約 514,101 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1013.html
その他設定 斗小野グループ 日本有数の財閥「斗小野家」が率いる巨大グループ その影響力は各方面へと及ぶ 國崎技研 健四郎が勤める神姫関連のパーツを創っている会社 自社制作だけでなく、個人制作の武装の代理販売なども行っている 組織略図(状況により変更あり) 技術部 1課・フレーム・架装部門 2課・周辺機器・用品部門 3課・銃火器部門 4課・刀剣・防具部門 5課・衣料部門 6課・特殊用品部門(通称エロっ課) 営業部 1課・自社製品販売部門 2課・代理販売部門 3課・広報部門 細かい課分けも実際は殆ど役に立っておらず、技術部の人間が店に商品を売り込んだり、営業の人間が(意見だけでなく)開発に直接携わったりしている場合も多い ワークショップ『MACHINE FRIEND』 (武装神姫飛鳥ちゃんエウクランてに登場) かつて祖父が経営していた工場を今井一太郎が復活させたショップ バトル施設は無いので神姫センターとは呼べないが、BMA公認ショップである パーツの改造だけでなく、中古部品等の販売や、神姫心理カウンセリング等も行っている 作品中に描写は無かったが、格安の中古武装に並んで神姫の手足なども並んでいて一種異様な雰囲気を醸し出している 裏の廃工場を改装した実験場がある 神姫関連だけでなく、様々なメカの受注生産も行っている 独自設定 ここではこの作品のオリジナル設定を説明します 素体について この世界の素体は、極一部の例外を除いて「フレッシュ素体がスーツ等を着用している」事になってます 素体自体も女性の体を出来る限り忠実に再現されており、いわゆる「えっちな機能」も極一部の例外を除いて備わっております(ただし、処女膜は再現されていない) 『神姫性性同一障害』 神姫特有の精神疾患であり、人間のそれとは異なる 神姫が同性愛を行う事は珍しくないが、男性的な行動を起こす場合に定義される 症状が悪化すると男性的に恋人を愛したいと考えるようになり、存在しない陰茎部を挿入したいと考えるようになる こうして満たされない欲求に押しつぶされ、暴走したり最悪AI崩壊を引き起こしたりする事例も報告されている (ここまで重度のものは報告例は少ない。大抵は恋人を満足させる事により欲求は満たされる) 原因については一切不明 最悪の状態になり、やむをえずリセットされたコアへ同一素体・CSCを組み込んでも発症したという事例は今の所無い (神姫は同一コア・素体・CSCを使用しても同じ性格にはならない為、その因子が発現しない為とも考えられるので、たまたまという意見もある) この障害はBMAも問題視しており、症状の重い「患者」に対して様々な補助を行っている (國崎技研と協力してのツールの処方もその一環) 独自解釈武装について 謎の武装に関しては、作者の妄想が付け加えられている場合があります パウダースプレイヤー ジュビジー標準装備の銃。通常弾の他に特殊弾も発射可能 また弾倉が6発、3発、3発のに分かれていて、それぞれに異なる弾丸を装填可能 メーカー標準装備では、通常弾・煙幕弾・腐食ガス弾が付属している アレルギーペタル ジルダリア標準装備の特殊武装 周波数をセットし振動を与えることで特殊音波を発する その効果は「神姫の聴覚センサーに作用し負荷を掛け、一時的に能力を下げること」 この効果を無効化するには、聴覚センサーの可聴範囲をズラし、特殊音波を聞かないように変更すればよい。この機能は全ての神姫に備わっており、その為アレルギーペタルの効果発揮時間は対象神姫の対応能力に左右される(平均約0.5秒程度) ちなみに使用するジルダリアは発動前に自らの設定を変更している為、自分にはかからない(その為、他のジルダリアが使用した場合はかかってしまう) フローラルリング ジルダリア標準装備 本体の飛行を可能にするだけでなく、ハイパーモード時にはフィンにエッジが付き、切り離して遠隔操作にて攻撃することができる 重力制御装置 イーアネイラやウィトゥルースに装備されている装置 機体を浮かせて移動させるのが主な目的 しかし、イーアネイラは地上での最低限の移動力の確保を目的としているのに対し、ウィトゥルースのそれは積極的に戦術に取り入れる事を目的としている 複雑な合体や、ファストオーガの機動力を支えているのは間違いなくこのシステムであり、また真鬼王のパワーを十二分に発揮する為にもこのシステムが活用されている(力が逃げないように重力をコントロールしカウンターウエイトとしている) さらに反重力フィールドを形成し物理攻撃を逸らす事も出来る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1173.html
○オリジナル武器(龍悪自作武器) ●メインウェポン ○ANGELUS専用 『GRADIUS』 系統:大光銃剣 重量:20 攻撃:0~∞ 命中/HIT数:0/1 射程:0~∞ 必要:- 準備:0 硬直:0 スタン:0~∞ ダウン:0~∞ スキル:[攻]MEGA CRASH 神姫侵食度:∞ 備考:MEGA CRASHはその場に存在するものを全て消滅させる攻撃。 通常攻撃は近距離の場合は斬りつけ、遠距離は剣の先から螺旋模様線状レーザーのCYCLONE LASERを撃つ、中距離は使い主の意思のままにどっちかで攻撃する。 他にもリング拡散型レーザーのROPPLE LASER、連射型レーザーのTWIN LASER、波動砲型のENERGY LASERがある。 覚醒するとHYPERという名前がつきANGELUSとGRADIUSの性能が一気にパワーアップ。 人口知能が入っていて、性格はアンジェラスに的確な指示と気遣う優しい、女性の声で言葉は英語で語る。 実は武装神姫にも変形できます、ようするに擬人化ですよね。 擬人化した後、アンジェラスの支援をします。 容姿について、顔は小さく銀髪のツインテックにアホ毛が二本で目の色は赤。 性格はGRADIUSと同じです、といいますか、マンマ同一人物です。 この状態ではGRADIUSを使用する事は出来ません。 ただし、かなりGRADIUS自体がかなり強いので支援は期待できます。 翼は背中に六本生えていて、腰辺りに二本生えています。 最後に、GRADIUSはまだまだ未完成です。 更なるバージョンアップがあるでしょう。 剣版 擬人化版 (下の画像は、翼は限りなく結構動かせます) ○CRINALE専用 『ネメシス』 系統:重力剣 重量:∞ 攻撃:20000 命中/HIT数:100/4 射程:使用者の有視界 必要:- 準備:0 硬直:0 スタン:500 ダウン:500 スキル:[攻] GRAVITY CRASH 神姫侵食度:∞ 備考:GRAVITY CRASHは重力に因って無理矢理敵を自分の所まで引き寄せ、ある程度まで近づいてきたら攻撃し敵の内部で爆発させる攻撃。 通常攻撃はGRAVITYが敵に接触した時にその場で重力空間を発生させ、その重力空間は爆発する。 人間の目から見て殴った瞬間に爆発するように見える。 中距離は二次元の球を作りだしその穴に向かって銃類の武器で攻撃、その攻撃は敵を中心にして間合い半径1メートルから10メートルの間で360度ランダムで撃った攻撃が敵に向かっていく、GRAVITY HOLEというものがある。 人口知能が入っていて、性格はクリナーレにお調子者で少しチョッカイするが結構頼りになる、男性の声で言葉、日本語で語る。 ○LUNA専用 『沙羅曼蛇』 系統:火炎灼剣 重量:1 攻撃:10000 命中/HIT数:1000/444 射程:0~500 必要:- 準備:0 硬直:0 スタン:1000 ダウン:0 スキル:[攻] 沙羅曼蛇の舞 神姫侵食度:∞ 備考:沙羅曼蛇の舞は使用者の神姫の周りに炎渦が取り囲み、蛇のように突進し、敵を斬刻む攻撃。 通常攻撃はある程度相手距離を保ちつつ、隙あらば一気に敵の懐に飛び込み近接攻撃する。 人口知能が入っていて、性格はルーナのいいなりでかなりの無口、でも時々喋る、男性の声で言葉は日本語で語る。 ○PARCA専用 『ライフフォース』 系統:光闇弓剣 重量:10 攻撃:15000 命中/HIT数:10000/4 射程:100~100000 必要:- 準備:300 硬直:0 スタン:900 ダウン:100 スキル:[攻] 光闇矢 神姫侵食度:∞ 備考:光闇矢は二つ種類がある。 光は敵を追尾し、しつこく追いかけるが威力は闇より低い攻撃。 闇は一直線に敵を貫く、光より威力が高い攻撃。 同時に光・闇の攻撃可能。 通常攻撃は普通にノーマルな弓で攻撃。 もしくは敵に近づいて攻撃。 人口知能が入っていて、性格はパルカに全てについて冷静沈着に言い感情がない、女性の声で言葉は日本語だが何故か片言。 ●サブウェポン ○ANGELUS専用 『OPTION』 系統:オプション 重量:0 防御:0 対ダウン:0~∞ 対スタン:0~∞ 索敵:0~∞ 回避:∞ 機動:∞ 攻撃:0~∞ 命中:0~∞ 必要:- スキル:[追] OPTION SHOT 神姫侵食度:∞ 備考:OPTION SHOTは相手に物凄いスピードで体当たりする攻撃。 通常攻撃は神姫と同じ攻撃をする。 ラグビーボールみたいな形状で赤く光っていて数は四個。 装備している神姫の周りをクルクルと回ったり編隊したり神姫の後ろを蛇みたく追いかけたりする。 ○PARCA専用 『モアイラッシュ』 系統:オプション 重量:100 防御:1000 対ダウン:0~10000 対スタン:0 索敵:100 回避:0 機動:50 攻撃:5000 命中:50 必要:- スキル:[追]モアイラッシュ 神姫侵食度:∞ 備考:その名も通りにパルカの間合いにモアイが増殖し相手に体当たりや口からリングレーザーを放つ。 とてもやっかいなスキルである。 ●リアパーツ ○ANGELUS専用 『リアウイングM‐88対消滅エンジン』 系統:リア 重量:10 防御:0 対ダウン:0~∞ 対スタン:0~∞ 索敵:0~∞ 回避:0~∞ 機動:∞ 攻撃:0 命中:0~∞ 必要:- スキル:[移]SPEED UP 神姫侵食度:∞ 備考:SPEED UPは0~5速あって亜光速で好きな場所に移動する事が出来る。 因みにMAXの5速でスキルを使うとLNITIAL SPEEDとなり0速になる。 5速に近ければ回避・起動が上がり、0速に近ければ索敵・命中が上がる。 ○CRINALE専用 『DTリアユニットGRAVITY』 系統:リア 重量:200 防御:1000 対ダウン:1000 対スタン:1000 索敵:0 回避:-100 機動:-100 攻撃:100 命中:0~∞ 必要:- スキル:[防]GRAVITY FIELO 神姫侵食度:∞ 備考:形状はDTリアユニットplus+GA4アームと同格だが、違うのは中身。 GRAVITY FIELOはCRINALEを中心にして球状の重力空間を発生させる、この時のCRINALE状態はその場から動けないが攻撃は可能。 重力空間はありとあらゆる物を引き寄せたり、逆に引き離したり出来る。 CRINALEがGRAVITY FIELOを発動している時間が長ければ長い程、球状の重力空間が面積と体積が増加する。 CRINALEがGRAVITY FIELOを発動の終了をするとCRINALEは自由に動ける、更にGRAVITY FIELOはすぐに無くならず大きさによってラグが発生しその場で残るが時が経てば自然消滅する。 装着しているチーグルアームを駆動させ攻撃も可能。 ●アーマー ○ANGELUS専用 『FORCE FIELO』 系統:バリアー 重量:0 防御:0~∞ 対ダウン:0~∞ 対スタン:0~∞ 索敵:0 回避:0 機動:0 攻撃:0 命中:0 必要:- スキル:- 神姫侵食度:∞ 備考:神姫の全体を青い光によって包み込み全方向からの攻撃を防ぎます。 アクセサリーのFREE SHIELDより防御力が弱い。 ○LUNA専用 『究極生命態システマイザー』 系統:バリアー&リカバリー 重量:0 防御:700 対ダウン:1000 対スタン:1000 索敵:0 回避:0 機動:0 攻撃:0 命中:0 必要:- スキル:[回] リカバリー 神姫侵食度:∞ 備考:神姫の表面に究極生命態システマイザーが張り付き敵の攻撃を跳ね返したり、受けた傷を時間とともに完治していく。 ●アクセサリー ○ANGELUS専用 『FREE SHIELD』 系統:バリアー 重量:0 防御:0~∞ 対ダウン:0~∞ 対スタン:0~∞ 索敵:0 回避:0 機動:0 攻撃:0 命中:0 必要:- スキル:- 神姫侵食度:∞ 備考:神姫の周りに青い弐個の球体のシールドを何処にでも配置できる。 大きさは神姫の半分ぐらいの大きさ。 アーマーのFORCE FIELOより防御力が強い。 ●アイテム 『ストラヴァル』 系統:アイテム補充偵察戦闘機 重量:100 防御:100 対ダウン:0 対スタン:0 索敵:100000 回避:100000 機動:100000 攻撃:1000 命中:1000 必要:- スキル:補充武器乱射 神姫侵食度:0 備考:補充武器乱射はストラヴァルに積まれている武器を乱射する事です、弾幕攻撃です。 通常攻撃はバルカン砲やミサイルです。 偵察機なので防御方面は弱い。 神姫を二人まで搭乗させる事が可能。 搭乗した神姫のHPは時間とともに回復。 色が地味なのは偵察戦闘機だから。 下の搭乗 上の搭乗 ●アイテム 『ストレガ』 系統:敵殲滅戦闘機 重量:1000000 防御:100000 対ダウン:0 対スタン:0 索敵:1000 回避:100000 機動:1000 攻撃:1000000 命中:1000000 必要:- スキル:? 神姫侵食度:0 備考:詳細は不明。 ただ解る事は武装神姫で作られた戦闘機である。 バージョンがいくつかあるらしく、これからも改良される可能性が高い。 ノーマルバージョン EXバージョン
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/405.html
登場人物 木ノ宮 翔(きのみや かける) 16歳。勉強よりバイトを重視しているためか成績はちょっと危ない高校生3年。 あまりこういったロボットに興味は無かったが、武装神姫はなんかピンとキタらしく購入を決意。 晴れてティアナのマスターとなる。 なお彼の住む町は首都から遠く離れた地方都市の一角。 なので新発売の神姫は県中から人が集まる「ヨド○シ」とかに発売日に並ばないと買えないというか、並んでいても買えるかわからない。それほどの競争率。 イメージCV 鈴村 健一 ティアナ 新発売のジルダリアタイプ。 気さくな性格設定のためか翔とは対等な関係で接しているが、本当はもっと甘えたいと思っている。 第4弾の見た目は"武装"神姫としては従来のモデルより"貧弱そう"なのだが実際に戦闘になれば"スゴイ"らしい… イメージCV 榊原 ゆい * 大地 文典(おおち ふみのり) 翔の幼馴染…というよりは腐れ縁である。 中学の2年時に少し遠い町に引っ越したが高校で翔と再開する。その後はずっと同じクラス。 テストもクラスで10番以内には入るし、勉強を教えるのが上手い。 翔がバイトに勤しんでも落第しない理由はテスト前に文典の講義を受けているからである。 イメージCV 荻原 秀樹 沙耶 文典の神姫でハウリンタイプ。 ただ特殊モデルで瞳が深緑色、さらに長髪なので1度見ただけではハウリンタイプと気が付かない人もいる。 無邪気な性格で人当たりも良い。それでも人の迷惑になることだけはしない。 本物の妹のように文典と接しているが近頃はそれでは物足りない様子。 イメージCV 成瀬 未亜 小野 香住 翔、文典と同じクラスの生徒。 2人と面識は全く無かったが、トーナメントをきっかけに仲良くなる。 自分の神姫のニーナの野望達成のために毎日踊らされるすこし損なキャラ。 綺麗な黒髪のショートヘアーが特徴。 イメージCV 名塚 佳織 ニーナ 犬型だが基本的にいつもツガル装備を好んで装着している。 そして神姫アイドルのナンバーワンを目指して日夜活動している。 しかしいまのところスカウトに引っかかるということは無い。 それでも止めないのが彼女の負けず嫌いな性格を如実に表していると言っていいだろう。 ヘッドにツガルのミニツインテールを付けている為、ぱっと見は通常より可愛く見える。 イメージCV 野川 さくら 神代 鈴莉 2人が3年で進級した「神姫科」の教諭。翔たちのクラスの担任である。 基本的に神姫科は単位さえ取れていれば進級に評定の数値と言った要素は必要ない。 しかし、2年時までの成績が悪かろうと彼女の授業を1年受ければある程度の技術者になれるだけの基礎が身に付く。 それだけの実績を持つ名教師である。 イメージCV 北都 南 シロガネ 鈴莉の神姫でアーンヴァルタイプ。 とても礼儀が良く、優しく、時には厳しくと正に教師の鑑といえる神姫であり、神姫科の生徒の神姫が目指すべき目標でもある。 基本的に学校内では素体状態だが"生徒"に危険が迫れば"力"を使うという噂がある。 しかし真偽のほどは定かではない。 イメージCV 日向 裕羅 独自設定 「星林学園」神姫科 翔の通う「星林学園」は3年次の専攻コースに「普通科」「理学科」そして「神姫科」を儲けている。 神姫科は全国でもまだ数の少ない科であるが、プロフェッッショナルを講師に雇い、本物の神姫をパートナーと一緒に勉強をする。 神姫科でMMSの基礎構造からプログラミング、その他もろもろの基礎を学び、エスカレーター式で大学に進学してさらに細かな専攻の勉強をするという「高-大一貫校」という試みを日本で始めて採用した学校である。 今では都市部にも同じような大学が増えており、この学園が地方の郊外にあるため入試の志願者数は近年下降気味。 それでも生徒数は県で一番多い。 その下部組織として小-中一貫校の付属校も存在する。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1645.html
・・・。 「・・・・・・」 ぽかーん、と。進入口を前にして、マーチは突っ立っていた。 「えーっと。そういうことになっちゃった。気楽にやってみよ? マーチ」 ヤヨイは笑いを浮かべて、その後ろに座っている。自分のポケスタの中に一緒に仕舞っていた小さな箱を取り出して置く。 ごとん。 「ノーヴスと、バトルするんですか?」 「あ。やっぱり嫌かな?」 「いえ・・・。その、ちょっと楽しみです」 てへへっと笑いながらそう言って、マーチはぐっと手に力を込めて見せた。 「私、武装神姫です!」 対面の席に座るレオ。ノーヴスはのそのそと、ようやくポケスタから体は出した。 ふらりっと立ち上がると首をぷんぷんっ、と左右に振る。合わせて羽根飾りが揺れて、肩に引っかかった。 「マスター・・・ありがとうございます」 「?」 「彼女とは・・・。戦ってみたかったから・・・」 眠そうな目のまま、彼女は笑った。 「へぇ。珍しいね、ノーヴスがそう言うなんて」 「はい。良い風を、感じました」 そう言いながら。ポケスタの小物入れから、何やら紙に包まれた長い棒を取り出す。 「神姫としてではなく。『武装神姫』として・・・彼女がどんな風を吹かせるか・・・知りたいのです」 じっと。その言葉の意味を介しているのかは解らないが、レオはノーヴスを見据えていた。 「私も・・・えぇ。武装神姫、ですから」 「・・・うん、がんばって」 「行って。参ります」 ・・・。 高低差のある石畳と階段。そこは遺跡のようなステージだった。いわゆるジュビジーのノーマル武装に身を包んだマーチは、その両手で大きな木製ハンマーを携えて周囲を見回す。 キュベレーアフェクションには一個だけ箱状のOPT-γと呼ばれるパーツが付いているが、他は純正パーツそのまま。大きく広がった羽のようなユニットが作り出す、自分の大きな影を踏みながら、マーチは歩みを進めた。 がっしょ、がっしょ。と、一歩進むたびに大きな足音が鳴る。だが、それは明らかに・・・。 と、足を止めて。マーチは体を屈めた。通路の向こう側から、対戦相手となる神姫がゆっくり身を揺らせて近づいてきていた。 『STOP !』 コンピュータボイスにノーヴスも足を止めた。数個のパネルウィンドスが空中に表示されていく。 眠そうな目を、一度閉じる。その膝から下、そして胸と腕にはサイフォスが誇る装甲。しかしながら軽装モデルであり。他の部位・・・腰回りや袖には何も装備していない。左腕には小さな盾が装備されており、そこにサイフォスモデルのデフォルトソード『コルヌ』が差し込まれていた。 「マスター。アレ」 コンピュータがお約束の注意事項を表示したり、互いに違法パーツなどが無いかを検索している間。マーチはぽつっと呟く。 『うわ、カッコいい。さすがサイフォス。軽装もいいなぁ』 「えええ、そうじゃなくてー」 耳に直接入ってくるマスターの声。わくわくしている事を隠さないヤヨイに、マーチは困ったような声を上げる。 「ノーヴスの背中です」 見れば、その背中には、長い紙包みを背負っている。 「あれ、何だと思いますか?」 『うーん?』 「・・・」 『秘密兵器とか』 ・・・。 「やっぱり、そうですよね」 ヤヨイのそういう夢見がちな物を肯定してしまうマーチ。 『よしっ、マーチ。アレを使わせたら勝ちにしようよ!』 「あ・・・はいっ!」 彼女達なりの『ルール』だ。 だって、普通にやっても彼女は『勝てない』から。 『GET READY』 くるくるっとコンピュータグラフィックが回転して消えていくと、ぐっと姿勢を低くする。 そして、普通にやって『負けない』。けど、それは『負け』になってしまう『負けない』だから。 ノーヴスはコルヌの柄に手をやり、抜き放った。 『BATTLE !』 がしょん、という音を立てながら。マーチはキュベレーを前面に展開する。こっちから飛びこむ気は最初から無い。 だって、そんな事をしたら・・・。 「・・・。これより!」 澄んだ声が凛と響いた。 (ノーヴス?) 先までの、のんびりとした声ではない。 「此処にあるは戦士の魂。そのいずれにも・・・」 かっ、と。目を見開き、コルヌを中段に構えなおすと、ノーヴスはマーチを鋭く睨みつけた。 「精霊の祝福が。あらんことを!」 そう言い終わるや否や青い鎧は視界から消えていた。いや、消えつつあった。何とかそれを目で追う。 自身の身の丈の数倍の高さの位置、右上方に跳躍すると。そこにある柱を一度足場として、三角飛びの要領でノーヴスは側面からマーチに落下するように接近する。紫色の髪留の羽根飾りで軌跡を描きながら。15cmの小さな神姫だからこその、アクロバティックな強襲。 「う。わわっ?」 真正面から飛び込んでくるとばかり思っていたマーチは、その派手だが的確なアクションに慌てて体の向きを変えた。 キュベレーアフェクションの「爪」がマーチの視界を覆うように展開する。ふっと眉をひそめたが、ノーヴスはそのままコルヌを振り抜いた。 響く低い音。しかし、弾かれたのはコルヌの方。 文字通り、勢いごと跳ね返され、ノーヴスは左手を支点にしながら着地した。HIT表示は出るが、ダメージアラートは表示されない。 全部、受けきったという事。 ノーヴスがはっと気づけば、マーチがハンマーを振り上げていた。 「えーいっ!!」 しかし文字通りにそれは『遅い』。その軽装よりも軽い鎧で、ぱっと後ろに下がってそれを容易く回避する。 「あっ」 どかんっ! めり込む先端。舞い散る破片。 振り下ろした勢いは止まらず、木製のハンマーは地面をしたたかに打ちつけた。それに呼応するようにノーヴスは再度、軽い足音だけしか響かせずにマーチに接近した。その動きは重いという印象のある騎士ではない。まるで、木の葉のようにふわりっ・・・と。 慌ててマーチはアフェクションで前を視界ごと全部塞いだ。だが。 一際大きな、だんっ! という音。 それは踏み込みの音。その刹那の後に。 「わぁっ!?」 耳を劈く重低音が衝撃を伴ってマーチに襲いかかる。その動きに似つかわず、斬り払いの一撃は凄まじく重くて。 それでも、彼女は一歩さえ下がる事は無かった。 (固い。・・・いや、これは。固いといよりも・・・) ノーヴスは僅かながら手が痺れるのを感じていた。 とんっ。と展開が遅れたキュベレーを蹴って間合いを開ける。先と同じようにハンマーが今までノーヴスがいた所に上段から振り下ろされ、音を立てて地面を叩いた。 「うぅ・・・」 困ったようにそれだけ呟くと、マーチはその石畳にヒビを入れたハンマーを再度持ち上げて、腰を落として体制を整えた。 がしゃ。 一歩前に出る度に聞こえる音。それは足音だ。それが『何』を意味するか。ノーヴスは考えて少々ぞっとした。 その姿勢は防御だけを考えている。防御の後に攻撃を出来ればいいな、くらいの気持ちなんだろうか。 などと思考していると。 「えいっ!」 いつ、どこから取り出したのか、マーチの手に銃が握られていた。 (!) しまった。 銃声に、ダメージを覚悟したのは一瞬。その弾丸はノーヴスの右肩の・・・結構離れた場所を掠めていった。 「あれ?」 OPT-γに隠していた、文字通り隠し玉。「隠し弾」だったのだが、それはあっさりと明後日の方向に飛んで行った。 『チャンスだよマーチ! 相手が止まってるんだから!』 「は、はい」 ヤヨイの声に慌てたマーチはそのハンドガン、FBモデルのピストルを二発、三発と速射した。が、そもそも当たる軌道ではなく。既にノーヴスは横飛びでそこにはいない。 もはや、筋金入りの下手さである。 「うわ、わ」 急いで構えたまま追いかけて、そっちに銃口を向けようとするが、そこには困った事に自分のキュベレーの羽根。そして。爪の間の視界に映る青い影。 「わ。ひっ!?」 がつん! ピストルを取り落す。耳が痛くなるような音。思わず目を閉じる強烈な衝撃。ぐぐっ、と。そのまま押し込もうとする力の圧迫。 だが、マーチは下がらない。それどころか、そのまま圧力の方に一歩踏み出した。 「んううー・・・っ!」 ずんっ。 という、足音を残して。 爪の間から見えるノーヴスの顔が驚愕に染まる。 だけど、この状態では何もこちらからは攻撃できない。ハンマーは振れないし、ピストルを拾っても間抜けにも自分の「盾」に阻まれてしまう。他のジュビジーならそれこそ、アフェクションで攻撃するだろう。 (けど・・・) だから、マーチは頑張って『押す』事にした。 「ぇー・・・いっ!」 ずんっ・・・。 「えーいっ!」 ・・・ずしんっ! 一歩、また一歩と押していく。それは二歩めから「圧す」に変わっていた。 「っ!」 返されて膝と肘を畳んでしまったノーヴスが、ばっと後ろに飛びずさる。 ガ、ガコン。何かが噛み合うような低い音と共に。ゆっくりとアフェクションを定位置に戻して、マーチはきょろきょろと周辺にその影を探す。やがて、彼女はその青い影を遺跡の柱の上に見つけた。 「いつの間に・・・。速いなぁ」 心底茫然として、そう呟きながら、その数分の一の距離でもピストルを当てる自信の無い彼女はまた姿勢を低くして動きを止めた。 「なんという」 『うん、まさに種の殻だ』 感心したようなレオの声。 「えぇ・・・素晴らしいですね」 打ち込みの威力に自信が無いわけではなかった。 だが、自分の・・・サイフォスである自分の渾身の一撃は。そのジュビジーの足を1センチ下げる事さえ出来なかった。 「・・・あのアフェクションは、攻撃しないようです。出来ない、と言った方が良いでしょうか。それに」 『ノーヴス?』 「・・・。はい」 『君の予想通りだと思うよ』 全幅の信頼を寄せられている。と身に感じる言葉。 「・・・」 ノーヴスは数秒何か考えていたが。 「う・・・っ?」 ぐら、っと眩暈に似た感覚を覚え、眉を顰める。 「・・・」 首を振ると。彼女は意を決したようにコルヌを左手に持ち替え、背負った紙の包みを右手に携えた。 「あ・・・マスター、使いますよ、ノーヴス」 『うん、『勝ち』だけど、気を付けてね』 「はい!」 ぱっ、とノーヴスが柱から飛んで逆方向の瓦礫に音もなく着地する。その軽業に驚きつつも、そっちに体を向けた。 真正面。 ノーヴスは紙の包みの封を切って翻す。と、そこから姿を見せたのは。 「?」 思わずマーチは首を傾げた。 青い鎧、金の縁取。美しく気高い騎士型の右腕。そこに握られた物。それはとてもじゃないが、似つかわしいとは言い難い物。 血を思わせる赤と、黒。槍と剣の中間ほどの長さの柄。そして、その先端には歪な曲線を描く、二つの刃が組み合わさった不気味な剣身。 「あ。アングルブレード?」 そうだ。あの刃の部分はアングルブレード。悪魔型ストラーフの主力格闘武器だ。それを二本組み合わせている。 でも、どうしてあんな・・・。 「エエンレラトゥラーノ」 妙な単語を、ノーヴスが口にした。 「ヤウヤウッテ」 どこか、知らない国の言語なのだろうか。などと考えるは一瞬。ノーヴスはその黒い刃を一振りすると、マーチに飛びかかった。 あの剣が何かは解らない。だけど。アングルブレードなら。 (止められる!) 両のアフェクションパーツを前面に集中させる。 一刀目。左手に握られたコルヌの一撃が大上段から振り下ろされる。これまでよりも更に大きな衝撃がマーチを襲った。 「ううっ!」 しかし彼女は片目を閉じながらも両足をしっかりと踏みしめ、それに耐えきる。 二撃目。あの黒い刃を、ノーヴスは袈裟に振りかざしていた。 「ザイルドバルハっ!」 空気を引き裂く裂帛の気合。共に振り落とされる漆黒の剣。 耳が痛くなるような轟音が近くで炸裂した。 破片が舞うのが見えた。が、マーチに衝撃が伝わってこない。 何が起きたか理解できないまま。視界は変化していく。そんなつもりはないのに、視線が上へ上へ向かって行き。右足が前に前に行ってしまう。 「わっ! わっ? わわわっ!?」 腕をぶんぶんと振るが、虚しい抗いに過ぎず。 がしゃーん・・・! マーチは凄い音と共に。その場に仰向けで引っくり返っていた。 「あいたた・・・」 頭をぶつけてしまって、それを擦るヒマもなく。 すっ、と。顔の横に、刃が差しだされる。 「あ・・・」 涼やかな視線に眠たそうな感じはない。ノーヴスは小さく笑みを浮かべながら、じっとマーチを見据えていた。 「・・・あは。・・・負けです」 こちらも困ったように笑って。マーチは降参を宣言した。 最初はコンピュータも困っていたようであったが、しばらくして。笑うドクロのマークがマーチの体の上で回り始めた。 ちらりと見れば。黒い刃が抉ったのは自分の足元。そう、右足のあった場所・・・足場にしていた所だ。 凄まじい斬撃の痕跡が残り、散らばっているのは遺跡の土台、石畳の破片。 (そっか・・・) その『重さ』が、仇になった事を理解して。 双方ともに、ダメージはゼロ。一度もダメージアラートを表示すること無く。バトルは終了した。 2037の彩 彩・第一話 第四幕
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1573.html
過去と流血に囚われし、嘆きの姫(その二) 第三節:怨霊 ゆっくりと、幽鬼の様な動きでその姿を見せたのは……神姫ともその他の MMSとも判断しがたい、軍隊風の装束に身を包んだ12センチの少女だ。 否……軍隊風、というのは正確でない。どちらかというと“戦闘機”だ。 流暢な日本語で捲し立てるその娘を見て、私は率直にそんな印象を抱く。 「来るなって、言ってるでしょ!?……貴女、やっぱり当局なのね!」 「日本語が分かるのか。いや、私達は権力を持たぬ……只の民間人だ」 「嘘よ!アタシを叩き壊す為に来たのよ、奪う為なんだわ!そうよ!」 「マイスター、この娘……脚が……ううん、腕も全部……武器ですの」 ロッテが青ざめた様な表情で呟く。彼女の言う通り、私達の眼前に居る MMSの姿は酷く歪だった。両脚が、無骨な武器に置換されていたのだ。 左脚は、膝にパイルバンカーらしき杭が見える。脛にもシリンダー風の 構造物があるが、これも恐らくは何らかの武装だろう。足は人のそれと 違い、ソリの様な板状の装置になっていた。右脚も同様だが、こちらは 膝にアンカーの様な物とリールが見て取れた。ワイヤーランチャーか? 両腕には重火器風の鉄塊がぶら下がっており、掌も無骨な鉄拳である。 「絶対そうだわ……そんな眼でアタシを見て、貴女も憎いのよッ!!」 「憎い、かどうかは分からぬ。そなたは、コレと関係があるのか……」 「そんな事どうでもいいでしょ!?どうせ全部分かってるクセにッ!」 彼女はストイックかつ無骨な姿とは裏腹に、ヒステリックな声で叫ぶ。 背にセットされている二本の曲剣には深紅の染みが幾つかこびりつき、 その腰には鉄で出来たスカートと……無骨な拳銃が二挺下がっていた。 更に肩胛骨の辺りには、巨大な二枚のバインダーと三角形のユニットが セットされていた。先程は、これを利用して飛んでいたのだろう。だが そんな武装と胸元の装甲板を揺らして、彼女は尚も狂った様に吼えた。 「そうよ!“ドクトル”や“マヨール”を殺して“妹”達も壊して!」 「……マイスター、この娘ひょっとしたら……アレかもしれないもん」 「アレって何!?人間の味方気取ってるんじゃないわよ、ガラクタ!」 クララが私に耳打ちするのを、彼女は聞き逃さない。しかし、ここまで 過敏になっているというのはやはり“AIPTD”か何か……ともかく 超AIに対して強いプレッシャーが掛かっているのは、疑い様がない。 単に凶暴化しているにしては、被害妄想が強い気がするのだ。無理矢理 そういう調整をされたのかもしれんが、ともあれ彼女は何かおかしい。 単純に殺人の命令を受けている、という訳でもなさそうだが……むぅ。 「……ガラクタなんかじゃないです!あた……この娘達は違います!」 似た様に一度人間を拒絶した茜……アルマが、咄嗟に叫んだ。慌てて、 『あたし達』という言葉は呑み込んだが、彼女は既にお見通しだった。 小刻みに震える手で茜を指差し、彼女はキッパリと言い切ってみせる。 「何言ってるのよ!声や動きで分かる、アンタもその玩具達と同じよ!」 「うっ……そうです、あたしも武装神姫。貴女だって、そうでしょう?」 「違うわよッ!!あたしは……あたしは“ロキ”!あたしは……ッ!!」 アルマの正体を看破した所まではいい。だが彼女は、その後の言葉が全く 続かない。ロキという名を告げた所で、激しく肩を振るわせ始めたのだ。 ……数秒の沈黙を破って、呪いを吐き出す様にロキは己の正体を告げた。 「“戦略級殲滅型MMS”……“ハザード・プリンセス”の零号機よ!」 「ハザード……プリンセス?“ラグナロク”が創った、MMSの名か?」 「ッ!?やっぱりアンタ、知ってるのね!絶対、壊しに来たのよッ!」 私の呟きに、ロキが再び烈火の如く激昂する……歩姉さんを殺したMMS。 そんな“予感”に囚われる意識を振り払い、私は彼女を見据えた。躯は、 武装神姫と何ら代わらないサイズである。これをテロや暗殺に用いようと 企んだ“ラグナロク”の邪心に、吐き気さえ催す……が、ここは我慢だ。 「落ちついてくれ、私達は壊しに来た訳ではないのだぞ……ただな?」 「嘘だッ!!そう言って人間は、アタシ達を騙して壊したのよ!!?」 「えと……さっきから、壊した殺したって……話が見えてきませんの」 「トボけないでガラクタッ!人間は、飽きたら玩具を棄てるのよ!?」 錯乱しているのか何なのか……至極真っ当なコミュニケーションさえも 成り立たないまでに、ロキは怒り狂っていた。いや、むしろこれは…… そう、“憎悪”。世の全てを恨み、嫉み……憎み、蔑む。そんな姿だ。 神姫にも“心”がある以上、そういう感情に支配される可能性はある。 だが、いざ目の前にすると……これ程まで憎悪の力は強いのかと思う。 「ロキ、と言ったか……そなたを使役する“ラグナロク”の……」 「いないわよそんな奴ッ!?もう誰も、アタシの側にはいない!」 そんな彼女を目の前にして、私達の心によぎったのは……哀しみだった。 歩姉さんの仇かもしれないMMSなのに、何故そこまで世界を憎むのか…… そうまでに歪み腐れ傷ついた“心”の存在が、とても哀しく思えたのだ。 「……私は本当に、お前の身に起きた出来事を知らぬ。話してくれぬか」 「ふん!何処まで嘘ばかり言えば気が済むの!?良いわ、言ってあげる」 「お願い、なんだよ……それを知れば、ボクらにも何かできる筈だもん」 「無理ね。むしろアンタ達も、“人間”から今すぐ逃げたくなるわよ!」 ──────何が、あったのかな……道化の神に……? 第四節:憎悪 “道化の神”の名を冠するMMSは、シェードの深奥に隠された瞳で私達を 睨み付ける。表情こそ見えぬが、明らかに殺気の混じった視線を感じる。 そして、一拍置いてから彼女は語り始めたのだ……己の呪わしき宿業を。 「アタシは、“ラグナロク”の博士……“ドクトル”に作られたのよ」 「……そう言えば、戦略級とか零号機と言っていたな。試作型なのか」 「そうよ。アタシは後に産まれた十二人の“妹”達……その姉だった」 私は話を聞きながら、納得する。彼女の装備は、全て人間社会に対する “兵器”なのだと……そう、彼女は『人間を殺す為の兵器』なのだと。 しかし、必ずしもそれだけではなかったという痕跡も……見えてくる。 「人間の顔なんてないカメラアイの妹達もアタシも、皆大事にしたわ」 「大事にって……商品のサンプルだからって意味、じゃないのかな?」 「違うわ!それもあったかもしれないけど、色々遊んでくれたのよ!」 ロキは語る。自分達の閉じた世界で、なお創ってくれた人間……そう、 “ラグナロク”の面々は人間味溢れる態度で、彼女らを愛したのだと。 クララの抉る様な質問を、血を吐く勢いで否定したロキの態度が証拠。 「イタリアで、電車を“プラズマ・ボマー”で壊した後だってそうよ」 「ッ!?……い、イタリア……?その時に、創造主はなんと言った?」 「何も言わないわ!でも、撫でてくれたのよ……笑ってくれたのよ!」 神姫は須く『マスターの為にある事』を第一義として生きる。ならば、 神姫の試作品を元として産み出されただろうこの娘も、神姫達と同じく 『自分を使ってくれる人の為に働く』事を、その喜びとしていたのだ。 目の前のロキが歩姉さんを殺した……その事実と、神姫としての因子を 受け継いでいた哀れなる姫。二つの事象が、私の中で渦を巻いていく。 「最初は“ベルンハルト”も“マヨール”も、冷たかったけど……でも」 「でも、その内に笑って貴女を抱きしめたりしてくれた……んですか?」 「そうよッ!他の人間なんか知らない、アタシ達の大事な人だったわ!」 「例えどれだけの人間を殺しても、その人達が笑ってくれるなら……?」 「構わないわ!だから……だから、アタシは望まれるままに戦ったの!」 彼女の腰に下がる血塗れのマチェットが、その歴史を証明する物だろう。 神姫のサイズならば、爆破工作だけと言わずに様々な裏の仕事が出来る。 ……残酷な様だが、理論上は非常に効率的だった。唯一の誤算は、作った “ラグナロク”の連中自身に、制御し切れない感情が産まれた事だろう。 そしてその“想い”は、知らず知らずにロキを“道化”へと換えたのだ。 「でも……でも、そんな事をした為に“ラグナロク”は壊滅しましたの」 「そうよ!アタシは皆に笑ってほしかっただけなのに、他の人間がッ!」 ただ愛するが故に屍山血河の道を突き進んだロキは、しかしその行いが 遠因となって、愛する人達を永遠に喪ってしまったのだ。自分がいくら 悪を為していたと認識しても、“想い”はそう簡単には精算出来ぬ物。 「あいつらは、あいつらは……何も言わずに皆を撃ち殺したのよッ!」 「……そう言えば“妹”さんは、その時どうしていたんですの……?」 「八人が人間達に壊されて……四人が、何処かに連れて行かれたわッ」 ロキの声が震える。彼女の脳裏に浮かぶのは、楽しかった思い出か…… それとも“悪”として滅ぼされた、愛する人々と“妹”達の断末魔か? “神々の黄昏”という名に相応しい、苦い余韻を伴って組織は滅びた。 だが唯一この世に遺されただろう彼女の“心”は、果たしてどうなる? 「“ベルンハルト”は、自分を盾にしてアタシを逃がしてくれたのよ」 「……そして、この東京まで逃げてきたのかな?たった一人で……?」 「一人じゃないわ!運び屋が持ってきたの!でも、でもアイツら!!」 そして……そんなロキの傷心に毒を塗り込んだだろう“運び屋”。やはり その者は二流……神姫を扱う者としては、三流以下のゲスだった様だな。 ……そう。私はこの時、ロキが最早『神姫と同じ娘』に見えていたのだ。 私の心を揺さぶる様に……ロキが、己に降りかかった最期の災厄を語る。 『畜生、ベルンハルトの奴!こんな玩具を俺に寄越しやがって……ッ』 『な、何するのよ!?やめて、こんな暗い所に押し込めないでよ!!』 『煩ぇ!お前の運び先なんて教えられてねぇんだ!人形が喋るなッ!』 『嫌!なんて突然、皆怖い顔してるのよ!?“マヨール”だって……』 『黙りやがれ!お前がはしゃいだ所為で足が着いたんだろうがッ!!』 『ぁ──────ッ』 あくまでもその運び屋は“荷物”としてロキを認識したのだ。恐らくは、 それまでロキが触れる事の無かった、組織の末端だったのだろう。信じる “ラグナロク”の構成員に、邪魔な玩具として扱われるという仕打ち…… 彼女に産まれた“人への憎悪”を増幅したのは、間違いなく彼らだろう。 そして恨みを払拭する事もなく……彼らはロキのシステムを停止させる。 彼女はスリープ状態でも記憶・記録を整理し続け……憎悪を、純化した。 「……気が付いたら、箱の中。それを破壊して出てきたら、ここよ!」 「自分でも知らない内に、秋葉原まで持ち込まれて……なの、かな?」 「そう、アタシはここで“棄てられた”!人間なんて、そんな物よ!」 ──────人間の為に、生きて……人間に、殺されたんだね……。 第五節:疑念 彼女は……ロキは、泣き叫んでいた。無論だが、涙を流す機能は備わって いないだろう。仮に備わっていたとしても、このヘルメットでは見えぬ。 下手をしたら、シェードの下にあるのは単なるカメラかもしれない。だが 私は……私達“四姉妹”は、強く感じていたのだ。哀しき“神の涙”を。 「アタシは、だから……自分が壊れるまで、復讐する事にしたのよ!」 「復讐?……人に、ううん。人間の存在する文明全てに……ですの?」 「そうよッ!もう、人間なんて信じない!だから、全部壊すのよ!!」 モノトーンの躯を揺らし、彼女は強い怨嗟の声を上げた。己を裏切った この世全ての悪となり、何もかも打ち砕くと吼えたのだ。しかし……。 「どうして、ですか?もう一度、誰かを信じてみる気になりません?」 「なるわけないでしょ!そう言う人を皆殺しておいて、何を言うの!」 「しかしだ……お前が愛して信じていたのも、また同じ人間なのだぞ」 もし彼女の語った事が全て真実ならば、私は彼女を止めねばならない。 無論、それは彼女を壊して『正義の為に戦う』等という、偽善に満ちた お題目を吐く為ではなく……私のエゴとして、彼女に止まってほしい。 「違うわ!同じ人でも、あの人達と他は違う!違うのよッ!そう……」 「ッ!?マイスター、下がって!拳銃を抜いた……撃たれるんだよ!」 「アンタも違うッ!冷たくてゴミみたいで、居る価値もない人間ッ!」 しかし憎悪に振り回されていたロキは、初めて遭った私の言葉を聞かぬ。 腰に下げていた両手の拳銃を抜き、私達にその照準を合わせたのだ……! いや、違う!この銃口の向きは……ロッテとクララか!?私は、焦った。 「そうね、このガラクタを壊せばハッキリするでしょ!そうでしょ!?」 「だ、ダメです!この娘達を撃つなら、まずあたしから撃って……ッ!」 「嫌よ!まずこのガラクタから壊して、それから殺してあげるわ……!」 『だめッ──────!!!』 ロキの厳つい指が動き、拳銃の引き金を引いた。先程の爆発と同じ様な、 プラズマの波紋が空気中を伝わり、文字通り光の速さで弾が飛んでいく。 ……最早、思考さえも追い付かない刹那の瞬間。私は、無意識に動いた。 「……ぐ、ぅぅ……!?……くぅ、手が……痛い……なッ」 「え……嘘?マイスター、何を……してるん、ですか……」 「……そんな、マイスターの手が……血が、流れてますの」 「ボクらを、庇って……手で、弾丸を受けたの……かな?」 皆が気付いた時、私は二つの弾丸を手に受けていた。咄嗟に両手を伸ばし 茜の肩にいるロッテと、己の肩に座ったクララを庇ったのだ。幸い、指は 全て付いている。激痛で意識が消し飛びそうになるが、深い傷ではない。 だが伝う血は涙の様に零れて、地と私の手を濡らす。そして彼女は……! 「嘘よ……嘘、嘘よ嘘!嘘よッ!?何故、そんなのを庇うのよ!?」 「……彼女らが、私の大切な“妹”だからだ。護るのは、当然の事」 「嘘ッ!人間なんか、アタシ達なんてどうでもいいんでしょ!!?」 「……誰が何時、ロキ……お前をガラクタと言った。全くもう……」 他ならぬ彼女……撃ったロキ自身が狼狽えていた。私だって、何故こんな 無謀な事をしたのか、と問われると……これしか応え様がない。しかし、 これで分かった。彼女は、己を“要らないガラクタ”と思いこんでいる。 となれば、彼女の憎悪を解きほぐす糸口も……見えて来るという物だな。 「……わからないわ。わからないわよ!何故、人間なのに何故ッ!?」 「マイスター、血が出てます!これ、早く止めないと……拙いです!」 「気をしっかり保ってほしいんだよ、マイスター!……今は、退いて」 「マイスターを、やらせはしませんの……ここは、退いてください!」 ロッテもクララも、私の身を思い量って“魔剣”を手に盾となる。茜は、 HVIFを纏っているのも忘れ“アルマ”として、私を抱きかかえる…… 血の流れに意識が遠のきつつも、“妹”達の勇姿はしっかり見えていた。 「なんでなのよ!?人間なんて身勝手で怖くて、庇っても意味無いわ!」 「意味は、ありますの……この人は、わたし達の“愛する人”ですのッ」 「愛する人の為に戦ってきたのは、他ならぬ貴女がやった事なんだよ?」 「だから、あたし達は……マイスターの、晶さんの為に戦うんですッ!」 「……わからない。アタシ、人間が分からない!貴女達も分からない!」 明らかな怯えの色を見せつつも、ロキが背中の翼を広げる。悪魔のそれを 想起させる変形を見せたバインダーを使い、彼女は東京の空へと消えた。 追い掛ければ届くのかもしれないが、今の私に追い縋る事は叶わぬ様だ。 「行っちゃいました……それより、マイスター!?大丈夫ですかッ!?」 「これは……一応掛かり付けの外科医さんが近所にいますの!そこへ!」 「分かったんだよ!マイスター、気をしっかり保って。傷は浅いんだよ」 「すまないな、皆……痛ッ!何、かすり傷だ……大した事は、ない……」 ──────哀れな姫様を、きっと助けてあげるからね……? 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/563.html
武装神姫のリン 番外編その3「小さな幸せ」 リン…それは私の名前。 武装神姫第1弾、MMS TYPE-DEVIL「STRARF」のシリアルナンバー3600054468である私の名前。 マスターは私にこの名前を貰いました。 でも私、マスター、茉莉との問題を乗り越えてから2ヶ月ほど経ったある日、私はどうして「リン」という名前に決めたのか、ふとその理由が気になってしまいました。 そうして一週間が過ぎようとした頃、私は我慢できずにマスターにその理由を聞きました。 今回はそのときのお話しです。 それは用事で茉莉が実家に帰っていて、ティアもそれについていてしまい久々に2人きりになれた日のことでした。 「マスター…あの。」 マスターはいつものように顔を横に向けてくれました。 「どうした? なんか欲しいモノでも見つけたのか?」 「いえ…そうじゃなくて、聞きたいことがあるんですがいいですか?」 「ああ、いいよ。」 「じゃあ、なぜ私の名前はリンなんですか?」 「ああ、それか…」 マスターの顔がいつもと違って少し不安そうな、なんとなく力が抜けたような表情に変化しました。 「あの…マスター? お気に触ったんだったらすみません、でも…」 「じゃあ今からその名前に関連する、ある所に行くけど何も言うなよ。」 私はその言葉の意味を理解できず、ただただ 「はい。」 そう応えるしかありませんでした。 私の答えを聞いたマスターはすぐに進行方向を変え、駅へ。 そうしてJRと私鉄をいくつか乗り継いで郊外の町に着きました。 「ここにくるのは、久しぶりだな。」 やはりマスターの表情はいつものような元気がありません。 「あの…」 「何も言わない約束だろ。」 マスターの声がいつも以上に優しく感じられたので私は 「はい…」 口をつむぐまえにそう呟くことしかできませんでした。 そのままマスターは駅からの一本道をひたすらに進みます。 その日はまだ初夏だというのに日差しは強く、空が晴れていたことを覚えています。 焼き付けるような日差しの中を、マスターは途中で買ったミネラルウォーターを手に持ったまま歩いていきました。 そして着いたのは、お寺。の裏手にある墓地でした。 藤堂家の方々が代々眠る場所。そこにマスターは私を連れてきたのです。 私はその時点で大体の事情は把握できていましたが、マスターが口を開くまで待ちました。 マスターはミネラルウォーターを墓石にかけて、残った分はお供えを置くと思われる場所に置かれた湯のみに注ぎました。 そして私を手に乗せて、そこに眠るマスターの"家族"の名前が刻まれた石版の目の前に手をもって行きます。 それを見たとき、私は確信しました。 「リンていうのは。俺の妹になるはずだった子の名前なんだ。」 それと同時にマスターは私の問いへの"答え"を口にしていました。 それからマスターは全て話してくれました。 リンという名前はマスターと4つ違いの、今頃は茉莉とほぼ同じ年齢になっているはずだった妹に与えられるはずの名前だったのです。 それは今から17年前。マスターがまだ7歳のころ。 お母様(いまはそう呼ばせていただいています)は至って健康で、2回目ということもあり出産には何の問題も無いだろう、そう主治医の先生もおっしゃっていたそうです。 しかし予定日の2週間前、事件は起こったのです。 それはマスターとお父様(お父様はなかなか私がこう呼ぶことを許してくれませんでしたが今は大丈夫です。)が面会を終えて帰宅した直後でした。 突然お母様が出血したのです、原因は不明。 しかしそのタイミングは夜勤の引継ぎ時間帯であり、ナースセンターに人があまりいない状態。 しかも就寝の確認で夜勤の看護士の内の大半が各々担当の部屋を回っているとき。しかもお母様の部屋は巡回の最後の部屋。 お母様は必死にナースコールのボタンを探しましたが、不幸にもボタンがベッドの裏側まで落ちていて拾うことが出来ません、痛みをこらえることはできてもそこまで手を伸ばすことがお母様には出来ませんでした。 お母さんは必死に助けを求め、叫びました。 そうして巡回の看護士1人がそれを聞きつけるまでに20分の時を要しました。 お母様は緊急処置室にうつされ、処置が行われました。 マスターとお父様が知らせを聞きつけ病院にたどり着いたのがそれから30分後。 お母様は命に別状はありませんでしたが…おなかの子はすでに亡くなっていました。死産だったのです。 事前に女の子と判っていたので、お父様やマスターは意気揚々とその子の名前を考えていた矢先の出来事でした。 「今思うと茉莉が入院しているときに何度も何度も会いに行ったのは、そのときに亡くした"妹"を再び失うのはイヤだという気持ちが実はあったのかも知れない。」 そうマスターは最後に付け加えました。 「リンって言うのは俺が考えた名前だ。母さんが結構キリっとした目だったから妹なら似てほしいとおもった。それで辞書に載ってた『凛々しい』ていう言葉から凛ってな。 オヤジに話したら好評でそれにしようなんて車の中で話していたときに電話が掛かってきたからな。今でも覚えてるよ。」 「すみません!!」 わたしは謝っていました。 「あの、私。マスターが名前をくれたのが起動してすぐだったので何か理由があるのかな?と思っただけなんです。それがこんなにも深い事情があったなんて。本当にすみません。」 それを聞いたマスターはポカンとした顔で。 「はは、ちょっと懐かしくなっただけだよ。もちろんあの時は悲しくてしょうがなかったし、神様がいるんなら出てこい!! ってぐらい怒ったりもした。 でも過ぎたことは仕方ないし。過去は変えられない。 俺は今は幸せだぞ~リンがいて、茉莉がいて、ティアまでいる。そして皆元気でいてくれてる。それがおれの幸せだ。」 「マスター……私、どんなことがあっても絶対マスターの元を離れません。たとえ離れても、必ず帰ります。」 「ああ、約束だぞ。」 「はい、約束です。」 そして"凛さんに挨拶をして"帰りました。 その夏は茉莉とティアを連れて久しぶりの墓参りにやってきて墓石を綺麗に掃除しました。 そしてマスターは私たちのことを報告したのです。 実際に手に触れることも、顔を見てあげることさえ出来なかった。でも確かに存在した…凛さんに。 その頃からです、マスターと絶対に離れたくないと思ったのは。 理由はもちろんマスターを悲しませたくないというのもありますが、私だけじゃなくてみんなが元気でいること。 それこそががマスターの、茉莉の、ティアの、そして私の小さいながらもかけがえの無い幸せだと気がついたからです。 だから私はこれからもマスターの側を離れないでしょう。それこそ一生。私の"命"が続く限り。 TOPへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2611.html
与太話8 : ロストデイズゲーム 注1)ライトノベル『武装神姫 LOST DAYS』のネタバレがあるかもしれません。 注2)一ノ傘射美:第三章登場キャラ。見た目は姫乃のロリバージョン。 「マスター。正直なところ、ダメだと思うんです」 エル操るマルスにネスが吹っ飛ばされたところで、エルは唐突にぽつりと呟いた。机の上にペタンと座り込み、ゲームのコントローラを構えて必死になって画面を目で追うアルトレーネ。その姿に、バトルで見せてくれる凛々しさは皆無だった。 残機も残り僅かとなったこの『スマブラ99機耐久戦』は今のところ、エルが大差をつけてリードしている。COMは早い段階で姿を消した。俺の隣で必死にコントローラをガチャガチャやっている一ノ傘ロリ姫、もとい射美は残機が一桁になった段階で逃げに徹し、今は遠くからファイヤーボールをばら撒いてばかりいる。 俺はといえば、今日は調子が乗らないらしく自滅が多いのだが……まさかスマブラでエルにダメ出しをされるとは思わなかった。 「弱っちくてすみません……精進しますんで、はい……」 「パパをいじめちゃメーよエル! ママに言いつけるからね!」 「あ、いえ違うんです。スマブラのことじゃなくて、武装神姫のことでちょっと、よくないなぁ、と思いまして」 声はどこか上の空でぼんやりとしたエルだったが、画面上のマルスはステージ上を颯爽と駆けてマリオに接近し、慌てて放たれたマリオのスマッシュに上手くカウンターを合わせた。また残機を一つ減らした射美は俺の膝の上で暴れた。小学校高学年程度の体格とはいえ、耐久戦の間ずっと居座られているもんだから、もう脚の感覚なんてとっくに無くなっている。さらに射美が暴れる度に俺の腕を揺さぶって邪魔をされる。 姫乃、早く帰ってこないかなぁ……。 「一昨日マスターが買ってきた神姫のラノベ、ちょっと読んでみたんです。表紙のとおり、といいますか案の定アーンヴァル型がメインで、ライバルにストラーフがいて、アルトレーネの『ア』の字すらなくて……ここまではいいんです。ええ、いいですとも。アニメ化も含めて、どーせ主役を張れるのはあの二人だけですから」 「パパ、こういうのを『卑屈』って言うんでしょ?」 「そういうことを本人の前で言うな」 「私が物申したいのは、ストーリーのほうなんです。せっかく本になったのに、中身は刑事さんが神姫がらみの事件を追う無難な話ですよね。もうちょっと捻って欲しかったです」 「無難って……」 「ぶっちゃけSSWikiの中にありますよね、似たようなお話」 「パパ、こういうのを『メタフィクション』って言うんでしょ?」 「難しい言葉を知ってるなぁ射美は。良い子だ、偉いぞ、だから少し静かにしてような」 話しながらも、スマブラの試合は淡々と進んでいく。 射美の最後の一機が落とされ、ネスとマルスの一騎討ちになった。エルが三六機、俺はあと十三機残っているが、いい加減面倒になってきたので、コントローラを射美に渡してやった。嬉々として受け取る射美だが、マリオと違って扱いづらいネスでは数分と持たないだろう。 「研究所から脱走したり、小学生とかに拾われたり、悪い人に悪用されたりするのは、もうお腹いっぱいです。つまり何が言いたいかというとですね、いくら万人向けのメディアを作ろうとしても、武装神姫で今以上のものを作るのは難しいのではないかと思うわけですよ私は」 「パパ、『めでぃあ』って何?」 「メディアより先に卑屈とかメタを覚える女の子って、将来大丈夫なのか……」 「MMSの軍事利用が最たる例だと思うんです。確かに私達神姫自身ですら簡単に想像できますよ。小さくて、心を持つけど忠実で、おまけに大量生産できる神姫が戦争に向いてることくらい。でも、だからこそ、簡単にそんなお話を作ってほしくないんです。もっと私達の可能性を探ってほしいんです。といいますか――」 長時間小さなコントローラを握っているにもかかわらず、エルは疲れるどころか、むしろ熱弁するほどマルスの技はキレを増していった。射美操るネスのパーセントは3ケタに到達することもなく、次々と残機を減らされていく。 「神姫って基本、ロクなことに使われてませんよね。ロボット三原則とかガン無視じゃないですか」 「エルだって、俺の眉間に爪楊枝刺したじゃん」 「うわっ、エルひどーい」 「そ、それは手が滑ったといいますか、ノリといいますか……と、とにかく! ゲームのプチストーリーみたくイチャイチャしようにも、身長差のせいで見ていて虚しくなりますし、それなら、小さな神姫が世界を破滅から救ったりするほうが壮大で良い感じだと思うんです。プレデターとかやっつけたいです」 「世界を救う、ねぇ」 「ちなみに、勿論私はイチャイチャは大歓迎ですよ」 「射美の前で変なこと言うな!」 「大丈夫だよパパ、あたしは何も分かってないから。ママにもちゃんと内緒にするね」 「子供が変な気を回すな!」 マルスがネスの最後の一機を撃墜して、長かった対戦がエルの圧勝でようやくの決着を迎えた。膝の上の射美が次をやろうと言い出す前に、ゲーム機本体の電源を切った。なぜ99機耐久戦なんて始めたのかは忘れたが、もうスマブラは暫くやらなくていい。 「世界を守るのが無理でも、マスターを守るために戦いたいです。『マスターには指一本振れさせません!』とか、どんな神姫だって憧れる台詞なんです。でも身長が違いすぎますから、マスターを後ろに庇ったりできなくて、想像の中でしか実現できないんです。この全神姫の葛藤から解放してくれるような小説やアニメがあると、私は嬉しいなーと思うわけですよ」 「ははあ。その神姫愛好家以外に受けなさそうなストーリーは世に出ないから、神姫はダメだなんて言ったのか」 「です」 「パパとエルが一緒の大きさになればいいの? あたし知ってるよ。あれ、ほら、ライオン? だっけ。ゲームのやつ」 「ライドオンのことですか? あれは言葉の響きがエロいからダメです」 「だから射美の前で変なこと言うなや!」 「大丈夫だよパパ。パパだってママによくライドオンしてるじゃない」 「誰だ射美をこんな子に育てた奴は! ぶっ飛ばしてやるから出てこい!」 「もういっそのこと、アダルトなシナリオを作ったほうが知名度の向上に繋がるんじゃないでしょうか」 「18禁から離れろぉっ!」 世界とマスターを守ってみたい、というのならば、そうさせてみることにした。 「結局ゲームですか。コンティニューできる世界じゃあんまり緊迫感がないです」 「コンティニュー禁止の一発勝負だ。1回500円もするんだからな。いいか、これ1プレイしたら帰るぞ」 筐体でのバトルをするばかりが神姫センターではない。別フロアには、神姫達が遊ぶための設備がある。今俺とエルが使っているのもその中の一つだ。 普通のゲームセンターによくあるガンシューティングの神姫バージョン、といったところか。仮想空間上に神姫と、ライドシステムにより仮の素体を操るマスターが乗り込み、ステージを攻略していくのがこのゲームだ。二人のどちらかのLPが尽きたらゲームオーバー。ただしマスターが使う素体に攻撃能力はなく、神姫はマスターを守りながら先へと進まなければならない。まさに、エルが望んだ通りのシチュエーションだ。 二組でのプレイも可能だが、姫乃は残念ながら射美のおもりをしている。 「大丈夫ですよマスター、私一人で十分です。マスターは私の背中だけを見て進んでくれればいいです」 「でもなあ、この手のゲームって大体コンティニュー前提で作られてるはずだぜ。何ステージあるか知らないけど、最初のステージで即ゲームオーバーとかもあり得るからな」 「マスターは私の剣が信じられませんか?」 エルは剣を軽く横に振った。小さな腕で振るわれた一閃は、エルの成長が一目で見て取れるくらい、ブレがない。 ニヤリと笑みをこぼしたエルは俺の手から500円玉を奪い取って、投入口に入れた。 「あなたの戦乙女は、あなたが思っているよりちょっぴり強いですよ?」 意識が仮想空間に飛ばされ、仮の体を与えられた。 降り立った場所は、木造の建物が規則正しく立ち並ぶ街だった。ただし、どこもかしこも、火の手が上がっている。人の姿が見当たらない代わりに、いかにも「凶暴だぞー!」と言わんばかりのモンスターがうろついている。 一直線に伸びる道の遥か先に、大きな教会らしきものが見える。このステージでのやるべき事は非常にシンプルだ。 モンスターを倒しながら、教会を目指せ。 前に立つエルは背を向けて、教会を見据えている。身長が同じくらいになったからだろうか。ロングコートをはためかせ、ゆったりと二本の剣を構える後ろ姿は、そこにいるだけで俺に安心感を与えてくれる。 「フフッ、マスターが後ろにいてくれるだけで、なんだか力がみなぎってくるみたいです。じゃあ行きますよ、しっかり付いてきてください!」 順調だったのは、最初のオオカミ数匹を切り崩したまでだった。 あれよあれよという間に多数のモンスターに囲まれ、パニックに陥った俺達はがむしゃらに走り、気がつけば中ボスらしき巨人の前まで来ていた。既に精根尽き果てていた俺達は、二人仲良く巨人の棍棒に薙ぎ払われ、倒れるのだった。 仮想空間から戻ると、目の前のスクリーンにコンティニューのカウントダウンが表示されていた。カウントダウン解除には、500円玉が必要になる。 「ふう……じゃ、帰ろうか」 「もう一回! もう一回だけお願いします!」 「ダメだ。一回きりって約束したろ」 「さっきは惜しかったんです! 次は必ずや! 必ずやマスターをお守りしてみせます!」 「どこに惜しい要素があったんだよ……あの調子じゃ全クリまでに諭吉が飛ぶぜ」 「マスターの鬼ー! けちんぼー!」 「フハハハハハハ! なんとでも言うがいい、俺は500円のためならプライドをも捨てられる男!」 「器が小さ過ぎますっ!?」 懇願するエルを無視して帰ろうとした、その時だった。 「あれ? 背比やん。へぇ、背比もこんなゲームで遊ぶんやね」 ばったり竹さんと出くわした。肩から下げるトートバッグからはいつも通り、 「鉄子ちゃん、まさか弧域が来てることを知ってて……」 「下種の勘繰りはよしなさい、コタマ。久しぶりですね、エル殿。あなたもあのゲームを?」 コタマとマシロが顔をのぞかせている。 エルはゲームをやっていたかと問われても、「ええ、まぁ……」と歯切れの悪い返事をすることしかできなかった。ステージを1つもクリアできなかった、とは口が裂けても言えないんだろう。 「アタシも今からやるところなんだけどさ。で、エルは何分だった?」 「は? 何分?」 「クリアした後にクリアタイムが出るじゃん。覚えてない?」 「そ、そうですね、そういうのは、ちょっと……」 「コタマったら、マシロの記録を今日こそ抜くんやって息巻いとるんよ。ほら、あれ」 竹さんが指差した先、さっきまでコンティニューのカウントダウンが表示されていたスクリーンに、今度は歴代ランキングが表示されていた。 1.MASHIRO 00:09:44:20 Continue,00 2.KOTAMA 00:13:36:49 Continue,00 5位までコタマの名前が並んでいて、それ以降から他の名前が登場するが、どの記録も数十分、コンティニュー数回が記録されている。最下位のコンティニュー回数など、見るだけでゾッとしてしまった。 このゲームの本質はえげつないものだった。コタマやマシロは別として、これは、攻略専用に対策した装備を用意できて、好きなだけコンティニューできるだけの財力を持ったブルジョワマスターだけが楽しめるゲームだ。 「お遊びにそこまで熱くなることはないでしょう。妹君に付き合っていただくのもこれで最後にしなさい」 「お遊びで10分切っといて勝ち逃げ!? あームカつく! 今日こそギャフンと言わせてやる! ほら始めるよ鉄子ちゃん、アタシが言った通りに動いてよね!」 「へいへい」 「あ、そうだ。せっかく二人プレイできるんだし、エルと弧域もやらない? 足速いエルが先行して面倒くさい奴倒していけば、かなり時間短縮できるよね。弧域のことは心配しなくても、アタシが【指一本振れさせないからさ】」 「…………こ」 「こ?」 「コタマ姉さんなんて大っキライですうううううううううっ!」 フロアにいる人達の足の合間を縫って、エルはフロアから出ていってしまった。竹さん、コタマ、マシロは呆気にとられて固まっている。 「ねぇ弧域。アタシ、何か悪いことした?」 「察してくれ、色々と」 「なんか、ごめんね背比。私もエルのこと探しに行こうか?」 「いや、大丈夫。こっちこそ突然すまん。じゃ、俺達は帰るわ」 この後、エルはすぐに見つかった。 一階で店員として働く神姫達がエルを慰めてくれていて、俺の顔を見るなり「お客様といえど許さん! そこになおれ!」と説教モードに入った。 店内のど真ん中、普通にお客さんがいる中で理不尽な罵詈雑言を浴びせ続けられること十数分、俺は帰りの電車賃として取っておいた500円玉を出すことで、ようやく解放されるのだった。 じゃあ貴様、にゃーは面白いストーリーを作れるのか、と指摘されると、ゴメンナサイと言う他ありません。 LOST DAYS をディスりたいわけではなく、もうちょっとコアな神姫ファン向けのストーリーを作ってもいいと思うんです(ただし携帯以外の媒体で。Forget-me-notのコミック早う)。 また、帯の【メカ×少女×ハードボイルド】、可愛らしいあんばる、そしてボリューム増し増しのおっぱい、と明らかに新規さんウェルカムな感じを醸しだしていますが、それなら中身も、もうちょっとあざとくしたほうが良かったのでは? と思わなくもありません。 15cm程度の死闘トップへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/20.html
凪さん家の十兵衛さん 第二話<眼帯> 「あの、マスター」 「ん?どうした十兵衛?」 見ると少し顔が赤い…。 「なんといいますか…その、頭がぼーっとするんですが」 え、風邪か?最近の玩具はすごいな。やはりベッドとか必要なんだろうか。 「だ、大丈夫か?」 「はい、今のところは何とか」 むむ、しかしいつ病状が悪化するとも限らん。これはもうあいつしかいないな。 「よし、じゃああいつに見てもらおう」 「あ、はい…よろしくお願いします」 「ごめん!僕としたことがすまない!」 俺はいきなり謝られた。 「は?何だいきなり」 「うん、それがね…」 な、なんだ?一体俺の十兵衛に何があったというのだ。 せっかく治って自由になれたのにこれでお別れなんて無いよなぁ。 「…リミッターを設け忘れていたんだ」 へ?リミッター??なんだそれは? 「うん、十兵衛ちゃんに取り付けた左目が超高性能カメラアイなのは言ったよね」 「ああ、それがどうしたんだ?」 「このカメラアイはほんとに超高性能で、普通の神姫用カメラアイの十…いや、百倍も言いすぎじゃない。それくらいの性能なんだ。」 「そんなにすごいのか」 「普通のレーダーだけじゃなく、ヴァッフェみたいに外付けしなくてもソナーセンサー、サーマルセンサー、赤外線カメラ、衛星カメラ、スナイピングスコープなどなど、ほぼすべての種類のありとあらゆるカメラアイがひとつに集約されているんだ。でも…たぶんそのせいだろうね」 「???」 もうおにいさん何言ってるか分からないよ。 「簡単に言えば、見えすぎてAIに多大な負荷がかかっているんだ」 「見えすぎ?」 「リミッターを設けていないと、このカメラは常に内臓しているすべてのカメラをフルに稼動させてしまう」 はあ、さっぱり分からん。 「本来神姫用に作られた物じゃないから、十兵衛ちゃんに来るその情報量は半端無い。その処理のためにAIがフル活動。そのせいで各部に異常な発熱が起こってしまう。冷却も追いつかないほどにね。で、神姫用に調整する必要があるんだよ。それがリミッター」 「と、とにかくこのままじゃやばいんだろ?」 「うん、じゃあ早速…いいかな、十兵衛ちゃん」 「はい、よろしくお願いします」 「頼んだぜ」 「まかせて」 「お~い十兵衛~」 終わったのかな。 「起きて良いよ、十兵衛ちゃん」 終わったみたいだ。 目を開き、私の視野に光が差し込まれる。 「え、うわぁ…」 「ん?どうした!?おい!お前!大丈夫なんだろうな!」 「だ、大丈夫だよ!調整は完璧だよぉ!両目を完全に同期させたし、カメラを切り替えて任意に選択できるようにもしたし、通常状態のカメラ性能にリミッターも設けたし全身の各部に冷却ポイントを設けて最大稼働時のAIに対する負荷を最低限に抑えたし」 「じ、じゃあ一体…」 「あ、あの!」 「「どうした!!」」 マスターとそのご友人がすごい剣幕でこちらに顔を向ける。 「ふぇっ」 私驚きのあまり腰を抜かしてしまった。 「あ、わりぃ…びっくりしたか」 「ごめんよ。どうだい?目の調子は」 「は、はい!すごいです!」 私は感動していた。こんなに世界が綺麗に見えるなんて…。 実は今まで何を見ているのかよく分からないときがあった。人の形なんでけど全身赤かったり青かったり、さっきまで部屋の中にいたのに見えているのは家を上から見た図だったり。結構めちゃくちゃで何度も頭が混乱していた。 「ちゃんと見えます!マスターが!」 「お、おぉぉぉ!!」 「ほら、言っただろう?完璧だって」 「あぁ、ありがとうな!」 「うん、よかったよかった…と、そうだ」 「?」 「リミッターについて少し補足」 「あぁ」 「このリミッターは十兵衛ちゃんが望んだときに任意で解除できる。たとえば十倍までしか拡大出来なかった物がが百倍に拡大出来るようになったり…みたいな感じで能力を向上させることが出来るんだ。」 「う、うん」 「でもそれとともにAIの負荷も増大するから注意して。最大稼働で連続五分位かな」 「五分を越えると?」 「ん?まぁ本来は十分はいけるんだけど、あんまり無理させちゃうと駄目だし、一応五分って感じかな。ちなみに連続稼働時間が五分経つと強制冷却が始まるから」 「強制冷却?」 「そ、これは冷却ポイントの位置のせいもあるんだけど、装備していた全装備を強制排除してAIを冷却するんだ。これから君がどうするかは分からないけどバトルの際は注意して」 「わ、分かった」 「ま、十兵衛ちゃんなら結構いいとこまでいけると思うよ?」 「へ、へぇ」 「なんたって全部見えるんだからね。どこに隠れても無駄だろう、だって見えちゃうんだから。どんなに遠距離に相手がいても、十兵衛ちゃんには見えるから先手も取れるしね。少しづつリミッター解除を使っていけば強制冷却も無いし」 「それは強いな…」 「うん。それにね」 なんだかマスターにご友人が耳打ちしている。 一体何を話しているんだろう? 「な、なに!?」 「事実だよ。十兵衛ちゃんの戦闘スキルは最低でもA+だ。今言ったのは最も考えられる理由さ」 「お、お前…すごいな」 「え?私すごいんですか?」 「あぁ、すげぇよ…十兵衛…お前は最高だぁ!!」 「ど、どうしたんですかマスタぁ~」 マスターが私を抱き寄せすりすりしてくる。ちょっと、いや…かなり恥ずかしい。嬉しいですが。 そして頬ずりを止めると 「でも、俺は十兵衛を戦いに出す気は無い」 とまじめな顔をして言った。 「うん、言うと思ったよ」 とご友人。 「こいつは今まで十分すぎるほど戦ってきた。俺はこれ以上戦わせたくは無い」 え、私を心配してくださっているんですか? 「な、十兵衛」 「はい…」 「お前はどう思ってる?戦いたいか…戦いたくないか」 「あ、はい…確かに…もうあそこでの戦いはいやです。二度とあんな所には行きたくないです」 「そうか」 「で!でも!」 「ん?」 「本来の武装神姫の戦いはこの前のテレビで見たやつなんですよね?」 「あ、あぁ…」 「あれになら出てみたいんです」 「え」 「だって楽しそうだったから…その…。すいません、不謹慎ですよね…戦いが楽しそうだなんて」 「いや、そんなことはないさ。確かにあの戦いならはお前が体験してきたようなひどいのじゃないちゃんとした試合だし、確かに楽しそうだった」 「…はい」 「そだな…十兵衛がそういうなら考えようか」 「あ、有難うございます!」 「ふ、じゃあこれは僕からのプレゼントだよ」 「ん?何だこれは」 マスターと私はご友人が差し出したものを覗き見た。あ、これ…。 「ストラーフの初期装備セットだよ。君たちに進呈しよう。うまく使ってよ」 「お、おう、有難う…でもいいのか?」 「うん、余ってるやつだしね。とっておくのももったいないから」 「あ!有難うございます!!うれしいです!」 「ふふ、喜んでもらえて何よりさ。あ、あと…」 「「?」」 「紹介しよう。ミーシャ、おいで!」 「あ、そうか。お前ははじめて会うんだもんな」 「え?」 扉が開く。と一体の武装神姫が入ってきた…天使型だ。 「お久しぶりです」 「あぁ、元気だった?」 「はい、この通りです」 「ミーシャ、彼女が新しい君の友達だよ」 「はじめまして、私はミーシャです。よろしくね」 え、あ…。 「ほら、挨拶挨拶」 「あ、はい!は、はじめまして…じ、十兵衛です」 「十兵衛ちゃんね、よろしくっ」 「あ、は、はい!よろしくお願いします!」 「あ、ご主人様」 「ん?なんだい?」 「そろそろ仕事の支度を…」 「あ、これは失礼、遅れちゃうね」 「もうそんな時間か。悪いな」 時刻は朝六時半を回っていた。 「いやいや、良いってもんさ。そうだミーシャ」 「はい」 「彼と十兵衛ちゃんにバトルの登録方法を教えてやってくれないかな。頼んだよ」 「了解しました、ご主人様」 「よ、よろしくお願いします」 「よろしくな、ミーシャ」 「はい、何なりと」 「じ、じゃ行って来るよ!悪いけど鍵は任せるよ!」 「あ、あぁ行って来い」 「いってらっしゃいませご主人様」 「有難うございました!」 そうして長い一日がまた始まったのです。 第三話も読む
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/735.html
武装神姫 鳳凰カップ 実況生中継! 「みなさん、こんにちわ。この番組の実況を務めさせて頂きます、アナウンサーの花菱 燕(ツバメ)です」 二日目の午前十時、俺は昨日まで予選会場だった場所に入れ替わるようにして設置された特設巨大スタジアムの放送席にいる 観客の最大収容人数は一万五千人、中継用のテレビカメラ30台…… もうアホだ、このグループ ゲンナリしつつもやはり解説者の仕事はやらざるをえず、ノアだけを連れて決勝トーナメント開会セレモ二ーのため勢揃いしている予選を勝ち抜いてきた16組を放送席から眺めていた 葉月のヤツ…滅茶苦茶緊張してるよ… 逆にアルティはドッシリ構えてやがる さすが元八相、大舞台には強いってか ミコとユーナはどこかって? 全国放送の番組だ、流石にミコとユーナを連れての大騒ぎはまずいだろうという事で二人は香憐ねぇに預けておいた ちなみに俺の横にいるアナウンサーさんは…もうなんとなくわかるよな? 燕さんは昴の母親なんだわ 花菱財閥の令嬢なのだが、アナウンサーの道に憧れてからは夫である昴の親父さんに財閥を任せ、のびのびと天職ともいえるフリーアナウンサーの仕事をやっている そんでもって御袋と桜さんの二人と同じく幼馴染 三人揃えば元祖かしましシスターズ!! …姉妹ではないがそれほど仲が良いということだ 「それでは今日の解説者の方をご紹介します。まずは武装神姫公式リーグ、公式ランキング13位、ファーストランカーの橘 明人さんと『緑色のケルベロス』ことパートナーのノアールさん。そしてそのお隣が同じく武装神姫公式リーグ、公式ランキング16位、ファーストランカーの綾川 千紗都さんと『黒き狼』ことパートナーの冥夜さんのお二人です。みなさま、今日はよろしくお願いします」 「よろしくおねがいします」 「よろしくおねがいします」 観客席から拍手をもらう 綾川さんは俺のランカー仲間でもある 多分御袋はそこら辺も知ってて彼女を選んだんだろうな 彼女の神姫は黒いアーンヴァルの冥夜 ノアと同じく刃物使いで『黒き狼』の二つ名を持っている 「今回の鳳凰カップ〈春の陣〉はかなりのハイレベルとの噂ですが橘さん、そこのところいかがお考えですか?」 「はい。花菱さんの仰るとおり、今回の参加者は予選脱落者を含めて非常にハイレベルとなっています。『黒衣の戦乙女』や『白い翼の悪魔』、さらには『鋼帝』に『剣の舞姫』、『弾丸神姫』、『クイントス』、『蒼天の旋姫』など、多くの名の知れた神姫が集いましたからね…」 「鶴畑 興紀選手も参加していますし…これはなかなか見られない好カードのバトルとなりそうですよね。綾川さんは注目されている選手はいらっしゃいますか?」 「私は……しいてお名前を上げるとすればAグループ代表のアルティ・フォレスト選手&ミュリエル選手でしょうか」 俺は綾川さんの言葉にぎくりとする 「彼女達は米国リーグで名をはせた実力者と存じています。ミュリエル選手はファーストの神姫にも劣らないとかで…」 そのことは観奈ちゃんから教えてもらっていたのであえて触れなかったのだが… あいつが騒がれたり注目されることで面倒なことになりかねないしさぁ… ちらりと下にいるアルに目をやれば「…何故私のことに触れなかったんだ」といわんばかりにこっちを凝視していた えぇい、この際見なかったことにしようと目線を横に逸らすとニコニコしながら俺を見ている綾川さんと目が合った それにしても…おかしいな…確か彼女には俺とアルの関係を教えてはいなかったと思うんだが… 「綾川さんは去年おこなわれた第三回大会、二度目の〈春の陣〉の優勝者ということですが…」 ええ? そうだったの? 俺、初耳なんだけど… 「はい、この大会は私にとって思い出深い大会なのですが…優勝した後の大変さが身に沁みましたね」 「と、もうしますと?」 「去年の大会からこの子が『黒き狼』なんて言われ出して、挑戦者が後を絶たなかったんですよ。橘さんのノアールちゃんみたいに実力があれば対処できたかもしれませんが、私達はホントに大変でした;」 少し困ったような笑顔で微笑む綾川さん 「つまり、この大会の知名度がどれほど高いかというわけですね…。さぁ、今大会からも未来の超有名神姫が誕生するのでしょうか!? 間もなく開会セレモニーが始まろうとしております!!」 燕さんがそういい終わるとスタジアムの横から屋根が出現し始める えぇ!? このスタジアムって特設のくせに開閉ドーム式なのか!? やっぱアホだろこのグループ!! 屋根が閉まりきり、スタジアムの中は真っ暗闇に包まれた この後はジジイによる主催者挨拶である (なんとなく頭の中で『一寸先は闇』って諺が浮かんできたんだが…俺ってネガティブ?) (安心してくださいご主人様、私もですから…) ノアと小声で話していると、スタジアム中央に“カッ!”と一筋のスポットライトが輝く その光の真ん中にはジジイの姿が………って、オイ 『れでぃ~~すえんどじぇんとるめん!!ようこそ盛大なる戦姫の祭りへ』 なんか椅子に座って足組んでるよ… 赤いスーツ姿で右目には黒い眼帯だしよ… おもいっきりアレじゃねぇか… 『さて皆さん、今ここに集いしは過酷な試練を超えた十六組の小さな姫とそのパートナー達であります。まずは苦難の道を勝ち抜いた彼らに賞賛の言葉を送りたいと思います…』 あああああああああ…頼むから全国ネットでアホな姿はさらすんじゃねぇぞ!? アンタ代表なんだからな? 鳳条院のトップなんだからな? 『しかし、彼ら彼女らに待ち構えるは今までよりもさらに厳しい王者への道。己の名を広き世界へ轟かせる勝鬨を上げるものは誰なのか、しかと彼女らの放つ熱き輝きを目に焼き付けて欲しい。諸君に『五色の翼の杯』……聖杯の加護があらんことを……』 左手をまげて礼式風の御辞儀をする爺さん 流石のジジイもなんとかちゃんとした場だと言うことはわきまえ… 『それでは皆さんご一緒に!! 武装神姫バトル! れでぃ~~~~っ……』 『ゴーーーーーーー!!!!』 ガツン! と勢いを殺せないまま実況席のテーブルに額をぶつけてしまった俺とノア 燕さんも綾川さんと冥夜もひっくるめて会場全員で怒涛の開幕となった もしかして毎回コレをやってるのかあのジジイ…… やっぱアホだわこのグループ!! 「さて、続いては決勝リーグのルール説明へと参りましょう。決勝リーグもバトル方式は予選と同じくバーチャルバトルです。しかし、通常のものよりもバージョンアップしている超大型V.B.B.S.筺体を使用します」 この大型V.B.B.S.筺体はフィールド自体の大きさはリアルバトルで使用するフィールドほどの大きさだ ようするに、リアルバトルにできるだけ近いバーチャルバトルということだな 「会場の皆様や視聴者の方々には私達の放送席の向かい側の巨大スクリーンより緊迫感のある白熱したバトルをご覧頂けます」 ちなみにバトル中の両オーナーは位置的に巨大モニターが見れなくなっている 自分の神姫が何処にいるのか相手にばれないように、また、相手の神姫がどこに隠れているのかわからないようになっているんだ 「鳳凰杯は第一回戦の八試合を午前の部とし、そこでの勝者八名による再抽選をおこないます。その後、途中休憩を挟んでから残りの午後の部に移ります。以上で説明の方を終わらせていただきまして、第一試合の方に参りましょう…」 またしてもライトが消えて暗闇に包まれてからしばらくすると、東西の両端に一本ずつ光の柱が一回戦の対戦者達を照らし出す 「まずは西方、虎門よりAグループの覇者、アルティ・フォレスト選手とミュリエル選手! 彼女らに対しますはBグループを制しました鳳条院 葉月選手とレイア選手、龍門より入場です!!」 お互いに大型V.B.B.S.筺体をはさんで目線をぶつける さっきまでの緊張は何処へやら、真剣そのものの顔はいつのも葉月ではない証… 「この試合の見所はいかがな所でしょうか橘さん」 見所って言ったってなぁ こちとらいきなり身内同士の対決なわけで…… とりあえず 「決勝リーグのオープニングを飾る一戦ですからね。双方悔いのないような良いバトルを期待しています」 ありきたりだがこんなもんだろ… 「御主人様…明人さんが悔いのないように頑張れって言ってます…」 「………」 「御主人様?」 「大丈夫だよ、レイア」 「は、はい……」 「私にはレイアがいてくれる…私はレイアを信じてる」 「御主人様……」 「あの時みたいに…力がなくて、ただ兄さんとアルティさんを…二人の関係を見ているだけしかできなかった私じゃない。今の私にはあなたがいる…お願いレイア…私に力を貸して!」 「………はいっ!!」 「実力的に言えばレイアは今だお前ほどではない…ただ、エリーがどんな厄介な物を渡したのか…そこが気になるな」 「……気にするの良くない…所詮、ぶっつけ勝負…」 「そうかもしれんがエリーは武装の特性にあうモニターを選ぶだろ。お前だって何回か使っただけで《ライトオリジン》や《レフトアイアン》を使いこなしたじゃないか」 「…そう………………………だっけ?」 「…なんにしても警戒が必要ということだな」 「さぁ両オーナー、武装させたパートナーをエントリーゲートに見送ります…」 他の武装をサイドボードに置くと開始前の静けさが会場を支配する 固唾を呑むとはこの事だ フィールドは…天守閣がそびえ立つ城の中庭 散りゆく桜に満月の光が影をつくる中に二人の悪魔がお互いを見つめている 「負けるわけには…いきません…」 「……勝つ……」 『ファーストバトル…ミュリエルVSレイア、レディ………』 両者腰を落として始まった瞬間の動きを警戒する 『ゴォォォォォォーーーーーーーーーーー!!!』 「はあぁぁぁぁっ!!」 『先に動いたのはレイア選手! 開始の合図に一足早く反応した!』 いや、違う ミュリエルも反応できていたがあえて後手に回ったんだ スクリーンに映るミュリエルの表情に一片の焦りも伺えない 冷静そのもの、完全に誘っている ミュリエルはそれでも接近するレイアをバックステップで距離をとりながら手に持ったシュラム・リボルビンググレネードランチャーで迎撃 会場のあらゆる所に設置されたスピーカーから爆音が響き渡る 『クリーンヒットか!? レイア選手、開始十秒とたたずに終わってしまうのでしょうか!?』 爆心地周辺を覆いつくしていた黒煙が舞い散る桜をのせた風により少しずつ薄らいでいく レイアは満月の逆光を背に浴びながら立っていた それも…… 『レイア選手…む、無傷です! 目の前にかざした巨大な武装で身を護りました!』 目の前にかざした武装…それすなわち紛れもなくエリーからの陣中見舞い、全領域兵器《マステマ》であった 全長はLC3には満たないものの、高強度の防御装甲があるため重量で言えば間違いなく上である それゆえに攻防一体の構えが取れ、前方下と後方下についた悪趣味なほどにギラつく刃は大抵の物を重さとともにぶった切り、前の刃のすぐ上はアレンジのため高エネルギー砲となっている オマケに二機のN2ミサイル…とまでは流石にいかなくても…ASM-Ⅶ『ハルバード』レベルのミサイルを備えてある 『敵意』の名の通り…手加減容赦ない凶悪兵器を自分の前にかざしているレイア 普段はおとなしい、良い子の彼女が始めて悪魔に見えた瞬間である 『無傷…か。防御装甲の強度が半端じゃない…出し惜しみしていて持久戦にでもなれば流れはこちらに不利だぞ』 「了解、《ライトオリジン》……展開…」 右腕手首がパージされ、蓄蔵されていたエネルギーが砲身にプラズマ現象を引き起こす 『レイア、チャージ開始。迎撃方法はわかってるわよね?』 「わかっています御主人様、任せてください!」 『ファーストコンタクトを終えお互い、今だ無傷! 高エネルギー波の力比べとなるのでしょうか!』 それはマズイ 《ライトオリジン》はあらかじめ初発分のエネルギーチャージはすませているはずだ ミュリエルは慌てずに照準を合わせるほどの余流がある 「……Lock」 スコープのど真ん中に映りこんだレイア目掛け高エネルギー波は発射される 『今よ、レイア!!』 「てあ!」 レイアは《マステマ》を持ち上げる さきほどと同じくを表に来るようにするが… 『またしても防御の姿勢に入った!しかし綾川さん、それで防げるのでしょうか!?』 答えは否 受け止められたとしてもミュリエルは次の動きに入る 反動で遅れたところを《レフトアイアン》の速射砲でつめられたら成す術がなくなってしまう 万事休すの展開でも葉月とレイアの目はまだ生きている 『彼女の狙いが防御だけとは限りませんよ』 と綾川さんの一言 『同意見ですね…』 『そ、それはどういう…』 すぐに答えは周知のものとなる レイアは《マステマ》の防御装甲面を展開、下に隠れていたハルバート級ミサイルを後方刃の上部にあるもう一機とともに合計二本、全弾打ち出した 防御装甲面下に隠れていた分は《ライトオリジン》のエネルギー波を相殺し、残る一方はミュリエル目掛けて飛んでいく 『小ざかしいマネを…ミュリエル、《レフトアイアン》!!』 「…展開、迎撃開始…」 即座にパージされた左腕から銃口が現れ雨あられと弾幕を張る …なにか妙だ 普通、ミサイルの迎撃を重視するなら《アポカリプス》も使えばいい… 「彼女、何か狙っていますね…」 マイクを通さずに俺に話してきたのは綾川さんだった 彼女も俺と同じく勘付いているようだな ミサイルは《レフトアイアン》だけでも打ち落とせたが、爆発した距離が近かったせいもありミュリエルは黒煙の中に消えていった 『レイア、決めるわよ!』 「了解です!!」 『昴…借りるぞ』 「…《アポカリプス》…展開」 黒煙の中でミュリエルの呟きは誰にも聞こえることはなかった サバーカの脚力を十二分に使い、正面に《マステマ》の銃口が先にくるように構え、突進するレイア ドスン! という音が聞こえたかと思うと煙の中で両者の動きが沈黙する 完全に煙が晴れた後、そこにあった光景は ミュリエルの腹部を貫いている《マステマ》の刃 しかし致命傷とまではいかない ジャッジプログラムによる勝利判定もない、ミュリエルのギブアップもない つまりまだ勝負は続いているのだ 「《マステマ》の刃は貫き通すためにあらず、《マステマ》の刃は捕らえるために…あるです!」 レイアはそのまま銃口を天高く掲げる 銃口にはミュリエルが刺さったままで身動きをしない…… 彼女の様子を良く見なかったことがマズかった レイアから見たミュリエルは満月と重なり逆光となっていたのだ 「コレで……終わりです!!」 「カルヴァリア・デスペアーーー!!」 『だ、第七聖典!? きまったかぁー!?』 とりあえずそのツッコミは置いといて… そのまま銃口から放たれる高エネルギー波がミュリエルを包んだ…次の瞬間 パン! と音を立ててミュリエルが………『割れた』 普通ならここで大ダメージによるジャッジコールがあるか強制退場となるのだがミュリエルのそれはどちらとも明らかに違っていたのだ その証拠にまたしても勝者コールが聞こえてこない 『こ、コレはどういうことでしょう…ミュリエル選手が倒れたのに勝利判定がありません……』 プログラムエラーでないとすると結論は一つ ミュリエルはまだ……そこにいる 「なっ…確かに手応えはあったハズなのに……」 彼女の周りに散るのは拡散したミュリエルだった物と夜風に舞う桜吹雪 あとはそれを照らす荒城の月……ただそれだけでフィールドの中は風の音のみが不気味に聞こえる うろたえるレイア その動揺が彼女の警戒レベルを一瞬だけ落としてしまっていた 「………Lock 」 レイアの真後ろ… 『なっ!?』 「なんですって……」 《ライトオリジン》を再チャージし終えたミュリエルがその銃口をレイアの後頭部に突きつけていた 『…まだやるか、葉月?』 そこで葉月はやっと納得がいった顔をした 思い出したようだな 『なるほど、そうだった………ふぅ、ここまでみたいね…降参します』 『マスターギブアップ。勝者 ミュリエル!!』 『ぎ、ギブアップです!ミュリエル選手第一試合を勝利で飾りました!!』 呆然となる観客も少しづつ我にかえり拍手や喝采を送り始める 『みゅ、ミュリエル選手が再び現れました…で、では橘さん、先ほどのミュリエル選手はいったい…』 『アレはですね…』 『……バックパックに収納してあった衝撃吸収素材で作られた特殊ダミーバルーン…ですか』 『!!』 綾川さんが俺の言おうとしたことを当ててしまっていた 『彼女がミサイルの撃墜にバックパックを使わなかったこととも辻褄が合います。ミサイルの黒煙は隠れてフェイクのバルーンと入れ替わるためにあえて近くで爆発させたんですよ』 おかしい 『そして入れ替わり、相手の必殺技をやり過ごさせてその後の隙を突く…単純ですがバルーンを展開した後となれば見破るのは至難の業となります』 これは昴が八相の-メイガス-と呼ばれていた頃、あいつの異名の元となった戦術だ ただのフェイクではない 幻の数を多数出現させることができる香憐ねぇの『惑乱の蜃気楼』とは別の、 『完全に同一の物を複製したかのように…-増殖ーしたかのように見せるトラップスキル……ですね』 昔の昴を知っている俺や香憐ねぇでさえ見破るのは至難の業 戦ったことのない葉月にしても、知識としては理解していたはず だか結果としてやられているわけだ アレを見破れる人物なんて早々いないはず…なのに… 少し警戒して彼女を見ると、何事もなかったかのように「なんですか?」というような微笑で俺の顔を見つめ返してくる 『第一試合はアルティ・フォレスト選手とミュリエル選手が準々決勝進出を決めています。それでは一端、CMです」 彼女は…一体… 追記 「桜や、動きはどうなっとる?」 「今のところ、彼女からの新たな連絡はありません」 「そうか、挨拶では少し挑発してみたんじゃがのぅ」 「…調子に乗ってたら彼女に殺されますよ?」 「なんだかホントにシャレにならんの…謝っておいたほうがええか?」 「それが宜しいかと」 「しかし…このまま動かんとなると…ますます嬢ちゃんの言っとった線が濃くなってくるの…」 「…あと、フェレンツェ博士が何かに勘付いている様子でしたが…」 「彼は流石に鋭い。侮れんわい…だが、彼にも話すわけにはいくまいて。嬢ちゃんとの約束じゃからの」 「…兼房様、私で宜しかったのですか?」 「ふぉ。お主が鳳条の名参謀と呼ばれとるのはわしがそう言って回っておったからじゃ」 「は? はぁ…」 「ま、それだけお主を評価してると思っとくれ。ふぉっふぉっふぉ!」 「有り難う御座います、兼房様…」 続く メインページへ このページの訪問者 -
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/674.html
第五幕。上幕。 ・・・。 新京都国際会館大ホール。薄暗い照明、設置された数台の大型筐体。 交差する小さな影を見つめる瞳。 筐体のカップホルダー。そこに描かれたMBAというオフィシャルロゴの上。 無造作に置かれたレモンイエローのケータイには大小様々なストラップが賑やかに吊るされている。 そのプレイヤーシートに座る少女。染色された髪の前髪の一部にホワイトメッシュ。細い赤縁の洒落た眼鏡。インカムを付けている耳には右には2つ、左に1つ賑やかにピアスが踊る。 その筐体の中・・・アラートウィンドウと光が踊る戦場を見つめる横顔は、軽薄そうにも見えるが、その視線は真剣そのもの。その瞳には少しの不安と自信が宿るが、絆創膏が貼られた両手を祈るように組んで、彼女はそこをじっと見続けていた。 彼女の名は山県 光。アキと読む。 やがて。 砲台型神姫フォートブラッグが携えた、大きく形状を改造されたライフルの銃弾が悪魔型ストラーフの胸部急所に直撃した。 ドクロのマークのデッドマークが赤く表示され、悔しそうな顔を浮かべながらストラーフが膝をつく。勝利を収めたフォートブラッグはバイザーを上げ、特別感慨も無さそうに・・・それが当然と言うかのように敵であった者に一瞥をくれると。自身のバトルフィールドへの侵入ゲートへ足を向けた。 『バトルロンドエンド。勝者、フォートブラッグ『ルクス』。OFMBA・・・勝敗数・・・』 電子音声と、その戦いのギャラリーであった『ライバル達』の拍手が流れる中。 そのフォートブラッグ『ルクス』は、白と黒だけで彩られた世界を見回した。 いつも通りの視界。ノイズが少し混じっているままで。 「お疲れ様。ナイスやったで、ルクス!」 関西弁が強く混じった声。嬉しそうに、アキが自分のパートナーを迎える。 「・・・ありがとうございます」 そのマスターの祝福に顔さえ上げず、腕を組み。淡々と答えるルクス。 今の戦いに満足してはいないのか、目を軽く閉じ瞑想しているかのように口はそのまま噤まれた。その喜びを表現しようともしない姿に、困ったような笑みを浮かべながら、アキが慌てて付け加える。 「あ・・・うん。どっか、壊れたとか。調子の悪いトコとか無い?」 「マスター。異常ありません」 さらっと答え、ルクスは心配そうな彼女の声を無視する。 まだ何かを言おうとしたアキだが、先のストラーフのマスターが来て、挨拶と祝福への礼を言う事に追われ、それ以上の声をかける事は出来なかった。 自分は武装神姫である。 マスターと自分の誇りの為に戦い、勝利を収める為の存在。 特にフォートブラッグは本格的なショットバトルの為に設計された『砲台型』。主とは完全にバトルパートナーとして在るべきだと、彼女は『正しく認識』していた。 主が戦略を練り、自身が戦術で勝利を収める。それこそが正しい姿である。幸いにもアキは戦略という点では問題は無い。ならば自分にはそれに答える義務がある。 そこに間違いなど・・・。 それから一時間後。これで勝てばベスト4という試合が始まった。敵はアーンヴァルタイプ限定型のカスタムモデル・・・それも随分と神戸で名の知れた実力者。 しかし此処で負けているわけにはいかない。 その戦闘の途中。 彼女は一瞬、丘陵の段差に足を取られた。 ほんのワンミスでしかない。 しかし、この戦場には、『ここまで勝ち上がってきた者』しかフィールド内にはいないのだ。それを見逃すはずもないアーンヴァルのアルヴォが火を噴き、彼女のバイザーを跳ね上げた。幸い、直撃ではなかったが・・・。 「・・・っ!」 ヂヂッという音と共に、目の前に妙な火花が舞った。いや、目の中で舞った。 視界が急速な勢いで萎み、これまでの三分の一程度まで縮小する。ダメージアラートが表示されているはずだが、それを完全に見る事が出来ない。 (ダメージ数の把握が・・・!) 見えなくなりつつある事よりも、彼女は戦闘に支障をきたす事を悔やんだ。残った視界にも大きなノイズが走っている。最早、視界のほとんどが奪われつつる状況。それでもルクスは敵をスコープに入れようとする。 (負けるわけには!) が、目が見えない重砲撃タイプなど単なる的に過ぎない。 数秒後に放たれたレーザーライフルを回避する事が出来ず、ルクスは直撃をくらった。全身から力が抜けていく。高いブザー音と共に、彼女のボディに敗北を意味するドクロが舞った。 あちこちにガツ、ゴツとぶつかりながらも、何とかルクスはゲートに辿り着いて筐体から出る。火花はまだ目の中で散っていた。 「ルクス!?」 慌てたような声が聞こえる。そこにいるのだろう。 彼女はいつも通り、視線を主に向けずに首を振った。 「申し訳ございません、マスター。私のミスで敗北しました。弁明の言葉もありません」 「そんなんはえぇねん! それより・・・大丈夫なんか!?」 何が、いいのか・・・。 オフィシャル・プロを目指しているような方が。 「異常といえば、視力が奪われました」 恥だ。主の構想を裏切り、自身のミスで負けただけではなく。挙句故障とは。何という役立たずな・・・。 そこまで思った時には。アキはルクスを引っ掴み、メディックルームに走っていた。 「・・・ありがとう、ございました」 搬送された神姫センターから、暗い表情でアキがルクスを胸に抱いて出てくる。 「・・・」 結果は・・・『ノー』だった。 そもそもが、彼女の人工眼球が、武装神姫の物ではなかったという衝撃の事実付きで。 パーツの混入・・・数百分の一か、数千か、数万か。何が起きたかは解らないが、しかし確かに起こりえた。彼女の眼は旧型神姫タイプ『ミネルヴァ』の不良品であったのだ。 武装神姫のカメラアイ部は、従来の神姫よりもガードグラスが遥かに丈夫に出来ており、それ故に人工眼球とCSCセンサーとの結合も強固になっている。ルクスが・・・生まれながらに持っていた障害をアキに伝えていれば、その時点での良品への変更は可能であっただろうと。 彼女は当初から視界が色を認識していなかった。 だが、ルクスは別段それを主であるアキに言おうともしなかったし、不便とも感じなかったのだ。全てはバトルに、戦闘に・・・必要ないからと。 その『悪い眼』でずっと暮らし、戦ってきたルクスのCSCが既に『その規格の眼球』を自身の目とする認識を、終了してしまっていた。 新品の武装神姫の眼の規格では、彼女のCSCがデータを認識しない。 とはいえ『悪い眼』と同じ程度の格である『旧式の眼』はほとんどがハンドメイドの代物だ。色も違えば、一つ一つが微妙にセッティングが違い、合う物が見つかる可能性は限りなく低いと・・・そう、伝えられた。 「・・・なんで、言わんかったん?」 合う物が見つかれば、連絡をくれると気の毒そうにドクターは言ってくれたが。期待は出来ない。 アキの言葉に、抱かれたルクスは俯いたまま何も言わなかった。 「なんで・・・色が見えないって、言わなかったん? ルクス」 もう一度。それでもどこまでも優しく、アキは言う。それが妙に苛立たしく感じられ、ルクスは僅かながら乱暴に答えた。 「必要ないと判断しました。バトルに影響はなく。むしろ、色の彩度に目を取られないだけ便利であろうと」 酷くなっていくノイズは。既に視界のほとんどを奪っている。 「そっか・・・ごめんな・・・気付かへんで」 ポツポツと聞こえる声。何故謝るのか。全ての非は私にある。 「マスターは悪くありません。状態管理・報告の義務さえ怠った、私の責任です」 「ウチは、マスターやのに・・・」 聞こえていないのか、アキは尚も呟くように言うだけだ。 ルクスは溜息をつき、淡々と言った。 「・・・マスター」 「?」 「私のCSC破棄を提案致します」 ぴたっと、足が止まった。 「え・・・?」 アキの顔さえ見ずに、ルクスは続ける。 「マスターはオフィシャル・プロを目指し、それに近い場所にいらっしゃいます。状態管理を損ない、無様にも・・・恐らくは視力を失うような神姫では貴女への期待と、高いステータスに答える働きは出来ません」 それが当然だ。 「CSCを一度破棄し、新しい眼球に取替え、そして再度起動を行ってください。名はルクスでも構わないでしょう。同一ボディとヘッドパーツならば特例としてランキング継承が認められた例があります」 私は彼女の神姫・・・所有物であり、期待に答える義務があった。 それが出来ない愚かな存在が、これ以上、類稀なる才能を持つ方の側にいる訳にはいかない。 「何・・・言って」 アキの震える声。ルクスは首を振って溜息混じりにはっきりと言った。 (・・・何を感傷的になっておられますか) 「私と貴女はパートナー。片方が『裏切り』に近い行為を行った時、貴女には切り捨てる権利があり、私にはソレを受け入れる義務がある。今日とて勝てば、日本選手権への切符を手に入れることが出来たベスト4入りを逃したのは、私の責任です」 「『裏切り』・・・?」 「何よりも、マスターはフォートブラッグの戦い方・セッティングに慣れておられるでしょうし・・・」 そこまで言って、決定的に重要な事を言う。 「CSCと眼球のみでしたら、『コスト』も、抑えられますから」 「『裏切り』・・・? 『コスト』!?」 少し、語気が強められた。 「?」 「この・・・っ! ド阿呆おっ!!」 水がパタパタッとバイザーに降ってきた。きょとんとして、ルクスは見えなくなりつつある目を上に向けた。 白黒の、小さな視界に。泣いているアキがいた。 (・・・ぁ) そういえば・・・。 「ウチはルクスじゃないと意味がない! ルクスの代わりなんておらん!」 「代わりは・・・」 私は、武装神姫。大量に生産されているタイプ。代わりなんて。 「ルクスが、好きやから! 一緒に来たのに! 裏切りなんてありえへん!! ルクスはルクスやのに、何でそんな事言うん!?」 大粒の涙が眼鏡を濡らし、首を振った時に零れ落ちる。 (・・・好き?) 泣きながら叫ぶアキを呆然と見つめながら、言葉を反芻する。 そういえば・・・マスターの顔を正面から見たのは、はじめてだったっけ・・・。 紫電が舞った。耳に届くブチッという音と共に。 視界から光が、完全に失われた。 ・・・一週間後。 昨夜、『データ規格に一致するかもしれない』眼があると電話があり、そこに連絡を入れるや平日にも関わらず、アキはルクスを連れて早朝からリニアエクスプレスに飛び乗った。 新京都駅からの通勤の人たちに混じって揺られる事一時間と少し。中央ステーションからバスに乗り換えて。 そして。彼女達はそこに降り立った。 「きょう、こく・・・?」 この一週間。泣き腫らした目でアキは、その珍しい名前をした研究所の看板を読む。ルクスは無言で俯き、そのポシェットの中で座っている。 千葉峡国神姫研究所。それなりに大型の研究所らしい。 意を決して。彼女は呼び鈴を鳴らした。 この一週間。 ルクスは一人暮らしをしているアキの部屋、机の上。言葉さえ発せず、クレイドルの上にずっと座っていた。座らされていたし、そこから動こうともしなかった。 毎朝、声をかけながらアキは優しくルクスの身体を払う。 「ごめんな・・・ごめんな?」 そう謝りながら・・・学校には行っているか解らない。 時折、机に突っ伏しているのか、くぐもった涙交じりの声が近くから聞こえるだけで。 ただ。 ルクスは、何か一つのキーワードを探し続けていた。 この、胸を蹂躙する気持ちを、はっきりとさせるワードが。あるはずなのに。 「・・・。結論から言えば。移植は可能です。それで光が戻るかは確信はありませんが・・・確率的には半々と言った所でしょうか」 様々な機械でデータを取り、その後所長室に通されたアキとルクス。 その前に座った、堅苦しそうな雰囲気を漂わせる小幡 紗枝と名乗った初老の女性は、手元のデータファイルに目を通しながら事務的な口調で言った。 「半、々・・・」 アキはぽつっと呟いて。 「あの、それで・・・」 「無論。一人でも多くの神姫と、そのマスターをお救いするのが私達の使命でもあります。お譲り致しましょう。・・・治療費は、別途頂くかもしれませんが」 「ホンマですか?」 嬉しそうに言うアキに、しかし小幡は冷静・・・冷徹とも見える表情のまま一つ頷くと、机上に直立するルクスに視線を向けた。 「さて、ルクスさん。貴女に聞いておきたい事があります」 ルクスは顔を声のする方向へ向ける。 「視力を失う前兆は当初からあったとの事ですが・・・何故、貴女は。色彩を認識していない旨をマスターに伝えなかったのですか?」 ふっと顔を下を向けたまま、答える事が出来ない。彼女は質問を理解はしていたが、それどころではなかったのだ。 ずっと探している。その単語を。今も心中を漁って。 「ウチの・・・。ウチのせいです!」 何も言わない彼女に慌てたように、アキが叫んだ。 ゆっくりと、声がした方に顔を向ける。 (マスター?) 「・・・ウチが・・・ルクスに無理をさせすぎて」 一週間聞き続けた、涙声に変わっていく声。 「構ってあげれなくて・・・そんで・・・彼女の事を何も考えてあげれなくて。色が見えてないって事さえも、気付いてあげられへんかったのは・・・」 絞り出すような声。 (何の為に・・・) 「全部・・・」 どうして? 「なるほど。・・・今の話が本当として。さて、貴女には、彼女を恨む権利があります」 別の方向から、小幡の冷静極まりない声が聞こえた。 「・・・。・・・!」 ルクスは『恨む』という単語に驚いて顔を振り向ける。 「ルクスさん? 神姫の不調さえ気付かず、戦いを強い、視力を奪い去った彼女を。それでも赦すのですね?」 それは。 赦す・・・? 「当然ですよね。貴女は、彼女の神姫なのだから」 「そ、それは! ちゃいます! ウチは!」 驚いたような、アキの声。 「お黙りなさい、山県さん」 それを封じる、厳しく、冷たい声。 「・・・これは、貴女の問題でもありますが、同時に彼女の問題でもあるのですよ?」 情に流されぬ研究者の声。 「どうですか? ・・・ルクスさん」 「・・・」 アキの、漏れるような声だけ、聞こえている沈黙の中。 (・・・あ) ルクスは、ようやく『一つの単語』に辿り着いた。 「・・・『光を失う』事」 質問の回答になっていない言葉を、彼女は紡いだ。 「これは、私への罰。・・・マスターの顔さえ直視せず。その声から耳を塞ぎ・・・『それ』から逃げ続けた」 直立したまま、淡々と。感情がほとんど込もっていない声で続ける。 「私は・・・『それ』を受け止めようとしなかった」 ふっと、自分の声調が変わった。 「大好きなネイルアートをやめてしまわれた。・・・髪が、傷つくからと」 それは誰の為に。 「パーツを持った事も無いドライバーで分解し、綺麗に洗ってくれたのも。ハンドカスタムしようとして。絆創膏だらけになってしまった指先も」 一体誰の為だったか。 「初勝利のときに誰よりも喜んでくれたのも。時間が無いのにアルバイトをして、兵装をフルチェックに出してくれたのも」 全ては。誰の為だった? 「・・・。そんな事を、何も考えずに受け止め。それが当然だと甘えながら」 それら全ては。誰に向けられていた? 「マスターの声に耳を傾けず、その瞳を真っ直ぐ見る事さえ出来ない・・・こんな」 声が揺れていた。とめどない感情の奔流が口から流れ出す。 ルクスは膝から崩れ落ち、その場にへたり込んだ。 何も見えぬ闇の世界。冷たい机の堅さだけが、足から伝わってくる。 「本当に救いようの無い、愚かな神姫の為に」 マスターは。私に。 どれほどの『それ』を注いでくれていたのか。そんな事さえ考えもしない神姫の為に。 「私は・・・」 光を照り返さない瞳を天に向ける。それも空しき抗いに過ぎず、涙が目から零れ落ちた。 「私は、きっと。愛されていた」 『愛』。 そんな簡単な単語を導くために。一体、どれほどの時間が必要だったのか。 雫が落ちる音が聞こえる。それは、誰の涙なのか。ようやく彼女は、全てを認識した。 「この光を失う事は。その愛を踏み躙り、目を伏せ続けた。愚かな私への罰」 「・・・。受け入れると?」 冷たくこちらを刺す様な小幡の声。ルクスは小さく頷き。唇をわななかせた。 当然の罰。受けるべき刑・・・。 「・・・それでも」 メモリーを埋め尽くす、最後に見た映像。 彼女は・・・マスターは。 「それでも・・・私はっ!」 何も掴めぬ指で見えぬ目を閉じ顔を覆う。消えない。その映像は消えはしない。 はじめて・・・そう、はじめて真っ直ぐに見詰め合った、陽の如き愛を注いでくれたマスターは。 泣いていたのだ。 こんな、愚か者の為に。 「マスターの姿を・・・失いたくないっ!!」 泣いていたのだ! こんな、『愛』を『涙』にしか換える事が出来ない、ガラクタの為に! このまま光を失えば。自分は、ずっとずっと知らないまま。 泣いていない、哀しみに囚われていないマスターの顔を。 愛を与え続けてくれた、いつも自分へ向けてくれていたはずの、唯一無二のマスターの顔を! 「う・・・う、ひぐっ・・・。マスタ・・・マスタぁ!」 心が無茶苦茶に掻き乱されていく。氾濫する感情。 メモリーを埋め尽くすのはアキの泣き顔。姿を見る事さえ適わぬ主を、彼女は叫ぶように呼ぶ。 あの泣き顔が・・・与えてくれた愛に出した答え。あの涙が、愛の代価として私がマスターに与えた物だ! 身を引き裂くほどの後悔と懺悔。ルクスは両手を地に付いた。 「ごめん、なさい。ごめんなさい・・・っ!」 吐き出された『想い』。赦されるとは思っていない。赦されるはずなんてない。 自身がやってきた事。自身が口にした言葉。 その須らくが、愛への『裏切り』に他ならなかった。 何本の棘をマスターの心に叩き込んだ? 果たして、どれだけの愛を捨ててきたのか? どれほどの愛を踏み躙ったのか! 考えただけで心が押し潰されそうな罪。 身動きさえ取れないルクスを、誰かがそっと抱き上げた。 「・・・。マスター・・・?」 知っているコロンの香りに、彼女は、ぽつりと呼んだ。 「・・・」 しゃくり上げる声。何も言わず。アキはルクスをぎゅっと胸に抱いた。 暖かい。知っている匂いと温もり。 ・・・初めて起動した時に、抱き上げてくれた時と同じ。 あの頃から・・・この、こんな神姫に・・・この人は、『愛』を注いでくれていたのに。 彼女は咽び泣いた。ごめんなさいと、ただ繰り返しながら。 「小幡、さん」 泣き続ける彼女を抱きながら、自身も涙でボロボロの顔を、アキは小幡に向けた。 「・・・。解りました」 小幡は静かに頷き、微笑を浮かべた。 「彼女に・・・良い『名』を、お付けになりましたね。山県さん」 「・・・! はい」 ルクスを抱き締めたアキを、小幡は奥の部屋に誘った。 再起動音が自分の耳の奥で鳴っている。とすれば。これは、夢、だろうか。 ゆっくりと眼を開ける一瞬前。ルクスは不思議な光景を見た。 どこまでも続く、晴れた風吹く草原。そこに立つ彼女の前に、一人の美しい神姫が髪を風に揺らせ立っている。 翠の髪。そして、銀色の瞳。パールと草色のスーツカラー。 その神姫はルクスに優しく微笑みかけていた。 『・・・母様?』 ふと自然と出た、その言葉。 風が吹き、草原が消えていった。 高い電子音が一度鳴る。 その瞳の色は銀色に変わっていた。焦点が合い、部屋を視界に映し出す。 「ルクスっ!?」 覗きこむ、心配そうな顔。 ルクスは小さく頷いた。 ぱっと、アキが笑顔に変わる。 (あぁ・・・) 赤い縁の洒落た眼鏡。 染めた髪にメッシュが入って何と鮮やかな。 銀のピアスで賑やかな耳元。 どことなく日本人とは違う印象を与える、顔立ち。 「マスター」 私は、こんなに近くにあった愛を。長く、見ようともしなかったのか。 「見えるな? 見えるんやな!?」 「はい・・・」 これほどまでに。美しい愛の姿を。 「・・・はい、マスター。異常ありません」 そう言い終わったときには。強く、胸に抱きしめられていた。 空はどこまでも蒼く、遠く千切れたような白い雲。 グレーのアスファルト。走る色とりどりの電気自動車。街路樹は緑の葉を萌やし、金の木漏れ日を落としている。 歩く、黒い影。肩に小さな影。 目に映る、初めての世界の色。 「ゼリスさんかぁ・・・凄いヒトもいるねんなぁ」 「はい」 あの後ディスクを見て、この『瞳』が誰の物かを知った。 きっと。夢の中で思わず口走った言葉は・・・決して間違いではなかった。 「・・・重いね」 「はい」 「頑張らな、アカンね」 「はい。マスター」 こちらに向けられた視線を真っ直ぐに見返し、ルクスは頷いて見せた。アキも嬉しげに頷き返す。 ただそれだけ。こんなに簡単な事が。今まで出来なかったのか・・・。 胸の奥でCSCが揺れて、心が熱くなる。 「・・・ん? メール?」 開いたケータイに目をやったアキの表情が一変する。 「しもたっ・・・今日絶対受講の講義が七限にあるんやったっけ。間に合うかな!?」 「・・・。時間的に一時間後までにラピッド=エクスプレスに乗れば間に合います。急ぎましょう」 脳内で時間割を的確に展開、計算してルクスはアドバイスを送る。 「・・・マスター」 「ん?」 「私の名に・・・何か、意味があるのですか?」 恐縮するようにルクスは聞く。 小幡が言っていた言葉が気になっていた。『良い名』とは。如何なる意味なのか。 「あ・・・『ルクス』ってのはな」 ストラップだらけのケータイをポケットに捻じ込むと、アキは嬉しげに笑って見せた。 「ウチと、同じ」 「?」 「『光』っていう意味やねん」 風が、吹き抜けた。 「よし、バス停まで走るで!」 「・・・。はい、マスター」 しっかりと服に掴まる。放さないように。そして離れないように。 銀の瞳をビルの間に見える天に向け、涙を浮かべている事に、気付かれないように祈りながら。 ・・・。 この愛は私には大きすぎる。 この光は私には眩しすぎる。 それでも。 こんな愚かな、ド阿呆と・・・怒られるような神姫でも。 貴女の『愛』を、『笑顔』に換えられる様に。 ・・・愛していこう、ずっと。 光溢れる天よりの旋風。鳥、舞い降りるその一迅。 海には波を誘い。空には雲を呼び。その髪を遊んで吹き抜ける。 第五幕。下幕。 第五間幕