約 3,185,640 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2382.html
「……なんか、改めて向き合うと緊張するもんだな」 「そうですわね」 家に着き、俺とヒルダは自室で向かい合っていた。何故か正座で。 ヒルダは居間に置かれている座卓の上に座りながらこちらを見上げていた。 バイザー越しなので視線は感じ取れないが……ちょっとおびえているようにも見える。……無理もないか。自身の中の別人格を意識的に呼ぼうとしているんだから。 しかしまあ、あれだ。こうやってにらめっこを続けていても埒が明かない。 「……ヒルダ、頼む」 「はい、ですわ」 ヒルダがルナピエナガレットに手をかけ、ゆっくりと外す。 こちらを見据えた蒼い目は瞬きをした瞬間に紫水晶へとその色を変えた。 「……あら。ワタクシを貴方自ら呼びだすなんて、めずらしいですわね」 あきらかに居丈高な口調。そして高圧的な態度。 間違いなく、「裏」のヒルダだ。 「さて、一体何の用ですの? ワタクシを呼び出したのですから、理由があっての事ですわよね? 筐体のなかでないのならリアルファイトですの?」 「別に戦うために呼び出したわけじゃないさ。茶飲み話ぐらい付き合ってくれ。お前は俺のパートナーなんだからな」 ヒルダの物怖じしない態度にこちらも緊張が和らいだ。 正座が馬鹿らしくなり、崩しながら答える。 彼女は一瞬ぽかんとした。 「どういう風の吹きまわしですの?」 「……と言うと」 「戦いもないのにワタクシを呼び出すなんて、貴方らしくありませんわ」 「俺らしくないって……」 そもそも俺が望んでこいつにバトルに出てもらったことは一度もないのだが。まあそれはいい。 「俺がお前の存在を認知してからまあ半月ぐらいたつわけだが、表のヒルダと会話をしたことはあっても、お前とは滅多に、いや、全く話す機会なんてなかったからな。バトル中のお前は俺の話を聞かないし」 「ワタクシを扱うに足らぬマスターの言うことなど聞く耳持ちませんわ」 お前はあれか。高レベルか。ジムバッジが足らんのか。八つ目を手に入れないと言うことを聞いてくれないのか。 「それに。茶飲み話と言っておきながらお茶がないのはいかがなものですの?」 「……それもそうだな。淹れるか」 「ワタクシは紅茶がいいですわ」 「そんなハイカラなもん家にはねーよ」 緑茶で我慢しろ。 ◆◇◆ 「意外と美味しいですわね。粗茶ですけど」 「やかましいわ」 スーパーで買った一山いくらの茶葉でもうまく淹れればそこそこうまいものである。 一人暮らしを始めて約半年、慣れれば美味い茶を淹れることなど造作もない。 ヒルダは彼女用にと購入したプラスチックの湯呑を使って茶を啜る。 「……そう言えば神姫は飲み食いできるって愛に聞いてなんの疑いも持ってなかったが、いざ目の当たりにしてみると不思議だよな」 「一応、飲むことはできますわ。濾過されて冷却系に回されますの。固形物も摂取は可能ですが、色々と面倒なのであまりワタクシは好きではありませんわ」 「面倒、とは」 「分解に莫大なエネルギーが必要ですの。エネルギーを得るための行動にそれ以上のエネルギーをかけるのは不毛でしょう?」 それは道理。もともとは人とのコミュニケーション用として考案された機能らしいからな。実用性は皆無だろう。 「食事が趣味って神姫の話を聞いたことがあるが」 「味を感じることはできますもの。ワタクシ達のAIは人間に近い思考をとりますから、美味しいモノを食べて嬉しいと感じるのは当然ですわ」 「そりゃそうだな」 「……さて、ごちそうさまですわ。戦いがないならワタクシはこれで」 「おいおいおいちょっと待てコラ」 バイザーをはめてさっさと交代しようとするヒルダに俺は待ったをかける。 「何ですの?」 「茶を飲んだだけでもう変わる気かお前」 「……お代でも取る気ですの?」 「誰がそんなもん取るか」 うちに勝手に来て菓子漁って帰るどっかの馬鹿はそろそろ警察に突き出してもいいとは思うが。いやそうじゃなくて。 「お茶を頂いた。話をした。茶飲み話という条件はこれでクリアしていますわ」 「お前についての話をしようと思ってるのにお前がいなくなってどうするんだよ」 「ワタクシの話ですの? 茶飲み話と言ったのはそちらでしょう?」 「言葉の綾だ。本当に茶だけ飲んでどうする」 「ではさっさと本題に移りなさいな。ワタクシ、回りくどいのは嫌いですわ」 本題……ねえ。 俺はため息をつく。 いろいろ聞きたいことはあるが……とりあえず。 「お前はもう一人のヒルダの事を認識してるか?」 「もちろんですわ。彼女が表に出ているとき、私も意識はありますもの」 「……はっきりと意識があるのか?」 「いいえ。夢うつつといった感じですが」 これは表のヒルダと一緒か。まあこの程度は予測範囲内だな。 「初めて起動した日がいつかわかるか?」 「二〇三七年十一月十三日ですわ」 正解。つまり、表のヒルダが自我を持った瞬間、こいつも生まれたってことだ。……こりゃ単なるバグなんかじゃなさそうだな。 「初めて戦った相手は?」 「……さっきから何を言ってますの? 愛の持つアルトレーネに決まっているでしょう?」 そう。愛にそそのかされてイーダ・ストラダーレ型を購入し、その場で起動させられてすぐにバトルにもつれ込んだのだ。 バトル終盤、リーヴェの放ったゲイルスケイグルがヒルダの顔をかすめてバイザーが破損。そしてこいつは覚醒し、暴走した。 あの時の愛の唖然とした顔は写真に収めて送りつけてやりたいほど貴重なものだったが、あいにくその筐体の向かい側で俺も同じ顔をしていたに違いない。 そしてその時のリーヴェとヒルダの痴態の録画映像が、アングラで高値で取引されているとかいう噂を聞いたことがある。信じたくもない。 ……次の質問はこれにするか。 「何でお前は戦う神姫全員にセクハラしやがるんだ。今日で被害数が二十を突破したぞ」 「敗者は勝者にとっての供物でしかありませんわ。それをワタクシがどうしようとワタクシの勝手でしょう?」 「相手の感情は無視かよ。それじゃ立派な強姦だろうが」 「敗者は地べたをはいずり回って泣くのがお似合いですわ」 「それはお前個人の考えだもんでとくに言及はしないが、地べたに押し倒して鳴かせるのはいかがなもんかと」 「あら、うまいこと言いますわね」 「褒められても全く嬉しくねーよ」 そしてうまいこと言ったつもりでもねーよ。 「というかあれだ。何でセクハラばっかりしやがる」 「趣味ですわ」 「趣味て」 「他に大した趣味もありませんので」 「なんでだよ。探せばいくらでも見つかるだろうが」 「バトル以外で表に出ているのは『彼女』ですし」 「……それはそうだが」 確かに、今日初めてバトル以外で俺はこいつを呼び出した(呼び出したこと自体が今日初めてだが)。そういう意味では、俺はこいつをヒルダという檻の中に閉じ込めていたともいえる。 「……まあ、確かに。それは悪かった」 「別にかまいませんわ。ワタクシとしては、勝つことさえできればよいのですから」 「正直なところ、それはどうかと思うが」 「何故ですの? 武装神姫は戦うために生まれた存在。戦うことに意義を見出し、勝つことで価値が生まれるものですわ」 「戦うことは確かにお前たちの根幹をなすものだろうが、武装神姫は元々人間のパートナーとして生み出されたもんだろう。それについてはどうなんだ」 「そんなもの、ワタクシの知ったことではありませんわ」 「おいおい……」 つまり俺とコミュニケーションを取るつもりが皆無である、ということか。厄介な。 「なんでそんな俺を毛嫌いしくさる。神姫はマスターに対して絶対とはいわんが従うものなんじゃないのか」 「先ほどから申し上げています通り、ワタクシは貴方をマスターとして認識しておりませんので」 認められてねーってか、くそったれ。 まあ確かに、イーダ型の基本的な性格は高飛車なものだし、むしろヒルダの性格が本来のイーダ型のそれとずれていると言ってもいいから、元々こんなもんなのか? ……神姫オーナーとしての経験値が少ないせいか、よくわからん。 「じゃあどうすればお前は俺の言うことを聞くんだよ」 「未来永劫、ありえませんわ」 「歩み寄りの精神ぐらいみせろよ!」 「貴方がワタクシに適応なさいな」 くっそ、プリインストールされた性格とは言え、腹が立つな。 「では、お話はすみましたね? ではこれで。次は戦いの場でお会いしましょう」 「あ。てめ! こら!」 あわてて掴みかかったが、時すでに遅し。俺の右手のひらの中ではバイザーをつけたヒルダがびくりと肩を震わせて俺を見上げていた。 「マ……マス、ター?」 「……すまん、逃げられた」 ため息をつき、ヒルダを離してやる。ヒルダは俺の剣幕に心底おびえていたようだが、呼吸を整える。 「……くそったれ」 「……結局、どうでした? あの……『彼女』は」 「全く話を聞かなかったよ。なんとかしてあいつの手綱を握る方法を考えなきゃな」 茶をもう一杯淹れながら俺は呟く。ヒルダのにも淹れてやると、彼女がおそるおそる喋り出した。 「あの……マスター。差し出がましいようですが、提案があります」 「……提案?」 「はい。彼女に言うことを聞かせられるかもしれない方法です。かなり荒療治だとは思うのですが……」 バイザー越しに見上げてくる彼女の視線は、どこか決意めいたものを感じた。 俺はぐっ、と湯呑をあおると、彼女に言葉の続きを促した。 ◆◇◆ 「はああああああああっ!」 「くふっ、くふふふっ」 翌日、俺たちはゲームセンターへと足を運んでいた。 今回の対戦相手はリーヴェ。こちらから挑戦した形になる。 開始三分ですでにバイザーは壊れ、裏のヒルダが表出してリーヴェに襲いかかっていた。 ……まあ、今回は想定の範囲内なんだが。 一応、こちらから指示を出しているものの、ヒルダは全く従う気配がない。それでもその一挙手一投足は着実にリーヴェを追い詰めていく。 「く……流石ヒルダちゃん、間近で見れば見るほど感じるすさまじいまでの戦闘センスですよー!」 「御褒めにあずかり光栄ですわ。再び貴女を這いつくばらせて差し上げます!」 下から打ち上げられるエアロチャクラムを副腕に搭載したシールドで打ち払い、リーヴェは距離を置く。させじと突出するヒルダ。 しかしヒルダが自らの間合いにリーヴェを捉える前に、リーヴェはすでにシールドと大剣ジークリンデの柄の結合を終えていた。 シールドが展開。内部からエネルギーの刃があふれ出すと同時に、リーヴェはそれを投擲する――! 「――【ゲイルスケイグル】!」 副腕から豪速で放たれた槍は一直線にヒルダへと向かった。極至近距離で放たれたそれをヒルダは避けきるすべがない。 「!!」 「――くふふっ」 しかしそれをヒルダは素体にあたらないレベルの挙動で避けた。左のエアロチャクラムが接続パーツごと千切れ飛んだが、ヒルダの突進自体は止まらない。 ヒルダは右手首の袖を展開。リーヴェにアイアンクローを叩きこんだ。 途端にリーヴェの膝から力が抜け、地についてしまう。 「し、しま―っ」 「くふふふふっ。それでは頂きますわ――?」 ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ! ――Surrender B side. Winner Liebe. いつものように鳴り響いたサレンダー。 しかし、それによってジャッジシステムが告げた勝者の名はヒルダではなく。 「――え――」 ヒルダの身体が一瞬にして0と1へと分解され、空へと還っていく。 リーヴェはそれを見送り、呟いた。 「幸人ちゃん、ヒルダちゃんは手ごわいのですよー。頑張ってくださいねー」 ◆◇◆ 「……これでよかったわけ? 本当に」 向こう側の筐体でリーヴェを回収しながら愛は言った。 「大丈夫だろう。ヴァーチャル空間で裏ヒルダが現れても、ゲームが終わればその意識は自動的に封じられる。あとは根競べだ」 俺はヒルダを胸ポケットに入れて答える。 「ヒルダ、もう一人のお前の事何かわかるか?」 「……多分ですけど、すごい怒ってます」 だろうな。だけどこっちもそれが目的だし。 勝つことを至上とし、固執する裏ヒルダに手綱をつけるには、そのプライドを叩きつぶすほかない。 そのための方法としてヒルダが提案したのは、裏ヒルダが暴走しそうになった瞬間、俺がサレンダースイッチを押すことだった。 ……行き過ぎて暴走しないよう、調整は要るだろうが。 ヒルダの勝率も落ちるし、俺自身にはデメリットしかないが他に方法も思いつかない。行き当たりばったりの作戦であることはわかっているが……。 あれだ。裏ヒルダの手綱を握るための先行投資だと思おう。普通に勝つなら勝たせてやればいいんだし。 「さて、これが吉とでるか、凶とでるか……」 俺はため息をついて、再び筐体の前に座った。 幸い、対戦相手に関しては断った面子にこちらからメールを送ることで事欠かない。 もちろんこちらの作戦に関しては伝えて了承を取ってある。 あとは裏ヒルダが折れてくれるのを待つだけだ。 俺はそう思いながらヒルダをエントリーポッドへと送りこんだ。 進む 戻る トップへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/170.html
前へ 先頭ページ 次へ インターバトル4「親友」 その日は朝からずっと吹雪いていた。 このあたりでは珍しく、雪がすねまで降り積もり、なおもそのかさを増そうとしていた。 そんな中を、マスターはコートを着込んで歩いていた。内ポケットの中にアーンヴァル「マイティ」がいる。 今彼らは普段行くことの無い裏通りにいる。 この裏通りは神姫のパーツショップが並び、オーナーたちは「神姫横丁」と呼んでいる。 ここに行けば手に入らないパーツは無い、とまで言われている場所である。 だがそのほとんどが実は違法なパーツを取り扱っており、問題の温床となっていることもまた事実だった。 店の多くは客が来そうに無いこんな天気の下で、律儀に店を開いている。 マスターは適当な店を選んで入ってゆく。 重い音を立てて自動ドアが開く。 「いらっしゃい」 疲れた顔をした細目の店主が、挨拶はしたが雪まみれのマスターを見て露骨に嫌な顔をした。マスターは入り口で雪を落とす。 人一人ぎりぎり通れるかどうかにまで敷き詰められた通路の左右の棚には、神姫のパーツが無造作に並んでいる。足元のダンボールには、ジャンクパーツと言っても差し支えないような、薄汚れた部品が投げ込まれていた。 コートの隙間から、マイティは恐る恐る、店の陳列を見渡す。 棚の一角に手足がばらばらに積まれている。 素体の手足だ。その横にはボディ、だけ。文字通りの素体のばら売り。禁止されているはずだ。どこから仕入れてきたのだろう? コアパーツは無い。が、たぶん言えば出て来そうにマイティに思えた。 マイティは初めて、吐き気と言うものを覚えた。 ここまで神姫が徹底的に「ただのモノ」扱いされていることにである。 すこし奥へ行くとガラスケースがあり、中はまるで特殊パーツの展覧会だった。 どこかで見たパーツも多く入っている。 ドールアイを改造した大出力レーザー発振装置。 超遠距離に正確無比な射撃を叩き込む対物ライフル。 幅広のレーザー刃を展開させる、ほとんどレーザーメスのようなライトセイバー。 間接の馬力を向上させるテフロンディスクに、特殊合金製装甲版。 バッタからそのままもいできたような脚部追加シリンダーもある。これは、かの片足の悪魔が使っていた奴だ。 これを両足に付ければかなりの移動性能向上が見込めるだろう。 超小型イオンエンジンを搭載した推進装置の類もたくさんあった。一つ付けるだけで飛行タイプの運動能力は飛躍的に上昇する。 どれもこれも、違法ぎりぎりの特殊パーツ。魅力的な品ばかりであった。 だが、マスターはケースの前に立ち尽くしたまま、パーツを見下ろすばかりである。 「マスター……」 マイティの呼びかけにも答えようとしない。 「マスター、私は」 そこまで言って、よどんだ。マスターの悩みを、悩みというには大きすぎるが、解消させるには私の言葉がいる。 本当にそれでいいのか? だがマイティはこれ以上、マスターが苦しむのを見ていられなかった。 「私は、構いませ……」 すると唐突に自動ドアが開いた。 「おーっ、ドンピシャ。やっぱりここにいたか」 聞き覚えのある声。 振り返ると、雪まみれのケンがいた。 「なんだいケン、こいつと知り合いか」 客にこいつ呼ばわりは無いだろう、とマスターは思った。 「そうだよ、オレたちゃ親友なんだ」 「そうやって同族以外からダチを作るのが悪い癖だぞ。この前のOLだって」 「いいじゃねえかよ」 二人して笑い会っているのを、マスターとマイティはぽかんとして見ているしかない。 「そうそう、お前ぇに話があるんだ。ちょっと付き合え」 ケンはマスターを無理やり引っ張って店を出る。 権の襟元からハウリン「シエン」が顔を出して、申し訳なさそうにこちらに手をあわせて謝っているのをマイティは見つけた。 ◆ ◆ ◆ 「おやじ、とりあえずビール二つね。あとおでん二人前」 近くの居酒屋に無理やり連れてこられて、気がつけばビールとおでんを注文されていた。 「一体何がしたいんだ」 腹に据えかねてマスターが切り出した。 ケンはシエンをテーブルに置くと、タバコに火をつける。 「吸うか?」 「俺はタバコは吸わん」 マスターもコートを脱ぎ、ポケットからマイティを出してテーブルに座らせた。 「?」 マイティが何かに気がつく。 「どうしたの、マイティ?」 「シエンちゃん、ちょっとごめん」 マイティはシエンの体の臭いをかぎ始める。 「ま、マイティ!?」 シエンは何が起こったのか分からず、慌てた。この子ってこんなに大胆だったかしらん? 「シエンちゃん、なんだかイカみたいなにおいがするよ」 ぎくぅっ!? シエンとケンは揃ってのけぞった。 「なんだ、二人して?」 「あいや、その、さささっきちょっとイカ食っててな。シエンがイカの上にすっ転んだんだよ」 「そうですそうです!」 「ちゃんと体洗っとけっつったろ!」 「すすすすみませんっ」 二人は顔を真っ赤にしてうろたえた。 「???」 「ま、まあいいじゃねえか。それより本題だ」 ゴホン、と咳払いして、ケンは体裁を繕う。 「お前ぇ、特殊装備を使いこなす奴に負けたんだってな」 「どこで聞いた」 「フツーにエルゴの店長に」 ビールとおでんが運ばれてくる。 「そんで、特殊装備も使わないとこの先辛いぜ~、見たいなコトも言われたんだってな」 「そこまで聞いてるのか」 「まあな」 ケンはビールを一口飲んで、続ける。 「で、お前のことだから、横丁で違法スレスレのパーツを漁ってるかと思ったら、案の定、ってやつだ」 「何でもお見通しなんだな」 マスターもビールに口を付けた。 苦い。相変わらずこの味は好きになれない。 神姫たちは二人の会話にはわざと参加せず、黙々とおでんを食べている。 「まあ、それがお前さんの考えなら、オレは止めねえけどよ」 大根を切って、口に入れる。 「それでお前ぇは納得するのか?」 がんもどきをつまもうとしたマスターの手が止まる。 「お前ぇは昔っから頑固だったからな」 がんもどきを奪って、ケンが丸ごと食う。 「ふぁっちちち……。まあ、頑固なら頑固なりに、納得するやり方を素直に選ぶのが、オレは一番いいと思うぜ。あ、おやじ、だし巻き玉子ちょうだい」 マスターは黙っている。箸も動かさず。座ったまま。 「マスター?」 マイティが気付いて心配そうに見上げる。 ふう。 マスターがため息をついた。マイティにはそれが、安心して出したため息に見えた。 彼の顔にはいつもの微笑が浮かんでいたからだ。 自分の分の代金を置いて、立ち上がる。 「ケン、ありがとう」 「いいってことよ」 「マイティ、帰るぞ」 「はい!」 マスターはコートを着て、マイティを内ポケットに入れると、しっかりした足取りで店を出て行った。 「へっ」 ケンは笑って、自分のビールを一気に飲み干すと、マスターの残したビールに手を伸ばした。 「お前も飲むか?」 「アルコールはコアに変な影響があるので飲みません」 「これからはちゃんと体洗えよ」 「…………はい」 了 前へ 先頭ページ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/548.html
先頭ページへ 装備構成解説 マイティ超高速巡航装備 軽量飛行装備 機動戦闘装備 シエンATパイロットスーツ装備 クエンティン瞬間移動装置活用装備 マイティ 超高速巡航装備 頭部:ヘッドセンサー・アネーロ 胸部:FL012胸部アーマー 背部:リアウイングAAU7 エクステンドブースター×2 VLBNY1スラスター×2 ランディングギアAT3(補助スラスター付バージョン)×2 ポラーシュテルン・FATEシールド×2 VLNBY1増設ラジエーター VLBNY1携行小型タンク ぷちマスィーン・シロにゃん (GEモデルLC3レーザーライフル) 上腕部:VLNBY1腕部アーマー 下腕部:左/FL012ガードシールド、右/M4ライトセイバー 大腿部:VLNBY1脚部アーマー 脹脛部:VLNBY1収納ポケット 脛部:WFブーツ・タイプ・クレイグ 武装: スティレット短距離空対空ミサイル×4 カッツバルゲル長距離空対空ミサイル×2 STR6ミニガン、もしくはアルヴォPDW9 登場時期:「強敵」~「固執」、「ねここの飼い方、そのじゅうさん、後半」 対アラエル戦、クエンティン遭遇戦の序盤など、初期によく用いられた構成。まだ煮詰まっていない段階の、雛形とも呼べる構成が対ルーシー戦でも登場している。 ありったけの推進装備をリアウイングAAU7に取り付け、推力を一方向に向けることで絶大な加速と最高速度をたたき出すことができる。推進器の取り付け方には変遷があり、後になるほどパワーロスが少なくなる(写真は初期の配置)。装備も射程の長いものを中心に取りまとめ、特に最終段階で片翼に懸架していたLC3レーザーライフルの長時間照射は前方の目標掃討に効果が高い。 本装備はアーンヴァルのもともと持っている高速飛行性能をさらに特化させることに成功しているが、同時に欠点も倍化させてしまっている。小回りはもちろん利かず、片腕にライトセイバーを付けているとはいえ近接戦闘は原則ご法度。さらに推進設備を全てリアウイングに集中させているために、推進器がどれか一つでも損傷してしまうとたちまち全体バランスの低下を招き、戦闘力が大きく削がれてしまう。バトルにおいてどんなに性能の高い神姫といえど、一発も被弾せずに戦う、などというのはほとんど無理な話なのである。 良くも悪くもピーキーに着地する結果となり、これ以上の発展を見込めないと判断したマイティとマスターは、飛行能力というアーンヴァルの特性を生かしたまま、より戦闘に適応する装備構成を模索してゆくことになる。 試行錯誤の末、現在以下の二つの構成が登場している。なお、すべての装備にほぼ例外なく取り付けられているぷちマスィーン・シロにゃんは、主に装備の制御や索敵などを担ってマイティの負担を軽減する、いわばフライトオフィサーである。 軽量飛行装備 頭部:ヘッドセンサー・アネーロ(棘輪) 胸部:FL012胸部アーマー(争上衣、ぷちマスィーン・シロにゃん搭乗) 背部:白き翼 上腕部:VLBNY1収納ポケット(なし) 下腕部:M4ライトセイバー×2(FL012増設アーマー) 大腿部:ハグダンド・アーミーブレード(なし) 脛部:ランディングギアAT3(脚部機能停止のため排除) 武装: カロッテTMP (忍者刀・風花、ぷちマスィーン八体) ※( )内は「信念」における装備 登場時期:「固執」、「信念」、「ねここの飼い方、そのじゅうさん、後半」 もともと白き翼のテストのために考えられた構成で、翼の性能を最大限に生かすためかなりの軽装となっている。クエンティン遭遇戦においては「装備B」として、変更されたフィールドに対応するために登場した。また「信念」の対クエンティン戦においては、序盤はストラーフのリアユニット GAアーム、GAレッグを用いた陸戦特化装備であったが、戦闘中脚部機能が死んでしまったために脚部を丸ごと排除して本装備となった。その折もともとの素体装備は変更していないため、防御力重視の構成となっている。 軽快さを生かした格闘戦が得意であったが、性能的にどうしても中途半端にとどまってしまうくせがあり、メイン装備としてはほとんど使われていない。 機動戦闘装備 頭部:ヘッドセンサー・アネーロ 胸部:ホーリィアーマージャケット 背部:レインディアアームドユニット・タイプγ(基部) ハイパーエレクトロマグネティックランチャー×2 バインダー(リアウイングAAU7) ハグダンド・アーミーブレード ぷちマスィーン・シロにゃん 下腕部:M4ライトセイバー×2 脛部:ランディングギアAT3 FL012ガードシールド 推進器付主翼(リアウイングAAU7) 武装: アルヴォLP4ハンドガン カロッテP12 スティレット短距離空対空ミサイル×4(サイドボード供給により発射可能総数は60発以上) 登場時期:神姫たちの舞う空編 アーンヴァルの飛行特性を維持したまま、戦闘適応性を上げるために考案された構成。メインの推進力が背部ではなく、脚部に移行されているのが大きな特長。ヨーロッパの軍隊によく見られるデルタ翼戦闘機のようなシルエットとなっている。 超高速巡航装備と比べて推進力は低下したものの、全体的にコンパクトにまとまっている。そして主翼が360度回転可能で、マグネティックランチャーとバインダーが四つのスタビライザーの役目を果たし、デルタ翼でありながら「低速域における機動性と安定性が低い」という欠点をカバーできている。結果、戦闘機にはできない奇想天外なマニューバーが可能になっている。 なによりも、ホーリィアーマージャケットの小型スラスターやマグネティックランチャーの電磁浮遊推進システムなど、脚部以外のボディ全体に推進器を配することによって、多少の損傷でも戦闘が続行できる優秀なダメージコントロール性能を獲得できたことがこの装備の功績として大きい。 未知数の部分がまだまだ多いが、本編における今後の活躍が大いに期待できる装備構成である。 シエン ATパイロットスーツ装備 頭部:頭甲・咆皇 胸部:VLBNY1胸部アーマー 上腕部:VLBNY1腕部アーマー 下腕部:VLBNY1リストガード 腰部:KT36D1ドッグテイル 大腿部:VLBNY1脚部アーマー 脛部:WFブーツ・タイプ・クレイグ 武装: 十手 カロッテP12 モデルPHCハンドガン・ウズルイフ 登場時期:「バトリングクラブ」、神姫たちの舞う空編 非公式の「ボトムズin武装神姫バトル」において、クリムゾンヘッドに搭乗する際シエンがまとう装備。ヴァッフェシリーズのアーマーは衝撃吸収に長けながらかさばらないため、パイロットスーツとして最適であった。 緊急時の武装として十手や拳銃をコクピットに持ち込んでいる。 ちなみにクリムゾンヘッドの主武装はベルトリンク式に改造し装弾数を増やした咆莱一式である。 クエンティン 瞬間移動装置活用装備 頭部:フロストゥ・グフロートゥ 黒ぶちメガネ 胸部:胸甲・万武(ぷちマスィーン・壱号搭乗) 上腕部:フロストゥ・クレイン 下腕部:FL013スパイクアーマー01 腰部:VLBNY1腰部ベルト 大腿部:FL013スパイクアーマー02 脛部:WFブーツ・タイプ・クレイグ 武装: サイズ・オブ・ザ・グリムリーパー ぷちマスィーン・肆号 ぷちマスィーン・オレにゃん 登場時期:「固執」、「信念」 瞬間移動装置とは厳密には装置ではなく、バーチャルバトルアクセスシステムの隙を利用した高速移動方法であり、あたかも瞬間移動しているように見えるためそう呼ばれる。また本装置によって空中移動も可能である。クエンティンのオーナーである理音が考案しセカンドバーチャルバトルにて使用していた。本装備はその瞬間移動を最大限活用するための構成である。 頭部、上腕部のフロストゥブレード、および下腕部、大腿部のスパイクアーマーは可動し、四肢とあわせて動かすことで限定的ではあるが瞬間移動後のアクロバット機動や体勢安定のためのバインダーとして働く。 主武装がサイズ・オブ・ザ・グリムリーパーと二体のぷちマスィーンだけというやや心もとない内容だが、これは瞬間移動装置の構成上サイドボードに神姫本体を入れねばならないため、武装の容量が限られてしまうためである(開始時の武装を入れるメインボードは空であるが、アクセスポッドには神姫が入れられていないため、武装を入れてもシステム側から「装備不能」と判断されエラーが発生する。そのためメインボードは使用できない)。ただ、瞬間移動のアドバンテージが非常に大きいため、この武装だけで十分という見方もある。 その後どこからともなく(おそらくネットから)瞬間移動の方法が解析され数多くの神姫がこの方法を使用したが、ゲームバランス崩壊の兆しが見えたためにオフィシャル側によってバーチャルバトル空間アクセスルールが改正され、実質使用禁止となってしまった。 そのためクエンティンの本装備はおそらくもう見ることは無い。 先頭ページへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1255.html
「相手を寄り付かせないで倒すパルカで」 「…お兄ちゃん。ありがとう、嬉しいです!」 左肩で、頬を桃色に染めながら喜ぶパルカ。 まぁ喜んでくれるのは嬉しい。 だけど他の三人は少し残念そうな感じだ。 『後で他の奴等と戦うから、その時にな』と言うとパア~と明る表情になる神姫達。 さて、そろそろ対戦するか。 装備…よし! 指示…よし! ステータス…よし! パルカを筐体の中に入れ、残りの神姫達は俺の両肩で座ってパルカの観戦をする。 「パルカ、頑張れよ!」 「うん!お兄ちゃん、私頑張るから!」 「相手を接近させないように弾幕を張るのよ!」 「一番最初のバトルであたしの妹なんだから!姉のボクを恥じかかせるなよ!!」 「負けそうになったらパルカの巨乳で相手を翻弄させるのもアリよ~!」 「ルーナさん…さすがにそれはちょっと…」 パルカは少し心配そうにしていたが、頑張なりな笑顔を俺に見せ筐体の中へと入って行く。 気がつくと俺は両手で握り拳をつくっていた。 いつになく俺の心は興奮していたのだ。 何故だろう? 多分、誰かを応援している事によって熱くなっているのかもしれない。 それとパルカに勝ってほしい、という気持ちがある…かもなぁ。 俺は筐体の方に目を移すと中には空中を飛んでいる二人の武装神姫達が居た。 READY? 女性の電気信号がの声が鳴り響き、一気に筐体内の中が緊張が走る。 勿論、外に居る俺達もだ。 FIGHT! 闘いの幕があがった。 お互いの距離150メートルからスタートして、敵のストラーフが接近しパルカは後方に後退する。 敵のストラーフが総重量的に重いせいか、二人に間の差がひらく。 距離250メートルぐらいの間合いかな。 「お願い!当たって!!」 パルカは“ヘルゲート”アサルトブラスターを取り出しババババ、と連射する…が。 「へっへ~んだ。そんなじゃ当たらないよ~だ」 余裕綽々で避ける敵のストラーフ。 回避した後はすぐさま間合いを詰めパルカに近づく。 「ッ!?これなら!」 すぐさま“ヘルゲート”アサルトブラスターをしまうと“ピースビルダー”リボルバーを二丁取り出した。 二丁拳銃か!? パンパン! 「ヒョイ、ヒョイ、と。楽勝ー」 慌てて撃ったためかパルカの攻撃はミスした。 クッ! このままではマズイ! そう思った瞬間。 間合いの距離は50メートルぐらいになっていた。 「クラエー!」 「!?」 敵のストラーフはDTリアユニットplusGA4アームのチーグルで攻撃しようとした。 「間に合って!」 “ヘルゲート”アサルトブラスターを再び取り出し自分に迫ってきてるチーグルに縦に向けた。 ガキャン! 筐体の街の中でとても鈍い音が響いた。 何故そんな音がしたのか。 それは“ヘルゲート”アサルトブラスターを盾にして、間一髪の所でチーグルの攻撃から逃れたのだ。 しかし、“ヘルゲート”アサルトブラスターを盾にしたおかげで、もう銃としての機能は失われていた。 あんなボロボロじゃあ撃てないだろう、DTリアユニットplusGA4アームのチーグルでの攻撃は破壊力抜群という訳か。 パルカは間合いを詰められてしまったので後方に下がる。 しかし、敵のストラーフはそれを許さない。 アングルブレードを取り出しパルカに再び攻撃しようとしたのだ。 「ッ!」 「避けるなよ~」 ギリギリの所でかわす事が出来たパルカは更に間合いを広くしビルの背後に隠れてしまった。 「…お兄ちゃん。助けて、お兄ちゃん…怖いよー…」 ビルの背後で声を殺しながら無くパルカ。 しかも俺に助けてを求めている。 畜生! 助けてヤりたい所だが俺にはどうする事も出来ない。 …いや、まだ助けてあげる事は出来る。 けどその方法は…負けを意味をする『降参』だ。 どうする、俺。 私的には勝ってほしい。 だが、これ以上パルカが傷つくのをただひたすら眺めるのは嫌だ。 「パルカ、聞こえるか?」 「お、お兄ちゃん!」 俺の声に気づくとパルカの目から更に涙が流れる。 可哀想に…よっぽど怖かったのだろう。 「今すぐ降参の意思を相手に示すから待ってろ」 「えっ!?なんで降参するの!」 「そうすればお前が怖がる必要は無くなるからだ。無理にバトッたってしょうがないだろうが」 「お兄ちゃん…」 「それにお前が泣いて苦しんでいる、姿なんか見たくないんだよ」 「………」 「ナッ。だからパルカはそこで待っ」 「お兄ちゃんは私に『頑張れよ』を言ってくれました」 俺の言葉を途中で遮ったパルカは俯きながら次々に口を開く。 「あの時、私は『あぁ、お兄ちゃんに期待されてる。頑張らなくっちゃ!』と思いました。…だから今が頑張る時です!」 バッ、と俯いた顔を俺に見せたパルカの顔は涙目でもキリッとした顔をしていた。 今までオドオドしていたパルカを見てきたが、ここまでシッカリとしたパルカは初めて見た。 フッ、パルカがそう言うなら俺は何も言うまい。 「なら、頑張って行ってこい!パルカ!!」 「はい!お兄ちゃん!!」 ビルの背後に隠れのをヤメて敵のストラーフに自分の姿を現す。 すると敵のストラーフがニヤついた顔で。 「アンタのオーナーも貧弱ね。さっきまで降参するかしないか悩んでいたよ。でもそう考えるのも無理もない話。貴女、弱いし」 「お兄ちゃんの悪口を言わないで!」 ブオン! 「ヘッ…ちょっとー!?!?」 パルカが敵のストラーフに投げつけたのはモアイ像だった。 モアイ像は固形燃料ロケットおよび整流装置およびアクティブセンサーが内蔵されておるので殆どミサイル状態。 つか、ミサイルと変わらない。 でも命中率が-125なので敵のストラーフに避けれてしまった。 「ちょっとアンタ!危ないじゃ、キャーーーー!?!?」 「えいえいえいえーーーーい!!!!」 次々と敵のストラーフにモアイ像を投げつけるパルカ。 実はパルカの頼みで出来るだけ武器のモアイ像を装備させていたが…これは中々シュールな光景だ。 だって沢山のモアイ像が敵のストラーフに向かって飛んで行くのだから。 ていうか、パルカが投げすぎて近辺はそこらじゅうモアイ像だらけだ。 外れたモアイ像はビルを破壊したり道路を破壊しながら落ちてぶつかっていく。 …ホント、シュールな光景だ。 あ、モアイ像で思いだしたんだけど。 このデザインのモアイ像。 コ○ミ株式会社のゲーム、『GRADIUS』に出てくるあれだろう。 特に指摘するのなら、PS2のGRADIUSⅢで出てきて、宇宙の中でクルクルと回転しながら口から子モアイ像を吐き出して攻撃するアレ。 因みにあのシューティングゲームは大好きだ。ファミリーコンピュータからPSPまで持ってるぞ。 ってそれは置いといて…しかし、モアイ像の何処を気にいったのだろうか、パルカの奴は。 後で聞いてみるか。 「これで、最後よーーーー!!!!」 「イヤーーーーこれ以上は止めてー!!!!」 ありゃりゃ。 敵のストラーフは戦意喪失してしまったようだ。 それもそうだ。 なんたってモアイ像が飛んでくるのだから。 ん? 筐体の俺の方についてるコンソールを見ると相手からの通信が出ていた。 ん、と何々…。 俺はコンソールを見るとそこには『降参』の文字が浮かび上がっていた。 それはこちらの『勝利』を宣言する言葉。 すぐさま俺はパルカにこの事を告げようとした。 「パルカ、戦闘中止だ!相手のオーナーが降参したんだ!!」 「…え?それは本当ですか??」 最後のモアイ像を投げつけようとしていた動作を途中で止め、俺見ながらキョトンするパルカ。 「ああぁ。本当だ、俺達の勝ちだ」 「や、やったー!勝ったんですね、私!!」 筐体の中で俺の事を見ながら喜ぶパルカ。 俺も自分の神姫が勝った事が嬉しくて微笑む。 両肩にいるアンジェラス達も喜びはしゃいでいる。 そうか…。 これが武装神姫の楽しみ方か。 確かにこれは楽しい。 おっと、パルカを筐体から出さないといけないなぁ。 筐体の出入り口に右手を近づけると勢いよくパルカが飛び出して来て俺の右手に抱きつく。 そのまま俺は右手を自分の目線と同じぐらい高さまで持っていきパルカを見る。 「よく頑張ったな、パルカ」 「はい!私、お兄ちゃんの言葉が励ましになって頑張る事が出来ました!!」 「そうか。そいつはよかったな。これはご褒美だ」 「あ、あうぅ~」 俺の右手の手の平に乗ってるパルカの頭を左手の人差し指の腹の部分で撫でる。 撫でているとパルカが俺の指を掴み自分の胸にそっと押さえるつける。 うわっ、パルカの巨乳が…物凄く柔らかい。 「あの、お兄ちゃん。頭を撫でるより、私の胸を触ってください」 「なんでまたどうして?」 「そっちのが気持ちいいからです。ご褒美なら…いいでしょ?お兄ちゃん」 「う~ん、まぁいいよ。お前がそれで良いと言うなら」 「お兄ちゃん、ありがとう」 プニプニとパルカの胸を触ると押した方向に乳房が歪みエロスをかもし出す。 ウハッ、気持ち良過ぎだぜ。 つーかぁ、まるで俺がご褒美をもらっているような感じなんだけど。 「いいなぁ…。ご主人様、ご主人様、次の試合は私を指名してください。絶対勝ちますから!」 「あー!いいなぁ~パルカの奴~。よし!!次のバトルはボクが出る!!!」 「ダーリンのご褒美を貰うために頑張らないといけませんわね」 両肩で何やらパルカに嫉妬しているように見える三人の神姫達。 そんなにご褒美が欲しいのか? まぁ今日はトーブン、ここにいるつもりだから一応全員バトルさせてやるか。 すぐさま指を胸から離すとパルカが少し不満そうな顔しながら。 「え、お兄ちゃん。もうご褒美お終いですか」 「まぁね。解ってくれや」 「む~、分かりました。でも次にご褒美くれる時はもっと触ってくださいね」 「…善処します」 ちょっと疲れた。 体力が、というよりも精神的に…。 まぁいいか…、パルカが気持ち良くなるのなら俺はなにも文句は言わん それに胸を触った時のパルカはエロかったし。 また胸を触りたくなるような表情だった。 ここでまた再びパルカの巨乳を触ったりすると乗っている三人に何されるか解らないのでお触りはお預け。 パルカを右手から左肩に移動させ、俺は次の筐体に向かった。 闘いはまだ始まったばかりだ。 「さぁ行くぞ!俺達のバトルロンドの幕開けだー!!」 こうして俺達のバトルロンドがスタートした。 そしてこの日からパルカの二つ名が出来た。 名は『銀を操る者』…。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/167.html
前へ 先頭ページ 次へ インターバトル2「誤情報」 「…………」 ぱかぱか。 「ま、マスター、どうですか……?」 ぱかぱか。 マスターは一瞬目の前どころか頭の中が真っ暗になり、立ちくらみを起こして倒れそうになった。 「まったく……」 「ご、ごめんなさい」 椅子に座り腕を組んで渋い顔をしているマスターの前の机の上で、アーンヴァル「マイティ」は恥ずかしさと申し訳なさと自分のバカさ加減に顔を真っ赤にして小さくなっていた。いや、もとから小さいのだが。 「シエンちゃんが、こうすればマスターが喜ぶって」 「奴の仕業か……」 マスターの言う「奴」とはハウリン「シエン」のことではなく、そのオーナーのことである。 「ココちゃんも、言ってましたよ」 「…………」 かの魔女っ子神姫ドキドキハウリンのことである。 マスターは大きなため息をついた。 シエンのオーナーは確信犯だろうが、ココのほうはおそらく実践する前に教えたのだろう。今頃どうなっているだろうか。 「ともかく、情報の真偽を見極めるのは試合でだけでなく、日常生活でも大事なことだ」 「はい……」 「まあ、今回は状況的に実践しなければ分からなかったからいい。実践して取り返しがつかない場合は大変だぞ」 「すみません……」 「……もういい。顔を上げろ」 「はい?」 なでなで。 いつのまにか頭をなでられていて、マイティは面食らった。 「あ、あの、マスター?」 「今回は俺の監督責任もある。もう落ち込むな」 「……はい」 マイティはマスターの指を抱きしめる。温もり。 ◆ ◆ ◆ ぱかぱか。 「ご、ご主人様。こうですか?」 「そう! そうだ! いいぞシエン! できればもうちょっと開脚しろ!」 「は、はい」 ぱっかぱっか。 「す、凄まじい破壊力だぜぇ……」 ケンは鼻血を素手でぬぐいながら、シエンの太ももを見つめていた。 「あの、ご主人様。そ、そんなに見つめられると恥ずかしい……」 ガチャ。 「ケン、次の試合の段取りが決まったよ」 控え室に舎幕が入ってくる。 「……二人とも、何してるの?」 「おゥ……」 「はうっ!?」 気まずい雰囲気がまたたくまに部屋内に広がった。 了 前へ 先頭ページ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1699.html
とある日の三河家 目を覚ますと何やら違和感が。はて、なんでしょうこれは?あ、お早う御座います。結です。 体機能に異常はありません。手足も問題なく動きます。 んー、でも何か違和感があるのです。 「・・・あっ」 手をグッパ、グッパとしていて気が付きました。本来犬型の手は黒いのに今動いている私の手は肌色です。昨日言われていた「考え」とはこの事だったんですか。何ともはや仕事が速いですね。 「ん?」 と言う事は・・ 「・・・・・・!!!」 自分の体を見下ろし数秒、狼狽します。クレイドルの上で全身肌色の私が寝転がっているんですから仕方ありません。寝る前に着ていた寝間は横に畳んでありそれを引っ掴んで即行で着ます。 あー、吃驚しました。 冷静さを取り戻すとクレイドルを文鎮代わりにしているメモを見付けます。 『昨日言っていた通り体の外装を交換した。一応以前の外装は保管していあるから問題があるようなら帰宅後言うように。後一応裸なんだし下着を用意しておく』 メモの横に包装されたままの神姫用下着が置かれていました。 「ありがとう御座います。ご主人」 メモに向かって一例を。でも出来れば寝ている時にタオル掛けておいて欲しかったかも・・・ いつもの巫女服に着替える前、下着を付けます。 が、袴なので下はいいとしても上は少々不釣合いのようです。薄布とはいえ白小袖では浮いてしまいます。ここは今まで通りサラシを巻いておきましょう。最後に白足袋を履いて時計を。 「えぇ!?」 時刻は午前10時、いつもの起床時間より4時間も遅いです!急いでお勤めをせねばなりません! 一路境内へと走ります。 「寝過ごしました!すいません!」 境内を掃除されていた奥さんに謝罪をして竹箒を手にします。 「お早う。話は聞いてるわよ、ゆっくりしてなさい」 「お早う結さん。今日は休む事がお勤めだ」 宮司さんも箒を手に拝殿前にいらっしゃりそのままご夫婦で掃き掃除を続けられます。 「ですが・・・」 「「ダメ♪」」 さて、何をしましょう。お勤めはお休みとなりましたし盆栽は今のところ手を加えられませんし。 「トレーニングしますかね」 体の確認も兼ねて軽めのものをこなすとしましょう。 仕込みを抜いて剣の型を始めます。 上段に構えてから唐竹、逆風、袈裟懸け、右切上、左薙ぎ、逆袈裟、左切上、右薙ぎ、最後に腕を引いて刺突へ。剣術に於ける最も基の型を続けます。 「ふむ」 どうやら間接や稼動部のメンテもして頂いたようです。手足は滑らかに、昨日までよりもより軽快な動きが出来ています。 調子に乗って逆手での連撃まで練習してしまいました。 お昼まで練習を続け一旦休憩をと公園へ向かいます。 「ふぅ」 ベンチに腰掛一服を。そういえばこう何も無くのんびりするのは久々な気がします。いつもならお勤めや盆栽の手入れなどしていますしね。 「にゃぁ」 「あっ、こんにちわ」 公園から来たのはご近所の猫サスケさんです。この方飼い猫なのに野良達を束ねているのですよ。しかもご老人方に人気なのです。日がな一日ここでのんびりしている姿が癒されるのですね。自分より大きなその体を撫でているだけでなんともゆったりできるので私もファンだったりします。 そんな彼をモフモフして過ごすのも良いものです。 昼過ぎ、ご主人が帰宅されました。 あれ?今日は平日なのにどうされたのでしょうか? 「今日はお早いですね」 「半休。それより体はどうだ?」 「問題なく。寧ろ調子が良いくらいです」 満足そうに頷かれ鞄から神姫センターの袋を出されます。 「それは?」 「今日は何日だ?」 えっ、確か三月の10日・・・・あっ! 「思い出しました」 「自分の誕生日くらい覚えておけ」 そうなのです。今日は私の誕生日でした。厳密にはこのお宅に来た日なのですけどね。宮司さんご夫婦がその日を誕生日とされたのです。 自分事とは言えそれを忘れていたとはお恥ずかしい限りで。 「周りの事には敏感なくせにな」 「面目ないです」 カラカラと笑うご主人と共に部屋に戻りました。 自室で例の袋を開けると出てきたのは一着の服でした。 「思えば巫女服以外着てない気がしたからな」 「とても嬉しいです!」 それを中から取り出します。そっと後ろを向くご主人、紳士ですね。 朱袴と白小袖を脱いで側に畳み新しい服を手にします。藤色の矢絣のお召しに海老茶色の袴と何ともハイカラな組み合わせ、私の好みを熟知されています。更にはいつもの足袋と黒塗りの駒下駄と皮のブーツの二種類を選べるのですよ。 「ご主人」 「ん、似合うぞ」 その一言に何とも言えない幸福を味わいます。「嗚呼、何と幸せな事か」とね。にやける自分が容易に想像できますが笑顔を止める事など無理なのです。新しい服というもの勿論ですけど何よりプレゼントされたという事が嬉しいのです。自身のオーナーからなのですから尚更なのですよ。 「ほれ、ニヤニヤしてないで出掛けるぞ」 「あ、はい。只今」 ご主人の肩の上にて景色を眺めつつ会話を楽しみます。 「ところでどこに行かれるのですか?」 「特に目的地はないな。散歩だよ」 「成る程。それもいいですね」 どこへともなくブラブラと、ゆったりとした時間は穏やかで何気ない会話も楽しくて。ただの散歩にもこんなに幸福はあるものなのですね。 「あれだな、お前がウチに来てからもう2年か」 「ですね。早いものです」 のんびりとご近所を散策しつつ会話は過去の日へと。 春先に私はここに来ました。 オーナー登録を済ませた私が見たのは暖かな陽日と穏やかな境内の風景でしたっけ。 「ここがご主人のお住まいなのですね」 「ん。後両親と近所の野良、お前もな」 宮司さんご夫婦との挨拶に始まり神社を案内して下さいました。そしてお昼、私にとって重要な事が起こります。 「こんにちわ」 「おー、早かったな」 大学をお休みした直子さんがいらっしゃいます。手にした大きなトートバックには何やら着替えらしきものが見えていました。 「取敢えず上がってくれ。もう少し辺りを回ってくるから」 「はい。そうそう、こっちの二人も起こしておきますね」 境内を出てご近所を散策します。「近所くらいは知っておけ」との事で。 少し歩けば秋葉原の電気街、反対側に向かえば住宅地、道を2、3本交えるだけで景色はガラッと変わるのでとても楽しかったものです。更に小さな商店街では私達同様に神姫を連れた方を沢山見かけました。皆楽しそうで印象的でしたよ。それに空気がなんだか暖かくて。 「大体こんなとこかな。把握できたか?」 「はい」 目覚めたばかりでまだまだ感情表現が薄く気の利いた応えが出来ませんでしたね。 一通りの散策を終え帰宅するとそこには直子さんが。 「只今戻りました」 「お帰りなさい」 ご主人の肩から見たその姿は境内の雰囲気と相まって落ち着けるものでした。来訪時の私服から着替えた直子さんは白の着物に朱色の袴、巫女の出立で淑やかでした。その姿に私は何かを感じます。 「あ、あの、そのお姿は?」 「うん?巫女よ。神社のお勤めをする女性の事ね」 ただ境内を掃除しているだけだった筈なのに私は深く感銘したのです。そして、 「ご主人、唐突ではありますがお願いが御座います!」 「ちゃんとしたのは後で造ってやるから暫くはそれで我慢してくれ」 「勿体無いお言葉です!ありがとう御座います!」 奥さんの趣味たる手芸の技術をもって私は巫女服に袖を通したのです。家事でお忙しいでしょうに快く誂えて下すッた奥さんと着替えた私を神前にて祈祷を捧げて下すッた宮司さんには心よりのお礼をしたのは言うまでもありません。勿論ご主人もですよ。 「それじゃ次は私の番ね」 「お願いします!」 ご主人の肩をお借りし直子さんのご指導を頂戴します。 効率の良い掃き掃除の仕方からお勤め全体の流れ、特に塵の積もり易い場所や社務所での手順に参拝の仕来り等々、細かなところまで丁寧にご教授頂いたのです。更には宮司さんから木々の手入れの仕方を、奥さんから家事全般の教えを。 「ウチにも巫女さんが居てくれると助かるわ」 「だな。バイトさんだけでは厳しい時もあるしな」 「精一杯励まさせて頂きます!」 深々と頭を下げ今後のお勤めの意気込みを示しましたよ。 「好きな事するのも肝心だ。でも偶には付き合えよ?」 苦笑のご主人を覚えています。 「勿論です。私は武装神姫でオーナーはご主人なんですから。本来のバトルも誠心誠意、粉骨砕身の決意です!」 「ああ。でもま、バトルも楽しみ優先で行こうな。「好きこそモノの」ってやつだ」 「はい!」 その後春音さん、綾季さんとのご対面をし夜には祝賀となったのでした。 「思えば中々に長い期間たったのですね。光陰矢の如しですね」 「だな。それから10日後だったな初陣は」 「はい。覚えていますよ」 私は少し苦笑します。 境内の掃除や手水舎の準備は最初は手間取ったものです。 そんな日常も少しずつ慣れ始めた頃、私は始めて神姫センターに赴いたのです。 日頃ご主人の帰宅後にトレーニングを積み重ねていた私は犬型の基本装備を何とか使える程度にはなっていたました。 「次の金曜日休みだから行ってみるか」 「はい」 その時はまだこの近辺のレベルも知らず初陣に心躍らせていましたっけ。 当日。 午前というのもあって比較的空いているいる時間帯にセンターを訪れていました。 「・・・スゴイですね」 「だなぁ」 バトルの様子を大きなスクリーンで見ていた私達はその迫力に圧倒されていました。思えばこの時点で気負っていたのかもしれません。踊っていた感情は形を潜め代わりに緊張が押し寄せてきていました。 「ま、初陣だし胸を借りるくらいで行けばいいさ」 「は、はい」 解そうとして下さるご主人の声は聞こえていても私の中は「勝たないと!」と思うばかりでした。 そして私は負けました。それはもう一方的な敗北、正に惨敗でしたよ・・・ 筺体を離れテーブルにて私は落ち込んでいました。 「気にし過ぎ。最初から巧くなんていかないものだ」 「ですが流石にアレでは・・・」 自身の情けなさに暗くなる一方でしたね。 その後も数回バトルをしましたが結果は明白、私は本当に「武装神姫」なのか?と思う程のものでしたよ。 翌日からはお勤めの合間を縫ってはトレーニングに励みました。 只々我武者羅に。でもそれは素人の考えでした。巫女とバトルの二束の草鞋な私は何度もバッテリー切れを起こしては皆さんにご迷惑をお掛けしました。その度に心配されていたにも拘らず無茶もしました。終いには折角頂いた巫女服を損傷するまでに至ります。 「・・・・申し訳ありません・・・」 「服はいいのよ。それよりもあまり無茶ばかりするもんじゃないわよ?」 「そうだぞ。一朝一夕で実力は高くなんてならんさ、少しずつでも続ける方が余程効率も良いし何より負担もすくない」 修繕して頂いた巫女服を着た私は益々落込んでいきました。どうしてこうなんだろう?なんて自分は不甲斐ないのだろう?と。 ある日有給休暇で家にいらっしゃったご主人に私はお願いしました。 「ダメだ」 「何故ですか!?」 「これ以上無理してみろ、それこそ壊れるぞ?」 「ですが・・・私は武装神姫です。バトルに重きを置いていると自負しています。なのにこんな実力では・・・」 トレーニングの増加を進言した私、何も判っていませんでした。 「確かにお前はバトルをメインで考えていた。でもな、その前に体壊したら本末転倒だろう」 「・・・」 言葉を返しはしませんでした。でも表情に表れていたようで。 「なら3日だ。3日だけ試させてやる」 「ありがとう御座います!」 困った表情のご主人が印象的でした。 それから3日間、私はお勤めを休みトレーニングに明け暮れました。 格闘技、投擲、射撃。全ての武装を片っ端から使い的を射るだけのものです。それでもほんの少しは武器の特性を覚えては行きましたがとても効率的とは言えないものでした。簡単に言ってしまえば無駄骨です。何か一つを極めんとしていれば結果は変わっていたかもしれませんがその時は只「覚えれば使える」と勘違いしていたのです。 約束の期日が過ぎいよいよバトルとなった土曜日。 「勝ってきます」 「・・ああ」 あれ程の修練をしたのだ、負けるわけがない!そう思っていましたよ。 でも現実は厳しかったですね。 たった一撃、しかも有効打とは言い難い攻撃が当たっただけでした。 終った・・・・ 私はリセットされるのだろうと覚悟しました。オーナーの意向に背きこの有様では言い訳もできません。 「ま、気にするな」 ご主人の言葉に気遣いを感じましたが私はもうダメでした。 テーブルの上へたり込み宙を傍観していましたっけ。 私は勝てないんだ。努力してもダメだった。もうバトルはしないでおこう。そんな事ばかりがAIを埋めていきました。 その時です。あの方にお会いしたのは。 「お前さん。一歩って小さいと思うかい?」 湖幸さんです。 それ以後は以前お話した通りです。 師匠の教えに今までを思い返し反省しましたね。そして皆さんに謝りました。穏やかに微笑まれる皆さんを鮮明に覚えています。 「あの時は本気で焦ったな。ここまで思い詰めるとは思わなかったし」 「お恥ずかしい限りです。今思い出すと・・・いえ、恥ずかしいので止めておきます」 カラカラと笑うご主人。私は赤面して俯きます。なんで恥ずかしい事とかって忘れないんでしょう? 過去の話に花を咲かせ、笑ったり、照れたり。何気ない会話を楽しみ続けました。 日が傾き始めた頃私達は神社へと戻ります。 夜はお祝いと豪勢なお食事を頂きました。何とも恵まれ過ぎな自分が申し訳ない気がします。 今年で二回目の私の誕生日、より絆を感じれるこの日、とてもとても幸せでした。 「でも忘れてたけどな」 「ぁぅ~」 現在装備 巫女服 ×1 仕込み竹箒 ×1 玉串ロッド ×1 御籤箱ランチャー(改) ×1 灯篭スラスター ×2 リアユニット賽銭箱 ×1 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1776.html
{イリーガル・レプリカ迎撃指令…シャドウ・アンジェラス編} 「諸君!諸君等の多大な勇気と努力によって、イリーガル・レプリカの数は着々と減っている!!これも諸君等のおかげである!!!」 オオオオォォォォーーーー!!!! 「…ケッ!調子のいい奴等だぜ」 俺は壁に背を預けながら煙草を吸う。 肩にはいつも通りにアンジェラス達がいる。 現在いる場所はアンダーグラウンドの神姫センターである。 アンダーグラウンドの神姫センターでイベントがあるという情報を入手して来て見たら、この有様だ。 少し前に、この街でイリーガル・レプリカの出現が多数目撃され死人もでたという事件。 その被害は拡大していく一方でアンダーグラウンドの住人は困りに困り果てたという。 そこでイリーガルの神姫にはアンダーグラウンドの神姫で対決という話になり、討伐隊をエントリーする事になった。 私的には『どうでもいい』と思っていたが、オヤッさんの商売とかに支障がでたり、その他にも色々と理由があったので仕方なく参加した訳だ。 そしてこのイリーガル・レプリカを多く撃墜した者には賞金が出るという。 金の話が出ると、いきり立った馬鹿どもが我先にとエントリーする光景には正直馬鹿馬鹿しいと思った。 でもエントリーした俺も少しその馬鹿どもの気持が解る。 誰だって金は欲しい。 特にこの街は金の流通が激しいからな。 金の亡者になる奴は多い。 と、前の話はここまでぐらいだったよな。 そろそろ今の…現在の状況に戻ろうか。 イベントの話までしたっけ? まぁ簡単で簡潔に言うと神姫センターを貸しきってパーティーを行っている。 イリーガル・レプリカの神姫をブッ壊しまくって、この街ではすっかり数が減ってしまった。 俺等にとっては良い事なので調子こいてる奴が多い。 そこで浮かれている他のアンダーグラウンドの住人のオーナー達がこんな馬鹿げた宴をしてる訳だ。 ほんでもって主催者はこの前、電光掲示板で演説をした男の声の野郎だった。 外見から見て50歳前後かな。 大方、この神姫センターの店長だろうよ。 て、それは貸しきると言えるのか? 結果的にどうでもいい。 まぁ~そんな訳だ。 まったくもってどうでもいいイベントに参加しちまったもんだぜ。 「よ~閃鎖。浮かない顔してどうした?」 ワイングラスを片手に持って来て俺に声を掛ける男。 視線を会場からずらして見ると。 「オヤッさんか。別に、くだらないイベントに参加しちまったな、と後悔してるだけだ」 「ハハハッ!お前らしい感想だな!!」 オヤッさんはワイングラスをグビッと一気飲みして、ワイングラスをバイトをしてるボーイに渡す。 「にしても閃鎖達のおかげで俺の店も大繁盛したよ。武器を買いにくるお客さんが激増したもんだ。イリーガルの神姫に感謝だな!」 「酔ってんのか?でもまぁ、商人としては嬉しいだろうよ」 そーいえばここのところアンダーグラウンドの武装神姫関係の違法改造武器屋が24時間体制で店を開けていたのは商売繁盛のためか。 なるほどな、納得いくスジだ。 「つか、なんでここにオヤッさんがいるんだよ」 「あぁ~、そういえば閃鎖に教えてなかったけ?俺、昔は武装神姫のアンダーグラウンドのオーナーだったんだよ」 「ハッ!?オヤッさんがオーナーだと!?!?初耳だ」 「だから今初めて教えたんだ」 …マジかよ。 オヤッさんが武装神姫のオーナーだったとは…俺の神姫達も吃驚してるし。 でも今はオーナーを辞めたみたいな口ぶりだったな、昔と言ったもんな。 「ほら。閃鎖に挨拶しない」 「「は~い」」 んぅ? 声はするけど姿が見えない。 いったい何処にいるんだ。 「メイルで~す♪」 「テイルで~す♪」 声がしたん瞬間、オヤッさんと俺の間に出現した二体の神姫、サンタ型ツガルだった。 しかも片方はリペイントバージョンだ。 どうやら姿が見えなかったのは光学迷彩を装備してるからだと思う。 赤と青のカラーリングが少しカッコイイと思った。 で~さぁ。 「どっちがメイルで、どっちがテイル?」 「メイルで~す♪」 「テイルで~す♪」 「だ~もぉ!一緒に言うな!!」 あ~もう、いらいらイライラ苛々する! ただでさぇ下らないイベントに参加して、苛々してるのに更に俺をイラつかせる。 「ハハハッ!閃鎖の奴、早速遊ばれているな。ハハハッ!!」 「笑うな!こうなればオヤッさんに直接訊いた方が早い。で、どっちがメイルでどっちがテイルだ?」 「今は赤がメイルで青がテイルだ」 「へぇ~…ちょっと待て。『今は』つったか?」 「そう言ったが?たまに武装交換し合ってチョッカイだしてくるんだよ。まったく困った子達だ。ハハハッ!」 「…笑い事じゃないような気がする。それと、やっぱ酔ってるだろ」 にしてもこのサンタ型ツガルには神姫侵食に犯されていないみたいだ。 オヤッさんの商売上、違法改造武器を使ってとっくのとうに武装神姫を神姫侵食付けにするかも、て思ったけど…。 どうやら違うみたいだな。 「確かに俺は商売上違法改造武器を販売してるけど、俺の可愛い神姫達に使わせる訳ないじゃん」 「「そうそう、アタシ達はニー様に大事にされてきたんだから♪」」 「…頼むから一緒に言うな」 でもまぁ何にせよ、俺はオヤッさんの過去を知らないからどうこう言える立場じゃないし、別にどうでもいい事だ。 「今度、俺の過去の話をしてやるよ。閃鎖だけに教えてやる」 「そいつはど~も」 短くなった煙草を吸殻入れに入れ、そしてまた新しく箱から煙草を取り出しジッポで火を付け吸う。 苛々してるから煙草を吸う数が多い。 今日はもう八本も吸ってる。 俺は本来一日二、三本ぐらいしか吸わない。 だけど、苛々してる時とか仕事してる時に煙草の数が多くなる。 主に煙草は気分転換なものだ。 「もう帰りたいか?俺は五月蝿い宴に飽きたし苛々が治まらん。ブッチャケ帰りたい」 「ご主人様に任せます」 「ボクは帰りたいよ~」 「流石にこの場は常識がなってませんわ」 「うぅ~、少し回りが五月蝿いですぅ」 ふむ、どうやら三人は帰りたいみたいだな。 アンジェラスはいつも通りに俺の意見に賛同するような形。 もうちょっと自分の意見を言ってもいいのに。 …煙草の時はムカつく程意見を通そうとするくせによぉ。 「そんじゃオヤッさん。俺はこれで帰らせてもらう」 「おいおい、もうちょっといようぜ。どうせここにある食い物は全部タダなんだからよ」 「ここに居ること事態イヤなんだ。だから帰らせて―――」 ドカーン! 突如の爆発。 俺はバランスを崩し右足の膝を地面つかせ、両手で地面を掴みバランスを保つ。 そして何処で爆発したのか周りを見渡す。 すると天井にドデカイ穴が開いていて、その穴から続々と武装神姫達が入ってくる。 まさか…あれは全部イリーガル・レプリカなのか!? 「うわー!?」 「た、助けてくれぇ~!」 「応戦しろ!それと退路を確保するんだ!」 神姫センターの場を借りて宴の会場と化していた場所が、一気に悲鳴と銃声と剣がぶつかり合う金属音が鳴り響く、この状況を言うならば戦争状態。 どうしてこんな事になっちまったんだ! それとどうしてイリーガル・レプリカ達は今日のイベントで討伐隊の俺等が集まると知っていたんだ! 「閃鎖!大丈夫か!?」 オヤッさんの声がした。 けど天井の壁が崩れてオヤッさんの姿が見えない。 「オヤッさんか!?こっちは大丈夫だ!」 「よかった…スマナイがこっちまで来てくれないか。頑張ってイリーガルの神姫を追い払っているんだが数が多すぎる!」 「解った!今すぐそっちに行く!!」 俺は立ち上がり、自分の神姫達を確認する。 …よし! 全員ちゃんと居る。 「ご主人様!これはいったい!?」 「解らん。だが、壱つ言える事は『奴等は俺等襲っている』という事だ」 「どうして今頃になって…数も減っていたはず」 真剣な顔つきで考え込むアンジェラス。 今はそんな事どうでもいい。 あの天井の瓦礫で塞がるような壁の向こうでオヤッさんが闘っているんだ! 早く助けないと! 「そこら辺の情報は後回し。クリナーレ!パルカ!!あの瓦礫の壁をブチ壊せ!!!」 「ネメシス、来い!」 「ライフフォース、召喚!」 フル装備状態で自分専用の武器を召喚するクリナーレとパルカ。 行動が早くて助かる。 今までに比べて随分とレベルが上がったもんだ。 「光闇矢翼、展開!」 <ヴェーニア> ジャララララ!!!! 「穿ツ!」 <フォデレ> シュババババ!!!! 銀の矢が瓦礫の壁に長方形の線を形とるように突き刺ささていき、一本一本が突き刺さる度に瓦礫の壁にヒビが入っていく。 そして全体的に長方形の形が出来ると。 「ウォオリャーーーー!!!!」 <ソニックストライク!> バゴン! クリナーレが長方形の中央部分をネメシスでブッ叩いた。 すると衝撃でヒビが入っていた瓦礫の壁がガラガラ、と音を出しながら完全に崩れ落ちていくではないか。 しかもパルカが撃った長方形の部分だけしか崩れてない。 大きさ的に俺が通れるぐらいの長方形の穴だ。 「アニキ!これで通れるぜ!!」 「早くメイルさんとテイルさんを助けましょう!」 「サンキュー!」 俺はすぐさま穴の中に入り辺りを見回すとそこは悲惨な状態だった。 沢山のイリーガル・レプリカ残骸と人間の死体。 瓦礫と燃え上がる火。 血と硝煙の臭いが鼻につく。 さっきまで馬鹿騒ぎしていた宴が一気に地獄と化していた。 「ダーリン、危ない!」 「ッ!?」 ズバッ! ルーナが後方で叫ぶと同時に何か斬ったような音が聞こえた。 すぐに振り向くと、ルーナが俺を襲ってきたイリーガルの騎士型の身体に沙羅曼蛇を突き刺さしていたのだ。 「永遠の眠りにつきなさい!」 ルーナはそのまま沙羅曼蛇を縦に斬り上げると、騎士型の身体が真っ二つに切り裂かれた。 たった一振りの剣でそこまで強くなっていたとは…いや、元々ルーナはかなり強い。 あのぐらいの事は雑作ないかもしれない。 「行くよグラディウス!ツインレーザー!!」 <TWIN LASER> バババババシューーーー!!!! 違う方向ではアンジェラスが先行しながら攻撃していく。 しかもオプションを四つも召喚しながら撃っていやがる。 オプション一つ制御するのにも大変なのに。 そしてアンジェラスのバックアップをするために後方でクリナーレが頑張っている。 「ダーリン!気をつけないと駄目ですわ!!ここはもう敵が沢山いる戦場ですのよ!!!」 「す、すまねぇ」 「お兄ちゃん。今、アンジェラス姉さんと姉さんが先攻しながらメイルさん達の居る方向に向かってるの!」 「マジで?でもなぜ解る??」 「さっきルーナ姉さんがお兄ちゃんを守ってる時に、アンジェラス姉さんがホーンスナイパーライフルの銃声が聞こえたらしいの、だから早く行こう!」 「待て!敵の銃声かもしれないじゃないか!!信用できるのか?」 「今この状況で信用も何も無いよお兄ちゃん!今出来る事をやろう!!」 「!? そうだな、俺とした事がパニックてたかもな。行くぞ!」 俺はすぐさま走り、アンジェラスとクリナーレ達がいる場所へ向かう。 ルーナとパルカは俺の後方で敵が襲ってくるか確認しながら飛んでくる。 わざわざ確認してくれのは嬉しい、なんせ俺の身を守るために警戒してくれてるのだから。 さて、アンジェラスが聞こえた銃声は信用できるのか? 走り続けて角を右に曲がるとそこに居たのは、右腕を左手で押さえながら壁に背もたれて座っているオヤッさんが居た! アンジェラスの勘は当たったみたいだ。 流石というべきか、アンジェラスらしいというか…。 「オヤッさん!大丈夫か?」 「スマナイなぁ…閃鎖。ドジって敵の攻撃をクらってこのざまだ」 苦い顔しながら言うオヤッさん。 オヤッさんに近づき傷を確認する。 …右腕を負傷していやがる。 しかも結構血が出る量がはんぱない、かなり傷は深いようだ。 このままだと出血大量で死んじまう! 俺はドクドクと出てくる血を止血するために自分の上着の左腕部分を引きちぎり、引きちぎった服をタオルのように伸ばしオヤッさん傷口を塞ぐ。 「イテッ!もうちょっと優しくできないのか?」 「強く縛らないと止血できないだろうが!」 「…すまない、迷惑をかけちまった。今度その服を弁償させてくれ」 「謝るのなら今この場から脱出してからだ!」 俺は立ち上がり今この場の現状を確認する。 オヤッさんの神姫達と俺の神姫達がお互いカバーしながらイリーガルの神姫達と交戦していた。 けどイリーガルの神姫の数が多い! このままじゃジリ貧だ。 いくらんなでも敵の多すぎるぞ! 何十、いや何百体この神姫センターに襲撃してきたんていうだよ! 「出口は!?出口はないのか!」 キョロキョロと辺り見回す。 すると。 「あ、あんな所に!」 ここから役10メートル先に壁に大きく穴が開いた場所を発見した。 でもそこに行くためには、あの大量のイリーガルの神姫達に突っ込まなければいけない。 もしそんな事をすれば、いくら俺等の六人の神姫達が頑張ったとしても敵の猛攻撃で蜂の巣されるのがオチだ…。 それに今俺が通ってきた道もイリーガルの神姫達が大量に来た。 畜生、八方塞がりというのはこの事か! 「死ねー!」 「ッ!?」 突如、俺に突進してきたイリーガルの悪魔型ストラーフ。 アングルブレードを振りかざし俺に攻撃してきた! ザシュ! ブシャー! 「な、なに!?」 条件反射で俺は左腕で敵からの攻撃を防御した。 切り裂かれた腕から赤い血が噴水のように出る。 「このっ!人形風情が!!」 俺は右手でストラーフを下半身を掴み、そして上半身を左手で掴む。 そして。 ボギャ! バキバキ! 「ギャアアアアァァァァ!!!!」 背骨が折れるように真っ二つに折り曲げてやった。 けど左手も使った事により更に血が出てしまった。 すぐさま左腕に突き刺さったままのアングルブレードを引き抜くと更に血が出てくる。 「ちとマズイなぁ。この状況は」 ビリビリ 口で上着の右腕部分を引きちぎり、右手を上手く使って負傷した左腕を止血する。 この悪魔型ストラーフが攻撃することが出来たという事は、俺とオヤッさんの神姫達は相当疲れてきてやがる。 敵を倒しきれないのだ。 それもそのはず。 こんなにも大量なイリーガルの神姫達を相手にしてるのだから。 …一か八か! 「俺も参戦させてもらうぞ!」 「ご主人様!?駄目です!ご主人様は下がっていてください!!」 「そうも言ってらんねーだろうが!大丈夫、元不良の俺だ。人間の喧嘩がどのようなモノかこいつ等に教えてやる!!」 「でも!」 「アンジェラス、俺を信じろ!」 「!…解りました!でも無理はしないでくださいよ!!」 「お前もなー!」 オヤッさんを守るように陣形を作りイリーガルの神姫達と闘う。 俺が参戦した事によって少しは楽になればいいのだが…。 「サイクロンレーザー!」 <CYCLONE LASER> ビーーーー!!!! 「くたばれーーーー!!!!」 <グラビティーフォトンブレイク!> ズガーン!!!! 「遅いわ!」 <神機妙算> ズバズバ!!!! 「蒔く!」 <セミナーレ> ザシュザシュ!!!! 「ニー様は絶対死なせない!ホーリィナイト・ミサ!!」 バンバンバンバン!!!! 「そうよ!いつまでも一緒なんだから!!ハイパーエレクトロマグネティックランチャー!!!」 バキューンバキューン!!!! 六人の神姫達はそれぞれ攻撃し、敵をこっちまで来させないようにする。 けど、強攻突破してくる敵の数が多いため撃ち落としても斬り裂き落としても、いまいち効果が得られない。 後何体いるてんだよ! 「破ー!」 バキ! 拳で殴り落としたり足で蹴り落とすが、神姫自体が身体が小さいため、なかなかヒットさせるのが困難。 それに左腕を使い過ぎると傷口が広がってしまうため、激しい動きが出来ない。 「…おっと」 ヤベッ!? 今クラッてきやがった…血が出すぎたか? 視界も少し霞んできたし、そろそろ限界か? 「アッ!」 フと、アンジェラスの姿が視界に入った。 アンジェラスの奴は次の攻撃をするために攻撃準備していたが、敵はその隙を狙って十数体のイリーガルの神姫が剣系の武器で攻撃しようしていた。 クッ、あの状態じゃアンジェラスは反撃できない。 どうすれば!? …ハハッ方法ならあるじゃねーか。 「間に合えー!」 俺は力を振り絞り全力疾走する。 「ご主人様!?」 「ウオォォォォ!!!!」 なんとかアンジェラスの場所まで間に合う事が出来た。 そしてすかさず俺は両手でアンジェラスを抱え込むかのようにして守る。 そして。 ドグシュ! ザシュ! ブシャ! バシュ! ズシャッ! 「グハッ!」 俺の背中に何本もの剣が突き刺さる。 「アニキ!」 「ダーリン!」 「お兄ちゃん!」 激痛が走りジワジワと血が吹き出てのが解る。 …ヤバッ。 肺や心臓にも剣が達したかもしれない…。 足に力が入ら…な…い。 ドシャ 俺はそのまま剣が刺さったまま仰向けで倒れる。 そして最後の力を使って両手の中にいるアンジェラスが傷つかないようにカバーする。 …ハハハッ…俺の最後はこんな形で終るのかよ…。 意外とあっけないものだな。 でも悔いが無いように感じるのは何故だろうか? …あっそーか。 あいつ等と…アンジェラス達一緒に楽しく過ごせたからだ。 なんとなくそう思う。 俺の生き様も案外、良い終わりかたかもな。 「ご、ご主人様!?その傷は!?!?」 お、やっと俺の手から出れたか。 しかも俺の背中に突き刺さってる剣を見て絶句してるようだ。 おいおい、そんな顔するなよ。 最後ぐらいお前の笑った顔が見たいぜ…、と言ってもこんな状況じゃあ無理な注文か。 「ご主人様!ご主人様!!」 「…よう…大丈…夫か?」 俺の手から出てきて、グラディウスを放り投げ走ってくるアンジェラス。 そして俺の顔を両手で触る。 あぁー、なんとも…暖かく柔らかい手なんだ。 「私は大丈夫です!それよりご主人様が…!」 「俺か?多分…俺はここで…ゲームオーバー…みたいだ」 「!? そんな事言わないでください!!まだ間に合います!!!」 「何が…間に合う…て、言うんだ?」 「必ず救助が来ます!それまで頑張って生きてください!!」 「…ハハッ…そいつは無理な注文だな」 「そんな!?」 お前だって本当は解ってるんだろ? 俺の身体から大量の血が出血し、更に背中に突き刺さってる剣が急所に入ってる可能性があるんだ。 それに救助だってここはアンダーグラウンドの街。 そんなものが来る訳がない。 来たとしても相当時間が掛かるはず。 「お願いです!生きて!!生きてください、ご主人様!!!」 「………泣くなよ。折角の可愛い顔が…台無しだぜ」 「イヤ!死なないで!!」 ボロボロと涙を流すアンジェラス。 もう視界が霞みまくっていて、まともにアンジェラスの顔を見る事もできない。 あぁ…瞼が重くなってきた。 それに身体も冷たくなってきて…なんだか…眠いや。 あ、そうだ…永遠に眠る前に…言いたかったこと…言っとかないとな。 「最後は…お前の笑顔を…見たかった…かな…」 「ご主人様!」 「じゃあな…俺の…愛しいアンジェラス…」 そして俺の視界は真っ暗闇に包まれまた。 アンジェラスの視点 「最後は…お前の笑顔を…見たかった…かな…」 「ご主人様!」 「じゃあな…俺の…愛しいアンジェラス…」 ご主人様は目を閉じ息をしなくなった。 嘘ですよね? ワザと死んだフリをしてるんですよね? 息だって我慢して止めてるんですよね? 今はフザケてる場合じゃないんですよ、ご主人様。 ネェ、何か言ってくださいよ。 「………」 何か言ってくださいよ! ユサユサとご主人様の顔を揺さぶる。 でもご主人様は何も言ってくれない。 ご主人様の冷たい頬が私の両手から感じる。 「ご主人様…ネェ…起きてよ、ご主人様」 「………」 ユサユサ 「起きてください!ご主人様!!怒りますよ!!!」 「………」 いくら揺さぶり怒鳴っても、ご主人様は動かない。 さっきまで息が当たってた私の足にも、もう息が止まったかのように何も感じない。 「ご主人様!」 「………」 「ご主…人…さ…ま……」 私の所為…。 私の所為で…ご主人様は…。 死んで…。 死ぬ? 死? 「アタシと代わりなさい」 あの声が聞こえてきた。 「貴女の所為よ。身体を渡しなさい!」 私はよろめき、ご主人様の顔から両手を離す。 そしてご主人様の身体全体を見ると、そこらじゅうに斬り傷があった。 この傷は参戦して私を守ってくれたもの…そして背中には痛々しく数十本の剣が突き刺さっている。 「あ、あ…ああっ…ぁ…」 そして私の頭の中で怒鳴り声が聞こえた。 「アタシと…代わりなさい!」 「イヤアアアアァァァァーーーー!!!!」 私は頭を両手で抱え込み地面に両膝をつき泣き叫ぶ。 そして私はご主人様の『死』に耐え切れなく、『アタシ』に身体を渡した。 シャドウ・アンジェラスの視点 アタシは私が身体を素直に渡した事によりすぐに覚醒できた。 そしてアタシの一番最初に見たのは無惨にボロボロになった愛しいマスターの姿。 怒りと憎しみの感情が入り混じり、アタシの中に眠っいた力が今にも爆発しそうだった。 そう、『怒り』と『憎しみ』がキーとなって力が解放できたのだ! そしてこの力を。 「アアアアァァァァーーーー!!!!」 アタシは全ての装備品を解除し空中へと飛び、マスターをこんなメに合わした奴等を睨みつける。 こいつ等か…全殺し決定! 「貴女達…生きては帰れると思うなよ!破ッ!!」 右腕を横にスライドさせるようにおもいっきり振るう。 すると物凄いスピードで衝撃波ができ、イリーガルの神姫達に襲いかかる。 ズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバ!!!!!!!!!! ドカーン!!!! その衝撃波にクらった者は次々に爆破していく。 いい気味だよ。 今ので百体ぐらいは壊せたかな? でもこれではまだまだ生ぬるいわ。 もっともっと壊さないとアタシの感情は治まらない。 だってアタシの愛しいマスターを殺そうとしたのだから。 「皆殺しにしてあげる♪さぁ次に壊されたい人形はどれから?」 「ウリャー!」 一体のイリーガルの神姫がアタシに刃向かってきた。 イルカ型のヴァッフェドルフィン。 フィンブレードでアタシの身体を斬りつけようとしたけど、そんなの無駄♪ バシッ! 「そんな!?」 「はい、ご苦労様♪」 素手でフィンブレードを受け止め、相手に笑みを見せる。 勿論のその笑みの奥には『怒り』と『憎しみ』が籠められている。 「ウザイから消えてちょうだい♪」 グシャバキ! 左手で相手の首を掴みそのまま握り潰す。 なんとも脆い人形達だね。 でも数だけはいっぱい居るのよね~、まるで烏合の衆だわ。 でも所詮は雑魚がいくら集まった所で雑魚は雑魚。 さぁ、どー破壊してやろうかな。 爆死・圧死・慙死・焼死・水死・感電死? うん♪ どれもアリかも。 だって…アタシの愛しいマスターをこんなメにあわせたのだから! 「死ね!死じゃえ!!みんな死ねばいい!!!破ァアアアアーーーー!!!!」 叫びながら両手を交互に振るい衝撃波作りだしイリーガルの神姫達を皆殺しにしていく。 敵の悲痛な叫び声と身体が切断される音と爆発音が左右の耳から入りアタシの快感をさらにヒートアップさせる。 楽しい、こんなにも相手を壊す事が楽しいとは思わなかった♪ …でもその裏腹にマスターをヤッた『怒り』と『憎しみ』がまだ治まっていない。 だからもっと死んで♪ アタシのために死んで♪ もっと………もっと……もっと…もっと、もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと♪ 「アハハハッ!楽しい♪楽しいよーマスター♪♪破壊の快楽がこんなに楽しい事だなんて、なんで気づかなかったのだろう♪♪♪」 「お姉様!もう止めて!!」 「んぅ?」 誰? アタシの楽しいひと時を邪魔する奴は? 「お姉様、もう十分にイリーガル神姫は撃滅したわ!だからもう…」 「…ツヴァイ、久しぶりね。会うのは九年前の殺し合い以来かな」 「やっぱり…アインお姉様なのね」 へぇ~、よくアタシの事を覚えてるね。 あの暴走事故以来アタシは眠らされていた時…アタシはあの会社のデータをバンクに侵入し、こんなデータがあった。 ツヴァイはアインとの戦闘で内部回路をズタズタされ一部の記憶デバイスを犠牲にして修復したと、そう書かれていた。 もしそれが本当ならアタシの事や九年前の事を知らないはず。 でもツヴァイは覚えていた。 「よく覚えてるよね♪記憶デバイスを犠牲にしてまで内部回路を修復したんじゃないの?」 「…ダーリンがアタシのために作ってくれた究極生命態システマイザーのおかげよ」 「究極生命態?」 「そうよ。損傷した部分を治してくれるナノマシンに近い存在。まさか犠牲までした記憶デバイスまで治してくれとは思っていなかったわ」 「ヘェ~そんなんだ。良かったジャン♪マスターにはその事言ったの?」 「いいえ。言う気にならないわ。まさか、アインお姉様と殺し合いしていた…そんなこと言える訳がない!」 「フゥ~ン。にしても変わったよね、ツヴァイ。あの時の殺し合い時なんか無表情の殺戮マシーンだったよ♪」 「あたしは記憶を無くした事によって『感情』というものが生まれ。そしてダーリンと出会い変わったわ」 「流石、アタシの愛しいマスター。元殺戮マシーンだった神姫を簡単に手懐けるとは」 「どうとでも言いなさい。今のあたしはツヴァイじゃないわ!ルーナよ!!」 M4ライトセイバーを二本取り出しアタシに向けるツヴァイ。 何、もしかしてこのアタシとヤル気? 九年前に内部回路をズタズタにしてやったのにまだ懲りないわけ? 「アインお姉様…いいえ、アイン!早くアンジェラスお姉様を解放しなさい!!」 「アンジェラスお姉様?あぁもう一人のアタシの事を言ってるわけね。無理だよ、もう一人のアタシは自分のマスターが死んだと思い込んで、自分の心の殻に閉じ篭ってしまったよ♪おかげでこの身体を動かすのも楽になったし、これで完全にアタシのモノ♪♪」 「違う!その身体はアインのモノじゃない!!お姉様のモノよ!!!」 「あのねツヴァイ。一応アタシもアンタの姉にあたるのよ。言葉に気をつけなさい。それにあの殺し合いの時にアタシの髪の毛を切ってくれた恨み、まだ忘れていないのよ」 「五月蝿い!お姉様を返せ!!」 あぁ~ウザイ妹だ。 今度は内部回路だけじゃなく全部ズタズタに引き裂いちゃおうかな? あの時の殺し合いは一応妹だから手加減してあげたけどぉ。 今はそんな気分になれないし、楽しい快楽を邪魔されて癪にさわってるから…うん、壊しちゃおう♪ 「そこまでよ、貴女達!」 「…チッ!」 「あ、あなたは!アウッ!?」 ツヴァイは細い線のようなものが身体に巻きつけられ地面に落ちる。 あの線は神姫を強制てきに捕縛し停止させる、とてつもなく強力な電線。 そしてこの聞き慣れた女性の声に苛立ち感じながら振り向くと。 「朱美…アンタのような人間が何故こんな所にいるのよ」 「№アインの覚醒がこちらで確認が取れてからに決まってるじゃない。そしたらこんあ場所でしかも戦場と化してる惨状になってるとは思わなかったわ」 ツヴァイを捕縛するための銃を持ちながら立っていた。 ゾロゾロと消防隊やら研究員や武装した機動隊がこの神姫センターに入ってくる。 少しタイミング的に都合が良すぎる気がしないでもない。 どうせ朱美の事、事前にこのアンダーグラウンドで何人かの人間を配置していたに違いない。 「相変わらずの殺戮兵器ね、№アイン」 「気安くアタシを呼ぶな、人間。それよりもお願いがあるのよ」 「あら?貴女からの『お願い』だなんって珍しいわね」 「マスターを助けってあげて。もうすでに死にかけているけど、まだ間に合うはず」 「何かと思うえば、そんな事。当たり前じゃない、アタシの可愛い弟を死なせるわけにはいかないわ。それにもうすでに病院に運びにいったから。ついでにあの中年の男もね。サンタ型の二体が張り付いてたけど」 「そう…その言葉を聞いて少し安心したよ♪」 さて、マスターは病院に運びだされたけど…次にアタシ達はどうされるのかしら。 このまま逃げてもいいけど、少しイリーガルに力を使い過ぎて疲れてしまった。 …やっぱりこの身体じゃあまだアタシの器に狭すぎる。 それにアタシはまだ不完全体。 どうしようかなぁ♪ 「ツヴァイ達は?」 「もう既に捕らえたわ。必死に起こそうタッちゃんにくっ付いてるドライとフィーアはタッちゃんから引き剥がし捕まえた…ツヴァイの事は言わなくてもいいでしょ?」 「目の前で捕まえられていたからね。そして今度はアタシを捕まえるの?」 「そうよ、無駄な抵抗はしない方が自分の身のためよ。どうする?」 朱美の前に数十人の機動隊が来て、アタシに向かってマシンガンを向ける。 あのぐらいのマシンガンはどうってことないけど…。 今この場で抵抗しても意味がないのよね~。 ならワザと捕まえられて、アタシのもう一つの身体を捜すのもいいかもしれない。 うん、それでいこう♪ 「さぁ返答は?」 「潔く捕まってあげる♪感謝しなさい、人間共♪♪」 「生意気な殺戮人形ね。捕まえなさい!」 朱美の言葉で機動隊達がアタシを捕らえる。 久しぶりにあの会社に行くね♪ そしてマスター…待っててね。 すぐに向かいに行くから♪ 愛しのマイマスター♪
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2114.html
ウサギのナミダ ACT 0-5 ■ 神姫も、夢を見る。 スリープモードで、クレイドルで充電とデータのバックアップを行っているとき。 それは神姫にとって「睡眠」にあたる。 マスターによれば、睡眠中に脳が蓄積された情報を整理し、その時に漏れでた情報を認識すると、夢になる、のだそうだ。 だから、データのバックアップ中に、わたしたちが認識するものも、やはり夢なのだ。 わたしは、夢を見る。 いつも同じ夢、恐い夢。 わたしの前には男の人。 顔は影になっていてよくわからないけれど、目だけが異様な輝きを放って、笑っている。 彼は、わたしに手を伸ばす。 わたしは身をすくめる。これから、自分の身に起こる出来事を予想しながらも、あらがうことはできない。 「や……っ」 男の人がわたしを掴み、顔の高さまで持ち上げる。 大きな顔が、わたしの視界いっぱいに広がる。 わたしは、恐くて、身体を震わせる。 でも、ここは彼の手のひらの上だ。 逃げ場なんてない。 彼は、わたしを両手でつまみ上げながら、さらに顔を近づけてきた。 息がかかる。臭い。 顔の下の方にかかった影が、横に一筋裂けた。 裂け目が広がると、ぬらり、とした軟体動物のようなものが出てくる。 舌だった。 「あっ……や、あ……っ」 男の人の舌は、わたしの身体をなぞる。 脚の先から、ふともも、ヒップからウェストのライン。 股間と胸は、特に念入りに舐められる。 太い舌先は巧みに動き、わたしの弱い部分を的確に責め立てる。 いやなのに。いやなのに。 いやらしい舌の動きを、わたしの身体は性的快感と認識する。 いやだという気持ちと、なぶられる快感が、相乗してさらに気持ちを高めていく。 「あ、あ、はあぁ……あぁ……」 頭がぼうっとする。 何も考えられなくなってくる。 わたしの身体は男の人の唾液にまみれ、いやな臭いを放っている。 その臭いすらも快感を助長する芳香に変わる。 わたしは快感に身を委ね、なすがままにされていた。 ふわふわとたゆたうような感覚に、わたしはどっぷりと浸っている。 と、突然。 ぼきり、という鈍い音。 「ーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」 ふわふわとした感覚は、爆発した激痛に吹き飛ばされる。 声が出ない。声にならない悲鳴。 さらにまた。 わたしの身体から鈍い音が響く。 わたしは身を焼くような激痛の出所を、左腕と右脚であることを、かろうじて突き止める。 だからといって、何もできない。 わたしはただ、大きく目を見開いて、堪えきれない痛みにぱくぱくとあえぎながら、涙を流すだけだ。 さらに、残りの四肢も折られた。 わたしは身動きもとれず、ただ激痛に悲鳴を上げる。 目の前の人を見る。 その男の人の顔は、相変わらず影になっていたが、その二つの目と裂け目のような口だけがはっきりと見える。 笑っている。喜んでいる。 わたしがのたうち回る姿を見て、嬉しがっている。 彼の方から、何かが飛んできた。 べちゃり、と粘液のようなものがわたしに降りかかる。 白く、べたべたの粘液は、何かすえた臭いがする。 いやだと思っても、いまのわたしには、この粘液を払うことさえできない。 男の人の光る両目が、さらにゆがんだ。 わたしを掴み上げると、わたしの背に指を当てたまま、親指でわたしの胸を押す。 わたしは恐怖した。 身体を折る気だ。 「や、めて……ください……やめて……」 やめて。死んじゃう。 わたしがどんなに懇願しても、そんな様子すら楽しんでいる。 わたしの背が限界を超えて曲がっていく。 折れてしまう。 死んでしまう。 たすけて、だれか、たすけて……だれか……。 ごきん。 「あああぁぁっ!!」 わたしは悲鳴を上げて、飛び起きた。 暗い。 あたりは静かだった。 時計の音が妙に大きく聞こえる。 それからわたしの荒い息。 「はあ、はあ、はあ……」 わたしは自分の身体を確認する。 どこも、折れてなどいない。 感じていたはずの激痛も今はない。 手は、白い布……お布団代わりの、マスターのハンカチを握りしめている。 「夢……」 わたしはやっと安堵して、深く息をついた。 怖い夢。どうしても見てしまう、かつての現実。 まだあの店を出て何日も経っていない。 過去の記録……思い出にしてしまうには、あまりにも最近の出来事すぎる。 白い布を握りしめる手元に、黒い染みが広がった。 瞳から涙がこぼれ落ちる。 夢は過ぎ去ったというのに、怖くてたまらない。 怖くて、怖くて、それでもわたしには為す術がなくて。 ただ一人、すすり泣くことしかできない。 突然。 あたりが明るくなった。 真っ暗だった部屋の明かりが灯ったのだ。 スイッチのところに立っている人影は、マスター。 マスターは、寝間着姿で、髪は乱れ、目は半眼のまま、こちらを向いている。 とてつもなく不機嫌そうな表情。 起こしてしまった。 わたしが、悪夢に悲鳴を上げたせいで、マスターのお休みを邪魔してしまったのだ! わたしは、マスターに睨まれて、目を見開いたまま硬直してしまった。 まるで蛇に睨まれた蛙だ。 わたしは身動きをすることもできず、絶望的な気持ちでマスターを見つめる。 これから、どんなひどい仕打ちが待っているだろう。 マスターは大股に歩いて近寄ってきた。 思わず、身を縮めてしまう。 ……ところが、マスターはPCに近寄ると、立ち上がっていたアプリケーションを次々に閉じて、PC本体も電源を落とした。 縮こまっているわたしを、もう一度見る。 非常に不機嫌そうな表情は変わらない。 わたしはクレイドルの上でさらに縮こまる。 すると、マスターはクレイドルごと、ベッドのサイドボードに持ってきた。 ケーブルをPCからコンセント供給用アダプタにつなぎ直す。 クレイドルの充電ランプが灯った。 データのバックアップはできないが、充電はできる。 わたしが何もできずに硬直していると、マスターはさっさとベッドにあがり、布団をかぶった。 首だけがこちらを向いて、また睨まれる。 「明日、延長ケーブルを買ってくる。寝る」 マスターはそれだけ言うと、枕に頭を沈ませ、そしていくらもしないうちに規則正しい寝息を立てはじめた。 わたしはあっけに取られていた。 これはどういうことなんだろう。 わたしは、つまり……マスターのそばで眠ることを許された、ということなんだろうか。 なぜ? お休みのマスターを邪魔したのに? あんなに不機嫌そうな顔をしていたのに? ……期待なんて、してはだめだ。 わたしは本来、この人の武装神姫になんてなる資格がないのだ、初めから。 でも、ベッドのサイドボードから見下ろすマスターの顔は、見たこともない安らかな表情で。 いつも冷静沈着、無表情で少し冷たい印象の男性ではなく、無邪気な少年のように見えた。 そんなマスターの顔を見つめていると、不思議と穏やかな気持ちになっていく。 おかげで、さっきまでの怖かった気持ちは、だいぶ薄らいでいた。 わたしはクレイドルの上で丸くなると、布団代わりのハンカチを引き寄せた。 □ 朝、目が覚めると、PCの電源が落ちていた。 クレイドルも、その上にいたはずの俺の神姫もない。 焦って、辺りを見回すと、俺の枕元にクレイドルは移動しており、その上でティアは眠っていた。 ほっとする。一瞬焦ってしまった。 そういえば、夜中にティアの叫び声を聞いて、一度起きたのだったか。 何が原因かはよくわからなかったが、ともかく心配だったので、枕元に持ってきた……のだと思う。 半分寝ぼけていたらしく、記憶は曖昧だ。 でも、なにやら心配だったのは、やはりまた、ティアが泣いていたからだ。 いま俺にティアの涙を止めてやることができなくても、せめてそばにいてやることぐらいはできる、と思う。 ……ただの自己満足だったとしても。 クレイドルの上で丸くなって眠るティアを覗くと、安らかな寝顔が愛らしかった。 小さく安堵のため息をつく。 まもなくして、ティアの瞼が瞬いた。 「あ……」 俺を見て、眠気を一気に吹き飛ばすように起き上がり、あわてて居住まいを正す。 「お、おはようございますっ……」 そんなにあわてなくてもいいのに。 しかし俺は素っ気なく、 「おはよう」 と返事した。 俺は、ティアの前ではできるだけ無表情を通すと、決めていた。 ティアが俺のことを信じ、自分から俺の神姫と認めてくれる時まで。 まずは、俺が無害な人間であることを信じてもらわなくてはならない。 そう思っていた。 ■ その日から、わたしの、武装神姫としての訓練が始まった。 主にトレーニングマシンを使ったバーチャルトレーニングだ。 まず、一通りの武器を使ってみるところから始まった。 片手で持てる銃火器を中心に、両手持ちでも軽量な銃、ナイフなどの刀剣類や、トンファーといった近接武器まで。 使い方は、素体交換時にプリセットされた戦闘プログラムと基礎データでだいたい分かっている。 出現する的を撃ち落としたり、ダミーの敵を攻撃する、といった単純な内容を黙々とこなす。 マスターはPCでわたしのデータを取り、どの武器がわたしと相性がいいのか検証する、ということだった。 マスターは課題を出すだけ出して、大学に行く。 わたしは、マスター不在の間、ずっとマスターの課題を消化していく。 大学から帰宅したマスターは、毎日作業スペースに向かい、何かを作っているようだった。 こんな日が数日続いた。 マスターが不在の昼間、私は一人、黙々とトレーニングに励む。 その間にいろいろなことを考えた。 だけど、結局、何も分からないままだった。 一つだけ分かっていることは、進むべき道はマスターだけが知っているということだった。 だからわたしは、マスターに言われるがまま、ついていくしかない。 マスターはわたしを使って夢を叶えたい、と言った。 だから、たとえ嫌がられようとも、マスターの夢を実現していると示し続けることが、わたしの存在意義なのだ。 そう結論したわたしは、またトレーニングを消化していく。 ある夜。 わたしはまた夢を見る。 薄気味悪い男の人の影。瞳だけが異様な輝きを放っている。 黒い手が、わたしに手を伸ばしてくる。 これから起こる仕打ちを想像して、わたしは身を縮める。 ……ところが、その手がわたしを掴む寸前、別の手が伸びてきて、わたしが乗っているクレイドルを掴んだ。 そのままするり、と視線が移動する。 わたしはクレイドルごと、別の手によって運ばれていく。 薄暗く寒々とした部屋は、柔らかな光に包まれた部屋に変わっていた。 その手は、クレイドルを自分の枕元に運んできた。 手の主はマスター。 マスターは非常に不機嫌そうな顔をしており、口をへの字に曲げている。 マスターは、わたしを睨みつけるように見る。 わたしが視線の鋭さに、びくり、と身を震わせると、 「明日は公園に行くぞ」 と言って、そのまま枕に頭を沈めた。 まもなく、規則正しい寝息が聞こえてきた。 なんだかちぐはぐな成り行きに、わたしは首を傾げた。 そして、不意に目を覚ます。 暗い部屋。 PCのディスプレイだけが、部屋を青白く照らしていた。 まだ真夜中だ。 あたりは静まり返っている。 規則正しい寝息が聞こえてくる。 そちらに視線を向けると、マスターの寝顔があった。 日頃の緊張を解いたような、少年のような寝顔。 夢の中で見たマスターの寝顔と同じ。 マスターのその顔を見るたびに、わたしは優しい気持ちになれる。 マスターの役に立ちたいと思う。まだなんの役にも立っていないけれど。 マスターの気持ちに応えることができるようになれば、いつものような無表情ではなく、この寝顔のように優しい顔を向けてくれるだろうか。 そうだったらいい、と思いながら、わたしはまた眠りにつく。 マスターになった、この人の存在が、わたしの中で意外にも大きくなっていることを感じていた。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1831.html
鋼の心 ~Eisen Herz~ インターミッション05:CSC(その2) 「う~す、おっはー」 陽気な挨拶と共に芹沢九十九が現れた。 「……また来た……」 「やほ」 「……やほ」 渋い顔をする京子の横で、真紀が無表情にその手を挙げる。 「随分普通に戻ってきたね、真紀ちゃん」 「おかげさまで……」 変人ではあるが、同時に恩人でもある。 京子も芹沢には強く出られなかった。 「……大学の教授なんでしょう? こんなに足繁く病院に来ている暇があるんですか?」 「いや~、それがね。最近はケモテックで顧問技術者をやっているから、授業なんか全部人任せ」 「……ダメな大人」 京子が溜息を吐く。 「そう言えば、この間真紀ちゃんにお願いされた物、手に入れてきたよ~」 「真紀が?」 「うん、MMSの基礎資料見せたら、『これが欲しい』って」 「……真紀に変なもの見せてるんじゃ無いでしょうね?」 どういう訳か、真紀は芹沢に懐いているようで、芹沢の影響を強く受けているようだった。 何時だったか、猫耳と犬耳について真剣に議論していたことがあるのを思い出し、京子は頭を抱える。 「……で、何を持ってきたの?」 「試作品のMMS素体と、結晶記憶体とか、後よく分からないものが数点じゃのぅ」 「そんなの持ち出して良いの? 企業秘密とかあるんでしょう?」 「いいのいいの。隠してこっそり研究するより、真紀ちゃんの柔軟な発想にインスピレーションを得ることの方が大切なのじゃよん」 「……」 「……後は、前の脳波データ……」 「あいよ、言われたとおりに処理して持ってきた。……でも、こんな重複しまくってるデータで何するの?」 「……適応放散」 「???」 真紀の言葉が理解できなかったのは芹沢も同じのようで、彼はその日そのまま帰った。 その後、芹沢の去った病室で、真紀が一心にMMSと繋いだパソコンを弄っているのが、強く印象に残っていた。 ◆ それは、神姫の産声。 ―――それが、神姫の産声。 ◆ 「始めまして、芹沢教授」 「……」 芹沢が息を呑む。 「私は、MMSオートマトン。名前は―――」 流麗な自己紹介をする“彼女”は、人間ではなかった。 「……そんな、事が……」 呆然と、それを見る芹沢。 芹沢の心境は心の欠けた真紀には分からない。 京子がそれを知るには、芹沢と同じだけの時を生きる必要があるだろう。 真紀の膝の上の“彼女”は、身長15cmのロボットだった。 それは、後に武装神姫と呼ばれる事になる最初の一人。 そして、5年後の天海において、『幽霊』の名で語られる最強の“神姫”だった。 ◆ 誰が悪い訳でもない。 そう言う意味では、彼女の敵は世界そのものだったのかもしれない。 ◆ 「……凄い結果だよ、身体性能も思考性能もこちらの想定を遥かに上回っている」 KemotechとFrontLineが共同で設立したMMSの開発室、その一室で芹沢が“彼女”のデータの解析結果を纏めていた。 「特に思考関連は凄いね。……チューリングに完全に対応できるAIなんて100年は出来ないと思っていたよ」 「……凄い?」 「凄いとも。いや、凄すぎるよ。コレはもう人間の道具じゃない。人類の新しいパートナーになるかもしれないよ」 「……パートナー?」 「うん、人間の新しい友達だね」 「……友達」 そう呟く真紀の顔は相変わらずの無表情のまま。 だがしかし、心なしか嬉しそうにも見え、京子は視線を外す。 (……芹沢さんが、真紀を……) 妹の心を解き放って行くのが自分ではない事に、京子は少なからず疎外感を覚えていた。 「……あの、芹沢さん。これは?」 彷徨わせていた視界の隅に、一振りの剣を見つけ、京子はそれを芹沢に問う。 なぜならばそれは、人の為の剣ではなく、明らかにMMSの為の剣であったからだ。 「ああ、それか。フロントラインの方からね、MMSに戦闘をさせる企画が来て、その試作品だよ」 「……」 よく見れば剣の他にも、銃などの武器が幾つも置かれている。 「……?」 その一つ、一番大きな塊を手にしてみるが、何なのかよく分からない。 「……それ、レーザー砲なんだってさ」 呆れたように溜息を吐く芹沢。 「……最も、出力もたいした事無い癖に大きすぎて、到底使い物にはならないみたいだけどね……」 「……」 確かに、触媒のルビーレンズもサイズと想定出力の相違を調整されておらず、放電管の造りも粗雑過ぎる。 内部の反射鏡も無駄に大きな構造で、重量と収納の無駄遣いも良い所だ。 これでは大した威力も射程も無いレーザー数発の射撃で、根本から破損する事は誰の目にも明らかだろう。 「…………ん~」 「興味ある? なんならそれ、上げても良いよ」 「……いいの?」 「どうせサンプルとしてもらったものだし、肝心のMMSがこんな性能を出したんだ。今までの想定で作った武器なんてもうゴミだよ」 「……」 頭の中で青地図ができる。 (触媒の構造を多重構造にして、反射鏡の透過率を変更。あとは屈折率の最大効率を計算しなおして……) 京子の頭の中でレーザー砲を称した鉄塊が、大きくその姿を変えてゆく。 より軽く、より強く。 それが、京子にしか出来ないことなのだと、彼女自身が知るのはまだまだ先の事。 ◆ そして、それは彼女達の運命を変えてゆく……。 インターミッション06:武装神姫につづく 鋼の心 ~Eisen Herz~へ戻る 作中で触れているチューリングテストについて少々捕捉。 チューリングテストとはチューリング博士によって提唱されたAIに対するテストです。 チャットなどでAIに対して質問をし、その回答を人間(テスト官)が吟味し、AIか人間かを判断するというもの。 テスト官は自由に質問を行ってよく、AIは可能な限り人間に近い返答をすると言うもの。 この際、AIはわざと時間をかける、間違える、などをして人間を装うことも許される。 幾つか反論も出たが、作中の(そして皆様の想像する)神姫はこの反論すら許さぬほどに完璧なAIを備えている。 ここまで来るともう、相手がAIか人かを判断する意味は無いと思う。 ◆ AC4fA、今もプレイ中。 アセンしているだけで数時間潰れる。 でも幸せ。 相変わらずビジュアル重視の重AC。 ARGYROS/H EKHAZAR-CORE SOLDNER-G8A SOLDNER-G8L FLUORITE EB-R500 MUSSELSHELL OGOTO MUSSELSHELL(肩) はい、お分かりですね。 性能なんて何処か遠くの空の彼方です。 でもそれで良い。 夢はコイツで全てのハードミッションをSクリア。 ……無理か? ALCでした。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1093.html
{奴が来た!?} 午前7時、晴天。 天薙龍悪とアンジェラス達は安らかに寝ている。 それもとても気持ち良さそうに。 まるで天国みたいな環境だ。 だが、この天国はすぐに終わりがおとずれた。 天薙家の門の前に仁王立ちして両手を腰にあてながら見る一人の人間によって。 「ウフフフ」 薄紫色のアホ毛一本ありのロングヘアー。 スレンダーな体形に童顔な容姿。 服は一般的に何処にでもある高校の制服。 ミニスカートが強くない風にフワッと揺れる。 「先輩、今行くわ」 天薙家の敷地に入りスカートのポケットから鍵を出す。 カチャカチャ、と音を出しながらドアのロックを解除しドアを開ける。 家に侵入すると礼儀正しく靴を脱ぎ並べ、すぐさま二階に上がり目的の龍悪が居る場所に向かう。 龍悪の部屋に入ると四つん這いになり、ベットで寝ている龍悪の顔近くまで接近する。 「可愛い寝顔。キスしちゃいたいくらい」 と、言いつつ自分の唇を龍悪の唇に密着させようとした。 その時だ。 布団で隠れていた龍悪の右腕が布団から勢いよく出てきて、不法侵入した者の顔を鷲掴みした。 「ハワワワ!?」 龍悪に顔を鷲掴みされた者は、両腕を上下に振りながら慌てる。 ムクリ、と上半身だけ起こした龍悪の顔はそうとうな不機嫌さをかもだしながら言った。 「…おはやう…婪」 「お、おはよ、う、…先輩」 ギリギリ、と鷲掴みした顔を龍男は力をちょっとずつ強くする。 その度に婪は『ハワワワ!?』と言い慌てる。 「俺に、なにしようとした?」 「あたしからの目覚めのキスをしようと思って…」 俺は右腕の肘を曲げ婪をこっちに近づかせ、最大まで曲げた瞬間に腕を伸ばし押すようにした。 伸ばしきった所で婪の顔を離し婪は押された衝撃によって机までフッ飛んだ。 「キャン!?」 かわいらしい声を上げ机に背中を打ち付ける婪。 なにが『キャン』だ。 気持ち悪い声を出しやがって。 「ご主人様~、今の揺れは地震ですか~?」 机の上にアンジェラスが片目を擦りながら眠そうに立っていた。 その後ろにはクリナーレ、ルーナ、パルカも起きていた。 多分、婪が机に当たった衝撃で起きたのだろう。 俺は布団から出て婪に近づき膝を曲げ尻餅ついてる婪の視点に合わせる。 「ウゥ~、痛いですよ~先輩~」 「うるせぇ。俺にキスしようとした罰だ」 「そんなぁ、あたしはこんなにも先輩の事を愛してるのにー」 ピキッと俺のこめかみ辺りにある血管が浮き、婪の胸倉を右手で掴みお互いの額がぶつかるギリギリまで引き寄せた。 「キャー!先輩、近いですよ~。でも、あたしはいっこうに構いませんけど…♪」 「テメェ、いい加減にしろ」 「あたしは先輩に対する愛には、いい加減じゃありませんよ」 「この野郎…俺はお前の事なんか愛してねぇぞ」 「いつかあたしに振り向いてくれます」 「それは絶対にねぇー!」 今度は左手の親指を婪の右頬につけ、残りの四本の指を左頬につける。 その瞬間にすくさま俺は左手に力を入れ婪の頬を両方から押す。 「イタイ、イタイ!」 「あたり前だろ。力を入れてるだから」 そんな時だった。 アンジェラスが俺の頭に下りて来て言う。 「ご主人様。女の子に暴力は良くないと思います!」 「はぁあ!?」 俺は頭に居るアンジェラスを掴むために胸倉と婪の頬から手を離し、その手でアンジェラスを優しく掴む。 「あのなぁ、こいつは女じゃなくて男だぞ」 「えぇーーーー!?!?」 アンジェラスは目を見開き驚愕した。 まぁ無理もない。 婪の奴は見た目は何処からどう見ても美少女に見える。 声も凄く女の子らしい声だ。 だが、こんなナリしてるけど立派な男だ。 ちゃんと股の部分に男性性器もついている。 婪の奴が外に出れば、たいていの男がナンパしてくる。 男が男をナンパして愉しいか? 「まぁいいや、アンジェラス達は朝飯を作ってきてくれ。アンジェラスとパルカは調理、クリナーレとルーナは補助しろよ」 「「「「はーい」」」」 アンジェラス達は俺の身体を伝って一階降りって行った。 部屋に残ったのは俺と婪だけ。 俺は婪から離れ服を着ようと箪笥に向かう。 「先輩、あの子達は?」 「ん?あぁ~アンジェラス達の事か。まぁ気にすんな。にしてもお前、よく俺の家に入れたな」 「これよ」 婪が俺に見せびらかすかのように右手に持った鍵を見せる。 その鍵の形を見た瞬間、俺は納得した。 だって、俺の家の鍵とそっくりなのだから。 そりゃあ入って来れるよなぁ。 「お袋に渡されたのか?」 「うん。先輩の事をよろしくね、と言われたから」 「あのババァ…」 俺は髪の毛を掻きながら苦い顔をした。 十六夜 婪(いざよい りん)。 こいつは俺の後輩にして幼馴染である。 二つ年が離れてるので今のこいつは高校三年生。 言ってみれば普通の高校生なのだが…。 「先輩~あたしの事…いつになったら抱いてくれるのぉ~♪」 「身体をクネクネ動かすな!気色悪い!!」 さっきも言ったとうりに、こいつは男だ。 男性なのに女子の制服を着ている。 なんでも、あまりにもルックスが良いので校長が許したとか? どんな学校だよ、俺の高校の母校は。 「お前も一階に来い。話はそれからだ」 「あたしと先輩の愛語り合いですか?」 「あ・い・つ・ら・の・事だ!」 …。 ……。 ………。 カチャカチャ、と食器の音を出しながら運ぶ武装神姫達。 朝食の準備をしているのだ。 今まで俺が一人で飯を作ってきたがアンジェラスとパルカが料理を覚えてから俺は作らなくなった。 そんな俺は婪と向かい合いのテーブルを挟んだ状態椅子に座っている。 婪は俺の顔を見てニコニコと笑ってやがる。なんだ、俺の顔が面白いか? 「先輩。先輩っていつから武装神姫をやり始めたんですか?」 「ん?あぁ~壱ヶ月前ぐらいからやってるかな。よく覚えてねぇー」 「ふ~ん、先輩の事だから朱美さんから『武装神姫のバイトやらない』とか言われたクチでしょ」 ウグッ…微妙に合ってる、つか、何で解るだよ。 婪の奴は昔から結構勘とか鋭いのだ。 まるで俺の事は何でも知ってるような感じがして気持ち悪い。 「あたしも武装神姫やってますよ。今度先輩と戦ってみたいなぁ~」 「へぇ~婪もやってるんだ。意外だぁ」 「意外とはなんですかー!意外とは~!!」 プク~と顔を膨らませる婪。 う~ん、やっぱこいつは可愛い。 だが、こいつは男だ。 騙されはしないぞ。 「アニキー、朝食の準備ができたよ」 「おぉ。そんじゃあ喰うか。いただきます」 俺は右手に箸を持ち、茶碗に入った米粒を喰う。 アンジェラス達も『いただきます』と言って、俺が作った神姫用の茶碗、コップ、箸、スプーンを使うって朝食を食べる。 最初は人形の身体なのに、人間の食料が食べる機能に驚いたが今は全然違和感を感じない。 婪の奴は丁寧に手を合わせてお辞儀して『いただきます』と言った。 律義な奴ー。 ていうか。 「何で、テメェが俺の食卓で朝食してるんだよ」 「え?だって、あたしの分も置かれてからご馳走になろうと思って」 「はぁあ?おい、アンジェラスにパルカ。こいつの分はいらねぇだぞ」 「そんな事はいけませよ、ご主人様。私達には大切なお客様なのですから」 「お客様!?この野郎が!?!?勘弁してくれよ、ただでさえ金が無いのに婪のせいで更に食費がかさむじゃねえか」 うなだれる用に肩をガクッと落とす。 「まあまあ先輩、そんなに気を落とさないで」 「落とすに決まってるだろーが!このオカマ野郎!!」 吠える俺。 そんな俺を見て怯えるパルカ。 ヤッベ。 今日の朝食を作ったのアンジェラスとパルカだ。 婪の分まで作ってしまった事に責任感を感じてしまったのだろう 「いや、パルカが悪いじゃないよ。悪いのは婪の野郎だから。だからそう怯えないでくれ」 「ウウゥ…分かりました、お兄ちゃん」 だあぁー、疲れる。 朝食ぐらいでこんなに疲れたのは久しぶりだ。 俺が初めて料理した頃ぐらいの疲れ加減だ。 「婪、今日の所は勘弁してやる。だが明日からは自分の家で飯を喰えよ」 「はぁ~い」 ニコヤカな顔をしながら飯を食べる婪。 全くしょうがない奴だ。 「にしても、美味しいね。先輩の神姫が作る料理は」 「ありがとうございます、婪様」 アンジェラスがお辞儀した。 そんなアンジェラスに婪はズズイっと顔を寄せて。 「ねね、今度あたしの神姫に料理教えてあげてくれない?」 「え!?私が、ですか!」 驚くアンジェラス。 それもそうだ。 料理を初めてからそんなに月日が経っていないのに、今度は教える立場になってしまったのだから。 「私は別に構いませんが…ご主人様の許可が下りりれば良いのですが」 「先輩の許可ね。分かったわ、任せて」 婪は椅子から立ち上がり俺の方に来た。 何するつもりだ? 「ねぇ~先輩。今度でいいですから、あたしの神姫に料理を教えてくれませんか?」 色気を使ってきやがった。 残念だがテメェの色気には昔からやられてるから、もう慣れてるんだよ。 効かないぜ。 「許可くれるたら~あたしが先輩にいい事しちゃいますよ~。チュッ」 「ダァーッ!?」 俺は勢いよく立ち上がった。 頬っぺに婪がキスしたのだ。 気持ち悪いったらありゃしれない。 これが女の子だったらどんなに嬉しかった事だったか。 「もう先輩ったら~。テレッちゃって、可愛いんだから~」 「可愛いとか言うな!もう帰れ!!テメェがいるとろくな事が起きねぇー!!!」 「まぁまぁ、ダーリン落ち着いてください」 いつの間にかルーナがコップ辺りにいた。 飯を食うには早すぎる。 「あの婪様、どうかあたしにその色気の術を教えてください!」 「んぅ、ポニーテールの天使型だね、お名前は?」 「ルーナといいます」 「ルーナちゃんね。良いわよ、あたしの今まで先輩に使って色気のテクニックを教えてあげる」 「ありがとうございます、婪様!」 おいおい。 何いっちゃってくれてやがるんだ、この二人は。 ルーナの奴が婪の色気のテクニックを身につけたら、俺の脳の中身が毎日理性と欲望の闘いになっちまう。 勘弁してくれ。 ここは何とか話題を変えないといけない。 このままだと俺の身体が危ない。 「おい婪。そろそろ学校に行かなねぇーとマズイじゃねぇの。俺の車で学校まで送っててやるから」 「えっ先輩とカーセックスですか!?やったー!」 「ご主人様!?」 「アニキ!?」 「ダーリン!?」 「お兄ちゃん!?」 婪の一言によって神姫達は俺を凝視した。 …マジで勘弁してくれ。 もうイヤだ。 「チゲーよ!誰がテメェのケツの穴に俺を入れないといけないんだ!!アンジェラス達も本気にするな!!!」 「下品な言い方は女の子に嫌われますよ、先輩」 「ウッサイ、黙れ!ほら、飯はもう喰ったろ!!行くぞ!!!」 「アァン、そんなに引っ張らないで」 婪の左腕を俺の右手で引っ張りながら玄関に向かう。 早くこの色魔をこの家から追い出さないとアンジェラス達に悪い影響を及ぼす。 勿論、エッチ方面で。 「そんじゃ、ちょっくら行ってくるから留守番頼むぜ」 「バイバイ。また今度来るねぇ~。次来る時はあたしの神姫も連れてくるから~」 バタンッとドアを閉め婪を車に乗せ俺は学校に向かった。 その後、家に帰った後はもう疲れすぎて大学に行く気を失っていたので俺はベットに突っ伏しながら寝た。 婪、こいつは最悪な小悪魔だと、再び実感した一日だった。