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鋼の心 ~Eisen Herz~ 第30話:フロントミッション2nd アルアクラン。 グループK2が開発した最初期段階の試作型武装神姫。 試作機中最大の大きさを誇り、ストラーフ以上のパワーと装甲、アーンヴァル以上の火力を併せ持つ限界性能試験型。 後に、神姫事業に参入したUnion Steel社に譲渡され、ティグリース、ウィトゥルースの原型ともなったMMSである。 最大の特徴であるフロートユニットによるホバー滑走は、当時のK2においては未完成で終わっているが、Union Steelの技術スタッフの手で完成。同社の神姫、ウィトゥルースの、特徴的な駆動系として勇名を馳せている。 更に同社は、発展系として上半身を浮遊させることでバランス制御の補助と軽量化を両立し、真鬼王と呼ばれる重戦闘形態への変形を可能とした。 これらの技術の成立に、Union Steel社の先鋭的な高い技術力を欠かすことは出来ないが、その発想の根源となっているシステムの構想は旧K2時代に完成を見ているものである。 何れにせよアルアクランは、例え完成を見たとしても市場に出回ることが無かったのは自明だろう。 その戦闘力は、控えめに見積もっても真鬼王2体分を上回る筈であり、他の神姫とのパワーバランスが確実に崩壊するのがその理由となる。 もちろん、開発当事にアルアクランが完成していた場合、その技術のフィードバックによりアーンヴァルを始めとする各神姫も相応の強化を見たことは疑う余地も無い。 その場合、神姫事業全体が今より一段上のスタートラインを持ったであろう。 神姫年鑑2037。 「歴史に埋もれた幻の神姫」より抜粋 ◆ 「…………」 颶風(ぐふう)を伴う豪刃が唸り、カトレアの眼前を掠める。 巻き込まれれば装甲の脆弱なフランカーなどひとたまりもあるまい。 「……チッ!!」 続く左腕の一閃をサイドステップで交わし、距離を維持。 触れれば即死も充分にありうる鋏腕の影響圏に留まり続けた。 「……なんて厄介!!」 離れれば致命的な威力の粒子ビーム砲が、中距離では2門の速射砲の弾幕が、それぞれに襲い掛かってくる。 フレキシブルアームの先端に搭載された2種類の砲は、その自由度の高さから死角のない射撃を可能としていた。 だがしかし、近距離は近距離で、振り回される両腕の鋏と言う脅威がある。 挟まれ、捕まるのは論外。 かと言って、薙ぎの一撃でも容易に神姫のボディを粉砕しかねない威力。 レイブレードで鋏を斬ろうにも、表面にはご丁寧に帯磁処理が施されており、一刀両断と言う訳にはいかない。 勿論、高出力のレイブレードならば、押し付ける事で叩き切る事も可能だろうが。よほどの隙を作らぬ限り、同時にこちらのボディも両断されるのは目に見えている。 仕方無しに、2体掛かりで前後から強襲し、先に背面のフレキシブルアームを破壊する作戦を取ったのだが、6本脚に支えられたボディは振り回される豪腕にも体勢を崩す事がなく、隙は見出せないで居た。 「っ!! 残り時間は!?」 「……20秒」 「あと20秒で片付けるなんて―――」 「―――違う」 カトレアの反対側から強襲を仕掛け、鋏腕を掻い潜りながら、珍しく表情を曇らせるアイゼン。 「……もう、20秒過ぎてる……」 「……くっ」 カトレアの舌打ちの直後、作戦予定時間から30秒目が経過した。 ◆ 「ビリア!! レーザーを!!」 名を呼ばれたブーゲンビリアは、主に答え即座に砲撃形態からレーザーを放つ。 目標は敵ではない。 彼女の主、土方京子は敵を撃つのに一々指示するようなマスターでは無い。 そんな彼女が態々名指しで彼女を指名するという事は、一撃でこの状況の打開を求める場合。 彼女の意図を察したブーゲンビリアのレーザーは、最大俯角で放たれ、海面を直撃。 即座に大量の海水を蒸発させ、濃密な水煙を上げた。 「……水蒸気で防護幕を作ったとて、何処まで持つか!?」 セタやデルタ(複数)が対空弾幕を張っているが、船の大きさに対しサイズの小さな神姫ではカバー範囲に限度がある。 そもそもからして、対空弾幕とは航空目標を攻撃する為の物ではない。 地上攻撃を断念させる為の防御手段に過ぎないのだ。 もとより軍用航空機の強みは機動力と高度。 航空機側が戦闘をする気に成らなければ、地上に居る物には攻撃を試みる事すら出来ない。 故に、不利になれば即座に逃げに移れる航空目標に対し、地上からの応射では最高に上手く行って追い払うのが関の山。 それでは数は減らせない。 事実上、祐一たちの攻撃手段は迎撃に上がった3機の神姫のみ。 天海最強を誇るマオチャオ、マヤアは言うに及ばず。 京子のアルストロメリアストレリチアも一騎当千を地で行く神姫だ。 AI制御のマリオネット如きでは相手にもならない。 ―――が、数が数だ。 僅か数分の間に、合計で100機近く落としているはずだが、敵はちっとも減ったように見えない。 「……コリャだめダナ。一機ヅツ落シテモ意味無イゼ?」 「どうする、祐一やん? ネコはそろそろ弾切れになるの」 今の現状でマヤアが補給に降りれば戦線が崩壊する。 更に、アルストロメリアの燃料も余裕が無い。 2人揃って戻ってしまえば、流石に船への攻撃が増すのは避けられず、そうなってしまえば装甲など無い小型船では1分も持たずに撃沈されるだろう。 故に。 「ブーゲンビリア。……ユピテル“class3”の発射準備を……」 「御意」 京子が命じたのは、ブーゲンビリアの誇るユピテルレーザーシステムの最大出力による発射だった。 3発の化学レーザーを相乗させて放つ一撃は、最早神姫の持つ火力でもなければ神姫の戦いに必要になる物でもない。 もとより、このような対物破壊を目的とした仕様。 確かに“class3”の火力ならば問題無く、海上プラントの構造物を貫通して内部を破壊できる威力がある。 だがしかし。 ソレをわずか15cmの神姫に装備させるには如何に京子の技術を以ってしても無理がかかる。 そして、その無理を負うのは他ならぬブーゲンビリア。 砲身をマイナス数十度まで冷却した状態ならばともかく、現状で“class3”を使用した場合、照射時間は5,6秒程度。 それを僅かにでも過ぎた場合……。 「……大丈夫。その必要は無い……」 「しかし」 困ったような声を出す京子に、祐一は少しだけ微笑む。 「アイゼンたちはきっと上手くやる。……それに」 祐一の後ろ。 航空型の神姫たちが滑走路代わりに使った甲板の奥で、甲高いタービン音が響きだす。 「……今、フェータが上がる」 大出力のブースターに押し出され、あっという間に離陸速度を得た白い神姫が大空に飛び出してゆく。 「行きなさい、フェータ!! アイゼンたちの作戦が終わるまででいい。3分も稼げば充分よ!!」 『はい!! 最初から出し惜しみなしの全力で行きます!!』 帰投するマヤア達とすれ違った直後、フェータは左腕のフリッサーを解放した。 『フリッサーぁ!!』 ドンという衝撃音が聞こえるより遥かに早く、編隊を組んでいたブラックタイプが脆弱な羽根を砕かれ墜落してゆく。 AIとは言え敵も愚かではない。 標的になれば散会するぐらいの知恵はある。 だがしかし。 「そんな暇を与えなければいいだけの話っ!!」 フェータの速度が、軌道が、速さが。 それをさせない。許さない!! 上空を100mほど隔ててすれ違う別の編隊。―――通常なら攻撃目標には選ばないような位置に居るそれを、フェータは逃さない!! 根元から取り付け角度を変える可変翼と、機体を押し上げる推力を大きく偏向するベクタードノズル。 その付加を分散させるスタビライザーとカナード翼。 そして何より15cmという小ささが可能とする“超”高機動。 確かに出力は劣るだろう。 最大速度も比較にはならない。 だがしかし、最低でも数tの重量を持たねば成らない戦闘機たちに、今この瞬間、この状況において!! フェータと言う武装神姫は“それ”を圧倒してのけた!!!! 「……これは……!!」 息を呑む京子。 彼女だからこそ分る。 今フェータに使われている技術がどれほどの物なのか。 そして、京子にしか分らない。 「……これは、真紀の……」 それが、土方真紀の遺した設計だという事に。 そして、それを具現化した老人が居た事に……。 「……………………ストレリチア」 「はいです、マスター!!」 「……此方も出し惜しみは無しだ。カトレアたちを信じるぞ」 「当然なのです、勿論なのです!!」 「よし、成らば【タイフーンモード】にシフト!! 思う存分暴れて来いっ!!」 「了解です!!」 答え、ストレリチアはアーマーを全てパージする。 エウクランテと根を同じくする“それ”には、当然ながら製品であるエウクランテと同様の機能を有していた。 即ち。 「ストレリチア【タイフーンモード】シフト完了!!」 アーマーを合体させてフライトシステムを構築する能力。 ただし、彼女の物は只の鳥型ではない。 「いくですよ、テュポーン!!」 伝説に名を残す怪鳥テュポーン。 一説によればそれは双頭の怪物であったとも言われている。 ストレリチアのテュポーンは、その名の通り、二つの頭を持った怪鳥であった。 ◆ 「これ以上時間はかけられない……!!」 「……だね」 攻撃を避わしながら同意するアイゼン。 「その……。む、村上衛の神姫……。デルタといいましたね? 彼女を倒したあの突撃ならば如何です?」 「……隙は大きいけど、イチかバチかやってみる?」 カトレアは無言で頷く。 これ以上時間はかけられない。 最早、敵の装備を切り崩すような余裕はないのだ。 「……【フェルミオン・ブレイカー】で隙を作る……。貴女はその隙に距離を取ってシールド突撃を……」 「分りました」 交錯、そして分散。 しかし、アルアクランは同時に複数の目標を注視できる。 結果、近付いてきたカトレアには鋏腕を、離れてゆくアイゼンには粒子砲を選択。 同時に攻撃を行うが、二人ともそれは充分に予測している。 「ふっ!!」 「……シールド、集中!!」 カトレアはレイブレードで鋏腕を払い、アイゼンはシールドで粒子砲を弾く。 二人が狙うのはこの直後!! 「今!!」 瞬時に間合いを離したカトレアに反応し、直前までアイゼンを狙っていた粒子砲がカトレアに砲口を向ける。 その隙。 それを狙い、カトレアが粒子砲を引き付けると信じ、アイゼンは防御を捨て【フェルミオン・ブレイカー】の一撃を放つ。 「……行け」 ≪Fermion Breaker≫ 高出力陽電子砲。フェルミオン・ブレイカー。 装甲への威力よりも、むしろ攻撃範囲を重視し敵の脆弱な部分を破壊するエネルギー砲の一撃が、アルアクランの巨体を包み込む。 しかし。 「………………」 装甲表面に電流を流し、剛性を強化する特殊装甲で身を包んだアルアクランには通用しない。 が。 視界を奪えなかった訳では、無い!! 「―――シールド突撃ぃ!!」 陽電子砲の照射が終わると同時に、アルアクランへと突っ込むカトレア。 中枢である神姫部分を正確に狙った突撃がアルアクランを粉砕する。 ―――直前。 アルアクランは信じがたい速度で『滑走』し、その突撃を回避。 「―――ば、馬鹿な!?」 カトレアが驚くのも無理は無い。 それは間違っても、重量級神姫の動きではない。 強いて言うならその加速と速度は、リニアガンの“それ”。 そして、この部屋全体がアルアクランのための“レール”になっている事に気付く由も無い。 だが。 「……悪いけど、こっちは二人掛り……」 理由は知らず、根拠も無いが、アイゼンはその“まさか”に備えていた。 滑走による回避を終えて停止しようとするアルアクランの真上から、フライトモードのフランカーでシールド突撃を敢行し……。 「しぃぃぃぃるどぉぉぉ、突撃いぃぃぃっ!!」 その巨躯を縦に貫いた!! 第31話:THE TOWERにつづく 鋼の心 ~Eisen Herz~へ戻る なんだか気付くともう3週間ですよ奥さん。 時間が経つのが早すぎです。歳でしょうかね? ナイトじゃなくてもタイムベント欲しさに、オーディンに飛翔斬ぶちかましたくなります今日この頃のALCです。 っつーか仮面ライダーディケイドが異様に面白すぎる。 過去9年間放送したそれぞれの仮面ライダーの世界(原作とは違うけど……)を旅すると言う都合上、1つの世界が2話で書き切られると言うのが勝因かと。 ガンダム00やコードギアスのように情報量を多くする事で無駄な描写を徹底的に削ぎ落としているのが大きいのでしょう。 願わくばこのまま、響鬼の後半を台無しにして下さりました(以下略)……。 つーかSS書かずにオリジナルの神姫改造に精を出していたこの頃でした。 ALC。 -
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武装神姫のリン 番外編 「勇者特急!?」 今日は休日。 ということで皆で出かけようと思っていたのだが……あいにくの雨。 結果家でごろごろすることになった。 でリンと茉莉は昼食を作っている。 俺とティアはヒマなのでネットを(エルゴ特製の通信ユニットで訓練機の機能を使ってカメラアイに直接ページが表示されるように改造されている)していた。 するとティアが俺のPCにあるページを表示した。 「さあ、これで君もGとjになろう!! ガオガイガー&キングジェイダーセット!」 ……目が点になった。 「なあ、ティア、これ欲しいのか?」 「もちろんです。最近ネットを騒がせているGと突然現れた彼女の仲間。Jになりきれるセットですのよ。これをお姉さまといっしょに着るのです。」 まあたしかに、リンとティアはちょうど黒と白だけどな……値段は……6万!!! 「却下!!」 「そんな、愛するお姉さまへのプレゼントですよ。ソレぐらい出してください」 「あーーーリンは欲しいなんて言ってないだろ。」 ……なんだか背にいやな空気が…… 「マスター、ダメですか?」 目に涙を浮かべたリンがいた。 ダメだ、そんな顔されると勝手に身体がマウスを操作していく。 カゴに入れるボタンをクリック……する前になんとか自らの意思で腕を動かすことに成功。 6万の出費からなんとか逃れた。 その代わり。 「こっちならどうだ、勇者特急マイトガイン+マイトカイザーセットでグレートにも合体可能!!」 値段は2万。こっちなら何とか出せる値段だ。 「え~ちょっと古いのではなくて?」 「今から考えるとガオガイガーも十分古いわ。Tv放送されたのがたった数年の違いだぞ。それに俺はこっちの方が好きだ」 「マスター、私はこっちのほうが好きかもしれません」 「お、さすが俺のパートナーだ。」 そういうわけで即注文。 で1週間後、届いたわけだが…… 「マスター……大きいです。」 「大きいですわね、ご主人様。」 「ああ、予想以上にデカイな…」 ウチに届いたのは注文したセットに加えて同スケールの基地、および残りの勇者達のセット。 なんでもメーカー通販で10000人に1人当たる豪華なセットが当たったらしい。 「亮輔……これはどういうことなの」 さすがにこんな大荷物が届くとは思っていなかった茉莉が怒っている。 「いや、なんか抽選で1万人に一人当たるものが当たったらしい…」 「これの置き場所は亮輔の作業室ね。ソコ以外は認めません」 「ちょっと待て、こんなの置いたら基地だけで埋まってしまう!!」 そんな抵抗もむなしく、俺の部屋は勇者特急の基地になってしまった…… 「チェーーーーーンジィ、マイトカイザー!!!!」 ティアが叫ぶとドリル特急に繋がれたコンテナから小さなマシンが5機飛び出し、ドリル特急本体がティアの身体を包む。 そして5機のマシンが次々と合体。最後にコンテナ後部のウィングが背に装着され、右手でドリルを掴んでマイトカイザーが完成した。 「お姉さま、グレート合体ですわ」 「ぐ、…グレート、ダァーーーーッシュ!!!」 最初は少し恥ずかしそうにしていたが、それを振り切ってリンが叫ぶ。 するとマイトカイザーが瞬時に分離。 ティアの身体からドリル特急の本体が離れてリンが合体しているマイトガインの胸部に取り付く。 そしてマイトガインの元の手足にマシンが合体。 足は下駄をはくように合体するのがグレート合体の醍醐味だ。 そして最後にドリル部分が胸部に接続され、ドリルが3つに分かれて開く。 ソコにはMGの2文字。 そうしてグレートマイトガインが完成した。 グレート動輪剣を持って構える。 「…輪じゃなくてリン。かっこいいぞ!!」 俺は柄にもなくデジカメでGマイトガインとなったリンの写真を撮りまくる。 最後に必殺技の『真っ向唐竹割り』をしてくれ!!とたのんだ。 グレート動輪剣の中心にある車輪状のパーツが唸りをあげてビームの刃が展開……展開?? 「ちょっと、ストーーーープ!!」 制止も間に合わず、リンはおもいっきり動輪剣を振り下ろしていた。 その結果俺の部屋はフローリングを真っ二つに切断し、コンクリートの下地にまで傷をつけていた。 そうして俺の作業部屋は開かずの間となり、マイトガインの基地セットはめでたくエルゴに寄付されることになりました。 ちなみにリンがGマイトガインを気に入ったのは… 「えっと、「だからドリルは取れと言ったのだ…」ていうセリフが好きだったんです」 どこでそれを聞いたんだ、しかもそのドリルは轟龍のものだし……orz おわり。 オチがなくてすみません(泣) TOPへ
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ウサギのナミダ ACT 0-5 ■ 神姫も、夢を見る。 スリープモードで、クレイドルで充電とデータのバックアップを行っているとき。 それは神姫にとって「睡眠」にあたる。 マスターによれば、睡眠中に脳が蓄積された情報を整理し、その時に漏れでた情報を認識すると、夢になる、のだそうだ。 だから、データのバックアップ中に、わたしたちが認識するものも、やはり夢なのだ。 わたしは、夢を見る。 いつも同じ夢、恐い夢。 わたしの前には男の人。 顔は影になっていてよくわからないけれど、目だけが異様な輝きを放って、笑っている。 彼は、わたしに手を伸ばす。 わたしは身をすくめる。これから、自分の身に起こる出来事を予想しながらも、あらがうことはできない。 「や……っ」 男の人がわたしを掴み、顔の高さまで持ち上げる。 大きな顔が、わたしの視界いっぱいに広がる。 わたしは、恐くて、身体を震わせる。 でも、ここは彼の手のひらの上だ。 逃げ場なんてない。 彼は、わたしを両手でつまみ上げながら、さらに顔を近づけてきた。 息がかかる。臭い。 顔の下の方にかかった影が、横に一筋裂けた。 裂け目が広がると、ぬらり、とした軟体動物のようなものが出てくる。 舌だった。 「あっ……や、あ……っ」 男の人の舌は、わたしの身体をなぞる。 脚の先から、ふともも、ヒップからウェストのライン。 股間と胸は、特に念入りに舐められる。 太い舌先は巧みに動き、わたしの弱い部分を的確に責め立てる。 いやなのに。いやなのに。 いやらしい舌の動きを、わたしの身体は性的快感と認識する。 いやだという気持ちと、なぶられる快感が、相乗してさらに気持ちを高めていく。 「あ、あ、はあぁ……あぁ……」 頭がぼうっとする。 何も考えられなくなってくる。 わたしの身体は男の人の唾液にまみれ、いやな臭いを放っている。 その臭いすらも快感を助長する芳香に変わる。 わたしは快感に身を委ね、なすがままにされていた。 ふわふわとたゆたうような感覚に、わたしはどっぷりと浸っている。 と、突然。 ぼきり、という鈍い音。 「ーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」 ふわふわとした感覚は、爆発した激痛に吹き飛ばされる。 声が出ない。声にならない悲鳴。 さらにまた。 わたしの身体から鈍い音が響く。 わたしは身を焼くような激痛の出所を、左腕と右脚であることを、かろうじて突き止める。 だからといって、何もできない。 わたしはただ、大きく目を見開いて、堪えきれない痛みにぱくぱくとあえぎながら、涙を流すだけだ。 さらに、残りの四肢も折られた。 わたしは身動きもとれず、ただ激痛に悲鳴を上げる。 目の前の人を見る。 その男の人の顔は、相変わらず影になっていたが、その二つの目と裂け目のような口だけがはっきりと見える。 笑っている。喜んでいる。 わたしがのたうち回る姿を見て、嬉しがっている。 彼の方から、何かが飛んできた。 べちゃり、と粘液のようなものがわたしに降りかかる。 白く、べたべたの粘液は、何かすえた臭いがする。 いやだと思っても、いまのわたしには、この粘液を払うことさえできない。 男の人の光る両目が、さらにゆがんだ。 わたしを掴み上げると、わたしの背に指を当てたまま、親指でわたしの胸を押す。 わたしは恐怖した。 身体を折る気だ。 「や、めて……ください……やめて……」 やめて。死んじゃう。 わたしがどんなに懇願しても、そんな様子すら楽しんでいる。 わたしの背が限界を超えて曲がっていく。 折れてしまう。 死んでしまう。 たすけて、だれか、たすけて……だれか……。 ごきん。 「あああぁぁっ!!」 わたしは悲鳴を上げて、飛び起きた。 暗い。 あたりは静かだった。 時計の音が妙に大きく聞こえる。 それからわたしの荒い息。 「はあ、はあ、はあ……」 わたしは自分の身体を確認する。 どこも、折れてなどいない。 感じていたはずの激痛も今はない。 手は、白い布……お布団代わりの、マスターのハンカチを握りしめている。 「夢……」 わたしはやっと安堵して、深く息をついた。 怖い夢。どうしても見てしまう、かつての現実。 まだあの店を出て何日も経っていない。 過去の記録……思い出にしてしまうには、あまりにも最近の出来事すぎる。 白い布を握りしめる手元に、黒い染みが広がった。 瞳から涙がこぼれ落ちる。 夢は過ぎ去ったというのに、怖くてたまらない。 怖くて、怖くて、それでもわたしには為す術がなくて。 ただ一人、すすり泣くことしかできない。 突然。 あたりが明るくなった。 真っ暗だった部屋の明かりが灯ったのだ。 スイッチのところに立っている人影は、マスター。 マスターは、寝間着姿で、髪は乱れ、目は半眼のまま、こちらを向いている。 とてつもなく不機嫌そうな表情。 起こしてしまった。 わたしが、悪夢に悲鳴を上げたせいで、マスターのお休みを邪魔してしまったのだ! わたしは、マスターに睨まれて、目を見開いたまま硬直してしまった。 まるで蛇に睨まれた蛙だ。 わたしは身動きをすることもできず、絶望的な気持ちでマスターを見つめる。 これから、どんなひどい仕打ちが待っているだろう。 マスターは大股に歩いて近寄ってきた。 思わず、身を縮めてしまう。 ……ところが、マスターはPCに近寄ると、立ち上がっていたアプリケーションを次々に閉じて、PC本体も電源を落とした。 縮こまっているわたしを、もう一度見る。 非常に不機嫌そうな表情は変わらない。 わたしはクレイドルの上でさらに縮こまる。 すると、マスターはクレイドルごと、ベッドのサイドボードに持ってきた。 ケーブルをPCからコンセント供給用アダプタにつなぎ直す。 クレイドルの充電ランプが灯った。 データのバックアップはできないが、充電はできる。 わたしが何もできずに硬直していると、マスターはさっさとベッドにあがり、布団をかぶった。 首だけがこちらを向いて、また睨まれる。 「明日、延長ケーブルを買ってくる。寝る」 マスターはそれだけ言うと、枕に頭を沈ませ、そしていくらもしないうちに規則正しい寝息を立てはじめた。 わたしはあっけに取られていた。 これはどういうことなんだろう。 わたしは、つまり……マスターのそばで眠ることを許された、ということなんだろうか。 なぜ? お休みのマスターを邪魔したのに? あんなに不機嫌そうな顔をしていたのに? ……期待なんて、してはだめだ。 わたしは本来、この人の武装神姫になんてなる資格がないのだ、初めから。 でも、ベッドのサイドボードから見下ろすマスターの顔は、見たこともない安らかな表情で。 いつも冷静沈着、無表情で少し冷たい印象の男性ではなく、無邪気な少年のように見えた。 そんなマスターの顔を見つめていると、不思議と穏やかな気持ちになっていく。 おかげで、さっきまでの怖かった気持ちは、だいぶ薄らいでいた。 わたしはクレイドルの上で丸くなると、布団代わりのハンカチを引き寄せた。 □ 朝、目が覚めると、PCの電源が落ちていた。 クレイドルも、その上にいたはずの俺の神姫もない。 焦って、辺りを見回すと、俺の枕元にクレイドルは移動しており、その上でティアは眠っていた。 ほっとする。一瞬焦ってしまった。 そういえば、夜中にティアの叫び声を聞いて、一度起きたのだったか。 何が原因かはよくわからなかったが、ともかく心配だったので、枕元に持ってきた……のだと思う。 半分寝ぼけていたらしく、記憶は曖昧だ。 でも、なにやら心配だったのは、やはりまた、ティアが泣いていたからだ。 いま俺にティアの涙を止めてやることができなくても、せめてそばにいてやることぐらいはできる、と思う。 ……ただの自己満足だったとしても。 クレイドルの上で丸くなって眠るティアを覗くと、安らかな寝顔が愛らしかった。 小さく安堵のため息をつく。 まもなくして、ティアの瞼が瞬いた。 「あ……」 俺を見て、眠気を一気に吹き飛ばすように起き上がり、あわてて居住まいを正す。 「お、おはようございますっ……」 そんなにあわてなくてもいいのに。 しかし俺は素っ気なく、 「おはよう」 と返事した。 俺は、ティアの前ではできるだけ無表情を通すと、決めていた。 ティアが俺のことを信じ、自分から俺の神姫と認めてくれる時まで。 まずは、俺が無害な人間であることを信じてもらわなくてはならない。 そう思っていた。 ■ その日から、わたしの、武装神姫としての訓練が始まった。 主にトレーニングマシンを使ったバーチャルトレーニングだ。 まず、一通りの武器を使ってみるところから始まった。 片手で持てる銃火器を中心に、両手持ちでも軽量な銃、ナイフなどの刀剣類や、トンファーといった近接武器まで。 使い方は、素体交換時にプリセットされた戦闘プログラムと基礎データでだいたい分かっている。 出現する的を撃ち落としたり、ダミーの敵を攻撃する、といった単純な内容を黙々とこなす。 マスターはPCでわたしのデータを取り、どの武器がわたしと相性がいいのか検証する、ということだった。 マスターは課題を出すだけ出して、大学に行く。 わたしは、マスター不在の間、ずっとマスターの課題を消化していく。 大学から帰宅したマスターは、毎日作業スペースに向かい、何かを作っているようだった。 こんな日が数日続いた。 マスターが不在の昼間、私は一人、黙々とトレーニングに励む。 その間にいろいろなことを考えた。 だけど、結局、何も分からないままだった。 一つだけ分かっていることは、進むべき道はマスターだけが知っているということだった。 だからわたしは、マスターに言われるがまま、ついていくしかない。 マスターはわたしを使って夢を叶えたい、と言った。 だから、たとえ嫌がられようとも、マスターの夢を実現していると示し続けることが、わたしの存在意義なのだ。 そう結論したわたしは、またトレーニングを消化していく。 ある夜。 わたしはまた夢を見る。 薄気味悪い男の人の影。瞳だけが異様な輝きを放っている。 黒い手が、わたしに手を伸ばしてくる。 これから起こる仕打ちを想像して、わたしは身を縮める。 ……ところが、その手がわたしを掴む寸前、別の手が伸びてきて、わたしが乗っているクレイドルを掴んだ。 そのままするり、と視線が移動する。 わたしはクレイドルごと、別の手によって運ばれていく。 薄暗く寒々とした部屋は、柔らかな光に包まれた部屋に変わっていた。 その手は、クレイドルを自分の枕元に運んできた。 手の主はマスター。 マスターは非常に不機嫌そうな顔をしており、口をへの字に曲げている。 マスターは、わたしを睨みつけるように見る。 わたしが視線の鋭さに、びくり、と身を震わせると、 「明日は公園に行くぞ」 と言って、そのまま枕に頭を沈めた。 まもなく、規則正しい寝息が聞こえてきた。 なんだかちぐはぐな成り行きに、わたしは首を傾げた。 そして、不意に目を覚ます。 暗い部屋。 PCのディスプレイだけが、部屋を青白く照らしていた。 まだ真夜中だ。 あたりは静まり返っている。 規則正しい寝息が聞こえてくる。 そちらに視線を向けると、マスターの寝顔があった。 日頃の緊張を解いたような、少年のような寝顔。 夢の中で見たマスターの寝顔と同じ。 マスターのその顔を見るたびに、わたしは優しい気持ちになれる。 マスターの役に立ちたいと思う。まだなんの役にも立っていないけれど。 マスターの気持ちに応えることができるようになれば、いつものような無表情ではなく、この寝顔のように優しい顔を向けてくれるだろうか。 そうだったらいい、と思いながら、わたしはまた眠りにつく。 マスターになった、この人の存在が、わたしの中で意外にも大きくなっていることを感じていた。 次へ> トップページに戻る
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樫坂家の事情! 序幕~とある学生の夏休みにおける変化とその記録~ 一つの記録が語られ、これからの話が紡がれる。そんな日の朝、樫坂家にて。 「あ、今何時です?」 「………6時37分19」 「なんとか、読み終わったわね」 「もうくたくたなのです。充電しないとまずいのです…」 「その前に、マスターを起こさないといけませんわね」 「ますたーはくーたちがいないとろくに起きれないからねー」 樫坂家の夜が終わり、朝が始まるようです。 「とりあえず、ゆいなはいつものあれをするんだよね」 「いや、今日は投げるものが無いから出来ない」 「じゃあ今日はキュリアさんとリムさんがダイブするのです!」 「え?なんであたし達が?」 「こーれーぎょうじというものなんだよ」 「………フィーは?」 「さすがにふぃーはすれいぷにてぃがきけんだと思うんだ」 「そういう事ですので、お二人にお願い致しますわ」 どうやら主を起こす方法で話してるようです。 「というか、ならくーが行けばいいと思うんですけど」 「くーはにっきを戻すさぎょうがあるからむり」 「じゃあユイナさんとかは」 「私はフィーとスタンドライト戻すから。これ勝手に出した奴だし」 「う……シェラさんは?」 「私は「シェラは顔に落ちるからダメですわよ?」だからドジじゃないのです!」 「うー………仕方ないなぁ…」 「………諦めるか」 結局、キュリアとリムに決まったんだってさ。 さて、二人が落ちてくる前に起きるか。 ===終話=== 「まったく、お前ら少しは俺の事も考えろよなぁ……ねみぃ」 「うわ、マスターが自力で起きた!?」 「きょうはゆきでも降ってきそうなことがおきたとおもうんだ」 「それはそれで涼しくなると思うのです」 「お前らが酷いと俺は思うんだけど。とりあえずシェラは何か違うからな」 「ほえ?」 まぁいつもの事だからいいか。 「ってお前ら人の日記読んだろ?」 「なんの事かなー、くーわかんなーい」 「いや、くーが主犯なのは解ってるからな?」 「まぁ考えれば解る事だからね。こういう事するの大抵くーだし」 「大体くーちゃんなのです」 「間違いないですわね」 「………だな」 「あたしもフォロー出来ないですこれは」 「みんなしていじめるのってよくないとおもうんだ、泣いてやるぅ」 「わかったからお前らそろそろ下行け。着替えたい」 「マスター、クレイドル使いたいのですけど…」 「………あーもうわかったよ。俺が下りるからお前らちょっと待ってろ」 とりあえず久しぶりの学生服でも着てくるか…と思い部屋を出て2階から1階の居間に下りる事にする。 「それにしても…あいつら結局気づかなかったな…あの裏に書いてた事に」 読まれたら読まれたで恥ずかしい訳だが………あれ、なんかズボンのサイズ大きいな… 「しかし……ほんと、色々あった夏休みだったな」 ユイナが来たことで、武装神姫を始める決心がついて。 その次にシェラが来て、陽太と静香が目を丸くして。 初めてのバトルロンドで負けて、悔しそうにしてる二人を見て必死に戦術組んで。 その後、くーが現れて、なんだか色々考える事が多かったけど俺のとこに来て。 それで、くーの事で静香に怒られて敏章さんに出会って、フィーが来て。 色違いって呼ばれるようになっていつの間にか色んな人と話すようになってて。 奥道さんに修理頼んで、陽太と稟に勝つ事が出来て。 シェラがリベンジして、萩河さんにキュリアを頼まれて。 あと、祭りがあって、クラスの馬鹿共と久しぶりに話して酔った勢いでリムを買って。 それで、最後の日曜日にはくーが俺と一緒に戦ってくれるようになって、ユイナ達も頑張ってくれたおかげで色んな人に勝つ事が出来た。 夏休みが始まる前は想像さえ出来なかったな、こんなこと。 「さて……学生にとっては変わらぬ幽鬱な一日。されど新たに踏み出す一日…てな」 うわ変なこと口走ってしまった… けど、今までと大きく違う生活が、また新たに始まるのも確かだよなぁ。 「………ま、あいつらが居るなら、悪くないな。これからの生活も」 とりあえず、学校行く前に寝かせるか………あれ?今何時だ? 序幕、完結。
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SHINKI/NEAR TO YOU Phase02-1 ouverture アナタノネイロヲ、キカセテ ♪♪♪ 六月といえば梅雨だ。ところであれだけ雨が降る月の呼び名が「水無月」というのはどういうことだろう? そんなことを思った有馬駿(アリマ シュン)がゼリスにふと尋ねてみると、彼女は手にした大判の書籍を抱えたまま返事を返してきた。 「旧暦では水無月は現在でいう7月に相当しますから、梅雨明けというところから『水の無くなる月』という呼称がつけられたそうですね。また、その由来から外れることとなった現在においては、降水によって天の水が無くなるという解釈が適用されると言われます」 すらすら答える彼女――背丈14cmほどの小さな自動人形(オート・マタ)の少女はシュンの武装神姫、ゼリスだ。 「けどさ、今年なんかはホントに水無し月だよな」 「そうですね。伝聞においてもそのような話題が多いです。いわゆる〝空梅雨〟ってやつですね」 それからゼリスは、太平洋高気圧がどうだとかフィリピン海での対流がどうとか、ひとしきり講釈。 シュンはそんな彼女の突発的な講義を聞きながら、率直な感想を述べた。 「……そんだけ無駄に物知りだったらさ。僕が試験勉強してるときも手伝ってくれりゃいいのに」 先週までシュンの中学は中間考査の最中。そこそこの成績はキープできたと思うが、こいつが協力してくれればもっと楽できたんじゃないか? 「シュン、それでは貴方のためになりませんよ。それにシュンは私に勉学を教えて欲しいのですか?」 「…………やめとく」 ちょっと悩んだ後、かぶりを振る。きっと中学のどの教師よりも分かりやすく講義を行ってくれるような気もするが、きっと中学のどの教師よりも妥協してくれないだろうから。 それにシュンの通う学校はエスカレータ式だ。二年の今の時期から神姫の家庭教師の世話になる必要もないだろう。 シュンの返答を予想していたのか、ゼリスはそれ以上特に何も言うこともなく、手にした本をパタリと閉じてソファに置いた。こいつは最近絵本にハマッているらしい。タイトルは「人魚姫」だった。 急に読書を中断して何なのかと思ったら、答えはTVを観ればすぐに分かった。 「あっ、〝黒猫キッド〟だ~♪」 ちょうど二階の部屋から降りてきた妹の優が、楽しげにゼリスの隣に座る。 始まったのは『黒猫キッドの冒険』っていう、いわゆる子供向けの人形劇だ。悪の科学者にサイボーグにされた黒猫が、ガトリング銃片手に毎度巻き起こる騒動を切り抜けていくという……なんというか。観る者によってはたまらない作品らしい。 まあ、たまには一緒に見てみるか。平凡的な日本の男子中学生からすれば、試験明けの日曜の午前ともなれば、特に何もすることもない訳だし――。 そんなことをシュンが考えていると、唐突に玄関のチャイムが鳴った。 シュンは立ち上がる。母、京子がリビングに紅茶を淹れてきてくれたところだったので、来客には自分が対応する旨を伝えると「お願いね」と京子は微笑みながらリビングに入っていった。 玄関に向かう間にリビングからは「あら、ネコさんもう始まっちゃった?」とか言う声が聞こえる。 大人気だな黒猫キッド。 そんなことを思いながら、シュンは玄関の扉を開いた。 「こんにちは」 玄関の先には、シュンの知らない少年がひとり立っていた。 同年代くらいに思えるが、シックな服装に身を包んだその姿はいかにも育ちが良さそう……というか、上品なイメージ。何よりも整った顔立ち、美形だ。 はて、どこの国にも王子様の知り合いはいなかったはずだが? シュンがポカンとしていると、彼はイメージに見合う爽やかな笑顔を浮かべ、会釈を返してきた。 「はじめまして、失礼ですがこちらにゼリスさんという方は居られますか?」 「はい?」 怪訝な顔で聞き返すシュンに、目の前の少年は穏やかな笑みを絶やさずに、胸元に手をやった。 「ほら、君からも説明しなさい」 そう呼びかける少年の胸元を見てみれば、上着の間から小さな顔がこちらを伺っていることに気がついた。 武装神姫だ。とうことは、この彼も神姫オーナーってことか。 「あの……こちらがゼリスさんのお宅だとお聞きしているのですが……違いますか?」 「いや、たしかにうちにはゼリスはいるけど……」 しかし、シュンにはこの神姫にも、そのオーナーの少年にも見覚えがない。 「何か勘違いしてるんじゃないでしょうか?」とシュンが尋ね返そうとしたところに、京子がゼリスと一緒にやってきた。戻ってこないシュンが気になり様子を見に来てくれたらしい。 「……まさか本当に訪ねてくるとは。そこまで貴女の気持ちが切迫しているとは思いませんでした」 ホッとしたのも束の間、来客を見るなりポツリと呟いたゼリスに、シュンは訝しげな目を向ける。 あの~、ゼリスさんはこちらの方々といったいどういったお知り合いで? そんなシュンの気持ちを知ってか知らずか。「あらあら、ゼリスちゃんのお知り合い?」とのんびり訪ねる京子にゼリスはコクリと頷いた。 「彼女は、私の友人です」 ♪♪♪ シュンはとりあえずふたりをリビングに通して、話しを聞いてみることにした。 少年の名は和光耕一(ワコウ コウイチ)、都内の私立中学に通う学生で、神姫の名はチカというらしい。耕一は音楽家を目指していて、ヴァイオリンの演奏がふたりの趣味なのだという(ちなみにあとで聞いたところ、耕一の通っているのはあの名門黒葉学園らしい。驚きだ)。 なるほど、どこかの国の王子様ではなかったらしい。で、そんな彼らとゼリスにいったいどんな接点があったのだろう? 「ゼリスさんとは、インターネットで知り合ったんです。いろいろと遣り取りをしているうちに、メールで時々相談にも乗っていただいて……」 シュンの疑問は顔にも出ていたらしく、チカがおずおずと語り出す。 「お前、いつの間にメル友なんて作ってたんだよ?」 ゼリスがパソコンをこそこそイジッているのは知っていたが、そんな遣り取りをしていたとは知らなかった。 「別に……日々を送るなかで様々な出会いを重ねるのは当然のことです。私がプライヴェートで友人を作っていたとしても、不思議はないでしょう?」 ……そうですか。 ネット社会の広がりはシュンの生まれた頃からより顕著になっているそうだが、神姫の間にもそんな繋がりが存在しているらしい。すごいことになってるなぁ……。 「ゼリスさんのことはチカから伺っています。いろいろとお世話になっているそうで、ありがとうございます」 丁寧にお辞儀してくる耕一。そんなにかしこまられてもこっちが息苦しくなっちゃうんだけどな。けれど耕一の上品な様はとても自然で、きっとそういうのが当たり前な環境で育ってきたのだろう。 一方、耕一の神姫であるチカの方は少々はにかみ屋のようだ。今も礼をする彼の前で頬を赤く染めている。 「かしこまっていただかなくても、結構です。お世話になっているのはお互い様ですから。それよりも、本題に入るべきでしょう」 ゼリスはそんな彼らの挨拶をさらっと流し、さっさと話しを進める。 「せっかちな奴だな。せっかく友達が会いに来てくれたんだから、ゆっくり邂逅を分かち合えばいいじゃんか」 「いえ、ゼリスさんの言う通りです。あまり長居をしてご迷惑をお掛けしても悪いでしょうから」 耕一は「ほら」と自分の前に座るチカを促す。 「あれ? 耕一さんはチカさんの相談の内容を知らないの?」 不思議に思ったシュンに、耕一が苦笑を浮かべる。 「はい。私もそちらのゼリスさんとお会いするとまでは聞いていたのですが、具体的な目的までは彼女からまだ聞いていないのです」 耕一の言葉にチカはますます身を小さくする。オーナーにも話してなかったような悩み、それも直接会って聞いて欲しいような相談か。どんな内容なんだろう? 皆の興味を集めるなか、チカは耕一の顔をチラチラと伺いつつも、語りだした。 「わたしは、ヴァイオリンを弾いてみたいんです」 静かに話し出したチカ。しかし、その内容に一堂は首を傾げた。 「ヴァイオリンって……チカちゃん、ヴァイオリンならもう持ってるよね?」 きょとんする優の言うように、今もチカの隣にはヴァイオリンケースが寝かされている。これがヴァイオリンじゃなかったら何だってんだ? シュンはちらっと耕一に目を向ける。 「確かに彼女が持っているのはヴァイオリンですが……そうだよね、チカ?」 「はい、そうなんですが……」 「貴女の持っているヴァイオリンが問題なのでしょう?」 耕一の質問に口籠ったチカは、ゼリスの助け舟にホッとした表情を浮かべた。 「そうなんです」 チカはケースを手元に寄せると、パチリとフタを開いた。 中から出てきたのは、褐色の木目美しいクラシックなヴァイオリン。チカはそのヴァイオリンを取り出すと、顎と肩で挟み、左手を弦の上へ、右手に持った弓をそっと添える。 響く音色。 曲はシュンでも知っている、バッハの弦楽器組曲第三番――G線上のアリアだ。チカのイメージそのままの、ゆったりとした優しい音色。 演奏を終えると、チカは丁寧にお辞儀をした。楽器を降ろし、一堂を見渡す。 「こういう事なんです」 いや、どういうこと? 話が飲み込めないシュンに対し、しかし、周りのみんなはチカの言葉に納得したのか、一様に考え深げな顔をしている。耕一も頷きながら、なんだか困ったような表情。シュンには全く意味が分からない……。 仕方がないので、どうやら一番事情を知ってるらしいゼリスに聞いてみる。 「シュン。彼女の演奏を聞いていて、気がつきませんでしたか?」 「へ? いや普通にいい演奏だと思ったけどそれがどうし……イタタタタッ」 素直に感想を述べただけなのに、いきなりゼリスにつねられた。 「何すんだよ、もう!」 「誰が感想の口述を要求したのですか? 注目するべきなのは、彼女の弾いているヴァイオリンの方です」 「……シンフォニック・ヴァイオリン」 耕一が呟く。 「そう。彼女の弾いているのは本物のヴァイオリンではありません。神姫用にダウンサイジングを施したシンフォニック・ヴァイオリンと呼ばれるタイプの物です」 「どういうことだ?」 楽器に詳しい訳じゃないシュンにはよく分からない。その様子を見取って耕一が教えてくれた。 ヴァイオリンという楽器は、とても繊細だ。名匠が創った名器を再現しようと、技師たちの努力や専門家による研究が続けられているように、ほんの僅かな形の違いから大きさ、果てやニス、あらゆる要素がその音色に影響する。 そんなヴァイオリンという楽器において、神姫用のそれを創るには大きな問題があるのだという。 「神姫用のヴァイオリンは、小さ過ぎるんです」 ヴァイオリンのような弦楽器の音には、弦の長さや太さなどが密接に関係する。 仕組みは同じ弦楽器と言えど大きさが変わることで、同じ弦楽器であるヴィオラやチェロのように異なる音色を出す楽器となる。 神姫の大きさに合わせた弦や弓そのままでは、ヴァイオリンの音色を出すことは不可能なのだそうだ。 「ですから神姫用のヴァイオリンを作ろうとするならば、電子化によって音を再現するしか方法がないのです。シンフォニック・ヴァイオリンと、弦と弓の振動によって音を発するバロック・ヴァイオリンとの相違点です」 耕一の説明をゼリスが引き取る。 つまりはチカの持ってるヴァイオリンは、本物じゃなくてヴァイオリン型のシンセサイザーみたいなものってことか。 「別にストラディバリウスやグァルネリのような名器でなくてもいいんです。ただ一度でいいから、電子的に作られた音色じゃなくて、弦を弓でこすることによってメロディを奏でる……そんな本物のヴァイオリンを弾いてみたいんです」 顔の前で指を組み合わせながら、真摯にチカは言う。 シュンは納得した。楽器や音楽のことは詳しくないけれど、人間のヴァイオリニストがストラディバリウスを弾くことに憧れるように、神姫であるチカにとっては人間の弾くような、バロック・ヴァイオリンを弾くことが夢なんだろう。 ふと気がつけば、さっきまでは晴れていた空はいつの間にかどんよりした雲に覆われていた。 やれやれ。どうやらチカの相談事は、一筋縄じゃいかないぞ ▲BACK///NEXT▼ 戻る
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「・・・・ねぇ、彩女」 「なんですかアメティスタ・・・よいしょっと」 「・・・・二人っきりだね」 「そうですね・・・・っと」 「バトルなんかやめてさ、二人でどっかいこうよ。ほらあそこ、ホテルあるよ」 「そうですか・・・・・・・よっと」 「・・・・・・・・おっぱい揉んでいい?」 「駄目です」 * ホワイトファング・ハウリングソウル * 第十三話 * 『黒衣の死神』 『都市ステージ』を、彩女とアメティスタは歩いていた。 ・・・いや、正確には歩いているのは彩女だけである。アメティスタは歩いていない。 ならば彼女はどうしているのか。 彩女におぶさっているのである。 「・・・いくらなんでもですね。・・・・よっと、こういう時くらい二本足にしたらどうですか・・・・っと」 「ヤだ。だってこのヒレはボクのトレードマークだよ? アイデンティティなんだよ? それに二本足にするには声を魔女にあげないといけないし」 そういうアメティスタの足は今もイーアネイラの装備であるティティスだった。これでは陸上で歩けないため彩女が背負って水場まで運んでいる。 「そもそも水中戦でもないのにイーアネイラ装備なのがおかしいんです。・・・っと。エウクランテだって水中専用じゃないんですよ。・・・よいしょ」 「知ってるけどさ。でもこれは外せないね。ある意味ボクの決意の証みたいなもんだし」 「だからって・・・っと。今襲われたらどうするつもりですか・・・っしょっと」 「大丈夫だよ。ボクらが敵に遭遇するのはピッタリ五分後、彩女がボクを公園の池に運び終わるのが今から二分後。三分の余裕があるよ」 「・・・便利ですね予知能力・・・・っと」 そう、今彩女とアメティスタは公園を目指している。 アメティスタが入れて戦えるような場所がそこしかなかったからだ。 ・・・余談だが戦闘用に武装をしたアメティスタは結構重い。今こうしている間にも、彩女の体力は削られ続けているのだ。 「便利とはいっても、このバトルの結果は見ないようにしてるよ。だってつまらないじゃん」 「それもそうですね・・・・よいしょっと」 彩女は掛け声と共にアメティスタを背負いなおす。 公園はもう少しだった。 「・・・・うん。ヴァーチャルとは言えやっぱり水に浸からないとね」 無事公園に着き池に入ったアメティスタはそういいながら水をすくった。 彩女はとっくの昔に公園を出て、敵を探している。 あと一分もすれば天使型の一撃を食らうだろう・・・・どうなるかはあえて予知しなかった。その方が面白いからだ。 「~♪」 彼女は鼻歌を歌いながらプチマシィーンズに指示を出す。その数凡そ十三。 公園中に散ったプチたちはそれぞれのポジションにつき、情報を送ってきた。 「・・・・ふぅん。西から来たか。とりあえず公園に入ったから・・・結界をはるか。あとはボクの闘いだね」 アメティスタがそういうと同時に、公園内に霧が立ち込める。 なんてことはないただの霧だ。 「・・・煙幕のつもりかしら?」 と、その霧の中、アメティスタのものではない声が響く。 声のしたほうへとアメティスタは顔を向け・・・一瞬その顔が強張る。 「煙幕じゃないんだけどね。・・・まぁ、似たようなもんかな? 始めまして、ボクはアメティスタ。キミは?」 「わたしの名前はルシフェル。悪魔型のルシフェルよ」 軽く霧が晴れ・・・ルシフェルの異形が姿を現す。 足はザバーカが装備され、素体の両腕はチーグルを装備している。その両手には巨大なリボルバーキャノンを持ち、腰にはデスサイズがマウントされていた。しかしなんといっても目を引くのは背中に取り付けられた巨大な羽であろう。 蝙蝠を思わせるそれは、正しく悪魔型たる彼女のために作られたかのように存在していた。その漆黒の羽は夜の闇を思わせる妖しげな色だった。 「・・・・いい趣味してんじゃん」 「それはどうも。それよりもそろそろ始めない? わたし達今日中にあと三回も戦わなくちゃいけないの」 ルシフェルはそういって、リボルバーキャノンの撃鉄を上げる。 「・・・いいよ。それじゃぁ・・・始めようかっ!!」 武装神姫・イレギュラーキャンペーンバトル アメティスタ対ルシフェル・・・開戦 前・・・次
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「相手を寄り付かせないで倒すパルカで」 「…お兄ちゃん。ありがとう、嬉しいです!」 左肩で、頬を桃色に染めながら喜ぶパルカ。 まぁ喜んでくれるのは嬉しい。 だけど他の三人は少し残念そうな感じだ。 『後で他の奴等と戦うから、その時にな』と言うとパア~と明る表情になる神姫達。 さて、そろそろ対戦するか。 装備…よし! 指示…よし! ステータス…よし! パルカを筐体の中に入れ、残りの神姫達は俺の両肩で座ってパルカの観戦をする。 「パルカ、頑張れよ!」 「うん!お兄ちゃん、私頑張るから!」 「相手を接近させないように弾幕を張るのよ!」 「一番最初のバトルであたしの妹なんだから!姉のボクを恥じかかせるなよ!!」 「負けそうになったらパルカの巨乳で相手を翻弄させるのもアリよ~!」 「ルーナさん…さすがにそれはちょっと…」 パルカは少し心配そうにしていたが、頑張なりな笑顔を俺に見せ筐体の中へと入って行く。 気がつくと俺は両手で握り拳をつくっていた。 いつになく俺の心は興奮していたのだ。 何故だろう? 多分、誰かを応援している事によって熱くなっているのかもしれない。 それとパルカに勝ってほしい、という気持ちがある…かもなぁ。 俺は筐体の方に目を移すと中には空中を飛んでいる二人の武装神姫達が居た。 READY? 女性の電気信号がの声が鳴り響き、一気に筐体内の中が緊張が走る。 勿論、外に居る俺達もだ。 FIGHT! 闘いの幕があがった。 お互いの距離150メートルからスタートして、敵のストラーフが接近しパルカは後方に後退する。 敵のストラーフが総重量的に重いせいか、二人に間の差がひらく。 距離250メートルぐらいの間合いかな。 「お願い!当たって!!」 パルカは“ヘルゲート”アサルトブラスターを取り出しババババ、と連射する…が。 「へっへ~んだ。そんなじゃ当たらないよ~だ」 余裕綽々で避ける敵のストラーフ。 回避した後はすぐさま間合いを詰めパルカに近づく。 「ッ!?これなら!」 すぐさま“ヘルゲート”アサルトブラスターをしまうと“ピースビルダー”リボルバーを二丁取り出した。 二丁拳銃か!? パンパン! 「ヒョイ、ヒョイ、と。楽勝ー」 慌てて撃ったためかパルカの攻撃はミスした。 クッ! このままではマズイ! そう思った瞬間。 間合いの距離は50メートルぐらいになっていた。 「クラエー!」 「!?」 敵のストラーフはDTリアユニットplusGA4アームのチーグルで攻撃しようとした。 「間に合って!」 “ヘルゲート”アサルトブラスターを再び取り出し自分に迫ってきてるチーグルに縦に向けた。 ガキャン! 筐体の街の中でとても鈍い音が響いた。 何故そんな音がしたのか。 それは“ヘルゲート”アサルトブラスターを盾にして、間一髪の所でチーグルの攻撃から逃れたのだ。 しかし、“ヘルゲート”アサルトブラスターを盾にしたおかげで、もう銃としての機能は失われていた。 あんなボロボロじゃあ撃てないだろう、DTリアユニットplusGA4アームのチーグルでの攻撃は破壊力抜群という訳か。 パルカは間合いを詰められてしまったので後方に下がる。 しかし、敵のストラーフはそれを許さない。 アングルブレードを取り出しパルカに再び攻撃しようとしたのだ。 「ッ!」 「避けるなよ~」 ギリギリの所でかわす事が出来たパルカは更に間合いを広くしビルの背後に隠れてしまった。 「…お兄ちゃん。助けて、お兄ちゃん…怖いよー…」 ビルの背後で声を殺しながら無くパルカ。 しかも俺に助けてを求めている。 畜生! 助けてヤりたい所だが俺にはどうする事も出来ない。 …いや、まだ助けてあげる事は出来る。 けどその方法は…負けを意味をする『降参』だ。 どうする、俺。 私的には勝ってほしい。 だが、これ以上パルカが傷つくのをただひたすら眺めるのは嫌だ。 「パルカ、聞こえるか?」 「お、お兄ちゃん!」 俺の声に気づくとパルカの目から更に涙が流れる。 可哀想に…よっぽど怖かったのだろう。 「今すぐ降参の意思を相手に示すから待ってろ」 「えっ!?なんで降参するの!」 「そうすればお前が怖がる必要は無くなるからだ。無理にバトッたってしょうがないだろうが」 「お兄ちゃん…」 「それにお前が泣いて苦しんでいる、姿なんか見たくないんだよ」 「………」 「ナッ。だからパルカはそこで待っ」 「お兄ちゃんは私に『頑張れよ』を言ってくれました」 俺の言葉を途中で遮ったパルカは俯きながら次々に口を開く。 「あの時、私は『あぁ、お兄ちゃんに期待されてる。頑張らなくっちゃ!』と思いました。…だから今が頑張る時です!」 バッ、と俯いた顔を俺に見せたパルカの顔は涙目でもキリッとした顔をしていた。 今までオドオドしていたパルカを見てきたが、ここまでシッカリとしたパルカは初めて見た。 フッ、パルカがそう言うなら俺は何も言うまい。 「なら、頑張って行ってこい!パルカ!!」 「はい!お兄ちゃん!!」 ビルの背後に隠れのをヤメて敵のストラーフに自分の姿を現す。 すると敵のストラーフがニヤついた顔で。 「アンタのオーナーも貧弱ね。さっきまで降参するかしないか悩んでいたよ。でもそう考えるのも無理もない話。貴女、弱いし」 「お兄ちゃんの悪口を言わないで!」 ブオン! 「ヘッ…ちょっとー!?!?」 パルカが敵のストラーフに投げつけたのはモアイ像だった。 モアイ像は固形燃料ロケットおよび整流装置およびアクティブセンサーが内蔵されておるので殆どミサイル状態。 つか、ミサイルと変わらない。 でも命中率が-125なので敵のストラーフに避けれてしまった。 「ちょっとアンタ!危ないじゃ、キャーーーー!?!?」 「えいえいえいえーーーーい!!!!」 次々と敵のストラーフにモアイ像を投げつけるパルカ。 実はパルカの頼みで出来るだけ武器のモアイ像を装備させていたが…これは中々シュールな光景だ。 だって沢山のモアイ像が敵のストラーフに向かって飛んで行くのだから。 ていうか、パルカが投げすぎて近辺はそこらじゅうモアイ像だらけだ。 外れたモアイ像はビルを破壊したり道路を破壊しながら落ちてぶつかっていく。 …ホント、シュールな光景だ。 あ、モアイ像で思いだしたんだけど。 このデザインのモアイ像。 コ○ミ株式会社のゲーム、『GRADIUS』に出てくるあれだろう。 特に指摘するのなら、PS2のGRADIUSⅢで出てきて、宇宙の中でクルクルと回転しながら口から子モアイ像を吐き出して攻撃するアレ。 因みにあのシューティングゲームは大好きだ。ファミリーコンピュータからPSPまで持ってるぞ。 ってそれは置いといて…しかし、モアイ像の何処を気にいったのだろうか、パルカの奴は。 後で聞いてみるか。 「これで、最後よーーーー!!!!」 「イヤーーーーこれ以上は止めてー!!!!」 ありゃりゃ。 敵のストラーフは戦意喪失してしまったようだ。 それもそうだ。 なんたってモアイ像が飛んでくるのだから。 ん? 筐体の俺の方についてるコンソールを見ると相手からの通信が出ていた。 ん、と何々…。 俺はコンソールを見るとそこには『降参』の文字が浮かび上がっていた。 それはこちらの『勝利』を宣言する言葉。 すぐさま俺はパルカにこの事を告げようとした。 「パルカ、戦闘中止だ!相手のオーナーが降参したんだ!!」 「…え?それは本当ですか??」 最後のモアイ像を投げつけようとしていた動作を途中で止め、俺見ながらキョトンするパルカ。 「ああぁ。本当だ、俺達の勝ちだ」 「や、やったー!勝ったんですね、私!!」 筐体の中で俺の事を見ながら喜ぶパルカ。 俺も自分の神姫が勝った事が嬉しくて微笑む。 両肩にいるアンジェラス達も喜びはしゃいでいる。 そうか…。 これが武装神姫の楽しみ方か。 確かにこれは楽しい。 おっと、パルカを筐体から出さないといけないなぁ。 筐体の出入り口に右手を近づけると勢いよくパルカが飛び出して来て俺の右手に抱きつく。 そのまま俺は右手を自分の目線と同じぐらい高さまで持っていきパルカを見る。 「よく頑張ったな、パルカ」 「はい!私、お兄ちゃんの言葉が励ましになって頑張る事が出来ました!!」 「そうか。そいつはよかったな。これはご褒美だ」 「あ、あうぅ~」 俺の右手の手の平に乗ってるパルカの頭を左手の人差し指の腹の部分で撫でる。 撫でているとパルカが俺の指を掴み自分の胸にそっと押さえるつける。 うわっ、パルカの巨乳が…物凄く柔らかい。 「あの、お兄ちゃん。頭を撫でるより、私の胸を触ってください」 「なんでまたどうして?」 「そっちのが気持ちいいからです。ご褒美なら…いいでしょ?お兄ちゃん」 「う~ん、まぁいいよ。お前がそれで良いと言うなら」 「お兄ちゃん、ありがとう」 プニプニとパルカの胸を触ると押した方向に乳房が歪みエロスをかもし出す。 ウハッ、気持ち良過ぎだぜ。 つーかぁ、まるで俺がご褒美をもらっているような感じなんだけど。 「いいなぁ…。ご主人様、ご主人様、次の試合は私を指名してください。絶対勝ちますから!」 「あー!いいなぁ~パルカの奴~。よし!!次のバトルはボクが出る!!!」 「ダーリンのご褒美を貰うために頑張らないといけませんわね」 両肩で何やらパルカに嫉妬しているように見える三人の神姫達。 そんなにご褒美が欲しいのか? まぁ今日はトーブン、ここにいるつもりだから一応全員バトルさせてやるか。 すぐさま指を胸から離すとパルカが少し不満そうな顔しながら。 「え、お兄ちゃん。もうご褒美お終いですか」 「まぁね。解ってくれや」 「む~、分かりました。でも次にご褒美くれる時はもっと触ってくださいね」 「…善処します」 ちょっと疲れた。 体力が、というよりも精神的に…。 まぁいいか…、パルカが気持ち良くなるのなら俺はなにも文句は言わん それに胸を触った時のパルカはエロかったし。 また胸を触りたくなるような表情だった。 ここでまた再びパルカの巨乳を触ったりすると乗っている三人に何されるか解らないのでお触りはお預け。 パルカを右手から左肩に移動させ、俺は次の筐体に向かった。 闘いはまだ始まったばかりだ。 「さぁ行くぞ!俺達のバトルロンドの幕開けだー!!」 こうして俺達のバトルロンドがスタートした。 そしてこの日からパルカの二つ名が出来た。 名は『銀を操る者』…。
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Let s 神姫! ~武装神姫の化子ちゃん~ by初音ミク黒子&リン http //www.nicovideo.jp/watch/sm1537677 http //www.nicovideo.jp/watch/sm1537677 Vocaloid2のオリジナル曲 使用Vocaloidは初音ミク 製作者は武装歌劇派 一つ前のページにもどる
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『13km』-1/3 これから君に戦ってもらうのは、君のようにテンプレートに沿った改造をなされた神姫とはワケが違う。 七人が七人とも天下無双の変わり種だ。 いや、決して君の悲願達成の障害を強固にしようというわけではいよ、本当だ。 神である僕が神に誓ってもいい。 何故かって君、ありきたりな武装でありきたりな攻撃をしてくるありきたりな神姫なんて、いくら倒したところで何の御利益もないと思わないかい? つまり君の願望はそれほど、普通じゃないということさ。 恨むなら自分のそれを恨むんだね。 しかし相手が普通じゃないということはある意味、君にとって幸運と言えるのかもしれないぞ。 あくまで凡百レベルでしかない君が、例えばだが、全武装神姫の上位互換であるアラストールやキュクノス、それにジャスティスに勝てると思うかい? そう睨むなよ、君に限った話じゃない。 他の神姫だって、特別なものを持っていなければ単純な性能差で押し切られるさ。 多少の小細工など圧倒的なステータスの前には無力なものだから。 そこは君、様々な思惑を含んだ値札を付けられ、人に買われる身である神姫に生まれた以上、割り切るしかない。 ところが、だ。 僕がこれから提示する七人の神姫は、そんな万能と呼べる神姫から遠くかけ離れている。 一点特化、というやつだ。 ある方向に圧倒的な伸びを見せ、逆にその他はまるでからっきしというわけさ。 どうだい、僕の慈愛に溢れた優しさが分かっただろう、君は実に運がいいな。 ……分からない? まったく、神というものは理解されないのが常だが、優しく差し伸べた手すら気付いてもらえないとなると考えを改める必要があるな。 もし僕がアラストール型を七人倒せと言ったら君、いったいどうするつもりだ。 深く考えなくてもいい、どうすることもできないのだから。 装備を揃えたり経験を積むことくらいはできるかもしれないが、相手だって君と同じように時間を過ごすだろうし、君のマスターは貧乏だし、それに愛しの彼は君が強くなるのを待ってはくれない。 だからそう睨むなって。 もう一度言うが君は幸運なんだ、ラッキーだ。 なにせ相手は特化型だ、然るべき対策を打てば凡百である君にも勝利の可能性が見えてくる。 勿論、特化型の強さは並大抵のものじゃない。 ぶっちゃけノーマルのアラストールやキュクノス、ジャスティスなんて相手にならないだろう。 しかし付け入る隙がおおよそ見当たらない万能型より、隙だらけの特化型のほうが倒し易さという意味でなら、楽な相手だと思わないかい。 まあそれに、普通のバトルならその辺の神姫センターに行けば飽きるほど見られるのだから、僕を楽しませる意味でも君には特化型を相手して欲しいんだよ。 それもまた、願い事を叶えてくれる神様への供物、ってところさ。 さて、前置きはこれくらいにして。 記念すべき駈け出しの相手は、これもまた僕からのサービスなのだが、特化している部分が非常に分かりやすい。 呼び名が『13km』と言えば、どんな神姫か想像がつくだろう。 つかない? なに、あんなに有名な刀を君は知ら……ああそうか、あの漫画は三十年以上前のものだったか。 これはいきなり人選を誤ったか……。 いや、君は気にしなくていい、説明してやろう。 簡単に言うと、彼女はとてつもなく長いビームソードを持っている。 13kmというのはあくまで人間の大きさに換算したものだから、実際にはその1/12しか伸びないということになるが、それでもステージの端から端まで届いてなおかなりの余裕がある。 無駄? そんなわけがないだろう、13キロという数字にこそ意味があるんだ。 フン、元ネタを知らない君からすれば0.00005キロで十分とでも言うんだろうけどな。 まあいいさ。 あるマイナーな神姫チームの中で『第三デスク長』とも呼ばれている彼女と一度でも戦ってみれば、そのビームソードがどれだけ恐ろしいものか理解できるだろうさ。 いや、理解する時間すら与えてもらえないか。 せいぜい開幕と同時に胴体を真っ二つにされないよう気をつけることだね。 ◆―◇―◆―◇―◆―◇―◆―◇―◆ 神姫にだってヒトのような心があるんだから、ヒトにヒトメボレしたって何もおかしいことはない。 何もおかしなところのない夢見る乙女だ、恋の一つや二つくらい許されて当然だと思う。 私の取扱説明書に「神姫が他の男性に一目惚れしないようご注意下さい」とは書いてないんだし、ルール違反でもない。 などなど……などなどなど。 他にもいろいろと言い訳を考えてはみたものの、やっぱり言い訳は言い訳でしかなくて、クレイドルの上で夢の世界に旅立つこともできず、枕を抱きしめて悶々とするばかりだった。 6日前のこと。 私――飛鳥型ストライクウィッチカスタムのホノカさんは、不覚にもとある男性に一目惚れしてしまった。 不覚も不覚、まったくの不覚。 それは本当に一瞬のことだった。 ◆――――◆ その日は神姫センターのエアコンから良い風でも吹いていたのか、妙に調子が良くて、見事三戦快勝、私の愛機セイブドマイスターは面白いように相手を撃墜していった。 いつもは勝っても負けても三戦したら必ず帰るのに、自分が戦ってるわけでもないのに調子に乗ったマスターは、もう一戦やる、とか言い出した。 まあ、私だって少しばかり気が大きくなっていた。 勝つ時は大勝ちして負ける時は大負けしてしまう私の性質上、できる時に勝利の美酒を貯めこんでおきたい気持ちもないでもなかった。 ちょっと強そうな相手を物色しつつ、ひとつの筐体の中をそれとなく覗いた時だった。 そのアルトレーネは私の目をきつく縫いつけた。 長い髪をポニーにした以外、装備も装飾もありきたりな戦乙女。 なのに、その戦騎は一際強く光り輝いていた。 「ぜやあああああああああっ!」 槍を構え、銃弾の嵐の中を怯まず押し通るその戦い方は、私とは真逆に位置する――そのはずなのに、気がつけば、彼女の動作を一つでも多く目に焼き付けようと、目を見開いていた。 白い頬を銃弾が掠め、ポリゴンとなって分解されていく。 それでも彼女は止まらなかった。 運悪く副腕の最も脆い可動部に銃弾が当たり破損し、片方が千切れ飛んだ。 それでも彼女は止まらなかった。 彼女のことだけを見ていたのに、対戦相手の表情が手に取るように分かった。 あるいはその表情は、彼女と相対した私を想像したものかもしれなかった。 自身が持つ火力では彼女の道を遮ることはできない――どうしようもない恐怖に表情を引きつらせたまま、彼女の槍に胸を貫かれた。 試合が終わって、彼女達を模していたモデルが消え去っても、まるで真夏の太陽を凝視してしまった時のように、視界に焼き付いた戦乙女の姿は消えなかった。 あの時の感覚は今でもハッキリと胸に残っている。 強いて言葉で言い表すとすれば、【心が燃えた】。 彼女と戦うことがバトルの全てのように思えた。 彼女を倒すことがバトルの全てのように思えた。 筐体から出てきた彼女に気づいて、実力差や勝算のことなんてまったく考えず、ただ本能に従って彼女に勝負を挑みに行った。 そして彼女のマスターに話をつけようとした時――CSCをズッキューン! と撃ち抜かれた。 一目惚れ、というより一撃必殺だった。 髪は短く、理知的な顔立ちに細長のメガネがよく似合っていた。 全体的に線は細めで、服装には清潔感があってとても好印象だった。 や、好印象という言葉はなんだかわざとらしいか。 一目惚れしたんだし。 むしろ超印象だ(?)。 その姿が私のマスター……若くしてハゲ散らかした豚の真逆だからかもしれないけど、まさか神姫に自分のオーナー以外に惚れてしまう機能があったとは、この時まで考えもしなかった。 (念のため言うけど、私はマスターに惚れてない。神に誓って言う) 燃えていた心がトクンと高鳴った。 真っ赤に染まっていた心がピンク色に塗りつぶされた。 そして気がつけば、胸にあの槍が突き刺さっていた。 今度は幻覚などではなく、実物が、ザックリと。 挑んだバトルはとっくの昔に始まっていて、ハッと目を覚ますと同時に終わっていた。 「あれほど無抵抗に私の槍を受けたのは、あなたが初めてだ」と後でハルヴァヤに呆れ顔で指摘された時は、恥ずかしくて死んでしまいたくなった。 帰り際、醜い豚もといマスターにせがんで、髪を長くしてもらった。 勿論ハルヴァヤと同じポニーテールにするためだけど、不本意ながらマスターに妙にウケた。 なにが「飛鳥に黒髪ロング……ゴクリ」だ。 ◆――――◆ 明日、日曜日。 ハルヴァヤにリベンジする約束をしているのだけど、それすらあの人に会うための口実になってしまうことが恐ろしかった。 恋に落ちたあの日以来、寝ても覚めてもあの人のことしか考えられなかった。 あと一度の夜を超えたら、あの人の前で戦わなきゃいけない……だというのに、まだセイブドマイスターのメンテにすら手がつけられないでいる。 いやいや今から整備しろよと自分にツッコミを入れたくなるけど、ここ最近の寝不足がたたって瞼は銀行のシャッターのように無情にも落ちていく。 そして目を閉じてしまうと、暗闇にあの人の姿が浮かび上がってきて、再び目を覚ましてしまう。 その繰り返しだった。 「ふう……」 ダメだ、何もできない。 こんなことじゃあの人だけでなくハルヴァヤにも愛想を尽かされてしまう。 あの二人に『戦う価値なしの雑魚』だなんて思われたら私は、もう生きていけない。 再び瞼の裏に現れたあの人が、私に背を向けて遠ざかっていく。 肩に腰掛けたハルヴァヤは私に冷たい一瞥をくれたまま、あの人の耳元に何かをささやいた。 時 間 の 無 駄 だ っ た な いやだ、行かないで。 強くなるから、なんでも差し出すから。 なんでもするから、私のことを見捨てないで。 お願い神様、あの二人を遠ざけないで――! 「呼んだかね」 「ひぎゃあ!?」 いきなり耳元で声を出されて、驚いた拍子に尻がすべり、クレイドルの手すりに側頭部をゴツンと強かにぶつけた。 できるはずもないタンコブを手で探しながら顔を上げると、隣にいつの間にか、白い体に私と同じくらい長い金髪の神姫が立っていた。 パッと見だと、その神姫がオールベルンだとは分からなかった。 フロントラインのホームページに掲載されている姿形そのままなのに、人をおちょくったような雰囲気は私が知る剣士型とはかけ離れていた。 くりっとした丸い目は整っているはずの顔のバランスを大きく損ない、薄気味悪く笑みを浮かべた口元からは八重歯なんてのぞいちゃっている。 「ハハッ! うん、いいねいいねその反応。近頃は誰も彼もが神を見ても驚かないから、いよいよ世間の凡俗が超常にまで侵略しつつあると危惧していたんだ。しかし君のその豆鉄砲をくった鳩のような顔――うん、気に入った。次は君の願い事を叶えてやるとしよう」 これが、神様を自称するオールベルンとの出会いだった。 「おいおい、ガッカリさせないでくれよ。神を信じたんじゃなかったのか」 大袈裟に額に手を当てたオールベルンは「オゥマイガッ」と仰け反った。 神様を自称する奴が OhMyGod なんて言うもんだろうか、いや言わない、絶対言わない。 「さっきはあんなに驚いてくれただろう」 「そりゃ、真夜中にいきなり側に誰か立ってたら驚くでしょ、普通は」 私も自称神様も声を落とす気遣いはしなかった。 ゴーゴー寝てる豚マスターはちょっとやそっとじゃ起きやしないから。 「じゃあアレか、君は特別叶えたい願い事がない、どころか神の存在を信じもしないで僕のことを呼んだって言うのかい」 「私が呼んだ? あんたを? いつよ」 「さっき『お願い神様』って言っただろう」 「言ってない。心の中で思ったけど、口には出してない」 「やれやれ、分かってないなぁ」と手を広げて首を振るコイツは多分、日本一ムカつくオールベルンだと思う。 眉を八の字にして小馬鹿にしたように溜息をつく姿は、電気が消えて薄暗い部屋の中でも無駄に強く自己主人張してくる。 「神っていう存在は、下々の心の奥底の願いを聞き届けてやるものなんだぜ。暇つぶしに」 「誰が下々よ。あんただって普通の神姫じゃない。鏡見たことないの? どこからどう見ても店の棚に陳列されたオールベルンと変わりないじゃない」 「この姿もわざわざ君に合わせてあげたのに。いや、武装神姫なら何でもよかったんだけど、このオールベルンは実に素晴らしい造形をしているじゃないか。まさにスワン・レイク! ワルツ・ワーズ・ワイト! って感じだと思わないかい。できれば赤い個体のほうが良かったんだけど、聞けばアレは限定品らしい。君の飛鳥型も品薄商法の煽りを受けて同型の仲間が増えないんだろう。自他共に認めるトップランナーであるフロントラインがこの体たらくじゃあ、武装神姫の将来は明るくないな」 「わざわざ真夜中に不法侵入しといて何? ネガキャン? もう帰ってよ、明日は忙し……ふぁ~あ」 ひとつ大きな欠伸が出た。 明日は絶対に、こんなはしたない真似をするわけにはいかない。 ましてや「全神姫の中で最もお人形さんのようだ」と言われる飛鳥型なんだから、そのイメージをよりにもよってあの人の前で崩していいわけがない。 「ほうほう、忙しいと。それはもしや、この僕を呼んだことと関係が?」 「だから呼んでなんて……そうよ、その通りよ、誰でもいいから何とかしてほしいわよ。明日はどうしてもちゃんと戦わないといけないの。早く寝ないといけないの。分かる?」 「その割にはこんな時間まで起きてたじゃないか」 「だから眠れないって言ってんでしょ!」 募ったイライラが、ついに爆発した。 枕を掴んで、オールベルンに投げつけた。 部屋の外に響くくらい叫んでしまったけど、マスターは寝返りをうっただけで起きる気配はない。 喉から溢れるように出てくる不安は止められなかった。 「明日のバトルは何よりも大切なの! 勝てなくても絶対ちゃんと戦わないといけないのに、あの人のことばっかり考えてたせいで眠れなくて、ハルヴァヤの期待にだって答えなくちゃいけないし、なのに銃の整備もストライカーの調整もやってない!」 「――ふむ」 「リベンジ申し込んどいて最悪のコンディションで挑むなんて、嫌ってくださいって言ってるようなもんじゃない! バカじゃないの!? 何やってるのよ私、こんな……こんなことならバトルの前に自動車に踏み潰されたほうがマシよ!」 「つまり、君は明日のバトルまでにコンディションをベストの状態にしたいんだな」 「だったら何よ! あんたがなんとかしてくれるっての!?」 「その通り!」 パン! と目の前で空気が弾けた。 自称神様が前髪に掠るような距離で手を叩いた――つまり猫騙しをしたんだけど、その音に対して驚いた直後、唐突に強烈な睡魔に襲われた。 魂を抜かれたように力が抜けて、カクンと膝が折れて身体が真っ直ぐ崩れ落ちた。 「僕は神の中でもサービス精神に溢れた性質でね。初回限定サービスだ、君の願いを無条件で叶えてやろう。いやはや君は実に運がいい」 自称神様が何か言ってるけど、最後のほうはほとんど聞こえていなかった。 文字通り電源を切られるようにプッツリと、私の意識は途切れた。 ◆――――◆ 仮想とはいえ確かな実感を持った身体に生まれ変わる瞬間の不思議な感覚は、もうマスターに起動されて随分時間が経つけれど、未だ慣れる様子がない。 ストライカーユニットの先端まで実体化されると同時にエンジンを起動させた。 プロペラが滑らかに滑り出し、着地寸前だった砂を巻き上げる。 ストライカーが地に降りる前にホバリングできたのは生まれて初めてだった。 それも不安定に空中でふらつくのではなく、ほとんど立っている時と同じように安定している。 脚に伝わる振動はいつもの半分もなくて、代わりにまるで翼を得たような高揚感を伝えてくれる。 空戦型が持つには二回りほど大きく長いライフル、セイブドマイスターのセイフティを解除してハンドルに手をかけると、驚くほどスムーズに引くことができた。 ガシャコッ、と初弾が装填される音もいつもより小気味良い。 おまけに体は睡眠不足による気だるさどころか、活力に満ち溢れていた。 指の一本一本から頭のピンと尖った耳の先、尻尾のフサフサの毛に至るまで回路が通っている感覚を明確に掴める。 自分が持つ本来の性能を、これほど明確に把握できたことはなかった。 「これが……私、なの?」 続々と新型の高性能な神姫が出てくる度に嫉妬していた自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。 ちゃんとコンディションを整えれば、私だって、これほどまで素晴らしい性能を発揮できる。 昨日眠っていた間に、あのオールベルンはいったい何を――。 「神姫三日会わざれば刮目して見よ、とはよく言ったものだ。先週とはまるで別人だ、一目見ただけで分かる」 砂嵐の向こう、ハルヴァヤの声は熱砂に焼かれてなお涼し気だった。 「いや失礼、その前に言及すべきかな――髪型、変えたのか。ええと……」 「私はホノカ。髪はあなたを真似したんだけど、気づいてもらえてよかった」 「真似を? どうして私なんか、これは邪魔にならないよう縛ってるだけだし、他にもっと洒落た神姫は沢山いるだろう」 「もしかしてハルヴァヤ、あなた野暮天?」 「……ははっ、昨日同じことを言われた。そんなつもりはないが、でも勘違いはされやすいな。私はあなたが想像するほど規則正しい性格をしていないんだ」 照れ隠しに笑うハルヴァヤはすごく可愛かった。 こうして対等に喋っていることが信じられなくて、自分が自分ではない別人のように思えてくる。 こんなにも気軽に言葉が出てくるのなら、自分の知らない自分になることも面白い。 ハルヴァヤも、私が勝手に持っていた堅物の印象より随分と気さくだ。 遠くから見ていた時は、刃のような鋭い眼差しと不屈の闘争心に見惚れるだけだった。 でも、こうして歩み寄ることで見えてくるものがある。 私の髪の変化に気づいてくれるハルヴァヤ。 照れ笑いをするハルヴァヤ。 もっと、引き出したい。 この神姫のありとあらゆる表情を引き出したい。 差し当たっては――。 「さあ、そろそろおしゃべりの時間は終わりだ。ホノカ、君はリベンジだと言ったな。悔いのない勝負にしよう」 敗北して悔しがるハルヴァヤはどんな表情を見せてくれるんだろう。 ゴーグルをかけ、私に向かって一直線に構えられた槍と揃えるように、スターのバレルを構えた。 距離は十分離れているはずなのに、ナイフを互いの喉元に突きつけ合っているような緊張感。 「隙あらば伐つ」と彼女の目はハッキリとそう言っている。 きっとこれが、私の遥か先にいる彼女のステージなんだ。 流行る気持ちがトリガーにかけた指を勝手に動かしそうになる。 アルトレーネの分厚い装甲でも、この弾丸は防ぎきれない。 でもそれだけじゃハルヴァヤには届かない。 だからセレクターレバーを切り替えた。 力がみなぎってくる今のコンディションなら、マスターがロマンが云々言いながら付属した、余計極まりなかったフルオートも活かせる。 スタートの合図が耳に届いた。 「「 いくぞ! 」」 重なった声を皮切りに、砂嵐はいっそう強くなった。 『13km』-2/3 トップへ
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キズナのキセキ ACT0-3「アイスドール」 ◆ 右の武装脚を踏み込み、ほんの少しだけ身体を宙に浮かせる。 間髪入れずに、背部の増設バーニアを噴射。 地を這うように滑空し、猛スピードで対戦相手に肉薄する。 「くそっ!」 小さなつぶやきと同時、対戦相手のジルダリア型のハンドガン「ポーレンホーミング」から、弾丸がばらまかれてくる。 それを錐揉みしながら回避、逆にこちらも機関銃を構え、撃った。 ジルダリアは防御の姿勢。 数発着弾。花びらを模した装甲に阻まれ、ダメージにはほど遠い。 だが、足は止まった。 間合いを取ろうとしていたピンクのジルダリア型は、その場で相手を待ち受けざるを得なくなった。 両腕にマウントされた剣「モルートブレイド」を構える。 そこに白亜の神姫が飛び込んできた。 背後から伸びるサブアームを前方でクロスし、そ のまま体当たりしてくる。 「くうっ!」 たまらず声を上げたのはジルダリア。 力任せの体当たりを防御するも、弾き飛ばされる。なんとか空中で姿勢を制御した。 背面に取り付けられたリング状の武装は、花びらを模した武装が取り付けられており、推進器の役割も持つ。 その「フローラル・リング」はジルダリアの代名詞とも言える武装だ。 姿勢を取り戻したジルダリア型だったが、しかしこのタイミングは、迫る白亜の神姫にとって得意のパターン。 さらに踏み込んできた白い神姫は、サブアームを振り抜いた。 鋭い指を揃え、突いてくる。 この抜き手は狙いを外さない。 反射的に身をよじったジルダリアの身体をかすめ、背後のフローラルリングを打ち砕いた。 「しまった……!」 ジルダリア型の驚きを気にも留めず、白い神姫は間髪入れずに、逆の副腕で抜き手を放つ。 狙いは胸部。その奥のCSC。 あやまたず放たれた抜き手は、無慈悲にもジルダリア型の胸を貫いていた。 勝利したのは、白いストラーフ型。 その名を、ジャッジAIが画面に表示する。 『WINNER ミスティ』 ◆ 「いやー、まいったまいった」 頭を掻きながら筐体から離れた男が言う。 先ほどの、紅とピンク色にリペイントされたジルダリア型のマスター・花村耕太郎である。 彼の神姫・ローズマリーも、今は彼の肩の上でうなだれていた。 「今日はいいところまで行ったのに……」 ここのところ、ミスティとの対戦は連敗である。彼女は急速に力を付けてきていた。 「強くなったなぁ、久住ちゃん」 「いえ……わたしなんてまだまだ……」 セミロングの髪を上げ、花村を見る少女は、まだ中学生である。 控えめな口調で謙虚な言葉を口にする。 『七星』の一人を破ったというのに、久住菜々子は笑わない。むしろ、せっぱ詰まっている様子さえ見て取れる。 実際、菜々子はこの対戦に満足してはいなかった。 ローズマリーはノーマルのジルダリア型だ。各部の調整と細かなメンテナンスでポテンシャルを引き出し、知略戦略で戦う。 そのバトルスタイルについては、菜々子は大いに花村を認め、参考にもしていた。 菜々子はまだ中学生で、ミスティを満足にカスタムしてあげられない。わずかに、強襲用の背面ブースターを追加したのみだ。 だから、ノーマルでも強い花村は、今菜々子が目指すべき神姫マスターと言える。 だが、実力があるかどうかは話が別だ。 花村も『七星』の一人ではあるが、まだ二つ名もなく、他のメンバーに比べると実力は劣っている。 カスタムを施された神姫たちがひしめく、他の『七星』たちに勝つためには、現状で満足しているわけには行かない。 もちろん、この時の菜々子は、後に花村たちが『薔薇の刺』の異名を取るなどとは知る由もなかった。 とにかく、菜々子はバトルロンドで強くなることに必死だった。 それには理由がある。 「菜々子、絶好調じゃない」 「あおいお姉さま」 菜々子はそこでようやく、ほっとしたように微笑んだ。 『七星』一人・桐島あおい。 彼女の側に居続けるために。 彼女のパートナーであり続けるために。 菜々子はどうしても強くならなければならなかった。 ◆ 久住菜々子が想像していた以上に、『ポーラスター』における桐島あおいの人気は絶大なものだった。 ゲームセンター『ポーラスター』の神姫マスターの間で、『七星』のメンバーであれば、それだけで羨望の的だ。 彼らは『ポーラスター』に集う神姫マスターの代表である。バトルの実力ももちろんだが、それぞれのやり方で『ポーラスター』の対戦レベルの向上を図っている。 たとえば花村は、ノーマルあるいは公式装備にこだわるマスターたちのまとめ役である。彼を中心に研究グループができ、日夜ノーマル装備の可能性を探っている、という具合だ。 桐島あおいは、バトル初心者を見つけては声をかけ、バトルの講習を行い、対戦の面白さを知ってもらう活動を行っている。 そして、ゲームセンターへの定着をはかり、仲間を増やしていこう、という魂胆だ。 菜々子はあおいの魂胆にまんまとはまってしまったわけだ。 だが、その魂胆にはまったのは菜々子一人だけではない。まだ初級者に分類されるマスターたちの半分以上が、あおいの受講生だと言うから驚きである。 楽しく優しくレクチャーしてくれるあおい先生が、人気がないはずがない。 受講生たちはほとんどが桐島あおいのファンだ。特に女の子たちは、あおいの取り巻きとなっている。 もちろん、彼女の人気は女子だけに留まらない。 あの美貌、あの気立てのよさ、である。あおいとお近付きになりたいと思う男性マスターは大勢いた。 そんなわけだから、ゲーセンにいるときのあおいは、常に人に囲まれていると言っても過言ではない。 つい先日まで、あおいがその輪から離れることはなかった。 そう、久住菜々子と出会うまでは。 菜々子が『ポーラスター』に現れて以来、あおいは菜々子との時間を優先するようになった。 対戦していないときは、もっぱら菜々子の側にいる。 バトルロンドでは、ツー・オン・ツーのタッグバトルでコンビを組んでくれるし、対戦を希望すれば必ず相手をしてくれる。私的な練習にも、まめに付き合ってくれる。 しかも、タッグバトルのパートナーは、『七星』のメンバー以外では、菜々子とだけしか組まなくなった。 菜々子をひいきする理由をあおいに問いただしても、笑ってはぐらかされる。 当然、あおいの取り巻きをしている少女たちは面白くない。 彼女たちの矛先は、自然、菜々子に向けられた。 菜々子に対する「特別扱い」をやっかむ陰口は毎日のことだった。 また、ことあるごとに……いや、何もなくても、あおいの取り巻きたちは菜々子にしょっちゅう難癖を付ける。直接不満をぶつけに来る。 「いい気にならないで! あおいお姉さまはあなたのものじゃないのよ!?」 「……あなたたちのものでもないでしょう」 「みんなのものよ!」 「……お姉さまは、お姉さまのものだと思うけど」 「まあっ、生意気に言い返すつもり!? だいたい、あんたなんか、お姉さまのタッグパートナーに不釣り合いなのよ!」 「じゃあ、誰だったら、お姉さまと釣り合うの?」 そう言われると、取り巻きたちは声を詰まらせざるを得ない。 『七星』や上級者の常連ならともかく、初級者に毛が生えた程度の取り巻きマスターたちでは、タッグマッチでルミナスの足を引っ張るのがオチだ。 そう言う意味では、今一番の成長株と目される菜々子は、あおいのパートナー候補になりうる。 また、それなりの美貌がなければ、あの桐島あおいの隣に並んでも見劣りしてしまう。 本人が考えたことはないが、その点でも、菜々子は及第点をクリアしていると言えよう。 だからといって、やっかみの声が静まることはない。 菜々子は表立って反論するようなことはしない。そんなことをすれば、火に油を注ぐだけだとわかっている。 では、どうするか。 実力で黙らせる。 バトルの実力で、お姉さまの側にいるのにふさわしいことを証明してみせる。 『七星』なれるほど強くなれば、きっと誰もが、自分をあおいお姉さまのパートナーとして認めざるを得ないだろう。 だから、菜々子は最短距離で強くなろうとした。 その結果、彼女のバトルスタイルは、相手の弱点を容赦なく突き、勝ちばかりを求めるものになっていた。 だが、そんな菜々子のスタイルに、当のあおいお姉さまは難色を示す。 あおいが菜々子に求めるバトルスタイルは、勝ちばかりを意識したものではない。 それは「魅せる戦い」だとあおいは言う。 しかし、菜々子にはその意味が、よく分からない。 ◆ 「久住ちゃんも強くなったよな。そう思わないか、お姉さま?」 あおいと花村は並んで、観戦用の大型ディスプレイを見上げていた。 ディスプレイには、ミスティの戦いぶりが映し出されている。 現在、三連勝の表示。 「……まだまだね」 「手厳しいな。君の妹分だってのに」 「自分の身内に対しては、容赦しない主義なの」 「それは久住ちゃんがかわいそうだ……また勝つぜ」 その言葉とほぼ同時、ミスティは必殺の抜き手を放ち、相手神姫を撃破した。 連勝表示が一つ増え、四を示す。 「ほら。もう、常連の中でも頭一つ抜きんでてる感じだ。相手になるのは『七星』ぐらいじゃないか?」 「そうかもね」 「……だから、みんなに提案がある。俺は久住ちゃんを『七星』に推薦したい」 「え?」 あおいは花村を見た。 そして、その場にいた、『ポーラスター』の『七星』のメンバーたちも。 その時点での『七星』のメンバーは、花村とあおいを含めて六人だった。 「今日、招集をかけたのはそれか、花村」 「そうだよ」 武士型のマスターである『七星』メンバーの言葉に、花村は頷いた。 『七星』のメンバーに加入できるか否かは、メンバーの合議によって決まる。 といっても、堅苦しいものではない。誰かが推薦して、「いいんじゃない?」といった感じで決まることがほとんどだ。 「『七星』は今六人。久住ちゃんが加われば、人数的にもちょうどいい。 それに、彼女の向上心は、他のプレイヤーたちにもいい刺激になるんじゃないかな」 「なるほど」 「確かに」 「異議なし」 他のメンバーも、花村の意見に頷いている。 確かに、最近の菜々子とミスティの成長には、目を見張るものがある。 あおいの取り巻きたちと比べても、あきらかに一線を画した実力だ。あおいのパートナーを目指すマスターは他にもいるが、実力的にも相性的にも、菜々子に匹敵する者はいない。 他の『七星』に比べれば、まだ見劣りする実力も、すぐに追いつくだろう。 そして、菜々子自身、『七星』になることを望んでいる。 反対する理由は何もないように思えた。 だが。 「わたしは反対」 そう言ったのが、当のあおいであることに、花村は驚きを隠せない。 「どうして? 桐島ちゃんが一番喜んで賛成すると思っていたのに」 「まだ早いわ」 「そうは思わない。彼女は十分に強いじゃないか」 「確かに強くなった……でも、足りないものがあるのよ」 「足りないもの……?」 「あの子はまだ、勝ち負けしか見えていない。強いだけじゃ、ダメなの」 ミッションモードで乱入待ちをしている菜々子を見る。 バトル中の彼女は、いつも真剣な表情でディスプレイを見つめている。何か思い詰めたような様子さえある。 あおいは小さくため息をつき、菜々子の向かい側へと歩み寄る。 「菜々子」 「お姉さま」 「次、対戦、いい?」 「どうぞ……真剣勝負でお願いします」 「わかったわ」 あおいは鮮やかな笑みを見せて、向かいのシートに座った。 肩にいる自分の神姫を、アクセスポッドに寄せる。 「行くわよ、ルミナス」 「はい、マスター」 その後、ものの三分とかからず、ルミナスはミスティを撃破した。 菜々子はいまだに、本気のあおいに一度も勝てなかった。 ◆ 「だから、ただ勝てばいいってものじゃないのよ。もっと楽しまないと」 「それがよくわかりません。勝つこと、イコール、楽しいことじゃないんですか?」 「勝つだけが、バトルロンドの目的じゃないわ」 対戦後、自動販売機のあるコーナーで、冷たい飲み物に口を付けながら、二人は話していた。 幾度となくかわされた会話であるが、お互いの意見は平行線である。 あおいは、武装神姫のバトルには、勝敗以上の何かがあると思っている。 その「何か」を説明するのがなかなか難しい。 たとえば、自分の力を出し切ったときの充足感とか、自分の戦術が見事に当たった瞬間の気分とか、自分と神姫がまるで以心伝心のように意志を伝えあったときとか、自分の成長を感じられたときの嬉しさとか、そういったものだ。 それを感じることこそ、武装神姫の醍醐味、とあおいは思っている。勝利はその延長上にあるものにすぎない。 それを菜々子にも分かってもらいたい。 だが、我が妹は、そのことをなかなか分かってくれない。彼女は勝利を第一優先にしている。 対戦において勝利第一主義が悪なわけではない。ただ、あおいの主義と合わないだけだ。 だからこそ、菜々子の説得が難しい。 あおいはため息をついた。 「だから『アイスドール』なんてあだ名されるのよ」 「アイスドール?」 「あなたの異名。氷のように表情を変えずに、容赦なく弱点を攻撃する。まるで感情のない人形のように。だから『アイスドール』」 二つ名は、尊敬の意味を込めてつけられる場合が多い。 だが、菜々子のそれは、皮肉が込められている。そんな戦い方で楽しいのか、と。 また、ゲーセンでの菜々子は、あおいの側以外では、あまり表情を変えない。それは先日の悲しい出来事に起因しているのだが、知らない人の方が多いのだ。『アイスドール』の二つ名は、そんな普段の様子も揶揄されている。 しかし、菜々子はのんきにコメントした。 「へえ……ちょっとかっこいい、ですね」 そう言って小首を傾げた菜々子はとても可愛い。 あおいはがっくりと肩を落とした。我が妹は、二つ名の裏の意味にまったく気がついていないようだ。 あおいは頭に手を当てて、悩む。 どうすれば菜々子に、自分の考えを分かってもらえるのだろう? ◆ マスターたちの悩みをよそに、ミスティとルミナスはのんきに話をしている。 神姫である彼女たちも、マスター同様、すこぶる仲がよい。 お互いのマスターの肩の上で、マスターたちの話の邪魔をしないように、極長調波の音声で会話をしていた。 「まあ、わたしは『アイスドール』のままでもいいんですけどね。勝てているし」 「そうねぇ。わたしたちと肩を並べるために、まずは勝ちに行くっていう菜々子さんの考えも一理あるわよねぇ」 ルミナスはアーンヴァル型のカスタムタイプである。 本来、アーンヴァルは長距離射撃を得意としているが、マスターであるあおいの趣味で、中距離から近接格闘戦ができるような装備にカスタムされた。 背面の大型ブースターを、小回りの利くバーニアに変更。武装も、ロングレンジライフルを廃し、中距離向けのビームライフルなどに変えている。 コンセプトは最近発表されたアーンヴァルmk2に近い。 ルミナスの戦い方は「蝶のように舞い、蜂のように刺す」を実現したようなスタイルだ。 最高速度の加速を捨て、機動力重視の推進を手にしたルミナスは、あおいの指示のもと、飛行機のアクロバットさながらの機動を見せる。 そして、急加速による接敵からの近距離戦に移行する動きは鋭い。 こうした機動を緩急つけて行うことで、ルミナスはあたかも空中で舞っているように見えるのだ。 その空中の舞を駆使した戦いぶりは、美しく、そして強い。 あおいとルミナスは、その戦い方から、『月光の舞い手(ムーンライト・シルフィー)』と呼ばれていた。 「わたしたちの戦いぶりと比べると、あおいさんとルミナスの戦い方は真逆ですけど」 「だからこそ、タッグバトルで噛み合うってのはあるわよね」 「わたしもそう思います……あおいさんは、何が気に入らないんでしょう?」 「ミスティに、わたしたちと同じような戦い方をして欲しいんじゃないかな」 「それは無理でしょう……うちのマスターの性格からして」 二人の神姫は、人には聞こえない声で、笑った。 ◆ 「今の、ルミナスとミスティのタッグは、こんな感じね」 あおいは、ルミナスを示す右の指をくるくると回して螺旋を描き、その螺旋の中心を貫くように、ミスティを示す左の指を一直線に動かした。 「コイル……ですか?」 「え? ああ……そうね、電磁石みたいね」 「勝ちがいくらでもくっついてきそうです」 我ながら、つまらないジョーク。 でも、電磁石で何の問題があるのかわからない。 華麗に舞うルミナスと、容赦なく敵を倒すミスティ。 そのミスマッチこそ、このペアの強さだとも思う。 だが、あおいはまた両手の人差し指を動かした。 「わたしが望むタッグバトルは、こんな感じ」 両手の指が、今度は互い違いの螺旋を描く。時に近づき、時に離れ、模様のような立体図形が宙に描き出された。 「二重螺旋……?」 「ああ、なるほど……遺伝子に似ているわね。 そう、二人が一緒に魅せる戦いをすれば、試合はきっと、勝ち以上のものに進化するでしょうね」 そう言って、あおいはにっこりと笑った。 「息のあったパートナー同士のタッグバトルは、すごいわよ? それはバトルなのに、まるでダンスを踊っているように見える……とても美しいの」 「……美しい?」 「そうよ」 自信たっぷりに頷いたあおいに、菜々子は首を傾げる。 菜々子は、そんなバトルをしたことがなかったし、名勝負と語り継がれるような試合を見たこともなかった。 戦闘行動は、その時どきの状況によって刻々と変化する。 それなのに、パートナーと息を合わせて戦うなんて、できるだろうか。 もちろん、菜々子とあおいのコンビは、ここ『ポーラスター』でもトップクラスの実力である。バトルの時のルミナスとミスティは息が合っていると思う。 これ以上、何が足りないというのだろうか。 「きっと、菜々子の戦い方には、個性が足りないんだと思う」 「個性?」 「そう。ミスティは、ストラーフ型の戦い方としてはすごく真っ当だけど、それは誰もがどこかで見たことのあるストラーフに過ぎないわ。サプライズが何もない」 「……でも、わたしは、お姉さまのように華麗な動きを指示できません」 困ったように言う菜々子に、あおいは苦笑した。 「わたしの真似をする必要はないわ。まずは、あなたらしい戦い方を模索してご覧なさい」 「わたしらしい……戦い方……」 それこそが今の戦い方なのではないかと思うが、違うのだろうか。 おそらく違うのだろう。ステレオタイプなストラーフの戦い方は、誰にでもできる、ということなのだ。 だけど、菜々子らしい戦い方、というのは、なんなのだろう? 「それができるようになったら、菜々子を『七星』に推薦するわ」 「えっ……」 「どう? もう少し頑張ってみる?」 「はい!」 微笑むお姉さまに、元気に返事をした。 他でもないお姉さまが『七星』に推薦してくれるというのだ。 そうなれば、誰に恥じることなく、あおいお姉さまのパートナーと名乗ることができる。 菜々子は俄然やる気になった。 その日から、菜々子とミスティの、オリジナルな戦い方を模索する日々が始まった。 □ 「ひとつ疑問があるんですが……」 「何かな?」 「桐島あおいは、なんで久住さんにこだわったんでしょう?」 ここまでの話を聞いて、俺が一番気になったのはそこだった。 ただ仲がいい、とか、お気に入り、と言うレベルを超えている気がする。 長い付き合いの他の常連たちを差し置いても、菜々子さんを特別にかわいがる理由が、何かあるのではないか。 花村さんは、少し考えてから、言った。 「……たぶん、桐島ちゃんは、久住ちゃんに自分を重ねていたんじゃないかな」 「……?」 「桐島ちゃんも、幼い頃に両親を亡くして……祖父母の元で暮らしてるって聞いたことがある。 あの頃の、打ちひしがれた久住ちゃんを見て、桐島ちゃんは放っておけなかったんだと思うよ」 なるほど、と俺は頷いた。 桐島あおいは、自らの境遇を菜々子さんに重ねていた。だからこそ、献身的に菜々子さんを支えていた。 菜々子さんも、桐島あおいの事情をいつか知ることになったのだろう。 武装神姫だけでなく、身の上でも、二人は共通の思いを抱いていたのだ。 二人が急速に惹かれ合い、寄り添ったのにも納得がいく。 それにしても。 花村さんが話してくれる菜々子さんの過去は、実に興味深い。 『ポーラスター』で過ごした菜々子さんの様子は、今の『エトランゼ』の戦闘スタイルが形作られていく過程だ。 スタンダードなストラーフ型のバトルが、いかにしてあのトリッキーかつパワフルなミスティのバトルへと変化するのか? 俺は期待を込めつつ、花村さんの声にまた耳を傾けた。 次へ> Topに戻る>