約 220,413 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1151.html
夏の夜のけだるい空気の中で、僕は呆然と目の前にいる男たちを見つめていた。しとしとと降る雨、水蒸気と排ガスを含んだ都会の空気、夜のアスファルトから上がってくる妙にひんやりとした湿気、行き交う人々の雑踏、ごうごうとうなる車のロードノイズ。それらが一気に背中から襲いかかってきたような気がした。 目の前にいるのは、成人男性が二人。一人はGパン、シャツにざっくりとしたニットのタイ、麻のサマージャケットを着ている。年齢は恐らく三十代だろう。でも、そっちはまだよかった。問題はもう一人だ、いい歳をした成人男性のようだけど、夏だというのに肩口にケープ状のヒラヒラが付いた真っ黒なコートを着ている(後で調べたら、トンビ、と言うらしい)、それだけでも驚きだけど、とどめに派手な形をしたオレンジのヘッドギアを被っていた。 さすがにこれにはあきれてしまった。 「本当にあの人たち…、いや、どう見てもあの人たちなんだろうけど、大丈夫なのか」 胸ポケットにささやいた。すると。 「ああ、彼じゃないのか」 「そうなのであーる! 情報とおりなのであーる!」 ………見つかっちゃったよ。 「大丈夫ですよ、主。私たちを信じてください」 胸ポケットから、遅れて返答がかえってきた。応えたのは、武装神姫と呼ばれている身長15㌢のフィギュアロボだ。個体名はシラヌイ、忍者型MMS。今日、僕は彼女に乞われるまま、この場所に来ることになった。 そのいち。 大学の講義を終え、アパートに戻ると、サイドテーブルに置いてあるチェス盤に向かった。 もう何敗したか数えるのもイヤになっていた。まだ序盤、お互いのポーンが盤上に展開していた。 「もうお帰りになったんですか」 机の上、ノートパソコンの脇から声がした。チェスの対戦相手を務めてくれている、武装神姫のシラヌイだ。忍者型独特の黒にメッシュのボディスーツが、彼女の小柄な体躯を強調していた。が、見かけとはうらはらに、彼女が指してくる手は非情そのものだ。ま、僕がそうするようにと指示したのだけど。 「うん、講義も終わったから、やることもないしね」 「主、せっかく大学に入られたのですから、お友達を作られては」 またか。 僕は大学の学生連中が嫌いだった。なぜかと問われれば理由はないけど、どうにもソリが合わない。神姫サークルがあったけど、勧誘チラシのノリの軽さがカンに触った。 「いいんだよ。友達なんて無理につくるものじゃないだろうに」 そう言って、僕はチェス盤をにらんだ。 「でもー」 「もうその話はいいよ」 シラヌイはあきらめたように、一拍置くと、話をチェスに切り替えた。 「定石を学ばれれば、主ももっとゲームを楽しめるようになりますよ」 「いや、いいんだ。それって、初回から攻略本を使ってゲームをするようなもんじゃん。何か、タネをばらされてから手品を見せられているようで面白くないんだ。まずはある程度チェスの感覚を掴んでから、と思っているのだけど」 「確かに、主の意見も一理ありますね」 僕はポーンをひとつ、動かした。彼女はそれを見ると、自陣のナイトを抱え、他の駒を倒さないようにぐるりと回って配置をした。それを見て、また頭を抱えることになった。もう身動きがとれない。その様子を見て彼女が漏らす。 「だから、定石を学んでください、と申し上げているのです。単純に相手の駒を取ればよい、というものでもありません。どのようにして、自身に有利な布陣を敷くことができるのかがポイントなのです」 「うーん、見ていて、とりあえず最前線っていうかキーポイントになる駒には常にバックアップが付いていることは理解したよ。それがいつでも出来る体制をつくるって言うのがー」 僕は改めてそのナイトが置かれた位置を見る。ここからがいつも問題なんだ…。 「そこまで理解されているのなら、次の段階に進まれてもよいと思うのですが」 そんな彼女の声を聞きながら、違和感を感じていた。その違和感の原因はすぐに解った。いつもなら、彼女は自分の手を打ち終わると、長考のジャマにならないように机の角に腰掛けて、こちらがどんな手を打つのかと眺めているはずだ。でも、今日の彼女は盤の周りをチョロチョロと動き回っていた。いつもと違う動きだ。 「なぁ、何かあったの」 そう尋ねても、彼女は何かを言いよどんでいるような曖昧な返事をするだけだった。明らかにおかしい。僕は彼女に向き直ると改めて尋ねた。 「何かあるのなら、はっきり言ってよ」 命令することもできたけど、それは最後の手段としてとっておきたかった。 ちょっと間をおいて、彼女が口を開いた。 「実を申しますと、主に野良神姫の保護をお願いしたいのです」 「はい?」 空いた口がふさがらない、とかなんかそんな感じ。 武装神姫はその起動時に、その所有者である「マスター」の登録をし、それは一般には変更が出来ないことになっている。だけど、なぜか、マスターの元を離れて暮らす神姫、野良神姫がいる、という話は耳にしていた。でも、実際に確認されたという話は聞いたことがなかった。すっかり都市伝説とかそーゆーものだと思っていたのだけれど。 話を聞いても、まだ信じられない、と言うか、ますます信じられなくなってきた。僕が部屋を空ける時、彼女はクレイドルでスリープモードに入っていたりする。その状態で彼女たちはパソコンの操作ができるし、僕自身、彼女がパソコンを利用することを許可していた。パソコン自体の保守管理を任せられるし。で、彼女によると、ネット上には何カ所か、神姫同士が情報交換をする場所があるのだ、という。どうやってその場所を知ったものか、彼女もそこによくアクセスしていたのだとか。そこでこんな情報が上がってきた。曰く「野良神姫を発見した。でも、自分のマスターは小学生なので、保護を無理強いするわけにはいかない。どうやらイリーガル崩れらしいので、そのまま放っておくわけにもいかない」と。その書き込みに複数の神姫が「ウチのマスターなら協力してくれるかも」と名乗りを上げた。その一体が自分である、と。 ちなみに保護した神姫のために野良神姫専門の保護施設などがあり、また、イリーガルなど著しい改造が施されていた場合には、神姫専門のラボに送られるのだそうだ。 「で、イリーガルって? なんかイヤな予感がするンだけど」 「相手神姫の破壊を勝利条件にした、いわゆる闇バトルというものがあります。それに参戦するためにチューンされた神姫がイリーガルです。出力の向上が図られているほか、武装も実際に相手神姫を破壊することを主目的とした相応の威力のものを装備しています。また………当然、公式戦には参加できません」 さらりと恐ろしい台詞を言ってのける。 さて、どうしたものか。ただ、そのときは面白そうだな、と思った。 「よし、じゃぁ、もう一度詳しい情報を集めてくれ。ヤバげな武装をもっているようなら止めだ。でも相手が単体なら、何人かで協力すれば保護できるかもしれない」 そして、数日の打ち合わせを経て、僕を含む三人が今回の野良神姫保護をすることになった。 そのに。 ここは都心のとある駅前。前もって打ち合わせていた通り、二人の男性が僕を待っていた。 ただ、その男たちは僕の想像していた神姫のマスター像を色々な意味で裏切っていた。 一人はどうみても三十代の男性。武装神姫のマスターって、僕と同じくらいの大学生かと思っていたのだけど。で、もう一人がまたこれは別の意味で問題だった。夏なのに、真っ黒なコート。それだけでも不審者の必要十分条件を満たしているのに、とどめにヘンテコなヘッドギアを被っているときた。でも、時々、奇異の目を向ける人はいるものの、街行く人々はほとんど関心がないように二人の周囲を通り過ぎていく。ま、ここまで来て帰るのももったいない。 「どうも、こんばんわ」 まずはあいさつ。ジャケットを着た男性が僕に声をかけた。 「えーと、忍者型、シラヌイのマスターさんだっけ。侍型の椿のマスターだ」 うん、どうやら普通の人みたいだ。ジャケットの胸ポケットから顔を出した神姫がこちらに会釈をした。で。 「よし、我が輩は世界征服をたくらむ悪の秘密結社、ねこねこ団のー」 やっぱりコイツが問題だった。ヘッドギア男は右手を高々と上げ、ジェスチャーたっぷりに、カン高い声で演説のような自己紹介を始めた。ねこねこ団と言われて気がついたけど、彼のヘッドギアは猫型MMSが標準装備しているそれを模したものだった。事前に侍型、猫型のマスターが来るとは聞いていたけど、これはそうとう重傷だな。 「なぁ、ちょっと声を下げないか」 椿のマスターが低い声で文句を言った。 「何を言うか、貴様、せっかくこのような雑踏で我が輩が…」 反論しかけて、コケた。椿のマスターの胸元に顔から突っ込む。 「オイ、ひっつくなよ。気持ち悪い」 片手で男の顔をぐいと押しやる。まおちゃお団員の彼は、今度はよろめきながら僕の方へ倒れ込んできた。僕よりも少し背が低いだろうか。 「ちょっと、止めてくださいよ」 僕は両手で彼を押し返す。っと、行き着く先はまたもや椿のマスターの胸元だ。 「だから、くっつくなって」 「来ないでくださいよ」 「ちょ、止めるのであーる」 まおちゃお団の彼は僕らの間で、右に左にと押しやられていた。ーと。 「もういいかげんにするのだ。野良神姫の話はどうなったのだ」 声とともにヘッドギアの陰から、猫型がもぞもぞと姿を表した。 「そうですよ、マスター。この方の服装や行動がいくら社会規範から外れているからといって、遊ぶのはこれくらいにしてください」 椿が声を上げた。けっこう、ポイズン。 「………あー、ゴメン。遊びすぎたわ」 「状況を確認しよう」 椿のマスターが言った。ここは、駅にほど近いファーストフード店。僕らはそれぞれ好みの飲みものを片手に、椿のマスターが配るプリントを眺めていた。僕はウーロン茶、椿のマスターはコーヒー、ヘッドギア男はオレンジジュースだ。テーブルの上にはシラヌイたち、三体の神姫がこれからの話を待ち受けていた。 「野良神姫は廃ビルで生活をしている。目撃情報によると、情報提供者の神姫の呼びかけに対して、例によって通常の神姫が取るとされる対応からは、えー、大きく逸脱した行動をした。それで、イリーガルではないか、と。今のところ目撃されているのは種型一体。目標がいるビルの見取り図は今渡したプリントにある。これは野良神姫情報を流してくれた神姫からのものだ」 ビルはクルマ三台分の駐車スペースを備えていて、敷地に多少のゆとりがあり、その周囲は塀で囲まれていた。シラヌイと猫型(そういえば名前をまだ聞いていないぞ)はプリントの見取り図を挟んで、椿からレクチャーを受けていた。猫型はヘッドギアをしているだけだったけど、ボディ・スーツは特注ぽい。椿はベージュのスーツ姿。彼女が動くと、侍型の基本の髪型であるポニーテールが揺れる。シラヌイにも何か服を買ってやるべきなのだろうか。 さて、問題の部屋は通用門に面した当直室のようだ。 「神姫が出入りに使っているのは、建物裏の窓だ。赤い丸印があるだろ。その窓がある一室しか使われていないようだ。基本的に昼間は建物の中にいて夜になると出かける。何やら金属片や電子部品なんかを集めているらしい。お出かけの時間は決まっている。今日はその時間に合わせて、対象が外に出た瞬間を狙って保護をする。情報提供者が、出入り口にメッセージを残してくれているとはいうけど、それに応じてくれるとは思わない方がよさそうだ。特に武装は確認されていないとのことだけど、ま、イリーガルのようだし、最悪、保護しきれないかもと考えておこう」 「それは、仕方ないのである」 ヘッドギア男が先ほどまでとは打って変わった、しんみりとした声で応えた。 卓上の神姫たちも沈痛な面持ちでお互いを見つめ合っていた。 なんだか僕だけ仲間はずれみたいだ。 「あの…、イリーガルってそんなに普通の神姫と違うんですか。保護しきれないって、そのときはどうするんですか」 椿のマスターが意外そうな顔をした。 「おい、まさか何も知らないで来たのか」 すかさずシラヌイが割って入った。 「申し訳ありません、皆さん。主、これは私たち神姫にとって大きな問題なのです。イリーガルは勝利の条件として、常に相手神姫の破壊を命じられています。その一方で私たちには同胞を想う感情やバトルをする上での禁止事項がプログラムとして存在しています。だから…」 「だから?」 「イリーガルのほとんどが、メインフレームレベルでプログラムに改ざんを受けている場合が多いのです。そのためのツールも出回っています。それは私たち神姫の意識、精神を破壊することでもあるのです。だから、神姫同士の呼びかけに対する反応や立ち居振る舞いで、ある程度の推測は可能なのです」 う、う、う。これは思った以上に難しい問題をはらんでいるぞ。 「まぁ、ヤーさんがバックにいる賭博の一種だし、知らないのも仕方ないけど。有名な話が去年の闇バトルだ。ヤバすぎるチューンをした神姫がバトル終了後に何をトチ狂ったか、自分のマスターに攻撃して、そいつ、頬の肉をごっそりもってかれたらしい」 「それは神姫にとっても、人間にとっても、良いことではないのであーる。そのためにねこねこ団としても野良神姫やイリーガルの捕獲について積極的に活動をしているのであーる」 「警察に通報すればいいんじゃないですか。何もこんな危険なことをしなくても」 「そしてイリーガルの存在が公になったらどうなると思う。下手したら、武装神姫だけでなく、神姫という商売自体が成立しなくなる可能性だってあるんだぜ。神姫を造っている会社や従業員、神姫ショップだって、直営のものから零細の個人経営のものもある。この国内でも万単位の人間が神姫に関わる商売でメシを食っている。神姫は本当に広がりすぎた。今更、神姫を『無かったこと』になんてできないくらい社会に浸透しているんだ」 「それに」と椿が口を添えた。「私たちとしても姉妹がそのような扱いを受けているということを見過ごすわけには参りません」。続いて猫型ー、マオチャオタイプも「そーなのだ。これはニンゲンにとっても神姫にとっても大問題なのだ。だからカイシャだって支援してくれてるのだ」と言葉をつないだ。 何だって? 「カイシャ」? どこの? 脳裏に神姫のメーカー名がずらりと並んだ。 「ばかもの! それは軽々しく言ってはいけないと話しておいたではないか」 ヘッドギア男がマオチャオタイプを小突いた。椿のマスターが苦笑しながら言った。 「まぁ、今の一言は追求しないほうがいいと思うよ。で、まだ君の質問にひとつ応えてなかったけど、保護しきれない場合はー」 「見逃すんですか」 「いや、破壊する。そのための道具も色々と用意している。椿」 名前を呼ばれた彼女が何かを受け取った。それは神姫サイズの日本刀だけど、標準武装のものとは違う。 武装神姫と言っても、玩具として流通している以上、装備している武器は、その実物をダウンサイジングしたものではなく、あくまでも玩具の範疇に収まるものになっている。もちろん悪魔型の副腕はロボットアームとして機能するし、天使型はその羽で飛ぶこともできる(原理はしらないが)。でも、武装は別だ。銃火器の類いは単なる樹脂の固まりで、刀剣類には刃などついていない。ただ、内部にチップが仕込まれていて、バトルフィールドで、そのチップに応じたエフェクトが投影される。そういう仕組みだ。 でも、目の前の神姫が抜いて見せてくれたそれは、鈍く輝く金属の刃身。公式戦では使えない武装だ。 「こーゆーのもあるのだ」 マオチャオタイプが両手に武装を掲げていた。一見標準武装の研爪(ヤンチャオ)に見えるそれは、爪の部分が金属の棒に変更されていて、コードがバックパックとおぼしき箱に伸びていた。 「これは?」 「強力な電磁パルスで神姫を一時的に動作不能にする装備である。我が輩の傑作なのであーる」 「まぁ、大体それでケリが付くよな」 「お陰で私も実際に姉妹に向けて刃を振るうこともそうありませんし」 「その通りである。貴様はもっと我が輩に感謝するべきなのであーる」 「感謝するのだー!」 どうやら、この二人(と二体)はこれまでに何度か野良神姫、イリーガルの保護をしているらしい。僕は憮然とこちらを見上げているシラヌイを見返した。 「完全に場違いじゃないか。武装は確かに用意しているけど、それは兎型のアーマーとかそんな程度だ。シラヌイ、一体君はこの場で何が出来ると思って僕をこんなところまで引っ張り出したんだ」 「申し訳ありません。主」 すかさずシラヌイが頭を下げる。そして、沈黙。 気づけばテーブルの全員が僕を見つめていた。 「それは君が決断したことだろ。君が決断してここまで来た。彼女に無理矢理連れてこられたわけじゃないだろ」 「私もイリーガルの概要について説明をしたと聞いていましたが。その上で来られたのではなかったのですか」 椿とそのマスターが静かに僕を責めた。 「そんなこと言っても、ここまで危険だなんてわかるわけないでしょ。初めてなんだし」 「それは言い訳なのであーる。神姫から情報を得た時点で自ら考えるのがマスターの果たす役割のひとつなのであーる」 「そーなのだ、そんなんじゃマスター失格なのだ」 今度はヘッドギア男とそのマオチャオタイプだ。 「何なんです、皆で。大体、シラヌイが…」 「も、申し訳在りません、主」 また、シラヌイが頭を下げた。 「もういいのだ、少年。神姫には人間に従うプログラムが高いプライオリティで設定されているのである。責められたら、神姫はマスターに対して頭を下げるしかないのであーる。己の神姫にそのような行動を取らせるようでは本当にマスター失格なのであーる」 更にもまして気まずい沈黙が僕を包んだ。 「なぁ。考えてみろよ。さっきの話と矛盾するけど、こんなの、本来は人間がやってしまえばいい話なんだ。メーカーが動けばビルの所有者に迷惑料兼口止め料でも払って、とっとと回収することも不可能じゃない。各省庁にだってコネはある。スポンサーとしてマスコミを押さえることは出来る。でも、それをしないのは、神姫たちが心を持っているからだ。そのことをメーカーも認めているからだ。ただ、神姫が自分たちだけで活動しようとしても、人権も法的裏付けも何もない以上、単独で何かを、なんて出来ない。マスターたち人間がバックアップして後ろ盾になってやるしかないんだ。今の彼女たちだけではどうにもならない部分を俺たちが補うしかないんだよ」 コーヒーに口をつけると、椿のマスターは淡々と言葉を続けた。 「さて、どうする? 仮にここで君が棄権しても誰も責めることはできない。ま、読みが甘かったと言われるかも知れないがそれはあきらめろ。でも、君がその気なら、こちらも貸し出す武装や装備はある。君が決めろ。時間がない、一分だ」 僕はこの彼の言ったことを反すうした。どうやらチャンスをくれる、ということらしい。しかし、神姫に心があると改めていう言葉を思い出し、僕は彼女との付き合いを思い返していた。 今まで、別にトラブルもなく、彼女との生活を送ってきた。その内容はどうだろう。僕は彼女にパソコンのメンテやら、ネットを通じた口座の管理に神姫バトルと色々してもらっている。でも、僕が彼女に何かをしてあげたことがあったろうか。僕は、神姫に心があることは知識として知っていても、実際にそういう存在として彼女を、シラヌイを扱ったことがないんじゃないだろうか。 「やります。このまま帰ってはシラヌイにー。上手く言えないけど、彼女にヒドいことをしてしまうことになってしまう」 沈黙。 「もうすでにしてるのだ、少年よ」 ヘッドギア男がつぶやいた。 僕は、テーブルの上のシラヌイを見た。彼女はただただ申し訳なさそうにうつむいていた。本当に、僕は、ダメだ。情けない気持ちで一杯になった。なんで、こういう他の人が普通に気づけることに僕は気づけないんだろう。今までもそうだったけど、これからも未来永劫そうなんだろうか。 「君、人付き合いが苦手だろ」 椿のマスターだ。 「苦手って言うか、解らない。違うかい?」 さっきとは変わって、口調や態度が少し優しくなっていた。 「はい、解りません」 そうだ、これまでだって、そうだ。真摯に対応しようと思えば思うほど、相手はどんどん冷ややかになっていく。そしてお決まりの台詞だ。「もういいよ、そういうことが解らない人にいてもらいたくない」と、そう優しく言われるんだ。どうしてだろう。本当に解らない。ああ、ここでの僕も終わったな。そう、思った。 でも、違った。 「そんな自分を良い方向に変えていきたいと思っているのかい」 僕は一瞬ぽかんとして、それから、答えた。 「はい。そう思っています。でも…」 「『でも』は、いい。来い。さっきそう君が言ったんだ。装備は貸してやる」 椿のマスターはそう言い切った。 「良いのであるか?」 「誰にだって初めてはあるだろ」 「いや、しかしだな」 「言っておくけど、お前さんと初めて組んだ時は酷かったぞ」 「………それは言わない約束なのであーる」 彼らのやり取りを尻目に、僕はシラヌイに頭を下げた。 そのさん。 その三階建てのビルは、僕が想像していたより、ずっとこじんまりとしたものだった。繁華街からちょっと離れた住宅街。ところどころに事務所やセレクトショップが立ち並ぶ、ちょっと小洒落た場所だ。今は使われていないその建物は街頭の光も吸い込んで立ちつくす真っ黒な壁のようにも思えた。 門にある鉄パイプで組んだバリケードを、ふたりは身軽に乗り越えて敷地に入っていく。僕もそれに続く。 僕らは門柱の陰に座り込んで、シラヌイたちの準備を始めた。 「あのー、すみません。今日の保護活動をされる皆さんですね」 頭上から響くか細い声に、全員が腔を見上げた。そこにはエウクランテ型の神姫が羽をつけて浮遊していた。 「最初に皆さんにご相談させて頂いたオーディーヌです。今日は本当にありがとうございます」。全員に向け頭を下げた。「今日は私はお手伝いをすることができません。でも、皆さんがあの神姫を無事に保護できるようにと、私のマスターと祈らせて頂きます」 神姫はどんなカミサマに祈るんだろう。そんなことを考えていると、そのエウクランテ型ー、オーディーヌは僕の名前を呼んだ。 「シラヌイさんから聞いています。危険を伴う今回の保護への参加を、初めてであるにも関わらず、決断されたそうですね。シラヌイさんもそのことを誇りに思っていらっしゃると思います。是非、良い結果を残してください。私たち神姫のわがままに付き合ってくださって、本当にありがとう」 そう言うと、オーディーヌはふわふわと飛んでいった。 「シラヌイ」 「はい、主」 ヴァッフェバニーの装備に身を包んだ彼女が応えた。 「僕は、君が望んだことを君が成し遂げられるように、君のバックアップをする。だから、君は構わずに正しいと思ったことをしてくれ」 「はい、主。お任せください」 そう言って微笑んだ彼女の顔は、なぜか儚げに見えた。 「さて、お姫様が城から出てくる時間だぞ」 椿のマスターが言った。シラヌイたちはそれぞれの位置についている。シラヌイはヴァッフェバニー装備に、椿のものと同じ日本刀、マオチャオタイプは標準装備の鎧に先ほどの電磁パルス武装、椿は最初から着ていたスーツ姿のままだ。椿が説得し、それに失敗した場合、マオチャオが仕留める。シラヌイの役目は相手神姫が逃げようとした場合に退路を断つことにある、らしい。らしい、というのはこの役割分担が神姫同士の話し合いで決まったからだ。三体はそれぞれ、小型のCCDを肩に載せていた。その画像は、ヘッドギア男のノートパソコンに送られる。 僕らも黙って見ているわけではなかった。ヘッドギア男のノートパソコン脇にはSMGタイプのエア・ガンが地べたに置かれている。モノ自体は市販のものと変わらないが、弾が違う。硬度と重量を増した、特殊BB弾、もしくは神姫のボディに当たっただけで砕ける、(対神姫)非殺傷弾の二種類がマガジンで用意されている。椿のマスターが持っているのも同じくエア・ガンだ。ただし、こちらはアメリカのサバイバル・ゲームで使われている、大型のペイント弾を扱うタイプだ。こちらも弾は通常のペイント弾ではなく、いわゆるトリモチ、粘着弾が入っている。通常、対象の神姫が着弾点から半径二十センチ以内にいれば確実に動きを止めることが出来るそうだ。そして僕が持っているのが、彼ら曰く「捕獲銃」だ。仕組みはバネの力でミサイルを飛ばすオモチャなのだけど、五十センチ四方の金属製の網を飛ばす。有効射程は一メートル五十センチ。発射後、スイッチを入れると、瞬間的に高圧電流を流し、ネットに捕獲された神姫の動きを一時的に止めることが出来る、という。 僕らは敷地の隅に集まって、ヘッドギア男のノートパソコンの画面を覗き込んでいた。 「今日の主賓が登場したのであーる」 椿のCCDから送られてくる画像に対象に神姫の姿が映っていた。そして、それはあまりにも異様だった。その神姫は四つん這いの姿勢で画面に向かってカチャカチャと進んできた。椿の声が聞こえた。 「こんばんわ。私は椿と言います。少しあなたとお話がしたいのですが、よろしいでしょうか」 相手神姫は情報通り、武装はなし。種型の基本装備のブーツと腰回りのアーマーだけのようだ。声をかけられた神姫は無表情のまま首を傾けた。椿が言を継ぐ。 「もし、あなたのマスターがいらっしゃらないのであれば、あなたにとってもメリットのある解決方法をー」 いきなり、種型が画面に向かってジャンプした。これを受けて、シラヌイとマオチャオタイプが動いた。 椿はその場で姿勢を崩さずに、素立ちの姿勢から真上にジャンプ。ジャケットの裾から背中に隠していた日本刀が地面に落ちる。空を切る種型の手刀。マオチャオタイプがかけ声と共に種型に迫る。 「おとなしくするのだー!」 画面がいきなりブラックアウト。シラヌイの映像を見ると、まるで人間が神姫を掴んで投げ付けたような勢いで、種型の蹴りを喰らってすっとぶマオチャオタイプが見えた。ノーマルの神姫同士が本気でバトルしても到底こんな力は出ない。その間に空中でバク転を決めた椿が初期位置から十センチほど後方に着地。そのまま自分に向かって倒れ込んでくる日本刀を掴んで、抜刀する。 「行くぞ」 椿のマスターの声を聞いて、何も考えられないまま、ダッシュ。現場へ向かう。 椿と種型が交戦状態にあるのが見えた。シラヌイとマオチャオタイプの姿は見えない。どこだ? 「構わん、撃っちまえ。椿は巻き込まれても大丈夫だ。撃て」 遅れてきた椿のマスターが言う。一瞬、ためらう。種型が椿の腕をねじり上げて、武装コネクタの部分から腕を引っこ抜いた。その手に握られた日本刀を手に、種型は今度は僕に向かって跳躍してきた。 「撃てよ、オイ!」 エアガンの連射音が響く。ヘッドギア男のSMGを椿のマスターが撃っていた。何発かが命中したものの、種型はボディの表面ではじける弾には構わずにコチラへ向かって飛び込んでくる。 と、目の前に何か黒いものが疾った。鋭い金属音が響く。 種型はぼとりと僕の目の前の地面に落ちると、背後を振り返った。そこにはシラヌイが地面に倒れ込んでいる。僕はすかさずトリガーを引いた。種型がネットに取り込まれる。電源のスイッチを入れると、種型は地面に仰向けに倒れ込みー。 「ーーーーーーーー!!」 声にならない音を上げ、手足をバタバタさせて暴れた。椿のマスターがトリモチを打ち込む。一発では動きも、声も止まらず、二発目、三発目でその動きがようやく止まった。声もくぐもって聞こえなくなった。 「シラヌイ!?」 僕の呼びかけに彼女は起き上がって応えた。 「主も、ご無事で」 ヘッドギア男も駆け寄ってきた。 「我が輩のねこ助は無事なのであるか」 椿がマオチャオタイプを背負ってやってきた。さっき、もぎ取られた腕は無事にくっついていた。無理な体制に持ち込まれることを嫌った彼女が、自らロックを外したのだろう。 「無事です。鎧が割れてしまいましたし、まだスタン状態にあるようですが、CSC及びコア・ユニットの損傷はありません」 そういうと、ヘッドギア男の手のひらに、彼のマオチャオをそっと乗せた。 「おーい。まだ仕事は残ってるんだぜ」 椿のマスターはトリモチの塊と化した神姫をビニールに包んで、そのまま金属のケースに入れてロックした。蓋に付いているLEDがチカチカと瞬く。このケースも神姫の保護のために用意されたもので、神姫に機能停止の信号を送ることになっている。機能停止は神姫が持たされている人間にとっての安全弁のひとつで、イリーガルも例外ではない。むしろ、イリーガルの方が暴走の危険性が高いため、改造を受けてもその機能は残されているし、二重三重に機能停止の手段が盛り込まれている場合すらあるという。 僕はシラヌイに近づくと、そっと彼女をすくいあげた。 気づくと、しとしとと降っていた雨も止み、夜空には都会の明かりにとけ込みそうになりながら星が瞬いていた。 そのよん。 駅前に戻った僕らは、屋台で祝杯を上げていた。椿のマスターとヘッドギア男は青島、僕はZIMAだ。路上に並べられたテーブルの他の席では仕事帰りのサラリーマンやらカップルやらがそれぞれの夜を楽しんでいた。 「今日はお疲れ」 ふたりがボトルネックを掴み、ビン底を打ち合わせて乾杯するのを見て、僕もあわててボトルを持ち直した。 「今日は君たちがMVPだな」 「おかげで助かったのであーる」 二人がボトルを打ち付けてくるのを受ける。チン、と涼やかな音がした。テーブルの上ではシラヌイたちが歓談していた。シラヌイは右腕に白いテープを包帯のように巻いていた。種型に突進したとき、ボディスーツを切り裂かれてしまっていたのだ。それを見た椿が包帯代わりの応急処置にとテープを巻いてくれていた。 「まぁだふらふらするのだ」 「けっこうな勢いで蹴り飛ばされましたからね。直らないようであれば、明日、センターで内部機構のチェックをするのが良いでしょう」 「イリーガルがあれほどの力を発揮するとは思いませんでした。私も認識が甘かったようですね」 それぞれが感想を口にする。 「本当に大丈夫なのであるか」 「内部機能の診断はおーるぐりーんなのだ。それよりも、今回は全く良いところがなかったのだ。もっと活躍できるように新しい装備を開発しやがれなのだ」 「あいや、今日は、シラヌイ殿に良いところを見せようとして無防備に突進したー」 「言い訳無用なのだ。わかったかなのだ」 一方的にやり込められるヘッドギア男の姿に周辺のテーブルの客たちからも笑い声が漏れた。 「責めないんですか、僕を」 椿のマスターに向かって言った。 「何を」 「『撃て』って言われたのに撃てなかった。そのせいでシラヌイにケガをさせてしまった」 彼は夜空を見上げ、考えるようなそぶりを見せて話しはじめた。 「今日、最初に会ったとき、さんざんだったよな。君は。でも、君は自分自身の考えで、自分自身をどうにかしたいと思って今日の活動に参加した。君は自分自身で解っているから」 「何をですか」 「自分には何かが欠けている、ヘンだ、とね。そしてそれをなんとかしたい、と思っている。例えば、今は、自分の行動を振り返って反省している。なら、次回から直せばいい。 最初に君も認めた対人関係が苦手な部分、結局それが神姫への不義理な扱いに繋がっているのだけどー、それだって直していけばいい。神姫は、人間だったら離れていくような行動をとっても、あくまでマスターについていく。君は君のシラヌイから人の付き合い方を学べばいい。ただ、彼女に甘えるなよ。学生だったらサークルのひとつにでも入って、そこで友達でもつくってー」 「それは、無理ですよ。ソリの合わない人が多くて」 「うん、でも、校内の学生全員と顔を合わせたわけじゃないだろ。騙されたと思って神姫サークルでも立ち上げたらどうだ」 釈然とせずに僕は黙り込んだ。 「ま、無理強いはしないが、動かないことにはどうにもならんだろ」 確かに、そうだ。今日のことだって、最初に僕が帰っていたら、こういう展開にはならなかっただろうし。 「はい。………学校には神姫のサークルがあるんで、明日、いってきます」 「最初から、上手く行くとは考えないでな。軽く話しを合わせて、そんなもんだ」 手の甲に、柔らかくひんやりとしたものが当たった。テーブルの上に置いた僕の手に、シラヌイが身を寄せていた。 「私もお手伝いさせて頂きます、主」 見上げるシラヌイに何と言ったら良いのかとちょっと考えて、答えた。 「ありがとう。これからも迷惑をかけることになるかもしれないけれど、良いマスターになってみせるよ」 「はい。私は常に主とともに居ります。これからも、主のために」 お互いに黙り込んだまま見つめ合う僕らに気づいたマオチャオタイプが、矛先をこちらに向けた。 「おお、なんかいい雰囲気なのだ」 「ちょっと、お止めなさい。大事な場面なのですから」 これは椿さん。とはいえ好奇心まるだしの表情でこちらを見ているのは何ですか。 「うむ、マスターとしての自覚を新たにしたのであるな。それでこそー」 ビール一杯で顔を真っ赤にしたヘッドギア男がまた、演説口調で話し始めた瞬間。 「うるせーよ」 「本当に、公共の場所での行動をわきまえない方ですね」 「今、良いところなのだ、ひかえおうろうなのだ」 「せっかく主と良い雰囲気でしたのに」 一斉に非難の声が飛んだ。 Das Ende.
https://w.atwiki.jp/busosodo/pages/75.html
武装神姫達のソード・ワールド2.0【第1-3話】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm18046461
https://w.atwiki.jp/busosodo/pages/80.html
武装神姫達のソード・ワールド2.0【第2-1話】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm18755838
https://w.atwiki.jp/busosodo/pages/79.html
武装神姫達のソード・ワールド2.0【第2-0話】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm18534375
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/304.html
プロローグから時間は多少前後し、光矢は友人Fと共にホビーショップエルゴに居た。まだ彼の胸ポケットは空で、商品の陳列棚を見る目にも少々の呆れが見え隠れしている。 この日は友人Fの公式戦が組まれており、Fの提案によりライブで神姫のすばらしさを語ることに付き合うことになっていた。 「さ、始まるぞ。クリス、存分に暴れてやれ。光矢にも神姫の素晴しさを見せ付けてやれ」 『イエス、マスター』 普段はヘッドセットを着用して、周囲からの雑音を切り離し、マスターと神姫がセットになって戦うのだそうだ。しかしこの日Fは戦闘中継を光矢に全て見せるべく、ヘッドフォンなしで神姫ポッドの前に立っていた。当然、神姫の声は画面横のスピーカーから聞こえてくる。 光矢はFの横に立ち、3つ並んでいる画面の中央、一番大きなセンターディスプレイに目をやった。テロップが次の対戦カードを表示している。 サードリーグ 公式戦 フリッツ V アモーレ田中 クリス S ろべっち 制限時間制 ゴーストタウン 『GO』の文字が表示されると同時に、それまで静けさを保っていたフィールドが一気に加熱した。 砂埃を巻き上げ疾走するのはFのクリス。右は逆手にマチェット、左手にはサブマシンガンを携えたMMSで、頭部は赤いレンズのゴーグルと黒いガスマスクを着用している。頭から生えている(ように見える)細身の剣は、走る速度に比例して広報へと倒れていく。そして、そのシャープなシルエットに全身の黒系塗装が合わさり、疾走する姿は弾丸を彷彿とさせた。 それに対して相手のMMSは、同じく黒い色が特徴的なのだが、そのふいんき(なぜか変換できない)は真逆だった。 黒の生地に白のフリルがあちこちにあしらわれている布製の服をまとい、スカートはふんわりとした膨らみを保ったまま揺れている。頭部には同じくフリル付のカチューシャを装備し、ご丁寧に眼鏡までかけている。『メイド』を意識したその姿は、おおよそ戦闘とは無縁に思えるのだが、手にした黒い傘でクリスの連撃を捌く姿は確かに戦場に居る者の様子を備えていた。 初接敵の接近戦はビビアンに部があった。クリスの繰り出す連撃は尽く『傘』に防がれ、逆に相手はマチェットをいなしてはじいた後に、そのまま流れるような軌道で『傘』を振る。傘の石突の部分は通常のそれとは違い、研ぎ澄まされた刃になっている。近接戦闘を意識して改良された特別製らしい。 クリスの4度目の斬撃を避わしたメイドさんは次に、自分の背後にあった自分の背丈ほどの崩れたレンガの壁を宙返りをしながら飛び越えた。その際、ちらっと笑みを浮かべつつスカートを翻しその裾から何かを放った。 体勢を立て直したクリスが次に見たものは、目の前に落ちてくるボール状の物体。重い金属音を響かせて着地したソレは・・・ 「…手榴弾!?」 慌ててその場を離れるクリスだったが、あまりに唐突だった相手の『反撃』は完全には避け切れなかった。爆発した手榴弾はクリスのゴーグルを砕き、クリスからHUD(ゴーグル上に各種戦況データを示す機能)を奪った。 「ふざけた名前と格好のくせに、やるじゃん……」 初撃の失敗と報復に驚きと焦りを殺しきれないF。その横で光矢は初めて目にする武装神姫の戦いに魅入られ始めていた。 各所パーツにカスタマイズを施しているFの凄さは耳が痛くなるほど聞かされていた上、仮想戦闘プログラムでの画面も見せられていた。その時はまだ神姫に熱くなっているFへの軽い軽蔑があったが、ここでの対戦を見ればそのときのFの言動も理解できる気がしてきた。 クリスの攻撃をかわす相手のメイドは、以前どこかで読んだ漫画の人のようだ。レンガの壁の裏にふわりと着地した瞬間、壁に向けて傘を広げると、爆発で吹き飛んだレンガ片はその盾にはじかれて、本体には埃一つつかない。よく見ると、その傘の持ち手の部分も、通常とは明らかに違う形をしていた。傘の中に折りたたまれていたストックが開き、右の肩に押し付けられると同時にメイドさんはトリガーを引いた。瞬間、二度目の爆発が起きたような音と煙が上がった。ショットガンを花束に仕込むのと同じように、仕込みショットガンとでもいうのだろうか。先ほどの手榴弾といい、暗器をよく使う。 手榴弾によりHUDを失ったクリスは、ショットガンの射撃に反応がわずかに遅れ散弾を避けることができなくなり、やむなく背部のアームを展開し体の前で交差させその場で身構えた。着弾と同時に激しい衝撃が襲い、にわか構えの体勢は脆くも崩され、そのうえアームの隙間を縫ってきた細かな散弾が本体をも削っていく。頭の中をエラーメッセージが叫び、痛覚値が上昇していく。ショック状態にはならないものの、痛覚値を感覚値と切り離すための処理が大きくなり、長時間の戦闘は厳しくなった。 「クリス、物陰で機会を待て。相手に気づかれる前にマチェットを見舞ってやれ!」 『イエス、マスター。時間の余裕はあまりありませんし、早々に決めます』 相手のショットガンの銃声が6発目で止まったことを確認すると、砂埃に紛れて再び駆け出す。しかし、今度の方向は相手ではなくその左手側、無作為に投げ出されたコンテナが積みあがっている陰である。その際、移動の邪魔になると判断し、散弾で削られたアームを棄て去った。 相手のメイドは自らの作り出した砂煙で視界を失ったらしく、クリスがコンテナの陰に走りこんだ後も傘を正面に向けていた。 やがて砂煙が落ち着くと、メイドはゆっくりと傘を構えたまま前進し始めた。クリスの棄てたアームユニットに注意を払いつつ、周囲に気を張りながら臨戦態勢を崩さない。一歩毎に広がる視界を常にチェックしながら……12歩目に差し掛かったときに戦況が動いた。それまで息を殺し、コンテナの陰に隠れていたクリスが、マシンガンを放ちつつメイドの側面に飛び出したのだ。予想していた範囲とはいえ、右手に持った『傘』では防御が間に合わず、体勢を崩しながら後退した。 しかし、本業を接近戦に持つクリスの追撃は中途半端な間合いでは無いのと同等である。クリスは相手の体制が崩れるのを確認すると、左手のサブマシンガンを投げ捨て、代わりに左の太ももにぶら下げていたダガーを抜き取った。そのまま低い体勢を保ったまま、右手のマチェットと交差して傘に切りかかる。相変わらずマチェットは傘の幕を破れないが、左手のダガーは発熱設計になっており、紅くなった刃の触れた部分から一気に傘を切り裂いた。 仕込みショットガンの敗れたメイドはそのまま尻餅をつき、今度は反撃する間もなくマチェットの刃を鼻先に向けられた。 「参りましたわ、ギブアップです」 「…ハァ…ハァ、 中々手強い相手だったよ。アンタ」 * * * 「それを見て、君を買おうと思ったんだ」 「そうだったんですか、すみません気づかなくて……」 「いや、いいんだ。君が戦うの好きじゃないなら強要しないから」 殺風景な部屋で光矢とアーンヴァルの会話が続いていた。 初期起動からすぐ、光矢の見ていた武装神姫のアリーナ中継を見たアーンヴァル型神姫は「自分は争うのは好まない」と言ったのだ。それから二日間は、光矢はリーグのことを話さなかったが、アーンヴァルになぜ自分を買ったのかと聞かれ、今に至る。 「無理に戦うこともないしさ。今もこうしてライブ見てるだけでも……」 「……やります、マスター!」 「ボクは満足だし……え?」 それまで話を黙って聞いていた神姫は突然、声を上げリーグに参戦する意思を述べた。 「でも、この前は戦うのは嫌だって……」 「それはそうですけど……」 何故か顔を赤らめ、目線を泳がせる。手を握ったり指を合わせたり、俗に言う『もじもじポーズ』を取りながら、アーンヴァルは上目遣いで見上げた。 「とにかく!私出たいです。リーグ!その、戦うのは苦手だし、好きじゃないですけど…。ホラ、マスター、私のために武器とか色々作ってくれてますし、試し撃ちも家の中だけだと味気ないし、もしそれで勝てたら万々歳でマスターも私に何かうにうに……じゃなくて。とにかく、出してもらえませんか!?」 あまりに必死な懇願に、しかし自分のやりたかった希望を提案され、光矢は「よし、それじゃぁやってみようか」と答えた。 その翌日、リーグに参戦するに当たって神姫に名前をつける必要があることをFから聞いた光矢は、その日の夜に自分の神姫に名前を贈った。 「クラウ・ソナス。神話に出てくる光の剣で、絶対に負けないっていう由来なんだ」 その後の結果はプロローグでも触れたとおり、2週間経っても未だ勝ち星なしである。 彼らの挑戦はまだ始まったばかりである。 ~続く~
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2101.html
ウサギのナミダ 泣き虫な神姫とちょっと無愛想なマスターの、絆の物語。 著:トミすけ ○勝手な文章の改変はしないでください。大変迷惑です。 ○バトルロンドのバーチャルバトルの設定を『Mighty Magic』よりお借りしております。 ○一部、武装神姫の性能などを独自解釈している部分があります。ご了承下さい。 ○コラボ歓迎です。この作品のキャラクターや設定は無理のない限り、自由にお使いいただいてかまいません。 登場人物紹介 (本編のネタバレを含みますのでご注意下さい) ストーリー ACT0は過去編、ACT1は現在編となっています。 それぞれのACTごとの順番で、時系列順に追うことが出来ます。 お読みになる際には、下記リストの順番でお読みいただければ幸いです。 ACT 1-1 ACT 0-1 ACT 1-2 ACT 0-2 ACT 1-3 ACT 0-3 ACT 1-4 ACT 0-4 ACT 1-5 ACT 0-5 (注:微エロあり、神姫破壊描写あり) ACT 1-6 ACT 0-6 ACT 1-7 ACT 1-8 ACT 1-9 ACT 1-10 ACT 1-11 ACT 1-12 (注:魔女っ子神姫☆ドキドキハウリン、岡島士郎と愉快な神姫達より設定の一部をお借りしております。) ACT 1-13 ACT 1-14 ACT 0-7 ACT 1-15 ACT 1-16 ACT 1-17 (注:HOBBY LIFE,HOBBY SHOP、魔女っ子神姫☆ドキドキハウリン、Mighty Magic、 ねここの飼い方、ツガル戦術論 よりキャラクター、設定の一部をお借りしております。) ACT 1-18 (注:この物語には、ツガル戦術論の若干のネタバレが含まれます。 こちらをお読みになる前に、ツガル戦術論をお読みになることをオススメいたします。) (注:HOBBY LIFE,HOBBY SHOP、ツガル戦術論よりキャラクター、設定の一部をお借りしております。) ACT 1-19 ACT 1-20 (注:HOBBY LIFE,HOBBY SHOPよりキャラクター、設定の一部をお借りしております。) ACT 1-21 (注:HOBBY LIFE,HOBBY SHOPよりキャラクター、設定の一部をお借りしております。) ACT 1-22 ACT 1-23 ACT 1-24 ACT 1-25 ACT 1-26 ACT 1-27 ACT 1-28 ACT 1-29 ACT 1-30 (注:HOBBY LIFE,HOBBY SHOPよりキャラクター、設定の一部をお借りしております。) ACT 1-31 ACT 1-32 ACT 1-33 ACT 1-34 ACT 1-35 ACT 1-36 (完結) 番外編 ●オリジナルの矜持 ~前編~ ~後編~ ●水中機動戦術論 ~前編~ ~後編~ ●少女と神姫と初恋と その1 その2 その3 その4 その5 その6 ●黒兎と塔の騎士 ~前編~ ~中編~ ~後編~ ~完結編~ ●LOVE&BATTLE ~本編~ 同人誌 2014年夏、コミックマーケット86にて、 「ウサギのナミダ」上・下 同人誌版を再度頒布します!! 金曜日(一日目)西地区・こ-16b 「チーム・アクセル」にて。 また、当日会場に来られない方のために、通販予定! 下記にて委託を予定しております。↓ けだねっと通販部 ウサギのナミダ 同人誌版 予告編 感想などありましたら、こちらにコメントをお願いいたします。 過去ログはこちらにまとめました↓ ウサギのナミダ コメントログ ウサギのナミダ コメントログ・2 書きたくなった番外編をアップいたしました。 今回は三話構成、バトルメインの予定です。 林田様> 非武装はの言葉は、無意識に使っていました(笑) ご希望の通り、コラボ表示は控えます。もし機会があれば、コラボさせて頂きたく思います。 -- トミすけ (2010-05-24 00 18 33) しかし久しぶりに強烈な物言いの騎士型を見ましたねw 雪華を怒らせるあたり、無節操すぎるところかせあるみたいですが。 そして貴樹、本当に大丈夫なのか次回!? 楽しみに待っています。 -- 第七スレの6 (2010-05-24 07 58 51) ええもん読ませてもらったわ 楽しい映画観た後の余韻を感じます -- 名無しさん (2010-05-31 21 21 35) 中編を投稿しました。長くなったコメントログを別ページに移動しました。 調子に乗って書きすぎていまして(^^; 4話構成になりそうです。 第七スレの6様>いつもコメントありがとうございます。ランティスはプライドの高い愚直な騎士、という感じが出ていれば成功です。 名無し様>コメントありがとうございます。拙作を気に入っていただけたようで、私も嬉しく思います。今後も投稿を続けたいと思っていますので、よろしければ是非。 -- トミすけ (2010-06-04 01 27 03) 愚直で高貴。だがオーナー共々相手を完全に舐めている。 力で劣るから技術を使う。今エピソードに限らず本作では基本的な法則ですね。 さて、どう戦い抜くかな? -- 第七スレの6 (2010-06-04 17 03 12) 騎士とは斯く有るべきか・・・ 少々慢心されてる所が珠に傷ですが 案外打つタイミングが分かり易かったから 先に避けたってのが正解だったりして -- ナナシ (2010-06-05 04 25 14) PSPの武装神姫を見て、どんなものかとSS読みに来ました。 一日で全部読破してしまった。良い物読ませて貰いました。 今となってはPSPよりこのSSの続きが気になって仕方がありませんw 他の方のSSも読みながら、楽しみに次回を待ってます。 -- 名無しさん (2010-06-09 19 42 50) 格闘ゲームが好きです。格闘漫画も好きです。「修羅の門」「グラップラー刃牙」「エアマスター」大好きです。 今回の番外編は趣味丸出しです。ごめんなさい。 第七スレの6様>装備の不利を技術で埋める、技のぶつかり合う美しい戦い、というのは拙作のテーマの一つですね。 ナナシ様>避けた理由は大したこと無かったわけですが(^^; 後編はいかがでしたでしょうか? -- トミすけ (2010-06-12 17 01 57) 名無し様>拙作をご覧頂き、ありがとうございます。過分なお褒めの言葉をいただき、恐縮です。 私もPSPの武装神姫、楽しみにしてます! SSでもアーンヴァルmk2とか出してみたいですね。 投稿は続けていきたいと思っておりますので、今後もお楽しみいただければ幸いです。 -- トミすけ (2010-06-12 17 06 59) ようやく安藤も貴樹を見る目が変わったな(そっちか 技と技のぶつかり合い、これほど燃えるが難度の高いた戦いもないだろう。 そしてステージを揺るがす攻撃……こりゃすごい。 -- 第七スレの6 (2010-06-12 17 18 06) 熱い展開でよんでてワクワクさせていただきました完結編楽しみにさせていただきます -- 名無しさん (2010-06-12 20 39 00) おおう!!読んでたらホントに地面が揺れる感覚が・・・・。 完結編、楽しみにしています。(^^) -- ichguc (2010-06-13 11 49 15) 十分とんでもない事をさも当たり前に言ってる辺りが恐ろしいですな 現状を良しとせず常に先を目指して居るからこその台詞なのでしょうね 格闘の攻防を文で伝える所相変わらず、お見事です -- ナナシ (2010-06-13 15 02 08) とりあえず一言。 騎士子、お前はどこのジョンス・リーだ! -- どこかのテンチョー (2010-06-16 12 20 29) ジョンス・リー、かっこいいですよね!! ……調子に乗りました、ゴメンナサイm(_ _)m 完結編をアップしました。お楽しみいただければ幸いです。 多くのコメントありがとうございます(^^) こんなに反響をいただけるとは、予想外でした。ありがとうございます。 番外編はあと一本書く予定です。今度は短めの話になる予定です。 -- トミすけ (2010-06-22 00 48 34) ひとます、お疲れ様でした どの辺りまで想定して訓練してたんだろう? 爆風や視界視界不良に対する備え何かも対策済みなんだろうなぁ 遠野やはり恐ろしい子 マテ 憑き物が落ちた騎士の話なんかも見てみたい物ですなぁ 神姫達だけのガールズトークってのも楽しそうですけど(笑) 次の短編も楽しみに待ってます -- ナナシ (2010-06-22 04 30 11) 安藤、ホントお前って奴は人を見る目がないんだな(マテ しかし貴樹の性格が少しずつ平均的な主人公スタイルに変化していくあたり、本編の修羅場を抜けサポーターとして 他者を支援していった結果なんでしょうねぇ。 とにかく、お疲れ様でした。 -- 第七スレの6 (2010-06-22 07 58 30) 番外編、最後の一本を投稿しました。今回は短めです。 拙作「ウサギのナミダ」を応援いただき、ありがとうございました。 これよりしばらくお休みを頂きまして、次回作の構想を練りたいと思っております。 ナナシ様>憑き物が落ちた騎士の話……確かに面白そうですね。いつか書けるといいのですが。 ガールズトークとか、私に書くのは無理です(^^; 第七スレの6様>長らく投稿して参りましたが、確かに遠野の性格は変わってきたかも知れません。それは私も予想していなかったことで、面白いですね。 -- トミすけ (2010-07-07 23 59 42) 番外編、お疲れ様でした やっと納まる所に納まった、と言う感じですね…って言うか今更ながら、どちらも告って無いのに気が付いた(笑) 御約束はしっかり盛り込んで、此で次の舞台への花道は出来ましたね 充填期間は焦らず納得がいくまで練って下さい その日まで楽しみに待たせて貰います。 -- ナナシ (2010-07-08 04 05 41) ティアは,ヤキモチ焼かないの? ナンカ可愛らしいワァ!! -- ゲシモちゃん (2010-07-11 20 08 19) 最後の番外編、お疲れ様でした。 PSPのバトマスをプレイしつつ、楽しく最後まで読ませていただきました。 次回作は…もしかして、過去編になるのでしょうか。 久住さんが「本身を抜く」戦い方を身に着けるに至った「初代ミスティ」との話とか…。 -- 通りすがりの武装紳士 (2010-07-23 01 45 54) コメントありがとうございます。いつも励みにしております。 ナナシ様>次の舞台の準備が整いました。次作「キズナのキセキ」もお楽しみいただければ幸いです。 ゲシモちゃん様>ティアと遠野の関係は、色恋にしたくなかったので(^^; 可愛いと言っていただけて嬉しいです。 通りすがりの武装紳士様>PSPのバトマス、いいですよね。アーンヴァルで話が書きたくなります(笑) 次回作の予告編を投稿させていただきました。いい意味で期待を裏切れるように頑張りたいと思います。 -- トミすけ (2010-08-15 00 23 33) 初めまして。こちらのwikiに新しく作品を投稿した見習い料理人と申します。 『ウサギのナミダ』、読んでいてワクワクしました。自分もこういった面白い作品を作りたい!と、そう感じてしまいました。 いつかコラボなどできればとても嬉しいです。 『キズナのキセキ』もこれからの展開が楽しみです。 なんだか自分の言いたい事ばかりですみません(汗 -- 見習い料理人 (2010-10-03 00 31 31) 見習い料理人様> 拙作をお気に入り頂き、ありがとうございます。嬉しいです。 新たに作品を投稿されているとのことで、このwikiの仲間が増えて嬉しい限りです。 もし機会があれば、コラボも是非。 今後ともよろしくお願いいたします。 -- トミすけ (2010-10-14 00 25 19) ACT 0-6の対空時間は こっちの滞空だと思うんですが... -- 神姫オーナーの端くれ (2010-10-14 14 27 25) ご指摘ありがとうございます。早速修正いたしました。 この手の誤字脱字はけっこうあるので、ご容赦いただければ幸いです(^^; -- トミすけ (2010-10-14 23 40 37) すごく面白かったです! 一話から一気に読ませていただきました 続編のキズナのキセキも楽しみにしてます! -- 璽儡 (2010-12-28 18 02 23) 璽儡様> 拙作をお読みいただきありがとうございます。 お気に入りいただけたようで、嬉しく思います。 「キズナのキセキ」の方はマイペース更新なので、気長にお楽しみいただければ幸いです。 -- トミすけ (2011-01-03 23 54 52) 今更ですけれど1-13で倒された三強の描写のところでヘルハウンドがマオチャオとなっているのはハウリンの間違いなのでは? -- 名無しさん (2012-07-23 22 55 19) 名無し様>ご指摘ありがとうございます。問題箇所を修正いたしました。 -- トミすけ (2012-07-24 21 44 32) お久しぶりです。 コミケ一週間前となりまして、ようやく発表させていただきます。 この夏コミに、ウサギのナミダの同人誌版を発刊します。 上下巻、全350ページオーバーの大ボリューム! 表紙カラーイラストで、挿絵もつきます。素晴らしい出来ですよ! 興味のある方は是非お立ち寄りください。 詳細は上にあります。 -- トミすけ (2013-08-04 22 49 56) 同人誌版の予告編をアップしました。 やっつけ感満載ですが、すみませんm(__)m -- トミすけ (2013-08-09 23 32 01) 予告編見て、軽く雄叫び上げました(笑) まだ買ってませんが絶対買います!! -- ユキ (2013-09-19 14 43 42) 久々にちょっとだけ更新しました。 「ウサギのナミダ」の同人誌版を夏コミにて頒布します。 今回は自分でスペースを取りました。 チーム・アクセルは遠野君のチーム名からです。 当日会場にいらっしゃる方は、お立ち寄りいただければと思います。 -- トミすけ (2014-08-01 22 11 48) ユキ様> もう同人誌版を手にされましたでしょうか? この夏、コミケに参加しますので、もしよろしければお手にとっていただきたく思います。 -- トミすけ (2014-08-01 22 14 46) ご無沙汰しております。トミすけです。 この一年ほどで、わたしの作品2作が誰かに加筆されております。 わたしの意図しない文章が入っているのは、正直気味が悪いです。 これより修正していきますが、現状ではわたしが意図しない文章や展開が含まれることをご了承下さい。 他のサイトでの公開も検討中です。 -- トミすけ (2023-02-05 00 18 11) 文章の修正が終了しました。 不当な加筆部分を修正しております。 本来の姿での「ウサギのナミダ」をお楽しみいただければ幸いです。 -- トミすけ (2023-02-05 11 48 20) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/650.html
第漆幕 「READY STEADY GO」 華墨のここ二戦における敗因・・・それは俺のマスターとしての至らなさと、華墨自身の「猪突猛進なゴリ押し」スタイルにある 華墨は実戦経験がまだまだ足りない・・・にも関わらず、その身体能力でもって勝ちを続けてしまった事が、自身の弱点を見えにくくし、ひいては慢心さえ生んでいた 弱点を改良していき、より良い戦術を開発しなければ、勝利し続ける事は出来ない 例えば、俺はあの「シルヴィア」について殆ど何も知らないが、公式武装主義者が勝ち続けるには、多分ゴリ押しだけじゃ駄目なのだろうという事くらいは判る 別に俺は公式武装主義者になろうとしている訳ではない が、目下の所その「公式武装」もまともに扱えているのかどうか怪しい華墨に、山の様なカスタムパーツを託すというのは・・・かなり無理がある気がしてもいた 取敢えずは、今迄の華墨の戦闘データを見てみて、どういう戦術が良くて、どういうのが不味いのか、何が得意で何が不得手なのかを検証してみる事。今はそれが第一だろう (とは言ってもな・・・) 自慢じゃないが俺は戦術だとか戦略だとか、頭が要りそうな事はほとほと苦手だった (ええい、だからってやらない訳にはいかないだろう!華墨はこういうの、もっとやらない「たち」なんだから) それもまた、「二人で闘う」ことの一つの有り方だろう (まず注目すべきなのは華墨の「ゆらぎ」の賜物、この超抜の運動能力だろうな) 今迄華墨は、「ストラーフ(ニビルではない)」「マオチャオ」「ハウリン」「ジルダリア(?)」「サイフォス」と闘った事があるが、その運動能力・・・というか脚力は、ほぼ「ストラーフ」のパワードスーツと大差無いレベルに見えた その脚力が叩き出す瞬間速度は、全身に鎧を纏っていてもマオチャオやハウリンのそれを越える かなりの練習が必要だと思うが、半端な高度を飛んでいる相手になら補助装備無しで空中戦を挑む事すら可能だろう ただし、回避が下手糞というか、速度に頼って見え透いた突込みをし過ぎる所から、多分同じ相手とやると相当な高確率で敗れるだろうし、明らかにこういうタイプに強いであろう「エルギール」に勝利する事は不可能だろう (多分もうちょっと跳躍とダッシュを織り交ぜたトリッキーな動きをした方が良いんだろうなぁ・・・) 例えば、初めてヌルと闘った時に見せたあの壁蹴りの様な・・・だ 武器は今の所、「紅緒」に付属していた標準装備は一応全て使ってみたが、太刀が合っているだろう どのみち、運動能力を全面に押し出した戦いをするなら大き過ぎる武器は邪魔になる可能性が高い かといって、ナイフコンバットさせるには、密着戦のセンスが未知数だ。そもそも「紅緒」は、比較的大型の白兵武器を振り回すタイプなのだから、剣を手放させてもあまり良い事は無いように思える だが、太刀を主力に闘う限り、あの「エルギール」の「魔女の剣」は重大な壁になるだろう・・・あの剣は、太刀より遥かに間合いが広く、加えて長い武器を絡め取るのに向いている・・・ (もう少し強力な飛び道具があればアウトレンジから一方的に攻撃出来るんだがな・・・装甲が薄いから白兵戦相手じゃ強そうだが弾幕には弱そうだ) 結局華墨にとって最も攻略しなければならない第一の難敵があの魔女、エルギールである事は明白だった 「うぅ~むむむむむ・・・」 俺は頭を抱えて部屋でごろごろ転がるのだった 「・・・暇だな」 私はベランダで頬杖をつき、甲羅干ししている「ヴェートーベン君」をつついていた マスターが色々考え始めたのは良いが、どうもそういう作業に慣れて居ないのか、知恵熱が出る寸前の様だった かといって私は私で、普段は一人で色々考え込む癖に、いざ戦闘の事になると、何も考えずに突っ込んでしまえば良いと思っている(実際今でもそうだが)ものだから、結局マスターが考える事になってしまった様だ 少しずつ等身大の自分が見えて来たが、どうも私は、自己存在についてあれこれ悩む事と、何も考えずに体を動かす事が好きな様だ 「・・・また一人でバトルスペースに行こうかな・・・」 呟きつつ振り返る。そこでばっちりボナパルト君と目が合ってしまった 「・・・」 なんかまた激しく片目をぐるぐる動かしつつ片目はしっかり私を見ている・・・だから体の隅の方だけ色変えんな!気色悪い 「えぇいっ!相変らずでかい面してっ!言って置くが私はお前に負けた訳ではないのだからな!其処の所はっきり・・・うをっ!!」 またしても私の顔の横を凄まじい速度で通り過ぎるボナパルト君の舌・・・おのれ、爬虫類め・・・馬鹿にしくさって! その時、部屋のインターフォンが鳴る。同時に、これまた凄まじい勢いで駆け出すマスター 「はいはいっ!はいはいっ!!待ってましたっっ!!」 宅配されて来たものは・・・なんとも大掛かりな機械だった。結構な額を支払っているマスター 「へへっ・・・ようやく来たぜ」 「マスター、それは一体何だ?」 ごそごそと説明書を取り出してパソコンと繋ぎ始めるマスター 「所謂トレーニングマシンってやつさ。二個前の機種だから結構安く買い叩けたぜ・・・おっけい!多分コレで動く筈」 『ふいいいいぃぃぃ』とか間の抜けた唸りを上げながら起動するトレーニングマシン。無骨なアクセスポッドが大袈裟な蒸気を上げて開く・・・なんか微妙に入りたくねー 「さぁ華墨?カモ~ン」 渋々・・・という顔だけしてポッドインする。入ってみれば槙縞玩具店のアクセスポッドと大差無いな 『実際のリーグで使われてるのと殆ど同じステージが幾つか入ってるっぽいな・・・取敢えずこの「ゴーストタウン」とかいってみるか』 画面を切り替える度に『ぶひいいいん』とか一々音がする仕様を何とかして欲しい 切り替わった世界、出現するダミー神姫 「ふっ!」 機械に対する不満は幾つかあったが、こうやってバトルが出来る事自体には不満は無い・・・むしろ望む所だ 『んじゃぁ俺ちょっと出てくるから、その間に「慣らし」やっといてくれ』 「応!」とだけ応えて、私は手近のダミー神姫との殺陣に没頭し始めた 俺が帰って来た時、華墨は新しい相手と闘い始めた所の様だった。それを邪魔しない程度に、「買って来たモノ」をサイドボードに放り込む 新しい相手は「アーンヴァル」か・・・華墨が今迄闘った事がなく、そしてもし「エルギール」を下したら、その後最も大きな課題になるであろう神姫だ 上空から距離を保ったまま強烈な砲撃を繰り返すアーンヴァルに、華墨は大いに攻めあぐねている様だった 丁度良い 「華墨!今からサイドボードを送るから、巧い事ソイツでなんとかしてみろ。いくぜ!?」 さぁ行け、モデルPHCハンドガン「ヴズルイフ」!!華墨の可能性を俺に示せェェ!! たかだかボタンを一個押すだけに無駄に気合いを込めて、華墨の左手に大型リボルバーを転送する しっかり握り締める華墨、そして 『おおおおおおおおおおおおおおォォォオ!!』 ハンドガンを握り締め、傾いたビルの壁面を駆け上がる華墨。そうだ、それだ!お前にもし魂があるなら・・・ 跳躍する華墨。無論、実際に「飛んで」いるアーンヴァルに、翼無き身では届く筈も無い だが今の華墨には俺が与えたもう一つの剣がある・・・!やってみろ、華墨・・・お前の力を 「お前の力を見せてみろおおおおおぉぉぉォォ!!」 天使は、堕ちながらバーチャルの空気に溶けて消えて行った・・・ 神姫が人と同じ心を持ち、その身に燃える魂が有るならば・・・華墨のその魂の名は「闘志」に他ならないだろう 多分華墨は、良くも悪くも「武装神姫」を体現しているのだ プログラムされたものでありながら、ひとのそれと実質は変わり無い感情。機械の体に、熱い魂。 多分俺が抱え、悩んだあの葛藤すらも含めて、神姫は神姫足り得、華墨を「俺の神姫」として扱うならば、その全てを飲み込んでやらなきゃならない・・・ 人でもあり、機械でもある。玩具であり、パートナーでもある その、一見背反するもの全てがブレずに、ひとつの形として存在しているのが 「武装神姫」・・・人工の戦女神達なのだ 非常に軽いブレーキ音が槙縞玩具店の表に響く 待ち兼ねていた様に、皆川彰人は店の前に立っていた 「おかえりなさい西さん。大会はいかがでした?」 エレカのドアから電気盲導犬。それに引かれて女性が一人 「ええ・・・なかなか良かったようです。この子もかなりの刺激を受けたようですし・・・」 その女性の後から 堂々とした仕草で蒼い鎧姿がゆっくりと降りて来る 「有り難い・・・助かりました、奥様」 「もう、奥様はよしてと言っているでしょう?」 身長15センチの筈が、圧倒的に大きく見える威厳を備えた「サイフォス」 狗の頭部の様にカスタムした兜を脇に抱え、濃紺のマントを羽織った金髪の神姫・・・ 「おかえり・・・『クイントス』・・・」 それが槙縞ランキングの女王「クイントス」帰還の際のやり取りだった 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/779.html
激烈なる拳──あるいは決勝その一(中編) そうしてボク・槇野梓とロッテお姉ちゃんは、決勝ブロックの舞台へ 上がっていったんだよ……でも、クローズアップされるのはこの後。 この第一回戦を勝ち上がった八人で再度組み合わせ抽選が行われて、 そこから大々的な演出が行われるんだよ……ここはまだ入口だもん。 と言っても、専用のヴァーチャル型バトルフィールドは大きいけど。 「それじゃ行くぜ、リアル系!ちょこまかすんじゃねぇぞッ!!」 「いえいえ、全力で参りますの。それじゃあ……始めましょう!」 『ハンゾー・ヴァーサス・ロッテッ!!レディ──────ゴー!!』 『“W.I.N.G.S.”……Execution!』 「変身、しやがったっ!?」 「流石に“フィオラ”のままでは、勝てませんの」 戦闘開始と同時にロッテお姉ちゃんは、瞬時に“Heiliges Kleid”へと 変身するんだよ。流石にこれはハンゾーさんも驚いたみたいだけど…… 何か、ハンゾーさんも妙なポーズを取ってるんだよ。腕組み……かな? ちなみに舞台設定は何故か、古い採石場の様な谷底の荒れ地なんだよ。 「そっちが変身するなら、こっちも行かせてもらうぜ!!」 「え、空間のゆらぎ?ううん……これって、“気”ですの!?」 「行くぜ!“猫獣装着”!!」 カンフー等での手を合わせるポーズから右の拳を突き出す、“非武装の” ハンゾーさん。その瞬間、躯から発散される紅い物が形になったんだよ。 それは“サバーカ”くらいは優にある、巨大な一匹のぷちマスィーンズ! しかもそれは各部で分離されて、純正のマオチャオ風パーツとして合体。 あっという間に、ハンゾーさんは格闘型の“武装神姫”になったんだよ。 「マオッ……タイガー!!!」 「まるで、戦隊ヒーローのロボットですの……!」 「ハン、どうだサード野郎。セカンドの俺が羨ましいか?」 「……常に憧れてはいます。でも、羨望はしませんの」 「言うじゃねぇか。ならスーパー系の威力、味わえッ!」 そう言うと後ろの空間がもう一度揺らいで、二機のぷちマスィーンズが、 ハンゾーさんに付き従ったんだよ……いや、正確には“ぷち”じゃない。 神姫に覆い被さる事も出来る、そのサイズと容姿は……“ビースト”ッ! 「黄色と青……これが、今回のハンゾーさんが使う武器、ですの?」 「そういうこった。ゲキジャガーとゲキチーター、行けッ!!」 「Grrrrrrrryyyyyyaaaaaaaaaa!!!」 「早いっ!?このライフルで……怯まないですの!?」 ロッテお姉ちゃんは後退しつつも“ムラクモ”で制圧射撃を掛けるけど、 俊敏な四肢と鋼の皮膚で武装した“ゲキビースト”達は、物ともしない。 “アサルトキャリバー”の高速ローラーダッシュも、この不整地では多少 駆動率が劣る……その隙に、ハンゾーさんが高速で接近してきたんだよ。 「まずは一撃……喰らえ、ゲキワザ“激気打”ッ!!」 「きゃあっ!?そんな、“Heiliges Kleid”の装甲服が……!?」 「痛ぇなぁ……縁が刃物になってんじゃねぇか、その服ッ!!」 「こういう服ですから。それよりも、わたしはまだ生きてますの!」 拳の一撃で、鋼鉄のメイド服はあっさりと砕け散るんだよ。でも、ボクは 見逃さなかったよ。彼方としても、そのパワーで強引に砕いているだけ。 恐ろしい力だったけど、コートのエッジ自体が効かない訳ではない……! だからボクはすぐに、サイドボード部分の起動コードを入力したんだよ。 「ロッテちゃん、3sm後退してジャンプ。出来るだけ引き寄せて!」 「梓ちゃんわかりましたの、さぁハンゾーさんこっちへどうぞッ!」 「ちょこまか逃げんじゃねえ!一気にブッ倒してやるぜっ!!」 『……ん?いけないハンゾー、深追いするな!』 「あん?!逃がす訳に行くかよッ!」 カウント・ゼロまで五秒。後退用ブースターまで駆使して引き寄せて、 一気に跳躍。ボクらの目論み通り、ハンゾーさんと獣達はそれを追って 飛びかかってきた……ここで彼女らは“刃の罠”に、嵌ったんだよッ。 コンマ数ミリで殴られる、その僅かな隙に……“SSS”が転移する! 『Plug-out!』 「うわあああっ!?服が、弾け飛びやがった……痛ッ!」 「Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!?」 「“スヴェンW”とライドボード、展開して!着装しますのッ!!」 “Heiliges Kleid”のパージ機能によって、エッジの効いた刃と一緒に 弾き飛ばされるハンゾーさん。だけど流石に致命傷には至っていない。 この強靱さこそがセカンドの真髄なのかもしれないもん。でもそれは、 全力を尽くそうというロッテお姉ちゃんだって同じ事なんだよ、うん。 「“光と闇の舞い”、受けてみて下さいのッ!」 「さっきのレーザー攻撃か、あんなモン喰らわねぇぜ!」 「確かに……ハンゾーさん相手で、普通に撃つのは無理ですの」 「……分かってるなら、往生しなッ!!」 “Valkyrja・Skjald-maer・Phase”の姿を現したお姉ちゃんは、すぐに マントを振り解き、バインダーと翼を展開して蒼い空へと舞い上がる。 そして両肩のシールドを展開して、チャフを放出。ここまでは、同じ。 更にロッテお姉ちゃんは、その手にあるミサイルランチャーを掲げて、 上下に勢いよく開いたんだよ。そこにあるのは……無数の煙幕弾ッ!! 「CMMランチャー“ギャッラルホルン”、フォイエルッ!!」 「おうわっ?な、なんだこりゃ!くそ、煙てぇじゃねえか!」 『下がるんだ、ハンゾー。ロッテちゃんの狙いは……!』 「うっせぇ!そう言っても、この煙の中じゃ見えねぇッ!」 装填されていた六十数発を一斉に爆裂させ、周囲を暗い煙で包み込む。 即ちこれが“闇”。そう……“光”の雨を覆い隠す、夜の帳なんだよ! 「多次元測距レーダーアーム、観測終了。チャージ、完了ですの!」 「なん……だって!?」 「レーザーガンポッド、照準セット……フォイエルッ!!」 「のわぁああああぁっ!?」 「Grrrraaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!?」 黒い煙の中に幾本も打ち込まれる、小型レーザー砲による“光”の雨。 これで勝てた……とはあまり思えなかったんだよ。だってまだ、二匹の “ゲキビースト”がどうなったかが、分からないもん。そして懸念は、 まだ立ちこめる煙を渦巻かせ、有り得ない形で具現化していくんだよ! 「てんめぇぇぇぇぇぇ……赦さねぇぞ!ジャガー、チーター!!」 「まだ生きてる……何か、凄いプレッシャーを感じますの!?」 「あったりめぇだ!覚悟しろ、“猫獣合体”ッ!!」 ──────それは猛々しい、野獣の象徴なんだよッ。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/662.html
春の足跡も聞こえてきそうな二月の下旬 暖冬だ? つってもまだまだ寒いんだよ! と、いうわけで冬に向かって逆ギレしながらベッドの中でぬくぬくと惰眠を貪る事にしていた俺なのだが… いきなり俺の部屋に入ってきた香憐ねぇに毛布までひっぺがされたかと思うと「兼房様がお呼びです」の一言と共に香憐ねぇの愛車で朝の国道を突っ走り、腕をつかまれて引きずられるがままに鳳条院グループ本社ビルまで拉致られていた 社員用とは別の特殊エレベーターまで俺を押し込むと最上階である四十階のボタンを押す香憐ねぇ まだ少し寝ぼけていた俺の頭もゆっくり覚醒し始め、ある疑問に行き着いた 「なぁ、香憐ねぇ…最上階は社長室だろ?」 「はい、そうですが」 「いや、俺を呼び出したのは御袋じゃなくてジジイなんじゃなかったか?」 普段社長室にいるのはジジイじゃない ジジイはグループの総帥であり、社長は別にいる では誰が鳳条院グループの社長なのか 今の会話からもわかるかもしえないが………俺の母親だ つまり社長室は俺の母親のオフィスとなっているはずなのだ 「伊織さん…いえ、社長はただ今会議中です。ですから兼房様は社長室をお使いになるのだろうと…」 最上階に到着 社長室の扉を開け、俺を中に入るよう促しながら香憐ねぇは先ほどの言葉を続ける 「ここ、鳳条院グループ本社においても博士の研究フロアと会議室と社長室の三つは最重要箇所です。他とは別格のセキュリティーですからね…」 …つまり俺を呼び出したのは結構重大な話があるって事なのだろうな 「んで、肝心の爺さんがいないんだが…」 「そう…ですね…」 香憐ねぇも困惑気味である 社長室は見事なまでにもぬけの殻と化していた 「わしならここにおるぞ?」 部屋を見渡していた俺たちに聞こえたジジイの声 しかし今だ姿は見えない 「ふぉふぉふぉ、ここじゃよ。ここ」 と聞こえた瞬間、部屋の奥にある社長椅子がぐるりと回る しかしそこにも爺さんの姿はない だがその椅子には景色が揺れるような違和感があった 「もしかして………ステルスか?」 「正解じゃ♪」 まるで椅子の上に転送されたかのように爺さんが現れる SFじゃないんだからよ…… 「どうじゃ? わが社の新技術、『ミラージュコロイド』じゃ!」 ついにボケたかこのジジイ… 「……なにが新技術だ。思いっきりパクッてんじゃねぇか…」 「心配するな。ちゃんとあちらさんには許可を取っとる。それに斗小野グループの國崎技研との共同開発品じゃ」 ほぅ、斗小野グループ…國崎技研…… 斗小野グループといえば昔、俺がまだ本家にいるときに無理やり出された社交界かなんかで斗小野会長に挨拶したことがあったな たしか俺より少し年上の孫娘を連れて来てたっけ… それに國崎技研… ファーストランカーの國崎 観奈ちゃんには俺も面識がある 彼女のお父さんの会社だ 「バーチャルとは違う。つまりはリアルリーグでも使えるというのが売りじゃ!」 「………そんで? それを自慢したかっただけなんて言うなよ。もしもそうなら実の祖父といえど、すぐさま葬式屋のお客にしてやるぜ?」 「心配するな。わしが棺桶に入るのはお前がこの会社を継いだ後じゃからな。ふぉふぉふぉ!」 口の減らないクソジジイが…… 俺が本気で仏様にしてやろうかと思っていると可憐ねぇがため息混じりに俺達の仲裁に入った 「兼房様…そろそろ本題に入られては…」 「香憐ちゃん、続きは私が話すわ。呼び出したのはお父さんだけど用事があったのは私だからね…」 そう言ったのはいつの間にか俺と香憐ねぇの後ろにいた… 「社長」 ここのトップである俺の母親、鳳条院 伊織 その人であった 「久しぶりね、明人……」 俺の母親だ、実際の年齢はソコソコになるんだろうが…どう見たって香憐ねぇより年下に見える 下手すりゃ葉月より少し上程度…我が母は若々しいの度を越えて…子供っぽかった (何故かマイスターを連想するのは俺だけか?) (いえ、社長には申し訳ないですが…私もです明人様…) 「もぅ明人! 聞いてるの?」 「ああ…っても、葉月の誕生日のときに顔出しただろう?」 「だってだって! あの時は私に挨拶もしてくれなかったじゃない!」 ぷんぷんという擬音が恐ろしいほど似合うような頬の膨らまし方をする御袋… ヤメテクレ…マジデハズイデス… 小学校のときの参観日の記憶がフラッシュバックする 「だったらそっちから挨拶でも何でもしてくりゃいいじゃねぇか…」 …なんだか頭が痛くなってきて俺は左手を額に当てた 「それは……はづちゃんの邪魔しちゃ…悪いじゃない…」 今度は小さな声でブツブツと何かを言いながら拗ねだした アンタホントに俺の親ですか? 「社長、お話がそれていますよ…」 またしても新たな声 その声の主には俺も香憐ねぇも予想はついていた そりゃそうだ、御袋とこの人はワンセットだからな… 「桜さん」 「お母さん」 「お久しぶりです若様。香憐も…」 香憐ねぇのお母さん、水無月 桜さんである 御袋よりも歳を取って見えるものの、それでも十分に若く見える(御袋が幼すぎるんだ…) 着ているレディーススーツも香憐ねぇの母親なだけあってバッチリ似合っている(ちなみに香憐ねぇもレディーススーツだがパンツスタイル、桜さんはスカートスタイルだ) 香憐ねぇの実家である水無月家は昔からウチの家、鳳条院家に仕えてくれている 香憐ねぇのお父さんも爺さんの専属執事として働いてくれているんだわ まぁ昔といっても爺さんが事業に成功してからなのだが…それでも両家の関係は深い 俺と香憐ねぇも姉弟のような関係だが… 「あ、いつの間に…ごめぇ~ん。ありがとね、桜」 「はぁ…いつものことですから」 この二人の関係も主人と従者と言うより無二の親友という風に見える そりゃそうだ 生まれたときからの幼馴染で小中高、さらには大学まで一緒というほどの年月を共にしているんだからな この母親の性格でこのどデカイ会社のトップを切り盛りできているのは有能な秘書である桜さんのサポートあってこそなのだろうとしみじみ思うぞ… ホントお世話になってます…桜さん… 「オホン! それでは本題に入ります…」 いまさら社長っぽく締めようとしてもムダな気がするぞ御袋 「明人、この時期になって貴方を呼んだことに思い当たる節はない?」 いきなりの質問である そう言われてもこちとら朝っぱらから香憐ねぇに拉致られてクタクタな訳だ いきなりそんな漠然とした質問されても答えがすぐに出るわけがない 「なんだよ藪から棒に…わかるわけねぇだろ…」 ぶっちゃけ俺、ただ今不機嫌 それにより口調がいつもより二割り増しで厳つい… 「う~ん…それじゃぁヒント。武装神姫関係」 「…………『武装神姫お花見ツアー』の企画会議?」 やる気なさげに思いついたことを言ってみる 言っておいてなんだがここは技術会社…そんな旅行ツアー計画あるわけないよな… 「…………あなたホントにファーストランカー? ってかホントに我が愛しの息子で鳳条院の次期跡取り?」 がっくりと肩を落とす御袋 「ずいぶんな言い草だなオイ…それにその二つは関係ないだろうが」 だいたい俺は継ぐ気なんかねぇし…… 「あるわよぉう;知ってるでしょ? 鳳凰カップ!」 痺れを切らして答えを述べる御袋 最初からそうしろよ…… ん? 鳳凰………どっかで聞いたような……… 「…………………………あぁ、アレね」 「そう、アレよアレ………」 《鳳凰カップ》 2035年から始まった鳳条院グループ主催の武装神姫バトルカップだ 会場は鳳条院グループ本社ビルから近いイベント広場 春と秋の年二回開催されていてそれぞれ〈春の陣〉と〈冬の陣〉と呼ばれている 会議中、発案者であるジジイがグループ役員に『何でこの時期なんですか?』との質問に対して… 『夏コミと冬コミに被らないからじゃ!!!』 …と、高々と宣言して全員を納得させたエピソードは社内や身内でも印象深かった それはさておき バトル形式は全試合バーチャルバトル 抽選によりA~Pまでの十六組に分かれての予選リーグ そこからは予選リーグを勝ち抜いた者達による決勝トーナメントだったっけ 毎年上位優勝者には多額の賞金と豪華副賞が送られる 確かテレビ中継もやっていて特番も組まれたりするんだっけかな? なんにせよメディアからの注目をバッチリ受けるもんだからランカーとして名声を受けることに憧れる神姫ユーザーや神姫にとっては登龍門となっているとか何とか… 武装神姫関係の各企業や研究所、私営の神姫ショップなんかと協力して企業ごとのブースを設けることで、バトルをしない神姫ユーザーにとってもお祭り気分で楽しめることもイベントの売りのようだ… 何にせよ鳳条院グループ社内総動員の一大プロジェクトなわけで、それも今年で三回目の〈春の陣〉を迎えようとしている ちなみに〈春の陣〉の日程は三月の中頃だそうだ 「そうえば若様は前年度も前々年度も鳳凰カップには参加しておいでではなかったですね…」 と桜さん 「確かにそうですねぇ…」 とうなずく香憐ねぇ 「なんでぇ!? なんで明人は出てくれないのぉぉぉ!!?」 「そうじゃそうじゃ!!」 「あぁ~止めろ! 御袋、抱きつくな!! ジジイは煽るな!!」 俺は腰の辺りにへばり付いて喚く御袋に悪戦苦闘中… 俺がこの大会に出ない理由は至極簡単 あれだよ、夏祭りで自分の家が出した夜店に誰が客としていくと思う? そりゃ誰もいかねぇわな普通… 「つか、そういうのって関係者は参加禁止だろうが」 「そんなもん関係ないわい!!」 ………い、いやいやいやいやいや!! 関係あるだろ!!? 「無論、香憐も葉月も昴もじゃ。ついでにアル嬢ちゃんとエリー嬢ちゃんもええぞ?」 ジジイの一蹴で俺、以下、いつものメンバーの参加は許可されてしまった…… それでいいのか鳳条院グループ!! 「と、いうわけで私たちの鳳凰カップ参加が許可されました」 時間は飛びに飛んでお昼前 あれから香憐ねぇは俺を引きずり二十二階、博士の研究所フロアへ移動 パソコンでデータ整理をしていたアルティと博士にお茶を出していたエリーの二人を拉致るなり俺共々自分の愛車に乗せて、来た道を華麗なるドライビングテクニックでスピード帰宅したのだった 途中で四輪ドリフトかましたときは流石に死ぬかと思ったぞ… んで、我が家に帰ってみると何故か昴と葉月がリビングで茶を飲みながら話していた 二人とも香憐ねぇに呼び出されたのだとか 何がなんだかわからないうちに俺の家にはマスターとその神姫たち…(葉月の前なのでインターフェイス組も全員神姫素体)が勢揃いしているこの状況…それから 「あっ」 っという間に香憐ねぇはアルティ達に今までのことをズバッと説明 「面白そうじゃねぇか」 話が一段落してから始めに口を開いたのは昴だった 「香憐ねぇ、言うなればお祭り騒ぎ&腕試しってこったろ?」 「まぁ、そのようなものですね」 それを聞くとニヤリと笑いランを見ながら昴は言った 「その鳳凰カップとやら、俺とランは参加するぜ。ラン、いいよな?」 「ええ、昴さんがそういうのなら……」 まずはアッサリと参戦決定の昴&ランスロット ペア 「ランスロットが出るとなれば手前も出ねばなりますまい…よろしいか、姫君殿?」 「う~ん…私は本来、会場運営を手助けしなければならないんですが…」 少し考え込む香憐ねぇ………だが 「お許し…いただけませんか?」 「………でも、兼房様からの折角のお許しが出ましたし………出てみますか、孫市」 少ししょんぼりした孫市の視線に数秒で陥落、香憐ねぇ&孫市ペア、参戦決定 「レイア、私達はどうする?」 「え?…あ、その………私は…参加してみたいです」 少し赤くなりながらも控えめなレイア 「そだよね! 燃えるよね! よっしゃ! いいトコ見せるぞ!!」 誰に? と聞きたくなったが香憐ねぇに拍手されている葉月はいつの間にか熱血お嬢様キャラと化していた…… これほど我が妹に声を掛けづらかったことはなかったぞ 世間で言う『妹萌え』ならぬ『妹燃え』とはコレいかに… 葉月&レイア ペア、参戦決定 「ふっ、負けてはおれんな。ミュリエル、私達も…って…ミュリエル?」 いつの間にかいなくなっているミュリエルを探し周りを見わたすアルティ そりゃいないわな…だってお探し中の相棒は何故か知らんが俺の前にいるんだから… 「ど、どうかしたのか? ミュリエル」 そう問いかけてみた俺にミュリエルは自分の小さな拳を頭の上に掲げ 「………ミュリエル…勝つ…」 と、気合満々の意気込みを見せてくれた それはいいんだが……え~っと………何故俺に? 「ミュリエル…お前…」 その一部始終を黙って見ていたアルは困惑気味の表情 アルの声に振り返り、ミュリエルは一言… 「…アル…戦場はいつも非情…」 なんだか少し挑発的に感じたのは俺の気のせいなんだろうか… アルティ&ミュリエル ペア参戦決定 「エリー、お前はどうするんだ?」 「ん~、僕らはいいよ。あの子達はあんまりバトルは…ね。それよりもお祭りを回らせてもらおうかな。他の企業の新作とかも出るみたいだし」 にっかりと白い歯を見せながら笑うエリー 「明人はバトルカップに出るんでしょ?誰でエントリーするの? やっぱりノア? それともミコ? あ、ユーナの経験値稼ぎにはいいかもしれないね~」 なにやら一人で勝手に話を進めておられますな… 「いや、俺は出る気はない」 と、言うことで明人&ノアールorミコorユーナ チーム、不参加決…… 「「「「え、ええぇぇぇ~~~~~!!!??」」」」 一斉に騒がしくなる橘家リビング… 「ちょ、待てよオイ! どういうこった明人?」 「何故だ! 何故お前らが出んのだ!?」 「明人様…まさか、メンドクサイ…なんて言いませんよね?」 昴には詰め寄られるわ、アルには胸倉つかまれるわ、香憐ねぇはお説教モードになりかけるわで散々だなぁ俺… つぅかアル! ちょ、顔近いって!! 「どういうことだ? アニキ」 「私もバトル大会でたいよぅ~;」 「私は別にかまいませんが…」 三人それぞれの意見を述べる我がかしましシスターズ ………ネーミングセンスが微妙? うっせぇ!! 「実家主催の大会に出るのはなんだかなぁ~って感じだからな。バトルカップ参加はパスだ」 俺は社長室で思ったことと同じ理由を述べた たとえ上位に入ったってあんまり嬉しくないような気がするんだよなぁ…… 「じゃあ…兄さんは大会に来てくれないの?」 いつの間にか『燃えモード』の熱が冷めている葉月が悲しそうに訊ねてくる 昴達もさっきまでのテンションはどこえやらと言った感じ… そんなに俺達が出ないことが残念なんだろうか? と少しの罪悪感を感じる 「いや、大会には行くつもりだ。御袋からバトルカップの解説者役を頼まれてるしな」 「あ、そう言えばそうでしたね…」 大体、今日本社まで呼び出されたのはそのためだったのだ ついでに知り合いのショップや関係者に宣伝してくれって言われたけど…どうしたもんかねぇこりゃ… 「でも明人様…たしか伊織さんにはお断りしてらしたじゃありませんか…本家の手伝いは遠慮するって…」 そりゃそうなんだがなぁ…… 自分の母親に泣きつかれて(子供の様にだがな…)聞かなかったことにするほど俺は鬼畜じゃねぇし… 「まぁ、ちょっとした気まぐれだよ、気まぐ…うわぁ!! むぐぅ…」 気がつくと俺は香憐ねぇに抱きしめられていた 「明人様…ご成長なされて…香憐は…香憐はうれしゅうございますぅぅぅ!!」 (ちょ、香憐ね…ぇ…息…息ができ…ねぇ…!!) 香憐ねぇは美人な上にスタイルもいい その大きめのバストに顔を押し付けられて俺と葉月は何回呼吸困難に陥ったことか… あれはちょっとした恐怖だぞ、死の恐怖… 「むぅ! むぐぐぅ!!」 早めに香憐ねぇの背中にタップして危険な状態であると必死のアピール 俺のSOSに香憐ねぇは我に返り、慌てて俺を解放すると「申し訳ありません…」と小さくなった 香憐ねぇは感動すると毎度コレをやる 被害者の俺や葉月はこのパターンにけっこう慣れてしまっているのだが 「ゴホッ、ゴホッ……あぁ~それにだな。皆が行くのにコイツラだけお預けってのも…なぁ」 涙目になりながらも三人のイベント参加を許可してやる 「よかったですね。お姉様方」 「私達は観戦だけどちゃんと見させてもらうわねレイア、ラン」 「は、はい! ノア御姉様!」 「おう、頑張れよ孫市!」 「は! ユーナ姉上、見ていて下され」 それから皆で大会についての雑談に花を咲かせる そんな中、突然ミコが俺に向かって走って来たかと思うと… 「うにゃぁ~~~ご主人様ダイスキ~~~!!」 という絶叫とともにテーブルから俺目掛けての大ジャンプ 避けるわけにもいかない俺の胸に両手でガシッとしがみ付いた 「あ、コラァ! アネ……キ……」 ミコに怒鳴ろうとしたユーナの声が何故か途中から小さくなっていく 不思議に思いその視線を辿っていくと… 「……え~っと…ミュリエル?」 俺の右肩に座り、俺の頬に体を預けてもたれかかっているミュリエルに行き着いた いつの間に………ってかなんで?? 「…ミコ、ユーナ……戦場はいつも非情…」 ミュリエルが放つ、またしても挑発的で勝ち誇ったようなニュアンスの台詞にショックを受けていたミコとユーナであった… 追記 「ご主人様、参加者募集活動をするんですか?」 「ん? あぁ、まぁな。集めるのはバトルカップ参加者とブース出展参加者の二通りだ。まぁ、ちらっと知り合いでも声かけてみるだけでいいんだとさ…なんとかなるだろ」 「………少し楽天的過ぎませんか?」 「それは俺じゃなくてジジイに言ってくれ」 続く メインページへ このページの訪問者 -
https://w.atwiki.jp/bj_x/pages/29.html
クリスマス、大晦日、正月の総称 全く、この時期に(ry