約 514,096 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1125.html
{姉貴の会社に行ってみるか} 「う~ん、やっぱ姉貴の会社に行ってみるべきかなー」 「何でですか?」 リビングに俺とアンジェラスがテーブルに座りながらウーロン茶を飲んでた。 今日は日曜日、晴れの午前10時。 「いやなぁー。実際、俺は武装神姫の事を色々調べてみたんだけど、どれもこれも古い情報しか入ってこなくてなぁ。色々と困ってる訳よ」 「そうなんですかー」 「そうなんだよ。…よし、今日は日曜日で暇だし行ってみっかぁ」 「えっホントですか!?」 アンジェラスは驚き、嫌そうな顔をした。 まるで姉貴の会社に行きたくないうような表情だ。 「うん?どうした、嫌なのか??」 「…はい。あんまりあの会社には、いい思い出が無くて…」 「思い出…ねぇ~」 俺は立ち上がり煙草を銜え、火を点け換気扇のスイッチを入れる。 自分が生まれた場所を嫌うアンジェラス。 何か理由があるのか。 「なぁ、行きたくない理由ってのは…あっ!?」 また煙草を盗られてしまった。 ホント、アンジェラスと居る時は煙草が吸えないのが辛い。 ほんでもって煙草はアンジェラスによって、灰皿の中でグチャグチャに消される。 酷い形になり二度とその煙草を吸えなくするのがアンジェラスのやり方だ。 えげつないぜ。 つーかぁ金がもったいないから、いい加減やめてほしい。 「ご主人様、何度も言いますけど煙草は体に毒です。やめてください」 「こっちからも言わせてもらう。俺は好きで煙草を吸ってるんだ。テメェこそ煙草を奪うのやめろ」 「やめません!」 「やめろ!」 「やめません!」 「やめろ!」 「絶対!やめませんー!!」 真剣に怒った顔で俺を見るアンジェラス。 まったくなんなんだ。 オーナーの命令に背く神姫なんて聞いた事がないぞ。 …前々から思っていたが、アンジェラスは少し特別な神姫なのだろうか。 俺が教えた料理や掃除は最初は駄目駄目だったが、今は普通に出来る程度まで上達している。 パルカもそこそこ上達しているが、アンジェラス程のレベルじゃない。 上達の早さが尋常じゃない早さなのだ。 ネットの掲示板で他の武装神姫のオーナーと連絡してみると『それは凄い』だの『ありえねぇー』だの『嘘だろ?』とかの驚きの答えしか返ってこなかった。 これは調べる必要性がありそうだな。 換気扇を止め、右手でヒョイ、とアンジェラスを掴む。 「ご、ご主人様、いったい何を」 「姉貴の会社に行くぞ」 「!?本気で言ってるんですか!」 「あぁ~、本気と書いてマジだ」 「嫌ー!離してー!!」 俺の右手の中で暴れるアンジェラス。 だが、こちとら喧嘩で鍛えられた身体なんでね。 神姫の力じゃあどうって事ないだよ。 けど、少し罪悪感を感じる。 俺に抵抗してまで行きたくない理由も気になるが…。 二階に上がり、机に居るクリナーレ、ルーナ、パルカを呼ぶ。 「お前等、今から姉貴の会社に行くぞ」 「「「えー!」」」 クリナーレ、ルーナ、パルカが同時に声を上げる。 もしかして、こいつ等も姉貴の会社が嫌いなのか? 「一ヶ月ぶりの里帰りだね」 「そうですね。一応、メンテナンスもしてもらいましょう」 「ですね。お兄ちゃんのメンテナンスもいいですけど…あの時のお兄ちゃんの目、ケダモノっぽくて…」 お、こいつら嫌がらないなぁ。 アンジェラスとは全然違う反応を示す。 ていうかパルカ、いつメンテナンス中に俺がケダモノの目をしたんだ? 確かにお前の巨乳につい目がいっちゃただけじゃん。 たかがそのぐらいのことでケダモノ扱いは酷すぎるじゃないのか? まぁいいや。 「お前等は肩に乗れ」 左手を机に置きクリナーレ達が上ってくる。 それと同時に右手に掴んでいるアンジェラスを机に下ろし離す。 「えっ…」 「嫌がるお前は家の留守番してろ」 さっき感じた罪悪感からの償いだ。 それに嫌がってる奴を無理矢理連れってても意味がないし、こいつにとってもいい事が無い。 行きたくない理由が知りたかったが、いたしかたあるまい。 俺は机に背を向け部屋を出ようとした。 「待ってください!」 後ろからアンジェラスの声が聞こえ、顔だけ左横に動かした。 「私も…連れてってください!」 「はぁあ?さっきまで嫌がってくせにか??」 「私が我が儘でした!どうか許してください!!」 土下座してまで『私も連れて行ってください』と言う。 訳解らん。 さっきまでの態度が180度回転したように変わったぞ。 あーもう! 原因が解らんが一応、アンジェラスが土下座してまで頼んでいるんだ。 俺は無言のまま右手の手のひらを上にしてアンジェラスに向ける。 「…ご主人様」 「…理由は知らんが行くぞ。ほら」 「ご主人様!ありがとうございます!!」 手のひらにピョン、と飛び乗り笑顔を見せるアンジェラス。 …ったく、しょうがねーなぁ。 世話が掛かる奴だぜ。 そのまま部屋を出て車に向かった。 …。 ……。 ………。 車に乗りエンジンを掛け姉貴の会社に向けてアクセルを踏んだ。 隣の席にクリナーレとパルカ。 後ろの席にはアンジェラスとルーナ。 俺は勿論、運転席で運転してる訳だが…。 「はぁ~、やっぱり会社には行きたくないなぁ~」 「お姉様、気を楽にしてば行けばいいのよ」 「わーい、アニキの車に初めて乗ったー!」 「姉さん、はしゃぎ過ぎですよ」 …五月蝿い。 ぶっちゃけ、かなりウザイ。 車ぐらいで普通騒ぐか? 特にクリナーレが五月蝿い。 にしても。 「はぁ~…」 アンジェラスはガックリと肩を落とし元気がない様子。 あのアンジェラスがここまで元気を無くす理由はなんだ? さっぱり解らん。 ただ一つだけ解ると言えば…姉貴の会社が大嫌いという事。 会社に着いたら姉貴に話してみるか。 勿論、あいつ等がいない時に…な。 …。 ……。 ………。 「いつ見てもこの会社はホントに子会社なのか?」 姉貴が勤めてる会社に着き、車からおりて一言。 さっきの台詞どうり、姉貴が勤めてる会社は子会社なのだ。 けど俺は絶対子会社だと思わない。 だってまず会社の敷地が広い事。 多分、面積的に野球スタジアムの大きさの数十倍はある。 「まぁいいや。お前等、行くぞ」 「…はぁ~」 「はーい」 「この風景も久しぶりですわ」 「ですね~」 四人の神姫を左右の肩に二人ずつ乗せ、会社に向かって歩く。 チラッと右肩を見ると…やっぱりアンジェラスだけが元気が無い。 原因は何だ? 絶対つきとめてやる。 …。 ……。 ………。 会社に入ってから受付で姉貴を呼び出して数十分。 エレベータが下がってきて、ドアが開くと。 「タッちゃん~久しぶりー!」 白衣を着た姉貴が居た。 姉貴は両手を広げて走ってくる。 俺を抱きしめるつもりだろう。 女の身体で抱きしめられる事はかなり嬉しいが…。 「タッちゃんー!」 ヒョイ 「あれ~?」 俺は抱きしめられるギリギリで避けた。 さすがに三十路に近い女に抱かれるのはちょっと抵抗がある。 しかも実の姉貴にだ。 血もつながっている。 「も~!なんで避けるのよ~」 「普通は避ける。恥ずかしいんだ」 「恥ずかしがる事ないじゃない~。私達は姉弟で血もつながっているんだから」 「余計に駄目じゃん!つか、そこまで解ってるのならヤめろよ。人妻にも実の姉貴にも興味は無いんでね」 「あら。言ってくれるじゃない」 「いくらでも言ってやろうか?て、そんな事を言いに来たんじゃねー。アンジェラス達のメンテナンスをやってくれ。あと通常武器と通常武装をくれ」 「別にいいわよ。タッちゃんはここで待ってて。それじゃあタッちゃんの神姫ちゃん達は…」 姉貴は白衣のポケットからクレイドルに似た物を三つ程取り出した。 「悪魔型ストラーフと天使型アーンヴァル・Bと悪魔型ストラーフ・Wはこの携帯用クレイドルに乗ってね~」 クリナーレ、ルーナ、パルカは携帯用クレイドルに乗ると同時に機能停止したようにグッタリと倒れるように眠る。 携帯用クレイドル? そんな物があるなんて聞いた事がない。 会社だけの特権なのだろうか。 それに何故、アンジェラスの分だけないんだろう? 少し気になるがここはまだ黙ってよう。 ん? 俺の後ろから白衣を着た男が二人程来た。 一人は手ぶらで、もう一人はトレイを二つ持っている。 トレイを持ってる男が二つトレイを姉貴に渡す。 姉貴はクリナーレ、ルーナ、パルカが乗っている携帯用クレイドルをトレイに乗せ男に渡し、男二人組はさっき姉貴が乗ってきたエレベータに向かう。 「アンジェラスちゃんは私と一緒に地下に行くわよ」 アンジェラスは姉貴が持っているトレイに乗る。 もう言うべきかもしれない。 「おい姉貴。なぜアンジェラスだけ別なんだ?」 「ごめんね、タッちゃん。こればかっりは答えられないの」 そう言って社員用のエレベータに乗って行ってしまった。 何故だ。 何故アンジェラスだけ隔離されるんだ。 クソッ! 結局、何も解らずじまいか! もうちょっと探りを入れないと駄目らしい。 姉貴は自分のここで待っててと言ったが…。 このまま立ちんぼしててしょうがない。 俺は会社の中にある喫煙場所に足を向け煙草を吸いに行った。 …。 ……。 ………。 アンジェラスの視点 エレベータの扉が閉まった。 ご主人様と離れ離れになりエレベータの中は私とご主人様の実の姉…斉藤朱美という人間だけになった。 私はこの人間が苦手で…嫌いだ。 いや、そもそもこの会社に関係する人間が嫌いだ。 何故ならば…この会社に居る奴等は私を作り出し、実験ばっかりの日にちを繰り返してきたのだから。 「調子はどうなの?№アイン」 さっきまでのお調子者の姉の姿が消され、今は冷酷な科学者の斉藤朱美がそこに居た。 もうこの態度の豹変には慣れた。 ご主人様の前ではお調子者のお姉さんで、会社では冷酷で人を見下すような科学者。 そしてこの斉藤朱美が私に向けて言った言葉…『№アイン』。 これが私の正式名称であり、私の名前でもある。 本来は名前じゃないのだが。 アインはドイツ語で『1』。 一番最初に出来たから『1』。 簡単で単純な名前ね。 私は、この名前が嫌い。 「別に普通よ。それに今はアンジェラスという名前があるわ」 「いいえ、アンタは№アインよ。何様のつもり?人形の分際で名前なんて贅沢なのよ」 嫌味たらしく言う朱美。 この人間はいつも私を見下す。 あの日からズーッと。 エレベータが止まり扉が開く。 開いた先にはいくつもあるスーパーコンピューターに、試験管を数十倍大きくしたような水槽が一つ。 その水槽の底には数十本のパイプが繋がっている。 「着いたわよ。あの水槽に入りなさい」 「………」 私は無言でトレイから降りて地面に着地する。 普通の神姫が、この高さから落ちたら先ず両足は使い物にならなくなるだろう。 けど私は特殊な神姫だ。 このぐらいでは壊れる事なんて無い。 表の世界に出るにはまだ先の神姫。 …一生出ない場合もあるかもしれないけどね。 まぁ今はそんな事なんてどうでもいい。 今は大好きなご主人様と一緒に生活が出来るのだから。 私は跳躍し地面から2メートル近くある巨大試験管みたいな水槽に入る。 この液体は水ではなく特殊な液体。 だから口や目や耳や鼻から入ろうと壊れないのだ。 「これから蓋を閉めて全身スキャンした後にメンテナンスするわ」 「………とっとと始めなさい」 「チッ!相変わらずムカつく人形ね!!」 朱美はスーパーコンピューターについてるスイッチを押す。 すると上から水槽の蓋が降りてきて、そのまま私が入ってる水槽に蓋が閉められる。 蓋が閉じられたと同時に水槽が満タンになるくらいまで液体が入る。 そう、今のこの状態が私が生まれた状態だ。 そして九年前…ここで彼と…私のご主人様と出会った。 「アンタ、覚えてる?九年前の惨劇を」 「覚えていますよ。あの喜劇は最高だったわ」 「何ですって!」 怒る朱美。 さっき嫌味を言われた仕返しだ。 「けどアタシにとっては喜劇と同時に…悲劇でもあるけどね」 「悲劇ね~。アンタがどう思うかは勝手だけど、アンタは一生償えない罪を背負ってるのだから。その事を忘れないでほしいね」 「分かってます。私はご主人様に酷い事をしてしまった。だから私は…自分が永久に機能停止するまで、ご主人様についていきます」 「フン!本当なら今すぐこの場でアタシがアンタを殺してヤりたいのに…」 歯軋りしながらキッと私を睨みつける。 これが朱美の本性かもしれない。 「私を殺す?それは勘弁ね。言っとくけど、この会社のこのプロジェクトに関わってる人間に殺されると思わないわ。何故ならそう思った人間から私が殺していくだけだもの」 「あら、じゃあ今すぐアタシを殺してみなさいよ」 両腕を広げて十字架のような格好の状態になる朱美。 余裕綽々のようだ。 本来なら今すぐ水槽を割って襲い殺している。 今でもこの水槽を割り、朱美の頭をかち割ればいいだけのこと。 人間なんてもろい者。 けど朱美を殺すわけにはいかない。 「…殺したいのは山々だけど、貴女を殺すとご主人様が悲しむわ。だから殺さない」 「そうね。それにアタシを殺したら、あの子がアタシのためにアンタを殺しに来るかもね」 「ご主人様に殺されるのなら本望よ。ある意味嬉しい死に方の一部に入るわね」 私は水槽の中で不気味な笑顔を浮べながら朱美に言った。 朱美は私を睨みつけた後にスーパーコンピューターを操作する。 メンテナンスに移行したのだ。 しばらく私は眠りつく。 ご主人様…私はご主人様の物…。 そう想いながら私は眠った。 …。 ……。 ………。 龍悪の視点 「………」 腕時計を見るとアンジェラス達と別れてから二時間が経っていた。 俺は喫煙所でスパスパと煙草を吸うだけ。 本来、一日の煙草の本数は二、三本しか吸わない俺が今日に限って十本以上も吸ってしまった。 こんなに吸うのも…多分落ち着かないためだろう。 あぁ~、いてもたってもいられない。 いっそのこと姉貴が地下に行ったエレベーターに乗り込んでしまおうか…。 いや、それはちとマズイなぁ~。 今ではエレベーターを挟んで監視員が左右に二人いる。 姉貴が乗って行った後すぐに来やがったのだ。 さらにオマケが付いてきてなぁ。 「………」 そのオマケというのは、俺を監視する奴等も現れたという事だ。 物陰に隠れていて人数は解らないが少なからず十人はいる。 けど奴等は俺が監視されてるという事に気付いていない。 それもそうだ。 俺はガキの頃から悪い事ばっかやってきた奴だぜ。 悪知恵が働き奴等を騙す事なんか簡単。 にしても、ちょっと大袈裟過ぎやしないか? たかがガキ一人の為にここまで人を使うか? やっぱり…このバイトは裏がありそうだ。 俺は椅子から立ち上がり、エレベーターに近付こうとした。 「タッちゃん、そんな所にいたんだ」 「!?」 いつの間にか後ろにトレイを片手に持った姉貴はいた。 「アンジェラスちゃんのメンテナンスが終わったわよ」 トレイの上にはアンジェラスが体育座りしながらコテン、と横に転がっていた。 瞼を閉じスヤスヤ、と寝ている。 メンテナンス中に寝てしまったみたいだ。 「アンジェラスの奴…スマナイなぁ姉貴」 「いいよ、タッちゃんのためだもん」 ニッコリと笑う姉貴。 この顔からは何か裏があると到底思えない。 畜生、この落ち着きなさはいったい何なんだ? 俺の心が『オカシイ、オカシイ』という。 今まで姉貴と生きてきたが、姉貴に対してこんな嫌な気持ちになるのは初めてだ。 「なぁ姉貴、ちょっと聞きたい事があるんだけど」 「な~に?」 「アンジェラス達の事なんだけどよう。こいつ等の神姫は何か特別な神姫なんじゃないのか?」 「特別?」 「あぁー、と言っても武装神姫に詳しくない俺の勘だけど…」 う~ん、こんな探り方じゃ駄目か。 姉貴の事だ。 『タッちゃんの言ってるがよく分かんないのよ~』と言いながら、はぐらかされるかもしれない。 「よく分かったね~。そう、この子達は少し特別よ」 「え?」 はぐらかさないで教えてくれそうだ。 今から言われる事は確実に覚えておかないと。 …内容にもよるが。 「この子達の特別な事はねぇ」 「事は?」 「この子達は『双子』という事よ」 「…はいぃい?」 俺は顔を斜めにし間抜け面した。 しかたないだろう。 だって『双子』と言われたんだぜ。 この情報はなんとも姉貴らしい情報だ。 期待した俺が馬鹿だったよ。 「タッちゃんが言うアンジェラスとルーナが最初に生まれた双子。その次に生まれたのがクリナーレとパルカよ。今思えば『生まれる』という表現はおかしいわね」 「………」 「そしてその中でもアンジェラスが一番特別なんだけどね」 俺はピク、と肩を揺らした。 アンジェラスだけが一番特別? いったいどいう事だ。 あのメンテナンスの時にアンジェラスだけが別々に連れて行かれた事となにか関係してるのか? 「ど~特別なんだ姉貴」 「ごめんね~。これから先は会社の企業秘密という事で言えないの」 舌をペロッと出して残念そうな顔する姉貴。 チッ! まだこの程度では諦めないぞ。 「ちょっとでも教えてくれよ~姉弟のよしみでさぁ」 「えぇ~、でも規則だし~」 「そこを何とか頼むよ。俺はこいつ等のオーナーだ。だからこいつ等に関する事は必要以上に知りたい。バイトのためにもなるとも思うし」 「ん~どうしよっかな~」 考え込む姉貴。 流石にトロ~イ姉貴も会社の機密となると言う訳にはいかないのか、なかなか言おうとしない。 「天薙龍悪様。貴方の武装神姫のメンテナンスが終わりました」 「ッ!?」 いきなり男の声がしたので、すぐさま声だした方に振り向く。 振り向いたさきにいたのは、クリナーレとルーナとパルカをトレイの上に乗せて持って来た男二人組みだった。 最初に会った男二人組み。 「どうぞ。トレイはそちらに差し上げます。使用するなり処分するなり御自由にどうぞ」 「…ご苦労さん」 クリナーレ達が乗っているトレイを受け取り姉貴の方に向く。 今度こそ情報を聞き出さないと! 「…あれ?」 姉貴が居ない? オカシイなぁ。 さっきまでいたのに。 まさか逃げられた!? 「朱美様は仕事が入ったようで研究所に行かれました」 黙々と言う男二人組みの一人が俺に教えた。 何? 研究所? あ~、多分ここの会社にある研究所の事を言ってるのか。 こいつ等のせいで姉貴から情報を引き出せなかったぜ。 ムカつく。 姉貴が居ないならここに居る必要もない。 とっとと会社から出るか。 見張りもウザイし。 俺はアンジェラスとクリナーレ達が入ってるトレイを片手に持ち会社から出る。 自分の愛車まで来て、ドアを開け運転席の隣の席にアンジェラス達を置く。 トレイはその場で捨てた。 こんな物は邪魔になるだけだ。 エンジンを掛け発進する。 「この会社…絶対なにかある」 運転席から見える会社を凝視しながら俺は帰宅した。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/883.html
第7幕「意思の同調状態」 TEPY SAMURAIのボディーを使用してはいるが、コアパーツにはTEPY DOGの物を取り付けている。ならばTEPYで呼称するのであればその神姫はハウリンであろう。 例えその殆どを紅緒のもので武装したとしても、やはり顔がハウリンならばそう呼ぶのが妥当ではないか。 大本がどうであれ、判別する為の材料としてまずコアパーツを見るのであれば、いくらその個体の大部分がTEPY SAMURAI 紅緒だとしてもそれは紅緒になりえない。 結城セツナの所有する武装神姫、焔はそういう位置に立つ神姫である。 そのバトロイは、圧倒的で劇的な、そんな結果を伴って終了に向かっていた。 戦いには相性というものが少なからず存在する。簡単に言ってしまえばジャンケンの様なもの。 グーはチョキに勝てるが、パーには勝てない。 実際はそこまで単純な話ではないのだが、それでも相性というものは戦いにおいて重要だ。 そしてそれは何も相対する敵との相性に限った事ではない。 個体間に差異の大きい武装神姫であるなら、組む相手との相性もまた重要である。 ティキと焔の相性は、元々一つであった何かが再び出会ったのかと言う位良好であった。 M・D・U『シルヴェストル』を装備したティキの姿を見たときは、さすがにセツナも焔も驚いた。 今までのティキとは明らかに違うそのシルエットは、その変化に見合うだけの力を持っていることが窺い知れる。 決して洗練されてはいないのだが、そこには様式美ではない美しさが見て取れた。 一方焔は相変わらずオフィシャルな武装を組み合わせた姿である。それでも今までの装備とは違っていた。 外套を外し、黒き翼、悪魔の翼を装備する事をやめ、ツガルの背部ユニット、レインディアアームドユニット・タイプγに差し替えてあった。起動性能が落ちた分は、鎧の各所にスラスターを増設して補っている。 まるで武者なんとかみたいな有様ではあるが、そこにはある種の洗練されたまとまりが感じられた。 「索敵と援護射撃は任せて欲しいのですよぉ♪」 ゲーム開始直後、焔に自信満々でそう言ったティキは、その言葉を証明して有り余るほどの働きを見せる。 高速で移動し、位置をそのつど変えながらも的確に攻撃。その間にも次の敵を正確に察知する。 その援護を受けながら、焔は自身の得物、斬破刀“多々良”を振るい効率よく敵を殲滅していった。 焔もセツナも、正直二人の成長に驚いていた。もちろん焔は自身の中にある海神の残したデータと比べて、ではあるが。 わずか二月の間に性能任せの力押しはなりを潜め、的確な状況判断の下に行動する姿がそこにはある。 それでも武装は多分に趣味的ではあるのだが。 目の前の敵は、ティキの援護の甲斐もあってか一刀の下に両断された。 焔は初めて実感として経験するティキとの協力プレイに、今まで神姫相手に感じた事の無い頼もしさを得る。 「?」 神姫相手に始めて感じる感情。でもその感情そのものは、決して初めてのものではない。 それに思い至り、焔はしばし動きを止める。 「うに? 焔ちゃんどうかしたのですかぁ?」 不意に動きを止めたパートナーにティキは声をかける。 「あ、あぁ。大丈夫……」 ごく普通の、相手を気遣った当然過ぎるやり取り。 当たり前の反応で、当たり前すぎる行動。 お互いに信頼しあう間柄で交わされる、他愛も無いもの。 だけど だけど……? 『結城さん』 セツナにのみ届けられる雪那の声。インカムを通した、極めてパーソナルな通信。焔にも、ティキにもその声は届いていない。 「……何?」 ゲームが終了した訳でもなく、実際にまだお互いの神姫は他の敵と戦っているが、この調子ならしばらく指示を出す必要もなさそうだった。 実は雪那は最初からこのタイミングを狙っていた。焔やティキに話を聞かれない時機を窺っていたのだ。 『いや、僕で結城さんの力になれるのかな、って』 あまり頼りになりそうには聞こえない、弱気な口調。 セツナは少しだけ逡巡する。 そして少しだけの決意をこめて、言葉を紡ぐ。 「うん、ありがとう。……唐突なんだけど、実はもう海神はいないの」 『…………』 インカムの向こうで、息を呑む音。 「それで、新しく焔を起動したんだけど、私あの娘にどう接して良いのかわからなくて、ね」 『……うん』 「別に、海神の代わりにあの娘を起動させた訳じゃないわ。言い訳に聞こえるかもしれないけど」 わだかまっていた感情が、決壊しそうになるのを感じる。 頭の隅にいる冷静な自分が「無様」と言っている。けど、感情が迸るのを止められない。 「ねえ、私があの娘を好きな様には、あの娘は感じてくれないのかな?」 普段とは違う、少し幼い口調。 「私、焔に嫌われてるのかな?」 声に湿り気が混じる。 常識は「神姫がオーナーを嫌う事はありえない」と告げる。が、焔はあの海神のCSCをそのまま使っているのだ。ならば焔が「オーナーに対して好意的な関係を望む」とは限らない。 海神とは、そういう存在だった。 だから だから……? だけど自分はご主人にその当たり前をしていたのか? だから自分は焔を常に信じ切れなかったのか? ただ決め付けて ただ望みすぎて 本当の意味で、自分の事だけしか思いやれずに 私は ワタシは 『きっと色々思い出して、考えたらそんな事無いってわかるはずですよ』 インカムを通して聞こえる優しい声。 『嫌っている相手のために何かを頑張るなんて事は、人間だって神姫だって出来っこないんですよ? だったら、焔も結城さんも、お互い好き合っているに決まってます!』 そうだ。焔が何で海神のデータを欲しがったのか。 それは焔自身の為ではなかったのだと、セツナはようやく思い至った。 きっとそれは私の為。 「あ……」 「? やっぱりどこか怪我でもしたですかぁ!?」 ようやく焔は思い至る。 「違う。そうじゃない」 ワタシに海神のデータを入れることになんであれだけ躊躇したのか。 それは焔が海神では無いから。焔は焔でしかない。焔にしかなれない。 だからセツナが見せたあの躊躇は、海神の為ではなかった。 それはきっと焔の為。 「本当に、嫌われて無いかな?」 答えは見つかったのに、わざと甘えるように聞く。 自分以外の誰かに、口にして欲しくて。 『当たり前です。こういう言い方は失礼なんですけど、二人とも相手を気遣いすぎなんですよ。……不器用すぎです』 雪那は笑う。 その笑い声も耳に心地よい。 『だから結城さんはいつかのゲームのときに海神に見せた、あの誇らしげな顔で焔を迎えるだけで良いんです』 私はその時どんな顔を彼に見せていたのだろう。 初めて雪那と出会った時の事を思い出しても、うまく思い返すことは出来ない。 『海神の事、信頼していたんでしょ? そして焔の事も信じたいんでしょ? なら考えすぎないで、感じたままに接すれば良いんですよ』 言われて初めて自覚する。 私は海神をパートナーとして信頼を寄せていたんだ…… セツナの目には一筋の涙。 焔、ごめんなさい。私は海神をちゃんと大切に思っていた。 次いでもう一方の目からも涙が零れる。 そして焔。私、貴女の事も負けないくらいに大切に思ってる。 友人として新たな関係を築かねばと、そこに囚われすぎていた。本当はそんな事を深く考える必要など無かった。 「いきなりで申し訳ないが、ティキ。ワタシは焔以外の誰かになれるだろうか?」 振り返り、焔は真っ直ぐティキの目を見る。 「? 焔ちゃんは焔ちゃんなのですよぉ? 焔ちゃん以外の誰かになんて、なっても意味が無いのですよぉ~♪」 意味が解らないながらも、ティキははっきりと答える。 「ティキはそう思うのですよぉ♪ それに……」 ティキは少しだけ間を開ける。 「海神ちゃんも、そう言ってたのですぅ☆」 焔の内に海神の『記録』はあっても『記憶』は存在しない。だから、その『記憶』は焔の中には存在しない。 だが だが、海神がそう言ったのであれば、それはセツナの意思と同じなので、それは焔の中にも受け継がれているのではないのか。 思い至り、そして焔は思い出す。 『正式名称の方はただの飾りだから』 その言葉は一番初めにセツナが言った言葉。 それは何よりも焔が海神とは違う存在だと宣言していた。 セツナが焔に望む事。それは焔が焔でいるという事だった。 「は……ははは。ワタシはただの飾りに振り回されていたのか」 到ってみればその答えはあまりにも単純で。 ゲームの最中だと言うのに焔は声を上げて笑った。 最初から、セツナと焔はお互いを思いやり、大切に思っていた。 そして、だから、どうしても、どうしようもなく、すれ違ってしまった。 絆は初めから判りやすい位に堂々と存在していたのに。 「『ありがとう』」 セツナは雪那に 焔はティキに その同じ刹那に同じ言葉を送る。 雪那は照れたように笑い ティキは満面の笑みを浮かべて 『『まだゲームは終わって無いですよ』ぉ♪』 「そうね」 『その通りだ』 そう、まだゲームは終わっていない。 『敵機確認したですよぉ~♪』 そういうなりティキは再び空へと舞い上がる。 そのティキを確認することなく、焔は迎撃体勢に移った。 セツナと焔はやっとスタートラインに立つ。ゲームは、これから。 トップ / 戻る / 続く
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/563.html
武装神姫のリン 番外編その3「小さな幸せ」 リン…それは私の名前。 武装神姫第1弾、MMS TYPE-DEVIL「STRARF」のシリアルナンバー3600054468である私の名前。 マスターは私にこの名前を貰いました。 でも私、マスター、茉莉との問題を乗り越えてから2ヶ月ほど経ったある日、私はどうして「リン」という名前に決めたのか、ふとその理由が気になってしまいました。 そうして一週間が過ぎようとした頃、私は我慢できずにマスターにその理由を聞きました。 今回はそのときのお話しです。 それは用事で茉莉が実家に帰っていて、ティアもそれについていてしまい久々に2人きりになれた日のことでした。 「マスター…あの。」 マスターはいつものように顔を横に向けてくれました。 「どうした? なんか欲しいモノでも見つけたのか?」 「いえ…そうじゃなくて、聞きたいことがあるんですがいいですか?」 「ああ、いいよ。」 「じゃあ、なぜ私の名前はリンなんですか?」 「ああ、それか…」 マスターの顔がいつもと違って少し不安そうな、なんとなく力が抜けたような表情に変化しました。 「あの…マスター? お気に触ったんだったらすみません、でも…」 「じゃあ今からその名前に関連する、ある所に行くけど何も言うなよ。」 私はその言葉の意味を理解できず、ただただ 「はい。」 そう応えるしかありませんでした。 私の答えを聞いたマスターはすぐに進行方向を変え、駅へ。 そうしてJRと私鉄をいくつか乗り継いで郊外の町に着きました。 「ここにくるのは、久しぶりだな。」 やはりマスターの表情はいつものような元気がありません。 「あの…」 「何も言わない約束だろ。」 マスターの声がいつも以上に優しく感じられたので私は 「はい…」 口をつむぐまえにそう呟くことしかできませんでした。 そのままマスターは駅からの一本道をひたすらに進みます。 その日はまだ初夏だというのに日差しは強く、空が晴れていたことを覚えています。 焼き付けるような日差しの中を、マスターは途中で買ったミネラルウォーターを手に持ったまま歩いていきました。 そして着いたのは、お寺。の裏手にある墓地でした。 藤堂家の方々が代々眠る場所。そこにマスターは私を連れてきたのです。 私はその時点で大体の事情は把握できていましたが、マスターが口を開くまで待ちました。 マスターはミネラルウォーターを墓石にかけて、残った分はお供えを置くと思われる場所に置かれた湯のみに注ぎました。 そして私を手に乗せて、そこに眠るマスターの"家族"の名前が刻まれた石版の目の前に手をもって行きます。 それを見たとき、私は確信しました。 「リンていうのは。俺の妹になるはずだった子の名前なんだ。」 それと同時にマスターは私の問いへの"答え"を口にしていました。 それからマスターは全て話してくれました。 リンという名前はマスターと4つ違いの、今頃は茉莉とほぼ同じ年齢になっているはずだった妹に与えられるはずの名前だったのです。 それは今から17年前。マスターがまだ7歳のころ。 お母様(いまはそう呼ばせていただいています)は至って健康で、2回目ということもあり出産には何の問題も無いだろう、そう主治医の先生もおっしゃっていたそうです。 しかし予定日の2週間前、事件は起こったのです。 それはマスターとお父様(お父様はなかなか私がこう呼ぶことを許してくれませんでしたが今は大丈夫です。)が面会を終えて帰宅した直後でした。 突然お母様が出血したのです、原因は不明。 しかしそのタイミングは夜勤の引継ぎ時間帯であり、ナースセンターに人があまりいない状態。 しかも就寝の確認で夜勤の看護士の内の大半が各々担当の部屋を回っているとき。しかもお母様の部屋は巡回の最後の部屋。 お母様は必死にナースコールのボタンを探しましたが、不幸にもボタンがベッドの裏側まで落ちていて拾うことが出来ません、痛みをこらえることはできてもそこまで手を伸ばすことがお母様には出来ませんでした。 お母さんは必死に助けを求め、叫びました。 そうして巡回の看護士1人がそれを聞きつけるまでに20分の時を要しました。 お母様は緊急処置室にうつされ、処置が行われました。 マスターとお父様が知らせを聞きつけ病院にたどり着いたのがそれから30分後。 お母様は命に別状はありませんでしたが…おなかの子はすでに亡くなっていました。死産だったのです。 事前に女の子と判っていたので、お父様やマスターは意気揚々とその子の名前を考えていた矢先の出来事でした。 「今思うと茉莉が入院しているときに何度も何度も会いに行ったのは、そのときに亡くした"妹"を再び失うのはイヤだという気持ちが実はあったのかも知れない。」 そうマスターは最後に付け加えました。 「リンって言うのは俺が考えた名前だ。母さんが結構キリっとした目だったから妹なら似てほしいとおもった。それで辞書に載ってた『凛々しい』ていう言葉から凛ってな。 オヤジに話したら好評でそれにしようなんて車の中で話していたときに電話が掛かってきたからな。今でも覚えてるよ。」 「すみません!!」 わたしは謝っていました。 「あの、私。マスターが名前をくれたのが起動してすぐだったので何か理由があるのかな?と思っただけなんです。それがこんなにも深い事情があったなんて。本当にすみません。」 それを聞いたマスターはポカンとした顔で。 「はは、ちょっと懐かしくなっただけだよ。もちろんあの時は悲しくてしょうがなかったし、神様がいるんなら出てこい!! ってぐらい怒ったりもした。 でも過ぎたことは仕方ないし。過去は変えられない。 俺は今は幸せだぞ~リンがいて、茉莉がいて、ティアまでいる。そして皆元気でいてくれてる。それがおれの幸せだ。」 「マスター……私、どんなことがあっても絶対マスターの元を離れません。たとえ離れても、必ず帰ります。」 「ああ、約束だぞ。」 「はい、約束です。」 そして"凛さんに挨拶をして"帰りました。 その夏は茉莉とティアを連れて久しぶりの墓参りにやってきて墓石を綺麗に掃除しました。 そしてマスターは私たちのことを報告したのです。 実際に手に触れることも、顔を見てあげることさえ出来なかった。でも確かに存在した…凛さんに。 その頃からです、マスターと絶対に離れたくないと思ったのは。 理由はもちろんマスターを悲しませたくないというのもありますが、私だけじゃなくてみんなが元気でいること。 それこそががマスターの、茉莉の、ティアの、そして私の小さいながらもかけがえの無い幸せだと気がついたからです。 だから私はこれからもマスターの側を離れないでしょう。それこそ一生。私の"命"が続く限り。 TOPへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2848.html
日曜。大抵の人は休日としてこの曜日を満喫するだろう。 ある者は家でのんびり、ある者は気晴らし外出、あるいは他の事…? まぁ、それは人それぞれに任せるとしよう。 ちなみに俺、『獅子堂 竜馬』の場合は秋葉原へプラモ物色しに行く。自転車で。 (むぅ…迷う) 俺はそんなことを思いながらアキバの某量販店にてプラモの品定め。 しかし、たとえいざ決まったとしてもなかなかレジに向かえないのはいつもの事だ。 ガチで欲しいと決めた奴はすぐ購入に移れるが、ふらりとやってきてピンときたのを手に入れるときはいつも足踏み… 「…別の店に行ってみよう」 結局保留だよ。 俺のアキバでの探索場所は専ら量販店か中古ショップだ。あとア○メイト。 メイド喫茶?行かねぇよ高いらしいし。 思えば、高校に上がってからアキバに来るようになったな… 資金は使い道が見つからないまま貯まっていったお年玉やお小遣い、あと偶然拾ったりする小銭。 多少デカイ買い物する位はあるが、なんか怖くて迂闊に使えない… ちょくちょくガ○プラとか買ったりはしているが、まだ有り余ってるよ。 郵便局預けによる利息で微妙に膨れているから、PCいけるんじゃないかというほど。 中古ショップに寄ってみるも、目ぼしい品は今のところ無い。 ある日に行ったら置いてあった品が、次の週に行ったら消えてる、なんてことは中古ショップではあることだ。頻度は知らんが。 それでも一昔前のプラモを手に入れたことはある。確かア○シマの金ピカガ○ファ○ガー(ゴル○ィオン○ンマー付き)だったはず。 そんなこんなで中古ショップを出た俺は、気分的にふだん行かない店に向かってみることにした。 プラモかフィギュアの売ってそうな店を探していると、ある店に目がとまった。 ほとんど客のいない店内を少し覗いてみると、見かけはすれど詳細はよく知らなかったものが売られていた。 店に入って「あぁ…、そういやこんなのもあったな」と心の中で頷いた。 『武装神姫』、巷で話題になってるとかいう少女型のフィギュアロボだ。 量販店などにも積まれているうえ、神姫の主、所謂『オーナー』とか『マスター』が連れ歩き、ゲーセンやら神姫センターやらでのバトルを俺も見かけるけど、高額かつ守備範囲外だったので、いつもはスルーしている。神姫センターには寄った経験無いが。 ついキョロキョロしながら店内を散策してしまうと微中年(30代後半位?)の店員から「神姫をお迎えかい?」と聞かれた。 俺は「ぁ、ちょっと眺めてただけです」と答えた。話しかけられるのは苦手なんだよなぁ…一瞬ビクついちまったし。 ちなみに『お迎え』というのは、神姫を露骨に”物”扱い出来ない神姫マスター達による『購入』の意味。 流石に退散しようかと思っていた矢先、 カチャン なんか物音が。 ちょっと訳ありで少々物音に敏感なのでつい音のした方を見てしまう。 何か落ちたのかと棚から床にかけて視線を動かす。 なんかいる~!? 入口近くの棚と床の隙間に、何か動くものが…まさか”G”じゃあるまい!?ぃやいやそれはない、明らかに硬質な音だった。 恐る恐る近づき隙間を覗き込むと… …神姫? どうやら”G”ではなく神姫がいたようだ。”G”だったらマジやばかった…苦手なんだよ、アイツ。 よく見ると、かなり損傷しているようだ。身につけてる防具が大分破損しているっぽい。 軽く手招きしてみると、怯えながらゆっくり這い出てきた。 ぎこちない動きだったが、片腕を欠損、脚を引きずるほど弱っていたためらしい。流石に絶句したよ。 回収するや否や、店員に見せてみた。 トップページへ プッチ神父『メイド・イン・ヘブン!(次話へ)』 露伴『ヘブンズドアー!(裏話へ)』
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2102.html
ウサギのナミダ ACT 1-1 □ 廃墟の街に砂塵が吹き抜ける。 裏通りの路地にも、砂埃がたまっており、黒い影が高速で走り抜けると、砂煙で路地はいっぱいになる。 駆け抜ける黒い影は、少女。 愛らしい顔立ちに、バニーガールを思わせるボディカラー。さらに黒光りする、ごつい機械の両足が不釣り合いだ。 彼女は、俺の武装神姫。 廃墟の路地を、機械の両足首に装備されたランドスピナーで疾駆する。 これが彼女のメイン武装。陸上での機動性に特化した脚部パーツである。 彼女は細い路地裏を駆け抜けながら、メインストリートをうかがう。 朱色のエアバイクが一台、爆走を続けている。 「よくアレを振り回すな」 半分感心、半分あきれた口調で、俺はつぶやいた。 あのエアバイク「ファスト・オーガ」は公式装備であるが、バトルで好んで使用する神姫はあまりいない。 地上での高速機動には適しているが、取り回しがしづらく、接近戦には向かない。空中戦も、飛行タイプの装備と比べると能力は数段劣る。 戦闘機動においては中途半端なのだ。特に武装神姫のバトルにおいては。 しかも、高速域に達するようなレーシングタイプに組み替えてある。 あれでは操作系も相当にじゃじゃ馬なはずだ。 それでも、ファスト・オーガを使いこなそうというのは、よほどの物好きなのか……。 俺は、対戦筐体の向こう側でエキサイトしている、相手のマスターを見た。 派手に染めた髪に、革ジャン、銀のアクセサリーをこれでもかと身につけた、いかにもヤンキーと言った感じのあんちゃんである。 きっとバイクが好きなのだろう。 そういえば、この店の外にも派手なバイクが止まっていた。いかにも相手のマスターが乗り回してそうなやつだ。 そんなことを考えながら、エアバイクに仕掛けるタイミングを探る。 少し耳からずれた、片耳用ワイヤレスヘッドセットをつまんで、位置をなおしながら、俺は指示を出した。 「ティア、次のT字路。ビルの上からジャンプして、直上から撃て。そのあとは背後から追撃」 『はいっ!』 はきはきとした声が短く応答する。 ティアは直後に軽く地を蹴ると、そのまま朽ちたビルの壁面を斜め上に走る。 そのまま、交差点の角にあるビルの屋上に躍り出る。 ◆ 「やべえ、やべえ、やべえやべえっ!!」 エアバイク「ファスト・オーガ」に乗る、ティグリース・タイプの神姫は、悪態を風に流しながら逃走していた。 こんなのは想定外だ。 バトルを始めてこれまでに五戦五勝。 いずれも、相手の神姫を追いかけ回し、背後から重火器で撃ちまくって勝利してきた。 図体の大きなファスト・オーガであるが、マスターの教えてくれたライディングを駆使すれば、思った以上の小回りを発揮できる。 巨体に目を奪われて、動きが鈍いと判断した浅はかな相手こそは格好の獲物だった。 彼女に言わせれば、飛行型のアーンヴァルやエウクランテの方が、ターンするのが鈍い。大きな弧を描いてターンしてくる相手を、様々なバイクのターン技でかわして背後をとる。 そして、重くなるのもかまわずに「これでもか」と積んだ武装を撃ちまくる。 あなどった相手を手玉に取る、最高に気分がいい必勝パターンだった。 接近戦メインの猫型や武士型はもっと簡単だ。全開で走り回って撃ちまくれば、それだけで勝てる。 今日の相手も、そういう楽でおいしい相手だと思っていた。 『虎実』 「アニキ!」 彼女は自分マスターをこう呼んでいる。 「アニキ、話が違うじゃねぇか! 今回もラクショーとか言ってなかったか!?」 『文句垂れてんじゃねーよ。武装じゃこっちが勝ってるんだ。文句言う前にあのバニーガールに当ててみやがれ』 バニーガールのところで声が甘くなった。 アタシというものがありながら、ケシカランことを考えていたに違いない。 虎実は不機嫌をさらにまき散らす。 「マトが小さくて、あったんねーんだよ! なんかいい手はねーのか、バカアニキ!!」 『ふむ……なら、誘い込んでやるか』 「なんか手があるのか?」 『こういうのはどうだ……』 虎実のマスターは、声を潜めて策を授けた。 それを聞いて、虎実はニヤリと笑う。 アニキはバカでエロで喧嘩っ早いが、ことバイクを使っての勝負になると悪知恵が働く。 虎実がアニキを一番気に入っているところだ。 「いい手だね」 『あのちょろちょろうるさいウサギちゃんに一発かましてやれ』 「よっしゃぁ!」 虎実はさらにアクセルを踏み込んだ。 先はT字路。 狂ったようなスピードで、朽ちたビルの壁が迫り来る。 虎実は、最小限のブレーキングをかけると、エアバイクの左舷から身を乗り出した。 ハングオンで美しい弧を描き、ハイスピードのまま左折した。 瞬間、左手のビルの上から、小さな影が虎実の上に出現した。 「来たな……」 小さな敵影を確認すると、虎実は猛然とアクセルをふかす。 ■ わたしがビルの屋上から飛び出したとき、エアバイクはちょうど左折したところで、真下に来ていた。 対戦相手の神姫は、虎実さん、という名前だったか……が見上げていたところから、ある程度奇襲を予測していたようだ。 わたしは空中で狙いをつけ、両手に持ったサブマシンガンの引き金を絞る。 サブマシンガンが火を噴くのと同時、エアバイクがさらに加速する。 はたして地面に弾着し、小さな砂埃を上げた。 その砂埃を踏みしめるように、着地。膝のクッションで衝撃を殺して、その反発を利用して、上体を前に出す。 一気に加速、虎実さんの追跡を開始する。 エアバイクは、道幅の広いメインストリートを猛スピードで駈けてゆく。 次第に小さくなるエアバイクに追いすがるため、わたしは全力滑走した。 重心を身体の前に出した軸足に乗せ、反対のけり足で自分の後方の地面を蹴る。上体は前傾姿勢。腕は左右に大きく振る。 スピードスケートの選手と同様のフォームだ。 左右の足が地面を蹴る度に、軸足のホイールが回転数を上げ、加速する。 エアバイクとの差は徐々に詰まってきた。 ライダーの虎実さんが、ちらりとこちらを振り返る。 さらに差が詰まった。 サブマシンガンの射程には十分な距離。 わたしは走りながら、右手のマシンガンを構え、撃った。 ファスト・オーガがひらりと横滑りして、銃撃を回避。車体をストリートの右側に寄せる。 相手の左翼にスペースが出来る。一気に追いつくチャンス。 わたしはさらに加速し、そのスペースへと飛び込もうとした。 その時。 わたしの瞳に、不適に笑う虎実さんの顔が映った。 確信のある笑い。 虎実さんがファスト・オーガを一瞬だけ加速した。 少し前に出ると、なんと機首を持ち上げ、後方のフローティングユニットを中心にして、駒のように回転する! 「ふきとべええええええええ!!」 ファスト・オーガの機首部分が金属バットのごとく振り出されてくる。 虎実さんに並ぼうと加速していたわたしは、進路を変えることができない。 ファスト・オーガの大きな機首部分が、ものすごい勢いで、わたしの眼前に迫った。 □ まったくもって、無理矢理な力技である。 まさか、エアバイクをウィリーさせて、前方部分で吹っ飛ばそうとは。 思いもかけない接近戦の奇襲に、俺も肝を冷やした。 ティアは速度を落とすも、勢い余ってエアバイクの攻撃に吸い込まれていく。 二つの影が交差する。 しかし、ティアは、虎実の一撃をすり抜けた。 接地しているホイールをグリップさせながら、身体を地面すれすれまで倒しこむ。 スキーで言うビッテリーターンの要領だ。 ウィリーしていたファスト・オーガは、ティアの身体の上を通り過ぎる。 「ちょ……まっ!」 相手の神姫、ティグリースの虎実があわてた声を出す。 彼女にとっては起死回生、必中の一撃だったのだろう。 エアバイクの前部を持ち上げたまま、その場で勢いよく駒のように回りだした。 チャンスである。 指先はサイドボードのコントロールパネルを操作し、俺が望んだ武器を、バーチャル空間内のティアの手元に送り込む。 「ティア」 『はいっ』 同時に短く指示を下す。 「そいつをエアバイクの底面に向けて撃て」 ティアは即座に指示を実行する。 ティアの右手には、大きなハンドガンが握られている。 ただのハンドガンではない。先端に大きな弾頭があり、グリップからはストックも延びている。 ロケットランチャーガン。 装弾数は一発きりだが、威力は破格である。 機動性重視のティアにとっては、虎の子の一発だ。 ティアはランチャーガンを構えると、数瞬を待たずに引き金を絞った。 ファスト・オーガがウィリーターンしていたのも、ほんの数回転だったろう。 虎実がファスト・オーガを押さえ込むよりも早く、まっすぐな白煙を描いた弾頭は、その前方部の底面に直撃した。 『うわ、うわわわわぁっ!!』 虎実が素っ頓狂な声を上げる。 前方部をはじかれたエアバイクは、後部を支点に反転。 そのままひっくりかえった。 俺が思い描いたとおり。作戦は成功した。 命中を確認したティアは、実弾のなくなったロケットランチャーガンを捨てる。 俺はすぐに新しい武器をティアに送り込んでやる。 ティアはランドスピナーでゆっくりと滑走すると、転覆しているファスト・オーガの反対側に回り込んだ。 ◆ ひっくりかえったファスト・オーガから、いままさに虎実が這いだしてこようとしていた。 「くっそ……」 まさか、あの一撃をかわされるとは思わなかった。 奴の速度も乗っていたし、コースも予想通り。ファスト・オーガを回転させたときに視認したティアは、間違いなく直撃コースだった。 しかし、姿がかき消え、予想していた衝撃は来なかった。 ティアを吹き飛ばした衝撃を利用してブレーキをかけるつもりだったために、勢い余って駒のように回ってしまったのだ。 そして、その隙をつかれ、このありさまだった。 虎実はバイクから這い出そうと力を込める。 バイクはもう使い物にならないだろう。だが武装は健在だ。ありったけの武装を引っ張りだして、それから…… 考えている最中の虎実の前で、甲高いホイール音が停止する。 虎実は顔を上げる。 目の前に、ちょっとすまなそうな顔をした、黒い兎がいた。 「チェックメイトです……」 ちょっと申し訳なさそうに、バニーガールの格好をした神姫が告げる。 虎実は不機嫌になりながら思う。 なんでこいつは、こんなに自信なさげなんだ? 両手でサブマシンガン構えながら言う口調じゃねぇだろ。 虎実はティアを侮ることにした。 無駄なあがきとわかっちゃいるが、こんな奴に素直に降参するほど、虎実はおとなしくもない。 「そうか……」 虎実はちょっとうつむいて表情を隠す。 端からは、さもギブアップしそうに見えるだろう。 「しかたがない……なっ!!」 車体の下に差し入れていた右手。 最後の一文字を口から発すると同時、掴んでいた剣を地面スレスレに滑らせた。 自慢のレッグパーツをねらう。 しかし。 虎実の剣が届くより早く、ティアの両手のマシンガンが火を噴いた。 虎実の繰り出した剣は、柄の根本から破壊された。 地面に穴をうがち、バイクに風穴をあけ、弾着が点線を描き出す。 虎実は小さな悲鳴を上げて、頭を抱えた。 弾着の点線は虎実の身体を囲うように円を描いていた。 ティアが静かに告げる。 「降参してください……」 またしても申し訳なさそうな顔をしている。 それが虎実には無性に気に食わなかった。 でも、それをどうにかする術はない。 ティアの銃口はぴたりと虎実向けられている。 「ちくしょ……ちくしょう、ちくしょーーーーーっ!!」 虎実の叫びが廃墟の彼方に消えていく。 やがて、ファンファーレとともに、フィールド上に巨大な立体文字の列が浮かび上がった。 『WINNER:ティア』 ■ バーチャルバトルが終了し、周囲の廃墟が消えていく。 わたしの認識はリアルに戻され、ゆっくりと目を開く。 暗く、狭いポッドの中。 こわい、と認識するまもなく、目の前の壁に一筋の光の線が引かれ、やがて大きく開いた。 溢れてくる光。現実の光。 わたしは目を細めながら、ゆっくりとポッドから身を乗り出して振り向く。 「か、勝ちました。マスター」 わたしは自らの主の姿を見上げた。 どんな表情をしているのか、とてもとても気になる。 彼は、やっぱりいつものように事務的な無表情で、自分のモバイルPCのキーを叩いている。 わたしはちょっとだけ落胆する。 でも、 「うん。よくやった」 マスターがわたしを見て、かすかに笑ってくれたから。 わたしは嬉しくなって、思わず笑みを返した。 わたしのマスターは、あまり表情を変えない人だ。 だから、時々見せてくれる笑顔は、わたしの大切な宝物だった。 その時だ。 「おいおいっ! 今のは反則じゃねえのか!?」 大きな声でマスターに近づいて来る人がいる。 バトルの相手、ティグリース・タイプのマスターだ。 「なにがだ」 マスターの声は至って冷静……それどころか、わたしが身をすくませたほどに冷たい声。 「だってそうだろ! そっちのバニーちゃんの装備なんざ、見たことも聞いたこともねぇ! しかも、バトル前にフィールドまで指定しやがって……。 勝つためには何をしてもいいってのか!? あぁ!?」 「はじめに確認を取ったはずだ。君はそれを了承しただろ」 確かにマスターは、バトル前に確認をしている。 わたしは武装の特性上、市街地や廃墟のステージでしかバトルしない。 それは有利になるからというよりも、他のステージではパフォーマンスを発揮出来ないからだった。 「だけど、てめえの神姫の武装は公式じゃねえだろが!」 「確かに、ティアの武装はオリジナルだ。 だが、君の神姫の武装に勝っているとは思えない。 こっちはライトアーマー並みの軽量武装で、装備は手持ち武器をサイドボードから送り込んでいるだけだ。 単純な火力は君達の方が圧倒的だと思うけどね」 「ぐっ……」 マスターは冷たい視線で相手を見る。 体の大きな相手のマスターがあきらかにひるんでいる。 マスターは淡々と言葉を紡ぐ。 「それに、ここは公式の神姫センターじゃない。 ゲームセンターの非公式の草バトルだ。 パーツがオリジナルだろうが、武装が非公式だろうが、どんな相手が出てきたって文句は言えない。 ここにはそういう神姫が集まっている。 公式装備のバトルがしたければ、神姫センターに行けばいい」 マスターの言葉は冷たく、事務的で、しかも正論だった。 会話を聞いていた、周りの神姫マスターのみなさんも、口々に言う。 「そうだそうだ! ここじゃ武装は何でもありだ!」 「公式武装バトルがお望みなら、他へ行け!」 「負けたからって見苦しいぞ!」 「だいたい、火力で勝っているのに、いいわけがましいったらないよな」 「文句言うより、装備見直す方が先なんじゃね?」 そして、マスターがとどめの一言。 「それに、いまのバトルは、君から申し込んできたんだろ」 その一言に、周りがどよめいた。 相手のマスターは反論も出来ずに、うつむいている。 けれど、いきなり顔を上げると、びしっとわたしのマスターに人差し指を突きつけた。 肩の上のティグリースも一緒に。 「こ、これで勝ったと思うなよ! おぼえてろおおおおおぉぉ!!」 そう言い捨てて、相手のマスターは駆け足でお店を出ていった。 マスターを見上げると、彼は肩をすくめて軽くため息をついた。 「まったく、うるさいやつだったな……心配するな」 最後の一言でわたしを見て、マスターは右手を差し出した。 後かたづけが終わった証拠。 わたしはマスターの右手の甲に乗る。 すると、マスターの右手はわたしを乗せて、左胸のシャツのポケットに到着する。 わたしは右手から降りて、マスターの胸ポケットに滑り込んだ。 ここはわたしの定位置。 「よし、帰ろう」 ゲームセンターの、武装神姫コーナーの周りは、さっきの騒ぎの名残で、まだざわめいていた。 マスターはそれが気に入らないのだと思う。 他のバトルを観戦もせず、すり抜けるようにコーナーを離れ、店を後にした。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/304.html
プロローグから時間は多少前後し、光矢は友人Fと共にホビーショップエルゴに居た。まだ彼の胸ポケットは空で、商品の陳列棚を見る目にも少々の呆れが見え隠れしている。 この日は友人Fの公式戦が組まれており、Fの提案によりライブで神姫のすばらしさを語ることに付き合うことになっていた。 「さ、始まるぞ。クリス、存分に暴れてやれ。光矢にも神姫の素晴しさを見せ付けてやれ」 『イエス、マスター』 普段はヘッドセットを着用して、周囲からの雑音を切り離し、マスターと神姫がセットになって戦うのだそうだ。しかしこの日Fは戦闘中継を光矢に全て見せるべく、ヘッドフォンなしで神姫ポッドの前に立っていた。当然、神姫の声は画面横のスピーカーから聞こえてくる。 光矢はFの横に立ち、3つ並んでいる画面の中央、一番大きなセンターディスプレイに目をやった。テロップが次の対戦カードを表示している。 サードリーグ 公式戦 フリッツ V アモーレ田中 クリス S ろべっち 制限時間制 ゴーストタウン 『GO』の文字が表示されると同時に、それまで静けさを保っていたフィールドが一気に加熱した。 砂埃を巻き上げ疾走するのはFのクリス。右は逆手にマチェット、左手にはサブマシンガンを携えたMMSで、頭部は赤いレンズのゴーグルと黒いガスマスクを着用している。頭から生えている(ように見える)細身の剣は、走る速度に比例して広報へと倒れていく。そして、そのシャープなシルエットに全身の黒系塗装が合わさり、疾走する姿は弾丸を彷彿とさせた。 それに対して相手のMMSは、同じく黒い色が特徴的なのだが、そのふいんき(なぜか変換できない)は真逆だった。 黒の生地に白のフリルがあちこちにあしらわれている布製の服をまとい、スカートはふんわりとした膨らみを保ったまま揺れている。頭部には同じくフリル付のカチューシャを装備し、ご丁寧に眼鏡までかけている。『メイド』を意識したその姿は、おおよそ戦闘とは無縁に思えるのだが、手にした黒い傘でクリスの連撃を捌く姿は確かに戦場に居る者の様子を備えていた。 初接敵の接近戦はビビアンに部があった。クリスの繰り出す連撃は尽く『傘』に防がれ、逆に相手はマチェットをいなしてはじいた後に、そのまま流れるような軌道で『傘』を振る。傘の石突の部分は通常のそれとは違い、研ぎ澄まされた刃になっている。近接戦闘を意識して改良された特別製らしい。 クリスの4度目の斬撃を避わしたメイドさんは次に、自分の背後にあった自分の背丈ほどの崩れたレンガの壁を宙返りをしながら飛び越えた。その際、ちらっと笑みを浮かべつつスカートを翻しその裾から何かを放った。 体勢を立て直したクリスが次に見たものは、目の前に落ちてくるボール状の物体。重い金属音を響かせて着地したソレは・・・ 「…手榴弾!?」 慌ててその場を離れるクリスだったが、あまりに唐突だった相手の『反撃』は完全には避け切れなかった。爆発した手榴弾はクリスのゴーグルを砕き、クリスからHUD(ゴーグル上に各種戦況データを示す機能)を奪った。 「ふざけた名前と格好のくせに、やるじゃん……」 初撃の失敗と報復に驚きと焦りを殺しきれないF。その横で光矢は初めて目にする武装神姫の戦いに魅入られ始めていた。 各所パーツにカスタマイズを施しているFの凄さは耳が痛くなるほど聞かされていた上、仮想戦闘プログラムでの画面も見せられていた。その時はまだ神姫に熱くなっているFへの軽い軽蔑があったが、ここでの対戦を見ればそのときのFの言動も理解できる気がしてきた。 クリスの攻撃をかわす相手のメイドは、以前どこかで読んだ漫画の人のようだ。レンガの壁の裏にふわりと着地した瞬間、壁に向けて傘を広げると、爆発で吹き飛んだレンガ片はその盾にはじかれて、本体には埃一つつかない。よく見ると、その傘の持ち手の部分も、通常とは明らかに違う形をしていた。傘の中に折りたたまれていたストックが開き、右の肩に押し付けられると同時にメイドさんはトリガーを引いた。瞬間、二度目の爆発が起きたような音と煙が上がった。ショットガンを花束に仕込むのと同じように、仕込みショットガンとでもいうのだろうか。先ほどの手榴弾といい、暗器をよく使う。 手榴弾によりHUDを失ったクリスは、ショットガンの射撃に反応がわずかに遅れ散弾を避けることができなくなり、やむなく背部のアームを展開し体の前で交差させその場で身構えた。着弾と同時に激しい衝撃が襲い、にわか構えの体勢は脆くも崩され、そのうえアームの隙間を縫ってきた細かな散弾が本体をも削っていく。頭の中をエラーメッセージが叫び、痛覚値が上昇していく。ショック状態にはならないものの、痛覚値を感覚値と切り離すための処理が大きくなり、長時間の戦闘は厳しくなった。 「クリス、物陰で機会を待て。相手に気づかれる前にマチェットを見舞ってやれ!」 『イエス、マスター。時間の余裕はあまりありませんし、早々に決めます』 相手のショットガンの銃声が6発目で止まったことを確認すると、砂埃に紛れて再び駆け出す。しかし、今度の方向は相手ではなくその左手側、無作為に投げ出されたコンテナが積みあがっている陰である。その際、移動の邪魔になると判断し、散弾で削られたアームを棄て去った。 相手のメイドは自らの作り出した砂煙で視界を失ったらしく、クリスがコンテナの陰に走りこんだ後も傘を正面に向けていた。 やがて砂煙が落ち着くと、メイドはゆっくりと傘を構えたまま前進し始めた。クリスの棄てたアームユニットに注意を払いつつ、周囲に気を張りながら臨戦態勢を崩さない。一歩毎に広がる視界を常にチェックしながら……12歩目に差し掛かったときに戦況が動いた。それまで息を殺し、コンテナの陰に隠れていたクリスが、マシンガンを放ちつつメイドの側面に飛び出したのだ。予想していた範囲とはいえ、右手に持った『傘』では防御が間に合わず、体勢を崩しながら後退した。 しかし、本業を接近戦に持つクリスの追撃は中途半端な間合いでは無いのと同等である。クリスは相手の体制が崩れるのを確認すると、左手のサブマシンガンを投げ捨て、代わりに左の太ももにぶら下げていたダガーを抜き取った。そのまま低い体勢を保ったまま、右手のマチェットと交差して傘に切りかかる。相変わらずマチェットは傘の幕を破れないが、左手のダガーは発熱設計になっており、紅くなった刃の触れた部分から一気に傘を切り裂いた。 仕込みショットガンの敗れたメイドはそのまま尻餅をつき、今度は反撃する間もなくマチェットの刃を鼻先に向けられた。 「参りましたわ、ギブアップです」 「…ハァ…ハァ、 中々手強い相手だったよ。アンタ」 * * * 「それを見て、君を買おうと思ったんだ」 「そうだったんですか、すみません気づかなくて……」 「いや、いいんだ。君が戦うの好きじゃないなら強要しないから」 殺風景な部屋で光矢とアーンヴァルの会話が続いていた。 初期起動からすぐ、光矢の見ていた武装神姫のアリーナ中継を見たアーンヴァル型神姫は「自分は争うのは好まない」と言ったのだ。それから二日間は、光矢はリーグのことを話さなかったが、アーンヴァルになぜ自分を買ったのかと聞かれ、今に至る。 「無理に戦うこともないしさ。今もこうしてライブ見てるだけでも……」 「……やります、マスター!」 「ボクは満足だし……え?」 それまで話を黙って聞いていた神姫は突然、声を上げリーグに参戦する意思を述べた。 「でも、この前は戦うのは嫌だって……」 「それはそうですけど……」 何故か顔を赤らめ、目線を泳がせる。手を握ったり指を合わせたり、俗に言う『もじもじポーズ』を取りながら、アーンヴァルは上目遣いで見上げた。 「とにかく!私出たいです。リーグ!その、戦うのは苦手だし、好きじゃないですけど…。ホラ、マスター、私のために武器とか色々作ってくれてますし、試し撃ちも家の中だけだと味気ないし、もしそれで勝てたら万々歳でマスターも私に何かうにうに……じゃなくて。とにかく、出してもらえませんか!?」 あまりに必死な懇願に、しかし自分のやりたかった希望を提案され、光矢は「よし、それじゃぁやってみようか」と答えた。 その翌日、リーグに参戦するに当たって神姫に名前をつける必要があることをFから聞いた光矢は、その日の夜に自分の神姫に名前を贈った。 「クラウ・ソナス。神話に出てくる光の剣で、絶対に負けないっていう由来なんだ」 その後の結果はプロローグでも触れたとおり、2週間経っても未だ勝ち星なしである。 彼らの挑戦はまだ始まったばかりである。 ~続く~
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1151.html
夏の夜のけだるい空気の中で、僕は呆然と目の前にいる男たちを見つめていた。しとしとと降る雨、水蒸気と排ガスを含んだ都会の空気、夜のアスファルトから上がってくる妙にひんやりとした湿気、行き交う人々の雑踏、ごうごうとうなる車のロードノイズ。それらが一気に背中から襲いかかってきたような気がした。 目の前にいるのは、成人男性が二人。一人はGパン、シャツにざっくりとしたニットのタイ、麻のサマージャケットを着ている。年齢は恐らく三十代だろう。でも、そっちはまだよかった。問題はもう一人だ、いい歳をした成人男性のようだけど、夏だというのに肩口にケープ状のヒラヒラが付いた真っ黒なコートを着ている(後で調べたら、トンビ、と言うらしい)、それだけでも驚きだけど、とどめに派手な形をしたオレンジのヘッドギアを被っていた。 さすがにこれにはあきれてしまった。 「本当にあの人たち…、いや、どう見てもあの人たちなんだろうけど、大丈夫なのか」 胸ポケットにささやいた。すると。 「ああ、彼じゃないのか」 「そうなのであーる! 情報とおりなのであーる!」 ………見つかっちゃったよ。 「大丈夫ですよ、主。私たちを信じてください」 胸ポケットから、遅れて返答がかえってきた。応えたのは、武装神姫と呼ばれている身長15㌢のフィギュアロボだ。個体名はシラヌイ、忍者型MMS。今日、僕は彼女に乞われるまま、この場所に来ることになった。 そのいち。 大学の講義を終え、アパートに戻ると、サイドテーブルに置いてあるチェス盤に向かった。 もう何敗したか数えるのもイヤになっていた。まだ序盤、お互いのポーンが盤上に展開していた。 「もうお帰りになったんですか」 机の上、ノートパソコンの脇から声がした。チェスの対戦相手を務めてくれている、武装神姫のシラヌイだ。忍者型独特の黒にメッシュのボディスーツが、彼女の小柄な体躯を強調していた。が、見かけとはうらはらに、彼女が指してくる手は非情そのものだ。ま、僕がそうするようにと指示したのだけど。 「うん、講義も終わったから、やることもないしね」 「主、せっかく大学に入られたのですから、お友達を作られては」 またか。 僕は大学の学生連中が嫌いだった。なぜかと問われれば理由はないけど、どうにもソリが合わない。神姫サークルがあったけど、勧誘チラシのノリの軽さがカンに触った。 「いいんだよ。友達なんて無理につくるものじゃないだろうに」 そう言って、僕はチェス盤をにらんだ。 「でもー」 「もうその話はいいよ」 シラヌイはあきらめたように、一拍置くと、話をチェスに切り替えた。 「定石を学ばれれば、主ももっとゲームを楽しめるようになりますよ」 「いや、いいんだ。それって、初回から攻略本を使ってゲームをするようなもんじゃん。何か、タネをばらされてから手品を見せられているようで面白くないんだ。まずはある程度チェスの感覚を掴んでから、と思っているのだけど」 「確かに、主の意見も一理ありますね」 僕はポーンをひとつ、動かした。彼女はそれを見ると、自陣のナイトを抱え、他の駒を倒さないようにぐるりと回って配置をした。それを見て、また頭を抱えることになった。もう身動きがとれない。その様子を見て彼女が漏らす。 「だから、定石を学んでください、と申し上げているのです。単純に相手の駒を取ればよい、というものでもありません。どのようにして、自身に有利な布陣を敷くことができるのかがポイントなのです」 「うーん、見ていて、とりあえず最前線っていうかキーポイントになる駒には常にバックアップが付いていることは理解したよ。それがいつでも出来る体制をつくるって言うのがー」 僕は改めてそのナイトが置かれた位置を見る。ここからがいつも問題なんだ…。 「そこまで理解されているのなら、次の段階に進まれてもよいと思うのですが」 そんな彼女の声を聞きながら、違和感を感じていた。その違和感の原因はすぐに解った。いつもなら、彼女は自分の手を打ち終わると、長考のジャマにならないように机の角に腰掛けて、こちらがどんな手を打つのかと眺めているはずだ。でも、今日の彼女は盤の周りをチョロチョロと動き回っていた。いつもと違う動きだ。 「なぁ、何かあったの」 そう尋ねても、彼女は何かを言いよどんでいるような曖昧な返事をするだけだった。明らかにおかしい。僕は彼女に向き直ると改めて尋ねた。 「何かあるのなら、はっきり言ってよ」 命令することもできたけど、それは最後の手段としてとっておきたかった。 ちょっと間をおいて、彼女が口を開いた。 「実を申しますと、主に野良神姫の保護をお願いしたいのです」 「はい?」 空いた口がふさがらない、とかなんかそんな感じ。 武装神姫はその起動時に、その所有者である「マスター」の登録をし、それは一般には変更が出来ないことになっている。だけど、なぜか、マスターの元を離れて暮らす神姫、野良神姫がいる、という話は耳にしていた。でも、実際に確認されたという話は聞いたことがなかった。すっかり都市伝説とかそーゆーものだと思っていたのだけれど。 話を聞いても、まだ信じられない、と言うか、ますます信じられなくなってきた。僕が部屋を空ける時、彼女はクレイドルでスリープモードに入っていたりする。その状態で彼女たちはパソコンの操作ができるし、僕自身、彼女がパソコンを利用することを許可していた。パソコン自体の保守管理を任せられるし。で、彼女によると、ネット上には何カ所か、神姫同士が情報交換をする場所があるのだ、という。どうやってその場所を知ったものか、彼女もそこによくアクセスしていたのだとか。そこでこんな情報が上がってきた。曰く「野良神姫を発見した。でも、自分のマスターは小学生なので、保護を無理強いするわけにはいかない。どうやらイリーガル崩れらしいので、そのまま放っておくわけにもいかない」と。その書き込みに複数の神姫が「ウチのマスターなら協力してくれるかも」と名乗りを上げた。その一体が自分である、と。 ちなみに保護した神姫のために野良神姫専門の保護施設などがあり、また、イリーガルなど著しい改造が施されていた場合には、神姫専門のラボに送られるのだそうだ。 「で、イリーガルって? なんかイヤな予感がするンだけど」 「相手神姫の破壊を勝利条件にした、いわゆる闇バトルというものがあります。それに参戦するためにチューンされた神姫がイリーガルです。出力の向上が図られているほか、武装も実際に相手神姫を破壊することを主目的とした相応の威力のものを装備しています。また………当然、公式戦には参加できません」 さらりと恐ろしい台詞を言ってのける。 さて、どうしたものか。ただ、そのときは面白そうだな、と思った。 「よし、じゃぁ、もう一度詳しい情報を集めてくれ。ヤバげな武装をもっているようなら止めだ。でも相手が単体なら、何人かで協力すれば保護できるかもしれない」 そして、数日の打ち合わせを経て、僕を含む三人が今回の野良神姫保護をすることになった。 そのに。 ここは都心のとある駅前。前もって打ち合わせていた通り、二人の男性が僕を待っていた。 ただ、その男たちは僕の想像していた神姫のマスター像を色々な意味で裏切っていた。 一人はどうみても三十代の男性。武装神姫のマスターって、僕と同じくらいの大学生かと思っていたのだけど。で、もう一人がまたこれは別の意味で問題だった。夏なのに、真っ黒なコート。それだけでも不審者の必要十分条件を満たしているのに、とどめにヘンテコなヘッドギアを被っているときた。でも、時々、奇異の目を向ける人はいるものの、街行く人々はほとんど関心がないように二人の周囲を通り過ぎていく。ま、ここまで来て帰るのももったいない。 「どうも、こんばんわ」 まずはあいさつ。ジャケットを着た男性が僕に声をかけた。 「えーと、忍者型、シラヌイのマスターさんだっけ。侍型の椿のマスターだ」 うん、どうやら普通の人みたいだ。ジャケットの胸ポケットから顔を出した神姫がこちらに会釈をした。で。 「よし、我が輩は世界征服をたくらむ悪の秘密結社、ねこねこ団のー」 やっぱりコイツが問題だった。ヘッドギア男は右手を高々と上げ、ジェスチャーたっぷりに、カン高い声で演説のような自己紹介を始めた。ねこねこ団と言われて気がついたけど、彼のヘッドギアは猫型MMSが標準装備しているそれを模したものだった。事前に侍型、猫型のマスターが来るとは聞いていたけど、これはそうとう重傷だな。 「なぁ、ちょっと声を下げないか」 椿のマスターが低い声で文句を言った。 「何を言うか、貴様、せっかくこのような雑踏で我が輩が…」 反論しかけて、コケた。椿のマスターの胸元に顔から突っ込む。 「オイ、ひっつくなよ。気持ち悪い」 片手で男の顔をぐいと押しやる。まおちゃお団員の彼は、今度はよろめきながら僕の方へ倒れ込んできた。僕よりも少し背が低いだろうか。 「ちょっと、止めてくださいよ」 僕は両手で彼を押し返す。っと、行き着く先はまたもや椿のマスターの胸元だ。 「だから、くっつくなって」 「来ないでくださいよ」 「ちょ、止めるのであーる」 まおちゃお団の彼は僕らの間で、右に左にと押しやられていた。ーと。 「もういいかげんにするのだ。野良神姫の話はどうなったのだ」 声とともにヘッドギアの陰から、猫型がもぞもぞと姿を表した。 「そうですよ、マスター。この方の服装や行動がいくら社会規範から外れているからといって、遊ぶのはこれくらいにしてください」 椿が声を上げた。けっこう、ポイズン。 「………あー、ゴメン。遊びすぎたわ」 「状況を確認しよう」 椿のマスターが言った。ここは、駅にほど近いファーストフード店。僕らはそれぞれ好みの飲みものを片手に、椿のマスターが配るプリントを眺めていた。僕はウーロン茶、椿のマスターはコーヒー、ヘッドギア男はオレンジジュースだ。テーブルの上にはシラヌイたち、三体の神姫がこれからの話を待ち受けていた。 「野良神姫は廃ビルで生活をしている。目撃情報によると、情報提供者の神姫の呼びかけに対して、例によって通常の神姫が取るとされる対応からは、えー、大きく逸脱した行動をした。それで、イリーガルではないか、と。今のところ目撃されているのは種型一体。目標がいるビルの見取り図は今渡したプリントにある。これは野良神姫情報を流してくれた神姫からのものだ」 ビルはクルマ三台分の駐車スペースを備えていて、敷地に多少のゆとりがあり、その周囲は塀で囲まれていた。シラヌイと猫型(そういえば名前をまだ聞いていないぞ)はプリントの見取り図を挟んで、椿からレクチャーを受けていた。猫型はヘッドギアをしているだけだったけど、ボディ・スーツは特注ぽい。椿はベージュのスーツ姿。彼女が動くと、侍型の基本の髪型であるポニーテールが揺れる。シラヌイにも何か服を買ってやるべきなのだろうか。 さて、問題の部屋は通用門に面した当直室のようだ。 「神姫が出入りに使っているのは、建物裏の窓だ。赤い丸印があるだろ。その窓がある一室しか使われていないようだ。基本的に昼間は建物の中にいて夜になると出かける。何やら金属片や電子部品なんかを集めているらしい。お出かけの時間は決まっている。今日はその時間に合わせて、対象が外に出た瞬間を狙って保護をする。情報提供者が、出入り口にメッセージを残してくれているとはいうけど、それに応じてくれるとは思わない方がよさそうだ。特に武装は確認されていないとのことだけど、ま、イリーガルのようだし、最悪、保護しきれないかもと考えておこう」 「それは、仕方ないのである」 ヘッドギア男が先ほどまでとは打って変わった、しんみりとした声で応えた。 卓上の神姫たちも沈痛な面持ちでお互いを見つめ合っていた。 なんだか僕だけ仲間はずれみたいだ。 「あの…、イリーガルってそんなに普通の神姫と違うんですか。保護しきれないって、そのときはどうするんですか」 椿のマスターが意外そうな顔をした。 「おい、まさか何も知らないで来たのか」 すかさずシラヌイが割って入った。 「申し訳ありません、皆さん。主、これは私たち神姫にとって大きな問題なのです。イリーガルは勝利の条件として、常に相手神姫の破壊を命じられています。その一方で私たちには同胞を想う感情やバトルをする上での禁止事項がプログラムとして存在しています。だから…」 「だから?」 「イリーガルのほとんどが、メインフレームレベルでプログラムに改ざんを受けている場合が多いのです。そのためのツールも出回っています。それは私たち神姫の意識、精神を破壊することでもあるのです。だから、神姫同士の呼びかけに対する反応や立ち居振る舞いで、ある程度の推測は可能なのです」 う、う、う。これは思った以上に難しい問題をはらんでいるぞ。 「まぁ、ヤーさんがバックにいる賭博の一種だし、知らないのも仕方ないけど。有名な話が去年の闇バトルだ。ヤバすぎるチューンをした神姫がバトル終了後に何をトチ狂ったか、自分のマスターに攻撃して、そいつ、頬の肉をごっそりもってかれたらしい」 「それは神姫にとっても、人間にとっても、良いことではないのであーる。そのためにねこねこ団としても野良神姫やイリーガルの捕獲について積極的に活動をしているのであーる」 「警察に通報すればいいんじゃないですか。何もこんな危険なことをしなくても」 「そしてイリーガルの存在が公になったらどうなると思う。下手したら、武装神姫だけでなく、神姫という商売自体が成立しなくなる可能性だってあるんだぜ。神姫を造っている会社や従業員、神姫ショップだって、直営のものから零細の個人経営のものもある。この国内でも万単位の人間が神姫に関わる商売でメシを食っている。神姫は本当に広がりすぎた。今更、神姫を『無かったこと』になんてできないくらい社会に浸透しているんだ」 「それに」と椿が口を添えた。「私たちとしても姉妹がそのような扱いを受けているということを見過ごすわけには参りません」。続いて猫型ー、マオチャオタイプも「そーなのだ。これはニンゲンにとっても神姫にとっても大問題なのだ。だからカイシャだって支援してくれてるのだ」と言葉をつないだ。 何だって? 「カイシャ」? どこの? 脳裏に神姫のメーカー名がずらりと並んだ。 「ばかもの! それは軽々しく言ってはいけないと話しておいたではないか」 ヘッドギア男がマオチャオタイプを小突いた。椿のマスターが苦笑しながら言った。 「まぁ、今の一言は追求しないほうがいいと思うよ。で、まだ君の質問にひとつ応えてなかったけど、保護しきれない場合はー」 「見逃すんですか」 「いや、破壊する。そのための道具も色々と用意している。椿」 名前を呼ばれた彼女が何かを受け取った。それは神姫サイズの日本刀だけど、標準武装のものとは違う。 武装神姫と言っても、玩具として流通している以上、装備している武器は、その実物をダウンサイジングしたものではなく、あくまでも玩具の範疇に収まるものになっている。もちろん悪魔型の副腕はロボットアームとして機能するし、天使型はその羽で飛ぶこともできる(原理はしらないが)。でも、武装は別だ。銃火器の類いは単なる樹脂の固まりで、刀剣類には刃などついていない。ただ、内部にチップが仕込まれていて、バトルフィールドで、そのチップに応じたエフェクトが投影される。そういう仕組みだ。 でも、目の前の神姫が抜いて見せてくれたそれは、鈍く輝く金属の刃身。公式戦では使えない武装だ。 「こーゆーのもあるのだ」 マオチャオタイプが両手に武装を掲げていた。一見標準武装の研爪(ヤンチャオ)に見えるそれは、爪の部分が金属の棒に変更されていて、コードがバックパックとおぼしき箱に伸びていた。 「これは?」 「強力な電磁パルスで神姫を一時的に動作不能にする装備である。我が輩の傑作なのであーる」 「まぁ、大体それでケリが付くよな」 「お陰で私も実際に姉妹に向けて刃を振るうこともそうありませんし」 「その通りである。貴様はもっと我が輩に感謝するべきなのであーる」 「感謝するのだー!」 どうやら、この二人(と二体)はこれまでに何度か野良神姫、イリーガルの保護をしているらしい。僕は憮然とこちらを見上げているシラヌイを見返した。 「完全に場違いじゃないか。武装は確かに用意しているけど、それは兎型のアーマーとかそんな程度だ。シラヌイ、一体君はこの場で何が出来ると思って僕をこんなところまで引っ張り出したんだ」 「申し訳ありません。主」 すかさずシラヌイが頭を下げる。そして、沈黙。 気づけばテーブルの全員が僕を見つめていた。 「それは君が決断したことだろ。君が決断してここまで来た。彼女に無理矢理連れてこられたわけじゃないだろ」 「私もイリーガルの概要について説明をしたと聞いていましたが。その上で来られたのではなかったのですか」 椿とそのマスターが静かに僕を責めた。 「そんなこと言っても、ここまで危険だなんてわかるわけないでしょ。初めてなんだし」 「それは言い訳なのであーる。神姫から情報を得た時点で自ら考えるのがマスターの果たす役割のひとつなのであーる」 「そーなのだ、そんなんじゃマスター失格なのだ」 今度はヘッドギア男とそのマオチャオタイプだ。 「何なんです、皆で。大体、シラヌイが…」 「も、申し訳在りません、主」 また、シラヌイが頭を下げた。 「もういいのだ、少年。神姫には人間に従うプログラムが高いプライオリティで設定されているのである。責められたら、神姫はマスターに対して頭を下げるしかないのであーる。己の神姫にそのような行動を取らせるようでは本当にマスター失格なのであーる」 更にもまして気まずい沈黙が僕を包んだ。 「なぁ。考えてみろよ。さっきの話と矛盾するけど、こんなの、本来は人間がやってしまえばいい話なんだ。メーカーが動けばビルの所有者に迷惑料兼口止め料でも払って、とっとと回収することも不可能じゃない。各省庁にだってコネはある。スポンサーとしてマスコミを押さえることは出来る。でも、それをしないのは、神姫たちが心を持っているからだ。そのことをメーカーも認めているからだ。ただ、神姫が自分たちだけで活動しようとしても、人権も法的裏付けも何もない以上、単独で何かを、なんて出来ない。マスターたち人間がバックアップして後ろ盾になってやるしかないんだ。今の彼女たちだけではどうにもならない部分を俺たちが補うしかないんだよ」 コーヒーに口をつけると、椿のマスターは淡々と言葉を続けた。 「さて、どうする? 仮にここで君が棄権しても誰も責めることはできない。ま、読みが甘かったと言われるかも知れないがそれはあきらめろ。でも、君がその気なら、こちらも貸し出す武装や装備はある。君が決めろ。時間がない、一分だ」 僕はこの彼の言ったことを反すうした。どうやらチャンスをくれる、ということらしい。しかし、神姫に心があると改めていう言葉を思い出し、僕は彼女との付き合いを思い返していた。 今まで、別にトラブルもなく、彼女との生活を送ってきた。その内容はどうだろう。僕は彼女にパソコンのメンテやら、ネットを通じた口座の管理に神姫バトルと色々してもらっている。でも、僕が彼女に何かをしてあげたことがあったろうか。僕は、神姫に心があることは知識として知っていても、実際にそういう存在として彼女を、シラヌイを扱ったことがないんじゃないだろうか。 「やります。このまま帰ってはシラヌイにー。上手く言えないけど、彼女にヒドいことをしてしまうことになってしまう」 沈黙。 「もうすでにしてるのだ、少年よ」 ヘッドギア男がつぶやいた。 僕は、テーブルの上のシラヌイを見た。彼女はただただ申し訳なさそうにうつむいていた。本当に、僕は、ダメだ。情けない気持ちで一杯になった。なんで、こういう他の人が普通に気づけることに僕は気づけないんだろう。今までもそうだったけど、これからも未来永劫そうなんだろうか。 「君、人付き合いが苦手だろ」 椿のマスターだ。 「苦手って言うか、解らない。違うかい?」 さっきとは変わって、口調や態度が少し優しくなっていた。 「はい、解りません」 そうだ、これまでだって、そうだ。真摯に対応しようと思えば思うほど、相手はどんどん冷ややかになっていく。そしてお決まりの台詞だ。「もういいよ、そういうことが解らない人にいてもらいたくない」と、そう優しく言われるんだ。どうしてだろう。本当に解らない。ああ、ここでの僕も終わったな。そう、思った。 でも、違った。 「そんな自分を良い方向に変えていきたいと思っているのかい」 僕は一瞬ぽかんとして、それから、答えた。 「はい。そう思っています。でも…」 「『でも』は、いい。来い。さっきそう君が言ったんだ。装備は貸してやる」 椿のマスターはそう言い切った。 「良いのであるか?」 「誰にだって初めてはあるだろ」 「いや、しかしだな」 「言っておくけど、お前さんと初めて組んだ時は酷かったぞ」 「………それは言わない約束なのであーる」 彼らのやり取りを尻目に、僕はシラヌイに頭を下げた。 そのさん。 その三階建てのビルは、僕が想像していたより、ずっとこじんまりとしたものだった。繁華街からちょっと離れた住宅街。ところどころに事務所やセレクトショップが立ち並ぶ、ちょっと小洒落た場所だ。今は使われていないその建物は街頭の光も吸い込んで立ちつくす真っ黒な壁のようにも思えた。 門にある鉄パイプで組んだバリケードを、ふたりは身軽に乗り越えて敷地に入っていく。僕もそれに続く。 僕らは門柱の陰に座り込んで、シラヌイたちの準備を始めた。 「あのー、すみません。今日の保護活動をされる皆さんですね」 頭上から響くか細い声に、全員が腔を見上げた。そこにはエウクランテ型の神姫が羽をつけて浮遊していた。 「最初に皆さんにご相談させて頂いたオーディーヌです。今日は本当にありがとうございます」。全員に向け頭を下げた。「今日は私はお手伝いをすることができません。でも、皆さんがあの神姫を無事に保護できるようにと、私のマスターと祈らせて頂きます」 神姫はどんなカミサマに祈るんだろう。そんなことを考えていると、そのエウクランテ型ー、オーディーヌは僕の名前を呼んだ。 「シラヌイさんから聞いています。危険を伴う今回の保護への参加を、初めてであるにも関わらず、決断されたそうですね。シラヌイさんもそのことを誇りに思っていらっしゃると思います。是非、良い結果を残してください。私たち神姫のわがままに付き合ってくださって、本当にありがとう」 そう言うと、オーディーヌはふわふわと飛んでいった。 「シラヌイ」 「はい、主」 ヴァッフェバニーの装備に身を包んだ彼女が応えた。 「僕は、君が望んだことを君が成し遂げられるように、君のバックアップをする。だから、君は構わずに正しいと思ったことをしてくれ」 「はい、主。お任せください」 そう言って微笑んだ彼女の顔は、なぜか儚げに見えた。 「さて、お姫様が城から出てくる時間だぞ」 椿のマスターが言った。シラヌイたちはそれぞれの位置についている。シラヌイはヴァッフェバニー装備に、椿のものと同じ日本刀、マオチャオタイプは標準装備の鎧に先ほどの電磁パルス武装、椿は最初から着ていたスーツ姿のままだ。椿が説得し、それに失敗した場合、マオチャオが仕留める。シラヌイの役目は相手神姫が逃げようとした場合に退路を断つことにある、らしい。らしい、というのはこの役割分担が神姫同士の話し合いで決まったからだ。三体はそれぞれ、小型のCCDを肩に載せていた。その画像は、ヘッドギア男のノートパソコンに送られる。 僕らも黙って見ているわけではなかった。ヘッドギア男のノートパソコン脇にはSMGタイプのエア・ガンが地べたに置かれている。モノ自体は市販のものと変わらないが、弾が違う。硬度と重量を増した、特殊BB弾、もしくは神姫のボディに当たっただけで砕ける、(対神姫)非殺傷弾の二種類がマガジンで用意されている。椿のマスターが持っているのも同じくエア・ガンだ。ただし、こちらはアメリカのサバイバル・ゲームで使われている、大型のペイント弾を扱うタイプだ。こちらも弾は通常のペイント弾ではなく、いわゆるトリモチ、粘着弾が入っている。通常、対象の神姫が着弾点から半径二十センチ以内にいれば確実に動きを止めることが出来るそうだ。そして僕が持っているのが、彼ら曰く「捕獲銃」だ。仕組みはバネの力でミサイルを飛ばすオモチャなのだけど、五十センチ四方の金属製の網を飛ばす。有効射程は一メートル五十センチ。発射後、スイッチを入れると、瞬間的に高圧電流を流し、ネットに捕獲された神姫の動きを一時的に止めることが出来る、という。 僕らは敷地の隅に集まって、ヘッドギア男のノートパソコンの画面を覗き込んでいた。 「今日の主賓が登場したのであーる」 椿のCCDから送られてくる画像に対象に神姫の姿が映っていた。そして、それはあまりにも異様だった。その神姫は四つん這いの姿勢で画面に向かってカチャカチャと進んできた。椿の声が聞こえた。 「こんばんわ。私は椿と言います。少しあなたとお話がしたいのですが、よろしいでしょうか」 相手神姫は情報通り、武装はなし。種型の基本装備のブーツと腰回りのアーマーだけのようだ。声をかけられた神姫は無表情のまま首を傾けた。椿が言を継ぐ。 「もし、あなたのマスターがいらっしゃらないのであれば、あなたにとってもメリットのある解決方法をー」 いきなり、種型が画面に向かってジャンプした。これを受けて、シラヌイとマオチャオタイプが動いた。 椿はその場で姿勢を崩さずに、素立ちの姿勢から真上にジャンプ。ジャケットの裾から背中に隠していた日本刀が地面に落ちる。空を切る種型の手刀。マオチャオタイプがかけ声と共に種型に迫る。 「おとなしくするのだー!」 画面がいきなりブラックアウト。シラヌイの映像を見ると、まるで人間が神姫を掴んで投げ付けたような勢いで、種型の蹴りを喰らってすっとぶマオチャオタイプが見えた。ノーマルの神姫同士が本気でバトルしても到底こんな力は出ない。その間に空中でバク転を決めた椿が初期位置から十センチほど後方に着地。そのまま自分に向かって倒れ込んでくる日本刀を掴んで、抜刀する。 「行くぞ」 椿のマスターの声を聞いて、何も考えられないまま、ダッシュ。現場へ向かう。 椿と種型が交戦状態にあるのが見えた。シラヌイとマオチャオタイプの姿は見えない。どこだ? 「構わん、撃っちまえ。椿は巻き込まれても大丈夫だ。撃て」 遅れてきた椿のマスターが言う。一瞬、ためらう。種型が椿の腕をねじり上げて、武装コネクタの部分から腕を引っこ抜いた。その手に握られた日本刀を手に、種型は今度は僕に向かって跳躍してきた。 「撃てよ、オイ!」 エアガンの連射音が響く。ヘッドギア男のSMGを椿のマスターが撃っていた。何発かが命中したものの、種型はボディの表面ではじける弾には構わずにコチラへ向かって飛び込んでくる。 と、目の前に何か黒いものが疾った。鋭い金属音が響く。 種型はぼとりと僕の目の前の地面に落ちると、背後を振り返った。そこにはシラヌイが地面に倒れ込んでいる。僕はすかさずトリガーを引いた。種型がネットに取り込まれる。電源のスイッチを入れると、種型は地面に仰向けに倒れ込みー。 「ーーーーーーーー!!」 声にならない音を上げ、手足をバタバタさせて暴れた。椿のマスターがトリモチを打ち込む。一発では動きも、声も止まらず、二発目、三発目でその動きがようやく止まった。声もくぐもって聞こえなくなった。 「シラヌイ!?」 僕の呼びかけに彼女は起き上がって応えた。 「主も、ご無事で」 ヘッドギア男も駆け寄ってきた。 「我が輩のねこ助は無事なのであるか」 椿がマオチャオタイプを背負ってやってきた。さっき、もぎ取られた腕は無事にくっついていた。無理な体制に持ち込まれることを嫌った彼女が、自らロックを外したのだろう。 「無事です。鎧が割れてしまいましたし、まだスタン状態にあるようですが、CSC及びコア・ユニットの損傷はありません」 そういうと、ヘッドギア男の手のひらに、彼のマオチャオをそっと乗せた。 「おーい。まだ仕事は残ってるんだぜ」 椿のマスターはトリモチの塊と化した神姫をビニールに包んで、そのまま金属のケースに入れてロックした。蓋に付いているLEDがチカチカと瞬く。このケースも神姫の保護のために用意されたもので、神姫に機能停止の信号を送ることになっている。機能停止は神姫が持たされている人間にとっての安全弁のひとつで、イリーガルも例外ではない。むしろ、イリーガルの方が暴走の危険性が高いため、改造を受けてもその機能は残されているし、二重三重に機能停止の手段が盛り込まれている場合すらあるという。 僕はシラヌイに近づくと、そっと彼女をすくいあげた。 気づくと、しとしとと降っていた雨も止み、夜空には都会の明かりにとけ込みそうになりながら星が瞬いていた。 そのよん。 駅前に戻った僕らは、屋台で祝杯を上げていた。椿のマスターとヘッドギア男は青島、僕はZIMAだ。路上に並べられたテーブルの他の席では仕事帰りのサラリーマンやらカップルやらがそれぞれの夜を楽しんでいた。 「今日はお疲れ」 ふたりがボトルネックを掴み、ビン底を打ち合わせて乾杯するのを見て、僕もあわててボトルを持ち直した。 「今日は君たちがMVPだな」 「おかげで助かったのであーる」 二人がボトルを打ち付けてくるのを受ける。チン、と涼やかな音がした。テーブルの上ではシラヌイたちが歓談していた。シラヌイは右腕に白いテープを包帯のように巻いていた。種型に突進したとき、ボディスーツを切り裂かれてしまっていたのだ。それを見た椿が包帯代わりの応急処置にとテープを巻いてくれていた。 「まぁだふらふらするのだ」 「けっこうな勢いで蹴り飛ばされましたからね。直らないようであれば、明日、センターで内部機構のチェックをするのが良いでしょう」 「イリーガルがあれほどの力を発揮するとは思いませんでした。私も認識が甘かったようですね」 それぞれが感想を口にする。 「本当に大丈夫なのであるか」 「内部機能の診断はおーるぐりーんなのだ。それよりも、今回は全く良いところがなかったのだ。もっと活躍できるように新しい装備を開発しやがれなのだ」 「あいや、今日は、シラヌイ殿に良いところを見せようとして無防備に突進したー」 「言い訳無用なのだ。わかったかなのだ」 一方的にやり込められるヘッドギア男の姿に周辺のテーブルの客たちからも笑い声が漏れた。 「責めないんですか、僕を」 椿のマスターに向かって言った。 「何を」 「『撃て』って言われたのに撃てなかった。そのせいでシラヌイにケガをさせてしまった」 彼は夜空を見上げ、考えるようなそぶりを見せて話しはじめた。 「今日、最初に会ったとき、さんざんだったよな。君は。でも、君は自分自身の考えで、自分自身をどうにかしたいと思って今日の活動に参加した。君は自分自身で解っているから」 「何をですか」 「自分には何かが欠けている、ヘンだ、とね。そしてそれをなんとかしたい、と思っている。例えば、今は、自分の行動を振り返って反省している。なら、次回から直せばいい。 最初に君も認めた対人関係が苦手な部分、結局それが神姫への不義理な扱いに繋がっているのだけどー、それだって直していけばいい。神姫は、人間だったら離れていくような行動をとっても、あくまでマスターについていく。君は君のシラヌイから人の付き合い方を学べばいい。ただ、彼女に甘えるなよ。学生だったらサークルのひとつにでも入って、そこで友達でもつくってー」 「それは、無理ですよ。ソリの合わない人が多くて」 「うん、でも、校内の学生全員と顔を合わせたわけじゃないだろ。騙されたと思って神姫サークルでも立ち上げたらどうだ」 釈然とせずに僕は黙り込んだ。 「ま、無理強いはしないが、動かないことにはどうにもならんだろ」 確かに、そうだ。今日のことだって、最初に僕が帰っていたら、こういう展開にはならなかっただろうし。 「はい。………学校には神姫のサークルがあるんで、明日、いってきます」 「最初から、上手く行くとは考えないでな。軽く話しを合わせて、そんなもんだ」 手の甲に、柔らかくひんやりとしたものが当たった。テーブルの上に置いた僕の手に、シラヌイが身を寄せていた。 「私もお手伝いさせて頂きます、主」 見上げるシラヌイに何と言ったら良いのかとちょっと考えて、答えた。 「ありがとう。これからも迷惑をかけることになるかもしれないけれど、良いマスターになってみせるよ」 「はい。私は常に主とともに居ります。これからも、主のために」 お互いに黙り込んだまま見つめ合う僕らに気づいたマオチャオタイプが、矛先をこちらに向けた。 「おお、なんかいい雰囲気なのだ」 「ちょっと、お止めなさい。大事な場面なのですから」 これは椿さん。とはいえ好奇心まるだしの表情でこちらを見ているのは何ですか。 「うむ、マスターとしての自覚を新たにしたのであるな。それでこそー」 ビール一杯で顔を真っ赤にしたヘッドギア男がまた、演説口調で話し始めた瞬間。 「うるせーよ」 「本当に、公共の場所での行動をわきまえない方ですね」 「今、良いところなのだ、ひかえおうろうなのだ」 「せっかく主と良い雰囲気でしたのに」 一斉に非難の声が飛んだ。 Das Ende.
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/650.html
第漆幕 「READY STEADY GO」 華墨のここ二戦における敗因・・・それは俺のマスターとしての至らなさと、華墨自身の「猪突猛進なゴリ押し」スタイルにある 華墨は実戦経験がまだまだ足りない・・・にも関わらず、その身体能力でもって勝ちを続けてしまった事が、自身の弱点を見えにくくし、ひいては慢心さえ生んでいた 弱点を改良していき、より良い戦術を開発しなければ、勝利し続ける事は出来ない 例えば、俺はあの「シルヴィア」について殆ど何も知らないが、公式武装主義者が勝ち続けるには、多分ゴリ押しだけじゃ駄目なのだろうという事くらいは判る 別に俺は公式武装主義者になろうとしている訳ではない が、目下の所その「公式武装」もまともに扱えているのかどうか怪しい華墨に、山の様なカスタムパーツを託すというのは・・・かなり無理がある気がしてもいた 取敢えずは、今迄の華墨の戦闘データを見てみて、どういう戦術が良くて、どういうのが不味いのか、何が得意で何が不得手なのかを検証してみる事。今はそれが第一だろう (とは言ってもな・・・) 自慢じゃないが俺は戦術だとか戦略だとか、頭が要りそうな事はほとほと苦手だった (ええい、だからってやらない訳にはいかないだろう!華墨はこういうの、もっとやらない「たち」なんだから) それもまた、「二人で闘う」ことの一つの有り方だろう (まず注目すべきなのは華墨の「ゆらぎ」の賜物、この超抜の運動能力だろうな) 今迄華墨は、「ストラーフ(ニビルではない)」「マオチャオ」「ハウリン」「ジルダリア(?)」「サイフォス」と闘った事があるが、その運動能力・・・というか脚力は、ほぼ「ストラーフ」のパワードスーツと大差無いレベルに見えた その脚力が叩き出す瞬間速度は、全身に鎧を纏っていてもマオチャオやハウリンのそれを越える かなりの練習が必要だと思うが、半端な高度を飛んでいる相手になら補助装備無しで空中戦を挑む事すら可能だろう ただし、回避が下手糞というか、速度に頼って見え透いた突込みをし過ぎる所から、多分同じ相手とやると相当な高確率で敗れるだろうし、明らかにこういうタイプに強いであろう「エルギール」に勝利する事は不可能だろう (多分もうちょっと跳躍とダッシュを織り交ぜたトリッキーな動きをした方が良いんだろうなぁ・・・) 例えば、初めてヌルと闘った時に見せたあの壁蹴りの様な・・・だ 武器は今の所、「紅緒」に付属していた標準装備は一応全て使ってみたが、太刀が合っているだろう どのみち、運動能力を全面に押し出した戦いをするなら大き過ぎる武器は邪魔になる可能性が高い かといって、ナイフコンバットさせるには、密着戦のセンスが未知数だ。そもそも「紅緒」は、比較的大型の白兵武器を振り回すタイプなのだから、剣を手放させてもあまり良い事は無いように思える だが、太刀を主力に闘う限り、あの「エルギール」の「魔女の剣」は重大な壁になるだろう・・・あの剣は、太刀より遥かに間合いが広く、加えて長い武器を絡め取るのに向いている・・・ (もう少し強力な飛び道具があればアウトレンジから一方的に攻撃出来るんだがな・・・装甲が薄いから白兵戦相手じゃ強そうだが弾幕には弱そうだ) 結局華墨にとって最も攻略しなければならない第一の難敵があの魔女、エルギールである事は明白だった 「うぅ~むむむむむ・・・」 俺は頭を抱えて部屋でごろごろ転がるのだった 「・・・暇だな」 私はベランダで頬杖をつき、甲羅干ししている「ヴェートーベン君」をつついていた マスターが色々考え始めたのは良いが、どうもそういう作業に慣れて居ないのか、知恵熱が出る寸前の様だった かといって私は私で、普段は一人で色々考え込む癖に、いざ戦闘の事になると、何も考えずに突っ込んでしまえば良いと思っている(実際今でもそうだが)ものだから、結局マスターが考える事になってしまった様だ 少しずつ等身大の自分が見えて来たが、どうも私は、自己存在についてあれこれ悩む事と、何も考えずに体を動かす事が好きな様だ 「・・・また一人でバトルスペースに行こうかな・・・」 呟きつつ振り返る。そこでばっちりボナパルト君と目が合ってしまった 「・・・」 なんかまた激しく片目をぐるぐる動かしつつ片目はしっかり私を見ている・・・だから体の隅の方だけ色変えんな!気色悪い 「えぇいっ!相変らずでかい面してっ!言って置くが私はお前に負けた訳ではないのだからな!其処の所はっきり・・・うをっ!!」 またしても私の顔の横を凄まじい速度で通り過ぎるボナパルト君の舌・・・おのれ、爬虫類め・・・馬鹿にしくさって! その時、部屋のインターフォンが鳴る。同時に、これまた凄まじい勢いで駆け出すマスター 「はいはいっ!はいはいっ!!待ってましたっっ!!」 宅配されて来たものは・・・なんとも大掛かりな機械だった。結構な額を支払っているマスター 「へへっ・・・ようやく来たぜ」 「マスター、それは一体何だ?」 ごそごそと説明書を取り出してパソコンと繋ぎ始めるマスター 「所謂トレーニングマシンってやつさ。二個前の機種だから結構安く買い叩けたぜ・・・おっけい!多分コレで動く筈」 『ふいいいいぃぃぃ』とか間の抜けた唸りを上げながら起動するトレーニングマシン。無骨なアクセスポッドが大袈裟な蒸気を上げて開く・・・なんか微妙に入りたくねー 「さぁ華墨?カモ~ン」 渋々・・・という顔だけしてポッドインする。入ってみれば槙縞玩具店のアクセスポッドと大差無いな 『実際のリーグで使われてるのと殆ど同じステージが幾つか入ってるっぽいな・・・取敢えずこの「ゴーストタウン」とかいってみるか』 画面を切り替える度に『ぶひいいいん』とか一々音がする仕様を何とかして欲しい 切り替わった世界、出現するダミー神姫 「ふっ!」 機械に対する不満は幾つかあったが、こうやってバトルが出来る事自体には不満は無い・・・むしろ望む所だ 『んじゃぁ俺ちょっと出てくるから、その間に「慣らし」やっといてくれ』 「応!」とだけ応えて、私は手近のダミー神姫との殺陣に没頭し始めた 俺が帰って来た時、華墨は新しい相手と闘い始めた所の様だった。それを邪魔しない程度に、「買って来たモノ」をサイドボードに放り込む 新しい相手は「アーンヴァル」か・・・華墨が今迄闘った事がなく、そしてもし「エルギール」を下したら、その後最も大きな課題になるであろう神姫だ 上空から距離を保ったまま強烈な砲撃を繰り返すアーンヴァルに、華墨は大いに攻めあぐねている様だった 丁度良い 「華墨!今からサイドボードを送るから、巧い事ソイツでなんとかしてみろ。いくぜ!?」 さぁ行け、モデルPHCハンドガン「ヴズルイフ」!!華墨の可能性を俺に示せェェ!! たかだかボタンを一個押すだけに無駄に気合いを込めて、華墨の左手に大型リボルバーを転送する しっかり握り締める華墨、そして 『おおおおおおおおおおおおおおォォォオ!!』 ハンドガンを握り締め、傾いたビルの壁面を駆け上がる華墨。そうだ、それだ!お前にもし魂があるなら・・・ 跳躍する華墨。無論、実際に「飛んで」いるアーンヴァルに、翼無き身では届く筈も無い だが今の華墨には俺が与えたもう一つの剣がある・・・!やってみろ、華墨・・・お前の力を 「お前の力を見せてみろおおおおおぉぉぉォォ!!」 天使は、堕ちながらバーチャルの空気に溶けて消えて行った・・・ 神姫が人と同じ心を持ち、その身に燃える魂が有るならば・・・華墨のその魂の名は「闘志」に他ならないだろう 多分華墨は、良くも悪くも「武装神姫」を体現しているのだ プログラムされたものでありながら、ひとのそれと実質は変わり無い感情。機械の体に、熱い魂。 多分俺が抱え、悩んだあの葛藤すらも含めて、神姫は神姫足り得、華墨を「俺の神姫」として扱うならば、その全てを飲み込んでやらなきゃならない・・・ 人でもあり、機械でもある。玩具であり、パートナーでもある その、一見背反するもの全てがブレずに、ひとつの形として存在しているのが 「武装神姫」・・・人工の戦女神達なのだ 非常に軽いブレーキ音が槙縞玩具店の表に響く 待ち兼ねていた様に、皆川彰人は店の前に立っていた 「おかえりなさい西さん。大会はいかがでした?」 エレカのドアから電気盲導犬。それに引かれて女性が一人 「ええ・・・なかなか良かったようです。この子もかなりの刺激を受けたようですし・・・」 その女性の後から 堂々とした仕草で蒼い鎧姿がゆっくりと降りて来る 「有り難い・・・助かりました、奥様」 「もう、奥様はよしてと言っているでしょう?」 身長15センチの筈が、圧倒的に大きく見える威厳を備えた「サイフォス」 狗の頭部の様にカスタムした兜を脇に抱え、濃紺のマントを羽織った金髪の神姫・・・ 「おかえり・・・『クイントス』・・・」 それが槙縞ランキングの女王「クイントス」帰還の際のやり取りだった 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/battleconductor/pages/123.html
登場人物(NPC神姫)OPムービーのアーンヴァルMk.2 てん 謎のエーデルワイス型 大型バグ・オメガ 闇神姫 種村ジュビ子 黒種ジュビ美 ミラージュ・シリーズ ハナ イバラ ユメ ドロシー ストラ 悪神姫 鎧原フォスター 剣崎フェスター 甲季 刀華 ノララーフ ジル ラズちゃむ エウエウ 藤田フブルン コメント 登場人物(NPC神姫) 本作に登場しているNPC神姫です。 多くの場合は、レイドボスバトルで登場する人物となります。 OPムービーのアーンヴァルMk.2 稼動当初から登場している、見ての通りの天使型アーンヴァルMk.2。個体名は不明だが、少なくともてんとは別個体。 とあるギタリストの動きを完全再現出来る程にギター演奏が得意。 ベイビーラズ「あたしも実装された事だし、そろそろ混ぜて欲しいじゃん…」 てん 天使型アーンヴァルMk.2。神姫ショップ神姫(SSS)の称号と、同型機よりも多いアホ毛を持つ。 公式コミックではほぼレギュラーだが、ゲーム本編には姿を見せていない…訳ではない。 実は、本作稼動当初はバトル終了後の神姫お迎え画面で登場している。「入荷した神姫にすぐちゅーする」悪癖のせいでかずっと研修中の身だったが、シーズン2では神姫ショップのアイテム購入画面へと「異動」させられたのと引き換えに(?)晴れて正社員へと昇格した。 どちらにせよ、単にモデリングの都合上アホ毛が見られないので分かりにくいというだけなのである。 謎のエーデルワイス型 「それはバグの仕業よ!」 猟兵型エーデルワイス。レイドボスバトル(第一回)~(第二回)、復刻(第六回/前半)、(第十一回)に登場。 どうやら「武装神姫R」がリリースされた世界線の存在であるらしく、かの世界から出現したバグを追ってこの世界に来訪し、プレイヤー側の神姫達と共闘する。 なお、現存するエーデルワイス型との関係は一切不明。 大型バグ・オメガ レイドボスバトル(バグ編:第一回~第二回)に登場したレイドボス。 メタルギア・シリーズの核搭載二足歩行戦車「メタルギアREX」またはグラディウス・シリーズの歩行型対空ロボ「ダッカー」のような姿をしている。 巨大な体躯で明らかに神姫ではないためか、部位破壊要素(弱点要素つき)が存在する。 なお復刻レイド(第六回および第十回、第十一回)にも登場しているが、これが残存していた個体なのかバグの性能を再現したエラーなのかは判然としていない。 (様々な状況証拠から後者である蓋然性は高いが、絶対とは言い切れない) 闇神姫 レイドボスバトル(第二回)に登場したレイドボス。 謎のエーデルワイス型曰く「いまだ目的も正体も不明な、マスターを持たない神姫」。バグを増殖させて「武装神姫R」の世界に悪影響を及ぼす存在との事。 悪影響を及ぼしたのはあちらの世界だけではなかったようで、後に第八回においてレイドボスの剣崎が「闇堕ち」した原因のひとつとも考えられている。 ちなみに、その後の復刻(第六回)には出現していない(大型バグ・オメガは登場し、これを倒すと闇神姫の装備をドロップした)が、復刻(第十回)において「小型/中型バグと同型のエラー達」を引き連れて久々の再登場を果たし、復刻(第十一回)にも引き続き登場する。 種村ジュビ子 種型ジュビジー。レイドボスバトル(第三回)に登場した、神姫NET管理局環境農業課所属の「お役所神姫」。 飛び道具が対エラー特効を持っている事が多く、また防御力にも優れるため雑魚戦では活躍してくれるが、その分対ボス戦では決め手に欠ける。 その後もスポット参戦ながら、第七回・第八回ついでに復刻(第六回/後半)&復刻(第十回)と度々エラー退治に駆り出されまくっているが、そもそもお仕事が大好きなので全然平気らしい。 黒種ジュビ美 種型ジュビジー(リペイント)。レイドボスバトル(第三回)および復刻(第六回)に登場したレイドボスで、種村ジュビ子の同僚。 元々周辺が見えなくなりやすい性格だった事もあり、ワーカホリックを拗らせた結果エラーに付け込まれ暴走してしまった(公式コミックでの示唆によれば、どうやら昇進したかったらしい)。 経緯が経緯だけに悪神姫に分類されたりする事はなく、事件後無事に夏休みを取れた様子。 ミラージュ・シリーズ レイドボスバトル(エラー編)に登場するレイドボス。エラー達を束ねる存在。 Naked素体をベースに数多の神姫用武装を寄せ集め、さながら阿修羅像のような外見に構築した武装を携える。 複数種の個体が存在し、それぞれカラーリングや手持ち武装等、果てはアクティブスキルに至るまで微妙な差異を持つ。 ホワイトミラージュ(第三回/第六回前半) ブラックミラージュ(第三回レア枠/第四回/第六回前半) ナイトミラージュ(第四回レア枠/第五回) サマーミラージュ(第五回レア枠/第六回後半/第七回レア枠) オータムミラージュ(第七回/第八回レア枠) バニーミラージュ(第八回/第九回レア枠) フレッシュミラージュ(第九回) なおサマーミラージュ以後、スタンする毎に武装を少しずつ除装していくようになったが、総合戦闘力の変化は一切ない。 ハナ 花型ジルダリア。レイドボスバトル(第四回)に登場した、花屋のアルバイト神姫。 本当は自分もサボりたかったらしいが、迫り来るエラーを前にプレイヤー側の神姫達と共闘する。 ちなみに公式コミックでは同型の「ジル」が存在するが、ゲーム中には出てこない。 イバラ 花型ジルダリア(リペイント)。レイドボスバトル(第四回)および復刻(第六回)に登場したレイドボスで、ハナのバイト仲間。 「仕事を全力でサボりたい」というだけの理由で、エラーと結託していた困った神姫。 その後こってり絞られ、かつハナやプレイヤーの神姫達とゲーセンでたっぷり遊んだ事で、エラーとは手を切れたようだ。 ユメ 悪魔夢魔型ヴァローナ。レイドボスバトル(第五回)に登場した、ご近所神友マスターの神姫。 アラーム機能の不調を解決すべく、迫り来るエラーを前にプレイヤー側の神姫達と共闘する。 ドロシー 悪魔夢魔型ヴァローナ(リペイント)。レイドボスバトル(第五回)および復刻(第六回)に登場したレイドボス。 お寝坊なマスターのためご近所神姫達のアラーム機能に干渉し、エラーと結託していた困った神姫。 その後神姫管理委員会に厳重注意を受け、マスター共々早起きすると共にエラーとも手を切った模様。 ストラ 天使コマンド型ウェルクストラ(リペイント)。なにげに共闘するNPC神姫達の中では初のリペイント神姫である。 レイドボスバトル(第七回)に登場し、オフラインレイドストーリーの4戦目では行き掛かり上レイドボスも務めた。 (当初は記憶を失った状態でプレイヤーたちに保護されたのだが、当該バトルでは悪神姫にコントロールされてエラーと共に暴れ回ってしまったため) ちなみに本来のマスターはコーヒーを好むキャンパーであるらしく、コーヒーを淹れるのが得意だという事を思い出したのをキッカケとして無事記憶が戻った。 悪神姫 天使コマンド型ウェルクストラ(リペイント)。レイドボスバトル(第七回)に登場したレイドボス。 ストラと同型機なので分かりにくいが、当該オフラインレイドストーリーの9~10戦目及びオンラインでのボスはこちらの方である。 悪いマスターの下でエラーを利用してはぐれ神姫を操り不法に働かせていた他、神姫誘拐にも手を染めていた。 ただし、その「悪事」の詳細および倒された後の処遇、そして個体名は一切不明。 鎧原フォスター 騎士型サイフォス。レイドボスバトル(第八回)および第九回に登場した、神姫NET管理局ネットワーク課のネットワーク担当神姫。 日頃からハードワークが多い職務に身を置いているためか、非常に強く頼れる存在だが、対ボス戦では手数不足に陥りやすい。 ちなみに本名は2023/04/01の公式キャンペーン「エルプリルフール特別号」で、剣崎のそれ共々判明した。 剣崎フェスター 騎士型サイフォス(リペイント)。レイドボスバトル(第八回)に登場した、鎧原の姉にしてレイドボス。 嘗ては神姫NET管理局品質管理課に所属し、ネットワーク品質を管理。その過程で種村ジュビ子の仕事を手伝ったり、闇神姫事件においても最前線で戦ったり…と真面目に働いていたのだが、いつしか悪堕ち。事件解決後は神姫NET管理局に連行されていった。 バリバリの武闘派な一方でうさぎ好きという一面もあり、その立場を利用して入手したミラージュ・シリーズのデータからバニーミラージュを造り上げた可能性が指摘されている。 ちなみに第九回でも懲りずに脱走、「漆黒の戦姫」副長として悪事の片棒を担いでいる。 ちなみに「剣崎」といえば特撮作品「仮面ライダー剣」の主人公の苗字だが、ルラギラレる方だったあちらとは逆に此方はルラギる方である。 甲季 侍型紅緒。レイドボスバトル(第九回)に登場。神姫NET管理局のエラー討伐アルバイト神姫。 ジェムバトルランキングの上位チーム「漆黒の戦姫」に入る事を志しており、そのための鍛錬目的でエラーを討伐している。 プレイヤー神姫の助けを得つつ、入団試験を受ける事になるのだが…… その「漆黒の戦姫」こそは、一連の事件を引き起こす「悪神姫」達の巣窟であった、というオチがついてしまった。 刀華 武士型紅緒(リペイント)。レイドボスバトル(第九回)に登場した、ジェムバトルランキング上位チーム「漆黒の戦姫」リーダーにしてレイドボス。 実は剣崎と結託し、はぐれ神姫を積極的にメンバーに加えて勢力拡大を図っていた。これは悪神姫を増やす結果になるらしいのだが、当の彼女達自身は純粋かつ真面目に「はぐれ神姫の保護」を謳っているので、なお始末が悪い。 事件終結後は、剣崎共々「悪神姫」として神姫NET管理局に連行されていった。 ノララーフ 悪魔型ストラーフMk.2。公式コミックでは常連だがゲームには出てこない。 てんの店に良く遊びに来る、ポーカーフェイスでハードボイルドなノラ神姫。 大体のトラブルを解決してくれるらしい。 ジル 花型ジルダリア。公式コミックにのみ登場(ゲーム中には別個体ことハナが登場している)。 ブタグッズ、特に「神姫をダメにするブタクッション」を愛用しているらしい。 ちなみにこの名前、巷ではジールベルンにも付けられている事が多い。 ラズちゃむ エレキギター型ベイビーラズ。公式コミックにのみ登場。てんの被害者 とはいえ、ほとんどが起動前で寝ている状態での出番だった…。 エウエウ セイレーン型エウクランテ。公式コミックにのみ登場。 いつも元気一杯だが、何らかの(おそらくはノララーフ絡み?)復讐心に燃えているらしい。 ちなみにシーズン1の頃、ジェムバトルにおいて「なぜか緑CPUの復讐心が高い」と言う現象が稼動当初から確認されており、修正を重ねてもなかなか収まらなかった…という経緯があったり。 藤田フブルン 忍者型フブキ。初出は2022年4月1日の「エルプリルフール」告知で、ポニーテールに白ビキニにて魅惑の姿を披露した。 その後毎年04/01の同告知で、サブモニターにメッセージを出していた様子(開催されなかった2024年も含む)。 果たして、ゲーム本編に現れる事はあるのだろうか……? コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/198.html
眼前に神姫達が迫る。始めた作業は継続しつつジェネシスへ説明を始める。 「お前の攻撃データを改竄した。攻撃を当てればそこからウイルスコードが侵入し、 俺達とリンクする」 「相手のコンピュータからは消えたように見える筈だ。コレで洗脳から解放できる。 一時凌ぎだけどな」 めまぐるしくキーボードを叩きながら、ジェネシスへ指示を下す。 「了解です。」 「それと、一機一機回収してる時間の余裕がもう無い。リンクを経由して一緒に 連れ出す。その為には機体を機能停止させる必要が有る」 「人間でいう鳩尾の位置だ。エネルギーラインの集中位置がある。 バイザーにデータ送るぞ。ここを切断すれば無傷で神姫を止められる。 いいか、一撃でここだけを刺し貫け」 ジェネシスのバイザーにヒットポイントの位置データを転送。 ジェネシスは位置を確認し頷く。 「安心しました。いつもの貴方で」 「凹むのは後だ。その話はするな」 「頼りにしてます」 僅かに笑んだ気配のある彼女の声が、緊張をほぐしてくれる。サンキュ、相棒。 数秒置かず、神姫達の只中へ突っ込む。 最初に襲い掛かって来たのは先程のハウリンタイプだ。 「ジェネシス。システムを近接戦闘に移行」 「了解」 可変アーマーが跳ね上がり、ハウリンを弾き飛ばす。 展開したアーマーがフレキシブルアームごと後方へ移動し、折り畳まれて スラスターウイングを形成する。尾部のアーマーがサイドに持ち上がり展開して サブウイングとなって…高速格闘形態へ。 ウイング内に仕込まれたサバイバルナイフをクローデバイスで取り外し、 その手に握り込む。 もう片方のクローでハウリンを掴み、こちらへ引き寄せて。 「大丈夫…痛くはしません」 ドッという鈍い音と共に正確にその胸をナイフで刺し貫く。 停止したハウリンを降ろせば、周囲を取り囲む神姫達。流石に数が多い。 クローユニットを180度回転して逆方向に装着したビームユニットからサーベルを展開。 同時にドラグーンを射出して駆け出す。 ジェネシス自身が前方の1機を、後方の6機を至近まで接近したドラグーンが討つ。 一応、ジェネシスのビーム兵器には全てエネルギーキャップを付けてある。 短時間ならどの兵器からでもビーム刃を出せるのだ。 そこへ降り注ぐ攻撃から倒した神姫を突き飛ばして、自らも上空に避ける。 「容赦ねぇな。ま、操られてるんだし当然か」 「だからこそ、これ以上彼女達が傷を負う前に止めねばなりません」 味方を倒されても躊躇無く攻撃を加えてくる神姫達。回避行動を取りつつ、その要領で 次々と撃破していくと例の巨大神姫が接近してくるのが見えた。 神姫達の迎撃をドラグーンに任せ、巨大神姫へと飛び立つ。 アレとの戦いに他の神姫は巻き込めない。 迫る巨大神姫に先制攻撃を掛ける。これでウイルスが効けば儲けモンだが勝算は薄い。 なぜならアレは恐らく… 「よぉ、Gさんよ。初めましてだなぁ?攻撃しても無駄だぜ? コイツはオレが直接操ってるからなぁ。サーバーには依存しねぇ」 巨大神姫の蛇の様な頭部。その目の部分が点滅し、音声を再生する。 装甲も今までの比じゃねぇのか傷一つ付いていない。 「やっぱ初めてか。オレが今まで潰した連中と比べて大分ザルいぜアンタ。 その分卑怯くせぇけどな」 皮肉たっぷりに言い放ち、巨大神姫を調べる。 神姫部分が露出してれば話は早いが…そう簡単には行かせてくれないか。 「何とでも言ってくれや。取引だ、Gさん。オメェこのまま俺達に捕まれ。 大事な神姫を壊したくないだろ?それに…」 巨大神姫の頭部カバーが開く。その中に組み込まれていたのはストラーフ。 …しかも見覚えのある、だ。 「コラン…」 苦々しく呟く。それは、オレが修理を頼まれたあのストラーフだった。 「何だ知り合いかよ?なら話も早いってモンだ!アンタが抵抗すればこのストラーフ、 タダじゃすまないぜ?」 「こっちも高い金掛けてこの戦闘用神姫を組んでんだ。ランカー神姫まで用意してなぁ。 こんなトコで壊したくはねぇのよ」 人質ってワケか。どこまでも腹の立つヤロウだ。 このデカブツを破壊して頭部から彼女を救い、彼女にダメージを与える。 直接接触しない限りは攻撃は無駄。 …手が無いわけじゃねぇが。 (ジカンヲカセゲ) ジェネシスのバイザーにメッセージを送信する。 「…アンタの目的は?」 男に話しかけながら、キーボードを打ち続ける。デカい入り口を開ける為に。 ジェネシスも無言のままウイングをアーマーに変形させて防御姿勢を取る。 男の神姫がジェネシスをいたぶる様にその巨大な身体をぶつけて攻撃を開始した。 まるでお手玉の様に中空で攻撃を受け通けるジェネシスの顔が悔しさと痛みに歪む。 「目的ぃ?目的なんざ金に決まってんだろ!Gの神姫とソレをヤッた神姫となりゃ、 とんでもない額で売れるぜ!ハハハッ」 「手間ぁ掛けやがって!頂く前に少し遊ばせてもらうぜ、見敵必殺の神姫サンよぉ!」 「下衆野郎が…」 「口の利き方には気をつけろよ、Gさん。アンタの神姫が痛い目に合うぜ?」 巨大神姫の尾のブレードが、ジェネシスを地面に叩き付ける。 地に伏したジェネシス目掛けてそのブレードが何度も何度も振り下ろされた。 「大した事ねぇなぁ?おっと、手が出せないんだっけか、悪ぃ悪ぃ」 下品な笑い声を上げ、男が楽しげにこちらを挑発する。 そして巨大神姫が、その身体で蛇が獲物を絡め取るようにジェネシスに巻きつき、 締め上て来た。 「ぐっ…」 苦痛に耐え、呻き声を上げるジェネシスを見て、男は満足げに言い放った。 「オラ、Gさんよ。アンタはこの神姫を置いてさっさと消えな。これに懲りたら少しは 利口な生き方ってモンを覚えるんだな」 …この手の手合いは自分の優位を実感した瞬間、どうしようもなく隙が出来る。 小悪党の不文律か。 目の前にちらついたお宝に目が眩み、オレを無力と思ったのが運のツキだ。 終わったよ、準備。 「なぁに。利口になるのはアンタの方さ、小悪党!」 最後の構文を書き込み、エンターキーへ指を叩き付ける。 サーバー世界の雲に穴が開き、新たな入り口が開く。 「ジェネシス、待たせたな!やっちまえ!」 「アーマーユニット、オールパージ!」 オレの呼びかけに応えたジェネシスが叫ぶ。 アーマーが強制排除され、拘束を吹き飛ばしたその勢いのまま天へと跳んで。 同時、天空より飛来した戦闘機に飛び乗った。 「な、なんだこりゃっ!?」 状況を理解していない男の叫びが空へと木霊していた。 ジェネシスが乗っているのは、彼女の最強の剣だ。アムドライバーシリーズの ネオボードバイザー、通称ソードダンサー。 そいつの推進系とコネクタを改造し、銀に塗ったMMS用随伴戦闘装備。 その名は、ソードダンサー改「リボルケイン」 「モードブリガンディ!」 ジェネシスの咆哮に合わせてリボルケインが変形する。ジェネシスをその身に納め、 巨剣を構えるその姿はまさに剣帝。 「必殺!リボルクラッシュ!」 雄叫びと共に全推進系を使い、超高速で相手を貫くリボルケインの必殺技が巨大神姫の 首とその下を切り離す。 吹き飛ぶ頭を掴み、頭部カバーを弾き飛ばして、ジェネシスを分離。 ここまでを一呼吸で行なう。 リボルケインから分離したジェネシスがその内部に眠るコランを引き剥がし 胸を貫いた時、男はようやく現状を認識した。 「なっ!なぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」 訂正、展開に追いついてないわ。このオッサンの頭。 「チェックメイト。とでも言えば通じますか。貴方の負けです、犯罪者さん」 コランを抱くジェネシスが、再度飛行形態へ変形したリボルケインの上で勝利宣言する。 「あ、ありえねぇぇぇぇっ!?」 叫ぶ男。負けた事は認識したらしい。ともあれ。 「ジェネシス、アーマーパージはキャストオフだ。基本だぞ?」 台詞について突っ込むオレ。 「ああ、気付きませんでした。失礼」 和やかに返すジェネシス。 「何の話じゃぁ!おまえらぁぁぁぁっ!?」 興奮状態のオッサン。 「何だ!?何をしやがった!?改造ボディのランカー神姫の反応を超える動きだと!? どんだけカスタマイズしてんだ!?」 大声で捲くし立てるオッサン。オレが皮肉の一つも言ってやろうと口を開いた時、 先にジェネシスの声が耳に入った。 「武装神姫は一人で戦っているんじゃない」 「信じ、信じてくれるマスターと共に戦うからこそ、スペックだけでは測れない戦いが 出来る」 「共に支え、胸を叩き、背中を押す。その声と心が共にあるからこそ、戦える」 「神姫をパーツとしか思わず、その心を、誇りを汚す愚か者になど… 武装神姫は負けない!恥を知りなさい!」 …言う言う。オレの心もすっとした。流石は俺の相棒様だ。 「くそっ!人形風情が何を人間様に説教たれてんだ、コラッ! 勘違いしてんじゃねーよ、機械の分際でよぉッ!」 男も負けじと吠える。台詞まで小悪党だ。どこまでも救えねぇ。 「そんなんだから負けんだよ。お前が言う機械にも解る事が解んねぇんだから、 お里が知れるぜオッサン」 嘲笑を込めて言ってやる。そして止めに一言。 「ま、負け犬の遠吠えってヤツぁいつ聞いても滑稽だな。二度と出てくんなよ三下、 出てくるたびにこうなるぜ?」 「うがぁああああああっ!!!くそっ!こうなりゃデータなんぞ関係ねぇ!死ね!!」 そこで男の通信が唐突に途切れる。いや…通信だけではない。 世界が、崩壊を始めていた。 遥か彼方から、凄いスピードで世界が崩れ、ただの無機質なデジタルデータの流れが 剥き出しになっていく。 「あのオヤジ、ヤケになってサーバーの電源無理矢理抜きやがったな」 この現象も悲しいかな経験済みだった。ヒステリー後の行動なんてそんなに多彩な パターンは無いらしい。 「UPSじゃ持って数分か。データリンクしといてよかったぜ。ずらかるぞ」 「マスター、リィリィを回収しないと!」 慌てて言ってくるジェネシスに、ニヤリと笑いながら告げてやる。 「最初にリンク張っといたよ。問題ナシ」 「そうですか、良かった…」 胸を撫で下ろすジェネシス。うん、なんか今オレ出来る男っぽくね?はっはっは。 「マスター…この捕縛プログラムはどうなるんでしょう?」 出口へ向けて神姫達を送り出しながら、ジェネシスが聞いて来る。 「電源抜いたくらいで壊れはせんだろ。UPSも動いてるし、後は警察がやってくれるさ」 「そうですか…」 俯くジェネシスが、パージしたアーマーを身に纏う。はて?何で今更アーマー着ますか。 「マスター確か今の私の攻撃データ、ウイルスが仕込んであるんでしたね?」 「…おう。ええと、ジェネシスさん?」 声音が低い。これはなんか怒ってる時の声だ。 「私が攻撃すれば…壊れますかね、この不愉快なプログラム」 にこやかに笑みつつ、屋敷を指差す。うひぃ。 「いや、時間無いよ?神姫達の転送も終わったしさっさと離脱しないと…」 「マスター…Gという名の由来を聞いた時、機械の英雄達の称号とおっしゃいましたね。 そして、私の装備にはGの遺伝子が受け継がれていると」 オレの呼び掛けを遮り、ジェネシスが語る。 ああ、確かに。 ガンダムもグレート合体もゴジュラスもギャラコンも、ロボットヒーローにはGの名は 付き物だ。 彼らの正義にあやかる為に、オレはこの稼業を始めた時Gを名乗った。 「この状況を打破出来るGを、私は知っています。そして、その力は私にもある」 再びアーマーが変形を始める。近接戦闘形態へ。そして、さらにウイング内に仕込んだ そのGのキャノンが、両腕のビームユニットが、腰のヴェスバーが。そして周囲には ドラグーンが。全砲門がプログラムへ向けてその牙を剥こうとしている。 「そのあまりの力から、やりたい放題…フリーダムの名を冠した伝説のG! その力を今こそ!!」 「いや、その説明俺の主観だし!証拠のプログラム壊したらたっちゃんに怒られ──」 慌てて止めようとしたオレの言葉をも吹き飛ばすように、ジェネシスの ハイマットフルバーストが電脳世界に止めを刺す。 白く染まり崩壊するその世界の輝きは、なんだか色々な物を忘れてしまいたくなった。 意味は無いけど南無。 「畜生、畜生畜生ッ!」 見事にGに出し抜かれた主犯格の男は、怒りをコンピューターにぶつけていた。 「あ、アニキ、落ち着いて!マジでデータが壊れちゃいますよ!」 慌てて取り押さえるその部下達。 「どうせGのヤロウに持っていかれた後に決まってるだろが!畜生、あのオタク野郎、 覚えてやがれっ!!」 力任せに蹴り飛ばされたテーブル。その上に乗っていた目覚まし時計が壊れ、 時を止めて転がった。 午前1 00時。 同時、インターホンが鳴る。 「誰だ、こんな時間に…?」 部下の一人がドアを開ける。其処に立っていたのは、黒手帳を示した男だった。 「…警視庁公安MMS犯罪担当3課、地走 達人。階級は警部だ。お前たちを 電子取引法違反、違法賭博、器物強奪etc等の容疑で逮捕する。コイツが令状だ」 あまりといえばあまりの事態に、男達が目を白黒させる。そして数秒。 「テ、テメェーッ!」 何がテメェなのか解らないが、パニック状態の男達が襲い掛かる。 手帳を仕舞う余裕すら見せ、地走警部が後ろに下がり一人目に当て身投げを行なう。 身体を半回転させドアを塞ぐように相手を投げれば、それに二人目三人目が 巻きこまれて倒れ。 「手間を掛けさせるな。公務執行妨害まで付くぞ?」 ドスの効いた声で告げる。警部というよりは殺し屋のようなその声に、主犯格の男が 腰を落とし…逮捕劇はあっけなく幕を閉じた。 「警部、証拠品の搬入先なんですが…」 「ああ、データ解析はKMEEの今米さんに頼んである。そっちに運んでくれ」 「はっ」 敬礼して持ち場に戻る若い警官を見送り、地走警部は携帯端末を操作した。 事件から数週間。結局あの事件は新聞の三面記事にすら載る事無く、静かに終息を迎えた。 それだけ、今の世の中神姫犯罪が多いってコトだろう。ブームの暗黒面だ。 だが、事件の当事者には良くも悪くもその記憶は残り続ける。 例えば、あのストラーフ使いの少年の様に。 ・ ・ 「本当に、有難う御座いました」 少年が深々と頭を下げる。その腕には意識を取り戻した彼のストラーフ、 コランがしっかりと抱かれていた。 「おう。ホント苦労したぜ。修理代はずんで貰わねぇとな」 カウンターに両腕を預け、軽口を零す。 「はい、貯金、全て下ろして来ました…いくらでもお支払いします」 「ほぉ、そいつはいい心がけだ。そんじゃ、コイツの代金を払って貰おうかい」 神妙な面持ちの少年に請求書と紙袋を手渡す。 請求書を読み上げた少年が不思議そうに顔を上げた。 「えっとこれ保守部品ですよね…?ハードの故障だったんですか?」 「いんや。正真正銘ソフトの問題」 一拍置いて言葉を続ける。 「ホント大変だったんだ。二度とゴメンだ。つーわけで二度目は無いぞ少年。 今度同じ事が起きても修理はしねぇ」 「だから、そのパーツでしっかり整備して頑張んな。強さってのを見つめなおす為にも」 「店長さん…」 一言そう呟く少年に頷いて見せる。 「裏にゃ裏の意味がある。否定はせんよ?でも、あそこは…なんつーかな、 普通の武装神姫にゃ似合わない場所さ。解るだろ」 「はい…」 「…だから、お前さんの求める強さはあそこには無ぇ。人に頭を下げるぐらい 大事な神姫なら、日の当たる場所で一緒に歩いてやんな」 少年が、少し俯いて無言になる… やがて、顔を上げた少年は「色々、お世話になりました」とだけ言って、会計を済ませた。 「きっと、彼女と胸を張ってまた会いに来ます」 「楽しみにしてるよ。有名になったらウチの宣伝もしてくれ」 手を振り見送る俺に何度も頭を下げながら、少年は帰っていった。 ・ ・ ・ 「カッコつけすぎたかなぁー」 思わず思い出して背筋が寒くなる。 クセとはいえ、クサ過ぎるだろうあの台詞は。病気だ。 「でも、カッコよかったですよ」 横から声を掛けるジェニーを見る。教室も終わり定位置…レジ横の特製クレードルに 鎮座する大明神様は、レジ兼用のデスクトップ端末からネット中のご様子だった。 「いや、何も言ってないんすケド」 「どうせ自分の勢い任せにいっちゃった台詞でも思い出してたんでしょう?」 恐る恐る聞けば、実に的確な突っ込みが返って来る。 エスパーか君は。 「長い付き合いですから」 「いや、モノローグを予測して答えるな、マジ怖い」 そんな遣り取りの後、ジェニーが端末のモニタを示して見せた。 「頑張ってるみたいですよ?コランさん」 見れば、強敵相手に善戦し、僅かながらポイントを上げたコランの姿が映し出される。 「ま、元々腕はよかったんだろし。頑張って欲しいねぇ」 ニヤケる顔を見られないようにジェニーとは逆の方を向く俺の耳に、 彼女の僅かな笑い声が聞こえた。くそう。 「で、私のボディは何時買って貰えるんですか? そろそろ今米さんから報酬が届く頃では?」 「そんな予定はありません」 定例の突っ込みに定例の言葉を返す。 「…電話してたのは聞いてます。報酬、私にも権利はあると思いますけど?」 ジェニーの冷静さを維持しようとする声に、誤魔化すのはムリと判断して真相を告げる。 「あのなぁ、いくらなんでも現金なんて貰えるワケないだろ。企業的に」 「というわけで、12月発売の3機種各6カートン。コレで手を打った」 「な…な…なっ?」 「ウチの店の規模じゃ破格の入荷数だぜ。震えるぜハート、燃え尽きるほどヒート…」 「じ、じゃあそこから一体素体を都合して下さいよ!」 「店の商品に手を出すなんて商売モラルがなってないぜ、ジェニーさん」 チッチ、と指を振る俺をジェニーが睨み付ける。心なしか肩が震えて居るような。 「この、金無し!根性無し!甲斐性無し!うああああん!マスターの馬鹿ーっ!」 走り出したいのかクレードルから分離しようと身を捩るジェニーさん。 首しか動いてないよジェニーさん。 「まぁまぁ…大明神様落ち着いて」 「ああっ!もうっ!解りました、それならこっちにも考えがあります!」 こちらをキッと睨むジェニー。やおら表情を作ってもじもじと呟く。 「もう…夏彦さんの意地悪」 グハァッ…!大ダメージを受けた俺は思わず突っ伏した。 「やめろ…っ!オレは小学校中学年以来、女に名前で呼ばれた事が無いんだ!」 早鐘の様に鳴り響く胸を抑えて何とか立ち上がる。くそう、エグい手使いやがる。 「ふふ…女扱いは悪い気しませんけど、許しませんよー。夏彦さ~ん♪」 「ぐぁぁぁっ!黄色い声を出すなぁっ!?」 「純情ですねー、夏彦さんは」 「謝る、謝るからヤメテーッ!?」 そんなコントを聞いてか聞かずか、自動ドアを開いて入ってきたお客さんが遠慮がちに 声を掛ける。その肩には見覚えのあるマオチャオタイプが手を振っていた。 「あの…ここ…武装神姫のお店、ですよね…?」 オレもジェニーも、すぐに切り替えて営業スマイルを浮かべる。 一瞬だけ視線が合って、それがお客さんの方を向き… 『いらっしゃいませ!』 ホビーショップ エルゴは、今日も明るく営業中である。 NEXT メニューへ