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第4話 新しい家族 比較的早い時間に夕食を取ったので、小腹が空いた俺は買い物へと出かけた。 最近、俺が買い物とかで出かけると、アールがついてきたがるようになった。 今日も、アールが一緒だ。 丁度、俺の半歩くらい前の目の高さぐらいを、歩く速度に合わせて飛んでいる。 「なぁ、何がそんなに楽しいんだ?」 「マスターと出かけるのが楽しいんですよぉ~」 「食い物買いに行くだけだぞ?」 「それでもいいんです」 「そんなもんかねぇ」 「そんなもんです」 そんなやり取りをしていると、アールが空中で停止した。 「マスター! あれ!」 「ん?」 アールの指差す方を見ると黒い物体が落ちている。 「おい! あれって」 はっきりとは見えなかったが、その物体が何か直感的に分かった。 そして、その答えが間違いであってほしいと思いながら走る。 その場所に到着したが、残念なことに間違いではなかった。 「マスター……」 アールが泣きそうな顔で俺とその物を交互に見ている。 そこに落ちていたものとは、両腕、右足首、左膝から下の無い黒い人形。 特徴である長い髪も右側が引きちぎられ、身体中傷だらけになっていた。 間違いなく、ストラーフという武装神姫だった。 「……ん……あ」 ストラーフが呻き声を出した。 バッテリーがまだあり、AIが動作している。つまり、この子はまだ生きている。 俺はストラーフをやさしく手に持ち、アールのほうを向いた。 「今、何時だ!」 「9時43分です」 アールが即答する。あと17分。 「間に合ってくれよ!」 俺はアールを買ったおもちゃ屋へ走り出した。 俺は走った。当初の目的地のコンビニを通過し、なおも全速力で。 「マスター! あと13分」 横を俺と同じ速さで飛ぶアールが叫ぶ。 大通りの交差点で運悪く信号につかまった。 「はぁはぁはぁ、間に合いそうだな」 ここまで休みなしに走ってきた俺は電柱にもたれかかった。 「マスター、大丈夫ですか?」 「ああ…平気平気…」 そうアールに言ったが、正直バテバテだ。 (日頃の運動不足がひびいてるよなぁ。) そんなことを思っていると信号が変わりまた走り出す。 そして、目的地のおもちゃ屋が見えてきたが、手前の踏み切りが鳴り出した。 「くそぉ!」 俺は速度を上げ、降りてくる遮断機を睨む。 到着したとき、遮断機が完全に降りてしまった。 遮断機を掴み、くぐろうと屈む。 「マスター!! だめぇぇ!!!」 アールの悲鳴に似た絶叫が響き、俺は手を離した。 「マスター、無茶しないで……お願い」 飛んできてそのまま抱きついたアール。俺の服に顔をうずめて見せないようにしていたが確かに泣いていた。 「わかったよ…」 遮断機が上がるまで俺はアールの頭を撫で続けた。 それからはアールを落ち着かせながら、歩いて向かっていった。 店に到着したのは、9時55分。間に合った。 俺はカウンターの方へ行き、ストラーフを置いた。 昔の町工場の頑固職人のような店主がそこに居た。 「こいつを助けてやってくれ」 店主はストラーフの姿を見て驚いた様子だ。 「いったい何をした」 「何って? 俺のじゃない、拾ったんだ」 「拾った?」 「ああ。とにかく、こいつのAIは生きてるんだ。なんとかしてくれ」 「ん~、そういってもなぁ」 店主はストラーフを調べるように見ている。 それから店主はしばらく考えて俺のほうを見た。 「まあ、やるだけのことはやってやる。連絡先をここに」 そういって書類を差し出す。俺は記入を済ませてもう一度たのむと頭を下げた。 俺は、帰り道でいろいろと考えていた。 「俺は正しいことをしたんだろうか……」 「……正しいですよ」 俺の独り言がきこえたのだろう。アールが俺の頭の後ろからやさしく抱きしめてきた。 「………やさしいですもん……そんなマスターが………大好きです……」 「ん? 何か言ったか?」 しっかりと聞こえていたが、何か恥ずかしくなってそう言ってみた。 「い、いえ! べつに何も」 アールは慌てて俺の頭から離れた。 数日後、連絡がありおもちゃ屋まで出かけた。 「ほれ、これだ」 そう言って店主が取り出したものは、神姫の収められたケース。 「これって?」 「知り合いに破損した神姫を直す達人が居て、みせみたがたんだが、あのボディ破損がひどくて修理は出来ないといわれた」 「じゃぁ……」 (助けられなかったのか) がっくりと肩を落とす。 「勘違いするな、AIから取り出した情報はこっちに移してある」 「え?」 「ボディは新品だが、記憶は受け継いでいる」 「そうか、よかった……」 ほっとして、緊張がとける。 「お前さんの真剣な顔をみて、幸せに出来るだろうと思ってな。お前さんのことを説明したら、何も言わずデータ移植をしてくれた、といわけさ」 「ありがとう」 俺は深々と頭を下げた。 「それで、これも持っていけ」 ストラーフの武装セットを神姫ケースの横に置く店主。 店主は素体分の料金でいいといったが、俺は武装を含めた正式料金を置いて店を出ようとしたら、店主が呼び止めた。 「忘れものだ、持って帰れ」 そういって何かを投げてよこした。 俺はそれを掴み、見てみると、壊れたあのストラーフだった。 帰り道で考えていた。 こいつがあの日、あそこに居た理由を。 一人で出歩いて事故にあった、どこからか盗まれて部品を取られた…… いくつもの仮説を立てたが、もう一人の俺が即座に否定する。 そして、もう一人の俺が囁きかけてくる。 (ひとつだけ納得のいく説があるだろう) 俺は、それだけは考えないようにしていた。しかし、何度考えても最後にはそこへたどり着く。 『愛すべき主人に捨てられた』 そうだとしたら、こいつが起動後最初に感じるのは、捨てられた時の思い出。 その時の記憶が甦り、どうなるのか分からない。そして、それを見たアールはどう思うのだろう。 俺の頭に、笑顔のアール、怒りながらも照れているアール、泣き笑いのアール… アールの顔が浮かんでは消えていった。しかもほとんどが笑っていた。 「……アール」 俺は、家で、アールの前でこいつの起動は出来ないと思い、近くの公園へと向かった。 公園のベンチに神姫ケースを開ける。そしてストラーフを取り出し、ベンチの上に寝かせる。 「さて、どうなるか」 しばらくすると、ストラーフがゆっくり目をあける。焦点の合っていないぼんやりした顔から序々に覚醒していく。 「いやぁぁぁ!! ごめんなさい! ごめんなさい! ゆるしてください!」 覚醒するとストラーフはうずくまり、絶叫した。 (やはり……) そう思った俺は、やさしくストラーフを手で包み、持ち上げた。 「ごめんなさい! ごめんなさい!」 それでも、ストラーフは叫び暴れる。 「大丈夫だ! もう心配ない!」 ストラーフの叫び声に負けないくらいの大声でストラーフに言い聞かせた。 「……あ」 俺の声が主人と違うと分かったのだろうか、ストラーフは落ち着いたようだ。 「さて、少し話を聞かせてくれるといいんだが、大丈夫か?」 ストラーフはコクンとうなずいた。 「言いにくいかもしれないが、自分がどうなったか覚えてるか?」 「あたいは……捨てられた」 「そうか……理由は?」 「バトルの成績が良くなくて、性能の悪いのはいらないって」 「そうか……」 しばらくストラーフの話を聞いて分かったことは、前の主人は神姫バトルを徹底して研究していたこと。 たとえ勝ったとしても、それが当然で言葉をかけてもらったことが無いこと。 そして、神姫を道具としか見ていないこと。 俺は、無性に腹が立ったがなんとか怒りを静めた。 「いいか、昔の辛いことは忘れろ。今からこの俺がお前の主人だ」 「え?」 ストラーフがびっくりしたようにこっちを見た。 「もうバトルとか、そういうことは考えなくていいってこと」 ストラーフにニッコリと笑う俺。 「家にも、バトルが嫌いでダンス好きなのが居るからさ。紹介するよ」 そういって、ストラーフを持ち上げ家へ向かった。 家に着くまでに、ストラーフには昔のことをアールに話さないでくれと頼んでおいた。 「おかえりなさい」 家に着くとアールが出迎える。 「ただいま。えっと、この子がアール。君のお姉さんだ」 「……お姉さん」 「そう、同じ店で買ったんだ。本当の意味での姉妹ではないが、姉妹といってもいいだろう」 ストラーフを降ろすと、アールが抱きついた。 「よろしくね。マスター、この子の名前はなんですか?」 「ああ、そういやそうだな。名前を教えてくれるか?」 「名前?」 ストラーフはアールと俺を交互に見る。 「前の主人はつけてなかったのか?」 どういう主人か知っていたが聞いてみた。たぶん名前などつけていないだろう。 「はい……」 ストラーフは俯いてしまった。 「マスター」 アールも心配そうに俺を見る。 「んじゃ、せっかくだし、アールの時のように自分でつけてもらおうか」 「そうですね」 二人してストラーフのほうを見る。 「えっと……その……あたいの名前は……」 ん?と身を乗り出すアールと俺。 「アール姉さんの妹だから……アールの対になる文字……エル、あたいの名前はエル」 「そうか、エルか」 「よろしく~エルちゃん」 こうして、俺の家族が一人増えた。 「はい、こう、ワン、トゥー、スリー」 「えっと、ととと、あっ」 机の上では、アールがエルにダンスのレッスン中だ。 エルが家に来て、しばらくたった。 家に来たてのころは沈んだ表情をしがちだったエルも、いまでは明るくなりアールと一緒に踊るようになった。 俺は、そんな光景を微笑ましく思いながら、なにげなしにTVのチャンネルを変えた。 その時は、俺もアールもエルもまだ気づいていない。運命のスイッチを押したことを。 なにげない普段のニュースがしばらく流れていたかと思うと話題が変わり、中継現場の映像に切り替わる。 『はい! 私は今、大人気の”武装神姫”そのバトル大会の会場に来ています』 どうやら、神姫の話題らしい。そういえば、大きな大会の予選だか何かがあったような気がする。 俺はそんなことを思いながら、ちらっとアールとエル二人の方をみた。二人とも背中をこちらに向けてダンス中だった。 二人にとって微妙な話題だから、嫌がる素振りをしたら変えるつもりだったがそのまま見続けた。 『さて、参加者にインタビューしてみましょう。こんにちわ! あなたの神姫、強そうですね』 『もちろんです。ありとあらゆる研究をしてパーツを組み込んだんですから』 レポーターに、どこから見ても金持ちのぼっちゃま風の男が答えた。 歳は俺より下っぽいなと、見ているとアールの悲鳴が響く。 「マスター! エルちゃんが!」 あわてて机に駆け寄ると、エルが膝立ちになり、両手で耳を塞ぐようにしてガクガク振るえていた。 「どうした?! エル!」 「あ……ああ……」 俺はエルを抱き上げて優しく撫でてやる。 「マスター…」 「大丈夫か?」 「マスター、ごめんなさい」 エルが俺の手の中で謝る。 TVには以前としてあの男と神姫の映像が映し出されている。 「マスター……」 アールが俺を見ている。アールには、エルが落ちてた理由を、俺からなるべくやわらかく伝えてあった。 アールはピンときたんだろう。俺も多分同じ結果を導き出して、エルを降ろす。 「エル……あいつがそうなのか?」 「はい、あたいの前のマスターです……」 そう答えたエルにアールが抱きついてやさしく撫でている。 実際に見て、エルから前の主人の話を聞いたときの感情がふつふつと湧きあがってきた。 「なぁ、エル。お前の力であいつ、ぶっ倒してみないか?」 「え? あたいが?」 「そうだ」 「でも、あたいじゃ…」 俺はエルの頭を撫でる。 「大丈夫。こっちは俺もアールも居る。三人でがんばろうぜ」 「うん! 私はバトルってあんまり好きじゃないけど、エルちゃんの為なら協力するから」 「マスター……姉さん…あたいがんばってみるよ」 「そうだ、その意気だ。あいつに、エルを捨てたこと後悔させてやろうぜ!」 「オー!」 アールが元気よく腕を上げて叫ぶ。 「ほら、エルちゃんも」 「オー」 アールに言われてエルも腕を上げて叫んだ。 「ただいま~。お~い買ってきたぞ~」 「おかえりなさいマスター」 「おかえり~マスター」 玄関まで出迎えた二人を抱き上げる。 「これがそう?」 エルが俺の足元に置かれた箱を見る。 「中古品だけどな」 ヴァーチャルバトルのインターフェイスを買いにいったのだが、新品は想像以上に高かったので型落ちの中古を買った。 「よし、それじゃあ早速使ってみるか。アールはサポートたのむ」 「はい」 自室に持ち込んでパソコンに接続した。 「よし。じゃあエルの武装するか」 「お願いします」 武装し終わるとエルの様子が変だ。 呼んでも返事しないし、動かない。 「エル?」 かるくつついてみると、やっと反応があった。 「よぉぉし! バトルだぜぇ!」 「え? エル?」 「おうよ! おもいっきりいくからたのむぜ!」 性格かわってるよなとか思いながらもインターフェイスに接続した。 それからが大変だった。 「突っ込みすぎた! 距離をとって!」 「マスター、右足負傷しました」 「直線でかわすと相手に読まれる」 「射撃は正確に、煙で相手を見失う!」 「右サブアーム可動不能になりました」 アールが現状を分析しながら俺が指示を出しているが、かなり苦戦していた。 ボロボロになりながらも、どうにか相手を倒して接続を切った。 「いやぁ、失敗失敗。ひさしぶりだから熱くなりすぎたぜ。はははっ」 ヴァーチャルバトルから戻ったエルはそう言いながらも、勝てたことに喜びを感じているようだ。 武装をはずすと、エルの性格が戻る。 「マスター、ごめんなさい。あたい、うまく戦えなかった……」 「いや、それはいいけどさ。性格かわってたよな」 「うまく言えないけど、武装をつけると、変なんだ」 「変?」 「うん、なんか戦うぞ~って感じになってああなるみたい」 「そっか、まぁなれればいいと思うよ」 「うん、あたいがんばるよ」 それから、猛特訓が始まった。俺の居ない昼間はアールとダンス練習、アールが操作するヴァーチャルバトル特訓。 ダンス練習は、アールがいままでも教えていて続けた方がいいといったからだ。 俺が帰ると、俺が指示を出してヴァーチャルバトルという生活を繰り返していた。 さらに幾日か過ぎた。 エルのヴァーチャルバトルもレベルもどんどん上がっていき、複数の敵とも対等に戦えるようになっていていた。 俺は、夜食を買いにコンビニへと向かっていた。アールも一緒だ。 エルは、昼間の特訓が激しくて、AIを休めるためにスリープモードに入っている。 「アールごめんな、しばらくかまってやれなくて」 「ううん、いいんです。私もエルちゃんにダンス教えるの楽しいですし」 歩きながらそんな話をしていたが、アールの顔はやはり寂しげだった。 「アール」 俺は立ち止まり、アールのほうを向く。 「はい?」 アールもこっちを向く。 「こんなことで埋め合わせっていうのも、何なんだけどさ……」 俺はアールをやさしく掴む。 「じっとしてて」 「はい……」 アールのヘッドギアを外すと、アールと初めてのキスをした。 そして、二人して顔を赤らめて、買い物をして家へ帰っていった 戻る 次へ
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ページの最後にエンドマークを打つ。 「・・・どーぉにか間に合ったか。」 例によってまた徹夜。窓から差し込むのは黄色い日差し。 軋む体を思い切り伸ばした。 ごきっ 「おほ、いい音♪」 「・・・『いい音』じゃねぇだろ。アホか。」 可愛らしいが、なんともガラの悪い声が背後から聞こえた。 誰かは知っているので、あえてそちらを見ずに返す。 「起きてたのかジュリ。」 「あぁ?あんだけ近くで負のオーラじゃんじゃか撒かれてンのに、暢気にぐーすか寝てられっか。死なすぞボケ。」 本心かどうかは別として、どこでそんな言葉遣い覚えて来るんだかなコイツは・・・ 思いながら振り向けば、足元に15センチほどの女性型の人形。・・・いわゆる『武装神姫』が仁王立ちしていた。 彼女の名は『ジュリ』。本当は『ジュリエット』にしたかったのだが、ジュリ曰く「サムライの名前じゃねぇだろ。少しは脳使えナス」ってんだからまぁ仕方ない。 大して変わらんと思うんだが。 一応は侍型と言うだけあって、黙って立ってればキリリとした和風美人だ。 黙って立ってれば、な。 「・・・なんか今失礼なこと考えなかったかコラ?」 「なんも言ってねぇだろうが。にゃー共はどうした?」 「『修羅場中の慎の字は教育上悪いから』って浩子姐さんが連れてったよ。パットとアイリも一緒だ。」 「・・・・・・お前も教育上どーかと思うけどな。」 ぼそっと言ったらすげぇ目で睨まれた。地獄耳め。 「とりあえず浩子サン起こしてきてくれ。原稿上がったって。」 「ん。慎の字は?」 「飯作ってくる。どーせにゃー共も一緒だろ。あいつらの分も用意せにゃならんしな。」 「わかった。・・・あんま無理すんなよ?」 ホンの一瞬、気遣わしげな表情を浮かべたジュリに気付かないフリをして手を振る。 ついこないだ風邪でぶっ倒れた時の事は、まだ記憶に新しいのだろうか。 えらい心配かけた気はするが、治った翌朝蹴りが飛んできたので、まぁチャラだ。 台所で包丁握って十数分後。 「あー。いいにおーい。」 「にゃー」 「にゃー」 「にゃー」 亡者が4匹現れた。 「居間で待ってろよお前らー。もうすぐ出来っから。」 「えー。お腹空いたよー。我慢できないよー。ねー?」 「「「にゃー」」」 「・・・まぁなんでもいいから頭直してこいよ浩子サン。ぐしゃぐしゃだぞ」 「えー。めんどーい。」 この目の前で寝癖満点の頭したお姉さんは『緋上浩子』サン。俺の担当編集者で、美人で子供の頃からの近所の幼馴染で年上で未婚。 表ではデキる女を自称するだけあって、切れ者に見えるが・・・ ご覧の通り、素はえらい子供じみていて、かつ寝起きは悪い。 彼女の腕の中にもまた小さな人影がみっつ。 猫型神姫の三つ子だ。 名前は『ノゾミ』『カナエ』『タマエ』。付けたのは浩子サン。 区別がつかんのでそれぞれの腹にそれぞれの名前を書いてある。 浩子サンには「神姫虐待よっっ!」とか言われたが、当人達はむしろ気に入ってるらしいので問題はない。 「にゃー」 「にゃー?」 「にゃー!」 「「「にゃー♪」」」 別にこいつらはわざとこう話してるワケじゃない。「にゃー」としか言えないのだそうだ。 詳しいところはよく解らなかったが、どうも俺が拾う前のマスターに変な改造を施されたとかなんとか。 実はこう見えて、かなり頭が回るので侮れない。 ウチにある本を、俺の趣味のラノベから参考程度にナナメ読みで放置してた学術書まで片っ端から読破しやがった。 おかげで偶に辞書代わりに活躍してくれる。 「・・・あぁあ、こちらにいらしたのですかぁ。家中探し回ってしまいましたよぅ。」 よたよたと更に一匹追加。 「あ、ごめんねパトリシアちゃーん。寝てたから起こすのも悪いと思ってー。」 「・・・だったらせめて居間まで運んでやれ。三匹も四匹も手間は変わらんだろうが。」 ふらふらとへたり込んだのは、天使型神姫。名を『パトリシア』。 初期不良品で、空間認識に欠陥があるらしく、ぶっちゃけ空を飛べない。 「はふぅ・・・大家さぁん。疲れましたぁ。」 「大家言うな。どんだけ迷ってたんだお前。」 「えぇとえぇと・・・」 「いいから居間に行って待ってろ。」 「はぁいぃ。」 「っていきなり逆だ!そっち玄関!」 しかも方向音痴のオマケつきと来た。 我が家は祖父譲りの平屋建て。実質住んでる人間は俺一人だというのに、多分3~4人でもちと広い。 そのせいか、よく迷ってへたり込んでいるのを見かける。 まぁ、人間じゃないとはいえ住人もそこそこいるから、大事になったことは無いけどな。 もっとも、そのおかげでウチは一部で『神姫長屋』とかあんま有難くない渾名で呼ばれてるそうだが。 「ほら浩子さんも。あいつ一人じゃ心配だ。」 「はーい。じゃ、行こっか」 「「「にゃー☆」」」 猫どもめ。流石に名付け親相手だと素直に言うこと聞きやがる。 更に数分。いい感じに魚が焼けてきたところでどたどたと足音が・・・ だんっ! 「ご隠居おぉおおっっ!!」 誰がご隠居だ誰が。 駆け込んできたのは我が家の神姫6匹目。砲台型神姫の『アイリーン』。 「ご隠居はやめれっつってんだろーが。毎度毎度家壊す気かお前は。」 「知るかっ!それよかジュリ姉どこっ!」 何故か怒っていて何故か完全武装してて何故か鼻の下に綺麗なカールのドジョウヒゲ(@マジック描き)。 バイザー降ろしてるから解らんが、恐らく額にはえらく達筆な『中』の一文字(@マジック描き)があるんだろう。 また寝てる隙に悪戯されたのか。 アイリが怒りに任せてばっしんばっしん柱を叩く度に、冗談抜きで家が軋む。 どうもコイツは腕力にリミッターがかかっておらず、危険視されて廃棄処分となったところを逃げてきたらしい。 元は闇バトルに出ていたとか言ってたが、どこまで本当なのだか・・・ 「あー。ジュリのあほたれだったら・・・」 やれやれ。一仕事終わったというのに・・・寝るのはしばらく後になりそうだ。 あ?あぁ失礼。申し遅れた。 俺の名前は『都竹慎之介』。 デタラメに嘘くさいが本名だ。物書きをやっている。 頭に「売れない」って冠詞が付くのが、まぁアレだが。 まぁそんな感じで、今日も長屋住まいの連中との騒がしい日常が続いていくのだ。 正直、疲れるけどな。
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前へ 先頭ページへ 朝。 朝が来た。 マスター風に言うならば清々しい朝。もしくは、爽やかな朝。 とにかく、私は内蔵された自動起動機能によって目を覚ました。 起きたからにはやる事がある。 ベッドであるクレイドルから上体を起こしての状況確認。 玄関―――朝刊が届いているのを確認、鍵もチェーンもかかったまま。異常無し 窓―――カーテンの隙間から天気を確認。予報通り快晴。鍵も閉まっている。異常無し。 ちゃぶ台―――マスターの財布を確認。休止前との異常は検出されず。異常無し。 ベッド―――マスターが眠っている、今のところ異常無し。 時刻―――現時刻、午前7時30分。講義開始が午前9時30分。マスターの行動予想。このまま起こさない場合の起床時間、9時。 行動、開始。 私はぴょいん、とクレイドルから飛び降りる。クレイドルはマスターのベッドの枕元に置いてあり、飛び降りた先はマスターの顔の直ぐそばだ。 何時もは気難しげな表情をしているが、この時だけはいつも穏やかだ。まるで死んでるみたい。 ……心なしかマスターに睨まれた気がする。次は潰されそうだから本来の仕事に移るとしよう。 ベッドの隅に立てかけられた30cmの鋼尺、それを両手で抱えるように持つ。 人間からしたらそれ程でもない重量だろうが、神姫である私からしたら結構な重量を感じるそれを、肩に担ぐように構える。 そして、腰を軸に上体を回転させる。 「―――ッ!」 ばこん、という音と共にマスターが飛び起きた。 頭を押さえて涙目でこちらを見ている。 その視線を受けながら、私はこう言うのだ。 「おはようございます、マスター。今日も良い天気ですよ」 それが私の日課。 武装神姫、ナルの一日の始まりなのだ。 今日も今日とて大学へ向かうマスター。 そしてマスターの胸ポケットの中に納まる私。 マスターが一歩歩くごとに身体が数cm程上下する。 これが人間換算だった場合、人は酷く酔ってしまうと聞いた事がある。 全てを人間に準じて作られた私がそうならないのは機械的に制御が成されているからか、それとも個体差なのだろうか。 そんな事を考えていると、空が翳った。 「……ハトか。珍しい」 マスターが呟いた。 人には聞こえそうもない小さな呟き。しかし、私の耳はそれを捉えた。 それは私の聴覚が人間よりも優れているという点もあるが、マスターの身体から声の震動が伝わったというのもある。 「このご時世、こんなところで鳩を見れるとは思いませんでした」 私は率直な感想を言った。 私に内蔵されている基本データの鳩に関する項には2036年現在、鳩の生息数が激減しており、絶滅危惧種一歩手前であると記されている。 そして、日本で野生の鳩が生息しているのは浅草だけだとも記されている。 ここは浅草から少し距離がある。飼われた鳩にしろ野生にしろ、少々貴重な体験だと言えた。 「餓鬼の頃はそこそこ見かけたんだがなぁ」 そう言うと、マスターは空を仰いだ。 その表情を窺い知ることは出来ないが、きっと私の知らない遠くを見ているのだろう。 私がマスターと出会ってもう5年になる。 この5年間、色々な事があった。 だけど、まだ私はマスターの全てを知っている訳ではない。 マスターが見たもの、マスターが感じたもの、マスターが知ったもの。 私が知らない、マスターの要素。 マスターという人間を構成するピース。 それを、私も共有する事が出来るのだろうか。 「……暇があったら実家にハト探しに行くか」 さっきよりも小さな声、だけど、はっきりとした声でマスターが言った。 その視線は真っ直ぐ前を向いている。 だけど、私にはその先にあるものがわかる気がした。 「楽しみです」 大学は、目と鼻の先だった。 今日の講義は一限から五眼までフルに入っている。 一限目は工業数学。マスターが最も苦手とする教科で、マスターは今にも死にそうな顔をしている。 私はというと、教室の机の上にぺたりと座り、周囲を伺っている。 この教室はそれほど広くは無く、人と人が接触しやすい。周囲を見れば3,4人のグループで固まってるのが殆どで、一人で難しそうな顔をしているマスターは少し浮いている。 元々人づき合いが良い方では無いので、大学内の友人は研究室の方くらいしか見た事が無い。 他愛無い雑談のざわめきの中、マスターは一人教科書を睨んでいる。 少しでも頭に入れておかないと刺されたときマズイそうだ。 暫くして、教授が現れた。その瞬間に水を打った様に静まり返る様は何時見ても面白い。 講義が始まった。 教授は説明を交えながら黒板にチョークを滑らせている。生徒はと言えば、黒板の例題や問題を写し、それを解く為に頭を絞っている。 無論、マスターもその一人だ。 シャーペンをくるくる回しながら、左手で頬杖をしている。その眼はノートに突き刺さっており、とても鋭く、険しい。 暫く微動だにしなかったマスターだが、目だけが動いた。 その先にいるのは、私だ。マスターの言わんとする事は手に取るように分かる。 確かに私は機械の類だ。計算は得意中の得意。朝飯前だ。 しかし、だ。 「マスター、こういうのは自力でやらねば意味がありませんよ?」 マスターは苦虫を噛み潰した様な表情をし、再びノートを睨んだ。 何事も経験ですよ、マスター。 講義を終えたマスターは随分と憔悴している様に見える。 覇気が無いというか、精気が無いというか。とにかく元気がない。 マスターの胸ポケットの中で揺られながら私はそう思った。 しかし、それも仕方ないのかもしれない。 その理由は次の講義がマスターの苦手科目No.2、文章演習だからだろう。 この講義、平たく言えば作文の講義なのだが、マスターは文字を書くとか本を読むとかそういう類の事が大の苦手なのだ。 レポートにおいてもそれは健在で、毎回必ず再提出の烙印を押されている。 そういう訳でマスターはこの講義が苦手という訳だ。 重々しい足取りで教室移動をするマスターは、さながら亡者だ。 瞬間、身体に衝撃が走った。突然の事だが、頭は冷静に動いている。 とりあえず、私の身体は空中にある。身体は一回転していて、頭から真っ逆様に落ちる格好だ。 とりあえず状況を確認すると、マスターが尻餅をついていて、その上に人が覆いかぶさっている。 マスターは後頭部を押さえていて、覆いかぶさってる人間はぐったりとしているのが上下逆さまに見える。 「…わわっ、大丈夫ですか~!」 何ともマヌケな声が聞こえてきた。 その声の主はマスターに覆いかぶっている人間だ。 「いいから、どいてくれ」 マスターが不機嫌そうに言った。それを聞いたその人はあたふたしながらやたら危なっかしくマスターの上からどいた。 それは女の人だった。 そして、床と私の距離はもう無い。ぶつかる。 何時もなら直ぐに体制を立て直す事が出来るのに、反応が遅れた。どうしよう、とか思ってたら、 「……ゎっ」 思わず変な声が出た。それは身体に慣性の力が働いた事による反作用だ。 視界は未だ上下逆転したままだ。前髪が床についている 足首を見ると、誰かに掴まれている。 白い手、白い腕、白い身体、白い髪。 「……ストラーフ?」 思わず疑問が口に出た。だって、そこにいたのは白い神姫。 白い神姫と言えばアーンヴァルな訳だけど、その顔はどう見たって私と同じ顔。ストラーフなのだから。 しかし、このストラーフ無表情である。目が合っているのにあちらさんは瞬き一つしないで私をじっと見ているのだ。 なんて事考えていたら、彼女は唐突に私の足首から手を放した。 手を付いて一瞬逆立ちの体勢、今度は身体全体を使ってくるっと周る。よし、上下正常な世界だ。 私は改めてストラーフを見た。私は量産機なので私と同じ顔を見るのは少なくない。その中には様々なカラーバリエーションのストラーフがいたが、ここまでまっ白いストラーフは初めて見た。 「わ、私ぼー、としてて、その、あの……」 頭上からマヌケな声が降ってくる。その声の主はマスターに対し平謝りだ。 「……今度から気を付けてくれ」 マスターはバツが悪そうに言うと、私を拾い上げた。 「大丈夫か?」 「あのストラーフのお陰で」 私はマスターの手の中、視線をあのストラーフへと向けた。 そのストラーフはマヌケな女の人に抱きかかえられている。 マスターの逡巡する気配が漂った。 「……名前を聞いても良いかな?」 その視線はマヌケな女に人に向けられている。 当の本人は、一瞬ポカーンとした後、金魚みたいに口をパクパクさせている。 かと思えば大きく深呼吸をし始めた。3度深呼吸をした彼女はようやく口を開いた。 「えと、その、わた……私、環境心理学科の、君島、です」 まるで息も絶え絶え、死にそうな様子で君島さんとやらは言った。 「それで、この子は、アリスって、言います」 そういって胸に抱える白いストラーフ、アリスを一瞥した。 しかし、このアリスとやら、マスターである君島さんと違い本当に無表情だ。 「僕は倉内 恵太郎。君島さんと同じ環境心理科です」 マスター自慢の猫被りが発動した。さっきまでの不機嫌ぷりは何処へやら、今は完璧な爽やか系好青年だ。 「この子はナル」 「どうも」 私は軽く会釈した。 「アリスちゃん、僕のナルを助けてくれてありがとう」 マスターの言葉を無表情で受け止めるアリス。それに対して君島さんはやたらおどおどしている。ここまで来ると面白い。 「……いい」 アリスがようやく口を開いた。にしても驚くほど無機質な反応だ。……CSC入ってないんじゃないだろうか。 その時である、場違いな声が響いたのは。 「おはよう! けーくん!」 どっから顕れたのか、孝也さんがマスター目掛けて飛び付いてきた。 「おはよう……っと!」 そしてマスターは孝也さんの顔面に右フックを叩き込んだ。 孝也さんは派手な音と「ぐべぇ」みたいな呻き声を上げてゴミ箱に突っ込んじゃった。 「ふぇ?…え? え?」 案の定、君島さんが目を白黒させている。 「ああ、いつもの事ですよ」 マスターは相も変わらず爽やかを装っている。 「そう、僕とけーくんのスキンシップは何時でも過激なんだ……」 何時の間にやら孝也さんがマスターの傍らに寄り添っている。相変わらず復活が早い。 「そ、そう、なんですか」 駄目だ、完全に怯えている。 「マスター」 「……じゃあ、次の講義がありますんで僕はこれで」 私の言わんとする事が伝わったようだ。 マスターは孝也さんの首を鷲掴むと、笑顔で歩き始めた。 「ところでけーくん、今の人は? ……けーくん、首が痛いよ~。……けーくん、絞まってる! 何か凄い締まってるよ!? 何! 僕が何かした!? 嫌だ! 離して! 話せば解る!……アーーーッ!」 残された君島は暫し茫然としていた。 まるで嵐のような出来事に頭の処理が着いて行っていないのだ。 「……ましろ」 「ふゃいっ!?」 普段は全くの無口&無表情なアリスが君島を、君島ましろの名を呼んだ。 その事に君島は飛び上るほど驚いた。自分の神姫なのに。 「……紅」 一言。言葉ではなく単語。 アリスのその短い説明でも、君島はすぐに理解出来た。 「あ、あの人が、そう、なの?」 口調は変わらない。しかし、その目の鋭さは先ほどまでの少女とは到底思えない鋭さだ。 その鋭い視線を恵太郎が去って行った方向へと投げかける。 見えない何かを見るように、見えない何かを値踏みするように。 「じ、じゃあ、やっつけなきゃ、あの人」 まるで近くのコンビニに買い物に行くような気軽さ。 反して、命を賭けた血戦に赴くような切迫さ。 奇妙で歪んだその少女の名は君島ましろ。 ましろを知る人間は彼女をこう呼ぶ。 白の女王、と。 先頭ページへ 次へ
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第1部 戦闘機型MMS「飛鳥」の航跡 第7話 「轟兎」 ガチャガチャと武装をカチ鳴らせながら、何十体かの完全武装の武装神姫たちが砂地を歩く。 チーム名 「定期便撃沈チーム」 □犬型MMS 「クレオ」 Bクラス オーナー名「池田 勇人」♂ 22歳 職業 商社営業マン □天使型MMS 「ランジェ」 Aクラス オーナー名「大村 清一」♂ 25歳 職業 SE □イルカ型MMS 「ルーティ」 Bクラス オーナー名「川崎 克」♂ 19歳 職業 大学生 □エレキギター型MMS 「トリス」 Bクラス オーナー名「島本 雅」♀ 21歳 職業 フリーカメラマン □ヘルハウンド型MMS 「バトラ」 Bクラス オーナー名「合田 和仁」♂ 15歳 職業 高校生 □戦乙女型MMS 「オードリ」 Sクラス 二つ名 「聖白騎士」 オーナー名「斉藤 創」♂ 15歳 職業 高校生 □忍者型MMS 「シオン」 Aクラス オーナー名「佐藤 信二」♂ 19歳 職業 専門学校生 □サンタ型MMS 「エリザ」 Bクラス オーナー名「橋本 真由」♀ 17歳 職業 高校生 □騎士型MMS 「ライラ」 Aクラス オーナー名「橘田 和子」♀ 16歳 職業 高校生 □マニューバトライク型MMS 「ミシェル」 Sクラス 二つ名 「パワーアーム」 オーナー名「内野 千春」♀ 21歳 職業 大学生 □天使コマンド型MMS 「ミオン」 Bクラス オーナー名「秋山 紀子」♀ 16歳 職業 高校生 □フェレット型MMS 「スズカ」 Bクラス オーナー名「秋山 浩太」♂ 19歳 職業 専門学校生 □ウサギ型MMS 「アティス」 Sクラス 二つ名 「シュペルラビット」 オーナー名「野中 一平」♂ 20歳 職業 大学生 □蝶型MMS 「パンナ」 Bクラス オーナー名「田中 健介」♂ 19歳 職業 高校生 □剣士型MMS 「ルナ」 Aクラス オーナー名「吉田 重行」♂ 28歳 職業 電気整備師 □ハイスピードトライク型 「アキミス」 Bクラス オーナー名「狭山 健太」♂ 19歳 職業 大学生 松本「けっこう集まったな」 ヴァリアのオーナの松本は満足そうな顔をする。 大村がけげんな顔をする。 大村「相手は重装甲戦艦型神姫だって?大丈夫かな?」 ランジェがつぶやく。 ランジェ「やってみなければわからないでしょう・・・これだけ神姫が揃っているんです。負けることはないですが・・・相手も襲撃は予想しているはず、まともに戦うと、ものすごい損害が出ますよ」 忍者型のシオンが首をかしげる。 シオン「戦艦型神姫ってそんなに強いのですか?私は戦ったことがないので分かりません」 ルナ「私もないですね」 パンナ「私もだけど?」 アミキス「・・・・・・ちょっと、この中で戦艦型神姫と戦ったことある人」 誰も手を上げない。 スズカ「ネットの動画や画像で見たことあるけど、実際には戦ったことないです」 エリザ「大丈夫大丈夫ーたった1機でしょ?」 ライラ「大丈夫だよね?マスター?」 ライラの問いに橘田は一瞬、目をそらしそして、にっこりと笑った。 橘田「大丈夫、みんなでがんばれば勝てるよ」 ライラ「そうか!!わかった!!頑張るね!マスター」 橘田「・・・・・・・」 マスターが神姫に嘘をつく。 橘田は戦艦型神姫の恐ろしさ、強さを知っている。本当のことを言わない。 なぜか? 答えは簡単。神姫がびびるから・・・弱った戦艦型神姫、1隻、数十体の神姫で取り囲んで集中砲火を浴びせれば倒せないことはない、ただ、こちらもそれ相応の被害はこうむる。 橘田は、多少の損害はやむを得ず、何も知らない無垢な神姫たちに戦わせることにしたのだ。 バトラ「戦艦型神姫かー図体ばかりでかいだけの神姫だろ?」 ミシェル「・・・・どうでしょうか?とにかくあの強力な大砲の攻撃を回避しないと・・・」 オードリ「大丈夫です!動けないのでありましょう?問題ないです」 武装神姫たちはまったく何の警戒もせずにスーザンに近づいていった。 スーザンがレーダーで数十体の神姫が接近してくることを察知する。 スーザン「敵神姫接近中!なんだ?こいつら素人か?まっすぐこっちに来るぞ」 西野「連中、もう勝った気でいやがる」 スーザン「そうらしいですね・・・では、教育してやるか!」 西野「戦闘用意っ!!照準はこちらに任せろ、予測射撃だ!!」 スーザンの主砲が鈍い音を立てて旋回する。 西野「2連装ヘヴィ・ターボレーザー砲、出力70%!残りは電磁シールドに廻せ」 スーザン「復唱、2連装ヘヴィ・ターボレーザー砲、出力70%!残りは電磁シールドに廻します」 西野「VLSスタンダートミサイル発射用意ッー目標はこことここだ」 西野が筐体のタッチパネルを押して座標を指示する。 スーザン「装填よし」 西野「派手にいこうぜ、スーザン・・・・・・目標、敵MMS集団ッ!!主砲3斉射ッ!!!ファイヤッ!!!!」 スーザン「ファイヤッ!!!」 ズドズドム ズドドム ズドゴンッ!! ヘヴィ・ターボレーザー砲が轟音を轟かせ主砲から吹き上がる青白い発砲炎が灰色の巨体を鮮やかに浮かび上がらす。 ルーティ「んー?」 チカチカッと水平線の向こうから何かが光った。 川崎「どうした?ルーテ・・・・」 亜光速で放たれた強烈なレーザーキャノンの光が神姫たちを青白く照らす。 なぜ青白く光るのか理解できなかった。 光のほうがさきに届き、強力なレーザー本体が後から少し遅れて届くことを知ったのは、しこたま砲撃を喰らったあとだった。 クレオは眼を見開いた。 今まで喰らった一番強力な攻撃は天使型神姫 アーンヴァルのGEモデルLC3レーザーライフルの必殺攻撃「ハイパーブラスト」だった でも今、クレオの全身を青く照らしているこの光は「ハイパーブラスト」の数倍強い光で、しかも周りにいるみんな全員が青い光で包まれている。 このことの意味がどういうことか?理解は出来たが体が動かない 恐怖で動かすことが出来ないのだ 開いた口がふさがらない。 ドッガーーーン!!キュドン!!ズドッドドム!!ボッガアアーーーン!! 神姫たちの頭上に鉄槌のごとく降り注ぐ強力なレーザーの炸裂と周辺に巻き上がる青い灼熱の炎が容赦なく襲う。 トリス「うああ!!せ、戦艦型神姫の艦砲射撃だあ!!!」 佐藤「ど、どこから撃ってきているんだ!?」 大村「ランジェ!!何をしている反撃だ!!撃ち返せ!!」 キュウウウン ドンドゴオオッム!!! 突然の強力なレーザー砲撃に神姫たちはパニック状態に陥り、逃げ惑う。 ランジェ「むちゃくちゃ言わないで!!こんな状況で反撃でき・・・あ!!!」 ゾドッムゴーーーン!!!ドドム!!! ルーティがいる辺り一面は青い炎で埋め尽くされていた。 スーザンの主砲の直撃を食らって、バラバラに吹き飛ばされるルーティ。 □イルカ型MMS 「ルーティ」Bクラス 撃破 テロップが画面に踊る。 大村「うわああああああああああ!!ルーティ!!」 ぼとぼとと焼き焦げたルーティの残骸がバトラの上に降り注ぐ。 バトラ「ヒイイイイ!!」 スズカの顔面にルーティの粉々になった頭部がボトリと堕ちる。 「う・・・うえええ・・オエエエエ」 スズカは気分が悪くなりうずくまって嘔吐した。 島本「散開しろ!!一箇所にまとまっていると危険だ!!! 橋本「だ、駄目!離れ離れになると各個撃破される!!」 ライラ「わあああああ!!」 パニックに陥り、逃げ惑う神姫たち。 スーザン「命中!!命中!!」 西野「黒煙だ・・・命中したな・・・相手の神姫は即死かな?」 スーザン「連続射撃により砲身温度上昇中」 西野「交互撃ちに変更。撃て」 スーザン「ファイヤー!!!」 ズッズウウン 青白い噴煙が放出され強力なレーザーが発射される。発射された強力なレーザーはまっすぐ一直線に伸びていき神姫たちの集団のド真ん中に着弾 周辺にいた神姫を爆風で吹き飛ばす。 ドドム、ズヅッヅウーーン バウム スーザンは砲撃をまったく休めない。遠距離から強烈なレーザー砲撃を行い続ける。 レーザー管制とマスターからの的確な砲撃指示でメッタ撃ちにする。 これが多数の強力な火砲を有する戦艦型神姫の戦い方である。 そんな戦艦型神姫に何の策もなく、真正面から戦うことは自殺行為に近い。 アティス「みんな回避してください!!直撃を食らうと一撃で粉々に撃ち砕かれます!」 アティスは機動性に優れたウサギ型神姫だ。持ち前のフットワークで巧みに砲撃を回避する。 スーザン「!?何機か砲撃をすり抜けてきます!」 バッと砂埃を立てて、砲撃を掻い潜って数機の神姫がスーザンに急接近する。 戦乙女型MMS「オードリ」とサンタ型MMS「エリザ」マニューバトライク型MMS「ミシェル」ハイスピードトライク型 「アキミス」はジグザグに動き回って砲撃をよける。 エリザ「はははーこんなのおちゃのこさいさいだよ!」 オードリ「接近して取り付けば、あの図体です。なにも出来ません!!」 スーザン「ッチ!!接近されるとまずいな・・」 西野「VLSスタンダートミサイル発射、迎撃しろ」 スーザン「VLSスタンダートミサイル発射ッ!!!!!!」 ドシュドシュウオオオンン・・・・ 垂直にスーザンの右舷と左舷から中型のミサイルが8発、発射される。 狭山 「ミサイルッ!?アキミス!!回避しろ!」 アキミス「こなくそ!!」 アキミスはトライクモードになり、ミサイルを急旋回で回避する。 エリザは急上昇して回避。他の神姫たちも散りじりになって回避する。 スーザン「ミサイル、全弾不発!!」 西野「!!スーザン!!後方より敵神姫!!」 スーザンの後ろに回り込んだ忍者型MMS「シオン」が鎌をトマホークの様に投げつけた。 シオン「はああ!!」 西野「副砲放て」 鋭く命令しながらピッと手を振る西野。 ズズズンッ!! スーザンの後部ブロックにある2連装ターボレーザー・キャノンが1門、火を放つと同時にシオンの放った鎌を打ち落とす。 シオンはものともせず、バッとスーザンに飛び掛る。 シオン「取り付いてしまえば!!その砲塔は自分に向けて撃てまい!!」 佐藤はハッとスーザンの武装に気が付く。 佐藤「よせええ!!!シオン!!!そいつはSマイン付きだ!」 スーザンは後部からポオオンと小さな筒状の物体を打ち上げる。 シオン「え・・・・」 スーザン「バカめッ蜂の巣にしてやる」 S-マイン(S-mine,Schrapnellmine:榴散弾地雷)とは100年前に第二次世界大戦でドイツ軍が使用していた対人地雷の一つを神姫サイズにした武装である。 爆薬により空中へ飛び出して炸裂する、跳躍地雷(空中炸裂型地雷)の一種で、爆発すると320~350個の極小鉄球を半径約1mの範囲に高速度で飛散させることによって軽量級の神姫を殺傷する。 鈍重な戦艦型神姫は肉薄された神姫に、このような古典的な近接防御兵器で対抗した。 ドジャーーーン!!パンパッパパアン・・・ シオンの体を無数の極小の鉄球(ボールペン球)がつら抜いた。 至近距離でまともに喰らったシオンは蓮花弁のように小さなブツブツの穴だらけになってそのままピクリとも動かずに醜い屍を晒した。 □忍者型MMS 「シオン」 Aクラス 撃破 佐藤「シオンッ!!!うわああ!!」 佐藤はボロ雑巾のようになったシオンを見て絶叫する。 ぐちゃぐちゃになったシオンの残骸を見てエリザの顔から笑みが消えた。 エリザ「あ・・・いやあ・・・あああ・・」 橋本「エリザ!!!動け!!止まるな!!あ・・・」 スーザンの副砲がエリザをぴったりと照準につける。 副砲とは軍艦の備える大砲の一。主砲の補助として使用する中・小口径のもの。 ただし主砲に劣るとはいっても巨大な戦艦型神姫の副砲の威力は並みの神姫ですら、一発で粉砕するほどの口威力を有する。 スーザンは主砲の全砲門を、主力の神姫部隊に向けて砲撃し続けて、周りをうろちょろ飛び回る神姫を追い払ったり撃破するために副砲を持っていた。 西野「右舷にいるあのマヌケなツガルを叩き落せ。 スーザン「了解」 ズドオン!! エリザに向かって一直線に向かっていくレーザー弾。 マニューバトライク型MMS 「ミシェル」が叫ぶ。 ミシェル「エリザ!!」 ぐりっと強化アームでエリザの足を掴み、引き寄せる。 ズバッババンン!! 間一髪、エリザのいたところにレーザーが着弾しエリザは一命を取り留める。 ボーと口を半開きにしたまま、固まるエリザ。 ミシェル「エリザ!!!しっかりしなさい」 内野「あー、こりゃシェルショック状態に入っているわね」 ミシェル「シェルショック!?」 内野「砲弾神経症よ、友人たちの手足が一瞬にして吹き千切れるのを見、閉じ込められ孤立無援状態におかれたり、一瞬にして吹き飛ばされ殺されるという恐怖から気を緩める暇もないという状況で、感情が麻痺し、無言、無反応になるのよ」 ミシェル「・・・・・・詳しいんですね、オーナー・・・」 内野「まあ、戦艦型神姫と初めて戦った神姫はみんなこうなるわね」 ミシェル「・・・・・・・黙っていたんですね・・戦艦型神姫が強いってことを・・・」 内野は肩をすくめる。 内野「だって、戦艦型神姫がめちゃくちゃ強いっていったら、あんたたちビビって逃げるでしょう?」 にやーーーと冷たく笑う内野。 エリザ「あ・・・ああ・・・あうあうあ・・・」 ミシェルはぎゅっとエリザを抱きしめる。 ミシェル「私たちは逃げたりなんかしない!!」 凛と言い放つミシェル。 ズドドドドオン!! スーザンの主砲を喰らってバラバラに砕かれる犬型神姫。 □犬型MMS 「クレオ」 Bクラス 撃破 ミシェル「クレオが!!」 スーザン「命中!!命中!!」 西野「ふん、雑兵どもが!!あの這いつくばっている神姫を狙え、低く狙え、地面ごと抉り飛ばせ!!」 ライラはうっすらと眼を開ける。 地獄だった・・・バラバラに吹き飛ばされたルーティだったものの残骸がブスブスと音を立てて散らばり、地面は艦砲射撃で穴だらけ、さきほどの砲撃でクレオは吹き飛んで焼き焦げた何かがバラバラと地面に落ちてくる。 両足を失った天使型MMSの「ランジェ」が獣のような声で啼いている。 ランジェ「ギゃアアアアアアアアアアアアッ!あ・・・ああ・・・アアアーー・・・うあああああああああ」 バタバタと地面をのたうち回るランジェ。 それを呆然と見ているヘルハウンド型MMSの「バトラ」。半開きになった口元からは涎が垂れている。 バトラ「・・・あ・・・うあ・・・・・」 エレキギター型MMSは「トリス」は、爆風でちぎれ飛んだ自分の右腕を左手に持ってうろつく。 トリス「手が・・・手がァ・・・ああ・・・取れた・・・手が・・・」 フェレット型MMSの「スズカ」は嘔吐し続けて、地面にうずくまって動こうとしない。 スズカ「うおおおお・・おええ・・むぐ・・・おえええ」 ボチャボチャと粘質を含んだ油の塊がぶちまけられる。 その光景を見て、ライラは確信した。 自分たちは囮に使われたのだと、真正面から戦艦型神姫の強烈な艦砲射撃について何も知らされずに、ノコノコと前に出てきたのは、ミシェルたちを突破するための支援に使うための囮だってことに・・・ ライラはマスターを呼び出す。 ライラ「マスター!?マスター!!?」 橘田「どうしたのライラ?」 ライラ「・・・仲間が・・・やられました・・これ以上の戦闘は不能です」 チカチカっとまた青い光が光る。 ドズウウオオン!! 地面を抉り飛ばしてランジェがぐちゃぐちゃになって飛び散る。 □天使型MMS 「ランジェ」撃破 ライラ「・・・・・どうして、黙っていたのですか?」 橘田「大丈夫、みんなでがんばれば勝てるよっていったよね?そういうこと」 ライラ「・・・囮にしましたね」 橘田「大事なのは勝つことだから。僕に言わせれば、 勝利に犠牲はつきものですよ。ってテニプリの聖ルドルフ 観月さまも言ってるよーライラも賛同していたじゃない」 ライラははっと思いだす。 そういえばそんなことを橘田と一緒にテレビのアニメで見ていたような気が・・・ 橘田「でしょ?やっぱりさーそういうことは、実戦してみないとさーほら・・・マンガと実際は違うっていうし、行動しないとさ・・・言葉にも重みって出てこないし」 ライラは呆然と立ち尽くす。 勝利に犠牲はつきもの マンガやゲーム、映画、小説などで幾度となく使われてきた言葉。 その本当の意味を、実際に目の当たりにしたときに寒気が走った。 この言葉の意味は、・・・こういう意味だったとは・・・ スーザン「命中!」 西野「目標!!増せ一つ!次はこいつを狙え」 ライラ「・・・・・・マスター・・・」 橘田「なあに?ライラ」 スーザン「2連装ヘヴィ・ターボレーザー砲、ファイヤ!!」 チカチカっとまた青い光が走る。 ライラの顔をぼうっと怪しく照らす青い光。 ライラはなにかつぶやいたが・・・橘田はうまく聞き取ることが出来なかった。 ズズン・・・・ スーザンが目視で確認する。 西野「黒煙だ・・・命中したな」 スーザン「・・・・・・・・・敵機撃破!!」 □騎士型MMS 「ライラ」 Aクラス 撃破 To be continued・・・・・・・・ 前に戻る>・第6話 「重兎」 次に進む>・第8話 「爆兎」 トップページに戻る
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鋼の心 ~Eisen Herz~ 第21話:夜明けの翼 「ほほぅ、VR(バーチャル)は初めてなのだが表とあんまし変わんないのな~」 「僕は起動してからの一週間で、50時間は篭ってました」 はしゃぐマヤアのすぐ隣、感情の無い声で呟くセタ坊。 少し目がウツロで、虚空を見詰めている。 「……ますたー、止めて下さい、止めて下さい。……3時間以内に命中率100%にしないと尻尾引っこ抜くとか、マジ外道です」 「んゆ、セタ坊?」 「ぷち達も恐がってます、もう出来ません分りませんゴメンなさい許してください、わふぅ~っ!?」 「……むにに、セタ坊が壊けた」 『ふふ…。懐かしい思い出ね、もうあれから3ヶ月も経ったなんて……』 『いや。普通に神姫虐待でしょ、こういうの』 『雅さんの愛情は祐一君以外にはネジくれてますからねぇ、ははは』 『……ははは。じゃねぇよ』 「ダメです、この的動いてます、なのに外しちゃダメとか無理です、出来ません、嗚呼止めて、一発外すごとに尻尾1ミリ切るとか酷すぎです、そんな、三つ編みとか信じられません、尻尾三つ編みにされたらボクの人生お終いです、一生三つ編みされたミットモナイ尻尾でわふわふ逝ってるだけの駄犬ですか、ゴメンなさい、ヘタレでゴメンなさい、息しててゴメンなさい、存在しててゴメンなさい、ウマレテキテゴメンなさい……」 しゃがみ込んでぶつぶつ呟くセタに、さすがに浅葱も顔を顰める。 『……雅、アンタ本気で犯罪よ、こういうの……』 『愛の鞭よ』 『死をも厭わない鞭に、愛の名を関するのは如何なものかと……』 『ほ、ほら。獅子は我が子を千尋の谷に叩き落すって言うじゃない、そういうものよ。……多分』 『……多分、ってあんたね……』 『千尋の谷に突き落とした挙句に、上から煮えたぎった油を注ぎこむような厳しさですねぇ……』 「あー、よく分からんが―――」 人間同士の会話に加わるマヤア。 「―――要するに、セタ坊は雅んにメチャクチャ愛されてると?」 『よし、バカネコ良いこと言った!!』 「何処をどう聞けばそういう結論になるんですか~!?」 自閉症モードに移行しつつあったセタ坊は、マヤアの一言を機に図らずも復活を遂げた。 「え~っと、皆さんそろそろ宜しいですかぁ~?」 マヤアとセタの間に、デフォルメされたフォートブラッグが出現する。 「おおー、デルタちん。何時もよりも少しちっこくなったか?」 「……この端末CGは極小サイズだと思うのですが……」 「まぁ、そんな小さな事はどうでも良い―――」 『誰が上手い事言えと……』 「―――そんな事より敵は何処だ?」 「もうじき出現します」 『今、そちらに転送しました。すぐに現れますよ、戦闘準備を!!』 村上の声と共に、VRフィールドに歪みが生じてゆく。 「……所で。今更なんですが、『敵』って何なんですか? コンピュータウイルスとか?」 『いえ、このパターンは恐らく……』 「多分、武装神姫じゃん? データだけ転送してきたんじゃねーの?」 マヤアの予測が正解であることは、その次の瞬間に証明された。 『やはり、神姫……。それに、この形状は……』 VR空間をモニターする画面に映る姿はまぎれも無く武装神姫のそれ。 そして、機種不明でありながらも、ある意味雅たちにとっては馴染みの深い黒衣。 『……天海の幽霊……。土方真紀の武装神姫ですか……』 双刀と翼。仮面と黒衣を身に纏い、漆黒の神姫が降り立った。 ◆ 「……とりあえず、分った事が三つある」 「聞きましょう」 トドメは何時でも刺せる。 それ故に焔星はアイゼンの舌戦に付き合うことにした。 「……まずはお前の弱点……」 「……」 アイゼンが指差すのは、焔星に撫でられている二機のぷち。 「……そのぷち達は、性能の代償に稼働時間が弱点。……どちらも数分程度で活動限界になるでしょう?」 「そうでしょうか。……既にこの子達が参戦して10分は経っていると思いますが?」 焔星の指摘にアイゼンは頷く。 「……そう、だから補給が必要」 「そんな暇が、何時あったと?」 「……今」 言い切ったアイゼンの指先に、ぷちを撫でる焔星の手。 「……そうやって触る事で、お前はぷちに補給をしている……」 『どんな神姫だって、クレイドルとの接触で給電を受けるんだ。……その逆に、接触で電力を送るのは造作も無い事』 「なぜ、……そう思ったのですか?」 「……時々戦闘を中断してぷちを撫でてたし、さっきは後ろの砲撃型をわざわざ前線に出してまでボードアタックをしてきた。……そんなに効果的でも無い攻撃だったのに……」 『……つまり、あのボードアタックには攻撃以外の何か別の目的があったと言う事になる。……例えば、補給とか……』 「……ふむ」 『……そう考えればそのぷちの性能にも納得がいく。それだけの装備を運用するのにも拘らず、ジェネレーターを搭載せずにバッテリー駆動だけで稼動させていた。……だから、それだけの性能を詰め込めるわけだ』 「……なるほど、お見事です。……では、二つ目をお聞きしましょう」 「……お前の奥の手。……出し惜しみなんかしないで、さっさと“真鬼王”を出せば良い」 「……………………」 流石に絶句する焔星。 装備構成だけで奥の手まで暴かれるとは予測していなかった。 「見抜いたのは流石ですが……、今の貴女を倒すのに、わざわざ切り札を切る必要があると思いますか?」 「……それじゃあ、三つ目。……“真鬼王”を使っても、使わなくても、この勝負は私の勝ち、だ!!」 言って横跳びに距離を離すアイゼン。 同時にハンドガンの連射が焔星を襲うが、彼女はそれを難なくシールドで弾く。 「それが最後の武器ですか。……それこそ豆鉄砲と言うもの、私には通用しない!!」 反撃のプロトン砲は、アイゼンのハンドガンとは比べ物にもならない威力を持つ。 しかし、アイゼンもそれは承知。打ち合いを早々に切り上げ、回避に徹して距離を取る。 「逃す訳無いでしょう!?」 「……もちろん」 アイゼンは逃げ込むようにビル街へと移動する。 目的は焔星のセンサーに死角を作ること。 追われているアイゼン自身がそこに逃げ込むのは不可能かもしれないが、ノーマークのサポートメカがそこを通って接近する事ならば容易い。 「ちょこまかと逃げるなど、らしくない戦法ですね。……チーグルを失った時に貴女の敗北は決まったのです。大人しく負けを認めなさい!!」 「……そうでもない。……間に合った」 「?」 訝しむ焔星には、ビルの影から低空飛行でアイゼンに近付くそれが見えていない。 「……フランカー!!」 「ちっ!!」 猶予がないと気付いた焔星がアイゼンに向けプロトン砲を叩き込む。 閃光と轟音。 そして衝撃波。 この距離ならば、外した所で至近着弾は免れない。 今のアイゼンの機動性では、爆発範囲からは逃げ切れまい。 (……これで終わりですか。少々呆気無いような気もしますが……) そして、吹き込む疾風が爆風吹き散らす。 「―――!? 何!?」 爆煙が晴れ、プロトン砲の着弾痕が露になるが、その周囲の何処にも倒れたアイゼンの姿は無い。 「撃墜カウントも入っていない!?」 それはつまり、未だアイゼンが健在である証左。 「しかし、何処へ消えた!? 一番近いビルでも走って逃げ込むには時間が足りない筈なのに!?」 「……上」 「―――!?」 真上からした声に顔を向ける焔星。 そこに、吹き込んできた疾風の源。鳥に乗って空を舞うアイゼンが居た。 ◆ 「……」 声も無くたたずむセタ。 マヤアと組んでの2対1の戦闘ではあるが、セタに出来るのはただ見守る事だけだった。 セタには手が出せぬほどに、マヤアも黒衣の幽霊も速い。 打ち込んだ吠莱を魔弾で操り、必中を狙った直後。砲弾そのものを両断し、幽霊はマヤアとの高速打撃戦に突入した。 双方両手に刃を持ち、間断の間も無く打ち付け合う。 隙を狙って蹴りの応酬が行われ、突きと払いは一動作になって相手を追い詰める。 しかし、両者の力はほぼ互角。 目まぐるしく位置を変え、左右と上下を入れ替えながら剣戟の音を響かせた。 「ネコネコネコネコネコッ!!」 マヤアの振るったブレードを幽霊が刃で受け流し、その動作がそのままマヤアの首を狙う一撃に切り替わる。 マヤアが蹴りで肘を狙い、その一撃の阻止を試みれば、幽霊はもう一方の刃でマヤアの脚そのものを狙う。 レールガンがその刃と交錯する軌道に打ち出され、幽霊はマヤアを蹴って距離を僅かに離して仕切りなおし。 このような刹那の攻防が数秒程度の間に10度以上繰り返され、その位置は数十メートルの単位で瞬時に移動する。 飛び交う銃弾すらももどかしい高速戦闘において、最早セタの出る幕は何処にも無い。 「……こ、これ程とは……」 「うん、すごいよね幽霊……」 「……むしろ、マヤアさんに驚きなのですよ。……強いとは思っていましたが、これ程までとは……」 デルタのセリフ、5秒強の間に響いた剣戟は22回。 これ程の反応速度と、それを実行に移せるスピード。 手の届く範囲に入ってしまえばセタ如きでは話にもなるまい。 かと言って、精密砲撃だろうが誘導砲撃だろうが、まともに当たるとも思えない。 神姫としての実力が、ケタどころか次元単位で違っている。 そして、そんなマヤアと互角に渡り合う以上、幽霊の実力もそういうレベル、と言う事になる。 「……なるほど、誰も勝てない訳ですよ……」 デルタの声を、剣戟が上塗りしてゆく。 もはや、する事も見出せず、セタとデルタはただその戦いを見守るだけだった。 ◆ 「プレステイル!? ……そういう事か」 武装を失った筈のアイゼンの自信。 それが、もう一つ装備を持ち込んでいた事に由来するものだと、ようやく焔星も気付く。 「しかし、大勢は既に決しています!! ここで追加戦力など無意味にも程がある!!」 「……そうでもない。……プロトン砲の特性は、対空射撃に不向き」 「……っ」 確かに、着弾して爆発するエネルギー弾を撃ち出す以上、敵以外に接触物の無い対空射撃において、プロトン砲は直撃以外完全に無駄弾になる。 (光阴の速度では追いつけないし、闇阳の対空射撃だけでは捉えきれない……。) 先ほどまでのパワー重視の戦闘スタイルとは一転し、高い回避力での撹乱に入ったアイゼンは、ぷちの性能だけでは追い詰められない。 元よりぷちとの連携は重量級神姫との戦いに特化した戦法で、このような高機動型の神姫には対応していなかった。 (……その為の“真鬼王”ですが……、さて、それまで読んで居るのかどうか……) 祐一の読みどおり、焔星は確かに真鬼王モードを温存している。 だがしかし、それはアイゼンに対して使う必要が無いのではなく、用途の問題として不適切と判断したからに他ならない。 通常の真鬼王のイメージとは真逆に、焔星の真鬼王モードは高速戦闘に対応する為の形態だったからだ。 (……つまり、今が使い時ですが……) 何となく、祐一の掌で踊っているような錯覚に捕らわれ、焔星は苦笑する。 (……普通ならまず無い、一人の相手との戦いで全ての要素を使用する状況……。……私は彼にハメられて居るのかもしれませんね……) だがそれもよし。 元より主の望んだ戦いだ。 焔星は己が元にぷち達を呼び寄せる。 「……お望みどおり、見せてあげましょう。……真鬼王を!!」 焔星の宣言と共にぷち達がフォーメーションに付く。 分離、変形を経て焔星に組み付き、巨躯を構成するまで僅かに数瞬。 「三体合并……!! 真鬼王・零(ツェンカイワン・レン)!!」 二体のぷちとの合体により、焔星は真鬼王をその身に纏った。 特筆すべきはやや小柄である事のみで、その概要は通常の真鬼王と変わることは無い。 プロトン砲とデスサイズがシェルエットを崩してはいるが、むしろ違いはその内面にこそある。 「―――加速!!」 光阴を浮遊させるための揚力場と、闇阳を飛行させるための推進力。 その双方が焔星の背負ったジェネレーターと直結され、制限を解き放たれる。 焔星の真鬼王=零は、その名の通り一秒にも満たない時間で彼我の距離を“0”にした。 「斩(ツァン)!!」 「…ん」 アイゼンがハンドガンのトリガーを引いたのは、その一瞬だけ前の事である。 結果として焔星は、自ら虚空に放たれた銃弾に当たりに行く形になるが、アイゼンの行動は、焔星の零の性能を正確に予測したからこそ。 逆に言えば、零が動き出してからではアイゼンに反応する術は無い。 『行くぞ、アイゼン。アサルトフォームだ』 「……ん」 短く頷き、改造型のプレステイル=フランカー/フライトフォームを上昇させる。 限界高度に達しこちらも分離、変形を経てアイゼン本体に合体。 零と比しても小柄な人型を形成する。 ベースとなったエウクランテに酷似したシェルエットだが、翼は細く長く、腰の後ろには双発式の斥力場エンジンが唸りを上げ、その身体を宙に留めていた。 「……全システム高速戦闘モードに移行」 ≪Assault form wake up≫ フランカーに組み込まれたサポートAIのインフォメーションが響き、戦闘形態であるアサルトフォームへの移行完了を告げた。 変形に伴い、フライトフォームで中枢を成していたエンジンユニットは背部に回され、アイゼンはそこから小さな基部を一つ分離させ右手に収めると、主である祐一へと問う。 「……マスター、指示を」 『不慣れな高速戦だがやれるね?』 「……ん」 『それじゃあ全力で行くぞ。……斬り捨てろ、アイゼン!!』 「……んっ!! ……アクセラレータ、起動!!」 ≪system“Accelerator”starting up≫ 祐一の指示を受けて、弾かれるように突進するアイゼン。 その速さは、疾風のそれ。 もはや、ストラーフとは思えない速度を以って焔星に迫る。 「……ッ!?」 瞬時に眼前まで近付かれ、勢いに任せた蹴りを浴びる焔星。 間髪居れずに回し蹴りから後ろ回し蹴りへと繋ぎ、零の体躯が大きく吹き飛ぶ。 「速い!?」 驚愕する間もあればこそ、その一瞬で離れた間合いはアイゼンの突進で即座に詰められる。 「―――なッ!!?」 そして青い光の奔流が閃き、手にした大鎌が寸断された。 「ば、……馬鹿な……!?」 ≪“RayBlade”Disposition≫ アイゼンが手にしたモノは光の剣。 他ならぬ、カトレアと同じ超高出力型のレイブレードであった。 ◆ 「……なんと、愚策」 彼女は、それを見て詰まらなそうに呟いた。 ◆ 投刃と衝撃波、狙撃銃とリニアガンの中距離応酬から一転して、両者肉薄しての高速打撃戦。 目まぐるしく位置を変えながらの高速戦闘も終わりが近付いてきたようだ。 マヤアはとっくにライフルを捨ててしまっているし、黒衣の幽霊も新たに投刃を繰り出す気配は無い。 時折、開いた間合いを惜しむように翼からの衝撃波や背部ユニットのリニアガンを打ち合うが、即座に距離は詰まり打撃の応酬に戻る。 互いに消耗が進み、飛び道具が心許なくなってきたのだろう。 「……だからと言って、何が出来る訳でもないのですよ……」 「わふわふ」 戦場の端っこでお茶を啜るデルタと、尻尾のブラッシング(VR空間なので実は無意味)にいそしむセタ坊。 一応今でもマヤアをシステム的にバックアップしているデルタはともかく、セタに到っては本気で何しに来たのやらと言う有様だが、相手がアレでは仕方もあるまい。 「にゃーーーっ!!」 マヤア渾身の一撃が、幽霊の刀一つを途中からへし折った。 「……無為」 折れた刃を投げ捨て、幽霊は残る一刀でマヤアのフォビドゥンブレードを叩き落す。 「ニャ!?」 武装の喪失に伴う戦術パターン切り替えにより生じた微かな隙。 本来であればどんな神姫やオーナーでも無視する程極微の間断ではあるが、事ここに到ってマヤアと幽霊にとっては隙と呼ぶべく数少ない瞬間であった。 「……絶!!」 真横に振るわれた刀。 それが狙いを違わずマヤアの胴を薙ぎ……。 すり抜けた。 「―――!?」 バラバラになって落ちてゆくツガルタイプのアーマー。 と、それらが弾かれたように集結し、ひとつの形状をなしてゆく。 「……レインディア、バスター……」 幽霊の呟きも終わらぬうちに、自由落下から明確に意図された加速で機首を起こして上昇を始める。 「……」 そして、あの一瞬の攻防で上空に逃れていたマヤアを乗せ、突撃を開始した……。 ◆ 近接用のメインウェポンであるデスサイズを失い、焔星は大きく後退して距離を取る。 「……っ、これほどまでに高出力のレーザーブレードだとは……」 恐らくはプレステイルの中枢を成すボレアスユニットから射撃機能をオミットし、ジェネレーターとしての機能に特化させて得た高出力を流用しているのだろうが、分かった所で防ぎ様など無い。 「―――ならば、寄せねば良いだけです!!」 脚部に固定されたハンドガンと肩部のキャノン砲が展開し、アイゼンとの空間に濃密な弾幕を形成する。 「装甲を捨て機動力を取ったのでしょうが、それならば逆に小口径弾一つが致命傷になります!!」 先ほど使用したときにはチーグルの装甲に阻まれ、碌なダメージにはならなかったが、この飛行可能なユニットに同様の防御力があるとは考えられない。 故に、この弾幕を回避してから、レーザーブレードの一撃を狙う為に突進をしてくる筈。 (そこをプロトン砲で打ち落とす) そう考える焔星の元へ、アイゼンはしかし、一直線に突っ込んできた。 「……まさか、この弾幕に耐えられるつもりですか!?」 『元々アイゼンに回避主体の戦法が不向きなのは重々承知』 今までは基本的に、重装甲による防御主体のディフェンスを重視してきたのだ。 それを今更回避力ですべて置き換えられるとは、祐一もアイゼンも思っていない。 故に。 「……バリアの一つ位は用意してある!!」 ≪Hadronic field≫ アイゼンの周囲を覆う、薄い光の球体。 微かに青く発光するそれに阻まれ、弾幕が弾かれてゆく。 「―――ならば、プロトン砲でっ!!」 『怯むな、アイゼン!! シールド集中!!』 「…んっ!!」 砲口から溢れ出した白い光の奔流は、しかし、アイゼンの掌の先に広がるディスク状のバリアに阻まれ四方八方へと逸れてゆく。 「貫けぇーーーっ!!」 「……負けないっ!!」 プロトン砲と斥力場シールドの均衡は数秒続き、途絶えた。 「そんな……。チャージ容量の限界? プロトン砲の全力照射に耐え切るなんて……」 「……言った筈。私はカトレアを倒しに来た。……お前如きに負けてなど居られない」 プロトン砲の閃光が途絶え、幾分濃さを増したシールド越しにアイゼンの姿が見える。 「……これで、終わりだ」 「―――!?」 背部から切り離したエンジンユニットに追加砲身を直結させた『砲撃モード』。 「―――消し飛べ……。『フェルミオン・ブレイカー』!!」 ≪Fermion Breaker≫ 砲口からプロトン砲以上の白光があふれ出すのを、焔星は呆然と眺めていた。 「―――ぁ」 そして。 閃光と轟音に全てを押し流され、焔星の意識は途絶えた。 ◆ ガチャン。と音を立てて、破損した砲身が切り離される。 『勝った、か』 アイゼンのステータスに追加された撃墜数1。 焔星を下した何よりの証拠だが、その実、二人が対カトレア用に取っておいた切り札をここで使用してしまったことは大きい。 限定的とは言えブーゲンビリアのレーザーに近い威力を持つ『フェルミオン・ブレイカー』も使用回数2発の内1発を使ってしまったし。 なによりこちらの切り札が『レイブレード』である事は、最早カトレアには隠しておけないだろう。 元より対四姉妹戦を前提に開発された【フランカー】は、四姉妹の特化能力に対抗できる事を目的としている。 カトレアの『レイブレード』と『バリア』。 アルストロメリアの『機動性』。 ストレリチアの『移動速度』。 そしてブーゲンビリアの『高出力レーザー』。 これらの能力全てに対抗する為に、【フランカー】には変形能力と強力なエンジンから発生する出力を利用したレーザーブレード、バリア、そして陽電子砲が搭載されている。 しかし、土方京子と祐一の技術力の差は明白で、汎用性を落して尚、純粋な性能で及んでいないのが現状だった。 故に、勝機は不意打ちによる短期決戦しか無い訳だが、焔星の登場によりその予定は水泡と帰し……。 『で。今までのバトルロイヤルに居なかった以上……』 祐一が見すえるアイゼンの視点の中央。 ≪Warning!! NeXT enemy Engaging≫ AIの警告が促すその先に……。 『……ここで出てくる訳だな、カトレア……』 ジュビジーの装備で武装したジルダリア。 土方京子の四姉妹が長女。 カトレアが、そこに居た。 ◆ 「……カトレア」 「お久しぶり、と言った方が良いでしょうか?」 「……」 残存神姫は残り5。 未だ脱出した神姫が居ない以上、この五人の中で最初に敗れたものが予選で敗退する事になる。 「貴女は危険だと判断を下し、あのマオチャオ、アーンヴァルと共に最優先の警戒対象としていたのですが―――」 言葉を切り、アイゼンを見下ろすカトレア。 「―――どうやら見込み違いだったようですね……」 「……っ!!」 カトレアの右手から伸びる赤い光剣。 「いくら私達のマネをしても、その程度の技術力で神姫の開発に携わったマスターを超えることなど不可能―――」 最早アイゼンを脅威とは見ないしていないのか、無造作に歩を進めてくる。 「―――ましてや。……その様に無理やり詰め込まれた装備ではバランスなど望むべくも無い」 互いの間合いギリギリでカトレアは足を止めた。 「それで私に勝つつもりだったとは、笑い話にもなりません」 対峙するアイゼンは、未だ光剣を発振させては居ない。 出力で劣るだけでなく、稼働時間に天地の隔たりがあるからだ。 今から展開しておけるほど、アイゼンのレーザーブレードには稼働時間の余裕が無い。 「……実際、ストラーフの装備の方がまだ勝ち目があったと思いますよ? ……そのような私に対して勝る部分が一つも無い装備で、本気で私に挑むつもりなのですか……?」 光剣を構え、体勢を落すカトレア。 同様に、アイゼンもまた迎撃の姿勢を取る。 「……正直、失望しました。……貴女とはここで終わりにしましょう」 真紅の閃光。 高速で振り下ろされた光剣を辛うじて受け止めるアイゼン。 レイブレード同士が干渉し合い、閃光と耳障りなノイズ音を撒き散らす。 「……何も、対策が無いわけじゃない!!」 ≪“RayBlade”Re-disposition≫ 膠着状態を打破するべく、アイゼンがもう一本レイブレードを取り出し起動。 二刀を交差させカトレアを押し返す。 「ふんっ、……それが対策と言うのなら、下らないにも程があります」 カトレアは何もしない。 ただ、そのまま力ずくでレイブレードを押し付けてくるだけだ。 「……っ!?」 しかし、ただそれだけの事でアイゼンのレイブレードは二本とも干渉波で機能不全を起こして途絶えがちになる。 『……大元の出力が違いすぎる……!! やはりこれだけでは無理か……』 「機動性や速度でもアルストロメリアやストレリチアに劣るのでしょう? 先ほどの火力もブーゲンビリアとは比べるべくも無い!!」 「…っ!!」 「ましてや、バリアやレイブレードの性能で私に挑むとは、愚かにも程がある!!」 膠着状態を維持するのに集中しているアイゼンの無防備な腹部をカトレアが大きく蹴り上げた。 「…かはっ!?」 蹴り飛ばされ、地面に叩きつけられたアイゼンに、悠然とカトレアが詰め寄ってゆく。 「……貴女なら、或いはマスターを止められるかとも思ったけれど……」 「くっ…、けふっ…!」 「……いえ。……元より望む事では、無いのでしたね……」 呟き、カトレアは光剣の切っ先をアイゼンに突きつける。 「……終わりです」 そして。 ◆ VR空間での決着が付いたのは、第四バトルロイヤルが終わるのとほぼ同時だった。 データ分解を起こし、消え往く幽霊の残滓。 仮面が消え、本体が消える一瞬のラグの中に、マヤアは幽霊の瞳を見た。 「……?」 そして、そのまま物言わず消滅する幽霊。 「……なあ、浅葱。あいつ死んだのか?」 『どうなの、雅?』 『どうなの、村上君?』 浅葱、雅を通じて村上まで上訴された質問に彼は静かに答える。 『いえ、コピーされた分身を倒しただけでしょう。神姫本体を如何にかしなければこの事件は終わりません』 『……そっか、ハッキングしてきたのが土方真紀の神姫だって事は、やっぱ黒幕は土方真紀で確定か……』 確証を経て、目的ははっきりとした。 「……あとは。土方京子からウイルスのサーバー本体の位置を聞き出すだけですね……」 『ええ、予選を突破していれば控え室で会えるわ』 「素直に教えてくれるでしょうか?」 『教えてくれないのなら、力ずくでも聞き出すまでよ』 冷徹に言い放ち、雅は視線を移す。 「……あとは、アイゼンさんが勝てるかどうかですか?」 『ま、それが一番の問題かな……』 雅の表情は硬く、中央制御室にあるモニターの一つ。 第四バトルロイヤルを映し出しているモニターを見据えていた。 ◆ 第四バトルロイヤル終了。 残機数4。 これで、本戦に出場する16名の武装神姫が出揃った事になる。 「……マスター、ゴメン……」 「まぁ、いいさ。次は勝とう」 ポッドから出てきたアイゼンを労う祐一。 カトレアとの戦闘は完全にアイゼンの敗北だった。 「祐一!!」 「祐一」 美空とリーナが駆け寄ってくる。 「ああ、二人とも……」 「祐一、その……、―――!?」 「どうしたの、二人とも」 美空とリーナのみならず、フェータまでもが絶句し祐一を見ていた。 いや、正確にはその背後に立つ女、を。 「久しいな、少年」 「京子さん?」 振り返る祐一の背後に、コートを着込んだ眼帯の女。土方京子が立っていた。 「……惨敗だったじゃないか。……私を止めるのだろう? このままでは、叶わぬぞ……」 「…………………はい」 祐一は静かに頷く。 「……でも、次は必ず勝ちます。……その為の【フランカー】ですから」 「……そうか、ならば何も言わん。……やって見せろ」 無言で頷き、祐一は意を返す。 「京子さん!!」 「なんだ?」 「本戦で、もしもアイゼンが勝ったら……」 「……勝ったら?」 「その時は、俺の言う事を一つだけ聞いて下さい……」 「……ふむ……」 興味がありそうでなさそうな、そんな微妙な表情を浮かべ、京子は微笑んだ。 「……よかろう。では私が勝ったらお前は私の言う事を聞いてもらう。……いいな?」 「はい」 その返事を聞き届け、京子は微笑を浮かべて歩み去る。 レライナを除く五人は、黙ってそれを見送った。 「で、どうするのよ?」 「……次は勝つさ……」 不安そうに尋ねる美空に、祐一は静かに答えた。 「……次はもう、負けられない……」 先のバトルロイヤル。 アイゼンに止めが刺されるより早く、他所で決着が付き神姫の残存数が4になった。 その時点で戦闘が終了した為、アイゼンも本戦に進出できたものの、結果としてみればカトレアには歯が立たなかった事になる。 「……もう、負けられないんだ……」 「ん」 祐一の肩の上で、アイゼンが応えて頷いた。 第22話:THE SECRET WISHにつづく 鋼の心 ~Eisen Herz~へ戻る ど、ドラクエ5クリア……。 20時間位? 普通のRPGに掛かる時間ってこのぐらいだよね? と思う今日この頃です。 Aボタンがへこみっぱなしでなければもっとストレス無く遊べたでしょうに……。 ああ、ヨメはフローラで。 性能重視の人ですから、私。 閑話休題。 焔星の元ネタはファイブスターのマシンメサイア。 …と見せかけて、実はAC4fAで人から貰ったネクストの設計図(そっちの元ネタが多分FSS)。 回避最優先の軽量級にコジマキャノンとドラスレという無謀な装備がお気に入りだったり……。 まぁ、ソブレロに雷電グレ積んだグレ単ネクスト作った私が、無謀とか言えたもんじゃありませんが……。 残るはP4。 今回ペルソナに鈴鹿御前と信長が出るらしい……。 やべぇ、超楽しみ……。 ALCでした~。 -
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前へ 先頭ページへ 次へ 第十五話 上空戦 「ねえ」 弾頭のハッチが閉められようとする間際、見送りに来た興紀にクエンティンは訊いた。ミサイル垂直発射管室には理音も来ていた。 「なんだ」 興紀はハッチの中を覗き込み、そこに宇宙飛行士のように横向きに座っているクエンティンをみる。 「ありがとね」 「なんのことだ」 「会議室のこと」 興紀は、ああ、と合点がいったように口をあけた。「そんなことか」 エイダがいなければアーマーンは動かない。通常兵器ではおそらく有効打さえ与えられないであろう島レベルの規模を誇る要塞を止めるには、それが一番効率的であろうことは、あの場にいた誰もが分かっていた。発案した執事はまさに断腸の思いであったろうし、興紀の決定がもう少し遅ければ理音だって反対していた。 興紀は、執事があの場でエイダの立場を知る前に発案していたとおりに進めることを押し通した。それは結果的に、エイダ、そしてクエンティンの命を救うことになった。 「勘違いするな」 と、興紀は言った。 「まだピクリとも動いていないただの張りぼてのために、貴重な主戦力をむざむざ自分で潰すなどという愚挙をおかしたくなかっただけだ」 それが建前であることはもはや周知の事実で、興紀は神姫を道具として考えていればこそ、その愛着は人一倍であった。ずっと後になってから分かったことだが、彼ほど道具としての武装神姫を愛した人間はいなかった。ただ、それが武装神姫自身の幸せとはかみ合わなかっただけなのだ。そんな理由でむざむざ廃棄されていった数十体の過去のルシフェルを正当化しようなどとは誰も思わなかったし、むろん興紀自身も許されようとは考えていなかったが。 「それでも、ありがとう」 横倒しになったままクエンティンがあらためて礼を述べると、興紀は一瞬だが、顔をほのかに赤くして視線をそらし、自分の手で最後の垂直発射ミサイルの弾頭ハッチを閉めた。今のところは、クエンティンが興紀と対面したのはそれが最後である。 理音には部屋で話してから、一言も言葉を交わさず、別れの挨拶も言わなかった。また会えると確信していたからだ。 真っ暗になった弾頭内の急造スペースで、クエンティンとエイダは静かに出撃の時刻を待った。完全に洗浄されていたが、炸薬の匂いはほのかに残っていた。潜水艦のレーダー経由で近海に意識をはせると、EDEN本社所有のフェリーが数隻、同じように待っているのが分かった。 「回天に乗った兵士も、おんなじ気持ちだったのかしらね」 九十年以上前にこの国を守るため魚雷に乗って命を散らしたものたちを、知識の上でしか知らないクエンティンは想った。きっと彼らのおかげで、自分たちには帰りの分があるのだと脈絡も何もない感謝をした。 「生きて帰るわよ、エイダ」 ――――。 エイダは何も答えなかった。 「・・・・・・エイダ?」 カウント、ゼロ。 轟音とともに凄まじいGがかかった。ミサイルが発射された。数秒の海水を切り裂く浮上音の後に、海面を飛び立つスプラッシュ、自身のレーダーで周囲を意識すれば、島上空で降下するための神姫たちを三体ずつ乗せた何発ものミサイルが、本来の体当たりの役目も帯びたダミーのミサイルと織り交ざりながら自分達に続き、フェリーからは鶴畑の私設軍と神姫たちを乗せた揚陸ボートが躍り出ている。 先陣と梅雨払いはクエンティンたちの役目であった。 ミサイルは高度二千フィート、およそ六百メートルの低空で水平飛行に移行し、安定翼を展開する。みるみる島への距離が縮まってゆく。飛行船はまだ飛び立っていない。 いや、今動き出した。 「ギリギリか!」 余裕の無いのはいつものことだ。クエンティンはみずからを落ち着かせる。 後続のミサイルの一発がいきなり爆発した。 “島の迎撃レーザーシステム作動を確認。弾頭部破棄。シールド全開” 「了解!」 クエンティンはバースト。全身からほとばしるエネルギーの圧力はそれだけでミサイルの弾頭カバーが飛ばした。彼女はふきっさらしになる。すかさずシールドを展開。直後シールドにスパークがはしる。迎撃レーザーが当たった。普通の神姫ならば瞬時に消し炭と化すほどの高出力な代物である。センサーやコンピュータのある弾頭が脱落したためクエンティンを乗せたミサイルは一瞬よろめいたが、はるかに高性能なエイダがそれを肩代わりすることでミサイルはその時点から超高機動の戦闘機に豹変した。 地平線の上にぽつんと島が見えはじめた。 “レーザー砲台を確認、総数四。ハルバード・デバイスドライバ、インストール完了” クエンティンの右腰で空間圧縮が解かれ、長大な砲が顕現する。ヘッドギアから遠距離照準用のスコープが下がる。無望遠ではいまだ点にしか見えない要塞島がレンズいっぱいに映し出され、そこでせわしなく明滅している四基のレーザー砲台もはっきりと確認できた。 ハルバードを腰だめに構える。弾体加速ターレットがプラズマをほとばしらせつつ加速のための電力をチャージする。 一番左の砲台にロックオン。そのままおもむろに撃った。 空気の摩擦による炎の飛行機雲を引きながら、超音速でタングステン製の針状弾が射出された。カウンターマス代わりの余剰電力が台尻のフィンから青白い火花となって散る。 きっかり一秒のスパンを置いて、左端の砲台が根元から引きちぎられるように吹き飛んだ。 残り三基の砲台も排除したとき、すでにアーマーンは彼女らの真下に広がっていた。 全員がミサイルを排除し、クエンティン以外は空挺部隊よろしくHALO降下を行う。本来のHALO降下ははるかに高空から敢行するものだが、身長十五センチの神姫たちにとっては二千フィートでも十分な高高度だった。ファントマ2アタッチメント――無骨なバックパックとLC3レーザーライフル並みの図体をもつ大口径機関銃を引っさげて、髪の毛も口もなく眼窩さえ開いていない頭で、白、黒、あるいは肌色一色のボディをしたMMSネイキッドの軍勢は、アーマーンの各地に分散して下りていった。後ろを振り向けば、妨害攻撃のなくなった海面を、白い波を引きながらそろそろと上陸に向けて侵攻する神姫と人間の混成部隊が見えていた。先陣を切るのはビックバイパーアタッチメントを纏ったルシフェル、そしてアージェイドイクイップメントのミカエル、ファントマ2アタッチメントを二セット装備してさらに全方位ミサイルポッドを背負ったジャンヌである。 クエンティンは前に向き直る。島上空を離れつつある数機の飛行船が目に止まる。全体を渡せば見えるだけで百機は浮遊している。ヘリコプターくらいの大きさの一機の中に果たして、何百というあの一つめどもが格納されているのだろうか。 何百いようが関係ないか。クエンティンは手に力を込める。これすべてがクエンティンに割り当てられた獲物なのである。ただ一つ救いがあるとすれば、飛行速度が鈍亀であることだった。 まずは島を離れてゆくものに狙いを定め、全速力でダッシュ。すると幾重ものオレンジ色の光跡が付近の飛行船から放たれ、クエンティンに殺到した。迎撃用の機銃である。用意できるものはしっかり乗っかっているな、と面倒そうに思いながら、弾幕の中を突っ切ってゆく。 西北西、日本側に向けて飛び立っている一団がもっとも遠いため、クエンティンはそこから料理することにした。 飛行船の真正面に陣取る。 “ファランクスのデバイスドライバ、インストール終了。使えます” ハルバードと同じように右腰に機関部が顕現する。こんどは長身の砲ではなく、短砲身の発射口が五つ並んでいる。ぐんぐんせまる飛行船の鼻先に狙いをつけ、クエンティンは撃った。 ブゥーンというモーターの回転するような音がして、丸い弾痕が飛行船の船首におそるべき速度で増えだした。数秒ほどそのまま撃ち続けていると、飛行船の動力部を貫通したらしく、斜め後ろから爆炎を上げてよろよろと墜落していった。 中から生き残っていたラプターが二十体以上も脱出して、クエンティンへ飛んでくる。これは彼女には予想外であった。ブレードを振り回してすべて切り伏せ、やっとのことで二機目に狙いをつけたが、今度はそこからラプターよりも小さな戦闘機がイナゴの大群を思わせる、反吐が出そうな数で飛び立ってきた。 “無人戦闘機モスキートです。ロックオンレーザーの使用を推奨します” クエンティンは再びダッシュ。視界のモスキートいっぱいにロ ックオンシーカーを重ねる。 発射。針ほどの細さに分割されたレーザーがシャワーのように降りかかり、モスキートを一匹残らず駆除する。先ほどの飛行船を撃破したときに大まかな構造を把握していたので、今度は動力部にもっとも近い装甲版にガントレットを打ち込む。構造材といくつかのラプターと一緒に、エンジンが圧壊。脱出路を作るまもなく数十体のラプターは運命をともにした。 だめだ、これでも効率が悪すぎる。振り返れば途方もない数の飛行船が残っている。第二団が発進をはじめている。 「エイダ、こいつらまとめて墜とすのに、いっちばん簡単なやり方教えて」 “了解。あと十秒ほどお待ちください。その間に飛行船団の中心に移動してください” クエンティンは言われたとおりにする。二十メートルほど急上昇し、すぐ下に飛行船団を臨みながらその編隊の中心へ、青白い軌跡を引いて飛ぶ。そして、その中でも一番真ん中に陣取っているであろう飛行船の上甲板に着地する。見渡せば全ての飛行船が全周に広がっている。 着地と同時にエイダが、 “ベクターキャノンの使用制限解除完了。ユニット展開開始します” と宣言するやいなや、クエンティンの頭脳内に操作方法がダウンロードされた。方法どおりに、両足を甲板に踏ん張る。 “システム、ベクターキャノンモードへ移行” 両腕を掲げる。そこに空間圧縮が解除され、ひじから先の三倍ほどある開放型重粒子砲身が装備される。 続けて、頭の真横から背部にかけて一気に圧縮解除、ファントマ2アタッチメントのバックユニットを思わせる巨大なエネルギージェネレータが出現した。 “エネルギーライン、全弾直結” 異常に気づいたらしく、周囲の飛行船の機銃がいっせいにこちらを向く。、相打ちも辞さない必死さで、狂ったように目もくらむほどの集中射撃が始まった。オレンジ色の火の玉が前から後ろから殺到する。しかしクエンティンは動かない。だまってシールドを全集展開し、機銃弾をすべて受け止める。みるみるシールドエネルギーが削れてゆく。 “ランディングギア、アイゼン、ロック” バックユニット下部から図太いアクチュエータが伸び、クエンティンはそちらに寄りかかる。トライポッドの安定性を獲得。アクチュエータ基部横から火花が散り、片側三本、計六本のアイゼンワイヤーが甲板へ深々と打ち込まれる。エイダはワイヤーを通じて足元の飛行船をハッキングし、タービンエンジンを制御装置ごと乗っ取った。 そして、砲身となった両腕の前方の空間圧縮が解かれ、六つのライフリングサテライトが正六角形状に浮かび上がる。さらに、サテライトと両腕の間の空間、つまりクエンティンの体の前の空間が今までにない大出力で連続圧縮をはじめた。 “チャンバー内、正常加圧中。ライフリング、回転開始” ライフリングサテライトがゆっくりと周回しはじめる。 周回速度はぐんぐん増してゆき、ついには目にも留まらぬスピードで一個のリングになった。 その間にも機銃は鳴り止まず、シールドは一瞬たりとも休められない。 「エイダ、まだなの!?」 “発射可能まであと六秒” シールドエネルギーが残り少ない。代わりにキャノンのエネルギーゲージが溜まってゆく。この六秒はクエンティンにとって最長の六秒になった。 早く! 早く! 早く! シールドエネルギーが切れる直前、ゲージが溜まった。 “撃てます” 冷静に、エイダは言った。 「いっ・・・・・・けぇー!」 連続圧縮を続けていたチャンバー空間が解き放たれる。一対の開放型砲身と六つのライフリングサテライトにより、膨大なエネルギーベクトルがまとめて真っ正面に向けられた。 圧縮から解き放たれた重金属粒子の奔流が、一本の光条となって撃たれた。それはクエンティンが立っているもののすぐ隣にいた飛行船をやすやすと貫通し、その奥にいた船も貫通し、さらにその奥に浮かんでいた船をもぶち破り、なお減衰されず直進した。 一番端っこの飛行船まで撃ち抜いたところで、エイダは足元の飛行船の左右にあるタービンエンジンを、それぞれ逆方向に全力運転させた。飛行船はその場でクエンティンごと回転をはじめる。 ぐん、と、いきなり光条が右に動いた。撃破された飛行船列を呆然と眺めていた船たちが、驚く間もなく横薙ぎにされ、上半分と下半分が泣き別れた。 それはまるで巨大な粒子ビームの刃であった。クエンティンが一回転し終えたとき、飛行船は一機も残っていなかった。ただいくつもの炎を噴いた塊が、ゆっくりと落ちていくだけだった。 役目を終えたベクターキャノンは、圧縮しなおされることなく、そのままばらばらと脱落した。 “試作品のため、ユニットの耐久限界を超えました。もう使えません” クエンティンは足元の飛行船にお礼のガントレットをぶち込んで、地上へ降下した。飛行船の残骸で押しつぶされたまぬけな空挺部隊はいなかった。残骸が全て落ち切ってから、地上部隊は上陸を開始した。 つづく 前へ 先頭ページへ 次へ
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第5話 剣の舞姫(ソードダンサー) ついに来た。俺は、目前の多目的ホールの収まる建物を見上げていた。 今日、これからここで行われるのは”武装神姫ショウ”というイベントだ。 企業による次世代モデルの発表や会場限定品販売、個人ディーラーの自作品販売、新規ユーザー獲得の為の催しも充実している。 もちろんバトル大会も行われる。 バーチャルバトルで強くなったエルを公式戦に出すことを決意し、出場を申し込んだ。 会場前には、一般参加者の列が伸びており、今現在も伸び続けている。 俺はその列を横目で見ながら、メインゲートとは違う入り口へと向かう。 そこで大会招待状をみせ、入場証をもらい控え室へと案内された。 控え室はかなり広く、すでに数人の参加者が自分の神姫のチェックをしていた。 俺も与えられた一角に荷物を置き、持ってきたパソコンを起動させる。 「よし、出ていいぞ」 ペンケースのような箱を開けると、二人の神姫が起き上がる。 「マスター、いよいよですね」 「ああ」 アールの頭を撫でてから立たせてやる。 「あ、あたい……」 「緊張してるのか?」 無理も無い、この大会の模様はTVはもちろん、ネットにも配信される。 エルも同じように頭を撫でて立たせてやる。 「エル、ちょっとじっとしてて」 俺は、パソコンから伸びたコードをエルにつなぐ。 パソコンにさまざなな情報が表示されるが、異常個所は見られない。 「よし! OKだ」 コードを抜き、エルに答える。 それから俺たちは、パソコンに入れておいた簡易型ヴァーチャルバトルの対CPU戦用モードにてエルのウォーミングアップをした。 開始時間が近づいて、次々と参加者が入ってくるが、人数が少ない気がする。 「別にも控え室があるのでしょうね」 「だろうな」 アールに答える。 確かに、ここが広いといっても個人個人が持ち込む荷物がかなりあり、入れる人数が少なめみたいだ。 会場側もそのことを分かっているようで、個人に割り当てられたスペースがかなり広くなってる。 もちろん、俺のスペースも同様でパソコンとエルに使う武装一式と、メンテナンス用具しか持ってきていない俺にはかなり広い。 他の参加者を見回すと、およそ実戦向きでないようなドレスを着せている人、俺の用に2,3人の神姫を連れて来ている人などが居る。 「この全てがあたいのライバルなんですね」 俺が他の参加者を見ているのに気が付いたのだろう、エルがそう言ってきた。 「ああそうだ。こわいか?」 エルの頭を撫でると、ふるふると首を横に振る。 「ううん、マスターと姉さんがついてるから平気」 エルはニッコリと笑った。 控え室にスタッフが入ってきた。 「これより、武装神姫バトル大会が始まります。参加者の皆さんは、バトルに参加させる神姫を素体状態で持ち、順に廊下へ並んでください」 それを聞いた参加者が立ち上がり、神姫を連れて出て行く。 「じゃあ、行ってくるよ」 「はい」 アールにそう言って、エルを持ち廊下に出た。 スタッフに連れられて廊下を歩いていると、向こう側からも同じように歩いてくる集団があった。 二つの集団の合流地点で右に曲がり会場へと目指す。 ステージに全員が並ぶと、スポットライトが当たると同時に大歓声が巻き起こった。 『ここに集まった戦士たち。目指すは優勝という栄光。このステージに立てばルーキーもランキング一位も関係ない』 『あるのは、そう、今現在の能力の優劣のみ。さあ! 始めよう! 栄光を目指す挑戦者達の競演を!』 『注目せよ! これが栄光への階段だ!!』 大音量のナレーションと共に、俺たちの背後にある大スクリーンにトーナメント表が表示された。 バトル参加者に見えるように、ステージに置かれたモニターには同じ様子が表示されている。 『エントリーNo1』 ナレーションと共に個人にスポットライトが当たる。それと同時にトーナメント表に名前が入る。 名前が入るたび、ギャラリーから大歓声が上がる。そして、俺は一回戦最終組となった。 その後、俺たちは控え室に戻ってきた。 「まだドキドキしてるよ」 エルが胸を押えて興奮を隠しきれない様子だ。 「じゃあ、調べてやろうか?」 「やん」 俺がいやらしい指の動きでエルに迫ると、身を翻しエルが逃げる。 「あははは」 「うふふふ」 「くすくす」 俺たち三人は一斉に笑い出す。エルもリラックス出来たようだ。 しかし、異変は突然やって来た。 そろそろ準備をしようとしていたときだった。 「マスター!」 アールが叫ぶ。 アールの方を向くと、そこにはぐったりとしたエル。 「どうした! 大丈夫か?!」 エルの反応は無い。 急いでエルにコードを挿し、機能チャックする。 「原因不明の動力停止、それによりAIがスリープ状態か」 パソコンからエルに再起動指令を与える。 「反応なし。再起動できない……」 「マスター……」 心配そうなアールに説明する。 「エルは機能停止して、復帰出来なくなってる。AIはスリープしただけだから、起動さえ出来れば……」 「マスター、動く動力……ボディがあればいいんですよね」 「そうだが、そんなもの持ってきてないぞ」 最低限の物しか持ってこなかったことを悔やんだ。 「あります」 「え?」 俺はそういうアールに驚く。 「………ここに」 そういって自分の胸を押えるアール。 「使ってください」 「いいのか?」 コクンとうなずくアール。 「ごめんなアール」 俺はそういって、メンテナンスベッドにアールを寝かせ、機能停止させた。 ボディ破損などによる交換手順は知っていたが、いざ行うとなると違う。 胸部カバーを外し、CSCを引き抜き、壊れないように刺さっていたスロットをメモして紙で包む。 それから、アールのヘッドを外し、エルのヘッドと交換した。 エルのCSCをアールに刺し、カバーを閉じる。 「たのむ、起動してくれよ」 俺は祈るように起動指令を与えた。 「ん…んん」 エルが起き上がる。 「あれ? あたい、いったい」 「機能停止したんだ」 「そっか……え! どうして!」 自分の身体をみておどろくエル。 「起動できなくなったボディの変わりに使ってって言ってな」 エルに説明すると、泣きそうになった。 「エル、泣くな。エルは戦って勝つことだけ考えろ」 「うん……」 そういってエルは、頭だけのアールを抱きしめた。 「いくぞ」 「うん」 エルに武装をしていく。足にストラーフのレッグパーツ、太ももにアーンヴァルのシールドパーツ。 背中にサブアームユニットとアーンヴァルの翼にレッグパーツのブースター、肩にアーンヴァルのシールドパーツ。 頭にアーンヴァルのヘッドギアを付けた。 胸にストラーフのアーマーをつけたときエルが言ってきた。 「マスター、胸の名前のとこ、アール姉の名前も書いてくれよ」 「わかった」 そういって、胸に書かれた”L”の文字に重ねるように”R”を書いた。 背中にフルストゥ・グフロートゥとフルストゥ・クレインを取り付け、レッグパーツにアングルブレード。 手首にアーンヴァルのサーベルを取り付けて武装完了。 そこまで行った所で、スタッフの声がかかった。 「陽元さん、準備をお願いします」 俺は、不正パーツのないことを審査してもらう為、エルを提出した。 そして俺は戦いの舞台へと向かった。 ステージに上がると、再び大歓声に迎えられる。 バトル用のブースにつくとすでにエルが準備されている。 俺は、備え付けのインカムをつけて、エルとの交信状態を確認する。 「エル、聞こえるか?」 「おう、マスター聞こえるぞ」 「いいか、お前は一人じゃない。アールと一緒に二人で戦うんだ」 「マスター、その計算、間違ってるぞ」 「え?」 「あたいにはマスターの気持ちが注がれている。アール姉にもマスターの気持ち……いや、愛だな。アール姉の場合は」 「お、おい」 「あはは、気づいてないと思ったか? 相思相愛、熱いねぇ。とにかく、あたいとアール姉と、あたい達に対するマスターの気持ち。合わせて四人だ」 「……そうだな。だから絶対負けないさ」 「おうよ」 「いくぞ!」 「おう!」 バトル開始の合図が鳴った。 開始と同時にエルはヴァーチャルステージへと移る。 ゴーストタウンステージに光の柱が現れ、光が消えると同時にエルが現れた。 こちらのモニターでは確認できないが、相手もどこかに現れたはずだ。 エルは出現地点からまだ一歩も動いていない。 いや、動いていないわけではない。 その場で左右の踵を交互に上げ下げをしてリズムを取っている。 どこからともなく、猫型ぷちマスィーンズが襲い掛かる。 エルは尚も足踏み状態だ。 猫ぷちの砲撃がはじまるがエルには当たらない。 いつのまにかサブアームにフルストゥ・グフロートゥを持ち、くるくる回転させることにより弾をはじく。 猫ぷちが突撃してくると、エルは優雅に足を振り、足先の刃で突き刺し、地面に叩き落す。 しかし、身体の軸はぶれずに、サブアームのフルストゥ・グフロートゥを回転させたままだ。 「さて、そろそろ公演開始しようか」 「OKマスター」 にやっと笑いそういうと、エルは目を開き、アングルブレートを自分の両手に持ち、前方へ大きく飛び出した。 そして、身体を回転させると同時にアンブルブレードを振り、猫ぷちを斬ると光となって消えて、退場扱いになった。 「まず、2機」 身体の回転を止めると同時に、サブアームのグフロートゥを左右別方向に投げる。 刃の飛ぶ先に猫ぷちがそれぞれ位置して、貫通する。 「はい、4機」 猫ぷちの倒されたことによる退場を確認すると、アングルブレートをサブアームに持たせゆっくりと飛ばしたグフロートゥの方へ歩いていく。 辿り着くなり足先で思い切り蹴り上げると、そのまま回転し後方に回し蹴りを放つ。 足先の刃に今度は犬ぷちが突き刺さっていた。足を下ろすと同時に退場する犬ぷち。 エルはすっと腕を伸ばすと先ほど蹴り上げたグフロートゥが落ちてきて手に収まる。 驚いたことにグフロートゥには犬ぷちが刺さっていて退場していった。 「6機か、あと2機くらいいるだろう」 サブアームの手首を回転させアングルブレードを地面に突き刺した。 「7機目」 エルが呟くと、地面から退場の合図の光が漏れた。 突然エルが上を向き、身体を回転させてその場所から離れると、さっきまで居た場所に犬ぷちの乱射が降って来た。 サブアームのアングルブレードを軽く放り投げ、自分の腕で持つと、跳び上がり下から犬ぷちを薙ぎ払う。 「8機、これで打ち止めだろう」 エルは一旦全ての武器を収めた。 ここまでの戦いを見ていたギャラリーは静まりかえっていて、エルが武器を収めると同時に轟音と化した感性が沸き起こる。 見ていた誰もが同じ感想をもったことであろう。 それは戦いというより、”剣の舞い”だったと。 「エル、レーダーに反応は?」 「いまんとこ無しだぜ、マスター」 「そうか、こっちから動くか」 「OK! 恥ずかしがり屋さんを迎えに行きますか」 エルが探索の為に歩いていると、弾が落ちてきて煙幕を吐き出す。 「エル!」 「大丈夫だ! たぶんここから出たところを狙い撃ちっていうことだろうが、そうはいくか!」 エルはブースターを全開にして飛び上がる。 するとエルを追うようにマシンガンの乱射が迫ってくるが追いつかない。 エルが上空から確認した相手の神姫は忍者素体にハウリンのアーマー、両肩に吠莱壱式、背中からストラーフのサブアームを二対ついている サブアームには、STR6ミニガンを2門、シュラム・リボルビリンググレネードランチャーが2門装備されていた。 足はマオチャオのアーマーで、エルとは対照的な射撃に特化しているようだ。 轟音と共に両肩の吠莱壱式が火を噴く。 エルは上空に停止しフルストゥ・クレインを自分の腕で、サブアームにフルストゥ・グフロートゥを持つ。 四枚の刃を蝶の羽の用に合わせて防ぐ。 さらに、グレネードランチャーやミニガンをも合わせて撃ってくるが、四枚のグフロートゥとクレインで全て防いだ。 銃は効かないと思ったのか、忍者が飛び上がりハウリンの腕が下から襲い掛かる。 「気をつけろ! 射撃戦用が接近してくるのは、何か隠してるぞ」 俺はエルに注意を促す。 「分かってるって」 エルは上体を反らせてかわし、そこから地面へと急降下。 その一瞬後、エルの居た位置に相手の背中から伸びた、マオチャオの腕に取り付けたドリル空を切る。 エルより遅れて着地した忍者がマオチャオの腕を出すと、両腕にドリルがついていた。 ハウリンとマオチャオの腕、サブアームが二対、合計八本の腕が出揃った。 「まるで蜘蛛だな…」 正直な感想をもらす俺。 「マスター、作戦は?」 「んじゃ、蜘蛛の足から落としていくか」 「OK! 派手にいくぜ」 エルは相手に向かって飛び込み、発射間近だった吠莱壱式にアングルブレードを刺しこみ、バク転で逃げる。 大爆発と共に吠莱壱式とマオチャオの腕が吹き飛ぶ。 「まず二本!」 エルが叫ぶ。 爆発でうろたえる相手の頭を優雅に飛び越えの背後に回り、フルストゥ・クレインとフルストゥ・グフロートゥをサブアーム基部に突き刺す。 そして、ジャンプして足で押し込むとそのままジャンプして飛び越える。 「これで六本!」 倒れた忍者が起き上がると同時に、ビームサーベルを両手に持ち懐に飛び込んで相手を貫いた。 相手は、ヴァーチャルフィールドから消えてエルの勝利が決定した。 エルはビームサーベルを収めて左手を腰に当て、右手は頭上に高く掲げる。 そして、タンタンと大きく二回足踏みをして音を鳴らすと、キッとポーズをとった。 この日最大であろう、大歓声がエルと俺を祝福する。 控え室に戻った俺たちは、結果をアールに報告した。 「アール姉、勝ったぞ」 エルは武装をつけたままで、アールの頭を抱きしめる。 「よくがんばったな」 俺はエルの頭を撫でる。 「この調子で二回戦もがんばるぞ」 「おう!」 エルは勝ち進み、ベスト8まで行ったが、そこで負けてしまった。 そのときの相手が今回の優勝者だった。 俺の部屋の本棚の最上部に二つ目のアクリルケースが置かれることになった。 一つ目には、壊れたストラーフの素体。 二つ目にはストラーフの胸アーマーをつけたアーンヴァルの素体がストラーフの素体を抱きしめている姿になっている。 頭がない分ちょっとシュールになってしまっているが。 結局、エルの素体は起動しなくなったので新しいのを買った。 エルの使ったアールの身体をアールに戻すと、記念だから残して欲しいと言われ、アールの素体も新品にした。 それからもアールとエルは仲良くダンスをして俺はそれを眺め、エルをバトルさせるといういつもの生活が続いている。 大会を見ていた誰かが付けた、エルの二つ名”剣の舞姫(ソードダンサー)”が日本中に広まるには、あと少し時間が必要だった。 戻る 次へ
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ヒュゥン……。 軽やかな作動音と共に、私の意識は覚醒した。 機体各所の動作チェックの終了を受けて、ゆっくりと視覚素子を起動させる。 目の前にあるのは、人間の顔。 性別は女性。まだ少女と呼んだ方がいいのか、幼さの抜け切らないあどけない表情で、こちらをにこにこと見つめている。 「おはよう。気分はいかが?」 「あなたは……マスターですか?」 いきなりの問いに少女は面食らったのか、軽く目を見開いた。 「あの……」 けれど、マスターの認証は私達神姫にとって一番大事なこと。マスターを定めなければ、私はどう振る舞えばいいのかさえ分からないのだから。 「ふふ、せっかちなコね?」 艶やかな長い黒髪を揺らし、少女はくすりと笑う。 「……申し訳ありません。慣れていないもので」 「いいわ。考えたら、あたしも初めてだもの」 少女の手が私の方へ伸びてくる。色白の細い指が、私の頭をそっと撫でてくれた。 「あ……」 そのまま背中に手を回され、ひょいとお尻からすくい上げられてしまう。 バランスを取り戻すよりも早く、少女の細い指が私の足とお尻を包み込み、私を支える椅子となってくれた。 「私は戸田静香。あなたのマスターよ」 「戸田静香様……マスターと認証しました」 登録完了。 これで、最初にすべきことは終わった。 「マスターっていうのも堅苦しいわね。静香でいいわ……」 「……?」 いきなり呼ばれた固有名詞に、私は首を傾げる。 「あなたの名前。……気に入らない?」 「いえ、いきなりだったもので……」 そういえば、私自身の名前のことなど思いつきもしなかった。初期ロットとは言え、その手のバグは無いはずなのに……。 「我ながら、ちょっとシンプルすぎるかな、とも思ったんだけどね。名前なんて、シンプルなくらいがちょうど良いのよ」 話し方こそ大人びているが、仕草はどちらかといえば子供っぽい人だ。 「マスタ……静香も相当せっかちですね」 「似たもの同士、ってこと?」 「……はい」 「ま、いいわ。似たもの同士なら、仲良くやれるはずよね。きっと」 「はい!」 笑顔の静香は私を手に乗せたまま立ち上がり……。 「それじゃ……」 魔女っ子神姫 マジカル☆アーンヴァル ~ドキドキハウリン外伝~ その5 テンポ良くキーボードを叩く音が、部屋の中に響いている。ブライドタッチほど早くはないけれど、指一本よりははるかに早い、そんな速さで。 かちゃん。 リターンキーを強く叩く音で連なるタイプ音はようやく止まり、ボクは携帯ゲーム機から視線を上げた。 もちろんキーボードを叩いていたのはボクじゃない。 ジルだ。 両足でエンターキーへの着地をキメたまま、得意げにこちらへ振り返る。 「なぁ、十貴」 「何?」 ジルがPCの使い方を覚えたのはつい最近のことだ。最初は両手でトラックボール……ジルにPC用のマウスは大きすぎるから、ジル用に買ってきたもの……を転がすのが精一杯だったけど、キーボードをステップを踏む事でタイピングする方法を覚えてからは、ネットであちこちの掲示板なんかまで見るようになったらしい。 「それ、おもしれえの?」 ボクがやってる携帯ゲーム機を指差して、そう聞いてきた。 「まあまあかなー」 今やってるのは、もう40年近くも続いてるモンスターバトルゲームのシリーズ最新作。今は黄色の電気ハリネズミが、超高速でフィールドを突っ走りながら電撃を放っている。 「っていうかさ。そんなバーチャルな育成ゲームじゃなくて、もっとリアルな育成ゲームしてみたくねえ?」 「……はぁ?」 そもそも、育成ゲーム自体がバーチャルなゲームなんじゃ……。 「例えば、神姫とかー」 神姫も、機械の女の子を育てるって意味じゃ、育成の分野に入る……のかな? 「……ジルを育成するの?」 でも、ジルを見てる限り、神姫に育成要素があるとはとても思えな……。 「あぁ? 誰を育成するって?」 「……ごめん」 ほらね。どう見ても、神姫に育成ゲーム要素はないでしょ。 「あたしが十貴を育成してんだろが」 …………。 「……はいはい」 ボクは話を打ち切って、携帯ゲーム機に視線を落とす。 あ。メカ武装をまとったオレンジのティラノサウルスが出て来た。えっと、こいつ、まだ仲間にしてなかったっけ……? 「なぁ、十貴ぃ」 「……何が言いたいの、ジル」 ジルがこういう持って回った言い方をするときは、大抵何かある時だ。今日は何だろう。 だいたい予想はつくけどさ。 「なぁ、十貴。ウチは神姫買わねえの?」 やっぱり。 なにせ今日は、神姫の発売日なわけだしね。 「うちにそんなお金あるわけ無いでしょ……」 ネットで見た限り、神姫は一体でちょっとしたPC並みの値段がするらしい。スペックだけ見れば相応どころかむしろ割安だとは思うけど、中学生のボクにそんなお金があるはず無いし……父さんが1/12のモータライズボトムズ相手に激しい多々買いをを繰り広げて大変な事になってる我が家にだって、そんな余裕があるはずもない。 ちなみにジルが使ってるボクのPCも、父さんが仕事で使ってたヤツのお下がりだ。 「そもそも、神姫の複数買いって出来るの?」 「ほらー。ここの人達だって、黒子と白子げとー、とか書いてるじゃんか」 ジルってば、何処のページを見てるかと思えば……。まったくもう。 「何? もうそんなスレ立ってるんだ……」 マウスでスクロールを掛けて、ざっと斜め読みしてみる。 「昨日からフラゲ組がハァハァしてるよ。どこも在庫切れになってるみたいだけど」 少し前に、テストバトル参加者からの情報リークで(ボクじゃないよ)アーンヴァルの空中戦が圧倒的優勢って話になってたから……アーンヴァルの方が沢山売れてるのかなとも思ったけど、ここを見てる限りじゃどっちも同じくらい売れてるみたいだ。 「物売るってレベルじゃねえぞって……何だかなぁ」 三十年くらい前に流行語大賞もらった台詞だっけ? たまに父さんが口走ってるけど。 「だから十貴。うちにも一人買ってこようよー。妹が欲しいよー」 「そんなの、父さんに言いなよ」 っていうか、さっき在庫切れって言ったばっかりじゃない。今頃探しに行ったって、どこも売り切れだと思うよ。 「司令はボトムズに掛かりっきりだから相手にしてくれないんだよー」 「じゃあ無理。諦めなよ」 趣味に全力投球してる時の父さんは、家が火事になってもきっと気付かない。玩具ライターだから仕事に集中するのは良いことなんだけど、端から見てると黙々と遊んでるようにしか見えないのが最大の欠点だったりする。 「なんだよ。妹欲しいなー。妹ー」 ジルがそんなことをブツブツ言ってると、部屋の窓が唐突に開け放たれた。 「十貴ーっ!」 入ってきたのは、いつも通りに静姉だった。 「ん、どうしたの? 静姉」 何だか物凄く上機嫌だ。ボクで着せ替え人形ごっこする時でも、ここまで機嫌は良くない気がする。 何だろう。 すごく、嫌な予感が……。 「ほら、おいで!」 静姉はボクの不安なんか知らんぷりで、外に向かって声なんか掛けている。 誰だろう。友達を連れてくるなら、普通に玄関から連れてくると…… 「あーっ!」 思いかけたボクの思考を、ジルの叫び声が一気に吹っ飛ばした。 「あ! 買ってきたんだ!」 静姉に連れられて入ってきたのは、真っ白な武装神姫だった。小さなレースをあしらった可愛らしいワンピースを着て、ふよふよと頼りなげに浮かんでる飛行タイプの機体は、天使型のアーンヴァルだ。 起動したばかりで、まだ見るもの全てが珍しいんだろう。ボクの部屋に入った後も、きょろきょろを辺りを見回している。 「日暮さんとこに入荷情報があったから、お姉ちゃんと昨日の晩から並んだわよー。ほら、挨拶して!」 徹夜明けで底抜けにハイテンションな静姉の言葉に、アーンヴァルはぺこりと頭を下げた。 「えっと、アーンヴァルの花姫って言います。どうぞ、よろしくお願いします」 ちょっと舌っ足らずな喋り方が、随分と可愛らしい。この間の大会で見たアーンヴァルは、みんなもっと凛とした、お姉さんっぽい感じだったけど。 「ボクは鋼月十貴。よろしくね、花姫」 「……十貴さま?」 うわぁ。 普通の神姫は名前にさま、なんて付けるんだ。 「ふ、普通に十貴でいいよ。それと、こっちはうちのジル。仲良くしてあげて」 そうは言ったけど……大丈夫かな、ジルのやつ。この間のテストバトルでアーンヴァルにボロ負けした事、気にしてなきゃ良いけど。 花姫は気が弱そうだし、いきなりガン付けて泣かせるような事だけはしないで欲しい。 「よろしくね、ジル」 「ジルさん、っておっしゃるんですか?」 同じ神姫相手にもさん付け……。 なんか花姫見てると、今までジルで培ってきた神姫に対しての感覚が、かなりズレてるような気がしてくる。 「そうだよ。あたしのことは、お姉様って呼びな!」 ありゃ。怒るどころか、偉そうに胸なんか張ってるよ。これなら花姫を泣かせるようなこともしないっぽいな。 ……でもいくら何でも、お姉様はどうだろう。 「ちょっとジル?」 「……ダメ?」 さすがの静姉も、ジルのお姉様発言に苦笑気味だ。 「お姉ちゃん、なら許してあげる」 ……あ。それならいいんだ。 「じゃそれでひとつっ!」 「はい、お姉ちゃん」 「う……」 そう呼ばれた瞬間、ジルの動きがぴたりと止まった。 「な、なあ、静香。このコ、あたしがもらっちゃダメ?」 おいおいおいおいおい。 「ダメよー。花姫はウチの子だもん。ね、花姫ー?」 「ねー?」 満面の笑みで花姫の顔を覗き込んだ静姉にオウム返しで答えながら、花姫も静香を真似して首を傾けてる。 「花姫は妹なんだから、ジルもヒドいことしちゃダメだよ?」 まあ、さっきの様子じゃ、しそうにないけど。 「当たり前だろ! バトルと花姫は別扱いだよ。なー?」 「なー?」 今度はジルの真似っこだ。 ああもう、可愛いなぁ。 花姫を中心にみんなで遊んで、あっという間に日が暮れて。 「それじゃ、また来るわねー」 静姉の帰りは来た時と同じ窓からだ。傍らにはふわふわと浮かんでる花姫がいる。 飛び方の練習も少ししたから、来た時ほど危なっかしい感じはしない。 「花姫ー。帰ったら、あなたの新しいお洋服作ってあげるからねー」 「ほんとですかっ!」 花姫は神姫というその名の通り、本当に女の子らしい性格の子だった。殊に静香お手製のワンピースがお気に入りみたいで、ジルが飛行ユニットを貸して欲しいと聞いた時も、「ユニットはいいけど服はダメです」って言うほどだったりする。 「だから、どんなのがいいか一緒に決めようねー」 静姉も自分が作った服を喜んで着てくれる子がいるのが嬉しいらしくて、今日は本当に、ほんっとーーーに珍しく、ボクに服の話題を振ってくる事が無かった。 「それじゃ、お休み。静姉」 「じゃねー」 窓が閉まって、静姉が瓦の上を歩いていく音が少しして。 静姉が自分の部屋に入ってしまえば、賑やかだったボクの部屋もしんと静かになる。 「なぁ、十貴」 そんな中でぽつりと呟いたのは、ジルだった。 「花姫、可愛かったなぁ」 「そうだねぇ」 まあ、今日いちばん花姫を可愛いって言ってたのは、当のジルだった気がするけど。 「あのさ」 可愛くてたまらない妹分が帰ってしまって寂しいのか、ジルに何となく元気がない。 「んー?」 ボクは出しっぱなしになっていたゲーム機を片付けながら、ジルの言葉に返事を投げる。 「テストが終わって、あたしが正式に十貴のモノになったら……さ」 「うん?」 バトルサービスの本サービスが年明けから年度末に延びたこともあって、ジル達のモニター期間は最初の予定からもう少し長くなっていた。 バトルサービスがサービスインしてから半年。 それが過ぎればモニターは終わり、ジルは正式にボクの神姫になる。 二人の関係は何も変わらないだろうけど、心情的にはちょっと良い気分だ。 「あたしのCSC抜いて、花姫の使ってるセットに差し替えてもいいぜ?」 ぽつりと呟いたその言葉に、ボクは片付けようとしていた筐体を取り落としそうになった。 「あたしだって、自分がガサツな事くらい分かってんだよ。けど、あんな可愛い子に生まれ変われるんなら……」 ボクはため息を一つ吐いて、筐体を棚に片付ける。 「……バカ言わないの」 神姫のコアユニットと素体、そしてCSCは不可分だ。三つのパーツにジルの個性は等しく宿る。 即ち、三つが揃ってこそのジル。どれが欠けても、ジルはジルでなくなってしまう。 「ジルはジルだよ。そんな事するくらいなら、もう一体神姫買ってくるって」 花姫は確かに可愛いけど、ジルと引き換えに手に入れるものじゃ、決してない。 迎えるなら、ボクとジル、二人でないと。 「金もないのに?」 そんなことは分かってる。 「高校生になれば、バイトも始められるから」 武装神姫のロードマップに照らし合わせれば、ボクが高校生になった頃には、第二期モデルのハウリンやマオチャオ、ヴァッフェバニーも発売になっているはず。 高校なんてまだまだ先の話だけど……ジルの妹の選択肢が増えるって意味じゃ、悪いことだけじゃないと思う。 「なんだよ。学生のウチから神姫破産かぁ?」 皮肉めいた調子で、へらりと笑う。 言葉の意味は分からなかったけど、よかった、いつものジルの喋り方だ。 「引き込んどいて、良く言うよ」 まあ、それも悪くない。 「……十貴」 「何?」 「あんたが主人で、良かったよ」 いつになく本気なジルの言葉。 「ボクもジルが神姫で……良かったよ」 それはあまりに突然で、驚いたボクは言葉を詰まらせる。 「……ンだぁ? 今の間は」 けど、それがマズかった。 「いや、それは……っ!」 「ホントは花姫みたいな可愛い子が良かったなーとか思ってるんじゃねえだろうな! あたしみたいに尻に敷いたりしないだろうしさ」 ボクの肩にひょいと飛び乗り、耳元でがなり立てる。 「そんな、思ってないって! いたたたたた!」 って、耳ひっぱらないで、耳ーっ! 「正直に言え。今なら思ってても許してやる。あたしゃ本日限定で、すっげー心が広いんだ。な?」 いや、ジル、心が広い人は耳とか髪とかひっぱらないと思うよって痛いってば。いーたーいーーー! 「……ごめん。花姫みたいな神姫なら、もう一体欲しいなとは思ってた」 「オーケー。そいつはあたしも同感だ」 ぱっと手を離し、ジルはボクの肩で満足そうに笑ってる。もう、乱暴なんだから。 まあ、ずっと塞ぎ込んでるよりはマシか。 「でも、ボクとジルが一緒になれたのも何かの縁だよ。ジルが思ってるような事は、するつもりないから」 それだけは本当だった。 ジルのCSCを抜いて花姫にしようだなんて、思いつきもしなかったんだから。 「頼むぜ。これからもヨロシクな、マイマスター」 「うん。今後ともよろしく、ジル」 その日、ボクは本当の意味でジルにマスターって認められたんだけど……。 それに気付くのは、もう少し経ってからになる。 戻る/トップ/続く
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ざわざわ、ざわざわと、たくさんの音が交じり合った、その空間は異様だった。 あるところでは勝利の雄たけび、あるところでは敗者の怨嗟。 またあるところでは黄色い賞賛、またまたあるところでは、シリアスな議論。 合間に轟くは、火薬のはぜる音、鋼のうなる音、怒号、悲鳴。 ここは神姫センター。人の欲望渦巻く魔城……。 「マスター、ワケのわからないナレーションをいれて面白い?」 カバンから突っ込むは、凛とした声。私の神姫のタマさんである。 「ああんもう、なんかこうソレっぽいの入れたらそれっぽくなるかなーって」 なるわけないじゃないか、キミは本当にバカだな!などと再び言葉のカッターをいただく私。 タマはん、ホンマに容赦ないお方やでぇ……。 そんなわけで、私とタマさんは、通学途中の駅にあるセンターに来ている。 規模と人の入りは、平日とはいえ少なくはない、駅そのものが、別の路線への連絡駅になってるせいか、安定した集客があるらしい。 かくいう私もこの駅から別の路線に乗り換えて帰宅、あるいは通学するので、良く利用させてもらっている、ありがたや。 「それはともかく、学校帰りに一人で神姫センターって、女子高生的にはどうなんでしょうね」 「ゲーセン入り浸るよりかは多少マシなんじゃないか、タバコ臭くないし」 近場にあるゲーセンはタバコくさくていけない。この時勢、全面喫煙可ってなかなかないんじゃないかしらん。 さておき、何も漫才をしに、私たちはここにきたわけじゃない。いや、漫才は毎日してるけど。 「で、マスター、今日は何しにきたんだ」 「タマさんや。今日は新作の服があるらしいのでちょっとタマさんのファッションレパートリーを増やしに」 つまり、服を買いに来ただけなのだった。 ところ変わって、神姫用の服飾売り場。 タマさんは肩の上から服を眺める。 今回の新作は、アシンメトリーと銘打たれた逸品。 左右非対称の、斜めにカットされたスカートが特徴のドレス。 赤い生地に、黒のレースはちょっとアダルティな空気をかもし出す。 「いかがですかタマ先生。私的にはいい線いってるとおもうのですが、先生には」 コレを着たタマさんを思うかべる。おお、アダルティ、大人の女! 一方タマさん、ドレスへ視線を。お、ちょっと食いついたご様子。 「……ま、アリ、じゃないかな。キライじゃないよ」 むむ、先生的には50点より上に入った程度か、さすが、お眼鏡にかなうものはなかなかありませんのぅ。 しかし、スルーするのももったいないので、私はコレをお買い上げした。うふふ、財布が軽くなるわぁ……。 「いやぁ、センターいいなぁ、ゲーセンじゃ武装の類はあってもこういう物は置いてないからねー」 ほくほくと小さな紙袋をカバンにつっこみつつ。懐の氷河期?知らねぇなぁ! 「あれはあれでキライじゃないけどね、私は。闘いの雰囲気は、好きだよ」 ううむ、タマさんはバトルスキーであるからな。武装神姫としては正しいメンタリティなのかもしれませんが。 ちょっと、タマさんに視線を落としてみる。ちらっ、ちらっ、と私を見る私の神姫。 「……じゃー、闘いの雰囲気もちょっと感じに行きますか?」 なんとなくを装ってささやいてみる。 「……マスターがそういうのであれば、やぶさかではないな。時間もないしいこうじゃないか」 いやぁわかりやすい。 そして、バトルブース。 とはいっても、そんな長いこと歩く距離でもなく、あっという間にご到着。 おーおー、賑わってる。わいのわいのと会話と、バトルのSEが飛び交う。 スクリーンに映ってるのは、アークとアルトレーネの闘い。 足に取り付けられたホイールを生かし、機敏に動き回るアーク。手には黒い無骨なアサルトライフル。 各所のコンデンサから得られる電力を生かして、低空から攻めるアルトレーネ。こちらは細身の片手剣。 武器こそ違うものの、他はすべて、初期から付属しているパーツのみ。ほぼ初期装備で立ち回るそのさまは、なんとなく美しい。 いいなー、こういうのあこがれちゃうなー。などと、私の感想。うん、時々、男に生まれればよかったなぁ、と思わなくもない。 あ、アルトレーネが勝った。決め手は近接戦闘の読み合い。 「……あの子と、戦りあって、みたいな」 ぽそりと聞こえた、静かだけど、感情のこもった声。ほんとにバトルスキーなんだから。 んじゃぁ、いっちょ準備しようかしらん。と、カバンから、紫色の布に包まれた、細長い何かをタマさんに。 「……もってきてたんだ」 「そりゃこういうところ来るんなら、タマさんは絶対1回は戦いたいなぁと思うところであるし、もってないとねぇ」 いまいち日本語になりきれない返事をしながら、私はよいしょ、とブース内の対戦スペースへ。 「あー、指名バトルだと時間と、向こうさんの名前わからないからランダムになっちゃうけどいいかなー?」 スクリーンに、神姫の名前とオーナー名も出てたはずなんだけど、私の記憶力は鶏なみなのだ!フハハハハハ! 「……まぁ、それくらいはしょうがないか。とり頭なのは今に始まったことじゃない」 ……神姫に言われるのはクるわー。超クるわー。 空は、焼けた赤い色と、日が落ちた藍色の境界ができている。 雲の作る影と、赤い輝く太陽。ひどくキレイな光景。 空気は湿気と熱気を含んで、あまり心地いいものじゃないけど、この空を見てると、なんとなくラクになる気分。 「夕方の空が綺麗やねぇ……」 ああ、なんか清々しくすらなってきた、さぁ帰ろう。ごはんも準備しなきゃいけないし! 「……負けてここまで清々しいオーナーも珍しい気がするね。私も大概だけど」 ええ、負けました。先ほどから始めたバトルは、私たちの負けでございました。 何せ、装備は刀一本で、後は服のみ。相手からすりゃもう、ナメてんのかてめぇといわんばかりの有様。 いや、そこそこいいとこまでいったんだけどね? 「まま、そういわないで。縛りプレイで負けはよくあることさぁ。タマさんのがんばりはけなす気ないし」 刀一本でどこまで戦えるのか。そんな縛りプレイというか、ルールというか、そういうものを定めている私たち。 勝率は高くない。そりゃそうだ、空は飛べない、走れはするけど、推進装置を積んだ神姫ほど早く動けない。 身体には衣服ひとつ、あたれば致命傷。武器は刀だけ、遠距離でガン攻めされたら完封。 うん、完璧だ、勝てねーな! 「ま、私もまだまだというところだね、飛び道具ごときでこのていたらく。精進が足りないな」 ふん、と鼻息ひとつのタマさん。あなた、時々ストラーフなのが間違いな気がしますよ。紅緒さんの生まれ変わりじゃありませんこと? おかげで向上心と努力はすごいんだけど。ちなみに、この縛りを決めたのはタマさん本人です。パネェ。 「んじゃー帰ろうか。今夜は餃子にするぜー、包んじゃうぜー」 「じゃあ私はキャベツ刻みでも手伝おうか。刀の修練にちょうどいいし」 「……よ、よろこんでいいのカナ?」 帰宅後、キャベツを前にするタマさんは、ひどくシュールな図であったと、こっそり付け加えておこう。 タイトルへ 次のぐだり
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樫坂家一家の設定 序幕終了時点 樫坂 脩 / 男 17歳 本編主人公。 時折突拍子も無い事を言ったり独り言を呟きまくったかと思えば黙り込んだりもする男子学生。 両親は共働きで母は大手航空会社のスチュワーデス、父は神姫関係の大手会社の社員でよく出張する。 たまに帰ってきて二人揃ったらあらゆる意味で目も当てられないバカップルらしい。 武装神姫は前から興味があったがなかなか踏ん切りがつかないでいた。 が、母からユイナが、遅れて父からシェラが届いたことで本格的に踏み出し始めることとなった。 ちなみに両親が稼いでそうなのになぜか自宅は普通、というかむしろ多少ボロい。そして脩は所持金が少なかったりする。のに良くギャンブルまがいの事をする悪癖がある。 神姫の名前は結構しょうもない理由で付けてしまう。あと実はCSCとかは深く考えないで装着していた。 更に、日ごろからやれば出来るのに……と言われている。実際頭はかなり良いが疲れるのと頭痛が起きる時があるのでやる気が無いと使わないし居眠り癖があるので教師を困らせてる。 考え方が若干ズレてる。どうズレてるかと言うと、当り前のようで当り前じゃない、矛盾してるようで矛盾して無かったりする等。 ユイナ、シェラ、くー、フィー、キュリア、リムの6体のマスター。 武装はフルセットについてくるアーマーパーツは変えずに武装だけ変えていて、リアパーツ等はまだ弄れないとの事。 ユイナ アーク/ストラダーレ仕様 一人称は「私」 脩の最初の神姫でありHST型と呼ばれる神姫で、トライクになったり、武装がバイクになったりする。 脩の母が仕事先で見つけ即購入、脩の誕生日に贈った神姫で「ストラダーレ(公道仕様)」とよばれるリペイントバージョン。 性格は基本的なアークより大人しい。そしてお姉さんっぽい。実際他の5人をまとめてるのはユイナ。 面倒見が良く、誰とでも仲がいいので周りの神姫からは慕われていく。 戦闘スタイルは「高速万能型」。つまるところオールラウンド。トライク状態も多用する。 主な装備 アーク基本装備。だがナイフは抜けた。 代わりに手榴弾、ソウブレード「断慈斬」が初期装備に追加されている。 予備(サイド)にはM49ショットガン、偃月刀の二つ。 シェラ アルトレーネ/蒼空リペイント 一人称は「私」 脩の二人目の神姫であり、ユイナの三日後に来た。 脩の父が出張先で知り合った人物から譲り受けた神姫で、オリジナルのカラーリングが施されている。 簡単にまとめると髪は金、装甲と素体はノーマルペイントの白い部分が空色、青い部分が白になってる。が空色になってて 性格はアルトレーネの基本に違わず天然気質でどことなくふわふわした雰囲気でドジ。しかし一度切り替わると普段からはあまり想像できないくらい凛々しくなる。 戦闘スタイルは「機動近接型」。ほとんどフリューゲルモードでの戦闘だが時折、軽装状態になる。 主な装備 アルトレーネ基本装備。 それにアルヴォPDW9、ビームブーメランを追加した物が初期装備。 予備にはバルムンク、アルファ・ピストル×2。 くー(???) マリーセレス/青紫リペイント 一人称は「くー」 脩の三人目の神姫で野良神姫だったところ、不法侵入した脩の家にいついた。 詳しい経歴は不明な上に行動、言動のどちらをとっても掴みどころのない神姫だがそれでも自分を迎えてくれた脩とユイナ達には感謝している。 性格はマイペース、というか自由奔放。だが、その裏でかなりの策士でもあり、本当は寂しがり屋でもあるという表と裏の2面性を持った神姫。 脩に使いたい武装を要求したり、自分の自由に戦ったりもするがその強さは本物であり、脩に初戦を見せる事で自分の戦い方を伝えた。 ペイントはノーマルのカラーリングの黒を暗い青紫に、青を更に濃く(濃紺色)してライン系統は全て白という配色になってる。髪のみ変わって無い。 戦闘スタイルは「多段奇襲型」。常に相手の意表を突いていくうえ、単純計算では8段構えの攻撃をする。 主な装備 マリーセレス基本装備。 だがイング・ベイカー以外の基本武器は触手状のフロントスカートに装着。 また、両サイドスカートにはダブルアームフォールディングナイフをそれぞれ装備、内側に格納している。 そしてイング・ベイカーは2丁。 予備はスクラマサスク1本のみ。 フィー(フィラメル) 紗羅檀/銀眼リペイント 一人称は「わたくし」 脩の四人目の神姫であり、倉根玩具店のオーナーでデザイナーでもある倉根 敏章によりリペイントされている。 具体的にいえばノーマルペイントの黒はそのまま、金色が白色、髪は薄紫から真紅のグラデーション、そして眼が銀色。 実はとてつもなくスペシャルモデルであり通常より遥かに高額だが、店主の倉根 敏章が倉根玩具店のクジの特賞(約100000分1、毎日抜けた分だけ補充される)として一応設定していた。 普通ならまず当たらないのだが、まさかの敏章自身のミスによって脩が引き当てた事で脩の手元に来た。 性格は大人びたお嬢様といった感じであり、普段の振る舞いもお嬢様のそれといった感じであるが時折フランクな場面も見せる。ユイナに次ぐまとめ役でもあり隠れた努力家。 また、日常生活でも左足をスレイプニティに変えている。たまに左腕もグラニヴァリウスになってる。 戦闘スタイルは「特殊近接型」。近接戦でも立ち回りながら演奏をする。余談だが実は6体の中で一番基本から離れている。 主な装備 紗羅檀基本装備………というかまさかのフル装備。 脩でも気づかない内にスレイプニティとグラニヴァリウスを同時に着けてる。しかもイメージに反して蹴る時もある。 リジル、ノーデゥングはスレイプニティの装飾をはずしてそこに着けてたりする。そしてスネークソードを初期装備 予備は無し。 キュリア ムルメルティア/深緑リペイント 一人称は「自分」。ただし心の中では「私」 脩の5人目の神姫で、ジャンクショップから萩河の知人、そして萩河と奥道が直して脩へと渡ってきた。 ペイントは素体以外は、ほぼ深緑色と一部赤。髪は銀髪。 性格は基本的に無口で、言葉を出しても事務的に聞こえるが、実は心の中ではかなりおどおどしていて、悪い方向に物事を考えてしまうが心優しい。 起動当初は、リセット前の影響からかほとんど喋らなかったが、脩達の何気ない気づかいと後押しに押されてシェラに射撃の手ほどきをしたことがきっかけになり打ち解けるようになった。 実はかなりの動物好きであり、近所の猫や犬、鳥を一日中眺めていることもある。 戦闘スタイルは「重量砲戦型」。つまるとこ巨砲主義。反動の強い武器を思いっきりばらまく。一番脩が装備構成をなやんでいる神姫でもある。 主な装備 ムルメルティア基本装備。インターメラルはキャノン砲。 副腕アリ。だが暫定的な物で脚にするか悩み中。 初期装備はさらにM49ショットガン、アイゼンイーゲル、シェルブレイクが追加。 予備は無し。 リム エウクランテ/黄リペイント 一人称は「あたし」 脩の六人目の神姫であり、ここまできてやっと、初めて自分で買った神姫だったりする。が、酔ってたので考えものでもある。 先に五人も先輩神姫が居るので最初は驚いてた感じだったが、その後はあっさりと親しくなる。 性格は普通。あえて言えば真面目だが冗談も言える。よく貧乏くじを引いている。悩みの種は無個性。他のメンツの個性が強いせいもあるが一芸欲しいとは考えてる。 ペイントは、ノーマルペイントの白を薄い黄色、青を薄い赤、黄色を黒に変えた感じ。髪は金髪ツインテール。 メンバー内ではシェラに次ぐ空戦要員。近接では流石に劣るがその分バランスが良い。 戦闘スタイルは「空中射撃型」。中距離からの射撃メインだが、脩は他の事も考えているらしい。 主な装備 エウクランテ基本装備。実はまだ模索中だったりする。 一応現在はビーハイヴ、ジャマダハルを追加した初期装備。 予備は無し。