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姉さまは強い 槙縞ランカーには、その神姫本来の属性を外れた武装を使う者が多いが、その中でも姉さまはある種格別だ 姉さまは強力な武器を使わない 本来ストラーフはパワードアームやパワードレッグを使った白兵戦が強力なタイプだろう・・・が、姉さまがそれらを使っているのを見た事は無い 武器セットや改造装備の中からでも、姉さまは拳銃やナイフ等、普通に手動で操作出来る簡単な武器しか、使っているのを私は見た事が無い 常に自分の価値観での格好良さを第一に武装をコーディネイトして出撃し、遊びながらでも必ず勝って帰ってくる 姉さまは私にとって、マスターである以外に憧憬の対象でもあった だから、使わない本当の理由を、考えた事は無かった 「使わない」のではなくて「使えない」のかも知れない等と、考えた事も無かった 第拾壱幕 「MAD SKY」 ばらばらと、私の周りに無数の武器が現れ、あるものは転がり、あるものは闘技場の床に突き刺さる マスターが戦闘に参加出来無い以上、サイドボードを利用するにはこういった形で、バトル開始時に一斉転送してもらうか、戦闘中に私がマスターに指示するしかない だが、この『G』相手に後者のやり方では間に合わないと判断した私は、サイドボードのありったけの火器を一斉転送してもらう事にした 相手に使用される危険性がある以上、普通なら誰もやらないだろうが・・・ 「・・・!!」 案の定、出現した武器には目もくれず一直線に此方に走って来る『G』 それだけ自分の闘法に自信があるのか、それとも ・・・・単に『使えない』のか・・・・ 兎に角、ジグザグに武器の丘を走り回りながら、手に付いた火器を打ち込む事にする こういう手合いには先手必勝・・・だ 『仁竜』の大刀を素手で粉砕した以上、白兵戦になったら多分勝ち目は無い ならば精度は落ちようとも、弾幕で削り殺す!! 唸る短機関銃、榴弾砲、ライフル、機関銃 半ば喰らいながらかわされる、爆風をかえって跳躍力に加算される、僅かに装備した装甲でいなされる、マント(私のと同じ防弾か!)で防がれる 無茶苦茶だ!動きは全く出鱈目だし、それ程速くも無いが、『G』は自身の身を削りながらも、私の全ての攻撃を回避している 否、違う 奴が回避してるんじゃない 私が怯えているからだ・・・心のどこかで、こんな攻撃で奴は死なないんじゃないかと思って怯えているからっっ・・・! 爆風を切り裂いて、殆ど満身創痍の姿に見える『G』が私の懐に入って来ている 「・・・あ」 「ひとつ」 鈍い音がした 「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁ姉さま------------っ!!」 びっくりする程の声・・・絶望の片鱗を感じた時、人は叫ぶ 神姫は人の真似をする様に作られた だから彼女も叫んでいる その精巧な絶望を感じている心がプログラムされたものであろうとも プログラムされたものであろうとも「心」は「心」だ 席を立つ 「もう見ないのですか?マスター」 「あぁ、もうけりは付いただろう。この試合を見る為に僕は来たからね・・・別に残りたいなら君の意思を尊重するけど」 「ならばマスター、この闘いはまだ終わっていない。見届けるべきだ」 「!?」 勝敗のコールは確かに行われていない 何よりも、大きく吹き飛ばされた『ニビル』に向かって『G』は走り出している 「馬鹿な・・・どうやってあの攻撃をしのいだんだ?『G』の攻撃は甲冑も貫くのだろう?」 「マスター自身が言ったではないか・・・ニビルの、『Gアーム』だ」 意識はあった バーチャルスペースの方に、である どうやらデッドの判定は下されなかった様だ どうも私は闘技場の壁面に埋まっている状態らしい 体の状態は・・・ (片脚が・・・無い・・・!?) 恐ろしいパワーだ・・・武装神姫の細腕では装甲を付けていてももたないと踏んで、ヒットポイントをずらしてかつ脚で受けたのだが・・・ 太股の辺りに残骸を残しつつ、私の右脚は見事に砕け散っていた。ついでに横腹にも痛みがある・・・明らかに衝撃でボディスーツが引き千切れていた まだ動けるなら闘おうとも思っていたが、これでは死んでいないだけで、戦闘は不可能に近い 普通こういう状況になったらジャッジングマシンが私の敗北を宣言するのでは無いか・・・?と、思考は迫り来る破砕音で途切れた 「ふたつ」 粉砕される瓦礫と共に、再び大きく外に放り出される 床に叩き付けられ、呻く・・・だが今はその痛みについて考えている場合ではない (やっぱり・・・数えている?) なるべく攻撃の手を控えているのは、一撃必殺に誇りがあるからでは無いのではないか? あのパンチの速さと威力ならば、私の銃撃の幾つかは拳で迎撃出来た筈だ(余りにも想像したくない光景だが、多分可能だろう) だがそれをせず、危なっかしい方法で回避した (しかも数えている・・・という事は) 結論はひとつ、彼女の『Gアーム』は私のそれと同様に、使用回数制限があるのだ ならば、勝ち目はあるかもしれない ただ 問題となるのは その勝利を手に入れる為には恐らくもう私には たったひとつの手段しか残されていない事 この闘いは 多くの代償を支払ってまで 勝つ必要のある闘いだろうか? 『G』が迫る 私には・・・ 『そうよヌル。準決勝で会いましょ』 理由は、それで充分だった 「マスター!残りのサイドボードを一式、送って下さい!!」 いつもそれを、サイドボードに入れてはいた(ただ、そもそも私は、サイドボードを使って闘う事自体が初めてだったのだが) だがその装備を、私は封印していた 理由は簡単 その装備を使うと危険である事が、私のオーバーロード、「ゴールドアイ」の「代償」だからだ マスターは、知っている 私がこのオーバーロードを入手した時に、神姫体付けの拡張装備を使用すると、神経系が破損してゆく体になってしまった事を マスターは、知らない 残りのサイドボードとは即ち、“サバーカ”、“チーグル”、DTリアユニットplus + GA4アーム・・・まさにその体付けパーツである事を・・・! 電撃を受けたような衝撃が、私の体を貫いた 「結果、出ました」 「で、どうだった?」 暗い部屋でパソコンのモニタに向かっていた男が振り返る 逆光で、本当におぞましい怪物か何かに見えた 「実質上の未来予知が可能な『ゴールドアイ』の前には、いかな『ジェノサイドナックル』とて無意味です。『ニビル』の勝利に終わりました」 事務的な口調で応える・・・この男の前では彼女はいつもそうしていた 「ニビルは『ゴールドアイ』を使ったのだな?」 ねちこく、重ねて男は問うた。満足のいく応えに対し、数瞬自らの考えに沈み、すぐに口の端が吊り上る 「ククククク・・・ふはっはっはっは・・・・・・!ならば良い!これで少なくともあの筺体は、現状で望み得る最良の蟲毒壺としての状態になったわけだ!フハハハハハ!!」 「闘うがいい!木偶人形ども!俺の・・・俺の『G』の為に!!!」 高笑いと独り言を繰り返す男を見ながら、キャロラインは拳を硬く握り締めた 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ
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バトルロイヤルの特別ルールについて バトルロイヤル参加の手続き ①バトルロイヤルは毎時00分ちょうどに開始されます。 (エントリー受付は30分前から10分前までです) ②料金100円を支払いカードキーと参加神姫を交換してください。 この時点までに神姫への武装は済ませておいてください。 ③カードキーをもってバトルロイヤル用の筐体へエントリーしてください。 筐体はどれでも構いません。カードキーを差し込めば貴方の神姫とデータリンクを開始します。 ④ランダムで12コーナーの内から1コーナーが選ばれます。(初期配置) コーナー内に5つ存在する出現ポイントから好きなポイントを選び神姫に伝えます。 神姫の特性や武装に応じ好みの場所を選んでください。 (他の神姫がどのコーナーのどのポイントからエントリーするかは分かりません) ⑤試合開始の合図と共に出現ポイントのゲートが開き、武装のロックが外れます。 試合開始30秒以内にゲートから出てください。戦闘開始です。 (ゲートは30秒で地面に格納されるため、それまでに出られないと失格になります) ⑥戦闘開始後30分経過するか、参加神姫が最後の1体になった場合試合終了です。 撃墜数に応じた戦績に加え、最後の一人となった神姫には特別にボーナスポイントが入ります。 注意事項 参加神姫にはバトルロイヤル監視のマスターコンピューター(以下MCP)とのデータリンクが義務付けられます。 これにより、神姫の武装、および稼動モードは一部がMCPの管理下に置かれます。 具体的には致命傷と判断されたダメージを受けた場合の“強制的なスリープモードへの移行”および“既に敗退している神姫への攻撃”が禁止されます。 システムの都合上敗退した神姫を戦闘中に回収できないことに対する措置ですが、予期せぬ事故により敗退後にダメージを受ける可能性があることを予めご了承ください。 神姫センターバトルロイヤルのご案内より抜粋
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戦乙女は、かく降臨せし(後半) 相手はサイフォスタイプ。但しその手には片手剣でも大型の槍でもなく、 専用にチューンしたであろう、厳ついツヴァイハンダーが握られている。 全身の装甲は重装型と軽装型の折衷。背部には……ツガルタイプの翼か。 ともあれ剣一本を極めようとしているようで、油断はできそうもないな。 「仕掛けぬのか?では、一本往くぞ……ハイヤァーッ!!」 「はいですの……畏れず突進ッ、いやぁああーっ!!」 白兵戦に強いとされている第三シリーズだけあり、一太刀の威力は重い。 私のロッテにもフレーム換装を施してあるとはいえ、地力では一歩譲る。 それでもロッテは懸命に、右に構えた長大な細身のランスで受けている。 ヴァーチャルとはいえ飛び散る火花に、私は興奮と期待を全く隠せない。 「うっ、く……サイフォスタイプの剣技は、やっぱり凄いですの」 「そなたこそ、アーンヴァルタイプの細い躯でよくやる……ぬんっ!」 「え?……きゃうっ!?」 「ロッテっ!」 ロッテに装備させたランディングギアには、私が開発した接地用アームを 装甲類と共に取り付けている。アーンヴァルタイプの弱点である地面での 踏ん張りを可能としており、四本の可動爪によるグリップは相当な物だ。 それ故にサイフォスタイプとの斬り結びも可能なのだが、零距離ではまだ 経験であちらに分がある。現に今、蹴りを食らって突き飛ばされたしな。 「斬り合いではまだ不利か。ロッテよ、一度距離を取るのだ!」 「Ja!(了解)……白き翼よ、開いてっ!」 「何?!……そうか、アーンヴァルタイプは“天使”であったな」 「いいえ、私は……“戦乙女”ですの♪」 大いなる翼を以て、朱に染まる空へ舞う戦乙女。そう……これだ、これ! “天使を越えて、戦乙女となれ”!これこそが、軽量級用装備に於ける、 私のコンセプトであり……戦闘指針でもある。本領は、空にこそあるッ! 「じゃあここからは……本気で、いきますの。フォイエル!」 「うっ!?レーザーキャノン?馬鹿な、そなた何処から!」 「えっと、この槍からですの。ほら、これ♪」 「槍だと……?く、あれは……銃口か!」 フリッグとやら、不意に蒼い一撃を受けてやっと、事に気付いたらしい。 本来アーンヴァルタイプは、エネルギー兵器を得意とする“武装神姫”。 その特性を活かすべく、私のロッテにもレーザーキャノンは搭載済みだ。 その場所は──槍。そう、ロッテの槍はいわば“レーザーガンランス”! 「撃ちまくれ!弾幕を張れ、チャンスを狙うのだ!」 「Ja!フリッグさん、いきますのっ……それそれっ!!」 「ぬっ、く!ううっ!?チャージは遅い筈、何故だ!」 「出力を搾れば、それだけチャージは速くなりますのっ!」 「それに重ねて、ハンドガンの制圧射撃か……くうっ!」 流石熟練。弾幕自体は上手くいなしておりダメージの方は少ない様子だ。 だが、飛ぶ隙を与えぬこの作戦は奏功した……奴めの剣が下がったのだ! すかさずロッテは動き出した。制限時間も少ない、これが唯一の好機!! ハンドガンをホルスターに仕舞い、戦乙女が空から一気に舞い降りるッ! 「今ですの、せやぁああああっ!!」 「ッ!?しま、っ……うあっ!!?」 「これで決めさせて、もらいますのっ!」 弾幕の陰に隠れて、ロッテが超鋭角・高々度のミサイルキックを加えた。 接地用アームの爪を束ねれば、それは優秀な刺突用の白兵装備になるッ! 一撃で装甲を砕かれ狼狽したフリッグを、逆の脚部アームで掴みあげる。 そしてそのまま宙に投げ、左手で掴む!この瞬間、私は勝利を確信した! 「ぐ、あああっ!?ば、バッテリーが……第三種特殊攻撃、だと?!」 「あなたの“魂”を少し頂戴しますの……“アインホルン”充電!」 「ぬ、く!?は、離せ……力が、落ちる……!?」 第三種特殊攻撃。有り体に言えば“エナジードレイン”という類の技か。 強力ではあるが公平を保つ為に、公式試合では射程が大幅に制限される。 そこで私は、接触距離でのみ相手の電力を吸い取れる義手を作ったのだ。 吸収した電力は、即座にロッテの槍“アインホルン”に還元されていく。 「これでお仕舞いですの。……零距離射撃、フォイエルッ!!」 「ぐぅっ!?う、うあああああっ!!……ま、負けだッ」 『テクニカルノックダウン!!勝者、ロッテ!!』 そして自己の電力も上乗せした、最大出力のレーザーキャノンを見舞う。 しかも槍の穂先で盾代わりの大剣を貫いた、その先からの零距離攻撃だ。 たまらず相手は吹き飛び、審判システムが戦の終わりを高らかに告げる。 勝利の鐘が鳴り響く中、倒れ伏すフリッグを……ロッテが抱き起こした。 無論右手の槍はパージして。戦う意味は、今の2人にはないのだからな。 「ロッテ……負けとはいえ良い試合だった。礼を言おう」 「わたしこそ、フリッグさんにはお礼を言いたいですの」 「ふふ、良い娘だ。これからも、気を引き締めてな……」 あの娘はこういう優しい……甘い所がある。だがだからこそ“妹”として 私も彼女、ロッテを誇りに思うわけである。本当に良い娘だ……有無ッ。 早速、ヴァーチャル空間から還ってきたロッテを抱きしめ、ねぎらおう。 「マイスターっ!わたしの戦い、いかがでしたかっ!?」 「よくやったぞロッテ~!よし、今晩は祝勝会だっ!!」 ──────今宵、“私達”はとかく上機嫌なのである。 次に進む/メインメニューへ戻る
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【TOP】【←prev】【PlayStation】【next→】 BATTLE MASTER タイトル BATTLE MASTER バトルマスター 機種 プレイステーション 型番 SLPS-01064 ジャンル 対戦格闘アクション 発売元 たき工房 発売日 1998-1-8 価格 5800円(税別) タイトル BATTLE MASTER Major wave シリーズ 機種 プレイステーション 型番 SLPM-86519 ジャンル 対戦格闘アクション 発売元 ハムスター 発売日 2000-4-27 価格 1500円(税別) 駿河屋で購入 プレイステーション
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「接近して相手をすぐ倒すクリナーレで」 「さっすがアニキ!話がわかるぜ!!」 頭の上で騒ぎ喜ぶクリナーレ。 まぁ喜んでくれるのは嬉しい。 だけど他の三人は少し残念そうな感じだ。 『後で他の奴等と戦うから、その時にな』と言うとパア~と明るい表情になる神姫達。 さて、そろそろ対戦するか。 装備…よし! 指示…よし! ステータス…よし! クリナーレを筐体の中に入れ、残りの神姫達は俺の両肩で座ってクリナーレの観戦をする。 「クリナーレ、負けんなよ!」 「おう!任しときな、アニキ!!」 「頑張ってクリナーレ!!」 「クリナーレさん~頑張って~!」 「姉さんー!無茶はしないでくださいねー!!」 「闘いに無茶はつきものだぜ!」 クリナーレは余裕綽々な笑顔を俺に見せ筐体の中へと入って行く。 気がつくと俺は両手で握り拳をつくっていた。 いつになく俺の心は興奮していたのだ。 何故だろう? 多分、誰かを応援している事によって熱くなっているのかもしれない。 それとクリナーレに勝ってほしい、という気持ちがある…かもなぁ。 俺は筐体の方に目を移すと中には空中を飛んでいる二人の同じ武装神姫達が居た。 READY? 女性の電気信号が鳴り響き、一気に筐体内の中に緊張が走る。 勿論、外に居る俺達もだ。 FIGHT! 闘いの幕があがった。 お互いの距離150メートルからスタートして、まずは二人とも距離を縮め接近する。 クリナーレはDTリアユニットplusGA4アームに付いてるチーグルを相手のストラーフに向ける。 すると敵のストラーフもクリナーレと同様にDTリアユニットplusGA4アームに付いてるチーグルをクリナーレに向けた。 そのままお互いの距離が縮まっていく。 70…60…50…40…30…20…10…0! ガキャン! 鈍い機械音が辺りに響く。 DTリアユニットplusGA4アームのチーグル同士がぶつかった音だ。 「この!」 「うりゃっ!」 クリナーレが先に叫び上げ遅れて敵のストラーフも叫ぶ。 お互い両手を突き出しさらに互いの両手同士で掴みあう。 チーグルもその状態だ。 二人とも引かない力押しの戦法。 チーグルと自分達の両手で押し合い睨みつけあう状態が数秒たった。 「…そりゃ!」 敵のストラーフは何を思ったのか、自分を軸にしてクリナーレをブンブンと回す。 遠心力によりドンドン、と回転するスピードが速くなる。 「セイッ!」 ストラーフの掛け声と同時にクリナーレを離した、地上に向けて。 クリナーレは物凄いスピードで斜めの角度で地上に落ちていく。 いや、地上に落ちる前に廃棄されたビルにぶつかってしまう。 このままじゃマズイ! 「クリナーレー!」 俺は叫んだ、だがクリナーレからの返答はないまま、そのままビルに突っ込んだ。 ドガシャーン! ビルの壁をブチ破りそこらじゅうに雷みたいな亀裂が走る。 もう一回軽い衝撃でも当てればビルは倒壊するような亀裂だ。 って、ビルの様子よりもクリナーレの状態が気になる。 すぐさまビルに穴があいた部分に集中し目を凝らして覗く。 視力は良い方なので多少離れていても見える…はずだ。 …いた! グッタリと上半身を壁に寄りかかり座っている。 「大丈夫か!?クリナーレ!」 「イテテ~、大丈夫だよアニキ」 ヨロヨロと覚束ない足で立ち上がるクリナーレ。 これはちょっとヤバイかもなぁ。 筺体に付いてるコンソールを見るとクリナーレのLPは半分以上無くなっていた。 ちょっとどころではなく、かなりヤバイ。 あの野郎…無理なんかしやがって。 そんなヤバイ状態のクリナーレに追い撃ちがきた。 敵のストラーフがクリナーレがぶつかって出来た穴からモデルPHCハンドガン・ヴズルイフを撃ってきたのだ。 撃った数は二発。 何とかしてクリナーレはその二発を避けたものの、ただでさえフラフラの状態なので転がるように倒れ込む。 だが、幸いな事に転んだ場所が瓦礫の壁だったので敵のストラーフが追撃出来なくなったこと。 「クリナーレ、大丈夫なら返事をしろ!」 「ごめん、アニキ。やっぱり、ボク…負けちゃうかも」 弱々しい声で言うクリナーレ。 こんなにも弱々しいクリナーレを見たのは久しぶりだ。 前は違法改造武器を使った時に泣いたんだったけ。 今のクリナーレはあの時と同じだ。 このまま戦闘を続ければ精神的に弱気になってしまう。 どうする…どうすればいい! 俺に出来る事は何かないのか!? 「しっかりしてください、姉さん!弱音を吐く姉さんなんか、姉さんじゃありません!!」 「!?」 いきなりの大きな声が聞こえたので俺は驚愕する。 声の主は左肩に座っているクリナーレの妹、パルカだった。 怒った表情にも見えるけど悲しい表情にも見える、なんとも言えない表情だ。 自分の姉をまるで叱っているようにも元気づけてるようにも見える。 俺もパルカの事を見習わないといけないなぁ。 「クリナーレ!お前は力はそんなものか!?違うだろ。お前はそんなヤワな奴じゃないだろうが!!頑張れ!!!」 瓦礫に隠れていてクリナーレの姿は見えないが、俺とパルカは諦めない。 「そうよ、クリナーレ。貴女なら勝てるわ!」 「クリナーレお姉様はいつも元気な人ですわ。頑張ってください!」 アンジェラス、ルーナが後から応援する。 考える事は皆同じということか。 よし、このまま応援し続けるぞ。 「負けんな!クリナーレ!!」 大声で応援し続けていると他のオーナー達が『なんだ?』とこっちに来くる。 けど今の俺には野次馬なんてどうでもいい。 今はクリナーレの応援に専念するべき。 そう思った時だった。 「分かってるよ!ボクが負ける訳ないだろう!!」 クリナーレの大声が聞こえた。 ドカーン! それと同時にビルの反対側の壁が爆発した。 その爆発から勢いよく飛び出すクリナーレ。 表情は元気いっぱいのいつものクリナーレだった。 「クリナーレ!」 「アニキ、パルカ、アンジェラス、ルーナ。応援ありがとう。ボク、頑張るからしっかり見ててね!」 左手を元気よく振るクリナーレ。 フッ…心配掛けやがって。 まぁこれでいつものクリナーレに戻ったから大丈夫だろ。 「さっきはよくもヤッてくれたな!倍にして返すんだからー!!」 クリナーレが敵のストラーフに物凄いスピードで突っ込む。 あれ? この光景はデジャブーだぞ。 あっ! 戦闘が始まって最初に敵と接触した時の場面だ! ガキャン! 再び鈍い機械音が辺りに響く。 DTリアユニットplusGA4アームのチーグル同士がぶつかった音。 「また振り飛ばされたいのかな?」 「フン!残念でした~、次に振り飛ばされるのはお前だよ!」 お互い両手を突き出しさらに互いの両手同士で掴みあい、二人とも引かない力押しの戦法になる。 最初の時とまるっきり同じ。 チーグルと自分達の両手で押し合い睨みつけあう状態が数秒たった。 「それ!」 「!今だ!!」 敵のストラーフがまた振り回そうとした瞬間の隙をクリナーレは見逃さなかった。 ゴツン! なんとお互い掴んだままの状態で敵のストラーフの頭にクリナーレが無理矢理の頭突きをかましたのだ。 あまりの痛さにストラーフは自分の頭を両手で押さえてフラフラとバランス悪く飛ぶ。 その間にクリナーレはアングルブレードを右手と左手に一ずつ持ち二刀流になる。 「クラエーーーー!!!!」 ズバズバズバズバ!!!! 「オマケだーーーー!!!!」 グシャ! アングルブレードで4回斬った後に回し蹴りをして吹っ飛ぶストラーフ。 そのまま吹っ飛んだ敵のストラーフは反対側にあるビルの壁にぶつかり、LPが無くなり力尽き地上に転落していき、ゲーム終了した。 俺の方の筐体に付いてるスピーカーから『WIN』と女性の電気信号の声が鳴り響く。 多分、相手の方では『LOSE』と言われてるだろう。 そりゃそうだ。 勝ちがあれば負けもある。 二つに一つ。 「勝ったよ!アニキ!!」 筐体の中で俺の事を見ながら喜ぶクリナーレ。 俺も自分の神姫が勝った事が嬉しくて微笑む。 両肩にいるアンジェラス達も喜びハシャイでいる。 そうか…。 これが武装神姫の楽しみ方か。 確かにこれは楽しい。 おっと、クリナーレを筐体から出さないといけないなぁ。 筐体の出入り口に右手を近づけると勢いよくクリナーレが飛び出して来て俺の右手に抱きつく。 そのまま俺は右手を自分の目線と同じぐらい高さまで持っていきクリナーレを見る。 「頑張ったな、クリナーレ」 「エッヘン!アニキやみんなの為に頑張ったんだから!!」 「言ってくれるじゃねぇかー、こいつ」 「…アウッ」 俺は右手の手の平に居るクリナーレを更に左手の手の平と添えるようにくっ付けて、お茶碗のような形を両手で形どる。 両手でよく水を掬う時にやるあの形状だ。 その形を保ちつつ親指の腹の部分でクリナーレの頭を撫でる。 この撫で方はクリナーレのお気に入りだそうだ。 何でも、俺に抱かれているようで気持ちいいらしい。 まぁ…クリナーレがそれがいいと言うなら俺はなにも文句は言わん。 「いいなぁ…。ご主人様、ご主人様、次の試合は私を指名してください。絶対勝ちますから!」 「ダーリンのご褒美を貰うために頑張らないといけませんわね」 「あの…私のバトルは最後でもいいので…もし勝ったら、お兄ちゃんのご褒美くれますか?」 両肩で何やらクリナーレに嫉妬しているように見える三人の神姫達。 そんなにご褒美が欲しいのか? まぁ今日はトーブン、ここにいるつもりだから一応全員バトルさせてやるか。 俺はクリナーレの頭を撫でるの止めて離すと。 「え!?もう終わりかよ~。もっと撫でてー!」 離した親指を無理やり掴み自分の頭に擦り付けるクリナーレ。 はぁ~…我侭な奴だ。 まぁそこが可愛いだけどな。 だがもし、ここでまた再びクリナーレの頭を撫でると両肩に乗っている三人に何されるか解らないので撫で撫ではお預け。 クリナーレを両手から左肩に移動させ、俺は次の筐体に向かった。 闘いはまだ始まったばかりだ。 「さぁ行くぞ!俺達のバトルロンドの幕開けだー!!」 こうして俺達のバトルロンドがスタートした。 そしてこの日からクリナーレの二つ名が出来た。 名は『重力を操る者』…。
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キズナのキセキ ~ エピローグ ~ □ 俺は今日も、ティアを連れて、ゲームセンター「ノーザンクロス」に来ている。 四月を半ばを過ぎた土曜日の午前中。 チームメイトはまだ来ていない。 高校生のメンバーは午前授業の日だし、大城はランキングバトル目当てだから、昼過ぎにならないと来ない。 新年度が始まって間もない頃だ。常連客もまばらで、ゲーセンの中はいつになく平穏だった。 菜々子さんと桐島あおいがバトルした日から、二週間が経つ。 菜々子さんは、いまだに顔を見せていない。 体調が悪いわけではないようだ。彼女の様子は、頼子さんからのメールで知っている。新学期が始まり、忙しくしているのは間違いない。 しかし、以前は忙しくても無理矢理時間を作ってまで顔を見せた彼女だ。あの日以来、ゲームセンターに来ない彼女を心配して、八重樫さんたち高校生メンバーが先日、久住邸を訪ねたらしい。 頼子さんが玄関先に出て言うには、 「もう少し時間がほしい」 とのことだった。 今はまだ心の整理がつかないということだ。 「……早く戻ってきてくれればいいのに」 八重樫さんたちは少し寂しそうにそう言った。 俺も大城も、菜々子さんが帰ってくるのを待っている。 だが、彼女が帰ってこられない原因の一端は、間違いなく俺にあった。 あの日、バトル終了後に警察が踏み込んできた。 その手引きをしたのは俺だった。 警察には離れたところで待機してもらい、バトルが終わってから踏み込む手はずになっていた。 バトルの勝敗に関わらず、『狂乱の聖女』は捕らえられる予定だった。 そこまでのお膳立てをする代わりに、現場でのリアルバトルと多少の無茶は目をつぶってもらえるよう、警視庁の地走刑事とは話を付けていた。 結果、任意同行ではあったが、桐島あおいは警察に連れて行かれた。 すべてが終わった後、そうする必要があったことは説明したが、菜々子さんにしてみれば、俺の裏切りに見えても仕方がない。 俺は言い訳しなかった。菜々子さんの落胆は痛いほど分かったが、慰めの言葉をかけることはできなかった。このときほど、自分の口下手を呪ったことはない。 その日以来、俺は時間を見つけては、できるだけゲームセンターに入り浸るようにしていた。 日々の状況をメールで菜々子さんに知らせる。以前、彼女が俺に、そうしてくれたように。 たまに短い返信が返って来ると、ほっとする。彼女との絆が断たれていないことを実感するのだ。 そして俺は待ち続ける。 彼女が来るのを待っている。 □ 「あっ……マスター……あの方は……」 先に気がついたのは、ティアだった。 俺は顔を上げる。今入ってきた客の姿を確認する。 一瞬、本人かと見間違えそうになる。だが、ティアの言うとおり、俺の待ち人だった。 その客は女性である。 軽やかな春物のワンピースとカーディガンを身まとい、清潔感のある大人の女性、といった佇まい。 帽子をかぶっていないせいもあってか、過去に見た印象をまるで違って見えた。 その女性が俺の視線に気づいたように、顔を上げた。 彼女は迷わずに俺の前までやって来る。 「遠野くん……ちょっと、いいかしら?」 涼やかなその声は、一度ならず聞いている。 俺は応える。 「やっと来てくれましたね……予想より遅くて心配しましたよ」 振り向かずにはいられないほどの美貌が目の前にある。少し緊張しながら、名前を呼んだ。 「……桐島さん」 俺の待ち人……桐島あおいは少し困ったような微笑みを浮かべ、肩をすくめた。 □ やかましいゲームセンターで立ち話も何なので、俺は行きつけのミスタードーナッツに桐島あおいさんを案内することにした。 甘いものは大丈夫かと訊くと、大好き、と笑顔と共に返事が来た。 マグダレーナと一緒だった時とは明らかに雰囲気が違う。不敵な笑みを湛えた、超然とした雰囲気はなく、人好きのする明るい雰囲気に入れ替わっている。こちらが桐島あおい本来の姿なのだろう。 店に着いて、ドーナツを取って席に座る。 店の奥、窓に近い席だ。俺が入り口が見える方に腰掛けると、桐島さんが向かいに座った。 「あの子が……マグダレーナがかばってくれたみたい」 桐島さんがそう話し始めた。 彼女が警察にいたのはバトルの日の夜までで、その後二回ほど警察に出頭して終わりになったという。 厳重注意されただけで、何のお咎めもなかった。 それというのも、マグダレーナのメモリから、桐島あおいに関する一切の情報が出てこなかったからだ。最凶神姫から直接的な手がかりが出てこなかったため、証拠不十分として注意だけで終わったらしい。 もっとも、マグダレーナのメモリから桐島さんの記録が出てきたとしても、大きな罪には問われないだろうとは予想していた。 裏バトルに出入りして、賭博に関わっていたことは事実としても、証人の方も裏バトルの運営者や、裏バトルに参加するマスターや観客だから、桐島さんの証言をすれば、やぶへびになりかねない。 また、警察が今回の件でターゲットにしていたのは桐島さんではなく、マグダレーナだ。彼女はどちらかと言えば、重要参考人だった。 だから、警察が掴んでいる以上の罪には問われないと思っていた。 それにしても、マグダレーナが警察の調査の前に、桐島さんの記録を消したというのは、どのような心境の変化だったのだろうか。 「マグダレーナも……桐島さんとの絆を自覚した、ということでしょうか?」 テーブルに座っているティアが言う。 俺と桐島さんは小さく頭を振った。今となっては想像の域を出ない。真意を知っているのはマグダレーナだけだ。 だが俺も、ティアと同じように……マグダレーナが最後には、人間との絆を信じるに至ったと、思いたい。 「それに、世の中はそれどころじゃないものね」 桐島さんが苦笑しながら言うのに、俺は真顔で頷く。 そう、今、世間はそれどころではない。 マグダレーナの記録から、亀丸重工によるMMSの軍事研究利用が明るみになったのだ。 日本有数の大手企業によるMMS国際憲章違反。丸亀重工には、先日、強制捜査が入る事態にまで発展していた。 この事件は連日報道されている。警察は蜂の巣をつついたような騒ぎになっているはずだ。 先日、バトルの現場を押さえた警察の真の目的がこれである。 亀丸重工よりも先にマグダレーナを確保し、亀丸のMMS不正利用を暴き出す。それは見事に成功した。 また、桐島さんとマグダレーナが救い出して保管していた神姫たちも、彼女たちのアジトだった廃倉庫から発見された。 百体近い神姫の保護は前代未聞だ。しかも、いずれも人間のマスターによって虐げられてきた神姫ばかりである。 警察のMMS犯罪担当は、普段でも全然手が足りていない。そこへこの大規模事件に大量の神姫の保護である。裏バトルの参加容疑者一人にかまってはいられない状況だった。 今の状況を改めて整理してみて、思う。 マグダレーナは、彼女が望んだ方法ではなかったにせよ、結局は彼女自身の復讐を果たしたのではないか。 マグダレーナ自身が犠牲になることをきっかけに、恨みのあった企業にダメージを与え、研究を停止させて仲間を救い、さらに人間たちに虐げられていた神姫たちを数多く救った。 それは紛れもない事実なのだ。 「その後はどうしていたんです?」 「祖父母のところに戻って、いろいろ話したり。祖父母はずっと放任だったのにね……警察に世話になって、病院で検査して……なんてことしてたら、怒られるやら、心配されるやら、泣かれるやら……不思議よね」 桐島さんが、肩をすくめて苦笑する。 それが桐島さんの家族の絆だということなのだろう。血のつながりはそう簡単に断てるものではないのだ。俺はふと、頼子さんと、自分の父親のことを思い浮かべていた。 「それから、心療内科に検査に通ったわ。長い間、マグダレーナの催眠術を受けていたから、念のために」 「結果はどうでした?」 「まあ、深刻な影響は出てないみたい。でも……結局のところ、どこまでが自分の意志で、どこまでがマグダレーナの操作だったのか……いまとなっては、わたしにも分からないの」 桐島さんはうつむき、苦渋の表情を浮かべながら、続けた。 「菜々子には悪いことをしたわ。後悔している。あの子から、ミスティを奪うなんて……どうかしていたと、今になって思う。 でも、あのときの気持ちは……はっきりしないの。マグダレーナの意志なのか、自ら望んだことなのか……今となっては分からない。 もしかしたら、もう後戻りできない自分を止めてもらいたかったのかも知れない」 後戻りできないように未練となる妹分と戦ったと思っていたが、実際には逆だったのか。 二度の敗北を喫してもなお、菜々子さんは立ち上がり、そして勝利した。 かつて桐島さんが語った「理想の神姫マスター」となった菜々子さんが、かつて菜々子さんが「アイスドール」と呼ばれた時の思想を極めた桐島さんを倒した……そして桐島さんは、心のどこかでそうなることを望んでいた……なんとも皮肉な話だ。 そう言えば、桐島さんの暴走を止めたいと願う人が、もう一人いたことを思い出す。 「……姐さんには会いましたか?」 「姐さん……? だれ?」 「M市のゲームセンターで働いてる、バイトの姐さんですよ」 「ああ……」 「あの人も心配していましたよ、桐島さんのことを。一度会って、無事を伝えた方がいいと思います」 「っていうか、あんなとこまで行って、調べたの?」 ちょっと睨みながら、それでも口元には笑みを浮かべて、桐島さんが小さく抗議する。 その表情がどこか菜々子さんを彷彿とさせて、なるほど姉妹なのだなと、妙なところで納得した。 俺はその抗議をどこ吹く風と受け流しながら、コーヒーのカップを口に運ぶ。 よくやるわね、と桐島さんは肩をすくめ、一段落したら姐さんに会いに行くと約束してくれた。 「それで……これから、どうするんです?」 俺の問いに、桐島さんは自嘲するように笑った。 「……もう武装神姫はやめるわ。あの子にも、もう会わない。それがわたしの、せめてもの償いでしょうから……ね。 今日はそれを言いに来たのよ。あの子に……菜々子に会えなければ、もうそれっきりのつもりで……」 「……」 「だから、遠野くん、菜々子に伝えてくれる? もうわたしのことは忘れて、あの子の望む道を行きなさいって……」 「駄目です」 俺は彼女の言葉を即座に否定した。 少し目を見開いて驚いた桐島さんに、俺は真顔で続ける。 「菜々子さんに償うというなら、あなたは武装神姫を続けなくては駄目だ。それが菜々子さんの望む道だ。あなたがここでやめてしまえば、彼女の今までの苦労がすべて無駄になってしまう。それは俺が許さない」 「でも……」 「それに、ルミナスもマグダレーナも……あなたの神姫たちは決してそんなことを望んではいない。新たな神姫を手にして、絆を育む。それこそが、彼女たちが本当に望んだことでしょう」 だからこそ、マグダレーナは自らの記録から桐島さんを抹消し、彼女を守ろうとしたのだ。俺はそう信じている。 桐島さんは、深いため息を一つついた。 「厳しいわね、遠野くんは……そして優しい」 「優しくはないです。……俺の言うことなんて、誰かを追いつめてばかりだ」 俺がもっとうまく話ができたなら、もっとうまく立ち回ることができたなら、誰も傷つけずに解決できたかも知れない。いつも、そう思う。 「それに、俺は菜々子さんのためだけに動いています。彼女のためなら、厳しいことなんていくらでも言いますよ」 「菜々子が好きなのね?」 「……一応、恋人なので。 それに……菜々子さんはかけがえのない恩人です。 俺が絶望しているときに、手を差し伸べてくれたのは、彼女だった。 あなたが、絶望の淵にいた菜々子さんに、手を差し伸べたように」 「……」 「彼女の気持ちはよく分かる……だから、こんなメールも送ります」 俺は桐島さんに携帯端末の画面を向けた。 彼女の眼が大きく見開かれ、顔色を失った。 「このメール……いつの間に打ったの?」 「この店に来る道すがら」 ドーナツ屋に案内しながら、桐島さんに背を向けていた俺は、自分の身体をブラインドにして、素早くメールを打ち、送信していた。 タイトルだけの短いメール。 『いますぐドーナツやにきて』 相手先にはそれだけで用件が伝わると確信している。 桐島さんが驚きのあまり腰を浮かせた。 俺は彼女の肩越し、今し方入ってきた客に視線を向けながら、言う。 「逃げられませんよ?」 息を切らして入ってきたその客は女性。 ショートカットの髪。春物のブラウスに、細いパンツという出で立ち。肩に神姫を乗せている。 どうやらメールを見て、急いで来てくれたらしい。ベストタイミングだ。 俺と視線が合う。 すると、まっすぐにこちらにやってきた。 「貴樹くん……!」 確信は現実になった。 俺は彼女に小さく手を挙げたのみ。もはや何を語ることもない。俺の役目はここで終わりだ。 メールの宛先……久住菜々子さんは、桐島さんの真後ろまで迫っている。 菜々子さんが、ぴたりと歩みを止めた。 「……あおい……おねえさま……?」 おそるおそるその名を口にする。何ともいえない表情が、彼女の複雑な心の内を物語っている。 桐島さんも、負けず劣らず複雑な表情をしていた。驚き、苦渋、そして慈愛。いくつもの感情が彼女の表情を行き過ぎる。 だがそれでも、大きな吐息一つで心を整えたようだ。視線をあげた桐島さんの瞳には、覚悟の色が見て取れた。肩をすくめて薄く笑う。 そして、俺にしか聞こえない声で、言った。 「ありがとう、遠野くん」 俺は小さく頭を横に振った。 桐島さんは立ち上がり、振り向く。 「菜々子……」 菜々子さんは動けずにいる。 一瞬の沈黙。 二人の間に万感の思いがよぎる。 今にも泣き出しそうな、菜々子さんの顔。 ふと、桐島さんが微笑んだ。作り物でない、本当の笑みは、とんでもなく魅力的だった。 そして、今一度、愛しい妹分の名を呼ぶ。 「菜々子……!」 「……お姉さまっ!!」 菜々子さんが、桐島さんの腕の中に飛び込む。しっかり抱き合う。 ようやく菜々子さんは分かったのだ。出会った頃と同じ、本当の桐島あおいが戻ってきたことに。 桐島さんは優しく微笑んでいる。 菜々子さんの閉じた瞳の端に、光るものがにじんでいる。 二人の間に言葉はない。 だが、離れていた二つの螺旋は、ようやくここに同じ方を向いて重なった。 菜々子さんの肩にいた神姫が、こちらのテーブルの上に飛び降りてきた。 「ティア!」 「ミスティ……!」 二人の神姫も、抱き合って再会を喜ぶ。二人の間にあったわだかまりも、もはや遠い。 ミスティは自分のマスターを見上げ、眩しい笑顔になった。ティアも明るく笑っている。 店の中が少しどよめいている。 店員も他の客も、何事かとこちらを見ている。 菜々子さんと桐島さんは抱き合ったままである。 だが、俺は彼女たちに声をかけることはしなかった。 周りの目など気にする必要もない。 なぜなら、二人は様々な困難を乗り越え、二年もの時を越えて、ようやく真の再会を果たしたのだから。 しかし、すべての事情を知る俺が、その様子をじろじろと見ているのは、あまりに無粋というものだろう。 だから俺は、そっと、目を閉じた。 (キズナのキセキ・おわり) Topに戻る>
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神殿 概要 戦術地走リア 飛行リア アップデート履歴 コメント 神殿 実装期間:2020年12月24日10時〜2021年3月29日9時59分(95日間)、2021年6月10日~2021年7月28日9時59分(48日間)、2021年8月12日10時~2021年11月2日9時59分(81日間) 概要 周囲を堀に囲まれ、柱が乱立した神殿跡地のような地形で、物陰を利用した立ち回りが可能(実は、高い場所にも足場がある)。 ちなみに『バトルマスターズ』のOP(『Mk.2』では前半OP)において、アーンヴァルMk.2とストラーフMk.2が戦っていた場所に似ている。 戦術 地走リア 飛行リア アップデート履歴 日時:2022.9.6 内容:全てのモードで「和室」と入れ替わる形で適用された。 最高高度が低くなった。 日時:2021.11.02 内容:全てのモードで「神殿2」と入れ替わる形で撤去された。 日時:2021.08.12 内容:全てのモードで「マスタールーム」と入れ替わる形で適用された。 日時:2021.07.28 内容:全てのモードで「マスタールーム」と入れ替わる形で撤去された。 日時:2021.06.10 内容:全てのモードで「マスタールーム」と入れ替わる形で臨時適用された。 マップがさらに少し縮小し、塀の上に乗れなくなった。 一部エリアに進入不可能になった。 神殿屋根の削除、微調整。神殿屋根への階段を削除。 日時:2021.04.14 内容:バトル開始から数秒後にジェムポットが出現するようになった。 ジェムポットの出現位置がランダムになった。※一度出現した位置に再度出現することは無い。 日時:2021.03.29 内容:全てのモードで「マスタールーム」と入れ替わる形で撤去された。 日時:2021.03.10 15 00 内容:神殿の屋根の高さ変更。以前に比べて大幅に低くなった。 日時:2020.01.07 12 00 内容:マップ範囲の調整 マップが縮小し、塀を越えた外周通路に進入不可能になった。 マップ外周から神殿屋根への階段を作成。 コメント 新マップ追加はよ -- 名無しさん (2021-02-20 13 45 21) 名前 コメント
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2.目覚めは猫の鳴き声で 「どれどれ……えーっと、これがCSCってやつかな? ずいぶん小さいな……」 家に着いた僕は、早速神姫のセットアップを始めた。 箱から出てきたのは全長15センチくらいの人形だ。 細かい造形までよく出来ていて、今にも動き出しそうだ……って、それは当たり前か。実際に動くんだし。 米粒よりも小さなCSC――正式名称をコアセットアップチップという――をピンセットでつまみ、素体と呼ばれるボディ部分の胸元にある、小さな三つの穴に埋め込んでいく。 このCSCを埋め込むことで神姫は起動するのだが、その組み合わせによって神姫の基礎人格や得意分野、嗜好などが方向付けられるという。 CSCの種類自体いくつもあって、それぞれに特徴があるらしいのだが、僕の手元には若山さんから譲ってもらったCSCがちょうど三つあるだけなので、選択の余地はない。 とはいえ同じCSCの組み合わせでも神姫の種類によってはその性格の現れ方が異なるらしいし、最終的に最も強く影響するのは起動後の生活なのだとか。 「どんな性格でもきっと可愛いと思うようになるから、あんまり気にしなくてもいいよ~」 というのが、若山さんが僕に語った結論だった。 その言葉に従い、あまり細かいことは考えずに作業を進めていく。 考えることといえば、この神姫は一体どんな性格で目覚めるのだろうか、ということ……。 「にゃー」 作業をしている僕の足元に、一匹の猫が不満げな様子でまとわりついてくる。 飼い猫のキャロルだ。 そういえば今日はまだご飯を用意してやっていなかったっけ。 「あーごめんごめん。もうちょっと待っててくれな、もうすぐ終わるから」 すまなさそうに答えると、とりあえず納得したのか、キャロルはまとわりつくのをやめてちょこんと座り込む。 「どうした? 新しい家族が気になるのか?」 首をかしげて神姫を見つめるキャロルに、僕は思わずそんな言葉をかけていた。 自分で言っておきながら、不思議な感覚にとらわれる。 この小さな人形が動き出し、僕と一緒に過ごしていく……ほんの数分後に現実になるであろうその光景を、僕は未だ想像すら出来ずにいた。 「これで最後……っと」 三つ目のCSCを埋め込んだその時、にわかに電話のベルが鳴り出した。 タイミングが悪いにもほどがある。 無視してしまおうかとも考えたが、仕事絡みだと後々面倒だ。 僕は渋々立ち上がり、キッチン横に備え付けられた受話器を取る。 「はい、狩野です」 『ああ、暁人? 最近全然連絡ないから心配してたけど、元気でやってる?』 電話口から聞こえてきたのは、間違いようもない母親の声だった。 僕が仕事を始めて一人暮らしをするようになってからというもの、こうして何かにつけて電話をかけてくる。 別に嫌ではないのだが、我が母親ながら少し過保護に過ぎるのではないだろうか。 一人息子を心配する気持ちはわからないでもないが、もう少し僕のことを信用してほしい、とは毎度思うことである。 「ああ、母さんか。うん、特に問題なくやってるよ。あーごめん、今ちょっと取り込み中なんだ、またかけるから」 『そんなこと言って、貴方自分から連絡してきたことほとんどないじゃないの』 やばい、地雷を踏んでしまったか……こうなるとうちの母親は話が長い。 説教というわけではなく、脱線を繰り返して話がとんでもない方向へ進んでいってしまうのだ。 それは声のトーンでわかる。 普段なら適当な相槌を返しながら聞き流すのだが、さすがに今はそうもいかない。 「あーほんとごめん、今はどうしても時間がないんだ。ちゃんと連絡するから、じゃっ!」 『あ、こら、あきひ……』 少々強引に電話を切り、受話器に向けて手を合わせる。 ごめん、ホントに今度ちゃんと連絡するからさ。 えーっと……そうだ、神姫は起動したらすぐにマスター登録というのをしなければならないんだっけ。 このマスター登録によって神姫は特定の人間をマスター……つまり自分の主人として認識し、ここにある種の契約が産まれる。 こう言うと伝承の中にある召喚の儀式のようだが、イメージとしてはあながち間違いでもないのかもしれない。 「……そんなこと考え込んでる場合じゃないか」 誰にでもなく呟き、急いで部屋に……と、その時、聞きなれない声のようなものが僕の耳に入ってきた。 ともすれば聞き逃してしまいそうなくらい小さなものだったが、何故かそれが耳について仕方ない。 「……ぅ」 何だろう、確かに声のように聞こえる。 テレビはつけていないし、割と防音がしっかりしている部屋なのでお隣さんということはないと思う。 外からの音というのも、同じ理由で可能性は低い。 聴覚を集中させて、音源を探る。 「……ぁぅー」 今度ははっきりと聞こえた。 間違いなく人の声だ。そしてその発信源は……。 「……誰か~、た~す~け~て~」 ……僕の、部屋? 「……しまったあ!」 キャロルが興味津々な様子で神姫を見つめていたのを思い出すと同時に、僕はあわてて駆け出し、部屋のドアを乱暴に開けた。 そして僕の視界に飛び込んできたのは……。 「にゃー」 「あうあうー、離してくださいってば~」 我が家の愛猫に捕食されそうになりながら情けない声をあげている、小さな女の子だった。 「うう、ぐすっ……ひっく」 さて、困った。 神姫を押さえ込んでいた(当人は多分じゃれあっていたつもりなのだと思うが)キャロルを急いでひっぺがし、とりあえず夕飯を与える。 今は好物のミシマ水産のツナ缶を一心不乱に食していらっしゃる。 こちらのことなど眼中にない様子。 そしてようやく神姫と向かいあったまではいいのだが、肝心の神姫が先ほどから泣いてばかりなのだ。 キャロルには子猫の頃から僕の指で甘噛みの練習をさせているので、痛みとか外傷はないと思うのだが……よほど怖かったのだろうか。 「あーその、なんだ……ごめん、謝るから、とりあえず泣き止んでくれないかな?」 そう言葉をかけるも効果はなし。 参った、僕はこういう状況はとても苦手なのだ。 女性経験が皆無といっていい僕にとって、女性に泣かれるということは、対処のしようがない天災のようなものである……経験があったとして、それが神姫に通用するかは疑問だけど。 とりあえず言葉で彼女をなだめることは早々に諦めるとする。 となれば、残るは実力行使だ。 彼女を怖がらせないように、そっと手を伸ばす。 俯いてえぐえぐやっている彼女が気付く様子はない。 ぴと。 僕の人差し指が彼女の髪に触れる。 そしてゆっくりと撫でるように、さすってみた。 人間同士の最も原始的なコミュニケーション、スキンシップ。 その基本中の基本である『頭を撫でる』という行為を実践したのだ。 僕が頭を撫でると同時に、彼女の動きがぴたりと止まる。 ぐすぐすと泣いていた声も止まったので、僕はひとまず安心して、そのまま頭を撫で続けた。 指先に、微かな温もりを感じる。 それが機械特有の熱であると頭では理解しながらも、その温かみは人が持つそれと同等のものに感じられて仕方がなかった。 しばらくされるがままになっていた彼女が、ゆっくりと顔を上げる。 まだ目元に涙が残っているようだが、その顔に怯えや恐怖はない……というか、なんだかぽーっとしているようだけど。 「ん、少しは落ち着いた?」 「ふぁー……」 僕の辞書には、肯定にも否定にもそんな返事はない。 それ以上どうすることも出来ず、僕はまた困ってしまった。 彼女の金髪はさらさらしてて気持ちいいし、しばらくこのままでもいいんだけど……。 いつの間にかぺたんと座り込み、すっかり脱力している彼女の姿に、僕ははたとあることに考えつく。 (もしかして、神姫って頭撫でられると動けなくなるとか……?) そんな馬鹿な。 人間とコミュニケーションをとれるのがウリだってのに、頭撫でたら動けないなんて本末転倒にもほどがある。 でも昔、しっぽを掴まれると力が抜けるアニメキャラとかもいたしなあ……って、それはまた違う気もするけど。 とにかく、もし本当にそうだとしたら困るので、僕は一度彼女から指を離した。 彼女は相変わらずぽーっとしていて、その様子に変化はない。 「……そうだよなあ、そんな矛盾あるわけな」 「ふあっ、わわーーーーーーーーっ!?」 突然彼女が大きな声をあげたので、僕はびっくりしてひっくり返ってしまった。 十五センチサイズから発せられた音量とは思えなかった。 「な、何、どうしたの!?」 「ごごごご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめあいたーっ!?」 いきなりすごい勢いでぺこぺこと頭を下げ、謝りだす。 そして勢いがつきすぎたのか、床にモロに頭を打ち付けていた……かなり痛そうだけど、大丈夫かな。 「うー、くらくらするよお」 涙を浮かべながら、両手でおでこを押さえている。 よっぽど痛かったんだなあ……じゃなくて、とりあえず落ち着かせないと。 「あー……君、とりあえず僕の目を見てくれるかな?」 「はは、はいいっ!」 僕がそう言うと、彼女は軍人も驚くくらいびしーっとまっすぐに立ち、僕の目を見つめた。 まだ冷静とは言えなさそうけど、話は出来そうだ。 「えっと、君は武装神姫。自分のことはわかるかな?」 まずは彼女の状態を確かめないといけない。 いきなり混乱していたみたいだし……僕のせいなんだけど。 「あ、はいっ。私は武装神姫、天使型MMSアーンヴァル。コアユニットコードAGL―ARNVAL。個体コードTT―45986、素体構成材質は……」 「ストップストップ、そこまででいいよ。ありがとう」 彼女の話を途中で遮る。 構成材質とか興味がない話ではないが、そんなのは後で調べればいいことだし、今の目的はそこじゃない。 「よろしいのですか? まだ途中ですが……」 「いいのいいの、いずれ詳しく教えてもらうから。それより先に、マスター登録ってやつをしないといけないんじゃないのかい?」 『マスター登録』という言葉に、彼女はようやく落ち着きを取り戻したらしい。 「そ、そうですね」なんて言いながら、ふーっと一つ深呼吸……なんか、全然ロボットっぽくないな。 若山さんが怒ってた気持ちが、改めてわかった気がする。 「では、マスター登録を開始します。音声解析、準備……完了。貴方が私のマスターですか?」 先程までとは違う、機械的な音声。 合成音というわけではないが、やはりこういうところは機械なのだと再認識する。 そして僕が返事をしようとした、まさにその時……。 「にゃーん」 いつの間にか食事を終えていたキャロルが僕の変わりに返事をした。 「お、おいっ」 もちろん僕は慌てる。 猫が神姫のマスターだなんてことになったら一大事だ。 む、いやしかしそれはそれで興味深……いやいやいや。 そんなことを考えている間にも、彼女は言葉を続ける。 「解析開始……完了。登録不能な音声信号と判定。登録に失敗しました。マスター登録を再試行します」 どうやら猫の声ではマスター登録は出来ないらしい。 考えてみれば当たり前なのだが。 それに、マスター登録には自分の名前を告げることが必須だったはず。 さすがに「にゃーん」ではそこでひっかかるだろう。 僕は胸を撫で下ろし、再度マスター登録に臨む。 「貴方が私のマスターですか?」 「そうだよ、僕の名前は……」 「にゃー」 って、おい! 「解析開始……完了。登録不能な音声信号と判定。登録に失敗しました。マスター登録を再試行します」 この手の登録は三回失敗すると一時的にシャットダウンされるって相場が決まってる。 今度こそ邪魔されるわけにはいかない。 僕はキャロルの両脇をむんずと抱え上げ、クローゼットの中に押し込んで扉を閉めた。 「にゃー!」 なんだか怒っているようだが仕方ない。 ごめんよキャロル、少しだけ我慢してておくれ。 「さて……」 これで安心だ。 僕も一度深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。 「貴方が、私のマスターですか?」 三度目の試行。 ゆっくりと、確認するように聞こえたのは気のせいだろうか? 「そうだよ、僕が君のマスターだ。僕の名前は狩野暁人」 「解析開始……完了。音声信号を保存。マスター名、狩野暁人。マスター登録に成功しました」 登録完了、これで一安心だ。 彼女の声質が、それまでの機械的なものから、本来彼女が持っているものへと変わる。 「えと、これからよろしくお願いしますね、マスター」 鈴を転がすような、というのはこんな声のことを言うのだろう。 ちょっと舌足らずな喋り方がまた可愛らしい。 「うーん、マスターっていうのは堅苦しいな。僕のことは暁人でいいよ」 彼女はきょとんとしている。 名前で呼ぶこともマスターと呼ぶことも、彼女にとってあまり違いはないのだろうか。 「えと……じゃあ、暁人さん」 「うんうん、よく出来ました」 ご褒美……というわけでもないが、人差し指で彼女の頭をぽふぽふと撫でてやる。 そうするとまた、彼女は脱力してぽーっとなってしまった。 「ふぁー……」 「あ、ごめんごめんっ」 僕は慌てて指を引っ込める。 こんなこと説明書には書いてなかったんだけど……腑に落ちないが仕方ないか。 「神姫って頭撫でられると動けなくなっちゃうんだね、僕も気をつけないと」 「……え?」 彼女が「何言ってるんですか?」という目で僕を見る。 いや、そんな反応されても……。 「頭撫でられると動けなくなるんじゃないの? 事実、君はさっきからそうなってるし」 そう言いながら三度人差し指で頭を撫でると、やっぱり同じ反応。 でも、なんだか赤くなってもじもじしているように見える。 「えと、えーと、あのですね……」 何か言いたそうなのでとりあえず指を離し、話がしやすいように彼女と目線の高さを合わせた。 彼女はほうっと息を吐くと、 「先に結論から言いますと、頭を撫でられても神姫が動作停止することはないです」 と、はっきりした声で言う。 そりゃそうだよなあ、やっぱり。 頭も撫でられないで何がコミュニケーションか、などと思う。 しかし、そうすると先程からの彼女の脱力っぷりが気になるわけで。 「でも、君は頭を撫でられると様子がおかしくなるよね? もしかして、どこかにトラブルでもあるのかな」 いかに心を持つとはいえ……いや、逆に考えれば、それだけ複雑なプログラムや精巧なボディで出来ているのだ。 精密機械の常で、どこかにトラブルが潜んでいたとしてもおかしなことではない。 そんな僕の考えをよそに、彼女から返ってきた答えは、僕の予想の斜め上を行くものだった。 「いや、そのですね、何と言いますか……その、頭を撫でられると、あったかくて気持ちよくて、ぽーっとなってしまうようで……」 顔を真っ赤にして、指をぐにぐにしながら答える彼女。 えーっと、それはつまりプログラムのバグやハードウェアの故障とかじゃなくて、もっと原始的な感情に基づくもの……。 「あー……それはつまり、頭を撫でられるのが好きってこと?」 恥ずかしそうに僕を見上げながら、こくこくと頷く。 なるほど、頭を撫でると動けなくなるのは武装神姫全般の仕様とかじゃなくて、彼女特有の個性ってことか。 しかしまあ、そんな個性もありなんだろうか? いずれにせよ、彼女に悪影響を与えるものではないとわかったので安心だ。 遠慮なく(というのも妙な言い方だが)頭を撫でさせてもらうことにする。 「はふ~……」 そして脱力。 先程よりもいささか安心しているのか、自分から僕の指に頭をすりつけたりしている。 うーん、なんか小動物みたいで可愛いな……と、そこで僕は大事なことを思い出し、彼女を撫でる指を離した。 名残惜しそうに彼女は首を伸ばし、頭を僕に向けて差し出してくる。 くう、可愛いぞ……このまま戯れていたいけど、そうもいかない。 「君に名前をつけてあげないといけないね」 いつまでも『君』とか『彼女』のままじゃ可哀想だ。 うんうん、と僕は一人で頷き、考えを巡らせる。 さて、どんな名前がいいだろうか。 「天使型、天使……エンジェル、アンジュ、セラフ……ダメだな、安直すぎる」 せっかくだから彼女に似合う、最高の名前をつけてあげたい。 彼女は色白でかつ金色に輝く髪の持ち主だ。 和風な名前は最初から選択肢の外にある。 洋風の名前でも、安直なのはダメだ。 ちゃんと意味を持った、彼女だけの名前にしてあげないと……。 「あのー、暁人さん?」 がりがり。 「彼女のイメージから連想する言葉……天使からは少し離れてみよう。白、金、乙女……」 『暁人はそういうトコ無駄にこだわる癖があるよな』とは大地の弁だ。 大地に限らず、学生時代から周囲の友人の評価は概ね変わっていない。 別にいいのだ、自覚もあるし。 興味のないことには悲しいくらい無関心、その代わりこだわるところは徹底的にこだわる、それが狩野暁人という人間である。 「あのあの、暁人さんってば」 がりがりがり。 「なかなかいいのが思い浮かばないな……そもそも彼女のイメージっていうのがまだ漠然としすぎてるんだ」 まだ出会ってほんの三十分である。 僕が彼女について知っているのは、外見的特徴と「頭を撫でられるのが好きだ」ということくらいのものだ。 しかしまあ、当たり前のことだが名前というのはそんな状況でつけるものである。 キャロルの時はどうしたんだっけ。 「ええと、あの時は確か……」 「あーきーひーとーさーん!」 「うわっ」 「きゃあっ」 耳元で大声がしたため、僕は再び後ろにひっくり返ってしまう。 そして同時に悲鳴。 いつの間にか僕の肩に登っていた彼女が、僕がひっくり返ったために空中に投げ出された……なんてのは後でわかることで、空中から落下してくる小さな影の下に、夢中で仰向けのままの体を滑り込ませた。 がつんっ! 「あだっ!」 目の前に星が飛び、直後視界が暗転しかける。 なりふり構わずに滑り込んだため、勢いで頭を何かにぶつけたらしい。 かなり痛い、もしかしたら少し馬鹿になってしまっただろうか? 「いやそれよりもだ」 くだらない考えに一人ツッコミをいれ、彼女の安否を確認する。 その姿は……いた。 僕の胸の上にダイブするような形で乗っている。 目立った外傷はない。 「おーい、大丈夫?」 声をかけると、うにゅーなんて唸りながら起き上がり、ちょこんと僕の胸の上に座り込む。 「はふ、びっくりしましたよ~……って、暁人さん頭! 大丈夫ですか!?」 どうやら僕が頭をぶつけたことに気がついたらしい。 泣きそうな顔で僕の目の前に寄ってくる……近いよ、すごく。 そして「ごめんなさい」を連呼。 「あー、大丈夫だから、そんなに謝らなくていいって」 「でもでもっ、私のせいで暁人さんが、暁人さんが~はうっ」 気にしないでいいと言っているのに彼女は半泣きのままだ。 拉致があかないので頭を撫でてやると、予想通り大人しくなる。 なんというか、困った時はとりあえず撫でておくのがよさそうだ。 しばらく撫でていると、彼女はすっかりほわほわになってしまった。 頃合と見て声をかける。 「それより、いきなり大きな声出してどうしたの?」 すると、彼女ははっと我に返ってぽんと手を打つ。 そして恐る恐る、僕の頭の先……クローゼットを指差した。 「えとですね、なんかさっきからがりがりがりって音がしてるんですけど……」 がりがりがりがりがり。 そして、怒りの雄叫び。 「うにゃーっ!」 「あちゃあ……忘れてた」 「悪かったって、機嫌直してくれよ~」 僕が手を合わせて許しを請うているのは、我が家の猫姫キャロル。 先程の仕打ちで大層機嫌を損ねたらしく、目を合わせようともしない。 別にキャロルの機嫌が悪いからといって僕に実害があるわけでもないのだが、そこはやはり同じ屋根の下で暮らすもの同士。 良好な関係を維持しておくべきだと思うのである……猫好きの僕としては、単に無視されるのが寂しいからというのもあるが。 「明日はミシマ水産の最高級のツナ缶買ってきてやるから、な?」 ミシマ水産のツナ缶といえば、食用ツナ缶の中でも割と高級な部類に属するものである。 それまで普通に猫用のツナ缶を食べていたキャロルだったが、ある日僕が食べていたミシマ水産のツナ缶を分けてあげたところ、それ以来他のツナ缶には目もくれないようになってしまったのだ。 そしてその最高級品ともなると、普通に人間用の惣菜弁当、それもそれなりのものが買えるくらいの値段になる……正直、財布にはあまり優しくない。 そんな僕の切実な願いを聞いているのかいないのか、キャロルは悠々と僕の脇をすり抜けていく。 その瞳が見ているものは……少し離れたところで成り行きを見守っていた、神姫の彼女だ。 「はわっ」 キャロルが自分を見ているのに気付いたか、ぴしっと石のように固まる彼女。 どうやら最初に受けた衝撃は相当のものだったらしい……って、当たり前か。 起動直後に猫に組み敷かれた神姫なんて、そうそういないだろう。 「心配しなくても大丈夫だよ、傷つけたり、痛くしたりすることはないからさ」 そこら辺はきちんと躾けてある。 ついつい手を出してしまうのは猫の本能だから仕方ないが、力加減は出来るはずだ。 びくびくしている彼女の前にちょこんと座り、じっと見つめるキャロル。 大丈夫だと思うんだけど、あまり怖がらせるのも悪いよな……そう思って助けに入ろうとしたその時、ぺろり、とキャロルが彼女の頬をなめた。 「ひゃっ!?」 予想外の刺激に、びくーっと傍目にもわかるほど硬直する彼女。 それにも構わずキャロルのスキンシップは続く。 鼻や頭をすり寄せてみたり、くんくんと匂いをかいでみたり……やがて彼女も慣れてきたのか、おずおずとキャロルの鼻頭に手をのばし、そっとさする。 キャロルが気持ちよさげに目を細めるのを見て、彼女は幸せそうに笑った。 「あはっ……あなたも私と同じで、撫でられるのが好きなんですね」 満足そうに一鳴きすると、キャロルはお返しとばかりに彼女の頭を鼻で撫でるようにさすった。 「きゃっ、もう、くすぐったいですよ~」 そんな風に言いながらも、彼女に嫌がる様子はない。 むしろ、同じように気持ちよさげにしているくらいだ。 やれやれ、これなら心配はいらないかな。 彼女たちのじゃれ合いはしばらく続いた。 そんな中で、僕はキャロルの行動に母性のようなものを感じはじめていた。 この辺りは猫が少ないのか、まだそういう事態になってはいないが、キャロルももう母猫になってもおかしくない年齢だ。 もしかしたら、生まれたばかりの彼女の姿に母性本能を刺激されたのかもしれない……ん、待てよ? 生まれたて……誕生……。 「それだっ」 急に声をあげた僕に驚いたのか、一人と一匹が揃って僕を見る。 僕は彼女に近づき、目線を合わせていった。 「君の名前が決まったよ……ノエルだ」 ラテン語で『誕生』を意味する言葉を語源とするこの名前……反射的に思いついたものだが、口にすればするほど、この世界に生まれた彼女と、この先の幸せを祝福するにふさわしい名前だと感じられる。 「ノエル……いい響きですね、嬉しいです」 幸せそうに笑う彼女……ノエル。 よかった、気に入ってくれたみたいだ。 そして僕は、彼女の目の前にそっと指を差し出した。 「それじゃ、これからよろしくね、ノエル」 「はいっ、暁人さん!」 彼女が両手で僕の指を掴む。 人間と神姫の、不恰好だけど気持ちのこもった握手だ。 帰り道で感じた不安は既になく、今の僕は、この新しい関係が少しでも長く続くことを願うばかりだ。 すっかり機嫌をなおしたキャロルの鳴き声が、彼女の誕生と二人の出会いを祝福してくれているように聞こえた。 1.武装神姫、里親募集中 TOP 3.僕と彼女とコーヒーと
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第2部 「ミッドナイトブルー」 第10話 「night-10」 巨大な航空母艦型MMSのツラギの姿がはっきりと眼前に写る。 ツラギは左舷に備え付けてある大小さまざまな火砲でシュヴァル目掛けて対空射撃を開始する。甲板にいる砲台型や悪魔型もライフルや大砲で攻撃を行う。 急降下するシュヴァルの周りで砲弾が炸裂し、機関砲弾が装甲を貫く、シュヴァルは満身創痍になりながらも最後の駄目押しで、リアパーツの2門の素粒子砲を放った。 シュヴァル「うおおおおお!!」 ビッシュウウウン!! 青白い光がまっすぐにツラギの後部のスクリュー、舵部分に命中する。 ズズウウン・・・ 一瞬、グラリとツラギの巨体がひるむが、さして目に見えるようなダメージは食らっていない。 金川「ツラギ!損傷報告」 ツラギのマスターである金川がマイクを掴んで確認を取る。 ツラギ「左舷後方に命中!第2舵が破損、被害は軽微」 ナターリャ「ふん、バカめ・・・その程度で空母型神姫が沈むものか!」 ドンドンドンドン!! ツラギの艦橋ブロックに搭載されている連装機関砲が放った機関砲弾がシュヴァルのエンジンを貫いた。 シュヴァル「ぐっあ・・・エ、エンジンが!」 ボウウン!! 真っ黒な煙を吐いて、シュヴァルの体がバランスを崩してツラギの甲板に突っ込む。ツラギの甲板に叩きつけられるように不時着するシュヴァル。 シュヴァル「ぐああああ!!」 不時着のショックでシュヴァルの装甲がバラバラに砕け散り、脚部があらぬ方向に曲がる。 ツラギ「敵機!甲板に落着!」 悪魔型のニパラが強化アームでシュヴァルの頭部を鷲掴みにし、頭部に砲口を突きつける砲台型のルーシ。 ニパラ「ひゃはははっは!!捕まえたぜェ!!」 ルーシ「よくも好き勝手散々暴れまくりやがって」 シュヴァル「う・・・・ぐ・・・」 ニパラ「頭部を握りつぶしてCSCを抉り出して砕いてやる」 ナターリャ「待て!!」 ナターリャが弱ったシュヴァルに近づくと、もったいぶった言い方であざ笑う。 ナターリャ「敵ながらたった一人で私の指揮する機動MMS艦隊にここまで立ち向かったのだ。ここは天晴れと賞賛すべきだろう」 シュヴァル「ぐ・・・・」 ニパラはぐいとシュヴァルの頭部を無理やりナターリャに向けさせる。 ニパラ「ナターリャ将軍、どうするつもりで?」 ルーシ「へっへへ、ネットで公開しましょうよー夜帝の装甲や武装をひん剥いて、二度とふざけたことが出来ないように辱しめてやるんだ」 戦闘爆撃機型のマレズが甲板に降りてシュヴァルに機関砲を向ける。 マレズ「ヒュー、こいつなんだかんだいってけっこう可愛い顔してんじゃねえか、へっへへ」 ナターリャ「よく頑張ったが、オマエのおおげさな伝説も今日までだ!!!何が夜帝だ!!ふざけるな・・・夜のステージなら最強?それも今日までだ!!いいか、ネットのみんなにこういうんだ『私は敗北主義者です。優秀なナターリャ将軍の指揮する機動MMS艦隊に敗れた惨めな敗北者です』とな!!」 ナターリャは興奮して唾を飛ばす。 ツラギは艦橋から惨めに羽交い絞めにされているシュヴァルを見てニヤニヤしている。 シュヴァルは顔をうなだれて、ひくひくと体を振るわせる。 マレズ「おいおい、どーしたァ?あまりに惨め過ぎて怯えてるのか?」 ニパラ「うひひひ、八つ裂きにしてバラバラに砕いてやるぜ」 ナターリャ「まずは許してくださいと喚いて、情けないサレンダー宣告をもらおうか!!私の負けですってな」 シュヴァルはぶつぶつと何かつぶやく シュヴァル「・・・か・・・め・・・」 ナターリャ「どうした、何か言いたいことがあるなら言ってみたまえ、最後だ。何を言ってもいいぞ」 ニパラがぐいっとシュヴァルの顎を掴んで顔を向けさせる。 シュヴァルの顔は硝煙で薄汚れていたが、目は爛々と黄金色に光り生気に満ち溢れていた。シュヴァルはニヤニヤと笑いながら口を開く。 シュヴァル「・・・チェスと将棋の違いって知っているか?」 マレズ「は?」 ニパラ「へ・・・なんだ?」 唐突にまったく意味の分からないことを言うシュヴァルに周りは下卑た笑いをやめる。 ルーシ「チェスと将棋の違いだとォ?」 ナターリャは真顔で答える。 ナターリャ「一般的にだが・・・大きな違いは、チェスは取った駒を使うことはできないが、将棋は取った駒を味方の駒として使うことが可能だが・・・それがどうした?」 シュヴァルはふっと顔を歪ませる。 シュヴァル「ナターリャ、あんたはチェスが得意なんだって?このゲームをチェスに見立てて、私を狩ったつもりになっているが、それは大きな間違いだ。負けたのはあんたの方だ」 ルーシ「てめえッ!!!何を分けわかんないこと言ってやがるんだ!!このヤロウ!!」 ルーシはライフルの銃底でシュヴァルの柔らかいお腹を殴りつける。 シュヴァル「がはっ」 ズン・・・ズズン・・・ 上空で低い爆発音が鳴り、甲板が徐々に赤く明るくなってくる。 ナターリャ「・・・・・」 ナターリャはあることに気がつき、ゆっくりと真上を見上げる。 シュヴァルとの戦闘で被弾し操舵不能に陥っていた重巡洋戦艦型MMSの「マキシマ」がゆっくりと炎に包まれ小規模な爆発を繰り返しながら一直線に自分たちがいる空母型のツラギに降下してくる。 野木「姿勢安定装置を作動しろ!」 マキシマ「スタビライザー全損!!こ、高度が維持できません!だ、ダメです!!堕ちます!!」 遠くから重巡洋戦艦型のヴィクトリアがチカチカと発光信号を送ってツラギに退避命令を出している。 ヴィクトリア「至急、進路変更サレタシ、両艦は衝突ス」 金川が発光信号を見てツラギに指示を出す。 金川「ツラギ、至急進路変更だ!!おもかじ!」 ツラギ「あう・・ああ・・・か、舵が聞きません!!さきほどの攻撃で舵がァ!!」 ツラギはパクパクと口を開けて恐怖に引きつった顔を晒す。 シュヴァル「あんたの駒、使わせてもらった。所詮あんたは駒を駒としか見てなかったんだ」 ナターリャ「!!」 ナターリャは目を見開き、落下してくるマキシマの燃え盛る巨体を凝視する。 ニパラ「あ・・・うあああ・・」 ルーシ「ひ、ひいい!!何をしているんだ!舵を切れ!!」 マレズ「ぶつかるぞ!」 燃え盛るマキシマは必死で発光信号を発する。 マキシマ「我、操舵不能、我、操舵不能」 シュヴァル「このゲームはおまえの負けだ。ナターリャ。武装神姫の戦いはチェスほど単純じゃない」 シュヴァルがフッと笑う。 ツラギ「そ、総員退艦ッーーー」 ヴイイイイーンヴィイイーーーーン・・・ サイレンを鳴らすツラギ。 マレズ「うわあああああ!!」 ルーシ「に、逃げろ!!!」 ニパラ「ぎゃあああああああああああ!!」 恐怖で叫び声を上げながら逃げようとする甲板にいる神姫たち。 ナターリャはシュヴァルに向かってパチパチと拍手をする。 ナターリャ「ハラショー!!!すばらしい!!これは私の負けだな、さすがは夜帝だ・・・私の得意分野であるチェスにも勝利した。完璧だ・・・君のような武装神姫と一緒に滅ぶことが出来るとはうれしいよ」 シュヴァルはちらりと燃え盛るマキシマを見てつぶやく。 シュヴァル「あんたは逃げないのかい」 ナターリャ「間に合うものか・・・」 ゴオゴゴゴオオオ・・・ 燃え盛る巨大なマキシマの船体は突き刺さるようにツラギの甲板に墜落し、ツラギの格納庫にまで突き刺さり、内部の燃料や弾薬庫に火が引火し、強烈な大爆発を起す。 グッワッツワアアアアアアアアアアアアアアアアアーーン!!! 真っ赤な炎で出来た巨大なキノコ雲がツラギから立ち上り、強烈な爆風を引き起こす。 □将校型MMS 「ナターリャ」 SSSランク「演算」 撃破 □航空母艦型MMS「ツラギ」 SSランク 二つ名「アタックキャリア」 撃破 □重巡洋戦艦型MMS 「マキシマ」 SSランク「ワルキューレ」 撃破 □悪魔型MMS 「ニパラ」 Sランク 撃破 □戦闘爆撃機型MMS 「マレズ」 Sランク 撃破 □砲台型MMS 「ルーシ」Aランク 撃破 □夜間重戦闘機型「シュヴァル」 SSSランク 二つ名 「夜帝」 撃破 撃破のテロップが筐体に流れる。 呆然と大爆発を眺める、戦闘機型のアオイとツクヨミ。 アオイ「おい、俺たちの帰るところがなくなったぞ」 ツクヨミ「俺に言うなよアオイ」 重巡洋戦艦型のヴィクトリアがマスターの野木に報告する。 ヴィクトリア「マキシマ、ツラギと衝突し爆沈す、ツラギにのっていた神姫の生存はなし、ナターリャ将軍は爆死しました」 野木「つまり、このゲームの勝敗は?」 ヴィクトリア「敵の夜帝、シュヴァルの撃破を確認、されどこちらの指揮官であるナターリャ将軍が戦死されたので、この勝負は引き分けです」 野木「引き分け?冗談じゃない。私たちの負けだ。こちらは17体もの神姫がいたが、生き残ったのはお前を含めて3体のみ・・・奴は1個機動MMS艦隊を潰滅しやがった」 夜神はスーツから煙草を取り出し、火をつけて深く煙草の煙を吸い込む。 筐体の周りは真っ暗で煙草の火だけが赤く燃えている。 夜神「・・・・」 夜神は煙草についた赤い炎の灯火を、じっと見つめる。 じわじわと赤い明かりを失っていく煙草の火・・・・ 煙草の火が消えるとあたりは濃いブルーの闇に包まれる。 To be continued・・・・・・・・ 次に進む>第11話 「night-11」 前に戻る>第9話 「night-9」 トップページに戻る u
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キズナのキセキ ACT1ー5「北斗七星」 □ ホームに電車がゆっくりと滑り込んでくる。 最寄りのT駅が始発の、折り返し電車である。 平日の朝は、人であふれかえる時間帯だが、今朝は日曜日のためか、電車から降りる人も、これから乗り込む人影もそう多くはない。 のんびりとした雰囲気がホームに漂っている。 朝七時。 冬の朝は空気がピンと張りつめていて、眠たい頭に心地よい。 俺は昨晩のことを思い出しながら、開いた扉をくぐり、列車に乗り込む。 長い一夜は、眠りに落ちたところで終わりではなかった。 夜中に叫び声を聞いて、飛び起きた。 ティアの叫び声に、深く眠っていても反応してしまうのは、我ながら過剰反応なのではないか、と思う。 電気をつけて、ティアの様子を見ると、やはり泣いていた。 ティアにはひどく辛い過去があり、ときどきそれを夢で見るという。 今回もそれかと思っていたのだが、しかしティアは涙を拭うと、決然とした表情で言った。 「マスター、お話しなくてはならないことがあります」 ティアの真剣な眼差しに、寝ぼけ眼の俺は気圧された。 そして、彼女の話を聞くにつれ、眠気は飛んでいった。 ネット上で、先代のミスティに会った、というのはかなり突飛な話だった。 だが、ミスティのコアは先代のものを使っていると聞いた。戦闘データとプログラムも引き継いでいるという。 だからこそ、今のミスティは、先代と同様に、ストラーフに近い戦闘スタイルなのだ。 クレイドル上でティアとミスティのデータが混線し、そのネットワーク上で……つまり、俺のPCとクレイドルの間で、二人のAIが覚醒したのだとすれば。 仮説に過ぎないが、あり得ない話ではないと思う。 それに、他でもないティアがそう言うのだから、俺は信じるしかない。 ティアがもたらしてくれた情報は、非常に重要なものだった。 桐島あおい、マグダレーナ、狂乱の聖女、すべてを回避する戦闘スタイル、そして、マグダラ・システム……。 断片的な情報に過ぎないが、ようやく具体的な手がかりが現れた。 ティアの話が終わってもまだ日は昇っていなかった。 そのまま眠る気にもなれず、それらの単語についてネットで調べてみた。 結果は空振りだった。 それらしき神姫の存在は匂うものの、はっきりとした情報となると皆無だった。 裏バトルで活躍する神姫とはいえ、こうもネット上に情報がないものだろうか? ただ、マグダラ、聖女、といった単語は、聖書に関連するのではないかと考えられる。 聖書、キリスト教、教会、信者、修道女……そういえば、シスターをモチーフにした神姫も発売されていたな。 俺の貧困な想像力では、せいぜいその程度の連想が限界だった。 まだ情報が足りない。 どちらにしても、今朝一番に赴くところは、そうした調べものを依頼するのにうってつけだと思った。 行き先はホビーショップ・エルゴである。 □ ホビーショップ・エルゴは、個人経営の神姫専門ショップである。 見た目は普通の、町のホビーショップ。店舗規模は秋葉原などの大型ホビー専門店や、各地の神姫センターとは比べるべくもない。 だが、店内に一歩踏み込めば、神姫の魅力が凝縮された空間に圧倒され、そして夢中になることは間違いない。 いや、大げさではなく。 二階にある対戦フロアは連日賑わっている。 名のある強者も多く集まり、毎日のように豪勢な草バトルが繰り広げられている。 ホビーショップ・エルゴには、ティアとの一件以来、何度か足を運んでいた。 頻繁に行くことができないことが本当に悔しくてならない。 だから、近所のホビーショップでは事足りないときには、片道二時間近くかかっても、電車賃がかかっても、エルゴまで行くのだった。 もちろん、今日の用件は、そんな自己満足の為ではない。 エルゴの店長・日暮夏彦氏は、神姫の修理やカスタムの腕に定評のある人物だ。 大破してしまったミスティであるが、主要部分が無事な今の状態であれば、なんとか修理してもらえると思う。 また、彼は神姫専門の探偵業のようなことを副業にしているようだ。 「正義の味方」などとうそぶいていたが、彼なりの照れ隠しなのだろう、と解釈している。 ともかく、俺よりもはるかに広くて深い情報網を持っていることは間違いないから、『狂乱の聖女』について調査を依頼するつもりだった。 □ 朝九時ちょっと過ぎに店の前に到着した。 いつみても、ごく普通のホビーショップの店構えだ。 開店直後だというのに、店の前にはいくつも自転車が停まり、今もお客が扉の奥へと吸い込まれていく。 俺はゆっくりと店内に入った。 目当ての人物は、カウンターの中に立っていた。 彼は、いらっしゃい、と言った後、俺に向かって相好を崩した。 「おお、遠野くんじゃないか」 「おはようございます、店長」 「こんなに朝早くから、どうしたんだい?」 「神姫の修理をお願いしようと思いまして」 「修理って……ティアちゃんに何かあったのか?」 本気で心配そうな表情。 神姫に対して親身になれる日暮店長を、俺は好ましく思っている。 「いえ、ティアは無事です。この神姫の修理をお願いしたいんです」 俺はハンカチにくるんだ、その神姫を差し出した。 かすかな既視感がある。以前もこれに似た状況があったからか。 日暮店長は、俺に一度目配せすると、そっとハンカチを開いた。指先が慎重なのは、きっと彼も既視感を感じているからに違いない。 「っ……イーダ型か……これはひどいな……」 さすがの店長も眉をしかめている。 四肢がなく、包帯代わりのマスキングテープをぐるぐる巻きにされた神姫を見れば、誰だっていい気分はしないだろう。 そして、俺はとっておきの一言を放つ。 「久住菜々子さんのミスティです」 「な……!?」 その時の日暮店長の表情は見物だった。 少ししかめていた顔が、一瞬で驚愕に変わっていた。 おそらく、日暮店長はミスティの戦いぶりを知っているだろう。だからこそ、ここまで大破したミスティに驚くのだ。 この人も、俺が知らない菜々子さんの過去を知っている。 店長は真顔になり、ちょっと声を細めて、言った。 「……何があった?」 「……それを話すと長くなりますが」 うーむ、店長はと考え込んでしまう。 そして俺の方を上目遣いで見た。 俺は店長の逃げを許さない気持ちで、じっと彼の顔を見つめる。 すると、店長はがっくりと肩を落とした。 「しまったなぁ……今忙しいんだが」 そう言いながら、もう一人の女性店員さんに店を任せる旨を伝えると、俺を手招きした。 この女性の店員さんは神姫で、胸像の姿をしている。聞けば、店長がなぜかボディを与えないという、かわいそうな話だった。 俺は日暮店長に続いて、店内の奥に入った。 店奥にある事務スペースに入ったのは何ヶ月ぶりだろう。 あのときも、ハンカチにくるまれた神姫のボディを挟んで、日暮店長と話し込んだものだ。 日暮店長は、どっかりとPCの前のイスに座ると、小さなテーブルの前のパイプイスをすすめた。 遠慮なく座る。 「で、俺に何をさせたいんだ?」 単刀直入な問い。 俺は店長を見据えつつ、口を開く。 「まずは、ミスティの修理を。できれば早急に」 「それはまあ、引き受けよう。重要パーツに問題がなければ、直るはずだ」 「そこはチェック済みです」 「……こっちも商売なんで、修理代がかかるが?」 「大丈夫、今回はスポンサーがいるので」 店長は少し笑って頷いていた。 「それから、調べてもらいたいことがあります」 「調べもの?」 「はい」 俺はバッグからメモ帳を取り出すと、いくつかの単語を書き込んでいく。 桐島あおい、マグダレーナ、狂乱の聖女、マグダラ・システム……。 日暮店長はこの単語の羅列に首を傾げる。 「これは?」 「菜々子さんと対戦し、ミスティを破った相手を示す言葉です。おそらくは、彼女が放浪し、戦い続ける理由です」 「ネットで調べたか?」 「調べました。ですが、芳しい成果はなかった。だから、ここに来たんです」 日暮店長は、深いため息を一つつく。 「こういうのは依頼料がかかるんだが……」 「菜々子さんを助けてやってくれ、と言ったのはあなたのはずですが」 彼は再び、がっくりと肩を落とす。 どうやら覚えていたようだ。 俺と店長は、以前、約束をした。 いつか、菜々子さんが戦い続ける理由を知り、手助けをする、と。 「今がその時だと思います。彼女を助けるために、少し手伝ってくれてもいいと思うんですが」 「まいったなぁ……。今、ちょっと仕事が立て込んでてな」 「……探偵の、ですか?」 「うん、まあ……ちょっとやっかいな神姫が動き出していてね……ああ、君らには関係ないことだよ、うん」 「俺も店長に無理なお願いをしようってわけじゃありません。店長が調べられる範囲で、これらの言葉について調べてもらえれば」 店長は、うーむ、と唸ったが、結局は首を縦に振ってくれた。 「それから……」 「おい!? まだあるのかよ!」 「ええ……まあこれは店長がご存じのことなので」 「……何だ?」 「店長が知る、以前の菜々子さんについて、教えてください」 日暮氏は、ちょっと驚いたようだった。 すると今度は腕を組み、なにやら少し考えている。 やがて、俺の方に視線を向けた。 「話してもいいが……君は菜々子ちゃんがどうしてストラーフからイーダに神姫を変えたのか知っているかい?」 「……いいえ?」 一体なんの話だろうか。 店長は大きく一つ頷いた。 「そこらへんの事情は俺も知らないんだ。俺が菜々子ちゃんと初めて会ったときは、もうイーダ型のミスティちゃんを連れていたからな」 「それでは、桐島あおいを追いかけていることについても?」 「そう言う名前の神姫マスターを彼女が追っているらしい、ってことくらいかな。詳しくは知らないんだ。本当だぜ?」 「そこを疑ってはいませんが……」 つまり、日暮店長は、菜々子さんと桐島あおいの決別や、ストラーフ型のミスティの敗北については知らないわけだ。 その点を知ってからでないと、日暮店長から話を聞いても、わけが分からないかも知れない。 「それでは、菜々子さんが神姫を乗り換えたことについて知っている人物に心当たりは?」 「うーん……エルゴに菜々子ちゃんを連れて来た神姫マスターなら、知っているんじゃないかな」 「誰です?」 「花村耕太郎くん。『薔薇の刺』ローズマリーのマスターだよ」 □ 店の二階にある武装神姫コーナーは今日も賑わっていた。 ここにも何度も足を運んだから、勝手は知っている。 常連さんたちが溜まっているあたりに足を向けると、目当ての人物が俺に気付いて手を挙げてくれた。 「珍しいね、一人で『ポーラスター』に来るなんて」 「お久しぶりです、花村さん」 花村耕太郎はふくよかな顔に、人の良さそうな笑顔を浮かべている。 彼とは顔見知りだ。 ティアの新型レッグパーツの習熟の時に、菜々子さんから紹介された。 花村さんは、ゲームセンター『ポーラスター』の常連さんの中でも古参の神姫マスターで、『七星』の一人だ。 『七星』とは、『ポーラスター』に通う神姫マスターの実力上位七人に与えられる、名誉称号のようなものである。 彼らは上級者として『ポーラスター』に集う神姫マスターたちを引っ張っていく存在だ。 ただ、『七星』は名誉称号に過ぎないから、何らかの権限があるわけでもないし、定員も七人と決まっているわけではない。 現在、『七星』は五人。 菜々子さんも『七星』に入るよう声をかけられているが、辞退していると聞いている。 花村さんの名前が出たので、エルゴからの帰り道、『ポーラスター』に寄ることにした。 確かに、ポーラスターの長老、などと呼ばれる花村さんなら、過去の菜々子さんや桐島あおいのことをよく知っているだろう。 彼は毎日のように『ポーラスター』に顔を出しているので、おそらく会えると思っていたが、予想通り会うことができた。 「今日は、エトランゼと一緒じゃないのかい?」 「……ええ。今日は訳あって、別行動です」 もちろん、菜々子さんはとても外出できる状態ではないわけだが、嘘は言っていない。 花村さんは人の良さそうな笑みを崩さない。 「へえ。それじゃ、今日はどうしたの?」 「花村さんに話があってきました」 「俺に?」 「はい」 俺は神妙に頷くと、直球勝負で切り出した。 「久住菜々子さんと桐島あおい。二人の過去について教えてください」 俺がそう言った瞬間、あたりの空気が劇的に変化した。 ゲームセンター内の独特の喧噪は背後に聞こえているのに、俺の周りだけ音声が沈殿してしまったかのようだ。 その場にいた常連さんたちは、誰もが息を飲み、その後困惑したような、後ろめたいような表情で沈黙している。 花村さんも、どこか懐かしむような、悲しいような、困惑しているような複雑な顔をしていた。 そして、深いため息を一つつくと、 「遠野くん、ちょっと来てくれ」 そう言って、俺をゲーセン内にある自販機のコーナーへと誘った。 ジュースの自販機で適当な飲み物を二つ買う。 一方を俺に渡し、花村さんはプルタブを開けた。 都合良く、そのコーナーには俺と花村さんの二人だけだった。 ゲーセンの喧噪は時に、会話をする者にとっての仕切板にもなる。 花村さんは手にした炭酸飲料を一口飲むと、また一つため息をついて、言った。 「……君がいつか、その話にたどり着くかも知れない、とは思っていたよ」 「え?」 「『エトランゼ』……久住ちゃんは、随分君に気を許していたみたいだったからね……」 花村さんは正面を見つめ、微笑していた。 遠い目で見る視線の先は、過去を見ているのだろうか。 そして、その微笑みは、苦笑……いや、自嘲のようにも見える。 「懐かしいね、マリー」 「ええ……ルミナスにミスティ……神姫たちも」 花村さんの胸ポケットから応える者がいた。 金髪の神姫。朱とピンクにリペイントされたジルダリア型は、花村さんの神姫・ローズマリーである。 ローズマリーは、花村さんが所有するただ一人の神姫だ。 彼女もまた、ここ『ポーラスター』では最古参なので、事情には詳しいはずだ。 「教えてもらえますか、久住さんと桐島あおいのことを」 「……二人に何かあったのかい?」 「直接見たわけではないですが……二人は対決したようです。そして、久住さんが負けた」 そう言うと、花村さんは今まで見たこともないような、痛ましい顔を見せた。 「……そうか……結局、俺たちも、彼女に何もしてやれないままだったんだな……」 「……?」 「遠野くん……久住ちゃんを助けてあげられるとしたら……その可能性があるのは、もう君しかいないのかも知れない」 「それは……」 「……いや……君に責任を押しつけるとか、そういうのではないんだ。 ただ、君には知っておいてもらいたいし、知る権利がある。 『エトランゼ』に近しい神姫マスターとして……俺たちの仲間として」 随分大仰な物言いだな、と思ったが、こちらを向いた花村さんの目は真剣だった。 「では、話してください、二人のことを」 花村さんは俺の言葉に頷いた。 「今からもう三年近く前の話か……。 桐島ちゃん……桐島あおいという神姫マスターは、『七星』の一人だった。 久住ちゃんは桐島ちゃんの背中を追いかけて、ひたすら腕を磨いてた。 やがて、彼女は腕を上げ、『アイスドール』という二つ名で呼ばれるようになったんだ……」 ◆ 某日、某所。 「……もはや猶予はない」 「でも、わたしたちだけでは手が足りないわ」 「だが、どうする。協力者なぞ望むべくもない」 「……一人心当たりがあるわ」 「……あの娘か?」 「そうよ」 「わからぬ。なぜあんな取るに足らぬ娘に執着する?」 「わたしにとっては……特別なのよ」 「……まあいい。おぬしがいいというならば、反対する理由もない」 「それはよかった」 「引き込む算段はあるのだろうな?」 「それはもちろん。……あなたにも少し手伝ってもらわなくてはならないけど」 「……仕方があるまい。『あの方』がもうすぐいらっしゃるのだ。そのためならば、骨も折ろう」 「それじゃあ、まずは……」 「……」 二人の声は、闇の中に霞んで消える。 次へ> Topに戻る>