約 128,545 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/334.html
凪さん家の弁慶ちゃん 「義経、準備は良い?」 「…はい、TR-2全システムオールグリーン…いつでもどうぞ」 「おっけ!じゃあいくわよ!皆!」 「「「了解!」」」 凪さん家の弁慶ちゃん/0 「TR-2」 「アーサー、ハンゾー、義経、状況を報告!」 「アーサー異常なし!」 「…ハンゾー、問題ない」 「義経、異常ありません」 「よし、アーサー、ハンゾーはそのまま前進、義経はユニット展開後待機!」 「「「了解」」」 今回もうまくやってみせる。私はそう誓った。 今回は「T3」として私こと義経はこのリアルバトルのチーム戦に参加していた。 しかし今回の戦いでは指揮を担当するマスターは一人という制約が課せられている。 なので通常、早坂未来が私に指示をだすのだが今回は渡瀬美琴がチーム全体の指揮を取っていた。 この大会でアーサーはTR-1という強化ユニットを装備、これは陸戦型アーンヴァル、または量産型ストラーフといった感じの装備で、脚部はアーンヴァル純正装備にストラーフの脚部装備を移植、そしてストラーフのサブアームのマニュピレーターを汎用性の高いものに交換し長さを調節したものだ。 その手には奇跡の剣という名の剣が握られていた。 そしてハンゾーにもこのTR-1ユニットが搭載され、こちらはカロッテTMPを二丁装備している。 そして私はこの二人とは違う装備を身につけていた。 TR-2 これは高威力の超長距離射撃を行う事を目的に、現存する神姫純正武装でアッセンブルされたものだ。 脚部はストラーフの脚部装備をアーンヴァルのブースターなどで固め右腕にはアーンヴァルのLC3レーザーライフルが二門装着されている。 しかし使用するのは一門のみ、あとの一門はレーザーの増幅器として機能する。 背部には吠莱壱式が二門。これは攻撃用ではなく、あくまでも緊急移動用としての装備である。 いちいちブースターを吹かすより実弾兵器の反動の方が始動が早いのではないか…という目的で取り付けられたものだ。 本当にそうなのだろうか? そして各部アタッチメントコネクターにはヴァッフェバニー用の背部タンクやジェネレーターが装備され、そのすべてをレーザーライフルに直結させる事によって限界まで威力を上げている。 はっきりいって神姫用の装備としてはあまりにも特化しすぎており、これで神姫といえるのだろうかという疑問も生まれてくると言うものだ。 しかしこれが後に世に出る姉妹達への開発データになるのならば、甘んじて受けるとしよう。 「義経、TR-2装備完全展開完了」 「よっし!相手方に一発でっかいのをお見舞いしちゃいなさい!」 「了解!エネルギー充填開始…収束率増加、ロックオン完了…発射!」 ヒュオォォォォォォォォォォォォォォォォォォン… 砲身にエネルギーの渦が形成され ビャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!! 空気を切り裂く青白い光が照射された。 その太さは通常のレーザーライフルのものに比べるとはるかに図太く、禍々しい。 その光が敵チームを包み込み一瞬にして行動不能にした。が、何とか逃げ延びた神姫がいたようだ。 「どう?」 「右腕に衝撃による不具合が少々、でも予測範囲内です」 「わかった、次いける?」 「もちろん!」 「よし!じゃあ第二射!てぇー!!」 「了解!」 なんだ、楽勝ではないか。この装備初弾である程度敵チームを壊滅させれば第二射までアーサーとハンゾーが私を護衛してくれれば勝利は間違いない。 または右腕への損傷を最低限にするならばこのまま私は待機して、あとは二人に任せても良い。 「TR-2はほぼ成功ですね」 「ええ、中々良いわ」 「よし、第二射充填完了…いきます!」 ひゅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ… 再びエネルギーの渦が形成される。そして青い光が大地をえぐる… はずだった。 ビビー!!ビビー!!ビビー!! 「!?」 「義経!?」 ライフルの砲身部から異常。あまりのエネルギー量にライフルの許容限界を超えたらしい。 そのエネルギーの一部が逆流して、システムに過大な負荷を与えている。 「く、ライフルへのエネルギーを全カット!砲身切り離し、緊急離脱ブースター展開!」 ライフルからエネルギーの光が漏れる。その光が私を包もうと迫ってくる。 「!く…腕が…!」 「早く離脱しなさい!義経!?」 「そうしたいですが…無理みたいです。腕が挟まって…抜けない…」 崩壊を始めたライフルなどのパーツにより、私の右腕は付け根からがっちりと挟まっていた。 「あぁもう!!諦めるなぁ!!」 「くそ!くそぉ!」 こんなところでスクラップになってたまるか!! 「こうなったら…!!」 私は脚部に装備されていたナイフを手に取り 「うあぁぁぁぁ!!」 自らの右腕に突き刺した。 「っくぅぅぅぅ!」 なんという激痛か…しかし! 「まっけるかぁぁぁぁ!!」 バチィィィ!! 左腕で右腕を抉り、無理やり引き剥がした。 そしてブースターを噴射。瞬間ライフルユニットが爆発。その爆炎が迫り私を完全に包む。衝撃と高温で体が焼かれる。しかし間一髪スクラップは免れたようだ。 赤い光に包まれていた景色がドームの光りに照らされたいつもの景色に戻る。 ブースターはすべて焼ききれたようで噴射できない。 そのまま自由落下により大地に叩きつけられた。 ドッザァァァッァァァ!! 「ぐぅぅぅがはっ!!うが、あぁ…くぅ…」 状況は芳しくないな…右腕破損…頭部に損傷…両脚部損壊…か…まぁAIに以上は無いようだ…。でも戦闘は無理だな…。とりあえず活動限界か…。 『ピピーピピーピピー試合中止、試合中止』 ドーム内に響く音声、私の意識はそこで切れた。 「む…」 充電完了…各部異常なし…生きている…のか 「…つね!よしつ…!!義経!」 「く…未来…?」 私の目の前にはマスター、早坂未来の顔があった。 「起きたぁ!」 「義経!」 「…起きたか」 「…ふむ」 「おぉ!」 「う…う~ん…!?」 「気付いた?その体」 「頭部形状…それに右腕が…これは…」 「アドバンスドユニット」 その声の先には渡瀬美琴。 「?」 「衝撃対策として右腕間接を汎用強化間接ユニット「リボルバージョイント」に換装、そして頭部ユニットを換装して情報収集能力を上げたの。本当はバイザー式にするつもりだったのだけど、損傷がひどかったから丸ごと換装したんだけど…どうかしら?合わなかったら既存パーツに交換するけど」 アドバンスドユニット…体に施されたマーキングライン以外は既存の素体であった私の体が…強化された? 確かに視覚ディスプレイに追加された項目がある…これは今後装備されるTRシリーズのためか…?それに右腕…今回の戦闘での意見がフィールドバックされたのだろうか…。 「合わないかな?」 「いえ、そんな事はありません」 「そう、よかったぁ~」 「それに合わなかったら合わせます。それが私です」 「ふふ、そうね。まぁ今日は一日ゆっくりして慣らしていって」 「はい、分かりました。ありがとう、美琴」 「はいな、んじゃまた明日」 「ええ、また明日」 「有難うございました、先輩!」 未来が美琴達にぺこりとお辞儀した。 そういえばここは…あぁ部室か…。 明日からまたさまざまな装備を試す毎日が始まる。武装…決まった装備が無い私にとっては毎回毎回ワクワクする時だ。 そりゃ今回みたいな危険は常に付きまとう。 しかし誇りに思う。 私に装備された物がブラッシュアップされ、次の世代の神姫の武装になる…。 そんな特別な関係性に…。 渡瀬美琴は既存部品を組み合わせて新たな武装を作り出す優秀な装備開発者だ。 そして神姫開発の上層部に父親がいて、武装神姫の初回モニターでもある未来…。 私に装備されたものは情報として逐一開発部に送信される。 今回のTR-2がどうなるのかは分からないが…。 この時、砲撃用に特化した装備…という部分が後のフォートブラッグへと繋がることは私達はまだ知らない。 知る事になるのはTR-5が開発され、新たな仲間、弁慶が来てからの事である…。
https://w.atwiki.jp/busou_bm/pages/29.html
入手条件 性格 声優 機体解説 性能プラス補正アビリティ マイナス補正アビリティ ライドレシオMAX時の上昇能力 イベント EXカラー 専用レールアクション用GC装備所持者 入手条件 F3大会優勝後に届く挑戦メール「タケルからの挑戦状」を確認後、ゲームセンターに登場する 「タケル」に勝利するとアルトレーネと共にショップに追加される。試合内容は1on2のハンデ戦。 (上記挑戦者が出現し勝利していない場合はF2大会終了後、ゲームセンターから消える) 勝利していない場合、F2大会に優勝することでもショップに追加される。 性格 やや扱いづらい ボクっ子 自身の性能に自信を持つがゆえに、マスターには何かと不安を見せ色々と指南を繰り広げる 小生意気でちょっと世話焼きな神姫。 声優 水橋かおり 機体解説 名称:戦乙女型MMSアルトアイネス メーカー 素体:Dione Corporation 武装:Arms in Pocket 型番:DI/AIP-001X2 2038年に開催されたコンテスト「ぼくらの神姫」(一般から武装神姫のアイデアを募集、競うもの)受賞作を元に ディオーネコーポレーションとアームズ・イン・ポケット社が共同開発した「アルトレーネ」(DI/AIP-001X1)の姉妹機。 本機はスモールボディならではの敏捷さを利用したバトルスタイルが特徴で立体的な戦術を得意とする。 機体各所に配置された強化クリスタルアーマー内にはそれぞれ小型コンデンサを内蔵。副腕部、脚部などへ独立した パワー供給が可能となり大柄なアーマーにもかかわらず高い機動力を獲得している。また特徴的なスカートアーマーは 展開して格闘用武器、変形して高機動用ウイングへと転用できる多用途なユニットとなっており、優れた攻守のバランスを 実現している。加えて頭部にはアルトレーネとは別タイプのバイザーを装備、脆弱になりがちなフェイス部の防御力を高めている。 性能的には申し分ないが性格の面ではやや扱い難いところもあり、マスターを選ぶ神姫と言えるだろう。 性能 能力値 LP SP ATK DEF DEX SPD BST 適正 S C A B B B B プラス補正アビリティ 攻撃力+1,LP+1 マイナス補正アビリティ SP-1 ライドレシオMAX時の上昇能力 防御力,武器エネルギー回復速度,スピード イベント + ネタバレ 発生条件 イベント名 備考 初勝利後 ニヤニヤしてる? Love4:ゲーセン勝利後 フルオープン Love7:自宅 カノジョいないの? Love10:ゲーセン勝利後 気になるブログ Love11:ゲーセン勝利後 丁寧な返答 Love12:ゲーセン勝利後 初対面 Love15:ゲーセン勝利後 デートに誘え 「バトルに誘う」を選択した場合バトル有(ロッテンマイヤー 小山田愛佳)敗北でも進行するが、勝利すれば称号(禍福の証)入手 『デートに誘え』終了ゲーセン勝利後 ファーストデート Love18:ゲーセン勝利後 セカンドデート Love20:ゲーセン勝利後 最後のデート EXカラー A.蒼髪(デフォルト) + ネタバレ B.金髪 C.紫髪 専用レールアクション用GC装備所持者 植場怜太 陰陽熊
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1356.html
戻る 先頭ページへ 「けーくん!」 薄暗いそこに、初めてまともな光が射し込んだ。 半壊して片方が開かないドアをくぐりぬけ、孝也は切羽詰った様子でバトルマシンに駆け寄った。 「……何しに来たんだよ」 恵太郎の声を無視した孝也は、それを見て絶句した。 「間に合わなかった……!」 孝也がそう呟いたのとほぼ同時。ずるり、とアンクルブレードがアリスの手から抜け堕ちた。 武装神姫の心臓たるCSCを白刃によって貫かれたナルは、眠っているように目を閉じている。 それでいて、その表情は何とも幸せそうだった。 「けーくん、何でこんな事をっ!」 孝也は普段の様子からは考えられない剣幕で恵太郎を捲し立てた。 しかし、それが応えた様子も無い。 「お前には、関係無いだろ」 そう冷たく言い放った恵太郎に、孝也が思わず掴みかかった。 「関係無くないだろ!……君島さんも、何でこんな事を! こんな事したって何も……」 「孝也」 初めて、恵太郎が感情を表した。 「お前が口を出す筋合いは無いんだよ」 寒気がするような、虚ろな威嚇。 それは恐怖では無く、哀しさを植え付けるような威嚇だった。 「……何も、知らない人が、口を出さないで、下さい」 君島の言葉もまた、虚ろな感情が籠っていた。 「……アリス」 「……うん」 会話とも言えない一瞬の会話。 アリスはカーネリアンの亡骸を一瞥すると、君島の肩に飛び乗った。 「君島さん……!」 孝也の声を無視し、君島は壊れたバトルセンターを後にした。 残されたのは恵太郎と孝也と、ナル。 「……孝也、先帰れ」 恵太郎は孝也の腕を振りほどくと、ナルから目を逸らすように背を向けた。 「分ったよ」 そう言った後、孝也はナルの頭を軽く撫でた。 その後は、恵太郎に何も言う事無く真直ぐに出て行った。 ただ一人、ナルを前に恵太郎は立ち尽くした。 「……ただいま」 おかえりなさい、マスター。 普段は聞こえる筈の声が、もう聞こえない。 マスター、今日は少し暑かったですね。 普段は見える筈の姿が、もう見えない。 マスター、またコンビニ弁当ですか。 俺の食生活を案じる声が。 マスター、洗濯物はこまめに洗わないと後が大変ですよ。 俺の生活態度を戒める姿が。 マスター、明日は自分で起きてくださいね。 俺の早起きを促す声が。 マスター、もう朝ですよ。 俺の目覚めを促す姿が。 マスター、今日もがんばりましょう。 もう、無い。 マスター、今日の講義はフルですよ。 大学に行っても。 マスター、たまには野菜も食べましょう。 食堂に行っても。 マスター、講義は真面目に聞かないと。 講義に出ても。 マスター、立ち読みは駄目ですよ。 本屋に入っても。 マスター、次の駅で降りますよ。 電車に乗っても。 マスター、今日は何処に行くんですか。 もう何処にも、いない。 「……何の用?」 大学校舎の屋上は今が昼の休みだというのに人影は無く。 いるのは恵太郎と君島と、そしてアリスだけだった。 「……聞き、ました。大学を、辞める、そうで」 あれから―――ナルが死んでからもう一週間も経っていた。 「ああ、うん。そうだよ」 手すりに靠れかかりながら恵太郎は座っている。 「何で、ですか」 恵太郎から少し離れた所に、君島も座った。 「……神姫を持ってない人間は、ここには必要無いだろ」 空を、見上げた。 どこまでも青い空。そこに浮かぶ白い……まっ白い雲 「新しい、神姫を、買わない、んですか」 君島のとなり、恵太郎のとなり、二人の真ん中にアリスは立っていた。 「新しい神姫、か」 ふと、恵太郎がアリスを見た。 ナルと同じ、悪魔型。 「……」 恵太郎の指が、アリスへと伸びた。 君島は、それを横目で眺めている。 指が、アリスの頬に触れかけた瞬間。 アリスは一歩後ずさった。 「……一応の予定は、ね」 恵太郎は、暫く自身の指を眺めた後、手を頭の後ろで組んだ。 「……辞めたあと、どうする、んですか」 君島は、アリスから恵太郎へと視線を移した。 「どこか、遠くに行きたい」 恵太郎は、目を細めた。 「遠く、ですか」 君島は、ただ恵太郎を見ていた。 「……部屋が、広いんだ」 唐突に、恵太郎は言った。 「……ええ」 しかし、君島は特に反応しない。 「ナルが、いない。たったそれだけなのに、部屋が広く感じるんだ」 恵太郎は、空を仰いだ。 涙が溢れない様に、空を見ながら続けた。 「それだけなのに、世界が冷たいんだ……君島、お前もそうだったのか?」 空を見ながら、恵太郎は問いかけた。 「……ネリネが、いない、世界は、地獄」 一瞬の間を置いて、君島は答えた。 「その地獄は、まだ、続いて、ます」 アリスを優しく撫でながら、君島は続けた。 「カーネリアンを、殺せば、それが終わる、と、思ってました」 恵太郎は、空を仰ぎながら耳を傾けている。 「やっぱり、地獄は、終わら、ない。あなたも、それを、味わえば、良い」 深い憎悪の籠った声。 そして、底なしの虚しさが混じった声。 「……可笑しな、話です」 ふいに、君島が空を見上げた。 「ネリネを……神姫を、ただの、道具、扱いしていた、人が、それを、失った、ことで、泣く、なんて」 薄く、君島は哂った。 「……質問は、次で、最後、です」 前置きを置いて、君島は続けた。 「あなたが、殺した、のは、ネリネ、だけ、じゃない。他にも、神姫を、殺して、いる……どうする、つもり?」 一瞬、恵太郎の表情に影が刺した。 「それも、もちろん分ってる。というか、そのつもりで慣れないテレビにも出たりしたんだけどね。君島以外、誰も来なかった」 「……次に、復讐しに、来た、人にも、同じ事を、するんです、か?」 「その、予定」 日が、翳った。 「……あなたが、それを、罪滅ぼしだと、思ってる、なら、大きな、間違い」 君島の表情から、感情が消えた。 「復讐に、来る人、は、神姫を、本当に、愛する、人。そんな、人が、神姫を、殺す事で、満足は、しない」 その言葉に、恵太郎は固まった。 「それは、あなたの、自己満足」 恵太郎は、力無く呟いた。 「他に……」 だが、君島は構わず続ける。 「何も。あなたは、なにも出来ない。しては、いけない。ただ、苦しみながら、生きていく、だけ。懺悔も、贖罪も、あなたには、許されない」 そして、最後に言った。 「あなたは、私に、神姫を、殺させた。あなたは、一体、どれだけ、馬鹿なの」 恵太郎は、暫く俯いたままだった。 「他に……考え付かなかった」 虚ろな声で、言葉を吐き出す。 「俺は、どうすれば良かったんだ……」 しかし、その言葉に君島は答えなかった。 その沈黙が、答えだった。 「……あの時点でマスターが神姫から足を洗えば良かったんじゃないですかね」 「それだと、君島達に対してどうすれば……」 「さっきも、言った、筈です。あなたは、何も、出来ない、と」 「では、額を地面に擦り付ける程の土下座は?」 「その程度で済む問題じゃ……」 「謝る、方は、それで、気が済む、でしょうが、私は、そんな、事では、許しません、よ」 「では、残った人生で全ての神姫とそのオーナーを幸せにするというのは」 「……無茶苦茶な」 「それくらい、の、覚悟、ということ、です」 「やはり、こういう事はマスター自身が見つけなければダメですね」 「……見つけられるかな。もう、ナルだっていな、い……?」 「……!?」 その瞬間、ようやく恵太郎と君島とアリスは固まった。 そこに居る筈の無い存在。 そこに居てはいけない存在。 そこに居るのは。 「……ナ、ル?」 「なんですか、マスター。まるで幽霊を見たような顔をして」 アリスの横にちょこんと座った白髪赤目のストラーフ。 彼女に視線を釘付けにしながら、そこにいる誰もが驚愕の表情を顔に張り付けていた。 「……な、なんで。確かに、アリスが、殺した、筈、です」 「……CSCを、刺した、のに?」 硬直しながら、君島とアリスは顔を見合わせた。 そして、次に恵太郎の方へと視線を移した。 「待て、待ってくれって。俺も何がなんだかわかんねぇって!」 思わず素が出た恵太郎の言葉に、嘘は無い。 そんな三者三様の対応を受けながら、ナルは平然と口を開いた。 「まぁ、私もあの時は死ぬかと思いました」 「確かに、殺した」 ナルの能天気とも取れる言葉に、アリスがすかさず反応した。 「ええ、そうです。確かに、貴女は私のCSCを貫きました……タネ明かしは張本人に説明して頂きましょう」 まるで、示し合わせたように屋上に表れたのは高野孝也その人であった。 「……こ、こんにちは~」 空気が、凍った。 「孝也……お前、何をした」 その直後、ゆらりと立ち上がった恵太郎は静かに言い放った。 そして、ゆっくりと孝也に向って近寄った。 「せ、説明するから落ち着いてよ、ね?」 その言葉に素直に従ったのかは不明だが、恵太郎は手すりに身体を預けた。話を聞く体勢だ。 それを確認した孝也は、とりあえず胸を撫で下ろすと、咳を一つ。 「結論から言うと、クリスの力なんだ。君島さんは知らないだろうから簡単に説明するね。僕の神姫、トリスには専用装備としてナ・アシブっていう外部装甲がある。それに搭載されているシステム・ニトクリスはナノマシンによって神姫をハッキングして、感覚をかく乱するシステムがある」 そこまで聞いて、恵太郎は事の顛末を半分ほど理解した。 「……アリスをハックして、ナルを殺したように錯覚させた?」 「そんな、事が、可能、なのです、か?」 君島はアリスを見ながら呟いた。 当のアリスも信じられない、と言った様子で目を白黒させている。 「ジュピシーやジルダリアの武装を原理は似た様なものだよ。やっぱりトリスとクリスの力だけじゃそこまで完璧なハッキングは出来ないからね。ロンとトロンベにも手伝って貰ったよ」 神姫三体の演算装置を用いて行われた神姫に対するシステムハッキング。 それが、ナルが生きているタネ明かしだと言った。 「……待て、俺も君島もナルが刺される所を見ていたぞ。システム・ニトクリスは人間もハッキング出来るってのか?」 「システム・ニトクリスで出来るのはハッキングだけじゃないよ。ナノマシンを使った光学迷彩だって出来る」 つまりは、システム・ニトクリスによってアリスをハックしつつ、バトルマシン周囲を光学迷彩で覆い、さもナルが刺されたかのように見せかけた。 そういう、事だ。 「……じゃあ、これは何なんだ」 恵太郎は懐から掌大のケースを取りだした。 そこには胸が破損したストラーフが入っていた。 「ダミーだよ。先輩達に作って貰ったんだ。現場でね」 そこまで聞いた恵太郎は、脱力して地面にへたり込んだ。 「アリス。ハッキング、されて、いたの、に、気付き、ました?」 「全然」 アリスは、自らの掌を見つめた。 カーネリアンのCSCを貫いた感触がこびり付く、その掌を。 「何でだよ」 強く、強がろうとする声が恵太郎から洩れた。 「何で、こんな事したんだよ……」 「……けーくん。けーくんがアリカちゃんを止めたのと、同じ理由だよ」 その言葉は、暗に恵太郎を否定していた。 「けーくんの考えてる事は贖罪じゃない。君島さんの言う通り、ただの自己満足だよ」 「お前に……何が分るんだよ」 「分るよ。あら方、神姫を好きになって、神姫を好きな人の気持ちを理解して、それで神姫を殺される人の気もちを理解しようとしたんでしょ? 伊達に生まれた時から一緒にいないよ」 「……じゃあ、何で俺を止める」 「何度でも言う。けーくんは間違ってる。けーくんがやった事は、神姫が好きな人に神姫を殺させる、そう言う事だ」 「それ、は、私が、言い、ました」 「……とにかく、けーくんがした事は間違ってる。それだけは言える」 そこまで聞いた恵太郎は、空を眩しそうに見つめた。 「他に……考え付かなかった」 「けーくん。けーくんはどうかは分らないけど、僕はけーくんの事友達だと思ってる。僕だけじゃない。裕子先輩も、裕也先輩も、茜ちゃんも……それに、アリカちゃんも」 そこで、一旦孝也は言葉を区切った。 「だから、もっと僕たちを頼ってよ。一人で考え付かないなら、皆で考えようよ」 孝也は笑って言った。 でも、その笑顔は恵太郎には眩しすぎた。 「……アリス」 君島の一声で、アリスは彼女の肩に飛び乗った。 「聞きたい、事も、聞け、ました、から、私は、失礼、します」 その後ろ姿を見つめがら、恵太郎は暫く逡巡していたが、結局、何も言えなかった。 「孝也、さん?」 校舎へ続く扉の前で、ふと君島は立ち止った。 「私も、アリスも、神姫を殺さずに、済みまし、た。ありがとうございます」 「……うん」 「倉内……さん。私は、もう、疲れました。だから、もう、私の目の前の、現れないで」 それだけ言うと、君島は答えを聞かずに立ち去った。 恵太郎と孝也と、ナルの間に沈黙が漂った。 「……孝也、話はもう終わりか」 「まだだよ」 そう言うと、孝也は校舎へ続く扉の中に首だけを突っ込み、何かを招く動作をした。 それから間もなく、屋上にアリカが表れた。 「じゃあ、僕は下で待ってるよ」 「マスター、私も」 孝也とナルはアリカと二三言葉を交わすと屋上から立ち去った。 「……師匠、隣いいですか?」 少し戸惑いがちな、それでいて強い意志の込められた言葉に、恵太郎はただ頷く事しか出来なかった。 恵太郎の隣に腰を下したアリカは、間髪入れずに口を開いた。 「師匠、私は……」 「アリカ」 しかし、それは恵太郎の一言で止められた。 気まずそうにするアリカを余所に、恵太郎は言う。 「お前、聞いてんだろ。俺の事」 「……はい」 その問いに、アリカは素直に答えた。 「……俺には、師匠なんて呼ばれる資格、無いよ」 空を見つめ、雲を見つめ、何処かを見つめる恵太郎の言葉が、虚しく響いた。 「俺には、人に好かれる資格なんて、無いよ」 その言葉は、アリカだけに言ったのでは無く、恵太郎の知人全員に当てた言葉だった。 「だから、さ」 次の言葉は、アリカにとって最も聞きたくない言葉で、恵太郎にとって最も言いたくない言葉だった。 「俺を……」 「師匠!」 今度は、アリカが止める番だった。 「人が人を好きになるのに、資格なんているんですか!? 私が師匠を師匠と呼ぶ事に、何の資格がいるんですか!? 師匠は、私とトロンベを救ってくれたじゃないですか!? それで、私には十分です!」 半分、悲鳴にも似たその叫びは、人のいない屋上に響き渡った。 「だから……師匠を好きな事は、許してください……」 消え入りそうなか細い声、それでいて耳に残る不思議な声。 しかし、恵太郎は空を眺めたまま、口を開いた。 「……アリカ、一人にしてくれないか」 「嫌です」 「こんな顔してんの、見られたくないんだよ……!」 「じゃあ、下向いてます」 それから数分、恵太郎は静かに泣いた。 「……アリカ」 「はい」 「お前の気持ちは、嬉しい。今まで、誰かにそういう風に言われた事無かったから」 「はい」 「でも、今はまだ、答えられない」 「……はい」 「だけど、絶対に答える。だから、少しだけ待っててくれるか?」 「はい……師匠」 それが、アリカの聞いた恵太郎の最後の言葉だった。 「ナル、久しぶり……かな」 「そうなりますね、マスター」 「俺、お前を二度も殺しちゃったんだな」 「三度目は無いですよ」 「ナル、俺はどうすればいいんだろうな」 「それをこれから探しに行くんでしょう、マスター」 「……ナル、一緒に来てくれるか?」 「イェス、マスター。何処までも、何時までも」 そして、恵太郎は姿を消した。 戦う神姫は好きですか 終
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/598.html
「武装神姫のリン」 第17話 「花憐」 「ぶっふぇぇ!!!」 今日はリンの2回目の"誕生日"、それでリンにプレゼントに何がいいか聞いてみた。 その返答に対する俺の反応が上のモノだ。 思わず下品にも口に含んだものを吹き出してしまった… そのリンの返答っていうのが、 「子供が欲しいです」 うん、俺の反応は間違ってないはずだ。 茉莉も口をポカンと開けるばかりでティアもさすがに閉口している。 「…リン。判ってるよな? 子供って…」 「あの、私そんなに変なこと言いましたか? マスターが子供に相当するパーソナリティを持つモデルを買ってくれるって言ったじゃないですか。」 しばしの沈黙。そして… 「もう、亮輔のバカ!!!」 茉莉の思い切りのいいビンタを頂戴した俺であった…orz そして数時間後、俺たちはエルゴの店頭にいた。 頬を腫らしている俺を見て苦笑しながらも店長はかねてからおねがいしていた"頭身が低い素体"と"成長速度鈍化""子供思考"のCSCを棚から出している。 「ヘッドユニットはストラーフでいいのかな?」 素体とCSCを接続した店長が聞いてくる。 「はい、それでおねがいします。」 俺ではなく、リンが返答する。 「そういえば…ちょっと提案があるんだけど。」 「どうしたんですか?」 「あのね、今度から神姫の髪の色を変えるカスタムのサービスを始める予定なんだけど、この子にモニターっていうか、なんていうか試しにやってみないかい?」 「リン、どうする?」 「私が決めるんですか…じゃあお願いします。さすがに全く自分と同じ顔というのは気になるので」 「わかりました、で何色がいいのかな? 好きに選んでくれていいよ」 そういって髪の色のカタログやら見本をリンに渡す店長。 見ると茉莉やティアもカタログに見入って、話しをしている。 「ちょっと、亮輔君」 その隙をみて急に店長が俺に言い寄ってくる。なぜか俺だけに話したいことがあるらしいが… レジ裏にしゃがみこんだ俺と店長。そして店長は俺にものすごい小声でこう言ってきた。 「あれってリンちゃんのプレゼントだよね?」 「そうですけど、子供が欲しい…自分で世話をするからそういう子供に相当する神姫が欲しいって」 「たぶん前代未聞だよ、母親になる神姫だなんて…まあそれは置いといて。もう1個プレゼントになりそうなものが今、ウチにあるんだけど、どうかな?」 「物を見せてくれないとなんだかわからないんですが…」 「ふれあいツール"赤ずきんちゃんご用心"って言えばわかるだろう?」 「プ…ッ(必死に吹き出しそうになるのを押さえる音)」 「あれがね~幸運にも手に入ったんだよ。結構競争率高いらしいんだけどね。」 「で、俺とリンにですか?」 「うん、リンちゃんにもそろそろ"ホンモノ"の感触を知ってほしくないかい?」 俺の脳裏にピンクな景色が一瞬広がる 「…ホントに商売上手ですね、店長。」 「じゃあ買う?」 「ハイ。」 「じゃあがんばってね」 「あの、それっていうのはどういう意味で?」 「さあ~どっちだろうw」 そんな感じで商談が成立した。 そして何も無かったかのようにリンたちの所に戻る。さっきまでのことは忘れよう、ウン。 「決まったか?リン」 「あっ、マスター。いちおう決まったといえばそうなんですが…」 「じゃあ言ってみろ」 「黒はイヤですか?」 「なんで?リンが好きならそうすればいいだろ。」 「だって、マスターって金髪好きそうなんで…」 そうして茉莉の方を見るリン。 くそ、そんなにカワイイ表情しないでくれ…さっき想像したことが再び頭の中に浮かんでくるのをかき消して返答する。 「はは、そんなこと気にするなよ、もし俺とリンの子っていうなら黒でいいんじゃないか?」 「じゃあそれで、店長。黒でおねがいします」 「たしかに承りました。処理に5分ぐらい掛かるから待っててくれるかな?」 「はい、じゃあその間に料金払っときますよ、で合計でいくらですか?」 「うん…基本のセット料金に素体の特注のライセンス料、黒髪は特別料金だけど今回は割り引きで…しめて…この値段だね。」 まあ予想通り"それっぽい名目"で書かれた料金票を見る。 うん、この値段なら予算の範囲内だ、微妙に余計な費用が加算されたりはするが…今回はジェニーさんのレジを通すわけには行かなかった。 レジと接続した状態のジェニーさんにはそういう偽装は通用しないことは以前のことで知っていた。 だからこそ、店長に直接料金を支払うのだ。物はあとで取りにいくとしてもこれだけは回避しなければならなかった。 そうして支払いを済ませて待つこと数分。艶やかな黒髪のストラーフが俺たちの前に横たわっている。 CSCは先ほどのもに加え、"おしゃれ"を選択。これはリンの提案だった。 CSCおよび素体、ヘッドユニットのチェック完了。リンの娘である神姫が起動し、ゆっくりと瞳が開かれた。 「…う~ん、眠ぃ…」 第一声がコレだった。やっぱりCSCの特性が関係してるんだろう。とりあえず俺がまずはマスター登録をする。 「藤堂 亮輔をマスターとして登録しましたぁ~で呼びかたはどうしますかぁ?」 「お父さん、だ。」 「……お父さん…お父さんですねぇ~判りましたぁ…むにゃむにゃ…」 今にも寝そうな彼女を必死に起こして言う。 「まだ名前をあげてないだろ、キミの名前は花憐だ」 「花憐…カワイイ名前です~こんな名前をもらえて花憐はうれしいです。」 名前をもらえたことがいい刺激だったのか、眠そうだった花憐の目に光が宿ったように感じた。言葉遣いも安定してきた。 「それは良かった、それで…この子がキミのお母さんのリンだ。お母さんの言うことはちゃんと聞くんだぞ~」 「はい~わかりました」 そうして 花憐はくるっと回転して、リンに向き合う。 「お母さん よろしくおねがいします。」 「ええ、花憐」 リンは花憐を抱きしめる。 リンはとてもうれしそうで、涙さえ浮かべてた。 花憐のほうもなんだか安心したような表情で。 こうしてウチに新しい家族。俺とリンの"娘"の花憐が加わった。 これでウチは以前にもまして明るくなるだろう。この幸せを大切にしていきたい。そう俺は思った。 ~燐の18「アキバ博士登場」~
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/939.html
紅い巨神・・・皆川が『ギガンティック』と呼んだそれは、バーチャルの空に向かって大きく吼えた 自らが生まれた事を誇る様に、或いは、呪う様に・・・ 「か・・・墨?なの・・・?」 『ギガンティック』の黄金の瞳がニビルを見据える ごうっ!! 「!!」 その一撃をかわせたのは全くの偶然だった 体が反射的に逃げた方向に、偶々手が来なかっただけの話で、攻撃そのものは全く見切れたものではなかった・・・それが左の爪を振ったのだと気付いたのすら攻撃直後だった その動きの速さは『G』の「Gアーム」・・・キャロラインが「ジェノサイドナックル」と呼んだ・・・に匹敵するものだった 神姫に十数倍するその体躯で神姫の最高速度近い攻撃を繰り出してきたと言う事は、この巨神が神姫を遥かに上回る速さを持っている事を意味した 「・・・あ・・・あぁぁ」 それは絶望的な戦力差と言わざるを得なかった 「奈落の底」 「画面が見えない・・・姉さま、どうなったんだろう?」 皆川は、機械をチェックすると言って出て行ってしまった 残されたランカー達は、各々露骨に不満そうな顔をしながらも、その場に皆留まっていた というのも、画面自体は見えないが、バーチャルスペースで戦闘の様なものが行なわれていると思しき音や気配がやまなかったし、ジャッジマシンがいかなる結果もまだ伝えては居なかったからであろう とはいえ、それだけの情報量ではヌルの不安感を拭い切るにはとても足りなかったのであるが 「クイントスさま・・・」 「・・・・・・やはり行く事にしよう」 「え?」 覗き込んだクイントスの表情は硬かったが、どこか嬉しそうでもあった そう言ってクイントスは華墨側のオーナーブースコンパートメントに向かう 「っ・・・待って!私も行く」 会場の誰も、ふたりが抜けた事に気付いていないようだった 明らかな戦力差だったが、ニビルは何とか回避し続ける事が出来た 何故か、使い切った筈の「ゴールドアイ」が復活したからだ それも、いつもより予見が冴えている 同時に判った事は、『ギガンティック』がほぼ「ジェノサイドナックル」「ゴールドアイ」に匹敵する速さと、先読み能力を持っている事であった (かわす事は出来ても反撃は無理ね・・・せめて空戦装備があれば話は違うのだろうけど・・・) 振り下ろされた右腕が大地を割る! 追跡してくる脚力はさながら「ジェノサイドナックル」の脚版だ、歩幅と相俟って、殆ど瞬間移動とも言える速さで移動出来る様だった (駄目、もうかわしきれない!!) 瞬間、『ギガンティック』の動きが止まる 空を見上げる様な仕草をし、どこか、ニビルに見えない遠くを見ている様だった ごつん!! 扉に剣戟で穴を開けて潜入する 強引だが、取り立てて気にした様子も無く、クイントスは佐鳴武士が居た筈のコンパートメントに足を踏み入れた そこに武士は居ない 代わりに、バトルポッドの前に、身長170センチ程の『ギガンティック』が佇んでいた 「!?」 ヌルの驚愕を無視して、クイントスが走る 「会いたかったぞ・・・!!」 ごうっ!! 剣速に音を引き連れて、クイントスの刀が鞘から引き抜かれる その一撃は、これ以上無い程明確に体格差のある『ギガンティック』の爪を一振り斬り飛ばし、刃先には一切血曇りを残さない程だった 怯んだ様子すら無く、ニビルも驚いた「ジェノサイドナックル」ばりの速さで殴りかかる『ギガンティック』・・・それを、クイントスはすんでの所で回避した 外れた拳で床が抉れる 見る迄も無い、神姫が喰らえば全壊は免れ得ない一撃だ・・・恐らく人間でもひしゃげるか、体の一部が捥げるだろう 「まだ自分の体の使い方が判っていないのか・・・?それとも所詮『まがいもの』なのか・・・?そんな程度では」 長い腕の下に潜り込み、合計4撃、極悪無比な音速剣が炸裂する それでクイントスの刀はへし折れたが、同時に『ギガンティック』の五体もバラバラに引き裂かれた 胸から大量の、人間のそれと同じ赤い血を噴き出しながら 「どんな強力な武器を持とうとも・・・それを扱う者が弱者では話にならないという事だな『華墨』とやら」 『ギガンティック』となっていた武士の胸に華墨が浮き上がり、剥離してゆくのがヌルには見えた 『よう華墨、しっかりしろよ』 (マスター?どうしたんだ一体) こんな所でぼさっとしてんなって!ニビルを倒して、クイントスに一泡吹かせてやるんだろ? 『勝とうぜ、俺達二人で!』 (あぁ・・・そうだな、そうだった、二人で勝つんだったな・・・『クイントス』に) そこは暗い奈落の底 漆黒の闇なのか、混沌なのか だが『私』は既に寄る辺無き花ではない 立ち上がり、歩き出す マスターが居てくれる・・・ならば取り敢えず、歩く道は判る だから、私のマスターで居て下さい・・・佐鳴武士 目を開けると、そこはどうもメディカルセンターの様だった 「目が覚めたみたいだね」 振り向くとそこには琥珀嬢とエルギール、それと、ニビルが居た 吹き込んでくる風が、季節の移り変わりを感じさせた どうも、私の認識から季節がずれている様に感じる 違う!季節はそう簡単にずれない、いかに今年は春が短かったからといって、この空気は私が知っている昨日迄と全く違う では、ずれているのは私の認識の方か・・・私の・・・認識・・・? 「マス・・・」 『マスターは何処に?』と聞こうとして、頭に激痛が走った 待て、待て待て華墨、お前は何か重大な事を忘れていないか・・・?何かとても重大で、そしてとても、巨大な何かを!? 「君のマスターは此処に居る、僕だ、僕神浦琥珀が、君のマスターだ」 それで、私の知る限りの全てを思い出した 「佐鳴武士は・・・死・・・」 吐いた 何かを そこで、自分のもうひとつの異常に気付いた 「君はね、普通の武装神姫では無くなってしまったんだよ・・・華墨」 「今の君は、人間とそう変わらない体を持っている、食事をし、排泄をし、呼吸をする体・・・機械と生体のハイブリッド・・・君は・・・」 吐いた、転げ回った 何も聞こえない 何も判らない 聞きたくない!!! 「落ち着きなさい!受け入れ難いのは判るけど!取り乱しても何にもならないッ!!」 ニビルに頬を張られて、動きが止まった 頭の中が真っ白になっていた ただ涙だけは出た 語る言葉も何も無く、ただ、溢れた そしてそれが、他ならぬ私自身に、状況を思い出させていた 「・・・・・・暫く一人にさせてあげよう、ニビル」 出て行く直前に、エルギールが私を見たが、それに対して何かを返す余裕は、今の私には全く無かった 「マスター・・・・・・!!」 その悲鳴に近い声は、涙と共に奈落の底に程近い今の私の心に大きく波紋を浮かべ、虚空に虚しく消えた・・・ 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2682.html
キズナのキセキ ACT1-25「聖女の正体」 ◆ 「本当によろしいのですか、奥様」 おもむろにそう話しかけてきた自らの神姫・三冬に、久住頼子は落ち着いた様子で湯飲みを手に取る。 「なんのこと?」 「菜々子様のバトル、気にならないのですか? 見に行けばよろしかったのでは」 「いいのよ」 煎れたばかりのお茶を一口飲み、壁の時計を見た。 「……もう始まっている頃ね。一時間もしないで、結果がわかるでしょう」 「ですが……」 今から行ったところで、バトルには間に合わない。 そもそも、頼子は最初から、当日のバトルを観戦する気は全くないようだった。 大事な孫娘の、今後の人生を左右しかねない、戦い。 それなのに、悠々と構えている自分のマスターを、三冬は少し歯がゆく思う。 菜々子やミスティと一緒に暮らしてきたのは三冬も同じだ。口には出さずとも、あの二人を大切に思っている。 頼子は、ちゃぶ台の上に静かに湯飲みを置く。 「この戦いは菜々子の戦いよ。わたしたちができることは何もない……できるのは、ただ、待つことだけよ」 「……」 「あの子が帰ってくるのを出迎えてあげる……たとえどんな結果になったとしても」 頼子とて、バトルの行く末が気にならないわけではない。 だが、菜々子が一人の神姫マスターとして挑む試練ならば、頼子もまた神姫マスターとして、黙って見送るべきだと思っている。それが頼子の矜持であった。 そして、バトルがどんな結果になったとしても……菜々子がどんな風になったとしても、暖かく迎える。それが頼子の、祖母としての矜持である。 特訓が始まった頃から、決戦の日はそうして過ごすと決めていた。 昨日まで、特訓のために多くの若者がやってきて賑やかだった久住邸の居間は、頼子と三冬だけがいて、ひどく殺風景に感じられる。 こんなに広い家だっただろうか。 頼子はそっと視線を移す。 部屋の隅に置かれたそれは、遠野貴樹に託されたもの。 特訓で彼が使っていた、時代遅れのタワー型デスクトップPCだった。 □ 「そんな……あれが……あんなのが神姫だなんて……」 呆然と言うのは安藤。 俺が少し後ろを向くと、江崎さんは口を押さえて気分が悪そうだ。 無理もない。 本来の神姫は人型だ。なのに異形の物を神姫だと言われて受け入れられる方がおかしい。 冷静でいる俺の方がどうかしているのだろう。 「なんなんだよいったい……あんなのが神姫とか、ヘッドセットが神姫とか……なんなんだよ、マグダレーナって奴は……わけわかんねぇ!!」 大城が我慢できなくなったように声を上げる。 ここにいるチームの仲間たちは誰しも同じ思いだろう。 俺は少しだけ頭の中を整理し、言った。 「大城、悪かったな。何も言わないまま手伝わせてきたが……やっと説明できる」 「……ああ?」 「……あの、マグダレーナの装備こそ、マグダラ・システムの本質だ」 「マグダラ・システム……!? あれか、エルゴで店長と話してたときの……」 「そうだ。マグダラ・システムは一つの装備やスキルを指す言葉じゃない。マグダレーナの独特の戦闘方法を構成するシステムの総称だ」 俺は視線をはずさない。その先にいるのは漆黒の神姫……マグダレーナ。 奴も俺をじっと見ている。表情を驚愕に彩りながらも、視線は徐々に苛烈になっている。 俺は続ける。みんなに聞こえる声で、今こそ語る。 「そのマグダラ・システムの本質は、単純に言えば『複数の神姫を同時に操ること』だ。 だからこそ、サポートメカは神姫でなくてはならない。 神姫であれば、犬猫型のマスィーンズや、カブト・クワガタ型の合体装備ヘラクレスよりも、より柔軟かつ繊細な戦闘行動が出来る。本来は、武装神姫のチームで使う能力なんだろうけどな」 「複数の神姫を操るって……それじゃまるで……デュアルオーダー……」 園田さんがかすれた声で呟いた。俺はまた一つ頷く。 「そうだ。マグダレーナの場合、二体以上の神姫を操れる。五体同時に操っているのを見たからな。『マルチオーダー』とでも言うべきか」 「五体って……そんなに!?」 「C港でのリアルバトルの時に、サポートメカ二体、ヘッドセットが二個、そして……菜々子さんのストラーフbisの、合わせて五体を操っていたからな」 視線を交わすマグダレーナの表情はどんどんと厳しくなっていく。それが俺の推理の正しさを無言のうちに物語る。 ふと気づいたように、八重樫さんが疑問を口にした。 「……待ってください。マグダレーナの能力が『マルチオーダー』だったとして、ヘッドセットにCSCを仕込んで、いったい、なに、を……」 賢い八重樫さんのことだ、話している途中で答えに行き着いたのだろう。疑問は途中でかすれて消えた。かわりに、両肘を抱えて細かく震えている。 ここで答え合わせをするには彼女には酷かも知れない。 だが、俺は皆に語らなければならない。 それが、すべてを秘密にしたまま、みんなをここまで連れてきた俺の責任だ。 「ヘッドセットを通して操るのさ……人間をな」 背後で息を飲む気配。俺は振り向くことが出来ない。マグダレーナに注意を払い続けなくてはならない。奴は何をしてくるか分からないからだ。 俺はマグダレーナを見つめながら、話を続ける。 「マグダレーナは操っていたんだよ、自らのマスターである桐島あおいと、おかしくなったときの菜々子さんを」 ルミナスを失った後の桐島あおいと、C港での菜々子さん。二人の共通点は、事件の直後に態度が豹変したことだ。 そして、C港でのバトルの時、俺が菜々子さんのヘッドセットをはずすと、彼女は正気を取り戻した。 ヘッドセットを媒介に、菜々子さんが何者かに操られていると、俺はその時に確信した。そして、『マルチオーダー』の概念を思いついたと同時に、ヘッドセットが神姫である可能性に思い至った。 だからこそ、ヘッドセットをホビーショップ・エルゴに持ち込み、日暮店長に中身の確認を依頼したのだ。ヘッドセットが神姫であることを、店長は請け負った。 大城は声を震わせながら、俺に問う。 「……神姫が人を操るって……どうやって!?」 「催眠術さ」 「……さいみんじゅつぅ?」 「強い暗示、と言ってもいいかも知れない。 催眠術と言うと胡散臭い感じだが、効果は科学的にも証明されている。催眠術をかけられた人は、術者の言うことを現実だと思いこむようになる。 あのヘッドセットからは、そうした暗示をかける音声が流れ続けている。ヘッドセットを通してマグダレーナが指示を出し、あたかもマスターが神姫に指示を出して戦っているように見せかけていたんだ。 菜々子さんの時には、のっぺらぼうのストラーフを新しい自分の神姫だと思い込ませていた」 大城はごくりとのどを鳴らし、さらに言う。 「で、でも、なんだってそんなことをする必要が……」 「今の世界で、神姫だけで生きていくことは出来ない。どうしても人間の手で世話したり保護したりすることが必要だ。バトルにだって、神姫単独では出られないしな」 「それじゃあ……桐島はマグダレーナの世話を強制的にやらされてた、っていうのか?」 「……わからん」 俺はゆっくりと頭を振る。 それはわからない。自らすすんでマグダレーナの僕となったのか、それとも無理矢理なのか。知っているのは桐島あおい本人だけだ。 正気を取り戻したら、ぜひ彼女に聞いてみたいところだ。 そこで、低くしわがれた声が聞こえてきた。 「よくも……よくもそこまで……突き止めたものだな……」 その声は地の底から響いているかのように、低く、暗く、重い。 そして、同時に俺に向けられている視線は、憎悪。 俺は視線を逸らさない。マグダレーナの視線を受け止め、小さな神姫を見つめ続ける。 「我が能力、どこで見破った……?」 「C港での戦いの時に気付いた……だが、ゲームセンターでのバトルの話を聞いていたからこそ、ひらめいた」 「……なに?」 「お前は、サポートメカを、ゲームセンターでは使わなかった。 自らの要求を通すのに、敗北は許されない。マグダラ・システムの他の能力を使っても相当に有利だろうが、万が一の負けも許されないのに、手持ち武器だけで戦った。 先にあったミスティとのリアルバトルでは、フル装備だったのにも関わらず、だ。 なぜか? お前は使いたくても使えなかった。 なぜなら、サイドボードに神姫を二体も入れたら、レギュレーションチェックに引っかかるからだ」 基本的に装備はフリーのゲームセンターでの対戦といえども、最低限のレギュレーションはある。 サイドボードに入るだけの装備しか使えないし、サイドボードに神姫は入れられない。 マグダレーナの装備は物量的にはサイドボードに入れられるが、サポートメカにはCSCが搭載されているから、神姫として判定されて、レギュレーション違反になってしまう。 だから、『ポーラスター』や『ノーザンクロス』では軽装備で戦ったのだ。ミスティと虎実が、奴の装備について意見をぶつけ合ったことがあったが、二人の主張が違う理由はここにあった。 そう言えば……思い出した。 「そう言えば、ひらめきの原点はもっとずっと前……大城と『デュアルオーダー』の話をしたことだ。C港で大城の声が聞こえたときに、ひらめいた」 背後がちょっとどよめく。今の言葉とともに感謝の気持ちが大城に届いていればいいのだが。 俺の背後の雰囲気とは裏腹に、いつも余裕の表情を崩さなかったマグダレーナが、ここまで歯ぎしりの音が聞こえてきそうなほどに、歯を食いしばって俺を睨みつけている。 俺に向けた視線には憎悪さえ込められているように思える。 「……奢るなよ。『スターゲイザー』を破壊した程度で、このわたしに勝てると思うな」 「分かっているさ、マグダレーナ。「観測機」を破壊したくらいで油断する気はない」 その時のマグダレーナの表情は見物だった。 あれほどの憤怒の表情が、まるで豆鉄砲に撃たれた鳩のような、驚きと呆然に取って代わったからだ。 俺の何気ない言葉は、奴にとっては急所への一撃に等しかっただろう。 そうだ、マグダレーナ。この戦いの主導権はこっちが取り続ける。今までずっと後手に回っていた分をすべて取り戻させてもらう。 しかし、俺とマグダレーナの話に、その場にいる他の誰もついて来れずにいる。 それは当事者である菜々子さんとミスティも同様だった。俺が秘密主義に徹した弊害がこんなところに現れる。 ミスティは、残骸と化したランプ型のサブマシンの外装を持ち上げながら、俺を見た。 「観測機って……」 「文字通りの意味だ。ミスティ、今お前が倒したそれは、戦闘用のサポートメカだが、それで役割の半分だ。もう一つ役割は、『スターゲイザー』……マグダレーナの強さの根幹になっている、『行動予測』スキルのための観測だ」 「……『スターゲイザー』って、サポートメカの名前じゃないの!?」 「それも含めて、スキル名『スターゲイザー』だ。だっておかしいだろ? ただの戦闘用サブマシンに、どうして『すべてを見通す者』なんて名前を付ける? すべてを見通す者はマグダレーナ本人で、サポートメカは相手の戦闘行動の観測と、時間稼ぎが役割だ」 「時間稼ぎ?」 「検索する時間だよ」 その言葉は二発目の銃弾。 見事命中した証拠に、マグダレーナはショックを越えて、うろたえる表情さえ見せている。 「……貴様……どこまで知っている!?」 必死の表情のマグダレーナに、俺は無言で応じた。 まだまだこれからだ、マグダレーナ。おまえを追いつめるのは、な。 この時点で、後ろの連中はろくに言葉を発しなくなっていた。みんなきっと、ちんぷんかんぷんといった表情をしていることだろう。 ただ一人、八重樫さんだけは、俺の話に必死に食らいついてきているようだ。 「ということは……その『検索』も、マグダレーナの特別なスキル……なんですか?」 「そうだ。『アカシック・レコード』なんてご大層な名前が付いている」 「『アカシック・レコード』……この世のすべてを記録した図書館……? まさか、マグダレーナは、あらゆる神姫のデータを持っているとか?」 「それは現実的じゃないな。むしろデータベースは外部に任せて、端末側は検索能力を上げた方が有効だろう」 「そ、それじゃあ……『アカシック・レコード』は、検索エンジンのことですか!?」 「それと、検索したデータを分析、統合するプログラムだ。そのデータを元に、『スターゲイザー』の行動予測を行っている」 『アカシック・レコード』はおそらく、武装神姫のデータ検索に特化した検索エンジンだ。そして、強力なハッキング能力も備えているはずだった。 そのスキルを利用して、裏バトル場やゲームセンターのサーバーに集積されているバトルログから対戦相手のデータを収集、分析していたのだ。 そして、そのデータだけでは予測が不十分なら、二体のサポートメカを戦わせて、データを現場で収集する。 今のミスティは、マグダレーナには情報不足だ。だから、サポートメカを出して情報収集を行おうとする。 それが分かっているから、俺は虎実にサポートメカの狙撃をさせたのだ。 公園の中は静まりかえっている。 俺がマグダレーナの正体を明かす間、動くものとてない。当のミスティとマグダレーナも一時休戦だ。 ただ、桐島あおいだけが大きく息をつきながら、頭を押さえてうずくまっている。側には、心配そうに介抱する菜々子さんが見える。 ティアもまた、ヘッドセットを抱えたまま、呆然と立ちすくんでいた。 不意に、背後から声がした。大きく遠回りして、大城の元に戻ってきた虎実だ。 「……けどよ、トオノはどうしてわかったんだ? アイツのスキルが検索だなんてことがさ」 「ヒントはあった。C港でのバトルの時、三冬が「ファーストリーグ四十七位」と言った後、ちょっとして『街頭覇王』か、と奴が答えたんだ。 リーグのランキングだけ聞いて、すぐに二つ名が分かるものか? しかも、上位ならともかく、入れ替わるランキングで四十七位の神姫を覚えていられるものじゃない。 奴は神姫だから、データを持っていたとも考えられるが、裏バトルをメインに戦っている神姫が、公式リーグの神姫のデータを細かく持っているとは考えにくい。むしろネットにつないで調べた方が早い」 「け、けどよ、それならネットにつないで検索しただけじゃねーのか。んなこと、クレイドルがあればアタシにだって出来るぜ」 「それにまだある。奴は初見で『ライトニング・アクセル』を破ってみせた。自分で言うのもなんだが、あれは見たこともないのに破れる技じゃない。しかも、技の構造を完全に理解した方法で、だ。 あの日の俺たちとの対戦は、イレギュラーなものだった。対戦予定のないティアのデータを持っていたとは考えにくい。 そもそも、三冬のデータも持っていなかったはずだ。頼子さんの乱入は、俺さえ予期してなかった。その証拠に、サポートメカ二体を繰り出して、三冬の足止めと観測をしていたくらいだからな。 桐島あおいはノートPCすら持っていないから、二人が特別なデータベースを持っていたわけでもない。 なら、ティアのデータはどこから持ってきた? そう、ネット上からさ。『ライトニング・アクセル』のデータを検索し、収集し、分析し、迎え撃った」 検索する時間はいくらでもあったはずだ。 俺が彼らの前に現れた瞬間から、バトルの最中まで。それだけの時間があれば、ティアがアクセルを放つまでに、ティアのすべての行動を予測できるようになっていただろう。 そして俺は、奴の検索能力とネットワークの能力を確認するために、ある方法を試した。 それが、奴を呼び出すときに使った「狂乱の聖女に告ぐ」の書き込みだ。 知りうる限りの武装神姫関連のネット掲示板に書き込んだが、翌朝にはすべてきれいに消されていた。 これはマグダレーナの仕業だ。そうでなければ、一晩ですべて消されることは考えにくい。なにしろ、管理が行き届いていないようなマイナーな掲示板にも書き込んだりしたのだ。 奴はネット上の書き込みを、日常的に消して回っている。そうしなければならない理由が奴にはある。 俺はマグダレーナを見据える。 どんなに苛烈な視線で俺を見たところで、俺の心は揺らがない。 俺はあの夜、誓ったのだ。号泣する菜々子さんの手を握りながら誓った。 この人の笑顔を奪った、俺たちの真の敵を、必ず後悔させてやる、と。 真の敵……それはお前だ、マグダレーナ!! 「……敵のデータを膨大なデータベースから検索・収集・分析する『アカシック・レコード』。 敵の行動を正確に予測し、戦闘できる『スターゲイザー』。 複数の神姫と有機的な連携行動を可能にする『マルチオーダー』。 ……この三つを統合したシステムこそ、『マグダラ・システム』の正体だ。 『マグダラ・システム』を必要とするのは、どんなシチュエーションだと思う?」 その場にいるすべての者への問い。 背後で戸惑う気配。 戸惑いながらも冷静に答えを導き出したのは、八重樫さんだった。 「た、たとえば……少人数の特殊部隊……とか?」 あまりにも突飛な答えに、 「はあ?」 と口を揃えた声が聞こえる。 後ろにいたチームメイトたちは、誰もがその答えを信じられないらしい。 だが、俺が肯定する。 「そう、八重樫さんの言うとおり。おそらく奴は、軍事利用目的の実験機だ。対テロ戦争用の市街戦部隊の隊長機と言ったところだろう」 今世紀の初頭、戦争の形は大きく変わった。 大国同士の抑止力戦争から、テロと戦う市街地のゲリラ戦へ。 求められるのは、小規模な部隊による緊密かつ有機的な連携だ。 軍の膨大なデータベースから、敵を知り、地理・地形を把握し、敵の動きを予測して作戦を立てる。個々人の能力をいかんなく発揮しながら、部隊を意志のある生き物のごとく連携させ、作戦を的確に遂行する。 マグダラ・システムがあれば、それは現実のものとなる。 マグダラ・システムがMMSではなく、戦争用の戦闘機械に搭載されたのだとしたら……空恐ろしい話だ。 考えてみれば、催眠術も軍事利用目的の技術かも知れない。暗示をかけ、兵士たちの恐怖や戦場のストレスを薄められるのだとすれば、有効な手段になるのではないか。想像にすぎないが。 「……で、でも……マグダレーナが軍用実験機なんて、何で言い切れるんです?」 意外にも、蓼科さんが発言した。彼女なりにしっかりと考えているらしく、好ましい。 俺はその質問にも答えを用意する。 「マグダレーナはある企業に追われてる。おそらくそこから逃げ出したんだろう」 「ある企業って……」 「亀丸重工だ」 そこで、大城が泡食ったような口調で割り込んできた。 「待て待て! そんな超大手企業が軍事用神姫の実験なんかしてるってのか!?」 「そうだとも。知らないのか? 自衛隊に配備されてる戦車や戦闘機は、日本の大手企業の手で生産されている。軍用装備の開発は、あまり一般人に馴染みはないが、企業が研究開発していることに何も不思議はない」 「け、けどよ、MMSの軍事利用は、世界的に禁止されてるはずじゃ……」 「よく知ってるな、大城。MMS国際憲章で、MMSの軍事利用は禁止されている。日本有数の大企業たる亀丸重工が、MMSを使って軍事利用の実験を行ってたなんてことが知れたら国際問題だ」 「国際問題って、お前よ……」 「だから、亀丸重工はマグダレーナを追っているのさ。いわばマグダレーナは国際憲章違反の生きている証拠だ。逃亡から二年以上経っても、捕まえるか破壊するかしなければ、会社の首を絞めかねない。 だが、軍用実験機が、まさかシスター型の格好して裏バトルに出てるなんて夢にも思わないだろう。 それだけじゃない。『アカシック・レコード』の検索能力とハッキング能力で、ネット上の自分の記述を消して回っている。マグダレーナをどんなに調べても、ネット上にろくな情報が出てこないのはそのためだ。だからなかなかしっぽが掴めなかった」 だが、亀丸側もバカじゃない。 最近になって、裏バトルで活躍する『狂乱の聖女』が逃げ出した神姫であることに気づき始めていたのだろう。 だからこそ、派手な真似をして警察沙汰にするわけには行かなかったのだ。警察に捕まれば、自分の目的を果たせなくなってしまう。警察から逃げ切れても、亀丸重工のマークは厳しくなるだろう。逃亡中の身の上としては、目立つ真似は避け続けなくてはならなかったはずだ。 俺は改めて、黒い神姫を見据える。 マグダレーナはうつむいたまま立ち尽くしている。 「どうだ、マグダレーナ。当たらずといえども遠からず、ってところだろう?」 ◆ 立ち尽くすマグダレーナの手は、堅く堅く握られていた。神姫の細い指が折れてしまうのではないかと思うほどに。 当たらずとも遠からず、どころではない。 遠野貴樹の語ったことは、ほとんど図星だった。 あれほどに隠し続けてきた自分の秘密を、ここまで見事に暴露されるとは思ってもみなかった。 今までにマグダレーナの秘密に迫ろうとした神姫マスターは多くいたが、秘密の一つでも明らかにした者はいない。 だが、この男は何だ。 どうしてマグダラ・システムのすべてを理解している? 理由は問題ではない。 問題は、この男が、自分が隠し続けてきた秘密のすべてを知り、マグダレーナの存在を危うくしているということだ。 「……とおの、たかき…………貴様は……貴様はやはり、あの時に殺しておくべきだった!!」 ■ 突然のマグダレーナの叫び。 すると突然。 「わっ!?」 ミスティが押し倒していたランプ型のサポートメカから飛び離れる。 不意に動き出したサポートメカの頭頂にあるミサイルが動き、いきなり発射された。 でも、発射された方向はミスティがいる場所とは全然違う方向。 ミサイルの向かう先を見て、わたしは愕然とする。 ミサイルの目標は……誰あろう、わたしのマスター! わたしは一瞬で理解する。サポートメカの動きは止められても、マグダレーナからのコントロールは失われていなかった。だから、ミサイルを発射できたのだと。 でも、理解しても何の役にも立たない。 また、間に合わない。今動いても止められない。 「マスター! よけてーーーーーーーーっ!!」 叫びよ、ミサイルを追い越して、マスターに届いて! わたしの視線の先で、チームのみんなが驚いて、頭を抱えうずくまる。 二本のミサイルが迫る。 それでも。 マスターはいつものように感情を表さない表情のまま、そこに立っていた。 どうして!? ミサイルはもうマスターの目の前。 よけられない! そして、わたしは、その瞬間を、見た。 次へ> Topに戻る>
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/75.html
武装神姫のリン 第7話 「ティアVSジャンヌ」 私の名前はティア。愛するご主人様の所有物。 武装神姫ですわ。 で今日はアーンヴァルの基本パーツの1つ。 大口径ブースターの出力を強化した先行試作モデルをいただいたので、その調整と試運転を兼ねて近所の公園で飛行中です。 そのためにご主人様が見ていないうちに辺りのカラスや鳩をレーザーライフルで追い払ったのでいま空に私をさえぎるモノは存在しません。 なんて空を飛ぶのは気持ちよいのでしょうか?? お姉さまにも体感させてあげたいくらいです。 おや、あそこに見えるのは豪華なドレス。 しかしそれを身にまとうのは"ぽっちゃり"と言うのさえも、お世辞にならないくらいに丸々太った体躯。 全くもって美しくありませんわ。 私の瞳はあののような"物体"を映すために存在しているわけではありません。 早めに私の視界から消えていただくことを望みます。 よって威嚇射撃敢行、もちろん直接当てるわけではありませんので問題になることは無いでしょう。 そうして私はレーザーライフルをあの物体の足元に照準を合わせ、出力30%で発射。 いきなりアスファルトが光ったことでアレは逃げ出すはずでしたが、 いきなり黒い服を着たSPらしい人が集まってきました。 どうやら暗殺かなにかと勘違いしたらしいです。 私は面白くなかったのでご主人様の元へ帰ります。 そのときは気付きませんでした。アレがあんな人物だとは…… 俺はリンを定期健診に預けて今日はティアと2人で公園へ、というのもあのリンのレッグパーツのシリンダーを手がけた友人の会社の改良ブースターの先行試作販売型(ライセンスはもちろん取得済み)の試運転に連れてきている。 今日は4月5日。絶好のピクニック日和だ。 もちろん空を飛ぶにもとてもいい天気。 なのだが、ティアのヤツがちょっと目を離した隙に高く飛んで行ってしまった。 で探しているとなぜかレーザーライフルを抱えているのが気になったけども、無事に戻ってきた。 それまでは良かったのだけど…その数秒後俺たちは黒ずくめの男達に囲まれていた。 「あなたですのね!この私、鶴畑3兄妹の1人。和美に銃を向けた愚かな神姫のマスターは?」 後から現れたドレスを着たというより着られている感じのピz…もとい少女が声を発する。 「は???」 俺はわけがわからないので反応が出来ない 「ですから私にレーザーライフルを向けただけでなく、発射したのですよ。」 「……マジ?」 俺はティアに確認する。 「?? 私は見るに耐えない不快な物体に視界からはやく消えて欲しかったから威嚇を行っただけですのよ」 おい…ティア。それが原因なんだよと言う間もなく、俺は意識を失っていた。 俺が目を覚ますとそこは近所のセンターと思われる建物の個室、大会で使用される選手控え室だろう。 しかも俺は手首足首をベルトでイスに縛られている。全く身動きが出来ない。 辛うじて動く首を真横に動かす。左右にはあの黒ずくめの男が立っている。 しかもその手には拳銃が握られている……俺、もうだめなのカナ? カナ? 突然扉が開くとそこにあの少女がいた。その側近らしき男の手に握られるのは鳥かご。 その中にティアがいた、しかもうつぶせに倒れている。 まさか電気ショックでも食らって再起不能なんてことは…やばいのは俺も同じか… 俺の脳裏に最悪の結果が再生される。 「俺たちを処分しようってか・・・・・」 がそれに反した答えが帰ってきた。 「ここで今からバトルを行います。 感謝しなさいな、普通私に銃を向けた神姫ごとき解体処分が当然なのですが……私は慈悲深いのですよ。」 「??」 俺もティアも首をかしげる。 「そこでです、私にショーを見せてくださいますか?」 「ショー?」 「そうです、貴方の神姫に私の神姫『ジャンヌ』そしてその手足となる部隊の神姫たちと戦っていただきます。」 「なっ、1対多数だと!!」 「そうです、そこであなたの神姫がズタボロにやられる瞬間をその目に焼き付けていただきます。今回はそれで許して差し上げますわ」 「……そこのメス豚。こっちを向きなさいな」 突然ティアが起き上がってあの少女を又しても挑発を、いや明らかに侮蔑をこめてそう呼んでいる。 「な、なんですって今すぐスクラップにしてあげましょうか?」 「そのショーの主演、受けて差し上げますわ」 「あら、思ったより素直ですのね。よろしい。まあ貴女の声を聞くのはコレが最後になるでしょうけど」 「ただし、条件が1つ。 私が勝者になれれば私とご主人様を開放し、拘束した賠償金をいただきますわよ」 「……いいでしょう、いちおう聞いてあげます、いくら欲しいのかしら?」 「100万。」 「………わかりました、たとえどれほどの額を要求されてもそれが手に入ることは100%ありませんから。」 「で、相手は何体ですの?」 「そうですね、13体でしょうか?多少増減すると思いますが」 「わかりましたわ、ご主人様を離してくださいますこと? セッティングはご主人様にしか許してないのですけど」 「ではショーの開始は15分後ということで、せいぜい生き残るすべを考えてなさいな」 そうして彼女は部屋を後にする、そして側近によりティアの入れられた鳥かごとパーツ(いつも大会に持っていくバッグにはいっているのでこの場合はバッグと呼んだほうが良いのか?) が拘束を一時的にとかれた俺に渡される。 そうして俺はティアにありったけの装備をつけ、さながら重爆撃機のようなシルエットになったティアに全てを託した。 俺はフィールドが良く見える台の上にイスごと括りつけられフィールドを見下ろすことしか出来ない。 そしてティアと敵の神姫がステージに上がる。 普段は神姫が2体しか存在し得ないフィールドに今は神姫が14体存在している、しかも最初からティアを13体の神姫が取り囲んでいる、面子は今まで発売されたモデル全て。 それにまだ未発売の騎士型の「ジャンヌ」が加わっている。 そしてショーと言う名の公開処刑が始まった。 しかし、そのとき俺はこの公開処刑を影から見つめる1人の少女のがいることに全く気がつかなかった。 アーンヴァル部隊のレーザーライフルによる4方向からの一斉射撃。 改良ブースターの力でギリギリそれを回避するティアに次はマオチャオとストラーフが2対ずつ襲い掛かった。 各々接近戦用の武装である爪やクローでティアを護る追加装甲版を次々とえぐっていく。 がティアはブースターを100%の出力で開放。敵の神姫ごと思い切り壁にぶつかる。 そうしてティアと壁の間に挟まれた2体が沈黙した。 一方のジャンヌはというと、動くはずが無い。 アレは部隊指揮をつかさどるのだろう。 もしくは軍の大将にでもなった気分でいるのか、手にした剣を地面に突き立て事態を静観している。 壁にぶつかったティアが動き出すより早くハウリン部隊とアーンヴァル部隊の砲撃が次々とティアの装備を破壊していった。 そうして巨大MAを模して構成したパーツは全て破壊されたかに見えた。 だがティアはあきらめていなかった。 破壊された翼を壁にして砲撃を防ぎ、あとは残った火器を全て自動砲撃設定で動き回る。 自動砲撃設定はティアが以前から持っていた能力だ。 レーザーライフルがランダムに最大出力のレーザーを乱射する。ライフルが焼き切れるまでの間になんとか3体のハウリンを葬った。 役目を果たしたライフルを捨て、そのままマシンガンやバルカンで弾幕を張りつつティアは必死に逃げる。 だが奮戦も束の間、ティアは持てる全ての外部装甲および銃火器を破壊されたのだろう、アーンヴァルの砲撃が止んだのだ。 しかし煙が晴れた場所、ソコには背後にあったビルの残骸と、それにのしかかられるようになったパーツの山があったがティアの姿は見えない。 その時点で正常稼動している神姫は8体。 砲戦主体のアーンヴァル3体にマオチャオ2、ストラーフ2。 そしてジャンヌという内訳だ。 ティアの姿が確認できていないというのにジャンヌは眉ひとつ動かさない。 そして本体のみの姿となったであろうティアを残りの神姫に探させる。 が一向に見つからない。さすがに和美は我慢ならなかったのか声を張り上げる。 「ジャンヌ! 貴方の技でその残骸を吹き飛ばしてしまいなさい」 「…了解」 そうしてやっとジャンヌが動き出す。そして残骸の目前まで来ると手に持った剣を構え、一気に振り下ろす。 衝撃波が生まれ、残骸を一気に吹き飛ばす。 がソコにはティアの姿はなく、 「フ……ドコを見てらっしゃるのかしら?」 ドコからとも無くティアの声が会場に響く。 そしてその声の出所をジャンヌが割り出す前に仲間であったはずのマオチャオが突進してきた。 「ぐぅ…なぜ」 ジャンヌがまだそのダメージから復帰しないうちにティアが姿を現す。 その手には3つ又の鞭。 「やっと出したか」 あの鞭は普段リンやティアが愛用している対"G"武装の1つで、あのとても俊敏で変幻自在の動きをする"G"を確実に捉え、粉砕する。 そしてティアの鞭さばきはリンのそれを超えていた、あれなら神姫相手でも十分に通用しそうだと踏んだ俺はアレに賭けたのだ。 元々、ティアの戦闘スタイルはあのようなゴテゴテ装備での乱戦ではなく、リンと闘った時の様な本体の身体能力(あのときは違法レベルだったが)とさまざまな武装によってわずかな敵の隙を突くスタイルだ。 そのために俺は敵の頭数を減らすためにあんな超重装備でティアを送り出したのだ。 先ほどのマオチャオの突撃は鞭を脚に巻きつかせ、反応されるより早くジャンヌに向けて投げ飛ばしたのだろう。 特別製のジャンヌは無事でもマオチャオの装甲は通常のモノ、あの衝撃には耐えられない。 そうしてやっと敵の数が半分になった所でティアの本当の力が発揮される。 ティアが今頼りに出来るのはあの鞭、そして左右の腰に備え付けられたライトセイバー2本、そして左腕にあるシールド1つ。 それでもティアはザコの神姫を次々と葬っていく。 ジャンヌがダメージを受けてからそいつらの動きが鈍くなっている。ソレを見ればいくら俺でもどういうことかは想像が付く。 ジャンヌ以外の神姫はジャンヌの命令によって動く人形だ。そして今のジャンヌは先ほどのダメージによってその命令を送る回路に不具合が発生したのだろう。 それならティアがやることは1つ。 ジャンヌに攻撃を加えればいいのだが………ティアさん??? 貴女は何を?? ティアはひたすらに鈍くなった(とは言えサードリーグなら3回戦には進出できるぐらいのレベルだと思う)神姫を1対ずつ破壊していく。 「ウフフ…こうやって鞭で敵の神姫を倒すのって、カ・イ・カ・ン☆」 どうやらも俺が何を言っても無駄らしいです、勝てるなら早くやっちゃってくださいティアさん(泣) そうして鞭1本でザコ神姫を全て粉砕して、ティアがジャンヌと対峙する。 「あんなオモチャで私の相手が務まるとお思いでしたの?」 そうして勝ち誇るように和美に向かって言う。 もちろんあちらさんの怒りはピークに達していたのだろう。 「ジャンヌ! モードを軍神から騎士に変更。そいつをバラバラにして差し上げなさい!」 「了解」 ジャンヌの雰囲気が変わる、側近の男がコンテナらしきものをフィールドに投げ入れ、ソコから強化装甲、そしてとても長大なランスが出現した。 ソレを空中で受け取り、瞬時に装着するジャンヌ。 本気だと悟ったティアは気を引き締める。 敵はランスを構えて一直線に突っ込んでくる。ティアはソレをかわすが、ランスはすぐに方向を変えて追ってくる。 あの重量の武器を受け止めることは叶わないと悟ったティアは1度距離をとろうとするがソレを許す相手ではない。 なんとかシールドでランスをそらす。だがシールドにはそのたびにヒビが走る。 そうして5度目の攻撃をそらしたときシ-ルドが瓦解。 しかしティアは逃げない。敵の懐に入り込む。 「戦闘経験が少ないのかしら、大振りすぎでしてよ」 そのまま敵にタックルを食らわせる。 敵がランスを手放したのでライトセイバーでソレを切断。 次に本体を、と思ったがそれは敵の剣に防がれる。 さすがに騎士型というわけか、剣技はティアのそれを上回る。 剣1本に対してライトセイバー2本でもティアは押され気味だ。 「騎士をなめるな!」 そうして一閃で両手のライトセイバーを弾かれた。 「すぐに終わらせてやる」 もうティアに後は無いと思われた。 「終わるのは貴女のほうでしてよ」 ティアがジャンヌに飛び掛かる。 「そんなに頭を割って欲しいか!」 ジャンヌの剣がティアの頭部をヘッドギアごと切断せんと迫る。 俺は叫びたかった、でもソレが出来なかった。そうしてティアの頭に剣が触れる 「…だから、大振りはだめだと言ったでしょうに」 その直前に ティアの手首から伸びた糸がジャンヌの両腕を切断していた。 そのままティアはジャンヌの身体を押し倒してマウントポジションを取る。 そして剣を取り上げて突きつける。 「チェックメイト。ですわね」 そうして和美に同意を求める。 「キーーーーー、お好きにしなさい! 小山、ジャンヌを回収、あとは放って置きなさい。 あの小切手は男の足元に、帰りますわよ!」 彼女はとても腹を立てた様子でバタバタと足音を立てて帰っていった。 って、小切手はいいから俺の猿轡をほどいて欲し、って何で首筋に手刀が…そのまま俺の意識は遠くなっていった。 「ずいぶんみっともない格好」 不意に懐かしい声が聞こえた。 「ふぁふぇ(誰)?」 猿ぐつわを解かれ、仰向けになった俺の瞳に写るのは……水玉パンツ 「水た……ぐふェェ」 声の主に思い切り踏みつけられたらしい。 「たとえ見えていても、それを口にするのはダメ」 「わかった、だから足をどけろ」 「…どうしようかな~」 そこにティアがやっとの思いでフィールドからこの展望席までやって来た、そして俺を見て一言。 「ご主人様は極上のMですのね」 ち、ちが。 だから何でそこで踏みつけた足をぐりぐりしますかな、コイツは。 「あ~~分かりました、茉莉様、足をどけてくださいまし」 そうしてやっと水玉パンツ…いや声の主、 『篠崎 茉莉』は足をどけてくれた。 とりあえず紹介しておこう。 彼女の名前は篠崎 茉莉 いちおう幼なじみになるのだろうか? 年は五つも離れているのだが小さい頃は近くの家には同年代の子がいなくて、いつも俺が遊び相手だった。 そのためか今では俺よりロボットなどに詳しく、神姫を買う最後の一押しをしたのは茉莉だ。 小さいころは俺をお兄ちゃんと呼んでくるたかわいいヤツだった。 ただ、小学時代に重い病気になり(俺は妹のようにかわいがっていたからほぼ毎日見舞いに通った)結果一年遅れで進学した。 よって通例なら今大学一年のはずだ。 しかし幼少時代の仲のよさ故か、厄介なことに両親同士で勝手に婚約が交わされていた。 俺がそれを知ったのは大学二年のとき。 確かに容姿は見栄えする方だし、スタイルも悪くない。 しかも基本的に俺を慕ってくれているがまだ俺には決心がつかない状態だった。 俺がなぜこの町にいるのか? と聞くと 「私、亮輔ん家に居候させてもらうことになったから、ヨロシク」 と、当然のように答えたので俺は思考は停止した。 「詳しくは家に帰ってから。ね?」 そうして茉莉は俺の腕を抱き寄せ、そのふくよかな膨らみを当ててきやがった。 「ご主人様、私たちというものがありながら、浮気だなんて(ニヤリ)」 周りの人からは「あんな見せ物になっていたうえに今度は痴話げんか、全く最近の若者は…」なんて視線が突き刺さる。 「だぁーーーーー、わかった、茉莉の話はレストランで聞く。それとティア、今日の騒動はお前が原因だ。だから予定していた買い物はお預け!」 「そんなぁ、100万も儲けましたのに、何故ですの?」 「何でも!! とにかくリンを引き取って、茉莉の話を聞いてからだ」 「じゃあ決まり、早く行こうよ」 そうして俺を引っ張っていく茉莉。 「ああん、ご主人様あぁ置いていかないでぇ~~」 出遅れたと思ったらしいティアが慌てて追いかけてきてジャンプ。 そのまま俺のかばんに潜り込んだ。 そうやって俺の人生で一番にぎやかで、心身ともに擦り切らせることになるであろう1年間が始まる。 ちなみにリンが俺に寄り添う茉莉を見た瞬間に目に涙を浮かべ、次の瞬間俺に鋭いビンタを食らわせたのもほんの序章にすぎないのだ。 ~燐の8 「ホビーショップへ行こう!」~
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1361.html
雨が降り注ぐ近代都市を、重武装の神姫が滑るように移動していた。 その神姫は背中のブースターを全開にし、その巨躯からは想像もつかないほどの速度でビルの谷間を翔ける。 その姿は・・・神姫と言うよりは・・・・一体の機動兵器の様だった。 「・・・・・・・・目標確認、破壊、する」 機動兵器の彼女は小声でそう呟く。元々声の大きい方ではないからだ。 『うん。なかなか調子がいいじゃないか。ブレードよりもこう言う兵器系に向いてしまったのはなんとも皮肉なもんだが・・・・まぁいいか。それよりもノワール』 「なに」 『今日一日の感想はどうだい?』 「・・・・・それを・・・どうして・・・・聞くの?」 ノワールはそういいながらビルの陰から現れたターゲットを破壊する。 右手のライフルの残弾は・・・・残り僅か。 『どうしても何も、ハウはもう寝てるしサラに聞くわけにもいくまい。私達が見たのは暗闇で何か話していた二人だけだ』 「・・・・・・・・・・・」 彼女の主の言葉を無視しマグチェンジ。 その間も左手に装備したライフルは火を吹き続けている。 『おぉっと。わからないという返答はなしだよ? 具体的な意見を聞くまでは、このトライアルは終わらないし終わってもその武装は使わせてあげませんからね?』 多分、クレイドルで寝ている自分の傍にはニヤニヤ笑った主がいるのだろう。ノワールはそう思った。 意地が悪い。 「・・・・多分・・・二人・・・好き合った・・・・でも・・・・」 ・・・・でも、なんだろう? 何か違うような、そうでないような。そんな感じがする。 『・・・・ふむ。つまり微妙な状態なわけだな』 とうとう右手のライフルの残弾がなくなった。 ノワールはライフルを捨てると、左手のライフルを右手に持ち返る。 そのまま空いた左腕で、近くまで来ていたターゲットを殴った。ターゲットはよろめき、その隙にライフルで止めを刺す。 それと同時にアラームが鳴り響き、ノルマをクリアした事を知らせた。 『ん? 随分と早いな。もう二百体倒したのか。・・・・・AC武装は物凄い相性がいいな。メインこれで行こうか』 「ヤー、マイスター」 * クラブハンド・フォートブラッグ * 第十九話 『出現、白衣のお姉さま』 「ちょっと! 何で起こしてくれなかったのよ!! 遅刻確定じゃない!!」 「そうは言われましても。何度も起こしたのですが・・・・まさかハバネロが効かないくらいに眠りが深いとは」 「どおりで口の中がひりひりするわけね! 毎度の事ながらあんたには手加減って言葉が無いの!?」 「――――――わたしは相手に対し手加減はしない。それが相手に対する礼儀と言うものなのです」 「無駄に格好いい!? あんたいつからそんなハードボイルドになったの!?」 「時の流れは速い・・・というわけでハルナ。わたしと話すより急いだ方がいいのでは?」 「あんたに正論言われるとムカつくのはなぜかしらね・・・・?」 朝、目が覚めたときにはもう八時を過ぎていた。 普段私を起こすのはサラの役目だけどさ。流石にこういうときは起こしに来てよお母さん・・・・・・。 大急ぎで制服に袖を通し、スカートのファスナーを上げる。 筆箱は・・・あぁもう!! 「何か学校行くのがだるくなってきた・・・・休もうかしら」 私がそういうと、サラが驚いた顔で見つめてきた。 え、なに? 「・・・・珍しいですね。普段なら遅刻してでも行ってたのに。と言うか無遅刻無欠席じゃないですか。行ったほうがいいのでは?」 「ん・・・でも何か面倒になっちゃってね。・・・別にいいじゃない。たまには無断欠席も。それに・・・・・」 学校には、八谷がいる。 昨日の今日でどんな顔をしたらいいのか判らない。 お互いにはっきり言葉にしなかったとはいえ・・・・OKしちゃったわけだし。 「うん、決めた。今日はサボる。サボって神姫センター行って遊びましょう!」 「・・・・・まぁ、別にいいですけれども」 そうして辿り着いた神姫センターには、当たり前と言うかなんと言うかあんまり人がいなかった。 まぁ月曜日だし午前中だし。来ているのは自営業さんか私みたいなサボり位だろうけど。 それでも高校生と思しき集団がバトルしてたのは驚いた。まぁ多分同類だと思うけど。 ・・・・でも強いな。あのアイゼンとか言うストラーフ。 砂漠なら・・・勝てる、かも? 「それにしてもなんだか新鮮ですね。人が少ない神姫センターというのも」 「平日はこんなものじゃない? 仕事や学校あるし。・・・・あぁでも最近は神姫預かる仕事も出来たんだっけ」 「そんな職業があるのですか。なんと言うか、実にスキマ産業的な・・・・所でハルナ、わたしは武装コーナーを見たいです」 私はサラの言葉に苦笑しながらも、センターに設けられた一角に向かって歩き出す。 このセンターは武装やら神姫本体やら色々揃ってたりするので結構お気に入りだ。筐体もリアルバトル用とVRバトル用の二種類を完備してるし。 とりあえず売り場についた私はサラを机に乗せ、商品を自由に見せて回る。・・・・買うつもりは無いのよ。 そうこうしているとサラが一挺の拳銃のカタログを持ってきた。 「ハルナ、このハンドガンなんてどうでしょうか」 「・・・いや、そういうの良く判らないんだけど」 「なんと!! ハルナはこの芸術品を知らないと!? このマウザーは世界初にして世界最古のオートマティックハンドガンなのです。マガジンをグリップ内部ではなく機関部の前方に配置しているのが特徴でグリップはその特徴的な形から『箒の柄』の異名で呼ばれています。かつては禿鷹と呼ばれた賞金稼ぎ、リリィ・サルバターナや白い天使と呼ばれたアンリが使用した銃として有名ですね。さらにこの銃、グリップパネル以外にネジを一本も使用しないというパズルのような計算しつくされた構造を持っておりこの無骨な中に存在するたおやかな美しさが今もマニアの心を魅了し続けて ―――――――――――」 「あ、この服可愛いー。でもレディアントはサラに合わないかな」 「ひ、人の話を聞いていないッ!? そして何故ハルナではなくこのわたしがこんなに悔しいのですかっ!?」 ふふん。ささやかな復讐なのよ。 「でもさ、だったらそんなへんてこな銃じゃなくてこっちの馬鹿でかい方が強いんじゃないの?」 「ぬ・・・わたしのツッコミを無視して話の流を戻すとは。いつの間にそんな高等技術を・・・・それはともかく、確かに威力が多きければ強いと言えなくもないですね。でもそのM500は対人・対神姫用としては明らかにオーバーパワーです。リボルバーですから装弾数も期待できませんし」 「ふぅん。数ばらまけないのはきついわね」 威力だけじゃ勝てないってことか。 サラのマニアックな説明はそもそも理解する気が無いけれど、戦闘に関してはさすが武装神姫。私よりも知識が多い。 ・・・うん、この後バトルでもしてみようかしら。 どうせ暇だし、作戦を立てたり実力を図る意味でもバトルはしたいし。 「ねぇサラ。この後さ ――――――」 「ん? こんなところで何をやってるんだお前」 と、サラに話しかけようとしたら逆に後ろから誰かに話かけられた。 振り向くと・・・・そこにはなぜか白衣を着たお姉ちゃんが立っていた。胸ポケットにはノワールちゃんだけが入っている。 「え、何で白衣?」 「第一声がそれかね。これはバイトの仕事着だよ。それよりもお前、何でこんなとこいるんだ? サボりか」 「え、えと・・・・それはですね・・・なんと言うか」 まずいことになった。 そういえばここら辺はお姉ちゃんのテリトリーだったっけ。 ここで見つかってお母さんに告げ口されたら・・・・! 「ん・・・あぁ別に怒ってるわけじゃないんだよ。サボりなら私もよくやったさ。仲のいい三人組で遊びまわったもんだ」 そういってお姉ちゃんは笑った。 よかった。告げ口されたらどうしようかと。 「そっか・・・・そういえばハウちゃんはどうしたの? ノワールちゃんだけだけど」 「アイツは定期健診。今神姫用医務室にいるよ。それよりも、暇だったら一戦やらないか? 今バイトの方も暇だしな」 お姉ちゃんはサラの方をチラリと見ながらそう言った。 サラがどうかしなのだろうか。 「うん、いいよ。それじゃ筐体の方へいこう。・・・サラ、おいで」 「承知です」 断る理由の無い私達はお姉ちゃんの誘いに乗った。 戻る進む
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/713.html
姉さまは強い 槙縞ランカーには、その神姫本来の属性を外れた武装を使う者が多いが、その中でも姉さまはある種格別だ 姉さまは強力な武器を使わない 本来ストラーフはパワードアームやパワードレッグを使った白兵戦が強力なタイプだろう・・・が、姉さまがそれらを使っているのを見た事は無い 武器セットや改造装備の中からでも、姉さまは拳銃やナイフ等、普通に手動で操作出来る簡単な武器しか、使っているのを私は見た事が無い 常に自分の価値観での格好良さを第一に武装をコーディネイトして出撃し、遊びながらでも必ず勝って帰ってくる 姉さまは私にとって、マスターである以外に憧憬の対象でもあった だから、使わない本当の理由を、考えた事は無かった 「使わない」のではなくて「使えない」のかも知れない等と、考えた事も無かった 第拾壱幕 「MAD SKY」 ばらばらと、私の周りに無数の武器が現れ、あるものは転がり、あるものは闘技場の床に突き刺さる マスターが戦闘に参加出来無い以上、サイドボードを利用するにはこういった形で、バトル開始時に一斉転送してもらうか、戦闘中に私がマスターに指示するしかない だが、この『G』相手に後者のやり方では間に合わないと判断した私は、サイドボードのありったけの火器を一斉転送してもらう事にした 相手に使用される危険性がある以上、普通なら誰もやらないだろうが・・・ 「・・・!!」 案の定、出現した武器には目もくれず一直線に此方に走って来る『G』 それだけ自分の闘法に自信があるのか、それとも ・・・・単に『使えない』のか・・・・ 兎に角、ジグザグに武器の丘を走り回りながら、手に付いた火器を打ち込む事にする こういう手合いには先手必勝・・・だ 『仁竜』の大刀を素手で粉砕した以上、白兵戦になったら多分勝ち目は無い ならば精度は落ちようとも、弾幕で削り殺す!! 唸る短機関銃、榴弾砲、ライフル、機関銃 半ば喰らいながらかわされる、爆風をかえって跳躍力に加算される、僅かに装備した装甲でいなされる、マント(私のと同じ防弾か!)で防がれる 無茶苦茶だ!動きは全く出鱈目だし、それ程速くも無いが、『G』は自身の身を削りながらも、私の全ての攻撃を回避している 否、違う 奴が回避してるんじゃない 私が怯えているからだ・・・心のどこかで、こんな攻撃で奴は死なないんじゃないかと思って怯えているからっっ・・・! 爆風を切り裂いて、殆ど満身創痍の姿に見える『G』が私の懐に入って来ている 「・・・あ」 「ひとつ」 鈍い音がした 「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁ姉さま------------っ!!」 びっくりする程の声・・・絶望の片鱗を感じた時、人は叫ぶ 神姫は人の真似をする様に作られた だから彼女も叫んでいる その精巧な絶望を感じている心がプログラムされたものであろうとも プログラムされたものであろうとも「心」は「心」だ 席を立つ 「もう見ないのですか?マスター」 「あぁ、もうけりは付いただろう。この試合を見る為に僕は来たからね・・・別に残りたいなら君の意思を尊重するけど」 「ならばマスター、この闘いはまだ終わっていない。見届けるべきだ」 「!?」 勝敗のコールは確かに行われていない 何よりも、大きく吹き飛ばされた『ニビル』に向かって『G』は走り出している 「馬鹿な・・・どうやってあの攻撃をしのいだんだ?『G』の攻撃は甲冑も貫くのだろう?」 「マスター自身が言ったではないか・・・ニビルの、『Gアーム』だ」 意識はあった バーチャルスペースの方に、である どうやらデッドの判定は下されなかった様だ どうも私は闘技場の壁面に埋まっている状態らしい 体の状態は・・・ (片脚が・・・無い・・・!?) 恐ろしいパワーだ・・・武装神姫の細腕では装甲を付けていてももたないと踏んで、ヒットポイントをずらしてかつ脚で受けたのだが・・・ 太股の辺りに残骸を残しつつ、私の右脚は見事に砕け散っていた。ついでに横腹にも痛みがある・・・明らかに衝撃でボディスーツが引き千切れていた まだ動けるなら闘おうとも思っていたが、これでは死んでいないだけで、戦闘は不可能に近い 普通こういう状況になったらジャッジングマシンが私の敗北を宣言するのでは無いか・・・?と、思考は迫り来る破砕音で途切れた 「ふたつ」 粉砕される瓦礫と共に、再び大きく外に放り出される 床に叩き付けられ、呻く・・・だが今はその痛みについて考えている場合ではない (やっぱり・・・数えている?) なるべく攻撃の手を控えているのは、一撃必殺に誇りがあるからでは無いのではないか? あのパンチの速さと威力ならば、私の銃撃の幾つかは拳で迎撃出来た筈だ(余りにも想像したくない光景だが、多分可能だろう) だがそれをせず、危なっかしい方法で回避した (しかも数えている・・・という事は) 結論はひとつ、彼女の『Gアーム』は私のそれと同様に、使用回数制限があるのだ ならば、勝ち目はあるかもしれない ただ 問題となるのは その勝利を手に入れる為には恐らくもう私には たったひとつの手段しか残されていない事 この闘いは 多くの代償を支払ってまで 勝つ必要のある闘いだろうか? 『G』が迫る 私には・・・ 『そうよヌル。準決勝で会いましょ』 理由は、それで充分だった 「マスター!残りのサイドボードを一式、送って下さい!!」 いつもそれを、サイドボードに入れてはいた(ただ、そもそも私は、サイドボードを使って闘う事自体が初めてだったのだが) だがその装備を、私は封印していた 理由は簡単 その装備を使うと危険である事が、私のオーバーロード、「ゴールドアイ」の「代償」だからだ マスターは、知っている 私がこのオーバーロードを入手した時に、神姫体付けの拡張装備を使用すると、神経系が破損してゆく体になってしまった事を マスターは、知らない 残りのサイドボードとは即ち、“サバーカ”、“チーグル”、DTリアユニットplus + GA4アーム・・・まさにその体付けパーツである事を・・・! 電撃を受けたような衝撃が、私の体を貫いた 「結果、出ました」 「で、どうだった?」 暗い部屋でパソコンのモニタに向かっていた男が振り返る 逆光で、本当におぞましい怪物か何かに見えた 「実質上の未来予知が可能な『ゴールドアイ』の前には、いかな『ジェノサイドナックル』とて無意味です。『ニビル』の勝利に終わりました」 事務的な口調で応える・・・この男の前では彼女はいつもそうしていた 「ニビルは『ゴールドアイ』を使ったのだな?」 ねちこく、重ねて男は問うた。満足のいく応えに対し、数瞬自らの考えに沈み、すぐに口の端が吊り上る 「ククククク・・・ふはっはっはっは・・・・・・!ならば良い!これで少なくともあの筺体は、現状で望み得る最良の蟲毒壺としての状態になったわけだ!フハハハハハ!!」 「闘うがいい!木偶人形ども!俺の・・・俺の『G』の為に!!!」 高笑いと独り言を繰り返す男を見ながら、キャロラインは拳を硬く握り締めた 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/636.html
左腕と左脚、左の乳房のみを「サイフォス」ベースの装甲で覆った姿でエルギールはヴァーチャルスペースに現れた 金管楽器の様な凄まじく派手な銀色の装甲は、今回のフィールドである湖畔の風景を見事に天地逆さまに写している 『随分軽装だな?まぁホントの白兵戦になりゃぁ神姫用の武器は「避けられない」方がヤバいって言うし、ある意味ありっちゃありか?でも所詮そんだけだろ?ビシッとキメてやろうぜ!華墨』 (確かに軽装だ・・・が・・・・) 武士の台詞を華墨は半分聞き流している ここ数回のバトルで、華墨は少しずつではあるが自らのデフォルト武装の取捨選択を始めていた 初戦の教訓と「どうせ相手に密着するのだから」という事で、十字戟もメインボードから外し、主力武装は腰の大小に、やや肩周りの可動を阻害する肩当を捨て、ジョイントを介して「垂れ」の部分だけを直接装備、鬼面と喉当ても外していた 最後の二つは今回のバトルに際して急遽実行したのだが、それというのもポッドに入る前にちらりと、エルギールの主力武装とおぼしきものを目にしたからだ それは剣呑な黒い刀身に、禍々しい朱い模様がうねうねと描かれた、非常に大振りなダガーだった(殆どショートソードと言っても良かったかも知れない) 神姫が外出する時に、手持ちの得物の中から携行に便利な物を選んで持ち歩くというのは聞いた事があるが、華墨には何故だか判らないがそれが「護身用の武器では無い」という強迫観念めいた確信があった それで、視界と装甲の二択に(勝手に)迫られて、結果折衷案で、「兜は残して仮面は外す」という結論に至った訳だ いずれにしても、未だに胸の奥をざわざわと撫でられる様な感覚はおさまらず、目の前の軽装な姿を、武士程楽観視出来無いのだった 第伍幕 「Merciless Cult」 自分と相手の戦力差がどの程度なのか?正確に把握するには結局ぶつかってみるのが一番良い。華墨は覚悟を決めた ざくざくいう足音と共に、バーチャルの下生えが踏み潰されてゆく。(いける、いつもの私だ)ポニーテールを地面に水平になるくらい迄浮かせながら華墨は走る。右手で太刀を抜き放ち、気合一閃、一気にエルギールに斬りかかる! 白刃が虚空に白い影を描き、華墨の天地は逆転する。遅れて知覚される苦痛 「ハン!速さと装甲にモノ言わせて真っ直ぐ突っ込んで殴るだけの、単なるゴリ押しじゃない!?案の定大した事無いわね?」 (なんだ!?何をされたんだ?今!?) 地面を抉る程に叩き付けられた華墨だったが、即座に立ち上がり、エルギールから距離をとる 「どうしたの?躓きでもしたのかしら?ホント情っさけ無いわね」 憎まれ口を叩くエルギール。その手に武器らしきものは握られていない。華墨が警戒していた短剣も、まだヒップホルスターの中だ 「・・・」 「つば」を鳴らして太刀を構え直す。いつもの様に、加速をつける為の攻撃型ではなく、切っ先を相手に向けた防御よりの型だ 「・・・アタシってそんな気が長い方じゃ無いのよね・・・来ないんなら」 ヒップホルスターから短剣を抜き放つエルギール。一瞬、朱色の模様が生物の様にうねった・・・様に感じた 「こっちからブン投げてやるまでよォ!!」 「!!」 明らかに短剣が届く間合いではなかった、が、エルギールの剣は鋼線で接続されたいくつかの節に別れ、異様な動きでもって華墨の左腕に巻き付いたのだ。食い込んだ刃が、華墨の人工皮膚を・・・裂く 「くそっ!!」 鋼鉄の毒蛇に腕を拘束されたまま切り込む華墨。だが、引き手を殺されたへたれた斬撃は、あっさりとエルギールの腕甲でいなされ、挙句そのまま首を掴まれる (・・・ぐっ!) くぐもった呻きが漏れる。それは人間的な条件反射だが、神姫が「人がましく」振舞う為に動きの基礎に組み込まれている 「けだものを捕らえるには罠を使うでしょう?アタシはその罠。さぁ、ホントのアタシのフルコンボってやつを見せたげるわ!!」 首を掴んだ左手が捻られる、同時に右足が払われ、左腕の拘束を引き外す動きでそのまま吊り上げられる (これが・・・!?) 「まずは天(転)」 異様な体勢で転ばされ、なんとか残った右腕で受身を試みる 「間に人(刃)」 ぞぶりだかどすだかいう様な汁っぽい音と共に、引き抜かれ空を舞っていた刃が右腕に突き刺さる たまらず、そのまま顔面から地に倒れ付す華墨。打撃系の衝撃が、装甲ごしにでも強烈なダメージを全身に及ぼした 「最期は地に血の花を咲かせて逝きなさいな!アンタの名前に相応しい幕切れじゃない!!」 エルギールの哄笑、無理矢理体を起こそうとする華墨だが、最早戦闘能力が無きに等しいのはいかなる目で見ても明白だ (立ち上がる・・・ちから・・・) 武士が何かを叫んでいた、残念ながら華墨には何を言っているのか全く判らなかったが・・・ (ここで立ち上がる・・・ちからが・・・) だが、そんな力は華墨の中には無かった。愛も、怒りも、不屈の意思も、未だ華墨は本当の意味で理解など出来て居なかった 虚ろに過ぎるジャッジのマシンボイスを、ヴァーチャルスペースに全く意識があるままに、華墨は聞いていた 「華墨・・・負けちまったのか・・・?」 武士は腰を浮かせて、呆然とディスプレイを見ていた その肩に琥珀の小さな、冷たい手が掛かる迄、武士は彼女が入ってきた事にすら気付いていなかった 「ね、判った?闘うってこういう事なんだよ。体はヴァーチャルでも、彼女らが感じる恐怖は本物なんだ。」 小さな、だがはっきりした声だった 「だって・・・武装神姫って、バトルする為に創られたんだろ?」 のろのろと首を回す武士。琥珀の、多分名前の由来なのだろう琥珀色の瞳は、感情を深い所に隠していて、思考を読み取る事は今の武士には不可能だった 「確かに彼女達は闘う為に創られた。でもね、闘争本能を持たされていても、彼女達が本当に闘いを望んでいるかどうかは判らないんじゃないかな?」 「・・・え?」 「判らない?君は彼女のマスターだけど彼女は本当の意味で『君の神姫』になっているのかな?」 「当たり前だ!神姫は登録した人間をマスターとする様に出来てるんだろ?」 語気を強める武士、だが琥珀の口調にも表情にも、僅かな変化も見られなかった 「プログラムされた知性、プログラムされた感情、なら、忠誠心だってプログラムされたものなんだろうね」 「・・・」 にこりともしない、が、別に怒りも悲嘆も、いかなる色も彼女の表情には現れないのではないかと、武士は思った 「・・・」 「プシュ」と空気の抜ける様な音がして、華墨のバトルポッドが開く ゆっくり顔を上げる華墨に一瞬目をやってから踵を返す琥珀 「じゃ、するべき事はしたから・・・縁があったらまたね・・・」 視線だけ二人に向けて言い放つと、もうそのまま、むにむにと柔らかい足音だけ残して琥珀は去っていった 「・・・負けてしまったよ・・・マスター・・・」 「・・・あぁ・・・」 ここで取って付けた様な労いの言葉を吐く事が出来るのか?吐く資格があるのか?労ってやるべき存在?神姫は・・・? 玩具にそれをするのか?人間にそれをしないのか? 「・・・無事でよかったよ」 武士は恐ろしくばらばらな表情でようやくそれだけ吐くと、華墨を抱え上げポケットに入れ、無言でブースから出るのだった 「見事な『壁』役だったね」 「僕は厭だよ。本当はこんな役なんて」 「買って出た苦労だろう?私は何も頼んじゃいない」 「・・・・・」 「・・・君にとってはどうなんだい?」 「何がさ?」 「神姫とは高性能な知性を持った玩具なのか・・・?身長15センチの人間なのか・・・?君が佐鳴武士に叩き付けた問いについて・・・だよ」 「・・・そういう話は川原さんとでもしてなよ。帰ろうか?エルギール」 主よりも遥かに派手な神姫を肩に乗せて去る少女を見ながら、皆川はいかにも意味ありげに不気味に微笑んで見せるのだった 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ