約 514,074 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2271.html
1st RONDO 『どいつもこいつも神姫マスター』 『ホイホイさん』 という人形をご存知だろうか。 そのネーミングからなんとなく想像がつくように、この人形は殺虫剤をものともせず室内を走り回る “黒い閃光(通称G)” を駆除するためにマーズ製薬㈱によって生み出された――とはとても思えない、3.5頭身の可愛らしい殺虫人形だ。 俺がまだ高校生2年生だった頃に市場に出回ってからというもの、授業中に持ち主の鞄から抜け出し校舎内を徘徊するホイホイさんが後を絶たなかった。 思い思いの装備に身を包んだホイホイさんは片っ端から害虫をデストロイし、そこら中に死骸の山を築き、挙句の果てに生物部で飼育していた小動物にすら手を掛けてしまったのだが、そこはまあ、どうでもいい。 マーズ製薬曰く 「ホイホイさんは(ゴキブリに殺虫剤が効かなくなったから)冗談のつもりだったのに生産が追いつかない」 と続々とホイホイさんアナザーバージョンを生み出し、他の製薬会社もホイホイさん同様の機種を続々と発表していた頃、大手玩具メーカーのコナミ㈱から、 『武装神姫』 という人形が発売された。 こちらもホイホイさんのように武装させる人形なのだが、大きく違う点として、 ・種類にもよるが、頭身は5~6。ヒトガタに近い。 ・武装は神姫同士の勝負を楽しむためにある。 Gを駆除するためではない。 ・人間と遜色ない会話・行動が可能。腕などの関節部を見なければほとんど小人。 が挙げられる。 スペックの高さから分かるように値は張るものの、この “心を持った人形” で勝負を楽しむだけではなく、生活のパートナーとして扱う者も多い。 さて、男ならば当然の発想として(?)、ホイホイさんと神姫を戦わせてみたくなる。 異種格闘戦にときめかない男など男ではない。 たぶん。 そしてそのトキメキは弓道部内で唯一の神姫マスターであった部長と、その他複数人のホイホイさん達によって実現することとなった。 後に “Mの悲劇” と呼ばれる事件である。 あまりにも酷たらしく、そして惨たらしく殺壊された猫型神姫マオチャオは観戦していた部員達に強烈なトラウマを植えつけた。 その話はまたいつの機会に取っておくとして。 それから大学に進学した今日に至るまで俺は、神姫を購入したくても手を出せないでいる。 ▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽ 夢のキャンパスライフ。 そんなものは所詮夢であったと思い知らされた大学一年目が終わり、しかし春の風と共に乗ってきた幸福感をたっぷりと噛み締め、二年目は軽快に滑り出した。 何せ人生初となる彼女ができたのだ。 春とはいえ過剰に浮かれポンチになっていたとしても、多少は目を瞑ってもらいたい。 それができないならば、俺が無理矢理にでも目を逸らさせてくれよう。 姫乃を有象無象の濁りきった目に晒したくないのだ。 独占欲とはこういうことかと、今更ながらに知った背比弧域である。 しかし現実的に姫乃を独占するのは難しく、今はお互い離れた席に座り、姫乃は彼女の友人達とひそひそおしゃべりを楽しみ、俺の隣には 「すぴー……こーほー……」 講義の最中であろうとお構いなしにふんぞり返って爆睡する貞方がいる。 だらしなく開かれた口に水で濡らしたティッシュを詰め込みたくなる。 人が真面目にノートを取っているというのに、こいつは講義が始まる前から寝息を立てていて、しかもそれでいてこいつは “ノートをしっかりと取っているのだ”。 貞方の机の上で教授の板書が綺麗に現在進行形でまとめられている。 ノートの上で自分の背丈と変わらないシャープペンを一生懸命動かすのは貞方の神姫の、 ええと―― 「ハナコです。 よろしくお願いします、背比さん」 俺の視線に気づいた神姫に突然話しかけられ、うっかりシャープペンを落としてしまった。 まさかいきなり自己紹介されるとは思わなかったから驚いた、わけではない。 というかハナコとはほぼ毎日顔をあわせている。 幼い頃テレビで 「一度会ったら友達で、毎日会ったら兄弟だ」 と着ぐるみ4匹に教わったのを思い出した(昔の教育番組の再放送だった気がする)。 ということは、俺とハナコは兄妹ってわけだ。 ……必然的に貞方とも兄弟になってしまった。 このハナコと名乗る勘のいい神姫は犬型のハウリンと呼ばれるタイプだ。 ケモテック社ならではのコミカルで愛くるしい見た目が特徴的で、 ――マオチャオと同時に発売されただけあって、そのシルエットはトラウマを呼び覚ます。 「……神姫って読心機能ついてんの?」 「あ、いえ。 私の名前を忘れたなー、という顔をされていたので」 そう言ってペコリと頭を下げ、再び作業に戻った。 今は身体を服っぽくペイントされているだけだが、貞方がこの神姫を買ったときに一度 「どうよ俺のハナコ、イカすだろ!」 と武器を持たせた状態で見せられたことがあった。 その時は頭に犬に似せた被り物をさせて、手足もアニメ調の犬らしくなっていた。 なるほど、犬型ね。 ダメ飼い主に文句も言わずノートを取る姿を眺めていると、なんだか俺が心苦しくなってくる。 シャープペンを両手と脇で器用に支えて字を書き、芯が短くなればシャープペンを逆さに持って机に杭を立てるようにノック。 字は綺麗でもさすがに書く速さはどうしようもないらしく、教授の板書について行くためにさっきから一息つくこともなく手を……じゃなく、身体を動かしている。 俺のノートを後でコピーさせてあげたくなるが、結局それが貞方の手に渡ることになるのが気に食わないので、ハナコには申し訳ないのだが、ダメ飼い主を引き当ててしまった運命を全うしてもらうより他はない。 いや待て、何故俺がハナコに気を使わねばならんのだ。 それにしてもハナコの字、綺麗だなあ。 ロボットだからなのか、書道の手本のような明朝体だ。 ……人形よりも字が汚いんだな、俺って。 「あ! ……すみません、背比さん」 「うん?」 「その、大変申し訳ないのですが、シャープペンの芯を一本頂けませんか。 後でちゃんとお返ししますから」 「いや、芯くらいいくらでもやるよ。 ダメ飼い主を持って大変だろ」 「いえ、とんでもな――あ、ありがとうございます――ショウくんのためになれて嬉しいですから」 そう言って、ハナコは微塵の邪気も混ぜずにはにかんだ。 健気だ。 健気すぎる。 その笑顔が眩しすぎて、 「いや、代わりにノートをとるのは貞方のためにならないぞ」 とは口が裂けても言い出せなかった。 というか貞方、自分のことを 「ショウくん」 って呼ばせてるのか。 いつもは 「マスター」 だったと思ったが――ああ、そういうことか。 「なあ。 普段は貞方のことを何て呼んでるんだ」 「普段からショウくんですよ。 でも外では恥ずかしいからマスターと呼べと言わ…………」 「ほう。 普段はショウくん、ね」 「~~~~っ!!」 シャープペンを放り投げてその場に丸くなってしまった。 頭隠して身体隠さず。 抱えた頭を少しだけ上げてこちらを上目遣いで見るハナコ。 どうする、アイフル(何年前のCMだ)。 ただのレンズであるはずの瞳が潤んでいるように見えて、少しだけ、この神姫を可愛いと思ってしまった。 「あ、あの、このことはショ……マスターには、」 「分かってるって。 言わないから安心してくれ」 俺だって知りたくなかったよ。 こいつが人形に 「ショウくん」 と呼ばせてるだなんて。 ホッと胸をなで下ろす仕草も可愛らしく、 「では、くれぐれもよろしくお願いします」 とペコリと頭を下げ、再びシャープペンを抱えた。 まあ、正直に言うと、神姫に自分のことを愛称で呼ばせたくなるのは分からないでもない。 未だ “Mの悲劇” を引きずっているとはいえ、貞方とハナコのように良い付き合い方 (この場合は仲が良いことを指すのであって、神姫にノートを取らせるのはマスターとして、いや人として駄目だ) を見ていると、人間と人形のそんな関係もアリなんだろうな、と思えてくる。 いや、もちろん俺には一ノ傘姫乃という無敵に素敵な彼女がいるわけだが。 ボロアパートの一室、俺の部屋の中に身長15cmの小人が住んでいるのを想像すると、ついつい口が緩んでしまう。 ふと気がつくと、ハナコといつの間にか目を覚ました貞方が二人そろって怪訝そうに俺を見ていた。 「何ニヤついてんの、きめぇ」 さっきまでのコイツのアホ面、写真に撮っとけばよかった。 「そういえば背比、神姫買わないの?」 何が悲しくて、彼女ではなくアホ面野郎と昼飯を食わねばならんのか。 男が全生徒の九割以上を占める工業大学では姫乃曰く 「人数少なくても理系でも、女の子は女の子なの。 良くも悪くも」 だそうで、付き合い始めてからまだ一度も二人で昼飯を食べたことがない。 事情は理解しないでもないが、それでも目の前にいるのが貞方というのが、率直に嫌だ。 「あん? なにが?」 「神姫。 一ノ傘さんも持ってるじゃん」 「は!? なにそれ、俺知らねぇんだけど! なんでお前が知ってんの?」 貞方が思いっきり仰け反って顔を引きつらせた。 何やってんだこいつ。 ……と思ったら、いつの間にか俺が貞方を責めるように身を乗り出していた。 「そりゃだって、見たし。 講義ん時に鞄の中にロバ耳の王様みたくしゃべってて、何やってんだと思ったら神姫が顔だけ出してた。 あのツインテールは確かストラーフ型だったと思う」 コイツが知っていて俺が知らないことがあるのも腹立たしいし、それをコイツから聞いたというのも腹立たしい。 今まで姫乃に、神姫に興味がある素振りはなかったように思うが、何せ神姫といえばハイスペックパソコン並に高価な人形だ。 リカちゃん人形のようにそうホイホイと買えるものではない。 (リカちゃん人形にはホイホイさん並の人工知能しか搭載されていない。 子供に悪影響を与える可能性があるのと、人形メーカーとしての誇りがあるとかないとか。) 俺が神姫の話を振っても 「んー、そうねえ」 と生返事を返すだけだった。 それがどうして? いつ、どこで、なぜ姫乃は神姫を購入するに至った? そして何故それを俺に黙っている? ……姫乃が何を買おうと彼女の勝手なのは分かっているつもりでも、どうも、こう、考えが悪い方に悪い方に向かってしまう。 みみっちい男と笑われるかもしれないが(姫乃に限ってそんなことは有り得ないが)、彼女のことはどんなことだろうと把握しておきたいし。 …………まぁ、何だ。 俺と姫乃ではない第三者が表れ、ソイツの影響で神姫に興味を持ったんじゃないかと邪推しているわけだ、俺は。 情けない男だろ。 ちっちゃい男だろ。 「ほら笑えよ。 笑いたいんだろ、無理矢理笑わすぞコラ」 「意味ワカンネーヨ。 っつーか、仮にその第三者がいたとしても、そいつが男とは限らんだろが」 「だから男だったらどうすんだっつってんだろ! お前責任取れんのかこの糞野郎!」 「はぁ!? カツカレーの食い過ぎで頭イカレたかお前。 ってか一ノ傘さんが浮気とかするわけないだろが。 アホか」 「お前に姫乃の何が分かる!! 適当なこと言ってんじゃねええええええ!!」 「テメエも知らなかったじゃねえか! ウダウダ言ってねぇで本人に聞けやあ!!」 「ハナコにショウくんとか呼ばせてんじゃねぇええぇぇぇぇぇぇえええ!!!!」 「おまっ!? 何故それ……はなこぉぉおおおあああああああ!!!!」 食堂で騒ぐ馬鹿が二人。 不毛な罵り合いは、貞方の鞄から出てテーブルによじ登ってきたハナコが仲介に入るまで続いた―――― NEXT RONDO 『そうだ、神姫を買いに行こう ~1/4』 15cm程度の死闘トップへ
https://w.atwiki.jp/vtsr/pages/709.html
Let s 神姫! ~武装神姫の化子ちゃん~ by初音ミク黒子&リン http //www.nicovideo.jp/watch/sm1537677 http //www.nicovideo.jp/watch/sm1537677 Vocaloid2のオリジナル曲 使用Vocaloidは初音ミク 製作者は武装歌劇派 一つ前のページにもどる
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2144.html
ウサギのナミダ ACT 1-23 □ 「雪華さんとの対戦、受けてください……お願いします」 「なぜだ? 今俺たちがバトルしたって……ろくなことにはならないぞ」 「だって、こんなチャンスは滅多にないじゃないですか……秋葉原のチャンピオンと戦うなんて」 そういうおまえは、なんで今にも泣き出しそうな顔してるんだ? なんでそんなに必死そうなんだよ。 「お願いします、マスター……お願いします……」 何度も俺に頭を下げて頼み込むティア。 ティアが相手とのバトルを望むなんて、滅多にないことだ。 だからこそ、理由が分からない。 なんでそんなに雪華と戦いたがる? 東東京地区代表という肩書きが、ティアにとってそんなに魅力的だとは思えないのだが。 「……走れるのか?」 「はい」 結局、折れるのは俺の方だった。 肩をすくめ、ため息をつく。 ティアがそういうのならば仕方がない。 まだもめている、三人の客分の一人に、俺は声をかけた。 「……クイーン」 「なんでしょう」 「俺たちは……知っての通り、ティアの出自のことで、世間からも白眼視されているような状況だ。 ……そんな俺たちとでも、戦えるのか?」 そう。俺たちと戦うだけでも、彼らに迷惑がかかる可能性がある。 それを考えれば、すでに全国大会の代表を決めている神姫と、気安くバトルをすることなどできない。 取材されて、俺たちと対戦したことを白日の下にさらすなどもってのほかだ。 俺はそう思っていた。 だが。 「彼女の出自とバトルに、何の関係があるというのです?」 雪華は即答した。 彼女は噂や風聞で神姫を評価していない。ただ、バトルあるのみ。その姿勢こそが雪華の強さなのか。 「……わかった。対戦を受けよう」 俺の言葉に、ギャラリーがざわめく。 高村と三枝さんも、驚いたように俺を見た。 「ただし、条件がある。 そっちの事情があるにせよ、やはりマスコミの取材は受け入れられない。そこで……」 俺はこんな条件を提示した。 まず、この対戦について、一切記事にしないこと。俺とティアに対するインタビューはもちろん拒否だ。 ただ、何もなしでは三枝さんが困るだろうから、バトルの記録は許可。 また、高村たちへのインタビューなどは俺に拒否する権利がないので、記事にしない限り好きにしてもらえればいい。 妥協案ではあるが、三枝さんとクイーンの両方に面目が立つだろう。 それから、バトルのフィールドは俺が指定する。もちろん廃墟ステージだ。 「この条件が飲めるなら、対戦してもいい」 「わかりました。すべてあなたの指定通りに」 雪華の即答に、三枝さんと高村が泡を食った。 「ちょっと、雪華、相談もなし!?」 「何か不都合でも? 完全拒否よりも十分な譲歩案だと思いますが」 「でも、記事にできないっていうのは……」 「彼らはそれが困ると言っているのです。 それに、記事にするだけなら、先ほどの『エトランゼ』とのバトルで十分でしょう」 むむむ、と唸って、三枝さんは渋々承諾した。 一方の高村は、その様子を見て、先ほどの落ち着いた笑みを取り戻している。 すると、今度はギャラリーの方から声が上がった。 「おい、黒兎! クイーンとのバトルにステージの指定をするなんて、失礼だと思わないのかっ!? しかも、廃墟ステージなんて、黒兎得意のステージじゃないか! 卑怯だろ! そうまでして勝ちたいのかよっ!?」 声は、『ブラッディ・ワイバーン』のマスターのものだった。 最近、奴は何かと俺に突っかかってくる。何が気に入らないというのだろう。 ギャラリーも大半が、ワイバーンのマスターの意見に賛同して、俺にブーイングを送ってくる。 だが、何も分かっていないのは連中の方だ。 クイーンとそのマスターの意図を理解していれば、そんなことは言わない。 「……廃墟ステージの指定に、何か依存は?」 「ありませんよ? というか、僕たちの方から廃墟ステージでのバトルを提案するつもりでしたから」 笑顔の高村の言葉に、俺は頷く。ワイバーンのマスターは顔を引きつらせた。 高村たちは、ティアが廃墟や都市ステージでないとパフォーマンスを発揮できないことを知っている。 唯一無二の戦い方をする神姫とのバトルこそが望みなのだ。 そのパフォーマンスを遺憾なく発揮できるステージでなければ、彼らにとっても意味はない。 俺のステージ指定に反対するはずがないのだ。 高村の一言に、ギャラリーたちは口を噤まざるを得なかった。 俺の後ろでくすくすと笑っているのは、ミスティだろうか。 「これでいいでしょう。『ハイスピードバニー』のバトル、しかと見せてもらいます」 芝居がかった口調で、クイーンの雪華は俺とティアに言った。 「わたしも、負けません……!」 静かに言ったティアの言葉に、俺は驚きを隠せない。 かつて、これほどに闘志を燃やしているティアを見たことがない。 ティアの心境にどういう変化が起こっているのか。 ティアの台詞に、雪華は不敵な笑みを浮かべていた。 俺と高村は、バトルロンドの筐体を挟んで着席した。 ギャラリーから歓声が上がる。 そのほとんどが、クイーンへの声援だ。 やれやれ。これじゃあ、どちらがホームでどちらがアウェーかわからない。 今日の俺たちは完璧に悪役だった。 ならば、それでもかまわない。とことん悪役を演じてやろうじゃないか。 俺はバトルロンドの筐体に武装をセットアップしていく。 ティアをモニターするモバイルPCも開いた。 指示用のワイヤレスヘッドセットを耳に装着する。 久しぶりだった。この緊張感、久しく忘れていた。 準備をする俺の後ろに、ギャラリーが立った。 久住さんと大城、それから四人の女の子たち。 「いいのか? 俺の後ろで」 俺が言うと、みんながみんな頷いていた。 「言ったろ。俺たちはお前の味方だ」 「わたしはあなたの側につくって宣言しちゃったし」 久住さんに至っては、肩をすくめながらそんなことを言うので、俺はびっくりしてしまった。 四人のライトアーマーのオーナーたちは、久住さんの味方らしい。 味方がいてくれるのはありがたいことだ。 久住さんが、不意に険しい表情になって、俺に囁いた。 「気をつけて……クイーンは並の武装神姫じゃないわ」 「……そりゃあ、仮にも全国大会選手なんだから……」 俺の言葉に、久住さんが首を振った。 「もうなんて言ったらいいのか……次元が違うの」 俺は怪訝な顔をしたと思う。 久住さんの言葉は要領を得ていない。 彼女にしては歯切れの悪い答えだった。 ミスティが続ける。 「そうね……わたしたちの得意の距離に踏み込んで、真っ向勝負で、逃げなくて、こっちはあらゆる手を尽くして……それであしらわれた、って言ったら分かる?」 「……は?」 にわかには信じがたい。 身内びいきを差し引いても、ミスティは全国大会レベルの選手と互角に戦えるだけの実力がある。 アーンヴァルの飛行能力で、徹底的にミスティの弱点を突いたならともかく、ガチンコ勝負であしらうなどとは、想像もつかない。 だが、久住さんとミスティはまったく真剣な顔をしていたし、大城も虎実も頷いている。女の子たちも真面目な顔で、冗談にしてくれそうな雰囲気ではなかった。 俺も、海藤の家で、雪華のバトルは見た。 あのときの手並みも鮮やかだった。 しかし、あのバトルはアーンヴァル同士の空中戦だったから、参考にならない。 俺は戦慄する。 もしかして、とんでもない化け物を相手にするのではないのか? 「ごめんなさい。参考になるようなこと、言えなくて……」 「気にすることないよ。とんでもない相手だってことがわかっただけでも十分さ」 悔しそうな顔をした久住さんに、俺は笑いかけた。 すると、久住さんはちょっと驚いた。 「……なにか、あった?」 「なんで?」 「先週みたいに思い詰めてなくて、なんだか……ふっきれたみたい」 「ああ」 彼女はまだ知らないのかもしれない。今日の朝の報道を。 久住さんがきっかけを作ってくれたおかげで、今俺はこうして笑えている。 「だとしたら、久住さんのおかげだ」 俺が言うと、久住さんは驚いた顔をしたあと、視線をそらしてうつむいた。 ……何か悪いことを言っただろうか。 彼女の肩で、ミスティがほくそ笑んでいるのが見えた。 俺は不可解な思いに捕らわれながらも、筐体の向こうを見た。 高村が準備をすませ、こちらを見ている。 「相談は終わりましたか?」 俺はティアを見た。 「ティア、いけるか?」 「はい。大丈夫です」 ティアの返事はいつもよりもしっかりとしていて、緊張していた。 このティアの心境が、バトルにどんな影響を及ぼすだろうか? それが少し心配ではあったが。 俺は高村に告げる。 「準備OKだ。……始めよう」 「それでは」 双方のアクセスポッドが閉じて、筐体と神姫がリンクする。 スタートボタンを押す。 ファンファーレと共にディスプレイにフィールドが表示され、対戦者の名前が重なる。 『雪華 VS ティア』 バトルスタートだ。 ■ 廃墟を吹き抜ける砂塵。 いつものフィールド。得意のフィールド。 わたしはメインストリートを巡航速度で走る。 久しぶりのバトルロンドは懐かしい感じがする。 再びここに戻ってこられるとは思ってもいなかった。 今日の相手はとびきりの対戦者。 このバトルは、わたしにとっては大きな、そして唯一のチャンスだった。 だから、マスターに無理を言ってまで、対戦を受けてもらった。 わたしは、今日の対戦者に感謝しなくてはならない。 わたしを助けてくれたこと。そのときはバッテリーが切れていたので、覚えてないけれど……。 そして、わたしと対戦してくれること。 風が巻いた。 わたしの頭上を、高速で何かが駆け抜けていく。 攻撃を警戒していたけれど、ただ追い越していった。 そして、上空で優美にターンすると、わたしと向かい合う位置で、空中で静止した。 わたしは、武装した相手の姿を見て、声を失う。 美しい。 そして、圧倒的な存在感。 基本の武装はアーンヴァル・トランシェ2だけれど、細かいところが異なっている。 羽は鳥を思わせる形状の機械の羽。 捧げ持つ武器は、長大な黄金の錫杖。 気流に舞い上がる銀髪が大きく広がっている。 まるで光の粒子をまとっているかのよう。 その姿は、まさに天使。 いまならわかる。 彼女がなぜ『アーンヴァル・クイーン』と呼ばれるのか。 その堂々たる姿は、まさしく天使の女王と呼ぶにふさわしかった。 それに比べればわたしなんて、地を飛び跳ねる小さな兎に過ぎない。 「待ちこがれていました。貴女との対戦を」 白き鷹のごとき神姫は、子兎のようなわたしにそう言った。 「……なぜですか。なぜ、わたしと、なんですか」 「貴女の独自の装備と技を、身を持って感じたいからです」 それだけ? たったそれだけのために、わざわざ遠くまでやってきて、わたしと戦いたいというの? 全国大会も制覇しようという武装神姫が? わたしにはわからない。 雪華さんにとっては、それほどの価値があるようだけど、わたしはそうは思わない。 わたしなんかと戦って得るものがあるなどとは到底思えなかった。 けれど、このバトルは、わたしにとってはチャンスだった。 そう思って、自分を奮い立たせる。 わたしは小さな兎なのだとしても。 戦ってみせる。……そして勝つ。 「ならば……真剣勝負です、雪華さん!」 「望むところです、ティア!」 雪華さんとわたしの、戦いの輪舞がはじまった。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2334.html
夢現で思うのは幼馴染の少年の事。 何故だろうか、食い違ってしまったのは。 (こんな筈じゃ無かったのにな) 多分、“私”はあの悪魔と契約をしたのだ。 覚めて行くまどろみの中で飛鳥はそう思う。 バッテリーの充填率は3割。 充分だ。 飛鳥の巡航速度は人が走るより速い。 今から出てもまだ間に合う。 まだ、北斗を守れる。 「きっとその為に、私が此処に居るんだ」 本来ならばバッテリーのチャージが終わるまで、決して起きるはずの無い武装神姫が目を覚ます。 それは別段超常的な事ではなく、万に一で起こりうるただのバグ。 ただ、それがココで起きた事はほんの微かな奇跡。 飛鳥は未修復の千切れた右腕を押さえながら、夜の空に翼を広げる。 「行かなくちゃ!!」 私が待ってる。 アスカ・シンカロン12 ~賑禍~ 「……はぁはぁ、間に合ったぜ」 家から走って校門を乗り越え、窓を割って校舎の中へ。 そして屋上まで階段を駆け上り、ジャスト15分。 「……やっぱり来てくれた。北斗ちゃんは私の事が大切なんだよね?」 北斗ちゃん。 その呼び方は……。 「……お前、やっぱり明日香なのか……?」 「どっちだったら良かったの?」 「え?」 「北斗は、夜宵ちゃんと明日香。どっちが良かったの……?」 「それは……」 「私は。どっちになればいいの……?」 「お前、何言ってるんだ!! そんなの、元もままで良いに決まってるだろ!!」 「……」 「だ、そうですヨ」 明日香か夜宵かも定かではない少女の背後から、白い悪魔型が姿を見せる。 「やはり、貴女達は同じでなければ受け入れられなイ」 「……テメェ」 「さあ、考えましょウ。二人が同じになる方法ヲ。……そうでないト。……彼に受け入れてもらえなイ」 「テメェが元凶か!!」 「まさカ。私はただ提案しただけでス。同じだからいけないのかも知れないッテ」 違えば。 何かが変わるのだと。 「そしテ、それが誤りだったのではないカ、と。提案しているだけですヨ?」 それを実行に移したのはカノジョ。 実行に移させたのは。 「他ならヌ、貴方でス。神凪北斗」 「テメェをぶっ壊す!!」 「どうぞご自由ニ。でも良いんですカ? 私にかまけているト―――」 「…………」 屋上のフェンスを、少女は昇り始める。 「……っ」 どちらの名前を呼べば良いのか。 その間に白い悪魔型が迫る。 「如何しましタ? ワタシを壊すならお早めニ。……でないト、でないト。……カノジョ死んでしまいますヨ?」 「……クッ!!」 フェンスはそれほど高くない。 あっという間に彼女の手がその縁に掛かる。 「待て!!」 駆け寄ろうとする北斗の眼前に踊り出る白い悪魔。 その爪が正確に北斗の眼を狙う。 「……チッ!!」 腕で叩くが、さほどのダメージでもないらしく、すぐに次が来る。 「邪魔するな!!」 彼女の片足がフェンスを越えた。 白影は正確に眼を狙ってくる。 払っていては、間に合わない。 「……!!」 覚悟を決めた。 目の一つ二つ奪われても、彼女の所まで辿り着く。 それが先だ。 「無駄でス。彼女は死ニ、貴方も死ヌ。ソレがワタシの食事なのですかラ。邪魔をしないで下さイ!!」 視界に飛び込んでくる爪が迫る。 だが、足は止めない。 払う暇も無い。 彼女は既に重心をフェンスの向こうに。 「 ーーーッ!!」 自分で。 どちらの名前を呼んだのか。 神凪北斗には自覚が無かった。 爪が。 フェンスを。 迫る。 乗り越えて。 突き刺さる。 落ちる。 ―――直前。 「北斗!!」 「―――っく!!」 「!?」 “吹き飛んだ”悪魔型の横を抜け、フェンスに駆け上がった北斗の手は確かに落ちる少女の腕を掴んでいた。 -
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/300.html
凪さん家の弁慶ちゃん 「まずいわね…」 ここは私立黒葉学園、高等部校舎の三階、階段踊り場。 「…何が…?」 壁にもたれかかっている男が聞き返す。 「まずいじゃないの」 踊り場の窓から外を見ながら答える女。 「だから何が…」 再び聞き返す男。その肩には小さな少女が佇んでいる。 「何がって決まっているでしょ?」 若干焦っているような声色で答える女。その肩にも小さな少女。 「…わかりやすく言え…」 呆れたように訊く男。 「まずいわ…即戦力が必要よ…」 腕を組みながら考え込む女。 「なんの…?」 明後日の方向を見つつ訊く男。 「はぁ~。あのねぇ?それはもちろん…」 女はやれやれといった表情で言い放つ… 「この私立黒葉学園神姫部のよ!!」 第一話【求む!君の力!】 静まり返る踊り場。 「…まぁ、まだ「部」じゃないけどな…」 「う、うるさいわね!」 「むしろ同好会なのかすら怪しい」 「うるさいってば…!」 「まぁまぁマスター」 と、今まで黙っていた小さな少女。女の肩に乗っていた一人が口を開いた。 「何よアーサーまで~」 「いえ、反論しているわけではないですよ?」 「まぁ、それはわかってるわよ…」 「…同好会の申請をしてから一ヶ月以内に五人集まらなければ解散…か…」 男が呟く。 「そうよ。で今四人揃っているわ!」 「でも必要人数は五人…期限は明日まで」 今まで黙っていた男の肩に乗っていた小さな少女がぼそりと言う。 「もう誰でも良いから数合わせに入れたら良い…」 「それじゃ駄目よ!欲しいのは即戦力よ!クラスはセカンド!もしくはそれに準ずるポイント獲得者よ!」 「高校でセカンドなんて中々いないだろうに…」 「そうよ!だからサードの上の上でも良いって言ってるじゃない!」 「ほとんど同じだろ…」 「うるさいわね~今集まったメンバーを見なさいよ! 四人中私とあんたとあいつがセカンド、あいつの妹がサードの上位! ここまでこだわって集めたんだから、いま諦めたら後悔後の祭りじゃない!!」 「だから人が集まらないんだろ?」 「ぐ…」 「…とりあえず…それはいいから神姫センターに行ってポイント稼ぎでもしよう…」 「と、とりあえずとは何よ!」 「それに…」 「…?何よ」 「今からなら学校帰りの奴らが参戦しているかもしれないだろ…」 「…あ、なるほど…よ~し!絶対スカウトしてやる!!」 「はぁ…」 男はため息をついた。どうしたものやら…と。 「いけ!弁慶!!」 「…うん」 広大なバトルフィールド。 荒野を駆ける神姫が一体。 対するは地上を滑るように飛行する神姫。 弁慶と呼ばれた神姫は大地を蹴り、一気に跳躍する。 その右手には巨大な塊。それは【セブン】と呼ばれていた。 【セブン】とはその名の如く、七つの装備が合わさった弁慶が使用するカスタム武装である。 この【セブン】はAM社のパイルバンカーをベースに様々な武装で構成されている。 その装備は一番から 1.パイルバンカー 2.キャノン砲 3.ガトリング砲 4.2連装ビームバスター 5.ミサイルランチャー 6.手榴弾ポッド 7.光の翼 で構成され、状況に合わせて武装を選択、もしくは組み合わせることによって数々の戦局に対応可能にした万能装備である。 しかしその装備重量は通常の武装神姫用装備と比べ、はるかに重く、普通に使用するだけでも多大な苦労を有する。 だが、そんな武装をぱっと見軽々と扱っていられるのは七番目の武装【光の翼】という補助推進システムのお陰である。 逆にこれが機能しなかった場合は単なるカウンターウエイトにしかならないであろう。 地上を駆ける弁慶も、この【光の翼】をたくみに使用して【セブン】を制御している。 これの使い方を理解していない普通の神姫にとっては【光の翼】を使用してもこの巨大な代物を制御するのでやっとで、満足に扱う事はできないだろう。 この【セブン】を満足に扱えるのはマスターの凪千空と共に設計した凪千空の武装神姫、犬型ハウリンがベースの弁慶のみ。 そういう意味では単純に使うだけ、持つだけならなら誰でも出来るこの【セブン】も事実上は弁慶専用の装備と言えるだろう。 そんな弁慶は今日、後一勝でセカンド昇格をかけた試合に赴いていた。 「飛んで!弁慶!」 「…うん」 相手の大型ビームをジャンプで回避、セブンに装備された光の翼を使用して空に浮いた状態から横へ移動。 さっきまでいた場所はビームによって焼かれていた。 「今日は絶対勝つんだから!」 「…うん…!」 「三番で牽制、五番で包囲、七番使用で接近して一番!」 「…わかった…!」 弁慶は相手に対し三番のガトリングを乱射。命中が目的ではないので標準は適当。 「…いけ…」 発射されるミサイル群。しかし相手の移動速度は凄まじい。 「速いなぁ…」 「ミサイル追いつかない…どうする…?」 「ん…よぅし、ミサイルに気をとられているうちに七番で最大加速しよう!そして一番!」 「…言うと思った」 「えへ」 「…ふふ」 やっぱり弁慶は凄いなぁ。言ってる途中から言おうとした行動を実行してる。 「…突撃…!」 広がる翼、その瞬間弁慶の姿が霞んで消える。 狙うは相手の神姫。マオチャオに大型のブースターを多数装備して機動力を向上させているみたい。 「…はぁぁぁ…!」 弁慶が一番、パイルバンカーを突き出す体制に移行する。 「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」 相手の斜め後方から一気に突貫する弁慶。でも 「あまいの!」 「…!」 相手マオチャオが急激に方向転換。 ぐるりと一回りしたのち、背部ブースターがその回転によって質量攻撃となり、偶然なのか狙ってなのか…接近しすぎた弁慶に打ち付けられる。 「…くぅ…!」 ドガァァァァァン!! セブンで何とか防御するもはるか遠くへと吹っ飛ばされる弁慶。 そのまま盛り上がった岩の壁に激突する。 「大丈夫!?」 僕は思わず叫ぶ。 「…痛い…でも平気」 岩の瓦礫の中から立ち上がる弁慶。 「注意して!」 次が来るかも!! 「…もうしてるよ」 光の翼を再び展開させて飛び上がる弁慶。 「…どこ…?」 「いない…?」 上空から索敵する。もちろん的にならないように小刻みに軌道を変えて。 「ここだよ!」 「…!」 いきなり下から声。 「弁慶!」 「…わ…!」 下方からのクローアッパーが弁慶を襲う。 弁慶はそれを何とか回避、でも 「ぐぅ…!?」 あるはずのない背中からの衝撃。その衝撃で地面に落下、そのまま激突する。 「な、なに…?」 よろりと立ち上がる弁慶。 「弁慶!右!いや左…え、えぇぇぇぇ!?」 「千空?なに??…え…何だこれ…」 僕達は驚くしかなかった。だって… 「ねぇ、なんかマオチャオがいっぱいいるように見えるんだけど…」 「うん…そう見える…」 弁慶の周囲にはブースターを排除した相手マオチャオがいた。 いっぱい…。 「「??????」」 「いくの!」 と相手マオチャオがう動きを見せる。時には一人、時には二人、三人四人と増えたり減ったり。弁慶の周囲をめまぐるしく動いている。 「え…。うあ…!」 正面からの爪が弁慶にヒットする。次は右、後ろ、左と思わせてまた前…四方八方からの攻撃を受ける弁慶。この状況じゃセブンは盾にしかならない。 「ぐ、あ、わにゃ、くぅ…」 「え、~と…!?」 焦る僕。ええと、こんなの初めてなんだけど~!! 「落ち着け千空…まだ大丈夫…」 「…弁慶…。良ぉし!!七番最大!あれ使っちゃうよ!!」 「…わかった…!」 光の翼を限界起動させる。紅く輝く翼が弁慶を包む。 「にゃ!?」 一瞬ひるむマオチャオ。 「今だ!弁慶ぇ!!」 「…うん…!!」 一気に飛び上がる弁慶。その高度はステージの上昇限界まで達している。 そして今度は一気に急降下。内臓火器を一斉発射して周囲を爆撃。 ガトリングが鋼鉄の雨となり、ミサイルの渦が嵐を呼ぶ。その雲の合間から煌くビームランチャーの光と流星の如く降り注ぐキャノン砲の追撃。おまけに手榴弾ポッドの隕石がマオチャオがいた周囲に降り注ぐ。 これらは当たらなくても良い。当てるのは一つだけで良い! 「わ、わわわぁぁぁ~!!」 いきなりの災厄に驚くマオチャオ。 響く爆音。その時、何の影響かはわからないけれどたくさんいたマオチャオが消えて、一人になった。 「…ラッキー!見えたよ…!」 「…そこ!!」 「え、うそぉ!?」 「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」 後は突撃あるのみ!持ち方を変えてパイルバンカーを準備! 僕と弁慶の二人の声が合わさってその名を叫ぶ。 「「七つの混沌(セブン・オブ・カオス)!!」」 ドッゴォォォォォォォン!! パイルバンカーの射突音がステージ内に響く。 「やった…??」 バチバチ… 「……く…」 弁慶の苦い声。 「浅い…の!」 とたんマオチャオの声が響き閃光が走る。それと共に辺りを覆っていた硝煙が吹き飛んだ。 「ねここぉぉ!フィンガー!!!」 「…ぐ、あぁぁ…」 弁慶の苦しそうな声がインカムに響く。 「弁慶!」 弁慶を包む凄まじいスパーク。その出所であるクローは弁慶の腹部に突き刺さり、その体を貫いていた。 「すぱぁく、えんどぉぉぉぉぉぉ!!!」 「くぅ…!!」 一気に閃光が強くなり弁慶が黄色い光に包まれる。 「弁慶!!」 光がやむ。その体から爪が引き抜かれ、ドサリと崩れる弁慶。 「弁慶!!弁慶!!」 「やったの!…え」 勝利を確信するマオチャオこと、対戦相手のねここちゃん。でもその表情が変わる。 「…ぐ…ぅ」 ぐらりと立ち上がる弁慶。セブンを支えにしてキッとねここちゃんを睨む。 さすがに驚いた。 「べ、弁慶…?」 「…はぁ…はぁ…」 ずりずりと体を引きずりながらもなおねここちゃんに接近する弁慶。 「だ、駄目だよ!動いちゃ!」 思わず気遣うねここ。 「…うるさい…まだ負けてない…」 「弁慶!もう良いよ!ねここちゃんの言う通りだよ!」 「…千空…勝つって言った…だから嫌だ…」 「はぁぁあぁぁ~!」 セブンを大きく振りかぶる弁慶。 あまりの威圧にねここちゃんの動きが固まる。 「サド…ン…インパクト…!!」 ドッカァァァァンン!! 響く炸裂音。その鉄槌は当初狙っていたであろう腹部から大きく外れ、ねここちゃんの左肩を掠っただけだった。 それが最後の力だったのかよろけて倒れこむ弁慶。 その瞬間 『試合終了。Winner,ねここ』 ジャッジAIの機械音声が合図を告げた。 「弁慶…」 「…」 マシン内でうなだれる弁慶。 「弁慶?」 「…ごめん…負けた…強かった…」 「うん、強かった。でも弁慶も良くやったってば」 「でもセカンド上がれない…」 「そうだね…セカンド昇格はねここちゃんだね…さすがって感じ」 「…ごめん…駄目な奴で」 「そんな事無いよ!」 「千空…」 「追いついて勝てば良いんだよ!ほら、前負けてから五連勝だよ?だから次は六連勝だって!」 「千空…うん…今度は負けない…あ…」 「ん?」 「駄目だ…」 「え?」 「セブンが…」 「…!」 あらら、完全にショートしてる…。セブンは戦闘システム直結型だから…内部ダメージが限界を超えたかぁ…それとも無茶な強化が祟って寿命がきたかな…。 「ごめん…」 「いいって、また二人で作ろう?」 「千空…」 「もっと強いの作っちゃおう!!」 「…うん…うん!!」 「じゃ、早速帰って製作開始だよ!」 「うん!!」 「どう?」 ねここ対弁慶。その試合映像を見ていた女が聞く。 「良いんじゃないか?」 男が答える。 「そうよね!!間違いないわ!!」 女は意気込んだ。 「さぁ、どうしよっか?」 「…うぅ~ん」 僕達はセブンについてあれやこれやと考えながら帰路につこうとしていた。 そんなセンターの入り口に人影。 「ちょいとそこの君君!!」 「?」 振り向くと女の人と男の人。あ、制服がうちと一緒だ…て事は黒葉学園の生徒? 「そう!君!!」 女の人が僕を指差す。 「その制服は黒葉学園の制服!つまりは生徒!そして神姫所持者でランクはサード上位!!」 「へ、あ、はい…」 僕と弁慶はきょとんとしていた。 「求む!君の力!!黒葉学園神姫部に来なさい!!」 「え、えぇぇぇぇぇぇ~????」 いきなり出てきてこの人は何なんだろう…神姫部?そんな部活あったかな…? そんな僕の疑問を尻目に、僕と弁慶の、神姫を取り巻く世界は確実に動き出した。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/606.html
第壱幕 「朔-saku-」 佐鳴 武士(さなる たけし)、つまり俺が神姫の購入を決定したのは必然からだった 偶然出た街で、偶然当てた宝くじで、偶然手に入った纏まった金・・・ 偶然立ち寄ったホビーショップで、偶然していた神姫バトルを見た(余談だが、この時戦っていたのが「シルヴィア」という著名な神姫だと後で知った) 何事も無く帰途に着く・・・つもりだった。「何事も無い」と思っていた だが、既にこの時点で、俺の中に種が蒔かれたのだろう 親父も祖父も、アニメオタクや漫画マニアがそのまま大人になったような人達だった事から、土壌はしっかりあった 親父達の所有していた90年代や2000年代初頭の漫画やアニメやゲームに囲まれて育った世代だ。その後も肥料は、我ながら大量に収集した様に思う。 だから憧れが芽吹き、翌日には神姫の事で頭が一杯になっていた 原因が無ければ結果は無、種を蒔いても、土壌と肥料が悪ければ育たない 纏まった金とたまたま見た神姫バトルは偶然蒔かれた種だっただろうが・・・土壌と肥料を捨てずに持ち続けていた事は、何時か来る種を蒔く為の努力をしていた事に、この場合は相違無い それは最早「必然」と言って過言ではないだろう・・・要は、遅かれ早かれこうなっていただろうという事だ 自動ドアがのろのろと開く。何故こんなにのろいのか?俺の心は急いているのに つまりそれは俺の為にこのドアがある訳ではなく、誰に対しても平等な、機械的な反応だという事だ 「神姫」の肝はAIであると聞いた 神姫は、高性能なパソコンを搭載した玩具ではなく、身長15センチの人間だという話だ 俺にはそれはもうひとつピンと来ない表現だ。この自動ドアと違うってのは判るし、昔読んだ漫画でよく出て来たガジェットって事は判ってるが (AIなんて言われてもなぁ・・・よく判らんな?対話型ATMの凄いようなやつか?) 少なくとも「神姫が凄い玩具である」事は俺にだって判ったし、シンプルな事と格好良い事は俺にとって極めて善性だ だからその一点にのみ着目して、俺は数万円を散財するべく、普段滅多に立ち寄らない近場の家電量販店に足を運んだのだ 田舎住まいの上に土地勘が無い。加えて出不精だから、ここしか思いつかなかったのだ 看板が古臭くて、多分「ヤマシタ電器」とかそんな名前なのだろうが、文字が欠落して「ヤマシ 器」になってしまっていた (意外と中はまともだがな) やたら元気の良い店長が、近所の婆さんと世間話をしているのを尻目に店内を散策。さてMMSのコーナーは・・・と あった、結構大きくコーナーを取ってある様だ。何か同じ絵柄の箱がずらずらと山積みされている 「侍型MMS 紅緒」 いいねぇ俺好みだ。朱いパッケージが男心を程好く刺激するぜ なんでこんなに山積みなのかは・・・問わない方が良いのか?えらい安いし まぁ良いや 「すんませーん。コイツ貰えますかー?」 手近にあったやつをひとつ手に取り、店長の世間話を打ち切る 購入手続きを済ませた彩に手渡されたレシートにははっきりくっきりと 「サムライMMSベニモロ」 と打ち込まれていた …… …………… 『TYPE 紅緒 起動』 うっすらと目を開ける人形 生気の薄いマシンの瞳 「武装神姫」が起動する ゆっくり上体を起こし、周囲を見渡す『紅緒』 「登録者設定を行ってください」 おお・・・喋った・・・! と、感心している場合じゃない。マニュアルを読もうとしたが、文字が多くて面倒臭かったのでつい先に神姫を起動させてしまったのだ 「え~と・・・次はどうすりゃ良いんだ?」 「貴方が私のマスターか?」 どっかで聞いた様な台詞だな 「ちょっと待っててくれ、確かこのへんのページだった様な気がするんだが・・・」 がさがさページをめくる俺の足元に、つと近付いて来る神姫。をを・・・自分で歩いてる 「マスターの登録は声紋を取らせていただければ現状では充分です」 「あぁ・・・そうなの?面倒臭い設定とかしなくて良いのね。そりゃ助かるぜ」 振り向いた先に立っている姿・・・んぁ?太股がなんかおかしいぞ 「どうかされましたか?」 「お前・・・その足どうしたんだ?」 小さな声を上げて自分の左太股に目を落とす・・・結構際どいデザインだな、このデフォルトアンダースーツは 左の内腿から尻側にかけて、彼女(?)には痣の様なものがあった。綺麗な皮膚に薄く墨を流した様な・・・見様によっては花霞に見えなくも無い 「・・・うわ・・・どうしようこれ・・・欠品かこれ・・・その・・・」 AIとは人口知能であり、神姫とは身長15センチの人間である その事の本当の意味の一端を、俺はその時の「彼女」の表情の変化、狼狽から読み取った 羞恥、怒り、そして不安・・・ 「・・・返品・・・ですか・・・?」 マスターとして神姫に正式に登録されるには名前をつけてやる必要があるのか・・・成程な。俺はマニュアル本を閉じた 「俺の名前は佐鳴 武士。で、お前の名前は華墨(かすみ)だ・・・問題、あるか?」 泣きそうだった「彼女」は、一瞬びっくりした顔を見せたが、次の瞬間には、至高の微笑を浮かべてくれた 「はい、マスター。私は・・・華墨です・・・!」 TOPへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2409.html
暑くて、厚くて、熱い。 容赦なく降り注ぐ砂漠の太陽は、容赦なく廃熱を阻害し、揺らめく分厚い蜃気楼のせいで体感500m先はわからない。そのうえデザートイエローのシートで覆われた『彼女』の装甲板は際限なく過熱され今や、手袋無しで触ることすら億劫になろうかというところである。 「あつぃ~です」 シートの下の装甲版のさらに下、彼女はけだるげに愛機に腰掛けていた。 周囲には遥かの昔に放棄されたのであろう廃ビル群が立ち並び大きな日陰も目立つのだが彼女はあえてその場所を選んだのだ。 周囲に遮蔽物がなく、前方に軽くビルの残骸や、土を盛るだけで塹壕となり、また……背後から急襲される可能性の少ないバトルフィールドの端。 そこはまさに格好のアンブッシュポイント、いや、むしろ絶好の砲兵陣地といえるだろう。 彼女は砲台型フォートフラッグのスチール・ブリゲード、愛称は「キャロル」。武装神姫である。 通称『一人旅団のキャロル』 とはいえ、これは彼女が自分に付けられた名前の意味を理解した際に皮肉を込めて名乗っているだけで、知名度もなにもない。 キャロルという愛称も彼女がゴネて付けさせたもので、英語圏の苗字であるキャロルよりはむしろ米陸軍第18砲兵団の本拠地であるところのノースカロライナの意味だと彼女が理解したのもつい最近。 「いくらフォートブラックだっていっても……ふんっ! いいんですから、ジョーとかアーノルドとかつけられなかっただけでも良しとしてあげ……あぁっ、もうっ!あのミリオタぁっ! 少なくともジェーンとかいろいろあったでしょう!? もうっもうっ! リセットせずに改名できたらぁっ!!」 ガンッと力任せにレストパットの装甲版を殴りつけ、殴りつけた拳の痛みに悶絶。なんだかよけいになさけない気分になったのか、大きくため息をついた。 そのとき、ヘルメットの出力部分から彼女の聞き知った声が流れた。 「はいはーい、こちらブラボーワン、感度は良好ですよ?」 その直後、キャロルはヘルメットの上から片耳を押さえて顔をしかめた。 「了解しました! わかってます! 小さな声で送信音量を限界まで上げて怒るのやめてください!」 いいつつ左手で流れるようにコンソールを弄り、愛機の獲物を「目標」に定める。 「試射時との気象条件の変化なしっと、射角よし、準備よし! デンジャークロースですよ、注意してください!」 細い指がポンっ、と踊るようにコンソールを弾いた次の瞬間、バンッと今までの停滞を打ち払うかのような爆音が響き、砲身が一瞬大きく後退する。 「発射しました、弾着まで2、1、弾着……今。 砲撃評価願います」 遠くの方から遠雷のように爆発音が響き、続けてブゥーンという相棒の発生させている機械音がここからでも聞こえる。 「Rog、マップグリッド、ヤンキー-ワン-シックス-ゼロ ホテル-ツー-セブン-ファイブ エックスレイ」 再びコンソールの上を指が踊り、にやりと笑う。 「ふふっ、デルタロメオエネミー(ディアエネミー)です」 バンッ……バンッ……バンッ 続けて三発、続く遠雷に先ほどのブゥーンという機械音と何かが炸裂する音。 「フィニッシュパターンですねー、敵さんも気の毒です。アリスちゃんトリガーハッピーですから 動けなくなってもひとマガジン撃ちつくすんですよね~ っと、こちらはどうでしょう? これだけ派手にやれば……」 そう呟くとキャロルはヘルメットにマウントされたヘッドマウントディスプレイを下す。 「ビンゴですっ! ふふんっ、バカがかかりましたね?」 相棒がオーバーキル気味の制圧射撃を加えている一方、敵方の相棒が彼女を探している。 もっともさっきから派手に発砲音を響かせているので、よほどのトンマでもない限り彼女の居場所は見つけるだろう。 即席のカモフラージュでは突き出した……その黒光りする砲身はフォートブラックの純正品ではない、海外メーカー製というか、彼女のマスターがアメリカのユナイテッド・ディフェンスとの知り合い(どうせ海外モノのFPS友達に違いない)から譲り受けたという1.55mm榴弾砲。 流石に榴弾砲すべてをカモフラージュシートで覆うわけには行かないので、どうしても砲身が目立つのだ。 そんな、図体だけ大きく、更に自ら周りを埋めてしまっている為身動きさえ取れない一見完全に無防備な砲兵陣地であったが……接近戦で一気に片をつけようとしていたのであろうストラーフ型の神姫が、陣地までたどり着くことはなかった。 「随伴歩兵もいない砲兵陣地付近が無防備なわけないじゃないですか。 州兵だってもう少し警戒してますよ?」 キャロルは右手に握ったスイッチ。 すなわち外周部に設置された神姫用の指向性爆弾の起爆スイッチを投げ捨て、やれやれと肩をすくめて見せた。 ≪WIN≫ TOP
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2356.html
引きずり込む深海聖堂 ダゴンちゃん戦記 それは、ありえない現象だった。 フィールドは1VS1。 敵は一体で、タイプは新型機であるテンタクルス型マリーセレス。 こちらは現行最強の火力と装甲を誇る戦車型ルムメルティアだ。 確かに言うまでも無く、索敵に優れた機種ではない。 だがそれは、ルムメルティアもそのオーナーも重々承知。 ヘッドユニットの発煙筒を肩に移植し、中身は高性能のセンサーに換装済みだ。 流石に火器型やヴァッフェシリーズには及ばないにせよ、今まで索敵に困ったことは無い。 そもそも彼女のスタイルは豪快な近接格闘を重視しつつも、センサーと大砲による遠距離精密砲撃もこなせるマルチアタッカーだ。 防御は分厚い装甲に一任し、リソース(能力)は大半を格闘戦に注ぎ込む。 遠距離では高性能なセンサーから得た情報で狙いの甘さを補いつつ、当たれば一撃と言い切れる3.5mm砲で一撃を警戒させ真に得意とする近接格闘の間合いへ誘い込む戦法を得意とする。 敵からしてみれば厄介だろう。 射撃に自信があっても、戦車型の装甲を貫ける火器は限られる。 数を撃って攻撃力を稼ごうにも敵からの射撃は一撃当たれば終わりで、こちらは何十発も打ち込まねばならない。 かと言って近接格闘に持ち込んでも腕力と装甲にモノを言わせた戦法に対処する方法が無い。 言ってみれば、格ゲで言う所のスーパーアーマー状態が常時だ。 しかも腕力は真鬼王以上。 さて、攻略法を。 と言われても大半のオーナーは困惑するだろう。 それこそ基本性能として、彼女の装甲を打ち抜ける火力が備わっていないとどうしようもない。 そして、彼女の装甲は重装甲で名高い戦車型のそれである。 神姫によってはどう戦っても勝ち目が無いのだ。 この戦法で彼女は中位ランクのトップクラスにまで上り詰めている。 あと数戦で上位ランクに達し、更に上を目指す。 その為に獲物を探していたが、既に彼女を知るオーナーが多くなり、対戦が滞り始めていた所だ。 だからこそ、あまりポイントにならない中位に上がったばかりの新型からの対戦を受け入れたのだが…。 「そもそも『見つからない』と言うのは、どういう事でありますか!!」 『―――』 宥めるマスターの声がするが、苛立ちは押さえられない。 冷静にならねばいけないと分っていても、感情はそう簡単に制御できないのだ。 なにしろ、そう。見つからないのだ。 戦闘開始から既に10分。戦闘時間の三分の一が経過している。 確かにフィールドは薄暗く、視界は全てに行き渡らない。 だが障害物の数は多くなく、たとえ光学迷彩を使用したとしても発煙筒で作り出した結界の中では無意味だ。 機体が存在する限り、それはどうしても煙を押しのける。 更には煙の成分は容赦なく装甲表面に付着し、その迷彩精度を奪い、隠れる事など許さなくなる。 仮にも上位に挑み、勝つつもりの神姫なのだ。 カメレオン如きに苦戦など論外。 搦め手など蹴散らして当然。 負けるとすればより強い神姫のみだ。 だが。 「見つからなければ勝てないのであります!!」 『―――』 「負けなければ良いと言う問題ではないのであります!! 格下相手に引き分けになればそれは敗北と大して変わらなく―――!!」 それだ!! 「それが狙いでありますか!? 引き分けてポイントを稼ごうと?」 天海のシステム上、勝った神姫は負けた神姫のポイントを奪う事が出来る。 要するに勝てばランクアップ。 負ければランクダウンと言う単純なシステムだ。 これは、上位の神姫に勝てば大きくポイントが動き、下位の神姫に勝っても変動は少ない。 下位の神姫にしてみれば、上位の神姫を相手に負けてもさして痛手ではなく、チャレンジが容易に出来る仕組みだ。 勿論上位の神姫が下位の神姫を相手に負ける事を想定するなどありえない。 上位の神姫が下位の神姫を相手にするのはハイリスク・ローリターンであるが、そもそも負ける要素が無いのだからリスクはゼロに近い。 これがランクの差が縮まればそうでもなくなるが、その場合にはリスクとリターンのローハイも極僅かだ。 だが、今回のように中位最高クラスの神姫と、中位最低クラスの神姫ならばその差は明白。 負ければ大打撃だし、引き分けでも大きくポイントが動く。 敵の狙いがその引き分けだとすれば、このような消極的な戦闘も頷ける。 つまり敵は最初から勝負をする気が―――。 べちゃ。 何か落ちてきた。 戦車型の頭の上に。 「むぐぅぅ、れありまふぅ!?」 出番が残り少ない事を察してか、こんな状況でも律儀にキャラ立ては忘れない戦車ちゃん。 そんな彼女の頭の上。 否。 頭を包み込むように鎮座したテンタクルス型神姫、マリーセレス。 「ふんぐー、であります!!」 力づくで引っぺがして地面に叩きつけるが、まるで応える様子も無いマリーセレス。 「ちゃーお」 なんて挨拶までしてくるが、戦場でその隙は命取りだ。 シングルアクションで素早く3.5mm砲を構えると、そのまま接射!! 「まだまだぁ!! であります!!」 砲身をパージし、3.5mm砲の基部にサブアームで用意しておいたパイルバンカーユニットを接続。 砲煙の中に突っ込んでそのままトリガー!! 「トドメでありますぅ!!」 最後はパイルバンカーも捨て去り、サブアームの手のひらを祈るように組んで頭上に振り上げる。 「どっせーい!! でありますよーっ!!」 一発一発が必殺に値する威力の3連コンボだ。 たとえガード状態の種型でもガードの上から削り殺す!! 「時間ばかりかかったでありますな」 ふぅふぅ、と息を荒げながら最初の砲煙が晴れるのを待つ。 と。 「奥歯から鼻の穴突っ込んで指ガタガタ言わせてやる~」 煙の中から突き出してくるRPGが二本。 「え?」 距離は至近。 回避が間に合うようなタイミングではなく。 そのまま吹き飛ばされる戦車型。 と、その脚をつかまれ強引に引き寄せられる。 「コイツまだ生きて…。え?」 「本日のお天気は晴天、所により武装神姫が降るでしょう」 発言もトンチンカンだが、それ以上に解せないのが敵の状態。 “あの”3連コンボを喰らったと言うのにほぼ無傷。 精々装甲表面に焦げ目が付いている位で、パーツの欠損どころか目立った損傷すらない。 「貴様、何者でありますか!?」 「あたし?」 くき、っと小首を傾げるテンタクルス型。 「ダゴンちゃん。……カタカナみっつでダゴンちゃん」 「そこは『通りすがりの武装神姫だ、覚えておけ!』って言う所であります!!」 「軍曹さんはよく分からないことを言う」 「じ、自分の階級まで知っているでありますか?」 得体の知れない新型に、最早勝ち目が無い事を悟る戦車型。 テンタクルス型の由来ともなっているスカート状の触手が、一本大きく振り上げられるのを見ても最早打つ手が無い。 触手の先には長戦斧。 「ゲッゲーロ」 「軍曹って、ケロロ軍曹かぁーーーーーーーーーーっ!!」 叫び終わるや否、振り下ろされた戦斧がその勝負に決着をつけた。 敗北した戦車型が、最新鋭即ち“起動したての神姫”が僅か数日で下位クラスを突破したと言う事実に気づくのはこの後だった。 ◆ さて、その十分後。 ◆ 「嘘つきぃ~~~っ!!」 「ちょ、泣かないでよ人聞きの悪い!!」 件のテンタクルス型神姫、ダゴンちゃんが、神姫センター内にあるショップのショーウィンドゥにへばりついていた。 それはもうべったりと。 テンタクルス型の触手の裏に増設された吸着機をフル活用し、ガラス面にペッタリ張り付いて、引き剥がそうとする少女に抗っている。 「買ってくれるって言ったのに、言ったのに~~~っ!!」 「そりゃ言ったけど!!」 以下、回想シーンである。 「ちょっと、ダゴンちゃん。ちゃんと戦いなさいよ。チャンスなのよ勝てば丸儲け、負けても大して痛くないし」 「今日はお日柄が悪く天中殺の日です。主にますたーが」 「あたしがかい!?」 「それに。こうやって天井にへばりついてるの、好きかもですし~」 「戦えっつーの!!」 「んじゃ~、勝ったらご褒美下さいな」 「戦乙女型の武装をフルでとか言われても無理よ。何万も出せないわ」 「500円位です」 「まぁ、それなら」 「1000円位かもでしたが~」 「1000円までなら出します。勝ちなさい」 「頭の中でこーふん剤の特売ですぅ!!」 喜色満面、真下の戦車型に向かって落ちてゆくダゴンちゃん。 「いつの間に移動してたのよ?」 「会話中に動くなと言われなかったのか!! 動くのは神姫で、動かないのは良い神姫だ~ぁ」 「あー、ホントなんでこんなキチガイ神姫になっちゃたのかしら」 以上、回想終了。 「これ650円です~。1000円以下です~。お前のかーちゃんより安いです~ぅ!!」 「あたしもね、服やら武器やら防具ならやぶさかじゃないわよ。むしろ今日は頑張ったし漱石さん2人位ならお別れできる気分よ」 「やたっ!! 3個も買えるですか!?」 「“これ”は買わない」 「なんで~」 「あんたが買おうとしているのが『首輪』だからよ!!」 非常にSMチックなデザインで、ご丁寧に鎖まで付いている。 「これをつけてご主人様こんなの恥ずかしい、って皆の前で言うのがついさっきからの夢だったのに~ぃ!!」 「捨てちまえ、そんな夢!!」 「それじゃぁあっちのボンテージでも良いですよ」 「あっちはもっとエロいでしょうが!! ……って嘘!? こんなのが1万もするの!?」 「その謎を解明するのだぁ」 「しない、って言うかお金無い」 「お財布の隠しポッケに困った時の諭吉さんが」 「なんで知ってるのよ、アンタ!?」 「お金大好き」 「人間はみんなアンタ以上にお金が好きよ!!」 「齧るの?」 「齧らんわい!!」 「しゃぶる?」 「しゃぶらん!!」 「舐める?」 「舐めんな!!」 「犯す?」 「おk―――、花も恥らうJCにナニ言わすんじゃこのエロ神姫!!」 「せっくす」 「言うかぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「性別って英語」 「知ってるわよそんぐらい、脱ゆとり世代舐めんな!!」 「りぴーとあふたーみぃ“せっくす”」 「言えるかアホぉ!!」 「せっくす、せっくす!!」 「言わないわよ」 「せっくす、せっくす!!」 「……黙秘権を行使します」 「せっくす、せっくす!!」 そろそろ周囲がザワついて来た。 「せっくす、せっくす!!」 「だぁー、もう!! せっくすせっくす連呼すんな恥ずかしいでしょうが!!」 「ぱぁ~っ」(満足げ) 「あ!!」 かなりの大声で叫んでしまった。 「えっと、その」 周囲の視線が刺さる刺さる。 「違うんですよ。ほら」 あんな若い内からやーねー的な白い目の包囲網。 「これにはその、深い事情が」 メール打ってるやつ複数確認。 「逃げるわよダゴンちゃん!!」 「やだ」 逃走に移ろうとした手を引っ張るテンタクルス。 その触手はいまだベッタリとガラスケースに密着中だ。 「買ってくれたら離れてあげます」 「あんたは~」 「せっくす、せっくす」 「分ったわよ、買う。買います。買うから黙っててぇ!!」 こうしてダゴンちゃんは戦車型のみならず己がマスターにすら打ち勝ったのである。 対戦成績 引き摺りこむ深海聖堂:ダゴンちゃん。 VS戦車型:あっしょー。特に記載する事もない10分間。実質1分でケリついたし。 VS貴宮湊:しんしょー。流石にますたー超強敵。エロスに耐性があったらやばかった。 ダゴンちゃん戦記・姦!! 「字間違った」 ダゴンちゃん戦記・完!! テンタクルス型発売記念SS。 続くかどうかは未定。 しかしマリーセレス以上にラプティアスとアーティルの完成度が異常。 テンタクルス型も充分以上に楽しんですがね。 鷲&山猫はSS書きたいですが書くとアスカ以上の長編になりそう。 マリーセレス買った勢いでSS書いたALCでした。 -
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/683.html
武装神姫のリン 第18話「アキバ博士登場」 今日は神姫バトルの公式戦の日。全国で一番神姫センターが賑う日。 そしてウチもそれの観戦に向かおうとしている。いちおう今日の大会からリンの出場停止期間(開発にかかわっていたためだ。)も終わりを告げたのだが、今回は花憐に生のバトルを見せようということになった。 リンもまだ感覚(セカンドで中盤以上になったために最近はリアルバトルが多めになってきている。)が花憐の世話やらで鈍るというかなんというか、まあ以前の100%の力を発揮することがまだ難しい。 そんな状態でバトルに出たとしても勝てる見込みは少ないし、またリンが傷つく所を花憐にはあまり見せたくない。 花憐も同じ武装神姫であってバトルについての知識はあるが、まずはホンモノを見て慣れさせていこうということになった。 で会場へはやっぱり公共機関が最適ということで今回は大きめ会場を目指す、その過程で"あの"秋葉原駅に来たわけだが… 「おとうさ~ん、人がいっぱいだよ~~」 俺の肩の上ではしゃぐ花憐が前方を指差す、たしかに人が多い。なんかイベントでもあったっけか?? 「マスター、アレを。」 花憐の横に座るリンがその右側の看板を指す。 「武装神姫第1弾のパワーアップユニットN-01,02入荷。本日分は300個限り。」 そういえば、アレの発売日だったっけな今日は。 見たところ並んでいるのは学生とか俺ぐらいの会社員だった。売れ行きは好調らしく、それをみたら安堵の息が漏れた。 「ああ。アレ発売したんだ~亮輔の血と汗の結晶だね。」 と茉莉も喜んでくれているらしい。 「もちろんですよ、茉莉。だってマスターが3ヶ月もひっきりなしにトライアルや改良にいそしんだ物です。」 「トライアルはリンの仕事だったろうに。普通に考えてリンの功績の方が大きいだろ?」 「そんな。マスターこそ~」 「いやいや、ここはやっぱりリンが…」 そのとき俺は気付いてしまった、俺の背中にささる視線、とても鋭く強いソレに。 ふと辺りを見回す。しかし人が多すぎてその視線の主がドコにいるのか判らなかった。 しかし数分でその視線は消えた。 そうして駅から歩くこと数分。ヨド○シアキバの最上階にある特別会場にたどり着いた。 ここで大会が行われる。予選は無論バーチャルだが準決勝以上は中央の特設リングで行われるため、この時点でもリングを囲む客席は空席がまばらな状態だった。なんとか2人分のスペースを見つけて場所取りを終える。 で茉莉、ティア、花憐に席を任せて俺とリンは飲み物を買いに席を離れる。 やっぱりさっき感じた視線が感じられる。そいつは明らかに俺、もしくはリンを狙っていると思えた。 心身は全く健康なのになんとなくいやな感じ、もしくは怖気とかそういうものを感じるのはたいてい見られてる時だと茉莉から聞いている。 まあアイツは高校時代、日々痴漢と戦っていたらしい。その茉莉が言うのだから間違いはないだろう。 でそろそろ戻ろうかと思ったとき、また気配が消えた。 そして自販機でも買い物を追えた俺は違和感に気付く。家を出るときは何も入れていないはずの上着のポケットに手紙らしきものが入っていた。 それを開く。 ~~ 午後13時までにBブロックナンバー12にエントリーしろ、そうでなければ家族の安全は保障できない。 また家族に参戦の理由を聞かれた場合もこの手紙の件は伏せること。その場合も安全の保障は無い。 なおエントリーする神姫は燐とする。それ以外は認めない。 T.A ~~ 見たところ脅迫されているみたいなんだが…午後13時ってなんだよ。 まあ午後1時か13時の間違いだろうとは思うが…しかし燐の装備は家においてあるわけで。 一応ココはヨド○シだ、神姫にパーツを買うことはできるが手入れが行き届いていないパーツでどれだけやれるか… と思案をめぐらせて見るがいい答えは出ない。 っと、リンが俺の耳を引っ張る。 「っつ、リン。なんだ?」 「マスター、あの人です。」 リンが指差した先にいるのは…小山。そう、茉莉の(元)先輩にして俺のライバル(思いっきりあっち側の一方通行だが)だ。 そいうえばアイツ、遂にセカンド昇格らしい。レオナ装備パターンも意外にも洗練されてきてるし。 手入れも俺並かそれ以上の丁寧さだと聞いている。 アイツなら…いや、アイツに頼むのだけは勘弁してほしいんだけど。背に腹は代えられなかった。 小山が人ごみに入った。あの中なら多少は声を出しても気付かれないだろう。幸いにもあの視線は感じない。 しかし遠くから監視してるかもしれないため、注意して小山の横に着き小さめの声で呼びかけた。 「おい、小山。」 「あっ、とう…」 スッと先に書いたメモを見せる。 『茉莉が危ない。力を貸してくれ。あまり大きい声は出すな。』 「おい、どういう…」 「なぜかわからんが脅迫されてる。試合に出ないと家族の保証は無いぞってな。で、装備を貸して欲しいんだ」 「なんで茉莉ちゃんに危険が迫るんだ。」 「理由がわかれば苦労はしない。だた俺かリンにそいつは何かあるんだろう、ここまでして試合に出させようとしてる。ご丁寧にブロックやナンバー指定でな。」 「最初から大会に出るために来たんじゃないのか?」 「ああ、今日は観戦目的だったんだ。けどこういうことになっちまった。下の階で新しく買うこともできるがチューニングするヒマがない。でレッグユニットだけでいい。貸して欲しいんだ。」 「……わかった。茉莉ちゃんのためだ。1式を喜んで貸そう。」 「ありがとうございます。このお礼は必ず。」 リンも俺の上着の影からスッと小山に頭を下げる。 「とりあえず今日の大会はキャンセルして、茉莉ちゃんのそばに居てやる。だから席の場所を」 小山と茉莉が2人きり(ま、ティアが居るから大丈夫だと思うけど…なんか癪だな。)になるのはいやだが今は頼れる人間が居ないのでしかたない。 「東スタンドのH-12番だ、あと茉莉には参戦の理由は会場をみたらウズウズしてきたらしいとか言ってくれ。真実を言ったらやばいかもしれない」 「OK、20分後にレオナを西トイレの奥から2番目の個室に待機させる。そこで受け取りを。」 「ほんとうにすまない。」 「いや、気にするな。茉莉ちゃんのためだからな。」 「じゃあ1度離れるぞ。」 「ああ、レオナ。」 「うん、ボクがんばるよ。」 そうして人の流れにそって別々の行動を取る。 オレはまず下の階に向かい、公式のストラーフ付属のリボルバーを1丁調達する。これぐらいなら残りの時間でも調整は可能だった。多少扱いがパイソンより難しい(というよりは銃身の長さの関係でバランスが違うのが違和感を生む)が燐は基本的に2丁拳銃使いだ。神姫の状態をいつもと同じに近づけてやるのが俺に出来る数少ないことだ。 その後にレオナから時刻どおりにストラーフの装備1式(ご主人様によって徹底的にメンテナンスされた特別版 レオナ談)を受け取って受付へ、さすがに登録カードはどんなサービスを受けるときも必要なので常に持っている。 そして手紙の指示どおりにBブロックのナンバー12へのエントリーが終った。あとは試合を待つだけだが…そこに小山が走ってきた。おい、見つかったらどうす…あ。 「藤堂亮輔!!」 装備を受けとったときにレオナから聞いていたことを思い出す。 「ご主人様が今茉莉さんと接触して"頼まれて貴方を探してる"。適当な時に接触してくるから適当に話しをあわせて、って」 タイミングが向こうもちとはいえ、俺も多少テンパってるらしい。 「なんだよ、小山。」 「いや~偶然茉莉ちゃんに会ってね。そしたらお前がリン君と共に失踪したと聞いたから探していたのさ。」 おい、そっちもいつもと口調が全然違うぞ。どこのお坊ちゃん系キャラだ。と突っ込みはナシ適当に話をあわせる 「…すまない、茉莉には会場を見てたら俺もリンもウズウズして、結局出場しちゃったって伝えてくれ。」 「お、おい! 伝えろって…」 「よろしく~」 そのまま走り去り、俺は演技を終えた。小山はいかにもそれらしくふんぞり返って帰っていく。 これで安全とはいえないけど、なにもしないよりはマシだと思えた。そうして燐の試合開始時間が近づいてくる。 そして約半年振りの燐の公式戦が始まった。 初戦の相手は関係なさそうだった、いつもと違う地域のために初見の相手だったがマスターが女の子だったので違うと思う。試合は燐の勝ち。なぜかレオナ向けにチューンしているはずのパーツが今の燐にはとてもフィットするらしい… 確かにほんの少しの調整は加えた(せいぜいビスの締め直しとか)がここまで合うとは思わなかった。 そのまま意外なほど順調に燐は準決勝へ…つまり中央の特設リングでの試合となる。 なんでだ、この大会はちゃんとセカンドレベル設定なのに簡単にココまで(今までと比べて)上がっていいものか?と思っていた。 しかしの理由も次の試合で明かされることになった。 即ち、あの手紙の主が次の相手だった… 「それではセカンドリーグのBブロック準決勝戦、第2試合。選手の入場です!!」 俺は反対側に立つ男…じゃない リングの脇にあるオーナー用の机…神姫の状態をモニターするディスプレイとサイドボードが設置されている、サイドボードに現地調達した武装を入れて、ディスプレイに掛けられていたインカムを装着して俺は向こう側の神姫のマスターを見る。 コートのように長い白衣を着込んだ、まさに博士だった。 ランクを見ると…ヤツの神姫であるヴァッフェバニーのコロン…兎型の標準アーマーが緑に着色されており、右手にソードオブガルガンチュアを持っている。バックパックにも標準のミニガン等がマウントされている。かなりバックパックが大きいがスラスターもあるみたいなのでバランス型と見るほうが良さそうだった…はリンより上位だった。その差は3桁に上る。 このランクならファーストでもある程度は闘えるレベルだろう。 コロンの鋭い眼光は俺…ではなくまっすぐにリンを見ている。 「エエエエェェェェクセレントォォォォォォ!! その黒い肢体、流れるような空色の髪、穏やかな中に確かに強い意志を秘めたる瞳、己のマスターを愛する心。ドレをとっても最高の芸術…実にすんばらしいぃ!!!!」 いきなり"博士"が叫びだした…アイツなんだ? 「おおっと!! アキバ博士の十八番の相手神姫品評が早速飛び出したぁ! しかし対戦相手の藤堂亮輔氏は事情が良くわかっていないようです!!」 実況の言うとおり全く事情の飲み込めない俺だったが、リンをなんか侮辱されたような、なんとも言えない不快感が胸の辺りにたまっているのを感じていた。これがアイツの十八番…プロレスとかの試合前の挑発とかと同じものか? 「さて、悪魔型のリンさん。この試合で貴女をボクのモノにしてあげるのであ~る。」 プッツン。基本的に温厚な俺でも切れた。 「うっせぇ!! 人の神姫を勝手にいやらしい目で見るな!! お前なんだろ?俺のこの大会に出るようにし向けたのは!!」 「ご名ィィ答ゥゥ!!! このアキバ博士、山田隆臣がであぁぁぁるぅ!もちろんキミの愛するリンさんを貰うためにぃぃぃね。」 「勝手に決めるんじゃねえ!こっちは頭にきてるんだ、あと手紙にかいてるイニシャルと本名違うぞ!!」 「はて…3時間も前のことなど覚えてないのである…見たところ家族云々を気にしてる様であるが、あれは全くのうそなのであ~~~る。」 …ここまでコケにされたことはさすがに人生を二十数年やってるが無かったぞ。これはもうアレか…アレなんだな。よし。 「あ、そうであった、リンさんが今まで闘っていたのは私の部下で、もちろんわざと負けるように仕向けていたのである。」 ………もう俺に言葉は要らない、アイツをにらみつけるだけでいい。そう思った。リンもさすがに怒ってるらしい。 「マスター、私どころかマスターをも侮辱しているあの態度…気に食わないです。」 「ああ、俺も同じだ。叩き潰してやろう。さあ行こうか、リン」 「はい、マスター!!」 空高くジャンプ。そのまま宙返りを決めてフィールドに立つ燐。これを見る限り燐は絶好調の様だ。 ブランクも取り戻せたのか、はたまた先ほどの挑発で微妙な緊張が切れたのか…それはどっちでも良かった。 燐の意志を確認し、次に俺は実況および司会に試合を早く開始するように伝えた。目線だけで。 「おっと、時間が押しているので早速試合開始です。 『黒衣の戦乙女』燐VS『緑の恐怖』コロン…試合開始です!!」 やっとのことで試合開始だ、俺は敵の位置を確認する…全く動いていない。それだけの自身があると見た。 そういえばアイツは曲がりなりにもこの地区で最強の部類に入る(セカンドリーグで)だろう、ランキングで3桁の差だから無理も無いのかもしれない、でも…燐はその間にべーオウルフとの戦いや強化パーツのトライアルのためのトレーニングを初め、公式戦に出られなかった半年間はバトルではないにしろさまざまな経験を積んでいる。だから本来の意味でランキング分の差が絶対的なモノでは無いと思っている、それは燐も同じだと思う。 そうでなければ、上位ランカー相手に一直線に迫っていくことは無いだろう。 ただ、俺とて燐の精神状態が完全に把握できているわけではない、だから指示を出しておく。 「燐、確かにむかつくヤツだが実力は折り紙つきだ、わかってるとは思うけど怒りのままに突っ込むな。冷静にだぞ。」 「わかっています、ただ相手を視認しない限り安心は出来ないので…」 「ああ、ギリギリの距離で止まってまずは適当にSRGRでもぶっ放してやれ。」 「はい。」 そうして燐は疾走する。フィールドは久々のゴーストタウン仕様。この会場はコロシアムフィールドを使わないことで有名でいつも何かしらの障害物が存在するフィールドが設置されている。で今回はそれがゴーストタウンだっただけのこと。 多少足場が悪いが今の燐には気にならない。なぜなら完全に足をつけるわけではなく、次々と小さなジャンプをする要領で走っているからである。事実燐の走った地面にはサブアームのヒールの形はつかず、一点の穴が存在するのみ。 燐はつま先のみを地面に接することで力の加わる範囲を小さくしてその力を全てジャンプ力に変える術を身に着けた。以前はどうしても地面と接する時間が多く、その分パワーのロスが起こっていたそうだ。 それゆえに、今の燐の速度は半年前の公式戦の時に比べ1.3倍になっている。 バサーカ装備の神姫としては最高レベルであり、スピードが持ち味のであることの多いセカンド以上のハウリンにもなんとか追いすがることが出来そうだった。 そいて遂に敵のコロンを目視できる距離になる、燐は走り幅跳びのように両足を前に投げ出して着地、ソレと同時にSRGRを発砲。 2発のグレネードランチャーがコロンに向かっていく。しかしそれは着弾することも無く、ソードオブガルガンチュアで叩き切られていた。 しかしそれでもコロンは動かなかった。 「挑発しているのですか?」 そう言って燐は一足でジャンプ。一気に距離を詰め、フルストゥ・グフロートゥで切りつける。 しかしことも無げにそれは受けられ、しかもそのまま押し返された。質量では明らかに燐の方が重い。そのはずなのにこうして力負けしていることが信じられない。 「燐、一度距離を取れ。」 自分でも力負けを感じていた燐はすぐにバックステップ。そのまま体操の競技のように後方に宙返りを行って後退する。 「…弱いですね。」 無機質な声、感情を押し殺している…漫画とか映画で見る暗殺者とかに似ている声を出してコロンは言う。 「まだこれからです!!」 そして燐は側にあったビルの残骸を蹴って加速。何回かの水平ジャンプでコロンの裏を取る。 「ハッ」 そしてセカンドアームで手刀を作って突き出して突っ込んだ。 「押しが弱いと言っている。」 またコロンに弾き返された。吹き飛ばされるということは無いがどうしても力負けしている…どういうことだ。 推測しているヒマも無く、すでにコロンはミニガンを構えていた。 「さあ、これを抜けられますか!!」 ミニガンからは通常弾では無く、散弾が発射される。 威力自体は弱いが重要な可動部に当たればそれで燐の最大の持ち味である機動性が失われてしまう、それはなんとしても避けないといけなかった。 「燐、大幅に後退。出来るだけ距離を置くんだ。」 「は…はい!!」 回避行動がギリギリで間に合って燐の素体や可動部のダメージはゼロだが、弾を受けるために前に突き出したセカンドアームの装甲には無数のヘコミが出来ていた。やはり威力は弱いようだが弾をばら撒かれると辛い。 いまはビルの物陰に身を潜めているが時間の問題だろう。 しかし俺は燐が物陰に待機するような状況をあまり経験したことが無い、どちらかというと相手が隠れることが多かった。やはり強い。 完全に燐の得意なクロスレンジに持ち込ませない上に、なんとかクロスレンジに持って行ってもパワー負けするのだ…負けはしないが埒が開かない。 「燐、やっぱりあっちの対策は完璧だな。しょうがない。サイドボードのアレを使うぞ。」 俺は苦肉の策として燐にアレを装備させることを決めた。 ~燐の19「覚醒」~
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/547.html
第2幕「はるか遠くの始まり」 神姫には三つの心がある。そしてその心とは別に頭脳がある。心と頭脳を繋ぐのは、それらに情報を与える肉体である。 神姫にとってボディー、コアパーツ、そして三つのCSCは不可分であり、その三種のユニットが分断される事は機能停止を伴う。 そして一度停止に至った神姫は記憶、経験等が全てリセットされ、再びその個性を取り戻す事は無い。 たとえ全て同じパーツを使用したとしても。 ――心を司るCSC。 過去に記録を宿していながらも真っ白になったその心を、新たな肉体に埋め込まれた神姫は一体何を思うのだろうか。 結城セツナの新たな武装神姫、焔はそういう境遇にいる神姫である。 焔がセツナの元で目を覚ましてから約3週間が過ぎた。 例の事件の際にセツナを救ったとある少女からの連絡を受け、晴れてセツナは自由を再び満喫できるようになっていた。 久しぶりに登校した学校では定期考査が間近に迫っていたが、しかしそれでもセツナにとってそれはハンデにはならないらしい。 県内でもランクの高い私立の女子高においても、常に十位以内をキープする才女なのだから、今更試験のための勉強などしなくても日ごろの行いでこなせてしまう能力があるのだ。 そして現在、学校は試験休みに突入している。 その休みを利用し、焔とセツナはバトルを繰り返していた。 それこそ休む間を惜しんで。 原因は焔が言った我侭だった。 「この休みと冬期休暇の内に、私をセカンドまで押し上げて欲しいのです」 「何いきなり無茶な事を…… 焔、あなたはまだ起動したばかりでろくに経験も積んでいないのよ? そんな神姫が、特別な何かが無い限りセカンドランカーになれるわけ無いじゃない」 セツナは呆れたようにそれに答える。 確かに焔の発言はどう考えても無理があり、いくらオーナーに能力があろうとも経験のまるで無い神姫が短期間でそれを叶えるのは無茶な話だ。 それに対し焔は次のような提案をする。 「私に、海神の戦闘データを移植してください」 「ちょ……ちょっと待って。あなたは海神とは違うのよ。いくらあの娘の戦闘データを移植しても、あなたが効率よく戦えるわけじゃないわ」 確かに焔には海神と同じCSCが同じ配列で収められている。 しかしコアパーツとボディーが別物なのだから、その性質は海神とはまるで違う。 「そんなあなたが海神のデータを移植した所で、そのデータは邪魔になるだけかもしれないのよ? それに私は……」 「そんなことは承知です。でも……それでもワタシはそのデータが欲しいのです」 提案は何時しか懇願に代わっていた。 「ご主人、お願いします。ワタシはどうしてもそのデータを使い、セカンドランカーになりたいのです!」 焔にとって、それはどうしてもやらなくてはならない事だったからだ。 セカンドランカーになる、と言うのはあくまで言い訳に過ぎなかった。そう言えば、海神のデータを移植する十分な理由になると思ったのだ。 ならばなぜそこまで海神のデータに拘るのだろう。 「……ねぇ、なぜそんなにセカンドにこだわるの? そして何でそんなにあの娘のデータを欲しがるの?」 「――――」 焔はなにも言わない。 言いはしないが、その擬似的に創造された心で、思うことが確かにあった。 海神ⅡY.E.N.Nと言う名を冠するならば、ランクは兎も角戦闘データだけは海神のものを引き継ぎたい。 それは多分己が主人に対する意地と、そして後ろめたさから来るものだろう。 自分は海神という神姫の代替品だと言う思いが、心の最奥にひっそりと、だが確実に存在している。 ご主人が私のその役目を求めているなら、私はそれ以上の存在になろう。という意地もある。 なんにしても、まずは海神が居た位置に並ばなくてはならない。 そしてただ並ぶだけではなく、海神を内包し、更にそれを越えて己を表さなくては意味が無い。 ワタシが存在する、意味が無い。 チクリと胸が痛んだ。 「ふぅー…… 仕方、無いわね」 セツナは嘆息しうなだれながら小さく答えた。 そうしてセツナは、焔にどんな思惑があるのか聞けないままに、それでもその願いを叶えるべく行動を始める。 こんなやり方は、きっと正しくは無いのだろう。 自分が何を思っているかも告げず、ただ我を通すだけのやり方も。 それを突き通すために誰かの経験を横取りするようなやり方も。 それでも―― それでも海神ⅡY.E.N.Nという名でありながら、焔という名の一つの神姫であるために…… 「焔、次もいける?」 「大丈夫ですご主人。ワタシが望んだ事なんですから」 焔のその言葉に、セツナの表情がかすかに曇る。が、焔はその変化に気付けない。 セツナはすぐに表情を変える。 「それじゃ、頑張って、ね」 そのセツナの笑顔を見て、胸の奥にわずかな痛みを感じながら―― 「はい!」 焔は精一杯の笑顔で答えた。 スタートラインすら、まだはるかに遠くとも。 トップ / 戻る / 続く