約 2,380,683 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1706.html
{イリーガル・レプリカ迎撃指令…ルーナ編} ルーナの視点 「それじゃあ全員散開。敵は見つけ次第破壊で頼む。あ、でもちゃんと連絡する事。けっして無茶して闘おうとするんじゃないぞ」 「「「「はい!」」」」 「よし!散開!!」 ダーリンの声と同時にアタシ達、四人の神姫達はアンダーグラウンドの夜に飛び立つ。 満月がとても綺麗ですわ。 たまには一人になるのもいいですわね…あっそうでしたわ、アタシの右手には沙羅曼蛇を持っているから一人じゃないですわね。 一人の時は訓練と調整の毎日でした。 …でもあの時のアタシとは違う。 今のアタシにはダーリンが居てアンジェラスお姉様、クリナーレお姉様、パルカがいるのだから。 だから大丈夫。 気分治しにリアウイングAAU7を使い自由に飛び回る。 アタシが今飛んでる高度は100メートル、とても風が冷たいですわ。 でもこの前よりは寒くありませんわね。 それにすでに召喚した沙羅曼蛇も上機嫌みたいだし、今日は絶好調です。 そんな時。 <………。……> 「え、敵を見つけたって?地上から5メートル、数は二人ですか」 <……?> 「う~ん、ダーリンの話だと連絡しないといけない事になっていますけど…いいです、連絡はしないまま破壊しますわ」 <…?> 「大丈夫ですわ。私と沙羅曼蛇がいるのですもの」 <…!> 「言い答えね。それでは…行きますわよ!」 一気に物凄いスピードで急行下しながら低空飛行しているイリーガル・レプリカの二体を補足する。 型はジルダリアとジュビジーですか。 なら比較的に防御が弱いジルダリアを狙います! 沙羅曼蛇を構えジルダリアに! ズバッ! 「ッ!?!?」 一刀両断ですわ! ジルダリアは頭から身体ごと縦に真っ二つに裂け、断末魔を叫ぶ事も出来ないまま機能停止しました。 少し可哀想と思いますが、これもダーリンの為。 しかたない事です! 「お姉ちゃん!?お前ー!」 ジュビジーは怒り狂いながら私にグリーンカッターで攻撃してきました。 アタシというとソレを冷静に対処しながら、沙羅曼蛇で防ぎ体勢を立て直します。 ぎざぎざの葉を模した回転のこぎりのグリーンカッターが容赦なく沙羅曼蛇を刻む。 でもそれは無駄な事ですわ。 <…笑止> 「え!?グリーンカッターが!?!?」 グリーンカッターは沙羅曼蛇を刻むどころか、ボボボボと燃えていく。 それもそのはずですわ、だって、沙羅曼蛇は火炎灼剣なのですよ。 葉っぱを火に近づけたら燃えるに決まってるじゃないですか。 それにいくら葉を模したといえで、所詮植物系統。 炎に勝てる訳ないですわ。 ジュビジーはグリーンカッターを捨て後退しアタシとの間合いを取る。 まぁー妥当な考えだと思いますわね。 「あのジルダリアは貴女のお姉様だったのかしら?」 「そうよ!何でお姉ちゃんを殺したの!!」 「あら?殺したという表現は違いますわよ。破壊、ですわ」 「はか…い…」 このジュビジー、ちょっとオカシイですわね。 『死』という表現と定義をまるで人間と同じように言う。 「ち、違う!私達は破壊という扱いじゃない!!死ぬという扱いだわ!!!」 「違いますわ。アタシ達は武装神姫。人間の娯楽ために作られた精密機械人形」 「違う!あたしもお姉ちゃんも違うー!!」 リアパーツのキュベレーアフェクションを私に向け、突撃してきた。 キュベレーアフェクションの『収穫の季節』の攻撃をするつもりね。 <…!?主!> 「大丈夫…何もしなくていいの」 「私の必殺技っ!クラエー!!」 <主!> 「………」 ズガシャーーーー!!!! キュベレーアフェクションが一気にアタシを囲み鋭く尖った部分で挟み込む。 普通の神姫なら即穴だらけにされてしまう攻撃ですね。 …でも。 「…そ、そんな……!?」 「気は…済みましたか?」 アタシは健在していますわ。 本来なら例えVIS社製のこの素体のボディーでも重傷免れなかったでしょう…でも残念ながらそう簡単にやられる訳にはいけません。 そして何故穴だらけにならなかったというと、キュベレーアフェクションのニードルシールドがドロドロと溶けていくからです。 「どうして!?何で溶けていくの!?!?」 「それはダーリンが守ってくれたからです」 私は両手を胸元に優しく沿え瞼閉じる。 究極生命態システマイザー。 実はダーリンが私専用に作ってくれたらアーマーなのですわ。 ダーリンが真心を込めてアタシに作ってくれた、この究極生命態システマイザーは目に見えないけど、アタシを守ってくれるもの。 簡潔的に言うとこの究極生命態システマイザーはナノマシンの親戚みたいなものらしく、アタシの保護と回復と補佐をしてくれるシステム。 そのシステムはアタシの身体全体に張り巡らせているのです。 「どうして!?なんで攻撃が効かないの!他の神姫には効いたのに!!」 「今から破壊される貴女が知る必要はありませんわ」 「ヒィッ!?」 沙羅曼蛇を構え一撃で仕留める為に神経を集中させる。 このイリーガル・レプリカのジュビジーには悪いけど、破壊させてもらいます! <蛇眼!> 「ナッ!?動けな――――」 「…さようなら」 シュン! 一瞬にしてジュビジーの後方に居る私。 そして音も無くジュビジーは細切れのバラバラになりながら、暗いアンダーグラウンドの町に落ちっていった。 アタシは沙羅曼蛇を左手で摩りながら一人呟く。 「貴女の気持ち、今のアタシなら分かるわ。だって…昔のアタシは…ただの殺戮兵器でしたもの…」 昔の記憶はあんまり覚えてないけど、あの禍々しくおぞましい記憶は覚えてるわ…。 とても悲しい記憶だけど…。 お姉様…アタシは…。 「あぁー!こんな所に居た!!」 後ろから声がしたので振り返ると、そこに居たのはアンジェラスお姉様だった。 「も~、いったい何処まで探索しに行ってたのよー」 「あら、ここまでですわ♪」 「…そりゃあルーナはここに居るのだからここまでだけど…て、そうじゃなくて!」 「それよりも早くダーリンの所へ戻った方が宜しいじゃなくて?アタシを向かいに来たのはそいう意味も含めてでしょ?」 「アッ!そうだった!!さぁ早くご主人様の所に帰ろう!!!」 アンジェラスお姉様はアタシの左手を掴み引っ張る。 フフッ、アンジェラスお姉様はそそっかしいですね。 そんなにダーリンの所に早く帰りたいんだですか♪ 気持ちは良く分かりますわ。 嫉妬心も出てきちゃいますけど。 …あの頃。 あの頃のアンジェラスお姉様と比べたら…いえ、比べる必要ありませんわ。 アンジェラスお姉様はアンジェラスお姉様ですもの。 いつまでも皆と仲良く生きたいですわ。 そう、いつまでも…。 こうして今日というアタシの日にちは終り告げる。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2142.html
ウサギのナミダ ACT 1-22 ◆ ギャラリーにはどう見えているだろうか。 おそらくは、力と技がぶつかり合う、真っ向勝負に見えているだろう。 確かに、雪華は正々堂々、真っ向勝負を挑んできた。 逃げない。揺らがない。 ミスティ得意のレンジに踏み込んでまで勝負を挑んでくる。 その姿勢を貫き、勝利を目指す。 それこそが『クイーン』の二つ名の由来であり、神姫プレイヤーから人気を集める理由だった。 だが、バトルの当事者は思い知る。 真っ向勝負? とんでもない。 劣勢とか、そう言うレベルじゃない。 『そこでリバーサル! 二連撃!!』 菜々子の指示が飛ぶ。 もう何度目かの得意技。 この間合い、このタイミング、この速度、そして身体をロールさせながら繰り出す二連撃。 熟達したアーンヴァルでも、このリバーサル・スクラッチはかわせない。 だが。 雪華は、これを紙一重でかわす。手にした剣で反撃すらしてみせる。 「くっ……!」 正々堂々? 真っ向勝負? 違う。 これは「練習」だ。 こっちの本気を練習台にしてしまう、圧倒的実力差。 ミスティは敵を見上げる。 空中に浮かび、羽を広げた雪華は、まるで降臨した大天使のようだ。 その美しい姿に、ミスティは戦慄した。 「本身は抜かないのかよ!?」 「あれは、そう簡単に抜けるもんじゃないのよ!」 虎実の叫びに、菜々子は応える。 虎実は、ミスティの攻撃が雪華に全く効いていないことを見抜いているようだ。 『本身を抜く』には、試合前からしっかり心構えをする必要がある。 バトル中に切り替えるような便利な使い方はできない。 それに、たとえ本身を抜いたところで、食い下がれるかどうか。 (……まさか、これほどとは) 菜々子は戦慄する。 正々堂々のバトルロンドで、こうもあしらわれるのは初めての経験だった。 どうすればこれほどの実力が身につくというのか。 だが、諦めるわけにはいかない。 せめて一矢報いなくてはならない。 『エトランゼ』の名に賭けて。 そして、遠野とティアにつながなくてはならない。 菜々子は絶望と戦いながらも、ミスティに矢継ぎ早に指示を出していく。 ■ 帰りの電車の中、わたしはずっと考えていた。 マスターのこと。 マスターがわたしを守るために、すべてを賭けてもいいと、言ってくれたのだという。 エルゴの店長さんがそう言っていた。 わたしには、マスターの想いが分からない。 わたしの過去が暴かれたせいで、あれほど酷い目に遭わされたというのに。 それでもなお、わたしを自分の神姫にするために、全力を尽くしてくれている。 マスターのその想いが伝わって、店長さんを動かし、刑事さんを動かし、風俗のお店がなくなって、多くの風俗の神姫が救われた。 それほどの大きな想いをわたしに向けてくれている。 なぜですか? なぜ、それほどまでに、わたしにこだわるんですか? わたしはそんな価値のある神姫ですか? わからない。 わかりません。 わたしにできることなんて、マスターのそばにいて、マスターの指示通りに走るこくらいなのに。 シャツの胸ポケットから、マスターを見上げる。 マスターは物思いに沈んでいるようだった。 この間までのつらそうな表情でないのは救いだったけれど。 わたしはマスターの心に寄り添えないままだった。 刑事さんはわたしに、素晴らしいマスターの神姫であることを忘れてはいけない、と言った。 それはもちろんなのだけれど。 そのマスターのために、わたしは何がしてあげられるんだろう……? □ 時間がないので、昼食は電車の中でパンをかじった。 一度アパートにとって返し、ティアの武装一式を手にして駅前に戻る。 ゲームセンターに着いた時には、久住さんの電話から、もう二時間以上が過ぎていた。 久々のゲームセンターの入り口。 俺は少し感傷的になる。 一歩を踏み出すのが少し怖い。 俺は店の出入りを拒否されているわけで、躊躇するのも分かって欲しいところだ。 久住さんはいるだろうか。 自動ドア越しだと、奥の様子は分からない。 彼女がいてくれないと、俺は針の筵なんだが。 それでも俺が足を進められたのは、今朝方の出来事があったからだろう。 すくなくとも、もう店に黒服の男たちが現れることはない。 自動ドアが開く。 まず俺の耳に聞こえてきたのは、神姫の怒声だった。 「なぜだっ!! なぜあんな淫乱神姫にばっかりこだわるんだ!?」 叫んでいるのはハウリン。 その声を受け流しているのは、銀髪のアーンヴァルのようだ。 「迷惑なエロ神姫なんかより、あたしの方がよっぽど強いのに!!」 「随分とご挨拶だな、ヘルハウンド」 俺が静かに言うと、武装神姫コーナーにいた全員が俺を見た。 「黒兎のマスター……」 ヘルハウンドは怒りの眼差しを俺に向けてきた。 憎悪すら込められていそうだった。 「……遠野くん!」 ギャラリーから抜け出して、久住さんが駆け寄ってきてくれた。 いつものようにジーパン姿のラフな格好。俺は安心したような、残念なような、複雑な気分になった。 「連絡ありがとう。……遅くなってごめん」 「ううん。来てくれてよかった」 いつもよりも微笑みが弱々しく見えるのは気のせいだろうか。 そのとき、ギャラリーの一角から、声があがった。 「おいっ! 黒兎のマスター!! ど、どの面下げてここにきたっ!!」 三強の一人、『ブラッディ・ワイバーン』のマスターがこちらを指さして喚いている。 俺にはそれほどショックはなかった。 こうした中傷は予想の範囲内だったので、心構えもできている。 と、いきなり久住さんがワイバーンのマスターを睨みつけた。 「わたしが呼んだのよ。文句ある?」 耳が凍傷になってしまいそうなほどに冷たい声。 ワイバーンのマスターはそれだけで、急に黙り込んでしまった。 ギャラリーも、何か言いたげな表情だが、黙ったままだ。 ……いったい、どうなっているんだろうか。 俺が驚きを隠せずにいると、久住さんの後ろから、さきほどの銀髪のアーンヴァルを肩に乗せた青年が近づいてきた。 「あなたが、ハイスピードバニー・ティアのマスターですね?」 人が良さそうに微笑む青年と、真剣な面もちの銀髪の神姫。 その後ろに、カメラ用のベストを着用した、年上の女性がいる。 「……遠野くん、彼らがティアを助けてくれたの」 「高村優斗です。こちらは僕の神姫で、雪華」 青年とその神姫は、礼儀正しく会釈した。 それから、後ろの人物を示し、 「それから、この人は、僕らの取材をしている、『バトルロンド・ダイジェスト』の三枝めぐみさん」 「よろしく~」 三枝さん、というその女性は、ひらひらと手を振った。 俺も挨拶する。 「遠野貴樹です。それと、俺の神姫のティア」 「は、はじめまして……」 「ティアを助けてもらって……助かりました。感謝してます」 もう一度俺はお辞儀をした。 顔を上げると、高村と名乗った青年は、ゆるやかに首を振っていた。 「いえ、大したことではありません。 僕たちも、対戦希望の相手を助けられてよかった」 やはり、そうか。 俺はその一言で確信する。 この青年と神姫は、海藤の家で見た映像の、彼らだ。 「まさか、あの『アーンヴァル・クイーン』がティアを助けてくれたとは、正直驚きです」 「僕たちも驚いていますよ。……ああ、僕たちのこと、もう知ってるんですね」 「……秋葉原のチャンプが俺たちと対戦を希望するなんて……冗談じゃなかったんですか」 「まさか。冗談であんなこと言ったりしません」 高村はそう言って微笑んだ。 やたらと人が良さそうな青年だと思う。 その高村の肩に座る、美貌の神姫が口を開いた。 「あなた方との対戦に、ここまで足を運ぶ価値がある、と考えてのことです。 バトルが所望です。いかがですか、『ハイスピードバニー』のマスター?」 長い銀髪を背に流した神姫の言葉は、威厳すら備わっているように感じられる。 なるほど、『クイーン』二つ名は伊達ではない、か。 俺は雪華の問いに、静かに答えた。答えは決まっていた。 「残念だが、お断りする」 ギャラリーがどよめいた。 全国大会レベル、しかも優勝候補とのバトルだ。対戦してみたいと思う方が普通だろう。 しかも、三強の対戦希望を断ってまで、俺たちとのバトルに集中しようとしているのだから、神姫プレイヤーなら受けて立つのが筋と言うものだ。 久住さんが俺の肩にそっと手をおいた。 「遠野くん、彼らはティアを助けてくれたのよ?」 「わかってる。でも、それとこれとは話が別だ」 その手を、俺は邪険にならないようにそっと、はずした。 そして、俺は雪華に向き直って言い切った。 「ティアを助けてくれたことには感謝してる……本当に、感謝してもしきれない。 でも、君たちとバトルはできない」 「なぜです? 理由を教えていただけますか?」 「……君たちがマスコミの取材を受けているからだ」 高村の背後にいた女性は、きょろきょろと辺りを見回すと。 「あ、あたし……!?」 三枝さんは、自分を指さして、びっくりしていた。 俺は高村に話を続ける。 「対戦を申し入れてくるんだから、今俺たちがおかれた状況は知っているんだろう?」 「あぁ、うん。先週来たときに、どうも様子がおかしかったので、調べさせてもらいました」 「だったら分かると思うけど……いま、こんな風に俺たちがゲームセンターで歓迎されていないのも、雑誌記事のせいでね。 今俺は、完璧なマスコミ不信なんだ」 「……それで、僕たちの挑戦を受けないのと、どういう関係が?」 「『バトロンダイジェスト』の、君たちの記事は俺も読んでる。テレビ放送であんなことを言ったんだ。当然、俺たちとのバトルも記事にするつもりなんだろう?」 雑誌記者の三枝さんは俺の言葉に頷いた。 「だったら、対戦なんて受けられない。結果がどうなるにせよ、何を書かれるか分かったものじゃない。今の状況に拍車をかけられたら、たまらないからな」 「……ちょっと! さっきから黙って聞いていれば随分な言い方ね! うちとあんな低俗雑誌を一緒にしないでもらいたいわ!」 三枝さんがたまりかねたように口を挟んだ。 彼女がカチンときているのももっともだ。 なぜなら、俺自身、わざとひどい言い方をしているのだから。 「俺からしてみれば、大して変わらない。 三枝さん、と言いましたか。 あなただって、バトロンダイジェストの記事を書くにあたっては、俺たちに無様に負けて欲しいでしょう? 『クイーン』の連載記事なら、俺だって雪華の華々しい活躍が書きたい。 俺たちみたいな醜聞のただ中にいる神姫プレイヤーを叩きのめす記事なら、うってつけですから」 「なんてこと言うの……うちに記事が載れば、あなたたちだって、評価があがって、誤解が解けるかも知れないじゃない!」 「随分と上から目線ですね。 俺は取材をしてもらいたいだなんて、一言も言ってない。 むしろ迷惑だ。 だったら、あなた方はむしろ、取材させてくださいとお願いする立場なんじゃないんですか?」 三枝さんは言葉に詰まった。 少し心が痛む。 マスコミへの不信感は本当だ。だが、三枝さん個人に恨みがあるわけじゃない。 三枝さんをダシにして、このバトルを断ろうとしている。だから、彼女に悪いところがあるわけではないのだ。 久住さんの手が、また俺の肩におかれた。 「遠野くん……言い過ぎよ」 「……わかってる」 俺は一瞬だけ、彼女の手に触れた。 久住さんはため息をついただけで、何も言わなかった。分かってくれたのだろうか。 俺と三枝さんが睨み合う。 一瞬の沈黙。 それを破ったのは、雪華の声だった。 「それならば、ティアとの対戦は取材をしないようにしてもらいます」 「って、ちょっとぉ!?」 あわてたのは三枝さんだ。 「あなたたちとは、全国大会までの動向のすべてを取材する契約でしょう!? たとえ草バトルとはいえ、取材しないわけにいかないわよ!」 「ならば、契約を解除します。そうすれば、ティアと戦える」 三枝さんが絶句した。 マスターの高村が口を挟む。 「雪華……『バトルロンド・ダイジェスト』からは、いっさいの取材を断らない代わりに、スポンサードを受けている。そういうわけにはいかないよ」 「スポンサー契約など無くても、わたしたちは全国大会を戦えます。また、契約があるからといって、勝ち抜けるとは限りません。 セカンドリーグの全国大会選手でも、そんな契約をしているのはほんの一握りでしょう。大多数の選手と同様の条件でも、わたしたちは十分に戦えるはずです」 ……何か話が大事になってきた。 雪華の言うスポンサー契約は、神姫プレイヤーが特定の企業や団体と契約を結んで、バトルロンドの活動資金や武装などを出してもらうことだ。 そのかわりに、その神姫はメーカーが提供する武装やパーツを使用したり、ボディなどにメーカーロゴをペイントしたりして、広告塔としての役割を果たす。 通称「リアルリーグ」と呼ばれるファーストリーグは、そうしたスポンサー契約も盛んに行われている。 セカンドリーグではあまりそういう話はない。セカンドリーグ上位の有名神姫プレイヤーくらいだろうか。 雪華は『バトルロンド・ダイジェスト』と契約を結んでいるらしい。 バトルロンド専門誌からスポンサー契約を受けているとは、どれだけ実力があるということなのだろうか。 それにしても、俺たちとの対戦がそこまで重要か? スポンサー契約がなくなれば、資金面で厳しくなる。 そうした契約自体が少ないセカンドリーグとはいえ、全国を勝ち抜くにあたって、資金がないよりはあった方が有利であるはずだ。 それを雪華は、俺たちとの対戦で捨ててもいいと思っている。 いったい、何を考えているのだろう。 「だったら、そんな腰抜けほっといて、俺たちの挑戦を受ければいいじゃねーか。俺たちは取材、大歓迎だぜ?」 その声に、ギャラリーも沸く。 口を挟んだのは、『玉虫色のエスパディア』のマスターだった。 どうも、三強はクイーンに対戦を申し入れて、ことごとく断られたようだ。 にやにやとした笑みを張り付けた顔に、雪華は冷たい一瞥を放った。 「……あなた方との対戦は、意味がありません」 「な……なんだと……!?」 「わざわざここまで足を運んできた意味がないのです。 わたしたちがハイスピードバニーやエトランゼと対戦を望むのは、彼女たちが唯一無二の戦い方をしているからです。 わたしが東東京地区大会のインタビューで挙げた武装神姫は、いずれもそういう戦いを展開し、大会にはエントリーしない神姫ばかりです。 わたしはそのような神姫との戦いを望んでいます。 ただ強いだけの神姫なら、ここまで来る必要がないのです」 高村は、雪華の言葉に、肩をすくめて頷いていた。 なるほど。確かに、ティアの戦い方は唯一無二だろう。雪華はそこに価値を感じているということか。 三強は確かに強いが、大会にでてくる神姫に比べると見劣りがする。戦い方も、標準の域を出ない、というところか。 見れば、玉虫色のマスターは、口をぱくぱくさせながら、怒りの矛先を向ける方向を失っているようだった。 神姫にあそこまで言われたなら、もっと噛みついてきてもいいはずなのだが……何か思うところがあるのだろうか。 そんなことを考えていると、左胸のあたりから声がした。 「マスター……」 「どうした、ティア」 「雪華さんとの対戦、受けてください……お願いします」 突然何を言い出すんだ。 俺は驚いて、ティアを見下ろす。 雪華の様子を見ていたティアは、不意に俺の方へ視線を向ける。 その顔には必死さが滲んでいた。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2376.html
第1部 戦闘機型MMS「飛鳥」の航跡 第9話 「嵐兎」 グワワアーン!! 廃墟ステージで大爆発が起きる。 砂地で砲撃を行っていたスーザンがびくりと振り向く。 スーザン「なっ・・・なんだ今のは?」 スーザンの砲撃から身を隠していたミシェルとヴァリアも驚いて廃墟ステージを見る。 ヴァリア「クソッタレ!一体どうなってんだ!」 戦乙女型MMSの「オードリ」がミシェルに近づく。 オードリ「ミシェル、チームの半分はあの動けなくなった戦艦型神姫に撃破されてしまいましたよ」 ミーヤ「こりゃダメだよ」 戦車型のヴァリアが腕を組んで必死に考える。 ヴァリア「うーんうーん・・・どうしよう?」 そのとき、1機の黒い天使型神姫と飛鳥型の神姫がヴァリアたちの隠れている岩陰に飛び込んできた。 アオイ「調子はどうだい?」 エーベル「うは、酷いなこりゃ、そこらじゅう神姫の残骸だらけだ」 ミシェル「あんたらは護衛機の相手をしていたんじゃ?」 アオイ「数機、ぶち落として加勢に来たぜ」 エーベル「今、残っているチームの残存神姫は何機だ?」 ヴァリアが手を上げる。 チーム名「城東火力特化MMSギルド」 □戦車型MMS「ヴァリア」 Sクラス オーナー名「松本 弘」 ♂ 25歳 職業 ベアリング工場員 □ウシ型MMS「キャナ」 Aクラス オーナー名「木村 雄一」 ♂ 25歳 職業 システムエンジニア □ケンタウルス型MMS「コルコット」 Aクラス オーナー名「三浦 晴香」 ♀ 17歳 職業 高校生 □ヤマネコ型MMS「ミーヤ」 Cクラス オーナー名「河野 恵」 ♀ 17歳 職業 高校生 ヴァリア「こっちは4体しか残っていない、武装も投棄しちまってろくな武装がない。 ミシェルもお手上げのポーズをする。 チーム名 「定期便撃沈チーム」 □ヘルハウンド型MMS 「バトラ」 Bクラス オーナー名「合田 和仁」♂ 15歳 職業 高校生 □戦乙女型MMS 「オードリ」 Sクラス 二つ名 「聖白騎士」 オーナー名「斉藤 創」♂ 15歳 職業 高校生 □サンタ型MMS 「エリザ」 Bクラス オーナー名「橋本 真由」♀ 17歳 職業 高校生 □マニューバトライク型MMS 「ミシェル」 Sクラス 二つ名 「パワーアーム」 オーナー名「内野 千春」♀ 21歳 職業 大学生 □天使コマンド型MMS 「ミオン」 Bクラス オーナー名「秋山 紀子」♀ 16歳 職業 高校生 □フェレット型MMS 「スズカ」 Bクラス オーナー名「秋山 浩太」♂ 19歳 職業 専門学校生 □ウサギ型MMS 「アティス」 Sクラス 二つ名 「シュペルラビット」 オーナー名「野中 一平」♂ 20歳 職業 大学生 □蝶型MMS 「パンナ」 Bクラス オーナー名「田中 健介」♂ 19歳 職業 高校生 □剣士型MMS 「ルナ」 Aクラス オーナー名「吉田 重行」♂ 28歳 職業 電気整備師 □ハイスピードトライク型 「アキミス」 Bクラス オーナー名「狭山 健太」♂ 19歳 職業 大学生 ミシェル「こっちも似たようなものですわ、半分以上の神姫は生き残ってますけど、戦意を喪失して、実質戦えるのは数体ってところかしら?」 チーム名「1111111」 □黒天使型MMS「エーベル」 Sクラス オーナー名「斉藤 由梨」 ♀ 22歳 職業 商社OL □戦闘機型MMS 「アオイ」 Aクラス オーナー名「立花 一樹」♂ 24歳 職業 事務機営業マン アオイ「たかが、一隻の死にぞこないの戦艦型神姫にキリキリマイとはな」 アキミス「結局、生き残ってるのは、臆病な腰抜け神姫と要領のいいベテラン神姫だけってところだ!!」 コルコット「なんやと!!」 ミーヤ「うるさいな」 アティス「喧嘩するな!!まずはあの戦艦型神姫をどうするか考えないと・・・」 エーベル「誰か指揮を取ってくれ!Sクラスのベテランがいいな」 ヴァリア「俺はいやだよ」 オードリ「私もいやですよ」 ミシェル「・・・・私が取ろうか?」 アティス「頼む」 エーベル「決まりだな」 アオイ「ベテランのAクラス以上の神姫だけで、一斉攻撃だ」 エーベル「うん?」 アオイが砂地に簡単な絵を描く アオイ「いいか、ここが俺たちがこそこそ、隠れている岩だ、この岩の20メートル先に戦艦型神姫が構えている」 ミシェル「戦艦型神姫は被弾していて動けない。だが、奴の砲座とレーダーもろもろはばっちり生きている」 アティス「動けなくなっただけで、戦闘能力は下がってへんな」 オードリ「・・・・接近して攻撃が一番、有効ですが、あの強烈な主砲と対空砲とミサイルをなんとかしないと・・・」 ヴァリア「せやけど、敵は優秀なレーダーとマスターの指揮管制で撃ってくる。レーダーをなんとかしなと・・・どうにもならないぞ」 アオイ「奴のレーダーを30秒だけ妨害できる手があるんだけど?」 エーベル「?なんだ?ECMか?」 ルナ「そんな高級な電子装備持っている神姫おるかいな」 アオイ「古い100年も前の手だが・・・これだ」 アオイは岩の影にあるゴミ袋に煙草のアルミホイルの包装を指差す。 エーベル「アルミホイル?ああ・・・そういうことか」 エーベルはにやりと笑う。 アティスも気が付く。 アティス「クレイジー!!正気じゃないわー」 オードリ「アルミホイル?なんに使うのですか?」 アオイ「こうつかうんだよ!!」 アオイはばっと岩陰から踊り出ると、煙草のアルミホイルの包装を掴んで、スーザンに向かって飛んだ。 スーザン「!!!敵神姫接近!!」 西野「ええい、しつこい連中だ!!まだ攻撃してくるか!!」 岩陰から数十体の武装神姫がどっと飛び出してくる。 ミシェル「突撃!!突っ込むんだ!!」 アティス「ええい、ままよ!!」 オードリ「やああああああああ!!」 西野「撃て!!叩き潰せ!!スーザン!!」 スーザン「了解!!」 スーザンはレーダー照準でアオイたちに合わせるが・・・ アオイはリアパーツのプロペラにアルミホイルの包装を投げつけた。 高速回転するプロペラによってアルミホイルの包装がコマ斬れになって、空に舞う。 ビーーーーーーー!!! スーザンの射撃レーダーが無数に飛び散ったアルミホイルの包装に反応し、真っ白に堕ちる。 スーザン「うわああ!!!な、なんだこりゃあ!!!レーダーロスト!!目標をロックできない!!」 西野「しまった!!チャフだ!!アルミ箔を散布してレーダーを撹乱しやがったな!!」 バンっと筐体を叩く西野。 ラジオにアルミホイルをまくと聞こえなくなる原理をご存知だろうか? 電波は電場(空間に電気の力がおよんでいる状態)と磁場が変動しながら空間を伝わっていく波。金属は電場で揺り動かされやすい状態の電子を多数含んでいて,金属にあたった電波の電場変動はこの電子を揺さぶることに消費される。電波はラジオのアンテナまで「電波」として届かなくなる。 一般に「チャフ」と呼ばれるシステムは、電波は金属によって反射されてしまう原理であり。 電波誘導装置のジャミングに使われるのもアルミ箔を細かく刻んだもの。 アオイは煙草の内装のアルミホイルを利用して即席のチャフ、ウインドウを作ったのだ。 遠距離からレーダーを使って射撃を行うスーザンは、アルミ箔の妨害によって正確な位置と砲撃がまったくできなくなっていた。 西野「ええい!!ソナーだ!!音響探知!!それで割り出して攻撃し・・・」 ミシェルが蝶型神姫のパンナを肩を叩く。 ミシェル「パンナ!!歌って!!!」 パンナをすうーーと息を深く吸うとマイクの出力を大音量に上げて歌った。 パンナ「私の歌を聞けェ♪」 パンナの歌声は、スーザンのソナー探知を狂わせる。 スーザン「!???!?!?!」 西野「どうしたスーザン!!」 スーザン「う・・・歌が・・・聞こえる・・・」 アオイとエーベルが低空飛行で急接近する。 それに続くオードリとミシェル、アティス、アキミス、ルナ 後方ではヴァリアが拳銃を片手に支援射撃を加える。 ヴァリア「撃て!!支援するんだ!!」 コルコット「了解ッー」 ミーヤ「撃破された神姫の武装を使うとは考えましたね」 キャナ「ごちゃごちゃ言わずに撃つ!!」 ヴァリアたちは周りで撃破された神姫の残骸から使えそうな武装を拝借してバカスカ撃ちまくる。 スーザン「ダメだァ!!!レーダー、センサー共にジャミングされて使えねえ!!!」 西野はダンと筐体を叩く。 西野「ならば、光学目測射撃だ、レーザー照準で攻撃しろ!!三角法射撃用意!!あの岩とあの松の木、それから大阪城の天守閣を目標にして三角法にて側距、敵機の位置を割り出して砲撃しろ!」 スーザン「クソッタレ!!アナログかよ・・・」 キューーインンイン・・・シャカシャカ・・・ 演算処理を0.5秒で済ませるスーザン。 スーザンは目を蒼く光らせて、じっと攻撃してくる神姫たちを見つめ、砲撃の準備をする。 ときたま、近くにヴァリアたちが放った砲弾が着弾し爆風と破片が降ってくるが気にしない。 西野「弾着観測は俺がする!!戦闘砲撃用意右80度交互撃ち方、初限入力2335砲撃開始、方向測定はじめ」 スーザン「右ヨシ左ヨシ、敵機距離23160・・・」 西野がマイクを掴んで叫ぶ 西野「撃ち方はじめッ!!!!!!」 ズドンズドンズドンズドンズドンズドンッズドンズッドオン!! To be continued・・・・・・・・ 前に戻る>・第8話 「爆兎」 次に進む>・第10話 「射兎」 トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2006.html
第三話 「バトルフィールド・砂漠地帯。おーなーノミナサマハ神姫ヲすたんばいシテクダサイ」 ジャッジAIが無機質な声で会場の準備が整ったことを伝える。 神姫同士の戦い、すなわちバトルロンドは大きく分けてバーチャルバトルとリアルバトルの二種類がある。 バーチャルバトルは文字通り「仮想現実空間でのバトル」で、常に最高の状態で戦えるのが特徴だ。 何より神姫が壊れることもない。ただし、バトル中に味わった恐怖をトラウマとしてそのまま引きずることもあるので一概に安全とは言えないが、これの普及も武装神姫がここまで流行った理由の一つである。 逆にリアルバトルではふつうに実弾が飛び交い、神姫も実際に損傷する。 しかし、こっちはこっちでバーチャルにはないスリルが楽しめる。 さらに、バトルの公正さを保つために個々の神姫にはランクというものが与えられている。 これは一定のポイントをためるとランクが上がるというモノで、勝てば成績に応じてポイントが与えられ、負ければその分相手に奪われる。さらに、格上の相手に勝てばたくさんポイントがもらえ、逆に格下に負けてしまった場合、最悪降格もあり得る。早い話が弱肉強食だ。 全部で五段階あり、上からプラチナ>ゴールド>シルバー>カッパー>ブロンズの順に低くなっていき、上に行けば行くほどリアルバトルが数を増してくる。 ちなみに優一のアカツキはシルバーランクの中堅どころをキープしている。 そしてスペックが異常な違法パーツや反則行為は厳しく規制するレギュレーションもそれに一役買っている。 しかし、中にはルールギリギリのヒールファイターもいるものである。 「アカツキ、危なくなったらギブアップもして良いぞ」 「「最後まで諦めるな」って教えたのはマスターでしょう?絶対勝ってきますよ」 「そう来なくっちゃな。それでこそ俺の神姫だ」 クレイドルのハッチが閉じられ、ロードが始まる。その間に優一は可能な限り情報を集めにかかった。 「障害物と呼べるのは岩場とサボテンくらい・・・、サバが地面に刺さっているのはギャグとして受け取っておこう。 とれるレンジは自ずと離れざるを得ないからアカツキにとっては有利だな」 そうこうしているうちに互いの神姫がバーチャル空間に転送されてきた。 アカツキはアーンヴァルのデフォルトである白い翼のようなフライトユニット・リアウィングAAU7を背中に、 左腕にはガードシールド、頭にはヘッドセンサー・アネーロ改を装備している。 これは天使コマンド型・ウェルクストラのデータをフィートバックした最新鋭モデルだ。 いや、アカツキ自身もアーンヴァルの上位機種である「アーンヴァルトランシェ2」と呼ばれるモデルだ。 当然性能も並のアーンヴァルのより少しは上である。 武装は右手に標準的なアサルトライフルを持ち、M4ライトセーバーを両腰のホルスターに収めている。 予備の武装であるLC3レーザーライフルと2種類のカロッテ、蓬莱壱式を改造したロケットランチャーとMVランスは まとめてサイドボードに格納されている。 対するジャンヌは漆黒の鎧に身を包んでいるが、装備している武器は火器ばかりだ。 あれでは完全にサイフォスの特徴を完全に殺してしまっている。 自分ならバランスのとれたヴァッフェバニーのバックパックにランスと二本の剣に加えて補助でサブマシンガンか、ハンドガンを1,2丁持たせる。 「バトルロンド、セットアップ。レディ・・・ゴー!!」 「さあジャンヌ、あの天使型の子を血祭りにあげておやり!!」 「イエス・マスター!」 試合開始のブザーが鳴ったと同時にジャンヌが全身の砲を一斉にぶっ放してきた。 「あの神姫、スポーツマンシップってモノが無いんですか?」 「神姫に罪は無い。それと避けないと木っ端微塵だぞ!」 「わかってますよもう!」 アカツキはアウターバーナーを噴かして急上昇し、辛うじて回避する。こうなると戦術は一つ。 「アカツキ、回避に専念しろ。レーザーライフルを使う」 「いきなりそれですか。」 「相手のウィークポイントに一撃当てたら接近戦だ。とはいえ、相手はサイフォスだから簡単には行かないかな」 「簡単に進むことほどショボイことはありませんて。」 「よく言った!」 優一はサイドボードの武装とメインボードの武装の入れ替えの準備を始めた。アカツキの右手にあったアサルトライフルがポリゴンの塊となって消滅し、代わりにアカツキの身長ほどはあろうかというLC3レーザーライフルが転送された。 「そんなモノ、出してきたところでムダですわ!ジャンヌ!!」 「イエス・マスター!」 ジャンヌは再び全身の火器を撃ってくる。今度は一撃必殺を狙った収束ではなく、けん制目的の拡散発射だ。 しかし、アカツキはこれらを紙一重でかわして行く。 「エネルギー充電完了、システムオールグリーン、ターゲットロックオン!いっけえええぇぇぇぇぇ!!」 腰だめに構えたレーザーライフルの砲口からプラズマ球が発生し、一拍おいて閃光が迸る。 それは真っ直ぐジャンヌへと向かい、彼女の体を包み込んでゆく。 そして照射が終わった頃にはジャンヌがいた場所は巨大なクレーターができあがっていた。 「やった?撃った?勝った?」 「お前はシーザーか。・・・?!いかん!!まだだ!!」 「え・・・きゃあ!!」 勝利を確信しかけたその次の瞬間、グレネードの一撃がリアウィングに着弾し、根元から折れてしまった。 その結果、揚力を失ったアカツキは落下するも、脚部のブースターを使って辛うじて着陸する。 「装備を・・・。マスターから授かった私の装備を・・・、許しませんわ!!」 「ぐふぅ!!」 ジャンヌのボディーブローが脇腹にクリーンヒットし、思わず膝を着くアカツキ。 そこへさらに彼女の顔に蹴りが入り、地面へと倒れ込んでしまう。 「誇り高き鶴畑の神姫たるこの私の装備だけでなく、あまつさえ五体の一つを奪うなど、 身の程知らずも甚だしい!その行為、万死に値しますわ!!」 そう言うとジャンヌはさっきのお返しだと言わんばかりにアカツキを足蹴にし始めた。 火器に誘爆したのか、確かに装甲や火器ははほとんど残っておらず、左前腕が無くなっている。 「そうよジャンヌ、この鶴畑和美に逆らった愚か者はどうなるか、観客に教えて差し上げなさい!」 「イエス・マスター!!」 「うっ、あぐっ、くはぁ!」 和美の指示を受けたジャンヌはアカツキをより一層痛めつける。 しかし、残された力を振り絞ってアカツキはジャンヌの脚をつかんだ。 「まだ抵抗する力が残っていましたの?ジャンヌ、トドメを」 「イエス・マスター!」 「まだ、終わっちゃいない!!」 一本残されたナイフをのど元に突き立てようとしたジャンヌめがけてバイザーに隠されたバルカン砲を放った。 人間で言えば豆鉄砲に当たるので、ダメージには至らないが、怯ませるのには十分だった。 「マスター、今です!MVランスを!!」 「いよっしゃ、受け取れ!!」 アカツキはリアウィングをパージし、転送されてきたMVランスを受け取ると、 少し距離を空けてからジャンヌめがけて突撃した。 「いっけえええええぇぇぇぇ!!」 「悪あがきですわね。ジャンヌ!!」 「イエス・マスター!!!」 ジャンヌも転送されてきたトライデントを手に取ると、アカツキに正面からぶつかっていった。 お互いの位置が入れ替わった。 アカツキは右腕を喪失したが、かわりにジャンヌの胸には深々とMVランスが突き刺さっていた。 「ばとるおーばー。Winner、アカツキ」 「マスター!私、勝ちましたよ!!」 「よくやったなぁアカツキ!!さすがだ!!」 クレイドルから出てきたアカツキは感極まって優一に飛びついた。 ところが、反対側から怒声が聞こえてきた。 「全く!!後一歩だったと言うのに、なんたる失態ですの!!ジャンヌ、それとそこのあなた!!今日の所は許してあげますが、次はこうも行きませんわよ!!!」 そう言うと和美は床を打ち鳴らさんばかりにがに股でその場を後にした。 「何ででしょう、一種の哀れみの感情が・・・」 「まあ、良い薬になっただろう。勝負の世界は勝ち続けるよりもある程度は負けを重ねた方が経験になるからな。それはそうとお疲れさんアカツキ。ちょうど昼時だし、うちに帰って焼きそばでも食うか」 「はい、それじゃあ具は豚コマとニンジンにタマネギ、味付けはソースも良いですけど、偶には酢醤油も悪くないですね」 「酢醤油とは・・・、意外と通だな」 「そんなこと無いですよもう!」 二人の絆は家族とも友人とも、恋人のそれともまた違ったモノがあった。 ~The END~ とっぷに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2746.html
ざわざわ、ざわざわと、たくさんの音が交じり合った、その空間は異様だった。 あるところでは勝利の雄たけび、あるところでは敗者の怨嗟。 またあるところでは黄色い賞賛、またまたあるところでは、シリアスな議論。 合間に轟くは、火薬のはぜる音、鋼のうなる音、怒号、悲鳴。 ここは神姫センター。人の欲望渦巻く魔城……。 「マスター、ワケのわからないナレーションをいれて面白い?」 カバンから突っ込むは、凛とした声。私の神姫のタマさんである。 「ああんもう、なんかこうソレっぽいの入れたらそれっぽくなるかなーって」 なるわけないじゃないか、キミは本当にバカだな!などと再び言葉のカッターをいただく私。 タマはん、ホンマに容赦ないお方やでぇ……。 そんなわけで、私とタマさんは、通学途中の駅にあるセンターに来ている。 規模と人の入りは、平日とはいえ少なくはない、駅そのものが、別の路線への連絡駅になってるせいか、安定した集客があるらしい。 かくいう私もこの駅から別の路線に乗り換えて帰宅、あるいは通学するので、良く利用させてもらっている、ありがたや。 「それはともかく、学校帰りに一人で神姫センターって、女子高生的にはどうなんでしょうね」 「ゲーセン入り浸るよりかは多少マシなんじゃないか、タバコ臭くないし」 近場にあるゲーセンはタバコくさくていけない。この時勢、全面喫煙可ってなかなかないんじゃないかしらん。 さておき、何も漫才をしに、私たちはここにきたわけじゃない。いや、漫才は毎日してるけど。 「で、マスター、今日は何しにきたんだ」 「タマさんや。今日は新作の服があるらしいのでちょっとタマさんのファッションレパートリーを増やしに」 つまり、服を買いに来ただけなのだった。 ところ変わって、神姫用の服飾売り場。 タマさんは肩の上から服を眺める。 今回の新作は、アシンメトリーと銘打たれた逸品。 左右非対称の、斜めにカットされたスカートが特徴のドレス。 赤い生地に、黒のレースはちょっとアダルティな空気をかもし出す。 「いかがですかタマ先生。私的にはいい線いってるとおもうのですが、先生には」 コレを着たタマさんを思うかべる。おお、アダルティ、大人の女! 一方タマさん、ドレスへ視線を。お、ちょっと食いついたご様子。 「……ま、アリ、じゃないかな。キライじゃないよ」 むむ、先生的には50点より上に入った程度か、さすが、お眼鏡にかなうものはなかなかありませんのぅ。 しかし、スルーするのももったいないので、私はコレをお買い上げした。うふふ、財布が軽くなるわぁ……。 「いやぁ、センターいいなぁ、ゲーセンじゃ武装の類はあってもこういう物は置いてないからねー」 ほくほくと小さな紙袋をカバンにつっこみつつ。懐の氷河期?知らねぇなぁ! 「あれはあれでキライじゃないけどね、私は。闘いの雰囲気は、好きだよ」 ううむ、タマさんはバトルスキーであるからな。武装神姫としては正しいメンタリティなのかもしれませんが。 ちょっと、タマさんに視線を落としてみる。ちらっ、ちらっ、と私を見る私の神姫。 「……じゃー、闘いの雰囲気もちょっと感じに行きますか?」 なんとなくを装ってささやいてみる。 「……マスターがそういうのであれば、やぶさかではないな。時間もないしいこうじゃないか」 いやぁわかりやすい。 そして、バトルブース。 とはいっても、そんな長いこと歩く距離でもなく、あっという間にご到着。 おーおー、賑わってる。わいのわいのと会話と、バトルのSEが飛び交う。 スクリーンに映ってるのは、アークとアルトレーネの闘い。 足に取り付けられたホイールを生かし、機敏に動き回るアーク。手には黒い無骨なアサルトライフル。 各所のコンデンサから得られる電力を生かして、低空から攻めるアルトレーネ。こちらは細身の片手剣。 武器こそ違うものの、他はすべて、初期から付属しているパーツのみ。ほぼ初期装備で立ち回るそのさまは、なんとなく美しい。 いいなー、こういうのあこがれちゃうなー。などと、私の感想。うん、時々、男に生まれればよかったなぁ、と思わなくもない。 あ、アルトレーネが勝った。決め手は近接戦闘の読み合い。 「……あの子と、戦りあって、みたいな」 ぽそりと聞こえた、静かだけど、感情のこもった声。ほんとにバトルスキーなんだから。 んじゃぁ、いっちょ準備しようかしらん。と、カバンから、紫色の布に包まれた、細長い何かをタマさんに。 「……もってきてたんだ」 「そりゃこういうところ来るんなら、タマさんは絶対1回は戦いたいなぁと思うところであるし、もってないとねぇ」 いまいち日本語になりきれない返事をしながら、私はよいしょ、とブース内の対戦スペースへ。 「あー、指名バトルだと時間と、向こうさんの名前わからないからランダムになっちゃうけどいいかなー?」 スクリーンに、神姫の名前とオーナー名も出てたはずなんだけど、私の記憶力は鶏なみなのだ!フハハハハハ! 「……まぁ、それくらいはしょうがないか。とり頭なのは今に始まったことじゃない」 ……神姫に言われるのはクるわー。超クるわー。 空は、焼けた赤い色と、日が落ちた藍色の境界ができている。 雲の作る影と、赤い輝く太陽。ひどくキレイな光景。 空気は湿気と熱気を含んで、あまり心地いいものじゃないけど、この空を見てると、なんとなくラクになる気分。 「夕方の空が綺麗やねぇ……」 ああ、なんか清々しくすらなってきた、さぁ帰ろう。ごはんも準備しなきゃいけないし! 「……負けてここまで清々しいオーナーも珍しい気がするね。私も大概だけど」 ええ、負けました。先ほどから始めたバトルは、私たちの負けでございました。 何せ、装備は刀一本で、後は服のみ。相手からすりゃもう、ナメてんのかてめぇといわんばかりの有様。 いや、そこそこいいとこまでいったんだけどね? 「まま、そういわないで。縛りプレイで負けはよくあることさぁ。タマさんのがんばりはけなす気ないし」 刀一本でどこまで戦えるのか。そんな縛りプレイというか、ルールというか、そういうものを定めている私たち。 勝率は高くない。そりゃそうだ、空は飛べない、走れはするけど、推進装置を積んだ神姫ほど早く動けない。 身体には衣服ひとつ、あたれば致命傷。武器は刀だけ、遠距離でガン攻めされたら完封。 うん、完璧だ、勝てねーな! 「ま、私もまだまだというところだね、飛び道具ごときでこのていたらく。精進が足りないな」 ふん、と鼻息ひとつのタマさん。あなた、時々ストラーフなのが間違いな気がしますよ。紅緒さんの生まれ変わりじゃありませんこと? おかげで向上心と努力はすごいんだけど。ちなみに、この縛りを決めたのはタマさん本人です。パネェ。 「んじゃー帰ろうか。今夜は餃子にするぜー、包んじゃうぜー」 「じゃあ私はキャベツ刻みでも手伝おうか。刀の修練にちょうどいいし」 「……よ、よろこんでいいのカナ?」 帰宅後、キャベツを前にするタマさんは、ひどくシュールな図であったと、こっそり付け加えておこう。 タイトルへ 次のぐだり
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2515.html
姫は魔女のキスで目を覚ます 最後の記憶は薄暗く、騒がしいまでに不快な音だけが鮮明だった。 体の電池残量は限界を迎え視界を警告が埋めアラートが悲鳴を上げていた。 何故こんな目にあったのかは、今となってはさしたる問題ではない。 廃棄られたその時、神姫にとっての過去は総てが無意味と帰す。 それが玩具としてこの身が生まれた時から決められた運命。 最後に祈るのは、せめて生まれ変わる事が可能ならば…人間になりたいとも思わない。 せめて、意味のある思い出を… ふたりは数学教師のはげに終わったと告げると、そのまま颯爽と神姫部の部室の戸を開けた。 「あ、マスター!おかえりなさい!」 明るい声が聞こえる、主人の帰りを今か今かと待ち望んでいたのか声の主は机の上で神姫サイズのモップを片手に 主人にその存在を主張するよう懸命に両手を振っている。 声の正体は蘆田の神姫の一人、犬型ハウリンタイプのフィラカスである。 ぷっ、と言う音に反応して蘆田がそちらを向くと鼻血を吹いた神奈がティッシュを求めてふらふらとしている。 「ふぐぅ、やっぱりケモテック社総帥自らデザインしたシリーズは破壊力高いわぁ…」 「「黙れ変態」」 「あぁん、ひどぅい」 二人して罵倒され神奈は一歩たじろいでしまう。 しかし本当に引きたいのは紛れもないこの二人であろう事は言うまでもない。 「フォーマットは完了済み…まぁ有り難くはあるけども、随分と念入りなことねぇ」 再起動の為に起動コードを入力し、神姫のメモリー容量を確認する。 しかしその中身はほとんど白紙で、恐らくは前の主人が棄てる前に後ぐされが無いようメモリーをフォーマットしたであろうことが容易に解った。 神姫のCSCは主人との繋がりを感情回路に大きく影響させる構造になっているらしい、もしかしたら誰かに拾ってもらえる可能性を考えてあんな所に棄てたのかもしれない。 少なくとも仮に神姫が不要になった、あるいはやむをえない事情があって神姫を手放さなければならない場合であればジャンクショップに売るだけで公式的にフォーマットは可能だし確実に神姫との別れが可能である。 しかしそれをしないであえて捨てるという選択肢を選んだと言う事は、余程やむをえない事情があったのか、あるいはこの神姫を主人が憎んでいたのか… 「それにしても気分のいい話じゃないな」 「…まぁ、おかげで助かったわ」 神奈はにやけてキーボードに手を滑らせると、基本設定が凄まじい速さで組み込まれていく。 流石に戸三神姫部の技術屋をやっている訳ではないと言うことだろうか。 神奈の好みに合わせて変わって行く各種パロメータ―を見て蘆田も口を挟む。 「ん?この素体は見た所アークタイプのようだが、この設定だと高機動型のイ―ダの方が合ってないか?」 「ちょっとやって見たい事があってね…汎用性が高いに越した事は無いのよ」 CSCのセッティングを終えて、胸部パーツをつけ直す。 するとガチンと大きさの割に重い音が鳴り、人の鼓動のようにビクリと神姫の躯が震える。 鋭い眼光を宿した目が開き、神奈をオーナーと認識して口を開く。 「オーメストラーダ製、HST型神姫アーク…起動します オーナーの事はなんとお呼びすればよろしいでしょうか…?」 「おぉ、なんとか動いたみたいだな」 フィラカスとはまた違う意味で、耳に心地いい歌うような声でオーナー登録を行おうと質問をする神姫に、神奈は答える。 「私の名前は神奈 流、呼び方はそうね…どういう呼び方があるのかしらん?」 「マスター・アニキ・アネキ の三種です」 あらあら、と頬に手を添え神奈は決める。 「兄貴と呼ばれるのもどうかと思うし、マスターと呼ぶのも何か面白みがないわねぇ…じゃあ、アネキで♪」 「了解しました…最後に、私の名前を登録してください。」 会話の中で徐々にインプリンティングして行くのだろう、無機質だった神姫の瞳に光が宿って行く。 神奈は神姫の頭を指で撫でながら、最後の質問に答えた。 「名前は最初から考えているわ、キサヤ…貴女の名前は今日からキサヤよ」 「キサヤ…うん、良い名前だ…ありがとう」 此処まで来るとマニュアルによる機械的な口調ではなく、アーク型特有の個性(キャラクター)の口調になっていた。 キサヤと名付けられた神姫は神奈に手を伸ばし、神奈はその手に添えるように小指を立ててキサヤの手に触れさせる。 「よろしくな、アネキ!」 「よろしくね、キサヤ♪」 二人で呼びあい、CSCに刻まれた絆を確認する…そして今ここに、新しい神姫が誕生したのである。 「ふ…ふふふ… フゥ―ハハハハハ!!!!」 「「「!!??」」」 突然高笑いを始めた神奈にその場に居た明日とキサヤ、さらに台所でえっちらおっちらとコーヒー牛乳を混ぜていたフィラカスはビクッとそちらを振りかえる。 この女は一昔前のムァッドサィエンティストの血でも引いているかと見紛うばかりの見事な高笑いである。 「良い、好いわ、実にイイ!!! アークはスケバン系の性格と聞いていたけど、更に妹分キャラまでつくなんて!! しかも姉妹か義理の姉妹か微妙に解らないくらいがもどかしい、あぁなんて素晴らしいのオーメストラーダ!!」 自分の世界に浸りながらアーク型への萌え的な賛辞を重ねる神奈を先ほどとは全く違う汚物を見るような目で見つつ、滝のように汗を流しながらキサヤは蘆田に問う。 「な、なぁ…ひょっとしてあたし、とんでもないマスターに当たっちまったのかい?」 「あぁ、あれは少し不良で百合趣味でオタクで腐女子で性格螺旋くれまくってるくらいなだけだ、俺はすぐに慣れた」 蘆田の説明を聞きキサヤはますます顔を青く染めていく。 「これ、絶対にはずれマスターだああぁぁあああ!!!」 部室にキサヤの絶叫がこだました。 「さてー、初戦に丁度いい相手はいるかしらねぇ~♪」 早速と言わんばかりに神奈達はキサヤを連れてゲームセンターへと赴いていた。 ゲームセンターには神姫バトルの為の筺体がほぼ標準的に設置されており、いつでも気軽に神姫バトルを楽しむ事ができるようになっている。 神姫を戦う武装神姫として育てるなら、まずゲームセンターで戦って神姫ポイント―ここでは神姫と神姫関連商品に飲みオーナーが使うことのできる電子マネーの事― を溜めるのが一般的である。 しかし… 「ねぇアネキ、もうちょっとまともな装備ないの?」 キサヤが装備しているのは簡易的なローラーシューズとナイフ、そしてハンドガンのみである。 確かにそれは起動したてでも文句を言うには十分な有様であった。 「まぁうちの部はそれ程無駄遣いできる訳じゃないからねぇ、それに今は勝とうが負けようが貴女の体の具合を調べないといけないからねぇ♪」 「カスタムパーツの製作には実費を大いに消費するからな、一昔前までは違法だったがパーツのカスタムくらいまでならOKになった現在だからこそ このバトルは必要なのさ。」 神奈の言い方に一々背筋を這う不気味な淫靡さを感じつつ、蘆田の解説に相槌を打つキサヤだが これがキサヤの人生初のバトルである。キサヤが武装神姫である以上、初めてのバトルに対する期待感は決して無視できるものではなく 結果、今は仕方なく神奈にしたがう事にした。 「がまんがまん…もし碌でも無かったら、あのもう一人のオーナーに乗り換えてやるかんな」 「ひひひ、まぁ失望させない程度には頑張るわ♪」 「俺としても歓迎したいところだけどな」 キサヤははぁ、とため息をつき…ん?とふと神奈の言動の違和感に気付く。 「なぁアネキ、アネキはオーナーとして指示を飛ばすだけだよな?」 神奈は筺体の座席に座り、キサヤの機体を筺体のリフト上に置く。 「私はライドシステムっての、一度やって見たかったのよ♪」 ゾクっとキサヤは背筋をこわばらせる、キサヤも神姫である以上基礎的情報としてライドシステムの情報もインプットされている 神姫バトルには二つのスタイルが存在している、一つは通常のバトルロンドスタイル、通称指示式。 一つはオーナーの指示に従い神姫が自分の意思で動き戦う形式のバトルスタイルである。 もう一つはオーナーが神姫に憑依(ライドオン)して人機一体となって戦うバトルマスターズスタイル、通称ライド式。 指示式に比べて一度に一体の神姫しか操れないが、その分バトルにマスターの癖が強く反映される、まさに個性が強さとなるスタイルである。 しかし神奈は神姫を見て押し隠す事も無くハァハァと身をよじらせる変態である 正直に言ってそんなマスターに身を預ける事に危機感を感じない神姫は恐らく居ないのではないだろうか、居るとしたら相当に鈍感である。 しかしキサヤは世の中に武装紳士と呼ばれる連中がごろごろいる事を知らない。 「ひゃははははは!!そうそこで股を開くのだ!!」 「ひぐっ…ひっく、もうやだよぉ」 「!!?」「あら世紀末」 突然に聞こえた如何にも世紀末な笑い声に丁度選ぼうとしていたとなりの筺体を見ると、キサヤは顔を赤くして驚愕し、神奈はぷふっと鼻血を吹く前にティッシュを鼻に詰める。 隣の筺体ではカメラを持った男が、何故かあられもない恰好をしているアルトアイネス型の神姫を惜しげもなく撮影していたのである。 「くそぅ、赦してくれミミコ…僕が戦闘前に約束してしまったばっかりにっ」 「うぅ…何でマスターまでガン見なのさぁ」 「約束したのだから仕方ないさなぁ!!さぁ次はもっと恥かしい下からのアングルだ!!」 「さぁさぁもっと誘うように、媚びて媚びて!!」 しかし状況は特に犯罪的ではなかったようだ、バトル前に約束したのであればそれは合法である。―神姫本人の意思はどうとして― しかも何故かいつの間にか神奈も混ざっておりアルトアイネスにポージングの指示を飛ばしている始末である。 そのような―良識人から見て―狂った状況下で、キサヤは流石にオーナーの頭の上に昇り、飛びあがって脳天に強烈なかかと落としを喰らわせた。 ガッ「みぎぃ!!」 「そこのカメラ男!!あたしとバトルしろ!!そんな神姫が泣くようなことを皆の前で平然とやるなんて、オーナーとして恥を知れ!!」 悲鳴をあげてうずくまる自らのマスターをよそにビシッとカメラを持った男を指さしてキサヤは宣戦布告した。 「あ?そっちのオーナーは同志じゃねぇのか?」 「ん~同志ではあるけれどキサヤが言うなら仕方がないわねぇ~ どう?あなたたちがやったのと同じ条件でバトるというのは♪」 神奈もウィンクして相手をバトルに誘う、同じ条件という事は即ち、負けたら神姫に恥かしいポーズをさせて撮影会と言う事である。 「ちょ…!!待ってそう言う意味じゃなくて」 「あら、喧嘩を売るならこっちにもそれなりのリスクが無いとね♪」 うぐ…と押し黙るキサヤ、カメラ男もキサヤの躯をじろじろ見て、思う所あったようだ。 「気に入った!!ならその条件で行こうじゃねぇか!!」 「同意感謝するわ、同志!!♪」 「人間って…人間って……」 バトルをする相手とはいえ、異様な程意気投合しているカメラ男と神奈を見てキサヤは頭を抱える。 そのまま不安げな表情でゴウンゴウンと下がって行くリフトに連れて行かれるキサヤを神奈はいひひと悪戯魔女のように嗤いつつ見送った。 「…っ、たくもう!なんなんだよあのオーナーは!」 下りていくリフトの上でいくつものレーザースキャンを浴びながら、キサヤは準備運動を始める。 初めてのバトルに対する不安を少しでも払拭するためである 只でさえ元々隠しごとやはっきりしない事が大嫌いな性格のアーク型神姫にとって、神奈のような不可思議な人間の有り方は非常に不快なのだろう。 「今は、バトルに集中だ…ッ」 元々アーク型は速さのみを求めて作られた機体である。それは即ち戦車型等と同じように純粋に戦う為に生れて来た神姫と言う事である。 ―というより、殆どの神姫はそう言った戦う為に作られた神姫である事が殆どだが― その為神姫はバトルこそが数ある存在理由の一つであり、他者との関わりを最も円滑にするための手段でもある。 「「さぁて、お手並み拝見と行きましょうか…!」」 奇しくもキサヤと神奈、筺体の中と外とで互いに呟くと同時に神奈は専用のヘッドセットを装着し…一言、唱える。 「ライド…オン!!」「っ!?」 すると神奈のヘッドセットの眼前と、キサヤの胸の上にヴォン、と『RIDE ON』というシステムウィンドウが開き キサヤは其処から何かがぶつかり、そのまま突き抜けたような感覚を覚える。 「…ふむ、自分の身体じゃないって言うのは中々不思議な感覚ね」 『これが、ライドオンの感覚…』 ザッ…と対になる方向から筺体の白い地面を踏みしめる音が聞こえる。 「装備から言ってまだペーペーの初心者か…今日は勝ち星頂きだな」 『戦う前からそう言う事を言うものではないでありますよー、それ死亡フラグであります』 うるせぇ、と神姫AIの映るメッセージウィンドウに悪態をつくのはゼルノグラード型の神姫…にライドした相手マスターだろう。 ゴウン、と筺体内部の障害物レーンが上がり、立体映像や特殊微粒子でコーティングされ白い無機質な空間が自然の川辺へと変換されていく。 「漫才は良いけど早く始めないかしらん、私もキサヤを早く知りたいしねぇ♪」 キサヤの体で喋り、相手を挑発する神奈の言動に相手もカチンと来たのか、舞台が完成すると同時に身構える。 「そっちもそっちで余裕こいてると…」 『READY…』 やがてシステムアナウンスが… 「死亡フラグだぜ!!」 『FIGHT!!』 バトルの開始を告げた。 『「!!」』 同時に飛びかかって来た相手のゼルノグラード、その手には柄の長いハンマーが握られている。 当たれば短期決着は間違いないだろう。 しかしキサヤと神奈は地面を蹴り間合いを取って初撃を回避する。 『もう一撃来る!』 「大丈夫、あなたは速いわ♪」 キサヤのアラートを聞き流して今度は相手の懐に飛び込みナイフに手をかけ、そしてキサヤがボディに伝えるサポートモーションに従いヒュン、とナイフを×に振りきる。 「っ!!んの!!」 ドッ!!と相手はハンマーを地面にたたきつけて反動で後ろへと跳んだ。 しかしキサヤは攻撃の手を休めない、ハンドガンをとり間合いを無効化すると言わんばかりに発砲しながら接近する。 (こいつ、初心者じゃねぇ!!) 『マスター!!』 ゼルノグラードの警告に動かされるまま相手もライフルを構えるが… 「速さが…」『足りない!!!』 キサヤは既に銃身の間合いの内側に入り込んでいた、脚に装着したローラーブレードはキサヤのスペックを十二分に底上げしていた。 「がっ…!!」 『凄い…でも……?』 称賛は神奈のセッティングに対するものであった、しかし神奈が繰り出す極めて攻撃的かつパターン化された戦法はキサヤ自身も驚愕させていた。 キサヤも神奈は初心者だと思っていた、現に神奈はライドバトルは初めてだったはずなのだ。 しかしキサヤは自らの身を操る事に違和感を感じていた、それは神奈だけではなかったのだ。 神奈が絡めてキサヤが斬る、そして神奈はイメージしている。速く、強い…嘗て何処かで見た動きを真似るように 相手は二人、自分も二人、しかしてその実キサヤの体は三人分のイメージが操っている。 「……こりゃあ好い♪」 『これで止めだ!!』 ガギン!!と一撃、回し蹴りで相手の顎を蹴り飛ばす。 斬り揉みしながら機体は飛んで行き、やがて川の中へ落ちていき、筺体がピリリリリリ!!!!と終了のアラームを鳴らした。 『WINNER、キサヤ&神奈』 「……ふぅっ」 ノイズと共に神奈の意識が元の肉体へと戻り、深呼吸をしながら神奈はヘッドセットを外した。 「参った、完敗だよ…あんた程完璧な武装淑女は初めて見たぜ」 「あなたも立派に武装紳士よ♪」 マスター同士で互いの友情を確かめ合う、それはある意味では健全な交流と言えよう。しかし… 「さて、ゼルノちゃんの恥かしエロス撮影会開始ねぇ♪」 「うおぉ!!恥かしい恰好では飽き足らずエロスとくるか!!やっぱりすげぇぜあんた!!」 「い、いやああぁぁぁ!!」 そう言いつつ何故か機械製品にも安全なグリスローションを手にゼルノグラードへと手を伸ばす神奈の顔に キサヤの見事なとび蹴りがめり込んだ。 戻る トップ 続き
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2749.html
キズナのキセキ ~ エピローグ ~ □ 俺は今日も、ティアを連れて、ゲームセンター「ノーザンクロス」に来ている。 四月を半ばを過ぎた土曜日の午前中。 チームメイトはまだ来ていない。 高校生のメンバーは午前授業の日だし、大城はランキングバトル目当てだから、昼過ぎにならないと来ない。 新年度が始まって間もない頃だ。常連客もまばらで、ゲーセンの中はいつになく平穏だった。 菜々子さんと桐島あおいがバトルした日から、二週間が経つ。 菜々子さんは、いまだに顔を見せていない。 体調が悪いわけではないようだ。彼女の様子は、頼子さんからのメールで知っている。新学期が始まり、忙しくしているのは間違いない。 しかし、以前は忙しくても無理矢理時間を作ってまで顔を見せた彼女だ。あの日以来、ゲームセンターに来ない彼女を心配して、八重樫さんたち高校生メンバーが先日、久住邸を訪ねたらしい。 頼子さんが玄関先に出て言うには、 「もう少し時間がほしい」 とのことだった。 今はまだ心の整理がつかないということだ。 「……早く戻ってきてくれればいいのに」 八重樫さんたちは少し寂しそうにそう言った。 俺も大城も、菜々子さんが帰ってくるのを待っている。 だが、彼女が帰ってこられない原因の一端は、間違いなく俺にあった。 あの日、バトル終了後に警察が踏み込んできた。 その手引きをしたのは俺だった。 警察には離れたところで待機してもらい、バトルが終わってから踏み込む手はずになっていた。 バトルの勝敗に関わらず、『狂乱の聖女』は捕らえられる予定だった。 そこまでのお膳立てをする代わりに、現場でのリアルバトルと多少の無茶は目をつぶってもらえるよう、警視庁の地走刑事とは話を付けていた。 結果、任意同行ではあったが、桐島あおいは警察に連れて行かれた。 すべてが終わった後、そうする必要があったことは説明したが、菜々子さんにしてみれば、俺の裏切りに見えても仕方がない。 俺は言い訳しなかった。菜々子さんの落胆は痛いほど分かったが、慰めの言葉をかけることはできなかった。このときほど、自分の口下手を呪ったことはない。 その日以来、俺は時間を見つけては、できるだけゲームセンターに入り浸るようにしていた。 日々の状況をメールで菜々子さんに知らせる。以前、彼女が俺に、そうしてくれたように。 たまに短い返信が返って来ると、ほっとする。彼女との絆が断たれていないことを実感するのだ。 そして俺は待ち続ける。 彼女が来るのを待っている。 □ 「あっ……マスター……あの方は……」 先に気がついたのは、ティアだった。 俺は顔を上げる。今入ってきた客の姿を確認する。 一瞬、本人かと見間違えそうになる。だが、ティアの言うとおり、俺の待ち人だった。 その客は女性である。 軽やかな春物のワンピースとカーディガンを身まとい、清潔感のある大人の女性、といった佇まい。 帽子をかぶっていないせいもあってか、過去に見た印象をまるで違って見えた。 その女性が俺の視線に気づいたように、顔を上げた。 彼女は迷わずに俺の前までやって来る。 「遠野くん……ちょっと、いいかしら?」 涼やかなその声は、一度ならず聞いている。 俺は応える。 「やっと来てくれましたね……予想より遅くて心配しましたよ」 振り向かずにはいられないほどの美貌が目の前にある。少し緊張しながら、名前を呼んだ。 「……桐島さん」 俺の待ち人……桐島あおいは少し困ったような微笑みを浮かべ、肩をすくめた。 □ やかましいゲームセンターで立ち話も何なので、俺は行きつけのミスタードーナッツに桐島あおいさんを案内することにした。 甘いものは大丈夫かと訊くと、大好き、と笑顔と共に返事が来た。 マグダレーナと一緒だった時とは明らかに雰囲気が違う。不敵な笑みを湛えた、超然とした雰囲気はなく、人好きのする明るい雰囲気に入れ替わっている。こちらが桐島あおい本来の姿なのだろう。 店に着いて、ドーナツを取って席に座る。 店の奥、窓に近い席だ。俺が入り口が見える方に腰掛けると、桐島さんが向かいに座った。 「あの子が……マグダレーナがかばってくれたみたい」 桐島さんがそう話し始めた。 彼女が警察にいたのはバトルの日の夜までで、その後二回ほど警察に出頭して終わりになったという。 厳重注意されただけで、何のお咎めもなかった。 それというのも、マグダレーナのメモリから、桐島あおいに関する一切の情報が出てこなかったからだ。最凶神姫から直接的な手がかりが出てこなかったため、証拠不十分として注意だけで終わったらしい。 もっとも、マグダレーナのメモリから桐島さんの記録が出てきたとしても、大きな罪には問われないだろうとは予想していた。 裏バトルに出入りして、賭博に関わっていたことは事実としても、証人の方も裏バトルの運営者や、裏バトルに参加するマスターや観客だから、桐島さんの証言をすれば、やぶへびになりかねない。 また、警察が今回の件でターゲットにしていたのは桐島さんではなく、マグダレーナだ。彼女はどちらかと言えば、重要参考人だった。 だから、警察が掴んでいる以上の罪には問われないと思っていた。 それにしても、マグダレーナが警察の調査の前に、桐島さんの記録を消したというのは、どのような心境の変化だったのだろうか。 「マグダレーナも……桐島さんとの絆を自覚した、ということでしょうか?」 テーブルに座っているティアが言う。 俺と桐島さんは小さく頭を振った。今となっては想像の域を出ない。真意を知っているのはマグダレーナだけだ。 だが俺も、ティアと同じように……マグダレーナが最後には、人間との絆を信じるに至ったと、思いたい。 「それに、世の中はそれどころじゃないものね」 桐島さんが苦笑しながら言うのに、俺は真顔で頷く。 そう、今、世間はそれどころではない。 マグダレーナの記録から、亀丸重工によるMMSの軍事研究利用が明るみになったのだ。 日本有数の大手企業によるMMS国際憲章違反。丸亀重工には、先日、強制捜査が入る事態にまで発展していた。 この事件は連日報道されている。警察は蜂の巣をつついたような騒ぎになっているはずだ。 先日、バトルの現場を押さえた警察の真の目的がこれである。 亀丸重工よりも先にマグダレーナを確保し、亀丸のMMS不正利用を暴き出す。それは見事に成功した。 また、桐島さんとマグダレーナが救い出して保管していた神姫たちも、彼女たちのアジトだった廃倉庫から発見された。 百体近い神姫の保護は前代未聞だ。しかも、いずれも人間のマスターによって虐げられてきた神姫ばかりである。 警察のMMS犯罪担当は、普段でも全然手が足りていない。そこへこの大規模事件に大量の神姫の保護である。裏バトルの参加容疑者一人にかまってはいられない状況だった。 今の状況を改めて整理してみて、思う。 マグダレーナは、彼女が望んだ方法ではなかったにせよ、結局は彼女自身の復讐を果たしたのではないか。 マグダレーナ自身が犠牲になることをきっかけに、恨みのあった企業にダメージを与え、研究を停止させて仲間を救い、さらに人間たちに虐げられていた神姫たちを数多く救った。 それは紛れもない事実なのだ。 「その後はどうしていたんです?」 「祖父母のところに戻って、いろいろ話したり。祖父母はずっと放任だったのにね……警察に世話になって、病院で検査して……なんてことしてたら、怒られるやら、心配されるやら、泣かれるやら……不思議よね」 桐島さんが、肩をすくめて苦笑する。 それが桐島さんの家族の絆だということなのだろう。血のつながりはそう簡単に断てるものではないのだ。俺はふと、頼子さんと、自分の父親のことを思い浮かべていた。 「それから、心療内科に検査に通ったわ。長い間、マグダレーナの催眠術を受けていたから、念のために」 「結果はどうでした?」 「まあ、深刻な影響は出てないみたい。でも……結局のところ、どこまでが自分の意志で、どこまでがマグダレーナの操作だったのか……いまとなっては、わたしにも分からないの」 桐島さんはうつむき、苦渋の表情を浮かべながら、続けた。 「菜々子には悪いことをしたわ。後悔している。あの子から、ミスティを奪うなんて……どうかしていたと、今になって思う。 でも、あのときの気持ちは……はっきりしないの。マグダレーナの意志なのか、自ら望んだことなのか……今となっては分からない。 もしかしたら、もう後戻りできない自分を止めてもらいたかったのかも知れない」 後戻りできないように未練となる妹分と戦ったと思っていたが、実際には逆だったのか。 二度の敗北を喫してもなお、菜々子さんは立ち上がり、そして勝利した。 かつて桐島さんが語った「理想の神姫マスター」となった菜々子さんが、かつて菜々子さんが「アイスドール」と呼ばれた時の思想を極めた桐島さんを倒した……そして桐島さんは、心のどこかでそうなることを望んでいた……なんとも皮肉な話だ。 そう言えば、桐島さんの暴走を止めたいと願う人が、もう一人いたことを思い出す。 「……姐さんには会いましたか?」 「姐さん……? だれ?」 「M市のゲームセンターで働いてる、バイトの姐さんですよ」 「ああ……」 「あの人も心配していましたよ、桐島さんのことを。一度会って、無事を伝えた方がいいと思います」 「っていうか、あんなとこまで行って、調べたの?」 ちょっと睨みながら、それでも口元には笑みを浮かべて、桐島さんが小さく抗議する。 その表情がどこか菜々子さんを彷彿とさせて、なるほど姉妹なのだなと、妙なところで納得した。 俺はその抗議をどこ吹く風と受け流しながら、コーヒーのカップを口に運ぶ。 よくやるわね、と桐島さんは肩をすくめ、一段落したら姐さんに会いに行くと約束してくれた。 「それで……これから、どうするんです?」 俺の問いに、桐島さんは自嘲するように笑った。 「……もう武装神姫はやめるわ。あの子にも、もう会わない。それがわたしの、せめてもの償いでしょうから……ね。 今日はそれを言いに来たのよ。あの子に……菜々子に会えなければ、もうそれっきりのつもりで……」 「……」 「だから、遠野くん、菜々子に伝えてくれる? もうわたしのことは忘れて、あの子の望む道を行きなさいって……」 「駄目です」 俺は彼女の言葉を即座に否定した。 少し目を見開いて驚いた桐島さんに、俺は真顔で続ける。 「菜々子さんに償うというなら、あなたは武装神姫を続けなくては駄目だ。それが菜々子さんの望む道だ。あなたがここでやめてしまえば、彼女の今までの苦労がすべて無駄になってしまう。それは俺が許さない」 「でも……」 「それに、ルミナスもマグダレーナも……あなたの神姫たちは決してそんなことを望んではいない。新たな神姫を手にして、絆を育む。それこそが、彼女たちが本当に望んだことでしょう」 だからこそ、マグダレーナは自らの記録から桐島さんを抹消し、彼女を守ろうとしたのだ。俺はそう信じている。 桐島さんは、深いため息を一つついた。 「厳しいわね、遠野くんは……そして優しい」 「優しくはないです。……俺の言うことなんて、誰かを追いつめてばかりだ」 俺がもっとうまく話ができたなら、もっとうまく立ち回ることができたなら、誰も傷つけずに解決できたかも知れない。いつも、そう思う。 「それに、俺は菜々子さんのためだけに動いています。彼女のためなら、厳しいことなんていくらでも言いますよ」 「菜々子が好きなのね?」 「……一応、恋人なので。 それに……菜々子さんはかけがえのない恩人です。 俺が絶望しているときに、手を差し伸べてくれたのは、彼女だった。 あなたが、絶望の淵にいた菜々子さんに、手を差し伸べたように」 「……」 「彼女の気持ちはよく分かる……だから、こんなメールも送ります」 俺は桐島さんに携帯端末の画面を向けた。 彼女の眼が大きく見開かれ、顔色を失った。 「このメール……いつの間に打ったの?」 「この店に来る道すがら」 ドーナツ屋に案内しながら、桐島さんに背を向けていた俺は、自分の身体をブラインドにして、素早くメールを打ち、送信していた。 タイトルだけの短いメール。 『いますぐドーナツやにきて』 相手先にはそれだけで用件が伝わると確信している。 桐島さんが驚きのあまり腰を浮かせた。 俺は彼女の肩越し、今し方入ってきた客に視線を向けながら、言う。 「逃げられませんよ?」 息を切らして入ってきたその客は女性。 ショートカットの髪。春物のブラウスに、細いパンツという出で立ち。肩に神姫を乗せている。 どうやらメールを見て、急いで来てくれたらしい。ベストタイミングだ。 俺と視線が合う。 すると、まっすぐにこちらにやってきた。 「貴樹くん……!」 確信は現実になった。 俺は彼女に小さく手を挙げたのみ。もはや何を語ることもない。俺の役目はここで終わりだ。 メールの宛先……久住菜々子さんは、桐島さんの真後ろまで迫っている。 菜々子さんが、ぴたりと歩みを止めた。 「……あおい……おねえさま……?」 おそるおそるその名を口にする。何ともいえない表情が、彼女の複雑な心の内を物語っている。 桐島さんも、負けず劣らず複雑な表情をしていた。驚き、苦渋、そして慈愛。いくつもの感情が彼女の表情を行き過ぎる。 だがそれでも、大きな吐息一つで心を整えたようだ。視線をあげた桐島さんの瞳には、覚悟の色が見て取れた。肩をすくめて薄く笑う。 そして、俺にしか聞こえない声で、言った。 「ありがとう、遠野くん」 俺は小さく頭を横に振った。 桐島さんは立ち上がり、振り向く。 「菜々子……」 菜々子さんは動けずにいる。 一瞬の沈黙。 二人の間に万感の思いがよぎる。 今にも泣き出しそうな、菜々子さんの顔。 ふと、桐島さんが微笑んだ。作り物でない、本当の笑みは、とんでもなく魅力的だった。 そして、今一度、愛しい妹分の名を呼ぶ。 「菜々子……!」 「……お姉さまっ!!」 菜々子さんが、桐島さんの腕の中に飛び込む。しっかり抱き合う。 ようやく菜々子さんは分かったのだ。出会った頃と同じ、本当の桐島あおいが戻ってきたことに。 桐島さんは優しく微笑んでいる。 菜々子さんの閉じた瞳の端に、光るものがにじんでいる。 二人の間に言葉はない。 だが、離れていた二つの螺旋は、ようやくここに同じ方を向いて重なった。 菜々子さんの肩にいた神姫が、こちらのテーブルの上に飛び降りてきた。 「ティア!」 「ミスティ……!」 二人の神姫も、抱き合って再会を喜ぶ。二人の間にあったわだかまりも、もはや遠い。 ミスティは自分のマスターを見上げ、眩しい笑顔になった。ティアも明るく笑っている。 店の中が少しどよめいている。 店員も他の客も、何事かとこちらを見ている。 菜々子さんと桐島さんは抱き合ったままである。 だが、俺は彼女たちに声をかけることはしなかった。 周りの目など気にする必要もない。 なぜなら、二人は様々な困難を乗り越え、二年もの時を越えて、ようやく真の再会を果たしたのだから。 しかし、すべての事情を知る俺が、その様子をじろじろと見ているのは、あまりに無粋というものだろう。 だから俺は、そっと、目を閉じた。 (キズナのキセキ・おわり) Topに戻る>
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2330.html
第1部 戦闘機型MMS「飛鳥」の航跡 第2話 「風兎」 大阪城外堀、水上ステージ 大阪城の外堀の一部をそのまま武装神姫の水上ステージとして、利用したステージで障害物として杭や半壊したボートなどが置かれている。 エーベル「さて、はじめようか・・・ルールはシンプル。俺と戦え」 エーベルは黒い翼をピンと伸ばし、右手にはアルヴォPDW9を装備し、左手は腰に手を当てている。 赤い瞳がじっとアオイを見据える。 アオイ「気が済むまで戦うってことか、まあ分かりやすくていいな、そういうの好きだぜ」 尻尾のエンジンをブウウウンと唸らせる。心なしか悦んでいるかのように軽いリズムを刻む。 立花「アオイ、武装は何を持っていく?」 アオイ「三七式一号二粍機関砲が1門と千鳥雲切、1本」 立花「二粍機関砲!?あれは対重MMS用の機関砲だろ?」 立花は首をひねる。二粍機関砲は強力な機関砲だが、大きく重く取り回しが悪く機動性が高い神姫に命中させることは至難の業だ。flak171.5mm機関砲のほうがアーンヴァルのような機動性の高い神姫に命中させるには相性がいい。 アオイ「そんなこたァいちいち言われんでもわかってるわ!!ここは俺に任せろや!!」 アオイが立花に苛立ち怒鳴る。 立花「へえへえ、釈迦に説法でごぜいましたねェ!!すみやせんでした!!」 立花は苦々しい顔をしてアオイに武装を渡す。 アオイ「ごちゃごちゃうるさいわ!ヴォケ」 エーベル「おーい、まだかー早くしろよ」 アオイ「せかすな、慌てる乞食はもらいが少ないっていうだろ?」 アオイはゆっくり丁寧に武装を確認しながら装着する。 エーベル(こいつ・・・焦らずにしっかりと安全確認しながら武装をつけてる。相当慣れてるな・・・・) エーベルはアオイに一挙一動を注意深く観察する。 戦いは戦う前からすでに始まっている。相手の数少ない言動や行動、クセを読み取り、相手が何を考えてどういう行動を行うのか、事前に予測しながら戦術を考える。 エーベルはカマを賭けた。アオイをわざと挑発することで怒らせて雑に武装をつけるのかと予想していたが、挑発には乗らなかった。 つまり、こいつは武装の大切さ、口は自分と同じく悪いがリアリストだ、落ち着いている。そして気が付いている。 私がカマを賭けたことを・・・・ エーベル「・・・・・・・」 アオイ「悪いな、待たせたな!!考えはまとまったか?」 エーベル「いいや、気にしちゃいない、ある程度な」 油断できない、即効で決めよう、一気にスラスターを吹かして一撃離脱。攻撃がはずれたら急上昇して上を取って太陽を背にして再び一撃離脱。アスカ型は格闘性能に優れる、ドックファイトに持ち込まないほうがよいな、幸い、相手は重い機関砲を背負ってる。こっちの速度にはついてこれないだろう・・・・・・ エーベルの考えがまとまった。 アオイ「さあて、はじめようか」 エーベル「ああ」 ドルンドルンとリアパーツのスラスターを吹かせる。アイドリング、機関が主目的に貢献せず、しかし稼働に即応できる様態を維持しようとする動作。即応できるようにエンジンを温めるエーベル。 ヒュイイイイイインンインインイン、スラスターが風を斬り唸る。 アオイはニタリと笑う。 こいつなにが可笑しいんだ? バトルロンドの画面にテロップが流れる。 □黒天使型MMS「エーベル」 Sクラス VS □戦闘機型MMS 「アオイ」 Aクラス 「ゲットレディ・・・・・」 バトルロンドの筐体のランプが点滅し無機質なマシンヴォイスが叫ぶ 「go! 」 ポオンとランプが光る。 エーベルは獣のように咆哮を上げ、呼応するようにスラスターが真っ赤に燃え上がり爆発的な加速力を生み出し、エーベルは一直線にアオイに向かって突撃する。 エーベル「いやあああああああああおッツ!!!」 両手でしっかりとアルヴォPDW9機関銃を保持し固定すると、アオイに向けて放った。 黄色の曳光弾の光跡がばらっと流れる。 アオイはくんと身体をひねるように大回りで攻撃を回避する。 エーベルはぐんとアオイとそのまますれ違い、そのまま加速を生かして急上昇を行う。 エーベル「よし、このまま太陽を背にして上位を取る!!空戦の基本だ」 一度上を取ってしまえばこちらのもの、相手は重い機関砲をぶら下げている。それに相手は大回りで大げさに回避した。機動性と速度で圧倒してしまえば・・・・ エーベルの目が見開かれる。 エーベル「な・・・」 追い越し、急上昇するエーベルの真横からさっとアオイが踊りだしスラッと左手で千鳥雲切を抜刀し、エーベルに向かって切りかかってきたのである。右手には重い機関砲がさっぱりなくなっている。 そこでエーベルは初めて気が付いた。 エーベル「コイツ!!はじめから二粍機関砲を捨てて身軽になるつもりでッ!?」 アオイ「でやああッ!!!」 すれちがいざまにアオイはエーベルのアルヴォPDW9機関銃を一太刀で真っ二つに切り捨てた。金属音が響き、 バラバラになった機関銃がぼちゃぼちゃと水面に落ちる。 エーベル「っち!!」 エーベルはすかさず、左肩に搭載していたM4ライトセイバーをすばやく抜き取り、アオイの斬撃に対応する。 開始から数秒もたたずにすさまじい攻防が繰り広げられる。 野次馬の神姫やオーナーたちはポカーンと口をあけている。 コウモリ型「おおおーー」 砲台型「すんげえー」 オーナー1「思い切りがいいな、あのアスカ型」 オーナー2「こんな空戦、滅多にお目にかかれないぞ」 ワシ型「エーベル!!押されるな!」 立花はカバンからペットボトルのお茶を取り出しくびっと一口飲むと、て2人の戦いを観戦する。 立花「ふむ、そういうことか、アオイ・・・はなっから機関砲なんて使うつもりはなく、ブラフだったのか、無茶しやがる」 ちょうど、そのとき公衆便所から一人の若い女性が満足そうな顔で手をハンケチで吹きながら出てきた。 斉藤「ふんふふーんふーん♪三日ぶりー三日ぶりぶりーーんと・・・あれ?なんか盛り上がってるわね」 ひょことバトルロンドのステージを覗くと、なにやら見知った顔の神姫・・・というか自分の神姫が戦っている。 斉藤「あれ?エーベル?誰かとバトルしてるのかな?」 エーベルは斉藤の姿をチラッと見つけて、一瞬動きが止まる。 エーベル「マスター!?いまごろノコノコと・・・」 アオイ「余所見してる場合かァ!?甘いぜッ!!!!!!!おらァッ!!」 エーベル「ッツ!!しまっ・・・」 ミス、非常に単純なミスだったが、アオイはそれを見逃さなかった。 そして次の週間、アオイは思いっきり頑丈な着陸脚で、エーベルの柔らかいお腹に突きこむように蹴りを放った。 ズム・・・鈍い音を立ててエーベルの腹に鋭い蹴りがめり込んだ。 エーベル「がはっ・・・」 エーベルの口から雫が飛び散る、アオイは千鳥雲切の柄で続けざまにガツンとエーベルの顔面を殴った。 アオイ「うおおおおおおおおお!!」 バキンとエーベルのバイザーが粉々に砕け散り、エーベルはショックで失神し、そのまま水面にたたきつけられるかのように墜落した。 どぼんっ・・・・ 墜落し戦闘不能となったので、バトルロンドの画面にテロップが流れる。 □黒天使型MMS「エーベル」 Sクラス 撃破 アオイはひゅんと千鳥を振るい、カキンと着陸脚を鳴らす。 アオイ「足癖が悪くてな、スマンな」 斉藤「!?えーエーベル!?な、なにがあったの!?あれ?負けたァ?」 斉藤はイマイチ事態が飲み込めず、持っていたハンケチをぼとりと地面に落としてしまった。 To be continued・・・・・・・・ ・第3話 「牙兎」 トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/334.html
凪さん家の弁慶ちゃん 「義経、準備は良い?」 「…はい、TR-2全システムオールグリーン…いつでもどうぞ」 「おっけ!じゃあいくわよ!皆!」 「「「了解!」」」 凪さん家の弁慶ちゃん/0 「TR-2」 「アーサー、ハンゾー、義経、状況を報告!」 「アーサー異常なし!」 「…ハンゾー、問題ない」 「義経、異常ありません」 「よし、アーサー、ハンゾーはそのまま前進、義経はユニット展開後待機!」 「「「了解」」」 今回もうまくやってみせる。私はそう誓った。 今回は「T3」として私こと義経はこのリアルバトルのチーム戦に参加していた。 しかし今回の戦いでは指揮を担当するマスターは一人という制約が課せられている。 なので通常、早坂未来が私に指示をだすのだが今回は渡瀬美琴がチーム全体の指揮を取っていた。 この大会でアーサーはTR-1という強化ユニットを装備、これは陸戦型アーンヴァル、または量産型ストラーフといった感じの装備で、脚部はアーンヴァル純正装備にストラーフの脚部装備を移植、そしてストラーフのサブアームのマニュピレーターを汎用性の高いものに交換し長さを調節したものだ。 その手には奇跡の剣という名の剣が握られていた。 そしてハンゾーにもこのTR-1ユニットが搭載され、こちらはカロッテTMPを二丁装備している。 そして私はこの二人とは違う装備を身につけていた。 TR-2 これは高威力の超長距離射撃を行う事を目的に、現存する神姫純正武装でアッセンブルされたものだ。 脚部はストラーフの脚部装備をアーンヴァルのブースターなどで固め右腕にはアーンヴァルのLC3レーザーライフルが二門装着されている。 しかし使用するのは一門のみ、あとの一門はレーザーの増幅器として機能する。 背部には吠莱壱式が二門。これは攻撃用ではなく、あくまでも緊急移動用としての装備である。 いちいちブースターを吹かすより実弾兵器の反動の方が始動が早いのではないか…という目的で取り付けられたものだ。 本当にそうなのだろうか? そして各部アタッチメントコネクターにはヴァッフェバニー用の背部タンクやジェネレーターが装備され、そのすべてをレーザーライフルに直結させる事によって限界まで威力を上げている。 はっきりいって神姫用の装備としてはあまりにも特化しすぎており、これで神姫といえるのだろうかという疑問も生まれてくると言うものだ。 しかしこれが後に世に出る姉妹達への開発データになるのならば、甘んじて受けるとしよう。 「義経、TR-2装備完全展開完了」 「よっし!相手方に一発でっかいのをお見舞いしちゃいなさい!」 「了解!エネルギー充填開始…収束率増加、ロックオン完了…発射!」 ヒュオォォォォォォォォォォォォォォォォォォン… 砲身にエネルギーの渦が形成され ビャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!! 空気を切り裂く青白い光が照射された。 その太さは通常のレーザーライフルのものに比べるとはるかに図太く、禍々しい。 その光が敵チームを包み込み一瞬にして行動不能にした。が、何とか逃げ延びた神姫がいたようだ。 「どう?」 「右腕に衝撃による不具合が少々、でも予測範囲内です」 「わかった、次いける?」 「もちろん!」 「よし!じゃあ第二射!てぇー!!」 「了解!」 なんだ、楽勝ではないか。この装備初弾である程度敵チームを壊滅させれば第二射までアーサーとハンゾーが私を護衛してくれれば勝利は間違いない。 または右腕への損傷を最低限にするならばこのまま私は待機して、あとは二人に任せても良い。 「TR-2はほぼ成功ですね」 「ええ、中々良いわ」 「よし、第二射充填完了…いきます!」 ひゅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ… 再びエネルギーの渦が形成される。そして青い光が大地をえぐる… はずだった。 ビビー!!ビビー!!ビビー!! 「!?」 「義経!?」 ライフルの砲身部から異常。あまりのエネルギー量にライフルの許容限界を超えたらしい。 そのエネルギーの一部が逆流して、システムに過大な負荷を与えている。 「く、ライフルへのエネルギーを全カット!砲身切り離し、緊急離脱ブースター展開!」 ライフルからエネルギーの光が漏れる。その光が私を包もうと迫ってくる。 「!く…腕が…!」 「早く離脱しなさい!義経!?」 「そうしたいですが…無理みたいです。腕が挟まって…抜けない…」 崩壊を始めたライフルなどのパーツにより、私の右腕は付け根からがっちりと挟まっていた。 「あぁもう!!諦めるなぁ!!」 「くそ!くそぉ!」 こんなところでスクラップになってたまるか!! 「こうなったら…!!」 私は脚部に装備されていたナイフを手に取り 「うあぁぁぁぁ!!」 自らの右腕に突き刺した。 「っくぅぅぅぅ!」 なんという激痛か…しかし! 「まっけるかぁぁぁぁ!!」 バチィィィ!! 左腕で右腕を抉り、無理やり引き剥がした。 そしてブースターを噴射。瞬間ライフルユニットが爆発。その爆炎が迫り私を完全に包む。衝撃と高温で体が焼かれる。しかし間一髪スクラップは免れたようだ。 赤い光に包まれていた景色がドームの光りに照らされたいつもの景色に戻る。 ブースターはすべて焼ききれたようで噴射できない。 そのまま自由落下により大地に叩きつけられた。 ドッザァァァッァァァ!! 「ぐぅぅぅがはっ!!うが、あぁ…くぅ…」 状況は芳しくないな…右腕破損…頭部に損傷…両脚部損壊…か…まぁAIに以上は無いようだ…。でも戦闘は無理だな…。とりあえず活動限界か…。 『ピピーピピーピピー試合中止、試合中止』 ドーム内に響く音声、私の意識はそこで切れた。 「む…」 充電完了…各部異常なし…生きている…のか 「…つね!よしつ…!!義経!」 「く…未来…?」 私の目の前にはマスター、早坂未来の顔があった。 「起きたぁ!」 「義経!」 「…起きたか」 「…ふむ」 「おぉ!」 「う…う~ん…!?」 「気付いた?その体」 「頭部形状…それに右腕が…これは…」 「アドバンスドユニット」 その声の先には渡瀬美琴。 「?」 「衝撃対策として右腕間接を汎用強化間接ユニット「リボルバージョイント」に換装、そして頭部ユニットを換装して情報収集能力を上げたの。本当はバイザー式にするつもりだったのだけど、損傷がひどかったから丸ごと換装したんだけど…どうかしら?合わなかったら既存パーツに交換するけど」 アドバンスドユニット…体に施されたマーキングライン以外は既存の素体であった私の体が…強化された? 確かに視覚ディスプレイに追加された項目がある…これは今後装備されるTRシリーズのためか…?それに右腕…今回の戦闘での意見がフィールドバックされたのだろうか…。 「合わないかな?」 「いえ、そんな事はありません」 「そう、よかったぁ~」 「それに合わなかったら合わせます。それが私です」 「ふふ、そうね。まぁ今日は一日ゆっくりして慣らしていって」 「はい、分かりました。ありがとう、美琴」 「はいな、んじゃまた明日」 「ええ、また明日」 「有難うございました、先輩!」 未来が美琴達にぺこりとお辞儀した。 そういえばここは…あぁ部室か…。 明日からまたさまざまな装備を試す毎日が始まる。武装…決まった装備が無い私にとっては毎回毎回ワクワクする時だ。 そりゃ今回みたいな危険は常に付きまとう。 しかし誇りに思う。 私に装備された物がブラッシュアップされ、次の世代の神姫の武装になる…。 そんな特別な関係性に…。 渡瀬美琴は既存部品を組み合わせて新たな武装を作り出す優秀な装備開発者だ。 そして神姫開発の上層部に父親がいて、武装神姫の初回モニターでもある未来…。 私に装備されたものは情報として逐一開発部に送信される。 今回のTR-2がどうなるのかは分からないが…。 この時、砲撃用に特化した装備…という部分が後のフォートブラッグへと繋がることは私達はまだ知らない。 知る事になるのはTR-5が開発され、新たな仲間、弁慶が来てからの事である…。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1361.html
雨が降り注ぐ近代都市を、重武装の神姫が滑るように移動していた。 その神姫は背中のブースターを全開にし、その巨躯からは想像もつかないほどの速度でビルの谷間を翔ける。 その姿は・・・神姫と言うよりは・・・・一体の機動兵器の様だった。 「・・・・・・・・目標確認、破壊、する」 機動兵器の彼女は小声でそう呟く。元々声の大きい方ではないからだ。 『うん。なかなか調子がいいじゃないか。ブレードよりもこう言う兵器系に向いてしまったのはなんとも皮肉なもんだが・・・・まぁいいか。それよりもノワール』 「なに」 『今日一日の感想はどうだい?』 「・・・・・それを・・・どうして・・・・聞くの?」 ノワールはそういいながらビルの陰から現れたターゲットを破壊する。 右手のライフルの残弾は・・・・残り僅か。 『どうしても何も、ハウはもう寝てるしサラに聞くわけにもいくまい。私達が見たのは暗闇で何か話していた二人だけだ』 「・・・・・・・・・・・」 彼女の主の言葉を無視しマグチェンジ。 その間も左手に装備したライフルは火を吹き続けている。 『おぉっと。わからないという返答はなしだよ? 具体的な意見を聞くまでは、このトライアルは終わらないし終わってもその武装は使わせてあげませんからね?』 多分、クレイドルで寝ている自分の傍にはニヤニヤ笑った主がいるのだろう。ノワールはそう思った。 意地が悪い。 「・・・・多分・・・二人・・・好き合った・・・・でも・・・・」 ・・・・でも、なんだろう? 何か違うような、そうでないような。そんな感じがする。 『・・・・ふむ。つまり微妙な状態なわけだな』 とうとう右手のライフルの残弾がなくなった。 ノワールはライフルを捨てると、左手のライフルを右手に持ち返る。 そのまま空いた左腕で、近くまで来ていたターゲットを殴った。ターゲットはよろめき、その隙にライフルで止めを刺す。 それと同時にアラームが鳴り響き、ノルマをクリアした事を知らせた。 『ん? 随分と早いな。もう二百体倒したのか。・・・・・AC武装は物凄い相性がいいな。メインこれで行こうか』 「ヤー、マイスター」 * クラブハンド・フォートブラッグ * 第十九話 『出現、白衣のお姉さま』 「ちょっと! 何で起こしてくれなかったのよ!! 遅刻確定じゃない!!」 「そうは言われましても。何度も起こしたのですが・・・・まさかハバネロが効かないくらいに眠りが深いとは」 「どおりで口の中がひりひりするわけね! 毎度の事ながらあんたには手加減って言葉が無いの!?」 「――――――わたしは相手に対し手加減はしない。それが相手に対する礼儀と言うものなのです」 「無駄に格好いい!? あんたいつからそんなハードボイルドになったの!?」 「時の流れは速い・・・というわけでハルナ。わたしと話すより急いだ方がいいのでは?」 「あんたに正論言われるとムカつくのはなぜかしらね・・・・?」 朝、目が覚めたときにはもう八時を過ぎていた。 普段私を起こすのはサラの役目だけどさ。流石にこういうときは起こしに来てよお母さん・・・・・・。 大急ぎで制服に袖を通し、スカートのファスナーを上げる。 筆箱は・・・あぁもう!! 「何か学校行くのがだるくなってきた・・・・休もうかしら」 私がそういうと、サラが驚いた顔で見つめてきた。 え、なに? 「・・・・珍しいですね。普段なら遅刻してでも行ってたのに。と言うか無遅刻無欠席じゃないですか。行ったほうがいいのでは?」 「ん・・・でも何か面倒になっちゃってね。・・・別にいいじゃない。たまには無断欠席も。それに・・・・・」 学校には、八谷がいる。 昨日の今日でどんな顔をしたらいいのか判らない。 お互いにはっきり言葉にしなかったとはいえ・・・・OKしちゃったわけだし。 「うん、決めた。今日はサボる。サボって神姫センター行って遊びましょう!」 「・・・・・まぁ、別にいいですけれども」 そうして辿り着いた神姫センターには、当たり前と言うかなんと言うかあんまり人がいなかった。 まぁ月曜日だし午前中だし。来ているのは自営業さんか私みたいなサボり位だろうけど。 それでも高校生と思しき集団がバトルしてたのは驚いた。まぁ多分同類だと思うけど。 ・・・・でも強いな。あのアイゼンとか言うストラーフ。 砂漠なら・・・勝てる、かも? 「それにしてもなんだか新鮮ですね。人が少ない神姫センターというのも」 「平日はこんなものじゃない? 仕事や学校あるし。・・・・あぁでも最近は神姫預かる仕事も出来たんだっけ」 「そんな職業があるのですか。なんと言うか、実にスキマ産業的な・・・・所でハルナ、わたしは武装コーナーを見たいです」 私はサラの言葉に苦笑しながらも、センターに設けられた一角に向かって歩き出す。 このセンターは武装やら神姫本体やら色々揃ってたりするので結構お気に入りだ。筐体もリアルバトル用とVRバトル用の二種類を完備してるし。 とりあえず売り場についた私はサラを机に乗せ、商品を自由に見せて回る。・・・・買うつもりは無いのよ。 そうこうしているとサラが一挺の拳銃のカタログを持ってきた。 「ハルナ、このハンドガンなんてどうでしょうか」 「・・・いや、そういうの良く判らないんだけど」 「なんと!! ハルナはこの芸術品を知らないと!? このマウザーは世界初にして世界最古のオートマティックハンドガンなのです。マガジンをグリップ内部ではなく機関部の前方に配置しているのが特徴でグリップはその特徴的な形から『箒の柄』の異名で呼ばれています。かつては禿鷹と呼ばれた賞金稼ぎ、リリィ・サルバターナや白い天使と呼ばれたアンリが使用した銃として有名ですね。さらにこの銃、グリップパネル以外にネジを一本も使用しないというパズルのような計算しつくされた構造を持っておりこの無骨な中に存在するたおやかな美しさが今もマニアの心を魅了し続けて ―――――――――――」 「あ、この服可愛いー。でもレディアントはサラに合わないかな」 「ひ、人の話を聞いていないッ!? そして何故ハルナではなくこのわたしがこんなに悔しいのですかっ!?」 ふふん。ささやかな復讐なのよ。 「でもさ、だったらそんなへんてこな銃じゃなくてこっちの馬鹿でかい方が強いんじゃないの?」 「ぬ・・・わたしのツッコミを無視して話の流を戻すとは。いつの間にそんな高等技術を・・・・それはともかく、確かに威力が多きければ強いと言えなくもないですね。でもそのM500は対人・対神姫用としては明らかにオーバーパワーです。リボルバーですから装弾数も期待できませんし」 「ふぅん。数ばらまけないのはきついわね」 威力だけじゃ勝てないってことか。 サラのマニアックな説明はそもそも理解する気が無いけれど、戦闘に関してはさすが武装神姫。私よりも知識が多い。 ・・・うん、この後バトルでもしてみようかしら。 どうせ暇だし、作戦を立てたり実力を図る意味でもバトルはしたいし。 「ねぇサラ。この後さ ――――――」 「ん? こんなところで何をやってるんだお前」 と、サラに話しかけようとしたら逆に後ろから誰かに話かけられた。 振り向くと・・・・そこにはなぜか白衣を着たお姉ちゃんが立っていた。胸ポケットにはノワールちゃんだけが入っている。 「え、何で白衣?」 「第一声がそれかね。これはバイトの仕事着だよ。それよりもお前、何でこんなとこいるんだ? サボりか」 「え、えと・・・・それはですね・・・なんと言うか」 まずいことになった。 そういえばここら辺はお姉ちゃんのテリトリーだったっけ。 ここで見つかってお母さんに告げ口されたら・・・・! 「ん・・・あぁ別に怒ってるわけじゃないんだよ。サボりなら私もよくやったさ。仲のいい三人組で遊びまわったもんだ」 そういってお姉ちゃんは笑った。 よかった。告げ口されたらどうしようかと。 「そっか・・・・そういえばハウちゃんはどうしたの? ノワールちゃんだけだけど」 「アイツは定期健診。今神姫用医務室にいるよ。それよりも、暇だったら一戦やらないか? 今バイトの方も暇だしな」 お姉ちゃんはサラの方をチラリと見ながらそう言った。 サラがどうかしなのだろうか。 「うん、いいよ。それじゃ筐体の方へいこう。・・・サラ、おいで」 「承知です」 断る理由の無い私達はお姉ちゃんの誘いに乗った。 戻る進む