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G・L《Gender Less》、それは失う事、狂う事。では、アイデンティティを失い、それでも尚“生きる”事を選択した神姫には、まだ何か失っていない部分、狂っていない部分があるというのだろうか? 否。それは人間になど推し量れる筈は無い。何故ならば、“アイデンティティを設定された人間など居ない”のだから。 G・L ~Gender Less~ 第1章 狂犬 闇、闇。飛、飛、飛、黒。 冬の夜の住宅街に飛び込む、3つの闇。それは3人の武装神姫。2人のアーンヴァルは装甲を黒く彩り、先頭を行くストラーフも【悪魔の翼】で軽快に飛ぶ。 飛来、飛来飛来、着地。開線。 「・・マスター、目標地点に到達」 一軒家の塀に降り立つ闇。ストラーフが無線を繋ぎながら、暗視スコープで周囲を警戒する。 『よし、周囲に誰もいないな? クロト、ラケ、アトロ、予定通りに1階南側の換気扇から進入しろ。今なら2階にガキが居るだけの筈だ』 「了解。以降無線封鎖します」 『期待しているぞ、お前達』 断線。飛、飛、飛。 「「「マスターの、為に!!」」」 MMSの暗部、その一つが犯罪への転用。未だ表面化していないとは言え、それは確かに増加していた。神姫も例外ではない。その為に法による登録の厳正化、機体リミッター、論理プロテクト等が存在するのだが、禁を破るのが人の世の常、そして完全なるプログラムなど存在しないのもまた、世界の常識。 今、不法侵入を試みる彼女達もその産物。違法改造コードによるプログラム改変、そして、“歪んだ愛”に彩られた武装神姫。主の為にと、彼女達は望んで、その手を罪に染める。 分解、解体。 慣れた手つきで換気扇を分解していくのはストラーフタイプの長女アトロ。残る妹達は周辺警戒をしている・・が、末のクロトは暇そうにあくびまで立てる。 「後少しでファンが外せる。警戒怠るな・・特にクロト」 「だあ~ってヒマなんですもん。マスターも言ったように誰も来る訳無いしぃ、ついでに寒いしぃ。ラケ姉さまもそう思うよね?」 「・・・」 クロトの問いにも、ラケは眉一つ動かさず、只黙々と警戒を続ける。同じアーンヴァルタイプと言えど、CSCによって刻まれた“心”はそれ程にも違う。 「あ~もうラケ姉さまもつまんないぃ~! 早く帰ってマスターと遊びたいぃ~!!」 「クロト! お前のその喧しい声が誰かに聞こえでもすれば忙しくもなろうが、そうすればマスターにお叱りを受ける事、判っているのか?」 「は、はいぃ」 アトロの怒号で、クロトはその小さい体を項垂れる。 分解、解体。 「あ~、少し曇ってるな~。お星様、なんにも見えないや。お月様は今新月だっけ?」 分解、解体。 「そう言えば、コレ上手くいったら、マスター新しいパーツ買ってくれるかな? アタシあのうさみみ付けてみたいぃ~♪」 分解、解体。 「ねえねえラケ姉さま、しりとりしない? じゃあアタシからね。え~っとぉ~、わ・・・」 分解、解体・・・止。 「アトロ、いい加減に!・・・」 轟粉砕。 「わぱひゃ!?」 「・・・わぱ・・?」 「・・・・!!?」 緩、落下、崩。 始め、それはクロトのいたずらと思い、また作業も終わりに差しかかっていたのでアトロは無視しようとしていた。 「・・・!!!」 急降下、抱、受止。 だが、無言のまま血相を変えて降下したラケの姿に、彼女は異変と感じ、彼女達の方を覗き見た。 「・・・! クロ・・ト!?」 「ら、ぁ、あらけ、kkkelaaa・・・」 そこにあったのは次女に抱かれた、グロテスクに破壊された三女の姿。頭部は左半分が潰され抉られもぎ取られ、左の乳房ごと腕はどこかに吹き飛んでいた。当然ウイングも跡形もなく、そして、壊れた言葉も途切れ、彼女は・・・ 崩、壊、停止。 「・・・・っ!」 「クロト!!!」 彼女は死んだ。 「GuaaaaaaaaaaaaaooNn!!!」 轟、咆吼。 「・・何!?」 低く響く獣のような声。何処か歪な音。悲しみも止まぬままに、その咆吼の先を見るアトロ。其処には影。小さい影。塀の上に立つ、自分達と同程度の影。 「!!?」 クロトの亡骸を下ろしたラケも、その物体を望む。 微、明。月光。 雲間からの光が、その物体の姿を明確にする。それは確かにMMS、神姫だ。識別は・・・どうやらハウリンタイプだった。しかし。 「Guuu・・・」 しかしその四肢は見た事もない増加パーツで肥大化し、尾はグロテスクに長く太く、塀の向こう側に垂れ下がっている。そして、顔には、表情も見えぬほどの、分厚い鉄仮面。 「な・・に・・あれ・・・?」 アトロは、か細く、声を漏らす。気丈な彼女が、初めて、少女のように。 目次へ
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概要 神姫ピックアップ 神姫お迎え 武装購入 アップデート履歴 コメント 概要 神姫や武装などを購入する事が出来る機能。 稼動当初はバトル終了後に1体または5体の神姫をお迎え出来るだけだったが、シーズン2となってからは神姫ハウス画面のタッチメニューから行ける様になり、機能自体もかなり向上した。 神姫ピックアップ シーズン2移行後、2023/02/13のアプデで実装された機能。 「神姫実装数に対してあまりにも神姫ショップ内のお迎え確率が渋すぎる」 「偶にピックアップが開催されても期間が短過ぎて実質意味がない」 といった声は稼動当初からSNS上にて度々寄せられていたものだが、おそらくはこれらを受けての実装となる。 対象となる神姫は一度につき3種。一定期間(大体半月程度)で変更される。 ちなみにリストを見れば一目瞭然だが、2023年7月末までは同メーカーあるいは準同型機(リデコやカラバリ)にあたる神姫が続けて登用されやすい傾向にあったが、それらに当てはまらない神姫達のピックアップが同年8月上旬になされて以後、対象神姫はその都度シャッフルされるようになった様子。 + 開催期間と対象神姫はこちら 開催年 開催日程 対象神姫 2023 2/13~2/27 アーンヴァル・アーク・アルトレーネ 2/27~3/13 ストラーフ・イーダ・アルトアイネス 3/13~3/27 ジルダリア・ウェルクストラ・ラプティアス 3/27~4/10 ジュビジー・ヴァローナ・アーティル 4/10~4/24 エウクランテ・フブキ・オールベルン 4/24~5/8 イーアネイラ・ミズキ・ジールベルン 5/8~5/22 ヴァッフェバニー・ムルメルティア・紗羅檀 5/22~6/5 ヴァッフェドルフィン・飛鳥・ベイビーラズ 6/5~6/19 アーンヴァルMk.2・サイフォス・ブライトフェザー 6/19~7/3 ストラーフMk.2・紅緒・ハーモニーグレイス 7/3~7/17 アーンヴァルMk.2テンペスタ・ツガル・ガブリーヌ 7/17~7/31 ストラーフMk.2ラヴィーナ・フォートブラッグ・蓮華 7/31~8/14 エーデルワイス・シュメッターリング・レイシス 8/14~8/28 アルトレーネ・イーアネイラ・ストラーフMk.2 8/28~9/11 アーク・ジルダリア・飛鳥 9/13~9/26 ジュビジー・エウクランテ・紗羅檀 9/26~10/10 ジールベルン・蓮華・ハウリン 10/10~10/24 ガブリーヌ・シュメッターリング・ジルダリアB 10/24~11/7 ストラーフ・ヴァッフェドルフィン・ハーモニーグレイス 11/7~11/21 イーダ・フブキ・マオチャオ 11/21~12/5 紅緒・レイシス・マリーセレス 12/5~12/19 アルトアイネス・ヴァッフェバニー・アーンヴァルMk.2 12/19~ アーンヴァル・ラプティアス・ツガル 2024 ~1/2 1/2~1/16 ムルメルティア・フォートブラッグ・エーデルワイス 1/16~1/30 ヴァローナ・オールベルン・ベイビーラズ 1/30~2/13 ウェルクストラ・アーティル・ブライトフェザー 2/13~2/27 ミズキ・アーンヴァルMk.2テンペスタ・ストラーフMk.2ラヴィーナ 2/27~? (ピックアップなし) なお2024/02末からは実装を外されている状況だが、果たして……? 神姫お迎え 1クレジット1体/5クレジット5体のお迎えとなる点は稼動当初と同じだが、バトル後1回だけ出来た従前と違って何度でも行う事が出来るようになった。 ただし、5体お迎え時にあった好感度アップアイテム(ヂェリカン)ボーナスと、ついでにSSS.てんちゃんの出番はなくなった。 また(おそらくは容量問題対策によるものか)お迎えされた神姫達の身振りもなくなり、ただ棒立ちで台詞を言う(ボイスは残置)のみとなっている。 (↑)その後のアプデによって、シーズン1当時の身振りは無事復活した。 なおUR神姫のみ、お迎え時の演出がより派手になっている。ゲーミングクレイドル 今回からはお迎え時にレアリティ・個体値も判明するようになったが、サイズと6V個体の識別についてはお迎えした神姫を「再読み込み」機能で読み込むか、従前のようにカードコネクトでカード化する必要がある(その前に「カード管理」画面で当該神姫のカード化を選択しておく事)。 そして言うまでもない事だが、ガチャり過ぎには要注意。 武装購入 1クレジット10個、3クレジット30個のどちらかを選べる。 後者の場合、ボーナスとして神姫ハウスにいる神姫の固有武装6個を貰う事が出来るようになった。 従来のジェムバトル時に出現していたコンテナが、シーズン2では出現しなくなった事に対する救済と思われる。 特定神姫の装備を集めたい場合、神姫ハウス内の神姫の種類を統一してガチャればいいという事になる。 従前のようにジェムバトル上のコンテナ争奪戦を経る事がないため確実に入手出来る(ついでに当時より1個増えた)のは大きいが、こちらもガチャり過ぎに要注意。 なお、前述「神姫お迎え」画面から外されたSSS.てんちゃんの姿は、こちらで見る事が出来る。 アップデート履歴 日時:2023.01.24 内容:シーズン2移行に伴い実装 日時:2023.02.13 内容:「神姫ピックアップ」機能実装 コメント 名前 コメント
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剣は紅い花の誇り 用語解説 「槙縞玩具店」 田舎の玩具店 武士達が住んでいる町の中で唯一、武装神姫のバトルが行える店である 店員は本来、皆川と店長の二名、時々店長の娘も手伝っていたらしいが、現在その娘は失踪しており、店長は恐らくそれを探す間皆川に店を任せているものと推測される 「槙縞ランキング」 「槙縞玩具店」に集まる神姫の間で自然発生した地元リーグであり、順位は皆川達がサードのレギュレーションに併せて評価したものの模様 基本的にバーチャルバトル ランカーは華墨、ヌルを含めて初期で21人。強さのレベルには相当なばらつきがあり、特に、一位のクイントスはセカンド中上位級の実力だが、17位以下はエルギール曰く「通常神姫に毛が生えた程度」らしい 傾向として、本来の製品の属性を半ば喪失した様な神姫が多い(合気めいた技を使うジルダリアの『エルギール』や、最早素体が何であったのかを推し量る事にすら意味が見出せない変形MS神姫の『ズィータ』、どんな距離でもほぼ万能に闘える上に、公式のパーツが一切使われていないアーンヴァルの『リフォー』等・・・) 皆川が店長代理になってから、年一回だった「チャンピオンカップ争奪戦」の開催は年二回に増えており、その他イベント大会も多数催されている 「ナイン」 「槙縞ランキング」一桁ナンバーの9人のランカー達を総称して使われる(厳密には、『クイントス』は別格扱いで、それ以外の8名を指して使われる事が多い) セカンドランカーが多数含まる事、マスター自作の改造武装や強化武装を施されている者が多く、現時点の「ナイン」である『ジルベノウ』『リフォー』『ズィータ』の武装には公式パーツが一切装備されていない 「ナインブレイカ-」 「槙縞ランキングチャンピオンカップ争奪戦」の変則的なルールによって、ランキング二桁以上のランカーは全て同列に扱われ、その中で勝ち上がった8名のみが、「ナイン」と対戦する権利を得る・・・言わばナインはシード選手の様な扱いなのだが、それにしても不自然な程に「上位ランカーが保護されて」いる体制である 「ゆらぎ」 神姫の個体差 神姫が身長15センチの人間として作られた以上、同じタイプでも身体能力、性格等にある程度の個性が存在し、製造段階でそういったものが発現する様に、神姫の設計にはある程度のファジーさが設けられている 必ずしも戦闘向きの能力が突出しているとも限らないが、「悪い癖」にあたるゆらぎを減少させる修行、「タクティカルアドバンテージ」にあたるゆらぎを伸ばす修行を行なった神姫は、それだけで結構な強さを発揮する事がある 以上の事から、神姫自身の持って産まれた「資質」そのものを「ゆらぎ」と呼ぶのは明らかに間違った用法なのだが、本作ではその様な表現が多用される 「オップファー」 ドイツの銃器メーカー。神姫用ではなく、普通の拳銃を主に手掛けている エルゴノミクスデザインの優美なデザインのハンドガンが有名で、代表作は.40口径ダブルカァラムの「G40」や、その小型版で、380ACP仕様の「G380d」 「ホーダーアームズ」 東杜田技研の様な、本来人間用のモノを神姫サイズにダウンサイジングしているメーカーのひとつ 主に銃器を手掛けており、12分の1「パイソン」や「エボニー アイボリー」等、実銃フィクションを問わずにやっているようだ 神姫の拳銃は本来、形はリボルバーでもオートマチックでも、使用する弾は変わらない(とどこかの設定でみた)のだが、ホーダーは12分の1「.45ACP弾」とか12分の1「5.56mmコンパクト弾」とか、訳の判らない拘りの元にモノを作っている様だ ニビル達がここの銃を愛用している 「鬼奏(キソウ)」 神浦琥珀作の刀剣を扱っている、神姫用の刃物専門店 経営は実質琥珀の家族が行っているといわれるが、その姿を見た者は居ない(いつも琥珀が店番で、居ない時は閉まっている) ルートは不明だが、世界中の殆どの(神姫用)実刀剣が手に入ると豪語する 琥珀作の刀剣は、彼女にコネが無いのであれば(あっても達成値が足りなければw)正規ルートではここで展示してある一振りずつしか手に入らない クイントスはここで武器を打って貰う事が多い様だ 現在の琥珀作品の在庫状況はこちらから 「オーバーロード」 通常では持ち得ない何らかの超常的能力を備えた神姫、またはその能力妄想神姫 通常、能力に見合った『何か』の代償もかかえており徒然続く、そんな話。 「ゆらぎ」の強烈なものというには過ぎた代物である事が多く(というよりも、「ゆらぎ」の範疇であるものは「オーバーロード」とは呼ばれないだろうが・・・)本作ではしばしば「異能力」等とも表記される事になる 華墨の脚力はオーバーロードではないが、「オーバーロード」の神姫も本作には登場する 「Gアーム」 某正義のヒーローでも、黒光りする昆虫でもない、言わば第3の「G」で現される何かw その力を使った強化武装である 武装と言っても武器の形をしているとは限らない キャロとクイントスの因縁の源、「槙縞ランキング」の真の目的、「バニシングフォー」の秘密・・・いずれのピースとしても非常に重要 「バニシングフォー」 本編第壱幕以前に、マスター共々消息不明になった四体の武装神姫 うち3体は「ナイン」であり、さらにその内2体は所謂「ランキング黎明期のランカー」である 槙縞玩具店では公然の秘密というか、タブー視されている いずれも、「槙縞ランキングチャンピオンカップ争奪戦」の開催中、開催後に消息を絶っている 「人形遣い」 神姫を素体のまま操り、相手を倒すという伝説のマスター レギュレーションから考えると本来不可能な筈なので、都市伝説の一種であろうと推測されるが・・・ 剣は紅い花の誇りTOP?
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前へ 先頭ページへ 人間が生きていく上で最低限必要な物が三つある。 一つは衣服。 一つは住居。 一つは食事。 最低限、これらがあれば人間は生きていけるという。 が、しかしだ。 それらはそこらかしこに転がっている訳ではない。 それらは何の労力を使わずに入手出来る訳ではない。 それらを揃えるのに必要なものが一つある。 金だ。 この世で最も大事な物の一つ。 そして、人間が生活していく上で必要不可欠な物。 それはそこらかしこに転がっているかもしれない。 しかし、それは雀の涙程でしかない。 それは何の労力も使わずに入手出来るかもしれない。 しかし、それも雀の涙程だ。 生活していく為に充分な量の金を稼ぐには、汗水垂らして働くしかない。 それが金という物だ。 今日は快晴、気温も寒すぎず暑すぎずにすごし易く、風もそよ風程度。 外出にはもってこいの一日だと言える。 そんな日には弁当の一つでも持ってピクニックにでも行きたくなるのものだ。 この俺、倉内 恵太郎もそんな素敵な気分に晒されながら今日という素晴らしい一日を満喫していた。 「マスター、ジェットスラスターのタービンはどれを使いましょうか?」 「レニオスの8型で頼む」 カーテンの隙間から差し込む僅かな日光が薄暗い部屋に充満するほこりを照らし出している。 狭い部屋にはところ狭しとぼろぼろのダンボールが詰まれ、破れた箇所から金属のようなものがはみ出している。 部屋の中央に鎮座するちゃぶ台の上には大量のパーツが詰まれている。 そのちゃぶ台を挟み、向かい合うように座る俺とナル。 俺はPCに向かい神姫との神経接続とパルスの強弱、信号の精度を設定している。 ナルはその手に神姫用多目的ツールを、背部にストラーフ本来の機械腕を装着し、神姫サイズの精密機械相手に格闘している。 「マスター、島田重工の箱を取って頂けますか?」 「あいよ」 俺はPCから視線を外し、重い腰を上げた。 狭い部屋を見回して島田重工と書かれたダンボールを探す。 何を隠そうこの周囲に詰まれるダンボールの山、その全てに神姫用パーツが満載されている。 EDEN-PLASTICS、島田重工、BLADEダイナミクス、カサハラ・インダストリアル。 神姫好きなら一度は聞いたことのあるであろう企業の純正品、それらが大量に死蔵されてるのだ。 元を正せば俺が店頭で見かける度にちょくちょく買い漁っていたのが原因なのだが、男という生き物はいつまで経ってもそういう事が好きなもので、幼少の頃はプラモを山のように買っては積んでいたのを今でも覚えている。 それはさておき、案の定買うだけ買って全く使わないパーツも多数ある。 否、その九割が未使用で新品同様だ。 一割はナルの内部機構、旧銃鋼、ブーストアーマー等多数に一応使ったのだ。 だが、それでもまだ大量に使い道の無いパーツが積まれているのだ。 以前は買うごとにナルのお小言を頂戴するハメになり、心身ともに疲れたものだ。 だが、今は違う。 俺の財政を圧迫していた大人買いも今は俺の財政源となっている。 武装神姫の由縁たる『武装』。 それは企業・個人問わず多種多様な武装が市場に溢れている。 大抵、そういうものは大企業か著名なデザイナーが販売するのが普通だ。 しかし、大々的では無いものの、個人による武装販売というのも確かに存在する。 個人はイベントやインターネットを介した自作武装の販売が一般的である。 そう、何を隠そうこの俺も神姫の自作武装を販売する人間だ。 俺の場合はインターネットを介し、客の要望を聞く。 そして、予算や期間などを見積もり俺とナルが武装を製作し、客に郵送する。 これがまたかなり儲かるのだ。 一般に広く普及した神姫の用途は基本、バトルだ。 今は街中に留まらず学校の中にまでバトルスペースを導入している。 供給があるのは需要があるからだ。 そして、神姫の広いカスタイマイズ性。 人は基本的に人と同じ、というのを嫌うものだ。 その結果、市場には細かな神姫用のパーツが氾濫し、自分だけの神姫を作ることが出来る。 それでもまだ、人と被る事を嫌がる人間もいる。 俺の客はそういう種類の人間だ。 完全オリジナル。 オーダーメイド。 フルスクラッチモデル。 そういう言葉をちらつかせれば如何に無名の俺と言えど、それなりに客は引っかかるのだ。 が、だからと言って手抜きは一切しない。 ネジ一本からCPUに至るまで、品質には気を配る。 武装の試運転は念入りに行い、誤作動など無いようにする。 武装の品質がそのまま俺への信用に繋がるのだ。 「…これだな」 ベッドの上に山済みにされたダンボールの海の中、目的のダンボール箱があった。 俺は足元に注意しながらそこに近づき、周囲のダンボールを掻き分けてそれを持ち上げた。 顔の直ぐ下にあるダンボールから立ち上るホコリと機械油の臭いに顔をしかめながらナルの元へとそれを運ぶ。 「お待ちぃ」 中のパーツが傷つかないように心なしゆっくりとダンボールを床に下ろす。 「ありがとうございます、マスター」 そういうと、ナルはストラーフの機械腕を稼動させてダンボールを開け、ビニール袋に包まれたパーツ類をちゃぶ台の上に乗っけていく。 俺も再びPCに向かい、自分の作業に戻ることにした。 『ピンポーン』 来客を告げる呼び鈴が久しぶりに鳴り響いた。 扉の前には「新聞勧誘お断り」と「キャッチセールスお断り」のシールが張ってあるのでその線は無いだろう。 だとすれば大家の家賃収集か宅配便だが、どちらも心当たりが無い。 考えられるとすれば―――考えたくはないが―――警察というのも有り得る。 多少緊張を孕みつつ、俺は音を立てないようゆっくりと立ち上がった。 足元を覆いつくすダンボールを蹴らない様に注意しつつ、そう遠くない玄関へ向かう。 『ピンポーン』 台所が隣にある玄関へと辿り着いた俺はまず、覗き窓から外の様子を伺うことにした。 が、その時。 「しーしょー!お見舞いに来ましたー!」 玄関の扉をドンドン叩きながら大きな声で俺の事を呼ぶ声がした。 「アリカ、近所迷惑よ~」 覗き窓を見るまでも無く、そこにいるのがアリカと茜の二人であることは容易に想像できた。 (空けたくねぇ…) 今この扉を開ければ作業は中断を余儀なくされるだろう。 しかし、開けない場合はアリカはしつこく扉を叩き続け周囲に騒音を撒き散らすだろう。 そうなった結果、お隣さんとの付き合いが悪くなる可能性も充分にある。 近所付き合いの悪化によってかつては殺人事件さえ引き起こしたと聞く。 作業の締め切り自体はあと数日残っている。 「…いるから静かにしてくれ」 俺は観念して扉を開けた。 「お邪魔します、師匠!」 「出来れば邪魔はして欲しくないがな…」 扉を開けた瞬間、アリカはずけずけと部屋に上がりこんだ。 俺はそれに軽い眩暈を覚えた。 「どうしてもアリカが気になるからって来ちゃいました」 止めようと思えば止められた筈の茜も茜だと思ったが、それは口にしないで置いた。 「師匠…どうしたんですか?」 扉を閉め、振り返った俺に浴びせられた言葉は実に酷いものだ。 「すんごい散かってる…」 アリカは部屋を見回しながら言った。 「ダンボールには触るなよ」 俺はそういうと、足元のダンボールを数個持ち上げて隅に積んだ。 そうして出来たスペースに座布団を投げ置くとアリカと茜に言った。 「とりあえず座れ、話はそれからだ」 「それじゃあ失礼しま~す」 「今日は本当に散かってますねぇ、どうしたんですか~」 それぞれ違うことを言いながら座る二人を尻目に、俺は茶を淹れる為に台所へと向かう。 小さな食器棚の扉を開け、茶葉筒を取り出し蓋を開ける。 (…腐ってはいないか) 最後に開けたのが何時かは思い出せないそれだが、臭いから判断するに腐ってはいなさそうだ。 それを確認した後、ヤカンに水をいれてコンロにかけた。 水が沸騰するまでの間に急須の用意をする。 茶葉を適当に入れて湯のみを取り出す。 後は水が沸くのを待つだけだ。 「そうだ師匠、どうしたんですか学校に休学届けなんか出して!」 居間にいるアリカが声を張り上げて言った。 俺がアリカに背を向けていると言え、そんなに大きな声で言う事もなかろうに。 「…茜に聞け」 俺が説明してもいいのだが、それはそれで面倒くさい。 第一、アリカに俺の個人的な事情を話す義理もない。 しかし、今の俺がすることばアリカを早急に立ち去らせることだ。 茜に任せておけば、多分上手く説明してくれるだろう。 「何で?」 アリカは首だけをくるりと茜の方に向けた。 「先輩はねぇ…大学に入学した直後、新手の詐欺にかかって多額の借金を負ってしまったの…それを返済するために暇を見ては内職を…」 前言撤回。 ハンカチを片手に目じりを拭うようにしながら平然と嘘を付く茜。 しかし、その口元は確かに笑っている。 「師匠…本当なんですか!?」 ばっ、と振り返り涙目で俺を見つめるアリカ。 「んな訳ねーだろ」 それから視線を外して沸いたお湯を急須に注ぐ。 「先輩ノリが悪いですね~」 急須を軽く回しながら悪びれようともしない茜をどうしようかと頭を痛める。 「なんでウソ言うのよッ!」 「人生を面白くするのは一つの真実、百の嘘なのよ~」 女が三人寄れば姦しいとは良く言ったものだが、この場合二人寄ったら喧しいだ。 「とりあえず騒ぐな」 湯気の立つ湯呑みを二人の前に置き、俺も適当に場所を開けて腰を落とした。 とりあえず俺も茶を飲む事にした。 我ながら丁度良い濃さで淹れられており、大変おいしい。 「…で、師匠。なんで学校休んでるんですか?」 同じく茶を飲んで一段落着いたアリカが口を開いた。 どう説明したものか、俺は湯呑みを睨みつつ数瞬逡巡した。 「マスターが大学に休学届けを出したのは学費と生活費を稼ぐためです」 俺の前方、ちゃぶ台の上を台拭きで拭きながらナルが言った。 「そうなの?」 「はい。マスターと私で神姫用の武装を製作し、それを販売することで学費と生活費を稼いでいるのです」 俺が言わんとすることを手短に説明してくれた相棒に俺は視線だけで礼を言った。 「…でも、なんで学校休む必要あるんですか? 施設とかなら学校の方が整ってると思うんですけど…」 アリカが部屋を見渡しながら言った。 なるほど、確かにこの部屋は神姫の武装を作るには適さない。 アリカにしてはなかなか的確なツッコミだ。 「あのだいが」 「あの大学は研究以外での施設利用は禁じられてるのよ」 俺が説明しようと口を開きかけたその瞬間、茜が先に言ってしまった。 俺は半開きの口を渋々閉じて、その後に続く説明を考える。 「へ、どうゆこと?」 アリカは小首を傾げている。 「あそこはな」 「あの大学は研究以外では一切の機材・施設を使わせないのよ」 コイツ、絶対にワザとやってやがる。 その証拠に楽しそうな眼で俺のことを見てやがる。 「…だから、俺はココで内職してるんだよ」 他に言うことが無いので何とか締め括ろうと言葉を紡ぐ。 これまでの情報を統括すれば普通の人間ならとっとと出て行くだろう。 「そっか…師匠って大変なんですね… アタシに何かお手伝いできること無いですか!」 そんなささやかな願いは無残にも打ち砕かれた。 「いや、それよりとっととかえ」 「そうよね、先輩も一人じゃ大変よね」 更に踏み砕かれた。 結局、あれから無理やりアリカと茜は俺の仕事を手伝った。 茜はまだ良いが、アリカは本当に邪魔というしかなかった。 パーツを探すと言ってはダンボールを引っくり返し。 パーツを組み立てるといっては盛大に失敗し。 それに懲りて差し入れを作るといっては台所を爆発させ。 そんなこんなで日も暮れて、本気でアリカと茜を帰そうと言う事に相成った。 「うぅ…師匠、スイマセンお邪魔してしまって…」 アリカは全身ホコリとススと得体の知れない汚れだらけになりながらヘコヘコ頭を下げている。 帰るときに説教の一つでも垂れてやろうかと思ったが、そういう態度を取られるとどうも辛い。 「分かったからとっとと帰れ」 俺の態度はどっからどう見ても不機嫌そうに見えたことだろう。 本当の所、ありがとうの一言でも言ってやりたいところだがどうも喉辺りでつっかえてしまう。 「それじゃあ、先輩。お仕事頑張って下さいね~」 茜は茜でいつも飄々としているが、今この時だけはかなり楽しそうに見える。 「ああ、先輩達によろしくな」 「孝也先輩にもよろしく言っときますね~」 明らかに顔を顰める俺に、茜はさも面白そうに微笑んだ。 全く持って食えない奴だと思う。 「…それじゃ師匠、失礼します」 アリカはペコリと頭を下げるとトボトボと歩き出した。 それに一歩遅れて茜が歩き出す。 が、一瞬俺の顔を見やがった。 何故か凄まじい罪悪感を感じる。 「……試作品出来たらバトル付き合え!」 自分でも何でこんな事を言ったのか解らない。 だけど、喉から勝手に出てきてしまったのだから仕方が無い。 アリカはびくりと身体を強張らせ、一瞬の後勢い良く振り返った。 「はい! 喜んでッ!」 満面の、こちらまで嬉しくなる様な屈託の無い笑み。 釣られて笑いそうになるのを必死で堪える。 「それじゃっ!」 そう言うとさっきとは打って変わって早足で帰路に向かった。 茜も軽く頭を下げ、アリカを追った。 その表情も、アリカ程ではないが良い顔だった。 俺は一瞬二人の姿を見送ると、直ぐに玄関の戸を閉めた。 「ふぅ…」 何故か溜息が出た。 確かに疲れた。 けど、嫌な溜息ではない。 「マスター、楽しそうですね」 俺の胸ポケットからナルが声をかけてきた。 「そうか?」 「ええ、凄く楽しそうです」 俺にはその自覚は一切無いのだが、ナルが言うのだからそうなのだろう。 「楽しい、ね…」 思い返せば楽しい、と実感した事など余り無かった気がする。 幼少の時分には一度だけ遊園地に連れて行かれた事もあるが、両親共にジェットコースター初めあらゆる乗り物がダメで、俺が介抱してた嫌な思い出しかない。 小学校の頃も無愛想なガキだったと思う。 友達も人並みにいたが、深夜の学校に潜り込むとか下水道探検するとかそんな事も無かったので対して思い出に無い。 中学・高校と勉強積けだったので楽しい、と思う暇も無かった。 いや、ナルと出会ってからは変わった用に思う。 勉強一辺倒の高校生の時分に初めて神姫を手にして以来、神姫にどっぷりと嵌ってしまった。 学校が終われば直ぐにセンターに赴きバトル三昧。 「マスター、どうしました?」 ぼーとしてたのだろう、ナルが気遣わしげに声をかけてきた。 「いや、ちょっと考え事をね」 あの時の楽しいは違う。 今のナルの顔を見ると心底そう思う。 やがて大学に入り、入学式で裕也先輩と裕子先輩と出会った。 あれから一年と少ししか経っていないけど本当に、色々あった。 思い返せば泡の様に記憶が浮かび上がってくる。 裕也先輩に引っ張りまわされた事。 裕子先輩に叱られた事。 孝也に付き纏われた事。 茜に弄られた事。 そして、アリカに出会った事。 驚くほどに密度のある毎日だった。 「…今日の仕事はこれくらいにしとくか」 「マスター?」 その毎日のきっかけは、武装神姫だった。 「締め切りまでまだ時間はある。たまには骨抜きでもしないとな?」 「マスターがそう言うのでしたら…」 武装神姫を通じて知り合った皆。 「今日は鳳凰杯の特番があったな、それでも見よう」 「そういえばもうそんな時期ですね」 その毎日を齎してくれたナルに、最大限の感謝を。 先頭ページへ 次へ
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第三章 深み填りと盲導姫 あらすじ: 夏のある日、俺達は神姫センターでサマーフェスタを楽しんでいた。 そんな時、ある人物と出会い、神姫の一つの可能性を垣間見る事に…… 第一話:宝探姫 第二話:双銃姫 第三話:違法姫 第四話:諸刃姫 第五話:成上姫 第六話:肩書姫 第七話:激動姫 第八話:実践姫 第九話:鉄鳥姫 第十話:血戦姫 第十一話:追剥姫 第十二話:負傷姫 第十三話:再生姫 第十四話:塵刃姫 第十五話:生贄姫 (この話ではウサギのナミダに関して一部のネタバレが存在しますのでご注意ください) 第十六話:偽眼姫 第十七話:鳥討姫 第十八話:札無姫 第十九話:罪明姫 (この話ではキズナのキセキに関して一部のネタバレが存在しますのでご注意ください) 第二十話:道行姫 この物語においては以下の作品から、キャラクター、設定を借りております。 また、ネタバレの点もあるため、読む時には注意をお願いします。 ウサギのナミダ、キズナのキセキ、HOBBY LIFE,HOBBY SHOP 15cm程度の死闘、Black×Bright、The Armed Princess -武装神姫- 鋼の心 ~Eisen Herz~、ツガル戦術論 トップへ
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プロローグ 西暦2036年。 第三次世界大戦もなく、宇宙人の襲来もなかった。 20世紀末から、ほとんど、なんの変化もなく、ただムーアの法則を若干下回る程度に市販コンピューターの性能は上昇しつづけた。 そんな時代に新しい形のコンピューターガジェットが誕生する。 神姫、そう呼ばれたその新しいコンピューターガジェットは、身長15センチほどの少女の姿をした、フィギュアロボだった。 汎用性を兼ね備えたそのガジェット……神姫は玩具として発売されながら徐々にその認知度を上げていき、現在、1990年代における携帯電話なみには、普及し始めていた。 心なんて、信じない。 父さんと母さんが離婚したのは、僕が十歳の時だった。 原因は母さんの浮気。 勿論当時の僕には、そんなことは教えられなかった。 ただ父さんが口癖のように、「母さんは俺たちを裏切っんだ」と言っていたのはいまだに耳にこびりついている。 だけどこの情報化社会、十歳ともなれば、大体ことの次第は想像がつく。 人の世界がどの程度の悪意で出来ているのか、おのずと分かってしまうというものだ。 父さんは母さんから親権を取り上げ、自分ひとりで育てることにした。 別に僕を愛していたからじゃない。 母さんが、親権を欲しがったからだ。 ただ母さんの裏切りに対する復讐として、優秀な弁護士を雇い、母さんから一切の親権を取り上げた。 そんな父さんは母さんと別れてからますます仕事に没頭するようになった。 折角勝ち得た僕っていう『トロフィー』を手放す訳にもいかないらしく、生活費だけは潤沢に与えられた。 他人と話すことなんてほとんどなく、ただお金だけ与えられて過ごしていた僕は、学校にもほとんど行かなくなり、毎日、与えられた金銭で気に入ったコンピューターや機械類を買って、それをいじって遊んでいた。 心のない機械たちを分解、解析して組み立てる。 そんな行為だけが、僕を楽しませていた。 そして、僕が形だけ中学生になった頃…… 「よし……っと……」 買ってきたばかりのコアとボディをセットして、その胸にムーアの法則の最後の守り手とまで言われた、超高密素子CSCをはめ込む。 一緒に買ったクレイドルにボディを寝かせ、接続したパソコンから起動用のアプリケーションを操作する。 途端、炉心に火がついたような低い唸りがCSCから響き始めた。 「Front Line製 MMS-Automaton神姫 悪魔型ストラーフ FL013 セットアップ完了、起動します」 そして、鈴を転がすような少女の声が、僕の耳に届いてくる。 パソコンのスピーカーから……じゃない。 クレイドルに横たわる小さな女の子の唇からだ。 ゆっくりとその小さな女の子がクレイドルから立ち上がる。 「さすがに、良く出来てるなあ……」 「あなたが、わたしのマスターですか?」 「あ、うん。そうだよ。僕がおまえのマスターだ」 「認証しました……マスターの事はなんとお呼びすればよろしいでしょうか?」 「普通に、マスターでいい」 淡々とつむがれる質問に、僕も淡々と答える。 「神姫に名前をつけていただけますか?」 「名前?」 「はい、MMS国際法に基づき、各神姫には単一オーナーによって名づけられた登録名が必要になります」 ……機械に名前をつける趣味はないけれど、それぞれの神姫には名前を与えて自分一人だけをマスター登録するのがMMS国際法によって決められている。 確かそんなことが事前に読んだMMSや武装神姫の本に書いてあった。 「じゃあ……ジェヴァーナ」 「ジェヴァーナ……神姫名称登録」 そっとその神姫が目を閉じて、自分の名前を確認する。 そして、再び目が開くと…… 「ふうん、ジェヴァーナ……か、それがボクの名前ね? うんうん、気に入ったよ!」 「……へ?」 さっきまでの機械的な話し方とは違う、弾むような声が僕の耳に響く。 「ん? なにぼーっとしてんのさ? マスターが付けた名前で合ってるよね?」 「い、いや、それは、そうだけど……」 突然の変貌振り……というよりも、ここしばらく他人のペースで会話をさせられる事が無かったせいで、なにを言っていいのか混乱してしまう。 「とにかく、これからよろしくね! マスター!」 握手のつもりなのか僕の人差し指を掴んで、ぶんぶんと縦に振る。 「う、うん……」 結局、そう答えるのが精一杯だった。 思えば、この時から気づき始めていたのかもしれない。 武装神姫……ジェヴァーナに『心』があるっていうことに。 「戻る」 「進む」
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ストラーフが最初で、アーンヴァルが最後とかよくわかっていらっしゃる - 名無しさん 2015-01-12 14 47 37
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「今回は変則的に、三Sが斬るのお時間ですワン」 「でも今日は二人」 「ええ、本日は残るお一方への、サプライズをご用意しましょうかとワン」 「サプライズ?」 「はい、先日めでたく"クラブハンド・フォートブラッグ"が完結いたしまいたので、そのお祝いにとワン」 「それ、名案」 「でしょうワン? まぁ私たちのアングラSSごときが、武装神姫SSまとめwikiの人気コンテンツである"クラブハンド・フォートブラッグ"と関係などあろうはずはないんですけれどもねワン」 「うん、建前上」 「はい、建前上ですワン」 「それでこんなに豪華」 「いきなり話が飛びましたが、これもテッコさんの芸風と受け流しまして、はいその通りですワン」 「花束……垂れ幕……軽食……クラッカー……」 「スピーチも用意してきましたワン。えー…… 『ミヤコン様ハルナ様サラ様、そのほか"クラブハンド・フォートブラッグ"関係者の皆様、この度は完結おめでとうございます。今まで私たちを楽しませてきてくれた名作とのお別れは寂しい限りですが、何事にも区切りは必要というもの、長らくお疲れ様でした。 物語にはひとまずのエンドマークがついても、その中で生きてきたハルナ様サラ様そのほかの皆様方の『これから』はまだまだ続くことでしょう。それが明るく壮健なものであることを願ってやみません。 かなうならば時折、その『これから』を垣間見ることができることを願います。 またミヤコン様におかれましては、"クラブハンド・フォートブラッグ"以外の作品ででもお目にかかれるならば、こんなにも喜ばしいことはありません。 これからの一層のご活躍を、ご期待申し上げております。 十一月吉日 "三Sが斬る"スタッフ代表 犬丸 』 ……こんなものでいかがですワン?」 「犬丸の語彙の豊富さは、武装神姫として異常」 「もうちょっと素直に喜べるお言葉を頂きたいところではありますが、お褒め頂き感謝ですワン」 「あとはゲストを待つばかり」 「はい、この部屋に入ってきましたら、まずは不意打ちで盛大にクラッカーでお出迎えをワン」 「いえっさー」 「(……と、ちょうど入り口付近で物音がワン)」 「(……テッコ、配置完了)」 「(……犬丸、同じく配置完了ワン。目標が扉を開けた瞬間、作戦開始ですワン)」 「(……Tes.)」 「(……了解の示す返答がテスタメントとは、またコアなところを……む?!)」 「(………………!)」 (窓ガラスの割れる音、続いて何か硬質なものが転がる音。そして間髪入れず、破裂音。 「グレネード!」「違う、これ陽動」「なら本命は」などの怒号が飛び交い、激しい戦闘音の連鎖する中、調度品が壊れる音が響き続け……やがて途絶える) 「制圧完了(クリア)! ハッハー、悪魔型や犬型ごときが、このミリタリー丸出しのフォードブラッグにアンブッシュをかまそうなど、10年早いと知りなさい! 何を企んでいたかは知りませんが、アンブシュしようとして逆に奇襲されていては世話はありませんね! さあさあさあ、吐いてもらいましょう、一体何を企んでいたか、いえどっちかと言えば吐かないでくれたほうが楽しい尋問タイムが満喫できて私としてはお勧めですが、さあさあさあ! ………………………………………………………………ってあら?」 「………………………」 「………………………」 「………………………」 「……まぁ、これも彼女たちらしいと思えないこともないですねぇ」 「それでいいの? それでいいのか?!」 「なんにせよ、お疲れ様でした、ということで。……いろんな意味で」 <戻る> <進む> <目次> 犬子さんの土下座ライフ。 クラブハンド・フォートブラッグ 鋼の心 ~Eisen Herz~
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武装神姫 鳳凰カップ 実況生中継! 「みなさん、こんにちわ。この番組の実況を務めさせて頂きます、アナウンサーの花菱 燕(ツバメ)です」 二日目の午前十時、俺は昨日まで予選会場だった場所に入れ替わるようにして設置された特設巨大スタジアムの放送席にいる 観客の最大収容人数は一万五千人、中継用のテレビカメラ30台…… もうアホだ、このグループ ゲンナリしつつもやはり解説者の仕事はやらざるをえず、ノアだけを連れて決勝トーナメント開会セレモ二ーのため勢揃いしている予選を勝ち抜いてきた16組を放送席から眺めていた 葉月のヤツ…滅茶苦茶緊張してるよ… 逆にアルティはドッシリ構えてやがる さすが元八相、大舞台には強いってか ミコとユーナはどこかって? 全国放送の番組だ、流石にミコとユーナを連れての大騒ぎはまずいだろうという事で二人は香憐ねぇに預けておいた ちなみに俺の横にいるアナウンサーさんは…もうなんとなくわかるよな? 燕さんは昴の母親なんだわ 花菱財閥の令嬢なのだが、アナウンサーの道に憧れてからは夫である昴の親父さんに財閥を任せ、のびのびと天職ともいえるフリーアナウンサーの仕事をやっている そんでもって御袋と桜さんの二人と同じく幼馴染 三人揃えば元祖かしましシスターズ!! …姉妹ではないがそれほど仲が良いということだ 「それでは今日の解説者の方をご紹介します。まずは武装神姫公式リーグ、公式ランキング13位、ファーストランカーの橘 明人さんと『緑色のケルベロス』ことパートナーのノアールさん。そしてそのお隣が同じく武装神姫公式リーグ、公式ランキング16位、ファーストランカーの綾川 千紗都さんと『黒き狼』ことパートナーの冥夜さんのお二人です。みなさま、今日はよろしくお願いします」 「よろしくおねがいします」 「よろしくおねがいします」 観客席から拍手をもらう 綾川さんは俺のランカー仲間でもある 多分御袋はそこら辺も知ってて彼女を選んだんだろうな 彼女の神姫は黒いアーンヴァルの冥夜 ノアと同じく刃物使いで『黒き狼』の二つ名を持っている 「今回の鳳凰カップ〈春の陣〉はかなりのハイレベルとの噂ですが橘さん、そこのところいかがお考えですか?」 「はい。花菱さんの仰るとおり、今回の参加者は予選脱落者を含めて非常にハイレベルとなっています。『黒衣の戦乙女』や『白い翼の悪魔』、さらには『鋼帝』に『剣の舞姫』、『弾丸神姫』、『クイントス』、『蒼天の旋姫』など、多くの名の知れた神姫が集いましたからね…」 「鶴畑 興紀選手も参加していますし…これはなかなか見られない好カードのバトルとなりそうですよね。綾川さんは注目されている選手はいらっしゃいますか?」 「私は……しいてお名前を上げるとすればAグループ代表のアルティ・フォレスト選手&ミュリエル選手でしょうか」 俺は綾川さんの言葉にぎくりとする 「彼女達は米国リーグで名をはせた実力者と存じています。ミュリエル選手はファーストの神姫にも劣らないとかで…」 そのことは観奈ちゃんから教えてもらっていたのであえて触れなかったのだが… あいつが騒がれたり注目されることで面倒なことになりかねないしさぁ… ちらりと下にいるアルに目をやれば「…何故私のことに触れなかったんだ」といわんばかりにこっちを凝視していた えぇい、この際見なかったことにしようと目線を横に逸らすとニコニコしながら俺を見ている綾川さんと目が合った それにしても…おかしいな…確か彼女には俺とアルの関係を教えてはいなかったと思うんだが… 「綾川さんは去年おこなわれた第三回大会、二度目の〈春の陣〉の優勝者ということですが…」 ええ? そうだったの? 俺、初耳なんだけど… 「はい、この大会は私にとって思い出深い大会なのですが…優勝した後の大変さが身に沁みましたね」 「と、もうしますと?」 「去年の大会からこの子が『黒き狼』なんて言われ出して、挑戦者が後を絶たなかったんですよ。橘さんのノアールちゃんみたいに実力があれば対処できたかもしれませんが、私達はホントに大変でした;」 少し困ったような笑顔で微笑む綾川さん 「つまり、この大会の知名度がどれほど高いかというわけですね…。さぁ、今大会からも未来の超有名神姫が誕生するのでしょうか!? 間もなく開会セレモニーが始まろうとしております!!」 燕さんがそういい終わるとスタジアムの横から屋根が出現し始める えぇ!? このスタジアムって特設のくせに開閉ドーム式なのか!? やっぱアホだろこのグループ!! 屋根が閉まりきり、スタジアムの中は真っ暗闇に包まれた この後はジジイによる主催者挨拶である (なんとなく頭の中で『一寸先は闇』って諺が浮かんできたんだが…俺ってネガティブ?) (安心してくださいご主人様、私もですから…) ノアと小声で話していると、スタジアム中央に“カッ!”と一筋のスポットライトが輝く その光の真ん中にはジジイの姿が………って、オイ 『れでぃ~~すえんどじぇんとるめん!!ようこそ盛大なる戦姫の祭りへ』 なんか椅子に座って足組んでるよ… 赤いスーツ姿で右目には黒い眼帯だしよ… おもいっきりアレじゃねぇか… 『さて皆さん、今ここに集いしは過酷な試練を超えた十六組の小さな姫とそのパートナー達であります。まずは苦難の道を勝ち抜いた彼らに賞賛の言葉を送りたいと思います…』 あああああああああ…頼むから全国ネットでアホな姿はさらすんじゃねぇぞ!? アンタ代表なんだからな? 鳳条院のトップなんだからな? 『しかし、彼ら彼女らに待ち構えるは今までよりもさらに厳しい王者への道。己の名を広き世界へ轟かせる勝鬨を上げるものは誰なのか、しかと彼女らの放つ熱き輝きを目に焼き付けて欲しい。諸君に『五色の翼の杯』……聖杯の加護があらんことを……』 左手をまげて礼式風の御辞儀をする爺さん 流石のジジイもなんとかちゃんとした場だと言うことはわきまえ… 『それでは皆さんご一緒に!! 武装神姫バトル! れでぃ~~~~っ……』 『ゴーーーーーーー!!!!』 ガツン! と勢いを殺せないまま実況席のテーブルに額をぶつけてしまった俺とノア 燕さんも綾川さんと冥夜もひっくるめて会場全員で怒涛の開幕となった もしかして毎回コレをやってるのかあのジジイ…… やっぱアホだわこのグループ!! 「さて、続いては決勝リーグのルール説明へと参りましょう。決勝リーグもバトル方式は予選と同じくバーチャルバトルです。しかし、通常のものよりもバージョンアップしている超大型V.B.B.S.筺体を使用します」 この大型V.B.B.S.筺体はフィールド自体の大きさはリアルバトルで使用するフィールドほどの大きさだ ようするに、リアルバトルにできるだけ近いバーチャルバトルということだな 「会場の皆様や視聴者の方々には私達の放送席の向かい側の巨大スクリーンより緊迫感のある白熱したバトルをご覧頂けます」 ちなみにバトル中の両オーナーは位置的に巨大モニターが見れなくなっている 自分の神姫が何処にいるのか相手にばれないように、また、相手の神姫がどこに隠れているのかわからないようになっているんだ 「鳳凰杯は第一回戦の八試合を午前の部とし、そこでの勝者八名による再抽選をおこないます。その後、途中休憩を挟んでから残りの午後の部に移ります。以上で説明の方を終わらせていただきまして、第一試合の方に参りましょう…」 またしてもライトが消えて暗闇に包まれてからしばらくすると、東西の両端に一本ずつ光の柱が一回戦の対戦者達を照らし出す 「まずは西方、虎門よりAグループの覇者、アルティ・フォレスト選手とミュリエル選手! 彼女らに対しますはBグループを制しました鳳条院 葉月選手とレイア選手、龍門より入場です!!」 お互いに大型V.B.B.S.筺体をはさんで目線をぶつける さっきまでの緊張は何処へやら、真剣そのものの顔はいつのも葉月ではない証… 「この試合の見所はいかがな所でしょうか橘さん」 見所って言ったってなぁ こちとらいきなり身内同士の対決なわけで…… とりあえず 「決勝リーグのオープニングを飾る一戦ですからね。双方悔いのないような良いバトルを期待しています」 ありきたりだがこんなもんだろ… 「御主人様…明人さんが悔いのないように頑張れって言ってます…」 「………」 「御主人様?」 「大丈夫だよ、レイア」 「は、はい……」 「私にはレイアがいてくれる…私はレイアを信じてる」 「御主人様……」 「あの時みたいに…力がなくて、ただ兄さんとアルティさんを…二人の関係を見ているだけしかできなかった私じゃない。今の私にはあなたがいる…お願いレイア…私に力を貸して!」 「………はいっ!!」 「実力的に言えばレイアは今だお前ほどではない…ただ、エリーがどんな厄介な物を渡したのか…そこが気になるな」 「……気にするの良くない…所詮、ぶっつけ勝負…」 「そうかもしれんがエリーは武装の特性にあうモニターを選ぶだろ。お前だって何回か使っただけで《ライトオリジン》や《レフトアイアン》を使いこなしたじゃないか」 「…そう………………………だっけ?」 「…なんにしても警戒が必要ということだな」 「さぁ両オーナー、武装させたパートナーをエントリーゲートに見送ります…」 他の武装をサイドボードに置くと開始前の静けさが会場を支配する 固唾を呑むとはこの事だ フィールドは…天守閣がそびえ立つ城の中庭 散りゆく桜に満月の光が影をつくる中に二人の悪魔がお互いを見つめている 「負けるわけには…いきません…」 「……勝つ……」 『ファーストバトル…ミュリエルVSレイア、レディ………』 両者腰を落として始まった瞬間の動きを警戒する 『ゴォォォォォォーーーーーーーーーーー!!!』 「はあぁぁぁぁっ!!」 『先に動いたのはレイア選手! 開始の合図に一足早く反応した!』 いや、違う ミュリエルも反応できていたがあえて後手に回ったんだ スクリーンに映るミュリエルの表情に一片の焦りも伺えない 冷静そのもの、完全に誘っている ミュリエルはそれでも接近するレイアをバックステップで距離をとりながら手に持ったシュラム・リボルビンググレネードランチャーで迎撃 会場のあらゆる所に設置されたスピーカーから爆音が響き渡る 『クリーンヒットか!? レイア選手、開始十秒とたたずに終わってしまうのでしょうか!?』 爆心地周辺を覆いつくしていた黒煙が舞い散る桜をのせた風により少しずつ薄らいでいく レイアは満月の逆光を背に浴びながら立っていた それも…… 『レイア選手…む、無傷です! 目の前にかざした巨大な武装で身を護りました!』 目の前にかざした武装…それすなわち紛れもなくエリーからの陣中見舞い、全領域兵器《マステマ》であった 全長はLC3には満たないものの、高強度の防御装甲があるため重量で言えば間違いなく上である それゆえに攻防一体の構えが取れ、前方下と後方下についた悪趣味なほどにギラつく刃は大抵の物を重さとともにぶった切り、前の刃のすぐ上はアレンジのため高エネルギー砲となっている オマケに二機のN2ミサイル…とまでは流石にいかなくても…ASM-Ⅶ『ハルバード』レベルのミサイルを備えてある 『敵意』の名の通り…手加減容赦ない凶悪兵器を自分の前にかざしているレイア 普段はおとなしい、良い子の彼女が始めて悪魔に見えた瞬間である 『無傷…か。防御装甲の強度が半端じゃない…出し惜しみしていて持久戦にでもなれば流れはこちらに不利だぞ』 「了解、《ライトオリジン》……展開…」 右腕手首がパージされ、蓄蔵されていたエネルギーが砲身にプラズマ現象を引き起こす 『レイア、チャージ開始。迎撃方法はわかってるわよね?』 「わかっています御主人様、任せてください!」 『ファーストコンタクトを終えお互い、今だ無傷! 高エネルギー波の力比べとなるのでしょうか!』 それはマズイ 《ライトオリジン》はあらかじめ初発分のエネルギーチャージはすませているはずだ ミュリエルは慌てずに照準を合わせるほどの余流がある 「……Lock」 スコープのど真ん中に映りこんだレイア目掛け高エネルギー波は発射される 『今よ、レイア!!』 「てあ!」 レイアは《マステマ》を持ち上げる さきほどと同じくを表に来るようにするが… 『またしても防御の姿勢に入った!しかし綾川さん、それで防げるのでしょうか!?』 答えは否 受け止められたとしてもミュリエルは次の動きに入る 反動で遅れたところを《レフトアイアン》の速射砲でつめられたら成す術がなくなってしまう 万事休すの展開でも葉月とレイアの目はまだ生きている 『彼女の狙いが防御だけとは限りませんよ』 と綾川さんの一言 『同意見ですね…』 『そ、それはどういう…』 すぐに答えは周知のものとなる レイアは《マステマ》の防御装甲面を展開、下に隠れていたハルバート級ミサイルを後方刃の上部にあるもう一機とともに合計二本、全弾打ち出した 防御装甲面下に隠れていた分は《ライトオリジン》のエネルギー波を相殺し、残る一方はミュリエル目掛けて飛んでいく 『小ざかしいマネを…ミュリエル、《レフトアイアン》!!』 「…展開、迎撃開始…」 即座にパージされた左腕から銃口が現れ雨あられと弾幕を張る …なにか妙だ 普通、ミサイルの迎撃を重視するなら《アポカリプス》も使えばいい… 「彼女、何か狙っていますね…」 マイクを通さずに俺に話してきたのは綾川さんだった 彼女も俺と同じく勘付いているようだな ミサイルは《レフトアイアン》だけでも打ち落とせたが、爆発した距離が近かったせいもありミュリエルは黒煙の中に消えていった 『レイア、決めるわよ!』 「了解です!!」 『昴…借りるぞ』 「…《アポカリプス》…展開」 黒煙の中でミュリエルの呟きは誰にも聞こえることはなかった サバーカの脚力を十二分に使い、正面に《マステマ》の銃口が先にくるように構え、突進するレイア ドスン! という音が聞こえたかと思うと煙の中で両者の動きが沈黙する 完全に煙が晴れた後、そこにあった光景は ミュリエルの腹部を貫いている《マステマ》の刃 しかし致命傷とまではいかない ジャッジプログラムによる勝利判定もない、ミュリエルのギブアップもない つまりまだ勝負は続いているのだ 「《マステマ》の刃は貫き通すためにあらず、《マステマ》の刃は捕らえるために…あるです!」 レイアはそのまま銃口を天高く掲げる 銃口にはミュリエルが刺さったままで身動きをしない…… 彼女の様子を良く見なかったことがマズかった レイアから見たミュリエルは満月と重なり逆光となっていたのだ 「コレで……終わりです!!」 「カルヴァリア・デスペアーーー!!」 『だ、第七聖典!? きまったかぁー!?』 とりあえずそのツッコミは置いといて… そのまま銃口から放たれる高エネルギー波がミュリエルを包んだ…次の瞬間 パン! と音を立ててミュリエルが………『割れた』 普通ならここで大ダメージによるジャッジコールがあるか強制退場となるのだがミュリエルのそれはどちらとも明らかに違っていたのだ その証拠にまたしても勝者コールが聞こえてこない 『こ、コレはどういうことでしょう…ミュリエル選手が倒れたのに勝利判定がありません……』 プログラムエラーでないとすると結論は一つ ミュリエルはまだ……そこにいる 「なっ…確かに手応えはあったハズなのに……」 彼女の周りに散るのは拡散したミュリエルだった物と夜風に舞う桜吹雪 あとはそれを照らす荒城の月……ただそれだけでフィールドの中は風の音のみが不気味に聞こえる うろたえるレイア その動揺が彼女の警戒レベルを一瞬だけ落としてしまっていた 「………Lock 」 レイアの真後ろ… 『なっ!?』 「なんですって……」 《ライトオリジン》を再チャージし終えたミュリエルがその銃口をレイアの後頭部に突きつけていた 『…まだやるか、葉月?』 そこで葉月はやっと納得がいった顔をした 思い出したようだな 『なるほど、そうだった………ふぅ、ここまでみたいね…降参します』 『マスターギブアップ。勝者 ミュリエル!!』 『ぎ、ギブアップです!ミュリエル選手第一試合を勝利で飾りました!!』 呆然となる観客も少しづつ我にかえり拍手や喝采を送り始める 『みゅ、ミュリエル選手が再び現れました…で、では橘さん、先ほどのミュリエル選手はいったい…』 『アレはですね…』 『……バックパックに収納してあった衝撃吸収素材で作られた特殊ダミーバルーン…ですか』 『!!』 綾川さんが俺の言おうとしたことを当ててしまっていた 『彼女がミサイルの撃墜にバックパックを使わなかったこととも辻褄が合います。ミサイルの黒煙は隠れてフェイクのバルーンと入れ替わるためにあえて近くで爆発させたんですよ』 おかしい 『そして入れ替わり、相手の必殺技をやり過ごさせてその後の隙を突く…単純ですがバルーンを展開した後となれば見破るのは至難の業となります』 これは昴が八相の-メイガス-と呼ばれていた頃、あいつの異名の元となった戦術だ ただのフェイクではない 幻の数を多数出現させることができる香憐ねぇの『惑乱の蜃気楼』とは別の、 『完全に同一の物を複製したかのように…-増殖ーしたかのように見せるトラップスキル……ですね』 昔の昴を知っている俺や香憐ねぇでさえ見破るのは至難の業 戦ったことのない葉月にしても、知識としては理解していたはず だか結果としてやられているわけだ アレを見破れる人物なんて早々いないはず…なのに… 少し警戒して彼女を見ると、何事もなかったかのように「なんですか?」というような微笑で俺の顔を見つめ返してくる 『第一試合はアルティ・フォレスト選手とミュリエル選手が準々決勝進出を決めています。それでは一端、CMです」 彼女は…一体… 追記 「桜や、動きはどうなっとる?」 「今のところ、彼女からの新たな連絡はありません」 「そうか、挨拶では少し挑発してみたんじゃがのぅ」 「…調子に乗ってたら彼女に殺されますよ?」 「なんだかホントにシャレにならんの…謝っておいたほうがええか?」 「それが宜しいかと」 「しかし…このまま動かんとなると…ますます嬢ちゃんの言っとった線が濃くなってくるの…」 「…あと、フェレンツェ博士が何かに勘付いている様子でしたが…」 「彼は流石に鋭い。侮れんわい…だが、彼にも話すわけにはいくまいて。嬢ちゃんとの約束じゃからの」 「…兼房様、私で宜しかったのですか?」 「ふぉ。お主が鳳条の名参謀と呼ばれとるのはわしがそう言って回っておったからじゃ」 「は? はぁ…」 「ま、それだけお主を評価してると思っとくれ。ふぉっふぉっふぉ!」 「有り難う御座います、兼房様…」 続く メインページへ このページの訪問者 -
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「当事者って……どういうことだ?」 「そうですね、実際にちょっと試して見ましょうか」 佐藤さんの訝しげな言葉にそうお応えし、マスターさんは視線を佐藤さんの前に座るロゼさんへと移します。 「ロゼさん、と言いましたね」 「……なによ?」 やや不審げなロゼさんの警戒心を解く様に……いえ「たぶらかす様に」笑いかけるマスターさん。 「あなたのオーナーは、どんな方ですか?」 「……はぁ? なんだよそりゃ」 佐藤さんが、不審げな声を上げます。 「どんなって……まぁ一言で言えばバカよね、それも大バカ」 そしてそんな佐藤さんの様子を知ってか知らずか、ごく素直に小悪魔な笑顔で応えるロゼさん。 「てめっ……!」 「まーまー佐藤君、少し黙って聞いてみようよ」 声を上げかけた佐藤さんを、浜野さんが制します。このあたりは、根回しの勝利ですね。 「ほほう、それは一体どのように?」 マスターさんは笑顔でしきりに頷いて、先を促します。 ……ええ、まぁ、現状を一言で語るならば、「釣れた!」といったところでしょうか。 「まずはなんと言っても、考えナシな所よねー。いつもいつも思い付きと勢いでつっぱして、それであとで困ったことになってから後悔してるのよ? だったらまずはちゃんと考えてから行動しなさいって人がせっかく忠告してあげてるのに、全然改めないし」 「それは大変ですねぇ」 「でしょう? 朝なんて人がせっかく起こしてあげてるのに全然起きないし! そんなに眠いなら夜更かしなんてしてないで早く寝なさいっていつも言ってるのに」 「テメーは俺のオカンか!」 たまらず飛び出した佐藤さんのツッコミに、会場からは笑いがこぼれます。ですがロゼさんはお構いナシです。 「それにね、お金に意地汚いのもウンザリよねー。いつも二言目には金がねー、金がねーって。それでバイト三昧だけど、どう考えても無駄遣いをやめる方が先よね」 「そうですね、僕もそう思いますよ」 「でしょでしょ? それからなんと言っても、デリカシーがないのが最悪! レディがいるってのに、お風呂上りにパンツ一丁でうろつくって信じられる?」 「ああ、それはちょっと恥ずかしいですねぇ」 「だらしねぇなぁ」「普段はエラソーにしてるくせに」「辛口ストラーフたん(;´Д`) `ァ `ァ 」「神姫破産か……身につまされるなぁ」「パンツ一丁はいかんよな、パンツ一丁は」「だな、やはり全裸にネクタイが紳士の基本!」「いや、そのりくつはおかしい」「ロゼさん俺も罵ってください」 会場から失笑が漏れ出します。 佐藤さん、奥歯をギリギリと噛み鳴らしつつ、拳を震わせております。と、はたと顔を上げまして。 「って何を勝手に話を進めてやがる! 俺はまだこの勝負を認めたわむぐ?!」 「まーまー佐藤君、ちょっとこのまま見守ってみようか? 大丈夫大丈夫、悪いようにはしないから」 浜野さん、なにやら異様に手馴れた動作で佐藤さんを羽交い絞めにし口を塞ぎます。 さすがにこのあたりで、佐藤さんにも「浜野さんもグル」であることに気付かれたことと思います。 おそらく佐藤さんの脳裏には、「このまま公衆の面前で、ロゼさんにいいようにこき下ろされる」光景が広がっていると思われます。そうして、「武装神姫によく思われていないオーナー」をギャラリーに印象付けて勝負を持っていくつもりだと、そうお思いのことでしょう。 ……お甘いです。 マスターさんの描いたプランは、そんなものでは済みません。すぐに、「その程度で済んでいたら幸せだった」と思い知ることでしょう。うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。 その間にも、ロゼさんの毒舌ショーは続きます。 「学校でも赤点ばっか、補習ばっか! 最初からちゃんと勉強しておけば、一回で済むのに」 「仰る通りですよねぇ」 だとか。 「買い置きのカップラーメン、気付いたら賞味期限を一ヶ月も過ぎてて……それなのにもったいないからって食べちゃうのよ?! 信じられる!?」 「それはまた大らかと言うかズボラと言うか」 だとか。 「服がバーゲンセールのばっかなのは仕方ないわよ? 洗濯はしてもアイロン掛けまではやらないのもガマンするわ。でも、それで年がら年中あのチンピラルックなのはどうにかして欲しいわね!」 「それはそれは」 だとか。 「野菜は食べない、魚も食べない、食べるのは肉とか脂っこいものばっか。きっと内臓腐ってるわよね」 「一人暮らしだと、気を抜くとそうなってしまいますよねぇ」 だとか。 学業の事から日常の些細な手抜かりから服装のセンスから食生活から、マスターさんの合いの手に乗ってありとあらゆる佐藤さんの欠点が次々と暴露されていきます。 なんと言いますか、佐藤さんをこき下ろすロゼさん、ものすごく輝いています。 佐藤さんは必死にそれを止めようと思っていらっしゃるのでしょうが、浜野さんのホールドはガッチリ決まっていて、身悶えしながらくぐもった声を上げることが精一杯のご様子です。 そんな身動き取れない佐藤さん、目で「泣かす。ロゼのヤツ、後で絶対泣かす……!」と力説しております。 「――それでアタシ、アキに言ってやったのよ! 『アンタ本気でバカでしょ?』って!」 「いやはや、そうでしたか」 まぁ、そんな佐藤さんの必死の思いも、絶好調でトーク中のロゼさんには届かない訳ですが。 と、不意にマスターさんが悲しげな表情をつくり。 「……ロゼさんも、大変ですねぇ」 低い声でぼそりと、しみじみと呟くように言葉を漏らしました。 ……第二段階突入ですね。 「……何よ、急に?」 それまで自分の絶好調トークに心地よい相槌を打っていたマスターさんが様子が変わったことに、ロゼさんが訝しむ表情になります。 そんなロゼさんに対し、マスターさんは「心底同情に耐えない」と言う風を装って言葉を続けます。 「いえその……お話を聞いてる限りロゼさんは、欠点だらけで何一つとして良いところのない、本当にひどいオーナーに仕えることになってしまったんだなぁと思いまして。 武装神姫の側から、オーナーを代える事は出来ないのですよね……お察しします」 「………………………………………………………」 あ、ロゼさんムッとしてます。 これはあれですね。自分が虚仮にするのは良いけど、他人が貶すのは気に入らないという、微妙かつ複雑な神姫ゴコロと言うヤツですね。 しばしの沈黙。 そしてロゼさん、なにやら視線を宙にさまよわせてから。 「……まぁ、その……そんなに全然いいとこなし、って訳でもないのよ?」 そっぽを向きつつ、先ほどまでの滑沢な語り口とは打って変わった歯切れの悪い言葉で、ぼそぼそと言いました。 よい反応です。ですが、マスターさんの追撃は手を緩めません。 「そうなのですか?」 言葉こそ短いものの、とても疑わしげな口調です。言外に「とてもそうとは思えませんけど」という追加音声まではっきり聞こえてきそうな、それほどまでに疑わしげな口調です。 「………………………………………………………」 あ、ロゼさん唇を尖らせています。 また数秒、視線を泳がせてから。 「まぁアキはバカには違いなんだけど……バトルに関してだけはちょっとしたものよね」 今度のお言葉もやや歯切れは悪いながら、先ほどよりもややムキになっていらっしゃる印象を受けるのは私の気のせいでしょうか? おそらく同じ事をマスターさんも感じ取ったのでしょう。沈んでいた表情を明るくし、深く頷きます。 「ああ、そうでしたね。確かこの店で一番の連勝記録をお持ちだとか」 「ええ、そうなのよ!」 ロゼさん、ぱっとお顔を輝かせ、勢い込んで応えました。 「バカアキがデータ確認をサボったお陰で30連勝は逃しちゃったけど、ま、すぐに塗り替えて見せるわよ」 「おや、やっぱり佐藤さんはロゼさんの足を引っ張っていらっしゃる? 不甲斐ないオーナーですねぇ」 「………………………………………………………」 あ、ロゼさんますます唇を尖らせています。 そして今度は視線をさまよわせず、ややマスターさんを睨むようにして。 「……実際に戦ってるのはアタシだけど、作戦とか指示を出してるのはアキだし」 「ほほう、ロゼさんほどの武装神姫が従う、それほどのものであると?」 さりげなくロゼさんと佐藤さんの両方を持ち上げるあたり、さすがはマスターさんです。 果たしてロゼさん、幾分か表情に柔らかさを取り戻しまして。 「ええ、たまーにヘマもするけど、アキの指示は確実だもの」 『たまーに』の部分が必要以上に強調されていたように聞こえたのは、私の気のせいでしょうか。 「ほほう。確かに先ほどお手合わせしていただいたときは、お見事な戦いぶりでしたね。 いやはや、駆け出しとしてはあやかりたいものです」 「ふふん? 知りたい? 教えてあげよっか?」 「おや、教えていただけるので?」 「ええ、構わないわよ」 そう言って、イタズラっぽく微笑むロゼさん。 「簡単なことよ。アキはね、一戦一戦を細かくデータにとって残してるの。その蓄積と分析こそがアタシたちの強さの秘訣って訳。真似できるものならしてごらんなさいな♪」 「なるほどなるほど。確かに僕たちが真似しても、一朝一夕で追いつけるものではありませんね」 「それだけじゃないのよ? アキは装備の分析だってしてるんだから!」 「ほほう、と仰ると?」 「公式販売されてる武装なら一通り……個人作製のだってめぼしいものにはしっかりチェック入れてるのよ!」 「もしかして……全部買っているのですか?」 「ええ、だから情況に応じて装備を選んでくれるし、敵が使ってきたときの対策だってバッチリってワケ」 「それは……すごいですねぇ」 わりと演技でなく驚嘆する、武装購入は節制中なマスターさん。 私もびっくりです。 現在のラインナップを全て揃えようと言うならば、いったいどれだけの資金が必要か……先ほどバイト三昧なのに常々金欠状態だと仰っていましたが、それも当然でしょう。 と言いますか、そうまでしてでもロゼさんに最上の状態を保たせようとする気概には感嘆するばかりです。 私たちの感嘆を受けて、ロゼさんもすっかり機嫌を直されて得意満面です。 「もちろん、どれも飾りじゃないのよ? どの武装だって弾薬代とかケチらずに、アタシが納得いくまで使わせてくれるし。整備だって完璧に仕上げてくれるし!」 闊達そのものに笑うロゼさんに、マスターさんは感心するように、何度も頷きます。 と、少し小首を傾げまして。 「ところでずっと気になっていたのですが、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」 「ん、なに?」 マスターさん、すっとロゼさんの胸元を指差します。そこには、薔薇と剣をあしらわれたエンブレムがマーキングされています。……たしか、GA4アームの肩やサバーカの側面などにも同じものがあしらわれておりましたね。 「その胸元に描かれているエンブレムですが、それはもしかしてオリジナルデザインでしょうか?」 「ああ、これ?」 ロゼさんが、自分の胸元を見下ろし、すぐに顔を上げます。 そのお顔は、今まで以上に輝かんばかりの笑顔です。 「そうよ、アイツがデザインしたのよ。あんな顔してるクセに! ケッサクよね!」 言いながらロゼさん、両手の人差し指を逆ハの字に目の上にかざしました。 「まったくバカみたいでしょ、こーんな顔して真剣になってモニター覗いてさ。 アタシがもう十分って言うのに、いつまでもいつまで手直しすんのよ。 まったく、そんな1ドットや2ドットいじたって変わらないって言うのに、些細なことにこだわっちゃってさー。 ま、その甲斐あって、まぁまぁ見られるエンブレムにはなったけど?」 そんな言葉とは裏腹に、そのエンブレムを誇示するように胸を張り、とてもとても嬉しそうなお顔と口調で語るロゼさんが微笑ましくて仕方ないのですが。 「ま、要するにアキにだって取り得の一つや二つはあるってことよ」 「なるほどなるほど。大事にされてるようですねぇ」 「そうね、まだまだ不足もいいところだけど、とりあえず扱いはそんなには悪くはないかな?」 いえそんな、幸せ絶頂なお顔で言われましても。 と言いますかロゼさん、今の貴女は佐藤さんをこき下ろしていた時よりも何倍も輝いてることに、ご自身でお気づきなのでしょうか? 佐藤さんも、いつのまにやら暴れるのをお止めになっております。 「なるほど、それは素晴らしいですねぇ。いや先ほどは、何も知らずに失礼なことを言ってしまったようで申し訳ありませんでした」 すっかり上機嫌のロゼさんの様子に、わりと素で微笑ましげに目を細めるマスターさん……ですがすぐに作戦を思い出し、すっと俯き思わせぶりに呟かれます。 「ですが、ですねぇ……」 「ん? どうしたの?」 「あー、いえ、別に大した事では……」 「なによ、気になるじゃない」 気になるのでしたら、まさしくマスターさんの術中です。 「いえその、思い過ごしだとは思うのですがね……」 「だから何よ」 「いえ、バトルについて佐藤君が真摯なのは分かりました。先ほど仰っていたバイト三昧も、武装を揃えるための努力とお見受けします。オリジナルエンブレムを一生懸命に考案するあたり、ロゼさんのことを大切にもしているのでしょう。ですが……」 タメ一秒。 「お話を聞いてると、バトルに関してのことばかりだな、と。もしかして、バトルを楽しむためのユニットとしては重宝していても……」 タメ三秒。 「佐藤君は、ロゼさん自身のことはをちゃんと見ているのかな、と思いまして」 「………………………………!」 目を見開き、愕然とした表情で絶句するロゼさん。 いや、まぁ、武装神姫に対して『オマエ実は可愛がられてないんちゃうか』と言う発言は、死刑宣告にも等しいですから仕方ありません。 想像するだけでもこちらまで身震いします。 ……おや? 絶句していたロゼさんも、なにやら身震いを。 「そ……」 そ? 「そんなことないもん!!」 ないもん、と来ましたか。 マスターさんが、ちらりとこちらに目を向けられました。 『堕ちましたね』 『堕ちましたな』 そんなアイコンタクトを一瞬で成立させる私たち。 それはともかく魂の叫びを発露させたロゼさん、そのまま怒涛の勢いで必死に訴えます。 「バトル以外でだって、アキはアタシのこと大切にしてくれるもん! こないだだってアタシが『かわいい服が欲しい』って言ったら、メイド服一式を全色揃えてくれたもん!」 「そこでメイド服がくるか」「なんだよアイツメイド属性かよ」「メイドストラーフたん(;´Д`) `ァ `ァ 」「いきなり全色はやりすぎだろう」「アイツもキャッキャウフフしてるんじゃねーか」「でも、なんか親近感沸くなぁ」「ふ、判っていますねあの青年は。女性を彩りその魅力を最大限に引き立たせる服装といえばメイド服を置いて他にありません。かわいい服を要求されたならメイド服で応える事こそ正解! いえメイド服以外を宛がう事は罪! メイドこそ夢! メイドこそ正義! 夢こそドリームで正義こそジャスティスであり即ちメイドこそ真理! メイドこそ絶対不変なる全宇宙唯一の黄金郷なのです!」 ロゼさんによるオーナー性癖の暴露にギャラリーの皆さんがひそひそひそひそと呟きを交わします。 ……なにやら毛並みの違う方も混ざられているようですが、それはさておき佐藤さんの方も再び浜野さんの腕の中で暴れだしました。 ……そのお顔が真っ赤なのは激しい抵抗を続けているから、だけではないと思われます。 「それにこの間だって、アタシが動物園見たいって言ったら連れてってくれたし! わざわざ、バイト仲間にペコペコ頭下げてシフト代わって貰って時間の都合つけてくれて! お土産に、こーんなでっかいぬいぐるみだって買ってもらえたんだから!」 それでもなお、ロゼさんの暴走は止まることなく「いかに佐藤さんが自分を大切にしてくれているか」を大熱弁です。普段の余裕な雰囲気もどこへやら、すっかりイイカンジにアクセルベタ踏み状態ですね。 「アタシは『お金大丈夫なの?』って聞いたのに、『そんなに抱えこまれたら、今更ダメとも言えねーだろうが』って笑ってくれたし!」 もはやマスターさんも相槌を打っていませんが、ロゼさんの大熱弁は止まりません。 まぁ、それも当然でしょう。 普段、口ではどんな風に言っていようが、所詮は武装神姫。 思考プログラムの根幹にオーナーへの忠誠心を持ち、それでいてそうした強い感情を制御するには武装神姫の精神は人間に比べてずっと純粋で未発達です。 簡単に言えば「武装神姫なんてどいつもこいつも、オーナーのことが好きで好きでたまらない連中ばかりで、隙あらばオーナー自慢をしたくてウズウズしてるに決まってる」と言うことです。 そこを、マスターさんの「押せば引き、引けば押す」巧みな誘導でつつかれたら、もうたまりません。暴走もさもありなん、です。 ほら人間だって好きなことを語り出したら、止まらないものじゃないですか。 「でもそんなこと言って、あとでこっそりバイト増やしてるの、アタシ知ってるんだからね! 睡眠時間まで削ってバイトすることないじゃない!」 なにやら方向性が微妙にズレてきています。が、その根幹にあるのは、変わらずオーナーへの愛。 む、言葉にするとなかなかに照れますね。 「しかもその上夜更かししてまで解析とか分析までやってたら、いつか身体壊しちゃうに決まってるじゃないの! 食事だってロクなの食べないくせに! そんなの絶対ダメなんだからね!」 いやしかし、ロゼさんのデレモードは凄まじいですな。 「プレゼントも嬉しいけど、それよりもずっと一緒にいてくれるだけで十分なんだから、無茶なバイトとかするよりも、一緒にいて欲しいの!」 ご普段がご普段だけに、「私ツンデレ、デレるとすごいンです」と言わんばかりの惚気っぷりです。 ……面白いので、この光景は高音質・高画質で保存しておくこととしましょう、うふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。 「むー! むがー! むぐー!」 「まーまー佐藤君落ち着いて落ち着いて。面白くなってきたところだからさ、ね?」 今までにない必死なご様子で抵抗する佐藤さんも、浜野さんのやたら堅固なホールドの前にはむなしくうめき声を上げるのみです。 先ほどの「『このまま公衆の面前で、ロゼさんにいいようにこき下ろされる』で済めば幸せだったと思い知る」と言うこと、ご理解いただけたでしょうか? マスターさんは「あの手のタイプは、貶されるよりも、手放しで賞賛される方が効くんです」と仰っておりましたが、なるほど抵抗は激しさを増すばかりの佐藤さんのご様子を見ると、まさにその通りであったようです。 あー、いえ、別に佐藤さんを辱めることが目的ではないのですよ? 『佐藤君は、やはり悪い方ではないようです。なのになぜ周囲から孤立しているかと考えれば…… 当然、"誤解されてるから"ですよね』 この三本目の始まる前、浜野さんと私を前にして、マスターさんはそう説明してくださいました。 『誤解をそのままにしておくのは、佐藤君にとっても周囲の方々にとっても、よろしくないでしょう』 『ウチの店にもね』 冗談めかして言葉を挟んだ浜野さんに笑いかけると、マスターさんは言葉を続けました。 『でしたらこれもご縁ということで、手っ取り早く誤解を解かせていただきましょう』 マスターさんのお言葉に、『これも縁だと思って』と佐藤さんとの対戦を勧めた浜野さんが小さくお笑いになりました。 『なに、簡単なことです。彼の本心を周囲に明かしてしまえば、それで済むはずです。そのあたりを、存分に語っていただきましょう』 そこでマスターさん、ややぎこちないながらも愛嬌のあるウィンクを致しまして。 『この場にいる皆さんにとっては、ご本人に語っていただくよりも説得力のあるお方に、ね』 つまりはそういうことです。 ロゼさんの暴走を誘発し佐藤さんの褒め殺し(誤用)を発生させたのは、孤立しがちのようであった佐藤さんを『周囲の皆様と』和解させる、和解プランのあくまで「手段」なのです。 そしてその成果はと言いますと。 「なんだかんだ言って、あいつも武装神姫を大切にしてたんだな」「ロゼちゃんも慕ってるみたいだし」「デレモードストラーフたん(;´Д`) `ァ `ァ 」「いけすかねぇバトルジャンキーだと思ってたけど……」「ちょっと佐藤のこと誤解してたかも」「あれか、『武装神姫を愛するやつに悪いやつはいない』ってやつか」「もっと話し合ってみてもよかったかな」「そーだなー」 いやはや、プランは怖いくらいに順調に進行中です。 佐藤さんともどもロゼさんを手玉に取り、情況を思い通りに動かしていくマスターさんのお手並み、感服する他ございません。 マスターさんは、敵に回すべきではございませんね。いやもちろん、叛意を抱こうなどという気持ちは毛頭ありませんが、仮にそのような二心を抱いても、私如きではかなうはずなどありません。 ……ちなみに。 マスターさんによれば、このような公開羞恥プレイじみた手段をとらずとも、時間をかける事さえ出来ればもっとスマートなやり方もあったとの事。しかしあえてこういった荒療治を選択した理由はと言えば。 『まぁ本意はどうあれ、犬子さんを侮辱されたのも事実です。その分の溜飲くらいは、下げさせてもらいましょうかね、くすくすくすくすくすくす』 いやはやまったく、マスターさんを敵にすべきでありませんよ、本当に。 と言うわけで、本心はどうあれ敵対してしまった佐藤さんには、存分に堪能していただきましょう。うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。 「いつもいつも乱暴な言い方して嫌われて、それで後悔する位なら、余計な口なんて効かなければいいのにっていつも言ってるのに!」 「むぐっ! むががっ! むぐー!」 「アタシはアキの本心わかってるからどんな言い方されてもいいけど、他の人はそんなに察しはよくないの! ううん、アキのせっかくの善意も判らないようなヤツらに、アキの忠告はもったいないんだから!」 「むがむぐ! むぐぐー!」 「そうよ、アキの判断は日本一、ううん、世界一なんだから! アタシは知ってるもの、だってずっとアキの指示に助けられてきたんだもん! この間だってね―――」 「むがー! むががー!! むぐぅおおおおおおおおぉぉおおおおおおおおおお!!」 そんな、ロゼさんの「いかに佐藤さんが素晴らしく、自分がいかに佐藤さんを大切に思い、なおかつ大切に思われてるか」の大熱弁は、佐藤さんのうめき声をBGMに、勢いを衰えさせることなく10分ほど続いたのでした。 そして、兵どもが夢の跡。 10分が経過したステージ上では。 至極上機嫌な浜野さんがにこやかに笑い。 興奮状態が続いたためにオーバーフローを起こされたらしいロゼさんが、焦点の定まらぬカメラアイでペタンと座り込み。 精神的にも肉体的にもギリギリまで追い詰められて疲労困憊な佐藤さんが机に突っ伏して肩で息をし。 そんな彼らをギャラリーの皆さんがやたら温かい笑顔で見守る。 そんな情況が展開されております。 『はーい、では三本目のオーナー自慢勝負ですが』 浜野さんが、再びマイクを手に司会を始めます。 どうでもいいですが、アレはそんな勝負でしたか。 『佐藤君はご覧の通りの有様で、これ以上の続行は難しそうです』 ギャラリーの皆様からは自然と、佐藤さんの健闘(?)を讃える拍手がこぼれます。 『さて、どーしましょうかね?』 「どうしましょうか?」 「どういたしましょう?」 正直なところ、もう既に私たちの目的は全て達成しているのですよね。 私が、『何も出来ない』武装神姫でないことは暗算勝負において証明し。 佐藤さんと周囲の方々の溝も、ロゼさんのご活躍によってある程度は埋まり。 ついでに、私どもの溜飲も、十分に下げさせていただきました。 ですので、これ以上続ける理由は、既に私達にはないわけです。 「そうですねぇ。僕としては、このまま試合終了と言うことにしてもらっても構いません。 なんでしたら、僕達の方の試合放棄で佐藤君たちの勝利という形にしていただいても……」 「まーだーだーっ!!」 不意に佐藤さんが再起動されまして、そう叫びつつ立ち上がり、びしっと私たちを指差します。 「今更負け逃げなんて許すかー! オーナー自慢、お前らにもきっちりやってもらうっ!!」 ……なんと言いますか、佐藤さんからは「死なばもろとも」というオーラが出ています。 これはあれですか。自分たちが晒し者になった以上、私たちにも同じ辱めを受けさせねば溜飲が下がらぬと言う、そんな心理でしょうか。 実に後ろ向きですね。 ですが、まぁ……佐藤さんの瞳は真剣そのもので、こちらも同じ事をせねば収まらないご様子です。 確かに一応は勝負の体裁をとっている以上、こちらも同じ事をするというのも道理ですし。 私はマスターさんを振り返ります。 マスターさんも同じお気持ちらしく、やや苦笑いのご表情ながら、頷いて下さいました。 『はいではー、話もまとまったところで、今度は犬子さんのオーナー自慢、いってみましょー』 ギャラリーの皆さんから、拍手が沸き起こります。 仕方がありません。今度はわたしの番と言うことで。 とはいえ……私はちらりと、ロゼさんに目を向けます。 ロゼさんはまだ再起動を果たされていないようで、焦点の定まらぬカメラアイでぼんやりと俯いていらっしゃいます。 ……あまり野放図に行くのも問題ありですね。 私までもが暴走しないためにも、佐藤さんほどにマスターさんを晒し者にしないためにも、リミッターを設定しておくとしましょう。 適当にオーナー自慢をこなしさえすればそれで収まるでしょうし、その結果ロゼさんのオーナー自慢に及ばず敗退となったとしても、もはやこの局面になったなら、勝敗を争うことに意味などありませんし。 そうですね、まぁ50%程度に設定しておけばよいでしょうか。 こほん。 「では、僭越ながら……」 ……ふと、我に返りました。 思考回路ステータスの状態が限りなく最悪に近い状態を示していて、現状の把握がうまく出来ません。 気が付くと、体内時計はあれから30分ほど経過していることを示しています。 この30分の間のことを思い起こそうとするのですが、なにやらログデータにノイズが多く、はっきりとしません。 断片的に残ったデータでは、どれも私がマスターさんを褒めて褒めて褒めて褒めちぎっておりまして、ドッグテイルはどの時点でもMAX稼動で、そこに時折マスターさんの「もういいですよ」「それで十分ですから」「そろそろその辺で」「あの、犬子さん?」といった制止のお言葉が混ざっておりますが……。 一体、現状はどうなっているのでしょう? 私は、稼働率が著しく低下してる思考回路をなんとか騙し騙し回転させつつ、周囲に目を向けます。 その結果、目に止まったものは……。 塩の柱と化しているギャラリーの皆さん。 お口から魂が抜け出ているかのような佐藤さん。 真っ赤なお顔で俯いているロゼさん。 苦笑いの表情をされている浜野さん。 それから……。 「もう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してください」 土下座で――座礼ではなく、正真正銘の土下座でうわ言のように「もう勘弁してください」と繰り返すマスターさんのお姿でした。 えーと……。 何かを言うべきだ、現状を何とかしないといけない、とは思うのですが、霞がかかったような今の私の思考回路では、何を言えばいいか、どうすればいいかがうまく判断できません。 そんなオーバーフロー気味の思考の中で、とりあえず私は。 「……今度同じ機会があったら、リミッターは25%に設定しましょうかね……」 そんなことを呟いてみるのでした……。 その後のことを、少しお話しせばなりません。 結局佐藤さんとの勝負は、両者戦意喪失と言うことで無効試合となりました。 もともと勝敗にこだわっていたわけでなし、遺恨を残さないという意味では願ったりの結末と言えるでしょう。 ええ、もちろんあそこまでマスターさんを辱めることになるなどとは、私たちのどちらも想像などはしていなかったのですが……。 なんと申しますか、佐藤さんともども多くのものを犠牲とした、当事者たちには凄惨極まりない争いでした……。 願わくば、失ったモノに値する何かを手に入れることが出来たと信じたいところです、ええ……。 それぞれの方々はといいますと。 「はははは、二人ともお疲れ様ー」 浜野さんは、いつも通りです。 あの後も、再起動しないままの私たちを手早く撤収させ、ステージも効率よく片付け、通常業務に戻られました。 お仕事は本当に大丈夫だったか、と後に改めてお聞きしたところ、「盛り上がったからいいんじゃない?」と、実にあっけらかんとしたお答えが返って来ました。 とはいえ実際、もともと佐藤さんの30連勝を祝うゲリライベントの企画はあったとの事で、ちょうどいい穴埋めイベントになったとか。 そう言っていただけると、色々とご面倒をかけてしまった手前、多少は気が楽になります。 今日も浜野さんは、にこやかにフレンドリーにお仕事をこなされる事でしょう。 「まぁでも……オーナー自慢はほどほどにね?」 最後にそう、しっかりと釘を刺されてしまいましたけれども。 「よう、ツンデレコンビ」「調子はどうだツンデレコンビ」「ツンデレストラーフたん(;´Д`) `ァ `ァ 」「頑張れよツンデレコンビ」「応援してるぞツンデレコンビ」「なんか困ったことあったら言えよツンデレコンビ」 「「ツンデレコンビ言うなーっ!!」」 佐藤さんたちは、あれから大分周囲の態度が軟化したようです。 あれだけ赤裸々に心のうちを暴露されて誤解も何もなくなった上に、あれやこれやの恥ずかしい秘密の数々に、共感を覚えた方々がいらっしゃってのことのようです。そういった方々から親しく声をかけられるようになり、今ではすっかり地元馴染みの期待のエースとなっております。 その寄せられる期待の中に、弄られキャラとしてのものもあるのがご本人たちには不満なご様子ですが、それもまた有名税と言うことで諦めていただきましょう。 私たちともその後親しくして頂き、何度もアドバイスをいただきました。 相変わらず言葉は乱暴ですが、そうと心得ればそれもアドバイスと読み取れるものでして、特に腹を立てることもなくありがたく受け入れております。 そしてあの方々自身も、再び30連勝に向けて意欲的に取り組んでいるようです。 もともと実力のあるお方たちです。今度こそきっとそれを成し遂げてくれることでしょう。 そしていずれ、周囲の期待に応えて全国区に名前を轟かせてくれることと信じております。 ……そうして程よく名が広まった頃を見計らって、例のデレモード動画をこっそり流出させることにいたしましょうか。 うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。 そして私たちはといえば。 「作戦上の演技とはいえ、佐藤君を貶しロゼさんを弄んでしまった、その因果応報でしょうかねぇ……ふふふふふ、いや『人を呪わば穴二つ』とはよく言ったものですよ……」 「申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません!」 「あはは、あは、そんな謝らなくても、もう気にしてませんから、犬子さんもお気になさらず…… ……と言いますか、もうこの話題には触れないようにして頂けると、いえいっそもう全部忘れてもらえたら有難いのですねぇ、あははは……」 思考回路が完全復旧し自分のしでかしたことを認識した私は、それこそ全身の電圧が下がる想いで正真正銘の土下座で許しを乞うたモノです。 寛容にもマスターさんには快くお許しはいただけましたが、私が『同じ機会があったら今度は25%で』というお話をしたところ、即座に『5%でお願いします』と切り返されたことが印象深いです。 ……私はマスターさんに対し、一体どれほどの羞恥プレイを強いたのでしょうか。 想像するだに空恐ろしく、確かめることなどとても出来そうにありませんです、はい……。 申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません……! あとはいつも通り……と言いたいところなのですが、じつはささやかな変化がありまして。 いえ、まぁ、大した事ではないのですがね……。 私たちが誤算していたことに、自分たちは単なる一介の武装神姫とそのオーナーだと思っていたのですが、どうやら潜在的な知名度はそこそこあったらしいのです。 もちろん「名前が知られている」だとか「敬意を払われている」と言う情況には程遠いのですが、敗戦のたびに(つまりバトルのたびに、です、とほほ)休憩スペースで神姫に正座させて向かい合って深々と頭を下げあうコンビは、私たち自身が思っていた以上にご周囲の印象に残っていたらしく、「ああ、あいつ等またやってるなぁ」くらいには存在が知られていたとのことで。 それでもそれだけならばあくまで潜在的な知名度に留まっていたところを、今回の大立ち回りで一気に神姫センターの皆様に名前が広まり、すっかり顔を知られたちょっとした有名人状態となってしまったのです。 それも……。 「よう、土下座ハウリン」「調子はどうだ土下座ハウリン」「土下座ハウリンたん(;´Д`) `ァ `ァ 」「頑張れよ土下座ハウリン」「応援してるぞ土下座ハウリン」「なんか困ったことあったら言えよ土下座ハウリン」 「ご、ご声援……ありがとうゴザイマス……!(引きつった笑み)」 ……本気を出し(て惚気)たら、自身のオーナーすらも土下座で『もう勘弁してください』と平謝りさせる、 キョーフの<土下座ハウリン> の二つ名と共に……です。 ……ええ、これはあくまで自分の行為の結果です。 些か不名誉で納得のいきかねる二つ名ですが、それも甘んじて受け入れましょう。 ですが。 ですがどうか後生ですから、この二つ名の成立のいきさつだけは、何卒御内密にお願いしまする……っ! 神姫三本勝負とはっ! とあるローカル神姫センターが発祥と言われる、 オーナー間あるいは武装神姫間で揉め事が発生した際、 一本目の勝負に負けたオーナーが、 二本目に自分に有利な勝負を提案、 それを以ってイーブンとした上で、 三本目には武装神姫自身にオーナー自慢をさせ、 当事者及び周囲の毒気を抜き、 全てをうやむやのうちに鎮静化させる、 限りなく出来レースに近い あくまで『平和的解決手段』でありっ!! 『決着方法』ではなかったりするっ!! <その15> <その17> <目次> ○今回のエピソード作成に当たり、多大なるご尽力いただいたALCさまに、改めまして厚く御礼申し上げます。