約 730,099 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1954.html
晴れた昼下がり。 特にやることもないのでボーッとしてるわたし。 「何ポケッとしてるの?」 横からわたしの顔を覗き込む人がひとり。 上へはね気味の髪型にはつらつとした表情。 「悩んでることがあったらすぐに私に相談しなさいっ…ごほっ」 胸を叩いて…勢いよく叩きすぎてむせてるこの人は天乃宮未来(あまのみやみらい)、わたしの一年先輩なの。 「でも…先輩は微妙に専門外なの、神姫ファイトの話だから」 「バトロンの事? …スィーマァちゃんの事ね?」 「はい…」 あれから敗北を重ね、後一敗で40連敗。 いまのスィーマァなら勝てる相手でも決着がつかない。 「うーん。…やっぱり精神的な問題じゃないかな?」 「やっぱりその結論に達しますの…」 一度も勝ってない(引き分けはある)となれば、自分のアイデンディティに疑問を持つのは当然。 しかも自分を負かす相手は必ずゲイトだ、自信が持てなくなるのはわかる。 「最低でも年度が変わる前に何とかしないと、下手したら思いつめて…」 その言葉を受けて怖い映像が頭をよぎる。 「ひゃーっ!? まずいよマズイのぉっ」 「慌てない。大事なのは「なにが得意かを気付かせる」って事かしらね」 スィーマァの得意なのこと? …うーん、ケーキの切り分け? 「駄目だこいつ…早く何とかしないと…」 「ひどいですよ先輩~!」 拳と拳がぶつかる。 …拳というより、鉄拳と言った方が適切か(材質的な意味で) 「右から踏み込まれた時の反応が遅い! 相手が拳を握った瞬間に手を出す!」 「ぐぅぅ…!」 アームとアームのぶつかり合い。 本来、機械腕による格闘戦を得意とするムルメルティア。だがスィーマァは正直、アーム戦が苦手であった。 「くぁっ!」 左アームでナァダの攻撃を受け流す…が 「右がガラあきになってるぞ」 ズシッ 「ぐぉふぅ……!?」 本体へ直接攻撃を受け、吹き飛ぶスィーマァ。 「すまん、強く叩き過ぎた」 反応はない、痙攣を起こしている。 「まずいな」 …… 「………う」 「気がついたか?」 右わき腹への鈍痛と共にスィーマァは目を覚ました。 「自動修復機能の許容範囲で良かった。もし限界を超えていたら腹を開かにゃならんしな」 「ぴっ!?」 自分の腹が開かれるのを思い浮かべ縮こまる。 「ふ…ふふ…」 「どうした?」 顔を伏せたまま笑うスィーマァ。 「…私って、ホントに駄目ですね……ふふ」 「おいおい…」 「生まれて一度も勝ったことのない、得意なはずの分野も苦手、オマケに戦意までうしなうなんて…」 ぽろり、ぽろりと零れ落ちる涙。 「私なんて…武装神姫失格ですね…」 ぽんっ そっと頭に置かれる手。 「みぇっ?」 ぱたん そしてそのままナァダの膝枕へ。 「…確かに、戦いの本質は勝つことにある。しかし勝つという気持ちが負けていれば勝てる戦いも勝てない、お前の状況はまさにそれだ」 「……」 「自分に自信が持てない者が勝てるはずが無い、…そのはずだ」 ふわりとした髪を撫でる。 「アーム戦がどうしても駄目なら、その発想を捨ててしまえばいい。ようは逆転の発想だな」 「……」 「…スィーマァ、どうした?」 「…すぅ…」 「何だ、寝てしまったのか。…まあ、話を聞いていたのならどうにかなるだろう」 ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 夜、具体的には午後11時05分。 かたっ 「すぴーっ…」 ひゅっ…がたん! 「むぅ……どうも寝苦しい…」 多分夕飯のコロッケが胃をムカムカさせてるんだと思う。 微妙な吐き気を催しつつ起き上がる…と、ここで机に目がいった。 ひゅっ ひゅっ 小さな影が素振りをしていた。 「スィーマァ」 「あ…!? すみません、起こしてしまいましたか?」 「んー、胸やけで起きただけだから違うの」 …そうだ、この際だから聞いてみよう。 「スィーマァ、あなた…ゲイトに勝てる自信ある…?」 それを聞き、少し黙った後。 「自身はないですけど、勝てる見込みは掴みましたよ」 あら、いつの間に? 「だから、ちょっと用意してもらいたい物がいくつか…」 「これで負けたら40連敗だな、古代」 「いちいち言われなくてもわかっているの!! そのテングっ鼻をへし折ってやるから!!」 嫌味で言ってるにちがいない、こいつは昔っからそうだったもん。 「さあ、さっさと始めようぜ」 …… リフトから対戦筺体へと進入してゆく神姫達。 そのデータと姿が液晶に映し出される。 ゲイトはスタンダートなチーグル+サバーカ装備。 対するスィーマァが携えるものは、拳銃ただ一丁のみであった。 「古代、遂にヤケでも起こしたのか?」 「そんな訳ないじゃないの、わたしはいつでも真剣に組んでるもの」 あまりにも自信が溢れているすすみを見 「…何を企んでいる?」 そう呟いた吹雪であった。 [battle start スィーマァVSゲイト] 特攻神姫隊Yチーム?に戻る トップページ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1699.html
とある日の三河家 目を覚ますと何やら違和感が。はて、なんでしょうこれは?あ、お早う御座います。結です。 体機能に異常はありません。手足も問題なく動きます。 んー、でも何か違和感があるのです。 「・・・あっ」 手をグッパ、グッパとしていて気が付きました。本来犬型の手は黒いのに今動いている私の手は肌色です。昨日言われていた「考え」とはこの事だったんですか。何ともはや仕事が速いですね。 「ん?」 と言う事は・・ 「・・・・・・!!!」 自分の体を見下ろし数秒、狼狽します。クレイドルの上で全身肌色の私が寝転がっているんですから仕方ありません。寝る前に着ていた寝間は横に畳んでありそれを引っ掴んで即行で着ます。 あー、吃驚しました。 冷静さを取り戻すとクレイドルを文鎮代わりにしているメモを見付けます。 『昨日言っていた通り体の外装を交換した。一応以前の外装は保管していあるから問題があるようなら帰宅後言うように。後一応裸なんだし下着を用意しておく』 メモの横に包装されたままの神姫用下着が置かれていました。 「ありがとう御座います。ご主人」 メモに向かって一例を。でも出来れば寝ている時にタオル掛けておいて欲しかったかも・・・ いつもの巫女服に着替える前、下着を付けます。 が、袴なので下はいいとしても上は少々不釣合いのようです。薄布とはいえ白小袖では浮いてしまいます。ここは今まで通りサラシを巻いておきましょう。最後に白足袋を履いて時計を。 「えぇ!?」 時刻は午前10時、いつもの起床時間より4時間も遅いです!急いでお勤めをせねばなりません! 一路境内へと走ります。 「寝過ごしました!すいません!」 境内を掃除されていた奥さんに謝罪をして竹箒を手にします。 「お早う。話は聞いてるわよ、ゆっくりしてなさい」 「お早う結さん。今日は休む事がお勤めだ」 宮司さんも箒を手に拝殿前にいらっしゃりそのままご夫婦で掃き掃除を続けられます。 「ですが・・・」 「「ダメ♪」」 さて、何をしましょう。お勤めはお休みとなりましたし盆栽は今のところ手を加えられませんし。 「トレーニングしますかね」 体の確認も兼ねて軽めのものをこなすとしましょう。 仕込みを抜いて剣の型を始めます。 上段に構えてから唐竹、逆風、袈裟懸け、右切上、左薙ぎ、逆袈裟、左切上、右薙ぎ、最後に腕を引いて刺突へ。剣術に於ける最も基の型を続けます。 「ふむ」 どうやら間接や稼動部のメンテもして頂いたようです。手足は滑らかに、昨日までよりもより軽快な動きが出来ています。 調子に乗って逆手での連撃まで練習してしまいました。 お昼まで練習を続け一旦休憩をと公園へ向かいます。 「ふぅ」 ベンチに腰掛一服を。そういえばこう何も無くのんびりするのは久々な気がします。いつもならお勤めや盆栽の手入れなどしていますしね。 「にゃぁ」 「あっ、こんにちわ」 公園から来たのはご近所の猫サスケさんです。この方飼い猫なのに野良達を束ねているのですよ。しかもご老人方に人気なのです。日がな一日ここでのんびりしている姿が癒されるのですね。自分より大きなその体を撫でているだけでなんともゆったりできるので私もファンだったりします。 そんな彼をモフモフして過ごすのも良いものです。 昼過ぎ、ご主人が帰宅されました。 あれ?今日は平日なのにどうされたのでしょうか? 「今日はお早いですね」 「半休。それより体はどうだ?」 「問題なく。寧ろ調子が良いくらいです」 満足そうに頷かれ鞄から神姫センターの袋を出されます。 「それは?」 「今日は何日だ?」 えっ、確か三月の10日・・・・あっ! 「思い出しました」 「自分の誕生日くらい覚えておけ」 そうなのです。今日は私の誕生日でした。厳密にはこのお宅に来た日なのですけどね。宮司さんご夫婦がその日を誕生日とされたのです。 自分事とは言えそれを忘れていたとはお恥ずかしい限りで。 「周りの事には敏感なくせにな」 「面目ないです」 カラカラと笑うご主人と共に部屋に戻りました。 自室で例の袋を開けると出てきたのは一着の服でした。 「思えば巫女服以外着てない気がしたからな」 「とても嬉しいです!」 それを中から取り出します。そっと後ろを向くご主人、紳士ですね。 朱袴と白小袖を脱いで側に畳み新しい服を手にします。藤色の矢絣のお召しに海老茶色の袴と何ともハイカラな組み合わせ、私の好みを熟知されています。更にはいつもの足袋と黒塗りの駒下駄と皮のブーツの二種類を選べるのですよ。 「ご主人」 「ん、似合うぞ」 その一言に何とも言えない幸福を味わいます。「嗚呼、何と幸せな事か」とね。にやける自分が容易に想像できますが笑顔を止める事など無理なのです。新しい服というもの勿論ですけど何よりプレゼントされたという事が嬉しいのです。自身のオーナーからなのですから尚更なのですよ。 「ほれ、ニヤニヤしてないで出掛けるぞ」 「あ、はい。只今」 ご主人の肩の上にて景色を眺めつつ会話を楽しみます。 「ところでどこに行かれるのですか?」 「特に目的地はないな。散歩だよ」 「成る程。それもいいですね」 どこへともなくブラブラと、ゆったりとした時間は穏やかで何気ない会話も楽しくて。ただの散歩にもこんなに幸福はあるものなのですね。 「あれだな、お前がウチに来てからもう2年か」 「ですね。早いものです」 のんびりとご近所を散策しつつ会話は過去の日へと。 春先に私はここに来ました。 オーナー登録を済ませた私が見たのは暖かな陽日と穏やかな境内の風景でしたっけ。 「ここがご主人のお住まいなのですね」 「ん。後両親と近所の野良、お前もな」 宮司さんご夫婦との挨拶に始まり神社を案内して下さいました。そしてお昼、私にとって重要な事が起こります。 「こんにちわ」 「おー、早かったな」 大学をお休みした直子さんがいらっしゃいます。手にした大きなトートバックには何やら着替えらしきものが見えていました。 「取敢えず上がってくれ。もう少し辺りを回ってくるから」 「はい。そうそう、こっちの二人も起こしておきますね」 境内を出てご近所を散策します。「近所くらいは知っておけ」との事で。 少し歩けば秋葉原の電気街、反対側に向かえば住宅地、道を2、3本交えるだけで景色はガラッと変わるのでとても楽しかったものです。更に小さな商店街では私達同様に神姫を連れた方を沢山見かけました。皆楽しそうで印象的でしたよ。それに空気がなんだか暖かくて。 「大体こんなとこかな。把握できたか?」 「はい」 目覚めたばかりでまだまだ感情表現が薄く気の利いた応えが出来ませんでしたね。 一通りの散策を終え帰宅するとそこには直子さんが。 「只今戻りました」 「お帰りなさい」 ご主人の肩から見たその姿は境内の雰囲気と相まって落ち着けるものでした。来訪時の私服から着替えた直子さんは白の着物に朱色の袴、巫女の出立で淑やかでした。その姿に私は何かを感じます。 「あ、あの、そのお姿は?」 「うん?巫女よ。神社のお勤めをする女性の事ね」 ただ境内を掃除しているだけだった筈なのに私は深く感銘したのです。そして、 「ご主人、唐突ではありますがお願いが御座います!」 「ちゃんとしたのは後で造ってやるから暫くはそれで我慢してくれ」 「勿体無いお言葉です!ありがとう御座います!」 奥さんの趣味たる手芸の技術をもって私は巫女服に袖を通したのです。家事でお忙しいでしょうに快く誂えて下すッた奥さんと着替えた私を神前にて祈祷を捧げて下すッた宮司さんには心よりのお礼をしたのは言うまでもありません。勿論ご主人もですよ。 「それじゃ次は私の番ね」 「お願いします!」 ご主人の肩をお借りし直子さんのご指導を頂戴します。 効率の良い掃き掃除の仕方からお勤め全体の流れ、特に塵の積もり易い場所や社務所での手順に参拝の仕来り等々、細かなところまで丁寧にご教授頂いたのです。更には宮司さんから木々の手入れの仕方を、奥さんから家事全般の教えを。 「ウチにも巫女さんが居てくれると助かるわ」 「だな。バイトさんだけでは厳しい時もあるしな」 「精一杯励まさせて頂きます!」 深々と頭を下げ今後のお勤めの意気込みを示しましたよ。 「好きな事するのも肝心だ。でも偶には付き合えよ?」 苦笑のご主人を覚えています。 「勿論です。私は武装神姫でオーナーはご主人なんですから。本来のバトルも誠心誠意、粉骨砕身の決意です!」 「ああ。でもま、バトルも楽しみ優先で行こうな。「好きこそモノの」ってやつだ」 「はい!」 その後春音さん、綾季さんとのご対面をし夜には祝賀となったのでした。 「思えば中々に長い期間たったのですね。光陰矢の如しですね」 「だな。それから10日後だったな初陣は」 「はい。覚えていますよ」 私は少し苦笑します。 境内の掃除や手水舎の準備は最初は手間取ったものです。 そんな日常も少しずつ慣れ始めた頃、私は始めて神姫センターに赴いたのです。 日頃ご主人の帰宅後にトレーニングを積み重ねていた私は犬型の基本装備を何とか使える程度にはなっていたました。 「次の金曜日休みだから行ってみるか」 「はい」 その時はまだこの近辺のレベルも知らず初陣に心躍らせていましたっけ。 当日。 午前というのもあって比較的空いているいる時間帯にセンターを訪れていました。 「・・・スゴイですね」 「だなぁ」 バトルの様子を大きなスクリーンで見ていた私達はその迫力に圧倒されていました。思えばこの時点で気負っていたのかもしれません。踊っていた感情は形を潜め代わりに緊張が押し寄せてきていました。 「ま、初陣だし胸を借りるくらいで行けばいいさ」 「は、はい」 解そうとして下さるご主人の声は聞こえていても私の中は「勝たないと!」と思うばかりでした。 そして私は負けました。それはもう一方的な敗北、正に惨敗でしたよ・・・ 筺体を離れテーブルにて私は落ち込んでいました。 「気にし過ぎ。最初から巧くなんていかないものだ」 「ですが流石にアレでは・・・」 自身の情けなさに暗くなる一方でしたね。 その後も数回バトルをしましたが結果は明白、私は本当に「武装神姫」なのか?と思う程のものでしたよ。 翌日からはお勤めの合間を縫ってはトレーニングに励みました。 只々我武者羅に。でもそれは素人の考えでした。巫女とバトルの二束の草鞋な私は何度もバッテリー切れを起こしては皆さんにご迷惑をお掛けしました。その度に心配されていたにも拘らず無茶もしました。終いには折角頂いた巫女服を損傷するまでに至ります。 「・・・・申し訳ありません・・・」 「服はいいのよ。それよりもあまり無茶ばかりするもんじゃないわよ?」 「そうだぞ。一朝一夕で実力は高くなんてならんさ、少しずつでも続ける方が余程効率も良いし何より負担もすくない」 修繕して頂いた巫女服を着た私は益々落込んでいきました。どうしてこうなんだろう?なんて自分は不甲斐ないのだろう?と。 ある日有給休暇で家にいらっしゃったご主人に私はお願いしました。 「ダメだ」 「何故ですか!?」 「これ以上無理してみろ、それこそ壊れるぞ?」 「ですが・・・私は武装神姫です。バトルに重きを置いていると自負しています。なのにこんな実力では・・・」 トレーニングの増加を進言した私、何も判っていませんでした。 「確かにお前はバトルをメインで考えていた。でもな、その前に体壊したら本末転倒だろう」 「・・・」 言葉を返しはしませんでした。でも表情に表れていたようで。 「なら3日だ。3日だけ試させてやる」 「ありがとう御座います!」 困った表情のご主人が印象的でした。 それから3日間、私はお勤めを休みトレーニングに明け暮れました。 格闘技、投擲、射撃。全ての武装を片っ端から使い的を射るだけのものです。それでもほんの少しは武器の特性を覚えては行きましたがとても効率的とは言えないものでした。簡単に言ってしまえば無駄骨です。何か一つを極めんとしていれば結果は変わっていたかもしれませんがその時は只「覚えれば使える」と勘違いしていたのです。 約束の期日が過ぎいよいよバトルとなった土曜日。 「勝ってきます」 「・・ああ」 あれ程の修練をしたのだ、負けるわけがない!そう思っていましたよ。 でも現実は厳しかったですね。 たった一撃、しかも有効打とは言い難い攻撃が当たっただけでした。 終った・・・・ 私はリセットされるのだろうと覚悟しました。オーナーの意向に背きこの有様では言い訳もできません。 「ま、気にするな」 ご主人の言葉に気遣いを感じましたが私はもうダメでした。 テーブルの上へたり込み宙を傍観していましたっけ。 私は勝てないんだ。努力してもダメだった。もうバトルはしないでおこう。そんな事ばかりがAIを埋めていきました。 その時です。あの方にお会いしたのは。 「お前さん。一歩って小さいと思うかい?」 湖幸さんです。 それ以後は以前お話した通りです。 師匠の教えに今までを思い返し反省しましたね。そして皆さんに謝りました。穏やかに微笑まれる皆さんを鮮明に覚えています。 「あの時は本気で焦ったな。ここまで思い詰めるとは思わなかったし」 「お恥ずかしい限りです。今思い出すと・・・いえ、恥ずかしいので止めておきます」 カラカラと笑うご主人。私は赤面して俯きます。なんで恥ずかしい事とかって忘れないんでしょう? 過去の話に花を咲かせ、笑ったり、照れたり。何気ない会話を楽しみ続けました。 日が傾き始めた頃私達は神社へと戻ります。 夜はお祝いと豪勢なお食事を頂きました。何とも恵まれ過ぎな自分が申し訳ない気がします。 今年で二回目の私の誕生日、より絆を感じれるこの日、とてもとても幸せでした。 「でも忘れてたけどな」 「ぁぅ~」 現在装備 巫女服 ×1 仕込み竹箒 ×1 玉串ロッド ×1 御籤箱ランチャー(改) ×1 灯篭スラスター ×2 リアユニット賽銭箱 ×1 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1002.html
ep01 飛鳥ちゃん誕生 ※このシリースには今後18禁の描写が出てきます 『私』の意識が覚醒する 今まではセットアップ用のプログラムに支配されていたが、それは役目を終え、本当の私が起動する 目の前には20台前半くらいの男の人がいる この人が私のマスター これから長い神姫道を一緒に歩むパートナー …もうちょっとカッコイイ人がよかったな… 等と考えてもしょうがない 私の使命はこの人に勝利を捧げる事 間垣海洋研究所がその技術の総てを結集させて作った私には雑作もない事だ 「…あれ?おかしいな?」 …っと、ちょっと考え事をしすぎたようだ 私は『私として』の初めての言葉を、目の前の人にかける 「おはようございます、マスター」 「あ、動いた。よかったぁ~」 どうやらいらぬ心配をかけてしまったようだ 「それではマスター、私に名前をお与え下さい」 「名前はもう決めてあるんだ。君の名前は『飛鳥』だ」 「アスカ…了解しました。この名に恥じぬよう、マスターに尽くしたいと思います」 「そんなに気張らなくてもいいよ。ウチはマッタリ派だから。あ、勿論バトルしたいってならちゃんとサポートしてあげるよ」 「ご安心下さいマスター。必ずやこの最新型の私がマスターに勝利の栄光をもたらして見せます」 「こら飛鳥、バトルってそんなカンタンなモンじゃないぞ」 「大丈夫です。この飛鳥、セイレーン型の誇りに賭けて必ずや…」 「ちょっとまて飛鳥、今なんつった?」 「はい、大丈夫です、と」 「いやその後」 「セイレーン型の誇りに賭けて…」 その言葉を聞き、バッと私が入っていた箱を掴み、パッケージを見る 「…しまったぁ」 「…何か問題でも?」 この慌てぶり、一体何があったのだろうか? 「いや、大したことじゃない、大したことじゃないんだが…その…スマン」 いきなり私に謝るマスター 「何か不都合でも?」 「いやその…ずっと「鳥型神姫」だと思ってたもんで、鳥っぽい名前付けちゃった…」 「はい?」 「すまん!今までみてた掲示板だと、ずっとエウクランテの事を鳥子って書いてたもんで!」 ちょっとショックを受ける私 「まー許してあげてよ。コウちゃん、良い名前ないかなーって、ずっと考えてたんだから」 不意に別の所から女の子の声が聞こえてきた しかしこの部屋にそれらしき人影は見えない 「あっ、こら美孤、急に出て来るんじゃない」 ひょこん 物陰から現れたのは小さな小さな女の子-神姫であった 「えへへー、あたしの名前は美孤。よろしくね、飛鳥ちゃん。わーい♪可愛い妹が増えた~」 スっと手をのばしてくる彼女 -データベース照合- 彼女はマオチャオ型神姫と判別 フリフリのドレス-メイド服と言ったか-を纏った、ごく普通の神姫のようだ 「飛鳥、でいいです。私も貴方のことをミコと呼びますから」 「ふえ?」 「私はマスターに勝利を捧げる為にここに来たのです。貴方の様な愛玩用神姫とは違うんです」 「こら飛鳥!姉に向かってその暴言はなんだ!」 マスターが怒りの声を上げる 「申し訳ありません、マスター」 私はマスターに謝罪した 「…謝る相手が違うんじゃないか?」 「いいよ、コウちゃん。私は気にしてないから」 ニッコリと微笑みながらマスターを宥める美孤 「…どうしたんですか、ご主人様?」 ヒュゥと軽い音を立てて一体の神姫が飛んできた -データベース照合- アーンヴァル型神姫と判別 標準的な武装を付けた神姫のようだ こちらはバトル用なのだろうか? 「あのマスター、こちらのかたは…?」 「初めまして、私はアーンヴァル型神姫のエアルといいます」 マスターが答えるよりも早く、彼女が答えた 「エアル、さんですね、私は飛鳥といいます。以後宜しくお願いします」 「…なんか随分、美孤の時と態度が違うな…」 「それよりエアルさん、この家のバトルトレーニング施設はどこにあるのでしょうか?」 「あ、えっと…」 チラっとマスターの方を見るエアル マスターははぁーっとため息を付きながら 「しょうがない、エアル、案内してやってくれ」 「解りました。では飛鳥さん、行きましょう」 私はエアルと共に、訓練施設へと向かっていった 「はぁーっ、なんか大変な娘みたいだな」 「でもコウちゃん、素直な子みたいだよ」 「しっかし、お前のことを完全にバカにしてるぞ」 「別に気にしてないよ?」 「ははっ。もしお前の実力を知ったら、さぞかし驚くだろうな」 「うーん、やっぱ少し心配かな。自信があるのは良い事だけど、なんか自分の心に嘘付いてるみたいだから」 「どういうことだ?」 「武装神姫はこうじゃなきゃいけないって思ってるみたい」 「といっても、言って聞きそうもないよなぁ…」 「ふふ…そんな時は、コレで語るんだよ」 そう言って、グッと拳を掲げる美孤であった
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2125.html
ウサギのナミダ ACT 1-12 □ 海藤がコーヒーカップをゆっくりと配り、そっと溜息をついた。 「僕がバトルロンドをやめた理由……言ったことなかったっけ?」 「ないな……君から自分のバトルの話自体、聞いたことがない」 そうか、とコーヒーを一口飲んで、また一つ溜息をつく。 海藤も以前はバトルロンドのプレイヤーだった。 実力もかなりのものであったらしい。 だが、俺が神姫を血眼になって探すようになった頃には、すでにバトルロンドをやめていた。 だが、興味がなくなったわけではないらしい。 今でも、主要な大会の映像はチェックしているようだし、バトルロンド用のパーツや改造方法なんか俺より詳しいくらいだ。 だからなおのこと、俺には海藤がバトルをやらないことが解せない。 「……あまり、格好のいい話じゃないんだ」 「……今の俺以上に格好悪いマスターはいないから安心しろ」 苦笑しながら、海藤はさらにコーヒーを一口。 そして、観念したように目を閉じた。 「僕がバトルロンドをやめた理由はね……バトルロンドを嫌いになりたくなかったからだよ」 かつて、俺も通うあのゲームセンターに、腕利きの神姫プレイヤーがいた。 空中戦闘タイプで、近距離、遠距離共にこなす万能タイプ。的確な戦術と、高度な技術に裏打ちされた戦闘スタイル。 マジックマーケット社製の武装パーツを中心に組み上げられた武装は、エウクランテの羽とイーアネイラの下半身パーツを中心にして、水中を泳ぐがごとく自在に飛行することが出来た。 勇猛果敢な戦闘スタイルと、空中を自在に翔る姿から、『シードラゴン』とあだ名されていた。 それが、海藤仁と神姫・アクアだった。 「シードラゴンか……聞いたことあるな……三強の一人が、同じような武装をしている」 「あの装備は、羽と鰭の連動が難しいんだけど……へぇ、使いこなせる神姫がいるなんてね。会ってみたいな」 「……やめておいた方がいいぞ。人間性に問題があるから」 シードラゴンは公式大会にも積極的に参加した。 公式のポイントも稼ぎ、ホビーショップや神姫センターで行われるローカル大会でも勝つようになり、少しずつ知名度も上がっていった。 いきつけのゲーセンではトッププレイヤーの仲間入りを果たし、シードラゴンの噂を聞きつけてゲーセンにやってくる神姫プレイヤーもいた。 そして、来たる全国大会。ここC県エリアの代表候補に、シードラゴンのアクアの名前が挙がっていた。 「その当時のこと、『ヘルハウンド・ハウリング』のマスターなら知ってるかな」 「ああ、彼はまだバトロン現役なんだ? がんばるなぁ」 「最近は三強の一角で、ちょっと天狗になっているけど」 「僕がやってるころはまだ、その二つ名で呼ばれはじめた頃だったよ」 そして、待ちに待った全国大会の地区予選の時がやってきた。 公式の神姫センターで開催される大規模な大会。 県内から有力な神姫が集まり、バトルを繰り広げる。 海藤とアクアは、意気揚々と大会に臨んだ。 シードラゴンは順調に駒を進めた。 そして準決勝。 いずれ劣らぬ武装神姫ばかりだったが、マスターと神姫の連携、戦術はシードラゴンが頭一つ抜きんでていた。 C県エリア代表はシードラゴンのアクアだと、誰もが信じていた。 海藤も優勝する自信があった。 「だけど……僕たちは準決勝を戦えなかった」 「……なぜ?」 「他の準決勝進出者からクレームが入ったんだ。違反行為をしている可能性がある、ってね」 「そんなこと……君がしたとは思えない」 海藤との付き合いは高校一年の時からだが、そういうルール違反に手を染めるような性格でないことはよくわかっている。 「うん、僕もしていない。しているはずがないんだ。でもさ……その準決勝進出の三人のマスターが口をそろえて抗議したんだ。 その理由がさ……おかしいんだよ」 海藤は笑った。ものすごく苦いものを飲んで、その味をごまかすような表情で。 「イーアネイラだから」 「え?」 「イーアネイラが、準決勝まで勝ち上がれるはずがない、そんなに強いはずがない、何か問題行為をしているに決まっている……ってね」 「な……」 俺は驚きを通り越して、あきれかえった。 そんなバカな話があるか。 特定の神姫が特別弱くて、決して勝ち上がってこられないなんて。 「そんなの、いいがかりもいいところじゃないか」 「うん……でも、その抗議は受け入れられた」 「……は?」 「それで、大会のスタッフが、準決勝前にアクアのボディと武装をチェックした」 アクアがテーブルの上から、心配そうに自分のマスターを見上げている。 それを見て、俺の胸が痛んだ。 気軽に振っていい話じゃなかった、と今更後悔した。 「そしたらさ……武装に塗った塗料から、ごく微量のレーダー攪乱効果のある成分が見つかったって。 確かに、アクアの武装をネイビーブルーで塗装していたんだけどね……」 「……何の塗料使っていたんだ?」 「普通の、ホビーショップで売っている塗料だよ。一番ポピュラーなやつ」 「そんなの、他に使っている神姫だっているはずじゃないか!」 あんまりな話に、つい声が大きくなってしまった。 すまん、と謝り、俺は下を向いて、海藤の話しに耳を傾ける。 「うん……だから、僕も抗議したよ。でも通らなかった。 もし準決勝を戦いたければ、塗装をしていない武装だけ使いなさいって言われてね」 視界に、海藤の手が見えた。 握った拳が白くなっている。 強く、握っている。今思い出しても、拳を握ってしまうほど悔しかったのだ。 「そんなことをしたら、アクアは何の装備もなく、素体だけで戦うことになってしまう。 それは無理だ。だから……棄権したんだ」 「……」 「で、その準決勝に出た三人が、実は秋葉原の神姫バトルミュージアムの出身でさ……」 「ちょっと待て。県内でバトルしてたわけじゃないのに、C県エリアの代表大会に出てたのか!?」 「そうだよ」 「そんな……それは筋が通らないんじゃないのか」 たとえば、高校のインターハイとかで、個人競技の選手が、都内の高校に通っているのに、別の県のインターハイ予選にエントリーして優勝してしまう。 それを「県の代表」ということが出来るのか。 「だけど、バトルの取得ポイントさえ足りていれば、どこの神姫センターの大会にでもエントリーできるんだ」 「そんなバカな……」 「そうなんだから仕方がない。 それで、そのバトルミュージアムでは、激戦の秋葉原を避けて、あちこちの郊外のエリア大会に遠征組を派遣したんだ」 「そんな……その連中が勝ち上がったら、全国大会じゃなくて、そんなの、ただの身内の大会じゃないか……」 「そういうのは少なからずあるよ。おそらく、関西でも、有力な神姫センターやゲーセン、ホビーショップでは同様のことをやってる。そうやって、同じ店から全国大会出場者が一人でも多く出れば、箔がつくしね」 公式大会に出る気は最初からなかったので、海藤の話は初耳だった。 てっきり、参加する大会のエリアに在住していなければ、そのエリアの大会には参加できないものだと思っていた。 今の海藤の話に、俺は納得できなかった。 全国大会ならば、そのエリアを代表する神姫が出場するべきであって、他のエリアから乗り込んでくるなんていうのは、ルール違反じゃないのか。 激戦区の選手達は、確かにレベルが高いのだろう。 地方のゲームセンターでならしているだけでは、勝てないのかもしれない。 だからといって、そのエリアに乗り込んでいって、エリア代表になるというのは違うと思う。 実力があれば何をしてもいいというのか。 その実力がない、地元の神姫プレイヤーが悪いというのか。 見ず知らずの遠征チームがやってきて、実力で大会を勝ち抜いて、地元を代表しますと言ったところで、地元の神姫プレイヤー達は心情的に納得が行かないだろう。 それに、よく見知った神姫が別のエリアから勝ち上がってきたところで、つまらないではないか。 別のエリアには、様々な戦い方をする、未だ知られていない実力者がいて、戦うことが出来るかもしれないのに。 俺が悶々と考えを巡らせていると、しばらく黙っていた海藤が口を開いた。 「まあ、遠野の言いたいこともわかるよ。僕もそうあるべきだと思ってる。 でも、現実は違う。 それで、さっきの続きに戻るけど……秋葉原の神姫バトルミュージアムって、あの鶴畑財閥の経営なんだ。 しかも、準決勝の三人は、鶴畑の次男坊・大紀の舎弟だった」 「っておい……それじゃあ、そのいいがかりは、まるっきり仕組まれてたんじゃないのか!?」 鶴畑財閥といえば、神姫のオーナーで知らない者はいないというほど有名だ。 あらゆる神姫関連の製品を扱っているし、公式大会の大手スポンサーでもある。 鶴畑財閥の御曹司三人は、いずれもバトルロンドのプレイヤーで、こちらも非常に有名である。 次男の大紀は、あまりいい噂を聞かないことで有名な人物だ。 大手スポンサーの鶴畑財閥と、その経営する神姫センター、そこから送り込まれた遠征組と、バックにいる次男坊……誰が考えても、海藤へのいいがかりは策謀だったとしか思えない。 「だけど、証拠がない」 興奮してしまっている俺に対し、海藤は至って冷静だった。 「大会の時は時間もなかったしね……真相は誰にも分からずじまいさ」 「君らだけが貧乏くじを引いて……それで、秋葉原の連中がC県の代表になったって言うのかよ……」 やりきれない話だ。 「大会の後、僕はゲーセンに行くのをやめた……翌日行ったら、みんなに卑怯者呼ばわりされてね……」 「……あそこのゲーセンはそんなのばっかりか」 「まあ、端から見てればそう見えるんだろうし……。 それで、僕はバトルロンドをやめることにした。 僕はバトルロンドが大好きで、今でも情報はチェックしているけど、もう自分でやりたいとは思わない。 実力ではない……何か別のところで勝負が決まっていることが、やっぱり、どうしても、許せなかったんだ。 このまま続けていれば、きっとバトルロンドが嫌いになる。バトルロンドを好きでい続けたいから……やめたんだ」 気の優しい海藤であっても、そこまで許せないものがあるのかと、正直驚いた。 そして、俺は自分が少し恥ずかしくなった。 「すまん……俺ばっかり、辛い目に遭ってるような顔をして……」 「何言ってるんだ。誘ったのは僕の方さ」 コーヒーを淹れ直そう、と空になったカップを回収し、海藤は立ち上がった。 俺があらためてドーナツの箱を開けると、テーブルの上にいるアクアと目が合った。 少し思い詰めたような表情。 アクアは思い切ったように、俺に言った。 「マスターは……それでも本当は、バトルロンドをやりたいのだと思います」 「え……」 「こら、アクア」 コーヒーを淹れて戻ってきた海藤がたしなめる。 「余計なこと、言うもんじゃない」 「ですが……マスターは、あのクイーンの戦いぶりを見て、目を輝かせていたではありませんか。まるで子供のように」 「クイーンのバトルを見て、ワクワクしない武装神姫ファンはいないよ」 海藤は俺の前にコーヒーを置いた。 そして言う。 「クイーンはすごいよね。あの秋葉原で、正々堂々戦って、そして全国出場を決めているんだ。尊敬するよ」 「そうか、秋葉原は鶴畑の……」 海藤は頷いた。 言ってみれば、秋葉原は鶴畑の本拠地だ。 そこで、彗星のように現れた神姫が、フェアプレーで、実力で勝ち上がったのだ。 海藤には大いに思うところがあるのだろう。 「いま仮に、前の装備を引っ張りだしてきて対戦しても、大した勝負にならない。だから対戦する気もないけど、協力はしてあげたいと思うよね」 そもそもクイーンと会う機会もないだろうけど、と海藤は苦笑した。 海藤の家を出るときには、雨が降っていた。 「これを使いなよ」 ビニール傘を貸してくれた。ありがたい。 雨の中、駅に向かう道すがら、俺はまた考えを巡らせる。 バトルロンドをやめた後、海藤はもう一つの趣味である熱帯魚の飼育が行きすぎて、ついには水族館でアルバイトをするようになった。 海藤は大学生だが、水族館に入り浸り、いまはほとんど大学に顔を出していない。 その水族館での仕事に、アクアをアシスタントとして使っている。 それがお客の目に留まり、少しずつ話題になった。 魚たちと一緒に水槽を泳ぐアクアの姿は、まさに人魚姫のようだ。 「K水族館の人魚姫」と呼ばれ、神姫の雑誌の表紙を飾ったこともある。 海藤はバトルロンド以外でアクアが活躍できる場所を見つけたのだ。 彼は俺に言った。 「神姫が活躍できる場所は、バトルロンドだけじゃない。戦う以外の道も選択肢だよ」 そうなのかもしれない。 俺はバトルロンドにこだわっていたが、そうでない道をティアに歩ませることが出来るのかもしれない。 ティアを大切に思うなら、もうこれ以上傷つけたくないと思うなら、そう言う道を探すのがマスターたる俺の仕事かもしれない。 海藤とアクアのように、バトルでなくても、自分達の活躍の場を得て、笑い合うことが出来るなら……それは幸せなことなのだろう。 そんなことを考えているうちに、気がつくとアパートの前にいた。 ポケットから鍵を出す。 扉を開ける。 慣れきった、無意識の動作。 「ただいま」 返事はなかった。 少し寂しい気持ちに捕らわれる。 ついこの間まで、ティアが来るまで、返事なんてなかったのに。 ティアの「おかえりなさい」という控えめな挨拶が、もう耳に慣れきっていたのだ。 ……なんで返事がない? ティアは自主練で留守番じゃなかったのか!? 俺は急いで靴を脱ぎ、玄関を駆け上がる。 部屋に飛び込んだ。 「ティア!?」 そこには誰の姿もない。 静まり返っている。 俺の荒い息と時計の音がやけにうるさい。 夕方の薄暗い部屋の中、PCのディスプレイの明かりが浮き上がって見える。 俺はマウスを操作し、スクリーンセーバーから通常画面に復帰させる。 マウスの手触りに違和感を覚え、机の上を見た。 「水滴……?」 キーボードやマウスの上のそこかしこに、小さな水滴が点々とついている。 なぜ水滴が……。 俺は不審に思いながら、復帰したディスプレイ画面を見た。 背景はウェブブラウザだ。どこかの巨大掲示板が画面に映されている。 その手前にワープロソフトが立ち上がっている。 短い文面。 「……ばっ……かやろ……っ!!」 次の瞬間、俺はアパートを飛び出していた。 外は雨。 傘を忘れている。 知るか! 俺は雨の中を走る。 ワープロで書かれた、それは短い置き手紙。 マスター もうこれ以上迷惑かけられません さようなら ティア 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/176.html
そのきゅう「たまには勝敗の無いゲームを」 「ティキ、大丈夫かな?」 「心配性だね。大丈夫だよ。オレ達の神姫だっているんだからね」 「お前は初めてかもしれないけど、俺たちは何回かやってるから、安心しろよ」 「しっ。待って、うちの子が何かを見つけたみたい」 その言葉に反応し、僕らはモニターに釘付けになる。 そこにはティキと、他三体の神姫たちの姿があった。 その日僕は、弓道部の仲間で、武装神姫のオーナー仲間でもある式部敦詞に誘われ、チョット大き目のセンターに遊びに来ていた。 式部が言うには、 『武装神姫の、バトル以外の楽しみ方を教えてやるよ』 との事。 一体何の事かまったく理解せず、僕はティキと一緒に半ば強引に式部について行った。 まずそこで僕は二人の男女を紹介される事になる。 チョット背の高い優しそうな顔立ちのお兄さんと、アーンヴァルの素体にストーラーフのコアをつけた神姫。そして眼鏡のクールな女の子とチョット珍しいフブキの神姫。 「はじめまして。オレは司馬仙太郎。君よりはチョット年上の大学生だよ。で、コッチがオレの相棒、ナイア。よろしくね」 「私は結城セツナ。高校二年生。こちらが私の海神(わだつみ)。よろしく」 で、僕はその女の子――お姉さんの名前を聞いて驚くわけだ。チロッと式部の方を見ると、ヤツはニヤニヤと笑っている。 コンチクショウ! わざとだな! 僕は腹をくくって自己紹介をする。 結城さんが僕の名前を聞いて、驚いてから、やわらかく笑った。 『カードキーの様であります』 海神がそのカードを拾いながら言っている。基本装備をほとんど持たない忍者型の海神は、忍者刀・風花に大手裏剣・白詰草、黒き翼プラス一部ヴァッフェバニーの装備で武装している。 『なるほど。それでさっきの扉を開けろというワケね』 そう言ったのは式部の神姫、ツガルのきらり。こいつは先行特別販売でGETしたツガルを事あるごとに自慢していた。きらりは基本的なツガルの武装。 『パターンだネ。もう少し凝ってくれてもイイのにネ』 ナイアはそういうとやれやれとでも言いた気にため息を吐く仕草をしている。ナイアは悪魔型フル装備に天使型のウイングユニットを無理やりつけたような、一際巨大なシルエットをしていた。 『あのあの、そういうものなのですかぁ?』 この中でティキだけがオドオドしているのがなんだか情けない。ちなみにティキはバトル用の武装。だって何やるか聞いてなかったんだから仕方ない。 『そ。こういう探索ものではありきたりの、要するにスペースを無駄にしないためだけの処置ね』 ティキとはすでに見知った仲の、きらりが答える。 『それじゃ扉まで戻る前に、一応奥まで行ってみよっか? 何も無いとは思うけど、初参加がいるからその方がいいでショ?』 その言葉にティキ以外の二体が頷いた。 今ティキ達がいるのはPC上に再現された機械遺跡。ジオラマ作成ツールを利用して作られたモジュールの一つ。そのジオラマに設定されたイベントをこなしてクリアを目指す。 本来はネットを介してやるらしいんだけど、こんな風にオーナー同士集まってやるのもまた一般的。 実際ならそれぞれのユーザーが自作するものらしいんだけど、今回使用しているのはオフィシャルなもの。それでも元は一ユーザーが作ったもので、それを調整したものらしい。 ……ジイ様に聞いたTRPGとか、母さんに聞いたMMOとか、そんなのを彷彿させる。 で、僕達オーナーはなにをするのかと言えば、神姫たちに時限式で送られる後情報を基にした指示を与えたり、一緒になって謎解きなどする事などなど。ま、中にはオーナーが一切何も出来ずに、ただ見守るだけのモジュールもあるみたいだけど。 艱難辛苦を乗り越え、ようやく最深部への扉の前に到着。 そしてここにきてオーナーに向けたテキストが現れた。 『この扉より先、オーナーの指示は神姫に届きません』 なんだよ。最後の最後で観戦モードか。 当然僕らはそれを神姫たちに伝えた。 『ふええぇぇぇぇ? 心細いのですよぉ~』 さすがにティキは不安を隠せないでいる。 しかし他の三体は慣れたもの。動じることなく扉を開ける意思を示す。 そうなるとティキにも僕にも拒否権なんてあるわけもなく、しぶしぶと同意する。 躊躇無く扉を開けるナイア。 広い空間。その空間で複数の神姫が一点を目標に攻撃してる。 『あなたたち、ここは危険よ! すぐに退避しなさい』 目標に向かってマシンガンを打ちながら、こちらを振り返る事無くそのアーンヴァルは言う。 『えっと、そう言われても……困るのですよぉ~』 『ティキちゃん、自動起動するイベントだから。なーに言っても無駄だから。ネ?』 困惑するティキに、ナイアはにこやかに答える。答えながら、臨戦態勢を整えた。 『ふぇ? え?』 何をして良いのか見当もついていないティキ。その脇では海神ときらりも攻撃の態勢を取っていた。 それに習い、ティキもレーザーライフルを構える。 四体が準備をするしないに関わらず、多くのNPC神姫がほぼ同じポイントに攻撃を続ける。 『いける?』 NPCの一体がそうつぶやいた時だった。 しゅるるるるるる あからさまな音を立てながら無数のコードが大勢いるNPC神姫たちに襲い掛かる。 『きゃああぁぁぁぁぁぁぁ!!』 そのコードはまるで自我を持つかのように自在に動き、多数の神姫を一人残らず絡め取る。滑る様に神姫の肌を蹂躙し、手足の自由を奪う。 そして動けない神姫を侵す様にソケットの穴や口に侵入した。……それ以外のところにも。 『いやぁぁぁぁぁぁーーーーー!!』 『あああぁぁぁぁぁぁ!!』 コードに犯された神姫たちが悲鳴を上げた。 それをモニター上で見ていた僕は赤面した。 「……なんかこれってエッチくない?」 小声で隣に座っている式部に話す。 「同感。……女のクセになんで結城はこんなの選んだんだ」 僕と同じく小声で言った式部の言葉を受け、僕はチラリと結城さんを見る。 だが僕には眼鏡をかけたそのお姉さんの表情を図る事が出来ない。 『~~~~~~~!!!』 ティキが真っ赤に顔を染めながら左手のハンドガンで射撃を開始する。狙いはコードの一本一本。 「弾が六発しかないリボルバーで何やってんだよ~」 僕の声がティキに届かない事は自覚していたが、それでも言ってしまった。 『まだターゲットそのものが現れていません。無駄弾を消費するのは賢明では無いと忠告します』 海神が僕の代わりにティキに注意してくれた。 『どうやら大ボスのお出ましのようよ。ティキちゃん』 きらりが両腕のライフルを構える。 そこに現れたのは現行通常販売している神姫五種の首を持つ鋼鉄の大蛇。尻尾の変わりに無数のコードが生えている。その尻尾コードが、他の神姫たちを犯していた。 『……悪趣味~』 ナイアは心底嫌そうな表情で、吐き捨てるようにそう言うと、レ-ザーライフルを発射させる。 それを神姫が繋がれたままのコードで大蛇は防御。その結果、レーザーはNPC神姫を焼き、溶かす。 『ますます持って悪趣味!!』 きらりはそう言うなり、狂った様に二つのライフルを乱射させる。 だが大蛇も防戦ばかりではない。大蛇のコードがきらりの足に巻きつく。 『ひぃっ!』 巻きついたコードに嫌悪感を顕にする。 きらりに向かって更にコードが迫る。 『いやっ!!』 きらりは目を閉じた。 が、いつまでたってもきらりにコードが巻きついては来ない。 恐る恐る目を開けるきらり。そこには海神が立っていた。海神の刀が、きらりに向かってきたコードを断ち切っていた。 「なるほど。神姫の怒りと恐怖をあおる為の演出なんだ」 モニターを注視していた司馬さんが感心した様に呟く。 「いや、だとしても悪趣味なのは変わらないと思うんですが……」 「そうね。でも計算されているわ。オーナーとの連絡は届かず、敵は悪趣味。あの子達、冷静に判断できているかしら?」 僕の言葉に対し、結城さんは冷静に答える。心配じゃないのかな? と思わずにいられないくらいに、冷静。 そういう意味じゃ、とても普段の態度からは想像も出来ないくらいに我を失っている男が隣にいる。 「きらり! きらり!! 大丈夫かーーーーっ!!」 ……お前、最初に僕になんて言ったよ。 そんな間にも状況は変化しているようだ。 大蛇に犯されていた神姫たちが、攻撃に参加し始めた。 もちろん、エネミーとして。 『このままじゃ手詰まりだヨッ! 海神ちゃん、ティキちゃん。私たち援護するから、二人でアイツに接敵して!』 『任務、了解』 『ハイですぅ! レーザーライフル置いて行くですので、使って欲しいのですよぉ♪』 『ありがと。きらりちゃん、行くヨ!』 『あんな目に遭って、更にあんなのに利用されたくないもの。全力で行くわ!』 どうやら作戦が決まったらしい。それぞれ武器を改めて構える。 ティキも西洋剣をスラリと抜いた。 何の合図も無く、四体は同じタイミングで動き出す。 二本の巨大な銃口から光の筋を打ち出すナイア。 そのフォローをするように、ナイアの撃ち洩らしはきらりが両の手のライフルで粉砕させる。 縦横無尽に宙を飛び、地を駆け、時には障害になる敵を刀や大手裏剣でなぎ払い、海神は大蛇へと近づく。 ティキは、味方の援護、敵の銃弾、大蛇の尻尾のその事ごとくを超反応で避け、一足飛びで大蛇に接した。 『一つっ……ですぅ☆』 ティキは大蛇の傍らに到着するなりそう言った。そう言った後、大蛇の首の一つ、マオチャオの首が爆散する。 『ティキとおんなじ顔を、つけてて欲しくないですよぉ♪』 そう言うなりすぐにその場から移動。一拍遅れてその場にコードが叩き付けられる。 『……………………』 何も言わず、海神が大手裏剣を投げる。それはそのまま吸い込まれるようにアーンヴァルの顔がついた大蛇の首を断つと、そのまま勢いを保ち、大蛇の背後の壁に突き刺さった。 ここにきてようやく大蛇に侵された神姫たちの攻撃がティキと海神に向けられる。しかしそれらの攻撃が開始される前に、ナイアときらりが大蛇の手足となった神姫を破壊する。 すでに勝敗は決していた。 「マスタ、恐かったですよぉ~」 現実の体に意識が戻るなり、ティキは僕の頭に飛びついてきた。正確に言えば顔に向かってきたティキを心持避けたら、頭に飛び込んで来たんだけど。 僕は頭の上でじたばたしているティキに意識を向けながら、それでも三人に目を向けずにはいられなかった。僕は、自分以外の神姫オーナーを知らなすぎる。 司馬さんはナイアを肩の上に乗っけて、ナイアの健闘を称えていた。ナイアはそれに胸を張って答える。 式部は…… あー、なんて言うか、あの普段の態度は何処行ったんだか。頬ずりでもせんばかりにきらりを抱きしめて離さない。 ……正直、付き合い方を改めようかと、本気で思う。 で、結城さんは。 眼鏡の奥の瞳に優しげな光を湛え、そっと海神の頭をなでる。フブキは表情を豊かに表すことが出来ないらしいけど、海神のその顔はなんだかうれしそうで照れくさそうに見えた。 僕は頭の上でなおじたばたとしているティキを自分の掌に乗せて、 「お疲れ様」 と言う。 それにティキは満面の笑顔で答えてくれた。 終える / もどる / つづく!
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/567.html
暗き過去に、深き眠りを(後編) どうやら“かまきりん”の制御は、本体たる神姫素体から蟷螂頭の方に 移ったらしい。恐らく昆虫の頭に専用のAIが仕込んであるのだろう。 AIの導入自体は誰もがやっている事なので構わないが、この使い方は 少々解せなかった。神姫の意思を無視する事は、私もアルマも赦せん! そしてアルマは“アサルトキャリバー”を起動させ、距離を詰める!! 「……ここからは、本気で行きますッ!!」 「Shaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」 「行け“かまきりん”!何かされる前に切り裂いちゃえ!!」 そっと、アルマが自らの腰に手を当てた。ベルトのバックル部分だ。 縁に偽装されたレバーを半分起こすと同時に、“Heiliges Kleid”の アーマーが浮き上がり、垂れ下がっていたマント部分が水平に立つ。 その縁は実剣の様に研ぎ澄ましてある……全てはこの時の為なのだ! 『Plug-out!』 「G、Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!??」 「アルマ!……よし、装備の折り込みと展開は成功した様だな」 再び電子音が叫ぶ。同時にアーマー全体が爆ぜ、四方に飛び散った! 鋭利な装甲板が幾つも胴部に刺さり、蟷螂の悲鳴が空間を支配する。 そして肝心要の爆心地には、既に先程までのアルマの姿はなかった。 ダメージをどうにか堪えた魔物が必死になって、“敵”の姿を探す。 「ぶ、ぶひ!?どういう事……?“かまきりん”ッ!!」 「Urrrrrrrrrrrrrr……!?」 「ここです、あたしはここにいます!」 「ぶふぅ!?あ、あれは……“あくまたん”!!」 皆の視線が上に集まる。キャノンの誘爆やアルマの“装甲排除”によって 鍾乳洞の天井は一部崩れ、外の光がエンジェルラダーの様に差していた。 その輝きを背に天へ舞うのは、黒き一人の武装神姫だった──アルマだ。 「……いいえ、そうじゃないですよ猪刈さん……ッ!!」 「Grrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr……!?」 「あたしは、紅星の閃姫(ロードナイト・ヴァルキュリア)です!」 紅き星の閃きを持つ戦乙女……私が三人の為に考えた二つ名の一つだ。 ロッテに以前約束した事柄であるからな、二人にも是非与えたかった。 センスが壊滅的な猪刈めには、一生こういう思考は宿らぬだろうがな? 「ろ、ろっ?な、なんだよそれ格好悪い……“かまきりん”!!」 「Syarrrrrrrrrrrrrrrrrrrrraa!!!!」 「紅き“戦乙女”の名にかけて……この戦い、頂きますッ!」 悪魔の意匠を一部残す物の、頭上に輝く“天使の環”と弾倉機構を持った 大いなる槍に盾……ロッテに引けを取らぬ“戦乙女”の姿がそこにある! 翼の狭間にある二基のブースターは、さながらアルマの頭髪にも見えた。 ロッテの勇姿と他に大きく違うのは……大型化した腰部のスカートだな。 「なんだよ、ナマイキ言っちゃって!撃て撃てッ!!」 「Shagyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」 「マイクロミサイル!?……ですが、この程度ッ!」 変わり身にすっかり興奮した蟷螂めは、命令通りに全身の装甲から ミサイルを放つ。だが、撃っているのは“かまきりん”ではない。 砲撃特化のフォートブラッグなら兎も角、この程度の戦術AIなら ミサイルの弾道制御も上質ではない。全身のブースターを噴かし、 無数の弾幕を振り解きつつ上空から一気に接近……背後を取った! 「一気に攻めろ、アルマ!勝負を決めてしまえ!」 「はいっ!この槍で……魔物を、倒しますッ!」 ここが最大の勝機と見て、私は最後の指示をアルマへと与える。 猪刈の判断不足に付け込んで、一気に畳み込むチャンスなのだ! 「ブレードスカート起動……はぁあっ!」 「Shaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?」 「鎌が!?な、なにしてんだよぉ、斬れ、踏めっ!!」 “妹”は私の言葉を受けて、スカートに仕込んであった“腕”を 展開。その先端に据えられた六本のブレードを高速回転させて、 振り返りざまに斬ろうとしてきた蟷螂の鎌を、跳ね飛ばした!! 皮肉にも、同じ第四弾のジルダリア・ジュビジー両方のタイプを 参考にした新武装、“ヴァルキュリア・ロクス”の一撃だった。 「貴方の腕は二本。私には……もっと沢山の腕があります!」 「Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!?」 「か、“かまきりん”ッ!?」 そう宣言したアルマは、左手のバックラーを水平に構え……発射! いや、より厳密には盾に仕込まれたクローアームを展開したのだ。 鈎爪は過たず蟷螂の頭を捉え、アームの先端に仕込まれた銃器…… “ジャマダハル”サブマシンガンが複眼式カメラアイを粉砕する! 「捉えました……これで、決めさせてもらいますっ!」 「AhhhhhhhhGyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa……!!」 「ぶひぃ~っ!!!ば、バカなバカなぁっ!?」 AIの戦意が薄れた瞬間を狙い、アルマは胴体を垂直方向に貫く形で 左手で支えた槍を突き刺し、右手に掛かった“トリガー”を弾いた! 同時に炸薬の衝撃で、鋭い穂先が蟷螂の機関部へと叩き込まれる!! 「──────フォイエルッ!!」 「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa……!???!」 「ぶひぃ~っ!!!ば、バカなバカなぁっ!?」 アルマが“別のトリガー”を弾いた瞬間、忌まわしい蟷螂の上半身は 木っ端微塵に爆ぜる。“かまきりん”の武装は全滅、勝負ありだな。 裂帛の轟音が止んだ後には、胴体を砕かれ藻掻き苦しむ魔物が居た。 「ど、どういう事だよッ!?なんで槍だけで爆発ぅッ!!?」 「零距離砲撃をしてはならないと、誰も決めておらんだろうが」 「今回は、シュラム用のグレネード弾を撃ち込んでみましたよッ」 右手の“フラーメイェーガー”は、一見してただのランスではない。 炸薬によるパイルバンカー機能は勿論の事、穂先を通して敵の体内に 弾丸を撃ち込む事が出来る、“零距離砲撃の為の銃”でもあるのだ。 リボルバー機構まであるのに全く気付かない、猪刈めの眼力が悪い。 「今出してあげますから……やああっ!!」 “ヨルムンガルド”を拾ったアルマが、残った蟷螂の躯を斬り捨てる。 その中には、悪夢から醒めつつある“かまきりん”が横たわっていた。 感極まったアルマは武器を全て降ろした後、彼女をそっと抱き寄せた。 「う、ぅ……あれ、小官は……まだ生きてる……?」 「ユニットが壊れて、正気を取り戻したのか。何よりだ」 「……よかったです。助かってよかった、助けられた……!」 「小官の負けみたいですね……話を、聞かせてください」 『テクニカルノックアウト!勝者、アルマ!!』 「これであたしの過去も精算できました、マイスター!」 こうして戦いは終わり、二人は無事にヴァーチャル空間を抜け出した。 以前の時と同じ鐵を踏まない為に、私はエントリーゲートからアルマを 素早く回収……すぐに猪刈の所へと向かった。案の定口論をしている。 別れ際にアルマが2~3助言をした為か、“かまきりん”の目は鋭い。 洗脳か自閉症か分からんが……ともあれ今は、それを振り払った様だ。 「なんであんな負け方するんだよぅ!お前までバカかッ!?」 「お言葉ながら……小官にもマスターを選ぶ権利がある筈!」 「そう言う事だ猪刈。衆人環視の中で約束を破るか、貴様?」 「う、うぐっ!う、煩い!そんな約束なんか……ゲゥッ?!」 あのバカが“かまきりん”を破壊するよりも早く、ロッテが動いた。 私の肩を蹴って跳躍し、猪刈の眉間を“フェンリル”で殴ったのだ。 鉛玉を撃ち込むよりは遙かに弱いが、奴を気絶させるには十分だな。 「蒼天の旋姫(セレスタイン・ヴァルキュリア)が、見届けてますの」 「……ロッテや、二つ名とはバトルエントリー時に名乗る物だぞ?」 「これだって立派なバトルですの。あの娘を救い出せましたしね♪」 「忝ない。後、相談なのだが……マスターを捜していただけないか」 「引き受けよう、最早猪刈などの元で苦しむ事がない様に手配する」 ──────悪夢は必ず醒めるよ、朝はきっと来るのだから。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1595.html
姫の閉ざされし檻、呪われし高貴(その二) 第三節:賢者 半ば日が中天に差し掛かる頃、私達はアキバへと帰ってきた。昼食さえも 摂る時間を惜しみ、駅の売店で買った栄養補助食品とスポーツ飲料を皆で 分け合いながら、神姫センターへと赴く。連休も明けて暫く経った平日の センターは、多少賑わっていた物の……混雑という程の人は居なかった。 「ふぅむ……緊急充電用のレンタルクレイドルは、どれも正常だな……」 「ん~……電源ケーブルが何処かへ引っ張り出された跡も、ないですの」 「となると、ロキちゃんは一体何処で充電しているんでしょうね……?」 「……ひょっとして、充電が不要な位のジェネレータを積んでるのかな」 一緒になってクレイドル周辺をまさぐる梓から、そんな推論が飛び出す。 しかし、強ち的外れとも言えない事情がある。それは、彼女の躯に備わる “装備”だ。可変式の高速電磁浮遊ウィングに、プラズマで固めた武装。 いずれも、莫大な電力がなければ満足に運用出来ない筈なのだ……だが。 「ロキは、平然と動き回っていた。有り得ない話ではないかもしれんな」 「あ、あのー……お客さん?そんな所でしゃがんで、お探し物ですか?」 「……あ、うん。スペーサーを落としたんだよ。でも、見つかったもん」 「気を付けて下さいね?センターではそういうの、賠償できませんから」 流石に不審だったのか、店員が私達に声を掛けてくる。ここでこれ以上の 捜索は無理かもしれぬな……。しかし何らかの形で補給をせねば、いくら 優秀なジェネレータでも限界はある。何処かで、ロキは補給をしている。 それは間違いないのだが、此処に今居ないとなると……何処にいるのだ? 私と梓はベンチに腰掛け、深く溜息をつく。痕跡さえ、見つけられない。 「うぅむ、参ったな。ここで補給しているとばかり思ったのだが……」 「他のセンターで、補給しているかもしれないんだよ。行ってみる?」 「でも、雰囲気悪かったり入った事無いセンターは捜索出来ませんの」 「そう、ですよね。ここでさえ、全てを把握している訳じゃないです」 馴染みの深いこのセンターで何も見つけられない、となると。私の往く 活動範囲には、最早探索できる場所は殆ど無いとも言えるだろう……。 途方に暮れるとはこの事か……?皆で、溜息をついた。その時だった! 「心配はいらないよ、小さなレディ達……奴は確かに、ここで補給した」 「何ッ!?き、貴様は……前田、そして“アラクネー”ではないかッ!」 「こんにちは。まさか、こんな形で再会するとは思わなかったけどね?」 私の眼前に、一人の男と一人の神姫が現れたのだ。“自衛官の”前田と、 “女郎蜘蛛の”アラクネー。何故神姫バトルをしているのかさえ不明な、 謎の多い連中……そして、クララの初戦を務め彼女を導いた“賢者”だ。 知らず知らずにクララ……いや、梓の躯が緊張する。未だ、彼女にとって 尊敬するべき“師”なのかもしれん。だが、彼らの雰囲気は剣呑だった。 「前田さん、アラクネーさん……お姉ちゃん達から、噂は聞いてるよ」 「ふむ、某とクララの仲を知っているのか……ならば、問題はないな」 「そうみたいだね。で、何かお探しなのかな?小さなお嬢さん達……」 「……惚けるな前田よ。貴様は今、確かに言ったろう。“奴”とッ!」 私は、自然と前田を睨む。喰えない男だとは思っていたが、今こうして 微笑みながら向かいのベンチに座る奴を見ていると、尚更分からぬな。 自衛官という立場上、何か知ってるのかもしれんが……どういう事だ? 「ああ、そう言えばそんな事を言ったね。僕もうっかりしていたよ」 「どう考えても、私達の探している者を知っているという態度だな」 「はは……出来れば、違っててほしいんだけどね。で、何だろうね」 梓に視線を移す。鷹揚に笑いかけ、世間話を始めようかというこの男に、 全てを話していいものか。私だけの判断では、どうにも雲を掴む様でな? 尤もロキの手懸かりその物が、既に雲を掴む様な状況になりつつあるが。 しかし暫し迷い、梓は肯いた。“クララ”として、彼らを信頼したのだ。 アルマとロッテも、二人の胸元で肯く。となれば、黙っている事もない。 「……探しているのは神姫だ。否、厳密には神姫と呼べぬかもしれん」 「北欧からやってきた、哀しい定めを背負った一体のMMSですの……」 「ひょっとしたらまだ秋葉原にいるかも知れないって、思ったんだよ」 「だから、その。探してたんですけど……そういう貴方達は、何を?」 前田は深く溜息をついてから、アラクネーを促した。この世の終わりでも 来たかの様なオーバーアクションを確認し、小さな神姫が重い口を開く。 それは私達にとって……そして彼女らにとっても、望まざる展開だった。 「某らが追い求めるは、“ハザード・プリンセス”の零号機に他ならぬ」 「“戦略級殲滅型MMS”って分類の、中規模破壊を行うテロ用兵器かな」 「神姫の皮を被った怪物、それこそが……“国家の敵”たる人形なのだ」 ──────世界はやっぱり、残酷なんだよ。 第四節:信念 自衛官の前田と、彼の神姫たるアラクネーから出た言葉。それは正しく、 最悪の運命が間近に迫っている事を告げる、“賢者の忠告”に他ならぬ。 「テロ用の兵器、人形……だと?貴様、知っているのか……ロキを!」 「知っているよ。僕らの任務は、アレを追いつめ無力化する事だから」 「どうしてですか!あの娘は、マスター達の為にやっただけなのに!」 アルマが梓の胸から乗り出し、泣き叫ぶ。助けようと思った存在が、既に 国家という巨大な“モンスター”から目を付けられているという現実に! それは既に、ロキが『“世界の敵”として認識されている』事にもなる。 「存在自体が、極めて危険なのだ。国家という“大を救う”べき者には」 「彼女の存在その物が、罪でしかないんだよ。そこに在るだけで、拙い」 「故に何としても、彼女を無力化せねばならない。破壊してでもな……」 『存在その物が罪』。この世に産まれ出る者にとって、理不尽の極みとも 言える断定であった。それが器物であろうと……神姫であっても、そこに “心”がある以上、これを理不尽と言わずに何というのか。だが同時に、 国家を……民衆を護らねばならぬ者からすれば、ロキは正に害悪である。 「それが、日本って言う国の考え……でいいのかな?前田さん……?」 「構わないよ。ついでに、日本と繋がる主要な国家の考えでもあるね」 「……驚いた。既に世界規模で指名手配されているのか、ロキは……」 「当然であろう、マスター……晶殿。彼女は、“ラグナロク”の残党」 「僕らもつい先日、逮捕したエージェントの自白で知ったんだけどね」 「捕まったんですか、運び屋さん!?……まさか、彼女を棄てたから」 前田は軽く溜息をついてから、肯いた。あの爆破はやはり“事件”として 警察とは別の治安組織が追っていたのだ。ロキを追う過程で、彼女を運び 秋葉原で棄てていった運び屋の存在が、露呈したのだろう。些か現実味に 欠ける話ではあるが、それでも認識せねばならない……事の重大さをな。 「僕らには、上の命令に従ってロキを無力化するという責務があるんだ」 「その為に……無闇に関わろうとする部外者は少ない方が良い、となる」 「だったら、なんですの?わたし達を傷つけて、国の為に封じますの?」 だが、それよりも早く……身を弁えるという理性的な選択より早く、私の 胸元から“感情”に満ちた声が響く。それこそ、黙って前田達の言い分を 聞いていたロッテの声だった。それは、怒りと哀しみに満ちた音である。 「ロッテ君、だったかな。君達を捕まえたり、傷つけるつもりはないよ」 「ただ……そなたらの介入でロキを逃がす事になっては困る、とな……」 「だったら、わたし達が自己責任でロキちゃんを止めればいいですの!」 啖呵を切るロッテに、前田が目を見開く。この反応は、予想外らしいな。 それは、全てを敵に回してでも助けたいという“信念”故の叫びだった。 アラクネーが睨め付ける様に、アルマと梓……更に私を見据える。それは 幾多の死地を潜ってきた主に引けを取らぬ、一種独特の凛とした気配だ。 「万一そなたらや主に危険が及んでも、何の救済も受けられぬのだぞ?」 「……保険を申請しても、事実は隠蔽されるから保証されないんですね」 「そう言う事、だね。秘密裏に全てを終わらせたい。それが上の考えさ」 「話を聞いてて気になったけど、“破壊”は義務じゃないのかな……?」 「執るべき手段の一つであって、確定事項ではない。無力化こそが重要」 しかし己を譲らないロッテに気圧されたのか、アルマと梓も食い下がる。 ここで自分だけ荷を擲つ事は、“姉妹”として考えも及ばぬのだろうな。 二人の事実確認を受けて、ロッテは続けた。それは、私の考えでもある! 「なら……ロキちゃんが破壊を止めて普通の神姫になれば大丈夫ですの」 「普通の、神姫に?……確かに、神姫の因子を持つ相手だが……無謀だ」 「無茶でも無謀でも、そうなれば国家として敵視する道理はあるまい!」 「ま、そうだけどね。僕としても命令は果たせる。でも、いいんだね?」 それは国家の代行者として『失敗した時は私達を見捨てる』という言外の 意味を含んだ、最終確認だった。本当に、私達は後に退けぬ事へ関わって しまったのだ……しかし、それを悔いるのは全てが終わってからでいい! 「いいですの!わたしは……ロキちゃんを必ず救うと決めましたの!」 「はぁ……参ったね。ここで退いてくれた方が、堅実だったんだけど」 「主よ、最早言っても聞いてはくれますまい。やらせてみては如何か」 がっかりした、という様なアクションをしつつ前田は肯き、立ち上がる。 最早、大っぴらに助けを借りる事は出来ない。私達の力で、なんとしても ロキを“日常”へ引き戻してやらねばならぬ。僅かの失敗も、赦されん! 「小さなレディ達、出来れば……僕らに手間を掛けさせないでくれよ?」 「無論そうする。何処の所属かは聞かぬが、本拠で報せを待っていろ!」 「そなたらは不器用すぎる。だが、そういう生き方も嫌いではない……」 「……恐れ入るんだよ、アラクネーさん。でも、必ず成し遂げるからね」 「あたし達には、それしか出来ませんから……きっと、助けてみせます」 「“武装神姫”の意地にかけて、絶対にやってみせますの……絶対ッ!」 ──────想いの力は余りに強く、皆を震わせるんだよ。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2238.html
ウサギのナミダ・番外編 少女と神姫と初恋と その6 ◆ この試合のステージは、『山岳』ステージが選択された。 山岳ステージは、特に飛行タイプの武装神姫にとって、スタンダードで人気の高いステージである。 小高い丘陵と、森林、そして湖が広がる美しい舞台設定だ。 眺望の美しさもさることながら、地形を利用したテクニカルなバトルが展開されることになり、好ゲームになる率が高いステージでもある。 今回は両神姫とも飛行タイプ。 ギャラリーの熱は徐々に高まっていく。 「勝率がまた少し上がったな」 「運も味方したみたいね」 遠野と菜々子のつぶやきに、大城は首を傾げるばかりだ。 「なあ、いい加減、俺にも教えてくれよ。いったい、オルフェはどんな手を使うってんだ」 「試合を見ていればわかる。おそらく、俺が説明してる間に、試合が終わるから」 その言葉に、大城は改めて、試合の映し出されている、観戦用の大型ディスプレイを見上げた。 いままさに、『玉虫色のエスパディア』が、深緑の上を飛翔しているところだった。 ◆ 『玉虫色のエスパディア』ことクインビーは、森林上空を索敵しつつ飛んでいた。 今日のバトルは簡単だ。 初心者の新型を切り刻むだけでいい。 いつもはたくさんの武装を搭載しているが、今日はノーマル装備である。ほぼすべて近接武器という仕様だ。 だが、心許ないことはない。 むしろ体が軽くて機動性が上がり、いつもよりも戦える気さえしてくる。 彼女のマスターはいつも憎たらしい言動で、嫌われるのも当然かと思うが、バトルの腕は本物だ。 負ける要素が見あたらない。 クインビーはそう思っていた。 すると突然。 クインビーの直下、深い森の隙間から、何かが飛び出した。 「うわっ!」 猛スピードで突っ込んで来た白い塊は、そのままクインビーに激突、弾き飛ばした。 しかし、彼女は身体を振り、スラスターを器用に操って姿勢を制御。 すぐに正位置に戻り、体勢を安定させる。 その間に、激突した各部のチェック。 特にダメージは見られない。 激突してきた相手を見据えたときには、すでに臨戦態勢が整っていた。 クインビーの実戦経験の豊富さがなせる技であった。 クインビーは口元をゆがめ、ニヤリと笑う。 相対するのは、アルトレーネ・タイプのオルフェ。 今日のオルフェの装備は、ノーマルと違い、一対のメカニカルな翼が背中についている。機動性を上げ、先手を取る作戦か。 だが、追加装備はそれだけのようだった。 武器はデフォルト装備のツインランスのみ。 クインビーは思う。 ヤツは、千載一遇のチャンスを逃した! 奇襲ならば、今の一撃で勝負を決めていなければならない。 クインビーは間髪入れずに突撃を敢行する。 弾かれた後の間合いは中距離。 この一度の仕切り直しは、クインビーに有利に働く。 体勢を整える時間と、対峙するチャンスを与えてしまったのだから。 真っ正面から戦えば、圧倒的な実力差を発揮できる。 だからクインビーは突撃した。 蜂須は指示を出すまでもない。彼もクインビーと同じ考えだった。 ギャラリーの多くも同様に思っていただろう。 被我の距離はあっという間に埋まった。 オルフェはツインランスを副腕に持ち、待ちかまえている。 クインビーの背後から、アンテュースサブアームが繰り出される。 先端に装備されたのは、エスパディアの二振りの大剣「ジュダイクス」。 左右から、クインビーの超高速の斬撃が閃いた。 しかし。 「……なっ!?」 クインビーの斬撃は、オルフェに届かなかった。 エスパディアの副腕は、アルトレーネから伸びるカニのようなハサミ状のアームでがっちりと押さえ込まれていた。 クインビーは目を見張る。 オルフェの背中にある、追加された翼が展開し、巨大なアームになって、彼女の副腕を掴んでいたのだ。 今度はオルフェが動いた。 副腕で、ツインランスを正面から振り下ろす。 「くうっ……!」 クインビーは、かろうじて、手にした槍「リノケロス」でその一撃を受け止めた。 アルトレーネの副腕は力任せにクインビーを押し切ろうとしてくる。 じりじりと押される。 クインビーに焦りの表情が浮かんだ。 「くそっ、はなせっ!」 間合いを取るべく、オルフェの身体を蹴り飛ばそうと、脚を振り上げた。 しかし、その脚も、オルフェには届かなかった。 「な、なにっ……」 今度は、スカートアーマーが展開し、やはり巨大なカニのハサミ状のアームになっていた。 そして、クインビーの両脚をそれぞれ挟み込んでいる。 よく見れば、翼も腰のアーマーも同じ形状をしている。翼はアルトレーネのデフォルト装備である、腰部アーマーを組み替えたものなのだ。 そこまで理解したとき、クインビーは気が付いた。 今自分が置かれている状況。 オルフェに、サブアームを含めた四肢を、完全に押さえ込まれている。 まるで空中で磔になっているような状態だ。 クインビーは、正面のオルフェを見た。 戦慄する。 オルフェにはまだ手がある。 彼女はまだ、素体の両腕が自由だ。 今、オルフェは細身の剣を腰だめに構えている。 「ま、まて……」 なぜだ。どこにそんな剣を持っていたと言うんだ。 ふとクインビーの瞳に映ったのは、自分に振り下ろされているツインランス。 今は、ただのソードになっている。 オルフェはツインランスの片側をはずし、もう一本の剣として運用していた。 「そ、んな……そんな、そんな……」 オルフェはまっすぐにこちらを見据えている。 突きの構え。 身動きのとれないクインビーに、かわす術はない。 『オルフェ、いっけえええぇぇーーーーー!!』 「はああああぁぁっ!!」 安藤の叫びとともに、オルフェは躊躇なく突きを繰り出す。 はずすはずがない一撃。 刃はクインビーの胸元に吸い込まれ、CSCを貫いた。 「そんなああああああぁぁぁ……!!」 クインビー無念の叫びが響きわたる。 次の瞬間、『玉虫色のエスパディア』の身体は、無数のポリゴン片となって、砕けて散った。 ポリゴン片が舞い散る中、オルフェは展開していたハサミ状アームを、翼と腰部アーマーに戻す。 そして、二本のソードを振るい、ポリゴン片を吹き散らした。 はらはらと音もなく舞い散る光の粒子の中で、戦乙女は佇んでいる。 その幻想的な光景に、ウィンメッセージが重なった。 『WINNER オルフェ』 試合時間は五三秒。 あっと言う間のバトルだった。 ◆ 「勝ったーーーーーーーっ!!」 有紀の歓喜の叫びと同時、ギャラリーが一斉に沸き立った。 秒殺という、まさに圧倒的な勝利。 誰が見ても疑いのない、オルフェの勝ちである。 涼子と梨々香は、美緒の肩を抱きながら喜んでいた。 美緒自身は喜んではいたが、それ以上に安心しすぎて気が抜けたようになってしまっていた。 二人に揺さぶられて、左右に揺れる視界の中。 安藤は震える両手を見つめていた。 ◆ 遠野の作戦は、こうだ。 一週間という短期間で修得できることは数少ない。 現状のオルフェでも使いこなせる装備といえば、セットされている基本プログラムだけで動作できる、アルトレーネのデフォルト装備しかない。 そこで、オルフェの背中に、腰部パーツを組み替えた翼を増設することにした。 これはアルトレーネの発売前に、雑誌で見た組み替え例だ。 安藤の親戚が、アルトレーネの開発会社に勤務しているとのことで、現在入手困難なアルトレーネの装備を、無理矢理借りさせた。 これで一回の接敵で出せる手数は、エスパディアより多くなる。 「……それ、戦闘中の手数の意味とちがくねーか?」 「いいだろ、別に。勝ったんだから」 そして、蜂須に後からクレームを付けさせないためにも、誰にでもわかる圧倒的な勝利を演出する。 それも初手奇襲による一回の接敵で、である。 そこで考えたのが、先ほどの、大型のサブアームで相手を押さえ込む戦法だ。 相手が手も足も出ない状態での、決定的な勝利。 これなら誰も文句は言えまい。 この一週間のトレーニングは、オルフェが装備を自在に操れるようにすることと、副腕を持った神姫を押さえ込む、という動きに絞りこみ、それを徹底的にたたき込むメニューを作った。 結果は大成功と言っていいだろう。 だが、大城はまだ首を傾げている。 「だけどよ。俺が奴らを見張っていたことに、何の意味があるんだ?」 「それはこの策の大きなポイントだ。 そもそも、玉虫色が安藤を侮っていて、何の対策も行わず、エスパディアのデフォルト装備で戦うことが、大前提の策なんだ。 ヤツが何か対策をするなら、策を練り直さなくちゃならない。『ポーラスター』来られても困る。 そのためにどうしても、監視役が必要だった」 平日来ない遠野が監視役では怪しまれる。 菜々子やシスターズは、オルフェの練習相手に必要だ。 だから、大城にしかできない役目であり、「何もない」という日々の報告が作戦の成功を裏付けたのだった。 「まあ……そんならいいけどよ」 つっけんどんな口調だったが、大城の顔はまんざらでもなさそうだった。 ◆ バトルが終わった後、その衝撃的な勝利の余韻が、いまだに安藤を震わせていた。 自分の両手を見つめている。 手のひらはじっとりと汗ばみ、いまだに細かい震えが止まらない。 それほどに、安藤にとって、今のバトルは衝撃的だった。 百パーセント勝てない、と言われていた対戦だった。 それを覆すために、バトル前から戦いは始まっていた。 知略を尽くした作戦と、それを可能にするための事前の特訓メニュー。 死にものぐるいで身につけた、バトルの基本と技、そして対策のための動き。 オルフェと二人で強敵に挑み続け、戦い抜いた一週間。 その結果、オルフェは、ミスティの必殺技『リバーサル・スクラッチ』さえ、展開したアームで止めることに成功した。 安藤の想い、オルフェの想い、この試合に運命を賭けられた少女の想い、仲間たちの想い、安藤たちを支えてくれた『ポーラスター』の人々の想い。 そして、厳しい訓練を支えた、マスターと神姫の絆。 それらすべてが、この五三秒に結実していた。 安藤は、はじめて遠野に会ったときの、彼の言葉を思い出す。 「すべての要素が噛み合って、はじめて勝利を手にすることができる」 まったくその通りだった。 すべての要素が噛み合ったとき、まるで流れるように、思った通りに試合は進み、興奮が一気に沸き上がった。 だから、最後の一撃の時、思わず叫んでいた。 そして、試合が終わった今も、震えが止まらない。 アクセスポッドが軽い音を立てて開いた。 「マスター! わたし、勝ちました!」 すぐに、安藤の神姫が顔を出し、彼を見上げてそう言った。 花咲くような笑顔。 安藤はまだ回らない頭で言葉を探しながら、答えた。 「そう、そうだな……オルフェ、よくやった……」 口をつく言葉も震えている。 だが、言葉にしたことで、安藤の心の底から、ようやく溢れてくる気持ちがある。 それは歓喜だった。 開いていた両手を握りしめる。 安藤はオルフェを見つめ、笑いかけた。 「そうだよ、オルフェ、お前は……最高だ!」 「はい!」 興奮気味のマスターに、オルフェも表情いっぱい喜びを露わにした。 ◆ 「み、認めない……こんなバトル認めないぞ!」 放心していた蜂須が叫びだしたのは、筐体の表示が待機状態に戻ったころだった。 蜂須の怒鳴り声に、歓声が徐々に収まってゆく。 蜂須は顔を真っ赤にして、安藤に大声で文句を付けた。 「オレが、てめえみたいな初心者に負けるはずがねえ! 今のは練習だ! これから本番、もう一回勝負だっ!」 「ああん? 自分が負けたからって、何勝手こいてんだよ」 肩をすくめて応じたのは有紀だった。顔に呆れたような笑みを浮かべている。 「ふざけんな、今のは練習だったから、ちょっと油断して手ぇ抜いてたんだよ! そうじゃなきゃ、オレが負けるはずがねえだろ!」 「は、そんなの、油断してたお前が悪いんじゃねーか、明らかに」 「うるせえ! とにかく、今のバトルは無効だ! もう一度勝負しろ!」 「勝ったのに、もう一度バトルしてやる理由がねえだろ、バーカ」 「黙れ、デカ女! オレは安藤に言ってんだよ!」 蜂須が激しく睨みつけている。 安藤は静かに蜂須を見据えた。そしてはっきり言った。 「断る」 「なんだとぉ!? てめえ、練習試合で、しかもまぐれで勝っといて、勝ち逃げする気かよ!」 「するさ、勝ち逃げでも何でも。今のは練習じゃない、俺は真剣に戦った。まぐれだって勝ちは勝ちだ。もう二度と、あの条件でバトルする気はない」 「くそっ、卑怯者! だいたい、こっちがノーマル装備で戦ってやってるのに、お前は武装強化しやがって……どこまできたねえんだよ、てめえは!!」 その発言に、梨々香が肩をすくめて反論した。 「ノーマル装備で勝ったら、美緒ちゃんにやらしーことするって条件を出したの、そっちじゃない。それで喜んでノーマル装備でバトルしてたのに、相手を卑怯者呼ばわりはないんじゃない?」 すると、ギャラリーが一斉にブーイングをした。 その声があまりにも大きくて、安藤が驚いたほどだ。 ギャラリーはわかっている。卑怯なのは玉虫色の方だということを。 そもそも、彼をいけ好かないと思っている常連は多い。 今まで溜まった鬱憤が、ここで吹き出したのだ。 蜂須は戸惑いながらも、それでもなお食い下がろうとした。 「だ、だったら、今の勝ちは認めてやる。三本勝負にしてやるよ。先に二勝した方が勝ちだ!」 「負けたから三本勝負にするって……小学生じゃあるまいし」 心底呆れた表情で涼子が言う。 ブーイングはさらに強まった。 「うるさいうるさいっ! オレは三強だぞ!? このゲーセンで三本の指には入る強さなんだぞ!? こんな初心者のバカに負けたなんて認めるか!」 「……いい加減にしとけ、玉虫色の。もうお前は三強とは呼べん」 「な、なんだと……!?」 蜂須は驚いて、その声の主に顔を向けた。 ギャラリーの中に立っているその人物は、坊主頭で筋肉質の男だった。 彼は、蜂須と同じ『三強』の一人、『ヘルハウンド・ハウリング』のマスター・伊達正臣である。 「な、何言ってんだよ、ヘルハウンド……」 「初心者に油断して後れを取ったヤツに、三強を名乗る資格なんかない。しかも、女を弄ぶ権利を賭けてのハンデ戦なんて……バトルに対して誠意がないにもほどがある」 「あんなのはまぐれだ! ただのまぐれ、運が良かっただけだ!」 「本当にそう思ってるのか、玉虫色の」 「な、なんだよ……」 「あの戦い方を見て、なんとも思わなかったのか。 そこのアルトレーネ・タイプは、戦う前から作戦を立て、きっちり準備してお前とのバトルに望んだ。お前が実力差に溺れて、油断してくることも計算に入れて、な。 そのくらい、端から見てたってわかる。 初心者の彼の方が、よほどバトルに誠意があったぞ」 その言葉に、蜂須は激昂した。 「うるせえよ、ヘルハウンド、オレを裏切る気か!?」 「味方ができないような状況にしたのは、おまえ自身だ」 伊達は蜂須の言葉を静かに受け流した。 そして、淡々と言葉を続ける。 「最近じゃ、三強の株はガタ落ちだ。 『エトランゼ』とのバトルじゃ一方的に負け、『アーンヴァル・クイーン』には相手さえしてもらえず、虎実は俺たちを押しのけてランバト一位獲得……。 それで今日は、初心者に後れを取って敗北……三強という称号にとどめを刺したのはお前だ、玉虫色」 蜂須は愕然とした表情のまま言葉もない。 ギャラリーも、伊達の言葉に、静かに耳を傾けていた。 「今日限り、『三強』という称号をおしまいにする。俺はもう、そう呼ばれるのをやめる。今日からはただの『ヘルハウンド・ハウリング』だ。そしてもう一度ランバト一位を目指す。お前も一神姫プレイヤーに戻れ」 「冗談じゃねぇ! てめえ、勝手に決めんな……」 蜂須の声が尻すぼみになる。 彼の声をかき消して、ギャラリーから時ならぬ拍手が起こったからだ。 皆、ヘルハウンドの潔さを賞賛していた。 伊達はそのまま、蜂須に背を向けて、ギャラリーの中に消えた。 その隙間から、こちらを見て首を振り、やはり背を向けた男が見える。 もう一人の三強『ブラッディ・ワイバーン』のマスターだった。 蜂須は呆然とする。 彼も伊達と同意見と言うことだった。 「認めねぇ……」 蜂須はようやくに声を絞り出し、安藤たちを憎悪の視線で睨んだ。 「こんなの、俺は絶対に認めねぇぞ! ちくしょうっ! 覚えてろよ、てめえら……っ!!」 捨てぜりふを残し、蜂須はゲーセンから小走りに立ち去った。 あとに、彼のチームのメンバーたちが続く。 こうして、『ノーザンクロス』における、三強の体制が崩壊したのだった。 ◆ 「自分から三強やめるなんてな……遠野、ここまで予想してたのか?」 「まさか。……だが、俺たちの望んだとおりになった。結果オーライだ」 腕を組んで、遠野は静かにそう言った。 菜々子は隣でそっと微笑んでいる。 三人は視線をかわし、静かに笑った。 やがて、安藤がLAシスターズの四人と共に、こちらへとやってきた。 安藤と美緒は並んで遠野の前に立つ。 「遠野さん、ありがとうございました!」 二人は深々とお辞儀する。 二人の後ろでは、シスターズの三人もかしこまって礼をした。 安藤は遠野に心から感謝していた。彼の策がなければ、今頃本当にどうなっていたのか分からない。 だが、顔を上げた安藤に、遠野は手を振って言った。 「あー、お礼なんかいい。俺は大したことは何もしてないし」 「え……でも、遠野さんの策と訓練メニューがなければ……」 「あんなのは、偉そうに命令してただけだろ。礼を言うならむしろ、協力してくれた八重樫さんたちと、久住さん、大城にしてくれ」 ぶっきらぼうな口調に、安藤は困ってしまった。 後ろで吹き出す音がする。 涼子だった。 彼女は安藤に耳打ちするように、 「照れくさいのよ、師匠は」 と言った。 なるほど、明後日の方向に視線を投げているのは、実は照れ隠しなのか。 陸戦トリオにLAシスターズ、そして安藤が、ようやく緊張を緩め、誰もが笑っていた。 ようやく訪れた、穏やかな時間。 ふと、遠野がこんなことを言い出した。 「チームを作るか……」 その場にいた全員が、思わず遠野を凝視する。 実は以前から、菜々子や大城が「武装神姫のチームを組もう」と言っていた。 しかし、遠野はそれに乗らなかった。彼はバトルロンドで勝敗にこだわっていない。だからチームを組むメリットがない、現状維持で十分、というのがその理由だった。 ところが、遠野が自分から言い出したのだから、驚いて当然である。 「どうしたの、急に?」 「今回の件で、気が変わった。 ……どうも俺は、誰かの世話を焼くのに、自分が納得の行く理由が必要らしい。 チームメイトなら、理由には十分だろう?」 菜々子がと大城は、顔を見合わせ、同時に遠野を見た。 珍しく、優しい表情で皆を見渡している。 すると二人は、先を争うように、焦りながら遠野に尋ねた。 「それで、わたしは数に入ってる!?」 「俺は、俺はメンツに入れるんだろうな!?」 「……君らがいなくて、どうやってチーム作れって言うんだ、俺に」 遠野は不思議そうな顔をしてそう言った。 二人は喜びのあまりハイタッチなんかしている。 わけがわからない。 遠野にしてみれば、二人がいなければ最低限のチームにもならず、むしろ困る。 だが、自分のチームのメンバーになっても、大してメリットがない。これからはじめる弱小チームだ。 チームメイトになったところで、喜ばしいなどとは、到底思えないのだった。 ところが、二人よりも焦っている人物がいた。 遠野の一番弟子を自称する涼子は、胸ぐらを掴みあげかねないような勢いで詰め寄った。 「遠野さん、わたしは!? 私はチームに入れますか!?」 続いて、他の三人も遠野に詰め寄る。 「わたしも遠野さんのチームに入れてもらえませんか?」 「あたしは菜々子さんの一番弟子だから、当然入れてもらえますよね!?」 「わたしだけ仲間外れはなしです!」 美少女四人に詰め寄られ、遠野はどん引きしていた。 なんでそんな必死な顔して、俺のチームに入りたがるのか。 そんな疑問を払拭しきれなかったが、それでも遠野はこう言った。 「ああ……君らなら、断る理由がない」 四人は、きゃー、と喜びの声を上げた。 元からLAシスターズは誘う予定だったので、ある意味予定通りだったが、どうにも解せないといった表情で、遠野は首を傾げた。 当人は気が付いていないが、あの『ハイスピードバニー』がチームを組むと言って、メンバーがその名を知られた『エトランゼ』と、現ランキングバトル・チャンピオンだったら、このゲームセンターで注目を集めない方がおかしいというものである。 「で、俺から一つ、メンバーのみんなに提案があるんだけど」 ひとしきり騒ぎが収まったところで、遠野はみんなに向かってこう言った。 「このメンバーだと、チームで飛行能力を持つ神姫が圧倒的に不足してる。そこで、『三強』を倒した期待のルーキーをスカウトしようと思うんだが……どうかな?」 遠野はメンバーをぐるりと見回したあと、安藤に視線を投げた。 口元に笑みを浮かべてみせる。 メンバーは皆、笑って頷いていた。 ああ、そうか。 なぜ、美緒たち四人が、遠野のことを尊敬しているのか。 安藤はようやく分かった気がした。 ◆ 「俺は、武装神姫を続けるよ」 数日後。 すでに恒例と化した、屋上での昼食。 美緒が持ってきた手作りのお弁当を、満面の笑みで食べ尽くしたあと、安藤がそう言ったのである。 「チームに入るの?」 「うん。誘われたってのもあるけど……あの遠野さんに付いていきたいと思ったんだ。 それに、この間の対戦が忘れられない。……バトルロンドって、すごく面白いよな」 微笑みながら言う安藤は、いつもながら爽やかだ。 美緒はそんな彼をまぶしそうに見つめた。 ふと、思いついたことを口にする。 「でも、玉虫色との対戦……なんであんなに頑張ってくれたの?」 美緒が傍目に見ても、クインビーとの対戦までの一週間の訓練スケジュールはスパルタだった。 一週間でエトランゼの必殺技を受け止めようなんて、無謀すぎる。 しかし、遠野の提示した訓練メニューを、安藤とオルフェは忠実に、そして完璧に実行したのだった。 それは並大抵の努力ではない。 安藤は、少し口ごもるように、答えた。 「ああ、それはさ……好きな女の子守るためなら……やるよ」 「…………え?」 「俺、八重樫のこと好きだから」 彼女自身が予言したとおり。 美緒の視界の中で、天と地がひっくり返った。 「お、おい、八重樫! 大丈夫か!?」 美緒はあまりのことに卒倒した。 そして、美緒を抱き起こす安藤の視界の外。 盗聴していた数十人の女子は、一斉に卒倒していた。 ◆ 安藤智哉にとって、八重樫美緒は、理想の彼女像の塊だった。 安藤の姉・智美は、智哉にとってコンプレックスの対象である。 外ではカリスマモデルとして活躍する姉であるが、家では男勝りで乱暴、弟を顎で使う傍若無人な人物だ。 しかも、美人でスタイルもよく、頭もいいし運動もできる。そして、溢れ出るカリスマ性。 いつしか、智哉の嫌いな女性像は姉・智美になっていた。 彼女にするなら、大人しい女の子がいい。図書館で本を読むのが似合うような、知的な美人だ。 スタイルはいいに越したことはないが、姉のようなモデル体型の痩せぎすはごめんだった。健康的なスタイルの女の子がいい。 そして、性格は優しいのがいい。明るくて、気遣いができて、落ち着いた性格の女の子。 姉とは全く正反対。 そんな都合のいい女子がいるだろうか? いるはずがなかった。なにしろ、世の女性は皆、Tomomiのようになりたいと思い、ファッション雑誌を買うのだから。 だが、安藤は出会ってしまった。 高校入学の日、クラスメイトになった女の子。 八重樫美緒は、彼の理想のすべてを兼ね備えていた。 つまり、安藤は美緒に一目惚れだったのだ。 ◆ こうして、安藤を巡る闘争は終わりを告げた。 女子連は、戦う前から、美緒に敗れていたのだった。 戦いは、いつも、むなしい。 (少女と神姫と初恋と・おわり) Topに戻る>
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1229.html
鋼の心 ~Eisen Herz~ 登場人物+登場神姫の紹介 ◆典雅関係者 島田 祐一(しまだゆういち) 高校生。 神姫暦5年のベテランオーナー。 学校では目立つところの無い平凡な生徒だが、実はガンマニアの刃物マニアで戦闘機マニア。 さらに極めて重度のゲーム中毒(ジャンキー)。 …実は結構ダメ人間かもしれない。 アイゼンのオーナー。 過去に海難事故に遭い、感情を喪失するCSCと言う症状が発症した事がある。 症状自体は完全に回復したものの、いまだに水はトラウマで、基本的に泳げない。 アイゼン タイプ・ストラーフ。 この物語の舞台となる神姫センターにおいて最強クラスの戦積をもつ神姫。 特定の装備や戦術にこだわりは無く、状況に応じた武装と戦術を使いこなす柔軟さを持つ。 それは、実は能力的には大した事の無い彼女が“強くなる”為に選んだ道である。 口数は余り多くなく、無表情で淡々と物事をこなすタイプ。 一度負けた相手には(装備が同じ限り)二度と負けないという変な実績がある。 今のところ例外はマヤアだけ・・・。 伊籐 美空(いとうみそら) 高校生。 勝気で気まぐれ、我侭にして傍若無人。 たぶんツンデレ。 おウチがアットホームなヤクザ屋さん。 一応、対外的には社長令嬢。 フェータのオーナー。 実はクォーターだったりする。 フェータ 刀使いのアーンヴァル。 他の武装を一切持たず、有り余った推力によるすれ違いざまの居あい抜きを武器とする。 本来非力なアーンヴァルが何でこんな戦法なのかは本編を参照のこと。 おしとやかで控えめな性格だが負けず嫌いな一面もある。 リーナ ベルウッド(lina BellWood) 11歳。 金髪ゴスロリのお姫様ルック。 資産家の一人娘。 美空の従姉妹でクォーター。 レライナのオーナー。 日本にはとある目的を持って来日している。 レライナ タイプ・サイフォス。 瞬間移動じみたダッシュを武器にする神速の騎士。 しかし、ダッシュの使用にはバッテリーを大量に消耗するため、戦闘持続時間が短いと言う欠点がある。 リーナの教師として振舞うために、傍若無人な性格を演じているとか? 島田 雅(しまだみやび) 正体不明な祐一の姉。 最近になって神姫を購入。 その魅力に骨抜きにされ、どっぷりハマった挙句、“典雅”という有限会社まで立ち上げてしまった趣味人。 この人が何をやっても驚いてはいけない(笑)。 セタのオーナー。 セタ 砲撃戦を得意とするハウリンタイプの神姫。 特製のセンサーとぷちマスィーンズによる着弾観測を行い、二門の吠莱壱式による曲射砲撃とスナイパーライフルによる狙撃を使い分ける。 実はボクっ娘。そして無駄に元気。 名前の由来はアイヌ語で『犬』の意味。 斉藤 浅葱(さいとうあさぎ) お嬢様ぶる小市民。 雅の幼馴染で悪友。 音速の拳を持つ高校教師。 祐一の担任。 雅、村上の三人でトリオを組んで高校時代は暴れまわった。 実は近隣最強クラスの神姫マヤアのオーナー。 マヤア タイプ・マオチャオ。 11人斬り。化け猫マヤア。などの二つ名で知られる強力な神姫。 ツガルのレインディアバスターを武器に、変幻自在の戦法を取る。 戦闘時は頭を使うが、平時はおバカ。 名前の由来は琉球語で『猫』の意味。 村上 衛(むらかみまもる) 変態。 雅、浅黄の高校からの友人で神姫フェチのメイドフェチ。 勝てないからと称し神姫を購入し続けること40人。 更にマスターでこそ無いが、マヤア、セタもセットアップや武装の提供は彼が手掛けている。 高性能だがピーキーで扱いづらい改造パーツを作るのが趣味。 馬鹿と天才は紙一重の完全に馬鹿サイド。 過去にカトレアと言う名のアーンヴァルを所有していた。 デルタ(デルタ1) フォートブラッグがベースの改造神姫(外見は完全にフォートブラッグ)。 内部を改造されている結果、通常の神姫よりも遥かに高い演算能力を与えられている。 しかし、そこに容量をとられ、実際の戦闘力は決して高くない。 違法改造とも取れる凶悪なシステム=デルタシステムを有し、実質三倍の戦力を有している。 簡単に言えば、ひとつの自我が三つの身体を有しているようなもの。 どれもデルタ自身であるため連携は完璧で、単機の性能の低さは克服していると言える。 公式戦用の隠し技があり、そちら方がある意味凶悪だとか・・・。 村上シスターズ(むらかみしすたーず) 村上衛の40人の神姫たち(デルタ1含む)。 長女はアーンヴァルである。 実はさらに上にもう一人、姉に当たる神姫が…。 基本的に村上家から離れることは無い。 野生化したのが約一名居るとか居ないとか。 ほぼ全員がメイド服着用。さらに30番台からはボクっ子。 村上の趣味が全開である。 ちなみに姉妹ではないが、マヤアは41番目、セタは42番目に相当する。 ◆土方京子と花の四姉妹 土方京子(ひじかたみやこ) 眼帯の女性。 全ての神姫を破壊する目的で行動しているらしい。 黒いコートがトレードマーク。 夏でも黒いコート。 暑いけど我慢しているらしい。 バイク乗り。 結構ドジ。 初期の神姫開発者の一人であり、特にレーザーとスラスター系の技術に優れる。 現在は最愛の妹の願いを叶えるべく、自分を殺して行動中。 カトレア ジルダリア(プロトタイプ)型の神姫。 装備はジュビジーの装備一式にレーザーソード。 四姉妹の長女で、とある神姫と同じ名前である。 かつては、村上衛の最初の神姫であった。 アルストロメリア ツガル型の神姫。 装備はアーンヴァルを中心にしたフルカスタム。 四姉妹の次女で、言語中枢に破損があるためカタカナとひらがなの発音が変。 ストレリチア エウクランテ型の神姫。 装備はエウクランテのものをカスタムした装備。 四姉妹の三女で、舌っ足らずな幼い喋り方をする。 ブーゲンビリア フォートブラッグ型の神姫。 装備もフォートブラッグが中心だが主兵装は別。 四姉妹の末娘で漢字でのみ喋りたがる。 土方真紀(ひじかたまき) 眼帯の女性、土方京子の妹。 CSCの製作者。 京子に全ての新規の破壊を依頼したらしい。 ちなみに、MMSの素体デザイナーである浅井真紀さまが名前の由来。 そして、同時に真紀=しんき=神姫という言葉遊びも入っている。 幽霊(???) 一番最初の神姫。 黒い衣装と二刀を扱う高速戦闘型神姫。 現在は幽霊として天海の神姫センターに出没している。 現行の神姫としては間違い無く最強の部類。 ◆その他のオーナーと神姫 永倉 辰由(ながくらたつよし) 通称パイソンの辰。 アットホームヤクザこと、伊藤組(美空の家)組長、伊藤観柳斎の懐刀。 堅気の衆には礼儀正しい紳士的な極道。 モンティ・パイソンの大ファン。 プリンちゃんのオーナー。 プリンちゃん シュメッターリング型の神姫。 実戦経験がないので弱い。 戦闘よりもむしろ日常生活のパートナーである。 ちなみに“~ちゃん”までが名前。 過去に違法改造神姫、M6号として坂本を主としていた神姫の成れの果て。 藤堂 晴香(とうどうはるか) 武装劇団を名乗る“人形劇部”の部長。 美空と同じ女子高だが、面識は無かった。 舞薙(マイナ)と歌憐(カレン)という二体の神姫を所有している。 舞薙(マイナ) 怪しい言葉遣いの紅緒タイプ。 稼動時間が長く、かなりの経験を有する神姫。 戦闘経験も豊富で、劇団の殺陣(たて)担当。 どんな物語にも戦闘シーンを入れようとする困ったちゃん。 普通、浦島太郎やシンデレラにチャンバラシーンはありません。 彼女の言葉はフィーリングで書いているので、正確さは求めないでください…。 歌憐(カレン) 舞薙(マイナ)を姉さまと呼ぶイーアネイラタイプ。 強いお姉ちゃんに負けないように頑張る努力家さん。 ちなみに本編には登場しないが晴香の所有する神姫は2人だけで、残りの10名は他の部員の神姫。 作中はきっと修理とかで大慌てしてたはず。 松原 美樹(まつばらみき) 本編未登場。 神姫センターで働くオペレーターのお姉さん。 美人で愛嬌もあり、おまけに巨乳なため、祐一のお気に入りの人らしい。 タカさんを始めとするグラップラップシスターズのマスターでもある。 実は天海神姫センターの店長さん(!!)。 高嶺(タカネ) 本編未登場。 タカさん、おタカさんの愛称で呼ばれるグラップラップ。 別名『武装建機』のタカさん。 部下として11人のグラップラップを従え、バトルフィールドの補修整備を行っている。 フィールドを壊されると怒るが、本人もまた破壊魔である。 グラップラップシスターズ(ぐらっぷらっぷしすたーず) 松原美樹とおタカさんに忠誠を誓う11人のグラップラップたち。 それぞれに名前はあるが、「~号」と、コードネームで呼び合うのが好き。 ちなみにおタカさんは「リーダー」、美樹は「店長」と呼ぶ。 山南 三郎(やまなみさぶろう) 実に極道の子分ちっくな名前を持つ青年。 伊藤組の中堅若集。 実は密かに神姫ユーザーでヴァッフェシリーズの神姫を二体所有する。 最近、正体不明のライバルが出来たらしい。 ???(???) ビューティー仮面。 謎。 ビューティーマスク1号、2号のマスターらしい。 ビューティー仮面さまと呼ばれている。 ???(???) ビューティーマスク1号。 謎。 美しき力の戦士。 ???(???) ビューティーマスク2号。 謎。 美しき技の戦士。 ◆神姫オーナーではない登場人物。 稲造(いなぞう) 伊藤組の食客にして用心棒。 主に伊藤組の敷地内に侵入した不埒者の迎撃を自らに任じている。 幸いにして伊藤組に不法侵入するような輩は今のところ居ない。 居たらとても酷い目にあうことだろう。 ストイックな硬派で武人気質の頑固者。でも情にもろい。 藤堂 奈津子(とうどうなつこ) 晴香の母親にして旅館『季州館』の女将さん。 ショートカットの怜悧な美人さん。 娘を騙す(嘘を教える)のが趣味。 昔は南の島で怪しい研究をしていたかもしれない。 エドワード ベルウッド(Edward BellWood) リーナの父親。 名前の通り、祖先を辿って行くと王族にたどり着く由緒正しい家系。 もちろん現在の英国王室にコネクションがある訳ではない。 根っからのお人よしで世間知らずのボンボン。 リーナの一件を期に会社を立ち上げるがそれがリーナを悲しませることになるとは思っていなかった…。 現在は、規模を縮小した会社の経営者として適度に忙しい日々を送っているとか。 最近の悩みの種は、リーナが一緒にお風呂に入ってくれなくなった事。 芹沢 九十九(せりざわつくも) 神姫の初期開発に携わった科学者。 某大学で教鞭を取っていた事もある。 眼帯さんに追われる身となり逃走するが、現在はとある都市にて隠居中。 派手なアロハシャツを颯爽と着こなし、ビールとヒレカツが大好物だと公言して回る元気なおじいちゃん。 たぶん100までは余裕で生きる。 原田 大介(はらだだいすけ) 捜査四課、暴力団対応の刑事で荒事のプロ。 でも極道の辰由と職業理念を超えた友情で結ばれている。 ダメじゃん!? それって癒着!? でも気にしてない不良刑事。 近藤勇斗(こんどうゆうと) 天海中央病院に勤務する医者。 実は変態。 本当は産婦人科に勤務したかった。 ダメなら小児科。 それでもダメなので精神科に居るとか、なんとか。 結構ダメ人間。 いつか患者を10万馬力のサイボーグに改造したいという、危険な夢を持つ。 もちろんミサイルは内蔵する。 トコロで、村上、芹沢(九十九)、近藤、伊藤(観柳斎)、ビューティー仮面、〇〇〇○〇〇〇〇〇(←未登場)、〇〇〇和尚(←未登場)を合わせて天海変態七神将と呼ぶ。 芹沢香苗(せりざわかなえ) 天海中央病院に勤務するナース。 この作品はフィクションなので看護婦である。 看護師など存在しねぇ!! 近藤の暴挙に応戦し、日々患者をセクハラから守る正義のナース。 芹沢九十九の孫。 元スケバン。 松原 臣士(まつばらおみし) 誰だこれ? いまさら美空にアーンヴァルを売った、おもちゃ屋の店主とか言っても分からない。 現在は、あのおもちゃ屋は店を畳んでおり、彼は気楽な隠居暮らしに突入している。 娘の就職先である神姫センターに入り浸り、とある紅緒型(マイナの事)と囲碁など打って遊んでいるとか…。 ◆敵キャラ。 坂本 竜弥(さかもとたつや) 違法改造された武装神姫による闇バトルを開催していた青年。 闇に咲く花の一件にて辰由の手で警察に引き渡されたが、法的な罪自体はさして重いものでもないため、現在(本編開始時)はすでに出所しており自由の身である。 もちろん反省するような性格ではないので、今もどこかで復讐の機会を伺っている筈。 この作品唯一の悪人。 鋼の心 ~Eisen Herz~へ戻る -
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2361.html
第二十話:道行姫 「僕はイリーガルマインドに苦しむアーンヴァルの声と施設の事を聞いて迷っていたよ。施設がどうなるのか、この先の武装神姫もどうなるかと」 結に支えられながら輝は俺に自らの迷いを語り始める。その顔は施設の真実を晒される事を恐れていない覚悟の決まった顔だった。 ついさっきとはまるで違っている。 「でも、こうも考えられたんだ。もしかしたら神姫も施設も両方救えるんじゃないかって」 「何をする気だ?」 「僕は証人に加わる。その代わり、施設の何も知らない人々は無関係だって事を証明して、施設が存続できるようにする」 「……一番困難な道だぞ? しかもすぐに解決できる事じゃねぇ。施設を存続させたとしても後の偏見の目だって消さなけりゃならん」 輝の選択は最も難しいものだった。 施設からイリーガル技術流出の汚名を拭い去る、言葉にすればそれだけの意味だが、実際にやるなら様々な問題が発生する。それは俺にだって列挙し切れるものじゃない様々な難題、他者の思惑が絡んでくる。 まさに茨の道、輝も思い切ったものである。 「わかってる。これは僕の戦いだ。君の手出しは無用だよ。君はイリーガルにだけ集中していればいい」 「やれるのか? 一人で」 「一人じゃないよ。僕には結がいる。石火に早夏もいる。施設のためなら何だってやってみせるよ」 その言葉を迷いなく言ってみせる。結も、石火に早夏もそれについていこうという顔をして、輝の語る姿を見届けていた。どうやらその言葉は四人で考えた真実のようだ。 俺が止められるようなものじゃない。 「ははっ。なるほどなぁ。初代チャンピオンって名がさらにサマになってきた気がするぜ」 彼らの覚悟に負けた俺は少し笑って、それを認めた。そこまで言うなら進んでもらおう。俺はその覚悟を見届けてやる。 「わかったよ。俺はイリーガルを叩いて、目の前の小さな奴らを助ける。お前は施設って大きなものを助けてやんな。足下は俺に任せろ」 「ああ」 俺は輝に敬意を表して、彼の手を取り、握手した。輝はその感触を感じ取って握り返し、それを交わした。 「いいね。男の友情っていうのは熱い! 僕も及ばずながら力になるよ。まぁ、ただというわけにはいかないけど、代金を割引サービスしてあげちゃおう」 話のキリのいい所で日暮が拍手で話を持ちかけた。ちゃっかりしているのか、本気で感動しているからそうしているのかといえば……おそらく後者だ。 その辺はしっかり『正義の味方』といった性格をしていた。 「今の声の人は?」 「正義の味方の日暮さんだ。彼に手を借りれば結構やれると思うぞ。『ハイスピードバニー』の風俗神姫騒動も解決にも貢献したからな」 「あの大事件を!? それは凄いな……」 「どうだい? 僕に君の手伝いをさせてくれないか?」 「お願いします。対価なら払います。どんな事をしてでも施設を救いたいんです」 「わかった。代金はそうだな。尊君。君に払ってもらおう」 「え?」 話が進む中、唐突に代金の話が俺の方に向いて驚いた。何をどうすればそういう話になるというのだろうか。 「そう難しい事じゃないさ。代金は君がイリーガルマインドなどの装備を押収して、それを僕に渡す事を約束してくれ。つまり、君が今やろうとしている事さ」 「なるほど。それならいいでしょう。僕がやる事は輝と違って自己満足だ。それに価値がつくなら喜んで」 「商談成立だね。じゃあ、輝君に結ちゃんだっけ? 二人で奥まで来てくれ。これからの事を話そう」 「はい」 長期戦となるであろう施設の話について打ち合わせがかなり時間がかかるのか、日暮は輝にそう言って店の奥へといなくなる。確かに他言無用な話になるのだからそうなるのも当然と俺は納得した。 その輝は入り口から結に導かれながら歩みを進めていく。その足取りは目が見えないため、周りを探るような歩き方をしているが、進むことには一切のためらいがない。 その中で俺の近くまでたどり着くとそこで輝は足を止め、気配でそうしているのか、俺の方を向いた。 「尊。ありがとう。この一歩を踏み出せたのは君のおかげだ」 「尾上辰巳だ」 「え?」 「お前等の頑張ってんのに変なプライドで本名を名乗らないわけにはいかんなと思ったんでな。改めて自己紹介さ」 「そうか。僕は天野輝だ。改めてよろしく。辰巳」 「ああ。……一歩を踏んだ後は輝次第だ。俺は俺の道、お前はお前の道をそれぞれ行こう。目が見えなくたって、もう見えてるだろ?」 「うん。行ってくる」 「おう」 短い会話が終わると輝は再び歩き出し、店の奥へと消えていった。そして代わりの店番として神姫のコアを飾るための胸像ディスプレイにヴァッフェバニータイプのコアがくっついたもの……うさ大明神様がレジの隣に現れた。 それを見届けた俺はここでの用事が終わって彼らとの約束を果たすために蒼貴と紫貴と一緒に店を出て行った。 一週間後、日暮から視覚データによる結果と輝からの連絡が来た。 あれから日暮は輝を伴って、決定的な証拠を施設の研究者に突きつけ、彼らを一網打尽にしたのだという。 これによってリミッター解放装置の販売ラインを、根元を断ち切った事になる。リミッター解放装置はこれ以上、増えることはない。後は日暮が既に流通したものを回収し、俺が既に使ってしまった、或いは買わされてしまったオーナー達から押収すれば、何とかなるはずだ。 使った後でも杉原のワクチンプログラムで何とか助けられるだろう。 施設に関しては義肢を開発していた研究所の独断として施設と研究所で切り離され、研究所のみが罪に問われる形となった。しかし、そこの神姫は改造前のは何とか解放したものの、手を付けられてしまった神姫に関しては証拠品として警察に押収されてしまったらしい。 これを聞くと神姫はまだまだ物として扱われているという事の様だ。 俺達は神姫オーナーにとっては、神姫は物ではなくパートナーだが、この日本での法では神姫は個人として認めてもらえていないのだ。所詮はロボット。物であるという訳だ。 昔の本や物語で繰り広げられているロボットの存在意義の上での答えがこれだとするなら少々悲しいものを感じる。 しかし、可能性はある。そう。輝だ。 日暮経由の彼の連絡に施設の神姫が押収された現場に居合わせたらしく、何とか説得を試みて失敗に終わり、自らの力の未熟さを痛感させられた事が書かれてあった。 後悔の思いがあったが、それには続きがある。輝はその神姫達や施設を助けるためには自分自身がそれを制するだけの力が必要と考え、弁護士として猛勉強することを決心したらしい。結と彼らの神姫もまた輝の決意についていくことにしている。 神姫で何とかするというだけではなく、大人としての力を得る事で両方を救う。どうやら、これが輝なりの答えという事の様だ。 これはすぐに解決することではないし、俺が足掻いた所で変わりはしない。せいぜい輝の相談に乗ったり、宣言したとおりに、バーグラーを狩ったりするのが関の山だ。 だが、こうして未来に続いていると感じることができるのは悪い気がしない。輝を信じる。それだけで今回の自分のやったことが無駄ではないと思えた。 「解決はしたわけじゃねぇが、いい風には終われた……か」 連絡を受けた事を思い出しながら俺は神姫センターに入っていく。今回来たのは真那と会ってしまういつもの場所ではない。そこからさらに四駅ほど進んだ先にある別の神姫センターである。 今回の事件によってばら撒かれたイリーガルマインドの流通も広範囲に渡るものになってしまっており、警察や日暮も捜索しているものの、発見するのが難しい。 俺個人でどれだけ発見できるかはわからないが、様々な場所を回って多くのオーナーや神姫を見てみたいという気持ちもあったため、こうしてイリーガルマインド回収も兼ねたセンター巡りをしてみる事にしたのだ。 秋葉原を中心とするその周辺には多くの神姫センターがある。探そうと思えば、ゲームセンターや公認ショップ含めていくらでもあるため、自分の縄張りだけでは飽き足らないオーナーと神姫達は様々な場所で修行する際には秋葉原を中心とするこの激戦区を回るのが通例だという噂を聞いたことがある。 俺は……『異邦人(エトランゼ)』の真似事をするのだからその噂通りのことになるかもしれない。素性を明かす気はない点では異なるがな。 「ミコちゃん、本当にここにイリマイあるの? イリマイがある割にはここの噂が小さい気がするんだけど……」 「……日暮さんの教えてくれた噂じゃ、ここにイリーガルみたいな神姫が破竹の勢いで勝ちまくっているってことらしい。あの人の情報網は信頼できる」 神姫センターの奥へと進む俺に紫貴が話しかけてきた。今回は日暮の情報からここに来ている。俺の蒼貴を大破に追い込んだバカ者共と似たようなクチであり、イリーガルマインドの予感しかしない。が、紫貴の言う通り、噂が小さく、それが目立たない。そこがおかしな所である。 「しかし、ここはその噂の人以外の人も強いようですね。だから、大きな騒ぎになることもないという事なのでしょうか。あの試合の人達もすごいです」 蒼貴が指差す先を見ると、大きなスクリーンがあり、それに非常に高いレベルの対戦が映し出されていた。 対峙しているのは黒い外套と身の丈はあろう化け物の様な太刀を力任せに振り回し、叩き潰すような戦い方をするストラーフタイプとスカートアーマーの内側から隠している暗器を取り出して一定の距離を保ったまま、翻弄してみせるアルトアイネスタイプの二機だった。 「You're going down!(くたばれッ!)」 翻弄されていることにプライドを傷つけられているのか、少々怒り気味のストラーフが太刀を力任せに振り回してアルトアイネスに襲い掛かる。 「それは勘弁して~。噂に聞くバラバラ戦術は痛いしさ~」 彼女は軽口を叩きながらサブアームで受け流し、そのままアーマーを展開することで飛んで爆弾による爆撃を仕掛ける。 ストラーフは太刀で着弾する前に弾き飛ばして自らのダメージを減らし、大きく跳躍して、反撃に出る。 銃を連射し、それに続いて一戦しようというオーソドックスな攻め手だ。銃の弾はアルトアイネスの翼を形成するスカートアーマーを弾いて体勢を崩させ、動きを硬直させるとそのまま太刀の一閃を放つ。 「危ない危ない」 いつの間にか取り出した大剣ジークフリートでそれを防御する。ストラーフはそのまま、力を入れて叩ききろうとしたが、いかんせん空中にいるため、力を入れられず、そのまま地面に着地し、次の一手を打つために追撃を仕掛けてこようとしているアルトアイネスに向かって太刀を構えた。 「確かにレベルが高いな。これからこういう奴らと戦うのも悪くない」 拮抗状態の続く戦いに俺は感心した。ここまでのバトルが見られる上に互いに隙を見せずに攻撃を繋ぎ続けているだけ実力を持っていた。あれだけの力があれば万一、イリーガルマインド装備が出ても何とかできるかもしれない。 どういう奴らなのかと対戦の映像の隣の対戦者のデータを見てみる。ストラーフタイプはフランドールという名であり、オーナーは三白眼と長めの黒髪をサイドテール、黒いパンク調の服とシルバーアクセが特徴的なガラの悪そうな咲耶という名の少女だった。 彼女は噂を聞いたことがある。何でも相手が弱いと判断すると、弄んで潰すという戦い方から非難の声が上がるという悪評である。しかし、ランクに反して強いことから有望であるという見方をする人もおり、注目されているらしい。 一方、アルトアイネスタイプはメルという名前だった。オーナーは祥太という気さくな印象のある青年だった。特に噂を聞いていないため、未知数だが、フランドールを翻弄することができるという点では彼らもそれだけの実力をつけ始めていると見ていいだろう。 「ねぇ。ミコちゃん、あれ」 「あ?」 対戦を観戦している時に紫貴が俺に声をかけて指をさす。その先を見ると甘ロリ系な女の子が二人の青年に囲まれているのが見えた。 「おい。梨々香ちゃんよ。遠野のチームメイトだったよな?」 「な、何よ……」 「俺達は最近、三強を倒して調子に乗ってる『ハイスピードバニー』のチームを狩ってるのさ。遠野や『異邦人』を引きずり出すためにまずは弱そうなお前からやろうって話になったんだよ」 どうにも彼らは『ハイスピードバニー』……恐らくは遠野貴樹のチームを潰そうと考えているらしい。事情はよくわからんが女の子を男二人で襲おうとするその現場は見苦しいことこの上ない。 「やめてよ! 二対一なんて……」 「関係ないね。『玉虫色』を倒したのも初心者だ。ここで勝ちまくったが、油断はしねぇ」 「そうそう。やるなら全力ってな。ははは」 「そうだな。やるなら全力……二対二だな」 傍まで近づいた所で俺は男二人の話に割って入る。 「あ? 誰だてめぇは」 「俺はただのオーナーだ。……覚えておかなくていい。どうせお前らが負けるんだからな。トラウマになりそうなものがなくなっていいだろ?」 「ふざけるな! こいつは後回しだ。この野郎をやるぞ!」 「おう! そこのバーチャルバトルに来い!」 「そうこなくっちゃ……」 挑発をするとすぐに釣れた。さすがはチンピラ。単純で助かる。 そう、ほくそ笑むと俺は彼らの言うことに従ってバーチャルバトルなるものに向かう。今回のはエルゴにおいてあったシミュレーションバトルによる戦闘という事になるようだ。 自分のブースに着くと蒼貴と紫貴を二つのアクセスポッドに乗せて接続する。向こうでは俺が一人で二体操ろうとしている事をバカにしているのか、笑いながら各々の神姫をセットした。 それによってバーチャルシステムは起動し、オフィシャルバトルの準備が完了し、ディスプレイの向こう側にそれぞれの神姫が出現する。 相手はヴァローナタイプとガブリーヌタイプだ。それぞれ純正装備だ。ただし、両方が首にイリーガルマインドを装備している。何とかこれを回収しなくてはならない フィールドは草原。遮蔽物もないその場所は純粋な戦闘力が試されるだろう。 『Ready……Fight!!』 ヴァローナが先行し、ガブリーヌが援護射撃しつつ、前進する普通の戦法を取ってきた。 「蒼貴、紫貴。すぐに沈める。まずはヴァローナをやる。蒼貴は苦無で拘束、紫貴は射撃からブレードで斬り捨てろ」 対して俺は速攻の指示を出す。女の子を再び襲うのをためらわせるほど、速やかに倒す必要がある。圧倒的な力の差という恐怖。それがこの戦いのテーマだ。 蒼貴と紫貴はそれを聞き、行動に移す。蒼貴は接近してくるヴァローナの四肢に苦無を、紫貴はアサルトカービンをそれぞれ放つ。飛んでいく苦無は足を止め、弾丸がひるませ、ヴァローナを無防備状態にする。 「はっ!」 そこをすかさず紫貴がエアロヴァジュラで切り裂く。ヴァローナは何がおきたのかもわからずに声を上げることもなく地面へと倒れた。 その直前、蒼貴は首からイリーガルマインドを奪う。これでヴァローナのイリーガル化は防げる。 「この野郎!!」 早くも相方を失ったガブリーヌはイリーガルマインドの力を使った。それにより彼女の額からユニホーンが生え、紫色のオーラを放ち始める。 「これで決まりだ。紫貴、バトルモードで接近して拘束。蒼貴、紫貴に乗って塵の刃の用意」 「はい!」 「了解」 予想通りの展開からの次の指示につなげる。ヴィシュヴァルーパーに変形した紫貴に蒼貴が騎乗し、接近の間に塵の刃を鎌と苦無にまとわせる。 ガブリーヌは重装備に物を言わせて接近してくるまで拳銃を撃ち続け、接近したらいつでも殴れるようにナックルを構える。 銃撃を避けながら、紫貴が接近するとガブリーヌはナックルで紫貴本体を狙った一撃を仕掛ける。 しかしそのとき、違和感に気づいた。そう。蒼貴がいない。 攻撃を紫貴に仕掛けながらも目だけで蒼貴を探していると……上にいた。 「なっ!?」 ガブリーヌは驚きながらも紫貴に攻撃を続けようとするが、彼女は変形解除をして、サブアームで受け止め、拘束する。 「今よ! 蒼貴!」 「せいやっ!」 気づいた時には既に遅く、宙を舞う蒼貴が塵の刃をまとった苦無でユニホーンを切断し、鎌で腹を引き裂く。そしてとどめとしてイリーガルマインドを奪った。 その瞬間、それの効果が失われ、ガブリーヌは効果が切れて砕け散る塵の刃のかけらが舞う中で地面に伏す。 『You Win!!』 ディスプレイに勝利画面が表示される。それが表示されるまでのタイムは一分とかかっていない。一蹴とも言うべき戦果だ。向こう側にいる男二人はイリーガルマインドを使っているのにこうなってしまった事に動揺していた。 それもそうだ。神姫のせいとかそういうレベルではない。実力を発揮する前に終わってしまったのだから。 「ど、どうなってんだよ!? てめぇ! チートでも使ってんじゃねぇのか!?」 「そりゃお前らだろ。そのイリーガルマインド、俺が追っている違法パーツなんだよ。わかってて使ってるのか?」 「なんだと!?」 「すぐにそれを外せ。お前たちの神姫が苦しんでいるぞ」 チートと騒ぐ男二人にイリーガルマインドの副作用について指摘すると彼らは自分たちの神姫を見た。神姫達は例によって副作用で苦しんでいる。バーチャルバトルではどうなるのかと思ったが、どうにも架空も現実も同じであるらしい。 「な……」 「どうなってんだよ!?」 やはりというべきか彼らは知らず、副作用に驚いていた。この装置の副作用は全くと言っていいほど、説明されないケースが多い。このパターンはよく見る。 「それが原因だ。そのまま捨ててしまえ。でもってホビーショップエルゴにいきな。有料で直してもらえるからよ」 「お、覚えてろ!!」 「由愛~~!?」 自分の神姫を持って逃げるように去っていった男二人を見送ると置かれた二つのイリーガルマインドを拾う。見ると本当に本物のイリーガルマインドに見える。これがただの演出で済めばどんなに良いことか。 「こんな下らねぇもん使ったって、強くなんてなれねぇのに何やってんだか……」 ため息を付きながらそう呟く。 こんな調子でイリーガルマインドを狩っているが、それを持っているやつは大抵がその性能に魅入られている馬鹿か、知らないアホ、あるいはその両方の三択だ。 二番目なら救いようがあるが、それ以外なら話にもならない。痛い目を見るまで使い続けてくれるから困る。少しはうまい話なんてないことぐらい考えてほしいし、それで神姫が犠牲になったらどうするのかを考えていただきたいものだ。 これ、あるいはこれに類する違法パーツが横行したらどうなるかを考えると今の武装神姫は危ういラインにいるのだろうか。 「あの……助けてくれてありがとうございます」 「気にすんな。こっちもこいつを回収するのが仕事なんでね」 考え事をしていると瞬く間に倒した俺達に助けた梨々香という甘ロリ系の女の子が話しかけてきた。肩にはポモックタイプの神姫が乗っている。見た感じは特に目立った改造もない純正装備だった。このまま、絡まれていたらまず間違いなく、手痛い目にあわされていただろう。 「あの……オーナー名の尊ってもしかして双姫主の尊さん?」 「いや、俺は……」 「その通りです」 何とか名乗ることを避けようとしたが、蒼貴に肯定されてしまった。 墓穴を掘らされていつものこのザマだ。困っている奴らをほっとけないだけにこのパターンは引っかかりすぎる。 「そうよ。ミコちゃんはね。双姫主として雑誌にも載っちゃった超かっこいいオーナーなのよ? すごいでしょ?」 「やっぱりそうなんですか! あの戦いがデュアルオーダーの……遠野さんのやってた通りなんだなぁ……」 紫貴が無茶苦茶脚色を付けた事を言うと梨々香は感激したらしく、紫貴の言葉に頷く。 「おい。こら。何、勝手に晒してんだ。しかも尾ひれを付けすぎだろ」 「雑誌に載った時点でアウトでしょ?」 「うるせぇ! 素性が載ってねぇからまだ何とかなるはずなんだよ!」 「いいじゃない! 減るもんじゃないし!!」 「あんだと!?」 「あの……!」 すっかり正体をバラされて怒る俺とかっこつける紫貴が口喧嘩を始めようとするとなにやら勇気を振り絞ってる様子の梨々香が口を挟んできた。 「どうした?」 「私に戦い方を教えてください! さっきみたいなことになって、チームの皆の足手まといになりたくないんです!」 「遠野さんってのに教えてもらえばいいんじゃねぇか?」 「遠野さんにはもう弟子がいるし……。勝ち負け関係なく楽しんでるけど、こんな事、情けなくって周りに言えないよ……」 話から察するに梨々香は遠野のチームに所属はしているものの、勝ち負け関係なくバトルロンドを純粋に楽しんでいる奴であるらしい。しかし、この一件で自分でも戦えるようになりたいと思ったらしいが、周りにはそういう奴だと思われていて言いにくい。だから、見ず知らずの俺にまずは教えてもらおうと考えているらしい。 ぶっちゃけ、恥をかなぐり捨てて知り合いに教わった方が進歩が早いと思うのだが、どうしたものか……。 「……オーナー、教えてあげてはいかがでしょう?」 「ミコちゃん、そうしようよ。真那にだっていつも教えてるんだし、慣れっこでしょ?」 「……仕方ねぇなぁ。わかった。その代わりといっては何だが、『ハイスピードバニー』の事を知っている範囲でいいから聞かせてくれ。興味があるんでな」 「ありがとうございます!」 「梨々香ってんだったか? 俺は厳しいぞ?」 「はい!」 梨々香の真剣な態度に感心する蒼貴と紫貴にも逃げ場を塞がれた俺は逃げることを諦め、梨々香に俺のバトルの経験を教えることに決めた。デュアルオーダーは無理でも普通の戦い方ぐらいは教えられるだろう。……真剣な気持ちを無碍にできんしな。 まぁ、こうやって動き回れば梨々香のような良い奴にも会える。こういう奴らがいるからこそ、武装神姫という舞台がマシな方向にも向かうことができる。 その可能性を1%でも高めてやるのが俺らにできることなのかもしれない。 それで武装神姫が良くなるなら俺の行動も無駄じゃないし、輝や別の場所で戦っている誰かもまた頑張っていられるだろう。 この手ほどきも何かの役に立つことを願って、やってみるか……。 第三章『深み填りと盲導姫』-終- 戻る トップへ