはっ!」 そのまま吹き飛ばされるティール 「ティールっ!」 「貴方の相手はわたくしですわよ、お嬢ちゃん」 ガスッ! 強烈な尾鰭の一撃を受け、ファロンもまた吹き飛ばされる 「…まぁ、キャッキャウフフ型にしては、よくやった方かな。その装備をくれたオーナーに感謝するんだな」 「…そうですわね。今ならわたくしをオバサンと言ったことを謝って訂正するなら許して差し上げてもよくってよ」 …ここまで、か やはりバトルをデータで見るのと実際にやるのとは大違いだ 俺はサレンダーボタンに手を伸ばした 「ダメだよお兄ちゃん!」 そんな俺をユキが制止した 「ユキ…」 「ティールちゃんもファロンちゃんも、まだ諦めてないよ!なのにお兄ちゃんが諦めてどうするの!お兄ちゃんが信じないでどうするのよ!」 ユキの言葉にモニターを見れば、二人とも砂を掴んで立ち上がろうとしていた 「…まだやるです気か」 エルの言葉に 「当たり前だ、勝負はまだついちゃいねぇ!」 「そうです!私達はまだ戦えます!」 と力強く答える二人 それを見たエルは 「…そうか。ならば私は、それに応えねばならんな」 とバイザーを下ろしながら言った 「あら、エルが本気になったわね。それじゃあわたくしも、本気を出そうかしら」 とリーゼも構える 「…なぁ親父、今からアタイ達の好きなようにやらせてくれ」 「試してみたい事があるんです」 ファロンとティールが俺に言ってきた 『よし分かった!こうなったら、お前達の好きなように暴れてこい!』 ここまで実力差があるのに、合体封印とか言ってられない 俺は二人に任せる事にした 「よし、いくぞティール」 「うん!」 二人は気力を振り絞ってジャンプする 「来るか、真鬼王!」 「相手にとって、不足無し、ですわ」 と構えるエルとリーゼ 二人の武装が離れ、別の形となる そして降り立つ二つの人影 『…って二つ?』 よく見ると、二人は武装の一部を入れ替えただけだった ティールの方は炎機襲に付いていた炎虎甲を外し、代わりにラピッドランチャーを付けている さらにルインとインフェルノキャノンまで取り付け、武装も剣が無くなっていて、大腿にコンピクトを下げている ファロンの方はといえば、フロートユニットを背面に回し、炎虎甲を装着 極閻魔を大腿に吊し、風神・雷神・そして朱天を背面ユニットに下げている 「こ…これって…」 「武器を取り変えただけじゃない!」 エルとリーゼの背後に、『ガビーン』という文字が見えた気がした 「今のあたい達に、真鬼王が使える自信はねぇ」 「だけど、これが今の私達に出来る精一杯です!」 というファロンとティールに対しリーゼは 「そんな付け焼き刃で何を…」 と言ったがエルは 「…成る程な。お察しな部類にある剣術や射撃術に頼るより、今出来る可能性を模索した訳か」 『そうか!その手があったか!』 基本的に、剣術がダメな神姫は射撃が、射撃なダメな神姫は剣術や格闘術が得意な傾向がある ティールとファロンが、それぞれコア適正が合わないでダメだったのなら、その反対の装備を試してみるべきだった こんな事を失念していたとは… 「いくぜティール!」 「うんっ!」 そしてティールはエルに、ファロンはリーゼへと向かう 「ふっ。見せて見ろ。さっきとは違うという事を!」 エルはエウロスを構え、ティールと対峙する 「はっ!」 パンパン! ティールはコンピクトを二丁構え、エルに向かって発砲する 「さっきのヤツよりも、ずっと正確な射撃だ」 時に避け、時にエウロスで弾丸をはじくエル 「んもう、ファロンたら無駄撃ちするから…」 残弾が無くなったのか弾倉を捨てるティール 「リロードする隙など与えるものか!」 猛然と飛びかかるエル ティールは背中のラピッドランチャーを放ち牽制する 「そんな弾が当たるものか!」 炎機襲の外側に付けられたランチャーでは間隔が広すぎて、この至近距離ではマトモに狙えない 「せいやっ!」 エルは気合いを入れ斬りかかる ガキッ! ティールはそれを避けず、唯一残された格闘武装・滅爪で受け止める 「まだまだぁ!」 もう一方のエウロスも振り下ろすが ガキッ! これもまた滅爪で防ぐ 「くっ…結構やるな…だが、これからどうする気だ?」 「こうするんですよ」 と言いながらティールは手首を曲げ、弾倉の無い銃をエルへと向け、トリガーを引いた ドン! 弾が無いはずの銃から放たれた一撃は、エルの腹部へとヒットした 「ぐっ…バカな…」 当然の疑問 「弾倉を取り替える時は薬室内に一発残しておく。常識ですよ?」 当然のように答えるティール そして、もう一つの銃を頭へと狙いを付け、トルガーを引く パリン! 弾丸はエルのバイザーへと命中し、割れた 一方、リーゼと対峙したファロンは… ガキィッ! スキュラにより強烈な斬撃を繰り出すリーゼ ファロンはそれを風神でガードしていた 「…なんなのコイツ…」 イーアネイラのパワーとテティス・テイルパーツの質量を考えれば、相当な衝撃が加わってるはずである もしガードしても、その衝撃で弾き飛ばされてもおかしくない それなのに目の前のファロンは微動だにしない リーゼの攻撃は、逆に自身の間接にダメージを与えているようだった 「まるで岩でも叩いてるみたい…まさか、反重力システムを逆転して?」 「へっ、やっと気づいたのか?意外に抜けてるんだな」 いくら攻撃力に優れるイーアネイラでも、そのパワーと耐久力はサイフォスにも匹敵すると云われるウィトゥルースをまともに相手するのは難しい しかも唯一勝っている『重量による安定感』も、重力制御システムを正方向へと向け自身に高重力を掛け押しつける事によってカバーされてはお手上げである 本来のウィトゥルースの傾向ならば格闘が苦手な為、こういう事はしないのだが 「…だったら、離れてしまえばタダの的ですわ!」 リーゼは接近戦を諦め、射撃戦へと移行した 「…よく考えれば、相手は射撃武器を持っていないのでしたわ…持っていても当たらないですし」 スキュラを肩に付け、ネプチューンを構え、発射する 「うおっ!」 ドン!ドン!ドン! 弾が次々とファロンへと命中するが、咄嗟に防御態勢を取った為、有効打にはならなかった 「やったなこのぉ!」 ファロンはリーゼ目がけて風神を投げつける ガスッ! 「当てましたね…このわたくしに当てましたね!」 「へへっ、投げる方が性に合ってるらしいぜ」 今度は極閻魔を構え、投げつける 「そうそう何度も当たりませんわ!」 リーゼは今度はしっかりと回避し、逆にネプチューンを発射した ガン! 「あたたっ!」 命中したが、ダメージは軽微のようだ 「なんて頑丈な!でもコレならどうですか!『メイルシュトローム』起動!」 リーゼはスキュラ・ネプチューン・プロテウス・サーペントといったイーアネイラの武装を全て合体させた最強武装『メイルシュトローム』を起動させた 「ターゲットロック…発射!」 超高速の弾丸が、ミサイルが、メーサー砲がファロンに襲いかかる ドンドンドン!…ドゴォッ! 爆炎に包まれるファロン 「ふっ…一時はどうなろかと思いましたが、わたくしにかかれば…」 「…人魚姫様にかかれば、どうだって?」 「それは、わたくしにかかればイチコロ…って!」 爆炎の中から聞こえてくる声に驚くリーゼ ブゥン! シールドの出力を一瞬だけ上げ、煙を払いのけるファロン 少々煤けてるものの、ほぼ無傷だ 「バ、バカな!わたくしの最強の攻撃を喰らって無傷だなんて!」 「へっ!そんなの知るか!こんどはあたいから行くぜ!」 雷神を構え、重力を反転させ浮遊し炎虎甲のブースタを点火するし突撃する 「くっ…回避は…間に合わないっ!」 リーゼは回避を諦め防御態勢に入る オルフェウスを構え、重力制御を正方向に加えて体勢を崩さないようにする 「お~~~りゃぁ~~~!」 猛牛さながらの体当たりとも言える攻撃 ドガッ! 「きゃぁっ!」 先程のファロンと同じ防御方法、にもかかわらずリーゼは派手に弾き飛ばされた 小型ながらも高い防御力を誇るオルフェウスは割れ、自身の左手までも切り落とされる 「まだまだぁ!」 ヒュン、ヒュン! ファロンは追い打ちとばかりに雷神を投げつける グサグサッ! 「はぐぅ!」 それはテイルパーツへと刺さり、重力制御装置を破壊する 「コレでトドメだぁっ!」 バシュ! 炎虎甲を分離させリーゼへと飛ばす それはリーゼを掴んで空高く持ち上げた 「いくぜ!必殺!」 ファロンは朱天を構え、高くジャンプする 空中で朱天を開き、リーゼを拘束する 「ま…まさか…」 リーゼの顔が恐怖に染まる ニタァと笑うファロン -後にリーゼは語る このとき見た丑型の表情は、今まで見た神姫のどの表情よりも怖かったと- ファロンはリーゼを逆さまにして、叫ぶ 「朱天!煉獄堕としぃ!」 高高度から重力制御を掛け、一気に下降する あっという間に眼前に迫る地面に、リーゼは失神した ドゴオオオオオッ! ものすごい衝撃波が辺りを破壊してゆく 二人が『墜落』した所には巨大なクレーターが出来、その中心にリーゼは突き刺さっていた 《リーゼ・戦闘不能!》 「くっ…リーゼが負けたのか…」 腹部を押さえ、額からオイルを流しながらヨロヨロと立ち上がるエル どうやら腹部への直撃は防弾スーツが、頭部への攻撃は咄嗟にバイザーに当てる事で致命傷を免れたらしい 「ファロンてば、無茶するんだから」 弾倉を装填しながら答えるティール 「凄いヤツじゃないか。まさか真鬼王幻の大技・煉獄堕としを、合体しないで一人でやってのけるとは」 「やった本人ものびちゃってますけどね。調子に乗りすぎです」 『え…なんで知ってるんだ?』 確かにファロンもクレーターの中でノビている しかし損傷は軽いとは言えないが、戦闘不能になる程のダメージでは無い為、アナウンスはされていない あの位置からではクレーターの中までは見えない 俺はモニターしているから知っているが、剣王も伝えてないしティールには分からないはずだ 「衝突の際、0.03秒程シールドを張るのが遅れてましたから」 俺が知らない事まであっさりと答えるティール …そういえば、今でにもファロンにティールを呼んでくるように頼んでも動かないで、叱ろうとしたらティールが来た、なんて事はしょっちゅうあった もし二人になんらかの繋がりがあって、お互いの事が分かってるのなら… 「まぁいい、一対一の決闘と行くか。行くぞティール!」 俺が考え事をしていると、二人がバトルを再開した エルが地を蹴り、ティールへと襲いかかる バンバンと射撃した後、炎機襲を切り離しエルへと向かっていくティール 「まさか、拳銃で接近戦をやるとはな」 エルの剣撃を、手首の内側を押さえ反らせる。そしてそのまま零距離で発砲 一見、弾数に限りのあるティールの方が不利なようだが、焦りの表情を浮かべているのはエルだった 小型で威力の小さいコンピクトだが、装弾数は多い しかもこの至近距離ならば防弾越しにでも十分なダメージが出せる事は、先程身に染みて分かっているのだろう さらにエルの攻撃は、殆どティールには当たらなくなっていた 鋭い剣筋で短時間に勝利を収めてきた彼女にとって、この戦いは長すぎたのだ 短銃での近接戦、等という今まで体験した事のない戦法を取るティールは、彼女にとって脅威であった ドンドン! 「くぅっ!」 ティールの攻撃が、エルの大腿にヒットする 「まだまだ!」 バンバンと追撃をかけるティール たまらず大きく飛び避ける ダダダッ! 「なんだと!?」 エルが離れると、先程切り離した炎機襲が攻撃してくる エルはさらに大きく避けなければならなくなった 「このままではマズイ!」 大きく距離を取り。ボアレスを放つ これを落ち着いて回避するティール その間に更に距離を離すエル 『どうやらあちらさんは、遠距離でも撃ち合いをする来らしいぞ?』 今までの戦歴を見る限り、彼女に射撃戦の経験は無い しかし、このまま『不利』な近接戦をやるより、ティールもやったことがない射撃戦をする事に賭けたのだろう しかもエウクランテには『奥の手』がある 「…私にも、奥の手はありますよ?」 俺の考えを見抜いたのか、ティールが自信たっぷりに言った そして炎機襲と再び合体し、空へと跳んだ 「跳んでくるとは、迂闊な!」 飛んでいるエルと違って、ただジャンプしているだけのティールは空中での回避が困難になる このチャンスにエルはボアレスを放ち、牽制する 「剣王、お願い!」 ティールの指示を受け、剣王は炎機襲に取り付けられたルインを使い、飛んできた弾丸を打ち落とす エルはこの隙に奥の手の『テンペスト』を完成させた 「いっけぇ~~~!」 ドン! ものすごい轟音を立て、光弾が発射される しかしティールもただ黙ってはいなかった 「…エネルギー充填完了…全武装、発射!」 バシュゥ! インフェルノキャノンが、ラピッドランチャーが、ルインが、コンピクトが、合計7門の火器が一斉に火を噴く それはテンペストが放った光弾を打ち抜き、エルへと襲いかかった 「うわああああっ!」 エネルギーの殆どを飛行とテンペストに回していた為身動きの取れなかったエルは、それをまともに喰らってしまった 翼は焼け、テンペストは砕かれ、全身に無数の銃弾を浴びる そして墜落していくエル 『やったなティール!』 俺はマスターシートでガッツポーズを取っていた そして地面に着地しようとスラスターを吹かすティール ぼすっ… 「…あ、エネルギーが切れちゃいました」 炎機襲のスラスターから光が消え、自由落下を始める 『そっか。さっきのインフェルノでエネルギーを使いすぎちゃったのか…っておい!』 いくらなんでもこの高さから落下したらタダじゃ済まない いくらおっとりしてるといっても、もうちょっと慌ててもいいんじゃないか? と思っていると、下から何かが飛んできた 「全く、ティールは手間が掛かるな」 それは意識を取り戻したファロンだった 「ありがとうファロン」 ティールを抱えながら反重力を働かせ、ゆっくりと降下する スタッ 二人は鮮やかに着地する 《エル・戦闘不能。勝者ティール・ファロン組!》 AIジャッジが、二人の完全勝利を告げた 「やったぁ勝った勝ったすご~い」 大はしゃぎな皐月 「よく…がんばりました…ぱちぱち…」 水那岐も喜んでいる 俺達が騒いでいると、エルとリーゼがやってきた 「すまなかった。君達をキャッキャウフフ型などとバカにして。君達は立派な戦士だ」 深々と頭を下げるエル 「今回わたくし達が負けたのも、たまたまですわよ。次回はこうは行かないんですからね」 ふん、とソッポを向くリーゼ 「こらこら。リーゼも謝りに来たんだろ」 と、オーナーと思われる人が言った 「う…あ、愛玩用だなんて言ってごめんなさい…」 顔を真っ赤にしながらペコリと頭を下げるリーゼ 「まぁいいって事よ。それより、面白い戦いだったぜ!」 バンバンとリーゼの背中を叩きながら言うファロン 「あうう…」 しょんぼりとファロンの為すがままにされているリーゼ …随分と態度が変わったな? 「あのー…」 「ん?どうしたのムツキちゃん」 「気になってたのですが、どうしてキャッキャウフフ型をそんなに嫌うのですか?私達が占拠してたといっても、ほんの一部でしたし、時間もそんなに居たわけでは無いですし」 「あ、それは…」 と相手のオーナーが口を開いた瞬間 「それは俺から説明しよう」 と話って入る人物がいた 「って、日暮さん、どうしたんですか?」 「いや、あの二人がバトルするっていうから気になって、兎羽子にレジ任せて見に来ちゃった」 「いいんですかそんなんで。ホントに店を高階さんに取られちゃいますよ」 「う…まぁそれは置いといて。エルとリーゼがキャッキャウフフ嫌いになったのは、ウチにも責任があるんでね」 「え?どういうことですか?」 「去年の暮れにやった武器在庫一掃セールで、普段戦わない神姫達がこぞって武器を買いに来てね。選んでるならと大して気にも留めなかったんだが、まさか5時間も占拠してたとは気づかなかったんだ」 「なるほど…」 「しかも性能じゃ無くて「キャーこの武器可愛い」とか「なにこれキモーイ」とか言いながら騒いでばかりいて、普通に買いに来たバトル派の神姫を閉め出していたんだよ」 「そりゃ、イヤになるわよねぇ…」 ウンウンとうなずく皐月 だったらもうちょっとデパートで悩むのは止めてください 「まぁその後、ジェニーさんに叱られてその子達も納得して謝ってくれたんだけどね」 「バトルを始めたばかりのエルちゃんとリーゼちゃんがそのセールを楽しみにしていた気持ち、分かるなぁ」 と俺が言ったら 「そうなんですよ!広告にあったハンドガン、試してみたかったのにあの連中ときたらいつまでもいつまでも…」 思い出して興奮したらしいエル 「セールを逃したら、お兄ちゃんがまたパスタ生活です」 「そうですわね。お兄さまの健康を守るのも、私達の役目ですから」 はぁーっとため息を付きながら健気なことを言うエルとリーゼ 「そっか、君達はセールの事よりも、オーナーの事を心配して怒ってたんだね。えらいえらい」 つい他人の神姫なのに撫でてしまった 「あっ…何をするんですか…」 「あうう…ちょっといいかも…」 照れながらもはにゃ~んとする二人 「ちょっとお兄ちゃん」 ユキが止めに入った 「うわっ!どうしたユキ?」 「ダメだよお兄ちゃん。それはオーナーさんの役目だよ?」 「ああそうか、ワリィワリィ…」 ウチの環境に慣れきって、普通はオーナーがナデナデするって事をすっかり忘れてた 「…まぁお兄ちゃんが撫でたくなる気持ちも分かるけどね…えらいえらい」 といって二人を撫でるユキ 「あーっズルイぞ。かーちゃん、あたいも撫でてくれ!」 「私も…撫でて欲しいな…」 それを見ていたティールとファロンも撫でろと騒ぎ出す そんな光景を見ていたエルとリーゼのオーナーは 「一体、何なのですかこれは?」 と言った。そこで俺は 「撫でて上げれば分かりますよ。貴方の神姫達は、貴方のために戦ってるのですよ。たまには労をねぎらって上げてください」 と教えて上げた 「そ、そうなのか…よし。おーい、エル、リーゼ」 「あ、はい」 「なんですかお兄さま」 「…二人とも、頑張ったな…」 なでなで 「は、はい…はふぅ…」 「お兄さま…暖かい…」 「…たまにはキャッキャウフフもいいかも…」 おまけ 「ところで、何でこの二人は貴方をお兄ちゃんとか呼ぶのですか?」 ウチも人のことは言えないが、普通のバトルユーザーに見える彼が、そう呼ばせていたのが気になった 「いや、登録中に妹のヤツが「お兄ちゃん、電話だよー」って叫んだのを拾ったらしい。訂正するのもメンドイからまぁいっかってね」 いいのか、それで? ゲスト解説 墨井 進(すみい・すすむ) エルとリーゼのオーナー 以前から神姫は気にしていたのだが、受験が終わり一人暮らしにも慣れた所を妹に押され、ようやく購入を決意した新参者 別にヲタな趣味は無い真っ当な大学生である アパートに一人暮らしをしているのだが、妹がちょくちょく遊びに来て食料を持って来てくれるの、でさほどキビシイ食生活は送っていない エル(エウクランテ型) どちらかというと生真面目な性格をした神姫 自分にも他人にも厳しい 戦績よりも内容を重視するタイプだが、割と順調に白星を重ねていた リーゼ(イーアネイラ型) 自分に甘く他人に厳しいワガママな神姫 内容よりも戦績を重視するタイプで勝つためには何でもするタイプ(反則などはしないが) でも切れやすい
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姉さまは強い 槙縞ランカーには、その神姫本来の属性を外れた武装を使う者が多いが、その中でも姉さまはある種格別だ 姉さまは強力な武器を使わない 本来ストラーフはパワードアームやパワードレッグを使った白兵戦が強力なタイプだろう・・・が、姉さまがそれらを使っているのを見た事は無い 武器セットや改造装備の中からでも、姉さまは拳銃やナイフ等、普通に手動で操作出来る簡単な武器しか、使っているのを私は見た事が無い 常に自分の価値観での格好良さを第一に武装をコーディネイトして出撃し、遊びながらでも必ず勝って帰ってくる 姉さまは私にとって、マスターである以外に憧憬の対象でもあった だから、使わない本当の理由を、考えた事は無かった 「使わない」のではなくて「使えない」のかも知れない等と、考えた事も無かった 第拾壱幕 「MAD SKY」 ばらばらと、私の周りに無数の武器が現れ、あるものは転がり、あるものは闘技場の床に突き刺さる マスターが戦闘に参加出来無い以上、サイドボードを利用するにはこういった形で、バトル開始時に一斉転送してもらうか、戦闘中に私がマスターに指示するしかない だが、この『G』相手に後者のやり方では間に合わないと判断した私は、サイドボードのありったけの火器を一斉転送してもらう事にした 相手に使用される危険性がある以上、普通なら誰もやらないだろうが・・・ 「・・・!!」 案の定、出現した武器には目もくれず一直線に此方に走って来る『G』 それだけ自分の闘法に自信があるのか、それとも ・・・・単に『使えない』のか・・・・ 兎に角、ジグザグに武器の丘を走り回りながら、手に付いた火器を打ち込む事にする こういう手合いには先手必勝・・・だ 『仁竜』の大刀を素手で粉砕した以上、白兵戦になったら多分勝ち目は無い ならば精度は落ちようとも、弾幕で削り殺す!! 唸る短機関銃、榴弾砲、ライフル、機関銃 半ば喰らいながらかわされる、爆風をかえって跳躍力に加算される、僅かに装備した装甲でいなされる、マント(私のと同じ防弾か!)で防がれる 無茶苦茶だ!動きは全く出鱈目だし、それ程速くも無いが、『G』は自身の身を削りながらも、私の全ての攻撃を回避している 否、違う 奴が回避してるんじゃない 私が怯えているからだ・・・心のどこかで、こんな攻撃で奴は死なないんじゃないかと思って怯えているからっっ・・・! 爆風を切り裂いて、殆ど満身創痍の姿に見える『G』が私の懐に入って来ている 「・・・あ」 「ひとつ」 鈍い音がした 「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁ姉さま------------っ!!」 びっくりする程の声・・・絶望の片鱗を感じた時、人は叫ぶ 神姫は人の真似をする様に作られた だから彼女も叫んでいる その精巧な絶望を感じている心がプログラムされたものであろうとも プログラムされたものであろうとも「心」は「心」だ 席を立つ 「もう見ないのですか?マスター」 「あぁ、もうけりは付いただろう。この試合を見る為に僕は来たからね・・・別に残りたいなら君の意思を尊重するけど」 「ならばマスター、この闘いはまだ終わっていない。見届けるべきだ」 「!?」 勝敗のコールは確かに行われていない 何よりも、大きく吹き飛ばされた『ニビル』に向かって『G』は走り出している 「馬鹿な・・・どうやってあの攻撃をしのいだんだ?『G』の攻撃は甲冑も貫くのだろう?」 「マスター自身が言ったではないか・・・ニビルの、『Gアーム』だ」 意識はあった バーチャルスペースの方に、である どうやらデッドの判定は下されなかった様だ どうも私は闘技場の壁面に埋まっている状態らしい 体の状態は・・・ (片脚が・・・無い・・・!?) 恐ろしいパワーだ・・・武装神姫の細腕では装甲を付けていてももたないと踏んで、ヒットポイントをずらしてかつ脚で受けたのだが・・・ 太股の辺りに残骸を残しつつ、私の右脚は見事に砕け散っていた。ついでに横腹にも痛みがある・・・明らかに衝撃でボディスーツが引き千切れていた まだ動けるなら闘おうとも思っていたが、これでは死んでいないだけで、戦闘は不可能に近い 普通こういう状況になったらジャッジングマシンが私の敗北を宣言するのでは無いか・・・?と、思考は迫り来る破砕音で途切れた 「ふたつ」 粉砕される瓦礫と共に、再び大きく外に放り出される 床に叩き付けられ、呻く・・・だが今はその痛みについて考えている場合ではない (やっぱり・・・数えている?) なるべく攻撃の手を控えているのは、一撃必殺に誇りがあるからでは無いのではないか? あのパンチの速さと威力ならば、私の銃撃の幾つかは拳で迎撃出来た筈だ(余りにも想像したくない光景だが、多分可能だろう) だがそれをせず、危なっかしい方法で回避した (しかも数えている・・・という事は) 結論はひとつ、彼女の『Gアーム』は私のそれと同様に、使用回数制限があるのだ ならば、勝ち目はあるかもしれない ただ 問題となるのは その勝利を手に入れる為には恐らくもう私には たったひとつの手段しか残されていない事 この闘いは 多くの代償を支払ってまで 勝つ必要のある闘いだろうか? 『G』が迫る 私には・・・ 『そうよヌル。準決勝で会いましょ』 理由は、それで充分だった 「マスター!残りのサイドボードを一式、送って下さい!!」 いつもそれを、サイドボードに入れてはいた(ただ、そもそも私は、サイドボードを使って闘う事自体が初めてだったのだが) だがその装備を、私は封印していた 理由は簡単 その装備を使うと危険である事が、私のオーバーロード、「ゴールドアイ」の「代償」だからだ マスターは、知っている 私がこのオーバーロードを入手した時に、神姫体付けの拡張装備を使用すると、神経系が破損してゆく体になってしまった事を マスターは、知らない 残りのサイドボードとは即ち、“サバーカ”、“チーグル”、DTリアユニットplus + GA4アーム・・・まさにその体付けパーツである事を・・・! 電撃を受けたような衝撃が、私の体を貫いた 「結果、出ました」 「で、どうだった?」 暗い部屋でパソコンのモニタに向かっていた男が振り返る 逆光で、本当におぞましい怪物か何かに見えた 「実質上の未来予知が可能な『ゴールドアイ』の前には、いかな『ジェノサイドナックル』とて無意味です。『ニビル』の勝利に終わりました」 事務的な口調で応える・・・この男の前では彼女はいつもそうしていた 「ニビルは『ゴールドアイ』を使ったのだな?」 ねちこく、重ねて男は問うた。満足のいく応えに対し、数瞬自らの考えに沈み、すぐに口の端が吊り上る 「ククククク・・・ふはっはっはっは・・・・・・!ならば良い!これで少なくともあの筺体は、現状で望み得る最良の蟲毒壺としての状態になったわけだ!フハハハハハ!!」 「闘うがいい!木偶人形ども!俺の・・・俺の『G』の為に!!!」 高笑いと独り言を繰り返す男を見ながら、キャロラインは拳を硬く握り締めた 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ
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…… 「零牙、起きてください」 「む……ん。」 主に呼ばれて、我は目を覚ました。 いつもならばその立場は逆であるのに。 「珍しいですね、あなたより先に私が起きてしまうなんて」 「…面目ない、主。」 主はすでに外行き用の服に着替えていた、手には我の武装が入ったボックス。 今日はこの前知り合ったヒカルとのバトルロンドの予定があった。 主の家から一kmほど先に、神姫センターがある。 秋葉原などにある店舗ほどではないが、規模は大きい。 しかし、約束の時間より三十分も早く来てしまう主の癖のせいでヒカルのマスター氏は まだ来ていなかった。 ベンチに腰掛け、来るのを待つ主。 ここのセンターは順番などの関係で、バトルロンドは対戦相手と一緒に申し込む決まりとなっていた。 「遅いですね」 「主の来るのが早すぎるのかと。」 主の笑顔が一瞬引きつった。 「…一応、これでも気をつけている方なのですが…」 後に聞いたのだが、我が来る前は一時間以上前に待ち合わせ場所に居たらしい。 …… 十五分くらいが経過した。 六月中頃の暖かな日差しが、ガラス張り天井のホールに降り注ぐ。 見ると、主はウトウトと睡魔に襲われている最中だった。 誰にでも敬語を使うのと、少しのんびりしているのが主の特徴だか、寝てしまってはヒカルのマスター氏に悪いし。 万が一置き逃げに遭ったら我だけでは対処が出来ない。 「主、炭酸飲料か何かを買ってきましょうか?」 「あなたじゃ大変でしょう。私が行きますよ」 「主がここに居なければヒカルのマスター氏が困ります。それに武装していればその程度、持てます。」 主は少し考え 「…じゃあ、お願いします」 と言って財布の中から百二十円を取り出した。 我はそれを受け取り、自販機があるエリアに走りだした。 ~・~・~・~・~・~・~ ホールにある自販機は故障中で、炭酸を販売している自販機を探すのに苦労した。 見つけたのはバックヤード近くにある、薄暗く人があまり通らない場所でだった。 コーラを抱えて急いで戻ろうとした時 殺気を感じた。 圧縮空気が噴出する音と共に黒光りする物体が飛んできた。 武器は持っていない、飲料缶を盾にした。 ぷしゅっ 何かが缶に突き刺さり、間の抜けた音と共に中身が噴き出た。 我は缶を盾にしたまま、物体が引き戻されてゆく方向に声をかけた。 「…何者だ。」 言った先、ごみ箱の影から現れた影。 その体を漆黒に染め、存在しない青い薔薇を思わせる透き通った髪。 ベースが少女型である花型MMS「ジルダリア」とは思えない程、妖艶な雰囲気を持つ相手だった。 「"蒼穹の猟犬"…で合ってるわね?」 青く塗られた唇が動き、低く、抑揚の無い声を紡ぐ。 その体と同じく、吸い込まれそうな程深い緑の瞳が、我を見据える。 「"蒼穹の猟犬"? …そうだ。」 人違い…ではなさそうだ、"蒼穹の猟犬"とは以前アピールに使用した覚えがあるからな。 「ふぅ…ん。『瞳に瞳孔がある』のねぇ、前見た時は気付かなかったわね」 瞳孔? 我の目には"瞳孔"がある。Kemotech社に勤めている主の父親が、関係者に放出された試作品を貰ってきたからだ。 放出された『目に瞳孔がある頭部』の内の一つが我に使われている。 「…何の用かは知らぬが、バトルの申し込みならば表でやってくれぬか?」 中身の抜けた缶をごみ箱に放り投げる、壁に跳ね返り箱に入って行った。 ジュース代をフイにしてしまったが、まあ仕方があるまい。 そのままジルダリアの横を通り過ぎる…と 空気を切り裂く甲高い音、そして熱気を感じ咄嗟に後方へと飛びのいた。 胸甲の手首が斬りおとされたが、自らの腕は無傷であった。 ジルダリアの右腕に装備されている物に目を落とす。 カッターナイフの刃らしき物が背部コンバータにコードで接続されている。 刃は熱を帯び、紅く輝いていた。 「…ふん、工作用の電熱カッターを改造したものか…。」 斬り口から漏電している、電力の無駄なので胸甲の電源を落とした。 「当たり♪、当然金属も切断できるだけの出力は出せるわよ」 ジルダリアが子供の様に笑う、我が苦しむのを見たいようだな…。 そう思った瞬間、横一文字に斬りかかってきた。 胸甲に大きく切り裂かれた、気付くのか少し遅れていれば本体を切り裂かれていた所である。 ABS樹脂が溶ける際に発する臭気が鼻につく。 「さあ"蒼穹の猟犬"…零牙と言ったっけ?」 切先を我の頭に向ける、熱気が顔の近くまで来ていた。 「武器が無いと戦えないのかしら?少しは芸があるはずよね?」 ふ…む。 機能停止状態の胸甲を排除した後、どうするべきか。 先ほどの銛状飛翔体は背部ユニットと一体化しているようだが、そこを無力化するにしても武器が無い。 五寸釘の一本でも落ちていれば話は別だが。 「考える時間は終わりね、…始めましょう」 刃先を我の顔から離し、振りかぶる態勢で構えた。 さて…風はどちらに吹くかな? 刃先が頂点まで達した瞬間、硝子が割れる音に似た破砕音が響いた。 ふぅむ…我に吹いたか。 本来なら、我に向かって振り下ろされる筈のカッターの刃は、細かい破片となって散らばり床を焦がしている。 突然の事に動揺を隠せないジルダリア、まだ未熟だな。 「誰なのっ!?」 「ちぇえぇぇぇぇぃ!!!」 突然、視界に赤い何かが割り込んできた。 それと同時に目の前に居たジルダリアが五十センチ位奥に蹴り飛ばされていった。 赤い何か。 黒い素体に赤と白の装甲、緑の頭髪。 サンタ型MMS「ツガル」の姿がそこにあった。 しかも、我はそのツガルを知っている。 「ジュラーヴリク、何故お主が?」 「"正義は悪と紙一重"ってところかしらね」 ジュラがフォービドブレードを押しつける。 「…なるほど、"狩人"か」 「そう言う事、…ようやく起き上がったか」 ブレードを握ると、刃の部分が発光し始めた。 「時にジュラ、あのジルダリアの相手は我がしよう。お主は見ているだけでいい。」 「…"蒼穹の猟犬"のお手並み、久しぶりに見させてもらうわ」 さて、と。 リアルバトルは初だが、何とかなるであろう。 「我は零牙、蒼穹の猟犬なり。…ゆくぞ」 ~・~・~・~・~・~・~ 「ようやく乗り気になったわね!」 ジルダリアは銛を二・三本まとめて撃ちだした。 (剣の振りは…右斜め上六十七度からといったとこか。) 零牙は心の中で呟き、流れるような動きでそれを実行した。 振り下ろされたブレードに綺麗に弾かれ、金属音を響かせる。 あらぬ方向に飛んでいき、様々な場所に突き刺さる。 「嘘ッ!? 五ミリの鉄板を貫くのに!」 「ふっ!」 身をかがめ、クラウチングスタートの要領で床を蹴り飛ばす零牙。 一秒もかからずその距離を縮め、大きく振りかぶる。 「そのブレードにこのタイミング…」 風切り音、そして異臭。 直撃は避けたものの、ダーツ発射器を兼ねるリアパーツを斬りおとされるジルダリア。 「まさかあんたは!?」 「ハァッ!!」 右手の短刀で止めようとしたが、刃と刃がぶつかった瞬間短刀の刃が割れ落ちた。 「イリーガルハンター!?」 「当たりよ。…ようやく来た」 出入り口側から悠々と歩いて来た人物。 センター職員の制服に身を包み肩にはアーンヴァル、胸のネームプレートには「長瀬」と書かれていた。 「祁音遅い!」 「別に急がなくたってたも良かったみたいだしな、被害者はピンピンしてるし」 「くそっ!」 脚部ユニットのロケットモーターが点火し、飛び上がるジルダリア。 「逃がさないわよ…精密射撃技術をなめなさんな!」 両手で構えたホーン・スナイパーライフルが火を噴き、弾丸がジュビジーに襲い掛かる。 「ガぁッ!?」 正確無比な銃撃により右脚を吹き飛ばされ、バランスを崩すジルダリア。 「追え、ラスター!」 男の肩から飛び発ったアーンヴァルが、ジルダリアを追う。 本来の性能では考えられない加速で飛んでゆく。 「覚えていらっしゃい零牙! いつかまた会いましょう!」 曲がり角を曲がり、見えなくなった。 零牙はここで、ようやく息をついた。 「大丈夫かい?、零牙」 男がしゃがみこんで、零牙と視線を合わせて言う。 「長瀬氏、"狩人"だとは聞いてはおらぬぞ?」 「違法行為だから普通は教えないさ、それより一応検査をしよう」 我はメンテナンスショップの中にいた。 念の為に検査されているのだ。 主が長瀬氏から説明を受けている、傍らには忙しく歩き回るショップ所属の修理用MMS達。 …と、説明が終わり、主がこちらに来る。 「零牙、大変でしたね」 そう言う主の目は、この騒ぎの真実を知っている事を語りかけていた。 「心配を掛けてしまい、申し訳ありません。」 「大丈夫ですよ。…形人さんとヒカルさんに多少迷惑を掛けましたが、納得してくれました」 「二人は人が良いですからな…。」 …… ジュラの説明によると、あのジルダリアは以前我と公式戦で戦い、敗北した神姫だと言う。 マスターについては調査中で、今の所ターゲットは我だとしか判っていないらしい。 「神姫をあんなにしちゃうなんて、きっとマスターが病んでるのよ」 ややオーバーアクションで呆れるジュラ。 「ジュラ、そう言えばあやつの名は…何とゆうのか?」 「確か…んー。確か"ダイアトニック"って名乗ってたかしら」 「ダイアトニック…、音楽用語だな。」 「話は済んだかい?、二人とも」 長瀬氏が会話が詰まった隙を見て、話に参加してきた。 「祁音、アイツの脚の調査結果は?」 「公式戦なんて問題外の改造だね。フレームはチタン製で電熱カッターが仕込んである、並の神姫なら一蹴りで一刀両断だな」 「下半身電熱カッターって事ね、アイツ…」 「オマケに電圧が高いのなんの、あんなの外部電力無しだと二秒でバッテリー切れさ」 「あの…」 完全に置いていかれてる…どうしようか。 まあ、ひとまずは良しとするか…。 ~・~・~・~・~・~・~ 深夜。 某マンションのベランダで煙草を吹かす影ひとつ。 長瀬祁音(ながせけいん)は思案に暮れていた。 (目にはつけていたが…本当に立ち向かうとはね) 零牙の実力の凄さを改めて知り、それがこの町の"裏神姫"をどう動かすかを考えていた。 ここで言う"裏神姫"とは、長瀬が"動向が怪しい"と見た神姫をまとめた物であり、決して確実なものではない事を留意してもらいたい。 「キャプテン」 そう言って、アーンヴァルが彼の右肩に乗る。 「どうだったか? ラースタチュカ」 ラースタチュカは、首を横に振り 「駄目でした。規格外のロケットモーターを使用したと思われます」 「そうか」 「すみません…」 「仕方がないさ、待てばいいさ。また零牙に挑戦する時を」 「しばらく姿を現さないと思うね、私は」 ジュラーヴリクが話に割り込む。 「それまでヒマだなぁ…」 「本当なら、俺達が動くような事件など、起きてほしくないんだがな…」 そう言って、長瀬は銜えていたケントを床に落とし、踏み消した。 2037年、武装神姫を悪用した犯罪が増えてきているという。 そういった犯罪に、"同じ力で"対処する人達も居る。 しかし、それは別のお話である。 無頼4を読む 流れ流れて神姫無頼に戻る トップページ
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第五話「プラモ」 「正直…プラモ狂四郎に習ってきたら?」 タミヤ製F-4EJの1/144のプラモを見ながら、ヒカルは言った。 このファントムはつい昨日に製作した出来たてホヤホヤである。 …買ったのは去年だったりするが 「しょうがないだろ、本格的に作ったのは初めてなんだから」 形人は小学生の頃からベストメカセレクションのガンプラを作っているくらい。プラモ好きであった。 その他にも、宇宙戦艦ヤマトやマクロスなど、とにかく色々作ってる。 作ってないのは戦車と城などの建造物くらいだ。 「ねえ、今度はクルセイダーと90式を買ってよ」 「バカ言え!もう小遣いはスッカラカンだ!」 「紙ヤスリ(300円)と缶スプレー(ミディアムシーグレイ、400円)買っただけで無くなるってのもどうかな…」 「いつも言ってるだろ、小遣いは月3000円だって!」 ちなみにF-8クルセイダーは1200円だったりする。 何となく、シン・カザマ(初期)みたいな心境… 「オマケに継ぎ目は残ってるし、デカールだって機体横の国籍マークを台無しにしてるし…」 「でもってアンチグレア塗装もトチってるってか?」 「そこまで言ってないよ…、…思ったけど」 「やっぱりかい」 「クルーセイダーを買うよか、積んであるマクロスのキット(アリイ製復刻版)を組むのが先だろうが」 「まあね」 笑いながらヒカルはふと、形人の左手を見た。 スプレー塗料の使用により、グレーに染まった爪。 傍から見て、目立つ。 「ねぇ形人…、身体大丈夫?」 「ん?、…少し、頭が痛いかな…」 「そう…」 「寝れば治るさ」 「薬は?」 「もう飲んであるよ」 「形人、もう寝たら?、明日も早起きするんでしょ?」 「あ?、ああ」 「じゃあ寝てよ、寝坊して迷惑するのは形人だけじゃないんだから…」 「わかったわかった、寝るよ」 「何でくまを持ってここに居る?」 「私も一緒にねる」 「バッテリーは?」 「充電不要のメモリ9、昼間に寝てたから」 「そうかい、じゃあおやすみ」 「おやすみなさい、形人…」 形人もヒカルも、すぐに深い眠りに落ちていった。 二人の夜は、早い。 次回予告 え?今回の担当僕? 突然だけど、目が見えないってゆうのは、非常に怖いよね。 次回「風間の神姫」…であってるよね?(N:風間) 武装神姫でいこう!?に戻る トップページ