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『セルノとぼくの初対面』 「…あいからず重い」 四階建て団地の階段をのぼりつつ、ぼくは呟いた。 2036年にもなって未だに階段しかない設計はどうかしていると思う。 それに、今背負ってるデイバックに入ってるものが重すぎるのだ。 武装神姫を買ったのは初めてではない。 現に今、家の中で猫がグースカ寝ていることだろう。 今回は二人目、新発売の子をお迎えしたわけだ。 しかし本体+クレイドルは非常に重い、こんなに重いものなのか? 「重心が後ろに偏ってるんだから、転んでもおかしくないよなぁ」 つるっ 「あ」 きのう降った雨のせいで階段が滑りやすくなっていた。 で、足を滑らしたわけだ。 いくらなんでも、話題をだした途端に起こらなくても… とか考えてたら、床に叩きつけられた。 だけど、パンパンになっていたデイバックのおかげで頭をぶつけずに済んだ。 すごく鈍い音がしたけど大丈夫かなぁ…。 「ぅぎゃう~ぅっ」 なんかうめき声が聞こえるので、その場でバッグを開けた。 クレイドルは無事だが、本体の箱がつぶれている。 中身を取り出すと小さな手がビクビクふるえながら伸びてきた。 「大丈夫かい?」 這い出てきた小さな少女は青い目でぼくを見据える、目に涙をうかべながら。 「い、痛かったです…」 彼女は"ゼルノグラード"、Arms in Pocket社の新商品だ。 「ごめんごめん。でも助かったよ、きみの箱のおかげで頭を打たなくてすんだからね」 「自分より箱ですか…orz」「そういうわけじゃないって!」 その後彼女をなだめるのに、ぼくは数時間を費やしてしまうのだった。 こうして、ぼくとゼルノは出会った。 著者:第七スレの6 単発作品用トップページ トップページ
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{奴が来た!?} 午前7時、晴天。 天薙龍悪とアンジェラス達は安らかに寝ている。 それもとても気持ち良さそうに。 まるで天国みたいな環境だ。 だが、この天国はすぐに終わりがおとずれた。 天薙家の門の前に仁王立ちして両手を腰にあてながら見る一人の人間によって。 「ウフフフ」 薄紫色のアホ毛一本ありのロングヘアー。 スレンダーな体形に童顔な容姿。 服は一般的に何処にでもある高校の制服。 ミニスカートが強くない風にフワッと揺れる。 「先輩、今行くわ」 天薙家の敷地に入りスカートのポケットから鍵を出す。 カチャカチャ、と音を出しながらドアのロックを解除しドアを開ける。 家に侵入すると礼儀正しく靴を脱ぎ並べ、すぐさま二階に上がり目的の龍悪が居る場所に向かう。 龍悪の部屋に入ると四つん這いになり、ベットで寝ている龍悪の顔近くまで接近する。 「可愛い寝顔。キスしちゃいたいくらい」 と、言いつつ自分の唇を龍悪の唇に密着させようとした。 その時だ。 布団で隠れていた龍悪の右腕が布団から勢いよく出てきて、不法侵入した者の顔を鷲掴みした。 「ハワワワ!?」 龍悪に顔を鷲掴みされた者は、両腕を上下に振りながら慌てる。 ムクリ、と上半身だけ起こした龍悪の顔はそうとうな不機嫌さをかもだしながら言った。 「…おはやう…婪」 「お、おはよ、う、…先輩」 ギリギリ、と鷲掴みした顔を龍男は力をちょっとずつ強くする。 その度に婪は『ハワワワ!?』と言い慌てる。 「俺に、なにしようとした?」 「あたしからの目覚めのキスをしようと思って…」 俺は右腕の肘を曲げ婪をこっちに近づかせ、最大まで曲げた瞬間に腕を伸ばし押すようにした。 伸ばしきった所で婪の顔を離し婪は押された衝撃によって机までフッ飛んだ。 「キャン!?」 かわいらしい声を上げ机に背中を打ち付ける婪。 なにが『キャン』だ。 気持ち悪い声を出しやがって。 「ご主人様~、今の揺れは地震ですか~?」 机の上にアンジェラスが片目を擦りながら眠そうに立っていた。 その後ろにはクリナーレ、ルーナ、パルカも起きていた。 多分、婪が机に当たった衝撃で起きたのだろう。 俺は布団から出て婪に近づき膝を曲げ尻餅ついてる婪の視点に合わせる。 「ウゥ~、痛いですよ~先輩~」 「うるせぇ。俺にキスしようとした罰だ」 「そんなぁ、あたしはこんなにも先輩の事を愛してるのにー」 ピキッと俺のこめかみ辺りにある血管が浮き、婪の胸倉を右手で掴みお互いの額がぶつかるギリギリまで引き寄せた。 「キャー!先輩、近いですよ~。でも、あたしはいっこうに構いませんけど…♪」 「テメェ、いい加減にしろ」 「あたしは先輩に対する愛には、いい加減じゃありませんよ」 「この野郎…俺はお前の事なんか愛してねぇぞ」 「いつかあたしに振り向いてくれます」 「それは絶対にねぇー!」 今度は左手の親指を婪の右頬につけ、残りの四本の指を左頬につける。 その瞬間にすくさま俺は左手に力を入れ婪の頬を両方から押す。 「イタイ、イタイ!」 「あたり前だろ。力を入れてるだから」 そんな時だった。 アンジェラスが俺の頭に下りて来て言う。 「ご主人様。女の子に暴力は良くないと思います!」 「はぁあ!?」 俺は頭に居るアンジェラスを掴むために胸倉と婪の頬から手を離し、その手でアンジェラスを優しく掴む。 「あのなぁ、こいつは女じゃなくて男だぞ」 「えぇーーーー!?!?」 アンジェラスは目を見開き驚愕した。 まぁ無理もない。 婪の奴は見た目は何処からどう見ても美少女に見える。 声も凄く女の子らしい声だ。 だが、こんなナリしてるけど立派な男だ。 ちゃんと股の部分に男性性器もついている。 婪の奴が外に出れば、たいていの男がナンパしてくる。 男が男をナンパして愉しいか? 「まぁいいや、アンジェラス達は朝飯を作ってきてくれ。アンジェラスとパルカは調理、クリナーレとルーナは補助しろよ」 「「「「はーい」」」」 アンジェラス達は俺の身体を伝って一階降りって行った。 部屋に残ったのは俺と婪だけ。 俺は婪から離れ服を着ようと箪笥に向かう。 「先輩、あの子達は?」 「ん?あぁ~アンジェラス達の事か。まぁ気にすんな。にしてもお前、よく俺の家に入れたな」 「これよ」 婪が俺に見せびらかすかのように右手に持った鍵を見せる。 その鍵の形を見た瞬間、俺は納得した。 だって、俺の家の鍵とそっくりなのだから。 そりゃあ入って来れるよなぁ。 「お袋に渡されたのか?」 「うん。先輩の事をよろしくね、と言われたから」 「あのババァ…」 俺は髪の毛を掻きながら苦い顔をした。 十六夜 婪(いざよい りん)。 こいつは俺の後輩にして幼馴染である。 二つ年が離れてるので今のこいつは高校三年生。 言ってみれば普通の高校生なのだが…。 「先輩~あたしの事…いつになったら抱いてくれるのぉ~♪」 「身体をクネクネ動かすな!気色悪い!!」 さっきも言ったとうりに、こいつは男だ。 男性なのに女子の制服を着ている。 なんでも、あまりにもルックスが良いので校長が許したとか? どんな学校だよ、俺の高校の母校は。 「お前も一階に来い。話はそれからだ」 「あたしと先輩の愛語り合いですか?」 「あ・い・つ・ら・の・事だ!」 …。 ……。 ………。 カチャカチャ、と食器の音を出しながら運ぶ武装神姫達。 朝食の準備をしているのだ。 今まで俺が一人で飯を作ってきたがアンジェラスとパルカが料理を覚えてから俺は作らなくなった。 そんな俺は婪と向かい合いのテーブルを挟んだ状態椅子に座っている。 婪は俺の顔を見てニコニコと笑ってやがる。なんだ、俺の顔が面白いか? 「先輩。先輩っていつから武装神姫をやり始めたんですか?」 「ん?あぁ~壱ヶ月前ぐらいからやってるかな。よく覚えてねぇー」 「ふ~ん、先輩の事だから朱美さんから『武装神姫のバイトやらない』とか言われたクチでしょ」 ウグッ…微妙に合ってる、つか、何で解るだよ。 婪の奴は昔から結構勘とか鋭いのだ。 まるで俺の事は何でも知ってるような感じがして気持ち悪い。 「あたしも武装神姫やってますよ。今度先輩と戦ってみたいなぁ~」 「へぇ~婪もやってるんだ。意外だぁ」 「意外とはなんですかー!意外とは~!!」 プク~と顔を膨らませる婪。 う~ん、やっぱこいつは可愛い。 だが、こいつは男だ。 騙されはしないぞ。 「アニキー、朝食の準備ができたよ」 「おぉ。そんじゃあ喰うか。いただきます」 俺は右手に箸を持ち、茶碗に入った米粒を喰う。 アンジェラス達も『いただきます』と言って、俺が作った神姫用の茶碗、コップ、箸、スプーンを使うって朝食を食べる。 最初は人形の身体なのに、人間の食料が食べる機能に驚いたが今は全然違和感を感じない。 婪の奴は丁寧に手を合わせてお辞儀して『いただきます』と言った。 律義な奴ー。 ていうか。 「何で、テメェが俺の食卓で朝食してるんだよ」 「え?だって、あたしの分も置かれてからご馳走になろうと思って」 「はぁあ?おい、アンジェラスにパルカ。こいつの分はいらねぇだぞ」 「そんな事はいけませよ、ご主人様。私達には大切なお客様なのですから」 「お客様!?この野郎が!?!?勘弁してくれよ、ただでさえ金が無いのに婪のせいで更に食費がかさむじゃねえか」 うなだれる用に肩をガクッと落とす。 「まあまあ先輩、そんなに気を落とさないで」 「落とすに決まってるだろーが!このオカマ野郎!!」 吠える俺。 そんな俺を見て怯えるパルカ。 ヤッベ。 今日の朝食を作ったのアンジェラスとパルカだ。 婪の分まで作ってしまった事に責任感を感じてしまったのだろう 「いや、パルカが悪いじゃないよ。悪いのは婪の野郎だから。だからそう怯えないでくれ」 「ウウゥ…分かりました、お兄ちゃん」 だあぁー、疲れる。 朝食ぐらいでこんなに疲れたのは久しぶりだ。 俺が初めて料理した頃ぐらいの疲れ加減だ。 「婪、今日の所は勘弁してやる。だが明日からは自分の家で飯を喰えよ」 「はぁ~い」 ニコヤカな顔をしながら飯を食べる婪。 全くしょうがない奴だ。 「にしても、美味しいね。先輩の神姫が作る料理は」 「ありがとうございます、婪様」 アンジェラスがお辞儀した。 そんなアンジェラスに婪はズズイっと顔を寄せて。 「ねね、今度あたしの神姫に料理教えてあげてくれない?」 「え!?私が、ですか!」 驚くアンジェラス。 それもそうだ。 料理を初めてからそんなに月日が経っていないのに、今度は教える立場になってしまったのだから。 「私は別に構いませんが…ご主人様の許可が下りりれば良いのですが」 「先輩の許可ね。分かったわ、任せて」 婪は椅子から立ち上がり俺の方に来た。 何するつもりだ? 「ねぇ~先輩。今度でいいですから、あたしの神姫に料理を教えてくれませんか?」 色気を使ってきやがった。 残念だがテメェの色気には昔からやられてるから、もう慣れてるんだよ。 効かないぜ。 「許可くれるたら~あたしが先輩にいい事しちゃいますよ~。チュッ」 「ダァーッ!?」 俺は勢いよく立ち上がった。 頬っぺに婪がキスしたのだ。 気持ち悪いったらありゃしれない。 これが女の子だったらどんなに嬉しかった事だったか。 「もう先輩ったら~。テレッちゃって、可愛いんだから~」 「可愛いとか言うな!もう帰れ!!テメェがいるとろくな事が起きねぇー!!!」 「まぁまぁ、ダーリン落ち着いてください」 いつの間にかルーナがコップ辺りにいた。 飯を食うには早すぎる。 「あの婪様、どうかあたしにその色気の術を教えてください!」 「んぅ、ポニーテールの天使型だね、お名前は?」 「ルーナといいます」 「ルーナちゃんね。良いわよ、あたしの今まで先輩に使って色気のテクニックを教えてあげる」 「ありがとうございます、婪様!」 おいおい。 何いっちゃってくれてやがるんだ、この二人は。 ルーナの奴が婪の色気のテクニックを身につけたら、俺の脳の中身が毎日理性と欲望の闘いになっちまう。 勘弁してくれ。 ここは何とか話題を変えないといけない。 このままだと俺の身体が危ない。 「おい婪。そろそろ学校に行かなねぇーとマズイじゃねぇの。俺の車で学校まで送っててやるから」 「えっ先輩とカーセックスですか!?やったー!」 「ご主人様!?」 「アニキ!?」 「ダーリン!?」 「お兄ちゃん!?」 婪の一言によって神姫達は俺を凝視した。 …マジで勘弁してくれ。 もうイヤだ。 「チゲーよ!誰がテメェのケツの穴に俺を入れないといけないんだ!!アンジェラス達も本気にするな!!!」 「下品な言い方は女の子に嫌われますよ、先輩」 「ウッサイ、黙れ!ほら、飯はもう喰ったろ!!行くぞ!!!」 「アァン、そんなに引っ張らないで」 婪の左腕を俺の右手で引っ張りながら玄関に向かう。 早くこの色魔をこの家から追い出さないとアンジェラス達に悪い影響を及ぼす。 勿論、エッチ方面で。 「そんじゃ、ちょっくら行ってくるから留守番頼むぜ」 「バイバイ。また今度来るねぇ~。次来る時はあたしの神姫も連れてくるから~」 バタンッとドアを閉め婪を車に乗せ俺は学校に向かった。 その後、家に帰った後はもう疲れすぎて大学に行く気を失っていたので俺はベットに突っ伏しながら寝た。 婪、こいつは最悪な小悪魔だと、再び実感した一日だった。
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ウサギのナミダ ACT 1-7 □ 翌日の日曜日、俺はやはり迷いながらも、ゲーセンに向かった。 井山と会って話をするためだ。 奴に会って話をしないことには、状況は何も進展しない。 ティアは渡せないが、雑誌にティアのあんな画像を載せることはやめさせなくてはならなかった。 井山と連絡を取ろうと思ったが、奴とは昨日のゲーセンで会ったのが初対面だった。 結局、俺はゲームセンターに行かなくては、井山と話も出来ないことに気が付いた。 念のため、ティアはおいてきた。 正直、ティアの落ち込みようは心配だった。一緒にいてやりたい。 だが、連れていって、またティアが傷つく姿を見るのも嫌だったし、井山に無理矢理奪い取られないとも限らない。 店の連中が来ていたら、それこそ無理矢理に奪われるだろう。 だから、俺一人で来ることにした。 俺はゲーセンに入ると、まっすぐに武装神姫のコーナーに向かう。 俺の姿を認めて、店内が少しざわめいた。 かまうものか。 店に来なければ、果たせない用事なのだから仕方がない。 大城が俺の姿に気がついて、すぐに寄ってきた。 「おい、遠野……しばらく来るなって……」 「井山は来ているか?」 大城の言葉を遮って尋ねる。 奴の名を聞いて、大城も理解したようだ。 「いや……まだ来ていないな……」 「昨日は来ていたか?」 「来た。お前が帰った後にな」 「じゃあ、今日も来るだろう……少し待つか」 「いや、待つって、お前よぅ……」 大城が口ごもる理由はよくわかっている。 そうでなくても、俺に向けられた視線は痛いほどに感じられる。 俺はよほど歓迎されていないらしい。 「井山とは、ゲーセンで会う以外に連絡の取りようがない。バトルするわけじゃないんだ。大目に見てもくれてもいいだろ」 「だけどよ……」 「どのツラ下げて、店に来た? 黒兎よ」 ハウリン・タイプの神姫を肩に乗せた男が、割り込んできた。 「ヘルハウンドの……」 「お前は出入り禁止のはずだろう」 「奴に……井山に話があって、」 「帰れよ。お前がいるのが、迷惑なんだ。そう言わないとわからないか?」 ヘルハウンドのマスターには取り付く島もない。 俺は急に悲しくなってきた。 ついこの間まで、バトルをしようと誘ってくれた奴だったのに。 こんなにすぐに、手のひら返したように、冷たい態度がとれるものなのか? あんたは、俺達の戦いの何を見てきたんだよ? 俺が一瞬、物思いに沈み、気がついたときには、バトルロンドのコーナーに来ているほとんどの客が俺に向かって罵声を投げていた。 「そうだ、帰れ帰れ!」 「お前なんかにバトルする資格はねぇ!」 「お前の汚れた神姫もだ!」 「迷惑なんだよなぁ、風俗の神姫の仲間と思われるのはさぁ」 「ていうか、ここに来ないで、風俗にでも行ってろよ」 「もう二度と来るな!」 こんな罵声を浴びせられる理由がわからない。 納得が行かない。 それでも、俺は叫び出したい言葉を飲み込んだ。 罵声を、甘んじて受けた。 そうしなければ、すべての道が閉ざされてしまうと思った。 拳を固く固く握りしめ、歯を食いしばって耐える。 俺は意志を振り絞って、固まってしまっていた両脚を引き抜くようにして、いまだ口汚く罵り続ける連中に背を向けた。 脇にいた大城に、 「奴が来たら、電話くれ。頼む」 「あ、あぁ……」 大城は頷いてくれたらしい。 今の一言を言うだけでも、重い口を懸命に開く必要があった。 俺はやっとのことで、ゆっくりと店の出口へと歩み始めた。 聞こえた言葉。 「あんな精液まみれのエロ神姫、使う気が知れねぇよなぁ!」 どっと、受ける気配。 俺の中でなにかが。 切れる、音がした。 怒りとか、悲しみとか、そう言う気持ちを踏みつぶして通り過ぎた、行きすぎた負の感情。 それが、心の奥から、どばっと噴出した。 真っ黒い感情は、タールのように粘液質なのに、あっと言う間に俺の心を塗りつぶした。 俺は身を翻すと、先ほどの言葉を発した一団に飛び込もうとした、らしい。 それが未遂で終わったのは、大慌てで後ろから追いすがった大城が、羽交い締めにしてくれたからだった。 「はなせっ! 大城、はなせぇっ!!」 「バカ、やめろ、遠野! やめろって!!」 押さえてくれた大城の腕から逃れようともがいた。 しかし、頭一つ分背が高くて体格もいい大城に、かなうはずもない。 身体はあきらめたが、心は前に出ている。 俺は今にも飛びかかりそうになりながら、先ほど笑った連中を睨みつけた。 視線で人を殴れたらいいと、本気で思った。 「ふざけるなよ……!!」 低く暗く、震え、かすれた声。呪いを吐き出しているような声。 「神姫は……! 神姫はマスターを選べないだろうが!! 神姫に身体売らせて金を稼いでいる奴も、金で神姫を汚して悦んでいる連中も、みんな人間じゃないか!! マスターが命令すれば、神姫は嫌でも、どんなことでもしなくちゃならない。 神姫に何の罪がある!? 何度も何度も心を引き裂かれるような思いをして……傷ついているのは神姫だ! それなのになんだよ!? 追い打ちをかけるみたいに、勢いで罵声を浴びせて、おもしろ半分にあざ笑って…… お前ら、それでも人間か!? それが人間のすることかっ!!!」 口にしてはじめてわかった。 俺が許せなかったのは、俺たちがバトルできなくなることでも、俺が痛い思いをすることでもない。 ティアを無神経に傷つける行為が許せなかったんだ。 その場にいた誰もが口をつぐんでいた。 俺はさらに言葉を重ねたかったが、うまく口から出てこない。 心の底からマグマが吹き出すように煮え立っているのに、表層の意識は、いまの言葉を放ったところで、奇妙に冷静になっていた。 そうだ。こんな連中は人間じゃない。 ならば、ここは俺のいる場所じゃない。 俺が異物であるのも当然だ。 俺の身体から急速に力が抜けた。 大城の腕を振り払い、うつむきながら立つ。 「もう、二度と来ない」 吐き捨てるように言って、俺はきびすを返した。 さっきまで脚を動かすのに苦労したのが嘘のようだ。 俺はしっかりとした足取りで、足早に出口へと向かった。 一刻も早く、この店から出たかった。 未練さえ、欠片も残っていない。 もうこの店でバトルする事もない、という感傷さえ思い浮かばず、俺は自らの意志で、この店との関わりを切り捨てた。 それで、自らの夢が絶たれるのだとしても。 俺が店から出ると、三人の男がこちらに向かってくる姿が目に入った。 冷えていた俺の心の水面が瞬時に沸騰した。 俺はその男たちに駆け寄ると、真ん中の太った男の胸ぐらを掴みあげた。 「井山……っ!」 「おや、君は……ひゃはっ、どうしたんだい? そんなに怖い顔しちゃって」 おどけたような口調で言う。 からかっているのか。 こっちが完全に喧嘩腰だというのに、奴は全く動じていない。 「貴様……どういうつもりだ……」 「ん? なにが?」 「ティアの……あんな姿の画像を雑誌に載せるようにし向けたのは、貴様だろうっ……!」 「ああ、君も見てくれたんだ? よく撮れてただろ? アケミちゃんのエロエロな格好がさぁ」 こいつは自分がティアの画像を提供したことを否定さえしない。 まったく悪びれていないのだ。 俺は、井山の胸ぐらを掴む手に、さらに力を込めた。 井山の取り巻きの二人は、最初は俺の出現に驚いていたようだったが、井山が俺に絡まれていても、止めようともせずにニヤニヤ笑っているだけだった。 「よくも……自分がオーナーになりたい神姫の……あんな画像を……公表できるもんだな……」 「あんな画像も何も……アケミちゃんは、はじめからああいう神姫だろ?」 「貴様はっ……! 神姫の気持ちを考えたことがあるのかっ!?」 「神姫の気持ち?」 井山はさも不思議そうに首を傾げ、そして、こうのたまった。 「そんなの、考えるわけないじゃん、おもちゃの気持ちなんてさぁ! そんなこと考える方がおかしいんじゃないの?」 「な……」 「アケミちゃんは、ああいうことをされるために生まれてきた神姫なんだよ。そういう運命なんだよ。だから、無理矢理バトルロンドで戦わされるより、ボクに奉仕している方がよっぽど似合ってるよ」 「なにが……運命だっ……!」 俺は頭がおかしくなりそうだった。 俺が今まで出会ってきた武装神姫のオーナーたちは、程度の差こそあったが、誰もが神姫をパートナーとして大切にしていた。 だが、こいつは何だ。 平気な顔で神姫にひどいことができる。そして、神姫はそうされることが当然だなんて……そんな奴が神姫のオーナーであっていいのか。 「だからさぁ、さっさとアケミちゃんを譲りなよ」 「なにを……」 「だって君、いまバトルロンドできないだろう? アケミちゃんみたいな神姫じゃ、誰もバトルしたくないよね」 「……」 「君の好きな神姫を買って、アケミちゃんと交換してあげるよ。そしたら、君はバトルロンドにまた参加できる。ボクはアケミちゃんとイイコトできる。それが一番いいんじゃない?」 その話に一瞬でも心が揺れなかったと言えば、嘘になる。 このままじゃ、俺達は前にも後ろにも進めない。 だが、しかし。 「貴様……ティアを……手に入れたらどうするつもりだって……?」 「決まってるじゃないか。可愛がるんだよ! 雑誌の記事みたいなことをしてさ、毎日毎日、こってりとね。ひゃはははは!」 「そんなことをしたら、ティアは苦しむばかりじゃないか!」 「あったりまえじゃないか。アケミちゃんはさぁ、苦しんでる姿が一番可愛いんだよ。そういう神姫なんだよ、こってり可愛がられるために、生まれてきたのさ、きっと」 話が通じていない。 俺とこいつの話は、根本から食い違っている。 神姫が苦しむ姿が、一番可愛いだと……? 「……ふざけるなっ!」 俺は井山を突き飛ばした 俺の乱暴な行為も意に解せず、奴は余裕の態度を崩さない。 「貴様の様な奴に……ティアを渡せるもんかよ!!」 「ふふん、そう言っていられるのも今のうちさ」 「……なにを」 「あの雑誌の編集者がさぁ、ボクが持ち込んだ企画、気に入ちゃってねぇ。 また、今週発売の号で、載るよ。今度はもっとエロいのがね!」 なんだと。 こいつは、この間のだけでは飽きたらず、まだティアを貶めようと言うのか。 「やめろ……これ以上、ティアを傷つけるな、苦しめるなっ!!」 「やだね。これからもまだまだ載るよ? そうしたらそのうち、アケミちゃんでバトロンどころか、連れて歩くこともできなくなるよね! ひゃはははは!」 「そんなの、お前だって同じだろ」 「ボクはいいんだよ。だって、アケミちゃんを外になんか連れ出さないで、ずっとボクの部屋で、こってりと可愛がるんだからね」 俺の脳裏に、ティアの顔が思い浮かんだ。 あの時。はじめて公園に連れていったあの日。 ティアはその広さ、明るさに驚いていた。 はじめてレッグパーツを装着して、公園で走ったとき。 ティアはとても嬉しそうに笑っていた。 笑っていたんだ。 それを奪われるのか。 こいつの元に行ったら、ティアは二度と外の風を感じることもなく、薄暗い部屋の中で、ただ怯え、苦しみ、泣き叫び、心が磨耗していくだけの日々を送るっていうのか。 そんなことは、どうしたって……許せるはずがない! 「渡さない……どんなことがあっても、ティアは決して渡さない!」 「いいや、いずれきっと、君はボクに泣きついて来るさ。だってバトルもできなきゃ、外に連れ出すこともできなくなるんだからね! ひゃははは!!」 井山の高笑いに、俺はせめて睨みつけることで、反抗するしかなかった。 正直、奴の話には現実味があった。 ティアを俺の神姫として活動する方法を、今の俺にはまったく思いつかない。 俺はまた、拳を強く握りしめ、耐えるほかにはなかった。 「そうそうこれ……」 井山はポケットから一枚の紙片を取り出し、俺に差し出した。 「ボクの連絡先だよ。アケミちゃんの件なら、いつでも連絡していいからさぁ」 俺の目の前にいる三人が大笑いした。 俺は……どうすることもできなかった。 無力だった。 この連中のいやらしい笑い声すら止めることはかなわない。 せめてできることは、井山が差し出した名刺をたたき落とし、走ってその場から逃げ出すことくらいだった。 後ろから井山が何事か言ったようだったが、よく聞き取れなかった。 情けなかった。悔しくて、頭に来てもいたが、結局何もできない自分が一番腹立たしい。 あんな奴に好き放題言わせて、それでも何もできずに見ているしかない俺は……なんと情けない男なのだろう。 裏通りの路地。 俺はいつしか立ち止まっていた。 「お、お、おおおおおおぉぉっ!!」 吠えていた。 負け犬の遠吠えだ。 吠えながら俺は、路地の薄汚れた壁に、拳を叩きつけた。何度も何度も、力一杯叩きつけた。 やり場のない負の感情を、壁に向かってぶつけていた。 なんだか、殴りつけている壁に赤い染みが出来はじめた。 叩いている右の拳の感覚がない。 時々、手の指あたりから、鈍く嫌な音が聞こえた。 だが、無視した。 俺は壁を叩くのをやめなかった。 ただひたすらに、その行為に没頭していた。 いつまでそうしていただろう。 「っておい!? 遠野!! おまえ、ちょ……なにやってんだ!!」 野太い大声が俺を呼ぶ。 そして、ひたすらに動かしていた右腕を、力任せに掴んできた。 「はなせ!! 大城っ!」 「バカ!! 手が血塗れじゃねぇか!! いてえんだろうが!」 「こんな痛み、ティアが受けた痛みと比べようがないっ!!」 それでも大城は、俺の右腕をがっちりと掴んで、放さないでいてくれた。 「遠野、お前……」 「それでも……おれは……ティアの痛みを分かちあってやることさえ出来ない……あいつの涙を、止めてやることさえ出来ない……おれは……おれは……っ!!」 もう言葉にならなかった。 俺は狂ったように慟哭した。 次へ> トップページに戻る
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【TOP】【←prev】【PlayStation】【next→】 BATTLE MASTER タイトル BATTLE MASTER バトルマスター 機種 プレイステーション 型番 SLPS-01064 ジャンル 対戦格闘アクション 発売元 たき工房 発売日 1998-1-8 価格 5800円(税別) タイトル BATTLE MASTER Major wave シリーズ 機種 プレイステーション 型番 SLPM-86519 ジャンル 対戦格闘アクション 発売元 ハムスター 発売日 2000-4-27 価格 1500円(税別) 駿河屋で購入 プレイステーション
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人物 名前:高城・ミッシェル・千尋 13歳 性別:千尋 ニックネーム:総帥 一人称:私(わたし) 二人称:あなた、きみ 科学者レベル:マッドサイエンティスト 一応主役『高城・M・千尋』と略してよい ブカブカの白衣と大きなリボンが目印の、愛すべき総帥様 若年どころか幼年ながら数々の学問に精通し、博士号まで持っているという厨二病全開の設定があるちびっ子 性別の項目がおかしいのは、設定を考えているうちに作者がわからなくなってしまったせいである 「いっそ、性別不明で良いや」と考えてしまったが最後、後は読者の皆様の想像にお任せする 『ミッシェル・サイエンス』をたった一人で取り仕切る恐るべきお子様 神姫 名前:「本名は非公開だ」 戦車型ムルメルティア 階級:少佐 一人称:私(わたくし) 二人称:貴官(きかん)、貴様(きさま) 忠誠度:総帥の為なら死ねる 千尋の所持する神姫の一人『南十字隊』の頼れる隊長、コードネーム『α(アルファ)』 帽子や眼帯など戦車型の基本装備を身に着けているが、衣服はオリジナルの軍服に身を包んでいる 千尋は特別なバトルのとき以外は指示を出さないので、実質彼女が全ての指揮系統を担っている 千尋に絶対の忠誠を誓っており、危害を加えるものは容赦なく(人間、神姫関係なく)KILLするつもりでいる 身内以外に対する言動は非常に高圧的。ただし敵対の可能性がゼロになれば(口調こそ厳しいが)面倒見が良い、頼れる指揮官 名前:「非公開だ…例外なく、な」 砲台型フォートブラッグ 階級:大尉 一人称:自分(じぶん) 二人称:君(きみ)、お前 面倒事請負率:かなり高め 千尋の所持する神姫の一人『南十字隊』の寡黙な副長、コードネーム『β(ベータ)』 常にバイザーつきの砲撃用ヘルメットを目深に被り、表情がよく見えない 常に櫛や手鏡を持っているなど、実は一番女らしい性格だったりする 後輩への指導は主に彼女の仕事で、曹長と一等兵は彼女が指導した バトルは主にスナイパーキャノンによる精密狙撃とハウィッツァー(曲射榴弾砲)による広範囲爆撃を使い分ける 名前:「公表の予定は無いであります!」 火器型ゼルノグラード 階級:曹長 一人称:私(わたし) 二人称:あなた 語尾:~であります 千尋の所持する神姫の一人『南十字隊』の少々ズボラな突撃兵、コードネーム『γ(ガンマ)』 これといった特徴が無い、作者泣かせの困ったちゃん 十分なキャラ立ちができてないせいで、影が薄くなりがち が、語尾のせいで突然会話に参加してもわかりやすい バトルスタイルは後ろは気にせず突撃あるのみというものだが、なぜか生還率は隊の中でトップ 軍人気質…とは程遠いお気楽能天気の寝ぼすけ神姫 名前:「非公開にしろと言われてます」 戦闘機型飛鳥 階級:一等兵 一人称:わたし 二人称:~さん 癖:トリップ、大きな独り言 千尋の所持する神姫の一人『南十字隊』の想像力豊かな新兵、コードネーム『δ(デルタ)』 第一話、第二話と連続でメインを張っているが、主役ではない 外見的に特徴は無いのだが、トリップ癖とダダ漏れモノローグで起動から一週間という短い期間の内に強烈なキャラ立ちを果たした 初の空中戦力となるが、今のところバトル未参加なので実力は未知数 今後もエンジン全開で行ってもらいたい 名前:リュミエラ 兎型ヴァッフェバニー 階級:なし 一人称:あたし 二人称:~ちゃん、~くん ついやっちゃったこと:一等兵の拉致 千尋の所持する神姫の一人『特殊部隊』の狙撃、個人撃破担当、コードネーム『B(ビー)』 かわいいものが大好きで豪快なお姉さん 第二話での名前ばらしはわざとっぽい 好物は紅茶とお菓子 バトルは基本的に参加しないが、参加するときは本隊を陽動にして、孤立したものを狙撃するという非常に地味な戦闘スタイル もしくは、もっとも攻撃力の高い相手を誘き出す役目を担う かわいいものはどれだけ見てても飽きないようだ 名前:フェリシエナ イルカ型ヴァッフェドルフィン 階級:なし 一人称:私 二人称:個人名、知らない場合は呼ばない 悩み:豪快すぎる同僚 千尋の所持する神姫の一人『特殊部隊』の潜入工作、索敵担当、コードネーム『D(ディー)』 第二話でやたら喋っているが、本来は無口無表情 同僚のBによって本編中に本名が出てしまったために、キャラ紹介で非公開にできなかった 好みは和菓子に緑茶と、純和風 Bと同じく基本的にバトルは不参加だが、参加するときは潜入偵察と各種センサーによる索敵に徹する さらに必要があれば、拠点の破壊工作や罠の設置など、相手にとって地味な嫌がらせをする 自室の中と外で口数が極端に違う その他のキャラクター 砂木 丈助 34歳 性別:男 相棒:ルルコ(マオチャオ型) 一人称:俺 二人称:お前 相棒との関係:俺の嫁 『砂木探偵事務所』の所長、自称三十代半ばのナイスガイ 幅広いネットワークを駆使して『Forbidden Fruit』まで辿り着いたようだ 相棒のルルコに頭が上がらない ルルコ 猫型マオチャオ 相棒:ジョースケ 一人称:ルルコ 二人称:キミ 伏字:不使用 砂木の所持神姫…というより相棒、ファイル棚の奥も見逃さない 『Forbidden Fruit』の購入はこの娘の強い要望だったようだ 将来の夢は、冗談抜きで『お嫁さん』 企業紹介 ミッシェル・サイエンス 全十階建ての、中心街に立つには規模の小さいビル 千尋が経営している会社…会社と言っているが、働いている人間が一人しかいないため、実質自営業 どういうわけか国の営業許可が下りている 主な事業内容は、神姫のオリジナル武装開発と、神姫サイズの日用品や家電製品の製造販売 そのほかに、神姫用の特殊なボディも作っているが、こちらは発注を受けてから作り始めるオーダーメイド品。お値段も高額 さらに一般公開をしていない特殊なボディも作っているが、こちらは一体で豪邸が土地つきで買える値段になる 詳しい説明は下記を参照 秘密の地下室が存在しているらしい…… 製品紹介 素体 Michelle-001 unripe fruit (未熟な果物) ミッシェルの試作素体、専用コアパーツとのセットで提供 非常に軽く柔軟性に優れる反面、神姫素体としての基礎防御力がゼロに近いので、装甲を追加するなどの処置を取ってもバトルには不向き どうしてもバトルを行いたいのであればヴァーチャルによるものを推奨、なおかつ相当な熟練が必要(神姫、マスター共に) 非常に精密な技術で人間に『似せて』作ってあり、MMSの特徴である剥き出しの間接はなく、肌の質感はもちろん、神姫に必要の無いはずの生殖器まで精巧に作ってある パッと見ると1/10サイズの人間そのもの 食事が可能で、水分以外は体内で完全に分解できる 水分は発汗などで消費することができるが、貯蔵量を超えた場合は強制排出が必要 内臓器官や骨格は完全に再現できなかったため、『人造人間』とまではいかないが、「すでに神姫じゃない」と言っても反論の余地は無い さらに、思考も再現できなかったため、AIを純正のコアパーツからのトレースしている。 手持ちの神姫を当素体に移植することも可能 損傷、故障があっても神姫センター等での修復は不可能ですので、異常が発生した場合は当社まで連絡をしてください 武装は腕、足に換装が必要な装備と遠隔操作ユニット、大多数のリアユニットが装備できない 使用したいのであれば同社の本素体専用装備(別売り)を使用することになる 製作時にある程度ならば体系の変更が可能であり、注文の際にマスターの好みを聞いてから作り始めるオーダーメイド商品 制作期間は受注してから約二ヶ月かかる Michelle-002X forbidden fruit (禁断の果実) ミッシェルの特殊素体、専用コアパーツと衣服もセットで提供 Michelle-001の発展型であるが基本性能は同じである 最大の特徴は体のサイズが10倍だということであり、こちらは近付いても人間との区別がつかない 当然のことながら、神姫バトルに参加することはできない 見た目が人間そのものであっても、当然のことながら人間の医療機関で治療をすることができず、さらに神姫センター等で修理することもできない 異常のある場合は当社まで連絡をください こちらも製作時に体系の変更がある程度可能であり、注文の際に好みを聞いてから作り始めるオーダーメイド商品 製作期間は受注してから約四ヶ月かかる (※商品受け取りの際に質疑応答があることと、受け取り直後にデータチェックがあることを予めご了承ください) 神姫ヴァーチャルコミュニケーションシステム SVCS「にじり口の茶室」 人と神姫を同じスケールにして触れ合うシステム 専用ヘッドセットは全国の神姫ショップにて取り扱っている 神姫はクレイドルを介してシステムに接続、マスターは専用ヘッドセットを装着する事によってシステムに意識を転送する サイズは神姫側に合わせられるため、神姫とコミュニケーションをとる以外にも自身で武装の試用など、擬似的な神姫体験ができる ただし、かたや生身の人間、かたや武装を自在に操る武装神姫なので、パワーバランスは歴然としている システムに入る際は、自分の神姫との関係を一度見直してみる事 神姫との関係が悪いと、接続直後からボコボコにされることもあるかもしれない ……ちなみに、殴られるとちゃんと痛い 以下、話数が増え次第追加します 戻る
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『"NOTRE-DAME" MARIE DE LA LUNE vs "ZYRDARYA" LALE SAITO』 仮想バトルフィールド上空に、文字が映し出された。 そしてその文字の横に数字が現れてバトルの開始時間をカウントダウンし始める。 「えっと、とりあえず、何したらいいのかな?」 私は目の前のクレードルで眠るマリーに聞いた。彼女の意識は今、筐体の中の電脳空間にいるのだけど、不思議なことに返事は現実の、クレードルの中のマリーから帰ってくる。 「まずはウォードレスを展開させてくださいませ。そうすればあとは私が美しく戦ってみせますわ」 「そっか。頑張ってね、マリー」 「はいっ」 マリーは目を閉じたままにっこりと笑った。 カウントダウンは最後の十秒を切る。電子音と一緒に数字はどんどん小さくなっていった。 開始三秒前、上空の文字は『READY』に変わる。 「いきますわ、のどか様」 私は軽く頷く。そして数字はゼロを示した。 「マリー、ウォードレス展開!」 そう言うと、マリーのドレスの裾のディティールが伸びて、前面ののこぎりのような形をした二本が、自由に動くライトセーバーのように、その他は小さな砲身を現して追撃用の機関砲になった。マリーはかなり可愛いものを選んだと思っていたけど、実際に展開したものを見ると意外とかっこいいものだ。 同時に相手は右手のポーレンホーミングを放つ。ハンドガンだというのにその弾は弧を描いて一つ一つがマリーを追う。その間にラーレはマリーとの間合いを詰めた。 マリーは飛びながらポーレンホーミングの弾を避けようとした。けれども高い誘導性能を誇るその弾は進行方向を百八十度変えてなおマリーを追った。そこへ猛スピードで間合いを詰めながら剣を構えるラーレがマリーの視界に入る。 「速いですわ」 関心しつつもマリーはウォードレスの機関砲をホーミングの弾へと向けて放った。そして両手で傘を持ち、ラーレの剣を受け止める構えを取った。 機関砲から発せられた弾幕は見事にポーレンホーミングを全て打ち落とし、とりあえずマリーは背後からの脅威から解放された。しかし次の瞬間、甲高い金属音と共にマリーとラーレは初めてお互いを至近距離で認識し合う。 「いいドレスですね」 鍔迫り合いをしながらラーレが言う。 「ありがとうございます。あなたのその銃も面白いですわ」 マリーがそう言い返すとラーレは不敵に笑った。 ††† カトー模型店の扉が開き、男が一人、入る。 「こんにちは、カトーさん。なんか盛り上がってますね」 「やあ、時裕君。今ね、のどかちゃんが戦ってるんだよ」 「あいつが?へえ、相手は?」 「斎藤香子ちゃん」 「...うちの妹に嫌がらせですか」 「いやいや、丁度女の子同士でいいと思って」 「のどかに香子ちゃんは倒せないでしょう。だって彼女は」 「それが結構頑張ってるんだよ、のどかちゃん」 「まだ香子ちゃんが手加減してるんじゃないですか?」 「そうだね...まだ"チューリップ"を使ってないところを見ると...」 「この店のオリジナルウェポンをあそこまで使いこなせるのは彼女だけですよ」 「うれしいことだねえ」 「ああ、哀れかな我が妹よ」 「君は本当にのどかちゃんのことが好きなんだな」 「そりゃあもう。アーニャの次に」 二人の男は再び視線を筐体に戻す。 ††† 数回、斬りあった後、ラーレはうしろに退いて、広めの間合いをとった。そしてまたポーレンホーミングを打つと、今度は腰から先にチューリップを模した飾りをつけた棒を取り出す。マリーは打撃系、もしくは投擲系の武装だと思って、傘をソードモードからライフルモードに構え直した。先のような急速接近で瞬時に懐まで迫らせないようにするためだ。 ポーレンホーミングから放たれた高誘導弾は例のごとくマリーのドレスに打ち落とされる。恐らくラーレはポーレンホーミングを決定力のある装備ではなく、間合いを取ったり、対戦相手を自分の思う場所に誘導するための補助的な装備であると考えているだろう。 手に持った棒を、ラーレは器用に片手でクルクルと回す。ジルダリアのスレンダーな体型も味方して、その姿はバトン競技のトッププロのようだ。 「今日が初めてのバトルのあなたに、こんな仕打ちはひどいかもしれませんが...マスターの記録を更新するために、全力で勝たせていただきます」 「光栄ですわ」 そう言ってラーレは回すのを止めた。そしてユピテルが雷を放つように、その棒をマリーに向かって投げた。 「ジャベリンですわね」 マリーは当然のようにそれを避けようとしたが、その前に飛んでいる棒の先のチューリップが開き、そこからさらに何かが発せられる。霧のようなそれは僅かにマリーの足に付着した。 乾いた音をたてて棒は着地した。その様子を見届けてラーレはまた手に剣を握る。 「さっきのは一体なんなんですの?」 「すぐにわかります」 二体の神姫は再び剣による近接格闘戦を始めた。マリーは傘で攻撃しつつも、ドレスで細かく間合いを取り、ラーレも主となる攻撃は剣であるものの、ポーレンホーミングを巧く使い見事に隙を埋める。単純な斬り合いのように見えるが、実際は双方が一瞬の隙を伺い合う頭脳戦であった。 しかしそれがしばらく続いたあと、マリーは異変に気づいた。足の動きがだんだんと鈍くなっていったのだ。sそれもさっきの霧のようなものが付着したあたりから。 「これは...?」 「効いてきたようですね。あの杖――トライアンフは麻痺性の液体を高圧噴射するものです。こっちのフレグランスキラーと違ってあの杖は遅効性。ゆっくりと、気づかないうちに機能を停止させるのです」 ラーレが説明する間も、非常に遅いスピードで、しかし確実にマリーの足は動きを遅くしていった。 『マリー!大丈夫!?』 「大丈夫ですから、のどか様は今と同じ指令を続けてください」 『左だよっ、マリー!』 気がつかないうちに、気づけない間にラーレが放った最後のポーレンホーミングの弾がすぐそこまでマリーに迫る。咄嗟にドレスの機関砲を向けたが、間に合わなかった。七発中の二発がマリーに直撃し、マリーの体が飛ぶ。胸元の赤いリボン状のディティールが煤けた。 「んっ...」 初めてマリーが苦痛の声を上げた。 『ねえ、もう止めようよ!もう少し強い装備にしてからまたやればいいからっ!』 「それは...ダメですわ...」 『マリー...』 「わたくしは人形型武装神姫。この姿で勝てるようにならなければ意味がないのですわ!」 マリーは再び立ち上がった。足はすでにただ体重を支えるだけの棒となっていたがなんとかバランスをとって傘を構える。 「...次が最後ですね」 ラーレが言う。彼女もまた剣を構えた。 その数秒後、ラーレが風を斬る。 ――ほんの刹那の後、ラーレの剣の切っ先はマリーの首筋に迫っていた。 ††† 「えっ?神姫バトルを始めてからずっと無敗だった!?」 香子ちゃんは静かに頷いて、彼女の肌理細やかで白い頬がうっすらと桃色に染まる。私はそんな仰天事実に開いた口が塞がらなかった。 「カトーさんの勧めで始めたんですけど...」 「そう。一戦目からずっと負けなし、四十七戦連勝。この店のオリジナルウェポン"チューリップ"を使いこなす戦い方は毒を持つ可憐な花そのもの。いつしか『プリンセス・オブ・ワイトドリーム』の通り名で呼ばれるようになった俺たちのアイドルだ!」 私と香子ちゃんはその声の主のほうへ顔を向けた。いや、私はその声が誰のものかわかっていたのだけれど、あまりのバカっぷりに向きたくなくても向いてしまったのだ。まわりで同調してる男の子たちもちょっとアレな感じだけど、こんなバカなことを堂々と言えるのはお兄ちゃんだけだろう。 「いつからいたの?」 「お前が負けそうになってたころから」 お兄ちゃんの肩に乗ったアーニャがお辞儀をした。 「あ、あの...のどかさんと時裕さんってお知り合いなんですか?」 香子ちゃんは私とお兄ちゃんの顔を交互に見て言う。その様子が少しおどおどとしていて、私は不思議に思った。 「うん、知り合い、兄妹。ていうか、香子ちゃんがお兄ちゃんの名前知ってるほうがびっくりだよ」 「そりゃお前、俺は香子ちゃんファンクラブ(ナイツ・オブ・ワイトドリーム)の会員ナンバー一番だからな。当然だろ」 「よかった...」 『よかった』...?えーと、この何気ない彼女の言葉からとてつもなく危険な香りがする。 それだけはダメな気がする。なんというか、香子ちゃんの将来的に。 とりあえずお兄ちゃんのほうに警告しておこう。 「ダメだよっ!妹と同級生の娘に手を出すなんて、大人として!」 私はお兄ちゃんの耳元で小さく言った。お兄ちゃんは何のことだ、という顔をしたのでそれ以上は何も言わなかった。 「しかし、俺は悲しいぞ、妹よ。そんな我らのアイドルをあんなふうに倒してしまうなんて。お前は香子ちゃんが可哀想だと思わんのか」 「いえ、負けは負けですし、私も調子に乗ってたんです。それにマリーさんはとっても強かったです」 香子ちゃんの制服のポケットからラーレが顔を出してそう言った。 ††† ――確かにラーレの剣の切っ先はマリーの喉に迫ろうとしていた。 しかしそれはあくまで迫ろうとしていたのである。 数ミリ手元を動かせば切っ先は間違いなく突き刺さる位置ではあったが、ラーレはそれ以上動けなかった。彼女の腹にはマリーの傘の先がピッタリと、一ミリの隙間もなく触れて、さらに両脇を、二本のクワガタの角のようなウォードレスの武装が挟み込んでいたからだった。 「少し、手元がブレましたわね」 マリーが言った。 ††† 「人形は少しも狂いのない精密な造りであって初めて、価値があるのですわ」 マリーが私の頭の上をふわふわと浮きながら得意気にそう答えた。 「うむ、素晴らしい。それでこそ人形型武装神姫ノートルダムだな」 「細かい設定と調整はみんなお兄ちゃんでしょ」 「だから素晴らしいって言ったんだ」 私は深くため息を吐いた。お兄ちゃんの無駄に自信満々な言葉に呆れたのもあるけれど、それをキラキラと輝く目で見つめる香子ちゃんにもちょっと呆れたからだ。 「さて、のどかちゃん、マリーちゃん。どうだった初めてのバトル、しかも勝利の味は?」 カトーさんが私たちにそう尋ねた。 私はマリーの顔を覗く。彼女もまた私のほうに顔を向けた。 「楽しかったですわ」 「そうだね、楽しかった」 それはよかった、とカトーさんは笑った。 「香子ちゃん、今度またバトルしようね」 「ええ。次は負けませんよ」 作品トップ | 前半
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キズナのキセキ 番外編「黒兎と盗賊姫」後編 ◆ おかしい。 尊は首をひねりつつ、考える。 蒼貴とティアの攻防はほぼ互角。お互い軽装の神姫であることが、勝負の決め手を欠いている。 一進一退の攻防である。 しかし、蒼貴の方が攻撃を喰らう率が高い。致命傷にはならないが、ライフポイントはじりじりと削られている。 蒼貴の調子が悪いわけではない。むしろ絶好調と言っていいほどだ。 そんな調子の時、蒼貴の攻めは厳しく、守りは堅い。 だが、ティアは絶妙のタイミングで、いとも容易く反撃してくる。 なぜだ? なぜそんなことが出来る? そのとき、尊の脳裏にひらめくものがあった。 この試合の序盤、尊は確かに思ったのだ。 対策されている、と。 そう、ティアのマスター・遠野貴樹は、『盗賊姫』に対する策を施している。 蒼貴の攻撃を無効にし、反撃するタイミングを掴んでいる。いや、意図的に作り出しているのではないか? そうだとすれば……。 今まさに、蒼貴が大鎌を振るい、ティアが手にしていたサブマシンガンを跳ね上げて奪い取ったところだった。 蒼貴がサブマシンガンを手にするべく、空いた左手を伸ばす。 その時。 『取るな、蒼貴!』 「えっ!?」 蒼貴はマスターの声に反応し、サブマシンガンへの意識を断ち切った。 持ち主を失った銃が、頭上を越えて飛んでゆく。 見れば、武器を取られたティアが、いままさに攻撃態勢に移ろうとしている。 このタイミング。 ティアが放った回し蹴りを、蒼貴は腕を十字に重ね、余裕を持って受ける。衝撃を受けると同時、自ら後ろに小さく跳ねた。 蹴りの衝撃は跳躍によって吸収され、蒼貴にダメージはない。 着地した蒼貴はすぐに体勢を整えられた。対峙するティアは、隙のない蒼貴の前に動くことが出来ない。 攻めあぐねたティアが、瞳を大きく見開いている。 蒼貴もまた、驚き、首を傾げながら問う。 「……どういうことですか、オーナー?」 『対策されたんだよ、俺たちは』 「対策……ですか?」 『ああ。簡単に言えば、ハズレの武器をわざと取らされていたんだ』 蒼貴は思わず頷いていた。そう言われれば思い当たることがある。 ティアから奪った銃はいずれもマガジンが入っていなかったり、エネルギー切れだったりしている。 ついには蒼貴もムキになって奪っていたが、その「奪う動作」そのものが隙だったのだ。 武器を奪われたところで、攻撃は来ないとわかっていれば、蒼貴より早く動き出せる。先ほどから攻撃を受け続けた原因がこれだった。 『そもそも、ティアは回避の達人だ。奪われないようにかわせばいいはずなのに、あっさりと武器を取らせていた。もうちょっと早く気付くべきだったな』 「いえ、それならば戦いようもあります。まだバトルは終わっていませんから」 蒼貴はやっと冷静になれた。 ムキになった自分の心の隙を突かれた。精神修行が足りないということなのだろう。 だが、自分の得意技を封じられて焦らない神姫がいるだろうか。 蒼貴は気持ちを切り替える。 試合はまだ中盤。むしろこの時点で相手方の策が分かっただけでも良しとしなくてはなるまい。 蒼貴は対峙する神姫を見る。 オリジナルのバニーガール型は、なんだか少し困ったような顔でこちらを見ている。 弱気な印象だが、攻防の最中は、驚くほどに大胆で、そして繊細だ。 ティアはハンドガンを手にしている。 蒼貴は迅る。 ティアがハンドガンを構える。 蒼貴はジグザグに走り、距離を詰める。 ティアの発砲。乾いた音が耳を突く。しかし蒼貴の速度は落ちる気配がない。 迫る蒼貴に、ティアは銃を構えながら身をそらす。 蒼貴の鎌が地表すれすれから振り上げられる。刃が美しい弧を描き、ティアの手元を狙う。 「きゃっ」 小さな叫びを残し、ティアが一歩後ろに引く。 それと同時、手にしたハンドガンが舞った。奪取成功。 が、しかし。 蒼貴は銃には目もくれず、さらにティアとの距離を詰め、返す鎌でティアを薙いだ。 「わわっ!?」 ティアは辛くもその一撃をかわす。鎌の先がティアの肩口をかすめた。 しかし、蒼貴が止まらない。 さっきのお返しとばかりに、中段の回し蹴りを送り込む。 「うぐっ……!」 無防備なティアのわき腹に、蹴りが吸い込まれるように決まった。 身体をくの字に折り曲げながら、蹴りの勢いを逃がすように後ずさる。 案の上だ。 武器を奪った時のティアは回避の準備ができていない。 数少ない攻撃のチャンスをものにするため、この瞬間だけは回避を捨てているのだ。 だからこそ、今の攻撃が決まった。 「もう好きにはさせませんよ」 思わず声に出してつぶやく蒼貴である。 □ 「見破られたか。少し早かったかな」 仕込んでおいた武器はまだ少しサイドボード上に残っている。もう少し引っ張れるかと思っていたが。 だが、これで武装を盗む技は封じた。弾の入っていない銃を取らされるとわかっていて盗みに来るはずはない。 ティアが少し困ったような声で問いかけてくる。 『どうしましょう?』 「ここからは小細工抜きだ。蒼貴の真価を見せてもらおう」 『はい』 「全開滑走だ。ファントム・ステップで踏み込め!」 『はい!』 気合いの入った声に変わって、ティアが蒼貴の間合いへと踏み込んでゆく。 俺は先ほどよりも細かい指示をティアに送り始める。 ◆ せっかくの策を見抜かれ、そこで意気消沈してしまう神姫プレイヤーは多い。 しかし、目の前のプレイヤーは自らの神姫を躊躇いもなく踏み込ませてきた。 自らの策が破られることは想定済みであったのか。事前に仕込んでおいた策を意図もたやすく捨て去るその切り替えの早さに、尊は唸る。 小刻みなステップを踏み、小さくジグザグに走りながら、ティアは距離を詰めてくる。 蒼貴もまた踏み込む。 大鎌と苦無の二刀流、閃くような斬撃をティアに送り込む。 しかし、ティアはS字を描くステップで、流れるようにかわした。 蒼貴がさらに踏み込む。ティアは距離を開けず、自分の間合いギリギリで踏みとどまるようにステップを続けている。 蒼貴は改めて瞠目した。 全力の斬撃だった。これでイリーガルの神姫を何体も倒してきた。かわすのはそう簡単ではないはずだ。 しかし、ティアは、刃の先端を回り込むように、ギリギリでかわしてのけた。並の技術ではない。 蒼貴とティアの距離に変化はない。それはティアの間合いでもあることを意味している。隙を見せれば反撃を食らう間合い。 その距離を保ち続けるための、そのための超絶技巧。 このステップを身につけるのに、目の前の神姫はどれほどの修練を積んだというのだろう。 限られた装備を駆使し、知恵と技と絆で挑む。ティアはそういう神姫だ。 そして、蒼貴は気がついた。 似ている。ティアはわたしとよく似ている。 彼女は以前、ひどい境遇にあって捨てられ、今のマスターに拾われたのだと聞いている。そして、マスターと二人、装備を工夫し技を磨いき、様々な困難を乗り越えて今に至るのだ、と。 蒼貴も、前のオーナーにひどい目に遭わされ、捨てられ、ひょんなことから今のオーナー・尊のところにやってきた。 それから尊と蒼貴は様々な事件を乗り越え、今、確かな絆を結んでいる。 蒼貴が前に出る。黒い兎型の神姫に挑みかかる。 蒼貴は身体から感情が迸るのを感じている。 いつもの、イリーガル神姫を相手にしているときには決して感じられない。なぜなら、イリーガルが相手の時には、哀しみや怒りが先走る。 ティアとのバトルだから。技と知恵と絆で、真っ正面から挑んでくる相手だからこそ感じられる。 それは、歓喜、だった。 ◆ 「……笑ってる」 戦う蒼貴の顔には確かに笑みが浮かんでいた。 生真面目な彼女がバトルの最中に笑うなんて、珍しいことだ。いや、初めてかもしれない。 蒼貴の攻撃は、いつにも増して鋭い。剣閃はどれ一つとして同じ軌跡を描いてはいない。 しかも、蒼貴は動き回り、三次元的な機動であらゆる方向から攻撃を仕掛けている。機動の密度が上がっているのは、オーナーの尊の指示が増えていることを意味している。 しかしそれでも、ティアには届かない。 それが紫貴には信じられない。 「あの攻撃が当たらないなんて……」 「怖いわよねぇ」 隣のミスティが軽い口調で応じた。バカにされたのかと思って、紫貴は隣を見たが、違っていたようだ。 ミスティは真剣な眼差しでバトルを見つめ続けている。 「あの連続の斬撃を、間合いの中でかわし続けるなんて、とてもじゃないけど真似できない」 「じゃあどうして、あの黒ウサギはそれができるのよ!?」 「ティア自身が回避に優れているってのはあるけど、それだけじゃない……たぶん、蒼貴と同じ」 「蒼貴と同じ?」 ミスティは頷いた。 「そう。あなたのマスターが蒼貴の指示を出し続けているように、タカキもティアに的確な指示を出してバトルを進めてる。人と神姫、二人がいて初めて可能な戦い方で戦っているのよ」 しかし同時に、ミスティは蒼貴にも戦慄を感じていた。 ファントム・ステップで蒼貴の間合いに居続けるティアは、かわすので精一杯だ。あのティアが反撃の糸口を掴めていないのである。 双姫主と盗賊姫。二人はどれほどのポテンシャルを秘めているというのか。 ■ なんだかすごくやりづらい。 蒼貴さんは積極的に攻めてきている。攻撃は厳しいけれど、わたしはなんとかかわせている。蒼貴さんに隙がないわけじゃない。 でも、反撃できない。 なぜかは分からないけれど、彼女の隙を見つけたときは、わたしが攻撃を出せない。 今もまた。 蒼貴さんの鎌の振り下ろし際。そこに蹴りを合わせようとした。 だけど、彼女の前にうまい具合に大きな瓦礫があって、蹴りを出しても当たりそうにない。 そしてまた。 蒼貴さんが投げた苦無をかわし、ハンドガンの一撃を仕掛けようと照準を定める。 だけど、彼女の半身はすでにビルの陰に隠れていて、わたしの射撃は壁に阻まれそうだ。 さっきからずっとこの調子で、わたしは全力の攻撃を出せないでいる。 どうして? 疑問がようやく頭に浮かぶ。わたしが全力攻撃できないのが、彼女の仕業なのだとしたら。 それは一体どういうこと? 何かをわたしに仕掛けているというの? 『なるほど……こっちの攻撃を事前に潰しているわけか』 疑問に答えてくれたのはマスターだった。 「どういうことですか?」 『位置取りだ。蒼貴は障害物や地形を盾にして、おまえの攻撃を防いでいる。いや、無効化していると言った方が正しいか』 「む、無効化……ですか?」 『そうだ。壁を遮蔽物にするだけじゃない。自分の隙を潰すために、お前がうまく攻撃できない位置を計算し、移動しながら戦っている。お前がやりづらいと感じるのはそのためだ』 「そんなことができるんですか!?」 『信じがたいが、できるんだろう。実際、蒼貴はやって見せている』 「……なんという……」 なんという神姫だろう。 その技術をどうやって身につけたというのか。 『おそらくは、俺たちと同じさ』 「え?」 『限られた装備を使って、技と知恵で勝負する。俺たちが滑走を極めることで他の神姫と渡り合えるようになったのと同様、彼らは武器を盗むことと、位置取りによる攻撃遮蔽を修練することで強くなったんだろう』 「それは……」 どれほどの修練、どれほどの努力だったのだろう? 噂で聞いたところでは、蒼貴さんも、もとから今のマスターの神姫ではなかったという。 それでも、これほどの技を編み上げた。 わたしはあの言葉を思い出す。『技は神姫とマスターの絆』だ。 蒼貴さんと、マスターの尊さんの間にある絆の強さを、わたしは実感している。 尋常ではないその技こそが、絆の証だから。 わたしは、蒼貴さんを見た。 蒼貴さんもわたしを見ていて……そして、にこりと笑ってくれた。 わたしも思わず顔が綻ぶ。 「……マスター」 『なんだ?』 「わたし、蒼貴さんととことん戦ってみたいです」 『俺もだ。とことんやろうじゃないか』 「でも……蒼貴さんの技があっては、攻撃できません」 『簡単だ。ファントム・ステップをやめる』 「はい?」 『ファントム・ステップにこだわらなくていい。間合いは広くても近くてもかまわない。壁も使って、自由な機動で蒼貴を翻弄しろ』 「……はい!」 わたしは走り出す。 彼女には見てもらいたい。わたしの技のすべて。マスターとの絆のすべてを。 そう思いながら、蒼貴さんの間合いに踏み込んだ。 ◆ ティアの回避機動は、尊の想像以上だった。 あの蒼貴の攻撃をしのぎながら、反撃のチャンスをうかがうほどの回避能力とは。 だが、裏を返せば、反撃のタイミングは読める。蒼貴の攻撃際の隙を狙っているのだから、その隙を潰せば反撃を無効にできる。蒼貴の地形防御は『ファントム・ステップ』対策にまさにうってつけだった。 しかし、ここへきてまた、ティアの動きが変わった。『ファントム・ステップ』にこだわらない、不規則な機動。 得意技を捨てるように指示を出したのだろう。 尊はそのマスターの指示にこそ舌を巻く。 武器強奪の対策だけでなく、超絶技巧である『ファントム・ステップ』さえ容易に捨て去ろうとは、なかなか出来ることではない。 そして、地形防御を越えて攻めようと模索を始めている。 このままでは、反撃されるのも時間の問題だ。 状況を変えなくては勝ち目はない。 尊は即座に決断した。 ここで切り札を切る。 「蒼貴! 行くぞ、神力解放だ!!」 「はい!!」 応えた瞬間、蒼貴の身体がうっすらと光に包まれる。 蒼貴は右手の鎌を大きく振り抜き、その勢いを利用してさらに半転しながら、ティアに向けて苦無を放つ。 きらきらと光る苦無三本。 ティアは難なく避けるが、それも予想のうちである。 彼女が回避動作をしている間に、蒼貴はさらなる武器を手にしていた。 光を放つ大鎌が、左手に出現していたのだ。 サイドボードから送り込まれた武器ではない。蒼貴自身が生み出した鎌だった。 そして、右手の大鎌もまた、きらきらとした光に包まれている。 それは、蒼貴の全身を包む光と同種のものだ。 蒼貴は両手の鎌を翼のように広げる。鳥のごとき構えで、蒼貴は跳ねた。飛ぶように被我の距離を縮める。 斬撃。左右二度。 ティアは回避する。だが。 「あぁっ……!?」 小さな叫びと、小さな手応え。 蒼貴の鎌は、ティアが手にしたコンバットナイフを見事に寸断していた。 驚きに目を見開いているティア。 蒼貴は、油断なく彼女を見つめながら、叫ぶ。 「三分です」 「え?」 「三分……わたしの攻撃をしのぎきれますか!?」 その言葉に、はっとしたように気持ちを取り戻すと、ティアもまた真剣な表情で蒼貴を見つめた。 ティアは手にしていたコンバットナイフの柄を捨てる。 乾いた音が路地に響く。 超硬質のコンバットナイフの刃をバターのように切り落とした攻撃だ。触れられただけでも致命傷になりかねない。 反撃など考えてはだめだ。 ティアはそう思いながら、応えた。 「しのぎます……しのいでみせます!」 ニヤリ、と笑って、蒼貴が再び跳躍した。 ティアは姿勢を低くして、右手を地面に触れそうなくらいに下げる。いつでも走り出せる構え。 ここから三分間は蒼貴のターン。 今一度覚悟を決めて、ティアは横滑りにダッシュした。 □ バトルが始まってからずっと、蒼貴には驚かされることばかりだ。 なんだこの技は。 手にした光る武器はおそらく、どんな装備でも触れるだけで斬れてしまう。 しかも、先ほどから惜しみなく苦無を投げている。その前はよほどのタイミングでない限り投げることはなかったというのに。 光る武器はどうやら無尽蔵に生み出せるらしい。 とんでもないスキルだ。 ただ一つ、救いがあるとすれば、この技には制限時間がある。 蒼貴自身が口走った三分間。 三分しのげば元に戻るはずだ。……蒼貴の言うとおりならば。 だが、俺はなぜか蒼貴の言葉が信じられた。この状況でうそをつく神姫だとはどうしても思えなかったのだ。 ◆ 「まったく……なんでバラすんだ」 尊は額に手を当てて、ひとりごちた。 蒼貴は『神力解放』の有効時間を自ら宣言してしまったのだ。 そうでなければ、『神力解放』発動の間、心理的なプレッシャーも与え続けることができたはずだった。 それがわからない蒼貴ではない。 『すみません』 蒼貴は素直に謝る。だが、自らの信念は曲げない。 『ですが、どうしても隠したくなかったんです。ティアとは正々堂々渡り合いたいんです』 「……その気持ちはわからんでもないがな」 尊も蒼貴の気持ちはとうに理解している。尊自身、心が浮き立つのを押さえられないでいる。 こんなに気持ちよく戦える相手はそういない。 ならばこころゆくまで楽しませてもらおう。 「だったら全力だ。勝負を決めるつもりで斬りかかれ!」 『はい!』 ◆ 「……まるで、ダンスしているみたい」 ミスティが呟く。 ティアのバトルで、相手と噛み合ったときは、そうなる。まるで決められたステップを二人で踏みながら、踊るように、戦う。 紫貴からの返事はない。 ミスティがちらりと隣を見ると、これ以上はない真剣な表情で、紫貴は二人の戦いを見つめている。一挙手一投足を見逃すまいと、目を見開き、固唾を呑んで見つめ続けていた。 ミスティも視線を戻す。 そう、紫貴が正しい。このバトルの一瞬でも見逃したくはない。 それほどの技術の応酬、それほどのハイスピードバトルだった。 ■ 綺麗。 きらきらと煌めく塵が、目の前を過ぎ去ってゆく。 超高速で。 蒼貴さんは光をまとい、光を振りまきながら、わたしを倒さんと狙い定めてくる。 彼女の斬撃が振るわれるたび、こぼれた塵が輝きを放って綺麗だった。 その塵の行方をゆっくり眺めている余裕は、もちろんない。 ただ目の前を過ぎていく、ただその刹那の煌めきは、儚く、美しい。 でもその美しさは、破壊の危うさをはらんでいる。 そのこともよくわかっている。だから。 わたしはかわす。 蒼貴さんの二刀流は、絶え間なく、縦横無尽に、連続攻撃を送り込んでくる。わたしはわたしの技のすべてを持ってかわし続ける。 □ ティアの判断は正解だ。 今の蒼貴を相手では、反撃の隙を伺うのさえ至難の業だ。 回避に徹し、パワーアップ中の三分間をやりすごす。それ以外の選択肢はない。 だからといって、背中を見せて逃げることはできない。 それこそ、蒼貴に絶好の攻撃チャンスを与えてしまう。 「次、壁走りに移行、その瞬間に間合いを少し広げろ。蒼貴の踏み込みが厳しくなってる」 ティアからの返事はないが、画面上ではすぐさま俺の指示が実行される。 俺は思考をフル回転させ、ティアに指示を送り続ける。 俺の意識は、VRマシンのディスプレイ画面に集中する。思考のすべてがティアのバトルに収束していく。 歓声が遠くなる。 まわりに誰がいるかも、何人いるのかも、今どこにいるのかさえ、気にならない。 俺の意識はバトルへと急速に落ち込んでいく。 ◆ 蒼貴が『神力解放』の制限時間をばらさなければ、あるいは早々に決着していたかもしれない。はじめは尊もそう思っていた。 ティアはしっぽを巻いて逃げ出すと思っていた。どこかに隠れて三分間やりすごすことを考えるだろう、そう思っていた。 だが、その予想は完全に外れていた。 蒼貴と対峙しながら、攻撃のすべてをかわす。もっとも困難な方法をためらいもなく選択した。 そして、蒼貴にとっては、それが一番倒すのが難しい方法だ。 今も蒼貴は全力で倒しにかかっているが、ティアはその攻撃を回避し続けている。 なんという神姫。なんというマスター。 尊は目の前の二人に尊敬の念を覚えずにはいられない。 尊はずっと、イリーガル神姫を退治し続けてきた。その結果、『首輪狩り』などというありがたくない二つ名で呼ばれていたりもする。強さを求め、安易にイリーガル技術に手を出した神姫マスターを何人も見てきた。 そんな連中に言ってやりたい。 イリーガル装備に手を出さなくても、特別な装備にたよらなくても、知恵と技と絆で、神姫はこんなにも強くなれるのだ、と。 尊は蒼貴に指示を送る。 もっと繊細に、もっと大胆に。 自らの頭脳をも駆使して、舞い踊るティアを捉えようとする。 このバトルは蒼貴とティアだけのものではない。俺と遠野との知のせめぎ合いでもあるのだ。遠野の思考を読み、先の先を推理し、蒼貴に指示する。 尊の意識もまた、バトルへと没入していく。 □ ……気がつくとそこは、何もない空間だった。 真っ白な背景に継ぎ目はなく、部屋とも無限の空間とも判断が付かない。距離感が全くつかめない場所だ。 静寂。 誰もいない。 周りの気配も、歓声も聞こえない。 ただ、俺一人が立ち尽くしている。 ……いや。 辺りを見回し、ふと視線を戻したその先に、眼鏡をかけた男が立っていた。 尊だ。 俺は驚かなかった。 ここに誰かいるならば、きっと彼だろうと心のどこかで感じていた。 尊も驚いた様子はない。まるで、ここに俺といることが当たり前のような、そんな感覚。 俺と彼はなにげなく視線を合わせた。 どちらからともなく、小さく苦笑しあう。 ここには二人しかいない。 だから、以前から訊きたいと思っていたことを、口にした。 「なあ……俺たちはどこか似てないか?」 その問いかけに、尊は微笑みながら応えた。 「……似てないな」 「そうか?」 「そうだろ? お互い、拾ってきた神姫をパートナーにしちゃいるが、戦い方が全然違う。俺たちの立場だって……今の俺はイリーガル狩り、あんたは『エトランゼ』のコーチだ」 「……確かにな」 「そうさ。似たような境遇の神姫を手に入れても、決して同じようにはならない」 「同じ機種の武装神姫を買っても、マスターごとに異なる個性の神姫に育つのと同じように?」 「ああ。だからこそ……」 「そうか、だからこそ……」 俺たち二人の声がぴたりと重なる。 「武装神姫はおもしろい」 ◆ 蒼貴を包んでいた塵の光は、空気に溶けるように消えていく。 制限時間だ。 左手に持った光の大鎌も消えた。 しかし、蒼貴は止まらない。 『塵の刃』が終わったことに気がついていないのか、そう思うほどに自然な動きで、右の大鎌を振るう。 空いた左手で再び苦無を抜いているのが、制限時間が終わったことに気づいている証拠だった。 ティアも動く。 斬り込んでくる蒼貴に対し、真っ正面で踊るように回避する。 その間合いは一歩踏み込んだ距離。 ティアの間合い。 ティアはホイールで加速した右足を叩きつけようとする。 それを蒼貴は辛くも回避。 さらに踏み込んで、蒼貴の苦無がティアを抉ろうとする。 それをティアが半円を描くステップで回避。 またティアが膝蹴りを送り込む。 しかし蒼貴は半身を壁に隠して回避。 攻撃、回避、攻撃、回避、攻撃、回避……。 聞こえるのは、二人の攻撃の風切り音のみ。打撃の音がしないバトルはどんどんと加速していく。 (蒼貴……機動限界を超えてるぞ……?) モニター画面に表示された蒼貴のデータを見ながら、尊は唸った。 蒼貴の攻撃速度も回避機動も、今までにとったデータの最大値を超えている。一機動ごとに値は上方へと更新されてゆく。 それでいて、バトル画面に映っている蒼貴の動きには、危うさがなかった。 加速する蒼貴の顔には喜びが満ちあふれている。 もっと速く、もっと遠くへ、もっと先へ! 自分の知らなかった領域へとどんどん踏み込んでいける。 相手が、目の前の彼女ならば。 「いったい、どこまで連れて行ってくれるというのですか……ティア!!」 ティアもまた笑っている。 彼女のステップもさらに加速し、とうに限界を超えていた。 「蒼貴さん……あなたとなら、どこまででも行けそうです!!」 二人の機動は縦横無尽。細い路地も廃墟の壁も、何もかもを利用して戦っている。 しかし、つかず離れず戦う二人の姿は、まるで息を合わせてダンスしているかのようだ。 それは人間では決して成し得ない、変幻自在の舞い。 戦いの輪舞……バトルロンド。 舞い踊る二人の姿から、もう誰も目が離せない。 尊と遠野の指示はさらに白熱している。超高速の攻防の合間に、知略を尽くした指示を差し挟む。 筐体のまわり囲むギャラリーは、大型テレビの映像に釘付けだ。人も神姫も見入っている。 菜々子や大城、真那は、筐体のモニターを見ながら息を呑む。 バトルフィールド上、ビルの上から見守るイーダ型の二人も微動だにしない。 神姫のバトルはこんなにも美しいものなのか。 こんなにも心惹かれるものなのか。 いつまでも続く舞闘。 だがしかし。 前触れもなく、耳障りなブザー音が轟いた。 「え?」 蒼貴とティアの声が重なる。 二人は戦いを止めた。いや、システムによって止められた。 バトルは突然の終了を余儀なくされたのだ。 「……なんで?」 蒼貴とティアは、共に空を仰いだ。 大きく開けたメインストリートの上に広がる空に、大きなポリゴンの文字列が浮かんでいる。 『TIME OVER! DRAW GAME』 確かに、タイムカウンターは残り時間ゼロを示していた。 □ タイムオーバー……ドローゲーム……? モニターに表示されたメッセージを、俺は一瞬理解できなかった。 バトルは強制終了していた。 超高速で回転していた思考がいきなり止められた。 考えてみて欲しい。高速道路をかっとばしていた自動車が、いきなりブレーキもなしに止められる様を。まさに交通事故だ。 身体は何ともなくても、思考がクラッシュしている。 呆然としながら、正面を見た。 そこには、やはり呆然とした、尊がいる。 俺と同じ状況なのだ。 目が合う。 徐々に意識が浮上してきて…… 「……ぷっ」 俺たちは同時に吹き出した。 「ふふふ……」 「くくくく……」 そして、二人同時に、 「あーっはっはっはっは!!」 爆笑した。 笑いが止まらない。 もう笑うしかない。 だってそうだろ? 死力を尽くしたバトルが、まさかの時間切れ引き分け! いい歳した大の男が二人、武装神姫のバトルにのめり込みすぎて、試合の制限時間にさえ気を配る余裕がなかった。そこまでバトルにのめり込んでいたなんて! 頭脳派のマスター? どうしてどうして、ゲームにのめり込むただのガキだ! 俺は腹を抱え、尊はばんばんとテーブルを叩きながら、とにかく大笑いし続けた。 ■ アクセスポッドから出てきて、初めに耳にしたのは、マスターの笑い声だった。 あのマスターが、お腹を抱えて大笑いしてる!? 夢でも見てるのかと思った。 頭がおかしくなったんじゃないかと、本気で心配した。 どうすればいいかわからず途方に暮れて、わたしはきょろきょろと周りを見回す。 すると、筐体の向こうにいる、蒼貴さんと目が合った。 彼女もわたしと同じく困っていたようだ。 肩をすくめ、苦笑を浮かべて、小さく首を振った。 わたしも苦笑する。 尊さんも、わたしのマスターと同じように笑い続けている。 しようのないマスターたち。 わたしは小さくため息をつく。そしてアクセスポッドから立ち上がった。 自分の考えに、自分自身驚いている。 笑い転げるマスターなんてほっといて、蒼貴さんに話しかけよう、なんて。 わたしが歩み寄るのを見て、蒼貴さんも近付いてきてくれた。 向かい合う。 半身がフブキ型で半身がミズキ型という彼女の姿は、一種異様だ。 でも、きっと、その姿をしているのには、何か大切な理由があるに違いなかった。わたしはそれがよくわかる。彼女と一戦交えた後のわたしには。その姿には想いが込められているはずだと思った。 蒼貴さんがにっこりと笑う。 きれい。 とっても。 「ありがとうございました、ティア」 「こちらこそ、ありがとうございました」 わたしもちょっと笑って応えた。 蒼貴さんと交わした言葉は少ない。でも、バトルを通していろいろなことを話したような気がする。 わたしは、思ったことをそのまま口にした。 「わたしたちは、どこか似ていませんか?」 「それはきっと……想いが同じなのでしょう。わたしはそう感じました」 「想い……そう、ですね」 そう、蒼貴さんとわたしは、きっと同じ想いを胸に戦っている。 マスターのために。 その一言に、わたしたちはすべてを捧げ、それを当然のことと思っている。 そう思うだけの道のりが、わたしにはあった。 蒼貴さんにも、マスターとのはかりしれない道のりがあったに違いない。 バトルを通して、わたしたちは理解し合っていた。言葉を使わなくてもわかりあえた。 それが嬉しくて。 わたしは自然と笑っていた。 蒼貴さんもにっこりと、魅力的な笑顔で応えてくれた。 ◆ 久住菜々子は、優しく微笑みながらそっと握手を交わす蒼貴とティアを眩しそうに見つめている。 やはり遠野貴樹は、理想を体現する神姫マスターだった。 それはかつて、菜々子が追い求める最愛の友にして宿敵・桐島あおいがかつて求めた理想。 今このバトルこそは、彼女が夢見た理想のバトルの姿だったに違いない。 菜々子は確信する。 お姉さまが求めた理想は、菜々子が共に目指した理想は、決して間違いではなかった。 遠野とティアはそれを証明して見せてくれたのだ。 ◆ 「あのバトルは……わたしの宝物です」 蒼貴は胸に手を当て、目を閉じてそう言った。 「イリーガルマインドなんて使わなくても、マスターとの絆で強くなっていける。それだけじゃない、対戦相手とも絆を結び、共に強くなっていける。それを実感しました」 瞼を閉じれば、今もすぐに思い浮かぶ、あの日の戦い。 ティアとのバトルで感じた想い。それがあるから信じられる。 イリーガルマインドなんて必要ない、自らの戦いは間違っていない、すべての神姫は絆によって強くなれるのだ、と。 胸を張って、そう言える。 「そうだな」 オーナーの尊が静かに頷いた。彼の思いも蒼貴と同じだ。尊はかの対戦相手に思いを馳せる。 遠野が関わった事件は、一つの決着を見た。 だが、彼はまた別の事件へと関わっていくのだろう。遠野ほどの神姫マスターならば、自ら望まなくとも、事件の方が彼を呼ぶに違いない。 俺と遠野は似ていない。 だから俺たちは別々の道を行く。 その先でまた道が交差することがあれば、再び会うこともあるだろう。 その時には、敵には回したくない。味方ならば、何とも心強い限りだ。 その時が少し楽しみでもある。 尊は口元だけで薄く笑った。 すると、真那が不意に言った。 「あの遠野くんとミコちゃんって、似てるわよね」 「はあ? 全然似てねぇだろ」 「似てるわよ」 「どこが」 「理屈っぽいところが」 尊はぐうの音もでなかった。 (黒兎と盗賊姫・おわり) Topに戻る>
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登場人物 木ノ宮 翔(きのみや かける) 16歳。勉強よりバイトを重視しているためか成績はちょっと危ない高校生3年。 あまりこういったロボットに興味は無かったが、武装神姫はなんかピンとキタらしく購入を決意。 晴れてティアナのマスターとなる。 なお彼の住む町は首都から遠く離れた地方都市の一角。 なので新発売の神姫は県中から人が集まる「ヨド○シ」とかに発売日に並ばないと買えないというか、並んでいても買えるかわからない。それほどの競争率。 イメージCV 鈴村 健一 ティアナ 新発売のジルダリアタイプ。 気さくな性格設定のためか翔とは対等な関係で接しているが、本当はもっと甘えたいと思っている。 第4弾の見た目は"武装"神姫としては従来のモデルより"貧弱そう"なのだが実際に戦闘になれば"スゴイ"らしい… イメージCV 榊原 ゆい * 大地 文典(おおち ふみのり) 翔の幼馴染…というよりは腐れ縁である。 中学の2年時に少し遠い町に引っ越したが高校で翔と再開する。その後はずっと同じクラス。 テストもクラスで10番以内には入るし、勉強を教えるのが上手い。 翔がバイトに勤しんでも落第しない理由はテスト前に文典の講義を受けているからである。 イメージCV 荻原 秀樹 沙耶 文典の神姫でハウリンタイプ。 ただ特殊モデルで瞳が深緑色、さらに長髪なので1度見ただけではハウリンタイプと気が付かない人もいる。 無邪気な性格で人当たりも良い。それでも人の迷惑になることだけはしない。 本物の妹のように文典と接しているが近頃はそれでは物足りない様子。 イメージCV 成瀬 未亜 小野 香住 翔、文典と同じクラスの生徒。 2人と面識は全く無かったが、トーナメントをきっかけに仲良くなる。 自分の神姫のニーナの野望達成のために毎日踊らされるすこし損なキャラ。 綺麗な黒髪のショートヘアーが特徴。 イメージCV 名塚 佳織 ニーナ 犬型だが基本的にいつもツガル装備を好んで装着している。 そして神姫アイドルのナンバーワンを目指して日夜活動している。 しかしいまのところスカウトに引っかかるということは無い。 それでも止めないのが彼女の負けず嫌いな性格を如実に表していると言っていいだろう。 ヘッドにツガルのミニツインテールを付けている為、ぱっと見は通常より可愛く見える。 イメージCV 野川 さくら 神代 鈴莉 2人が3年で進級した「神姫科」の教諭。翔たちのクラスの担任である。 基本的に神姫科は単位さえ取れていれば進級に評定の数値と言った要素は必要ない。 しかし、2年時までの成績が悪かろうと彼女の授業を1年受ければある程度の技術者になれるだけの基礎が身に付く。 それだけの実績を持つ名教師である。 イメージCV 北都 南 シロガネ 鈴莉の神姫でアーンヴァルタイプ。 とても礼儀が良く、優しく、時には厳しくと正に教師の鑑といえる神姫であり、神姫科の生徒の神姫が目指すべき目標でもある。 基本的に学校内では素体状態だが"生徒"に危険が迫れば"力"を使うという噂がある。 しかし真偽のほどは定かではない。 イメージCV 日向 裕羅 独自設定 「星林学園」神姫科 翔の通う「星林学園」は3年次の専攻コースに「普通科」「理学科」そして「神姫科」を儲けている。 神姫科は全国でもまだ数の少ない科であるが、プロフェッッショナルを講師に雇い、本物の神姫をパートナーと一緒に勉強をする。 神姫科でMMSの基礎構造からプログラミング、その他もろもろの基礎を学び、エスカレーター式で大学に進学してさらに細かな専攻の勉強をするという「高-大一貫校」という試みを日本で始めて採用した学校である。 今では都市部にも同じような大学が増えており、この学園が地方の郊外にあるため入試の志願者数は近年下降気味。 それでも生徒数は県で一番多い。 その下部組織として小-中一貫校の付属校も存在する。
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バトルロイヤルの特別ルールについて バトルロイヤル参加の手続き ①バトルロイヤルは毎時00分ちょうどに開始されます。 (エントリー受付は30分前から10分前までです) ②料金100円を支払いカードキーと参加神姫を交換してください。 この時点までに神姫への武装は済ませておいてください。 ③カードキーをもってバトルロイヤル用の筐体へエントリーしてください。 筐体はどれでも構いません。カードキーを差し込めば貴方の神姫とデータリンクを開始します。 ④ランダムで12コーナーの内から1コーナーが選ばれます。(初期配置) コーナー内に5つ存在する出現ポイントから好きなポイントを選び神姫に伝えます。 神姫の特性や武装に応じ好みの場所を選んでください。 (他の神姫がどのコーナーのどのポイントからエントリーするかは分かりません) ⑤試合開始の合図と共に出現ポイントのゲートが開き、武装のロックが外れます。 試合開始30秒以内にゲートから出てください。戦闘開始です。 (ゲートは30秒で地面に格納されるため、それまでに出られないと失格になります) ⑥戦闘開始後30分経過するか、参加神姫が最後の1体になった場合試合終了です。 撃墜数に応じた戦績に加え、最後の一人となった神姫には特別にボーナスポイントが入ります。 注意事項 参加神姫にはバトルロイヤル監視のマスターコンピューター(以下MCP)とのデータリンクが義務付けられます。 これにより、神姫の武装、および稼動モードは一部がMCPの管理下に置かれます。 具体的には致命傷と判断されたダメージを受けた場合の“強制的なスリープモードへの移行”および“既に敗退している神姫への攻撃”が禁止されます。 システムの都合上敗退した神姫を戦闘中に回収できないことに対する措置ですが、予期せぬ事故により敗退後にダメージを受ける可能性があることを予めご了承ください。 神姫センターバトルロイヤルのご案内より抜粋
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「接近して相手をすぐ倒すクリナーレで」 「さっすがアニキ!話がわかるぜ!!」 頭の上で騒ぎ喜ぶクリナーレ。 まぁ喜んでくれるのは嬉しい。 だけど他の三人は少し残念そうな感じだ。 『後で他の奴等と戦うから、その時にな』と言うとパア~と明るい表情になる神姫達。 さて、そろそろ対戦するか。 装備…よし! 指示…よし! ステータス…よし! クリナーレを筐体の中に入れ、残りの神姫達は俺の両肩で座ってクリナーレの観戦をする。 「クリナーレ、負けんなよ!」 「おう!任しときな、アニキ!!」 「頑張ってクリナーレ!!」 「クリナーレさん~頑張って~!」 「姉さんー!無茶はしないでくださいねー!!」 「闘いに無茶はつきものだぜ!」 クリナーレは余裕綽々な笑顔を俺に見せ筐体の中へと入って行く。 気がつくと俺は両手で握り拳をつくっていた。 いつになく俺の心は興奮していたのだ。 何故だろう? 多分、誰かを応援している事によって熱くなっているのかもしれない。 それとクリナーレに勝ってほしい、という気持ちがある…かもなぁ。 俺は筐体の方に目を移すと中には空中を飛んでいる二人の同じ武装神姫達が居た。 READY? 女性の電気信号が鳴り響き、一気に筐体内の中に緊張が走る。 勿論、外に居る俺達もだ。 FIGHT! 闘いの幕があがった。 お互いの距離150メートルからスタートして、まずは二人とも距離を縮め接近する。 クリナーレはDTリアユニットplusGA4アームに付いてるチーグルを相手のストラーフに向ける。 すると敵のストラーフもクリナーレと同様にDTリアユニットplusGA4アームに付いてるチーグルをクリナーレに向けた。 そのままお互いの距離が縮まっていく。 70…60…50…40…30…20…10…0! ガキャン! 鈍い機械音が辺りに響く。 DTリアユニットplusGA4アームのチーグル同士がぶつかった音だ。 「この!」 「うりゃっ!」 クリナーレが先に叫び上げ遅れて敵のストラーフも叫ぶ。 お互い両手を突き出しさらに互いの両手同士で掴みあう。 チーグルもその状態だ。 二人とも引かない力押しの戦法。 チーグルと自分達の両手で押し合い睨みつけあう状態が数秒たった。 「…そりゃ!」 敵のストラーフは何を思ったのか、自分を軸にしてクリナーレをブンブンと回す。 遠心力によりドンドン、と回転するスピードが速くなる。 「セイッ!」 ストラーフの掛け声と同時にクリナーレを離した、地上に向けて。 クリナーレは物凄いスピードで斜めの角度で地上に落ちていく。 いや、地上に落ちる前に廃棄されたビルにぶつかってしまう。 このままじゃマズイ! 「クリナーレー!」 俺は叫んだ、だがクリナーレからの返答はないまま、そのままビルに突っ込んだ。 ドガシャーン! ビルの壁をブチ破りそこらじゅうに雷みたいな亀裂が走る。 もう一回軽い衝撃でも当てればビルは倒壊するような亀裂だ。 って、ビルの様子よりもクリナーレの状態が気になる。 すぐさまビルに穴があいた部分に集中し目を凝らして覗く。 視力は良い方なので多少離れていても見える…はずだ。 …いた! グッタリと上半身を壁に寄りかかり座っている。 「大丈夫か!?クリナーレ!」 「イテテ~、大丈夫だよアニキ」 ヨロヨロと覚束ない足で立ち上がるクリナーレ。 これはちょっとヤバイかもなぁ。 筺体に付いてるコンソールを見るとクリナーレのLPは半分以上無くなっていた。 ちょっとどころではなく、かなりヤバイ。 あの野郎…無理なんかしやがって。 そんなヤバイ状態のクリナーレに追い撃ちがきた。 敵のストラーフがクリナーレがぶつかって出来た穴からモデルPHCハンドガン・ヴズルイフを撃ってきたのだ。 撃った数は二発。 何とかしてクリナーレはその二発を避けたものの、ただでさえフラフラの状態なので転がるように倒れ込む。 だが、幸いな事に転んだ場所が瓦礫の壁だったので敵のストラーフが追撃出来なくなったこと。 「クリナーレ、大丈夫なら返事をしろ!」 「ごめん、アニキ。やっぱり、ボク…負けちゃうかも」 弱々しい声で言うクリナーレ。 こんなにも弱々しいクリナーレを見たのは久しぶりだ。 前は違法改造武器を使った時に泣いたんだったけ。 今のクリナーレはあの時と同じだ。 このまま戦闘を続ければ精神的に弱気になってしまう。 どうする…どうすればいい! 俺に出来る事は何かないのか!? 「しっかりしてください、姉さん!弱音を吐く姉さんなんか、姉さんじゃありません!!」 「!?」 いきなりの大きな声が聞こえたので俺は驚愕する。 声の主は左肩に座っているクリナーレの妹、パルカだった。 怒った表情にも見えるけど悲しい表情にも見える、なんとも言えない表情だ。 自分の姉をまるで叱っているようにも元気づけてるようにも見える。 俺もパルカの事を見習わないといけないなぁ。 「クリナーレ!お前は力はそんなものか!?違うだろ。お前はそんなヤワな奴じゃないだろうが!!頑張れ!!!」 瓦礫に隠れていてクリナーレの姿は見えないが、俺とパルカは諦めない。 「そうよ、クリナーレ。貴女なら勝てるわ!」 「クリナーレお姉様はいつも元気な人ですわ。頑張ってください!」 アンジェラス、ルーナが後から応援する。 考える事は皆同じということか。 よし、このまま応援し続けるぞ。 「負けんな!クリナーレ!!」 大声で応援し続けていると他のオーナー達が『なんだ?』とこっちに来くる。 けど今の俺には野次馬なんてどうでもいい。 今はクリナーレの応援に専念するべき。 そう思った時だった。 「分かってるよ!ボクが負ける訳ないだろう!!」 クリナーレの大声が聞こえた。 ドカーン! それと同時にビルの反対側の壁が爆発した。 その爆発から勢いよく飛び出すクリナーレ。 表情は元気いっぱいのいつものクリナーレだった。 「クリナーレ!」 「アニキ、パルカ、アンジェラス、ルーナ。応援ありがとう。ボク、頑張るからしっかり見ててね!」 左手を元気よく振るクリナーレ。 フッ…心配掛けやがって。 まぁこれでいつものクリナーレに戻ったから大丈夫だろ。 「さっきはよくもヤッてくれたな!倍にして返すんだからー!!」 クリナーレが敵のストラーフに物凄いスピードで突っ込む。 あれ? この光景はデジャブーだぞ。 あっ! 戦闘が始まって最初に敵と接触した時の場面だ! ガキャン! 再び鈍い機械音が辺りに響く。 DTリアユニットplusGA4アームのチーグル同士がぶつかった音。 「また振り飛ばされたいのかな?」 「フン!残念でした~、次に振り飛ばされるのはお前だよ!」 お互い両手を突き出しさらに互いの両手同士で掴みあい、二人とも引かない力押しの戦法になる。 最初の時とまるっきり同じ。 チーグルと自分達の両手で押し合い睨みつけあう状態が数秒たった。 「それ!」 「!今だ!!」 敵のストラーフがまた振り回そうとした瞬間の隙をクリナーレは見逃さなかった。 ゴツン! なんとお互い掴んだままの状態で敵のストラーフの頭にクリナーレが無理矢理の頭突きをかましたのだ。 あまりの痛さにストラーフは自分の頭を両手で押さえてフラフラとバランス悪く飛ぶ。 その間にクリナーレはアングルブレードを右手と左手に一ずつ持ち二刀流になる。 「クラエーーーー!!!!」 ズバズバズバズバ!!!! 「オマケだーーーー!!!!」 グシャ! アングルブレードで4回斬った後に回し蹴りをして吹っ飛ぶストラーフ。 そのまま吹っ飛んだ敵のストラーフは反対側にあるビルの壁にぶつかり、LPが無くなり力尽き地上に転落していき、ゲーム終了した。 俺の方の筐体に付いてるスピーカーから『WIN』と女性の電気信号の声が鳴り響く。 多分、相手の方では『LOSE』と言われてるだろう。 そりゃそうだ。 勝ちがあれば負けもある。 二つに一つ。 「勝ったよ!アニキ!!」 筐体の中で俺の事を見ながら喜ぶクリナーレ。 俺も自分の神姫が勝った事が嬉しくて微笑む。 両肩にいるアンジェラス達も喜びハシャイでいる。 そうか…。 これが武装神姫の楽しみ方か。 確かにこれは楽しい。 おっと、クリナーレを筐体から出さないといけないなぁ。 筐体の出入り口に右手を近づけると勢いよくクリナーレが飛び出して来て俺の右手に抱きつく。 そのまま俺は右手を自分の目線と同じぐらい高さまで持っていきクリナーレを見る。 「頑張ったな、クリナーレ」 「エッヘン!アニキやみんなの為に頑張ったんだから!!」 「言ってくれるじゃねぇかー、こいつ」 「…アウッ」 俺は右手の手の平に居るクリナーレを更に左手の手の平と添えるようにくっ付けて、お茶碗のような形を両手で形どる。 両手でよく水を掬う時にやるあの形状だ。 その形を保ちつつ親指の腹の部分でクリナーレの頭を撫でる。 この撫で方はクリナーレのお気に入りだそうだ。 何でも、俺に抱かれているようで気持ちいいらしい。 まぁ…クリナーレがそれがいいと言うなら俺はなにも文句は言わん。 「いいなぁ…。ご主人様、ご主人様、次の試合は私を指名してください。絶対勝ちますから!」 「ダーリンのご褒美を貰うために頑張らないといけませんわね」 「あの…私のバトルは最後でもいいので…もし勝ったら、お兄ちゃんのご褒美くれますか?」 両肩で何やらクリナーレに嫉妬しているように見える三人の神姫達。 そんなにご褒美が欲しいのか? まぁ今日はトーブン、ここにいるつもりだから一応全員バトルさせてやるか。 俺はクリナーレの頭を撫でるの止めて離すと。 「え!?もう終わりかよ~。もっと撫でてー!」 離した親指を無理やり掴み自分の頭に擦り付けるクリナーレ。 はぁ~…我侭な奴だ。 まぁそこが可愛いだけどな。 だがもし、ここでまた再びクリナーレの頭を撫でると両肩に乗っている三人に何されるか解らないので撫で撫ではお預け。 クリナーレを両手から左肩に移動させ、俺は次の筐体に向かった。 闘いはまだ始まったばかりだ。 「さぁ行くぞ!俺達のバトルロンドの幕開けだー!!」 こうして俺達のバトルロンドがスタートした。 そしてこの日からクリナーレの二つ名が出来た。 名は『重力を操る者』…。