約 220,417 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/332.html
「と、言うわけでこれからよろしくお願いします。明人様」 「お願いいたす。若君殿」 「……………」 ちょっとまて 一体全体なんのことやら全く意味がワカリマセン 「あのさ、香憐ねぇ? もう一度最初から説明してくれない? ちょっと俺、最近ややこしいことが起き過ぎて頭ん中が大混乱ですよ? 大根Ran。師走だから大根も平気で走っちゃいますよ?」 昴が帰国してから一週間 その間にも昴たちの引越しやら何やらでいろいろ急がしかったので、やっと一息ついたところにやってきた香憐ねぇと一人の女の子 話を聞くにもなんだか凄い勢いで一通り説明されたのだが、俺の耳に異常があったのかもしれない。いや、そう思いたい 思わせてくれ えっと…聞き間違い…ですよね? 「ですから。私とこの子も今日からこのマンションに御用になると言ったのです」 「うん、それは聞いた。色々つっこみたいがとりあえず置いておいてさ…何でそうなったかを聞いてるんだよ。分かって言ってるでしょ? 香憐ねぇ」 「そのことについてはもう一度説明したところであまり意味を持たないと思うのですが…そもそもこれはすでに決定事項…」 「い・い・か・ら」 少し凄みを聞かせて言う俺 今日の香憐ねぇは少し、いや、やたらと強引に話を進めるからこっちも強気でいかないとあっという間に流されてしまう 「わ、わかりました…それではもう一度お話しいたします…。あれは昨日の夜のことでした…」 私は夕食後に自分の書斎に来るようにと兼房様に申し付けられまして、その通りに一人で兼房様の書斎をお尋ねしました… 「兼房様。香憐です。お申し付けを受け参上しました」 私は兼房様の書斎前の廊下でいつものように入室の確認をしました 「来たか。香憐よ、今そこにはお主一人か?」 「え? はぁ…」 書斎の前の廊下に人がいないことを確認 「私一人ですが…」 「そうか、入ってくれ…」 その時の私はいつもの兼房様と少しだけ違う口調に違和感を感じていました 「失礼いたします…」 部屋に入ると兼房様はいつも通りに書斎机に腰掛けていらっしゃいました。ただ、いつもと違うのは、兼房様の隣に私の知らない女性が立っていたのです 「ご苦労じゃ、香憐…。さっそくじゃがお主にはひとつ任せたいことがある…」 「は、はっ! 何なりとお申し付けください」 「そう硬くならんでもよい。なぁに、ちと厄介かも知れんがわしはお主を信頼しておるし、お主の技量も心得ておる」 「そのような勿体なきお言葉…」 「それでじゃな、香憐、お主………」 「…………」 「武装神姫に興味はあるかの?」 「……はい?」 「じゃから、武装神姫を持つ、武装神姫のマスターになる事に興味はあるかと聞いておるんじゃ」 「あ、あの…それと今回のお申し付けと何の関係が…」 「いいから質問に答えるんじゃ」 「は、はい。興味は……少し…ありますが…」 嘘ではありませんでした 明人様がいる世界 それを追うようにして葉月様、昴様もなられた武装神姫のマスターというもの それにノアさん、ミコさん、ユーナさん、レイアさん、ランさん… 彼女達、武装神姫に対しても私は興味を抱いていました 「そうかそうか、ならお主に任せようかのぅ。ふぉふぉふぉ」 「あのう…それで、いったい何を…」 「人型神姫インターフェイス。その試作機のモニターを、じゃよ」 「人型…神姫…インターフェイス?」 その後、私は兼房様から鳳条院グループとフェレンツェ博士との共同プロジェクト、 人型神姫インターフェイス、ノアさん達の秘密などについてのお話を聞きました 「そうだったのですか…ノアさんやミコさん達がその試作機…」 「その通りじゃ。彼女らは勿論、マスターである明人や昴にも秘匿義務がある。今まで秘密にしていたのはあやつらの責任ではない…そのことはどうか責めないでやってほしい…」 兼房様はいつもとは違う鳳条院グループの総帥様のお顔でした… 「責めるも何も…明人様たちは何も悪いことなどなさっておられないではありませんか。未来における神姫と人との新しい関係や生き方の可能性のために頑張っていらっしゃるのです。秘匿義務にも納得がいきますし、むしろ私はそんな彼らを誇りに思います…」 「そうか…そういってくれるとあやつらもわしも助かる。しかしじゃな、最近、裏で模造品などが出回ってるらしいという報告も聞いておる。」 「模造品…ですか?」 「うむ、明人が知り合いから仕入れた情報じゃ」 そう言うと兼房様はため息混じりに話を続けました 「人の口に戸は立てられんと言うが…この件はわしらサイドから洩れたのか、教授サイドで洩れたのかは不明じゃが、それがわしらの開発概念の大筋を得たものだという事は確かじゃ。まぁ、不幸中の幸いか、模造品は武装改造や戦闘ができるレベルまでには至っておらんらしい。わしらの開発概念を、神姫を下らん地域紛争などに利用するような者を出す最悪の事態にはなっておらんようじゃ。今、その件に関しては明人達に一任しておる」 「…………」 「よいか、香憐よ。いくら正しくて未来の可能性を持つ研究であっても裏に潜む危険性には無視できないものがあるのじゃ。それは過去の結果、ダイナマイト然り、原子力然り、…レスティクラム然り、じゃ。」 「……つまり、大きすぎる力、便利すぎる力は争いを呼ぶと、そう仰りたいのですか?」 「そうじゃ。無論、彼女ら…そして彼女らのマスターがそんなことを望んでいるはずは無いのじゃが…わしらには責任がある。彼女らが非道な者の手によって利用されぬため。わしらにはまだ時間が必要なのじゃ…」 「サンプルデータの採集のためですか」 「うむ。だからわしはお主らを信頼してこの秘匿義務を課しておる。このことはたとえ葉月であろうと例外ではない。わかるな?」 「……わかりました」 正直、葉月様に秘密ごとを作る事は躊躇われました。それでも私は… 「明人様もその道を進んでおられるのです。仕えるものとして、師として、私は明人様の進む道を共に歩みましょう」 「そうか…ふっ、あいかわらず明人は幸せ者じゃの…」 「あ、えと、その… と、ところでその…私の神姫となる方は…」 「おう、そうじゃった、紹介が遅れたのぅ。彼女がおぬしの神姫じゃ」 「へ?」 鳳条院家に仕える私も、そのときばかりは迂闊にも間の抜けた声を出してしまいました… 「お初にお目にかかります。手前、“たいぷ”紅緒、侍型の“えむえすえす”にてござる。姫君様…」 先ほどまで兼房様の横にいた女性が私の前に来て、いきなり膝をついてそう言いました 「ひ、姫君様?」 姫はどちらかと言うとあなたなんじゃ……って 「あ、あなたがインターフェイスの試作機さんですか?」 「は、手前は“たいぷさいふぉす”と同型の試作四号機、つまるところ昴殿の神姫、ランとは双子の姉妹の様な立場になります」 「はぁ…」 私は素直に驚いていました 前にも一度、インターフェイスのノアさんには会っているのですが、言われてみても目の前の彼女は人間にしか見えないのです… 「まさかここまでとは…」 「感心するのはいいが、頼みたいことにはまだ続きがあるんじゃ」 「続き…ですか?」 「うむ、それはのぅ…………」 「と、言うわけでこれからよろしくお願いします。明人様」 「お願いいたす。若君殿」 「……………」 ちょっとまて もっかい言うぞ? ちょっとまて… 「あのさぁ、だから肝心なところを省略しないでくれる?」 「ですから、私たちが鳳条院本家にいては秘匿も何もありません。なのでこのマンションに…」 「だから! なんだってこのマンションに来ることになるんだよ!!」 「…はぁ、もう一つは秘密だったんですけどねぇ……」 「よいのですか?」 「仕方ありません。私が兼房様より申し付かったのは明人様の護衛です」 「……はぁ? 護衛だぁ?」 「はい、八相のマハ派からの襲撃に対してできる限り明人様のお側役として仕えるようにと…。目には目を、歯には歯を、彼ら八相には同じくして我ら八相を…と」 なんちゅうまた、過保護な…御袋といい爺さんといい… 「それに…良い理由になるのです。『明人様のお側役をいいつかった』と言うことならば葉月様にも納得していただけるでしょう?」 「そ、そりゃ…」 確かにそうだな… 香憐ねぇがいきなり俺の実家から出て独り暮らしするのは無理がある 「それに私達はこの部屋にご厄介になるわけではありません。隣の部屋を…」 「まて、隣は確か空き部屋ではないはずだ。今朝だって俺は隣の人と挨拶したぞ」 「隣の方にはお願いしに行きました。快く承諾していただきましたよ?」 「………何をした」 「何も。………ただ菓子折りを持って行っただけですよ(ボソ」 ………香憐ねぇ、菓子折りって中は…大体そのやり方ってほとんど●剣財閥と変わらない… 「だけどなぁ…元々俺は家(本家)の力や過保護さが嫌で出てきたんだから…」 「いいじゃねぇか、明人」 そう言ったのは昴だった いつからいたんだ、おまえ…… 「香憐ねぇ達がこっちに来てくれりゃあ楽しくなるじゃねえか」 「楽しくなるってお前…そりゃそうだがな…」 「それとも…明人様は私が来ることは…お嫌…なのですか?」 「うっ……;」 香憐ねぇ…その目は…… 「ご迷惑…ですか?」 「う、ううぅぅぅ……;」 だから…その目は反則… 「流石香憐ねぇだな…明人の弱点『下から見上げるウルウル目線』の破壊力はハンパねえゼ…」 昴! お前、親友のピンチ(いろんな意味で)って時に人ごとのような解説入れてんじゃねぇ!! 「明人様……」 「ぐあっ……わ、わかったよ。降参だ」 確かに認めるよ 昔から苦手だったんだよなぁ 雨の日の捨て猫を見つけたときの罪悪感から見逃せない感じと言うかなんと言うか… 「それでは明人様…」 「なんだ、その…ヨロシクな」 「はい! 明人様」 「若君殿、ご理解痛み入る」 「あ、ああ…ところでその若君殿っていうのは何なんだ?」 「我が姫がお仕えなさる方なので若君殿と……」 …姫は誰かに仕えるものなのか? 「その呼び方なんだか…どうにかならないかな?」 ノアたちの『ご主人様』よりもガクッてなるんだよ… 「この子になにを言っても無駄ですよ、明人様。私のこともいまだ姫君様なんですから…そんながらじゃないんですが…」 香憐ねぇもガクッてなってる…って、最後のは俺の台詞… 「手前の主は男性なら『殿』、女性ならば『姫』にて候。これは“たいぷ”紅緒の“でふぉると”でござる」 「それはあなただけよ…」 「(姫君様って言うよりはオ●カル様って感じだよな…)」 「昴様、何か仰いましたか?」 「い、いえ…なにも…;」 余計なこと言った昴が香憐ねぇに睨まれる 自業自得だ 「と、ところでさ、この子、名前は?」 「おっと、申し遅れました。手前、姫君に頂いた名を“孫市”と申します」 「孫市って…雑賀 孫市?」 「そうです。この子は刃物よりも銃のほうが得意らしくて…侍型ですし時代的には雑賀衆がいいかと…」 「なんだか安直だなぁ~」 お前のランスロットだって似たようなもんだろうが… 「やはりそうでしょうか。私も少し…」 “ガタン!!” 「うわわ!!」 香憐ねぇが最後まで言い終わる前に孫市はいきなり席を立ち、昴に向かってつかつかと詰め寄った 「我が名は主、香憐様より頂いた手前の武士(もののふ)としての誇り! その名を汚すのであればたとえ昴殿でも…」 「お待ちになってください」 「ラン?」 隣の部屋にノアたちと待機(主にミコ、ユーナが騒がしいと話が進まないので…ノアは監視役)させていたランが俺たちのいるリビングに入ってきた 「久しいな、今は…ランスロットか。元気そうでなによりだ」 「あなたこそ、お元気そうですね…」 にらみ合う二人…なんだか感動の再会って感じではなさそうなんだが… 「(この二人って双子のようなものなんだよな? どっちが姉とかあるの?)」 「(さぁ……二人の口調からしてそんな感じはなさそうですが…)」 「ランも主に仕える騎士なれば、我が心も解るであろう?」 「そのことについては謝ります…しかし! いくらこちらが悪くても、私のマスターに敵意を向けたことについては見逃すわけには行きません…」 おいおいおいおい なんか言ってることが双方、無茶苦茶になってないか? 「ふっ、それでこそ我が半身(のようなもの)……いいだろう。主に対する忠誠心、どちらの方が上か…」 「ええ、この際はっきり決めてしまいましょう…」 「「え? え? ええ?」」 ことの原因らしき二人は慌てふためくばかり マスターとして日が浅いのだが… なんとも情けないな、オイ… 「ちょ、待てよラン! いつもの冷静なお前らしくもない…」 「そ、そうですよ孫市! 私達が争っても仕方がありません!」 「昴さん、今回だけは止めても無駄です」 「右に同じ、姫君殿、無駄でござる」 「騎士の『忠誠』の誇りにかけて…」 「武士の『忠誠』の誇りにかけて…」 「「決闘だ!!!」」 「「「え、ええええええぇぇぇ~~~~~~!!??;」」」 なんなんだよ、この展開は…… 追記 そのころ隣の部屋では… 「ね、ね、ノアねぇ。何かさっきから向こうが騒がしくない? 気にならない?」 「なりません。大人しくしておきなさい、ミコ」 「ちぇ~。ん? どうしたのユーナ」 「いや……最近なんか新キャラも増えてきたしさ…だからアタシもアニキと一緒でちょっと大根Ran中なんだよ…」 「あ~、増えるのは楽しくなっていいけど私達の出番が少なくなったりするんだよねぇ……今回みたいに…」 に、睨むなよミコ…次はちゃんと出番あるから 「…ホントだろうな」 ………May Be 「またそんなオチかい!!」 続く メインページへ このページの訪問者 -
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1061.html
第7話 「隻脚」 俺がルーシーの存在をちょっと意識してからさらに数日後、お待ちかねの補助シリンダーが到着。 口には出さないが、コイツもワクワクしているようだった。 さっそくバリバリとダンボールを開いてみると、梱包材に埋もれるようにして不透明なプラスチックの箱が入ってた。 ……そういやネットにもシリンダーそのものの画像はアップされていなかった。 公式ライセンス商品だってんで疑う事もなく買ったけど、現物を見るのはこれが初めてだ。さて何が出るやらと開けてみると…… バッタの足が入ってた。 「うぁキモチ悪っ」 反射的に箱ごと投げ捨ててしまったが、フローリングの床にぶつかる寸前にルーシーがダイビングキャッチ。 「何してるんですか何やってるんですかまったくもー!」 「いやナニって」 「注意書きがあるんですから、ちゃんと目を通してください!」 プンスカ怒りながら彼女が差し出したのは、『非常に小さなパーツですが精密機械ですのでお取り扱いには注意を云々』みたいな事が書いてある小さな紙切れだった。 ……が、俺はこういうのに注意を払わない性格なので無視。 「だってお前それキモーイ」 さすがに本物でこそないが、見れば見るほどリアルすぎる。 ガキの頃によくイタズラして遊んだゴムのおもちゃみたいなチャチなのじゃなく、まるで本物からむしって来たみたいな感じだ。 つか『武装神姫』のイメージと全然違う気がすんだけどな。 ルーシー自身も間近で見たそのリアルな造形に一瞬動揺したようだったが、何とか平静を保つ。 「……外見はともかく、性能はまともなはずです」 ネットショップに画像がなかったのも分かる。 こんなキモグロデザイン見たら買うヤツぁいない。 グズっててもしょうがないんで、イヤイヤながら補助シリンダー(という名のバッタの足)デカ足に装着してやる。 つっても細かいチューニングなんかはルーシー本人が自分でやると決まってたんで、俺の仕事はこれでおしまい。 ヒマなのでちょいとお茶の準備でもしようかと立ち上がった所に、本日2度目のインターホン。カメラモニタを見ると、さっきのとは別の運送屋だった。 ハンコを押して受け取った小さな箱には『武装神姫初回登録記念粗品』とある……あぁ、そーいえば何だかパーツ1個サービスしてくれるんだっけ。 部屋に戻ると、既に調整が終わったらしいルーシーが笑顔で出迎えてくれた……ちくしょう、なんかいいなぁこういうの。 「何ですかそれ?」 「登録した時のサービスだとさ。 開けてみ」 テーブルに置いた箱を嬉しげに眺め、俺とは逆でそっと静かに開封していく。 こういう所も女の子って感じなのかねぇ? 顔がニヤケそうになる反面、またイヤガラセみたいなデザインのアイテムだったら速攻で送り返してやろうと思っていると、「あっ」という声と共にルーシーの顔が綻んだ。 続いて嬉しげな旋律で言葉が流れ出す。 「見てください、『カロッテTMP』ですよ。 基本装備のリボルバータイプ・ヴズルイフの弾数には不安があったのでこれは幸運というべきでしょうね。 あまり高価な品ではないですがコンシールド性に優れたスタイルに加えて小型ながらも赤外線スコープにスライドストックが付いてますから、ライフルほどではなくともある程度の精密射撃が可能です。 もちろん弾数はハンドガンとは比べ物になりませんから牽制にも充分使えます」 ……いっくら綺麗な声で歌みたいに滑らかだって、まさしくマシンガンさながらに喋られちゃ聞いてるだけで疲労が溜まる。 しょうがないのでこっちは「へーそーなんだーすごいねー」とかテキトーに相槌。 だからマニアトークは苦手なんだってば…くそ、俺の淡いトキメキを返せ。 そんなこんなで一応カタチは揃った。 装備はほとんど基本のまんまだが、最初持ってたリボルバーは今回手に入ったサブマシンガンに変更。 そして左足は予定通り素体のままで、右のデカ足に添えている。 角度によっちゃ足が1本しかないようにも見えて、妹の「古今(中略)辞典」に載ってた『カラカサオバケ』とか『イッポンなんとか』みたいな感じだ。 リアルなバッタの足がくっついてる事もあって、ヨソのサイトで見るカスタムタイプに比べると正直言って不恰好かなとも思ったが……本人に気にした様子はない。 ま、コイツが気に入ってくれるのが一番か。 ……ホント、今の俺って骨抜きだ。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/158.html
西暦2036年。 第三次世界大戦もなく、宇宙人の襲来もなかった、2006年現在からつながる当たり前の未来。 その世界ではロボットが日常的に存在し、様々な場面で活躍していた。 神姫、そしてそれは、全項15cmのフィギュアロボである。“心と感情”を持ち、最も人々の近くにいる存在。 多様な道具・機構を換装し、オーナーを補佐するパートナー。 その神姫に人々は思い思いの武器・装甲を装備させ、戦わせた。名誉のために、強さの証明のために、あるいはただ勝利のために。 オーナーに従い、武装し戦いに赴く彼女らを、人は『武装神姫』と呼ぶ。 ~プロローグ~ 其処は鶴畑家邸内に構えられた武装神姫専用棟。 この場所に置いて、あの鶴畑3兄妹の武装神姫たちが生まれ、訓練され、使役され、そして朽ち果て、棄てられていく。 そしてその施設の一つ、リアルバトル様式の実験場にて、新アラエルのテストが行われようとしている。 フィールド内、アラエルの周囲はヴァッフェバニーと新型のフォートフラッグが取り囲む様にして配置されており、 さらにはその周辺に渡って多数の武装神姫が配備されていた。 「ふふふ……いいかアラエル、貴様には最新の武装と最新型のシステムを組み込んである。 この程度の敵に敗北するようでは俺の武装神姫は名乗れん! その時は朽ち果てるだけ、だ」 施設の地下にある管制室から無数のモニターで状況を観察しているのは、鶴畑家の次男である鶴畑大紀。 大紀は前回マイティに敗れた旧アラエルを廃棄処分にし、修正プログラムを加えた上で、その戦闘データを新アラエルに移植したのだ。 更に鶴畑家で独自に開発中の制御プログラムを実験的に導入し、反応速度と処理速度の大幅な向上を図っている。 また各部の強度も向上させており、体当たりされただけで翼が空中分解という醜態を晒さないように工夫されている。 スペックデータだけであれば長男興紀の誇るルシフェルに匹敵し、それはこのテストによって実績となって証明されるはずであった。 「よし、開始しろ」 大紀の指示の元、オペレーター達が神姫に攻撃コマンドを命令していく。 アラエル周囲の神姫は全て中央から一括コントロールされており、いわば唯の人形と相違ない。 そして嵐のような一斉砲撃が始まった。 ヴァッフェバニーのSTR6ミニガンが、カロッテTMPが、フォートブラッグの主砲、ミサイルランチャー、他あらゆる火器が、アラエル唯一点を目指して突き進んでゆく。 そして着弾、爆発と煙でその姿は視認不可能。 たが次の瞬間、周囲を包囲していた最前列の神姫の頭が次々ボトボト地面へ堕ちてゆき、不本意な大地との接吻を余儀なくされる。 アラエルが指向性レーザーで首との接合部をひと薙ぎにしたのだ。しかもアラエル本体は無傷。 翼に無数に設置されたレーザー及び迎撃用ミサイルによる相殺で、完全にその攻撃を防ぎきったのだ。 今度は、格闘装備を展開した十数体の神姫が一斉に飛び掛る。 しかしアラエルは冷静に、危険度の大きい敵機からレーザーを浴びせ、確実に、そして圧倒的な速度で次々と沈黙させてゆく。 それはギロチンの処刑を彷彿とさせる様な光景だった。 レーザーがひと薙ぎする度に複数の神姫の首が胴体との別離を余儀なくされ、苦しみを訴える間もなく意識が奪われるのだ。 やがてフィールドには沈黙だけが残される。動いている神姫は既にアラエルのみであった。 「ふん……100体仕留めるのに3分26秒か、悪くはないな。よし上がれアラエル、データを元に再検討を行う」 しかしアラエルは動かない。 ただ佇むだけで、その目からは生気や意思が一切感じられない。まるで夢遊病者のようである。 いつもの様に従順に「イエス、マスター」との返答がくると信じきっていた大紀は不快感を露にし。 「おい、俺の言うことが聴けないのか! 初戦でいきなりぶっ壊れやがったのか!? この役立たずめ!!!」 罵倒を受けても、尚一切の反応を示さないアラエル。 と思われたその時、ギギギと錆付いたブリキのロボットのように再起動すると、全身に装備された全武装を最大出力で乱射し始めた! 「やめろアラエル! 廃棄処分にしちまうぞ、俺の言うことが聞けないのか!?」 そうマイク越しに叫んではみるものの、全く主人の意思に従うそぶりは皆無である。 最大出力のレーザーは施設そのものにも大きなダメージを与え、現場は凄惨なものとなっていた。 人間では危険すぎてとても近づけず、神姫によって拘束もしくは破壊しようとしてもその狂った戦闘能力は何者をも寄せ付けようとはしなかった。 破壊神と化し近づく者全てを、いや周囲のあらゆるものを灰塵に帰していく。 やがてその純白のボディにうっすらと内部から赤い色が染み出してくる。 過剰出力で発射し続けたためにオーバーヒートを起こしているのだ。 「やめろ! やめるんだ! やめてくれぇぇぇぇぇ!?」 エマージェンシーコールと共に、大紀の悲鳴が管制室に響き渡る。 ……やがて、限界を迎えたアラエルのジェネレーターは融解し、辺りは閃光に包まれた…… ~ねここの飼い方・劇場版~ ミィ~ンミィ~ンミィ~ン、とセミの鳴き声が暑苦しく聞こえる頃。 「あ~つ~ぃ~の~……」 「暑いですね……」 「暑すぎるわね……」 私たち3人はノびていました。夏休みに入ったばかりなのに、その日は運悪く点検による一斉停電の日でして。 そして更に運が悪いことに、地獄のような暑さだった……温度計をみると目眩がしそうな気温を指している。 という訳で私たちは居間に倒れこむようにしてぐったりと。 「ねここ~、雪乃ちゃぁん。お昼どうするぅ~……?」 べっちゃりと床に這い蹲る格好でそういう私、でも冷たいものしか食べたくないわ…… 「ねここ~ぉ~、カキ氷ぃ~……」 「いいわねぇ……でもウチには電動式のしかないのよ」 それを聞いて、へにょりとたれるねここ。私も同じ気分だけどねー……トホホ。 「あーもー……こうなったらエアコンの効いてるお店に逃げるしかないわね……ここからだと、エルゴが一番近いかしら」 老体に鞭打つようにして何とか立ち上がる私。 ここにいては死んでしまうと思えるほどなので、動きたくなくても動かなければ…… 「行くわよ~、さぁさ二人とも乗って。あ、団扇で私扇ぐの忘れないでよね」 「はぁひ…ぃ」 と、よろめく様な足取りでエルゴへ向かったのでした。 「生き返るぅ♪」 「サイコーなの~☆」 という訳で、あの蜃気楼のような街並みを死の行進の如く突破してエルゴにたどり着いた私たち。 自販機コーナーで命の一杯を満喫しているところです。 改めて店内を見回してみると、夏休みに入ったという以上に人が多い気がする。やっぱりみんな逃げてきたのかしらね。 「ねここ、せっかくだからバトルでもする?」 「う~ん、後でがいいの。今はまだヘロヘロぉ」 と、ぐんにょりしながら言う、ねここがここまで元気がないのは珍しい。 ま、私も今の頭だと指示出来なさそうだしね。 という訳で、スクリーンに映し出されている対戦に目をやる私たち。 戦っているのはストラーフとアーンヴァル。 どっちも常連のサードリーグの人なんだけども、私にはどちらも以前見た時よりもかなり動きが鋭くなってるように思える。 上達したのだろうけど、なんだろう…… 酷い言い方かもしれないけど、短期間に上手くなりすぎ……とでも言うのかな。 「……あぁ、そっか。運動パターンがどっちも一緒なんだ」 出荷時に神姫にプリセットされた戦闘用プログラムは基本的に同一だから、箱から出した時や経験値が殆どないときは 同じタイプであれば、どの娘もほぼ同じ動きをするわけで。 でもある程度成長してくると、同じタイプでも一人一人の個性が生まれて、全く違う動きをするようになる。 それは全ての神姫が自分の経験を元にして新しい動きを生み出すからであって、例えばねここと同じような動きをする神姫がいても、 ねここと全く一緒の動きをする娘はいない。 それにプリセットされた動きといっても、タイプ別のパターンはあるわけで。 なのにあの二人は、タイプも違うのに行動パターンが妙に似通っているんだ。 「や、美砂ちゃんこんにちは」 「あ、マスター」 私が観戦しながらそう思慮を巡らしていると、いつの間にかエルゴの店長が後ろにいて。 「難しそうな顔してたけど、あれ気づいたのかい?」 と、主語を省いて問いかけてくる。 「えぇ……同じ様な動きしますよね。あの二人って親友とかじゃありませんでしたよね?」 「ああ、そうだね。此処で顔をあわせる程度の関係だと思うよ。 ……まぁ、恐らくなんだけど、多分アレを使ってるんだろうな」 微妙な表情で、妙に言葉を濁す店長。 「アレ? 何かあるんですか」 ん、と店長は声を一段下げて 「多分だけどね、HOSを使ってるんだろうな」 「何ですかそれ?」 「ん、ハイパー・オペレーティング・システム、通称HOS。 まぁ一言で言うと武装神姫の動きや思考を戦闘用に最適化するためのものだね。 乗せるだけで平均30%は性能が上がるって言われてるよ。」 「へぇ、そんなものが出てたんですか。知りませんでした」 私はソフト面の改変は殆どしないし、やっても自分で処理してしまう事が多いので市販品については疎かったり。 「出てるんだよ、出したのは傘下のメーカーのほうだったと思うけどね。 今じゃかなりのユーザーが使ってるよ。手軽に能力UPが図れて、しかも激安ってね。 でも俺はあまり好かないな。確かに性能は大幅に上がるかもしれないけど、あれは神姫の個性を殺すようなシロモノだからね。 確かに強くはなれるかもしれない。でもそんなものに頼った強さは本物の強さじゃない。本物の強さというのは……」 と、そこまで話して店長はハっとなって 「いや、すまなかったな、こんな話お客さんに聞かせるモンじゃないよな。忘れてくれれば有難いよ」 「いえお構いなく。でもそうですね、ジュース1本づつ奢ってくれたら忘れてあげます☆」 「ハハハ、まぁいいさ。それくらいならね、何がいい?」 「それじゃあですね~……」 そうおちゃらけてみたけど、その話をしている時の店長さんの顔がとても真剣で、とても怖くて、そして悲しそうに見えたのが印象的でした。 「さて、やっと落ち着いてきたし。一試合やっちゃいましょうか~」 「お~っ☆」 店長さんから2杯目のジュースを強奪した私たちは、フル回復。 ねここも雪乃ちゃんも戦闘用装備に換装して準備万端だ。 「さてさて、誰がお相手になるのかしらね~」 とその時 「キャァァァァァァァァァァァ!!!」 いきなり対戦ブースの方から聞こえてくる絹を引き裂くような悲鳴。 振り向くと、そこのスクリーンには相手がダウンしてるにも関わらず、延々と相手の顔面を殴り続けるアーンヴァルの姿が。 相手のストラーフの顔はフレームから歪んでしまっている。バーチャルとはいえやり過ぎなのは明らかで。 私は何かトラブルがあって、感情が振り切れて(つまり激怒して)しまったのかと思ったけど、アレは違う。 顔は無表情、あらゆる感情が消え去りただマシーンのように相手の顔面を殴るのみ。 マシンに駆けつけた店長が、急いでマシンを停止させようと機器を操作する。 「……くそっ! 試合が終わらない、なんでだっ!?」 だがマシンは止まらない、店内が段々騒然としてくる。 それ以前に、あんな状態になる前にジャッジAIが判定を下しているはずなのに。 「電源を抜いたら?」 私も傍らに駆けつけて、そう言ってはみるものの。 「ダメだ、今下手に電源を抜いたら、電脳空間内にいる二人のデータが破損する恐れがある。 ……!? いつの間にか識別信号が味方同士になってる。だから終わらないのか!」 「変更できますか?」 「いや無理みたいだ、二人のデータから何か流れてきてるみたいでな。……電脳空間に乗り込んでって、二人を直接倒せばあるいは……」 「ねここが、行くよ」 え?、と驚く店長。 「あんなの見ていたくないもん。ねここにできる事があったら、やるのっ」 「私も行きます。ねここだけを危険な目にあわせる訳には、行きません」 雪乃ちゃんもそれに続く。 私は何も言わない、ただ微笑んで二人を送り出してあげるだけ。 店長さんは一瞬何か言いたげだったが、すぐに気を取り直すと 「わかった、二人にお願いする。でも俺の方もジェニーをすぐ送り出すようにするから、二人は無茶しない事、いいね」 と、二人に任せてくれた。 「それじゃ、隣の筐体に入って。すぐに繋げるから」 「……何か空気が違う感じがしますね、ねここ」 「うん、嫌な感じがするの」 そして二人はそのフィールド、ゴーストタウンへと降り立っていた。私もヘッドギアを付けて、二人のサポートと援護。 『二人とも、目標は前方500にいると思われるわ。出来るだけ早く叩いて頂戴……それと、辛いけど頭部を破壊して。 100%確実に退場させるにはそれしかないの。悪いけど……』 さすがにこんな言葉を二人に伝えなければいけない自分が嫌になる。しかも手を汚すのは私じゃない、あの娘たちなのに…… 「……心配しないで、みさにゃん。ねここは大丈夫……それに、そうすればあの子たちを助けられるんだから…っ」 『………お願い、ねここ』 ……強くなったね、本当に。 「……ねここ、向かってきます。二人とも!」 と、雪乃ちゃんが言うが早いか、レーザーライフルの連射が二人を襲う。サードリーガー、まして暴走中とは思えない正確な射撃だ。 「とぉっ!」 だけどねここ達には当たらない。二人は壁や十字路の死角を駆使して、器用に攻撃を回避しつつ接近していく。 と、壁にドォン!と着弾。壁が粉々に吹き飛びビルが半壊する。 「ふぅ、セーフぅ」 壁伝いに移動するねここに、ストラーフがグレネードを放ったのだ。 頭部に大きなダメージを負っているはずなのだが、動きは通常時と変わりなく、それが不気味さを増大させている。 「ねここはアーンヴァルのほうを! ストラーフは私が引き受けます」 「了解っ!」 言うが早いかシューティングスターを全開にして一気に突進するねここ。 ストラーフはそのねここに対して攻撃を行おうと 「させませんっ!」 雪乃ちゃんが左腕に装備したガトリングガンでストラーフを蜂の巣に。サブアームでガードするものの、全身に満遍なく被弾。 さらにグレネードランチャーにも弾着、爆発。その爆風を全身に浴びてしまうストラーフ。 既に装甲はメチャクチャに撥ね上がり、既に装甲としての役割を果たさなくなっている。 見た限り駆動系の一部も破損しているはずだ。 普通ならとっくに動けなくなっているはずなのに、しかしまだ動く。 その不死身さはゾンビを連想させる…… 「……止むを得ませんね」 姿勢を低くして一気にダッシュをかける雪乃。 ストラーフは突進してくる雪乃をメッタ斬りにしようと、自身の腕とサブアームでアングルブレードとフルストゥ・グフロートゥを構え、 タイミングを計って一気に振り下ろす! が、雪乃は直前に横に細かくステップ。 そのまま相手の頭上へジャンプし、ストラーフの脳天、ほぼゼロ距離から蓬莱壱式を叩き込む! それは頭部に直撃、完全破壊。さらに胴体にも致命傷を受けたストラーフはそのまま倒れこみ、やがて消滅していった。 一方ねここはアーンヴァルに向けて突撃。 「このくらいじゃ、当たらないよっ!」 確かに相手の射撃は正確だけども、十兵衛ちゃんに比べれば隙だらけ。 ねここは紙一重で回避し続け、あっという間に白兵レンジへと持ち込んでしまった。 と、不利と悟ったのか空中へ飛翔しようとアーンヴァル。 でもそうは問屋が卸さない。 『ねここ、一気に決めちゃってっ!』 「了解なのっ。いっくよー!」 ジャンプと同時にシューティングスターを吹かす! と、一気にアーンヴァルの目の前に出現する。 シューティングスターは空中での機動性こそ殆どオミットしてあるけれど、その推力に任せてある程度飛ぶことは出来るのだ。 「とりゃーっ!」 ねここはワイヤークローを射出、そのワイヤーでアーンヴァルをがんがらじめにして地上に落下させる! 「ごめんね……っ」 体制を立て直そうと立ち上がったアーンヴァルに対し、ねここが迫る。 その左手にはドリルが装備されていて……一気に高速回転、唸りをあげる! 「ドリルクラッシャー!!!」 ……次の瞬間、ドリルはアーヴァルの頭を完全に粉砕していた…… やがてキラキラとポリゴン粒子になり消えていくアーンヴァル、どうやら成功したみたいだ。 『ねここ、雪乃ちゃん。変な影響が出る前に二人とも戻ってね』 「はぁいなの」 「了解」 「……ぅ、ぅぅん。あれ、ますたぁ?」 「よかったぁ…っ、なんともないのね!?」 「ぅん、平気かな……ボクどうしちゃったんだろぅ」 目を覚ました神姫と、その神姫を抱き上げて喜ぶマスター。 無事に再起動した二人を見て、ほっと胸を撫で下ろす私達。二人の意識は無事元のボディに戻ったみたい。 ただ原因は不明。店長さん曰くウィルスの存在もあるけど、現時点では確認されていないとの事。 店長さんからは当事者たちには、二人の神姫は当分の間バトルは止めた方がいいという事を言っていました。 で、ねここ達も念のためチェックをした後帰宅、ということに。 「今日はすまなかったね、迷惑ばかりかけてしまって」 「いえ、気にしないでください。ねここたちが選んで決めたことですから」 と会話している私達。 この時はまだ、漠然とした不安を抱えながらも、あれ程の事件に発展するとは夢にも思っていなかったのです…… 続く 戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/72.html
武装神姫のリン 第3話 「イベントへ」 最近はリンは俺の買ってきた服(あの日以来、月に1度ほど新しい服を買ってやることにしている) を着て、休日は出かけたりする。 で、今日も目的地へ向かう電車に俺は乗っているわけだが、今回は少し事情が違う。 今までは普通の繁華街へ行くぐらいだったのだが、今日は武装神姫のプロモーションも兼ねた大々的なイベントが開催されるということで一度行ってみようということになった。 イベントは基本的に新モデルの発表があったり、『舞装神姫』コンテストの成績優秀者の神姫によるファションショーやら、バトル方面ではS、Aランカーによるエキシビジョンマッチ等がある。 そんな中でも今回のイベントは格が違うらしく、イベントの会場が某オタクの祭典と同じらしい。 もちろんエキシビジョンもあるのだが、今回はメーカーからの販売基準をクリアした『同人』武装パーツや衣装(こちらは主にゲームやアニメの会社が自社の版権作品のキャラの衣装を販売するそうだ)の即売会も会場の1/3ほどのスペースを使って行われる。 マニアの間ではこちらの方がメインらしく、有名企業のゲームキャラの衣装等は一般販売があと半年は無い予定でプレミアが付くという情報が飛び交ったりしたそうで徹夜で並ぶ者もいたらしい。 と、なんで俺がこんな情報を知っているかというと…… 俺をこの世界に引き込んだ友人は一般的にオタクと呼ばれる人であり、彼はこういったイベントの情報はどこからかは知らないが最速レベルで手に入れてくる。 そんな彼は昨夜から有給を取り、徹夜で即売会入り口に並んでいる。 なんでも、リンの分も服を買ってくれるそうなので俺はそのための軍資金と判断基準(1着の値段や、特殊な趣味のモノは避けるなど)を書いたメモを渡しておいた。 今日が一般の給料日の週の日曜という条件がなければ軍資金を渡すことなどできなかっただろう。 企業も考えているということだけは分かった。 で俺はリンと一緒にイベント会場の入り口にいるわけだが、こちらも結構人が多い。 子供連れの親子や、結構年配な夫婦などが見られる。 だいたいそういった客は「舞装神姫」のファッションショーが目当てのようで既に第1回ショーの開催時間が近づいているためか、皆足早にステージへ足を運んでいる。 で180度反対方向はエキシビジョンマッチのステージであり、コチラは大体俺と同じような10代から20代半ばの男性ユーザーが多い。 女性のグループもしばしば見られる、ファッションショーよりこっちが好きという女性も多いようだ。 取り合えずエキシビジョンマッチの方が人が少なく、ステージが良く見えるのでまずはコチラを優先した。 さすがにこちらのステージにいるユーザーの神姫は服を着ていることが少ない。 「マスター、アレを。」 リンに促されてステージのバックにある大型スクリーンに目を移す。 エキシビジョンマッチの第1戦が始まったようだ。 対峙するのはストラーフモデルとマオチャオモデル。ストラーフモデルは基本セットのアームやレッグに多様改良が加えられ、スラスターも追加されている。武器はハンドメイドらしい刃物を各部にマウントしている。中、近戦専門でロングレンジでの戦闘は全く考えていないセッティングだ。 一方マオチャオモデルも同じく両腕にドリルということで接近戦主体らしいが、アーンヴァルのパーツを身につけていて、相手のストラーフモデルに比べ、飛行もしくは滑空が可能のようだ。 戦闘が開始される。 先に仕掛けたのはストラーフ。 スラスターの出力全開で一気に距離をつめ、セカンドアームのナイフで切りつける。 が相手のマオチャオは冷静に右手のドリルで迎撃、開始数秒でいきなり2体の間で火花が散る。 密着した状態からストラーフはメインユニットが腰にマウントされたリボルバーを抜き取った、と次の瞬間銃声。 だがマオチャオは宙返りの要領でそれをかわすと共にストラーフの後ろを取り、強烈なキックをお見舞いしていた。 体勢の崩れたストラーフにマオチャオが追撃のドリルを放つ。 がストラーフもソレを紙一重で避けセカンドアームで反撃。 マオチャオはスラスターの逆噴射でそれをギリギリで回避し距離をとる。 気が付くと周りの観客は歓声を上げている。 それほどに見入っている自分が不思議に思えたがそれはリンも同じようだった。 「……彼女達はすごいですねマスター、私が思っていた『バトル』とは次元が違います」 「まああのモデルは全国大会で入賞が当たり前のレベルのランカーだからな。あんなふうになるには相当は時間が掛かってるはずだ、訓練とか入念なパーツのメンテナンスがあってこそだろうな。」 「私も、あんなふうに闘えたら……」 「おい、お前バトルに興味あったのか??」 「…はい。最近TVでもバトルの中継が増えてますし、『武装』神姫は基本的に戦闘が主の目的で作られていますので」 「オシャレだけじゃ物足りないか…」 「いえ、決してそういうわけではありませんがこういうのも見るとなんだか身体を動かしたくなってくるんです」 なんというか、コレは血が騒ぐという現象なのだろうか? やはり武装神姫という名前が付いているだけあってやはり闘争本能(?)は抑えられないということなのだろう。 「そうか、ま今日は無理だろうけど今度、な」 「でも、マスターが争いを嫌うということであれば無理をしていただかなくても…」 「いや、俺は最初はバトルメインで神姫を扱おうとおもってたけどお前がピ○チュー好きだとか言うもんだからてっきりそういうのは苦手だと思ってた。」 「じゃあ、マスターも?」 「そりゃそうだ。仮に着飾ったりするだけならおまえを買ってきたときに一緒に買えばいいんだし。 ということで今度から大会も視野に入れてがんばってみるか?」 「はい、マスター」 そんなこんなで俺とリンは新たな決意をしたわけだ。せっかくのバトルのお手本が目の前にいるのでそちらに視線を戻す。 さすがにガチの接近戦だとセカンドアームのパワーの分不利と踏んだのか、マオチャオが戦闘スタイルを変えた様だ。 アーンヴァルのパーツの飛行能力を駆使して縦横無尽に戦闘フィールド内を翔ける。 そしてマオチャオの特殊武装。 プチマスィーンが姿を現した。こいつで牽制をして決め手のドリルをお見舞いするようだ。 一方ストラーフはこのスピードに対抗することが出来ないので構えを正し、ドコからの攻撃にも反応できるように神経を集中している様だ。 いつの間にかストラーフの右のセカンドアームに黒い刀身の大剣が握られている。 見たところ装備されていたサーベル等を組み合わせると一振りの大剣になるらしい。 コイツのオーナーはFF7ACに感化されていると見た。 しかしほかに装備は無い。コイツだけで勝負を決めるつもりだ。 マオチャオが急旋回して突っ込んでくる。そして反対からはプチマスィーンが砲撃をしてくる。 プチマスィーンの砲撃は1発当たりのダメージこそ少ないものの、確実に集中力を奪い、かつダメージも塵も積もれば山となるといった感じで馬鹿に出来ない。 ストラーフは後方から来るプチマスィーンには目もくれずマオチャオに向かって跳ぶ。 が右手にはあの大剣は見当たらない。と思った瞬間に爆発音。 後方でプチマスィーンが爆発していた。残骸に突き刺さっていたのは無数の刃。 あの大剣は瞬時に分解可能らしく、分解途中の状態で投げればバラバラになりながら刃の壁ができるというわけだ。 しかしストラーフ本体にはあのドリルに対抗しうる武装が無い。しかし2体の距離はゼロに近づく。 ストラーフはセカンドアームを。マオチャオは両腕のドリルをお互いに叩きつけようとする。 そのまま2体が正面からぶつかり、お互いにフッ飛ばされて着地した。 が立ち上がったのはストラーフの方だけだ。 セカンドアームは完全に砕け、ヒジから先がなくなっていた。 マオチャオモデルはドリルこそ無事だがメインユニットの胸部に小さなナイフが刺さっている。 同時に今までで一番大きな歓声と拍手が起こる。 決着のシーンのスロー映像が再生される。 2体が激突する前。ストラーフの左のレッグパーツから例のナイフが飛び出した。それはマオチャオの胸に向かっていく。 マオチャオの右腕のドリルもまっすぐにストラーフのメインユニットの腹部を狙っていた。 がストラーフのセカンドアームが右腕のドリルに生拳突きを食らわす。もちろんセカンドアームは破壊されたがドリルの軸がずれた。 マオチャオの左腕のドリルも反対側のセカンドアームで空手の受けの形で何とかそらす。が左腕のドリルはストラーフのリボン、武装マウントを完全に破壊、そのままセカンドアームの基部も綺麗に抉っていた。 普通ナイフがぶつかる程度ではマオチャオの胸部装甲は貫けないが2体のスピードが余りに速かっためか、ナイフはストラーフのメインユニットがその腕で少し力をかけるだけで簡単にソレを貫通していた。 今回の勝敗の分かれ目はマオチャオはドリルに頼りすぎたこと、あとはセカンドアームを犠牲に、しかも運に結果は左右される戦法を選択したストラーフの度胸だろう。 やはりS級同士の勝負となると迫力が違う。 こんな感じで『舞装神姫』は最後のステージを見ると決め。残りのエキシビジョンマッチも食い入るように見ていた俺とリンだったが、全てのエキシビジョンマッチが終わったところでステージにコンパニオンと思われる女性が立ち、こう言った。 「エキシビジョンマッチはいかがでしたでしょうか? コレを見てバトルに興味を持たれた方もいらっしゃると思います。 今回はエキシビジョンマッチの展開が速く、予定時間より1時間も早く終了してしまいましたので急遽ビギナーユーザー様限定の新人戦トーナメントを行いたいと思います。参加は6名まで。 まだバトルユーザー登録されていない方、もしくは登録したがまだ大会には出たことが無いというユーザー様限定になります。今回はデータを使用してのバーチャルマッチになりますのでお客様の神姫やパーツに傷が付くことはありませんのでお気軽にご参加ください。」 これを聞いたリンが俺に顔を向けてくる。 「マスター!!」 「ヤル気だな。いっちょ参加してみるか。」 こうして俺とリンのバトルユーザーとしての第1歩が踏み出されることとなった。 ~燐の4 「予想外の初陣」~
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1329.html
私たちは、休憩スペースの長椅子にならんで腰掛けて(マスターさんは缶ジュースを片手に普通に、私は正座でです)、トホホな雰囲気でぼーっと天井に吊るされたリプレイモニターを眺めています。 「終わりましたね……」 「終わっちゃいましたね……」 モニターを見ながらぼそっと呟くマスターさんに、私も視線を動かすことなく答えます。 「あっという間でしたね」 「あっという間でした」 「………………………………」 「………………………………」 しばしの沈黙。 「………………負けちゃいましたねぇ」 「………………負けちゃいました」 「………………手も足も出ませんでしたねぇ」 「………………けちょんけちょんでした」 ………………えー、お恥ずかしい話ですが、上記の通り私たちは負けました。 それも完敗です、惨敗です、敗軍です、まさに負け犬です。 対戦相手は同レギュレーションのツガルタイプでしたが、そこかしことカスタムされて、あちらはその高機動力で遠距離を保ち、こちらの攻撃は回避されて、逆にあちらからはビシバシ狙撃されて、まさにいい所ナシの一方的と言う他ない内容でした。 私は膝をマスターさんに向けなおし、深々と頭を下げます。 「マスターさん、恥ずかしい戦いぶりで本当に申し訳ありませんでした!」 ううう、戦闘開始前の能天気に構えていた自分に、ハウリングサンダーをブチかましたい気分ですっ! 「いえいえ、こちらこそロクな指示も出せなくてすいませんでした」 身をこちらに向けなおし、負けじと頭を下げるマスターさん。 「ああ、そんな勿体無い……! この度の醜態は、すべて私の未熟ゆえで……!」 「いえいえ、僕のほうこそ犬子さんの足を引っ張ってしまって……!」 「いえ私こそ……!」 「いえ僕こそ……!」 武装神姫と差し向かって頭を下げあうマスターさんの姿は、通りすがる方々にわりと奇異の目で見られていたようですが、当人である私たちにはそこまで気にする余裕はありませんでした。 「ですが、その……」 そんなやり取りを一通り済ませて、私たちは顔を上げました。 マスターさんの表情を窺いつつ、私は次に言うべき言葉を捜して、指をもじもじさせます。 そんな私の様子を見たマスターさんが、優しくはにかみました。 その表情を見て、マスターさんも私と同じ気持ちだったということを確信します。 「その、マスターさん……今回はその、お恥ずかしい所をお見せしてしまったわけですが……」 そこで言葉に詰まった私の心を汲んで下さったかのように、マスターさんが微笑みながら口を開きました。 「犬子さん……楽しかったですか?」 「は……」 感情回路が高揚し、ドッグテイルがぶんぶんと起動します。 そして私はその気持ちを押さえつけずに、勢いよく応えました。 「はい! とっても楽しかったです!」 マスターさんは、満足げに頷き。 「そうですか。僕も同じ気持ちですよ」 「はい!」 ……要するに。 お互いに楽しかったけど、負けてしまった手前、手放しで喜ぶのは相手に悪いようで気が引ける、と二人ともが考えてしまっていたようで。判ってしまえば笑い話ですが、判ってしまった以上、もはやお互いの気持ちをさえぎるものはありません。私たちは堰を切ったように会話が弾みだしました。 「ええ、負けてしまったのは残念です、悔しいです。でも初めて戦うことが出来て、『悔しい』の何倍も『楽しかった』というのも正直な気持ちで!」 「そうですね、僕も犬子さんが戦ってる間、手に汗握る想いでしたよ」 「私もです! ええ、もう、脚部パーツを交換したばかりなんて言い訳する余地なんてカケラもないくらいにけちょんけちょんでしたが、こう、相手の攻撃を待つ緊張感とか、狙いを定める興奮とか!」 「ええ、こんなにドキドキしたのは久しぶりです」 「それにほら! 中盤に一度、私の吠莱の砲撃が当たったじゃないですか! あの時、敵のゲージががくんと減ったときなんか、ものすごくスカッとしました!」 「そうでしたね、あの時は恥ずかしながら、このまま逆転できるんじゃないかとか思ってしまいましたよ」 「あはははは、恥ずかしながら私もです。そんなに甘いものじゃなかったですけどね」 「うーん、確かにその後は、ちょっと残念な結果になってしまいましたねぇ」 「あの時は必死で気が付きませんでしたが……今にして思えば、相手は明らかに場慣れしてましたね」 「そうなのですか? てっきり僕たちと同じ、デビューしたばかりなのかと思ってましたが……」 「デビューしたてなのは間違いないでしょう。ですけど、機動性の高い武装神姫に飛行ユニットをつけてツガルタイプの弱点である中距離を補いつつも得意の遠距離射撃に徹する、あまりにもコンセプトが的確で明確すぎます。 あれはきっと、二体目か三体目か、とにかく明らかに武装神姫に慣れたオーナーによってセッティングから最適を追求して最適な装備を整え最適な戦術を取らせたものですよ」 「ふーむ、僕達のように、右も左も判らない状態で適当に戦っても勝てる相手じゃなったわけですね」 「悔しいですけど、その通りです。すくなくとも、射撃が当たらないなら直接殴ってやる突撃ー、なんて行き当たりばったりじゃ、カモにされるだけですね」 「あはははは、終盤特攻ばかりしてたのはそんなことを考えていたのですか」 「いやお恥ずかしい、もう『頭に血が上っていた』と言う表現がピッタリな状態でした」 「あはははは、武装神姫でもそういう事はあるのですね」 「あるのですよ。 あ、そうだマスターさん、携帯出していただけますか?」 「携帯ですか? はい」 「はい、ありがとうございます。そこで、「お気に入り」から……はい、そこの「神姫ネット」を選んで……あ、そこです! そこから、今の対戦ムービーがダウンロードできるんです!」 「おお、それは嬉しいですね……お、きましたね」 「マスターさん、再生してください!」 「あははは、そんなに慌てないで下さい。ええと、ここを押せばいいのですか?」 「あ、はい、それです……あ、始まりました!」 「おお、まさしく先ほどの、僕たちの対戦ですね」 「うーん、こうしてみると、私って明らかにキョドってますね」 「あはははは、最初ですし仕方ありませんよ」 「あ、食らった」 「もうこの時点で、相手はもう必勝パターンに入っていたのですね……いや、見返すと勉強になります」 「そうですねぇ。もう、こっちは相手の攻撃がどこから来るか察知するのに必死でした。 あ、でも……ほら! ここの攻撃はちゃんと回避できたんですよ!」 「おおー、やりますね犬子さん」 「はい! いえまぁ、この一発だけでしたけどね」 「あはははは。でも、その後も直撃は結構防いでるじゃないですか」 「ええ、もともとハウリンタイプは、回避よりも防御を得意としますからね。思えば最初から、防御を固めるべきでした……あ、ここ! ここですよ! もうすぐあの場面です!」 「アレですね……行った!」 「ハウリングサンダー直撃です!」 「これってそれまでの砲撃とは違いますね?」 「あ、はい、これは吠莱のスキル技で……要するに必殺技です」 「なるほどなるほど、どうりでごっそりゲージを減らせたはずです」 「ツガルタイプはもともと回避に特化している分、防御は薄いですから」 「そうでしたか。こちらとしてはほとんど回避されていい所なしに感じましたが、相手にとっては意外と冷や汗ものだったかもですね」 「そうですねぇ。そう考えると、終盤で短慮に走って特攻なんてするべきじゃありませんでした」 「あははははは、そうですねぇ」 「また食らった……あ、また。むむむ、我ながらひどいものです」 「あははははは、まぁ、今後は気をつける、と言うことで」 「はい、今度はクールにクレバーに戦ってご覧に入れましょう」 「その意気ですよ、犬子さん」 「はい、ありがとうございます……あ、ここ! ここです! なんとか懐に飛び込めて、殴り飛ばせるかと思ったんですが」 「接近は出来ましたが、残念ながらそこまででしたねぇ」 「うーん、あそこで拳に捉えることが出来ていたら、その後の流れももう少し変わっていたのかもですが」 「うまく逃げられちゃいましたねぇ。いや、惜しかったです……と、ここまでですね」 「マスターさん、もう一度再生していただけませんか?」 「もちろんいいですとも。ええと、これでよかったですよね?」 「はい、そうです……うーん、私は開始直後キョドってましたけど、こうしてみると相手は落ち着いてるのがよくわかりますね」 「犬子さんの分析どおり、と言うことなのでしょうね」 「そうだと思われます。……あ、もう、我ながら鳩が豆鉄砲食らってるみたいな顔して!」 「この時は、まだ敵を捕捉していなかったのですか?」 「恥ずかしながら、その通りです。あ、ここでやっと敵を見つけて応戦を始めるんですが……」 「うーん、ことごとく外してますねぇ」 「少なくとも、カリカリに回避重視の敵に当てるには、修行が足りませんでした」 「その辺も今後の課題ですねぇ。あ、そろそろですよ」 「そろそろですね」 「………………………………」 「………………………………」 「「ハウリングサンダー!!」」 「あははは、つい僕まで叫んじゃいました」 「必殺技を撃つ時は、叫ぶのがお約束ですよ」 「……ううん、よくみると相手も、わりと焦っていますねぇ」 「あれだけゲージが削られれば、仕方ないでしょうね」 「冷静に考えればまぐれ当たりと判るんでしょうけど、まぐれでも何でも当たれば危ないと思えば、なかなか冷静にはなれないものですよ」 「なるほど、さすがマスターさん」 「あ、特攻が始まりましたね」 「うー、お恥ずかしい……」 「いえいえ、犬子さんはよく頑張りましたとも」 「うう、お言葉嬉しいのですが、我が事ながらそれは甘やかしすぎと思うのですよ」 「いいじゃないですか、反省会はもう済んだのですから……あー、惜しい!」 「『当たらなかった』というのは百も承知の上なのに、ついつい当たることを期待しちゃいますねー」 「この次は当てて見せてくださいね?」 「はい、お任せください!」 「と、ここまでですね。もう一度見ましょうか?」 「はい、是非!」 そんな風にして。 マスターさんと私は、携帯のバッテリーが切れるまで、何度も何度も私の初陣ムービーを再生し、いつまでもいつまでもはしゃぎ続けたのでした。 <そのきゅう> <その11> <目次>
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2785.html
与太話14 : 能力って何かね 怠惰って素晴らしいと思う。 だって私たち、武装神姫よ? 名前に「武装」なんてぶっそうな(武装がぶっそう……ぜんぜん面白くないわよ)言葉がついてるもんだから、レディの細くて長くてスラッとした素足にストライカーを履かされたり、か弱い細腕に機関砲を持たされたりするわけよ。 人工AIの倫理的問題がどうとかいう前に、レディにドンパチさせる人間の――特に男たちの正気を疑ったほうがいいわ、絶対。 ……なんて文句をつぶやいっターで発言でもしたら、私の根本的な存在意義を疑われるわけで、可哀想なホノカさんはこうして貸切の茶室で一人ダラダラするしかないのである。 怠惰って素晴らしいと思う。 週刊少年ジャンプを読み終え、特に用事もなくコタツでぬくぬくしている時間こそ、常日頃から戦闘を余儀なくされる私たちの唯一の癒しなのだ。 データで構成された茶室の外はちゃんと冬仕様になっていて、はらはらと舞い落ちる色づいた枯れ葉はそろそろ雪に取って代わりそう。 合わせて室内の気温も低いけど、それがコタツのありがたみをいっそう際立たせている。 前半身をコタツにつっこんで、ひんやり冷たいテーブルにほっぺを乗せて、さながらホットコーヒーにアイスクリームを乗せるような贅沢を味わえるのだ。 な~んにもしないで、ただ、ホカホカぬくぬく。 外で積もる枯葉が重なっていくほど私のまぶたも重くなってきて、うつらうつらと、夢の世界へ手を引かれていく。 何も考えずにその手を取って、スリープモードに入ろうとした、その時。 「突然失礼する。ゴクラクだ。セイブドマイスター殿は今週のジャンプを読まれたか?」 私たち武装神姫はどうやら怠惰すら許されないらしい。 ◆――――◆ 「そう嫌がらずともよかろう。今日は世間話をしに来ただけだ」 正方形のコタツの、私から見て右側に勝手に座り込んだゴクラクはテーブルの上にミカンヂェリーを2つ置いた。 コタツの中でストライカー具現化させて蹴り飛ばしてやろうかと思ったけど、ミカンを出されては仕方がない、今日のところは勘弁してあげよう。 キャップを開けて一口飲むと、温まった体の中に気持ち良い甘さと冷たさが流れていくのを感じられた。 私と同じく一口飲んだゴクラクはヂェリ缶を置いた。 「セイブドマイスター殿はめだかボックスを読まれているか?」 「は? あ、うん、読んでるけど」 「それは重畳。ところで今週号の話はどうにも納得し難い部分が多かったとは思われないか?」 今週号は第173箱、タイトルは『歌とはなんだ?』である。 ネタバレが嫌な人はここから先は読まないで欲しい。 ネタバレが嫌な人はここから先は読まないで欲しい。 ネタバレが嫌な人はここから先は読まないで欲しい。 「いきなり言われてもねぇ。……そうだ、あのサブマシンガン。あれ絶対おかしいわ」 外観、構造、威力、装弾数など、どれもイチャモンをつけたかった。 ピカティニーレールが付いてたから実在するものを参考にしたんだと思うけど、それならもうちょっと何とかならなかったのかしら。 素直にH K社のマシンガンにでもしとけばよかったのに(利権的な問題があるかは知らないけど)。 ひとたび思い返すと文句を吐き散らしたくなったので、丁度良い話し相手に言おうとしたのだけど、ゴクラクは「いや、それもあるがもっと別の部分だ」と遮った。 「何よ、どうせマンガだから銃火器の理屈なんてどうだっていいって? ピストル弾をしっかり連射できることがどれだけ素晴らしいか分かってないみたいね。あのね、サブマシンガンが重要視されたのはそもそも――」 「いや大丈夫だ、勿論心得ている。我はこれでもちょっとした神姫団体を管理する立場にあるが故、武装についての最低限の知見はあるつもりだ。我が問いたいのは黒神めだかが最後に使用したスタイルについてだ。我が共振を武器とすることを覚えておいでだろうか?」 「コノヤロウまた私に恥かかせたいらしいわね」 前回ゴクラクと会った時、自分の能力をひけらかすようにペラペラとしゃべって、チンプンカンプンだった私を置いて去っていった。 あの時の恨みがよみがえる。 また私をバカにしに来たのかコンチクショウ。 「世間話をしに来たと言ったであろう。そう興奮されるな。ほら、ヂェリーは如何か」 飲みかけだったヂェリーを勧められて、私はそれを一気飲みした。 ちょっと温くなってたけど甘さは変わらず私を癒してくれて、もうゴクラクのやつ早く言いたいこと言って帰ってくれないかなあと思うのだった。 「それで、黒神めだかとあんたが何だって?」 ◆――――◆ 「うむ、どうやら黒神めだかのスタイルが我と同じ共振を利用するもののようだ。言霊の力を利用するらしいスタイルとやらは本質的には喉から発せられる振動を利用するのであり、その振動を増幅させたり、また感情的にシンクロするという意味での共感も極めて有効であろう。そもそも何故共振という現象が発生するかというと、世の中に存在するシステムを数式化しようとすると二次遅れ要素とむだ時間要素に近似できる場合が多く、そのゲイン特性はある一つの周波数で増幅されるのだ。単純な鉄の塊で構成された機械であっても叩いてやればある周波数で顕著な反応が見られ、また様々な要素によって成る物であってもある一定の入力を与えてやればそこからむだ時間の後に反応が始まり、収束に向かうまでをデータ化することで固有振動数を分析することができる。勿論それらは単純ではなく誤差を多いに含むため理論通りに上手く事が運ぶことは皆無といってもよいが、逆に理論だけを語るならば共振とはさほど難しいものではなく、あくまでシステムのあるがままを表す現象なのだ。黒神めだか――いやめだかボックスの原作者も我と同様、そこに目をつけたのかもしれない。しかしだ。我が武器として扱えるのは『共振』であって『共感』とはまったくの別物だ。大辞林によると共感とは【1.他人の考え・行動に、全くそのとおりだと感ずること。同感。 2.他人の体験する感情を自分のもののように感じとること。 3.感情移入】とある。つまり『共感』が対象とするものは感情を持つ『者』であり、『共振』が対象とする感情を持たない『物』とはまったくの別物となる。まだ科学が発達していない時代の言い方をすれば有機物と無機物の違いだ。即ち我の見解としては、『共振』と『共感』を一つの能力として扱うことは不可能なのだ。いや、それができれば我も苦労しない、というところが本音なのだがな。武装神姫の頂点の一角とされる『デウス・エクス・マキナ』の一人とされておきながら泣き言を言うのは恥ずべきことだが、フィクションの自由自在さには敵わない。――フッ、このような情けない姿は部下の前には晒せない。セイブドマイスター殿はその点、相手の心を開く鍵となる『共感』の能力に優れているのかもしれないな」 ◆――――◆ 「……………………………………………………ふぁえ? あ、うん、そうね、あんたも大変ね」 「ご理解感謝する。長話にお付き合い頂きすまなかったが、我も少しは気が晴れた。これは余り物だが」 そう言ってゴクラクはミカンのヂェリ缶をさらにもう2本テーブルの上に出して、「では、また」と茶室を出ていった。 なんだか長々と一人でしゃべってたけど、結局あいつは何しに来たんだろう。 ま、被害もなかったしミカンヂェリーくれたし、どうでもいいか。 さてと、また充実した怠惰な時間を過ごしましょうかね。 先日ボークスに行ったら人魚型とかませ犬型神姫のリペイント版が山積みになってました。 それよりもっと売るべきものがあるだろうに……などとボークスや電撃に文句言ってもしょうがないのですが、もうバイク組の発売は絶望的かしら。 フランベルジュ、コルセスカなんてどうなっているのやら。 ガルガンチュアに至っては覚えてる人すらいないんじゃ……。 きっぱり諦めて忘れて、ストライクウィッチーズのマルセイユの発売を心待ちにしま――しょうかな? 15cm程度の死闘トップへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1369.html
神姫ちゃんは何歳ですか?第二十七話 スーパー神姫TIME 書いた人 優柔不断な人(仮) 「っと…そろそろ時間だな」 俺はTVのリモコンを取り、スイッチを押した 「あれ?センパイ、この時間何か見てましたっけ?」 「今までは見てなかったが、今期の番組改編で新番組が始まるじゃないか」 「あ、今日でしたっけ?『スーパー神姫TIME』」 そう、とうとう神姫もゴールデンタイムに番組が放送されるまでになったのだ 『スーパー神姫TIME』は54分の番組で、キャッキャウフフからハードなバトルまで様々な神姫ライフ情報を提供するというコンセプトで作られるという 番組内にはマスターと神姫を迎えてインタビューを行う『神姫マスターズ』というコーナーがあり、その第一回のゲストとして、観奈ちゃんが呼ばれたのだった 『すぅ~ぷぁ~~~すぃんきとぅぁ~~~~いんむ!』 「あっ、お兄ちゃん、始まったよ」 …なにこの30年前のタイトルコールは… TVには男性と女性の姿が映し出された 「皆さんこんばんわ。今日から始まりました『スーパー神姫TIME』。司会は私、富華 三根雄です」 「皆さんこんばんわ~。アシスタントの浅木マキで~す。よろしくおねがいしま~す」 「それでは早速、最初の…」 と司会の富華が言いかけたところに 「ちょっとまったー!二人共、大事な事を何忘れてない?」 と、なにやら小さな女の子の声が割り込んだ 「おおっと、これは失礼。もう一人のアシスタントを忘れてました」 「全く!この超絶ぷりちーな私を忘れるなんて有り得ないんじゃなくて?」 「ほらほら志緒理ちゃん、怒ってないで皆さんに自己紹介して」 カメラがずいっと下へと向けられる テーブルの上には一体の神姫と、さらに小さなヌイグルミのような物体がいた 「あっ…えっと、この番組のアシスタント神姫、シュメッターリングの志緒理です、宜しくお願いします」 ぺこり 「志緒理、今更カワイ子ぶってもおそいんじゃねーの?」 志緒理の隣のヌイグルミ?が喋る 「んもうー!なによー!私は可愛いから許されるのよ!それより、アンタも自己紹介しなくていいの?」 「っと、そうだな。オイラはしおりのお目付役のガンノスケってんだ、ヨロシクな!」 手を振り、挨拶をするガンノスケ 「んもう~、誰がお目付役よ。私が居ないと何も出来ないのはガンノスケの方でしょ!」 「オイラは志緒理が暴走しないように…」 「まぁまぁ二人とも、そのくらいにして。番組が進まないじゃない」 「志緒理ちゃん達には後のコーナーで存分に喋って貰うとして、まずは最初のコーナー、『バトルアリーナ』からどうぞ!」 「このコーナーは武装神姫バトルの中でも、特に名勝負と呼ばれている物を解説を交えてお送りしていきます」 「ふえー、スゴかったねぇ」 感嘆の声を上げる志緒理 「アーンヴァルとストラーフは初期のモデルですが、それだけに数々の名勝負を繰り広げてきました。この第一回大会の二人も、決勝戦に恥じない試合を見せてくれました」 遠い目をしながら説明する富華に、浅木も頷きながら 「最後のデモニッシュクローが出たときにはゲルダの勝ちかと思いましたが、ギリギリで静名がレーザーライフルで防ぎましたね。ライフルがベッコリとへこんじゃいましたけど」 志緒理もそれを聞きながら 「その後、その反動を利用してその場で一回転して壊れたライフルで殴るなんて、よく出来たよねー」 とウンウンと頷きながら言った 「あの後のインダビューでは本人も『咄嗟のことで、何をしたか分からなかった』と言ってましたよ」 「こーいうのは日頃の訓練が大事なんだよ。志緒理もサボってないで、普段からトレーニングしとけよ」 「うーっ、わかったわよぅ」 ガンノスケの言葉に頬を膨らませながらも応える志緒理 「それでは、CMの後は『神姫マスターズ』、第一回ゲストはファーストランカーの國崎観奈ちゃんとミチルちゃんでーす」 CM後、セットが対談用へと変わっていた テーブルが一つ、テーブルから向かって左側には長椅子があり、富華と浅井が座っている。右側にはゲスト用の椅子があり、観奈が座っていた テーブルの上には神姫用の椅子が置いてあり、志緒理とミチルがそれぞれ座っている アシスタントの浅木の声でコーナーは始まった 「それでは、『神姫マスターズ』のコ-ナー、ゲストは國崎観奈ちゃんとその神姫、ミチルちゃんでーす」 「うむ、よろしくなのじゃ」 「よろしくなのだ」 ペコリ、とお辞儀をする観奈とミチル 「早速なのですが、お二人は神姫バトル歴が長いと聞きましたが」 「うむ、そうじゃな。テスト期間から始めていたから…かれこれ5年になるかな?」 「5年って…7歳の頃からやっていたのですか?」 「まぁそういうことじゃな」 「どうでしょう、最初の頃と今とでは、バトルも様変わりしましたが?」 「最初の頃はヴァーチャルシステムも無かったし、社外武装も使用禁止じゃったから、皆限られた範囲での試行錯誤の繰り返しじゃった。それも2弾が出たときのバランス変更でパァにされたりと、なかなか面白かったぞ」 「ああ、通称『犬猫パッチ』ですか」 「そうじゃ。その後の社外武装解禁、ヴァーチャル戦の導入等、神姫バトルも様変わりしていったのじゃ」 観奈の話を聞きながら、富華がぽんと手を叩き 「そうそう、その頃のミチルちゃんの映像が残っていたのですよ」 と言い出した 「なに?まことか?」 「…なにかイヤな予感がするのだ…」 富華の言葉に喜ぶ観奈と、不安そうなミチル 「それでは、映像どうぞ!」 富華の言葉を受け、セットにあるモニターにスイッチが入る そこに写ったミチルと思しき影に、浅木が疑問の声を上げる 「あー、ミチルちゃん…ですか?なんか今と違いますね?」 「この頃はまだ、今のような白い翼は付けていないからじゃな」 観奈の言葉通り、画面の中のミチルには象徴ともいえる6枚の白い翼は無かった ヴァッフェバニーの装備にアンクルブレードを持ち、棘輪を腰に下げていた 「この頃は、ヴァッフェバニーの装備を主体にしておったからな」 「でも、リアブースターに6枚のスラスターを付けてるのね」 「なかなか目敏いな、志緒理殿。最低限の防具に機動ブースターが付いたヴァッフェバニーの装備はミチルに最適じゃったのじゃ。しかし、それでもヤツには追いつけなかったので、スラスターを追加して挑んだのじゃ」 「ヤツって…この人?」 志緒理が指した先には、一体のハウリン型が映っていた 「この人、足の狗駆しかつけてませんよ?」 「当時を知らない志緒理殿が訝しがるのも無理はないな。彼女の名は『ストレイト』クウガ。当時誰も追いつけなかった、最速の神姫じゃ。いや、今でも追いつける者はおらんじゃろうな」 「ふえー、そんなスゴイ人なのですか?会ってみたいなぁ」 「残念じゃが、それは無理じゃ。彼女はもう…」 観奈の言葉にスタジオ内が、暗い雰囲気になる 「いくら安全に配慮されているとはいえ、事故と言うものは起きるのだ。でもあたしたち武装神姫は、そのくらいの覚悟を持ってバトルに参加してるのだ」 「そういうことじゃ、しかと見ておくのじゃ。クウガ殿の勇姿を」 「う、うん」 観奈とミチルの言葉に頷き、画面をしっかりと見据える志緒理 「あっ、ジャガーだ!…この頃はまだ普通のぷちますぃーんボディを使ってるのね」 試合開始 開始と同時にジャガーが牽制の射撃を行った 『…遅い』 画面の中のクウガが呟くと同時にその姿が消える ガキィッ! 否、瞬時にミチルの傍へと移動したのだ 「うそっ?なんて速さなの?」 「大抵の相手はこれで終わるのだ。この時あたしが防げたのも、運が良かったといってもよいくらいなのだ」 『ほう…剣でギリギリ防いだか…』 『くうっ…とりゃっ!』 アンクルブレードを盾に、クウガを押し返し距離を取るミチル。そしてすぐさま棘輪を投郭する ダンッ!ギュン! しかしそれをアッサリと避けるクウガ そしてすぐさまミチルへと2撃目のキックを放つ バシュッ 間一髪スラスターを吹かし、これを避けるミチル 『なかなかやるな…しかし』 ギュン! 有り得ない程鋭角に、ミチルへと向かい跳ぶクウガ 『まだまだ速さが足りない!』 ミチルへと三度キックを放つ しかし ザシュッ! 『やっと、捉えたのだ』 これまでのクウガの行動を分析し、攻撃パターンを掴んでいたミチルは、次に攻撃が来るであろうポイントにブレードを振っていたのだった クウガの足が切断され、ブースターを吹かしながらクルクルと飛んでいく 『ぐっ!』 苦痛に顔を歪めながらも、なんとかその場に留まるクウガ ゲシッ! そんなクウガに容赦ない追撃をかけるミチル 蹴り飛ばされ、地に伏せるクウガ ミチルはクウガを踏みつけ、アンクルブレードを構える 『これで、あたしの勝ち…』 スコーーン! ミチルの言葉は、飛んできた何かによって中断させられた 「…ねぇ、今の何?」 モニターを真剣に見ていた志緒理が怪訝そうな声を上げる 「…狗駆…というか、クウガの脚?」 同じく、呆気にとられていた浅木が答えた ブースターを吹かしながら飛んでいた脚が、何の因果か戻ってきて、ミチルの後頭部へと直撃したのだった 『きゅぅ…』 完全にフリーズして、倒れるミチル 『ミチルのノックアウトを確認。勝者、クウガ!』 クウガの勝利が告げられる中、ミチルはその先にいたクウガへと倒れ込んだ ガツン! 『!!』 クウガの上に覆い被さるように倒れたミチル ミチルの顔が、クウガの顔にぶち当たる というか… 「うわっ!ミチルちゃんとクウガさんが、ちゅーしてる!」 浅木の言葉に、スタジオ大爆笑 「あ、あれはノーカウントなのだ!意識してないし、というか意識無いし!」 顔を真っ赤にしながらパタパタと手を振り全力で否定するミチル 「あはは…ファースト上位のミチルちゃんも、こんな事があったんですね」 「うーっ、この油断が無ければ…」 「そうじゃな、あの後もずっとクウガ殿には勝てなかったのじゃからな」 「えっ?もう攻撃は見切ったんじゃ?」 観奈の言葉に疑問の声を上げる志緒理 「次の対戦で同じ事をやったのじゃが、ミチルが剣を構えるよりも先に蹴り飛ばされてKOされたのじゃ」 「うっそ…」 「自分が成長してるのと同じように、対戦相手もまた成長してるのだ」 「観奈ちゃんもミチルちゃんもそうやって成長してきたんですよね」 「そう言われると、照れるのじゃ」 「ところで観奈ちゃん、今現在、気になる神姫というを教えて欲しいのですが」 「そうじゃな…ファーストの神姫はほぼ気に掛けておるが、ここは注目のセカンド神姫を挙げておくのじゃ」 「観奈ちゃんが気になるセカンドの神姫ですか」 「まずはセロ殿じゃな。地元では『クイントス』と呼ばれており、ファンも多いそうじゃ」 「鳳凰杯の決勝トーナメントの第一回戦で戦った神姫ですね」 モニターが切り替わり、ミチルとセロとのバトルが映し出される 「剣の腕前はもとより、優れた洞察力もある素晴らしい神姫じゃ。スグにでもファーストでも通じるだろうに、何故セカンド中位にいるのじゃろうか」 モニターではムラサメが破壊されたシーンが映し出されていた 「次に挙げるのは…『雷光の舞い手(ライトニング・シルフィー)』ねここ。高機動と重装備を両立させている、数少ない神姫じゃ」 画面が切り替わり、アーンヴァルの武装を中心に組み上げた武装『シューティングスター』を振り回し、フィールド中を駆け回るねここの姿が映し出される 「ほぼ公式装備で組みながら、要所にはオリジナルパーツを組み込まれておる。マスターのセンスも光る神姫じゃ。」 必殺の『ねここフィンガー』を決め、相手のストラーフ型を沈黙させるねここ 「ちなみに、地元での人気は絶大で、最近ファーストに来た『マジカル☆ハウリン』ココと人気を二分しており、ファンクラブまであるそうじゃ」 モニターにはフリフリの衣装を着たココが口上を述べている所が映し出された 「あと、セカンドでは無いが、鳳凰杯の時に不慮の事故で記憶を失ってしまったミカエルも注目じゃな」 「オーナーの鶴畑大紀さんもファーストの称号を返上してしまいましたね」 画面には圧倒的火力でフィールドこと相手を焼き払うミカエルの姿が映し出される 「サードからの再スタートということで勝手が違うじゃろうが、あの二人ならまた勝ち上がってくるじゃろう」 「その三人が、観奈ちゃん一押しの神姫ですか…っと、そろそろ時間になってしまいましたね」 ADの合図を見た富華が申し訳なさそうに言った 「それでは観奈ちゃん、最後に視聴者の皆さんに、何かメッセージをお願いします」 「武装神姫で大切なのは、神姫を信じる心じゃ。信頼無くしての戦いはありえんのじゃ。たとえ負けても、ちゃんと得る物はあるのじゃ」 「有り難う御座いました。本日のゲスト、國崎観奈ちゃんとミチルちゃんでしたー!」 パチパチと拍手に見送られ、退席する二人 「神姫を信じる心、か…」 俺は次のコーナーの新作情報で映し出されている新型機の『アーク』と『イーダ』を見ながらボーっと考えていた 「…センパイ。以前のことを考えているのですか?」 「皐月にはお見通しか…」 皐月の指摘通り、昔の事を考えていた 神姫を道具としてしか見ず、ユキに過酷な試験ばかりをさせていた日々を 「でも、今は信じてるんでしょ?」 「ああ…」 「なら、それでいいじゃないですか」 「…そうだな」 俺はエンディングを歌う志緒理ちゃんを眺めながら、今のみんなの幸せを壊すまいと誓うのだった 『きょうのまおちゃお~』 『マオチャオは今日も日向ぼっこ。大好きなマスターの帰りを待ちながら、窓際でうつらうつら』 「うにゃぁ…ごしじんさま、だいすき…むにゃむにゃ…」 『あらあら、どんな夢を見ているのでしょうね』 ピクッ 『おや?マオチャオの耳が動きましたよ?』 ガチャガチャ…カチャッ 「ただいまー」 「おかえりなさい、ごしじんさま!」 『満面の笑顔でマスターを出迎えるマオチャオ。よかったね』 -END- あとがき なんとか生きてます、優柔不断な人(仮)です 今回はss掲示板の方で上がっていた「百質」をみてたら思いついたので、それで一本書いてみました 未だに妄想の人さんに言ったコラボssも書けてないのにスイマセン ちょっち補足 観奈とミチルがクイントスの事を本名のセロと呼んでおります これは鳳凰カップではクイントスは通り名で、あくまでもセロとして参加し、アナウンスもそうであったと考えられるので、観奈達が紹介する時にもそっちを使ったと考えるからです ミカエルに関しては、大紀が改心し、技術の蓄積も有ることからこれから強敵になるであろうと予測した為です ちなみに最後の『きょうのマオチャオ』は独立した五分番組です。提供は勿論、BLADEダイナミクス(もしくはKemotech)です さらに、今回の番組出演者の設定 富華 三根雄(ふか みねお) フリーのアナウンサー。45歳 神姫バトルの中継では実況も務める。その実績を買われ今回のメイン司会者に抜擢された 浅木 マキ(あさき まき) TV局のアナウンサー。24歳 若手女子アナウンサー。自身も神姫を所有しているが、上前はサード中位。どちらかというと、神姫と遊んでいる方が好き 志緒理(しおり シュメッターリング型) デモを兼ねてスポンサーから番組へと贈られた神姫 歌って戦う神姫を目指してる 彼女が歌う番組エンディングテーマも番組開始と同時に発売 「みんな買ってね(はぁと」 ちなみに所有者は番組のプロデュサーという事になっているが、ADの一人を気に入っていて、マスターそっちのけでつきまとってるらしい ガンノスケ 志緒理付属のヌイグルミ型支援マシーン『ラビボン』 主にツッコミ担当 志緒理とガンノスケは『スーパーしおりん』へと合体出来る …らしい
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/745.html
『モア』と飯島千夏は、取り敢えず落ち着く迄修理センターへ搬送される事になった 『クイントス』のマスターである川原正紀氏がその旨を皆に伝える迄、誰も一言も発しなかった 「この大会はおかしい・・・神姫を大事に思うなら参加するべきじゃない」 川原氏の演説に、皆意気消沈した様に顔を伏せた 「納得出来無い」 だが、異を唱える声が一つ 「そうすればあんたは損はしないかも知れねえが、あんたの神姫への挑戦権を得られない俺達はどうすれば良いんだ?うちの『テスタ』はあんたの『クイントス』に憧れて、それと闘う為に辛い特訓を重ねてきたんだがよォ。川原正紀さん?」 「!?」 藤田隆二・・・『テスタ』のマスターだ 「その通りでござるな・・・自分がチャンピオンだからといって少し調子に乗り過ぎではござらぬか?」 等身大のフブキ・・・ではない、『ホークウインド』のマスター、木原忍だ 胸ポケットで全く同じ顔のフブキが頷いている 「・・・君達は・・・今はそれどころではないのが判らないのか!?」 だが、川原氏の言葉は途中で、意外な者に遮られた 「マサキ、彼らの言う通りだ。神姫が嫌がっているならともかく、戦いを望んでいる神姫が居るのなら、その闘う場を奪うのは貴方の普段の主張を捻じ曲げる事になるのではないか?」 サングラスに蒼いスーツの武装神姫が・・・その眼鏡を外す 「正直、私は別にこの闘いで勝った者だけと闘う・・・等と傲慢な事を言うつもりは無いが・・・」 「この『クイントス』に挑む為にこの一連の闘いを経て君達がさらに強くなってくれるなら・・・私はとても嬉しい。私も一人の武装神姫であるからには、より良い闘いを経験したいという欲求があるからだ。ここでのチャンピオンになる事の賞品がそれだというなら、私は喜んでそれを受け取りたい」 あれが・・・ 女王『クイントス』か・・・! 迫力が違う 実力が違う 器が・・・違う! 残りの全てのマスターと神姫の相談が纏まる迄に、そう時間は掛からなかった 第拾参幕 「かすみ」 次は第六試合・・・つまり、私と『ホークウインド』のバトルだった・・・が 「マスター・・・迷いがあるのか?」 問いに、マスターは首を横に振った 「いや・・・仮に俺が止めても、お前は行くつもりなんだろ?華墨」 ・・・確かに、あれだけ悲惨な『モア』の有様を見た後だというのに、私の心の奥底に熱い火が燃えているのが判る 仮にマスターから撤退を進言されたとしても、『オーナー権限』とかでなければ抗ってしまう気がしていた 「じゃぁ・・・何故だ?いつもならバトル前はもっと喋っている気がするのだが・・・?」 「・・・うん、少し、考えていたんだ」 何を?と首だけでジェスチャ 「仮にこの事故が仕組まれた事態だとして、こんな田舎の大会でこんな手の込んだ真似して、一体誰が得するのかな・・・ってな」 言われてみれば、最初から不自然な部分は多々あったが・・・ 「筺体に細工があったとすりゃ、出来るのは店のもんだけだ。でも、これが原因で店に客が来なくなったら意味が無い・・・厳し過ぎるこの対戦方式は方式で、『クイントス』の望んだものじゃ無さそうなのがさっき判った」 「なんか、誰も得してない感じがしないか・・・?」 得体の知れない超能力を発揮する武装神姫達、田舎の大会にしては陰謀めいた気配がする現状・・・だが 「らしくないな、マスター?仮にこれが誰かの陰謀だったとして、それに対する私達のスタンスは決まっているんじゃないのか?」 最近、私は自らの考えに一人で埋没する癖から少しずつ抜け出しつつある・・・が、代わりに今度はマスターか 「仮に誰かの陰謀だったとしても、神ならぬ私達に出来る事は、目の前の事態から順番に解決していく事だけじゃないのか?大局的な見方も良いかもしれないが、それで結局動かないなら、罠に嵌って見る方が色々見えてくるんじゃないのか?」 危険な考え方だと、自分でも理解はしている。が、今は恐怖と疑心暗鬼に縮こまって身動きが取れなくなる方が何倍も怖かった 何よりも、『クイントス』の演説が利いていた 『私も一人の武装神姫であるからには、より良い闘いを経験したいという欲求があるからだ』 それは、今迄漠然としていた目標に、確たる実体が与えられた瞬間でもあった 私は、あの女王に接近したい その為ならば、多少のリスクは、覚悟しなければならない・・・!! 「私は征くぞ、マスター!今私達には、前にしか道は無い!!」 強引だったか・・・だが、マスターは顔を上げて、私を見て笑ってくれた 「闘わねえとは言ってないだろ?ちょっと考え込んでただけさ・・・」 「そろそろ準備して、さっさとあのニンジャと闘おう。今は少しでも多くの闘争を経験したい!」 「あぁ、判ったよ・・・このバトルフリークめ」 マスターはようやく重い腰を上げ、オーナーブースへ向かった 今回の舞台は和風の城郭内部だった・・・忍者型のフブキと、侍型の紅緒が闘う舞台としてはこれ程の良ロケーションもあるまい・・・少し確認したが、その気になれば屋根瓦の上で闘う事も出来そうだ、御丁寧に空に三日月までかかっていた (さて・・・忍者型で素手主体か。流石に『G』の様な馬鹿げた攻撃力は無いだろうから奇襲で来ると思うが・・・?) 『華墨、気を付けろ!今相手の反応がそっちに真っ直ぐ向かってる!!』 何?真っ直ぐ来たか・・・否、きっと忍者だからデコイか何かに違いない。狭い通路では不利かな? そう思っていた私の予想は、真正面から廊下をまっすぐに走って来た『ホークウインド』を見て完全に覆された。ちょっと待て!幾らなんでもまとも過ぎるだろうそれは!? 見れば『ホークウインド』は全くの素体のまま、ナイフはおろか、『G』の様に補助的な甲冑やマントすら身に付けていなかった (正気なのか・・・ッ!?) 反応は完全に遅れた。首めがけて飛び込んで来た鋭い蹴りを、無様に太刀で受け止めて、衝撃を殺し切れずに真後ろに向かって廊下を滑る 「ぐはっ!!」 しこたま壁に背中を打ち付けて、格好良くない声が漏れる・・・こんな所迄人間の真似をしなくて良い!! 対する『ホークウインド』は・・・ラッシュを仕掛けてくると思ったが、まるで体重が無いかの様に私から5スケールメートル程向こうに着地、突っ立ってこちらを見ている 「『貧弱でござるな」』 多分、今こいつオーナーと完全にハモってた 「貧弱・・・だと?」 「新人で、マスターに戦術勘がない割には元気が良くて根性がある武装神姫と聞いていたから楽しみにしていたのでござるが・・・」 『これならホークウインドが素手でやる迄もないでござるな』 「舐めるなよッ・・・このエセ忍者がっ!!」 今回は腰に懸架していたマシンピストルを抜き放ち、フルオートで7発、ホークウインドめがけてぶっ放す ・・・が 「な・・・っ!?」 残像を残して・・・消えた? 『真横だ華墨ィ!!』 「えっ?」 いつの間にか、私の右手に持った銃はホークウインドの手に握られていた 「『残念でござる」』 爆音、必死になって右の肩当で防ぐ、が、がりがりと削られ、瞬く間に装甲としての体を成さないまでになってしまう 「がァあっ!!」 強引に太刀を振るって距離を置くと同時にリボルバー銃を引き抜いてばしばし三発叩き込む 「ふ・・・っ!はぁっ!!」 今度は、はっきり見えた ホークウインドは数歩助走を付けると、ダッシュの勢いのまま軽く跳躍し、そのまま「壁を走って」私の側面に回りこんでいるのだ (こんな動きが・・・出来る物なのか!?) 途轍もない運動能力の賜物だろう・・・運動能力? 時速100キロ近いだろう拳が私を襲う・・・!考えている暇は無い『G』程の威力は無い分この攻撃は的確に死角を縫って迫る 私は・・・右肩の装甲を切り離した 私の肩という「芯」を失って、あっさりへしゃげる装甲、かがみこむのが遅れていたら今のは相当やばかったかもしれない。現に、兜の角飾りが折れ飛んでいた 左隣に・・・窓がある!跳躍だ・・・跳躍しろ!華墨!! 「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 三度、ホークウインドの拳脚が私を襲う・・・大丈夫だ、装甲がある、一撃では、やられない 今度は被っていた筈の兜が弾け飛ぶ・・・だが、もう私の体も頭もそこには無い 「『広い所なら勝てるとでも!?」』 追い、矢の様に飛び出してくるホークウインド。リボルバーの残り3発を叩き込む・・・が、どうやったのか判らないがかわされてしまった様だ 「ハァッ!ハァ、ハァ・・・」 屋根の上によじ登り、兎に角数瞬時間を稼ぐ 『華墨!ヤツのサイドボードが判った。鉤付きのワイヤーを張り巡らして、「正面に飛びながら横に避ける」とかが可能なんだ』 成る程・・・飛行用のごちゃごちゃした装備を使わずに空中機動が可能なのか。とんでもないヤツだ 少し遅れて、ホークウインドが登って来る 「観念したでござるか?」 片手の手刀で首を掻き切るジェスチャーをしながらホークウインドが呟く 「それとも何か策でも?一応言っておくが、障害物を使わないガチの白兵戦でも今のお主に勝ち目は薄いでござるよ?」 「・・・策・・・か」 バーチャルの空を見上げる 無い訳では・・・無いと思う ただこれは果たして「策」と言えるのだろうか? 『クイントス』の演説が思い起こされる (『より良い闘い』・・・か) 「貴女に尋ねたい事が一つある・・・聞いてくれるか?」 「聞くだけなら」 両手を組み、片目を閉じてこちらを見る・・・背に掛かる月が、絵になる立ち姿だった 「何で素手でやろうと思ったんだ?」 「はっ」と、軽くホークウインドは笑った 「決まっているでござる。この『武器』を拙者達は最強だと考えたからでござる・・・それに」 悪戯っぽく微笑む・・・眼鏡とか似合いそうだと、脈絡無く思った 「それに?」 「折角だから誰もやってなさそうな事がしたかったからでもあるでござる」 不覚にも吹き出してしまった 「笑うのでござるか?」 言いつつ彼女も笑っている 「判った・・・私ももう少し自信を持ってみるよ・・・貴女の様な神姫と堂々と渡り合える様に!」 覚悟は、決まった 「貴女のからだと私の剣と、どちらが強いか、試してみよう」 太刀を、上段に構える・・・この構えで一気にトップスピード迄加速して走れるかどうかは未知数だ、が (自信と・・・誇りか・・・) それは『クイントス』にあり、『ホークウインド』にあり、私にまだ、完全な形では無いものだ 全ての鎧を脱ぎ捨て、走る・・・! 獣の様に 風の様に 光の様に 振り下ろした剣閃は、ホークウインドにとって決してかわす事が不可能な攻撃ではなかっただろう 私の、ある種異常なダッシュ力は、彼女の様な上位ランカーにはもう知る所だろうからだ だが、私は確信していた 彼女なら、必ず私のこの攻撃をその腕で受けに来るだろう事を 侍の精神を持つ忍者型神姫と、忍者の身体能力を持つ侍型神姫 この闘いは 後の私にとって とても重要な闘いになるだろう 惜しむらくは その闘いの結末を、私の本当の実力ではなく ホークウインドの誇りを悪用した 私の薄汚い奸知で告げてしまう事だった 月夜を貫く、硬質な打撃音 案の定、私の唐竹割りは彼女の鋼鉄の腕に防がれ 私はその腕と太刀の接触点を支点に、 月夜に向かって跳躍していた 「マスタァァァァァァァァ!!!」 私の手の中にあった太刀が分解され、消える 殆ど同時に、私の指は引き金を引く動作をこなしていた 爆音は一度だけ、つくりものの月夜に大きく響いた 「ひどい事をして・・・済まなかった・・・今の私では、こうするしか貴女に勝つ方法が、無かった」 月夜の元、私の膝の上で額から擬似血液を流すホークウインドに話しかける 涙を流せるなら、流していただろう・・・否、案外気付いていないだけで、流していたかも知れない 「ふ・・・良いでござるよ・・・あんな見え透いた挑発に乗った拙者の不覚でござる・・・」 それでも微笑むホークウインド、既に、足元から少しずつ、白化して消え始めている 「でも・・・っ!私は貴女の誇りを悪用してッ・・・!!」 「強く・・・なるでござる・・・そうしたら・・・許してあげるで・・・ござるよ」 もう殆ど胸まで消えて、残った片腕で私の顔を撫でる・・・微笑みが・・・堪らなく綺麗だった 「ああ・・・!貴女の魂は受け取った!!私はきっとなってみせる・・・こんな真似しなくても、きちんと真正面から貴女みたいなひとと闘える戦士に!!」 消えゆく彼女の手を握り、私は月夜に吼えた 「見返してみるとおっそろしくクサい光景でござるな」 「なんかのバトル漫画みたいでござるな」 「単にバーチャルで倒しただけだってのに。大げさな奴だなお前・・・そんなキャラだったっけ?」 勝利のコールの後、アクセスポッドから黄昏た表情で出て来た私を迎えたのは、三者三様の凹ましい台詞だった あぁ馬鹿だったさ!でもあの瞬間は何か空気に呑まれてやっちゃったんだよ!あーゆー事を!! その空気を作り出してしまった原因の殆どがまた私にある事実に結局激しい羞恥心を覚える訳だが・・・ 「まぁいいや。見てた連中も外でコールしてるからよ。出て行ってやれよな。『感動的なバトルの立役者さん』?」 意地の悪い笑みを浮かべるマスターの顔はしかし・・・優しかった。何も言わなくても、私の意図を判ってくれた人の、顔だった 「くそっ!!もうどうにでもなれぇぇい!!」 思い切ってこの時ブースから出た私は、やっぱり勇者だったと思う その闘いの勝利の美酒は、恥じらいと照れと、少しの罪悪感で、なかなか本当の味を味わう事は出来なかった でも、何かまた一つ、大事な物を得たのは確かな様だった 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2594.html
SHINKI/NEAR TO YOU 良い子のポニーお子様劇場・その4 『セントウノヒ』(前編) >>>>> そこはまるで廃墟のようだった。 乾いた土がむき出しになった街道の両脇を、木造りの古びた家々が並んでいる。アメリカ西部開拓時代をテーマにした映画にでも登場しそうな古ぼけた宿場町。 打ち捨てられまさにゴーストタウンと化した街並みの間を、これまた映画のワンシーンよろしくダンブルウィード(西部劇によく出てくる、あのコロコロ転がるヤツだ)が風に吹かれ勢いよく転がっていった。 突如街に轟音が響く。 それと同時に、銃弾の雨に降られ穴だらけとなった廃屋から白い影が飛び出した。 蒼いポニーテールをなびかせ、白い装甲を身にまとった少女――武装神姫のゼリスだ。 「ゼリスッ、大丈夫かっ!?」 銃弾に吹き飛ぶ廃屋の木片をかいくぐり辛くも窮地から脱出する相棒を案じて、シュンは思わず叫ぶ。 「問題ありません。この程度の銃弾ならそよ風のようなものです」 軽口を返す相棒に安堵を抱きつつ、シュンは倒壊する建物の向うに立つ対戦相手の神姫を睨んだ。 砲台型MMSフォートブラッグタイプ。砲台の名が記す通り、火力に優れ射撃戦に特化したスペックを持つ武装神姫だ。 フォートブラッグタイプは手にしたガトリング砲アイゼンイーゲルを構え直し、廃屋の合間を駆けるゼリスに向け再び銃弾の嵐を見舞う。 「そらそらそらぁっ! 逃げてばかりじゃ勝てないよ?」 フォートブラッグは挑発的な笑みを浮かべながら、ガトリング砲を掃射する。口惜しいが相手の言うとおり、こちらは戦闘開始から防戦一方だ。まず火力が違いすぎる。 「シュン、焦ってはいけません。冷静さを欠いてしまっては打開できるものもできなくなります」 一旦距離をとり物陰に身を隠したゼリスが、手にした自動拳銃のマガジンを確かめながらシュンをたしなめる。 「分かってるよ!」 ゼリスに諭されて、シュンは大きく深呼吸した。相手は立て続けの攻勢に気を良くしたのか、すぐに追ってこない。侮られているのかもしれないが、仕切り直すには都合がいい。 状況を整理する。 相手とこちらの武装の差。このフィールドの特性。――何か利用できるものはないか? しばし逡巡したあと、シュンはゼリスに指示を出す。コクリと頷いたゼリスは、それまで隠れていた廃屋の影からタウンの中央を走る街路へと身を躍らせた。 隠れる先を注意深く探っていたフォートブラッグは、訝しげに突如大胆に姿を現した獲物に銃口を向ける。 「どうしたの? こそこそ隠れるのは諦めたのかしら?」 「さあ、どうでしょう?」 両者は街路の真ん中に立ち、しばし睨みあう。互いに攻撃に移るための機をうかがう様は、まさに西部劇のワンシーン。 次の瞬間、ゼリスは大きく横に飛びながら自動拳銃を抜ぬく。と、同時にフォートブラッグのガトリング砲が吠える。 降り注ぐ銃弾が大地を舐める。砂埃が舞い上がる中、ふたつの影が疾駆する。 街路を、宙を、廃墟の壁を、縦横に駆けながらゼリスは相手に向かって構えると同時の即準速射。発砲と共に大きく跳躍し、離脱。それを追いかけるようにフォートブラッグの掃射が、街路の土を抉り廃墟の壁を吹き飛ばす。 「あははははっ、カクレンボの次は鬼ごっこ!?」 ジグザグに街を駆けながら、ゼリスは暴風のようなガトリング砲の火力に押され後退を余儀なくされる。それを追いかけながら、更なる火力でもって押し潰そうとするフォートブラッグ。 「!?」 火線がやむ。巻き起こる埃が風に流された場所は、ゴーストタウンの中心に位置する広場だった。視界の開けた土地は街を東西に貫くT字路の交差点となっている。広場の北側は教会を模しているのだろうか。屋根に大きな十字架を抱いた他よりも一回り大きな建物が鎮座していた。 さて、標的が逃げたのは三叉路のいずれか? フォートドラッグは三方に視界を巡らせながら、教会を背にガトリング砲を構え直す。 「往生際が悪いわよ。さっさと出てきなさ――」 ふっ――と。急に視界が陰る。きょとんとしたフォートブラッグは何事かと空を仰いだ。 「――――っ!?」 天から十字の影が降ってきた。教会の上に祭られていた十字架だと認識するころには、それは無防備に仰ぎ見るフォートブラッグを直撃していた。 ――――ごつんっ! ふぎゃっ! と十字架に押し潰されたフォートブラッグの傍らに、教会の屋上からゼリスが繰る繰ると宙返りしながら舞い降りる。 ゼリスに突きつけられた銃口に、十字架の下でジタバタともがいていたフォートブラッグはタラリと汗を流しながら「サプレンダー(参った)」を宣言したのだった。 「三叉路に逃げ込んだと見せかけて、死角になる頭上から強襲! なかなかいい作戦だっただろ?」 シュンは下りエスカレータをウキウキと降りながら、パートナーに同意を求める。 彼の頭の上にちょこんと座りこんでいるゼリスは、「ふむ」と小首を傾げた。 「敵の火力に主導権を握られてしまったことを逆手にとって、追いつめられるふりをしながら相手を誘導し地の利を生かして隙をつく――発想そのものは悪くありませんが、リスクの高い戦術でした」 「……うっ」 「あのフォートブラッグの射撃はただの乱射のようで、こちらの動きを絶えず的確に捕捉していましたからね。運が悪ければ誘導する途中で被弾し、そのまま押し切られていたかもしれません。今回はうまくいきましたが、毎回このような策が成功することはないでしょう」 ……手厳しい評価だ。身内だからって容赦なさすぎじゃありませんか、ゼリスさん? とは思うものの、バトルの興奮から頭を冷やして振り返ってみればその指摘はいちいちもっともだ。 ゼリスと出会ってからすでに2ヵ月。神姫センターのバトルや指示にも随分慣れてきたと思うが、優秀なパートナーに追いつくにはまだまだらしい。 ウキウキステップから肩を落としたションボリ歩きに変わったシュンを、すかさずゼリスがデコピンで叱咤する。 「しっかりして下さい。過程はどうあれ勝ったものが俯いているべきではありません。敗者に対し敬意をもって応えるためにも、勝者は胸を張るべきです」 額を押さえるシュンの瞳に、自分を覗き込むエメラルドの瞳が映った。 「それに今回の作戦――こう着状態をくつがえすという点では悪くありませんでした。相手の火力に攻めあぐねていたのは事実ですし……あの場でとっさに考えたにしては、ベストとは言えませんが及第点といったところでしょうね」 あくまで淡々と、ゼリスは語る。 「……ひょっとして、誉めてくれてるのか?」 「……? 私はただ良い点は良い、悪い点は悪いと率直な感想を述べているだけですよ」 そう言い終えるとゼリスは再び彼女的定位置であるシュンの頭の頂上へと戻る。元よりゼリスは機の利いた世辞や慰めをするようなヤツじゃない。シュンのパートナーである武装神姫は――呆れるぐらい正直で真っすぐなヤツなのだ。 シュンはエスカレータの最後の段を勢いよく蹴ると、胸を張って神姫センターを後にした。 今日の失敗は今日の失敗。省みて明日の糧にすればいい。歩みは遅くとも、一歩ずつ確実に前に進んでいけばいいのだ。 * 「……これは失策でしたね」 「……面目ない」 嘆息するゼリスを肩に、シュンは恨めしそうに道路を見つめた。 雨だった。 それも大雨だ。 神姫センターを出るあたりから、空模様が怪しくなり出し――そこからポツポツ降り始めた滴が大粒の雨となるのはあっという間だった。 「駅に着く前にこんなに強くなるとなあ……」 急遽逃げ込んだ店先の軒下でシュンがしみじみ呟けば、ゼリスが「私は忠告しましたよ」と不満げに返す。 確かに神姫センターを出るときに、ゼリスから今日は一部で夕立の予報があったこと、雨具の用意がないことなどを指摘されて「しばし様子をみてはどうでしょう」とか言われてたけどさ。だからってこんなにいきなり土砂降りになるとは思わないだろう? 「その結果が駅にも辿り着けず立ち往生では、しかたありません」 …………おっしゃる通りです。 さて、どうしよう。もうすぐ6月も終わりだってのにずぶ濡れで帰るのも嫌だしなあ。ともかく駅まで行けば、あとは妹のユウにでもPDA(ケータイ)で連絡を取って傘を持ってきてもらえばいいんだけれど。それともこれだけ雨の降りが強ければ、少し待てば止みそうにも思えるし―― 軒下にポツンと立ちつくしながら、あれこれ思案していると視界の端を黒い影がよぎった。どうやらシュンと同じように傘を忘れた人間が雨宿りに駆けこんできたらしい。 厳つい体に裾の長い学生服――いわゆる長ランをまとった大男だ。 ん? 厳つい長ランの大男? 最近、そんな人物にどこかで会ったような…… 「うーむ。急に降ってくるとは困ったのう」 「イエス・サー。この状況ではしばらく静観するしかないであります」 忌々しげに空を見つめる長ラン男に、そのポケットから顔を出した神姫が応じる。 「ああっ!?」 「何っ?」 「むうっ?」 思わず奇声を発して驚いたシュンに、向うのふたりもこちらに気付く。 「これはこれは……奇妙な縁ですね」 ただ一人平然としているゼリスが、呑気に呟いた。しかし他の三人はあっけに取られてまだ固まったままだ。 番長治(バン・チョウジ)とその武装神姫ベガ――シュンとゼリスが初めて神姫センターで戦った相手だ。ひょんなことからベガと武装神姫バトルをすることになったゼリスは、危ういながらも初勝利を上げることができたのだが……その相手とまさかこんなところで再開するとは思いもしなかった。 ……気まずい、どうしよう。 出会いが出会いだけに気軽に世間話をするような相手でもないし(そもそも番長治とベガのふたりとは一度バトルしただけ。よく知った相手でもない)、かといって雨の降りは強いままで立ち去ることもできない。しばらくは狭い軒下で肩を並べるしかない。 「…………」 「…………」 向うも同じなのか、番長治は低く唸ったきり黙りこんでいる。最初に会ったときのようにケンカを吹っかけてくることは無いようでホッとするものの、居心地の悪さは変わらない。 ベガもこちらを睨みはするものの、マスター同様黙ったままだ。 「お久しぶりですね、そちらは……むぎゅっ」 三者沈黙。そのなかでごく自然に話しかけようとするゼリスの口を、シュンはとっさにふさぐ。 (お前、少しは空気読めよ!) (失敬な、私はごく普通に挨拶をしようとしただけではありませんか。弾圧です、言論統制です。自由は死なせずですよ) 自由の前に僕がこの場の空気に耐えられなくて死んじゃうよ! ゼリスのマイペースぶりに辟易しつつ、隣をうかがう。 番長治が何かをしゃべろうと口を開いた、その時――横なぐりの水飛沫にいきなり視界を遮られた。 「あっ!?」 そう叫んだのは誰の声だったか。通り過ぎる自動車のエンジン音に、シュンは一瞬遅れて何が起ったのか理解した。排水溝が詰まっているのか、もともと路盤の施工が悪いのか。道路沿いに大きく溜まった雨水を自動車のタイヤが盛大に跳ね上げたのだ。 気がつけばシュンもゼリスも、さらに番長治とベガまでびしょ濡れになっていた。 「くっくっく……」 ベガが低く笑う。 「サーと私に泥水を被せるとは……民間人と言えど、ただではすまさんぞ! 軍法会議にかけてやる!」 いや、軍法会議ってどこの? 激昂するベガに、ゼリスが静かに応じる。 「車種及びボディーカラー、ナンバープレートとも全て把握しました。目標の追跡は可能です」 ゼリスの目がキラリと光る。 「でかしたぞ、小娘! まずはこちらでヤツを確保し、軍隊のルールを骨の髄まで叩きこんでくれる!」 「ええ。その際は不埒者に猛省を促すため、私自らの手でデコピン百回の刑に処して差し上げましょう」 妖しいアイコンタクトを交えて、ゼリスとベガが不敵に笑う。 「……って、待て待て待てっ! お前ら何するつもりだっ」 「何をと申されましても。シュン、泥はね運転は立派な道路交通法違反であり、処罰の対象ですよ。罪を犯した者が然るべき罰則を受けるのは当然ではありませんか?」 そうなんだ、知らなかったな。見れば番長治とベガも「なるほど」といった顔をしている。いや、じゃあベガはさっきまで知らないで過激なこと言ってたのか。 「ただし……道路交通法違反は現行犯での処罰が原則ですから、この場合状況証拠だけでは犯人は無罪放免ともなりかねません。ここはやはり……」 「我々の手で私刑にするということだな!」 互いにマスターの懐から飛び出したゼリスとベガがガッチーンッと腕を組み合った。おいこら、変な形で意気投合するな! 「ふむ……シュンはこのまま泣き寝入りをしてもよいのですか?」 「敵を前にして逃亡するなど、軍の恥さらしだぞ小僧!」 だって僕は軍人じゃないし……。あ~、もう! ふたりして迫るな。番長治も何か言ってくれよ。 「しかしのう、ベガよ。今から追いかけても車には追い付かりゃせんぞ。この雨もあるしのう」 意外に冷静なその言葉に、一同は空を見上げた。 空を覆う曇天には切れ目も見えず、雨脚は弱まる気配がない。シンと静まると同時に、それまで忘れていた寒気を急に思いだした。 ――ハックションッ 盛大なくしゃみと共にシュンは体をブルッと震わせた。ゼリスが心配そうな顔で覗き込んでくる。 そういえばずぶ濡れなんだった。これは不味いな。ベガや番長治たちとコントしてる場合じゃない。このままだと風邪を引くのは確実だ。 ふと。同じくずぶ濡れの番長治が「フンッ」と大きく鼻を鳴らすと、くるりとシュンに向き直った。 「お前、ちっくとワシにつき合わんか?」 思わず身構えたシュンは、耳にした意外な言葉にぽかんとした。 『セントウノヒ』(前編)良い子のポニーお子様劇場・その4//fin 戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2784.html
10ページ目『お前は誰だ』 姫乃がまどろみから覚めた時には、タクシーは総合病院のロータリーに入っていた。不意に胸がズキリと痛んでも、手や頭を動かすことすら億劫でどうしようもない。代わりに目を動かすと、隣に座っている弧域が「付いたぞ姫乃、もう少しの辛抱だからな」とささやいたところだった。 「病院? ……あれ、私いつから寝て……」 「ああ起きてくれたか、よかった。射美まで寝てるから二人とも背負わなきゃいけないとこだった」 姫乃が膝下を見ると、自分の太股を枕にした射美の頭があった。頭の重さがそのまま射美に預けられている信頼の重さのように感じた。タクシーから降りて射美を背負った弧域と、弧域の腕につかまった姫乃、三人が入ったロビーには長椅子が並んでいて、ちらほらと年寄りが座っていた。廊下に続く床には数本の電子回路のような線が引いてあって、患者や見舞いらしき人々がそれに従い、あるいはそれに気を向けることもなく歩いていく。線は色分けされていて、正しい色の線を辿っていけば広い院内でも迷わずにすむ。姫乃が座った位置からでは、それらの線がどこに向かっているのかはまったく見えなかった。 弧域が受付に行っている間、座って待っていた姫乃の胸に再び痛みが走った。全力で走った時のような苦しさとは違う、より直接的で鋭い痛み。タクシーに乗るまでにどこかにぶつけたのだろうと服の下に手を入れると、中はべっとりと湿っていた。熱があるのだから汗をかいて当然と軽く考え、痛みのある場所を押さえてみるとやはりズキリと痛む。しかしパジャマにカーディガン、それに弧域が羽織らせたらしいコートの上からではその傷が何なのかは分からなかった。 受付を済ませた弧域が戻ってきた。 「あと20分くらいで診察できるってよ。空いててよかった」 「ほんとねぇ。服の中が汗びっしょりだから、早く帰って着替えたい」 そう言って姫乃は服の中から手を抜いた。その手を丁度近くを通りかかった若い女性の看護師が見咎めて飛んできた。汗ではなく血で一面濡れた手に一番のショックを受けたのは姫乃で、弧域と看護師に支えられなければ椅子から転げ落ちていたところだった。 入院の必要はないとオッサン医師に言われた時、弧域は反発したが、ボロアパートに戻ると姫乃は部屋の前で大きな欠伸ができるほど、落ち着きを取り戻していた。しかし全身にまとわりつくような気だるさはそのままだった。姫乃は胸に張り付けられたガーゼが剥がれないように、もう何度目になるかしっかりと押さえつけた。 「ごめんね、いろいろ迷惑かけちゃって。射美ちゃんもありがとうね」 「いいからママは早く寝なきゃダメ。あたしが見張ってるからね、起きちゃダメだからね」 「射美はこっちの部屋だ。ママは今は一人でぐっすり寝ないといけないからな」 目が覚めたら軽くでもいいから何か食べるよう言い残して、弧域と射美は姫乃と別れた。 「さて……次の問題はこっちだな」 「何かあるの?」 「エルのことだ。思い出したはいいけど、神姫の存在を忘れてたってのはどういうことだ?」 ホムラ達が戦っている間、弧域は大学にいた。姫乃の言いつけどおり真面目に講義を受けていたところだったが、アマティがエルを殴り倒すと同時にエルのことを、またオートマタとして動く神姫のことを思い出した。近くに座っていた貞方と鉄子に神姫のことを尋ねたのだが、 「は? 動くってあの武装神姫が? お前さっきまでノート取ってたけど、寝てたのか」 「昨日傘姫が同じこと言って、『姫乃がおかしくなった!』って電話してきたんはあんたやないね。二人してどうしたんよ」 二人とも一分前の弧域同様、動くフィギュアのことなど知らなかった。講義を抜け出して帰宅すると丁度、弧域の部屋の扉から4体の神姫が出てきたところだった。 「マ、マスター…………違うんです! 私は姫乃さんのことを悪く思ってなんかいないんです! ホントなんです信じてください!」 「表ではニボシ食わぬ顔しておきながら、裏ではマスターの恋人暗殺を目論む愛憎劇! どうにゃ、ワガハイが監督やってやるから映画とか作らにゃいか」 「ああっ、丁度いいところに姫乃さんの彼氏さん、姫乃さんが危ないんです!」 「おい、あまり煽るな。ただ風邪をこじらせただけだろ」 この時弧域は初めて、姫乃の部屋に踏み入った。このボロアパートに引っ越してきてから三年が経とうとする今まで、一度も侵入を許可されたことのなかった姫乃の聖地。弧域は姫乃の意思を汲んだのか、なるべく部屋の中を見ないようにして、布団の中でガタガタと震える姫乃にコートを着せてタクシーを呼んだ。どうしても見過ごせなかった【モノ】については、姫乃の体調が回復してから厳しく追及することにした。 弧域は、姫乃の部屋の扉が閉まるのを確認した後で射美に問うた。 「姫乃が言ってたとおり、神姫はただのフィギュアじゃない」 「そうだね」 「ほぼ同じ頃、射美が俺達の前に現れた」 「パパとママの子供だからね」 「射美はフィギュア化事件のことを知っていた」 「知ってるね。あたしもイルミなんだし」 「怒らないから正直に教えてくれ。ぶっちゃけ黒幕だろ」 「分かんない。ほら、早く中入ろうよパパ、寒い寒いよー」 逃げるように弧域の部屋の扉を開けて中に入っていく射美。弧域もそれに続いた。 姫乃を病院に連れて行った時からずっとそうしていたのか、部屋の隅でエルは膝を抱えて縮こまっていた。ブロンドの長い髪が腕にかかり、ぐずぐずな顔を覆い隠している。事ある毎にそうやって落ち込むエルの姿を懐かしむように、弧域は苦笑をこぼした。 「なに落ち込んでるんだエル、せっかくフィギュアから――」 「あの神姫を信用しちゃダメだよパパ。ママを殺そうとしたんだから」 聞いていたエルは肩をビクッと震わせたが、頭を上げて言い返そうとはしなかった。 「あたしが鉄砲でバーンってやってママを助けたんだから」 弧域は机の上に放置されているエルの短剣三本を見つけて手に取った。忍刀を改造したそれは三本とも同じ場所で折れていて、もう使い物にならない。 弧域と射美が部屋着(射美は弧域のダボダボのジャージを着た)に着替えて二人で電気ストーブに手足をかざしながら落ち着いてから、ゆっくりと頭を上げて立ち上がったエルは、何かを決意したように、まっすぐ自分のクレイドルに向かった。そしてクレイドルに座って、目をつむった。 「私をリセットしてください、マスター」 すべてを諦めたような声だった。 「イルミ姉さんと初めて戦って、姫乃さんと握手した日から、姫乃さんのことを悪く思ったことはありませんでした。……ない、つもりでした。それが嘘だって、私も知らない本心が姫乃さんのことを憎んでたって分かっちゃったらもう、マスターの側にいられません。リセットしたら、私のことは捨ててください。新しく目覚めた私もきっと、マスターのことを心から好きになって、姫乃さんのことを心の奥底から憎みますから」 「…………」 「一思いにやっちゃってください。お別れの挨拶は……つらいだけですから」 「待て待て早まるな。小さい子の前でそんなこと言うなや、トラウマになったらどうすんだ」 エルのことをじっと見つめる射美を自分のほうに向かせた弧域は、まだ重い物を背負わせるにはあまりに華奢な両肩に手を置いた。 「なぁ射美。ママはエルとケンカしたことがあるんだけど、ちゃんと仲直りしたぞ。射美も良い子だからできるよな?」 「嘘。じゃあどうやって仲直りしたの?」 「握手して、デコピンして、それでおしまいだ。後でママが起きたら聞いてみるといい、ホントだぞ」 しばらく納得がいかないという風に弧域とエルを交互に見つめ、その後で壁越しに、今はベッドの上にいるはずの姫乃に視線を向けた射美は「……分かった。パパがそう言うなら、そうする」と、渋々が半分、弧域への信頼半分といった感じで頷いた。 「待ってください! そういう問題じゃなくて、私はもう――!」 エルを無理やり黙らせるように、弧域は15cm程度の体を右手で鷲掴んだ。そしてエルの首から上だけを射美に差し出した。黒ひげ危機一発ならぬ戦乙女危機一発。 まだ完全に納得しかねる様子の射美だったが「ママも仲直りした」とあらば、それを真似しないわけにはいかない。素振りを始めた右人差し指はビッ! ビッ! と鋭く空気を切り裂いた。 「な、なんかこの子、手加減しなさそうなんですけど……っていうかマスターその前に説明してください! この子どちら様ですか! すんごく姫乃さんに似てますけど、隠し子がいたなんて聞いてないです!」 「あー、デコピンの後で説明するから」 「説明聞く前に頭が吹き飛びそうなんですけど!?」 「さっきはリセットされる覚悟してたじゃない。心配しないでエル、もし頭が取れちゃったらパパが新しいの買ってくれるから」 「これがゆとり脳ってやつですか!? どんな教育方針ですかマスター! 最近の親は命の尊さも教えないんですか! 私の顔はアンパンですか! 顔を取り替えたら元気100倍ですか!」 「なんのためーにーうーまれてー」 「なにをして いきるのか?」 「こたえられーなーいーなんてー」 「そーんなのーはー」 「「 I ☆ YA ☆ DA 」」 「二人とも絶対間違ってます! アタマ吹っ飛ばす時に歌う歌じゃないです!」 「じゃあいくよパパ、しっかり押さえててね」 「おう、外すなよ」 「嫌です! 前言撤回ですまだ死にたくないです! い、いやーーーーっ!!」 勿論。 容赦のない姫乃と違って射美のデコピンは、力を抜いてエルの前髪を少し揺らした程度だった。ただ、中指に力をこめたまま暫くエルの前で留めて無駄に怖がらせたあたり、どこか母親に通じるものがあった。 「なるほど、イルミ姉さんでもある射美ちゃん……ん~、サッパリ分かりませんが、警察とかに頼るのはやめたほうがいいと思います。たぶん捜査して分かる範疇を超えてますよ」 「えへへ」 「褒めてな……いえ、褒めざるを得ないですね。おかげで姫乃さんを大変な目にあわせなくて助かったんですけど、神姫でもこんな芸当ができるのはマシロ姉さんクラスじゃないと無理ですから」 じっくりと眺めていた折られた刃をそばに置いたエルは、右手の親指と人差し指を立てて銃の形に作り、ベッドに座った弧域と射美に向けて「バーン」と撃った。それを受けて「あうっ!」と胸を押さえて倒れたノリの良い射美とは対照的に、弧域の表情は固いままだった。 「仮にマスターが射美ちゃんの普通じゃない部分をバッチリ説明できたとしても、理解はしてもらえないはずです。そして理解できないものは偶然、もしくはマスターの見間違いだって切り捨てられて、残るものは『記憶喪失の女の子』と『白昼夢の中で動く人形』だけです。やましいことのないマスターや姫乃さんにとって不利になるだけです」 「やっぱそうだよなぁ。自分達で解決するしかないのか……」 「いいじゃない、ずっと三人一緒に暮らそうよ。あ、エルも入れてあげるからね」 「どーせ神姫はペットみたいなもんですよーだ」 「だめだ」と弧域は断固とした口調で言った。 「こんな戸籍すら不明な状態で成長させられるか。お前くらいの子供が学校に通わなくてどうする」 弧域は自分の子供の頃を思い返しても、あまり真面目に勉強をこなしてきた覚えはなかった。彼の考える当たり前の子供のように宿題をこなして、あるいはサボりもした。試験前になれば徹夜もしたし、模試の結果が思うように出なければ悩みもした。最低限、授業に付いて行けなくなることはなく、やるべきことをそれなりにやったというだけで、特別なことはしていない。姫乃と鉄子に勉強を教え(ようとし)ていたが、彼もまた鉄子と同じように成り行きに身を任せていただけだった。しかしそれが本当に大切なことだと分かったのは、週に一時間だけの中学三年の子供を相手とする家庭教師を初めてからのことだった。小学校や中学校の教師達は教室内で計算ドリルなどを振りかざし「勉強は積み重ねだ」の短い言葉ひとつにあまりに重要な意味を込め過ぎ、何をどう積み重ねるのかを説明しなかった。弧域は教え子を前にした時、そんな教師達を殴りたくなった。何故もっと分かりやすく子供たちに理解させてやらなかったのか。早熟で聡明な子供は選ばれた道へと別れていき、勤勉な子供はステージを義務教育の上へ移していく段階を重ねて意味を知ることになる。では義務教育の最後の一年を迎えても未だ四則演算を満足に行なってくれない子供は? 分数を約分することを覚えてくれない子供は? そんな子供にどうやってルート記号の意味を教えればよいというのか? 弧域にも「勉強は積み重ねだ」を分かりやすく説明することはできない。教え子に説明を試みたこともあったが返事すらしてくれなかった(どころか半年以上過ぎた今でも挨拶の言葉すら聞いたことがない。ギャグを言ったら「グフッ!」とくぐもった声で笑うだけの、今思い返せばいろいろ残念な子だったなあとは作者の談)。しかし、その状況に甘んじていては確実に子供がダメになる。子供の何がどういった風にダメになるのかは大いに偏見が混じるため明記を避けるが、とにかくダメになる。姫乃と同じ顔をした少女がダメになる姿を、弧域は想像ですら許せなかった。 「いいな、勉強は必須だ。後で射美の教育レベルを測るからそのつもりで」 「やーだー。勉強やーだー」 「つべこべ言うな。あんまり成績悪いとママに言いつけるぞ」 「マスター、いろいろ考えてるとこにごめんなさいですけど、神姫のことも忘れないでもらえると嬉しいです。おしゃべりできたり戦ったりできる神姫が世界中で手の指で数えるくらいしかいないのは寂しいです」 そうエルが頼み込んだ、その時。 「分かるにゃあその気持ち。一匹狼ならぬ一匹猫のワガハイもたまには101匹マオチャオズと戯れたくなるもんにゃあ」 弧域たち三人が驚いて振り向いた先、ベランダの窓はいつの間にか開け放たれていて、縁によりかかったカグラは腕を組んで意味ありげに頷いていた。アマティとホムラの姿はない。タバコをどこからか取り出して口に咥え、ライターで火を着けて一服して、おもいっきりむせた。 「げえっほっ!? ぉえっ、ごっほおっ! ほ、ほむほむのやつ騙しやがったにゃ! マタタビヂェリー染みこませても茶葉がタバコになるわけあるかにゃ!」 ベランダに叩きつけるように捨てられたタバコ(?)はカグラの肉球付きの足で何度も踏みつけられた。息を荒げたカグラは弧域達の冷めた視線に気づくと慌てて取り繕い、再び腕を組んでニヒルなポーズをとった。 「そこのロリ娘のことでお困りですかにゃ? おおっと言わなくても分かってるにゃよ、オマエタチにはアイディーアが無いんにゃろ。そこでにゃ。ここはひとつ、ワガハイに協力しにゃいか。ロリ娘と神姫フィギュア化事件、一緒に解決できるかもしれにゃいぜ」 ■キャラ紹介(10) ハナコ 【多方性戦術兵器パンドラ試作型】 《1》武装神姫の装備数についての考察 一般的に、神姫が搭載する武装(任意起動させるタイプ)の数は、攻撃・防御・機動などを合わせて3~6つが適当とされている。 2つ以下では対応不可な状況の発生確率が跳ね上がり、また7つ以上の装備を用意してもバトルで一度も使用することのない余計な荷物になりがちであるのが根拠である。 素体に固定される装甲など非可動的な武装については別途検討が必要であることを始めに断っておく。 また、一部の狂った性能の神姫(例えばこの界隈の『デウス・エクス・マキナ』に分類されるような強さを持つ神姫)などには当てはまらない、あくまで基本的な考察であることも付け加えなければならない。 他にも数多の例外があることも、少々言い訳じみてはいるが認める。 これはあくまで一般的な見解である。 また、これは例外の中から発見した事柄だが、武装神姫バトルにおけるすべての戦術は大きく12に分けることができることについても言及したい。 以下、武装の数を少ない方から順に個別に検討していく。 《2》武装数;0の場合 素体のまま、または素体各部のアーマーのみとなる。 神姫がカラテマスターか何かでもない限り勝利はあり得ない。 それでなければ、非暴力・不服従のガンジースタイルで相手を精神的に追い詰めてサレンダーさせるくらいだろうか。 時折、回避行動やバトル中の恐怖心を克服するための特訓として非武装でバトルをさせるオーナーを見かけるが、ほとんどの場合、神姫にトラウマを植え付けるだけの逆効果に終わることは MMS 2nd 素体の登場前から各メーカーより警告されている。 《3》武装数;1の場合 これも武装数;0の場合と同様に誤解されやすいのだが、例えば剣術の練習として大剣一本だけ持ってバトルに臨んでも成果はあまり期待できない。 そもそも武装神姫のAIは初期状態からある程度の戦闘能力を持たされているため、よほど性格的に不得意な武装でない限り最低限の運用水準は満たされている。 よって武装ごとに個別に特訓時間を割くよりも状況に応じた複数の武装の扱いに慣れるほうが優先されるべきであり、その中で各武装の運用精度が自然と向上していくのが最も望ましいトレーニングといえる。 また別の例として、歴戦の強者が槍一本のみ担いでバトルに臨むなどといった光景も見受けられるが、褒められた行為ではないと言わざるをえない。 何故ならその手の神姫が勝利する場合は決まって相手が明らかな格下であり、また敗北する場合は刃がまるで届かなかったり弾が当たらないなど『詰み』状態となって得られるものが何一つないからである。 仮に単一の武器に固執してなお強者相手に勝利を重ねることができる神姫がいたとしたら、それは明らかな才能の無駄遣いであり、+αで何かしらの武装を追加装備したほうが強くなると断言できる。 そして何より、見るからに軽い武装は入念な用意をした相手を不愉快にさせ、俗に云う『舐めプレイ』と受け取られる可能性が非常に高い。 唯一の武器に固執した神姫にその気がなくとも、相手がそれを見てどう受け止めるかを考慮するのはバトルのマナーとして覚えておかねばならない。 4人の『デウス・エクス・マキナ』の中で最も温厚、寛容かつ正義感に富む『大魔法少女』アリベがハンマー一本を担いだ愚かなストラーフに挑発され、怒り狂って即サレンダー、筐体の外に出てストラーフを消し炭にした事件が最たる例である。 自分や相手のためにも、武装は複数用意すべきである。 《4》武装数;2の場合 駈け出し神姫、または現在流行しているライトアーマークラスに多いタイプである。 武装の組み合わせとしてはおおよそ以下の場合になる。 1.攻撃+防御 2.攻撃+機動 3.攻撃+攻撃 4.防御+機動 これらがあればバトルにおける最低限の行動を取ることができる。 どの構成を選ぶかは神姫とオーナーの好みになるが、注意すべきことは攻撃手段である。 機動力の低い神姫がナイフで接近戦を挑んだり、射撃の才能がまるっきり無い神姫がハンドガンを構えることなどに意味が無いのは当然である。 とにかく、相手に確実にダメージを与えられる攻撃武装を選ばなければならない。 しかし、先に列挙した例のうち一見して無難そうな1番と2番について考えてみれば分かるが、数多く存在する武器の中から「コレだ!」とひとつ選ぶのは難しい。 刃物は相手に届かなければただの棒。 銃器は弾薬が切れてしまえばただの重り。 爆発物に至っては相手に当たらなければ汚い花火だ。 他にも多種多様な武器があり、それぞれ一長一短がある。 そこで3番と4番に注目したい。 まず3番は、よほど偏った武器を選ばない限り、バトル中に何もできなくなる状況を(武器0,1つの場合と比較して)減らすことができる。 最近、衝撃的な登場で話題となっている『ドールマスター』コタマは参考例としては極端すぎるが、近距離用・遠距離用の人形を駆使してどの距離でも万能に戦える理想的な神姫だ。 次に4番だが、これは人間でいうところの車両事故、つまり装甲と機動力に任せた体当たりを武器とする。 原始的に思えるが、1~4番の中で最も相手にしたくないタイプは? と考えると自ずと4番になってはこないだろうか。 装甲で攻撃を弾く、または機動力で攻撃を躱して突撃する。 さながら戦車のような神姫はそう簡単には止められない。 どうだろうか、ここまで考えて「武装は2種類あればいいんだ」と考えるだろうか。 答えはNOのはずである。 3番の『ドールマスター』は基本的に人形だけで戦闘を行うが、本人まで攻撃・防御手段を持てばさらに強くならないだろうか。 4番の戦車のような神姫は、主砲を搭載すればさらに強くならないだろうか。 つまり武装数;2というのは0や1のように舐めくさったものではなく、必ずどこかに発展の余地がある数なのだ。 そのことに気づき、さらに強くなりたいと願った神姫とオーナー達が3つ以上へと武装を増やしていくのである。 《5》武装数;3~6の場合 ライトアーマーブームの前までは、ほとんどの武装神姫がこれくらいのボリュームで販売されている。 また次世代神姫として登場が発表されている戦乙女型も久々の重装備神姫であると噂されている。 (次世代神姫の登場により、長らく4人しかいなかった『デウス・エクス・マキナ』の席が増えるのではないかと、その手の情報屋は期待しているようだ) この数から武装の選択肢が爆発的に増えることとなり、ノーマル装備で戦う神姫や組み換え、改造など個性が際立ってくる。 どのような装備も神姫とオーナーそれぞれ好きなものを選べばよい。 試行錯誤を繰り返していけば自ずと「戦える神姫」になるだろう。 《6》武装数;7以上の場合 ドレスアップ目的ならばともかく、バトルにこれ以上の装備を持ち込むのは無駄だと言わざるをえない。 単純に考えても装備は増やせば増やすほど重くかさばるし、バトル中にすべてを必要とする機会など滅多にないはずである。 それに神姫も手段ばかりが増えて各装備に熟練できなければ混乱してしまうだけだ。 勿論、武装が多いのが悪いと決めつけるわけではなく、すべての武装を使いこなせれば何も問題ない。 努力次第では武装をどんどん増やすことで勝利を重ねることもできるだろう。 しかし強い神姫ほど武装の選択肢が最適化されていき、武装数が7つ未満に絞られることが多いのが事実だ。 RPGのように装備することが強さの足し算にならないところが武装神姫の醍醐味でもある。 重装備神姫の動きが鈍くなってきたと感じた時は無理にブースターなどを増やそうとせず、思い切って軽装になってみると、思いもしなかった戦術を得られるかもしれない。 ちなみに、声を大きくして言えないことだが、神姫バトル初心者を超えて一人前とされる基準の「門番」として、重装備神姫が選ばれることが多い。 ぶっちゃけると、金に物を言わせて高火力武装を持てるだけ持った神姫である。 バトル開始から弾丸、レーザー、ミサイル、ビットなどを考えなしに撒き散らすタイプが特に多く、バトル慣れしていない神姫を近づけることなく屠り勝利数を重ねるといった寸法である。 子供オーナーならば微笑ましい光景だが、いい年したオーナーであったなら見ていられない。 初心者にとっては防御・回避の良い基礎練習相手になるだろう。 また金こそパワータイプの門番は最新の武装を使ってくることが多いので、上級者ならばその性能を見極めるために相手したり、ナイフ一本を握りしめて「金」より「愛」であることを証明してやるのも面白いかもしれない。 こういった事情があるため、「門番」とはあまり良いイメージを持たれる存在ではなく、むしろ陰口のような意味で使われることが多い不名誉な称号である。 自分がそうならないよう、武装の数には気を配りたい。 《7》戦術数とその応用兵器について 様々なバトル(1対1のフリーバトル)を検証した結果、武装神姫の戦術は大きく12に分けることができる。 今後の研究に大いに関わってくることから、残念ながらそれら12の戦術を列挙するのは秘匿とさせてもらう。 一例を挙げるとすれば、『デウス・エクス・マキナ』の一人にして最も喧嘩を売りたくない相手と恐れられている『ナイツ・オブ・ラウンド』マシロが操る騎士人形の数が12だ。 相手が相手なだけに12という数字の結びつきを確認するのは難しいが、何かしらの関連性があるものと考えられる。 さらに、もし12の戦術すべてに対応できる神姫が存在すれば『最強』と呼べるのではないだろうか、とは当然の結論だろう。 12の戦術、そしてそれらを実現可能な武装を用意し熟練することで、どんな神姫でも『デウス・エクス・マキナ』クラス以上、つまり最高水準の武装神姫に手が届くと期待できる。 しかしそれでは前述した武装過多のデメリットと矛盾することになり、理論上、特別な才能(AIの特異な成長や、素体・武装の究極的なチューニングなど)のない神姫が『デウス・エクス・マキナ』クラスを相手取ることは不可能である、という消極的な結論に辿り着いてしまう。 そこで、12の戦術を一つの塊としたシステムウェポンを検討したい。 既に試作機の設計に着手しており、完成までの目処はついている。 一つの兵器としては過大な規模の武装になってしまうのが欠点だが、完成したあかつきには所持した神姫が少なくとも一目置かれるレベルの戦闘力を得ることは間違いないだろう。 兵器の名称は既に決めてある。 その兵器の武装者に銃口を向ければありとあらゆる災厄が襲い掛かってくる、というコンセプトから―― 【ハナコ先生の授業は眠い】 「[――というコンセプトから『多方性戦術兵器パンドラ』と名付ける。] 以上が私の武器の基礎らしくて……あれ?」 パンドラの取扱説明書に付属されていた資料を読み終えて顔を上げてみると、目を開いている人は誰もいませんでした。 メルはエルさんと肩を寄せ合うように仲良く眠っていて、コタマさんは私が読み始めた時から既にいびきをかいていたような気がします。 ニーキさん、マシロさんも姿勢は正しいままですが、こっくりこっくりと船を漕いでいます。 私の読み方が退屈だったのがいけないのでしょう。 皆さんに退屈な思いをさせてしまい申し訳ないです。 体を冷やさないように急いで布団を用意しないと……でも、その前に。 こうして皆さんが一緒に眠っている場面なんてなかなか出会えないですし、写真を一枚撮ってからでもバチは当たりませんよね。 次ページ『?』? 15cm程度の死闘トップへ