約 730,180 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2162.html
ウサギのナミダ ACT 1-29 □ 結論から言うと、雪華とティアのバトルは、伝説になった。 別に、俺や高村、ティアと雪華がそう望んだわけではない。 これはある意味、雑誌記者の三枝さんの、俺に対する報復と見ている。 あのバトルから数日後、「バトルロンド・ダイジェスト」の記者である、三枝めぐみさんから、直接俺に電話があった。 どこから俺の電話番号を入手したのだろう? そう尋ねると、 「情報源に対する守秘義務があるので、答えられないわん♪」 と、はぐらかされた。 三枝さんという女性は、終始こんな風にふざけたような口調で話す。 三枝さんの用件は、先日の、ティアと雪華のバトルを記事にさせて欲しい、ということだった。 「その件は、最初に断ったはずですが」 「だから、直談判するために、電話したのよぅ」 三枝さんはとにかく記事にしたいということを熱っぽく語った。 だが俺は、頑として首を縦には振らなかった。 神姫風俗が大幅に縮小された今、自ら波風を立てることはない。 それに、高村たちにも影響があるかも知れない。 彼らは全国大会を控える身の上だ。変な噂を立てられて、迷惑をかけるかも知れない。 そういうことを説明した上で、とりつく島もなく断ったのだが。 三枝さんはめげなかった。毎日のように電話してきた。この記事に賭ける情熱は十分すぎるほどに伝わってきた。 そして、三枝さんはこう言った。 「だったら、記事を読んで判断して。 遠野くんが気に入らないところは直すようにするから。 直接会って話をしましょ」 俺は根負けした。 ある日、大学帰りの夕方に、大学近くの喫茶店で、三枝さんと待ち合わせた。 彼女から原稿のプリントアウトを受け取り、読む。 雪華の連載記事は、俺も読み続けてきた。それだけに、読み応えのある記事に仕上がっている。 あのふざけた口調で話す人物が書いたものとは思えないほどに。 だが、それでも俺は断るつもりだった。 読み終わった原稿を渡すと、三枝さんはがばっ、と俺に頭を下げた。 「ちょ、ちょっと、三枝さん……」 「お願い! 記事にさせて! 絶対いい記事にするから! 今回のバトルを記事にできなかったら、わたし、雑誌記者として一生後悔する! 次の号に載せるには、もう時間がないの! だからお願い!」 いつもふざけた口調の三枝さんが、このときばかりは真剣な声色だった。 「そう言われても……」 「あなたがどうしても直して欲しいところは、ちゃんと直す。何か条件があるなら、それも飲む。だから……」 「……高村と雪華は、承知してるんですか?」 それが一番気にかかるところだ。 彼らに迷惑はかけたくない。 「もちろん、了承済み。もうコメントももらってるわ」 俺は小さくため息をついた。 高村たちは、俺たちとバトルしたことで非難にさらされるようなことがあっても、大丈夫なのだろうか。 だが、あの雪華なら、たとえブーイングを浴びようとも、堂々としているような気はする。 彼らが了承しているなら、あとは俺の気持ち一つということか。 「……わかりました」 俺は渋々頷いた。 納得したわけではなく、単に俺が根負けしただけだった。 三枝さんは顔を上げると、きらきらと目を輝かせ、まわりの視線も関係なく、子供のようにはしゃいだ。 ……やっぱり断ればよかっただろうか。 それでも、記事の内容には条件を出した。 バトルを記事にする上で、神姫の名前が分からないのでは話にならないので、ティアの名前は記述を許可した。 バトルの写真も、ティアの顔は出してもいいことにした。 考えてもらいたい。 「神姫T」とか書かれ、顔に目隠しされた写真が掲載されては、よけいに怪しいというものではないか。 ただし、俺の顔と名前は一切出さないように言い含めた。 俺の素性がばれたら、日常生活が危うくなる可能性があるからだ。 もちろん、俺とティアのコメント取材には一切応じない。 高村たちのコメントでも、俺たちに対する具体的な記述については許可できない、と三枝さんに言った。 三枝さんはこれらの条件をあっさり飲んだ。 あとで修正版の原稿を送ってもらい、チェックしたが、約束は守られていた。 俺は少しだけ安心して、記事にOKを出した。 せめて、ティアが掲載されているバトロンダイジェストは買おう、と思った。 だが、俺は分かってなかった。 三枝さんが嘘をついている……いや、すべてを俺に話してなかったということに。 そのバトロンダイジェストの発売日。 俺は最新号を購入すべく、コンビニに立ち寄って、雑誌コーナーに足を向けた。 雑誌コーナーの棚を見て。 俺はひっくり返った。大真面目にその場ですっころんだ。 バトルロンド・ダイジェスト最新号は置いてあった。 その表紙。 雪華と……なんとティアが写っている。 しかも、あのバトルの後、泣いているティアを雪華が抱きしめているシーン……その写真だったのだ。 表紙には大きな文字でこう書かれている。 「特集:~ 絆 ~ 武装神姫はなんのために戦うのか?」 「……聞いてないぞ……?」 俺はうめく。 完全に不意打ちだった。 とりあえず雑誌棚から、バトロンダイジェストを一冊ひったくると、大急ぎで会計をすませた。 さすがに立ち読みする勇気はなかった。 コンビニの店員がいぶかしげに俺を見ていたような気がするが、一切無視した。 なお、バトロンダイジェストの隣には例のゴシップ誌が置いてあったが、すでに神姫がらみの記事は掲載されていない。 神姫風俗摘発の後に指導が入ったらしく、謝罪文まで掲載されていた。 大城が後に教えてくれた。 アパートに帰って、雑誌を開く。 最新号の巻中のカラーページが、表紙にあった特集にまるまる当てられていた。 三枝さんが俺に見せた原稿は、記事の三分の二程度。バトルの詳細な解説が主な内容だ。 残りの隠されていた部分は、試合後の様子である。泣きじゃくるティアと、敗北を認めた雪華。 あの時の様子が詳しく書かれている。 「うわあぁ……」 一緒に記事を見ていたティアが奇妙な声を上げた。 まあ、俺もそんな声を上げたいような気分だった。 俺に見せられなかった後半部は「武装神姫はなんのために戦うのか」という問題提起になっていた。 雪華は「マスターのために戦う」ことこそが、武装神姫としての本分であることをコメントしている。 「人は武装神姫を戦わせる。それは名声のため、お金のため、バトルの楽しさであるかも知れない。 戦わせる理由はマスターによって様々だ。 しかし、神姫にとって、戦う理由は皆同じだ。。マスターの望みを叶えるために戦っている。 もう一度振り返ってみて欲しい。 神姫は何を思い、なぜ戦うのか。 自分はなぜ、自分のパートナーを戦わせているのか、を」 記事はこう結ばれていた。 そして、その問いかけに答えるように、特集記事の後半は、神姫とマスターの絆を思い起こさせる、過去の名勝負のダイジェストが紹介されていた。 読み終わった俺は、速攻で三枝さんに電話をした。 もちろんクレームを入れるためだ。 しかし。 『あらん、君の要望は全部通してるわよん♪』 ……この間の真剣な口調はどこへやら。 また人を小馬鹿にしたような口調で煙に巻こうとする。 確かに、記事の内容は、俺の要望をすべて通したものだった。それは間違いないのだが。 「だけど、表紙に巻中特集なんて言ってなかったじゃないですか!」 『いつもの連載記事とも言ってないけどぉ?』 ……これが社会人の知恵という奴なのか。 こういうずるがしこいだけの大人にはなるまい。 『でもぉ、今回の特集、大反響なのよぅ♪ 朝から電話がひっきりなしにかかってきてね、編集者としては嬉しい悲鳴だわ♪』 それは、この間のバトルが公に、広く知れ渡ったことに他ならない。 「それが困るって言ってるんです! だいたい、クイーンに悪影響が出たら、どうするつもりなんですか!?」 『あ、それは大丈夫』 「は?」 『雪華も高村君も、別にかまわない、って言ってたわん♪』 ……余裕だな、クイーン。 『あ、また電話。今日のお姉さんは忙しいの。まったねぇん♪』 電話は一方的に切られた。 くそう。 確かに、記事の内容は好意的なわけだし、俺の要望も通っているから、前みたいに問題になることはないと思うが……。 三枝さんは、記事は大反響だ、と言っていた。 それが俺たちにどんな影響を及ぼすのか、想像もつかない。 眉間にしわを寄せて考えていたからだろうか。 ティアが少し心配そうな顔で俺を見上げている。 「心配するな。大したことじゃない……いままでに比べたらな」 俺はティアに少し笑いかける。 そうすると、ティアもほっとしたように微笑んだ。 そうだ、これでいい。 俺たちはもう、何も恐れることなどないんだ。 何があっても大丈夫だと、今は思えるようになった。 ところが、事態はいつも予想の斜め上を行く。 土曜日にゲームセンターに行くと、俺たちに対する態度は一変していた。 俺たちが店に入ると、いきなり取り囲まれた。 いままで俺たちを罵倒していた連中が、手のひらを返したように賞賛の言葉を口にする。 誰もが俺たちとの対戦を望み、サインまで求めてくる奴まで出てくる始末だった。 その人波をかき分けて、現れた神姫プレイヤーたちがいた。 彼らは『ハイスピードバニー』とのバトルをするために遠征にやってきたマスター達だった。 どうやって俺の正体を知ったのだろう。わざわざ俺たちのホームグラウンドであるこのゲームセンターまで探り当て、やってきたのだった。 大勢の客にバトルロンドのコーナーまで引きずられそうになり、俺は……逃げ出した。 ありえない、と思った。 いままで俺たちをさんざん苦しめておいて、雑誌に掲載された瞬間から態度を一八○度変えるなんて。 俺は軽い人間不信に陥った。 「……そういうわけで、呼びつけたりして、ごめん」 「仕方ないわ。ゲーセンじゃ、ゆっくり話もできないものね」 駅前のミスタードーナッツに駆け込んだ俺は、久住さんに電話をして、わざわざここまで来てもらった。 ゲーセンであんなことにならなければ、呼び出すこともなかったのに。 節操のない客達に恨みがましく思うのは、俺の心が狭いからだろうか。 それでも、久住さんが微笑んでくれているのが救いだった。 「久住さんには改めてお礼を言いたくて……ありがとう。何もかも、君のおかげだ」 「大したこと、してないわ」 いつか聞いた言葉を、久住さんはまた口にした。 「……エルゴの店長が何かしてくれたのね」 「ああ……詳しくは教えてくれなかったけど」 ふと思い出す。 エルゴの、日暮店長の言葉。 『菜々子ちゃんを救ってやってくれ』 あれはどういう意味なのだろう。 それを当の本人に聞いてみてもよかったのだが、目の前の久住さんからはそんな影など微塵も感じられない。 俺は尋ねる気をなくして、代わりにこう言った。 「今度、エルゴの店長にもお礼にいかなくちゃ。買い物もあるし」 「買い物? ティアに?」 「ああ。ティアのレッグパーツを改良するんだ。その部品を揃えにね」 そう。俺はティアの武装の改良を計画している。 雪華とのバトルでわかった、レッグパーツの限界値とティアの機動の最大値。 そして、新しい戦い方。 それらを含めて、レッグパーツをバージョンアップする。 そうすれば、ティアの戦いにはさらに大きな幅ができるだろう。 「ね、そのお買い物、わたしも一緒に行っていい?」 久住さんからの嬉しい申し出。 「……どうかな。ライバルに手の内を見せるのは」 「えー?」 「冗談だよ。久住さんさえよければ、一緒に行こう」 頬を膨らませた久住さんは、俺が承諾すると一転、にっこりと笑った。 女の子はずるいと思う。 こっちの必死の攻撃を、笑顔一つで無しにしてしまうのだから。 「しかし……ゲーセンがあんな状態だと、対戦で新装備が試せないな……」 「べつに、あのゲーセンにこだわってるわけじゃないんでしょう?」 「まあ、そうなんだけど……」 だからといって、全く知らないゲーセンに行くのははばかられる。 なおさら何が起きるか分からないからだ。 「だったら……近くていいところ知ってるけれど」 「え? どこ?」 「わたしのホームグランドのゲームセンター。どう?」 「なるほど……」 いいアイデアだった。 久住さん行きつけのゲーセンならば、おかしなところではないだろうから、安心だ。 久住さんも一緒に来てくれるなら、ミスティを相手に練習もお願いできる。 大城たちが来ないのも、都合がいい。 「今度、案内してくれるかな」 「もちろん、いつでも」 久住さんはまた反則な笑顔を見せる。 俺はそんな彼女を眩しく見つめた。 ふと、久住さんは少し真顔になって、俺に尋ねた。 「でも、バトルに随分熱心ね。何かあるの?」 「ああ……約束があるんだ」 「約束……?」 そう、約束だ。 俺たちをバトルロンドに引き留めた、虎実との約束。 レッグパーツの改良をそれに間に合わせたい。 大きな障害を乗り越えてきた俺たちの今を見せることで、虎実の思いに報いたいと考えている。 「ふうん、虎実がそんなことをね……」 「そのためというわけじゃないけど、戦いの幅は広げておきたい。虎実も相当パワーアップしているだろうから」 「ねえ、もし虎実と対戦することになったら、わたしも観に行っていい?」 「もちろん。それに、それまでの練習相手をお願いしたいんだけど」 「……ライバルに手の内を見せてもいいの?」 「まいったな……勘弁してくれ」 俺と久住さんは笑いあった。 こうして笑っていられるのも、目の前の人を筆頭に、様々な人の支えがあったからだ。 今の自分たちは孤独ではないと、身に染みて思う。 俺はテーブルの上を見る。 俺と久住さん同様、ティアとミスティも穏やかに笑いあっている。 俺はそんな神姫たちの姿に目を細めた。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1637.html
武装神姫…それはテクノロジーが生み出した全く新しいロボットである。 MMSと呼ばれる基本素体にCSCチップを搭載、さらに様々なパーツを使用することで無限の能力を引き出す事ができるのである。 武装神姫と暮らす日常 第四章『種と稲』 べるのと少女は自らの神姫を筐体へとセットする。 「私は何時でも準備OKですわよ」 「私もOKだよ」 『サンタ型ノエル オーナー:美月べるの ランク:C 種型浅葱 オーナー:白雪夜月 ランク:C バトルフィールド:砂漠 .........配置完了』 『システムOK…マスター次も勝ってみせますよ』 「当然ですわ、私が負ける事なんてあり得ないんですから」 『READY』 「頑張ってね、浅葱」 『はいっ、マスター』 『FIGHT』 輝く太陽、風で巻き上がる砂、何処までも遮蔽物の存在しない地平… その中心に数本の筒状のブースターを生やした基本装備のジュビジーの浅葱が立っていた。 「う~…何か居るだけで暑い気持ちに……」 『確かに見ているだけでも暑そうなエリアだね それで相手の位置はわかる?』 夜月の言葉に浅葱は周辺を見回す。 「ちょっと輪郭がハッキリしないけど、それらしいものが前方に」 『OK、それじゃ作戦は何時も通り射撃武器で牽制しつつ近距離戦ね』 「はいっ!」 言って浅葱はブースターを全て点火し前方へと突っ込んでゆく。 砂塵に包まれながらノエルは悠然と佇んでいる。 「マスター、前方に敵影補足 こちらに対して一直線に突っ込んできています」 『ふんっ、自信満々でしたからどんな手を使ってくると思いましたら馬鹿正直に直進とは思いませんでしたわ ノエル、よく引き付けてから一撃できめてさしあげなさい』 勝者の笑みを浮かべながらべるのは言う。 「了解、目標ロック…発射用意……」 ノエルは直進してくる浅葱に狙いを定めトリガーを引く。 『浅葱、回避用意!』 「はいっ」 返事と共に浅葱はブースターを地面に対して吹かし、ロールをかけるかのようなステップで回避しつつ更に接近。 「いきますっ!」 そしてそのままパウダースプレイヤーを構えノエルに対し射撃。 「その程度でっ」 ノエルはその攻撃をシールドで防ぎ、お返しと言わんばかりに背中に装備されているミサイルを乱射する。 「当たりません!」 浅葱は一気にブースターを吹かしノエルの真横をすり抜けミサイルを回避する。 『そのまま後ろを取って!』 「はいっ」 浅葱はノエルの真後ろに移動したところで急停止そのまま射撃を攻撃をかけつつグリーンカッターを構える。 『何をやっていますの!早くあんな神姫けちょんけちょんにしてさしあげなさい!!』 「で、ですがこの装備では旋回能力が…」 『つべこべ言わず早くなさいーっ!!』 「りょ、了解」 重装備故かノエルは直には浅葱の方向へ旋回できずにいた。 「これでっ!」 グリーンカッターの刃を回転させながら浅葱は全速力でノエルに向かって突撃する。 「く…ぅ」 ノエルは咄嗟に数センチ後退するも胸部の装甲版を数枚削がれ更に両腕の武装を数個両断された。 「舐めるなッ!!」 ウェポンラックからショットガンを取り出しすれ違い無防備となった浅葱の背中に撃ち込む。 『浅葱、防御!』 「…っ!」 ブースターで急制動をかけ反転し両腕で防御体制を取る浅葱。 「!! しまっ…」 しかし散弾の弾はコア周辺だけでなく、リアパーツに接続されているブースターにも着弾し爆発四散する。 「ああぅ、きゃぁぁっ!!」 爆発の衝撃に吹き飛ばされ砂地に転がる。 『浅葱っ!!』 「これで、止めっ!」 ノエルは全身の砲身、銃身その他諸々の兵器を浅葱に向け一気に発射する。 「――――ッ!」 そのすべての弾は浅葱に直撃し、何度も爆発を起こし周りの砂を吹き飛ばす。 「やった?」 そして爆発が止んだ後は、辺り一体に煙が立ち込めていた。 『おほほほ、やはり口だけだったご様子ですわね』 その様子を見てべるのは笑う。 『………』 『自分の神姫が圧倒的な差で負けて声もでないようですわね、まぁ仕方ないことですけれど』 『………まだ終わっていないですよ』 『へ、えっ、え、そ、そんな嘘にだまされる私ではありませんですわよ!』 夜月の言葉にべるのは慌てふためく。 『なら証拠を見せてあげるよ 浅葱っ!』 「はい、マスター!」 浅葱の声とともに黒煙の中から金色の稲のエフェクトが現れだす。 『システムキドウ…』 「システム起動…モードB」 『バトルモード・シェルプロテクションヘイコウ…』 「キュベレー起動…損傷問題なし」 『ゼンシステムオールグリーン…キドウカンリョウ…』 「これが私の本気ですっ!!」 声と共にキュベレーで風を起こし黒煙を噴き飛ばす。 同時に稲のエフェクトが二人の間を舞い上がる。 「な、なに…っ」 『何であれだけの攻撃を受けて立っているのっ!?』 状況を飲み込めずべるのとノエルはただただ混乱するばかりだった。 『種型の打たれ強さを侮らないほうがいいですよ』 「その通りです!」 言って浅葱はキュベレーを構える。 『くっ…ならばもう一度火達磨にしてさしあげなさい!』 「は、はいっ」 ノエルは銃器を構えなおし浅葱に向かって発砲する。 『浅葱、Harvest!!』 「はいっ」 浅葱は片側のキュベレー振り上げ、片側のキュベレーを自身を守るように前に出し、爆発せずに残っているブースターを点火し一気に突撃をする。 「このっ、とまりなさいっとまりなさいってばっ!!」 ノエルの銃撃をキュベレーで弾きながら浅葱は更に距離をつめて行く。 (マスター見ていてください…) もう互いの距離は数cmといった所で浅葱は更にスピードを上げつつ振り上げたキュベレーをノエルのほうへと突き出す。 「これが私の必殺技ですっ!!」 「そ、そんな…わ、わたしが負け…」 ノエルが言葉を言い切る前にそれを遮る様にしてキュベレーの刃が胸に深々と刺さる。 『サンタガタノエル…コアシステムキノウテイシヲカクニン……Winner Yaduki』 「お疲れ様、浅葱」 「はい、がんばっちゃいました」 夜月は、筐体から出てきた浅葱を手に乗せ頭を撫でてやる。 「夜月さーん」 そんな二人の所にゆかり達がやってくる。 「凄い戦いだったよー、あたし胸がスーッとしちゃった」 敗北の時の悔しそうな顔が嘘だったかのような満面の笑みを浮かべながらクラリスは言う。 「あ、これがゆかりさんの神姫ですか?」 クラリスとアリエスを指差しながら夜月は言う。 「そうそう、可愛いでしょ」 我が子を自慢するかのようにゆかりは言う。 「昨日からずっとこの調子なんだよなぁ」 隣で卯月が呆れ気味に言う。 「あっれー確かマスターもおんにゃじだったような…」 「わーわーそれは言っちゃダメーっ!」 「むーぐーむぐぐー」 卯月は慌ててラキの口を塞ぐ。 「まぁそれは置いておいて、ゆかりさん余り最初から無茶をしちゃダメですよ」 「うー…」 「ちゃんとトレーニングと自分にあった実戦をこなせばクラリスちゃんの重装甲も生かせるようになりますからね」 クラリスを見ながら夜月は言う。 「何か年下に教えられるって複雑ぅ…」 「きぃーくやしいくやしいくやしいですわー!」 「マ、マスター…落ち着いてください」 ハンカチの角を口に咥えて引っ張っているべるのに対してノエルは言う。 「これで、わかったかな? ここには貴方より強い人がいくらでもいるって」 「ふ、ふんっ た、たまたま私に勝てたからと言っていい気にならないことですよ それに筐体の調子が悪かったのかもしれないですし何よりあの不可解な防御力!何か不正していないと言う保障は…」 「筐体の事を悪く言うのは勝手だが俺の夜月を悪く言うのは頂けないな」 「筐体の事も気にしたほうがいいと思うけどねぇ」 べるのは話に割り込んできた声の主のほうを見るとそこには一組の男女が立っていた。 「貴方達、私の大事な話に割り込んで一体何様のつもりですの!」 「ただの店長様とその清楚な妹様のつもりなんだけどねぇ」 女が肩をすくめて言う。 「まったく、騒がしいと思って来てみれば……お前、余り他のお客様に迷惑かけるようならこちらにも考えがあるからな」 「な、なによ…」 「まずはここいら一帯の模型店への出入り禁止令、後は営業妨害で警察に突き出す事もできるが…」 「な、ななななななっ」 男の発言にべるのは目を丸くする。 「貴方、私を誰だと思っているの!私は玩具会社の社長令嬢よ!こんなお店なんてパパに頼めば…っ」 「どうなるってんだい?」 「え?」 「もしここを含めて多くの店があんたのとこの玩具を入荷しなくなったらどうなるか……わかるよね?」 「そ、そんなこけおどしには騙されませんわよ!」 「こけおどしかどうか…試してみるかい? 玩具店間の繋がりを甘く見ないほうがいいよ」 ニヤリと笑みを浮かべつつ女は言う。 「ぐ…」 「マ、マスター」 「まぁ、今日はこのまま引き下がるなら不問とするが…どうする?」 「ふ、ふんっ きょ、きょうの所は引き下がりますが 次はこうはいきませんわよ!」 男を指差しながらべるのは言う。 「ノエル、帰りますわよ!」 軽く涙目になりながらべるのは言う。 「は、はい!」 一礼してからノエルはべるのの肩に乗る。 「ちょっと今のはやりすぎだったような気がするが…」 べるのが完全に見えなくなってから卯月は二人に言う。 「まぁいいじゃないさ、あーいうのはアレくらいいっとかなきゃなおらないよ」 笑みを浮かべながら女は答える。 「ていうか霜月さんは楽しんでただけの様な…」 その発言に対して夜月がぼそりと言う。 「そう言えば、霜姐も師走兄貴も店の切り盛りしてなくて大丈夫なんスか?」 店の人間が全員二階に来ている現状に対し卯月が突っ込みをいれる。 「っと、しまった花月と柊に任せたままだった」 師走と呼ばれた男が思い出したかのように言う。 「霜月、戻るぞ」 階段の方へと向かいつつ師走は言う。 「はいはい、ついていきますよっと」 霜月と呼ばれた女はそれについてゆく。 「あー私も戻ります~」 浅葱を肩に乗せ夜月も二人について行く。 「それじゃ俺達も一階に行くか?」 ゆかり達を見つつ卯月は言う。 「賛成にゃー」 「私はそれでいいよ~」 その後ゆかり達は一階で装備を見たり、師走達と戦略について話し合ったりしてから帰路についた。 ―次回予告― 「べるのを一度は退ける事に成功したゆかり達」 「倒したのは浅葱にゃんだけどにゃー」 「しかしべるのはもうリベンジの用意をしていた!」 「早いにゃー」 「何と今度は料理対決!」 「魚なの魚なのかにゃ!?」 「果たしてゆかりは勝てるのか!?寧ろ料理はできるのかっ!?」 「今さらりと酷いとこいったにゃ…」 「次回クッキングファイターゆかり第五話『私の想いを受け取って!』 二人の愛が料理を変える…」 「そのネタは色々まずいと思うのにゃ…」 続く? 戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/475.html
凪さん家シリーズ 真・凪さん家の十兵衛さん 凪さん家の弁慶ちゃん 第零話「それは」「常」 「ぃさ~ん」 う、む…なんだこの甘酸っぱい感覚は…。 「にぃさ~ん!」 む、なんだこれはなんていうゲームだ。 「にぃさ~ん!起きてよぉ~!」 おいおい、最近のゲームでもこんな展開は見かけないぞ?王道か、王道という物か?しかしだなぁ、今はそれだけじゃ勝ち残れないぞ?最近は甘酸っぱ辛いのでないとだなぁ~。 「遅刻するよ~!」 仕方ない、ここはお決まりの台詞でも言っておこうか。 「うむ、あとゴフンッ!!」 言っておこう、まず始めに言っておこう。俺は確かに「後五分」と言うつもりだった。 そう、言うつもりだったんだ。だがなぁ、実際に出た単語は腹に衝撃をくらったせいで思わず出た「ゴフンッ!」というなんとも情けない単語だ。 って、さすがにこれでは起きて文句の一つも言わなければ男たるもの…というか主人公としてどうか。 よし言ってやろう。 「おい、一体何をするんだ!」 目を開け、ガバッと夏用布団を退かす。そう、今は夏。月で言うなら七月である。窓から降り注ぐ日の光が容赦なく俺に突き当たり、いやぁもう熱いよ。これだから夏ってやつは…。 って違うだろ。今大事なのは俺のレバーに朝っぱらから強烈なスパーキンを食らわしたやつに小言の一つでも言う事だろうが! 「おい、起こすのは良いがやり方が違うだろう?一般的にはだなぁ、「この~!」とか言って布団を剥いだり、知らんうちに布団の中に潜り込んでびっくりさせたり…」 ここまで言って俺は気がついた…何を寝ぼけているんだ俺は…見ると俺を覗き込むのは見知った少女…では断じてなく… 「ち、千空…」 凪千空、俺の…弟だった。って、まぁ待て千空、そんな変人を見る目で俺を見るな。いや確かにお前はだな、はっきり言って女にしか見えない。それこそどこのゲームだといわんばかりであって、お前のその全身からあふれ出る乙女のオーラというかなんというか。 「に、兄さん?」 「む、なんだ」 「えっと…こんな事言うのも何なんだけど…」 「なんだ」 「その…大丈夫?」 ガーン…分かる、分かるぞ俺には…その台詞の間には「頭」という単語が合体して「頭大丈夫?」となるんだろう?そうなんだろう!? 「あ、あぁ、寝ぼけていただけだ…」 「そ、そう…なら良いんだけど…」 こらまてこっちを見てくれ。兄さん悲しくなるじゃないか。…ってそうだ忘れていた…。 「おい千空」 「…え、何?」 「そういえば…よくも俺の鳩尾に強烈な一撃を叩き込んでくれたな?」 「あ、それは~…」 「おい、こっちを見ろ」 「僕じゃなくて…」 「オマエジャナイナラダレナンデスカ?」 「そこに…」 「む?」 千空がその細くてしなやかな指を指す。その方向を見ると。 「…あ」 「あ…じゃない」 そこには小さな人形が立っていた。15cmサイズのそれは俺のひざの上で仁王立ちしている。 「やっと気付いたな?」 「あぁ、やっと気付いたよ…」 そう、これはゲームとかじゃない。というか俺が主役なのかすら怪しい。なぜならこの話は、目の前にいるこの小さな人形、“武装神姫”の話なのだから。 ちなみにこの目の前にいる神姫は「弁慶」千空の神姫で、犬型らしい。 「弁慶、お前が俺に朝の一撃を」 「目、覚めた」 「あぁ…怒りがわくほどにな」 「でも兄さんが悪いんだからね~?」 と、千空が横槍でグサリ。ぐ、それを言われると確かに…。 「とにかく、もう朝ごはん出来てるんだからね?早く着替えて降りてきてよ?創さんはもう食べてるんだから」 「あ、あぁ」 そう言ってリビングに向かう千空。そして去り際に顔をドアからちょこっと出して 「急いでね!」 と笑顔で言う。お前なぁ、その笑顔反則だぞ?まったくお前が妹なら…。 「おい」 「!?っと」 「急ぐ!」 「はいはい、分かってますよ弁慶さんっと」 そこでやっと大地に立つ俺。それと共に弁慶も膝の上から床に降り立った。 「いいか、急げ」 と言うと弁慶も下に下りていった。 「あぁ…眠ぃなぁ」 さてと…仕方ないからさっさと準備するとしよう…。 それにしてもさっきから焼き魚の香ばしい匂いがするな。うむ、よきかなよきかな。 「おはよう、千晶君」 「おはよう御座います千晶さん」 リビングに入るといつもの挨拶。俺ももちろん返す。 「おはよう御座います創さん、ミーシャ」 創さんは俺の従兄弟に当たる。年はそこそこ離れているがそんなに離れてもいない。 そしてミーシャだが、彼女は人間じゃない。彼女は創さんの武装神姫だ。なのでこの家には武装神姫が二体いる事になる。これって結構凄いんじゃないか?だって神姫一体買うってのは最新型パソコンを一台丸々買うことと同じなんだぞ? 「あ、やっと降りてきたね?はい、どうぞ」 と千空がご飯を盛った茶碗を目の前に置いた。 「ん、ありがと」 「じゃ、いただきま~す」 「いただきます…と」 今日の朝飯はザ・日本の朝食といった感じ。といえば大体想像がつくだろう? ぱくりと一口 「うむ、いつもの如く美味いな」 「やだなぁ兄さんってば」 「そういえば和食は久しぶりだったね」 創さんが言う。そうそう、まったくもって久しぶりだ。最近パンばかりだったからな。 「え、あ~そうか、兄さん好きだもんね~和食」 「むぐ、まぁな」 「何かあったんですか?」 「え、いやぁ特には。たまたまその…安かったから」 「「なるほど」」 我が家の家事担当は家計も考えておられるのだ。偉大な弟だなまったく。 『次のニュースです、先日起こった違法改造神姫による~』 TVから聞こえたニュースに反応する二人。まぁそりゃそうか…神姫のオーナーにとっては知っておかねばならないニュースだし。 とくに創さんはこの手の事件についての仕事をしているのでなおさらだ。 「減りませんね~神姫犯罪」 「うん、人は便利な物が現われると必ずといって良いほど悪用する人がいるから…」 「ひどい話だなぁ…」 「まぁ出来ることならすぐにでも捕まえたい所なんだけど」 「まずは警察が動かないことには…でしょ?」 「うん、その通り、下手には動けないのも事実」 「頼んだよ!ミーシャ!」 千空がミーシャにエールを送る。 「はい!一日でも早く多くの笑顔を取り戻すためにぃぃ!」 とガシッと拳を突き上げるミーシャ。 「おやおや、僕は置き去りかな?悲しいなぁ」 「え、あ、いや、そういうわけじゃ」 「ははは、わかっています。それに、確かに僕よりミーシャの方が頑張ってくれていますから」 「え、そんなぁマスターったら、恥ずかしいじゃないですかっ」 ぺちっと創さんの腕を叩くミーシャ。顔が赤くなっている。 「ははは、真実ですよ?ミーシャ」 「マスター…」 見つめ合う創さんとミーシャ…む、なんだこの甘酸っぱ辛い雰囲気は。 「オアツイネ~」 「きゃぁーみてるこっちがてれちゃう~」 からかう凪兄弟。 「こら、大人をからかわないで下さい?」 と笑いながら制す創さん。少し照れているのか? 「「は~い」」 と生返事で返す俺たちであった。 そんなこんなで朝食を済ませ、三人揃って玄関前。これから俺は専門学校にチャリで、千空もチャリで高校に、創さんは車だ。 「じゃ、行ってきます」 「行ってきます」 バタンと車のドアが閉まる。 「あ、そうだ」 千空がなにやら思い出したようで、ドアにノックする。 「ん?何かな?」 「今日の晩御飯はどうします?」 あぁ、なるほど。 「う~ん、まだ何時に帰れるかのめどは立ってないですね…」 「じゃあいつものように連絡で」 「ええ、分かりました、じゃあ、行ってきます。二人も気をつけて行ってきて下さい」 「うん」 「はい」 ブゥゥゥンと遠ざかって行く車を見送り、俺たちもそれぞれの学校へ向かう。 「じゃ、行ってくるね。兄さん」 「行ってくるぞ」 「おう、行ってこい」 「サボらないでよ?」 「サボらないよ」 「サボるな」 「だからサボらんて」 俺はどんだけ信用無いんだ?兄さんますます悲しいぞ。 「じゃ」 「ん」 千空の通う高校と俺の通う専門は反対方向だ。なのでここでお別れとなる。 小さくなる千空の背中を曲がり角で消えるのを確認して、俺も学校に向かうことにした。 「今日も良い朝ね~」 「はい、京都」 神姫オーナー御用達の某ホビーショップと同じ商店街にある喫茶店「LEN」 「おっはよ~!!」 「おはよう御座いますお二方」 「よ」 「おう!」 千空が通う超巨大学園「私立黒葉学園」 「あ、ちーちゃぁ~ん」 「おはよう御座います千空さん、弁慶」 いつもの朝、いつもの日常 「私はもうこの人達を信じたくない…です」 「人間なんてただの鍵。開けるためにしか必要ないわ」 「向かうは日本だ、晴明」 「はい。楽しみです!」 そして加わる日常、交わる関係 ここから始まる、すべてが始まる…。 そして続いてゆく。 「神姫…ねぇ~…」 第零話「それは」「常」 完 次回 真・凪さんちの十兵衛さん 第一話 歓 凪さんちの弁慶ちゃん 第一話 それは始まり
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/210.html
人物紹介 ホビーショップ エルゴ編 人物紹介 ホビーショップ エルゴ編日暮 夏彦(ひぐらし なつひこ) ジェネシス 犬吠埼 凛奈(いぬぼうざき りんな) 高階 雛希(たかなし ひなき) オウカ(仰華) 日暮 夏彦(ひぐらし なつひこ) 性別:人間・男 通り名:G 一応当作品主人公。よく訓練されたオタ。 商店街にあるホビーショップ、エルゴの店長。 その神姫関連に偏りきった商品ラインナップは店員をして「狂気の域」と言わしめる。 基本的にその突き抜けた生き様から男性受けが良く、女性の失笑を買うパターンが多い。 普段は面倒見が良く気のいい近所のお兄さんだが、ひとたびスイッチが入ると 台詞、行動がやたらとアツくなるヒーロー気質。 素に帰ったときに照れが残る辺りが姉に言わせれば「甘い」 クールな男を気取りたいのか素なのか、プライベートでは少し皮肉っぽい言い回しを 好む傾向がある。 スイッチがオタスイッチと混線している為に、アツさの方向が偶に無軌道にブレる。 小さい頃から姉の理不尽な専制政治に耐えてきた為、強制的に色々鍛えられてきた。 特に趣味と実益を兼ねるコンピューター技術と工作技術はプロ級。 神姫犯罪が目立ち始めた頃巻き込まれた事件を切っ掛けに、正義の味方を名乗り 神姫犯罪に立ち向かうようになる。 苦労も多いが基本的に趣味と主義に生きれる人生に本人は満足げ。 最近は慣れないラヴコメ展開の渦中に。 ジェネシス 愛称:ジェニー タイプ:ヴァッフェバニー 通り名:Encount Striker、見敵必殺の神姫 夏彦の武装神姫。 平常時はエルゴの店員として働いている。 また、日常生活に関係して神姫を連れて行けないマスターに代わり、神姫の面倒をみたり 人間社会について勉強したりする「神姫学校サービス」の教師役もしている。 ディスプレイ用素体に偽装したボディを仕様。 マシーンズシステムにより胸像偽装ボディから腕、下肢パーツ換装で神姫形態へと 「変身」する。 そのシュールな胸像姿から生徒の皆様に「うさ大明神様」の名で親しまれる。 移動を考慮して胸像形態でも飛行可能な機能が加わった。 いつまでたっても日常生活用の素体を購入してくれない夏彦を疑問に 思っているが夢とか愛着とかのワードで誤魔化されている。 実は素性を隠す為、PC接続時の処理能力向上の為など愛着以外の理由もあるのだが 既に遣り取り自体を夏彦が日常視して楽しんでいる為、真相は知らされない。 また、日暮家の家事担当でもあり、家事用に人間サイズの違法ボディを持つ。(元愛玩用) ボディとの接続は頚部のリンクコア内に収納接続される直接接続方式。 人間ボディ時には「秋月 兎羽子(あきづき とうこ)」の偽名を名乗る。 性格は生真面目で母性的。 能力の割にその生き方から社会性がついて来ない夏彦を呆れながらも的確に補佐する。 持ち主の影響かそれなりにあちらの文化にも造詣がある。 リミッター解除のおかげで人間を躊躇なく攻撃出来る為、怒ると非常に怖い。 が、主に被害に遭うのは悪党と突っ込まれる面々なのでそれほど実害はなかったり。 また主同様にヒーロースイッチを持っているのか、偶に普段からは考えられない アツい言動を見せる事がある。 夏彦に神姫とマスター以上の感情を持っているが基本的に真面目なのが災いして 感情のやり場に困る事が多い。 告白以後は普通の恋愛に憧れる一方、周囲の濃い面々によって順当に間違った方向へ。 武装解説: ▽基本性能 本来のレギュレーションを大きく逸脱しており、通常の神姫に掛けられたリミッター類 は全て解除されている。 その為、正式なカタチで公式戦に参加する事は出来ない。 文字通り普通の神姫としての生活を捨て、悪と戦う為に生まれたヒーローモデル。 また、各戦闘を想定した多数のオプション装備を持つ。 使用頻度が高いのはMMS随伴戦闘機・ソードダンサー改「リボルケイン」で 搭乗、合体等を駆使する事でジェネシスの戦闘力をさらに拡充する。 ◆G-1(現在爆破により消失) E.S…遭遇戦域対応を目的としたフルカスタマイズモデル。 主な装備は銀の可変アーマー「シャドウムーン」と背中の複合兵装「ブラックサン」 大型装備は背部ブースターから伸びるフレキシブルアームで全て接続し、状況によって 装備位置の変更、可変によりあらゆる戦況に対応する特別仕様機。 その重装備のため通常移動はフライトユニットで行う。 ◆G-2「アナザーシャドウムーン」 剣術使用の近距離戦闘特化モデル。 コードG.B.H(後述)を使用する為のモデルでもある。 メンテナンス性の向上と超高速戦対応に重点を置き、パワーとスピード、処理能力 の底上げが成されている。 反面、砲撃戦等の遠距離戦闘や広範囲、集団戦での攻撃能力等は低下している。 主な装備はアムドライバーシリーズジェナスゼアム及びネオニルギースのパーツ類 から推進系等を改造されたアーマー。 背部に追加ブースターや射撃武器を積んだ強化バックパックを装備。 射撃武器の内訳は同シリーズのバリアブルランチャー一式と実弾攻撃用の フォールディングキャノンをバックパック左右に搭載。 メイン武装は両肩に装備されたアブソリュートソードとアムバスタードソード。 アーマーの両肩、胸、バックパック、そしてベルト内にサブジェネレーターを搭載し、 そこからのエネルギー供給で一時的なパワーブーストが可能。 特にベルト型ジェネレーター「キングストーン」は電気以外にも光や熱を媒介として エネルギー変換が可能な特別製。 ◇電脳戦専用攻撃プログラム「剣の英雄の系譜(Genealogy of Blade Hero)」 略称 コードG.B.H、U.B.W.ver.G 等。某ゲームの固有結界「Unlimited Blade Works」を プログラム的に再現強化した物。 無論、仮想空間内でしか使えない奥の手。 ジェネシス及び処理用のサブPCの処理能力の殆どを使って発動する。 無数に降り注いだ古今東西のヒーロー武器の能力を、特定空間内(結界内)の情報 に干渉し書き換える事でリアルタイムで再現する。 結界が形成されるのは書き換えの為の一種のフォーマット状態に空間を変える為。 この特製の為、元になった事物の能力を100%発揮できるが長時間事物を維持する事は マシンパワー的に出来ない。 また、待機状態のプログラムの発動には電脳空間にハッキングを掛けて制御している マスター側の他に使用するユニット側からも認証が必要。 これには同空間内の他のユニットからの干渉に対するセキュリティと、発動までの タスク簡略化、情報同調による再現率強化などの意味合いがある。 具体的にはユニット側が認知し、認識している以外のプログラム(事物)は発動プロセス を踏んでも発動しない。 ユニット側が事物についての知識を持ち、認証信号を使ってプログラムキーの「欠け」を 補完する事で初めて起動する仕組みになっている。 この為、例えその場にあろうとジェネシスの知らない武器はその効力を発揮する事が 出来ない。 ワリと非効率的な弱点だがそこを埋めてこその二人の「必殺技」らしい。 犬吠埼 凛奈(いぬぼうざき りんな) 性別:武装神姫ハウリンタイプ、インターフェースボディ 職業:エルゴ非常勤バイト その正体はD-フォースの一体、D-ブラスター。 偽名を名乗り、超テキトーなエルゴの住み込みバイトをしながらジェニーと夏彦に ちょっかいを出す。 詳しい解説はリンク先参照の事。 高階 雛希(たかなし ひなき) 性別:人間・女 通り名:お嬢 16歳。私立黒葉学園高等部1年。 日暮家の居候2号にしてエルゴのオーナー権利保持者。 が、エルゴの仕事を手伝う気は一切無いらしい。 旧華族高階家の出身であるらしい事以外、詳しい身元は不明。 高階本家とは絶縁状態にある事が、本人の口から語られている。 容姿端麗、成績優秀。身のこなしは機敏だが運動は苦手。 学校では制服を着て居るが私服は例外なく和服。 年齢不相応な言動を繰り返し、素行、性格共に謎が多い。 策略家で思慮深く表だって何かをする事は少ない。 日暮冬司の元で三年間オタクとしての英才教育を受けてきたらしい。 Gの仕事に興味を持つが、どこまで本気なのかは怪しいところ。 夏彦に対しては明確に興味を持ち、アプローチを掛ける。 オウカ(仰華) 愛称:無し タイプ:ツガル 通り名:無し 雛希の武装神姫。 非情に気の毒な知能と人格の持ち主。 ノリとテンションに重きを置くお調子者。 利己的かつリアリストで悪知恵だけは働くが感情的で杜撰。 負けん気が強く、打たれ弱いが立ち直りは早い。 ツガルタイプである事にある種の誇りとコンプレックスを持っており、 粗末に扱われるとキレる。 自分に優しい人や便利な人に懐き、少しでも嫌いな人間は蛇蝎の様に忌み嫌う。 攻撃力と運動性に割り切った設定で、理屈よりも感情や本能に任せて戦った方が 能力を発揮できるタイプ。 鳴き声だけでポケ○ンの雄雌が判別できるなど、決して実生活では役に立たない 方面の能力だけが高い。 武装は刀剣類を好む。 理由「ボコッた実感が湧くから」 普段は普通の布地の着物(雛希の趣味)を纏っている。 武装解説: ◆G-Another《ライオンタイガー》 日暮 冬司謹製の武装システム。 自在剣《金砂地》と自在銃《銀砂地》という二つのマルチウェポンと、その能力を 引き出すための和服型装甲ウェポンバインダー《獅子丸》で成る。 G1開発時に夏彦の「遭遇戦域対応」というコンセプトに対して冬司が出した解答例。 オウカがバトルデビューする際にプレゼントとして作り起こされた。 トラクタービームを利用して自在に形状を変化するビームブレードで至近~中距離を アーマー内に仕込まれたパーツの組換で様々な戦況に対応するマルチシュートウェポン で至近~超長距離までを自在にこなす。 また、金砂地は増加エネルギーパックで一時的に攻撃力を激増させる事が可能。 銀砂地は砲弾の変更や同じくエネルギーパックの交換で威力変化が可能。 獅子丸は振袖型のアーマー。振袖部分に各種武装パーツが収納されており、 帯の部分に当たるビームクロス発生器で防御布を、さらに拡散発生させる事で エネルギーフィールドを発生させ防御力を底上げする。 裾部分はフレキシブルスラスターになっており加速力を確保する。 飛行能力などは無いが、地上戦及び対応戦闘ではその特性から無類の強さを発揮する。 メニューへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2380.html
前編:彷徨姫 それは今から二週間ぐらい前だった。オレはいつもの様に『ポーラスター』で子供から大人までいろいろな人が神姫バトルをしている所をぼうっと眺めていたんだ。 『ポーラスター』は秋葉原を中心とする激戦区の中でも大きいゲームセンターの一つで神姫オーナーも多い大人気のバトルロンドの場だった。そのオーナー達の性格や印象も良く、神姫を持たない私でもあまり気にされることもなく、観戦する事ができる。たまに神姫を持っていない事で声もかけられるが、その事を言うと見やすい場所を案内してくれることもある。 優しい人達で周りのゲームセンターよりも居心地がよかった。 「ビィィィ!キュウゥブッ!! フルヴァーストォ!!」 「サー、コマンダー」 やたら暑苦しい人が叫ぶとB3(ビー・キューブ)と呼ばれた重装備のヴァッフェバニーがバズーカ砲、ロケットポッド、さらに二基のガトリングガンを構え、それを上空にいるアーンヴァルMk.2装備にFATEシールドとコールブランダーを付け加えた武装のアーンヴァルに向かって一斉掃射する 「アンジェラス! ステディプロティション!!」 「はい! ご主人様!!」 アンジェラスと呼ばれたアーンヴァルはB3の放つ大量の弾幕をFATEシールドのスキル ステディプロテクションで防御をし、B3のフルバーストを防ぐとリアユニットにマウントしてあるコールブランダーを抜きはなって、二つのビット リリアーヌを伴って、前進を始めた。 「牽制からライトニングソードだ!!」 「ええ!」 マスターの指示でアンジェラスはあらかじめ、時間を稼ぐためにリリアーヌをB3に飛ばし、コールブランダーを掲げてチャージを始めた。 飛んでいく二つのビットはB3めがけて左右から突撃を仕掛ける。狙われたB3はその攻撃をガトリングガンの段幕で迎撃するが、一つは破壊したものの、もう一つは片方のガトリングガンにつっこみ、自らもろとも爆発した。 さらに巨大なエネルギーブレードを形成し、チャージが完了したライトニングソードをアンジェラスが勢いよく振り下ろしてくる。 「ンンンンGoGoGoGoオォゥ!!! ビィィキュゥゥウブ!! カウンタァー! ショットォ!」 「サー、コマンダー」 振り下ろす直前、B3は残ったガトリングガンを両手で持った上で回避体勢に入り、ライトニングソードが目の前の地面に突き刺さって安全になった瞬間、反撃のガトリングガンを放つ。 が、かろうじて反応したアンジェラスはそれを避けて、反撃の被害を最小限にしようと動いた。 その瞬間、あらかじめルートを予測したかのようにバズーカがアンジェラスに着弾し、墜落した。 「きゃぁ!?」 「アンジェラス!?」 「ンフフハハアアアァッ! これが俺たちのトゥオルィック!! ビイィキュウゥブ! 追撃ぃ!!」 「サー、コマンダー」 それは確かにトリックだった。ガトリングガンで弾幕を張って、相手の避けるルートを限定し、威力の高い本命のバズーカを確実に当てる。すごく合理的な戦術だ。 このまま、アンジェラスを仕留めきれるのだろうか。 B3はガトリングガンの弾が切れたのか、二丁両方を捨てた。代わりに大型のナイフを二本取り出してそれぞれの手で持ち、ロケットポッドの連射で牽制しつつ、接近を始めた。 墜落したアンジェラスはディコ・シールドで素体に当たる弾を防ぎつつ、立ち上がってB3を迎え撃つ。 「勝利は勝ぁぁぁぁぁっつッ!』 「アンジェラス!MOA!」 そして近距離、B3がマスターの叫びとともにナイフで攻撃を仕掛けたその刹那、アンジェラスは鋭い指示に反応して彼女の攻撃を回り込むようにかわした。次にすれ違い様にコールブランダー銃形態でB3を撃ち、リアユニットとマシンガンを分離変形させる。 BM『モードオブエンゼル』だ。 変形した白い戦闘機は背面を無防備にさらしているB3に大量の弾丸を殺到させた。 「Noオオオオォォッ!!?」 背面からの集中砲火にたまらずB3が倒れ、勝敗が決するとマスターの方がとてつもない悲鳴を上げた。 『衛生兵! えーせーへーえぇぇぇぇぇ!!!!』 センター中に響きそうな叫び声が聞こえる中、オレは腕時計を見る。そろそろ夕方にさしかかるいい時間になっていた。戦いの後が気になる所だが、面倒くさいテストが明日あるため、それの勉強のために帰ることにし、『ポーラスター』を抜け出した。 「アンジェラスはかっこいいなぁ。B3もあんな攻撃をするなんて武装神姫ってすげぇ……」 外に出た時、オレは憧れを口にする。オレは武装神姫を持っていなかった。兄貴は初代チャンピオンでバリバリの神姫マスターをやっているが、交通事故に遭って目が見えなくなって以来、オレに武装神姫を話さなくなった。 だからこうしてポーラスターで武装神姫を見ているんだけど、やはりダメだった。 その場にいるのに自分はその場とは違う。そんな気分だ。そんなモヤモヤした気持ちを抱えこみながら歩いているその時だった。トライクで走る小さな赤い影を見つけた。すごく速いそれはすぐに追わないと見失いそうだ。 (何なんだ?) 気になり、それを追い始める。走り出すとさすがに人と神姫の体の大きさの差は大きく、だんだんと追いついていく。 少し走って裏通りに行くと赤い神姫がトライクを止めた。オレがそれに合わせて足を止めると、彼女はそこから降りてオレを見ていた。 「さっきから追いかけてくるのが、君? 何か用?」 鋭い目でオレに質問をしてくる。見た所、アークのりペイント版か何かのような神姫だった。装備で違うのは額から角が生えているぐらいだ。 「何でマスターがいないのか気になったからさ」 「私にマスターはいないよ。ただの野良神姫だ。真の力とは何かを探してる。君は知ってるの?」 「オレに難しいことはわかんないけど、そもそも真の力って何だよ?」 「私は単純な力だけでは勝てないマスターをもったライバルがいる。彼女はその力は自分一人だけのものじゃないと言っていた。奴に勝つためにはそれが必要なんだ」 詰まる所、マスターのいるライバルに負けて、その力が何であるのかを探しているらしい。 事情はよくわからないが、オレにとっては笑ってしまえるほど単純なことだった。 「簡単じゃん! その神姫ってマスターと仲良しなんだなっ!」 「え?」 「マスターの期待に応えたいから頑張ったんじゃないかな。当たり前のような神姫とオーナーの関係さ」 アークに対して自信を持って答える。マスターと神姫の関係は当たり前の事過ぎて普段は考えもしないけど、その当たり前がないとすればどれだけの差があるか。それは多くのオーナーが知っていた。野良神姫やイリーガルが出てきても、絆を持ったマスターと神姫がそれを打ち負かしているのは兄貴がよく言っていた。 「当たり前の……か」 その言葉に何かを感じたのか、アークはフッと笑った。鋭い目も緩んで、何かをつかんだ様な柔らかい表情を見せる。自分にもこんな神姫がいればなんて思ってしまうほどその顔はとてもきれいに見えた。 「なぁ……君……!」 アークがオレに何か聞こうとしたその時、裏通りの奥から、エネルギー弾が彼女めがけて飛来してきた。 アークはそれに反応して避けて、臨戦態勢に入って、アサルトライフルを弾が飛んできた方向に構える。 「この不意打ちを避けるとは大したもんだ」 奥から上から目線の態度をした痩せ型の男がエネルギー弾を飛ばしてきたと思われる、最新型の神姫 蓮華と一緒に出てきた。 「ここはガキが来るような場所じゃぬわぃ。とっとと有り金と神姫をおいて消えぬぅわ」 妙な口癖の蓮華がオレにアークと金を渡せと要求する。どうやら、アークはオレの神姫だと思っているらしい。 「ん? どうしたんだ? その神姫はお前のじゃないのか?」 痩せ型の男が現れて、オレに問う。オレは彼女のマスターじゃない。それどころか、神姫すら持っていない。どう答えればいいんだろう……。 そんな風に戸惑っている時だった。アークがシルバーストーンを構えて蓮華にそれを容赦なく撃ち、堂々と答える。 「そうだ! 彼は私のマスターだ!」 驚いたことにどういう訳か、会ったばかりのオレをマスターだと言い張ったのだ。神姫を持っていないのにこんなことで大丈夫なんだろうか。 「君、私に名前をくれ!」 オレは突然のことに驚いたが、彼女に言われるがままに名前を考える。一瞬の中で思ったことは、彼女と遠く遠くを走り続けたいという思いだった。だから……! 「ああ! 俺は響! お前は百日! 俺の神姫だっ!!」 「OK! 行こう! 響!!」 与えられた名前に応じ、アーク――百日はもう一度シルバーストーンを放つ。 「ははは!! 何だそりゃ!? 即席チームでんなことのほざくんじゃねぇ!!」 「ほほほ。これは獲物じゃぬわ! 死ぬぇい!!」 蓮華と痩せ型の男は即席の俺達の事を笑い、ただのカモだと思って笑うと蓮華がレーザーを回避してそのまま二黒土星爪で百日に襲い掛かる。 それを見た彼女はアサルトライフルを連射して、蓮華の勢いを削ぐ。さらにそれで生じた隙で二黒土星爪を回避しつつ、フォールディングナイフを展開して逆に反撃の斬撃と蹴りを決める。 最後の蹴りの力は強く、蓮華を近くにあったゴミ箱まで吹き飛ばし、叩きつけた。 「ぐぇっ!? な、何だあの出力は!?」 「あの角を見た時からまさかとは思ったが、そのアーク、イリーガルか!?」 百日の蹴りの強さを見て、痩せ型の男が動揺する。どうにも百日はイリーガルというタイプで、とんでもない出力であるらしい。 何なのかはわからないが、こちらに勝ち目はあるという事か。 百日は相手の動揺を気にする事もなく、シルバーストーンで蓮華を狙い撃ちにする。彼女はイリーガルだという事を認識したその攻撃を恐れているらしく、大げさに避け始めた。さらにその中で威力のある二黒土星爪から命中を重きにおいた一白水星剣に持ち替え、ヒットアンドアウェイ戦法へと切り替える。 「くっ……!」 身軽な装備でちょこまかと動き回って、百日を攪乱していく。百日もアサルトライフルとナイフで応戦するものの、その動きは早く、なかなか捉えることができない。 イリーガルと動揺はしているものの、蓮華にも素体の改造が加わっており、百日並の強さがあるのかもしれない。 強さがどうとかは置いておいて、このままでは小回りの利かない百日が押される。アサルトライフルとナイフでは仮に当たっても決定打にはならない。何とかしてレーザーを一発放り込み、追い込めれば……。 「……そうだ! 百日!! アサルトからレーザーにつなぐんだ!」 「なるほどね……。わかった! やってみる!」 何とか読まれない程度に百日に命令を下し、彼女はそれを実行するために距離をとりながらアサルトライフルを準備する。 「何かは知らねぇが、素人の作戦なんてうまく行きっこない! そのまま潰せぇ!」 痩せ型の男は何の作戦なのかわかっていないのか、依然として剣による攪乱攻撃を蓮華に続けさせている。 これならやりようはありそうだ。 百日は回避し、蓮華の隙を伺っている。オレもそれを見ていた。相手は直線的に動いているに過ぎない。 次の隙が生じるまでの時間はそう長くはないはずだ。 「……今だ! 百日!!」 「行けっ!!」 隙を捉えたオレが百日に合図を知らせると彼女はそれにならってアサルトライフルをばらまく。 「当たらぬわ!!」 そうすると蓮華は反射的に回避行動に移る。その時だった。その回避した先からレーザーが飛来し、蓮華の腹を貫いた。 「ぬわにぃ!!?」 「蓮華!? くそっ!!? どうなっているんだ!!」 まさか、避けた先にレーザーがやってくるとは夢にも思わなかったのか、痩せ型の男と蓮華は激しく動揺する。 オレも内心、成功するかどうかヒヤヒヤしていた。これはB3のやっていたトリックを真似たものだ。 覚えていたので再現した即席だったため、上手く行くか心配したが、これで決定打は与えられた。 「当たった……これが……」 「百日! そのまま、追撃!!」 「あ、ああ!」 まさか、当たるとは百日も思っていなかったようで驚いていたが、オレの命令にマガジンを二つ装填する。 「インファニット∞アサルトだ!!」 「終わりだぁぁっ!!」 スキルを放つとレーザーでダメージを負って動けなくなっている蓮華に当たり、弾丸が装備を破壊し、彼女を戦闘不能に追い込んだ。 「ぬおぉぉっ……!?」 「蓮華!? くそっ!! 覚えてろ!!」 蓮華が倒れる状況に驚きながらもこのままではやられると思った痩せ型の男は彼女を持ち出し、逃げ出した。 それを見て、戦闘が終わったと判断した百日は武装を解除し、トライクモードに戻した。 「響。ありがとう。この勝ちは君のおかげだ」 「百日だって頑張ったじゃないか! これは二人の勝利さ!」 戦いが終わると礼を言ってきて、オレは思ったことを返す。そうすると百日はニッと笑って見せ、手を出した。 「そっか。頑張るって言葉、教えてくれ」 「ああ! 頑張るぜ!!」 「じゃあ、それをみせてくれ」 オレはそれに応じて百日の小さな手に握手した。こうしてオレと百日は無い者同士がパートナーとなった。 イリーガルがどうとか痩せ型の男が言ってたけど、百日が悪い奴の手先なんかじゃないのはわかってる。 誰かがもう一回、そんな事を言ってきたら胸を張って「百日が悪い奴なんかじゃない」と言ってやろうと思う。 テストが終わったら、兄貴は一人暮らしだから、悠にイリーガルについて聞いてみよう。あいつなら神姫をよく知っているし、百日のイリーガルについて何か知っているかもしれない。 「百日。よろしくな」 「ああ」 明日のことを考え、決めるとオレは百日と共に自分の家に帰る事にした。 ひとまず、帰ったらテストの予習を済ませないとならなかった事をすっかり忘れていた。 これで成績が良くなかったら母さんにこってり絞られてしまう。それだけは避けないとならない。 ……テスト、どうにかしないとなぁ。 戻る 進む
https://w.atwiki.jp/kagemiya/pages/264.html
「――許して下さい」 「――助けて下さい」 「――どうか、私を救って下さい」 【元ネタ】聖書神話・新約聖書 【CLASS】ランサー(バーサーカー) 【真名】ロンギヌス[オルタ] 【性別】女性 【身長・体重】166cm・45kg 【属性】秩序・中庸 【ステータス】筋力:C 耐久:C+ 敏捷:E 魔力:A 幸運:E 宝具:A 【クラス別スキル】 ◇対魔力:A Aランク以下の魔術を完全に無効化する。 事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。 【保有スキル】 ◇千里眼:EX 視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。ランクが高くなると、透視、未来視さえ可能になる。 ランサーは神の子の血を受けたことで己の未来を見通す眼を得ている。 生前の経験から、本人はこのスキルを使いたがらない。 ◇尊き者への罪科:A ランサーが背負う祝福と罪。 肉体へのダメージを軽減するが、精神への干渉を受けた時その影響が増大する。また様々な不運に見舞われる。 この装備(スキル)は外すことが出来ない。 【宝具】 『主よ、何故彼をお見捨てになったのですか?(ロンギヌスランゼ・テスタメント)』 ランク:A++ 種別:対神宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:1人 神の子を貫いた聖槍、その神秘の解放。エリ・エリ・レマ・サバクタニ。 通常はただの斬れ味鋭い槍に過ぎないが、神の子を刺し貫き命を絶ったとされる伝承から、「神性」または「聖者」の属性を持つ存在に対し絶大な威力を発揮する。 対象が聖書神話系の聖人であるならば更に効果が跳ね上がり、矛先を向けた瞬間、あらゆる条理を無視して標的は「刺殺」される。 因果逆転の力を持つ魔槍とは異なり、これはあくまで手順の省略。 救世主すら殺めたこの槍を向けられた時点でその者の死は確定している。故に過程を無視し、「刺殺」という結果のみを引き寄せる――という理屈。 【Weapon】 『聖槍』 白い布を巻かれ封じられた長槍。 真名解放と共に布が解け、血の滴る白い刃が露わになる。 【解説】 伝説の聖遺物の一つ、『聖槍』の本来の持ち主――の、可能性の一つ。 救世主の処刑について、よく知られるのは次のような話だ。 ゴルゴダの丘で彼の者は十字架に架けられた。 彼の者は死に、ある盲目の兵士が死を確かめるためそのわき腹を槍で突き刺した。 彼の者はやはり死んでおり、しかし流れた血が眼に入った兵士は、光を取り戻した。 だが、この話には一つ仮定が生まれる余地がある。 救世主は磔にされて尚まだ死んでおらず。 その命を奪ったのは、盲目の兵士の槍だったのではないか、という可能性が。 ――このランサーはある種の俗説で語られる通りの、『神の子を殺したロンギヌス』というイフの存在である。 ゴルゴダの刑場にて救世主を刺殺した盲目のロンギヌスは、流れ落ちる血をその身に浴びることで加護を得た。 盲いた眼は見えるようになり、更には未来を見通す千里眼の力を手に入れた。 ロンギヌスは輝くような世界の中で、己の未来をその眼に写し―― 拷問の末に無残に処刑され。 死後も魂の休まることなく、遥かな未来の果ての果てまで、英霊として戦場を彷徨い続ける己を見た。 【人物】 白い僧衣に身を包み、物鬱気に眼を伏せた修道女。 非情に卑屈な性格。英霊の身となって戦い続けることも罪を犯した故と考えており、士気が非常に低い。 善良な心の持ち主であるのだが、己の罪科に押し潰されて心が疲弊しきっており「許されたい」「救われたい」「楽になりたい」という想いが行動を縛る。 聖杯に賭ける願いは「贖罪」、それが叶わないならば「己の心を消し去る」こと。 サーヴァントとしては敏捷値・幸運値が低いものの高い防御数値によって安定した戦力を持ち、特に宝具によって対神性サーヴァント戦ではほぼ無敵。 マスターはそのネガティブが極まったランサーの思考を解し、余りにも悲観的な彼女を「前向きな」勝利へと導く手腕が必要になるだろう。 + TRPGキャラシート 【真名】ロンギヌス [オルタ] 【クラス】ランサー 【HP】 /3d8+6 【宝具1】『主よ、何故彼をお見捨てになったのですか?(ロンギヌスランゼ・テスタメント)』 1 / 1 ランク:A++ 種別:対神宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:1 【効果】以下の効果を持つ。 1.常時効果。物理攻撃と魔力攻撃時、dice+2を得る。 2.物理攻撃時、dice+5を得る。 3.相手が設定上、神性スキルまたは「聖人」の属性を持つ時、物理攻撃時、dice+10、modifier+(相手の最大HP)を得る。 さらに相手の最大HP以上のダメージを与えた場合、相手の現在HPを0にする。 また相手が設定上「聖書神話」を出典とする場合、更にmodifier+(相手の最大HP)を得る。 【筋力】C 3 【耐久】C+ 3 【敏捷】E 1 【魔力】A 5 【幸運】E 1 【スキル1】対魔力:A 魔術防御時、dice+5を得る。 【スキル2】千里眼:EX 先手判定を行わずに先手を取る。 また1ターンに1度、任意の判定を振り直すことができる。 【スキル3】尊き者への罪科:A 1.物理防御と魔術防御時、dice+5を得る。 2.精神攻撃属性を持つ攻撃に対して、自分はダイスを振ることが出来ず0で判定する。 また、デバフ効果を持つ場合、その効果を2倍にする。 3.このサーヴァントの幸運を使用した判定時、modifier-10を得る。 【容姿】白い僧衣に身を包み、物鬱気に眼を伏せた修道女。 【その他】
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2595.html
SHINKI/NEAR TO YOU 良い子のポニーお子様劇場・その5 『セントウノヒ』(後編) >>>>> 路地裏を進む番長児の後ろ姿を追いながら、ゼリスがシュンに小声で話しかける。 「シュン、良いのですか。先ほどからどんどん人通りの少ない方へ進んでいますが?」 「そうだけどさ……今さら逃げ出すわけにもいかないだろう……」 そうは言ったものの、シュンもだんだん不安になってくる。 とにかく着いて来いと凄まれたのでこうして後に続いてはみたものの、駅へと走る大通りから建物の隙間を縫うような裏道に入った番長治はそのままどんどん人気のない道へと進んでいく。 どうやらうまく雨に当たらないような遮蔽物のあるコースを選んでいるようで、雨に打たれないのはいいのだけれど。 ……まあ、すでに二人ともびしょ濡れだけどね。 「シュンがそういうのでしたら止めはしませんが……もしもの時は、骨は私が拾いますので安心して下さい」 ぶっそうなこと言うなよ。 そうこうしているうちに、先を進んでいた番長治が立ち止りこちらを手招きしてきた。目的地に着いたらしい。 「ここじゃあ」 番長治が顎でしゃくる先にあったのは、古びた建物だった。周りを囲むコンクリートの建物と違って、この一軒だけ昔ながらの木造に瓦葺屋根のどっしりとした店構えをしている。 店名なのだろうか? 開き戸の上に飾られた木の板に筆で達筆な文字が書かれているが、相当古いのか全体的に黒ずんでしまってよく読めない。 「えっと……ここって、何?」 仕方なく番長治に尋ねると、呆れた声が返ってきた。 「見ればわかるじゃろう、銭湯じゃい」 なるほど。言われてみれば屋根から大きな煙突が伸びている。屋根を仰ぐシュンの頬を、ゼリスがチョンチョンとつついてきた。 「シュン、セントウとは何ですか?」 それを聞いてベガがフッと笑う。 「そんなことも知らんのか? 銭湯とはな。温泉に集団で入ることで結束力を高める重要な軍事教練のひとつなのだ」 いやそんな自衛隊員じゃあるまいし。 「なるほど。それは是非体験してみたいですね」 ゼリスが興味深げな顔をする。体験したいのか……というか銭湯に来たってことは風呂に入るってことだよな。 「お前もそのままじゃ風邪引くじゃろう。それにここなら服も乾かせる。ほれ、ボサボサしとらんで入るぞ」 番長治が先頭に立ってガラリと戸を開く。中に入ると玄関の脇に木造りの箱のようなもの――ええと、確か番台っていうんだったかな――があり、小柄なおばあさんがうつら、うつらと船を漕いでいる。 番長治が声をかけると、おばあさんの肩から小さな人形が顔を出した。イルカ型武装神姫ヴァッフェドルフィンタイプだ。 「はい~、毎度ありがとうごぜえやす~」 人間だったら血圧が低そうなしゃべり方のヴァッフェドルフィンに、ふたりは料金を渡した。中学生以上は大人料金らしい。 (ここでシュンは番長治も同じ中学生だという衝撃の事実を知った。学生服を見ても、体がデカイからてっきり高校生だと思っていた) 「それでは~、二名様ご案内しやす~。神姫のお二人様は女湯へどうぞ~」 シュンとゼリスは顔を見合わせる。ふたりの疑問を感じ取ったのか、ヴァッフェドルフィンが説明してくれる。 「そちら様は~、はじめてのお客様でいらっしゃいやすね~。当店では神姫をお連れのお客様には神姫の無料入浴サービスをさせていただいておりやす~」 そんなサービスがあるのか。まあ神姫がおばあさんに代わって接客してるくらいだしなあ。 「一緒に入れなくて残念でしたね、シュン?」 「いやいや、誰も一緒に入ろうなんて言ってないだろうっ?」 カポーンッ 背景に富士山が描かれた大浴場の湯船に浸かりながら、シュンはふう~っと息をついた。隣で湯に浸かる番長治とふたり、熱い湯の心地良さを味わう。時間もあってか他に客はいない。いや、こんな裏路地に取り残されたような立地条件と番台の居眠り老人を思えば、いつも閑古鳥が鳴いているのかも知れないが。 それにしても、かつて武装神姫バトルで戦った相手とこうして肩を並べて湯船に浸かっているのも、奇妙な話だ。 「助かったよ、これで風邪をひかずに済みそうだ」 シュンが声をかけると、番長治はタオルで顔を拭いながら「構わん」とぶっきらぼうに返す。 「お前には借りがあるからのう」 「……借り?」 そんなものをつくった心当たりはないけどなあ? 「お前らとのバトルでワシとベガも目が覚めた。また初心に帰って武装神姫バトルをする気になれたんじゃい」 そう語る番長治の横顔は、どこか照れを隠してるように見えた。考えてみるとこいつのしゃべりがいつもぶっきらぼうなのも、単に不器用なだけなのかもしれない。 少なくともシュンの中では今日一日で、初対面の横暴なイメージが大きく薄れて取っつきやすく感じるようになったのは確かだ。 だからシュンはあの日のバトル以来気になっていたことを、思い切って尋ねることにした。 「なあ……どうしてあんな初心者狩りなんて真似をしてたんだ?」 そのシュンの疑問に、番長治はひとしきり「う~む」と唸った後ぽつぽつと語り出した。 「ほう、これが銭湯というヤツですか」 目の前に広がる大浴場に、ゼリスが感嘆の声を上げる。 「ふっ、未経験の新兵である貴様に私自ら銭湯のイロハを教えてやろう! まずは湯船に浸かる前のマナーとして、よく体を洗ってから湯船に向かうのだ」 ビシッとベガは洗面所を指差す。コクリと頷くゼリスに満足そうに見てから先に立って歩き出す。ベガはそのまま洗面所に置かれた風呂桶を利用して段差を登り、そこから蛇口のカランに飛び移って手際よく桶にお湯を溜める。 「手際がいいですね」 「私はこの銭湯にはサーと一緒に何度も来ているからな。任せておけ」 ベガは返事をしながら無駄のない動きでシャンプーとボディソープのケースをタイル張りの床に降ろすと、体を洗いはじめた。雨水を被って汚れた髪もシャンプーで入念に洗い流す。 「どうした、小娘? 貴様もさっさと洗え。他に客がいないとはいえ、のろのろするのは性に合わんからな」 「……いつもシャンプーはユウにしてもらっていました」 きびきびと動くベガをじっと見つめながら、ゼリスはポツリとつぶやく。 「……ひとりでは出来ません」 ズコ――ッ。体を洗い流していたベガが派手にすっ転ぶ。 「貴様は……冗談で言ってるのかっ!?」 「いえ、冗談ではありません。そもそもシャンプーハットも使わずに髪を洗おうとしたら、目に染みて痛いではないですか?」 あくまで真剣なゼリスにベガは目頭を押さえながら立ち上がる。 「全く……キレ者なのか、ただの天然なのか分からんヤツだ。ほら、こっちに来て目をつぶっていろ。私が洗ってやる」 ゼリスを自分の前に座らせ、ベガは長く蒼い髪に手を伸ばす。目をぎゅっとつむり「む~」緊張するゼリスに苦笑しながら、その頭をシャンプーで泡立てる。 「手慣れてますね、お上手です」 シュンの妹である優(ユウ)に髪を洗ってもらうのとを比べて、素直な感想を述べる。ベガの手つきは普段からこうしたことへの慣れを感じさせた。 「ふん……い、いつもサーの妹君の面倒をみているからなっ。そのせいだろう」 ゼリスの髪を洗い終えたベガは、体は自分で洗えと言って湯船に向かう。ゼリスも手早く体を洗い流し後を追った。 ベガは浴槽の端に作られた昇降用の段差を乗り越え、湯船へと浸かる。続けてゼリスも先に習うように隣に入る。本来は子供やお年寄り用に設けられた段差だが、こうして武装神姫が湯船に浸かるにも丁度うまい具合の高さだった。 珍しそうに壁の浮世絵や浴槽を眺めるゼリスとは対照的に、ベガはリラックスした態度で湯に身をたゆたわせている。機嫌がいいのか鼻歌まで口ずさんでいた。その揺れる赤い髪を見ながら、ゼリスはふと抱いた疑問を口にしていた。 「ベガさんはフォートブラッグタイプでいらっしゃいますね。しかしバトルでは何故、徒手空拳しか使わないのですか?」 砲台型MMSフォートブラッグタイプは火力に優れ射撃戦を得意とする神姫だ。今日戦った対戦相手がそうであったように、一般的には基本武装による砲撃戦や重火器によるロングレンジファイトの戦闘スタイルである場合がほとんどである。 ベガのように代名詞である砲撃どころか火器も持たずクロスレンジファイトを主体とするのはかなり異例だ。 「つまらん話だ。別にたいした理由ではない……」 見つめるゼリスから顔をそらしながら、ベガが語り出す。 「私とて最初から、対戦相手と拳で語り合っていたわけではない。バトルを始めた頃は普通にフォートブラッグタイプの標準装備で戦っていたさ。私もサーも慣れないバトルで、少しでも早く強くなろうと頑張っていた」 それはちょうど今のゼリスとシュンのようだったのだろう。思い出を懐かしむようにベガの目が遠くを泳ぐ。 「バトルに勝って、負けて。勝った時にはどこが良かったか、負けた時には敗因は何かを探った。……そうしてしばらく経った頃だ。変調が起ったのは……」 私は欠陥品だったのさ――自嘲気味にベガは言った。 「ある日の射撃訓練中、標準に狂いを感じた。はじめは銃のメンテナンス不良かと思ったが、別の銃を使っても不調のままだった。いよいよおかしいとセンターでの検査を受けて、私には製造不良があってそれのせいでFCS系に異常があることがわかった。修理するためにはCSCから分解することが必要だと言われた……」 神姫のボディは大きく3つのパーツで構成されている。頭部であるコアユニット、体を成す素体、そして心であるCSCだ。CSCを分解することは、AIの初期化――すなわち神姫にとっての死を意味する。 「私は絶望した。砲の撃てないフォートブラッグになど価値がない。サーの足手まといとなるくらいなら、そのままリセットされる方がマシだとさえ思った……! しかし、そんな私にサーは、あの人は……こう言ってくれたのだ」 サバーッと、湯船から立ちあがり高らかに叫ぶ。 「『砲なんぞ無くても、自分の手足があるじゃろう。ワシにはお前が必要じゃ』――とっ!!」 拳を握りしめ感極まったようにベガは続ける。 「このサーの言葉に、私は感銘を受けた! 自らの考えの甘さを恥じ、あらためてサーの懐の広さを知ったのだ。わかるか、小娘っ!?」 昂奮するベガがゼリスに迫る。ゼリスは内心ちょっと引きながら、ただ頷いた。 「それから私とサーの特訓の日々が始まった。夕日の砂浜を走り、石段を鉄下駄で駆け上り、サンドバックをボロボロになるまで叩いた! 全てはサーの為に、サーへの愛と忠誠の証として! その言葉を私自身で証明せんがためこの身に鍛錬を徹底的に刻み込んだのだ」 おそらく。徒手空拳の体術のみでフル武装と渡り合うため、あらゆる挙動をフィードバックまで完全にコントロールできるほど精査し、動作の蓄積と効率化を図った――ということらしい。明らかにおかしなトレーニングも混じっていたが。 「そして、私たちは再びバトルの世界に舞い戻った。バトルを再開した当初こそ、特異な戦闘スタイルに苦戦と嘲笑を浴びる時期があったものの、サーと私の努力と愛は実を結び、また勝ち星を重ねていった。己が徒手空拳のみを頼りした戦いぶりから私は『鉄拳』と呼ばれ、サーも有力神姫バトラーとして密かに注目を集めるようになった。しかし……」 そこでベガのトーンが一気に小さくなる。 「ある試合で……私は負けた。完敗だった……一方的にやられるだけだった。それまでサーと私がふたりで積み上げてきたものを、重ねてきた鍛錬の日々を、全て否定されるような敗北だった。……また、私はサーの期待に応えることができなかった」 チャポンと。ベガは湯に身を沈め直す。ゼリスは逡巡しながらも「それからどうなったのですか?」と続きを促した。 「後は知っての通りだ。スランプに陥ったサーと私は、以前のようにバトルへの情熱と強者への挑戦を持ってバトルに臨むことができずに、経験の浅い者、己より弱い者から小賢しく勝ちを拾うようになった。それでも最初は、自信を取り戻すために確実に勝てそうな相手を選んでいたような気もするが…… 熱意を失った――いや、違うな。自分を信じられなくなった私は、そこから先に進むことができなくなってしまった。空虚な勝ちに溺れ、ただ弱者を痛ぶり無価値な勝ちを重ねる日々に埋没していった。 ……落ちぶれた神姫そのものだ」 ベガは力なく肩を落とした。その表情は、濡れた前髪に隠れて窺うことはできない。 「サーはそんな私を見捨てることなく、何も言わずに見守ってくれた。私はいつもサーに助けられてばかり……情けないかぎりだ」 その言葉に、ここまで聞き役に徹していたゼリスはようやく口を開いた。 「それは違うと思います」 「それは違うんじゃないか」 ふいに口を挟んだシュンを、番長治は困惑した顔で見返す。 「あんたは自分が弱くてベガに甘えてたっていうけどさ、それは両方とも同じなんじゃないのかなって」 「どういうことじゃい?」 「なんて言うか……神姫とオーナーって片方がもう片方を一方的に頼るとか、そんなものじゃない気がするんだ。だから、番長がベガに見守ってもらってたって感じてるのと同じように、ベガの方も番長に見守られてると思ってたんじゃないかって……」 思案しながら、シュンは自分の考えを伝える。シュン自身確証があって言っているわけではない。それをするにはシュンとゼリスは、番長治とベガに比べ出会ってからの日々がはるかに浅い。 でも。だからこそあの日の神姫センターで戦ったふたりは、互いにただ寄り添いあっているだけでなく、それ以上の絆で結ばれているように感じたのだ。 「ベガも……ワシと同じことを考えとったと言うんか。ワシと同じじゃったと……」 「そうじゃないかと思うんだ。だって――」 「――あなた方おふたりは、とても似た者同士に見えますから」 それはゼリスにとって率直な評価だった。ベガとそのオーナーである番長治とはあの日のバトル以外、今日の再開まで接点がなく、僅かな時間しか接していない。だがその僅かな時間の中でもふたりの共通性――似通うまでに長い時間を共にし、通じ合っていることが読み取れた。 だからこれは簡単な話。互いに自分が悪いと思いこむことで、パートナーを正当化しようと無意識に考えてしまっただけなのだ。 「サーも私と同じ気持ちだった――同じように悩んでいたというのか」 「言ったでしょう――あなたたちは互いに依存し合っている――あなたたちは相手への想いが強すぎてしまって、それが結果的に互いを縛る鎖となっていたのでしょう」 「しかし――いや、ならば私はこれからどうすればいいのだ」 かぶりを振るベガに、ゼリスは「ふむ」と顎に手を当て思案する。 「別に、あまり深く考えずに自然体で接すればいいでしょう。言いたいことを言って、相手が悪いと思ったら素直にそれを指摘してあげれば良いのです。その逆もまた然り。自分が間違っているときは、相手に指摘してもらえば良いのです」 「そうは言ってもな……じょ、上官に異を唱えるなど軍人にあるまじき行為で……そもそもサーに逆らうなど、考えたこともないだけに……」 本気で困っているのか、ベガはしどろもどろになる。本当に良い意味で実直、悪い意味では頑固で融通の利かない性格をしているらしい。 もっとも真面目で融通が利かないところがあるのは、シュンに言わせればゼリスも同じであるそうだが――そこでゼリスは単純に自分の場合どうするかを考える。 「……私ならば、シュンが間違っていると判断した場合は容赦なくデコピンをお見舞いしますけどね」 「デ……デコピンだと……?」 キョトンとするベガに、ゼリスは自信満々に告げる。 「はい。こうみえて私のデコピンはユウ直伝の必殺奥義です。鈍感なシュンには効果てきめんであると自負しています」 それを聞いたベガはしばし呆然とした後、せきを切ったように笑い出した。 「あっはっはっはっはっ! デコピン……デコピンかっ。あっはっはっはっはっ」 「そんなに可笑しなことを言ったつもりはないのですが……」 不満げなゼリスの肩を、腹を抱えて大笑いしながらベガは叩く。 「いや、そうではない。ただお前の話を聞いて、いろいろと小難しく悩んでいるのがバカらしくなってなっ!」 ベガは笑いを噛みしめながら、力強い目でゼリスと向き合う。 「そうだな、お前の言う通りだ。神姫とオーナーは共に歩む、互いを認め高め合う存在だものな。どうやら本当に私は、大切なことを忘れていたようだ」 そう語るベガの表情は、憑きものが落ちたように晴れ晴れとしていた。 浴場から上がったシュンは、脱衣所で番長治からカゴに入った自分の服を受け取った。この短期間ですっかり乾いていることに驚いたが、番長治がボイラー室を借りて自分の長ランと一緒に乾かしてくれていたらしい。礼をいうと「別にええよ」とただ短く返される。同じような仏頂面でも、出会ったころよりもずっと柔らかくなっているのがわかった。 自分の頬も自然にほころぶのを感じながら、脱衣所の戸をくぐる。番台の隣には、シュンたちの大切なパートナーが待っていた。 「遅いですよ、シュン」 「そう急かすな、私たち神姫と違って人間の方が何かと時間がかかるのだ。……サー、お待ちしていたであります。こちらはすでに出立の準備は整っているであります」 うむと頷きながら、番長治がベガを拾い上げる。シュンもゼリスを頭に乗せようとしながら、ふとその顔を見つめる。 「なんか、ふたりとも仲良くなってないか?」 「そうでしょうか。よく分かりませんが、それはシュンたちの方ではありませんか?」 言われてシュンは番長治たちと一緒にいても、ここに来る前のような気まずさはもう感じないことに気がついた。なんというか――日本人は古くから銭湯では裸の付き合いなんて言っていたらしいが、昔の人の言葉も案外バカに出来ないものらしい。 例の血圧の低そうなヴァッフェドルフィンに見送られながら、シュンたちは銭湯を後にする。 外はすっかり雨も止み、夕闇に染まる空に一番星が輝きはじめていた。 「今日はすまなかったな。本当に助かったよ」 「お前たちとバトルしたお陰で、ワシもベガもまた真剣に武装神姫バトルでてっぺんを目指す気になれた。今日のことはその礼じゃい」 学帽を被り直しながら、番長治はシュンを見下ろす。 「ワシらは次のサマートーナメントに出るつもりじゃ。どうせお前らも出るつもりなんじゃろう? そのときは容赦せんから覚悟しちょれよ」 不敵に笑う番長治に、シュンもニッと笑みを返す。 「そっちこそな。僕もゼリスもあの時よりもグーンと成長してることを見せてやるさ」 「言っとくが、ワシらは優勝を狙っちょるぞ。そこまで勝ち上がってくるんじゃぞ?」 「そっちこそ。僕たちと当たるまで他の対戦相手に負けるなよ?」 そうさ。こうして再び出会った戦友(ライバル)同士、互いの健闘と真剣勝負を誓わなかったら嘘だろう? シュンたちが漢の約束を交わし合うかたわら。ゼリスとベガも再戦を誓う。 「小娘。お前もトーナメントで勝ち上がるつもりなら、翼にドクロを抱いた神姫に気をつけろ」 「翼にドクロですか? ……ひょっとすると、その神姫が……?」 「いずれわかるさ。次に会うときは――」 ――神姫センターで。 自然と四人の声が重なった。四人はそれぞれに笑みを交わしながら別れる。 帰り道のアスファストを踏みしめながら、シュンは静かな高揚を感じていた。昨日戦った敵が今日には互いを認め合うライバルとなる――これも武装神姫バトルの楽しみだ。 そしてそんなライバルたちに負けないためにも、シュンもゼリスももっともっと強くならなくてはならない。立ち止まったりせず、ひとつずつ前に進み続けるのだ。 ――と。不意にシュンの懐から陽気なメロディーが流れる。取り出したPDA(ケータイ)の着信表示を見て、笑顔がサッと蒼ざめた。 『こらーっ、シュンッ! 何時まで外ほっつき歩いてるのよっ。今何時だと思ってるのっ?』 ケータイから聞こえる妹の声に、シュンはここでやっと今まで家に連絡を入れるのを忘れていたことに気がついた。 「ヤバい……っ、いろいろあって電話するの忘れてた! どうしよう、ゼリスッ?」 「シュン……これは失策でしたね。だから私は予定外の行動をとる前に定時連絡を入れることを提案していましたのに……」 「いや、とぼけるなよ!? お前も一緒に忘れてただろうっ!?」 「さあ……どうでしょう?」 ぷいっと目を反らすゼリス。PDAからは怒れる妹の声が引っ切り無しに聞こえてくる。 全く。 世の中、今日の失敗を糧にして明日へ活かしていくしかない。 『セントウノヒ』(後編)良い子のポニーお子様劇場・その5//fin 戻る
https://w.atwiki.jp/nightwizard/pages/106.html
ロンギヌス(Longinus)とは、アンゼロットによって組織された特殊部隊。 男女によってデザインは異なるが、赤い制服を身に纏っている。 隊員の1人・コイズミについてはロンギヌス・コイズミの項を参照。 概要 ウィザードの中でも特に優秀な者たちによって構成されている。 ただしその実態はあまり明かされていない。 名称 ロンギヌスとはアンゼロット私設軍隊の通称である。 正式名称は非常に長いうえ、その時々で違っていることがある。(*1) 外見 隊員によって若干デザインが異なる。ロンギヌス制服の項を参照。 仮面を身につけている男性隊員が多いが、原作設定によればそれはごく一部である。 拠点 アンゼロット宮殿にその拠点を置く。 個々のロンギヌス隊員 ロンギヌス・コイズミ ロンギヌス・コイズミの項を参照。 ロンギヌス・ブラボー 第4話に登場。 ロンギヌス・リーダー 第11話で、緋室灯が連絡を取っていたロンギヌス隊員。 ロンギヌス・コジマメ 第7話に登場。ふぃあ通にて名前が明らかになった。 ロンギヌス00(ダブルオー) 「ロンギヌス」に掲載されたリプレイ「幼年期の終わり」に登場したウィザード。プレイヤーは菊池たけし。 アニメには登場していない。 ロンギヌス・カジ C/Vは梶裕貴 ロンギヌス・カントク C/Vは山本裕介 ロンギヌス・タマ C/VはTAMAYO ロンギヌス・キュア C/VはCyua 声優 何人かの声優が「ロンギヌス」役としてクレジットされている。 小島めぐみ(第7話) 金光宣明 小泉豊 葉月絵理乃(第7話) 笹田貴之 原作におけるロンギヌスの隊員 ロンギヌスリーダー セブン=フォートレスリプレイ「フレイスの炎砦」のNPC。クラスは強化人間。本名は姫ヶ崎優美。 ロンギヌス00 「幼年期の終わり」「地球の長い午後」のPC。クラスは人造人間/強化人間。「三ツ矢伊右衛門」という別名を持つ。PLは菊池たけし。 七種類のボディを持ち、「幼年期の終わり」では射撃型、「地球の長い午後」では防御型を用いていた。 水樹天竜 「最果てで君を待つ扉」のPC。クラスは使徒。PLは菊池たけし。 ダグラス・チェンバレン 「モノクロームの境界」のPC。クラスは吸血鬼。PLは長田崇。 正確には父が吸血鬼、母が人間のハーフで、亡き母マーガレットは夢使いであった。 大泉スルガ 「聖なる夜に小さな願いを」のPC。クラスは人造人間。PLは小泉豊。 同じ人造人間の00がアンドロイド的描写をされているに対し、スルガはホムンクルスに近い。 雨宮砕 「蒼穹のエンゲージ」のPC。クラスは異能者。PLは大畑顕。 茜月古都 「蒼穹のエンゲージ」のPC。クラスは使徒。PLは大竹みゆ。 サクラ=ヴァンシュタイン 「蒼穹のエンゲージ」「グリムゲルデの仮面」のPC。クラスは箒騎士。砕、古都、A2の上官。PLは田中信二。 A2 「蒼穹のエンゲージ」のNPC。クラスは不明(おそらく人造人間)。 アルフレッド=バートレッド 「蒼穹のエンゲージ」のNPC。クラスは不明。サクラの上官。 漣 「グリムゲルデの仮面」のPC。クラスは仙人。猫。PLは齋藤幸一。 アンゼロットの人使いの荒さに嫌気が差して、一時ロンギヌスを脱隊していたことがある。 酒匂いぶき 「グリムゲルデの仮面」「蒼穹のエンゲージ」のNPC。クラスは箒騎士。ロンギヌス情報部に所属。サクラとは幼なじみ。 余談 もともとは「フレイスの炎砦」に出てきた8人のウィザード部隊の名称だった(*2)が、関係者、主に田中天(*3)の悪乗りにより、アンゼロット配下の奇天烈な親衛隊となった。詳しくはルール第一版サプリメント「「ロンギヌス」を参照のこと。 おまけ 【ロンギヌス服務規程】 一、アンゼロット様の為なら死ねる。 一、地球の平和を守りぬく。 一、エミュレイター、カッコ悪い。 一、決して仲間を見捨てない。 一、あとは適当に。 以上のこと、背く者はロンギヌス道不覚悟につき軍法会議。 (ルール第一版サプリメント「ロンギヌス」より)
https://w.atwiki.jp/ebsouba/pages/125.html
最新データ 募集 販売 最高値 最安値 最高値 最安値 あ 昨日のデータ 募集 販売 最高値 最安値 最高値 最安値 あ 先週のデータ 募集 販売 最高値 最安値 最高値 最安値 あ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2411.html
≪WIN≫ 神姫ほどの合成音声が作れるのに、なぜか機械感バリバリの勝利のコールと共に周囲の景色が膨大な量のテクスチャとフレームの残骸になっていく。 「うぅん……おはようございますミリオタ、もとい隊長。勝ちましたよ」 「あぁ、独り言は全部聞いてたぞ? 上官侮辱罪って知ってる?」 目の前に立つ男もキャロルもお互い笑顔だが目が笑っていない。 この男は斉藤隆司という。 20歳にしてミリオタ、ろくに講義に出席せず大学を二年で中退、現在はフリーター、そしてキャロルとその相棒のマスター。 「まぁ、いいや、いや、よくねぇけど。とにかくあいかわらずいい手際だった」 キャロルも褒められて悪い気はしないのか「ふんっ」と鼻を鳴らして胸を張る。 「まぁ、とうぜんですね。 この榴弾砲と私の腕が有ればいつでも狙ったところに好きな弾種を落 としてご覧に入れますよ? なんなら……」 と、その台詞を遮って隣のボックスから黒い影が飛び出して男の胸に張り付いた。 「おにぃちゃぁぁぁぁん! アリス勝ったよ! 頑張ったよ!」 黒い影は戦車型ムルメルティアのアリス、キャロルの相棒である。 「あぁ、アリスもお疲れ様。 やっぱり装備、ミサイルラックよりアモコンテナにして正解だったね」 指先で頭を撫でられると、アリスはだらしないほど表情が弛緩した。 「アリス、何度も言いますが人の話を邪魔しないでくれませんか? あと、あなたもムルメルティアなら誇りはどうしたんですか誇りは?」 「キャロルこそ! 試合中ずっとお兄ちゃんの悪口言ってたでしょ!」 「はぁっ!? あなたの耳は一体どういう構造してんですか! だいたい今その話関係ありますか!?」 周囲に大量に並べられたゲーム機の騒音に負けないくらいの騒ぎを起こし始めた二体に男が苦笑していると、同じように苦笑いを浮かべた女性が反対側から歩いてくる。 「は~、タッグだとあいかわらず強いねキャロルちゃん達」 「痛いですよぅ…アリスちゃんやり過ぎです…」 「ねぇねぇ!最後のあれ何、あれ何!? ボクなんだかわからないうちに吹き飛ばされちゃってわかんなかったんだけどっ!」 女性の名前は神代小百合、美人で頭脳明晰、運動神経そこそこで23歳のOL一年生なのだがこうやって平日昼間のゲームセンターにふらりと現れるあたり、社会人としての自覚を問われる。 そして今しがたまで対戦していた天使型アーンヴァルと悪魔型ストラーフのオーナー、ちなみにそれぞれ名前がホワイトラビットとジャバウォックという。 「あ~、ごめんな二人とも、で、最後のだけど……」 「地雷です」 キャロルがこともなげに答えた。 「地雷? そんなの発売してたっけ?」 「正確にはガイ・スローナーM18モデルミニチュアレプリカ。リアルバトルだとせいぜい多少痛くてびっくりするくらいの威力しかないのに一個250$もする高級品ですよ?」 「え、えっとつまり?」 キャロルはまだわかりませんか? と肩をすくめて見せてから。 「アーマライト社が武装神姫用に開発した指向性対神姫地雷、通称 クレイモアです。殺傷範囲は神姫換算で100mにも及びますよ?」 キャロルは基本的に雄弁なのだ、それは戦っている時でも変わらない。 喋り続けることで何か集中力を高めているのか、あるいは逆か。 「へー、すごいね! また新作?」 「はい、その…まだ未認可品なんでできれば黙っておいていただけると…」 「い~よ、いつものことだしね」 いつものこと、そう、新作が発表される時期になると友人であるところのFPSの海外組から 「うちこんなの発表するんだけど?」といったメールが飛び込んできて……毎週末、いや、学校を辞めてからは平日も遊んでいるだけあって、またこれが彼のツボを押さえている。 アリスの装備しているゼネラル・エレクトロニック社謹製M134ミニチュアレプリカにせよ、キャロルが乗り込んでいるフォートブラッグ(もっとも形状がまったくといっていいほど別ものになっているが)に組み込んであるM777ユナイテッド・ディフェンスオリジナルミニチュアレプリカ・モデルU.S.ARMYにせよ、発表発売前にアメリカの友人の好意により海を渡ったものだ。 もともと、武装神姫の武装はオリジナルのものが流通するくらいに汎用性が高い。 武器の性能はむしろ武器の内部の小型メモリーに入力された数値と画像情報から構成される情報ということになる、もっともチートと呼ばれるようなプログラムは基本的にブロックされるようになっている、リアルバトルはこの限りではないが…… とにかく、そういった意味で未発売のものでも内部の情報さえ完成していれば普通にバトルで使用できるのだ、一部例外を除いて。 「そういえばさ、斉藤君もいい加減に大会とか出てみれば?」 「いや、人の話し聞いてました? でれないっスよ」 そう、公式大会はレギュレーションで純正および認可パーツのみのようなことが多い、更にまだ未発表品であったりすれば神姫センターや専門のショップでのバトルで使えば質問攻めを受け、最悪、企業情報を漏洩した門で貴重なアメリカの友人がいなくなりかねない。 「でも、さっきのクレイモア…だっけ? あれ以外は大体もう発売されてるでしょ?」 「まぁ、そうなんですけど」 「なら、もったいないよ! あんなに強いのに大会に出ないなんて」 再びぎゃぁぎゃぁと言い争いを始めたアリスとキャロルを見ながら男は考えていた。 彼女達が公式大会で結果を残すのはもう少し先の話になる…… TOP