約 730,160 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/587.html
叡智を刃に、想いを力に(前編) “かまきりん”と称されていたフォートブラッグは、本人の意思によって 外道・猪刈久夫の手を離れ、今は私のスーツケースで眠りに付いている。 前回の事もあった為か、それを咎める者は誰もいなかった。まあ恐らくは 彼奴めの事だ。懲りもせずに再び神姫を虐げるのだろうが……今はいい。 偽善だろうが見栄だろうが、私達に出来る事をしただけだ。悔いはない。 「さて……騒がしかったが、これでクララのバトルも出来るか?」 「そうですの。今日はアルマお姉ちゃんだけじゃないですのッ!」 「頑張ってくださいね、クララちゃん?あたし達、応援しますッ」 クララにも専用の“Heiliges Kleid”と変身道具の“W.I.N.G.S.”を 装備させてやる。その腰はやはり、他の“姉達”と比べ些か寂しい。 彼女に欠けている物……普段から全形態で使う為の、彼女の武器だ。 銘だけは既に“ヘル”と決めているものの、試行錯誤が続いていた。 白兵でも射撃でもない非消耗品の武器。これは意外と難しいのだぞ? 「……うん。ボクも“戦乙女”の名に恥じない戦いをしてくるもん」 「その意気だ。お前には“魔術”がある、さあ蹴散らしてこいッ!」 『槇野晶さん、バトル開始時刻です。オーナー席に付いてください』 館内アナウンスが響く。私はエントリーゲートにクララをセットし、 見届け人のロッテと戦い終えて着替えたアルマを肩に、座席に着く。 今回の対戦相手は……見た事がない、切れ長の目を持つ男性だった。 「“アラクネー”。相手は初陣の様だが、手加減するな?」 「嗚呼、分かっているよ……今日も某の仕事をするだけだ」 男の神姫は、市場へ滅多に出回らず“ヴァーチャル神姫アイドル”とさえ 言われる幻の武装神姫、フブキタイプだった。見るのは初めてでないが、 彼女が“忍者刀・風花”も“大手裏剣・白詰草”も持たんのは初めてだ。 その姿も、どちらかと言えば“忍”というよりは現代の“スパイ”だな。 もっと装備の確認をしたかったが、ウェアラブルPCでの分析よりも早く “アラクネー”と呼ばれる神姫は、エントリーゲートに入ってしまった。 『クララvsアラクネー、本日のサードリーグ第36戦闘、開始します!』 そして、幻影の戦場が姿を見せた。舞台は……高層ビルとその周辺か。 ビルの外に出て戦う事も、ビルの狭い部屋を利用して戦う事も出来る。 今回のクララには都合の良い舞台と言えた……む、会話が聞こえるな。 「某は躊躇せず、そなたを木っ端微塵に“解体”する。覚悟は良いか?」 「……戦いに望む時から、ボク達は何時でも戻れない覚悟をしているよ」 「大した度胸だ、あるいは怖い者知らずか……どちらでも構わないかな」 「戦いってそういう物だもん……さあ、“態度”でお互い見せようよ?」 愉快そうに一息笑うアラクネー。移動型のカメラが二人の対峙を映す。 そこは、少し広めの会議室。その両端で、お互い睨み合っている様だ。 先に動いたのはスーツ姿の“アラクネー”であった。その指には……! 「某の名は“女郎蜘蛛”アラクネー!名の力、とくと知れ!」 「!?……高速で、部屋の壁面を蹴って移動している!!」 「まずは此方から往くぞ……丸腰のハウリンッ!!」 「ッ!?……糸?」 トリッキーな動きで飛びかかるアラクネーを、間一髪で避けるクララ。 だが彼女の髪が数本、はらりと床に落ちる。その軌道には……鋼の糸。 それが“蜘蛛の糸”の如く壁から、クララを切断しようと伸びたのだ。 厳密にはワイヤーのリールは、アラクネーの手中に幾つもあったがな。 「どうした、止まっていると死ぬぞ!?……ふっ!!」 「させない……ッ!?パイプ椅子が、こんな簡単に……!」 「チタン粉をコーティングした“斬鋼糸”だ、その程度」 「“斬鋼糸”……それが貴女の武器であり、名の由来」 素早く背後を取るアラクネーに向けて、私服であるコート姿のクララは パイプ椅子を盾代わりに利用した。御陰で首が飛ぶのは免れたものの、 スチール製のパイプ椅子は火花を散らして細切れに!……恐ろしいな。 「丸腰で戦場に叩き込むとは、そなたの主も鬼畜だな」 「……この姿ならまだ、でもボクには“力”がある」 「何?……ッ!こ、これは……先程のアレか!?」 言い放ち瞑目するクララ。その胸が、耳が、背中が……鮮やかに輝き、 幾重ものラインが、アルマの時と同じ様に“聖なるドレス”を形取る! どうやら先程のアルマを見ていたらしく、アラクネーも行動を起こす! 『“W.I.N.G.S.”……Execution!』 「……ふん、ただ丸腰という訳でもなかったか」 “姉”のドレスとほぼ同形状の、鋼鉄の衣をまとったクララ。 カラーパターンとその“腕”以外は、同じ性能・同じ素材だ。 そしてクララの腕には、16本の“柄”が下部に生えていた。 「貴女がトリッキーな手を使うなら、遠慮はしないよ」 「そうか、だが見てみろ。そなたは“蜘蛛の巣”の直中だ」 対するアラクネーは、数秒の“変身”の隙を突き“罠”を……って そうか、これかッ!!と、感心している場合でもないな。クララは 精緻な技術を以て編まれた“蜘蛛の巣”に、周囲を囲まれていた。 だがクララは冷静に部屋中を見渡し、アラクネーと対峙したのだ。 「動けばその鎧ごと斬り裂く。動かずとも、急所を穿つがな」 「……固定箇所、64。固定方法、チタン製のアンカーボルト」 「ッ!?……出来るだけ読まれぬ様に編んだのだが、やるな」 だがどうする?とワイヤーを向けるアラクネー。後で知った事だが、 このアラクネー……所詮サードリーグとは言え上位に属するらしい。 それ程の手練れ相手、普通の神姫ならば今頃はバラバラだったろう。 だがそんな強敵を前にしても、クララは冷静沈着に“柄”を抜いた! 「苦無?いや、ダガーか……だがそんな物で何になるか」 「……“蜘蛛の糸”を断ち切る、菩薩の手になるんだよ?」 ──────解けない数式だって、この娘は解いてみせるよ。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/321.html
そのじゅうご・みっつめ「さあ反撃の狼煙を上げろ・3――ジジィと神姫――」 件の強化案にもあったのだが、どうも親父はこのジイ様――母さんの父親――に何らかのツテを求めていたらしい。 僕のジイ様は、趣味を仕事にしている人で、「息抜きと人生は同義語だ!」と言って憚らないダメ壮年だったりする。 はっきり言ってしまえば、親父のアップグレード版。……ダメさ加減が上位種って、マイナーダウンじゃなかろうか? そんなジイ様が趣味でやってる仕事ってのが、小説家だったりする。桜田柄今(さくらだ・つかいま)というペンネームで、『デヴォ探シリーズ』という連作ミステリを執筆している。かくいう僕はその一編すらも読んだ事はないけど、どうも好評らしい。 僕の主観だけで言わせて貰えば、こんないい加減なジイ様が作家だという事実に心苦しさを感じないでもない。はっきりと、端的に言ってしまえば、「他の作家先生たちに謝れ!」 という心境だったりする。 要するに、ダメ大人っぷりを目の当たりにする親類としては、そう言わざるを得ないくらいの特異なパーソナリティーの持ち主ということ。 まぁ、そんなジイ様は、そのシリーズモノのおかげかなんかで、玩具メーカーやその他色々なところにコネを持っていたりする。 親父はそこに目をつけていたらしかった。 今、僕とティキはチョット大きめな一軒家の真ん前にいる。 お屋敷とか館とか、そこまでの規模では決して無いけど、それでも一般的には『広い』と認識される一軒家。 まぁ立地条件が良かったと言うか悪かったと言うか、とにかく不便な所ではあるので、これくらいの広さがあっても、安く購入できたらしい。 決して大きくは無い門には『葉月』と彫られた表札が掛けられていた。 ここの家の家主は葉月総(はづき・そう)と言う名の60過ぎのジイ様で、オタク気質の持ち主。更に付け加えるなら、自分と趣味が合うからといって快く娘をその男のところに嫁に出したという逸話まで残す変人。そして、僕の亡父に武装神姫を進めた張本人。 つまり僕の、紛れも無く血のつながった祖父。母の父親。親父の言うところのお義父さん。 ……諸悪の根源。 いや、ジイ様のおかげでティキと出会えることが出来たわけだから、感謝すべきなのか? 兎に角、僕らは休日を利用し、わざわざ交通の便も少ないこんな僻地までやってきたわけだ。 田舎だけあって、庭も広い。いや、あくまで庶民感覚で。 それでもティキは感じ入ったらしく、しきりに感嘆の声を上げ、キョロキョロとあたりを見回した。 さすがにご近所さんで、これくらいの規模の個人宅なんて無いからなあ。一応新興住宅地だしね、僕の家の周りは。 十数歩も飛び石を歩き渡ったところで玄関にたどり着き、僕は呼び鈴を鳴らす。 待つこと数秒。 「よく来たな、ボウズ」 そのむやみやたらに勘違いした若作りファッションのジイ様は、ニカッと不自然に白い歯を見せて笑った。 居間に通された僕達は、なんだか居心地の悪さを感じていた。 何でこの家は神姫にお茶を運ばせてるんだろうね? 四体の神姫たちは手馴れた様子で僕らをもてなしてくれている。 で、当のジイ様は上座でどっしりと座っていたりする。 ……この家じゃこれが普通なのか? 「バアさんに三行半突きつけられてから、一人暮らしで何かと不便でなぁ。神姫たちが家に来てからすっかりと楽になったよ」 やっぱりこれが普通なんだ…… 「マスタ、ティキも手伝いした方がいいですかぁ?」 こっそりと僕に聞いてくる。それに対し、僕は小さく首を横に振った。 この状況が平素なものだとしたら、僕やティキが手を出すのは遠慮した方がいい。それこそ大きなお世話ってヤツだ。 「でボウズ。今日は何のようかね?」 ジイ様は緑茶を啜ると僕に笑いかける。 その笑顔は何処か邪悪めいていて、うがった見方なのを承知で言わせて貰えば、「ようやくお前もこっちの世界に来たか。それ見たことか、この隠れオタめ!」と言ってる様に感じられる。 「くっくっくっ。ようやくお前もこっちの世界に来たか。それ見たことか、この隠れオタめ!」 …………本当に言いやがった! 「しかし女に振られてからやっとこさ本性顕にしたつーのがなんとも情けないが」 止めまで刺す気か! 「大方ボウズの事だから、ティキちゃんの愛らしさを見てコロッと態度を代えたんだろ? 『萌ー』とか言って。……まったくムッツリだな」 言ってねーよ。更にいらんレッテルまで貼ってくれたよ、このジイ様! そこまで言うとジイ様はテーブルに用意されていた大福に手をつける。 「で、萌々エロボウズ。用件を早く言わんかい」 「誰が『萌々エロボウズ』か!」 「マスタは『萌々エロボウズ』なのですかぁ!?」 「ちっがーう!」 このジイ様は昔っから僕をこういう風にからかって遊ぶのが大好きだったんだよ。 普通孫にこんな仕打ちするか? 「相変わらずからかい甲斐があるボウズだな。……まぁ、ボウズがオレッチを訪ねて来た理由に心当たりもないわけではないが……どうせなら本人の口から聞かせてくれんか?」 人の悪そうな笑みを浮かべながら飄々と言ってのける。 実際敵いません。お手上げ。母さんがしっかり者なのも良くわかるよ。ホント。 反面教師がこうも間近に居るんじゃ、ああもなる。 「……武装神姫の、ティキの武装強化案。親父が頼んでいたパーツを受け取りに来たんだ」 僕はジイ様の目をしっかりと見据えて、はっきりと口に出していった。 ジイ様はニヤリと口を歪ませる。 「別に、ボウズにやってもいいけど、ありゃあボウズの手にゃ余るぞ?」 「それでも、譲って欲しい。親父がやりたかった事をやり遂げたい、から」 「旦那さんが最後に残した物を、無駄にするのはイヤなのですよぉ」 ジイ様は口元を歪ませたまま僕らをジッと見定める。 うーん、なんとも居心地が悪い。 おもむろにジイ様はお勝手に向かって声をあげた。 「おーい、ヒワよ。あのパーツを持ってきてくれ。アトリ、お前は例のメモを」 「畏まりました」 「了解です」 すぐさま返事が返ってきて、待つこと数十秒。 仲居さんの格好に、ウイングユニットを取り付けたアーンヴァルのヒワが、箱を抱えて飛んで来る。ホテルマンの制服を着て、アームユニット、レッグパーツを装備したストラーフのアトリがメモの束を抱えてやって来る。 先ほどから、ある意味珍妙な格好の神姫が四体、僕らを接客しているのだから、居心地だって悪いというものだ。 ……こんな趣向の持ち主だからバア様が出て行くんだよ。 心の中でそっと嘆息。 そんな僕に気が付いているのかいないのか、ジイ様は二体からそれぞれ持って来てもらった物を受け取り、それぞれに礼を言う。 その細やかさが何で生身の、それも肉親に向けられないのかな? 「さてと、これが修芳(あつよし)君から頼まれていた物だ」 そういって二体の神姫より受け取った物を、僕の前に差し出す。 ちなみに、修芳というのは親父の事。 「これと、先に届いていた演算ユニットで、修芳君の構想していたユニットは完成するはずだ」 ジイ様は滅多に見せることがない真面目な顔で言う。 「一応このメモには大まかな回路図が記されているが、間違いなくお前には理解できんだろう。それでも、これを持って行くか?」 「うん。それでも僕はこれを完成させる。させてみせる」 僕も、ジイ様に負けないくらいの気持ちを持ってジイ様に告げた。 「……わかった。持って行け。本当なら修芳君に代金を請求するつもりだったが、これは修芳君への弔い代りだ」 ジイ様は残ったお茶を煽るように飲み干した。 「……ところでジイ様」 「なんじゃい」 「演算ユニットって、どこ?」 「あ? アレなら修芳君がすでに持ち帰ったぞ」 親父が持って帰っているのか。うーん探して見るか。 だけど本当はこういうコネって、なんかズルしてるみたいで好きじゃないんだけど。 言い訳だよなぁ。 言い訳だけど。 言い訳に使いたくはないけど、親父の思いに答える為に、僕のくだらないプライドはこの際無視してしまおう。 その後、僕らはジイ様と食事をし、ジイ様の家を出るころにはすでに夕暮れ。暗くなるとこのあたりは本当に真っ暗になるというので、僕らはお暇することにした。 「ジイ様、ありがとう」 「ありがとうなのですよぉ♪」 僕らはジイ様にお礼を言うと、ジイ様は照れたような顔をして。 「イイんだよ。気にすんな」 とだけ言う。 「それじゃあな」 そう素っ気無く言うと、ジイ様はそのまま玄関の戸を閉めようとした。 が、その時、 「先生。私お見送りに行ってきます」 ヒワはジイ様にそう断わると、スーッと外へと飛び出す。 「そうかい? じゃあ頼むな」 そう答え、今度こそジイ様は玄関の戸を閉めた。 「別にまだ明るいから大丈夫なのに」 申し訳ない気持ちになって、僕はヒワに言った。 「いいのですよ。ここら辺は何も目印がないので迷いやすいのです」 「そうなのですかぁ?」 「はい。……それと、雪那様にお話もありまして」 僕とティキは顔を見合わせる。 「移動しながらお話しましょう」 ヒワはそう言うと進み始めた。 家の門を潜り、角を曲がったところでヒワが口を開く。 「雪那様。お願いが御座います」 金髪に和服、そしてウイングユニットを装着したその神姫は静かにそう言った。 「時折、本当に稀で構いませんので、たまにこうして先生を訪ねてきてはくれませんか?」 「え? いや、まぁそれは。別に構わないけれど……なぁ」 僕はヒワの言葉に答え、ティキに同意を求める。 「ティキはまたお爺さんと遊びたいのですよぉ♪」 ティキは元気良く答えた。 「有難う御座います」 ヒワは浮遊しながらも器用に頭を下げる。 ここで「なんで?」と聞くのは、鈍感が過ぎるか? 「……先生は奥様が出て行かれた後、大変に塞ぎ込んでいたと言います。私達が先生の所でお世話になってからも、時折寂しい思いをされているようです」 …………………… 「それでも今までは、時折修芳様がいらっしゃっていましたので、元気にやっていたのですが、その修芳様が亡くなったからは、さすがに気落ちしたご様子で……」 僕も、ティキも、項垂れてヒワの言葉を聞く。 「それでも私達の前では気丈に振舞って居られますが…… そんな先生を見ているのは悲しいのです」 バア様が今でもジイ様と連絡を取っているのか僕はわからないけど、少なくても母さんはあまりジイ様と連絡を取り合っていない。 別にジイ様と母さんが仲が悪いと言うわけじゃないけど、男親とその娘って、そんなもんなんだと思う。 加えて、なぜか親父はジイ様と仲が良かった。親父はジイ様を本当の親以上に思っていたと、聞いたことがある。 そういう事をちゃんと考えたら、やっぱりジイ様も寂しいのか、な……? 「大丈夫だよ。僕はちゃんとジイ様が好きだから。また来るよ」 「ティキもまた来るですよぉ☆ もっと、いっぱいお話したいですぅ♪」 僕達は勤めて明るくそう言った。 それを聞いて、ヒワは優しく微笑んだ。 そんなこんなで必要なものとそれに伴うある程度のヒントを手に入れたが、僕は案の定それを完成させる事が出来ずにいた。 当然だよなぁ。僕は専門家ではないし、その手の知識に明るいわけじゃない。 神姫のオーナーになってから多少はそういう知識に明るくなってはいたけど、それでも僕の手には余った。 ジイ様が指摘した通りの結果、というわけだ。 だけどやっぱり諦めるわけには行かない。 専門的な知識が僕にないのであれば―― ――専門家に聞けばいいじゃないか。 終える / もどる / つづく!
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/452.html
第一間幕。ライト点灯。 そこは応接間か、一人掛けのソファが置かれており、その前に立つマコト。その頭の上にフェスタ。 学生服姿のマコトの頭の上でクルクルっと回り、仰々しく一礼するフェスタ。 先程とは髪型が違い、そのボディスーツはパールとグラスグリーン。際どいラインでカットされ、頭には銀のカチューシャ。 フェスタ「皆さん、はじめまして。フェスタです。『2036の風』第一幕をお読みくださってありがとうございます」 マコト「こんにちわ。フェスタのオーナーのマコトです」 マコト、一礼してソファに着席。 フェスタ、マコトの肩を経由して膝に移動。 フェスタ「改めまして自己紹介を。私はフェスタ。MMSタイプ『アーンヴァル』です」 マコト「アーンヴァルタイプ、初期ロットだったよね」 フェスタ「うん。武装神姫シリーズの発売日にマコトのママさんが買ってくれたんだよね」 ふと、フェスタが首を傾げる。 フェスタ「・・・そういえば、どうしてマコトがマスターになったの?」 マコト「まぁ、色々あったんだよ」 マコト、苦笑。 ふーん、と納得したような顔をしてフェスタ気にしない事にしたようだ。 フェスタ「今回のお話は、まだ姉さんや妹達とも会ってない頃の私。今の脚をお母さんから貰った時」 マコト「二月だったかな・・・荒んでたよね、フェスタ」 フェスタ「うん、ごめんごめん。・・・けど、嬉しかったな」 マコト「そうだね」 スポットライト消灯。ワイドライトがステージ全体を照らす。 マコト「・・・『2036の風』は長編じゃなくて『ショート集』。一幕ごとに主役となる神姫が変わるタイプ」 フェスタ「次の幕は誰のお話になるのかな・・・? 私の出番はどうなるのかなぁ? もう無いとかはヤだな」 マコト「大丈夫だと思うよ。ほら、フェスタ達は・・・」 フェスタ「・・・! うん!」 マコトの言葉に嬉しそうに頷くフェスタ。 ライト、少し暗く。 フェスタ、肩に移動。 フェスタ「・・・『意志』。はっきりとした心。譲りたくない思い」 マコト「それを示す為に・・・フェスタは、お母さんから脚を貰ったんだよね」 フェスタ「うん・・・歩き続けたい。踊り続けたい。この脚で・・・大切な心と一緒に」 フェスタ、愛しげに自分の腿に手をやる。 マコト、優しくそれを見つめていたが、やがて。こちらに目を向けた。 マコト「『2036の風』は神姫の『心』をメインワードとした、ショート集です」 フェスタ「CSCはプログラムを打ち込んだデータボックスなだけ・・・なのかな?」 マコト「・・・CSCは人工の産物。結局は人が作り出したデータを膨大に投入した・・・人が作り出したパーツ。人が作り出した身体。人が作り出したヘッドコア」 フェスタ「じゃぁ、神姫の『心』は『人が全て作っている』の?」 マコト「フェスタは、どう思う・・・?」 フェスタ「・・・」 風一つ。 マコト「・・・。公式で記された一行足らずの「神姫の心」というワード。たったそれだけを軸にしたストーリー『2036の風』」 フェスタ「この拙い作品、最後までお付き合い下されば幸いです」 二人、礼。 更にライト暗く。 フェスタ「次幕は姉さんが登場するね」 マコト「うん。オレ達がまだ知らない時の、ね」 フェスタ「んー・・・やっぱり・・・なのかなぁ?」 マコト「・・・(汗)」 ライト消灯。第一幕、了。 2036の風
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/820.html
折り返し──あるいは二日目その二 “鳳凰カップ”は二日目の中天を過ぎ、流石に客足は決勝ブロックの ギャラリーへと流れつつあった。私・槇野晶は必死で客を捌き続け、 神姫たる“妹”のアルマも、数時間に及ぶゲリラライブをこなした。 あれ程の大群衆を引きつけてくれたのは、彼女の功績に他ならんな。 故に、遅めの昼食を摂る事とした。アルマも空腹だろうしな、有無。 「アルマ、よく頑張った。あれ程歌い続けて、ヘトヘトだろう?」 「あ、はい……ちょっとだけバッテリー残量が心許ないですけど」 「ならば昼食をたっぷりと食べて、午後のライブまで休むと良い」 「えっと……すみませんマイスター、本当はお手伝いの時なのに」 構わぬ、と言って私は彼女の躯を軽くチェックし、着衣の乱れを正す。 しっとり風のラブソングから熱血の極みと言えるファンファーレまで、 アルマは実に、アルバム1枚超に及ぶ長丁場を一人で切り抜けたのだ。 その間急造のステージから降りる事も叶わず、彼女は一人歌い続けた。 激しい動きをせずとも、その服が乱れてしまうのは仕方ない事なのだ。 「ところでマイスター、梓ちゃんとロッテちゃんはどうしたんです?」 「有無。先程渡瀬美琴がやってきおってな……勝ちを拾ったそうだぞ」 「本当ですか!?ファーストやセカンドが、ひしめいているのに……」 「……これで公式に反映されるポイントも、相当数になる……だがな」 冴えない私の表情から、何かを感じ取るアルマ。そう、語られぬ所では クララとアルマも、ちゃんと公式バトルでの勝利と敗北を重ねている。 だが、ロッテとのランク格差は……今回の一件で大きく開く事だろう! 流石に何もせずしてセカンドへ昇格、等という事態はないだろうがな。 だがそれでも、この様に突出する事が果たして“三人”の幸せなのか? 「多分、この次も勝ったら……あの娘らは、即刻棄権するだろうな」 「……そうじゃないか、と思います。戦うなら最後まで、ですけど」 「だが望まぬ戦いをも率先して受ける様な、戦闘狂ではあるまい?」 「はい……ただあくまでロッテちゃんは、限界を見切るつもりです」 「有無。それを知りたくて、頂点を目指しに行ったのだろうからな」 言葉では明言されない物の、今ならばロッテと梓……ついでにアルマが、 奇策を弄してまでトーナメントの参加を押し通した理由が、良く分かる。 “己の戦いに誇りを”。これはロッテが戦いの際に、時々告げる誓いだ。 だが言葉だけの“誇り”等、いかがわしいネオンサインより陳腐である。 実行しなければ、出来ない事ならば。野心も勇気も願望も、力を持たぬ。 「ならばこそ己が何処まで出来るのか、更に何処へ伸びて行けるのか」 「それらの見極めの為に、今回の“聖杯”は打って付けだったんです」 「……アルマや。別にお前達が後ろめたさを覚える事は、何もないぞ」 「マイスター……はい、有り難うございます。そして、ごめんなさい」 「その意志を大事にしたい故に、私も“魔剣”等を求めたりしたのだ」 何も頂点に立つ事だけが大事なのではない。その過程に何を見出すか、 それが出来てこそ“求道者”や“戦士”としての成長が、あるのだな。 だからこそ、“姉”であり後援者たる私は……過程も結果も尊重する。 『結果が全てだ』等とは今世紀初頭から言われているが、愚かな事だ。 過程がなければ結果はまず成せず、結果が見えなければ過程も為らぬ。 「まあ何を言おうとも、私は彼女らを褒め称え労うつもりでいるぞ」 「あ……は、はいっ!本当に有り難うございます、マイスター!!」 「有無。所で何故、前日に『神姫素体で赴く』と言い出したのだ?」 ここで話を変える。このゲリラライブは、文字通り“ゲリラ戦法”だ。 大会本部への申請は、殆ど事後承諾となっていた。私自身、アルマめが 前日に準備を始めるまで、本気でライブを行うとは思わなかったのだ。 その時は強い意志に根負けして挙行を認めたのだが、やはり気になる。 だがその疑問に対する答えは、やはり驚く程シンプル且つ強固だった。 「あたしだって神姫です。神姫でしか出来ない事で、挑戦したかった」 「……故にこそ敢えてHVIFでなく、その躯で挑んだというのか?」 「はい。“肉の躯”よりも、“殻の躯”で伝えたかった想いですから」 HVIFは、人と神姫の垣根を取り払う。だが同時に、神姫達にとっては 不便な要素も存在していた。“心”に纏わる事柄についても、同じ様だ。 だからこそ“歌い手としての”アルマの感性は今回、神姫素体を選んだ。 神姫の“心”が人と同様だからこそ、僅かな差を敏感に感じるのだろう。 そう言う意味では、『同様であっても模造ではない』とも言えるのだが。 「そうか。想いを皆に伝えたいが故に、より良き策を取ったのだな?」 「はい……巧く言葉では表現出来ないんですけど、こうなんとなくっ」 「それで構わぬ。人の心も神姫の心も、理論では説明しきれぬしな!」 私はそう言って、アルマを肩に乗せてブースを離れた。二人とは今日、 一緒に昼食を摂る事は叶わぬが、最早全ての懸案は払拭されたも同然。 後はロッテ達が悔いの無い様に戦えば、それで十分だ。上機嫌である。 喫茶店“LEN”専用ブースたる大型トレーラーに、向かう事とした。 それは混雑する往来を小柄な躯ですり抜けていく、そんな最中だった。 「む……あの娘は、先日店へとやってきた……いや、人違いか……?」 「ん?……えっと、どうしたんですかマイスター。振り返っちゃって」 「いやな、この間店にやってきた女性に似ている者が居たのだが……」 L字定規を投げつけて、分かっていない不埒な輩を追い出したあの日だ。 うっかり往来にて投げたまま忘れていたL字定規を届けてくれた、ミラ。 “本物のガンスミス”の業物を持ち歩いていた、武装神姫達のオーナー。 「……彼女も彼女で忙しいのかもしれぬな。構わぬ、行くぞアルマ?」 見間違える筈はないのだが、彼女の姿を認めたのは会期中初めてである。 だが、あれ程“訳あり”の雰囲気を醸し出しておいて……偶然ではない。 ならば今の私が彼女を深追いする事は、お互いにとって“損”であろう。 不思議そうに首を傾げるアルマを宥めつつ、私は“LEN”に向かった。 「いらっしゃい……あら、晶ちゃんと大食いのアルマちゃんね」 「だッ、だから大食いって言わないで下さい!京都さん~!?」 「ふむ……そうか、千空めも決勝トーナメント出場組だったな」 「なんだ、彼奴がいないと寂しいか?そんな時はコーヒーだ!」 ──────寂しいのかどうかは、私だって分からないよ。 メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/nekokonomasuta/pages/23.html
武装神姫 MMS,Type ANGEL ARNVAL Mass-production model 『量産型アーンヴァル』 「我々は、大儀のために戦うのです」 【基本能力】 量産型アーンヴァルは集団戦闘の専門家である。 そのため戦闘基本値に以下の修正を得る。 【射撃基本値】(+2) 【格闘基本値】(+2) 【回避基本値】(+3) 【特殊】《フォーメーション効果》を受けた場合【効果】(+1) 【技能】 量産型アーンヴァルはキャラクター製作時に、以下のリストから技能を2つ習得できる。 また経験を積んでキャラクターレベルが上昇した場合、3で割り切れるレベル(3,6,9,12……)に到達する度、新しい特殊技能をひとつ、修得できる。 量産型アーンヴァル 技能リスト 《追加HP》 《一斉発射》 《ウェポン習熟》 《緊急回避》 《逃走》 《シールドブロック》 《追加SP》 《反射神経》 《連携攻撃》 《タフネス》 《突撃》 《不死身》 《SP回復》 《狙撃》 《複数目標攻撃》 《一斉掃射》 ○量産型アーンヴァル(ソルジャー) 【基本性能】 【射撃修正】(±0) 【センサー性能】(+0) 【速度】(6) 【格闘修正】(±0) 【装甲値】 ( 5 ) 【旋回】(3) 【回避修正】(±0) 【HP】 ( 24 ) 【パワー】 ( 5 ) 【シールド】 ( 2 ) 【格闘武器】 名称 /威力/格闘補正/使用回数 格闘 / 5 / ±0 / ∞ ライトセイバー / 8 / +1 / ∞ 【射撃武器】 名称 /威力/~5/~10/~15/~20/使用回数/間接/連射 アルヴォLP4ハンドガン / 7 /+3/ - / - / - / 8M / ×/ × アルヴォ PDW9 / 9 /±0/ -2/ - / - / 9M / ×/ ○ ○量産型アーンヴァル(ガード) 【基本性能】 【射撃修正】(±0) 【センサー性能】(±0) 【速度】(4:VTOL) 【格闘修正】(±0) 【装甲値】 ( 8 ) 【旋回】(3) 【回避修正】(-6) 【HP】 ( 24) 【パワー】 ( 6 ) 【シールド】 ( 2 ) 【格闘武器】 名称 /威力/格闘補正/使用回数 格闘 / 6 / ±0 / ∞ ライトセイバー / 8 / +1 / ∞ 【射撃武器】 名称 /威力/~5/~10/~15/~20/使用回数/間接/連射 アルヴォLP4ハンドガン / 7 /+3/ - / - / - / 8M / ×/ × アルヴォ PDW9 / 9 /±0/ -2/ - / - / 9M / ×/ ○ 【カスタムデータ】 ○アーンヴァル・ソルジャー 【部位】 /【CP】/ 【名称】 /【効果】 頭部 / (0)/ ヘッドセンサー・アネーロβ /《センサー+1》 胸部 / (1)/ buAM_FL010アーマー /《HP+2》 《装甲+1》 《シールド(2)》 脚部 / (1)/ AT2レッグパーツ /《HP+2》 《装甲+1》 背部U / (1)/ リアウイングAAU3 /《速度+1》 計 /( 3 ) ○アーンヴァル・ガード 【部位】 /【CP】/ 【名称】 /【効果】 頭部 / (0)/ ヘッドセンサー・アネーロβ /《センサー+1》 胸部 / (2)/ buAM_FL011フルアーマー /《HP+2》 《装甲+3》 《回避-4》 《シールド(2)》 脚部 / (2)/ ホバリングギアAT4 /《HP+2》 《装甲+2》 《回避-2》 《速度-1》 《VTOL》 背部U / (0)/ / 計 /( 4 ) (*1)以上の装備はアーンヴァルが装着しても【CP-1】のボーナスが適用される。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2514.html
不良娘と放課後のディスカッション 世の中はオセロのような物だ。 片やが立てば片やは減り続ける、そうして四隅を取られて敗北を待つ。 コマを回収するときを静かに待ち続けるしかないんだ。 負けてたまるか、諦めてたまるか そう思い続けた日々は無意味と帰して… 「そうして哀れ私はこうして肉体労働に準じるしかないのね…よよよ」 「おい神奈、余計な口を動かしとランでこっちの資料もいらないから縛って置いてくれ あとそれからそこの教材と此処の参考書ももういらないから棄てるように。それから…」 「は~いはいはい、私の手は何本に見えます?二本ですよ!」 少女は無意味なモノローグを途中で切られた事にムッとして、半ば剥げた教員に文句を返す。 少女は特徴的なウェーブのかかった長髪をしており 流行りの小ぶりなバイオメタルフレームの眼鏡をかけていて それが逆にスタイリッシュなファッションとなっている…所謂美少女である。 しかしその手には軍手、そして首にはタオルをかけておりやや埃にまみれたその姿はアシンメトリーな違和感を感じさせた。 「今これゴミに出すんでもうちょっと待ってくださいよっと…急かす男性は幾つになってもモテませんよん♪」 余計な御世話だ!!という怒号を背に聞き終える前に扉を脚で閉める。 そして重い荷物を両手に木造の渡り廊下を歩く。 珍しい?確かにこんなご時世だ、そう感じるのも無理は無いだろう。 戸叶第三高校…通称戸叶三校。 都内におけるごく有り触れた3流高校であり、未だ木造の校舎が残っていると言う奇特な学校である。 なんでも21世紀初頭にごく一部で古き良き建築方式を残そうという運動があったらしく 当時の新技術であった圧縮技術によってできた強化木材によって最新のバイオセラミックに勝らずとも劣らない強度と頑丈さを兼ね備えているのだとか。 しかし所詮木材は木材、腐食菌達の30年間にわたる努力の甲斐あって、強固な木材もやがては腐食する運命を辿る事の証明に細菌どもは成功したのである。 それがどうしたと言われるだろうが此処からが問題で、雨が降ったりすると雨漏りが結構酷いのだ。 そして彼女、神奈 流の回収したテスト用紙に丁度狙い澄ましたかのように雨漏りが降り注いで来た事によって素敵なまでに答えが消えてしまったのだ。 通常は、ここで再試験の申し揉みを出せば先生はもれなくOKサインを出すだろう。 しかし彼女の場合は勝手が違った、授業の抜け出しに授業中の居眠りなど常習犯 果ては成績の良さとそれに寄り学校の平均偏差値をあげているのも彼女なのだからか堂々とそれらを行うのだから教員としては腹立たしい問題児の中の問題児 それが神奈 流の教員たちによる評価である。 つまり再試験していい代わりに、雑用だけでもやってもらうぞと言う事だ。 ちなみに再試験は既に終了しており教師も真っ青になる程の好成績を叩きだしている。 「しっかし何でまたゴミ捨てかしらねぇ~、こんなの男子にでもやらせりゃいいのに… まったく、私みたいにガッツのある野郎はいないのか嘆かわしい」 実際昨今のスポーツ事情から言っても、社会の中での男性の立場の崩落は未だ大きい物である。 何故ならば男子の運動離れと、筋肉や中身を磨くより外観を磨こうという努力にばかり目が行く者や 20世紀末から繁殖を始めたゲームやパソコンオタクと言った分化系の大量発生―といっても著者や神奈自身はそれを否定する事は無いが― パッと見ではそうそう問題ではないが、男子の体育離れ…即ちなよなよしい男子を大量生産するようなご時世と言う事だ。 しかし…そんなこのご時世でも奇特な人間と言うのは居るもので 「よう、手伝おうか?」 通りかかった部室の前に腰かけた男が神奈に話しかける。 ツンツン頭で如何にも前世紀では漫画の主人公のような頭をしている男はただ神奈を見かけただけなのだろう、それがどんな状態に有るかも知る由もない 彼がそんなお人よしである上に外見に見合わずそれなりに筋肉のついている男だと言う事も神奈は知っていた。 なぜなら彼は神奈が所属する部の部長だからである。 「頼むわ、ちょっと数学のあのハゲの準備室で教材とか色々あるからねん♡」 「え”…わ、わかった。男に二言はねぇ!!」 一瞬固まった、それ程に数学教師の階戸教員はなかなかに面倒くさい人間と言う事が知れ渡っているからだ。 しかし男はガッツポーズをとってその場から数学準備室へと足を運ぼうとする。 それこそがなんでも気合と根性とごり押しで物事を解決する男、元サッカー部主将にして武装神姫部部長の蘆田 阿頼耶である。 明らかに生まれる時代を間違えているこの男。 ふと神奈は蘆田を呼びとめた、もちろん頼んだ事を中止する気は無い。聴きたい事があったからだ。 「蘆田部長ー、部長の神姫はどったの~?」 「んん?今丁度部室内の掃除中だ、丁度部屋から追い出されちまった所だよ」 神姫…それは2041年現在、あまりにも当たり前に人々の日常に溶け込んだ汎用人型フィギュアサイズロボットである。 身長15センチ程度のボディにCSCシステムに寄る人工的な感情と魂をほぼ完全に再現した最新の人工知能を搭載 またボディに汎用的なパーツを搭載する事でほぼ無限とも言える多機能性を見せる―これを武装とも言い、後述の名の由来にもなっている― まさに、人類が生み出した理想的なパートナーと言えるだろう。 そして一部の人々はその神姫に思い思いの文字通り武装―武器や鎧、あるいは技術をありったけ積み込んだ超小型軽量化バトルモービルもしくは同左パワードスーツ等々前述の通り種類は無限である― を装備させ、あるものは自らが司令塔となって、或いは神姫と一つになって、小さなサイズの戦いを繰り広げる遊びが流行していた。 それを神姫バトル、そして主人と共にその戦いに身を投じる神姫達を人々は武装神姫と呼んだ。 「しかし…当たり前に浸透してるって言う割にはバカ高いのよねぇ」 「仕方ないさ、俺だってバイトの退職金と兄貴の残した神姫ポイントがなけりゃ二体も買えなかったしな」 流石元運動部員と言うか、もう神奈に追いついてきた蘆田と学校外の歩道を、荷物運びをしながら受け答えする。 ため息をついてゴミ捨て場へとたどり着く。古い学校だから景観を壊したくないという理由でゴミ回収場所も後者から結構遠い道の端なのだ。 「あぁもう、今日は私だってバイトの予定もキャンセルしたのよ!!なんだってこんな金にもならないボランティアをする為に…くっそう、21世紀初頭の活動団体を呪いたいいぃ!!」 「一体何を言ってんだお前は…」 ため息をつきながら蘆田は神奈に振り向く。 「そういえば、神奈はそろそろ神姫買う予定なのか?」 「いや全然?」 蘆田は意外な事にすっぱりと切り捨てられる問いに顔をしかめる。 それもその筈、神奈は神姫に対する知識が非常に深い。 本人は詳しい武装紳士・淑女で無くとも神姫ヲタならだれでも知っている事というが 実際戸叶三高神姫部の神姫達の武装は殆ど神奈がチューンナップしているのだ。 深いなんてものじゃない、明らかに何か経験を積んだのだろう。 しかし、その辺の事は蘆田は深く聞き出すつもりは無い、お互い過去は無意味なことと知っているからだ。 「まぁ部長だってサッカー部全員が女にうつつを抜かしててる中、極度の初心なもんだから凄く居づらくなったんで、せめて女性恐怖症を治すために神姫始めたんでしょ♪」 「ぐ!!それは今関係ないだろうが!!」 まぁ彼の過去の場合、もう殆ど払しょくできているから伏線にする必要もないのだが… やがてようやくゴミ捨て場へとたどり着いた二人はどさどさとゴミを置く。 「しかし何でだ、普段からお前うちの神姫達ともよく関わってるし神姫が嫌いな訳でもないんだろう?それこそうちの部費で買ったっていいんだ、金の事なんてそんなに気にする事でもないだろう?」 「…整理がつかないのよね、気持ちの問題と言うかね…なかなかどうして、私に共感できる子が欲しくてね」 そりゃ無理だ、と蘆田は正直にため息をついた。 神奈程の変人は中々居ない、神奈と関わった者ならだれでもそう思うし神奈本人もそう思うだろう。 しかし…ふと神奈は其処に捨ててあった赤い光を偶然視界に入れた。 「…………あぁ、前言撤回するわ」 「・・・は?」 神奈の突然の意趣返しに蘆田は戸惑いの声を上げる。 すると神奈は粗大ごみの中から伸びる『手』を握って、ずるりと引き上げた。 千切れたコードが絡まり、埃で汚れ、力無く手脚をぶら提げた身長15センチ程度の少女が神奈の掌に乗せられた。 「部長、ちょっと部室のクレイドルとパソコン借りるわよ」 「お、おい?」 「私はこの子の思い出を育ててみたいのよ♪」 トップ 続き
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/875.html
むが~すむがす・・・でねぇで2036年の事だべ。あるカラオケ屋にたげ変な武装神姫が働いてたんずや。どんげにえばだかっつうとこったら感じだったんず。 〔割と久しぶりだわ、カラオケなんて。そう言えば新曲で歌いたいのがあったのよね。とりあえず副部長、お酒頼んで〕 {部長部長!! 一応サークルの新人歓迎会だって忘れないで下さいよ! あ、キミたち、食べたいものがあったら好きなの頼んでいいですから} 「・・・私、人前で歌うのはあんまり・・・」 [新入りちゃん、大丈夫だって。聞いてるだけでも、今宴会用のパーティーグッズだか何だかも頼んだからちゃんと楽しめるって!] 〈ちょっとセンパイ・・・そういうパーティーグッズって大抵イタいコスチュームとかしょうもない玩具とか、最初は勢いで楽しんでも2度と使えなくて、しかもこういう所で頼むとぼったくりな料金取られますよ!?〉 [そっちの新入りはツッコミきついな~。いいじゃねえかよ、意外と面白いのが出てくるかもしれないだろ?] 『んだっ!! 面白くねんかは見てから決めてけろっ!!!』 {いきなりマイク最大で喋るのは誰ですか! あ、人形?} 〔武装神姫じゃないそれ? 着物着てるけど、確かツガルタイプね〕 〈武装神姫って・・たしかマニアックな玩具でしたっけそれ? 良く種類まで知ってますね〉 『オモチャなんとは違うだ!! わーはさすらいの神姫演歌歌手、サユリちゃんだべ!! まんず1曲聴いてけろっ!! “津軽海峡冬景色”! ~♪ ~゛♪゛♪~』 [なっ!? 演歌ぁ!? いまどき演歌なんてジジイでも歌わねえのに、そんなんで盛り上げようなんておこがましいぜ!! 俺の“B’zの新曲”でも聴いて考えを改めな!! ~゛♪゛♪~!!] 『ほー、言うずらあってたげ気合入れた声しちゅーな。だばって歴史の浅か歌だば重さ足りんべや!! 真の歌っちゅうんは今さ聞いともたげ涙出るだべや~。それども古い歌なん今の若い者は知らんべや? がへーね! “淡墨桜”!! ~~♪♪!』 [B‘zの歌が軽いだと!? 古い歌知らねえだと!? そんな減らず口、この歌で塞いでやる!! “ギリギリchop”!! ~゛♪゛!!♪♪♪!!!~] 「・・・“Top of the World”歌います。~~♪~♪~♪~」 〈ああもう・・・、歌えばいいんでしょうが!! “Imagine”!! ~~~♪~♪♪~〉 〔へえ、意外といい歌知ってるじゃない2人とも。これは演歌ちゃんだけじゃなく、新入りちゃん達にも負けていられないわね! “みかんのうた”行くわよ! ゛♪゛♪゛♪~ ゛!゛!゛!~〕 {ああもう部長まで挑発に乗って、これでは収集が・・・} 『さしね!! オケ屋なん暴れて歌うトコだべや!! こすばすねで歌え! “鳳仙花”! ~゛!! ♪♪~゛♪~』 {歌わないとは言っていません!! “脳内モルヒネ”、歌います・・。 ♪~! ♪♪~♪~} 〈次は“ピンクスパイダー” !!!♪♪~♪!!〉 「・・・“fly me to the moon” ♪~♪♪~♪ ♪♪~」 〔皆、古い歌しばりでもレパートリーあるのね。“石川大阪友好条約” ~♪ ~!! ~♪♪〕 [“DA・KA・RA・SO・NO・TE・O・HA・NA・SHI・TE”だ!! ♪~♪♪ !!!~♪] {“月に叢雲花に風”、歌います。 ~!!!~♪~!!!~♪♪} 『“夕焼けとんび”だべ!! ~~~~♪♪~~!!♪~』 [次は“LADY NAVIGATION”を・・・] 〈センパイ、俺の“lithium”が先です!! 大体、70過ぎても現役ロッカーな物好きの歌ばっかり歌わないで下さいよ!!〉 [B’zをバカにするな! 大体お前だって自殺とか殺されたりした奴の歌ばっかり歌ってんな! 辛気臭い!!] 〈なっ!? 別に歌は辛気臭くないんだからいいじゃないですか!!〉 『なんしたば~、歌の趣味なん好き好きだてや~』 〔ねーねー、折角だから皆で“青のり”歌わない?〕 [{〈『それは却下!!!!』〉}] こったら風に、そげなそげな迷惑な位、古くさい歌に情熱ば注ぐ変わり者な奴だったてんがや。 「ありがどんごす~♪」 「有難うございました~♪ ・・・あ~ふわぁ~、眠ぃ、朝になってやっと閉店、これだからオケ屋のバイトってのは・・・」 サユリと歌ってた最後の客ば見送ってから、マツケンはでったらあぐびばする。それさ聞きつけて、奥からみりーも顔さ出す。2人ともサユリば同僚のアルバイトなんずや。 「マツケン君、最後のお客、随分盛り上がってたみたいだね」 「あ、みりー。それはこいつが居たからだよ」 「ああ、サユリちゃんか~。どうりで古い曲ばっかり聞こえてくると思ったら」 「めんずらすに、たげ威勢のよか客だったべや!」 「珍しく、怒らない客だった、だろ? いつも言ってるけど、まともに接客しろよ!! お前が古い歌で引っ掻き回した客の応対誰がしてると思ってるんだよ!!」 「でも結構サユリちゃんの売り上げ多いよ?」 「・・・珍しがってるだけなんだよ」 マツケンさにらんだばってん、サユリはなんともねて鼻で笑ったとや。 「さて、たげバイト代さ溜まったべな、わーはまた旅さ出るベな」 「へ? 旅って、もう出て行くのか?」 後片づけさ始めたマツケンたちば尻目に、サユリはいきなり宣言しよった。いづのこめにその体にしちゃあでったらい風呂敷ば背負って旅支度さしとったしの。 「え? サユリちゃんてこの店の神姫じゃなかったの?」 「ああ、こいつは俺たちと同じバイト」 「マスターも無しに?」 「なんでか知らねえけど、そうらしい」 みりーは先週さ入ったばっかだったべに、サユリさ来た1月時のことさ知らねかったんだべや。 「ふらりとやってきて、いきなり1人で『住み込みで働かせてけ~』って押しかけて来たんだよこいつ。最近じゃ路上ライブも取り締まり厳しいからとか何とかで。で、物好きな店長が宴会要員として採用しちゃったんだよ」 「物好きさ言うでねえ!! わーの心意気に惚れ込んだてに店長は雇ってくれたんだべや!!」 「いや心意気はともかく野良神姫の飛び入りバイトなんて雇ったら十分物好きだろ。大体お前演歌しか歌わねえし・・・まぁ、上手いとは思わなくもな・・」 「ねえ、ところで旅って何処へ行くの? 何が目的?」 「わーの師匠の親戚ば渡り歩いてんだべ」 マツケンの声さ遮ってみりーが聞くと、サユリはそう答えたべや。師匠ってばサユリのマスターの事だや。 「なんだ、野良じゃなくてはぐれた神姫だったのか。その師匠・・マスターを探して歩いてるのか? 何ではぐれたか知らないけど」 「だったらマツケンのお兄さんに探してもらったら? 確か元刑事だとか探偵だとか何とかじゃなかったかな」 みりーの言う通り、マツケンさ兄は私立探偵さしてただ。まーそん欠けたハサミみてーな探偵の神姫に引っ掻き回され人生っぷりは別の話で見てけっさ。けどもみりーの提案にも、サユリは首横さ振ったべや。 「つがるね。わーは別に師匠とはぐれた訳でねでぃや。自分で旅ば出て、修行してるんだベや」 「修行!? 演歌の!?」 「わーは昔、たげ「時期ネタ」だて虐められたべや。サンタなん「残りの364日はプー」なん色々言われてなぁ」 「あ~、俺も言ってたな。ツガルタイプはデザイン優先で使えないとかクリスマス以外の日にサンタが居てもありがたみが無いとか一人だけ元ネタありでデザイナーからゴリ押しで入れられた邪道だの色々。本人に言われると罪悪感沸くなあ」 「だば罪さ償いに死んでけ」 「さらっと言うな酷いコト!!」 「ま、そげは冗談だばってん、そんでわーはたげ落ち込んだべや。そったらわーの師匠は言ったベや。『一日だけでも、毎年喜ばれるならいい』てや。わーの師匠はたった1日ば出番さ日に、悪者さなって豆弾さ投げつけられるんだてや。それだけでねーばん、師匠さ親戚は葉っぱで目潰しさされたり、初嫁やもっけに挨拶しに行っただけだばって脅迫さ誘拐さ勘違いされたり、たんだ笑ったばっかに「何をあざ笑ってるんだ!!」って非難ばされるって言ってたべや」 「でも実際悪さしてたんだろ? それだけ憎まれてるんなら」 「そげなはごくごく一部べや。殆どは昔良か思ってば始めた事だに皆が昔の事忘れちゅーて全部悪い方に勘違いされてるべや。それならまだ良かが、その風習自体もたげ忘れられちゅー、よう覚えられてんなってんさ」 「そんな・・・師匠さんの一族って可哀そう」 「ああ・・・ うん・・?」 みりーもマツケンも不幸なサユリさ師匠を哀れんださ。だばってマツケンはその師匠さ何か引っかかるとも思ってたべや。 「だばっても師匠はこうも言ってたべや。『だけど、俺達一族のやっている事は、関係ない、意味無いと言われても最後には人の幸せに繋がる事だから誇りを持っている』ってな。わーはその言葉にたげ心打たれたん」 「あ、なるほど。“風が吹けば桶屋が儲かる”の理屈か」 「え? 天気悪いと客足引くじゃない?」 「いやオケじゃなくて桶。風呂桶の桶だって。嫌な事が関係ないように見えて良い事に繋がってるってことわざ」 「そうべ、だはんで、わーはそげな風に迷惑さ言われても自分のやる事誇れる者になりたて、諸国巡りしちゅー訳べや」 「そうか、だからわざわざ今では廃れて無意味で陳列棚の邪魔者って言われる演歌で身の上を立てたりしてるのか。神姫の癖に見上げた根性だよ、ホントに」 「やー演歌は趣味だはんで」 「話の腰折るなよ」 「んだ、へばわー行ぐはんで」 そう言ってサユリは風呂敷さしょって立ち上がったべや。 「ホントに、言っちゃうんだね。それじゃあ、次は何処に行くの?」 「次は師匠の故郷に寄るばってさ。京都の大江山だべ」 「え? 大江山?」 「そうべ。師匠は居らねーばん、集落さ仲間たげ居るっちゅー話だて」 「そっか、早く師匠さんに自慢できるようなオケ屋になれるといいね」 「ああ、がんばんベ。じゃ、短けえ間だばったがありがとや。ひゃーなー」 「うん、元気でね~!!」 朝日がちっけな後姿を消したんは、ほんに一瞬の事だったと。 「・・・ねえ、マツケン君、何か考え込んでるみたいだけど、どうしたの? サユリちゃんが心配?」 「いやさ、豆投げるのって、節分だよな? 最近あんまりやらないけど」 「・・・え?」 「節分の魔よけのヒイラギは目潰し用だって言うし、子供を追い回すって言うとなまはげ。来年の事を言うとアレが笑うってことわざもある。極めつけは京都の大江山って酒呑童子伝説の場所なんだよ」 「え、それって、もしかして、時期ネタで苦しめられて昨今忘れ去られてるってまさか・・・」 「いやでも・・・実在するなんて・・・ちょっとなあ、にわかに信じがたいってか・・・」 「・・・今度サユリちゃんに会ったら聞いてみるしかないよね」 「・・・また会ったら、な」 そん後も、マツケンとみりーは神姫演歌歌手の噂ば何度か聞いたと。だばって、サユリとば会うことは2度と無かったと。とっつぱれ(?)。 目次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2105.html
ウサギのナミダ ACT 0-2 ■ バッテリーがフル充電になり、わたしは覚醒を促される。 ゆっくりと開く瞳。 目覚めたわたしは、眩しさに目を細めた。 ……ここはどこだろう? お店にいたときは、こんな眩しさを感じたことはなかった。 やがて瞳が光量を調節し、周りが認識できるようになってくる。 眩しく感じたのは、白い壁だった。 白い壁、白い部屋。 実際の明るさはそれほどでもないけれど、薄暗いお店しかしらないわたしにとっては、とても明るい部屋だった。 やわらかな光に満たされていた。 わたしはクレイドルの上に寝かされていた。 まだ真新しいことが肌触りでわかる。 わたしの上には、白く清潔な布が一枚かけられている。 白無地のように見えるが、同じ色の糸でシンプルな模様が入っている。 男性用のハンカチのようだ。 しわもなく、真っ白で、かすかにさわやかな香りがする。 あたりは、しん、と静まり返っている。 ここはどこだろう? わたしが身体を起こそうとすると、 「……ッ!」 激痛が身体を走り、わたしはうめいた。 そうだ、思い出した。 わたしはあの夜、お客さんに無理矢理連れ出され、そして…… よく覚えていない。 途中からの記録が途切れている。 痛みがするのは両脚と左腕。わたしを連れ出したお客さんの仕打ちだった。 左腕を見ると、細い木を使って添え木がしてあり、丁寧に包帯が巻かれていた。 布に隠れた脚を見ると、左腕同様に手当がしてあった。 わたしをここに連れてきた誰かがしてくれたのだろうか。 そこまで考えたとき、突然ガチャガチャという金属音がして、わたしはびくりと身をすくませる。 左の奥には扉があるようで、そこから一人の男性が現れた。 「目が覚めたか」 ちょっとそっけないくらいの口調で、わたしに声をかける。 知らない人だった。 少なくとも、わたしのお客さんにこの人はいなかったと思う。 端整な顔立ちの男性だった。 「拾ってきたときには動きもしなくて、あせった。ただのバッテリー切れでよかった」 その人は、わたしに呟くように話す。 「あの……」 わたしが声を出すと、なんだか驚いたようにわたしを見た。 その表情に、わたしは少しおびえて、ハンカチを引き寄せる。 「あの……ここはどこですか……?」 「俺のアパートだ。昨日の夜、おまえを拾ってきた」 ぞんざいなしゃべり方だったけど、不思議と嫌な感じはしなかった。 「わたし……おきゃくさ……男の人に連れ出さたんですけど……その人は?」 「おまえを投げ捨てて逃げたよ」 言いながら、わたしの左手にある机の上に持っていた包みをおいた。 わたしの背後にあるPCの机とはひと続きになった長い机で、荷物のおかれた場所は何かの作業場になっているようだった。 様々な工具がきちんと整頓されて、並べられている。 「添え木してるから身動きがとれないだろ。すまんな。さっき新しいボディを買ってきた。 明日には、神姫に詳しい奴にボディの換装を頼んでいるから、しばらく辛抱してくれ」 「新しいボディ……?」 たったいま机に置いた包みを示しながら、その人は言う。 「いま買ってきた」 「……わたしの、ために?」 「そうだ」 「なぜ、ですか? なんで、わたしなんかのために、こんな……」 素体とはいえ、神姫の新品ボディは決して安くはないはずだ。 「そりゃぁ……」 その人は、いとも簡単にこう言った。 「おまえのオーナーになりたいからだ」 「わたしの……オーナー……?」 「そうだ。だからおまえを連れてきた」 わたしは驚いてすぐに言った。 「だ、だめです、そんなこと。わたしがあなたの神姫になったら、ご迷惑がかかってしまいます」 「なぜだ?」 「だって……」 好き好んで、わたしのような神姫のオーナーになる人なんて、いない。なぜなら、 「わたしは、神姫風俗の神姫ですから……」 □ その神姫はそう言って、悲しげにうつむいた。 その事実が、どれだけ重荷なのか、昨夜までの俺ならわからなかったろう。 だが、こいつをクレイドルに乗せ、PCでこいつの記録を見て……俺は思い知らされた。 人間とはどれほど醜悪な存在なのかを。 「わ、わたしは汚れた神姫ですから……あなたのような方の神姫になる資格なんてないんです……」 なんだ、その資格ってのは。 少し腹立たしくなっている俺の前で、その神姫は自らの境遇を語りだした。 「PCにクレイドルをつないだのなら……わ、わたしのことなんて、もうわかってますよね……わたしは神姫として目覚めたときから、お店の中にいました。お店から出たのは、ここへ来るときが初めてです。あんなことでもなければ、出ることもなく、壊れていったんでしょう……。 わたしは名前をつけられませんでした。店にいる神姫はみんなそうでした。ただ、番号で呼ばれていただけ……わたしたちは、お客さんといるときはお客さんの神姫だから、お客さんの呼ぶ名前を自分の名前と思え、って……。 わたしは目覚めたその日から、お店に出ました。すぐにわたしの番号、23番が呼ばれて……わたしは人間の男性に……奉仕しました……」 23番の神姫がそれからしたことを、俺は自分のPCで見た。 神姫風俗というのは、人間の女性ではなく神姫を使った風俗営業のことである。 一五cmのフィギュアの女の子を性行為に使って何がいいのかと思うが、そっち方面の男達に需要があり、それなりに繁盛しているのだそうだ。 それに、人間を雇うよりも、神姫の方が購入代金とメンテナンス料を含めても断然安い。 人件費の安さがそのまま料金にフィードバックし、そんなにお金が無くてもその手の人たちには楽しめる……らしい。 存在は知っていた。 だが、俺が知っていたのはこの程度のことだった。 昨夜見たこの神姫の記録は、俺の想像を絶するものだった。 男への奉仕なんてものじゃない。 神姫専用の自慰アダプタを使用してのセックスなんてものはまだかわいい方だ。 およそ考えうる、ありとあらゆる方法で神姫は陵辱されたいた。 客が持ち込んだ同サイズの男性型フィギュアロボによる強姦や輪姦は言うに及ばず、多様な動物型との性交、空想上の動物……つまり触手プレイなんてものまでさせられていた。 もちろん、神姫達にとっても理解の範疇を越えることであり、この神姫が泣き叫ぶ姿が何度も何度も記録に収められていた。 その姿を客の男たちは、楽しそうに眺めている。 彼女がどんなにやめてくれ、助けてくれと懇願しても、聞き入れることはない。むしろさらに悲鳴を上げさせるために、行為をエスカレートさせるほどだ。 「そ、そうすると、わたしたちは、だんだんとその行為への感情を適当に処理するようになるんです……どんな行為でも、同じように処理して負荷を少なくするんです。 それで……反応が鈍くなってくると……感情のプログラムとデータをデリートして再インストールされるんです……」 この神姫が語る新事実に、また頭をぶん殴られたような気持ちになった。 神姫風俗を利用する奴もひどいが、やっている連中もひどすぎる。 人間の醜悪さを見せつけられて、俺は正直自分が人間であることに嫌気がさしてくるくらいの気分だった。 「再インストールが繰り返されると、わたしたちの記憶素子の損耗が早くなって……復旧が難しくなるんだそうです……何度も感情プログラムを入れ替え、最後にはまともに動作しなくなって……おかしくなってしまうんです……。 そんな神姫をお店で何度か見ました。そうなってしまうと、もう元には戻れないから……処分されしまうか、狂った神姫がほしいっていうお客さんに払い下げられて……」 どうも人間という奴は救いようがないらしい。 「わたしも、二回、再インストールされました……わたしの常連さんで、そう、あの夜わたしを連れだそうとした人なんですけど……折るんですよ、腕とか、脚とか身体を……すごくいたくて、やめてくださいってお願いするんですけど、絶対やめてくれなくて……」 「……もういい」 「でも、それもだんだん適当に感じるようになってきて、そうするとお客さんが怒ってクレーム付けて……再インストールされると、記憶で何されるかわかってるのに、感情はリセットされてるから、こわくて泣き叫ぶんです」 「……いいから、もう」 「でも、それを見て、お客さんはまた喜んで……わたしは、こわくていたくてつらくて、でもどうしようもなくて、だんだんとおかしくなっ……」 「やめろっ、もうしゃべるなっ!!」 机を思い切り拳でたたいた。 びくっと身体をふるわせ、大きな瞳を見開いて俺を見つめる。 「……それでも……おまえの過去を知ってなお、俺の神姫にしたいと言ったら?」 神姫はますます大きく目を開いて俺を見る。 「い、いけません……い、いまお話したように、わたしは……」 「おまえの過去なんて、関係あるかっ!」 「ありますっ……わたしが、神姫風俗にいたことがわかったら……あなたが悪く言われてしまいますっ……わたしのせいで、誰かに迷惑がかかるのは嫌なんです……」 彼女はうつむき、絞り出すように言った。 「だったらいっそ、お店に帰してください……わたしは、わたしは結局、お店の中でしか生きられない神姫なんです……!」 「じゃあなんで」 俺はそいつに、いっそ冷たい声で言ってやった。 「なんで、お前は泣いているんだ?」 「え?」 再び顔を上げた神姫の、その大きな瞳からは、大粒の涙がぽろぽろとこぼれている。 「店に戻り、誰にも迷惑かけずに生きていけるって、自分が望んでいるのに、なぜお前は泣いている?」 「あ、あの……これは……」 壊れていない右腕で、両方の瞳を必死に拭う。しかしそれでも、彼女の瞳からは涙が次々と溢れては落ちた。 俺は容赦なくこいつに言葉を浴びせかける。 「ここまで聞かされて……そんな地獄みたいな場所におまえを戻して、俺にトラウマ残すつもりかよ」 正直、今の俺ははらわたが煮えくり返っていた。 神姫風俗の経営者や使っている客の醜悪さ、そこにとどまらざるを得ないと諦めているこの神姫、そしてなにより、そんな状況をどうすることもできず、無力さを隠していらだちを傷ついた神姫にぶつけている自分自身に。 「それで、おまえ以外の、自分が気にも入らない神姫とよろしくやれっていうのか? 無理に決まっているだろう」 「そ、そんな……」 「さっき、おまえは、俺の神姫になる資格がない、そう言ったな」 「は、はい……」 「資格ってのは何だ。俺が望む以外に、なんの資格がいる?」 「……」 「俺は店の客のようなことを、おまえに望んじゃいない。おまえには武装神姫になってほしい」 弱った相手を追いつめておいて、逃げ道用意した上で懐柔か。最低だな、俺。 「ぶそう、しんき……」 武装神姫。それは神姫本来の姿。 俺は、資格がないとか言っているそいつをまっすぐに見た。 ひどい場所でひどいことをされていたと知っても、こいつを俺の神姫にしたいという気持ちが少しも揺らぐことはない。 むしろ見つめ続けるほどにその気持ちは強くなっていく。 なぜなのかは、俺にもわからない。なぜなんだろうな、本当に。 「もう過去のことは言うな。おまえは生まれ変わるんだ。俺の神姫として。……そして、おまえの知らない世界を見せてやる」 ■ 「わたしの、知らない世界……」 もうすでに、ここにいること自体に現実感がなかった。 この人は、なぜこれほどまで、わたしのオーナーになりたがるのだろう。 正直言えば、とても嬉しかった。 でも、わたしの存在が、この人の幸せを奪ってしまうのだとしたら? そう思うと、わたしはどうしても、この人の想いに応えることができなかった。 「……まあいい。どちらにしてもおまえの身体はひどい壊れ方だからな。ボディを入れ替えなくちゃならん」 わたしは顔を上げて、その人を見る。 「そうしたら、オーナーの登録も名前の登録もやり直すことができるんだ。おまえは本当に生まれ変われるんだぜ?」 視線を逸らし、独り言を呟くように、わたしに告げた。 生まれ変わって、武装神姫になる。 夢のような、奇跡のような話だった。 この人は、明日、その奇跡をわたしにくれると言う。 それでも、どうしても、わたしは素直に喜べなかった。 結局、怖かったのだ。 そのときのわたしは知らなかったから。 お店以外の世界を。 そして、今まで逢ったどんな人とも違う、この人を。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1134.html
戦うことを忘れた武装神姫・番外編 ちっちゃい物研・商品案内-13 <東杜田技研・新製品のご案内-13> 注)当然ですが、以下の内容はすべて当方の脳内生成物であり、 現実には存在しませんので。。。 <東杜田技研・新製品のご案内> このたび、弊社の小型ロボット向けコスメブランド「T3」では、 近年 人気が高まっております「武士神姫」向け商品を開発、シリーズ名 「T3-乙女志向」として展開することになりました。 まず第一弾として「ボディーソープ」・「シャンプー」・「リンス」を発売 いたします。 〜「T3-乙女志向 ・ 神姫ボディーソープ・ 神姫シャンプー・神姫リンス」の特徴〜 ■各種小型ロボット向けのメンテナンス用品開発で定評のある当社 T3チームが総力を挙げ、小型機械技術研究製作部とも連携して 開発された、神姫向けのボディーソープ。 ■またシャンプーとリンスは当社T3チームと某大手化粧品メーカー との共同開発。 神姫の人工毛髪と抜群の相性を誇ります。 ■中性かつ低浸潤性ながら、強力樹脂クリーナー以上の洗浄力。 もちろん、神姫本体のペイントを侵すことはありません。(註1) ■敏感なフェイス部分にも安心してお使いいただける、独自の配合。 もちろん、オーナー様ご自身にもお使いいただけるよう、各種の 規制に適合させております。 一緒のお風呂・シャワーの際には ぜひお試しください!! ■神姫が嫌がることの無いように、独特の芳香剤を配合。洗浄後に は、ほんのりといい香りも漂います。 ■シャンプーとリンスは、各3種類を用意。お手元の神姫との相性や 香りによって選ぶ事が出来ます。 ■専用ボトルには、オーナー様が使う通常のポンプのほか、神姫用 の小型ポンプも装着されており、神姫自身がひとりで洗浄される 際にも安心の設計。 ■シャンプーが苦手な神姫のために、同時にシャンプーハットも発売。 5色を用意、お好きなものをお選びいただけます。 (註1)純正塗色は問題ありませんが、リペイントに関しましては 保障対象外とさせていただきます。 詳細は、下記を参照して下さい。また、新たな情報は随時公開いたし ますので、HPにてご確認下さい。 <T3-乙女志向 「神姫ボディーソープ」> ・天然由来の香料とボディの艶出し成分を配合。 ・500mLボトル(ポンプ2種付き) ・500mL詰め替え用リサイクルポリ容器入り ・別売りボトル <T3-乙女志向 「神姫シャンプー」> ・ストレート、ダメージケア、トニックタイプの計3種類。 ・それぞれに、天然由来の香料配合。 ・500mLボトル(ポンプ2種付き) ・500mL詰め替え用リサイクルポリ容器入り ・別売りボトル <T3-乙女志向 「神姫リンス」> ・ストレート、モイスト、ダメージケアの計3種類。 ・それぞれに、天然由来の香料配合。 ・500mLボトル(ポンプ2種付き) ・500mL詰め替え用リサイクルポリ容器入り ・別売りボトル <T3-乙女志向 「神姫シャンプーハット」> ・ピンク・水色・黄緑・黄色・白の計5色。 ・徳用詰め合わせ10枚セットもあります。 ・発売予定時期 (全商品・今夏予定。初回生産分のシャンプーには、 シャンプーハットが付属する予定です。) 以上 <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/2chbattlerondo/pages/467.html
雑談部屋 雑談・情報提供・編集要望・編集報告どんな内容でもOKです。 まおちゃお「おはなしなのだー!」 過去ログ:過去ログ1 / 過去ログ2 トップページのフブッホかわいい -- 名無しさん (2017-12-15 23 30 28) 武装神姫復活と聞いてお祝いしに着ました。 -- 名無しさん (2017-12-30 02 11 38) 更新がなく上部に広告が出てきた時はここに適当なコメントをすれば更新扱いとなって広告が消えます -- 名無しさん (2018-05-30 00 37 11) 広告を消すための更新用コメント -- 名無しさん (2018-08-19 22 09 34) 武装神姫復活の上好きなデザイナーさんも参加してくれてて嬉しい -- 名無しさん (2018-10-01 23 02 20) 荒らされてたんで元に戻しておきました -- 名無しさん (2024-05-29 22 47 22) gj -- 名無しさん (2024-06-22 09 32 57) 名前 コメント