約 220,430 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2103.html
ウサギのナミダ ACT 0-1 □ あいつと初めて会った日のことは、いまでも覚えている。 あれは師走の寒い晩のこと。 冷たい雨がしとしとと降り続ける夜だった。 全く俺らしくない考えだが、信じている。 あれは運命の出会いだった、と。 大学の仲間と飲んだあと、アパートに戻る帰り道。 俺は一人、雨の中を歩いていた。 あまりたくさん飲んだわけでもないので、少しほろ酔いだった。 気心知れた連中との飲み会だったので、無理な酒を飲まされないのはありがたい。 いつもよりも遅い帰り、近道をすべく、繁華街の裏道を歩く。 いかがわしい店もならぶところだが、そこはそれなりに田舎だから、それほど危険を感じない。 まして冷たい雨が落ちている夜はなおさらである。 冬の雨の冷たさに、酔いに火照った身体は徐々に冷え始めている。 息が白い。 寒さで頭が冴え始めているのを感じながら、俺は少し足を早めた。 そのときだ。 左奥の路地から、息を切らした太った男が飛び出してきた。 この雨にも関わらず、傘をさしていない。 男は、一度左右を見渡すと、 「ちぃっ!」 舌打ちをして、手に持っていたモノを、電柱に叩きつけた。電柱に激突したそれは、下に置かれていたゴミの山に落ちた。 「お、おまえのせいで……何でボクがこんな目に……」 とかなんとか呟いていたようだが、よく聞こえなかった。 男は俺に注意を払うこともなく、俺が進む道の奥へと駈けだしていった。 いつもの俺なら、そんなアブナイ行動をしている男など無視していたし、その男が捨てたモノに注意も払わなかったろう。 だが、そのときは知らず酒が回っていたのだろうか。 俺はそのゴミ置き場をながめつつ、通り過ぎようとした。 パタパタと雨をはじくポリ袋の上から、小さなうめき声が聞こえてきた。 女の声だ。 俺の頭に、奇妙な確信が浮かぶ。 さっきの、太った男が捨てたモノ。 それはきっと……アレにちがいない。 俺が今、一番興味を持っているもの。 俺は見るともなしに、ゴミ置き場をのぞき込む。 はたしてそこには、一人の少女が、目を閉じてうめいていた。 少女と言っても、人間じゃない。 神姫だ。15cmのフィギュアロボ。 彼女は、力無く四肢を投げ出し、弱々しくうめいている。 いったい何のタイプだろうか? 裏道の街灯は薄暗くてよくわからない。 ただ、少し苦しげな表情のその顔は、マスモデルにはないタイプで……可憐だった。 俺はそっと彼女をすくい上げると、ポケットからハンカチを取り出してくるんだ。 神姫はなんの反応もなく、ただ時々小さくうめくばかりだ。 俺はそっとカバンに入れようと思ったが、先ほどの路地から激しい靴音が聞こえてきて、思わずハンカチにくるんだ神姫をジャンパーの内ポケットにつっこんだ。 路地から飛び出してきたのは、数人の男だった。 やっぱり傘はさしていない。 男たちは派手なスーツを着ており、一目でそれっぽい職業だとわかる。 彼らはきょろきょろと辺りを見回す。一人が俺に近づいてきた。 「なあ、ちょっと尋ねるが……」 「な、なんですか?」 あえてうわずった口調で答える俺。 「ここに、太った黒縁メガネの男が走ってこなかったか?」 「……それならいまさっき、あっちに……」 俺はさっきの男が走り去った方の道を指さした。 「そうか、ありがとよ。……おい!」 俺に話しかけた男は、仲間たちに指示をとばす。 俺が指さした方の道に複数のグループを行かせ、俺の来た方向と、右手の路地に一人ずつ行かせた。 なかなかに組織だった動きだ。 男たちはもう、俺には目もくれなかった。 俺は念のため、太った男が走っていった道は使わず、右手の路地に入って、いったん大通りに出る。 アパートまでは少し遠回りになるが、人混みに紛れ込める。連中と関わらなくてすむだろう。 太った男とスーツ姿の男たちのもめ事の原因は、明らかに俺のジャンパーの内ポケットに入っている。 何があったかは知らないが、余計な揉め事には巻き込まれたくない。 たとえその原因を俺が持っているのだとしても。 もう、先ほどの神姫を手放す気にはなれなかった。 こういうのも、運命の出会いというのだろうか? いままで、たくさんの武装神姫の製品を見てきたけれど、いまほど胸が高鳴ることはなかった。 ずっと探していた。そして今夜見つけたのだ。 ただ一人、俺が夢中になれる神姫を。 冬の雨の寒さを忘れてしまうほど、俺は胸を高鳴らせ、アパートへの帰り道を急いだ。 俺の名前は遠野貴樹。 理工系の大学に通う学生だ。 武装神姫には前から興味があった。 高校時代からの友人の一人が、神姫にどっぷりとハマっている。 そいつと神姫の仲の良さを見るにつけ、他の仲間たちはからかいながらも少しうらやましく、興味深く見ていた。 俺も例外ではなかった。 仲間の数人は、もう武装神姫を始めている。 俺も始めようと思い立ったのは仲間内でも早い方だったが、いまや神姫のマスターでない仲間の方が少なくなった。 なぜ俺が武装神姫を始めなかったのか。 いなかったのだ。気に入った神姫が。 あちこちの神姫ショップも回ったし、新製品が発表になるショーにも足を運んだし、定期的にネットオークションもチェックしている。 それでも、俺がパートナーにしたいと思う神姫はいなかったのだった。 アパートに帰った俺は、カバンをおろすと、上着に付いた雨粒を落とすのももどかしく、ジャンパーの上着からハンカチに包まれた神姫を取り出した。 テーブルの上にそっと横たえ、ハンカチを開いてみる。 そこには、ほっそりとした少女の裸身があった。 あわてて目をそらしたが、すぐに目は神姫に釘付けになった。 俺がいままで見た神姫とは、明らかに違う。間接部が皮膚に覆われていて、やたらと人間らしく見える。 顔はやはり既製品の物ではない。カスタムだろうか? 少し幼い感じの顔立ちが、いまは疲れきったような表情で、静かに目を閉じている。 頭にはウサギの耳らしき意匠……つまりこの神姫はバニーガールなのだろうか。 そして、なにより俺の目を離さないのは、ねじくれたように折れている手足だった。 まともなのは右腕だけで、左腕と両脚は間接ではないところで不自然に曲がっていた。 いま、この神姫は死んだように動かない。 本当に死んでしまったのではないだろうか? もう二度と動かないのではないだろうか? 冗談じゃない。 やっと自分がほしいと思った神姫に出会えたというのに! そのときのあわてふためきぶりは、他人に見られなくてよかったと思う。 いつも冷静沈着でうっている俺のキャラとあきらかに違っていた。 俺は乱暴に携帯電話を取り出すと、アドレス帳を呼び出すキー入力すらもどかしく、一人の友人の電話番号を呼び出した。 電話をかける。えらく長く感じたコール三回で相手が出た。 『はい、海藤で』 「海藤か!? 聞きたいことがある!」 海藤曰く、このときの電話は俺だとは一瞬信じられなかったそうだ。 だが、人のいい海藤は、一方的に用件をまくし立てる俺に対して、丁寧に受け答えしてくれた。 海藤仁は、仲間内で一番武装神姫に詳しい奴だ。 さきほど神姫を拾った旨と現在の状況をかいつまんで説明し、どうすればいいのかと俺は聞いた。 『ああ、それは単なるバッテリー切れじゃないかな、たぶん』 「バッテリー? そうか、なら、充電するにはどうすればいい?」 『神姫用のクレイドルを使うんだ』 こんな基本的な質問をしているあたり、俺がいかにあわてていたかの証明である。 「どこかで売ってるか? ……バラで」 『各社からいろんなのが出てるよ。神姫扱ってるところなら、たいがい売ってるね』 時計を見る。午後8時半。 自転車をとばせば、最寄りの家電量販店の閉店前に間に合うはずだ。 「わかった。これからクレイドル買ってくる。また連絡する」 それだけ言い放って、俺は電話を切った。 そのまま玄関へ向かう。 まだ俺は帰ってきたときのまま、ジャンパーすら脱いでいなかった。 外は雨。 それでも俺は自転車の鍵を手にすると、アパートを出た。 傘をさしながらの自転車の夜間運転。 正直、自殺行為だ。 だが、そのときの俺は何かすごい衝動につき動かされ、とにかく、あの神姫を動かすことが一番大事なことだと思っていた。 俺は降りしきる雨の中、ペダルをこぎだした。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2158.html
ウサギのナミダ ACT 1-28 ■ マスターは家に帰るまで、ずっと無言だった。 胸ポケットの中で、やっと落ち着いたわたしは、マスターの顔を見上げる。 マスターはいつも真剣な表情の人なのだけれど、なにかいつも以上に脇目も振らない様子だった。 すでに夕闇が迫っている。 足早に帰宅を急ぐ。 マスターが何をそんなに急いでいるのか、このときのわたしにはまだ分かってはいなかった。 家に着いて、マスターがまずしたことは、わたしをクレイドルに座らせることだった。 わたしは素直にクレイドルに座った。 わたしは少し沈んだ思いで、マスターの指示を待つ。 今日のわたしを、マスターはどんな風に思っただろうか。 雪華さんとの試合の後、なし崩しに騒ぎになってしまって、マスターとお話する時間もなかった。 あの時、わたしは感情の高ぶるままに言葉を口にした。 そんなことは初めての経験で、今のわたしは自分の行動にとても驚いている。 マスターはとても驚いていた。でも、わたしは言葉を止めることができなかった。 分かってもらいたい、それを伝えなければいけないと思うほどに、強い想いだった。 それは後悔していないけれど。 マスターがどう思ったのか、それだけは気がかりだった。 マスターは、カップに飲み物を入れて、机の前へとやってきた。 いつものようにPCの電源を入れると、椅子に腰掛ける。 クレイドルに座るわたしと向かい合う格好になる。 カップを机におく。 そして、軽く吐息をついた。 「さて……どこから話そうか、考えていたんだが……」 マスターはいつものように、真っ直ぐわたしを見た。 だけど、無表情じゃない。 どことなく優しげな、落ち着いた表情で、でも瞳にはなにか決意のようなものを秘めているように見えた。 「ティア……お前に分かるかな……どうしても欲しいものが、どうしても手に入らないときの苦しみってやつが」 え? マスターは何を話しているんだろう。 わたしは目をぱちくりとさせて、マスターを見る。 マスターはあまり表情を変えないまま、優しい口調で、ゆっくりと話し始めた。 「俺はもうずっと……お前と会うずっと前から、武装神姫のオーナーになりたかった。 バトルロンドを始めたくてな。 神姫に興味を持ったのは、お前も会ったことのある、海藤とアクアを見てからだ。 ……そうだな。今回の件の報告も兼ねて、今度会いに行くか。 海藤とは高校の頃から仲が良くて、違う大学に進学しても、よく会ってた。 もっぱら俺があいつの家に行ってたんだけど。 そのたびに、海藤とアクアの仲の良さを見せつけられてな……俺だけじゃなくて、他の友人たちも神姫に興味を持ったというわけさ」 マスターは独り言を言うように話を進めていく。 これは……この話は、マスターの本当の想い……。 「それからずっと……探していたよ、俺の神姫を。 友達が次々と神姫のオーナーになっていく中で、俺は神姫を迎えられずにいた。 あちこちのショップにも行った。 神姫センターにも行って、バトルロンドの観戦もしたし、そこで興味が出た神姫のパッケージも手に取った。 新発売の神姫の情報はくまなくチェックした。 メーカー展示会に気になった神姫を見に行ったりもした。 ネットオークションで安く出回ってるパッケージ品もチェックしたし、ネットショップの掘り出し物も何度もチェックした。 ……海藤の家でアクアを見てから、お金を握りしめてホビーショップに行ったことだって、一度や二度じゃない。 それでも……それでも俺は、神姫を買うことに踏み切れなかった」 マスターの寂しそうな表情。 その時の気持ちを、思い出しているのだろうか。 「なぜ、ですか?」 わたしは尋ねた。 もちろんその時に、マスターが神姫をお迎えしていたら、わたしは今こうして、マスターと話をしていることもないのだけれど。 「どうしても……納得が行かなかった。 どの武装神姫のパッケージを手にしても……これが俺の神姫だって、思えなかった。 だから、どんなに神姫マスターになった友達が羨ましくても……俺は神姫を迎えられなかったんだ。 どうしても、自分が心から納得の行く神姫がほしかったんだ」 マスターはわたしを見つめながら、かすかに苦笑した。 「その頃の俺の気持ち……分かるかな……。 武装神姫のオーナーになりたくてなりたくて……狂おしいほどに神姫が欲しくてさ。 そのくせ、どこを探しても、自分の神姫が見あたらないんだ。 すでに発売されているものなら、探しようもある。プレミアついていたって、お金を出しさえすれば手に入る。 でも……この世にいるかどうかもわからない『自分が納得の行く神姫』を探すなんて……雲を掴むような話だ。 探して探して……必死で探しても見つからなくて……あの何とも言えない、焦りというか渇きというか……そんな、胸をかきむしりたくなるような焦燥感が、いつも心にあってさ……。 神姫の情報を集めたり、見たりするのは楽しいのに、それが欲求を逆撫でして苦しくなるような……そんな感覚に苛まれる。 友達はみんな神姫マスターになって、楽しそうに、幸せそうにしていてさ。 それで俺はまた焦りと羨ましさにかられて……その繰り返しさ」 マスターは自嘲するように笑う。 ……知らなかった。 マスターが武装神姫にそんなに強い想いを抱いてたなんて。 わたしは呟くように話すマスターの顔から、目が離せなくなっている。 「……あの夜……お前と出会ったあの夜、俺は飲み会の帰りだった。 気心知れた仲間たちとの飲み会だったんだけど……俺はちょっと機嫌が悪くなった。 神姫マスターになった連中は、口をそろえて言いやがる。 『そんなにこだわって選んでないで、とりあえずお迎えしてみればいいじゃないか』ってな。 連れてきた神姫と笑いながら……そう言うんだ。 腹立たしかったよ。 とりあえず、ってなんだよ。大切なパートナーを選ぶのに、こだわるのが当たり前だろう。 でも結局、俺は神姫マスターでない時点で、仲間たちの言葉に反論もできなかった。ただ、苦笑するしかなかったんだ」 そう言うマスターの表情は、少し悔しそうだった。 その時の感情を思い出しているのだろうか。 そして、マスターは言った。 「その後で……お前に出会ったんだ……」 ものすごく、安心したような、優しい顔をして。 見たことない、そんなマスターの顔。 わたしはかえって緊張してしまう。 「ゴミ捨て場で、あいつが……井山が何か悪態ついて捨てたのを、たまたま見かけたんだ。 ゴミのポリ袋の上でうめいていたのがお前だった。 見た瞬間に『ああ、これが俺の神姫だ』って思った。 当たり前みたいに……いや、衝撃的だったかな。どうだろう。 ただ、これが運命なんだって思ったんだ。 ……いや、違う。格好つけすぎだな。 たぶん、お前に、一目惚れしてしまったんだ」 照れくさそうに笑うマスター。 今日のマスターはいつもと違う。 まるで菜々子さんと話すときのように、くるくると表情が変わる。 「それでお前を連れて帰ってきた。 クレイドル買ってきて、充電して、メンテナンス用のソフトをPCにセットアップして……舞い上がっていたと思う。 俺の神姫がやっと手元に来た、ってな。 お前の記憶を見て……俺も一瞬ひるんだ。それでも、お前を自分の神姫にしたい気持ちは変わらなかった。 これが運命でなくて何だ、って思ったよ。 ……そしたらさ、目覚めたお前が言うんだよ。 『わたしをお店に戻してください』 って」 ……あ。 思い出した。 あの時わたしは、自分のマスターになりたいというこの人に、そう願ったのだ。 あの時、マスターはわたしにものすごく怒ったけれど。 わたしはなんで怒られるのか、よくわからなかったけれど。 いまなら分かる気がする。 「そりゃないだろ。 俺はやっと、やっとの思いで自分の神姫を見つけだしたって言うのに、地獄のような場所に返してください、じゃあさ……。 そりゃあ怒りもするさ、俺でも。 どうしても諦められなかった俺は、お前を言葉で丸め込んだ。 お前が武装神姫になりたいかどうかなんておかまいなしで……俺が望む戦闘スタイルを押しつけた。 さんざん練習させて、つらい思いもさせた。 お前が俺のところから逃げられないのが分かっていて、そんなことさせていた」 マスターの言葉に、何か違和感を感じる。 わたしは……武装神姫になりたくなかった? マスターが望む戦闘スタイルが嫌いだった? 練習は、つらかった? マスターのところから逃げ出したかった? ちがう。 ちがいます。 わたしの想いとマスターの考えはすれ違っている。 マスターは無理矢理わたしを武装神姫にしたというけれど。 わたしがそう望むのなら、それは、無理矢理ではないんじゃないですか? 「……それでも、俺は嬉しかったんだ。 自分だけの神姫と、俺たちだけの戦闘スタイルで、バトルロンドを戦えるのが。 夢が叶った、と思った。 久住さんや仲間たちにも出会えた。ゲームセンターで過ごす時間は……バトルロンドをプレイしている時は、本当に楽しかった。 そんな時間をくれるお前に、ずっと、感謝していたんだ。 でもな……心の底ではずっと思っていた。 本当は、俺の楽しみのために、ティアを無理矢理戦わせているだけなんじゃないか、って。 お前の自由を奪って、自分だけ楽しんでいるエゴイストなんじゃないかって」 「そ、そんなこと……ありません!」 わたしはついに口を出してしまった。 マスターの話を遮ってしまった。 臆病な心が、顔を覗かせようとするけれど。 でも、わたしは勇気を出して、言う。 声が震えててもかまわない。 言わなくちゃ。 だって、マスターは間違っているから。 「わたしも……わたしも幸せでした。 薄暗いお店しか知らないわたしに、世界を教えてくれたのはマスターです。 わたしが知らなかった気持ちを……楽しい気持ちも、嬉しい気持ちも、風の心地よさとか、友達の優しさとか、技を自分のものにできたときの喜びも……全部全部、マスターがくれたんです」 こんなに幸せでいいのかって、今でも思ってる。 マスターは少し驚いたような顔をしていた。 「……そうなのか?」 「そうですよ」 「それなら……お前がそう思ってくれるなら、俺も救われるよ。 俺はこの間思ったんだ。 ……もし、バトルロンドができなくなったとしても、お前が走ることができれば、それでお前が喜んでいるのなら、それでいいって。 何より大事なのは、お前がそばにいてくれることだってな」 ほっとした表情で、そんなことを言った。 やっとわかった、マスターの本当の気持ち。 でも、わたしは以前から疑問に思うことがある。 「あの……」 「なんだ?」 「ほんとうに……ほんとうに、わたしなんかでいいんですか」 「わたしなんか、って言うな」 いつもの言葉。 でも、厳しいところは、表情にも口調にもなくて。 優しく微笑んでいる。 わたしに向かって。 「お前じゃなきゃ、だめなんだ」 ……ああ。 さっき言っていたマスターの気持ちが、いま、少しだけわかった気がする。 欲しくて欲しくて、それでもどうしても手に入れられないもの。 わたしにとって、それは、マスターの笑顔だった。 いま、このマスターの笑顔こそ。 わたしがずっと、欲しくて欲しくてやまなかったもの……。 「でも……わ、わたしは……マスターに、とんでもない迷惑をかけてしまって……」 「迷惑なんて、いくらでもかければいい。それでもいいんだ」 「じゃ、じゃあ……手の甲をわたしに差し出すのは……?」 「お前、掴もうとすると怖がるだろ」 「……わたしの前で、表情を変えないのも……?」 「なんだ、気がついていたのか? 俺が表情を変えなければ、お前が不用意に怖がらなくてすむだろ」 やっぱり。 無表情のことは、この間、やっと気がついたのですけど。 マスターは照れくさそうな顔をして、頭を掻いた。 「まあ……俺は元々、仏頂面だからな……」 「で、でも……マスターとわたしは、毎日顔を合わせてました。 それなのに……ずっと無表情でいるなんて……」 「そんなの、お前が俺の神姫でいてくれるなら、大したことじゃない。 いつかお前が俺のことを心から信じてくれたら……そうしたら、掴むことも許してくれると思ったし、笑いあうこともできるって……信じていた」 そんな……。 「わたしは……ずっとマスターに笑って欲しいと思っていました」 「そうなのか?」 「そうですよ」 マスターは苦笑する。 「そうか……俺たちはお互いに、お互いの笑顔を見たいと思いながら、ずっとずっと遠回りしてきたんだな……」 「……そうですね」 「なぁ、ティア……」 マスターは不意に真剣な表情でわたしを見た。 真っ直ぐな視線。 この人は真っ直ぐにわたしを見てくれる。初めて出会ったときから、ずっと。 「俺の神姫で……いてくれるか? 俺はバトルロンドを続けたいけど、お前が嫌だというならそれでもいい。 こんなわがままで情けない男でも、マスターと認めてくれるか?」 ……どうしてそんなに自信なさげなんですか? もう答えなんて、決まりきっていることじゃないですか。 それをはっきりと伝える方法を、わたしは思いついた。 「マスター。手のひらを出してください」 「……? こうか?」 マスターは怪我をしていない方の左手を、手のひらを上にして、わたしの前に出した。 わたしはクレイドルから立ち上がり、マスターの手に歩み寄る。 そして、その手の上に腰掛ける。 ちょっと緊張したけれど、何も怖いことなんてなかった。 この人を信じているから。 マスターの親指に顔を寄せて、キスをした。 「これは……わたしの誓いです」 顔を上げて、マスターを見る。驚いてる。 わたしはうつむいてしまう。 マスターの顔、まともに見られない。いまさら、とても恥ずかしくなって。 「わたしはあなたの神姫です。 わたしのマスターは、世界でただ一人、あなただけだと……誓います」 マスターの手はあたかかくて、心地いい感じがした。 もう一度、マスターを見る。 わたしの顔はこれ以上ないほど赤かったかも知れないけれど。 マスターも、とても照れくさそうな顔をしていた。 やがて、見つめ合うわたしたちは、どちらからともなく笑い始めた。 マスターと初めて心から笑いあえた。 ああ。 わたしが一番欲しかったものが、今ここにある。 長い長い一日の果てに。 わたしは、本当の意味で、遠野貴樹の武装神姫になった。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/220.html
1.0話 「別のなにか」 1 やたらと消防車のサイレンがうるさい日の翌日だった。 なんでも国立の研究施設だか何だかが火災になったとかで、 隣の地区どころかその向こうの地区からも消防車が来ていたらしい。 幸いにも俺の済むアパートからは離れているので危険は無かったのだが、 かなりの規模の火災だったらしく、朝方まで五月蝿くて眠れなかった。 おかげで寝不足です母さん。 仕事中も問い合わせの電話が山程山程。 地区違うっちゅーねん、部署違うっちゅーねん。 しかしどんなに忙しくても定時上がりなのが公務員のいい所。 ちゃっちゃと寝ちまうぜー…と目論んでいたが、 そうも行かない理由が俺に申し訳なさそーな視線を送っていた。 2 「すると何? キミの面倒を見ろ、という訳ですか親父殿は」 正座したそいつの前には親父からの手紙。 内容は『マオを頼む』。 こんだけ。 あ―――――――も―――――――。 思えば母さんの葬式にも来なかった親父が、だ。 あげく、仕事に専念する余り家に帰ってこなくなった親父が。 今になって『マオを頼む』ですと? いやいやいや。 親父のことは軽蔑しているし、やっとこさ縁がきれたかなーとか思っていましたよ? それでも『マオを頼む』と言われりゃあ何某(なにがし)かの切迫した事情があるのかもしれないと思うじゃあないですか。 でもねぇ…多分このコがマオなんだろうけどさ。 俺、このコの事見下ろしてるんだよね。 それはもう物凄く。 「あうぅ、スミマセン; ですが私、他に行く当ても無くて…」 泣くな。 泣かれると多分、すっげぇ困る。 こんなんでも女の子の涙は強力ですね、母さん。 親父からの手紙を持ってきた彼女は… 神姫でした。 orz 3 俺は柏木浩之、20歳のしがない公務員でございます。 親父は失踪して音信不通だわ母に先立たれるはと、程々に波乱万丈な学生時代を歩んでまいりましたが、めでたく就職浪人にもならず安アパートながら質素ながら、それなりに平穏に暮らしてまいりました。 1時間ほど前までは。 労働を終え、愛しの我が家のノブを回したところで呼び止められた。 「ヒロユキ様ですね?」 透き通った、それでいて少し甘さのある少女の声。 おいおい、これって『貴方の事ずっと前から見てましたv』か? いやさ、気が早いぞ俺。 キャッチセールスな可能性もあるし、ここは当たり障り無く… 「どなたですか…って、あれ?」 いない。 だーれもいない。 前も後ろも、見渡す限り360度。 空耳だったのかも。 がちゃり 扉を開け、部屋に入ろうとする俺のズボンの裾を何かが引っ張った。 「ああ~、待ってくださいぃ~」 んな?! さっきの声! 足元から聞こえるし、ズボンの裾わ引っ張られてるし、いったい何が…… 「あ」 見ればそこには、緑色の髪と瞳の人形が泣き出しそうな顔で俺を見上げていた。 4 柏木家 居間兼寝室兼色々 「泣くな。 泣かないでお願いだからっ。 君をウチに置くのは構わないんだけど…」 そう。 犬猫人間に妖怪の類であれば、安月給の身ではとてもじゃないが支えられる筈も無い。 だがこの子は武装神姫とかいう玩具だ。 たぶん。 かかったとしても精々充電の電気代程度で経済面での問題はないし、 ちっこいので狭い我が家でも面積を圧迫する事も無いだろう。 問題はそんな事じゃないんだ。 構わないと言われてぱぁ…っと花が咲いたような笑顔に。 可愛いなー。 なるほど、これでは子供ばかりでなく、いい年した大人が熱を上げてもしかたない。 「もう一度確認させてくれ。 君が親父が俺に面倒を見るように頼んでいるマオなんだね?」 ここだ。 身勝手にも程がある。 自分の妻の葬式にすら顔も出さないで、今になって頼みごとを…しかも人形の世話ですよ?! 「はい、私は開発コード ”Maxwell-X01”通称マオ。 貴方のお父様によって作られた武装神姫です。」 くぁ、確定かよ… 俺ら家族をほっぽいといてまでしてた仕事がコレ? なまじ目の前のこのコ…マオが可愛いだけに、余計にムカツク。 …あれ? でもこの外見はたしか… 俺はPCをスリープモードから復帰させるとブラウザを起動し、 ホームページに設定してある検索サイトに[武装神姫 猫]と入力した。 …武装神姫 猫 の検索結果 約 58,000,000 件中 1 - 10 件目 とりあえず公式らしき所をクリックする… あった、これだ。 「なぁ。」 「は、はい?」 画面には猫型MMS[マオチャオ]のデモンストレーションムービーが映されている。 そっくりだ。 なのにコイツは確かに…言ったよな? 「君を作ったのは俺の親父で、しかもコードナンバーにX?」 「え、ええ。」 ちょっとうろたえてる。 あきらかに「余計な事言っちゃたよ~」な顔だ。 感情は豊かな様です。 置くのはいいだろう。 作り物であろうとも、ヒトの形をしてヒトの様に振舞う存在を寒空に放り出すのも気が引ける。 けどな、ひとつ納得できねぇんだよな。 「君はコレとは別の”何か”なんだな?」 「う、あ、ぅ~、はぃ…」 「置いてやる。 だがその代わり、親父が俺達をほっといてまで作った君が何なのか、 なんで俺に所に来なきゃならなかったのか、話せ。」 5 朝。 とりあえず。 マオの事は「父親が同じなんだから俺達は兄妹じゃね?」で落ち着きました。 落ち着いたという事にしておいて下さい、いやマジで。 マオから聞いた話はヘビーすぎてなんと言うか。 「兄妹じゃん!」とマオを暖かく受け入れた俺ですが、内心はぐっちゃぐっちゃな訳で… しかし個人の事情で仕事を休んでいては(除、冠婚葬祭) お給料の元を収めていただいてる国民の皆様に顔向けできないというものです。 真面目だな、俺。 でもなー、コイツを一人にするのはなー… うん、連れて行こう。 内ポケットに入ってりゃなんとかなるだろう。 「マオ、仕事いくけど…一緒にくるか? 見つかるとまずいから ポケットの中で大人しくしてもらわなきゃならないだろうけど…」 彼女は振り向くと、苦笑いしながら「隠れてるのは得意ですから」と答えた。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/48.html
「昼下がりの情事ヤマモト」の巻 ある休日の朝、俺は部屋で好きな音楽を聴きながら 新聞を読んでいた。すると、こんな記事が目に飛び込んだ。 「武装神姫違法改造グループ逮捕」 ○月○日、警視庁は東京都ネオ歌舞伎町の雑居ビル内で、 武装神姫の素体を違法改造していたグループを検挙し、グループの リーダーである○○××(35)他6名を逮捕した。 ○○らは、武装神姫のボディ、AIなどに不正な改造を施し、 通常では育成不可能な『愛玩用素体』としてネット上で販売、 数千万円の利益を得ていた疑い。 警視庁では、こういった不正改造に対し、徹底的に取り締まる方針を 発表した。 俺「ふーん…"愛玩用"…ね。」 ふと目をやると、俺と一緒に住んでいる3人のMMS、イヌ型のヴェル、 ネコ型のジャロ、悪魔型のノワルが、先日買ったMMSハウスで遊んでいる。 無邪気なものだ。 (愛玩用………………どんななんだろう……………) ――――――――――――――――――――――――――――――――― ぺちゃ… ぺちゃ… ??「はぁ…はぁ…」 総ピンク色の部屋の中、何故か俺は全裸でベッドに座っている。 ノワル「ん…んむ…くちゅ…」 ヴェル「はぁ…んくっ…ま…マスター…気持ちいいですか…?」 ジャロ「んぅ…マスターの…すっごく熱いのだ…はぅ…」 3人は俺の一物にすがりながら、愛おしそうに舐め続ける。 俺「どうした…そんなじゃ俺は満足させられないぞ…?」 ヴェル「はぃ…では…これでいかかでしょう…みんな…?」 ヴェルがそう言うと、各々裏スジ、亀頭、竿を同時に舐め始める。 普通では体験できない「3点責め」である。 時々その小さな口で甘噛みまでしてくるのだからたまらない。 俺「よし…イイぞ…お前等のアソコはどうなってる…」 ヴェル「ひゃぁぅっ!!だ…ダメです…そこは…感じちゃ…やぁっ…!!」 ジャロ「はうぅ…熱いよ…アソコが熱いよぉ…!!」 俺「よし…4人同時にイクぞ…ぐぅぅぅっ!!!」 俺は己の剛直から、ありったけの精を吐き出す。 3人「「「はぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ…………ぁ」」」 火山の様に吹き出る白濁液にまみれ、恍惚の表情で倒れる3人。 俺「はぁ…はぁ…よく出来たぞ3人とも…。次は本番だ…!!!」 3人「「「はぃ……マスタぁ………」」」 ―――――――――――――――――――――――――――――――― って!!! 俺「うっがぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!」 3人「「「!!!???」」」 その場で頭を抱えながらのたうち転がる俺。 ヴェル「ど…どーしたんですかマスター!?」 そう言って駆け寄るヴェル。 俺「来るな!来ないでくれぇぇぇぇぇ!!」 脳内を縦横無尽に駆けめぐる妄想と戦いながら精子…いや制止する俺。 ジャロ「どうしたのだ?マスターヘンなのだ!!」 ノワル「ねぇマスター、本当に大丈ぶ…」 俺「だいじょ――――――――――ぶだから!! ぁ全然だいじょ――――ぶだから!!今は近づかないでくれ!頼む!!」 いかん…非常にいかん…彼女たちの心配する声だけでもおかしくなって しまいそうだ…!!ならば!! 俺「じゃ…ジャロぉぉぉぉぉ!!!」 ジャロ「…は、はいなのだ!!」 俺「両手に『ファンピー』を装備!!…それで俺を…思いっきりぶん殴れ!!」 ジャロ「そ…そんなことできないの…」 俺「い い か ら な ぐ れ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ !!」 ジャロ「わ…わかったのだ―――――――――――――!!!」 ご が わ し っ ! 俺「のごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉを!!」 壁まで吹っ飛ぶ俺。 ヴェル「ま…マスター!!」 ノワル「ちょ…大丈夫マスター!!生きてる?生きてる!?」 ジャロ「びぇ~ん!!マスターなぐっちゃったよぉ~!!」 心配する2人、大泣きするジャロ。 俺「ジャロ…GJ…。」 薄れゆく意識の中、親指を立て、爽やかな笑顔で、俺はしばしの眠りについた…。 めでたしめでたし。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2113.html
ウサギのナミダ ACT 1-5 □ 週末、俺はティアとともにゲーセンの入り口をくぐる。 まっすぐに武装神姫のバトルロンドの筐体のあるコーナーに向かう。 バトルロンドのコーナーは今日も盛況だ。 大型の観戦用ディスプレイには、白熱の戦いを中継している。 「あっ、遠野くん!」 「来た来た」 壁際にいてディスプレイを見上げていた二人が、俺を見つけて手を振った。 久住菜々子さんと、大城大介。 俺も軽く手を挙げて、二人に歩み寄る。 「やあ。今日はどんな感じ?」 「絶好調~」 にっこりと笑って、久住さんは右手でVサインを作る。 「三強の二人相手に一勝ずつ」 「それは確かに絶好調だ」 このゲーセンでは、独自にバトルロンドのランキングバトルが定期的に行われている。 武装神姫の公式リーグにも三つのランキングと全国規模のポイント制度があるが、それとは別である。 神姫センターやゲームセンターなどで独自に行われるポイント制のランキングのことだ。 定期的に行われるトーナメントでポイントを取得し、その合計ポイント数で、ランキングを決める。 よりローカル色の強い武装神姫ランキングだ。 このゲーセンでは、現在の上位陣は三人で、三強と呼ばれている。 この三強に対しては、名の知れたエトランゼ=ミスティと久住さんのコンビと言えども苦戦しているようで、いまのところ負け越し気味らしい。 「でも、これで勝ち星もほぼ五分に戻ったし。これも、遠野くんに教えてもらった新戦術のおかげね」 「そうかな」 「遠野よ、あんまりミスティの肩を持つなよ。おかげで俺達まで勝てなくなっちまう」 大城が頭を掻きながらぼやく。 虎実はミスティと何度も対戦しているが、ミスティが大幅に勝ち越しているらしい。 「ああ……菜々子ちゃんとのデートがまた遠のく……」 「そんな賭、まだしてるの?」 「してません、してません」 俺が久住さんを横目で睨むと、彼女はあわてて首を振った。 ティアとミスティの二戦目も、ティアの辛勝だった。 そのときに、思い切って、デートを賭に使わないで欲しいと言ってみた。 なぜか、久住さんはあっさりOKし、二度としないと約束したのだった。 久住さんは約束を忘れずに、守ってくれているようだ。 だったら、いつもの、大城の妄言か。 「まあ、仮に賭があっても、わたしは虎実には負けないけどね?」 自信たっぷりの声はミスティ。 誰がどう聞いても、ミスティは虎実をからかっているのだが、 「あぁん!? だったらいますぐ、ここで決着つけてやろうか、テメェ!!」 虎実はあっさり挑発に乗った。 言葉遣いの悪さは、マスター譲りだろうか。 虎実は口汚くミスティを罵るが、当のミスティはどこ吹く風、とばかりに受け流している。 「やれやれ、やかましいこと。そんなに言うなら、今日は一勝くらい譲ってあげてもいいわ。 あんまり勝敗が開いてもかわいそうだし?」 「んだと!? なめんなよ! リアルバトルで白黒つけてもいいんだぜ、アタシは!!」 どこまでも白熱しそうな舌戦に、ティアがおそるおそる口を挟んだ。 「ふ、ふたりとも……ケンカはよくないとおも……」 「ティアは黙ってて!」 「アンタは黙ってろ!」 同時に怒鳴られて、ティアはびくっと身体を震えさせた。 半泣きになりながら、俺の胸ポケットの中で縮こまる。 二人とも、そうおどかしてくれるな。 二人のケンカは、止める者もなく、ますますエスカレートしていく。 肩の上で大きな声を出されて困っている久住さんと大城は、なぜか俺を見た。 やれやれ、結局こういう役回りか。 俺は小さく溜息を一つつく。 「だったらもう、普通にバトルして決着つけろよ、今日のところは」 とたんに、二人の怒鳴り声がぴたりとやんだ。 俺を見て、また互いににらみ合う。 「まあ、わたしの方は依存はないわ」 「……トオノに免じて、普通のバトルで勘弁してやる」 「あとで文句付けないでよね」 「そっちこそ!」 久住さんと大城は、苦笑しながら、俺の肩をぽん、と叩いた。 「ありがとう」 「いつも助かるぜ」 二人はお互いのパートナーを連れて、筐体の方に向かう。 俺は小さく肩をすくめた。 ミスティと虎実は、ウマが合わないのか、しょっちゅういがみ合って、そのままバトルになる。 お互いのマスターが何か言っても、火に油を注ぐようなものなので、仲裁は俺に回ってくるのだった。 ちなみに、ティアとミスティは仲がいいので、ケンカになった試しはない。 虎実はティアを毛嫌いしているというか、ほとんど無視して、話しかけてもそっぽを向かれる。バトルも、最初の一回以来、したことがない。なぜかティアを避けている。なぜだろう? マスター同士は、神姫たちとは関係なく、普通に話をする。 最近はなにかとこの三人一緒にいることが多くなった。 特にチームを組んでいるわけでもないのだが、他のプレイヤーからは三人組と見なされているようだ。 「あいかわらず、陸戦トリオは仲がいいな」 常連さんたちの間では、俺達三人はそんな風に呼ばれているらしい。 声をかけてきたのは、このゲーセンでも古参の常連プレイヤーである。 「お、ヘルハウンドの。……あれで仲がいいって言うのかな」 「ケンカするほど仲がいい……ってな、黒兎のマスター」 何度も手合わせをしているプレイヤーであるが、お互いに名前は知らない。 そのため、お互いの神姫の二つ名やあだ名で呼び合っている。 「で、よければ対戦しないか? 今日は陸戦トリオとやりたくてな」 「ふむ……いつも通り、ステージは廃墟か市街地。それでいいか?」 「もちろんだ。市街地ステージにしよう」 「わかった」 俺は頷くと、空いている筐体の方へ向かった。 俺がヘルハウンドと呼んだ神姫は、ハウリン・タイプのカスタムだ。 左右の肩に装着されたフレキシブルアームの銃火器が、神姫自信の頭と合わせて三頭に見えるので、「ヘルハウンド・ハウリング」という二つ名を持つ。 このゲーセンでバトルロンドの筐体が置かれた頃からの古参の常連だ。 もちろん実力もあり、ランバトでは三強の一角だ。 正直、ティアは苦手な相手である。 ティアは片手武器に頼っているため、火力が高くない。 そのため、重装甲を持ちながら機動力もある、ハウリンやマオチャオは分の悪い相手だ。 だが、苦手だからといって対戦しないでいては、苦手克服の突破口も見つけられないのだ。 三強ほどの実力者が相手なら、なおさら断る理由もない。 今日試すべき戦術や技を頭に思い浮かべながら、俺は筐体に座る アクセスポッドにティアを送り込んだ。 ヘッドセットを耳に装着して、準備を終える。 「行くぞ、ティア」 「はい、マスター」 今日もティアと共に戦う。 気の置けない仲間がいて、バトルを楽しむ相手がいる。 夢にまで見た武装神姫のマスターとしての日々は、とても楽しく、充実していた。 ……奴が来るまでは。 その日の夕方遅く。 何度かバトルをこなし、そろそろ帰ろうかと思い始めていた頃。 バトルを終え、アクセスポッドからティアが出てくる。 ティアは立ち上がり、俺の方を振り向いた。 いつものように、ちょっと不安そうな顔で俺を見る。 俺は安心させるように少しだけ笑って頷いた。 すると、ティアは花が開くように微笑んだ。 俺はティアに手を伸ばそうとしたその時、 「ねえ、アケミちゃん!? アケミちゃんじゃないか!! どこ行ってたんだよ!?」 と大きな声が聞こえてきた。 ……その時は、まさか俺達にかけられたとは思いもしなかった。 その声に、びくり、と体を震わせて、ティアが反応した。 ゆっくりと、首を回し、声の方向に顔を向ける。 相手の顔を認めた瞬間、ティアの愛らしい顔が、これ以上ない恐怖の表情を形作り、凍った。 さすがにティアの反応がおかしいと思い、俺も声の主を見る。 声の主は、やたら太った、大柄な男だった。 黒縁眼鏡をかけ、髪はぼさぼさに伸ばし放題、しわだらけのシャツとジーパンという、見るからに他者の嫌悪感を煽るような姿だった。 見たことのない男だった。……いや、どこかで見たような気もする。 あまりにステレオタイプといえば、そう見える人物ではある。 背後に二人の男を付き従えていた。仲間だろうか。 「ひゃはっ、やっぱりアケミちゃんだ。ボク、ボクだよ、井山淳一さ! 覚えてるだろ? さあ、ボクと一緒に帰ろうねぇ……」 男はアクセスポッドに手を伸ばそうとする。 俺はその手を払い、アクセスポッドを自分の手で塞いだ。 「おい、人の神姫に無断で触れるのはマナー違反じゃないのか」 自分の声が必要以上に厳しくなっていると自覚する。 見ず知らずの人物が、他人の神姫に無断で触れようとするのは、重大なマナー違反だ。 大切なパートナーに、知らない人間が触れたりしたら、誰だって怒るだろう。 神姫のマスターであれば、言われるまでもない常識である。 ましてや、ティアは男性に掴まれることをことのほか恐れている。 俺が過敏な反応を示すのも、むしろ当然だ。 だが、振り払われた手をさすりながら、いかにも心外、という表情で、その男は言った。 「人の神姫だって? 誰の神姫? 君の神姫ってこと? 違うだろ? その子はボクのアケミちゃんじゃないか!」 何を言ってるんだ、こいつは? 頭がおかしいのではないのか。 「こいつはティア。俺の武装神姫だ。あんたのアケミとかいう神姫とは人違い……いや神姫違いだ」 「何言ってるんだよ! 違ってるのはそっちだろ? その子は、『LOVEマスィーン』って店の、登録ナンバー23。僕が連れ出したアケミちゃんに間違いないよ!」 ……おかしくなかった。 あの夜の、ティアをゴミ捨て場に投げ捨てた、あの男か! 「『LOVEマスィーン』の神姫は、みんなカスタムヘッドで、あの店にしかいない娘ばっかりなんだ。 ボクはずっとアケミちゃんの常連だったんだ。いっつも可愛がってあげていたんだから、見間違うわけがないもんね」 「神姫違いだと言っているだろう。そんな店は知らない。変な言いがかりはよしてくれ」 「じゃあ、どうやってその娘を手に入れたんだよ? 製品じゃないヘッドの娘をさぁ!」 ……なかなか痛いところをついてくる。 だが、正直に言うわけにもいかない。そんなことをすれば、ますます増長してしまう。 「なぜ見ず知らずのあんたに、そんなこと話す必要がある? 確かにティアはマスプロダクトモデルじゃないが、カスタムの神姫を手に入れる方法はいくつもある」 「だから言ってるだろ! その子は間違いなく、『LOVEマスィーン』にいた神姫なんだよ!」 目の前の男は、とうとう見苦しく喚きはじめた。 「ボクは、あのヒドイ店から、必死でその娘を連れだしてあげたんだ! 仕方がない事情があって、手放さなくちゃいけなくなったけど……だから、アケミちゃんは、ボクの神姫なんだよ! ボクにオーナーの権利があるんだ! ヒドイ店から救い出してあげた恩を返す義務が、その子にはあるんだよっ!!」 ……風俗店から神姫を無断で盗んで、店のスタッフから逃げ切れなくなったことを神姫のせいにして投げ捨てたくせに……いまさらオーナー気取りかよ。 この井山とかいう男にそう言ってやりたかったが、言えるわけがない。 俺に出来るのは、関係ない、とシラを切り通すことだけだった。 「あくまで関係ないって言い張るつもり?」 「言い張るも何も、本当のことを言っているだけだ」 「……分かったよ。確かに、このままじゃ、君にも神姫がいなくなっちゃうわけだもんね。 だったら、その子を買い取ってあげるよ。それとも、新品の武装神姫と交換がいい? どっちでも、君が好きな方で取り引きしようよ」 こいつは結局何も分かっちゃいなかった。 俺は、いまだに身体を硬直させているティアをつまみ上げた。 「ひっ」 ティアが小さな悲鳴を上げる。 ごめんな。 俺は素早くシャツの胸ポケットにティアを納めた。 胸ポケットのあたりから、小さな震えが肌に伝わってくる。 俺は決意を新たにする。 右手で胸ポケットを包むようにして、そして井山を睨みつけた。 「あんたがどんな条件を出そうと、ティアを渡す気はない」 俺ははっきりと言い切った。 こんな奴に……こんな最低な野郎にティアを渡したりはしない。 ティアを性欲のはけ口にすることしか考えていない奴に触れさせたりしない。 絶対に。 俺の言葉を聞いて、井山は怒り心頭と言った様子だった。 「なんだとぅ! こっちが下手に出ていれば、つけあがって!」 「つけあがっているのはそっちの方だろう。人の神姫を突然よこせと言ってきて、しまいには逆ギレだ。常識知らずも甚だしい」 「……そこまで言うなら、仕方ない。君がアケミちゃんを持っていられなくなるようにしてやる!」 なんだと? 「……今のうちだぞ、その神姫をボクに渡さなければ、後悔することになるんだから!」 初対面のこの男が、一体何をしようというのか。 お互いのことなど何も知らないのに、なぜそんなことができるというのか。 「後悔なんて、するはずがない。あんたが何をしようとも、俺はティアを手放さない」 俺は高をくくっていた。 この井山という男に、俺達を害する真似などできるはずがない、と。 しかし、井山は薄気味悪い笑い顔を浮かべて、言った。 「ひゃはははは、知らないよ、後悔したって知らないよ。あとで君がどんな顔をするか楽しみだなぁ! また来るからね!」 井山はそう言い捨てて、ゲーセンの出入り口へときびすを返した。 奴の最後の態度は、異様に自信たっぷりだった。 それを不思議に思わないでもなかったが、不機嫌な気持ちの方が勝っていた。 「二度と来るな」 背を向けてゲーセンを出ていく井山一行の背中に、小さく吐き捨てた。 俺は筐体に残っていた装備を片づけ始める。 井山とのくだらない会話が、思ったよりも長くなった。 急いで席を立たねばならない。 「遠野くん……」 「遠野……」 忙しく手を動かしている俺を呼ぶ声がある。 久住さんと大城だった。 「さっきの会話、聞いちゃった……ごめんなさい」 あれだけ大きな声で話していれば、聞こえるだろう。 「さっきのデブの言ったこと……本当か?」 「何が?」 大城の問いに、俺は短く聞き返した。 自分でも、声が固くなっていることがわかる。 本当は、大城の問いなど、聞かなくてもわかっているのだ。 「ティアが、その……風俗にいたって……」 大城はらしくない、歯切れの悪い口調で言った。 久住さんも、居心地悪そうな表情で俺を見ている。 いや、武装神姫コーナーにいるプレイヤーたちも神姫も皆、俺達を見てひそひそと話をしている。 「関係ない」 俺は曖昧な言葉でそう言いきった。 ティアは確かに、神姫風俗にいたかも知れない。 でも、今は違う。俺の武装神姫だ。 だが、ティアの過去を詳しく話す必要はない。もう、関係のない話であり、俺の胸の奥深くに収めておけばいいだけのことなのだ。 「だけど、ティアの様子は尋常じゃなかった。あのデブのこと知ってたみたいだし、明らかに怖がっていたじゃないか。だったら、あのデブの言うことだって……」 「関係ない」 俺は大城のせりふをぶった切って、言い放った。 俺は二人を見た。戸惑っているような様子だった。 久住さんは、さっきから、何か言いかけては口をつぐむ。 女の子にはデリケートな話の内容ではある。 俺は大城を見据え、言った。 「さっきの奴とは初対面だ。確かにティアは中古の神姫をメンテナンスしたのだけど、俺がオーナーになる前の素性なんて何も関係ない。今のティアは武装神姫だ。それで十分じゃないのか」 自分でしゃべっていても、棒読みだと自覚した。 こんな口調でしゃべってたら、不信がられるのも当然だ。 でも、嘘はつきたくなかった。 だから、過去のことは「関係ない」という言葉で濁している。 それがさらに二人の不信を招いているのだとしても、仕方がない。 武装の片づけは終わった。 大城がまだ何か言い募ろうとする。 俺はそれを手で制した。 「すまない、今日は気分が悪い。先に帰る」 「あ、あぁ……」 「またね……」 ゲーセンではいまだに俺達を隠れ見ながらのひそひそ話が続いている。 こういう空気は嫌いだった。 俺は足早にゲーセンを後にする。 胸ポケットの中で、ティアはまだ震えていた。 このときはまだ、奴のことを侮っていた。 奴の話は噂にはなるかも知れないが、俺が無関係を装ってさえいれば、時間が解決してくれるだろう、と思っていた。 まさかあれほどまでに打ちのめされることになろうとは、夢にも思っていなかったのだ。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/busou_bm2/pages/120.html
3Dバトルアクションゲーム『武装神姫 BATTLE MASTERS』及び 続編『武装神姫 BATTLE MASTERS Mk.2』について語るスレです(質問・対戦募集OK) 基本sage進行 荒らしはスルー厳守(触れた時点であなたも荒らし) 次スレは 950が立てる(無理なら代理指名/重複防止のため宣言してから立てる) 《公式》 武装神姫 公式サイト https //www.konami.com/games/busou-shinki/ 武装神姫 公式Twitter https //twitter.com/Busou_Shinki/ 武装神姫 BATTLE MASTERS https //www.konami.com/games/jp/ja/products/site/bs_psp/ 武装神姫 BATTLE MASTERS Mk.2 https //www.konami.com/games/jp/ja/products/site/bs_psp_mk2/ 《攻略Wiki》 武装神姫 BATTLE MASTERS wiki https //w.atwiki.jp/busou_bm/ 武装神姫 BATTLE MASTERS Mk.2 wiki https //w.atwiki.jp/busou_bm2/ 《姉妹スレ》 ■武装神姫 PART741(本スレ) https //mevius.5ch.net/test/read.cgi/toy/1606307495/ 武装神姫 AP BC 2(バトコン専門スレ) https //mevius.5ch.net/test/read.cgi/arc/1604801110/ ■武装神姫_BATTLE_RONDO>>PART_389(バトロン専門スレ) https //medaka.5ch.net/test/read.cgi/mmominor/1383209379/ 《前スレ》 【PSP】武装神姫 BATTLE MASTERS 総合 PART 189 https //krsw.5ch.net/test/read.cgi/handygame/1513344248/ 《アップデート》 Mk.2には修正パッチが配布されているので必ずアップデートしてください 手順はMk.2公式サイトの「アップデートについて」ページを参照 アップデートで新たに発生するバグもあるので攻略Wikiで確認推奨 《よくある質問》 攻略Wikiに掲載してあるのでスレ内での質問の前に覗いてみましょう
https://w.atwiki.jp/battleconductor/pages/59.html
「機械仕掛けの姫のwiki」の用語集 用語集1st神姫(ふぁーすとしんき) 2nd神姫(せかんどしんき) 3rd神姫(さーどしんき) EXウェポンセット(いーえっくすうぇぽんせっと) MMS(えむえむえす) SOUND VOLTEX(さうんどぼるてっくす) 悪神姫(あくしんき) いちかのごちゃまぜMix up!(いちかのごちゃまぜみっくすあっぷ) エアパスタ(えあぱすた) オトカドール(おとかどーる) オトメディウスX(おとめでぃうす・えくせれんと!) お役所神姫(おやくしょしんき) コンダクトン(こんだくとん) 職業神姫(しょくぎょうしんき) スティールクロニクル(すてぃーるくろにくる) スプリングベジタブル(すぷりんぐべじたぶる) チェイスチェイスジョーカーズ(ちぇいすちぇいすじょーかーず) テレビアニメ「武装神姫」(てれびあにめ・ぶそうしんき) 2・22事件(に・にーにーじけん) Naked素体(ねいきっどそたい) ノラ神姫(のらしんき) パチスロ武装神姫(ぱちすろ・ぶそうしんき) 武装神姫R(ぶそうしんき・あーる) 武装神姫Moon Angel(ぶそうしんき・むーんえんじぇる) フルセット(ふるせっと) ボンバーガール(ぼんばーがーる) マシニーカ(ましにーか) 麻雀ファイトガール(まーじゃんふぁいとがーる) メガミ神姫(めがみしんき) ライトアーマー(らいとあーまー) リデコ(りでこ) リペイント(りぺいんと) コメント 「機械仕掛けの姫のwiki」の用語集 「武装神姫」の総合的な用語集です。 [注意!]実神姫が販売されていた頃以来のwikiですので、総じてかなり情報が古くなっています。 用語集(あ か) 用語集(さ た) 用語集(な は ま や ら わ 記号) 用語集 本作品に密着している用語については、以下をご参照下さい。 用語集 (あ~な) 用語集 (は~わ・英・数) 1st神姫(ふぁーすとしんき) MMS1st素体を使用した神姫の俗称。 2006年の武装神姫初登場以来長らく採用されてきた素体で、本作中では初代アーンヴァル、初代ストラーフ、ツガル、ジルダリア、ジュビジー、エウクランテ、イーアネイラ、ブライトフェザー、ハーモニーグレイス、サイフォス、紅緒、ヴァッフェドルフィン、ヴァッフェバニー、ウェルクストラ、ヴァローナ、フォートブラッグ、ムルメルティア、飛鳥、アーク、イーダ、フブキ、ミズキと、大多数の神姫が該当する。 なおシュメッターリングとハウリン、マオチャオも本来はここに該当するが、本作では当初のデザインコンセプトを重視してかいずれもプロポーションが大幅に変わっており、3rdのSmall素体相当とされている。 2nd神姫(せかんどしんき) …というものは存在しない。何故なら「MMS素体を使用した他版権のキャラクターフィギュア」に採用されているのが「MMS2nd」規格だからである。 その多くは「beatmaniaDX」「クイズマジックアカデミー」「オトメディウス」といったコナミ内製作品、また「天元突破グレンラガン」のように放映当時コナミがスポンサーを務めていた作品からの出典となっている。 そして、悲劇のMMS「SOL」もこのカテゴリーに該当する。 + SOLとは… Special Operations Lady。SWATやデルタフォースといった、既存の特殊部隊をモチーフとするシリーズ。 第8弾組と同時期の発売で、豊富な装備類が最大の売りだったが、ベストやズボン等に短期間で劣化してしまう軟質素材「TPR(サーモプラスチックラバー)」を使用していたため、開封した時点で既に崩壊していたという事案が頻発。 結果、発売後たった2ヶ月でコナスタでは取扱停止、そのまま絶版となってしまった。 ちなみに前述「グレンラガン」のヨーコにも同じ素材が使用されており問題となったが、こちらは再生産時に素材がマトモなものに変更されている。 ちなみに、「スカイガールズ」の各キャラには胸部等を小改修した1st素体、「ハヤテのごとく!」コラボモデルの武装神姫ナギには3rdSmall素体が使用されている。 もしレイシスがMMSフィギュア化されていたなら、このカテゴリに入ったものと思われる。 3rd神姫(さーどしんき) MMS3rd素体を使用した神姫の俗称。2010年以降の後期ラインアップにおいて採用された新設計の素体で、Tall/Smallと2種の身長が設定された。 プロポーションが若干変化し、関節可動域も1stを上回る反面、1stとの武装の互換性や素体そのものの耐久性は若干犠牲になった事が聊か物議を醸した。 更に現在では、首関節を筆頭に経年劣化で割れ易くなっているという問題もユーザーサイドから指摘されている(当然だが既に絶版品であるため、公式でのサポートなどを期待してはならない)。 本作中ではTallモデルがアーンヴァルMk.2(及びテンペスタ)、ストラーフMk.2(及びラヴィーナ)、ラプティアス、アルトレーネ、紗羅檀、オールベルン、ジールベルン、プロキシマに。Smallモデルがガブリーヌ、蓮華、アルトアイネス、ベイビーラズ、マリーセレスに採用されている。 なお、アーティルは実神姫としてはSmallモデルだが、本作稼動当初はTallモデルであるかのように扱われていた(現在は修正されている)。 EXウェポンセット(いーえっくすうぇぽんせっと) 武装神姫のシリーズ開始から間もなくして、より廉価な「ヘッドと武装のみ」というセット扱いで販売された神姫。 ヴァッフェバニー、ツガル、フォートブラッグ、ヴァッフェドルフィン、グラップラップ、シュメッターリング、ゼルノグラードがこれにあたる(リンクのない神姫は本作未登場)。 一部の例外(ツガルBX及びフォートブラッグのリペイントモデル「ダスク」、最後発のゼルノグラード及びリペイントモデル「ベリク」)を除き、素体を持たない仕様で発売されたため、完全な形にするには「Naked」と呼ばれる素体を別途購入するか、他神姫からボディを都合する必要があった。 使用するNaked素体については、1st神姫用の使用を推奨する(設計が変更された3rd神姫用では、使用出来ない状況がある)。 ちなみに5周年記念イベントのトークショーによると、一番売れたのはフォートブラッグだった模様。 MMS(えむえむえす) Multi Movable System。可動フィギュア界の大御所・浅井真紀氏が原型を製作し、コナミデジタルエンタテインメントが販売したアクションフィギュア、その素体部分の規格をさす。 当時としては圧倒的な関節可動域と、2021年現在でもなお通用し得る驚異的な耐久性を誇る。また汎用ジョイント径は3.3mm(腿部は4mm)で統一されており、ユーザー側の好みで自由に組み変える事が可能。更にユーザーサイドで武器をガレージキットや他社プラモデル等を元に造り上げたり、人形のように布製の服を着せたりといった事まで出来た。 こうした事から、現在静かなブームとなっているすべてのガールズプラモデルにとって「事実上の始祖扱い」となっている。 誰が呼んだか「可動フィギュア界のオーパーツ」。 厳密には1st~3rdの三種規格が存在し、武装神姫に採用されているのは最初の「1st」及び最後の「3rd(Tall/Small)」である。 SOUND VOLTEX(さうんどぼるてっくす) KONAMI製の音楽ゲーム。アナログデバイス(通称・ツマミ)とBTボタンをタイミングよく操作することで、流れる音楽にエフェクトをかけていくのが特徴で、現在は6作目の「EXCEED GEAR」が稼働している。 最大の特徴は“楽曲を公募していること”。楽曲提供者にはゲームをプレイしていることを公言している人もおり、運営側とプレイヤー側の距離感の近さはある種武装神姫に近い。 バトコンには、2022/12/22にデフォルトのナビゲートキャラであるレイシスが初のコラボキャラとして実装されたという繋がりがある。 ちなみに「ボンバーガール」ではレイシスの実装が稼働当初から告知されているが、そちらには何故か未だに実装されていない。 悪神姫(あくしんき) 主にレイドボスバトルで登場する存在。あるいはレイドボスバトル(第七回)で登場するウェルクストラ型リペイント機の、便宜上の呼称。 本作に於いては、理由は様々ながらも「エラーと結託して悪事を行う神姫」の総称であるようだ。 ちなみにバトロン~バトマス期には、不正改造により戦闘力を底上げされた神姫を「イリーガル神姫」と呼んでいた。 いちかのごちゃまぜMix up!(いちかのごちゃまぜみっくすあっぷ) 2022年11月1日~2023年1月11日、「ビートマニア」などコナミの音ゲー全般にて開催された連動企画。 楽曲のアンロックのために必要なブーストの条件には「音ゲージャンル以外のコナミ製ゲームもプレーする」というものがあり、「ボンバーガールレインボー」「クイズマジックアカデミー」等と共に本作もまた、その対象として含まれていた。ちなみにステクロとCCJは含まれてない ところが、このイベントが開始された途端、明らかにブースト目的のプレイヤーによるものと思われる「捨てプレー」がジェムバトル/レイドボスバトル問わず散見されるようになり、その一方で音ゲーメインのプレイヤー達からは「訳が分からないゲーム」とSNS上にて批判を喰らう結果となってしまった。 正直、本作のチュートリアルが言葉足らず状態である事も問題ではあるのだが、そもそも長年の稼動によって操作系及びゲーム性が洗練されてきた音ゲーのメインプレイヤー層からすれば、その対極といっても過言ではない本作を、初見でいきなり遊びこなす事自体が至難の業といえるだろう。 好意的に考えれば、音ゲー以外のゲームにも触れてもらう事でジャンル全体の再開拓を意図したもの、なのだろうが…。 エアパスタ(えあぱすた) 「エアパスタすれば食費を神姫愛に回せるだろ?」との事で、神姫界隈で昔から伝統的な食物(?)だが、その実態は単なる「食事抜き」の隠語。 当時世代においても比較的若年層の間で多用された言い回しだが、既に実神姫そのものが絶版されて久しい現在においては高騰しがちな中古市場でしか取り扱われておらず、それが本作で参入したマスター達にとっては当時世代以上に高い壁となっている現実がある。 とはいえ、趣味は健康こそが大前提。そして、その健康を損なう食事抜きなど本末転倒。 従って、このような事を言っている間はまだまだ「おこちゃま」である。 オトカドール(おとかどーる) 2015年、コナミデジタルエンタテインメント→コナミアミューズメント(2016年再編以後)により稼動していたコナミ初の女児向けトレーディングカードアーケードゲーム。正式名称は「オトカ♥ドール」と、中央にハートマークが入る。 タイトルと同じ「オトカドール」と呼ばれるキャラクター(達)を操作してコーデバトルをするという内容で、「モンスター列伝オレカバトル(2012年~)」のカード生成システムが使用され、バトルそのものにはコナミ伝統の音ゲーのノウハウも取り入れられている。 また、レイシスのお里こと「SOUND VOLTEX」シリーズとも何かと縁が深い。 2022年3月末日をもってサービス終了したが、2023年9月末に(本作とも縁の深い)カードコネクトのコンテンツとして突然の復活を遂げている。 なお、この作品にはかつて武装神姫バトルロンドを開発したスタッフの一部が参加しており、その縁でかバトコンにも楽曲や武装が多々提供されている。オトカドール武装も参照。 オトメディウスX(おとめでぃうす・えくせれんと!) KONAMI製のアーケードゲームにして往年の名作「オトメディウス」シリーズの続編として、2011年春にXbox360用として発売されたシューティングゲーム。 武装神姫シリーズからは初代アーンヴァルと初代ストラーフが、「戦力増強のためにホビー用の小型ロボットを戦闘用に換装・改造して作成された、試作型“人工天使”」という形でゲスト出演しているが、この作品に於いてはキャラクターデザイナーが吉崎観音氏(「ケロロ軍曹」「けものフレンズ」シリーズ等)に統一されているため、武装どころかプロポーションまでもが大きく変更されてしまった。 ストラーフはDLCとしての提供。アーンヴァルにはDLCとして、公式の「ゆかたアーマー」を反映した浴衣Ver.が存在する。 2024年にXBOX360用ストアの閉鎖が発表されたのでいずれ購入不可能になる為注意 なおオトメディウス側にも、MMS2nd規格で立体化されたキャラクターが2名いる。 お役所神姫(おやくしょしんき) 職業神姫の中でも、特にお役所(実質的には神姫NET管理局)務めである個体の事。 本作では、以下の神姫たちがこれにあたる。 名称 タイプ 所属 登場エピソード 備考 種村ジュビ子 種型ジュビジー 神姫NET管理局環境農業課 レイドボスバトル(第三回・第七回・第八回) 黒種ジュビ美 種型ジュビジー(リペイント) レイドボスバトル(第三回) その後プレイアブル実装(→ジュビジーB) 鎧原フォスター(鎧原) 騎士型サイフォス 神姫NET管理局ネットワーク課 レイドボスバトル(第八回) 剣崎フェスター(剣崎) 騎士型サイフォス(リペイント) 悪神姫化により脱退 その仕事は概してかなりの激務となるようで、基本的に実力の高い神姫でなければ務まらないようだが、中にはワーカホリックを拗らせてしまったような者も存在する。 ちなみに過去の公式作品に於いてはノベライズ版、通称「神宮司シリーズ」で主人公の刑事・神宮司八郎が所有する神姫「アトラ」や部下の森永穂波が所有する神姫「アニー」がこれに近いが、彼女達は同作およびバトマスにおいて公僕たるマスター達のバディ相当として度々活躍していながら、あくまでも彼らの所有物という扱いであって、実は職業神姫ですらない事に留意されたい。 コンダクトン(こんだくとん) なにかとちょくちょく登場してくる、本作のマスコット的存在。ジェムポッドの「ぶた」と同じ姿形をしている。 過去にはジェムバトル時稀に参戦していたバトコンスタッフのアイコンとして使われたり、はたまたTシャツ武装の図柄のひとつになったり、モチーフとして採用されたダイナー武装に至っては極小の個体が足の上で動き回ってたりと、ある意味八面六臂の大活躍である。 しかし意外な事に、その正体は謎に包まれている。プチマスィーンズやラビボンの同類にも見えるが、果たして…? 職業神姫(しょくぎょうしんき) 武装神姫の世界において、神姫は神姫バトルに用いられる以外にも、様々なマスターの下で様々な仕事に従事している事になっている。 本作で明言されているのは、言わずもがなのアイドル。更にレイドボスバトル(第四回)においては、花屋のアルバイト神姫としてジルダリアが2人登場している(第三回についてはお役所神姫の項を参照)。 この他にも、アニメ版ではフライトアテンダント、ナース、サンタクロース等といった職業神姫たちの存在と活動が描写されていた。 なお、仕える神が不明なシスターとか、神(自称)とかについては、このカテゴリーに含めて良いのかどうか…? スティールクロニクル(すてぃーるくろにくる) 2011年12月7日から稼動開始した、本作のコンパネ的意味での前身にあたるKONAMI製アーケードゲーム。初代・2代目「Be」・3代目「Be XROSS ARMS」・現行バージョン「Victroopers」が存在する。 本作には筐体のコンパネ周りが一部転用された他、いくつかのスティールスーツ及び武器が神姫用武装として移植された(ステクロ武器の項を参照)が、リザルトの基準が不明瞭な点は本作のレイドボスバトルにも引き継がれてしまっている。 なおこの作品、冒頭に「現行バージョン」と記載したとおり、いまだ稼動してはいる。ただ公式展開としては事実上停止または終了している、との声も。 ハウンド達は未だに“2014年の夏”を待ち続けているのだ… スプリングベジタブル(すぷりんぐべじたぶる) 本作のビジュアル中、所謂「SD絵」を担当しているとみられる人物。 作中コミックとみられる「ぶそうしんき あーまーどぷりんせす ばとるこんだくたー!」の作画担当(原作担当は「バトコンおじさん」なる人物)とされており、実際に稼動初期にはTwitter上でコミックが掲載されていた。 本作以外では「チェイスチェイスジョーカーズ」「麻雀ファイトガール」にも関わっている為、最近は本作の漫画はなかなか拝めないものの期間限定ログインボーナスにて入手可能なスタンプでは定期的な新規SD絵が実装されている。これLINEスタンプとして売り出しませんかね? また時折公式Twitterアカウントで公開される限定衣装のデザイン設定画の絵柄を見る限り表には出ないだけで衣装デザインを担当している可能性もあると思われる。 QMAやボンバーガールのケイ壱先生といい、掛け持ちが大変そうである チェイスチェイスジョーカーズ(ちぇいすちぇいすじょーかーず) 略称「CCJ」または「チェチェジョ」「ェェョ」「痴女」。2022/12/21に稼動開始するKONAMI製アーケードゲーム。 ざっくりと書けば「3on3の鬼ごっこ」……なのだが、実はバトコンの筐体が転用された仕様であり、本作からの不可逆コンバート(新作筐体なし)と言う形でゲーセンに導入された。 2022年初夏に行われたロケテストの際に聊か強引な宣伝処理がなされた事、本稼動となる12/21を前にコンバートを行った店舗がかなりの数に登ったため、ただでさえ稼動数が多いとは言えなかったバトコンの筐体が大量にその犠牲となってしまった事等紆余曲折はあったものの、こちらもこちらで固定ファン層を構築するに至っている。 なお、武装神姫とのコラボは現状行なわれていないが、ボンバーガールやQMAとは積極的にコラボしており、パインやマラリヤといった面々が参戦している。 テレビアニメ「武装神姫」(てれびあにめ・ぶそうしんき) 略称「アニメ神姫」「アニ神姫」。2012年10~12月にかけてTBS系で放映された、そのものずばりのアニメ版武装神姫。放映された話数は12話分だが、当時未放映・円盤収録の第13話が存在するため全13話。 武装神姫の公式展開が概ね終了したとみられていた時期での放映は、同期にあの「ガールズ&パンツァー」がいたせいもあってか、一般アニメ視聴層からの反響は然程でもなかった一方で当時の神姫オーナー層には大きく驚かれ、また従前の公式作品群よりも優しい世界観と、神姫達の丁寧な描写で概ね歓迎される作品となった。 これにより、中古ショップや(当時まだ新品を置いていた)量販店などの神姫の在庫が一気に払底。その後の2・22事件の遠因となった他、5年後にMX系で放映されたテレビアニメ版「フレームアームズ・ガール」に作品としての基本構成をまるまる模倣された事でも知られる。 主人公格として出演した神姫はアン・ストラーフ(ヒナ)・レーネ・アイネス。この他セミレギュラーとしてクララが出演している。 その他鳥Pの受けがいい人気どころの神姫たちはあらかた声つきで出番も多めにもらえていたが、それ以外の神姫たちはほとんど台詞もなく事実上のモブ扱いという「露骨なまでの格差の存在」が、極僅かな失点か。 ちなみに、この作品に登場するマスター「理人」は顔がキモいなどと批判される事もあるが作中登場する唯一の人間キャラであり、神姫達に対する優しく真摯な姿勢から「理想的な武装紳士」とも呼ばれる。 本作においては、この作品から主人公神姫たち4人の水着が期間限定ながら実装されている。 2・22事件(に・にーにーじけん) 2014年2月22日、当時六本木ミッドタウンのコナミ本社にあったコナミスタイル直販店にて、武装神姫の在庫を一斉放出すべく開催されたイベント「武装神姫特別販売会」のこと。 2020年JAEPOでの本作のリリース発表まではKONAMIによる実質的に最後の武装神姫公式イベントであり、明らかにテレビアニメ武装神姫から派生した案件でもあるため、あえてここに記載する。 上記した状況もあってか、まだ日も昇らないうちから1500人とも2000人とも言われる神姫オーナー達が全国各地から集結。加えて同日に発売されたPS4の購入待ち行列とも重なって、ミッドタウン界隈に突如として大群衆が発生した結果、パトカーがお出ましする事態にまでなった(もちろん一般常識的な事件性などはなかった訳だが)。 更に、このイベントで意中の在庫神姫を買う事が出来なかった神姫オーナー達が、秋葉原や中野など東京都内の中古ショップに殺到。「武装神姫の在庫だけが一時的に綺麗サッパリ消滅する」と言う現象すら発生した。 Naked素体(ねいきっどそたい) その名の通り、ボディに何もペイントされていない「裸」素体の事。EXウェポンセットのカテゴリーに属する神姫にとっては必需品。 1st/3rd規格において白と黒、それに神姫の多彩な肌色に合わせた数種類の肌色素体がラインアップ。更に体操服素体(1stのみ)やスクール水着素体も存在した。 特に3rd規格のそれは、同時期の神姫達のクオリティの高さもあって、中古市場では異常なプレ値で取引されている事で知られる。 ドールメーカー・アゾンを筆頭とするドール服ディーラー達の手になる被服での運用は、武装オンリー派の一部武装紳士達には忌避されたものの、1/12ドール界隈では一転して大反響となり、同社において後年作「アサルトリリィ」の1/12ドール展開に繋がった事は言うに及ばず、現在の各社(特にコトブキヤ)製美少女プラモデルの運用や、変わった所ではドールハウス界隈にまで影響を及ぼしている(尤も、当時の神姫上層部にとって「この運用は想定外だった」との事だが)。 これもまた、武装神姫のオーパーツぶりの傍証と言えるだろう。 なお公式媒体での出現例は、コミック「2036」に登場した九頭乃やアニメ版の神堂といった「悪い武装紳士」達が大量に運用していた以外では、バトマスMk.2における「ミミック」くらいのものだったが、本作においてはレイドボスバトル(第三回)のホワイト/ブラックミラージュの中核ユニットとして、久々の登場を果たしている。 …なんだ、やっぱり敵側じゃあないか。 ノラ神姫(のらしんき) 野良神姫、あるいは「はぐれ神姫」とも。 その名の通り、何らかの理由でマスターを失った神姫の事を指す。 多くの場合は単独ないし少人数で行動しているようだが、中にはアニメ版第9話に登場した「地下帝国」のように、規模の大きいコロニーを築くものもいる様子。 本作ではノララーフ(公式コミックに登場するストラーフMk.2。ゲーム中には登場しない)、及びマーモット(イベント限定プロモーションカードに採用されたムルメルティア)がこれにあたる。 パチスロ武装神姫(ぱちすろ・ぶそうしんき) 株式会社コナミアミューズメントより2023年9月12日に正式発表となったパチスロ作品。 2024年1月稼働開始。 登場する神姫達のキャラは概ねアニメ版をベースにバトマス版のものが折衷されており、キャラグラフィックモデルはバトコンのものとも異なる、全体的により幼めな風貌のものとなっており、関節部分などはバトコンよりも実物に近く作られている。 アニメ版のメインキャラだったアーンヴァルMk.2、ストラーフMk.2、アルトレーネ、アルトアイネスの他、エウクランテ、ハウリン、マオチャオ、アーク、イーダ、ヴァローナ、ベイビーラズ、紗羅檀が参戦。 そして、バトコン(2023年11月現在)どころかバトマス時代においても未実装だったグラフィオスとウェスペリオーが、古のバトロン以来本当に久々の登板となった。あれ?イーアネイラは…? なおアーンヴァルMk.2テンペスタも登場しているが、彼女に関しては「通常個体が“リミッター解除”された別モードの姿」という、バトマスDLC収録のアニメ「Moon Angel」に登場したかぐやの別モード「アーンヴァルMk.2黒」によく似た立ち位置となっている。 名前の通りパチスロではあるが、公式シミュレーターアプリが無料で配布されておりスマホで遊ぶ事が可能。ただしキャラボイスとボーカル曲はゲーム内課金で解禁する仕組みとなっている。 また今後は同じくパチスロ化したボンバーガールはメダルゲーム扱いとなってるコナステ版、複数のゲームを切り替えて遊べるゲーセン向けメダルゲーム筐体FEATURE Premiumに収録されているので同様の対応になる可能性もあるかもしれない。 もちろん、稼働後にホールに行って遊ぶという手もあるが…パチンコ・パチスロは18歳になってから。 そして、パチンコ・パチスロは適度に楽しむ遊びです。のめり込みに注意しましょう。 武装神姫R(ぶそうしんき・あーる) 株式会社コナミデジタルエンタテインメントからリリース予定のソーシャルゲームアプリ。 2020年公式発表にてバトコンと共に「鋭意製作中」とされ、リリースされた暁には武装神姫コンテンツ完全復活の狼煙を上げるものと期待されていた。 ……が、エーデルワイスの立体化・発売以後、何の音沙汰もない状況が続いている……。 ちなみに前述した通りRの発表を行ったのは株式会社コナミデジタルエンタテインメントであり、バトコン及びパチスロ版武装神姫の開発販売を行う株式会社コナミアミューズメントとは同じKONAMIグループの別会社という立場である。 武装神姫Moon Angel(ぶそうしんき・むーんえんじぇる) 武装神姫バトルマスターズ(及びMk.2)のDLCに収録されている、武装神姫初のオリジナルアニメ作品。約5分サイズで1話分の全10話(テレビアニメの放映枠に換算すれば、約2話分にあたる)。 登場神姫はアーンヴァルMk.2、ストラーフMk.2、ゼルノグラード。とはいえ前二者は、実は神姫の皮を被った自立式汎用兵器のコアである 本作はどちらかといえば某ダンボール戦機や某メダロットに近い作風となっていたため、燃え&シリアス展開を重視するマスターには歓迎された一方で、その後に放映されたテレビアニメ版が日常系寄りだった事から「感性が風邪をひいた」というマスターも散見された。 かつてコナスタ限定ながら円盤も販売されており、特典としてアーンヴァルMk.2に対応した劇中登場のヘッド武装「ティアラ」が付属した。 フルセット(ふるせっと) 通常の箱入り武装神姫。本作に登場するほとんどの神姫がこれに該当し、主にEXウェポンセット及びライトアーマーに対してこの語が用いられる事がある。 1st素体時代の一般販売モデルにはパッケージに上蓋が付いており、更に一部の神姫は眠り顔で封入されていた事から「ユーザーが神姫の箱を開ける=その神姫を起動する」という楽しみを味わう事が出来た。 コナスタ限定モデルおよび3rd素体時代においてはこの蓋がオミットされており、現在コトブキヤから販売されているものに至ってはプラモデルであるが故に組み立て作業が必須となるため、こういった楽しみを望むならば1st素体時代の一般販売品を求めるのが良いだろう。 ちなみにほとんどの場合、武装が組み換え分など含めて多種多様なため、パッケージ内のブリスターはほとんどの場合3段、多いものでは4段にも至る。これを開く時に勢いで中のパーツを周辺にブチマケてしまう「ブリスターボム」と呼ばれる悲劇もよく知られているところなので、ブリスターを開く時には気をつけておきたい。 ボンバーガール(ぼんばーがーる) 略称「ボンガ」。2018年8月より可動を開始したKONAMIの対戦型アクションゲーム。 2022年7月にメジャーアップデートして新シリーズ「レインボー」となった他、コナステ版サービス及びパチスロ版が存在する。 原作は言わずと知れた往年の名作「ボンバーマン」だが、プレイアブルキャラクターは全員女の子であり、撃破時には脱衣カットインが表示されるのが最大の特徴。 コナミの往年の作品群をプレイアブルキャラのモチーフとして取り入れている事でもよく知られ、特に「ときめきメモリアル(初代)」「出たな!ツインビー」に関してはメインヒロインがそのままの姿で登板している他、ツガルについては原典を踏まえた上で武装神姫も出典作と明言されている。 マシニーカ(ましにーか) エーデルワイスに使用されているが厳密にはコナミ内製の武装神姫ではなく、コトブキヤによる後年のプラモデルシリーズ「メガミデバイス」の規格。 素体設計はMMSと同様に浅井真紀氏が担当しており、いわば「直系の子孫」とでも言うべき存在。本作のレイドボスバトル(第一回及び第二回)において、彼女が「未来世界の存在(?)」として設定されたのは、おそらくこのあたりの事情が絡んでいると思われる。 MMS素体を基にしながらも、可動性能が大幅に向上(その代わり耐久性は大幅に低下。プラモデルだからしょうがない)。また往年のMMS並みに設計変更が激しい規格でもあり、最新作の「皇巫シリーズ」以降では更なるブラッシュアップがなされたのと引き換えに、従来メガミとの素体的互換性がかなりの部分で犠牲にされてしまった。 なお、2023年8月19日に行われたコトブキヤの生放送におけるメガミデバイスの素体系譜説明においてメガミ版アーンヴァルとストラーフに対しては「MMS4」との表記が行われていたが、これはあくまでも1stとマシーニカの機構を合わせたものを便宜上そういった形で表記したのであって、「MMS4th」という事では無い模様。 麻雀ファイトガール(まーじゃんふぁいとがーる) 2023年3月から稼働を開始した麻雀格闘倶楽部の派生作品。 バトコンのSD絵を担当するスプリングベジタブル氏がこちらでもSD絵を描いている。 狙えそうな役や安牌を知らせるサポート機能に麻雀格闘倶楽部と異なり1クレジットで対局に最後まで参加出来る等の初心者向けの仕様や状況に応じて対局中に使用キャラクター達によるセリフやリアクションが発生したり条件を満たしていればリーチ時にキャラソンを流せるシステムや登場キャラクターの多くがデカパイである事など賑やかな部分が特徴となっており、初心者層や既に麻雀格闘倶楽部をプレイしてるユーザー層からも支持を得ている。 なおこちらもボンバーガールおよびときめきメモリアルとコラボしており、パインと藤崎詩織が参加している。 メガミ神姫(めがみしんき) 数ある武装神姫のラインアップの中で、近年になって模型メーカー・コトブキヤから発売されたものが、便宜上この呼称で呼ばれる事がある。 具体的にはエーデルワイス、アーンヴァル、ストラーフ。それぞれリペイントバージョンも発売されている。 詳細はマシニーカの項を参照。特にMMS時代最初期の商品をオリジンとする後二者においては、十数年の歳月を経て造形・ギミック・箱の大きさ面で大幅な進化を遂げている。 なお「武装神姫R」の発表当時には、同作に登場すると見られる神姫達の発売も告知されていたのだが……?????? ライトアーマー(らいとあーまー) EXウェポンセットに代わり発売された、素体+軽武装のシリーズ。おおまかな見分け方は、フルセット版よりも小さくNaked素体と共用のスタンドパーツ。 この頃には通常ラインアップの神姫達はプレイバリューの高い武装が高コストをも齎しており、このシリーズとのハイ・ロー・ミックスを意図した展開となっていた。 シリーズ上はウェルクストラ、ヴァローナ、ブライトフェザー、ハーモニーグレイス、パーティオ、ポモック、こひる、メリエンダがこれにあたる(リンクのない神姫は本作未登場)。 ちなみにフブキとミズキ、シリーズ終盤の一部神姫(具体的にはアーティル、ラプティアス、ガブリーヌ、蓮華、そしてベルンシリーズ)は、製品のボリューム的にはライトアーマー相当なのだが、扱いとしては一応ライトアーマーでない事に留意されたい。 リデコ(りでこ) リデコレーション。玩具・プラモデル業界において、製品の生産コストを有効に落とすべく考え出された手法。 複数の製品内にて構成されるパーツに共通するものが多く見られた場合、ほとんどがこのケースとして解釈される。 武装神姫の場合、展開初期から新作2~3種がひと組で発売されるパターンが専らだったが、概ね3rd素体登場後は時代背景に伴う開発コストの上昇に伴い、主に武装においてよく使われる手法となった。 多くの場合は成型色の変更、一部では素体サイズの変更をも伴っており、本作に登場している神姫だけでもアーンヴァルMk.2とストラーフMk.2(意外かも知れないが、分解してみると共通パーツが多く用いられている事がわかる)、フブキとミズキ、アルトレーネとアルトアイネス、ラプティアスとアーティル、ガブリーヌと蓮華、オールベルンとジールベルンがこれにあたる。 また、元モデルに対してパーツを追加するスタイルのものもあり、本作ではアーンヴァルMk.2テンペスタ、ストラーフMk.2ラヴィーナがこれにあたる。 リペイント(りぺいんと) または「リカラー」。玩具・プラモデル業界において、上記リデコと同様の経緯で一般化している手法。 「過去一度発売された製品でもカラーを変更すれば別の製品として認識される」と言う解釈の下、主に某有名変形ロボット玩具ブランドにおいて多用というかもはや濫用されている事で知られる。 武装神姫においても最初期から最末期まで割と頻繁に用いられており、その多くはコナミスタイルなど流通販路を限定したモデルか、さもなくば立体そのものがないゲーム内限定の存在となっていた。 フィギュアとしての展開が実質終了した後の本作においては、レイドボスバトルのボスキャラとしての扱いが専らとなっている。これらを倒して手に入れた武装をすべて装備すると、リペイントバージョンとしての姿を再現できる上総合性能も微妙に変化する、という訳だ。 製品名 本作での個体名 実神姫フィギュア 特記事項 ツガル Blue X'mas ver. (なし) あり 装備再現でカラフルコンダクトの内容がアップデートされる ジュビジー リペイントVer.(bk.) 黒種ジュビ美 なし その後プレイアブル実装される(→ジュビジーB) ジルダリア リペイントVer.(bk.) イバラ なし その後プレイアブル実装される(→ジルダリアB) ヴァローナ リペイントVer.(wh.) ドロシー あり ウェルクストラ リペイントVer.(bk.) ストラ/悪神姫 あり 名義は2人だが仕様としては同じ扱い サイフォス リペイントVer.(bk.) 剣崎 なし 本名は「剣崎フェスター」だが作中では苗字?のみ表記 紅緒 リペイントVer.(bk.) 刀華 なし ちなみにツガルやフォートブラッグにおいては、リペイントモデルで採用された素体デザインや武装がオリジナルモデルにフィードバックされている。 だが、果たして「リデコのリペイント」となるMk.2フルアームズパッケージ達(未実装)の扱いやいかに。 コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/498.html
前へ 先頭ページへ 次へ 出撃~接敵 1223時 114サーバー、ブリーフィングルーム(VR空間) 最初のブリーフィングタイムは特にこれといった話し合いも無く、ほとんど気の合った仲間内での自己紹介に終始した。小さな体育館ほどの広さのブリーフィングルームに二百体近くがいるのである。とても全員の顔や名前は覚えられないし、ましてや誰がどのような戦い方をするのかも不明瞭。結局はかねてからの知り合いを呼び出したり、たまたま側にいた者たちでくっついたり、マイティたちのようにアクセスポイントが同じであるがゆえに成り行きで一緒になったりして、各々個別に飛行隊を結成するくらいであった。ほとんどが飛行隊と呼ぶには間に合わせの体たらくであったが、それでも気取ってソロプレイをさせようとするオーナーはまったくと言ってよいほどいなかった。 実際の戦争かバーチャルバトルかに関係なく、多数と多数がぶつかり合う戦いは徒党を組んだ方が明らかに強い。長い人間の戦争史がそれを何度も何度も懲りずに証明してきたし、また一般人に身近なオンラインゲームの多人数戦闘でも、草創期からそのセオリーは絶対に崩れなかった。一騎当千などスタンドアローンゲームの中の存在でしかないのだ。 全員がホビーショップ・エルゴからの接続神姫で構成されたエルゴ飛行隊(ERGO Squadron)と名づけられたマイティたちのグループは、そもそもエルゴのバトルスペースを利用する神姫たちのレベルが比較的高くまとまっているからか、だいたいまともな構成員が揃っていた。 まず、飛行隊の主宰がファースト、セカンド各リーグにおいてトップクラスの神姫が揃っていた。飛行隊長はファーストランカーのシヅ(ここで断っておくが、ランクはオーナーではなく神姫自体に付与される。複数所有していればそれぞれの神姫にそれぞれのランクが与えられるのである。所有神姫が一体のみならば、神姫のランク、イコールオーナー自身のランクと読み替えてもかまわない)が務め、副隊長にはセカンド強豪の一体であるアーンヴァルのスノーボウ、またセカンドでは中級ながらも神姫自身の気違いじみた超重装備とオーナーのマニアックが功を奏した戦術指揮能力を買われ、ヴァッフェバニーのバーニング・ブラック・バニー、二体が就任した。 彼女らは五つに分割されたフライトのうち三つのフライトリーダーも兼任した。この時点でシヅのオーナー、バセットにより、フライト(四機編隊)、そしてエレメント(二機編隊)が振り分けられ、飛行隊としての体裁が整いつつあった。彼女に比べればほとんどヒヨッコである他の十九人のオーナー、そして彼らの神姫は、実戦経験豊富な文字通り老練の隊長に従った。 が、それでも、間もなく始まる第一次会戦においてバセットが作戦会議として言ったことは、 「自由に戦いなさい」 これだけであった。 シヅがオーナーの言葉を継いだ。 「大規模空中戦は誰もが初心者です。経験やランクの差、リーグの違いはあっても、スタート地点は同じなのです」 飛行隊員をぐるりと見渡す。 「大事なのはまず誰よりも早く慣れることです。ブルーチームの一人として、飛行隊の一員として何ができるのか。最初の戦いはおのずと模索の段階となります。リラックスして望みましょう」 要するに一番大事なのは怖がらないことなのだ、とマイティは自分なりに噛み砕いていた。 それでも彼女は漠然とした不安を完全に消すことができなかった。初めてのことはやっぱり怖い。ここにアクセスしたとき悲鳴を上げそうになったのも――別の理由で実際に上げてしまったが――いきなり体験したことの無い環境にほっぽり出されたからなのだ。 自分が新しい環境にこうも適応しにくいというのをマイティは初めて知った。今までは、オーナー登録も、バトルも、何もかもが「武装神姫としてすべきこと」としてあったために特に拒否反応を起こさなかっただけなのだ。どんなにトリッキーな対戦相手が現れようとも、それがバトルであるかぎりマイティは自然に闘えた。それが武装神姫の根底に根付いているのだ。ただの「神姫」ならともかく、「武装神姫」に戦いの嫌いな個体など無い。「武装神姫」として生まれた以上、戦いは陽電子頭脳の根底に刻み込まれた本能なのだ。人が毎日ご飯を食べるように、息を吸うようにできることなのだ。腕前は別として、戦うという行動自体に何ら弊害は存在しない。 このイベントは仮想空間の構築実験としても史上初ならば、武装神姫にとっても前代未聞だった。 目の前に展開された環境は何もかも、ここにいる神姫全員にとって、大規模空中戦以前に初めてのことばかりなのだ。 よく発狂しなかったものだとマイティは自分に感心した。むしろどうしてみんな平然としていられるのかという方が不思議だった。自分が感じやすいだけなのだろうか? こんなんで空中戦に出たらお先真っ暗だ。ナーバスになっているうちに天井のスピーカーからアラームが鳴った。 「ひっ!?」 それでマイティはまた叫びそうになった。察したシエンがマイティの肩を抱いて、安心させた。 『これよりハンガーへ移動します。総員、そのまま動かず待機してください』 放送からきっかり十秒後、ブリーフィングルームが消失した。エルゴ飛行隊以外の神姫も。 ◆ ◆ ◆ 1225時 11番コンソールルーム バーチャル空間が移動しハンガーに移動するのが画面に展開されると、マスターのところにも指示が来た。 『オーナーの皆様はカードを開封してください。カードは現在より以後、カードリーダーに差し込むことでいつでも使用できます。使用回数は一回のみ、再使用はできませんのでご注意ください。カードの効果については表面をご参照ください。なお、カードの効果は複数種類あります』 画面にビジュアルつきで説明される。 マスターは封を裂いた。プラスチック製のカードが出てきた。 カードの表面を見て、ちょっと困ったような表情を浮かべた。 そのままコンソールの横に置いて、マスターは再び椅子に深く腰掛け画面に注意を向けた。 マイティが心配だった。もちろんのことだが、彼女の新たな問題を、マスターも初めて知ったのだ。 ◆ ◆ ◆ BGM Hangar 1(エースコンバット5 ジ・アンサング・ウォー オリジナルサウンドトラックより) 同時刻 ハンガー(VR空間) 空中空母、と呼ぶに相応しい空間だった。 先のブリーフィングルームよりもはるかに広かった。 格納庫兼着艦デッキらしく、壁のあるほうから見て、カタパルトの付け根が乗ったエレベーター、その後ろには格納庫としてのだだっ広い空間があり、半透明のシールドシャッターを隔ててさらに後方には、尻尾のように長い着艦路が伸びていた。着艦路の末端の両側には尾翼らしき羽がある。 ハンガーは吹きさらしではなく、ちゃんと天井があった。カタパルト付エレベーターに乗せられた戦闘機はそのまま天井のハッチの向こう側にあるカタパルトデッキに上げられ、そのまま射出されるのだ。 全てが等身大サイズであった。つまり、エレベーターが実際の戦闘機サイズ(もちろん神姫スケール、つまり神姫が人間の大きさだとしてなのだが)、大きすぎるのだ。 二百体以上のブルーチームメンバーが散り散りに広がっていた。それでもなお十分すぎる余裕があった。本来ならば数十機の戦闘機が整然と並んでいるはずなのである。 カタパルトだけが神姫を射出するための構造であった。普通はエレベーター一台に付き一基しか無いが、ここではエレベーター一台に八基も取り付けられている。二フライト単位で打ち出せるというわけだ。 そのエレベーターが壁際、つまり空母の進行方向の壁にずらりと十台ほど並んでいる。発艦シーケンスを三回繰り返せば全員射出できる計算だ。 時間は調整されることは無いから、つまり急いで発艦しないと戦場に出遅れるというわけだ。ブリーフィングタイムのラスト五分にドックに移されるわけである。 そうと分かれば急がねばならない。もう周囲ではメイン装備の呼び出しが次々と行われ、終わった飛行隊からどんどんカタパルトに向かっている。 エルゴ飛行隊は一番はじっこのカタパルトのまん前を占拠し、装備の呼び出しにかかった。 戦闘開始まで残り四分を切っていた。 「準備の整った隊員から順次発艦してください。合流はフィールドで行います」 シヅの指示が飛ぶ。メンバーは口々にオーナーに装備呼び出しを請うた。 マイティはおろおろしながらも、 「マスター、メインボード展開です」 と震えの抑え切れない声で要請。 『分かった、もう操作している。出るぞ』 マイティの体を光るポリゴンの粒子が包み込む。 あらかじめ設定しておいた装備が顕現し始めた。 リアウイングAAU7を背負いありったけの推進装備を付けた従来の装備とは、今回は大きく様相を異にしていた。 まずAAU7の推進器付き主翼が、脚部に普通に履かれたランディングギアAT3の側面に直付けされている。翼表面にはスティレット短距離ミサイルが四発。膝ジョイントにはガードシールドが取り付けられ、これだけでデルタ翼戦闘機の主翼と垂直尾翼だとすぐに分かる。 両手にはそれぞれアルヴォLP4ハンドガンとカロッテP12ハンドガンを持ち、両手首にはM4ライトセイバーを装備。このように手に持ちかえず、装着箇所から直接光刃を発生させるやり方は、ライトセイバー使いの間ではもはや常套手段である。いちいち外して手に持つ手間など無いほうが良い。 つづいて上半身の武装が現れる。 胸部装甲はスラスターの付いたホーリィアーマージャケット、頭部はオーソドックスにヘッドセンサー・アネーロ。バックパックが最後に出現し、それはレインディアアームドユニット・タイプγだったが、リアスラスターユニットの代わりに戦闘補助としてシロにゃんが乗っかり、フォービドブレイドは外されてAAU7のバインダーとハグダンド・アーミーブレードがあった。 素体にそのまま羽をつける飛行タイプ神姫のシルエットはほとんど残っていない。まるで体全体がそのまま、機首の二つに分かれた未来的デルタ翼戦闘機を髣髴とさせていた。どこからともなく「ビックバイパーみたいだ」という声が聞こえた。 もうエレベーターはいっぱいで、マイティは次の発艦を待つ。 その間にシエンが、少し離れた場所でメインボードの呼び出しを行っていた。 頭甲・咆皇、ドッグテイル、ヴァッフェバニーのアーマー類。 シエン自身の装備はそれだけで終わってしまった。 「あれ? シエンちゃん、飛行装備は?」 「ああ、マイティ、ちょっと離れてて」 シエンが手をかざしてマイティを制止した直後、シエンの周囲の空間に一瞬ジャギーが発生した。 ガカカカカカカカカカカカカカ。 重たそうな処理音とともに、なにか巨大なものがシエンの前に呼び出されようとしていた。 明滅するポリゴンが下から集まってくる。 まるで映画「アヴァロン」の多砲塔戦車ツィタデルの出現シーンである。 メインボード展開としてはかなりの時間をかけ、現れたのは確かにある意味、戦車であった。 神姫換算四メートルちょっとはあろうかという、真っ赤な頭をした一つ目のロボットが鎮座していた。 「これが私の戦闘機、『クリムゾンヘッド』さ」 誇らしげにシエンは言った。 シエンがバトリングクラブで使っている、1/12フルモータライズスコープドッグを、専用の飛行装備に換装して持ってきてしまったのだ。 『あらあら、大胆ねえ』 バセットは笑っていた。シヅは相変わらず、忍者型MMSフブキ特有の表情の無さで、驚くことなく見ていた。 マイティをはじめ、周囲の神姫たちはぽかーんとしてその巨人を見上げていた。 「シエンちゃん、これ・・・・・・」 大丈夫なの? とまで言えなかった。ここにあるということは、少なくとも「許可された」ということなのだから。 シエンは誇らしげに巨人の体をひょいひょいと登り、あっという間に乗り込んで始動をかけてしまった。 「準備ができました。行きましょう」 シヅの一声で我に返る。彼女はもう装備を終えていた。リアウイングに必要十分に武装を引っさげた、かなりの軽装である。射撃武装はスティレット短距離ミサイルとカッツバルゲル中型ミサイルだけで、両腕はシェルブレイクパイルバンカーと忍者刀・風花という完全近接戦闘武装である。 マイティも一応ライトセイバーを腕に取り付けてはいるものの、これはサブ機能のレーザーガンとして主に使う算段であった。ライトセイバーとして至近距離で切るなんてことは、空中戦ではほとんど無いだろうと考えていたのだ。 マイティがシエンのスコープドッグを見つめている間に、他の隊員は空いた隣のカタパルトも使って皆すでに飛び立っていた。エルゴ飛行隊で残っているのはマイティとシエンとシヅの三人だけだった。 ぎこちない歩き方でカタパルトに両足を固定する。ランディングギアは歩行には向かない。 右隣のカタパルトにはシヅが立ち、左隣にはカタパルトを片足ずつ、二つも使ってシエンのクリムゾンヘッドが立った。 ガコン。エレベーターが動き、せり上がる。 同時に天井のハッチが開いてゆく。外は晴天。 上がりきると、本当にまぶしいくらいの晴天だった。雲ひとつ無い。いや、雲は空母の下に流れているのだ。風は強かったが、慣れているから気になるほどでもない。 なんというハイクオリティの空間構築だろう。マイティは思わず驚嘆した。 突然ガクンとカタパルトが前に傾き、マイティはびっくりした。 倒れるかと思ったが、体がほとんど水平になって止まった。シヅもクリムゾンヘッドも、同じようにうつぶせに近い状態になっている。 なるほど、こうして飛びたつのだ。 《エンジン推力を最大にしてください》 管制官からの指示が来る。 マイティは言われたとおりに、主翼のスラスター、ランディングギアの補助バーニア、そしてエレクトロマグネティックランチャーの後部電磁推進器の出力を上げた。 途端に凄まじいGがかかった。カタパルトが射出されたのだ。すぐ下のデッキが目にも留まらぬ速度で流れ、気がつけば空中に投げ出されていた。 《姿勢を安定させて!》 慌ててマイティは背筋を伸ばして飛ぶ。通信で呼びかけたのはシヅだった。彼女はマイティのやや右後方を飛んでいる。 これ以降ほとんどの会話は通信で行われることになった。肉声ではほとんど聞こえないのだ。戦っている間に会話するなどということも、ほとんど無いことだった。 ぐうん、と体に影かかかる。左情報に陽光をさえぎってシエンのクリムゾンヘッドが、大きな主翼を展開させて白い飛行機雲を引いていた。 《フィールドとは空間続きです。全速で合流しましょう》 三人はアフターバーナーで高空を飛ぶ。 1234時 特設フィールド「諸島」 そのフィールドは輪をかけて広大だった。ヘッドセンサー・アネーロの見慣れたHUD(※ヘッドアップディスプレイ。速力や高度、状態表示、武装のコンディション、レーダー、マップなど、必要情報が視界に重ねて表示される)を操作し全体マップを表示しても、いつものバトルフィールドと違って自分の居場所が本当に点に見え、アイコンはちまちまとしか移動しない。 二百体以上のブルーチームメンバーが、青いアイコンで固まっている。全員南から北上する。進路上、マップの中心域には大小さまざまな島が点在していた。 全開出力で赤いアフターバーナーをちらつかせながら、チームはそのまま北上した。予想するにレッドチームは北から諸島上空目指して南下しているに違いなかった。時刻は1235時をまわった。接敵まで最大五分以上かかる。実際の戦闘時間は一時間いっぱいではなく、どんなに長く見積もっても五十分少々ということだろう。ブリーフィングタイムも実質二十五分なのだから、全ての所要時間はマイナス五~十分と見積もればよい。 島の上空に到達するまでに、マイティたちは飛行隊の編隊を組んでおく。 各フライトずつ四機、フライトリーダーを戦闘にして傘型陣形。主戦闘部隊のヘッド、アームズ、トルソー三フライトが前に出て、チェスト、レッグスの支援系フライトがその後方につく。シヅやスノーボウの的確な指示で素早く編隊が組み終えられた。おのずとエルゴ飛行隊が最前列につく。 他の飛行隊もエルゴを見真似ていそいそと編隊を組み始める。が、もう下には諸島が見え始めていた。 今回は諸島上空の制空権確保がその任務である。 《こちらニーズ1、敵集団をレーダーに補足》 亀の甲羅のようなレーダードームを背負ったレッグスフライトリーダー、オーリーエンダーが報告する。 まだ視界には捉えられない。 《ヘッド1了解。全機このまま前進しましょう》 すかさずシヅの指示が来る。が、オーリーエンダーが反論した。 《待ってください。敵の数が・・・・・・》 《どうしました?》 《アルタ、全員に私のスクリーンを送って》 《ラジャー》 ニーズ2、アルタを通じて、エリント機であるオーリーエンダーの捉えた広域レーダー映像が飛行隊全員に送信された。 「これって・・・・・・!」 マイティは息を呑んだ。飛行隊全員がこわばる空気を感じた。 《多すぎるよ!》 隊員のだれかが悲鳴を上げた。 レーダー映像には、ブルーチームよりもはるかに大きな赤い塊が映っていた。敵、レッドチームである。 《戦力は拮抗してるんじゃなかったんですの!?》 チェストフライトの二番機、パーシモンケープが抗議した。 その答えはアームズフライトリーダー、スノーボウがすぐに出した。 《カードを使ったんだわ》 《ねぇさま、カードって?》 ショルダー2、千乃が暢気そうな声でリーダーに訊くと、 《おばか、オーナーが一枚ずつ持ってる特殊効果が出るカードのことです》 四番機のマリオンがうんざりしたように教えた。 他の飛行隊も状況を悟ったらしく、混乱が広がり始める。 通信がうるさくなった。 どうするんだ、このままじゃやられちゃう、逃げたいよう。どれをとっても弱気な内容しか聞こえない。 そうしているうちに向こう側にぽつぽつといくつもの点が見え始める。 「てっ、敵です、敵! 肉眼で確認!」 あわててマイティが全体通信で叫ぶ。 半ば口論に近い言い合いをしていたチームはいっせいに前を向いた。 1236時 諸島上空 接敵 《戦闘機だ》 クリムゾンヘッドの望遠カメラで確認したらしく、シエンが言った。 マイティもヘッドセンサーの望遠機能で見る。 確かに戦闘機だった。レッドチームの神姫に混じって、本当に戦闘機が飛んでいる。 総数およそ四百機。 『こりゃあ、アレだぜ』 呆然としてシエンのオーナー、ケンが言った。 『ポーカーで席に着いたばっかで、まずは様子見と思っていたら、隣のヤツがいきなりフォーカードを出しやがった、って状況だ』 《敵機、ミサイル一斉射!》 オーリーエンダーが怒鳴った。 ビーッ! ミサイルアラート。HUDが真っ赤に染まる。 《回避! 高度を下げて!》 シヅの命令が飛んだ。 戦力差三倍、記念すべき初戦が始まった。 前へ 先頭ページへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2195.html
闇の中。 静寂に包まれた心地好い暗闇の中。 深く深く、意識がその闇の中へと溶けてゆく。 何物にも代えがたい至福の時。 そんなささやかな幸せを、突然鳴り響いた甲高いメロディーが容赦なく奪い去った。 「うあー……」 再び闇の中に戻ろうとする抵抗も虚しく、俺の意識は一気に呼び起こされる。誰だ、俺の安眠を妨げる奴は。 やかましく鳴り響く携帯を手探りでたぐり寄せ、この諸悪の根源との通話を繋げる。 「もしも……」 『はーやーとー! いつまで寝てんのー!?』 寝惚けた頭に飛び込んでくる怒鳴り声に、思わず俺は電話を遠ざける。こちらの返事も待たずに、あいつはあからさまな不機嫌さをぶつけてきた。 「なんだよ、朝っぱらからうるっせえな」 横目に時計を見るとまだ午前10時。とてもじゃないが健全な高校生が休日に起きる時間ではない。 『なっ、あんたが神姫見たいから付き合えって言ったんでしょー!? それなのにうるさい? そーゆーこと言うの?』 まだ頭がハッキリしないと言うのに、一息にまくしたてられる。えーと、神姫……? あ、そうか。 西暦2036年。 第三次世界大戦も、宇宙人の侵略もなかったこの平和な時代において開発された、全長15センチの自律型AI搭載ロボット、MMS(Multi Movable System)。 その中でも、最も一般的なのが『彼女』達。 オーナーに従い、様々な装備に身を包み戦場へと赴く彼女達。 そんな彼女達を、人はこう呼んでいる。 『武装神姫』と。 『武装神姫ーPRINCESS BRAVEー』 「うわぁー……」 想像以上の光景に、俺は思わず声をあげた。 都内某所にそびえるこの巨大なビル、通称神姫センター。このビルは部品や関連書籍の販売、更にはサポートセンターにバトルスペースまで、全てが武装神姫を取り扱う施設となっている。 そして俺はその中の販売コーナー、神姫本体の売り場に来ているのだが。 「これ全部そうなの?」 フロア全体に渡って所せましと陳列された神姫。カブトムシ型やコウモリ型、騎士型にセイレーン型、更には戦車型にシスター型とかなりの種類が並んでいて、あまり知識のない俺にはなにがなにやらまったくわからなかった。 「うん、すごいでしょー? もう随分シリーズも続いてるし、タイプ別に色々出てるからね」 舞はどこか嬉しそうに――おっと、そういえば自己紹介がまだだったな。 俺は新藤隼人。健全な男子高校生だ。以前からバトルに興味があり、ちょうど身近に神姫オーナーがいた為、俺も同じ武装神姫のオーナーになる事にした。 そして、その身近なオーナーというのが彼女、比々野舞(ヒビノ マイ)。家が近所だった事もあり、小さい頃からの腐れ縁を現在進行形で続けている。 後ろに結い上げたセミロングの黒髪と、丸い大きな瞳。 起伏の乏しい体を黒いボーダーラインのロングTシャツと袖のないパステルブルーのパーカーで覆い、青いキュロットから伸びる細身の足元には水色のスニーカー。 好きな青い色を基調としたその服装は若干の幼さを感じるが、露出した肢体は健康的に締まっていて、活発そうな印象を受けるだろう。 悪くない。うん、決して悪くない。 「……イヤラシイ目で見ないでよ、えっち」 「イヤラシクないですー。ちょっと客観的に観察してやっただけだよー」 舞はわざとらしく体を隠すと、冷ややかな目で俺を睨む。長い付き合いだが、そんな恥じらいがあったとは知らなかった。 「ふーん、変なの。ま、別にいいけどさ。隼人なんかに見られたって」 その発言は誤解を招くぞ。見てもいいのか?いいんですか?それとも異性としての意識が無いという事だろうか。うん、まったく興味が沸かない。 とにかく、舞はずいぶん前から神姫を所有しているので、初心者の俺としては色々意見を聞けるのは助かる。 ついでにこいつの神姫、天使型アーンヴァルのヒカリも紹介しておこう。片側だけ編みこんだ髪を耳の後ろに垂らしているのがトレードマーク。生真面目で大人びたアーンヴァルタイプには珍しくちょっと子供っぽいが、元気で可愛らしい娘だ。 このヒカリが俺も神姫を買おうってきっかけを作ったんだが、その辺りはいずれまた。二人は姉妹のように仲がよく、今日もヒカリは舞の肩に座って足をブラブラさせている。 「んで、どれ買ったらいいんだ?」 「自分で選ばなきゃしょーがないでしょー?どんな性格がいいかーとか、どんな戦い方したいーとかないの?」 舞は立てた指を左右に振りながらいくつかの選択肢を示していく。しかし、その動きに釣られてふらふらと頭を揺らすヒカリが気になって、話の内容はほとんど聞こえてこなかった。 「だいたいこんな感じかな?どう?」 「え?ああ、格闘戦がいい」 話は聞いていなかったが、戦い方ならそれしかないだろう。男だったら拳で語ってこそ。戦うの俺じゃないし、神姫は女の子だけど。 「アーンヴァル!天使型アーンヴァルがいいと思うの!」 舞の肩で話を聞いていたヒカリが、未だにふらふらしながら棚の白い箱を指差した。酔うぞ、お前。 さて、アーンヴァルか…… 確か高機動射撃タイプ、だったハズだ。初心者でも安定した勝率を狙えるとネットでの評判もなかなかだが、どうも俺の性には合わない。 「あすみん先生自重。そもそもアーンヴァルは格闘向きじゃないだろ?舞ともかぶるし、ややこしくなるって」 「むー、妹が欲しかったのに……」 「なんだ、そーゆー事か。ま、そうガッカリすんなって。後輩には違いないし、それなら妹みたいなもんだよ」 「んー、そっか。ならいいや!へへー、楽しみだなー♪」 頬をふくらませてすねていたかと思えば、もう屈託のない笑顔を見せている。幼さすら感じさせる彼女だが、俺も舞もそんなヒカリの笑顔が大好きだ。俺の神姫になる娘も、こんな笑顔を見せてくれるだろうか。 「あっ、ねぇこの子なんかどうかな?あんたにぴったりだと思うんだけど」 辺りを物色していた舞は一体の神姫を手に取ると、俺に差し出した。パッケージには獣の耳を模したヘッドギアと大きな手甲、そして焼ける様な橙色の瞳が印象的な少女が描かれている。 「犬型、ハウリン?」 「そ。いわゆる万能型なんだけどメインは近接格闘戦だし、防御力も高めだからあんたの要望にもぴったりでしょ?そーれーに……」 舞はぴっと指を立て俺に向き直ると、からかうように微笑みながら言葉を続けた。 「この子の性格。誰かさんみたいな、熱っ苦しい熱血感」 「誰が熱苦しいんだよ?失礼なヤツだな。でもまあ、たしかに悪くはないかもな」 僅かに胸が高鳴る。舞の手からハウリンの箱を受取ると、自然と俺も微笑んでいた。 「決まりだな。俺の相棒」
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/607.html
第弐幕 「Virgin cry」 「マスターは・・・まだ寝ているのか」 どうも私を購入したのは相当衝動的だったらしく、マスターの神姫に対する認識と知識は非常にあやふやで、昨夜は結局質問攻めに会い、そのまま互いに「眠って」しまったのだ 取敢えずクレイドルから体を引き剥がし、部屋の中を散策する事にする 私?私の名はカスミ。侍型MMS、タイプ紅緒、個体名「華墨」。マスターである佐鳴武士に買われて二日目の、言わば新米の武装神姫である マスターの部屋は、本棚が数十年前の漫画本で埋め尽くされ、戸棚の上にはMMSでこそ無いが、種々のアクションフィギュアやプラモデルが好き勝手なポーズで放置されている 本人が言うには節操無く格好良いものばかり集めているらしく、確かに私の「知識」と照らし合わせても、特定のアニメやゲームのグッズを集めているという感覚からは遠いと見受けられた 「・・・ほう、これはなかなか・・・」 等と呟きながら、勝手にそこらに飾ってあるフィギュアの武器だの、本体から脱落したパーツだのを手にとって構えてみたりする そうすると、不思議と自分が強くなったような気がする・・・これが武装神姫の戦闘本能というやつなのだろうか 「いい剣だ」 仮面の戦士が構えていた重そうな大剣を両手で構え、ポーズをつけて素振りなどしてみる・・・今のポーズは決まっていたな と、窓の辺りから入ってきた気配に咄嗟に振り向く。そういえば猫が出入りする様な小さな扉がしつらえられていたが 「この部屋の住人ならば挨拶しておかなければなるまいな・・・」 何故か仮面戦士の大剣は携えたまま窓の方へ向かう。ベランダ側の窓からは、微かに爽やかな朝の空気が出入りしており、人工皮膚を心地良く撫でてゆく あぁ・・・いい気持ちだ・・・・白い陽光と風に包まれる部屋、薄く寝息を立てるマスター、自分が知識でしか知らなかった世界、私の傍にもそもそとやって来る緑色の謎の生き物・・・ 待て 待て待て なんだか異様な生き物が私を見つめている(ように見える)トゲトゲした背鰭に、ギクシャクした動作、鼻面から尾の先迄概ね50センチ、全身が緑色の鱗で覆われていて、眼球まで皮膚がかぶさっている ぎょろ 「ひッ!?」 見た 見られた 今明らかに瞳が私を見た しかも右目だけが 左目は明らかにぐりぐりと別の方向を索敵(?)中で、それは即ち左右の瞳がてんでばらばらに動いている事になる 体が動かない・・・ッ 何を怯えているんだ、私は人類の英知が生み出した科学の子「武装神姫」だぞ。こんな謎の爬虫類相手に足が竦むなど、何かの間違いだッ・・・なんで色変わってんだよ・・・いい気になりやがって 取敢えずまずは話しかけてみよう。うむ、ファーストコンタクトは大事だ。これに失敗した事による悲劇は映画史上枚挙に暇が無い。危険な相手かどうかは話をしてみないと・・・ 瞬間、謎の爬虫類の口から何かが放たれた・・・凄まじい速度、神姫の動体視力で持ってしても捕らえ切る事が困難なそれは、もし私がターゲットにされていたなら確実に一撃で仕留められていただろう 気付くと、ヤツの口から何かの昆虫と思しき肢がはみ出しており、ヤツはそれをむしゃむしゃと旨そうに喰らっていた 「・・・き・・・っ貴様なかなかやるな!!だっ・・・だがその程度のデモンストレーションでびびる私ではないぞ!!神姫に同じ手は二度と通用しないのだ!その技をここでみせてしまった以上最早貴様に勝ち目は・・・」 仮面戦士の大剣を構えつつ口上を放つ、が、ヤツはそれを無視して私の脇をのそのそと通り抜ける 「・・・ふっ・・・しょっ、所詮爬虫類だな私の圧力に恐れをなして逃げるのか!?どちらがより上位の存在か、これではっきり・・・え?」 振り返り、ヤツに剣を向けて再び口上を放つ私。その剣の先で、マスターがなんとも言えない表情で笑いを堪えていた 「いやぁ華墨は勇ましいなぁ。大概のやつはボナパルト君を最初に見た時はびびるのに、まさかそれと闘おうとするとはな・・・さすがは武装神姫って事か」 「・・・もう勘弁してくれ・・・マスター・・・」 着替えながら笑うマスター。「ボナパルト君」と対峙した時の私の構えは、本当にへっぴり腰で、それだけで既に笑ってしまいそうな程情け無い構えだったらしい 「なんでカメレオンなんかが居る・・・?マスターは昨夜そんな事は一言も・・・」 「いやぁ、なんか判らんけど前にこの部屋に住んでた奴が放置していったらしくてな。ほら、ベランダの外に木が一本見えるだろ?あそことこの部屋を根城に生活してるらしいんだわ」 これは後で聞いたのだが、ベランダには「ヴェートーヴェン君」という名の亀も居るらしい。つくづく自分の名前が「エリザベス13世」とかにならなくて良かったと思った 「・・・しかしまぁ元気と闘志はあるみたいだな?いい感じだぜ。これでバトル向きの性格じゃなかったらどうしようかと思ってたんだ」 「・・・?マスター、どうするんだ?」 「バトルスペースへお前を連れて行く。なんつったって『武装』神姫なんだからな。お前の力、見せてもらうぜ?」 歯を見せて笑うマスター。後ろにボナパルト君さえ居なければ、私はとても凛々しい表情で「応」と言えただろう 神姫のバトルは、実際に神姫同士を戦わせるリアルバトルと、往年の「プラモ狂○郎」や「ガ○ダム野郎」「プラモ○ォーズ」の様なバーチャルバトルがあるらしい マスターが以前に見た「ツガル」の戦いは、そのバーチャルバトルの方らしく、低位のランカーや神姫が傷付くのを嫌がる人々から支持され、公式リーグに導入して欲しいとする声も一部で上がっているそうだ で、その低位ランカーの草試合・・・サードリーグレベルのバトルが行なえる、近所で唯一の店を目指してマスターは来たのだ 古風な横開きのガラス戸を開ける。来客を知らせるチャイムが店内に響き渡る 古風な店・・・数十年前から時が止まったかの様な印象を受けたと後でマスターは漏らしていた・・・所謂駄菓子屋のレベルの店内に、明らかに不釣合いなバトル筺体 「この近所にこんな店があったのかよ・・・知らなかったぜ」 「いらっしゃい。初めて見るお客さんだね」 そして、店長と思しきフケ顔の青年は、明らかにこんな店の店員をやっているよりは、異星人の残した超戦闘服を着て、世界を征服した秘密結社を打倒して自らこの惑星の王となろうとする方が似合いそうな容貌である(何を考えているんだ私は) 「武装神姫のバトルってのがやりたいんだけど・・・相手居る?」 「・・・ほう。新規さんか・・・成程、ではバトル用のICカードを作るから、神姫と一緒に奥に来てくれるかな」 武装の登録等を取敢えず一通り済ませる迄におおよそ一時間を要したが、マスターは随分やる気のようだ・・・無論私も、緊張感と共に、マスター言う所の「闘志」が湧き上がるのを感じていた 「佐鳴 武士君と、華墨君だね・・・?これで登録終了だ。多分今日も待っていたら『槙縞ランカー』が一人や二人くらいは来ると思うから、その人達と戦って見ると良い」 「『槙縞ランカー』って何?」 「この町の地元リーグ・・・この店の名前を取って『槙縞ランキング』と呼ばれているが・・・の事さ。周辺に住んでいる大概の神姫オーナーとその神姫の強さを私達が評価してランキングしている。初めての君にはピンと来ないかもしれないが、中には公式のセカンドリーグでもそこそこいい所まで行くと目される神姫も居るよ」 「凄えなぁ・・・燃えてくるぜ!」 「フ・・・充分に熱血してくれ給え・・・どうしたキャロライン?」 見ると、店長のズボンの裾を引っ張る神姫・・・ストレートロングヘアで一瞬判らなかったが、ヴァッフェバニーか?咥え煙草風のアクセサリを付けている・・・ 「彰人、客が来てる」 店長は客に対応する為に出て行く 「バトルは初めてかい?」 「・・・あ・・・?あぁ」 いきなり声を掛けられて戸惑う。そういえば、何故この神姫(ひと)が相手では駄目なのか? 「済まないね・・・あたしはもう闘わない事にしてるんだ」 「・・・っ!!」 心を読まれたのか!?何だ?この神姫は 私が一人で驚愕していると、店長が入って来る 「武士君、華墨君。早速バトルが出来るようだよ」 それを聞いて、傍にある玩具の箱を見ていたマスターが勢い良く立ち上がる 「おっけい!どんなやつでもかかって来いってんだ!行くぜ?華墨!」 指を鳴らすマスター、喉を鳴らす私。緊張感は胸を締め付ける程になっている 「行ってきな。あんたの力、しっかり試しておいで」 キャロラインと呼ばれたヴァッフェバニーに肩を押され、私はマスターの肩に飛び乗った・・・! 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ