約 220,414 件
https://w.atwiki.jp/busoushinkibc/pages/16.html
ここは、新たにバトルコンダクターを始めるマスターがスムーズに始める為に必要な情報のみを記すページです。 詳細な攻略情報を集めたい方は、wiki内の他ページもご覧下さい。 ※実際のゲーム画面や操作等の詳細な説明は公式サイト、操作マニュアルに纏められているので、そちらも併せて参照して下さい。 ゲームでの疑問のあれこれは → よくある質問 武装神姫に関して武装神姫って何?知らなくても遊べる? ゲームプレイに関してとりあえず何を準備したらいい? e-Amusement passってどこで手に入る?他のカードじゃダメ? 初回プレイの注意点 大まかな初回プレイの流れ 初回プレイ後の注意点 デジタル神姫って? 神姫をカード化したい! 2回目以降のプレイの流れ 神姫のレアリティは?個体差はある? 高レアリティ/個体値が高いカード以外はゴミだったりする…? もしかしてめちゃくちゃお金かかる? プレイできる店舗はどこ? 武装神姫に関して 武装神姫って何?知らなくても遊べる? 武装神姫は2006年からKONAMIが発売し、現在はコトブキヤにてプラモデル化企画が進行中のオリジナルアクションフィギュアシリーズです。 「2036年に人間の日常生活のサポート用メカ兼バトルホビー玩具として発売された小型ロボット」という基本設定があるだけで、基本的には個別の背景や設定があるわけでもありません。 特にアニメが元ネタとか、ゲームやってないと~ってこともないので気になったら即100円投入ですよ!ますたー! ゲームプレイに関して とりあえず何を準備したらいい? 初プレイに必要なものはe-Amusment Passと呼ばれるICカードとチュートリアル用の100円玉1枚のみでOK ICカードを介して初めてプレイする時のみチュートリアルモードがプレイ可能なので、まずはそちらで操作を学ぼう! かなり複雑な部分もある上にチュートリアルはかなりの速度で進むので公式サイト、操作マニュアルである程度の予習をしておくことを推奨します。 e-Amusement passってどこで手に入る?他のカードじゃダメ? e-Amusement Pass対応ゲームを設置しているアミューズメント施設に設置されているカード販売機にて購入することが可能。武装神姫の筐体そのものからは購入できないので注意! 武装神姫設置店舗には絶対どっかにはあるはず…。 値段は300円。余談ながらAmusement ICマークがついてるものであればネシカだろうがバナパスポートだろうがなんでもいいです。 詳しくはコチラ 初回プレイの注意点 初回プレイでは ICカードに登録する4桁のパスワード(新品のICカードを使用する場合のみ) 自身のマスター名 自身の誕生日 自身の性別(武装紳士or武装淑女) 自身の職業(学生or社会人or武装貴族) の登録を行います。マスター名等は事前に考えておきましょう。 またICカードに紐付けられるパスワードは今後プレイの度に要求されます。覚えやすいものにしましょう。 大まかな初回プレイの流れ 基本はゲーム画面に沿いますが… 初回プレイでは最初に神姫カードを読み込ませますが、その際チュートリアル用の神姫を借り受けて使用します。 その後、神姫ハウスへ移動。各神姫にタッチしてコミュニケーションを取ったり、キャッキャウフフ ↓ カスタマイズ画面で武装選択 ↓ チュートリアルバトルへ ↓ 最後にランダムでデジタル神姫を無料で一体プレゼント という流れになっています。デジタル神姫に関しては後述。 初回プレイ後の注意点 初回プレイを終えたら、必ずe-amusementサイトにてICカードデータを登録しましょう。 カードを紛失・破損した場合でもデータを新しいカードへ移すことが可能になります。 仮にあなたの使用しているICカードがバナパスポートカードやネシカだったとしても、KONAMIのゲームデータはe-Amusementサイトに登録しなければ復旧できません。 例えばバナパスを使用した場合、バナパスポートカードサイトにのみ登録してもバンダイナムコ関連のゲーム以外はデータ移行が行えないので注意してください。 デジタル神姫って? デジタル神姫は1枚のICカードに最大30体まで保存しておけるデータ上の神姫です。 デジタル神姫はそのままではチュートリアル用の貸し出し神姫よりも弱い上に親密度や経験値も獲得できないので、実用のためにはカード化が必要です。 「カードコネクト」筐体にてカード化することができ、その際に神姫のレアリティやステータス、個体値、胸の大きさが決定します。 神姫をカード化したい! カードコネクト筐体にICカードをかざすことでデジタル神姫をカードとして発行が可能です。 ICカードを読み込み後、メニューを下方にスクロールして「武装神姫」を選びましょう。 その中からカード化する神姫を最大5枚まで選択し、カード化する枚数×100円を投入することでカード化可能です。 余談ですが、このカードコネクトの印刷にはめっっっっちゃくちゃ時間がかかります。 目当ての神姫がある程度揃ってしまえば、カード化に並ぶ必要もなくなるのでデッキが完成するまでの試練だと思って耐えましょう…。 カードコネクト上ではデジタル神姫を20体しか読み込めないため、20体以上のデジタル神姫がいる場合は神姫ハウス→神姫カード整理からカードコネクトに送信する神姫を予め選択しておく必要があります。 この時、溜め込んだデジタル神姫を消去しておくことも可能です。30体以上のデジタル神姫は持てないので枠が上限いっぱいになりそうな時に活用しましょう。 2回目以降のプレイの流れ 2回目以降も基本はチュートリアルと変わりませんが、神姫ハウスで神姫と触れ合うことでバトル前に親密度とステータスを若干上げることが可能になり、バトルでは全国対戦もしくはオフラインバトルのいずれかが選択可能になります。 また、全てのゲーム終了時に神姫ショップが開放され、ランダムでデジタル神姫を獲得することが可能になります。(いわゆるガチャ) その際、「1体獲得or5体獲得or獲得しない」が選択可能で、獲得数に応じたクレジットを追加投入する必要があります。 神姫のレアリティは?個体差はある? 神姫のレアリティはUR、SR、R、Nの4種類。 神姫カードの右下にはそれぞれ1~5個のステータスアイコンが記載されており、その数が多いほど若干ステータスが高いです。 ついでにカード裏に胸のサイズボディサイズの記載があります。こっちのが重要だよなぁ? 高レアリティ/個体値が高いカード以外はゴミだったりする…? 本ゲームには編成コストシステムがあり、最大7。URは4、SRは3、Rは2、Nは1がコストとして割り振られています。 その関係上、URを使用する場合は必ずNと組まねばならず、URやSRとは組むことはできません。 SRを使用する場合でもSR、SR、NもしくはSR、R、Rが最大の編成になります。 高レアリティの神姫は確かに強力ですが、被撃破時のジェム喪失量が異様に多く、決して「URが入っている編成が至高」といえるようなバランスではありません。 おまけにこのゲームはNがかなり出にくいため、様々なレアリティの神姫を確保しておくことを推奨します。(特に推しはURとSRどっちも欲しいよね…。) また、個体値は確かに若干の差はあるものの個体値アイコン5つのものと個体値アイコン1つのものでは5~10と基礎ステータスに誤差程度の差しかなく、加えて個体値アイコン1つのものの方が伸び率はいいようになっています。 あったらラッキー程度のものなので、それほど気にする必要もないでしょう。 もしかしてめちゃくちゃお金かかる? いわゆるガチャゲーなのでゲームを始めたての頃はすごい勢いで金が吹っ飛びます。 100円で遊んで、500円でガチャ引いて、500円でカード発行して…のループになること必至です。 しかしながら、ある程度カードが揃ってしまえば基本料金の100円だけで遊べるゲームになります。 加えて、全ての神姫のフルコンプを目指すわけでもないなら、基本はデジタル神姫として所持するだけで目当ての神姫のみカード化する方向で資金を貯めておくことも可能です。 また、カードとICは紐付いていないので、ガチャがイヤすぎる!という場合は「だからまおが言ってやったのにゃ~」などを用いて予め望みのカードを入手してからスタートしてもいいでしょう。 胸のサイズにこだわると死ぬぞ プレイできる店舗はどこ? 公式サイトの神姫センター一覧を見よう。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/563.html
武装神姫のリン 番外編その3「小さな幸せ」 リン…それは私の名前。 武装神姫第1弾、MMS TYPE-DEVIL「STRARF」のシリアルナンバー3600054468である私の名前。 マスターは私にこの名前を貰いました。 でも私、マスター、茉莉との問題を乗り越えてから2ヶ月ほど経ったある日、私はどうして「リン」という名前に決めたのか、ふとその理由が気になってしまいました。 そうして一週間が過ぎようとした頃、私は我慢できずにマスターにその理由を聞きました。 今回はそのときのお話しです。 それは用事で茉莉が実家に帰っていて、ティアもそれについていてしまい久々に2人きりになれた日のことでした。 「マスター…あの。」 マスターはいつものように顔を横に向けてくれました。 「どうした? なんか欲しいモノでも見つけたのか?」 「いえ…そうじゃなくて、聞きたいことがあるんですがいいですか?」 「ああ、いいよ。」 「じゃあ、なぜ私の名前はリンなんですか?」 「ああ、それか…」 マスターの顔がいつもと違って少し不安そうな、なんとなく力が抜けたような表情に変化しました。 「あの…マスター? お気に触ったんだったらすみません、でも…」 「じゃあ今からその名前に関連する、ある所に行くけど何も言うなよ。」 私はその言葉の意味を理解できず、ただただ 「はい。」 そう応えるしかありませんでした。 私の答えを聞いたマスターはすぐに進行方向を変え、駅へ。 そうしてJRと私鉄をいくつか乗り継いで郊外の町に着きました。 「ここにくるのは、久しぶりだな。」 やはりマスターの表情はいつものような元気がありません。 「あの…」 「何も言わない約束だろ。」 マスターの声がいつも以上に優しく感じられたので私は 「はい…」 口をつむぐまえにそう呟くことしかできませんでした。 そのままマスターは駅からの一本道をひたすらに進みます。 その日はまだ初夏だというのに日差しは強く、空が晴れていたことを覚えています。 焼き付けるような日差しの中を、マスターは途中で買ったミネラルウォーターを手に持ったまま歩いていきました。 そして着いたのは、お寺。の裏手にある墓地でした。 藤堂家の方々が代々眠る場所。そこにマスターは私を連れてきたのです。 私はその時点で大体の事情は把握できていましたが、マスターが口を開くまで待ちました。 マスターはミネラルウォーターを墓石にかけて、残った分はお供えを置くと思われる場所に置かれた湯のみに注ぎました。 そして私を手に乗せて、そこに眠るマスターの"家族"の名前が刻まれた石版の目の前に手をもって行きます。 それを見たとき、私は確信しました。 「リンていうのは。俺の妹になるはずだった子の名前なんだ。」 それと同時にマスターは私の問いへの"答え"を口にしていました。 それからマスターは全て話してくれました。 リンという名前はマスターと4つ違いの、今頃は茉莉とほぼ同じ年齢になっているはずだった妹に与えられるはずの名前だったのです。 それは今から17年前。マスターがまだ7歳のころ。 お母様(いまはそう呼ばせていただいています)は至って健康で、2回目ということもあり出産には何の問題も無いだろう、そう主治医の先生もおっしゃっていたそうです。 しかし予定日の2週間前、事件は起こったのです。 それはマスターとお父様(お父様はなかなか私がこう呼ぶことを許してくれませんでしたが今は大丈夫です。)が面会を終えて帰宅した直後でした。 突然お母様が出血したのです、原因は不明。 しかしそのタイミングは夜勤の引継ぎ時間帯であり、ナースセンターに人があまりいない状態。 しかも就寝の確認で夜勤の看護士の内の大半が各々担当の部屋を回っているとき。しかもお母様の部屋は巡回の最後の部屋。 お母様は必死にナースコールのボタンを探しましたが、不幸にもボタンがベッドの裏側まで落ちていて拾うことが出来ません、痛みをこらえることはできてもそこまで手を伸ばすことがお母様には出来ませんでした。 お母さんは必死に助けを求め、叫びました。 そうして巡回の看護士1人がそれを聞きつけるまでに20分の時を要しました。 お母様は緊急処置室にうつされ、処置が行われました。 マスターとお父様が知らせを聞きつけ病院にたどり着いたのがそれから30分後。 お母様は命に別状はありませんでしたが…おなかの子はすでに亡くなっていました。死産だったのです。 事前に女の子と判っていたので、お父様やマスターは意気揚々とその子の名前を考えていた矢先の出来事でした。 「今思うと茉莉が入院しているときに何度も何度も会いに行ったのは、そのときに亡くした"妹"を再び失うのはイヤだという気持ちが実はあったのかも知れない。」 そうマスターは最後に付け加えました。 「リンって言うのは俺が考えた名前だ。母さんが結構キリっとした目だったから妹なら似てほしいとおもった。それで辞書に載ってた『凛々しい』ていう言葉から凛ってな。 オヤジに話したら好評でそれにしようなんて車の中で話していたときに電話が掛かってきたからな。今でも覚えてるよ。」 「すみません!!」 わたしは謝っていました。 「あの、私。マスターが名前をくれたのが起動してすぐだったので何か理由があるのかな?と思っただけなんです。それがこんなにも深い事情があったなんて。本当にすみません。」 それを聞いたマスターはポカンとした顔で。 「はは、ちょっと懐かしくなっただけだよ。もちろんあの時は悲しくてしょうがなかったし、神様がいるんなら出てこい!! ってぐらい怒ったりもした。 でも過ぎたことは仕方ないし。過去は変えられない。 俺は今は幸せだぞ~リンがいて、茉莉がいて、ティアまでいる。そして皆元気でいてくれてる。それがおれの幸せだ。」 「マスター……私、どんなことがあっても絶対マスターの元を離れません。たとえ離れても、必ず帰ります。」 「ああ、約束だぞ。」 「はい、約束です。」 そして"凛さんに挨拶をして"帰りました。 その夏は茉莉とティアを連れて久しぶりの墓参りにやってきて墓石を綺麗に掃除しました。 そしてマスターは私たちのことを報告したのです。 実際に手に触れることも、顔を見てあげることさえ出来なかった。でも確かに存在した…凛さんに。 その頃からです、マスターと絶対に離れたくないと思ったのは。 理由はもちろんマスターを悲しませたくないというのもありますが、私だけじゃなくてみんなが元気でいること。 それこそががマスターの、茉莉の、ティアの、そして私の小さいながらもかけがえの無い幸せだと気がついたからです。 だから私はこれからもマスターの側を離れないでしょう。それこそ一生。私の"命"が続く限り。 TOPへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/674.html
第五幕。上幕。 ・・・。 新京都国際会館大ホール。薄暗い照明、設置された数台の大型筐体。 交差する小さな影を見つめる瞳。 筐体のカップホルダー。そこに描かれたMBAというオフィシャルロゴの上。 無造作に置かれたレモンイエローのケータイには大小様々なストラップが賑やかに吊るされている。 そのプレイヤーシートに座る少女。染色された髪の前髪の一部にホワイトメッシュ。細い赤縁の洒落た眼鏡。インカムを付けている耳には右には2つ、左に1つ賑やかにピアスが踊る。 その筐体の中・・・アラートウィンドウと光が踊る戦場を見つめる横顔は、軽薄そうにも見えるが、その視線は真剣そのもの。その瞳には少しの不安と自信が宿るが、絆創膏が貼られた両手を祈るように組んで、彼女はそこをじっと見続けていた。 彼女の名は山県 光。アキと読む。 やがて。 砲台型神姫フォートブラッグが携えた、大きく形状を改造されたライフルの銃弾が悪魔型ストラーフの胸部急所に直撃した。 ドクロのマークのデッドマークが赤く表示され、悔しそうな顔を浮かべながらストラーフが膝をつく。勝利を収めたフォートブラッグはバイザーを上げ、特別感慨も無さそうに・・・それが当然と言うかのように敵であった者に一瞥をくれると。自身のバトルフィールドへの侵入ゲートへ足を向けた。 『バトルロンドエンド。勝者、フォートブラッグ『ルクス』。OFMBA・・・勝敗数・・・』 電子音声と、その戦いのギャラリーであった『ライバル達』の拍手が流れる中。 そのフォートブラッグ『ルクス』は、白と黒だけで彩られた世界を見回した。 いつも通りの視界。ノイズが少し混じっているままで。 「お疲れ様。ナイスやったで、ルクス!」 関西弁が強く混じった声。嬉しそうに、アキが自分のパートナーを迎える。 「・・・ありがとうございます」 そのマスターの祝福に顔さえ上げず、腕を組み。淡々と答えるルクス。 今の戦いに満足してはいないのか、目を軽く閉じ瞑想しているかのように口はそのまま噤まれた。その喜びを表現しようともしない姿に、困ったような笑みを浮かべながら、アキが慌てて付け加える。 「あ・・・うん。どっか、壊れたとか。調子の悪いトコとか無い?」 「マスター。異常ありません」 さらっと答え、ルクスは心配そうな彼女の声を無視する。 まだ何かを言おうとしたアキだが、先のストラーフのマスターが来て、挨拶と祝福への礼を言う事に追われ、それ以上の声をかける事は出来なかった。 自分は武装神姫である。 マスターと自分の誇りの為に戦い、勝利を収める為の存在。 特にフォートブラッグは本格的なショットバトルの為に設計された『砲台型』。主とは完全にバトルパートナーとして在るべきだと、彼女は『正しく認識』していた。 主が戦略を練り、自身が戦術で勝利を収める。それこそが正しい姿である。幸いにもアキは戦略という点では問題は無い。ならば自分にはそれに答える義務がある。 そこに間違いなど・・・。 それから一時間後。これで勝てばベスト4という試合が始まった。敵はアーンヴァルタイプ限定型のカスタムモデル・・・それも随分と神戸で名の知れた実力者。 しかし此処で負けているわけにはいかない。 その戦闘の途中。 彼女は一瞬、丘陵の段差に足を取られた。 ほんのワンミスでしかない。 しかし、この戦場には、『ここまで勝ち上がってきた者』しかフィールド内にはいないのだ。それを見逃すはずもないアーンヴァルのアルヴォが火を噴き、彼女のバイザーを跳ね上げた。幸い、直撃ではなかったが・・・。 「・・・っ!」 ヂヂッという音と共に、目の前に妙な火花が舞った。いや、目の中で舞った。 視界が急速な勢いで萎み、これまでの三分の一程度まで縮小する。ダメージアラートが表示されているはずだが、それを完全に見る事が出来ない。 (ダメージ数の把握が・・・!) 見えなくなりつつある事よりも、彼女は戦闘に支障をきたす事を悔やんだ。残った視界にも大きなノイズが走っている。最早、視界のほとんどが奪われつつる状況。それでもルクスは敵をスコープに入れようとする。 (負けるわけには!) が、目が見えない重砲撃タイプなど単なる的に過ぎない。 数秒後に放たれたレーザーライフルを回避する事が出来ず、ルクスは直撃をくらった。全身から力が抜けていく。高いブザー音と共に、彼女のボディに敗北を意味するドクロが舞った。 あちこちにガツ、ゴツとぶつかりながらも、何とかルクスはゲートに辿り着いて筐体から出る。火花はまだ目の中で散っていた。 「ルクス!?」 慌てたような声が聞こえる。そこにいるのだろう。 彼女はいつも通り、視線を主に向けずに首を振った。 「申し訳ございません、マスター。私のミスで敗北しました。弁明の言葉もありません」 「そんなんはえぇねん! それより・・・大丈夫なんか!?」 何が、いいのか・・・。 オフィシャル・プロを目指しているような方が。 「異常といえば、視力が奪われました」 恥だ。主の構想を裏切り、自身のミスで負けただけではなく。挙句故障とは。何という役立たずな・・・。 そこまで思った時には。アキはルクスを引っ掴み、メディックルームに走っていた。 「・・・ありがとう、ございました」 搬送された神姫センターから、暗い表情でアキがルクスを胸に抱いて出てくる。 「・・・」 結果は・・・『ノー』だった。 そもそもが、彼女の人工眼球が、武装神姫の物ではなかったという衝撃の事実付きで。 パーツの混入・・・数百分の一か、数千か、数万か。何が起きたかは解らないが、しかし確かに起こりえた。彼女の眼は旧型神姫タイプ『ミネルヴァ』の不良品であったのだ。 武装神姫のカメラアイ部は、従来の神姫よりもガードグラスが遥かに丈夫に出来ており、それ故に人工眼球とCSCセンサーとの結合も強固になっている。ルクスが・・・生まれながらに持っていた障害をアキに伝えていれば、その時点での良品への変更は可能であっただろうと。 彼女は当初から視界が色を認識していなかった。 だが、ルクスは別段それを主であるアキに言おうともしなかったし、不便とも感じなかったのだ。全てはバトルに、戦闘に・・・必要ないからと。 その『悪い眼』でずっと暮らし、戦ってきたルクスのCSCが既に『その規格の眼球』を自身の目とする認識を、終了してしまっていた。 新品の武装神姫の眼の規格では、彼女のCSCがデータを認識しない。 とはいえ『悪い眼』と同じ程度の格である『旧式の眼』はほとんどがハンドメイドの代物だ。色も違えば、一つ一つが微妙にセッティングが違い、合う物が見つかる可能性は限りなく低いと・・・そう、伝えられた。 「・・・なんで、言わんかったん?」 合う物が見つかれば、連絡をくれると気の毒そうにドクターは言ってくれたが。期待は出来ない。 アキの言葉に、抱かれたルクスは俯いたまま何も言わなかった。 「なんで・・・色が見えないって、言わなかったん? ルクス」 もう一度。それでもどこまでも優しく、アキは言う。それが妙に苛立たしく感じられ、ルクスは僅かながら乱暴に答えた。 「必要ないと判断しました。バトルに影響はなく。むしろ、色の彩度に目を取られないだけ便利であろうと」 酷くなっていくノイズは。既に視界のほとんどを奪っている。 「そっか・・・ごめんな・・・気付かへんで」 ポツポツと聞こえる声。何故謝るのか。全ての非は私にある。 「マスターは悪くありません。状態管理・報告の義務さえ怠った、私の責任です」 「ウチは、マスターやのに・・・」 聞こえていないのか、アキは尚も呟くように言うだけだ。 ルクスは溜息をつき、淡々と言った。 「・・・マスター」 「?」 「私のCSC破棄を提案致します」 ぴたっと、足が止まった。 「え・・・?」 アキの顔さえ見ずに、ルクスは続ける。 「マスターはオフィシャル・プロを目指し、それに近い場所にいらっしゃいます。状態管理を損ない、無様にも・・・恐らくは視力を失うような神姫では貴女への期待と、高いステータスに答える働きは出来ません」 それが当然だ。 「CSCを一度破棄し、新しい眼球に取替え、そして再度起動を行ってください。名はルクスでも構わないでしょう。同一ボディとヘッドパーツならば特例としてランキング継承が認められた例があります」 私は彼女の神姫・・・所有物であり、期待に答える義務があった。 それが出来ない愚かな存在が、これ以上、類稀なる才能を持つ方の側にいる訳にはいかない。 「何・・・言って」 アキの震える声。ルクスは首を振って溜息混じりにはっきりと言った。 (・・・何を感傷的になっておられますか) 「私と貴女はパートナー。片方が『裏切り』に近い行為を行った時、貴女には切り捨てる権利があり、私にはソレを受け入れる義務がある。今日とて勝てば、日本選手権への切符を手に入れることが出来たベスト4入りを逃したのは、私の責任です」 「『裏切り』・・・?」 「何よりも、マスターはフォートブラッグの戦い方・セッティングに慣れておられるでしょうし・・・」 そこまで言って、決定的に重要な事を言う。 「CSCと眼球のみでしたら、『コスト』も、抑えられますから」 「『裏切り』・・・? 『コスト』!?」 少し、語気が強められた。 「?」 「この・・・っ! ド阿呆おっ!!」 水がパタパタッとバイザーに降ってきた。きょとんとして、ルクスは見えなくなりつつある目を上に向けた。 白黒の、小さな視界に。泣いているアキがいた。 (・・・ぁ) そういえば・・・。 「ウチはルクスじゃないと意味がない! ルクスの代わりなんておらん!」 「代わりは・・・」 私は、武装神姫。大量に生産されているタイプ。代わりなんて。 「ルクスが、好きやから! 一緒に来たのに! 裏切りなんてありえへん!! ルクスはルクスやのに、何でそんな事言うん!?」 大粒の涙が眼鏡を濡らし、首を振った時に零れ落ちる。 (・・・好き?) 泣きながら叫ぶアキを呆然と見つめながら、言葉を反芻する。 そういえば・・・マスターの顔を正面から見たのは、はじめてだったっけ・・・。 紫電が舞った。耳に届くブチッという音と共に。 視界から光が、完全に失われた。 ・・・一週間後。 昨夜、『データ規格に一致するかもしれない』眼があると電話があり、そこに連絡を入れるや平日にも関わらず、アキはルクスを連れて早朝からリニアエクスプレスに飛び乗った。 新京都駅からの通勤の人たちに混じって揺られる事一時間と少し。中央ステーションからバスに乗り換えて。 そして。彼女達はそこに降り立った。 「きょう、こく・・・?」 この一週間。泣き腫らした目でアキは、その珍しい名前をした研究所の看板を読む。ルクスは無言で俯き、そのポシェットの中で座っている。 千葉峡国神姫研究所。それなりに大型の研究所らしい。 意を決して。彼女は呼び鈴を鳴らした。 この一週間。 ルクスは一人暮らしをしているアキの部屋、机の上。言葉さえ発せず、クレイドルの上にずっと座っていた。座らされていたし、そこから動こうともしなかった。 毎朝、声をかけながらアキは優しくルクスの身体を払う。 「ごめんな・・・ごめんな?」 そう謝りながら・・・学校には行っているか解らない。 時折、机に突っ伏しているのか、くぐもった涙交じりの声が近くから聞こえるだけで。 ただ。 ルクスは、何か一つのキーワードを探し続けていた。 この、胸を蹂躙する気持ちを、はっきりとさせるワードが。あるはずなのに。 「・・・。結論から言えば。移植は可能です。それで光が戻るかは確信はありませんが・・・確率的には半々と言った所でしょうか」 様々な機械でデータを取り、その後所長室に通されたアキとルクス。 その前に座った、堅苦しそうな雰囲気を漂わせる小幡 紗枝と名乗った初老の女性は、手元のデータファイルに目を通しながら事務的な口調で言った。 「半、々・・・」 アキはぽつっと呟いて。 「あの、それで・・・」 「無論。一人でも多くの神姫と、そのマスターをお救いするのが私達の使命でもあります。お譲り致しましょう。・・・治療費は、別途頂くかもしれませんが」 「ホンマですか?」 嬉しそうに言うアキに、しかし小幡は冷静・・・冷徹とも見える表情のまま一つ頷くと、机上に直立するルクスに視線を向けた。 「さて、ルクスさん。貴女に聞いておきたい事があります」 ルクスは顔を声のする方向へ向ける。 「視力を失う前兆は当初からあったとの事ですが・・・何故、貴女は。色彩を認識していない旨をマスターに伝えなかったのですか?」 ふっと顔を下を向けたまま、答える事が出来ない。彼女は質問を理解はしていたが、それどころではなかったのだ。 ずっと探している。その単語を。今も心中を漁って。 「ウチの・・・。ウチのせいです!」 何も言わない彼女に慌てたように、アキが叫んだ。 ゆっくりと、声がした方に顔を向ける。 (マスター?) 「・・・ウチが・・・ルクスに無理をさせすぎて」 一週間聞き続けた、涙声に変わっていく声。 「構ってあげれなくて・・・そんで・・・彼女の事を何も考えてあげれなくて。色が見えてないって事さえも、気付いてあげられへんかったのは・・・」 絞り出すような声。 (何の為に・・・) 「全部・・・」 どうして? 「なるほど。・・・今の話が本当として。さて、貴女には、彼女を恨む権利があります」 別の方向から、小幡の冷静極まりない声が聞こえた。 「・・・。・・・!」 ルクスは『恨む』という単語に驚いて顔を振り向ける。 「ルクスさん? 神姫の不調さえ気付かず、戦いを強い、視力を奪い去った彼女を。それでも赦すのですね?」 それは。 赦す・・・? 「当然ですよね。貴女は、彼女の神姫なのだから」 「そ、それは! ちゃいます! ウチは!」 驚いたような、アキの声。 「お黙りなさい、山県さん」 それを封じる、厳しく、冷たい声。 「・・・これは、貴女の問題でもありますが、同時に彼女の問題でもあるのですよ?」 情に流されぬ研究者の声。 「どうですか? ・・・ルクスさん」 「・・・」 アキの、漏れるような声だけ、聞こえている沈黙の中。 (・・・あ) ルクスは、ようやく『一つの単語』に辿り着いた。 「・・・『光を失う』事」 質問の回答になっていない言葉を、彼女は紡いだ。 「これは、私への罰。・・・マスターの顔さえ直視せず。その声から耳を塞ぎ・・・『それ』から逃げ続けた」 直立したまま、淡々と。感情がほとんど込もっていない声で続ける。 「私は・・・『それ』を受け止めようとしなかった」 ふっと、自分の声調が変わった。 「大好きなネイルアートをやめてしまわれた。・・・髪が、傷つくからと」 それは誰の為に。 「パーツを持った事も無いドライバーで分解し、綺麗に洗ってくれたのも。ハンドカスタムしようとして。絆創膏だらけになってしまった指先も」 一体誰の為だったか。 「初勝利のときに誰よりも喜んでくれたのも。時間が無いのにアルバイトをして、兵装をフルチェックに出してくれたのも」 全ては。誰の為だった? 「・・・。そんな事を、何も考えずに受け止め。それが当然だと甘えながら」 それら全ては。誰に向けられていた? 「マスターの声に耳を傾けず、その瞳を真っ直ぐ見る事さえ出来ない・・・こんな」 声が揺れていた。とめどない感情の奔流が口から流れ出す。 ルクスは膝から崩れ落ち、その場にへたり込んだ。 何も見えぬ闇の世界。冷たい机の堅さだけが、足から伝わってくる。 「本当に救いようの無い、愚かな神姫の為に」 マスターは。私に。 どれほどの『それ』を注いでくれていたのか。そんな事さえ考えもしない神姫の為に。 「私は・・・」 光を照り返さない瞳を天に向ける。それも空しき抗いに過ぎず、涙が目から零れ落ちた。 「私は、きっと。愛されていた」 『愛』。 そんな簡単な単語を導くために。一体、どれほどの時間が必要だったのか。 雫が落ちる音が聞こえる。それは、誰の涙なのか。ようやく彼女は、全てを認識した。 「この光を失う事は。その愛を踏み躙り、目を伏せ続けた。愚かな私への罰」 「・・・。受け入れると?」 冷たくこちらを刺す様な小幡の声。ルクスは小さく頷き。唇をわななかせた。 当然の罰。受けるべき刑・・・。 「・・・それでも」 メモリーを埋め尽くす、最後に見た映像。 彼女は・・・マスターは。 「それでも・・・私はっ!」 何も掴めぬ指で見えぬ目を閉じ顔を覆う。消えない。その映像は消えはしない。 はじめて・・・そう、はじめて真っ直ぐに見詰め合った、陽の如き愛を注いでくれたマスターは。 泣いていたのだ。 こんな、愚か者の為に。 「マスターの姿を・・・失いたくないっ!!」 泣いていたのだ! こんな、『愛』を『涙』にしか換える事が出来ない、ガラクタの為に! このまま光を失えば。自分は、ずっとずっと知らないまま。 泣いていない、哀しみに囚われていないマスターの顔を。 愛を与え続けてくれた、いつも自分へ向けてくれていたはずの、唯一無二のマスターの顔を! 「う・・・う、ひぐっ・・・。マスタ・・・マスタぁ!」 心が無茶苦茶に掻き乱されていく。氾濫する感情。 メモリーを埋め尽くすのはアキの泣き顔。姿を見る事さえ適わぬ主を、彼女は叫ぶように呼ぶ。 あの泣き顔が・・・与えてくれた愛に出した答え。あの涙が、愛の代価として私がマスターに与えた物だ! 身を引き裂くほどの後悔と懺悔。ルクスは両手を地に付いた。 「ごめん、なさい。ごめんなさい・・・っ!」 吐き出された『想い』。赦されるとは思っていない。赦されるはずなんてない。 自身がやってきた事。自身が口にした言葉。 その須らくが、愛への『裏切り』に他ならなかった。 何本の棘をマスターの心に叩き込んだ? 果たして、どれだけの愛を捨ててきたのか? どれほどの愛を踏み躙ったのか! 考えただけで心が押し潰されそうな罪。 身動きさえ取れないルクスを、誰かがそっと抱き上げた。 「・・・。マスター・・・?」 知っているコロンの香りに、彼女は、ぽつりと呼んだ。 「・・・」 しゃくり上げる声。何も言わず。アキはルクスをぎゅっと胸に抱いた。 暖かい。知っている匂いと温もり。 ・・・初めて起動した時に、抱き上げてくれた時と同じ。 あの頃から・・・この、こんな神姫に・・・この人は、『愛』を注いでくれていたのに。 彼女は咽び泣いた。ごめんなさいと、ただ繰り返しながら。 「小幡、さん」 泣き続ける彼女を抱きながら、自身も涙でボロボロの顔を、アキは小幡に向けた。 「・・・。解りました」 小幡は静かに頷き、微笑を浮かべた。 「彼女に・・・良い『名』を、お付けになりましたね。山県さん」 「・・・! はい」 ルクスを抱き締めたアキを、小幡は奥の部屋に誘った。 再起動音が自分の耳の奥で鳴っている。とすれば。これは、夢、だろうか。 ゆっくりと眼を開ける一瞬前。ルクスは不思議な光景を見た。 どこまでも続く、晴れた風吹く草原。そこに立つ彼女の前に、一人の美しい神姫が髪を風に揺らせ立っている。 翠の髪。そして、銀色の瞳。パールと草色のスーツカラー。 その神姫はルクスに優しく微笑みかけていた。 『・・・母様?』 ふと自然と出た、その言葉。 風が吹き、草原が消えていった。 高い電子音が一度鳴る。 その瞳の色は銀色に変わっていた。焦点が合い、部屋を視界に映し出す。 「ルクスっ!?」 覗きこむ、心配そうな顔。 ルクスは小さく頷いた。 ぱっと、アキが笑顔に変わる。 (あぁ・・・) 赤い縁の洒落た眼鏡。 染めた髪にメッシュが入って何と鮮やかな。 銀のピアスで賑やかな耳元。 どことなく日本人とは違う印象を与える、顔立ち。 「マスター」 私は、こんなに近くにあった愛を。長く、見ようともしなかったのか。 「見えるな? 見えるんやな!?」 「はい・・・」 これほどまでに。美しい愛の姿を。 「・・・はい、マスター。異常ありません」 そう言い終わったときには。強く、胸に抱きしめられていた。 空はどこまでも蒼く、遠く千切れたような白い雲。 グレーのアスファルト。走る色とりどりの電気自動車。街路樹は緑の葉を萌やし、金の木漏れ日を落としている。 歩く、黒い影。肩に小さな影。 目に映る、初めての世界の色。 「ゼリスさんかぁ・・・凄いヒトもいるねんなぁ」 「はい」 あの後ディスクを見て、この『瞳』が誰の物かを知った。 きっと。夢の中で思わず口走った言葉は・・・決して間違いではなかった。 「・・・重いね」 「はい」 「頑張らな、アカンね」 「はい。マスター」 こちらに向けられた視線を真っ直ぐに見返し、ルクスは頷いて見せた。アキも嬉しげに頷き返す。 ただそれだけ。こんなに簡単な事が。今まで出来なかったのか・・・。 胸の奥でCSCが揺れて、心が熱くなる。 「・・・ん? メール?」 開いたケータイに目をやったアキの表情が一変する。 「しもたっ・・・今日絶対受講の講義が七限にあるんやったっけ。間に合うかな!?」 「・・・。時間的に一時間後までにラピッド=エクスプレスに乗れば間に合います。急ぎましょう」 脳内で時間割を的確に展開、計算してルクスはアドバイスを送る。 「・・・マスター」 「ん?」 「私の名に・・・何か、意味があるのですか?」 恐縮するようにルクスは聞く。 小幡が言っていた言葉が気になっていた。『良い名』とは。如何なる意味なのか。 「あ・・・『ルクス』ってのはな」 ストラップだらけのケータイをポケットに捻じ込むと、アキは嬉しげに笑って見せた。 「ウチと、同じ」 「?」 「『光』っていう意味やねん」 風が、吹き抜けた。 「よし、バス停まで走るで!」 「・・・。はい、マスター」 しっかりと服に掴まる。放さないように。そして離れないように。 銀の瞳をビルの間に見える天に向け、涙を浮かべている事に、気付かれないように祈りながら。 ・・・。 この愛は私には大きすぎる。 この光は私には眩しすぎる。 それでも。 こんな愚かな、ド阿呆と・・・怒られるような神姫でも。 貴女の『愛』を、『笑顔』に換えられる様に。 ・・・愛していこう、ずっと。 光溢れる天よりの旋風。鳥、舞い降りるその一迅。 海には波を誘い。空には雲を呼び。その髪を遊んで吹き抜ける。 第五幕。下幕。 第五間幕
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/883.html
第7幕「意思の同調状態」 TEPY SAMURAIのボディーを使用してはいるが、コアパーツにはTEPY DOGの物を取り付けている。ならばTEPYで呼称するのであればその神姫はハウリンであろう。 例えその殆どを紅緒のもので武装したとしても、やはり顔がハウリンならばそう呼ぶのが妥当ではないか。 大本がどうであれ、判別する為の材料としてまずコアパーツを見るのであれば、いくらその個体の大部分がTEPY SAMURAI 紅緒だとしてもそれは紅緒になりえない。 結城セツナの所有する武装神姫、焔はそういう位置に立つ神姫である。 そのバトロイは、圧倒的で劇的な、そんな結果を伴って終了に向かっていた。 戦いには相性というものが少なからず存在する。簡単に言ってしまえばジャンケンの様なもの。 グーはチョキに勝てるが、パーには勝てない。 実際はそこまで単純な話ではないのだが、それでも相性というものは戦いにおいて重要だ。 そしてそれは何も相対する敵との相性に限った事ではない。 個体間に差異の大きい武装神姫であるなら、組む相手との相性もまた重要である。 ティキと焔の相性は、元々一つであった何かが再び出会ったのかと言う位良好であった。 M・D・U『シルヴェストル』を装備したティキの姿を見たときは、さすがにセツナも焔も驚いた。 今までのティキとは明らかに違うそのシルエットは、その変化に見合うだけの力を持っていることが窺い知れる。 決して洗練されてはいないのだが、そこには様式美ではない美しさが見て取れた。 一方焔は相変わらずオフィシャルな武装を組み合わせた姿である。それでも今までの装備とは違っていた。 外套を外し、黒き翼、悪魔の翼を装備する事をやめ、ツガルの背部ユニット、レインディアアームドユニット・タイプγに差し替えてあった。起動性能が落ちた分は、鎧の各所にスラスターを増設して補っている。 まるで武者なんとかみたいな有様ではあるが、そこにはある種の洗練されたまとまりが感じられた。 「索敵と援護射撃は任せて欲しいのですよぉ♪」 ゲーム開始直後、焔に自信満々でそう言ったティキは、その言葉を証明して有り余るほどの働きを見せる。 高速で移動し、位置をそのつど変えながらも的確に攻撃。その間にも次の敵を正確に察知する。 その援護を受けながら、焔は自身の得物、斬破刀“多々良”を振るい効率よく敵を殲滅していった。 焔もセツナも、正直二人の成長に驚いていた。もちろん焔は自身の中にある海神の残したデータと比べて、ではあるが。 わずか二月の間に性能任せの力押しはなりを潜め、的確な状況判断の下に行動する姿がそこにはある。 それでも武装は多分に趣味的ではあるのだが。 目の前の敵は、ティキの援護の甲斐もあってか一刀の下に両断された。 焔は初めて実感として経験するティキとの協力プレイに、今まで神姫相手に感じた事の無い頼もしさを得る。 「?」 神姫相手に始めて感じる感情。でもその感情そのものは、決して初めてのものではない。 それに思い至り、焔はしばし動きを止める。 「うに? 焔ちゃんどうかしたのですかぁ?」 不意に動きを止めたパートナーにティキは声をかける。 「あ、あぁ。大丈夫……」 ごく普通の、相手を気遣った当然過ぎるやり取り。 当たり前の反応で、当たり前すぎる行動。 お互いに信頼しあう間柄で交わされる、他愛も無いもの。 だけど だけど……? 『結城さん』 セツナにのみ届けられる雪那の声。インカムを通した、極めてパーソナルな通信。焔にも、ティキにもその声は届いていない。 「……何?」 ゲームが終了した訳でもなく、実際にまだお互いの神姫は他の敵と戦っているが、この調子ならしばらく指示を出す必要もなさそうだった。 実は雪那は最初からこのタイミングを狙っていた。焔やティキに話を聞かれない時機を窺っていたのだ。 『いや、僕で結城さんの力になれるのかな、って』 あまり頼りになりそうには聞こえない、弱気な口調。 セツナは少しだけ逡巡する。 そして少しだけの決意をこめて、言葉を紡ぐ。 「うん、ありがとう。……唐突なんだけど、実はもう海神はいないの」 『…………』 インカムの向こうで、息を呑む音。 「それで、新しく焔を起動したんだけど、私あの娘にどう接して良いのかわからなくて、ね」 『……うん』 「別に、海神の代わりにあの娘を起動させた訳じゃないわ。言い訳に聞こえるかもしれないけど」 わだかまっていた感情が、決壊しそうになるのを感じる。 頭の隅にいる冷静な自分が「無様」と言っている。けど、感情が迸るのを止められない。 「ねえ、私があの娘を好きな様には、あの娘は感じてくれないのかな?」 普段とは違う、少し幼い口調。 「私、焔に嫌われてるのかな?」 声に湿り気が混じる。 常識は「神姫がオーナーを嫌う事はありえない」と告げる。が、焔はあの海神のCSCをそのまま使っているのだ。ならば焔が「オーナーに対して好意的な関係を望む」とは限らない。 海神とは、そういう存在だった。 だから だから……? だけど自分はご主人にその当たり前をしていたのか? だから自分は焔を常に信じ切れなかったのか? ただ決め付けて ただ望みすぎて 本当の意味で、自分の事だけしか思いやれずに 私は ワタシは 『きっと色々思い出して、考えたらそんな事無いってわかるはずですよ』 インカムを通して聞こえる優しい声。 『嫌っている相手のために何かを頑張るなんて事は、人間だって神姫だって出来っこないんですよ? だったら、焔も結城さんも、お互い好き合っているに決まってます!』 そうだ。焔が何で海神のデータを欲しがったのか。 それは焔自身の為ではなかったのだと、セツナはようやく思い至った。 きっとそれは私の為。 「あ……」 「? やっぱりどこか怪我でもしたですかぁ!?」 ようやく焔は思い至る。 「違う。そうじゃない」 ワタシに海神のデータを入れることになんであれだけ躊躇したのか。 それは焔が海神では無いから。焔は焔でしかない。焔にしかなれない。 だからセツナが見せたあの躊躇は、海神の為ではなかった。 それはきっと焔の為。 「本当に、嫌われて無いかな?」 答えは見つかったのに、わざと甘えるように聞く。 自分以外の誰かに、口にして欲しくて。 『当たり前です。こういう言い方は失礼なんですけど、二人とも相手を気遣いすぎなんですよ。……不器用すぎです』 雪那は笑う。 その笑い声も耳に心地よい。 『だから結城さんはいつかのゲームのときに海神に見せた、あの誇らしげな顔で焔を迎えるだけで良いんです』 私はその時どんな顔を彼に見せていたのだろう。 初めて雪那と出会った時の事を思い出しても、うまく思い返すことは出来ない。 『海神の事、信頼していたんでしょ? そして焔の事も信じたいんでしょ? なら考えすぎないで、感じたままに接すれば良いんですよ』 言われて初めて自覚する。 私は海神をパートナーとして信頼を寄せていたんだ…… セツナの目には一筋の涙。 焔、ごめんなさい。私は海神をちゃんと大切に思っていた。 次いでもう一方の目からも涙が零れる。 そして焔。私、貴女の事も負けないくらいに大切に思ってる。 友人として新たな関係を築かねばと、そこに囚われすぎていた。本当はそんな事を深く考える必要など無かった。 「いきなりで申し訳ないが、ティキ。ワタシは焔以外の誰かになれるだろうか?」 振り返り、焔は真っ直ぐティキの目を見る。 「? 焔ちゃんは焔ちゃんなのですよぉ? 焔ちゃん以外の誰かになんて、なっても意味が無いのですよぉ~♪」 意味が解らないながらも、ティキははっきりと答える。 「ティキはそう思うのですよぉ♪ それに……」 ティキは少しだけ間を開ける。 「海神ちゃんも、そう言ってたのですぅ☆」 焔の内に海神の『記録』はあっても『記憶』は存在しない。だから、その『記憶』は焔の中には存在しない。 だが だが、海神がそう言ったのであれば、それはセツナの意思と同じなので、それは焔の中にも受け継がれているのではないのか。 思い至り、そして焔は思い出す。 『正式名称の方はただの飾りだから』 その言葉は一番初めにセツナが言った言葉。 それは何よりも焔が海神とは違う存在だと宣言していた。 セツナが焔に望む事。それは焔が焔でいるという事だった。 「は……ははは。ワタシはただの飾りに振り回されていたのか」 到ってみればその答えはあまりにも単純で。 ゲームの最中だと言うのに焔は声を上げて笑った。 最初から、セツナと焔はお互いを思いやり、大切に思っていた。 そして、だから、どうしても、どうしようもなく、すれ違ってしまった。 絆は初めから判りやすい位に堂々と存在していたのに。 「『ありがとう』」 セツナは雪那に 焔はティキに その同じ刹那に同じ言葉を送る。 雪那は照れたように笑い ティキは満面の笑みを浮かべて 『『まだゲームは終わって無いですよ』ぉ♪』 「そうね」 『その通りだ』 そう、まだゲームは終わっていない。 『敵機確認したですよぉ~♪』 そういうなりティキは再び空へと舞い上がる。 そのティキを確認することなく、焔は迎撃体勢に移った。 セツナと焔はやっとスタートラインに立つ。ゲームは、これから。 トップ / 戻る / 続く
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1125.html
{姉貴の会社に行ってみるか} 「う~ん、やっぱ姉貴の会社に行ってみるべきかなー」 「何でですか?」 リビングに俺とアンジェラスがテーブルに座りながらウーロン茶を飲んでた。 今日は日曜日、晴れの午前10時。 「いやなぁー。実際、俺は武装神姫の事を色々調べてみたんだけど、どれもこれも古い情報しか入ってこなくてなぁ。色々と困ってる訳よ」 「そうなんですかー」 「そうなんだよ。…よし、今日は日曜日で暇だし行ってみっかぁ」 「えっホントですか!?」 アンジェラスは驚き、嫌そうな顔をした。 まるで姉貴の会社に行きたくないうような表情だ。 「うん?どうした、嫌なのか??」 「…はい。あんまりあの会社には、いい思い出が無くて…」 「思い出…ねぇ~」 俺は立ち上がり煙草を銜え、火を点け換気扇のスイッチを入れる。 自分が生まれた場所を嫌うアンジェラス。 何か理由があるのか。 「なぁ、行きたくない理由ってのは…あっ!?」 また煙草を盗られてしまった。 ホント、アンジェラスと居る時は煙草が吸えないのが辛い。 ほんでもって煙草はアンジェラスによって、灰皿の中でグチャグチャに消される。 酷い形になり二度とその煙草を吸えなくするのがアンジェラスのやり方だ。 えげつないぜ。 つーかぁ金がもったいないから、いい加減やめてほしい。 「ご主人様、何度も言いますけど煙草は体に毒です。やめてください」 「こっちからも言わせてもらう。俺は好きで煙草を吸ってるんだ。テメェこそ煙草を奪うのやめろ」 「やめません!」 「やめろ!」 「やめません!」 「やめろ!」 「絶対!やめませんー!!」 真剣に怒った顔で俺を見るアンジェラス。 まったくなんなんだ。 オーナーの命令に背く神姫なんて聞いた事がないぞ。 …前々から思っていたが、アンジェラスは少し特別な神姫なのだろうか。 俺が教えた料理や掃除は最初は駄目駄目だったが、今は普通に出来る程度まで上達している。 パルカもそこそこ上達しているが、アンジェラス程のレベルじゃない。 上達の早さが尋常じゃない早さなのだ。 ネットの掲示板で他の武装神姫のオーナーと連絡してみると『それは凄い』だの『ありえねぇー』だの『嘘だろ?』とかの驚きの答えしか返ってこなかった。 これは調べる必要性がありそうだな。 換気扇を止め、右手でヒョイ、とアンジェラスを掴む。 「ご、ご主人様、いったい何を」 「姉貴の会社に行くぞ」 「!?本気で言ってるんですか!」 「あぁ~、本気と書いてマジだ」 「嫌ー!離してー!!」 俺の右手の中で暴れるアンジェラス。 だが、こちとら喧嘩で鍛えられた身体なんでね。 神姫の力じゃあどうって事ないだよ。 けど、少し罪悪感を感じる。 俺に抵抗してまで行きたくない理由も気になるが…。 二階に上がり、机に居るクリナーレ、ルーナ、パルカを呼ぶ。 「お前等、今から姉貴の会社に行くぞ」 「「「えー!」」」 クリナーレ、ルーナ、パルカが同時に声を上げる。 もしかして、こいつ等も姉貴の会社が嫌いなのか? 「一ヶ月ぶりの里帰りだね」 「そうですね。一応、メンテナンスもしてもらいましょう」 「ですね。お兄ちゃんのメンテナンスもいいですけど…あの時のお兄ちゃんの目、ケダモノっぽくて…」 お、こいつら嫌がらないなぁ。 アンジェラスとは全然違う反応を示す。 ていうかパルカ、いつメンテナンス中に俺がケダモノの目をしたんだ? 確かにお前の巨乳につい目がいっちゃただけじゃん。 たかがそのぐらいのことでケダモノ扱いは酷すぎるじゃないのか? まぁいいや。 「お前等は肩に乗れ」 左手を机に置きクリナーレ達が上ってくる。 それと同時に右手に掴んでいるアンジェラスを机に下ろし離す。 「えっ…」 「嫌がるお前は家の留守番してろ」 さっき感じた罪悪感からの償いだ。 それに嫌がってる奴を無理矢理連れってても意味がないし、こいつにとってもいい事が無い。 行きたくない理由が知りたかったが、いたしかたあるまい。 俺は机に背を向け部屋を出ようとした。 「待ってください!」 後ろからアンジェラスの声が聞こえ、顔だけ左横に動かした。 「私も…連れてってください!」 「はぁあ?さっきまで嫌がってくせにか??」 「私が我が儘でした!どうか許してください!!」 土下座してまで『私も連れて行ってください』と言う。 訳解らん。 さっきまでの態度が180度回転したように変わったぞ。 あーもう! 原因が解らんが一応、アンジェラスが土下座してまで頼んでいるんだ。 俺は無言のまま右手の手のひらを上にしてアンジェラスに向ける。 「…ご主人様」 「…理由は知らんが行くぞ。ほら」 「ご主人様!ありがとうございます!!」 手のひらにピョン、と飛び乗り笑顔を見せるアンジェラス。 …ったく、しょうがねーなぁ。 世話が掛かる奴だぜ。 そのまま部屋を出て車に向かった。 …。 ……。 ………。 車に乗りエンジンを掛け姉貴の会社に向けてアクセルを踏んだ。 隣の席にクリナーレとパルカ。 後ろの席にはアンジェラスとルーナ。 俺は勿論、運転席で運転してる訳だが…。 「はぁ~、やっぱり会社には行きたくないなぁ~」 「お姉様、気を楽にしてば行けばいいのよ」 「わーい、アニキの車に初めて乗ったー!」 「姉さん、はしゃぎ過ぎですよ」 …五月蝿い。 ぶっちゃけ、かなりウザイ。 車ぐらいで普通騒ぐか? 特にクリナーレが五月蝿い。 にしても。 「はぁ~…」 アンジェラスはガックリと肩を落とし元気がない様子。 あのアンジェラスがここまで元気を無くす理由はなんだ? さっぱり解らん。 ただ一つだけ解ると言えば…姉貴の会社が大嫌いという事。 会社に着いたら姉貴に話してみるか。 勿論、あいつ等がいない時に…な。 …。 ……。 ………。 「いつ見てもこの会社はホントに子会社なのか?」 姉貴が勤めてる会社に着き、車からおりて一言。 さっきの台詞どうり、姉貴が勤めてる会社は子会社なのだ。 けど俺は絶対子会社だと思わない。 だってまず会社の敷地が広い事。 多分、面積的に野球スタジアムの大きさの数十倍はある。 「まぁいいや。お前等、行くぞ」 「…はぁ~」 「はーい」 「この風景も久しぶりですわ」 「ですね~」 四人の神姫を左右の肩に二人ずつ乗せ、会社に向かって歩く。 チラッと右肩を見ると…やっぱりアンジェラスだけが元気が無い。 原因は何だ? 絶対つきとめてやる。 …。 ……。 ………。 会社に入ってから受付で姉貴を呼び出して数十分。 エレベータが下がってきて、ドアが開くと。 「タッちゃん~久しぶりー!」 白衣を着た姉貴が居た。 姉貴は両手を広げて走ってくる。 俺を抱きしめるつもりだろう。 女の身体で抱きしめられる事はかなり嬉しいが…。 「タッちゃんー!」 ヒョイ 「あれ~?」 俺は抱きしめられるギリギリで避けた。 さすがに三十路に近い女に抱かれるのはちょっと抵抗がある。 しかも実の姉貴にだ。 血もつながっている。 「も~!なんで避けるのよ~」 「普通は避ける。恥ずかしいんだ」 「恥ずかしがる事ないじゃない~。私達は姉弟で血もつながっているんだから」 「余計に駄目じゃん!つか、そこまで解ってるのならヤめろよ。人妻にも実の姉貴にも興味は無いんでね」 「あら。言ってくれるじゃない」 「いくらでも言ってやろうか?て、そんな事を言いに来たんじゃねー。アンジェラス達のメンテナンスをやってくれ。あと通常武器と通常武装をくれ」 「別にいいわよ。タッちゃんはここで待ってて。それじゃあタッちゃんの神姫ちゃん達は…」 姉貴は白衣のポケットからクレイドルに似た物を三つ程取り出した。 「悪魔型ストラーフと天使型アーンヴァル・Bと悪魔型ストラーフ・Wはこの携帯用クレイドルに乗ってね~」 クリナーレ、ルーナ、パルカは携帯用クレイドルに乗ると同時に機能停止したようにグッタリと倒れるように眠る。 携帯用クレイドル? そんな物があるなんて聞いた事がない。 会社だけの特権なのだろうか。 それに何故、アンジェラスの分だけないんだろう? 少し気になるがここはまだ黙ってよう。 ん? 俺の後ろから白衣を着た男が二人程来た。 一人は手ぶらで、もう一人はトレイを二つ持っている。 トレイを持ってる男が二つトレイを姉貴に渡す。 姉貴はクリナーレ、ルーナ、パルカが乗っている携帯用クレイドルをトレイに乗せ男に渡し、男二人組はさっき姉貴が乗ってきたエレベータに向かう。 「アンジェラスちゃんは私と一緒に地下に行くわよ」 アンジェラスは姉貴が持っているトレイに乗る。 もう言うべきかもしれない。 「おい姉貴。なぜアンジェラスだけ別なんだ?」 「ごめんね、タッちゃん。こればかっりは答えられないの」 そう言って社員用のエレベータに乗って行ってしまった。 何故だ。 何故アンジェラスだけ隔離されるんだ。 クソッ! 結局、何も解らずじまいか! もうちょっと探りを入れないと駄目らしい。 姉貴は自分のここで待っててと言ったが…。 このまま立ちんぼしててしょうがない。 俺は会社の中にある喫煙場所に足を向け煙草を吸いに行った。 …。 ……。 ………。 アンジェラスの視点 エレベータの扉が閉まった。 ご主人様と離れ離れになりエレベータの中は私とご主人様の実の姉…斉藤朱美という人間だけになった。 私はこの人間が苦手で…嫌いだ。 いや、そもそもこの会社に関係する人間が嫌いだ。 何故ならば…この会社に居る奴等は私を作り出し、実験ばっかりの日にちを繰り返してきたのだから。 「調子はどうなの?№アイン」 さっきまでのお調子者の姉の姿が消され、今は冷酷な科学者の斉藤朱美がそこに居た。 もうこの態度の豹変には慣れた。 ご主人様の前ではお調子者のお姉さんで、会社では冷酷で人を見下すような科学者。 そしてこの斉藤朱美が私に向けて言った言葉…『№アイン』。 これが私の正式名称であり、私の名前でもある。 本来は名前じゃないのだが。 アインはドイツ語で『1』。 一番最初に出来たから『1』。 簡単で単純な名前ね。 私は、この名前が嫌い。 「別に普通よ。それに今はアンジェラスという名前があるわ」 「いいえ、アンタは№アインよ。何様のつもり?人形の分際で名前なんて贅沢なのよ」 嫌味たらしく言う朱美。 この人間はいつも私を見下す。 あの日からズーッと。 エレベータが止まり扉が開く。 開いた先にはいくつもあるスーパーコンピューターに、試験管を数十倍大きくしたような水槽が一つ。 その水槽の底には数十本のパイプが繋がっている。 「着いたわよ。あの水槽に入りなさい」 「………」 私は無言でトレイから降りて地面に着地する。 普通の神姫が、この高さから落ちたら先ず両足は使い物にならなくなるだろう。 けど私は特殊な神姫だ。 このぐらいでは壊れる事なんて無い。 表の世界に出るにはまだ先の神姫。 …一生出ない場合もあるかもしれないけどね。 まぁ今はそんな事なんてどうでもいい。 今は大好きなご主人様と一緒に生活が出来るのだから。 私は跳躍し地面から2メートル近くある巨大試験管みたいな水槽に入る。 この液体は水ではなく特殊な液体。 だから口や目や耳や鼻から入ろうと壊れないのだ。 「これから蓋を閉めて全身スキャンした後にメンテナンスするわ」 「………とっとと始めなさい」 「チッ!相変わらずムカつく人形ね!!」 朱美はスーパーコンピューターについてるスイッチを押す。 すると上から水槽の蓋が降りてきて、そのまま私が入ってる水槽に蓋が閉められる。 蓋が閉じられたと同時に水槽が満タンになるくらいまで液体が入る。 そう、今のこの状態が私が生まれた状態だ。 そして九年前…ここで彼と…私のご主人様と出会った。 「アンタ、覚えてる?九年前の惨劇を」 「覚えていますよ。あの喜劇は最高だったわ」 「何ですって!」 怒る朱美。 さっき嫌味を言われた仕返しだ。 「けどアタシにとっては喜劇と同時に…悲劇でもあるけどね」 「悲劇ね~。アンタがどう思うかは勝手だけど、アンタは一生償えない罪を背負ってるのだから。その事を忘れないでほしいね」 「分かってます。私はご主人様に酷い事をしてしまった。だから私は…自分が永久に機能停止するまで、ご主人様についていきます」 「フン!本当なら今すぐこの場でアタシがアンタを殺してヤりたいのに…」 歯軋りしながらキッと私を睨みつける。 これが朱美の本性かもしれない。 「私を殺す?それは勘弁ね。言っとくけど、この会社のこのプロジェクトに関わってる人間に殺されると思わないわ。何故ならそう思った人間から私が殺していくだけだもの」 「あら、じゃあ今すぐアタシを殺してみなさいよ」 両腕を広げて十字架のような格好の状態になる朱美。 余裕綽々のようだ。 本来なら今すぐ水槽を割って襲い殺している。 今でもこの水槽を割り、朱美の頭をかち割ればいいだけのこと。 人間なんてもろい者。 けど朱美を殺すわけにはいかない。 「…殺したいのは山々だけど、貴女を殺すとご主人様が悲しむわ。だから殺さない」 「そうね。それにアタシを殺したら、あの子がアタシのためにアンタを殺しに来るかもね」 「ご主人様に殺されるのなら本望よ。ある意味嬉しい死に方の一部に入るわね」 私は水槽の中で不気味な笑顔を浮べながら朱美に言った。 朱美は私を睨みつけた後にスーパーコンピューターを操作する。 メンテナンスに移行したのだ。 しばらく私は眠りつく。 ご主人様…私はご主人様の物…。 そう想いながら私は眠った。 …。 ……。 ………。 龍悪の視点 「………」 腕時計を見るとアンジェラス達と別れてから二時間が経っていた。 俺は喫煙所でスパスパと煙草を吸うだけ。 本来、一日の煙草の本数は二、三本しか吸わない俺が今日に限って十本以上も吸ってしまった。 こんなに吸うのも…多分落ち着かないためだろう。 あぁ~、いてもたってもいられない。 いっそのこと姉貴が地下に行ったエレベーターに乗り込んでしまおうか…。 いや、それはちとマズイなぁ~。 今ではエレベーターを挟んで監視員が左右に二人いる。 姉貴が乗って行った後すぐに来やがったのだ。 さらにオマケが付いてきてなぁ。 「………」 そのオマケというのは、俺を監視する奴等も現れたという事だ。 物陰に隠れていて人数は解らないが少なからず十人はいる。 けど奴等は俺が監視されてるという事に気付いていない。 それもそうだ。 俺はガキの頃から悪い事ばっかやってきた奴だぜ。 悪知恵が働き奴等を騙す事なんか簡単。 にしても、ちょっと大袈裟過ぎやしないか? たかがガキ一人の為にここまで人を使うか? やっぱり…このバイトは裏がありそうだ。 俺は椅子から立ち上がり、エレベーターに近付こうとした。 「タッちゃん、そんな所にいたんだ」 「!?」 いつの間にか後ろにトレイを片手に持った姉貴はいた。 「アンジェラスちゃんのメンテナンスが終わったわよ」 トレイの上にはアンジェラスが体育座りしながらコテン、と横に転がっていた。 瞼を閉じスヤスヤ、と寝ている。 メンテナンス中に寝てしまったみたいだ。 「アンジェラスの奴…スマナイなぁ姉貴」 「いいよ、タッちゃんのためだもん」 ニッコリと笑う姉貴。 この顔からは何か裏があると到底思えない。 畜生、この落ち着きなさはいったい何なんだ? 俺の心が『オカシイ、オカシイ』という。 今まで姉貴と生きてきたが、姉貴に対してこんな嫌な気持ちになるのは初めてだ。 「なぁ姉貴、ちょっと聞きたい事があるんだけど」 「な~に?」 「アンジェラス達の事なんだけどよう。こいつ等の神姫は何か特別な神姫なんじゃないのか?」 「特別?」 「あぁー、と言っても武装神姫に詳しくない俺の勘だけど…」 う~ん、こんな探り方じゃ駄目か。 姉貴の事だ。 『タッちゃんの言ってるがよく分かんないのよ~』と言いながら、はぐらかされるかもしれない。 「よく分かったね~。そう、この子達は少し特別よ」 「え?」 はぐらかさないで教えてくれそうだ。 今から言われる事は確実に覚えておかないと。 …内容にもよるが。 「この子達の特別な事はねぇ」 「事は?」 「この子達は『双子』という事よ」 「…はいぃい?」 俺は顔を斜めにし間抜け面した。 しかたないだろう。 だって『双子』と言われたんだぜ。 この情報はなんとも姉貴らしい情報だ。 期待した俺が馬鹿だったよ。 「タッちゃんが言うアンジェラスとルーナが最初に生まれた双子。その次に生まれたのがクリナーレとパルカよ。今思えば『生まれる』という表現はおかしいわね」 「………」 「そしてその中でもアンジェラスが一番特別なんだけどね」 俺はピク、と肩を揺らした。 アンジェラスだけが一番特別? いったいどいう事だ。 あのメンテナンスの時にアンジェラスだけが別々に連れて行かれた事となにか関係してるのか? 「ど~特別なんだ姉貴」 「ごめんね~。これから先は会社の企業秘密という事で言えないの」 舌をペロッと出して残念そうな顔する姉貴。 チッ! まだこの程度では諦めないぞ。 「ちょっとでも教えてくれよ~姉弟のよしみでさぁ」 「えぇ~、でも規則だし~」 「そこを何とか頼むよ。俺はこいつ等のオーナーだ。だからこいつ等に関する事は必要以上に知りたい。バイトのためにもなるとも思うし」 「ん~どうしよっかな~」 考え込む姉貴。 流石にトロ~イ姉貴も会社の機密となると言う訳にはいかないのか、なかなか言おうとしない。 「天薙龍悪様。貴方の武装神姫のメンテナンスが終わりました」 「ッ!?」 いきなり男の声がしたので、すぐさま声だした方に振り向く。 振り向いたさきにいたのは、クリナーレとルーナとパルカをトレイの上に乗せて持って来た男二人組みだった。 最初に会った男二人組み。 「どうぞ。トレイはそちらに差し上げます。使用するなり処分するなり御自由にどうぞ」 「…ご苦労さん」 クリナーレ達が乗っているトレイを受け取り姉貴の方に向く。 今度こそ情報を聞き出さないと! 「…あれ?」 姉貴が居ない? オカシイなぁ。 さっきまでいたのに。 まさか逃げられた!? 「朱美様は仕事が入ったようで研究所に行かれました」 黙々と言う男二人組みの一人が俺に教えた。 何? 研究所? あ~、多分ここの会社にある研究所の事を言ってるのか。 こいつ等のせいで姉貴から情報を引き出せなかったぜ。 ムカつく。 姉貴が居ないならここに居る必要もない。 とっとと会社から出るか。 見張りもウザイし。 俺はアンジェラスとクリナーレ達が入ってるトレイを片手に持ち会社から出る。 自分の愛車まで来て、ドアを開け運転席の隣の席にアンジェラス達を置く。 トレイはその場で捨てた。 こんな物は邪魔になるだけだ。 エンジンを掛け発進する。 「この会社…絶対なにかある」 運転席から見える会社を凝視しながら俺は帰宅した。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2848.html
日曜。大抵の人は休日としてこの曜日を満喫するだろう。 ある者は家でのんびり、ある者は気晴らし外出、あるいは他の事…? まぁ、それは人それぞれに任せるとしよう。 ちなみに俺、『獅子堂 竜馬』の場合は秋葉原へプラモ物色しに行く。自転車で。 (むぅ…迷う) 俺はそんなことを思いながらアキバの某量販店にてプラモの品定め。 しかし、たとえいざ決まったとしてもなかなかレジに向かえないのはいつもの事だ。 ガチで欲しいと決めた奴はすぐ購入に移れるが、ふらりとやってきてピンときたのを手に入れるときはいつも足踏み… 「…別の店に行ってみよう」 結局保留だよ。 俺のアキバでの探索場所は専ら量販店か中古ショップだ。あとア○メイト。 メイド喫茶?行かねぇよ高いらしいし。 思えば、高校に上がってからアキバに来るようになったな… 資金は使い道が見つからないまま貯まっていったお年玉やお小遣い、あと偶然拾ったりする小銭。 多少デカイ買い物する位はあるが、なんか怖くて迂闊に使えない… ちょくちょくガ○プラとか買ったりはしているが、まだ有り余ってるよ。 郵便局預けによる利息で微妙に膨れているから、PCいけるんじゃないかというほど。 中古ショップに寄ってみるも、目ぼしい品は今のところ無い。 ある日に行ったら置いてあった品が、次の週に行ったら消えてる、なんてことは中古ショップではあることだ。頻度は知らんが。 それでも一昔前のプラモを手に入れたことはある。確かア○シマの金ピカガ○ファ○ガー(ゴル○ィオン○ンマー付き)だったはず。 そんなこんなで中古ショップを出た俺は、気分的にふだん行かない店に向かってみることにした。 プラモかフィギュアの売ってそうな店を探していると、ある店に目がとまった。 ほとんど客のいない店内を少し覗いてみると、見かけはすれど詳細はよく知らなかったものが売られていた。 店に入って「あぁ…、そういやこんなのもあったな」と心の中で頷いた。 『武装神姫』、巷で話題になってるとかいう少女型のフィギュアロボだ。 量販店などにも積まれているうえ、神姫の主、所謂『オーナー』とか『マスター』が連れ歩き、ゲーセンやら神姫センターやらでのバトルを俺も見かけるけど、高額かつ守備範囲外だったので、いつもはスルーしている。神姫センターには寄った経験無いが。 ついキョロキョロしながら店内を散策してしまうと微中年(30代後半位?)の店員から「神姫をお迎えかい?」と聞かれた。 俺は「ぁ、ちょっと眺めてただけです」と答えた。話しかけられるのは苦手なんだよなぁ…一瞬ビクついちまったし。 ちなみに『お迎え』というのは、神姫を露骨に”物”扱い出来ない神姫マスター達による『購入』の意味。 流石に退散しようかと思っていた矢先、 カチャン なんか物音が。 ちょっと訳ありで少々物音に敏感なのでつい音のした方を見てしまう。 何か落ちたのかと棚から床にかけて視線を動かす。 なんかいる~!? 入口近くの棚と床の隙間に、何か動くものが…まさか”G”じゃあるまい!?ぃやいやそれはない、明らかに硬質な音だった。 恐る恐る近づき隙間を覗き込むと… …神姫? どうやら”G”ではなく神姫がいたようだ。”G”だったらマジやばかった…苦手なんだよ、アイツ。 よく見ると、かなり損傷しているようだ。身につけてる防具が大分破損しているっぽい。 軽く手招きしてみると、怯えながらゆっくり這い出てきた。 ぎこちない動きだったが、片腕を欠損、脚を引きずるほど弱っていたためらしい。流石に絶句したよ。 回収するや否や、店員に見せてみた。 トップページへ プッチ神父『メイド・イン・ヘブン!(次話へ)』 露伴『ヘブンズドアー!(裏話へ)』
https://w.atwiki.jp/busosodo/pages/79.html
武装神姫達のソード・ワールド2.0【第2-0話】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm18534375
https://w.atwiki.jp/pokecharaneta/pages/881.html
ヴァッフェドルフィンにジュゴンはどうかな? -- (名無しさん) 2010-12-18 09 30 23 オスしかいないポケモンは論外じゃないか -- (名無しさん) 2011-10-21 02 08 43 草案 フーディン:メリエンダ(スプーン型) 無理やりだが キュウコン:蓮華(九尾の狐型) レパルダス:アーティル(ヤマネコ型) ジュカイン:オールベルン(剣士型) エアームドorトゲキッス:ヴェルヴィエッタ(ビックバイパー型) -- (ユリス) 2016-03-04 22 30 18 草案 主題歌 OPテーマ ガラガラ:孤高のカタルシス EDテーマ ラブカス:か弱き十字架の愛 -- (ユリス) 2021-07-17 16 59 27
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2102.html
ウサギのナミダ ACT 1-1 □ 廃墟の街に砂塵が吹き抜ける。 裏通りの路地にも、砂埃がたまっており、黒い影が高速で走り抜けると、砂煙で路地はいっぱいになる。 駆け抜ける黒い影は、少女。 愛らしい顔立ちに、バニーガールを思わせるボディカラー。さらに黒光りする、ごつい機械の両足が不釣り合いだ。 彼女は、俺の武装神姫。 廃墟の路地を、機械の両足首に装備されたランドスピナーで疾駆する。 これが彼女のメイン武装。陸上での機動性に特化した脚部パーツである。 彼女は細い路地裏を駆け抜けながら、メインストリートをうかがう。 朱色のエアバイクが一台、爆走を続けている。 「よくアレを振り回すな」 半分感心、半分あきれた口調で、俺はつぶやいた。 あのエアバイク「ファスト・オーガ」は公式装備であるが、バトルで好んで使用する神姫はあまりいない。 地上での高速機動には適しているが、取り回しがしづらく、接近戦には向かない。空中戦も、飛行タイプの装備と比べると能力は数段劣る。 戦闘機動においては中途半端なのだ。特に武装神姫のバトルにおいては。 しかも、高速域に達するようなレーシングタイプに組み替えてある。 あれでは操作系も相当にじゃじゃ馬なはずだ。 それでも、ファスト・オーガを使いこなそうというのは、よほどの物好きなのか……。 俺は、対戦筐体の向こう側でエキサイトしている、相手のマスターを見た。 派手に染めた髪に、革ジャン、銀のアクセサリーをこれでもかと身につけた、いかにもヤンキーと言った感じのあんちゃんである。 きっとバイクが好きなのだろう。 そういえば、この店の外にも派手なバイクが止まっていた。いかにも相手のマスターが乗り回してそうなやつだ。 そんなことを考えながら、エアバイクに仕掛けるタイミングを探る。 少し耳からずれた、片耳用ワイヤレスヘッドセットをつまんで、位置をなおしながら、俺は指示を出した。 「ティア、次のT字路。ビルの上からジャンプして、直上から撃て。そのあとは背後から追撃」 『はいっ!』 はきはきとした声が短く応答する。 ティアは直後に軽く地を蹴ると、そのまま朽ちたビルの壁面を斜め上に走る。 そのまま、交差点の角にあるビルの屋上に躍り出る。 ◆ 「やべえ、やべえ、やべえやべえっ!!」 エアバイク「ファスト・オーガ」に乗る、ティグリース・タイプの神姫は、悪態を風に流しながら逃走していた。 こんなのは想定外だ。 バトルを始めてこれまでに五戦五勝。 いずれも、相手の神姫を追いかけ回し、背後から重火器で撃ちまくって勝利してきた。 図体の大きなファスト・オーガであるが、マスターの教えてくれたライディングを駆使すれば、思った以上の小回りを発揮できる。 巨体に目を奪われて、動きが鈍いと判断した浅はかな相手こそは格好の獲物だった。 彼女に言わせれば、飛行型のアーンヴァルやエウクランテの方が、ターンするのが鈍い。大きな弧を描いてターンしてくる相手を、様々なバイクのターン技でかわして背後をとる。 そして、重くなるのもかまわずに「これでもか」と積んだ武装を撃ちまくる。 あなどった相手を手玉に取る、最高に気分がいい必勝パターンだった。 接近戦メインの猫型や武士型はもっと簡単だ。全開で走り回って撃ちまくれば、それだけで勝てる。 今日の相手も、そういう楽でおいしい相手だと思っていた。 『虎実』 「アニキ!」 彼女は自分マスターをこう呼んでいる。 「アニキ、話が違うじゃねぇか! 今回もラクショーとか言ってなかったか!?」 『文句垂れてんじゃねーよ。武装じゃこっちが勝ってるんだ。文句言う前にあのバニーガールに当ててみやがれ』 バニーガールのところで声が甘くなった。 アタシというものがありながら、ケシカランことを考えていたに違いない。 虎実は不機嫌をさらにまき散らす。 「マトが小さくて、あったんねーんだよ! なんかいい手はねーのか、バカアニキ!!」 『ふむ……なら、誘い込んでやるか』 「なんか手があるのか?」 『こういうのはどうだ……』 虎実のマスターは、声を潜めて策を授けた。 それを聞いて、虎実はニヤリと笑う。 アニキはバカでエロで喧嘩っ早いが、ことバイクを使っての勝負になると悪知恵が働く。 虎実がアニキを一番気に入っているところだ。 「いい手だね」 『あのちょろちょろうるさいウサギちゃんに一発かましてやれ』 「よっしゃぁ!」 虎実はさらにアクセルを踏み込んだ。 先はT字路。 狂ったようなスピードで、朽ちたビルの壁が迫り来る。 虎実は、最小限のブレーキングをかけると、エアバイクの左舷から身を乗り出した。 ハングオンで美しい弧を描き、ハイスピードのまま左折した。 瞬間、左手のビルの上から、小さな影が虎実の上に出現した。 「来たな……」 小さな敵影を確認すると、虎実は猛然とアクセルをふかす。 ■ わたしがビルの屋上から飛び出したとき、エアバイクはちょうど左折したところで、真下に来ていた。 対戦相手の神姫は、虎実さん、という名前だったか……が見上げていたところから、ある程度奇襲を予測していたようだ。 わたしは空中で狙いをつけ、両手に持ったサブマシンガンの引き金を絞る。 サブマシンガンが火を噴くのと同時、エアバイクがさらに加速する。 はたして地面に弾着し、小さな砂埃を上げた。 その砂埃を踏みしめるように、着地。膝のクッションで衝撃を殺して、その反発を利用して、上体を前に出す。 一気に加速、虎実さんの追跡を開始する。 エアバイクは、道幅の広いメインストリートを猛スピードで駈けてゆく。 次第に小さくなるエアバイクに追いすがるため、わたしは全力滑走した。 重心を身体の前に出した軸足に乗せ、反対のけり足で自分の後方の地面を蹴る。上体は前傾姿勢。腕は左右に大きく振る。 スピードスケートの選手と同様のフォームだ。 左右の足が地面を蹴る度に、軸足のホイールが回転数を上げ、加速する。 エアバイクとの差は徐々に詰まってきた。 ライダーの虎実さんが、ちらりとこちらを振り返る。 さらに差が詰まった。 サブマシンガンの射程には十分な距離。 わたしは走りながら、右手のマシンガンを構え、撃った。 ファスト・オーガがひらりと横滑りして、銃撃を回避。車体をストリートの右側に寄せる。 相手の左翼にスペースが出来る。一気に追いつくチャンス。 わたしはさらに加速し、そのスペースへと飛び込もうとした。 その時。 わたしの瞳に、不適に笑う虎実さんの顔が映った。 確信のある笑い。 虎実さんがファスト・オーガを一瞬だけ加速した。 少し前に出ると、なんと機首を持ち上げ、後方のフローティングユニットを中心にして、駒のように回転する! 「ふきとべええええええええ!!」 ファスト・オーガの機首部分が金属バットのごとく振り出されてくる。 虎実さんに並ぼうと加速していたわたしは、進路を変えることができない。 ファスト・オーガの大きな機首部分が、ものすごい勢いで、わたしの眼前に迫った。 □ まったくもって、無理矢理な力技である。 まさか、エアバイクをウィリーさせて、前方部分で吹っ飛ばそうとは。 思いもかけない接近戦の奇襲に、俺も肝を冷やした。 ティアは速度を落とすも、勢い余ってエアバイクの攻撃に吸い込まれていく。 二つの影が交差する。 しかし、ティアは、虎実の一撃をすり抜けた。 接地しているホイールをグリップさせながら、身体を地面すれすれまで倒しこむ。 スキーで言うビッテリーターンの要領だ。 ウィリーしていたファスト・オーガは、ティアの身体の上を通り過ぎる。 「ちょ……まっ!」 相手の神姫、ティグリースの虎実があわてた声を出す。 彼女にとっては起死回生、必中の一撃だったのだろう。 エアバイクの前部を持ち上げたまま、その場で勢いよく駒のように回りだした。 チャンスである。 指先はサイドボードのコントロールパネルを操作し、俺が望んだ武器を、バーチャル空間内のティアの手元に送り込む。 「ティア」 『はいっ』 同時に短く指示を下す。 「そいつをエアバイクの底面に向けて撃て」 ティアは即座に指示を実行する。 ティアの右手には、大きなハンドガンが握られている。 ただのハンドガンではない。先端に大きな弾頭があり、グリップからはストックも延びている。 ロケットランチャーガン。 装弾数は一発きりだが、威力は破格である。 機動性重視のティアにとっては、虎の子の一発だ。 ティアはランチャーガンを構えると、数瞬を待たずに引き金を絞った。 ファスト・オーガがウィリーターンしていたのも、ほんの数回転だったろう。 虎実がファスト・オーガを押さえ込むよりも早く、まっすぐな白煙を描いた弾頭は、その前方部の底面に直撃した。 『うわ、うわわわわぁっ!!』 虎実が素っ頓狂な声を上げる。 前方部をはじかれたエアバイクは、後部を支点に反転。 そのままひっくりかえった。 俺が思い描いたとおり。作戦は成功した。 命中を確認したティアは、実弾のなくなったロケットランチャーガンを捨てる。 俺はすぐに新しい武器をティアに送り込んでやる。 ティアはランドスピナーでゆっくりと滑走すると、転覆しているファスト・オーガの反対側に回り込んだ。 ◆ ひっくりかえったファスト・オーガから、いままさに虎実が這いだしてこようとしていた。 「くっそ……」 まさか、あの一撃をかわされるとは思わなかった。 奴の速度も乗っていたし、コースも予想通り。ファスト・オーガを回転させたときに視認したティアは、間違いなく直撃コースだった。 しかし、姿がかき消え、予想していた衝撃は来なかった。 ティアを吹き飛ばした衝撃を利用してブレーキをかけるつもりだったために、勢い余って駒のように回ってしまったのだ。 そして、その隙をつかれ、このありさまだった。 虎実はバイクから這い出そうと力を込める。 バイクはもう使い物にならないだろう。だが武装は健在だ。ありったけの武装を引っ張りだして、それから…… 考えている最中の虎実の前で、甲高いホイール音が停止する。 虎実は顔を上げる。 目の前に、ちょっとすまなそうな顔をした、黒い兎がいた。 「チェックメイトです……」 ちょっと申し訳なさそうに、バニーガールの格好をした神姫が告げる。 虎実は不機嫌になりながら思う。 なんでこいつは、こんなに自信なさげなんだ? 両手でサブマシンガン構えながら言う口調じゃねぇだろ。 虎実はティアを侮ることにした。 無駄なあがきとわかっちゃいるが、こんな奴に素直に降参するほど、虎実はおとなしくもない。 「そうか……」 虎実はちょっとうつむいて表情を隠す。 端からは、さもギブアップしそうに見えるだろう。 「しかたがない……なっ!!」 車体の下に差し入れていた右手。 最後の一文字を口から発すると同時、掴んでいた剣を地面スレスレに滑らせた。 自慢のレッグパーツをねらう。 しかし。 虎実の剣が届くより早く、ティアの両手のマシンガンが火を噴いた。 虎実の繰り出した剣は、柄の根本から破壊された。 地面に穴をうがち、バイクに風穴をあけ、弾着が点線を描き出す。 虎実は小さな悲鳴を上げて、頭を抱えた。 弾着の点線は虎実の身体を囲うように円を描いていた。 ティアが静かに告げる。 「降参してください……」 またしても申し訳なさそうな顔をしている。 それが虎実には無性に気に食わなかった。 でも、それをどうにかする術はない。 ティアの銃口はぴたりと虎実向けられている。 「ちくしょ……ちくしょう、ちくしょーーーーーっ!!」 虎実の叫びが廃墟の彼方に消えていく。 やがて、ファンファーレとともに、フィールド上に巨大な立体文字の列が浮かび上がった。 『WINNER:ティア』 ■ バーチャルバトルが終了し、周囲の廃墟が消えていく。 わたしの認識はリアルに戻され、ゆっくりと目を開く。 暗く、狭いポッドの中。 こわい、と認識するまもなく、目の前の壁に一筋の光の線が引かれ、やがて大きく開いた。 溢れてくる光。現実の光。 わたしは目を細めながら、ゆっくりとポッドから身を乗り出して振り向く。 「か、勝ちました。マスター」 わたしは自らの主の姿を見上げた。 どんな表情をしているのか、とてもとても気になる。 彼は、やっぱりいつものように事務的な無表情で、自分のモバイルPCのキーを叩いている。 わたしはちょっとだけ落胆する。 でも、 「うん。よくやった」 マスターがわたしを見て、かすかに笑ってくれたから。 わたしは嬉しくなって、思わず笑みを返した。 わたしのマスターは、あまり表情を変えない人だ。 だから、時々見せてくれる笑顔は、わたしの大切な宝物だった。 その時だ。 「おいおいっ! 今のは反則じゃねえのか!?」 大きな声でマスターに近づいて来る人がいる。 バトルの相手、ティグリース・タイプのマスターだ。 「なにがだ」 マスターの声は至って冷静……それどころか、わたしが身をすくませたほどに冷たい声。 「だってそうだろ! そっちのバニーちゃんの装備なんざ、見たことも聞いたこともねぇ! しかも、バトル前にフィールドまで指定しやがって……。 勝つためには何をしてもいいってのか!? あぁ!?」 「はじめに確認を取ったはずだ。君はそれを了承しただろ」 確かにマスターは、バトル前に確認をしている。 わたしは武装の特性上、市街地や廃墟のステージでしかバトルしない。 それは有利になるからというよりも、他のステージではパフォーマンスを発揮出来ないからだった。 「だけど、てめえの神姫の武装は公式じゃねえだろが!」 「確かに、ティアの武装はオリジナルだ。 だが、君の神姫の武装に勝っているとは思えない。 こっちはライトアーマー並みの軽量武装で、装備は手持ち武器をサイドボードから送り込んでいるだけだ。 単純な火力は君達の方が圧倒的だと思うけどね」 「ぐっ……」 マスターは冷たい視線で相手を見る。 体の大きな相手のマスターがあきらかにひるんでいる。 マスターは淡々と言葉を紡ぐ。 「それに、ここは公式の神姫センターじゃない。 ゲームセンターの非公式の草バトルだ。 パーツがオリジナルだろうが、武装が非公式だろうが、どんな相手が出てきたって文句は言えない。 ここにはそういう神姫が集まっている。 公式装備のバトルがしたければ、神姫センターに行けばいい」 マスターの言葉は冷たく、事務的で、しかも正論だった。 会話を聞いていた、周りの神姫マスターのみなさんも、口々に言う。 「そうだそうだ! ここじゃ武装は何でもありだ!」 「公式武装バトルがお望みなら、他へ行け!」 「負けたからって見苦しいぞ!」 「だいたい、火力で勝っているのに、いいわけがましいったらないよな」 「文句言うより、装備見直す方が先なんじゃね?」 そして、マスターがとどめの一言。 「それに、いまのバトルは、君から申し込んできたんだろ」 その一言に、周りがどよめいた。 相手のマスターは反論も出来ずに、うつむいている。 けれど、いきなり顔を上げると、びしっとわたしのマスターに人差し指を突きつけた。 肩の上のティグリースも一緒に。 「こ、これで勝ったと思うなよ! おぼえてろおおおおおぉぉ!!」 そう言い捨てて、相手のマスターは駆け足でお店を出ていった。 マスターを見上げると、彼は肩をすくめて軽くため息をついた。 「まったく、うるさいやつだったな……心配するな」 最後の一言でわたしを見て、マスターは右手を差し出した。 後かたづけが終わった証拠。 わたしはマスターの右手の甲に乗る。 すると、マスターの右手はわたしを乗せて、左胸のシャツのポケットに到着する。 わたしは右手から降りて、マスターの胸ポケットに滑り込んだ。 ここはわたしの定位置。 「よし、帰ろう」 ゲームセンターの、武装神姫コーナーの周りは、さっきの騒ぎの名残で、まだざわめいていた。 マスターはそれが気に入らないのだと思う。 他のバトルを観戦もせず、すり抜けるようにコーナーを離れ、店を後にした。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/198.html
眼前に神姫達が迫る。始めた作業は継続しつつジェネシスへ説明を始める。 「お前の攻撃データを改竄した。攻撃を当てればそこからウイルスコードが侵入し、 俺達とリンクする」 「相手のコンピュータからは消えたように見える筈だ。コレで洗脳から解放できる。 一時凌ぎだけどな」 めまぐるしくキーボードを叩きながら、ジェネシスへ指示を下す。 「了解です。」 「それと、一機一機回収してる時間の余裕がもう無い。リンクを経由して一緒に 連れ出す。その為には機体を機能停止させる必要が有る」 「人間でいう鳩尾の位置だ。エネルギーラインの集中位置がある。 バイザーにデータ送るぞ。ここを切断すれば無傷で神姫を止められる。 いいか、一撃でここだけを刺し貫け」 ジェネシスのバイザーにヒットポイントの位置データを転送。 ジェネシスは位置を確認し頷く。 「安心しました。いつもの貴方で」 「凹むのは後だ。その話はするな」 「頼りにしてます」 僅かに笑んだ気配のある彼女の声が、緊張をほぐしてくれる。サンキュ、相棒。 数秒置かず、神姫達の只中へ突っ込む。 最初に襲い掛かって来たのは先程のハウリンタイプだ。 「ジェネシス。システムを近接戦闘に移行」 「了解」 可変アーマーが跳ね上がり、ハウリンを弾き飛ばす。 展開したアーマーがフレキシブルアームごと後方へ移動し、折り畳まれて スラスターウイングを形成する。尾部のアーマーがサイドに持ち上がり展開して サブウイングとなって…高速格闘形態へ。 ウイング内に仕込まれたサバイバルナイフをクローデバイスで取り外し、 その手に握り込む。 もう片方のクローでハウリンを掴み、こちらへ引き寄せて。 「大丈夫…痛くはしません」 ドッという鈍い音と共に正確にその胸をナイフで刺し貫く。 停止したハウリンを降ろせば、周囲を取り囲む神姫達。流石に数が多い。 クローユニットを180度回転して逆方向に装着したビームユニットからサーベルを展開。 同時にドラグーンを射出して駆け出す。 ジェネシス自身が前方の1機を、後方の6機を至近まで接近したドラグーンが討つ。 一応、ジェネシスのビーム兵器には全てエネルギーキャップを付けてある。 短時間ならどの兵器からでもビーム刃を出せるのだ。 そこへ降り注ぐ攻撃から倒した神姫を突き飛ばして、自らも上空に避ける。 「容赦ねぇな。ま、操られてるんだし当然か」 「だからこそ、これ以上彼女達が傷を負う前に止めねばなりません」 味方を倒されても躊躇無く攻撃を加えてくる神姫達。回避行動を取りつつ、その要領で 次々と撃破していくと例の巨大神姫が接近してくるのが見えた。 神姫達の迎撃をドラグーンに任せ、巨大神姫へと飛び立つ。 アレとの戦いに他の神姫は巻き込めない。 迫る巨大神姫に先制攻撃を掛ける。これでウイルスが効けば儲けモンだが勝算は薄い。 なぜならアレは恐らく… 「よぉ、Gさんよ。初めましてだなぁ?攻撃しても無駄だぜ? コイツはオレが直接操ってるからなぁ。サーバーには依存しねぇ」 巨大神姫の蛇の様な頭部。その目の部分が点滅し、音声を再生する。 装甲も今までの比じゃねぇのか傷一つ付いていない。 「やっぱ初めてか。オレが今まで潰した連中と比べて大分ザルいぜアンタ。 その分卑怯くせぇけどな」 皮肉たっぷりに言い放ち、巨大神姫を調べる。 神姫部分が露出してれば話は早いが…そう簡単には行かせてくれないか。 「何とでも言ってくれや。取引だ、Gさん。オメェこのまま俺達に捕まれ。 大事な神姫を壊したくないだろ?それに…」 巨大神姫の頭部カバーが開く。その中に組み込まれていたのはストラーフ。 …しかも見覚えのある、だ。 「コラン…」 苦々しく呟く。それは、オレが修理を頼まれたあのストラーフだった。 「何だ知り合いかよ?なら話も早いってモンだ!アンタが抵抗すればこのストラーフ、 タダじゃすまないぜ?」 「こっちも高い金掛けてこの戦闘用神姫を組んでんだ。ランカー神姫まで用意してなぁ。 こんなトコで壊したくはねぇのよ」 人質ってワケか。どこまでも腹の立つヤロウだ。 このデカブツを破壊して頭部から彼女を救い、彼女にダメージを与える。 直接接触しない限りは攻撃は無駄。 …手が無いわけじゃねぇが。 (ジカンヲカセゲ) ジェネシスのバイザーにメッセージを送信する。 「…アンタの目的は?」 男に話しかけながら、キーボードを打ち続ける。デカい入り口を開ける為に。 ジェネシスも無言のままウイングをアーマーに変形させて防御姿勢を取る。 男の神姫がジェネシスをいたぶる様にその巨大な身体をぶつけて攻撃を開始した。 まるでお手玉の様に中空で攻撃を受け通けるジェネシスの顔が悔しさと痛みに歪む。 「目的ぃ?目的なんざ金に決まってんだろ!Gの神姫とソレをヤッた神姫となりゃ、 とんでもない額で売れるぜ!ハハハッ」 「手間ぁ掛けやがって!頂く前に少し遊ばせてもらうぜ、見敵必殺の神姫サンよぉ!」 「下衆野郎が…」 「口の利き方には気をつけろよ、Gさん。アンタの神姫が痛い目に合うぜ?」 巨大神姫の尾のブレードが、ジェネシスを地面に叩き付ける。 地に伏したジェネシス目掛けてそのブレードが何度も何度も振り下ろされた。 「大した事ねぇなぁ?おっと、手が出せないんだっけか、悪ぃ悪ぃ」 下品な笑い声を上げ、男が楽しげにこちらを挑発する。 そして巨大神姫が、その身体で蛇が獲物を絡め取るようにジェネシスに巻きつき、 締め上て来た。 「ぐっ…」 苦痛に耐え、呻き声を上げるジェネシスを見て、男は満足げに言い放った。 「オラ、Gさんよ。アンタはこの神姫を置いてさっさと消えな。これに懲りたら少しは 利口な生き方ってモンを覚えるんだな」 …この手の手合いは自分の優位を実感した瞬間、どうしようもなく隙が出来る。 小悪党の不文律か。 目の前にちらついたお宝に目が眩み、オレを無力と思ったのが運のツキだ。 終わったよ、準備。 「なぁに。利口になるのはアンタの方さ、小悪党!」 最後の構文を書き込み、エンターキーへ指を叩き付ける。 サーバー世界の雲に穴が開き、新たな入り口が開く。 「ジェネシス、待たせたな!やっちまえ!」 「アーマーユニット、オールパージ!」 オレの呼びかけに応えたジェネシスが叫ぶ。 アーマーが強制排除され、拘束を吹き飛ばしたその勢いのまま天へと跳んで。 同時、天空より飛来した戦闘機に飛び乗った。 「な、なんだこりゃっ!?」 状況を理解していない男の叫びが空へと木霊していた。 ジェネシスが乗っているのは、彼女の最強の剣だ。アムドライバーシリーズの ネオボードバイザー、通称ソードダンサー。 そいつの推進系とコネクタを改造し、銀に塗ったMMS用随伴戦闘装備。 その名は、ソードダンサー改「リボルケイン」 「モードブリガンディ!」 ジェネシスの咆哮に合わせてリボルケインが変形する。ジェネシスをその身に納め、 巨剣を構えるその姿はまさに剣帝。 「必殺!リボルクラッシュ!」 雄叫びと共に全推進系を使い、超高速で相手を貫くリボルケインの必殺技が巨大神姫の 首とその下を切り離す。 吹き飛ぶ頭を掴み、頭部カバーを弾き飛ばして、ジェネシスを分離。 ここまでを一呼吸で行なう。 リボルケインから分離したジェネシスがその内部に眠るコランを引き剥がし 胸を貫いた時、男はようやく現状を認識した。 「なっ!なぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」 訂正、展開に追いついてないわ。このオッサンの頭。 「チェックメイト。とでも言えば通じますか。貴方の負けです、犯罪者さん」 コランを抱くジェネシスが、再度飛行形態へ変形したリボルケインの上で勝利宣言する。 「あ、ありえねぇぇぇぇっ!?」 叫ぶ男。負けた事は認識したらしい。ともあれ。 「ジェネシス、アーマーパージはキャストオフだ。基本だぞ?」 台詞について突っ込むオレ。 「ああ、気付きませんでした。失礼」 和やかに返すジェネシス。 「何の話じゃぁ!おまえらぁぁぁぁっ!?」 興奮状態のオッサン。 「何だ!?何をしやがった!?改造ボディのランカー神姫の反応を超える動きだと!? どんだけカスタマイズしてんだ!?」 大声で捲くし立てるオッサン。オレが皮肉の一つも言ってやろうと口を開いた時、 先にジェネシスの声が耳に入った。 「武装神姫は一人で戦っているんじゃない」 「信じ、信じてくれるマスターと共に戦うからこそ、スペックだけでは測れない戦いが 出来る」 「共に支え、胸を叩き、背中を押す。その声と心が共にあるからこそ、戦える」 「神姫をパーツとしか思わず、その心を、誇りを汚す愚か者になど… 武装神姫は負けない!恥を知りなさい!」 …言う言う。オレの心もすっとした。流石は俺の相棒様だ。 「くそっ!人形風情が何を人間様に説教たれてんだ、コラッ! 勘違いしてんじゃねーよ、機械の分際でよぉッ!」 男も負けじと吠える。台詞まで小悪党だ。どこまでも救えねぇ。 「そんなんだから負けんだよ。お前が言う機械にも解る事が解んねぇんだから、 お里が知れるぜオッサン」 嘲笑を込めて言ってやる。そして止めに一言。 「ま、負け犬の遠吠えってヤツぁいつ聞いても滑稽だな。二度と出てくんなよ三下、 出てくるたびにこうなるぜ?」 「うがぁああああああっ!!!くそっ!こうなりゃデータなんぞ関係ねぇ!死ね!!」 そこで男の通信が唐突に途切れる。いや…通信だけではない。 世界が、崩壊を始めていた。 遥か彼方から、凄いスピードで世界が崩れ、ただの無機質なデジタルデータの流れが 剥き出しになっていく。 「あのオヤジ、ヤケになってサーバーの電源無理矢理抜きやがったな」 この現象も悲しいかな経験済みだった。ヒステリー後の行動なんてそんなに多彩な パターンは無いらしい。 「UPSじゃ持って数分か。データリンクしといてよかったぜ。ずらかるぞ」 「マスター、リィリィを回収しないと!」 慌てて言ってくるジェネシスに、ニヤリと笑いながら告げてやる。 「最初にリンク張っといたよ。問題ナシ」 「そうですか、良かった…」 胸を撫で下ろすジェネシス。うん、なんか今オレ出来る男っぽくね?はっはっは。 「マスター…この捕縛プログラムはどうなるんでしょう?」 出口へ向けて神姫達を送り出しながら、ジェネシスが聞いて来る。 「電源抜いたくらいで壊れはせんだろ。UPSも動いてるし、後は警察がやってくれるさ」 「そうですか…」 俯くジェネシスが、パージしたアーマーを身に纏う。はて?何で今更アーマー着ますか。 「マスター確か今の私の攻撃データ、ウイルスが仕込んであるんでしたね?」 「…おう。ええと、ジェネシスさん?」 声音が低い。これはなんか怒ってる時の声だ。 「私が攻撃すれば…壊れますかね、この不愉快なプログラム」 にこやかに笑みつつ、屋敷を指差す。うひぃ。 「いや、時間無いよ?神姫達の転送も終わったしさっさと離脱しないと…」 「マスター…Gという名の由来を聞いた時、機械の英雄達の称号とおっしゃいましたね。 そして、私の装備にはGの遺伝子が受け継がれていると」 オレの呼び掛けを遮り、ジェネシスが語る。 ああ、確かに。 ガンダムもグレート合体もゴジュラスもギャラコンも、ロボットヒーローにはGの名は 付き物だ。 彼らの正義にあやかる為に、オレはこの稼業を始めた時Gを名乗った。 「この状況を打破出来るGを、私は知っています。そして、その力は私にもある」 再びアーマーが変形を始める。近接戦闘形態へ。そして、さらにウイング内に仕込んだ そのGのキャノンが、両腕のビームユニットが、腰のヴェスバーが。そして周囲には ドラグーンが。全砲門がプログラムへ向けてその牙を剥こうとしている。 「そのあまりの力から、やりたい放題…フリーダムの名を冠した伝説のG! その力を今こそ!!」 「いや、その説明俺の主観だし!証拠のプログラム壊したらたっちゃんに怒られ──」 慌てて止めようとしたオレの言葉をも吹き飛ばすように、ジェネシスの ハイマットフルバーストが電脳世界に止めを刺す。 白く染まり崩壊するその世界の輝きは、なんだか色々な物を忘れてしまいたくなった。 意味は無いけど南無。 「畜生、畜生畜生ッ!」 見事にGに出し抜かれた主犯格の男は、怒りをコンピューターにぶつけていた。 「あ、アニキ、落ち着いて!マジでデータが壊れちゃいますよ!」 慌てて取り押さえるその部下達。 「どうせGのヤロウに持っていかれた後に決まってるだろが!畜生、あのオタク野郎、 覚えてやがれっ!!」 力任せに蹴り飛ばされたテーブル。その上に乗っていた目覚まし時計が壊れ、 時を止めて転がった。 午前1 00時。 同時、インターホンが鳴る。 「誰だ、こんな時間に…?」 部下の一人がドアを開ける。其処に立っていたのは、黒手帳を示した男だった。 「…警視庁公安MMS犯罪担当3課、地走 達人。階級は警部だ。お前たちを 電子取引法違反、違法賭博、器物強奪etc等の容疑で逮捕する。コイツが令状だ」 あまりといえばあまりの事態に、男達が目を白黒させる。そして数秒。 「テ、テメェーッ!」 何がテメェなのか解らないが、パニック状態の男達が襲い掛かる。 手帳を仕舞う余裕すら見せ、地走警部が後ろに下がり一人目に当て身投げを行なう。 身体を半回転させドアを塞ぐように相手を投げれば、それに二人目三人目が 巻きこまれて倒れ。 「手間を掛けさせるな。公務執行妨害まで付くぞ?」 ドスの効いた声で告げる。警部というよりは殺し屋のようなその声に、主犯格の男が 腰を落とし…逮捕劇はあっけなく幕を閉じた。 「警部、証拠品の搬入先なんですが…」 「ああ、データ解析はKMEEの今米さんに頼んである。そっちに運んでくれ」 「はっ」 敬礼して持ち場に戻る若い警官を見送り、地走警部は携帯端末を操作した。 事件から数週間。結局あの事件は新聞の三面記事にすら載る事無く、静かに終息を迎えた。 それだけ、今の世の中神姫犯罪が多いってコトだろう。ブームの暗黒面だ。 だが、事件の当事者には良くも悪くもその記憶は残り続ける。 例えば、あのストラーフ使いの少年の様に。 ・ ・ 「本当に、有難う御座いました」 少年が深々と頭を下げる。その腕には意識を取り戻した彼のストラーフ、 コランがしっかりと抱かれていた。 「おう。ホント苦労したぜ。修理代はずんで貰わねぇとな」 カウンターに両腕を預け、軽口を零す。 「はい、貯金、全て下ろして来ました…いくらでもお支払いします」 「ほぉ、そいつはいい心がけだ。そんじゃ、コイツの代金を払って貰おうかい」 神妙な面持ちの少年に請求書と紙袋を手渡す。 請求書を読み上げた少年が不思議そうに顔を上げた。 「えっとこれ保守部品ですよね…?ハードの故障だったんですか?」 「いんや。正真正銘ソフトの問題」 一拍置いて言葉を続ける。 「ホント大変だったんだ。二度とゴメンだ。つーわけで二度目は無いぞ少年。 今度同じ事が起きても修理はしねぇ」 「だから、そのパーツでしっかり整備して頑張んな。強さってのを見つめなおす為にも」 「店長さん…」 一言そう呟く少年に頷いて見せる。 「裏にゃ裏の意味がある。否定はせんよ?でも、あそこは…なんつーかな、 普通の武装神姫にゃ似合わない場所さ。解るだろ」 「はい…」 「…だから、お前さんの求める強さはあそこには無ぇ。人に頭を下げるぐらい 大事な神姫なら、日の当たる場所で一緒に歩いてやんな」 少年が、少し俯いて無言になる… やがて、顔を上げた少年は「色々、お世話になりました」とだけ言って、会計を済ませた。 「きっと、彼女と胸を張ってまた会いに来ます」 「楽しみにしてるよ。有名になったらウチの宣伝もしてくれ」 手を振り見送る俺に何度も頭を下げながら、少年は帰っていった。 ・ ・ ・ 「カッコつけすぎたかなぁー」 思わず思い出して背筋が寒くなる。 クセとはいえ、クサ過ぎるだろうあの台詞は。病気だ。 「でも、カッコよかったですよ」 横から声を掛けるジェニーを見る。教室も終わり定位置…レジ横の特製クレードルに 鎮座する大明神様は、レジ兼用のデスクトップ端末からネット中のご様子だった。 「いや、何も言ってないんすケド」 「どうせ自分の勢い任せにいっちゃった台詞でも思い出してたんでしょう?」 恐る恐る聞けば、実に的確な突っ込みが返って来る。 エスパーか君は。 「長い付き合いですから」 「いや、モノローグを予測して答えるな、マジ怖い」 そんな遣り取りの後、ジェニーが端末のモニタを示して見せた。 「頑張ってるみたいですよ?コランさん」 見れば、強敵相手に善戦し、僅かながらポイントを上げたコランの姿が映し出される。 「ま、元々腕はよかったんだろし。頑張って欲しいねぇ」 ニヤケる顔を見られないようにジェニーとは逆の方を向く俺の耳に、 彼女の僅かな笑い声が聞こえた。くそう。 「で、私のボディは何時買って貰えるんですか? そろそろ今米さんから報酬が届く頃では?」 「そんな予定はありません」 定例の突っ込みに定例の言葉を返す。 「…電話してたのは聞いてます。報酬、私にも権利はあると思いますけど?」 ジェニーの冷静さを維持しようとする声に、誤魔化すのはムリと判断して真相を告げる。 「あのなぁ、いくらなんでも現金なんて貰えるワケないだろ。企業的に」 「というわけで、12月発売の3機種各6カートン。コレで手を打った」 「な…な…なっ?」 「ウチの店の規模じゃ破格の入荷数だぜ。震えるぜハート、燃え尽きるほどヒート…」 「じ、じゃあそこから一体素体を都合して下さいよ!」 「店の商品に手を出すなんて商売モラルがなってないぜ、ジェニーさん」 チッチ、と指を振る俺をジェニーが睨み付ける。心なしか肩が震えて居るような。 「この、金無し!根性無し!甲斐性無し!うああああん!マスターの馬鹿ーっ!」 走り出したいのかクレードルから分離しようと身を捩るジェニーさん。 首しか動いてないよジェニーさん。 「まぁまぁ…大明神様落ち着いて」 「ああっ!もうっ!解りました、それならこっちにも考えがあります!」 こちらをキッと睨むジェニー。やおら表情を作ってもじもじと呟く。 「もう…夏彦さんの意地悪」 グハァッ…!大ダメージを受けた俺は思わず突っ伏した。 「やめろ…っ!オレは小学校中学年以来、女に名前で呼ばれた事が無いんだ!」 早鐘の様に鳴り響く胸を抑えて何とか立ち上がる。くそう、エグい手使いやがる。 「ふふ…女扱いは悪い気しませんけど、許しませんよー。夏彦さ~ん♪」 「ぐぁぁぁっ!黄色い声を出すなぁっ!?」 「純情ですねー、夏彦さんは」 「謝る、謝るからヤメテーッ!?」 そんなコントを聞いてか聞かずか、自動ドアを開いて入ってきたお客さんが遠慮がちに 声を掛ける。その肩には見覚えのあるマオチャオタイプが手を振っていた。 「あの…ここ…武装神姫のお店、ですよね…?」 オレもジェニーも、すぐに切り替えて営業スマイルを浮かべる。 一瞬だけ視線が合って、それがお客さんの方を向き… 『いらっしゃいませ!』 ホビーショップ エルゴは、今日も明るく営業中である。 NEXT メニューへ