約 220,416 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/750.html
前へ 先頭ページへ 人間が生きていく上で最低限必要な物が三つある。 一つは衣服。 一つは住居。 一つは食事。 最低限、これらがあれば人間は生きていけるという。 が、しかしだ。 それらはそこらかしこに転がっている訳ではない。 それらは何の労力を使わずに入手出来る訳ではない。 それらを揃えるのに必要なものが一つある。 金だ。 この世で最も大事な物の一つ。 そして、人間が生活していく上で必要不可欠な物。 それはそこらかしこに転がっているかもしれない。 しかし、それは雀の涙程でしかない。 それは何の労力も使わずに入手出来るかもしれない。 しかし、それも雀の涙程だ。 生活していく為に充分な量の金を稼ぐには、汗水垂らして働くしかない。 それが金という物だ。 今日は快晴、気温も寒すぎず暑すぎずにすごし易く、風もそよ風程度。 外出にはもってこいの一日だと言える。 そんな日には弁当の一つでも持ってピクニックにでも行きたくなるのものだ。 この俺、倉内 恵太郎もそんな素敵な気分に晒されながら今日という素晴らしい一日を満喫していた。 「マスター、ジェットスラスターのタービンはどれを使いましょうか?」 「レニオスの8型で頼む」 カーテンの隙間から差し込む僅かな日光が薄暗い部屋に充満するほこりを照らし出している。 狭い部屋にはところ狭しとぼろぼろのダンボールが詰まれ、破れた箇所から金属のようなものがはみ出している。 部屋の中央に鎮座するちゃぶ台の上には大量のパーツが詰まれている。 そのちゃぶ台を挟み、向かい合うように座る俺とナル。 俺はPCに向かい神姫との神経接続とパルスの強弱、信号の精度を設定している。 ナルはその手に神姫用多目的ツールを、背部にストラーフ本来の機械腕を装着し、神姫サイズの精密機械相手に格闘している。 「マスター、島田重工の箱を取って頂けますか?」 「あいよ」 俺はPCから視線を外し、重い腰を上げた。 狭い部屋を見回して島田重工と書かれたダンボールを探す。 何を隠そうこの周囲に詰まれるダンボールの山、その全てに神姫用パーツが満載されている。 EDEN-PLASTICS、島田重工、BLADEダイナミクス、カサハラ・インダストリアル。 神姫好きなら一度は聞いたことのあるであろう企業の純正品、それらが大量に死蔵されてるのだ。 元を正せば俺が店頭で見かける度にちょくちょく買い漁っていたのが原因なのだが、男という生き物はいつまで経ってもそういう事が好きなもので、幼少の頃はプラモを山のように買っては積んでいたのを今でも覚えている。 それはさておき、案の定買うだけ買って全く使わないパーツも多数ある。 否、その九割が未使用で新品同様だ。 一割はナルの内部機構、旧銃鋼、ブーストアーマー等多数に一応使ったのだ。 だが、それでもまだ大量に使い道の無いパーツが積まれているのだ。 以前は買うごとにナルのお小言を頂戴するハメになり、心身ともに疲れたものだ。 だが、今は違う。 俺の財政を圧迫していた大人買いも今は俺の財政源となっている。 武装神姫の由縁たる『武装』。 それは企業・個人問わず多種多様な武装が市場に溢れている。 大抵、そういうものは大企業か著名なデザイナーが販売するのが普通だ。 しかし、大々的では無いものの、個人による武装販売というのも確かに存在する。 個人はイベントやインターネットを介した自作武装の販売が一般的である。 そう、何を隠そうこの俺も神姫の自作武装を販売する人間だ。 俺の場合はインターネットを介し、客の要望を聞く。 そして、予算や期間などを見積もり俺とナルが武装を製作し、客に郵送する。 これがまたかなり儲かるのだ。 一般に広く普及した神姫の用途は基本、バトルだ。 今は街中に留まらず学校の中にまでバトルスペースを導入している。 供給があるのは需要があるからだ。 そして、神姫の広いカスタイマイズ性。 人は基本的に人と同じ、というのを嫌うものだ。 その結果、市場には細かな神姫用のパーツが氾濫し、自分だけの神姫を作ることが出来る。 それでもまだ、人と被る事を嫌がる人間もいる。 俺の客はそういう種類の人間だ。 完全オリジナル。 オーダーメイド。 フルスクラッチモデル。 そういう言葉をちらつかせれば如何に無名の俺と言えど、それなりに客は引っかかるのだ。 が、だからと言って手抜きは一切しない。 ネジ一本からCPUに至るまで、品質には気を配る。 武装の試運転は念入りに行い、誤作動など無いようにする。 武装の品質がそのまま俺への信用に繋がるのだ。 「…これだな」 ベッドの上に山済みにされたダンボールの海の中、目的のダンボール箱があった。 俺は足元に注意しながらそこに近づき、周囲のダンボールを掻き分けてそれを持ち上げた。 顔の直ぐ下にあるダンボールから立ち上るホコリと機械油の臭いに顔をしかめながらナルの元へとそれを運ぶ。 「お待ちぃ」 中のパーツが傷つかないように心なしゆっくりとダンボールを床に下ろす。 「ありがとうございます、マスター」 そういうと、ナルはストラーフの機械腕を稼動させてダンボールを開け、ビニール袋に包まれたパーツ類をちゃぶ台の上に乗っけていく。 俺も再びPCに向かい、自分の作業に戻ることにした。 『ピンポーン』 来客を告げる呼び鈴が久しぶりに鳴り響いた。 扉の前には「新聞勧誘お断り」と「キャッチセールスお断り」のシールが張ってあるのでその線は無いだろう。 だとすれば大家の家賃収集か宅配便だが、どちらも心当たりが無い。 考えられるとすれば―――考えたくはないが―――警察というのも有り得る。 多少緊張を孕みつつ、俺は音を立てないようゆっくりと立ち上がった。 足元を覆いつくすダンボールを蹴らない様に注意しつつ、そう遠くない玄関へ向かう。 『ピンポーン』 台所が隣にある玄関へと辿り着いた俺はまず、覗き窓から外の様子を伺うことにした。 が、その時。 「しーしょー!お見舞いに来ましたー!」 玄関の扉をドンドン叩きながら大きな声で俺の事を呼ぶ声がした。 「アリカ、近所迷惑よ~」 覗き窓を見るまでも無く、そこにいるのがアリカと茜の二人であることは容易に想像できた。 (空けたくねぇ…) 今この扉を開ければ作業は中断を余儀なくされるだろう。 しかし、開けない場合はアリカはしつこく扉を叩き続け周囲に騒音を撒き散らすだろう。 そうなった結果、お隣さんとの付き合いが悪くなる可能性も充分にある。 近所付き合いの悪化によってかつては殺人事件さえ引き起こしたと聞く。 作業の締め切り自体はあと数日残っている。 「…いるから静かにしてくれ」 俺は観念して扉を開けた。 「お邪魔します、師匠!」 「出来れば邪魔はして欲しくないがな…」 扉を開けた瞬間、アリカはずけずけと部屋に上がりこんだ。 俺はそれに軽い眩暈を覚えた。 「どうしてもアリカが気になるからって来ちゃいました」 止めようと思えば止められた筈の茜も茜だと思ったが、それは口にしないで置いた。 「師匠…どうしたんですか?」 扉を閉め、振り返った俺に浴びせられた言葉は実に酷いものだ。 「すんごい散かってる…」 アリカは部屋を見回しながら言った。 「ダンボールには触るなよ」 俺はそういうと、足元のダンボールを数個持ち上げて隅に積んだ。 そうして出来たスペースに座布団を投げ置くとアリカと茜に言った。 「とりあえず座れ、話はそれからだ」 「それじゃあ失礼しま~す」 「今日は本当に散かってますねぇ、どうしたんですか~」 それぞれ違うことを言いながら座る二人を尻目に、俺は茶を淹れる為に台所へと向かう。 小さな食器棚の扉を開け、茶葉筒を取り出し蓋を開ける。 (…腐ってはいないか) 最後に開けたのが何時かは思い出せないそれだが、臭いから判断するに腐ってはいなさそうだ。 それを確認した後、ヤカンに水をいれてコンロにかけた。 水が沸騰するまでの間に急須の用意をする。 茶葉を適当に入れて湯のみを取り出す。 後は水が沸くのを待つだけだ。 「そうだ師匠、どうしたんですか学校に休学届けなんか出して!」 居間にいるアリカが声を張り上げて言った。 俺がアリカに背を向けていると言え、そんなに大きな声で言う事もなかろうに。 「…茜に聞け」 俺が説明してもいいのだが、それはそれで面倒くさい。 第一、アリカに俺の個人的な事情を話す義理もない。 しかし、今の俺がすることばアリカを早急に立ち去らせることだ。 茜に任せておけば、多分上手く説明してくれるだろう。 「何で?」 アリカは首だけをくるりと茜の方に向けた。 「先輩はねぇ…大学に入学した直後、新手の詐欺にかかって多額の借金を負ってしまったの…それを返済するために暇を見ては内職を…」 前言撤回。 ハンカチを片手に目じりを拭うようにしながら平然と嘘を付く茜。 しかし、その口元は確かに笑っている。 「師匠…本当なんですか!?」 ばっ、と振り返り涙目で俺を見つめるアリカ。 「んな訳ねーだろ」 それから視線を外して沸いたお湯を急須に注ぐ。 「先輩ノリが悪いですね~」 急須を軽く回しながら悪びれようともしない茜をどうしようかと頭を痛める。 「なんでウソ言うのよッ!」 「人生を面白くするのは一つの真実、百の嘘なのよ~」 女が三人寄れば姦しいとは良く言ったものだが、この場合二人寄ったら喧しいだ。 「とりあえず騒ぐな」 湯気の立つ湯呑みを二人の前に置き、俺も適当に場所を開けて腰を落とした。 とりあえず俺も茶を飲む事にした。 我ながら丁度良い濃さで淹れられており、大変おいしい。 「…で、師匠。なんで学校休んでるんですか?」 同じく茶を飲んで一段落着いたアリカが口を開いた。 どう説明したものか、俺は湯呑みを睨みつつ数瞬逡巡した。 「マスターが大学に休学届けを出したのは学費と生活費を稼ぐためです」 俺の前方、ちゃぶ台の上を台拭きで拭きながらナルが言った。 「そうなの?」 「はい。マスターと私で神姫用の武装を製作し、それを販売することで学費と生活費を稼いでいるのです」 俺が言わんとすることを手短に説明してくれた相棒に俺は視線だけで礼を言った。 「…でも、なんで学校休む必要あるんですか? 施設とかなら学校の方が整ってると思うんですけど…」 アリカが部屋を見渡しながら言った。 なるほど、確かにこの部屋は神姫の武装を作るには適さない。 アリカにしてはなかなか的確なツッコミだ。 「あのだいが」 「あの大学は研究以外での施設利用は禁じられてるのよ」 俺が説明しようと口を開きかけたその瞬間、茜が先に言ってしまった。 俺は半開きの口を渋々閉じて、その後に続く説明を考える。 「へ、どうゆこと?」 アリカは小首を傾げている。 「あそこはな」 「あの大学は研究以外では一切の機材・施設を使わせないのよ」 コイツ、絶対にワザとやってやがる。 その証拠に楽しそうな眼で俺のことを見てやがる。 「…だから、俺はココで内職してるんだよ」 他に言うことが無いので何とか締め括ろうと言葉を紡ぐ。 これまでの情報を統括すれば普通の人間ならとっとと出て行くだろう。 「そっか…師匠って大変なんですね… アタシに何かお手伝いできること無いですか!」 そんなささやかな願いは無残にも打ち砕かれた。 「いや、それよりとっととかえ」 「そうよね、先輩も一人じゃ大変よね」 更に踏み砕かれた。 結局、あれから無理やりアリカと茜は俺の仕事を手伝った。 茜はまだ良いが、アリカは本当に邪魔というしかなかった。 パーツを探すと言ってはダンボールを引っくり返し。 パーツを組み立てるといっては盛大に失敗し。 それに懲りて差し入れを作るといっては台所を爆発させ。 そんなこんなで日も暮れて、本気でアリカと茜を帰そうと言う事に相成った。 「うぅ…師匠、スイマセンお邪魔してしまって…」 アリカは全身ホコリとススと得体の知れない汚れだらけになりながらヘコヘコ頭を下げている。 帰るときに説教の一つでも垂れてやろうかと思ったが、そういう態度を取られるとどうも辛い。 「分かったからとっとと帰れ」 俺の態度はどっからどう見ても不機嫌そうに見えたことだろう。 本当の所、ありがとうの一言でも言ってやりたいところだがどうも喉辺りでつっかえてしまう。 「それじゃあ、先輩。お仕事頑張って下さいね~」 茜は茜でいつも飄々としているが、今この時だけはかなり楽しそうに見える。 「ああ、先輩達によろしくな」 「孝也先輩にもよろしく言っときますね~」 明らかに顔を顰める俺に、茜はさも面白そうに微笑んだ。 全く持って食えない奴だと思う。 「…それじゃ師匠、失礼します」 アリカはペコリと頭を下げるとトボトボと歩き出した。 それに一歩遅れて茜が歩き出す。 が、一瞬俺の顔を見やがった。 何故か凄まじい罪悪感を感じる。 「……試作品出来たらバトル付き合え!」 自分でも何でこんな事を言ったのか解らない。 だけど、喉から勝手に出てきてしまったのだから仕方が無い。 アリカはびくりと身体を強張らせ、一瞬の後勢い良く振り返った。 「はい! 喜んでッ!」 満面の、こちらまで嬉しくなる様な屈託の無い笑み。 釣られて笑いそうになるのを必死で堪える。 「それじゃっ!」 そう言うとさっきとは打って変わって早足で帰路に向かった。 茜も軽く頭を下げ、アリカを追った。 その表情も、アリカ程ではないが良い顔だった。 俺は一瞬二人の姿を見送ると、直ぐに玄関の戸を閉めた。 「ふぅ…」 何故か溜息が出た。 確かに疲れた。 けど、嫌な溜息ではない。 「マスター、楽しそうですね」 俺の胸ポケットからナルが声をかけてきた。 「そうか?」 「ええ、凄く楽しそうです」 俺にはその自覚は一切無いのだが、ナルが言うのだからそうなのだろう。 「楽しい、ね…」 思い返せば楽しい、と実感した事など余り無かった気がする。 幼少の時分には一度だけ遊園地に連れて行かれた事もあるが、両親共にジェットコースター初めあらゆる乗り物がダメで、俺が介抱してた嫌な思い出しかない。 小学校の頃も無愛想なガキだったと思う。 友達も人並みにいたが、深夜の学校に潜り込むとか下水道探検するとかそんな事も無かったので対して思い出に無い。 中学・高校と勉強積けだったので楽しい、と思う暇も無かった。 いや、ナルと出会ってからは変わった用に思う。 勉強一辺倒の高校生の時分に初めて神姫を手にして以来、神姫にどっぷりと嵌ってしまった。 学校が終われば直ぐにセンターに赴きバトル三昧。 「マスター、どうしました?」 ぼーとしてたのだろう、ナルが気遣わしげに声をかけてきた。 「いや、ちょっと考え事をね」 あの時の楽しいは違う。 今のナルの顔を見ると心底そう思う。 やがて大学に入り、入学式で裕也先輩と裕子先輩と出会った。 あれから一年と少ししか経っていないけど本当に、色々あった。 思い返せば泡の様に記憶が浮かび上がってくる。 裕也先輩に引っ張りまわされた事。 裕子先輩に叱られた事。 孝也に付き纏われた事。 茜に弄られた事。 そして、アリカに出会った事。 驚くほどに密度のある毎日だった。 「…今日の仕事はこれくらいにしとくか」 「マスター?」 その毎日のきっかけは、武装神姫だった。 「締め切りまでまだ時間はある。たまには骨抜きでもしないとな?」 「マスターがそう言うのでしたら…」 武装神姫を通じて知り合った皆。 「今日は鳳凰杯の特番があったな、それでも見よう」 「そういえばもうそんな時期ですね」 その毎日を齎してくれたナルに、最大限の感謝を。 先頭ページへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2390.html
盛大な音が響き渡ってから、一刻。 「ごめんなさい兄さま。私ったらつい……」 「すいません周防先生。つい反射的に……」 部屋の中には、ベッドに座っている周防の前で土下座し、平謝りをしている二人の姿があった。 「いや、もう怒ってないから……2人とも顔をあげてくれないかな」 まだジンジンと痛む頬を摩りながら、必死に笑顔を作る周防。だがその顔には、見事な紅葉(もみじ)がくっきりと浮かび上がっている。 「……はい。本当に申し訳ありませんでした、兄さま」 「本当にすみませんでした。このお詫びは必ず」 尚も深く頭を下げる2人。 「本当に気にしないでくれ。アレは事故だったんだよ」 そう周防がなだめ続けると、2人ともやっと落ち着いたようで、ゆっくりと泣きはらした顔をあげる。 「……それは、それとして」 そして…… 「「この女(ヒト)、誰?」」 冷たい声が、極寒の音色を奏でた。 第5話 『 いんたーみっしょん 』 2つの冷たい視線を浴びながら、先ずはスミレに対して説明と言う名の言い訳を始める周防。 「ええと、此方は『白瀬 雪奈(しらせ ゆきな)』先生。大学の同僚講師なんだよ。わかったな」 「……はい、わかりました。って、ぇえ?」 ショボンと萎縮していたスミレがその説明を受けた途端、目を丸くする。 「だって白瀬先生って、普段はもっと地味でイモ……」 「(しー、しー!)」 一言ポロリと漏れるスミレに対し、必死のアイコンタクトを試みる勇人。 「あら、私の事ご存知なんですか?」 しかし、時既に遅し。 「え、いや、その、あの……」 白瀬の疑問に、あからさまにうろたえるスミレ。余計怪しいとしか言いようが無い。 「いやほら、家でコイツに学校の事とか色々と話していますし、それで知ってたんじゃないかなー……と」 すかさずフォローを入れる周防。 「そ、そうなんです! 白瀬先生の事は兄さまからよくお伺いしていて……! ですよね、兄さまっ」 「……あぁ、そうなんだ。いやすみませんね、勝手な事を言ってまして」 2人のやや白々しい笑いが、部屋に響く。 「はぁ……。まぁ、そういう事でしたら」 白瀬は完全に納得した様子ではなかったが、その説明を聞いて一応は矛を収める。 「……次に、こっちは……えぇと、白瀬先生は『武装神姫』はご存知ですか?」 「……はい。知ってます」 何故か、微妙な間。しかし勇人は気にすることなく話を続ける。 「それは良かった、話が早い。 ちょっと色々ありまして、少し前にとある友人からこの子を貰い受けたんですよ。 でも人に見られちゃ不味いかなと思いまして、ちょっと隠していたんです」 色々と端折ってはいるものの、一応嘘はついていない。と自分を納得させながら語る周防。 「成程……。でも何故お隠しに? 別に隠すほどの事でもないと思いますけれど……」 「そ、そうですかね。この年になって、こういう事をやってるというのは、周りに引かれそうな気もしますし」 「――そんな事ありません! えぇ、絶対に!!!」 それまでとは一転した、部屋の外にまで聞こえそうな白瀬の大声に、周防とスミレの2人はビクリと身を硬直させる。 「あ、すみません私ったら…………」 その行動が自分でも意外だったらしく、先刻以上に小さく縮こまってしまう白瀬先生。 「(……まさか、白瀬先生って)」 「い、いえ気にしていませんから。なぁスミレ?」 「え、あ……そ、そうですね。うん、そうですよ」 チグハグな相槌を返すスミレ。 「よかった。……あ、彼女のお名前、スミレさんって仰るんですね」 「はい、そうなんです。……それが何か?」 その答えに、何故か首を傾げる白瀬。 「あ、いえ。スミレってお名前、何処かで聞いた記憶が……」 ギクリと、再び硬直する2人。 「(兄さまこれは不味いです。早くなんとかしないと……!)」 「(あ、いや……。そうは言っても迂闊な事を言うと、更に墓穴を掘る可能性がだな)」 必死のアイコンタクトで秘密会話をする2人。 緊急事態で互いの認識能力が上がっているのか、今度はやたらツーカーである。 「そうですかね。日本人なら、割とよくある名前のような気がしますが」 「――そう、ですね。すみません私ったら変なこと言っちゃいまして、忘れてくださいね」 「わかりました。――それに、このすみれ色の髪が綺麗で、それから名前を付けたんですよ。な、スミレ?」 「あ、はいっ。実はそうなんですよー。 兄さまったら、『スミレの髪、凄く繊細で綺麗だな』だなんて……」 「――ん。いやそこまでは言ってない気がするが。お前の中で美化されてるんじゃないか、ソレは」 「そ、そんな事ないですもん。私と兄さまの思い出は、しっかり全部記憶してるんですから」 そのさくら色の頬を可愛く、ぷーっと膨らませるスミレ。 「――――ふふ。お2人はとても仲が宜しいんですね」 そんな2人の一部始終を、白瀬は微笑ましく見つめている。 「う、すいませんお客様の前で……」 「いえいえ、構いませんよ。お2人を見ているとこっちまで楽しくなってきますし」 「そ、それはなんとも……」 「あうあう。き、気をつけます……」 そう返されると、むしろ周防たちの方が恐縮してしまう。 「――ところで髪で気づいたんですけど、スミレちゃんはアルトレーネなのに、髪の色や服装が違いますよね」 「嗚呼……、スミレはアルトレーネはアルトレーネでも『アルトレーネ・ヴィオラ』というタイプなんですよ。 今度発売される限定モデルなんです」 「そうなんですか。私はてっきり、周防先生のお手製なのかと思いましたわ。 ……嗚呼、だから内緒にしてらしたんですね。発売前の子をあまり見せてはいけないと」 「はぁ……まぁ、そんな所です」 白瀬先生の疑問はそこで解決したらしく、納得したようにウンウンと頷く。 「……もしかして白瀬先生、武装神姫にお詳しいんですか?」 「えっ。 ど、どおしてそれ……じゃなくってっ。どうして、そうお思いになるんですか」 白瀬は動揺を抑えようとしているらしいが、あからさまに声が上ずっている。 「いえ。スミレがアルトレーネなんだとよくわかったなと思いまして。それに既存のタイプとは少し違う子な訳ですし」 周防はそう疑問に思うのだが、それ以前に、この数年でだいぶ普及して一般認知度も上昇したとはいえ、普通の人が武装神姫の種類までを覚えているとは思えない。 「……あはは、バレちゃいましたか。――実は、うちにも1人いるんですよ」 これ以上は隠し切れないと思ったのか、白瀬はあっけらかんと白状する。 「そうだったんですか。白瀬先生が……」 「えぇ、似合いません?」 「いや、そういう訳ではないですが……」 武装神姫も普及してきたとはいえ、女性型である為に必然的にユーザーの多くは若年~青年層の男性が占めている。 女性ユーザーもそれなりに増えてきているとはいえ、まだまだ少数派だった。 「そうですよね、お堅いイメージの白瀬先生がそんな趣味を……もがーっ!?」 「いえ、ちょっと意外だなって思っただけですよ。女性のユーザーは少ないと聞きますから」 スミレの口を慌てて塞ぎながら、周防は答える。……尤もサイズ差のせいで、全身をアイアンクローされたに等しい惨状になっているが。 「(あぁ、兄さまの手に全身抱きしめられてる……)」 ……幸せと苦しみがない交ぜになった、なんとも表現しにくい表情を浮かべている。 「そうですね。神姫センターに行っても男の人が多くて、少し戸惑ってますわ」 そんなスミレを無視するように、2人の会話は続いていく。 「そんなに男ばっかりなんですか。実はまだそういった店に行ったことがないので、よく知らないんですよ」 「そうなんですか」 「えぇ。まだ日も浅いですし、機会もなくて……。まだまだ初心者で」 「あら勿体無い。ネットで買われているのかもしれませんけど、やっぱり直接見たほうが良いですよ。 特にお洋服とかアクセサリーは直接見られた方が良いですよ」 「お洋服、それにアクセサリー……!」 そのワードに、スミレが勢いよく食いつく。 「えぇ。可愛いのとか、綺麗なのとかいっぱいありますよ」 「私、神姫センターに行ってみたいです。デートしましょ、デートですっ!」 子供のように瞳をキラキラと輝かせて、スミレが提案してくる。 「いや、しかしなぁ……」 周防としては、スミレをそんな公の場に連れ出していいモノかどうか、判断に迷わざるを得ない。 「そうですよ~、たまには遊びに行きましょ。じゃないと兄さま、ビール腹がもっと出ちゃいますよ」 「ぐぬ……」 最近気になりだした事を、スミレがピンポイントで抉ってくる。 「ほら。俺、場所も何処にあるか知らないしさ。神姫にあまり詳しくもないし……」 やはり危険だと思い、とりあえず適当な理由をあげてみる周防。 「あら。それなら、私がご案内しますよ」 「「え」」 白瀬の善意によって、周防の包囲網が狭まっていく。 「いやいや、先生にご迷惑はかけられません。コイツの我侭なんですし、マトモに請合わないでも」 「そんな事ありません。それに、先ほどのお詫びも兼ねて……」 周防の脳裏に、先程の恥ずかしい記憶が蘇る。 「あ、ソレこそ気にしないでください。本当に……」 「……それにですね。さっきも言いましたけど、女性1人じゃなんとなく行きづらいんですよ。 それで出来れば誰か一緒に来て欲しいな、なんて前から思っていまして」 「あ、嗚呼……なるほど」 「でも、周囲には神姫をやっている人もいなくて……周防先生が、初めての人なんです。 だから今回は私の為と思って、一緒に来てくれませんか。お願いしますっ」 そう来られると、周防としては同僚のお願いを無下にするわけにもいかず、退路を絶たれた格好になる訳で。 「わかりました。――今度の日曜日、神姫センターへの買い物に付き合ってください」 「――――はいっ。喜んで」 「やったぁ。兄さまとお買い物デートです~」 渋い顔の周防と、無邪気に笑うスミレ。そして、何故か頬を赤らめた白瀬の姿が、そこにあった。 続く トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1571.html
さて、今日も今日とてバトルエリアに詰める私ですが。 今日はなにやら、趣が違います。 セットアップを終了し、VRエリアに入り、いざバトルをと対峙した対戦相手の方なのですが。 「んー、こっちもいいわね」 「あの、主よ……」 「シルフィってやっぱり何を着ても似合うわね」 「お、お褒めの言葉はありがたく」 なにやらファッションショーをなさっておいでなのです。 それを見守ること、かれこれもう30分になるでしょうか。 武装神姫、シルフィと呼ばれたエウクランテの方はそれにやや戸惑い気味ではありますが、オーナーの方が丁寧に丁寧にお褒めするので、気恥ずかしくも(おそらく満更でもないため)断りきれないご様子で。 「どうしたものでしょうかマスターさん」 「どうしましょうねぇ犬子さん。いえまあこちらとしても、いろいろな装備を拝見できて退屈はしていないのですが」 「それは確かに。しかしお相手の方、衣装もちですね」 「衣装もちですねぇ。よくあれだけ持ちこめたものです」 「VRエリア内で換装するために、制限いっぱいに抱えてきたのでしょうねぇ」 「なるほどなるほど。ちょっと羨ましいですねぇ」 「羨ましい限りです」 「衣装ひとつ買ってあげられない甲斐性なしのオーナーで申し訳ありませんねぇ」 「やや、そんな意味で申し上げたのでは。マスターさんの経済事情は重々承知ですし、ご負担をかけるわけには」 「じゃあシルフィ、今度はこっちを試してみましょうか?」 「あ、主よ、相手もお待ちなので、そろそろ……」 む? シルフィさんが、こちらをちらりと見て話題を振ってきました。 ……微妙に助けを求めるお顔なのは、私の気のせいでしょうか? と、相手方のオーナーさんもこちらへ向き直りました。 おっとりとした印象の、温和そうな女性の方です。 「すいません、お待たせしちゃいまして」 「いえいえ、お気になさらず。女性の身支度には時間がかかるものですよ」 別段社交辞令でもなくそう言い切ったマスターさん。さすが紳士的です。 そんなマスターさんのお言葉を聴いて、シルフィさんが望みを断たれたような表情になられたのは私の気のせいでしょうか? 「んー」 一方、オーナーさんの方はその言葉に頬へ人差し指を当てて小首をかしげ。 「もし良かったらお待ちの間、こちらの装備、試してみませんか?」 もちろんご遠慮申し上げるべきという気持ちはあったものの、他の装備を試せる機会と言うのは願ってもなく、実際手持ち無沙汰だったのも確かでありまして、結局相手様――加奈美さんと仰るそうです――のお申し出はありがたく受けさせていただくことと相成りました。 かくしてVRバトルエリアは、エウクランテ&ハウリンの合同ファッションショー会場と化したのであります。 あくまでVRエリアでのやり取りであり、使用に際してのドライバはお互いの武装神姫本体のメモリーおよび対戦端末に依存しているため、可能なのは着替えまでです。 贅沢を申せば実際に使用した感触も試してみたかったものですが、まぁそこまで言ったら高望みと言うものでしょうし、それぞれの装備が自分に似合うかどうかを試せるだけでも十分すぎます。 この運びとなったとき、シルフィさんが「ミイラ取りがミイラに……!」とでも言いたげなご様子だったのは私の気のせいでしょうか? 「やー、ハウリン装備のシルフィさんも、なかなか似合いますねぇ」 「そうですね、ハウリンもエウクランテも凛々しい系の顔立ちですし、相性いいですね」 「あ、いやその、お褒め頂き、恐悦至極」 「こちらのエウクランテ装備の犬子さんも……悪くは無いのですが、なんというかシルフィさんが装備してたときに比べてほほえましいと言うかなんと言うか」 「むむ、どこかおかしいでしょうか?」 「ハウリンは頭が大きめですから、多分そのバランスじゃないですか」 「なるほど、言われてみれば。ああ、分かりました、SDな印象を受けてたのですね」 「でも、これはこれで可愛いじゃないですか」 「ええ、それは疑うことなく」 「照れるじゃありませんかマスターさん」 「こうしてみると、ハウリンも可愛いわね。……ハウリンでも良かったかな?」 「あ、主!」 「ウソウソ。シルフィが一番可愛いわよ」 「あ、主……!」 「良い弄られっぷりですシルフィさん」 「愛されてますねぇ」 「か、からかわないで頂きたい!」 「はーい、スクリーンショット撮るからこっち向いてねー」 「やー、いいですねぇ。僕もメモリーカード用意してくればよかったです」 「あ、でしたらメルアド教えていただけたら、後で送りますよ?」 「やや、それはありがたいですねぇ」 「何から何まですいません」 「お気になさらず。はいじゃあ二人とも、今度はポーズ変えて……」 「んー、それじゃあ今度はシルフィが前に出て……」 「こうか?」 「あ、犬子さんにはこう構えてもらうとどうでしょう?」 「こんな感じでしょうか?」 「あ、いいわね」 と、そんな風に和気藹々と過ごす私たちですが、不意にエリアにアラームが鳴り出します。 どうやら、そろそろ時間制限のようですね。あと一分足らずで、私たちは排出されると思われます。 「どうしましょうか?」 「今から戦う、と言うのも無理な話ですよねぇ」 「そうですねぇ」 「うむ……」 周囲を見渡せば着替えた装備が散乱していて、この中から必要な装備を選び出すだけで制限時間は終了してしまうでしょう。 「仕方ありません。続きはまたの機会に、というところでしょうかねぇ」 「そうですね、またの機会に」 「はい、いろいろお世話になりました」 「うむ。では達者で」 こうして再会を約束しつつ、私たちは最後まで和やかに別れたのでした。 で、ありますが。 『またの機会』に行われるのは、バトルとファッションショーの、一体どちらなのでしょうかね? <目次> メール開通記念小ネタ第三弾、神姫愛好者さま宛。 えー、まぁ、無駄に拙作の伏線張ってあったり、 通信対戦でたまたま出会った、と言うのを想定してたり、 加奈美さんはまたSSが撮りたくてVRエリアに入りたがっていたり、 マスターさんより前の対戦相手は、加奈美さんがいつまでたってもセットアップを終了しないのに痺れを切らしてキャンセルしてたり、 VRエリアでは、あくまで使用に際してのドライバはお互いの武装神姫本体の記憶容量野および対戦端末に依存しているため、あくまでやりとりが可能なのは「ガワ」の部分だけで実際の使用はできない、とか無駄な裏設定考えたり、 とかそんな風ことを色々と考えてはいるわけですが。 「4話でアレだけやってまだ着せ替えたりないのかい」とか 「宗太くん相手の時ならともかく、野良対戦でそんな悠長な」とか 「対戦台が、一時間も占有できるように設定してあるか?」とか わりと致命的な部分にツッコミどころが残っていますwww まぁあくまで小ネタと言うことでひとつ。 <目次>
https://w.atwiki.jp/busosodo/pages/111.html
【武装神姫】セッション3-1【SW2.0】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm19068237
https://w.atwiki.jp/busosodo/pages/104.html
【武装神姫】セッション1-2【SW2.0】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm18060010
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2608.html
2ページ目『猫、襲来』 薄壁一枚の向こう側で、鉄子が弧域にマンツーマンで授業してもらっていることを思うと、さっきまでの逆ギレ(自分が悪いことは重々承知している)の勢いはみるみるうちに萎んでいった。 ゴワゴワした肌触りの枕に頭を預けて横を向くと、机の隅に置かれた武装神姫、悪魔型ストラーフが目に入った。お手製の学ランを着こなしスラリと立つその姿は普段なら見ていて飽きることはないが、今はそんな気分にはなれなかった。ストラーフの隣に並んだ大小様々色とりどりの教科書が、嫌でも目に入ってしまうからだ。 嫌なこと、理解できないことから目を背け続けても、姫乃を叱る者は誰もいない――いや、いなかったのはつい数分前までのことだった。 大多数の大学生が頭を悩ませることの一つ、就職活動。研究者になる、ニートになるなどの一部を除き、学生は学業の合間にその準備を進めなければならない。しかし姫乃は専ら永久就職後のことを気にしていた。贅沢を最大の敵としたシビアな家計簿。子供の成長を見守る多忙ながらも暖かな家庭。その中には共働きをすることも含まれていた。前提である内定入手のことは、一切考慮されずに。 (将来のための勉強って言われても、分からないよ) 永久就職の前にすべきことを具体的に考えていなかった姫乃である。その絶大なコネで採用されるはずだった就職先に「勉強しない人は嫌だ」と拒絶され、愛すべき同レベルの友にも「や、勉強せんとガチでヤバいし」と突き放され、途方に暮れるしかなかった。 (私だって、留年したくない……みんなと卒業したい) 素直に謝りに行けば1分とかからず元の輪の中に入れる、そのことが増々、意地っ張りな姫乃を凍えさせた。毛布にくるまってもなお、冷気が身に染みる。 「……寒すぎ」 気持ちの寂しさなど超えて、いくらなんでも寒すぎることにようやく気付いた姫乃だった。築数十年のボロアパートとはいえ、室内には隙間風と呼ぶには強すぎる冷風が流れこんでいた。一際強い風がベランダの窓から侵入してきて、カーテンが大きくはためいた。 一人暮らしであるにもかかわらず、気づかない間に開いていた窓。それが何を意味するのかを想像して、姫乃の体は竦んでしまった。 (やだ、誰かいる!?) 大きな声を出せばすぐに弧域が飛んできてくれることにすら気が回らず、狸寝入りを続けることしかできない姫乃は、泣きそうになるのを辛うじて堪えた。早鐘を打つ心音すら侵入者に聞かれそうだと恐れ、じっと息を潜めた。 胸が詰まり、その苦しさがかつて負った心の傷を抉るように開いた。弧域と出会ってから決別したとばかり思っていた悪夢に心臓を鷲掴みされるようだった。不意にどこからか、カチカチカチカチ、と小刻みな音がした。 (な、何の音!? 静かにしてよっ……!) それが自分の歯が鳴っている音であることにすら気づけず、姫乃はその音が侵入者に聞こえないことを祈った。 窓のほうを覗き見ることもできず、風が流れる音とカーテンが揺れる音に混じった音を拾った。複数の侵入者の声、そして……ピコンピコンというレトロチックな電子音。 「レーダーの反応が強い――ここで間違いなさそうにゃ」 不当に侵入したというのに微塵も悪びれることなく窓際に立つ、身長15cm程度の人形。この後、その小さな姿を見た姫乃は、もう少し勇気を持とうと決意するのだった。 ■キャラ紹介(2) ホムラ 【 1/2 】 かつて、テレビコマーシャルの中で動くマオチャオに心を奪われた一人の男子高校生がいた。 裕福な家柄だったことが幸いし、彼は発売日に5体のマオチャオを手にすることができた。冷ややかな妹の視線などまるで意に介さず、数時間かけて名前を決めた愛らしいマオチャオ達に囲まれた彼は、これまでにない幸福感を味わった。 目覚めさせた順番に長女、次女、三女、四女、五女として、彼はマオチャオ達が自由気ままに過ごすのを見守った。時間が経つにつれてそれぞれの個性が出来上がっていく様子は彼にとって驚くべき、そして喜ぶべき発見だった。次々と彼に新たな喜びを提供していく彼女らとの生活には、しかし、時間的な限りがあった。高校生である以上、何よりも学業が優先されてしまう。 だから彼の取った行動は至極単純で、当然のものだった。一日毎に一体ずつ、学校の鞄に忍ばせることにしたのだ。少しでも長い時間を、マオチャオ達と過ごしたい。そんな純粋な想いが、結果的に彼を破滅させるとは知らずに。 比較的大人しく聞き分けの良い長女を月曜日に、次の日は次女……というローテーションの一周目は、彼の想像に反して何事もなく過ぎていった。鞄の中に隠れたマオチャオ達は皆、ほとんどの時間を眠って過ごしていたからだ。 しかし二週目の月曜日、我慢の限界を迎えたのはマオチャオではなく、彼自身だった。 弓道部内ではその日、思い思いに着飾らせたホイホイさんの自慢大会が開かれていた。武装神姫とは一桁以上値段が安いホイホイさんは部内でのブームになっていて、高価な神姫を持っていたのは彼一人だけだった。 最初は遠巻きにその自慢大会の輪を見守っていただけだったが、手作りのドレスを着たホイホイさんや、ゴテゴテに武装されたホイホイさんを見ていると、彼は無意識のうちに、鞄から長女を出していた。 「よいのですにゃ? わたくしたちの存在はわたくしたちだけの秘密では……」 長女の諫言に耳を貸さず、その日【たまたま持っていた武装】を長女に装備させた彼は、ホイホイさんの輪の中に長女を投入した。 ホイホイさんと比較して圧倒的に精密な人形である長女は、一瞬で部員達の視線を独占した。人間に近い身体、生き生きとした動き、そして多数の人に囲まれて目を白黒させる長女の可愛らしさ。それらすべてが、彼が望んだ通りの部員達の反応を呼んだ。 質問攻めにあう彼と長女。代わる代わる抱かれて長女の顔に少々疲れの色が見え始めた頃、部員の中の一人が、こう言った。 「ホイホイさんと神姫って、どっちが強いんだ?」 女子部員達は、そんなことはどちらでもいい、と興味が無さそうだったが、彼を含めた男子達はそうではなかった。 彼はまだ、マオチャオ達にバトルをさせたことがなかった。この時はまだ神姫の黎明期であり種類が少なく、バトルができる筐体もあまり見かけなかったこともあるが、彼はマオチャオ達との生活を楽しむあまり、バトルのことをすっかり忘れていたのだ。 もしこの時彼が、武装神姫を専用筐体以外で戦わせるのは禁じられていることを思い出していれば、直後の悲劇は回避できたことだろう。あるいは、常識を持った長女がもう少し強く諌めていれば、彼女が無残な姿になることはなかったかもしれない。 ホイホイさんが一切の感動を込めず引いた引き金に連動して発射された、一発の銃弾。それを回避した長女は、瞬間、自分が猛獣の檻の中に放り込まれていたことを悟った。 一対一であったはずの、異種格闘技戦。 しかし銃声に反応した多数のホイホイさんは、単純な知能に従い、状況を開始した。 後に “Mの悲劇” と呼ばれる事件である。 次ページ『フィギュアじゃない』 15cm程度の死闘トップへ
https://w.atwiki.jp/efflimited/pages/151.html
2012.11.13 三菱東京UFJ銀行で顧客情報約560万件が紛失した事実を公表する。 2012.07.26 野村ホールディングス、インサイダー取引問題でトップ二人が引責辞任する。 2012.07.24 米国債10年物長期金利が過去最低(1.3875%)を記録する。 2012.07.24 スペインの10年物長期金利が過去最高(7.636%)を記録する。 2012.07.20 日本の長期金利10年国債が9年ぶりの低水準(0.735%)となる。 2012.06.27 ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の操作疑惑 2012.06.10 金融不安に揺れるスペイン政府への金融部門に対し10兆円規模の支援を行う協議始まる。 2012.06.01 円と中国・人民元の直接取引による交換が東京市場と上海市場で始まる。 2012.05.31 ヨーロッパの債務危機再燃でユーロ売りが加速し、一時1ユーロ=96円台と11年半ぶりの最安値となる。 2012.05.10 JPモルガン・チェースがデリィバティブ取引で約20億ドル(約1600億円)の評価損を出したと発表する。 2012.04.01 住友信託銀行・中央三井信託銀行・中央三井アセット信託銀行の3行が合併して三井住友信託銀行となる。 2012.03.09 ISDAがギリシャ債務交換の集団行動条項発動をクレジットイベント(信用事由)として認定する。 2012.02.24 AIJ投資顧問会社による年金資産消失事件が発生する。金融商品取引法に基づいて同社を1か月の業務停止命令。 2012.02.14 日本銀行が「中長期的な物価安定の目途」を設立、1%の事実上のインフレターゲット導入を発表。 2012.01.25 米連邦準備理事会(FRB)が2%のインフレターゲット導入と2014年末までゼロ金利政策の維持を発表。 【2012年】 2011.11.22 東証・大証が経営統合を正式決定、2013年に新会社設立。 2011.11.21 東証が株式の取引時間30分延長を実施。 2011.08.-- S Pが米国債を「AAA」から「AAプラス」に格下げ、世界同時株安(米国債ショック)。 2011.03.15 日経平均が大幅下落(前日(11日)比1015円34銭(10.55%)安の8605円15銭が終値)。 2011.03.15 東日本大震災と福島第一原子力発電所事故による不透明感により日経平均が1万円割れ(先週末(11日)比633円94銭(6.18%)安の9,620円49銭が終値)。東京電力・東北電力・日立製作所・東芝・JR東日本など被災地域・インフラ関連銘柄がストップ安。 2011.03.11 東日本大震災発生(14時46分)直後から売り注文が増加する。 【2011年】 2010.12.15 日本銀行が上場投資信託(ETF)・REIT買い入れを開始。 2010.10.12 旧ジャスダック、ヘラクレス、NEOの3市場を統合し新ジャスダックが発足。 2010.10.05 日本銀行が資産買入等の基金の創設を発表。 2010.01.21 アメリカのオバマ大統領が新金融規制案(ボルカー・ルール)を発表。 2010.01.19 日本航空破綻。 2010 欧州ソブリン危機 【2010年】 2009.11.25 ドバイ・ショック 2009.06.12 日経平均終値が8ヶ月ぶりに1万円台を回復(10135円82銭) 2009.06.01 ゼネラルモーターズ破綻。 2009.04.30 クライスラー破綻。 2009.03.10 日経平均が平成期の終値最安値を更新(7054円98銭)。 対ドル相場で90円台前半-80円台の円高に突入。 【2009年】 2008.12.-- 不動産業の倒産(整理ポスト入り)が相次ぐ。 2008.12.19 日本銀行がゼロ金利政策を実施。 2008.11.06 トヨタショック 2008.11.-- 日経平均終値が8千円 - 9千円台で乱高下する。 2008.10.28 日経平均株価、一時1982年以来の最安値を記録(6994円90銭、終値は7621円92銭)。 2008.10.08 欧米6中央銀行が協調利下げを発表。 2008.10.10 リーマン・ブラザーズの破綻。世界金融危機が勃発し、日本では翌14日の市場で日経平均が暴落。 2008.09.15 リーマンショック(Lehman Shock) 2008. 韓国通貨危機 2008.01.02 原油価格が史上初めて100ドルを突破。 【2008年】 2007.08.17 サブプライムローン問題を発端とした株価急落(日経平均が前日比874円81銭(5.4%)安の1万5273円68銭)。 2007.08.09 パリバショック(Paribas Shock) 2007.02.27 上海ショック 【2007年】 2006.07.14 日本銀行がゼロ金利政策を解除。 2006.06.05 村上ファンドの証券取引法違反容疑で、村上世彰の逮捕。 2006.04.14 ライブドア上場廃止。 2006.03.09 日本銀行が量的金融緩和政策を解除。 2006.01.17 マネックス・ショック 2006.01.16 ライブドア事件 【2006年】 2005.12.18 ジェイコム株大量誤発注事件 2005.11.-- 第二次、萌え株ブーム。 2005.07.-- 小泉郵政選挙による、株価の急騰。 2005.04.-- 第一次、萌え株ブーム。 2005.03.10 ガンホー株上場(第一次萌え株ブーム)。 2008.02.08 ライブドア、ニッポン放送の発行済み株式を35パーセント取得。 【2005年】 【2004年】 2003.12.23 名古屋ドル紙幣ばら撒き事件 2003.11.03 ライブドア、株式100分割を実施。 2003.10.28 ヤフーがJASDAQから東証一部に鞍替え上場する。 2003.08.19 日経平均終値が1万円台を回復(10032円97銭) 2003.05.-- 5月より日経平均が上昇基調に転じる(7900円台→9000円台) 2003.04.28 日経平均終値、1982年以来の最安値を記録(7603.76円)。 2003.04.25 ソニーショック 2003.03.11 1983年以来20年ぶりとなる日経平均終値が8千円台割れ(前日比180円安の7862円)し、7千円台に突入。イラク戦争開戦秒読みによる米国経済への懸念が要因。 【2003年】 2002.10.07 日経平均終値が9千円台割れ(前日比340円安の8688円)。 2002.07.21 ワールドコム破綻。 2002.03.04 日経平均終値が1万1千円台を回復(340円高の11450円)。 【2002年】 2001.12.02 エンロン破綻。 2001.09.12 欧州市場で株価が下落(日本時間午前)、日経平均終値が1984年1月以来17年ぶりとなる1万円台割れ(前日比683円安の9610円)。 2001.09.11 アメリカ同時多発テロ事件発生。米国証券市場は同月17日まで全てが取引停止。 2001.09.10 日本初のREIT(J-REIT)が東証に上場。 2001.03.19 日本銀行がゼロ金利政策、量的金融緩和政策を実施。 【2001年】 2000.08.11 日本銀行がゼロ金利政策を解除。 2000.06.19 大証ヘラクレス市場、売買開始。 2000.04.24 日経平均株価構成銘柄の大幅な入れ替え(30銘柄)。 2000.04.27 光通信、20営業日連続ストップ安。 2000.02.-- ITバブルの崩壊 2000.01.-- ヤフーが、日本初の株価1億円を突破する。 【2000年】 /
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2124.html
ウサギのナミダ ACT 1-11 ◆ 久住菜々子は大学生である。 東京にある大学からの帰り、あのゲームセンターに寄るのは、一度最寄り駅を行き過ぎなくてはならない。 また、武装神姫を常に持ち歩いているわけではない。 だから、あのゲームセンターに行くのは、週末にしていた。 だが、今日は違う。 朝からミスティを連れ、装備の入ったアタッシュケースを持って、大学に行った。 はやる気持ちを抑えて、大学の授業をみっちりと受け、講義が終わったらダッシュで駅まで。 それでもゲームセンターにたどり着いたのは、夕方も遅くなってからだった。 今日は金曜日。 繁華街は、翌日休みの気楽さで、週末の夜を楽しもうと、すでに多くの人が繰り出している。 浮ついた世間の雰囲気とは逆に、菜々子の心は緊張していた。 ゲームセンターにつくと、すぐに武装神姫のコーナーへと向かう。 平日とはいえ、金曜日の夕方。休日に劣らず盛況である。 壁際に、見知った顔を見つけた。 大城大介だ。 雑誌を片手に、なにやら難しい顔で、バトルロンドの筐体を睨んでいる。 「大城くん、こんばんは」 「おお、菜々子ちゃん!」 振り向いた男の顔がぱっと明るくなった。わかりやすい。 「もう、来ないかと思ってたぜ……」 「うん……迷ってたんだけど……やっぱり、ね」 微笑みながら頷く大城。 そんな彼に、菜々子は片手を突き出した。 「その雑誌……またティアが出てるんでしょう? 見せて」 「いや、あの……これは」 雑誌と菜々子を見比べながら、困った顔をする大城。 「刺激が強すぎるから……見ない方がいいんじゃ……」 なかなか雑誌を渡そうとしない大城を一瞬睨み、菜々子は物も言わずに雑誌をひったくった。 薄い雑誌をぱらぱらとめくる。 中ほどの袋とじに、目的の記事はあった。開封されている。 扉は写真の反転画像で、黒の背景に白のラインで女性の姿を形作っている。 「大反響アンコール! 淫乱神姫・獣欲のまぐわい」と、また奇妙な字体で貼り付けられていた。 菜々子には中身の想像がつかないタイトルだ。 意を決して、一枚目をめくる。 「……っ!!」 肩にいるミスティが息を飲む気配。 震える手で、二枚目をめくる。 次のページを目にした瞬間、菜々子は雑誌とミスティを大城に押しつけると、すごい勢いでお手洗いに駆け込んだ。 「だからいわんこっちゃない……」 半分あきれ気味に大城が呟いた。 確かに、あの内容なら、見るのを止める方が親切よね、とミスティも思う。 しばらくして、菜々子が戻ってきた。 顔面は蒼白。ハンカチを口元に押しつけている。身体は小刻みに震えている。 それでも菜々子は、また黙って、大城に片手を突き出した。 「いや、だから、やめといた方がいいって」 「わたし、決めたの……もう逃げないって。あの二人の力になるって。だから、どんなに辛くても、わたしはそれを見なくちゃいけないのよ」 大城はため息をつくと、雑誌とミスティを菜々子に手渡した。 ミスティを肩に乗せ、再び例の記事を開く。 今度は、さっきよりも冷静に見ることが出来る。 しかしまた身体が震えだした。 「……ひどい……」 怒りだ。怒りに身体が震える。 雑誌の中で、ティアは陵辱されていた。 よつんばいのティアの後ろからのしかかっているモノ。 人間じゃなかった。人型ですらなかった。 犬だ。 神姫サイズの犬型ロボットが、ティアの背後から覆い被さっている。 雑誌の中のティアは、苦悶と恍惚が入り交じった表情を浮かべていた。 写真を見ているだけで、胸が張り裂けそうになる。気が狂いそうになる。 ティアは……毎日、こんな仕打ちに耐えていたというの。 菜々子の耳に、笑い声が聞こえてきた。 少し離れたところで、数人の男達が同じ雑誌を見ている。同じページを開いている。 下卑た笑い声を上げ、ティアのことをあることないこと声高に話している。 みな見知った顔だった。このゲーセンの常連達だ。 だったら、知っているはずではないのか。ティアと貴樹がどんな戦いをしたのか。それを見てもまだ、そんなバカにしたことが口に出来るのか。 ミスティは憎しみすらこもった眼差しで、猥談に花を咲かせる男達をねめつけた。 「あいつら……ふざけやがって……」 憎々しげな呟きの主に目を転じると、それは虎実だった。 ミスティはちょっと驚いて、虎実を見つめた。 「あら……虎実はちがうの?」 「たりめーだろ! ティアと戦ったヤツにはわかるはずだ! こんなクソ雑誌の記事なんか……いまの二人に何の関係もねぇんだって!」 虎実はミスティを睨んだ。 「アンタもそうじゃないのかよ、ミスティ」 ミスティを見る虎実の目は、真剣だった。 いつもはミスティがからかったのを真に受けて、ただ怒った視線を向けてくるだけだ。 だが今日は違う。 眼差しの質が違う。 自分の確固たる信念の下に、相手の嘘を許さない、揺るぎない視線。 「わたし、初めてあなたに関心したわ」 「……どーゆー意味だ、それ」 「あなたと同じ意見、っていう意味よ」 ミスティは薄く笑いかけた。 「虎実、わたしたち、協力しない? ティアが戻ってこれるように力を尽くすの」 「だったら……一時休戦すっか?……ティアのために」 「いいわ。これからわたしたちは仲間……戦友よ」 ミスティが握った拳の親指を立て、サインを出す。 虎実もサムアップして頷いた。 奇妙なシンパシーでつながった二人の神姫に、マスター達は顔を見合わせて、肩をすくめた。 そして、大城が、ちょっと難しい顔をして、言いにくそうに口を開く。 「先週末……遠野が来てな……日曜日に、ちょっと騒ぎになった」 「え? ……なにが、あったの」 日曜日の出来事を、大城はかいつまんで話した。 菜々子の顔がみるみる険しい表情になっていく。 「壁叩いて右手壊したって……あの、遠野くんが……!?」 にわかには信じがたい。 あの、いつもクールな雰囲気の遠野が感情を剥き出しにして自分を傷つけるなんて。 それほどまでに、彼は深く傷ついているのだ。 菜々子の想像よりも遙かに。 菜々子がうつむいて、思いを巡らせていたその時、 「よお、エトランゼ。珍しいな、平日の夕方に来るなんて」 男が声をかけてきた。 思わず睨みつけてしまったのは、タイミング的に仕方がないことと思う。 むしろ、空気を読め、と菜々子は言いたかった。 声をかけてきたのは、ヘルハウンドのマスターだった。 一緒に二人の男がいる。 いずれも見知った顔だった。 「三強が揃い踏み……ね。何か用?」 菜々子ははっきり言って、三強のマスター達が嫌いだった。 『ヘルハウンド・ハウリング』の二つ名を持つハウリン・タイプのマスターは、坊主頭で日焼け肌の男だ。 三人の中では一番の常識人だが、自分が三強の一角であることを時々鼻にかけることがある。 後ろの男達の一人は、ウェスペリオー・タイプのカスタム機のマスター。 『ブラッディ・ワイバーン』と呼ばれている。 背がひょろひょろ高く、薄気味悪い顔色。 困ったことに菜々子に気があるらしく、しょっちゅう言い寄ってくる。 このゲーセンに来た頃、「バトルに勝ったらデート」を無理矢理承諾させられた。 もちろんバトルは菜々子が勝ったが、その後の対戦者も次々に同じ条件を申し入れてきて、断れなくなった。 それを見た遠野に釘を刺されたのは苦い思い出だ。 遠野くんがわたしを、そんなに軽い女だと思っていたらどうするつもりなのかと、この男と顔を合わせるたびに腹が立つ。 もう一人は、年下の高校生だ。 三強の一角だけあってバトルは強いのだが、とにかく「俺強い」と主張する。 バトルに勝てば、相手を見下し、自分の強さをえらそうに自慢する。 逆に負けると、今回チョイスした武装、自分の神姫のせいにして、やっぱり対戦相手を見下す。 ミスティに言わせれば、最低の武装神姫プレイヤーだ。 そんな彼の神姫はエスパディア・タイプ。基本ユニットと素体はエスパディアだが、武装は種類も搭載量も毎回違う。 対戦相手に合わせてチョイスしているわけでも、武装を試しているわけでもないのだ。 あまりにも毎回武装が違うので、『玉虫色のエスパディア』と呼ばれていた。 本人は意味をよく分かっていないらしい。 三強を代表して、ヘルハウンドのマスターが口を開く。 「エトランゼを誘いに来た。……俺達の仲間に入らないか?」 「……あなた達の……?」 「強いヤツは強い者同士が仲間になった方がいい。情報交換や練習、戦術の研究もその方が効率的だ。 あんたの実力は、俺達三強も認めるところだ。だから誘いに来た。 それに……」 ヘルハウンドが一瞬口ごもったのを引き継いで、ワイバーンのマスターが口を挟んだ。 「それに、ティアのマスターも、もう来ないしさぁ! り、陸戦トリオも解散だよねぇ!」 ワイバーンのマスターは嬉しそうだ。 菜々子に気があるワイバーンにしてみれば、いつも菜々子のそばにいる遠野は、目の上のタンコブだったのだろう。 さらに、玉虫色が言った。 「てか、もうアイツはここに来られねーよな。あんな風に発狂しちゃったんじゃさ! あはははは!」 「……は、はっきょう……って……?」 「ああ、ティアのマスター、こないだの日曜日にキレて暴れ出したんだよ。 『悪いのは全部人間だ』とか言っちゃってさ。 他の男にヤられた神姫使っておいて、そんなこと言うなんてさ! 笑っちゃうよね! あはははははは!!」 「おい……言い過ぎだぞ」 さすがに、ヘルハウンドのマスターが、玉虫色のマスターの態度をとがめた。 菜々子は、そっと、唇を噛んだ。 あの遠野くんが、そこまで怒ったの。 あそこまで真っ直ぐに神姫と向き合っている人を。 あなたたち、そこまで彼を追い詰めたの。 菜々子は、肩にいるミスティにだけ聞こえる声で、ささやいた。 「ねえ……この悔しさって、遠野くんの悔しさに比べたらどれくらいかな」 「いいとこ、百四十四分の一くらいじゃない?」 「ずいぶんキリのいい数字ね……」 もう、許せない。 意を決して、うつむけていた顔を上げる。 菜々子は三強の男達を鋭く見据えた。 「わかったわ……それじゃあ、わたしとバトルして、あなた達が勝ったら、仲間になってもいい」 「なに?」 「わたしだって、組むなら強い人と組みたいもの。あなた達の実力、もう一度見せてもらいたいわ」 「そうか……わかった、今からバトルしよう。それでいいか?」 「ええ」 「対戦する順番は……あんたが指名してくれるのがいいかな……」 「何言ってるの?」 ヘルハウンドのマスターの言葉を、菜々子は鋭く遮った。 「違うわよ。『あなたたち』って言ったでしょう?」 武装神姫コーナーの奥、複数人数同時プレイ可能な大型の対戦筐体を指さした。 「スリー・オン・ワン。三人まとめてお相手するわ。準備して」 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/jyujyu0092/
imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 このサイトでは『武装神姫』のマオチャオ好きな人のためのサイトです。 マオチャオ好きな方のみ限定でマオチャオの小説など書いていっていただこうとも考えております。 まだまだ至らない点などもございますが宜しくお願い致します。 @管理人
https://w.atwiki.jp/busosodo/pages/108.html
【武装神姫】セッション2-3【SW2.0】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm18751782