約 220,419 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/697.html
二次予選にて待ち構える一桁ランカーは、いずれもセカンド級の実力を持つ強豪揃いである ランカー9位、背負った二本の折りたたみ式実砲とジャンプ戦術のストラーフ「ジルベノウ」 8位、無武装素手で闘うNINJAファイター、フブキの「ホークウインド」 7位、青竜刀の武神、カスタムハウリンの「仁竜」 6位、怒涛の勝ち上がりを見せた修羅神姫、限定版アーンヴァルの「G」 5位、全身これ武器の塊、ミサイルと銃弾の芸術家、ヴァッフェバニーの「タスラム」 4位、クレバーな狙撃スタイル、インビジブルハンマーの異名を取る砲撃神姫、フォートブラッグの「ストリクス」 3位、音速の女神、可変機構搭載の高速神姫、最早タイプに意味は無い「ズィータ」 2位、白い閃光、万能の非公式武装主義者、アーンヴァルの「リフォー」 対する「ナインブレイカー」は 元ランカー10位、ローラーダッシュによる高速移動とパイルバンカー、ヘビーマシンガンによる凄まじい攻撃力がウリの特攻神姫、サイフォスの「テスタ」・・・強さ評価値9 延長し、可動範囲も拡張したパワードアームを装備した格闘神姫、マオチャオの「ヤンギ」・・・評価値5 精緻にて多彩な銃器操作の銃撃神姫、ストラーフの「ニビル」・・・評価値6 圧倒的な空中機動力と速さで勝ち上がってきた元「ナイン」、アーンヴァルの「ウインダム」・・・評価値10 新製品の変則性を生かした花、種ミキシングビルド神姫、ジュビジーの「モア」・・・評価値7 機銃装備によって弱点である中距離を補い、隙の無い戦闘を展開する鉄板神姫、ツガルの「サチ」・・・評価値8 独特の戦術でならす注目の新人、ハウリンの「ヌル」・・・評価値3 そして、同じく新人、剣闘神姫(ナイブス・ロッテ)紅緒の「華墨」・・・評価値4である スイスドロー方式で、強さ評価に応じた「ナイン」と戦い、それぞれに勝利した8名で、真の「槙縞ランキングチャンピオンカップ争奪戦」・・・それは『クイントス』への挑戦権を掛けた戦いとも言える・・・が行われる 実質、下位ランカーが『クイントス』に挑むにはこの方法で勝ち上がるしかないというのが槙縞ランキングの現状だ (厳し過ぎやしねぇか・・・?この方式) 言っては何だが、「雑魚の中で一番強い奴」と、「ランカーの中で二番目に強い奴」との差は天と地、月と鼈なのではなかろうか? 今回は、そんな状況でも勝ち抜いていけそうな『ウインダム』が居るには居るが・・・ 其処までして本当に強い奴を選定しなけりゃならん理由でもあるのだろうか? (余程「弱い奴とは戦いたくない」んだろうなァ・・・『クイントス』ちゃんは) なら、振り向かせるだけの力を示してやろうじゃねーか 正直、俺も華墨も、自分達に下された「強さ評価4」がかなり気にいらなかった 「俺達はもっと強い筈だ」という思いがかなりあった 「上でふんぞり返っている奴らに目にもの見せてやろうな、華墨!」 「応!!」 第拾幕 「G」 「姉さま!二次予選の対戦相手が決定したらしい」 ヌルに急かされるまま、自身に下された評価値と、対応する「ナイン」を見比べる 「・・・『G』って・・・あの『メイ』ちゃんよね」 「そうらしい・・・凄い戦績で一気にここ迄ランクを伸ばしたと聞いてるが・・・知ってるの?姉さま」 「・・・貴女が私の所に来る前からは想像も出来無い・・・そういえばランクを伸ばし始めてから一回も会ってないわ」 「どんな子なの?」 「おとなしい・・・というかあがり性気味の可愛い子よ?」 「・・・」 「もう、むくれないの。別にコナかけたりなんかしてないから・・・この子には大好きなマスターが居るんだから」 「・・・姉さまはたらしだ・・・」 「何?何か言った?」 「・・・何でもない。それよりも、どうなの?勝てる?」 「記録があんまり無いのよねぇ・・・ただ、『ホークウインド』と『仁竜』を瞬殺したらしいわ」 「『仁竜』を・・・瞬殺・・・!?」 驚くのも無理は無い。『仁竜』は『タスラム』の一斉射撃にも耐えた事があると噂される、槙縞ナイン中最高の装甲の持ち主だ その仁竜が、現在の戦闘スタイルに落ち着いてから、一桁秒間無いし一撃で倒したのは『G』を除いては『ストリクス』の狙撃と『クイントス』の音速剣のみである 確かに、「アーンヴァル」は仁竜の苦手な超遠距離から、現存する神姫中最大威力の砲撃を行う事が可能な神姫ではある (・・・何にせよ、戦闘能力はともかく、攻撃力はこの両者に匹敵するって事ね) どうも私の中でも、不気味な戦力を発揮する『G』と、可愛らしい『メイ』が一致していない (・・・『当たる』迄にデータをなるべく集めた方が良いな) だが、サイドボードや強化パーツを使った戦術は、私には・・・厳密には私のマスターには・・・出来無い 戦闘がどうなっているのか見えないのでは、正直話にならない そもそもうちのマスターは余りバトルには興味が無いのだろうし、今迄も私はマスターサポート無しで闘ってきた それが武装神姫にとって相当な戦力ダウンになる事は判ってはいるのだが (いつかは解決しなければならない問題ではあるなぁ・・・) それは、マスターである私と闘う可能性も孕んだヌルにも言える問題ではある (マスターの為に闘うだけが武装神姫ではないでしょう) それが私の下した結論だ 少なくとも私は、私自身がそう望んでいるから闘っているし、いずれはプロの格闘家の様に、ファイトマネーで自活したいと思っている(勿論何人も可愛い神姫をはべらせて・・・だ) 正直、この感覚は私が嫌う『クイントス』と全く同じである (川原さんの影響なのかなぁ・・・?) クイントスの本来のマスターである、長髪の好青年の笑顔が脳裏をよぎった 「貴女は今はそれよりも、『ジルベノウ』との闘いの事を考えた方が良いわ。彼女、貴女の苦手なタイプよ?」 「・・・そっか・・・姉さまのサポート無しで『ナイン』と闘わなきゃならないんだな・・・」 「そうよヌル。準決勝で会いましょ」 「これが『G』の戦闘データだよ」 師匠にもらった「『G』vs『仁竜』」の映像データを見て、私は只ひたすらに驚愕していた そこには私が想像していた「高出力レーザーで砲撃するアーンヴァル」は写っておらず (正気なの・・・!?) 左腕と胸、両脚に装甲を履いた状態で、武器すらその身に帯びていない黒いアーンヴァルが写っていた 素手による白兵戦・・・武装神姫の闘いでは、必ずしも絶無とは言えず、現にそれを極めんとする『ホークウインド』の様な神姫もゼロでは無いと聞く 聞きはするが・・・ (アーンヴァルでそのスタイルとは・・・たまげたわ) 『仁竜』が動く。得意の大刀を振りかざし、きらびやかな甲冑を輝かせながら走るその姿は、まさに古式ゆかしい武人そのものだ 彼女と『クイントス』との闘いが非常に盛り上がると言われた理由を、私は今更ながらに噛み締めていた 対する『G』は・・・目を、閉じている・・・? 構える気配すら見えない 唸りを上げて殺到する大刀・・・斬られる!と私が感じたその瞬間、『G』は目を見開いた ・・・恐怖を、感じた 『クイントス』の戦闘映像を見ている時にも、こういうのは感じた事は無い その目は、私が知っている「あがり性のメイ」のものでは在り得ない 獣・・・狂気を孕む程に血に飢えた魔獣だ そして、大刀の刀身は真ん中から真っ二つにへし折れていた 「な・・・っ!?」 自分のあげた声に一瞬びっくりしてしまった 見えなかった?何をしたんだ今? 「大刀の刀身に斜めから拳をあわせたのさ・・・そして粉砕した、一種の交差法だね」 そして・・・ 『G』の右拳が握りこまれた 右脚を引いて、露骨な逆突きの構え だが、そんなテレフォンパンチを、『仁竜』は回避出来なかった・・・理由は簡単 パンチの速度が、弾丸より速かったからだ 『G』の拳は、『仁竜』の胸を甲冑ごとぶちぬいていた・・・ 「・・・」 沈黙は、バトル映像が終了してから、実に30秒以上も続いていた 「判っただろうニビル。メイは手に入れたのさ・・・あんたと同じオーバーロード、『Gアーム』をね」 大会当日になって、急にスケジュールの変更が告げられた 「ナインブレイカー」と「ナイン」の闘いは、全て同じタイミングで、店内の8つの筺体全てを使って行われる筈だったのだが、七台が故障したとかで、一台だけを使って一試合ずつ行われる事になった 明らかに不自然な理由だが、逆に言うと他の試合をじっくり見る事も出来る訳だから、それ程に動揺はなかった 「華墨の試合は・・・6番目・・・大分先だな。少し休んどくか?」 「否・・・マスター。少なくともこの試合は私は見ておきたい」 「・・・あぁ、ニビルか」 「そうだ。彼女がどんな闘いをするのか、しっかり見ておきたい」 「そうだな。おっけい!あそこの席のまわりだけ何故か空いてるから、見ようぜ」 座る時に、隣に居たロン毛+ミラーシェードのにーちゃんに会釈する・・・肩に何か蒼い神姫が座ってた様な・・・ ステージは、円形闘技場だった 異様な軽装で佇む『G』 いつもの防弾マントで身を包み、相変わらず装備が判然としないニビル 「軽装同士か・・・面白そうだぜ」 「そうだな。殆ど素体に近い格好で何処までやれるのか・・・実に興味がある」 フッ・・・と言う様な声が、隣のにーちゃんから漏れた 「何が可笑しいんだよ?にーちゃん」 「失礼。ただ、あの二人は軽装なんかじゃない」 「?」 「二人とも、超絶の武器を持っている・・・すぐに判るさ」 皆川さんが店の奥から現れる 「第二次予選にようこそ!全ての神姫達はその全力をもって闘いに臨んで欲しい・・・最強の神姫を決定する為に・・・!」 その挨拶の直後に、バトルスペースから開始十秒前のコール 皆の視線が一気に皆川さんから画面に釘付けになる中、何故か隣のにーちゃんだけが皆川さんの方を見ていた ミラーシェードで表情は読めないが。その口元は硬く引き締められている つられて俺も皆川さんの方を見る 去り際の横顔しか見えなかったが、何故かその時の表情が、俺にはひどく禍々しく見えた 『バトル、スタート』 二人の神姫は、同時に地を蹴った・・・! 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1664.html
あらすじ 2036年、両親の離婚から人の心が信じられず、引きこもりで機械いじりだけが楽しみになってしまった少年、『僕』と、人間以上に人間らしい「心」をもった武装神姫、『ジェヴァーナ』との拳と拳で語り合う格闘話。 ……ちょっと嘘です。 まだまだはじめたばかりですが、お付きあいいただければ幸いです。 著 バーバ・ヤーガ キャラクター 本編 プロローグ 世界観説明のような第一話 世界観説明のような第二話 いきなりコラボな第三話 鋼の心 ~Eisen Herz~と、 コラボレーションさせていただいております。 今日 - 昨日 - 総合 - ”僕”の精神的未熟さと、”ジェヴァーナ”の人間らしさのある意味両極端なコンビ、面白いです。これから”僕”の成長物語になるのでしょうか? 次はバトルな予感楽しみです。 PS.今回の三話は過去の話なのでしょうか? そうなれば、こちらからもコラボの -- 神姫愛好者 (2008-05-15 10 23 52) 途中で送ってしまったorz 続きです:そうなれば、こちらもコラボの申込をしたかったりなかったり…… -- 神姫愛好者 (2008-05-15 10 24 55) おおお、感想、ありがとうございます! 加奈美さんに萌えている自分としては、ここでお言葉をいただけるとは光栄の至り。ALCさんとも相談して、2036年のストラーフ発売直後、オリジナル時系列の鋼の心とは、いささかズレを生じていたり。だからこの後、もしかしたらなんか時空がねじれて、高校生の祐一と中学生のうちの主人公が出会う、ということも、あるかもしれませんw -- バーバ・ヤーガ (2008-05-16 15 03 06) 神姫愛好者様の一連の作品もオリジナル時系列っぽいので、その辺はあまり気にし過ぎなくてもいいかなとは思うのですが、もし、コラボしていただけたり、させていただけたりすれば、こちらとしては望外の喜びです。よろしければ、ぜひぜひw -- バーバ・ヤーガ (2008-05-16 15 03 41) どうやら許諾頂けたようで何よりです。さて、色々とお話したこともありますれば、ここで延々語りうのも無粋というもの。korureniosu#yahoo.co.jp(#を@)に連絡頂ければと思います。改めて、コラボの許諾、ありがとうございます。 -- 神姫愛好者 (2008-05-16 18 33 00) メール、送らせていただきましたー一応報告。 -- バーバ・ヤーガ (2008-05-17 00 24 39) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1182.html
「フフフ…遂にこの時が来たか」 「どうしたの隆斗?変な顔になってるよ」 にやける俺の手には一枚のチケット 『武装神姫バトルロンド関東大会』 全国大会程大きくなはいが初めての公式大会になる 出場を決めたのには腕試しだけでなくただ俺自身が楽しくなってきた事が理由にある あの特訓の後も俺と可凜はバトルを重ねた。 しばらくは五分五分だった勝率も、徐々に上がってきている。 何よりも俺はマスターとしての喜びも感じてきた。勝っても負けても、可凜の意見を聞き指示を出しちゃんと一緒に戦えている実感がするからだ。 それにそろそろ学校以外の神姫仲間も欲しい所だし。話すといっても掲示板とかばかりだしな。 「今から胸が踊るってもんだな」 「…うん」 「?どうした?」 見ると可凜は穏やかな笑顔で俺を見ている。 「何か嬉しいんだ。隆斗がポクと一緒に一喜一憂してくれたり、『神姫』を気に入ってくれたみたいだし」 「そうだな、生活においても戦うという事に関してもこんなに奥の深いもんだとは思わなかったし、楽しいものだとは知らなかったな。今じゃすっかり…なw」 「うん、…頑張ろうねっ隆斗。」 「応よっ勿論だっ」 二週間後 俺達は卓三達とも合流し、予定通り会場に着いた。 「……流石にでかすぎねぇか?ココ」 会場(ドーム状)の大きさは俺の想像を越えていた。 この馬鹿でかい所が全部大会の会場だというんだから感嘆だ。 早速大会受け付けを済ませる。 この大会の形式はA~Dブロックの4つにわかれ、それぞれでトーナメントを行い、トップ4組の準決勝と決勝を行う形式のようだ。 隆「控え室とかはないんだな」 卓「あるのは準決以上だったかな、出場者も多いし。トーナメントの端っこはゲーセンとかそこらでぶらついてろって事さ」 大「なら他の試合を観戦しとくのが1番だね、次の対戦相手がわかるかも知れないし、戦法もわかる」 つまりは自分も見られる立場になる訳だが、まぁ初参加など他は見向きもしないだろうな。 「OK、敵情視察といくか。俺達はBブロックだったな。行くか、可凜」 「うん。」 卓「俺らはAとD、暇になったらそっちも観に行くぜ」「応~」 俺達は散開しそれぞれのブロックを観に行く事にした。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2666.html
如何に海千山千の猛者(変態)揃いの武装紳士淑女であっても武装神姫から離れた日常と言うものはある。 黒野白太も例外ではなく彼から武装神姫を切り離せば関東地方の○県×市にある中学校に通う一中学年生だ。不登校でもなく授業は真面目に取り組んでおり総合成績は上の下、身体も障害も持病も無い良好な状態を維持している。苛めに遭っているわけでもなく、かと言って過剰に頼られているわけでもない、月並みに綺麗な学生生活。 そんな黒野白太に唯一の悩みは中学三年生にもなるのだからそろそろガールフレンドが欲しい、そのくらいだ。凄腕の神姫マスターともなれば女性の神姫マスターの交流もあるが、所詮それは神姫バトルがパイプになって繋がっている関係であり、どんな武器が強いだとか、この神姫にはどの武装が相性がいいだとか、強くなる秘訣だとか、そんな話ばかりで色恋沙汰とは程遠い。付き合うのであれば武装神姫に対しての理解があり出来れば年上の女性である事が黒野白太の願望である。 閑話休題、兎にも角にも到って健全な中学生生活を送っている黒野白太は普段通りその日の授業内容を消化して、放課後最前のホームルームを終えると直ぐに筆箱とノートと教科書を取り出してその日の予習と復習を始めた。放課後に予習と復習を終わらせるのが黒野白太の日課である。それから三十分程すると教室には黒野白太だけになり、一時間程すると日が暮れ始め、二時間程すると黒野白太は予習と復習を終わらせて学校を出た。 神姫バトルの大会がある日などには学校にも神姫を連れていきそのまま神姫センターに向かうのだが、此の日は何も無く、そも学校に神姫を持ちこむ事は禁止されており教師に見つかってしまえば取り上げられてしまうので連れて来なかった。そういうわけで黒野白太は唯の中学生として帰路に着き学校から出て自転車を漕いでマンションに辿り着く。正面入り口から見て右側、駐車場とは建物を挟んで反対側に在る駐輪場に自転車を止めて階段を上り鍵を使って玄関の扉を開けた。 「ただいまー。」 住人の迎えの言葉は帰って来ない、ラノベによくある理由で黒野白太は一人暮らしをしているのだから。と言っても神姫は一人と呼べるのか微妙なので一人暮らしと表現したが彼の神姫であるストラーフMk2型神姫イシュタルもいる。廊下の奥から漂ってくる胃袋を刺激する香ばしい匂いがイシュタルの居場所を教えてくれた。その通りイシュタルは台所に居てリアパーツの副腕と自身のもの計四本の腕で御玉杓子を持ち汁物が入った鍋を混ぜていた。 元々ストラーフ型が重装甲で神姫バトルに出るように造られている所為か自分よりも大きな御玉杓子を苦も見せず操っている。予定の無い平日の食事はイシュタルが作る、これは数年前からで黒野白太にとっては別に珍しい風景でも無かった。機械である神姫の記憶はデジタルだ、神姫であるイシュタルは冷蔵庫の中身と食事から採れる栄養バランスを記憶して調理する事が出来る。尤も神姫は栄養を第一にする上に味覚が無いのでのでそのまま調理すれば不味い料理が出てくるのだが、その辺りは黒野白太の干渉で解消していた。 「ただいま。」 「おかえり。夕食はもう少しで出来るから待っていてくれ。」 「分かった。」 黒野白太は台所を出て近くの自室で分厚い手掛け鞄を下ろし明日の授業の時間割を思い出しながら教科書やノートや参考書を入れ替える。明日の授業と鞄の中身を一致させるとパソコンを起動させ神姫ネットや知り合いの神姫マスターからの連絡の有無を確かめる。それが無いと知るとパソコンの電源を落とし外出用のお洒落な肩掛け鞄に財布や神姫の武装を入れて外出の準備をする。準備も終えて「さて次は何をしよう。」と少し悩み神姫の情報雑誌に手を出した所で台所からイシュタルが自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。 台所に戻ると調理は済んでいてイシュタルは食器を運んでいたので黒野白太は食器を受け取って盛り付けてテーブルにまで運ぶ。最後に紙パックの牛乳をコップに注ぐと何かを思い出したかのように黒野白太はテレビのリモコンに手を伸ばしてテレビの電源を点けた。ニュース番組がやっていたのでそこから流れてくる情報を頭に留めておく程度に聞き流しにしつつ最近になって食卓(戦場)を共にする事になった新入りである真っ黒な箸に手を付けた。 「いただきます。」 両手を合わせて目を瞑る、神姫以外に誰も居ないのにそんな事をするのは長年に渡って染み付いた癖のようなものだ。黒野白太が夕食を食べている間、イシュタルはする事が無いので今日の新聞を足場にして新聞を読んでいる。それも何時もの事であるが黒野白太は何気ない拍子でイシュタルを見てしまい、イシュタルも同様の理由で黒野白太を見た。目が合ってから少しの時間が経っても黒野白太は見つめたままなのでイシュタルもまた動けないので時間が止まってしまったかのような錯覚がする。 「…。」 「何だ?」 「これ、美味しいね。」 「どういたしまして。」 そして時は動きだし黒野白太は夕食に向き直ってイシュタルは読み掛けていた新聞の政治経済の記述を読み直す。神姫バトルだけではなく日常生活においても黒野白太は思いつきで行動する。が、無視すると拗ねるので適当にあしらうのが正解であるとイシュタルは分かっているからだ。それ以降は黒野白太は無意味な言動もせず数十分ほどして夕食を食べ切り最後に自己流(アウトロー)の〆として牛乳を飲み干すと箸を置いて両手を合わせて目を瞑る。 「御馳走様でした。」 「御粗末様。」 黒野白太は食器を流し台にまで運んでからタワシを手に取り洗剤を塗り込んでわしゃわしゃと食器を洗い始める。洗い終えるとよく振って水気を切りタオルで完全に水気を拭き取ってから積み重ねていき、洗う食器が無くなると食器を食器棚に戻す。その後で調理に使った鍋なんかも洗って拭いて、それが終わった頃にはイシュタルは新聞を読み終えて黒野白田の部屋に向かっていた。 一方の黒野白太はタオルで手を拭いハンカチで口元を拭い壁に掛けた鏡で髪を梳いており、それが終えると殆ど同時にイシュタルは黒野白太の部屋から外出用の肩掛け鞄を台所にまで持って着ていた。黒野白太がそれを受け取ると肩掛け鞄を渡したイシュタルは鞄の中に飛び込んで僅かな隙間からひょっこりと顔を出した。 「さて。じゃあ行くか。」 テレビを消し部屋の電灯を全て消しマンションの玄関に出ると鍵を掛けて階段を下り自転車小屋へと向かう。自転車に乗ってから寄り道をする事も無く神姫センターにまで着いて自転車置き場に自転車を置いて自動ドアを潜る。自動ドアを潜った頃にはイシュタルは勝手に肩掛け鞄から出て一跳びで黒野白太の左肩(彼女の指定席)にまで跳び乗って腰を下ろした。 センターに入り神姫バトルの筺体使用の受付を済ませた黒野白太がきょろきょろと対戦相手を探し始めるとセンターに充満していた熱気が僅かに白んだ。その原因が黒野白太である事は黒野白太自身が誰よりも理解している。モブキャラの誰か「『刃毀れ』だ…。」と漏らしてしまった。実力が知られる有名人が神姫センターに姿を現せればセンターに波紋が起こるのは無理もないが黒野白太の場合はちょっと訳が違う。 プロレスや芸能人には所謂『ヒール』が存在する、反則行為を行ったり悪口を言ったりする事で大衆に自分のキャラクターを確立させる役者である。それは神姫バトルにおいても存在し黒野白太は『武器を失った神姫を一方的に嬲る事が大好きな』ヒールとして知らされていた。そんな人物が神姫センターに来られれば他の利用者がどう思うか太陽が沈むより真っ暗な気分になるのは明確である。 利用者の中には中2病真っ盛りな輩も居て口には出さずとも出ていくとメルヘンな事を考えているのか視線で黒野白太の退場を訴えている。これについては黒野白太も反省している、四年前に若気の至りで『刃毀れ』のキャラクターを提案してきた記者にOKを出した自分を殴りたいとすら思っている。何故なら自分が使っている神姫が悪魔型神姫ストラーフ型だったものだから余計にストラーフ型=悪役のイメージが強調されたからだ。 褐色萌えである黒野白太にとって愛するストラーフMk2型に勝手なイメージを付けてしまったのは心苦しいものがあった。渾名の害はそれだけでなく、名が知れてインターネットや情報雑誌と言った玉石混淆な魔界に名が広がって言った為に所為で黒野白太=『刃毀れ』という阿呆な図式を組み立てる輩が出始めたからである。 「黒野白太、いえ、『刃毀れ』ですね。君に神姫バトルを申し込みます。」 「いいえよ。」 「いいえよ?」 「『正直嫌だけど断る理由も無いし別にいいよ。』の略。」 「いつまでその余裕が持ちますかね。今日は君に勝つ為にとっておきの武装を用意したのです!」 例えばたった今黒野白太に神姫バトルを申し込んでおきながらも何故か少年漫画だと失敗するフラグを立てたモブキャラのような。 …。 …。 …。 『やっぱりとは思ってたけどあいつ馬鹿だ。』 神姫バトル開始から数分後 銃撃戦になりハンドガンで牽制を入れつつバトルフィールドに設置されている障害物を盾に黒野白太は呟いた。相手は大剣や爆弾と言った壊れ難いか壊されない武器で固めている、がその装備は偏っておりアーンヴァルMk2型神姫の特性を殺しているとしか思えない。差し詰め武器を壊す『刃毀れ』に勝つには壊れない武器を持っていけばいいとモブキャラは判断したのだと黒野白太は推測する。 別に彼は武器の破壊に執念を燃やしているのではなく相手の心を折る手段として武器の破壊を選んだだけだ。武器が壊せないのであれば装甲を一枚一枚剥ぎ取るだけである。相手に言い訳のしようがない敗北を与えてやる為に情け容赦無い凌辱をしてやろうとグレネードランチャーに手を掛けたがイシュタルに止められる。 『ランチャーを放つのはちょっと待ってくれないか。』 『うん、何で?』 『確かに相手のマスターはどうしようもない阿呆かもしれないがそれに巻き込まれた神姫が哀れだ。』 『そりゃそうだけどさ。でも神姫バトルに参加した以上は一蓮托生でしょ。』 『だが無駄な犠牲者が出るのも好ましくないだろう。』 『神姫を傷付けずあのモブキャラの心だけを折る方法があるの?』 『あると言ったら?』 『いいね、やってみてよ。』 その言葉を合図に黒野白太は機体の支配権を全てイシュタルに譲るとイシュタルは身に纏っていた装甲を全て脱ぎ捨てる。装甲だけでなく武器も捨ててストラーフMk2型のリアパーツに収納されている大剣のみを手に取った。段々とイシュタルが何を思い付いたのかを理解し始めた黒野白太はイシュタルのマスターとして彼女の成功を祈りフラグぐらい立てて置く。 『そんな装備で大丈夫か?』 『造作も無い。』 マスターの気遣い(死亡フラグ)を叩き折ったイシュタルはモブキャラからの銃撃が止んだ瞬間を見計らって物陰から出た。 「なっ、何で武装を捨ててるんですか!?」 「分からないのか? お前如きを倒すのにこれで充分と云う事だ。」 大剣の切っ先を向けながらも凛と響いたイシュタルの挑発にモブキャラはまんまと乗せられて手榴弾を乱暴に投げた。弧を描いた手榴弾がイシュタルを目前に落ちて爆発する瞬間に駈け出して爆風を背後に走り出す。相手の武器が大剣のみならば近付かせまいとモブキャラは手榴弾で粉砕しようと目論むが唯単に単調過ぎた。 モブキャラが手榴弾を握った瞬間にはイシュタルは爆弾が何処に来るかを確定させ投げられた瞬間にその場から離れて回避する。全神姫中でも鈍足な位のストラーフMk2型でも何処で爆発しどの程度巻き込むかが分かっているのであれば避ける事は難しくない。戦場のパイナップルを三つ避けて二人の距離が当初の半分を切ったところでモブキャラはハンドガンを取り出した。 黒野白太はちょっとモブキャラに感心しつつもイシュタルには何も言わず傍観に徹している。銃口が向けられるのと同時にイシュタルは走りながら左に跳び数コンマ遅れて弾丸がイシュタルが元居た場所を通り抜けた。焦り始めたモブキャラが持つハンドガンの銃口がふらつき始めジグザグに動いているだけのイシュタルに正確な狙いが付けられない。 一発二発三発四発五発と全て気泡に終わり大剣を持ったイシュタルが目前にまで迫ったところでモブキャラはハンドガンを投げ捨てた。近接武器なら外さないと大剣を持つが 振り下ろされた刃が届くよりも遙か速くイシュタルの大剣が装甲の隙間を縫ってモブキャラの心臓(コア)を突き貫いた。信じられないとありありと伝わる表情で崩れ落ちるモブキャラを抱き止める事も無くイシュタルは大剣を抜く。 「勝者(ウィナー)・イシュタル。」 静かにも美しく神姫バトルに黒幕を降ろした一人の神姫に、唯一の観客である黒野白太が惜しみの無い拍手を送った。 …。 …。 …。 「何で…何で僕が負けたんだ…あんな相手に…。」 悔しがっているモブキャラに色々と傷口に塗りつけたい黒野白太であったが今この場はイシュタルに任せようと決めつけていた。それに気付いているのかイシュタルは指示されたわけでもなく筐体の上で仁王立ちをしてモブキャラを睨みつけている。この後に怒り狂ったモブキャラがイシュタルに掴み掛かっても直ぐに殴り飛ばせるように黒野白太も前に出ていた。 「君が負けた理由? 簡単だ、君が馬鹿だからだ。」 人を傷付ける言葉の代表格を言われモブキャラはコロっと悔しがるのを止めてイシュタルを睨み返す。その手の中でアーンヴァルMk2が自分のマスターに冷静になるように努めているがその効果が出る様子は無さそうだ。イシュタルは自分よりもはるかに巨大な存在の憤怒の形相に、元々神姫には恐怖は無いのだが、恐れる様子も無く凛として続ける。 「途中で使ったハンドガン、恐らくそこのアーンヴァル型に勧められて入れたのだろう?」 「…そうですけど、それがどうしたって言うんですか。」 「まだ分からないのか。 そこのアーンヴァル型の方が君を勝たせる為に何をしていたのかを。」 「ど、どういう事だ!?」 最後の言葉はアーンヴァルMk2に向けられたもので手の中の神姫は申し訳無さそうに表情を曇らせる。 「そこのアーンヴァル型は何も言わなくていい。あたしが全て言う。おかしいと思ったんだ、総じて学習意欲が高い機体が多いアーンヴァル型が何故あんな馬鹿げた装備をしているのかとな。答えは『オーナーである君が神姫の話を全く聞かなかった』から。勝つ為の努力を怠らなかった神姫の言葉を君は全て無視したからだ。『刃毀れ』は所詮は私達の戦法の一つに過ぎない。通じないと分かれば捨てる。そこのアーンヴァル型はそれを知っていたからハンドガンを持たせたんだ。」 少し神姫ネットで調べれば分かる事で確かに黒野白太が武器を壊した回数はズバ抜けている数字であるものの神姫バトルをした総合に比べ武器を壊した回数は約三分の一程である。黒野白太にとって武器を壊す戦法とは対戦相手の心を折る戦法の一つに過ぎない。それをアーンヴァルMk2は知っていたのだろう、だがそのオーナーであるモブキャラは自分の神姫を無視して自分勝手(エゴ)を突き進んだ。 オーナーの自分勝手(エゴ)に所詮は神姫であるアーンヴァルMk2型が強く出られる筈がない、神姫はどれだけ経験を積んでも奴隷の域を超える事は無く神姫にとってオーナーの命令はC・S・Cに等しく反対も反抗も反逆も出来ないようになっているのだから。勝とうと願ったアンヴァルMk2の精一杯の忠告を無視し努力を無駄にした、それこそがモブキャラが敗北した原因である。 「理解出来たか。それが神姫バトルだ。」 最後にイシュタルは冷たく言い放って筺体を降り黒野白太の左肩に飛び乗って腰を下ろす。意気消沈としているモブキャラを励ますアーンヴァルMk2型にイシュタルに全てを任せると決め付けたはずの黒野白太は声を懸けた。 「僕について調べてくれた君に僕達の秘密を教えてあげる。僕が『刃毀れ』と呼ばれるようになったのは四年前の事だ。」 何を言っているのか理解できずキョトンと首を傾げたアーンヴァルMk2であったが直ぐにその意味を理解してその青い瞳に驚愕の色が映えた。 「四年前は神姫ライドシステムなんて無かった。僕は外野から武器を壊せって指示を出しただけ。実際にそれをやってた奴は…。」 「おい、マスター。敗者に何を言っているんだ。勝者は次の戦いに備えるべきだろう。」 「はいはい。んじゃあ、またね~。」 覇気を込めて軽口を抑えつけるようなイシュタルの言葉に背中を押されて黒野白太はその場を後にした。 「そう言えばあのモブキャラの名前、何だったっけ?」 「さぁな。覚えるだけメモリの無駄だ。」 「酷いな。多分向こうの方が年上だと思うよ?」 「神姫バトルに年齢は関係無いだろう。居るのは勝者と敗者のみ。…そうだな、次に戦った時に私達に全力を出させるようなら覚えておこう。」 「それがいいね。」 筺体を後続の神姫プレイヤーに譲ってそんな雑談をしながらも対戦相手を探している二人に男が近付いてきた。身長が百七十センチ程の男は傍らにアーク型神姫とイーダ型神姫を待機させてイーダ型の方は敵意を剥き出しにしている。 「よう、今の見てたぜ『刃毀れ』。」 「やめろ。有象無象なら兎も角、友達にその渾名で呼ばれるのは恥ずかしい。」 「御久し振り。相変わらず神姫を舐めたような戦い方をしていますわね、イシュタル。」 「久し振りに会ったってのに直ぐに喧嘩売るのは止めなよ、バアル。」 「バッカスは気にしなくていい。バアルの言う通り私は相手を侮って戦っていた。」 敵意を留めようとしないイーダ型神姫バアルに気苦労するアーク型神姫バッカスを気にする事も無く赤見青貴は僅かな笑みを黒野白太に見せた。 「いや、珍しいものを見たもんだ。お前が相手を立てるような真似をするとはな。」 「やったのは僕じゃない、イシュタルだよ。初めは僕も普段通り(心を折ろうと)しようと思ってたから。」 「マジか。やっぱスゲェなイシュタルは。」 「他ならぬマスターが他人の神姫を褒めてどうすると言うのです!」 「マスター、頼むからバアルを怒らせないでくれ。私の胃がストレスでマッハだ。」 「あ、悪い。」 ようやく敵意三割増しのバアルを宥めているバッカスに気を留めた赤見青貴軽い謝罪の言葉を口にした。 「珍しいものを見た、僕もその言葉を返すよ。赤見、柔道はどうしたんだ?」 「もう高校受験が迫ってるから辞めさせられたよ。で、今日はようやく母さんの許可を貰って息抜きに来たわけ。」 「そう言えば赤見は他県に行くんだったね。成程、分かったよ。」 「お前は? まぁ、お前がやることと言ったら神姫バトルしかないか。で、今日はまだバトルするんだろ?」 「まぁね。どう? 久し振りにやらない?」 「やだよ。お前に負けたらしばらく立ち直れなくなるだろ。」 「何を弱気になっているのですかマスター! ここで会ったが百年目、ケチョンケチョンにして差し上げますわ!」 「バアル、それ負けフラグだから」 「お前最後に戦った時、武器どころか装甲も壊されて思いっきり泣いてたじゃねえか。」 それでも降参だけは断固として拒否したあの時のバアルの勝利への執念だけは黒野白太とイシュタルは評価していた。 「そうか。折角、旧交を温めようかと思ったのに、残念だ。」 「『刃毀れ』が言うとその台詞も嗜虐心が食み出して見えるよな。」 「だから渾名で呼ぶのは止めろ。」 「あ、そうそう。紫原と緑間…後、金子さんは、ここに来ているのか?」 黒野白太との共通の友人で神姫マスターだったが、金子と聞いた瞬間に三体の神姫は一斉に顔を顰める。唯一、能面のように無感情だった黒野白太は普段通りの笑顔を取り戻していた。 「来てないよ。まぁ、イロイロあったからね。」 「そうか。やっぱり三人とも神姫バトル辞めちゃってるのかもな…。」 「あんな事があったんだ。家族から神姫を捨てろって言われていても可笑しくは無いしね。それは僕達が何とかしていい問題じゃないよ。」 「…そうだよな、残念だけど「残念だけど僕はもう行くから。じゃーねー。」あ、あぁ、じゃあな。」 あっけらかんと赤見青貴から離れた黒野白太はふらふらとしていたがふと立ち止まってイシュタルだけに聞こえるように言った。 「紫原と緑間と…金子さん、元気かなぁ。」 それは神姫である自分が関わっていい問題ではないと、イシュタルは無言の内に込めて返答していた。 …。 …。 …。 それから数時間後、神姫センターが終業時間を迎えたので黒野白太は自転車を漕いで帰宅していた。帰宅して直ぐに黒野白太は学校から出された宿題を片付けてイシュタルと一緒に今日行った神姫バトルの反省会をする。 宿題に懸けた時間よりも長い反省会を終わらせてから入浴し寝間着に着換え髪を乾かすとベッドに潜り込んだ。風呂から出た時点で神姫であるイシュタルはクレイドルの上で休眠(スリープモード)になっている。 某のび太張りに素早く眠る事の出来る神姫に少しばかり羨ましいと思いながらも掛け布団に身を包ませた。「おやすみ、イシュタル。」と最後に今この部屋に居る唯一の家族の名前を呼んで黒野白太は全身の力を抜き、やがてゆっくりと夢の世界へと落ちて行った。 そうして朝になり黒野白太は眠りから覚め腕を目一杯伸ばして予めセットしておいた目覚まし時計を叩いて耳障りな息の根を止める。のそのそと芋虫のようにベッドから降りてから立ち上がり欠伸をしてから軽く柔軟体操をして固まった身体を解す。 イシュタルはまだ休眠(スリープモード)になっていたので起こすがしばらくの間はふらふらとしていて見ていて危なっかしい限りである。「わはひは、朝に弱いんだよ…。」とは本人の弁ではあるが果たして神姫が朝に弱いとはどういう事だろうか。 兎にも角にもそんなイシュタルに注意しつつも着替えた黒野白太はイシュタルとさっさと朝食をつくりさっさと食べ切る。食器を洗い食器棚に戻した後、黒野白太は風呂掃除をしたが危く石鹸で足を滑らせ床に顔面を叩きつけるという悲劇を引き起こしそうになった。最後の最後で踏み止まった自分を褒め称えつつも風呂場から出ると残り時間ギリギリまで新聞を読む。 最近神姫による爆発事件が起こっているらしい、黒野白太は武装紳士の一人として一抹の不安を覚える。神姫の爆発事件を知りイシュタルを見ると、彼女ははうつらうつらなまま昨日バトルに使った武装の手入れをしている。黒野白太は人差し指でイシュタルの頭を撫でて、寝惚けている彼女はその事に気付かなかったが、時計を見て新聞を畳んだ。 そろそろ学校に行く時間だ、今日も特に予定は無いからイシュタルは置いて行く事にする。学校用の分厚い手掛け鞄を持ち新聞の天気予報に依れば午後から雨らしいのでビニール傘を持っていく。 「行ってきます。」 「いひってらっしゃい。」 マンションの玄関に出て一回に降り自転車小屋へと向かう途中、黒野白太はふと足を止めて空を見上げた。曇りの空は灰色で僅かな日差しが漏れるだけで確かに午後に雨が降ると言われれば誰でも納得出来るだろう天気である。ただ黒野白太が見ているのは曇りの空ではなくちょっと思ってしまった事を呟いてしまった。 「八年前―――両親に神姫を勝ってもらっていなかったがどうなっていただろう。」 過去の「if」考えても過去が変わるわけでもない、それなら未来の「if」を考えた方が建設的だ。黒野白太自身それはよく分かっていたがそれでも感傷的に考えざる得ない。これまでの文字数9628。その内で神姫が関わっていないのは僅か948文字だ。 「一日の約十分の九が神姫と関わっていても、それ以外は何も無くても、両親とも友達とも今は殆ど関わっていなくても、人生に生き甲斐を見出している残念ながら僕は幸せだと思ってしまう。」 それが本心だった。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2502.html
MMS戦記 外伝「敗北の代価」 「敗北の代価 8」 注意 ここから下は年齢制限のある話です。陵辱的な描写やダークな描写があります。 未成年の方は閲覧をご遠慮下さい。 私は戦った・・・ 私は戦いに命を賭けた。賭けるに値すると信じていたからだ。悲しいかな私の周りの人々は何も賭けてくれなかった。彼らの頭の中には自分たちだけの小さな幸せと身の安全しかなかった。敗北は確かに惨めだ。しかし、敗北というリスクを抱えてまで戦って守ろうとするものを持たぬ人間はもっと惨めだと思う。 だから私は戦った それだけのことだ・・・ 濃いスカイブルーの海の真ん中を大型の真っ黒な客船が進む。 最上階にある露天式のバトルフィールドで、激しい戦闘が繰り広げられている。 観客たちは、興味深そうに飲み物や食べ物をつまみながら観戦し、観声を上げる。 青空の虚空の下で、パッパッと光が瞬く。 その光の一つ一つには意味があり、感情と記憶があったがそんなものはすぐに川の流れのように流れていき消え去りそして溶けてなくなっていく。 ガレキと化した廃墟ビルの間を盾に、数十機あまりの武装神姫が大小様々な火器で砲撃を行っている。 その一群でリーダー格の重武装の神姫が叫ぶ。 □駆逐戦闘機型MMS 「エルザ」 Sクラス オーナー名「野崎 有紀」 ♀ 21歳 職業 フリーター エルザ「ええい、ヘタクソ共めッ!!これだけ撃ってもやっつけやれないのか?」 天使型「無理言うなよ、相手はランカーだぞ」 虎型「奴を仕留めれば兜首やでェ!!」 忍者型「戦車型を呼んでこい!!戦車砲でビルごと吹っ飛ばすんだ!!」 ドズドズと重い足音を立てて、4台の戦車型が目抜き通りから現れる。 戦車型A「こちらタイガー01、これより支援砲撃を開始する、射線上の神姫は退避せよ」 4台の戦車型が長い黒光りする砲身を一斉に向ける。 種型「遅い!」 セイレーン型「ドゥンドゥンやっちまおうぜ」 戦車型A「タイガー01より各車へ、目標目抜き通り2ブロック先、対MMS戦闘用意ッーーー」 戦車型のオーナーがパチンと指を鳴らす。 戦車型A「ファイヤ!」 ドズンドズンドズン!! 戦車型の主砲が一斉に放たれる。 ズンズンズズズン・・・ ドゴオンゴン・・ 砲弾が着弾すると激しい爆煙と砂埃が舞いビルが倒壊する。 エルザ「出て来い!!化け物めッ!!」 駆逐戦闘機型のエルザが吼えるように叫ぶと同時に、砂埃の中から黄色い閃光が瞬き、音速を超えて後方の戦車型の一台の頭部を粉々に砕いた。 バキャッ!! 戦車型A「タイガー03大破!」 砂埃の中から蒼い装甲を纏った戦乙女型がレールガンを構えて突っ込んでくる。 □戦乙女型MMS 「スクルド」 SSランク 二つ名「蒼」 オーナー名「宇野 瑠璃」♀ 20歳 職業 神姫マスター 種型「出たァ!!!SS級ランカー「蒼」スクルド!!!」 ヘルハウンド型「迎撃!!」 一斉に重火器を構え迎撃態勢を整える武装神姫たち。 エルザ「ヘッハア!!!愚か者め!!突っ込んできおったわ!」 エルザのオーナーの野崎がほくそえむ。 野崎「これは勝ったな」 ズドン!! 後方の戦車型の一台が派手に爆発する。 エルザ「なっ・・・」 さらにもう一台が爆発する。 戦車型A「タイガー02大破、タイガー04大破」 砲台型「対空防御!!上だァ!!」 堰を切ったように砲台型の一群がライフルやリアパーツに懸架されたキャノン砲で応戦する。 ドドダッダダッダダダ!!! 激しい対空砲火を最小限の動きで回避したその神姫も青い装甲を纏った神姫だった。 □戦闘攻撃機型MMS 「グロリア」 SSSランク 二つ名「ヤーヴォ」 オーナー名「海原 幸之助」♂ 55歳 職業 海運業社長 砲台型A「ヤ、ヤーヴォだ!!」 砲台型B「畜生!撃て撃て!」 砲台型C「撃ちまくれ!」 砲台型はグロリア目掛けて持てる武装全てを一斉射撃する。 グロリア「やれやれ、全然なっちゃいない、ただばら撒ければ当たるとでも思っているのか?愚か者め・・・」 グロリアは冷めた目で砲台型に目掛けてリアパーツにマウントしたレールキャノンを連発する。 バキンバキンバキンッ!! 吸い込まれるように砲台型の胸部に弾丸が命中し、砲台型3機は沈黙する。 グロリアはホバー移動で地面を滑るように移動し、他の神姫たちを次々と撃破していく。 エルザ「ちいい!!!グロリアか!出てきやがったなァ!!」 野崎「ようし、アイツを呼べ!!叩き潰してやる」 戦車型A「うおおおおおおお!!」 グロリアの前にパイルバンカーを構えた戦車型が突っ込んでくる。 短く息を吐き、リアパーツからヒートブレードを取り出す。 グロリア「フッ!!」 戦車型がパイルバンカーを打ちつけるが、グロリアはくんとブレードをひねり戦車型の強化アーム間接部分を切り落とす。 戦車型A「ぐあッ!!」 ズドンと重い音を立てて戦車型の強化アームが地面に落下する。 グロリアは間髪いれずに戦車型のリアパーツの上にまたがり頭部にブレードを突き立てた。 頭部をカチ割られ、ブシュッツと粘ついたオイルがグロリアのバイザーがかかるが、グロリアは気にせず、メロンをスプーンで掻き混ぜるように戦車型の頭部をえぐり潰す。 力なく倒れる戦車型・・・ 火器型「ひいい」 そばにいたほかの神姫たちはたじろぐ。 グロリアはオイルでべったりと汚れたブレードを白熱させて蒸発させる。 グロリア「おら、どうしたァ?次に死にたい奴はどいつだ?ぶっ殺してやるよ」 ドズウウン!!!スクルドの方から爆発音が響くと同時にバラバラと様々な神姫の残骸がぼとぼとと落ちてきた。 算を乱して遁走する神姫たち、みな怯えた顔をして武装を放り出して逃げ出す。 ヘルハウンド型「ひいいいいい!!」 種型「うへえああああ!!」 真っ赤なオイルを全身を濡らして蒼と紅のコントラストに彩られたスクルドが虚ろな目で剣を握って突っ立ている。 エルザがライフルを振り回して制する。 エルザ「に、逃げるなァ!!戦え!!逃げる奴は撃つ!!」 エルザはライフルで後ろを向けて逃げる神姫たちに発砲する。 種型「ぎゃッ!!」 ヘルハウンド型「ぎひゅうあ!!」 バンバンッ!! エルザの銃弾を受けて次々と崩れ落ちる神姫たち。 エルザ「はあはあはあ・・・・」 荒い息を吐いてライフルを握り締めるエルザ。 グロリア「あーーあーーひでーことしやがるぜ・・・」 グロリアとスクルドが神姫の残骸を踏みつけながらエルザに近寄る。 エルザ「ひぎゅ!!!」 ビクッと背筋を振るわせるエルザ。 グロリア「たかだか20機ぽっちの雑兵で俺たちを倒せると思ったのが運のツキだったな、ねーちゃん」 スクルド「・・・・」 グロリアとスクルドの周りにはぐしゃぐしゃにつぶれた神姫の残骸が転がっている。 湯気が立っているものもあり、出来立てホヤホヤといった感じだ。 グロリア「どうせ、ネットの書き込みを見てきたタマだろうが・・・残念だったな、オマエラの負けだ。大人しく尻尾まいて帰るんだな」 グロリアは肩をすくめる。 エルザ「ふひひひ、まだだァまだ負けていない!!」 エルザは涎を垂らして叫ぶ。 ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・ エルザの後ろの廃ビルが激しく揺れる。 スクルド「ッ!!超高熱エネルギー反応!」 ドッガアアアーーーン!!! 廃ビルを突き破って巨大な灰色の塊が突っ込んできた。 □強襲戦闘艦型MMS 「アマルテマ」 SSランク 二つ名「タイフーン」 オーナー名「斉藤 誠」♂ 31歳 職業 神姫マスター ブオオオオオオオオオンン!!!! 巨大なファンの音を奏でながら猛スピードでビルや廃屋を飲み込み薙ぎ倒しながら灰色の怪物がスクルドとグロリアに迫る。 エルザ「やった!!やっとキヤガッタナ!」 エルザが小躍りする。 斉藤「ひゃはっはっはは!!!カタリナ社製の最新鋭の突撃ホバー型MMSだ!!!アマルテマ!!奴らを倒して6000万を頂くぞ!!」 アマルテマ「・・・・」 アマルテマは無言で全身に装備された機関砲やミサイルでスクルドたちに一斉攻撃を行う。 ドオドドオドドオドドドッツンン!!! スクルド「くッ!!『ヴォストーク』級突撃戦闘艦型MMS!!グロリア!」 グロリアがうなずく。 グロリア「SS級ランカーMMS、アマルテマを撃破する。スクルド、敵の突進は単調だが高威力だ、当てられるなよ」 スクルド「グロリア、こいつは私が仕留める、あなたは手を出さないでください」 グロリア「ふっ、いいだろう・・・では・・・私は高みの見物とさせてもらおう」 アマルテマがヒートブレードを展開して一直線にスクルドに接近する。 溶けたバターのようにビルや家屋が潰され、粉塵が巻き上がる。 スクルドは空中に飛び上がり、レールガンを撃つが、信じられないことにアマルテマは巨体にもかからわず軽やかに攻撃を回避する。 スクルド「!!」 アマルテマは空に飛び上がったスクルド目掛けて垂直ミサイルを発射する。 ドシュドシュドシュ!! スクルドはレールガンで何発かのミサイルを迎撃し、残りのミサイルはビルにうまく誘導して回避する。 グロリア「敵が速すぎるな。らちがあかん、分かっているな」 アマルテマは間断なく衝撃力の強いミサイルを連発して撃ってくる。スクルドは巧みな機動で回避しときおり反撃のレールガンを撃つが、アマルテアはそれをなんなく回避する。 スクルド「くっ・・・速い!!」 エルザ「いいぞ!!!アマルテア!!『蒼』を撃墜してやれ!!」 エルザはビルの物陰に隠れてアマルテマを応援する。 スクルドは地面スレスレを高速飛行し、アマルテマに近接戦闘を仕掛けようとする。 それに気がついたアマルテアは2mmCIWS機関砲、ガトリング砲をスクルドに向けて強烈な砲撃を加える。 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!! スクルドはスラスターを吹かして攻撃を回避するが、スクルドの背後にあった廃ビルはガトリング砲の砲撃を喰らって一瞬に穴だらけの蜂の巣になってガラガラと崩れ落ちる。 スクルド「ッ・・・対空砲撃が近すぎて近づけない!」 アマルテマは目の前のもの全てを巨体でなぎ倒し轟音を奏でながら猛スピードで突っ込み、両脇の大型クローでなんでもぶった切る。 廃墟はアマルテアによってぐちゃぐちゃに潰され、アマルテマの足元を逃げ送れた神姫が数機、巻き込まれグチャグチャのスクラップになってミンチにされる。 火器型「ぎゃああああああああああああああああ!!」 虎型「ぶげええ!!」 アマルテマの下敷きになりひき潰される神姫。 グロリア「スピードを殺す手段を考えるんだ。あのビル郡に突っ込ませろ。スピードを殺せ」 グロリアはスクルドに指示を送る。 スクルドは雑居ビルが集まる区画にアマルテマを誘導するように鼻っ面を飛ぶ。 アマルテアはミサイルやガトリング砲を撃ちまくりスクルドを追いかける。 ビシバシ!!バキン!! スクルドの蒼い装甲が穴だらけになっていく。 スクルド「ぐううううう!!」 スクルドは唇を噛み締め、耐える。 角を曲がり、スクルドは大型ビルの正面ロビーに陣取る。 スクルド「はっはっはっ・・・」 荒い息を吐くスクルド。 ドッゴオオオオン!!バッキインンン!! ビルや廃屋を薙ぎ倒し、アマルテマがスクルドに迫る。 スクルドは剣をぎゅっと握りなおす。 スクルド「スーーーーーーハーーーーースーーーーハーーー」 スクルドは大きく息を吸いそして吐く。 グロリア「ほう・・・」 グロリアが顎に手を沿え感嘆の息を漏らす。 アマルテマは大型のヒートクローを前面に押し出し、艦首にある大型ミサイルやビーム砲を撃ちまくる。 しかし例えビルを利用してスピードを殺したとしても、相手はなお速度も早くそして強力な武装で攻撃してくる。 スクルドはそれに臆することなく、じっと攻撃を見極め動かない。 ヒュイイイイイイ ギアをニュートラルにしたままスラスターエンジンの回転数を上げていくスクルド。 斉藤「ヒャッヒャ!!バカなやつだ!!このアマルテアに真正面から攻撃するつもりかァ!!!アマルテま!!!遠慮はいらねえ!!大型ヒートクローでぶった切れ!!」 アマルテマ「・・・・」 アマルテマは大型のヒートクローを展開し、ジャキンとハサミをカチ鳴らす。 スクルド「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 スクルドはギアを入れ替え、機体がバラバラになる寸前まで最高速度で一気に加速し、アマルテマに突っ込んだ。 斉藤「バカか!?こっちは数十倍の巨体なんだぞ!?」 アマルテマも最高速度で突っ込む。 ミサイルのシャワーを掻い潜り、機関砲の弾幕を抜け、ビームの砲撃を回避し、大型ヒートクローの攻撃を見切り、スクルドは突っ込む。 あまりにもスクルドとアマルテアの両方の速度が速すぎたため、ミサイルの信管は作動せず、機関砲の近接信管もズレて爆発し、ビーム砲の照準もずれた。 大型ヒートクローの攻撃もスクルドの速さに追いつけずタイミングがずれる。 スクルドはすれ違いざまにアマルテマの艦橋ブロックの胸部を思い切り斬り付けた。 アマルテア「ッツーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」 驚愕の視線でスクルドを見つめるアマルテマ。 バッギュム!! アマルテマの上半身が粉々に砕け散り、制御を失ったアマルテマの巨体は速度を落とさずに大型ビルに突っ込み、大爆発を起こして爆沈する。 ドッガアアーン!!! スクルドはアマルテマの最後をちらっと見ると振り返らずにそのままステージの上空へと駆け上がる。 □強襲戦闘艦型MMS 「アマルテマ」 SSランク 二つ名「タイフーン」 撃破 斉藤「ば、バカなァ!!!お、俺のアマルテアがァ・・・うおおおおああああああ!!」 ドンズズズン・・・ゴオオオオオン・・・ 崩れ落ちる大型ビル、その下敷きになって小規模な爆発を繰り返して醜い残骸を晒すアマルテア」 スクルドの装甲はボロボロの穴だらけで傷だらけであったが、スクルドの瞳だけは爛々と強気に満ちていた。 グロリア「ランカーMMS、アマルテマの撃破を確認、様になってるじゃないか」 グロリアはスクルドの肩を叩く。 スクルド「あの突撃がもし、失敗していたら負けていたのは私のほうだった・・」 グロリア「でも負ける気はしなかったんだろう?」 スクルド「・・・・まあね・・・」 ぺロッと舌を出すスクルド。 エルザ「あ・・・ああ・・・なんてことだ・・・」 エルザは自分の浅知恵を悔いた。 20体のSクラス、Aクラスの完全武装の神姫に、切り札のSSクラスの化け物神姫「アマルテマ」、それを持ってしても勝つことは愚か、決定的なダメージすら与えていない。 野崎はバトルロンドの筐体からエルザに指示を出す。 野崎「エルザ、もういい戻って来い」 エルザ「スクルドにグロリア、あの2人はホンモノの武装神姫だ。生半可な武装神姫では勝てません!!オーナー!」 エルザは悲鳴のように叫んだ。 野崎「わかっている。だが、今回の戦いは無駄じゃないよ・・・私らは所詮斥候さ」 にやっと笑う野崎。 エルザ「・・・・戻りますオーナー」 エルザーはぐしゃぐしゃになった廃墟ステージを抜け出した。 野崎は負けたにもかからわず飄々としている。 野崎「敗北したのは問題じゃない、ようはその敗北を次に同やって」生かすかだ、それは敗者の特権だよエルザ・・・」 To be continued・・・・・・・・ 次に進む>「敗北の代価 9」 前に戻る>「敗北の代価 7」 トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/101.html
第2話「戦闘終了、元の鞘へ」 「ブラボー、なんだ今日の様は?」 今日の試合は何とか勝てたが、危なかった そしてその原因の殆どは、今日復帰したばかりのブラボーのミスだ 「メーカーで初期化されたってのは本当だったようだな。しかし、初期化されても武装神姫だろう? もっとマシな動きは出来なかったのか?」 わざとねちっこく嫌味を言ってやる。 「だ、だってボクは!」 「口答えすんじゃねぇ!」 ビシッ! 指二本でデコピンしてやる。身体の軽い神姫にはかなりの衝撃で、吹っ飛ばされて転がる。それでもブラボーは立ち上がり、 「な、なによ! ご主人様に言いつけてやる!」 などと叫びやがった。なんだその舐めた口のききかたは! 「何言ってやがる! テメーの主人は俺だろ! まだ殴られたいのか!」 「車にぶつかったのと比べればなんでもないもん!」 車にぶつかった? 何の話だ? 「てめー、本格的に狂っているのか?」 「違うもん! ここには間違って送られてきたんだ! ご主人様のところに帰らせてよ!」 なんだって? まじか? まさか、誤発送? つーか、じゃあブラボーは? 思考が混乱を極める、そんな時、電話が鳴った 「よかった、無事で…。もう大丈夫。もう怖い目にはあわせないから…」 なんて、迷子の子供を見つけた親みたいに話しかけている 俺みたいな武闘派ユーザーとは究極的にソリが会わない、溺愛系ユーザーのようだ メーカーからの電話で、誤発送がマジだったと解り、しかも家が割りと近いとのことで、直接会って交換することになったのだ こちらもブラボーがきちんと戻ってきて、やれやれといったところだ 再会の儀式がひと段落したらしく、なにやらひそひそ囁きあっている あ、何かこっちに来た 「あー、なんというか、1発殴らせてもらってもいいかな?」 「え?」 「入れ替わっていたことに気付かなかったとはいえ、うちの神姫を危ない目にあわせただけでなく、手まで上げたそうじゃないか。その落とし前をつけさせてもらおう」 指をボキボキ鳴らしながら迫ってくる。彼の肩の上ではブラボー、もとい黒子がこっちにむかってあっかんべーをしている。 ああ、なんてこった。これだから溺愛系ユーザーは嫌いだ。しかも落ち度は俺にある… バギッ! SSS氏のコラボ作品はこちら 続く
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/126.html
「ありがとうございます。EDEN-PLASTICSカスタマーサポートセンターです」 マニュアルどおりの応対が、どこかのブースから聞こえてくる。 ここはEDEN-PLASTICSのサポートセンター。武装神姫の素体やコアユニットを 販売管理する、武装神姫の総本山……の対お客様最前線だ。 「マオとハウの不具合って……まだ凶暴なコのロットって残ってたんですか?」 その戦場の最前線であるスタッフブースの外れの外れ。 主任の札が出された大きなデスクの前に、あたしは一人呼び出されていた。 「みたい。対応頼んでいいかな? マオチャオの対処方法見つけたの、あかねちゃん だったしさ」 何のヘマを怒られるのかと思ってビクビクしていたから……その依頼は、むしろ 拍子抜けするほどだった。 「はぁ。じゃ、私のブースに持ってきといてください」 「ありがとね。後で差し入れ、持っていくからさ」 魔女っ子神姫ドキドキハウリン 番外編 その1 ブースに戻れば、荷物は既に届けられていた。 「あー。こりゃ、気合入ってるねぇ」 中のコのマスターはよっぽどヒドイ目にあったんだろう。箱に幾重にも巻かれた ガムテープが、その時の惨状を物語っている。 「ますたぁ。ボクの妹がまた悪いコトしたんですかぁ?」 大変だったんだなぁ……とマスターさんの事を考えていると、ブースで留守番をして くれていたマオチャオが心配そうな顔を向けてきた。 フリルの付いた白いエプロンが可愛らしいそのコは、あたしの自前の神姫。いくら 神姫のサポセンといえど、本当は私物の神姫を持ち込んじゃいけないんだけど…… ありがたいことに、みんな見て見ぬふりをしてくれている。 それに、にゃー子はマオチャオの不具合を解決した最大の功労者だしね。 「んー。別に、にゃー子が悪いことしたわけじゃないから、いいんだけどねぇ」 さて。その不具合を何とかしてでもこのコと一緒にいようっていうご主人様のためだ。 この戸田あかね、ウチのにゃー子と一緒にひと肌脱ごうじゃありませんか。 「にゃー子。そのエプロン、外しといた方が良いよ。静香が作ってくれたヤツでしょ?」 「あ、はーい」 妹(こいつがまた、手先が器用なんだ)お手製のエプロンを引き出しに仕舞い、 にゃー子が代わりに取り出したのは、秘密兵器。 「ますたぁ。おっけーだよ!」 あたしもそのうちの一本を受け取り、カッターで梱包に切れ目を入れた。 既ににゃー子は秘密兵器を構え、梱包の動きを窺っている。 「じゃ、開けるよ」 「あい!」 さっと箱を開けば、中から飛び出してきたのは猫の凶暴性をそのまま映したかのような マオチャオだ。 「それ、かかれーっ!」 「巧いもんだねぇ……」 あたしの指先にゴロゴロと頬をすり寄せるマオチャオを見て、差し入れのおやつを 持ってきてくれた主任は感心したように呟いた。 仔猫のようにあどけない顔でこちらを見上げるマオチャオは、もちろんウチのにゃー子 じゃない。ほんの五分ほど前まではそこらの野良猫よりも凶暴だった、あのマオチャオだ。 「このくらい、誰でも出来ますよー」 不具合なんていうけど、何のことはない。輸送中にうっかり電源が入ってしまい、 暗闇のストレスでシステムがオーバーフローしてしまっただけのこと。 どちらかといえば大人しい性格の一期モデルは、同じ現象が起こっても怖がったり 怯えたりするだけだった。 余談だけど、箱を開けた瞬間にマスターに抱き付いてきたり、甘えっ子な性格の神姫には この不具合が出てる可能性が非常に多かったりする。 ただ、 「ウチのストラーフがオレにべったりくっついたまま離れないんです! そのうえ 甘えん坊で、夜も一緒に寝たがって……」 なーんて苦情が来たことは、わがEDEN-PLASTICSのサポートセンターにも一度として ないわけで。こちらもその症状を、大きな不具合とは思わなかったんだけど……。 動物的な性格パターンを入れて発売した二期モデルは、同じ症状が甘えっ子じゃあ なくて凶暴化っていう形で現われたワケだ。 もちろん今は電源装置の改善がされていて、どの子もこんな不具合は起きなくなってる けど……。暗闇の中にずっと閉じこめられてれば、そりゃあ暴れたくもなると、あたしは 思う。 「ほらほらー」 反対の手には相変わらずの秘密兵器。 マオチャオの目の前にひょいと突き出してやれば。指先にしがみついていたマオチャオの 大きな瞳は、ゆらゆらと動くそれに吸い寄せられたまま離れない。 やがて顔が視線に追従し、続いて体が秘密兵器の方へと流れていく。 「はーい」 ひょい、と右手を突き出せば、秘密兵器はその手を受け流し、右手が触れることを 許さない。 その動きが面白かったのか、今度は左手を突き出すマオチャオ。 もちろん、秘密兵器は左手が触れることも許さない。 「にゃーっ!」 右、左、右、左。ゆらゆらと揺らしてやれば、さらにマオチャオはエキサイト。 有効打を与えようと必死にそれに追いすがってくる。 「ほーら、こっちにもあるよーっ!」 今度はにゃー子の秘密兵器を追いかけ始めた。 ふふ、可愛いなぁ。 「それにしても、猫じゃらしとはね……」 要は、たまったストレスを解消してやればいいだけの話。 凶暴化の症状を解消するため、猫じゃらし片手にマオチャオと戦いまくった不具合発覚 直後は……あたしにとってはいい思い出だけど、主任達にとっては悪夢のひとかけららしい。 「もう三十分も遊べば、疲れて寝ちゃうと思いますよ?」 秘密兵器その2。 神姫と同じほどの大きさがあるゴムボールを取り出し、マオチャオの方に転がしてやる。 って、アンタまで遊ぶんじゃないの、にゃー子! 「そっか。じゃ、終わったら修理セクションに回しといて。電源の交換と、太腿の修理 依頼を出してあるから」 「はーい」 そして、主任は去り際に。 「あと、いくら神姫のサポセンっていったって、私物の神姫を仕事場に持って来ちゃ ダメだよ。後でもう一回、僕んところに来なさいね?」 「えーっ!?」 ちょっと、お褒めの言葉じゃなくてお小言決定!? 「ひどいよ、主任……」 涙目のあたしなんか気にも留めず、二人のマオチャオがゴムボールで一心に遊んでいる のが……なんだか無性に恨めしかった。 トップ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1718.html
「神姫オーナーの皆様。新年明けましておめでとうございますm(_ _)m」 「流石、犬〇さん。見事な土下座です」 「……正確には、座礼」 「今年一年、なにとぞ私たち武装神姫をよろしくお願いしますね」 「よろしくお願いします」 「……ん」 「と、言う事で。何か正月っぽいネタをやりたいですね」 「ん~。そうですねぇ。では正月に相応しい座礼講座などを……」 「……却下」 「同じく」 「あうぅ」 「では、初夢など如何でしょう?」 「初夢、ですか?」 「……初夢」 「ええ。私の初夢は、マスターが彼氏と行く所まで……」 「ストップ、サラ(仮)さん!! 3Sは健全コラボです」 「そういえば、コラボでガチエロって少ないですよね」 「……微妙すぎるから」 「確かに微妙ですよね。……と言う事で、次は犬〇さんどうぞ」 「私ですか。そうですね、私はマスターさんとコタツでミカン等を食べる夢などを……」 「……それ、いつもとどう違うの?」 「夢はその人の願望といいますが、神姫にも当てはまるのだとしたら、犬丸さんは充たされているのですね……」 「……願望」 「そう言えば、テッコさんの初夢は何でしたか?」 「……富士山」 「むむ、確か『一富士、ニ鷹、三茄子』と言い富士山の夢は縁起が良いのだそうですが……?」 「……富士山が噴火して世界が滅亡した夢を見た」 「………………………」 「………………………」 「……縁起、良い?」 「良い訳無いでしょう!?」 「まったくです」 「……残念」 「……あのさ。すごく気になっている事を聞いても良いか?」 「あたし?」 「おや、何でしょうね?」 「あのさ、君の初詣のエピソード。あの最中実は『穿いてなかった』と言う情報がある筋から……」 「根も葉もないデマです(即答)」 「……なるほど、貴女にはそういう趣味が……」 「ストレス溜まってるのかな?」 「おーい、ちょっと?」 「幸せなったからと言って、ストレスと無縁では無いですからねぇ……」 「確かに、俺も何時か殺されるんじゃないかとビクビクしてるし……」 「……無視かよ」 「「でもさ、露出狂になっちゃうのはどうかと思いますねぇ/思うんだ」」 「なって無いぃーっ!!」 <戻る> <進む> <目次> 犬子さんの土下座ライフ。 クラブハンド・フォートブラッグ 鋼の心 ~Eisen Herz~
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1318.html
第六話「風間の神姫」 突然だが、ウチの学校がMMS解禁となった。 「何故だあぁぁぁぁあぁぁあ!!!?!?」 本編はまだ始まってない、今説明してやるから黙れ、矢瀬。 矢瀬が以前生徒会をたぶらかして校内MMS禁止にした事は、前に説明したハズだ。 しかし、無茶もいいとこで、生徒間での不満を通り越し、教員を含めた全校がキレかけていた。 そこで立ち上がったのは、隠れ神姫愛好会の会長であるレンだった。 MMS解禁を希望する署名を集め、全校生徒232人の内、220人から署名を集め(残り12人は矢瀬とアンチ、生徒会だ) 教員からも石頭の教頭を除き、全員から署名してもらった。 提出時に神姫愛好家の校長先生にもついて来てもらい、生徒会のマヌケ面が拝めたぜ。 全校の98%以上を敵に回し、流石に生徒会も解禁せざろうえなかった訳だ。 とゆう事だ矢瀬、諦めろ。 「ぬぉぉぉぉぉぉっ!!覚えてろ!」 とゆう事で、本編は解禁の翌日から始まる。 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~ 午前9時7分 「よう相棒、元気か?」 「おはよう、ラリー」 現在授業中につき、神姫たちは空教室で井戸端会議である。 形人は国語、聖憐は英語の授業中である。 「それにしては、いっぱいいるなぁ…」 何しろ神姫を複数所持する生徒や教師もおり、一年だけでも80体以上居るのだ。 普通の教室一つの半分が埋め尽くされていた なお、二年・三年はそれぞれ別の場所に集まっている。 「そりゃ皆神姫が好きだからよ」 さっき知り合ったツガルタイプの神姫「ミシカ」が言う。 彼女のマスターは形人のクラスの担任で、通称がミシカ先生である。 「そりゃ…そうですよね(笑)」 「そう言えば、風間くんの神姫(こ)…来てないわね…」 「え?風間さんって神姫持ってたんですか?」 「そうよ、家庭訪問の時に会ったの、確か…マオチャオタイプだったかしら」 「猫…トムキャット?」 夏夜の外のラリーが関係ないものを連想した、視点を向けない事にしよう。 ラリー、出番終わり「ああ!ジャン・ルイ…もとい出番がやられた」 お昼休み 「…とゆう訳なの」 「ふぅん。…風間、どうなんだ?」 「…うーん、確かに神姫を持ってるけど…」 「けど、どうした?」 「今、目が見えないんだよ、神姫センターに連れてって直してもらわなきゃならないくらいに」 「どうして?」 「バトルロンドの最中に頭を強打されたのが原因らしいんだ」 「…それ何てサキ司令だ?」 「?」 「それより、家に置いて来てるのか?」 「いや、帰り道によってこうかと思って鞄の中に…ああっ!いない!?」 「「な、なんだってーー!!(AA略)」」 午後1時21分、三階廊下上空。 「出番は待ってればまわってくるもんだな」 ラリーが呟いた。 「そんな事言ってないで西棟をお願い」 「ラジャー(了解)、ブレイク(散開)!」 西棟三階、テラス。 現在は柵の老朽化が原因で封鎖されている。 「む?」 ラリーの視線の先には小鳥が居た。 「怪我をしているのか」 その小鳥は羽に傷を負っており、フェンスの前でうずくまっていた。 「ん?…これは」 傷を見ると、切り傷…しかも研爪「ヤンチャオ」によるもの…? 「近くに…いるのか?」 前が見えない。 これほど恐ろしいものは少ないだろう。 しかも、聴覚にも異常が発生したらしく、音がよく聞こえない。 少女は、底知れぬ恐怖な囚われていた。 戦闘用レーダーが近づく物体を捕らえた。 敵か味方かわからない 「k……が……iかiい…」 何かを言っているようだった。 だが、身体は考える前に、本能的に逃げる事を実行していた。 その直後、身体が宙に舞った気がした。 「~~っ!?」 「こぅの!馬鹿っ!?」 自ら身を投げたマオチャオに、ラリーは絶叫した。 推力全開、アフターバーナーON。ラリーの意志は瞬時に「リアウイングAAU7・C」に伝わった。 青白い炎を吹き、ラリーの身体が宙に浮かぶと同時に前方に加速する。 「(間に合え…!)」 猫をモチーフに作られているマオチャオだが、別段着地が上手い訳ではない。 更に視覚が無い、着地なんて望めない。 14cm程度の神姫にとって人間の1mは10m以上となる。 ましては三階、しかも地面はアスファルトである、激突すれば助からない。 全速で落下するマオチャオに追いつくラリー。その小柄な体をしっかり抱きしめた。 後は上昇するだけ。ラリーは上昇を始めようとした。 その直後、ブースター内の燃料が無くなった。 アフターバーナーは通常より高い推力を出すことが出来るが、燃料消費量も多くなる。 さっきから捜索のため飛び続けたため、燃料をかなり消費していたのだ。 落ちる! そう思った瞬間、何かに受け止められた。 「ヒカル!」 「ふぅ…間一髪」 溜息をつきながら一言 「よお相棒、まだ生きてるか?」 普段ラリーが言う台詞をそっくり言った。 後日談 マオチャオは小鳥の前に居た。 羽には包帯が巻かれている。以前、彼女がつけてしまった傷だった。 「ごめんなさい…あたし、怖くてつい…」 目に涙を湛え、小鳥を抱きしめる。 小鳥は、懺悔するマオチャオを赦すかの如く、静かに鳴いた。 「…これで一件落着、ね」 「まあ、元々悪気があった訳じゃないし」 ミシカの言葉に続けてラリーが言う。 「私としては、ちょっと不満」「「!?」」 「翼が壊れた…(泣)」 3人分の重量だ、それくらいの洒落は覚悟しろ。 終われ 次回予告 おのれ…神姫愛好会め… よろしい、ならば勝負だ! 次回「燃えるバトルロンド」 形人「…で、勝負に何を使うかわかってるよな?」 うがっ!?(N:矢瀬) 武装神姫でいこう!?に戻る トップページ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/658.html
真っ直ぐに学び、ひたむきに語り 秋葉原を要する千代田区には、“一応塾”なる大学出資の学習塾がある。 どことなく安心出来ない屋号であるのだが……実績は確かと聞いていた。 私は戸籍謄本等を求められぬこの塾へ、実験的にクララを通わせている。 勿論“殻の躯”で門前払いされたので、HVIFを用いて審査を通った。 そこで彼女は高校生・槇野梓として、一般の“同年代の人間”と過ごす。 「ただいまなんだよ、お姉ちゃん。今日も宿題が一杯あるんだよッ」 「おお、御苦労だな梓……いや、クララ。HVIFを休ませるか?」 「ううん。今日は筆記問題もあるから、この姿でないといけないよ」 「この時代にプリントとはなぁ。電子データに統一すればいい物を」 そうなのだ。“当番制”を崩せない以上、毎日塾に通う事は出来ない。 とは言え進学塾故に、ノルマというか必要な単位はこなさねばならん。 従ってクララは当番日になると、法外な“宿題”を抱え込む事になる。 更に塾通いは深夜まで続く。だが聡明な梓は、決して夜遊びに奔らん。 「“書く能力”を維持するには、スタイラスだけじゃ不十分だもん」 「それもそうだが、環境問題を叫ぶならば工夫が必要にならんか?」 「その為に、来年度はフィルム型のスクリーンが支給されるんだよ」 「……レンタルか。もう少し早くても良さそうな気はしていたがな」 この現状を仕向けたのは私で、同意したのは他ならぬクララ本人なのだ。 寡黙で頭脳派に見えるクララだが、ハウリンタイプのサガと言うべきか、 実は外に出て目一杯“勉強”したかったらしい。それも人間の学問をだ。 だが今現在まで、日本国は神姫に人権を認めていない。海外も殆ど同様。 となればどうしても、学習の機会は通信教育が頼り……嘆かわしい事だ。 「そう言えば、今日は神姫を連れたクラスメイトが来ていたんだよ?」 「……確かにあの塾、神姫を持ち込む事自体に渋い顔はしなかったが」 「種型の“綺羅”さん。彼女もオーナーの勉強に興味有るみたいだよ」 ……名前に少々引っかかる物があるが、それはさておこう。有無。 梓の話ではないが、人間の行動に興味を持つ神姫は結構多いのだ。 だが大抵の場合、社会進出は認められぬ。ネット上で正体を隠して 活動している神姫がいないとは言い切れないが、殆どは玩具扱い。 『なら“肉の躯”はどうなるの?』……これが私の考えた疑問だ。 「どうだ、仮初めとは言え高校生としての勉学の日々は?……辛いか?」 「そんな事無いよ、お姉ちゃん。自分の能力を活かし、高められるから」 「流石はクララ。私の見立て通りだ……む、もう筆記は終わったのかッ」 そしてエルゴを訪れた際に、クララの言葉で思いついたのが“塾通い”。 “HVIFによる神姫の社会進出”実験……という名目で、行っている。 この企みにクララのニーズは見事当てはまり、周囲の誤魔化しも良好だ。 御陰で人間の社会常識を教え込む際に、ロッテよりも容易に会話が進む。 「終わったよ。後は全部データ処理……神姫素体で十分出来るもん」 「そうか。しかしこんな問題、私でも時間が掛かるというのになぁ」 「学ぶ事はとっても楽しいんだよ、お姉ちゃんが技術を磨く様にね」 「成程な……向上心は大事だ。今後もその調子で学ぶのだぞ、梓ッ」 神姫にもある“発展性”が、クララに於いては知識という方向性で 急速に成長している。これは良い傾向と言えた。己の才能を活かし 更に高めていく。人間としてそれを活かせずとも、可能性は増す。 そうして、人は更なるステージに到達していくのだからな。有無。 「……え、ええっと。梓ちゃん?これ、なんて書いてあるんですか?」 「なんだか難しすぎて、コアがオーバーヒートしちゃいそうですの~」 「アルマお姉ちゃん、ロッテお姉ちゃん……無理するとよくないよ?」 テーブルを登ってきたアルマとロッテが、その難解極まりない宿題に 音を上げている。神姫が学問を学ぶ機会などそう多くはない。大抵は こんな反応だろう……。故に、クララの特異性が目立つとも言える。 「今ハーブティーを入れてやる。皆飲んで、寝る準備をしろよ?」 ちなみに、これは物理学のプリントだった。成程、クララには重要。 学んだ事は“魔術”に転用する事で、具体的な力となる。これもまた 人間では為しえない……“武装神姫”だからこそ出来る事であるな。 「有り難うなんだよ、お姉ちゃん。躯があったまるもん」 「はふ……流石にHVIF用のサイズは、違いますの♪」 「人間とほぼ同様なのだ、アルマでもなければ飲めまい」 「うう、ひどいですマイスター!?……飲めますけどっ」 さて……ティータイムでくつろいだ所で、私は梓に質問する。 純粋に一人の“姉”として、最も気になる要素とすら言えた。 それは即ち、人間であれば十二分に有り得るだろう“話題”。 「ところで梓や、塾でお前に親しくする男性はいるのか?」 「結構いるんだよ?神姫だって言えないから苦労するもん」 「……ほう。例えばどんな奴だ?ヘラヘラ笑ってないか?」 「顔がデロって垂れ下がった人が、話しかけてくるんだよ」 ……今度そいつを連れてきてもらう必要がありそうだと思うな。 無論、私の“妹”である梓……いや、クララに変な蟲が付いては たまらん故、一度お灸を据える為だ。そこの貴様も、同様だぞ? この後を覗いたら、たっぷり仕置きしてやる。覚悟しておけッ! 「……さて、そろそろお風呂に入るか。寝る準備を始めるぞッ」 「うん。今日は疲れたから、たっぷり入ろうね……お姉ちゃん」 「う゛、うむ。背中を、その。流してやろうではないか、なぁ」 「マイスター顔がまっかっかですの♪……アルマお姉ちゃん?」 「あ、あのっ。あたしも、ロッテちゃんの背中……流したいな」 「ふぇ、ふぇえっ!?そんな事言われるの初めてですのッ!?」 ──────姿形が違うからこそ、毎日が楽しいのかな? 次に進む/メインメニューへ戻る