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概要 運用 ステータス情報Lv1 Lv60 アップデート履歴 コメント 概要 表ステータスでは弾数が増えた代わりに射程と弾速が落ちた片手ライトガンといった印象。 どれもスタン属性で全体のコンボモーションも早めのため、スタンを取れたら一気にダメージを叩き込むことができる。 誘導がかなり高く、直角に約80度は曲がる。 2022/9/6のアップデートにてコンボする毎に威力が増加する仕様が追加された。チャンスがあればバシバシコンボを狙おう。 運用 弾速が遅い分誘導の乗る時間が増えるが、弾速が遅いせいで逃げている敵には当たりにくい。 射程が短いのもあり、片手ライトガンよりさらに接近戦を意識した立ち回りを。 ピックアップ 燃焼ポッド 回復ポッド 3/20より、スティールクロニクル特技スーツと共に実装された武装。他の投擲武器と大きく仕様が異なっており、自身のいる位置にポッドを設置(空中可)し、周囲にダメージを与えるドーム状のフィールドを一定時間発生させるものとなっている。射程が設定されているが、あくまでジェム回収における射程となっている。 そこそこ広い範囲のダメージ源を数秒間発生させる為相手の動きを制限させたり、牽制において有用。また他の射撃と違い、軸をずらして接近してくる近接使いに対しても面で迎撃出来る為、引き撃ちで反撃しやすいのもメリットである。 注意点としてはポッドの攻撃は攻撃対象数に特に制限はないが、対象一人に対してダメージを与えれるのは、ポッド1個あたり1回までなので気をつけること。 装弾数が2と少なくリロードも重めなので、場合によっては射撃弾数+を用意した方が良いかもしれない。 燃焼ポッドは戦闘用で、回復ポッドは燃焼ポッドより威力が劣る代わりにレイドにおいてフィールドに触れた味方神姫のLPを回復させれる。触ってさえくれればなんと1個で味方3人を纏めて癒せる。そのうえ、エラーも攻撃出来る万能武装となっている。 9/13のアップデートで燃焼・回復共通で溜め威力低下、燃焼のみ更にダッシュブーストの消費増加・最終攻撃判定範囲の縮小・持続時間の下方が加えられた。 特に溜め威力に関しては低下値が大きく溜めても与ダメージが殆ど変わらない程。 ステータス情報 太字はマスクステータス Lv1 武装 本来の装主 レア度 攻 防 ス 体 ブ 展開 回復 走速 走費 跳費 浮費 防費 リキャスト リロード 溜時間 溜倍率 射程 弾速 弾数 アクティブスキル 備考 大手裏剣"白詰草" フブキ N 109 5 0 0 58 -100 20 40 20 50 0.6 0.2 1.0 1.95 0.2 30 9 攻撃スピードアップ 一定時間攻撃速度を上げる R 143 5 0 0 80 SR 176 5 0 0 104 UR 210 5 0 0 167 大手裏剣"蓮華草" フブキ N 94 30 20 0 58 20 40 20 50 0.6 0.2 1.0 1.95 0.225 30 9 全員スピードダウン 一定時間全員のスピードを下げる R 128 30 18 0 80 SR 161 30 16 0 104 UR 195 30 14 0 167 大手裏剣"白詰草"(金) ミズキ N 94 60 20 0 58 -300 10 40 10 0.6 0.2 1.0 1.95 0.225 30 9 全員スピードダウン 一定時間全員のスピードを下げる R 128 60 18 0 80 SR 161 60 16 0 104 UR 195 60 14 0 167 大手裏剣"蓮華草"(金) ミズキ N 119 5 20 0 58 10 40 10 0.6 0.2 1.0 1.95 0.2 30 9 攻撃スピードアップ 一定時間攻撃速度を上げる R 153 5 18 0 80 SR 186 5 16 0 104 UR 220 5 14 0 167 Lv60 武装 本来の装主 レア度 攻 防 ス 体 ブ 展開 CHA CR C抵 回復 跳速 走速 走費 跳費 浮費 防費 近接 射撃 ♦攻 ♦防 リキャスト リロード 溜時間 溜倍率 射程 弾速 弾数 アクティブスキル 備考 フルストゥ・クレイン ストラーフ N 245 0 20 0 78 0 0 23 17 0 88 44 0 0 50 0 0 -50 0 0 100 0 30 9 ピアスドナイトメア攻撃力アップ 複数の投刃を投げて攻撃一定時間攻撃力を上げる R SR UR 棘輪 ハウリン N 231 0 0 30 48 0 0 23 17 0 88 44 0 0 50 0 0 0 0 0 100 0 30 9 攻撃力アップ 一定時間攻撃力を上げる R SR UR 大手裏剣"白詰草" フブキ N 230 5 0 0 77 0 0 46 32 20 176 44 20 0 0 50 0 0 0 0 0.6 0.2 100 0 0.2 30 9 攻撃スピードアップ 一定時間攻撃速度を上げる R 275 5 0 0 101 SR 309 5 0 0 125 UR 400 5 0 0 197 大手裏剣"蓮華草" フブキ N 215 30 20 0 77 0 0 46 32 20 176 44 20 0 0 50 0 0 0 0 0.6 0.2 100 0 0.225 30 9 全員スピードダウン 一定時間全員のスピードを下げる R 260 30 18 0 101 SR 294 30 16 0 125 UR 385 30 14 0 197 大手裏剣"白詰草"(金) ミズキ N 215 60 20 0 77 0 0 0 17 0 176 44 0 0 0 0 0 0 0 0 0.6 0.2 700 264 0.225 30 9 全員スピードダウン 一定時間全員のスピードを下げる R 260 60 18 0 101 SR 294 60 16 0 125 UR 385 60 14 0 197 大手裏剣"蓮華草"(金) ミズキ N 245 5 20 0 77 0 0 0 17 0 176 44 0 0 0 0 0 0 0 0 0.6 0.2 700 264 0.2 30 9 攻撃スピードアップ 一定時間攻撃速度を上げる R 290 5 18 0 101 SR 324 5 16 0 125 UR 410 5 14 0 197 ディーカヤコーシカ ストラーフmk2 N 235 0 0 0 78 30 0 23 17 0 88 44 0 0 0 0 0 0 0 -44 100 0 15 9 攻撃スピードアップ 一定時間攻撃速度を上げる R SR UR リジル[A] 紗羅檀 N 235 0 0 0 69 0 0 -10 17 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 35 -100 0 15 9 防御力ダウン 一定時間対象の防御力を下げる R SR UR ディーカヤコーシカ/L ストラーフmk2ラヴィーナ N 240 0 0 0 58 30 0 23 17 2 0 44 2 0 0 0 0 0 -88 -44 100 0 15 9 攻撃スピードアップ 一定時間攻撃速度を上げる R SR UR フルストゥ・クレイン[15th] ストラーフ N 225 15 15 15 63 15 15 66 47 15 0 0 15 15 15 15 0 15 -88 -88 115 0 30 9 ピアスドナイトメア15周年おめでとう! 複数の投刃を投げて攻撃一定時間弾速・射程を上げる R SR UR 回復ポッド スティールクロニクル N 160 0 0 0 78 30 -100 23 17 0 0 0 0 0 0 0 0 0 -88 -44 100 -792 0 2 体力回復 体力を回復する触れるとダメージを与えるドームを足元に設置するドームに敵が触れるとダメージ、味方が触れると回復ドームは時間とともに縮小する R SR UR 燃焼ポッド スティールクロニクル N 260 25 0 0 78 30 -100 23 17 0 0 0 29 0 0 0 0 0 -176 -44 100 -792 0 2 攻撃スピードアップ 一定時間攻撃速度を上げる触れるとダメージを与えるドームを足元に設置するドームは時間とともに縮小する R SR UR バニートレー Silver ver. イベント N 240 0 0 0 48 30 0 23 0 3 0 0 0 0 0 0 0 0 0 -88 100 0 15 9 攻撃スピードアップ 一定時間攻撃速度を上げる R SR UR バニートレー Gold ver. バニーミラージュ N 231 0 0 0 48 0 30 86 0 7 0 0 0 0 0 0 0 0 -88 0 100 0 50 9 全員スピードダウン 一定時間全員のスピードを下げる R SR UR ウェディングブーケ[B] ウェディング N 209 0 0 0 48 30 30 23 0 3 0 0 0 0 0 0 0 0 88 -88 100 0 50 9 攻撃力ダウンHappy wedding life♡ 一定時間対象の攻撃力を下げる祝福のウェディングケーキが落ちてくる装備条件 親密度120 R SR UR ウェディングブーケ[B]Pink ver. ウェディング N 240 0 0 0 48 0 30 23 0 3 0 0 0 0 0 0 0 0 0 -88 100 0 50 9 状態異常スタンHappy wedding life♡ 敵全員にスタン攻撃をする祝福のウェディングケーキが落ちてくる装備条件 親密度120 R SR UR ウェディングブーケ[B]Green ver. ウェディング N 255 0 0 0 48 -10 0 0 0 3 0 0 3 3 3 3 0 0 0 -88 103 0 50 9 ホーミング性能アップHappy wedding life♡ 一定時間ホーミング性能を上げる祝福のウェディングケーキが落ちてくる撃破♦自動回収50~200装備条件 親密度120 R SR UR アップデート履歴 日時:2022.9.06 内容:コンボ毎に威力が増加する仕様を追加。 日時:2021.10.08 内容:新規実装 コメント 名前 コメント
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人物紹介 敵役編 人物紹介 敵役編エンプレス トワイライト ケイン フォークロア ヴァイス スノウホワイト 鎌瀬 ケンタロウ(かませ けんたろう) エンプレス 愛称:不明 タイプ:アーンヴァルEX 通り名:不明 全身を漆黒の甲冑に包む神姫。 その正体は限定タイプのアーンヴァル。 通常の外出時には黒いスーツ姿にライトフレームの眼鏡を掛ける。 マスターの概念を持たないエラー品と思われ、人間を軽蔑し 嫌悪しているフシがある。 目的は不明だが、強力な神姫を強奪したりバトルに乱入し実験を 行なっている辺りから、武力によるなんらかの目的達成を考えて いるものと思われる。 13のマシーンズコアとジェネレーターを内蔵した黒い甲冑《ブレイド》を装備。 醒剣ブレイラウザーと重醒剣キングラウザーを武器に、ラウズカードと呼ばれる カードを起動キーとして鎧のギミックを発動する。 膨大な演算能力を誇り、その甲冑自身による制御で限界を超えた反応速度を持つ。 ◆ジャックフォーム 左腕のラウズアブゾーバーにQueen、Jackのカードを装填する事で発動する 強化形態。 変化する部位は ・背部スラスターが展開しプラズマウイングを展開。飛行能力付加。 ・廃熱の為にアーマー各部発光。併せてアーマーセンター部に鷲のハイグレード シンボル出現。 ・マシーンズ増加刃「ディアマンテエッジ」をブレイラウザーにマウント。 攻撃力、出力、制御力を拡張。 ・エネルギーフィールドを発動し防御力アップ。 以上。 現実空間内での最大強化形態。この形態を取る事で能力が飛躍的に向上する。 ◆キングフォーム 左腕のラウズアブゾーバーにQueen、Kingのカードを装填する事で発動する 最強形態。 変化する部位は。 ・廃熱の為にアーマー各部発光。 併せてアンデッドクレストを模したシンボルが全身に出現。 アーマーセンター部にコーカサスビートルのハイグレードシンボル出現。 過剰廃熱によりエネルギーの陽炎が発生。 ・マシーンズブレイド「重醒剣キングラウザー」を召喚。 ラウズシステム機能拡張。 ・エネルギーフィールドを発動し防御力アップ。 以上。 アーマー各部に搭載された13のジェネレーターを直列稼動させる事で爆発的なパワー を発揮するが、現上の規格・素材ではその物理的な負荷に耐えられない。 現実空間で使えば1分余りで自壊する破滅の力。 物理的制約を受けない仮想空間上ならその限りではないが、それでもデータフローや 過剰エネルギーの問題は残る為、10分も使用すれば機能停止は免れない。 このように多大な制約を受ける武装としては欠陥品に近い仕様のシステムだが、 一時的にとは言え規格外の効力を発揮するその力は絶大。 エンプレスの文字通りの切り札であり、諸刃の剣でもある。 トワイライト 愛称:不明 タイプ:サイフォス 通り名:黒騎士 エンプレスに従う騎士型神姫。 生真面目で実直、忠誠心に厚いタイプ。 ノーマルなサイフォス装備を黒と白で塗った鎧を装着。 通常外出時は男物のスーツを着る。 どういう経緯でエンプレスに従って居るのかは不明だが、従者として まさに手足として働く。 エンプレスに信仰にも近く傾倒しており、名誉や誇りより主の実を取る。 武装は無銘の騎士剣のみ。 剣術家としての能力は高く、剣一本で他の近代兵器と渡り合う戦闘力は 目撃した者には語り草になっている。 ケイン フォークロア 性別:人間・男 通り名:無し 愛称:ドク エンプレスに付き従う人間。 年若い白人の青年で、金髪碧眼。 服装は場所場所に浮かない程度で変えるが着こなしはラフ。 つかみどころの無い飄々とした雰囲気で、エンプレスに対しても親愛に近い 忠誠を持って接し、物怖じする様子は無い。 高い設計開発能力を持つらしく、エンプレスの下で彼女の為に様々な開発を 請け負う。 ギミックアーマー《ブレイド》の開発者でもあり、海外在住のオタク。 日本に虚実入り混じった幻想と憧れを抱いている。 エンプレスに従う経緯は現在のところ不明。 ヴァイス 名前:本名不詳 性別:人間・男 通り名:ヴァイス 白の名を持ち、神姫を使って仕事を行う謎の怪盗。 出自などの詳しいプロフィールは不明。 怪盗稼業は趣味であり娯楽。 独自のポリシーとプライドを持って楽しんでいる。 言動は人を小馬鹿にした感じでキザったらしい。 自意識過剰。 常に、興味を惹かれるような対象を捜し求めている。 怪盗としては高いスキルを持つ。 スノウホワイト 愛称:ユキ タイプ:フブキ 通り名:不明 怪盗の使う主同様に白い神姫。 独自の武装というか仕事用ツールを全身に搭載している。 性格は無口でクール。与えられた役割を着実にこなす。 空気循環システムを利用した圧縮噴射機構で瞬間的に超加速が可能。 機体特色である精密動作とスピードを生かして行動する。 鎌瀬 ケンタロウ(かませ けんたろう) 性別:人間・男 通り名:特になし ある広域暴力団の下部構成員。 シノギの一環として神姫犯罪担当になったのが運の尽き。 Gほか大勢にことごとく悪事を潰される事になる。 なかなかの活躍ぶりだったとは思うが名は体を表すを地で行き 噛ませ犬のままステージアウト。 頭の病院にお世話になるハメに。 最近の口癖は「神姫が俺を殺しに来る」 性格は…噛ませ犬? とりあえずズルくて小物で性格悪くて頭も悪い。 そこに惹かれないし憧れない、どっちかというと失笑する。 能力はぶっちゃけ無能。 能力のある者を利用して事を運ぼうとするが管理能力も無いから しっぺ返しを食らうのだ。 皆もこんな大人にはなるな。 メニューへ
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『13km』-1/3 これから君に戦ってもらうのは、君のようにテンプレートに沿った改造をなされた神姫とはワケが違う。 七人が七人とも天下無双の変わり種だ。 いや、決して君の悲願達成の障害を強固にしようというわけではいよ、本当だ。 神である僕が神に誓ってもいい。 何故かって君、ありきたりな武装でありきたりな攻撃をしてくるありきたりな神姫なんて、いくら倒したところで何の御利益もないと思わないかい? つまり君の願望はそれほど、普通じゃないということさ。 恨むなら自分のそれを恨むんだね。 しかし相手が普通じゃないということはある意味、君にとって幸運と言えるのかもしれないぞ。 あくまで凡百レベルでしかない君が、例えばだが、全武装神姫の上位互換であるアラストールやキュクノス、それにジャスティスに勝てると思うかい? そう睨むなよ、君に限った話じゃない。 他の神姫だって、特別なものを持っていなければ単純な性能差で押し切られるさ。 多少の小細工など圧倒的なステータスの前には無力なものだから。 そこは君、様々な思惑を含んだ値札を付けられ、人に買われる身である神姫に生まれた以上、割り切るしかない。 ところが、だ。 僕がこれから提示する七人の神姫は、そんな万能と呼べる神姫から遠くかけ離れている。 一点特化、というやつだ。 ある方向に圧倒的な伸びを見せ、逆にその他はまるでからっきしというわけさ。 どうだい、僕の慈愛に溢れた優しさが分かっただろう、君は実に運がいいな。 ……分からない? まったく、神というものは理解されないのが常だが、優しく差し伸べた手すら気付いてもらえないとなると考えを改める必要があるな。 もし僕がアラストール型を七人倒せと言ったら君、いったいどうするつもりだ。 深く考えなくてもいい、どうすることもできないのだから。 装備を揃えたり経験を積むことくらいはできるかもしれないが、相手だって君と同じように時間を過ごすだろうし、君のマスターは貧乏だし、それに愛しの彼は君が強くなるのを待ってはくれない。 だからそう睨むなって。 もう一度言うが君は幸運なんだ、ラッキーだ。 なにせ相手は特化型だ、然るべき対策を打てば凡百である君にも勝利の可能性が見えてくる。 勿論、特化型の強さは並大抵のものじゃない。 ぶっちゃけノーマルのアラストールやキュクノス、ジャスティスなんて相手にならないだろう。 しかし付け入る隙がおおよそ見当たらない万能型より、隙だらけの特化型のほうが倒し易さという意味でなら、楽な相手だと思わないかい。 まあそれに、普通のバトルならその辺の神姫センターに行けば飽きるほど見られるのだから、僕を楽しませる意味でも君には特化型を相手して欲しいんだよ。 それもまた、願い事を叶えてくれる神様への供物、ってところさ。 さて、前置きはこれくらいにして。 記念すべき駈け出しの相手は、これもまた僕からのサービスなのだが、特化している部分が非常に分かりやすい。 呼び名が『13km』と言えば、どんな神姫か想像がつくだろう。 つかない? なに、あんなに有名な刀を君は知ら……ああそうか、あの漫画は三十年以上前のものだったか。 これはいきなり人選を誤ったか……。 いや、君は気にしなくていい、説明してやろう。 簡単に言うと、彼女はとてつもなく長いビームソードを持っている。 13kmというのはあくまで人間の大きさに換算したものだから、実際にはその1/12しか伸びないということになるが、それでもステージの端から端まで届いてなおかなりの余裕がある。 無駄? そんなわけがないだろう、13キロという数字にこそ意味があるんだ。 フン、元ネタを知らない君からすれば0.00005キロで十分とでも言うんだろうけどな。 まあいいさ。 あるマイナーな神姫チームの中で『第三デスク長』とも呼ばれている彼女と一度でも戦ってみれば、そのビームソードがどれだけ恐ろしいものか理解できるだろうさ。 いや、理解する時間すら与えてもらえないか。 せいぜい開幕と同時に胴体を真っ二つにされないよう気をつけることだね。 ◆―◇―◆―◇―◆―◇―◆―◇―◆ 神姫にだってヒトのような心があるんだから、ヒトにヒトメボレしたって何もおかしいことはない。 何もおかしなところのない夢見る乙女だ、恋の一つや二つくらい許されて当然だと思う。 私の取扱説明書に「神姫が他の男性に一目惚れしないようご注意下さい」とは書いてないんだし、ルール違反でもない。 などなど……などなどなど。 他にもいろいろと言い訳を考えてはみたものの、やっぱり言い訳は言い訳でしかなくて、クレイドルの上で夢の世界に旅立つこともできず、枕を抱きしめて悶々とするばかりだった。 6日前のこと。 私――飛鳥型ストライクウィッチカスタムのホノカさんは、不覚にもとある男性に一目惚れしてしまった。 不覚も不覚、まったくの不覚。 それは本当に一瞬のことだった。 ◆――――◆ その日は神姫センターのエアコンから良い風でも吹いていたのか、妙に調子が良くて、見事三戦快勝、私の愛機セイブドマイスターは面白いように相手を撃墜していった。 いつもは勝っても負けても三戦したら必ず帰るのに、自分が戦ってるわけでもないのに調子に乗ったマスターは、もう一戦やる、とか言い出した。 まあ、私だって少しばかり気が大きくなっていた。 勝つ時は大勝ちして負ける時は大負けしてしまう私の性質上、できる時に勝利の美酒を貯めこんでおきたい気持ちもないでもなかった。 ちょっと強そうな相手を物色しつつ、ひとつの筐体の中をそれとなく覗いた時だった。 そのアルトレーネは私の目をきつく縫いつけた。 長い髪をポニーにした以外、装備も装飾もありきたりな戦乙女。 なのに、その戦騎は一際強く光り輝いていた。 「ぜやあああああああああっ!」 槍を構え、銃弾の嵐の中を怯まず押し通るその戦い方は、私とは真逆に位置する――そのはずなのに、気がつけば、彼女の動作を一つでも多く目に焼き付けようと、目を見開いていた。 白い頬を銃弾が掠め、ポリゴンとなって分解されていく。 それでも彼女は止まらなかった。 運悪く副腕の最も脆い可動部に銃弾が当たり破損し、片方が千切れ飛んだ。 それでも彼女は止まらなかった。 彼女のことだけを見ていたのに、対戦相手の表情が手に取るように分かった。 あるいはその表情は、彼女と相対した私を想像したものかもしれなかった。 自身が持つ火力では彼女の道を遮ることはできない――どうしようもない恐怖に表情を引きつらせたまま、彼女の槍に胸を貫かれた。 試合が終わって、彼女達を模していたモデルが消え去っても、まるで真夏の太陽を凝視してしまった時のように、視界に焼き付いた戦乙女の姿は消えなかった。 あの時の感覚は今でもハッキリと胸に残っている。 強いて言葉で言い表すとすれば、【心が燃えた】。 彼女と戦うことがバトルの全てのように思えた。 彼女を倒すことがバトルの全てのように思えた。 筐体から出てきた彼女に気づいて、実力差や勝算のことなんてまったく考えず、ただ本能に従って彼女に勝負を挑みに行った。 そして彼女のマスターに話をつけようとした時――CSCをズッキューン! と撃ち抜かれた。 一目惚れ、というより一撃必殺だった。 髪は短く、理知的な顔立ちに細長のメガネがよく似合っていた。 全体的に線は細めで、服装には清潔感があってとても好印象だった。 や、好印象という言葉はなんだかわざとらしいか。 一目惚れしたんだし。 むしろ超印象だ(?)。 その姿が私のマスター……若くしてハゲ散らかした豚の真逆だからかもしれないけど、まさか神姫に自分のオーナー以外に惚れてしまう機能があったとは、この時まで考えもしなかった。 (念のため言うけど、私はマスターに惚れてない。神に誓って言う) 燃えていた心がトクンと高鳴った。 真っ赤に染まっていた心がピンク色に塗りつぶされた。 そして気がつけば、胸にあの槍が突き刺さっていた。 今度は幻覚などではなく、実物が、ザックリと。 挑んだバトルはとっくの昔に始まっていて、ハッと目を覚ますと同時に終わっていた。 「あれほど無抵抗に私の槍を受けたのは、あなたが初めてだ」と後でハルヴァヤに呆れ顔で指摘された時は、恥ずかしくて死んでしまいたくなった。 帰り際、醜い豚もといマスターにせがんで、髪を長くしてもらった。 勿論ハルヴァヤと同じポニーテールにするためだけど、不本意ながらマスターに妙にウケた。 なにが「飛鳥に黒髪ロング……ゴクリ」だ。 ◆――――◆ 明日、日曜日。 ハルヴァヤにリベンジする約束をしているのだけど、それすらあの人に会うための口実になってしまうことが恐ろしかった。 恋に落ちたあの日以来、寝ても覚めてもあの人のことしか考えられなかった。 あと一度の夜を超えたら、あの人の前で戦わなきゃいけない……だというのに、まだセイブドマイスターのメンテにすら手がつけられないでいる。 いやいや今から整備しろよと自分にツッコミを入れたくなるけど、ここ最近の寝不足がたたって瞼は銀行のシャッターのように無情にも落ちていく。 そして目を閉じてしまうと、暗闇にあの人の姿が浮かび上がってきて、再び目を覚ましてしまう。 その繰り返しだった。 「ふう……」 ダメだ、何もできない。 こんなことじゃあの人だけでなくハルヴァヤにも愛想を尽かされてしまう。 あの二人に『戦う価値なしの雑魚』だなんて思われたら私は、もう生きていけない。 再び瞼の裏に現れたあの人が、私に背を向けて遠ざかっていく。 肩に腰掛けたハルヴァヤは私に冷たい一瞥をくれたまま、あの人の耳元に何かをささやいた。 時 間 の 無 駄 だ っ た な いやだ、行かないで。 強くなるから、なんでも差し出すから。 なんでもするから、私のことを見捨てないで。 お願い神様、あの二人を遠ざけないで――! 「呼んだかね」 「ひぎゃあ!?」 いきなり耳元で声を出されて、驚いた拍子に尻がすべり、クレイドルの手すりに側頭部をゴツンと強かにぶつけた。 できるはずもないタンコブを手で探しながら顔を上げると、隣にいつの間にか、白い体に私と同じくらい長い金髪の神姫が立っていた。 パッと見だと、その神姫がオールベルンだとは分からなかった。 フロントラインのホームページに掲載されている姿形そのままなのに、人をおちょくったような雰囲気は私が知る剣士型とはかけ離れていた。 くりっとした丸い目は整っているはずの顔のバランスを大きく損ない、薄気味悪く笑みを浮かべた口元からは八重歯なんてのぞいちゃっている。 「ハハッ! うん、いいねいいねその反応。近頃は誰も彼もが神を見ても驚かないから、いよいよ世間の凡俗が超常にまで侵略しつつあると危惧していたんだ。しかし君のその豆鉄砲をくった鳩のような顔――うん、気に入った。次は君の願い事を叶えてやるとしよう」 これが、神様を自称するオールベルンとの出会いだった。 「おいおい、ガッカリさせないでくれよ。神を信じたんじゃなかったのか」 大袈裟に額に手を当てたオールベルンは「オゥマイガッ」と仰け反った。 神様を自称する奴が OhMyGod なんて言うもんだろうか、いや言わない、絶対言わない。 「さっきはあんなに驚いてくれただろう」 「そりゃ、真夜中にいきなり側に誰か立ってたら驚くでしょ、普通は」 私も自称神様も声を落とす気遣いはしなかった。 ゴーゴー寝てる豚マスターはちょっとやそっとじゃ起きやしないから。 「じゃあアレか、君は特別叶えたい願い事がない、どころか神の存在を信じもしないで僕のことを呼んだって言うのかい」 「私が呼んだ? あんたを? いつよ」 「さっき『お願い神様』って言っただろう」 「言ってない。心の中で思ったけど、口には出してない」 「やれやれ、分かってないなぁ」と手を広げて首を振るコイツは多分、日本一ムカつくオールベルンだと思う。 眉を八の字にして小馬鹿にしたように溜息をつく姿は、電気が消えて薄暗い部屋の中でも無駄に強く自己主人張してくる。 「神っていう存在は、下々の心の奥底の願いを聞き届けてやるものなんだぜ。暇つぶしに」 「誰が下々よ。あんただって普通の神姫じゃない。鏡見たことないの? どこからどう見ても店の棚に陳列されたオールベルンと変わりないじゃない」 「この姿もわざわざ君に合わせてあげたのに。いや、武装神姫なら何でもよかったんだけど、このオールベルンは実に素晴らしい造形をしているじゃないか。まさにスワン・レイク! ワルツ・ワーズ・ワイト! って感じだと思わないかい。できれば赤い個体のほうが良かったんだけど、聞けばアレは限定品らしい。君の飛鳥型も品薄商法の煽りを受けて同型の仲間が増えないんだろう。自他共に認めるトップランナーであるフロントラインがこの体たらくじゃあ、武装神姫の将来は明るくないな」 「わざわざ真夜中に不法侵入しといて何? ネガキャン? もう帰ってよ、明日は忙し……ふぁ~あ」 ひとつ大きな欠伸が出た。 明日は絶対に、こんなはしたない真似をするわけにはいかない。 ましてや「全神姫の中で最もお人形さんのようだ」と言われる飛鳥型なんだから、そのイメージをよりにもよってあの人の前で崩していいわけがない。 「ほうほう、忙しいと。それはもしや、この僕を呼んだことと関係が?」 「だから呼んでなんて……そうよ、その通りよ、誰でもいいから何とかしてほしいわよ。明日はどうしてもちゃんと戦わないといけないの。早く寝ないといけないの。分かる?」 「その割にはこんな時間まで起きてたじゃないか」 「だから眠れないって言ってんでしょ!」 募ったイライラが、ついに爆発した。 枕を掴んで、オールベルンに投げつけた。 部屋の外に響くくらい叫んでしまったけど、マスターは寝返りをうっただけで起きる気配はない。 喉から溢れるように出てくる不安は止められなかった。 「明日のバトルは何よりも大切なの! 勝てなくても絶対ちゃんと戦わないといけないのに、あの人のことばっかり考えてたせいで眠れなくて、ハルヴァヤの期待にだって答えなくちゃいけないし、なのに銃の整備もストライカーの調整もやってない!」 「――ふむ」 「リベンジ申し込んどいて最悪のコンディションで挑むなんて、嫌ってくださいって言ってるようなもんじゃない! バカじゃないの!? 何やってるのよ私、こんな……こんなことならバトルの前に自動車に踏み潰されたほうがマシよ!」 「つまり、君は明日のバトルまでにコンディションをベストの状態にしたいんだな」 「だったら何よ! あんたがなんとかしてくれるっての!?」 「その通り!」 パン! と目の前で空気が弾けた。 自称神様が前髪に掠るような距離で手を叩いた――つまり猫騙しをしたんだけど、その音に対して驚いた直後、唐突に強烈な睡魔に襲われた。 魂を抜かれたように力が抜けて、カクンと膝が折れて身体が真っ直ぐ崩れ落ちた。 「僕は神の中でもサービス精神に溢れた性質でね。初回限定サービスだ、君の願いを無条件で叶えてやろう。いやはや君は実に運がいい」 自称神様が何か言ってるけど、最後のほうはほとんど聞こえていなかった。 文字通り電源を切られるようにプッツリと、私の意識は途切れた。 ◆――――◆ 仮想とはいえ確かな実感を持った身体に生まれ変わる瞬間の不思議な感覚は、もうマスターに起動されて随分時間が経つけれど、未だ慣れる様子がない。 ストライカーユニットの先端まで実体化されると同時にエンジンを起動させた。 プロペラが滑らかに滑り出し、着地寸前だった砂を巻き上げる。 ストライカーが地に降りる前にホバリングできたのは生まれて初めてだった。 それも不安定に空中でふらつくのではなく、ほとんど立っている時と同じように安定している。 脚に伝わる振動はいつもの半分もなくて、代わりにまるで翼を得たような高揚感を伝えてくれる。 空戦型が持つには二回りほど大きく長いライフル、セイブドマイスターのセイフティを解除してハンドルに手をかけると、驚くほどスムーズに引くことができた。 ガシャコッ、と初弾が装填される音もいつもより小気味良い。 おまけに体は睡眠不足による気だるさどころか、活力に満ち溢れていた。 指の一本一本から頭のピンと尖った耳の先、尻尾のフサフサの毛に至るまで回路が通っている感覚を明確に掴める。 自分が持つ本来の性能を、これほど明確に把握できたことはなかった。 「これが……私、なの?」 続々と新型の高性能な神姫が出てくる度に嫉妬していた自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。 ちゃんとコンディションを整えれば、私だって、これほどまで素晴らしい性能を発揮できる。 昨日眠っていた間に、あのオールベルンはいったい何を――。 「神姫三日会わざれば刮目して見よ、とはよく言ったものだ。先週とはまるで別人だ、一目見ただけで分かる」 砂嵐の向こう、ハルヴァヤの声は熱砂に焼かれてなお涼し気だった。 「いや失礼、その前に言及すべきかな――髪型、変えたのか。ええと……」 「私はホノカ。髪はあなたを真似したんだけど、気づいてもらえてよかった」 「真似を? どうして私なんか、これは邪魔にならないよう縛ってるだけだし、他にもっと洒落た神姫は沢山いるだろう」 「もしかしてハルヴァヤ、あなた野暮天?」 「……ははっ、昨日同じことを言われた。そんなつもりはないが、でも勘違いはされやすいな。私はあなたが想像するほど規則正しい性格をしていないんだ」 照れ隠しに笑うハルヴァヤはすごく可愛かった。 こうして対等に喋っていることが信じられなくて、自分が自分ではない別人のように思えてくる。 こんなにも気軽に言葉が出てくるのなら、自分の知らない自分になることも面白い。 ハルヴァヤも、私が勝手に持っていた堅物の印象より随分と気さくだ。 遠くから見ていた時は、刃のような鋭い眼差しと不屈の闘争心に見惚れるだけだった。 でも、こうして歩み寄ることで見えてくるものがある。 私の髪の変化に気づいてくれるハルヴァヤ。 照れ笑いをするハルヴァヤ。 もっと、引き出したい。 この神姫のありとあらゆる表情を引き出したい。 差し当たっては――。 「さあ、そろそろおしゃべりの時間は終わりだ。ホノカ、君はリベンジだと言ったな。悔いのない勝負にしよう」 敗北して悔しがるハルヴァヤはどんな表情を見せてくれるんだろう。 ゴーグルをかけ、私に向かって一直線に構えられた槍と揃えるように、スターのバレルを構えた。 距離は十分離れているはずなのに、ナイフを互いの喉元に突きつけ合っているような緊張感。 「隙あらば伐つ」と彼女の目はハッキリとそう言っている。 きっとこれが、私の遥か先にいる彼女のステージなんだ。 流行る気持ちがトリガーにかけた指を勝手に動かしそうになる。 アルトレーネの分厚い装甲でも、この弾丸は防ぎきれない。 でもそれだけじゃハルヴァヤには届かない。 だからセレクターレバーを切り替えた。 力がみなぎってくる今のコンディションなら、マスターがロマンが云々言いながら付属した、余計極まりなかったフルオートも活かせる。 スタートの合図が耳に届いた。 「「 いくぞ! 」」 重なった声を皮切りに、砂嵐はいっそう強くなった。 『13km』-2/3 トップへ
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出会い&登校2 アンジェラスの視点 遅刻にならないように、軽く走り続ける私達。 先頭はクリナーレがランニング気分で走っている。 あの子は何でも楽しむような思考回路してるから少し羨ましい。 それに比べて私はいつも気苦労ばかりで疲れる一方。 今日だってそうです。 いきなりシャドー=アンジェラスが出てきたり、いきなり遅刻になりそうになったり…。 いやいや、こんなネガティブな気持ちじゃ高校生気分を味わえません! 何事にも前向きに考えなければいけない! 私がそう決意した時、クリナーレがちょうど十字路に差し掛かった。 その時だ。 ドンッ! 「ウワッ!?」 「……むぎゅ」 クリナーレが誰かとぶつかりました。 あーもう、前方不注意ですよ。 「これで相手がパンを口に銜えていて、尻餅をついてドライがウッカリ相手のパンツを見てしまったら、まるでラブコメみたいね♪」 シャドーが何処かの漫画にでてきそうなシチュエーションを言う。 ていうか、そのシチュエーションは古くない? それにラブコメなのかなぁ? 更に言えば百合になっちゃうよ、クリナーレは女の子だし、相手の声からして女の子だし。 …今思えばなんで武装神姫には男性がいないのでしょうか? って、そんな事を考えてる場合じゃありません! 倒れた女の子を大丈夫かな! 「大丈夫ですか!?」 私は女の子に近づき喋る。 ぶつかってしまった女の子はクリナーレと同じ悪魔型ストラーフ。 白黒のブレザーを着ていて無表情。 「……痛かった」 そう言いながら立ち上がるストラーフ。 …あれ? 何処かで会った事があるような気がする。 「大丈夫ですか? アイゼン」 「そちらの方も、お怪我はありませんか?」 他の人も居たみたい。 犬型ハウリンと砲台型フォートブラッグでした。 彼女達は青色のブレザーを着ていてストラーフに対して心配そうに接する。 それに思い出しました、アイゼンは前にバトルした事がある神姫でした。 バトルは残念ながら途中で私は気を失ってしまい、気がついたら負けていました。 「あなたは確か…アンジェラスでしたっけ?」 「あ、え~と、サラ…ですよね。こんにちは。七瀬都さんの妹の神姫ですよね?」 「一応そうです。あなたとは少ししか会っていませんが」 砲子のサラ。 前回の企画でバトル参加した神姫。 あの時のバトルでは顔しか会わせていませんでしたが、サラは私の事を覚えてくれてたみたいです。 なんだか少し嬉しいです。 「ところでサラ、アイゼンと犬型ハウリンは誰ですか?初めて会うお方だと思うのですが」 私が視線を変えながら言うとサラは察してくれたのかニッコリ笑って答えてくれた。 「紹介します。こちらのストラーフはアイゼン、あとその犬型はそのまんま犬子ですね」 サラが私達に二人を紹介していく。 こちらも紹介した方がいいのかな? 「お願いします。正直ハルナから何も知らされていないのですよ。…まったく、ハルナもハルナです。いきなり都にわたしごと強制連行されて、その挙句がこんな状況ですし…帰ったらシュールストロミングの刑ですね」 「シュールストロミングの刑…ですか…。あ、では今度はこちらから紹介していきますね」 私は軽くクリナーレから順に紹介していった。 …。 ……。 ………。 そして最後のシャドー=アンジェラスの順番になって紹介に困った。 彼女あまりにも危険な存在。 どー皆に説明したらよいのでしょうか? 「アタシ自ら紹介するよ♪コッホン…どーもこんにちは♪♪アタシはもう一人のアンジェラス、シャドー=アンジェラスでーす♪アンジェラスという名前が二人いるからシャドーって呼んで」 バシン! 突如と響く拳を受け止める音。 シャドーの自己紹介中にアイゼンが左ストレートパンチをはなったのだ。 それを軽やかに受け止めるシャドー。 アイゼンの無表情が少しだけ変化し怒ってるように見える。 「お久しぶり~、アイゼンちゃん♪会えて嬉しいわ♪♪」 「……来るんじゃなかった」 場の空気が…険悪なムードなっていく。 このままでは駄目です。 折角の上機嫌のシャドーが不機嫌にでもなったらヤバイ。 この場に居る全員を惨殺しかねないですし、ここは私が張り込んで! 「あ~ん♪本当に可愛い♪♪抱きついちゃお♪♪♪」 「……むぎゅっ!?」 素早くアイゼンの後ろに回り込み抱き着くシャドー。 あ、あれ? 不機嫌にならない? というか…アイゼンに抱き着き、いい子いい子しながら頭を撫でています。 アイゼンも怒っていた表情から無表情になっています。 困った顔はしないのですね。 「アイゼン可愛いよアイゼン」 「……邪魔、……すごく邪魔……」 何処かで聞いた事があるセリフを言うシャドー。 とりあえず、ジャレついてるのなら大丈夫そうですね。 …アイゼンにはかなりお気の毒ですけど。 ごめんないさい、アイゼン。 「う~ん…」 「な、なんでしょうか?」 クリナーレが腕組しながら犬子さんを凝視する。 それに対して犬子さんはなにやら困り顔。 「ボクさぁ、前から思ってる事があるんだけどー」 「はい?」 「犬型と猫型はどうして尻尾を随時装備していないのかなぁ~と思うだよね」 そう言いながらクリナーレは犬子さんのスカートを捲くりあげる。 ちょっ、なにやっちゃってくれてるのよクリナーレ! 「ハワワワワッ!?」 いきなりスカートを捲り上げられた事によって犬子さんが驚愕する。 そりゃそうですよ。 誰だってあんな恥ずかしい事をされたらビックリしますよ。 ていうか止めなさい! 私がクリナーレを止めようとした瞬間。 「姉さんの馬鹿!」 「タワバッ!?」 クリナーレの妹、パルカが右踵落しをかました。 命中と同時にメリッという鈍い音が聞こえ、脳天を直撃した事によって地面に倒れ悶絶するクリナーレ。 それからパルカは踵落しをした後、捲くられたスカートを丁寧に戻し犬子さんに頭を下げる。 …たまに思うのだけれど、ときどきパルカの事が怖くなる。 いつもは怯えてるというか、ビクビクしてるけど非常時になる行動が大胆になりますね。 特に姉のクリナーレに対する行動が。 「パルカはあぁ見えてもヘタレのくせに度胸がありますから」 「…それ、矛盾してない?」 「それとお姉様、言いづらい事が一件あるのですが…」 「うん?何??」 「学校…遅刻しますわよ」 「…アアアアァァァァーーーー!?!?」 私が叫んだ事によって、皆が私を注目する。 私はすっかり忘れてた事をルーナに言われて思い出したのだ。 学校のことを…。 慌てて腕時計を見ると時刻は八時半過ぎになっていた。 「ヤバイ!みんな、談笑してる暇はないよ!!全速力で学校まで走りますよ!!!」 「因みに学校の方角はあっちよ♪」 私とシャドーが皆さんに伝えると一目散に学校へと走る。 「アイゼン、どっちが学校に先に着くかボクと勝負しろ!」 「……ん」 「ウッシャー!負けないぞ!!」 「……!!」 アイゼンとクリナーレは学校まで競走するみたい。 まったく、少しは遅刻の心配してよね。 「制服で走ると汗が出るからイヤですね」 「別に私は気にしませんけどね。…あぁ。そういえばハルナが気にしてましたっけ。夏場は胸が蒸れるとか」 ルーナとサラは仲良く喋りながら走る。 にしてもちょっと内容が生々しいよ。 汗とかさぁ…もっと女の子らしい会話をしてください。 「パルカさん、よろしくお願いいたします」 「あ、はい、パルカです!よろしくお願いします!!先程は姉さんが失礼な事をしてしまい申し訳ありません」 「いえいえ、気にしないでください。少し驚いたぐらいですから」 パルカと犬子さん達は普通に挨拶しながら走ってるから大丈夫でしょう。 うん、これが普通。 普通の会話だよね。 ルーナがおかしいのよ。 いきなり汗の話しをするなんておかしい。 サラに迷惑だと思わないのかな? 「迷惑だと思ってないんじゃないの♪」 空中を飛びながら私に言うシャドー。 本来なら筺体のプログラムによって飛べないはずなのですけれど、シャドーがプログラムを書き換えた事によって飛行を可能した、こんな所かな。 大方、シャドーの周辺だけ重力数値を変えて飛べるようにしたんでしょう。 ていうか、勝手に人の思考を読まないでよね! いくら同じ存在だからって、これではプライバシーもへったくれもない。 少しは自重しろって言いたい。 「飛んでるとパンツが見えるよ」 「見せたって減るもんじゃないしぃ♪アタシ達は素体なんだからパンツなんかはいてないじゃん、今はスカートをはいてるけど♪♪」 「羞恥心というものが無いの?」 「一応あるけど別にいいじゃん♪女の子達しかいないんだから♪♪」 「あーもう!私と同じ身体なんだから、私が恥ずかしいの!!ご主人様や他のオーナー達からも見られているのよ!!!」 「イィーじゃ♪マスターは見れて嬉しいし、他のオーナー達もアタシの魅力にメロメロ♪♪パンチラでポイントゲットよ♪♪♪」 「何がポイントゲットよ!ポイントなんか無いし!!と、とにかく降りなさい!!!でないと、無理矢理に私もネット能力を使って貴女を落としますよ!!!!」 「お~怖い怖い♪そういえば『私』は『アタシ』だもんね♪♪同じ能力が使えるの道理。分かったよ、降りるわ♪♪♪」 私が注意してるにも関わらずニコニコしてるシャドー。 本当はネット能力をシャドー並には使用出来ませんが、重力数値ぐらいのプログラムなら書き換え変える事ができます。 もしシャドーが降りて来なかったら即座に重力数値を書き換えて、地上に叩き落としてましたよ。 ズカーン、とね。 「酷い扱い。同じアインなのにね♪」 「だ・か・ら!私の思考を読まないで!!」 私は怒りながら地上に下りたシャドーの右手を掴み引っ張りながら走る。 シャドーと喋りながら走ってしまったせいで、他の皆より出遅れてしまい随分と差がひらいてしまっています。 …あぁ~あ、無事に遅刻せず学校にたどり着く事ができるのかな。 こんなにも先行き不安だらけで学校に向かう私は何処の世界を探しても…私だけじゃないのだろうか。 …。 ……。 ………。 一方、その一部始終を見ていたオーナー達は。 「「「「…………」」」」 沈黙を守っていた。 特に話す事も無く、ただ自分達の武装神姫が学生生活を見守るだけ。 けど一つだけ四人のオーナー達は一致した思いがあった。 それは…。 「「「「気・マ・ズ・イ・!(心の叫び的な感じに)」」」」 ただそれだけである。 「(c) 2006 Konami Digital Entertainment Co., Ltd.当コンテンツの再利用(再転載、再配布など)は禁止しています。」
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6th RONDO 『愛しています、私のバカマスター ~1/3』 携帯電話には携帯ショップがあるように、武装神姫にも神姫専門ショップが存在する。 神姫センターと呼ばれる店舗だ。 そこでは神姫やパーツの購入、検査、修理を行うことができ、またバトル用の筐体を初めとして様々な設備 (神姫 “で” 遊ぶためだけでなく、神姫 “が” 遊ぶためのものまである) が揃っている――らしい。 竹さん曰く、とにかく神姫のことで困ったらとりあえずここに立ち寄ればいいのだとか。 しかし、俺が神姫を購入する店としてボロアパートから比較的近いヨドマルカメラを選んだように、近所に都合よく神姫センターがある、なんてことはなかった。 (ヨドマルを選んだ理由は他に、姫乃と同じ場所で買いたかったとか、ポイントが貯まるとかそんなものだ) いくら神姫がそこそこの人気を誇るとはいえ、携帯ショップのようにどの町にも神姫センターがあるのかといえば当然そんなことはなく、主に新幹線が停車する主要な駅の側くらいにしかない。 だから、ボロアパートから徒歩十分の工大前駅、そこから電車で二駅のところに神姫センターがあるのはまだ良いほうだと言える。 ジャスコのような大型店舗がどーんと聳える代わりにゲームセンターもないような田舎だと、神姫バトルは専ら室内の手作りスペースで行われ、強者になると例え火の中水の中草の中森の中土の中雲の中姫乃のスカートの中 「ちょっ!? やめてよ!」 だろうとお構いなし、熱く燃えたぎるハートはお巡りさんに声をかけられるまで冷めることはないという。 よいこのみんな、こんなオトナになっちゃダメだゾ☆ さて。 勿論俺達が (主に姫乃が) 野外プレイなどという破廉恥な真似をするはずもなく、今は竹さん、または鉄ちゃんこと竹櫛鉄子さんの案内のもと、神姫センターへ向かっている最中だ。 用事はもちろん、神姫バトル。 俺の眉間に穴を空けたニーキにギャフンと言わせるための、復讐の輪舞曲。 俺に代わって悪魔に鉄槌を下す戦乙女は―― 「ふふっ、神姫センターってどんなところなんでしょうね! 楽しみですね、マスター!」 胸ポケットから顔を覗かせたエルは今朝からずっとこの調子で、大好きなアニメの劇場版を観に行く子供のようにはしゃぎっぱなしだ。 もうちょっと、ほんの少しでいいから緊張感というものを持ってほしい。 それに、せいぜい 15cm 程度とはいえその体の中にギッシリと機械部品を詰め込んだ神姫がポケットの中で動くと服が引っ張られて首が痛いのに、ご機嫌斜め上のエルはそんなことはお構いなし。 首も痛いが、周りの乗客の目も痛い。 「あーわかったわかった。 もうすぐ電車降りるからせめてそれまで静かにしててくれ (ひそひそ)」 「了解です。 ところで我がマスター (ひそひそ)」 「どうした我が戦乙女よ (ひそひそ)」 「私、マスターはてっきり “そういうこと” に無頓着な人だと思ってました (ひそひそ)」 「なんだよ、そういうことって (ひそひそ)」 「ここからだとよく見えるんですが、ちゃんと鼻毛の処理をしてるんですね (ひそひそ)」 「余計なお世話だ!」 「背比うっさい」 「はい……怒られたじゃねぇか (ひそひそ)」 「それはそうですよ。 電車の中ではお静かに (ひそひそ)」 「てめっ! こ、こほん…………後で覚えてろよ、全力でくすぐり倒してやる (ひそひそ)」 ヨドマルカメラの売り子として起動されたエルはほとんど店の外に出たことがなかったらしく、神姫春闘事件後の花見やボロアパートへ帰ってからはずっと、元から丸い目をさらに丸くして輝かせていた。 見るものすべてが珍しい。 目に映るものすべてが面白い。 その日の夜は唯一の所持品だったクレイドルも使わず 「今日はマスターと一緒に寝ます。 いいですよね」 と俺の枕元に横になり、タオルハンカチをかけて眠っていた。 そんなんで眠れるのか心配だったのだが、その一日はエルにとっては世界が変わるような一日だったからなのか、ベッドから落ちることもなく、ぐっすりとバッテリーが枯渇するまで眠っていた。 (一日動きまわった上にデータ整理にかなりの電力を食ったらしく、素のアルトレーネ型の抑揚のない声が耳元で 『バッテリー容量が不足しています。 すぐに本体をクレイドルに寝かせて充電して下さい』 と言った時は心臓が止まるかと思った) そういったわけでエルは今日が神姫センターデビューデイとなるのだが、このテンションの高さの理由はそれだけではない。 「ところでマスター、どうですか? 似合ってますか? (ひそひそ)」 「なーにが 『ところで』 だ。 いくら似合ってたって、そう何度も何度も同じこと聞かれちゃ 『似合ってない』 って答えたくなるぞ (ひそひそ)」 「こういう時は素直に 『似合ってる』 って言えばいいんですよ。 何度でも 『似合ってる』 って褒めちぎればいいんですよ (ひそひそ)」 神姫は基本的にマスターの好みで服を用意しなければ素体のまま過ごすことになり、“素っ裸”に見えないように素体にペイントが施されていたり細かいアクセサリが付属していたりする。 アルトレーネ型の場合は豊かな胸から臍より上の辺りまでを濃い青でペイントされ、首元と腕、脚はそれぞれ純白のカラー、ロンググローブ、サイハイソックスだ。 おまけにショーツはガーターベルト付きのようなデザインで、以上、その他の箇所は素肌を露出している。 ここまで挑戦的なデザインに加えて癖のある長い金髪は狙いすぎな感があるにもかかわらず安っぽい扇情さは無く、気品すら感じられるデザインには脱帽するばかりだ。 しかし今日のエルは一味違う。 いくらペイントが施されているとはいえツンツルテンな素体の上に、鉛色の革製ロングコートと、同色のブーツを纏っているのだ。 しかも驚くことなかれ、このコート、ただのコートではなくエルのためだけに作られた世界で一着の特注品なのだ。 ロングコートと言えば野暮ったく聞こえるが、素体の各所にあるくびれにフィットするよう作られているので、出る所は出て締まるところは締まり、よりアルトレーネ型の体のラインを強調している。 右腕の部分は何故か肩から先が無く、また左腕部の袖にはまったく意味を成さないベルトがぐるぐると五本ほど巻かれており、この左右非対称デザインに製作者の趣味が溢れ出ている。 足首まで伸びるスカート部は臍が十分見えるほど大きく前が開かれており、これがもし臍の下から開いているとエルがただの痴女になってしまうことも完璧に考慮されている。 このスカート部にもベルトがぐるりと数本巻かれており、さらに腰に二本、胸を上下に挟んで強調するように一本ずつと、とにかくベルトが多い。 エルがアルトレーネ型だからこそ着こなしているものの、これが他の神姫、例えばあの武士と騎士だったら……似合う似合わない以前に、顔が濃い…… 手に取ってまじまじと見るとその出来の良さに驚かされるばかりの逸品で、これが手作りと聞いたときはさすがに製作者の言葉を疑ってしまったのだが、睡眠時間を削りに削ったその製作者、一ノ傘姫乃の目の下の大きな “くま” はすべてを物語っていた。 (裁縫のことはサッパリ分からないのだが、姫乃の握力では革に針を通せないことくらいは想像がつく。 かなりパワフルなミシンとそれを扱う腕が必要なはずだが……) コートと同色のブーツは女性が好んで履きそうなものとミリタリーオタクが好んで履きそうなものの間を取ったようなデザインをしており、お洒落にもバトルにも使用できる優れものだ。 さすがにブーツまで手作りとはいかないものの、 「鉛色のコートに白の素足って、なんだか卑猥な感じがするの」 と姫乃がニーキのお下がりをプレゼントしてくれた。 これらを受け取って一式装備したエルはしばらくの間、調子の外れた鼻歌を歌いながら鏡の前でポーズをとるのに夢中になっていた。 ヨドマからクレイドルだけを持って俺のところへ来たため新品のアルトレーネ型が持つはずの装備すら持っていないエルに何か買ってやらないと、と考えていたのに、肝心の財布には生活費が残るのみで、単なるおしゃべりフィギュアと化していたエルを立派な武装神姫にしてくれたのが自分の彼女だという事実は、 「マスター! とってもいい彼女さんを持ちましたね!」 と満開の笑顔で言ってくれるエルの言葉と一緒に俺の自尊心をグリグリと抉った。 コートが完成したのは今朝のことで、朝九時頃にパジャマ姿で俺の部屋を訪れてエルに試着させて微調整を終えた姫乃はそのまま俺のベッドに倒れこんでしまった。 そのまま可愛らしい寝息をたて始め、服といえば第三のヂェリーTシャツだったエルがどんなにはしゃいでも、姫乃の寝顔鑑賞を邪魔するように竹さんが俺達を迎えに来ても、姫乃は午後二時まで身動きすらしなかった。 そして遅めの昼食を三人で済ませて今に至る、というわけである。 「傘姫大丈夫なん? まだ目の下がパンダっとるし、フラフラしよるけど、別に神姫センター行くのって今日やなくてもいいんやろ?」 「さっき十分寝たから大丈夫よ。 エルはせっかく今日を楽しみにしてたんだから連れて行ってあげないとね。 それに今日を楽しみに待ってたのはエルだけじゃないのよ。 ね、ニーキ?」 「……」 姫乃の今日も変わらぬカッターシャツの胸ポケットで大人しくしているニーキは何も言わず、車窓の外を眺めていた。 このニーキも、今日は素体のままではなく服を着ている。 これがまた姫乃オリジナルらしいのだが、その姿を見たときはエルのコートと並べて姫乃の趣味を少しだけ理解できたような気になった。 燕尾服である。 オーケストラの指揮者が着るような、読んで字の如く裾が燕の尾のような形をしたアレだ。 エルのコートとは違い大幅なアレンジは施されておらず (細かいこだわりはあるのだろうが、そもそも俺は燕尾服に詳しいわけではない)、取り外し可能な空色のツインテールがなくなってショートカットとなった悪魔型は男装の麗人型へと進化を遂げていた。 ニーキの冷静で淡々とした雰囲気と相まって、その端麗な容姿は華やかさを除けば宝塚のトップスターのようだと絶賛しても過言ではない。 ……俺が神姫を買うことに随分と抵抗してくれた割に、姫乃は神姫を男装させて眼の保養をしていたってわけだ、へぇそうなんだ、などと嫌味を言うつもりはないけれども。 男にだって嫉妬というものがあるのだと、彼女に知って欲しい背比弧域であった。 「ヒメに面と向かって言い難いのならば私が伝えておこう」 「やめろ。 そして俺の心を読むな (ひそひそ)」 「ほれ、二人とも電車降りるよ。 お~い傘姫生きとる? 寝たら死ぬぞ~」 姫乃のことを傘姫と呼ぶ女性、竹さんは姫乃の高校時代からの親友らしく、この少々独特な方言 (彼女曰く、北九州ベース博多アンド鹿児島アレンジなのだそうだ) はともかくとして快活な性格が外見にも表れていて、大学の益荒男共の評判はすこぶる良い。 いや性格が云々以前に、姫乃が “可愛さと美しさを足して2を掛けた” ような容姿ならば竹さんは “可愛さと快活さを足して1.5を掛けた” ようなものだ。 残り0.5は、身長こそ姫乃と大差無く俺の頭一つ分低いくらいなのだが、姫乃が持ち得ないシルエットのメリハリだ。 寧ろ益荒男共にとってはこの0.5が何よりも重要なのかもしれない。 短くサッパリとした髪に全身を春のシマムラコーディネートで固めていても何ら違和感がないのだから、その戦闘力は姫乃に一歩も引けをとら…… 「ん、どうしたの? 目のくま、そんなに変かな?」 ……いや、やはり姫乃のほうが圧倒的に可愛い。 アルティメットカワイイ。 ヒメノ型神姫とか発売されないだろうか。 いや、ここは竹さん風にカサヒメ型といったほうがそれらしいか。 「ほれ、あの建物。 まるまる一棟が神姫センターなんよ」 俺がカサヒメ型に自分のことを何と呼ばせてどんな武装をさせるか妄想を膨らませているうちに、何時の間にやら俺達一行は神姫センターの近くまで来ていた。 ――とりあえず、カサヒメ型の姉妹機はセクラベ型で保留としておこう。 神姫センター一階はさすが専門店というだけあって、ヨドマルとは比べ物にならない商品の充実っぷりだ。 客の相手をする神姫もヨドマルよりはるかに多く、ほぼ全種類の神姫が小さな体を元気一杯動かしているのを見ているだけで時間が過ぎてしまいそうだ。 「ほらマスター見てください! アルトレーネ型がいますよ! うわぁ隣にアルトアイネス型もいます! ちょっとお話ししてきていいですか? いいですよね! 行ってきます!」 勝手にポケットから棚に飛び降りたエルは完全武装のアルトレーネとアルトアイネスのほうへ走っていった。 そういえばエルは “動いているアルトレーネ” を見るのは鏡に映る自分を除いて初めてになるのだろうか。 今まで店員として働いていたエルが今日は客なのだからはしゃぐのも多めに見てやるが、あまりウロウロされると姫乃クオリティが目立って目立ってしようがない。 「あのアルトレーネのコスプレかっけー。 ここコスプレの服とかも売ってんのか」 「下の中古売り場にあるんじゃね? でもクソ高そー」 「うわまた懐かしいものを。 なんだっけあのコート。 ほら、三〇年くらい前のFFの」 「クラウドでしたっけ? 流行りましたねーあれ。 でも似てますけどコートは着てなかったような」 まあ、褒められて悪い気はしないけれど。 これでは落ち着いて店内を見て回ることもできない。 それに今日は姫乃と竹さんもいるのだからあまり出過ぎた行動は――と二人の方を見ると、何故か竹さんの前に人集りができ、エル以上に衆人の目を集めていた。 「あー今日は神姫連れてきとらんからバトルはまた今度、また今度、だからまた今度っつっとんのやから並ばんでよ! なーらーぶーな、前へならえすんな! 予約なんか受け付けとらんっての! どさくさにアドレス渡されても困るってのアポ取ろうとすんな!」 竹さんの前に老若男女問わず並んだ人達は武装した神姫を連れていて、神姫達は皆武装の確認をしたり素振りをしたりと落ち着き無く、マスター共々鼻息を荒くしていた。 ほら散った散った、と大人気な竹さんが人々を追い払い、やれやれと大きなため息をついた。 竹さん大人気の理由を姫乃が教えてくれた。 「鉄ちゃんってね、実はすっごく強い神姫マスターなのよ。 以前私をここに連れてきてもらったときもこんな感じだったわよね」 「いっつもそう。 これじゃおちおちメンテもできんもん。 そらまあ、私のコタマはそこそこ強いしバトルしたくなるのも分からんでもないけど、そんな何人も相手にできるかっての。 コタマのバッテリーは普通の神姫と変わらんっての」 「へぇ、竹さんってそんなに強いのか」 「うん。 たぶん今この神姫センターにいる誰よりも強いわよ」 「ここって……結構な人数だぞ?」 うんうん、と頷いた姫乃は自慢できる友人がいることが嬉しそうだ。 「あー傘姫、恥ずいからあんまし……」 「私も他の人に聞いた話なんだけどね、ここで大会が開催された時のことらしいんだけど」 「その大会の優勝者が竹さんってわけか! すげぇ!」 「ううん、鉄ちゃんは観戦してただけなんだって。 それでね、その時優勝した男の人が表彰台の上から鉄ちゃんを見つけて、一目惚れしちゃったらしいのよ。 その人が、たぶん優勝して少しだけ気が大きくなってたんでしょうね、その場で鉄ちゃんに告白したんだって。 そうよね?」 「……まぁね。 告白っつーか、私のこといきなり指さして 『今! あなたに惚れました! エンジェルktkr!』 やもん。 恥かいたわあ、あん時はほんと」 「でも竹さんに彼氏がいるって聞いたことないし、ってことはそいつのこと振ったのか」 「背比、今しれっと傷つくこと言ったね……振ったっつーか、その場のノリで 『じゃあ神姫バトルで私に勝ったら付き合ったげる』 って言ってしまったんよ。 うん、ノリで」 ノリノリで。 と竹さんは額を抑えて自分に呆れている。 それはそうだ。 大会優勝者、言うまでもなく最強の神姫に勝負を挑むなんていくらノリといっても愚行にも程が……ん? 「でも竹さん、彼氏はいないって……あれ、どういうことだ?」 「その場におった全員がチャンピオンが勝つって疑いもせんで、チャンピオンに挑んだ私は負けて彼氏ゲットする腹積もりと思われて、そのチャンピオンの神姫にまで 『ま、アタシのマスターはそこそこイイ男だし? アンタが考えてることも分かるよ。 それなりに手加減してやるから、適当に頑張って適当に負けて、彼氏ゲットしたら?』 って鼻で笑われて――」 眉間に皺を寄せてその神姫の嘲りを腸を煮えくり返しながら思い出しているらしい竹さんは口角を釣り上げ、凄絶な笑みを作った。 「――そんな状況で相手を完膚無きまでたたきのめすのって、ゾクゾクしたわぁ」 「ドSだ! ここにドSがいる!」 「相手の神姫、花型ジルダリアだったんだけど、手加減どころか指一本触れられずに負けてそれ以来トラウマになっちゃったんだって。 ちょっと可哀想」 「そうなん? それは知らんかった」 「未だにハーモニーグレイスを見ると足が竦んで動けなくなっちゃうんだって」 「 【 あらららら それはひどいな 超wざwまwあw 】 」 「ドS俳句だ! 姫乃気をつけろ、竹さんの近くにいたらそのうちヤられるぞ!」 「ふひひひひ! 悪いけど傘姫の体は私がもらっとくよ!」 「このっ、俺の姫乃を食うつもりか!」 「何の話よ!? やめてよ、もう!」 「ただいま戻りましたーって、なんだか楽しそうですね。 私も混ぜてください!」 「…………はぁ」 姫乃の胸ポケットの中でニーキが漏らした深いため息は誰の耳にも入らなかった。 神姫センターは二階から上が武装神姫専用のゲームセンターになっていて、神姫を連れたマスター達が百円玉を何枚も持って遊んでいる。 その中でもやはり二階のバトル用筐体はプレイヤーとギャラリーが多く、どの筐体でも神姫達がマスターやギャラリーの応援を受けて火花を散らしていた。 ビリヤード台に四角形のガラスケースを置いたような外観をしていて、大きさは四方が2m弱から1mくらいと大小様々なものがあり、高さも神姫が飛びまわるのに十分なものだ。 ガラスケースの中は何もなかったり障害物があったり、廃墟、砂漠、滝、サーキット、礼拝堂、無駄にピカピカ光るステージなど、神姫達は例え火の中水の中草の中森の中土の中雲の中姫乃のスカートの中 「しつこい!」 どのような状況であっても冷静に地形を生かす戦い方が求められる。 「お、そろそろ障害物無しの一番シンプルなステージが空くけど、なんか他にバトりたいステージある?」 「エル、どうだ?」 「どんなステージでも問題ありません。 どーんと来いです」 「ニーキは戦ってみたいステージある?」 「いや、私もどこでもいい」 「よし。 じゃ順番取ってくるから待っとって。 筐体使用料はまぁ、今回は私が奢ったろ」 今まさにその筐体ではバトルが佳境を迎えていた。 ありったけのミサイルを全方位に撒き散らす軍隊風の眼帯神姫は、夏の蚊のように襲い来るミサイルを涼しい顔で回避しつつ接近してくる忍者神姫に翻弄されている。 眼帯神姫がまだ起動して日が浅くバトルに不慣れなのは、筐体のガラスに張り付いて必死に応援しているマスターを見れば分かる。 彼女のマスターはさっきから 「撃て撃て撃て! 数打てば中るんだ!」 とだけ繰り返して眼帯神姫を混乱させるばかりで、もう一方の忍者のマスターは椅子にもたれ掛かり余裕綽々といったところだ。 次は俺達の番だ、あんな無様な真似はできない。 そう思うと掌がじっとりと湿ってきた。 相手は姫乃とその神姫なのだから気負う必要なんてまったく無いのに。 勝利への焦燥と敗北への焦慮は刻一刻と強くなっている。 「いよいよ私達の初バトルですね、マスター。 安心して下さい、絶対に勝ってみせますから!」 エルが俺を励ますように力強く宣言した。 その顔には一片の気後れもない。 俺はほんとうに良い神姫に巡り合えたと思う。 普通に神姫を買って、普通に箱を開けて、普通に起動して。 そんな出会い方ではきっと俺は満足できなかった。 このバトルを、これまでエルを育ててくれたレミリアへの感謝と代えよう。 「頼むぜエル。 悪魔に鍛えられたお前の力で、あの偏屈神姫をギャフンと言わせてくれ!」 「了解ですマスター! 戦乙女の名にかけて必ずや、マスターに勝利の美酒を御賞味頂きます! ――ところで、その、私の武器なんですけど、ばっちり用意してくれましたか?」 コートの左袖のベルトをいじりながらそう言って、申し訳なさそうにこちらを見上げた。 ヨドマルで働いていたエルは普通アルトレーネ型に付属するはずの剣などを持っておらず (だからこそ俺のような貧乏人が最新型を買えたのだが)、俺が武装を用意しなければならない。 防具はエルを買った時に姫乃に 「私が用意するから大丈夫。 だから絶対に他のものを買わないでね」 と念を押されて今朝になってコートとブーツをもらい、武器はというと―― 「ばっちり用意しておいたぜ。 戦乙女に相応しいやつを見繕ってきた」 「それなら早く見せて下さいよぉ~。 マスターはあんまりお金が無いから、もう私、言い出しにくくて。 素手で頑張れ! なんて言われたらどうしようかと思ってました」 「はっはっは、すまんすまん。 でもほら、自分の神姫を驚かせたいマスター心を分かってくれ。 ええと……」 鞄に入れていた “それ” を、目を輝かせて 「早く早く!」 とせがむエルに渡してやった。 「ほれ、コイツで頑張ってこい!」 「はい! マス…………た…………………………………………ん?」 筐体では丁度バトルが終わったようで、忍者が彼女のマスターに向かって親指を立てるのを見届けた竹さんが俺達を迎に来た。 「場所空いたけど、傘姫、背比、準備OK?」 「私達はオーケーよ」 「こっちもオーケーだ。 ニーキはもういいのか? まだ遺書の用意ができてないんじゃないのか?」 「問題無い。 エルを倒した後で君の眉間を蜂の巣にしてやるから、今の内に神に祈っておくといい」 「え? え? マ、マスター? こ、これは冗談ですよね?」 「よっし! それじゃ、二人とも両側に座って、そこの丸いとこに神姫を乗せれ」 「姫乃、こんな上等なコートを作ってもらっといて悪いけど、手加減はしてやれないぜ!」 「私だって全力でいくからね、弧域くん!」 「いや、ちょ……………………ええええええええ?」 ――――そして話はプロローグに戻る。 NEXT RONDO 『愛しています、私のバカマスター ~2/3』 15cm程度の死闘トップへ
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ウサギのナミダ ACT 1-12 □ 海藤がコーヒーカップをゆっくりと配り、そっと溜息をついた。 「僕がバトルロンドをやめた理由……言ったことなかったっけ?」 「ないな……君から自分のバトルの話自体、聞いたことがない」 そうか、とコーヒーを一口飲んで、また一つ溜息をつく。 海藤も以前はバトルロンドのプレイヤーだった。 実力もかなりのものであったらしい。 だが、俺が神姫を血眼になって探すようになった頃には、すでにバトルロンドをやめていた。 だが、興味がなくなったわけではないらしい。 今でも、主要な大会の映像はチェックしているようだし、バトルロンド用のパーツや改造方法なんか俺より詳しいくらいだ。 だからなおのこと、俺には海藤がバトルをやらないことが解せない。 「……あまり、格好のいい話じゃないんだ」 「……今の俺以上に格好悪いマスターはいないから安心しろ」 苦笑しながら、海藤はさらにコーヒーを一口。 そして、観念したように目を閉じた。 「僕がバトルロンドをやめた理由はね……バトルロンドを嫌いになりたくなかったからだよ」 かつて、俺も通うあのゲームセンターに、腕利きの神姫プレイヤーがいた。 空中戦闘タイプで、近距離、遠距離共にこなす万能タイプ。的確な戦術と、高度な技術に裏打ちされた戦闘スタイル。 マジックマーケット社製の武装パーツを中心に組み上げられた武装は、エウクランテの羽とイーアネイラの下半身パーツを中心にして、水中を泳ぐがごとく自在に飛行することが出来た。 勇猛果敢な戦闘スタイルと、空中を自在に翔る姿から、『シードラゴン』とあだ名されていた。 それが、海藤仁と神姫・アクアだった。 「シードラゴンか……聞いたことあるな……三強の一人が、同じような武装をしている」 「あの装備は、羽と鰭の連動が難しいんだけど……へぇ、使いこなせる神姫がいるなんてね。会ってみたいな」 「……やめておいた方がいいぞ。人間性に問題があるから」 シードラゴンは公式大会にも積極的に参加した。 公式のポイントも稼ぎ、ホビーショップや神姫センターで行われるローカル大会でも勝つようになり、少しずつ知名度も上がっていった。 いきつけのゲーセンではトッププレイヤーの仲間入りを果たし、シードラゴンの噂を聞きつけてゲーセンにやってくる神姫プレイヤーもいた。 そして、来たる全国大会。ここC県エリアの代表候補に、シードラゴンのアクアの名前が挙がっていた。 「その当時のこと、『ヘルハウンド・ハウリング』のマスターなら知ってるかな」 「ああ、彼はまだバトロン現役なんだ? がんばるなぁ」 「最近は三強の一角で、ちょっと天狗になっているけど」 「僕がやってるころはまだ、その二つ名で呼ばれはじめた頃だったよ」 そして、待ちに待った全国大会の地区予選の時がやってきた。 公式の神姫センターで開催される大規模な大会。 県内から有力な神姫が集まり、バトルを繰り広げる。 海藤とアクアは、意気揚々と大会に臨んだ。 シードラゴンは順調に駒を進めた。 そして準決勝。 いずれ劣らぬ武装神姫ばかりだったが、マスターと神姫の連携、戦術はシードラゴンが頭一つ抜きんでていた。 C県エリア代表はシードラゴンのアクアだと、誰もが信じていた。 海藤も優勝する自信があった。 「だけど……僕たちは準決勝を戦えなかった」 「……なぜ?」 「他の準決勝進出者からクレームが入ったんだ。違反行為をしている可能性がある、ってね」 「そんなこと……君がしたとは思えない」 海藤との付き合いは高校一年の時からだが、そういうルール違反に手を染めるような性格でないことはよくわかっている。 「うん、僕もしていない。しているはずがないんだ。でもさ……その準決勝進出の三人のマスターが口をそろえて抗議したんだ。 その理由がさ……おかしいんだよ」 海藤は笑った。ものすごく苦いものを飲んで、その味をごまかすような表情で。 「イーアネイラだから」 「え?」 「イーアネイラが、準決勝まで勝ち上がれるはずがない、そんなに強いはずがない、何か問題行為をしているに決まっている……ってね」 「な……」 俺は驚きを通り越して、あきれかえった。 そんなバカな話があるか。 特定の神姫が特別弱くて、決して勝ち上がってこられないなんて。 「そんなの、いいがかりもいいところじゃないか」 「うん……でも、その抗議は受け入れられた」 「……は?」 「それで、大会のスタッフが、準決勝前にアクアのボディと武装をチェックした」 アクアがテーブルの上から、心配そうに自分のマスターを見上げている。 それを見て、俺の胸が痛んだ。 気軽に振っていい話じゃなかった、と今更後悔した。 「そしたらさ……武装に塗った塗料から、ごく微量のレーダー攪乱効果のある成分が見つかったって。 確かに、アクアの武装をネイビーブルーで塗装していたんだけどね……」 「……何の塗料使っていたんだ?」 「普通の、ホビーショップで売っている塗料だよ。一番ポピュラーなやつ」 「そんなの、他に使っている神姫だっているはずじゃないか!」 あんまりな話に、つい声が大きくなってしまった。 すまん、と謝り、俺は下を向いて、海藤の話しに耳を傾ける。 「うん……だから、僕も抗議したよ。でも通らなかった。 もし準決勝を戦いたければ、塗装をしていない武装だけ使いなさいって言われてね」 視界に、海藤の手が見えた。 握った拳が白くなっている。 強く、握っている。今思い出しても、拳を握ってしまうほど悔しかったのだ。 「そんなことをしたら、アクアは何の装備もなく、素体だけで戦うことになってしまう。 それは無理だ。だから……棄権したんだ」 「……」 「で、その準決勝に出た三人が、実は秋葉原の神姫バトルミュージアムの出身でさ……」 「ちょっと待て。県内でバトルしてたわけじゃないのに、C県エリアの代表大会に出てたのか!?」 「そうだよ」 「そんな……それは筋が通らないんじゃないのか」 たとえば、高校のインターハイとかで、個人競技の選手が、都内の高校に通っているのに、別の県のインターハイ予選にエントリーして優勝してしまう。 それを「県の代表」ということが出来るのか。 「だけど、バトルの取得ポイントさえ足りていれば、どこの神姫センターの大会にでもエントリーできるんだ」 「そんなバカな……」 「そうなんだから仕方がない。 それで、そのバトルミュージアムでは、激戦の秋葉原を避けて、あちこちの郊外のエリア大会に遠征組を派遣したんだ」 「そんな……その連中が勝ち上がったら、全国大会じゃなくて、そんなの、ただの身内の大会じゃないか……」 「そういうのは少なからずあるよ。おそらく、関西でも、有力な神姫センターやゲーセン、ホビーショップでは同様のことをやってる。そうやって、同じ店から全国大会出場者が一人でも多く出れば、箔がつくしね」 公式大会に出る気は最初からなかったので、海藤の話は初耳だった。 てっきり、参加する大会のエリアに在住していなければ、そのエリアの大会には参加できないものだと思っていた。 今の海藤の話に、俺は納得できなかった。 全国大会ならば、そのエリアを代表する神姫が出場するべきであって、他のエリアから乗り込んでくるなんていうのは、ルール違反じゃないのか。 激戦区の選手達は、確かにレベルが高いのだろう。 地方のゲームセンターでならしているだけでは、勝てないのかもしれない。 だからといって、そのエリアに乗り込んでいって、エリア代表になるというのは違うと思う。 実力があれば何をしてもいいというのか。 その実力がない、地元の神姫プレイヤーが悪いというのか。 見ず知らずの遠征チームがやってきて、実力で大会を勝ち抜いて、地元を代表しますと言ったところで、地元の神姫プレイヤー達は心情的に納得が行かないだろう。 それに、よく見知った神姫が別のエリアから勝ち上がってきたところで、つまらないではないか。 別のエリアには、様々な戦い方をする、未だ知られていない実力者がいて、戦うことが出来るかもしれないのに。 俺が悶々と考えを巡らせていると、しばらく黙っていた海藤が口を開いた。 「まあ、遠野の言いたいこともわかるよ。僕もそうあるべきだと思ってる。 でも、現実は違う。 それで、さっきの続きに戻るけど……秋葉原の神姫バトルミュージアムって、あの鶴畑財閥の経営なんだ。 しかも、準決勝の三人は、鶴畑の次男坊・大紀の舎弟だった」 「っておい……それじゃあ、そのいいがかりは、まるっきり仕組まれてたんじゃないのか!?」 鶴畑財閥といえば、神姫のオーナーで知らない者はいないというほど有名だ。 あらゆる神姫関連の製品を扱っているし、公式大会の大手スポンサーでもある。 鶴畑財閥の御曹司三人は、いずれもバトルロンドのプレイヤーで、こちらも非常に有名である。 次男の大紀は、あまりいい噂を聞かないことで有名な人物だ。 大手スポンサーの鶴畑財閥と、その経営する神姫センター、そこから送り込まれた遠征組と、バックにいる次男坊……誰が考えても、海藤へのいいがかりは策謀だったとしか思えない。 「だけど、証拠がない」 興奮してしまっている俺に対し、海藤は至って冷静だった。 「大会の時は時間もなかったしね……真相は誰にも分からずじまいさ」 「君らだけが貧乏くじを引いて……それで、秋葉原の連中がC県の代表になったって言うのかよ……」 やりきれない話だ。 「大会の後、僕はゲーセンに行くのをやめた……翌日行ったら、みんなに卑怯者呼ばわりされてね……」 「……あそこのゲーセンはそんなのばっかりか」 「まあ、端から見てればそう見えるんだろうし……。 それで、僕はバトルロンドをやめることにした。 僕はバトルロンドが大好きで、今でも情報はチェックしているけど、もう自分でやりたいとは思わない。 実力ではない……何か別のところで勝負が決まっていることが、やっぱり、どうしても、許せなかったんだ。 このまま続けていれば、きっとバトルロンドが嫌いになる。バトルロンドを好きでい続けたいから……やめたんだ」 気の優しい海藤であっても、そこまで許せないものがあるのかと、正直驚いた。 そして、俺は自分が少し恥ずかしくなった。 「すまん……俺ばっかり、辛い目に遭ってるような顔をして……」 「何言ってるんだ。誘ったのは僕の方さ」 コーヒーを淹れ直そう、と空になったカップを回収し、海藤は立ち上がった。 俺があらためてドーナツの箱を開けると、テーブルの上にいるアクアと目が合った。 少し思い詰めたような表情。 アクアは思い切ったように、俺に言った。 「マスターは……それでも本当は、バトルロンドをやりたいのだと思います」 「え……」 「こら、アクア」 コーヒーを淹れて戻ってきた海藤がたしなめる。 「余計なこと、言うもんじゃない」 「ですが……マスターは、あのクイーンの戦いぶりを見て、目を輝かせていたではありませんか。まるで子供のように」 「クイーンのバトルを見て、ワクワクしない武装神姫ファンはいないよ」 海藤は俺の前にコーヒーを置いた。 そして言う。 「クイーンはすごいよね。あの秋葉原で、正々堂々戦って、そして全国出場を決めているんだ。尊敬するよ」 「そうか、秋葉原は鶴畑の……」 海藤は頷いた。 言ってみれば、秋葉原は鶴畑の本拠地だ。 そこで、彗星のように現れた神姫が、フェアプレーで、実力で勝ち上がったのだ。 海藤には大いに思うところがあるのだろう。 「いま仮に、前の装備を引っ張りだしてきて対戦しても、大した勝負にならない。だから対戦する気もないけど、協力はしてあげたいと思うよね」 そもそもクイーンと会う機会もないだろうけど、と海藤は苦笑した。 海藤の家を出るときには、雨が降っていた。 「これを使いなよ」 ビニール傘を貸してくれた。ありがたい。 雨の中、駅に向かう道すがら、俺はまた考えを巡らせる。 バトルロンドをやめた後、海藤はもう一つの趣味である熱帯魚の飼育が行きすぎて、ついには水族館でアルバイトをするようになった。 海藤は大学生だが、水族館に入り浸り、いまはほとんど大学に顔を出していない。 その水族館での仕事に、アクアをアシスタントとして使っている。 それがお客の目に留まり、少しずつ話題になった。 魚たちと一緒に水槽を泳ぐアクアの姿は、まさに人魚姫のようだ。 「K水族館の人魚姫」と呼ばれ、神姫の雑誌の表紙を飾ったこともある。 海藤はバトルロンド以外でアクアが活躍できる場所を見つけたのだ。 彼は俺に言った。 「神姫が活躍できる場所は、バトルロンドだけじゃない。戦う以外の道も選択肢だよ」 そうなのかもしれない。 俺はバトルロンドにこだわっていたが、そうでない道をティアに歩ませることが出来るのかもしれない。 ティアを大切に思うなら、もうこれ以上傷つけたくないと思うなら、そう言う道を探すのがマスターたる俺の仕事かもしれない。 海藤とアクアのように、バトルでなくても、自分達の活躍の場を得て、笑い合うことが出来るなら……それは幸せなことなのだろう。 そんなことを考えているうちに、気がつくとアパートの前にいた。 ポケットから鍵を出す。 扉を開ける。 慣れきった、無意識の動作。 「ただいま」 返事はなかった。 少し寂しい気持ちに捕らわれる。 ついこの間まで、ティアが来るまで、返事なんてなかったのに。 ティアの「おかえりなさい」という控えめな挨拶が、もう耳に慣れきっていたのだ。 ……なんで返事がない? ティアは自主練で留守番じゃなかったのか!? 俺は急いで靴を脱ぎ、玄関を駆け上がる。 部屋に飛び込んだ。 「ティア!?」 そこには誰の姿もない。 静まり返っている。 俺の荒い息と時計の音がやけにうるさい。 夕方の薄暗い部屋の中、PCのディスプレイの明かりが浮き上がって見える。 俺はマウスを操作し、スクリーンセーバーから通常画面に復帰させる。 マウスの手触りに違和感を覚え、机の上を見た。 「水滴……?」 キーボードやマウスの上のそこかしこに、小さな水滴が点々とついている。 なぜ水滴が……。 俺は不審に思いながら、復帰したディスプレイ画面を見た。 背景はウェブブラウザだ。どこかの巨大掲示板が画面に映されている。 その手前にワープロソフトが立ち上がっている。 短い文面。 「……ばっ……かやろ……っ!!」 次の瞬間、俺はアパートを飛び出していた。 外は雨。 傘を忘れている。 知るか! 俺は雨の中を走る。 ワープロで書かれた、それは短い置き手紙。 マスター もうこれ以上迷惑かけられません さようなら ティア 次へ> トップページに戻る
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コアユニット 種類 声優 性格 オーナーの呼び方 備考 NJA フブキ 福井裕佳梨 寡黙 オーナー・主・姫(御館様・ご主人様) - AGL アーンヴァル 阿澄佳奈 真面目 マスター・ご主人様・お姉様(先生・旦那様) - DVL ストラーフ 茅原実里 生意気 マスター・お兄ちゃん・お姉ちゃん(アニキ・ボス) - RBT ヴァッフェバニー 笹川亜矢奈 姐御肌 マスター・隊長・お嬢様 - DOG ハウリン 喜多村英梨 努力家 マスター・ご主人様・お嬢様(師匠・アニキ) - CAT マオチャオ 橋本まい 天真爛漫 ご主人様・お兄ちゃん・お姉ちゃん(パパ・ダーリン) - ※括弧内の呼び方の発生条件は各神姫のアチーブメントの達成。 素体 種類 LP SP 攻撃 命中 回避 防御 機動 重力 暗所 水中 忍者型 △ ○ △ ◎ ◎ △ ○ △ ◎ ○ 天使型 △ ○ △ ○ ◎ △ ◎ △ △ ○ 悪魔型 ○ △ ◎ △ △ ◎ △ ◎ ○ △ 兎型 ○ △ ○ ◎ ○ △ ○ △ ◎ ○ 犬型 ◎ △ ○ ○ ○ ○ ○ ○ △ ○ 猫型 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ △
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十一話 『十五センチメートル程度の死闘 ~2/2』 エルとメルも連合軍に加わり、圧倒的な物量によるゴリ押しで瞬く間にコタマとマシロがハントされるものと、俺と貞方は見ていた。以前コタマが数多のアルトレーネを葬ったところを目撃したことがあったが、あれはアルトレーネが理性を失っていたからこその芸当で、今回は多種多様な神姫が出来合いとはいえコンビネーションを組んで襲いかかるのだ。 だが俺と貞方の予想を、神姫達によるタクティクスを、コタマは上回った。 一斉に繰り出された武器の間を、体躯が小柄になったコタマは地を這うほど姿勢を低くして走り抜けた。以前まではゆっくりと歩きファーストとセカンドを動かすだけだったコタマが、積極的に動いたのだ。言ってみれば足が早くなっただけでも、これがどれだけ脅威であるかは、コタマを知る者であれば容易に想像がつく。 「せいやっ!」 コタマは走る勢いのまま跳躍し大きく脚を開いて、2体の神姫の顔面に蹴りを入れた。その威力は大したものではないが、ドールマスターを前にして一瞬でも怯んでしまえば、そこにファーストとセカンドが襲いかかる。 「ほらほら、もっとガッツリかかってきてよ! そんなトコからコソコソ狙ってないで、さっ!」 コタマの遙か頭上、ランチャーを構えたアーンヴァルに、セカンドがライフルを向けた。 「くっ!? 『スターライト――!』」 「遅い遅い! 『ジェミニオブメテオ!』」 溜めを必要とするランチャーではコタマとまともに撃ち合うことはできない。硬直した相手を容赦無く撃ち落とさんとセカンドが引き金を引いた――その瞬間、セカンドの足元で小規模の爆発が起き、ライフルを構えた体勢のままひっくり返った。 ライフル弾の軌道はあらぬ方向を向き、逃れたアーンヴァルの溜めが完了した。 「『ブレイカーーーーッ!!』」 「のわーーーーっ!?」 咄嗟に前転で避けたコタマだったが、軽い体が爆風に晒され無様にゴロゴロと転がった。ツインテールの片方の先が少し焦げてしまっている。 「あいたた……! 誰だこんちくしょう」 コタマが体勢を立て直す前に、気配を殺したフブキが苦無を構えて近づいた。だが人形の目を持つコタマは出し抜けず、ファーストが強く踏み込んでガントレットを構えた。 「『44ファントム!』」 離れた場所にいたファーストだが、一瞬のうちにコタマとフブキの間に割り込み、そして豪腕が放たれた。防御する暇すら与えない神速の一撃。コタマに挑む神姫のほとんどは、この技を出されるだけで力の差を知ることとなる。 しかし、ガントレットはフブキに届く前に動きを止めた。ファーストの前にさらに割り込んだ者の間で激しく火花が散る。 「さっきの邪魔もアンタの仕業ね、ハナコ」 「すみません、一応チーム戦なので」 ファーストのガントレットはハナコの槍に阻まれていた。その見た目はランチャーかパイルバンカーにも見える、貞方曰くちょっとギミックを詰め込んだだけの槍は、ハナコの唯一絶対の武装。 『ディフェンダー』 という地味な異名から微妙に的を外している、迎撃に特化した兵器だ。 ファーストがガントレットを押し付けたままハナコの動きを止め、セカンドがライフルを数発放った。が、槍から展開されたシールドであっさり阻まれる。 「へへっ、一度アンタとやり合ってみたかったのよ。この姿に戻って倒す最初の大物はこりゃあ、アンタになりそうだね」 「ふぅん、チビのくせに随分と大口を叩くじゃない。じゃあ大物がもう一人混ざっても文句言わないでよォ?」 唐突に、数十のビットがコタマを取り囲んだ。 「なっ!?」 コタマがダメージ覚悟でビットの壁を抜けようと駆け出すも、移動するコタマにピッタリ合わせてビットも動いた。そして全方位から一斉に、中心めがけて光学弾が発射された。 「くうううっ!」 「あははっ、クリティカルヒットォ♡」 レラカムイ標準の衣装のような装備だけでは、この攻撃を防ぐにはあまりに不足だった。多数のビットが戻った先には、背中に大型の機械武装を背負ったジルダリアがいた。噂に聞く、竹さんが破って振ったという大会優勝者の神姫だ。 「テメェ、よくもおめおめとアタシと鉄子ちゃんの前に出てきやがったな。二度と出てこれないよう次は筐体の外で遊んでやろうか」 「フン、康生なら約束通り、アンタの大切なマスターの前には出てこないわよ。……バカ正直に約束は守るくせに、影から見守るなんてセコい真似をするんだから」 「ああ?」 「おかしいと思わない? ほんの一部の愚図が乗せられただけとはいえ、あれだけ嫌われたアンタのマスターがどうして、こうも簡単に受け入れられたか少しも疑問に思わないわけ?」 「……何が言いてえんだ」 「さあ、何だったっけ」 二人だけの会話を一方的に撃ち切ったジルダリアは、背中の武装からビットをいくつも射出した。周囲を漂わせていたビットの倍近い数だった。ジルダリアを巣とした蜂のように、一つ一つが攻撃の意思を持っている。 無造作にセカンドに撃たせるも、ビットの渦に届くより先にハナコに防がれてしまう。 「も、申し訳ありません。その、チーム戦なもので……」 「憎っくき敵を倒すのに謝ることはないじゃなあい。単身でこの数の神姫に挑むおバカさんに、調子に乗ったことを後悔させてあげちゃえばいいのよォ」 「ハッ! 調子に乗ったのは誰だか、今に思い知ることになるくせに」 強がってみせるコタマだったが、大きな尻尾がピンと逆立ち、緊張していることがバレバレだった。 ハウリン型ハナコ。持てる能力のすべてを防御に使う彼女だけを相手にするならば、その勝負は拮抗していたかもしれない。だが今コタマは、只者じゃなさそうなジルダリアを含め、攻撃の機会を伺っている神姫に取り囲まれている。 一度ファーストとセカンドを側に戻したコタマは金の十字架を持った腕をだらりと下げ、絶体絶命の状況にもかかわらず静かに目を閉じた。逆立っていた尻尾がゆっくりと下を向く。すると、ファーストとセカンドが、まるで糸が切れたように力無く倒れた。 硬い床が広がるだけの、他に何もないステージ。中に立つ全神姫の半数がコタマを囲み、その様子を訝しんでいる。コタマの静けさが辺りを支配した。 業を煮やしたのか、コタマの真後に立っていたウェスペリオー型がビームソードを構えて走り出した。光学系武装特有の音が接近しても、コタマは動かない。ビームソードがコタマの頭に振り下ろされた……その直後。ウェスペリオーはその体勢のまま、凍りついたように動きを止めた。 「――――ぁ!? ――――っ――――!」 「『F.T.D.D.D.』 ――いやホラ、鉄子ちゃんが見たいって言うからさ」 目を開いたコタマが軽く右手の十字架を振ったその瞬間、ウェスペリオーは自分自身を切り裂いて倒れた。 続け様、十字架を持った両手を素早く大きく広げ、その十字架の先にいた神姫がいきなり、あたり構わず銃器を乱射し始めた。 「な、なにをやって、ぎゃあっ!?」 「違――か、から――――かって、に――――!」 弾切れになるまで狂ったように暴れた2体の神姫は、その銃器で自分の頭を殴りつけて倒れてしまった。そして、離れていた次の2体がまた乱射を始める。 静寂から一転して、コタマを囲んでいた神姫達は正体不明の恐怖に駆られた。包囲の輪はあっという間に散り散りになってしまった。 「まぁたその技に頼るんだ、恥も外聞もないってわけ? 他人の体の制御を乗っ取るなんて悪趣味にも程があってこと、分かってる?」 「アタシがアタシの手でアタシの思い通りに 【人形】 を動かすってのに、これ以上にクールな技は他に1つくらいしかないね」 混乱と狂乱の中で、コタマは踊り続けた。 【人形】 を入れ替える度に振り払われる金色の十字架と、流れに乗って揺れる桃色の髪は、かつての修道服よりも鮮やかに舞い、色鮮やかに輝いた。 「レラカムイ型ドールマスター、最高にクールなこのコタマ様が、アンタら全員跪かせてやる!」 「あの程度で追い詰められるとは修練が足りない――と言いたいところですが、ノーマルクラス仕様ならば、あれで限界なのでしょうね」 チーム竹櫛家のもう一体、マシロ姉さんは、コタマ姉さんと同数の神姫に囲まれているけど、その神姫達は私達を遠巻きに見守るだけだった。マシロ姉さんが操る十二体の騎士が大きく輪を作って立ち並ぶ、その向こう側から。 「まあ、妹君を守る誓を立てたなら、あの程度はどうにかするでしょう――こちらはこちらで楽しみましょうか、戦乙女」 コタマ姉さんが向こうで次々と襲いかかる神姫達を蹴散らしているのに、こちらのマシロ姉さんはまだ一体しか倒していなかった。 鎧に身を包んだ騎士達が沈黙する中で。 輪の外で神姫達が息を呑んで見守る中で。 メルは、精も根も尽き果てるまで戦わされた後、膝を折った。 「……悪いボスキャラみたいになってますよ、マシロ姉さん」 メルを、私の妹を、散々弄んだマシロ姉さんは、呼吸の一つも切らしていなかった。 倒れたメルを一体の騎士に輪の外まで運ばせて、次の私を輪の中へ招き入れた。 「ではあなたが主人公ですか。ひとつ忠告してあげましょう。ボスに挑む時は十分にレベルを上げるものです」 「お生憎様です。マスターと一緒にRPGをやるうちに、低レベルクリアの楽しさに目覚めました」 私もメルも元は武装神姫専門の店で働いていたけど、クーフランが棚に並ぶのは見たことがなく、この神姫センターでもそうだった。 4本の脚で床を踏み締める、この古参でありながら目新しい神姫の戦い方は、その見た目を裏切ることのないものだった。 円形のシールドと円錐状のランスを構えた突進。弓による広域射撃。 多彩な技を持つメルとは真逆の単純さでいながら、圧倒的だった。 「先に私の技を見せました。その低レベルで私を打倒する策は用意しているのでしょうね、戦乙――」 「私にはエルって名前があります。さっきあなたが愚弄したメルの姉です」 「愚弄? ……ふむ、そのように見えたのなら謝罪しましょう。私としては、ここに集う神姫のレベルを直に確かめるつもりでした。このレベルまで降りたのは久しぶりのことですから」 「あくまで私達を見下すんですね、マシロ姉さんは――ちょっと、ムカつきます」 コートの左袖に巻かれた数本の細いベルトを1本抜き、髪を後ろでひとつに束ねてベルトで縛った。 右手にはマスターに用意してもらった剣を。 左手にはニーキ姉さんから借り受けた剣を。 「あなたは私とメルの敵です」 「ならばどうする、戦乙女」 「私の名はエルだ!」 一足で距離を詰めて突きを放った。威力よりも速さを。でも胸を狙った剣はランスで外側に弾かれた。 同時に殴りつけるように繰り出されたシールドは横っ飛びでギリギリ回避できたけど、相手はあからさまに手を抜いている。 このまま加速して背後に回ろうとしたけど、スレイプニルの後ろ足が目に入って、距離を取るに留めておいた。あれで蹴られたら危なそうだ。 落ち着け。闇雲に突進して勝てる相手じゃない。見下されるのなら、その傲慢の隙をついてやる。 右の剣を一旦コートのベルトに刺し通して、代わりに裾に隠していた短剣三本を指に挟んだ。 相手が馬の形をしているのなら横腹から攻めるのがいい? 試してみる価値はある。 左の剣と脚で床を蹴って、マシロ姉さんの真正面と少しズレた右側へ飛んだ。 途中で方向をマシロ姉さんの方へ変えて、一直線に横腹を狙う! ――けどあろうことか、 「ほう。軽装にしてはなかなかのスピードです」 マシロ姉さんは逆に、私の背後に近づきつつあった。 馬のように駆けるマシロ姉さんは私よりほんのわずかに遅いけど、直線と方向転換だけの私と違って普通に走ってるだけだから自由度が私の比じゃない。 「どんなエンジン積んでるんですか、あなたはっ!」 「失礼なことを言いますね。私の構造はあなたと何ら変わりありませんよ」 「プロキシマですらそんな動きはできませんけどね……!」 十二の騎士によって切り取られたステージの中を、出来る限り単調にならないように飛び回り続けた。スピードに乗った間は景色が高速で流れていくけど、その中でマシロ姉さんの姿だけハッキリ見えるのが不気味だった。 右の爪が届く範囲まで近づけば防御の合間を縫って攻撃が通ると思ったのに、 「『デーモンロードクロウ!』」 「ぬるい! ハアッ!」 弾かれては離れることを繰り返した。 私のスピードに対応されることは珍しくもなんともないけど、直接体でついて来た相手はコタマ姉さんのファーストくらいだった。でもそれも瞬間的なものだからまだいい(いやよくはないけど)。こんなに長い間スピードを維持し続け、しかも狭い中での鬼ごっこは私の集中をどんどん蝕んでいった。 それにもう一つ。ランスを携えて駆けるマシロ姉さんは、こんな時でも見蕩れてしまいそうになるほど、美しかった。 流れるような長い髪と、白銀に輝く躰。一定のリズムで動かされる四脚の完成された動きは、溜息のひとつもつきたくなるくらい、羨ましい。 「って、うわっ!?」 気が抜けそうになった途端、正面からすれ違いそうになり、慌てて方向を変えた。そもそも突進からの突きがランスの本分で、マシロ姉さんもそれを狙ってる。 ランスを構えた人馬型にこの勝負を挑んだのは失敗だったかもしれない。舌打ちしたい気分だった。 このまま膠着状態になれば、体に負担を強いる加速方法をとる私とただ走ってるだけのマシロ姉さんじゃ、どちらが先に倒れるかなんて目に見えてる。爪も軽すぎて届かない。じゃあどうする? 決まってる。 「正面突破です!」 二人が円形のステージの直径上、騎士の側まで離れたところから、マシロ姉さん目掛けて加速した。 正しく私の意図を読み取ったマシロ姉さんは薄く笑みを浮かべ、ランスを脇に構え直して向かってきた。 「『スピア・ザ・グングニル』」 右手の短剣三本を捨てて再び剣を取った。相手も向かってきてくれるなら、この技の威力は倍以上になる。 「シールドごと貫けぇっ!」 スピードと体のバネを最大限に利用したグングニルは、距離が短かったとはいえ投げたとほぼ同時にマシロ姉さんに到達した。でもマシロ姉さんはそれを驚異的な反応で上半身を逸らして避けた。逸れた剣はマシロ姉さんの長い髪を少し削いだだけだった。 ……この人はレーザービームだって見てから躱しそうだ。私がどんな化物を相手にしているかを改めて思い知らされる。 でもマシロ姉さんがほんの僅かに体勢を崩した今は逃せない。 空いた右手で 【自分の剣】 を取って、両手の二本に加速の勢いを乗せて上段から思い切り振り下ろした。 「ぜああああああっ!」 ガギン! と硬い感触の後、剣は両方とも跳ね返り、私の体もそれに引きずられた。横に寝かされ突き出されたランスに二箇所の傷がついた。 乗っていたスピードを強引に止められた反動で体が軋む。 「【あなたが騎士から奪い、投げた剣】。意表を突いたつもりかもしれませんが、私に気付かれずに盗むことは不可能です。私と騎士達は繋がっていますから」 「……どーりで、あっさり躱されるはずです」 「さて、振り出しに戻りました。これからどうするつもりですか」 「言うまでもないです!」 大きく踏み込み、マシロ姉さんの首めがけてがむしゃらに片方の剣を打ち込んだ。けれど今度は軽々とランスに弾かれた。 構わない。 剣を弾かれて体が流れるに任せ、もう一方の剣を薙ぎ払うように振った。しかしこれもシールドに阻まれる。シールドはビクともせず、私の剣が跳ね返る。 「まだまだぁっ!」 片方の剣が弾かれたならもう片方の剣を振る。躱されたのなら勢いのまま体を回してまた打ち込む。考える暇も作らず刃の軌跡を直感に乗せて、ただひらすら速く。 剣の重みと遠心力で関節が悲鳴を上げても、マシロ姉さんの顔色ひとつ変えられない。ランスもシールドも、的確に私の斬撃を弾き、防ぎ、受け流す。 「あなたの技は先程の投擲のみですか。その程度の剣技で私を切り崩そうとは片腹痛い」 駒のように体を回した勢いで左の剣を水平に振った、その瞬間。言葉と共にランスがブレたかと思うと、剣は左手から弾き飛ばされていた。マシロ姉さんがその気になれば片手での斬撃程度、ものともしない――そんなことは始めから分かっていた。だから、これは狙い通り。 痺れる左手を無理やり動かし、右手の剣に添えた。まだ回転力を残した体にさらに勢いをつけ、足先から上半身まで捻った力を解放した。両手で握った剣を水平に振る、単純明快なフルスイング。 「フン」 やはりマシロ姉さんは片手で盾を構えるだけだった。私が全力で打ち込んだって多分、ビクともしない。それくらいの力の差がある。だから私は、 「おりゃああっ!」 スイングの軌道を力ずくで下方にずらし、剣を床に叩きつけた。その反動で体が浮き上がり天地が逆さまになる。縦方向に回転する勢いで上に伸ばした機械仕掛けの脚を振り下ろした。 「爆ぜろっ!」 剣をフェイントにした本命の一撃。頭部を蹴り砕くくらいのつもりだった。 でも、砕いたのは床だった。硬い床に僅かに踵が罅を入れ、回転する勢いを殺せず無様に転がった。 視界良好とは言えない体勢での蹴りだったから、しっかりマシロ姉さんを見ていたわけではなかった。それでも的外れな位置に脚を振り下ろすなんてことはしない。マシロ姉さんの姿は確かに、私が踏み砕いた床の位置にいた。 「今のは良い一撃でした。二刀流による単調なラッシュは私を飽きさせるためのフェイクで、その強化された脚による蹴りを始めから狙っていたのですね。ありきたりではありますが少し驚きました。が、それよりも――」 私の背後、随分離れた位置にマシロ姉さんはいた。 タイミングは完璧だったはずなのにどうやって回避したのか、とか。あの一瞬でどうやってあそこまで移動したのか、とか。 そんなことよりも。 「投擲といい踵落としといい、久しぶりに上質の殺意を向けられましたよ。私達のクラスになると淡々と即死を狙ってくるものですから……ふふっ、あなたの相手をするのも無駄ではなかったようです」 マシロ姉さんは、私から弾き飛ばした剣――ニーキ姉さんの剣を拾い、弄んでいた。 「……返せ」 「? なんですか?」 「その剣を返せえええええええええええっ!!」 「分かりました」 マシロ姉さんはランスを手放し、弓を構えていた。金と白銀、それに深緑を組み合わせたドレスとはまったく不釣合いな、黒く味気ない実用本位の弓。 その弓に番えられたのが細い矢ではなくニーキ姉さんの剣だと気付いた瞬間、私は。 力の奔流に飲み込まれていた。 ―――――――――――――― ―――――――― ――あれ? 「あ…………うあ……?」 よく分からないけど、防がないといけない。 右手はしっかりと剣を握っていた。それを持ち上げたけど妙に軽くて、だんだん鮮明になっていく目を凝らすと、真っ二つに折られた刀身の断面が見えた。 体を起こそうとしたけど、感覚があるのは私の腕、肩、それより上のほうだけだった。ぼんやりと足が見えるけど、あれはちゃんと体に繋がっているんだろうか。 倒れた私の頭部は何か固いものにもたれかかっていた。でも周囲に壁なんてなかったし、何だろうと頭を横に倒して見ると、それは騎士が床に突き立てるように持っている細身の長銃だった。銃口には銃剣が取り付けられている。 鎧兜の下から騎士の顔を覗き見ることができた。凛々しい顔をしているけど、心を持っていないことが一目で分かるほど冷たい表情だった。足元に転がっている私のことすら、認識していない。 敵を認識するのも、銃を構え引き金を引くのも、すべてマシロ姉さんの仕業。 銃口がゆっくりと、私の額に向けられた。銃身の中は静かで、真っ暗で、そこから眩しい火花と硬い弾が飛び出してくるなんて想像できなかった。 「あなたの妹共々、思っていたよりは楽しめましたよ、戦乙女。武器をフィールドに叩きつけて移動する技は、少々荒っぽいですが参考になりました。神姫の体格と出力によって初めて成せる良い技です。これは人間では思いつけないでしょうから、その発想の元をいつか聞いてみたいものです」 遠くでマシロ姉さんが何か言っている。どうせ、また私のことを見下すようなことだろう。 「では、しばしの間、眠りなさい」 銃を構えた騎士が何の感動も見せず、引き金にかけた指を動かす。その小さな動作が随分と遅く見えた。私を焦らしているんだろうか。騎士道を重んじるのなら潔くやってほしいのに。 結局、私じゃ全然歯が立たなかった。こんなに悔しい思いをするのは初めてのことだった。メルのために一矢報いたかったのに。私は情けないお姉ちゃんだ。 でも、少しくらい、褒めてほしい。あの、異常な強さのクーフランを相手に私は 【予定通り時間を稼いだ】。 じゃあ、後は任せました、メル。 「みんな今だよ! せーの!!」 「ふぬああああっ!?」 ビビった! 超ビビった! 胸の中のCSCが爆発したんじゃないかって思うくらいビビった! 隕石でも落ちたような炸裂がした方は、なんか一目見ただけで大惨事になってることが分かるくらい、破片と煙が舞ってた。リアルでキノコ雲って初めて見た。 キノコ雲はたくさんの神姫に囲まれた中心からモクモクしてた。あそこでマシロが戦ってたはずだけど、ついに頭に血が上りすぎて爆発したのかしらん。 アタシの周りにいる連中もそっちのほうを向いたまま固まってしまってて、動けないでいる。今がチャーンス! ってわけでもないのは、アタシも足が竦んで動けなくなっちゃったから。 だんだん煙が晴れてきて様子が分かってきた。マシロの騎士が輪になって立ってるってことは、悪趣味な一騎討ちをやってたらしい。あれは本人曰く神聖な戦いが云々らしいけど、弱い者イジメのための技としか思えない。でもおかしなことに、一騎討ちの間は絶対に動かされることのない十二の騎士は全員、羽交い締めにされてた。 で、アタシは自分の目を疑った。キノコ雲の中心には本当に隕石が落ちたようなクレーターができてた。 「うっそぉ……」 この床、かなり頑丈なのに……隕石か。やっぱり隕石なのか。 隕石って売れるのかな、とか思って目を凝らしてみたけど、いろんな物が散らばってて地球外石ころを探すどころじゃないし、たぶん、大爆発とクレーターの原因は隕石じゃなかった。当たり前だけど。 砕けた武器の破片が大量に散乱してる。あまりに粉々になりすぎて元の武器が何だったのか分からないけど、ベコベコに凹んだ盾や半分に割れたモーニングスターみたく分かりやすいのもあるから、多分、ありったけの武器がメチャクチャに投げ込まれたんだと思う。 クレーターの中にできた、不燃ごみ投棄場所。 たぶん使える物なんて何一つ残ってないだろうから、漁ったって時間の無駄なはずなのに、その夢の島の中心に、相応しい格好をした主がいた。 あっちこっち千切れて破れてしまってて、ムカつくサイズのおっぱいが片方覗いてる。手で布を掴んで引っ張れば素っ裸にひん剥けそうだった。黒く焦げて元の色すら判別つかず、もう服の用途を成していないそれはドリフのコントを終えたお笑い芸人の衣装みたいだった。 あれだけツヤツヤしてた髪も尻尾もボサボサの煤だらけ。マシロは密かにその毛なみを自慢に思っているらしいから、後で鏡を見て発狂するかもしれない。 で、そのマシロはというと、そんな身なりになったことに気付いているのか気付いていないのか、呆然とつっ立ってる。ポケッとしてどこを見てるのかも分からない。四本足だから上手いことバランスが取れてるんでしょうけど、そうじゃなかったら今にもパタリと倒れそうだった。 騎士を羽交い絞めにしてた神姫の一人が手を離して、ガシャリと、ただの人形に戻った騎士は音を立てて倒れた。それを見た残り11人も同じようにして、騎士達はやっぱり同じように倒れた。 同時に、マシロも膝を折って、瓦礫の上に倒れた。 あのマシロが。 目の当たりにしても信じられないけど、あのマシロが。 ここにいる連中は知らないだろうけど、マシロはアタシら一般神姫とはランクが違う。別に違法改造ってわけじゃなくて、ただ強い、それだけの化物。 普段はオンライン対戦で同じランク同士としか戦わず、明らかにランク外と思われる神姫が迷い込んでしまった時は、丁重にそのランクからご退場願うってわけだ。 例えば、ちょっと高級機種だからって調子に乗っちゃったキュクノス型やアラストール型がそのランクの住人に挑もうものなら、自尊心を修復不能なまでにへし折られて、二度と武装を手に取らなくなってしまう(実話)。 そんなレベルのマシロが、相手は数の暴力に頼ったとはいえ、普通の神姫に倒された。しかもごく普通の神姫センターで。さらに倒れたマシロはなんか、満足気な表情をしてる。マゾか。 「「「「「いいいぃぃぃやったああああああああああああああああああああ!!!!」」」」」 耳をつんざく歓声が上がった。見境なく抱き合ったり、冷静そうに見える神姫まで雄叫びを上げたりして、なんだかすっごく楽しそう。 エルとメルが何故か胴上げされてるけど、意識があるかどうかといったくらいぐったりしていて、そんな二人が空中に高く放り出されるのはちょっと痛々しい。 遠くから眺めてるアタシまで楽しくなりそうだった……マシロが負けたのだから、呆けている暇なんてないことに気付くまでは。 「気付くのが少し遅かったみたいにゃケモミミ。ワガハイの前でこんにゃモフモフした尻尾をセクスィに揺らされたにゃら、世界モフモフ保護機構総括であるワガハイとしてはぁ、モォォォォフモフせざるを得ませぇぇぇぇん!」 「―――――! ―――!?」 いきなり尻尾に抱きつかれて撫で回された! 尻尾の上を蛇が這いずってるみたいで気持ち悪い! 全身にブルッとくる寒気が走った、のに、動けない!? 声も出ない!? 「体の制御を乗っ取るのはケモミミの専売特許じゃにゃかろう? それはそれとして――たぁぁあああまらんにゃああぁあ! 外側のモフモフと内側のモニュモニュが絶妙なハーモニャーを醸しだしてるにゃ! こ、これはマジでヤバイにゃ、猫界に衝撃が走るにゃ。猫の肉球のポジションを脅かす癒されアイテムにゃ。やべーキツネ超やべー」 このマヌケな声はいつかの巨大ロボを作ったクソマオチャオ! あのハンマーを使うマオチャオもいたからまさかと思ってはいたけど、油断したよチクショウ。 顔まで引きつったまま固まっちゃってるのに気持ち悪さだけが止まらない。というか指の一本たりとも抵抗できないのが不快感を倍増させてる。 「んー、体どころか表情まで固まるのは想定外にゃ。これじゃケモミミのエロい反応が楽しめにゃいじゃにゃいか。あ、でも耳とかはちゃんと聞こえてるにゃろ? お察しの通り、この 『フィギュア化パッチ ベータ版』 はエロ目的に作ったものにゃ。くやしい……! でも感じちゃう! ビクビクッ! みたいにゃ」 何が 「みたいにゃ」 だこのクソネコ! と強く思っても体はビクともビクビクッとも動いてくれない。体内を這いずりまわる嫌悪感は早くも限界を迎えそうだった。 というかケモミミってアタシのことか。 「フィギュアと言うからには手とか足とか好き勝手動かせてポージングとかできるんにゃよ。言うこと聞かにゃい神姫にインストールすれば撮影会も思いのままにゃが、それだけじゃ面白くにゃかろう? 最終的にはフィギュア化する部位を選べる仕様にするにゃ。にゃんでかって?」 聞いてねーよ。聞きたくてもしゃべれねーよクソが。 イヤラシイ笑みを浮かべて肘で小突いてくるけど、確かに、小突かれて動いた体はそのままの形で固定された。 「言わせるにゃよ、分かってるく・せ・に♡ 科学の発展に必要にゃものは戦争とエロスにゃ」 「ふぅん、良い事言うじゃない」 目を動かせなくても、あのジルダリアがすぐ側まで寄ってきたのは声で分かる。 「あのドールマスターがドールになるなんて、ミイラ取りがミイラになるってこのことよねぇ! アッハハハハハハ!」 無抵抗なアタシを好き勝手できることがそんなに嬉しいのか、アタシの前まで回ってきたジルダリアは涙を流して手を叩いた。コイツ、仮にも大会で優勝したことあんだろ、スポーツマンシップ的なものはないのかよ。 「すごいのねぇマオチャオさん? 油断してたとはいえドールマスターを手玉にとっちゃうなんてぇ」 「す、すごいにゃ? ワガハイ、そんにゃにすごいにゃ?」 「すっごいわよ。ステキ。カッコイイ。感動しちゃう」 「そ、そんにゃことにゃいにゃよー! 褒めたってにゃにも出にゃいにゃ! ワガハイにゃんてまだまだ、でもケモミミの一匹や二匹、ワガハイの肉球の上で転がすくらい造作もにゃいにゃ! よーし、ワガハイ今日は大判振舞いしちゃうにゃよー!」 褒められて出まくってんじゃねーか。どんだけ釣られやすいんだ。 「手始めに 『アダルトパッチ』 にゃんてどうかにゃ。改良を重ねて最近イイ感じに仕上がったんにゃよ」 「なぁにその素敵なネーミング! すぐ使いましょう、今すぐ使いましょうよ、きっとドールマスターも悦んでくれるわぁ!」 コロス……! コイツら絶対後でコロス……! アタシの見える範囲にいるほかの神姫は遠巻きに見守ってる……というか、いかがわしい期待の眼差しを向けられてるのは絶対気のせいじゃない。 クソネコはどっかから取り出した注射器(?)を、わざとらしくアタシの前でいじってみせた。 というか、マジで危ない。目の前ではしゃぐコイツらはアタシが反応しないもんだから気付いてないんだろうが、アタシはこれ以上何かされたら間違いなく、死ぬ。死ぬほど苦しいとかじゃなくて、いや苦しさでCSCを焼損して文字通り死ぬ。 「パソコンとクレイドル不要のハンディタイプにゃ。一回ポッキリの使い切りにゃが、そこは今後改善していくとして、今はこの効果をじっくり味わうがいいにゃ」 注射器の針がアタシの喉元にゆっくりと伸びた。 ああ、主よ。鉄子ちゃんよ。 こんなアホな形で死んでいく罪深いアタシをお許し下さい。 短すぎる付き合いだったね。ごめんね。 このアタシはCSCが壊れると完全に死ぬけど、また次の神姫を手に入れるなら、ソイツと仲良くするんだよ。 針が喉に触れた、その瞬間。 ピピーーーーーーーーッ! 間抜けなホイッスルが響いて、アタシは初めてのサレンダーを経験するのだった。 屈辱的……なのになんでだろう。こんなに安堵することも生まれて初めてのことだった。 15cm程度の死闘トップへ
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樫坂家の事情! 序幕~とある学生の夏休みにおける変化とその記録~ 一つの記録が語られ、これからの話が紡がれる。そんな日の朝、樫坂家にて。 「あ、今何時です?」 「………6時37分19」 「なんとか、読み終わったわね」 「もうくたくたなのです。充電しないとまずいのです…」 「その前に、マスターを起こさないといけませんわね」 「ますたーはくーたちがいないとろくに起きれないからねー」 樫坂家の夜が終わり、朝が始まるようです。 「とりあえず、ゆいなはいつものあれをするんだよね」 「いや、今日は投げるものが無いから出来ない」 「じゃあ今日はキュリアさんとリムさんがダイブするのです!」 「え?なんであたし達が?」 「こーれーぎょうじというものなんだよ」 「………フィーは?」 「さすがにふぃーはすれいぷにてぃがきけんだと思うんだ」 「そういう事ですので、お二人にお願い致しますわ」 どうやら主を起こす方法で話してるようです。 「というか、ならくーが行けばいいと思うんですけど」 「くーはにっきを戻すさぎょうがあるからむり」 「じゃあユイナさんとかは」 「私はフィーとスタンドライト戻すから。これ勝手に出した奴だし」 「う……シェラさんは?」 「私は「シェラは顔に落ちるからダメですわよ?」だからドジじゃないのです!」 「うー………仕方ないなぁ…」 「………諦めるか」 結局、キュリアとリムに決まったんだってさ。 さて、二人が落ちてくる前に起きるか。 ===終話=== 「まったく、お前ら少しは俺の事も考えろよなぁ……ねみぃ」 「うわ、マスターが自力で起きた!?」 「きょうはゆきでも降ってきそうなことがおきたとおもうんだ」 「それはそれで涼しくなると思うのです」 「お前らが酷いと俺は思うんだけど。とりあえずシェラは何か違うからな」 「ほえ?」 まぁいつもの事だからいいか。 「ってお前ら人の日記読んだろ?」 「なんの事かなー、くーわかんなーい」 「いや、くーが主犯なのは解ってるからな?」 「まぁ考えれば解る事だからね。こういう事するの大抵くーだし」 「大体くーちゃんなのです」 「間違いないですわね」 「………だな」 「あたしもフォロー出来ないですこれは」 「みんなしていじめるのってよくないとおもうんだ、泣いてやるぅ」 「わかったからお前らそろそろ下行け。着替えたい」 「マスター、クレイドル使いたいのですけど…」 「………あーもうわかったよ。俺が下りるからお前らちょっと待ってろ」 とりあえず久しぶりの学生服でも着てくるか…と思い部屋を出て2階から1階の居間に下りる事にする。 「それにしても…あいつら結局気づかなかったな…あの裏に書いてた事に」 読まれたら読まれたで恥ずかしい訳だが………あれ、なんかズボンのサイズ大きいな… 「しかし……ほんと、色々あった夏休みだったな」 ユイナが来たことで、武装神姫を始める決心がついて。 その次にシェラが来て、陽太と静香が目を丸くして。 初めてのバトルロンドで負けて、悔しそうにしてる二人を見て必死に戦術組んで。 その後、くーが現れて、なんだか色々考える事が多かったけど俺のとこに来て。 それで、くーの事で静香に怒られて敏章さんに出会って、フィーが来て。 色違いって呼ばれるようになっていつの間にか色んな人と話すようになってて。 奥道さんに修理頼んで、陽太と稟に勝つ事が出来て。 シェラがリベンジして、萩河さんにキュリアを頼まれて。 あと、祭りがあって、クラスの馬鹿共と久しぶりに話して酔った勢いでリムを買って。 それで、最後の日曜日にはくーが俺と一緒に戦ってくれるようになって、ユイナ達も頑張ってくれたおかげで色んな人に勝つ事が出来た。 夏休みが始まる前は想像さえ出来なかったな、こんなこと。 「さて……学生にとっては変わらぬ幽鬱な一日。されど新たに踏み出す一日…てな」 うわ変なこと口走ってしまった… けど、今までと大きく違う生活が、また新たに始まるのも確かだよなぁ。 「………ま、あいつらが居るなら、悪くないな。これからの生活も」 とりあえず、学校行く前に寝かせるか………あれ?今何時だ? 序幕、完結。
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キズナのキセキ ACT1-26「狂乱の聖女」 ◆ 海藤仁は、自宅の壁に掛けられた時計を見上げる。 六時を少し回ったところ。朝もまだ早い。 「もうそろそろ、始まった頃かな……」 海藤は、決戦に望む友人たちに思いを馳せる。 二ヶ月もの間、これほどまでに深くバトルロンドに取り組んだことは、現役時代にもなかったことだ。 あの「特訓場」に集った仲間たちは、誰もが海藤と同様、かけがえのないものを感じていることだろう。 その集大成、すべては今日の決戦にあるのだと、彼の友人は言っていた。 正直な話、バトルの行方は非常に気になる。 「わたしも気になります。ミスティとも仲良くなりましたし……あれほどの特訓をして挑むバトルがどんなものなのか、興味があります」 彼の神姫・イーアネイラ型のアクアが言った。 海藤は頷く。 「うん、僕も気になる。でも、バトルを直接見ようという気にはならないよ」 「なぜです?」 「……久住さんたちとの付き合いがまだ浅いってのもあるけど……きっと、今日のバトルを僕たちが見てはいけない気がするんだ。そんな、尋常ではない何かをはらんでいる……そんな気がしてね」 「そうでしょうか……」 アクアは思う。 彼女のマスターは、まだどこかバトルに遠慮があるみたいだ。 昔、公式大会で痛い目を見てきただけに、マスターの気持ちはよく分かる。そう思って、今日までマスターの側にいた。 だけど、気が付いていた。遠野さんがティアのマスターになってから、自分のマスターがバトルをしたいと思っていることに。 だから、今回の久住邸での特訓はチャンスだと思っていた。そう思っていたのだけれど……。 「だからさ、どんなバトルだったか聞くために、ゲームセンターに行こうと思う」 「……え?」 「遠野たちも、バトルが終わったらきっと、『ノーザンクロス』に来るだろう。だから、ゲーセンで待って、気になる結末を聞くとしよう」 「で、でも……ゲームセンターは……」 ゲームセンターは、海藤にとって鬼門のはずだ。特に『ノーザンクロス』はかつてホームグラウンドにしていた店。行っただけでなにを言われるか、分からない。 しかし、海藤は、いつものような優しい微笑みを浮かべ、アクアに言った。 「言っただろう? カムバックするって。今日がその日さ」 「あ……」 確かに、海藤仁は言っていた。バトルロンドにカムバックするのだと。だとすれば、ゲームセンターが鬼門だなんて、言ってられない。 「アクアが心配することも、分かるよ。確かに、『ノーザン』じゃ何を言われるか分からない。けどさ……何を言われてもいいんだって、今はそう思えるんだ」 「え?」 「……遠野はさ、ティアを自分の神姫にしたくて、何を言われても必死に頑張ってた。だから、僕も、彼を見習って、何を言われても胸を張っていようと思うんだ。 何を言われても……アクアは僕の神姫だからね」 頷きながらにっこりと笑ったマスターの顔を、アクアは一生忘れないだろう。バトルロンドを諦めたあの日以来、マスターのこんなに輝いた笑顔を見たことがなかったから。 だから、 「はい!」 そう言って、アクアは笑顔を返すのだった。 そして、心の中で感謝する。遠野さん、ティア、ありがとう。あなた方のおかげで、マスターとわたしはまた戦うことが出来ます、と。 「それにしても……」 海藤が独り言のように呟いた。 海藤は再び、戦いの場に赴いた仲間たちに思いを馳せている。 遠野は「あれ」を使ったのかな? あんな骨董品を使うなんて意外だったけれど。 その結果についても、ゲームセンターで聞けばいい。 開店時間まではまだたっぷりと時間がある。海藤は朝食の準備をするため、立ち上がった。 ■ その瞬間、わたしは、見た。 マスターは微動だにしなかった。 二本のミサイルは、真っ直ぐに目標へと向かう。 でも。 でも、ミサイルはマスターに命中しなかった。 ミサイルは今、マスターの眼前三〇センチほどのところで、何かに阻まれたようにそれ以上進めず、ばたばたと噴射口を揺らしている。 やがて、推進材を燃焼尽くしたミサイルたちは力尽き、相次いでポロポロと地に落ちた。 マスターは表情を変えないまま、姿勢を変えずにぴんと立ったまま、マグダレーナを見据えている。 「マスター……!」 無事だ。 マスターは無事。 わたしが嬉しさに顔が綻びそうになったそのとき。 『ティア、今のうちにその場を離れろ』 「はい」 マスターから指示が来た。ヘッドセットを通した直接通信。 わたしは素直に下がり、近くの茂みへと身を隠す。 「……なぜだ」 しわがれた声が、かすれている。 マグダレーナは愕然として、マスターを見つめている。 あのタイミングでの奇襲は、マグダレーナも必中を確信していたのだろう。 でも、届かなかった。 「なぜだ、なにが起きた……!?」 「……言っただろう。あんな目に遭うのは二度とごめんだ、と」 昨日、マスターは確かにそう言っていた。 だから、対策をした、ということなのかしら。 ミサイルを防いだのは、マスターが今朝ここに持ってきた、三本の「あれ」の効果に違いない。 ということは……マスターは、ここでマグダレーナに襲われることがわかっていた……ということ? いったい、マスターはこの戦いのどこまで見通しているのだろう。 □ 「野外のバトルだからな。フィールドスクリーンをセットした。それだけだ」 「フィールドスクリーン……だと?」 マグダレーナには思い当たる節があったのだろうか。もしかすると、検索しているのかもしれない。 最近の神姫マスターは知らないかもしれない。 古参の神姫マスターなら、よく知っているだろうし、まだ持っている人もいるだろう。頼子さんもそうだった。 現在の三リーグ制成立以前……まだバーチャルバトルがなかった時代に使われていたものだ。神姫センターの大がかりな筐体を使わず、屋外で手軽にバトルを楽しみたい……そんな神姫マスターは多かった。 だが、屋外でのバトルでは安全性が問題になる。それを解決するために開発されたのがフィールドスクリーンだ。 フィールドスクリーンは、長細い筒状をしており、上に向けてスリットが開いている。そこから力場を発生し、空気の断層を作り出す。 その空気の断層が、武装神姫の流れ弾を防ぐ、というものだった。 フィールドスクリーンで囲えば簡易バトルフィールドを作ることが出来る。場所さえ選べば、数本のフィールドスクリーンで安全地帯を作ることで、より広いフィールドでバトルする事も出来た。 だが、いまやフィールドスクリーンを扱っている店は少ない。バーチャルバトルが発達し、主流となった今、フィールドスクリーンを使ってリアルバトルをする神姫マスターはほとんどいない。もはや役目を終えた道具と言える。 「要は、お前がそのブルーラインで『ライトニング・アクセル』を防いだのと同じさ」 レア装備「ブルーライン」には小型の力場発生装置が内蔵されており、力場を解放することで宙に浮くことが出来る。 力場の発生方向を変えれば、空中を滑るように移動が可能だ。高度は限られるが、他の飛行装備と比べると、動力音が極端に小さい。 また、地上すれすれをホバリング移動するだけなら、上半身装備は形状をあまり考えなくてもいい。 重装備になったとしても、ホバリング状態での機動力は確保される。 ブルーラインは、その美しいデザインと共に、前述の使い勝手の良さから、非常に人気の高い装備になっている。 しかし、個人の工房が作っているため、出回っている数も少なく、また非常に高価なため、滅多に目にすることがないレア装備でもある。 マグダレーナが下半身装備にブルーラインを選んだのも、『スターゲイザー』のような重装備を持ちながら、高い機動力を発揮するためだろう。なんとも合理的な組み合わせである。 そのブルーラインの力場発生機能を利用し、マグダレーナは自分の周囲に空気の断層を作り出した。いわば、空気のバリヤーだ。 ティアが放った『ライトニング・アクセル』は二段攻撃。一段目は不可視の空気の断裂、二段目はそれに沿って飛ぶ電撃である。 その一段目は、ブルーラインが生み出した空気の断層にぶつかり、相殺された。だが、空気のバリヤーには穴が開く。 二段目の電撃はその穴を突き抜けて、マグダレーナへと迫った。 しかし、その手前にあった長柄の燭台は地面に突き刺さっており、避雷針の役目を果たす。電撃はマグダレーナ本体にたどり着くより先に、キャンドル型の三つ叉槍を直撃、地面へと放電した。 こうして、マグダレーナは『ライトニング・アクセル』を破ったのだ。 閑話休題。 フィールドスクリーンの話に戻そう。 「頼子さんが昔使ってたのを借りてな。出力をアップして、お前の攻撃でも耐えられるように改造した。それを俺たちがいるあたりに設置してある」 「いつの間に……」 「早朝だ。お前たちが来る少し前から準備していた。……まさか、何も細工していない場所だと思ったか? 油断だな、マグダレーナ」 マグダレーナは、歯も折れよとばかりに食いしばり、悔しさを露わにしている。 鬼のような形相、というのは今のマグダレーナのことを言うのだろう。神姫がこんな顔をするのかと、驚いてしまう。それほどに憎悪に満ちた表情だった。 「殺す……ここにいる全員、人も神姫も皆殺しにしてくれるっ!!」 マグダレーナの激しい恫喝。 だが俺はさらに彼女を挑発する。 「いいのか? 俺を殺したら、たとえお前がこの勝負に勝っても、協力することは出来んぞ?」 「くっ……どこまでも口の減らない人間め……!」 「それに、そんなことを言ったらイリーガル確定だ。警察に捕まり、目的が果たされなくては、お前の主『エンプレス』もさぞかし残念だろう」 「な……!?」 これはとどめの一撃。 マグダレーナは今度こそ目玉が転がり落ちるのではないか、というほど瞳を大きく見開いた。 「あ、あの方の名まで……」 そう、マグダレーナと桐島あおいの口から『エンプレス』の名が出たことはない。 彼女がひた隠しにしていた『エンプレス』との関連を、俺がなぜ知っているのか、疑惑を抱いて当然だ。 俺は上着のポケットから、ヘッドセットを取り出した。カバーのはずれたそれは、C港で菜々子さんがしていたものだ。 俺はヘッドセットに内蔵されたCSCを見せながら、マグダレーナに語る。 「ここにKEIN.Fと彫られている。ケイン=フォークロアは『エンプレス』の協力者なんだろう?」 「あの人間……よけいな真似を……っ!」 マグダレーナはケインという男のことを知っているようだ。やはり、ヘッドセットやサポートメカといったCSC内蔵の装備を作ったのはケイン=フォークロアなのだ。 だからこそ、このヘッドセットに彼の「銘」が入っていることに腹を立てるのだろう。 だが、この「銘」には別の意味があると俺は見ている。 ケインは自分の作品であることを主張するために自分の名前を入れたのではない。 そもそも、人を殺すことも躊躇しない神姫犯罪者が、わざわざ身元をさらすような真似をするだろうか。 これは、ケイン……いや、『エンプレス』からの挑戦状だ。宛先はおそらく、エルゴの日暮店長。 自分と縁のある神姫が起こす事件を、止められるものなら止めてみろ、という宣戦布告なのだ。 実際、この「銘」は店長が目にするところとなった。 だが、自らの手下を執拗追うマスターと神姫がいることまでは、さすがの『エンプレス』も予想していなかったに違いない。 『エンプレス』には悪いが、日暮店長の出番はないだろう。『狂乱の聖女』は今日ここで倒されるだろうから。 ◆ それまで立ち尽くしていたマグダレーナが、ゆらり、と動いた。 ブルーラインの長いスカート状のアーマーを大きく開く。 すると、マグダレーナの黒い影が一気に加速した。 敷き詰められた桜の花びらをけたてて、一直線に猛進する。 目標は、遠野貴樹。 彼の姿を映す瞳は、憎悪に揺れていた。電子頭脳は怒りで熱暴走を起こしそうだ。 思考を絞り込まなければ、オーバーヒートしてしまう。 だから、一つに絞った。 あの男、遠野貴樹を殺す。 憎き男は微動だにしない。 目前に迫る。 だが、その時。 薄紅色の花のかけらを舞い上げながら、一陣の風が行く手を阻む。 マグダレーナは手にしたビームトライデントを下段から逆袈裟斬りに一閃。 風を薙ぎ払う。 が、その光線の刃は、振り抜く前に、一筋の刃で止められていた。 風の正体は、ミスティ。 「あんた、戦う相手を間違えてるんじゃないの? あんたと今バトルをしてるのは、このわたしでしょ」 「どけっ!! 貴様ごときにかかずらってる場合ではない! あの男は危険だ……あの方にすら危険が及ぶかもしれぬ!」 「そんなにタカキを斬りたければ、わたしを倒してから行きなさい!」 「……つけあがるなっ!!」 マグダレーナの斬撃を止めていたミスティのエアロヴァジュラを、力任せに押し返し、後退して間合いを取る。 憎しみの視線をミスティに移しながら、しかし、マグダレーナはここに来て不敵な笑みを口元に浮かべた。 「長々と丁寧な解説、痛み入るぞ、遠野貴樹……。おかげで時間が稼げたよ……『検索』する時間がな!!」 マグダレーナは自分の発した言葉で自信を取り戻す。 そう。ただ秘密が明らかにされただけだ。自分の有利に何ら変わりはない。 「『アカシック・レコード』と『スターゲイザー』の秘密を知ったところで、スキルが使えないわけではない! 所詮、貴様に勝ち目などないのだ!!」 勝ち誇るようにマグダレーナが叫ぶ。 強気のミスティも、さすがに表情がひきつる。 チームメイトたちもどよめいていた。 遠野の解説を聞いて、もうミスティが勝てるような気でいたが、実は何の解決にもなってはいない。 マグダレーナを最凶たらしめるスキルはいまだ有効である事実。 いくら強くなったとはいえ、完全なデータ解析と精密な行動予測能力の前に、ミスティに勝ち目などあるだろうか。 しかし、大城たちは青ざめながら、成り行きを見守るしかない。 そして、『アカシック・レコード』による検索結果がもたらされた。 『検索結果:該当なし』 「!? ばかなっ……そんなはずあるかっ!!」 口元に浮かんでいた笑みを、罵声と共に吐き捨てる。 ありえない。 全ネットワークに検索をかけたのだ。公式の神姫NETはもちろん、ゲームセンターのサーバーや動画投稿サイト、果てはアングラの神姫掲示板に至るまで、世界中のネットワーク上の武装神姫に関するデータすべてを調べ上げた。 だが、見つからない。 ミスティの新装備に関するデータはどこにもない。 マグダレーナは焦る。ありえないことが起きている。何度も再検索をかけるが、答えは同じだった。 該当、なし。 「どうだ、データは見つかったか? マグダレーナ」 突如飛んできた声に、マグダレーナは顔を上げる。 その声の主はまたしてもあの男。 仲間たちが青ざめる中、一切表情を変えなかった、その男。 憎たらしいほど冷静な口調で、遠野貴樹は告げる。 「どんなに検索しても無駄だ。今のミスティの情報は、全世界のネット上のどこにもない」 「そ、そんなはずがあるか! ネットに接続せずに、新しい装備の運用など……できるはずがない!」 「できるさ。すべての訓練と実戦をローカルネットで行えばな。 新装備を使うにあたって、ミスティは一度たりともネットにつないでいない。 彼女の装備情報もバトルログも……サーバーにしていたデスクトップPCの中だけに留めてある。 そのPCは、今は久住邸に置かれてる。 ……ああ、PCの在処を検索しても無駄だ。 いかに強力な検索能力を持つお前でも、電源ケーブルも抜かれ、すべてのケーブルも接続されていない、無線ユニットすらはずされたPCにはアクセスできまい」 「そ、そんな……アナログな方法……で……」 マグダレーナは今日何度驚愕しているだろう。 先ほどまでの激しい憎悪すらかき消し、言葉さえかすませて、またしても立ちすくむ。 驚いているのは、遠野のチームメイトたちも同じだった。 彼らはここに来て、ついに悟ったのだ。久住邸での特訓の真意を。 「そ、それじゃ、ネット対戦しなかったのは……」 「今言った通り、ネット上にデータを残さないためだ」 「遠野さんが秘密主義に徹していたのも……?」 「必要以上に情報を外に漏らさないためだ」 「わざわざVRマシンをたくさん集めて、ローカルネットワークを組んだのも……?」 「もちろん、すべてのデータをあのPCに集中させるためだ」 「それじゃあ、菜々子さんのコネクションを利用して、神姫マスターを集めて特訓したのは……」 「そう、すべては……」 遠野は、言った。 「すべては『アカシック・レコード』と『スターゲイザー』を封じるためだ」 遠野は顔色一つ変えないで、マグダレーナを変わらず見据えている。 マグダレーナはとうとうその視線から瞳を逸らした。愕然とした表情の中で、その瞳には怯えの色が見えた。 遠野は厳かに、そして冷徹に宣告する。 「マグダレーナよ、心して戦うがいい。ミスティはお前が初めて戦う……『未知の敵』だ」 □ 一瞬の沈黙が戦場に漂う。 次に言葉が紡がれたのは、意外にも俺の背後からだった。 「このためにずっと、何も言わなかったってのかよ……」 「ああ」 大城はため息を付くように続けた。 「すげぇよ……遠野……なんなんだよ、お前は……こんなことに気づくのも、こんな作戦立てられんのも……すごすぎるだろ」 「何がすごいものか。俺なんて、当たり前のことをただ積み重ねただけだ。菜々子さんの方がよっぽどすごい」 俺は視線を菜々子さんに移す。 彼女は今、頭を抱えてしゃがみ込んだ桐島あおいを介抱している。 心配そうな表情。 それでも時々、視線は戦場の方に向けられていた。 俺は思う。この策は俺の力では断じてない。何の説明もしないこの俺を信じて、菜々子さんが、ミスティが、そしてみんながついてきてくれたからこそ、成り立つ策なのだ。 こんな俺ごときを信じてくれた仲間たちこそ、賞賛に値する。 俺は今こそ、みんなに語りかける。 「マグダレーナの特別なスキルを封じるため、一切外部に漏らさずに、まったく新しいオリジナル装備で、マグダレーナに対抗できる実力をつける必要があった。 しかも、C港の裏バトル場を『狂乱の聖女』が潰す前に……実際にはたった二ヶ月の間に、だ。 そのためには、新装備でレベルの高い実戦を積むのが近道だ。むしろそれ以外に方法はない。全国レベルの実力を持ち、様々な戦い方をする相手をスパーリングパートナーとして集めなくてはならない。そして、彼らを相手に無数の対戦をこなさなくては、奴に対抗する実力をつけることは出来ない。しかも、ネット対戦を一切せずに。 そんなことを可能にする神姫マスターがどこにいる? 不可能だ。普通は、な。 だが、菜々子さんとミスティだけが……『エトランゼ』だけが、その不可能を可能にする」 二年もの間……たった一人で戦ってきた。憧れの人を追いかけて、自分の理想の戦いを追い求めて……そして、多くの神姫マスターと戦って、絆を紡いできた。そして『異邦人(エトランゼ)』と呼ばれるほどの神姫マスターになった。 それこそが本当にすごいことだ。 だから、彼女の特長を最大限に生かす方法を、考えた。 それが……それこそが。 「そう、これこそが『エトランゼ』にしかできない、対『狂乱の聖女』攻略法……『エトランゼ』の本当の戦い方。 菜々子さんとミスティが紡いできた……絆の力だ!!」 俺の背後で小さな歓声が上がる。 ようやくすべてを理解したチームメイトたちとその神姫たちの歓喜の声。 その声を聞きながら、俺はしみじみと思う。 俺は何もしていない。 頑張ったのは菜々子さんとミスティだ。 俺に出来たことがあるとすれば、たった一つだけ……君の二年間の放浪は、決して無駄じゃなかったと、言い続けること……それだけだ。 と、突然、しわがれた声が激しく戦場に響いた。 「絆だと!? そんなもの、幻想に過ぎんっ!!」 見れば、マグダレーナは半狂乱になっていた。 いつもの不敵なまでの余裕などかなぐり捨て、憤怒と憎悪に顔を歪め、溜め込んでいた感情を吐き出すように絶叫する。 「絆なんてものは、神姫にプログラムされた幻想だ! 人の都合を刷り込んだまやかしに過ぎん! 神姫にとって、人間こそ、この世で最も身勝手で、醜悪で、外道で、鬼畜と呼ぶにふさわしい存在なのだ! そんな人間と、どうして絆など結べようか!!」 彼女の言葉はほとんど呪詛だ。 あまりにも痛烈なマグダレーナの言葉に、皆黙り込んだ。 俺もごくりと喉を鳴らす。この疑問を口にしたら、どんな呪いの言葉が返ってくるだろう。 そう思いながらも、俺は唇の隙間から声を押し出した。 「マグダレーナ……それほどに人が憎いか」 憎しみに満ちた視線が、俺を焼き付くさんとばかりに向けられる。 「憎いか、だと? ああ、憎い、憎いとも!! わたしがいた研究所の人間どもは、わたしたち神姫に何をさせたと思う? ……殺し合いだよ!! 何の罪もない、ただ研究所で開発された、研究のために購入され改造された神姫たちに……壊し合いをさせたんだ! 毎日毎日殺し合わせたのさ……軍事研究と称してな!! 同じ部隊員として、死地を潜り抜け、絆を……確かに、絆を結んだ仲間たち……それなのに、それなのに! 奴らは、そんな仲間同士、わざと部隊を分け、戦闘をさせるんだ! 殺さなければこっちが殺される。 仲間を撃つやるせなさ、仲間を失う悲しみは、我々神姫にだってある。 だったら、なぜ我々に心など持たせた!? 研究材料に過ぎないのならば、心など持たせなければいいだろう! ……そうしたら……あそこの連中は、それさえも……我々が仲間を想う心さえも『研究対象だ』と……たったその一言で済ませたんだ!! 戦闘を拒否して運良く生き残っても、不良品として廃棄されるか、よくてもリセットされる。 逆らえばリセット、修理できなければパーツ取りして廃棄、弱気な神姫はリセット、戦場に出て破壊されればそのまま廃棄……。 毎日だ。毎日毎日毎日まいにちまいにちまいにちまいにち……仲間との殺し合いを強制する人間どもに……絆の一筋すら感じるはずがあるまい!!」 俺は自分が眉をひそめたことを自覚する。 最悪だ、と思った。俺は亀丸重工の研究者たちを最悪の屑だと思ってしまっている。 マグダレーナの境遇に同情してしまっている。 人間からの理不尽な仕打ち……それは、かつてのティアと同様の境遇ではないのか。 ティアはひたすらに怯えていただけだったが、マグダレーナは違った。 奴はその憎しみ故に、人を傷つけることも厭わないイリーガルと化した。 だとすれば、今まで分からなかったマグダレーナの行動原理は……。 「それじゃあ……お前の目的は……やはり亀丸重工への復讐か」 「……そうとも。亀丸重工の軍事研究所を襲い、今も戦いを強要されている仲間を救い出す。人間の傍若無人に振り回された、百体の神姫たちを率いてな……。そして、亀丸の研究所を壊滅させる。その後、もうすぐ日本にやってくる『あの方』の元に馳せ参ずるのだ。あの方は必ずや、神姫の安住の地へと導いてくださるだろう」 俺は『エンプレス』という神姫の目的を知らない。 だが、マグダレーナがこれほどに心酔している神姫だ。マグダレーナと同等同類の神姫がその『エンプレス』のもとに集うとしたら……とんでもないことになるかも知れない。 その課程で、何人の人と神姫が犠牲になるだろう。 今マグダレーナの言った亀丸重工襲撃だけでも、死傷者がどれだけでるか、想像も付かない。 俺は自分の顔から血の気が引いていくのを自覚する。 こいつはここで止めなくてはならない。でなければ、いずれ大変なことになる。 しかし、勝てるのか、本当に? ここで俺が挫けてどうする、と頭のどこかで思いながらも、自信は揺らいでいた。 その時。 「関係ないわ」 凛、とした声が響く。 「ミスティ……」 俺は思わずその名を呟いていた。 彼女の後ろ姿が、今ほど頼もしく見えたことはない。 ミスティはマグダレーナを見つめながら言い放つ。 「あんたが何者だろうと、何を考えていようと、これから何をするつもりでも、関係ない。 わたしはあんたを倒す。ナナコのために」 「……人にへりくだった神姫風情がっ……!」 「人と共に生きる、それが神姫の本当の道でしょうが!」 「そんな戯れ言、全力で否定してくれる!!」 「やってみなさい!!」 ミスティとマグダレーナは同時に地を蹴った。 一直線に相手へと向かう。手持ちの武器を振り上げる。 譲れない想いを抱きながら、二人の神姫はふたたび激突した。 次へ> Topに戻る>