約 220,408 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1843.html
2.目覚めは猫の鳴き声で 「どれどれ……えーっと、これがCSCってやつかな? ずいぶん小さいな……」 家に着いた僕は、早速神姫のセットアップを始めた。 箱から出てきたのは全長15センチくらいの人形だ。 細かい造形までよく出来ていて、今にも動き出しそうだ……って、それは当たり前か。実際に動くんだし。 米粒よりも小さなCSC――正式名称をコアセットアップチップという――をピンセットでつまみ、素体と呼ばれるボディ部分の胸元にある、小さな三つの穴に埋め込んでいく。 このCSCを埋め込むことで神姫は起動するのだが、その組み合わせによって神姫の基礎人格や得意分野、嗜好などが方向付けられるという。 CSCの種類自体いくつもあって、それぞれに特徴があるらしいのだが、僕の手元には若山さんから譲ってもらったCSCがちょうど三つあるだけなので、選択の余地はない。 とはいえ同じCSCの組み合わせでも神姫の種類によってはその性格の現れ方が異なるらしいし、最終的に最も強く影響するのは起動後の生活なのだとか。 「どんな性格でもきっと可愛いと思うようになるから、あんまり気にしなくてもいいよ~」 というのが、若山さんが僕に語った結論だった。 その言葉に従い、あまり細かいことは考えずに作業を進めていく。 考えることといえば、この神姫は一体どんな性格で目覚めるのだろうか、ということ……。 「にゃー」 作業をしている僕の足元に、一匹の猫が不満げな様子でまとわりついてくる。 飼い猫のキャロルだ。 そういえば今日はまだご飯を用意してやっていなかったっけ。 「あーごめんごめん。もうちょっと待っててくれな、もうすぐ終わるから」 すまなさそうに答えると、とりあえず納得したのか、キャロルはまとわりつくのをやめてちょこんと座り込む。 「どうした? 新しい家族が気になるのか?」 首をかしげて神姫を見つめるキャロルに、僕は思わずそんな言葉をかけていた。 自分で言っておきながら、不思議な感覚にとらわれる。 この小さな人形が動き出し、僕と一緒に過ごしていく……ほんの数分後に現実になるであろうその光景を、僕は未だ想像すら出来ずにいた。 「これで最後……っと」 三つ目のCSCを埋め込んだその時、にわかに電話のベルが鳴り出した。 タイミングが悪いにもほどがある。 無視してしまおうかとも考えたが、仕事絡みだと後々面倒だ。 僕は渋々立ち上がり、キッチン横に備え付けられた受話器を取る。 「はい、狩野です」 『ああ、暁人? 最近全然連絡ないから心配してたけど、元気でやってる?』 電話口から聞こえてきたのは、間違いようもない母親の声だった。 僕が仕事を始めて一人暮らしをするようになってからというもの、こうして何かにつけて電話をかけてくる。 別に嫌ではないのだが、我が母親ながら少し過保護に過ぎるのではないだろうか。 一人息子を心配する気持ちはわからないでもないが、もう少し僕のことを信用してほしい、とは毎度思うことである。 「ああ、母さんか。うん、特に問題なくやってるよ。あーごめん、今ちょっと取り込み中なんだ、またかけるから」 『そんなこと言って、貴方自分から連絡してきたことほとんどないじゃないの』 やばい、地雷を踏んでしまったか……こうなるとうちの母親は話が長い。 説教というわけではなく、脱線を繰り返して話がとんでもない方向へ進んでいってしまうのだ。 それは声のトーンでわかる。 普段なら適当な相槌を返しながら聞き流すのだが、さすがに今はそうもいかない。 「あーほんとごめん、今はどうしても時間がないんだ。ちゃんと連絡するから、じゃっ!」 『あ、こら、あきひ……』 少々強引に電話を切り、受話器に向けて手を合わせる。 ごめん、ホントに今度ちゃんと連絡するからさ。 えーっと……そうだ、神姫は起動したらすぐにマスター登録というのをしなければならないんだっけ。 このマスター登録によって神姫は特定の人間をマスター……つまり自分の主人として認識し、ここにある種の契約が産まれる。 こう言うと伝承の中にある召喚の儀式のようだが、イメージとしてはあながち間違いでもないのかもしれない。 「……そんなこと考え込んでる場合じゃないか」 誰にでもなく呟き、急いで部屋に……と、その時、聞きなれない声のようなものが僕の耳に入ってきた。 ともすれば聞き逃してしまいそうなくらい小さなものだったが、何故かそれが耳について仕方ない。 「……ぅ」 何だろう、確かに声のように聞こえる。 テレビはつけていないし、割と防音がしっかりしている部屋なのでお隣さんということはないと思う。 外からの音というのも、同じ理由で可能性は低い。 聴覚を集中させて、音源を探る。 「……ぁぅー」 今度ははっきりと聞こえた。 間違いなく人の声だ。そしてその発信源は……。 「……誰か~、た~す~け~て~」 ……僕の、部屋? 「……しまったあ!」 キャロルが興味津々な様子で神姫を見つめていたのを思い出すと同時に、僕はあわてて駆け出し、部屋のドアを乱暴に開けた。 そして僕の視界に飛び込んできたのは……。 「にゃー」 「あうあうー、離してくださいってば~」 我が家の愛猫に捕食されそうになりながら情けない声をあげている、小さな女の子だった。 「うう、ぐすっ……ひっく」 さて、困った。 神姫を押さえ込んでいた(当人は多分じゃれあっていたつもりなのだと思うが)キャロルを急いでひっぺがし、とりあえず夕飯を与える。 今は好物のミシマ水産のツナ缶を一心不乱に食していらっしゃる。 こちらのことなど眼中にない様子。 そしてようやく神姫と向かいあったまではいいのだが、肝心の神姫が先ほどから泣いてばかりなのだ。 キャロルには子猫の頃から僕の指で甘噛みの練習をさせているので、痛みとか外傷はないと思うのだが……よほど怖かったのだろうか。 「あーその、なんだ……ごめん、謝るから、とりあえず泣き止んでくれないかな?」 そう言葉をかけるも効果はなし。 参った、僕はこういう状況はとても苦手なのだ。 女性経験が皆無といっていい僕にとって、女性に泣かれるということは、対処のしようがない天災のようなものである……経験があったとして、それが神姫に通用するかは疑問だけど。 とりあえず言葉で彼女をなだめることは早々に諦めるとする。 となれば、残るは実力行使だ。 彼女を怖がらせないように、そっと手を伸ばす。 俯いてえぐえぐやっている彼女が気付く様子はない。 ぴと。 僕の人差し指が彼女の髪に触れる。 そしてゆっくりと撫でるように、さすってみた。 人間同士の最も原始的なコミュニケーション、スキンシップ。 その基本中の基本である『頭を撫でる』という行為を実践したのだ。 僕が頭を撫でると同時に、彼女の動きがぴたりと止まる。 ぐすぐすと泣いていた声も止まったので、僕はひとまず安心して、そのまま頭を撫で続けた。 指先に、微かな温もりを感じる。 それが機械特有の熱であると頭では理解しながらも、その温かみは人が持つそれと同等のものに感じられて仕方がなかった。 しばらくされるがままになっていた彼女が、ゆっくりと顔を上げる。 まだ目元に涙が残っているようだが、その顔に怯えや恐怖はない……というか、なんだかぽーっとしているようだけど。 「ん、少しは落ち着いた?」 「ふぁー……」 僕の辞書には、肯定にも否定にもそんな返事はない。 それ以上どうすることも出来ず、僕はまた困ってしまった。 彼女の金髪はさらさらしてて気持ちいいし、しばらくこのままでもいいんだけど……。 いつの間にかぺたんと座り込み、すっかり脱力している彼女の姿に、僕ははたとあることに考えつく。 (もしかして、神姫って頭撫でられると動けなくなるとか……?) そんな馬鹿な。 人間とコミュニケーションをとれるのがウリだってのに、頭撫でたら動けないなんて本末転倒にもほどがある。 でも昔、しっぽを掴まれると力が抜けるアニメキャラとかもいたしなあ……って、それはまた違う気もするけど。 とにかく、もし本当にそうだとしたら困るので、僕は一度彼女から指を離した。 彼女は相変わらずぽーっとしていて、その様子に変化はない。 「……そうだよなあ、そんな矛盾あるわけな」 「ふあっ、わわーーーーーーーーっ!?」 突然彼女が大きな声をあげたので、僕はびっくりしてひっくり返ってしまった。 十五センチサイズから発せられた音量とは思えなかった。 「な、何、どうしたの!?」 「ごごごご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめあいたーっ!?」 いきなりすごい勢いでぺこぺこと頭を下げ、謝りだす。 そして勢いがつきすぎたのか、床にモロに頭を打ち付けていた……かなり痛そうだけど、大丈夫かな。 「うー、くらくらするよお」 涙を浮かべながら、両手でおでこを押さえている。 よっぽど痛かったんだなあ……じゃなくて、とりあえず落ち着かせないと。 「あー……君、とりあえず僕の目を見てくれるかな?」 「はは、はいいっ!」 僕がそう言うと、彼女は軍人も驚くくらいびしーっとまっすぐに立ち、僕の目を見つめた。 まだ冷静とは言えなさそうけど、話は出来そうだ。 「えっと、君は武装神姫。自分のことはわかるかな?」 まずは彼女の状態を確かめないといけない。 いきなり混乱していたみたいだし……僕のせいなんだけど。 「あ、はいっ。私は武装神姫、天使型MMSアーンヴァル。コアユニットコードAGL―ARNVAL。個体コードTT―45986、素体構成材質は……」 「ストップストップ、そこまででいいよ。ありがとう」 彼女の話を途中で遮る。 構成材質とか興味がない話ではないが、そんなのは後で調べればいいことだし、今の目的はそこじゃない。 「よろしいのですか? まだ途中ですが……」 「いいのいいの、いずれ詳しく教えてもらうから。それより先に、マスター登録ってやつをしないといけないんじゃないのかい?」 『マスター登録』という言葉に、彼女はようやく落ち着きを取り戻したらしい。 「そ、そうですね」なんて言いながら、ふーっと一つ深呼吸……なんか、全然ロボットっぽくないな。 若山さんが怒ってた気持ちが、改めてわかった気がする。 「では、マスター登録を開始します。音声解析、準備……完了。貴方が私のマスターですか?」 先程までとは違う、機械的な音声。 合成音というわけではないが、やはりこういうところは機械なのだと再認識する。 そして僕が返事をしようとした、まさにその時……。 「にゃーん」 いつの間にか食事を終えていたキャロルが僕の変わりに返事をした。 「お、おいっ」 もちろん僕は慌てる。 猫が神姫のマスターだなんてことになったら一大事だ。 む、いやしかしそれはそれで興味深……いやいやいや。 そんなことを考えている間にも、彼女は言葉を続ける。 「解析開始……完了。登録不能な音声信号と判定。登録に失敗しました。マスター登録を再試行します」 どうやら猫の声ではマスター登録は出来ないらしい。 考えてみれば当たり前なのだが。 それに、マスター登録には自分の名前を告げることが必須だったはず。 さすがに「にゃーん」ではそこでひっかかるだろう。 僕は胸を撫で下ろし、再度マスター登録に臨む。 「貴方が私のマスターですか?」 「そうだよ、僕の名前は……」 「にゃー」 って、おい! 「解析開始……完了。登録不能な音声信号と判定。登録に失敗しました。マスター登録を再試行します」 この手の登録は三回失敗すると一時的にシャットダウンされるって相場が決まってる。 今度こそ邪魔されるわけにはいかない。 僕はキャロルの両脇をむんずと抱え上げ、クローゼットの中に押し込んで扉を閉めた。 「にゃー!」 なんだか怒っているようだが仕方ない。 ごめんよキャロル、少しだけ我慢してておくれ。 「さて……」 これで安心だ。 僕も一度深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。 「貴方が、私のマスターですか?」 三度目の試行。 ゆっくりと、確認するように聞こえたのは気のせいだろうか? 「そうだよ、僕が君のマスターだ。僕の名前は狩野暁人」 「解析開始……完了。音声信号を保存。マスター名、狩野暁人。マスター登録に成功しました」 登録完了、これで一安心だ。 彼女の声質が、それまでの機械的なものから、本来彼女が持っているものへと変わる。 「えと、これからよろしくお願いしますね、マスター」 鈴を転がすような、というのはこんな声のことを言うのだろう。 ちょっと舌足らずな喋り方がまた可愛らしい。 「うーん、マスターっていうのは堅苦しいな。僕のことは暁人でいいよ」 彼女はきょとんとしている。 名前で呼ぶこともマスターと呼ぶことも、彼女にとってあまり違いはないのだろうか。 「えと……じゃあ、暁人さん」 「うんうん、よく出来ました」 ご褒美……というわけでもないが、人差し指で彼女の頭をぽふぽふと撫でてやる。 そうするとまた、彼女は脱力してぽーっとなってしまった。 「ふぁー……」 「あ、ごめんごめんっ」 僕は慌てて指を引っ込める。 こんなこと説明書には書いてなかったんだけど……腑に落ちないが仕方ないか。 「神姫って頭撫でられると動けなくなっちゃうんだね、僕も気をつけないと」 「……え?」 彼女が「何言ってるんですか?」という目で僕を見る。 いや、そんな反応されても……。 「頭撫でられると動けなくなるんじゃないの? 事実、君はさっきからそうなってるし」 そう言いながら三度人差し指で頭を撫でると、やっぱり同じ反応。 でも、なんだか赤くなってもじもじしているように見える。 「えと、えーと、あのですね……」 何か言いたそうなのでとりあえず指を離し、話がしやすいように彼女と目線の高さを合わせた。 彼女はほうっと息を吐くと、 「先に結論から言いますと、頭を撫でられても神姫が動作停止することはないです」 と、はっきりした声で言う。 そりゃそうだよなあ、やっぱり。 頭も撫でられないで何がコミュニケーションか、などと思う。 しかし、そうすると先程からの彼女の脱力っぷりが気になるわけで。 「でも、君は頭を撫でられると様子がおかしくなるよね? もしかして、どこかにトラブルでもあるのかな」 いかに心を持つとはいえ……いや、逆に考えれば、それだけ複雑なプログラムや精巧なボディで出来ているのだ。 精密機械の常で、どこかにトラブルが潜んでいたとしてもおかしなことではない。 そんな僕の考えをよそに、彼女から返ってきた答えは、僕の予想の斜め上を行くものだった。 「いや、そのですね、何と言いますか……その、頭を撫でられると、あったかくて気持ちよくて、ぽーっとなってしまうようで……」 顔を真っ赤にして、指をぐにぐにしながら答える彼女。 えーっと、それはつまりプログラムのバグやハードウェアの故障とかじゃなくて、もっと原始的な感情に基づくもの……。 「あー……それはつまり、頭を撫でられるのが好きってこと?」 恥ずかしそうに僕を見上げながら、こくこくと頷く。 なるほど、頭を撫でると動けなくなるのは武装神姫全般の仕様とかじゃなくて、彼女特有の個性ってことか。 しかしまあ、そんな個性もありなんだろうか? いずれにせよ、彼女に悪影響を与えるものではないとわかったので安心だ。 遠慮なく(というのも妙な言い方だが)頭を撫でさせてもらうことにする。 「はふ~……」 そして脱力。 先程よりもいささか安心しているのか、自分から僕の指に頭をすりつけたりしている。 うーん、なんか小動物みたいで可愛いな……と、そこで僕は大事なことを思い出し、彼女を撫でる指を離した。 名残惜しそうに彼女は首を伸ばし、頭を僕に向けて差し出してくる。 くう、可愛いぞ……このまま戯れていたいけど、そうもいかない。 「君に名前をつけてあげないといけないね」 いつまでも『君』とか『彼女』のままじゃ可哀想だ。 うんうん、と僕は一人で頷き、考えを巡らせる。 さて、どんな名前がいいだろうか。 「天使型、天使……エンジェル、アンジュ、セラフ……ダメだな、安直すぎる」 せっかくだから彼女に似合う、最高の名前をつけてあげたい。 彼女は色白でかつ金色に輝く髪の持ち主だ。 和風な名前は最初から選択肢の外にある。 洋風の名前でも、安直なのはダメだ。 ちゃんと意味を持った、彼女だけの名前にしてあげないと……。 「あのー、暁人さん?」 がりがり。 「彼女のイメージから連想する言葉……天使からは少し離れてみよう。白、金、乙女……」 『暁人はそういうトコ無駄にこだわる癖があるよな』とは大地の弁だ。 大地に限らず、学生時代から周囲の友人の評価は概ね変わっていない。 別にいいのだ、自覚もあるし。 興味のないことには悲しいくらい無関心、その代わりこだわるところは徹底的にこだわる、それが狩野暁人という人間である。 「あのあの、暁人さんってば」 がりがりがり。 「なかなかいいのが思い浮かばないな……そもそも彼女のイメージっていうのがまだ漠然としすぎてるんだ」 まだ出会ってほんの三十分である。 僕が彼女について知っているのは、外見的特徴と「頭を撫でられるのが好きだ」ということくらいのものだ。 しかしまあ、当たり前のことだが名前というのはそんな状況でつけるものである。 キャロルの時はどうしたんだっけ。 「ええと、あの時は確か……」 「あーきーひーとーさーん!」 「うわっ」 「きゃあっ」 耳元で大声がしたため、僕は再び後ろにひっくり返ってしまう。 そして同時に悲鳴。 いつの間にか僕の肩に登っていた彼女が、僕がひっくり返ったために空中に投げ出された……なんてのは後でわかることで、空中から落下してくる小さな影の下に、夢中で仰向けのままの体を滑り込ませた。 がつんっ! 「あだっ!」 目の前に星が飛び、直後視界が暗転しかける。 なりふり構わずに滑り込んだため、勢いで頭を何かにぶつけたらしい。 かなり痛い、もしかしたら少し馬鹿になってしまっただろうか? 「いやそれよりもだ」 くだらない考えに一人ツッコミをいれ、彼女の安否を確認する。 その姿は……いた。 僕の胸の上にダイブするような形で乗っている。 目立った外傷はない。 「おーい、大丈夫?」 声をかけると、うにゅーなんて唸りながら起き上がり、ちょこんと僕の胸の上に座り込む。 「はふ、びっくりしましたよ~……って、暁人さん頭! 大丈夫ですか!?」 どうやら僕が頭をぶつけたことに気がついたらしい。 泣きそうな顔で僕の目の前に寄ってくる……近いよ、すごく。 そして「ごめんなさい」を連呼。 「あー、大丈夫だから、そんなに謝らなくていいって」 「でもでもっ、私のせいで暁人さんが、暁人さんが~はうっ」 気にしないでいいと言っているのに彼女は半泣きのままだ。 拉致があかないので頭を撫でてやると、予想通り大人しくなる。 なんというか、困った時はとりあえず撫でておくのがよさそうだ。 しばらく撫でていると、彼女はすっかりほわほわになってしまった。 頃合と見て声をかける。 「それより、いきなり大きな声出してどうしたの?」 すると、彼女ははっと我に返ってぽんと手を打つ。 そして恐る恐る、僕の頭の先……クローゼットを指差した。 「えとですね、なんかさっきからがりがりがりって音がしてるんですけど……」 がりがりがりがりがり。 そして、怒りの雄叫び。 「うにゃーっ!」 「あちゃあ……忘れてた」 「悪かったって、機嫌直してくれよ~」 僕が手を合わせて許しを請うているのは、我が家の猫姫キャロル。 先程の仕打ちで大層機嫌を損ねたらしく、目を合わせようともしない。 別にキャロルの機嫌が悪いからといって僕に実害があるわけでもないのだが、そこはやはり同じ屋根の下で暮らすもの同士。 良好な関係を維持しておくべきだと思うのである……猫好きの僕としては、単に無視されるのが寂しいからというのもあるが。 「明日はミシマ水産の最高級のツナ缶買ってきてやるから、な?」 ミシマ水産のツナ缶といえば、食用ツナ缶の中でも割と高級な部類に属するものである。 それまで普通に猫用のツナ缶を食べていたキャロルだったが、ある日僕が食べていたミシマ水産のツナ缶を分けてあげたところ、それ以来他のツナ缶には目もくれないようになってしまったのだ。 そしてその最高級品ともなると、普通に人間用の惣菜弁当、それもそれなりのものが買えるくらいの値段になる……正直、財布にはあまり優しくない。 そんな僕の切実な願いを聞いているのかいないのか、キャロルは悠々と僕の脇をすり抜けていく。 その瞳が見ているものは……少し離れたところで成り行きを見守っていた、神姫の彼女だ。 「はわっ」 キャロルが自分を見ているのに気付いたか、ぴしっと石のように固まる彼女。 どうやら最初に受けた衝撃は相当のものだったらしい……って、当たり前か。 起動直後に猫に組み敷かれた神姫なんて、そうそういないだろう。 「心配しなくても大丈夫だよ、傷つけたり、痛くしたりすることはないからさ」 そこら辺はきちんと躾けてある。 ついつい手を出してしまうのは猫の本能だから仕方ないが、力加減は出来るはずだ。 びくびくしている彼女の前にちょこんと座り、じっと見つめるキャロル。 大丈夫だと思うんだけど、あまり怖がらせるのも悪いよな……そう思って助けに入ろうとしたその時、ぺろり、とキャロルが彼女の頬をなめた。 「ひゃっ!?」 予想外の刺激に、びくーっと傍目にもわかるほど硬直する彼女。 それにも構わずキャロルのスキンシップは続く。 鼻や頭をすり寄せてみたり、くんくんと匂いをかいでみたり……やがて彼女も慣れてきたのか、おずおずとキャロルの鼻頭に手をのばし、そっとさする。 キャロルが気持ちよさげに目を細めるのを見て、彼女は幸せそうに笑った。 「あはっ……あなたも私と同じで、撫でられるのが好きなんですね」 満足そうに一鳴きすると、キャロルはお返しとばかりに彼女の頭を鼻で撫でるようにさすった。 「きゃっ、もう、くすぐったいですよ~」 そんな風に言いながらも、彼女に嫌がる様子はない。 むしろ、同じように気持ちよさげにしているくらいだ。 やれやれ、これなら心配はいらないかな。 彼女たちのじゃれ合いはしばらく続いた。 そんな中で、僕はキャロルの行動に母性のようなものを感じはじめていた。 この辺りは猫が少ないのか、まだそういう事態になってはいないが、キャロルももう母猫になってもおかしくない年齢だ。 もしかしたら、生まれたばかりの彼女の姿に母性本能を刺激されたのかもしれない……ん、待てよ? 生まれたて……誕生……。 「それだっ」 急に声をあげた僕に驚いたのか、一人と一匹が揃って僕を見る。 僕は彼女に近づき、目線を合わせていった。 「君の名前が決まったよ……ノエルだ」 ラテン語で『誕生』を意味する言葉を語源とするこの名前……反射的に思いついたものだが、口にすればするほど、この世界に生まれた彼女と、この先の幸せを祝福するにふさわしい名前だと感じられる。 「ノエル……いい響きですね、嬉しいです」 幸せそうに笑う彼女……ノエル。 よかった、気に入ってくれたみたいだ。 そして僕は、彼女の目の前にそっと指を差し出した。 「それじゃ、これからよろしくね、ノエル」 「はいっ、暁人さん!」 彼女が両手で僕の指を掴む。 人間と神姫の、不恰好だけど気持ちのこもった握手だ。 帰り道で感じた不安は既になく、今の僕は、この新しい関係が少しでも長く続くことを願うばかりだ。 すっかり機嫌をなおしたキャロルの鳴き声が、彼女の誕生と二人の出会いを祝福してくれているように聞こえた。 1.武装神姫、里親募集中 TOP 3.僕と彼女とコーヒーと
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/901.html
津軽弁を排除したサビ抜きバージョンです(サユリの1人称のみ「わー」のままです) 昔々・・・ではなく2036年の事でした。あるカラオケ屋にとても変な神姫が居りましたとさ。どれだけ変なのか~って言うとこんな感じでした。 〔割と久しぶりだわ、カラオケなんて。そう言えば新曲で歌いたいのがあったのよね。とりあえず副部長、お酒頼んで〕 {部長部長!! 一応サークルの新人歓迎会だって忘れないで下さいよ! あ、キミたち、食べたいものがあったら好きなの頼んでいいですから} 「・・・私、人前で歌うのはあんまり・・・」 [新入りちゃん、大丈夫だって。聞いてるだけでも、今宴会用のパーティーグッズだか何だかも頼んだからちゃんと楽しめるって!] 〈ちょっとセンパイ・・・そういうパーティーグッズって大抵イタいコスチュームとかしょうもない玩具とか、最初は勢いで楽しんでも2度と使えなくて、しかもこういう所で頼むとぼったくりな料金取られますよ!?〉 [そっちの新入りはツッコミきついな~。いいじゃねえかよ、意外と面白いのが出てくるかもしれないだろ?] 『そうよっ!! 面白ないかは見てから決めてなさいっ!!!』 {いきなりマイク最大で喋るのは誰ですか! あ、人形?} 〔武装神姫じゃないそれ? 着物着てるけど、確かツガルタイプね〕 〈武装神姫って・・たしかマニアックな玩具でしたっけそれ? 良く種類まで知ってますね〉 『オモチャとは違うわ!! わーはさすらいの神姫演歌歌手、サユリちゃんよ!! まずは1曲聴いてくださいっ!! “津軽海峡冬景色”! ~♪ ~゛♪゛♪~』 [なっ!? 演歌ぁ!? いまどき演歌なんてジジイでも歌わねえのに、そんなんで盛り上げようなんておこがましいぜ!! 俺の“B’zの新曲”でも聴いて考えを改めな!! ~゛♪゛♪~!!] 『へー、言だけあってとても気合入った声してるわね。けれど歴史の浅い歌では重さが足りませんよ!! 真の歌っていうものは今の時代に聞いても凄く涙出るものなのよ。それとも古い歌なんて今の若い人は知らないの? 格好悪いわね! “淡墨桜”!! ~~♪♪!』 [B‘zの歌が軽いだと!? 古い歌知らねえだと!? そんな減らず口、この歌で塞いでやる!! “ギリギリchop”!! ~゛♪゛!!♪♪♪!!!~] 「・・・“Top of the World”歌います。~~♪~♪~♪~」 〈ああもう・・・、歌えばいいんでしょうが!! “Imagine”!! ~~~♪~♪♪~〉 〔へえ、意外といい歌知ってるじゃない2人とも。これは演歌ちゃんだけじゃなく、新入りちゃん達にも負けていられないわね! “みかんのうた”行くわよ! ゛♪゛♪゛♪~ ゛!゛!゛!~〕 {ああもう部長まで挑発に乗って、これでは収集が・・・} 『黙りなさい!! オケ屋なんて暴れて歌うトコでしょう!! ぐだぐだ言ってないで歌いなさい! “鳳仙花”! ~゛!! ♪♪~゛♪~』 {歌わないとは言っていません!! “脳内モルヒネ”、歌います・・。 ♪~! ♪♪~♪~} 〈次は“ピンクスパイダー” !!!♪♪~♪!!〉 「・・・“fly me to the moon” ♪~♪♪~♪ ♪♪~」 〔皆、古い歌しばりでもレパートリーあるのね。“石川大阪友好条約” ~♪ ~!! ~♪♪〕 [“DA・KA・RA・SO・NO・TE・O・HA・NA・SHI・TE”だ!! ♪~♪♪ !!!~♪] {“月に叢雲花に風”、歌います。 ~!!!~♪~!!!~♪♪} 『“夕焼けとんび”です!! ~~~~♪♪~~!!♪~』 [次は“LADY NAVIGATION”を・・・] 〈センパイ、俺の“lithium”が先です!! 大体、70過ぎても現役ロッカーな物好きの歌ばっかり歌わないで下さいよ!!〉 [B’zをバカにするな! 大体お前だって自殺とか殺されたりした奴の歌ばっかり歌ってんな! 辛気臭い!!] 〈なっ!? 別に歌は辛気臭くないんだからいいじゃないですか!!〉 『どうしたの、歌の趣味なんて人の好きじゃない?』 〔ねーねー、折角だから皆で“青のり”歌わない?〕 [{〈『それは却下!!!!』〉}] こんな風に、それはそれは迷惑な位古い演歌に情熱を注ぐ変わり者さんなのでした。 「ありがとうね~♪」 「有難うございました~♪ ・・・あ~ふわぁ~、眠ぃ、朝になってやっと閉店、これだからオケ屋のバイトってのは・・・」 サユリと歌ってた最後の客を見送ってから、マツケンが大きなあくびをすると、それを聞きつけて、奥からみりーも顔を出しました。2人ともサユリの同僚のアルバイトでした。 「マツケン君、最後のお客、随分盛り上がってたみたいだね」 「あ、みりー。それはこいつが居たからだよ」 「ああ、サユリちゃんか~。どうりで古い曲ばっかり聞こえてくると思ったら」 「久しぶりに、なかなか骨のある客だったわよ」 「珍しく、怒らない客だった、だろ? 毎度お前が古い歌で引っ掻き回した客の応対誰がしてると思ってるんだよ!!」 「でも結構サユリちゃんの売り上げ多いよ?」 「・・・珍しがってるだけなんだよ」 マツケンが睨んでも、サユリはなんとないわと鼻で笑っってました。 「さて、大分バイト代も溜まったから、わーはまた旅に出ようっと」 「へ? 旅って、もう出て行くのか?」 片づけを始めたマツケン達を尻目に、いきなりサユリは宣言しました。いつの間にかその体には大きな風呂敷も背負って旅支度まで済ませていたのです。 「え? サユリちゃんてこの店の神姫じゃなかったの?」 「ああ、こいつは俺たちと同じバイト」 「マスターも無しに?」 「なんでか知らねえけど、そうらしい」 みりーは先週からだったから、サユリの来た1月前のことは知らないのでした。 「ふらりとやってきて、いきなり1人で『住み込みで働かせてくれ~』とか言って押しかけて来たんだよこいつ。最近じゃ路上ライブも取り締まり厳しいからとか何とかで。で、物好きな店長が宴会要員として採用しちゃったんだよ」 「物好きなんて言うんじゃない!! わーの心意気に惚れ込んだから店長は雇ってくれたのよ!!」 「いや心意気はともかく野良神姫の飛び入りバイトなんて雇ったら十分物好きだろ大体お前演歌しか歌わねえし・・・まぁ、上手いとは思わなくもな・・」 「ねえ、ところで旅って何処へ行くの? 何が目的?」 「わーの師匠の親戚を渡り歩いているのよ」 マツケンの声を遮ってみりーが聞くと、サユリはそう答えていました。師匠って言うのはサユリのマスターの事だそうです。 「なんだ、野良じゃなくてはぐれた神姫だったのか。その師匠・・マスターを探して歩いてるのか? 何ではぐれたか知らないけど」 「だったらマツケンのお兄さんに探してもらったら? 確か元刑事だとか探偵だとか何とかじゃなかったかな」 みりーの言う通り、マツケンの兄は私立探偵をしていました。まーその欠けたハサミみたいな探偵の神姫に引っ掻き回され人生っぷりは別の話で見て下さい。しかし、みりーの提案にも、サユリは首を横に振ったのでした。 「違うわ。わーは別に師匠とはぐれた訳じゃないの。自分で旅に出て、修行してるのさ」 「修行!? 演歌の!?」 「わーは昔、さんざん「時期ネタ」だって虐められたのよ。サンタなんて「残りの364日はプー」なんて色々言われてねえ」 「あ~、俺も言ってたな。ツガルタイプはデザイン優先で使えないとかクリスマス以外の日にサンタが居てもありがたみが無いとか一人だけ元ネタありでデザイナーからゴリ押しで入れられた邪道だの色々。本人に言われると罪悪感沸くなあ」 「なら罪の償いに死んでくれない?」 「さらっと言うな酷いコト!!」 「それは冗談だけれど、実際それでわーはとても落ち込んでね。それを見てわーの師匠はこう言ったのよ。『一日だけでも、毎年喜ばれるならいい』てね。わーの師匠はたった1日の出番の日に、悪者になって豆弾を投げつけられるんだそうよ。それだけでなくてね、師匠の親戚は葉っぱで目潰しをされたり、初嫁や子供に挨拶しに行っただけなのに脅迫や誘拐に勘違いされたり、ただ笑っただけなのに「何をあざ笑ってるんだ!!」って非難されるって言ってたわ」 「でも実際悪さしてたんだろ? それだけ憎まれてるんなら」 「それはごくごく一部だけよ。殆どは昔良かれと思って始めた事なのに、皆が昔の事忘れてしまって全部悪い方に勘違いされてるのよ。それだけならまだ良かったんだけど、その風習自体ももう忘れられてしまってきていて、覚えも貰ってもいられなくなっているの」 「そんな・・・師匠さんの一族って可哀そう」 「ああ・・・ うん・・?」 みりーもマツケンも不幸なサユリの師匠を哀れんだのえした。けれどもマツケンはその師匠のことで、何か引っかかるとも思っていたのでした。 「けれども師匠はこうも言ってたわ。『だけど、俺達一族のやっている事は、関係ない、意味無いと言われても最後には人の幸せに繋がる事だから誇りを持っている』ってね。わーはその言葉にとても心打たれたわ」 「あ、なるほど。“風が吹けば桶屋が儲かる”の理屈か」 「え? 天気悪いと客足引くじゃない?」 「いやオケじゃなくて桶。風呂桶の桶だって。嫌な事が関係ないように見えて良い事に繋がってるってことわざ」 「そうよ、だからね、わーはそんな風に迷惑って言われても自分のやる事誇れる者になりたくて諸国巡りしている訳なの」 「そうか、だからわざわざ今では廃れて無意味で陳列棚の邪魔者って言われる演歌で身の上を立てたりしてるのか。神姫の癖に見上げた根性だよ、ホントに」 「いや、演歌は趣味だけど」 「話の腰折るなよ」 「それじゃ、そろそろわーは行くわね」 そう言ってサユリは風呂敷を背負って立ち上がりました。 「ホントに、言っちゃうんだね。それじゃあ、次は何処に行くの?」 「次は師匠の故郷に寄るのよ。京都の大江山なの」 「え? 大江山?」 「そう。師匠はそこに居ないけれど、集落には仲間が沢山居るって話よ」 「そっか、早く師匠さんに自慢できるようなオケ屋になれるといいね」 「ええ、頑張るわ。それじゃ、短かい間だったけれどがありがとうね。さようなら」 「うん、元気でね~!!」 朝日が、その小さな後姿をかき消したのは、ほんの一瞬のことでした。 「・・・ねえ、マツケン君、何か考え込んでるみたいだけど、どうしたの? サユリちゃんが心配?」 「いやさ、豆投げるのって、節分だよな? 最近あんまりやらないけど」 「・・・え?」 「節分の魔よけのヒイラギは目潰し用だって言うし、子供を追い回すって言うとなまはげ。来年の事を言うとアレが笑うってことわざもある。極めつけは京都の大江山って酒呑童子伝説の場所なんだよ」 「え、それって、もしかして、時期ネタで苦しめられて昨今忘れ去られてるってまさか・・・」 「いやでも・・・実在するなんて・・・ちょっとなあ、にわかに信じがたいってか・・・」 「・・・今度サユリちゃんに会ったら聞いてみるしかないよね」 「・・・また会ったら、な」 その後も、マツケンとみりーは神姫演歌歌手の噂は何度か聞く機会がありました。けれども、サユリとまた会うことは2度と無かったのでした。めでたしめでたし(?)。 目次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1508.html
鋼の心 ~Eisen Herz~ 「犬子さんの土下座ライフ」特別編 -遠征編- ※土下座さま/著 ネタバレ解禁につきあとがき差し替え。 「ここが天海神姫センターですか」 「はい、リアルバトルオンリーの容赦なき戦場で、ツワモノどもが切磋琢磨する修羅の国です」 「うーん、確かに様々な上級者の方の胸を借りることは出来そうですが……正直不安ですねぇ」 「大丈夫ですよ! 私はLPの豊富さには定評のあるハウリンタイプで、しかも今までの戦績は全戦全損敗北なためその成長もハンパなく、打たれ強さには自信がありますから!」 「冷静になると、あまり威張れた話ではありませんねぇ」 「うう、お恥ずかしい限りです……ですが! 今日ここで修練を積むことで、きっと明日は新しい自分に変わっていけるものと信じています!」 「そうですか……でしたら僕はもう何も言いません。全力でサポートしますから、頑張って来てください!」 「はい!」 「ネメシスだー! ネメシスが出たぞー!」 「マジかー!」 「ジーザス!」 「ま、待ってくれ! 中に、中にまだ俺の種子が……!」 「もう手遅れだ、諦めろ!」 「そ、そんな……種子、種子ぉぉぉぉぉ!」 「こっちには化け猫が出たぞー!」 「オーマイガッ!」 「俺、このバトル終わったら猫子にコタツクレイドル買ってやるって約束してたんだ……」 「くそう、やってやる、やってやるぞ!」 「すまない兎子……! 勝ってこいなんて言って、俺が悪かった! 俺が悪かったから…… どうか無事に、無事に戻ってきてくれ、たのむ……!」 「曲射が、曲射がどんなに逃げても追いかけてきて……物影に隠れても平気で狙ってきて…… いやあああああああああああああ!!」 「落ち着くんだ鳥子! もうバトルは終わったんだ、終わったんだ!」 「マスター、そっち大丈夫? トラップない? トラップないよね? あ! 今私の後ろでトラップ仕掛けられたかも?! マスターはそっち見ててね?! 絶対だよ?! 絶対目を離しちゃダメだからね? 目を話したらその隙にトラップで囲まれるんだから……!」 「いやだから黒子、バトルはもう終わっってるって」 「こっち向いちゃダメー!! トラップしかけられちゃったよ、囲まれた、囲まれちゃったよどーすんのよマスター?!」 「くそ、今日はなんて日だ……!」 「おい! こっちじゃポン刀持ったアーンヴァルとやたら素早いサイフォスが狩り物競争してるぞ?!」 「……中の奴らの冥福を祈ろう」 「勝手に殺すな?!」 『No3エリアの戦闘が終了しました』 「丑子! 大丈夫か丑子?!」 「ま、ますたぁ……わたし、ますたぁの武装神姫になれて……幸せでした……がくっ」 「丑子ーーーーーーーーーーーー!!」 「あれ……? なにも見えないよ……何も聞こえないよ……マスター、どこですか、マスター……?」 「ここだ……俺はここにいるぞ……よく頑張ったな、もういい、もういいんだ、ゆっくり休むんだ……」 「ご主人様ー……パインサラダ作る約束、守れなくてごめんなさい……」 「そんなこと気にするな! そんなものいつでもまた作れるじゃないか!」 『予約ナンバー121~132の方は、対戦スペースへお入りください』 「いやああああああああああ!! もういやあああああああああああ!!」 「いかせない、いかせないぞ俺の騎士子は?!」 「あ、俺いま急用ができたわ。帰ろっと」 「ふ、震えてなんていませんよ? これは武者震いですったら」 「あ、マスターなんか前の人が次々帰っていきますよー♪ 得しちゃいましたね♪」 「バカ! 俺たちも帰るぞ!」 「…………………………」 「…………………………」 「……帰りましょうか?」 「はい♪」 遠征編――完! 鋼の心 ~Eisen Herz~へ戻る 犬子さんの土下座ライフ。へ進む はい。と言う訳でネタバレのお時間です♪ ALCの作と見せつつ、実は土下座さまの作品だったりする本作。 果たして何割ほどのマスターさんが気づかれたのでしょうか? まあ、文体がぜんぜん違うのでもろばれだったような気もいたしますが…。 ALCに暖かなイメージのSSは無理だ(泣)。 かねてよりの告知どおり、一週間ほど経ったので驚愕の事実を公表するにいたった訳であります。 ご意見、ご感想、愛の告白、その他諸々…。 土下座さまへどうぞ。 ちなみにALCはあとがきを書いただけで御座います。 何にもしてない楽ちん楽ちん。 おまけに本文の修正まで土下座さまにやって頂いたとあっては…。 さて、どんな恩返しをいたしましょうかね?
https://w.atwiki.jp/guringurin/
2012/6/09 いまだにこんな辺境の地を見ていただいてるかはわかりませんが、移転予定。 ブログではなくて、HPをきちんと立てる予定。予定は未定といいますので、また長期失踪もありないこともない。 2012/5/23 ああ、顔のモデリングが・・・目が・・・口が・・・ 2012/05/13 武装完成。ゼビュロスが超絶怪しい 2012/05/12 ともあれ一応の完成。あとはテクスチャーはって微調整かなぁ http //www.nicovideo.jp/watch/sm17800077 【ニコニコ動画】【MMD】先生に踊ってもらいました【テスト】 2012/05/10 後ろからの資料が少なすぎた! 1360 768 2012/05/09 一日作業でエウクランテ装備。 ヘッドパーツは自信ないから予定はなし。 ↓ニコニコ静画でアップ http //seiga.nicovideo.jp/seiga/im2038199 2012/05/08 MMDモデルでも作っていきましょうか ※タイムスリップしとるがな。2011→2012表記替え 2011/10/26 もう何日もしないうちに終わってしまうんだなぁと。 2011/8/27 バトロン・ジオスタサービス延長だとな。 あれだけ何の音さたもなかったというのに今更っていう! 課金もできないし、特にやることは見つからないけれど MMD用の資料集めでもやりますかな 2011/8/25 ホワイトグリン子さんなるものを見つけてえらく気に入ったので MMDの操作方法に悪戦苦闘しながらようやく3秒分の動画になったので ニコニコ動画に上げてみました。 ↓ http //www.nicovideo.jp/watch/sm15423945 いやしかし、画質が悪すぎる 2011/8/23 時間がないので、ちまちま二次小説を一から手直し中。 プロットもなにもなしで思いつくままに書いてるためにこの先の展開どうするのよと 自分ながら思ってしまう。 2011/8/22 MMD導入してみました。 神姫のモデルデータを作成していこうかなって思いつつも、そんな時間もないのがやきもき。 2011/7/24 色々と8月は忙しくなる見通しから公式掲示板への投稿を終りにします。 本当なら、明言せずともひっそり消える予定でしたが なんの予告もないアイテムショップのセールとその価格に呆れてしまったのがキッカケでしょうか。 0円セールにしろよなんていうわけではなく、やるならやるで告知があれば 最後に課金して、あれやこれや一杯使ったSSつくってみたいとか思ってたのですが そんな事もさせてもらえませんか、そうですか。みたいな! 2011/5/31 バトロン・ジオスタ共にサービス終了とのことで。 3年前にニコニコで武装神姫の広告からやってきた自分が最初に購入したのがエウクランテ。最後に買ったのが天使型悪魔型Mk2になりますが、その間にたくさんの神姫と遊んだものです。 環境からフィギュアなどの実物に手が出せない自分にとってジオラマスタジオと武装神姫はほとんど同じものでした。 それが3ヶ月後に無くなってしまうと思うとさみしい気持ちでいっぱいです。 ここもほとんど更新もなかったですが、見ていてくださった方にはどれだけ感謝の言葉を著しても、すべて伝わらないのも寂しいものです。 残りの3ヶ月で出来る限りのSSを撮って、コナミにはこういう商品がほしいなっと送るメールの内容を考えていきます。 « » var ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86 = new Array(); ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[0] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20111025_001.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[1] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20110724_001.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[2] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20100809_011.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[3] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20110319_035.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[4] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20100810_060.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[5] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20100810_014.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[6] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20100809_001.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[7] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20100715_002.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[8] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20100710_001.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[9] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=HP%E7%94%A8.png ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[10] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20100604_002.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[11] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20100602_002.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[12] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20100530_011.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[13] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20100529_001.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[14] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20100527_001.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[15] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20100521_008.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[16] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20100521_012.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[17] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20100518_001.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[18] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20090720_002.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[19] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20090717_003.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[20] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20100417_003.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[21] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20100415_021.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[22] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20100406_003.jpg ; window.onload=function(){ ppvShow_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86(0); }; function ppvShow_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86(n){ if(!ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[n]){ alert( 画像がありません ); return; } ppv_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86$( ppv_img_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86 ).src=ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[n]; ppv_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86$( ppv_link_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86 ).href=ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[n]; ppv_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86$( ppv_prev_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86 ).href= javascript ppvShow_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86( +(n-1)+ ) ; ppv_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86$( ppv_next_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86 ).href= javascript ppvShow_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86( +(n+1)+ ) ; } function ppv_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86$(){ var elements = new Array(); for (var i = 0; i arguments.length; i++){ var element = arguments[i]; if (typeof element == string ) element = document.getElementById(element); if (arguments.length == 1) return element; elements.push(element); } return elements; } 【since 2008/12/10】 このページ内における神姫NETから転載された全てのコンテンツの著作権につきましては、制作及び運営元である株式会社コナミデジタルエンタテインメントに帰属します。 ©2009 Konami Digital Entertainment なお当ページに掲載しているコンテンツの再利用(再転載・再配布など)は禁止しています。 当サイトでは、フィギュアなどの実物ではなく、神姫NETで配布している、「武装神姫ジオラマスタジオ」及び「同バトルロンド」コンテンツを中心とした内容であります。 更新速度はとてつもなくマイペースです。 また、ページによっては画像を多量に含むものがあります。(管理人の知識が許す限りの努力をもって見やすいようにはしております。)
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/445.html
前へ 先頭ページへ 人、人間、ヒューマン。 今現在、地球の食物連鎖の頂点に君臨する種族たるそれは、地球に存在するあらゆる獣に劣る。 犬に噛まれて、最悪死ぬ。 道に落ちているものを食べて、最悪死ぬ。 熱かったり寒かったりで、最悪死ぬ。 身体能力、免疫能力、適応能力etcで動物以下の能力しかもたないそれらが、唯一獣に勝る物、それは頭脳。 人は思考する。 人間は想像する。 ヒューマンは予想する。 犬に噛まれない為に、その習性を理解して手なずける。 道に落ちているものが安全かどうか、知識を持つ。 熱かったら身体を冷却し、寒ければ防寒具を身につける。 本能の命じるままに動く野性を抑え。 頭を働かせる理性を伸ばす。 それが人の人たる由縁であり、最大の武器でもある。 しかし、それはあまりに複雑だ。 人は理性と共に高度な自我を持った。 それは一つとして同じ物は無く、それを完璧に予測するのは困難を極める。 どんなに技術が進歩しても、それを意のままに操る事は出来ない。 それを心の底から痛感している人間―――恵太郎が、ここにいる。 狭いアパートの4分の1を占めるベッドの上に力なく寝そべりながら、その日何度目か解らない疑問を口にする 「何でこうなるんだろうなぁ」 悩む事は無駄ではない。 試行錯誤の果てに正解を見つける、この試行錯誤こそが重要ではないだろうか。 その過程で人の自我は成長していくのではないだろうか。 もっとも、正解を既に見つけているにも関わらず苦悩するということを現実逃避とも言うのだが。 恵太郎の心を掴んで離さない人物、それは他ならぬアリカだ。 だからといって、それは恋のような甘酸っぱいものではなく、どちらかといえば苦いものだ。 アリカは先日のリアルバトルからというもの、恵太郎を師匠と仰ぎ付き纏うようになったのだ。 その原因の8割程は恵太郎自身にあると言えるだろう。 だが、これだけでは恵太郎が苦悩する理由にはならない。 恵太郎が苦悩する理由、それはアリカがかつての自分と被って見えてしまうからだ。 アリカが本当に鬱陶しいのなら、冷たく突き放すという選択肢もある。 しかし、恵太郎にはそれは出来ない。 何故なら、アリカと恵太郎は全く同じ境遇にいるからだ。 もしもアリカを冷たく突き放す、という事を恵太郎がやられた場合。 恵太郎は立ち直れない自信があった。 だから、恵太郎の執る選択肢はアリカを極力避けるという無気力なものだった。 しかし、運命の悪戯というものは、かくも皮肉なものなのだろうか。 恵太郎や佐伯姉弟が通う大学、その門を潜り抜けながら恵太郎は深く溜息をついた。 「何でこうなるんだろうなぁ」 そして、その日何度目か解らない疑問を口にした。 もっとも今までと違う点を挙げるとすれば、その疑問の中心人物がすぐ脇にいる事だが。 「弟子たるもの、何時如何なる時でも師匠に付き添うのがキホンってものです!」 恵太郎の脇でご機嫌な様子で元気に喋るのはアリカだ。 その肩の上ではアリカの武装神姫たるトロンベが困惑半分、興味半分といった様子で静かに座っている。 恵太郎はそれを尻目に、その身に降りかかった不幸を嘆いている。 一体何処の誰がアパートの前でアリカを鉢合わせる事になると想像できようか。 「それにしても、大きな大学ですねー」 そんな事とは露知らず、アリカは周囲を見回しながら感嘆している。 確かに、その大学は大規模な工場を備えているのでその分大きい。 だが、そこまで驚く物ではないのではないかと、恵太郎は内心呟いた。 「あんまりキョロキョロするなよ」 恵太郎は周囲を探るように言った。 どちらかといえば、周囲の視線を測るようにだ。 その理由は単純明快。 アリカが人の目を集めているからだ。 ここは大学であって、遊園地ではない。 アリカのような少女がいる場所ではないのだ。 人数まばらな日曜とはいえ、アリカはそれなりに奇異の視線を集めている。 それが恵太郎の頭痛の種となっているのだ。 恵太郎は、それを振り払おうとするように歩く速度を上げた。 「っと、師匠待ってくださいよ~」 それはアリカにしては速すぎたようで、早足で恵太郎を追いかけた。 空は雲ひとつ無い快晴である。 だが、恵太郎はそれに気付くほどの余裕をまだ持ち合わせていなかった。 重厚な扉の上に掲げられたプレートには『多目的研究室』と書かれていた。 その下には張り紙で『第13班』とも書かれていた。 「師匠、今日は大学で何をするんですか? 今日日曜ですよね?」 「それは全員そろってから説明する」 アリカは小首を傾げつつ、恵太郎に問いかけたが一瞥されただけで満足の行く回答は帰って来なかった。 それに不満を感じたのかアリカは少し膨れているが、恵太郎はそれに触れる事無く扉を開け中に入っていった。 恵太郎の後に続き、部屋に入るアリカ。 その部屋は白い壁に3方を囲まれ、1方はガラス張りの壁だった。 壁際には様々な器材が所狭しと置かれており、部屋の中央にあるテーブルの上では資料と思しきものが山を作っている。 「アリカ、お前を紹介するからちょっと来い」 アリカはそれらを物珍しそうに見てたが、恵太郎の声にそれを中断した。 「コイツがあのアリカです……ほれ、挨拶」 「あ、あの、はじめまして。アタシは水野アリカって言います」 アリカは恵太郎に促されて挨拶したが、緊張しているのか、その身体は強張っていた。 「初めまして、トロンベと申します」 それと対照的にトロンベは落ち着いて挨拶した。 だが、良く見ると身体が小刻みに震えている。 「この人が佐伯 裕也先輩」 恵太郎は裕也を指して短く紹介した。 「おう、よろしくな、譲ちゃん達!」 それに気を悪くする事無く、豪快に挨拶をする裕也。 「にゃーは蒼蓮華なのだー、よろしくなのだー!」 その肩の上で元気一杯に挨拶する蒼蓮華。 「この人が佐伯 裕子先輩。裕也先輩の双子の姉に当たる」 「よろしくね、アリカちゃん、トロンベちゃん」 春の日差しを思わせるのほほんとした口調で裕子は挨拶を交わした。 「初めまして、私はアル・ヴェル。今後ともよろしく」 ポニーテールにしたアーンヴァル型のアル・ヴェルが挨拶をする。 「そういや、茜は来てるんですか?」 一通り紹介が住んだのを見計らって恵太郎は口を開いた。 「ああ、奥の部屋で武装のメンテをしてるぞ」 裕也は指でガラス張りの壁を指差しながら応えた。 「それと、孝也も来てるぞ」 最後に一言付け加えたが、その言葉に恵太郎は顔を顰めた。 「アイツも来てるんですか…」 「我が主をアイツ呼ばわりとは、恵太郎殿はまことに我が主に厳しいで御座るな」 何時の間にやら恵太郎の肩の上で腕を組んでいた忍者型の神姫が口を開く。 「確かに多少問題はあれど、あれはあれなりに良いところがありまするぞ」 「ああ、解ったから降りてくれ、トリス」 トリスと呼ばれた神姫は、恵太郎の言葉を聞き入れ、テーブルの上へと移動した。 「アリカ殿、トロンベ殿。お初にお目にかかる。拙者、忍者型神姫のトリスと申す。以後お見知りおきを」 そして、アリカとトロンベに向かい丁寧に挨拶した。 アリカはそれに軽く返礼すると恵太郎へ向かい問い掛けた。 「師匠、茜って?」 「ちょっとした事で知り合った女の子なんだけど、凄い技術を持っていたからスカウトしたの。それと、コーヒーしか無いけど良いかしら?」 アリカの質問に裕子が代わりに応えた。 それと同時にインスタントのコーヒーを差し出した。 「あ、ありがとうございます」 アリカはコーヒーを受け取り、ガラス張りの壁に視線を送る。 その奥の部屋はこの部屋と違い黒い壁、というよりコンクリートむき出しの部屋で、機械的な装置が多数設置されており、床には大小無数のコードが這っており、天井にはダクトやケーブルが縦横無尽に奔っている。 そこでは白衣を着た二人の人間がなにやら作業をしているのが見受けられた。 それと同時に、アリカは言いようの無い不思議な感覚に襲われた。 「……まさか、ね」 アリカはそれを振り払うように首を振った。 「ご主人様、どうかしましたか?」 主の変化を機敏に察知したトロンベがアリカに声をかけた。 「ううん、何でもないの。ありがとう、心配してくれて」 それに人差し指で頭を撫でながら事によって応えるアリカ。 トロンベは心地良さそうに目を閉じるだけだ。 「茜ちゃん、孝也君、皆揃ったわ」 テーブルの上に置かれたマイクに喋りかけるアリカ。 それはスピーカーを通じて奥の部屋へと呼びかけられた。 「解りました~、今行きます」 確かに少女の、ただ若干機械的な響きを伴った声が恵太郎達の部屋に響いた。 少し遅れてガラスの壁が天井へと向かいスライドした。 それが完全に天井の中へと収納されるのを確認した人物が恵太郎達の元に走りよりつつ口を開いた。 「けーくん、会えて嬉し…アダッ!」 恵太郎は走り寄ってきた人物に容赦のない蹴りを叩き込んだ。 「寄るな、鬱陶しい」 腹部を蹴られたその人物は地面をのた打ち回っている。 「…師匠、誰ですかコイツ」 アリカはそれをやや離れた位置から見下している。 「ああ、君がけーくんの弟子のアリカちゃんだね! ボクは高野 孝也、けーくんの親友だよ」 「誰が親友だ、誰が」 いつのまにか立ち直った孝也は、恵太郎から冷たい視線を浴びせられた。 「なーんかオタク臭いわね…」 「あはは、手厳しいね」 アリカは孝也の白衣に眼鏡という出で立ちを見て、正直な感想を漏らした。 しかし、それに対して孝也は困ったように笑うだけだ。 その様子を傍観していた恵太郎だが、ふと思い出したように口を開いた。 「…アリカの事、お前に話してたか?」 言いながら佐伯姉弟の方も一瞥した。 「それなら、私が話しときました」 今まで黙っていた、もう一人の白衣の少女が口を開いた。 眼鏡に白衣と、孝也と同じ服装だが、こちらは様になっていてどっからどう見ても研究者だ。 「アリカの事なら私が一番知っていると思いましたから」 にこやかに言い放つ少女。 それをワナワナとしながら見ていたアリカは口を開いた 「何でアンタがココにいるのよ!?」 その叫び声は、四つ隣の研究室まで聞こえたという。 世界は広いようで狭い。 芸能人が近場に住んでいたり、学校の友人が実は親戚だったり。 幼馴染と10年ぶりに再会したり、街中で親とすれ違ったり。 人と人との縁というのは、本当に摩訶不思議な物だと思う。 それでも、こんな縁は御免だ。 アタシの目の前では茜が師匠達と和やかに談笑している。 それは永年連れ添った中間達、といった様子でアタシのような新参者が入り込むことすらおこがましく感じる。 「マスター、そろそろ今回の目的を話されては?」 今まで他の神姫とテーブルの上で談笑していた師匠の神姫、ナルちゃんが口を開いた。 「ああ、そうだったな。……実は先輩達に頼みたい事がありましてね」 師匠は周囲をぐるりと見回しながら言った。 その中に、アタシが少しでも入っていれば良いのに。 「なんだ、恵太郎が頼みとは珍しいな」 「ボクに出来る事だったら何でもやるよ、けーくん」 裕也先輩と高野が快く快諾している。 声には出していないけれども、裕子先輩や茜の表情からは悪い感情は感じられない。 「単刀直入に言うと、ナルの装備が壊れました。よって、その修復を手伝って貰いたい訳です」 「ああ、アリカが壊したアレですね」 茜がアタシの方を見ながら言った。 今気付いたが、ここでの茜はちゃんと人の目を見て話している。 それに学校で話すときと随分感じが違う。 この感じは、茜の家に遊びに言った時と同じだと思う。 つまり、ここにいる人たちにそれほど心を許していると言う事なのだろうか。 「私達で良ければ幾らでも力になるわ」 「ありがとうございます、先輩」 どうやら話が纏まったようだ。 師匠が懐からだしたメモリーカードを差し出して、色々と話し込んでいるのが聞こえる。 その中にはアタシが聞いた事の無い単語が飛び交うので、師匠たちが大学生なのだと実感する。 そして、それに茜が混ざっているのに違和感は感じられない。 アタシはそれに加わる事無く、ただ傍観に徹するのみ。 残り少なくなったコーヒーを口に含みつつ、視線を泳がす。 「そうだけーくん、アリカちゃんに大学紹介してあげたら?」 その言葉に身体が反応する。 「そうですよ先輩、ここは私達に任せてどうぞごゆっくり」 「いやマスターの俺がいないと色々問題が…」 「気にすんな恵太郎! ちゃんと改造しといてやるから!」 「何ですか改造って。俺はただナルの装備を修復しにきただけですから…」 「恵太郎君、年上の言う事は聞くものよ?」 師匠は思いっきり抵抗していたが、裕子先輩に言われると黙ってしまった。 ……これはチャンス? 「解りました。後は任せますけど、おかしな事はしないで下さいね?」 師匠は念を押すように、低い声で言う。 それと同時にアタシの方を見てから、指で扉を指した。 外に行くという合図だろう。 アタシはコーヒーをテーブルの上に置いて師匠に歩み寄った。 「そうだ、アリカ。トロンベちゃんもメンテしとくわ」 途中で茜に呼び止められたので、渋々トロンベを手渡した。 その間際、トロンベがどうする~アイ○ル~的な視線を送ってきたので、頭を優しく撫でてあげた。 「大丈夫、直ぐに戻ってくるから、ね?」 「…はい! ご主人様」 元気に応えるトロンベを確認して、師匠の元へと向かう。 師匠は既に廊下に出ており、扉の隙間から雲ひとつ無い快晴が見えた。 「さて、これで邪魔者はいなくなりましたね」 恵太郎とアリカが出て行ったのを見計らい、茜が口を開いた。 かけた眼鏡のレンズが反射して、その眼を窺い知る事は出来ない。 「じゃあ、とっとと作業始めようか!」 裕也がやたら元気に音頭を取る。 「…ただ直すだけというのも芸が無いでござる」 その時、孝也の頭上から声がした。 トリスは腕を組み、足を揃えて静かに続ける。 「ナル殿の刃鋼と銃鋼は確かに高性能でござる。しかし、あの御寮人にはもう物足り無いのでは御座らんか?」 「そうえば恵太郎君、ナルちゃんの装備をあれにしてからもう一年経つのね」 「そうだな、そろそろ強化の頃合かもな、姉貴」 トリスの言葉に佐伯姉弟も同意しているようだ。 それを確認し、満足そうに頷くトリス。 「そうであろう、そうであろう。今のナル殿に必要なのは機動力と火力の両立、そして隙の無い間合いだと拙者は思う」 「けど、けーくんのいない間に勝手に弄っちゃまずいんじゃ…」 乗り気ではない孝也に対し、茜はノリノリだ。 「…そういえば新型の荷電粒子砲を開発したって、四班の人たちが言ってましたねぇ。それに六班は燃料電池の小型化に成功したとも聞きましたよ。」 顎にひとさし指を添え、上方を見ながら喋る茜。 その言葉に反応したのは佐伯姉弟だった。 「なるほど、じゃあ俺は四班の連中と交渉してくるか」 「じゃあ私は七班の人たちに頼んでくるわね」 そういい残すと、颯爽と部屋から出て行った。 後に残されたのは茜と孝也だけだ。 孝也は未だに乗り気でないらしく、困った顔をしている。 「主殿、首尾良く強化できれば恵太郎殿もお喜びになられますぞ」 その肩に飛び降りたトリスは軽く耳打ちをした。 「でも、ナルちゃんの意思は…」 「私はむしろウエルカムです」 だいぶ心が揺れてきたのか、孝也の視線が泳いできた。 そして、最後の希望として話しかけたナルにも快い快諾を貰ってしまった。 「それでは制御用プログラムを作りましょうか。先輩、私だけではキツイので援護お願いします」 もはや言い逃れる術は無かった。 「ただいま戻りました」 広大な敷地面積を誇る大学をアリカに案内していた恵太郎が研究室へと帰ってきた。 その顔には明らかな狼狽の色が現れている。 「ただいま戻りました~!」 そんな恵太郎とは対照的に、元気一杯に研究室へと飛び込んだアリカ。 その顔には満面の笑みが浮かんでいる。 「よう、遅かったな恵太郎」 奥の部屋から裕也の言葉だけが響く。 「ここの敷地面積知っているでしょう…」 それに力なく椅子に腰掛けながら応える恵太郎。 その言葉からは肉体的な疲労と言うより、精神的な疲労の方が多く見える。 「どうだった、アリカちゃん?」 「はい、凄い楽しかったですっ!」 裕子の問いに満面の笑みで応えるアリカ。 その表情からは翳りは一切無く、その言葉が本意であることを物語っている。 「で、けーくん。何処を案内したんだい?」 孝也は壁際に備えられたパソコンに向かいながら問い掛けた。 「ひとまず一班から十二班まで順番に。その後MMS博物館を回って資料室と工場見学。最後にバーチャルマシーンセンタの順に。」 「成る程、それは疲れるね」 机に突っ伏しながら応えた恵太郎に軽い労いの言葉を掛ける孝也。 「神姫好きにはたまらないコースですね、先輩。どうぞ」 「ん、ありがとう」 恵太郎にインスタントコーヒーを手渡す茜。 「はい、アリカも。あとトロンベちゃんのメンテだけど、当然ながら問題は無かったわ」 「悪いわね」 アリカはコーヒーとトロンベを受け取ると、恵太郎の隣に座った。 「ご主人様、外はどうでしたか?」 「そりゃ凄かったわよ~。初期に作られたというMMSのアーキタイプとかあって……」 アリカはトロンベに今見てきたことを話して聞かせている。 茜はそれを一瞥すると奥の部屋へと歩いていった。 暫しの間、研究室にコーヒーの香りとキーボードを叩く音、そしてアリカとトロンベの談笑が支配した。 「ところで、ナルの修復は?」 一息ついたところで、恵太郎は誰にでもなく話しかけた。 「後は孝也君が制御プログラムの最終調整をしている所よ」 「……制御プログラム? 何か問題でもあったのですか?」 恵太郎の問いに裕子が応える。 その問いが若干予想外であった為、恵太郎は二度目の疑問を口にした。 「まあ、出来上がってからのお楽しみね」 しかし、その問いに満足の行く回答が反される事は無かった。 恵太郎はそれ以上追及する事無く、孝也へと視線を移した。 孝也は忙しなくキーボードを叩きディスプレイを睨んでいる。 裕也と茜は奥の部屋で作業をしている。 裕子は資料の整理をしている。 恵太郎とアリカは並んでコーヒーを飲んでいる。 名状しがたい、しかし、悪くは無い空気が研究室に満ちていた。 「ところで、四班と七班の連中から嫌な視線を感じたんですが、知りませんか?」 「それも出来上がってからのお楽しみね」 恵太郎はそれ以上追従出来なかった。 「ふう」 その空気の中、孝也が静かに溜息をついた。 研究室にいる全員の意識が孝也に集中する。 「制御プログラム、何とか出来たよ。かなり突貫だから荒が有るのは許してもらいたいけどね」 そして、パソコンからメモリーカードを抜き取ってそれを茜に手渡した。 「ご苦労様です、先輩。では、こちらへどうぞ」 茜に促されるままに恵太郎達は奥の部屋へと向かう。 地面を這うケーブル類をうっかり踏まないように、全員が注意して歩く。 目指すは部屋の隅に陣取る天井まで届く円柱状の装置。 その脇に置かれたコンソールを叩き、スロットにメモリーカードを挿入する。 「それでは恵太郎殿、生まれ変わったナル殿をご覧あれ」 コンソールの上に、何処からとも無く表れたトリスが恵太郎に恭しく頭を垂れる。 それとほぼ同時に、円柱状の装置の真ん中から上下にスライドした。 その中からは大量のスモークが溢れ出し、油圧式アクチュエーターによりナルが固定された台座ごと押し出された。 徐々に薄くなっていくスモークと共に、ナルの全貌が明らかになる。 それを見て、恵太郎は絶句した。 「何…この……何?」 それも無理は無い。 何故なら、今のナルの姿は以前とは比べ物にならない姿になっていたのだ。 まず頭部には目を惹く大きな、紅い角が生えた。 そして脚部はストラーフ型の基本パーツを装着。 が、その右腕はその身の丈と同等のサイズの砲身と化している。 次に左腕自体も大型化し、持つ刃鋼は規則正しい割れ目が入った不思議なモノになっている。 最後に最も異形の部分、背中である。 腰部には元からあった補助ブースターを改造したと思しき巨大なブースターが。 そして、背中部分には腕、と言うより触手が生えている。 「ただ装備を修復するだけではつまらないと思ったので、色々と強化してみました」 茜はその様子を楽しむように解説を始めた。 「まず、右腕の銃鋼は四班が新たに開発した荷電粒子砲を搭載しました。従来のトライリニアアクセラレータ型ではなく、シンクロトン型へと変更しました。これによって装置自体は巨大化しましたが、その分耐久性能は抜群に上昇、更に、同型の荷電粒子砲を一対に組み合わせ、交互に発射する事で威力は従来のままに連射性能を底上げしたので以前のようなチャージの必要はありません。次に左腕の刃鋼ですが、これは裕也先輩のアイデアを基に設計しました。俗に言う蛇腹剣というものなのですが、最大射程は10smと中距離戦闘では抜群の戦力を誇ります。 また、ある程度の操作が可能なので熟練すればまさに手足のように扱えるかと思います。今回強化した銃鋼と刃鋼ですが、その威力と引き換えに機動性を大きく削ぐ結果となってしまいました。簡単に言えば、重すぎたんです。それを補う為に背部ブースターの巨大化と全身各部に補助スラスターの設置で、一応は機動性を確保しました。ですが、重量が極端に増加してしまい、立つことすら侭なら無い状態になってしまった訳です。その為に、身体を支える為に三つ目の腕。鉤鋼を追加したところ、身体のバランスを取ることが可能になったばかりか、かなりトリッキーな動作も可能になりました。また、鉤鋼自体を使った攻撃も可能でそれなりに使い易いかと。最後に一つ留意点なのですが、銃鋼・刃鋼・鉤鋼のそれぞれの武装を使用中は、他の武装を併用できない事を覚えておいて下さい。具体的には、銃鋼を使用する為には左腕を使った照準補助と鉤鋼を使った姿勢補助が必要なんです。銃鋼は連射性能を飛躍的に強化したんですが、その反動自体は以前より悪化しているんです。次に、刃鋼の場合ですが、これも鉤鋼の姿勢補助が必要です。銃鋼は反動等の理由で併用はほぼ不可能です。最後に鉤鋼ですが、これは鉤鋼を使用している間は姿勢制御が出来ないのが理由です。それと、頭部ホーンは高性能センサー群です。以前と同じドップラーセンサーと超音波センサーを搭載しています……何か質問はありますか?」 心なしか嬉々としている様に見える茜とは違い、恵太郎は呆然としている。 「マスター、似合いますか?」 当のナルはというと、頬を若干紅く染めて恵太郎に問い掛けている。 その表情だけ見れば可愛らしいものだが、その全貌と合わせてみると悪魔の囁きにしか見えない。 「……ああ、最高に似合っているよ」 ようやく我に返った恵太郎が、ナルを褒める。 その表情に嘘偽りの影は無く、其方かといえば清々しい表情だ。 「茜、バッテリーはどうなってる? 前のままだとガス欠で動けないだろう」 「はい、第七班の新型燃料電池のお陰でバトルには一切支障はありません。銃鋼自体も外部イオン供給型なので、打ち放題です」 「パーフェクトだ、茜……孝也、鉤鋼の制御プログラムの内訳は?」 「通常歩行、走行、跳躍、武装使用時の四種類だけだよ」 「ナルは元々腕が四つある、多少の負荷は許容範囲だ。そこら辺を考慮して、自由度を上げて置いてくれ」 「分かったよ、けーくん」 「裕也先輩、刃鋼の耐久性は?」 「刀身部分は秒速5km/sの弾丸にも耐えられた。連結部分は集束モノフィラメントワイヤーで防護してはいるが、秒速2km/sレベルが限界だ」 「ありがとうございます、充分ですよ」 そのやり取りは研究者というより、悪の秘密結社という方が似合っていた。 「全く、先輩達には何時も驚かせられますよ。こりゃ馬鹿と冗談が総動員だ」 もう吹っ切れたのか、全員を見回しながら言った。 「師匠、凄いじゃないですか! これで向かうところ敵無しですねっ!」 アリカはまるで自分の事のようにはしゃいでいる。 「そうでもないさ」 「へ?」 アリカと対照的な恵太郎は、視線をアリカから裕子へ移した。 「裕子先輩、ナルの作動テストとして手合わせ願います」 その言葉にはある種緊迫したものが混じっていた。 「ええ、良いわよ」 裕子の表情は何時ものように小春日和の陽射しのようだ。 「…アリカ、良く見て置けよ」 「も、勿論ですよっ!」 恵太郎は険しい表情でアリカに言った。 バトルフィールド『宇宙船』 剥き出しの金属フレームに金網の足場。 余計な装飾は一切無く、あるのは金属の冷たい感覚。 戦う為に生み出された武装神姫の戦場に相応しい……ナルは新たな武装を纏いそんな事を考えていた。 今回の相手はアル・ヴェル。 もう両者共にフィールドへの転送は終わっている。 普通のバトルなら、こんな悠長に構えている暇は無い。 だが、これはナルの新武装の作動テストだ。 あくまで、名目上はだが。 恐らく恵太郎は本気だ。 ナルはそう考えていた。 「お待たせしました、ナル」 頭上から声が掛けられた。 「いえ、お気になさらず」 その声の元へ視線を送る。 そこには空中を踏み締めてナルを見下ろす雪の様な白い髪の神姫―――アル・ヴェルが居た。 アーンヴァル型の彼女だが、その装備はアーンヴァルとは異なるシルエットを醸し出している。 胸部アーマーはナルのモノと酷似している。 腰部のブーストアーマーもナルのモノと酷似している。 唯一違うのは、脚部。 脚には足首部分から三対の巨大な鋼の羽が生えている。 武装名は『羽鋼』 「裕子先輩の神姫、ナルちゃんに似てる…?」 茜はディスプレイに映る両者を見て、思わず声を漏らした。 赤と黒のボディ、白いボディ。 機体色の違いこそ有れど、それほどまでに両者は似通っていた。 「そりゃそうさ。恵太郎はアル・ヴェルの武装を模倣してナルの装備を作ったんだからな」 裕也はさも当然と言わんばかりだ。 「そんな事より」 そこに茜が割り込んだ。 「アリカは運が良いわ。だって裕子先輩のバトルしている所が見れるのだから」 「どう言う事?」 アリカは茜の真意を測りかねている。 「裕子先輩はこの大学最強の神姫マスターなんだよ」 それに端的に答える孝也。 しかし、その目線はディスプレイに釘付けだ。 気付けば蒼蓮華やロン、トリスですらディスプレイを凝視していた。 『ナル、初めは銃鋼だ』 恵太郎の声がバーチャル空間に響く。 『アル・ヴェルは攻撃に当たらないように避けてね』 それに続き、裕子の声が響く。 ナルとアル・ヴェルは無言で頷きある程度距離を取る。 「…師匠と手合わせするのは久しぶりですね」 ナルは全身の駆動チェックを行いながら呟いた。 その呟きには哀愁に満ちていた。 「マスターはバトルを好みませんからね」 アル・ヴェルの声は、ナル程では無い物の哀愁に似た響きが混じっていた。 「今日は、師匠を満足させられると良いのですが」 ナルは刃鋼で銃鋼を支えながら持ち上げた。 背部では鉤鋼に備え付けられた巨大な鉤爪が足元の金網を抉っている。 「ふふ、そんな気張らなくても良いわ」 アル・ヴェルは羽鋼を展開させた。 その翼長は悠に3smはある。 『よし…ナル、用意が出来たら好きなタイミングで発射してくれ』 ナルの用意が整ったのを確認した恵太郎から通信が入る。 「了解です、マスター」 それに短く応えるナル。 「…行きます、師匠」 「来なさい、ナル」 その言葉に、哀愁は無かった。 構えた銃鋼から爆音と共に光弾が放たれた。 上下に二つある銃口から交互に、凄まじい勢いで光弾と爆音を排出する。 しかし、光弾を撃ち出す事にナルの身体は凄まじい反動を受けていた。 『ナル、大丈夫か?』 恵太郎からの通信。 その声音には若干緊張の色が含まれている。 「…はい…ッ……問題、ありません」 銃鋼を撃ち続けながら、擦れた声で返答するナル。 『……もう暫く撃ち続けてくれ』 暫しの沈黙の後、恵太郎から続行の指令が下る。 「…了解」 それに簡潔に応えるナル。 その眼はアル・ヴェルだけを見据えている。 銃鋼から放たれる光弾はまさに雨の様だった。 しかし、それは反動によるブレで命中精度は良いとは言えないものだ。 その証拠に、アル・ヴェルは軽く身体を捻ったりするだけで大きな回避運動を取っていない。 が、背後の壁に命中した光弾は悉く被弾箇所を貫いている。 『ナル、銃鋼のテストは終了だ。お疲れ様』 恵太郎の通信と同時に銃鋼を停止させる。 「ありがとうございます、マスター」 支えていた刃鋼と銃鋼を下ろして応えるナル。 『…何か問題点は?』 「今のところありません」 『そうか、次は刃鋼だ。準備が出来次第好きに始めてくれ』 「了解です」 事務処理のような応答を繰り返す二人。 ナルは無表情で刃鋼を前方に突き出す様に構えた。 そして、ガチャリという音と共に刀身に規則正しく入った割れ目を境に分裂した。 紅と黒の刀身は何節にもわかれ、刀身同士を繋ぐのは複合ワイヤーのみ。 その間接部分ごとに自在に折れ曲がるそれは、最早剣では無い 床に分離した刀身が落ち、甲高い音を鳴らす。 それを確認したナルは左腕を高く掲げると、刀身の四分の一程が吊り下げられる。 ナルは左腕を振り下ろし、続けざまに右に跳ね上げ、そこから左に鋭く振った。 それと呼応して刃鋼が激しく波打つ。 そして、鋭く、速く、迸った。 刃鋼はまるで大蛇の様に蠢きながら、アル・ヴェルへと襲い掛かった。 伸縮自在の間接を持つそれは、瞬間的には10sm程にもなる。 そして、その先端部分は遠心力やらなにやらで相乗的に破壊力を増す。 ここでようやくアル・ヴェルが回避行動らしい回避行動を取った。 空中で脚に力を込めるようにしゃがみ込んで、刃鋼が目前に迫り自身に衝突すると言う瞬間に一気に翔けた。 その速度は神姫の眼を持ってしても図り知ることは出来ない。 それほどまでに、速い。 目標を見失った刃鋼は背後の建物を大きく抉る。 ナルはそれを確認し、左腕を大きく引いた。 それに呼応し、間接が縮まる。 一瞬で元の剣の形状へと戻った刃鋼を下ろし、前方に下りてきたアル・ヴェルを見据える。 『ナル、調子はどうだ?』 「…銃鋼ほどではないですが、反動が大きいです」 ナルは左腕を見ながら言った。 機械の腕に疲労に似た感覚が襲っているのだ。 恐らく、荷重に耐え切れないアクチュエータが悲鳴を上げたのだろう。 『なるほど、そこらへんは調整が必要だな』 恵太郎の言葉に、感情は込められていない。 「そろそろ良いかしら、マスター?」 アル・ヴェルが裕子に向かい通信を開いた。 その声には何かを待望する、そんな色が含まれていた。 「マスター……ボクもそろそろ我慢できないよぉ」 ナルの口調が変わった。 若干俯きながらも、その瞳は紅く輝いている。 『…良いわよ、アル・ヴェル。たまには羽を伸ばさないとね』 裕子の諦めたような、それでいて優しげな声が聞こえてきた。 「ありがとう…マスター」 アル・ヴェルはゆっくりと浮上しながら礼をした。 『ナル、お許しが出たぞ。好きなだけ大暴れしな!』 恵太郎は凄く嬉しそうだ。 「あはは、言われなくても……そのつもりだよぉ!」 そう叫ぶと同時に、ナルは銃鋼を構え、無数の光弾を穿き出した。 先程よりも雑で疎らな光弾の雨に、アル・ヴェルは羽鋼の出力を全開にして超高速で翔け回り、回避する。 その姿を目で捉えることが出来ないナルだが、それでも攻撃を止めない。 次第に光弾の及ぶ範囲が広くなって行く中、ナルのドップラーセンサーは確かにアル・ヴェルの姿を捉えていた。 「そこだぁ!」 支えていた刃鋼を左に大きく振り抜く。 刀身は伸びながらアル・ヴェルへと迫る。 ナルは銃鋼の欠点である集弾性の悪さを逆に利用した。 逆に光弾をばら撒く事によって、アル・ヴェルの逃げ道を塞いだのだ。 そして、動きが止まる瞬間を予測して刃鋼の攻撃を加える。 「なるほど、いい作戦ですね」 しかし、それはアル・ヴェルにはまだまだ通用しない作戦のようだ。 迫ってきた刃鋼を、アル・ヴェルは蹴り飛ばして凌いだ。 勿論、ただの武装では刃鋼を蹴り返す事など出来ない。 その秘密は、羽鋼にある。 羽鋼は電磁推進装置を利用した機動装備である。 従来のブースタータイプと違い、一種のバリアーによる反発力を用いるこの装備は爆発的な速度と運動性能を得る事が出来る。 そして、アル・ヴェルはこの反発力を刃鋼にぶつけたのだ。 「まだまだ脇が甘いですね」 一気に、一瞬でナルへと接近したアル・ヴェル。 ナルの息がかかるほどの近距離で一言言うと、ナルに強烈なローキックを浴びせた。 先程同様バリアーの反発力を乗せたそれはナルの巨体を軽々と吹き飛ばした。 それでもアル・ヴェルは攻撃を止めない。 吹き飛ぶナルに一瞬で追いつくと、ナルの顎を蹴り上げた。 再び軽々と上方へと吹き飛ぶナル。 ナルが最高到達点に先回りしていたアル・ヴェルは身体を横向けに回転。 そして、渾身の力を込めて蹴り落とす。 それは必殺の威力を孕む攻撃であり、喰らえば唯では済まない。 否。 唯ではすまないのは両方だった。 アル・ヴェルの脚がナルに触れる一コンマ前。 その瞬間、ナルの銃鋼はアル・ヴェルへと照準を定めていた。 爆音が響き、爆炎が渦巻く。 それと同時に両者は弾かれた。 ナルは床に、アル・ヴェルは壁に叩き付けられる。 銃鋼の光弾と羽鋼のバリアーの高エネルギーの衝突が爆発を引き起こしたのだ。 「あははぁ、やっぱ師匠は強いやぁ」 刃鋼を杖代わりにし、鉤鋼で体制を立て直すナル。 見た目は酷い損傷だが、その眼の闘志は消えていない。 「ナルも随分と肝が据わってきましたね」 壁にめり込んだ体を引き抜き、空中を踏み締めるアル・ヴェル。 しかし、その身体に損傷は見受けられず身を包む覇気も衰えない。 「さぁ、休憩はオシマイ。第二ラウンドだよぉ」 ナルは刃鋼を前方に向けたまま、左腕を深く引いた。 「休憩なんて挟むのも勿体無い」 羽鋼を大きく羽ばたかせ、前傾姿勢になった。 彼女達は武装神姫。 戦う事に、理由は要らない。 アル・ヴェルの羽鋼が瞬く。 度を超えたバリアーの過剰出力が強い光を伴わせる。 その速度は最早如何なる方法を取ろうとも、捉えきれるものではなかった。 だから、ナルは予測した。 左手を勢い良く繰り出す、一般に言う突きだ。 ただし、刃鋼の突きのリーチは10smオーバーだ。 アル・ヴェルは最高速度で飛翔した。 それはつまり機動性を殺すことだとナルは考えた。 そして目標は自分。 その道筋は一本道。 そこに、刃鋼を置いておけばどうなるか? 単純明快、正面衝突である。 しかし、アル・ヴェルの機動性はナルの思惑を遥かに凌駕していたのか。 アル・ヴェルに迫り来る刃鋼。 その衝突の寸前に、アル・ヴェルが進路を変えたのだ。 アル・ヴェルの羽鋼はいかに速く動いている状態でも、自在な機動を実現したのだ。 そして、最高速度のままナルに激突。 純粋な加速エネルギーだけの攻撃。 だが、それだけで神姫を粉砕するには充分すぎる破壊力を孕んでいる。 決まった。 アル・ヴェルは思った。 確実にナルの胸部を貫いていると。 自身の勝利が決定したと。 が、心のどこかでそれを否定したかった。 「あははぁ、やっと捕まえたぁ」 そして、それは否定された。 アル・ヴェルの脚は確かに貫いていた。 胸部をガードした銃鋼を貫いていた。 その上、鉤鋼でアル・ヴェルの脚をがっちりと掴んでいた。 「師匠…ボクの……腕は…三つあ…る…んだ……」 だが、アル・ヴェルの爪先がほんの少し、ナルの胸部を抉っていた。 すっかり暗くなった帰り道。 アリカと茜は帰路に付いていた。 「それにしても凄かったなぁ…」 アリカはナルとアル・ヴェルとのバトルを反芻している。 「私もアル・ヴェルさんのように強くなれるでしょうか…」 トロンベもバトルを反芻しているようで、小さく呟いた。 悲観的な言葉に対し、その声音は強い意志を感じさせた。 「ふふ」 その光景を見ていた茜が思わず笑い声を漏らした。 「何よっ、文句あるの!」 何となく気恥ずかしいのでそれに食って掛かるアリカ。 「ただ、アリカって変わったよねぇ、って」 アリカの目を真直ぐ見据えて微笑む茜。 その様子にいきなりしおらしくなるアリカ。 「変わったといえばアンタの方よ……今まで大学の研究室に行ってたなんて一言も言ってくれなかったじゃない」 俯きながら少し拗ねる様に言う。 「…アタシが先輩達の研究室に通うようになったのは丁度一年前からよ。その時、アリカが変わったと思っていたの。私の好きなアリカはもう居なくなったと思ったわ。私は寂しかった。その寂しさを埋めてくれるのは先輩達だったわ。だからアリカに言わなかったの。もし、アリカがずっとあのままだったら私はアリカを見限っていたわ」 急に真面目な口調で喋る茜。 「じゃあ、何で今更」 歩くのを止めてアリカに向き直る茜。 「私の大好きなアリカが帰ってきたからよ」 そう言うと、茜はアリカに軽く触れるだけのキスをした。 「…随分と久しぶりにしたわね」 顔を真っ赤に染め、そっぽを向きながらアリカは言った。 「ふふ、じゃあ久しぶりにアリカの家に泊まろうかしら?」 悪戯っぽく笑いながら歩き出す茜。 「マスター、トロンベに噛まれますよ」 それに空中散歩していたロンが喋った。 「わ、私はご主人様さえ良ければ…その……別に」 ロンの言葉に顔を真っ赤にしてトロンベは反論した。 「良いわよ…皆で泊まれば良いじゃない」 アリカは蚊の鳴く様な声で言った。 しかし、それは茜に耳にきっちり入っていた。 「じゃあ今日は大好きなアリカのお家でお泊りパーティね?」 軽くスキップをしそうな茜に、アリカは咆えた。 「気安く好きだの言わないでよっ!」 その顔はトマトの様に赤かった。 先頭ページへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1795.html
…… この世に生を受けた「自分」の前に佇む人物。 「彼」は「自分」のオーナーなのだろうか。 「彼」はこちらを見据え、諭すような言い方でこう告げた。 「自分の持つ"可能性"を限界まで追及してくれ。…それだけだ」 「彼」はそれだけを告げると、静かに去って行った。 …薄暗い廃墟の中。 天井の裂け目から漏れ出る光を反射し輝く鏡の破片。 破片をのぞき込み、映し出された姿を見てすべてを理解した。 「可能性…か」 「自分」は、自らを映す破片を粉々に踏み砕いた。 ……… …… … 無頼19「ヒカルの夢」 途中経過は省略して、僕はメンテナンスショップに居る。 ヒカルの定期メンテの為だ。 「なんかいやだなぁ…、バラバラにされるんでしょ?」 「安心しろよ、そのままお陀仏なんて事はない筈だから」 「ハズは余計でしょ!?」 そんなカンジでいつも通りの会話が進む。 おっと、ようやく順番が回ってきたか。 「次はヒカルか…、どことなく簡単そうだ」 「長瀬さん…、なんか疲れ気味みたいですけどどうしたんですか?」 「どうしたもこうしたもないよ…、…アレのせい」 そういって指差したのは一枚のポスター。 『アオゾラ町神姫センター主催 武装神姫バトルロンド大会ウォードック杯、11/30開催』 …ああ、なるほど。 「大会に向けて定期メンテナンスを繰り上げて受ける人が多い、と言いたいんですね?」 「その通りだ。おかげで常時フル回転、久しぶりの休みもつぶれてしまったよ…」 そう言いうなだれる長瀬さん、他にいろいろあったのだろうか? 「まあ、色々あるのさ…。…一番終わるのが早いのは…ちょうどいい、メィーカーだ」 ……… 「ふぎゅう…」 フラフラになって出てきたメィーカー、任せて大丈夫かな? 「メィーカー、終わったばかりだが次のメンテだ」 「ご…5分だけ休ませて下さいぃ…」 そう言いバタッと倒れるメィーカー、人間だと過重労働で訴えられそうだ。 「あら、彩聞君も来ていたのですか?」 後ろから声、振り向けばそこに居たのは先輩。 「先輩もですか? メンテ」 「零牙のメンテが終わったので、引き取りに来たんです」 先輩の表情はどこか嬉しそうであった。もしかして何か企んでる? 「メィーカー、これ以上客を待たせるな」 「うう…わかりましたぁ…」 メィーカーが復活したので後は任せるとするか。 「ほらヒカル」 「んー…、そのまま帰らないでよ」 誰が帰るか。 手続きを終わらせ、そそくさとその場を離れる。 呼ばれるのは最低でも1時間後、それまで神姫ショップで買い物でもしてるか…。 ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 「はい、ではスリープモードに入って下さい」 MMSサイズに仕切られた術式室、その中の一つがメィーカーの受け持ち区域である。 工具はすべてMMSと同規格のサイズであり、人間の職員が介入する場合は別の術式室が用意されている。 「顔見知りといっても、体をいじられるのはちょっとなぁ…」 「あら、彩聞さんと深い関係になってないんですか?」 「な…なにいってるですか!?」 顔を真っ赤にして目をむくヒカル。 「冗談ですよ」 クスリと笑いながら使用機器の最終チェックを終了させるメィーカー、いつでも開始可能である。 「ささっ、さっさと眠らないと強制的に落としますよ?」 「それは勘弁、………」 小さな電子音と共に、ヒカルはスリープモードに入った。 「ゆっくりしていってね!…じゃなくて、ゆっくりお休みなさい…」 そう言いつつ、早速分解を始めるメィーカーであった。鬼だ(爆) さて、ここからはヒカルの夢を覗く事にする。 何?犯罪だって?、ナレーションだから別にいいのだ。 ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 「おっす形人」 「一深、何でここに居るのが判ったんだ?」 舞台は真昼間の公園、中央図書館のとなりにある大きな公園である。 「私がお姉さまの匂いを辿って来たのです!」 犬か、お前は。 「リック、女の子は…えっと…なんだっけ?」 「"エレガントに"だ」 しかしヒカルの中の人はリュミエールと同じではないのだった。 その時! 白い影が目の前を通り過ぎ、形人がいなくなっていた! そしてその影は一深たちの目の前に着地し、白いマントとフードを羽織った女性の姿をとった。 「な…誰だお前は!?」 目の前に佇む白いマント女を指さし一深が吠える。 「教えませんよ」 更に飛び上り、ついでに一深とリックを踏んづけて飛び去って行った。 「な、何なの一体…!?」 その場に残されたヒカルは憤慨するだけであった。…しかし! 「それどころじゃないや、早く追わないと…!」 ヒカルはそう言い、目の前の草むらに飛び込んだ。 …… 「…風よ!我の姿を覆い隠せ!」 一声と共に風が吹き荒れ、それは竜巻となってヒカルを覆い隠す。 異常気象甚だしいが、夢だから省略する。 スタッフ(杖)と小銃が合わさったようなものを掲げ、ヒカルは紡ぎだした。…呪文を。 「我が名と技を背に我は実行す。我はヒカル、超常なりし法と理の使いなり」 ちょっと待て、それはまかでみではないか。専用のものが浮かばなかったのか!? 「光よ、風よ。我を戦乙女へと変えよ!」 …もうちょっと捻れなかったのか…? 閃光と共に姿が一瞬で変わり、サイズが12/1…つまり人間大へと変わっていた。 その装束は"管理局の白い悪魔"を連想させる…というか、似過ぎである。 では、変身プロセスをもう一度見てみよう。 ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 「風よ、光よ。我を戦乙女へと変えよ!」 彼女が秘める魔力は人間の1/12しかない。そのため魔力を装填した10mmカートを多数内蔵したスタッフ"フィリア・リスティック"を変身補助に使用する。 所定のワード(呪文)を唱える事によりカートが一つ消費され、その身体を一度分子分解し光と風を魔力で物質化したものを使い人間大に再構成する。 次に自らの魔力を使用し一糸纏わぬその姿を風の繊維に包みこむ。繊維は絡み合い、さらに防御魔法を織り込むことによって通常兵器はものともしない無敵の服と化す。 最後に光の分子が障壁魔法として服に模様をつける事によって、彼女の変身は完了する。 ちなみに補助が必要ゆえ、変身には約1秒掛かるのが難点である。 「待ってて!今助けるから!!」 スタッフを掲げ、颯爽と飛び立つヒカル。 …一深とリックは無視ですかそうですか。 …… 都市上空を音速の3倍もの速度で飛行するヒカル。 当然下の町は衝撃波で大惨事となっているが…夢なので割合する。 そんな彼女の視野に霧のようなものが入った。 それを拡大して見てみれば、はるか彼方に武装したNAKEDの大群が見えることであろう。 だが ずどぉぉん! 音速の3倍で飛んでいる以上、視界に入った時点で直に通り過ぎる。 あっさり突破された包囲網は、遅れて通過する衝撃波になぎ倒された。 …まあ、ご愁傷様ということで。 「見つけた!」 もはや追いついてしまうのはご都合主義だが、そこは夢。あきらめてもらいたい。 「君は何者なの!? なぜ形人を連れ去ったの?」 口調が変わっているが、コスチュームを替えることによる気分転換なのだろう。たぶん。 「もう追いついたのですか?ちょっとは苦戦してくれればいいのに…」 「その声はもしかして!?」 声に聞き覚えがあるのか、驚きを隠さないヒカル…いや。魔砲少女(キャノン・ガール)ヒカル。 「そう…双葉では在庫と罵られネタにされ、育児放棄の飲んだくれと言われ続ける屈辱…」 自虐か?それは自虐なのか? 「…じゃなくて!この作品の主人公の座をいただくためにさらったのですよ!」 そう言ってマントを脱ぎ捨てる女。 「やはり…アーンヴァル! …ていうかラスターだけじゃ不満!? 大体「アールとエルと」とか「双子神姫」とかその他もろもろで主役張りまくってるじゃないのアンタ! 私たち第五弾組以降は主役を張ってるSSなんてほとんどないのよ! ま・し・て・やエウクランテなんてこの神姫無頼と「スロウ・ライフ」の「武装神姫飛鳥ちゃんエウクランて」しかないのよ! 他はやられ役だったりその他大勢だったり脇役だったり…そもそも何で第二弾までが主役の大半をしめてるの!?もっと五弾以降の主役が増えてもいいと思うのよ私は!? それどころか私だって最近は零牙とジーナスたちに立場を盗られてるし…だぁーっもう!!ハラたつ!! ただでさえ影の薄い私から主人公の座を奪ったら何が残る!?、ただのへっぽこネボスケ鳥子にしかならないじゃないの!ていうか…」 「わかりました!形人さんを返しますからもう止めてください愚痴は!!」 ヒカルの"航空機関砲M61バルカン"な愚痴トークに完敗した白子、毎分4000発は伊達じゃない(違う) 白子が投げた赤い玉をキャッチするヒカル、中にはフィギュアサイズの形人。 「…ふぃぎゅ@メイト? まあいいや、これで心配する必要はなくなったし…悪は成敗しましょうか」 「か、返したのに許してくれないんですか!?」 ヒカルは白子をビシッと指さし 「かの偉人は言った!「悪人に人権はない!」ましては神姫には元から人権が無い! 覚悟しなさい…。」 ビビリがはいる白子の目には、しっかりと魔王モードになったヒカルの濁った目が映っていた。 「…頭、冷やしてあげるから」 「き、きぃゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 「これが私の究極全壊ッ! ジェノサイド・ブラスター!!」 「虐殺」と名に入っちゃってる魔法(魔砲)を容赦なく白子にぶっぱなすヒカル。 まわれ右して逃げ出した白子は、跡形もなく消え去ったのだった。ムゴい…。 「………(汗)」 ログ整理を並行して行っていた長瀬は、この映像を見て唖然とした。 日頃の鬱憤を夢で発散していたのか…。 「…ふぅーむ、こりゃあ形人君に言っとくべきかな?」 ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 「ヒカルの不満?」 形人は呼ばれた早々、長瀬にこう言う話を聞かされた。 「うん、どうやらかなり"溜まっている"な。メタフィクションになってしまうが、ヒカルは零牙やジーナスに主人公としての株を奪われている事を気にしているのがひとつ。次は主人公なのに成績が酷い事、最後は個性やインパクトが弱すぎる事。といったところかな」 噛み砕くように聞かせる長瀬。まあメタフィクションな内容だからだが。 「そんな事言われても、今更変えられませんよ。最終回だって近いのに…」 メタフィクションにはメタフィクションで返せと言わんばかりにのセリフを言う形人。もう本話はグダグダである。 「ならば今現状を納得させるのが一番だと思う、俺から言えるのはそれだけさ」 どうしようもない、企画段階からの設定に頭を抱える事になるとは…。 自分…第七スレの6は次回作に不安に感じつつ、本話を終わらせる事にする。 [強制終了] 流れ流れて神姫無頼に戻る トップページ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1692.html
「・・・・ねぇ、彩女」 「なんですかアメティスタ・・・よいしょっと」 「・・・・二人っきりだね」 「そうですね・・・・っと」 「バトルなんかやめてさ、二人でどっかいこうよ。ほらあそこ、ホテルあるよ」 「そうですか・・・・・・・よっと」 「・・・・・・・・おっぱい揉んでいい?」 「駄目です」 * ホワイトファング・ハウリングソウル * 第十三話 * 『黒衣の死神』 『都市ステージ』を、彩女とアメティスタは歩いていた。 ・・・いや、正確には歩いているのは彩女だけである。アメティスタは歩いていない。 ならば彼女はどうしているのか。 彩女におぶさっているのである。 「・・・いくらなんでもですね。・・・・よっと、こういう時くらい二本足にしたらどうですか・・・・っと」 「ヤだ。だってこのヒレはボクのトレードマークだよ? アイデンティティなんだよ? それに二本足にするには声を魔女にあげないといけないし」 そういうアメティスタの足は今もイーアネイラの装備であるティティスだった。これでは陸上で歩けないため彩女が背負って水場まで運んでいる。 「そもそも水中戦でもないのにイーアネイラ装備なのがおかしいんです。・・・っと。エウクランテだって水中専用じゃないんですよ。・・・よいしょ」 「知ってるけどさ。でもこれは外せないね。ある意味ボクの決意の証みたいなもんだし」 「だからって・・・っと。今襲われたらどうするつもりですか・・・っしょっと」 「大丈夫だよ。ボクらが敵に遭遇するのはピッタリ五分後、彩女がボクを公園の池に運び終わるのが今から二分後。三分の余裕があるよ」 「・・・便利ですね予知能力・・・・っと」 そう、今彩女とアメティスタは公園を目指している。 アメティスタが入れて戦えるような場所がそこしかなかったからだ。 ・・・余談だが戦闘用に武装をしたアメティスタは結構重い。今こうしている間にも、彩女の体力は削られ続けているのだ。 「便利とはいっても、このバトルの結果は見ないようにしてるよ。だってつまらないじゃん」 「それもそうですね・・・・よいしょっと」 彩女は掛け声と共にアメティスタを背負いなおす。 公園はもう少しだった。 「・・・・うん。ヴァーチャルとは言えやっぱり水に浸からないとね」 無事公園に着き池に入ったアメティスタはそういいながら水をすくった。 彩女はとっくの昔に公園を出て、敵を探している。 あと一分もすれば天使型の一撃を食らうだろう・・・・どうなるかはあえて予知しなかった。その方が面白いからだ。 「~♪」 彼女は鼻歌を歌いながらプチマシィーンズに指示を出す。その数凡そ十三。 公園中に散ったプチたちはそれぞれのポジションにつき、情報を送ってきた。 「・・・・ふぅん。西から来たか。とりあえず公園に入ったから・・・結界をはるか。あとはボクの闘いだね」 アメティスタがそういうと同時に、公園内に霧が立ち込める。 なんてことはないただの霧だ。 「・・・煙幕のつもりかしら?」 と、その霧の中、アメティスタのものではない声が響く。 声のしたほうへとアメティスタは顔を向け・・・一瞬その顔が強張る。 「煙幕じゃないんだけどね。・・・まぁ、似たようなもんかな? 始めまして、ボクはアメティスタ。キミは?」 「わたしの名前はルシフェル。悪魔型のルシフェルよ」 軽く霧が晴れ・・・ルシフェルの異形が姿を現す。 足はザバーカが装備され、素体の両腕はチーグルを装備している。その両手には巨大なリボルバーキャノンを持ち、腰にはデスサイズがマウントされていた。しかしなんといっても目を引くのは背中に取り付けられた巨大な羽であろう。 蝙蝠を思わせるそれは、正しく悪魔型たる彼女のために作られたかのように存在していた。その漆黒の羽は夜の闇を思わせる妖しげな色だった。 「・・・・いい趣味してんじゃん」 「それはどうも。それよりもそろそろ始めない? わたし達今日中にあと三回も戦わなくちゃいけないの」 ルシフェルはそういって、リボルバーキャノンの撃鉄を上げる。 「・・・いいよ。それじゃぁ・・・始めようかっ!!」 武装神姫・イレギュラーキャンペーンバトル アメティスタ対ルシフェル・・・開戦 前・・・次
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1255.html
「相手を寄り付かせないで倒すパルカで」 「…お兄ちゃん。ありがとう、嬉しいです!」 左肩で、頬を桃色に染めながら喜ぶパルカ。 まぁ喜んでくれるのは嬉しい。 だけど他の三人は少し残念そうな感じだ。 『後で他の奴等と戦うから、その時にな』と言うとパア~と明る表情になる神姫達。 さて、そろそろ対戦するか。 装備…よし! 指示…よし! ステータス…よし! パルカを筐体の中に入れ、残りの神姫達は俺の両肩で座ってパルカの観戦をする。 「パルカ、頑張れよ!」 「うん!お兄ちゃん、私頑張るから!」 「相手を接近させないように弾幕を張るのよ!」 「一番最初のバトルであたしの妹なんだから!姉のボクを恥じかかせるなよ!!」 「負けそうになったらパルカの巨乳で相手を翻弄させるのもアリよ~!」 「ルーナさん…さすがにそれはちょっと…」 パルカは少し心配そうにしていたが、頑張なりな笑顔を俺に見せ筐体の中へと入って行く。 気がつくと俺は両手で握り拳をつくっていた。 いつになく俺の心は興奮していたのだ。 何故だろう? 多分、誰かを応援している事によって熱くなっているのかもしれない。 それとパルカに勝ってほしい、という気持ちがある…かもなぁ。 俺は筐体の方に目を移すと中には空中を飛んでいる二人の武装神姫達が居た。 READY? 女性の電気信号がの声が鳴り響き、一気に筐体内の中が緊張が走る。 勿論、外に居る俺達もだ。 FIGHT! 闘いの幕があがった。 お互いの距離150メートルからスタートして、敵のストラーフが接近しパルカは後方に後退する。 敵のストラーフが総重量的に重いせいか、二人に間の差がひらく。 距離250メートルぐらいの間合いかな。 「お願い!当たって!!」 パルカは“ヘルゲート”アサルトブラスターを取り出しババババ、と連射する…が。 「へっへ~んだ。そんなじゃ当たらないよ~だ」 余裕綽々で避ける敵のストラーフ。 回避した後はすぐさま間合いを詰めパルカに近づく。 「ッ!?これなら!」 すぐさま“ヘルゲート”アサルトブラスターをしまうと“ピースビルダー”リボルバーを二丁取り出した。 二丁拳銃か!? パンパン! 「ヒョイ、ヒョイ、と。楽勝ー」 慌てて撃ったためかパルカの攻撃はミスした。 クッ! このままではマズイ! そう思った瞬間。 間合いの距離は50メートルぐらいになっていた。 「クラエー!」 「!?」 敵のストラーフはDTリアユニットplusGA4アームのチーグルで攻撃しようとした。 「間に合って!」 “ヘルゲート”アサルトブラスターを再び取り出し自分に迫ってきてるチーグルに縦に向けた。 ガキャン! 筐体の街の中でとても鈍い音が響いた。 何故そんな音がしたのか。 それは“ヘルゲート”アサルトブラスターを盾にして、間一髪の所でチーグルの攻撃から逃れたのだ。 しかし、“ヘルゲート”アサルトブラスターを盾にしたおかげで、もう銃としての機能は失われていた。 あんなボロボロじゃあ撃てないだろう、DTリアユニットplusGA4アームのチーグルでの攻撃は破壊力抜群という訳か。 パルカは間合いを詰められてしまったので後方に下がる。 しかし、敵のストラーフはそれを許さない。 アングルブレードを取り出しパルカに再び攻撃しようとしたのだ。 「ッ!」 「避けるなよ~」 ギリギリの所でかわす事が出来たパルカは更に間合いを広くしビルの背後に隠れてしまった。 「…お兄ちゃん。助けて、お兄ちゃん…怖いよー…」 ビルの背後で声を殺しながら無くパルカ。 しかも俺に助けてを求めている。 畜生! 助けてヤりたい所だが俺にはどうする事も出来ない。 …いや、まだ助けてあげる事は出来る。 けどその方法は…負けを意味をする『降参』だ。 どうする、俺。 私的には勝ってほしい。 だが、これ以上パルカが傷つくのをただひたすら眺めるのは嫌だ。 「パルカ、聞こえるか?」 「お、お兄ちゃん!」 俺の声に気づくとパルカの目から更に涙が流れる。 可哀想に…よっぽど怖かったのだろう。 「今すぐ降参の意思を相手に示すから待ってろ」 「えっ!?なんで降参するの!」 「そうすればお前が怖がる必要は無くなるからだ。無理にバトッたってしょうがないだろうが」 「お兄ちゃん…」 「それにお前が泣いて苦しんでいる、姿なんか見たくないんだよ」 「………」 「ナッ。だからパルカはそこで待っ」 「お兄ちゃんは私に『頑張れよ』を言ってくれました」 俺の言葉を途中で遮ったパルカは俯きながら次々に口を開く。 「あの時、私は『あぁ、お兄ちゃんに期待されてる。頑張らなくっちゃ!』と思いました。…だから今が頑張る時です!」 バッ、と俯いた顔を俺に見せたパルカの顔は涙目でもキリッとした顔をしていた。 今までオドオドしていたパルカを見てきたが、ここまでシッカリとしたパルカは初めて見た。 フッ、パルカがそう言うなら俺は何も言うまい。 「なら、頑張って行ってこい!パルカ!!」 「はい!お兄ちゃん!!」 ビルの背後に隠れのをヤメて敵のストラーフに自分の姿を現す。 すると敵のストラーフがニヤついた顔で。 「アンタのオーナーも貧弱ね。さっきまで降参するかしないか悩んでいたよ。でもそう考えるのも無理もない話。貴女、弱いし」 「お兄ちゃんの悪口を言わないで!」 ブオン! 「ヘッ…ちょっとー!?!?」 パルカが敵のストラーフに投げつけたのはモアイ像だった。 モアイ像は固形燃料ロケットおよび整流装置およびアクティブセンサーが内蔵されておるので殆どミサイル状態。 つか、ミサイルと変わらない。 でも命中率が-125なので敵のストラーフに避けれてしまった。 「ちょっとアンタ!危ないじゃ、キャーーーー!?!?」 「えいえいえいえーーーーい!!!!」 次々と敵のストラーフにモアイ像を投げつけるパルカ。 実はパルカの頼みで出来るだけ武器のモアイ像を装備させていたが…これは中々シュールな光景だ。 だって沢山のモアイ像が敵のストラーフに向かって飛んで行くのだから。 ていうか、パルカが投げすぎて近辺はそこらじゅうモアイ像だらけだ。 外れたモアイ像はビルを破壊したり道路を破壊しながら落ちてぶつかっていく。 …ホント、シュールな光景だ。 あ、モアイ像で思いだしたんだけど。 このデザインのモアイ像。 コ○ミ株式会社のゲーム、『GRADIUS』に出てくるあれだろう。 特に指摘するのなら、PS2のGRADIUSⅢで出てきて、宇宙の中でクルクルと回転しながら口から子モアイ像を吐き出して攻撃するアレ。 因みにあのシューティングゲームは大好きだ。ファミリーコンピュータからPSPまで持ってるぞ。 ってそれは置いといて…しかし、モアイ像の何処を気にいったのだろうか、パルカの奴は。 後で聞いてみるか。 「これで、最後よーーーー!!!!」 「イヤーーーーこれ以上は止めてー!!!!」 ありゃりゃ。 敵のストラーフは戦意喪失してしまったようだ。 それもそうだ。 なんたってモアイ像が飛んでくるのだから。 ん? 筐体の俺の方についてるコンソールを見ると相手からの通信が出ていた。 ん、と何々…。 俺はコンソールを見るとそこには『降参』の文字が浮かび上がっていた。 それはこちらの『勝利』を宣言する言葉。 すぐさま俺はパルカにこの事を告げようとした。 「パルカ、戦闘中止だ!相手のオーナーが降参したんだ!!」 「…え?それは本当ですか??」 最後のモアイ像を投げつけようとしていた動作を途中で止め、俺見ながらキョトンするパルカ。 「ああぁ。本当だ、俺達の勝ちだ」 「や、やったー!勝ったんですね、私!!」 筐体の中で俺の事を見ながら喜ぶパルカ。 俺も自分の神姫が勝った事が嬉しくて微笑む。 両肩にいるアンジェラス達も喜びはしゃいでいる。 そうか…。 これが武装神姫の楽しみ方か。 確かにこれは楽しい。 おっと、パルカを筐体から出さないといけないなぁ。 筐体の出入り口に右手を近づけると勢いよくパルカが飛び出して来て俺の右手に抱きつく。 そのまま俺は右手を自分の目線と同じぐらい高さまで持っていきパルカを見る。 「よく頑張ったな、パルカ」 「はい!私、お兄ちゃんの言葉が励ましになって頑張る事が出来ました!!」 「そうか。そいつはよかったな。これはご褒美だ」 「あ、あうぅ~」 俺の右手の手の平に乗ってるパルカの頭を左手の人差し指の腹の部分で撫でる。 撫でているとパルカが俺の指を掴み自分の胸にそっと押さえるつける。 うわっ、パルカの巨乳が…物凄く柔らかい。 「あの、お兄ちゃん。頭を撫でるより、私の胸を触ってください」 「なんでまたどうして?」 「そっちのが気持ちいいからです。ご褒美なら…いいでしょ?お兄ちゃん」 「う~ん、まぁいいよ。お前がそれで良いと言うなら」 「お兄ちゃん、ありがとう」 プニプニとパルカの胸を触ると押した方向に乳房が歪みエロスをかもし出す。 ウハッ、気持ち良過ぎだぜ。 つーかぁ、まるで俺がご褒美をもらっているような感じなんだけど。 「いいなぁ…。ご主人様、ご主人様、次の試合は私を指名してください。絶対勝ちますから!」 「あー!いいなぁ~パルカの奴~。よし!!次のバトルはボクが出る!!!」 「ダーリンのご褒美を貰うために頑張らないといけませんわね」 両肩で何やらパルカに嫉妬しているように見える三人の神姫達。 そんなにご褒美が欲しいのか? まぁ今日はトーブン、ここにいるつもりだから一応全員バトルさせてやるか。 すぐさま指を胸から離すとパルカが少し不満そうな顔しながら。 「え、お兄ちゃん。もうご褒美お終いですか」 「まぁね。解ってくれや」 「む~、分かりました。でも次にご褒美くれる時はもっと触ってくださいね」 「…善処します」 ちょっと疲れた。 体力が、というよりも精神的に…。 まぁいいか…、パルカが気持ち良くなるのなら俺はなにも文句は言わん それに胸を触った時のパルカはエロかったし。 また胸を触りたくなるような表情だった。 ここでまた再びパルカの巨乳を触ったりすると乗っている三人に何されるか解らないのでお触りはお預け。 パルカを右手から左肩に移動させ、俺は次の筐体に向かった。 闘いはまだ始まったばかりだ。 「さぁ行くぞ!俺達のバトルロンドの幕開けだー!!」 こうして俺達のバトルロンドがスタートした。 そしてこの日からパルカの二つ名が出来た。 名は『銀を操る者』…。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1306.html
「犬子さん……」 不安な様子を隠そうともしないマスターさん。その呼びかけに、実は意味などありません。 ただただ不安で、声をかけずにはいられないだけなのでしょう。 私はそんなマスターさんに、優しく微笑みかけます。 「そんな顔をしないでください、マスターさん。いつかこの時が来るということは、以前から話し合っていた通りじゃないですか」 「ええ、ええ……この件に関しては、私たちは十分に話し合いました。 そのための準備だって繰り返してきました。 ですが……ですがそれでも、私は不安でならないのです。 こうして、犬子さんとお話しするのが、これが最後になってしまうのではないかと……!」 ……実を申せば、マスターさんのこのお言葉も今に始まったことではなくて。 幾度となく、幾度となく、同じお言葉を――同じ不安を、吐露されてまいりました。 ですがそれでも、私はその度にマスターさんのこのお言葉を真摯に受け止めます。 そこには、もったいないばかりの、私へのお気遣いが溢れているのですから。 「大丈夫ですよ、マスターさん。きっとまた、こうしてお話できます。約束しますから。 また目を覚ました私は、真っ先にマスターさんに『おはようございます』って言うんですよ。 いつものように正座して。 いつものように深々と座礼して。 だからその時は、マスターさんも一緒に、座礼してくださいね?」 「ああ……それは素敵ですね。約束しますよ」 マスターさんは僅かに不安な表情を引っ込めて、目を細めて笑いました。 まるでそれが、かなわぬ夢の光景であるかのように。 「現在時刻は23:59……もうすぐ時間です」 私は、笑顔を崩さぬままで、そういいました。マスターさんの不安を、少しでも取り除けるようにと。 「あ、はい……あの……」 マスターさんは、まだ何か言いたそうでした。ですが、その未練を断ち切るのもまた優しさと、私は学びました。だから私は笑顔のままで、最後のご挨拶をします。 「おやすみなさい、また明日」 「あ、はい、また明日」 時刻が0:00を示し、クレイドルに身を横たえた私の思考が、闇に沈んで行きます。 徐々に狭くなる視界の中で最後に捉えたのは、不安そうに私を見守るマスターさんの姿でした。 私は全身が徐々に制御を離れるなか、ほんの僅かに微笑みを浮かべます。 マスターさん…… そんな顔をしないでください 明日になったら…… きっと…… また…… 笑顔で…… system sleep... ・ ・ ・ ゆっくりと、私は起動していきます。同時にセンサーが周囲の情況把握を開始。 体内時計を確認すれば、時刻はAM07:00ジャスト。 予定通りです。 そうして目覚めた私の目に一番最初に飛び込んできたのは、 私が眠りについた時とまったく同じ姿勢で私を見守る、マスターさんの姿でした。 「犬子さん……」 「マスターさん……ひょっとして、ずっと付いていてくださったんですか?」 「あ、いや、その……申し訳ありません、不安で寝付けなくて」 照れくさそうに頭を掻くマスターさんに私は顔をほころばせつつ、いたずらっぽく言います。 「だめですよ? 今日もお仕事なんですから、しっかりお休みなさらないと」 「あー、いや、面目次第もございません」 困ったように頭を掻き続けるマスターさんですが、その顔は晴れやかです。 そしてそんなマスターさんの姿に、私は感情回路が深く温かい感覚で満たされるのを感じます。 くすりと一度小さく笑うと、私はクレイドルから身を起こし、膝をつき似非正座の姿勢になります。 そして、ゆっくりと、深々と頭を垂れます。そう、昨晩約束したように。 「おはようございます、マスターさん」 「あ、おはようございます犬子さん」 私は顔を伏せたまま、マスターさんも慌てて頭を下げる気配を感じます。 それから私たちは、どちらからともなく示し合わせたかのようにゆっくりを顔を上げました。 「それからマスターさん」 私は、マスターさんににっこりと満面の笑顔を向けました。 「武装神姫の自動起動タイマー設定の成功、おめでとうございます」 <そのよん> <そのろく> <目次>
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2259.html
ウサギのナミダ・番外編 黒兎と塔の騎士 後編 ◆ 鳴滝修平の夢は、格闘技を極めることだった。 世界最強なんて見果てぬ夢だが、そう自負できるほどに強くなりたかった。 志したのは小学校に入学する時分のことだから、随分前の話だ。 鳴滝少年は、数ある格闘技の中から、中国拳法を選択した。 近所に道場があったからだ。 鳴滝少年は熱心な入門生だった。 拳法を身につけるのも面白かったし、強くなることが実感できた。 それは中学生、高校生になっても変わらなかった。 実際、強くなったと感じられたのは、喧嘩の時だった。 格闘技をやってるだけで、何かとやっかいごとに巻き込まれる。 殴り合いの喧嘩をしたが、拳法の技は使わなかった。 師匠から私闘での使用を禁じられていたからだ。 だが、使わなくても負けることはなかった。 いつか、思うさま技を使うことがあるだろうか。 そう思いながら、日々練習に励んでいた。 その生活が一変したのは高校三年生の時。 交通事故にあった。 自転車に乗っていたところで、車にはねられた。 命に別状はなかったが、自転車と左の膝が壊れた。 入院生活の後の、長いリハビリのおかげで、なんとか日常生活は不自由なくできるようになった。 でも、激しい運動はできなくなった。 格闘技なんてもってのほか。左膝は弱点ですらある。 今も道場には行っているが、それは自分を守ることに備えるためであり、以前のような前向きな気持ちではなかった。 だから、リハビリ明けの直後は、荒れた。 つっかかってくる不良やヤンキーを、片っ端から倒して回った。 自分の強さを確認するための幼稚な手段、だった。 そんな意味のない喧嘩に飽きた頃。 鳴滝は武装神姫に出会った。 はじめはくだらない人形遊びだと思った。 だが、ある戦いを見て考えが変わる。 それは、銀髪の神姫と、青色の鎧騎士の対決だった。 剣による近接格闘戦。 その動きは人間を超越し、神業の域に達している。 鳴滝はふと思う。 このなんでもありの戦闘領域で、格闘技はどれほどの力を持ちうるのだろうか。 格闘技だけでどこまで上が目指せるのか。 そんな思いつきが、鳴滝の次なる夢になった。 騎士型サイフォス・タイプを購入し、ランティスと名付けた。 そして、格闘技の修練をさせた。 実際のところ、徒手空拳で戦場に立つのは、非常に厳しかった。 はじめはろくに勝てなかった。 だが、鳴滝はあきらめることを知らず、ランティスは鳴滝の夢を愚直に追い続けた。 やがて、自分たち流の戦い方を見い出す。 そしていまや、『塔』でランティスにかなう神姫はいない。 鳴滝はランティスに感謝している。 鳴滝の夢はかないつつあるのだから。 ◆ 手甲から飛び散る紫電の向こう。 正面に立つ神姫の姿を認めて、ランティスは愕然とした。 「貴様……どうして……」 ティアは雷迅弾を放ったときそのままの姿で立っている。 ありえない。 超速の弾丸は、間違いなくティアが立つ場所を通過している。 なぜあの黒い神姫は五体満足で立っていられるのか。 「どうして、どうしてそこに立っていられるっ!?」 ランティスの叫びに、ティアは困ったような視線を向けるばかりだった。 ◆ ランティスと鳴滝の様子に、観客たちもどよめき出す。 シスターズの四人と安藤も、首を傾げていた。 彼らは皆、ティアが何をしたのか、全く見えていなかった。 安藤は、シャツの胸ポケットにいる、彼の神姫オルフェに尋ねた。 「オルフェ……ティアが何したか、見えたか?」 「見えました……けど……」 人間では追いきれなかった動きも、神姫の目では捉えられたらしい。 だが、オルフェは釈然としない表情で首を傾げていた。 「ティアは何をした?」 「何をしたというか……特別なことは何も」 「え?」 「ただ普通に……いつものようにステップでかわしただけです」 「は?」 安藤はオルフェの言っていることがすぐには理解できなかった。 そこへ銀髪の神姫が口を挟む。 「マスター安藤。確かに今のティアの動きは、半円を描く普通のステップでした。 ……ですが、ティアは、出来うる限り最速かつ最小半径でのステップで、雷迅弾を回避したのです」 「最小半径って……」 安藤には想像もつかない。 つまり、超音速で飛来する球体を、紙一重で見切ってかわした、ということでいいのだろうか。 「……っていうか、雪華は何で俺のこと知ってるんだ?」 「ティアと同じチームの神姫とマスターの情報は調べ上げてあります」 さも当然といわんばかりの雪華であった。 □ ギャラリーがどよめく中、俺はむしろ不思議な気持ちでいた。 別に何も特別な技を使ったわけじゃない。 その証拠に、俺からティアへの指示はたった一言、 「ステップでかわせ」 だった。 ティアはそれを忠実に実行しただけだ。 確かに最近、ティアには近接戦用にステップを練習させていたが……。 「遠野……今のはなんて技だ……?」 大城も呆けたように俺に聞く。 まわりを見ると、みんな俺に注目していた。 俺は小さくため息をつく。 「名前を付けるほどのことじゃないんだが……そうだな、『ファントム・ステップ』とでも名付けようか」 「ファントム・ステップ……」 うめくように鳴滝が言う。 俺は頷いた。 「そう。だが、ファントム・ステップは単発の技じゃない。連続でやると……こうなる」 バトルロンド筐体の画面の中。 ランティスがティアに向かって突進していくところだった。 ■ 「たった一発かわせたからって……いい気になるな!!」 ランティスさんが叫びながらわたしに向かって突っ込んでくる。 どうすればいい? 間合いを取ってかわすのは簡単だけれど。 そう思ったとき、マスターから指示が来た。 『ティア、練習してたあのステップですべてかわせ』 「はい」 『隙あらば反撃だ。練習の成果、見せてやれ』 「はいっ!」 やっぱり、あのステップ……ファントム・ステップと名付けられたのは後で知った……を試すために、この試合は銃器がセッティングされなかったんだ。 ファントム・ステップは、わたしが最近集中的に練習していた技。 わたしが近接格闘戦をするようになってから、マスターが必要だと言って、練習するようになった。 できるだけ素早く、できるだけ相手から離れずに、ステップでかわす。 それが基本。 ランティスさんが両手を顎につけた体勢で踏み込んでくる。 間合い。 左右のパンチから左脚のハイキック。 流れるように淀みのないコンビネーション。 わたしは後ろに下がるステップで、左右のパンチをかわし、半円のターンでキックをはずす。 ステップは全部、攻撃に対して一定の距離。 空を切るハイキックが風を巻き、わたしの前髪を揺らす。 わたしはランティスさんを見た。 大きな動作の後なのに、もう隙をつぶして構え、攻撃態勢に入っている。 反撃の暇はない。 ランティスさんは躊躇なく踏み込んできた。 今度はさらに深く。 腰だめの右拳を斜め上に突き上げるようなアッパーカット。 それも半円のターンでかわす。 すると今度は、踏み込みながら、左腕で細かいパンチを三発放ってきた。 だけどそれは、三発とも同じ距離。 それをかわすと、また踏み込んで、右のパンチを二、三発。 わたしは右左と順番に放たれるパンチを、ジグザグのステップでかわしていく。 かわすたびに、ランティスさんの表情が険しくなっていく。 ◆ ランティスはティアに向かって膝蹴りを繰り出した。 これもかわされる。 だが、これは誘い。 上げた右膝を降ろさず、空手の側方蹴りに移行する。 突然間合いは伸びる。どうだ。 だがそれも、半円のターンでかわされる。 「くっ……!」 ばかな。 こんなことはありえない。 ランティスはこれでも考えながら攻撃をしている。 技のスピード、キレ、間合いの変化、技の変化。 もちろんフェイントも交えている。 だが、そのことごとくをかわされる。 しかも一定の間合いで。 ティアは必ず踏み込みが届く間合いで、自分の正面にいるのだ。 当たるはずの攻撃が当たらない。 あるはずの手応えがない。 まるで亡霊を相手にしているようだ。 「お、おおおおおぉっ!!」 ランティスは吠えた。 左右のハイキックを順に放ち、さらに振り上げた左脚を上から落とす、かかと落とし。 それも、なめらかなS字のターンが命中を許さない。 だがランティスは止まらない。止められない。 今度は降ろした左脚を支点に、旋風のようなミドルキックを放つ。 攻撃範囲の広さは、ランティスの持つ蹴り技でも随一だ。 しかし、それもかわされる。なんと、ランティスが振るうつま先を、ターンで回り込むようにして回避した。 ランティスはさらに蹴る。同じ方向から、跳ねるように、リズミカルに、旋風のような蹴りを。 しかし、当たらない。 黒兎の神姫は、目の前を、亡霊のように舞い続けている。 「く、くそおおおぉぉっ!!」 自分の身につけた技のすべてが、たった一つの技に否定される! 技を一つかわされるたび、心が絶望に浸食されていく。 ランティスは心を削るような思いで攻撃を続ける。 ◆ 「すごい……」 安藤は思わずつぶやいていた。 ランティスの息もつかせぬ連続技。 そこにはあらゆる格闘技の技が詰め込まれていた。 キックボクシングのコンビネーション、ボクシングのパンチに、ムエタイ、空手の蹴り技。 かかと落としはテコンドーの動きだったし、今見えるダンスのような回し蹴りは、たぶんカポエラだ。 格闘技をちょっと知る程度の安藤にさえ、ランティスの技の多彩さがわかる。 だが、それ以上にティアがすごい。 ランティスのあらゆる技は、タイミングもスピードもリーチもすべて違っている。 だが、ティアはそのことごとくを紙一重でかわし続けているのだ。 しかも、ただ一つの技……ステップで。 その様は、まるでパートナーとダンスをしているかのようだった。 「ちょっと、涼子? 大丈夫?」 美緒が小さな声を上げた。 見れば、涼子が頭を押さえながら、大型ディスプレイに見入っていた。 顔色は真っ青だ。 「すごい、なんてもんじゃ……」 涼子は、震える声で、言った。 「ティア……かわしながら、誘導して……塔の外周を回ってる……」 「な……」 安藤はすばやく大型ディスプレイを見る。 ランティスの右上段蹴りが途中で変化し、下段蹴りになって、ティアのレッグパーツを狙う。空手の蹴り技。 しかし、つま先は、ティアのランドスピナーをかすめたのみだ。 そう、二人の攻防はずっと続いていて、途切れることがない。 周囲を壁に囲まれた塔の中で、移動しながらの攻防を続けるには、塔の外周を回るように移動するしかない。 そして、二人の神姫はそれを忠実に実行している。 移動の舵取りは、ランティスの前方にいて、かわし続けるティアがしているはずだった。 涼子は戦慄する。 神業なんてレベルじゃない。 ランティスの打撃は、どれ一つとっても、達人の域を越えている。 それを正面でかわしながら、行き先を誘導さえできるなんて。 武道をたしなむ涼子だからこそ、目の前のバトルが驚愕のレベルにあることを見抜いていた。 「でも、ティアはなんだってそんなことを……?」 「おそらくは、ランティスの技を引き出すためです」 素朴な疑問に答えたのは、全国チャンピオンのマスターだったので、安藤は少なからず驚いた。 だが、当の高村はそんなことを気にもかけず、気さくな様子だった。 「武装神姫にとって、技とは、マスターとの絆が生み出す力です。 マスターの想いをバトルで具現化するための技術……それが武装神姫の『技』なのです。 装備に頼らず、技を駆使して戦うという点において、あの二人はとてもよく似ています。 だからなのでしょう。ティアはランティスのすべての技を……つまり、マスターの想いと二人の絆のすべてを引きだし、受け止めようとしているんですよ」 安藤は高村の言葉に途方に暮れながら、また大型ディスプレイに目を移す。 ランティスが攻め、ティアがかわす。 その姿はダンスパーティーで踊るパートナー同士のようにも見える。 それほどに華麗で美しい動き。 「ランティスだけではありません。ティアもまた、技のすべてを出し尽くそうとしている……」 ◆ 気付いているだろうか? 雪華は、画面上のランティスを見つめ、思う。 ティアのファントム・ステップは、ただ一つの技、ではない。 ステップやターンを駆使して、近接距離を一定に保つ。それがファントム・ステップだ。 ティアはあらゆるステップ、あらゆるターンを駆使して、ファントム・ステップを成立させている。 ランティスが「格闘」を極めた神姫だとすれば、ティアは「滑走」に特化した神姫だ。 ファントム・ステップは、ティアがこれまで身につけてきた、膨大な「滑走」の技の上に成り立っている。 ランティスはそれに気付いているだろうか。 画面上の彼女の表情からは、苦悩と焦燥が見て取れる。 雪華はランティスが嫌いなのではない。愚直なまでにマスターの夢を追い求める姿は、好ましいとさえ思う。 だからこそ、彼女には気付いてほしい。 技同士のバトルに、神姫の出自など、関係がないことを。 「それにしても……」 雪華はつぶやき、ティアの姿を見つめる。 表情がほころぶのと同時、身震いする。 雪華と戦ったときよりもなお、彼女の技は冴えていた。 あのとき、雪華の『レクイエム』をかわしたあとの神懸かり的な機動が、すでにティアのベースラインの動きになっている。 ティアは確実に進化している。 それが嬉しい。 そして彼女に心からの尊敬を抱き、そしてまた戦ってみたいと、雪華に思わせるのだった。 ◆ 鳴滝は喜びに震えていた。 高村について、こんなゲームセンターまでやってきて正解だった。 秋葉原での戦いにうんざりしていたのは、ランティスだけではない。 マスターである鳴滝もまた、火力と物量でばかり挑んでくる対戦者たちに飽き飽きしていた。 だが、ティアは違った。 どんな神姫とも違う機動力で、彼女だけが持つ技を駆使してランティスと戦っている。 ランティスの技に、技で挑んでくる神姫がついに現れた。 そう、待っていた。ずっとこんな相手が現れるのを待ち望んでいた。 ランティス、今お前はどんな気持ちだ? どんな気持ちで戦っている? ……なんでそんなにつらそうな顔をしている。 こんな好敵手と出会えることは、俺たちのような輩にとっては最高のことじゃないか。 もっと喜べ。 そしてもっとバトルを楽しめ。 このバトルの先に、俺たちの見たかった地平が、きっと見えるだろう。 ◆ そんなマスターの想いとは裏腹に、絶望と焦りを顔に浮かべながら、ランティスはティアに打ち込み続けた。 しかし、どんな打撃も、どんなコンビネーションも、ことごとく回避されている。 『ランティス』 「師匠!」 彼女は鳴滝をマスターと呼ぶよりも、師匠と呼んだ方がしっくりくる、と思っている。 『なぜあれを出さない』 「……ですが、この娼婦の神姫に、あの技を出すほどでは……!」 『出すほどだ。現にお前の打撃は、一発もティアに当たってないぞ?』 「……っ!」 『もう認めろ。ティアは同じステージに立つ資格のある好敵手だと。出し惜しみはするな。むしろ、すべてを見せつけてやれ』 「……」 ランティスは迷う。 師匠の言葉は理解できるが、「心」が納得しないのだ。 あの下賤な神姫に、師匠から直に教わった技を使うことにためらいがあった。 しかし、もはやランティスは覚悟を決めるしかなかった。 奥の手を出す覚悟を。 この試合、敗北は決して許されないのだから。 「ハアアアアアァァッ!!」 迷いを振り払うように、気合いを入れる。 そして、ティアに向けた一撃の踏み込み。 瞬間、何かが爆発したような音と共に、地が揺れた。 ■ ランティスさんが深く踏み込んでくる。 その脚が着地した瞬間、地響きが来た。 「わっ」 一瞬、地面が揺れる。 ランドスピナーが傾く。 横構えになっていたランティスさんが腰を落とし、両手の掌を彼女の両側に突き出した。 不安定な姿勢ではあったけど、わたしは間合いを大きめに取るようにランドスピナーを走らせ、からくもランティスさんの一撃をかわした。 彼女と対峙する。 そして、ぞっとした。 ランティスさんの立っている、その足元。 踏み込んだ場所がランティスさんの足形に窪み、地面に放射状のひびが入っている! いやな感じがする。 いまの掌打はからくもかわせたけれど、受けていたら、どんなことになっていただろう。 わたしに想像する間も与えず、ランティスさんがまた来た。 またしても低く、深い踏み込み。 今度はもっと深い。まるで、身体全体でぶつかってくるような……。 わたしの位置は壁際で、もうぎりぎりでかわす余裕はなかった。 ランティスさんを大きく回り込むように回避する。 正解だった。 小手先の技じゃなかった。 ランティスさんは踏み込んで背中を打ち付けようとしてきた! 背中で攻撃、なんて、聞いたこともない。 わたしが今いた場所を、ランティスさんの背中が通過して、そのまま塔の壁に激突する。 見間違いだと思う、でも。 ランティスさんの背中が当たった瞬間。 高い高い塔の壁が、一瞬、たわんだように見えた。 □ まるでミサイルが直撃したかのような爆発音。 ランティスを震源地に、短い地震が起きて、ディスプレイの映像を揺らす。 バーチャルで構成されたステージのカメラの位置は動かないはずだから、塔全体が揺れたのだ。 ランティスが姿勢を戻して、ティアと対峙する。 その背後。 いましがた、ランティスが背中を打ち付けた壁が、彼女の背中の形でクレーターになっている。 クレーターのすそ野から、大小のひび割れが大きく広がっていた。 そして。 その壁が粉々に砕け、大きく崩れ落ちた。 「八極拳か……これほどの破壊力とはな」 あの特徴的な、背中からの打撃に見覚えがある。確か『鉄山靠』とか言う技だ。 八極拳は中国拳法の一流派だ。 俺も詳しくは知らないが、震脚と呼ばれる強烈な踏み込みから生み出される破壊力が特徴だと聞いたことがある。 鳴滝が感心したように、俺に言う。 「よく知っているな。ランティスの八極拳は俺の直伝だ」 「君も拳法をやってるのか。なるほど、だから師匠、と呼ばれてるんだな」 「そうさ。……どうする、遠野。踏み込むたびに地面を揺らされて、ファントム・ステップを続けられるか?」 鳴滝は不敵に笑って、俺を挑発する。 だが、不愉快ではない。 鳴滝もこのバトルの駆け引きを楽しむために、俺を挑発している。それがわかる。 ならば一つ、俺も楽しんでみようか。 「試してみるがいい」 「ふふ……八極拳の技が単発だと思うなよ。連続でやると、こうなる」 鳴滝の言葉と同時、ランティスが再び前に出た。 完結編へ> Topに戻る>