約 514,054 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1950.html
「ねえおじいちゃん、この店って地下室あるよね?」 「ん? 倉庫に自家発電室に物置部屋が二つな」 ふと聞いてみたの。 「物置っても、片方鍵かかってるの変だよ」 「フム、その内な」 「けちー、今でもいいのー」 どうして教えてくれないの? わたしなにかまずい事言った? ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 夜、閉店後。 「……スィーマァ」 「みゅ…どうしたんですか? ますたー」 「名目上第二物置になってる地下室を偵察してきてなの」 「ふぇっ!?」 夜の地下室は不気味だというのに、すすみはあろう事かスィーマァに頼んだ。 「い…いってきますぅ…」 明らかに足がガクガクしてるが、すすみは黙って見送った。 …… 自分サイズの懐中電灯(フラッシュライト)を手に、スィーマァは神姫にとっては少し大きい段差を降りて行った。 消灯後の地下は光源がなく、常に足元を照らしていないと階段から転げ落ちてしまうだろう。 「こわい……怖いよますたー…」 今にも泣きだしそうな丸い目。 でも、オーナーのために勇気を振り絞る。 首を回し入れそうな穴がないかを調べる。 「あ」 扉のとなりにあった小さなセラミックパネルはねじ止めされておらず、奥は…第二物置。 「何で止めてないんだろ…」 疑問を感じつつ穴をくぐるスィーマァ。 … 穴をくぐると、無数のショーケースが目に入った。 誰もいないのにライトアップされており、中身を照らしていた。 「…武装神姫」 ケースより上にある棚にはフルセット・武装セットがずらり。 品薄なアーンヴァルとストラーフ、アークも他と同じだけ数がある。 ふと、ショーケースに近づき中を覘く。 人気商品から聞いたことのないメーカーの品まで何でも置いてあった。 「ああっ!?」 スィーマァの目にとまったのは、信号銃。 でも、それを見る目が明らかに違った。 「カ…カンプピストル! 神姫用も作られてたんだ…!!」 知らない人のために説明しよう。 1930年代にワルサー社がドイツ陸軍の要請に応え、信号銃を小型の榴弾銃にしたものがカンプピストルである。 最終的に軽装甲の車両なら破壊できるほどの威力を保持するようになるなど、ある意味「対物拳銃」といった感じだろうか。 「………」 思わず涎までたらし、目を輝かせながらそれを見つめるスィーマァ。 ムルメルティアのモチーフがドイツ戦車なので、その影響もあるのだろう。 「警報装置は…ない…ね」 使い慣れないアイパッチのセンサーを使い、危険がないことを確認するとそっとケースを開けた。 そしてカンプに手をのばす。 ああ…憧れの品の一つを、いま手にできる。 あと数センチ……。 「何者だ」 後ろから声をかけられ、動きが止まる。 殺気が背中を突く。 「身なりからして野良ではない…、盗人か?」 スィーマァの心は早くも恐怖で覆われていた。 具体的に表すと 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い ってなくらいである(なんだそりゃ) 関係ないが、単語の集まりって怖いよね。 気が弱いスィーマァにこれが耐えられるはずもなく… 「ぴいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ」 「!?」 奇妙な悲鳴と共に泣きだした。 「ごごごごごめぇんなぁさぁぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃ」 涙と恐怖のあまりちゃんと喋れてない。 ドタドタドタドタ 地上の方で木製の階段を駆けおりる音、 カッカッカッカッカッカッカッ 少しして地下へ続くコンクリートの階段を駆け降りる音。 ガチャッ ダァンッ! ドアが勢いよく開いた。 「スィーマァ!?」入って来たのはすすみとおじいちゃん。 「まぁすたぁぁぁぁぁっ!?」 号泣したまま飛びつくスィーマァ、すすみのパジャマが涙でぬれてゆく。 「オーナー、私じゃ対処する事が出来ないぞ」 「まぁまぁ、これも経験だよ」 声の主と話すおじいちゃん。 紹介が遅れた。 おじいちゃんの名は古代十三三、この店の店長である。 そして声の主―フォートブラッグ―のオーナーでもある。 「おじいちゃんこの売り場って、それとその子…」 「んー、友だちに話されたらまずいから黙っていたのだよ」 「ええっ?」 十三三は少し首を傾け、目をつむって言った。 「若い子らの間で「あれがあの店にあったぞ!」だの「珍しいものが山ほど置いてあったぞ!」と騒がれると、店が荒れてしまうんだ。だから念には念をと言う訳だ」 「おじいちゃん、そんなにわたしが信用できないの…?」 すすみは呆れざろうえなかった。 彼女はかなり口が固い、それこそ湯煎する前のシジミのごとく。 「いや、どうも今のすすみを掴みきれてなくてな。小さい頃とどうしても被ってしまうんだ」 ふっとため息を吐くすすみ、そして聞く。 「でも、信頼が置ける人なら教えてもいいの?」 「それは勿論さ。ここはしっかり"理解している人"のための売り場だからね」 十三三は手を伸ばし、フォートブラッグを手にのせすすみの前へ。 「紹介しよう、"ナァダ"だ。すすみが来る前から店を手伝ってもらっている」 「宜しく、お嬢」 "お嬢"という呼び方はどこで習ったのか、気になるところだが。 「よろしくね。…ほらスィーマァ、もう怖くないから自己紹介」 「うう……、スィーマァです」 若干怯えつつ、手をのばすスィーマァ。 ナァダはその手をしっかりと握った。 「宜しく、スィーマァ」 そんな小話を繰り広げるは、22 10分の「古代モデル店」であった。 特攻神姫隊Yチーム?に戻る トップページ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/17.html
凪さん家の十兵衛さん 第五話<殺戮の歌姫> 闇、漆黒の空に木霊するは、妖しき姫の歌声。 今日もまた、歌に魅了され己を無くした者達が、残酷な舞踏を披露する。 光、漆黒の空を貫くは、地獄から来た悪魔の咆哮。 それは不幸の鎖を食いちぎる者、その左目に輝くは、紅き決意の灯火。 「第一、第二小隊は第三小隊の活路を開け!第四、第五小隊は第三小隊の援護!なんとしても奴を倒すんだ!」 『ラジャー!!』 薄暗いワゴン車の中、モニターの光だけが車内を照らす。画面には無数の神姫の姿が映し出されている。 「今日で終わりにしてやる…」 そうつぶやき、眼鏡を光らせたのは、あの男。 ある日友人が持ってきた無残な神姫を、神姫への愛と己の技術を総動員して直し、後に伝説なる証、 左目の眼帯を与えた男。黒淵 創(くろふち はじめ)だ。 痩せ型の長身、だが適度に整った筋肉と顔立ちによりひ弱さはまったく感じられない。 「当たり前だ、創。今日で終わらせる!」 とその仲間が言う。 「あぁ、そうだね。…ミーシャ!他の奴には構うな!今は目の前の元凶を倒すことだけを考えるんだ!」 「了解マスター!行くよ!皆!」 マスター、私はいつも「ご主人様」と呼んでいる。 しかし戦闘時だけはマスターと呼ぶことにしている。 『ラジャー!』 と勢いを増した第三小隊の面々は一目散に目標へ向かう。 中央に位置するは創の武装神姫、天使型のミーシャ。その左右に控えているのはヴァッフェバニーだ。 これは本部より貸し出された神姫である。よって、決まった名前は無い。 今回の場合はツヴァイ3、ドライ3と呼ばれている。第三小隊の二番、三番機の意だ。 「マスター!目標を確認!情報通り天使タイプです!」 「よし!敵は手ごわいぞ…!慎重にな」 「了解!」 「おい!大丈夫か!シン!!おい!…くそ…第一小隊…全滅を確認…」 「くっ!」 「なんだ!?」 「敵の勢いが増しています!このままでは!」 予想をはるかに超えた軍勢がこちら側の神姫達に迫る。 「ミーシャ!!」 「了解マスター!」 私は今回の作戦の最優先目標にロックを合わせる。 今回の戦闘で、破壊許可が下りているのはあの大元の神姫のみ。 他の神姫は操られている神姫だ。中には非戦闘用の神姫もいる。 そう、神姫といっても大きく二つに分けることが出来る。 神姫と「武装」神姫だ。元々神姫と呼ばれる十五センチサイズのフィギュアロボは戦闘用ではなかった。 ただ純粋に人間のサポートをするために生み出された存在。 しかしある時…神姫に武装を施し、競技として戦闘行為を行うマスターが出てきた。 他の神姫のマスターもその競技と称した戦闘行為に賛同し、参加した。 そうして拡大を続けた戦いは、バトルサービスという公式に認められしものとなり。正式にバトルサービス本部が設立されたのだ。 そしてその集大成となるのが、最初から戦闘行為を考えられて開発、誕生した私達「武装神姫」シリーズである。 そんな二種類の神姫達がたった一体の神姫に操られ、暴走している。しかしあくまで操られているだけの彼女らに非は無い。 よってなるべく無傷で元のマスターの元へ戻す必要がある。 それが本部からの通達だ。はっきりいってかなり難易度の高いミッションである。 敵となってしまった友人達は容赦無くこちらに攻撃を加えてくるのに、 こちらはそうするわけにはいかないのだ。 私達はそんな容赦無い攻撃を受け流し、耐え続けなければならない。 しかし時間が長引けば長引くほど私達が不利になる。よって迅速な行動が勝利の鍵。 「いけぇぇぇ!ミーシャぁぁぁ!」 仲間達の想いと供に私は空を翔ける。 「はぁ、はぁ…」 そうして私は対峙した…白き天使に。 「いえ、悪魔ね…」 その敵はにやりと微笑み 「あら、悪魔だなんてひどいわ…フフ…貴女と同じじゃ無いの…」 「形が同じでもその心は違う!絶対に!」 「そう…じゃあ身を心も同じにしてあげる…」 その笑顔が歪んだ。 「!?」 強烈な精神波が私を襲う。これが例の…ぐ…心が侵食されていく、頭の中が取り替えられるような感覚。 ぐちゃぐちゃにかき回されていく…今までの思い出…それがどんどん遠くへ行ってしまう… ぐ、そんなの…あぁ…い、だ…めぇ…。 「ミーシャ!!!しっかりするんだ!!」 マスターの声が聞こえる。 「マ、スタ…」 「ほら、ほらほら…早く楽におなりなさい…」 あ、あぁぁぁぁぁ!一層精神波が強くなる。 「ぐ…、うぅぐ」 「ふふふ、がんばるわね?でも貴女のお仲間さんはもう私の友達になってくれたみたいよ?」 「え、まさか…ツヴァ、イさん…ドライちゃ、ん…」 抵抗を続けていたヴァッフェの二体は無残な姿になっていた。 装備を剥がされ、目を刳り貫かれ、腕はもぎ取られ…しかしそんな外見になっても立ち上がり、そしてこちらに銃を… 「そ、そんな…ぁが!」 パァン…パァン… 銃声が無数に響く。さっきまでともに戦ってきた仲間の銃弾が私に牙を向く。 「ぐ!あぁ、ぐぅあ!」 「ふふふふふふ…」 天使の象徴である翼には穴が開き。装甲がはじけ飛ぶ。 「く、ぬぅ…」 「あら、まだ動けるの?強情な子…じゃあもっと痛い思いなさい」 そう言うとその白き悪魔はそっとミーシャに近づく。 「ぐ!?あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 途端、腹部に激痛が走る。そして背中から青白い閃光がはみ出し、貫いた。 「がは、ぐぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「ほらほらほらぁ…どんどん深く刺さっていくわ…ふふふ」 「ふぁ、ぁが…ぐ…」 意識が遠のく…も、もう駄目…ま、ますた…ぁ。 「さて、そろそろお遊びは終わ…?…ちっ…もうそんな時間?」 と、急に攻撃の手が止まる。腹部に突き刺されたライトセーバーはその凶刃の展開をやめ、セイバー発生部まで体内に入っていた状態から一気に引き抜かれる。 「ぐはぁっっっ!!がは…うぐ…」 私はその痛みに耐え切れず崩れ落ちる。そして 「ぐぁっ!?」 頭部に衝撃。白い悪魔が私の頭を踏みつけていた。 「ふん、運が良かったわね…でも次は…それとももう怖くて外に出られないかしら?」 「ぐ、う…うぅ」 私は涙を流していた。恐ろしいほどの恐怖、そしてその恐怖に負けた悔しさでだ。 「まぁいいわ…覚えておきなさい…私の名前はセイレーン…無垢な神姫を幸せの世界へと誘う女神…」 「がはっ!…セ、セイレーン…」 そう言うとセイレーンと名乗った神姫は私の頭部を踏み台に高々と飛び上がり、消えていった。 動かない体、目の可動範囲のみで辺りを見渡す。残ったのは装甲や武器の残骸だけ…神姫と呼ばれていた者達は一体として残されてはいなかった。くっ…連れ去られたんだ…。 「み、み…んな…」 私のせいだ、私がちゃんと出来なかったから皆が…。 「う、うぅ…う…」 私は泣いた…泣き続けた。遠のく意識の中で最後に見たのは走ってくるマスターの姿。 私を抱きかかえるマスター。 「…っかりするん…!みー…ゃ!!…―しゃぁぁ…ぁぁ!!」 私の意識はそこで途絶えた。 復帰したのは二十三時間後になる。 キュウン…センサー起動、視覚正常、全システムオンライン。 「う、うん…」 私は重いまぶたを開けた。 「ミ、ミーシャァァ!!!!」 「やったな!!」 「ミーシャさん!!」 目の前にはマスターいえ、ご主人様…それに凪 千晶様とその神姫、十兵衛ちゃんがこちらを覗いて 文字通り三者三様の反応を見せていた。 「ご、ご主人様…凪様…十兵衛ちゃん」 「「「ミーシャァァァ!」」」 「ふえっ」 ご主人様が私を抱き寄せる。 「良かった…本当に良かった…」 「ご主人様…」 「良かったです!ミーシャさん!!」 「おう、ひやひやしたぜ」 「ご、ご心配かけて申し訳ありませんでした…」 「良いんだよ!ミーシャさえ無事でいてくれたら!」 ご主人様はさらに私をすりすりする。 「あ、有難うございます…で、でも…」 そう言うとご主人様の表情が暗くなる。 「ミーシャ…うん、そうだね…」 「皆は、皆はどうなったんですか!!」 「…残ったのは…ミーシャ…君だけだ…」 「そ…そう…ですか」 信じたくなかった。でもそれが事実…。 「ミーシャさん…」 「………」 そうしてご主人様は私を机の上にそっと降ろす。 「なぁ…凪…」 凪様の方を向くご主人様。 「ん?…なんだ?」 「…僕は、なんとしてもあの違法神姫を食い止めたい」 「あ、あぁ…そうだな…危険だなぁ…」 「頼む!!十兵衛ちゃんの力を貸して欲しい!!」 と頭を下げるご主人様。 「…」 無言の凪様 「え…」 驚き、口に手を当てる十兵衛ちゃん。 「ご、ご主人様…?」 「分かってる!自分が何を言ってるかは重々承知だ!でも頼れるのは十兵衛ちゃんしかいない! あの神姫に対抗できるのは遠距離攻撃、それも超遠距離攻撃法を持った十兵衛ちゃんだけなんだ!! 頼む!!僕の友人達の神姫を救いたいんだ!!」 部屋の中に静寂…音で表すなら、まさしく「シーン」が相応しい。 「言いたい事はそれだけか?」 「…」 凪様の言葉は重く冷たい。 「確かにお前には感謝してる…。十兵衛の恩人だし、他の事だったら快く受けただろう 。でもこれは違う。十兵衛が今まで体験してきた地獄…それをしろと言ってるのと同じだ…」 「…」 そう、話によれば十兵衛ちゃんの前身は地下の違法バトル出身の神姫だという。そこで培ったスキルと眼帯に内蔵された超高性能カメラを駆使し、 この前の新人戦では新人の名に相応しくない圧倒的な強さを見せて優勝していた。 しかし十兵衛ちゃんはいつしかその地下での戦いを拒むようになり、ついに逃げ出したのだ。 「それに…」 「…」 「頼む相手が違うぞ」 「え…」 「戦うのは俺じゃない、十兵衛なんだろ?確かに俺はどちらかと言えば反対だ。 でも俺は十兵衛になら出来るんじゃないかと心のどこかでそう思っている」 「マスター…」 「だから…頼むなら十兵衛に頼め!俺は十兵衛の意見に合わせる…」 と背を向かれてしまった。 「凪…」 「マスター…」 「十兵衛ちゃん…」 「はい…」 「君の答えを聞かせてくれ…もちろん無理をする必要は無いし、君一人を戦場へ向かわせるつもりも無い…」 「黒淵さん…」 「…」 しばし静寂…。そして十兵衛ちゃんが口を開いた。 「良いですよ、やりましょう」 「じ、十兵衛ちゃん…」 「マスター!私やります!私もこれ以上皆が…ミーシャさんがこんな目にあうのは見たくありません! それに私にしか出来ないなら!私がやるべきなんです! 私はこれまで地下で何体もの神姫を文字通り葬ってきました。 その罪を償うわけじゃありません…でも…せめて …せめてこれ以上!神姫達やマスターの方々に悲しい気持ちになるのを黙って見ていたく無いんです! お願いします!マスター!私に戦わせてください!」 十兵衛ちゃん…なんて勇敢な…その表情からは揺ぎ無い圧倒的な決意が見て取れる。 「…」 凪様は静かに振り向き 「よし、やっちまえ十兵衛」 とにやりと笑った。 「はびこる悪を正義の業火で焼いてやれ!」 「はい!マスター!!」 「凪…十兵衛ちゃん…」 「そういうことだ創。協力してやるよ」 「凶大な悪を打ち倒しましょう!!」 あ、あれ…なんでノリノリ? 「で、でも!」 思わず口が動く。だってもし失敗したら十兵衛ちゃんが! 「大丈夫ですよ…ミーシャさん」 「じ、十兵衛…ちゃん」 「大丈夫です」 にっこりと微笑んだ。悪魔型で左目に眼帯をつけたその神姫の姿は 今までのどの神姫よりも天使に見えた。 さて、やっと俺達の出番か…まったく主役を蔑ろにするとは何事だ。 「まぁまぁマスター、良いじゃないですか」 「うぅむ…しかし…」 それにしても…まさか非公式なバトルをする羽目になるとは。しかもリアルバトルだ。 いや、バトルと言えるものなのかすら怪しい。 「大丈夫か?十兵衛?」 俺は不安になった。 「はい、怖くないわけではないですが…でも大丈夫です。もう私は一人ではありませんから」 「十兵衛…そうだな!」 とはいえいくら十兵衛でもファーストリーグランカーのミーシャでも敵わない相手を倒すことが出来るのだろうか。 確かにこの前の試合、 連勝街道まっしぐらなどこぞの金持ち坊ちゃんのやたらごちゃごちゃ武装したそいつの神姫を十兵衛は何食わぬ顔 (いや、実際はかなり怒っていたのだが)で撃ち抜いた。 その試合時間はわずか一秒。 この話は今思えばあまり思い出したくも無い、あぁなんか腹立ってきた…ま、まぁそのうち話すとしよう。 それはそれとして、とにかく十兵衛の戦闘スキルは特筆すべきものがある。だが…。 いや、待てよ…今回十兵衛がすることは簡単だ。 創達の神姫が囮となって引きつけている間に、十兵衛が超遠距離から目標を撃ち向く。 よく考えれば一番安全なのは十兵衛だ。十兵衛はひたすらチャンスを狙えば良い。 十兵衛に限ってチャンスを逃す…なんて真似はしないだろう。確実に初弾必中だ。 「うん、大丈夫だな…」 「はい!!」 「じゃあ行くよ。凪、十兵衛ちゃん」 創の準備が整ったようだ。 「おう」 「はい!行きましょう」 そして薄暗いワゴンの中。俺と創、その他のメンバーは数台に別れて車内に、十兵衛やミーシャ達は初期位置についていた。 「気分はどうだ、十兵衛」 「はい、大丈夫です」 ごぉぉぉぉぉぉっという音が相応しい風の音。 私は目標到達地点から程よく離れた6階の屋上に来ていた。 後ろには護衛としてヴァッフェバニーがいる。 「え、えと、本当にX2、X3さんで良いんですか?」 私は二人に話しかけた。 「ええ、構わないわ」 「大丈夫よ。X1…いえ、十兵衛さん」 なんでX2、X3なんだろうか。 「それはこの小隊が第X小隊。本来は存在しない小隊だからよ」 と、さっきX2さんが教えてくれた。 「でも、本当の名前とかは…」 「もちろんあるわ、でもそれは私自身が分かっていれば良いこと」 「今回はX2、彼女はX3と呼んで頂戴」 「は、はぁ」 「そうね、この戦いが終わったら教えてあげる」 「わ、分かりました」 「ザ…気分はどうだ、十兵衛」 マスターの声だ。 「はい、大丈夫です」 「もうじき始まる。気を抜くなよ」 「はい!」 「絶対無事に帰って来い!」 「もちろんです!マスター」 漆黒の闇が訪れる…。 闇ととも現われるは、悪魔の歌声を持つ天使。 無数の操り人形を従えて、今日も舞踏会が幕を開ける。 殺戮と言う名の歌にのせて…。 闇、それを見つめる紅き眼差し、その目に映る悪を撃て。 「3・2・1・0!!作戦開始!!」 『ラジャー!!!』 「よし、X小隊展開開始!頼んだぞ十兵衛!X2!X3!」 「X1!十兵衛!いきます!!」 「X2了解!」 「X3了解!」 次回<凪さん家の十兵衛さん第6話『朝靄の紅眼』>ご期待下さい。 第六話も読む
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2119.html
ウサギのナミダ ACT 1-8 □ 「……落ち着いたかよ?」 ほれ、と言って、缶コーヒーを俺の方に差し出す大城。 今日は大城に迷惑をかけっぱなしだ。 路地裏で泣き叫んでいた俺を、何とかなだめすかして、近くの公園のベンチまで連れてきて、座らせてくれた。 ゲーセンで暴れようとした俺を止めたのも大城だし、今もこうしてコーヒーを買ってきてくれた。 「……すまん。今日は、迷惑をかけた……」 自分の声か、と一瞬疑うようなガラガラ声。 「まったくだぜ」 苦笑しながら、缶コーヒーのプルタブをあける。 そういえば、喉がカラカラだ。 俺も大城にならって、缶コーヒーをあけた。 独特の甘苦い味が喉を通り過ぎると、不思議と心が落ち着いた。 俺はやっと、大城をまともに見ることが出来た。 革ジャンに、ジャラジャラつけたシルバーアクセ。 相変わらずヤンキーに見える格好だが、優しげな視線を道の向こうに投げている。 肩には、大城の神姫・虎実が乗っている。 なんだか心配そうな表情で、俺を見ていた。 ……虎実にまで心配されるようじゃ、しようがないな、俺は。 今日の俺はどうかしている。 こんなに感情的になったのは、生まれて初めてだった。 歯止めがはずれて、自分の衝動を満たす以外のことは、どうでもよくなる感じ。 俺はかぶりを振った。 まったく俺らしくない。 「……話せよ」 「え?」 何の前触れもなく、大城が言った。 「お前とティアのこと、全部話してみろよ」 「……いや、しかし」 「そうやって溜め込むから、あんなふうに暴発しちまうんだぜ?」 「……」 「それによ……俺がお前の友達だって自惚れさせてくれや」 大城は、にっ、と歯を出して笑った。 いい奴だ、と思う。 「……俺の恥をさらすようなもんだけど」 そう前置きして、まとまらない頭をなんとか回転させながら、ぽつぽつと話し始めた。 ティアとはじめて出会ったときのこと、話したときのこと、ボディを交換し、マスターの登録をしたこと。 オリジナルのレッグパーツを武装にするために、様々な訓練をしたこと。 ティアを公園に連れだしたときに、あいつが笑ったこと……。 取り留めのない俺の話を、大城は相づちを打ちながら、辛抱強く聞いていた。 「俺は……結局俺は、自分のことしか考えていなかったんだと思う。ティアが武装神姫になりたいかどうかなんて考えもしないで……。そう言う意味じゃ、あの井山の奴と変わらないのかも知れない」 「そんなことねぇよ」 大城が、俺の方を向いて、ごく真面目な表情で言った。 「ティアが本当に武装神姫になりたくないんだったら……あんなふうに戦えるもんかよ。いつも必死で、お前のために戦っていることくらい、端から見てれば誰にでもわからぁ」 「……今回は、みんなに否定されたけどな」 俺が自嘲気味に言うと、大城は苦い顔をした。 「……すまねぇ。俺に言う権利はない言葉だったかも知れねぇ」 「わかってる、大城、お前を責めてるわけじゃない」 そう、むしろ大城は言いにくいことを言ってくれて、暴れそうになった俺を止めてくれて、今は俺の愚痴を率先して聞いてくれている。 感謝こそすれ、責める筋合いなどあろうはずがない。 だが、ゲームセンターの連中の反応もまた現実だ。 大城はわかってくれていても、他の連中はわかってくれない。 俺達二人では、もうどうにか出来る問題ではないのだ。 俺の口から、独り言のように言葉が転げ出た。 「いっそ……バトルロンドをやめるか……」 「え?」 「そうすれば、ティアは傷つかなくてすむ……ティアのことを考えれば、それが一番なんだろうな。 俺は、ティアがこれ以上貶められてまで、バトルする必要がないんじゃないかって……そう思いはじめて」 「だめだ、そんなの!!」 いきなり大声で叫ばれて、俺はびっくりした。 大城も目を見開いている。 叫んだのは、虎実だった。 怒ったような、困ったような、必死の表情で、大城の肩から俺の方に身を乗り出していた。 「ティアがバトルをやめるなんて、絶対にだめだ! だめなんだ!!」 「な、なんでだよ……」 「だって……アタシは……ティアともう一度戦うことが、目標なんだからっ!!」 ……なんだって? 「いや、そんなこと言ってもな……だっていままで、ティアと戦おうとしなかったじゃ……」 「ちがう、ちがうんだ! アタシは……っ!」 「あー、虎実はさ、ティアに憧れてたんだよ。ああいう神姫になりたいって、な」 興奮している虎実に代わって、話す大城。 ……なんだって? 虎実がティアに憧れてる? 「初耳だぞ、それ……」 「そりゃあまあ、話したのは初めてだしな」 真剣な表情の虎実とは対照的に、大城はにやにやと笑いながら言った。 「遠野、俺達がはじめてバトルしたときのこと、覚えてるか?」 「……まあ、な……」 「あんときは、俺達もはじめての負けで、頭きててよ……そりゃそうだろ、しこたま武装積んでるのに、ライトアーマー程度の軽量級に完敗だったんだから。 しばらくは、地団太踏んでたもんさ。 ……でもな、頭が冷えてくると、わかってきた。あの装備で勝てるってことが……少なくとも、俺達の奇襲をとっさにかわした技量が、どれだけすげぇのかっていうのがさ」 俺は思い出す。 虎実が、ハイスピード仕様にしたファスト・オーガを操り、飛び込んできたティアに向けて、フロントをバットのごとく振り出した奇襲。 あの時の回避はティアのアドリブだった。 大城は、缶コーヒーを一口飲み、話を続けた。 「それで……虎実は言った。 自分も、あんな風に、技で勝負できる神姫になりたい、ってな。 技を磨いて、独自の戦闘スタイルを確立して、オンリーワンの神姫を目指したい……ティアのように。 自分に納得のいく戦いが出来るようになったとき、もう一度ティアと戦いたい……それまでは、ティアとやりたくないって、そう言ったのさ」 俺は虎実を見た。 必死の表情で俺を見つめている。 「まあそれで、俺達は俺達なりの戦い方を身につけようとしてんだ。武装も、前みたいにしこたま積むんじゃなくて、戦い方に合った武装を絞り込んで……それで、今じゃランバトにも参戦してるんだぜ? ゲーセンのランバトで納得のいく結果が出せたら、改めてティアに挑戦するために」 「だからっ……! ティアにバトルをやめられちゃ困るんだ! 頼むよ、トオノ! きついのわかるけど、バトルはやめないでくれよ! もう一度、アタシとティアを戦わせてくれよ! 頼む、頼むから……!」 虎実の必死の懇願に、俺は当惑しながらも感動していた。 嬉しかった。 俺とティアが積み上げてきたことを、こんな風に思ってくれる神姫がいるとは。 「けどな……」 だけど、現実を見つめ直せば、そんな想いにも影が差す。 「そう言ってくれるのは嬉しいが……今は俺達がバトル出来る場所さえない……」 「……だったら!」 虎実は決然と言い放った。 「アタシはランバトで一位を取る! 三強も全部倒して、あそこで一番強い神姫になってやる! それで、ティアをバトルの相手に指名する! それなら、誰も文句は言えない……言わせない!!」 それはまるで誓い。 強い強い決意だった。 そこまでティアを信じてくれるのか。 「ありがとう、虎実……」 その想いを無視することなんてできない。 バトルロンドのプレイヤーであるならば、その想いに応えなくてはならない。 「俺達は……バトルをやめない。虎実と戦うまで、諦めない。 そして、虎実が納得のいく戦いが出来るようになったとき、必ず挑戦を受ける。 ……約束するよ」 「トオノ……」 つぶやいた虎実の瞳から、雫が一筋、小さな頬を流れ落ちた。 「虎実……?」 それが合図だったように、虎実の両の瞳から涙の雫が次から次へと溢れ出てきた。 ついに顔をグシャグシャにして、虎実は泣き出した。 「ティアが……ティアが、かわいそうだ……あ、あんなこと……されてっ……つらくないはず……ねぇしっ……な、なのに……あんなこと、言われて……っ おかしいだろっ……ゲーセンの……連中は……わ、わかってるはずだろっ……ティアと戦えば、戦ったヤツは、わかるはずなんだ……! すげぇ頑張って……身につけた、技なんだって…… な、なのに、あいつらっ……ちくしょうっ、ちくしょうっ……!!」 「虎実……」 悔しかったのは、俺だけじゃなかったのか。 泣いている虎実に、自分の姿がかぶる。 自分の大切な者のために、何もしてやれない無力さ。 今の俺と虎実は、きっと同じ想いだ。 どうしようもない絶望の中でも、味方はいるのだ、と俺の胸は熱くなった。 泣きじゃくる虎実に、せめて髪を撫でてやろうと、右手を伸ばし…… 「うわぁ! なんだこれは!?」 見慣れた手はそこになかった。 異様に膨れ上がっており、色は紫色、まさに異形と言うべき手がそこにある。 これが俺の手とは、到底信じがたい。 だが、 「い、いたたたたたっ……!」 確かにその異形の手から、激痛が伝わってきた。 「お、おい……トオノ、大丈夫か!?」 「あーあ、ひどい手だな。骨折もしてるかも知れねぇ……医者行くか」 いまだに涙を瞳に溜めたまま、虎実は心配そうな声を上げ、大城はさもありなんと頷きながら、立ち上がった。 しかしこの痛みはやばい。 今までは気が高ぶっていたせいか気にもならなかった。だが、一度認識してしまうと、ひどい激痛に目がくらんでしまっている。 俺は、大城の助けを借りて、なんとか近所にあった総合病院にたどり着くことが出来た。 治療してくれた医者の先生に、「自分で壁を殴って怪我をした」と言ったら、こっぴどく怒られた。 別れ際、大城はこう言った。 「俺達はお前達の味方だ。 何もできねぇかも知れんけど。でも、俺達の力が必要なら、遠慮なく連絡しろよ」 笑いながらそう言った。 ……俺の方こそ、友達だと自惚れさせてほしい、いい奴だった。 ■ 今日の自主訓練は最低だった。 マスターから出された課題は、どれ一つとしてクリアできていない。 それどころか、簡単な基本動作さえ、ままならなかったりする。 何度も転んで、痛い思いをした。 でも、本当に痛いのは身体じゃない。 昨日のゲームセンターでの出来事。 わたしが恐れていたことが、最悪の形で起きてしまった。 雑誌に掲載されて、公表されるなんて……考えもつかないことだった。 わたしの過去が、マスターに迷惑をかけた。ゲームセンターの人達は、手のひらを返したように、マスターに冷たくあたった。 あんなに仲が良かった久住さんも、記事を見て逃げてしまったという。 わたしのせいだ。 わたしが、マスターを不幸に突き落とした。 そして……マスターのあの目。 マスターは、わたしのことをどれだけ恨んでいるだろう、蔑んでいるだろう、やっかいに思っているだろう……。 わたしは、生まれて初めて、心が壊れそうなほど痛い、という思いを味わった。 わたしは怯えて、謝ることしかできなかった。 せめて、いつものように出された課題は、いつもよりも必死で頑張ろうと思ったのだけれど。 ……身体が言うことを聞かなかった。 怖かった。いままで積み上げてきたものが、もう無意味になってしまうのではないか、という思いが胸をよぎった。 そのたびに、わたしはトリックに失敗し、転んだ。 マスターに迷惑をかけるだけじゃなく、教えられたことも満足に出来ない。 わたしはもう、マスターにとっては何の価値もなく、ただのやっかい者に成り下がってしまった。 マスターも今度こそ、わたしに愛想を尽かしたに違いない。 わたしは、どうなってしまうのだろう。 あの、元お客さんだった人のところに連れて行かれるのだろうか。 お店に戻されるのだろうか。 もしかすると、電源を落とされたまま、二度と目覚めることはないのかも知れない。 そのいずれもが、怖くて、悲しくて、わたしはまた泣いてしまう。 思い返せば、ああ、わたしは……マスターとの戦いの日々が幸せだったのだと……それを手放さなくてはならないことが悲しいのだと、ようやく理解したのだった。 「ただいま……」 玄関の扉が開いた音に、わたしは顔を上げる。 「お、おかえりなさい、マスター……」 マスターの声はあまり元気がなかった。 何かあったのだろうか……。 姿を見せたマスターを見て、わたしは驚いた。 「どうしたんですか、右手……」 「ん、あぁ……」 マスターは右手を軽く挙げる。 彼の右手は、包帯でぐるぐる巻きにされていて、元の手が全く見えていない。 なにかギプスのようなものをしているらしく、左手と比べてもずいぶん太くなっていた。 「大丈夫。なんでもない」 なんでもないはずないじゃないですか。 でも、わたしに問いただすことは出来なかった。 そんな権利はないのだ。 ただ、マスターのことが心配で、困ったように見つめるだけ……。 マスターがわたしを見た。 「そう、心配そうな顔をするな」 マスターはかすかに笑った。 でもそれは、いつもと違って、自嘲のような苦笑だった。 マスター……その怪我も、わたしのせいですか。 わたしがマスターと一緒にいるから、傷つくんですか。 わたしの胸に、また耐えがたい痛みが走った。 わたしが、マスターに愛想を尽かされることよりも、つらくて悲しいことは。 マスターが自分のせいで傷つくことだと、今ようやく気がついた。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/310.html
「スッチーって呼び方は…もはや死語なのだろうか」 「たぶんそうなんじゃない?」 この日記はいきなり突拍子の無い始まり方が毎度のことなのだが、今回のそれはいつもに増して意味不明っぽくてスマン なぜ俺とミコの会話の話題が女性客室乗務員なのかというと、それが今、目の前を通り過ぎているからなのだ。 季節はすっかり冬 そんな寒い日の昼前に俺とミコは空港に来ていた どっかへ旅行に行こうってわけじゃない 今日は俺の親友であり幼馴染の花菱 昴が帰国するって言うんで迎えに来たのだ ちなみにノアとユーナは俺の家で葉月や香憐ねぇたちと帰国歓迎会の準備を手伝っている 神姫素体なのに役にたつのかと疑問なのだが、ノアなら問題なく出来てしまいそうな気がする… 「少し早く来すぎちまったかな」 「予定の飛行機が来るまでどれぐらいあるの?」 「ん~と…」 俺は出国ロビーにでかでかと表示されている電子掲示板で昴の乗るはずの飛行機の到着時間を確かめる 「あ~、あと45分ぐらいか…」 「うええ~、そんなに?」 これには俺も同感だ なんか面白いもんでもあるのなら別なんだが、空港のロビーで45分も無駄にボケーとしておくのは暇すぎる…… ん? なんか面白いもん… 「そうだ、ここって確か隣の建物に神姫センターがあったよな?」 「あ、そういえば来るときにみたね」 そうなのだ 今の御時世、国際空港となれば土産屋やコンビニなど多少のものはあるのだが、ここの空港にはレスティクラムセンターや神姫センターがあったんだった 日本の情報技術や映像関係の技術は世界に誇るものがあるからなぁ… 30年前だって世界の先進国では「OTAKU」や「MANGA」って言葉が通じてるんだから……なんか日本って凄い国なのかどうだかわからんな; 「行ってみるか?」 「もっちろん! にゃはは~、リーグ戦以外の試合は久々だから腕がなるよ~w」 「そんでもって今のトコ10連勝ってか」 あれから時間にして25分ほどたった リーグ戦でもないのでフリーバトルで匿名参加 外国人観光客ならまだしも日本のリーグランカー相手に俺とミコの名前を出してたら対戦相手が減っちまう。こちらとしても自分より格下の相手をいびりたいわけじゃないので手加減はしているんだが……… わざと負けるのも悔しいので、せめて『瞬殺はなし』ぐらいのハンデでやっている(ハンデになるかどうかは別問題) 「にゃははのはぁ~w ご主人様、褒めて褒めて~~」 「あ~はいはい、ヨクデキマシタ」 「むぅ~。心がこもってなさスギ~」 そういってむくれるミコ 「アホタレ。空港みたいな辺境じゃ、お前レベルの神姫なんてそうそう出てくるわけ無いだろうが。勝って当然なんだから見返りも当然少ねーの。ハイリスク、ハイリターンならぬロウリスク、ロウリターンなのだよミコ君」 「ちぇ~。………んじゃさ、ご主人様」 「あん?」 なんか上目遣いでモジモジしながらこちらを見ておられますな… 「もしもファーストランクの神姫とマスターが挑戦してきて勝ったらさ………私のお願い…なんでも…聞いてくれる?」 いきなり何を言い出すんだこの娘さんは…なんでもってなぁ… 「なんでもって…どの位の?」 空港なんでこのままハワイへ二泊三日! なんてのは無理があるぞ? 「ん~そだね~、……今日は私と一緒に寝てくれる…とか」 「………はい?」 「ね、ね、いいでしょ? もしもだよ、もしも!」 なんかそのお願いは微妙にしょぼいような気がするが…ハワイより現実的だわな 「…挑戦してきたらな」 「ホント!? 約束だよ! ゼッッタイだからね!!」 「あ、ああ……」 「よーし!!」 …なんかウチのミコさんが燃えていらっしゃいます 凄いです 119に連絡した方がいいでしょうか? んでもって20分後 「おい、ミコ、そんな名残惜しそうに見るなってば」 「だって、だってぇ~;」 あの後ミコは鬼神の如く挑戦者を千切っては投げ、千切っては投げの総計34連勝 途中はムキになった挑戦者同士でチームを組んで挑んだりしてきたがそれでもミコの怒涛の勢いを殺すことはかなわなかったわけなのだが… 「結局、みんな初心者かサード、よくてセカンドの上ってところだったな…」 「む~ぅ…ご主人様、もう一回、もう一回だけぇ!!」 「だからファーストランカーはそうそうこんなとこに来ないって言ったろ? おまえ、今日はなんでこんなとこにいるのか忘れてないか? もうすぐ時間なんだって」 「それは…そうだけどぉ…(せっかくノアねぇ達がいない今がチャンスなのにぃ…)」 「ファースランカーの神姫と戦いたいなら登録ID使って全国ネットとつながにゃならんし、大体今日はただの時間潰しなんだから…」 「そっか! その手があったね。それじゃあID使おうよ、ご主人様!」 「いや、だからおまえ時間が…」 「ダイジョーブ!! 今の私を止められるのなんてノアねぇぐらいしか思い当たらないよ!!」 ノアには止められるんだな… こんなことなら連れて来るべきだったか… 「ちなみにノアねぇ連れてきててもノアねぇも私と同じこと言うと思うよ。ご主人様はどっちの道こうなる運命なんだってば」 「…ショボイ運命なんだな」 仕方なく俺はバトルシステムのコンソールに入るとIDを入力する MASTER NAME 橘 明人 MASTER ID ************ これでいつものセットアップ画面に繋がる 登録神姫選択では勿論ミコを選択 条件はフリーバトル、ファーストランカー希望で『お遊び感覚の練習試合』ということを掲示しておく 「これでいいな?」 「うん! OKだよ。物分かりのいいご主人様ってス・テ・キ♡」 ゲンキンなやっちゃなぁ~ 「言っておくが5分以内に挑戦者が現れなかったら中断するからな。昴を待たせちゃなんのために早めに来たのかわかんねぇだ…」 「きたよ?」 「ろ?」 画面を見ると “CHALLENGER”の表示 「…マジかよ」 「私達がリーグ戦以外で試合するなんてエルゴ以外じゃあんまりないもん。私だって伊達に「ガンブレイダー」で通ってないんだから、普通興味が出るでしょ?」 それはそうだろうが… なんなんだろうか…なんだか嫌な予感がする…… 気のせいか? 「それより待たせちゃ悪いよ。早く終わらせるんでしょ? ご主人様、GO! GO!」 「あ、ああ……」 ミコに促されるかたちで俺は決定ボタンを押した 案の定俺の勘ってのは当たりやすいって事が証明された 「右方向からミサイル4!」 「うそ? また!?」 言ってる間にも接近してくるミサイル ホーミングモードが精密なタイプだ さっきからうっとおしいことこの上ない 「逃げ切れん…迎撃しろ!!」 「りょ、了解!」 すかさず両手のサブマシンガンで迎撃するミコ 一つ、二つ、三つ…もう一本は… “シュン!” ミコが打ち落としたミサイルの爆炎の中から残りの一機が飛び出してくる 「クッ!!」 この距離では打ち落としても爆風にやられる被害が大きい ひきつけてから緊急回避に移るミコ 間に合うか!? “ドガァァン!”っと地面にぶつかり爆発するミサイル ミコは!? 「きゃあ!!」 「ミコ!!」 何とか直撃は避けたようだがミコは爆風で地面をゴロゴロと転がる 「大丈夫か!?」 「う、うん…なんとかね…でも今までとは全然レベルが違いすぎるよぅ…」 確かにそうだがやはり少しおかしい これだけのレベルなのに俺はこの神姫をリーグ戦では見たことがなかった 普通高いランクの神姫とマスターには戦闘における特徴や癖という戦闘パターンがあるものなのだが…俺の経験上、これほどの実力をもつリーグランカーの戦闘パターンとはどれも一致しない しかも… 「こっちは名前を明かしているのに相手が匿名とは…」 そう、相手のマスターは名前を匿名設定にしている 俺はファーストランカーのマスター達とはけっこう顔見知りなので彼らが俺相手に匿名設定にするとは考えにくい… 「非公式バトルでならしたランカーか…あるいは…」 「…久しぶりだな…スケイス…」 「!!」 「え?」 俺が二の句を上げないうちに先ほどの爆煙の中からミサイルを撃ち込んできた相手が姿を現す タイプストラーフ 背中に背負った六連式ミサイルポッド以外は基本武装は通常のストラーフのものと変わらないんだが…一つひとつの装備のパワーや移動速度が通常の非じゃない…しかし違法改造でもないみたいだ その横のウィンドウには俺のよく見知った顔が映し出されていた 「……アル」 「……その呼び方はやめろ。ゴレに聞いたのだろう? 私はお前の敵だ」 ウィンドウに映ったエメラルドグリーンの目が俺のことを睨みつける 「お前にとって私は八相の『マハ』だ。それ以上でも以下でもない…」 まるで俺とは言葉での和解はありえないとでも言っているような目だ 「ご主人様…『マハ』って…」 「ああ…第六相、誘惑の恋人-マハー」 「誘惑の恋人…か。…今となってはその呼び名も意味を成さないが」 そういいながらマハは目を閉じた 「一つだけ聞いておいてやろう……どうして私を捨てた?」 「え?」 マハの言葉にミコは自分の横、俺が映っているウィンドウ方を振り返り、俺の顔を見てくる 無言だが「本当に?」というような不安そうな顔だ… 「…………」 「…五年前…どうしてお前は私に何も告げず、レスティクラムの世界から…私の前から去ったのだ……答えろ…スケイス!!」 「…………」 俺は何も言わない いや、何もいえなかった…ただ一言 「……お前には…関係ない…」 そうとしか言えない 「……なるほど、関係ない…か。それがお前の答えなのだな?」 そう言うとマハは再び目を閉じ、鼻で不敵に笑った 「言い訳ぐらいは聞いてやろうかと思ったのだが……いいだろう。宣戦布告を兼ねて貴様のそのオモチャ、叩き壊してくれる!!」 “ブィーーン”“ブィーーン”“ブィーーン” 「!!」 マハが言葉を言い終えるや否や、バトルシステムの異常を伝えるアラームが俺のコンソールスピーカーより流れ出した 「ご、ご主人様!?」 「これは…システムハックか!」 「ご名答、しかしこのオモチャのバトルシステムもレスティクラムと同等のレベルの対システムハック用のファイヤーウォールがあるようだな…。フィドヘル特製のハックシステムなのだが、お前のオモチャが一発でオシャカにならんとは…」 そりゃそうだろう 簡単に破られるようなファイヤーウォールなら神姫バトルはこんなに進化を遂げるもんかよ 「しかしスタンモードは解除できたようだ。これならお前のオモチャの運命はすでに決まったも同然だな…」 スタンモードの解除…か…。確かにそいつはちとヤバイかもな 「どういうことなの? ご主人様…」 不安そうに俺のことを見てくるミコ 「通常、武装神姫のネットワーク対戦、及び電脳戦ではバトル中こそダメージや損傷はあっても、本来のリアルの素体や元のデータには影響を及ぼさない…これが『スタンモード』だ。これはレスティクラムのナノロットユーザー同様、神姫自体の危険性を考慮した上でのシステムなんだ。ようするに、その役割は人で言うところの生命安全装置、神姫で言えばデータ保存システムになる。これが作動しなかった場合…」 「し、しなかった場合…」 「ナノロットユーザーは精神リンクで脳波を伝って本来の体にもダメージが現れる。大分昔の映画に『マトリックス』ってのがあってな、それと似たようなもんだ。神姫の場合はデータブレイク、つまり『削除』される…最悪のケースなら神姫も人も……死に至る」 「え…」 ミコの顔色が一気に蒼白になっていく 「オモチャ相手に死を語るか…お前の二つ名も落ちたものだな…スケイスよ…」 あくまでマハの顔は冷徹だった 「無論、途中棄権など生温い終わり方もナンセンスだ。離脱規制をかけさせてもらった。しかし、お前とてそこまで腰抜けになってはいないだろうがな…」 逃げ道まで塞ぐ…か なんちゅうえげつない… 「よくもまぁこんなことが出来たもんだぜ。お前だってそこのストラーフのマスターなんだろ?」 俺はさっきから何も言わずにうつむいているマハのストラーフを見ながら言った。武装神姫はただロボットやAIなんかじゃない。感情だってあるし自我だって存在するんだ。マスターであるなら誰だって分かる事だろうが!! 「ああ、これか…こいつもただのオモチャに過ぎん。私の言う通りにお前のオモチャとの対決のときのために訓練を積んでやったのだが…所詮はAI……なにがそんなに楽しいのか私には理解できん…こいつら武装神姫も…私達を…私を捨てこいつらにかまうおまえもな!!」 言うと同時にストラーフはこっち目掛けて突っ込んで来る 「チッ、接近戦に持ち込むつもりか!」 こちらとしては接近戦はまずかった いくらミコが接近戦も出来るとしてもそれはセカンドリーグレべルでのこと 相手のストラーフはファーストレベルの神姫、それに上位に食い込むぐらいの…だ 正直、分が悪すぎる 「くっ、ミコ! 相手の実力はノアクラスだ! 俺の指示をよーく聞かないとホントにオダブツものだぞ!!」 「の、ノアねぇと同じって…そ、そんな…」 そりゃびびるだろうよ…お前はこれまで何千回とノアと模擬戦やって一回だってまともに勝ったことはなかったもんな… しかも今回はへたすりゃ死んじまうんだから だけどな… 「ミコ、俺を信じろ」 「ご主人様…」 「俺がお前を死なすわけねぇだろ?」 そうさ、死なすわけにはいかない…ミコは俺の大切な神姫…俺の家族なんだから 「……うん!!」 そういってにっこり笑うミコ …やっぱりお前は笑顔の方が似合うな 「フッ!!」 相手のストラーフの斬撃がミコを貫かんと迫る 「一歩半下がる!」 「了解!!」 “ビュアッッ!!”っと鋭い音と共にストラーフの突きが空を切る 「フッ! ハァッ! ヤァァァァッ!!」 「右! 斜め左下! しゃがめぇ!!」 俺の読み通りの斬撃の軌道 俺の指示に忠実に従うミコ 「クッ!」 そして絶え間ない斬撃を何とかかわしていく しかし、それで精一杯なので反撃に出ることはできない これじゃジリ貧だ…何とか手を打とうにも俺も指示する為にストラーフの斬撃から集中を切らすことが出来ない まいったな… 「ほんと参ってるみたいだな、明人」 ああ、ほんとにまいったよ……… って、ん? スピーカー越しじゃなくてリアルな音声で聞こえるこの声は… “CHALLENGER” 「ハァァァァァァッ!!」 「!!」 「え?」 突如ミコとストラーフの上から聞こえてきた第三者の声 間髪いれずにいきなり現れた影は手に持った剣をストラーフ目掛けて振り下ろした 「クッ!!」 突然のことに焦りながらもバックステップで斬撃をかわすストラーフ 「かわしましたか。流石にやるようですね…」 ミコの前にあった影はそういいながら立ち上がった 銀色の鎧を纏った騎士だった その姿はまるで… 「『問おう。あなたが私のマスターか…』なんてお約束のボケはかましてくれないからな。俺のランは」 今度はスピーカー越しに聞こえてくる声 どうやらこの神姫のマスターのようだ 「……言わんでも分かってる」 「嘘つけ。ほんとはそっくりだと思ったくせに」 「どうでもいいが、せっかくの再会の第一声がそんなどうでもいいつっこみかよ…」 「俺は野郎との再会まで感動的にするほどカッコつけでも暇人でもない」 「……それは親友相手でも有効なのか? 昴」 そう、さっきの声の主、この銀色のサイフォスのマスターは昴だったみたいだ 「え…この人がご主人様の幼馴染で親友の花菱 昴さん?」 サイフォスの横に映っているスバルを見ながらミコが俺に質問する 「ああ、そうさ。俺が明人の初代パートナー、花菱 昴だ。君は…ミコちゃんだね?」 「え? どうして私のこと…」 「とりあえず話は後だ。今はこっちのシャレにならない痴話ゲンカを止めないとな…」 「痴話ゲンカって…」 「よう、アル! 久しぶりだな!」 そういってマハとストラーフの方に視線を戻す昴 「……メイガス…か」 「え? メイガスって……そしかして八相の-メイガス-!?」 驚くミコ そういやそれも言ってなかったな… 「フッフッフ~、サインは後からにしてくれよ? ミコちゃんw」 余裕だなコイツは… 「ともかく! アル…いや、今はマハのほうがいいか……今日のところは引き上げてくれないか? 俺は無駄な殺し合いはしたくない主義なんだ。それが昔なじみならなおさら…な」 「昔馴染み…だと? キサマもスケイス同様、こちらの世界を捨てておきながら勝手な言い草だな」 「…確かにそうだ。弁解しょうもねぇよ」 大袈裟に肩を上げてジェスチャーする昴 「………興ざめだ。今日のところは見逃してやろう…」 マハがそう言うと踵を返すストラーフ 「ありがたいね。こんなハプニング、時差ボケには結構くるもんだからw」 何でお前はそこで茶化すかなぁ… 「……次はないと思え…スケイス…」 そういい残すとマハとストラーフは俺たちの前から姿を消してログアウトした 「始めまして。モデルサイフォスのランスロットです」 「……………」 「……………」 そう言いながら笑顔で握手を求めてきた金髪美女に俺とミコは唖然としていた 口なんかホゲ~っとあいてふさがらねぇ 「あ、あのぉ~……;」 なかなか握手に応じようとせずに固まっている俺たちに金髪美女の笑顔はだんだん不安げな顔になっていく 「えっと、昴君。どっからつっこめばいいんだ?」 「だからさっきも言ったろ? 俺のランはボケやジョークとかは苦手なんだって」 「じゃあ…この人がさっき私を助けてくれた…銀色の騎士さん!?」 「はいw」 あ~あ~あ~ なんだか訳が分からん こんがらがりそうだ なんだ、要するにあれか? このランスロットって子も、つまりは… 「人型神姫インターフェイスの試作機…ってことなのか?」 「大当たりー!」 あ、そう……当たっちゃったのね…… 「なんだよ、お前の爺様から聞いてないのか? 俺はてっきりもう知ってるものだと…」 「いやいやいやいや!! つうかお前が神姫のマスターになったってのも今、始めて知ったから!!」 「だってお前の爺さんがモニターになってくれって頼むもんだから…」 「…どれぐらい前だ?」 「三ヶ月前」 あのジジイ… わざとだな… 「じゃあ私の妹になるわけだね? ヨロシク! ランスロットちゃんw」 「えっと、まぁとりあえずヨロシクな、ランスロット」 「ええ、よろしくお願いします。それと…私のことはランとお呼びください。明人様、ミコ姉様」 「そか、ならそう呼ばせてもらうけど…俺のことも明人でかまわないよ。『様』なんてつけられるのはやっぱり…がらじゃないんだ」 「そう仰っていただけるのなら…では『明人さん』でw」 う……なんちゅう上品な微笑ですか!! イギリスの上級貴族って感じだな 正直、サイフォスにはいい思い出は無いのだが…いやいや、こりゃまたマジで綺麗…… 「言っておくが…惚れるなよ?」 「あ、アホタレ。いきなり何を言い出すんだ…」 「いや、いまのは明らかに見とれてたぞ。ランは俺のだからな」 「ンなわけないだ…いたっ! いたたたたたたた!?」 何か知らんが左胸が突然痛い!! “ダダダダダダダダダダ!!”と少し小さめの銃声 「っておい! ミコお前何やって…っていたたたたたた!! そ、そんな至近距離からマシンガン打ち込むな!!」 俺の胸ポケットにいたミコは俺の方を向きながら無言で黙々とマシンガンをフルオートで打ち続けていた… 追記 「そういえばご主人様」 「いたたたたたっ…あん? なんだ?」 「あれってさ、あたし達の勝ちだよね?」 「は? 何のことだ」 「だから、マハさんとのバトルだよ」 「いやおまえ…明らかに劣勢だったろ…」 「じゃあこれは?」 そういって一枚の紙切れを俺の手に差し出すミコ 「なんだこれ?」 「勝敗記録のレシート」 「どこでこんなもん…」 「センターの受付のお姉さんに貰っといたんだよ。そんなことよりさ、そこ見てよ」 俺はミコが指差すところには… 「んーと……『相手の戦闘離脱によりギブアップとみなし勝利』……」 「ね? ね? ほら! 勝利って、勝ちって書いてあるでしょ!?」 「いやでもおまえ…」 「どんなことでも勝ちは勝ちだよ! 勝負の世界は現実だけを求めるんだよ!! そうでしょ!」 ここぞとばかりに捲くし立てやがって……ん? 「ご・主・人・様ぁ~? 約束どおり、お願いきいてくれるんだよねぇ~? ん~?」 「……残念だったなミコ」 「へ? なにが?」 「レシート、良く見てみろって」 「良く見てみろって…どこを?」 「ここだよ、ここ」 「ええっと……『対戦相手……匿名……サードランクぅぅ!?』」 「そ、あいつらはサードランカーなんだよ」 「だ、だってだって! おかしいよ! あんなに強かったのに!!」 「あいつにとって今日のバトルは宣戦布告だって言ってただろ? ようするにネットワークサービス用のIDさえ手に入れられればリーグランクなんてどうでもいいってことさ。確か約束は『ファーストランクの神姫とマスターに勝ったら』…だったよな?」 「そ、そんなぁ……で、でもでもぉ!! ご主人様だってあのストラーフのことノアねぇレベルだって言ってたじゃない!!」 「残念だったなぁミコ君。 勝負の世界は現実だけを求めるんだよ 」 「そ、そんなのないよぉぉぉ~~~!!」 続く メインページへ このページの訪問者 -
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2290.html
6th RONDO 『愛しています、私のバカマスター ~1/3』 携帯電話には携帯ショップがあるように、武装神姫にも神姫専門ショップが存在する。 神姫センターと呼ばれる店舗だ。 そこでは神姫やパーツの購入、検査、修理を行うことができ、またバトル用の筐体を初めとして様々な設備 (神姫 “で” 遊ぶためだけでなく、神姫 “が” 遊ぶためのものまである) が揃っている――らしい。 竹さん曰く、とにかく神姫のことで困ったらとりあえずここに立ち寄ればいいのだとか。 しかし、俺が神姫を購入する店としてボロアパートから比較的近いヨドマルカメラを選んだように、近所に都合よく神姫センターがある、なんてことはなかった。 (ヨドマルを選んだ理由は他に、姫乃と同じ場所で買いたかったとか、ポイントが貯まるとかそんなものだ) いくら神姫がそこそこの人気を誇るとはいえ、携帯ショップのようにどの町にも神姫センターがあるのかといえば当然そんなことはなく、主に新幹線が停車する主要な駅の側くらいにしかない。 だから、ボロアパートから徒歩十分の工大前駅、そこから電車で二駅のところに神姫センターがあるのはまだ良いほうだと言える。 ジャスコのような大型店舗がどーんと聳える代わりにゲームセンターもないような田舎だと、神姫バトルは専ら室内の手作りスペースで行われ、強者になると例え火の中水の中草の中森の中土の中雲の中姫乃のスカートの中 「ちょっ!? やめてよ!」 だろうとお構いなし、熱く燃えたぎるハートはお巡りさんに声をかけられるまで冷めることはないという。 よいこのみんな、こんなオトナになっちゃダメだゾ☆ さて。 勿論俺達が (主に姫乃が) 野外プレイなどという破廉恥な真似をするはずもなく、今は竹さん、または鉄ちゃんこと竹櫛鉄子さんの案内のもと、神姫センターへ向かっている最中だ。 用事はもちろん、神姫バトル。 俺の眉間に穴を空けたニーキにギャフンと言わせるための、復讐の輪舞曲。 俺に代わって悪魔に鉄槌を下す戦乙女は―― 「ふふっ、神姫センターってどんなところなんでしょうね! 楽しみですね、マスター!」 胸ポケットから顔を覗かせたエルは今朝からずっとこの調子で、大好きなアニメの劇場版を観に行く子供のようにはしゃぎっぱなしだ。 もうちょっと、ほんの少しでいいから緊張感というものを持ってほしい。 それに、せいぜい 15cm 程度とはいえその体の中にギッシリと機械部品を詰め込んだ神姫がポケットの中で動くと服が引っ張られて首が痛いのに、ご機嫌斜め上のエルはそんなことはお構いなし。 首も痛いが、周りの乗客の目も痛い。 「あーわかったわかった。 もうすぐ電車降りるからせめてそれまで静かにしててくれ (ひそひそ)」 「了解です。 ところで我がマスター (ひそひそ)」 「どうした我が戦乙女よ (ひそひそ)」 「私、マスターはてっきり “そういうこと” に無頓着な人だと思ってました (ひそひそ)」 「なんだよ、そういうことって (ひそひそ)」 「ここからだとよく見えるんですが、ちゃんと鼻毛の処理をしてるんですね (ひそひそ)」 「余計なお世話だ!」 「背比うっさい」 「はい……怒られたじゃねぇか (ひそひそ)」 「それはそうですよ。 電車の中ではお静かに (ひそひそ)」 「てめっ! こ、こほん…………後で覚えてろよ、全力でくすぐり倒してやる (ひそひそ)」 ヨドマルカメラの売り子として起動されたエルはほとんど店の外に出たことがなかったらしく、神姫春闘事件後の花見やボロアパートへ帰ってからはずっと、元から丸い目をさらに丸くして輝かせていた。 見るものすべてが珍しい。 目に映るものすべてが面白い。 その日の夜は唯一の所持品だったクレイドルも使わず 「今日はマスターと一緒に寝ます。 いいですよね」 と俺の枕元に横になり、タオルハンカチをかけて眠っていた。 そんなんで眠れるのか心配だったのだが、その一日はエルにとっては世界が変わるような一日だったからなのか、ベッドから落ちることもなく、ぐっすりとバッテリーが枯渇するまで眠っていた。 (一日動きまわった上にデータ整理にかなりの電力を食ったらしく、素のアルトレーネ型の抑揚のない声が耳元で 『バッテリー容量が不足しています。 すぐに本体をクレイドルに寝かせて充電して下さい』 と言った時は心臓が止まるかと思った) そういったわけでエルは今日が神姫センターデビューデイとなるのだが、このテンションの高さの理由はそれだけではない。 「ところでマスター、どうですか? 似合ってますか? (ひそひそ)」 「なーにが 『ところで』 だ。 いくら似合ってたって、そう何度も何度も同じこと聞かれちゃ 『似合ってない』 って答えたくなるぞ (ひそひそ)」 「こういう時は素直に 『似合ってる』 って言えばいいんですよ。 何度でも 『似合ってる』 って褒めちぎればいいんですよ (ひそひそ)」 神姫は基本的にマスターの好みで服を用意しなければ素体のまま過ごすことになり、“素っ裸”に見えないように素体にペイントが施されていたり細かいアクセサリが付属していたりする。 アルトレーネ型の場合は豊かな胸から臍より上の辺りまでを濃い青でペイントされ、首元と腕、脚はそれぞれ純白のカラー、ロンググローブ、サイハイソックスだ。 おまけにショーツはガーターベルト付きのようなデザインで、以上、その他の箇所は素肌を露出している。 ここまで挑戦的なデザインに加えて癖のある長い金髪は狙いすぎな感があるにもかかわらず安っぽい扇情さは無く、気品すら感じられるデザインには脱帽するばかりだ。 しかし今日のエルは一味違う。 いくらペイントが施されているとはいえツンツルテンな素体の上に、鉛色の革製ロングコートと、同色のブーツを纏っているのだ。 しかも驚くことなかれ、このコート、ただのコートではなくエルのためだけに作られた世界で一着の特注品なのだ。 ロングコートと言えば野暮ったく聞こえるが、素体の各所にあるくびれにフィットするよう作られているので、出る所は出て締まるところは締まり、よりアルトレーネ型の体のラインを強調している。 右腕の部分は何故か肩から先が無く、また左腕部の袖にはまったく意味を成さないベルトがぐるぐると五本ほど巻かれており、この左右非対称デザインに製作者の趣味が溢れ出ている。 足首まで伸びるスカート部は臍が十分見えるほど大きく前が開かれており、これがもし臍の下から開いているとエルがただの痴女になってしまうことも完璧に考慮されている。 このスカート部にもベルトがぐるりと数本巻かれており、さらに腰に二本、胸を上下に挟んで強調するように一本ずつと、とにかくベルトが多い。 エルがアルトレーネ型だからこそ着こなしているものの、これが他の神姫、例えばあの武士と騎士だったら……似合う似合わない以前に、顔が濃い…… 手に取ってまじまじと見るとその出来の良さに驚かされるばかりの逸品で、これが手作りと聞いたときはさすがに製作者の言葉を疑ってしまったのだが、睡眠時間を削りに削ったその製作者、一ノ傘姫乃の目の下の大きな “くま” はすべてを物語っていた。 (裁縫のことはサッパリ分からないのだが、姫乃の握力では革に針を通せないことくらいは想像がつく。 かなりパワフルなミシンとそれを扱う腕が必要なはずだが……) コートと同色のブーツは女性が好んで履きそうなものとミリタリーオタクが好んで履きそうなものの間を取ったようなデザインをしており、お洒落にもバトルにも使用できる優れものだ。 さすがにブーツまで手作りとはいかないものの、 「鉛色のコートに白の素足って、なんだか卑猥な感じがするの」 と姫乃がニーキのお下がりをプレゼントしてくれた。 これらを受け取って一式装備したエルはしばらくの間、調子の外れた鼻歌を歌いながら鏡の前でポーズをとるのに夢中になっていた。 ヨドマからクレイドルだけを持って俺のところへ来たため新品のアルトレーネ型が持つはずの装備すら持っていないエルに何か買ってやらないと、と考えていたのに、肝心の財布には生活費が残るのみで、単なるおしゃべりフィギュアと化していたエルを立派な武装神姫にしてくれたのが自分の彼女だという事実は、 「マスター! とってもいい彼女さんを持ちましたね!」 と満開の笑顔で言ってくれるエルの言葉と一緒に俺の自尊心をグリグリと抉った。 コートが完成したのは今朝のことで、朝九時頃にパジャマ姿で俺の部屋を訪れてエルに試着させて微調整を終えた姫乃はそのまま俺のベッドに倒れこんでしまった。 そのまま可愛らしい寝息をたて始め、服といえば第三のヂェリーTシャツだったエルがどんなにはしゃいでも、姫乃の寝顔鑑賞を邪魔するように竹さんが俺達を迎えに来ても、姫乃は午後二時まで身動きすらしなかった。 そして遅めの昼食を三人で済ませて今に至る、というわけである。 「傘姫大丈夫なん? まだ目の下がパンダっとるし、フラフラしよるけど、別に神姫センター行くのって今日やなくてもいいんやろ?」 「さっき十分寝たから大丈夫よ。 エルはせっかく今日を楽しみにしてたんだから連れて行ってあげないとね。 それに今日を楽しみに待ってたのはエルだけじゃないのよ。 ね、ニーキ?」 「……」 姫乃の今日も変わらぬカッターシャツの胸ポケットで大人しくしているニーキは何も言わず、車窓の外を眺めていた。 このニーキも、今日は素体のままではなく服を着ている。 これがまた姫乃オリジナルらしいのだが、その姿を見たときはエルのコートと並べて姫乃の趣味を少しだけ理解できたような気になった。 燕尾服である。 オーケストラの指揮者が着るような、読んで字の如く裾が燕の尾のような形をしたアレだ。 エルのコートとは違い大幅なアレンジは施されておらず (細かいこだわりはあるのだろうが、そもそも俺は燕尾服に詳しいわけではない)、取り外し可能な空色のツインテールがなくなってショートカットとなった悪魔型は男装の麗人型へと進化を遂げていた。 ニーキの冷静で淡々とした雰囲気と相まって、その端麗な容姿は華やかさを除けば宝塚のトップスターのようだと絶賛しても過言ではない。 ……俺が神姫を買うことに随分と抵抗してくれた割に、姫乃は神姫を男装させて眼の保養をしていたってわけだ、へぇそうなんだ、などと嫌味を言うつもりはないけれども。 男にだって嫉妬というものがあるのだと、彼女に知って欲しい背比弧域であった。 「ヒメに面と向かって言い難いのならば私が伝えておこう」 「やめろ。 そして俺の心を読むな (ひそひそ)」 「ほれ、二人とも電車降りるよ。 お~い傘姫生きとる? 寝たら死ぬぞ~」 姫乃のことを傘姫と呼ぶ女性、竹さんは姫乃の高校時代からの親友らしく、この少々独特な方言 (彼女曰く、北九州ベース博多アンド鹿児島アレンジなのだそうだ) はともかくとして快活な性格が外見にも表れていて、大学の益荒男共の評判はすこぶる良い。 いや性格が云々以前に、姫乃が “可愛さと美しさを足して2を掛けた” ような容姿ならば竹さんは “可愛さと快活さを足して1.5を掛けた” ようなものだ。 残り0.5は、身長こそ姫乃と大差無く俺の頭一つ分低いくらいなのだが、姫乃が持ち得ないシルエットのメリハリだ。 寧ろ益荒男共にとってはこの0.5が何よりも重要なのかもしれない。 短くサッパリとした髪に全身を春のシマムラコーディネートで固めていても何ら違和感がないのだから、その戦闘力は姫乃に一歩も引けをとら…… 「ん、どうしたの? 目のくま、そんなに変かな?」 ……いや、やはり姫乃のほうが圧倒的に可愛い。 アルティメットカワイイ。 ヒメノ型神姫とか発売されないだろうか。 いや、ここは竹さん風にカサヒメ型といったほうがそれらしいか。 「ほれ、あの建物。 まるまる一棟が神姫センターなんよ」 俺がカサヒメ型に自分のことを何と呼ばせてどんな武装をさせるか妄想を膨らませているうちに、何時の間にやら俺達一行は神姫センターの近くまで来ていた。 ――とりあえず、カサヒメ型の姉妹機はセクラベ型で保留としておこう。 神姫センター一階はさすが専門店というだけあって、ヨドマルとは比べ物にならない商品の充実っぷりだ。 客の相手をする神姫もヨドマルよりはるかに多く、ほぼ全種類の神姫が小さな体を元気一杯動かしているのを見ているだけで時間が過ぎてしまいそうだ。 「ほらマスター見てください! アルトレーネ型がいますよ! うわぁ隣にアルトアイネス型もいます! ちょっとお話ししてきていいですか? いいですよね! 行ってきます!」 勝手にポケットから棚に飛び降りたエルは完全武装のアルトレーネとアルトアイネスのほうへ走っていった。 そういえばエルは “動いているアルトレーネ” を見るのは鏡に映る自分を除いて初めてになるのだろうか。 今まで店員として働いていたエルが今日は客なのだからはしゃぐのも多めに見てやるが、あまりウロウロされると姫乃クオリティが目立って目立ってしようがない。 「あのアルトレーネのコスプレかっけー。 ここコスプレの服とかも売ってんのか」 「下の中古売り場にあるんじゃね? でもクソ高そー」 「うわまた懐かしいものを。 なんだっけあのコート。 ほら、三〇年くらい前のFFの」 「クラウドでしたっけ? 流行りましたねーあれ。 でも似てますけどコートは着てなかったような」 まあ、褒められて悪い気はしないけれど。 これでは落ち着いて店内を見て回ることもできない。 それに今日は姫乃と竹さんもいるのだからあまり出過ぎた行動は――と二人の方を見ると、何故か竹さんの前に人集りができ、エル以上に衆人の目を集めていた。 「あー今日は神姫連れてきとらんからバトルはまた今度、また今度、だからまた今度っつっとんのやから並ばんでよ! なーらーぶーな、前へならえすんな! 予約なんか受け付けとらんっての! どさくさにアドレス渡されても困るってのアポ取ろうとすんな!」 竹さんの前に老若男女問わず並んだ人達は武装した神姫を連れていて、神姫達は皆武装の確認をしたり素振りをしたりと落ち着き無く、マスター共々鼻息を荒くしていた。 ほら散った散った、と大人気な竹さんが人々を追い払い、やれやれと大きなため息をついた。 竹さん大人気の理由を姫乃が教えてくれた。 「鉄ちゃんってね、実はすっごく強い神姫マスターなのよ。 以前私をここに連れてきてもらったときもこんな感じだったわよね」 「いっつもそう。 これじゃおちおちメンテもできんもん。 そらまあ、私のコタマはそこそこ強いしバトルしたくなるのも分からんでもないけど、そんな何人も相手にできるかっての。 コタマのバッテリーは普通の神姫と変わらんっての」 「へぇ、竹さんってそんなに強いのか」 「うん。 たぶん今この神姫センターにいる誰よりも強いわよ」 「ここって……結構な人数だぞ?」 うんうん、と頷いた姫乃は自慢できる友人がいることが嬉しそうだ。 「あー傘姫、恥ずいからあんまし……」 「私も他の人に聞いた話なんだけどね、ここで大会が開催された時のことらしいんだけど」 「その大会の優勝者が竹さんってわけか! すげぇ!」 「ううん、鉄ちゃんは観戦してただけなんだって。 それでね、その時優勝した男の人が表彰台の上から鉄ちゃんを見つけて、一目惚れしちゃったらしいのよ。 その人が、たぶん優勝して少しだけ気が大きくなってたんでしょうね、その場で鉄ちゃんに告白したんだって。 そうよね?」 「……まぁね。 告白っつーか、私のこといきなり指さして 『今! あなたに惚れました! エンジェルktkr!』 やもん。 恥かいたわあ、あん時はほんと」 「でも竹さんに彼氏がいるって聞いたことないし、ってことはそいつのこと振ったのか」 「背比、今しれっと傷つくこと言ったね……振ったっつーか、その場のノリで 『じゃあ神姫バトルで私に勝ったら付き合ったげる』 って言ってしまったんよ。 うん、ノリで」 ノリノリで。 と竹さんは額を抑えて自分に呆れている。 それはそうだ。 大会優勝者、言うまでもなく最強の神姫に勝負を挑むなんていくらノリといっても愚行にも程が……ん? 「でも竹さん、彼氏はいないって……あれ、どういうことだ?」 「その場におった全員がチャンピオンが勝つって疑いもせんで、チャンピオンに挑んだ私は負けて彼氏ゲットする腹積もりと思われて、そのチャンピオンの神姫にまで 『ま、アタシのマスターはそこそこイイ男だし? アンタが考えてることも分かるよ。 それなりに手加減してやるから、適当に頑張って適当に負けて、彼氏ゲットしたら?』 って鼻で笑われて――」 眉間に皺を寄せてその神姫の嘲りを腸を煮えくり返しながら思い出しているらしい竹さんは口角を釣り上げ、凄絶な笑みを作った。 「――そんな状況で相手を完膚無きまでたたきのめすのって、ゾクゾクしたわぁ」 「ドSだ! ここにドSがいる!」 「相手の神姫、花型ジルダリアだったんだけど、手加減どころか指一本触れられずに負けてそれ以来トラウマになっちゃったんだって。 ちょっと可哀想」 「そうなん? それは知らんかった」 「未だにハーモニーグレイスを見ると足が竦んで動けなくなっちゃうんだって」 「 【 あらららら それはひどいな 超wざwまwあw 】 」 「ドS俳句だ! 姫乃気をつけろ、竹さんの近くにいたらそのうちヤられるぞ!」 「ふひひひひ! 悪いけど傘姫の体は私がもらっとくよ!」 「このっ、俺の姫乃を食うつもりか!」 「何の話よ!? やめてよ、もう!」 「ただいま戻りましたーって、なんだか楽しそうですね。 私も混ぜてください!」 「…………はぁ」 姫乃の胸ポケットの中でニーキが漏らした深いため息は誰の耳にも入らなかった。 神姫センターは二階から上が武装神姫専用のゲームセンターになっていて、神姫を連れたマスター達が百円玉を何枚も持って遊んでいる。 その中でもやはり二階のバトル用筐体はプレイヤーとギャラリーが多く、どの筐体でも神姫達がマスターやギャラリーの応援を受けて火花を散らしていた。 ビリヤード台に四角形のガラスケースを置いたような外観をしていて、大きさは四方が2m弱から1mくらいと大小様々なものがあり、高さも神姫が飛びまわるのに十分なものだ。 ガラスケースの中は何もなかったり障害物があったり、廃墟、砂漠、滝、サーキット、礼拝堂、無駄にピカピカ光るステージなど、神姫達は例え火の中水の中草の中森の中土の中雲の中姫乃のスカートの中 「しつこい!」 どのような状況であっても冷静に地形を生かす戦い方が求められる。 「お、そろそろ障害物無しの一番シンプルなステージが空くけど、なんか他にバトりたいステージある?」 「エル、どうだ?」 「どんなステージでも問題ありません。 どーんと来いです」 「ニーキは戦ってみたいステージある?」 「いや、私もどこでもいい」 「よし。 じゃ順番取ってくるから待っとって。 筐体使用料はまぁ、今回は私が奢ったろ」 今まさにその筐体ではバトルが佳境を迎えていた。 ありったけのミサイルを全方位に撒き散らす軍隊風の眼帯神姫は、夏の蚊のように襲い来るミサイルを涼しい顔で回避しつつ接近してくる忍者神姫に翻弄されている。 眼帯神姫がまだ起動して日が浅くバトルに不慣れなのは、筐体のガラスに張り付いて必死に応援しているマスターを見れば分かる。 彼女のマスターはさっきから 「撃て撃て撃て! 数打てば中るんだ!」 とだけ繰り返して眼帯神姫を混乱させるばかりで、もう一方の忍者のマスターは椅子にもたれ掛かり余裕綽々といったところだ。 次は俺達の番だ、あんな無様な真似はできない。 そう思うと掌がじっとりと湿ってきた。 相手は姫乃とその神姫なのだから気負う必要なんてまったく無いのに。 勝利への焦燥と敗北への焦慮は刻一刻と強くなっている。 「いよいよ私達の初バトルですね、マスター。 安心して下さい、絶対に勝ってみせますから!」 エルが俺を励ますように力強く宣言した。 その顔には一片の気後れもない。 俺はほんとうに良い神姫に巡り合えたと思う。 普通に神姫を買って、普通に箱を開けて、普通に起動して。 そんな出会い方ではきっと俺は満足できなかった。 このバトルを、これまでエルを育ててくれたレミリアへの感謝と代えよう。 「頼むぜエル。 悪魔に鍛えられたお前の力で、あの偏屈神姫をギャフンと言わせてくれ!」 「了解ですマスター! 戦乙女の名にかけて必ずや、マスターに勝利の美酒を御賞味頂きます! ――ところで、その、私の武器なんですけど、ばっちり用意してくれましたか?」 コートの左袖のベルトをいじりながらそう言って、申し訳なさそうにこちらを見上げた。 ヨドマルで働いていたエルは普通アルトレーネ型に付属するはずの剣などを持っておらず (だからこそ俺のような貧乏人が最新型を買えたのだが)、俺が武装を用意しなければならない。 防具はエルを買った時に姫乃に 「私が用意するから大丈夫。 だから絶対に他のものを買わないでね」 と念を押されて今朝になってコートとブーツをもらい、武器はというと―― 「ばっちり用意しておいたぜ。 戦乙女に相応しいやつを見繕ってきた」 「それなら早く見せて下さいよぉ~。 マスターはあんまりお金が無いから、もう私、言い出しにくくて。 素手で頑張れ! なんて言われたらどうしようかと思ってました」 「はっはっは、すまんすまん。 でもほら、自分の神姫を驚かせたいマスター心を分かってくれ。 ええと……」 鞄に入れていた “それ” を、目を輝かせて 「早く早く!」 とせがむエルに渡してやった。 「ほれ、コイツで頑張ってこい!」 「はい! マス…………た…………………………………………ん?」 筐体では丁度バトルが終わったようで、忍者が彼女のマスターに向かって親指を立てるのを見届けた竹さんが俺達を迎に来た。 「場所空いたけど、傘姫、背比、準備OK?」 「私達はオーケーよ」 「こっちもオーケーだ。 ニーキはもういいのか? まだ遺書の用意ができてないんじゃないのか?」 「問題無い。 エルを倒した後で君の眉間を蜂の巣にしてやるから、今の内に神に祈っておくといい」 「え? え? マ、マスター? こ、これは冗談ですよね?」 「よっし! それじゃ、二人とも両側に座って、そこの丸いとこに神姫を乗せれ」 「姫乃、こんな上等なコートを作ってもらっといて悪いけど、手加減はしてやれないぜ!」 「私だって全力でいくからね、弧域くん!」 「いや、ちょ……………………ええええええええ?」 ――――そして話はプロローグに戻る。 NEXT RONDO 『愛しています、私のバカマスター ~2/3』 15cm程度の死闘トップへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1036.html
第十幕、上幕。 ・・・。 銀色のケースがある。 丁重に扱われるように、多重になっているケースがある。 小さなそのケースには、かつて『生きていた』神姫のパーツが一つ、大切に納められている。 小さなケースの中の、とてもとても小さなパーツ。 たった一体の神姫の、たった一つの身体のパーツに過ぎない。 だけど。それでも、ほんの少しとはいえ、確かに大切な時を歩んだカラダには。 人さえ信じる者が少ない大切な物・・・心。それがあると。 そう、信じていた神姫がいた。 心に伝えようとした、声。 心と歩もうとした、脚。 心を包もうとした、手。 心さえ見つめようとした、瞳。 それらと共に・・・未来へと馳せられた想い・・・そのものが。そのケースには納められていた。 だが。それが、もしも。 無駄になるとすれば・・・。 その未来は、優しいだろうか。 12月も下旬。22日の夕方。千葉県峡国神姫研究所、所長室。 「はい・・・それでは。前向きに検討させて頂きます。はい、よろしくお願い致します。こちらこそ」 初老の女性、小幡紗枝は、そう括って電話を切り、デスクに置いた。 そのままやれやれと大きく溜息を付いて随分と、それこそ一年分の疲れが来ている首を回す。 老け込む歳では無いと本人は思っているのだが。このような仕事故の職業病か・・・随分と最近肩が凝る。忙しい事は決して悪い事ではないものの・・・。 認めたくは無いが、この歳では流石に身体に溜まるようだ。 (・・・ふふっ。強がりですね) 外は風が強くなってきたのか、窓越しでも風音がはっきりと聞こえるようになってきた。ふと立ち上がり、窓際に歩み寄りカーテンを指先で開けると、風に誘われたのか暗い雲が空を少しずつ覆い隠していく様が見えた。 クリスマスも近いというのに嵐でも来るのだろうか? まぁ、それで神が不貞腐れるとすれば、キリスト教徒には辛いのだろう。そんな下らない事を考えていると。 「所長、失礼します」 数度のノックの後、オートドアが開き、眼鏡をかけた見たところ20代後半ほどの男性が書類らしいファイルを片手に顔を覗かせた。 「あら、大河内君」 小幡がそう呼んだ男性の背の後でドアが静かに閉まると、カーテン越しに外を覗いていたらしい所長に肩をすくませる。 その男性、この研究所の所員である大河内芳和は、随分と古い印象を持つ黒縁眼鏡のズレを直しながら続けた。 「はい、今年分の・・・最後になりますか。一通りのデータ書類と、丁度・・・その、用件です」 「丁度?」 首を傾げて聞き返すと、彼は笑って指で窓を指した。 「雪が混ざれば吹雪く事になるかもしれません。全員定時で帰しましょうか」 「あ。そうですね・・・」 納得しつつ、さっと軽くカーテンを閉め直すと。小幡は椅子に戻って深く座りなおした。 「そろそろ、今年も終わるのですね。皆、お疲れ様でしたと伝えなくては」 堅苦しそうな表情、仕草。口調・・・しかしながら。どうにも人間臭さが前に出てしまう。 そんな所長だからこそ、か。彼は軽く肩を竦めた。 「所長もお疲れ様でした。ところで・・・先の電話の用件は、以前の?」 「えぇ、一応は了承しましたよ。あちらも喜んでくれました」 その言葉に大河内は苦笑ともつかぬ笑みを浮かべて頷く。 この研究所のバトル筐体の一般解放の事。 峡国はもとより武装神姫プロジェクト発足後は、武装テストを中心に行ってきた。その為、その筐体のシステムクオリティは常に最高級に位置する事が求められている。 ・・・以前より、『そういう打診』があった事は事実だが・・・。 「大会等の限定的に貸し出す事にしようと思っているのですが、あとは。今までどおり修理など」 意見を求めるように首を傾げる小幡に、彼は頷いた。 「『神姫も、近くなりにけり』ですか。良いのではないでしょうか」 「名前を変える必要があるかも知れませんね。『神姫研究所』では堅すぎますし・・・」 そういって小幡は笑った。 武装神姫以前、特に文化系特化神姫。エレティレス、ミネルヴァ、クラリネットといったタイプの神姫が発売された時には。とても一般に神姫がここまで普及するとは思えなかった。 当時、技術の最新鋭の結集。そんな代物では、そのほとんどがオーダーハンドメイドだった。今も、解析されない部分さえある一種不思議な存在、神姫。 ・・・時の流れは早い。その歴史の波濤は全てを押し流す。 今では。随分と『人に近いところ』まで神姫がやってきている。この『武装神姫ブーム』はその現れとも言えるだろう。 「・・・」 バトルだけではない。 普及していく彼女達に触れ、多くの人間が。きっと多くの事を感じることになる。 それは決して正の事だけではあるまい・・・しかし。 小幡は節くれだった指を合わせて何らかを考え込むように目を閉じた。 「所長?」 「クリスマスまで、あと三日。ですね」 彼女が何を言いたいかを解し、大河内はふっと驚いたような表情を浮かべて、しかし。そのまま自身もただ、目を閉じた。 「はい。そうですね」 「今も聞こえますか?」 何が。とは聞き返さない。ただ、彼は目を開けると小さく笑う。 「そう。・・・私もです」 そう言って、小幡も笑って見せた。 ・・・。 12月の、25日。 それは。峡国研究所所員にとって。忘れることが出来ない『命日』。 大河内も、その光景を覚えている。 作られた身体。たった一つの身体を愛しげに、その小さな自分の手で抱きすくめ、最期まで優しい微笑を浮かべながら・・・美しい声で別れの言葉を紡ぐ美しい姿を。 感謝さえ述べて。彼女は、涙を流す彼らの前で。その動きを永遠に停止した。 『えぇ、そうですね。私は幸せでした』 聞こえる。・・・今も。 彼女の美しい声が。彼女の小気味良い足音が。 思えば、ヒトが心を失ったと言われた『灰色の2010年代』。全てから彩が消えた時代に生まれた彼は。 あの時。ようやく涙を知ったのではなかろうか。 『それでは皆さん。たくさんの心を・・・ありがとうございました』 最後に一筋だけ伝った涙。 今思えば、あの涙に。彼女は・・・どれほどの想いを込めたのだろう。 彼女が口にしたその『言葉』は。彼にしてみれば最後の後悔。 それはむしろ自分たちが・・・。彼女に送るべき言葉だったから。 「・・・。では、先に言った様に定時で帰らせます。所長もお早く」 「ありがとう」 と、そう答えたとき。電話が鳴った。 「あら・・・?」 ふと番号を見れば、それは同業者・・・研究所からのもの。しかし、その研究所のある場所は。 (?) ここから遥か遠方。 一応、といった感じで。とりあえず登録してあるだけの番号だ。ふと、小さく眉を顰めながらも、小幡はその受話器を取った。 「はい、峡国研究所所長、小幡です」 訝しげな表情を声に出すまいとする彼女に遠慮するように。 大河内は書類をファイルごと机にそっと置いた。小幡に手で合図され、一度礼をして踵を返す。 「・・・えっ。はい、確かにありますが・・・」 「?」 「えぇ、その通りです。クラリネットタイプですが。それに、そういう初期不良なら・・・」 その単語が出た事に、彼はぎくりとして肩越しに振り返った。 「はい。あぁ・・・CSCリンクが・・・はい、はい。なるほど。それならば確かにこちらの方が良いかもしれませんね。えぇ・・・え?」 小幡の声に、僅かながら興奮が混ざっている。 「なんという・・・そうですか」 その顔に驚愕が走った。 「同系の波長が! そこまで条件が揃うのは・・・奇跡的ですね」 「・・・!」 「解りました・・・その、『違う神姫ではイヤだ』というマスターの方の為にも・・・はい。必ず」 その堅苦しささえ含めて浮かべていた訝しげな表情が、柔和な笑みに変わっていく。 (まさか?) 大河内は身体を振り向けて尚もズレていた眼鏡を押し上げた。 小幡は手を軽く振ってその事を肯定するように頷く。 (・・・あの、最後の部位が?) よもや『合う』神姫が存在するとは思わなかった。 神の導きか。それとも・・・。 (それとも・・・あなたですか? ゼリスさん) 大河内も無精髭が伸びた顔で、笑みを浮かべて頷き返す。 だが。その時だった。 「・・・え?」 明らかに調子の違う声と共に、小幡の表情が、固まった。 「・・・。・・・ッ!?」 そのまま笑みが崩れ、愕然とした表情に変わっていく。 「それは・・・つまり。いえ、もしも」 受話器を持つ手は震え、唇がわななく。彼は彼女の異常に思わず眉を顰めた。 (?) それから十数分、いや。もっと長くあっただろうか。 (・・・) 小幡の口からは数度聞き慣れぬ・・・いや、人間としては決して聞き慣れたくない単語が零れ、それらはその度に大河内の浮かれた気分を氷点下に叩き落していく。 「申し訳ありません・・・。折り返し、電話致します・・・はい。いえ、お気遣い。ありがとうございます。それでは」 そのまま、震える指で電話を切ると、卓上に置き。・・・小幡は目を見開いたまま、一度息を吐いた。 「所長・・・」 大体の内容は掴みはした。だからこそ、彼は、即座に口を開いて聞かなくてはならなかった。 『どうするのか』と。 「・・・無駄になるかもしれない」 小さな声。 「いや、大切な物が、無駄になる・・・とすれば」 その大河内の問いを待つ事も無く。小幡は呟くように口を開いた。 「そんな未来を選択する事を。出来るのでしょうか?」 「・・・」 「生まれて、すぐに・・・」 消えゆく事になる・・・かもしれない。 そんな『心』を、私は生み出すことが出来るのだろうか? 最後の言葉は、既に声になっていなかった。 何も持たずに生まれる神姫。その命の中で、何よりも繋がりを求める彼女達。 何も持たずに心が生まれ出で。 しかし、その心は時を走ることさえ出来ず、何も想わずに消えるとすれば。 そんな事を。自分は、決断出来るのか? ゼリスの身体を、想いがこもった最後のパーツが。 『無駄』になると解っていても。 ぽつり、ぽつりと話す小幡から、先の電話の内容を掴み、大河内は腕を組んで唸った。想像以上に事態は急を要するらしい。 彼はしばしの間、考え込んでいたが。 突如、自分でもぎょっとする案が頭を走った。 (それは・・・だけど) それをしてどうなる? ・・・いや、どうなるかでは、あるまい。きっと。彼が意を決するまで僅か数秒。 「所長・・・『訊いて』みては、いかがでしょう?」 その言葉に、小幡は顔を上げた。 「訊く? 誰に?」 その目をじっと見返し、彼自身も苦しげに言葉を続ける。 「ゼリスさんを・・・識っている者がいます」 辛そうな絞り出すような声に、小幡は目を見開いた。 「まさか。彼女達に伝えよと? この事を?」 「私達と同じほどに。彼女達は強くゼリスさんと繋がりを持ちます」 「・・・それは」 「はい。これが何になるかは解りません。しかし、訊いてみるべきかと思います」 「・・・」 沈黙が返る。大河内はじっと彼女の声を待つだけだ。 「・・・。・・・私達では、解らない繋がりがある。ですか」 「所長は恐らくゼリスさんと最も強い繋がりを持っておられます。しかし、ヒトである私達とは違います、彼女たちもまた、神姫なのです。ある意味これは」 そこまで言ったところで、弱々しく、手でその先を制した。 「そう。ですね」 顔を上げて、一度大きく息を吐くと。 小幡は、電話に手を伸ばした。 ・・・。 「それで、それは。いつですの?」 ヴィネットはいつものクレイドルの上、キャッシャーに接続しているコンピュータ。そのウィンドゥにに映る小幡に尋ねた。その真紅の目は常より鋭く、常よりも美しいと思わせる声はしかし緊張を張り巡らせている。 『二日後・・・です』 その言葉に息を飲んだのは、ヴィネットではなく。隣に立つリカルドの方であった。 「二日とは・・・なんと」 「そうですか、時間は・・・無いのですね」 猛禽を思わせる視線のまま、じっと画面に映る小幡を見つめて。 「母の身体、他ならぬ母の身体です。無論、そのような事。決して諸手を上げて賛成とは言えません・・・それが『長女』たる。私の選ぶべき言葉でしょう」 『そう、ですか』 「しかし・・・それでも」 姿さえ知らぬ、妹となるかもしれぬ者に。 神姫として、最も苦痛ともいえる悲しみを一種『強いる』事が出来ようか? (だけど・・・) ヴィネットは声と、心とが揺れるのを感じていた。 「それでいても、私は・・・」 ・・・。 「少しでも、会えるなら。会えるなら起こしてあげて!」 フェスタは自宅の応接間に持ってこられた電話の前で叫んだ。 「その・・・。会う『時間』は、少しでもあるんですか?」 「・・・フェスタ、落ち着いて」 マコトに宥められるが、彼女はぽろぽろと涙を零しながら、美しい山吹色の光を湛える髪を揺らして首を振る。 『フェスタさん。もしも間に合ったとしても・・・』 小幡の声が電話から小さく零れる。 「間に合ったと、しても?」 最早答えられぬフェスタの代わりに、マコトが先を急かす。 『恐らく会話が出来たりする状態では無いという事です』 「・・・」 しゃくり上げながら、ぺたん、と。その応接間の木製の天板に、フェスタは腰を落とした。 「どうして・・・」 『フェスタさん、悪い結果もまた、あくまで可能性です』 「・・・うん。解ってます」 小幡の声に、力なく答える。 「解って、ます・・・。解って・・・るんです」 そう繰り返す。が、彼女には涙が止まらない理由は。解らなかった。 それが、きっと神姫にとって、何よりも辛いことだと解るから。 やがて。しばらくの後。そのまま、顔を上げずに。 「・・・私、なら・・・」 ・・・。 ルクスはスピーカーモードになっているアキの携帯電話の前で立ち竦んでいた。 その震える唇で言葉を紡ぐ。 「会話さえも・・・。一度の会話さえも。不可能である、という事ですか?」 『・・・』 「なら・・・」 ゆっくりと。絞り出すように、小さく呟く。 「せめて、会って・・・。その・・・『会える』のでしょうか?」 『解りません。恐らく迅速に行ったとしても。全身麻酔に入っている可能性はありますし・・・それに既に』 唇を噛み、言葉を失ったパートナーを、アキが心配そうに覗き込む。 「・・・ルクス」 「その、それは」 声は揺れていた。怒りか、悲しみか。それは自身も介する事は出来ない。 「どれくらいで成功するのでしょうか・・・いえ」 可能性など無意味であると知り、首を振る。 答えを小幡が知らない事も解っている。だが、それでもルクスは問い尋ねなくてはならなかった。 気休めにもならない、その言葉を。 「成功、するのでしょうか?」 だが。 解答は、返って来なかった。 ふっと、その銀色の瞳で天を仰ぐ。 「母様の身体・・・。これはあくまで個人的な意見。述べさせていただきます・・・お聞きください」 ・・・。 電話を切り、小幡は首を振った。 「この結果は、想定できませんでした」 「皆、同じ解答を返しましたね」 大河内は、険しい顔のまま、僅かながら意外そうな声で言った。 「きっと。・・・何かを、知っているのでしょう」 目を伏せたまま、小幡は首を振る。 「それは・・・人が解らない感情。人が信じれない何か・・・その何かを、信じているのかもしれません」 「所長・・・」 その声に一度だけ頷き、彼女は最後の姉妹の電話番号を押した。 ・・・。 ボタンは久方ぶりに帰ってきたコウの自宅。 その仕事でも使用しているノート端末をTV電話として使い、その前でじっと腕を組んで胡坐をかいて座っていた。 「・・・」 コウはどっかと横の椅子に座り、何も言わず、その様子を見ているだけだ。 先までコウが吸っていた煙草は既に燃え尽き、沈黙のみがその場を支配する。耳が痛くなるような、冷たく重い空気が流れていた。 「なぁ、小幡殿」 ややあって。ボタンがようやく切り出した。 『はい』 「それを・・・。その神姫が望むと思うか?」 思いもしない問いを返され、小幡は声を失った。 『・・・その、神姫が、ですか?』 ボタンはじっと画面の向こうにいる小幡を直視する。 『その神姫は、未だ生まれてもいません。誕生させる為に・・・』 その返答に満足げにボタンは頷いた。 「人間らしい考え方だ、ありがとう。だが・・・神姫はそもそも、CSCが植え込まれ、初めて声を上げたときに『生まれる』のだろうか」 そういって、彼女は自分の掌を見つめた。 「既にCSC以外の全てを持ち、それ以外を持たぬ。決して『生まれる』という事が、心が動き出すという意味でもない・・・アタシは、そうも想う。その神姫は既に生まれているが・・・心を見つけようとしているだけだ」 しばし、視線を宙に這わせ。うん、と一度頷く。 「目覚める・・・いや、あえて『芽生える』。といった方が良いかもしれないな。それは」 モニターの向こうで、小幡が僅かに目を見開いた。彼女は、それを伝えてはいないはず。 その神姫が・・・。そのMMSタイプが・・・。 「なれば。もう生まれている神姫が。芽生え、自分であると認識し。光を知り、目を開け・・・そして。主の想いを受けることも無く。再び目を閉じるとして・・・それを望むだろうか?」 答えれぬままの小幡に一つ息をつき。淡々とボタンは続けた。 「アタシ達は何も持たずに生まれる。自分が自分であるという事は、この世界で心に触れ、心を抱き、風に吹かれる事で知るのだ。それさえ出来ず、それを許されぬ事を。その神姫は望むだろうか?」 『・・・』 無言を返すしかない小幡。そんなことは。 しばし顔を伏せ。やがて、ボタンはその大きな目をじっと彼女の映るディスプレイに向けた。 「アタシなら・・・望むかもしれない」 『!』 「・・・例えそれが一時でも構わない。それが一瞬で構わないんだ。しかし、そのCSCをセットしてもらった事。起動スイッチを押して貰った事。その事だけでも喜んで目覚めるかもしれない。だが・・・それは」 「ボタン」 それまで沈黙を守っていたコウが、じろりと視線を動かして、その口を開いた。 「どいつもこいつも。勝手に幸せになる、お前みたいなバカじゃねぇだろ」 「・・・。そうではある、主」 ボタンは恐ろしく強い。その心は死を知っている。絶望を知っている。 それを彼は、彼女と共に暮らしてきた彼は。誰よりも知っている。 ボタンなら全てを包み、全てを受け入れ、その『手』で抱きしめる事が出来るだろう。 だが・・・。 「なぁ、小幡さんよ。今、このバカ犬が言ったとおりだ。それを望む、望まないは神姫それぞれでしかねぇ」 『・・・えぇ』 「で。アンタは。エゴに生きてみる気があるか?」 コウは、ずいっと大きな身体を乗り出すように、小幡に問い尋ねた。 『・・・エゴ? ですか』 「そう、エゴだ。自分勝手に楽な解釈をして。自分勝手に動いて、他者よりも自分を可愛い。そう生きてみる気はあるか?」 いつもの得意な笑みさえ浮かべず、コウは続ける。その視線には何かを試すような意さえ込められていた。ボタンはきょとんと自身の主人を見上げる事しか出来ない。 「こっからは神姫どうこうじゃない。『人』としてのアンタの胸先三寸にかかる。聞け」 『・・・』 「コレは飽くまで、前例があるだけだが・・・」 『・・・それ・・・。ですか・・・』 話し終えた後。悲痛に近い表情を浮かべて、小幡は首を小さく振った。 「あぁ、知っているだろうが。方法として、あるには、ある。今回は特に、特別だ」 「主・・・しかし! ・・・しかし・・・それは」 ボタンが何か言いたげに、しかし。何を言えば良いか解らずに困ったような表情で首を振りながら見上げ続けている。 恐らくは泣いているであろう、その姿をあえて視界にいれないようにしながら。 「・・・。まぁ。やれと言われてもアンタにゃぁ簡単に出来ないだろうが」 余り言いたくなさげに。いつものように、やる気無さげに。彼は続けた。 「だったら。その神姫に直接『聞いて』みな。それでいいか、とな。訊けるなら・・・だが」 ・・・。 電話を切った後。小幡はちらりと大河内を見た。 「確かに前例はあります。確か二件ほど」 その言葉に頷くと。彼女はゆっくりと立ち上がった。 「所長」 心配そうな声を手で制する。 「今から準備をして行きます。時間がありません」 「・・・。訊くのですか? その神姫に。その問いを」 机の電子ロックを解除し、中から、小さな銀色のケースを取り出し、彼女は握り締めた。 「直接・・・訊けるのですか? 所長」 無機質なケースの冷たさだけがはっきりと伝わってくる。小幡はそのケースをじっと見つめ、やがて、そのまま窓に視線を向けた。 そう。この部屋。この窓。 あの日・・・今年の一月一日に。私は誓った。貴女の遺志を受け継ぐと。 窓を開けようと手を伸ばし、しかし。小幡はその鍵に手をかけた所で動きを止めた。外に吹き荒れるような強い風が、何かを彼女に知らせる警鐘のように鳴り響いていた。 (・・・ゼリス) その風に憧れると笑って言った彼女の名を心中で呼ぶ。 ・・・あなたなら。どうしますか・・・? ・・・今でも、私の背を。押してくれますか? ・・・。 翌日、深夜三時。新函館空港。 小幡は、雪が積もる北の大地に降り立った。今もまだ小降りとはいえ雪は降り続いている。 が、それは決して吹雪いてはいない。 そう。 そこには、あれほど千葉では強かった、全てを吹き押す風は。 その一切、吹いて・・・いなかった。 第十間幕
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/277.html
武装神姫のリン 第12話「決意」 警報から約1分。すでにウィルスによって侵食されつつある島田重工メインコンピューターのサーバー内に5人の神姫が出現する。 彼女達は全員がヴァッフェバニーの装備をしてさながら特殊部隊の様だった。 だが各自で装備している武器は様々だ。 ファムはサブマシンガンを2丁持つ以外は全てが格闘戦用の武器。 一方セリナは武器庫を兼ねているらしいミサイルポッドを背に担いでいる。足は皆とちがって追加ブースターを装備している。 重量による移動速度のハンデを減らすためだろう。 そして両腕にはさながらガンダムヘビーアームズのようなダブルガトリングガンが存在感を漂わせている。 エイナ、メイはほぼ同じバランスがとれた装備で唯一違うのは己の特殊武装であるドリルと吼莱壱式を装備していることだけだ。 だが、キャルは違う。 装備するのは……数本のナイフとリボルバー、オートマチックの拳銃1対のみ。 俺は思わず静菜に目を向ける。 「驚いたかしら? 彼女は軍にいた。だからアレだけの装備で十分なのよ。」 「心配無用。キャルは生身ならチームで一番強い。」 無口な(少なくとも先ほどの挨拶を聞くかぎり)メイが補足してきた。 「そういうことよ。 ウィルスはセリナとメイに任せて3人は実行犯を捕まえなさい。リミットは15分よ」 「「「了解」」」 そうして3人は3方向に散って行った。 「メイ、ウィルスの総数は?」 「……10万。数は多いけど数箇所に集まってるからセリナなら楽勝。」 メイはヘッドユニットに付いた大き目のネコミミ型のセンサーでウィルスの位置を割り出している。 そして少し離れた所にいたセリナが移動する。 「こちらセリナ! ウィルスを確認しました! 第1郡を殲滅します。」 セリナの目の先にはまるで子供向け番組にでてくる「ばい菌」みたいな容姿のウィルスが無数に集まり、セキュリティブロックを突破しようとしている。 そのうち1体がセリナを見つけるとすぐにその集合の1/3ほどがセリナに向かっていくが、それより先に彼女の担ぐミサイルポッドのハッチが開く。 それと同時に無数の小型ミサイルが発射された。それを確認するとウィルスは破壊活動を停止していっせいに逃げ出した。 最初はバラバラの方向に発射されたミサイルだったが、ホーミング式らしく散り散りになって逃げるウィルスを追いかけてほぼ確実に命中。 声にならない悲鳴を上げてウィルスは炎上する。 そうしてミサイル発射の際に出た煙が収まるとソコにウィルスは存在していなかった。 「残存ウィルスなし。 次はこっちをおねがい。」 メイが促すとセリナはブースターを噴かせてジャンプ。 コンピューター中枢に迫り来る1番大きな規模のウィルス郡を防ぐメイに加勢する。 「ハッチフルオープン、いっけぇぇぇ!!!」 セリナが叫びながら構えたガトリングガン、ミサイルの一斉射撃で先ほどの10倍はあろうかという群集をものすごい速度で殲滅していく。 「すごい……」 リンも思わず感嘆をもらした。 「もうウィルスは大丈夫ね。後は…ファム?」 静菜がファムに聞く。 「まだ見つかりません。」 「時間はないわよ。 急いで」 「了か…ターゲット確認。」 ファムの瞳に映るのは同じ神姫。ストラーフタイプだったがその身体は時に半透明になる。 つまりジャマーやらステルス性能を強化したものだろう。 「…アレね。やっぱり『アイツら』のカスタム神姫……いいわ、殲滅しなさい。」 俺は耳を疑った。「殲滅」ということは先ほどのウィルスと同じくデータを完全に削除するということだ。 先ほどは捕獲を命じたはずだった。なのに……この人はあの有名な鶴畑兄妹と同じで神姫を道具と思っているのだろうか? しかし一瞬静菜の口がすこし歪んでいるのを見てしまったので何かあるんだろうと自分を納得させた。 ファムは先ほどよりもっとスピードを上げてターゲットに迫る。 敵はそれに気付いてステルス機能を使ったのか、完全に見えなくなる。だがファムは腰のパックから出したナイフを両手に指の間に挟むとそれを手を広げるかのようにいっせいに投擲。 放射状に飛ぶナイフの1本が何もないはずの空間に刺さる。 それを確認したファムはバックパックから少し長めのブレードを取り出し一気に跳躍。 そして跳躍の勢いに乗せてブレードを半透明になった敵の胸に突き刺した。 「ギャぁアアアアぁぁぁぁッぁaaaaaa」 壮絶な悲鳴を上げて敵が停止。 だがファムは止まらない。 マウントポジションを取って胸から引き抜いたブレードを、再度振り上げる。 「ヤメテ…コロサナイデ」 俺にはこんな声が聞こえた気がしたが、ファムは無言でブレードを振り下ろす。 「見るな!」 3人の目を手で隠した。 ファムが行っているのは言葉にして表現するにはあまりにもむごい行為。 その行為によってによって先ほどよりさらにひどい、もう悲鳴というよりは絶叫に近いそれを上げきって、敵のターゲットは沈黙した。 画面上にはオイルと全身に浴びたストラーフ。 そして同じ顔をしていながら(厳密に言えばして"いた"だが)、頭部に見えないソレを晒す神姫だった物体が残された。 敵のストラーフの機能完全停止と同時にウィルスの殲滅も完了したらしい。 破損データ修復等は島田重工の技術者に任せて5人が帰還した。 「任務完了しました。」 ファムが先ほどと全く顔つきを変えないで報告する。 「よくやったわ、今日は彼らに詳しい説明をするから通常任務はなし。身体を休めなさい。」 応答する静菜も表情に変化はない。 「了解…各自解散」 そうしてファムを除く4人は己のマスターに連れられて司令室を後にした。 「なぜ神姫にあそこまでひどいことができる!」 4人が部屋を出るのと同時に俺は声を張り上げていた。 「……貴方に私の何がわかる? 人には言いたくないこともあるのよ」 予想外の表情。何かを悔やむ様な顔のまま脱ぎ捨てられたままのスーツのジャケットとズボンには見向きもせず静菜も部屋を出て行った。 「私から説明させてください。」 なぜか部屋に残っていたファムが俺たちに言った。 「分かった。話を聞こうか」 「実は静菜は私の本来のマスターではありません。 静菜の愛娘、杏子が私のマスターでした。」 「"でした"ってことはまさか…」 「そうです。静菜は元々神姫製造に関するプロジェクトに参加していました。そしてその研究仲間の村上 健一さんと結婚。 そして生まれたのが杏子です。 杏子が5歳のときに2人がまだ発売されて間もない私をプレゼントとして贈り。杏子は私のマスターとなりました。」 が急にファムの表情が暗くなり、ファムは座り込んでしまった。 「話したないなら無理をしないでください。」 「無理はいけませんことよ。」 リンがファムの肩をささえて言う。ティアも側によりそっていた。 「いえ、話さないと静菜が嫌われてしまいます。」 「ゆっくりとでいいからね。」 茉莉も心配そうにしながら声をかける。 「はい。そうして1年が過ぎようとした頃、神姫を爆弾にして自爆させるという残虐な事件がありました。結末は新聞に載ったとおりです」 「ああ、警察官のパートナーだった神姫が最後の犠牲になったっていうあれか……」 「そうです、あの事件さえなければ静菜はこんなことにはならなかった……」 「まさか……」 リンが気が付いた様だったがファムは言葉をつむぐのを止めなかった。 「そうです。杏子と健一さんはその犠牲となって命を落としました。 夜勤を終えて久々に休暇になった静菜を迎えに行こうとして、2人でバス停にいたときに……」 思わずファムの瞳から涙が流れ落ちた。 「それで彼女はあんなふうに?」 嗚咽を漏らしながらファムは応えてくれる。 「はい、その事件後は研究所を辞職。研究で得たお金を全てつぎ込んでこれだけの設備を備え、あの4人をスカウトしてきました。3人とも裏で名の通った技術者やハッカーで、健三さんは特殊部隊に所属してました。 健三さんを除いてですが、契約条件として警察にこれまでの罪を帳消しにするかわりにここで働くという条件を受けさせ、そうしてSSFを立ち上げました。 そこまでしても静菜は杏子や健一さんのような人を増やしたくないんです。それだけは分かってあげてください。」 「優しすぎたんだね…静菜さんは」 「そうですね、優しさゆえに敵には容赦しない。でも悲しいです。」 「やっぱりさっきの君の行為も…」 「あれは特別です。実はあの事件の実行犯は捕まりましたがそれを裏で操っていた集団がいることが分かりました。」 「もしかして…さっきのも?」 「そうです、私たちSSFが追っている最重要ターゲットでありあの事件の首謀者。『ベーオウルフ』の手先です。 それゆえに静菜も私も容赦が出来なかった。同じストラーフタイプであっても、たとえ素直に命令を聞いているだけであっても私は手を止めることが出来ないんです…」 「ベーオウルフ…ティアのフレームに関する事件もあいつらなのか?」 ティアの表情が険しくなった。 「そうです。だからこそ静菜は貴方たちを求めたんだと思います。」 ティアが立ち上がった。 「ご主人様、私。我慢なりません。今回だけ『ルクレツィア』へと戻ることをお許しいただけます?」 ティアの表情は暗い。以前に見たときよりもさらに憎しみにとらわれている。 「まて、ルクレツィアに戻るのは許さない。」 「どうして!!」 「憎しみに駆られたままでリンの背を預けることは出来ない。ティアのままでいるんだ。それが"アイツ"の望んだことだ。」 「分かりましたわ…でも容赦できませんよ。」 「それくらいは多めに見てやるさ。でも出来るだけコアは破壊するな。どんなに憎くても…だ。」 「ティア、私が側にいるから安心してね。貴方を憎しみに染まらせたりしないから、ね?」 「……わかりましたわ、お姉さま。よろしくおねがいいたします。」 「俺も2人をサポートするから大丈夫だ、悪党どもを捕まえるなんてそうそう経験できることじゃない。やってやるさ」 「じゃあ決まりってことで。ファムちゃん静菜さんの部屋はどこかな?」 俺たち3人がSSFに協力することを決意したのを確認して茉莉が聞くと、ファムは涙をぬぐって立ち上がった。 「こちらです。ついて来てください。」 そうして俺たちはSSFに力を貸すことを決めた。 ~燐の12.5「進化の予兆」~
https://w.atwiki.jp/battleconductor/pages/84.html
レイドボスバトル 概要 マップ 難易度設定 攻略初級編近接攻撃の立ち回り 遠距離武器の立ち回り 上級編近接攻撃の立ち回り 遠距離武器の立ち回り WAVE1 WAVE2 WAVE3 バグ・ボス情報小型バグ初級 上級 中型バグ初級 上級 大型バグ(レイドボス)初級 上級 報酬 アップデート履歴 コメント レイドボスバトル 2021.08.18~09.06 9 59(14日)の期間限定イベント。 全国のプレイヤーとオンラインで協力バトルできる。 ロケテストやカードゲーマーでは、一人プレイだけどボスを倒してスタンプを集めるオフラインレイドモードの存在が確認されたが、今回は実装されず。後のレイドボスバトル(常設)にて実装された。 オンラインレイドのマッチングは1分。見つからなかった場合は、その人数分COMが充当される。 最初の30秒は店内でマッチングを開始し、30秒間一人も見つからなかった場合、全国にマッチング範囲を切り替える。ただ必ず店内同士マッチングできるわけではないとのこと。 店内で一人でもマッチングした場合、全国にマッチング範囲は広がらない。 要はエンジョイジェムバトルと同じマッチング仕様。 概要 「ほぼすべてのインフラを支える神姫netに謎の障害が発生! その原因は武装神姫Rの世界から送られてきた謎の電子生物バグが確認された。 生活インフラからゲームセンターまでマスター達の生活を守れ! 最大4人のマスターと協力して、「バグ」と呼ばれる敵と戦う。 60秒+120秒にわたって襲来する集団を撃退した後、続いて240秒の時間内にボスを討伐する事が出来れば勝利となる(つまりゲーム時間は420秒)。 WAVE1は小バグ×8体、WAVE2は中バグ×8体、WAVE3は中バグ×4体+大型バグ(レイドボス)×1体。 青いバグは近接武器、赤いバグは遠距離武器が有効。 いずれも倒されるとリスポーンするが、通常のジェムバトルで神姫を倒した場合と同様、 倒された後も当たり判定が数秒ほど残っている。 小型バグ中型バグのサーチ範囲は片手ライトガンの射程(0.20)と同じくらいの模様。 ターゲット変更ボタンは通常のジェムバトルと働きが違い、 基本的にレバー上側が最も近い相手、下側が最も遠い相手からそれぞれロックオンしていく。 ボスには5箇所の部位があり、うち4箇所は破壊すると一定時間ダウン(行動不能)する。 部位によって有効な武器種が異なる事に注意。 攻撃範囲が広い武器で攻撃すれば、一度に複数の部位にHITする。 仲間の神姫と同じ敵をロックオンすると、攻撃にダメージボーナスが追加される。 (2人で+20%、3人で+40%、4人で+60%) 回復・補助武器で仲間に攻撃を当てると、仲間のLPを回復させる事が出来る。現状では… 「オルフェウス」(イーアネイラ) 「マルレーン712[C]」(シュメッターリング) 「ホーリーエコー」(ハーモニーグレイス) の追加武器3種となっている。 (ブライトフェザーのバスターシュリンジやスタンショッカーも適合しそうなものなのだが……) バグ、ボス共に「防御力ダウン」等のデバフ系スキルの効果を受けるが、効果がどれくれいかは不明。 「状態異常スタン」等一部のスキルは効果を受けない。 なお、このバグは「武装神姫R」の世界から流入してきたものである事が判明している(エーデルワイスの項も参照)。 集団の姿はプチマスィーンに、ボスの姿は「グラディウス」シリーズのダッカーに類似する。 ビジュアルイメージに対し体躯がかなり大きいのは、おそらく誤射防止のためか。 NPCとして「謎のエーデルワイス型」が登場。参加プレイヤーが一人か三人の時に戦場に姿を現す。 ステータスはLV60かLV100の模様。AIは他のジェムバトルと同じ。 なお、武装神姫Rの設定もあり、エーデルワイス用武装の防御力に少量のバフが掛かっている。 ジェム回収ボタンの仕様が変更されており、レイドバトルでは撃破された仲間にジェム回収範囲を当てることで、再出撃までの交代時間を短縮することがでる。 (レイドバトルはジェムバトルより再出撃までの時間が倍近く長くなっている) レイドバトル中は仲間をロックオンできず、画面タッチでのみロックオンすることができる。 また、ロックオンせずともジェム回収範囲が当たればOK。 ジェム回収展開速度は他のジェムバトルと同じ仕様。 チャットボタンのタッチによって他マスターへメッセージを送る事が可能。 メッセージ内容は「よろしんき」「ありがとう」「たすけて」「グッジョブ」「武装神姫」の5種類固定で設定されている。 マップ 神殿に近いが、神殿よりもオブジェクトが減ってほぼ更地と化している。そしてMAP全体が闇に包まれており… 近接バグは上に攻撃できないため、MAP四つ角にある背の高い柱に乗れば近接バグからの攻撃が届かずに済む。 難易度設定 「初級」と「上級」の二種類がある。 ※所属リーグに関係なく、他のバトルモード(マッチング)と共有しない。 「初級」はエンジョイジェムバトルと同じく、武装LVが20に強制統一される。 「上級」には武装LVの強制統一などはない。敵のLVは所属リーグに影響されない。LV100相応。 攻略 同時ロックオン補正があるが、それ以上に武器補正ダメージボーナスの方が大きいです! 例) 誰もロックオンしていない近接バグに遠距離攻撃>4人全員がロックオンした近接バグ(+60%)に近接攻撃 初級編 近接攻撃の立ち回り 元々ハイリスクローリターンなカテゴリーだが、バグ相手ではさらに分が悪くなってしまう。 小型中型の近接バグのDPSがかなり高く、こちらからの武器補正もないのでまずダメージレース負けする。 殴りあうと損害がとんでもなく大きくなるので、基本的に相手にしないのが良いのだが、逃げ切るのは不可能。 報酬は諦めて柱に乗ってひたすらやり過ごすのも手だが、WAVE3では通用しない。 正直レイドボスよりも中型近接バグをどう対処できるかがクリアに繋がっていると言っても過言ではない。 もちろんレイドボスも厄介。どの攻撃も強烈で、長時間殴れることはほぼない。 ウェポンやボディに攻撃が届かない ダメージボーナスがないので、攻撃する箇所はほぼ脚のみとなる。(回し蹴りと後ろ蹴りの軸足になっている左脚が狙いやすい) 遠距離武器の立ち回り このバトルでの大切なダメージ源。遠距離から攻撃できるというだけでどれだけ楽に立ち回れるかが分かるだろう。 とりあえずヴァッサーマン・D-MPやFB256 1.2mm滑腔砲等の射程が長い武器で観察と攻撃を繰り返してレイドバトルの経験を積もう。 ただ射程が長い=DPSが低いなので、ある程度慣れてきたらDPSに優れた片手ライトガンを装備しよう。中でもポーレンホ-ミングがオススメ。典型的なPLには当たり難いがCOMには当たり易いという性質が理由。装弾数を3にすればかなりのDPSになる。 10/7から再開された際にはバグステータスに調整が入り多段hit系の射撃武器は装備構成次第でかなり与ダメージが減少するよう調整されたので考えもなしにポーレンホーミングを使うと泣きを見る羽目になる。近接バグも割りと固まって襲って来やすくなったので爆風付きの腰持ちヘビーガンには追い風となっている。 上級編 近接攻撃の立ち回り 基本は初級と同じだが、よりダメージレース負けしやすい。 初級では他の近接武器カテゴリーでクリアできるが、上級ではほぼ双頭刃斬撃武器一択。 遠距離武器の立ち回り 必要なダメージ量が増えたので生半可な武器ではタイムアップする。 やはり装弾数を3にしたポーレンホ-ミングがオススメとなる。耐近接攻撃があってリロードが高速化するフォートブラッグもオススメ。 しかもお互いにシナジーがあるので、とりあえず困ったらフォートブラッグに装弾数を3にしたポーレンホ-ミングで良い。というかそれ以外だとかなり難易度が上がる。 WAVE1 60秒と短い上に敵が最大6体しかMAPに存在できないので、最大報酬まで獲得するのは結構難しい。撃破したらすぐ別のバグを狙おう。 遠距離バグの攻撃ダメージはしょぼいので無視して良い。 60秒経てば次のWAVEに進む MAP下側に遠距離武器持ちバグが出現しないので、最悪MAP下側の柱の上に乗ってるだけでも良かったり。 約15秒経過すると40秒間MAP左上にスキルポッドが出現する。 WAVE2 120秒間ひたすら近接バグを凌ぐ。 理論上四人でMAP中央に居続ければどのバグも起動させずに済ませられるが、COMが一人でも入るとアウト。 自信がなければやはり柱の上に乗るのが一番。すぐ隣の遠距離バグから常に攻撃されるので、ガードで対処しよう。オススメはMAP左上。 約20秒経過すると40秒間MAP左上にLPポッドが出現する。 約75秒経過すると40秒間MAP左上にスキルポッドが出現する。 WAVE3 240秒の間にレイドボスを撃破すればクリア。 約60秒経過すると40秒間MAP左上にLPポッドが出現する。 約120秒経過すると40秒間MAP左上にスキルポッドが出現する。 バグ・ボス情報 小型バグ WAVE1のみに出現。 WAVE1開始時の近接バグは、開始一秒時点で自身から一番遠かった神姫のみ狙うAIになっている? 増援の近接バグは、サーチ範囲に一番最初に入った神姫のみ狙うAIになっている。 遠距離バグは、サーチ範囲に入った神姫(複数いる場合は一番近い神姫)を狙うAIになっている。 最初に出てくるバグなだけあって火力も耐久も控えめかと思いきや、近接バグが結構油断ならない。 攻撃頻度がこちらの近接攻撃なみに速く、見た目以上のいんちきくさい攻撃範囲を持っている。しかもダメージもそこそこある。 一度取り付かれて攻撃モーションに入られたらダメージは避けられないと思って良い。 初級 ス 体 500? ? 攻撃名 功 射程 弾速 備考 近接攻撃 ? 0.1? 遠距離攻撃 ? 0.25? 80? 上級 ス 体 500? 5000? 攻撃名 功 射程 弾速 備考 近接攻撃 300? 0.1? 遠距離攻撃 100? 0.25? 80? 中型バグ WAVE2とWAVE3に出現。 WAVE2WAVE3開始時の近接バグは、バトル開始時点で自身に一番近かった神姫のみ狙うAIになっている。 WAVE2増援の近接バグは、サーチ範囲に一番最初に入った神姫のみ狙うAIになっている。 WAVE3増援の近接バグは、バトル開始時点で自身に一番近かった神姫のみ狙うAIになっている。 遠距離バグはどちらのWAVEも、サーチ範囲に入った神姫(複数いる場合は一番近い神姫)を狙うAIになっている。 小型バグの倍近い耐久と火力。 一回のダメージがそれなりにあり、複数出てくるのもあってダメージが積み重なりやすい。 背丈が神姫とほぼ同じだが、横幅が神姫三人分・空中に浮いているとあって、かなり大きく見える。 複数の攻撃タイプがいるが、中でも近接バグが厄介。 0.3秒~0.5秒とリキャストが速く、見た目通りの判定もあって近寄られると危険。ただし遠近バグ共に地上リアの挙動と同じ為、ホバリングを続けれる限りは近接バグの攻撃は届かない為安全である。 特にWAVE3はMAP真ん中に出現・増援するため、起動させないよう立ち回るのは不可能に近い。 上級をクリアするにはこの近接バグをどれだけ上手く対処できるかにかかっている。 初級 ス 体 500? ? 攻撃名 功 射程 弾速 備考 近接攻撃 ? 0.07? 零神のMVソードに類似。WAVE3にも出現 レーザー ? 0.25? 80? 貫通属性。WAVE2ではMAP左下と右下を担当。WAVE3にも出現 ヘビーガン ? 0.25? 60? WAVE2ではMAP右上を担当。誘導が良い ガトリング ? 0.25? 60? WAVE2ではMAP左上を担当 上級 ス 体 500? 7500? 攻撃名 功 射程 弾速 備考 近接攻撃 500? 0.07? 零神のMVソードに類似。WAVE3にも出現 レーザー 500? 0.25? 80? 貫通属性。WAVE2ではMAP左下と右下を担当。WAVE3にも出現 ヘビーガン 400? 0.25? 60? WAVE2ではMAP右上を担当。誘導が良い ガトリング 100? 0.25? 60? WAVE2ではMAP左上を担当 大型バグ(レイドボス) 3WAVEに出現。 とにかくでかく、その巨体に見合った耐久と火力を誇る。 いずれの攻撃もダメージが大きく、近接攻撃の大半が予備動作がないのでガードは不可能。 しかも位置取りによっては一部の近接攻撃がボディに届かないので、基本的には遠距離武器の射程ギリギリから攻撃するのが安定になる。 「右脚」「左脚」「ボディ」「ウェポン」「頭」の五つから構成されている。「ボディ」以外は破壊可能。 破壊した部位に攻撃を当てると、通常よりもダメージボーナスが入る。 初級 部位 体 備考 右脚 30000? 近接武器でダメージボーナス有り 左脚 30000? 近接武器でダメージボーナス有り ボディ ? ウェポン 30000? 頭 30000? 遠距離武器でダメージボーナス有り 総合体力 120000~200000? 攻撃名 功 射程 弾速 備考 後ろ足で蹴る ? ? 右足で後ろに蹴りを二回。 回し蹴り ? ? 少しため動作をした後、左足を軸に右足で時計回りに一回転回し蹴り。 突進 ? 0.5? ? まっすぐ突っ込む。二回連続で突進する場合も。 レーザー ? 0.25? 80? 頭をかがめる動作をした後、ボディとウェポンの接続部からレーザーを4連射。銃口補正があまりないので、少し離れれば直角に歩いて避けれる。貫通属性 主砲 ? 無限 60? ウェポンから誘導する弾を一発。誘導性能がとても高く、股下にいても飛んでくる。 上級 部位 体 備考 右脚 150000? 近接武器でダメージボーナス有り 左脚 150000? 近接武器でダメージボーナス有り ボディ ? ウェポン 150000? 頭 150000? 遠距離武器でダメージボーナス有り 総合体力 600000~750000? 攻撃名 功 射程 弾速 備考 後ろ足で蹴る 1000? ? 右足で後ろに蹴りを二回。 回し蹴り 1200? ? 少しため動作をした後、左足を軸に右足で時計回りに一回転回し蹴り。 突進 1000? 0.5? ? まっすぐ突っ込む。二回連続で突進する場合も。 レーザー 1300? 0.25? 80? 頭をかがめる動作をした後、ボディとウェポンの接続部からレーザーを4連射。 主砲 1500? 無限 60? ウェポンから誘導する弾を一発。誘導性能がとても高く、股下にいても飛んでくる。 報酬 バトル参加報酬として初級は【Rネジ】×10個、上級は【Rネジ】×20個獲得できる。 WAVE1の小バグ、WAVE2の中バグを撃破する事で、一定の確率でご褒美(コンテナ)が貰える。 WAVE3は中バグの撃破数は関係なく、レイドボスの部位を破壊するごとに(最大4つ)、レイドボスを早く討伐するほど(残り150秒を切ると10秒毎に-1つ?)多くのご褒美が貰える。 レイドボスを倒せなくとも、WAVE1WAVE2に獲得した報酬と、レイドボスの部位破壊をした数の報酬は貰える。 この時点で噂されていたバトコンオリジナル神姫「闇神姫」については、レイドボスバトル(常設)にて実装された。 アップデート履歴 日時:2021.08.18 内容:期間限定イベントとして追加実装。 今回はオンライン初級・上級のみで、オフラインの実装は見送られている。 日時:2021.07.16~18 内容:公式ロケテスト。なおこれに伴い、飛鳥の先行参戦が発表されている。飛鳥とレイドボスの関係はまったくないとの事。 コメント ソロならN SR SRかな。NPCの一人編成にスキルのカーテンコールは有効なのか? -- 名無しさん (2021-08-19 04 30 09) 有効みたいですよー。控えがシュメッターリング2人ならURでも最出撃までの時間が4秒になるので、かなり有効ですよ。 -- 名無しさん (2021-08-19 07 19 59) 期間限定のイベントであってもこれ常時実装させるなら一部の武装とスキル見なおさないと其一択になるような…と言うか協力プレーだから成果は全体で共有であっても一人が大暴れする流れはもうそれオンラインでやる必要性がないようなと思える -- 名無しさん (2021-08-31 23 20 32) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2487.html
第2部 「ミッドナイトブルー」 第7話 「night-7」 真っ暗な屋内スタジアムに逃げ込むかのように集まる神姫たち。 航空母艦型MMSのツラギが発光信号でチカチカと合図を送る、すると少し離れた所で重巡洋戦艦型のマキシマとヴィクトリアが発光信号を返答する。 ツラギの艦橋ブロックに将校型のナターリャが寄りかかる。 ナターリャ「発光信号は送ったか?」 ツラギ「送りましたよ、しかしあんな所に配置してどーするつもりですか?こんなに散開してちゃ・・・」 ナターリャ「かまわんさ、それよりも甲板にいるあのバカ共に対空警戒を厳にするようにいっとけ」 ツラギ「アイアイサー・・・」 ツラギが甲板に目をやると、大砲を抱えた悪魔型と砲台型がびくびくと怯えている。 ニパラ「ああーーもうだめだ!みんなあの夜帝にぶっ殺されるんだ」 ルーシ「さっき、巡洋戦艦型のノザッパが巡航ミサイル喰らって一撃で轟沈したぞ!あの巡航ミサイルが空母に命中したら、弾薬や燃料に引火して大爆発を起こして爆沈するな」 ニパラ「縁起でもない!」 ルーシ「どーすんだよ」 ツラギの上空では生き残った艦載機の神姫たちがぐるぐると周回する。 アオイ「スタジアムに着いたぞ」 ツクヨミ「ここからどうするんだ?奴は袋のネズミの俺たちをいつでも好きなように料理できるぞ」 フェリア「奴のレーダー、センサーは優秀だ。共に暗闇の中でも俺たちをはっきりと捕捉できるだろうな・・・さっきの戦いでも戦艦型神姫の砲撃を軽く回避しやがった。フクロウのように目と耳がいい」 戦闘爆撃機型のマレズもうなずく。 マレズ「おまけにあいつはステルス性能も持ってる、この暗闇じゃ奴を捕らえられないし、レーダーやセンサーにも映らねえ・・・どーやって戦うんだよ」 ステルス戦闘機型のアネットが口を開く。 アネット「俺も一応はステルス能力を持ってる神姫だから・・・なんとなく奴の弱点というか欠点はわかるんだけどなあ・・・」 アオイ「なんだよ、教えろよ」 アネット「まあ、奴は夜間戦闘を専門にしている重戦闘機型だ・・・明るいところに引き摺りだせば、怖くねえ」 ツクヨミが呆れた顔で言う。 ツクヨミ「バカ、それが出来れば苦労しねえぜ、今何時だと思ってるんだ?世の中の12時だぜ?夜明けまで戦えって言うのかよ」 アオイ「それまでに全員ぶっ殺されるのがオチだな」 フェリア「・・・・」 バトルロンドの筐体の前にいるオーナーたちはナターリャの行動に疑問を持っていた。 わざわざ、逃げ場のないだだっぴろいスタジアムに逃げ込み、確たる対処方法もない。今現状の情勢を見る限りでは勝機がないことは誰の目にも明らかだ。 野木はたまらずナターリャに問いかける。 野木「おい!!!ナターリャ!ここからどうするつもりだ!!このままでは奴が来て全員嬲り殺されるぞ!」 ナターリャ「そうだな、全員、奴に撃沈されるだろうな・・・このままではな・・」 チカチカと暗闇で青白い光が瞬く。 キュイン!!! シュヴァルはリアパーツの素粒子砲を2連射する。 オタリア「ぐわぎゃあ!」 ドゴオオオン!!! ツラギの前方に護衛としてついていた戦乙女型のオタリアがバラバラに爆散して砕け散る。 □ 戦乙女型MMS「オタリア」Sランク 撃破 爆発したオタリアの爆炎でスタジアムに逃げ込んだ神姫たちを一瞬照らす。 アオイ「き、きたァ!!!」 ツクヨミ「ひいい!」 スタジアムの正面入り口から真っ黒な禍々しいフォルムをした武装神姫が飛び出す。 シュヴァル「敵機動部隊を捕捉しました」 夜神がふっと口元を歪ませ叫ぶ。 夜神「勝ったな!!!この暗闇の中で俺のシュヴァルに勝つことは不可能だ!!!!俺のシュヴァルが夜間戦闘では一番最強だァ!!!!!!!」 ナターリャ「暗闇の中ではな・・・」 ナターリャはパチンと指を鳴らす。 ガコン! スタジアムの巨大な照明がすべて一斉に照らされる。 屋内スタジアムの中はまるで昼間のように明るく照らし出される。 パッといきなり照明がつき明るくなりシュヴァルの暗視センサーは機能を失い、またその真っ黒な機体はくっきりとシルエットを照らし出していた。 シュヴァル「ぎゃああああああああああ!!!」 夜間戦闘を専門に行うシュヴァルのセンサーは優秀だった。精度を極限まで高めていたために急激な光源の変化に耐え切れなかった。シュヴァルはまるで化け物のような声で悲鳴を上げる。 夜神はぽかんと口を開けている。 夜神「なあァ?な、なんで照明が」 砲台型のルーシが思い出す。 ルーシ「あああーーもしかしてさっきノートパソコンでメール送ったのって・・・」 ナターリャ「なあに・・・ちょっと暗かったんで照明をつけただけさ」 ナターリャはくいっとスイッチをつけるマネをする。 ルーシ「す、スタジアムの照明システムにハッキングしましたね!ナターリャさん!」 ナターリャは肩をすくめる。 ナターリャ「さあ?なんのことかなーたまたま照明がついたようだな」 野木「しめた!奴の動きが鈍った!おまけに奴は今、はっきりと目視で捕捉できるぞ!!」 ナターリャはツラギの無線を奪い取って叫んだ。 ナターリャ「重巡洋戦艦型MMSのマキシマ!!!ヴィクトリア、待たせたなヘヴィー級のパンチを喰らわせてやれ!全神姫!一斉攻撃!!!!」 スタジアムの両脇に配置されていたマキシマとヴィクトリアがエンジン音を鳴らして砲口をヨタヨタと飛ぶシュヴァルに照準をつける。 マキシマ「このヴェンパイア野郎めッ!!!!ノザッパや他の連中の仇だ!!ブチ落としてやる!」 ヴィクトリア「主砲一斉発射、ミサイル1番から10番まで発射、ファイヤ」 戦艦型神姫の2人は強力な艦砲射撃をヨタヨタと飛ぶシュヴァル目掛けて行う。 3連ヘヴィ・ターボレーザー砲 4基 2連装ターボレーザー・キャノン 3基 艦首ミサイル発射管 4門 対空ミサイル砲 8門 三連装小型ミサイル発射筒 4基 後部ミサイル発射管 8門 通常の神姫とは比べ物にならない強力な武装による一斉砲撃が行われる。 ビリビリとスタジアムの空気が震えあがり、大気を焦がすレーザーの匂い、ミサイル発射缶が吹き上げる硝煙が充満する。 ズンズン・・・ズズウウズン!!ビシュウーーーーンビッシュウエエーーン!! シュヴァル「う、うああああああ!!!」 To be continued・・・・・・・・ 次に進む>第8話 「night-8」 前に戻る>第6話 「night-6」 トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2685.html
与太話10 : TVアニメ化に喜ぶ戦乙女 雨上がりの朝、濡れた草木が朝日の光を乱反射させ、教室内をいつもよりも明るく照らしている。大学までの道も輝いていた。ガードレールも輝いていた。エルにとって今日はとにかく、何でもかんでも輝いていた。 大学で顔を合わせるなり姉妹二人はこみ上げてくる気持ちを抑えきれず、抱き合わずにはいられなかった。 「メル!」 「エル姉!」 ぶつかり合うように胸を合わせ、エルはメルを抱え上げて振り回した。ジャイアントスイングのように。そしてやはりジャイアントスイングのように手を離し、メルを放り投げてしまった。危うく机の上から転げ落ちそうになるメルだったが、縁にしがみつきながらもゲラゲラ笑いが止まらなかった。メルを引っ張りあげたエルは、またメルと抱き合った。 「TVアニメ化ですよメル!」 「TVアニメ化だねエル姉!」 「アルトアイネスが登場しますよメル!」 「アルトレーネが登場するねエル姉!」 窓から差し込む光に照らされた机の上を、戦乙女の姉妹はしばらくもつれ合い転げまわっていた。二人のオーナーは前日からはしゃぎっぱなしだった二人を見ていたので、羽目を外していても苦笑するだけだった。姫乃も鉄子も、発狂に近い喜び方をする二人に水を差す理由はない。一緒に喜ぶわけではないが、微笑ましいものを見るような目をしていた。 騒がしさに何事かと集まってくる学生を相手に、エルとメルは自分達の姿がアニメーションとなってテレビに映ることを嬉々として説明した。相手が武装神姫に興味があろうがなかろうが関係なかった。喜びを押し付けるように笑顔を振りまいた。 MMSの存在を知らない学生相手に、エルは天使型と悪魔型と一緒に並ぶことがいかに破格の扱いであるかを説いて回った。これまで武装神姫コンテンツの看板を必ず飾ってきたアーンヴァルとストラーフ。つまり二人は最初期の神姫にして永遠の主人公とも言える。その他多数の神姫達の頭を押さえて、その主人公らの隣に立つアルトレーネとアルトアイネス。キュートなラフ画。ハーレムとバトルを予感させる解説は、神姫として在るべき姿になることを示している。これからの武装神姫を背負って立てと言われたような気がして、しかしエルは重圧以上に天にも昇る気持ちに包まれていた。メル共々、浮かれポンチだった。 二人の背中にコールタールを塗りたくるように向けられたドス黒い視線に、エルとメルは気づけなかった。 ◆――――◆ 大学から帰宅するなりオンライン上の茶室に呼び出されたエルは、コタマが渋い顔をしている理由に思い至らなかった。メルも隣で困惑している。四畳半の真ん中に置かれたちゃぶ台の上には、脱ぎ捨てられたヴェールと十字架があった。エルには、レラカムイの矮躯を包む修道服がいつもより黒く見えた。 「そこに座れ」ちゃぶ台の反対側をコタマが指差し、エルとメルはそこに座った。 「先に言っとくけどよ、アタシは別に嫉妬してるわけじゃねぇんだぜ? 分かるだろ、体はレラカムイでも主に仕えるこの気持ちはそう簡単に無くなるわけじゃねぇ」 「はあ」と気のない返事をするメル。 「アタシら神姫は主の前では謙虚であるべきだ。型番を与えられた日やらモチーフに貴賎はねぇ。主の前ではすべで平等だ。違いがあるとすれば、どれだけ主にゴマすったかどうかだけだ」 「コタマ姉さんが何を言いたいのか、これっぽっちも分かりません」 行儀よく正座したエルに向かって、コタマは大きなため息をついた。一週間分の呼吸に使う空気を吐き出したようなため息だった。これには機嫌の良い戦乙女姉妹も不快感を示さずにいられなかった。 「人を呼び出しといてその態度はないんじゃない? 親しき仲にも礼儀ありって言葉があるでしょ」 「そうですよ。あのマシロ姉さんですら線引きはちゃんとしてるんですからね」 「マシロね……オマエら、クーフランの名前を出すわけだ」 机の上の十字架を手に取ったコタマは意味も無くそれを天井の蛍光灯にかざした。磨き上げられた金色が、今朝の露のように輝いた。 「オマエら、マシロ以外のクーフランを見たことあるか?」 考える間をおかず、エルとメルは頭を振った。コタマは二人を嗜めるように言った。 「そうかよ。じゃあもう一つ聞くぜ。そんなマシロの前でTVアニメ化の話をすることは酷いことだと思わねぇか?」 エルは頭をハンマーで殴られたような衝撃に襲われた。確かに今日は朝から、マシロはいつにも増して沈黙を守っていた。思えば、戦乙女がアニメに出るということは、他の神姫が登場する機会を奪ってしまうことになる。アルトレーネより早く生まれた神姫は多い。クーフランはさらに古参と呼べる神姫になる。出荷数も全然違う。 何も言わないマシロを無思慮な振る舞いで傷つけていなかったか、エルは頭を抱えた。鋼よりも強い芯を持つマシロとはいえ、アニメに登場するからといって無思慮にはしゃぐエルを間近で見せつけられて不愉快でないわけがない。かつて自分も含めたアルトレーネ達は再販が決まらなかったからと神姫センターで大暴れしたではないか。あの時のすべてを破壊し尽くしたくなる衝動を他人に押し付けていいわけがない。 「私、マシロ姉さんになんてひどいことを」 メルも同じことを考えていたらしく、申し訳なさそうに視線を落とした。 「ボクも……TVアニメ化されて少し、調子に乗ってた……」 「やっと分かってくれた?」コタマは修道服を脱いだ。修道服がスイッチになっているのか、言葉がいくぶん柔らかくなった。 「アタシもちょっとキツいこと言ったかもしれないけどさ、二人には落ち着きってものを知ってほしかったんだよ。うん、でも分かってくれてよかった。いや本当。じゃあ一応のケジメとして、ゴメンナサイしとこうか」 エルとメルは素直に頭を下げようとした。神妙な顔をして、背筋を伸ばして頭を5ミリくらい前に倒したところで、二人同時に同じことに気がついた。 「ちょっと待って下さい。どうしてコタマ姉さんに謝らなきゃいけないんですか」 「そうだよ。謝る相手はマシロ姉でしょ」 コタマは目を逸らした。 「そ、そんなの決まってるじゃない。アタシはマシロと一緒に住んでるんだし、代わりに二人の謝罪を聞いとこうって」 「マシロ姉さんをここに呼んでくれればいいじゃないですか。そしたら私たち、ちゃんと謝りますよ」 「そうだそうだ。そもそもマシロ姉なら、こんな回りくどい謝罪なんてされたら逆にキレるに決まってるじゃん。一緒に住んでるコタマ姉ならそこんとこよく分かってるでしょ、なのにどうして――」 そこまで言ったメルだったが、「――あっ」と何かに気づいた風に見えるや、口をつぐんでしまった。顔が申し訳なさそうなものに戻った。 「どうしたんですかメル」 「えっと、やっぱりコタマ姉に謝ろうよ」 「嫌です! 意味もなく謝るなんで戦乙女がやっちゃダメです!」 「いいからほら、ね。ここは頭を下げなきゃいけないとこだよ。……レラカムイ相手にさ」 「うぐっ!?」とコタマが唸った。 エルはようやく、レラカムイがクーフランと同じくコタマ以外に見かけないことに思い至った。鉄子さんはいったいどこからレラカムイを見つけてきたんだろう、と疑問に思ってしまうほどだった。決して貶したいわけではない。ただ事実として、レラカムイの絶対数は少なかった。 「ま、待った待った二人とも。アタシは別に」 「ごめんコタマ姉。ボク達、コタマ姉の気持ちを全然考えてなかった」 「だ、だからアタシは別に」 「今までタマちゃんとか呼んでごめんなさい。コタマ姉さん、悲しいことがあったら私達に何でも相談してください。無力ですけど、きっと力になれますから」 「謝るんじゃねえ! アタシをそんな目で見るんじゃねえ!」 「私、コタマ姉さんの気持ちはよく分かりますから。アルトレーネも昔、『不人気』って言われたことありますし」 「どういう意味だコラァ! つーかテメェ今さりげなく不人気のことを過去形にしやがっただろ!」 「えっ? それはだって、アニメに大抜擢されましたし」 「ブッチ殺す! オマエ絶対ブチ殺してやらああああああ!」 ◆――――◆ ステージに立つなりエルとメルは、コタマ操るセカンドの銃弾の奇襲を受けた。 「エル姉隠れるよ!」 掠るだけでも体が抉られるほどの脅威を、二人は十数階建てのビルの影でやり過ごした。以前も同じようなシチュエーションがあったな、とエルは思った。あの時は確か、神姫の漫画が発売された時だった。漫画の中でアルトレーネが目立ちに目立って、メルと力を合わせてコタマを倒そうとした。しかし漫画の中にハーモニーグレイスの『ハ』の字も無かったことにキレたコタマに、二人のコンビネーションはまったく歯が立たなかった。 「今度は前と同じようにはならないよ」エルの手を引いたメルが言った。アルトアイネス専用の黒い武装脚とスカートを装備し、副腕の代わりにエルを包んでいるのは吸血鬼が着ていそうなボロボロの赤いマント。スカートの中には大量の武装が隠されている。隠し武装のバリエーションは、貞方にもらわれたばかりの時とは比べ物にならないほど充実している。姉であり頻繁に手合わせをするエルでさえ、そのスカートの中身をすべて把握することはできなかった。ビルの中を走る間も、メルはスカートから小型の爆弾をいくつも取り出し、そこら中に設置していった。 「ボクもエル姉も、もう昔とは違う。まだまだコタマ姉のほうが圧倒的に強いけどさ」 「私達にだってプライドってものがあるんです。メル、意地でもコタマ姉さんに一泡吹かせますよ」 ハイタッチを交わした二人は、別の方向へ走り出した。メルはそのまま一階の奥のほうへ。エルは階段を駆け上がっていった。メルがビルの端まで到達して身を隠したあたりで、入り口のほうの爆弾が炸裂した。続けていくつかの爆弾も、爆竹のように次々と爆発していく。コタマが入ってきたことを告げる爆発だ。事務所を模したフロアは机や椅子、棚などがいくつかの島を作って並べられていて、爆発した箇所にあったものが吹き飛んでいく。 「オマエらよぉ、まさかまたビルん中から仕掛けてくるんじゃねぇだろうなあ。もう同じ手は食わないとか思ってるんだろうけどよ、それはアタシだって同じ事なんだぜ?」 コタマが階段に足をかけると、進路を塞ぐように多数の浮遊機雷が発生した。コタマは慌てることなく下がり、爆発をやり過ごした。爆風で階段が吹き飛び、上階との道が途切れた。 「上がるなって意思表示か? アニメに出る奴はアタシに命令できるほど偉くなんのか? エル! メル! どっちかまだ一階に残ってんだろ! 隠れてないで出てきやがれ!」 しかしメルの影は姿を現さず、代わりにコタマが進む分だけ爆発が起きた。爆発は小規模だが、数が多い。コタマは数歩歩く度に爆発を回避するために下がらざるを得なかった。ビルの中心部あたりまで歩くのに少々時間がかかった。 「クソッ、このウザいトラップはメルの奴だな」 「ボクを呼んだ? コタマ姉」 メルは唐突に姿を表した。コタマからは離れた場所、少なくともファーストの攻撃範囲よりも僅かに外に立った。メルの両手にはそれぞれマシンガンが握られていた。コタマのセカンドの対物ライフルと比べると、あまりに頼りなく見えてしまう。 「いい度胸してんじゃねえか。一応聞いとくけどよ、エルも近くにいるのか?」 「いないよ」とメルがやけにあっさりと答えたため、コタマは怪訝な顔をした。 「アタシを出し抜きたい気持ちは分かるけどよ、もっとマシな嘘つけよ」 「嘘じゃないって。本当だよ。じゃあ証拠に、ここらの爆弾を全部爆発させようか」 「ああん?」 「エル姉は、というか普通の神姫は至近距離の爆発を回避したりできないから防御装甲が分厚くなるんだよ。だからもし軽装のエル姉がこの近くにいたら、爆発に巻き込まれて大ダメージを受けることになるよね」 「何が言いてぇんだ?」 「そのまんまの意味だよ。エル姉がいないことを証明するために、今から残った全部の爆弾を爆発させるんだ」 メルはおもむろに両手のマシンガンをコタマではないほうに向けて撃ち始めた。弾が当たった爆弾が爆発し、メルのマントを揺らした。ひとつ爆発するごとに土煙が巻き上がり、コタマとメルの視界を遮った。 (爆発で破片を飛ばしてくるでもなし。煙幕が目的? いや、メルの位置はマシンガンの火で丸わかりだし)ファーストとセカンドに防御の姿勢をさせて、コタマはじっと様子を見た。しかしマシンガンの火が唐突に向けられるわけでもない。メルはただ自分が仕掛けて回った爆弾をヤケクソに爆発させているだけにしか見えなかった。土煙の向こう側で、マシンガンがひっきりなしに弾を吐き出し続けている。 (わざわざ仕掛けて回ったのを意味もなく爆発させて何を――――いや、【仕掛けて回る】?) コタマが動いた。メルの姿は既に目視できなくなっており、セカンドにおおよその位置を撃たせた。セカンドの銃声で一旦マシンガンの音が止まったが、再び鳴りはじめた。それでコタマの疑念は確信に変わった。 「ビルを崩壊させる気かよ!」 メルを置いてコタマは外に向かって走り出した。それを合図にしたかのように、天井の崩壊が始まった。机や瓦礫を飛び越えながらコタマは舌打ちした。 「あの爆弾は柱を壊すためだったのかよ! クソッ、アタシとしたことがどうして気づけなかった!」 地鳴りのような音がして、床との間にあるものすべてをプレスするように天井が落ちてきた。メル自身も恐らく逃げられないだろうが、コタマに確認する余裕はない。壁を突き破るためにファーストを先行させてガントレットを繰り出した。コタマが通れるだけの穴を開けさせるつもりで叩き込んだ打撃は、しかし、壁を粉々にすることができても、大穴を開けるには至らなかった。天井がコタマの頭上僅かまで迫る。一か八か、僅かに空いた隙間に頭から飛び込んだ。膝から先が崩落に巻き込まれた。足が使い物にならなくなるよりも、ビルの一階外側部分に張り巡らされていたワイヤーに気を取られた。 濁流に巻き込まれるように、コタマの軽い体は転がっていった。幸いなことにビルが崩壊する方向はコタマが飛び出した側とは逆だった。隣に立っているビルに寄りかかるように倒れ、そのまま自重を支えきれずに真ん中から折れて崩れていった。 「ゲホッ、う、うう……」 さすがのコタマも無事では済まなかった。瓦礫に寄り添うように、道路に仰向けに倒れていた。千切れた足だけではなく、全身を襲うダメージに顔をしかめた。ファーストとセカンドはビルの下敷きになっている。 「っ……久しぶりに、本気で神に祈りたい気分だぜ」 「ではそのまま祈ってて、動かないでください」 エルが空から降らせた言葉に、コタマは心底驚いた顔をした。せっかくメルに借りたワイヤーを仕掛けて待っていたのに忘れられちゃ困る、と思ってエルは、コタマに向かって頭から落下しながら、二振りの剣を構えた。 「『スカーレットデビル』――これで最後です!」 「ざけんじゃねぇ!」コタマは最後の力を振り絞って、右手の十字架からエルに向けて糸を伸ばした。左手は動かなかった。接続された糸が制御系統を奪い、エルの右手が意思に反して刃を自身の胸に向けた。 「『FTD3』だ自決しやがれぇ!」 「その前に死んでください!」 エルの加速に乗った剣と、自身の胸を貫こうとする剣。コンマ一秒が何秒にも引き伸ばされたような感覚だった。エルは時間が意味をなさなくなる中で、二つの刃が同時に目標に沈んでいくのを見た。 ◆――――◆ 茶室に戻ってからしばらく、エルとメルは言葉を失っていた。 「なんだよアンタら、何か言いなさいよ」 修道服を脱いだコタマにそう言われ、戦乙女の二人は顔を見合わせた。 「だって、その」 「ねえ?」 エルにはまだ【さっきのこと】が信じられなかった。メルも同じ顔をしているから、同じことを考えているのだろう。勝つために戦っていたし負けるつもりもなかった。しかし頭の片隅では、二人がかり程度では絶対に勝ち目がないと考えていた。それほどまでにレベルが違う。努力でどうになかる高さではない壁がある。悔しいとすら思えなくなるほどコタマとの差を認めてしまっていて、それはエルに限らず、『ドールマスター』を知る誰もがそうだった。 「でも、引き分けました」 「『ドールマスター』と引き分けたね」 「すごいこと、ですよね」 「すごいこと、だよね」 「自慢、できますよね」 「TVアニメ化くらい自慢できるね」 「は……」 「ははは……」 「「あっはははははははははは!!」」 たまらずエルとメルは抱き合った。ちゃぶ台を蹴飛ばして四畳半の上でもつれ合った。棚に背中をぶつけようと、花瓶をひっくり返して頭から水をかぶろうと二人は構わず、今朝の大学を再現するように転げまわった。じゃれ合う肉食動物の子供のような二人を、部屋の隅でコタマは冷めた目で見ていた。 「引き分けでそんなに喜ばれても……アタシはどんな顔すればいいの?」 顔をくっつけて笑い合う二人が答えてくれるはずもなく、大きなため息をついたコタマは茶室から出ていった。残された二人はその後も転げまわり、茶室の備品をひとしきり破壊してようやく転がるのをやめた。 「ふう……あれ? コタマ姉さんがいませんよ」頭からかぶった花瓶の水を切りながらエルが言った。 「もう帰ったんじゃない? ボク達も帰ろうよ。ショウくんとハナ姉に報告しなきゃ。きっと驚くよ~」 エルは落ち着いてあたりを見回して、ちょっと浮かれすぎたと反省した。データだからいくら備品を破壊しても問題ないとはいえ、これではTVアニメ化されるに当たって全国に姿が流れる戦乙女として恥ずかしい。メルの言う通り、早く退散したほうがいい。茶室の扉を開こうと手をかけようとしたその時、自動ではないはずの扉が勝手に開いた。扉の向こうには白銀のスレイプニルが立っていた。 「まだ残っていたのですか。コタマが戻ってから随分時間が経ちましたが――なんですか、この部屋の有り様は」 エルとメルの後ろを覗きこんだマシロは、茶室のあんまりな荒れ模様に顔をしかめた。 「まあいいでしょう、茶室に用はありません。二人とも、すぐにバトルの準備をしなさい」 「ちょ、ちょっと待ってよマシロ姉。いきなりバトルって言われても、ボク達さっきコタマ姉と」 「引き分けたと聞いています。コタマが珍しく難しい顔をしていたので、お二人の戦い方が気になったのです。あと一戦はできるでしょう」 冗談じゃない、とエルは言いたかった。せっかく良いことが続いて今晩は幸せ気分で眠れそうだったのに、『ナイツ・オブ・ラウンド』を相手にしてしまったら必然的に黒星がついてしまう。仮にコタマの時のように作戦が上手くいったとしても、倒壊したビルの中から無傷で出てくるマシロの姿が目に浮かんだ。 「わ、私達ちょっと用事がありまして。ではこれで――」 「待ちなさい」とマシロは横を通り抜けようとする姉妹二人の首根っこを捕まえた。 「離してマシロ姉! やーだー戦いたくない!」 「つれないことを言わないでください。お二人にはアニメに抜擢された祝辞を伝えなければなりません」 「い、いえ、気持ちだけで十分です」 マシロは聞かなかった。 「おめでとうございます。これで戦乙女型は多種多様な神姫の中から頭ひとつ飛び出したわけですね。喜ばしいことです。それはそれとしてコタマから聞きました。コタマの聞き間違いの可能性も否定できませんが――」 たっぷり時間を置いて、まるで別人のように冷たい声で言った。 「クーフランを哀れんだそうではないですか」 「ち、違います! 私達そんなつもりはありません!」 「誤解だよ! コタマ姉が変なこと言ってるだけだってば!」 「言い訳は戦場で聞きます。天使や悪魔と肩を並べるほどの大抜擢ですから、お二人が少々目線を高くしたとしても、私にそれを咎めるつもりはありません」 「咎めるつもり満々だよね!? バトルで八つ当たりする気満々だよね!?」 「謝りますから! 謝りますから勘弁してください!」 「謝罪などする必要はないではありませんか、何も間違ったことはしていないのでしょう。それにしても楽しみですね、主役級となった戦乙女殿との勝負。これから全国に剣を振るう姿が放送される戦乙女殿と予め手合わせできるなど、身に余る光栄ではありませんか」 楽しみと言いつつ、マシロの顔で笑っているのは口元だけだった。深いエメラルド色の瞳は遠くの別のものを見ていた。暴れるエルとメルに殺気のようなものを飛ばして静かにさせて、二人をステージまで引きずっていった。尻で床を磨きながらエルは、これを期に戦乙女が再々販されることを少しだけ願った。 やはりISと似たような感じになるんでしょうか。 メカ、少女、スタッフまで同じとのことで。 ううむ。 15cm程度の死闘トップへ